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【艦これSS】 キス島撤退作戦‐異聞 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/11/24(日) 23:43:59.77 ID:AmBNNS8s0

このSSは『艦隊これくしょん〜艦これ〜』の キス島撤退作戦について、
仮想戦記風味に仕上げたものです。

「艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します!」のビジュアル見てひらめきました


※本SSにおける艦娘は、使役する妖精の支援を受けて実際の艦を操っているという設定です。
 蒼き鋼のアルペジオのメンタルモデルをイメージして下さい。世界観も少し拝借

※佐藤大輔作品から多大な影響を受けています

※独自設定とか仮想戦記がお好きでない方はご注意を


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385304239
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :テステス ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/24(日) 23:47:33.55 ID:AmBNNS8s0

― プロローグ ―

奇跡的な経緯を経て痛み分けで終わった二度目の大戦から十数年。
世界は潜在的な対立が依然存在するものの、それなりの平和を謳歌していた。

その最中、正体不明の深海棲艦が突如出現。
人類は連合して立ち向かうも、とめどなく現れる敵に敗北を重ね、ついに制海権を喪失。
徐々に海上交通を遮断され、その生存圏を狭められていった。

日本帝国の誇る連合艦隊は壊滅して久しく、南方及び大陸との連絡も断たれて資源も乏しい状況では
枯渇した戦力の回復は絶望的な状況である。
追い詰められた日本は禁断の呪術に手を染め、巫力の高い少女の魂を対価に、かつての大戦で活躍した
軍艦を模した兵器を錬成した。
外見は当時の軍艦そのものであったが、対価とした少女が艦の姿を模して具現化した点が大きく異なる。

『非人道的』『異端の所業』『非道の産物』それら非難を非常時の超法規的処置で纏めて括り、
兵器の錬成を推し進めたことで、戦力は急速に回復していく。

いつしか『艦娘』と呼ばれるようになる彼女たちの活躍によって、徐々に生存圏を回復。
先ずは大陸への連絡路を回復し、ついで戦略物資を求めて西方・南西海域へと進出。
北米への連絡路回復を目的として、北方海域への哨戒・進出を進めていた。

ある年の10月、かつての大戦における古戦場であるサーモン諸島に深海棲艦の大規模集団及び、
これまでで最大であると見られる敵の巣たる泊地を確認した。

帝国海軍はこれの撃滅を決定。

各鎮守府から戦隊単位で艦娘を召集し、呉鎮守府艦隊を基幹とする連合艦隊に再編成。
11月1日を以って攻撃を開始。
最終的に長門以下の戦艦六隻が敵最深部へ殴り込み、深海棲艦泊地を撃滅した。
のちに11月の大海戦と呼ばれる海戦はこうして終結を迎える。

これ以降南西海域での敵戦力は著しく後退するものの、連合艦隊の損害も大きく、
海上護衛のみならず、鎮守府防衛にも戦力を事欠く有様であった。
3 :テステス ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/24(日) 23:52:45.03 ID:AmBNNS8s0

――大海戦から一週間後 横須賀鎮守府

鳳翔「おはようございます。提督」

提督「うん、おはよう鳳翔。それでは仕事を始めよう。報告を頼む」

鳳翔「はい、提督」

鳳翔「まず大海戦参加艦艇の修復状況ですが、駆逐艦の半数は修復が完了していますが、
   もう半数はあと数日程度掛かります。
   しかし、被害の大きかった空母と巡洋艦については最低でもあと1週間は必要です」

提督「昔に比べれば驚異的な回復速度ではあるな。現在出撃可能な戦力は?」
   ※修復時間は艦これの10倍程度とお考え下さい

鳳翔「戦艦は比叡、霧島、大和。巡洋艦は摩耶のみ。駆逐艦が8隻の、計12隻です」

提督「妙に偏ってるなぁ。これじゃ防御と艦隊決戦くらいしかできないぞ」

鳳翔「あの古戦場に縁のある艦娘は招集されませんでしたから」

提督「温情なのか、はたまた縁起が悪いからか…」

鳳翔「この戦力では、しばらく哨戒と遠征に専念するしかありませんね」

提督「そうだな…。あと、臨時編成の駆逐艦で出してたタンカー護衛任務の状況は?」

鳳翔「今朝の定時連絡によると、予定通り明日の帰還です」

提督「大変結構。では、臨時編成の駆逐隊をもう一隊遠征にだして、残りは演習を――」

任務娘「提督!連合艦隊司令部から緊急入電です!」ドタバタ


 連合艦隊作戦命令 第○○号

 横須賀鎮守府司令ハ麾下ノ艦隊ヲ以ッテ キス島派遣ノ陸軍偵察部隊ヲ収容スルト共ニ
 キス島周辺ノ敵勢力ヲ殲滅セシメルコト 尚、陸軍ノ救出は三日以内ニ行ウベシ

 詳細ハ別紙ノ通リ

  連合艦隊司令長官


提督「…、…。長官に電話を繋いでくれ。大至急だ」

鳳翔「はい、直ちに」
4 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/24(日) 23:55:57.89 ID:AmBNNS8s0

長官『私だ。何か用かね?』

提督「横須賀鎮守府司令であります。今回の作戦命令についてお願いがございます」

長官『聞こう』

提督「当鎮守府では戦力が不足しています。どこか別の鎮守府艦隊に――」

長官「戦力不足はどこも同じだ。君のところが一番マシなんだよ」

提督「…。三日以内の作戦完了は不可能です。せめて一週間は頂きたく」

長官「キス島の陸軍偵察隊は物資が乏しく、また、深海棲艦の攻撃にもさらされており、猶予は無い」

提督「事態は一刻を争う、ですか」

長官「その通りだ。命令はすでに発令されている」

提督「っ!!………増援をつけて頂けませんか。あと物資の手当てを」

長官『いいだろう。増援を調整させよう。物資は用意する』

提督「教官は昔から無理難題をおっしゃる」

長官『生徒は素直でなくてはならんとよく教えたではないか』

提督「ちゃんと覚えておりますよ。増援の件は特によろしくお願いします」

長官『ああ、一番いいのを用意させよう。ではな』

ガチャン――

提督「一時間後に会議室に全員集めてくれ。任務娘君は作戦立案を」

鳳翔&任務娘「了解しました」
5 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 00:00:50.48 ID:0i7uCo+l0

―― 横須賀鎮守府 作戦会議室

提督「みんな急に集まってもらってすまない。連合艦隊司令部より緊急作戦命令が下った」

提督「わが海軍が北方海域に進出し敵の侵攻艦隊を撃退したことは諸君らも知っての通りだ。
   それに陸軍が呼応してキス島に前線基地建設の為の偵察部隊を派遣した。
   だが深海棲艦の再侵攻によりキス島が包囲され帰還出来なくなっている」

提督「そこで当鎮守府にキス島偵察隊の救出命令が下った。任務娘君、説明を頼む」

任務娘「はい、提督」

任務娘「4日前、有力な敵艦隊によりキス島が包囲され、輸送船による撤収が不可能になりました。
    夜陰に乗じて潜水艦による救出を試みましたが、包囲網に阻まれ失敗。
    高速水上艦艇による撤収を行うことになりました」

任務娘「そのキス島ですが、アルフォンシー列島西部にある火山島で、面積は277.7km²周囲35q
    北東から南西方向に伸びる細長い島であり、島中央部にキス湾が位置しています。
    そのキス湾にて陸軍兵の収容を行う予定です。
    キス島周辺海域には小島や暗礁が多く、大型艦及び大規模艦隊が展開するには不向きな場所です。
    その為、救出隊は喫水の浅い駆逐艦による高速艦で編成します」

任務娘「連合艦隊司令部の命令には陸軍兵の撤退と共に、周辺海域の深海棲艦の排除も含まれます。
    今回の作戦では、救出隊とは別の打撃艦隊でキス島包囲部隊の排除及び北方への誘引を行い、
    救出隊はその間隙を縫って島の東南方向から突入。速やかに陸軍兵を収容し撤収します」

任務娘「別働隊がどれだけ敵を撃破・誘引できるかが作戦の成否を左右します。
    敵艦隊の撃破よりも北方への誘引を優先して下さい。
    救出隊は可能な限り戦闘は避けて下さい。
    陸軍兵を収容しキス島を離脱するまで無線封止とします」

任務娘「最後に現時点で確認されている敵艦隊は、
    キス島を包囲する戦艦1乃至2を含む水上打撃艦隊、及び一個水雷戦隊。
    周辺海域を哨戒する二個水雷戦隊です。空母機動部隊は確認されていません。
    作戦説明は以上になります」
6 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 00:06:53.04 ID:0i7uCo+l0

提督「これより救出隊および別働隊の編成を発表する」

提督「まず救出隊に陽炎、長月、皐月、霰、曙、潮。旗艦は陽炎」

陽炎「はい!」

提督「次に別働隊。比叡、霧島、大和、摩耶、綾波、夕立。旗艦は比叡だ」

比叡「旗艦は大和のほうがよろしいのではないでしょうか?」

提督「大和の火力は強大だが、いかんせん経験が浅い。旗艦には比叡が適任だ」

比叡「了解しました」

提督「今回は連合艦隊からも援軍が出る予定だ。作戦について何か質問のあるものは?」

提督「よろしい。別働隊は準備出来次第直ちに出撃。比叡はちょっと残れ。
    救出隊はこの後に個別の打ち合わせを行う。
    その他のものは不測の事態に備えて警戒配置で待機。
    それでは解散!」

 ― ― ―

比叡「何でしょうか?司令」

提督「敵艦隊誘引成功時と収容完了時の文言を決めておきたい」

比叡「それなら、―――と、―――でお願いします」

提督「了解した。大和のこと頼んだぞ。気をつけていって来い」

比叡「はい、気合!入れて!行きます!」
7 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 00:19:55.62 ID:0i7uCo+l0

提督「さて、救出隊の打ち合わせを始める。
    救出隊は別働隊が敵の包囲部隊を北方に誘引を確認後に突入する。
    尚、作戦中は無線封止。敵と接触した場合は解除する。
    ここまではいいな」

陽炎「はい」

提督「陸軍兵の収容は長月と皐月で行う。魚雷は下ろしていけ。
    それから、陸軍兵の救出を第一とする。もしもの場合は他を犠牲にしてでも帰還せよ」

長月「了解した。責任重大だな」

提督「あと、これが別働隊が使う文言。こっちは救出隊が使う分だ」

陽炎「あー、これ比叡さんが考えたのですね」

提督「色々分かりやすくていいんじゃないか?あと陸軍部隊の情報がこれだ」ペラ

皐月「残存700名余。敵の艦砲射撃で大隊本部全滅で代理が指揮、ね」

提督「その他に何かあるか?」

陽炎「いえ、大丈夫です」

提督「じゃあ、よろしく頼むぞ」

陽炎「旗艦任務は初めてですが、精一杯頑張ります」

曙「ふん!そんなので旗艦が勤まるのかしら?」

陽炎「なっ!」

潮「曙ちゃん!そんな言い方」

陽炎「確かに実戦では初めてだけど、ネームシップの名に恥じるような戦いはしないつもりよ」

曙「どうかしらね?失敗してからじゃおそいのよ」

潮「はわわわわ」

陽炎「あんたこそ失敗して皆の足引っ張らないかの心配したほうがいいんじゃない?」

曙「なによそれ」

陽炎「あなたが居なくても作戦を成功させて見せるってことよ」

曙「あら。あら、そう。それなら私を、私を外しても問題ないわね」

提督「それは駄目だ。戦力に余裕が無い。お前の力も必要だ」

曙「こんなあたしまで使わなきゃいけないなんて――」

提督「そこまでにしておけ二人とも。曙、気は済んだか?」

曙「っ!!――先に艦に戻ります」スタスタ

潮「あのっ、わ、私も戻ります。待って曙ちゃん!」タタタ
8 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 00:23:46.82 ID:0i7uCo+l0

陽炎「気象状況を確認してきますので失礼します」

霞「霞もついてく…。失礼します」


提督「はぁー…。臨時集成とはいえ、これは…」

長月「こんなことでは先が思いやられるな」

車月「ふふ、強がっちゃうとこがかわいいね」

提督「すまないな、いつもお前達には割りをくわせてばかりで」ワシワシワシ

早月「ふぁ、は、はわわ!くすぐったいよお! 」

長月「不遇だとは思ってないさ。私達の働きを分かってくれる人が居れば、それで十分だ」チラッ

提督「今回も苦労をかけるが、よろしく頼む」ナデナデ

長月「(これはいいものだな…)…んむ。ああ、頑張るさ」

皐月「まかせてよ司令官! 」


―― 鎮守府 岸壁近く

潮「ちょっとまって。待ってってば! 」グイ

曙「なによ」

潮「ねえ、どうしてそんな嫌われるようなこと言うの?」

曙「別に…。昔からひねくれものなのは知ってるでしょ」

潮「でも、作戦前なんだから、ケンカしなくたっていいじゃない…」

曙「どうせ何かあったら私のせいになるんだから、憎まれ口の一つもくらいいいでしょ」

潮「そんなこと…。でもあんな言い方…」

曙「構わないで! ほっといてよ」

潮「でも、曙ちゃんが心配だから…」

曙「なんでそんなに…、ああ、そうか、潮は私が居たほうが弾除けになるもんな」

潮「なに…それ…。曙ちゃんそれ本気で…、本気で言ってるの?」

曙「事実そうだったじゃない。あたしは潮の引き立て役でしかな―――」

 パァン――!

潮「………」ポロ

曙「――――えっ?」

潮「曙のばか!もう知らない! 」タタッ

曙「………」

曙「ああ…ほんとうざいなあ…私。せっかく出撃できるって言うのに!」ギリッ
9 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 00:29:00.80 ID:0i7uCo+l0
書き溜め分でチェックした分が尽きたので、今宵はここまでに致しとうござります。
陽炎抜錨します の小説が出るまでに海戦を含めた救出隊部分の話を終わらせる予定です。

よろしければおつきあいくださいませ
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/25(月) 00:43:32.33 ID:LUTva+tDo
乙。
期待しる
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/25(月) 07:47:20.22 ID:PiiJHFWhO

これは期待
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/25(月) 07:51:06.77 ID:PuxgFbn6o
ここまでは先行公開されている小説の挿絵からのいんすび
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/25(月) 07:54:19.44 ID:xZOROuyLo
あれ、途中で書き込んじまった

ここまでは先行公開されている小説版の挿絵からインスピレーション受けたのかそれともいらん子中隊か
今後の展開が楽しみネー
乙!
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/25(月) 18:53:08.49 ID:oqsK4ONzo
車月って誰だ
15 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/25(月) 23:19:41.03 ID:0i7uCo+l0
≫13
元々考えていた内容に、ノベライズの挿絵を見てひらめいたネタを付け加えた感じ
霰と陽炎、曙と潮には史実でも色々あったし、SSのネタにはしやすいかな
いらん子中隊ではないかな

≫14
皐月の誤字です。申し訳ない。気をつけます
16 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/26(火) 00:33:47.71 ID:Z77LTo+Q0

―― 会議室近く 廊下

霰「陽炎…大丈夫?」

陽炎「大丈夫じゃ、ないかも」

霰「(あの子も…いろいろ…あるみたいだけど)…曙のことは…気にしなくていい」

陽炎「そうじゃないの。そうじゃなくて…、旗艦って初めてだし。できるのかなって」

陽炎「いつもは霞や不知火も居るし、空母や戦艦について行くだけでよかった」

陽炎「でも旗艦の私がミスしたら…、あの時の霰や不知火みたいに――っ!」カタカタ

霰「大丈夫…霰はいるよ…」ギュ

霰「霰はちゃんと最後まで…ついて行くから…」ギュー

陽炎「…うん。ありがとう、ね」


―― 鎮守府岸壁 救出隊

提督「準備に不足は無いな」

陽炎「はい。陽炎以下駆逐艦六隻。出撃準備完了しています」

曙(………)チラッ

潮(………)プイッ

曙(………うぅ)

提督「曙。大丈夫だな」

曙「出撃すれば旗艦の指示に従うものであると認識しております」

提督「大変結構。(ちゃんと指揮には従ういい子なんだよな、曙は)」

陽炎(へぇ…)

提督「では救出隊出撃せよ!…無事に帰って来い」

陽炎「はい。救出隊出撃します!」


鳳翔「行ってしまいましたね」

提督「…工廠の準備は?」

鳳翔「既にできております。まもなく始まるかと」

提督「ありがとう。それでは確認してくる。あと妖精さん達に甘いものを」

鳳翔「はい、お任せ下さい」
17 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/26(火) 00:55:50.26 ID:Z77LTo+Q0
―― モーレイ海 別働隊 隊内無線でおしゃべり

摩耶<ねぇ、姉御。連合艦隊から増援があるって話だけど、必要ないんじゃないか?>

霧島<あら、どうして?>

摩耶<敵は戦艦2隻と、あとは水雷戦隊だろ。こっちは戦艦が3隻だ。圧倒的じゃないか>

霧島<そうね。情報通りなら増援はいらないわね。情報通りなら>

摩耶<舐めて掛って敵が多かったら目もあてられないからか>

夕立<慢心、ダメ、絶対。っぽい>

大和<味方が多ければ、こちらの被害を最小限にして敵を殲滅できますし>

綾波<ランチェスターの法則でしょうか>

摩耶<とにかく皆でボコればいいってことか>

比叡<でも夕立や綾波みたいな敵がいたら、逆にやられてたなんてこともあるかもね>

綾波<私と夕立を鬼か悪夢みたいに言わないでください…>


大和<増援は誰なんでしょうか?>

比叡<もう出港しているはずだけど、連絡がないのよね>

摩耶<重巡や水雷戦隊じゃないの?>

比叡<金剛お姉さまだったらいいなぁ…>

霧島<比叡お姉さま。そろそろ警戒配置にしたほうが>

比叡<そうね。警戒配置にしましょう。対潜監視と警戒よ!>
18 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/26(火) 01:07:31.43 ID:Z77LTo+Q0
書き貯めあるけど構成がうまくいかないので、今宵はここまでに致しとうござります。

どこかに艦娘同士の呼び方表とかないかな?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/26(火) 08:34:44.66 ID:d6lPbxlro
>>18
みんなそれ探してるね
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/26(火) 12:31:56.95 ID:cS12oFWDo
提督の呼び方一覧はあったけどそれは見ないね
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2013/11/26(火) 21:58:46.81 ID:InB0sdFG0
単純に考えて150*150のマトリクスだもんな…
22 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/26(火) 23:54:13.51 ID:Z77LTo+Q0
公式小説であれば、呼び方はある程度見えて来るんだろうけどね
ドラゴンマガジン買い忘れてた・・・
23 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/26(火) 23:57:20.91 ID:Z77LTo+Q0
―― 小笠原近海 演習艦隊

??「燃料が足りないなら遠征で確保するのが基本だな」

??<見つけてきたよー>

??<おお、さすが速いな。よくやった。えらいぞ>

??<えへヘっ。でも護衛が居てめんどくさそうだよ>

??<大丈夫だ。私にまかせておけ>ガチャン!!

??<流石ね>

??<まるで海賊じゃないですか…>

??<まぁまぁ、いいじゃないの〜>
24 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/27(水) 00:02:21.64 ID:HDc9yh800

―― 呉鎮守府 連合艦隊司令部

長官「増援の手当ては付いたか?」

陸奥「はい、佐世保から4隻出る予定です。また、横須賀からも駆逐艦2隻が加わります」

長官「駆逐艦とはいえ、横須賀に予備戦力はあったのか?」

陸奥「損傷の少ない艦に工廠妖精の全てを付けて突貫工事したそうで」

長官「ほう。非常手段とはいえやるじゃないか」

陸奥「物資については、呉鎮守府から連合艦隊に割り当てられた備蓄を放出しました」

長官「それでよい。どうせしばらくは戦えるフネがないのだからな」

陸奥「それから別件ですが、小笠原諸島西方沖で演習中の艦隊が連絡を絶ちました。
    無線封止訓練と称して応答がありません」

長官「増援への参加を却下されて拗ねてるのか…。篭城のつもりかね」

陸奥「初陣がまだですし、しばらくは海戦が見込めないのでチャンスと見てたのでしょう」

長官「まぁいい、放っておけ。行こうにもキス島までは燃料が持たないのだからな」
25 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/27(水) 00:09:53.92 ID:HDc9yh800

 コンコンコン――

長官「入れ」

吹雪「失礼します。横須賀鎮守府から緊急連絡です」

長官「何があった?」

吹雪「横須賀に向け小笠原近海を航行中のタンカー及びその護衛部隊との連絡が
    途絶えたとのこと。
    連合艦隊司令部や他の鎮守府に情報が入っていないかの確認と、
    捜索隊の派遣要請があります」

長官「…………」

陸奥「大海戦以後、絶対国防圏への深海棲艦の侵入は確認されていません」

長官「………まさか」

陸奥「十中八九、彼女達かと――」

長官「演習艦隊を大至急で呼び戻せ!出るまで続けろ。最優先だ」

陸奥「はい!」タタッ

長官「横須賀にはこちらで全て対応すると伝えろ。代わりの油槽船は送る、とな」

吹雪「了解しました」タタッ

長官「あのじゃじゃ馬め。あぁ…どうしてこうなった」
26 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/27(水) 00:26:09.84 ID:HDc9yh800

―― モーレイ海 夜明け前 戦艦《比叡》

見張妖精「敵水雷戦隊見ユ!軽巡1駆逐艦4。梯形陣で突入してきます」

比叡「哨戒中の水雷戦隊ね」

比叡<戦闘配備!敵水雷戦隊を排除する。戦艦が一斉射した後、摩耶達が仕留めて>

摩耶<了解!>

比叡<尚、一斉射は私と霧島のみとします>

大和<なっ!どうしてですか!>

比叡<貴女の絶大な火力は切り札にしたいのよ>

霧島<切り札はここぞという時に使われるものよ。アイツらをブッつぶす為にね!!>

摩耶<ヒューッ!>

夕立<ステキなパーティにはサプライズが欠かせないっぽい>

綾波<皆さん騒ぎすぎです。あ、私の分も残しておいてくださいね>

比叡<ごめんね。とにかく今は我慢して>

大和<…はい>

観測妖精「敵艦との距離2万!」

比叡「主砲!斉射!ってー!」

見張妖精「霧島も斉射続きます」

見張妖精「摩耶以下突撃します」

観測妖精「だんちゃーく、今!敵五番艦に命中!轟沈します。四番艦は横転してます」

比叡「うそ!?当たったの?」

見張妖精「霧島斉射は敵旗艦軽巡に命中!轟沈。他の敵艦は反転」

見張妖精「摩耶以下敵艦を追撃しつつあり」
27 : ◆JkEyIcsDHA :2013/11/27(水) 00:39:42.93 ID:HDc9yh800

―― モーレイ海 夜明け 戦艦《大和》

大和(比叡さんも霧島さんも初弾命中なんですごい…)

摩耶<残りの駆逐艦は撃沈した。排除完了>

比叡<お疲れ様。そのまま前衛で警戒よろしく>

摩耶<了解>

大和(ほかのみんなもすごい武闘派だから、気後れしてしまいそう)

比叡<隊列変更。大和は私と霧島の聞に入って>

大和<了解。移動します>

大和(でも、私もがんばらないと。もうすぐ武蔵も配備されるのだから)
28 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/27(水) 00:54:35.31 ID:HDc9yh800

―― キス島沿岸 深海棲艦キス島包囲打撃艦隊

リ級「…テキ ニシ力ラ キタ ナカマ クワレタ ナブリ…ゴロシ」

ル級a「ナニガ イル?」

リ級「セン力ン1…ジュウジュン2…ケイジュン1…クチク力ン2…」

ル級b「ソレダケ 力?」

リ級「セントウ…ニ ジュウジュン イル」

ル級a(セン力ン マエコナイ? ヨワイ? ヤツラ…ヨワイ!)

ル級b「ドウス ル?」

ル級a「ミンナ デ イッテ タタイテ クウ」

ル級b「ココ ドウ…スル?」

ル級a「ス…力ラ ヨブ ナ力マ イッパイ ヨブ」

29 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/27(水) 01:05:36.95 ID:HDc9yh800
海戦開始への準備が整いましたので、今宵はここまでに致しとうござります。

戦闘については仮想戦記っぽく書きたいと思ってますので、
日刊の予定でしたがチェックのために間が空くやもしれません。
30 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:05:21.89 ID:9hejeFHC0
陽炎抜錨します の小説が出るまでに書くといったな。あれは嘘だ。

11月30日の朝までに投稿できれば良いと考えてたのは慢心だった
ドラゴンマガジン探しに行ったら並べて売っているとは思うまい

とりあえず投下開始します
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/30(土) 01:09:41.88 ID:oppql/HL0
待ってたぞな もし
32 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:17:12.21 ID:9hejeFHC0
※後だしの追加設定

・当SSでは潮が曙を親愛の形として呼び捨てにしています。第七駆逐隊内でも同様

・船体にダメージを受けると、艦娘にもフィートバックされます。実際のゲームと同じように

・仮想戦記風味としていますが、エッセンス程度でしかないかもしれません。
33 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:19:49.40 ID:9hejeFHC0
―― キス島西方海域 別働隊 戦艦 《比叡》

航海妖精「キス島周辺暗礁海域まであと100海里(約54キロメートル)」

比叡「そろそろ出てきてもいいころだけど・・・」

大和<こちら大和。電探に感あり。方位0-5-0に複数の艦影。
     距離、針路不明。反応増大、急速接近中!>

比叡「さすが大和ね。高い分だけ探知がはやい。情報にあった戦艦部隊かな・・・、よし!」

比叡<旗艦より全鑑へ。戦艦を含むキス島封鎖艦隊が高速接近中。
    別働隊はこれを迎撃・北方への誘引を行う!>

比叡<針路変更、方位0-4-2。陣形変更、単縦陣。我に続け!>

 <<<<<了解!>>>>>

 ― ― ―

電探妖精「敵艦隊捕捉!大型艦2隻を含む6隻。針路3-1-0を速度25kt以上で航行中。
      本艦の一時方向。距離およそ4万」

比叡<針路変更3-1-5。右砲雷撃戦よーい!同航戦よ!>

見張妖精「敵艦見ユ!戦艦2、重巡2、駆逐艦2。随伴の水雷戦隊も確認。軽巡2、駆逐艦4」

比叡「キス島包囲艦隊の全部が喰いついて来てくれたわね」

観測妖精「敵艦との距離3万5千!」

比叡<大和は敵二番艦、霧島は敵三番艦以下を目標。砲撃開始は旗艦のそれに続け!>

大和<了解!>

霧島<了解>

砲術妖精「主砲発射準備完了!」

見張妖精「敵艦発砲!」

比叡「脅しよ!当たらないわ。距離3万まで待つのよ」
34 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:27:36.08 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方海域 別働隊 戦艦 《大和》

大和(敵はもう見えてるのに…砲撃はまだなの!?)ソワソワ

比叡<大和は敵二番艦、霧島は敵三番艦以下を目標。砲撃開始は旗艦のそれに続け!>

大和<了解!>

霧島<了解>

大和「目標への照準に集中します。周辺監視よろしく」カチカチ

見張妖精「ヨーソロー」

運用妖精(やまとさんきんちょうしてます?)

通信妖精(かたにちからはいりすぎですな)

砲術妖精(はやくうつです)

観測妖精(もうたまとどくです)

通信妖精(なんですとー)


見張妖精「敵艦発砲」

大和「くっ。今手が離せないから、旗艦に砲撃はまだか確認して!」カチカチクルリ

信号妖精「はっこうしんごー」カシャンカシャンカシャン

大和「ん?ちょっと妖精さん!なんて内容で送ってるんですか!!」
35 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:31:16.55 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方海域 別働隊 戦艦 《比叡》

見張妖精「《大和》より発光信号『比叡へ、こちら大和。早く射て』以上」

比叡「えっ?」

大和<あわわわ!い、今のは妖精さんが勝手に!>

比叡<コラッ!焦らないの。お姉さまならまだティータイムの間合いよ>

大和<えっ?あっ、はい。すいません…>


綾波<どういう意味なんでしょう?>

霧島<紅茶をゆっくり飲めるほど手緩い砲撃ということかしらね>

摩耶<英国淑女はうろたえない!>

大和(砲撃開始前とはいえこの余裕…みなさんすごい!)

夕立<あっ、比叡さんに夾叉するっぽい?>


見張妖精「敵弾夾叉」

比叡「ひぇ〜」アワワワ

見張妖精「敵二番艦第一射すべて遠弾」

比叡「変ね。射撃が安定してない?」

観測妖精「敵艦との距離3万」

比叡「よし。主砲!射撃始め!ッテー!!」
36 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:38:21.26 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方海域 別働隊 戦艦《大和》

大和「さぁやるわ!主砲、射撃、始め!」


―― 同 戦艦《霧島》

霧島「砲撃の時間よ!一番二番は敵三番艦、三番四番は敵四番艦を追尾して!撃て!」


―― 同 戦艦《比叡》

観測妖精「第一射だんちゃーく、今!一番、近。二番、近。三番、遠。四番、遠」

比叡(あれー?さっきみたいにはいかないか…)

見張妖精「《大和》第一射、遠、遠、遠」

見張妖精「《霧島》第一射、敵三番艦、近、夾叉。敵四番艦に初弾命中!行き足落ちます」

比叡「霧島やるじゃない。第二射用意!」

砲術妖精「用意よし!」

比叡「(照準修正よく狙って…)ってー!」



見張妖精「敵水雷戦隊が突撃して来ます」

比叡<摩耶、牽制よろしく!>

摩耶<おう、行くぜ!綾波、夕立、あたしに続けぇ!>

夕立<合点承知!>

綾波<参ります>
37 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:41:31.88 ID:9hejeFHC0

―― キス島北西海域 深海棲艦キス島包囲打撃艦隊

ル級a『オカシイ アイツラ オカシイ! ナゼ アタラナイ?』

ル級b『!? ジュウジュン チガウ アイツラ センカン』

リ級『モウ ダメポ シズム』

ル級b『シラナイ セン力ン キヨダイ タマ ツヨイ』

ル級a『セントウ ネラエ アイツ ヤル』

ル級b『デカイ デカスギル』
38 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:44:52.92 ID:9hejeFHC0

―― キス島北西海域 別働隊 戦艦《比叡》

観測妖精「第三射だんちゃーく、今!一番二番、夾叉。三番四番、近」

比叡「よぉし!気合、入れて!斉射、始めぇ!」

見張妖精「敵艦隊の砲撃が本艦に集中しはじめています」

運用妖精「敵弾命中、第二砲塔天蓋。損傷軽微!右舷三番高角砲全壊」

比叡「ひぇ〜!!」

観測妖精「第四斉射だんちゃーく、今!敵旗艦に命中確認!」

比叡「よし!続けていきます」

見張妖精「《霧島》第四斉射、敵三番艦撃沈」

比叡<さすがね霧島。次は敵旗艦をねらえる?>

霧島<もちろんです!目標を敵旗艦に変更します>

見張妖精「直撃きます!」

比叡「きゃああああああ!!」

霧島<お姉さま!?>

運用妖精「右舷側後部副砲群付近に命中弾!副砲群全滅。三番砲塔旋回不能」

比叡<まだ…大丈夫よ。砲撃を続けなさい!>
39 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 01:59:10.40 ID:9hejeFHC0

―― キス島北西海域 別働隊 重巡 《摩耶》

摩耶<丁字で水雷戦隊の頭を押さえる。敵一番に砲撃を集中>

綾波<雷撃はされませんの?>

摩耶<牽制してみてから反応を見る。行くぞ!>

砲術妖精「右砲撃戦用意よし!」

摩耶「敵との距離は」

観測妖精「1万5千」

摩耶「砲撃開始!」

見張妖精「《綾波》《夕立》砲撃続きます」

 ― ― ―

見張妖精「敵一番艦に火災発生。傾斜拡大。落伍します」

見張妖精「敵二番艦が面舵切ります。敵三番艦以降も追従」

摩耶「右魚雷戦用意!2基だけ用意して敵1番2番狙え」

運用妖精「艦尾に被弾!カタパルト喪失。火災発生!」

摩耶「消化急げ!」

摩耶<8千で雷撃やるぞ。綾波は1基だけで敵三番を、夕立は敵四番五番を狙え>

綾波<次発装填装置欲しいです!(了解)>

夕立<切実っぽい…>

観測妖精「まもなく距離8千」

水雷妖精「魚雷発射はじめ!」

見張妖精「《綾波》《夕立》魚雷発射完了」

水雷妖精「命中まであと二分」

 ― ― ―

水雷妖精「じかーん!」

見張妖精「敵一番艦、3番艦、5番艦に魚雷命中。轟沈します!」

摩耶「よっしゃああ!」

綾波<やりましたー>

見張妖精「残りの敵水雷戦隊反転、離脱します」

夕立<あっ!>

見張妖精「《綾波》被弾!」
40 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 02:01:31.57 ID:9hejeFHC0

―― キス島北西海域 別働隊 駆逐艦《綾波》

綾波「あっ!被弾したっ…!?」

運用妖精「右舷中央に命中弾。浸水発生!応急対応中!」

綾波「ぐっ、対応急いで!」

 ― ― ―

運用妖精「応急対応完了。浸水による速度低下31kt」

摩耶<綾波大丈夫か!?>

綾波<浸水で速度低下。でも(艦隊の)最大戦速はいけます>

摩耶<無理はするなよ。戻るぞ>

夕立<逃げたのはいいの?>

摩耶<捨て置け。周囲警戒に戻るぞ。綾波は最後尾につけ>

綾波<了解です>
41 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 02:04:26.22 ID:9hejeFHC0


―― キス島北西海域 深海棲艦キス島包囲打撃艦隊

ル級b『ミンナ ヤラレタ アト ココダケ』

ル級a『ニゲ、レ・・・ ナカマ イルトコ ニゲル』

ル級b『クウボ クウボ ヲ ヨブ』

42 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 02:06:56.64 ID:9hejeFHC0

―― キス島北西海域 別働隊 戦艦《比叡》

電探妖精「敵艦隊針路変更。方位0-2-0」

比叡「逃がしませんよー」

比叡<旗艦より全鑑ヘ。針路変更、方位0-1-0>

航海妖精「まもなく敵艦隊誘引予定ラインに到達します」

比叡「鎮守府に敵艦隊誘引成功を打電」

通信妖精「ヨーソロー」

43 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 04:43:42.81 ID:9hejeFHC0

―― キス島周辺海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

陽炎(もうすぐキス島…。ここに来るまで敵を見ていないということは…)

通信妖精「別働隊よりの電文受信」

  『美容卜健康ノタメニ、食後ニ1杯ノ紅茶ガ飲ミタイネー』

陽炎(我、敵艦隊の誘引に成功す、救出隊は突入せよ。か)

陽炎「別働隊が敵艦隊の誘引に成功したわ。後続艦に発光信号!」


―― キス島周辺海域 救出隊 駆逐艦 《長月》

見張妖精「旗艦より発光信号『キス島ニ突入スル。ワレニツヅケ』です!」

長月「了解した!後続に連絡よろしく!」

信号妖精「宜候ー!」

44 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 04:45:52.09 ID:9hejeFHC0

―― キス湾入り口 救出隊 駆逐艦《陽炎》

陽炎「ここまでは無事にこれたわね・・・発光信号」

信号妖精「用意よし」

陽炎「長月、皐月は湾内での陸軍兵の収容作業に入れ。残りは周辺を哨戒せよ」

信号妖精「宜候ー!」カシャンカシャンカシャン

陽炎「本艦は湾外付近で、警戒にあたる」


―― キス湾内 救出隊 駆逐艦 《長月》

長月「これより私は上陸して陸軍を呼んでくる。収容準備して待て」

運用妖精「了解」

 ― ― ―

長月「私は横須賀鎮守府艦隊 駆逐艦《長月》だ!独立捜索騎兵第11大隊は居るか!」

  ガサガサッ―――

??「貴女が救出の海軍さんですか?」

長月「そうだ。貴官は?」

??「失礼致しました。独立捜索騎兵第11大隊大隊長 新城直衛大尉であります」ビシッ

長月「私は駆逐艦《長月》だ。あそこに見えるもう一隻は《皐月》だ」

新城「………(こんな年端もいかない少女のような艦娘もいるのか)」ジー

長月「では、早速乗艦を始めて――。何だい?」

新城「あっ、失礼しました。初めて艦娘とお会いしたもので、つい」

長月「ふふ、そのような賛沢は還ればいつだってできるさ」

新城「まったくもって。これより乗艦を開始します。猪口!――」

45 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 04:47:13.77 ID:9hejeFHC0

―― キス湾外 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

見張妖精「《長月》《皐月》陸軍兵の収容を開始しました。完了まで約20分」

見張妖精「《潮》より発光信号。『敵見ユ。方位0-4-0ヨリ駆逐艦2』です!」

陽炎<封止解除!潮と霰で迎撃おねがい。あと陸軍の収容急がせて!>

潮&霰<<了解>>

皐月<もうやってるさ!>

46 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 04:48:20.96 ID:9hejeFHC0

―― キス島東側 救出隊 駆逐艦 《霰》

霰<霰が囮になるから…、潮はその側面を…突いて>

潮<が、頑張ります!>

観測妖精「敵艦との距離1万6千」

砲術妖精「砲撃準備よし」

霰「敵の注意を…ひく。砲撃開始…」

見張妖精「敵艦針路変更。まっすぐこちらに来ます」

潮<魚雷発射完了しています。そのまま針路維持してください。あと30秒>

霰<よーそろー>

見張妖精「魚雷命中を確認、二隻とも轟沈します」

霰<ナイス…>

47 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 04:50:39.57 ID:9hejeFHC0


―― キス湾外 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

潮<駆逐艦2隻撃沈。排除完了>

長月<陸軍兵収容完了。これより離岸する!>


陽炎<長月、皐月を中心に輪形陣、最大戦速で離脱します。我に続け!>

陽炎「提督に打電!」

 『ロシアンティーを一杯。ジャムではなくマーマレードで、もなく蜂蜜で』

通信妖精「発信完了」

陽炎<さぁ、帰りましょう!>

48 :ひぇ〜 ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:00:20.74 ID:9hejeFHC0


―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

陽炎<作戦は大成功ね!急ごしらえの艦隊でもなんとかなるもんだわ>

曙<初めての艦隊指揮にしては、まぁまぁやるじゃない?>

陽炎<陽炎型ネームシップは伊達じゃないわ>フフン

潮<助けられて・・・良かったです>

皐月<おいおい、まだ作戦は完了していない。それにそんなことを言うと>

曙<敵よ!9時方向におそらく駆逐艦2!>

皐月<それみろ!>

陽炎<曙と潮で迎撃お願い!霰は最後尾を守って>

曙<了解!>
潮<了解>

霰<最後尾に…つきます>

49 :ヒェ〜 ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:04:00.03 ID:9hejeFHC0


―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《曙》

見張妖精「敵艦撃沈!」

曙「なんなのよ!私ばっかり狙って。被害状況報告!」

運用妖精「1番主砲及び魚雷発射管使用不能、機関全速発揮可能」

曙「…まだまだいけるわよね」

曙<戻るわよ潮>


見張妖精「4時方向に雷跡!」

曙「舵戻せ!後進一杯!(回頭中を狙うなんてこのクソ魚雷!)」

操舵妖精「取舵いっぱーい!」グルングルン

曙(だめだ…よけられない!)

