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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」

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2 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:37:10.63 ID:7HyDx93o0
「なぁ。これどうすんだっけ」
とあるマンションの一室。
カウチに寝転がったままの少年が誰にともなく呟いた。
呑気にスマートフォンをいじるのは学園都市の生んだ最高位の能力者、超能力者第二位垣根帝督。
その声に振り返ったのは、ちらかった机の前でパソコンのキーを叩いていた少年だった。
少年がカウチの前まで部屋をつっきってくると、ぽいっとスマートフォンが放られた。
それを受け取って画面を覗くと少年は首を傾げた。
「なんスか……って、この前『スクール』でリスト作ったSNSアプリじゃないっスか。あれ、垣根さん公開アカにしちゃったんですか?」
『スクール』。毒をもって毒を制する学園都市の自浄装置、暗部組織の一つで垣根がリーダーを務めている。
この少年は、その内でも数少ない正規構成員の一人だった。
能力使用時に腰に下げた装置と頭部を繋いだゴーグルを使うために組織内では「ゴーグル」なんてそのまんまなあだ名で呼ばれている。
本人は、
「どうせならもっとカッコイイので呼んでくださいっス!」と憤慨し、愛用するハンドルネームをメンバーに教えてまわったのだが努力むなしくちっとも浸透していない。

3 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:39:37.07 ID:7HyDx93o0
ゴーグルにうなずくと垣根はだるそうに足を組んだ。
足元は革靴のままアームレストの上に掛けてしまう。
「別に連絡受けるだけの仕事用の番号だし気にして無かったんだけどさ。何かやたらとフレンド申請が来てんだけど。なんで?」
「なんでそんな動きのないアカに申請が……えーと『どこ鯖ですかコードxxxx-xxxx-……』『高レベ友求』『上位レアトレードリストあります』……あー、垣根さん。もしかして……自分の名前そのまま入れちゃいました?」
「うん」
一覧に表示されたメッセージをざっと見ると。
少年はしばらく考えてから垣根にそんなことを聞いた。
そして何だか気まずそうに頭を掻いた。
「多分……うーん、相手の勘違いっスね。うわ、知らないって怖いわー。垣根さんっスよ? こんなこと言えないって」
「あとな、なんかムカつくのがいる」
一人勝手に納得している様なゴーグルを手招くと垣根はスマホを操作してみせた。
「どいつっスか『かっけえ誤字m9(^Д^)www』うわー!」
「何なんだこれ」
4 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:41:39.60 ID:7HyDx93o0
顔文字つきのメッセージを読むなりおかしな声をあげるゴーグルの少年。
意味がわからないらしく心底不思議そうな顔をする垣根に。
少年は少し悩んでから息を吐いた。
そして何故か真剣なおももちで切り出した。
「……垣根さんこれは俺の想像なんスけど。どうか怒らずに聞いてもらえますか」
「中身によるな」
「『艦隊っち』ってゲーム知ってますか」
「いや」
「戦艦がモデルになったキャラクターを育てて戦わせるオンラインゲームがあって、『艦っち』なんて呼ばれて今人気なんスよ。多分、そのユーザー間のフレンド募集してる連中に絡まれてます。このSNS名前やキーワード検索も出来るんで」
「俺そんなの知りもしねえけど。なんの関係があんだっつうの」
そこまで説明してからゴーグルはもう一度。
念をおす様に垣根の顔を見つめた。
「えっと……怒らずに聞いてもらえますか?」
「おう。言えよ」
ポーン
そこでスマホが鳴る。
軽い通知音のあとにメッセージバルーンが表示された。
それをみた垣根はほんのちょっと眉を寄せた。
5 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:44:26.81 ID:7HyDx93o0
「ん? さっきの奴か」
『ねえねえ間違っちゃってるけどどんな気分?』
「意味わかんねえ」
怒っている、と言うよりも呆れた顔で首を鳴らした。
たとえ外国語にも堪能な超能力者だって、外宇宙語で話しかけられてはリアクションに困る。
「あの」
「ああ。さっさと言わねえと俺の気が変わっちまうかもな」
垣根の物騒な言葉を聞いたゴーグルの少年は意を決した様に首をタテに激しく振った。
「そのゲームって、ユーザーが戦艦の上官って設定なんスよ。つまり海軍の司令官っス。だからゲーム内外でもHN提督って呼ばれたりするのが多くて……その、垣根さんの、名前があのー……多分他のやつもそれで勘違いしてるん、だ…と……思います。つうかそれくらいしか考えつきません」
「ふーん」
ごにょごにょとフェードアウトしながら自分の想像でこのできごとの背景を推理するゴーグルの少年に、垣根はつまらなそうに頷いた。
半目で小さな液晶画面を眺めるその顔から今何を考えてるかさっぱりわからない。

