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古の力と四人の戦士 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2014/07/07(月) 11:41:39.88 ID:maXVTa+TO
【1】
これは昔々、精霊と人間が共にいた時代のお話し。
その昔、この世界は多くの精霊の輝きで満ち溢れていました。
木々や草木、一枚の葉っぱ、雨や水のひとしずく。
空に浮かぶ雲、風にも岩にも石にも、精霊はいたのです。
その中でもひときわ輝いていたのが、火・水・土・風の四精霊でした。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1404700899
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:20:24.33 ID:WpWM+xYMo
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■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:17:17.71 ID:/UbTl3Hgo
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■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:16:22.54 ID:Un8tNByuo
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ミア「歩夢・・・辛かったな・・・」ナデナデ歩夢「ミアちゃん・・・うぅ・・・」 @ 2024/11/22(金) 00:59:47.53 ID:w7bhdEV4O
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ちんぽいぬ @ 2024/11/21(木) 22:13:45.60 ID:BuRqeSctO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732194825/
無くても死にはしないけどある方が安心する気がしないでもない @ 2024/11/21(木) 02:19:47.82 ID:SZfofcdIo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1732123187/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sagesaga]:2014/07/07(月) 11:43:44.31 ID:maXVTa+TO
この四精霊は小さな精霊とは違い、とても強い力を持っていました。
自身の名に付く全てを、思いのままに操ることが出来たのです。
四精霊は長い長い間、その力で人間を守ってきたのでした。
日照りが続けば雨を与え。
枯れた土には豊かさを与え。
風は雷雲を掻き消し、炎は獣を遠ざけました。
四精霊力は力を持たない人間のため、ずっとずっと守り続けていました。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sagesaga]:2014/07/07(月) 11:45:02.64 ID:maXVTa+TO
人間には、精霊のような力はありません。
精霊のように、永遠に生きることも出来ません。
しかし人間には、精霊にはない強い輝きを持っていました。
ーー困難に立ち向かう勇気
ーー夢や理想、その情熱
ーーそれらを実現させるための努力
ーー未来への希望
ーー愛する心、いたわる心、諦めない心
だからこそ、四精霊は人間を守っていたのかもしれません。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sagesaga]:2014/07/07(月) 11:46:01.63 ID:maXVTa+TO
姿を見せなくても、いつも自分達を見守り続けてきた精霊達。
そんな精霊達に、人間はとても感謝していました。
国が興り、繁栄しても、人間は精霊への感謝を忘れることはありませんでした。
ーー四精霊は、そんな人間が大好きでした。
いつまでもいつまでも、この世界で共にいられたら、と。
そんな気持ちを込めて、四精霊は人間に贈り物をします。
ーー精霊石
それは四精霊それぞれが、自分の力を込めて作り出した力の結晶。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 11:49:54.84 ID:maXVTa+TO
その四つの精霊石を、四精霊は四つの国の王に贈ったのです。
火の国には火の精霊石を
水の国には水の精霊石を
土の国には土の精霊石を
風の国には風の精霊石を
いつまでも共にいられるようにと。そんな、希望を込めた贈り物。
その贈り物に人間はとても喜び、いっそう精霊達に感謝し、愛しました。
そして、精霊石によって人間達は更なる発展を築いたのでした。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 11:50:55.65 ID:maXVTa+TO
しかし百年・二百年が経つと、少しずつ忘れてしまいます。
さびしいですが、それも当然のことなのかもしれません。
なぜなら、四精霊が精霊石を渡した時代の人間は、もういないのですから。
こうして、豊かな生活が当たり前となった人間には、感謝の心などなくなっていました。
まるで、最初からそうであったかのように……
それを知った四精霊は、とても悲しみました。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 11:51:52.67 ID:maXVTa+TO
ーー自分達が愛した友人は、あの美しい輝きは、消えてしまった
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 11:53:28.92 ID:maXVTa+TO
四精霊は思いました。
自分達を思い出して欲しい。
そこにある精霊の存在を、忘れてないで欲しい。
四精霊は悩んだ末、精霊石から力をなくすことにしました。
支えられて生きているんだよ。
この世界にいるのは、人間だけじゃないんだよ。
自分達も、精霊もここにいるんだよ。
そんな、つらい気持ちだったのかもしれません。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:00:18.09 ID:maXVTa+TO
輝きを失った精霊石。
繁栄と共に消えてしまった精霊達。
世界はあっと言う間に輝きを失い、真っ暗闇になってしまいました。
暗闇に包まれた世界で、人間は再び精霊の存在を知ることになりました。
こんなにも恵みを得ていたと、こんなにも与えられていたんだと。
人間は、今までの自分達を恥ずかしく思い、反省しました。
こうして人間は、精霊に謝ろうと決心したのです。
そんな時、ある異変が起きました。
争いのない平和な世界だったはずなのに、なんと、戦争が起きてしまったのです。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:03:39.94 ID:maXVTa+TO
始まりは、国同士が責任を押し付けあったこと。
人間を代表して精霊に謝ろうと、そう言っていたはずの四人の王が始まりでした。
彼等によって、起きるはずのない戦争が起きてしまったのです。
四精霊は異変を探るため、世界を飛び回り、その原因を見つけました。
四人の王を変えてしまった存在。
暗闇から生まれ出た新たな存在。
ーー暗闇の妖精
精霊石から輝きが失われ、多くの精霊達が消えた暗闇の世界。
そんな真っ暗闇から生まれたのが、暗闇の妖精です。
暗闇の妖精は人間を争わせ、その心を怒りと憎しみに染め上げたのでした。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:04:55.15 ID:maXVTa+TO
四精霊は、自分達の愚かさを嘆きました。
あんなことをせずに、人間から離れていれば良かった。
忘れて欲しくない。
そのために、あんないじわるを、なんと浅はかなことをしてしまったのだろう。
ーーこのままでは愛する友人が、人間がいなくなってしまう
人間は怒りにと憎しみに染まり、終わりのない戦いを続けます。
四精霊が悲しみでいっぱいになっている時、四つの輝きが現れました。
火・水・土・風。
それぞれの国から一つ。それはそれはまばゆい輝きでした。
それはあの時。
精霊石を渡してから、久しく見ていなかった輝き。
それは人間だけが持つ、いのちの輝きです。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:07:47.48 ID:maXVTa+TO
四精霊は、そんな四人の若者に希望を与えられたのです。
四精霊は四人の若者のもとへ飛び、人間の戦争を終わらせるための力を与えました。
若者達は戦いを終わらせるため、四精霊と共にいっしょうけんめい戦いました。
四精霊と共に国中に放たれた暗闇の分身を打ち倒し、四人は進みます。
そして遂に、暗闇の妖精との戦いが始まりました。
世界に輝きを取り戻し、再び平和な世界にするために、四精霊と若者達は戦います。
ですが、暗闇の妖精の力はあまりに強力でした。
暗闇に包まれた世界では、妖精が有利。
全てが、妖精の思うまま。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/07(月) 12:09:00.57 ID:maXVTa+TO
一方の四精霊は、暗闇に閉ざされた世界では思うように力を出せません。
戦いが長引くにつれ、若者達は傷を負っていきます。
からだのない精霊とは違い、人間は傷付けば死んでしまいます。
未来ある若者を、これからを創る彼等を、死なせてはならない
傷付いてゆく若者達を必死に守りながら、四精霊は決心します。
ーー彼等に、力の全てを捧げよう
それは生かすため、暗闇の妖精を倒すための、たった一つの手段でした。
四精霊は若者達に、自分達の持てる全てを授けたのです。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:09:54.57 ID:maXVTa+TO
ーー自分達の、いのちとひきかえに
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/07(月) 12:11:50.52 ID:maXVTa+TO
精霊のいのち、願い、希望。
それを受け入れ、人間とも精霊とも違う存在となった若者達。
若者達は諦めることなく、傷付きながらも懸命に戦います。
友人である精霊のために、人間のために、世界のために、戦い続けたのでした。
そして、長い戦いの果て……
若者達は、遂に暗闇の妖精を打ち倒しました。
すると暗闇はたちまちに消え去り、世界には輝きが満ち溢れました。
怒りと憎しみから解き放たれ、人間は、やっと武器を置いたのでした。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/07(月) 12:15:35.54 ID:maXVTa+TO
輝きは戻りましたが、壊れたものも沢山ありました。
人間も国も自然も、長い戦いの中で沢山傷付いていたのです。
四人の若者は精霊に託された力で、世界を癒やすための旅をしました。
四人の若者は、時間をかけてゆっくりと世界をまわり、その傷を癒していきました。
旅を終えると、四人はそれぞれの国へと戻り、復興を始めます。
その復興の最中。
その優しく気高い人柄が人々の心をうち、四人は皆から愛されるようになりました。
そしてやがて四人は……
火の王・水の王・土の王・風の王と呼ばれるようになったのです。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 12:16:43.66 ID:maXVTa+TO
また後で。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 12:18:27.30 ID:kqCxWRTfo
期待
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 13:03:53.92 ID:MQ1PAz/QO
面白そう
期待してる
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 13:14:07.57 ID:IeBdc/3aO
前やってたやつだよね
再開まってたよ
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 17:04:24.77 ID:h/xS4dLGo
乙
他のとどう繋がっていくのか気になるな
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:07:54.22 ID:maXVTa+TO
火の国 灯火の里
『大事な話しがある……』ウム
「なんて言うからどんな話しかと思ったら、またその話し?」
爺様「なんじゃカル、つまらんかったか?」
カル「そりゃあ小さい頃は面白かったけどさ、もう何千回も聞いてるから」
爺様「忘れてもらっては困るからの」
カル「ははっ、大丈夫だよ。耳から血が出るくらい聞いたから」
爺様「ところで、カルよ」
カル「どうしたの?」
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:09:47.36 ID:maXVTa+TO
ごめん、最初からなんだ……
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:10:47.51 ID:maXVTa+TO
爺様「お前はこの話し、精霊を信じるか」
カル「えっ、うーん。昔はどこにでもいたみたいだけど、今はいないからなぁ」
カル「それに、繁栄をもたらした精霊石なんて物も、今はないし」
爺様「やはり信じられんか」
爺様「大体、無い物を信じられるかと聞くのも可笑しな話しじゃが」
カル「でも、俺は信じたいかな」
爺様「何故じゃ」
カル「だって爺ちゃん、まるで見てきたみたいに話すだろ?」
カル「それに、そんな平和な世界だったら、皆が笑ってて楽しそうだし」
爺様「……そうか、皆の笑顔か。確かに良い世界じゃな」
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:12:13.30 ID:maXVTa+TO
カル「爺ちゃん、なにかあったの?何か変だよ」
爺様「いんや、何もありゃせんよ。ただ今日は、そんな気分なだけじゃ」
カル「そっか、ならいいけど。あっ、そう言えば」
爺様「なんじゃ?」
カル「今朝来た武芸者さんはどうしたの?随分熱心な人だったらしいけど」
爺様「あまりにしつこい男じゃったから、儂が直々に相手してやった」
カル「え、珍しい。いつもなら兄弟子に押し付けるのに」
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:14:04.58 ID:maXVTa+TO
爺様「お前は子供達と遊んどったし、儂以外に相手を出来る者もおらんかった」
カル「あの人、そんなに強かったんだ」
爺様「いや、弱い」
カル「えっ?」
爺様「弱いからこそ、他の者には任せられんかった」
カル「それは、どういうこと?」
爺様「強さを求めるあまり、己を見失っておった。ああいう類の輩は危険じゃ」
爺様「力を欲すること、強くなりたいと思うこと、それは良い」
爺様「じゃが、行く先を見失っては本末転倒。あれでは強くなれん」
カル「行き先?」
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:16:15.76 ID:maXVTa+TO
爺様「うむ。己の求める強さを見失ってはならん」
爺様「誰よりも強く、己を守る、他者を守る、地位名声……」
爺様「強さの先に求める物は、人それぞれじゃ」
カル「(自分の求める強さ。強さの先に求める物……)」
爺様「それを見失い、ただ闇雲に剣を振るっては、いずれ狂う」
カル「く、狂う?」
爺様「なにも大袈裟に言っているわけではない。これは事実なんじゃ」
爺様「目指す場所を見失い、己の剣を振るう意味を忘れれば、それは剣術でも武術でもなくなる」
爺様「最早それは、ただの暴力。力を誇示する為、誰彼構わず牙を剥くじゃろう」
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:17:54.30 ID:maXVTa+TO
カル「だから、爺ちゃんが相手を?」
爺様「そうじゃ、お前にも弟子達にも戦わせたくはなかった」
カル「……そっか。なあ爺ちゃん、あのさ」
爺様「なんじゃ?」
カル「強いって、何かな」
爺様「ふむ。ならば、お前はどう思う。お前の思う強さとはなんじゃ」
カル「……そんなに深く考えたことなかったから、分からない」
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:19:51.72 ID:maXVTa+TO
爺様「分からぬなら、今はそれでよい」
カル「でも、今の話し聞いたら
爺様「よいか、カル」
爺様「『それ』を最初から持っている者もおれば、後から見つける者もおる」
カル「………」
爺様「今は分からずとも、お前ならば必ず辿り着く。お前の思う強さにな」
カル「(俺の思う強さか。そもそも、戦うの好きじゃないしなぁ)」
カル「(……まあ、今はいいかな)」
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:21:25.27 ID:maXVTa+TO
爺様「カル、もうじき晩飯時じゃぞ。山へ行くんじゃろ?」
カル「あっ、そうだった。早く準備しないと」スクッ
爺様「む、また背が伸びたか。肉が足りん気がするが」
カル「そうかな、自分じゃ分からないな」
爺様「つい最近までは、稽古にも付いて来れなかったというのに」
カル「何で寂しそうな顔するんだよ……」
カル「それに爺ちゃんが言うつい最近って、何年も前だろ?」
爺様「儂にしてみれば最近なんじゃ…」
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:24:41.10 ID:maXVTa+TO
カル「確かにあの頃は稽古後に爆睡してたなぁ……」
カル「疲れて歩けない時は、爺ちゃんがおんぶしてくれてたっけ」
爺様「くっ、ふぐぅ…」ジワッ
カル「えっ、何で涙ぐむの!?」
爺様「孫が成長した喜びと、妙な寂しさが……」プルプル
カル「ば、婆様が夜から雨だとか言ってたし、もう行くよ」
爺様「……そうか。気を付けて行くんじゃぞ」ズビー
カル「な、なるべく早めに帰ってくるから!!じゃあ、行ってきます」
ガララッ…パタン…
爺様「(随分と逞しくなった。もう十七、そろそろ話しても良い頃合いかもしれんな)」
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 17:28:53.14 ID:maXVTa+TO
また後で。前は仲間をすぐに出し過ぎた。今回は進むのがちょっと遅かったりすると思う。
結構長くなると思う。厨二。
続きだと思ってた人、ごめん。先に書くべきだった。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 17:29:54.14 ID:maXVTa+TO
話しの進みが遅くなる、だった。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/07(月) 17:35:21.14 ID:1ZGzxLWb0
ちゃんと完結できるよう応援しといてやるよ(ゲス顔)
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 18:42:27.53 ID:uVuu72ZSO
全然いいよ
おつ
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 18:43:10.80 ID:uVuu72ZSO
sage忘れすみません
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:00:37.60 ID:3Yi9DapjO
>>>
爺ちゃん、いきなり泣き出すからびっくりしたよ。
なんだか最近年寄りっぽくなってきた気がする。
実際歳なんだし当たり前か……さて、雨が降る前に行こうかな。
今のところは大丈夫そうだし、獲物がいなかったら早めに帰ろう。
それにしても、爺ちゃんの様子が変だったな。もしかして怪我したり……
いや、それは無いな。
爺ちゃんが打ち込まれたとこなんて見たことない。
真剣での勝負ではないにしろ、稽古中の爺ちゃんを見てきたからこそ思う。
今朝方やってきた武芸者が、どんなに素晴らしい剣術・体術を体得していたとしても、だ。
なのに何で、あんな顔してたんだろう?
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:03:56.33 ID:3Yi9DapjO
寂しいとも悲しいとも違う。
今まで一度も見たことのない、不思議な表情だった。
少し、嫌な感じがする。
具合悪かったりしたら大変だし、帰ったら聞いてみよう。
「あ、兄ちゃんだ!!今から山行くの?」
飛び付いてきたのは、さっきまで遊んでた子供達の一人。あんなに遊んだのに、疲れが全く見えない。
かくれんぼに鬼ごっこ。後は達磨さんが転んだ。その他にも色々。
子供の元気は本当に凄い。今だけを考えて、楽しむことが出来る。
後先を全く考えてないんだろうな。勿論良い意味で。
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:07:17.22 ID:3Yi9DapjO
「今から狩りに行くんだ。お前も暗くなる前に帰るんだぞ?雨降るみたいだし」
「あ、そうだ。お父さんに、いつも野菜ありがとうって伝えてくれ」ポンッ
「へへっ、分かった。気を付けてね」タタタッ
「転ぶなよー」
爺ちゃんにはまだ話してないけど、稽古よりも、子供に読み書き教えたり、一緒に遊んだりする方が楽しい。
いずれは、どこかで先生になりたいと思ってる。
直接話してないけど、爺ちゃんのことだからきっと気付いてると思う。
ちなみに、夢はもう一つある。
これは多分気付かれてないはずだ。
それは、世界中を旅して精霊を見つけること。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:11:13.50 ID:3Yi9DapjO
これは本当に小さい頃から想い続けてきた夢。
爺ちゃんは、若い頃から世界中を旅していたらしい。
今でも、たまにお酒を飲むと旅の出来事を色々話してくれる。
そんな冒険話しを小さい頃から聞いてた所為か、まだ見ぬ世界と、気ままな旅に憧れを抱いたんだと思う。
だけど、そんな心踊る冒険話しの中で、爺ちゃんは必ずこう付け加える。
どんな旅にも、終わりがあるって。
ーー爺ちゃんの旅の終わりは、この灯火の里だ。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:18:06.56 ID:3Yi9DapjO
数十年前。
里近辺を根城にしていたという山賊。
これを追い払ってから里に落ち着いたと、婆様には聞いた。
かなり無茶苦茶な人だったらしく、若い頃の爺ちゃんは一人で山賊を退治したらしい。
一宿一飯の恩義の為にやったことだったみたいだ。ちなみに、泊めたのは若かりし頃の婆様。
山賊に怯え、言いなりになっていた当時の人々は、その一件で意識が変わった。
自分達の里は自分達で守ろうと、強くなろうと決心したんだ。
だけど、此処は着物染め物の里。
勿論、武術剣術なんてものには全く縁がない。
そこで里の人々は、爺ちゃんを頼った。
ーーこの里を守る為に、家族の為に、強くなりたい。
爺ちゃんはその申し出を受け入れ、そして、今に至るわけだ。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:31:14.92 ID:3Yi9DapjO
そして現在。
爺ちゃんは今でも武術剣術の師として、里のみんなと一緒に暮らしてる。
爺ちゃんの噂はすぐに広まり、この里は武術剣術の里なんて言われるようになった。
だから、今朝方来た武芸者のような人が後を絶たない。
爺ちゃんがいくら強いと言っても、もう歳だ。
まだまだ行けるって爺ちゃんは言ってるけど、無理しないで欲しい。
わざわざ田舎にまで来てもらって悪いけど、爺ちゃんに挑むのも止めて欲しい。
でも、一つ気になる。
直接聞いたことは一度もないけど、何で爺ちゃんはこの里を選んだんだろう?
