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モバP「白坂小梅はみえている」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2013/03/25(月) 21:41:38.34 ID:d5tGG4Gs0
アイドルマスター・シンデレラガールズの白坂小梅さんのSSです。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1364215298
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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]: ID:???
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/
満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/
【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/
旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2013/03/25(月) 21:45:59.77 ID:Y4QZFhoq0
ほう…
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:46:22.04 ID:d5tGG4Gs0
白坂小梅はみえている。
『それ』が何なのかは分からない。
彼女には、『あの子』という存在の他にも、色々なものがみえている。
あいにく、俺には見えたことがない。けれど、彼女はその存在を認識している。
一般的な呼称だと、それは幽霊と呼ばれるべきものだろう。
俺は病院の個室で、月を眺めながら、少し前のできごとを回想している。
まくらもとの棚には所属アイドルたちのお見舞いが置かれている。
こうなってしまった今、俺に出来ることは何もない。
窓から春を告げるかのような、夜なのに、少しだけあたたかい風が吹き抜ける。
それに連なり、取り付けられたカーテンも、空の色と対照的に軽やかに揺れていく。
みんなどうしているだろうか。
俺が居なくても、上手くやっていけてるだろうか。
みんなのことだ。きっとだいじょうぶに違いない。
彼女の言うことをもっとよく聞いておくべきだった。
どうしてこんなことになってしまったんだっけ。
そう考えていたとき、病室のドアがノックされた。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:49:11.87 ID:d5tGG4Gs0
「あ…あの、お、お見舞い…です」
音を立てないよう、控えめにドアをスライドさせて入ってきたのは彼女だった。
近くのコンビニで買ってきてくれたのだろう、消化吸収によさそうなものを持って。
『ありがとう、小梅。座って』
ほのかに緑がかったパイプイスに小梅が腰を下ろす。
座るときに、使い古されたものであろう、錆びた音を立てながら。
小梅は、視線を彷徨わせていた。俺にかける言葉が見つからないのだろう。
『小梅は、もう大丈夫なのか?』
「はい…プロデューサーさんの、おかげ、です…」
『よかった』
「あ…あの…プロデューサー、さん」
『うん?』
「その…お話、が、あって…」
『…話?』
「は、はい…プロデューサーさんにも、もう…こんなことになってほしく、ないから」
どこか寂しそうな表情を浮かべる小梅。
俺のせいなのだから、彼女が気に病む必要はないと言うのに。
…けれど、にも、とはどういうことなのだろうか。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:51:20.45 ID:d5tGG4Gs0
「あの、夜のこと…覚えて、ますか?」
あの夜。
この仕事をしていた夜のこと、とすぐに気付いた。
きっと俺の現状を聞いて、心配で来てくれたのだろう。それに、話、とは。
「わ、私を…かばって、くれて」
『うん、覚えてる。小梅が無事で本当によかったよ』
「えっと…助けてくれて、ありがとう…プロデューサーさん」
『いいよ、当たり前…っていうか、咄嗟の事だったから』
『それで俺がこうなっちゃっただけだしさ、気にすることないよ』
『というか、俺がいけなかったんだ。小梅のいうことをきちんと聞いてなかったから』
「その…事で、プロデューサーさんに…話さないといけないこと…ある、から」
