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雪歩「スプリング・スノウ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:25:53.35 ID:DOCYTEs60

 ドラマの主演が決まった。
 テレビ局の楽屋で、そうプロデューサーに言われた時には、何が起きたのかすら分からなくて。
 私は、軽くパニックになっていたと思う。

 プロデューサーと事務所に戻ると、続く小さな爆発音のようなもの。
 そして、私の目の前で季節外れの雪が舞った。

「雪歩、ドラマ主演おめでとう!」

 髪についた紙吹雪の一枚をぎゅっ、と握る。

雪歩「あ、ありがとうございますっ!」

 ようやく、実感が湧いてきた。

真「雪歩っ、すごいよ! 本当におめでとう!」

 真ちゃんが私の手を掴んで、ブンブンと縦にふる。



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満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
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旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
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2 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:26:44.70 ID:DOCYTEs60

雪歩「ありがとう、真ちゃん!」

P「いやあ、本当に……雪歩、頑張ったもんなぁ」

小鳥「何てドラマなの、雪歩ちゃん?」

雪歩「『フォークソングガール』っていう……」

響「って、あれか!?」

真「えっ、有名なお話なの?」

響「ベストセラーだぞ、真! ドラマ化するって噂だったんだけど……すごいじゃないか!」

雪歩「ありがとう、響ちゃんっ」

3 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:27:35.06 ID:DOCYTEs60

 さあさあ、と美希ちゃんに通され、事務所の奥に進むと、
 大きなお菓子が見えた。

春香「特製、ビッグパウンドケーキだよ! おめでと、雪歩!」

雪歩「ありがとう、春香ちゃん!」

千早「萩原さんはすごいわね。……私には演技力がないから、憧れるわ」

雪歩「そ、そんなことないよ! 私なんて、ひんそーで」

律子「はい、ネガティブにならない」

 頭をチョップされて、振り向く。律子さんだ。
 眼鏡の奥には笑みがある。

律子「今日は楽しみましょう?」

雪歩「は、はい!」

千早「ふふっ」
4 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:28:22.10 ID:DOCYTEs60

 亜美ちゃんが抱きついてきたり、それを見たやよいちゃんが伊織ちゃんに抱きついたり。
 私のためにみんなが開いてくれたパーティーは、とっても楽しかった。

 でも――――いつまでも、楽しい時間は続かなかった。

亜美「うおう、外寒いっ」

 ずっと、あのまま時が止まっていれば。離れず、ずっと手を握っていられたら。

律子「まだ、冬って感じよね」

 真ちゃんは。

真「ボク、ちょっと忘れ物しちゃったみたいだな……事務所に戻るよ。律子、鍵貸して」

 私のせいで。

律子「もう……はい、これ」

雪歩「気をつけてね」

5 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:29:17.85 ID:DOCYTEs60

 私が、あの時「一緒に行くよ」と一言、言えたのなら。

千早「我那覇さん、この間の……」

 ……あの腕を掴んで、「ダメ」と言えたのなら。

美希「…………」

P「…………真はまだなのか?」

 1分経った時点で、気づけたのなら。

春香「遅い、ですね」

 パーティーを、開かなければ。

P「ちょっと、見てくるよ」

美希「ミキも行くのっ」

6 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:30:08.54 ID:DOCYTEs60

 ああ、神様。
 私はどうなってもいいのに。

 どうして私から、大切な人を奪おうとするんですか。

千早「真! 真っ!」

あずさ「私、包帯持ってます!」

伊織「バカ、目ぇ開けなさいよ!」

 運動神経のいい真ちゃんが、転ぶなんて。

貴音「伊織、揺らしてはいけません! わたくし達は、救急隊を待つことしか……」

小鳥「どうして……どうしてこんなことに」

 私のせいだ。

7 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:32:01.31 ID:DOCYTEs60

雪歩「私の……せいだ」

響「えっ?」

やよい「そ、そんなことないですよっ!」

雪歩「私が……私の…………ううっ……」

響「雪歩、しっかりしろっ!」

真美「ゆきぴょんはなんにも悪くない、事故だよっ」

雪歩「ああ…………ああっ……」

春香「雪歩、雪歩っ、大丈夫、真は無事だよ!」

 救急隊の人に運ばれていく、真ちゃん。
 …………私が、代わりに取りに行っていればよかったのに。
8 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:32:51.75 ID:DOCYTEs60