6 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:45:19.12 ID:7HyDx93o0
『スクール』の連中がそこそこの付き合いがあっても、このリーダーのことは読み切れない。例え人間の心理に精通した能力者がいても。
超能力者の思考回路は常人のそれとは違うのだ。
何を考えているのかわからない真っ黒な目のまま、ぷちっと突然切れられるのが何よりおっかない。
特にこの第二位は能力の見た目も派手だがやることも派手だ。
ちょっとしたストレスのはけ口にされて破壊されたものは数知れず、以前アジトにしていた所だって垣根が派手に吹っ飛ばしてしまってやむなく引っ越すことになった。
ちなみに判明しているうちで、最も踏んではいけない地雷が彼の能力『未元物質』にまつわる事だったりする。
「この世界には存在しない物質を生み出し操る能力」なんて、炎や電撃を出したりと言う一般的なものよりスケールの大きな力だが。
何故か能力を使うと背中に羽根が出てくる。天使の様な、と言う言葉がピッタリのメルヘンチックなやつが。
それも六枚も。
天が与えた罰ゲームかそれとも何かの代償なのかは不明らしいが。
どんなに愉快でもそこに触れてはいけない、と言うのが組織内の暗黙の了解になっていた。

7 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:48:46.44 ID:7HyDx93o0
『人が教えてやったんだからありがたく直したらw恥さらし君』
地雷原を爪先立ちでそろそろ歩いているゴーグルの少年の目の前に、燃料がポイっと投下される。これをよけたところで、別の場所がドカンといくかもしれない。
泣きたい、と言うか逃げ出したい。いいよなあネット上でどれだけ煽ってもおまえには実害ないもんね?! と顔も名前もわからないユーザーに八つ当たりしたいくらいの気分だった。
「決して! 俺は馬鹿にしてる訳じゃねえっス!!」
「つまり俺の名前がお船の提督で、おかげでお前の同類とお友達だと思われてるってことか?」
一体どこが気に障ったのか。
にやあ、と口元をつりあげた垣根の手の中でスマートフォンが嫌な音を立てはじめた。
大慌てでゴーグルは垣根をなだめた。
「垣根さん! スマホが! 画面割れます!!」
「間違ってねえよ本名だよ。一発じゃちゃんと変換できねえし検索もされねえけどな。そんなの俺の責任じゃねえよ。何なんだこいつ」
「暇なんスよきっと」
持ち主の手から避難させたスマートフォンの無事を確かめながらゴーグルの少年は見知らぬだれかさんを憐れむ様に言った。
8 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:52:19.43 ID:7HyDx93o0
ポン
ポン
ポーン
ものの数分で再びメッセージが届く。
意味のないやりとりの為に貼りついているなんて、この相手はゴーグルの言葉通りよっぽど暇なのだろう。
『既読蹴んなしwあ、ひらがなじゃないとわからないかなwwwwwww』
「垣根さん、相手にしない方がいいっスよ」
「そこまでレベル低くねえよ」
ゴーグルの少年に釘をさされた垣根は手にした雑誌に目を向けたまま答えた。
心外だ、と言いたげな様子ではもう腹を立てていないらしい。
垣根の許可を得てSNS内の他のメッセージや設定のチェックをしていたゴーグルは用の済んだスマートフォンを返した。
「でも公開解除もこいつの拒否もしないんスか」
「こっちが折れたら負けた気がすんだろ」
気にしていないのかと思いきや、そんなことはないらしい。
9 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:54:27.77 ID:7HyDx93o0
「あれ。しつこくメッセ飛ばしてた奴来なくなりましたね」
それから小一時間近く、数分間隔で挑発的なメッセージと画像の嵐だったのだが。
気付けばぴたりと止んでいた。
「ああ。『スクール』の下の奴に声かけて、軽く灸すえさせといた」
「どんなのっスか」
垣根も、つっかかってきた相手をただ放置していたわけではないらしい。
ちょっとそわそわしながらゴーグルは椅子に座り直して話を聞く。
「電話番号から契約してる端末の名義、そっから『書庫』で所属校割り出して、組織下の奴に学校内のデータをハックさせた」
「それで」