いつものように、慌てている様子も、臆病そうな様子もない。
何かを決意したような声音で。呟くようにそう言った。
『わかった。聞くよ』
その話をする前に、俺もあの夜について思い出さなければいけない。
ええと、まずは仕事が決まったところからだろうか。
まずはそこに、記憶の焦点を当てることにした。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:53:18.08 ID:d5tGG4Gs0
『小梅…次の仕事、決まったぞ!心霊スポットでのロケらしい…よかった!』
俺の持ってくる細々とした仕事にも頑張ってくれていた小梅には、ご褒美とも呼べる仕事だった。
小梅はホラー映画、心霊スポット巡りが好きだったりする。特技には怪談と書くくらいだ。
よく、ホラー特集などの番組には、必ずしも、と言っていいほどに小梅に声がかかる。
白坂小梅はみえている。業界でもそう評判だったからだ。心霊関係には欠かせない存在。
なぜか、と言うならば…彼女が原因かは分からないが、
彼女が出演する番組では、必ず何かしらの心霊現象と呼ぶべきことが起こるからだ。
照明が切れたり、生放送中に映るべきではないモノが映ったり、なんてことは序の口だ。
視聴者から番組を見ていたら家でも心霊現象が起こるようになった、という事もあった。
彼女のファンにはそういう事に関心が強いファンが多い。類は友を呼ぶ、というべきか。
よって、必然的にそういう番組に引っ張りだこなのだが、今回はその中でも1番大きい仕事だった。
小梅が嬉しそうに俺のシャツの裾を掴んで、目を輝かせていた。
『えっと…あ、今地図を出すから…ほら、有名な心霊スポットの…ここだな』
「…こ、ここ…ですか…?」
『うん、小梅もそういう仕事好きだと思ってたから、契約しちゃったけど…まずかったかな』
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:55:13.79 ID:d5tGG4Gs0
「私は…嬉しい、です、けど…プロデューサーさん、とか…他の人が、危ない、かも」
危ない?小梅が言うなら相当だ。彼女にはみえているのだから。
けれど、そのときの俺はうれしさのあまり、それを深くは考えていなかった。
『小梅が言うなら相当に危ない…だろうけど、今回は有名な霊媒師の人が来てくれるらしい』
「わ、わかり、ました…そう言うなら、わたしも…嬉しい、から」
『よかった。よし、じゃあ、頑張ろうな!』
「は、はい…」
そうして当日になり、ロケバスに乗り込んで目的地まで行く途中。
車はパンクしたり、スタッフさんが原因不明の高熱を出したりしていた。
そのときには俺も焦りを感じていたが、後の祭りだった。
その焦りに反して、番組のプロデューサーは完全に面白がっていた。
苦しんでいるスタッフさんを映し、顔をこっちに、なんて言っていたのだから。
まさに、霊媒師と俺と小梅を除いた全員が、取り憑かれている、と言っても過言ではなかった。
そのまま異様な雰囲気でロケバスは現場についた。
契約時の資料によると、東京から数時間ほどの山奥の廃墟ということだった。
もともと、この一帯は児童養護施設、病院、木造の学校が存在していたそうだ。
けれど、不注意であろう火災でそれらが全焼した、との記載までは読んだことを覚えている。
新聞にも載っていた気がする。多数の死者、重軽傷者を出していたニュースを。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:56:26.15 ID:d5tGG4Gs0
俺はあまり、ホラーだとか、怪談だとかは得意ではない。
最近やっと小梅のプロデュースで慣れてきた、という感じだった。
『こ、小梅…その、どうだ?う、上手く…やれそうか?』
「うん、うん…!あ、ありがとう…すごく、楽しい…です」
普通、逆ではなかろうか。
少しだけ怯える自分に情けなさを感じていた。
撮影機材の準備をはじめるスタッフさんを横目に、俺たちも準備をし始めた。
はい!では、はじめますよ。白坂さん、よろしくお願いします。
番組プロデューサーの声で、一斉に現場に緊張感が漂ってきていた。
俺は寒気を覚えていたが、あの時は冬で気にも留めていなかった事を後悔する。
「は、はい…こ、今回は、あの、有名な心霊スポットに来ています…」
いつもより発声がはっきりしている。気分が高揚しているのが見て取れる。
「…まずは、周辺…から、です…あ、いる…」
何がいるのだろうか。いても構わないが、俺には見えない位置にいて欲しい。
確かに霊気を感じます、という霊媒師のインタビューを挟んで、更に続けられた。