 私は結局、その日からまともに活動が出来なくなった。
 ドラマは、再び役決めのオーディションが開かれることになった。

 駅売りのスポーツ新聞や芸能雑誌は、真ちゃんや私の写真と名前を頻繁に出している。

『菊地真は脳震盪だった! 戻らない意識に関係者号泣』

『萩原雪歩、ドラマは白紙……突然の活動休止にファンは』

『相次ぐ応援・765プロ、雪歩ちゃん活動は!?』

 事務所には通っている。だけれど、歌おうとすれば声が出ない。
 踊ろうとすれば身体が動かず、笑おうとすれば表情が引きつる。

 事務所に通うのは、せめて心だけでもアイドルで居なさいという、
 律子さんの提案だ。
 ソファに座って、音無さんのお手伝いをするだけ、だけど。
9 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:33:25.37 ID:DOCYTEs60

 病院には、まだ行けていない。
 真ちゃんの眠る姿をみたら、今度こそおかしくなってしまいそうだった。

 ……私のせいなんだ。
 真ちゃんの意識が戻らないのも、みんな。

P「ただいまー」

小鳥「おかえりなさい。……あれ、貴音ちゃんは?」

P「貴音なら、病院で降ろしてきました。……見舞いに行く、って」

小鳥「……分かりました。私達も、また行きましょう」

 プロデューサーが帰ってきた。

10 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:33:55.81 ID:DOCYTEs60

P「ただいま、雪歩」

雪歩「おかえりなさい」

P「なあ、そろそろ……真に会いに行かないか」

雪歩「…………ごめんなさい」

 まだ、会えないと思います。
 ごめんなさい。

P「そっか。……会いたくなったら、いつでも言うんだぞ。一緒に行くから」

雪歩「……ありがとうございます、プロデューサー」

11 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:34:41.54 ID:DOCYTEs60

 テレビは、もう何日も見ていない。
 真ちゃんが映るだけで、泣いてしまうから。

やよい「おつかれさまです」

亜美「たっだいま→」

伊織「ただいま」

P「おう、おかえり」

小鳥「おかえりなさい」

 やよいちゃん達が、帰ってきたみたいだ。

12 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:35:07.57 ID:DOCYTEs60

雪歩「おかえりなさい」

亜美「ただいま、ゆきぴょん」

伊織「雪歩。明日なんだけど……みんなで病院に行かない?」

やよい「みんなで行けば、雪歩さんも大丈夫かなーって!」

亜美「だいじょーぶそう?」

雪歩「………………ごめん、なさい……」

 私は弱虫で、ちんちくりん。
 真ちゃんに会う資格なんてない。

伊織「雪歩…………」

13 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:35:39.55 ID:DOCYTEs60

 携帯が鳴った。

亜美「電話?」

 鞄の中で震える携帯を取り出して、通話ボタンを押す。

雪歩「……もしもし」

『雪歩。話したいことがあるので、事務所でわたくしを待っていてくださいませんか?』

雪歩「…………四条さん?」

『はい』

 四条さんだった。確か、病院に行っていたはず。

雪歩「……分かりました」

14 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:36:17.21 ID:DOCYTEs60

亜美「お姫ちんが電話なんて、めずらしいね」

やよい「私もだけど、あんまり機械に強そうじゃないよね。貴音さん」

伊織「貴音……ええ、滅多にないわね」

 四条さんから電話をもらうのは、初めてだ。

『雪歩、わたくしは思うのです』

雪歩「……え?」

『いつの世も、王子の目覚めには姫君の口付けが必要だ……と』

雪歩「……逆、じゃないですか?」

『…………そう、だったかもしれませんね』
15 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:40:02.60 ID:DOCYTEs60