あれだけ強いなら、国の偉い人に声を掛けられてもおかしくないのに。
ーー爺ちゃんは旅を続ける中で、何を見て、何を知ったんだろう
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/07(月) 22:34:40.72 ID:3Yi9DapjO
また後で。
書き方無茶苦茶だけど、こんな感じで書いてく。だから、長くなる。
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/07(月) 23:02:11.52 ID:3Yi9DapjO
織り姫は絶対浮気してる。彦星も他に女がいる。
どうせ何百年も前から冷え切ってるに違いない。
大体、一年振りに会ってどんな話しするんだ。気まずい無言が続くだけだろ。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/07(月) 23:12:44.00 ID:1ZGzxLWb0
そんな拗ねた君にもう一つ面白い話をしてあげよう
織姫と彦星、つまりはアルタイルとベガは15光年ほど離れているので片方が光速で会いに行ったとしても15年くらいはかかる
つまり一年で一度しか会えない7月7日に二人揃って仲良くセックルする為には最低7年掛けて会いに行かなければならない
どちらかがニートになっている確率が物凄く高いという事だ
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 00:26:46.18 ID:G6xE4QfKO
「彦星、織り姫と別れるって」七夕終了。投下。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:28:20.40 ID:G6xE4QfKO
>>>
いつもの山道を歩いて数十分、大体の予想を付けて、様子を見る。
山に入った時に気を付けることは、熊の姿が見えたら全力で逃げる。
後は、蜂の巣には近付かないようにする。
基本、長袖着用。これくらいだ。
蛇とかにも十分に注意しながら、まずは山菜を採る。
狩りはその後だ。
「よし、こんなもんかな」
山菜を入れた籠を茂みに隠してから、狩りの準備。
樹によじ登って、別の樹に飛び移ってから辺りを見渡す。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:31:15.16 ID:G6xE4QfKO
それから、餌を撒く。
これは、爺ちゃんが芋とか色々練り合わせて乾燥させた物。
これを撒くと、鹿や猪、兎なんかが寄ってくる。
時々、本当に稀だけど熊が現れるから、樹上から撒くようにしてる。
後は待つだけだ。
暫くして獲物がやって来なければ、今日は諦めて帰る。雨も近いだろうし。
「ちゃんと、爺ちゃんに話した方がいいかもな」
俺も、今年で十七だ。
そろそろ真剣に将来のことを話し合ってもいい。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:32:35.37 ID:G6xE4QfKO
先生はともかく、旅に出たいなんて言っても反対されるだろうな。
先生をやりながら旅が出来たら最高なんだけど、そんなの無理だし。
でも、世界って広いんだろうな。
この山、森だってこんなに広い。世界なんて言ったら、これの何百倍だ。
そこには俺の知らない場所や物が沢山あって、色んな出逢いがあるんだろう。
それを考えると、無理矢理にでも旅に出たくなる。
「おっ、来た」
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:34:11.81 ID:G6xE4QfKO
餌に釣られたのは、鹿。
あれくらいの大きさなら、俺一人で持って帰れる。
鹿が餌に食い付くのを待って、弓を手に取る。
完全に餌に集中したら弓を構え、思い切り引き絞って、射る。
真上から放たれた矢は、鹿の頭を捉えた。
悲鳴はなく、くらりと頭を揺らし、ゆっくりと倒れた。
辺りに熊がいないか確認した後、樹上から降りて鹿の亡骸に手を合わせた。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:35:47.25 ID:G6xE4QfKO
「ごめんなさい。ありがとう」
こういうことをしっかりやらないと、変な病気になったり、次の狩りの時に大怪我したりする。
もう亡くなった人の話しだけど、大物の雄鹿を仕留めた際、喜びのあまり礼を忘れた。
その人は次の狩りに出掛けた時、熊と出会して右腕を失ってしまった。
ただの偶然かもしれないけど、大事にしなきゃいけないことなんだろう。
「うわっ、降ってきた。早く帰らないと」
音が雨に消されたら、熊が出ても気付かない。
それはかなりまずい。
俺は、茂みに隠していた籠を背負い、鹿を引きながら山を後にした。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:36:31.37 ID:G6xE4QfKO
>>>>
どしゃ降りの中、なんとか里に下りると、背筋がぞくりとした。
直感、何かがいる。
熊と出会した時の寒気とは種類の違う悪寒。
住み慣れた里だとは思えない、重々しい空気。
山菜も鹿もその場に置いて、里の異変を確かめる為に走った。
気のせいであって欲しい、猪や熊ならまだいい。そう思いながら。
「何だよ、これ」
雨粒の所為で視界も悪いけど、『それ』は、はっきりと見えた。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:40:40.78 ID:G6xE4QfKO
黒い塊。
それは、やけに刺々しく、禍々しい輝きを放っている。
「…痛っ」
気付いた時には、殴っていた。
こんな打撃で砕けるはずもないのに、何度も何度も。
「っ、何が起きたんだ!!何で、こんなっ…」ガンッ
目の前にいるのに、応えはない。
どれだけ叫んでも、この子の表情は変わらなかった。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:42:28.90 ID:G6xE4QfKO
目を閉じて、今にも泣き出しそうなままで、止まっている。
原因なんて、まるで想像がつかない。
あまりに、現実離れしてる。
人が凍るなんてことが、そんな馬鹿なことが、有り得るのか?
夢でも見てる気分だ。
何とか現実逃避しようとしたけど、拳の痛みが、そうさせない。
黒い氷柱の中で怯える子の顔が、そうさせなかった。
「誰かに、やられた?」
恐怖に目を見開き、泣き出す寸前。動きは、そこで止まっている。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:44:16.41 ID:G6xE4QfKO
「待ってろ。今助けるからな」
きっと『何か』がいたんだ。
そいつが、こんなことを?何の為に?何でこの里に?
「くそっ、駄目だ。ただの氷じゃないのか?」
結局、金鎚で叩いても殴っても蹴っても、氷柱は壊れはしなかった。
そうだ。無事な人がいれば、何か分かる。
今更そんなことに気が付き、里の家々を見て回ることにした。
けど、結果は最悪だった。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:47:48.05 ID:G6xE4QfKO
皆、同じだった。
女子供も年寄りも関係なしに、凍り漬け。
「爺ちゃん……」
どこからどんな化け物が出てくるかと怖れながら、俺は家に向かって走り出す。
やっと家が見えてきたと思ったと同時、爺ちゃんの声が。
そして、炎が見えた。
どしゃ降りの中、眩しいくらいに光り輝く、柱状の炎。
それは曇天を貫く程に高く、強い炎だった。
火の粉は雨に消えることなく、きらきらと宙を舞っている。
精霊の輝きってのは、こんな感じなのかもしれないな。
一瞬、そんなことが頭を過ぎった。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 00:49:43.36 ID:G6xE4QfKO
中途半端だけど、ここまで。寝る。
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 05:59:25.10 ID:lDpnxwWu0
待ってたぞ
がんばって書き切って
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 07:30:54.56 ID:usEZVZLAO
おつ
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:21:54.14 ID:7Y434YlHO
燃え上がる炎に見惚れていたのも束の間。
我に返って爺ちゃんの下へ急ぐ。
あんな炎の側にいたんだ。
生きていたとしても、火傷なんかじゃ済まない。
爺ちゃん、頼むから生きててくれ。
こんな風に別れるのなんて、絶対に嫌だ。
まだ話したいこと、聞きたいことだって沢山あるんだ。
さっきまで、山に出掛けるまでは、いつもの日常だった。
そのはずなのに、何でこんなことになったんだ。
「熱っ…」
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:25:03.36 ID:7Y434YlHO
あの炎で蒸発した雨。
それが強い熱の籠もった蒸気となって、辺りを包む。
冷えていたはずの身体は、あっと言う間に汗を吹き出した。
氷の次は、炎。
帰って来てみれば、有り得ないことの連続。
里のみんなは氷漬けにされ、もう動かない。
助けることは、出来なかった。
何がどうなって、『こう』なってしまったのかも分からない。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:29:22.13 ID:7Y434YlHO
理解出来ること、想像出来ることの範疇を超えてる。
黒い氷なんてもの自体有り得ないけど、この雨の中、あんな炎が立ち上るのも異常だ。
何だか、知ってる世界がひっくり返ったような気分だ。
「カル、そこにおるのか」
強い熱気でくらくらになりながら門を潜ると、爺ちゃんの声が聞こえた。
声から察するに、負傷したような感じはしない。
爺ちゃん、無事だったんだ。本当に、本当に良かった。
もう誰もいなくなったのかと思っていた。
訳の分からない内に、全て失ってしまったと、そう思っていた。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:30:30.43 ID:7Y434YlHO
少しずつ視界が晴れ、やっと爺ちゃんの姿が見えた。
安心したのか腰が抜けたけど、爺ちゃんが抱き留めてくれた。
「爺ちゃん、何が起きたの?里の皆が、黒い氷に」
「カル、落ち着くんじゃ。里の皆なら、まだ間に合う」
何を言ってるのか分からなかった。
間に合うとか以前に、あの氷をどうにか出来るとは思えないからだ。
「爺ちゃん、さっきの炎は? あの氷は、一体何なの?」
「それは追々話す。まずは里の皆を助けねばならん」
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:32:21.82 ID:7Y434YlHO
「で、でも助けるってどうやって?金鎚やなんかでも壊せなかったのに」
「大丈夫じゃ。それより、急ぐぞ」
「わ、分かった」
有無を言わさずに抱き起こされ、里の皆の救助に向かおうとした時、それは聞こえた。
くぐもった唸り声と、何かがひび割れるような音の連続。
雨は相変わらず降り続いているけど、やけに耳に入る音。
振り向くと、幾つもの黒い氷塊があった。
それは鋭利で細長い、槍のような何か。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:33:32.67 ID:7Y434YlHO
宙に浮かぶそれは、俺と爺ちゃんに切っ先を向けたまま止まっている。
爺ちゃんは俺を庇うように背に隠すと、氷塊を睨み付けたまま、少しずつ後退。
すると氷塊の奥から何かが現れ、此方に近付いて来た。
それは、人の姿をした化け物。
焼け焦げた身体には何本もの黒い筋が這い、うぞうぞと蠢いている。
服はおろか頭髪も全て焼けて、皮膚も剥がれ落ち、肉が露出している。
重度の火傷なんてもんじゃない、誰が見ても分かるはずだ。
本来なら、人間なら、間違いなく死んでいる。
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:35:52.56 ID:7Y434YlHO
それなのに、化け物は不気味に笑っていた。手元にも氷塊が浮いている。
もう間違い無い。原因はあいつだ。
あいつが、里の皆を氷漬けにしたんだ。
あの黒く、禍々しく輝く氷を使って、皆を……
「爺ちゃん……」
「カル、よいか。絶対に、儂から離れるな」
「分かった」
化け物がぶつぶつと何かを言っているようだけど、言葉になっていない。
だらりと開いた口から、どろりとした黒い液が、ごぼごぼと溢れ出ているからだ。
ただ、敵意だけは伝わってくる。
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:37:13.49 ID:7Y434YlHO
何かを言い終えると、頬を引くつかせ、剥き出しの身体を震わせる。
かなり気味が悪い。
あの様子じゃあ、何をしてくるのか分かったもんじゃない。
直後、化け物は右手を勢い良く振り上げ、俺と爺ちゃんに向かって振り下ろす。
その動作と同時、宙に浮かんでいた氷塊、その全てが射出された。
俺は爺ちゃんの背中から動くことも出来ず、ただ立ち尽くすしかない。
旋回。上方、左右から降り注ぐ氷の槍を前に、何も出来ないでいた。
その時、爺ちゃんが何かを呟いた。
「炎よ。今一度、儂に力を」
爺ちゃんが膝を突くと同時に、幾つもの火球が周囲に現れた。
それは、先に見た火柱と同じ輝きを放つ炎。
暗闇を照らす光。
「……焼き尽くせ」
やっとのことで絞り出したような、酷く掠れた声。
火球はその声に、爺ちゃんに命じられるままに、『敵』を焼き払った。
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 14:38:23.25 ID:7Y434YlHO
ここまで。今日中に話しを進めたいとは思ってる。
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 14:43:12.87 ID:WJU492Rqo
乙
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 15:35:52.00 ID:VhgCFBcHO
おつ
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:14:34.93 ID:7Y434YlHO
火球が炸裂した後、聞こえるのは雨音だけとなった。
黒い氷を操る化け物からは煙が上がり、肉の焼ける嫌な臭いが辺りに立ち込めた。
また動き出しそうで気味悪かったけど、もう動くことはないだろう。
焼け千切れた四肢が、化け物の周囲に散乱している。
あれで動かれたら…いや、変な想像は止めよう。
それより爺ちゃんが心配だ。
先に見た火柱と火球。
あれは、爺ちゃんが出したと考えて間違い無い。
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:16:30.02 ID:7Y434YlHO
炎や氷を出したり操ったりする原理は全く分からないけど、きっとそうなんだろう。
問題はその後だ。
あの火球を出した後、爺ちゃんは膝を突いたまま動けずにいる。
大丈夫だとは言ってるものの、相当の疲労が蓄積してるように見えた。
いつまでも化け物の側にいるのも嫌だし、爺ちゃんは里の皆を助けると言う。
そうは言うけど、爺ちゃんは膝を突いたまま、肩で息をしてる。
歯痒そうにしながらも、俺を頼ろうとしないあたりが、爺ちゃんらしい。
何も言わずにしゃがみ、肩を貸そうとしたその時、突然手首を強く握られた。
「儂は、もう動けそうにない」
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:19:16.92 ID:7Y434YlHO
その言葉に、俺は何も言えなかった。
強くて物知りで、病気の一つもしたことのない爺ちゃん。
弱音なんて以ての外だ。
例え痛かろうが何だろうが、絶対に『こんなこと』は言わない。
諦めるような人じゃない。投げ出すような人じゃない。
そんな人が、初めて口にした言葉。
自分は『もう動けない』と。
爺ちゃんは冗談を言うような人じゃない、これは本気で言っている。
本当に、もう動けないんだ。
手を握る力は一層強くなり、瞳には強い光が宿っている。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:22:22.38 ID:7Y434YlHO
「カル、今から話すことを、よく聞くんじゃ」
「っ、嫌だ。聞きたくない!!動けないなんて、そんなこと言うなよ!!」
「……カル」
肩を掴み引寄せ顔を近付けると、爺ちゃんは優しく微笑んだ。
俺はぼろぼろ泣きながら、その顔を見て悟った。
爺ちゃんは、死ぬ。
「カル、分かるな。先程見た通り、儂には力がある」
俺にはもう、返す言葉、止める言葉が、思い浮かばなかった。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:24:27.34 ID:7Y434YlHO
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、何も言えない俺に、爺ちゃんは続けた。
火の精霊の力、命そのものを宿していること。
あの化け物は元々人間で、暗闇の妖精の力、その一欠片を使っていた。
力の源は、胸元に見えた黒い塊。黒水晶であること。
何より重要なのは、これが『兆し』だと言うことだった。
暗闇の妖精が甦り、何かをしようとしている。
昔話しと同じく戦を起こそうとしているのか、目的は分からない。
だけど、確実に復活している。
企みが何であれ、防がなければならない。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:26:16.07 ID:7Y434YlHO
世界が闇に包まれる。
そんな最悪の事態だけは、避けなければならない。
仲間を捜し、四精霊の力を以て、暗闇の妖精を打ち倒さねばならない。
小さい頃か聞かされ続けた昔話し。
それは、創作なんかじゃなく、現実に起きた出来事だった。
今、里で起きている事が、それを証明した。
爺ちゃんは、話しの最後に、一つだけ付け加えた。
とても辛そうで悲しそうな顔。
握られた手から、爺ちゃんの想いが伝わってくるようだった。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:28:11.94 ID:7Y434YlHO
ーーー頼む
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:30:06.02 ID:7Y434YlHO
その一言に、全てが詰まっていた。
力を、命を継いで欲しい。
俺にそうしてくれと、そう言っている。
あの爺ちゃんが頭を下げて、やるべき全てを俺に託すと言っている。
「分かった」
迷いは無かった。
誰かがやらなきゃ、この里で起きた事が他の場所でも起きる。
そしていずれ、世界は闇に包まれるんだろう。
そんなのは嫌だ。
誰かが泣くのは見たくない。
誰かが傷付くのも、大事な人を失うのも見たくない。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:33:20.17 ID:7Y434YlHO
「カル、済まない。こんな想いは、させたくなかった」
「大丈夫、分かってるよ」
「ふむ、いい面構えじゃ。思っていたよりも随分成長しとる」
「全部、爺ちゃんのお陰だよ」
「出来ることならば、お前の成長をずっと見ていたかった」
「………」
「そろそろ時間じゃ、ゆくぞ」
「なあ、爺ちゃん」
「なんじゃ」
「 ありがとう 」
「……カルよ、気高く、強くあれ。心を曇らせてはならんぞ」
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:36:39.57 ID:7Y434YlHO
次の瞬間、炎が爺ちゃんの身体を包んだ。
不思議と、熱くはなかった。
俺の手を握り、優しく微笑んだまま、爺ちゃんは炎に溶け、遂には炎そのものになった。
最期を見届け、炎を見る。
覚悟は出来てる。
人間でも精霊でもない存在。
これから俺は、それになるんだろう。
ほんの一瞬、炎が人型になったように見えた。
でも、それを確認する間もなく、炎は渦となり、俺を包んだ。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:40:59.49 ID:7Y434YlHO
「ぐっ、うぅ…」
渦を巻きながら、炎は徐々に臍の辺りから入っていく。
炎の力。その奔流が、全身に広がる。
それは、身体がを流れる血が炎に変わってるんじゃないかと思う程に熱い。
こんな凄まじい力が、人間の身体に収まるのかと不安になってきた。
さっきは熱くなかったのに、今は全然違う。
正直、かなりきつい。
見た目通り、内側から焼かれているような感覚だ。
まだ、終わらないのか。
あんまり気にしないようにしてたけど、指先や背中から炎が溢れ出てる。
と言うか、身体が炎に変わり始めてるのかもしれない。
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:43:58.89 ID:7Y434YlHO
本当に人間じゃなくなるのか?
身体が炎になるなんてことは無い。と思いたい。
いや、爺ちゃんは確かに人間だった。絶対、大丈夫だ。
それにしても、爺ちゃんはこんな力を収めてたのか、本当に凄いな。
「痛っ…」
何とか未知の痛みに耐えている最中、背中に何かが刺さった。
冷たかった気がする。
嫌な予感がして振り向けば、それは立っていた。
先とは違い、随分と人間らしい姿になっている。
蠢いていた蔦みたいな物が全身に広がり、それは鎧のように身体を保護していた。
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:47:14.09 ID:7Y434YlHO
「そんな姿になってまで、お前は何を手にしたかったんだ」
「……力。そう、強い力だ。貴様もそうなのだろう?」
話せないのを承知で訊ねると、意外なことに答えが返ってきた。
でも、俺はお前とは違う。
俺はそんなことの為に、この力を受け入れたわけじゃない。
無闇に人を傷付けるなんてのは、強い人間がすることじゃない。
……兜の奥で嗤っているのが分かる。
お前は、そんな風に嗤いながら皆を手に掛けたんだな。
何が楽しい、人を傷付けることの、どこが楽しいんだ。
ーーお前の思う強さとはなんじゃ?