見張妖精「《潮》が魚雷進路上に割り込みます!」

曙「!?」
50 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:05:09.58 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《潮》

見張妖精「3時方向前方に雷跡!《曙》に向かいます!」

潮「前進一杯!魚雷に本艦をぶつけます」

運用妖精「総員対衝撃防御」

曙<なにやってるのよ潮!やめなさい!!>

潮<今度は私が曙を守ってあげるって決めたの!仲間が傷つくのを見るのはいやなの!>

見張妖精「あたります!」

ガン!ズドオオオン!

潮「きゃああああっ!」

曙<潮!>

51 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:16:33.58 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《曙》

見張妖精「《潮》に魚雷命中!」

曙「うそ・・でしょ。あ、あぁ…潮」ズル…ペタン…

見張妖精「!?」

見張妖精「《潮》健在!!」

曙「潮!?」ガタッ!!

見張妖精「《潮》命中の魚雷は不発の模様」

曙「よかった。よかった…」


水測妖精「敵の潜水艦を補足!方位1-3-0、距離300、深度30」

曙「爆雷投射用意!生かして帰すな!!」

水雷妖精「用意よし!」

曙「投射開始!」
52 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:18:50.99 ID:9hejeFHC0

水雷妖精「設定深度です!」

曙「やったか!?」

水測妖精「潜水艦健在。本艦の下を抜けます。方位3-0-0、距離250、深度35」

曙「逃げんな!このっ!」

水雷妖精「爆雷投射完了!」


水雷妖精「設定深度です!」

水測妖精「潜水艦の圧壊音を確認」

曙「よくやった!」

53 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 05:20:22.36 ID:9hejeFHC0

―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《潮》

潮「あ…、あれ?私…」

運用妖精「魚雷不発でした。応急修理完了。浸水により速度20ノットに低下です」

見張妖精「敵潜水艦は《曙》が撃沈した模様」

潮「ううっ…。よかった、今度は守ってあげられた…」

曙<潮!潮!大丈夫なの?返事して!>

潮<大丈夫だよ…魚雷は不発だったみたい…運が良かったのかな?>

曙<潮のバカ!なんであんなことしたのよ!どうしてかばったのよ!>

陽炎<後にして曙。潮、機関は大丈夫なの?ついてこれる?>

潮<機関は無事ですが、浸水で速度20ノットくらいしかでません>

陽炎<速度を合わせるから合流しましょう。曙は潮についてあげて>

曙<…了解>

潮「ごめんね曙…」

54 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/11/30(土) 18:08:58.35 ID:9hejeFHC0


―― キス島西方 救出隊 駆逐艦 《潮》

曙<潮…そっちいくよ>

潮<…>

 ― ― ―

曙「傷は大丈夫?」

潮「…うん」

曙「ねぇ…どうしてあの時かばったの?」

潮「…今度は私が、曙を守ってあげたいと思ったから」

曙「なんで!?沈んじゃうかもしれないんだよ?」

潮「沈んじゃうのはイヤけど、仲間が傷つくのはもっとイヤだったから」

曙「だからって――」

潮「私ね、曙と…曙とまた一緒に戦えるのが、うれしかったの」

潮「なのに…、曙が私の弾除けだなんて言うから、意地になっちゃったのかもね…」

曙「…ごめん」

潮「ううん、悪いのは私です。昔から…全部私が悪いの。あと、出撃前に叩いてごめんね…」

曙「…昔のコトなんて忘れたわ」

潮「私は覚えてるよ。忘れられるわけないよ…。だから今度は守りたかったの」

潮「ひとりになるのは…もうイヤだから」ポロ

潮「ごめんね…迷惑かけて…。守ってあげられなくて、ごめんね…」ポロポロ

曙「もういいのよ。こうして一緒に戦って生き残れたじゃない」ナデナデ

曙「でも、もう二度とあんなことしちゃだめよ」

潮「うん」

曙「さぁ、鎮守府に帰るわよ。みんなで」

潮「うん、帰ろうね」
55 : ◆JkEyIcsDHA :2013/11/30(土) 18:21:24.98 ID:9hejeFHC0
以上で昨日までに投稿する予定だった分が終わりました
曙と潮の仲直り部分は自然にできなくて時間が掛ってしまいました
(今でも展開が速い、不自然に感じるところもあるのですが…)

続きは「陽炎、抜錨します」を読み終えてから明日にでも…

ここまでお読み頂きましてありがとうございました
56 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/11/30(土) 22:42:34.33 ID:9hejeFHC0
「陽炎、抜錨します」を読み終えたのでネタバレ無しでチラ裏

・このSSのプロットと競合しないので一安心
・本編で出たセリフを全く違う状況で使ってしまうかもしれない

本編には関わらないけど、朝食が異常に質素すぎると思った
昼と夜はわからんが、刑務所の飯レベル。まじブラック鎮守府だったわ
旧海軍と同じように階級(艦種)で差が付いてるのだとしたら尚更
ひどい献立だったわ・・・

アンソロの佐世保鎮守府は面白かった。
けど、作家陣の顔ぶれが快楽天かメガストアだと言われても違和感ないわね

57 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/05(木) 00:44:36.74 ID:Zrv5984y0

―― キス島北方海域 深海棲艦キス島包囲打撃艦隊

ル級a『モウスグ…ナカマ クル イソゲ』

ル級b『グアアアアアアアア』

ル級a『!?』

―― キス島北方海域 別働隊 戦艦 《大和》

見張妖精「第七斉射だんちゃく、今!命中確認。あっ!爆発しました。大爆発です」

大和「よしっ!」

見張妖精「弾薬庫爆発の模様。船体折れます。轟沈です」

大和(敵戦艦撃沈。これでもうホテルだなんて言わせません!)

比叡<よくやったわ大和!>

大和<はい。ありがとうございます!>

比叡<霧島!大和につづくわよ>

霧島<はい!お姉さま>

見張妖精「《比叡》砲撃、《霧島》も続きます」

大和(まるで統制射撃みたい…)

見張妖精「《比叡》・《霧島》の砲撃、敵艦に命中多数。傾斜拡大、急速に沈みつつあり! 」

比叡<よし、これで敵艦隊の殲滅完了!>

大和「さすが金剛姉妹…。私だって…いつかは」
58 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/05(木) 00:49:55.63 ID:Zrv5984y0

通信妖精「救出隊からの電文を確認」

 『ロシアンティーを一杯。ジャムではなくマーマレードでもなく蜂蜜で』

大和(陸軍兵の収容完了。これよりキス島を離脱する。向こうも上手く行ったのね!)

比叡<みんな聞こえたわね?救出隊の作戦も成功よ>

摩耶<よっしゃあ!>

綾波<やりましたね>

比叡<深海棲艦もやっつけたし、救出も成功。さあ、帰りましょう!>

電探妖精「!?」

電探妖精「電探に感あり!北方から敵艦隊接近中。大型艦少なくとも4隻以上!」

大和「何ですって!?詳細は?」

電探妖精「お待ち下さい…方位0-2-5、距離およそ4万5干、針路1-9-0 ! 」

大和(この海域にそんな艦隊の情報はなかった。増援にしては遅い…。まさか!?)
59 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/05(木) 01:12:36.93 ID:Zrv5984y0

―― キス島北方海域 別働隊 戦艦 《比叡》

比叡<さあ、帰りましょう!>

大和<大和より旗艦へ。電探に感あり。方位0-2-5に戦艦4、軽巡1、駆逐艦1。
    距離およそ4万5千、針路1-9-0!>

比叡「…っヘ?」

夕立<夕立より旗艦ヘ。敵見ユ。方位3-5-0に空母2、軽空母1、重巡1、駆逐艦2。
    針路南西方向、距離4万。艦載機発進してるっぽい!>

比叡「なにそれ!そんな戦力いつのまに・・・」

霧島<お姉さま、これはアイツ等にしてやられたみたいです>

比叡<誘い出されたのは私たちの方だってワケね>

摩耶<罠だったのかよ!>

比叡<困ったわね、霧島>

霧島<そうですね、お姉さま>

夕立<二人ともなんだか楽しそう>

摩耶<いやいやいや、どうすんのこれ!>

霧島<慌てないの、摩耶。ここで逃げても敵戦艦に追いつかれるし、すぐに空母機も飛んでくる>

比叡<どの道戦うしかないのよ。でもこんな近くに空母がいるなんて、敵さんも焦ってたのね>

霧島<でも空母を砲撃できる好機です。逃すわけには行かないでしょう!>

摩耶<…まじかよ>


比叡<別働隊はこれより二手に分かれて、敵戦艦部隊の牽制と敵機動部隊への砲雷撃戦を行う!>

比叡<空母を撃破して退路が確保でき次第、速やかに撤退します!>
60 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/05(木) 01:18:06.82 ID:Zrv5984y0

比叡<各艦被害状況報告!>

霧島<こちら霧島被弾なし。機関異常なし>

大和<こちら大和。被弾するも損傷軽微。機関異常なし>

摩耶<摩耶!小破、カタパルト喪失。機関全力発揮可能>

夕立<夕立!小破っぽいけど戦闘に支障なし>

綾波<こちら綾波。被弾による浸水で速度低下。艦隊最大戦速発揮可能>

比叡<大変結構!>


比叡<霧島は摩耶と夕立を連れて敵空母を叩いて。大和と綾波は私と敵戦艦の牽制を!>


霧島<さぁ、霧島組行くわよー!>

摩耶<遅れるなよ夕立>

夕立<ガッテン!>


比叡<大和、綾波、行きましょうか>

大和&綾波<はい!>

61 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/05(木) 01:29:33.12 ID:Zrv5984y0
続きはまた明日かも?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/05(木) 10:10:39.83 ID:f8oLRiGWo
乙乙
63 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 00:32:50.80 ID:RCDugoow0

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

陽炎「このままいけば何とかいけるかな…」

陽炎(艦隊速力は20Kt程度。もし追撃を受けたら逃げ切れないわね…)

霰<敵見ユ!方位0-8-0…来るよ…まっすぐこっち来る。軽巡1、駆逐艦5。推定速力35kt以上!>

陽炎「ただじゃ返してくれないか…」


皐月<どうするの?このままじゃ追いつかれちゃうよ>

長月<まずいな。戦おうにも分が悪い>

曙<全員で反撃すればいいじゃない!>

皐月<無茶言わないでよ。ボクと長月は戦えない。曙と潮だって…>


陽炎(どうする?どうしよう?このままじゃ追いつかれる…)

陽炎(みんなで戦う?ダメだ。長月と皐月は戦闘できないし、曙と潮は負傷してる)
64 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 00:36:06.07 ID:RCDugoow0

長月<誰かが殿をやるしかないだろうが、しかし…>

潮<…私が足止めします。みなさん先に行って下さい>

曙<なっ!?さっきみんな一緒に帰ろうって>

潮<ごめんね曙。でもこのままじゃ追いつかれてやられちゃう>

曙<だったら私も――>

潮<ダメ!曙はまだ帰れる。殿は足の遅い私がやるべきだよ>

潮<私が残れば、みんな全速で離脱できるでしょう>

曙<潮…>


陽炎(誰かが時間を稼がないと。誰を殿に…)

陽炎(潮に足止めさせて逃げる?ダメだ、ろくに戦えない)

陽炎(曙も中破で武装がだめになってる…)

陽炎(ああっもう!旗艦がこんなに辛いだなんて!)
65 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 00:39:31.25 ID:RCDugoow0

霰<陽炎…>

潮<陽炎さん、私に殿をやらせて下さい…>

陽炎<…>

潮<陽炎さん!>

陽炎<…却下します。私と霰が殿で敵を足止めして、みんなの離脱を援護します>

曙<旗艦のアンタが殿やってどうすんのよ!>

陽炎<怪我してろくに戦闘もできないアンタよりましよ>

曙<ぐっ!>

潮<だから私が!>

陽炎<速度の出ない潮じゃダメ。避けられたら追いつけない>

潮<でもっ!>

陽炎<私たちはほぼ無傷で、魚言も残ってる。みんなが離脱する時間は稼げる>

霰<一番時間稼げるのは…霰たち。酸素魚雷も…あるから>
66 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 00:48:23.26 ID:RCDugoow0

陽炎<…もう一度言うわ。私と霰が殿で敵を足止めして離脱を援護します>

陽炎<長月と皐月は全速でこの海域を離脱。潮も可能な限りの速度で離脱。曙は潮の護衛を>

潮<陽炎さん…>

陽炎<大丈夫よ。死にに行くわけじゃない。ちょっと足止めしてくるだけよ>

曙<わざわざ貧乏くじを引くのね>

陽炎<そりゃ、私は旗艦だからね…>

霰<陽炎…。そろそろ>

陽炎<旗艦はもう命令を下したのよ。私たちはもう行くから>
67 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 00:57:34.04 ID:RCDugoow0


―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《潮》

長月<先に離脱させてもらう。無理はするなよ!>

皐月<待ってるからね!沈むんじゃだめだよ!>

陣形が解かれ、長月と皐月は自身の最大速度で離脱していった
先頭にいた陽炎が敵艦隊の足止めの為に反転し、通り過ぎていく。

陽炎<それじゃあ行ってきます。後…よろしくね、曙>

曙<…わかってるよ>

霰<二人も…気をつけてね…>

潮<はい…>

曙(死ぬんじゃ…ないわよ)

潮「ねえ曙。やっぱりついて行ったほうが…いいんじゃないのかな?」

曙「それは駄目。ろくに戦えない私たちが行っても足手まといよ…」

潮「陽炎さん…霰さん…」
68 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/06(金) 01:27:08.31 ID:RCDugoow0

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

陽炎「つき合わせちゃってごめんね、霰」

霰「かまわない…元から…そのつもりだった。あのときも…ついて行ったし…」

陽炎「真珠湾の時とは違うのよ。今回のほうが厳しいわ」

霰「時間を…稼ぐだけ。霰と陽炎なら…できる! 」

陽炎「あれ?強気じゃない。ふふっ。そうね、私も霰とならできる気がするわ」

霰「うん」

陽炎「それじゃあ作戦ね。まず、敵の頭を丁字で押さえて先頭艦に砲火集中」

陽炎「面舵切って避けようとするなら、もう一度針路をふさいで時間を稼ぐ」

霰「取舵で…同航戦なら…魚雷浴びせて…一撃離脱?」

陽炎「うん。魚雷もったいないけど。あとは臨機応変にやるしかないわね…」

霰「行き当たり…ばったり。まぁ…嫌いじゃないよ」

霰「艦に戻るね…」

陽炎「うん。それじゃあよろしくね」



陽炎「よし。戦闘準備!砲雷撃戦、用意! 」

砲術妖精「砲撃準備よし」

水雷妖精「魚雷発射管準備よし」

観測妖精「敵との距離2万」

霰<こちら霰。戦闘準備よし>

陽炎「さあ、はじめましょうか! 」
69 : ◆JkEyIcsDHA :2013/12/06(金) 01:41:24.24 ID:RCDugoow0
次回以降はまた海戦をはじめるのですが、この書式ではどうにもうまくかけないので、
地の分を入れさせて頂きます。
お嫌いな方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

また、試行錯誤しており、時々書式が変わる可能性がありますのでご了承下さい。

今宵はここまでに致しとうござります。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/06(金) 08:00:54.68 ID:XjhOeYC9O
乙乙
緊張感あるね
71 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/09(月) 23:46:48.11 ID:ZSNnrE3o0

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

救出隊を追撃する敵水雷戦隊は単縦陣で西へ向う。艦首波を見るにかなりの速度だ。
対する陽炎・霰は南に針路を取り、丁字有利の陣形で壁となって立ちふさがる。

「敵との距離およそ1万8千」

「敵艦隊陣形変わらず。直進します」

妖精たちの報告を受け、陽炎も双眼鏡を取り確認する。
陣形を変えずに直進してきており、このまま突っ切ろうとする勢いがあった。
次の瞬間、敵艦に閃光が発生するのを見た。

「敵先頭艦の軽巡発砲!」

「大丈夫よ。当たりはしないわ」

見張妖精の報告に対し、自らにも言い聞かせるようにつぶやく。
高速航行する艦艇にそうそう初弾命中が望めるものではない。

「敵弾全て遠弾」

「距離1万6千切りました」

観測妖精が距離を告げるや否や、彼女すぐさま号令を掛ける。

「目標先頭艦。砲撃開始!うち方始め!」

「了解!各主砲随時砲撃よろし」

砲撃を妖精さんに任せ、陽炎は戦況把握の為に周囲を見た。
前部に一基、後部に2基ある12.7cm連装砲が敵の軽巡ヘ向けて次々と砲弾を放つ。
72 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/09(月) 23:53:59.01 ID:ZSNnrE3o0

「《霰》も砲撃つづきます」

ひときわ大きな砲撃音が聞こえたことから、霰は自ら照準して斉射したようだ。
こちらの砲撃は敵先頭艦の周囲に多数の水柱を作るも、至近弾ばかりであった。
だが、砲撃と照準誤差修正を数度繰り返したことで、ついに命中を見る。

「敵先頭艦に《霰》の砲撃命中!火災発生炎上中」

《霰》の命中弾は先頭艦の二番主砲の砲身を折り使用不可能とし、
艦橋に飛び込んだ砲弾は火災を発生させた。

<霰。ただいまの射撃見事なり!>

<ぶい>

提督のマネをして褒めてみれば、霰が得意げな反応が想像できた。

「よし、この調子でどんどんいきましょう!」

敵先頭艦は反撃もままならず、《陽炎》と《霰》から更に3発の命中弾を受け、
炎上しながら左に曲がっていく。

「敵先頭艦取舵切ります。後続も追従」

落伍するのを艦隊運動と見誤ったらしい後続艦が追従していった。

同航戦となるのを見て霰がつかさず進言した。

<陽炎…いまなら砲戦より…水雷戦ですよ>

<OK!左魚雷戦用意!接近して打ち込むわよ>

<了解>
73 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/10(火) 00:01:54.40 ID:FYqfgwMn0

旗艦を潰したこのタイミングで一気に方をつけるべく、魚雷撃つ為に舵を切る。
だが、同航戦となったことで敵の後続もようやく砲撃を開始。
砲門の数で勝る敵艦隊からの砲撃で周囲に着弾の水柱が増え始めた。

「敵との距離1万4千」

「敵弾夾叉してます!《霰》もおなじく夾叉の模様」

「大丈夫よ!同じところには着弾しないっていうジンクスがあって――」

そう言いながら幾度目かの砲撃による水柱を《陽炎》が通り抜けた。
直後、轟音と共に突き上げるような衝撃を受け、艦橋背後まで吹き飛ばされる。

「――――っ!!」

突然の衝撃と痛みで飛びそうになった意識を、陽炎はなんとかつなぎ止める。
そこへ被弾時に発動したダメコンの応急妖精が倒れ込んだ陽炎に駆け寄った。

「かげろうさんかげろうさん。しっかりするです」

(被弾したの!?あ、痛っ!)

<陽炎!大丈夫なの!?陽炎!>

霰が珍しく慌てた様子で問いかける。

<大丈夫よ!安心して>

努めて冷静に霰ヘ応答しつつ、意識を艦体にめぐらせ被害を確認する。

(機関は大丈夫。魚雷も、ある。)「…一番主砲がない」

痛む右肩を押さえて立ち上がりつつ、ひしゃげた艦橋から前を見る。
《陽炎》は被弾により一番主砲が吹き飛んでおり、前部甲板がぼろぼろになっていた。
74 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/10(火) 00:03:37.09 ID:FYqfgwMn0

陽炎はサブシステムの妖精さんを再起動させ、改めて状況を確認した。

「一番砲塔消失。大小かすり傷多数。戦闘航海に支障なし」

応急妖精に云われて気が付く。ずいぶんと傷だらけになっていた。

「敵との距離1万2千」

「2番3番主砲で射撃継続中」

「魚雷発射いつでもいけます」

艦の戦闘能力が維持されていること確認し、霰に雷撃指示を出す。

<距離1万で魚雷うつわよ。霰は3番から6番まで狙って!>

<了解>

雷撃目標指示への反応から、安心したのが伺える。わかりにくいが。

「水雷さん、諸元のサポートよろしく」

「よーそろー」

「敵との距離1万1千」

「《霰》被弾!」

はじけるような轟音が聞こえた後、見張妖精の報告が続いた。
慌てて艦橋から身を乗り出し《霰》を振り返ると、右舷に水柱が落ちるのが見えた。

<霰!>

<大丈夫…2番主砲をやられただけ>

<ついてるじゃない。魚雷発射管じゃなかっただけマシよ>

<そう思う。そろそろ…いい距離>
75 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/10(火) 00:09:47.16 ID:FYqfgwMn0

―― キス島西方海域 救出隊

「敵との距離1万切りました!」

「魚雷発射始め!」

《陽炎》は観測妖精の報告を合図に魚雷を発射した。
2基の四連装魚雷発射管から圧縮空気に押し出されて、8本の魚雷が次々と射出される。
必殺の長槍は52ノット(時速96.3km)で敵艦隊に向け駛走していく。

「魚雷発射完了。命中までおよそ6分」

陽炎は報告する水雷妖精に続けて指示を出す。

「次発装填しといて!」

「了解」

<霰。魚雷発射完了>

この後は、敵の砲撃を回避しつつ魚雷命中まで耐えねばならない。
お互いにほぼ至近距離といえる間合いで砲撃を交わす。

「命中まであと10秒」

水雷妖精の予告を受け、陽炎は双眼鏡を構えその瞬間を待った。

「じかーんッ!」

一つ、二つ、三つ、四つ…敵艦に上がる水柱を目で追う
雷跡がみえないことから避け様もなく、次々と酸素魚雷の餌食となった。

「敵一番、三番、五番、六番艦に命中!轟沈します」

「やった!」

喜ぶ陽炎に見張妖精が報告をつなぐ。

「敵二番艦の行き足が落ちます」

敵二番鑑の後部に命中した魚雷は不発であったが、破孔からの浸水で速度を急激に落とす。
これで健在な敵は四番艦のみとなった。
76 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/10(火) 00:24:10.80 ID:FYqfgwMn0

<霰!残った4番艦lこ止めを刺すよ。第18駆逐隊突撃いい!!>

健在な四番艦へ向かって《陽炎》が舵を切り突撃する。

<あい>

続いて《霰》も突撃を開始する。

たった二人の駆逐隊は、敵四番艦の左右から機関部に向けて攻撃を集中。
多数の被弾により追撃を不可能にした。


<足止め完了!さぁ、帰るわよ霰>

<待って。また…敵が来た。軽巡1、駆逐艦4>

<次から次へと!>

苛立ちも隠さず陽炎が云う。

<もう少し…がんばらないと。足止めに…ならないよ>

潮の速度が出ないことを考えると、新た敵艦隊をもう少し足止めせねばならない。

<分かってるって。北上して敵の針路をふさぐよ>

霰になだめられ陽炎は北へ向け針路を取った。

「北東方向の新たな敵艦隊は針路2-2-0。かなりの速力で航行中」

見張妖精からの報告を受けると陽炎は気合を入れなおし、霰に作戦を伝える。

<よし!さっきと同じ作戦で行くよ。けど火力が下がってるから狙いを正確に>

<大丈夫…霰の方が…射撃上手いし。次も落として…みせる>

<云ってくれるわね。それじゃあ期待させてもらうから>

冗談ともつかない霰の発言に苦笑いしながら、敵艦隊の針路をふさぐ位置に移動を始める。

<これより敵艦隊を迎撃する。針路3-2-0>

北東方向からの敵艦隊に対し、《陽炎》と《霰》は北西に針路を取り再び丁字で迎え撃つ。
77 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/10(火) 00:39:15.90 ID:FYqfgwMn0

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

迎撃の準備を整え、距離を確認する。

「敵との距離1万8千です」

「今回の砲撃は私がやります。砲術さんはサポートよろしく」

「了解」

照準を妖精さん任せのオートから、微調整可能なセミオートに切り替える。
1基減った分の砲火力を補う為、砲撃の精度は少しでも上げなければならない。

「敵との距離1万7千」

敵艦隊は進路を変えずまっすぐ来ていた。その先頭艦に照準と意識を集中させる。

「敵との距離1万6千」

命中率を上げる為、さっきの戦闘よりも接近して撃ったほうがいいかもしれない。

「敵先頭艦発砲!」

敵弾が外れることを祈りつつ、照準をほんの少し上に上げ敵先頭艦の上部構造物を狙う。
艦橋にうまいこと当たってくれれば、指揮能力を失わせることができかもしれない。

「敵との距離1万5千」

「砲撃開始よ!」

後部に残った2基の連装砲で、これを最後の戦いとするべく火ぶたを切った。
78 : ◆JkEyIcsDHA :2013/12/10(火) 00:40:08.00 ID:FYqfgwMn0
続きはまた明日。

今宵はここまでに致しとうござります。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/10(火) 07:56:46.92 ID:xDdB5JHyO

艦隊戦ってこんなだったんだね
うまいね引き込まれるよ
80 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/11(水) 00:01:09.62 ID:270+3DPe0
拙作をお読み頂きありがとうございます。
仮想戦記風味のSSなんて誰得かと思い書いてましたので、恐縮です。

艦隊戦も、かなりアレンジを入れたり、省略したりして書いてます。
時間軸とか入れたほうがいいんですけどね。

あと、投稿するつもりだったのですが、全体の構成を考えると
話の視点を切り替える必要がありそうなので、今日は取りやめます。

続きは日曜までには、多分。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/11(水) 00:08:25.64 ID:OUFuhn7b0
待っとるよ
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/11(水) 09:41:04.04 ID:OpkZWkkOo

まってる
83 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 16:46:36.31 ID:48BU48ea0
カーニバル\(^o^)/ダヨッ!カーニバル\(^o^)/ダヨッ!

だらだらと投下開始します…
84 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 16:50:23.78 ID:48BU48ea0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊

深海棲艦機動部隊撃破の為、《霧島》、《摩耶》、《夕立》の3隻が敵へと接近する。
その付近は小島が多く、島々のあいだを這うように進んでいた。
島影に阻まれ、敵空母はまだ目視できていない。

「敵機動部隊針路変わらず。発進の艦載機は空母上空を旋回中。直掩機の模様」

霧島は電探妖精の報告を受けて考え込む。
――敵はこちらを認識してないのではないか?
でなければ、艦載機による航空攻撃があるはずだが、その兆候がまったく見られない。

<なあ、姉御。敵機が来ないなんておかしくないか?>

<ひょっとしたら、これ。気づかれていないっぽい?>

摩耶も夕立も霧島と同じような疑念を抱いたらしい。

<どうやらそのようね。しかも風上はこちらだから、尚更好都合>

霧島は罠である可能性も考えられたが、戦況分析はその可能性が低いと判断した。
島が多く回避運動の取り難いここで仕掛けるのが、戦術的には妥当であるからだ。
それに風上とはいえ、無防備に近づいてきている。

<もしかして、空母を沈められたら歴史に名が残るっぽい?>

<あったりまえだろ。姉御とアタシたちで普通じゃ出来ないことをやってのけるんだぜ!>

常識的に考えれば、空母を砲撃するのは大変難しい。
砲戦距離まで接近しようにも、空母自体高速であり逃げ足も速い。
尚且つ、艦載機による航空攻撃に耐えねばならないからだ。

だが…っ!しかし!
既に砲戦距離まで接近を許しており、艦載機も直掩機しか上がっていない。
また、発艦させる揚力を稼ぐ為には、霧島たちの居る風上に向かわなければならない…。

砲撃を行えるだけの条件が整った、まさに千載一遇の好機であった!
85 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 16:53:16.42 ID:48BU48ea0

はやる気持ちを抑えようとして、霧島は最終確認を行う。

<空母までの距離はおよそ3万。右前方の島を通り過ぎれば見えるはずよ>

<敵を視認したら各艦最大で進撃。私は主砲の遠距離射撃を行います>

<摩耶と夕立は、敵の護衛が迎撃に反転――>


<なぁ、姉御。らしくないぜ?>

早口気味にまくし立ていた霧島を、摩耶がさえぎった。

<えっ、えっ?>

摩耶は戸惑う霧島に構わず続ける。

<この期に及んで、細かい御託は必要ないだろ>

<姉御が行けと云ったら、アタシらの覚悟は既にできている。そうだろ?夕立>

<うん、そうだよ!乾杯前の挨拶は短く、シンプルでイインダヨー>

霧島は自分でも気が付かないうちに、ずいぶんと緊張していたらしい…。
二人の気遣いに感謝しつつ、肩の力を抜く。

<そう、だったわね。あなた達にはアレコレ云う必要はなかったわね>

摩耶も夕立も霧島の言葉を待つ。

<改めて云うわ。私たちが行うべき戦闘行動は唯一つ――>

<――見敵必殺、見敵必殺!>

<あらゆる障害を排除し敵空母を叩き潰すのよ!>

結局、昂ぶりを抑えきれずに命令を下す様子は、普段の霧島からは想像できないものだった。
むしろこれが本来の姿なのかもしれないが

<二人とも準備はいいわね?>

<応よ!みなぎってきたぜ!>

<あはははっ!素敵なパーティーになるっぽい!!>

摩耶と夕立の反応を見るに、この状況下では致し方ないのかもしれない。
86 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 16:54:40.35 ID:48BU48ea0

「まもなく島影を抜けます」

見張妖精の報告を受け、霧島は空母がいると思われる方向に意識を向けた。

 ―――はたして敵影は!?

「敵空母見えました! 」

<各艦最大戦速!天佑ヲ確信シ、全艦突撃セヨ!>

霧島の号令を受け、直ちに《摩耶》と《夕立》が前に躍り出る。

<おう、行くぜ!突撃だ!>

<ぽいぽい!>

「さぁ、砲撃戦開始するわよー」

霧島は直ちに号令すると共に、自己記録を更新する早さで照準を済ませる。

「主砲、敵を追尾して!…撃て! 」

《霧島》の砲撃を合図に、後の戦史にも残る空母対戦艦の闘いがついに始まった。
87 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 17:53:34.11 ID:48BU48ea0

―― キス島北方海域 深海棲艦空母機動部隊

空母ヲ級二隻と軽空母ヌ級とその護衛で構成される機動部隊は、
救援要請を受けたキス島包囲打撃艦隊と連絡が取れなくなり、
漫然と南へ向かっていた。

ヲ級b『ヲイぃ! レンラクトレナイ』

ヲ級a『ヲヲヲ!?』

ヌ級『ヌヌ?』

ヲ級b『ドウスルノ?』

ヲ級a『サクテキ シトコカ』

ヲ級b『ヲ〜。チョクエンモアゲルゾ』

針路を風上の東に変え、ヲ級bが直掩機を発艦させた。
次いで索敵機を出そうとしたその時、彼方に閃光が見えた。
そして轟く砲撃は、悪鬼羅剰の咆哮そのものに感じられた。

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/15(日) 19:25:02.34 ID:YS3LIgxd0
ぽいぽい!で噴いたwww
89 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 21:21:24.66 ID:48BU48ea0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 《霧島》

「第一射だんちゃーく、今!一番、二番、共に遠弾」

初弾は敵空母から右にずれた海面に水柱を立てた。
さすがに遠距離では上手く行かない。
観測の報告を受けて照準を修正し、すぐさま発射する。
始めから斉射したかったが、前部砲塔しか使えない為、効率を考えて交互射撃を行う。

「敵の護衛が急速接近中」

見張妖精の報告が更に続く。

「敵空母針路変更。180度反転して西に逃げます」

敵はずいぶんと慌てている。この機を逃す手はない。

「第二射だんちゃーく、今!一番、二番、近弾!」

反転したにもかかわらず、さっきの半分くらい近い。
再び照準を修正し、発射する。

「敵護衛迎撃に《摩耶》と《夕立》が更に前に出ます!」

指示をするまでもなく飛び出していく二人の、なんと頼もしいことか。
ソロモンでの武勲は伊達じゃないということだ。
もちろん私も、だが。

「第三射だんちゃーく、今!夾叉してます!!」

「――っ!?」

待ち望んだその報告に、心が、体が震えた。
艦娘として、戦艦として、この時この為にこそ生まれてきたのだと感じる!
さぁ。万感の思いを込めて号令をかけよう。

「主砲!斉射!てぇーー!!」
90 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 21:49:49.72 ID:48BU48ea0

―― キス島北方海域 別働隊霧島艦隊《摩耶》

《霧島》の砲撃を背に受けつつ、《夕立》と敵護衛を迎え撃つ為ひた走る。
敵空母に回避され未だ命中がないものの、至近弾を多数与えていた。
接近してきた敵護衛は、リ級とハ級がこちらの針路をふさぐように動き、
ロ級は砲撃妨害の為の煙幕を張っている。

まずは、リ級とハ級を排除するのが先だ。

<アタシがリ級を仕留めるから、悪いけどハ級の牽制よろしく>

<向こうで、煙幕張ってるロ級は?>

<後回しだ>

《夕立》は返事の変わりか、加速してハ級に向かっていく。

「このまま直進!敵重巡の頭を抑える。取舵20。右砲撃、雷撃戦よーい」

「よーそろー」

「砲撃準備よし」

「魚雷発射管準備よし」

妖精たちが次々と反応し、直ちに攻撃準備が整う。

「敵重巡との距離、まもなく2万」

見張りが告げた距離は、砲撃に頃合な間合いとなっていた。
さぁ、はじめよう。

「摩耶様の攻撃、喰らえっ!」

「砲撃開始! 」

91 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 21:52:46.57 ID:48BU48ea0
あっ、霧島支隊に直し忘れてた
92 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/15(日) 22:07:03.64 ID:48BU48ea0

こちらの針路を遮ろうとする重巡に対し、頭を抑えようと同航戦気味に舵を切り、
全ての砲門を向けられるようになったところで斉射を開始した。

「第一射だんちゃーく、今!夾叉しました」

「よしっ!このまま押し込むぞ。次弾発射まだか!?」

摩耶の問いかけに答えるかの様に主砲が轟く。
重巡も差し向けられる前部主砲のみで反撃してきており、その砲撃は《摩耶》の目前に迫る。

「敵弾は至近弾」

「次はあたるぞ、気をつけろ」

果たして敵主砲弾は《摩耶》の右舷艦橋前付近に複数命中した。
舷側には弾かれたが、12.7cm連装高角砲を破壊し火災を発生させた。

「げっ!やってくれるな!消火急げ」

「敵艦に命中弾!前部主砲付近に命中。火災発生中」

「敵重巡との距離1万3千」

「高角砲も撃ち方始め!敵を袋叩きにしてやれ」

右舷残る2基の高角砲が連射を始める。

「敵重巡が回頭。面舵です。同航戦に入ります」

前部砲塔を破壊されて攻撃手段を失ったリ級は後部砲塔で砲撃する為、
《摩耶》と同航戦に入ろうと舵を切ったようだ。

だが、この腹を向ける瞬間をアタシは待ってたんだ!
そして距離を確認する。

「敵重巡との距離1万1千」

「魚雷発射いけるか?」

「諸元設定済みです」

見張が、水雷が答える。

「よっしゃよっしゃ。直ちに敵重巡に対し魚雷発射開始!」

「魚雷発射開始します」

圧縮空気に押し出され、4本の魚雷が敵に向かって駛走を始める。

「魚雷発射完了!命中まで6分10秒」
93 : ◆JkEyIcsDHA :2013/12/15(日) 22:19:31.77 ID:48BU48ea0
書き溜め尽きました。
今日はもうちょっと書くかもしれないです
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/16(月) 17:32:17.08 ID:B9oXmywMo
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/19(木) 00:41:31.99 ID:cst2zBDnO

臨場感あるねー
96 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/20(金) 01:38:38.75 ID:rFbHYDU20
拙作をお読み頂きありがとうございます。

また間が空いてしまいましたが、土曜までには投稿する予定です。
どうぞよろしくお願いします。
97 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/21(土) 21:51:39.34 ID:Ix6l714i0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 《摩耶》

リ級も《摩耶》に撃たれっぱなしではない。
残された後部主砲で反撃し、《摩耶》艦橋後部に命中弾を与える。

「右舷艦橋後部付近に被弾。高角砲、魚雷発射管破損!」

魚雷次発装填装置も使えなくなったが、右舷の魚雷は既に撃ちつくしている。

「ふっざけるなぁ!み、見てろよな!」

被弾箇所を把握する。やられてばかりではいられない。

「反撃だ!撃ち返え――あっ!」

即座に反撃を行おうとしたが、砲塔が反応していないのが分かった。

「ダメです。先程の被弾で電源落ちました!現在復旧作業中」

苛立ちを押さえ、妖精たちに指示する。

「…修復急げ。敵の魚雷にも注意しろ!」

「はやくしてー!」

砲術妖精も応急妖精を急かす。

「よーそろー」

もたついている暇はない。早く沈めて空母に喰らいつかなければ。
98 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/21(土) 21:53:37.01 ID:Ix6l714i0

