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まどか「JOKERの呪い、という都市伝説」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:51:06.97 ID:I3Hl57pZ0
ほむら「ジョーカー様呪い、という都市伝説」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360403969/
の続編です

劇場版とは関係ありません
どちらかというとペルソナ2罰の続編だと思います
不定期ですが、土日の更新を予定しています

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382795466
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

2 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:53:56.96 ID:I3Hl57pZ0


なんでだろう。自分が不思議で仕方がなかった。転校生さんを見たときから、
涙が溢れてしまった。そんな自分を、友人たちは労わってくれた。
それが嬉しくて悲しくて、涙が止まらなくなってしまった。
どこかで見たことがある。一目見たときにそう思った。

「どこでみたの?」

「わ、笑わないでね? その……、夢で見たのかも」

一拍おいてさやかが大笑いをする。笑われたまどかは思い切りむくれて見せた。
自分が真面目な話をしているのに酷い、そう思っていたから。

「ふふ、ロマンチックですのね」

「いやぁ〜、ひょっとしたら前世で恋人同士だったのかもよ〜」

ますます茶化すさやかに、まどかはもう怒る気力もなくなっていた。
だがこのいつもの行動のおかげで彼女は落ち着くことが出来た。

3 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:54:59.94 ID:I3Hl57pZ0

「じゃぁさ」

とさやかは飛躍する。

「部活にさっそっちゃおうよ!」

「え!?ダメだよ!」

まどかはなぜかうろたえる。いつもは自己主張などしない、
穏やかで争いを好まない性格のはずだ。だからさやかも驚いてしまう。

「なんでさ? マミさんが卒業したら廃部になっちゃうんだよ?」

「それは、そうだけど……」

「私が入部できればいいのですけど……」

仁美がすまなそうに言う。習い事が多くて入部できないことを気に病んで
いるからだ。幽霊部員でも頭数はそろうのだが、実績がないと顧問が
納得しない。
廃部は目前と思われていた。
4 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:56:03.71 ID:I3Hl57pZ0

だから、というだけでもないが、これはさやかの独断。あるいはまどかへの
サプライズが目的だった。
一人珍しく別行動をとったさやかが向かった先は、その転校生のところ。

「あー、ねぇ。こんにちは」

少々、いやかなり人見知りな転校生は、突然のことに目を白黒させていた。
見ず知らずの人が話しかけてきたのだから当然だった。しかも間の悪いことに
周りに彼女を守る級友はいない。級友たちは人見知りでかつ美人な彼女を
男子諸君から守るため気をもんでいた。だが、偶然それが途切れた瞬間を
さやかは引き当てた。

「ど、どちら……さまですか?」

「あー、ごめん。私隣のクラスの美樹さやか! 実は転校生にお願いがあってさ!」

と転校生を拝むようにする。このわけ隔てなさが人懐っこさであり馴れ馴れしさ
ではあるのだが、断ることが苦手な転校生には不利に働いた。
というのも、この転校生、今まで入院をしていて人に迷惑をかけて生きてきた
という意識が強い。そのため逆に「頼られる」「頼まれる」ことに憧れを感じていた。

「お、お願いですか?」

だからさやかの話を聞いてしまう。
さやかは話を聞く体勢になってくれたことに喜び、思わず笑みがこぼれてしまう。

「うん、私たちの部活の見学に来ない?」
5 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:56:49.31 ID:I3Hl57pZ0

「……というわけで体験入部してもらいました〜」

「はっ、初めまして。暁美ほむら、です……」

ほむらと名乗った転校生はおどおどしながらも自己紹介をする。この彼女、入院中は
周囲が年上ばかりだったため社交性がないわけではない。けれど同年代を相手にする
のはほとんどはじめて。だから非常に気後れしていた。
それを察して唯一の先輩である、巴マミがフォローする。

「初めまして。私は部長の巴マミ。美樹さんが無理やり連れてきてごめんなさい」

「いっ、いえ、いいんです。その、よろしくお願いします」

といいつつもちらちら気になる人のほうを見続けている。その目当ての少女も話しかける
タイミングを図りかねていた。彼女も引っ込み思案だから。

6 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:57:22.01 ID:I3Hl57pZ0

「あたしは佐倉杏子。よろしくな。
あっちのうるさいのは美樹さやか。どーせ自己紹介なんてしてないだろ」

「失敬な! ……、やば、してなかったっけ?」

「いっ、いえ、美樹さやかさんですよね。聞きました」

いつものことだから思い当たるところが多かったのだろう。さやかも一瞬忘れていたようだった。
それを皮切りにじゃれあいが始まる。それをぽかんとした表情で見つめるほむらに、自己紹介を
含め、最後の一人が声をかけた。

「私は、鹿目まどか、です。よ、よろしくね」

幾分、自分でも信じられないほど緊張しての挨拶だったが、なんとか噛まずに言えた。

「よ、よろしくお願いします!」

背格好ややや引っ込み思案の性格が似ている二人は、互いのどもりながらの
挨拶に笑ってしまう。それから、それだけで二人は友達になれた。
7 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:58:49.69 ID:I3Hl57pZ0

――なってはいけないのに――

「大方、無理やりさやかの奴が連れてきたんだろ。気に入らなきゃ気に入らないでいいからね」

ざっくばらんにいう杏子に、ほむらは曖昧な表情をする。

「あ、でも、文化系の部活には入りたかったんです。だから、その……」

「正式入部はともかく、今日一日は見学していってね」

マミはにこやかにいう。無理強いしてはいけないとよくわかっている風だった。

「それで、実際に何をする部活なんですか?」

ほらみろ、といわんげな杏子の顔。困った顔のマミをみて、さやかは舌を出す。
つまり、さやかは言ってなかったわけだ。活動内容どころか部活の名前も言わず
つれてきたのだと。

「美樹さん……」
8 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 22:59:36.85 ID:I3Hl57pZ0

「ここは手芸部だよ。こんな小物を作ったりするの!」

些か焦りながらさやかが引っ張り出したのはまどかが作った編みぐるみ。
可愛らしいピンクのウサギのものだ。他にもみかんにビーズで目や口を
つけたものなどがあふれ出てくる。

「それ全部私のだよ!?」

出来に満足いってないのかまどかが慌てて隠そうとする。だが腕の間から
見え隠れするそれは、彼女が恥ずかしがるほどの出来ではない。むしろ
愛らしさすらあった。

「あなた達も少しはやってほしいわ。おやつ目当てで、ぜんぜん参加してくれないだもの」

その一方で、手芸部部員とは名ばかりの二人は居心地悪そうにそっぽを向く。
部長のマミのため息が部屋に響く。
9 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 23:00:19.46 ID:I3Hl57pZ0

「でも、鹿目さんのこれ、すごく可愛いです。私もできるかなぁ」

「はじめるならきちんと教えてあげるわ。先輩ですもの」

興味を持ったほむらにマミは嬉しそうに応じる。ちょっと先輩らしくないその
屈託のない笑顔に、ほむらも照れながらも嬉しそうだった。

「えっ、と、おやつってなんですか?」

「休憩の合間にマミさんが出してくれるんだよ。杏子はそれが目当てで入部したの」

「さやかだってそうじゃんか!」

マミがもう一度ため息をつく。

「私は真面目にやってほしいのになぁ」

10 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 23:00:46.65 ID:I3Hl57pZ0

それでも、ほむらはマミとまどかに教わりながら、簡単な刺繍から
はじめていた。初めてのものなのだろう、時折指を針で刺しながらも
なんとか縫いを切りのいいところまで終わらせた。
病弱で自分で成したものがあまりない彼女にとって、それは宝物だった。

「これ、あさがお?」

杏子が何気なく聞く。休憩中の雑談。もうそろそろ下校の時刻とあって
片付けももう終わっている。テキストから引用したそれは「朝顔」だった。

「そんなに細かくない刺繍だから初心者にはいいと思ったのよ」

「でも丁寧に縫えてるじゃない」

けれど、まだ細かくないせいか、朝顔には見えづらい。だからほむらは
それらしく見えるよう、もっと上手く朝顔を作ってみたいと意気込んでいた。

「ありがとうございます。もっと頑張りたいです」

ほむらの笑顔がまぶしい。その美貌もあいまって見ているほうが照れてしまう
ような笑顔だった。
11 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 23:01:27.41 ID:I3Hl57pZ0

そして話は部活以外にも広がる。

「あ、そうだ。転校生ならさ、こういう噂知ってる?」

と切り出したのはさやかだ。出されたお菓子をつまみながら雑談。女の子ならではの時間。

「【JOKERの呪い】と……」

それの内容を知るマミは顔をしかめる。彼女の周囲でもその話題が出ていたから。
それにきづいたさやかは、もう一方の噂に切り替える。

「……【ペルソナ様遊び】って」

ほむらは入院期間が長く、お世辞にも学生同士の噂に疎い。
それでなくとも口下手なのだ。そういった話題を聞いたこともない。

「いえ、わからないです……。どういうものなんですか?」

話の流れ、はっきりそれに興味があったわけではない。けれどそれに
触れないと興味がないと思われることを恐れつい聞いてしまった。

「それをやるとね……」

【ペルソナ様遊び】とは、さやかが言うには、都市伝説であるらしい。
部屋の四隅に一人ずつ立ち、こういいながら隅にいる人の肩を叩きに
いくのだという。

「……もうひとりのじぶんにあえるんだってさ」
12 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 23:03:30.27 ID:I3Hl57pZ0

「『ペルソナ様ペルソナ様、おいでください』っていうんだって」

これを残りの三人も行う。そうすると最初に始めた人がいた角は誰もいない
ことになる。だがこれを行うと、そこに【ペルソナ様】が現れるという。
それがどういう形で現れるかが知りたいとのことだった。

「ほむらが入部してくれたことだし、やってみようと思ってさ」

だがすでにここには四人いる。仁美も誘えばほむらがいなくとも人数は
足りるはずだ。とさやかはそこで追加する。ペルソナ様がいつ現れるか
じっと見ている人が欲しい、と。

「そんなの本当に出るわけないじゃない」

ため息交じりのマミとは対照的に乗り気なのはさやかだ。

「ならマミに見ててもらえばいいじゃん。ほむらがやるなら、だけど」

とまどかは不安そうにほむらを見る。さやかに腕を引かれたくらいだから
押しや場の流れに弱い彼女が、嫌々やるのではないかと思ったからだ。

「わ、わかりました…… 」

案の定押し切られた形だった。マミはため息をついた。
13 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/10/26(土) 23:04:12.72 ID:I3Hl57pZ0

筆者です。こんな具合で投稿していきます。よろしくご賞味ください
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/26(土) 23:29:22.65 ID:231zdfZ20
ほむらガチレズ公式認定おめでとう
15 : ◆sIpUwZaNZQ [saga sage]:2013/10/26(土) 23:30:57.21 ID:I3Hl57pZ0
>>11 修正

×→部屋の四隅に一人ずつ立ち、こういいながら隅にいる人の肩を叩きに
○→部屋の四隅に一人ずつ立ち、あることを言いながら隅にいる人の肩を叩きに
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/26(土) 23:37:10.01 ID:8UFnKiZPo
乙でした。

続きを楽しみにお待ちしていました。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/10/27(日) 21:31:07.19 ID:OccucAUl0
更新まってました。

罰はたっちゃんが切なすぎて胸が痛い話だ。なんだかんで各人の問題解決してのハッピエンドだけど、約一人
満足してるけどものすごく報われてないように感じてやりきれなくなるんだよな。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/10/28(月) 01:28:08.72 ID:JMjQECy/0
ついに来てしまいましたか……。
いろいろ不安材料とかも幻視してしまいそうですが、今回はジョーカー様ではなくペルソナ様からですか。
前回ペル2組から当てにならないっぽい扱いされた青い蝶のひと、こっちでは復権なるか?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/30(水) 20:13:59.06 ID:XQWYvJN8O
待ってました
更新楽しみにしてます
20 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:09:25.26 ID:o19kPvmi0
筆者です。短いですが更新します
21 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:10:39.93 ID:o19kPvmi0

空き教室で活動している部だから、やろうと思えば可能だった。さらに見滝原
中学校は机が床に収納できるため、邪魔になる心配もない。
中央にやや不満げなマミ、四方の角に後輩たちがスタンバイする。
口火を切るのはさやかだ。

「それじゃ行くよ。『ペルソナ様ペルソナ様、おいでください』」

とまず杏子の肩に触れる。

「えーと『ペルソナ様ペルソナ様、おいでください』」

半信半疑のまま杏子も歩き、まどかの肩を優しく叩く。それにあわせてまどかも
歩きだす。そして進む先はほむらのところ。

「『ペルソナ様ペルソナ様、おいでください』」

頼りなげに歩いて、ほむらの肩を叩く。その瞬間だった。
22 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:11:05.48 ID:o19kPvmi0

――ダメっ!――

その瞬間、電気が走ったように手に痺れが起きた。だがそれは冬の静電気のような
もので、ほむらはそれと気づかなかったようだ。

「ええっと……『ペルソナ様ペルソナ様、おいでください』……」

これで一周すると、元のさやかのいた場所は誰もいないはずで、そこにペルソナ様が
あらわれるということらしい。
マミは中央で確認する役目。さやかがいた場所に誰が現れるかを見守る。
否定派のマミがそれを見れば公平に判断してくれると、さやかは思ったのだろう。

かくして、そこに現れたのは、仮面をつけた人物だった。真っ白いスーツを着て、
やや長い髪を後ろで無造作に結んでいる。透き通るようなサファイアのような目。
それが見えたと思った瞬間、雷に打たれたようにほむらがしびれて倒れる。
ついで、まどか、杏子、さやかと続き、【ペルソナ遊び】に直接参加していないマミも
倒れた。
23 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:12:13.06 ID:o19kPvmi0

――初めまして、かな。私はフィレモン。意識を無意識、自我と超自我の間に住むものだ――

――ここを訪れたものには試練を与え、乗り越えたものに力を与える。それが役割だ――

――さて、皆に平等に試練を課そう――

――君は、ここで自分の名前を言うことが出来るだろうか――

仮面の人物は言う。その声に厳かさや柔らかさを皆は感じた。

――き奴が動きだした。君たちに試練を課すために――

瓦礫、中に浮かぶ学校、巨大な歯車を持つ怪物、軍隊の足音……

そして、胸を赤く染めて地に伏す少女、とそれを抱きかかえ泣きじゃくる少女。

――だが、君たちだけではその試練を越えられないだろう――

その人物の手のひらに、真っ白な猫のような小動物が眠っている。

――ゆえに、従者を送る……、私の変わりに力になることだろう――
24 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:12:41.06 ID:o19kPvmi0

皆が目を覚ましたときには、保健室にいた。手芸部として使っている部屋で昏倒している
五人を見つけた生徒が知らせたらしい。和子先生は顔色を変えて運んだとのこと。
最初は薬物などの疑いもあったのだが、日ごろの行いがよかったため事故として処理された。

「皆さんを信じて話を大きくはしませんが……、具合が悪くなったらすぐに知らせなさい」

まどかたちの担任の先生は、何度もそう念を押した。特にほむらの体のことを慮ってのことだ。
先生の心配は嬉しかったが、彼女たちは知っている。あれがそういうものでないことに。

「なぁ、お前らも会ったか?」

「う、うん。あれ、私も会ったよ」

「私も……」

「転校生も?」

「私も、多分同じ人に合ったわ」

「仮面をつけた人……」

皆が昏倒したあのとき、全く同じ夢を全員が見たというのだ。しかも、互いに夢の中で互いを
見ていた。つまり、まるでどこかへ魂とかそういうものが連れて行かれたかのように。

「皆さん名前、言えてましたよね」

当たり前といえば当たり前なのだが、全員自分の名前を言えた。特にほむらは自分の名前が
名前負けしているところがあり、好きではなかったはずだった。

(それなのに、なんでだろう……)

「もう、今日は帰って休みましょう。寄り道はなし。いいわね」

ほむらの思考をさえぎる声。マミの鶴の一声により解散となった。杏子やさやかは
不服そうでは合ったが、しぶしぶ従った。
25 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:13:08.57 ID:o19kPvmi0

翌日、担任に心配されながらも全員通常通り登校してきた。もちろん、通常通りとはさやかと
杏子がにぎやかかつ喧嘩しながらだったため、遅刻ぎりぎりになったという意味だ。
さすがに昨日のことは言えなかったが、それでも仁美に笑顔を見せることが出来た。

担任には心配されるも、仁美には真相を言えないまどかは内心謝りながらも日中をすごした。
まさか【ペルソナ様遊び】をして昏倒したなどといえば、責任を感じてしまうかもしれない。
それとなく言葉を濁すこと半日、放課後の手芸部に集まる一同。ほむらは別の部に
引っ張られたとのことで不在。

「あの、すみませんでした」

さやかはうな垂れる。自分の軽率な行いでおきてしまったことに落ち込んでいた。

「もう、これに懲りて噂話はほどほどにすることね」

巻き込まれた形のマミは言葉こそお説教だが、心配する声色を秘めていた。だから
さやかも皆も、粛々と受け入れることができた。基本的に彼女は優しい。
しかし、とマミは内心不安だった。それは【ペルソナ様遊び】が『事実』だったということ。
それは取りも直さず、もう一つの噂も事実かもしれないということだ。

「ごめんなさい。もう、あれやらないようにします」

「ティヒヒ、そうしたらさやかちゃん、手芸やろうよ!」

マミの機嫌を直すにはそれしかない、さやかも杏子もそう思った。しぶしぶ、だが結局
楽しんで手芸をやるあたり、嫌いではないようだった。複雑な縫い方が出来るわけではないが
一心不乱に針を動かすことで、昨日の妙な夢を皆で追い払った。
26 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:13:34.24 ID:o19kPvmi0

「なぁ知ってる? 手芸部」

「あー全員倒れたとかって噂?」

「【ペルソナ様遊び】やって倒れたらしいんだってよ」

「あ、じゃぁあれってマジなの? 『ペルソナ様遊びやると、もう一人の自分に会える』って噂」

「広まっちゃってますねー」

下校中の一同から随分前を歩く女生徒たちが大声で噂する。マミあたりは赤面してしまう。
表立った話ではないし、教師たちは緘口令を強いてはいるが、助けを呼んだ生徒からもれた
可能性が大いにある。

「もう一人の自分かぁ」

「ならさー、もう一個のあれもマジなのかもね」

「えー、あれやばいって。あたしも『呪い殺されちゃう』じゃん」

「そうねー、あんた怨まれてるしねー」

「うそ! マジ? 冗談でも止めてよー」

片方が事実であるということは、もう片方も事実である可能性がある。もちろんもう片方の
【JOKERの呪い】の噂が事実であるとは限らないのだが。

「ね、ねぇマミさん! 今日はどっかよりましょう! 新しい手芸雑貨屋オープンしたんですよ!」

場を和ませるために、まどかが努めて明るく言う。
そうすることでようやく皆の表情が明るくなった。
27 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:14:14.26 ID:o19kPvmi0

そこで皆が見つけたのはほむらだった。なにやら男子生徒に話しかけられている。何か誘われて
断っているようだった。だが、押しに弱い彼女のこと、押し切られそうになっていた。