「で、では…中に、入りたいと思います」
カメラが回っていないところでも、小梅はとても嬉しそうだった。
たまに何もない…はずのところを見つめて笑っているのが俺の不安を煽った。
しかし…『入ります』ではなく『入りたい』なのか。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:57:53.71 ID:d5tGG4Gs0
まず入ったのは児童養護施設の廃墟だった。
天井が崩れていたり、足場が不安定だったりする箇所が多いので、
事前に耐久性に問題がない場所だけを選んでロケを行うこととなっていた。
中はカメラマンの周辺を照らすライトと、小梅の持つ懐中電灯のみの明かりしかなかった。
雰囲気を出すため、とはいえ、ここまでやるのだ。さすがに不安だった。
ここまで暗いと、スタッフさんも恐怖に息を呑んでいた。俺もまた、そうだった。
ぎし、ぎし。
うぐいす張りのような廊下を軋む音だけが響いていく。
どこからともなく子供の笑い声が聞こえてきそうで、恐くもあり、悲しくもなった。
ときおり設置されている鏡にライトが反射し、スタッフさんも声を上げる。
誰もいないはずの廊下を、ただ怯えながら進んでいく。
山奥の廃墟ということで、火災以降放置された自然が多々見受けられた。
伸びっぱなしの木々も、枯れ木となって足元に佇んでいたりする。
ふいに吹いてくる風が、残りの葉を揺らしてさらなる恐怖感を煽っていた。
「あ、カメラさん…あ、あそこ…撮ったら、映る…と思います」
指示をもらったカメラマンが指の先にアングルを切り替える。
俺たちは誰も歩を進めては居ないのに、廊下を軋む音が響いた。
「撮れた…と、思います…もう、いない、から…」
「ここ、は…もう、映らない…と、思う…」
わかりました、では、出ましょうか。
その一声で、緊張感は一気に緩んだ。
誰も彼もが、ふぅ、と溜息すらついていた。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 21:58:51.87 ID:d5tGG4Gs0
次に向かったのは木造の学校跡だった。
玄関ホールは広く、入ってすぐに運動場が目に入る。
木造だったこともあり、殆ど焼けてはいるが、それでも原型はとどめていた。
3階まであるそうだが、ここも耐久性の問題で、1階までのロケになっていた。
「こ、ここは…もと、学校だった…そうです、えっと…ここが、事務室」
天井がところどころ崩れているおかげで、隙間から月の光が差し込む。
先ほどと比べてまだ明るいので、少し恐怖感が薄れていた。
ホールから右左と別れており、では、右から。ということではじまった。
右に行くと、煤けているが、かろうじて『応接室』という字が読み取れた。
きっと学外からの来訪者の対応を行っていたのだろう。
特に小梅も感じるものがないらしく、さくさくと廊下の奥へ進んでいく。
その足取りの軽快さが、俺にはとても真似できそうにないと自虐した。
奥へ行くと、机が倒れていたり床に穴が開いていたので、これ以上は断念した。
代わりに最初に入って左側の廊下を進むことになった。
左側は手前から職員室、保健室、放送室と並んでいた。
「職員室…です…ボードには、予定が…いくつか…あ、あそこ」
再びカメラマンが向けた窓の先には、確かに何かが光っていた。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:00:13.21 ID:d5tGG4Gs0
俺にも見えた。なんだ、あれ。俺たちのライトじゃない。
誰か、いる?そんなわけがない。考えているうちに、光は消えた。
静寂が降りてくる。番組プロデューサーですら、そうだった。
「で、では…次、行きましょう…!」
足取りが重く、進んだ先の保健室は、案外広かった。
俺の学生の頃も、何かと理由をつけて保健室に行く人は多かった。
保健室とは、その事も懸念して建設されているのだろうか。
軽く崩れている保健室のパーティションが恐ろしかった。
見えないその先に何かがいるのではないか。想像力が増していた。
いくつか並んだベッド、消毒用の薬品の香り。
きっと職員の業務日誌と思われるノートもあった。
「保健室…です、ここには…いない、みたい…です、残念」
「放送室、まだ…残ってる、から…」
防音用の厚く重い扉を開け、中はほとんど焼けていなかった。
この扉のせいで火も回らなかったのだろうか。
入口付近は焼けてはいるが、その他は全くだった。
放送機材も揃っており、体育祭用の音声テープもあった。
お昼の放送、と名付けられたファイルも、使い古された感じで置かれていた。
「あ…」
また、何かいるのか?