「命中まであと10秒」

結局、電源を回復できないまま、水雷妖精が命中時間を予告する。

「じかーんッ!」

リ級の艦後部に、続けて艦首に大きな水柱が立つのが見えた。
重巡とはいえ、二本も受けてはひとたまりもないだろう。

「敵重巡に魚雷命中!傾斜拡大、行き足止まりました!」

「よっし!」

リ級は喫水線下に開いた破孔からの浸水で、左側に大きく傾き、艦首から沈んでいく。
とにかく障害の一つは排除できた。

「修理完了。電源回復します」

「おつかれ!」

ねぎらいつつも、魚雷命中までに回復できなかったのが惜しい。

「次の目標は?」

砲撃翌妖精もアタシ同様、やるせなさのはけ口が欲しかったらしい。

「悪いが《夕立》が牽制しているハ級を、今度はこっちが牽制する」

「アイ!」

<夕立。援護するからハ級やれ!>

ハ級を弄んでいた夕立に呼びかける。

<ぽいぽいぽーい!>

お預けされて焦れていたのであろう《夕立》が、あっという聞に距離をつめる。
この分では、すぐに沈めてしまうだろう。

「砲撃翌用意。敵駆逐艦ハ級に牽制射撃」

砲術妖精に指示するや否や、直後に入った報告に自分の耳を疑った。

「敵駆逐艦ハ級に魚雷命中の模様!」

「は?」
99 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/21(土) 21:58:39.11 ID:Ix6l714i0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊

《夕立》が牽制していたハ級は、《摩耶》がリ級を狙って外した魚雷の斜線上に居た。
偶然にも命中した魚雷により、瞬く間に轟沈してしまう。
煙幕を張っていたロ級はその様子を見るや、すぐさま反転して遠ざかっている。

<もう、ばかぁ〜!人の目の前で獲物を横取りするなんてひどいー!>

夕立は獲物を横取りされ、抗議の声を上げた。

<スマン!ま、まさか流れ弾が当たるとは思わなかったんだ>

敵空母への突撃を再開した《摩耶》に、《夕立》が追いすがる。

<このままじゃ撃ちそこなった主砲が暴発しちゃうっぽい…>

<ヒッ!?>

普段と変わらぬ様子で砲口を向ける夕立に、摩耶はえもいわれぬ恐ろしさを感じる。

<夕立やめなさい!戦闘中なのよ!!>

<だってさッ!!>

見かねた霧島が割って入るも、夕立は獲物を取られて不満げな様子を隠せない。

<敵を取り違えてはだめよ。パーティーの主役はまだ健在なのだから>

霧島が夕立をなだめようとしていると思った摩耶は、すぐに勘違いだと気が付く。

<早くしないと…私が全て水底に送り返してしまうわよ!>

云うやいなや、ついに敵空母ヘ命中弾が出た。
至近弾の水柱が消えても、敵2番艦の飛行甲板から黒煙が立ち上っているのが見える。
格納庫で火災を起こしているらしい。

<ふふっ、楽しいわねえ。あとどれくらい持つかしら?>

再び《霧島》の斉射が轟く。

<ああ、もう!モタモタしてる場合じゃないっぽい!!>

《夕立》は《摩耶》を追い抜き、再び突撃を再開する。

敵の逃げ足も速いものの、勢いに乗る霧島支隊は少しづつ距離を縮めでいた。
100 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/21(土) 23:39:24.94 ID:Ix6l714i0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊

敵機動部隊撃破まで敵戦艦部隊を牽制すベく、比叡たちは北へ向う。
《比叡》、《大和》、《綾波》の順に単縦陣で進んでいく。

先程、駆逐艦による接触を受けている。
もう少しすれば敵艦隊を目視できるであろう距離まで接近していた。

<霧島さんたちは大丈夫でしょうか>

心配そうにつぶやく大和に、比叡が明るく答える。

<心配しなくても大丈夫よ!>

<でも相手は空母ですし…>

<対空番長の摩耶がいるじゃない。それに霧島は空母を沈めた金剛お姉さまの妹なのよ>

もちろんそれは私にとっても、と付け加えるのも忘れない。
それはどっちの意味なのかと思いつつ、綾波が続く。

<あと、夕立ちゃんもいますし、そう易々とやられはしないと思います>

<そうね…そうですよね>

大和は不安をかき消すように、つぶやき、そして考えた。
思えば自分以外は、あのソロモンの激戦で武勲を立てた艦が揃っている。
尚且つ、とびきりの武闘派ばかりなのだから、と。

<そろそろ敵艦隊が見える頃よ!>

比叡の声で皆が双眼鏡を覗き込んだ。
101 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2013/12/22(日) 00:08:40.71 ID:qleqXmQc0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 《大和》

「敵艦隊見ユ。距離3万7千。…敵は針路変更しつつあり!」

大和は見張妖精の報告を受け考える。

敵はこちらに対して、丁字有利の陣形を敷こうとしているのは間違いない。
このまま直進すれば射程内に到達次第、直ちに全砲門で斉射が行われるだろう。
サボ島やスリガオよろしく、敵のいい的になってしまう。

旗艦をちらりと見やるが、何の命令も反応もない。

「比叡さんにも見えているはずなのに…。どうして…」

敵が怖いわけではない。ただ無為にやられるのはごめんだった。
戦力的にも厳しい状況に、どうにも不安をぬぐいえない。
思い切って意見具申してみることにした。
102 : ◆JkEyIcsDHA :2013/12/22(日) 00:09:55.71 ID:qleqXmQc0
今宵はここまでに致しとうござります。

続きは明日か、明後日には。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/22(日) 00:48:21.24 ID:AmkYL+nko

ぽい可愛いっぽい?
104 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2013/12/25(水) 00:32:37.04 ID:+mZCEx1x0
すいません土曜日までには投稿したいと思います。
尚、その投稿の次は年明けになります。

始めた時はクリスマスまでには終わるやろー、って思ってました…
105 :258 [sage]:2013/12/25(水) 15:31:00.32 ID:RJ+pIT4Ko
ぽいぽいぽーい
106 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/28(土) 22:30:03.24 ID:pQzG7dIS0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊

<こちら大和。意見具申!>

<んー…なに?>

比叡の暢気な返答に、大和は鼻白む。

<…敵艦隊が針路を変更しました>

<そうねー>

緊張感のない様子に、大和は思わず語棄を強めてしまう。

<このままでは敵に丁字有利で叩かれてしまいます!>

<それは因っちゃいますねー>

<っ!だったら――>

<――落ち着きなさいな、大和。で、貴女はどうすべきだと?>

怒気を含ませた大和の言をさえぎり、比叡は問う。

<…。転舵して同航戦か反航戦に持ち込むべきだと思います>

<うーん…。この状況だと、それじゃ50点ね>

奇策も、増援も無いこの状況下で最適とする大和の案を、比叡は評価しなかった。

<先手を取られた以上、どちらに舵を切っても後手に回るしかないのよ>

比叡の云う通り、先手を取られて厳しい状況なのは大和も理解している。

この距離で転舵を行った場合、転舵中に砲戦距離に入ってしまうのは確実だ。
そうなると敵艦隊に向けられる砲門数が限られ、満足な反撃は望めない。

また、敵艦隊はこちらが取舵で反航戦をとれば、再び頭を抑えようとするだろう。
面舵で同航戦をとれば、後方に回り込もうとするかもしれない。
107 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/28(土) 22:34:20.55 ID:pQzG7dIS0

<危険は承知のうえです>

どちらにせよ、敵の足止めを行うには止むを得ないと大和は考えていた。

<綾波。あなたならどうする?>

比叡は突然に綾波ヘ問いかける。

<そうですね…。まず、懐に飛び込んで一太刀浴びせて、乱戦に持ち込みましょう>

いかにも駆逐艦らしい答えに、楽しそうに比叡が笑う。

<あはっはっはっ!さすがソロモンの黒豹は云うことが違うわねー>

それは、重苦しい空気を吹き飛ばすようだった。

<ダウンさせれば叩き放題です。あと、その二つ名。すごく恥ずかしいのですけど…>

綾波は後半部分について不満気だ。

<いいじゃないの、いいじゃないの。武勲の証よ>

<あの!どうするのですかこの状況!?>

我慢できなくなった大和が、暢気な会話に割り込む。

<ごめんごめん。でも、心配しなさんな>

笑い涙をぬぐいつつ、比叡が続ける。もう緩んだ雰囲気はなかった。

<ちゃんと考えてあるから。それじゃあ、説明しますよ――>

作戦を聞く大和は、敵を必ずしも殲滅する必要がないことを思い出した。
そしてなにより、自分の役割に対して、興奮を隠せなくなった。
108 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/28(土) 22:37:40.40 ID:pQzG7dIS0

―― キス島北方海域 深海棲艦 水上打撃部隊(増援)

ル級4隻を主軸に構成された艦隊は、キス島包囲艦隊からの救援要請により南下していた。
先行する駆逐艦が比叡支隊を発見したので、まず、これを撃破することにしたようだ。

ル級b『ジュウジュン1、セン力ン1、クチク力ン1。テイサツドオリ』

ル級c『ナゼ、ジュウジュンガ マエニ…』

キス島包囲艦隊と同様、初めて見る《大和》の大きさを誤解していた。

ル級d『アノ セン力ン ミタコト ナイヨ』

ル級b『テキ シンロヘンコウ オモカジキッタ』

ル級a『バ力メ ホウゲキ ヨウイ』

彼女らからすれば、比叡支隊が面舵を切って同航戦に持ち込もうとしている様に見えた。
そうはさせじと、回頭中を狙って沈めてしまおうと考える。
だが、しかし、彼女達の敵は一斉に舵を切っていた。

ル級a『!? コレハ シンロヘンコウジャナイ!』
109 : ◆JkEyIcsDHA [saga sage]:2013/12/28(土) 23:05:16.54 ID:pQzG7dIS0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊

<今よ!全艦反転。斉Z(180度一斉回頭)!!>

《大和》艦橋でも比叡の号令を受け、深海棲艦の砲戦距離直前で一斉回頭を行う。

「一斉回頭です。面舵一杯!」

「よーそろー」

操舵妖精がものすごい勢いで舵を回す。

《大和》程の巨艦となるとなかなか舵も効きづらいが、ゆっくりと右に転舵し始める。

この艦隊運動は敵艦隊にとって、面舵切って針路変更し同航戦を挑む様に見えるだろう。

だが、そうではない。

針路変更すると見せかけて反転し敵艦隊と距離を取り、その後方に回り込むのだ。
それにつられて敵艦隊が針路を変えるなら、その頭を抑えることもできうる。

そもそも、敵前での大回頭は自殺行為に等しい。
複雑な運動となり、隊列が乱れて陣形を維持できなくなる可能性があるからだ。

「まもなく反転完了」

《大和》の操舵妖精が予定針路の到達を予告するのを受け、大和が命じる。

「舵戻せ!」

「もどーせー」

比叡支隊は、お互いの位置関係はそのままに、180度の反転を完了させる。
《綾波》、《大和》、《比叡》の順に単縦陣となった。

また、一斉回頭は艦隊序列が逆になるので、戦闘指揮を執る旗艦が最後尾となり都合が悪い。
指揮で下手を打てば、その隙に付け込まれてしまう可能性もあるのだ。

《比叡》艦橋では後方の敵艦隊を注視していた見張妖精が、新たな動きを報告した。

「敵艦隊が針路変更の模様…。面舵です」

敵艦隊は、比叡支隊の後ろを追いかけるように針路を変更していた。
その動きに合わせて、比叡はさらに右舷側への針路変更を命じる。

双方は緩やかに旋回して反航戦の形を取りつつ、砲撃を開始しようとしていた。
110 : ◆JkEyIcsDHA :2013/12/28(土) 23:09:25.17 ID:pQzG7dIS0
短くて申し訳ありませんが、今宵はここまでに致しとうござります。

続きは年明けといっても、一週間以内に行うと思います。
戦艦対戦艦の砲撃戦が始まります。

ここまでお読み頂きありがとうございました。
叶いますならば、来年もお読み頂ければ幸いです。

それでは皆様、よいお年を。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/29(日) 02:10:17.19 ID:WPxWsBl90
乙乙!
ちなみに、本物の大和は戦艦なのに舵の効きがものすごく良かったそうですよ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/30(月) 09:46:04.42 ID:LmNtGOfbO
乙乙!
かっけぇぇぇ
砲撃戦楽しみだ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/12/31(火) 09:50:59.35 ID:gvWu2JV6o
おもろろらい
114 : ◆Z7JBKoNgfg [sage]:2014/01/07(火) 00:27:06.86 ID:oGTfgh0t0
今更過ぎてどうしようもないのですが、あけましておめでとうございます。
拙作への評価ありがとうございました。

続きですが、思ったより難航しております。
連休までには投稿できると思います。
今年は遅筆を改めたいです・・・

>>111
すいません。勉強不足でした。
旋回性能についてはネタを入れてみたいと思います
115 : ◆JkEyIcsDHA [sage]:2014/01/07(火) 00:28:18.27 ID:oGTfgh0t0
トリップ間違えてました
116 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/01/14(火) 01:02:50.02 ID:ECoUgUfh0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊

「針路変更完了」

「上出来ね。うまく決まったわ」

《比叡》艦橋で航海妖精の報告を受ける比叡は、すこぶる上機嫌であった。

この敵前回頭とその後の針路変更で、敵艦隊の後背に回り込もうと動いた。
敵艦隊は丁字有利を潰されたが、比叡支隊に対抗すべく、その動きに追随している。

「敵艦隊との距離は?」

比叡の問いかけに響くように答えた

「およそ4万」

一旦、反転したことで双方の距離は遠ざかっている。
比叡支隊は《大和》を先頭に緩やかに旋回しつつ、敵艦隊との距離を狭めていく。
一斉回頭の後に右舷方向に針路変更した際、《綾波》は最後尾に位置を変えている。

「ひえいさんは、たのしそうですね」

「だってそうでしょ。空母ではなく、私たち戦艦がこの“いくさ”の主役なのよ」

海戦は徐々にではあるが、空母と航空機の多寡で優劣が決まる場面が増えてきていた。
戦艦の存在理由は失われてはいないものの、これまでのような絶対的な地位には無い。

「それに、あなただってウキウキじゃない」

そわそわとし出している砲術妖精に、比叡はそう投げ返す。

「いやはや。こんなにしゅほうをうつのは、ひさびさですゆえー」

「これからもっと撃たせてあげるわ」

「たのしみですー」

「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」

そう言いながら、比叡は未来の艦隊旗艦に呼びかける。
117 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/01/14(火) 01:05:43.60 ID:ECoUgUfh0

<さぁ大和。準備はいいかしら?>

<こちら大和、いつでもいけます。ですが、砲戦を行うにはまだ距離が…>

比叡の呼びかけに、大和は遠慮がちに答える。
4万メートル近く距離があると、《大和》の46センチ砲でないと届かない。
《比叡》と共に砲撃できる3万メートル程度が適切な射撃距離なのだが。

<それは分かっているわ。でも貴女の砲なら届くでしょ?>

<それは、まぁ…>

<なら先手を打って砲撃しましょう。46センチ砲を見せ付けてやんなさいよ>

比叡は戦力が劣る分、機先を制しておきたいようだ。

<ふふっ。いいでしょう。《大和》の力、とくとお見せしましょう>
118 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/01/14(火) 01:12:16.18 ID:ECoUgUfh0

「主砲発射準備!!最初から斉射で用意して」

《大和》艦橋で大和が命じると共に、妖精たちが電撃で弾かれた様に動き出す。
射撃に必要な情報を集める為だ。

そうして目標までのデータ――射撃諸元が九八式方位盤照準装置へと伝達される。
それに大和が微修正を加えて、各主砲に射撃データが伝達された。
かくして主砲射撃準備は急速に整った。

「目標までの距離、3万9千1百!主砲射撃準備よし!」

砲術妖精が満足げに準備ができたと叫ぶ。

「全主砲。斉射、始め!」

大和の叫びに、主砲発射の引き金が引かれる。

その瞬間。
46センチ砲が咆哮する。

主砲から噴出する巨大な砲火と轟音が、《大和》を、大和を照らし、震わせる。
それは彼女にとって、自らが知りえるもっとも甘美な快楽であった。

彼女の提督もこの《大和》の主砲が披露された際には、同じ感覚を抱いたらしい。
その暴力的なまでの威力に、男としての何かを大層刺激されたのだから。


そして、ついに、《大和》の第一斉射が目標へ到達した。
119 : ◆JkEyIcsDHA :2014/01/14(火) 01:16:09.87 ID:ECoUgUfh0
投稿遅くなった上に、短くなってしまいました。
続きはできるだけ早く書きます。
120 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/01/14(火) 07:53:08.98 ID:G3szI+GDO
かっちょええ
映像で見て見たいな
121 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/01/15(水) 19:21:13.10 ID:D6/ObE5q0
提督、砲撃でイッたのか…
122 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/02(日) 22:30:30.76 ID:bU7IrPGL0
間が空きましてすいません。
ぼちぼちはじめます

>>120
擬艦化というものがあるそうですよ

>>121
イッってないよ
男の子は大きいものが好きだからだよ!
18インチだよ!
123 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/02(日) 23:39:05.58 ID:bU7IrPGL0

結論から言うと、《大和》の初弾は外れた。

空気抵抗の少ない成層圏を飛ぶことで飛距離を伸ばした砲弾は、
敵艦隊の頭を飛び越え、その左舷遠方に巨大な水柱を描くに止まる。

《大和》弾着を待っていた《比叡》艦橋で、仕事を思い出した見張りの声が響く。

「《大和》第一斉射。すべて遠弾です……」

艦橋に詰める妖精たちも、その超長射程を見てざわめいている。

「ほんとに飛ぶのね。世界水準超え過ぎでしょ……」

実際に見るそれに驚くよりも、呆れつつ比叡がつぶやく。
次いで、大和に呼びかける。

<それじゃあ大和、予定通り指揮は任せるわ。好きにやって頂戴>

比叡は一斉回頭によって先頭に立つ大和に戦闘指揮を任せる。
大胆なのか、はたまた丸投げか、先程の作戦説明でそう決められた。
先頭艦が指揮を取るのは道理ではあるのだが。

<了解です……。しかし、本当によろしいのでしょうか?>

<遅かれ早かれ、貴方は艦隊指揮を執らねばならないのよ。それが少し早まっただけ>

<ですが、砲撃を大きく外してしまいましたし……>

どうにも弱気になっているらしい大和に、比叡は気遣って言う。

<そんなの気にしなくて良いわ>

<そうですよ。初弾で当てたら比叡さんの立つ瀬がありませんわ>

すぐさま続けた綾波に苦笑いしつつも、もう一度背中を押してやる。

<私がちゃんとフォローしてあげるから、思いっきりやりなさい>

<はい!>

そして弱気を跳ね除けた大和が叫ぶ。

<戦艦大和。推して参ります!>

言うや否や、《大和》の46センチ砲が再び咆哮する。
124 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/02(日) 23:48:03.42 ID:bU7IrPGL0

おくびにも出さないが、比叡も比叡で不安を感じていた。

(この距離での砲撃。早まったかしら…)

そもそも砲撃というものは、弾着を元に照準を修正しつつ命中を狙うものだ。
超長距離での砲撃は弾着までの時聞が長く、予測未来位置が大きくぶれる。
いくら予測しても照準修正には限界があり、命中なぞ見込めるものではないのだ。

「あたらなければいみがありませんが――」

付き合いの長い《比叡》の砲術妖精は、彼女が不安を感じていることが分かる。
であるから、彼女の決断を肯定することにした。

「――れっせいですゆえ、せんてとるのはわるくないかと」

「……そうね。そう、よね。短期決戦は先手必勝よね」

(決めたからには、このまま行く!)

比叡は考え直したいと思う誘惑を振り払う。
自らの選択に思い悩む余裕なぞ、戦場では過分な賛沢でしかないのだから。

そうするうちに敵艦隊ヘ第二射が到達し、弾むような見張りの声が聞こえた。

「《大和》第二斉射弾着……夾叉あり!」

125 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/02(日) 23:53:03.32 ID:bU7IrPGL0

《大和》艦橋では第二射の弾着を待ちわびていた。
そして弾着が、彼方の敵戦艦の周囲に水柱を立てる。

「第二斉射だんちゃーく、今!……夾叉あり!敵艦に夾叉!」

望外な報告に、妖精たちの歓喜が起こる。
敵艦隊との距離は3万8千を切っているが、まだ深海棲艦の射程距離圏外だ。
その距離で夾叉させられたのだから、無理もない。
人の成し得る業ではない。艦娘だからこその芸当だろう。

「夾叉か……うん。うん!」

大和は冷静さを装うが、その上擦った声で歓喜を隠し切れない。

「次は直撃させます!」

「照準修正完了。砲撃準備よし!!」

砲術妖精も興奮して準備完了を叫ぶ。

「撃てえぇええええ!!!」

大和が三度目の号令を発し、46センチ砲が咆哮する。

音速の倍以上で発射された砲弾は、成層圏まで一気に駆け上がる。
次いで降下に転じ、放物線を描きながら敵艦に突進していった。

着弾で次々と立つ水柱が敵艦を覆い隠すが、その隙聞から閃光が見えた。
ついに敵艦への命中弾を得たのである。

126 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/03(月) 00:16:24.56 ID:0z0mhKuI0

《大和》の砲撃は先頭を進むル級に二発の命中弾を与えた。

一発目は艦橋と煙突の間に飛び込んだ。

水平装甲を易々と衝き破りながら、艦下層のボイラー付近で炸裂。
機関の半数を使用不可能とし、煙突や両用砲などの上部構造物を吹き飛ばす。

同時に艦橋も内部からの衝撃で破壊し尽くし、艦の制御機能を喪失させる。
これは半身不随になったも同然の被害だ。

だが、致命傷となったのは第二砲塔に命中した二発目だ。

砲塔の天蓋装甲を貫通した砲弾は、内部に破壊を撒き散らしながら弾薬庫に到達。
その瞬間に昨裂したことで、主砲弾薬の誘爆を発生させたからだ。

その膨大な爆発エネルギーにより、第二砲塔は火柱に煽られながら宙を舞う。
更には左舷舷側と艦底に大きな裂け目を生み出し、浸水を発生させたのだ。

一瞬の内に鉄屑と化したル級は、艦の制御を失い、もうなす術がなかった。
黒煙を吹き上げながら炎上し、なだれ込む海水で左側に傾いて沈んでいく。


敵旗艦を撃沈したことで、《大和》艦橋では夾叉した時よりも大きな歓喜が起こる。
超長距離射撃にもかかわらず、わずか三斉射で敵をしとめたからだ。

燃費の悪さから実戦経験に乏しい大和と《大和》の妖精たちは、
他の艦娘の挙げる華々しい戦果にやるせない思いを抱いていた。
それが今、さらに確たる武勲を挙げたのだからその喜びはいかばかりか。

「さあ、次は敵二番艦よ!測的急いで!」

大和の命令で妖精たちは再び動きだす。
我らが最強であることを知らしめんがために。
127 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/03(月) 00:20:00.80 ID:0z0mhKuI0

―― キス島北方海域 深海棲艦 水上打撃部隊(増援)

『クゾガ!』

黒煙を上げ沈み行くを旗艦“だったもの”を左舷に避けながら、ル級bは悪態をついた。
仲間を沈めたあの性根の腐った戦艦を水底に引き込んでやると。

そして沈んだ鉄屑に対しても、自分の警告を受け入れなかった報いだと。

こちらを上回る射程での砲撃を受けたとき、接近するべきだと進言した。
だが旗艦は、たとえ敵戦艦が化け物でも長距離射撃はあたるわけが無いと一蹴した。

化け物だった敵戦艦に夾叉されたとき、直ちに砲撃すべきだと進言した。
だが旗艦は、数の優位を以って叩ける砲戦距離まで待つべきだと却下した。

その結果、大爆発を起こして沈んだ鉄屑に代わり指揮を執らねばならなくなった。
射程といい、威力といい、あの敵戦艦がどれだけ強大なのか想像もつかない。

『クソガ……』

再びあらゆるものを罵倒しながら、率いる仲間に指示を出す。
――あの化け物を水底に叩き込め、と。

深海棲艦たちは距離を詰めるべく舵を切る。
そして射程距離に入るや否や、猛然と《大和》への反撃を開始した。
128 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/02/03(月) 00:27:12.22 ID:0z0mhKuI0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《大和》艦橋

敵旗艦を撃沈したとたんに戦況は大きく動いた。
次々と妖精からの報告が入る。

「敵艦隊が転舵します!接近しつつこちらの後方に回り込む模様!」

「まもなく距離3万6千!」

「敵艦発砲!」

緩やかな睨み合いから、本格的な砲撃戦に移りつつある。
その為、大和はタイミングを外すことなく、初めての指示を下すことができた。

<こちら大和。全艦面舵、我に続け。目標敵二番艦、砲撃開始!>
<《綾波》は敵軽巡、駆逐艦を牽制。副砲で援護します>

<――了解>
<――了解>

頼もしく力強い応答に、間違えずに指示できたのだと大和は安堵する。
敵初弾がすべ遠弾となったことも、大和に落ち着きを与えた。

「面舵一杯!」
「よーそろー」

三隻は一筋の航跡を描きながら、敵艦隊へと砲門を向ける。

「主砲、撃ち方はじめ!!」

「撃ちー方はじめ!ッテー!」

大和に続く砲術妖精の号令で、再び主砲が放たれた。
129 : ◆JkEyIcsDHA :2014/02/03(月) 00:32:56.54 ID:0z0mhKuI0
とりあえず区切れるので、今宵はここまでに致しとうござります。
続きは二週間以内にはなんとか。

あと、陽炎抜錨します2が出る前には、それなりに進めておきたいと思ってます。
130 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします :2014/02/06(木) 22:22:15.62 ID:/0eMASr30
おっ
131 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/02/06(木) 23:18:52.59 ID:oqSf7O08o
132 :PC51850 [sage saga]:2014/03/08(土) 23:37:46.69 ID:qWy2BCRj0
復活してたのに今日気が付きました。
これから投下開始します。
133 : ◆JkEyIcsDHA [sage saga]:2014/03/08(土) 23:38:40.51 ID:qWy2BCRj0
さっそくトリバレしでかすし・・・
134 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/08(土) 23:39:55.84 ID:qWy2BCRj0
トリ変えました。
135 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/08(土) 23:50:53.27 ID:qWy2BCRj0

追撃してきた深海棲艦を撃退したのも束の間、さらに追撃の艦隊を捕捉した。
引き続き敵の足止めを行うべく、陽炎と霰は迎撃を開始する。

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

私に続いて、すぐに《霰》の砲撃が続いた。
次弾装填確認してすぐさま発射するが、装填が遅いように感じる。
撃ちすぎたかのかもしれない。

「初弾は至近弾」

敵艦の周囲に水柱が出来上がっていた。その直後、前部甲板に閃光が見える。

「《霰》初弾は前部主砲に命中」

(ホント射撃うまいなあ…)

見張りの報告に感嘆しながら、装填を確認し発射する。

「第二射、命中確認。煙突折りました。火災発生中」

「もう少しだから装填がんばって!」

「アイ!」

妖精さんを励ましながら、装填された次弾を放つ。

「第三射、すべて至近弾」

よく見れば蛇行し始めているようだが、追いきれないのでそのまま発射する。
次の瞬間、敵先頭艦の艦橋から火が出るのが見えた。
136 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/08(土) 23:53:25.85 ID:qWy2BCRj0

「第四射、艦橋に命中。構造物吹き飛んでいます」

「やったわ!」

砲撃で敵の指揮能力をそぎ、霰に先んじたと喜んだのも束の間。

「《霰》第四射は艦中央部に命中――」

見張妖精が言い終わる前、敵旗艦で轟音を響かせながら爆発が起こる。

「――魚雷に誘爆した模様!轟沈します」

続く報告を聞きながら、次々爆発を起こし沈み行く敵艦を見る。

「霰にはかなわないわね。本当に沈めちゃった……」

「さあ、後続はどうでるかな?」

さっきみたいに舵を切ってくれれば、魚雷を撃ってさっさと逃げてしまいたかった。
反転して逃げに掛かるなら、尚良い。

「後続艦は針路変わらず。直進します」

報告を受け双眼鏡をつかみ敵艦隊を見れば、沈み行く旗艦を無視して直進してくる。
艦隊を“金色”の駆逐艦が先導していた。

「まずい!フラグシップじゃない!」
137 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/08(土) 23:57:01.69 ID:qWy2BCRj0
―― キス島西方海域 救出隊

深海棲艦のノーマル駆逐艦は、艦隊指揮が取れる軽巡以上の旗艦がいなければ、
群れているだけで大した脅威ではない。
赤いエリート駆逐艦も、強化されただけで本質は変わっていない。
だが、金色をまとう駆逐艦は、エリートよりも強力で艦隊指揮が取れる厄介な存在だった。

旗艦を潰しても、これでは乱戦に誘い込むのは難しい。
このままでは敵に突破されるのは時間の問題だった。

陽炎は霰に対し作戦の変更を伝える。

<霰、反航戦で魚雷撃つわよ!やれるよね?>

<もちろん>

霰は短いが力強い返事で応えた。

「右魚雷戦よーい。面舵いっぱい!」

「おもーかーじ」

偶然にも二人はそれぞれの艦で同じように命令を発していた。
《陽炎》と《霰》は東北東に針路を取り、魚雷発射準備を完了させる。

距離1万を切るまで接近するつもりだったが、《霰》艦橋後部への被弾により、
火災が発生したことから、誘爆を回避する為に予定より早い距離1万2千で発射を開始した。

<魚雷発射開始!>

陽炎の号令で《陽炎》から8本の魚雷が射出され、すぐに《霰》も続いた。
138 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:04:39.56 ID:cpPLJY3+0

―― キス島西方海域 救出隊 駆逐艦 《陽炎》

「魚雷発射完了。命中までおよそ6分」

「《霰》も魚雷発射完了」

魚雷命中までは持ちこたえなければならない。
双眼鏡で敵の陣容を確認する。
残敵は駆逐艦ロ級のフラグシップが一隻と、イ級とハ級のエリートが二隻づつ。
せめてフラグシップのロ級は沈めておきたかった。

霰に対して砲撃目標を指示しようとしたが、見張りの報告にさえぎられる。

「敵艦隊回頭!単横陣で突っ込んできます!!」

(やられた!!)

魚雷発射を見て命中面積を最小にする為、転舵・陣形を変更したらしい。
これでは魚雷の命中が望めない。
最強の武器を無効化され、陽炎はこれ以上の時間稼ぎが不可能になったことを理解した。

そして、足止めどころか、自分たちの撤退すら危うくなったということも。

「やってくれるじゃないの!」

思わず壁に苛立ちをぶつける。

(やばいやばい。どうする?どうしたら!?)

魚雷を撃ち尽くし、主砲弾も少なくなっている。
これ以上の足止めが出来なくなった以上、早急に撤退する必要があった。
139 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:12:29.22 ID:cpPLJY3+0

<陽炎。これまずいよ。逃げよう>

霰も動揺しているのが分かる。

<分かってる!とにかく砲撃!接近を阻止!>

敵艦隊はこちらを包囲しようとしてきている。
焦る気持ちを抑えて考える。

今の針路のまま全速で東に逃げる?
――もしも新たな敵増援があったら挟撃される可能性がある。

反転して西に逃げる?
――すぐ敵に半包囲されて追い詰められるだろう。

背を向けて北へ逃げる?
――逃げ切れる可能性もあるが、近海を封鎖されたら逃げるのは難しい。

この状況下では敵から逃げようとしても、絶望的な状況しか見えない。
ならば。
と、思いついたもう一つの選択肢を選ぶことにした。
140 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:33:49.83 ID:cpPLJY3+0

<…霰。突撃、するわよ>

<なんで!?逃げるんじゃ…ないの?>

訪しげに問いかけられる。

<そうよ、逃げるのよ。敵陣を中央突破してね!>

<そんな…無茶だよ!>

<分かってるわよ!でもこのまま逃げてもどうせやられる>

<だからって!>

<だからよ……だからこそよ。死中に活ありってね!>

<デタラメだよ>

そんな分かりきった霰の抗議は無視する。

「敵との距離は?」

「最も近いところでおよそ5千!」

<これより第十八駆逐隊は敵艦隊に突撃。敵陣を中央突破し撤退する……>

今ならまだ包囲に隙がある。

<全艦突撃、我に続け!>

< 突 撃 !!>
141 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:39:28.61 ID:cpPLJY3+0

「面舵一杯!機関前進一杯!!」

「よーそろー」

戦闘でもめったにやらない前進一杯をかける。
《陽炎》の機関が唸りを上げ、力がみなぎるのが分かる。

<…是非も無し>

諦め気味につぶやいた霰も舵を切り後続する。

一度覚悟を決めればやりきるのみだ。
そう思うえば砲弾が降り注ぐ中であっても、不思議と冷静でいられた。

急な機動で傾いた艦橋から敵を見ると、右前方のハ級艦中央部に突然水柱が立った。

「敵四番艦に魚雷命中!本艦の魚雷と思われる!」

扇状に発射され斜進する魚雷が、転舵によって横腹を晒した不運な駆逐艦に命中したのだ。
特に威力の大きい酸素魚雷に耐えられるはずもなく、瞬く間に沈んでいった。

なんという幸運か!
敵の包囲が崩れた好機を、当然陽炎は見逃さない。

<霰!前に出て!>

<!?――任せた>

前部砲塔が健在な《霰》には前方の敵を牽制させて先に離脱させる。
左右から迫る敵は後部砲塔が健在な《陽炎》で牽制して霰を守りつつ脱出する。

「面舵一杯!《霰》に続いて聞いた穴に飛び込め!」

陽炎が包囲を脱しようとする頃、敵弾はあらゆる方向から跳んできている。
ついには機銃まで撃ちかけられているようだ。
弾ける様な連続音が聞こえたと思った瞬間、《陽炎》艦橋に火花が散った。
142 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:47:50.95 ID:cpPLJY3+0

《陽炎》は艦橋から煙突、魚雷発射管にかけて機銃掃射を浴びたのだ。
陽炎はとっさに両腕で顔をかばうが、突き飛ばされた様な衝撃を受けて倒れ込む。
起き上がろうとした瞬間、左腕に激痛が走った。

「っああああああ!!」

艦体のみならず、自分自身も撃たれたのだとその痛みが教えてくれた。

「あああああ……!い、痛いっ!!」

《陽炎》の機銃も直ちに応射し、主砲と共に敵を沈黙させた。

<陽炎!大丈夫なの!?陽炎!>

<大丈夫、大丈夫よ……。それより早く離脱を……>

「既に《霰》は離脱。本艦も間も無くです」

見張妖精の報告を受けつつ、陽炎は真っ赤に染まる左腕をハンカチで雑にしばる。
応急妖精は基本的に艦体が優先であるからだ。

反航戦ですれ違いざまに抜けたことから、敵が反転・追撃を開始するまでには余裕がある。
反転する場合、速度と距離にロスが出来るからだ。

《陽炎》と《霰》は最大戦速を維持しつつ、そのまま離脱を図ろうとする。

<やったあーっ!敵を出し抜いてやったわ!>

<やったね陽炎。帰ろう……みんなのところヘ!>

<ええ!早く帰りましょう>
143 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:57:39.80 ID:cpPLJY3+0

だが、敵を振り切れたかに思えたその瞬間、《陽炎》を多数の水柱が覆い隠す。
深海棲艦の悪あがきか、反転前に後部砲塔による砲撃を《陽炎》に集中させたのだ。
が、すぐに水柱を突き抜けて《陽炎》が現れる。

霰は、《陽炎》を見て目立った破損がないことに安心した。
陽炎は、自身が受けたダメージの重さに愕然としていた。

《陽炎》に集中した多数の砲弾は命中しなかったものの、多数の至近弾をもたらした。
衝撃は艦体を歪ませ、破片が無数の穴を穿つ。
それによる浸水は機関部にもダメージを与え、速力を20ノット程度にまで低下させた。
もはや敵を振り切って逃げることは不可能になったと言えよう。
この状況においては、至近弾であっても深刻なダメージを受けたのだ。

《陽炎》艦橋には喜びから一転、重苦しい空気に包まれる。

「……損傷は修理できそう?」

ためらいがちに陽炎が応急妖精に問う。

「ここでは無理です。浸水だけでなく推進軸にも損傷が……」

「そっか……。やっぱり無理かぁー」

右足が沈み込んでいくような感覚は、どうしょうもない絶望感をもたらした。
陽炎は痛む左腕はそのままに、無事な右手で顔を覆う。

「無念です……」

妖精もそれのみ言うと、黙り込んでしまう。
144 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 00:59:43.98 ID:cpPLJY3+0

<陽炎……どうしたの?速度上げないと……追いつかれるよ>

船足の上がらぬ《陽炎》を見かねて、先行く霰が問いかけた。

<ごめん霰。私、ちょっと帰れそうにないわ……>

<えっ、なんで!?>

<さっきの砲撃で、あちこち浸水しちゃってね。特に機関がダメみたいなの……>

<そんな……>

<だから、私を顧みず、このまま離脱して>

<なに……言ってるの……。一緒に帰ろうよ。私も戦うから――>

<敵はもうすぐそこまで来ている。こちらはろくに戦えない。勝ち目はないわ>

<でも、これまで、だって>

<霰!>

<ひっ>

これまで以上に強い調子で霰をさえぎり、そして、諭すように続ける。

<これ以上の戦闘は無理。でも、今なら逃げ切れる。霰は帰れるわ>
145 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:01:50.23 ID:cpPLJY3+0

<陽炎は……どうするの?>

おそるおそる霰が問いかける。

<私はここで、立ちふさがって敵を迎え撃つわ。さながら弁慶の立ち往生かしらね>

苦笑いする陽炎は痛々しい。

<なんでよ……まだ逃げ切れるかもしれないじゃない>

<出来るならばそうしたいけど、もう無理そう>

<そんな……>

<ごめんね>

<もう、諦めちゃうの?>

<じゃあ、もう行くね。みんなに……よろしく。さよな――>

陽炎が反転しようとしたその時、

<あきらめちゃダメ!>
<あきらめちゃダメ!>

霰と、霰でないもう一人が、陽炎に向かって叫んだ。

146 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:03:17.90 ID:cpPLJY3+0

<えっ…なに…?誰なの?>

ノイズ交じりで誰ともつかめぬ叫び声に、霰は問い直す。
対して、陽炎は最も近しい姉妹艦の声を違える事はなかった。

<不知火…?不知火なの!?どうしてここに!?>

<えっ?不知火……なの?>

突然の状況に追いつけない霰に陽炎が説明する。

<これは第十八駆の隊内通信周波数よ>

そしてまた、別のもう一人の声が聞こえる。

<また私に仲間を失わせる気なの?とにかく逃げなさい!>

<霞も…霞も来てくれたの?>

<とにかくそのまま逃げてください。離脱を援護しますから>

(援護するったって……)

不知火そうは言うものの、まだ距離があるようで、不知火たちの艦影は見えない。
とにかく可能な限りの速力で逃げはじめるが、敵艦隊はすぐそばまで来ている。
ついには艦砲の射程に捉えられ、砲撃が始まった。
147 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:09:01.91 ID:cpPLJY3+0

足を引きずる《陽炎》に砲撃が集中するが、次第に少なくなっていく。
速度を落とした《霰》が少し後ろを併走して、敵の照準を分散させたからだ。

<何やってるのよ!やめなさいったら!>

<大丈夫……。もう少しで霞と不知火が来る>

霰は着弾を見越して舵を切り、加減速を繰り返しながら回避を続けた。
だが、速力の差から距離が詰まりだすと夾叉され、ついには被弾する。

<痛っ…。…機関に損害なし。まだ大丈夫!>

敵弾は先の戦闘で使用不可能となった《霰》の第二砲塔を吹き飛ばした。
その衝撃で第三砲塔は旋回不能となり、めくれあがった防盾が風にたなびく。
被弾も省みずに自分を庇い続ける霰に、陽炎は胸が張り裂けそうになる。

<まだなの?ねえ……まだなの!?>

<もう少し、もう少しです。今、霞が調整しています>

霰が焦り始めるが、不知火にも普段の冷静さはない。

<もう無理しなくていから。霰のことをお願――>

<それはダメ!>
<それはダメ!>

諦め気味の陽炎に対し、再び二人の声が重なる。

(――まったくもう。どうしようもないんだから)

この窮地にそこまで懸命にされては、あきらめるわけにはいかない。
仲間に応えなければならない!