「よぉ、ほむらじゃん。どうした?」

杏子が割ってはいる、というか、普通に話しかけただけだった。元々家柄に比べ勝気な少女である
彼女は男子生徒に気後れすることなく、ほむらにまっすぐ近づいた。

「あ、佐倉さん」

「お、ひょっとして手芸気に入ってくれたか? マミのやつ喜ぶぜ」

手に持っている裁縫の道具を見て相好を崩す。彼女もマミが嫌いではない、むしろ好ましいと思うほう
だが、いつもは照れくさくてそう表現したことはなかった。

「は、はいっ。私も何か作ってみたくて」

「そーかぁ。あたしも本気でつくろうかな」

そこにいた男子生徒はかなり表情をゆがめつつ走り去った。その後ろ姿をさして感慨もなく見送る杏子。
28 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:14:45.41 ID:o19kPvmi0

彼女は悪いことをしたかなと思う反面、よからぬことからほむらを守ったような予感を感じていた。

「あ、わり、知り合いだったか?」

「いえ……『付き合ってください』って言われまして……」

杏子が渋い顔をする。実はなんとなくそれと察し邪魔してやろうと思ったのだ。理由は特にない。
ただ、それをするまでもなかった。

「用事があるのでお断りしました。ここでお買い物したらすぐ帰らなくてはいけないんです」

杏子はそのベタベタな展開に苦笑い。
『付き合う』という意味を誤解したほむらのきょとんとした表情は見ものだった。



――むかつく。お高くとまりやがって――

たったそれだけのことで怒りが生まれることがある。感情の発露が坂道を転げ落ちる。
感情のまま傷つけられた若い自尊心はその痛みの赴くまま、噂話に着手する。
【JOKERの呪い】に手を出したのだ。
それは嘘だと思っていた。それをして、実際にそうなるとは思っていなかった。

――暁美ほむらを……して!――
29 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/03(日) 02:16:12.09 ID:o19kPvmi0
筆者です
今回は全レスは控えてみようかと思います
でも好き勝手にしゃべっちゃってください。創作意欲がわきます
デジャブの少女がだれになるやら……今から私も楽しみです
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/03(日) 03:14:12.01 ID:aAdLtvx80
乙です
全員が顔なじみだから原作より思い出したら危ない状況なのかな…
31 : [saga]:2013/11/03(日) 07:41:49.73 ID:QkXVUY2Y0

めがほむの場合もう1人の自分が多すぎて大変だな。
しかもどう考えても今の自分が許容出来るペルソナが少なそうなんだよな。かあいそうに。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/03(日) 07:44:04.34 ID:QkXVUY2Y0
上げてしまいました。すんません。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/03(日) 17:58:38.18 ID:E3DHN1Vg0
乙です。

JOKERの呪いは本当にしゃれにならんぐらいやばい。殺人が起こるたびに試そうしようとするから歯止めがきかなくなる。しかも罰の発売当時と違って小学生も携帯を持つのが当たり前だから本当にやばいな。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/03(日) 23:34:52.65 ID:e4YO7Ls2o
乙でした。

五人の初期ペルソナが何なのか楽しみです。

映画見た?
まだネタバレしないように注意しないといけないかな?
35 : ◆sIpUwZaNZQ [saga sage]:2013/11/06(水) 21:20:08.79 ID:EYpKROcm0
>>34
返信だけなので下げで対応します
映画は見ましたのでネタバレされても問題ありませんがこちらの作品は映画版とは無関係にすすめてます
だから見てからじゃないと投稿できなかったのです
36 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:09:30.80 ID:nO+ig0x80
筆者です。投稿します
割と見切り発車なので内心エタらないか不安です
37 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:14:47.57 ID:nO+ig0x80

ほむらを交えて雑貨屋でのひと時を楽しんだ手芸部。その楽しい空気を持ったまま
ほむらは家路についた。
まだ心がフワフワしている。学校でもクラスメイトは病み上がりの自分を気遣ってくれる。
男子生徒はまだ怖いが、女子生徒が守ってくれる。眼鏡を外して顔を上げたら揃って言われた。

「可愛い! 素敵! 美人!」

言われるたびに謙遜してはにかむ彼女が、皆は可愛くて仕方ないらしい。長いつややかな髪を
弄ってさまざまな髪型にするたびに歓声が上がる。おさげ髪以外にもさまざまなバリエーションに
するたびに喜ばれる。
最初はただ弄られているだけだと思ったが違う。皆がほむらの可愛らしさにほれ込んでいた。

「そんな、皆さんだって素敵です。引っ込み思案の私を気にしてくれるんですから」
38 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:16:30.34 ID:nO+ig0x80

と笑顔を見せるたびに、女子生徒たちは心が温かくなる。守ってあげたい、一緒にいてあげたい。
そういう庇護欲がそそられるという。けれど彼女もできないなりに一生懸命だった。だから
一方通行でないその関係が、また皆の好感を呼ぶ。

(転校しても大丈夫だった。友達が一杯出来た)

まどかたちを筆頭に、携帯のアドレスが増えたのだ。前の学校では
なかなかそうはいかなかったから、喜びもひとしおだった。
けれど、それだけではない。人とつながりがあるということは、いいことばかりではない。
目立つということは、それと同じかそれ以上に、敵が生まれるということだった。
彼女の人格に関わりなく。
39 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:18:26.76 ID:nO+ig0x80

【ペルソナ様遊び】から一週間後、いくつかの文化系部活を見て回った結果、
ほむらは手芸部を選んだ。理由はいくつかあるが「自分で何かを作る」ということが
一番やりたかったから。
正式に入部届けを出し、マミに手渡す。たまたま、同じクラスの生徒がいないという
ところも、彼女がここを選んだ理由だ。それは友達を避けるという意味ではない。
クラス以外に友達が出来ることの喜びだった。

「よろしくお願いします!」

弱弱しい風貌からは思いもよらないはっきりした声。そして勢いよくお辞儀。
礼儀正しいのはいいことだが、最初から張り切りすぎている感もある。
皆はその気合の入り方に、彼女の芯の強さを垣間見た
40 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:19:54.92 ID:nO+ig0x80

「そんなに肩に力入れなくていいのよ。よろしくね暁美さん」

「そーそー、甲子園とかあるわけじゃないしな」

「だからって……参加して欲しいのになぁ」

「んー、でもあたし不器用だから」

「でもやろうよ。杏子だってやりたそうにしてたじゃん」

さやかはそういう意味では杏子を良く見ていた。だが、自分の柄じゃないと半ば
諦めていたという。
そんなことはない、とさやかは思う。杏子は自分で思う以上に細やかな心配りが
出来る子だと思っていた。

「私が始めますから、皆さんもやりましょう」

肩に力の入ったまま、ほむらが二人を見る。外見に比べてかなり頑固なところが
あるようで、その目には強い光が灯っていた。意外に押しが強い。

「ね?」
41 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:21:19.14 ID:nO+ig0x80

その甲斐あってか、下校時間になっても一同は帰宅しなかった。巡回の教師に
言われてやっと下校する有様だった。
薄暗くなる帰り道、今日作ったものを思い出して語り合う。それはほむらが
欲しがった学校生活の一ページに他ならない。

「今日は結構進んだわね、集中力がすごかったわ」

楽しかった。嬉しかった。心臓病のため、周囲が気を使うことに困ったときもあったが
それでも自分の力で出来るところまではやりたかった。
だから、自分の力で作る手芸は、体力のない自分にとって理想とも言えた。
美術や吹奏楽部もあったが金銭的な面で家族に迷惑をかけると思うと気が引けたし、
運動部系は周囲から止められる勢いだった。
けれどそれがなくても彼女は手芸部を選んだだろう。
42 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:22:39.81 ID:nO+ig0x80



――それが、運命なのだから――


43 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:24:36.35 ID:nO+ig0x80

その五人の前に、人が立ちふさがる。紙袋を被り黒いコートを着た異形の人物。
いつからそこにいたのか、いつの間にいたのか、皆にはわからなかった。
その異様な雰囲気に、皆が飲まれる中、先輩であるマミが庇うように立ちふさがる。
彼女の正義感がかろうじて皆を守ろうと動かしたようだった。

「何か、御用ですか?」

その紙袋はガサガサとこすれる音を立て言い放つ。
やや甲高い声に体格。それは明らかに大柄な男性のそれだった。

『暁美ほむら、お前を、殺しに来た』

日本刀の切っ先をほむらに向けつつ、宣言した。
そこに滲むものは歓喜と、怒り。
44 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:25:23.96 ID:nO+ig0x80

「何いってんのあんた!?」

さやかが突っ込みを入れる。そこに恐怖の色がまざまざと浮かんでいた。
その風体といい、威圧感といい、手に持った日本刀といい、それが嘘でないと
はっきりわかるからだ。
紙袋には返り血のようなものまである。全員が血の気を失っていた。

『せいぜいあがいて楽しませてもらうぜ。時間やるからよ、変身しろよ変身』

日本刀を突き出し、脅す。ビクビク怯えるその姿に苛立っているかのようだった。

『知ってんだろ。魔法少女ってやつにだよ。変身できるんだろ。忘れてるのか?』

落ち着きなく、足を踏み鳴らす。担いだ刀で肩を叩く。その雰囲気からして正常な
精神状態には見えない。そして、何か思いついたように仰け反って笑った。
45 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:26:32.76 ID:nO+ig0x80

全員がその態度、声、言葉に唖然とし、恐怖を感じていた。
それに気づいているのかいないのか、怪人は声を張り上げた。

『ヒャハハハハハ! ならよ、キキテキジョウキョーになったら、イヤでもなるよなぁ!』

刀を担いだままゆっくりと近寄ってくる。大の大人でも怯えそうな状況。しかも周囲には
誰もいない。そんな場所で待ち構えていたのだろう。
片手で振り下ろす刀。驚き鞄で身を守るマミ目掛けて振り下ろした。たまたまなのか
狙ったのか、刃は鞄を浅く斬るにとどまった。だが鞄は切り裂かれ、中の筆箱が
転げ落ちる。
本物の刀だと気づいたときには、もはや少女たちに抗する気力はうせていた。
46 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:27:16.19 ID:nO+ig0x80

それが皆の恐慌を呼んだ。悲鳴を上げて反対方向に走り出す。周囲には人影がない。
いや、正確には人の影があった。ゆらゆらと形を成さない、影の形をした赤黒い人型。
それが逃げるのを邪魔している。

『そいつらか、俺か、選べ。俺はお前さえ殺せればいいんだ。魔法少女なんかならなくてもよ!』

刀でとんとんと肩を叩きつつ、ゆっくりと前進する。挟撃する形になり逃げ場のない中学生に
迫る悪意。

「やめろ! くるな! くるな! なんだこの化け物!」

さやかが鞄を振り回し人型を追い払おうとする。だがそれは全く頓着せずじりじりと距離を詰めてくる。
ほむらは泣き出さんばかりだった。だが、恐怖にとらわれて声を出すことすら出来ない。だが、
頭の片隅にあったのは似たような光景。それが恐怖と交互に心に浮かび上がる。
47 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/09(土) 22:27:56.28 ID:nO+ig0x80
筆者です。短いですがこんなもんで、今回はお許しください
おやすみなさい、良い夜を
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/09(土) 22:32:48.21 ID:9x+Hs6uRo

この紙袋マンは一体誰が……?
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/10(日) 03:07:24.86 ID:yTTG2gUGO
甲高い声で大柄な男…
まさか須藤なのか…?
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/11(月) 19:48:12.72 ID:ytGTsQMV0
フリーザ様の声で脳内再生されてしまう。
あの基地外、電波野郎はあいつ以外では再現不可能だろ
51 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:52:17.26 ID:J3ms+mwm0
筆者です。投稿します
まぁ、ばればれでございます
52 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:53:13.53 ID:J3ms+mwm0

――クロッカスの花――首を絞める怪人――庇うマミ――松葉杖――

ほむらが名指しで狙われているのだから、他の子達は逃げればよかった。だがどういうわけか
彼女たちは誰一人逃げ出そうとしなかった。ほむらを守るため、円陣を無意識に組み、
悪意からほむらを遠ざけようとした。
だが大柄な男は、自分に立ちふさがるマミと杏子をあっさりと引き剥がし投げ捨てる。

『ちっ、つまんねぇなぁ! けど、どっちにしたってお前は死ね。向こうと同じにな!』

そして振り下ろされる刀。膝が震えて動かないほむらに、凶刃が襲い掛かる。

――弓――銃――槍――サーベル――仮面――軍隊――
53 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:54:10.29 ID:J3ms+mwm0

「ダメーーーーーーーーーーーッ!」

『ヒャハ!!』

刃を止めたのはまどかだった。いや、正確にはまどかはほむらを庇う位置にいた。
そのまどかの背後から伸びた白い手が、刃を掴んでいたのだ。
白いと見えた手は、手袋をした華奢な細腕。だが細腕とは思えぬ力で、怪人と力比べを
していた。

『ヒャッハー! やればできるじゃねぇか! ああ? 面白くなってきたぜ』

力比べを楽しむように哄笑を挙げる怪人。頭を左右にヘッドシェイクして笑うその様は
狂人としか思えない。けたたましく笑い続ける声がホラー映画の怪物そのままが
そこにいるようだ。

”わたしはあなた、あなたはわたし
あなたのこころのうみよりうまれたもの
あらゆるくなんをつらぬく、おおいなるゆみ”
54 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:55:13.70 ID:J3ms+mwm0

「ペルソナ!」

それは可愛らしい姿だった。フリルの着いた白とピンクを基調とした、桜色の髪の少女。
顔にはつるりとした鏡のような仮面を被っていて表情がわからない。
それは先端に花の咲いた弓をかざし怪人と向き合う。右手で刀を押さえつけ、左手の弓を
振りかざし怪人を殴りつける。
刀を捨てて後ろに跳び下がる怪人。腰に落とし差しにしていたもう一刀を抜く。

一方で背後に迫っていた赤黒いも襲い掛かる。
そこにいたマミも立ちふさがる。彼女もまた、まどかと同じことをした。

”私は貴女、貴女は私
貴女の心の海よりいでしもの
繋ぎ止め、守り、立ち向かいうるもの”

「お願い! きて! キャンデロロ!」
55 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:56:30.38 ID:J3ms+mwm0


金色の髪を靡かせて、狩人のようないでたちの少女が立ちふさがる。手には砲身の長い
マスケットを持って。それが腰ための位置で構え撃つ。その一撃で人型は吹き飛び消える。
それをみて、二人も気づいた。

「あれは夢じゃねーんだな!」「夢じゃないなら私にだって!」

二人の見よう見まねで叫ぶ。それがたたかうちからを持っていると気づいたから。
決意が、たたかうちからをもつものを、呼び起こす。

「来い! オフィーリア!」「来て! オクタヴィア!」

”我は汝、汝は我
汝が前に立ちふさがる闇を切り裂き照らす
燃えさかる大槍”

”あたしはあなた、あなたはあたし
あなたが守るもののため戦う
気高きつるぎ”
56 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:57:15.13 ID:J3ms+mwm0

真っ赤な服と、真紅の髪と、燃えさかる槍をもつ少女。
青い騎士風の衣装に、真っ白いマントと剣をもつ少女。
まるで背後霊のように二人の体から浮かび上がるそれは、それぞれがほむらを守るために
立ちふさがる。
オクタヴィアと呼ばれたそれは剣を一閃し人型を切り裂く。
オフィーリアと呼ばれたそれは槍を構えて怪人を牽制する。

まるで歴戦の戦士のような立ち居振る舞いに二人は気を良くした。さきまでの怯えはあるが
それ以上に戦う力があることに驚きと自信を持っているようだった

剣を槍を振りかざし、守るもののために戦う少女たち。その刃に切り裂かれた人型は
いとも簡単に崩れ落ち霧散する。
57 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:58:08.67 ID:J3ms+mwm0

『ヒャハハハハハ! そうこなくっちゃぁよぉ! これで向こうと同じになったわけだ!』

のけぞらせのど元を見せて笑い続ける怪人。それにいらだった杏子は燃える槍をけしかける。
槍をものともせず怪人は刀を振り下ろす。型も技もあったものではない。只乱暴に振り下ろす
それだけだ。だが、それでもなおその怪力は槍を押さえ込むのに十分な重さだった。

『ヒャハハハハハハハ。どうしたどうしたどうしたまだ思いださねえか! お前には来てねえのか!』

少女たちには通じない言葉を話しつつ、刀を振り回す。
それを訓練をつんだ戦士のようにはじくオフィーリア。だが一合ごとに杏子の精神が磨耗するのか
脂汗がにじむ。
58 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:59:01.39 ID:J3ms+mwm0

そこにさやかのオクタヴィアが迫る。両手剣を振りかざした青い髪の女騎士は躊躇うことなく怪人に
切りかかる。背後の赤黒い人型はマミと二人で倒しきってしまっていた。

「何が来てるって言うんだっ!」

『はぁ? 電波だよ電波。電波が俺に教えてくれたんだ』

力任せに二人の武器を跳ね返す怪人。狂気ともいえる息もつかせぬ乱撃に二人が推される。

『電波が俺にこの世界は間違ってるって教えてくれるんだよ。お前らにも届いてんだろ? ああ?』

オクタヴィアを蹴り飛ばし、オフィーリアの槍を吹き飛ばす。

『ヒャッハー! 電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波ァ。電波なんだよ電波ァ!』

ほとんど息継ぎなしで喋り続ける上に刀を振り回すなど並みの人間には出来ない。
弓を振りかぶるまどかのそれもあっさり受け止めた。
59 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 22:59:40.00 ID:J3ms+mwm0


「キャンデロロ! 狙って!」

背後の人型を倒したキャンデロロは、正確に紙袋を撃った。それだけマミが必死だったと
いうことだし、切羽詰っていたといえる。
だが、人型すら一発で消し去る銃撃を、仰け反るだけで受け止めた怪人は笑いを止めない。

『アマァ、いい根性してるじゃねえか。ああ?』

だが消して軽くはなかったのだろう。その一撃を持って退却をするつもりのようだ。
手のひらに火の玉を作り出した怪人は哄笑を続けながら言う。

『お前が思い出さない限りJOKERはお前を殺しにくるぞ。いいかぁ思い出せ! お前の罪を!』

火の玉を道路に叩きつける。その意図に気づいたマミはキャンデロロとともにほむらを庇う。
60 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 23:00:39.77 ID:J3ms+mwm0

そこは不思議な空間だった。
四方を柱に囲まれた物見のような東屋に、五人は倒れていた。
ゆるゆると一人、また一人と目を覚ます。

そしてその中央にいたのは真っ白い猫のような生き物。
そこだけ蒼い目からは感情をうかがい知ることが出来ない。

――君たちは力に目覚めたようだね――

奇妙なことに皆、その小動物が喋っていることにすぐに気づいたが、逆にそれを疑うことはなかった。

――これから君たちは大いなる試練に巻き込まれる。それを乗り越えるための力だ――

「ちょっとまて! あんたいったいなんなんだ!?」

杏子が叫ぶ。いきなりそんなことを言われても何が何だがわかるわけがない。
だがその白い小動物は応えることなく淡々と続ける。

――君たちが試練に打ち勝つことを望んでやまない――

「だから何者なのさ! あんた!」

――僕の名前は思い出さないほうがいい――

――あれは【ペルソナ】。君たちの心から生まれた、もう一人の自分……――
61 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 23:01:28.69 ID:J3ms+mwm0

皆が気がついたときには、警察や救急車に囲まれていた。爆発音が警察を呼んだのだろう。
このころになると皆ペルソナを出してはいなかった。精神力次第で自由に出し入れできるものと
気づいたようだ。
警察から事情を聞かれた彼女たちはペルソナのことを伏せて怪人の話をした。
到底信じてもらえないことと諦めていた。だが事情を聞いていた刑事は嘆息して言う。