彼女は1番先頭で、放送用のマイクをじっと見つめる。
こちらからは見えないが、小梅は髪をあげて、右目も使ってそれを見ているようだった。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:01:40.26 ID:d5tGG4Gs0
「こ、これ…」
「ここは…ダメ」
「はやく、もどり…ましょう」
こちらへ来て、俺の袖を引っ張る。
何かを目で訴える。ここは居るべきじゃないのか?
霊媒師もこの寒さで汗をかいていた。
な、何かいるんですか?ほら、カメラ向けて。
そう言ってカメラを向けさせる番組プロデューサー。
傍らには俺の袖を引っ張り続ける小梅。本当にまずいみたいだ。
『で、出ましょう』
ええ、ここは、私の手には。霊媒師も同意してくれた。
放送室のドアを開けて俺たち3人は廊下へ出る。
残りのスタッフさんは何かを収めようと躍起になっていた。
「は、離れて…」
小梅のか細い、けれど意思のこもった声は届かない。
出なさい、という霊媒師の声も聞き入れては貰えない。
誰も答えない静寂の代わりに、マイクの電源が入る音がした。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:02:47.67 ID:d5tGG4Gs0
この一帯はもう電気など通ってはいないのに。
放送室のテストスピーカーからマイクが拾った声が流れだす。
ひっ。女性スタッフが出した恐怖の声。
やばいですよ、これ。カメラマンがしきりに訴える。
このまま続けろ、何か撮れるかもしれない。
番組プロデューサーは聞き入れようとはしなかった。
止まることのないノイズ。だんだんと大きくなっていく。
何か聞こえる。誰の声だ?誰も声を出してはいないのに。
聞こえる、聞こえるぞ。これは、間違いなく撮れている。
これで、視聴率も。彼がそう呟いていたとき。
あ。
あ、あ、あ。
ああああああああ。
スピーカーから声が響く。
ただ、『あ』としか聞こえない。
それは聞こえるはずのない声だった。
それを見て、霊媒師は頭を抱え、小梅は呟く。
「もう、つかれた」
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:03:30.62 ID:d5tGG4Gs0
早く出ろ!
霊媒師がそう叫んで放送室に駆け込んで無理やりスタッフを引きずり出す。
あとはあの番組プロデューサーだけだ。あとひとり。
そう思ってみなが目線を向けた先には、マイクに向かって笑う彼の姿。
あ、ああ、あああああ。あああ、あ、ああ…
延々とマイクに向かって声を出している。
誰に話しているのか。彼には何が見えている?
俺も霊媒師と協力して彼を引きずり出す。
撮影を中断し、カメラマンと俺とで彼に肩を貸す。
その間にも漏れるのは、ずっと同じ声ばかり。
怯えた女性スタッフと小梅は手をつなぎながら1歩先を歩いてくれる。
霊媒師はどこかへ電話をかけようとしてくれていたのか、
しきりに電波を拾おうとしてくれていたが、ここは山奥だ。
ちらりとこちらを振り返って小梅は言う。
「だから、危ない…って、言った…のに…」
「言った…のに」
「憑かれた、って」
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:04:51.62 ID:d5tGG4Gs0
やばいですよ、ここ。カメラマンが俺に話しかける。
ここ、他の人からも止めておけって言われてたんです。すみません。
『いえ、大丈夫です』
そう答えてはいたが、内心不安が募るばかりだった。
このまま戻りましょう。私の知り合いもすぐに呼びます。
霊媒師がそう言ってくれたおかげで、少しだけ安心できた気がした。
車に戻り撮影機材などを積み込み、運転は俺がすることになった。
苦しんでいたスタッフさんも少し楽になったらしく、車を出した。
問題なくエンジンもかかる。
よし、出しますよ。俺が車を出した時だった。
ぺたっ。
何の音だ?
ぺたっ、ぺたっ。
ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
早く出して下さい!