「そいつのこの前の定期考査と『身体測定』の結果を送ってやった。『暇があるなら勉強でもしたら』っつって」
「うわあ。特定怖っ」
口ではそう言いながら、愉快そうにゴーグルの少年は笑った。
せいせいした様子の垣根は指定リスト内の受信メッセージに目を通しながら笑い返した。
「お。何かついでにそいつのプロフや背景の画像がテストの答案になるようにオマケしたらしいぞ。それもひっでえ奴。あいつらも暇だな」
「うっわあ。でも大人気ないってか意外と地味なお返しっスね」
10 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:56:41.60 ID:7HyDx93o0
「けどそいつのゲームのデータをサーバーから消す、とかまでいくとやりすぎだろ。出来なくねえけど。馬鹿にされたくらいでんなことまでする気はねえよ」
実際にはさせる、と言う方が言葉としてはきっと正しい。
垣根帝督の行動範囲と実行可能な内容は一般的な個人のそれよりはるかに広い。
使える能力、金、人脈。そして選択肢の中には非人道的で反社会的なものも含まれている。
ほんの思い付きで社会的どころか実際に相手を消せる程度には。
そう考えると今回垣根がしたのは他に比べて優しいくらいの対処だった。
その気になればちょっとした警告以上のことが出来てしまうところまで相手に伝わっているのかわからないが。
相手もほんのちょっとのストレス解消のつもりで、言ってみればベルト持ちのプロボクサーをサンドバッグがわりにしようとしたのだ。
これくらいで済んでラッキーだとゴーグルは言ってやりたかった。
しかし。
「それはちょっと俺、垣根さんの味方出来ないっスわ」
「そう言うシャキっとした面は仕事中にしろよ」
ゲーム好きと公言するゴーグルの少年はデータ削除と言う死刑宣告並みの提案に至極真剣な目をしていた。
「あーあ。つっまんねえの。なんかオススメのアプリとかねえの。レベル上げとかめんどくせえのはパスな」
「あっ! それならこのパズルゲーなんてどうスか?」
11 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/08/06(水) 23:00:22.54 ID:7HyDx93o0
実際艦○れのフレンド機能にユーザー間補助とかそんなのないらしいけど
艦っちはパ○ドラとかパズ○ックスみたいなありがちアプリやよくあるカードゲームモドキを足したもんだと補完してっス


垣根提督「艦むす……?」

東京湾で迷子になったバレーボールさんがなぜか艦隊娘の残留思念てきなデータを読み取ってそこから未元物質で艦むすをつくるよ!
ってネタがさいしょうかんだんだけど
艦むすやったことなくてわかんねえのと資材も補給も整備もなにも
未元物質じゃあ無限供給っぽいからチートハーレム以外の遊びようがなさすぎて没
だれかやって

なんかかけたらまたくる
読みづらかったら言って
ドーモ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 00:21:17.65 ID:sl3W/ZmYO
読みづらい
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 00:39:23.72 ID:2bgx2d2QO
何か最近改行しない奴多いな
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 02:09:46.19 ID:gfeEGcyNo
改行じゃなくて「行間空けてくれ」って言いたいのか?

俺の環境だと改行はされてる文章に見えるんだけど
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/11(月) 08:59:28.77 ID:Z/9c5ty6O
行間だろうね。
文句言う割には日本語自分も正しくないというね笑
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/16(土) 19:44:31.27 ID:YxouwVSUo
乙。面白いです。

今はラノベの行間すごい空いてますからねー
慣れてないとこういう詰まった文章読むのは辛いのでしょうか?
すぐ慣れると思いますがー
17 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:23:34.03 ID:HnNFepJv0