「信じてもらえないとは思いますが……」

「また『JOKER』か……」

「……また?」

マミはその言葉を聞き逃さなかった。というより、聞かせるつもりでつぶやいたようにも思えた。
毛布に包まっている少女たちを見渡し、話すべきかどうか悩んでいる様だった。
彼は最年少で刑事になったという若い刑事は、ため息とともにいう。
62 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 23:01:54.82 ID:J3ms+mwm0

皆が気がついたときには、警察や救急車に囲まれていた。爆発音が警察を呼んだのだろう。
このころになると皆ペルソナを出してはいなかった。精神力次第で自由に出し入れできるものと
気づいたようだ。
警察から事情を聞かれた彼女たちはペルソナのことを伏せて怪人の話をした。
到底信じてもらえないことと諦めていた。だが事情を聞いていた刑事は嘆息して言う。

「信じてもらえないとは思いますが……」

「また『JOKER』か……」

「……また?」

マミはその言葉を聞き逃さなかった。というより、聞かせるつもりでつぶやいたようにも思えた。
毛布に包まっている少女たちを見渡し、話すべきかどうか悩んでいる様だった。
彼は最年少で刑事になったという若い刑事は、ため息とともにいう。
63 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 23:03:15.20 ID:J3ms+mwm0

>>62は無視してください)


彼が話す言葉は驚くべきことだった。

「君たち以外にも、そういったことを話す目撃者の子はいるんだ」

ここ数日、怪人が人を襲うという事件が相次いでいた。目撃者の事情を聞くと
概ねまどかたちが遭遇した怪人と風貌が一致するとのことだ。
刑事は報告書にはそのままを書くしかないと渋い顔だ。メモを取りつつ、
ひとりひとりに同じ質問をした。幸いというか、皆も同じ体験をしていたため
表現の違いはあれど概ね矛盾のない。
刑事も警察官たちも信じざるを得なかった。

「そのなかでも、JOKERに狙われても生きていたのは君だけだ。偶然か、それとも……」

「周防刑事。自分、手が空きました。署まで被害者をお連れします」

「ああ。こちらの車にも分乗して連れて行こう。それでかまわないね?」

そういって、彼は整った面立ちを向けて、ニコリともせずにいう。
けれど、その瞳は穏やかで優しい色を浮かべていた。
64 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/16(土) 23:04:35.73 ID:J3ms+mwm0
筆者です。今夜は短いですがここまでで
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/16(土) 23:50:09.27 ID:gWLAc6E3o

大丈夫だと分かっていてもペルソナの名前が不吉過ぎて吹く
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/17(日) 02:32:55.01 ID:bDfd7XOL0
乙です

刑事は克哉さんなのかタッちゃんなのか
そして前回既に死んでた須藤が向こう側の話をするのは滑稽だなあ
相変わらずニャルにいいように使われてて哀れだ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/17(日) 05:26:00.28 ID:6vsgUfhso

もう一人の自分って意味ではこれほどふさわしい名前もないな
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/17(日) 07:55:57.43 ID:I0s6nLSW0
須藤ももともと詩人志望のもの静かな少年だったのにあの外道父親に
いきすぎたエリート教育でストレスで精神病んで電波聞いて犯罪繰り返したんだ。
そのあと父親に自分の保身ためだけに隠ぺいされて病院に監禁されてた。
あとひどくなったのは途中から電波がニャル様になったせい。

境遇は不幸だけどやらかしたことがひどすぎて同情できん。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/17(日) 09:33:11.55 ID:SjjnwZvf0
乙です。
ペルソナが魔女か。すごく当たり前だと思うけど予想してなかった。良いな。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/17(日) 11:13:07.37 ID:NotHPazR0
乙です。こっちでは少なくとも出足はフィレモンのペースらしいな。
そしてあっちで出番なかったくせにさもあっちのことをドヤ顔で語る須藤ェ…

魔女がペルソナってのも自然といえば自然だな。叛逆でさやかが似たようなことやってたし。
もしあの子達がマヨナカテレビに放り込まれても、出くわす自分たちのイザナミ式シャドウは魔女の姿してそーだしな。
71 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:12:33.81 ID:1bjdQHaj0
こんばんは筆者です
何番煎じよ! と戦々恐々としつつも
ペルソナ≒魔女は比較的受け入れてもらえたようで一安心です

今夜少し短いけど投下します
72 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:13:37.53 ID:1bjdQHaj0

警察署に連れて行かれ事情を聞かれる間、各々の保護者に連絡が行き迎えが来た。
通り魔的な事件であろうこと、また念のための措置だった。
さやかの両親は仕事を抜けて迎えに来たためか、事情を飲み込んでいなかった。
だから先の失神騒ぎのこともあり、まず拳骨から始まってしまった。文句を言うさやかを
さえぎり両親が抱きしめて泣き出す様を見て、皆がもらい泣きをしてしまった。

「俺……僕はこの事件を追っている。何かわかったり危ないと思ったらすぐ知らせて欲しい」

彼が全員に連絡先を渡す。皆の家族にはパトロールの強化と学校への連絡の強化を約束し
その場を収めた。
各々が家族に保護され帰る道の不安さは、夜の闇よりも深かった。
73 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:14:32.10 ID:1bjdQHaj0

そのまま、彼女たちは隠していた体験を話し合うまもなく家族に引き取られていった。
その話をするには翌日の昼休みを待たなくてはならなかった。

ほむらを交え手芸部部室に集まった五人は神妙な面持ちでいた。

「あの噂、本当だったんですね」

「【JOKERの呪い】ね。ただの都市伝説だと思っていたけど……」

「【ペルソナ様遊び】が本当だったんだ。おかしくないんじゃないか」

「でもだからって……。呪いのほうまで本当だなんて」

「あ、あのっ! 【JOKERの呪い】って……どんな噂なんですか?」

ほむらの察しが悪いわけではない。信じたくないという思いが強い。それはそうだろ。
まどかたちだって言いたくはない。この愛らしい少女が、誰かに呪い殺されるような
恨みを買ってるなどと。

「ううん、わかってます。誰かに、恨まれてるんですよね」
74 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:15:32.57 ID:1bjdQHaj0

ほむらは信じたくなくても信じなくてはならないと思っている。それが
まどかたちには誇らしく見えた。彼女の弱弱しい外見から想像できない
芯の強さ。

「あんた、強いなぁ。あたしだったらくじけちまうよ」

「……そんなことないです。皆さん、あの不思議な力で、守ってくれました」

微笑むほむら。その笑顔にまどかたちは心を奪われる。控えめに見ても
ほむらは美人の部類に入る。それも街を歩けば十人が十人振り返るほどだ。
残念な(或いは幸いな)ことに顔を隠すような髪型や眼鏡や猫背が、それを
覆い隠している。
彼女らは、その厚いベールの奥にある笑顔を見るという数少ない幸運に恵まれた。

「私らにはさ、あの力があるんだ。あのへんな人影もやっつけられたし」

「あたしらでほむらを守ろうぜ!」
75 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:16:02.89 ID:1bjdQHaj0

意気上がるさやかと杏子だった。
だがそこに水を差したのはマミだ。だがそれは出しゃばる二人をたしなめる。
皆を守るというというより責任感からだ。部長というだけではないその意思を
二人も無碍には出来ない。板ばさみになる形だ。

「私は賛成できない。二人が危なくなるかもしれないのよ」

「けどさ! あんな変なやつ警察になんとかできんのかよ!」

放課後も、手芸もそっちのけで話し合う。授業中考えていたのはさやかと
杏子の身の安全だ。確かにほむらを守ることは警察では難しいかもしれない。
だがマミはほむらと同じ部員である皆の身を守ることも考えていたのだ。
76 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:16:35.08 ID:1bjdQHaj0

ほむらがやや険悪になりかけた空気を換えようと質問する。

「あの、あれ、そもそもなんですか?」

それに応じる形でまどかが答える。赤黒い人型ではない、彼女たちの
背後から現れた、霊のような派手なコスチュームの人影だ。

「あれはね、【ペルソナ】なんだって。もう一人の自分ってあの小動物も言ってたよ」

「そうね。私たちの心から生まれたとも、ね」

それならほむらもわかる。彼女もあの場にいたからだ。

「あいつは【魔法少女】って言ってたね。なんか当たってる気がする」

自分たちがイメージする魔法少女らしい服装をしていた。持っている
武器は物々しいが、「なぜかしっくりきていた」とは全員の共通認識だった。
77 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:17:13.05 ID:1bjdQHaj0

ちなみに、名前もまた心に浮かんだという。まるでそういう名前だと
最初から心に刻まれていたかのように。

「ほむらちゃんも出せるんじゃないの?」

「分らないです……」

「まー、しばらくはいいんじゃないか。登下校と戸締りきちんとすりゃぁ」

杏子がやや楽観的なことを言う。そのお気楽な言い方にさやかが噛み付く。
自分の知り合いが命を狙われているのになんだと、怒っていたのだ。

「あんた何いってんのさ!」

「あ? だってさ呪いをやりそうな思い当たるやつがいるんだよ」

当のほむらはきょとんとしているのにだ。
さやかはまだ納得していないようだった
78 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/23(土) 23:18:55.50 ID:1bjdQHaj0
短くてすみません。今夜はここで
電波はあの声を脳内再生すると筆が進みます、ナイスなやつです
それでは、おやすみなさい
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/23(土) 23:20:55.70 ID:UMIija+go
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/24(日) 02:01:30.09 ID:MWuG3HjP0
乙です
ここから混乱が加速していくんだろうなあ
この仮初の平和が壊れてしまうと思うと少し陰鬱な気持ちになってしまう…
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/11/25(月) 18:33:51.27 ID:Q4TQxFaJ0
p2は特に最初はただ都市伝説の存在がなぜ襲ってきたかを調べるだけだったんだよな。それから
秘密結社・軍隊と戦って世界の存亡まで行ってしまう。

P5ついに来たか。PV見ると重くて面白そうだ。

82 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:17:40.91 ID:f9yn9oRb0
こんばんは、筆者です
今夜も短いけれど投下いたします
P5は自分もなまら楽しみです。罪罰並みの重さを期待してます
83 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:18:41.87 ID:f9yn9oRb0

翌日、杏子とさやかは思い当たる人物に会いに行った。なんてことはない、
ほむらのクラスメイトの男子生徒だ。そう、ほむらに振られた彼である。
他のクラスに行くとき、さやかは微妙な居心地の悪さを感じる。というのも
入り口を開けたとき、その音でいっせいにこちらを見るからだ。それが教師の
入ってくる合図だからだが、よそ者を見る目みたいに見えて苦手だった。

聖職者の娘であるはずの杏子の口は悪い。とはいっても両親の躾が悪い
なんてことはなく、ただ単に照れくさいから。実際、真面目にしているときの
立ち居振る舞いには無意識のため気品がある。問題は周囲にそれが教師に
対する「いい子ぶっている」と取られることだが、本人は気にした様子はない。
84 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:19:42.77 ID:f9yn9oRb0


男子生徒に近づき、周囲に漏れない程度に恫喝する。このときばかりの
杏子は可愛らしい表情が消えていた。

「よぉ、あんた、昼休みツラかしてもらえない? ほむらのことで」

その部分だけぼそっという。それに驚いた彼は表情を変えた。杏子には
それが【JOKERの呪い】をやったという状況証拠に見えた。
あとはこいつを締め上げて、呪いを止めさせればいい。杏子は楽観的に
そう思っていた。

「【JOKERの呪い】やったでしょ」

運動が得意なため、また大人たちに混じって教会の手伝いをするため
杏子はここぞというときの度胸があった。だからこういうときには非常に
強気に出られる。
85 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:21:35.03 ID:f9yn9oRb0

放課後、彼を屋上に呼び出した杏子は二人きりで対峙する。当然物陰から
マミたちが心配そうに覗き込んでいるわけなのだが。
だが、杏子も予想外のことに、その男子生徒の隣に、女性生徒がいた。
二人とも顔見知りらしい。特に女子生徒は目を三角にして怒っていた。
杏子が聞くまでもなく、その女子生徒はぺらぺらと喋りまくる。杏子が
この生徒に手を出そうとしていること、ほむらも彼を誘惑していること、
彼は自分のものだということを、聞いてもいないのに話しまくっていた。

「あのさぁ。何だっていいよ。【JOKERの呪い】やめてくんない?」

些か呆れながら、杏子は言う。些かどころか、盛大に呆れているようだが。
女子生徒は鼻で笑う。彼を誑かしたほむらは痛い目を見たほうがいい、
という。なんてことはない、ただのほむらへの妬みからやったというのだ。
ほむらに落ち度はまるでない。完全な逆恨みや嫌がらせから、【いじめ】
として行ったという。
問題は、この女生徒が信じていないこと、【JOKER】が実際にいて本当に
殺そうとするとは思っていないことだ。
そして最大の問題は……。
86 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:22:46.24 ID:f9yn9oRb0


「止め方を知らないだって!?」

知るわけがないじゃないかと、胸を張る女子生徒は滑稽にすら見えた。

不意に上がる悲鳴。盛大に舌打ちをすると、杏子は二人を残し階段に走る。
それにあわせマミとさやかも追う。このときほむらのそばにいるのは
まどかだけだ。そこをあの怪人に襲われたら抗しきれない。これは皆の
失敗と言えた。だが杏子が男子生徒に乱暴をしないという保証もないから、
という措置であったが、結果的に失敗になってしまった。

階段を駆け下りて向かう先は悲鳴の大本。だがそこにいるはずのほむらは
いなかった。

「ほむらじゃないのかよ」

安心し悪態をつく杏子であったが、それがすぐに凍りつく。悲鳴を上げたのは
和子先生。そしてその視線の先には事切れて血塗れになっている校長。
87 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:23:37.97 ID:f9yn9oRb0

尻餅をついている和子先生は歯をがちがちさせて震えている。だが杏子も
そんな先生を思いやる余裕はない。自分たちでないと怪人に対抗できないと
焦っていたから。

「い、いま……真っ黒な人影が……」

(あいつか!)

杏子の怒った。【JOKERの呪い】を校長に対して行ったものがいたのだろう、
くらいは想像がつく。ではほむらは無事なのか? というところに思考が及んで
焦りだした。

「佐倉さん!」

杏子に追いついた二人も絶句する。生々しい血のにおい。かろうじて被害者が
ほむらでないことがわかったが、まだ怪人が近くにいることもわかる。
躊躇をしていられない。ほむらのいるクラスに走り出した。
88 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:24:10.80 ID:f9yn9oRb0

幸いにしてほむらは狙われなかった。彼女自身も悲鳴を聞いた瞬間身を竦めたが、
先に到着したのは杏子だった。知った、それもちからのある人物の登場に、
ほっと胸をなでおろしていた。

「無事ね暁美さん」

マミがほむらの姿を見て同じように安堵する。さやかにj杏子、遅れてきたまどかも
皆の無事を確認し安心していた。

学校は騒然とした。外部からの侵入者に校長が殺害されるという事件が
騒ぎにならないはずがない。その日は部活はすべて禁止(中止などではなく、だ)
となり、全員の帰宅と緘口令が発せられた。

だが、緘口令を敷いたことが逆に作用した。人の口に戸を立てたことにより噂が
広まってしまった形だ。マスコミへの取材対策としては良かったのかもしれないが
口々に噂が広まった。
89 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:25:04.74 ID:f9yn9oRb0

「校長はJOKERに殺されたらしい」

校長は厳しく、口調がきついこともあったが、けして恨まれるような人格ではない。

「警察は何も言わないけど、JOKERって前々からいるらしい」

けれど、その校長すら呪いの対象になる、という事実は拡散した。

「死因はわからないのかな」

自分が恨まれるようなことをしていないとしても、誰か一人が恨めば【JOKER】は来る。

「校長も恨まれるようなことしたのかな?」

そしてその一人の呪いで、自分は殺されるとしたら?

「あの暁美ほむらも【JOKERの呪い】やられたらしいってさ」

そんな禍々しい噂で、街は徐々に侵食されていった
90 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:26:08.60 ID:f9yn9oRb0

翌日の学校は喧騒を増していた。
事件の余波でマスコミが駆けつけたこともあるし、何より噂が飛び交っていた。
誰かが『JOKERの呪い』を仕掛けたとか、誰かがその【JOKER】に狙われているとか、
そんな無責任で禍々しい噂が広まっていたのだ。

そしてその標的は、転校してすぐのほむらにも向けられていた。
何より彼女は目立つ。めったにいない転校生として他のクラスでも知られているし
実際に見たことがあればその美貌に骨抜きにされる。
また長く入院しており学業も遅れがち、体力もないとあれば周囲は助けざるを得ない。
むしろ進んで皆が助け、ある種人気者なっていた。

しかも、彼女が積極的にクラス外に友人を作ったこと。彼女らが登下校を一緒にしていること
なども話にあがっていた。曰く「ほむらをとられた」だの「社交性が高い」だのと評価されていた。

えてして、逆の気持ちを生むものも現れることを意味していた。
そんな感覚が、彼女が呪いの被害者になる温床だと理解されていた。
91 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/11/30(土) 23:31:02.81 ID:f9yn9oRb0
筆者です。今夜はこれで。そろそろ書き溜めがなくなりそうです
週一をなんとか維持しますが、短いのはお許しください
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/30(土) 23:53:37.65 ID:mRKJv6fdo

エタりさえしなければゆっくりでもいいのよ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/12/01(日) 18:23:11.73 ID:vkyCfjkw0
乙です
実際に被害者が出たらそりゃ噂も広まるよね
JOKERは神出鬼没でワープ可能だから対処はどうしても後手に回っちゃうし…
ううむどうしようもない!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/12/01(日) 23:11:58.41 ID:0o54aSd+0
JOKERはゲーム中でも酒を飲んだ勢いでかけた依頼でも引き受けるからね。

同じ学校内でしかも顔をよく知ってる校長を殺されると現実身があるからますます噂が
広まるよな。
今の時代ならJOKERを写真や動画で記録してそれをアップして爆発的に噂として広まりそうで怖い
95 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:08:18.08 ID:iXrKxSyn0
電波……じゃなくて筆者です
今夜も短いですが投稿します
96 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:09:01.17 ID:iXrKxSyn0

ほむらの周囲の反応はさまざまだった。
今まで取り巻いていたもののなかで距離を置くものや、陰口をするものが現れた。それも
決して多くはないが、当然とも思える反応だった。
だがそれからほむらを守ろうとするものも当然いた。そのため彼女は心を痛めつつも
学校生活が送れていた

はずだった

【JOKER】の被害者が日に日に増えていったのだ。
実際に殺害されたものや、かろうじて怪我ですんだもの。目の前に現れたが機転を利かせ
無傷でいたもの……。
それが本物の【JOKER】である必要はない。そう思ってしまえば【JOKER】に思えるし
その話が尾ひれがついて、噂になっていく。

「あれから襲われていないの?」

「はい、平気です」

お昼休み、ほむらとまどかたちは屋上でお昼を食べていた。この時期にしては暖かく、
すごしやすい気候だったが、他の生徒の姿はない。あの話をするにはには都合が良かった。
人がいるところで【ペルソナ】だの【JOKER】だのの胡乱な話をする気にはなれない。
97 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:09:57.52 ID:iXrKxSyn0

「でもさー、結構噂広まってるぜー」

杏子が運動部の助っ人で参加するせいか、運動部の部員からそういう噂を聞く機会が多くなっていた。
恋愛、人間関係、はてはただのお遊びで行ったなどなど。聖職者の娘としては聞くに堪えない
内容もないわけではなかった。面白半分に人を殺すお呪いを試すなんて、という意味だ。