今なら答えられる。
俺の思う強さってのは、守る為にある。
笑顔を、優しさを、思い付く限りの全て、それを守る為に、戦う。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 21:50:37.93 ID:7Y434YlHO
ここまで。今日中には無理だと思われる。
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/08(火) 21:52:17.38 ID:hvUtyp0CO
おつ
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/08(火) 23:52:09.73 ID:7Y434YlHO
「そうか、あの爺は死んだのか。呆気ないものだな」
「お前が来なければ、爺ちゃんは死なずに済んだ」
「小僧、それは違う。爺は、弱いから死んだんだ」
「……違う」
「何?」
「お前が弱いから、爺ちゃんは死んだんだ」
「ふん。何も出来ず、爺の背に隠れていた小僧が何を言う」
「人を傷付けて楽しむ奴に言われたくない。俺が、お前を倒す」
「面白い。やってみろ」
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 00:26:50.93 ID:7zNxT+MTO
負けてたまるか。
力の使い方も何も分からない。
その点じゃ向こうの方が有利だ。
それに炎が身体に収まりきってない。押し負けるかもしれない。
姿だけ見ても、奴の力は先よりも上がってる。
それでも負けるわけには行かない。
早い内に奴を倒さなければ、里の皆を助けられない。
「どうした。口先だけか、小僧」
氷槍。
やっぱり先のよりも数も多いし、でかい。
だけど、その分だけ躱し易くなった。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 00:29:41.35 ID:7zNxT+MTO
このまま避けつつ間合いに入って、思い切り殴る。
無駄な攻防はしない。
的は黒水晶だけに絞って、すぐに終わらせるんだ。
「行くぞ」
強く踏み込み、力任せに振り回された右腕を左手で流す。
後は胸の中心。
黒水晶目掛けて、思い切り拳を突き出すだけだ。
「ぐっ…貴様ぁ」
なる程、少し分かった。
どうやら、打ち出す場所を意識すれば、炎は出せるみたいだ。
割と簡単で助かる。上手く出来てるもんだ。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 00:33:09.04 ID:7zNxT+MTO
でも、火力が足りなかった。
感覚として炎が馴染んでないし、何より扱いが下手くそなんだろうな。
黒水晶にはひびが入っただけで、壊すには至らなかった。
今の一撃で決めたかったけど、過ぎた事を考えても仕方ない。
こうなったら、壊れるまで、何度でも打ち込むだけだ。
「残念だが、次は無い」
まずいな、距離を取られた。
氷槍も細く鋭いものに変わった。躱すのも難しい。
遠距離からの攻撃で、近付かせないまま終わらせるつもりなんだろう。
でも、そんなことしても無駄だ。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/09(水) 00:37:12.33 ID:7zNxT+MTO
「そんなだから弱いんだ」
「口の減らない小僧め。其処で死ね」
より細かくなった氷槍が降り注ぐ。
避ける事も出来ない。速度も先のと段違いだ。
一分も経たない内に、俺は傷だらけになった。
沢山の傷を負って、かなりの血が出てるけど、これでいい。
どう頑張ったって、今の俺には、こんな戦い方しか出来ないから。
「ぐっ、うぁっ」
「馬鹿が、ろくに力も使えんのに突っ込んでくるとはな」
力は受け継いだ。
でも爺ちゃんを見て分かった。本当に重要なのは、力じゃない。
それに、受け継いだのは力だけじゃない。
俺は爺ちゃんの魂、命を受け継いだんだ。
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 00:44:24.75 ID:7zNxT+MTO
だから小細工はしない。
傷を負っても脚は止めず、ただ真正面から、敵を蹴り砕く。
幾つもの氷槍が突き刺さったが、構わずに跳んだ。
新たに作り出された氷槍が俺を待ち構える。が、それは全て消える。
「なっ!?」
奴は驚いている。
受け継いだばかりなのに、炎を纏えるとは思いもしなかったんだろう。
俺だって、計算してやったことじゃない。
きっと、炎が応えてくれたんだ。
奴は氷槍を掻き消され動揺している。
次の動作に移れてない、胸の黒水晶が、がら空きだ。
決めるなら今しかない。これに、全て込める。
「うぉりゃああああ!!」
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 00:46:47.55 ID:7zNxT+MTO
ここまで。なんとか一段落ついた。
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/07/09(水) 07:07:18.91 ID:bA1SLWlbO
今日は無理かもしれない。
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 16:59:49.22 ID:oMEKFDrcO
身体を覆う炎は突き出した右足に収束し、螺旋を描く。
蹴りが届いたと同時、激しく回転する炎が黒水晶に叩き込まれる。
強い火花が散り、螺旋の先端が杭となり黒水晶を削る。
奴が勢いを軽減しようと咄嗟に右足を掴みに掛かるが、回転する炎に弾かれ手甲が砕ける。
勢いが落ちかけた時、背中から炎が噴出し、体勢を維持し勢いを増す。
背の炎により更に押し出された蹴り脚は、黒水晶と鎧を粉砕。
奴の身体を突き抜けた。
「終わった……」
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/09(水) 17:06:00.53 ID:oMEKFDrcO
振り向けば、上半身は消し飛ばされながら、下半身は残っていた。
下半身だけが突っ立っている。異様で奇妙で、気持ち悪い光景だ。
でもあれは、俺がやったこと。
奴にも、大事な人がいたんだろうか?
少なくとも、家族はいるだろう。
俺は里を襲った化け物を倒した。
守る為に戦った。
それでも、変わらない事実がある。
俺は、人を殺した。
倒したことへの安堵感よりも、後からくる罪悪感が胸に刺さる。
ずしりと重い、鉛を呑み込んだような苦しさだった。
「皆を、助けないと」
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 17:06:45.39 ID:oMEKFDrcO
俺は、精霊の力と命を継ぐと決めた。
戦うことも覚悟の上だ。
そうと決めたのなら、最期までやり遂げる。
きっと『これも』飲み込まなければならないものなんだろう。
爺ちゃんなら、どんな痛みからも逃げない筈だ。
俺も、そうありたい。
「行こう」
奴の半身が完全に焼失したのを見届け、俺は皆の救助に向かった。
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 17:07:21.17 ID:oMEKFDrcO
>>>>
里を走り回り、一つ一つ氷を溶かしていく。
何が起きたのかを説明する間もなく、次々と解放していく。
誰が何処にいるのか分からず立ち止まった時、男衆の声がした。
ーーこっちにいる
休んでくれと言ったのに、皆はあちこちに点在する氷を探してくれていたのだ。
夕飯時、まだ出歩く人もいる中での事件。家にいる人よりも、外にいる人の方が多い。
それを、皆が手分けして捜してくれていたのだった。
寒くて寒くて仕方ないのに、皆が皆の為に行動している。
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 17:22:58.76 ID:oMEKFDrcO
気味悪がられるかと思った炎については、何も言われなかった。
ただただ黙って、氷を溶かす俺を見守るだけ。
皆のお陰で、救助は短時間で終わった。
死んだのは、爺ちゃん一人。
皆が生きていたことを喜ぶ反面、失ったということを実感した。
でも、皆が無事で本当に良かった。
救助を終え、家の門前で腰を下ろし空を見る。
「雨、止んでたのか」
気付かない内に、雨が止んでいた。
里中を駆けずり回ってる間に、止んでいたんだろうか?
雲間から覗く沈みかけた夕陽と、蝉の鳴き声を聞いた時、現実に戻ってきたような気がした。
俺は事の次第を伝えようと立ち上がる。
すると座っていた場所に、ちょっとした血溜まりが出来ていた。
「あ、すっかり忘れ…」フラッ
俺の意識は、そこで途切れた。
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 17:26:51.78 ID:oMEKFDrcO
ここまで。次から話しが進むと思う。
後、戦闘書くのが本当に下手だと思いました。
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 20:17:48.08 ID:dnXaEEj/O
宣伝しといた。
文章が幼くてありきたりで説明長いってさ。
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/09(水) 20:49:21.00 ID:RU5AWImT0
他人のスレを評価させて無理やり悪い所だけを抜粋し、その上「宣伝しておいた」なんて面白い奴だな
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/09(水) 21:24:58.24 ID:fI6bB5sKO
おつ
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:16:49.83 ID:oMEKFDrcO
【2】
目を覚ますと布団の中にいた。
誰が運んでくれたんだろう?
後で、ちゃんとお礼言わないとな。
「っ…」
上体を起こそうとした時、身体中に痛みが走った。声も出ないくらいだ。
戦ってる最中は気にならなかったけど、随分やられたんだな。
炎や氷を操るなんていう、普通じゃ考えられない戦闘。
しかも、相手は人を捨てた化け物だ。滅茶苦茶もいいとこだよ全く。
カル「っていうか此処は…」
婆様「やっと起きよったか」ズイッ
カル「ヒッ!?」
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/09(水) 22:19:00.31 ID:oMEKFDrcO
婆様「なんじゃ、人の顔見て悲鳴上げるとは失礼な奴じゃな」
カル「目の前にいきなり婆様の顔があったら、そりゃあびっくりするよ!!」
婆様「ほほっ、思ったより元気そうじゃな。具合はどうじゃ?」
カル「あちこち痛いよ。少し動くだけでびりびりする」
婆様「……そうか、運ばれてきた時は血塗れだったからの」
婆様「てっきり、死体かと思ったわ」ニヤッ
カル「死体って……」
カル「まあいいや。ところで、誰が運んでくれたの?」
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:20:15.51 ID:oMEKFDrcO
婆様「誰かは分からんが、運んだのは男衆じゃ」
カル「そりゃそうだろうけど……」
カル「ん? 家の周りには誰もいなかったはずだけどな」
婆様「見つけたのは、お主を慕っとる子供等じゃ」
カル「えっ?」
婆様「寝てろと言っても聞く耳を持たず」
婆様「『兄様を捜しに行く』と言って飛び出して行きおった」
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/09(水) 22:21:49.54 ID:oMEKFDrcO
カル「(そうだったのか……)」
婆様「出てったかと思うたら、すぐに帰ってきた」
婆様「今後は、お主が死んだとか言ってわんわん泣いとったわ」
カル「だから死体だとか言ってたのか」
カル「実際は気を失っただけだったんだけどな」
婆様「子供等にはそう見えたんじゃろ。血塗れじゃったからの」
カル「う、何だか悪いことしちゃったな……」
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:22:46.89 ID:oMEKFDrcO
婆様「そう思うなら、早く元気な姿を見せてやれ」
婆様「何せ、四日も寝とったんじゃからの」
カル「四日!?俺、そんなに寝てたの!?」
婆様「手当てもせず、血を流したまま里中を走り回ればそうなるわい」ハァ
カル「あの時はそんなことしてる暇なかったし、仕方ないだろ」
婆様「ほほっ、分かっとる分かっとる」
婆様「皆から大体の事情は聞いた。皆、お主に感謝しておるよ」
カル「…っ、いいよ。みんな、無事だったんだし」ニコッ
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:24:13.66 ID:oMEKFDrcO
婆様「カルよ、無理に笑わんでええ」
カル「………」
婆様「やはり、爺様は亡くなられたんじゃな」
カル「うん。里を襲った奴と戦って、俺に力を託して……」
婆様「そうか、託されたか」
カル「……婆様は、爺ちゃんのこと知ってたの?」
婆様「古より伝わる伝承。火を司る精霊」
カル「!!」
婆様「いずれは直接話すつもりだと、そう言っとったよ」
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:27:22.77 ID:oMEKFDrcO
カル「婆様」
婆様「なんじゃ?」
カル「力を託された時、爺ちゃんに『頼む』って、そう言われたんだ」
婆様「……そうか」
カル「だから俺、これから旅に出る」
婆様「それは何故に」
カル「あの氷は、暗闇の妖精の一欠片。爺ちゃんはそう言った」
カル「俺は企みを防ぎ、仲間と共に妖精を討つ」
カル「その為に、旅に出る」
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:29:31.12 ID:oMEKFDrcO
婆様「(爺様とどんなやり取りがあったのかは分からん)」
婆様「(しかし、確かに受け継いだんじゃろう。目の色が、爺様と重なる)」
カル「婆様?」
婆様「旅に出るのは分かった。じゃが、まずは傷を癒せ」
婆様「爺様の葬儀も、まだ終わっとらん」
カル「……うん、分かってる」
婆様「今は休むがええ。葬儀の準備はしておく」
カル「ありがとう」
婆様「うむ、ところでカルよ」
カル「なに?」
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:33:11.07 ID:oMEKFDrcO
婆様「儂が言わずとも分かっとるじゃろうが……」
カル「??」
婆様「爺様は、お主を愛しとった」
婆様「何よりも大事な宝じゃと、そう言っとったよ」
カル「……そっか、それが聞けただけでも、嬉しいよ」
婆様「葬儀は爺様の家で行う。勿論、お主の傷が癒えた後でな」
カル「うん、分かった」
婆様「無理に動くでないぞ? ではな…」
カララッ…パタン…
カル「………」
ーー気高く、強くあれ、心を曇らせてはならんぞ
カル「爺ちゃん、約束する」
カル「俺、強くなるよ。絶対、強くなるから……」
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/09(水) 22:35:13.84 ID:oMEKFDrcO
ここまで。
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/09(水) 23:25:03.55 ID:oMEKFDrcO
続きは明日にする。
こんな感じで書き方ころころ変わると思う。許して。
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/10(木) 05:39:34.46 ID:fjv3f09hO
おつ
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/10(木) 06:30:06.90 ID:3TOMF9VuO
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/10(木) 11:35:35.45 ID:z1jvJL2KO
どうせエタる
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/10(木) 17:00:18.48 ID:z1jvJL2KO
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/10(木) 17:01:04.20 ID:z1jvJL2KO
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/10(木) 17:02:36.62 ID:z1jvJL2KO
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/10(木) 17:04:03.55 ID:z1jvJL2KO
おわり
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/10(木) 23:20:39.92 ID:xv1DgAAn0
酷い嵐だな、もう過ぎ去ったようだが
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 14:57:22.78 ID:vv9upkASO
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 14:58:50.28 ID:vv9upkASO
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 14:59:25.80 ID:vv9upkASO
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 15:00:10.29 ID:vv9upkASO
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 15:01:20.39 ID:vv9upkASO
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 15:02:37.54 ID:vv9upkASO
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/11(金) 16:11:27.04 ID:i9QQXan/0
黒い闇じゃなくて白いアラシに襲われたな
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:11:24.87 ID:G/ROxpcxO
>>>
婆様がこの部屋を出てから、数時間が経つ。
俺は葬儀の準備が終わるまでの間、婆様の家に厄介になることになった。
布団に横になったまま、何度か眠ろうとはしたけど、眠れない。
暗闇の妖精、精霊の力、黒水晶、氷の化け物。
氷りに閉じ込められた皆の姿。
今考えればぞっとするような命のやり取り。
全て鮮明に思い出せる。
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:13:03.07 ID:G/ROxpcxO
何より強く焼き付いているのは、爺ちゃんの最期。
死を間近にしながらも、怯えや諦めの色はなく、俺に勇気を与えてくれた。
だからこそ、躊躇うことなく受け入れることが出来たんだと思う。
「もう、いないんだよな……」
こうしていると、爺ちゃんとの日々、小さい頃の思い出が溢れてくる。
あの大きな背中、優しく撫でてくれた手、温かさを、もう感じることはない。
もう二度と、会うことは出来ない。
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:16:50.18 ID:G/ROxpcxO
俺は、ちゃんと爺ちゃんに伝えられたのかな?
もっと、何かしておけば良かった。
色々、話したかったな。
「はぁ…」
色んな出来事がぐるぐると頭の中を回って、また始まりに戻る。
別のことを考えようとしても、気付かぬ内に同じ場所に立っている。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:18:15.00 ID:G/ROxpcxO
婆様に傷を癒せ、無理に動くなと言われたけど、今は外に出たくて堪らない。
とにかく、頭を空にしたかった。
痛くて仕方がなかった身体も、今ではすっかり痛みが引いている。
これも精霊の力の影響なんだろうか?
何て考え始めると、また堂々巡りだ。
外に出ようかと悩んでいる内に、いつの間にか昼近くになっていた。
婆様の家も、里も静かだ。
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:19:41.39 ID:G/ROxpcxO
天気が良いのに、子供達の笑い声も、談笑する声も、何も聞こえない。
蝉の声だけが、里に響いている。
「皆、どうしてるんだろう」
俺が寝ている間も、ずっとこうだったんだろうか?
でも、仕方無いのかもしれない。
あの事件は、それくらいの爪痕を残したのだから。
幸い、皆が生きている。それは、凄く嬉しい。
だけど、大小関係なしに、何かしらの傷を負ったのは間違いないだろう。
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:23:52.04 ID:G/ROxpcxO
「……理不尽だ」
傷付く筈のない人が傷付いて、死ぬ筈のない人が死ぬ。
そんなのは、絶対に間違ってる。
もう二度とあんな光景は見たくない。あんな想いはしたくない。
誰もが笑って、平穏な日々を過ごしていた。
それを、奴が壊した。
自分の力を誇示する為、ただそれだけの為に、皆を傷付けたんだ。
もうあんな想いはしたくない。
だから、戦うと決めた。
殴るのも殴られるのも嫌いだ。力で解決するなんてのも嫌だ。
でも、『これ』でしか解決出来ないのなら、やるしかない。
それが、どんな痛みを伴う事だとしても……
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:25:36.60 ID:G/ROxpcxO
>>>>
「寝てたのか……」
どんな考え事も、行き過ぎれば眠気を誘うみたいだ。
婆様、もう帰って来てるのかな。
もう問題無く動ける、止まってると考え事ばかりで駄目だ。
うじうじしてても仕方ない。葬式の準備、俺も手伝わないと……
皆だってまだ万全じゃないだろうし、倒れたりしたら大変だ。
「よし、行くか」
と、身体中に巻かれた包帯を取って着替えようとした時、婆様が入ってきた。
暑い中で作業していた所為か、随分疲れている。
里の皆や、俺の看病もしていたんだ。休んでる暇なんてなかったに違いない。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 20:30:54.32 ID:G/ROxpcxO
また後で。
沢山レスついた、やったー嬉しいなー。と思ったらこれだよ。
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/11(金) 20:39:18.12 ID:G/ROxpcxO
蔑まれてもいいから聞くけども見てる人いる?大丈夫?
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:42:39.92 ID:G/ROxpcxO
婆様「なんじゃ、起きとったのか」
カル「ううん、今起きたところだよ」
カル「それより大丈夫? 婆様、疲れてるんじゃ……」
婆様「ちょいと疲れたが大丈夫じゃ」
婆様「それにの、何かしとらんと落ち着かんのじゃ」
カル「婆様……」
婆様「じゃから、心配するな」ニコッ
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:44:22.64 ID:G/ROxpcxO
カル「疲れたら、休んでくれ。婆様にまで倒れられたら、俺…」
婆様「大丈夫じゃ」
カル「え?」
婆様「儂は倒れたりせんよ。大丈夫じゃ」
カル「ははっ、そっか『大丈夫』か。なら、大丈夫だ」
婆様「うむ。それより起き上がって平気なのかえ?」
カル「いやっ、それがさ。すっかり良くなったんだよ」
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:45:46.62 ID:G/ROxpcxO
カル「やっぱり、これも精霊の力のお陰なのかな」
婆様「そう考えるのが妥当じゃろうな」
カル「人間でも精霊でもない存在か。俺、どうなったんだろ」
婆様「不安か?」
カル「いや、その辺は考え過ぎたから。もうどうでも良くなった」
カル「自分で決めたことだし、なっちゃったものは仕方ないし」ニコッ
婆様「ほほっ、そうかそうか。良い顔しとるわ」
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:46:39.02 ID:G/ROxpcxO
婆様「じゃがな、治りが早くなったとは言え、傷を負う事に馴れてはいかんぞ?」
婆様「お主は人の心を持っとる」
カル「………」
婆様「如何に身体が変わろうと、お主は人間なんじゃ。それを忘れるでないぞ」
カル「!! そっか、そうだよな」
婆様「分かればええ。ところでカルよ」
カル「ん?」
婆様「腹、減っとらんか?」
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:48:17.45 ID:G/ROxpcxO
カル「そういや何も食べてなかったな。ずっと寝てたし」
カル「……そう言われると、急に腹が」グー
婆様「ほほっ、そうか。ならば、今から用意しよう」
カル「ありがとう」
婆様「普通の食事は出来んじゃろうから、粥と味噌汁で我慢せい」
カル「はい、お願いします」
婆様「少し待っと……あ、そうじゃった」
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:48:52.65 ID:G/ROxpcxO
カル「どうしたの?」
婆様「これ渡すのを忘れとった」スッ
カル「これは、えーっと…」
婆様「子供等が作ったもんで、旅の御守りだそうじゃ」
カル「!! そっか、嬉しいな。絶対大事にするよ」ギュッ
婆様「初めは会いたい会いたいと騒いだんじゃが……」
婆様「兄様は血ぃ流して寝とると言うたら一発じゃった」ニヤ
カル「(なんてことを……早く顔見せよう)」
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:50:15.27 ID:G/ROxpcxO
婆様「それと、急かすようで悪いんじゃが……」
カル「準備、出来たんだね」
婆様「うむ」
カル「なら、明日にするよ。俺も、もう大丈夫だから」
婆様「そうか、ならば皆にそう伝えよう」
カル「婆様、色々してくれて、本当にありがとう」
婆様「礼には及ばんよ。では、飯の支度をしてくる」
カララ…パタン…
カル「……皆、ありがとう」ギュッ
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/11(金) 21:54:58.86 ID:G/ROxpcxO
ここまで……
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/11(金) 22:08:27.79 ID:sw6fqGR60
乙乙
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 01:22:11.37 ID:CI6CC7Kqo
荒らしなんぞ気にせず頑張ってくれ
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 03:50:25.56 ID:1SIkxQSdO
乙
見てるよ、頑張れ
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 05:16:45.02 ID:WOuS2xHTo
乙
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 07:10:24.83 ID:tYIlU2QOO
おつ
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 16:03:04.32 ID:93sUVG3Eo
乙
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 16:25:13.68 ID:21tzmB+20
頑張れっ乙!