「ちース、今日は間にあいましたよ!」

そう言って部屋に入るゴーグルの少年だったが、彼は室内を見回して首を傾げた。
リビングルームのソファには心理定規だけが座っていた。
肝心のリーダーの姿がない。
連絡があるといつも一番乗りってくらいに待ち構えているのにだ。

「あれ? 招集かかったんじゃないんスか? 時間そろそろっスよね。垣根さんは?」

「あっち。服が決まらないんですって」

心理定規が指差した先、ドアの前には紙袋や箱が乱雑に置かれていた。
見た所買い物帰りと言った感じだった。
それにしても量がやけに多い。

「てっきり君も荷物持ちに付き合ってたのかと思った。違ったの」

心理定規の言葉にゴーグルの少年は首を振る。
今日は用事があって学校に顔を出していた。
彼も一応、真面目に学生生活は送っているつもりだった。
授業中にアプリのイベントに精を出して、休み時間に友達とノートを回しあうくらいの一般的な学生レベルで。

18 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:25:08.73 ID:HnNFepJv0
「そんなにデカい用事だったんスか?」

聞けば、垣根は昼ごろにいつも使っている運転手を呼びつけて買い物に出かけていたらしい。
心理定規もその場にはいなかったらしいが、リーダーはどっかのファッションショーにでも出るのかとドライバーがこっそり口にしていたのを聞いたんだそうだ。

「いつものじゃダメなんスかね。それにあれは『スクール』での仕事着みたいなもんだって前に垣根さん、自分で言ってませんでした?」

「そう言えばこの前かな。よく行くお店で顔が覚えられたかもしれないってぼやいてたけど」

超能力者なんてネームバリューを考えたらそんなもの、とっくに学園都市じゅうに知れ渡っていてもおかしくないが。
実際は。
超能力者であっても、通称である能力名や本人のフルネーム以外は広く知られていなかったりする。
七名の超能力者のうち、一人は名前どころかどんな能力かさえ。影も形も定かではないくらいだ。

19 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:27:19.15 ID:HnNFepJv0

『未元物質』垣根帝督もその例にもれないらしい。
今は一応暗部組織にいるのだからあまり有名過ぎても困るのかもしれない。
本人もこだわりがあるのかたまに人目を気にする様な素振りを見せていた。
もしかしたら。
能力を使えば嫌でも目立ってしまうのを実は気にしているのかもしれない。
かと言って急なイメチェンに走るのはゴーグルの少年にはよくわからなかった。
例えば有名校の制服や、目立ち過ぎる特徴で相手に正体を悟られてしまう、なんてことは垣根の場合あまり心配ないように思う。
いい意味で人目を引くことがあっても。

20 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:34:08.44 ID:HnNFepJv0

「それ服関係あります? つか心理定規は着替えなくていいんスか」

「私? 私仕事中はこれでいいのよ」

「暗部っぽいって言うか、なんか危ない仕事みたいっスよね」

この時期はどこに行っても冷房が効いているからだろうか。
今日はきれいな色のストールを持っていたけど、心理定規の格好はいつも肩が寒そうなドレスばかりだった。
高級クラブでも似合いそうな格好をした見た目推定中学生、と言うのもなかなか怪しい。

「なあに?」

「いや! 大人っぽくてカワイーっスね!」

じっと見ていたゴーグルを心理定規は見つめ返した。
小首を傾げて上目づかいのサービスつき。
美少女にそんなことされたらテンションが上がりそうだけど、ゴーグルはさっと顔の横で両手を振ってついでに首も振る。
リーダーの次くらいに一癖あって食えないのがこの少女なのは『スクール』ならみんなが知っていた。

「はいはい。ちょっと彼の様子見てきてもらっていいかな? そろそろ電話かかってきちゃうかも」

そう言って。
長い爪を気にしながら心理定規はスマートフォンをいじりはじめた。

21 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:36:24.28 ID:HnNFepJv0

「垣根さん? 俺っス、いいっスか」

「ああ。入れ」

ノックをして、頭を下げつつ部屋に入ったゴーグルは中の様子に眉を寄せた。
リビングルームのすぐ隣の洋室はついこの前までさっぱりしていたのに。
今はどこかの服屋のバックヤードみたいな状態だった。
店ならもう少し片付いているかもしれない。