「気味が悪いですね」

ほむらがぼそっという。終始俯き加減だったが、今回はかなり酷く落ち込んでいるようだった。
街の雰囲気があまりにも悪すぎる。いやな噂が広がりすぎているからだ。
また皆に守られてることが迷惑と感じていた。自分でも【ペルソナ】が呼び出せればいいのだが、
なぜかそれが出来ない。あの力があれば自分で自分が守れるのに、と思ってしまう。

「そうだね。けどさほむらのせいじゃないんだし、気にすることないよ」

他の誰かが【JOKER】に狙われるのは何もほむらのせいではない。ある種自業自得なものも
あるのではなかろうか。だからほむらが気に病むことなど、何もないはずなのだが。

「でも、私、誰かに恨まれてるんですね。皆さんに迷惑かけてるのも、私のせいですね」

それが彼女のもう一つの憂え。
98 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:10:42.24 ID:iXrKxSyn0

「そんなことないよ!」

いつも遠慮しがちで、今回も言葉少ななまどかが吼える。その剣幕に全員が驚くほどだった。
それを受け継いで杏子が言う。

「そーだよな。恨みや八つ当たりなんか気にしてたらなんにもできないぜ!」

力強く元気付ける皆にほむらはじわっと来てしまう。申し訳ない気持ちがなくなったわけ
ではない。が、皆が自分を労わってくれることが嬉しかった。

「ほむらちゃんはほむらちゃんのまんまでいいんだもん。私たちが守ればいいんだもん」

それをきっかけに皆の意気が上がる。ほむらを守るため、にこやかに笑う少女たち。
それは、彼女が切り捨てたはずの、絆。

そして再び悪意が結びつける、絆。
99 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:11:29.02 ID:iXrKxSyn0

「なんか手芸部賑やかだね。なんかあったの?」

――例えそれが事実でなくても――

「あー、新入部員できて廃部免れたらしいよ」

――噂は伝播する――

「志筑入部したの?」

――無責任な噂話が加速して――

「違う違う、転校生」

――人の間の関係に侵食する――

「やっぱりー? あのお嬢様仲間はずれかー」

――噂する本人たちが望まなくても――

「大方さー、ほんとうに転校生に【JOKERの呪い】やったのって……」

――噂は広まって――

「あのお嬢様だったりしてね。キャハハハ!」

――現実を侵食する――
100 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:12:20.45 ID:iXrKxSyn0

その日、仁美は欠席した。春の風邪、というわけではなく、家の事情だと
いうこと。年に数回そういうことがあるらしく、さやかは知った顔をしていた。
彼女には気の毒ではあるが、学校生活は仁美がいない以外は普通だった。
それはつまり【JOKER】の襲撃がなかったという意味だ。

放課後の部活動も自粛が続く。後任として教頭が代理校長を務めるなど
組織的なことも変化していった。
犯人が捕まらないことが、噂が広がることが、不安を大きくしていく。

「なんだか怖いですね。皆さんは平気なんですか?」

下校中、守られながらもつぶやくほむらは心配そうだ。
それに対し、真っ先に口を開いたのは杏子だ。

「そりゃ怖いさ。あんな刀突きつけられたのはじめてだよ」

少し身震いをして言う。その視線がさやかと絡まると、さやかが後を受ける。

「けど、もっと怖いのはほむらじゃん? 身に覚えないことで襲われるんだし」

次の視線はマミに移る。

「少なくとも私たちは戦える……。暁美さんを守る力があるんですもの」

最後はまどかに。

「だから、大丈夫。友達を守るためだもん。ほむらちゃんは戦わなくても平気だよ」

そういってにこっりと笑って見せたのである。
101 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:12:59.47 ID:iXrKxSyn0

数日、仁美は学校に来なかった。最初はさやかも年中行事と捉えていたが
さすがに長すぎる。連絡をしても繋がらないとなれば、不安にもなった。
そしてその日、仁美の自宅からさやか宛に連絡があった。仁美が行方不明に
なったという連絡である。
さやかが真っ先に思ったのは【JOKER】の被害にあったのではないか、
という不安だった。彼女も校内では有名人である。美貌もさることながらいい所の
お嬢様ということで知られていたし、学校以外にも顔が利く、つまり知人も多い。
ということは、それと同じくらい(たとえ逆恨みなどであっても)嫌っている人間が
いるということだ。

「ど、どうしよう!?」

「落ち着いて美樹さん。今警察の方も捜しているのでしょう?」

「あんたが取り乱してどうするのさ。何なら警察に聞いてみればいいだろ」

「あ!?」

さやかは、渡されていた刑事の連絡先を思い出した。慌ててその場で連絡する。
102 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:13:49.79 ID:iXrKxSyn0

そのタイミングを見計らったように、さやかの携帯が鳴る。発信者は仁美だ。
驚きつつも取ると、聞き覚えのある、聞きたくもない声が響いた。

『そこに暁美ほむらはいるな』

驚き耳を離した拍子に、スピーカーモードをオンにしてしまう。そのため聞かせなくても
いいことまで、そこに響いた。

『志筑仁美は預かった。返して欲しければ病院の屋上にこい』

「仁美に何をした!」

『ヒャハ! 攫ったに決まってんだろ。お友達全員で来てもいいぜ! そのほうが好都合だ』

相変わらずの甲高い声が狂気を孕んでいる。全員がその声に凍り付いていた。
携帯を落としかけたさやかから受け取ったのはマミだ。彼女とて少女だからこんなこと経験が
あるはずがない。けれど、唯一の先輩としての意地が、彼女を吼えさせた。

「志筑さんは無事なんでしょうね!」

『ヒャハハハハ。暁美ほむらさえ来ればこんなガキに用はねえんだよ。だが急がねぇと……』

そこでタメを作る。

『大事な顔が真っ黒焦げになるかもなぁ。ヒャハハハハハハハハ!』
103 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:14:39.02 ID:iXrKxSyn0

さらに続ける。マミの反応などまるでお構いなしにまくし立てる

「ふ、ふざけないで!」

『思いだせ! お前の罪を! これはお前のせいなんだよ。ヒャハ!』

マミがいきり立つ。ほむらの真っ青な顔をみてしまったからだ。

「暁美さんが何をしたというの!」

『病院だ。来なくてもいいぜ。焼死体が出来上がるだけだ』

それだけいうと通話は途切れた。時間の指定も何もない以上急ぐしかない。
さやかと杏子が立ち上がるなか、まどかだけがこう言った。

「警察にも言わないと!」

だが、先の刑事に行っても、言葉だけで信じてもらえるかどうか。
104 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:15:21.97 ID:iXrKxSyn0

「美樹さんの携帯を見せれば信じてくれるかもしれないわ」

警察には捜索願が届けられているはずだ。その仁美の携帯からの着信履歴が
あれば、事件性を分ってもらえるかもしれない。マミはそう判断した。

「けど私はいくよ。仁美が心配だもの」

「……あたしに携帯貸せ。あの周防って刑事にあたしが話しつけてくる」

意を決して杏子がいう。幼馴染のまどかやさやかにくらべ、接する機会が
若干少ない。そのため二人に仁美の安否確認を譲った形だ。
杏子も仁美が心配でないはずがない。彼女なりの苦渋の判断でもある。

一瞬躊躇うも、さやかは杏子に携帯を渡す。さやかはほむらたちと行動すれば
連絡はつくのだから、さして問題はないはずだ。
話がついたところでさやかが走り出そうとする。そこをまどかが引きとめる。
ほむらのことをどうするか、ということだ。
105 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:15:57.65 ID:iXrKxSyn0

「私、行きます。私のせいなんですから」

「あんたが狙われてるんだよ?」

さやかは声を荒げる。慌てているのと驚いているので声が必要以上に大きく
なってしまった。

「けど、一人でいたらほむらちゃんも誘拐されちゃうかもしれないよ」

「そうね。一人になって攫われるよりは……」

ほむらも誰も怖くて仕方ないのに、皆が戦おうとしていた。それは子供にありがちな
ヒーローめいた行動かもしれない。けれど、自分たちにたたかう力があることが、
彼女たちを無謀な行動に駆り立てていた。
106 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/07(土) 21:16:39.28 ID:iXrKxSyn0
筆者です
電波がでるとレスが増えるので嬉しいです
電話電話電話電話〜!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/07(土) 23:03:00.98 ID:gFaTxicjO
乙です
でんぱっばー!はやっぱり印象深い敵だからね
もし仁美が噂でJOKER使いになったらベルベットルーム知らないしマズイ
ペルソナ2面子がまた助けてくれるといいが…
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/08(日) 00:47:32.52 ID:zjcZTRLEo

原作でもこんなもんだったけど好き放題言ってる奴等が実にムカついて噂ってこんなもんだよねという感じ
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/12/13(金) 21:49:57.03 ID:vUJdu6kt0
やはり電波は最高だな。たぶんペルソナシリーズの敵キャラでこいつを超える奴はいない。

噂が現実になるのをしらないのと当事者じゃないとこうなるよな。
ハンバーガ店のあの子のように口調が変わるのはましで
ひどいのになると人間の性格や過去も変わるからこわいわ
110 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:30:14.52 ID:dqUMKxfR0
こんばんは、筆者です
噂によって武器密売のルートまで現実化したり、自分も知らないのにシチリアマフィアになってたり
なかなか酷いことになってましたよね
舞耶たちも二通りの噂のせいでシャドウたちが暴れまわったりしましたし
111 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:31:21.20 ID:dqUMKxfR0

学校からは、病院はさほど遠くない。だから走っていけば十分に間に合うはずだ。
四人が出発するまで杏子は連絡先を受け取った刑事に発信する。
呼び出しになかなか応じずこちらもかなり焦っていた。ようやく連絡がついたのか
話しながら歩き出す杏子にさやかは不安な視線を送った。

三十分ほど経ってようやく、病院にたどり着く。
未だ、火災のようなものは起こっていない。不安と恐怖、そして使命感に突き動かされ
敷地内に入る。駐輪場を通り抜け、屋上へ。
そのとき、ほむらを何かが襲った。物理的な力ではない、もっと禍々しいところからくる
痛みのような何か。

――大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる――

――かえしてよ、かえせよ。それは、それは、……さんのものだっ。かえせっていってるだろ……さんにっ――

彼女が知らないはずの記憶。
それと同時に、胸に走る痛み。その正体に、彼女はまだ気づいていない。
112 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:32:19.43 ID:dqUMKxfR0

それに揺さぶられ立ちくらみを起こすほむら。ここまでの走っていく強行軍自体、
彼女の負担になっているのだが、それ以上に頭に響く声が彼女を責めた。

「大丈夫?」

まどかの心配を他所に、意地っ張りな彼女はこういうしかない。

「だ、大丈夫です、それより仁美さんを!」

だが、そうなったのは彼女一人ではなかった

「あいつ、火の玉出すんだよね。こんなところでそれやったら……」

どこに火をつけるかは不明だが、確実に火災になるだろう。こんな病院でそんなことを
されれば、足腰が弱っている患者は逃げ遅れてしまうだろうし、それを補助する医療従事者も
危険にさらされる。

「ここに入院してる恭介だって危ないんだ!」

そういうとさやかは一人駆け出した。その目に怯えと不安と恐怖をたたえて。
113 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:33:15.84 ID:dqUMKxfR0

だが、その言葉にたたらを踏んだのはマミだ。マミもさやかの友人関係は知っている。
それだけ付き合いが長く深いからだが。同じことにまどかも気づいたらしい。
やや遅れて二人の表情をほむらが見る。

「え、上条くん……?」

「い、いえ。あのバイオリンを弾く幼馴染のことよね? 入院していた?」

「違います! 上条くんは……今日も登校していました」

単独行動をしたさやかを追い、三人も走り出す。さやかの行動の意味を知らずに。
幸い、屋上に通じる階段はひとつだけ。だからこのまま三人がまとまって動けば
何も問題はないはずだった。
かくして、屋上に駆け上がる。そこにはさやかがいた。
さやかだけが。
花壇が春の花を咲かせているそこには、禍々しい男の姿はない。それと同時に
仁美の姿もなかった。そのさやかはレシーバーを握り締めていた。
114 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:34:08.78 ID:dqUMKxfR0

「美樹さん!」

マミが叫ぶ。そこには咎める色も混じっていた。だがそれ以上に案じる色が大きい。
安堵するまどかとほむらとともに、さやかに近づいた。

『ヒャハハハハハ。間に合ったようだなぁ? ああ?』

レシーバーから響き渡る【JOKER】の声。甲高いあの声は忘れることが出来ない。

「仁美をどこにやった!」

『なんだ。これくらいで返してもらえると思ったのかよ? こっちの目的を忘れたかァ?』

その声にあわせ、爆発音が響く。恐らくは病院の地下にでも爆薬が仕掛けてあったのだろう。
病院の棟を揺らすほどの爆発が、数発起こった。炎と煙にまぎれて現れるのは、あの赤黒い影。
それは以前よりも輪郭がはっきりしていた。
まるで、赤と黒でデザインされた道化師のようなそれが四人に立ちふさがる。

『そいつを倒さねえと焼け死んじまうぜ。せいぜいあがくんだな』

それは、まっすぐにほむらに襲い掛かった。
115 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:34:47.20 ID:dqUMKxfR0

それを弾いたのはまどかのペルソナだ。このなかの誰よりも早く呼び出し、ほむらを守った。
遅れること一拍、マミとさやかもペルソナを呼び出す。
弓を、銃を、剣を構え対峙する。その状態でも爆発音は響き悲鳴も聞こえる。
これが歴戦の勇者であれば、集中し怪物を倒した後脱出、などという手順を取れただろう。
だが、彼女たちはまだ中学生だから、動揺し反撃どころではない。
呼び出されたペルソナたちも、歪に揺らめいていた。精神状態が反映されているのかも
しれない。

「くそっ、こんなときに!」

「二人とも、落ち着いて!」

そのなかで唯一、まどかだけが冷静に立ち回る。元々弓は心を落ち着かせないと引き絞る
ことは難しい。爆発音響く中でまどかのペルソナはまっすぐに矢を番えた。
そのクレバーなまどかに影響されたのか、マミとさやかのペルソナも立て直す。
116 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:35:50.95 ID:dqUMKxfR0

飛び掛る【JOKER】をオクタヴィアが受け止めた。返す刃で斬り付けるもの、
大きく後ろに飛び退いたためあっさりと避けられる
その着地地点をキャンデロロとまどかのペルソナが狙撃した。

「お願い! クリームヒルト!」

だがそれすらも回避する。まるで曲芸師のような立ち回りで飛び退いた。
ふわふわとつかみどころのない動きに皆が苦戦する。
まどかたちのペルソナは一挙動ごとに消えてしまう。攻撃を仕掛けるごとに呼び出す必要があった。
そこを狙われた。

『ジョォォォォォォカァァァァァァァ!』

皆を包み込む赤黒い闇。目くらましのようなそれを三人は受けた。それと同時に【JOKER】が消える。

「な、どこにいった!?」

「なんでもいいわ。ここから逃げましょう!」

いなくなったのを幸いと、マミがほむらに近づき手を取った。その瞬間、その背後から【JOKER】が現れる。
闇を撒き散らしながら振り下ろされる腕が、ほむらに襲い掛かる。
間一髪、さやかがほむらを押し倒しかわす。だがその背中に引っかき傷を残した。
深い、だが致命傷ではない。

「「美樹さん!」」

ほむtらとマミの叫び声が重なる。
117 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:36:44.17 ID:dqUMKxfR0

だがさやかは立ち上がった。背中の傷を触っている。
マミから這い出した【JOKER】は再び距離をとる。彼女らのペルソナから攻撃されれば無事ではすまないと
知っているかのようだった。

「美樹さん! 大丈夫ですか」

ほむらは泣き出さんばかりの顔をしている。だからさやかはマミに聞こえるように叫んだ

「だ、大丈夫です! 私のペルソナ、怪我を治すのが得意みたいですから!」

オクタヴィアが触っているところから怪我が治っていく。だが力を使うためその間は攻撃にまわせない。
また爆発音。ボイラー室のようなところが爆発したのだろうか。
牽制の矢と銃を撃ち、さやかのための時間を取る。

「ごめんなさい」

「いいんです。これくらい平気です。……それよりきます!」

『ジョォォォォォォカァァァァァァァ!』

再び雄叫びを上げると姿が消える。マミはほむらと距離をとり、まどかが代わりに近づいた。
だが、今度はまどかの背後から【JOKER】は現れる。
118 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:37:22.96 ID:dqUMKxfR0

振り下ろされる爪が当たる直前、さやかのペルソナが斬り付けた。だが、浅い。
彼女がペルソナを出したのは偶然だった。誰かの背後に移動しほむらを狙う行動に対して
本当に咄嗟に取った行動に過ぎない。だから、それは浅かった。

『ガァァァァァ!』

まどかの背後から逃げ出し、【JOKER】は離脱する。斬られた分弱ってはいるようだが、
戦うつもりではいるようだった。
そこでマミは気づいた。

「誰かの背後に回るみたいね!」

そうなれば簡単だ。全員が全員の背後に気を配ればいい。戦闘経験がない三人でも
そうと分れば対処が可能だ。分りやすいといえば分りやすい行動でもある。
身軽に攻撃を回避する相手だが、まるで機械的にほむらを狙うのだから、そこを攻める方法を取る。

キャンデロロが撃つ銃を左右に避ける。その着地地点をオクタヴィアが斬りつける。
クリームヒルトがさらに避けようと体勢を崩したところを狙う。
元々三対一なのだ。未熟な彼女たちでも、徐々に押し返すことが出来る。
119 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:38:35.74 ID:dqUMKxfR0

銃を、剣を、矢を受けて追い込まれると、再び叫び声を上げる。

『ジョォォォォォォカァァァァァァァ!』

一番ほむらに近いまどかめがけてさやかが走る。その二人の背中をマミは見つめる。そのかわり
まどかはマミの背中を注意していた。
そして現れたのは一番【JOKER】にとって悪い場所だった。
まどかの背後に現れたため、まずさやかのペルソナが一閃する。さらにまどかが弓をなぎ払い
殴りつけた。吹き飛ばされ、たたらをふんだところを、マミが狙う。

「ティロ・フィナーレ!」

キャンデロロの生み出す銃が巨大化する。まるで乗用車を縦に担いだような大きな銃……もはや
銃とは呼べないほどの大砲から力の塊が吐き出される。

『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!』

爆発と閃光に包まれた【JOKER】は断末魔の声を上げて、四散した。
120 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/14(土) 21:40:20.88 ID:dqUMKxfR0
筆者です毎週10レス目標だったけど、キリがいいのでここまでです
あ、pixivじゃネミッサの続編続けてるので、気が向いたら見てください
それでは、おやすみなさい
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/14(土) 22:48:25.75 ID:uCTiSz5To
乙でした。

ティロ・フィナーレキターーー!!