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/12(土) 16:38:41.60 ID:QZ2X4nQ10
荒らしに負ける時が貴様の最期と思え
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:53:36.98 ID:2OkZp4IQO
宣伝のお陰でレス増えたね、おめでとう
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:54:38.84 ID:2OkZp4IQO
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:55:54.96 ID:2OkZp4IQO
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:56:30.38 ID:2OkZp4IQO
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:57:05.56 ID:2OkZp4IQO
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 17:58:41.72 ID:2OkZp4IQO
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 22:54:33.15 ID:ORdooBCPO
>>>>
それからさほど時間が経たない内に、婆様が粥と味噌汁を持っきてくれた。
きっと、作ってくれていたんだと思う。
嬉しさのあまり、久しぶりの食事であることをすっかり忘れ、勢い良く粥を食べて、むせた。
通りが細くなっていたのか、いきなり食い物を入れたから驚いたのか、とにかく噎せた。
何とか全部食べたけど、結構な時間が掛かった。
物を食べるのにあんなに慎重になったのは、初めてかもしれない。
食べ終えた後、明日の葬式について話し合った。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 22:55:50.82 ID:ORdooBCPO
自分が喪主をやるなんて考えたこともなかったから、婆様に教えてもらった。
きちんと出来るか心配だけど、情けない姿は見せられない。
葬式の話しが終わると、俺は里の皆の様子を聞いた。
話しを聞く限り、やはり早々に傷は癒えそうにない。
でも皆、前に進もうとしているようだ。
葬式の準備を手伝ってくれたことだって、本当に凄いことだと思う。
それに大人達だけでなく、子供達も手伝ってくれたようだ。
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 22:57:04.38 ID:ORdooBCPO
遊んだり、騒ぐこともなく、自分達が出来ることをしていた。
その働き振りは、大人達も感心する程だったらしい。
手伝い終わった後に、俺に直接御守りを渡したいと駄々をこねたらしいけど、婆様が阻止した。
血を流して寝てるなんて、そんな嘘吐かなくてもいいのに、全く。
他にも、兄弟子達が爺ちゃんの銅像を建てると言っていたとか色々。
話し終えた後、皿洗いくらいは手伝おうとしたけど、婆様に止められた。
下手に動き回られると、かえって心配になるようだ。
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 22:58:17.21 ID:ORdooBCPO
今は一人。
縁側に座り、ぼーっとしてる。
今夜は月夜、満月だ。
もう夜なのに、やけに明るく感じる。ずっと寝ていた所為かもしれない。
「……綺麗だな」
そろそろ寝よう、明日は葬式だ。
とは思っているものの、ついさっきまで寝ていたから眠気はない。
色々考えさせられたけど、もう悩んだりするのは止めた。
やるべき事は、もう決まっているんだから。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 22:59:23.75 ID:ORdooBCPO
翌日。
昨夜はあまり眠れなかったけど、疲れは無い。
寧ろ段々と力が強まり、漲っているような感じがする。
爺ちゃんの葬儀は、問題無く終わった。
空は澄み渡っていて、心なしか皆の顔も良かった気がする。
葬式には沢山の人が来てくれて、家は満杯だ。
今は昼時、女の人達は料理作りに追われている。
その中には、婆様の姿もあった。
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 23:01:31.65 ID:ORdooBCPO
疲れなど吹き飛ばすくらいに、溌剌としている。
強さってのも色々だ。
一方の男衆、兄弟子達は、爺ちゃんとの思い出を語っている。
皆、笑顔だ。
爺ちゃんも悲しい顔で送られるより、賑やかにしてくれた方が嬉しいだろう。
俺も、それを眺めている内に自然と笑顔になっていた。
しかし、こんなにも慕われていたのか、目標とされていたのか…
俺は改めて、爺ちゃんが大きい存在だということを知った。
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/12(土) 23:04:55.12 ID:ORdooBCPO
また後で。応援ありがとう、助かります。
>>153
承知した。
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/12(土) 23:09:53.31 ID:uZGdZChNO
おつ
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/13(日) 00:27:06.73 ID:dkzyqxat0
お疲れ様
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 01:07:09.83 ID:mf5o8luoO
その後は、まるで祭りのようなどんちゃん騒ぎだった。
変な言い方になるけど、死が活力を与えることもあるんだな、と思った。
このままではいけないな、立ち止まってる暇はないな、とか。
これからは、俺達で里を守っていかなければならないな、とか。
そんな共通の想いを、皆から感じたような気がした。
夕方間近になると、男衆は酔いつぶれ、家に帰って行った。
帰ったというか、奥様方に引き摺られて行った。
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 01:08:32.89 ID:mf5o8luoO
皆が引き上げた今でも、家にはまだ賑やかさが残っている。
また一つ、教えられた気がする。
失ったものばかりを見ていては、前に進めない。
勿論、それを大事にすることは悪い事じゃない。
ただ、失った悲しみや痛みに引っ張られてはいけないんだ。
俺が受け継いだものは、前に進む為の力。
あの光輝く炎が命の輝きだとするのなら、心を曇らせてはならない。
あれは闇を照らし、人々に笑顔を与える力なんだ。
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 01:10:25.34 ID:mf5o8luoO
「どんなに時間が掛かっても、必ず此処に帰ってくるから」
俺はそう誓って、三人が入った仏壇に手を合わせた。
その後、爺ちゃんが長年愛用していた剣を袋に入れ、婆様の家に向かった。
婆様にはもう伝えてあるけど、明日の朝、この里を経つ。
婆様の方も、何か渡したい物があるらしい。
こんな形で旅に出ることになるとは思わなかった。
こんな時に里を出ることにも抵抗がある。
けど、嬉しくないのか、楽しみじゃないのかと聞かれれば、否定は出来ない。
爺ちゃんが見た世界を、見れるのだから。
「俺は何を見て、何を知るんだろうな……」
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 01:12:26.78 ID:mf5o8luoO
ここまで。次はもう少し進めたい。
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/13(日) 08:43:46.55 ID:DdefW/2OO
おつ
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:15:06.07 ID:OX0TsuITO
>>>>
婆様の家に向かう途中、子供達と出会った。
この様子だと、俺が通るのを待っていたのかもしれない。
「兄ちゃん、いつ旅に出るの」
傷の癒えた姿を見て安心したのも束の間、不安と寂しさに満ちた顔。
この子達にとって、自分がどういう存在なのか、はっきりとは分からない。
でも、俺を想ってくれている。
あれだけ恐ろしい想いをしたにも拘わらず、俺を心配して、御守りまで作ってくれた。
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:17:41.81 ID:OX0TsuITO
そして今も、俺の為に……
中々答えられずにいると、一人が「行かないで」と泣き出した。
それに釣られるように、一人また一人と泣き出し、腰にしがみついたまま離れない。
「大丈夫、必ず帰ってくる。約束だ」
ぎゅっと抱きしめながら伝えると、顔を服に押し付けたまま、こくりと頷いた。
「……それと、明日、この里を発つよ」
この言葉を聞いて、びくりと小さい体を震わせたけれど、誰一人、何も言わなかった。
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:19:06.18 ID:OX0TsuITO
ただ抱き締める力は強く、涙の温かさが直に伝わってくる。
一人一人の頭を撫でていると、気付かない内に、俺も涙していた。
何故、明日旅立つと決めたのかが分かった気がする。
寧ろ今すぐに旅立ってもいい。
分かってはいたけど、それほどに去り難い。
この里には、大事なものが詰まってる。
「もう行くよ。お前達も帰った方がいい」
「父さん母さんが心配してるだろうから。な?」
しばらく力は緩まなかった。
俺ももう少しだけこうしていたいけど、そうもいかない。
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:22:19.41 ID:OX0TsuITO
ゆっくりと一つ一つ、手を解いていく、抵抗は一切なかった。
子供達はただ俯いて、在処を失った手は、だらりとさがったまま揺れている。
「この御守り、絶対大事にするから。帰ったら、また遊ぼうな」
無理矢理に大声を出して宣言すると、子供達は一斉に顔を上げた。
目にはまだ涙が溜まっているけど、みるみる内に表情が変わっていく。
すると離した筈の手が、再び俺を包んだ。
子供達は、もう一度服に顔をうずめた後で「うん」と、大きな声で応えてくれた。
満面の、弾けるような笑みと共に。
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:27:31.29 ID:OX0TsuITO
>>>>
カル「ふぅ…疲れた」
婆様「遅かったの」
カル「ごめん婆様。子供達と話してたんだ」
婆様「ほう、どうじゃった? やはり泣いておったか?」
カル「いや、笑ってくれたよ。何だか貰ってばかりだな、俺」
婆様「何を言うか。お主がおったからこそ、子供等は笑えたんじゃ」
婆様「儂も皆も、生きておるから感謝を伝えられる」
婆様「貰っておるのは、儂等も同じなんじゃよ」
カル「!!」
カル「……そっか、うん。ありがとう」
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:29:07.19 ID:OX0TsuITO
婆様「しかし意外じゃな」
カル「何が?」
婆様「てっきり、泣いてばかりじゃと思っとったからの」
カル「約束してきたんだ。必ず帰ってくるって……」
カル「帰ってきたら、また遊ぼうって、約束してきた」
婆様「ほう、約束か。ならば、儂とも一つ約束してくれんか」
カル「うん、なに?」
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:30:06.27 ID:OX0TsuITO
婆様「死ぬな。生きて、この里に帰ってこい」
婆様「棺桶なんぞで帰ってきたら、儂は許さんからな」
カル「(婆様、泣いて…)」
カル「分かった。必ず、生きてこの里に帰ってくる」
婆様「今の言葉、忘れるでないぞ?」
カル「大丈夫。絶対、大丈夫だよ」ニコッ
婆様「ほほっ、うむ。ならええんじゃ」
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:32:01.72 ID:OX0TsuITO
カル「ところで、渡したい物っていうのは?」
婆様「そうじゃったそうじゃった。危うく忘れるとこじゃったわ」
婆様「では、ちょいと付いて来い」
カル「あ、うん」
スタスタ…
カル「蔵?」
婆様「渡したいもんは、この蔵の中にある」
カチャッ…ギイィィ…
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:33:03.33 ID:OX0TsuITO
カル「(古い蔵だけど、中は綺麗だ。婆様が掃除してるんだろうな)」
婆様「確か、この箪笥じゃったな。おお、これじゃこれじゃ」
カル「それは、着物?」
婆様「若い頃に儂が仕立てたもんじゃ、これをお主にやる」
カル「その、普段見る物より随分派手だね」
婆様「あやつは、派手好きじゃったからの」ポツリ
カル「??」
183 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:34:04.89 ID:OX0TsuITO
婆様「白地に赤の刺繍、炎を模したもんじゃ」
婆様「お主にぴったりじゃろ?」
カル「あ、ありがとう。でも、何で蔵に?」
婆様「これは売りもんじゃあないからの」
カル「え?」
婆様「これは元々、あやつの為に作った着物」
婆様「渡す相手は、お主の爺様じゃった」
カル「えぇっ!?」
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:36:06.31 ID:OX0TsuITO
婆様「受け取っては、貰えんかったがの」
カル「え、そんな。なんで
婆様「ほほっ、色々あったんじゃよ。色々、な……」
カル「(爺ちゃんと婆様の若い頃かぁ……気になるな)」
婆様「用は済んだ。屋敷に戻るぞ?」
カル「………」
婆様「ほれ、どうした。行くぞえ」
カル「あ、うん」
スタスタ…
カル「(まあ、今はいいか。旅から帰ってきたら、沢山聞こう)」
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:39:59.45 ID:OX0TsuITO
>>>>
婆様、大丈夫かな。
蔵から屋敷に戻ると、夕飯をご馳走になって、その後に着物を着せられた。
少し手直しが必要なようで、婆様自らやるみたいだ。
少しと言っても夜通し掛かるようだ。
現役の職人さんに任せるのかと思ったけど、婆様はそうしなかった。
あの着物だけは、誰にも任せるわけにはいかないらしい。
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:41:16.45 ID:OX0TsuITO
もう何日も休んでない。
なのに、誰に何を言われても、絶対に譲らなかった。
爺ちゃんと婆様。
一体、どんな関係だったんだろう?
凄く聞きたいけど、聞いちゃいけない気もする。
もう亡くなったけど、婆様には旦那さんがいたし、娘さんもいる。
「うーん」
爺ちゃんの若い頃を知ってるのは婆様くらいだろうし、色々知ってるんだろうけど……
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:44:37.64 ID:OX0TsuITO
この里がまだ盗賊のいいなりだった頃、爺ちゃんが現れた。
自分達の生活だってままならないのだから、当然泊てくれる人なんていない筈だ。
婆様は、そんな苦しい時期なのに、爺ちゃんを泊めてあげた。
そしてその恩返しとして、爺ちゃんは盗賊を退治した。
「……全っ然、分からん。もう寝よう」
明日は早い。
それに、あんまり勘ぐったりするのも良くない。
誰にだって、話したくないことはあるだろうし。
というか俺、明日旅立つんだ……
明日の今頃、俺は何処にいて、何をしてるんだろう。
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/13(日) 23:46:50.33 ID:OX0TsuITO
ここまで。これでようやく旅立てる。遅くてすまん。
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/14(月) 08:31:23.62 ID:TJebI3ZeO
おつ
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:33:12.78 ID:8L9wS4VeO
>>>
「あー、失敗した。金になるのは馬くらいかぁ」
何故、こんな事になってしまったのだろう。
俺が予想していた旅と違う。
思い描いていた旅立ちは、こんなんじゃなかった。
もっと清々しく、心躍るようなそんな旅が始まる。
そんな事を思っていたけど、そんな風にはならなかった。
「他には何かねーの」
「ないです……」
191 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:34:12.63 ID:8L9wS4VeO
大きな溜め息と、失望したような、冷たい視線が突き刺さる。
一体、俺に何を期待していたのか聞きたいけど、気が荒い人みたいだから止めておこう。
「オイ、何見てんだよ」
「いえ何も、何も見てないです」
「……チッ」
「えっ? ちょっ、痛い痛い!! 石投げるのは止めて!!」
何故、こうなったのか。
長くなりそうな気もするし、とても短いような気もする。
192 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:35:06.92 ID:8L9wS4VeO
ーー早朝、婆様に着物を渡され、爺ちゃんの剣を腰に差し、旅支度を済ませた。
俺は一度自分の家に戻り、仏壇に手を合わせ、再び婆様の家へ。
旅に出ている間は、婆様が家の管理をすると言ってくれた。
婆様と屋敷の人達、駆け付けてくれた兄弟子、子供達に挨拶をして、俺は里を出発。
天気も良いし、風も心地良い。
途中で婆様が作ってくれたおにぎり食べたりして、休憩しながら進む。
そして昼頃、里から一番近い村に到着した。
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:36:03.28 ID:8L9wS4VeO
一番近いとは言っても、他の町や村に比べればの話しで、結構な時間が掛かった。
徒歩で旅を続けるのは、かなり厳しい。
何しろ暑いし、移動に時間を掛けてはいられない。
里の馬は先の事件の傷が癒えていなかった為、まずは馬を手に入れなければならなかった。
そこで、以前爺ちゃんと馬を買いに来た時にお世話になった馬飼いを頼った。
伯楽と呼ばれる人で、里の馬は殆ど伯楽さんから買ったものだ。
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:36:59.24 ID:8L9wS4VeO
早速訪ねてみると、何か騒がしい。
どうやら馬が暴れ出したようで、数人掛かりで抑えているようだ。
尋常ではない騒ぎだったので駆け付けてみると、白馬が暴れていた。
里の馬と比べて、かなり大きく、力強く美しい姿。
決して里の馬が劣っているわけじゃない、あの馬が大き過ぎる。
何か手伝おうかと走り出した筈なのに、俺は立ち尽くしていた。
その姿に、目を奪われたんだと思う。
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:38:22.99 ID:8L9wS4VeO
きっとあの馬は、人の造った檻の中では生きられないだろう。
手に負えないのなら、逃がした方が懸命かもしれない。
それに、あれ以上縛り付けるのは危険だ。
馬の体力は全く衰えていない、抑えている人の方が疲弊している。
あのままじゃ、死人が出てもおかしくない。
「危ない、もう離した方がいい」
そう叫び再び駆け出そうとした時、馬の動きがぴたりと止まった。
伯楽さん達も限界だったのか、その場にへたり込んでしまった。
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:39:32.20 ID:8L9wS4VeO
怪我人が出ずに良かったと、伯楽さんに近付こうとした時、視線を感じた。
馬が、俺を見ていた。
威圧的ではないにしろ、射抜くような、鋭く強い眼光。
まるで、心を見透かされているような感じがした。
動物は人の心を見抜くと言うけど、この馬がそうなのかもしれない。
俺は目を逸らさず、暫く見つめ合った。
その時、へたり込んでいた伯楽さんが、腰に下げた袋から棒状の何かを取り出した。
それを馬に突き刺そうと腕を伸ばした時、馬が高く跳んだ。
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:40:57.98 ID:8L9wS4VeO
危険を察知して跳んだんだろうけど、目の前には柵がある。
あの馬と言えど、飛び越えられる高さじゃない。
しかし馬は前脚を突き出し前脚を柵に掛けると、直後に身を翻し、後ろ脚で柵を蹴り壊した。
伯楽さんは、一連の動作に呆気にとられている。
規格外の体でありながら身のこなしは軽やかで、柔らかい。
前脚で壊せたのに、壊さなかった。折れた柵に突き刺さるのを避けたんだ。
頭が良いのか、危険察知能力がかなり高いのかもしれない。
まあ、どっちにしろ凄いんだけど。
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:45:49.72 ID:8L9wS4VeO
そんな凄い馬が、柵を抜け、俺に近付いてきた。
それも、伯楽さんを睨み付け、ちゃんと釘を刺した後で、だ。
ここまで賢いと何だか怖いな、なんて思っている内に、目の前にやってきた。
馬は立ち止まり、逃げる気配も暴れる気配もない。
何故か、自然と額に手が伸びた。
額をから鼻にかけて、ゆっくりと撫でる。馬に動きはない。
先の暴れようが嘘のように、とても落ち着いている。
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:51:20.95 ID:8L9wS4VeO
額には、三日月型の模様があった。
毛の色が違うわけじゃなく、どうやら傷痕のようだ。
子供の頃に傷を負わされたのだろうか、人にやられたのだろうか。
だとしたら、無意識に手を出した時、噛まれなかっただけ幸運だ。
ついさっきまで殺気立っていた目が、今は優しく、温かい。
暫く額を撫でていると、俺の右肩に頭を預けてきた。
意外な行動にかなり驚いたけど、そっと手を回し、頭を撫でながら「逃げた方がいい」と呟いた。