紙袋、緩衝材にビニール、空き箱も中身の服や小物も乱雑に置かれていた。
有名な服飾ブランドから、『外』の格安メーカー、中には聞いたことのないような店のものまで。
靴だけで少なくとも五つのブランドの箱が積まれていた。
ごちゃごちゃになったその中で垣根は難しい顔をして立っていた。

「聞きましたよ。垣根さんみたいなタイプが表出て人目につかないってのは難しいと思うんスけど」

「だからこうやって色々考えてんだよ。たまには気分転換してえし。けどあれこれ見すぎたな。よくわかんなくなってきやがった」

垣根の着ているものはいつもと同じ。
上着だけ近くのラックに掛けてあった。
着替えようにも何にするかまだ悩んでいるらしい。

22 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:39:37.96 ID:HnNFepJv0

「ほら、これどう思う」

垣根が近くにあった服を手に取ると、空中から真っ白なものが伸びてきてその内側に入っていった。
等身大のヒト型の風船をふくらめたみたいにあっと言う間にアイテム一式を身に着けた即席のマネキンが現れた。

「そのシャツに眼鏡は呑みサーの大学生みたいっスよ」

「こっちは」

「チャラい医学生みたいっス」

「これは」

「うーん、中堅ホスト。そのグラサンはすげーイケてるんスけど全体的にNo堅気なタダナラヌ危なさがにじみ出ちゃってます」

「お前なあ、褒めてんのかバカにしてんのか。どっちだよ」

次々と部屋の中に現れるオシャレなのっぺらぼうを前にゴーグルがそんな感想を言うと。
おかしそうに垣根は笑った。

「服は変じゃ無いんスよ。うーん、俺にもよくわかんねえっス」

シャツにジーンズでいいや、と言う一般的な男子学生の感覚と比べると垣根は敷居のちょっと高そうなものばかり好んで買っているみたいだった。
だからゴーグルもセンスの良し悪しではなく、パッと見の雰囲気でコメントを返していた。

23 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:45:37.45 ID:HnNFepJv0

と言うか見せる服見せる服全てアイテムが被っていない。
このリーダーの頭の中には着回し、と言う言葉がないのだろうか。
これ全部買ったんだよな、着るかどうかわからないのに? とゴーグルは段々違う所が気になりはじめていた。

「じゃあこう言うのは」

中身があるのかないのかわからない言葉がプリントされた英字ロゴのTシャツ、ベストと下は黒のデニム。
さっきまでのよりは印象はぐっとラフになったが垣根は今ひとつ納得していない顔だった。

「垣根さん地がいいんスから何着てもカッコいいっスよ」

「そうか?」

「背高いしイケメンだし。あ……っと、垣根さんはモデルみたいじゃないっスかーオーラもバリバリだしー俺みたいなその他大勢顔からしたら超うらやましいっスーあれこれ気にする必要ないっスよーーー」

実はさっきからポケットの中の携帯電話が震え続けている。
心理定規だといいな、と思いながらゴーグルは垣根にあいまいな笑顔を向けた。

「そっか」

垣根はなぜか満足そうにうなづくと、別の包みを開けはじめた。
予想外の好感触に、ゴーグルの少年は視界の下で何かのパラメータが上がったことを知らせるアイコンが見えた気がした。

24 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:52:33.78 ID:HnNFepJv0

「君ねえ。彼に何言ったの」

「……普通のことです。間違ったことはなにも言ってません」

「何でよりによってあんな……派手好きなパンクスみたいなのになっちゃったの? 全然キャラ違うじゃない。なあにあの髪型」

「逆に目を背けられそうなのにしてみたんだそうでございます。わたくしは一切関与しておりません。俺はノータッチっス!!」

二人がリビングに戻るなり。
険しい顔でゴーグルに寄ってきた心理定規がこっそり指差した先には、普段以上に跳ねた毛束を遊ばせる垣根の頭があった。
ついさっき、着替え終えた垣根が軽く髪に手櫛を入れるとあっという間にスタイリングが決まっていた。
それも『未元物質』効果だろうか。だとしたら万能すぎるとゴーグルはちょっと感動したが。
垣根が唐突に鼻歌を歌いはじめたのでゴーグルがそれを聞くチャンスはなかったのだ。
もちろん、ふっきれるどころか軽くはっちゃけてしまったらしいリーダーにスタッズだらけの派手なジャケットの趣味について意見する度胸なんて最初っからない。
んなもんあるわけない。