(でも調整って何だろう?)

疑問はともかく、戦意を取り戻した陽炎は応戦を開始する。
148 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:12:43.14 ID:cpPLJY3+0

「前方に艦影2、駆逐艦クラス!」

幾度目かの発砲後、《霞》と《不知火》とおぼしき艦影が見えたと見張りが告げる。

<こちら不知火。そちらを目視した…。今すぐ行くから!>

(来てくれなかったらほんとうにヤバかったな……)

陽炎には聞きなれたはずの声がとても頼もしく、思わず口元がゆるむ。

<お待たせ!あと70秒耐えて!>

霞の言う70秒後に何があるのかよく分からないが、ここが踏ん張りどころのようだ。

「みんなもう少しよ!お願い、持ちこたえて!」

妖精を励ましつつ、《陽炎》は砲撃をつづけた。
速度が出ない分、《霰》に注意を払いつつ、小刻みに針路を変更する。
更に幾度目かの発砲を終えた時、再び霞からの通信が入る。

<あと10秒よ!>
そしてどこからか、敵艦のに比してずいぶんと重々しい飛翔音が聞こえてくる。

(これは戦艦の砲撃?)

しかし、戦艦なぞどこにも見えない。視認範囲外から砲撃したというのだろうか。
そんな陽炎の疑問は霞によって中断させられる。

<だんちゃーく、今!>

霞がそう叫んだ瞬間、敵艦隊が航行していた付近にいくつもの巨大な水柱が噴き上がる。
その衝撃は、海底火山が複数まとめて爆発したのかと思えるほどだった。
そして、水柱が還った海面に敵艦隊の姿は無く、文字通り消滅してしまっている。

あれ程の水柱を立てる事ができる砲撃に、陽炎は見覚えがあった。
そして、圧倒的な射程距離を持ち、敵を一撃で葬り去る主砲を持つあのフネに。
149 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:15:53.52 ID:cpPLJY3+0

追いすがる深海棲艦を一掃した砲撃から少し後、第十八駆逐隊は無事に合流した。
艦の損傷を気にしつつ、可能な限りの高速で西に針路をとる。

状況がとりあえず落ち着いたと見るや、《陽炎》ヘ不知火が乗り移ってきた。

穴だらけの艦橋に駆け込んで来た不知火に、へたりこんでいた陽炎が声をかける。

「あっ、不知火。さーんきゅー、来てくれて助かっ「陽炎!!」た……」

言い終わらない内に血相を変えて不知火が駆け寄る。

「陽炎!かげろっ…大丈夫なの!?こんな…酷い…」

「なによ、大げさねぇ。弾は抜けでるから大丈夫よ」

珍しく取り乱している妹をなだめようとするが、どうにも落ち着かない。

「だって!血が…血がこんなに…っ!」

止血のハンカチが緩んだことで、床に血だまりを作り出したことに陽炎は気がつく。

(ああ、これじゃあ不知火も騒ぐわけだ……。たぶん私だってそうなる)
150 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:17:09.25 ID:cpPLJY3+0

妖精がどこからか運んできた救急キットで、止血を行う不知火に問いかけた。

「そういえば私たちを助けてくれたあの砲撃って――」

かぶせる様にに見張妖精の報告が入る。

「マストらしきもの見ユ!10時の方向……」

「また敵なの!?」

陽炎は立ち上がろうとするが、不知火がそれを押さえる。

「ああ、それなら問題ありません。味方ですよ」


止血を終えて立ち上がる頃には、接近する艦の形がはっきり見えていた。

(間違いない……、あれは……)

それは陽炎の知るフネに間違いないが、居るはずの無いフネにいくつも疑問が生まれる。
しかし、度重なる先頭で疲労困憊の陽炎には、それ以上の考えをまとめることができない

ともかく、危機を脱することができたのだから、今はそれで良しとすべきであった。
151 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 01:20:48.97 ID:cpPLJY3+0

陽炎はお礼と何か一言、伝えたいと思った。

「発光信号用意!内容は――」

信号妖精による信号用サーチライトの小気味よい操作音が艦橋に響く。

「通信でも良かったのではないですか?」

寄り添う不知火はようやくいつもの冷静さが戻ったらしい。

「繋ぐの面倒だったし。こっちの方が風情があっていいじゃない」

「まあ、それは……」

まもなく相手からの返信が始まった。

「えっと、……。ごめん、読んで」

陽炎が放り投げるのを見て、いかにも仕方ないというため息と共に不知火が読み上げる。

「……読み上げます。『貴艦ラノ奮戦ミゴトナリ。我モ期待ニソムカザルベシ』以上」

「頼もしいじゃないの。さすがは大戦艦様」

北に向かって針路をとるあのフネに向け、陽炎は自然と敬礼を送る。
横目で見ていた不知火もつられるように、その頼もしいフネに敬礼を送った。

味方の離脱援護の為、遅滞戦闘を行っていた《陽炎》及び、《霰》が戦闘海域を離脱。
これにより救出隊の作戦行動が終了した。
キス島派遣陸軍偵察隊を無事救出し、その任務を完遂したのである。

だが、その一方で続く別働隊の戦闘は、その苛烈さを極めて行くことになる。
152 : ◆NpAbJPCwwM :2014/03/09(日) 01:27:53.45 ID:cpPLJY3+0
とりあえず切りのいいところなので、、今宵はここまでに致しとうござります。
まだ書き溜めがあるので、また今日の夜にでも。
153 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/09(日) 01:58:43.21 ID:Ods83VJj0
大和型か?
154 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/09(日) 11:02:14.50 ID:s+aV5eYpO
相変わらずかっこええ
いい演出だわ
155 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 23:43:24.75 ID:cpPLJY3+0
拙作をお読み頂きありがとうございます。
少ないですが予告どおり投下します。

>>153
伏線を張ったつもりだけど、読み返すと全くそんなものありませんでした。
今後のストーリーにも絡むので、予想が付いてもすっとぼけて下さい。オナシャス

>>154
そう言ってもらえるなら、がんばった甲斐があります。

156 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 23:48:41.61 ID:cpPLJY3+0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 駆逐艦《夕立》

深海棲艦機動部隊の護衛を排し、追撃を再開した夕立は何かを感じ取った。

(……なんだろうこれ。北の方角がザラッとするっぽい)

北方には島が点在しているが、視界をさえぎるほどではない。
それが何であるかハッキリとしないものの、夕立に違和感を与えていた。

「見張台の妖精さん、何か北の方に見えない?」

マストに設けられた巣箱のような見張台で周囲を見張る妖精に確認する。

「北方には何も見えません」

「ん〜、そっかあ」

「気のせいではアリマセンか?」

「敵が来ているなら電探で捕らえているはずです」

艦橋に詰める妖精たちが口々に述べる。

「そうだね、霧島さんに聞いてみよう。あっ、妖精さん同士で確認してね」

砲撃に集中する霧島を邪魔しないようにと、妖精を通じで《霧島》電探妖精に確認を入れる。
が、その回答は夕立の望むものでは無かった。

「追撃中の機動部隊以外に深海棲艦の反応はない、とのことです」

艦橋にいる妖精たちも、気のせいだ、追撃に集中すべしと同意する。
だが、夕立は北方を見つめたまま微動だにしない。

普段なら気にも留めなかったであろう夕立だが、このときばかりは違っていた。

なぜなら彼女は

 血 に

飢えていたのだから。
157 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 23:52:05.07 ID:cpPLJY3+0

夕立は艦橋を飛び出すと、艦橋後部のマストを跳ねるように駆け上がり見張台の上に立つ。
突然の衝撃に驚く見張台妖精をそのままに北方を見る。
確かに見たところ敵艦の影も形も見えない。

しかし、夕立は目を凝らし、耳を立て、北方ヘ意識を集中させた。
もしかしたら、犬のように鼻も利かせていたかもしれない。

そのまま夕立はある一方を見つめたまま動かなくなる。

そして、ある確信を得たことで、その翠玉の瞳を輝かせた。

(――来てる。敵が来てるっぽい!!)

獲物を見つけた夕立はマストを蹴って跳躍し、そのまま艦橋の天蓋に飛び降りる。

驚いたのは妖精たちだ。
艦橋の天井から衝撃がしかと思えば、窓に逆さになった夕立が顔を出したのだ。

「針路変更、面舵一杯!急いで!早く!!」

「おもーかーじ!」

その勢いに煽られたまま操舵妖精が舵を回す。
あまりの急旋回ぶりに艦が傾き、夕立が振り落とされそうになる。

「いきなり転舵なんて、突然どうしたのですか!」

妖精の問いかけに一言答えると、夕立は顔を引っ込めてしまった。

「敵が来てるっぽい!」

それ以上に何の理由を求めるのかと言わんばかりであった。
158 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/09(日) 23:57:19.88 ID:cpPLJY3+0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊

夕立の様子がおかしいことに最初に気が付いたのは摩耶だった。
マストによじ登り、どこか遠くを眺めているのが見えたからだ。

「こんなときに何やってんだあいつ。戦場神経症かよ」

少しの間、そうしていたかと思えば、突然マストから艦橋に飛び移った。
その直後、《夕立》が右に転舵し北ヘ向かっていく。

<お、おい夕立!空母ほおってどこへ行くんだ!>

<敵!敵が来てるっぽい!>

慌てて摩耶が問いかけるも、当然とばかりに夕立は応える。

<ハァ!?敵なんてどこにいるんだよ!>

<見つけたの!北から来てるっぽい!>

<落ち着けって!なあ、姉御からも何か言ってくれよ>

<あ?何、よッッ!!>

霧島の応答は、射撃と重なったことで妙に気合が入っている。

<夕立のヤツが北方に敵が居るとかで、飛んでいきやがった!>

<北方に敵?電探に反応なんか無―――いえ待って、何かいるわ>

<マジかよ!どうやったら見つけられるんだよ……>

電探よりも早く敵を探知するなど、摩耶にとっては冗談でしかない。

<におい、かなー?>

<お前は犬か!>

<ぽいー!>
159 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/10(月) 00:02:56.51 ID:itaocHKh0

そこへ電探で補足した敵の情報が入る。

<新たな敵影は6。軽巡が居る水雷戦隊みたい。……こちらの進路を塞ぎに来てるわ>

敵の新手は島の影の中に隠れて真っ直ぐ来たことから、電探による補足が遅れたようだ。

たいした戦力では無いが、まともに当たれば敵空母を取り逃がしてしまう可能性があった。
もちろん、それが目的であるのは疑いようも無い。

だが、手を打つ時間は残されている。
どのような経緯であれ、夕立が先行してくれているからだ。

だから、それがどんなに困難であろうとも、霧島には命じるだけの必要に迫られていた。
160 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/10(月) 00:20:20.34 ID:itaocHKh0

<夕立>

<ぽいぽい!>

<あの水雷戦隊を足止めして来て頂戴>

<……あたしだけっぽい?>

<そう。悪いけど、あなた一人だけで>

<ちょ!姉御そんなのムチャだよ>

<今は空母追撃が最優先。余裕が無いの>

摩耶はそれを危ぶむが、そうせねばならない状況であるのは分かっている。

だが夕立は、まんざらでもない様子で問いかける。

<ん〜、一つ確認してもいいかな?>

<……何かしら?>

<足止めするのはいいけど、別に 全 部 沈めちゃっても構わないっぽい?>

その強気な口ぶりに霧島は驚き、呆れかける。
でもそれは、彼女の戦歴からすればどこもおかしくはない事なのだろう。

<えっ?ええ、遠慮はいらないわ。思う存分暴れてきなさい、夕立>

<威勢がいいのは良い……。だけど無理はするなよな!>

霧島の、摩耶の声援を受けた夕立が軽やかに、愉しげに応える。

<あははっ♪任せてよ。――駆逐艦《夕立》、突撃するっぽい!>

深海棲艦を狩るべく、猟犬が放たれた。
161 : ◆NpAbJPCwwM :2014/03/10(月) 00:24:07.13 ID:itaocHKh0
短いですが、今宵はここまでに致しとうござります。

まだ書き溜めがあるので、近日中には。
遅くても週末には書きます。時間が取れるので。
162 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/10(月) 00:55:48.53 ID:2hJCW3CS0

夕立……今からでも遅くない、そのセリフは早急に撤回すべきだ……
163 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/10(月) 07:47:04.19 ID:0hLBglOqO
乙っぽい
164 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/13(木) 17:34:07.56 ID:Z732VmXwo
支援
165 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2014/03/16(日) 23:32:31.86 ID:ZD9UAVw50
投下を予定しておりましたが、1-5でバターになったのでお休みします。
お読みくださる方々には大変申し訳なく。

4艦隊で車懸りの波状出撃で2日間攻めても19が出ません・・・。
潜水艦が派遣できない・・・。
166 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/17(月) 20:55:44.54 ID:Bb0X2bXuo
把握
58もなかなか出ないねあそこ
167 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/18(火) 11:40:50.15 ID:0jN0aJBc0
俺も全く出ないな、19。
168 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/22(土) 23:43:26.98 ID:8B+b8Cpm0
一週間集中したことで19が出ました。
いじる間もなく48時間遠征に出したので、寂しくなってもう1人来てもらいました。
資源がやばいです。

そいじゃ投稿します。
169 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/22(土) 23:48:16.65 ID:8B+b8Cpm0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 駆逐艦《夕立》

《夕立》は敵水雷戦隊を目指し、最大戦速でひた走る。
味方が空母をつぶすまで、敵を足止めせねばならない。
軽巡以下の水雷戦隊とはいえ、駆逐艦一隻だけでは捨て艦も同義であるが。

敵水雷戦隊を視界と電波から隠していた島を右手に通り過ぎる。
すると、北北東から単縦陣で進んでいる深海棲艦が見えた。

「敵艦との距離、1万6千!」

「面舵一杯! 敵針路と対向させて!」

《夕立》は再び面舵を切って、敵の針路上で真正面から向かい合う形をとった。

「敵艦発砲!」

先頭を進む軽巡が砲撃を開始するが、攻撃力は高くない。
《夕立》が真一文字に突撃してくる為、前部砲塔しか使用できないからだ。

しかも、双方が高速で航行していることもあり、命中率も極端に下がっている。
それは敵の懐に飛び込んで行こうとする夕立には好都合であった。
170 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/22(土) 23:55:07.96 ID:8B+b8Cpm0

至近距離の着弾が水柱を立て、掠める砲弾の衝撃は艦を揺さぶる。

そんな状況にもかかわらず、艦橋天蓋に立つ彼女は愉しげであった。
これから誰にも邪魔されること無く、自由に敵を屠ることが出来るのだから。

その嬉しさを抑えきれず、向かい合う深海棲艦に思わず呼びかけてしまう。

「ねぇ!あなた、旗艦でしょ? 旗艦っぽいよね!? あなた、旗艦でしょ!」

「あたしとパーティしましょ」

「さぁ、素敵なパーティーしましょうよ!」

「 ね ぇ 」

「さいッッこぉに素敵なパーティしましょう!!」

高らかに告げた瞬間、

昂った感情がそうさせたのか、

夕立の瞳が “真紅” に煌いた。

171 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/23(日) 00:04:17.66 ID:INwqSXhR0

そして、それが引き金となった。

ぶわっと髪がたなびいたかと思えば、その先端から鮮やかな桜色に染まる。

その艶やかさたるや、血を、命を吸い尽くして咲いたのだろうと思わずにはいられない。

他には、まるで耳が生えたかのように髪がハネた部分が見える。

その姿は禍々しくも妖美なるかな。

いつものぽわぽわした雰囲気は微塵も残ってはいなかった。

172 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/23(日) 00:13:25.79 ID:INwqSXhR0

しかし、彼女の、夕立の変貌はそれだけに留まらない。
艦橋天蓋に立つ彼女の足元から、《夕立》が黒く染まり始めたのだ。

艦橋から艦全体へと内外問わずその波が広がり、艦内部の妖精をも呑み込んだ。
呑み込まれた妖精の瞳は同じく紅く染まり、その意識を夕立と同化させられた。
本来自律制御であるはずの妖精が、彼女の直接制御下に置かれたのである。

これにより《夕立》に宿る妖精は、そのすべてが夕立の目となり手足となった。
観るも、撃つも、疾るも、すべて思いのままだ。
まさに人艦一体となったのである。

その状態こそが深海棲艦そのものであるのだが、今それは余談としよう。


戦場で覚醒を遂げた夕立が。否、夕立“改二”が深海棲艦へと牙を剥く。

「ソロモンの悪夢、 魅 せ て あ げ る !!」

かの古戦場で沈んだ阿修羅がいまここに蘇るッ!

173 : ◆NpAbJPCwwM :2014/03/23(日) 00:17:54.32 ID:INwqSXhR0
19が出たテンションで書き留めたやつなので、すごい厨2テイスト感がある

続きは起きたら書きます
174 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/23(日) 00:39:49.50 ID:ZVk1tQZ/o
妖怪首おいてけと吸血鬼旦那が夕立に融合しとる……

175 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/23(日) 01:02:32.40 ID:Yg9UJ8z80
いいねいいね
176 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/24(月) 00:16:52.29 ID:m7W232SN0

砲撃を開始した夕立は、針路を変えることなく真正面で撃ち合う。
双方の距離は既に1万を切っているが、依然として命中弾は無い。

回避運動も無く突き進み、いくつもの水柱を潜り抜け、その度に夕立の主砲が吼える。

「あははははははは!」

「どんどん撃つよ!どんどん撃つよ!!」

敵にぶつからん勢いで乱射する彼女を、知らぬものが見たならば、
圧倒的不利な状況で自暴自棄になったと思うだろう。

だが、
だが、そうではない。

自棄になったのでも、狂ったのでもなく、悦んでいるのだ。
177 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/24(月) 00:20:57.18 ID:m7W232SN0

お互い一歩も譲らぬチキンレースを続け、ついに彼我距離は3千を切ろうかとしていた。

「さあ、どうする!? 夕立にぶつかってくる?」

「それとも面舵? はたまた取舵?」

「あたしはどっちでもOKっぽい!」

「だって――
  
   ―― 全 部 沈 め て し ま う も の 」

敵艦へ告げる夕立には、普段からは想像も付かない程に残忍な笑みがある。

夕立は敵旗艦への殺意もあらわに砲撃を続けた。

178 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/24(月) 00:49:48.36 ID:m7W232SN0

ついに状況に変化が訪れる。

剥き出しの殺意に耐えられら無くなったのか、敵旗艦が右に転舵したのだ。
後続する駆逐艦も迫り来る夕立を見るや、慌てて舵を切る。

「たった一隻の夕立に怯えたっぽい!」

夕立は転舵によって左側面を無防備に晒した深海棲艦へ次々と砲撃を浴びせる。
一方の深海棲艦は回避優先で、反撃する余裕は無い。

だが、夕立は敵の針路上に砲弾をばら撒くだけでよかった。
撃てば撃つほど、面白いように敵ヘ吸い込まれていく。

とはいえ、浅手を負わせる程度で致命傷に至らなかったが。

179 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/03/24(月) 00:51:36.97 ID:m7W232SN0

そしていよいよ、夕立に最初の生贄が捧げられた。

様々な不幸が重なって水雷戦隊の最後尾につけていた、敵6番艦のロ級だ。

夕立と距離1500にまで接近した為、衝突回避に味方とは逆の左ヘ緊急転舵したのだ。
これが決め手となった。

「隙だらけっぽい!」

至近距離で背面を見せたことで、夕立が猛然と襲い掛かった。
主砲だけでなく、機銃までもが激しい砲撃を加える。

「あはははは! 逃げようとしても無駄っぽい!」

後部砲塔は吹き飛び、煙突は穴だらけにされ、半壊した艦橋にマストが倒れかかる。
艦体が弾け、引き裂かれ、燃え盛る度に響く爆音は、もがき苦しむ悲鳴のようだ。

「戦争って素敵……ゾクゾクするっぽい!」

深海棲艦の破壊で奏でる戦場音楽に、夕立は悦惚として聴き入る。

だがその次の瞬間には表情が変わり、その顔に失望の色がありありと見えた。
ろくな抵抗も無く、あっという聞に敵が沈黙してしまったからだ。

「なにそれ。そんなんじゃ全然楽しくないっぽい!」

無力化したと判断するや、夕立は次の獲物に狙いを定めて駆け出してゆく。

息を潜めたロ級は、次の生贄となる味方に詫びつつ、そのまま死んだふりを続けた。

180 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/24(月) 00:57:08.14 ID:E6X1mPt70
あのロ級が息潜めたり仲間に詫びたりしているとか、想像するだけで面白いな!

(スマヌ…スマヌ…)とか
181 : ◆NpAbJPCwwM :2014/03/24(月) 00:57:54.49 ID:m7W232SN0
拙作お読みくださりありがとうございます。
今日のところはここまでです。

もうこのパートの夕立は「ぼくのかんがえたさいきょうの(以下略)」で通します。
それで他のSSの夕立と差別化できることを祈って。

182 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/24(月) 09:55:14.12 ID:jCkqlUJoo

妖怪パーティしてけかな?
183 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/27(木) 09:35:06.47 ID:M4izxOzuO

いいね
とても好きだ
184 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/04/03(木) 20:17:32.01 ID:5uBzngIHO
まだかいな
185 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:11:48.95 ID:/Jqjw5dy0
待たせて申し訳ない。
レーベたんが可愛くて、筆が止まっておりました。

レーベたんが、どストライクすぎてやばい。
昔、レニにドハマリした俺に免疫は無かった。

それでははじめましょう。

186 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:16:54.40 ID:/Jqjw5dy0

瞬く間に一隻を無力化した夕立は、先にゲームから降りた臆病者を叩くべく舵を切る。

「とぉーりかぁーじ♪」

何も言わずとも問題ないのだが、血のにおいで猛る気分がそうさせずにはいられない。

追撃を始めてから間を置かずして、敵水雷戦隊に追いつき同航戦に入る。

最大戦速であるとはいえ、追いつくのが思ったよりも早い。
敵は予定外の転舵を行ったことで、乱れた陣形を整える為、速度を落としていたらしい。

そして夕立が右舷方向から近づくや否や、深海棲艦が全砲門を向け砲撃を開始した。

「あははは♪ いいねえ♪ いいねぇえぇぇ!」

「盛大に歓迎してくれるのって素敵っぽい!」

「パーティーは派手にやらないとね!!」

降り注ぐ砲弾の雨を、夕立はまるで踊るかのように回避を続けた。

「さて、誰から沈めようかしら。よりどりみどりっぽい!」

戦闘を愉しむ余裕を見せるなぞ、どちらが優勢なのかわからなくなる。

「とりあえず魚雷っぽい」

これほど砲撃を集中されると、魚雷ヘ被弾して誘爆する可能性も高まる。
そうなる前にさっさとぶっ放してしまうに限る。

こんなところで待ち望んだパーティ<戦争>をお聞きとするには、まだ早すぎるのだから。

187 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:20:36.79 ID:/Jqjw5dy0

それに魚雷を撃つならば、深海棲艦が艦列を維持している今が最適だ。

妖精の視覚情報によって得られた敵との距離は約4千。
最大雷速に設定したならば、3分と掛からず敵の白く柔らかい横腹を喰い破るだろう。

一度覚えた血の味は、夕立を更なる暴走へと掻き立てる。

「パーティーゲームで盛り上がりましょう! みんな大好きロシアン酸素魚雷よ!」

最後の魚雷が収められた発射管を乱暴に回しながら、同時に緒元を設定する。

「さあ、だれに当たるかなー? ひとりかな? ふたりかなー? 」

敵に向けられたと思えば、すぐさま圧搾空気に押し出された8本の魚雷が飛び出した。

「雷跡が見えなくなるなんてホントに怖い魚雷よね♪」

そして魚雷を放つや否や、それを追うかの様に舵を切る。

丁字不利なぞなんのそのとばかりに、敵艦列中央ヘ向けて突撃を開始したのだ!

「死にそこなっても大丈夫っぽい! 止めはすぐに刺してたげる♪」

いかに能力が向上していても、敵の砲火に飛び込むのは自殺行為に等しい。
だが、夕立には秘策があった。

188 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:24:58.12 ID:/Jqjw5dy0

「機関全力全開っぽい!」

普段は妖精によって掛けられているリミッターを外した、全力全開運転である。

下手をすれば機関が爆発してしまう可能性を無視して、限界以上にぶん回す。

爆発寸前まで焚かれたボイラーが軋み、その圧力は軸が焼けよとばかりに回転を誘う。

ボイラーもタービンも設計数値を優に上回り、定格を超える出力を発揮した。

急激な加速で艦首が浮き上がり、切り裂く白波の怒涛たるやこれまで以上だ。

夕立はバランスを崩しかけるが、何とか踏みとどまる。

だが心臓は機銃のごとく脈打ち、缶や船体の歪みが痛みとなって夕立に跳ね返る。

視界が赤くかすみ、後頭部を強打されたかのような激しい頭痛を伴った。

まるでその身を、命を削って走っているようなものだ。

しかし、その甲斐あって敵の砲撃は夕立の速度に追随できず、すべて後方に落ちた。

「どお?……速いでしょ!」

苦しげに顔をしかめながらも不敵に嗤うのだった。


189 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:28:46.47 ID:/Jqjw5dy0

急加速による限界を迎える前に、その時はやってきた。
酸素魚雷が深海棲艦に喰らい付き、その半数を屠ったのだ。

目の前で引き起こされる情け容赦の無い破壊は、夕立を魅了してやまない。

どのような命であっても、最期の輝きはとても儚く美しい。


旗艦の軽巡は艦中央部と艦尾に魚雷の命中を受け、大きな水柱を上げた。

艦中央部の喫水線下に開いた大穴からの浸水で、あっという聞に大傾斜へと陥る。

艦尾で炸裂した魚雷は、スクリューと舵をまとめて吹き飛ばした。

その行き足が止まったことで、緩やかに沈没しつつあった。


2番艦は前部付近に魚雷を受け、主砲弾薬庫誘爆によって艦橋より前方の船体が消失した。

その千切られた断面からたちまち水がなだれ込み、無事だった機関の加速がそれを後押しする。

艦腹に満たされる海水をバラストにして、そのまま全速で海底へと突入していった。


3番艦は僚艦に魚雷が命中するのを見て、直ちに取舵にて回避行動を取る。

夕立から距離を取るだけでなく、躍を返して逃げ出してしまっていた。

190 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:31:10.87 ID:/Jqjw5dy0

4番艦には艦中央部付近に魚雷が命中し、煙突を宙に舞わせる程の大爆発が起こった。

その衝撃によって竜骨が折られ、艦体は真っニつに切り裂かれる。

艦前方部分は落ち行く水柱と共に水底へと引きずり込まれてゆく。

対照的に艦後方部分はしばらく浮いていたが、やがて横転し艦尾を立てて沈没していった。


5番艦に魚雷は命中しなかったが、味方が目の前で次々と喰われるのを見て狼狽したらしい。

その為か、前に居て沈み行く4番艦を回避するのに事もあろうか面舵を切った。

その先には悪夢が待ち構えているというのに!


急加速を止めた夕立は、更に獲物を求め周囲を見回した。

立て続けに3隻も沈めたのに、まだ満足できないらしい。

敵3番艦が脱兎のごとく逃げ出すのが見えたが、狙おうにも4番艦の噴煙に阻まれる。

「なにそれ! サイッテー……」

パーティを勝手に中座するなぞ、夕立にとっては許されざる行為に他ならない。

191 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:33:16.58 ID:/Jqjw5dy0

だが、怒れる彼女の前に思わぬ相手が現れた。

夕立の横合いめがけて、敵5番艦が頭から突っ込んできたのだ。

「あらら? アタシの相手をしてくれるっぽい?」

仲間の無作法を詫びる殊勝な心がけを無下には出来ない。

「歓迎してあげる。盛大ね!」

砲は何気なく左舷側に向けていたことから、迎撃の準備はすぐに整った。

双方の距離は2000までに接近しており、撃てば当たる。

「さあ、一緒に踊りましょう!」

直ちに全砲門による攻撃が開始された。

192 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:36:24.21 ID:/Jqjw5dy0

5番艦のロ級は4番艦を避けることに気を取られ、周囲に見る余裕が無かったらしい。

夕立に気が付いて砲を向けようとするがもう遅い。

次の瞬間、初弾が艦首を砕き1番砲塔を叩き潰す。

次弾も間もなく着弾し、1番砲塔を更に破壊してその背後の2番砲給弾室にも飛び込んだ。

2番砲は内部から揚弾薬機構共々破壊され使用不可能となる。

2基の単装砲が反撃もままならず沈黙すると、今度は艦橋に砲撃が集中した。

相手を逃がさぬよう、3度の斉射を艦橋に叩き込み破壊し尽くす。

前後不覚なったと見るや、ロ級の左舷側に回り込み、すれ違いざまに喫水線下を狙い撃つ。

無論、後部砲塔からの反撃は無い。

ロ級は穴だらけになった左舷からの浸水で、早くも横転しそうなほど傾いている。

夕立はロ級とのダンスは飽きたとばかりに、そのまま逃げ出した敵3番艦を追いかけ始めた。

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/06(日) 21:55:26.58 ID:sLORTQF70
狂犬やなぁ。
194 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 21:57:36.37 ID:/Jqjw5dy0

逃げ出した3番艦のハ級が夕立の追跡に気が付いたのは、背後で複数の爆発がきっかけだ。

横転沈没した5番艦艦尾の機雷が誘爆を起したらしい。

だがそれよりも、爆炎に照らされながら迫り来る夕立を見て身が竦む。

迫り来る悪夢は嗤っている。愉しんでいる。

一隻の、たった一隻の駆逐艦に水雷戦隊が叩き潰されようとしていた。


砲撃を受け始めたハ級は、後部砲塔で牽制しつつ逃走を試みる。

が、夕立の砲撃を避けるうちに巧みに誘導されており、どうにも逃げようが無かった。

もはやここまでと、ある意味での覚悟を決めたハ級は反転し、夕立へと立ち向かう。

どうせ血を流さずにいられないのならば、逃げながらではなく、闘ってそうあるべきだと。

195 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 22:48:42.72 ID:/Jqjw5dy0

かくして一騎打ちが始まる。

ロ級が正面から向かっていくと思いきや、舵を切って艦首を巡らし丁字有利に持ち込もうとする。

そうはさせじと、夕立が後方に回り込もうとするかと思えば、距離を取った。

砲撃で牽制し、切り込んでくるかと思えば、鼻先への砲撃でいなそうとする。

入れ替わり立ち代りの攻防を続ける内に、チキンゲームですれ違った付近に戻ってきた。

近くには未だに炎上したまま漂流を続ける敵六番艦のロ級が見えてくる。

夕立はそれについて完全に戦闘不能になったと思っていたが、すぐ後悔する事となった。

196 : ◆NpAbJPCwwM :2014/04/06(日) 22:56:55.98 ID:/Jqjw5dy0
すみません、今宵はここまでにさせてください。
また週末には書きます。

プロットは最後までできてるので、ちょくちょく書き溜めしてますので。
あと、数字表記がぶれるのを直したい・・・

197 : ◆NpAbJPCwwM :2014/04/06(日) 23:04:52.45 ID:/Jqjw5dy0
文章から狂犬を意図してもらえたのなら、狙い通りです。

夕立はゲームにおいてもっと戦闘狂的な台詞回しが多くてもいいと思います

198 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 23:08:24.12 ID:/Jqjw5dy0
すいません、>>195 訂正します。
一部分抜けてました。
次のが正しいのです。
199 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/06(日) 23:09:44.86 ID:/Jqjw5dy0

ようやく立ち向かって来たハ級に対し、夕立は両手を広げて歓迎の意を示す。

一方的に叩き潰したのでは面白くない。

先程の無礼な振る舞いに対する罰を、その身に教え込む必要があると考えていたからだ。


かくして一騎打ちが始まる。

ロ級が正面から向かっていくと思いきや、舵を切って艦首を巡らし丁字有利に持ち込もうとする。

そうはさせじと、夕立が後方に回り込もうとするかと思えば、距離を取った。

砲撃で牽制し、切り込んでくるかと思えば、鼻先への砲撃でいなそうとする。

入れ替わり立ち代りの攻防を続ける内に、チキンゲームですれ違った付近に戻ってきた。

近くには未だに炎上したまま漂流を続ける敵6番艦のロ級が見えてきた。

夕立はそれについて完全に戦闘不能になったと思っていたが、すぐ後悔する事となる。

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/07(月) 15:19:18.84 ID:kKmuxZZ+O

すごいな
地の文はお堅いのにすごくわかりやすい
目に浮かぶようだ
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/08(火) 00:37:00.73 ID:NTgvPoZD0

読んでて興奮する、やっぱりちょっと狂気入ってる女の子はいいな!
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/08(火) 19:10:40.87 ID:D2cJb2N4o
乙!