しかし、馬に逃げ出す様子は一切ない。懐かれたのは嬉しいけど、どうしよう。
さてどうしたものかと考えていると、馬の横から人が現れた。
「よぉ坊主、久し振りだな」
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:54:35.24 ID:8L9wS4VeO
声を掛けてきたのは、伯楽さんだった。
伯楽さんは丸腰である事を馬に示し、挨拶もそこそこに語り出した。
つい先日、運良く捕らえることは出来たものの、調教は上手く行かない。
雌馬故に、せめて子をと雄馬を近付けてみたが、一切の興味を示さない。
そして今日、抱えた負担が爆発したように暴れ出したのだという。
一度眠らせてから野に変えそうと薬を打とうとしたが、押さえつけるだけで精一杯。
しかし、何故か急に大人しくなり、馬の視線の先を見ると、俺がいた。
この隙を突いて薬を打とうとしたが、それすらも失敗してしまったのだ。
201 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:56:34.05 ID:8L9wS4VeO
悔しがる風もなく「助かった」とだけ言うと、地面に腰を下ろした。
馬は、相変わらず大人しい。
その様子を見た伯楽さんは、嬉しそうに笑うと
「その馬は、俺にゃ無理だ」
「そいつにゃ、頭ん中を見透かす力があんだよ」
と、妙に清々しく告げた。
こんな名馬、一生に一度出逢えるかどうかだろう。
それなのに、とてもすっきりとした顔をしていた。
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 22:59:33.86 ID:8L9wS4VeO
また後で。中々進まないもんだなぁ。
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:33:51.62 ID:8L9wS4VeO
>>>>
カル「あの、凄く嬉しいんですけど本当にいいんですか?」
カル「こんな凄い馬、しかも鞍の代金だけでいいなんて」
伯楽「いいんだよ。そいつぁ、お前ぇに惚れたのさ」
伯楽「それにお前ぇ、夢物語みてぇな旅すんだろ?」
カル「夢物語? ま、まあ、そうですね」
伯楽「だったら、そんぐれぇの馬じゃねぇと格好がつかねぇだろうよ」
カル「そう、なのかな?」
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/14(月) 23:34:51.33 ID:8L9wS4VeO
伯楽「そらそうよ!! 何しろ、手から火ぃ出したり水出したりすんだろ?」
カル「信じてくれるんですか」
伯楽「そら目の前で火ぃ出されりゃ信じる他ねぇだろ」
カル「(なんて言うか、この人も凄いよな)」
伯楽「しっかし、爺様が死んだってのは驚いた」
伯楽「殺しても死なねぇような爺だったのによぉ」ズビー
カル「伯楽さん……」
205 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:35:58.25 ID:8L9wS4VeO
伯楽「なあ、カルよぉ」
カル「??」
伯楽「爺様ぁ、笑って逝ったんだろ?」
カル「……はい」
伯楽「ならよ、お前ぇも目一杯笑え」
カル「!!」
伯楽「いいか?男はうじうじしちゃあならねぇんだ」
伯楽「自信持って、強がって、胸張って生きなきゃ駄目なんだよ」グシグシ
206 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:39:06.08 ID:8L9wS4VeO
カル「(伯楽さん、爺ちゃんと仲良かったもんな……)」
カル「分かりました。じゃあ俺、行って来ます」
伯楽「おい待て」
カル「??」
伯楽「死ぬんじゃねぇぞ、何があっても、絶対に諦めんじゃねぇぞ?」
伯楽「いいな?」ニコッ
カル「はいっ!! じゃあ、行って来ます!!」ニコッ
ガガガッ…ガガガッ…
伯楽「あの小せえガキが、もうすっかり男の顔だ」ウルッ
伯楽「…ったく、俺も歳だなぁ」ズビー
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:42:08.88 ID:8L9wS4VeO
それから、白月と名付けた白馬を走らせ、篝火の町を目指した。
それにしても、本当に見た目に違わぬ馬だな。
凄い速度で、どんどん景色が流れていく。
これなら今日中に都に行けるんじゃないかと思う程だ。
何を以て俺を選んだのか分からないけど、この馬に見合う男にならないとな。
なんて事を考えながらいると、前方にうずくまっている人がいた。
暑さにやられたのか、具合が悪いのか分からないけど、どちらにしても危険だ。
念の為、白月から降りて近付くと、女の人だった。
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:42:49.87 ID:8L9wS4VeO
随分露出の多い服を来てる。
最近の女の人って、皆こうなのかな?里にはいない感じの人だ。
事情を聞けば、やはり暑さにやられたらしい。
気怠げで、顔色も悪い。
下手な処置は出来ないし、これじゃあどうしようもない。
とにかく、早めに医者に連れて行って診せた方がいいだろう。
取り敢えず水筒を出して渡そうとした時、袋のような物を投げつけられた。
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:45:56.82 ID:8L9wS4VeO
そして……
「オイ」
「何ですか」
「本当に、本っ当に、これだけなのか?」
「本当に、本当にそれだけです。本当です」
「……ちっくしょー!! しくじったぁー!!」
「ちょっと待っ、痛いっ痛いからやめてっ!!」
目を覚ますと、洞窟にいた。
現在、縄に縛れられていて身動きも出来ないまま、小石を投げられている。
でも、小石を選んでるあたり、本当は優しい人なのかもしれない。
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/14(月) 23:47:24.88 ID:8L9wS4VeO
今日はここまで。少しは進んだかな……
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/07/14(月) 23:59:44.99 ID:8L9wS4VeO
この感じだと前より長くなりそうだけど、ご容赦を。
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/15(火) 01:31:18.68 ID:HJHxD4WNo
ちゃんと最後までやってくれたら良い
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 21:49:43.54 ID:K1y37SqNO
>>>>
カル「一つ質問が」
女盗賊「……どーぞ」
カル「何でこんな事を?」
女盗賊「はぁ?」
カル「いや、何でこんな危ないことするのかなって」
女盗賊「……そんなの、金が欲しいからに決まってんだろ」
カル「ふーん」
女盗賊「なに? 馬鹿にしてんの?」イラッ
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 21:50:21.15 ID:K1y37SqNO
カル「そういうわけじゃなくて、何か事情があるのかな、と思って」
カル「そんなに悪い人には見えないし」
女盗賊「(何だコイツ、調子狂うな)」
カル「それより大丈夫?随分苦しそうだったけど」
女盗賊「あのさぁ…」
カル「ん?」
女盗賊「あんなの、演技に決まってんだろ」
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 21:51:24.86 ID:K1y37SqNO
カル「えっ? でも、まだ顔は気怠そうな感じが」
女盗賊「元からこうなんだよ!!」ヒュッ
カル「うわっ」ヒョイ
女盗賊「避けんな!!」
カル「いやいや、今のは避けなきゃ駄目な感じの石でしょ!?」
女盗賊「あー、アンタと話してると疲れるわ」
カル「……子供達には、懐かれるんだけどな」ボソッ
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 21:52:27.50 ID:K1y37SqNO
女盗賊「なに? それは私が子供っぽいって言ってんの?」
カル「ははっ」
女盗賊「……」スチャッ
カル「ごめん。本当にごめん」
女盗賊「チッ」
カル「(気の短い人だなぁ)」
女盗賊「………」ストン
カル「??」
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 21:53:00.49 ID:K1y37SqNO
女盗賊「…………」
カル「…………」
女盗賊「…………」
カル「(仲間でも待ってるのか?)」
女盗賊「オイ」
カル「なに?」
女盗賊「馬」
カル「は?」
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:25:38.53 ID:K1y37SqNO
女盗賊「あの馬、何とかしろ」
カル「何とかしろって?」
女盗賊「あの馬が入り口塞いでんだよ!!」
カル「あぁ、だから出な…出れなかったんだ」
女盗賊「うっせーな!! つーか、あの馬怖いんだよ!!」
カル「そう? 白月は優しいと思うけどな」
女盗賊「はぁ!? 石蹴り砕いたり、威嚇が半端じゃないんだよ!!」
女盗賊「馬に謝ったのなんて人生初だわ!!」
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:27:07.49 ID:K1y37SqNO
カル「謝ったんだ」
女盗賊「……縄、解いてやるから早くしろ」
カル「あ、ちょっと待って」
女盗賊「何だよ」
カル「すぐ終わるから」
女盗賊「??」
ジュッ…
カル「……よし、出来た」
女盗賊「縄が、消えた?アンタ、手品師かなんか?」
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:31:03.60 ID:K1y37SqNO
カル「手品っていうか……まあ、うん。そんな感じ」
女盗賊「ふーん」
カル「(一点に集中して炎を出せばいいのか。後は、出す場所を強く意識する)」
女盗賊「ちょっと、早くしてよ」
カル「(これじゃあ、どっちが被害に遭ったのか分からないな)」
女盗賊「聞いてんの?」
カル「はいはい」
ザッザッザ
女盗賊「(外に出たら、眠らせて逃げてやる)」ニヤ
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:32:11.74 ID:K1y37SqNO
カル「あ、まだ明るい。これなら
女盗賊「オイ」
カル「なに?」クルッ
女盗賊「おりゃっ!!」ヒュッ
カル「よっ」パシッ
女盗賊「あっ…」
カル「…………」ニコッ
222 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:32:49.90 ID:K1y37SqNO
女盗賊「あ、あははっ、ほんの冗
カル「せいっ!!」ブンッ
女盗賊「ふぎゃ!!」
バタン…
カル「はぁ…」
カル「(女の人をこんな所に置いていくわけにいかないしなぁ)」チラッ
女盗賊「すぅ…すぅ…」
カル「……取り敢えず、町まで運ぼう」
223 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:36:07.48 ID:K1y37SqNO
盗られた荷物と彼女を白月に載せて、篝火の町を目指した。
白月の脚なら、夕暮れ前には着くだろう。
あまり時間は掛けられないけど、今日は篝火の町で休もう。
初日から色んな目に遭った所為か結構疲れた。
白月も疲れてるだろうし、そうした方がいいだろう。
それに、黒水晶や化け物の情報も集めたい。
うちの里。あんな田舎で、とんでもない事件が起きたんだ。
他で同じような事件が起きていても、可笑しくはない。
「あ、着いた。白月、お疲れ様」
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:37:44.43 ID:K1y37SqNO
町の入り口で白月から降りると、俺はすぐに医者を探した。
彼女を兵士に突き出すのは気が引けたし、説明とかも面倒臭い。
それに、ぱっと見た感じ、俺が攫ったように見えなくもない。
馬の背にうつ伏せに寝かされ、だらりとしている女性。
誤解されたら非常にまずい。
着物が派手な所為か、皆が変な目で俺を見ている。
俺は結構気に入ってるんだけど、やっぱり珍しいみたいだ。
刺すような視線が辛い。
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 22:59:14.56 ID:K1y37SqNO
そんな周囲の目を避けながら医者を見つけると、熱にやられたと言って彼女を預けた。
これで、誤解によって拘束される心配は無い。
旅の初日に兵士に捕まる。
なんて、恥ずべき事態にならなくて本当に良かった。
白月が睨みを利かせていたのも、大きな要因かもしれない。
俺より白月の方に目が行く人も、かなり多かった。
「宿は、後でいいか」
町医者に彼女を預けた後も、白月と一一緒に町を歩く。
226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/18(金) 23:01:16.85 ID:K1y37SqNO
初めは白月を繋いでからにしようかと思ったけど、騒ぎになると拙いから止める事にした。
何せ珍しい馬だ。不用意に近付いて、蹴りを喰らう人が出たら大変なことになる。
出来れば、静かで安心出来るような場所に繋いであげたい。
後は、情報収集。
まずは黒水晶が何処から流れているのか、それから調べよう。
旅商人や旅人がいれば助かるんだけど、今の所、それらしい人は見当たらない。
取り敢えず、町の人とかに話しを聞いてみるしかないな。
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/18(金) 23:01:49.94 ID:K1y37SqNO
ここまで。
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/18(金) 23:06:31.47 ID:VLdB4zoao
おつ〜
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 01:15:26.37 ID:6vz8hSNWO
道行く人に片っ端から声を掛けた。
最初は無視されるかと思ったけど、そうでもない。
さっきまで怪しむような目で見ていたのに、好意的に話してくれる人が妙に多かった。
美味しい定食屋さんとか、全く関係無いことまで教えてくれる人もいた。
嬉しかったけど何か変な感じだ。俺、何かしたのかな。
何で急に良くしてくれたのか、その理由は分からないけど、旅商人はいるらしい。
もう二・三日滞在しているらしく、夜になると酒場に行くようだ。
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 01:16:18.52 ID:6vz8hSNWO
まだ夜にはなっていないし、それまでに白月を繋げる場所を見つけておこう。
そんな感じで町をぶらぶら歩いていると、教会に行き着いた。
此処なら静かだし、白月も大丈夫だろう。
外装はかなり古いけど、無人じゃない。
近付いてみると、表にある庭の花壇は手入れされてるし、中からは少しだけ声が聞こえる。
神父さんに、白月を置かせて貰えないか頼んでみよう。
庭の手前で白月を待たせ、俺は教会の扉を叩いた。
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 01:18:16.43 ID:6vz8hSNWO
扉が開くと、神父さんではなく数人の子供が出迎えてくれた。
どうやら食事中だったらしい。
長いテーブルには、まだ数人が座っている。
その中には、知った顔があった。
それは、俺に眠り粉を浴びせ、金銭と荷を盗もうとした女性。
自分の悪行を反省し、懺悔にでも来ているのかと思ったけど違った。
やたら子供達に懐かれているし、何故か割烹着を着ている。
笑顔で食事を配っている姿は、先程と同じ人物だとは思えない。
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 01:27:16.33 ID:6vz8hSNWO
出迎えてくれた子供達が背中よじ登っている最中、彼女が俺の視線に気付いた。
すると表情は激変し、今にも飛び掛かってきそうな目で此方を見ている。
何だか申し訳ない感じがして、遠慮がちに手を振ると、無視された。
しかし、子供達から
「ジーナお姉ちゃん、どうしたの?」
と言われると、表情は和らぎ、穏やかな感じで此方にやってきた。
極力目を合わせたくないらしい。顔も若干引き吊っているのが分かる。
扉までやってくると、彼女は俺から子供達を素早く引き剥がした。
子供達は驚いているが、少なくとも今は知った事ではないらしい。
子供達も、その様子に戸惑っている。いつもは優しいお姉さんなのだろうか。
俺が挨拶すると、彼女はにこりと笑いながら、扉を閉じた。
「……えっ?ち、ちょっと待ってよ!!」
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 01:29:45.57 ID:6vz8hSNWO
ここまで。
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/19(土) 05:05:36.82 ID:2D8mM/0EO
おつ
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:43:40.34 ID:mSAUAFY/O
扉の向こうから「先に食べときな」と気怠げな声、続いて「はーい」という元気な声。
ぶっきらぼうな風だけど、優しい声だ。
此処では、『あれ』が本当なんだろう。
だとしたら余計疑問に思う。何故、あんなことしたんだろう。
考えている内に再び扉が開き、彼女・ジーナさんが現れた。
この間に割烹着は脱いだようだ。余程見られたくなかったらしい。
かなり不機嫌そうな顔をしてるし。
「何の用」
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:44:27.61 ID:mSAUAFY/O
扉を閉じると、人が変わったように冷めた口調で訊ねてきた。
どうやら、用件を聞いてくれる気はあるようだ。
俺は手短に白月の気性を説明し、此処に置かせて欲しいと頼んだ。
「勝手にすれば」
溜め息混じりに答えると、これ以上話したくないのか、取っ手に手を掛けた。
勝手にしろと言われても困る。「本当にいいのか」と訊ねると
「どうせ、アイツならそう言うだろうから」
と言い、中に入ってしまった。
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:45:27.11 ID:mSAUAFY/O
アイツってのがこの教会の管理者なのか気になるな。
だけど、あの様子だとこれ以上は話してくれそうもない。
俺は迷った結果、取り敢えず白月を繋ぐ事にした。
それにしても、こんなに早く許可が出るとは思わなかったな。
夜になるまで、まだ時間がある。
俺は側にあった長椅子に腰掛け、婆様のおにぎりを頬張りながら一息吐くことにした。
暫くは、この味ともお別れなんだなと思うと、少し寂しくなった。
「おや、教会に何か御用ですか」
その後、特にすることもなく白月と戯れていると、背後から声が掛かった。
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:48:24.64 ID:mSAUAFY/O
>>>>
「失礼。私はこの教会の神父、マウロ・カリーニと申します」
カル「(あぁ、普通の人で本当に良かった)」
カル「(あの人、ジーナさんみたいな人だったらどうしようかと……)」
マウロ「どうなさいました?」
カル「あっ、いえ。俺は、カル・アドゥルっていいます」ペコッ
マウロ「カルさんですか、宜しくお願いします」スッ
カル「こちらこそ、宜しくお願いします!!」ガシッ
239 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:49:07.79 ID:mSAUAFY/O
マウロ「それで、何の御用でしょう?」
カル「馬を置かせて欲しくて頼みに来たんですけど、いいですかね?」
マウロ「ええ、いいですよ」ニコッ
カル「本当ですか!?ありがとうございます!!」
マウロ「そんな大袈裟な。しかし、大きな馬…」ピクッ
カル「??」
マウロ「彼女を病院に運んでくれたのは、貴方ですか?」
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:51:34.28 ID:mSAUAFY/O
カル「彼女って、ジーナさんって人ですか?」
マウロ「ええ、そうです」
カル「あぁ…はい。その、色々な理由がありまして病院に
マウロ「やはりそうでしたか!!」
マウロ「派手な着物に美しい白馬、聞いた通りだ」
カル「あの…」
マウロ「貴方が頼った医師がいるでしょう?」
カル「は、はい」
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:54:57.31 ID:mSAUAFY/O
マウロ「彼は私の友人で、先程話しを聞いたところなんですよ」
カル「ああ、なるほど、そうだったんですか」
マウロ「……カルさん」
カル「はい?」
マウロ「ジーナさんがご迷惑をお掛けしたようで、本当に申し訳ありません」ペコッ
カル「そんな!!神父さんが謝ることないですよ!!」
カル「って言うか、彼女が何をしたのか知ってるんですか?」
マウロ「彼女は中に?」
カル「はい、さっきは子供達と楽しそうに夕飯の準備してましたけど」
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/19(土) 23:59:27.42 ID:mSAUAFY/O
マウロ「そう、ですか」
カル「大丈夫ですか?顔色、悪いですよ」
マウロ「カルさん、急で申し訳ないですが、少し付き合って貰えませんか?」
カル「え、それはいいですけど、どこか悪いんじゃ…」
マウロ「いえ、心配なさらずとも大丈夫です」
カル「(おかしい、急に顔色が悪くなった。何だろう、何か嫌な感じが……)」
マウロ「では、向こうのベンチで話しましょう」
ザッザッザ…
カル「(足も少しふらついてる。神父さん、一体どうしたんだ?)」
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 00:00:15.62 ID:JSq4BL0EO
ここまで。
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/20(日) 01:30:50.90 ID:2R9iA7vVo
乙
酉はつけないの?