25 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:54:44.66 ID:HnNFepJv0

あれはゴーグルの内部パラメータの変動じゃなかったのかもしれない。
かと言って垣根の方、とは言っても好感度上昇ではなく、なにかのフラグでもなく。
もしかしたらバッドステータスかもしれない。
馬鹿なことを考えながらゴーグルが垣根の頭上に目をこらしても、もちろんアイコンとかマークとかそんな愉快なものは見えない。

「一応聞くけどね。彼の暴走防止もかねて君にお願いしたのはわかってるかな?」

「心理定規……人間、わかっててもできないことってあるんスよ。垣根さんが『心配するな、自覚はある。一回こう言うカッコしてみたかったんだよ』って言うんスよ? そこに俺がストップなんてかけられると思ってるんスか」

ゴーグルは胸をはる。
長いものには巻かれて、危ない橋は叩きもしない。
まして触らぬ垣根に祟りなし、だ。
要領よくやっていかないとこの学園都市では生き残れない。ちょっとオーバーだが。
とりあえず、ゴーグルの少年の中ではこの組織内で下げる選択肢は存在しない。
上げて、上げて持ち上げていくポジションを確立している。

「だからって……あなたたち自由すぎ。男の子ってわかんない」

使えないと心理定規の冷ややかな視線が語っていた。

26 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:59:31.51 ID:HnNFepJv0

「俺はあれはあれでカッコいいと思うんスけど。フェスとかライブとかそう言うイベントなら」

ちょっとその辺に遊びにいこうぜ、と誘われたらゴーグルもお断りするかもしれない。
似合っているのが幸いと言うか不幸と言うか。
街中であれはとっても残念な人にみえそうだった。
中身が。

「さっきマシンガン持ってかないのかって聞かれたんだけど。どうせあんなの使わないだろうし、私邪魔なのは好きじゃないんだけどな」

壁際に置かれた鏡台とスチールラックを睨んで心理定規は頬を膨らめた。
彼女のスペースには、女の子らしいコスメやジュエリーに混じって物騒な小火器が置かれている。

もし戦闘になっても心理定規の能力は対人なら敵は居なくなる。
自分を、相手が傷つけられないような心の近い距離に置いてしまえばいい。
やりようによってはその場で人の盾も手に入るだろう。
しかし、自分からの攻撃手段は無く、乱戦にはあまり意味がないので彼女は暗部の仕事となると武器を持ち歩いているようだった。

「ギターケースに入れっぱなしのあれっスか。いいんじゃないスか? 今なら多分荷物持ってくれますよ。そうだなあ……バンドやるなら垣根さんはボーカルとかギターみたく派手なのっスかね。心理定規はキーボードか、歌えるならボーカルもいいかも。俺はベースかなあ。そうするとやっぱりもう一人、ドラムも欲しいっスよね。あはは、んなこと言って俺楽器弾けませんけどねー」

「おばかな妄想はいいから」

現実逃避しかけたゴーグルに釘を刺すと心理定規は呆れたように首を振る。

27 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:05:00.64 ID:t+qvKS460

「で、これからどこ行くんでしたっけ」

「資料のファイル開かなかったの? 第十六学区にある施設よ。ちょっとした……マナー違反が出たみたい」

第十六学区は学園都市でも優れた商業区画だ。
高額なバイトや特別待遇だけでなく、学生の奨学制度や学区内独自の制度も多い。
人も金も多く集まり流れていく地域だ。

中にはもちろん『特別』なバイトもあるのでトラブルには事欠かない場所でもあった。
『スクール』でも前に「お掃除」や「お片付け」をしたことがある。
慈善事業じゃねえんだけど、とリーダーはつまらなそうにぼやいていた。

「あー……そこだったら呑みサーの学生風でバッチリだったんスね。そう言う連中も多いし目立たなかったかも。今はどこ行っても悪目立ちしそうっスよね」

最初のでGOサインを出しておけば話は早く済んだのか、と今更になって気付き。
ゴーグルは肩を落とした。
なんか余計に疲れた気がしていた。
そんなゴーグルの気持ちは、まあわかってるんだろうけど。
垣根をまじまじとみていた心理定規はお構いなしに次の難題をふっかけた。
28 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:10:27.27 ID:t+qvKS460