いきなり叫ぶカメラマン。わけもわからずアクセルを踏む。
『どうしたんですか!?』
山道の枯れ木を踏みながら進んでいく車を運転しながら振り返る。
窓、窓に。て、手が。
窓に、手?前を見る。
フロントガラスに前が見えなくなるほど、大量の手形がついていた。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/03/25(月) 22:05:52.24 ID:HMg7ZGXXo
http://i.imgur.com/tg1XDkm.jpg
http://i.imgur.com/pyNGhHv.jpg
http://i.imgur.com/s0CHPFh.jpg
白坂小梅(13)
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:06:14.91 ID:d5tGG4Gs0
何だよこれ。どんどん手形が増えていく。
いや。もう、いや。なんでこんなことに。女性スタッフは泣き崩れている。
手形でぼやける視界の中、確実にハンドルを切っていく。ここで死ぬのはごめんだ。
『もう少しで着きます!明かりが見えて来ました』
みなの表情に微かにだが笑顔が戻る。
ああ、助かる。助かる。よかった。もうこんなロケはまっぴらだ。
そう言ってカメラマンもみなも喜んでいた。後のことなど誰も気にしてはいなかった。
「手形…もう、ない、みたい…」
小梅がそう言い、俺も瞬きをすると、一瞬で全ての手形が消えていた。
もうあの場を抜けたのか。さらに気が緩んでいく。よかった。助かるんだ。
「でも…何か、いる、どこかに…」
もう手形もなにもない。しかし、まだ何かいる?
ふぅ、みな、すまない。私は、どうかしていたようだ。
番組プロデューサーも気がついたようだ。それを背中で確認する。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:06:51.76 ID:d5tGG4Gs0
後はこの道を直進するだけで街に着く。もう大丈夫だ。
ああ、ここはどこだ?もう引き返したのか。
調子に乗るべきではなかったな。すまない。ああ。彼がそう言って謝る。
『小梅も皆、無事なのですから、気にしないでください』
『すみませんが、この番組はなし、ということになりますが…ははっ』
ああ、そうだな。すまなかった。
ああ、もう、街も近いな。ここまで来れば。ああ。
彼が前を確認しに車両の前方へと映る。
『ええ、ここまで来れば』
ああ、ああ、ああ。彼は頷く。
俺の隣に来て、にっこりと笑って、彼は言った。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:07:40.95 ID:d5tGG4Gs0
いきなり異常なまでの力でハンドルを奪われる。
彼は力いっぱいアクセルを踏み、どんどん加速していく。
俺は立っている事も出来ず、ふらつきよろめき、車両の後方へと放り出される。
最後列のシートに全身を打ちつける。
それを見た小梅もふらつきながら俺の元へ駆け寄ってくる。
ごめんなさい。ごめんなさい。そう俺に謝りながら。
このままだと、ぶつかる。
誰かが叫ぶ。
その先には電柱。
もう止められない。
誰かが叫んだ。伏せろ、と。
ある者はシートにつかまり、ある者は姿勢を低くして。
衝撃に備えるため、ただ、そうするしかなかった。
俺は最後列だったため、まともにつかまるものがなかった。
そこにいたのは謝り続けて泣いている小梅だけだった。
小梅だけは守らなければ。俺の代わりはいくらでもいる。
絶対に彼女だけは守ってみせる。今ぐらい、男を見せろ。
小梅の小さな身体を全身で抱きかかえて、衝撃に備えた。
『絶対に、小梅だけは守るから』
激しい衝撃と音と共に、俺の意識も途切れた。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:08:35.06 ID:d5tGG4Gs0
気がつくと知らない部屋にいた。病室と認識するまでに時間はかからなかった。
隣で目を覚ましたのを確認したちひろさんが泣いて事務所に報告していた。
プロデューサーさんが目を覚ましました、と。
そこからは連日アイドルたちのお見舞いだった。
有名アイドルが病院に集いすぎてファンが押しかけることもあった。
そういうわけで、今ではこうして贈り物だけ貰う形になっている。
スタッフさんも霊媒師さんも軽傷で済んだ。
番組プロデューサーは奇跡的にも無傷、小梅も無傷、俺は大怪我。
その後の彼は霊媒師が呼んだ方々で除霊を行ったそうだった。
後ほど聞いたが、相当に労力を要したとのこと。人の怨念は恐ろしい。
事故直後も周辺への被害は少なく、彼は損害を弁償するだけでよいとのこと。
彼もなんだかんだついていたということだった。
番組もなくなってしまったが、それはそれでよかった。
その傍らで俺は長期間の入院を強いられ、今に至るということだ。
「…さん」
「…プロデューサー、さん」