 電話も切れて、みんなは再び仕事に出かけていった。

小鳥「雪歩ちゃん、悪いんだけど、おつかいを頼まれてくれない?」

雪歩「分かりました、何を買うんですか?」

小鳥「このメーカーの電球を、4つ。スーパーに売っているから、お願いね」

雪歩「分かりました」

 メーカーと型式の書かれているメモとお金をもらって、外に出る。
 階段を見るたびに、足がすくんだ。

雪歩「…………」

 あれから3日も経った。いや、3日しか経っていない。
 私以外のみんなは、全員お見舞いに行ったようだ。

 詳しい病状だって、分からない。
 でも――意識が戻っていない、ということは聞いている。
16 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:45:10.27 ID:DOCYTEs60

 階段をゆっくりとおりて、大通りに出る。
 空気はあの時と同じように、冷たかった。

 もう、春だというのに。雪が降ってもおかしくない寒さだ。

雪歩「……」

 歩き出す。下を向いて、あの時の情景を思い出さないようにしながら。

 ――『救急隊さん、こっちなの! 早くしてっ』――

 駄目だ。

 ――『あ、あのっ……病院は、大丈夫なんですよね? たらい回しとか、ありませんよね?』――

 どうしても、頭の中に蘇る。

 ――『真を、助けてください』――

 みんなの、声が。真ちゃんの、ぐったりとした姿が。

17 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:46:47.54 ID:DOCYTEs60

雪歩「……っ!」

 振り切って、走り出す。

「ん……? おい」

 誰かに呼び止められて、振り返った。

雪歩「あっ……ジュピターの」

 ジュピターの人だ。少し離れて、「どうしたんですか」と聞く。
 プロデューサー以外の男の人には、未だにこの距離だ。

冬馬「そりゃあ、こっちの台詞だ。お前、どうしたんだよ」

雪歩「えっ……?」

冬馬「活動。休止、してるんだろ?」
18 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:49:07.19 ID:DOCYTEs60

雪歩「…………いま、なんにも出来ないんです。
   それで、プロデューサーがお休みしろ、って」

冬馬「菊地のことと関係あるのか?」

雪歩「…………」

冬馬「そうか……。忙しくて、まだ見舞いには行けてないんだが……」

雪歩「行くつもり、なんですか」

冬馬「そりゃあ、俺は良きライバルだ、って思ってるからな」

雪歩「…………なら、私の分も、お願いします」

冬馬「はぁ? ……お前、見舞い行ってないのか」
19 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:50:47.34 ID:DOCYTEs60

 静かに首を縦にふる。

冬馬「マジかよ……765プロなら、全員が行ったのかと思ったが」

雪歩「……私だけ、行ってません」

冬馬「どうして」

雪歩「…………私の、せいだから」

冬馬「え?」

雪歩「真ちゃんがああなったのは、私のせいだから……なんです」

冬馬「…………」

 トラックが横を猛スピードで走る音がする。
20 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:54:44.53 ID:DOCYTEs60

冬馬「…………俺は、新聞の情報ぐらいしか持ってないけど」

雪歩「……」

冬馬「……あんた、いろいろ背負いすぎなんじゃねーの?」

雪歩「えっ……?」

冬馬「こう、傍から見ても……あんた、気にしなくてもいいことを気にして失敗とか、してるだろ」

雪歩「…………真ちゃんのこともそうだ、って言いたいんですか」

冬馬「……菊地は菊地、あんたはあんただ。菊地のことまで背負い込む必要なんてねーだろ」

雪歩「…………」
21 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:56:36.29 ID:DOCYTEs60

冬馬「やべっ、北斗から電話だ……。じゃーな、萩原」

雪歩「あっ…………はい……」

 走って去っていった。
 …………少し、良い人だな、とは思った。

 しまった、急いでスーパーに行かないと。
 私はゆっくりと、走り出した。

22 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 01:58:45.99 ID:DOCYTEs60

小鳥「ありがとう、助かったわ」

雪歩「いえ……遅くなって、ごめんなさい」

小鳥「そういえば、ちょっと遅かったかも。どうかしたの?」

雪歩「ジュピターの人と会って……」

小鳥「ジュピター……」

雪歩「励まされました」

小鳥「励まされたの? そう……」

 変な話だと思う。
 ジュピターの人に励まされるなんて。
23 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:02:41.20 ID:DOCYTEs60