ネミッサの続編ってどこでしょうか?
できれば検索のヒントだけでもいただければ幸いです。
122 : ◆sIpUwZaNZQ [saga sage]:2013/12/14(土) 23:05:07.00 ID:dqUMKxfR0
>>121
Pixivで小説カテゴリで「いつかアンタを泣かす」ってやれば出ます。今までのもまとめました
URL直に貼るのは差し障りあるかと思って控えたのですが、わかりにくくてすみません
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/15(日) 02:29:40.33 ID:+UmjAlP5O
乙です
達哉にJOKER入って他四人全滅させられたのを思い出すなあ
まどかたちのペルソナ熟練度が低くてある意味助かったかな?
124 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:24:34.01 ID:WdpZrPp40
こんばんは、夜には早いけど投稿します
前作も使ったし、マミちゃんの代名詞なのでティロ・フィナーレは使わせたかったデス
125 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:25:27.93 ID:WdpZrPp40

心の底から浮かんだまさに「必殺技」が留めになった。光になって消え去るそれを見つめていた。
精神を疲弊し、ふらつく頭を振りながら三人は集まる。

「皆さん! 大丈夫ですか!?」

「ほむらちゃんも、大丈夫?」

「わ、私は平気です! それより皆さんが……」

外傷はなくとも、ペルソナを連続で呼び出すだけで、精神力を使う。そのため、皆一様に
額に脂汗を浮かべていた。特にマミは強力な技を使ったためそこにしゃがみこんでしまった。
だが年長者のプライドが彼女を奮い立たせる。

「た、倒したのかしら?」

「わ、わかりません。でも、とにかく逃げましょう!」

「そうね、行きましょう!」

立ち込める煙立ち込める屋上から階段を下りようとしたとき、ほむらの足が止まる。

「あ! あそこに人がいます!」
126 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:25:58.13 ID:WdpZrPp40

それは、同じ見滝原中学校の女子生徒だった。気を失っているのかピクリともしない。
さやかとマミが連れて行こうと近づく。そのときにさやかが気づいた。この女子生徒が
ほむらに『JOKERの呪い』を行った人物だと。杏子が男子生徒を問い詰めたときに
一緒にいた少女だった。

「こ、こいつ!」

「あのときの子ね。でも今は連れて行きましょう」

マミの正義感が、置き去りを許さない。さやかはしぶしぶ補助する。
幸い、屋上から一階までは階段を降りるだけだ。途中防火シャッターでも下りてない
限り、まっすぐに外にでられるはずだ。
かくして、四人は一階まで駆け抜ける。女子生徒がマミとさやかの足を遅くするが
それでもなんとか屋外出ることが出来た。
通報で到着していた消防隊に保護されるころには、全員煤だらけだった。
127 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:50:56.93 ID:WdpZrPp40

外傷として酷かったさやかの傷も、自身のペルソナで治癒している。
呼吸が荒いため、一酸化炭素中毒を疑われた四人は救急車で治療を受けた。
気を失っていた女子生徒は別の救急車で搬送されたようだった。

「おい! 大丈夫なのか!」

血相を変えた杏子が怒鳴り込んできた。野次馬をすり抜けて、警官隊をかいくぐり
慌てて飛んできたのだった。幸い皆の服はところどころ汚れてるが、怪我はない。
ただ【JOKER】に引き裂かれたさやかの制服を見て杏子は叫んでしまったのだ。

「何とか平気だよ。私のペルソナは怪我を治すのが得意なんだ」

「うるせえ! そんなことじゃねえよ!」

さやかの肩を掴み、怒鳴りつける杏子。その目は、確かに潤んでいた。

「心配したんだぞ! 音聞こえたし、電話は通じねえし!」
128 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:51:57.75 ID:WdpZrPp40

杏子の話を聞いていた周防刑事にも、その病院からの爆発音は聞こえた。
病院へ誘う杏子の言葉と、その音を聞いてしまっては動かざるを得ない。
そのため彼の車に同乗し駆けつけたという。
到着した頃には病院は炎上しているのだから、杏子の不安は想像に難くない。
さやかにしがみ付き、その肩に顔をうずめた杏子は、震えていた。

「あんたがまたどっかに行っちゃうかと思ったんだよ!」

「杏子……。心配してくれて、ありがとう」

いつも日常的に悪態をつくも、それだけ仲のいい二人だからだろう。

(また……? 前に、何かあったのかな)

ほむらも疑問に思ったが、それを問いただす雰囲気ではないし、
一度そういうことがあったのだろう程度にしか思っていなかった。
だから、それを疑問に思いつつも流してしまった。元々流れに棹差すような
性格ではなかったが。
129 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:52:40.34 ID:WdpZrPp40

「と、取り合えず、ほむらも皆も無事でよかった」

うっすら涙を浮かべた顔を乱暴にぬぐうと、ようやく皆の無事を実感できたのか
安堵のため息をつく。
手当てとともに周防刑事の事情聴取が始まる。腕や膝の絆創膏が痛々しい少女に
若い彼が問いただす。なぜ病院にいったのか、爆発が起きたのはなぜか、
逃げ遅れたのはなぜか、など小さくても疑問があると容赦なく切り込んでくる。
だがそれに全部応えることができるわけではなかった。【JOKER】と戦ったなどと
言ったところで信じてもらえるか分らなかったからだ。ペルソナを実際に呼び出せば
ある程度は理解してもらえるだろうが、本当に信じてもらえるか、確信がなかった。

「色々と不明なところがあるな。君たちは、何か隠し事をしていないかい?」

その鋭い目つきに皆が口をつぐむ。

「例えば、君たちが【JOKER】に二度も襲われているのに助かっている理由だ」
130 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:53:07.79 ID:WdpZrPp40

酷い話だが、狂言である可能性も考えているのだろう。それこそ刑事ドラマのように
食い違いや疑問があればそこを突くのが彼らの仕事なのだから。
重い沈黙。ペルソナで戦ったなどと、どうして信じてもらえるだろうか。

「信じて、もらえるか……わからないんです」

ようやく沈黙を破ったのはまどかだ。まっすぐ周防刑事の顔を見ていう。

「私たちには不思議な力があるんです。それを使ってあの怪物と戦ったんです」

「……それは、本当なのか」

周防刑事には思い当たる節があった。というのも初めて【JOKER】がほむらを
襲ったとき爆発物を投げたとされていたのだが、その破片が全く見つかっていない。
ただ小さなクレーターのように、アスファルトがえぐれたあとだけがあった。
鑑識も首を傾げる状況に、不思議な力のことを考えるのは不可能ではなかった。

「わかった。君たちを信じる。だから説明して欲しい。何が起こっているのかを」
131 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:53:50.89 ID:WdpZrPp40

その刑事の真摯な目に、皆も本当の話をする。【ペルソナ様遊び】のこと、
【JOKERの呪い】が現実にあること。そのためほむらが狙われていること。
皆は到底信じてもらえないと思っていた。だからまどかが話し始めたときは
驚いていた。だが周防刑事はそれを飲み込んだ。信じられないことを
信じられないまま受け止めることで事態の収拾ができるのなら、それをする。

「【ペルソナ】か……。わかった、分らないなりに、君たちが真実を言っていると思うことにする」

「なんでですか? こんな子供の夢見たいな話を……」

マミは信じられなかった。この中で唯一の年長者であり、皆の安全を必死に考えていた
彼女は周防の理解を喜ぶと同時に信じられなかったのだ。だからこそペルソナとはいえ
銃で人を撃つなどということが可能だったのだ。

「僕も……ペルソナ能力を知っているからだ」

彼の名前は周防達哉。同じ刑事でありペルソナ使いである兄を持つ男だった。
132 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/22(日) 18:54:32.28 ID:WdpZrPp40
筆者です。短いですがこんなことろです
それでは良い夜を
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/22(日) 21:02:48.28 ID:P/yRS0A6o

たっちゃん自身は見たことはないのか
まあ平時にわざわざ見せるようなもんでもないけど
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/23(月) 02:30:31.65 ID:IrhfeHPfO

かっちゃんはペルソナ使いのままか
前作から改変された世界だけどどこまで同じなんだろうか
今後の展開が気になるね
135 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:48:10.84 ID:YSuhvJnH0
こんばんは、筆者です
土日が怪しいので今日投稿します。一般ですが参加しますので
いつかは自分も、と思っております
136 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:49:06.47 ID:YSuhvJnH0

信じてくれた。そのことでマミは崩れ落ちる。恐怖ではない。安堵からだ。
張り詰めていた精神がふっと揺らめいたからだ。その体を、達哉は支える。

「す、すみません……。安心したら……」

マミは涙すら浮かべている。皆の前で先輩として気を張っていたとはいえ、
彼女も中学生に過ぎない。戦いに対する恐怖は他の皆と変わらない。むしろ部長として
責任を感じていた分、皆よりもストレスは大きかった。品行方正、文武両道、才色兼備……
彼女を褒める言葉は少なくない。だがそれゆえ年齢よりも大人になることを強いられていた。
だが達哉が抱えるその体は小さく細い。その小さな体でこれからも戦わざるを得ない。
かつて達哉の兄が戦ったように。

「まだ君たちの戦いは終わっていないようだ。まだ、やれるね」

「はい、大丈夫です」

「その、ペルソナ能力を持ってる人って、他にもいるんですか」

さやかの疑問に、頷いて応える。

「じゃぁ、何とか手伝ってもらえるのかな」

杏子の疑問に、ほむらも不安げに答える。手伝ってもらえるなら、こんなに心強い
ことはないのだが、そんな都合のいいことがあるだろうか。
137 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:50:11.65 ID:YSuhvJnH0

「直接力を貸すことは、あまりないかもしれない。けれど、君たちを援助するものがいる事を、覚えていて欲しい」

「あ、ありがとう、ございます」

それと同時に、彼はあることに気づき手配を行っている。聞けばマミが担いできた少女に
特別な処置が必要とのことだ。

「聞いている範囲では間違いないが……あの少女、【JOKER】を処置する必要がありそうだ」

話が飛躍してついていけていないが、彼は構わず続けている。『JOKERの呪い』を
行ったものには、穢れが溜まるらしい。それを一ところに集めるものもかつて存在
していた。

「随分前だが、同じようなことがあった。君らも知らないかもしれないが」

のちには珠阯レ市の大災害として伝えられている事件をさす。達哉は細かく説明を
することはなかった。具体的には彼女らが生まれる年に起きた事件のことだ。
138 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:51:17.57 ID:YSuhvJnH0

達哉は保護した少女を自分の管轄下におくべく指示を出しはじめる。それと同時に
ペルソナ使いとなった少女たちを監視下に置く手続きをしている。実際にはそれは
ポーズというか形だけのもので、さほど強制させるつもりはないようだ。
警察にばれて拘束されることを恐れた少女たちは安堵した。なぜならばまだ仁美は
見つかっていないのだから。

まるで、見計らったようになるのは杏子の手にある、さやかの携帯。発信者は仁美。
恐る恐る通話すると、あの甲高い声が響く。
達哉は視線で、皆に聞こえるように指示した。それにさやかは応じる。

『あれくらい魔法少女なら余裕だよなぁ』

声に特徴があったのか、すでに犯人の目星が着いていたのか、達哉は表情を固くする。

「須藤……竜也」

『ヒャハ! 俺を知ってる奴がいるのか。まぁどうでもいい』
139 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:51:54.19 ID:YSuhvJnH0

「仁美を返せ!」

相変わらずさやかの言葉にまともに返事をしない。激昂するさやかを達哉は手で制する。

『これから花火を打ち上げてやるよ』

花火とは言葉の意味そのものではあるまい。病院を発破したような爆弾のことを指すのだろう。

「場所はどこだ?」

『暁美ほむらァ。お前が思い出せばいいんだ。お前が良く知ってる場所が、吹っ飛ぶんだよ』

甲高い声がさらに際立つ。自分の言葉に陶酔しているような言い方だった。
それきり電話は途切れ無機質な音が響いた。

「暁美ほむらくん。君は何かを知っているのかい?」

「い、いえ……何も知らないんです」

「ほむらのせいじゃないだろ!」

達哉の問いかけに間髪要れず杏子が吼える。まるでほむらのせいだといわんばかりの
言い方に腹を立てていたのだ。それをマミが肩を抱くようにして抑える。ようやく落ち着いた
彼女の責任感が冷静さを取り戻したようなものだ
140 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:53:04.54 ID:YSuhvJnH0

達哉も理解している。彼女は被害者だと。須藤竜也が『甦った』ことから、
漠然と黒幕も理解できていた。まだやつは諦めていなかったのだと。
だから真っ直ぐほむらを見つめて、達哉は問いかける。

「君に関わるものが被害にあうんだ。君が何かを知っているはずなんだ」

「け、けどごめんなさい。本当にわからないんです……」

思い出せない自分が不甲斐なくて落ち込んでしまう。ほむらはそういう子だった。
自分のせいで皆が被害にあっているのに、ペルソナも出せなければ、被害場所の先回りも
できない。そればかりか友人になれそうな志筑仁美も誘拐されている。

「だからってほむらのせいじゃねえよ。なぁもいいだろ。こっちは被害者なんだ」

肩を抑えられても杏子はなおも食い下がる。出会って以来杏子はほむらを気に入っていた。
気弱な外見に反して、骨のあるところがあると、見直していたのだ。
今だってそうだ。怖い思いをしながらも病院まで同行したではないか。その強さを評価していた。
141 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:53:53.68 ID:YSuhvJnH0

さすがに達哉もそれ以上は踏み込めない。被害者であるのはあのときの彼女と同じだからだ。
皆に守られているほむらが、舞耶とダブる。

「……わかった。何かを思い出したら、知らせて欲しい。【JOKER】を捕まえるためにも」

あからさまに庇おうとする杏子以外にも皆がほむらを慮るようにしている。
達哉には特にその中で最も守ろうとしている少女に気づいた。

「君は何かを……」

その発言をさえぎり、遠くで爆発音がする。先の病院と同じ音と気づいたときには周囲は
慌しくなっていた。
達哉が周囲を走る警官一人を捕まえて、問いただす。

「何があった?」

『はいっ、街外れの廃工場で爆発があった模様です』

「ひょっとしてあいつが? 仁美が危ないよ!」

さやかの驚きとともに皆が色めき立つ。達哉が止めるのが早いか、全員が立ち上がり
走り出そうとした。
142 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:54:29.53 ID:YSuhvJnH0

その一同を追いかけて達哉は回り込む。たたらを踏む少女たちに怒鳴りつけた。

「待て! 君らが狙われているんだぞ! ここは警察に任せろ」

そういいつつも、皆がその通りに動いてくれることはない、と漠然と感じていた。
自分たちに特別な力があり、その力がないと抗しきれないと思い込んでいたから。
また、自分たちが行かないと友人に危害が及ぶと思い込んでいたから。
その脇をすり抜けてさやかが走り抜ける。だが、残った四人はかろうじて阻止できた。

「さやか! 一人で行くな!」

杏子は道をふさぐ大人に食って掛かる。さやかが単身廃工場に突っ走ってしまったからだ。

「また勝手に!」

仁美は所謂お嬢様だった。だからだろう。習い事も多くなかなか皆と仲良くする場面が
多くなかった。そんななか、持ち前のあけすけさでさやかは仁美に近づき、親友となった。
仁美の数少ない親友だ。それをさやかもうすうす感じているのだろう。だからなおさら
仁美を助けたかった。
143 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:55:08.53 ID:YSuhvJnH0

「慌てるな。ほむらくん、廃工場で何か思い出すことはないかい?」

――……ふん。遅かったじゃない。転校生――

「い、いえ……わかりません」

それは嘘だった。だが何かを拾い上げようとすると手のひらから零れ落ちる。
まるで乾いた砂か、水のように指の隙間から落ちて消えてしまうのだ。
だからそういう意味ではわからない、という返事は間違ってはいない。

「そうか……。車なら先回りが出来る。止めてもいくのだろう? なら来るといい」

半ば説得を諦め、それでも皆を諦めるつもりなど、達哉にはない。自分がペルソナ能力を
持っていない以上、戦えるのは彼女たちだけだ。だからといってそのままほっとくわけにも
いかなかった。
144 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:55:46.64 ID:YSuhvJnH0

車内はほとんど無言だった。かろうじてさやかの携帯にメールで先回りしたことを知らせ、
それを全員に伝えると、何も喋ることがなくなってしまう。友人の安否が気になるからだ。

「さやかちゃんが誘拐されるってことは、ないですか?」

まどかの不安は確かにある。だから車を手配する間に達哉はさやかの保護も
制服組に依頼している。実際保護は出来なかったようだ。だが無線で知らせる内容は、
彼女も廃工場に向かって移動している、という連絡だった。

「今他の警官が彼女を追いかけてる。だから大丈夫だ」

ハンドル片手に無線でのやり取り。警察官もさやかを保護を名目に拘束できない。
理由がないからだ。【JOKER】に狙われているのはほむらだし、かといって容疑者でもない。
それを無理に拘束するのは、警察には難しかった。
だからこそ、達哉はパトランプを光らせて廃工場に向かった。
145 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:56:31.83 ID:YSuhvJnH0

先回りできたほむらたちは車から出ることを許されなかった。それはそうだろう。
後続の応援も近づく中、彼女たちが動き回ることは警察の助けになるどころか
余計な警護に人員を取られることになる。
そういう意味では達哉に騙されたような形だ。老獪といえた。

「そんなのどうだっていさ。すぐにいこうぜ」

「で、でも外に出たら警察の人に捕まってしまいます」

「杏子ちゃん、さやかちゃんを待とうよ」

「ええ、とりあえず美樹さんと合流してからに……」

マミの言葉を遮るように爆発音する。驚きその方向を皆が見ると、
工場の外壁が吹き飛ぶほどの爆発が立て続けに発生している。
それに混乱する警察の間から、さやかが走り込んできていた。
如何なる偶然の仕業か、警察の視線がちょうど外れた形だ。
146 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:59:08.59 ID:YSuhvJnH0

杏子が驚きドアを開けようとするが開かない。
車両の後部座席側ドアは、内側から開かない仕組みになっているためだ
運よく助手席に座っていたマミがドアを開け外に出る。

「マミ! 開けてくれ!」

「ダメよ! 美樹さんみたいに飛び出してしまうもの」

「そんなことしねーよ! それより早くしないとさやかが!」

――ひとりぼっちは、寂しいもんな。いいぜ、一緒にいてやるよ――

「あつっ!」

それは杏子が知らないはずの記憶。脳裏に痛みにも似た衝撃が
走った。だが、その痛みによって逆に落ち着けたのかもしれない。

「佐倉さん」

「わ、わかったよ。皆と一緒に行く。ほむらも心配だしな」

分ってくれたことを理解したのか。マミは運転席の座席を操作しドアを開ける。
杏子は言った通り、ゆっくりと降りてくる。
続いてほむらとまどかも車から降りた。
147 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 21:59:41.91 ID:YSuhvJnH0

まず皆は、さやかを探すことにした。一人でいるところを【JOKER】や
先の怪物に襲われたら危険だからだ。もちろん仁美も心配では
あったのだが、さやかも仁美を探すのだから、必然的に両方を
探すことになるはずだった。
その提案をしたのはまどかだ。皆もそれに同意して工場内に
入って行った。

そこはまだ火の手が上がっていない。さやかが真っ直ぐに入り込んだ
のは見届けていたから、まず、間違いはない。だが見慣れぬ機械が
立ち並ぶそこは視界が悪く、遠くまで見渡せない。

「さやかー! おーい!」

自分たちの位置を教えてしまうのも構わず、杏子は叫ぶ。最初は
マミもそれを抑えようとしたが後の祭り。止む無く続いてまどかたちも
声を出す。
だがそれでも見つからなかった。
148 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2013/12/27(金) 22:01:17.55 ID:YSuhvJnH0
筆者です。キリがよくないですがここまでで
書き溜めも残り一回分となってしまいました
次回からは投稿が遅くなるかもしれませんが
どうぞご容赦ください。週一でも大変でした
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/27(金) 23:00:23.85 ID:r9DKRGAvo