『ああ、ごめん。話だったよな』
「…うん…」
「私…その…みえる、んです」
『やっぱり…幽霊、みたいなもの…が、か?』
「…そ、そう…です…えと…」
「この、右目で」
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:09:35.21 ID:d5tGG4Gs0
「わ、わたし…小学校に、あがるくらい、から…はっきり、みえるようになって…」
「もっと小さいころからも、何か…みえてた、みたいで…」
「生まれたときから…あの子、も…見えてて」
「で…気付き、ました…」
「あの子…以外は、全部…右目でしか、見えない…って」
「見なくても…感じたり、はするけど…」
「他の子は…悪いこと、する子が多い…から」
「よく、わからない…けど、たまに、人に黒いのが、ついてる」
「その人には…よくないことが、ある」
「たまに、白いのも…いて、そういうのは、いいこと…するの」
「最初は…私にしか、見えない…そう思って、嬉しくて…」
「人に教えてあげてた、けど…いつの間にか、怖がられてて」
『だから…見なくていいように、右目を隠してる…のか』
「…うん…」
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:10:37.20 ID:d5tGG4Gs0
「あの子は…私を、黒いのから…守って、くれるの…」
「アイドルに、なるまで…友達、あの子しか…居なかった」
「だから…心霊スポット、とか…最初は、怖かったけど…行って」
「あの子が、喜ぶ…から」
「いつの間にか…そういう、のが…好きになってて」
「でも…今は…みんな、私のこと…信じてくれる、から」
「プロデューサーさん、にも…知って、ほしくて」
「夢で…みたり、も…する」
「どんないいことが、起きる…とか、よくないことが、とか」
「いつか…は、わからない」
「でも、起きる…」
「…や、やっぱり…」
「こんなの、気持ち、悪い…です、よね」
「ごめん、なさい…」
「…っ、ひっく……っ」
「う、うぇぇ…っ、ひっく」
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:11:50.11 ID:d5tGG4Gs0
『………』
『そんなわけ、ないだろ』
そんなわけがない。ちょっとホラーな趣味があるだけ。
ちょっと、そういうものが見えてしまうだけ。
それだけの、普通の女の娘なんだから。
「でも…プロデューサーさん、私のせいで…けが、した」
『小梅が無事だから、いいんだって』
『それに、小梅があそこで早く言ってくれなかったら、もっと酷かったかもしれないし』
『感謝しこそすれ、俺は小梅が気持ち悪いだなんて微塵も思わない』
『むしろ、可愛い女の娘だ』
本心をただ、彼女に告げる。
まだ痛むが、手を伸ばして小梅の頭を撫でる。
さらさらで艶のあるクリーム色のストレートヘア。
絡まることなく指がするりと通ってゆく。
年齢に反してつんとした、大人を感じさせる高い鼻。
右目にかかる髪も愛らしい。
「ほ、ほんと、です…か…?」
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:12:29.66 ID:d5tGG4Gs0
ぱっちりとした瞳が、涙に濡れて俺を離さない。
ああ、こんなことをされたら、俺の負けだよ。
『うん、本当だ』
『俺もさ、早く治すから』
『その…俺は霊とか…怖いけど、心霊スポット巡りでも…しよう』
『ほら、安全なところに連れて行ってくれればいいからさ…はは』
「………」
「…うん、うん…!い、行きましょう…い、行きたい、です…」
「あ…ま、待ってます…から」
「待ってます、から…!」
『ああ、約束だ』
『あー…俺が居ない間も、ちゃんと頑張るんだぞ?』
「は、はい…!頑張る、頑張ります、から…約束、です…」
『よし、決まりだ』
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:13:18.00 ID:d5tGG4Gs0
そろそろ面会時間は終了です。
看護師さんが俺の部屋まで来て告げる。
ああ、もうだいぶ遅い時間だ。大丈夫だろうか。
送って行こうにも、足も上手く動かない。
『夜、大丈夫か?ちひろさんに連絡入れて…』
「う、ううん…大丈夫、です…ふふ」
「あの子…いるから、だいじょうぶ」
『………』
『そうだよな、よし、俺には見えないけど…小梅を任せた』
「…ま、任されました…って、言ってる…あ、そろそろ…帰り、ます」
『今日は、ありがとうな』
「わ、私…こそ、ありがとう…話、聞いてくれて…」
『いつでも、待ってるから』
「はい」
「それじゃ…また、ふふ」
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:14:05.32 ID:d5tGG4Gs0
『おはようございます!』
ぷ、プロデューサーさん…も、もう!言ってくれれば、迎えに行きましたよ?