おもろい!
203 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 21:44:29.43 ID:VjeaWmEl0
また間が空いてしまいました。

浜風はとてもかわいらしいですね。フヒヒ
あと、あまつかぜ?がガーターを指で「くいっ」てやっている部分にすごいエロスを感じました

では投稿を始めましょう

204 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 21:47:03.79 ID:VjeaWmEl0

一騎打ちに挑む夕立は烈火の勢いから一転、獲物を仕留めようと格闘する猟犬の様だ。
がむしゃらに襲い掛かるのではなく、確実に討ち取ろうとしている。

ハ級と入れ代り立ち代りの攻防を続けているのも、その証左といえよう。
だがその一騎打ちでさえも、自分のペースに巻き込み踊っているに過ぎないようだ。

「どお?アタシとのダンスは楽しいでしょ!」

けらけらと笑うたびに放たれる砲弾は、徐々にハ級にダメージを蓄積させる。

ハ級が踊るダンスの相手は、鬼か悪魔か夕立か。
幾度と無く相手の足を踏み潰そうとも、自分の足を決して踏まれせはしない。
相手が壊れ、息の根を止めるその瞬間まで、逃れることはできないだろう。

しばらくして大破漂流する敵6番艦のロ級が見えて来るが、夕立は歯牙にも掛けない。
もはや戦闘に耐えうる状態には見えず、そして何より自らの信条に反する。

動かぬ的を撃つことの、どこに愉しみがあるというのか。

相手にせずと見たのは、勢いに乗り調子付く夕立の慢心に他ならない。
それは事態の急変を引き起こす。


突如動き出したロ級が、一矢報いんと至近距離で魚雷を放ってきたのだから。

205 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 21:52:38.95 ID:VjeaWmEl0

大破漂流していたロ級は、駆逐艦が交戦しつつ接近してきているのに気が付く。
味方の旗色がどうにも悪く見えるのは、あの悪夢を相手にしているせいだろう。

ロ級には味方を見捨てて、このまま悪夢をやり過ごすいう選択肢もあった。
だが、ロ級とて深海棲艦。積もる恨みが覚悟を誘う。

目覚めたロ級は痛む体に意識を巡らせ、反撃の手立てを講じる。
ほとんどの武装は破壊されてしまったが、魚雷発射管が一基だけ使えそうだった。

武器を手にしたロ級は、再び敵へと意識を向ける。

既に夕立の射程内に入っていたものの、ロ級に砲門を向ける素振りすらない。
ハ級をもてあそぶ様な余裕を見せるのは、もう勝った気でいるからだろう。

ならば教育してやろう。
躾のなっていない犬に、我らの恐ろしさを思い出させてやるのだ、と。

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/20(日) 21:53:35.74 ID:Gc3yzgdr0
おおっと
207 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 21:55:27.24 ID:VjeaWmEl0

無警戒なのをいいことに息を潜め、射線に収まるまで死んだように見せかける。
ハ級と戦闘中の夕立が徐々に近づいてきた。

目標との距離は5000を切ったが、必中を期すにはまだ遠い。

距離3500ともなれば敵艦がよく見えるが、気付かれた様子はない。

そして反撃の刻は来た。

距離2000に達したのを合図に再始動し、すぐさま魚雷発射管を夕立へと向ける。
夕立と横並びになろうとするかのタイミングで、4本の魚雷を放つ。

これ程の至近距離であれば、厳密な未来位置予想は必要ない。
針路上に射出するだけでも、十分な命中率を期待できるだろう。

たとえ命中せずとも、完全なる奇襲となれば必ず隙が出来るはずだ。
ハ級が悪夢を撃ち払うチャンスをつくれたなら、無駄死とはならないのだから。

208 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 22:01:15.13 ID:VjeaWmEl0

「うそっ!?」

妖精を通じて得られた視覚情報に、夕立は驚きを隠せない。
動けぬはずのロ級が突然身じろぎしたかと思えば、こちらに向けて雷撃してきたからだ。

北側からロ級、夕立、ハ級の順番となり、東に向かって同航した状態でそれは起こった。

ボロボロの駆逐艦が、無警戒だったこちらの柔らかい脇腹を突いてこようなど、思いもしない。
戦場で予想外のことは起こるものだが、死に体ながら良くやっていると言えた。

「とっても素敵っぽいよ、そのサプライズ!!」

忌々しげに叫んでみても、敵は戦闘不能っぽいと侮った夕立の不覚である。

迫り来る四本の白い航跡を見れば、近距離しては扇形の聞きが大きい。
回避にはその合間に飛び込むのが最適かと考えた。

夕立は直ちに機関後進一杯をかけると共に、面舵を目一杯切らせる。

同航戦にあったハ級に頭を向ける状態になるが、まずは魚雷を避けるのが先決だ。
艦尾を無防備に晒すよりはマシだろう。

そして、砲弾が飛んでこないことを二番目にして祈った。

209 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 22:10:26.11 ID:VjeaWmEl0

急な減速で行き足にブレーキが掛かると共に、舵も効いて来て艦首を右に巡らせ始める。
3本の射線上に乗っていたが、転舵により艦首と艦尾を狙う魚雷からは回避できた。

だが艦中央部には角度が浅くなりつつも、まだ射線上にある。

「今度は両舷前進一杯!!」

それを回避する為、機関を前進一杯とし、魚雷針路に平行となるよう加速させる。
もしものときは使わざるを得ないが、急加速は奥の手としてとっておきたかった。

艦の加速にもどかしさを感じながらも、その目は魚雷から離せない。
酸素魚雷と違って、敵魚雷の航跡はいやにハッキリと見える。

迫り来る魚雷はもうすぐそばなのだ。


依然脇腹めがけて疾走する魚雷は、数百メートルにまで追った。
だが、艦の行き足が戻ってくると舵が効き始め、その斜線と次第に平行となる。

そして夕立の舷側から手の届きそうな距離で、そのそばを走り去って行った。
必死の思いで放たれたロ級の魚雷は、その甲斐なく夕立を走り回らせたに過ぎない。

だが、仲間は千載一遇ともいえる反撃のチャンスをつかむことが出来た。

210 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 22:15:08.02 ID:VjeaWmEl0

魚雷を回避した夕立は、ようやく周囲に意識を向ける余裕が出来た。
南向きとなった《夕立》の正面にはハ級がいるはずだが、それが見えない。

周囲監視に戻った妖精から得られた視覚情報が、その存在を知らせる。
いつの間にか夕立の右舷側に回り込んでおり、反航状態にあった。

そして大胆にも敵前で回頭し始めたではないか。

当然、夕立はその隙を見逃すことなく、砲撃を加えるかと思われた。
だがそうはせずに、夕立は舌打ちと共に面舵を切る。

「も〜〜!次から次へとォ!!」

砲撃させまいと、先手を打って魚雷を差し向けられては攻撃どころではない。
2時方向から夕立めがけて、ハ級の放った5本の魚雷が疾走して来ている。

「面白いことしてくれるじゃないですかー!」

とにかく回避するしかないこの状況に、夕立は苛立ちを隠せない。

主砲で反撃したくとも、双方転舵中ではかすりもしないだろう。
とにかく、今は逃げ切ることが最優先だ。

211 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 22:18:36.46 ID:VjeaWmEl0

前進一杯が維持されていたこともあって、短時間で右へと舵が効いてきた。
艦首が2本の射線をまたぎ、3本目と4本目の聞に滑り込む。

魚雷と正対したことで、夕立の左右で魚雷とすれ違い、そのまま後方へ走り去っていった。

針路が西へ変わったことで、回頭し終えたハ級と再び反航戦となる。
ハ級は回頭の際に後ろを取られないよう、魚雷を放ってまで牽制したようだ。

双方とも回避や回頭を重ねた為か、距離は1500とかなり近くまで接近している。

「アナタの雷撃、さっき(ロ級)よりヘタクソっぽい!」

そう煽りながらも、反航戦に備えて砲塔を左ヘ向けた。

それに対するハ級の反撃は、照準を定めようとしていた夕立を驚愕させる。
これまで以上の至近距離で、再び魚雷を撃ち出してきたからだ。

「やってくれるじゃないのさ!!」

もはや一瞬の猶予もない。

夕立はすぐさま急加速を発動させ、面舵を切る。
急加速発動によるダメージを気にしている場合ではない。
温存したことで被雷するようなことになっては、元も子もなくなる。

たちまち機関が捻りをあげて、急加速を開始した。

212 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 22:23:31.74 ID:VjeaWmEl0

夕立を捉える魚雷は5本。

うち1本は急加速開始直後に射線から逃れることができた。
面舵で艦首が右に回りだすと、さらにもう1本の回避に成功する。

だが、まだ3本もの魚雷が夕立めがけて突進を続けていた。

「ぐッ……こんなところで、こんなところでやられるわけにはいかないの!」

苦悶の表情を浮かべながらも、懸命に艦を走らせる。

「こんのぉおお!」

叫んで気合を入れてみても、艦の加速は限界に近い。
爆発寸前の機関が起こし始めた振動は、どうにも不吉な予感を感じずにはいられない。

ロ級の奇襲で戦闘の主導権を奪い取られてから、逃げ回ってばかりいる。

このまま黙って討たれるのは、夕立にとって屈辱でしかない。

そして何を考えたのか、魚雷に向けて爆雷を投射し始めた。

213 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/20(日) 23:10:13.90 ID:VjeaWmEl0

「ぽい!ぽい!ぽいー!」

弧を描き飛んだ爆雷は、魚雷射線上へと着水し、そのまま沈降してゆく。

なにも起きないまま、魚雷は着水海面付近を通過してしまう。

だが、その直後に設定深度に到達した機雷が炸裂した。
腹に響くような衝撃と共に水柱が立つ。

そして衝撃波が夕立に迫る魚雷を追い抜き、翻弄し、あらぬ方位へと針路を捻じ曲げた。

しかし、魚雷はジャイロが正常に動作したことで10秒も掛らず元の針路へ戻ってしまう。

1本は舵を衝撃波で歪められデタラメに走り去ったが、残り2本は夕立に追いすがる。

果たして、夕立は……。

214 : ◆NpAbJPCwwM :2014/04/20(日) 23:13:27.09 ID:VjeaWmEl0
今宵はここまでにしとうございます。
次で夕立編は終わりの予定です。

次の投稿はイベント次第といったところです。
ゲームをがんばると、SSを書く時間がどうしても・・・。

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/20(日) 23:21:05.24 ID:l0EOM4Xbo
乙でした
慢心、ダメ絶対
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/21(月) 06:50:28.38 ID:sPyIIsJ30
乙、夕立さん強し
投下中に合いの手っておk?ついやっちまったけど……
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/21(月) 15:25:00.96 ID:npsQ1YkYo
おぉぉぅ
いいとこで切るなぁ
218 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/04/22(火) 06:58:54.67 ID:wV/rCEF20
拙作お読み頂きありがとうございます。
イベントがあろうとも、また週末には投稿したく。
途中までしか書けなかったので。……書けなかったので。

合いの手は投下中でもおkすよ。
何であっても反応があるのはうれしいものです。

そのほかツッコミ、疑問等あれば何でもどうぞ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/04/29(火) 20:29:09.78 ID:7ON5tlBko
乙 やっと追いついた
手に汗握る戦闘楽しいねぇ
ちょこちょこ誤字脱字があるから気をつけてパーティしてくれ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/05(月) 11:07:03.67 ID:Yn8kFxAhO
待ってる
221 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/07(水) 00:33:52.94 ID:vVgiNNvg0
拙作お読み頂きありがとうございます。

みなさんはどんなGWだったでしょうか?
私はまさかの11連勤でした・・・。

投稿?
イベント?
明日からがんばります・・・。

ほんとすいません。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/07(水) 00:40:48.54 ID:dArTHf3T0
お疲れ様
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/08(木) 08:55:13.14 ID:w7IQdcYTo
おつかれー
無理せぬよう
224 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:23:07.20 ID:0EbQU6/y0
こんばんはです。

書く内容は決まっているのに、あいも変わらず遅筆な自分が情けなく……。

>>213 を書き直す形で始めます。
あれは次回予告ということで。

それでは、はじめましょう。

225 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:25:29.37 ID:0EbQU6/y0

「ぽい!ぽい!ぽいー!」

弧を描き飛んだ爆雷は、魚雷射線上へと着水するがそのまま沈降してしまう。

その数秒後に魚雷が着水海面付近を通過するものの、何も起きなかった。

だが、その直後に設定深度に到達した爆雷が炸裂する。

ズンと、腹に響くような衝撃と共に水柱が立つ。
そして衝撃波が夕立に迫る魚雷を追い抜き、あらぬ方位へと針路を捻じ曲げた。

夕立の艦中央部を射線上に据えていた魚雷は、衝撃波で舵を歪められ迷走していった。

しかし、艦首・艦尾を捕らえていた残りの2本は、魚雷に備えられた自動操舵装置が正常に動作し、
元の針路へ戻そうと動く。
10秒と経たず設定された針路へと復帰してしまう。

二条の殺意無き航跡は、再び夕立へと迫っていった。


そもそも駛走する魚雷に爆雷を当てようなどとは、通常であれば考えられない。
狙って当たるものではないからだ。
そうせざる得ないほど追い詰められていたということもあるが。

また、機銃で撃ったとしても、水中では威力を減じてしまうから撃破は難しい。

魚雷を回避する為には、とにかく動くしかない。

爆雷を使う苦肉の策も、夕立は10秒にも満たない猶予を得たに過ぎなかった。

226 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:28:19.99 ID:0EbQU6/y0

だが、猶予を得られた。
どんなに短い時間であっても、今の夕立には値千金、万金の価値があったのだ。

通常ならば成し得ない急加速による回避機動には、わずかな時間で十分だったのだから。


面舵で急旋回するた夕立の艦首を、艦尾を掠めるように、魚雷が駆け抜けて行く。

寸でのところで魚雷を回避したのだ。

まさにギリギリだったといえよう。


227 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:32:33.25 ID:0EbQU6/y0

艦の左右を走る魚雷が自分を追い越すのを確認してから、夕立は急加速を停止させる。
これ以上使用するれば、艦だけでなく自分自身が持ちそうに無い。

震える膝には耐えきれず、引かれるようにそのまま折った。
汗が額から伝うほど流れ、心臓がきしみ、呼吸するのにも苦しさを感じる。

濡れて張り付いた髪がもたらす不快感は、前方に映ったロ級への憎悪に変わった。

「あははは、はは……」

「あなタ――」

「――オイモシロイコト、シテクレタジャナイ」

夕立がこんなに追い詰められたのも、死にかけだったロ級の奇襲で始まった。
ちゃんとトドメをさしておかなかったのが原因だ。

原因は排除しよう。
もうこれ以上、楽しい楽しいパーティーを邪魔されるのは我慢なら無いのだ。

「タップリ、御礼ヲシテアゲルカラ」

228 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:40:29.91 ID:0EbQU6/y0

魚雷を回避して北に針路が変わった夕立の、右舷2時方向に東向きのロ級がいる。

夕立はそのまま前進しつつ、ロ級への砲撃を開始した。

今度こそ仕損じないよう、魚雷発射管付近へと丁寧に砲弾を叩き込む。

もはやロ級に反撃できる武器は残っていないことは明白だったが、砲撃の手を緩めない。
完全に破壊し尽くす気でいるらしい。

「ホラ、ホラほら! ほら!」

ロ級の艦尾方向から回り込んで左舷側に艦を進め、今度は艦前方へと砲撃をシフトさせた。

すでに折られたマストを細切れにしつつ、艦橋を叩き潰し炎で彩る。
もはや置物同然となっていた2基の単装砲も容赦なく破壊した。

ロ級は艦上部構造物を完膚なきまでに破壊され、今度こそ浮かべる鉄くずとなる。
艦尾はすでに水面下に没しており、すべてが水底へ帰るのは時間の問題だった。

229 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/05/12(月) 00:45:16.51 ID:0EbQU6/y0

そして満足げに一息ついた夕立に向かって、ハ級が急接近してきている。
目の前でロ級を沈められて怒っているようだ、と夕立には見えた。

「なんだか仲間想いっぽい」

一度は仲間を見捨てて逃げたのを見たからか、つぶやく夕立の口調は冷ややかだ。
怒っているかはともかく、仲間をみな沈められたのだから、仇を討とうというのだろう。

ともかく、残された獲物は最後の一つとなった。

「さぁ、パーティのフィナーレといきましょうか!」

ロ級と真正面から向き合うように舵を切った夕立が、最後の突撃を開始する。

230 : ◆NpAbJPCwwM :2014/05/12(月) 00:56:14.72 ID:0EbQU6/y0
すみませんここまでです。

ちくしょう短い。
もっと書きたいのですが形にならない・・・

ご指摘のあった誤字ですが、印刷した文章をスキャンするので、
読み取り時に似たような文字で認識されるのを見逃した結果です。

もう半分は自分のポカですが。
その辺は気をつけます。


それでは続きを近いうちに


231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/12(月) 01:27:09.98 ID:CxA2JfaF0
あ、あの、夕立さんちょっと深海化……
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/12(月) 07:01:15.51 ID:jBKWdRqhO

又良いとこで切るなぁ
印刷してからとは変わったやり方だね
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/05/16(金) 09:43:55.12 ID:IyoRQ+MfO
待ってる
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/04(水) 15:22:14.05 ID:96pZj4CbO
おいまだか
235 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:41:15.54 ID:nyn7NC7g0
どうもすいません。また間が空いてしまいました。
遅くなって大変申し訳なく。

さて、投稿を始めますが、>>225からを書き直す形で始めます。
どうしても気に入らなかったので。

236 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:42:19.15 ID:nyn7NC7g0

「ぽい! ぽい! ぽいー!」

弧を描き飛んだ爆雷は、魚雷者戦場へと着水するが、そのまま沈降してしまう。
その数秒後に魚雷が着水海面を通過するものの、何も起きなかった。

だが、その直後に設定深度へと到達した爆雷が炸裂する。

ズン、と腹に響くような衝撃と共に水柱が立つ。
そして衝撃波が夕立に迫る魚雷を追い抜き、あらぬ方向へと針路を捻じ曲げた。


これで魚雷を回避できたかというと、そうはならない。
設定された針路から外れてしまっても、自動操舵装置が元の針路へと戻してしまうからだ。

コレがなければ、波や潮流渦巻く海中を目標まで直進することもままならない。
兵器として役に立たないのだ。

237 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:42:50.34 ID:nyn7NC7g0

魚雷の自動操舵装置は正常に作動していた。
ジャイロと設定針路のズレを感知し、設定された針路へ戻そうと方向舵を制御する。

夕立の艦中央部を射線上に捉えていた魚雷は、衝撃波で舵を歪められ迷走していった。

しかし、艦首と艦尾を捉えていた残りの2本は、再び夕立をその射線上にのせる。

爆雷で針路妨害しても、10秒と経たずに設定された針路へと復帰してしまった。

二条の殺意なき航跡は、再び夕立へと迫っている。

238 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:43:35.94 ID:nyn7NC7g0

そもそも駛走する魚雷に爆雷を当てようなどとは、通常であれば考えられない。
狙って当たるものではないからだ。

そうせざる得ないほど追い詰められていたということもあるが。

また、機銃で撃ったとしても、水中では威力を減じてしまうから撃破は難しい。

魚雷を回避する為には、とにかく動くしかない。
爆雷を使う苦肉の策も、夕立は10秒にも満たない猶予を得たに過ぎなかった。

だが、猶予を得られた。
どんなに短い時間であっても、今の夕立には値千金、万金の価値があったのだ。

通常ならば成し得ない急加速による回避機動には、わずかな時間で十分だったのだから。

239 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:44:38.31 ID:nyn7NC7g0

魚雷が自動操舵装置により元の針路へと戻る頃には、夕立まで数百メートルに迫っていた。

だが、魚雷の奏効角は針路復帰前よりも小さくなっている。
回避運動によって、夕立と魚雷の針路が徐々に平行となりつつあるからだ。

そして、ついに魚雷が夕立へと到達する。

だが、命中の衝撃は無い。

面舵で急旋回する夕立の艦首を、艦尾を、掠めるように魚雷が走り去ってゆく。
すんでのところで魚雷を回避したのだ。

急加速による緊急回避運動だけでは、魚雷を回避することは難しかっただろう。
だが、爆雷を使った針路妨害によって得られた猶予がそれを可能にした。

まさにギリギリだったといえよう。


240 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:45:30.93 ID:nyn7NC7g0

艦の左右を走る魚雷が自分を追い越すのを確認すると、夕立は急加速を停止させる。
これ以上使用するれば、艦だけでなく自分自身が持ちそうに無い。

震える膝には耐えきれず、引かれるようにそのまま折った。
額からは汗が伝うほど流れ、心臓がきしみ、呼吸するのにも苦しさを感じる。

濡れて張り付いた髪がもたらす不快感は、前方に映ったロ級への憎悪に変わった。

「あははは、はは……」

「あなタ――」

「――オイモシロイコト、シテクレタジャナイ」

夕立がこんなに追い詰められたのも、死にかけだったロ級の奇襲で始まった。
ちゃんとトドメをさしておかなかったのが原因だ。

原因は排除しよう。
もうこれ以上、楽しい楽しいパーティーを邪魔されるのは我慢なら無いのだ。

「タップリ、御礼ヲシテアゲルカラ」


241 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:46:56.30 ID:nyn7NC7g0

魚雷を回避して北に針路が変わった夕立の、右舷2時方向に東向きのロ級がいる。

夕立はそのまま前進しつつ、ロ級への砲撃を開始した。

膾を吹くがごとく、まずは魚雷発射管付近へと丁寧に砲弾を叩き込む。
発射管がひしゃげて吹き飛ぶだけなのをみるに、魚雷は残っていなかったようだ。

だが、そんなことは気にも留めず、発射管のある艦中央部への砲撃を続けた。
その付近は構造物がささくれ立ち、舷側も穴だらけとなっている。

「アハッ、アハハハハハハハハハハハハ!!」

もはやロ級に反撃できる武器は残っていないことは明白だが、手を緩めない。
今度こそ仕損じないよう、完全に破壊し尽くす気でいるらしい。

「ホラ、ホラほら! ほら!」

ロ級の艦尾方向から左舷側に回り込むと、今度は艦前方へと砲撃をシフトさせた。

すでに折られたマストを吹き飛ばし、艦橋を叩き潰し炎で彩る。
もはや置物同然となっていた2基の単装砲も容赦なく破壊した。

ロ級は艦の上部構造物を完膚なきまでに破壊され、今度こそ浮かべる鉄くずとなる。
艦尾はすでに水面下に没し始めており、すべてが水底へ帰るのは時間の問題だった。


242 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:47:42.22 ID:nyn7NC7g0

そして満足げに一息ついた夕立に向かって、ハ級が急速に接近してきていた。
怒っているように見えるのは、目の前でロ級を沈められたからだろうか。

「ふーん……。なんだか仲間想いっぽい?」

一度は仲間を見捨てて逃げたのを見たからか、つぶやく夕立の口調は冷ややかだ。
怒っているかはともかく、仲間をみな沈められたのだから、仇を討とうというのだろう。

ともかく、残された獲物は最後の一つとなった。

「さぁ、パーティのフィナーレといきましょうか!」

ハ級と真正面から向き合うように舵を切った夕立が、最後の突撃を開始する。


243 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:49:36.13 ID:nyn7NC7g0

先手を切った夕立が真っ向勝負を挑んだことで、正面切っての撃ち合いとなった。
双方は距離を縮めつつ、砲火を交わす。

「ここで終わりにするっぽい!」

夕立が決着を求めるのには訳がある、
空母へ一太刀浴びせるまたと無い機会を、いまだ諦めていないからだ。

でなければ、敵水雷戦隊を壊滅に追い込むことはしなかっただろう。

「もう逃がさないんだから!」

足止めしている間に空母が喰われてしまっては、つまらないことこの上ない。

思う存分深海棲艦を屠り、その血を浴びて酔いしれる。
闘争本能の赴くまま、夕立の攻勢は止まるところを知らない。

244 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:51:28.70 ID:nyn7NC7g0

二隻の駆逐艦が主砲を撃ち掛けながら、距離をつめてゆく。、
一番最初に遭遇したときとは異なり、至近弾のみならず命中弾さえ発生していた。

なにせ彼我距離は1500を切ろうとする頃合なのだ。
帆船時代さながらの砲戦距離では、外すほうが難しいだろう。

ハ級は怒りに任せて突っ込んできている。
そのまま夕立と刺し違えてもかまわない、かの勢いがあった。

夕立は夕立で、浴びせられる生々しい殺意に当てられて、高ぶりが抑えられない。
戦場という地獄で、生きていることを強烈に意識できるのだ。

それでこそ殺しがいがあるというものだ。

だからこそ戦争が好きで好きでたまらないのだ!

「全力で潰してあげる!」

245 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:53:20.83 ID:nyn7NC7g0

これまでの戦闘で傷だらけだったハ級の船体を、夕立の砲撃が切り裂いた。
それは艦首の錨鎖甲板に命中し、ちぎれた錨鎖が宙を舞い、錨が海へと落とされる。

このときもう一発が1番砲塔前へ着弾していたが、これは不発弾となっている。

「まだまだ!」

続け放つ砲撃は2番砲塔をねらったものだが、外れて艦橋右側基部に命中。
爆発で飛び散る破片が周囲に突き刺さり、艦橋前の機銃を破損させた。

だが砲塔は傷つきながらも健在で、負けじとハ級も撃ち返していく。

夕立も無傷ではいられず、立て続けに命中弾を受けた。

246 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:54:32.37 ID:nyn7NC7g0

夕立の艦橋左前方に落ちた命中弾は、甲板に穴を穿つだけでなく、舷側上部も吹き飛ばす。
それは着弾が船べり近くであったことから、その衝撃が側面にまで及んだのだ。
まるで艦の縁が喰いちぎられたような状態になっている。

次弾は艦橋左舷側基部に命中し、艦橋左側と甲板をズタズタに切り裂いた。
置いてあったカッターは、文字通り粉砕されている。

「フフン。やればできるじゃないですかー♪」

被弾して傷つきながらも、その表情は楽しげなものから変わることが無い。
艦橋が狙い撃つということは、こちらを確実に殺そうとしているからだ。

「でも好き勝手は許さないっぽい!」

そう叫ぶのを合図に連装砲が火を噴き、砲弾が飛び出していった。

247 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:55:57.42 ID:nyn7NC7g0

水平に飛ぶ砲弾は、夕立が狙った通りの2番砲塔に命中した。
爆発の衝撃で引き剥がされたように舞い上がった砲塔が、海へと落ちるのがよく見える。

それと前後して夕立に向けられた砲撃は、艦中央部右舷側への至近弾となった。
砲弾の破片が魚雷発射管を旋回不能にさせ、舷側が歪み浸水が起こる。

「お返しよ!」

妖精を動かし浸水に対応させると共に、装填された次弾を撃ち出す。

瞬時に着弾した砲弾は、ハ級の1番砲塔へと命中し火災を発生させた。
またもや狙い通りに着弾している。

それもそのはず。

既に双方の距離は1000を切ろういうかの頃合なのだ。
撃てはば当たらない訳が無い。

そして忘れてはいけない。
敵も同じ条件にあるということを。

248 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 00:57:27.58 ID:nyn7NC7g0

夕立の前部主砲で爆発が起こったのは、ハ級の前部主砲を破壊するのとほぼ同時。
破壊される直前に放った砲弾が、見事に直撃弾となった。

夕立の射撃と同じタイミングであった為、相打ちとなったというところか。

ハ級の放った砲弾は、砲身と砲身の間を撃ち抜いた。
砲身はひしゃげ、砲塔は張り裂け、弾けた破片は周囲へばら撒かれる。

「ッ……ぽい!」

爆発からかばった右腕に痛みが走った。
突き刺さった破片を無造作に引き抜き、ハ級へと投げつける。

無論、届くわけではない。
が、睨み付けるその顔にも獰猛な笑みが張り付いてたままだ。

前方への攻撃手段を失って、戦いは転機を迎えた。

249 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 01:02:28.07 ID:nyn7NC7g0

前部主砲を潰されたことで正面切っての砲撃は不可能となった。

そこで後部主砲で応戦しようと、すかさず面舵を切る。
すれ違いざまに砲撃を浴びせ掛けた。

夕立の砲撃はハ級の煙突をなぎ倒し、連射する機銃を台座ごと破壊した。

そしてハ級の砲撃で夕立の魚雷発射管が吹き飛び、単装砲が蜂の巣にされつつも反撃する。

双方は面舵を効かせて、しかも高速ですれ違うことから、攻撃は一瞬で終わるかに見えた。
現にハ級は一旦距離をとって仕切りなおそうと考えている。

しかし、対する悪夢がハ級にとって予想外の行動に出る。

追いすがるかのように、急旋回してきたからだ。

250 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 01:05:56.93 ID:nyn7NC7g0

「逃がさないって言ったでしょおおおお!」

面舵を切っているので自然と距離が離れるところを、夕立は強引に取舵へと切り替える。
下手をすればそのまま横転しかねない操舵である。

夕立は面舵から取舵へと一杯に舵を切り返すと、錨を落とし錨鎖を最大限までのばした。
そして左舷は後進、右舷で前進の機関一杯で、艦を左に急速旋回させた。

錨と限界まで伸びた錨鎖が、たどり着いた海底を引きずられるようにすべる。
それ自体の重さも手伝って、ブレーキを掛けたようなものだ。

左舷軸で後進一杯にして、艦の行き足にブレーキをかける。
右舷軸を前進一杯にして、右舷側を前に出しすことで左方向への旋回を容易にさせようとする。


こうして急旋回することで、後部主砲の射角内に敵の艦尾を捉えることができた。

「ここで潰すっぽい!」

そして夕立が猛然と砲撃を浴びせかけるのであった。

251 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/09(月) 01:07:55.24 ID:nyn7NC7g0

夕立の猛攻に対してハ級は対応できず、撃たれるがままになっている。
まさか追いすがってくるとは思ってもいなかったのだから。

夕立の砲撃は数瞬のうちに後部に残った砲塔を叩き潰した。
反撃の手段を失ったハ級は一方的に叩かれ始める。

破壊された砲塔めがけて砲弾が撃ち込まれ続けた。

「つぶす……潰す潰す潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス!!」

やたらめったらの砲撃は、ハ級の後部をすり潰し、吹き飛ばし、原型を失わせつつある。

そして突然に後部付近で大爆発が起こった。
急に艦首がせり上がり、艦尾方向から沈んでゆく。

どうやら後部主砲の弾薬庫にまで砲撃が到達したらしい。
沈み始めてもなお、海底火山が噴火したかのような噴煙が立ち上っていた。

252 : ◆NpAbJPCwwM :2014/06/09(月) 01:14:52.94 ID:nyn7NC7g0
ようやっと夕立無双編を終わらせることができました。
このあと次につなげる内容を少し書いて、また視点を切り替えます。

今後は週刊にできるようがんばりたいです・・・。

それではおやすみなさい。

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/09(月) 07:41:09.39 ID:7BnPvZ4Lo
待ってたぞい
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/09(月) 16:43:38.79 ID:pjmGVDfpO
乙乙!
待ってたよ!
255 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:49:27.04 ID:rWUNk5RU0
艦これのオカルトに、かけば出てくるというものがある……

が、大鯨を自作に出せる余地が全く無いので投稿始めます。

256 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:50:40.38 ID:rWUNk5RU0

夕立は噴煙を上げつつ沈み行くハ級へと敬礼を送る。
見送るその表情からは何も読み取れなかった。

足止め程度でよかったところを、宣言通りに敵をすべて沈めて見せた。
十二分に目的を達成できている。

赫々たる大戦果であるものの、彼女には喜びや高揚感といった感情が見えない。

それもそのはず。
夕立の悦びや楽しみは、暉映の戦場にこそあるからだ。

257 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:51:40.41 ID:rWUNk5RU0

敬礼から直るとこれからの行動を組み立てる。

とりあえず霧島と摩耶に合流するのが先決だ。

予想される彼女らの現在位置に検討を付け、適当に南西方向に舳先を向ける。
あとの細かい操舵は妖精に任せておくべき範疇にあった。

その為、妖精の直接制御を解除して自立制御へと復帰させる。
それまで絶え間なく流れ込んで来ていた情報が一瞬にして途切れた。

艦橋天蓋に立ち尽くす夕立は、心地よい疲労感を味わっていた。
まだ戦闘が完全に終わったわけではないが、少しくらいは気を抜いても構わないだろう。

だが、正気に戻った妖精たちの喧騒がだんだんと大きくなってきた。

さもありなん。
気が付けば艦のあちこちがズタズタのボロボロなのだ。
あわせて各所で損傷のチェックと、応急修理が自動的に始まっていた。

これは一度艦橋に戻って式を取るべき状況だろう。

体をグーッと伸ばし、深呼吸して気分を入れ替える。

「提督さんのために、夕立もっとがんばるっぽい!」

次の戦闘へ向かうべく、気合も新たに艦橋へと戻っていった。

258 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:52:24.07 ID:rWUNk5RU0

自立制御へと復帰した駆逐艦《夕立》 の妖精たちは、混乱の極みにあった。

敵と接触したかと思ったら、いつの間にか消え失せている。
おまけに艦はあちこち破損しており、前部主砲は前衛的なオブジェに改造済みだ。

機関は特に酷い様で、機関要請が艦橋へ怒鳴り込みに行くと連絡が入っている。

いったい何があったのか、艦橋の妖精でも訳が分からない状態なのだ。
この艦の艦娘たる夕立に説明を求めなければならない。

そこにタイミングよく夕立が艦橋へと戻ってきたようだ。
誰もが彼女に説明を求めようと口を開こうとする。

だが、誰一人としてそこから声を発することはできなかった。

259 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:53:37.60 ID:rWUNk5RU0

その微妙な空気を壊したのは、機関を酷使されて怒り心頭の機関妖精だった。

「機関をムチャクチャに使いやがって!お嬢はいったい何を考えてるんだ!!」

突如艦橋へと怒鳴り込んできた機関妖精に皆の視線が向けられた。
無論、それには夕立も含まれる。

「ヒエッ」

夕立に見据えられた機関妖精は、それ以上何もいえなくなってしまう。
(何か恐ろしいものの片鱗を見た、と後にこの機関妖精は回想した)

ゆらりと歩み寄った夕立が、目の前に立った。

助けを求めるかの様に周りを見るが、誰もが機関妖精から目をそらす。
もはやこれまでと覚悟するが、またまた予想外の反応がある。

260 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:54:14.72 ID:rWUNk5RU0

「妖精さんごめんなさい!」

そこには手を合わせて謝る夕立がいる。

「機関にいっぱい無理させちゃったっぽい」

「お、おう……」

外見が大きく変わっていても、中身はいつもの夕立だった。
そのギャップであっけにとられた機関妖精は、生返事しかできない。

「わ、わかっているのならいいのです……」

機関妖精が錨を収めるのを見て、夕立に笑みが浮かぶ。
そして、でもねと断ると一転してまじめな表情で問いかける。

「まだ空母が残ってるから、もう一回無理するっぽい」

「だからもう少しがんばってほしいの」

そう真剣な表情でお願いされては、こう応えるしかない。

「おまかせあれ!」

そして他の妖精たちも気概を示し、

「指示を!」

「我らに命令を!」

口々に夕立へと指揮を求めた。

「みんな……もう少しだけお願いね」

「いいですとも!」

妖精たちの頼もしい応答に夕立が二カッと笑う。
その笑顔は、やはりいつもの夕立なのであった。

261 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 15:55:50.70 ID:rWUNk5RU0

戦意も新たにした《夕立》で、艦橋はにわかに騒がしくなる。

「艦の修理は期間を最優先でヨロシク。その次は兵装っぽい」

「合点!」

「霧島さんに連絡」
 『われ敵を殲滅せり。これより追撃に復帰する。現在位置を知らせ』

「承知!」

とりあえずの指示を終えてから、艦の状況報告を受ける。

《夕立》は魚雷を撃ち尽くし、砲火力は6割にまで落ち込んだ。
艦体はボロボロだし、機関は万全とは言いがたい。
中破相当の損害を受けている、と判定されるだろう。

それでも《夕立》は意気軒昂だ。
弾薬が心もとないのが気になるが、仕方ない。

一通りの指示を終えた夕立は艦長席に腰掛ける。
座ったとたんにぐっと沈み込むような感覚に、思わずため息が出そうになる

霧島から返答があるまでの僅かな時間であるが、休むことにした。

262 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/21(土) 16:14:25.34 ID:rWUNk5RU0

そして血相を変えた通信妖精が飛び込んでくる。

「《霧島》と連絡取れました!」

その只ならぬ様子から、ひったくる様に電文を受け取った。

『《霧島》及ビ《摩耶》ハ敵ノ反撃ヲ受ケ損傷。敵空母追撃ヲ断念。
  敵艦載機ノ襲撃ヲ受ケツツアリ。《夕立》ハ直チニ離脱セヨ』

電文に目を通す夕立の顔は驚愕の色に満ちる。
自分のいない間にいったい何があったのかと言う様に。

「どうなさいますか?」

回された電文で艦橋がざわつく中、妖精が何の感情も見せずに問いかけた。
くるくるといじっていた色濃い髪の先端から手を放すと、夕立は力強く答える。

「逃げないよ。助けに行く」

妖精たちにとってそれは予想された通りの回答だ。
仲間を見捨てて逃げるような艦娘でないのを、十二分に承知している。
もし僚艦が居たならば、この娘はそれを逃がしてから単艦で飛び込んで行くだろうと。

しかし、極めて不利な戦況にあるからこそ、敢えて言わねばならぬこともある。

「艦は中破しており、対空戦闘に不安があります。回避運動には特に」

艦砲戦ならいざ知らず、対空戦で行う盆踊り――対空回避運動は、
艦を絶え間なく右に左に走らせる必要がある。
今のところ問題ないが、期間を酷使したツケがいつ回ってくるか分からない。

「最悪の場合、機関故障で敵中に立ち往生する可能性があります」

「その時は――ハンモックを張ってでも、戦うよ!」

それは虚勢でもなく自棄でもなく信念であったが、無茶苦茶なのは言うまでもない。
だが、その危ういまでの真っ直ぐさ故に、妖精は放っておくことができない。

「霧島さんたちの現在予想地点を割り出して、その地点になるだけ急いで!」

「了解!」

妖精たちがすんなり従うのを見て、夕立は気遣われたのだと理解した。
危険は重々承知だが、敢えて忠告してくれたのだろう。

夕立は信ずべき妖精たちと共に、次のパーティ<戦争>へと繰り出すであった。

263 : ◆NpAbJPCwwM :2014/06/21(土) 16:17:14.96 ID:rWUNk5RU0
今日はここまでです。
熱が下がればまたあしたかく。

書きたい内容は盛り込めているが、ちゃんと文章になてるかいつも気になる。
ちょくちょく誤字脱字あてきつい。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/21(土) 19:24:32.05 ID:TFwUpNYK0
楽しみにしてるけど誤字すごいぞw
体調優先で是非
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/22(日) 07:09:54.30 ID:8P/cyeJfO
書けば出るのなら、>>1提督は夕立ザクザクだろうな
266 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/22(日) 21:14:56.38 ID:Y2Toeq2I0
あとがき読んだら、これ絶対に書かないパターンだと思ったので書くことにしました。
余計なことは書くものではないですね。

>>264
そんなに誤字多いですかね?自分ではちらほらという程度だったんですよ

>>265
うちの夕立は2-5でも5-2でも大活躍です!
なお、ドロップは……
267 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/22(日) 22:09:28.02 ID:Y2Toeq2I0

キス島撤退作戦支援を行う別働隊は、キス島包囲艦隊を誘引して撃滅した後、
複数の新たな敵艦隊に包囲されつつあり、二手に分かれて敵の足止めと撃滅を目論む。

《比叡》《大和》《綾波》からなる比叡支隊は、敵旗艦を《大和》の長距離砲撃で叩き、
霧島らによる敵空母撃滅まで敵残存艦と交戦しつつ足止めを行っていた……。


―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《比叡》艦橋

大和が戦闘開始を号令し、《大和》が砲撃を開始していたが、比叡は動かない。
既に射程内であったが、命中が期待できる距離まで待つことにしていたからだ。

敵艦隊は仇とばかりに《大和》へ砲撃を集中しており、それだけの余裕がある。

「ひえいさん。しゅほう、うつです?」

「まだよ。もう少し待ちなさい」

「ひえぇー!」

轟く《大和》の砲撃を尻目に、じれる妖精たちをなだめる。

「さっき軽巡とか沈めたでしょ」

「でもあれ、ふくほうでしたし」

敵戦艦の砲撃開始と共に肉薄雷撃せんと突撃してきた敵の軽巡と駆逐艦は、
暇をもてあましていた《綾波》に翻弄され引きずり回された挙句、
《大和》と《比叡》の副砲の射程内に押し込まれた。