245 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/07/20(日) 08:17:57.12 ID:mWbRCYg4O
神父さんは、ぽつりぽつりと語り出した。
長椅子に座ってからも、依然、顔色は悪い。
無理せず教会の中に戻った方が良いと言っても、「大丈夫です」の一点張り。
心配をよそに、マウロ神父は話しを続けた。
あの子供達は孤児であり、一時的に預かっていること、自分が原因不明の病に冒されていること等。
ジーナさんの場合は少々特殊で、追われている所を匿ったらしい。
その後、ああして子供達の世話を買って出てくれるようになったようだ。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 08:19:40.37 ID:mWbRCYg4O
少々荒っぽい所はあるようだけど、根は優しく、子供達も懐いている。
それに関しては、心から感謝しているようだった。
けれど、最近になって再び盗みを働くようになったという。
理由は、マウロ神父の病を治す為だ。
これは友人である医師に聞いたらしい。
本人に止めるように言っても、聞く耳は持たず、知らぬ存ぜぬを貫いているようだ。
助けたい、力になりたい。
そう思っての行動なんだろうけど、その方法が、相手の望むものではない。
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 08:20:38.05 ID:mWbRCYg4O
でも、ジーナさんはそれを分かっていてやっているんだと思う。
想いは綺麗でも、決して正しい行為じゃない。
それでもマウロ神父を救いたいと、彼女はそう考えている。
その結果、傷を負うことになろうと、彼女は止めないだろう。
ちなみに、町の人達が好意的だったのは、ジーナさんのお陰らしい。
妙な格好をした旅人が助けてくれたのだと、町に広めたのだ。
昔はともかく、今や教会の修道女。孤児を守る者として認識されている。
子供達だけでなく、おじさんやおばさんにも人気があるらしい。
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 08:22:06.87 ID:mWbRCYg4O
マウロ神父は、「彼女は、直接お礼を言うのが苦手なんですよ」と困ったように笑った。
「何故、会ったばかりの俺にこんな話しを?」と訊ねると
「何ででしょうね。自分でも不思議に思います」と、微笑みながら答えた。
そして「もしかすると、神父を続けられないかもしれません」と言ったのだった。
病が原因なのかと思ったけど、マウロ神父の様子には、何か違和感があった。
想像していた神父さんよりずっと若いけれど、とても誠実で責任感のある人だ。
初対面でなんだけど、そんな人が物事を投げ出すとは思えない。
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 08:23:05.66 ID:mWbRCYg4O
何か他に原因があるんですか。よければ話して下さい。
とは聞けないまま、時間が過ぎた。
沈黙が続くと、突然ジーナさんが現れて、神父さんを連れて行ってしまった。
恐らく、帰りが遅いのが心配で迎えに来たんだろう。
マウロ神父は
「聞いてくれて、ありがとうございました」
と言い残し、教会へと引きずられて行った。
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 08:25:22.35 ID:mWbRCYg4O
引きずられるマウロ神父を見送ると、教会の中から「心配させんな」と、ジーナさんの声が聞こえた。
「素直じゃない、か」
ジーナさんは、マウロ神父が好きなんだろう。
そこまでして『助けたい』って強い気持ちがあるのなら、きっとそうだ。
まあ、俺の勝手な想像なんだけど。
「よっしゃ、俺も行こうかな」
もう陽も落ちた。
ジーナさんとマウロ神父のことも気にはなるけど、俺にもやるべきことがある。
二人と子供達の声で賑やかになった教会を後にして、俺は酒場へと向かった。
251 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/07/20(日) 08:27:09.34 ID:mWbRCYg4O
一応付けときます。多分夜にまた書く。
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 20:21:07.75 ID:OC05yvgOO
夜の町を歩いていると、改めて、随分と遠くまで来たんだなと実感した。
夜なのに、明るい。
都会じゃ当たり前らしいけど、うちの里はまだだ。
道端に立ってる柱、あれが電気を伝える電柱とかって言うやつだ。
それが等間隔に並んでて、それぞれの先端は太い線で繋がっている。
そこから電気を色々して、街灯が光る仕掛け……だった筈だ。
「電気、か」
世の中はどんどん変わって行くって、爺ちゃんも言ってたな。
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 20:22:13.49 ID:OC05yvgOO
朝も夜も明るくなって、次はどうなるんだろう。
剣術武術もなくなって、鉄砲とか拳銃とかが世を占めるんだろうか。
近頃は『そういう武器』が主流になりつつあるらしいからなぁ。
爺ちゃんが銃の類は嫌いだった為か、俺もあんまり好きじゃない。
何て言うか、命を奪う物って感じがする。
俺が持ってる剣もそうなんだろうけど、銃の方が、その色が濃い。
「時代が変われば、人も変わるのかな」
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 20:24:04.41 ID:OC05yvgOO
俺は夜になって、『別の場所』に来たのを再認識した。
街灯の前で立ち止まったり、電柱を見上げたりしながら歩いていると、酒場が見えてきた。
気持ちを切り替えて酒場に向かおうとした時、悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、酒場の窓や壁が弾け、数人の男が路上に転がった。
お酒が入って喧嘩するのは見たことあるけど、あれは違う。
一体、何が起きたんだ。
初めに聞こえたのは、怒声ではなく、悲鳴だった。
それに大の大人が一斉に吹き飛ぶなんて、普通なら有り得ない。
そう『普通なら』有り得ないんだ。
255 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/20(日) 20:25:36.39 ID:OC05yvgOO
途轍もなく嫌な感じがする。嫌でも思い出してしまう。
もし、もしそうだとしたら……
違うだろ馬鹿、迷うな。
こうなったら、どの道酒場には行かなきゃならないんだ。
それに、路上に倒れたままの人達を放って置けない。
早く行かないと、手遅れになるかもしれない。
「行こう」
酒場に近付くに連れて、鼓動が速くなっていく。
これは、あの日に感じたものと同じだ。
沼とか泥みたいな、身体が沈んで行くような、妙に纏わりつく気味の悪い感覚。
まさか旅の初日に、こんなに沢山の出来事が起きるなんて思いもしなかった。
いや、元々から違うな。
この旅自体、普通じゃないんだ。何が起きても不思議じゃない。
例え何が待ち受けていようと、どうなろうと、やるしかない。
256 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/20(日) 20:28:15.47 ID:OC05yvgOO
また後で。
257 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/07/21(月) 00:16:45.51 ID:upTCxuG0O
まとまらないので明日にする。待ってた人、ごめん。
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/21(月) 08:55:49.91 ID:FPxGH9Ezo
乙
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:30:12.97 ID:miMIXTXVO
酒場は内側から破壊され、周囲には壁や窓の破片が散らばっている。
何かが破裂したような感じだけど、爆発音はしなかったな。
幸い、隣接する店は閉まっていて、店自体にあまり損壊は見られない。
もしこれが昼間に起きていたら、酷い有り様になっていただろう。
見た所、吹き飛ばされた人達以外に怪我人はいない。
安否確認と何が起きたのかを聞こうとしたが、胸を強く打った所為か、言葉を発することは困難なようだ。
取り敢えずこの場から遠ざける為、怪我人を背負い移動させた。
260 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:31:53.46 ID:miMIXTXVO
数人を移動させた所で、先の悲鳴を聞いて駆け付けたであろう兵士達が現れた。
俺は怪我人を運んでくれるよう頼んだが、聞いてはくれない。
酒場の中は煙りで見えないけど、その中には、確かに何かがいるんだ。
見えなくても、はっきりと感じる。間違いなく、黒水晶の所持者。
このままじゃ、兵士達までやられる。
酒場に向けて炎を放つことも出来るけど、まだ店内に残された人がいるかもしれない。
兵士達も同じ考えだ。今にも、何人かの兵士達が酒場の中へ入ろうとしている。
「考えてる暇は無いな」
261 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:33:07.33 ID:miMIXTXVO
俺は炎を発現させ、兵士達にもう一度叫んだ。
怪我人を連れて、一刻も早く此処から離れてくれ、と。
俺の姿を見た兵士達は目の色を変え、即座に踵を返すと怪我人を連れてその場を去った。
「脅かしたみたいで悪いけど、何とかなったな」
煙立ちこめる酒場。
その中にいる何者かに、まだ動きはない。
262 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:33:40.99 ID:miMIXTXVO
「行かせて良かったのか?後悔するぞ」
「何?」
「なに、すぐに分かるさ」
直後突風が吹き、散乱した破片が店内に吸い寄せられた。
鋭利なそれが煙から突き出し、俺に向かって降り注ぐ。
それは、氷の化け物の攻撃に似ていた。
でも、あの時とは違う。
直撃する寸前に炎を発し、全ての破片を焼き尽くす。
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:34:18.40 ID:miMIXTXVO
「っ、風か!!」
「ああそうだ。さあ、どうする?」
一番厄介な相手かもしれない。
風の出所なんて分かるわけがない、防ぐ方法なんてあるのか?
少し、時間を稼がないと拙いな。
「黒水晶は、どこから手に入れた」
「手に入れた? それは違う。俺が作り、俺が売っているのさ」
「なっ!?」
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:34:55.64 ID:miMIXTXVO
「そうさ、あんたが捜してる旅商人って男は、俺だ」
「(来る……)
僅かに足音が聞こえる。
あの中から、一体どんな化け物が出て来るのかと身構えた。
しかし、煙の中から姿を現した敵。その姿は、人に違いなかった。
胸元に黒水晶はあるものの、肉体は全く変異していない。
「どうした? 黒水晶を身に付けた者は、皆『ああなる』と思ったか?」
「!?」
「この男は意外と小心者でな、これが限界なんだ」
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:35:58.08 ID:miMIXTXVO
「……お前は、何者だ?」
「見に来たのよ」
「答えになってないぞ」
「新たに炎を宿した者を、輝き照らす者を、直に見たかった」
「(何を言ってる? 口調も、言っていることも、滅茶苦茶だ)」
「今の浄火を、見たい」
「がっは…」
突如、脇腹に痛みが走った。ネジで抉れられたような感覚。
着物に空いた穴から血が噴き出し、傷口は……案の定ぐちゃぐちゃだ。
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:36:27.62 ID:miMIXTXVO
あいつには、氷の化け物のような、腕を振り上げる等の予備動作は無い。
その上、威力も高い。
恐らく爺ちゃんのように、風を球体にして飛ばしているんだろう。
細かく回転しているから、こんな傷が出来るのか?
駄目だ。理屈が合っていたとしても、見えないんじゃどうしようもない。
「どうした。来ないのか?」
防御の仕様がないのなら、こっちから行くしかない。
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:39:28.53 ID:miMIXTXVO
集中して火球を作る。
空中に無数の『点』を想像して、其処に火球を置くような感覚。
でも、少しじゃ駄目だ。
奴の周囲を覆い尽くす程の量でなければ、この策は通用しない。
「その火球で、この『人間を』撃つか」
「……行くぞ」
展開した火球を一斉に放ち、それを追うように敵に迫る。
炸裂した火球は一気に燃え上がり奴を囲い、視界を奪う。
あれだけの火力なら、すぐに消されることはない。
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/21(月) 19:40:13.43 ID:miMIXTXVO
「(狙うは一点。胸の黒水晶だけだ)」
「殺める事を怖れたか」
創り出した炎の壁に迫った瞬間。
目の前に大穴が空き、今にも風の砲弾が撃ち出されようとしていた。
「違う。狙いは『お前』だけだ」
「っ!!」
それが撃ち出されるより速く懐に潜り込み抜刀。
切っ先は向けず、炎を纏わせた柄頭を黒水晶に打ち込んだ。
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:41:55.78 ID:miMIXTXVO
「素晴らしい。継いだばかりとは思えん」
「平気で人の魂を奪うような奴に、褒められたくない」
「気付いていたのか。なら何故、こんな真似をした?」
「その人に、罪は無い」
「何を馬鹿な、力を求めたのは事実。それこそが罪」
「……お前は、お前は何がしたいんだ。命を奪って、操って、何がしたい!!」
「会いに来たって、そう言ったでしょう?だから『こうして』会いに来たのよ」
「それなら、お前が直接来れば済む話しだろう!!」
「違うか、暗闇の妖精!!」
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:43:19.95 ID:miMIXTXVO
「それが出来ないから、こんな体で我慢してるのに、分からないかなぁ」
「俺に会う。その為だけに、その人の命を奪ったのか」
「そう言っている。生憎、人間には何の想いも無い」
「昔話しの通りだ。お前は、世界を闇に染めるだけの存在だ」
「いいえ、貴方が照らしてくれる」
「何?」
「貴方が、貴方のままで良かった……」
数ある声の中で最もか細い声が、途切れ途切れにそう告げた。
その直後、ひび割れていた黒水晶は完全に砕け散り、旅商人の肉体も、砂のように崩れ去ってしまった。
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/21(月) 19:46:19.27 ID:miMIXTXVO
何が何だか分からないまま、戦いは終わった。
其処にあった筈のものを見つめながら剣を収め、呆然と、その場に立ち尽くした。
「……ふざけるな」
人の命を消耗品のように扱う妖精が、許せなかった。
罪悪感など一切ない純粋な言葉、無垢な声が、頭から離れない。
悪意の塊、禍々しい力。
もっと醜いものだと思っていた。
その筈なのに、何であんな澄んだ声で話せるっていうんだ。
何で、あんなに寂しそうなんだ。
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/21(月) 19:57:27.65 ID:miMIXTXVO
ここまで。どんな書き方したらいいのか分からなくなってきた。こうした方がいいとかあれば、お願いします。
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/21(月) 21:22:46.55 ID:Jt2pUbtrO
おつ
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/22(火) 00:53:58.10 ID:xkOiEyoaO
「痛っ…」
戦いの緊張から解放されると、傷が酷く痛み出した。
またしても血溜まりが出来ているのか、恐る恐る足下を見ると、血は出ていない。
更に脇腹を見ると、傷口には瘡蓋が出来ていた。
しかし、傷口から全身に広がる鈍い痛みと熱は消えていない。
「確実に、治りが早くなってる」
その事実が、自分が人間から遠ざかっているのだと、嫌でも実感させる。
これから先、俺はどうなるんだ?
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/22(火) 00:56:11.88 ID:xkOiEyoaO
カル・アドゥルという人格すら、変貌してしまうのだろうか……
この先に、まだ変化があるのか。
いずれは、傷を負っても痛みすら感じない身体になるのか。
「……俺は人間だ。人間として、戦ってる」
口に出さないと、本当にそうなってしまいそうで怖かった。
でも、確かな痛みが、自分はまだ人間なんだと、強く主張しているようだった。
「そうだ。酒場の中を確認しないと」
伏せていた顔を上げた時、周囲は人で溢れていた。
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/22(火) 01:01:22.79 ID:xkOiEyoaO
皆が、俺を見ている。
どこから見ていたのか、いつからいたのか分からない。
けれど、俺を怖れている事だけは伝わってくる。
これだけの人がいながら、話し声の一つもない。
まあ、これが当然だ。
人間が炎を出したりするなんて、本来なら有り得ない。
この世に精霊はいない。
まして、こんな魔法みたいな力がある筈は無いのだから。
この人達からすれば、俺も化け物に見えるのかもしれない。
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/22(火) 01:03:28.45 ID:xkOiEyoaO
でも今は、そんなこと関係ない。
俺は止まったままの空間から、滅茶苦茶になった酒場に歩き出した。
中に入ると、瓦礫の下から脚や腕が見えた。
最初に救出したのは、酒場の従業員であろう女性だった。
悲鳴を上げたのも、きっと彼女だろう。
息はあるけど、擦り傷が酷い。
それに加え、細かな破片が所々に刺さっている。
「…っ、酷い」
何かが掠めたのか、右頬には大きな切り傷があった。
これだけ大きな傷だと、例え上手く縫合しても、傷痕は必ず残るだろう。
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/22(火) 01:04:57.83 ID:xkOiEyoaO
「何だこれ?」
意識していないのに、突然、掌に炎が発現した。
輝きは同じだというのに、どこか『質』が違うように感じる。
戦っている時みたいな、猛々しく激しいものじゃない。
何て言うか、暖炉みたいな、暖かく優しい感じがする。
「違う炎。違う力、なのか?」
俺は、女性の右頬の傷。それを、なぞるように触れた。
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/22(火) 01:08:37.67 ID:xkOiEyoaO
「な、治った……」
自分でやったことなのに、全く訳が分からない。
戦う為の力じゃなかったのか。
そもそも、炎で傷を癒やすなんて事が可能なのか?
いや待て。炎は炎でも、これは『精霊の炎』だ。
何て言うか、もっと広く考えた方がいいのかもしれない。
いや、そこまで考える必要も無いか。
「これで治せるんだったら、それでいい」
この力を守る為に使うと言っても、結局は戦いの中でのみ、そう思っていた。
それが本当の意味で、人を救える力だということが、ただただ嬉しい。
爺ちゃんから受け継いだ力は、俺が思っていた以上に『強い』ものだった。
280 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/07/22(火) 01:10:39.05 ID:xkOiEyoaO
ここまで。
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/22(火) 05:02:55.44 ID:Z7gwFM57O
おつ
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:27:57.52 ID:1L7yroc5O
彼女の傷を癒した後、背後から声が掛かった。
振り返ると、其処にはジーナさんが立っていた。
何故此処にいるのかと問う前に「手伝うよ」と、ただ一言。
それだけ言うと、その後は無言のまま瓦礫の撤去を始めた。
「ジーナさん、ありがとう」
「……うるせー。礼なんていいから、終わったんなら手伝え」
「うん、分かってる」
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:29:04.72 ID:1L7yroc5O
二人で瓦礫を退かすと、背に大きな破片が刺さった男性が。
息はあるけど、出血が酷い。
一瞬躊躇ったが、破片を引き抜き、すぐに傷口を塞いだ。
傷は塞いだけど、何しろ失った血の量が多い。
この人は、すぐに医者に連れて行かなきゃ危ない。
「俺達にも、手伝わせてくれ」
それは、ジーナさんが男性を担ごうとした時だった。
彼等は俺を見ると何も言わず頷き、
負傷者二名を担ぐと、医者の元へと向かった。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:31:15.83 ID:1L7yroc5O
それからは早かった。
黙したまま動かずにいた群集は、一斉に動き出し、救助を手伝ってくれた。
瓦礫に埋もれた負傷者を救出し、俺が炎で傷を癒す。
傷が癒えれば、数人で負傷者を担ぎ、医者の下へと運んで行く。
それを何度も繰り返し、酒場内に残されていた全員を救出した。
負傷者の中には危ない人もいたけれど、奇跡的に死者は出なかった。
でも、流石に疲れたな。
炎を使い過ぎたのか、集中が切れたのか、疲れがどっと来たみたいだ。
とにかく、俺が出来る事はやった。
後は医者に任せるしかない。
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:32:22.13 ID:1L7yroc5O
地べたに腰を下ろし一息吐いていると、皆が此方を見ていた。
落ち着きを取り戻した為か、どんな風に接していいのか戸惑っているようだ。
そんな雰囲気を壊したのは、ジーナさんだった。
何の迷いも無く近付いてくると「大丈夫か」と、普通に話し掛けてきた。
「俺は大丈夫。それより皆が無事で本当に良かった」
「…………」
「??」
「つーかさ、さっきの炎は何だ?あれ、手品じゃねーだろ」
「あぁ、あれは精霊の力だよ。火の精霊の力なんだ」
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:33:07.88 ID:1L7yroc5O
あっ、つい言っちゃったけど大丈夫かな。周りの人も反応に困ってるよ。
主に頭を心配されそうだ。
まあいいか、別に嘘を吐いてるわけじゃないし。
「精霊って、お伽話しのあれか?」
「えっ!? ジーナさん、知ってるの?」
「まあな、アイツがよくチビ共に聞かせてんだよ」
「なるほど、神父さんが…」
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:33:56.37 ID:1L7yroc5O
何て話していると、最後の負傷者を運んだ人が帰ってきた。
何だか切羽詰まった感じで、かなり急いで走って来たようだ。
その人は俺を見付けると、呼吸も整わないまま此方にやって来た。
「兄さん、大変だ!!」
「お、落ち着いて下さい。何かあったんですか?」
「はぁ、はぁ…すまない。そ、それが……」
そこから語られた言葉を聞いて、俺は町医者の元へ走り出した。
ジーナさんが「アタシも行く」と言ってくれたけど断った。
この件に関してだけは、もう誰も巻き込むわけにはいかない。
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/24(木) 00:37:07.50 ID:1L7yroc5O
内容は、最初に兵士が運んだ負傷者の内、数名が突然暴れ出したというものだ。
そして、彼等の胸からは黒く輝く何かが突出している、と。
『行かせていいのか?後悔するぞ』
「くそっ!!」
あれは、そういうことだったのか。
暗闇の妖精は、屋外に吹き飛ばした数名に黒水晶を……
確かに倒れていた内の何人かは胸を強く打ったようだった。
その原因は黒水晶を撃ち込まれたか、埋め込まれたかに違いない。
内部にあるから気付けなかったのか?
それとも、同じ気配があったから気付かなかった?
『生憎、人間には何の想いも無い』
「ふざけるな、そう簡単に奪わせはしない。必ず、助けみせる」
289 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/07/24(木) 00:37:38.85 ID:1L7yroc5O
ここまで。
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/24(木) 00:41:44.32 ID:1L7yroc5O
内容は、最初に兵士が運んだ負傷者の内、数名が突然暴れ出したというものだ。
そして、彼等の胸からは黒く輝く何かが突出している、と。
『行かせていいのか?後悔するぞ』
「くそっ!!」
あれは、そういうことだったのか。
暗闇の妖精は、屋外に吹き飛ばした数名に黒水晶を……
確かに倒れていた内の何人かは胸を強く打ったようだった。
その原因は黒水晶を撃ち込まれたか、埋め込まれたかに違いない。
内部にあるから気付けなかったのか?
それとも、同じ気配があったから気付かなかった?