「やっぱり着替え直すよう言ってよ。大急ぎね」

ちょっと嫌そうに心理定規は目を伏せた。
でもまあ正直なところ、ゴーグルの少年からみたら垣根も心理定規も派手さなら同列だった。
二人の方向性がちょっと違うだけだ。
ごくごく一般的で地味な服装のゴーグルのほうがたまに浮いているような気がしてしまう。

「ええっ、垣根さん今すげー機嫌いいじゃないスか! それも珍しく! 嫌っスよ。そう言うのって女の子が言った方が効果ありそうだし、心理定規はその辺専門じゃないスか。うまい感じに誘導して下さいって」


そんな気持ちは今は伏せて、情けなく抗議するゴーグルの少年に心理定規は静かに首を振った。
何を言ってるのかしら、なんて心の声が聞こえてきそうなかんじだった。

「効果的だからいやなのよ。私、仕事前に彼の不興なんて買いたくないの。余計な事したくないでしょ」

お馬鹿さん、もおまけについてきそうだった。

「何してんだお前ら。行くんじゃねえの」

ひそひそと二人で話し込んでいる内に、今のいままで人を待たせていたとは思えない態度のリーダーからお声がかかってしまった。

「ほら、まだ間に合うわ。がんばって。ね?」

「ええー!」

いつになく上機嫌な垣根と、口元だけで笑う心理定規に挟まれて。
ゴーグルの少年は自らの不幸さを嘆くしかなかった。

29 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:20:07.43 ID:t+qvKS460

超能力者の自分だけの現実、特にセンスは未知数だぜ
麦野はあの中でも趣味良さそうだよね
下着透けちゃうストッキングはいちゃうけど

ドーモ
スマホでみるとけっこうつまってんね
中身つまらんけどつまってる
せりふまわりの行間いじってみた
ちったあマシかな
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/08/24(日) 15:07:53.36 ID:nfKZswzH0

面白いぞ
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/08/24(日) 19:47:50.53 ID:TK2r7YrF0
マミ「100円ローソンが来週で閉店なんて・・・ショックだわ。」

まどマギの巴マミの日常の物語です。
この物語は見滝原100円ローソンと巴マミのエピソードである。
キャラ設定の崩壊があるかもしれないですが
ご了承下さいまし。

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408390558/
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/25(月) 13:59:04.77 ID:8ql7nLHv0

なんかいい感じ、面白い
垣根提督のくだりに凄い納得して笑ってしまった

実際の小説とかだとフリガナが入る分の空きがあったりするが
こういう場だと完全に行間が詰まってるからなぁ
個々人の環境設定次第にもよりはするんだろうけども
33 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:35:21.61 ID:nVAsCJCm0

「ああっ、ダメっスよそこは」

「ばーか違うだろ。もうちょい下だ」

「右っス右!」

「と、思わせて実は反対側が安全だったりしてな」

「あなた達うるさいわよ。これで……どうかなっ?」

「あーっ!! マジっスかー!!」

「よし。次お前だな」



とあるファミレスの一角。
小さい子供むけのおもちゃを囲んで騒ぐ一団がいた。
夕方、混み合う店内の騒がしさの中でもひときわ目立ちそうな大きな声を上げて少年がテーブルにつっぷした。
目の前におかれた『黒ひげ危機一髪』のプラスティック製の剣をつまむとテーブルをつつきはじめた。


「どうしよう……残り六本っスよ」

34 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:39:01.61 ID:nVAsCJCm0

任務帰りの『スクール』はご機嫌なゲームの真っ最中だった。
ルールは簡単、負けた奴が他のメンバーの食事をおごる。
それだけ。
ただし、外の車内で待つ構成員のテイクアウト分も含まれるので一般的な学生の財布基準でみると痛い出費になりそうだった。