そして双方からの十字砲火を浴びて、目的を果たせぬまま撃沈されている。

「もう少しだから。もう少しだけ待って……」

彼我距離は3万2千を切りつつあるが、近弾ばかり増えている。
敵艦隊が頻繁に舵を切るせいで、照準が定まらないのだ。

だからこそ比叡は、少しでも命中率を上げておきたかった。

お互いの尾を追いかけるようにリング状となった反航戦が開始されてから、
まもなく円の半分近くを回り終えようとしていた。

268 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/22(日) 22:10:26.61 ID:Y2Toeq2I0

「まもなく距離3万!」

「……よし! いい頃合ね」

「アイ!!」

敵への照準精度を意識しつつも、
35.6センチ砲でも十分ダメージを与えられる距離に差し掛かった。

砲術妖精もとうに準備を完了させている。
そして比叡が高らかに命令を唱える。

「主砲、撃ち方、始め!」

「てぇええええええええええ!」

《比叡》の主砲もようやく敵戦艦へと火を噴いたのだった。

269 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/22(日) 22:12:01.41 ID:Y2Toeq2I0

《比叡》の砲撃は敵艦隊に対して左舷の遠いところに3本の水柱を立てた。
1つ少ないのは、キス島包囲艦隊との戦闘で第三砲塔が旋回不可能になった為だ。

「照準修正は慌てず急いで」

妖精に指示を出しながら、何気なく前を進む大和へと目を向けた。

その刹那。先行く《大和》の周辺の水柱が立つと共に、いくつかの閃光が見える。
それは、これまでに無く大きな炸裂音と爆発を伴っていた。

270 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/06/22(日) 22:14:27.46 ID:Y2Toeq2I0

「《大和》に複数の命中弾!!」

見張妖精が叫ぶ!
《大和》は爆発による黒煙にもうもうと包まれ、被害状況が分からない。

比叡が問いかけようとしたその時、《大和》が変わらぬ間隔で砲撃したのだ。
それにより主砲が全て健在であることが分かる。

主砲発射の衝撃が、艦にまとわり付く黒煙を全て吹き飛ばす。
そして、主要部分はおろか、艦のシルエットが全く崩れていないことを表せて見せた。

(全く! なんて頼もしい戦艦なのかしら)

ただただ驚嘆するしかない比叡へと、砲術妖精の報告が飛ぶ。

「照準修正完了!」

「大和に続け!」

「ってぇええええええええ!」

お返しとばかりに比叡が叫び、そして砲術妖精も続いて主砲が轟く。

横目に見やるくろがねの城は、所々から煙を上げつつも頼もしいことこの上ない。
だが、大和は大和で思いもよらぬダメージを受けていたのだった。

271 : ◆NpAbJPCwwM :2014/06/22(日) 23:15:31.08 ID:Y2Toeq2I0
うん、ここで力尽きる。
くっそみじけぇ
他の作品すごく面白い。

週末にはまた投稿できると思います。

272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/22(日) 23:49:32.36 ID:/IwlmKgFO
君の作品すごく面白い
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/22(日) 23:50:56.67 ID:/IwlmKgFO
しまった最後に句点入れるの忘れた
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/22(日) 23:53:05.27 ID:pvD0gCKSo
乙です
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/23(月) 08:56:57.52 ID:yb1oSa+bO
乙!
早く体調直して、続きを頼む
276 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 16:09:34.75 ID:O3Y6GZ0a0
どうもこんにちは。
拙作をお読み頂きありがとうございます。

続きの投下をはじめようと思いましたが、
>>258>>259のあいだの部分が抜けてたので以下に補足します。
無くても違和感なさげですが、一応。

277 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 16:10:25.66 ID:O3Y6GZ0a0
----------------------------------------------------
艦橋に現れた夕立の姿に思わず息を呑む。

傷ついても尚ぎらつく真紅の瞳と、艶やかに染まった桜色の髪。

その変貌を目の当たりにして、彼女が何をしでかしたのか大体の察しはつく。
これまでの戦いぶりから、なんとな思い当たる節がいくつもあった。
そうでなくては、駆逐艦《夕立》の妖精は勤まらない。

だが、そこまで禍々しいまでにグレた外見は予想外もいいところである。

困惑する妖精たちを気にも留めず、夕立は艦長席へと進んだ。
-----------------------------------------------------
278 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 16:13:36.39 ID:O3Y6GZ0a0
続きは今夜にかきます
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/06(日) 17:56:08.87 ID:6FTdu+BJo
乙です
280 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 23:47:05.90 ID:O3Y6GZ0a0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《大和》

「被害報告急いで! 主砲は!?」

着弾の衝撃でよろめきつつ、大和はあわてた様子で指示を出す。
それは主砲が発射直前だったからのだから無理も無い。

自身が大したダメージを受けていないことは感覚で分かるのだが、
艤装の隅々までは妖精のサポートが無ければ目が届かない。

「第一、第二砲塔異常なし……。第三砲塔も同様!」

「主砲発射に問題なし!!」

運用、砲術妖精たちの報告に一応の安堵を得る。
続けて、詳細な被害報告が入り始めた。

「報告!第三砲塔天蓋装甲に命中するも被害なし」

「報告!第二砲塔付近の舷側装甲に命中するも被害なし。
  尚、付近の機銃及び高角砲が複数損壊。火災発生中につき消火作業中!」

「報告!主砲予備射撃指揮所壊滅!敵弾は不発のまま貫通して海へ」

後部艦橋の指揮所壊滅はそれなりのダメージだが、所詮は予備でしかない。

艦の戦闘力に全く影響が無いことを確認した大和はお返しとばかりに主砲を放つ。

「撃てえぇええええ!!!」

46センチ砲三基九門の方向は、敵弾の炸裂でまとわりついた黒煙を払いのけた。
そうして開けた前部甲板に目を向ければ、並ぶ主砲は少しも傷ついていない。

だが、止める術が無いかに見えた大和の巨砲は、思わぬところでつまづくことになる。

「報告!方位盤照準射撃装置故障!!」

281 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 23:50:09.43 ID:O3Y6GZ0a0

「なんですって!?」

予想外の報告に大和は驚くしかない。

「現在復旧作業中。完了までおよそ一時間!」

「30分で仕上げなさい!」

「なっ!?――了解しました!!」

無茶な指示に絶句しかけるが、その意図が分からないわけではない。
今まさに砲撃戦の真っ最中にあるのだから。


方位盤が使えなくなった場合には、予備射撃指揮所の方位盤に切り替えられる。
だが、その予備システムが不運にも破壊されており、全く使用できない。

方位盤が使用できなければ、方位盤射撃――全砲門による統一した砲撃は不可能だ。
敵艦に対して火力を集中することができない。

各砲塔にも照準装置はあるが、方位盤と比べて命中精度の低下は避けられない。
艦橋トップの射撃指揮所と砲塔では、高度の差から見える範囲が狭まるからだ。


思わぬところから出た障害の大きさに、大和の表情は険しい。
命中率の低下を避けられないこの状態では、敵艦隊の撃退は難しくなるだろう。

そして観測妖精の報告が、更に大和の表情を苦々しいものに変える。

「だんちゃーく、今!――敵艦に命中弾!!」

轟沈した旗艦に変わって先頭を進む敵二番艦の、第三砲塔が爆発するのが見えた。

282 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 23:54:01.13 ID:O3Y6GZ0a0

夾叉に夾叉を重ねてようやく得られた命中弾は、残念極まりないタイミングだった。
方位盤が復旧できなければ、それが最後となるかもしれない。

「方位盤故障につき、各砲塔は砲側照準で砲撃を続行せよ!」

「アイ!」

「見張、観測は砲撃の着弾観測よろしくね」

「了解!」

各個に射撃させることで、まとまりの無い砲撃戦になるのは間違いない。

そして、そのような状況にあることを連絡せねばならぬことも、情けなかった。



<こちら大和。比叡さんよろしいですか?>

少しの間があってから比叡が応える。

<あはい、呼びました?>

<先ほどの砲撃で方位盤照準装置が故障しまして、現在砲側照準で応戦中です>

<ありゃりゃ……。よく見れば後部指揮所も潰れてるものね>

<復旧まで早くても30分は掛ります>

<分かったわ>

<それと、もしもの場合は戦闘指揮をお願いします>

<仕方ないわね……。とにかく早く修理なさい。私じゃヤツらを潰しきれない>

<はい。修理急がせます。それまで申し訳ありませんが……>

<はいはい、まっかせてー! 通信おわり>

そうして通信を切った比叡の明るい調子は、酢なのか配慮なのか分からない。
少なくともやるべきことがある今は、気にする余裕も無かった。

283 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/06(日) 23:56:51.89 ID:O3Y6GZ0a0

砲側照準に切り替えた《大和》の砲撃は、予想通りまとまりの無いものとなった。
砲塔ごとの射撃間隔はもとより、数度の交互射撃を経ても照準のズレが大きい。

目標は引き続き敵二番艦に定めていたが、至近弾すら得られなくなっていた。

「マズイ、わね……」

苦い表情のまま腕組した大和のつぶやきは、その心情を表すかの様に重い。

《大和》はだいたい30秒間隔で交互射撃を行って、照準修正を繰り返していた。
だが、反航かつ円を描くように複雑な航行をしている為、照準が定まらない。

「すこし、訓練がたりなかったようです」

「かなり、の間違いじゃないかしら」

砲術妖精の苦し紛れのフォローを、大和はばっさりと切り捨てた。

実際、《大和》の演習頻度は他の艦娘と比べても、最低限に近い。
最強を謳われるだけあって、資材消費量もまた断トツなのがその理由だ。
全力で訓練しようものなら、一個水雷戦隊分の資材が必要になる。

その為、訓練のほとんどが主砲斉射の練度向上に費やされていた。
砲側照準での射撃訓練は数えるほどにしか行われていない。

そのツケが今になって、大和に重くのしかかっている。

「ぶざまね……」

「数撃ちゃあたります!!」

砲戦距離は2万5千を切っている。
《大和》が下手な鉄砲を撃つのに対し、ル級は次々と命中弾を送ってくる。
だが、その超重装甲はル級の命中弾をことごとく跳ね返していた。

「あっ! 至近弾! 至近弾です!」

「見事だわ。敵”三番艦”への至近弾……」

敵二番艦を狙ったはずの砲弾は、事もあろうか三番艦艦首付近への至近弾となる。
自分の事ながら、ここまでひどいのは想定外だった。

だがその一撃は、この戦闘に一石を投じる形となった。

284 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/07(月) 00:00:31.15 ID:zTUFc2UM0

―― キス島北方海域 深海棲艦 水上打撃部隊(増援)

『ナンダ……コレハ……』

二番艦の位置にあるル級bは、敵戦艦の挙動がおかしいことに気が付く。

自身の第三砲塔へと命中弾をぶち当てて以降は、主砲斉射を行っていない。
そして、砲塔が個別に砲撃を始めた途端に、着弾がデタラメになった。

『アイツ、マサカ……』

何らかの故障により、正確な測的や主砲斉射が不可能になったのではないか、と

その疑問には敵戦艦の新たな弾着が解釈の材料を与えた。
自身に向けられているはずの砲弾が、一発だけだが後ろを進む三番艦への至近弾となる。

『ソウカ……、ソウナンダナ!!』

敵戦艦は射撃システムが不調でまともな砲撃ができなくなっている、と。
欺瞞の可能性も考慮するが、こちらの砲撃が通らない以上は何らかの打開策が必要だ。

だからこそ、思い切った戦術を取ることに躊躇は無い。

『トツゲキ、スル!!』

ル級bは仲間に援護を指示すると、敵戦艦の土手っ腹めがけて舵を切る。
一気に距離を詰めようと、機関一杯まで回して加速をかけた。

いくら命中弾を与えてもダメージが通らないなら、接近して撃ち込めばいい。
敵の主砲がどれだけ強力でも、当たらなければどうと言う事は無い。

『バケモノメ……。ミナソコニ、オトシテヤル!』

自らの手で戦況を決すべく、《大和》へと突撃を開始した。
285 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/07(月) 00:08:26.88 ID:zTUFc2UM0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《大和》

「敵二番艦まっすぐ突っ込んでくる!!」

見張妖精の悲鳴にも似た報告が《大和》の艦橋に響く。

「針路そのまま! 方位盤修理は?」

「あと10分」

「とにかく接近阻止!」

「主砲はしっかり狙って!」

大和の、妖精たちの指示や報告が入り乱れる。

(くっ……。でも、当然でしょうね)

敵の思い切りの良さに驚きつつも、さもありなんと思う自分がいる。
あれだけ外したのだから、《大和》が砲撃不調であると見るのは当然だ。

「深海棲艦がわざわざ近づいてきてくれるのよ!」

「このまま当てられないなら、帰ったら一から鍛えなおしの猛訓練です」

発破をかける大和へ、妖精のつっこみが入る。

「あの、燃料は大丈夫なんですか?」

「み、みんなでタンクの底に残った油をかき集めてでもやるのよ!」

はじめから帳簿外の燃料を当てにする辺り、残念ながら不安しか残らない。
それでも訓練ができることに喜ぶ妖精もいる。

「当てても外しても油さらいだ!準備出来次第砲撃開始!」

砲術妖精が叫んだ後に、連続した砲撃音が轟く。
そうして放たれた砲弾は、ついに敵艦へと届いた。

286 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/07(月) 00:13:34.51 ID:zTUFc2UM0

「だんちゃーく、今!――敵艦右舷中央に至近弾!」

命中ではないものの、その衝撃だけで付近の両用砲や機銃が数基もぎ取られる。
当然ながら、それだけで敵の足が止まるわけが無い。

「脇腹をかすっただけか」

方位盤が使えなくなってから、ようやく与えられたダメージだった。
もっとも、ダメージと呼べるか怪しいものではある。

それに対して、《大和》には断続的に砲弾が降り注いでいる。
おそらく、近距離まで接近されない限りは、バイタルパートを抜かれる事はない。

だが、その他の部分はそうもいかない。
現に甲板の各所には穴が開いて板がささくれ立っているし、カタパルトはもぎ取られた。
戦闘力は全く減じていないが、見た目にはとても痛々しい。

大和らが砲撃を開始してから、もう少しで円の3/4を周り終えようとしていた。

287 : ◆NpAbJPCwwM :2014/07/07(月) 00:25:03.86 ID:zTUFc2UM0
ほげぇえええええええええええ
ほげぇえええええええええええ

すいませんが、今宵はここまでに致しとうござります。

続きはがんばって書く。大鯨ほしい。早く書きたい。
早ければ来週、遅くとも再来週には書きますので。

288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/07(月) 00:31:07.52 ID:JF9wpdhVo
乙です
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/07(月) 10:26:10.45 ID:BZwJ9Q9oO
おつおつ!
熱いな!
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/17(木) 19:21:15.66 ID:yeS6foxso
まってーる
291 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/28(月) 00:29:47.33 ID:UkRctbYj0
大鯨は何処にありや。何処にありや。全俺は知らんと欲ス。

なんかもうすいません。
短いですが初めます。


292 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/28(月) 00:31:08.88 ID:UkRctbYj0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《比叡》

「敵二番艦針路変更!まっすぐ《大和》に突撃する模様!」

《大和》の不調を見破って、一気に勝負をつけようとするらしい。
比叡はせっかく敵二番艦に夾叉を得られたところで、取舵をとられてしまった。

無論、このまま行かせるわけには行かない。

「斉射で行くわよ。測的急いで!」

今の《大和》では横合いから一直線に来るル級に当てることも難しいだろう。
ここはなんとしても《比叡》が、比叡が止めなければならない。

「測的完了!」

砲塔が小刻みに動き、ル級へと砲口を向ける。

「砲撃準備完了!」

「撃てぇええ!」

46センチ砲には及ばないが、それでも姉譲りの装備には愛着も自信もある。
威力はともかく、その練度の高さを敵艦への着弾で示して見せた。

「だんちゃーく、今! ――近、夾叉! 敵艦夾叉!」

「その調子よ!」

観測妖精の弾むような声を上げれば、比叡もそれに乗る。

「次弾装填完了」

「撃てぇえええええええええ!」

そうして放たれた砲弾は、ついにル級へと届いた。

293 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/28(月) 00:50:39.24 ID:UkRctbYj0

比叡は敵艦に見えた命中弾の閃光に、自然と言葉が漏れる。

「やったか!?」

ル級の第一砲塔と艦橋基部でのそれだったっことから無理もない。
だから対する妖精の報告が無慈悲に聞こえる。

「ダメです! 装甲に跳ね返されてます」

第一砲塔、そして艦橋の司令塔の側面に命中していたが、貫通できていない。
比較的装甲が薄い方ではあるが、35.6cmにはそれなりに耐えられるよう出来ていた。

「ひるむな! 撃ち続けて!」

「てぇえええ!」

比叡が叫び、妖精が応える。

再びル級への命中を見るものの、やはり装甲に跳ね返されていた。
第二砲塔の砲座に阻まれ、煙突付近の左舷両用砲を数基吹き飛ばすに留まる。

撃破するにはもう少し近づくか、装甲の薄い部分を狙うしかない。
だが、そう易々とは行くはずがない。

「!?――敵戦艦主砲、本艦へ指向中!!」

着弾による黒煙が晴れたル級の前部甲板で、砲身をもたげる様子がよく見えた。
《比叡》へと矛先を変え、間もなく放たれた。

「敵艦発砲!!」

294 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/28(月) 00:53:33.41 ID:UkRctbYj0

ル級が放った6発の砲弾は、着弾で比叡と同等の精度を見せる。
すなわち、初弾で夾叉させてきたのだ。

「ヤツの足、艦尾を狙って!行き足を止めます」

夾叉された以上はいつ命中してもおかしくない。
こちらの砲撃は弾かれるが、敵の砲撃はこちらの装甲を撃ち抜ける。

「敵艦発砲!」

「砲撃急げ!!」

だからこそ、やられる前にやるしかない。

それゆえ比叡は装甲の薄い艦尾へと狙いを変えた。
撃破できなくとも、航行不能に追い込める可能性はある。

「照準修正完了。砲撃よし!」

「撃てぇぇええ!」

比叡の命令に砲術妖精たちが驚くべき速さで対応し、砲弾を放った。

295 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/07/28(月) 00:55:30.17 ID:UkRctbYj0

すみませんここまでです。
ワハハ
短い。短い。ワハハ……

296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/28(月) 01:03:00.51 ID:4IhKj2DTo
乙です
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/28(月) 14:38:27.13 ID:nb6bxnL1O
乙!
緊迫感!
続きはよ
298 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:24:17.61 ID:K90fqjBD0
また間が開いてしまいまして申し訳ありません。

ねんがんの大鯨をようやっと手に入れられました。

それでははじめましょう。
299 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:26:39.54 ID:K90fqjBD0

そしてその砲撃と入れ替わるように《比叡》へと砲弾が降り注ぐ。
水柱に混じっていくつかの閃光が瞬いた。

「ひえーーー!!」

響き渡る衝撃音と共に、爆発が《比叡》を大きく揺さぶる。
早くも直撃弾を受けたのだ。

「前部甲板に被弾あり!」

いち早く動いた見張妖精が被害報告を行う。

前甲板に目を向ければ、第一砲塔と右舷側舷側の間に開いた大穴から黒煙が噴出している。
ちらちらと赤い炎も見え隠れしていた。

(大丈夫・・・・・・ダメージは重くない)

艦体に意識を巡らせていると、間もなく被害報告が入り始めた。

「報告!第三砲塔に被弾。左砲の砲身破断!」

「報告!敵弾は舷側装甲を貫通し、第一砲塔バーベット部に命中炸裂!」

舷側側装甲貫通時に威力を減じた砲弾は、バーベット部を貫通出来ぬまま炸裂した。
そして付近に破壊を撒き散らし、火災を発生させている。
甲板に開いた穴はこの爆発で生じたものだ。

「第一砲塔は!? 砲撃は大丈夫なの??」

既に使用不可能な第三砲塔はともかく、火力がこれ以上失われるのは厳しい。

「第一砲塔損傷軽微。砲撃いけます!」

被弾箇所だけに思わず慌てた比叡は、砲術妖精の報告に安堵した。

「装填急いで!」

「アイ!」

砲撃を急かしつつも、比叡は気が気でない。

いまの砲塔基部への被弾は、舷側装甲が無ければ防ぎきれなかった。
もしも直撃していたならば、たやすく突き破られていたと思われる。
さらに距離が詰まれば、もはや《比叡》の装甲に意味は無い。

そして悲観的な自己分析は、敵艦への命中弾を合図に打ち切られた。

「だんちゃーく、今!――敵艦後部に命中弾!」

300 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:29:22.58 ID:K90fqjBD0

《比叡》の砲撃はル級bに二発の命中弾をもたらした。

狙ったとおりの艦尾へと着弾すると、その周囲構造物を爆発と共に吹き飛ばす。
が、文字通り吹き飛ばしただけで、機関のある下層甲板までダメージが及んでいない。

もう一発は《大和》が叩き潰した第三砲塔に追い討ちをかけるに留まる。

「一発だけじゃダメか・・・・・・」

爆発炎上するル級bを艦尾を見るその表情は明るくない。

「砲撃準備よし!」

「撃て!」

その為か、比叡の号令も短く鋭いものとなった。
余裕がなくなってきているのだ。

そもそも敵艦隊牽制が目的だったが、今は迫り来る戦艦との殴り合いになっている。
少々分が悪くとも《比叡》は十分に渡り合えているが、それ以上ではない。

だが、クリーンヒットがあれば耐えることは出来ないだろう。
ちょっとしたことで戦況はいともたやすく覆るのだ。
戦争とはそういうものだから。

だからこの海戦も例外ではない。

301 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:32:58.74 ID:K90fqjBD0

「報告!」第一砲塔上部揚弾薬機故障!揚弾中に筒内で停止中」

「なっ!?」

被弾しても無傷に見えた第一砲塔は、ここに来てダメージが表面化した。
突然やってきた凶報で厳しい表情の比叡を尻目に、砲術妖精が確認する。

「修理可能なのか?」

「確認中です」

「換装室から装薬戻せ!それが最優先だ!修理も急げよ」

「了解!」

比叡ら金剛型の親戚がそうであったように、砲塔内部に残された装薬に誘爆した場合、
砲塔内部のみならず弾薬庫にまで火が回る可能性がある。
だからこそ最優先で装薬片付けるよう指示したのだ。



これで《比叡》の火力は半減したが、まだ半分は残っている。
まだ戦えるのだ。

「無事な第二、第四主砲で攻撃しま――

比叡は全てを言い終える前に、これまでとは異なる大きな衝撃を受けて倒れこむ。
共に響く爆音もこれまで以上に大きい。

うぐっ・・・・・・あぁぁぁぁ!!」

(被弾・・・…したの!?)

302 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:35:09.30 ID:K90fqjBD0

痛みをこらえて立ち上がれば、《比叡》はかなりのダメージを受けていた。

「第二砲塔被弾!あっ、第一砲塔も同じく直撃弾!」

「第一砲塔及び弾薬庫に緊急注水!」

敵弾は第一砲塔前盾を貫通したところで炸裂し、天蓋装甲を歪ませ内部を破壊し尽くした。
火災は発生していないようだが、見張の報告を受けて即座に注水を命じた。

「報告!第二砲塔大破。使用不能!」

「報告!艦橋後部右舷側に被弾。付近の副砲・機銃損傷!火災発生中!」

「消化急げ!」

報告とそれに対する指示が入り乱れ、艦橋の喧騒は一層激しくなった。

第二砲塔は天蓋と前盾の接合部を貫通されて叩き潰された。
艦橋後部右舷への命中弾は、艦内で炸裂すると周囲の構造物を吹き飛ばし大穴を開けた。

立て続けの被弾で《比叡》の右舷側副砲は全て破壊され、主砲も一基残すのみ。
数々の至近弾で、艤装や甲板は傷だらけになっている。

(お姉さま譲りの装備をこんなに……くっ、許さない……)

「許さないんだからー!!」

怒りに震える比叡が、残った一基ニ門の主砲を放った。

それをあざ笑うかの様に、再び《比叡》へと砲弾が降り注ぐ。
着弾は後部に集中しており、第四砲塔を狙ったのは明白だ。

それにより飛行甲板は粉砕され、舷側への被弾により浸水が発生している。

「くっ……左舷注水。傾斜復元急いで!」

第一砲塔注水と後部浸水により速度が落ちるものの、それでもまだ高速は出せていた。

303 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:37:49.07 ID:K90fqjBD0

そして火力が減じていようとも、《比叡》の砲撃は的確にダメージを与えていた。

「だんちゃーく、今!――命中、敵艦尾に命中弾!」

一発しか命中しなかったものの、艦尾の舵取機室に直撃して操舵装置を破壊した。
これにより舵を固定されたル級bは、両舷の速度調整による操舵をしいられる。

航行に師匠をきたしたル級bは、牌よるように進むしかない。
それでも負けじと《比叡》に向けて砲撃を繰り返した。

304 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:39:00.78 ID:K90fqjBD0

そして火力が減じていようとも、《比叡》の砲撃は的確にダメージを与えていた。

「だんちゃーく、今!――命中、敵艦尾に命中弾!」

一発しか命中しなかったものの、艦尾の舵取機室に直撃して操舵装置を破壊した。
これにより舵を固定されたル級bは、両舷の速度調整による操舵をしいられる。

航行に支障をきたしたル級bは、はいよる様に進むしかない。
それでも負けじと《比叡》に向けて砲撃を繰り返した。

305 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:40:04.05 ID:K90fqjBD0
あれ
止めた筈が二重になっちまった
306 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:46:48.93 ID:K90fqjBD0

そうこうしているうちに、ようやく修理を終えようとする大和からの連絡が入る。

<こちら大和。お待たせしました。間もなく修理完了します!>

<遅い!>

<も、申し訳ありません>

<とっととアイツをぶっ潰すわよ!>

<いえ、あとは大和にお任せ下さい。比叡さんは一旦後退を―――>

<下がれ、ですって!? 冗談じゃない!>

着任してから日の浅い大和にとって、ここまで激昂する比叡は初めてだった。
何がスイッチとなるのか、それが分かるほど付き合いは深くない。

<一方的に撃たれたままで、おめおめと帰れっての!?>

<しかし、それ以上被弾しては危険です>

<やられっぱなしで退ける訳ないでしょ!>

<金剛型の二番艦。金剛お姉さまの妹分なのよ、私は!!>

裂帛の声で名乗るその名は、まさに彼女の拠り所となるものだった。
神聖にして不可侵の誇りを汚されたままにしておける訳が無い。

「砲撃準備完了!」

<比叡さん!>

砲術妖精の報告に、大和の制止を無視して比叡は叫ぶ。
怒れる金剛型二番艦は砲撃を続行した。

「まだまだ……気合!入れて!行きます!」

「撃てええぇええ!」

そうして放たれた砲弾は、ル級bの艦後部への至近弾となって海中へ没した。

だが、気合をこめられた為か、砲弾は水中弾効果を発揮して左舷側スクリューに直撃。
これを破壊して推進力を半減させ、更には大量の浸水を発生させた。

この被害と操舵不能が重なれば、もはやまともな航行は望めない。

撃沈こそ出来なかったものの、格上の戦艦を行動不能に追い込んだのである。

307 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:51:04.83 ID:K90fqjBD0

―― キス島北方海域 別働隊 比叡支隊 戦艦《大和》

《大和》の方位盤故障の修復完了まで敵牽制を担う《比叡》が被弾する度に、
大和は悲痛な面持ちで、それを見ているしかなかった。

「《比叡》第一砲塔右舷側舷側に被弾!」

後方に目を向けている見張妖精の報告が入る。

敵艦の矛先を牽制に入った《比叡》が受け止めていることで、修理はやりやすくなった。
流石ベテランだけあって、ル級bへと的確に命中弾を送り込んでいる。

だが、貫通できていない。

(35.6センチ砲では無理か……)

艦橋では大和へと妖精たちがチラチラと視線を向けていた。
あせり始めて平常心を失いつつあるのが、隠しようも無いほど出ているからだろう。

「《比叡》被弾!第一砲塔及び第二砲塔、艦橋後部に命中弾!火災発生を認む」

「方位盤修理の状況しらせ!」

見張妖精の報告を聞いてしまっては耐えられず、妖精を急かしてしまった。

「あと五分程度で完了見込です!」

「急いで!《比叡》が危ない」

大和にはもう急がせるしか方法がない。

308 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:52:32.11 ID:K90fqjBD0

一方、《比叡》は傷つけども負けじと主砲を放っている。
それを止めようとしてか、ル級bは《比叡》の後部へと砲撃を集中させたようだ。
その付近に立て続けに着弾を受けている。

だが《比叡》もやられっぱなしではない。
ル級bの艦尾へと命中弾を送り込んだところ、その速度がガクリと落ちた。

「もう間もなく修理完了します!」

その報告を受けて即座に、比叡へと連絡を入れた。

<こちら大和。お待たせしました。間もなく修理完了します!>

309 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:55:11.34 ID:K90fqjBD0

大和は牽制役を十分に果たした比叡に下がるよう伝えるが、聞き入れない。

<金剛型の二番艦。金剛お姉さまの妹分なのよ、私は!!>

<比叡さん!>

大和は比叡をなんとか止めようとするものの、《比叡》は砲撃を行う。
そして、それが最後の砲撃となった。

「《比叡》被弾!」

その後に《比叡》へ降り注いだ砲弾は、いくつかの水柱と二つの閃光に変わった。

一つ目は、たった一つ残った砲塔を叩き潰し、主砲火力を全て喪失させた。
もう一発は艦橋の機銃甲板に命中し、艦橋上部は爆炎に覆われた。

<比叡さん、比叡さん!>

呼びかけるも反応は無い。

黒煙が吹き去った後に《比叡》を見れば、半壊して傾いている艦橋があった。
艦橋中央部は抉り取られた様に跡形も無く、射撃指揮所は頂上部から外れかかっている。

「なっ!?」

あまりの状態に言葉を失い掛けるが、次の瞬間の見張妖精の報告で我に返る。

「敵二番艦に至近弾。――いえ、行き足止まります!」

至近に水柱が上がった後、ル級bはぶるりと身を震わせれば、その行き足が完全に止まった。
心なしか左に向かいながら、傾きつつあるように見える。

310 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 01:58:42.30 ID:K90fqjBD0

そして、待ち望んだ報告が上がる。

「方位盤修理完了!測的開始します」

「主砲、斉射用意……!」

大和が命じるまでも無く、既に準備は出来ていた。
その時間は十分に比叡が作り出してくれたのだから。

「測的完了!」

「砲撃準備完了!」

砲術妖精が方位盤の示す数値で最後の調整を行うことで、準備は完了する。

カッと敵を睨み付けながら、怒りを含ませて大和が叫ぶ。

「撃てぇえええ!」

砲術妖精が引き金を引けば、耳をつんざく轟音と火焔が噴き上がった。
そして、それらより速くに砲口を飛び出した徹甲弾が敵艦へと飛翔する。

311 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 02:01:16.17 ID:K90fqjBD0

「だんちゃーく、今!」

ル級bへと突き進んだ砲弾は、まるで吸い込まれたかのように叩き付けられた。
水柱が吹き上がると共に、艦上にいくつもの爆発が起こる。

砲煙が晴れたル級bを見れば、もはや原形を止めてはいない。
艦首から艦尾まで万遍なく被弾して、上部構造物が徹底的に破壊されていた。

非装甲の艦首部へ飛び込んだ砲弾は、下部甲板付近で炸裂して周囲を吹き飛ばすに留まる。

そして、第一砲塔は前盾を、第二砲塔は天蓋装甲を難なく貫通して叩き潰した。

更には分厚い装甲を持つはずの艦橋下部司令塔でさえも《大和》の徹甲弾を防ぐことは出来ず、
その衝撃と爆発は艦橋を倒壊させてしまう。

他にも艦橋を貫通して二本の煙突をなぎ倒した勢いで艦内に飛び込んだ砲弾が、
缶室に踊り込んだところで炸裂し、ちょうど右舷側のタービンにダメージを与えた。
これによりル級bの機関は完全に破壊されたことになる。

最後は艦尾右舷の舷側装甲を喫水線付近で貫通し、浸水を加速させている。

もはや戦艦としての攻撃力や航行能力は永遠に失われた。
手足をもがれたル級bが水底へ還るのにはそう時間も掛らないだろう。

打ち倒された《比叡》の仇を、大和は見事に取って見せたのである。

312 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/08/11(月) 02:04:54.34 ID:K90fqjBD0

しかしながら、《比叡》はまだ沈んではいない。
見張妖精がそれを知らせた。

「《比叡》落伍します!」

敵艦隊との相対位置と距離を維持するために行った針路変更に《比叡》は追随できず、
以前の針路を維持したまま南へ向かって行った。

<比叡さん!聞こえますか、比叡さん!>

《比叡》によりそう綾波が絶え間なく呼びかけているが、反応は無い。

<大和さん!比叡さんの応答がありません。ですが、機関は稼動しています>

機関が生きているということは、艦娘が生きていることの証左だ。
艦橋への被弾による衝撃で、意識を失っているのだろう。
おそらく負傷しており、下手をすれば重症の可能性すらある。

<綾波はそのまま《比叡》の護衛について退避して下さい>

綾波の報告を受けて、大和は素早く決断を下した。

<了解!……大和さんは、後退しないのですか?>

<先に行ってて下さい。あの残った二隻を……ぶっ飛ばしてきますから!>

大破状態の《比叡》を退避させ、追撃してくるだろう敵艦を先に叩く。
これが現状では最適だろうと考えた。

<それはそれは。ですが、程々になさいませ>

綾波の口調は軽いが、下手をすれば逃げ損なう可能性を警告している。
武勲ゆえか、前世ゆえか、なかなかの説得力を持って聞こえる。

<ええ、無理はしないわ……>

そうして返せば、大和の意識は残った二隻のル級へと向けられた。

313 : ◆NpAbJPCwwM :2014/08/11(月) 02:10:20.59 ID:K90fqjBD0
今回はここで終わりとさせて頂きます。
ちらほら誤字あってへこむ
続きはまた今月中にはなんとか……

大鯨かわいいです
あとは龍鳳と龍鳳改の捕鯨しなきゃ……

イベントなんて知らない子ですよ!