密度が濃いし書き溜めが大変なのは仕方ないね
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/28(土) 16:43:06.05 ID:Y1U7zbrJO

そろそろ須藤とは決着かな?
新世塾がもう無いならJOKER事件は収まりそうだけど、ニャルのことだから何かあるんだろうなあ…
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/28(土) 18:29:10.37 ID:jeNRi30AO

良いな。メガほむはクーとかリボに進化するのか?
はたまた悪魔に墜ちるのか。
前作から選択肢が増えて先が楽しみだな。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2013/12/29(日) 22:05:02.71 ID:7BAiy3YO0

にしても殺人依頼が現実化してるというただでさえ人の精神危険なのに連続爆破テロ
起こってるのはやばいな。
153 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:30:05.35 ID:ONMRrgar0
筆者です。少し持ち直しました。土曜日ということで投稿いたます
新世塾は瓦解したんですよね。まぁニャルさまならいくらでも復活できるでしょうが……
154 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:30:53.32 ID:ONMRrgar0

皆は肩を寄せ合いながら歩く。一度や二度の戦闘で慣れるはずもなく
怯えながらの行動だった。遠くでする爆発音にたびたび身をすくめていた。
その中で唯一先頭を歩くのはまどかだった。急ぎすぎるそれをマミが抑える。

「鹿目さん、あまり先に行かないで。志筑さんが不安なのはわかるけれど」

指摘で驚き肩をすくめる。確かにまどかが一人先に行き過ぎていたようだった。
いつもの優しい声色とは違った声に戸惑っていたのかもしれない。

「……ごめんなさい、気をつけます」

「ほむらもいるんだ。こっちを狙ってるに決まってんだからよ」

杏子の推測は正しかったといえる。【JOKER】の狙いはあくまでほむらだ。
だから、廃工場にいる限り、向こうはほむらを攻撃するに決まっていた。
そのため、ほむらを中心にして行動する。
155 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:31:34.39 ID:ONMRrgar0

そのときだった。甲高い声が頭上から降ってくる。

『つれてきたようだな』

あの紙袋の怪人が吹き抜けの二階部分から見下ろしている。その隣には
仁美らしい姿も見える。隣でうずくまっているため、表情は分らない。

「仁美ちゃんを返して!」

まどかがありったけの勇気を振り絞り声を出す。それにあわせ杏子も叫ぶ。

「いい加減にしろよこのやろう。ほむらを何度も狙いやがって!」

『とっとと思い出せばいいんだ。そうすりゃぁ……自分で死ぬはずだからよぉ』

その杏子の恫喝も、【JOKER】は受け流す。

「皆、あそこに階段があるわ!」

睨みあいながら、ほむらたちは階段を上る。先頭はマミ、まどかが後ろを守る。
杏子が直にほむらを守る隊列だ。
156 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:32:08.94 ID:ONMRrgar0

蹲る仁美に徐々に近づくが、反応はない。【JOKER】もやや離れたところに
立ち尽くしたままだ。抜刀したまま、切っ先を床に刺して杖代わりにしている。その
威圧感に押され、仁美に近づくのを躊躇う。

『おい、どうした? お友達を返してやるってんだよ』

怪人をにらみながら、皆が仁美に駆け寄る。奪われまいと攻撃するかと思われたが
全く動こうとしない。

『……もっとも、そいつがお前らをオトモダチだと思ってりゃぁなぁ?』

そのとき感じたそれは、なんだっただろうか。耳鳴りのような、テレパシーのようなそれを
皆が感じた。
それと同時に、仁美が立ち上がる。
だが、その顔はのっぺらぼうのように目鼻がなく、怪しいまでに唇が紅に染まっていた。

『誰が貴女たちを友達だと? 笑ってしまいますわ』

その【仁美】は邪悪なまでの笑みを浮かべていた。
157 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:33:10.87 ID:ONMRrgar0

それと同時に立ち上るあの人影。赤と黒を基調にした道化師。病院のときと異なるのは
腹部らしきところが大きく膨らんでいることだ。まるで、何かがそこに蓄積して
溜まっているかのようだった。

『皆さん楽しそうですわね、わたくしを放っておいて……』

「ひ、仁美ちゃん!?」

まどかは困惑している。無貌の仁美に驚き困惑している。その口から漏れる言葉にも。

「だから、あんたが『JOKERの呪い』をやったのか」

さやかたちから聞いた限りでは、病院にいた女子生徒は杏子と向かい合ったあの生徒だった。
そして杏子も志筑仁美が『JOKERの呪い』をやったという噂を聞いていた。当時は話半分だったが
これで確定してしまったわけだ。

『そうですわ。そこの転校生さんがいなくなれば、また仲良くしていただけますものね。アハハハハハハ……』

言葉とは裏腹な、狂気に満ちた声色だった。声もそのものであるがゆえに、聞くに堪えない。
罵詈雑言に等しいそれは、まどかの心を折りに来ていた。
158 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:33:46.22 ID:ONMRrgar0

紙袋の怪人は動かない。その代わり『仁美』とその影……ペルソナのようなそれが踊りかかる。目標は
ほむらだ。
真っ先に我に返ったマミがほむらを庇う。床に押し倒し、爪をかわす。幸いにも、二人に外傷はないが
ほむらの顔は蒼白だった。全く知らない生徒から恨まれるならともかく、まどかたちの友人から恨まれる
ことに怯えていた。
杏子は苛立たしげにペルソナを呼び出し、槍を突きつける。その槍先を遮るのはまどかだ。

「やめて! 仁美ちゃんは私の友達なんだよ!」

「知ってるよ! けど、ほむらを狙ってるんだ!」

「何かの間違いだよ! だから、やめて!」

『まどかさんは優しいですわねぇ。その優しさを、もっと私に向けてくださってもよかったのではなくて?』

爪がまどかの背中目掛けて振り下ろされる。正対する形でいた杏子はまどかを掴むと引きずり倒す。
そのまどかがいたところを爪が通り抜けた。
【仁美】はその辺にあった鉄パイプを握り締めた。いうなれば本体とペルソナの同時攻撃だろう。
なんの武術の心得のない少女の腕であっても、頭などに当たれば只ではすまない。
159 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:34:38.32 ID:ONMRrgar0

『仁美』はやたらめったら鉄パイプを振り回す。それと同様に赤黒いペルソナも爪を振りかざし襲いかかる。
杏子のオフィーリアが槍で爪を受け止める。鉄パイプはキャンデロロのリボンだ。それだけで動きは
封じたが、まどかはクリームヒルトを呼び出せないでいた。ペルソナのようになっているとはいえ
友達を攻撃できない。

『ヒャハハハハハ、知り合いは攻撃できねえかぁ』

【JOKER】が一歩引いているのもそのためなのだろう。近づけば皆は【仁美】を無視して
攻撃するからだ。自分を標的にされないために、こうして距離をとっている。ただの狂人とは
思えない行動だ。

『そのままじっとしていてくださいな。私がほむらさんを殺すまで。ウフフ……アハハ……』

【仁美】の握力は尋常ではなかった。キャンデロロとの綱引きを維持しているほどということは
普通の中学生の常識を超えた力を出しているということになる。
そしてそのまま、二人を圧倒しだした。
160 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:36:09.65 ID:ONMRrgar0

「いっけぇオクタヴィア!」

叫び声とともに、車輪らしきものが飛んでくる。それから遅れて青い騎士が踊りかかった。
かみ合う武器を放し、車輪を回避しつつも【仁美】はまだ笑っている。

「さやかちゃん!」

「美樹さん!」

さやかは杏子を押しのけて【仁美】との間に割って入る形になった。それと同時に
赤黒いペルソナをオクタヴィアが殴りつける。吹き飛ばされ仰け反る【仁美】。
悲鳴を上げるまどかに対し、声をかけたのはさやかではなかった。

「みなさん、私はここにおります!」

やや離れたところから力の限り大声を発していたのは志筑仁美その人だった。ではここにいる
【仁美】は何者なのか?

『どっちが本物かわかるのか? ああ?』

嘲る声のまま、姿勢を崩そうとしない【JOKER】を尻目にさやかが叫ぶ。

「仁美は! 『JOKERの呪い』なんて! やらない!」
161 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:37:19.98 ID:ONMRrgar0

呼応し、はじけるように駆け出す杏子。赤黒いペルソナに槍を繰り出し牽制する。
と同時に【仁美】に体当たりをする。体勢を崩したところをさやかが剣で狙う。狙うのは
ペルソナのほうだ。そこを破壊してしまおうというのだ。さすがに、偽者とはいえ、
友人を攻撃するのは躊躇われた。

『ヒャハ。そんな簡単にバレちまうとはなぁ』

傍観を決め込んでいた【JOKER】も参戦する。抜き身の刀を肩に担ぎ、ゆらゆらと近寄る。
このまま疑心暗鬼に付け入る方法が無駄になったと理解したからだ。だが、それが
まどかたちには有効に働いた。

「クリームヒルト!」

まどかが戦えるようになったのだ。弓を引き絞り真っ直ぐ怪人を狙撃した。
彼女は怒っていたのだ。
でなければ敵とはいえ人間を弓で狙うなどということは出来ない。
たとえそれを刀で打ち落とせると思っても。

『いい根性だな。ヒャハハハハハハハハ!』

歓喜の雄叫びを上げてさやか、杏子に襲い掛かる。そこにリボンを巻いた鉄パイプを投げ込むマミ。
走りこみ、マスケットを打ち込む。遠距離が得意なまどかとマミが怪人に、接近戦を得意とするさやかと
杏子が【仁美】を相手にする。こうなりさえすればほむらを狙うことなど出来ないはずだ。
162 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:38:23.52 ID:ONMRrgar0

だが【仁美】のほうにはまだ切り札がある。誰かの背後に憑依して、攻撃を加える方法だ。

『ジョォォォォォォカァァァァァァァ!』

仁美の口調で叫ぶそれは、病院の屋上での行動と同じだ。だから対処法も分っている。

「佐倉さん、みんなの背後に注意して!」

「わかんねーけどわかった!」

だがそれがスキを生む。一瞬怪人から目を離してしまうのだ。そこを狙い、怪人は
手前にいたまどかに襲いかかる。しかも赤黒いそれもまどかの背後から現れて襲い掛かる。
銃で【JOKER】を牽制するのが精一杯、まどかを庇おうとしたキャンデロロが爪に
引き裂かれる。マミ自身の外傷ではないが、ペルソナへのダメージはそのまま精神的な
ダメージになるようで、本人の意識が一瞬飛んだ。そこを蹴られ吹き飛ばされる。
かろうじて腕で庇うことできたが、ほむらのところまで吹き飛ばされた。
ほむらの足元に、キャンデロロが抑えていた鉄パイプが転がった
163 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:39:04.38 ID:ONMRrgar0

ほむらのそばに仁美本人が駆け寄る。そこにマミが飛んできた。むせ返り、呼吸が
できないほどだった。

「巴先輩!」

ほむらは苦しくて仕方ない。皆がこうして戦っているのに、自分は何も出来ない。なんとか
何かをしようと、一生懸命考えているのだが、それがまとまらない。キャンデロロが抑えて
いた鉄パイプを掴むと、必死に振りかぶって叫ぶ。

「わ、わたしもたたかいます!」

「ば、馬鹿!」

杏子が叫ぶのが早いか、【JOKER】も【仁美】もほむらに襲い掛かる。
その恐怖に対しほむらは反射的に目を瞑って鉄パイプを振り下ろす。
だがタイミングが早すぎて空を切る。

『ヒャハハハハ!』

刀が、爪が振り下ろされる。
164 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:39:49.43 ID:ONMRrgar0

「だめぇぇっぇぇぇ!」

仁美が【仁美】に体当たりをしたのはその直後だ。無理やりぶつかり攻撃を阻害した。
ほむらを狙った爪が仁美の背中に当たり、髪を一房引き裂いた。そのまま【JOKER】まで
ぶつかり、体勢を崩す。
遅れて、さやかと杏子が【JOKER】を攻める。そうでもしないと仁美が殺されてしまうと
思ったからだが、武器が仁美を傷つけると思うと、一瞬躊躇してしまった。

「仁美ぃ!」

仁美を引き剥がしたのはキャンデロロのリボンだ。胸の辺りをしばりつけて後ろに
引っ張った。
それをみて杏子が踏み込む。だが一拍遅れたぶん【JOKER】には逃げられてしまう。
また四対二の構図になる。ペルソナ使いたちがほむらと仁美を庇う形だ。扇状に怪人たちを
取り囲んでいる。
だが怪人たちはそれに怯まない。再び攻撃を仕掛けようとした。
少女たちも張り詰めてきている。ペルソナを出す瞬間をうかがっている。

「動くな!」

そこに割って入ったのは威嚇のための発砲だった。達哉が銃を水平に構えている。
全員が虚を突かれた形になった。

『お前か、周防達哉』
「お前か、須藤竜也」

二人の声が重なる。
165 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/04(土) 18:41:11.92 ID:ONMRrgar0
筆者です。今夜はここまでです
もうちょっと皆の心をえぐるよーな台詞を
言わせたかったです。まだまだ精進しないと
166 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/01/06(月) 19:42:24.75 ID:NfcZXIcg0
ほむら「…何ループ目かにしての新事実だわ http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1388994113/l50
167 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/07(火) 03:42:14.92 ID:+D1AojrdO
盛り上がってまいりました!
乙です!
168 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:02:52.08 ID:Mw98gRbH0
こんばんは、筆者です
今夜も投稿いたします
あ、宣伝なら、こんな雑なやり方じゃなくて
一言申し添えてくれたらよかったのに……
169 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:03:38.02 ID:Mw98gRbH0

「甦ったか」

達哉は知っている。この須藤竜也が一度死亡していることを。そして『かつての世界』を
再現しようともくろんだことを。
そうしているうちに、須藤は紙袋を脱ぐ。その現れた顔をみた少女たちは小さな呻き声を
あげる。顔に酷い火傷のあとがあったから……だけではない。
その眼窩ががらんどうだったからだ。それは魅入られて甦ったものである印。

『お前のせいで疼くんだよ。……お前も邪魔するのか。ああ?』

「お前を拘束する」

『できるものならなぁ! ……てめえも呆けてないで【魔女】をだせ!』
170 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:04:12.01 ID:Mw98gRbH0

須藤の叱咤にあわせ、【仁美】が魔女と呼ばれたそれを呼び出す。
肥大化した腹をもてあます魔女が雄叫びと共に現れる。

「あの時と同じか……。聞いていた通りだな」

『思い出せ! 運命からは逃れられねえってことをよぉ!』

苦々し顔の達哉とは対照的に、嘲笑うように肩を刀で叩く須藤。
須藤が一歩一歩無造作に近寄るたびに少女たちは後ずさりする。だがそれは恐怖では
ない。間合いを取るための、前向きな後ずさりである。彼女たちはいつの間に、戦いの
心得を身につけたのだろう。
171 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:04:49.86 ID:Mw98gRbH0

焦れた【仁美】が魔女ともども踊りかかる。他の誰を無視して、真っ直ぐほむらに襲い掛かった。
魔女だけではない。本体の異常な力は無視できるものではない。
だが、彼女たちもまたペルソナ能力を得て戦いを続けてきたのだ。

「あたしたちをなめんなよ!」

「仁美のニセモノなんかに、負けるか!」

すぐさま迎撃のオフィーリアを呼び出し押さえ込む。本体のほうはさやかが受け持つ。
魔女が噛み合い動きを止めた。その隙を突いて須藤が襲い掛かる。

『ヒャハ!』

「させないよ!」

「じっとしてなさい!」

振りかぶった刀を、クリームヒルトの弓が弾く。両断されないほどの硬度ど弾性が
押し返した。動きを止められた須藤にキャンデロロのリボンが伸びるが、あっさりと
刀で切り裂かれ捕縛には至らない。
172 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:05:21.94 ID:Mw98gRbH0

ほむらは仁美に抱かれ、皆の戦いをを見守っている。だが守っているはずの
仁美のほうが怯えているくらいで、ほむらの目には力があった。それは場慣れして
いるだけとはいえないほどの、精神力だった。

『チッ。暁美ほむら、まだ思いださねえか! 向こう側のことを!』

「うるさい! ほむらが何をしたっていうんだ!」

『ああ? 世界を滅ぼしたに、決まってんだろ!』

須藤の言葉にまどかが身をすくめ、次いでほむらを見た。その視線に気づいて
杏子が叫ぶ。まどかの心を察したのだろう。

「わけわかんねーこといってんじゃねえぞテロリスト!」

そういうと魔女を吹き飛ばしオフィーリアを須藤にけしかける。須藤もさらばと
刀で噛み合う。ペルソナの力と拮抗するほどの腕力は尋常ではないが
そうすることで戦局は有利に働いた。
173 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:10:35.89 ID:Mw98gRbH0

『うふふ、私はまだ、諦めていませんわよ』

再び魔女を呼び出し襲い掛かる。銃を向けた達哉に向かってだ。生身の、
それも少女に銃口を向けることの難しさを知っているかのようだった。
だが、彼女は間違っていた。周防達哉は、ペルソナに銃が有効だと
はっきり理解していた。

「撃てないと思ったか!」

達哉は躊躇わず銃を撃つ。だが相手は須藤ではない。【仁美】の魔女だ。
直撃しても致命傷には遠い。だが二つの意味で衝撃は大きかったのだろう。
大きく仰け反ったところに、まどかとマミが準備していた大技を繰り出す。
174 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:11:36.07 ID:Mw98gRbH0

先の巨大な大砲。そしてクリームヒルトが打ち出す、無数の矢の雨。

「ティロ・フィナーレ!」「フィニトラ・フレティア!」

体勢を立て直そうとしたところに、無数の矢と大砲の弾が襲いかかかる。それを
魔女は力技で強引に受け止めて耐えた。ふらふらになりながら魔女はまだ立っていた。
大技を二つ受け止めたところに、オクタヴィアも襲い掛かる。魔女と呼ばれるそれを
狙ったのは、皆に生身の人間を狙うことに対する躊躇いがあったからだ。
それを破壊しさえすれば戦いは終わると理解していた。

「スクワルタトーレ!」

オクタヴィアの二刀がきらめき切り裂く。
彼女たちのその技の名前も、こころのうみから浮かび上がったものだった。

『アアアアアアアアアアアアアアッ!』

耳障りな悲鳴を上げて、魔女は崩壊していった。そして膝から崩れ落ちる【仁美】。
175 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:12:23.28 ID:Mw98gRbH0

その隙を逃さなかった。須藤は【仁美】を囮にし、ほむらに突っかかった。日本刀を
水平に構え踏み込む。その隣には仁美もいた。彼女ごと貫こうというのだ。
闇の粒子になり崩れて消滅する【仁美だったもの】に気を取られていた少女たちは
それに対応できなかった。偽者とはいえ友人が崩れる様をみて、何も思わない
わけがない。
だが達也がいた。水平に構えた銃を撃つ。警察官として訓練を受けていたからか
狙うのは足だった。

『ガァッ!?』

銃弾は太ももの外側に当たり、その衝撃で須藤は吹き飛ぶ。それでも須藤は
立ち上がり、ほむらに斬りかかる。その時間で十分だった。
我に返ったまどかのペルソナが放つ矢が、須藤に直撃した。
通常の矢のように貫通するものではなく、衝撃となって須藤を強かに打ちつけた。