目元に涙をためながら、ちひろさんが笑顔で迎えてくれる。
みんなもおかえり、と俺を迎えてくれる。この仕事をしてて、よかった。
『あー…えっと、小梅は?』
小梅ちゃんなら、今日はロケで夜帰ってくるはずですよ?と教えてくれた。
なるほど、夜か。でも…あの子、が居るから大丈夫だろう。
よし、とりあえず溜まった仕事をこなさないと。
社長とちひろさんが仕事の代わりをしてくれていた。
本当に頭が上がらない。今度、食事にでも誘ってみよう。
とにかく急いで、けれど慎重に仕事をこなしていたら、もう夕陽がさしていた。
ここから見る景色も久しぶりだ。なんだか感慨深くなっていた。
prrrr!
prrrr!
prrrr!
電話?誰だろう。
あ、ちょうどよかった。
ディスプレイには、白坂小梅、と表示されていた。
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:15:29.41 ID:d5tGG4Gs0
とりあえず事務所近くの呼び出された公園には着いた。
けれど、小梅が見当たらない。どこだろう?
見回すと、誰か…が、倒れてる?
あれ、小梅じゃないか?
『小梅?小梅、どうした!?』
「………」
「ぐぅっ……かはっ……この公園に潜む…悪霊の…怨念が…犯人は…プロ………」
「ごふっ…ばたっ……………」
「……………あの、こういうの…や、やってみたかったの…あ、うん…わ、私は元気です…」
『………』
『こら』
『また何かあったかと思って…心配した』
「ち、ちょっと…からかって…みようって……」
「プロデューサーさん…本気で、心配させて、ごめんなさい…で、でも…うれしい…」
…小梅には敵わない。やられた。
こういう可愛らしいところは、やはり女の娘だ。
『心臓に悪いから、こういうのはこれっきりな』
「………」
「うん」
「くしゅんっ」
『…寒い、のか?って…その服じゃ寒いだろ』
『俺の上着着て…事務所に帰ろう』
「…手」
「手…繋いで、ほしい…です」
『ああ、わかった』
小さくて、細い指が俺の指に絡まる。
そこからほのかに感じる体温は、少しばかり熱かった。
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:17:05.33 ID:d5tGG4Gs0
それからも、小梅は懸命に仕事を頑張っていた。
心霊番組は内容を小梅と確認してから出演する癖がついた。
以前の事故もそこそこ噂になっていたらしく、もうあそこはどこの局も使わない。
結局行くことのなかった病院だが、そこが1番危なかったらしい。
行くことにならなくてよかった。
だが、未だに学生が肝試しとして利用しているらしい。
物騒なことにならなければいい、と願うばかりだ。あれはもうたくさんだ。
ちなみに撮影されたカメラには、おびただしい数の手形や顔が映っていた。
小梅の後ろには常に微かに白い光が漂っていた。これがあの子、という存在だろう。
白い光が映った写真を除いて、他の全ては除霊に出されたらしい。
とてもではないが、電波に載せていい写真ではなかったそうだ。
見せてあげようか、と言われたが、丁重に断っておいた。気が進まない。
小梅は打ち明ける事を全て打ち明けた気の軽さからか、仕事は順調だった。
大きなライブの契約も取ることができ、10分後には彼女の出番が来る。
小梅の順番の30分前には、会場は満員となっていた。
29 :
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[saga sage]:2013/03/25(月) 22:18:37.49 ID:d5tGG4Gs0
「…あの、ぷ、プロデューサー…さん」
『うん?』
「プロデューサーさんのおかげで、い、今まで、見えてなかったモノ」
「…見えるようになった、みたいです」
「か、変えてくれて…」
「…ありがとう」
『俺は、何もしてないよ』
俺は本当に何もしていない。小梅が自分で自分を乗り越えただけだ。
そう思っているから、思いのままを彼女に伝えた。
「それでも…ありがとう」
30 :
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[saga sage]:2013/03/25(月) 22:19:32.94 ID:d5tGG4Gs0