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/11(月) 09:58:35.55 ID:q1P8HXXxo
乙です
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/11(月) 11:27:20.60 ID:yKLhd10KO
乙乙乙
316 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2014/09/09(火) 00:07:06.56 ID:9i3cC09Y0
生きてます。諦めてません
週末にまた書きます
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/09(火) 00:31:03.20 ID:5NGBTMkuo
待ってる…
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/09(火) 01:52:04.85 ID:HrC0BRYL0
<<よう相棒、まだ生きてるか?>>
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/09(火) 19:08:34.94 ID:IYtxVo53O
まってるぜ
320 :</b> ◇NpAbJPCwwM<b> [sage]:2014/09/21(日) 23:44:44.71 ID:qlfz64Mn0
週末に書くといったが、いつのとは指定していない。
つまり、その気になれば……

すいません、マジすいません
短いですがはじめます
321 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2014/09/21(日) 23:45:35.19 ID:qlfz64Mn0
てすと
322 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/09/21(日) 23:48:24.43 ID:qlfz64Mn0

「さぁ、みんな!私たちの戦争はまだ終わっていないのよ」

仲間を沈められて狼狽したのか、一時は砲撃が止んだ深海棲艦は既に動き出している。
その反撃の衝撃に揺らぐことも無く、大和は高らかに命令を発した。

「これより残った二隻への反撃を開始します」

「面舵一杯!敵艦隊と針路同航となせ!」

「おもーかーじ、いっぱーい!」

操舵妖精が復唱すれば、観測妖精が敵艦の針路を告げる。

「敵艦針路0-2-0」

続く大和の命令に、砲術妖精が短く、しかし力強く応える。

「針路変更完了次第、直ちに砲撃開始」

「左砲戦よーい!」

そして、ようやく舵が効き始めた《大和》が敵艦に向かって旋回を始める。
二隻のル級にとっては、意趣返しとばかりに突撃してくるかに見えた。

それを見越して転舵後を狙うべく、照準を変えて予想位置へと砲弾をばら撒く。
丁字有利を見越したものだったが、それは空振りに終わった。

《大和》がその巨艦に見合わぬ旋回性能で、見る間に同航戦へと位置を変えたからだ。

323 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/09/21(日) 23:52:25.94 ID:qlfz64Mn0

「よーそろー、0-2-0」

針路が固定されたところで測的が開始され、敵艦へと主砲が差し向けられる。

「さて、やられた分はきっちりとお返しさせて頂きますね」

「ひぁうぃーごー!ひぁうぃーごー!」

どこと無く楽しげな様子の大和に、艦橋詰めの妖精たちも気勢をあげた。

「砲撃準備良シ!」

「全主砲、薙ぎ払え!」

「撃ェ!!」

324 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/09/21(日) 23:56:52.13 ID:qlfz64Mn0

後方で立ち上る水柱を尻目に、《大和》は二万の距離を以って砲撃を開始する。
これまでの鬱憤を晴らすかのように徹底的に、そして一方的に叩いた。

敵三番艦のル級cは《大和》と三度撃ち合うものの、その度に主砲を潰され火力を喪失。
艦橋が倒壊していない事を除けば、甲板上はル級bと同様にボロボロだった。
一切の攻撃力を失い、ただ彷徨える鉄屑となっている。

それを見た四番艦のル級dは、かなうまいと取舵を切って逃げに掛ろうとするものの、
海中を直進した砲弾の直撃を受けて、艦前方水線下装甲を貫かれてしまう。

致命傷となならなかったが、被弾箇所に大浸水を発生させた。
更には発生した火災による弾薬誘爆を恐れ、弾薬庫注水で火力の1/3を喪失。

流れ込む多量の海水と弾薬庫への注水は艦の速度を低下させ、更なる被弾を招く。

そのようにのろまな戦艦の背中を叩いて仲間の後を追わせる事は、
大和にとって造作も無いことであった。

325 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/09/22(月) 00:00:46.98 ID:84LiY2Jg0
拙作をお読み頂きありがとうございます。
今宵はここまでにしとうございます。

続きは早ければ数日中に書く、書きたい、書ければいいなぁ……

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 00:14:58.29 ID:yJhZwzk+o
乙です
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 07:59:07.77 ID:OXzC62o/O

相変わらず戦闘描写いいね
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 15:24:06.23 ID:2yvJJ80uO
乙、待ってた
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/08(水) 00:10:39.91 ID:fQs1BuJwO
続きを楽しみに待ってるぜ
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/18(土) 15:44:44.44 ID:ly1c1KuXo
まだかい
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/07(金) 18:11:22.14 ID:2kDS1BUjo
数日中とは……
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/12(水) 07:54:22.01 ID:zOrra07tO
ちょ
エタるのだけはやめてくれ
333 :</b> ◇NpAbJPCwwM<b> [sage saga]:2014/11/14(金) 00:25:08.98 ID:vEZejJW10
だ、大丈夫だ。問題ない
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/14(金) 00:28:59.56 ID:cAnnANR/O
お、おいぃぃぃ
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/14(金) 00:36:16.04 ID:XZB6Us5ho
何があった…
336 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:10:38.94 ID:7zgC1YNF0
書きたい気持ちで一杯なのに、とりあえず艦これしちゃうジレンマ

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/24(月) 23:12:12.15 ID:1fgQ0psQo
仕方ないね…
338 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:13:55.97 ID:7zgC1YNF0

「砲撃止め!」

その命令に咆哮は止み、艦橋に静けさが戻る。

「敵四番艦沈黙!傾斜拡大しつつあり」

そこへ見張妖精の声が響いた。

「敵三番艦、依然沈黙。反応ありません」

見張りというものは、見えたものを見えたままに報告する。
幽霊だろうが怪獣だろうが、見えるものへの有象無象は問わない。

「左舷十一時方向に敵艦隊!戦艦らしきもの1、いえ2!距離……およそ3万!」

どれだけ不都合であっても、上がる報告はまぎれも無い事実だ。

(くっ……間の悪いことね)

報告を受けた大和の声は、僅かながらこわばって響く。

「電探遅いわ。何やってるの!」

「こちらも今捕捉しました。しかし、島が多くて探知困難!」

「……方位と速度知らせ」

「了解」

敵艦を討ち果たしてサテ戻ろうかというタイミングでの来襲で、
探知も遅れたとあっては、多少不機嫌にもなろう。
北西方向に群島があるのは事実だから、致し方ないことであったが。

339 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:17:24.49 ID:7zgC1YNF0

「通りゃんせー通りゃんせー♪ ……どうされるので?」

「どうもこうもないわ。針路このまま、敵艦隊を攻撃します」

妖精の問いかけに、大和はこともなげに返した。

「ここは一旦下がって《比叡》を護衛しつつ退く方がよろしいのでは?」

「それも手だけど、庇いながらは厳しいわ。だからここで一気に叩くの」

ここで引けば手負いの《比叡》共々、敵の追撃を受けながら後退せねばならない。
そうなれば混戦となるのは避けがたく、《比叡》を護りきれる自信が大和には無い。

だからここで追撃を叩き、比叡が離脱できるだけの時間を稼ぐ算段だ。

「大丈夫。仲間の撤退を援護するだけ。深追いはしないわ」

「よーそろー」

自分にも言い聞かせるように、不安げな妖精なだめた。

340 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:24:01.15 ID:7zgC1YNF0


「こちら電探。敵艦隊の距離およそ3万1千、針路0-5-0、速度28ノット」

「敵艦隊は戦艦2、重巡2、軽巡乃至駆逐艦2」

「……それから、左舷方向にも水雷戦隊らしき敵艦隊の反応を探知!」

電探妖精が報告する敵艦隊の情報に、艦橋の面々の表情は渋い。

「こちらの頭を抑えに来てますね。それに……」

妖精が視線を向けた左舷にいる見張妖精からの報告がない。

新たに探知したらしい敵水雷戦隊を視認するには、まだ距離が遠いのだろう。

「左舷の見張りを厳に」

見張妖精への指示を終えれば、今度は砲戦の準備にかかる。

「これより《大和》は味方が安全圏へと離脱するまで、ここで敵を迎撃します」

「我々が!無駄飯食らいの我々が、仲間を護る盾となるのです」

「艦娘としてこれ以上の名誉。……いいえ、喜ばしいことはありません!」

すぅ、と一呼吸してから、力強く命令を発する。

「砲戦よーい!」

「第一、第二主砲。目標、前方の敵艦隊!」

「第三主砲及び副砲は左舷方向より来襲すると思われる敵水雷戦隊を迎撃!!」
341 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:27:02.27 ID:7zgC1YNF0

大和の命令が下り、妖精たちがあわただしく動き始める。

「測的いそげ!」

「第三主砲は砲側照準となせ」

「副砲の出番マダー」バンバン

「だまらっしゃい!」

「左舷八時方向に敵艦見ユ!急速接近中!」

「よっしゃ!副砲測的開始!」

「駆逐艦に主砲弾はもったいないなぁ……」

「距離およそ2万6千!軽巡1、駆逐艦、1、2……駆逐艦4!」

《大和》艦橋に妖精たちの喧騒の声が充ちる。
だが、戦闘準備に手抜かりは無い。

各砲塔は測的を済ませ、各々の目標へと砲口を向けている。

「砲撃準備よし!」

そうして全ての準備が整うと、向き直った砲術妖精が大和に報告した。

「よし!全砲門開け!砲撃始めッ!!」

「撃てェ!」

大和に続く砲術妖精の号令で、46センチ砲が咆哮する。

すぐさま敵戦艦も応射し、《大和》は三度目の砲撃を開始した。
342 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/11/24(月) 23:44:09.76 ID:7zgC1YNF0

拙作をお読み頂きありがとうございます。
SS投稿から一周年を迎えてしまいました。

同時期に立ったスレは既に二桁まで行ったのもあり、力不足を痛感します。
どうしてそこまで差が付いたのか・・・慢心、環境の違い

でも、諦めるつもりはないので、細々ではありますが続けて行きます。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/24(月) 23:47:14.13 ID:1fgQ0psQo
乙です
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/26(水) 00:50:17.48 ID:idFd/4mZo

そんなこと気にスンナ
緊迫感あって楽しみ
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/26(水) 13:51:30.86 ID:HWt39IHIO

完結してくれるなら
ついていく
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 23:19:12.58 ID:i+rQ7eZUO
待ってるで
347 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:44:36.47 ID:XJtH8Fmo0
やばい、師走やばい。
死後ととか年賀状とかろ号とかやること多すぎる。

さて、少しですがはじめます
348 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:48:14.63 ID:XJtH8Fmo0

―― キス島北西方海域 別働隊 比叡支隊 《綾波》

大和が砲撃戦を開始する前、綾波は落伍する《比叡》と共に南へと向かっていた。

《比叡》の左前方に位置しながら、周囲警戒と呼びかけを続けている。

<比叡さん、比叡さん!応答してください!比叡さん!>

かれこれ10分以上は呼びかけているが、全く反応が無い。

「比叡さんたぶん気絶してるのでは?」

反応がないということは、妖精の言う通りなのだろう。

「よし」

呼びかけで乾いた喉を潤すと、水筒のふたを閉じつつ何かを決意した。

「これから《比叡》に乗り込んで安否を確認してきます」

「ええ!?ちょ、ま」

驚く妖精を尻目に、水筒や救急セットをくくりつけた艤装を背負う。

「少しだけ離れますね。留守番お願いします」

「まだ敵襲があるかもしれないんですよ!」

「大丈夫。みんなは目が良いじゃない。それにすぐ戻ってこれますから」

そういうと綾波はサッと艦橋を飛び出して、妖精たちの追求を振り切った。

349 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:50:04.91 ID:XJtH8Fmo0

艦橋を出ると、そのまま後部甲板を目指す。

途中で応急妖精が鉤ツメの付いたロープを投げてよこした。

「ありがとうございます!」

ドヤ顔でサムズアップしていたが、それには突っ込まず走り抜けた。

艦尾に至っても速度を緩めず、そのまま海へと飛び込むらしい。

「タイミングをはかってー……、いま!」

走り幅跳びの要領でリズムを取って踏み切って飛ぶと、前屈みの姿勢で着水した。

膝を使って衝撃を逃すと共に機関を始動させると、すぐさま前へと押し出される。

350 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:51:02.43 ID:XJtH8Fmo0

「機関始動異常なし!」

反転して《綾波》と併走しつつ問題無しと合図して、《比叡》右舷側へと回り込む。
浸水で右舷側に傾いている為、乗り込みやすいと見たからだ。

遠くは元より、近づいて見ても分かる被害状況に言葉が出ない。

最も低くなった後部甲板付近に向けてロープを投じて、舷側へと引っ掛ける。
だが、それでも乾舷の高さは自身の倍以上あるのだが。

「んっと!大丈夫」

ロープを引いて固定を確認すると、艤装の機関を止めて水面から乾舷に取り付く。
特別陸戦隊での訓練以来であったが、するすると登って行く。

(これじゃまるで海賊みたい……)

そして甲板に上がった綾波の目の前には、痛々しいまでの破壊があった。
周囲には艤装に宿る妖精の気配は全く感じられない。

艦橋へと向かう足は自然と速くなった。

351 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:55:30.03 ID:XJtH8Fmo0

艦橋へたどり着いても、比叡が居るであろう戦闘艦橋へ向かうのに困難は続く。

内部の通路や階段は所々で破壊・寸断されており、進む度に小さな傷が増える。
怪我をしていたら、司令塔まで降りていくのは出来そうに無い。

ようやくたどり着いた戦闘艦橋は、入り口が鉄板らしきもので塞がれている。
それを蹴破って中に飛び込めば、血にまみれ突っ伏した比叡が見えた。

「比叡さん!」

駆け寄って呼びかけても反応が無い。
やはり被弾時の負傷で気を失っていたのだ。

脈はあったが重傷で、特に頭部から上半身にかけて傷だらけであった。

「比叡さんしっかりしてください!」

352 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:56:33.83 ID:XJtH8Fmo0

抱き起こしてみると額でも切ったのか、顔の半分は血塗られていた。
その際に垂れ下がった左腕は、ひじから先があらぬ方向に向いている。

(えっ?)

「あ゛がっ! いぎぃいい……」

折れた腕と傷に衝撃を受けたことによる激痛が比叡をたたき起こした。
息を吸うのも苦しいのか、うめきながら呼吸を繰り返す。

「大丈夫ですか比叡さん!しっかりしてください!!」

「はっ……はっ……いだ……はっ……。だ、れ?」

「綾波です。助けに来ました」

その声に比叡の右目だけがゆっくりと開かれる。

「敵は?うぐっ……あ、あいつらはどうなった?」

「大和さんが撃沈しました。残りも間もなく」

「そう。なら、いいか な」

「お気を確かに!今手当てしますから」

353 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:58:17.65 ID:XJtH8Fmo0

綾波は艤装を下ろすと救急キットを外し、手早く手当てを開始する。

突き刺さった破片を抜いて止血。折れた左腕を固定。

ドックに入れれば手足が欠けようとも回復するが、ここは戦場だ。
痛みにうめく比叡をはげましながら手当てを続ける。

「ひっ!」

頭部の血をぬぐったところで綾波の手が止まった。
閉じられた左目のまぶたが、横一文字にざっくりと切り裂かれている。

「はぁはぁ……うぐっ! ねぇ、……左目、つぶれてるのよね」

痛ましい傷跡に手の止まった綾波を見て、比叡がゆっくりとつぶやいた。
そして、心配そうな表情を浮かべてうなづく綾波をあやそうとする。

「大丈夫。ドックに入れば直せるから、心配しないの」

目元をぬぐった綾波は、慎重な手つきで最後の手当てを終えた。

354 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 21:59:13.37 ID:XJtH8Fmo0

手当てを終えた綾波は、戦闘艦橋の内部を見回した。
機器はあらかた破壊されており、窓枠はひしゃげ、ちぎれたりしている。

ここから装甲で囲われた司令塔に移したいが、負傷した比叡は動くのもままならない。
だが、意識が戻ったことで妖精たちも動き出しており、艦の応急修理は始まっている。

「霧島たちは大丈夫かな……」

痛みの落ち着いたらしい比叡の問いに答える。

「大丈夫ですよ!みなさん歴戦の艦娘なんですから」

連絡のない霧島支隊も心配だが、綾波としては目の前の任務に集中せねばならない。
《比叡》を護ってこの海域から離脱せねばならない。

「そう……。そうね」

これ以上何もなければ、どこかの港でもう少しマシな応急修理が出来るだろう。

そう、何も無ければ。

355 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:01:10.49 ID:XJtH8Fmo0

だが、良くないことは立て続けに起こるものだ。
何故かと問われても、星回りが悪いとしか言いようが無い。

<綾波さん!敵艦発見。こちらに接近中です!>

(!!!)

妖精からの連絡で、楽観視できる状況ではないことを思い出させる。

けれども付近の敵艦隊はあらかた誘引されたはずで、誤認の可能性も考えた。
詳細不明の味方増援艦隊かもしれない、と。

しかし、続いて入る”敵艦”の情報で、それは完全に否定される。

野良艦隊の様で、組織的な追撃ではないのがせめてもの救いだ。


356 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:06:02.50 ID:XJtH8Fmo0

「敵が、来たのね?」

綾波の表情が唐突に硬くなるのを見て、比叡はそう結論付けた。
対する綾波も静かにうなづき、簡潔に答える。

「はい。駆逐艦が4隻。はぐれ艦隊みたいです」

「そう。なら、追っ払った方がよさそうね。駆逐艦くらいなら今の私でも――」

「――いだだっ。囮役には、なれるから」

「その体じゃ無茶です!!」

痛みにうめきながら起き上がろうとする比叡を押し止めつつ、綾波は考える。

戦えない《比叡》を囮として、群がる深海棲艦の横合いを叩くのは策の一つではある。

だが、比叡は深手を負っており、戦闘では操艦すら満足には出来ないだろう。
撃ってくださいと言わんばかりの状態であり、被雷すれば致命傷になりかねない。

だから綾波にとるべき策は元より一つしかない。

357 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:07:12.65 ID:XJtH8Fmo0

「比叡さんは十分に戦いました。今度は綾波の番です」

「だから比叡さんは、綾波が守ります!」

そう言うやいなや、すっと立ち上がり艤装へと向かう。
横になったまま首だけを向けた比叡は、そんな綾波を止めようとする。

「ひとりで行く気!?あなたが黒豹とはいえ4対1じゃ分が悪すぎる」

「ねぇ!ちょっと聞いてるの?」

艤装を背負った綾波は何も答えずニッコリと笑う。
そして、

「綾波、出撃します」

目の覚めるような敬礼を送ると、すぐさま艦橋を飛び出してゆく。

「待ちなさい綾なm――あがっ!あああ!」

手を伸ばそうと急に大きく動いたことで全身の傷に激痛が走る。
比叡はそれ以上言うことも追いすがることも出来なかった。

358 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:08:20.16 ID:XJtH8Fmo0

艦橋を出た綾波は飛ぶように甲板へと向かう。

確かに4対1と劣勢だが、方策が無いわけではない。
二隻づつに分かれて接近してきているから、時間差で対応できる。

群れからはぐれた獲物を狩るのは、そう難しいことではないのだ。

甲板に出れば《綾波》がすぐそばまで来ており、舷側に縄梯子を下ろすのが見えた。
艦橋には手を振る妖精もいる。

(さすがですね)

乗り込んだ時と同じように、後部甲板からロープを伝って降りる。
流石に飛び込むには高すぎた。

《比叡》舷側から離れたところで機関始動し、《綾波》へ向かう。
引っ掛けたロープは時間が惜しいのでそのままだ。

今度は《綾波》の舷側に取り付いて縄梯子を上る。
誰かが合図したのか、甲板へ上がりきるとすぐに加速し始めた。

359 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:10:25.15 ID:XJtH8Fmo0

「ただいま戻りました」

加速で揺れるにも関わらず、軽やかな足取りで舞い戻った。
艦橋へ戻るやいなやの要求にも、妖精は過不足無く対応する。

「おかえりなさい。状況は報告時と変わっていません」

「敵艦との距離、右舷前1万8千」

「砲撃、雷撃、問題ナシ!」

「いつでもいけます」

綾波が居なくとも、明確な指示でなくとも、準備は整えられている。
妖精の練度は綾波の満足するレベルを持ちえていた。

「《比叡》護衛のため、これより接近する敵艦隊を迎撃」

「針路このまま。真正面から粉砕します」

「さぁ、行きましょうか」

《綾波》は単艦での突撃を開始する。

360 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2014/12/23(火) 22:22:07.26 ID:XJtH8Fmo0

今宵はここまでとさせていただきます。

綾波の戦闘シーンは全部かけてるんですけど、チェックができてません。
年内はちょっと怪しいです。
気長にお待ち頂ければ幸いです。

あと、>>359 で抜けがありました。
「敵艦との距離、右舷前「方」1万8千」 です。

どうもありがとうございました。




361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/23(火) 22:32:41.31 ID:1g5Qc6jho
乙です
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/25(木) 23:51:43.38 ID:GVSeV5JWO
乙乙!
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/01/04(日) 23:32:06.09 ID:RnQ83d1jO
おつ
364 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:25:02.90 ID:aeIRpRRj0
大変、かなり、相当遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。
それでは始めます。
365 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:26:05.13 ID:aeIRpRRj0

「敵艦針路変更!面舵です」

北上する敵艦隊は、反航する《綾波》の針路を横切る様に舵を切った。

彼我距離は間もなく1万5千を切る頃合で、ちょうど敵の射程圏内に入る。
反航戦ではなく、向かい来る《綾波》を丁字で迎え撃つ構えに見えた。

《綾波》の主砲は既に射程距離内にあるが、命中を期して1万まで待つ方針。
しばらくは一方的に撃たれねばならないが、確実にしとめることを優先する。

しかし、敵艦からの砲撃は一向に始まる気配がない。
それに針路も丁字にしてはずいぶんと浅いし、速度も出ていない。

「敵艦隊に攻撃の兆候認められず!」

(どういうことでしょう?)

見張妖精の報告は綾波の判断に大きな迷いをもたらした。

366 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:26:56.35 ID:aeIRpRRj0

敵が有利な状況で戦うそぶりを見せないのは、異常でしかない。

誘い込んでの罠か、それを含め《比叡》から引き離す為か、攻撃できない理由でもあるのか……。
綾波にはありえないものも含め、いくつもの可能性が浮かんでは消える。

「今なら先制できます。攻撃しましょう」

「……」

敵がただ無防備の状態にあるのなら、砲術妖精の意見も正しくはある。

だが、罠だったらどうだ?
そこかしこに多数の深海棲艦が潜んでいることだろう。

もたらされる結末は、背筋を冷やすのに不足はない。
《比叡》を見捨てたとしても、逃げ切れる確立に届くかどうか……。

「綾波さん!」

「……、……」

決断をためらう綾波は、呼びかけに反応することができない。

367 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:28:49.52 ID:aeIRpRRj0

「!? 敵艦隊は破損している模様!マストやいくつかの武装が見えません」

「!!」

見張妖精の上げた想定外の情報で、綾波の逡巡が打ち切られる。
破損した深海棲艦は戦闘どころではなく、索敵もおざなりになっていたのだろう。

《綾波》の接近に気づいていたならば、この静けさはありえない。
罠だとしても、手負いの艦艇は包囲の搦め手となるだろう。

「……距離は?」

「およそ1万3千」

そう判断した綾波は戦闘開始を決断した。

「面舵」

「おもーかーじ」

全砲門を向けるため反航戦へと針路を変える。

「砲戦よーい。目標敵一番艦」

「舵戻せ!」

針路が固定されたところで、綾波が火蓋を切った。

「主砲撃ち方始め」

先行く一番艦に狙いを済ませた砲術妖精が号令をかける。

「砲撃よーい、テッ!」

すぐさま12.7p連装砲が敵艦へと砲弾を放った。

368 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:30:30.57 ID:aeIRpRRj0

―― キス島海域 深海棲艦パトロール艦隊 駆逐ロ級

中破した駆逐ハ級eliteを気遣うように、駆逐ロ級はその後を航行する。
後方には速度の出ない駆逐ロ級と、それに付き添う駆逐ハ級の2隻が航行していた。

その誰もが破損していた。
キス島周辺海域をパトロール中に突然敵艦隊と遭遇し、咄嗟戦闘となったからだ。

敵艦隊は戦艦を擁していたから、不利と見て一斉回頭で反転離脱に掛った。
しかし、最後尾となった軽巡ホ級flagshipと雷巡チ級eliteが瞬く間に轟沈。
残存の駆逐ハ級elite、同ハ級、同ロ級2隻は被弾しつつも、敵の砲撃から逃げ切った。

ハ級eliteは艦橋から後部を手酷くやられ漂流しかけるも、何とか持ち直す。

泊地への直線コースに針路を変えたのも、早く帰って直したかったからだ。
自身も傷ついて索敵能力を削がれていたが、深海棲艦の勢力圏内だと安心していた。

だから敵襲なんて思いもよらぬことだった。

369 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:31:09.65 ID:aeIRpRRj0

突如左舷方向に発砲炎が見えたかと思えば、前を進むハ級eliteに爆炎と水柱があがる。
間もなく次弾が次々と突き刺さった。

『■■■■■■!■■■■■■!!』

呼びかけても反応はない。
あるはずもない。
早くも沈み始めていたからだ。

燃え上がる炎は、命をくべられて勢いを増すばかりである。

『■■■■■■■■■■■■!!』

怒りで我を忘れたロ級が、仇めがけて突撃を開始する。
その加速たるや、まるで刺し違えんとするほどの勢いがあった。

370 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:32:46.18 ID:aeIRpRRj0

―― キス島海域 別働隊 比叡支隊 《綾波》

《綾波》艦橋は初弾命中に大きく沸いていた。

続く第二射、第三射にも命中弾があり、敵一番艦に大火災を発生させている。

「一番艦は後部より沈みつつあり!」

「目標を二番艦に変更。よーい、テッ!」

艦橋には見張妖精と砲術妖精の報告と命令が入り乱れる。
盛り上がる中にあっても綾波の表情は緩まない。
敵はまだ残っているのだ。

勢いに乗って二番艦へと放たれた砲撃は大きく外れる。
二番艦がこちらへ向けて舵を切ったからだ。

「敵二番艦針路変更……、当艦に向けて突進してきます!」

見張の報告を聞くまでも無く、綾波にもそれは確認できていた。
艦首に吹き上がる白波から、相当な速度が出ているのが見て取れる。

「敵艦発砲!」

「修正急いでください」

間もなく発射されるも、全て後方への遠弾となる。
敵艦の速さに照準が追いついていなかった。

371 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:33:51.02 ID:aeIRpRRj0

次弾以降も芳しくないのを見て綾波は動いた。
既に彼我距離は8千を切ろうとしている。

「照準回して!」

「アイ!」

敵二番艦は前部砲塔の二門でしかないが、《綾波》に比して精度が良い。
ついに1番砲塔と艦橋の間をまたぐように着弾した。

「敵弾夾叉されました!」

どうやら首を取る気の様で、艦橋を狙っているらしい。

照準に集中する綾波には笑みが浮かぶ。
夕立と同様、ぶつけられる殺気を好ましく感じるところがあった。

だが、その理由は彼女のそれと大きく異なる。
敵の砲口が向けられることになるのは、他の誰かではなく自分なのだから。

「(よく狙って……)テッ!」

狙い済ました綾波が主砲を放った。

372 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:34:32.57 ID:aeIRpRRj0

その砲撃こそ見事というしかない。

放たれた砲弾は、まるで狙撃でもしたかのような精度であった。
そのすべてが敵艦へと吸い込まれていったのだから。

「全弾……、全弾命中ッ!!」

報告する見張妖精も只ただ驚くしかない。
訓練であっても至難であるのだから、実戦では尚更である。

綾波の砲弾は、ロ級の前部甲板へと集中的に着弾した。
二基ある単装砲は叩き潰され、左舷の舷側は内部からの爆発で引き裂かれている。
艦橋の右舷側基部にえぐられたような大穴が開いているが、形状を留めていた。

しかし、それでも――

373 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:36:16.11 ID:aeIRpRRj0

「敵艦の速度変わらず……突撃止まりません!」

武装を失ってもなお、ロ級の突進は止まらない。

「綾波さん!」

「交互射撃!撃ち方始め!」

破壊力よりも、とにかく砲弾を叩き込むのを優先した。
綾波はロ級に止めを刺そうと、その艦橋へと狙いを絞る。

「敵艦に火災発生」

めくれあがった前部甲板の穴から火が噴出しているのが見えた。

「間もなく距離6千」

「何で止まらないんだ!」

綾波が着弾のたびに照準修正をおこなっておりこともあり、命中率は悪くなかった。
5発は艦橋付近へと命中させているが、妖精が言うように一向に止まる気配がない。

374 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:37:36.23 ID:aeIRpRRj0

撃たれてもなお突き進むロ級に、妖精だけでなく綾波も気圧され始める。
だが、艦娘としてはうろたえるわけには行かない。

「敵はもう限界です!もう一撃で落とせます!!」

綾波は妖精たちを叱咤し、砲撃を続行した。

そして遂にロ級の突撃が止まる。

艦橋上部に相次いで飛び込んだ砲弾が炸裂し、天蓋を吹き飛ばし炎が立ち上がる。
行き足が止まり、左方向へ曲がりながら漂流を始めた。

「敵艦沈黙!」

「撃ち方待て」

「やったぜ!」

「では、残りの敵へと針路を――」

敵艦が動かなくなったのを見て、妖精は次の目標へと向かおうとした。

375 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:38:22.59 ID:aeIRpRRj0

だが、その行動をさえぎるように綾波の命令が飛ぶ。

「左魚雷戦用意!」

「はえ?!」

「止めを刺します」

「しかし……」

水雷妖精は、もはや戦闘不能の敵に対して過剰であると言いたげであった。
ところが綾波はそうではない。

「後部兵装は無傷。復旧されたら厄介です。……復唱は?」

「左魚雷戦よーい!一本だけでいいぞ」

さまようロ級をねらって、一番連管が旋回する。

一番連管は、先のキス島包囲艦隊との戦闘で発射し尽くした筈だが、魚雷がある。
それは、落伍する《比叡》に付き添う合間を縫って、再装填を行ったからだ。

妖精だからこそ出来ることで、人間ならばこうはいかないだろう。
無論、戦闘中にも再装填できる次発装填装置に敵うものではないが。

376 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:41:19.30 ID:aeIRpRRj0
あああ、抜けてた。張り間違え
次のレスが、>>371 と、>>372 の間に入ります。
  
377 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:42:28.05 ID:aeIRpRRj0

敵艦へと届けられた砲弾で、綾波の技量は見事に示される。
ロ級の舳先を砕き、艦橋前左舷機銃をもぎ取ってみせたのだ。

「オミゴト!」

妖精の賞賛と前後して大きな衝撃を受けた。
が、被弾を気にも留めず指示をだす。

「第一戦速度!」

綾波は速度を一気に落として敵の照準を乱そうとする。
果たして敵の砲撃は艦前方の至近弾となった。

更に、減速と着弾による動揺収まらぬうちに砲撃する。

「テッ!」

砲弾はロ級の前方に相次いで着弾し、上がる水柱が壁のように立ち並ぶ。
だだ遠弾となっただけで、突進するロ級に何の影響も与えていない。

「装填ヨシ!」

「テッ!」

素早く装填された次弾を、照準はそのままに放った。

378 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:43:52.05 ID:aeIRpRRj0
レス区切りまで決めておいたのに抜かすとか・・・
ちきしょーめー
379 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:45:24.77 ID:aeIRpRRj0

「魚雷発射管用意ヨシ!」

「魚雷発射」

水雷妖精の報告に、綾波は間髪入れずに命じる。

「発射よーい、テー!」

しゅっと抜けるよな音と共に、射出された魚雷が蒼い水面に白い航跡を描く。

「到達まで4分」

そして予告通りの時間で到達した魚雷が、避ける素振りもないロ級の艦中央部に命中する。
舷側に立つ水柱と共に大爆発が起こり、二つに分かれて真ん中から沈んでいった。

綾波は沈み行くロ級を一瞥すると、正面へと向き直る。
すでに意識は残りの二隻の深海棲艦へと向いていた。

「残りの二隻を叩きます。第四戦速!」

針路はそのままに、増速して追撃を再開した。

380 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:47:22.19 ID:aeIRpRRj0

「捨て置いても良かったのではありませんか?」

「お忘れですか?綾波、狙った敵は逃しません。それに――」

止めを刺す必要への疑問を上げた妖精に、冷たく言い放つ。

「――生かしておく必要があるとでも?」

普段はほんわかした雰囲気持つが、戦闘時には一転して非情となる。
そうしなければこちらがやられるという危機感があってのことだ。

それ故、夕立と並んで好戦的と見られてしまうことが多い。
更には、仲間を護るためならば自身の犠牲すら厭いはしないところがある。

だから《綾波》の妖精としては、それを諌めない訳にはいかない。

「目的は敵の殲滅ではなく、《比叡》の護衛です」

「……、……無論です」

言わんとすることは綾波にも分かる。
でも、譲れぬものもある。

「傷ついた仲間に敵意が向けられるのなら、それを排除してこその護衛でしょう」

妖精の諫言は流された。
話は終わりとばかりに前を向き、一顧だにもしない。

もうすぐ後続の敵艦隊が見える頃だ。

381 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:48:53.64 ID:aeIRpRRj0

先のような奇襲は無理なので、反航戦での戦闘になるかと思われた。

しかし――

「敵艦隊針路変更!東に向かいます」

「続けて敵艦発砲!」

予想と異なり、敵は始めから逃げに掛っている。
それにしては速度が出ていないし、砲撃にも勢いがない。

「敵四番艦はかなり被弾している模様。うっすら煙が出ています」

「敵艦の針路と速度は?」

「お待ち下さい……、……針路はほぼ真東、速度およそ20ノット、距離1万!」

(こっちにも手負いがいるのですね。ならば……)

敵艦隊に何があったかは知らないが、綾波にとってはチャンスでしかない。
取舵に取って同航戦で敵へと接近しつつ、敵四番艦へと砲口を向ける。

「目標敵四番艦。主砲撃ち方始めッ!」

「砲撃よーい、テッ!」

続く砲撃妖精の号令で、《綾波》は再び砲撃を開始した。

382 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:50:01.32 ID:aeIRpRRj0

目標とした敵四番艦の速度が出ていないこともあってか次々と命中弾が出る。
反撃も散発的で、この様子では撃沈までそう時間は掛らないかに見えた。

だがそれは、射線へと割り込む敵三番艦によって妨げられる。

「やっこさん、的になりたいらしいですぜ」

(その覚悟お見事です。ですが、綾波も引くわけにはいきません)

「敵艦へ突撃します。面舵!」

綾波は突撃して一気に勝負をつけようと舵を切る。

「舵戻せ、最大戦速!」

敵艦への直線コースに乗ったところを針路とし、加速して距離を詰める。

前部の主砲だけしか使えないが、射線に入る敵艦へと面白いように当たった。

383 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:50:55.07 ID:aeIRpRRj0

じりじりと追い詰められる三番艦は、捨て身の行動に移る。
取舵とって《綾波》へと真正面から立ち向かってきた。

(そう、きましたか)

綾波は仲間をかばう敵艦がどのように反応するのか興味を持っていた。
敵が突撃してきたら、かばう仲間に魚雷の槍衾が迫ったら、どうするのか?

確かめるならば、今だ。

「取舵一杯、右魚雷戦!目標敵四番艦」

「とーりかーじ、いっぱーい!」

「ヨーソロー。右魚雷戦よーい!」

乱暴な舵取りではあったが、みるみる左へと曲がってゆく。

間もなく後部主砲が敵艦を捉えると砲撃を開始する。
その砲撃に重なって、背中から衝撃といやな破壊音に襲われた。

384 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:52:16.86 ID:aeIRpRRj0

衝撃でよろめいた綾波はいやな予感を覚えた。
そこへ被害報告が入る。

「一番煙突に被弾!火災発生」

「一番連管故障!旋回不能!」

「――ッ!?」

まるであの時と同じ状況となったことに、うろたえるしかなかった。

「い、一番連管は、どっ、どっちに向いてますか?!」

「……右、右です!大丈夫!右向いてます」

妖精の報告に安堵のため息が出る。
ともかくお腹に抱えた魚雷が火にあぶられることは無くなった。

発射管が旋回できないなら、艦の針路をあわせてやれば良いのだから。

385 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:54:12.46 ID:aeIRpRRj0

「準備出来次第魚雷発射!水雷妖精は針路指示して」

「アイ!取舵10度くらい当ててて」

水雷妖精の指示で操舵妖精が舵輪を回す。
艦が緩やかに左へと動く。

「もーちょい、もーちょい当てて……よーそろー。発射よーい、テー!」

圧縮空気に送り出された魚雷が次々と躍り出る。

「到達まで7分半!」

三番連管を残しての全門発射で、5本の魚雷が放たれた。

386 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:55:13.52 ID:aeIRpRRj0

魚雷を放った《綾波》は同航戦へと針路を戻すが、敵三番艦は突進をやめない。
だが、30秒もしないうちに右へと急旋回した。

魚雷に狙われたのが仲間だと分かったからだろうか。
確実に回避できる位置にありながら、転舵して魚雷射線上に入り込む。

その光景に艦橋内がざわめく。

(盾になろうというわけですか……)

敵三番艦は海面へと盛んに撃ちかけている。
その努力むなしく。
いや、その勇気によって、艦首と艦後部に魚雷を受け止めて轟沈した。

だが、命という盾を以ってしても、全ては防ぎきれなかった。
未だ3本もの魚雷が疾走を続けている。

四番艦も魚雷に気が付いて舵を切るが、もう遅い。

艦尾に命中した魚雷は、船体を引き裂いて推進軸と方向舵を破壊した。
動力を失ってはもうどうにもならず、艦尾からの浸水で緩やかに沈み始める。

387 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:57:10.24 ID:aeIRpRRj0

綾波は勇気ある敵艦に敬礼を送ると、《比叡》の護衛に戻るよう指示を出す。

艦長席に座って一息つけば、身を張った敵艦に対しえも言われぬ親近感を覚えた。
自分があの状況にあったら同じように行動したかもしれない、と。

妖精に窘められはしたが、どうにも好ましく感じている。

(そういえば……)

思い返せば、先程の深海棲艦は大なり小なり傷ついていた。
同士討ちとは考えられないから、艦娘によるものと判断できる。

ということは味方が近づいてきているはずだが、なんの兆候もない。
それを期待するには不確定要素が多すぎた。

分かっているのは、まだ独力でこの場を切り抜けねばならないということだ。

388 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:58:34.70 ID:aeIRpRRj0

「被害状況の報告お願いします」

応急妖精が、まとめた状況の報告を始めた。

「一番煙突左舷側に被弾。内火艇消失」

「一番煙突中破を応急修理中。火災は鎮火」

「魚雷発射管一番連管旋回不能なるも、予備魚雷無く問題なし」

その他の被害状況を総括しても、小破程度と判断できる。
速度の低下が気になるが、これまでの戦闘でも何とかなった。

《綾波》はまだ戦える。
あと一戦ならば十分に、二戦以上はかなり怪しいが。

389 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/18(日) 23:59:53.72 ID:aeIRpRRj0

《綾波》は《比叡》が見通せる付近まで戻ってきた。
相変わらず痛ましい姿をさらしている。

そして、それは唐突に起こる。
かすかに破裂音が聞こえたかと思えば、《比叡》右舷側に複数の水柱が上がったのだ。

「最大戦速!砲雷撃戦用意!!」

ぼんやりと座っていた綾波が弾かれたように立ち上がって叫んだ。


「さいだいせんそーく!」

「《比叡》右舷側に回ります。とーりかーじ!」

「左砲戦よーい!」

「敵はどこだ!?索敵いそげ!」

俄然騒がしくなる艦橋は、予想外の敵襲に混乱しかけてた。
されど職分に抜かりはない。
多少の差はあれども、妖精とはそういうものなのだ。

390 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/19(月) 00:01:18.65 ID:WIQlTv3u0

そして下命した以上、敵と接触するまでやることが無い。
ともなれば綾波には余裕があり、状況を整理できた。

「罠にしては連携がなっとりませんなァ」

「そうですね……。これでは各個撃破の余裕を与えてしまいます」

同じく手持ち無沙汰だった砲術妖精の言外には、ただの遭遇戦であるとの判断がある。
分断を誘ったのならば、既に《比叡》は攻撃を受けているはずだ。

それが無いと言うことは、偶然出くわしたと言う事だろう。

「敵艦はまだ見えませんか?」

「周囲に艦影見えず!」

わかってはいても、どうしても急かしてしまう。

ぱらぱらとあがる水柱の高さから、敵は駆逐艦クラスと推定できた。
またしてもはぐれ艦と出会ってしまったのだろう。

いや、むしろこの場合は寄って来たと見るべきか。
傷ついて弱った獲物を放っておく理由は無い。

391 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/19(月) 00:02:45.12 ID:WIQlTv3u0

「これ以降の接触は勘弁ですな」

「同感です。さっさと抜けてしまわないと」

そう言うと双眼鏡に手を掛け、何気なく《比叡》に目を向ける。
ピントを合わせれば、その更に後方で何かが見えた。

見張妖精もほぼ同じタイミングで何か見えたらしい。

「《比叡》後方にマストらしきもの!」

「《比叡》後方に回り込め」

ちょうど《比叡》右舷側ですれ違い始めたところであり、
敵艦が居ると思わしき《比叡》右後方は、その影ではっきりと見通せない。

時折飛んでくる砲弾を物ともせず進んで《比叡》と完全にすれ違う。

392 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/19(月) 00:04:08.47 ID:WIQlTv3u0

視界がはれれば、果たして敵艦が居た。

「一時方向に敵艦発見!駆逐艦2!距離……1万1千!」

「面舵一杯!比叡の盾となります」

「おもーかーじ、いっぱーい!」

急旋回しつつ、《比叡》後方からまっすぐ追いすがる深海棲艦の頭を抑える。

主砲の射界に敵が収まった所で砲術妖精がねだる。

「いつでもいけます!」

「撃ち方はじめッ!」

「よーい、テッ!」

こうして《比叡》護衛退避戦の第二幕があがった。

393 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/01/19(月) 00:10:53.75 ID:WIQlTv3u0
今宵はここまでに致しとうござります。
次の投稿は、霧島と摩耶に視点を変えてお送りする予定です。

毎々遅筆で恐縮ですが、なんとか月刊にはしたいところ。

そして今さっき書き上げただけあって、早速ミスが。
>>391 の”《比叡》右後方”は”《比叡》左後方”の間違いですね。

艦これアニメも始まりましたが、鳳翔さんがいつ出るのか楽しみで仕方ありません。

それでは失礼いたします。


394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/19(月) 00:20:43.33 ID:mzBBKktwo
乙です
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/19(月) 13:31:49.01 ID:40bPAv08O
おつおつ。ガチな海戦は貴重だから嬉しい
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 08:59:35.52 ID:+cG8SbrKO
乙!
うん戦闘描写が好きだ
今回は敵視点での話が読みたくなったな
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/04(水) 22:18:00.20 ID:24BbFsjDO
後藤さんやヨルダン人パイロットの処刑映像を平気で流すイスラム国は残虐すぎる
今こそ戦うべき
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/03(火) 00:24:54.32 ID:BhPQ8nYCO
お待ちしておりまする
399 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/17(火) 00:56:33.90 ID:vj+wN7F00
すいません週末には投下したいと思います。
いやなんかもうすいません

イベント終えてSS書こうかと思ったら、まさか菱餅イベントがあるなんて……。

400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/17(火) 10:10:12.64 ID:QJ8KD9lBo
待ってる…
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/18(水) 08:15:44.68 ID:BbGbKC5LO
うん
待ってる
402 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/22(日) 22:52:48.12 ID:igrIEx+00
ドウモミナサン
短いですが、短いですが始めます。
403 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/22(日) 22:55:08.60 ID:igrIEx+00

敵機動部隊から風上を取った霧島支隊は、その護衛を排除しつつ空母に迫る。
救援せんとした敵増援には夕立を抑えに単騎奔らせた。

戦闘は追撃する霧島支隊が優勢であるものの、未だ決め手を欠く状況にある。


―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 戦艦《霧島》

「とっとと沈みなさい!」

《霧島》の主砲が火を噴き、徹甲弾が飛ぶ。

対する深海棲艦も一方的に撃ち掛けられるばかりではなかった。

煙幕はもとより、最後の一隻となった駆逐艦が雷撃する素振りを見せては一転して退く。
空母を逃そうと必死の抵抗を続けている。

そして更には――

「敵空母から艦載機が発艦中!!」

追い風にも関わらず艦載機さえも繰り出そうとしている。

「正気かしら?!」

まさか追い風の中で艦載機を飛ばそうとするとは、思っても見ない。
見張妖精の報告に困惑しながらも、そこまで敵を追い込んでいるのは分かった。

404 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/22(日) 22:57:07.28 ID:igrIEx+00

空母が発艦時に風上へと向かうのは、向かい風により効率よく揚力を得られるからだ。
それにより空母の短い飛行甲板からでも発艦を可能にしている。

これが追い風だと、発艦に必要な揚力(加速)を得るには飛行甲板では十分でない。
爆弾・魚雷を装備して重くなった機体は特にそうだ。

「発艦できず失速する敵機多数!」

案の定、発艦できず堕ちる機体が続出したが、それでも飛び立ったものも居る。
それらは編隊も組まず、まっすぐ霧島らへと向かってきていた。

「爆装して発艦できるものなのでしょうか?」

「さぁ?ガツンて叩けば気合が入って飛び立てるんじゃない?」

「ナルホド」

妖精の疑問には霧島式理論的考察を用いて答える。
それで理解しない妖精はここではやっていけない。
405 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/22(日) 23:10:37.72 ID:igrIEx+00

敵機の登場を受けて、摩耶が出番とばかりに声を上げる。

<姉御!敵機はアタシに任せてくれよな!>

舵を切った《摩耶》が《霧島》の右前方から正面へと位置を移しつつあった。

<ええ!よろしく頼むわよ>

対空戦闘なら、姉妹は元より艦娘でも屈指の防空能力を持つ彼女に任せるのがベストだ。
増しに増された対空兵装は、頼もしいことこの上ない。

とはいえ霧島としては、空母撃破をより急ぐ必要が出た。

敵空母の空襲と、霧島の徹甲弾。
相手を沈めたとしても、長引いては共倒れになりかねない。

「さぁ!さぁ!どんどん撃ちなさい!」

とにかく距離をつめてぶん殴ることだけを考えている。
なんと思われようとも、今取りえるベストな作戦であると判断していた。

406 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/03/22(日) 23:21:07.22 ID:igrIEx+00
すいません。ここまでです。
続きも書いてます。
また週末にはなんとか
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/22(日) 23:57:28.15 ID:/3JB34Pxo
乙です
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/23(月) 01:05:17.04 ID:TD9L1fxso
乙です
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/23(月) 23:06:51.31 ID:YzV48MTvO
乙乙
今回も熱いね
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/23(月) 23:07:42.74 ID:YzV48MTvO
しかし、追い風では艦載機が飛べないとか細かいね
勉強になるわ
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/27(金) 18:52:46.44 ID:inghuaR90
霧島式理論的考察wwww
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/11(土) 21:12:25.06 ID:EgAzsLMMO
待ってる
413 : ◆NpAbJPCwwM [sage]:2015/04/19(日) 22:02:47.81 ID:42OMSzmR0
先延ばしすれば、明日はもっと多くの気力を必要とする。
全く以って至言でありますなぁ!