『カハッ、ゲホッ』

須藤は吹き抜けの手すりを支えに立ち上がる。
胸を強打したためか、呼吸が出来ずむせ返っていた須藤に達哉が駆け寄った。
176 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:12:50.80 ID:Mw98gRbH0

「須藤竜也。お前を拘束する」

手錠を手に近づく達哉。そこに油断や奢りはない。どちらかといえば淡々としている
雰囲気さえ見えた。
手すりに背を乗せて咳き込む須藤は、がらんどうの目で睨みつける。

『カハッ。ヒャハ! 拘束してどうするんだ』

「ニャルラトホテプのことを洗いざらい話してもらう。それから法の裁きを受けて……」

『もう死んだ人間に何の法だ ツィツィミトル星人は……ほむらを殺せと……』

須藤が何かのスイッチを押す。そして続く爆発音。廃工場に仕掛けていたそれは
吹き抜けの工場を炎に包み込んだ。
だがそれでも須藤の予想より少なかったのだろう。病院の一件から爆発物処理班を
同行させいたためだ。半分とは行かないもののかなりの数が処理されていた。
構造そのものは単純で、解体されることを想定されていなかったからだろう。
177 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:13:59.99 ID:Mw98gRbH0

それでも、ほむらたちがいる工場は炎上している。一番多くの爆薬をここに集めていた
からだろう。それをガソリンなどの油で火災まで発生させいた。

『殺してやる! みんな殺してやる! 俺を閉じ込めた親父も! 俺の顔をこうした奴も! お前も! お前も! 電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波電波ァァァ! 殺してやる! 燃やしてやる! 殺して!燃やしてェェェ!』

須藤は肺の空気がなくなってもまくし立てる。彼が【仁美】と連携すれば、
少女たちは勝つことは難しかっただろう。だがどういうわけか須藤はそれを
拒むようにしていた。少なくとも達哉にはそう見えていたのだ。

『……ち、違う。俺は電波に操られるんだ。【あいつ】の手駒なんかじゃねえ! 電波だ、電波なんだよ! 俺を操っていいのは電波だけなんだぁぁぁ!!』

手すりから身を乗り出し、須藤は炎に包まれる階下に身を乗り出した。それを達哉は
止めようと飛び出した。だが間に合わず手は空を切る。

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ…………』

皆が目を背ける中、重い音と最後の爆発が起こった。自身も爆薬を持っていたのだろう。
それが一際大きな音を立てて爆ぜた。
178 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/11(土) 23:15:56.04 ID:Mw98gRbH0
筆者です。今夜はここまでです
今頑張って夏コミに今まで投稿したSSをまとめようかと
思ってます。上手くいくように、祈っててください
それでは電波に負けず、おやすみなさい
179 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/12(日) 00:54:25.66 ID:siZgu3Wxo
乙でした。スドウ=サン、デンパに包まれてあれ。

???「須藤ちゃん、電波、届いた?」
電波というとリーフの雫を思い出します。
180 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/12(日) 01:01:02.50 ID:ukcaIC7Yo

須藤にも矜持があったんだな……
181 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/13(月) 01:05:41.43 ID:/8GLbM0U0
乙です
身投げとは衝撃的な最期…
そして達哉もペルソナが無いのに意外にも活躍して嬉しい
考えてみれば管理官とSATも強かったものね
182 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/15(水) 17:28:18.81 ID:Pb3pLn/DO
作者はマミ好き過ぎ
もっと他の登場人物にも愛を!
183 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/18(土) 20:29:11.97 ID:C5XrXonb0
須藤最後に人として[ピーーー]たな。

しかしこれからどう行くのか気になるわ。
184 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:33:50.53 ID:qoVnIpvb0
筆者です、こんばんは
マミちゃん好きが透けて見えてますね〜すんません
もうちょっと皆を活躍させないといけませんね
185 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:34:28.25 ID:qoVnIpvb0

それから少女たちは、どうやって助かったかほとんど覚えていない。
爆発物と火災を想定した警察の迅速な対応でほとんど火傷をせずにすんだ。
焼け落ちたのは須藤がいた建物だけで、それも達哉の適切な誘導で、
大きな傷を負わずに脱出できたのだった。
だが、心の方はそうもいかない。目の前で人が死ぬところを見てしまった
ため、毛布に包まれたまま、蹲ってしまった。

――宝石――拳銃――廃墟と化した町――倒れている少女――

「私のせいで……人が……」

ほむらが掠れた声でつぶやく。長い髪もわずかだが焦げてしまった。眼鏡もはずし
毛布に顔を押し付けて呻くだけだ。
186 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:35:05.41 ID:qoVnIpvb0

「そ、そんなこと、ないよ。悪いのは、あいつじゃん」

杏子の力ない言葉が精一杯だったが、それが皆の総意だった。ほむらは被害者
なのだと、皆がそう思っていた。

「ほむらちゃんのせいじゃないよ。ね、だから、落ち込まないで」

「皆さんが、さやかさんが来てくれたおかげで、私は助かったんですよ」

誘拐された当人の仁美ですら、ほむらを慮る。背中をさする手が暖かくて、
ほむらは泣いてしまった。
ほむらを中心に、皆の労わりの輪が出来上がった。
187 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:35:40.48 ID:qoVnIpvb0

それからは怪我の治療と、事情聴取という名のお説教に費やされた。
達哉もそれなりに罰則があるらしいがどこ吹く風、である。
ついでに言えば、さやかもマミたちからお叱りを受けて縮こまっている。

だが、怪人の脅威は終わった。【JOKER】の襲撃は首謀者の死亡という
形で、幕を閉じた。
だから、皆お叱りを粛々と受けつつも、どこか心は緩んでいた。それを
責めるのは酷であろう。彼女たちはまだ中学生なのだ。事件が終わったと
早々と判断してしまうのはやむをえないといえた。

翌日からは日常を取り戻した。確認のため、同じことを刑事に説明する
ようなことはあったが、ペルソナ能力を使うことなくすごしていた。
親の監視は強くなってしまったが、それ以外は穏やかな学校生活が
始まっていた。
188 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:36:29.43 ID:qoVnIpvb0

事件から数日、心に重いものはありつつも、何とか笑えるくらいにはなっていた。
手芸の材料を買いたい、ということでほむらとまどかがショッピングモールに
来たのは休日の昼間。お昼を一緒に食べたりする約束をしていたのだ。
あのいざこざがあり、ほむらの刺繍はまだ途中だった。それでも事情聴取の
合間をぬって作り上げた刺繍はかなり進んでいた。もう事件のこともない。
彼女たちは普通の学校生活を取り戻していた。

「鹿目さん、付き合ってくれてありがとうございます」

ショッピングモールのファミレスで、簡単な昼食と休憩を取るふたり。
『偶然』二人以外に予定が入ったため、ほかの皆は不在である。このふたり
とて、先までの事件のこともあり、明るいうちに帰宅するように言われている。

「い、いいんだよ。私も楽しかったから」

だから、午前中の開店直前に合流し、昼を食べ日中のうちに解散する
予定になっていた。他の皆も、まどかがそばにいるならば、と安心していた。
189 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:37:11.23 ID:qoVnIpvb0

「私ね、ずーっと、ほむらちゃんとこうして話したかったの」

「私も、鹿目さんとゆっくり話がしたかったんです」

あんな事件があってはできないから、とほむらは付け足す。まどかも
嬉しそうに笑って応じた。

「お話なら部室でもしてるよ」

「けれど、こうして二人きりでおしゃべりしてみたかったんです」

花のように笑うほむらは綺麗だった。にもかかわらずまどかの表情が翳る。
ほむらはそれを事件のせいだと思った。ほむらが気に病むことはまどかも
感じ取っていたから。
190 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:37:38.18 ID:qoVnIpvb0

だからことさら明るく、ほむらは話しかける。慌てすぎて早口になるくらいに。

「鹿目さんは心配するかもしれませんけれど、私は皆と一緒にいられて楽しいんです」

「うん、ありがとうほむらちゃん」

先ほどの憂いをかき消すような微笑でまどかは応える。だがほむらはその翳りの
意味を理解していなかった。いやむしろまどかにとっては、それを理解されては
ならない。

「もっといろんなことお話しよう? 前の学校のこととか、病院のことでもいいよ」

「入院生活のことですか……、あまり楽しくないかもしれませんよ」

「そんなことないよ、いっぱいお話して」
191 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:38:04.89 ID:qoVnIpvb0

「また殺人事件が起きました」

――彼女たちが知らないところで――

「また殺人事件です」

――否、彼女たちが目を背けていたところで――

「また事件です」

――事は進んでいた――

「事件です」

――穏やかな日常を取り戻したがゆえに――

「事件」

――這い寄る噂は、その暗さを増していった――
192 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:39:17.96 ID:qoVnIpvb0

友人に順位をつけるのはいかがなものかとは思うほむらだが、
一番仲がいいのはまどかだと思っていた。

「ここのパスタ美味しいんだよ」

引っ込み思案なところと、相反する頑固なところが似ていると
ほむら自身も理解するようになった。自分を狙う人物のところに
行くと言い張るのは、頑固でなければなんというのだろう。

「本当だ。美味しいですね」

それと同じように、ほむらを守ると言い切る彼女もまた頑固な
ところがあるように思われる

「ね、さやかちゃんから教えてもらったんだよ」

「仲がいいんですね」

「うん、でもほむらちゃんとももっと仲良くなりたい!」

心の奥に影を隠したまま、まどかは精一杯の笑顔を見せた。
193 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:40:04.33 ID:qoVnIpvb0

「なぁ、ちょっといいか」

杏子から真面目な相談は、事件から一週間以上経った日に
唐突に始まった。
まだ手芸部にはマミと杏子だけだ。他の三人はやや遅れてくる
ということで、そのタイミングを狙ったのである。
マミはそのいつになく真面目な顔に何かを思ったのか、何も言わず
真っ直ぐに向き直る。

「まだ事件終わってないみたいなんだよ」

ためらいとか躊躇とかを廃した、真っ直ぐな言葉と視線。
マミもその視線を受け止めつつ、ため息をついた。

「そう、みたいね。暁美さんが狙われることは、ないようだけれど」

散発的に、何者かに襲われるという事件は起こっていた。
だが世間はそれを別の通り魔事件として処理していた。爆発事件の
首謀者は死亡、それにより爆破事件は鳴り止んだのだから当然だ。
194 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:40:37.23 ID:qoVnIpvb0

「でもあたし聞いたんだ。【JOKER】に襲われたやつがいるって」

マミは顔色を変える。うすうすわかっていたことをはっきりといわれたからだ。
杏子は運動部にも顔が利くため、噂を集めることができた。とはいっても
積極的に聞いたわけではない。駄々漏れで伝わってきてしまうのだ。

「そうなんだ、あのとき死んだはずなんだよ。けど、まだ事件は続いてる」

「……刑事さんはそのことを知っているのかしら」

「知ってるんじゃないかな。だから」

そう、だから達哉は事情聴取をまた求めてきた。今日の放課後何人かに
事情を聞きにくるという。そのときに杏子は話をしようと思っていた。
本当に事件は終わったのかと。
195 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:41:10.38 ID:qoVnIpvb0

「『JOKERの呪い』で襲われたやつがまたでたってよ」

――たとえ須藤が『JOKERの呪い』の代行をしていても――

「まじ、俺もやべえんじゃねえの」

――言葉だけが独り歩きをして肥大化するのが噂である――

「爆破テロの犯人も捕まってないんでしょ」

――被疑者死亡であっても、醸成された不安は――

「またどっかで爆発とかあるのかな。警察はなにやってんだよ!」

――無責任な噂という形で伝播して、世界を巻き込む――

「このまま日本ってどうなっちゃうんだよ」

――破滅に向かって静かに動いていく――
196 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/19(日) 21:44:13.10 ID:qoVnIpvb0
筆者です。やっぱり須藤大人気。お疲れ電波さん
あと、申し訳ないのですが、今後週一の更新が
難しくなります。落とすことがあるかもしれません
文章量が落ちてて、不味いな、と思ってる次第です
ご了承ください
他の子にも愛を送りたいですしね
197 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/19(日) 22:08:09.38 ID:9ws5hKiAo

噂って怖い。改めてそう思った
現実でもほむらちゃんがクレイジーサイコレズ扱いされたりするし
198 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/22(水) 04:03:43.48 ID:jzaAdKtUO
乙です
更新速度はしょうがないですよ

加速した噂がどう影響するか楽しみです
仮面党や新世塾のような秘密結社が出るんだろうか?
199 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:04:27.22 ID:cl80WVtl0
こんばんは、筆者です
今宵も投稿いたします
ほむらの「愛よ」発言は何よりもピュアなもんだと思ってます
純粋すぎてあらぬ方向に転がっていきましたけど
200 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:05:02.84 ID:cl80WVtl0

事情聴取として達哉は手芸部の部室に現れた。
達哉は渋い顔をしている。実際に事件は消滅していない、むしろ順調に
増えてしまっている。いずれほむらたちの耳にも入ってしまうだろう。
だから隠すことなく、皆に伝えた。

「確かに事件は終わっていない」

「そんな! あいつは死んだのに!」

遺体は見つかってはいないが、普通の人間ならばまず助からない状況に
さやかは安心しきっていたのだ。それはほむらも同じだった。

「もう一つ……君たちも知っていて欲しいことがある。信じられないかもしれないが」

「なんですか」

マミの問いかけに、しばし言葉を詰まらせる。達哉も、伝聞系でしかないが
と前置きしてつぶやく。

「噂が現実になる、という現象が起きているんだ」
201 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:06:12.91 ID:cl80WVtl0

「な、何言ってるんですか?」

だが達哉はニコリともせずに言う。本気で言っているのは明白だった。
彼は続ける。かつてペルソナ使いとして戦った仲間がいる。そのときに発生した
現状のことを。
そのときは、ラーメン屋が武器の密売をはじめたり、ブティックが鎧を売り出したり
噂となる下地が存在すれば、噂になったときそれが現実になるという。

「あの時、志筑仁美が二人いたね。あれはおそらく噂によって生み出された別人格なんだ」

杏子には思い当たることがあった。それは口さがない学生が言っていた噂に。

「あたし聞いたよ。『志筑仁美が呪いをやった』って噂。そのときは聞き流したけど……」

だが実際には仁美は『JOKERの呪い』をやっていない。それはさやかも信じていた。

「そのため【呪いを行った志筑仁美】が必要になって、実体化したんだ」
202 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:06:47.68 ID:cl80WVtl0

仁美を知っていればそんなことをする人物でないことは明らかだが、そうでない
人の間では無責任な噂は広まる。
そういう意味では、もはや達哉も無関係ではいられない。自分もまたその現象に
巻き込まれかねない。
達哉は続ける。当時須藤竜蔵率いる新世塾・天誅軍と名乗る軍隊が出現したこと、
それとペルソナ使いたちが戦ったこと、そして元凶を打ち倒したこと……。

「し、信じられません、そんなことがあったなんて」

マミの同様も当然だった。自分たちが生まれる前にそんな事件が起こっていたなんて。
だが、今自分たちが置かれている状況を考えれば、達也が嘘を言う必要はない。

「打ち倒したって言ったよな。じゃぁ誰がやったかって知ってるんだよな」

かなり憤慨しながら杏子が言う。その元凶が同じものならば、今度はそいつは
ほむらを狙っていることになる。

「ああ。ニャルラトホテプというものらしい」
203 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:07:32.01 ID:cl80WVtl0

達哉はそれと直接戦ったことはなく、伝聞系であるといった。だが実際に戦った
兄克哉や彼の仲間から話しを聞いていた。当時の達哉は話半分に聞いてはいたが
今この期におよび、それが真実だと気づかされたという。

「そのときは街の地下に宇宙船のようなものが埋まっている、なんて話も現実になった」

当時動き出した宇宙船と破滅の予言により、珠阯レ市は災害に見舞われたという。
だが奇跡的にそれは世界の破壊とまでは行かず、大災害として処理されたといわれている。

「は、ははは……できの悪い漫画みたい……。ほむらもそれに狙われてるの?」

「或いは君たちだ。なぜ?という答えは持ってはいないが、須藤は君らが来ることを拒んでいなかった」

他人を巻き込むことを躊躇わない性格だとも言えるが、それと同じかそれ以上に
まどかたちを巻き込むつもりでいた可能性が大きい。本当にほむらだけを
殺害したいのならば、自宅を狙えばすむのだから。
204 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:08:03.16 ID:cl80WVtl0

達哉は最大限の注意と警告をして去っていった。
さすがのほむらも刺繍をする元気はなくなっていた。もう少しで完成するというところなのに、だ。
水を打ったように静かな手芸部の部屋は寒々しい。

「……じゃぁさ【ペルソナ様遊び】もそうなのかな」

さやかがつぶやく。自分たちが持つ力もかつてニャルラトホテプなる
存在によって引き起こされた出来の悪い悪夢だというのだろうか。

「じゃぁなにか、全部そいつの掌の上ってか!」

杏子の昂ぶりも最もだが、それに対する答えはない。
それをマミが諌める。

「落ち着いて佐倉さん。今は暁美さんも襲われていないし無事なのよ」

「わかってるよ! けどおかしいんだ街の雰囲気が!」
205 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:08:39.63 ID:cl80WVtl0

杏子はそれを直に体感しているといっていい。というのも彼女の実家である
教会には人生相談に来る人も多くはないが存在する。その話を聞くに
『JOKERの呪い』をしており、それを悔いているということなのだ。
杏子が知る範囲でも、それが徐々に増えているのだ。

「まだ何か起きそうなんだよ。それにほむらが巻き込まれたら……」

事件だけではない。奇妙な噂も広まっているという。
曰く、『JOKERの呪い』を行ったものも呪われる。
曰く、その呪いはだんだん大きくなる。
曰く、その呪いのせいで世界が終わってしまう。
曰く、それを乗り切るための箱舟がある。
などなど、直に聞く機会がある彼女にとってそれは聞くに堪えない
妄言ばかりだ。
206 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:09:42.24 ID:cl80WVtl0

それが現実になると知った杏子は心穏やかではない。彼女たちは知らないが
ノストラダムスの予言を鵜呑みにした子供の怯え方に似ていた。
それが事件と相俟って街の雰囲気を悪くしているのだ。

「けれど、事件の手がかりがないよ」

まどかのつぶやきは絶望の色をしている。自分たちだけが今の街の
異常の原因に気づいている。けれどそれに対する対策が取れない。
ニャルラトホテプなる存在がどこにいて、なにを画策しているのかが
わからないのだ。

「手がかりならあるよ」
207 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:10:28.76 ID:cl80WVtl0

その言葉に、一同が振り返る。それはさやかから出た言葉だった。

「噂を調べよう。噂が本当になるなら、噂を調べればいいんだよ」

さやかの提案に皆が顔を上げる。噂が現実になるのならば、その噂を
調べれば相手の狙いもわかるかもしれない。さやかはそういっているのだ。

「そうか、そうね。冴えてるわ美樹さん」

マミも同意する。突破口が見つかったことで心が晴れたのであろう。
一方で噂を聞いて気分が落ち込んでいる杏子は顔色が優れない。また
あのような虚言妄想を聞くのが耐えられないのだ。
そして、それが堪えられない人がもう一人。
208 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:11:05.74 ID:cl80WVtl0