『生憎、人間には何の想いも無い』
「ふざけるな、そう簡単に奪わせはしない。必ず、助けてみせる」
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/24(木) 00:43:21.93 ID:1L7yroc5O
今度から気を付ける。
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/24(木) 01:05:34.71 ID:rTqQu0im0
乙
ひっそり応援してる
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/24(木) 05:22:28.37 ID:cW9ENDoMO
おつ
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:37:46.19 ID:qR4dILemO
見えてきた。
兵士が十数人に対し、黒水晶を植え付けられているのは六人。
今のところ、力を使っている者は見当たらない。
「誰でも力を使えるわけじゃないのか」
武器もなく、滅茶苦茶に暴れ回っているだけのように見える。
けど、その力は異常。
魔法のような不思議な力は使えなくとも、十分危険だ。
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:38:38.60 ID:qR4dILemO
跳躍力も腕力も、並みの人間が出せる力を大幅に超えている。
兵士達は盾で防いでいるが、盾ごと身体を持って行かれてる。
更に、兵士達は攻撃を防ぐだけで攻撃には転じない。
何とか円陣を保ち、攻撃を防ぎながら、必死に呼び掛けている。
町を守る者として、彼等を傷付けたくないんだ。
正気に戻れと叫ぶ兵士の声は、懇願しているようだった。
「暗闇の妖精、これも、お前が見たかったものなのか」
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:41:01.14 ID:qR4dILemO
誰かの悲しむ姿を、その心の痛みを、そんなに見たかったのか。
壊してまで、見たかったのか。
『心を、曇らせてはいかんぞ』
「大丈夫。分かってるよ、爺ちゃん」
兵士達の円陣の前に辿り着くと、攻撃対象が俺に切り替わった。
六人全員が、俺に向かって突っ込んで来る。
その動きに迷いなど無く、目は血走っていて理性は感じられない。
滅茶苦茶に走り、飛び跳ね、四方八方から大振りの攻撃を仕掛けてくる。
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:41:30.57 ID:qR4dILemO
速いけど、読める。
どんなに揺さぶっても、結局向かってくる先は一つ。
俺が立っている場所、此処に向かってくる。
それに、先よりも黒水晶を感じ取れている気がする。
視界の外にいても、分かる。
「今、助けます」
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:43:49.56 ID:qR4dILemO
四肢に炎を纏い
殴り掛かってくる瞬間に距離を詰め、黒水晶を破壊する。
進行方向に極小さな火球、攻撃ではなく、目眩まし。
火花は一時的に視界を奪い、その隙に黒水晶を蹴り砕く。
背後に鞘を突き出し、前方には柄を打ち込む。
「はぁっ、はぁっ…げほっ…」
身体中が軋むけど、黒水晶を砕いて終わりじゃない。
黒水晶が打ち込まれた胸の傷を治さなきゃ、死んでしまう。
早くしないと手遅れになるのに、目が霞む。
脚が、ふらつく。
「大丈夫か!?」
299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2014/07/25(金) 00:45:29.48 ID:qR4dILemO
支えてくれたのは兵士の人達だった。
皆、辛そうな顔してる。
きっと、殺したと、死んだと思っているんだろう。
でも大丈夫。絶対、助けますから。
「俺は大丈夫です。それより、倒れている人を、此処に」
「……分かった」
「ありがとうございます」
一人は残り俺を支えたままで、残りの人達が負傷者を運んできてくれた。
何をするかも分からないのに、信じてくれてるんだ。
300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/07/25(金) 00:50:22.28 ID:qR4dILemO
気張れ、此処で踏ん張らないでどうする。
それに俺は、誰かが悲しむ顔なんて見たくない。
だから今、気を失うわけにはいかない。
大丈夫、終わったら、好きなだけ休めるさ。
「傷が、塞がっていく。君は一体……」
「これで大丈夫です。皆、無事です」
「お、おいっ、しっかりしろ!!」
あ、駄目だ。もう、立ってられそうにない。
それに、何だか眠くなってきた。
そっか、そうだった。脇腹に傷があるの、忘れてた。
酷く痛い、さっきの戦闘で傷が開いたんだろう。
血、出過ぎたんだな……
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/25(金) 00:52:08.46 ID:qR4dILemO
ここまで。ありがとう。
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/25(金) 06:44:13.39 ID:Qu9nlvB2O
おつ
303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:21:13.10 ID:s/VV39ykO
>>>>
此処は、どこだろう。
何も見えない。
見えないけど分かる。此処には、何もない。
闇が身体を圧迫してくるような、重苦しさ。
見えないからこそ、はっきりと、それを感じ取れる。
闇に包まれた世界。光無き世界。
全ての輝きを失い、何者も存在することの出来ない場所。
此処は、時の終わりだ。
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:25:07.59 ID:s/VV39ykO
その中に、何故か俺だけが存在している。
今立っている場所に俺は確かに存在しているけど、他の一切を感じられない。
これが夢だということは分かる。
ただ、それにしては現実に近いというか、とにかく妙な気分だ。
「試しに、やってみるか」
この暗闇に包まれた世界が夢だとするなら、俺が照らせばいい。
辺りを照らそうと炎を発現させた時、今までにない事が起きた。
俺の意思とは関係無く、炎が独立して動き出した。
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:26:09.91 ID:s/VV39ykO
一定の高さを保ちながら、輝きを増し、止まった。
炎の内側から炎が湧き、更にその輝きを増してゆく。
場に固定されていた炎は球体となり、天に昇ってゆく。
そして発光。
炎は、瞬く間に暗闇の世界を照らし出した。
俺以外に何も存在しない、だだっ広い空間の中、声が聞こえた。
その声は、天に在るものからではなく、背後からだった。
其処にいたのは、俺。
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:26:38.27 ID:s/VV39ykO
本来影が出来る筈のその場所には、輝く炎で形作られた俺がいた。
炎というより、光に近い感じだ。
眩しい程に照らされた世界で、光を放っている。
直視すれば目が潰れる程なのに、何かが違うのだろうか。
寝てるのに眩しいってのも、可笑しな話しだけど
これは、一体何なんだ。
『消し去るってのは、こういう事さ』
「……は?」
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:27:56.73 ID:s/VV39ykO
『暗闇を消し去れば、こうなる』
「ちょっと待って。何を言ってのるか、さっぱり分からない」
『お前、馬鹿だな』
「うるさいよ!!」
「俺に言われたくない…って言うか、これは一体何なんだ?」
『未来だ』
「未来?」
『戦いの末、全ては失われる』
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:30:04.39 ID:s/VV39ykO
『戦いの末に訪れる未来だ』
「それは、暗闇の妖精との戦い?」
『他に何があるんだよ、阿呆』
「(俺、こんなに口悪くないよな?声も違うし)」
『世界を覆う暗闇を払うには、世界を覆う光が必要だ』
「これが、そうなのか?」
『お前は、暗闇を倒すんだろう?』
「爺ちゃんと約束したんだ。破るわけにはいかない」
『なら、全ての炎を犠牲にする覚悟はあるか?』
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:32:34.39 ID:s/VV39ykO
「それは、どういう意味なんだ?はっきり言ってくれ」
『全ての命』
『その輝きを以て、暗闇を討つ覚悟はあるかと訊いている』
「……命、犠牲……まさか」
『分かったか?』
「……暗闇の妖精は、四精霊の力で倒された筈だ」
『いや違う。あの時、俺はそうした』
「嘘だ。そんなこと、爺ちゃんは言わなかった」
『犠牲無き勝利、犠牲無き生など、あると思うか?』
『そんな耳心地の良い物語が、真実だと?』
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:33:15.66 ID:s/VV39ykO
「……っ、お前は誰だ。何で俺と同じ姿なんだ」
『阿呆、逆だ。お前が、俺と同じ姿なんだよ』
「は?」
『早い話し、生まれ変わりってやつだ。馬鹿でも分かるだろ?』
「俺、そんなに愛想悪くないし、口も悪くないけど」
『黙れ小童』
「こわっぱって……」
『俺とお前じゃあ、見てきた物が違うんだよ』
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:34:12.13 ID:s/VV39ykO
「見てきた物?」
『ああそうだ』
『俺は戦乱の世を生きた。今を生きるお前とは違う』
「時代と口の悪さは関係無いと思うんだけど」
『黙れ。兎に角、あの時の戦いは、お前が聞かされた物語とは違う』
『何を犠牲にしても、勝たなければならなかった』
『時には信念、志さえ、曲げなければならなかった』
「…………」
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:35:41.74 ID:s/VV39ykO
『これから、お前も体験することになる』
『俺は嫌と言うほど、それを見てきた』
「じゃあ、あの話しは……」
『だから言っただろう』
『犠牲無くして勝利は無い。お前の生きる『今』も無かった』
「そんな……」
『確かに、四精霊の力で暗闇の妖精は倒せるだろうが
「だったら何で!!」
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:37:17.32 ID:s/VV39ykO
『話しは終わってない、最後まで聞け』
「……っ」
『確かに俺達は暗闇の妖精を倒した』
『だがな、世界を覆っていた暗闇は消えはしなかった』
「でも、倒したら暗闇は晴れた。って……」
『そう都合良く行くものか。あれは妖精の力でもあり、人の暗部でもあった』
『妖精の力により始まった戦』
『その中で生まれ、育まれた怒りと憎しみだ』
『元はと言えば暗闇の妖精も、精霊が生み出したようなものだがな』
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:39:24.81 ID:s/VV39ykO
『しかし、そのきっかけは人間だ』
『俺達は、忘れてはならないものを、忘れてしまった……』
「火の王、あなたは暗闇を……」
『……ああ、俺は人の憎しみを、人の輝きで払った』
「(人の輝き。人だけが持つ、いのちの輝き、か)」
『お前が戦う暗闇は、あの時より遥かに強い』
「それは何で? 一体何が?」
『さあな……ただ、感じるのさ。あの時の炎では、足りないだろう』
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:40:54.28 ID:s/VV39ykO
『今を生きる全て。それは勿論、人に限った事じゃない』
『全てだ。全ての命、命の炎』
『それでしか、今の暗闇は消せはしないだろう』
「……その結果が、この世界」
『そうだ。但しそこには、お前も存在しないだろうが』
「だったら、探します」
『他の方法を、か?』
「はい」
『この馬鹿が、俺が何も試さなかったと思うか?』
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:41:48.63 ID:s/VV39ykO
「俺は、あなたじゃない」
「生まれ変わりだとか、そんなのも関係無い」
『何だと?』
「皆が笑っていられるような、そんな世界を、俺は見たい」
「だから、貴方達が守ってくれた今を守る為に……」
「思い付く限りの全てを守る為に、この力を使います」
『口先だけなら、何とでも言える』
「約束します」
『死んでも、か?』
「はい」
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:50:36.19 ID:s/VV39ykO
『無理だな』
「……やってみなきゃ、分からない」
『阿呆が。自分を軽んじる奴に、何が守れる?』
『そんなやり方じゃあ、暗闇と戦う前に死ぬだろうな』
『死んだら、守れるものも守れはしない』
『言ってる事は立派だが、半端なんだよ、お前は」
「……っ」
『だから、一つ教えてやる』
「えっ?」
『生きる為に戦え』
『お前が生きている限り、約束も、人も、願いも、全てを守れる』
「!!」
『おい、聞いているのか?』
「は、はい」
『生きて、戦って、守れ。分かったか? カル・アドゥル』
「はいっ!! ありがとうございます!!」
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/08/05(火) 00:55:40.67 ID:s/VV39ykO
ここまで。
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/05(火) 07:40:23.52 ID:j4dKjM2RO
おつ
320 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/08/18(月) 01:27:06.47 ID:Vnvzk+WpO
続きは書く。見てる人、ありがとう。
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/18(月) 03:51:56.97 ID:41F3bu7cO
待ってるよー
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/18(月) 05:04:24.50 ID:2pYlm5M9O
見てるよ
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:39:18.01 ID:wgYAztYuO
「俺、頑張りますか…って、あれ?」
あぁそうか、そうだった。
夢だってこと、すっかり忘れてた。
それにしても現実的っていうか、質感があるっていうか、不思議な感じだ。
何て言うか、あれは夢だけど、ただの夢じゃない。
あれはきっと、警告と助言。
今のような戦い方を続ければ、暗闇の妖精に辿り着く前に倒れる。
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:43:18.14 ID:wgYAztYuO
誰かを助けたいのなら、俺が生きてなければ駄目だ。
死んでしまえば、誰かを助けることなんて出来ないんだから。
「生きる為……」
俺は炎を操れる。
傷の治りも、通常の何十倍も早い。
奴等と戦えるのは、この戦う力のお陰だ。
激しい戦いで深手を負っても、この身体なら何とかなるだろう。
だから、気付かない内に力に頼り切っていた。
そしていつの間にか『何とかなるだろう』と、そう思うようになっていた。
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:46:15.75 ID:wgYAztYuO
だけど、あくまで力は力だ。
扱う俺自身が強くならなきゃ意味がない。
いくら良い剣を持っていても、主が弱くては剣が泣く。
力を扱うのなら、それに見合う人間にならいと……
「きっと、俺が危なっかしいから、見ていられなくて助けてくれたんだろうな」
先の夢の中で話した人が、火の精霊であり、火の王。
俺と同じ姿なのに全然違ってた。
いや、俺が同じ姿なんだっけ。
確か生まれ変わりだとか言ってたな。
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:48:42.67 ID:wgYAztYuO
口は悪いけど、俺と違って賢そうな顔してた。
何しろ戦争の真っ只中を生きた人だ。言葉の重みが違う。
自分と同じ姿だけど、偉い人と話してるような気分だった。
何たって王様だ。
実際偉いんだろうけど、あんまり偉ぶった感じはしなかったな。
何度も扱き下ろされたけど、嫌味な風でもなかったし。
「自分を軽んじる奴は、誰も救えない。だったよな」
里でもそうだったけど、すぐに周りが見えなくなる。
本当に悪い癖だ。
どんな状況でも、視野を広げて動けるようにならないと。
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:51:09.95 ID:wgYAztYuO
『死んだら、救える命も救えはしない』
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/18(月) 23:59:00.17 ID:wgYAztYuO
その通りだ。
先々を考えて行動しないと、いずれ出逢う仲間の命をも危険に晒す事になる。
力を継いだ責任がある。
この力は、俺だけの為にある物じゃない。
だからこそ、力を持つ者として行動しないと駄目だ。
どれだけ強い力を使えるとしても、驕り高ぶっては駄目だ。
単純に、俺にしか出来ない事をやるんだ。
小難しく考えても上手く行きっこないし、俺は火の王様じゃない。
あの人のようにやろうとしても、きっと上手く出来ないだろう。
戦いに関しても、頭を動かすより身体を動かした方が早い。
それに、急に慣れないことをやろうとしても、ぼろが出るだけだ。
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/08/19(火) 00:04:24.86 ID:YTwd9sr7O
「……夜か。また四日くらい寝てたりしないよな」
夢に気を取られてたど、あれからどれくらい経ったんだろう。
見たところ、此処は診療所じゃないし、民家でもなさそうだ。
それに、町の様子も気になる。
黒水晶のこともそうだけど、俺自身のことも説明しないと拙い。
あんな事が起きたんだ。ただでさえ混乱してるだろう。
「何とか出来たけど、町の人、怖がってたな……」
冷静に話しを聞いてくれるかも分からない。
奴等と同じ存在だと思われてるかもしれない。
でも、今は夜だ。説明するなら、明日の朝がいいだろう。
330 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/08/19(火) 00:09:51.57 ID:YTwd9sr7O
短いけど、ここまで。
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/19(火) 00:52:06.14 ID:N8fbR7Wt0
乙
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/19(火) 05:09:55.61 ID:98dlOMgBO
おつ
333 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/08/20(水) 21:59:07.52 ID:PzbpbGJaO
【3】
「では、始めましょうか」
「お願いします」
目を覚ましてから、五日が経った。
俺が目を覚ました夜は、事件当日の夜。
診療所が半壊した為、マウロ神父の教会に運ばれたようだ。
あの夜、診療所で治療を受けていた怪我人の中の六名が、黒水晶により狂暴化。
その場に居合わせた町の兵士が誘き出したから、半壊で済んだ。
だからこそ、医師も、その他の怪我人も無事だった。
死人が出なかったのは、幸運としか言えないだろう。
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:20:58.21 ID:PzbpbGJaO
俺の事や、この力については、マウロ神父が説明してくれていた。
普通なら信じて貰えないだろうけど、あの事件の後だ。
町の皆も、信じざるを得なかっただろう。
そのお陰で、友好的に接してくれる。
まあ、皆が皆じゃないけれど、あんなのを見たんじゃ仕方無いよな。
「この文献には、癒す炎に関して一切の記述はありません」
「私が思うに『あの炎』はカルさん、貴方だけが発現出来る炎なのでしょう」
「俺だけの、炎……」
335 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:23:04.96 ID:PzbpbGJaO
あの夢を見て、少し落ち着くことが出来た。
それから色々考えて、俺は学ぶことにした。
今は、マウロ神父から過去の出来事、精霊、炎について教えて貰っている。
何も知らないまま焦って追い掛けたら、きっと夢の通りになってしまう。
焦る気持ちは、今でもある。
今この瞬間、どこかで誰かが助けを求めているかもしれない。
黒水晶の被害が拡大しているかもしれない。
でも、だからこそ、知らなきゃならない。
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:25:00.91 ID:PzbpbGJaO
受け継いだ力、精霊とは何なのか、暗闇の妖精、倒す方法。
俺は、それを知り、見つけなくちゃならない。
「済みません。少し、休憩しましょう」
「……神父さん、大丈夫ですか?」
「ええ、私は『大丈夫』ですよ」
「ははっ、なら良いです」
337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:29:58.46 ID:PzbpbGJaO
目覚めた翌日の朝、事件が起きた。
マウロ神父が、突然倒れた。
原因は、黒水晶。
子供達がマウロ神父の為に渡した首飾りが、そうだった。
何か贈ろうと悩んでいた子供達が出逢った露天商が、ただでくれたらしい。
子供達に特徴を訊いたけど、全員が、ばらばらの人物像を答えた。
お爺さん、お婆さん、俺くらいの男性女性……挙げればきりがない。
無数の声、無数の姿。
あの時、商人との会話の中でもばらばらだった。
あれも、妖精の力なのかもしれない。
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:31:16.30 ID:PzbpbGJaO
ジーナさんも酷く取り乱していて
倒れたマウロ神父を抱き締めながら、泣いていた。
初めて会った時には気付けなかったけど、あの時ははっきりと感じた。
禍々しく、粘着くような気配だった。
俺はすぐに黒水晶の首飾りを引き剥がし、あの夜に新たに発現した炎で癒やした。
神父さんが回復した後、預かっていた首飾りを調べると、中には何かが棲んでいた。
それは、蛭のような生き物だった。
339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:38:43.63 ID:PzbpbGJaO
何が何だか分からないけど、人体に悪影響を及ぼす物だってことは分かりきっていた。
首飾りの内側に炎を発現させ、何とか蛭を焼くと、首飾りは赤に染まった。
子供達がようやく見つけた贈り物……
どうしても、壊したくはなかった。
それに、身体にどんな影響を及ぼしたとしても、マウロ神父にとって大切な物に違いない。
色は変わってしまったけど、何も変わっちゃいない。
「さて、そろそろ再開しましょう」
「はい」
首飾りは、今もマウロ神父が大事に身に付けている。
ちなみに何故赤くなってしまったのか。
その理由も、この授業の中で、マウロ神父が教えてくれた。
どうやら俺は、【精霊石】を作り出してしまったらしい。
340 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/08/20(水) 22:45:39.45 ID:PzbpbGJaO
短いけど、ここまで。
アバタールチューナー(原案)と東京喰種のクロスが見たい。
341 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/08/20(水) 22:50:02.56 ID:PzbpbGJaO
書き忘れ。
まだ見てる人いるとは思わなかった。
本当にありがとうございます。
342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/21(木) 01:34:15.93 ID:inn3uTdf0