すいません、始めたいともいます。
414 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:06:02.63 ID:42OMSzmR0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 重巡《摩耶》

「敵空母より航空機が発艦してます!」

敵艦載機発艦の報告を受けて、《摩耶》艦橋はにわかに騒がしくなる。
敵に砲が届かない以上、これまですることが最低限しかなかったからだ。

「よーし、対空戦闘用意!」

腕を組んでいたまま漫然と立っていた摩耶が動き出した。

「たいくーせんとーよーい!」

号令を掛ければ、早くも仰角をかける機銃も見えた。
それを横目に、続けて指示を出す。

「前に出るぞ。取舵!」

「とーりかーじ!」

操舵妖精には《霧島》のの前に出るよう指示してから、霧島へと呼びかける。

<姉御!敵敵機はアタシに任せてくれよな!>

<ええ!よろしく頼むわよ>

戦艦《霧島》には敵空母を撃破してもらわねばならない。
それに障害があれば取り除くのは自分の役割である、と摩耶は思う。

しかも、それが航空機であれば尚更だ。

415 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:09:04.71 ID:42OMSzmR0

「報告!右舷三番高角砲修理完了!」

艦橋後部の右舷側の高角砲は、リ級の砲撃で破損したが、何とか修理が間に合った。
手隙の妖精を差し回したのが良かったらしい。

「おう。良くやってくれた。あんまり時間無いけど休んでくれ」

報告する妖精を労って見送ると、サテとばかりに艦橋の妖精へと告げる。

「ちょっと行ってくるから、ここヨロシクな」

散歩へ行くかのような気軽さで、摩耶は防空指揮所へ上がろうと歩き出した。

「おまかせあれい」

妖精の声を背に受け、軽く上げた手をポケットに階段へと向かう。
肩で風を切るその様は、摩耶の自身を示すかのようであった。

416 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:11:37.29 ID:42OMSzmR0

そもそも摩耶は元から対空に秀でた艦娘だった訳ではない。

具現化した際の対空兵装は、重巡にしては貧弱であった。
折を見て行われた装備更新により、やっと他と同水準というところである。

その摩耶の対空適正が見出されたのは、それから間も無く行われた防空強化演習でのことだ。

敵航空機の脅威が増す中、対空射撃と回避運動の練度向上を目的に演習が行われた。
新型艦載機に更新した飛鷹型と、従来機を好むベテランが集う鳳翔が仮想敵を務める。

結果は惨憺たるもので、対空戦闘をこれまで軽視していたツケが回ってきたと言えよう。
その”戦果”の大半は、無様な演習を見た鳳翔が、途中から心を鬼にした結果でもある。

しかし、その中にあって摩耶だけは撃沈(判定)を一桁に抑えて見せた。
鳳翔曰く、弾幕形成と回避運動が絶妙であった、と高く評価している。

417 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:13:16.47 ID:42OMSzmR0

その優れた対空適正に目を付けた提督は、《摩耶》の対空兵装強化を決定する。

優先的に調達された装備によって、甲板のいたるところに対空砲が増設された。
特に、第三砲塔を撤去してまで高角砲を据え、機銃を集中配備したのは斬新だ。

実際、この改造の効果は抜群で、艦隊防空の要として活躍するきっかけとなったのである。

尚、ただでさえ遅れていた《大和》の改修が更に遅れた原因であるとの噂が立った。
本誌の取材に対し提督は『そのような事実は承知していない』と否定したが、
本人達が沈黙を守っており、疑惑は深まるばかりである。(青葉)

閑話休題

418 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:15:40.80 ID:42OMSzmR0

後からの風を受けて顔に掛った髪を押さえながら、摩耶は最後の一段を上る。

「敵機12時の方向より接近中」

「距離3000、高度1000」

防空指揮所に入るのを確認した見張妖精が報告を上げた。

「なんだそりゃ。ずいぶん中途半端な高度で飛んでるんだな」

それは雷撃にしては高すぎるし、急降下爆撃するには低すぎた。
既に攻撃コースに乗っているはずだが、これから上下する気配も無く直進してくる。

「敵機は少ないから確実に落とすぞ!」

そう上から叫べば、各砲座では敵はまだかと手薬煉引いて待ち構えている。
対空戦闘の準備は十分だった。

そして間も無く、まばらに飛んでくる敵機が識別できる距離まで近づくと、
双眼鏡を覗き込んだままの見張妖精が声を上げる。

「敵機は……敵機は爆弾・魚雷とも懸架せず!全て戦闘機型です!!」

419 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:18:24.90 ID:42OMSzmR0

「ケッ!そういうことかよ」

これで敵機があの高度を飛ぶ理由がはっきりした。
雷撃でもなく爆撃でもないのなら、あの高度で十分だ。

「機銃掃射くるぞ!覚悟決めとけ。あと姉御にも連絡!!」

伝声管で艦橋に怒鳴った摩耶は、直ちに対空射撃演算を開始した。
各測的機器からの情報を元に、最適な射撃諸元を各砲座に送る。

摩耶の高い対空能力は、対空射撃に演算リソースを全て充てる事で成り立つ。
高射装置のサポートを受けつつ、主砲と艦の制御は妖精に丸投げしている。

他の艦娘の対空戦闘と、非常に大きく異なる部分であった。

「高角砲、機銃座の連動確認!」

「よし。射撃は1500でいくぞ!」

「了解!!」

420 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:19:14.32 ID:42OMSzmR0

敵機を《霧島》へ近づけない様、前方に壁を作るイメージで対空射撃を行う。
狙うだけでは無く弾幕を形成できるのは、対空兵装の多い《摩耶》の強みだ。

「敵機との距離2000」

「戦闘機だからって油断するな。撃ちもらすんじゃないぞ!」

見張妖精が刻々と距離を報告する中、摩耶は発破をかける。

そうして間も無くやってきた。

「まもなく敵機との距離1600!」

421 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:21:29.64 ID:42OMSzmR0

「対空戦闘、撃ち方はじめ!」

「撃てー!」

「てーッ!」

「テッ!」

摩耶の号令に続いて妖精が叫べば、狙い済ませた対空砲が火を噴く。

静穏から一転、雷鳴が如き無数の射撃音で大合奏が始まった

《摩耶》の前方には帯状の黒い弾幕が形成される。
高角砲と大小の機銃がその殺し間へと、ただひたすらに弾丸をばら撒いていく。

そしていよいよ敵機が接触した。

先行していた3機が弾幕に飛び込んで、たちまち爆発四散する。

続いた2機は避けようとするが、間に合わず絡め取られて火達磨となって堕ちる。

「逃すものかよ!」

先頭集団の最後尾に居た1機が急降下で避けようとするが、摩耶はそれを逃さない。
一瞬のうちに演算を終え、割り当てた単装機銃の十字砲火で翼をもぎ取った。

「よっし!続けていくぞ!」

先行の敵集団全機撃墜との幸先の良い戦果に、摩耶は意気揚々と指揮を続けた。

422 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/04/19(日) 22:33:46.72 ID:42OMSzmR0
毎々短くてすいませんが、今宵はここまでにしとうございます。

もう少し書けているのですが、キリがいいので。
続きは来週か月末には投下します。
この場面に区切りつけたいと思っていますので。


423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/20(月) 00:33:36.34 ID:kBfe2COBo
乙です
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/20(月) 11:23:31.38 ID:O6d1XQK0o
乙!
待ってたよ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/06(水) 07:35:45.62 ID:A2ITqgK1O
来週も月末も無かった
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/14(木) 00:14:57.39 ID:tQ+W/h7vO
まだかな
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/20(水) 00:35:01.05 ID:Fl+ppm01o
待つよ
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/31(日) 23:11:54.08 ID:+di/SWFIo
まってるよ?
429 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/07(日) 21:59:32.05 ID:iXF2k9x80
すいませんすいません
ホントすいません
来週こそなんとかします
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/07(日) 22:37:38.38 ID:SXlCr8PNo
待ってる
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/07(日) 22:42:29.88 ID:NJr/bCg9O
待ってる
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/08(月) 05:59:54.68 ID:zfBYzSFmO
まつ
433 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:15:02.20 ID:mtFckuXx0
長らくお待たせしました。
短めですが始めたいと思います。
434 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:16:27.38 ID:mtFckuXx0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 戦艦《霧島》

「《摩耶》より連絡!『敵機ハ全テ戦闘機型。機銃掃射ニ注意サレタシ』以上」

(なるほど、そういうことね)

摩耶からの情報で、敵機が追い風でも発艦できた理由が見えた。

比較的身軽な戦闘機を飛行甲板の端から端まで目一杯使って発艦させたのだろう。
もしかしたら、燃料すら減らしているのかもしれない。

「一応、ひと安心でしょうか?」

「せやな」

「そうなるな」

戦闘機だけだということで、妖精らも砲撃の合間に交わす言葉に安堵がみえる。

戦闘機であればどんなに攻撃を受けても、戦艦には致命傷とはならない。
追い詰められた敵の、最後の悪あがきにしか思えなかったから。

435 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:17:57.05 ID:mtFckuXx0

「《摩耶》が対空射撃開始しました!」

見張妖精の声に目を向ければ、対空砲が盛んに放たれているのがみえる。
同じくしてけたたましく響いてくる轟音は、害鳥を追い払うのに不足は無いようだ。

「スゴイ!」

「オミゴト!」

手隙の妖精は《摩耶》が瞬く間に6機撃墜するのを見て歓声を上げた。
後世の人々をして洋上の対空要塞と評される《摩耶》を、誰もが褒め称える。

「……難しいわね」

だが、霧島はひとり、歓声に沸く艦橋にあって難しい表情を浮かべている。

「……如何なされまして?」

霧島が懸念を示したと思えた妖精は、探るように問いかけた。

「そうね。気合が……入りすぎなところかしら」

「え?」

「あれじゃあみんな敬遠してしまうわ」

436 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:19:40.07 ID:mtFckuXx0

《摩耶》が初手から一網打尽にしたことで、敵機に相当のプレッシャーを与えたはずだ。
後続は危険な対空要塞を避けて飛ぶだろうから、迎撃可能率は大幅に下がる。

とはいえ、落とさない訳にはいかなかったし、手加減する余裕もあるはずが無い。

そもそも航空機は任意の方向から目標へとアプローチできるのだ。
どの道、《霧島》はあらゆる方向から襲撃されるだろう。

「ま、遅かれ早かれ飛んでくるのだから、仕方ないのよね……」

「はぁ……」

ひとり納得の様子に、妖精はあいまいにうなづくしかない。

微妙な空気は砲術妖精の報告が入れ替える。

「次弾装填完了!」

「……、……。撃て」

その報告に再度照準を確認してから砲撃を命じた。
高速航行で落ちる命中率を少しでも上げなければならない。

「テーッ!」

437 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:20:46.74 ID:mtFckuXx0

命じた斉射の咆哮が収まれば、霧島は続けて指示を出す。

「対空戦闘用意」

「たいくーせんとーよーい!」

妖精の復唱を聞く中、迫る敵機を見透かそうとするかのように顔を上げた。
そしてその状態で顔を横に向け、そのまま後ろに控えた高射指揮妖精へと振り返る。

「対空戦闘任せるわ。けど――」

「!?」

霧島の”けど”に込められた意図は、打っ込まれた眼光の鋭さで理解する。

「へ、へい!やつらにゃカチコミさせませんぜ!!」

彼女の長姉をして『その顔はNoネ!』と言わしめる程の迫力で睨まれては一も二も無い。

「――よろしい」

「防空指揮所へあがります!」

霧島が鷹揚にうなづき返せば、脱兎のごとく駆け出して行った。

438 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:22:21.81 ID:mtFckuXx0

「さてと……」

対空戦闘を高射指揮妖精に一任したのは、砲戦に専念する為だ。
機銃とはいえ、艦橋をやかましく狙われては、鬱陶しい事この上ない。

「主砲装填完了!」

「……。撃て!」

依然、命中率は芳しくない。

そして砲撃の余韻おさまらぬ中、電探妖精の弾んだ声が響く。

「《夕立》が敵水雷戦隊に正面から突撃。これを撹乱しつつあり!」

「予想通り、なのかしらね」

一見して無茶な戦術も、彼女の戦歴に裏打ちされれば、何という事もない。

「摩耶にも連絡してあげなさい」

「了解」

通信妖精から目を移せば、《摩耶》は右へ左へと舵を切りながら盛んに撃ち上げていた。

439 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:24:20.26 ID:mtFckuXx0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 重巡《摩耶》

「取舵!3時方向の数機に集中射撃!」

『宜候!』

最適な弾幕を形成す為、舳先を降りつつ射撃を行う。
対空機銃の短い射撃が幾重にも打ち鳴らされ、絶え間なく響く、響く。

「舵もどせ!」

「11時方向低空に敵機!距離3500!」

『主砲いけます』

見張りの声に、砲術妖精のアピールが続く。

「針路このまま!主砲撃ち方はじめ!」

『撃て!』

機銃射程外を迂回する敵機へと、対空戦闘で出番の無かった主砲が放たれた。
戦艦に比して控えめであるが、それでも主砲発射の衝撃は腹に響く。

間も無く着弾して数多に立ち昇る水柱をものともせず、敵機はそれを蛇行してかわす。
それを見て低空が穴と数機が続き、悠々と蛇行しながら《摩耶》の防空圏突破を図る。

次々と水柱を避けていくが――、

『これより弾種変更、三式弾』

摩耶は三式弾に対して敵機撃墜をあまり期待していない。
よほど上手に当てないと、炸裂時の見た目が派手な嫌がらせ程度の能力しかないからだ。

『撃て!』

これまでより高めの弾道で放たれた三式弾が炸裂し、敵機集団を横合いから絡め取る。

やはり撃墜には至らず1機の突破を許したものの、他は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
中にはエンジンから煙を吹く機体も見える。

「よくやった!遠距離のは見つけ次第撃て」

『了解!』

440 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:26:58.65 ID:mtFckuXx0

砲術妖精への指示を終えた摩耶に、今度は通信妖精からの報告が上がる。

『《霧島》より通信です』

「おう、なんだって?」

『読みます!「《夕立》ガ敵水雷戦隊ト接触。コレヲ撹乱シツツアリ」です!』

「了解だ!」

通信妖精へと少し弾んだ摩耶の声が返る。
夕立の大言壮語かと思いきや、その勇戦ぶりには見事な足止めだと感服するしかない。

「よっしゃ――っあ?!」

気合も新たにしようとした瞬間、

「8時方向に敵機!低空で近づく!」

三式弾で被弾した敵機が、白煙を吐きつつ一直線に向かい来るのが見えた。
被弾で帰艦できないと諦め、一矢報いようとしているのか。

「特攻かよッ!」

即座に機銃を差し向けるも演算が追いつかず、敵機を補足しきれない。

441 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:29:22.39 ID:mtFckuXx0

距離が1000を切る頃には炎を纏い、火の玉となって突っ込んでくる。

「このっ!面舵一杯!」

『おもーかじいっぱーい!』

可能な限りの機銃を向けるが、特攻する敵機になかなか命中させられない。
また、この間にも他の敵機の迎撃も同時に行わなければならない。

間も無く距離は500を切る。

「落すんだよォ!」

後部甲板の機銃で集中的に火線を巡らせるが、接近を阻止できない。

舵が効き出して衝突コースをぎりぎりで避けるが、それが摩耶の限界だった。
敵機は横滑りで進行方向をずらし、《摩耶》の軸線にそれをあわせる。

「クソが!!」

『総員衝撃に備えよ!!』

特攻機は左舷を向いたままの四番砲塔側面に衝突。
重く弾けるような衝撃音と共に、その周囲へと破片との炎を盛大に撒き散らした。

442 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:31:58.58 ID:mtFckuXx0

―― キス島北方海域 別働隊 霧島支隊 戦艦《霧島》

「《摩耶》より入電「ワレ損害軽微。戦闘ニ支障ナシ」です」

被弾炎上した敵機が体当たりした《摩耶》の損害は大したものにはならなかった。
飛行機単体ではスピードも無く、与えられるダメージが軽すぎるのだ。

『対空射撃開始します』

《摩耶》を振り切った数機へと、先ず高角砲が弾幕を張る。
間も無く機銃も射撃を開始し、少ない敵機を逐次追い払った。

「さぁ、敵は目の前の空母だけよ。撃てェ!」

右手を横に振りぬいて砲撃を命ずると、すぐさま轟音が鳴り響く。

追撃を開始してからそれなりに経つから、そろそろ追い込みが必要だ。
敵の増援は夕立が上手く足止めしたことで、霧島は憂いなく戦えた。

だが、その裏を返せば、敵の深海棲艦には増援が来ないことになる。
逃げ切る為に次の手を打つ必要があるわけだ。

443 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:35:07.40 ID:mtFckuXx0

「ん?」

霧島は敵艦隊への違和感を感じ取った。

「敵艦隊の一部が反転します!まっすぐこちらへ」

「!?」

電探妖精の報告に艦橋の妖精もざわめく。
軽空母と駆逐艦の2隻だけが反転して来ている。

「捨てがまり?!……大した覚悟じゃない」

空母を逃す為に壁を、いや捨て駒を使うのを霧島は初めて見たのだ。
そして、その動揺の一瞬の隙を突かれる。

「3時方向より敵機接近!」

すぐそばまで迫った敵機が機首を向けていた。

「伏せろ!」

その叫び声をかき消すように、艦橋へと機銃掃射が振り注ぐ。

悲鳴、怒号、ガラスが砕ける音、破砕音、弾の跳ねる甲高い音、メガネが床に落ちる音……。

敵機は緩やかに降下しつつ艦橋へと銃撃を浴びせると、至近距離まで接近して上昇に移る。
艦橋後部をフルスロットルで飛び越えて、一撃離脱を図ろうとした。

だが、

「落せ!オトセエエエエェェ!!」

半狂乱となった高射指揮妖精が指向可能な全ての対空兵装で追撃をかける。
たった1機には過剰すぎるほどの銃弾を叩き込まれれば、無事ではすまない。

敵機は左翼をもがれて炎上しながら、錐もみ状態で堕ちて行った。

444 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:36:50.01 ID:mtFckuXx0

機銃掃射を受けた艦橋は、すぐさま被害確認が開始される。
戦闘艦橋ではガラスがほとんど割れたのと、いくつかの機器が破損した。

その報告をと振返った妖精は、俯いた霧島が視界に入る。
足元には右側のツルが無いメガネが堕ちているのを除けば、目だった怪我は無い。

「あの……、霧島サン……」

よく見れば右頬に短く裂けた切傷があり、つぅっと血が滲んでいる。
跳弾が霧島の頬をかすめ、メガネのツルを断ち切ったのだろう。

今気が付いたが、カチューシャの右側の飾りも無くなっていた。

「……あの」

「はぁぁぁぁ〜〜……なんだコレは」

俯いたままの霧島が唸る様なため息を吐けば、低くドスの効いた声が響く。

「おもしろいことしてくれるじゃないか。……なァ?」

「 ! ? 」

顔を上げた霧島の、羅刹のすさまじき形相は艦橋の空気を氷つかせた。

445 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:38:39.43 ID:mtFckuXx0

「被害報告」

「ハイ!」

霧島の求めに応じて、確認できた被害を報告する。

「前檣楼各所に機銃掃射で被弾。各種機器損傷あるも戦闘に支障ありません」

「電探室に被弾。22号電探使用不能」

外では対空機銃が再び敵機を近づけまいと、懸命になって応戦している。

「……ふざけんなよ、コラ」

壊れかけのカチューシャを手に取れば、それをへし折って床へと叩き付けた。
メガネを壊されて怒ったように見えるが、それだけではないと思いたい。

「砲撃目標変更!反転した敵軽空母!!」

「直ちに測的開始します!」

機銃掃射の混乱から立ち直ってすぐ命令は、艦橋の喧騒を一際大きくした。

「急げ!アイツの飛行甲板ブチ抜くぞ!!」

《霧島》は新たなる目標へと砲撃を開始する。

446 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/14(日) 22:45:19.14 ID:mtFckuXx0
今宵はここまでにしとうございます。
霧島さんのキャラがどうにも安定しない

毎度遅くてすいません。
つづきは早くて月末、遅くとも一ヶ月以内には。
4-5とか、そんなん考慮しとらんよ……
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/14(日) 22:48:12.16 ID:W6jV7s1eO
乙です
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/15(月) 13:23:25.44 ID:W/DSCtMGo
乙!
良いトコで切るなぁ
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/19(金) 21:01:00.26 ID:r2mVyDOqO
このスレに注目
P『アイドルと入れ替わる人生』part11【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434553574/
450 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/06/29(月) 22:42:08.38 ID:9MmHPhpA0
すいませんケジメとして週末絶対に書きます
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/29(月) 23:02:21.57 ID:3g/UVDuTO
待ってる
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/30(火) 22:10:22.44 ID:VdK03UNpO
待つよ
453 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/05(日) 22:33:52.58 ID:ll7Sg4Vq0
こんばんわ。
ごめんなさい。本当に短いですが始めます。

454 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/05(日) 22:36:09.45 ID:ll7Sg4Vq0

「測的は大体で良い!あとは私がやるから回せ」

「了解」

「装填済みです。いつでもいけます!」

霧島が目標を切り替えたのは、追い風を得た空母からの反撃を懸念してのことだ。
爆撃雷撃を受けながらの砲撃は、さすがに無理がある。

「主砲、交互射撃、撃て!」

「撃て!」

旋光
轟音
噴煙

主砲が勇敢な敵へと初弾を送り出した。

「次弾照準修正、下げ5」

そうして砲撃間も無い内から、先の砲撃より手前に落すよう修正を掛けた。
異なった砲撃諸元の二段構えで試射を行う。

「照準修正ヨシ!」

「撃て」

「テッ!」

脳筋と見られがちではあるが、蓄積されたデータの取り扱いには定評がある。
現に今このときも、測距儀のデータに加え、艤装の状態も数値化して計算を行っていた。

455 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/05(日) 22:42:36.06 ID:ll7Sg4Vq0

「第一射だんちゃーく、今!――全て遠弾」

距離の詰まり方が計算より早かったらしい。
第二射の修正量から半分ほどもどした諸元を送る。

「次、高め2」

「――修正ヨシ!」

「撃て」

「テッ!」

仮に霧島の計算どおりであれば、放たれた第三射はより命中を期待できる。
それは、すぐに本射に移っても良い程の。

「第二射だんちゃーく、今!近、全近!」

全て敵艦の前に落ちる近弾となったが、第一射の着弾に比して敵艦により近い。
観測系からの視点を切り離した霧島は直ちに命ずる。

「照準このまま。交互射撃、撃ち方始めッ!」

「撃ち方始め!テーッ!」

本射への以降を砲術妖精が復唱すると、主砲が火を噴く。

そして同時に、彼方で着弾の水柱が上がるのが見えた。

456 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/05(日) 22:48:20.56 ID:ll7Sg4Vq0

「第三射だんちゃーく、今!近――、至近弾!」

「「「おおお!」」」

妖精らのどよめきに合わせ、主砲も吼えた。
ニィと口角を上げた霧島の、凶相にも歓喜が見て取れた。

「測的!追尾はァ、気合入れろや!!」

「了解!」

霧島が導き出した照準から、彼我距離諸々のデータを加えて敵艦を追い続ける。
揚弾機はフル回転し、運び上げたそばから次々と撃ち出されていく。

その短い間隔での着弾は海をゆるがし、艦載機の発艦を困難なものとした。

そしていくつ物水柱が立ち昇る中、飛行甲板から黒々としたものが吹き上がる。
艦載機が砲弾で砕かれた結果だ。

「敵空母に命中弾!」

飛行甲板への命中弾により、その衝撃で発艦中の機体を空中に跳ね飛ばした。
艦橋のすぐ後で発艦待ちしていた二機は消え去り、ただ大きな穴が開いていた。

「いいぞ!このまま叩き潰せ!!」

「応!」

命中弾を得て気勢を上げる《霧島》では、空母撃破が間の無くと思われた。

457 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/05(日) 23:00:36.97 ID:ll7Sg4Vq0
ごめんないさい。今回はここまでです。
続きもかけてますがいまいちなんで来週投下します。

最低限しか出来てなくて申し訳ない
毎日書ける人ってすごいですわ

458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/05(日) 23:43:08.99 ID:r2ZHHFMMo
乙です
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/06(月) 07:23:23.65 ID:tb0QMIDCO
乙!
常に飢餓感を感じる
460 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:16:45.92 ID:OgA9uW/O0
暑くて扇風機出した。
それでははじめます
461 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:19:41.28 ID:OgA9uW/O0

全力射撃に移ったものの、敵艦の行き足は止まらない。
確実に命中しているにも関わらず、だ。

それが何なのかはっきりしないが、霧島には違和感があった。
いつしか床をタップするピッチは、目に音に早まっている。

「くそう!まだ沈まんのか!」

「命中しているのにどうして……」

妖精たちのぼやきも、霧島の雰囲気を受けてか、焦りが見えた。

(おかしい……)

言うなれば暖簾に腕押し。
砲撃の手ごたえがまるで無い。

徹甲弾が命中しても、黒煙を風になびかせるだけ――

「テメェ……そういうことか」

舌打ちの後、忌々しげに吐き捨てた。

何かに気が付いた霧島は、即座に動く。

「――弾種変更!三式弾」

462 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:21:20.21 ID:OgA9uW/O0

「え?」

唐突な命令ではあった為か、間抜けな反応をした砲術妖精に重ねて命ずる。

「聞こえなかったのか?三式弾だ。三式弾」

「対空砲弾ですよ!?撃って効果があるとは……」

何かしらの反論があるのは予想していた。
理由を説明していないのだから、さもあらん。

「ヤツの装甲が薄すぎて徹甲弾の信管が作動していない」

「えっ」

「だから三式弾で焼き払う。飛行場も飛行甲板も同じようなモンだろ」

「いや、それは」

「とにかく!飛行甲板が潰せれば良い。本格的に発艦されると厄介だ」

砲術妖精としては納得がいかないが、命令ならば致し方ないが。

「し、しかし」

「今度は何だ?」

「現在は徹甲弾を装填中です。それを入れ替えるとなると……」

今この時も弾薬庫では、徹甲弾を送り出す準備がされている。
戻すとなればどれだけ時間が掛るか見当もつかないし、そんな余裕があるとも思えない。

「撃って使い切ればいい。ほらほら、さっさとぶっ放せ!」

切り替えが簡単ではないのを霧島は十分に理解している。
だったら撃ってしまえば良いだろう、と。

463 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:22:57.55 ID:OgA9uW/O0

「第一、第二砲塔急速射撃!次弾から狙いはつけなくて良い!」

砲塔は砲術妖精の命令を受け、装填済の砲弾を発射してから仰角を水平近く下げた。
ある程度の仰角があっても装填可能であるが、やはり水平に近い方がやりやすい。

「あー、三式弾は2射分でいい。各砲2発づつだ。いいな?」

「了解!」

霧島の追加注文に応ずると、砲塔はこれまでに無い早さで砲撃を行った。
砲身の上げ下げが無いから、その間隔は30秒にも満たない。

「あと3射で徹甲弾終わります」

放たれた砲弾はヌ級の前方の海を叩き、いくつもの水柱を吹き上げる。
発艦したばかりの雷撃機が、不運にも吹き上がった水柱に沈む。

さらに、着弾で荒れた海はヌ級を揺るがし、発艦できる状態ではなかった。

「次弾より三式弾を装填します!」

「……了解。諸元送る」

測的に集中していた霧島は砲術妖精の報告を受け、砲塔へと射撃データを送り込む。

「これは?!」

「大丈夫だ。問題ない」

射撃諸元を読み取った砲術妖精は、通常ではありえない信管設定に驚いた。
それを霧島は一言で抑える。

装填完了の報告と共に砲身が持ち上がり、砲撃の準備は整った。

「これで”屑鉄(スクラップ)”にしてやんよ!撃てッ!!」

炎を吐き出し轟音を響かせながら、4発の三式弾が飛翔していく。

464 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:25:19.30 ID:OgA9uW/O0

撃ち出された三式弾は、霧島の計算通りにヌ級へと到達した。


時限信管が高度200mを切る頃に作動し、点火した焼夷弾子を放出する。

艦の軸線と散布界が重なったことで、感は満遍なく火花に飲まれた。

散弾なのだから、直撃させる必要も無い。


放出距離と相まって、弾子は理想的とも言える密度で飛行甲板に降り注ぐ。

破片が飛行甲板を切り裂き穴を穿ち、焼夷弾が火をつけて回る。


それは飛行甲板で発艦待ちしていた攻撃機・爆撃機にも、容赦なく突き刺さる。

穴だらけとなった機体からは燃料が漏れ出し、次々と引火炎上していった。

防弾性能が良くとも、砲弾の終末速度を維持した3000℃にも達する火の玉には無意味だ。


そして、飛行甲板での火災は序の口でしかなく、更なる被害が発生する。

機体に吊った爆弾や魚雷の誘爆が始まったのだ。

465 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:29:29.56 ID:OgA9uW/O0

ちょうど飛行甲板の中央後よりで、機体搭載兵器の誘爆は始まった。

魚雷が、爆弾が相次いで爆発し、吊った期待を粉々に吹き飛ばす。


そして、その爆発エネルギーは当然下にも向いている。

飛行甲板はいともたやすく打ち砕かれた。

崩れた飛行甲板が、燃え盛る機体ごと格納庫へ落ちてゆく。


格納庫では《霧島》攻撃に向けた兵装準備の真っ最中であった。

魚雷や爆弾、燃料などのあるとあらゆる爆破物と艦載機が置かれている。

それらは落ちてきた瓦礫に押しつぶされたが、燃料に火が付くだけに止まる。

その程度では爆発しないよう、兵器として当然の対策がなされている。


被弾したことで母艦能力は喪失したが、まだ戦える見込みはあった。

射撃の的に成り下がってでも、味方を逃す時間を稼ぐことが。


しかし、その旺盛な戦意は露と消え去る。

霧島の怒号と共に放たれた三式弾の第二射が、格納庫へ飛び込んできたからだ。

466 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:31:16.46 ID:OgA9uW/O0

着発信管で放たれた三式弾は、ヌ級に一発づつの至近弾と命中弾をもたらした。

至近弾は右舷側におちて弾子を噴き上げると、艦橋を直撃してこれを粉砕した。

そして格納庫へ飛び込んできた命中弾が、ヌ級の止めとなる。


着弾で生じた衝撃波と、同時に放出された焼夷弾の炎が、格納庫内を荒れ狂う。

構造物や艦載機を砕き切り裂き、機体や燃料が燃え上がる。

そして、一本の魚雷を爆発させた。

それが引き金となって、格納庫内での誘爆が始まる。

散開させていた魚雷や爆弾に次々と連鎖し、その衝撃は飛行甲板を突き破る程だ。


次々と起こる爆発と火災には、もはや手のつけようがない。

憎き敵艦へとたたきつけるはずの魚雷や爆弾で、自身が焼かれている。

ヌ級は炎と濛々とした黒煙を噴き上げ、海に浮かべる篝火と成り果てた。

467 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 20:31:16.46 ID:OgA9uW/O0

着発信管で放たれた三式弾は、ヌ級に一発づつの至近弾と命中弾をもたらした。

至近弾は右舷側におちて弾子を噴き上げると、艦橋を直撃してこれを粉砕した。

そして格納庫へ飛び込んできた命中弾が、ヌ級の止めとなる。


着弾で生じた衝撃波と、同時に放出された焼夷弾の炎が、格納庫内を荒れ狂う。

構造物や艦載機を砕き切り裂き、機体や燃料が燃え上がる。

そして、一本の魚雷を爆発させた。

それが引き金となって、格納庫内での誘爆が始まる。

散開させていた魚雷や爆弾に次々と連鎖し、その衝撃は飛行甲板を突き破る程だ。


次々と起こる爆発と火災には、もはや手のつけようがない。

憎き敵艦へとたたきつけるはずの魚雷や爆弾で、自身が焼かれている。

ヌ級は炎と濛々とした黒煙を噴き上げ、海に浮かべる篝火と成り果てた。

468 : ◆NpAbJPCwwM [sage saga]:2015/07/12(日) 21:36:59.12 ID:OgA9uW/O0
あ、今回はここまでです
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/12(日) 21:57:00.66 ID:+xOKGqdAO
乙。描写だけ見るとよく船体が折れないなと思うわー
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/12(日) 23:57:49.90 ID:eiHp05T4o
乙です
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/13(月) 04:56:03.94 ID:nrSkS/+7o
乙乙!
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/17(金) 08:35:33.88 ID:kUzyOArxO
振り返ってみれば
1年半以上経ってるんだな
1レスごとの密度が濃いからまだ1スレなのも凄いな。
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