「プロデューサーさんのお、おかげで変われた気がする…んです」
「と、特にライブをしてる時は、何か自分じゃないみたい…で…」
「み、みんなに夢…見せてあげる…あ、悪夢かもしれないけど…!」
『…悪夢なんかじゃないさ』
『ライブのときの小梅は、すごく楽しそうだし、ファンのみんなも夢を見てる』
『ほら、カーテンの隙間から見えるだろ?小梅の夢を一緒に見に来たファンたちが』
「………」
「プロデューサーさん、の、おか、おかげ…です…」
『…なら、ありがたく感謝の言葉を受け取っておくよ』
『ほら、もう始まるぞ?』
「う、うん…行って、きます」
『行ってらっしゃい』
1段ずつステージへの階段を登る小梅を見つめる。
これもトップアイドルへの確実な1歩となっていくだろう。
たまに観客席にいるらしい、あの子もみているのだろうか。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:20:10.44 ID:d5tGG4Gs0
彼女は幽霊が見える。それに一生向き合っていかなければならない。
けれど、彼女はもう、その事で思い悩んではいないようだった。
彼女の一歩に俺が貢献できたのなら、怪我の1つや2つは安いものだ。
「きょ、今日は…わ、わたしのため、に…ありがとう」
小梅ちゃん、なんて叫ぶ熱心なファンが多い。彼女は本当に愛されている。
「歌…聴いてくれるの…うれしい、から…頑張って、歌います」
その間も曲がはじまるまで声援が止みそうにない。
彼女は本当にアイドルなのだ、と再確認せざるを得ない。
「で、では…みんな、聞いて、下さい」
やはり、彼女はアイドルだ。
歌って踊って、笑顔をみんなに振り撒いて。
そして、みんなを笑顔にする存在である、アイドルなのだ。
そんな彼女だからこそ、みえている。
トップアイドルという、夢が、未来が、すぐそこに。
白坂小梅は、みえている。
おわり
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:23:10.55 ID:d5tGG4Gs0
以上です。ありがとうございました。
html化依頼を出させていただきます。
間違いに気付いた場合、補足修正を行わせていただきます。
23時までに行われなかった場合、追加の補足修正はありません。
稚拙な文章ですが、お付き合いいただきありがとうございました。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 22:31:55.51 ID:d5tGG4Gs0
補足ではありませんが、あまりに文章が雑なので、まとめBlog様の転載をご遠慮願います。
確認を終えましたが、補足修正はありません。ありがとうございました。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/03/25(月) 22:38:36.88 ID:phSwXZC30
乙。読み応えがありました
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/03/25(月) 22:42:18.01 ID:k6TD0gzoO
これだけ書けて雑って… 普通にさくさく読めて面白いんだが
この前置き晶葉のひと?
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2013/03/25(月) 23:07:10.76 ID:d5tGG4Gs0
>>35
さん
モバP「天才発明家・池袋晶葉は揺らがない」の事であれば、その通りです。
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2013/03/25(月) 23:09:59.91 ID:Y4QZFhoq0
おつおつ
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/03/25(月) 23:19:50.99 ID:4lrHrkOo0
小梅ちゃん可愛い
乙
31.38 KB
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