 ソファに座って、ぼーっとする。
 ポケットが震えた。

雪歩「……もしもし」

『もしもし、わたくしです』

雪歩「……四条さん」

 どうして自分から名乗らないのだろう。
 少し不思議だ。

『雪歩、わたくしは今、事務所の下に居ます』

雪歩「え……?」

 立ち上がって、窓の前に移動する。
 窓を開けて下を覗きこむと、四条さんが笑顔で手を振っていた。
24 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:06:42.58 ID:DOCYTEs60

『どうぞ、おりてきてください』

雪歩「は、はいっ」

 電話を切る。音無さんに一言残して、コートとバッグを掴んで事務所を出た。
 ゆっくり、ゆっくり階段をおりて――たるき亭の前、1階に。

貴音「雪歩、こちらです」

雪歩「あ、あの……四条さん、一体何をするんですか?」

貴音「ええ、これから……一緒に真に会いに行こうと思いまして」

雪歩「えっ…………」

 あの時の情景がフラッシュバックする。

25 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:09:20.18 ID:DOCYTEs60

貴音「雪歩」

雪歩「……っ」

貴音「逃げるばかりでは、強くなれません」

雪歩「え……?」

 私は、逃げているのか。真ちゃんから。
 ……そう、なのかもしれない。真ちゃんを事故に遭わせてしまった責任感を背負って。
 真ちゃんと向きあおうとしていないのかもしれない。

貴音「真も、雪歩に会いたいと思っているはずです」

雪歩「…………」
26 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:15:06.06 ID:DOCYTEs60

貴音「……歩いて行きましょう」

雪歩「…………あの病院って、歩いて行けるんですか」

貴音「ええ」

 四条さんが手を繋ぐ。

貴音「雪歩」

雪歩「…………はい」

貴音「あなたは、1人ではないのです」

雪歩「…………」

貴音「困ったときに、相談の出来る仲間が居ます」
27 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:18:22.34 ID:DOCYTEs60

 ゆっくりと、歩き出した。

貴音「真は、皆に愛されていますね。実感します」

雪歩「えっ?」

貴音「病室には、皆の置いていく果物や花が溢れるくらいにあります」

雪歩「……」

貴音「ただ、真が一番欲している貴女の見舞い品だけがありません」

雪歩「…………」

貴音「真も、目を覚ますかもしれませんね」
28 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:21:07.23 ID:DOCYTEs60

雪歩「目を……」

貴音「普段は、真が王子様の役を買って出ることが多いですが……」

雪歩「……」

 さっき、四条さんが電話の向こうで言ったことだ。

貴音「今は、眠り姫です」

雪歩「眠り姫……」

 お姫さまは、眠ってしまいました。

貴音「そして必要なのは」

 眠りから解放する方法は、

雪歩「王子様の、口づけ」
29 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:28:01.74 ID:DOCYTEs60

貴音「……さすがに、口づけは出来ませんが」

雪歩「…………」

貴音「会って手を握れば、奇跡が起きるかもしれませんね」

雪歩「……」

貴音「雪歩」

雪歩「……はい」

貴音「あの日……パーティーのことを、覚えていますか」

雪歩「も、もちろんです」

 とっても楽しかった。だからこそ、自責の念が強いのかもしれない。
30 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:34:48.35 ID:DOCYTEs60

貴音「あの時、誰よりも雪歩のドラマ主演を喜んでいたのは、真ではありませんか?」

雪歩「えっ?」

貴音「もちろん、皆が雪歩のことを祝っていましたが……付き合いの長い真が、
   一番喜んでいたのでは?」

雪歩「…………」

 そう、なのかな。
 真ちゃんが、一番喜んでくれたのかな。

貴音「そんな真のことです。雪歩に恨み節は言いません」

雪歩「えっ?」

貴音「真の目が覚めた時、『あの時雪歩がついてきてくれたら』とは言わない、ということです」

雪歩「……」

31 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:36:47.05 ID:DOCYTEs60

 私、四条さんに言ったっけ。
 悩んでいる内容。

貴音「ふふっ」

雪歩「……」

貴音「そろそろ、病院につきます」

雪歩「…………」

 前を見ると、少し遠くに病院のマークがある、茶色の建物が見えた。
 事務所の近くの病院だったんだ。

貴音「雪歩の手は、温かいですね」

雪歩「……そう、ですか?」
32 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:40:44.93 ID:DOCYTEs60