おつ
ずっと見てる
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/21(木) 05:06:49.20 ID:xSfyJNzkO
おつ
344 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/09/02(火) 00:06:33.39 ID:W9nFGUu3O
>>>>
窓の外を見つめ和やかに微笑むと、マウロ神父は授業を再開した。
窓の外、教会の庭で、子供達とジーナさんが遊んでいる。
恐らく白月も一緒だろう。
不思議な事に、白月は子供には優しい。
はしゃぐ子供達と、それを追いかけるジーナさんの声が聞こえる。
先日の事件やマウロ神父の容態急変、色々あったけど、だいぶ落ち着いてきたようだ。
「では、再開しましょうか」
「お願いします」
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/02(火) 00:08:07.13 ID:W9nFGUu3O
マウロ神父は、これは私の見解であると付け加え、語り出した。
自分の信仰する神は、万物を創世した絶対的な存在であり、精霊もその一つに過ぎない。
これは現在主流となっている宗教のようだ。
但し、一部の精霊を神格化し崇拝する者もいるらしい。
例えば、火の精霊を神とした火神崇拝、そんな宗教も今尚存在するらしい。
「不謹慎ではありますが……」
そう言い、マウロ神父は続ける。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/02(火) 00:12:18.12 ID:W9nFGUu3O
私は知りたかった、そう言った。
何故、『神』が分かたれたのか。
千年前とも数百年前とも言われる、精霊と妖精の戦い。
神父でありながら好奇心を抑えられず、様々な書物を読み漁った日々。
きっと、マウロ神父が知りたいのは『真実』なんだろう。
過去、あらゆる場所に精霊が存在し、人間に精霊石を与え、後に光を奪い、戦乱となった時代。
今では知りようがない、その時代の真実。
何が起きたのか、何が嘘で、何が本当なのか。
精霊の成り立ち、妖精の誕生、戦いの末に生き延びた人々、それが今を生きる人であるのは分かる。
が、今は何年後で、何故この物語が今尚消えずに残存しているのか。
どの文献を見ても、それは未だ不明で、明記されていない。
結果として、多くの神々が創り出された。
347 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/09/02(火) 00:13:39.08 ID:W9nFGUu3O
短いけど、ここまで。
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/02(火) 05:15:10.51 ID:NAg4OjIdO
おつ
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/03(水) 00:39:55.58 ID:sssF+jtaO
私が属する教の中には、神は一つであり他は存在しない。
我々の神が唯一であり、他宗教の者達は等しく偶像崇拝である。
そう唱える者が多数いるのだと、マウロ神父は言う。
俺の存在、又は水・土・風の力を司る者が広く伝わり認知された時、均衡が崩れるとも言った。
俺からすれば気味の悪い話しだけど、精霊の力を持つ者が【神】として祭り上げられ、争いの材料とされる。
マウロ神父は、遠い過去には存在しなかった宗教が、今ではある種の力を持っているのだと教えてくれた。
信仰、崇拝とは、それ程までに強い力を生むのだと。
それは、己の信じる神の為ならば、死をも怖れない【力】なのだとも。
「……私は、迷っています」
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/03(水) 00:41:19.67 ID:sssF+jtaO
マウロ神父は、揺るぎつつあることも正直に吐露した。
目の当たりにした力と、自身の崇拝する神の存在。
一向に姿を見せぬ神と、精霊の力を持つ者。
「人間とは、本当に業が深いですね」
「えっ?」
「我々が信仰する神が存たしかに在すると言う証拠はありません」
「しかし、我々が信仰する神が存在しないという証拠もない」
「尊び、頼らずとは良く言ったものです……」
351 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/09/03(水) 00:43:36.90 ID:sssF+jtaO
短いけどここまで。
352 :
◆nOg0qhcRYQ
[sage]:2014/09/03(水) 01:38:06.28 ID:sssF+jtaO
マウロ神父は、俺と出逢った事で戸惑い揺らいでいることを正直に吐露した。
黒水晶に身体を侵され、目の当たりにした精霊の力、自身の崇拝する神の存在。
一向に姿を見せぬ神と、精霊の力を持つ者。
「人間とは、本当に業が深い」
「見えない存在を信じる事は容易ではない、それを身を以て分理解しました」
「……神父さん?」
「カルさん、我々が信仰する神が確かに存在すると言う証拠はありません」
「しかし、我々が信仰する神が存在しないという証拠も無いのです」
「…………」
「ですが、貴方は確かに存在していて、私を救ってくれた…… 」
「全く、神を尊び、頼らずとは良く言ったものです……」
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/03(水) 01:39:13.94 ID:sssF+jtaO
色々間違えたし言葉が足りなかった。気を付ける。
354 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/09/03(水) 01:42:23.73 ID:sssF+jtaO
酉間違えた。
355 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/03(水) 05:05:56.93 ID:nic0HEJFO
おつ
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/03(水) 22:48:55.57 ID:Az4SE3x7O
「神を尊び神を頼らずとは、良く言ったものです」
そう言い首飾りを外すと、赤く染まったそれを握りながら、マウロ神父は顔を伏せた。
何か重大な事実を話す前の間、そんな空気が部屋を満たす。
俺は待った。
顔を伏せ、沈黙したままのマウロ神父から告げられる言葉を。
外からは、絶えず子供達とジーナさんの笑い声が聞こえてくる。
朗らかな笑い声が響く中、マウロ神父は遂に顔を上げ、口を開いた。
決意した面持ちで首飾りを強く握り、俺の眼を真っ直ぐに見つめながら。
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/03(水) 22:50:42.54 ID:Az4SE3x7O
マウロ「私は、信じられない」
カル「……それは、何をですか?」
マウロ「神を信じる者、同志の行いです」
マウロ「私は、見てしまった」
マウロ「異教徒、我々とは違う神を崇拝する者を殺害する同志を……」
カル「そんなっ!!」
マウロ「事実です。彼等は神の命だと言い、他宗教の信者を、殺害した……」
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/03(水) 22:53:48.51 ID:Az4SE3x7O
マウロ「私は異を唱えましたが、彼等は『賞賛』された……」
カル「!?」
マウロ「我々の神こそが唯一絶対であり他宗教は等しく偶像崇拝」
マウロ「中には邪教だと蔑む者もいました」
マウロ「しかし、我々の信じる神が、そんな命を下すのか?」
マウロ「他宗教を弾圧せよ、殺害せよ、我こそが神だと示せ?」
マウロ「何を馬鹿な……そんな神など、いるはずが無い」
カル「だから、俺に忠告を?」
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/03(水) 22:56:00.87 ID:Az4SE3x7O
マウロ「ええ、貴方の存在、又は貴方と共に戦う『人間』」
マウロ「それらが世間に明らかになった時、彼等は『敵』となる」
マウロ「以前の戦いにはなかった争いが、必ず生まれるでしょう」
カル「……何で、話してくれたんですか?」
カル「神父さんも、その教えを信じる一人なのに」
マウロ「ふっ、私は破門されたようなものですから」
カル「は、破門?」
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2014/09/03(水) 22:59:08.52 ID:Az4SE3x7O
マウロ「先程話したように、私は彼等を糾弾しました」
マウロ「神がそんな行いを命ずるはずがないとね……」
マウロ「その結果、布教活動という名目で、この町へ派遣されたのです」
カル「そんな、何で……」
マウロ「私は敬虔な信者ではないと判断され、異教徒を殺害した彼等こそが、『信者』なのです」
カル「っ、そんなの、絶対に間違ってる!!」
マウロ「……カルさん、貴方はそう言うでしょうが、彼等に道理は通じません」
マウロ「自らが信じる神を歪めてしまった、彼等にはね……」
カル「っ!!」
マウロ「そんな顔をしないで下さい」
マウロ「大丈夫です。私は諦めてはいませんから」
361 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/09/03(水) 23:01:52.23 ID:Az4SE3x7O
短いけどここまで。何だか変な方向に……もう駄目だ。
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/04(木) 04:51:13.75 ID:rCEcwFebO
おつ
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/04(木) 10:53:54.47 ID:nfYzayEEO
諦めんなよ!
乙
364 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/09/22(月) 22:35:09.60 ID:/d35FvOOO
しばらくの間、書けないと思う。
どうなっても完結させる、最後まで書きたい。
もう何度か未完にしたけど、ちゃんと書く。
続き待ってる人、一度でも見てくれた人、ありがとう。
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/22(月) 22:54:59.07 ID:qfjKnc/GO
いつまでも待ってやるよ
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/10/13(月) 22:42:54.25 ID:oS0gK5+mO
和やかな笑顔とは対照的な決意の声で、マウロ神父はそう言う。
俺は神父が握る精霊石を見つめながら「それは、何を」と訊ねた。
すると、マウロ神父はやや困惑した表情で
「いえ、大それた事ではないんです」と言い照れ臭そうに笑う。
諦めないと言うのは、己の信じる神を信仰する事を止めない。
ただ、それだけなのだと神父さんは言う。
367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/10/13(月) 22:44:06.69 ID:oS0gK5+mO
自ら神を歪め、貶め、信仰とは名ばかりの行為を良しとする。
他宗教弾圧を良しとする。そんな考えを、真っ向から反発する。
我等の神は……と、崇め信じる事に罪はない。
誰がどんな神を崇拝信仰しようと、行き着く先、その突端は一つ。
神は唯一であり、他は無い。
信仰と言う名の一点に於いて、一つ。
ーー神。
この言語を用い時点で、そのものは一つなのだとマウロ神父は語った。
368 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage saga]:2014/10/13(月) 22:50:28.31 ID:oS0gK5+mO
宗教なんて小難しくて分かりにくかったけど、神父さんが何を伝えたいのかは分かった気がする。
今日の授業は、これで終わった。
借りている部屋に戻る最中、うろうろしながら馬鹿なりに色々と考えた。
俺の育った場所には無かった信仰と言うものについてだ。
姿形の無い、誰も見たことの無い存在。にもかかわらず、崇められる存在。
様々な形に別れた神と言う存在が、如何に人を迷わせ、狂わせているのか。
目に見えない最上位の存在。それに、人が惹かれている事……
戦乱の無い時代だからこそ、そんな無形の存在に惹かれているのかもしれない。
神を否定はしないけど、何か薄ら寒いものを感じた。
「……爺ちゃん。俺は、何を信じればいい?」
369 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/10/13(月) 22:53:11.80 ID:oS0gK5+mO
短いけどここまで。
今度は沢山書きたい。
370 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/10/14(火) 23:37:18.08 ID:qvz0lBYaO
近い内に沢山書いて投下したいなぁ…
まだ見てる人、待ってる人、本当にありがとうございます。
371 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/10/15(水) 12:30:08.95 ID:hH0TT7/+O
待ってるよ
372 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 00:30:39.82 ID:T4JvjnxqO
神、信仰、崇拝。
俺には全く馴染みのない言葉。
それに対し、何気なく口にした一言。
その何気無い呟きに、誰も居ないはずの場所から返答があった。
「僕は、無理に何かを信じる必要は無いと思うけどね」
俺以外に誰も居ない廊下に響いた声。
同時、視界は暗闇に包まれた。
存在していた壁も扉、景色が一瞬にして黒に塗り潰され色は無い。
無理矢理に夜にしたたような、無理矢理、一人ぼっちになったような。
この世界で俺だけが、どこか別の場所に連れ出されたような。
373 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 00:36:43.01 ID:T4JvjnxqO
「誰だ」
理解の範囲、その枠外からの声だった。
有り得ない出来事。
その内側で正気を保つ為、何とか捻り出した言葉だった。
「まあ落ち着きなよ。危害は加えない。僕は、君の味方だ」
味方だとは思えない。
けれど、柔らかく落ち着いた声。姿は見えないが敵意が無いのは分かる。
こんな芸当が出来るのは、暗闇の妖精以外に無い。
前後左右、闇に包まれた空間の中で、奴の声だけが響く。
374 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 00:41:25.43 ID:T4JvjnxqO
「まだ子供なのに随分と冷静だね。
脅かしてやろうかと思ったのに、残念」
「何をしに来た、暗闇の妖精」
「流石だね、理解が早くて助かるよ。
姫様の命令で、迷ってる君に助言をしに来たんだ」
「姫様?助言?」
「あぁ、僕は彼女の分身の分身の分身の分身の分身の……
まあ、簡単に言えば伝言役さ」
相変わらず辺りに姿は無い、妖精の声だけが、響く。
375 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 00:52:57.49 ID:T4JvjnxqO
「沈黙は聞いてくれる気になったと解釈する。
じゃあ、話しを続けるよ?」
一体、何が目的なんだ。
相手の意図が全く読めない。
「僕……暗闇の妖精は一つじゃない。様々な者が存在している。
今現在は姫様かな。
僕の母と言うか、姉というか、彼女に主導権がある」
「君に敵に与えたのは姫様の意向なんだ。
君を試し、見極める為にね」
「結果、君は姫様のお眼鏡に叶った。 容姿、思考、その全てに於いてね」
「黒水晶を使い人を狂わせてもか……ふざけるな!!」
「まあまあ、そう怒らないでよ」
「カル・アドゥル。君は彼等を救ったじゃないか。
大多数の人間が諦める状況、諦めざるを得ない事態にも拘わらず」
「そんな君を、姫様は愛してるんだ。
この世界で唯一、照らしてくれる存在だとね」
「記憶してるだろう?
貴方が貴方で良かったって、妙な発言を」
「……ああ、憶えてる」
「姫様は、君が生まれるのを待ってた。その上で、事を起こした」
「ちなみに妖精は一つじゃない。別々の思想が、独自に動いてる」
「君を心底愛している存在が居る一方。
君を亡き者にしようと画策している存在もある……」
376 :
◆5l7a.r2Ghs
:2014/10/18(土) 00:57:12.17 ID:T4JvjnxqO
君に敵に与えたのは、じゃなくて
君に敵を与えたのは、だった。
また近い内に書きたいな。
まだ読んでる人、ありがとう。
377 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/10/18(土) 07:20:13.20 ID:xvoGrhw50
頑張れよー
378 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 22:49:00.19 ID:GNr6AgLUO
「愛しているのに殺したいのか。
滅茶苦茶もいいとこだな」
今対峙している暗闇の言葉が真実だとしたらーーー
里から此処までに起きた戦い。
それら全てが、姫と呼ばれる存在によって仕組まれた戦いという事になる。
嫌気が差し、呆れたように吐き出した声に、暗闇が即座に返答する。
「君を守る為だ。
作り出した状況や敵は、明らかに君に不利なもの」
「でもね、それは仕方無いんだ。
君が簡単に勝てる敵では、欺けないからね」
「欺く?何の為に?」
379 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 23:01:22.14 ID:B95VgDqoO
「だから言ってるだろう。
君を守る為、君を失わない為だ」
「現段階の君の力では困難な敵。
一見、打破出来ないような状況を作り出す事で……」
「君を殺そうとする暗闇を欺き、何とか納得させたのさ」
「ふざけんな!!爺ちゃんは、その為に死んだって言うのか!?」
「精霊の力の継承も何もかも……
全部、全部お前等が作り出したものだって、そう言うのか!!」
「ああ、その通りだ。
姫様だって、表向きは精霊と対立する立場を演じなければならない」
「肉親を奪われたんだ、冷静になれとは言わないよ?
でもね、守る方法って一つじゃない」
380 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 23:08:07.67 ID:BaxX1t3EO
「君を守る為なら、姫様は何だってするだろう。
事実、君が生きていられるのは、姫様の計らいがあったからだ」
「……沢山の人が血を流して、沢山の人が傷付いたんだぞ!!」
「やっぱり子供だね。
一つ忠告させて貰うよ?実はこっちが本題なんだ」
「君が守った人間、君が守ろうとしている人間は、いずれ君に牙を剥く」
「君は人間を信じ過ぎている。少しは疑うことを覚えた方が良い」
「黙れ。誰がお前みたいな奴を信じる」
「なら、僕が神父の格好をしていれば信じるのかい?
一個に精霊石を預けるだなんて、どうかしてる」
「神だなんだと、有りもしない存在を崇める彼の方が危険だ。
僕は、そう思うけど?」
381 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 23:15:23.44 ID:S4+vc7tVO
「君も精霊も、暗闇の妖精も、確かに存在している。
けど、神はどうかな?君は神を見た事はあるかい?」
「うるさい」
「随分と嫌われたね。まっ、別に良いけど。ただ……」
「目に見える物を信じろ。
絆や信頼、見えない何かを信じるのは止した方が良い。
姫様からの伝言だよ」
「分かった。
だから、お前が言う姫様の愛は信じない」
「全く、素直じゃないね。その方が子供らしくて良いけどさ」
「ああそうだ。忘れてたよ。
そろそろ、納得しない連中が作った敵が来る」
「なら、此処から出せ」
382 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 23:25:33.25 ID:S4+vc7tVO
「そう慌てないでよ。
君が炎を発現させれば、僕は簡単に消える仕組みなんだ」
「姫様が君に接触した証拠、
僕という存在は、消えなきゃならない」
「(最初から、消える為に作られたって言うのか。そんなの……)」
「ふふっ、君は優しいね。
こんなちっぽけな存在に、慈悲を持てるんだから」
「ほらほら、早くしないと間に合わないよ?」
「姿形がどうあっても……」
「ん? なんだい?」
「お前も、一つの命だ」
「あははっ、なるほど。カル・アドゥル。
姫様が君を愛する訳が、守る訳が分かった気がするよ」
「もう、行くよ」
「そっか。じゃあ、さよならだね。
死なないでよ? 僕も、君に死んで欲しくない」
「……大丈夫。俺は、生きる為に戦う」
383 :
◆5l7a.r2Ghs
[saga]:2014/10/18(土) 23:29:08.92 ID:SC0mpZBRO
ここまで。ありがとう。
384 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/10/20(月) 22:18:02.08 ID:z6U5SlAMO
>>380
訂正
「なら、僕が神父の格好をしていれば信じるのかい?
一個に精霊石を預けるだなんて、どうかしてる」じゃなくて
「なら、僕が神父の格好をしていれば信じるのかい?
一個の人間に精霊石を預けるだなんて、どうかしてる」でお願い。
385 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage saga]:2014/10/20(月) 23:02:08.57 ID:ihnImI3pO
更に疑問が生まれた。
俺の敵は暗闇の妖精、その筈だった。
けど、暗闇の妖精は統一していない。
姫と呼ばれた存在と、それに反発する存在。
俺の敵は暗闇の妖精。
その中の、誰なんだ?
姫様か、俺を亡き者にしようとしている者か。
それとも、暗闇と名の付く全てなのか?
あの暗闇の語った全てを信じるとすれば、
俺は姫に生かされているらしい。
386 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage saga]:2014/10/20(月) 23:04:53.36 ID:ihnImI3pO
奴の言葉を、嘘とは思えなかった。
でも、爺ちゃんを殺したのは奴らに間違い無い。
「……駄目だ。分からない」
分からないけど、戦うしなかない。
暗闇を消し去った後、
俺は炎に包まれた町の広場、敵の眼前に立っていた。
幸い、避難は終わっているようだ。
大方、町の兵が避難誘導したのだろう。
「戦闘中に考え事か、随分と余裕だな」
387 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage saga]:2014/10/20(月) 23:14:10.93 ID:4sRpYZM4O
黒炎を纏った巨躯の猪が憎々しげに言う。
実際、余裕なのだから仕方無い。
町に広がった黒炎を自らの物とし、纏う。
そして俺は、祖父の剣を抜いた。
この着物は法衣、この剣は法具と化すだろう。
「お前は、俺の敵にはなれない」
「き、貴様っ、まさか!!」
「何代も守り続けた甲斐があったようだ。
貰うぞ、お前の力。お前の『炎』をな」
炎は生命だ。
俺には、命を奪う力がある。
精霊の炎。
それは全ての炎、命を、己の力に出来る。
任意で与られるが、命を奪う力でもある。
「あまり俺を見くびるなと、姫に伝えろ。
お前程度の敵など、俺の脅威にはなれないんだよ」
388 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage]:2014/10/20(月) 23:17:07.19 ID:TYGWtO05O
短いけど、ここまで。ありがとう。
389 :
◆5l7a.r2Ghs
[sage saga]:2014/10/21(火) 22:48:14.07 ID:1SImz+M3O
>>385
>>386
>>387
。この展開は無い。
書き直します。
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
:2014/10/27(月) 23:25:21.96 ID:aYiEHKjqO
向精神薬は人間から思考を奪う。
考える事、悩む事を強制的に停止させる。
脳味噌をぐちゃぐちゃに掻き回されたような感じだ。
近々書きたい。
精神病患者にしたいのは医者、決めるのも医者。
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