「だ、だめだよ! そんなことしなくてもいいじゃん!」

いつになく大きな声でいうのはまどかだ。とても不安そうな顔をしている。

「もうほむらちゃんは狙われないんだから。もうやめようよ。怖いよ」

まどかの意見も最もだろう。元々口下手な子でもあるし、そういった噂に
とても疎い子でもある。

「けれど、備えておくべきじゃないかしら」

マミが反論する。皆がとても戦うことに前向きになりつつあった。その中で
ほむらだけが不安そうに俯いたままだ。
209 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:11:42.12 ID:cl80WVtl0

ほむらの姿を不安と読み違えたのか、さやかは務めて明るく言う。

「噂調べるだけなら大丈夫でしょ。まどかは心配性だなぁ」

「佐倉さんもいやかもしれないけどやりましょう。暁美さんを守るためよ」

ほむらという理由があっては杏子も同意せざるを得ない。どうせ自分が
集められそうな噂は、もうあらかた喋ってある。これ以上はすぐには見つからない
だろうという思いからだ。
杏子の視線の端に、不満そうなまどかの顔が見える。それに気づかずにさやかは
恭介に連絡する。音楽団の方を当たってもらうためだ。

かくして彼女たちは噂話を探しに行動を開始した。マミは上級生のクラスや教職員に、
さやかとまどかは同級生や下級生にあたり、杏子は引き続き教会での噂話を
探すということだった。

そして、さしたる襲撃もなく数日がたった。
210 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/01/25(土) 21:13:07.59 ID:cl80WVtl0
筆者です。これで書き貯めがなくなりました
これから更新が二週に一回になるかもしれません
ご了承ください
エタらないように走り抜けるつもりです
どうぞお待ちくださいまし
211 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/26(日) 00:02:32.76 ID:a0SbTw1Bo

記憶が戻らないと狙いが分からないから受け身にならざるを得ないんだよな……
かといって戻ったらもう思うつぼだしニャルニャルまじえげつない
212 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/26(日) 20:46:51.59 ID:VskFGP670

何とかニャルに一矢報いてほしいところ
213 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 20:53:05.62 ID:KqvtK4Ul0

こんばんは、筆者です。
これから隔週の予定で更新します
勢いが落ちてすみませんがお付き合いください
214 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 20:54:52.24 ID:KqvtK4Ul0
集められた噂はこういったものだった。
『JOKERの呪い』による呪いの連鎖は徐々に大きくなる。
呪いが大きくなると世界が滅ぶ。
世界が滅びる前にトリフネに乗れば助かることが出来る。
呪いの事を、【女禍】、或いは【魔女】というらしい。

「女に禍、って書いて、ジョカ、って読むらしいの」

「うわ、なんか、ねぇ」

噂が荒唐無稽すぎて皆も信じられないようだ。実際、噂を
話す人々もそれを信じているわけではないらしい。
また、呪い以外にも、かつて日本をより良い方向にしようと
画策した武装集団の生き残りがいて、トリフネを甦らせようと
している、という話もあった。
215 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 20:57:13.52 ID:KqvtK4Ul0

「これじゃ、どうしたいのかぜんぜんわからないわね」

「世界を滅ぼしたい……のでしょうか」

「うう、ますます漫画みたいな話になってきた」

「なぁ、あのよう」

杏子がためらいがちに割ってはいる。噂話を集めることに
消極的になっていた彼女だが、何かを思いついたようだった。

「こっちから、噂流せねえかな」

その可能性に皆も気づいた。だがたかが中学生にどんな噂を
流せばいいのだろうか。いや、中学生にそんなことができるのか。
216 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 20:59:24.73 ID:KqvtK4Ul0

「それ、アリかもしれないわね」

なんといっても、女性というものはいくつになっても噂話は好きなもの。
中学生の彼女たちは特にそれが顕著であろう。

「でも、そんなことできるの?」

「噂に、尾ひれをつけるくらいは、できるんじゃないかしら」

彼女たちに大々的な噂を流すことは困難かもしれない。だが、
ある程度なら、噂を弄ることができるのではないか。
マミはそういっているのだ。
実際、噂などいくらでもあとから内容が増えていくことがある。
それくらいなら、おそらく可能だろう。

「でも、どんな噂を?」
217 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 21:00:39.17 ID:KqvtK4Ul0

うなるようにさやかは考え込む。そこにほむらが言いたげにしているが
本人は怖がっているかのように身をすくめている。

「どうしたのほむらちゃん?」

様子に気づいてまどかが問いかける。ほっとしたような顔をして見返す
ほむらの目は、怯えた色をしていた。

「あ、あの……。噂なんですけど……」

「ええ。いいアイディアがあるかしら」

「そのトリフネ、ですか。それの入り口がどこかにあるとか、そういうのは……」

「いいかも! それでさ、そこに黒幕がいるとか噂しちゃえばいいんじゃない?」

さすがに黒幕の噂は広まるとは思えないが、少なくとも何らかの動きがある、
のではないかというのだ。
218 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 21:01:54.58 ID:KqvtK4Ul0

幸い、見滝原中学校でも、いわゆる七不思議なる怪談話がある。それの中に
時計台の地下に秘密の入り口がある、という話があるのだ。もちろん関係者に
とっては地下などはなく、半地下の倉庫の入り口があるだけなのだ。だが
それでも噂好きな女子生徒にとっては十分面白そうな話にはなるだろう。

早速という形で、彼女たちは行動に移す。なんてことはない、
「噂のトリフネの入り口が見滝原中学校の時計台の下にある」
とでもいえばいいのだ。

ほむらはともかく、まどかは不安げにしている。それはそうだろう。彼女としては
事件は終わったことにしたいのである。
少なくともほむらが狙われることはここ数日ではなくなっていた。
だからもう、皆にも忘れて欲しい話、いや……

……忘れていて欲しい話なのだ。
219 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 21:02:43.66 ID:KqvtK4Ul0

だが、彼女たちが学校にいる間に、恐ろしい方法で噂が拡散していた。
それはかつて新世塾が行ったことと同じだった。

番組に引っ張り出されるのは都市伝説に詳しいとされるタレント。いつになっても
この手の話はなくならない。抽象的である話

「今日のゲストは、占いやオカルトに詳しいこの方です」

『どうもこんにちは』

「しかし、今の時代、オカルトや占いってどう? って人多いですよね」

『ええ。ですが、オカルトも都市伝説と名前を変えて今も残っています。それは
噂話のような人々の深層心理の希望の現われなのかもしれませんよ』

「なるほどー、では昨今の【魔女】とか【女禍】なんてものも?」
220 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 21:04:39.78 ID:KqvtK4Ul0

テレビのバラエティ番組で流されるくだらない話。

『【魔女】、【女禍】というは人間の誰の心にもあるものなのです』

言ってしまえばたいしたことはない。誰しも抱える自分の心の暗い部分のことだろう。

『それは穢れとして溢れてしまうのです』

だから、それがあるといわれれば誰しも納得してしまう。

『学生で噂の『JOKERの呪い』はそれを増幅させるだけで……』

真実の中に多少の嘘を混ぜ込んでも

『皆さんの心に穢れがある限り、ジョーカーは【魔女】【女禍】となって……』

それを飲み込んでしまう。なぜなら

『皆さんの前に、現れるかもしれません。ですが信じるかどうかは……』

それを受け止めるのは、個々人次第なのだから。

『あなた方次第です』

「ありがとうございます神条久鷹さん。では一旦CM……」
221 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/02/08(土) 21:06:12.63 ID:KqvtK4Ul0
筆者です。今夜はここまでです
正直前作が気合入れすぎたり、キャラ出しすぎたりして
ちょっとだけ後悔してます
でも頑張って走り抜けます。おつきあいくださいませ
222 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/02/09(日) 02:10:20.21 ID:aMnzaT2Ko

神取……どこまでもイヤらしいことをするなニャルニャル
223 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/02/10(月) 00:32:21.40 ID:iTLYwcb80

神取がまたニャルの操り人形とは
やっぱり生き方は変えられないのか…
224 : ◆sIpUwZaNZQ [saga sage]:2014/03/07(金) 19:00:26.25 ID:84RWlx0d0
保守のためsage対応。しばしお待ちを……
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/04/05(土) 11:17:37.08 ID:ah3/w0clO
晒しage
待たないから辞めろ
延命とかしてんじゃねえよ
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/06(日) 12:57:13.07 ID:2R5wKqJSO
保守する位ならさっさとやめろ未練がましい
目障りだ
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/11(金) 09:40:04.24 ID:mW4YqHYxo
■ HTML化依頼スレッド Part17
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396957268/

依頼出しとけよ
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/04/19(土) 23:30:46.92 ID:LQNsTYIP0
保守
前作から見てるから完結が気になる。頑張ってくれ。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/04/22(火) 17:20:43.72 ID:CNaRqh5k0
やっぱり神取が出てきたか
焦らず頑張ってくれ
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/23(水) 15:42:43.78 ID:FR9gYpIHo
つまんね
231 : ◆sIpUwZaNZQ [saga sage]:2014/04/26(土) 08:52:10.01 ID:G8Gl4YiB0
筆者です。近いうちに書きます。プロットやらなんやらを直したらわけわからなくなりました、すみません
>>225-230
【保守】してくださってありがとうございます。さらには【宣伝】までしていただいて……ありがたいことでございます
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/26(土) 09:11:36.07 ID:29lMfHEYo
ペルソナ2は5周ぐらいしたし読んでみたいんだが
まどマギ知らなくても楽しめますか?
メインキャラの名前少し知ってるぐらいなんだけど…
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/26(土) 11:45:18.13 ID:Mh8Ai82Ho
ちゃんと完結までしてくれりゃ問題ないがね
やっぱ行き当たりばったり感ありでエタるんじゃないかと思っちゃうんだよな
>>232
最初だけ読んでみりゃいいんじゃね
キタローもやってたけど
それでつまらないと思ったら読むのをやめる一択で
234 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:19:38.87 ID:J2fgpW6Y0
お久しぶりです。長々と放置してすみませんでした。
短いですが再開します。
235 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:20:32.68 ID:J2fgpW6Y0

噂は、瞬く間に広まった。

元々不安のある見滝原の状態ではそれは当然といえた。
草原を炎が燃え広がるように、町全体を多い尽くす。だが炎と
決定的に違うのは、それが人の目には、災害などとは見えないことだ。

フードコートに集まり思い思いに軽食を取りながら、まどかたちは相談しあう。

「結構広まってるみたいですね」

「そうみたいね」

自分たちが流した噂が、逆に自分たちの耳に届いてくる。それが噂が広まった
印であろうと彼女たちは判断した。

「そろそろ、確認にいってもいいかもしれませんね」

さやかは気合が入ってる。マミも使命感に燃えているし、杏子もやる気だ。
彼女たちにとって、愛らしいほむらは、守に値する大事な友人なのだ。
236 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:21:56.04 ID:J2fgpW6Y0

そんな流れを遮るように、杏子は呟く。いつもの彼女らしくない、ためらいがちで
歯切れの悪い言い回しだ。

「けどよ、あの話知ってるか?」

「【魔女】と【女禍】のこと? テレビで有名な人が言ってたみたいだね」

テレビのバラエティで神条久鷹なる人物が、その二つについて言及していた
ということだ。杏子はそれを聞いた瞬間寒気がしたというのだ。

「な、なぁ。仮にだぞ、あれも噂になったらどうなるんだ?」

杏子以外はたまたまそれを見ていなかったらしい。だから、杏子の不安が
あまり理解できていなかった。
杏子は思い出せる限り、内容を伝えた

――【魔女】、【女禍】というは人間の誰の心にもあるものなのです――

――皆さんの心に穢れがある限り、ジョーカーは【魔女】【女禍】となって……――

――皆さんの前に、現れるかもしれません――

237 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:24:12.41 ID:J2fgpW6Y0

「ちょ、それヤバイじゃん!」

さやかも顔色を変える。かなり動転しているようだった。
それにつられるように杏子もまた慌てる。自分の言葉の重みを再確認したのだろう。

「だ、だよな? けどどうしていいかわかんなくてよ!」

それはつまり、JOKERの呪いがしたことがないものでも、ジョーカーになる
ということだ。
だが彼女たちに打つ手はない。

「今は、そのトリフネのほうに向かいましょう。そこになにかあるなら調べて」

「調べてどうするんだい?」

唐突に、後ろから声をかけられた。

「あっ……」

まどかの小さな驚きの声が漏れる。
238 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:26:44.05 ID:J2fgpW6Y0

その女性は、ポケットからタバコの箱を取り出した。だが中身が空と知ると
つまらなそうに握りつぶした。止めようやめようと思いつつも踏ん切りがつかない。
まどかたちからすればかなり年上のはずだが、そこには威圧感や見下すような
雰囲気は感じられない。やや気さくな雰囲気さえ伺える。

「なんですか貴女は?」

「芹沢うらら。人探しをやっててね。あんたたちを探してたのさ」

「なんのために」

その刹那。全員を不思議な感覚が襲う。脳の中を刺激されたような感覚。
ペルソナがざわめき出したのである。

「同じペルソナ使いとして手助けにね」

人当たりの良さそうな顔をして、簡単に説明を始めた。
彼女もまた、かつて周防達哉とともにニャルラトホテプと戦ったペルソナ使いの
一人。当時は『JOKERの呪い』を知人に行ってしまう愚行を犯したが、それも
含めて解決したという。
239 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:28:12.54 ID:J2fgpW6Y0

「とにかく、あんたらだけでいくのはよしな。いまあたし等の仲間も来るから」

「どうしてそれを……周防さんが?」

「ああそうさ。さすがにわかるよね」

うららはかつて、同じように穢れを溜めたことがあった。それを除去するために
とある場所に向かったことがある。今回も被害者をそのときとおなじことをするため
合流し連絡を取り合ったことを説明した。

「そういうことで、あんたらが戦ってる相手に思い当たる節があるのさ」

節どころではない。ほぼ目星がついているのだろう。そうでなければわざわざ
ペルソナ使いが助けに来るはずがない。

「思い当たる節、ですか」

マミの表情に浮かび上がるのは、かすかな不安。不審とまでは行かないそれを
うららも察しているのだろう。だがそれに構わず続けた
240 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:28:50.69 ID:J2fgpW6Y0

「そうさ、あたしたちもそいつと戦って、辛くも勝利した。けれど……」

けれどその相手はいまだ諦めていなかった。悪意を持って再び人間たちに
試練を与えようとしているのだという。

「たぶん、あんたたちのうちの誰かを使ってね」

その中の一人が息を呑む。そして唇を噛み締めている。
それに気づいているのかいないのか、うららはため息混じりに続ける。

「とにかく、すぐに行動を起すのはやめな」

「けど、どうしてですか?」

マミが尋ねる。彼女にはうららが無関係だとしか思えなかったからだ。
事実、うららは関係のない人間である。
241 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:29:36.14 ID:J2fgpW6Y0

だからこそ、うららは笑って言い切った。

「関係はある」

それは、相手と戦うこと自体が重要なのだと語った。
相手を倒すには一つしか方法がないこと。それをするためには
知っている以上、無関係ではいられないというのである。
豪胆にも笑いながら、命のやり取りをする覚悟を語った。

「相手はなんなのさ」

「「ニャルラトホテプ」」

うららはこともなげに言う。

「……ってやつさ。人間が無意識に持つ破滅への欲求とかなんとか」

頭が悪いから、あんまり理解できなかったけどね、などと続けて
うららは笑って見せていた。
242 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:30:32.31 ID:J2fgpW6Y0

結果的に、うららの登場は少女たちの出鼻を挫いたようだった。
説得にせよなんにせよ、彼女たちの勇み足を止めることができたわけだ。
そういう意味では、うららの行動は成功したといえる。昂ぶったところに
冷や水をかけることが出来た。

「あんたらの連絡先、教えな。仲間と都合がついたら連絡するからさ」

上手くウィンクするうららに、皆飲まれるように連絡先を交換した。
大人の行動に逆らえる少女はそう多くない。だから粛々としていた。
それを素直と取ったのだろう。笑ってこういうのである。

「そういうのが一番だよ。手伝う大人たちだっているんだ。頼りなよ」
243 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:31:24.72 ID:J2fgpW6Y0

話を終えたうららは相棒が待つ車にたどり着く。相手はバオフゥ。
本名は嵯峨薫というかつて珠阯レ市の地方検事を勤めた男でもある。
今はわけあってバオフゥという通り名を名乗っている。

「上手くいったか」

「当然さ。あとは『援軍』を待てばいい。連絡先も聞いたしね」

うららは気づかないことがあった。それは皆がうららを疑わないこと。
或いは、警戒をしなかったこと。
見た目から何から素直そうな少女たちであったことがそれを有耶無耶にしていた。

「ガキは勝手なことをするのが相場だぜ」

「そんなことはないさ。大丈夫だよ。素直そうだったしね」

バオフゥはそれに返事することなく車を走らせた。
うららがシートベルトを止めるまもなく、である。
244 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:32:11.46 ID:J2fgpW6Y0

そして当然のごとく、あっけに取られている少女たち。
本来なら見知らぬ大人にああいわれたとはいえ、
それに従う義理などないはずである。
にも拘らず、彼女たちは、それを受け入れるつもりでいた。

端的に言えば彼女たちも恐いのである。
たたかう力やこころがあろうとも、彼女たちが積極的に
戦いに立ち向かえるかどうかは別問題だ。
そこに水を指されては、立つことは難しいだろう。

「皆、今日のところは解散しましょう」

マミの宣言で皆が帰宅する。そもそも準備が必要なのだ。
今までのように受身のではない、打って出る戦いにそなえる
必要があるわけだ。
245 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:33:24.30 ID:J2fgpW6Y0

「やっぱり、やめませんか?」

帰り、まどかと二人きりになったほむらがそんなことを言う。
彼女は怯えていた。この事件にではなく、事件に巻き込まれて
友達が不幸になることに。だからためらいつつも、まどかに本心を
伝える。

「皆さんが危ない思いをするのを見ていられません」

ほむらは言う。自分にどうしてあの力が現れないのか。
なぜ皆とともに戦えないのかと。そしてそれが彼女の心の
重荷になっている。

「私も皆さんと一緒に戦いたい。皆さんの役に立ちたい」

「ほむらちゃんは役に立ってるよ」

まどかは真顔で言う。
246 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:33:59.81 ID:J2fgpW6Y0

「ほむらちゃんが後ろで恐くても頑張ってくれるから、わたしも頑張れるの」

それは支えになることだという。そして続ける。

「きっとね、ほむらちゃんがいなかったら、わたし、恐くてたたかえなかったと思う」

ほむらの顔色が変わる。それは明らかな怯えの色だ。
今にも泣き出しそうな、そんな顔すらしている。
気づいたまどかは優しく微笑む。それこそ、ほむらを安堵させるように務めて穏やかに。

「ううん、大丈夫。わたしが頑張れるように見守って欲しいんだ」

少し背の高いほむらを抱きしめる。
ほむらの体は不安に震えていた。だからその背中を優しくさする。

「ほむらちゃんは心配しないで。わたしたちを信じてね」

その言葉に、ほむらはやっと安心したようだった。
不安ながらも、微笑を浮かべたのである。
まどかはそれに満足した。



そしてその日、一人の少女が失踪した。
247 : ◆sIpUwZaNZQ [saga]:2014/05/01(木) 22:34:39.31 ID:J2fgpW6Y0
筆者です。今夜はここまでで。またしばらく間が空きますがお許しください。では。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/02(金) 00:39:00.60 ID:wjRLKDvoo
乙です!
御自愛ください
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/05/02(金) 00:46:42.56 ID:PSn4+nTi0

頑張って下さい。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/02(金) 11:49:05.83 ID:EuJ09RCMo
筆者て
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