貴音「ええ。……手が温かい人は、思いやりのある人だと言います」

雪歩「……私は、違います」

貴音「いいえ、雪歩こそ、思いやりのある女性だと思いますよ」

 私は思いやりがないと思う。
 自分のことで精一杯で、周りを見て判断することが出来ない。
 千早ちゃんみたいに、困っている人をサポートすることも。
 四条さんみたいに、困っている人の話を聞いて解決に導くことも出来ない。

貴音「あなたは、人のことを自分よりも大切に考えられる」

雪歩「…………」

 ジュピターの人には、真ちゃんのことまで背負い込む必要はない、って怒られたけれど。
 彼の言う事も、四条さんの言う事も正解で、間違っては居ないんじゃないかと思った。

貴音「とても優しい人ではないですか」
33 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:43:51.46 ID:DOCYTEs60

 病院に入る。さすがに四条さんは、手を離した。
 エレベーターに乗り込んで、7階のボタンを押す。

雪歩「7階なんですね」

貴音「ええ。眺めのいい部屋ですよ」

 7階でございます、と電子音声が案内する。
 ナースステーションが目の前にあって、そこで受付をするのだという。

貴音「雪歩の名前も、書いておきますね」

雪歩「は、はいっ」

貴音「こちらの入館証を胸につけて下さい」

 手渡された入館証のクリップを、胸の近く……着ていた服のポケットにつけた。

貴音「それでは、進みましょう」
34 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:47:18.82 ID:DOCYTEs60

 広い病院だ。
 廊下をしばらく歩いて行くと、行き止まりの壁が見えてきた。

雪歩「……あの」

貴音「角部屋です」

 まだ、何も言っていないのに。
 四条さんは不思議な人だ。普段から、こういうことがよくある。

貴音「そして、個室です」

 菊地真――――。その名前だけの部屋。
 四条さんが2回ノックをして、ドアを横にスライドさせた。

雪歩「……っ」

 人工呼吸器をつけた真ちゃん。ベッドの奥には、心電図が映っている機械が置いてある。
 真ちゃんと、繋がっている。

貴音「真、雪歩を連れて来ましたよ」
35 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:50:37.47 ID:DOCYTEs60

真「――」

雪歩「……真ちゃん」

 四条さんが、ベッドの横に置いてあった椅子に座る。

雪歩「真、ちゃん」

 手を握った。ほのかに、温かい。

雪歩「真ちゃん…………」

 顔を見る。頭に包帯を巻いていた。

貴音「……わたくしは、ラウンジへと行ってまいります」

 四条さんが、部屋から出て行った。
 静かな空気。
36 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:53:32.76 ID:DOCYTEs60

雪歩「真ちゃん、私ね」

 手に力はない。

雪歩「いま、お休みしてるんだ」

 規則的に、心臓は動いている。

雪歩「だから、ドラマのお話も無くなっちゃった」

 点滴のチューブを見て、胸が痛い。

雪歩「プロデューサーに、申し訳なくて」

 ギュッ、と手を握る力を強くする。
37 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:56:34.31 ID:DOCYTEs60

雪歩「気づいたんだ」

 顔を見られない。

雪歩「私、自分自身のことより、真ちゃんのことを大切に想ってる」

 私の声は、静かな空気の威圧感に押されそうで。

雪歩「真ちゃんのこと、自分でも気づかないうちに……すっごく大切にしてるんだと思う」

 それでも、消えることはない。

雪歩「だから、真ちゃんが居ないと……私、ダメだよ」

 真ちゃんに、伝えたいから。
38 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 02:59:05.78 ID:DOCYTEs60

雪歩「真ちゃん、目を開けて」

 お願い。

雪歩「一緒にいろんな所に行こう」

 旅行でも、ショッピングでも。

雪歩「いろんなことをしよう」

 歌って、踊って。

雪歩「いろんな表情になろう」

 いっぱい泣いて、いっぱい笑おう。

雪歩「私と」

 私と、一緒に。
39 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:00:55.63 ID:DOCYTEs60

真「――」

雪歩「……!」

 真ちゃんの頬に、

雪歩「真、ちゃん?」

 ひとしずく。

雪歩「真ちゃんっ」

 それはまるで季節外れの雪みたいに、儚くて。そして、

真「…………ゆき、ほ」

 美しかった。
40 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:03:04.29 ID:DOCYTEs60

雪歩「真ちゃんっ!」

真「…………?」

 手を握る。

雪歩「ぐすっ……真ちゃん…………」

 思わず、涙が出た。

真「…………雪歩」

 真ちゃんは、私の手を握り返した。

真「……ありがと」
41 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:06:01.34 ID:DOCYTEs60

 真ちゃんは1週間という時間を経て、無事に退院出来た。
 そして私も――徐々に歌ったり、踊ることを重ねて。

 ようやく、今日からアイドル復帰する。

 事務所の入口の前で、1人。

雪歩「……よし」

 気合を入れて、

雪歩「おはようございますっ」

 ドアを開ける。
 ――小さな爆発音のようなもの。

雪歩「へっ……?」
42 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:08:42.54 ID:DOCYTEs60

「雪歩、ドラマ主演抜擢おめでとうっ!」

雪歩「えっ……?」

 プロデューサーがクラッカーを持って、笑う。

P「雪歩の代役オーディション、合格者がいなかったんだと」

春香「それで、復帰した雪歩に白羽の矢が立ったんだよ!」

千早「あらためて、おめでとう。萩原さん」

雪歩「あ、ありがとうございますっ!」

真「雪歩、おめでとう!」

雪歩「ありがとう、真ちゃんっ」

真「これ、ボクからのプレゼント。復帰祝い!」
43 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:10:45.01 ID:DOCYTEs60

 真ちゃんが、綺麗な箱を渡してくれる。

雪歩「ありがとう。開けても、いい?」

真「もちろん!」

 箱をゆっくりと開けると、中に入っていたのは。

春香「スノードーム?」

千早「綺麗ね……」

真「雪歩っ、これからもボクたちのこと、雪で白く染めてねっ」

雪歩「ふぇっ!?」

真「へへーっ」
44 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:14:19.13 ID:DOCYTEs60

 どういう意味かは、分からなかった。
 真ちゃんのことを、私が白く染める?

真「雪歩には、一番助けられてるからさ」

雪歩「……そう?」

真「うん。だからこれからも――」

雪歩「……」

真「ずーっと降り続けるスノードームみたいに」

 真ちゃんは私の手を握って、笑う。

真「よろしくね、雪歩っ」

 春に降る季節外れの雪が、ゆっくりと輝いた。

45 : ◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/03/30(土) 03:17:15.39 ID:DOCYTEs60

 GReeeeNの「雪の音」でイメージしたのですが、もうほぼ歌詞と関係なくなってしまいました。
 若干たかゆき、ベースはゆきまこです。
 千早「ミッドナイト・バスタイム」や真美「レイニー・ナイト」も似ていますので、お暇なときにお読み頂けると嬉しいです。
 お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 03:30:13.10 ID:TKJpdigao
真は白く染める(意味深)ほうだろ!
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/30(土) 03:39:00.89 ID:SWinH2dKo
乙!
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 03:51:27.98 ID:iJ+jW3tDO
又、クソスレだな。さっさとシネ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 04:23:10.09 ID:DAaTwuZ2o
乙!
765プロの階段は恐ろしいな
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 05:39:02.26 ID:TERr6aADO
そんな階段でしょっちゅうドンガラしている春香っていったいなんなのか
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 11:02:08.53 ID:CO1CPhrIo
きっと春香は何もないところで転ぶ程度の能力と、転んでも怪我をしない程度の能力を持ってるんだよ、うん(目そらし)
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/30(土) 11:20:15.60 ID:nYIGwFLW0
乙なの!
タイトル的にはるゆきかと思ったの
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/31(日) 12:38:16.94 ID:C7Sp7Q/SO
お疲れさま

音無くんを運動させる為に、エレベーターの修理していなかったのが仇となったようだね
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