「心理定規、お前ほんとにあれだけでいいのか。飯食わないと逆に太るらしいぞ」

「あなたが頼みすぎなのよ」

「そっか? 和風御膳とポテトとフライ盛り合わせだろ、やっぱピザも食おっかな」

「……好きにすればいいと思うよ。メインのおかずにから揚げがあるのに揚げ物追加するのはちょっとついてけない」

呆れた様な目をする心理定規の向かいの席。
いつもの服装とは違いややハードな格好の垣根はまだメニューを眺めていた。
出かける直前の懸命なゴーグルの訴えが効いて、パンクロッカーみたいに派手なジャケットが今回陽の目をみることはなかったものの。
音楽の道を踏み外して夜の街に片足突っ込んだ若者の様な格好に余り違いはなかった。

「やっぱり! 俺が飛ばす流れっスよねこれ?」

派手なカップルとうっかり相席してしまった学生、みたいに見えるゴーグルの少年が座るのは当然の様に通路側だった。

35 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:42:04.12 ID:nVAsCJCm0

「すいません。季節のフルーツのパンケーキ二つ追加」

「垣根さん?! まだ俺やってないのに注文足さないでくださいっス! しかも二個も」

どこに剣を刺すか悩んでいるゴーグルを無視して呼び出し用のボタンを押すと、垣根はデザートまでオーダーした。
店員に似合わない愛想笑いを返した垣根は途端にしれっとした顔で前の席を指差した。

「一個はこいつのだぞ」

「何で勝手に頼んじゃうの。食べるなんて言ってないよ」

一瞬目を丸くした心理定規は細い眉を寄せて抗議する。
テーブルに乗せられていた限定メニューのカードを端に寄せると、垣根は首を振った。

「お前こればっか見てたろ。いいから我慢とかしないで食っちまえ。俺が食ってる間、ぶすっとした面が目の前にあんのは気分が悪いだろ」

「心理定規? 嫌なら俺、食べるっスよ」

「いい。二人にそんないじわるされたら我慢できそうにないし」

こうなったら食べちゃうんだから、と心理定規は頬を膨らめた。

36 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:45:26.97 ID:nVAsCJCm0

「まさかこんなおもちゃで遊ぶことになるとは思わなかったなあ」

「カードもコインもダメってなると勝負の方法は限られるけど。俺こんなん初めて触るぞ」

「んなこと言ってもっスねえ、心理戦で二人に勝てた試しがないんで。やる前から結果見えてんのはフェアじゃねえっス」

赤と白。
それぞれ小さな剣を手の中で遊ばせる二人が呆れたように笑う。
店内で売られていたおもちゃに目をつけ、これを持ってきたのもゴーグルの少年だった。

「あら。あなたたちだってサイコロやコインの出方を確率以外のやり方で決められるじゃない。でもじゃんけんもダメなの?」

「そりゃ心理定規がいるんスから。俺が何を出すかこっそり誘導してるに決まってるっス。出なきゃ仕草や会話から読み取るんスよお」

情けない声を上げるとゴーグルの少年は目の前のおもちゃをぐるぐる回し始めた。
外からみたところでたった一つのハズレがどれかはわからないだろうに。
よっぽど負けたくないのか、くだらないことに大真面目になるゴーグル。
それを見ていた心理定規は自分の頬に手を当てると大袈裟にリアクションした。

「嫌だな。もしそうなっても、そんな無駄な事しないよ?」

「思い切り損得絡んでるけどな」

37 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:47:58.51 ID:nVAsCJCm0

「それよりほら。料理来る前にハッキリさせちゃわない?」

いつまでも自分のターンのまま、ゲームの進行を止めているゴーグルを見かねたのか。
心理定規がそう促した。

「ううう……」

散々悩んで渋っていたゴーグルも観念したように顔を上げた。
神様仏様二次元の女神様! と唱えるとゴーグルは思い切って剣を差し込む。
だがカチン、と小さな音がしただけだった。
タルにはまった人形はピクリともしていない。

「やったあああ! やっ……あ、あのスンマセンっス」

「次。さっさと貸せよ」

勝ち誇った様に大きくバンザイをしたゴーグルは次の瞬間、素早く腕をひっこめた。
ささーっと頭を下げながら隣にタル型のおもちゃを回す。

「こう言うのは、グダグダ考えずに直感でだな――」

垣根が言い終わる前にビョン! と人形が跳ね上がった。

「ごちそうさまー」

「ご、ゴチになります」

頭を下げる二人の前で俯くリーダーはちいさくため息をついていた。

38 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:49:47.96 ID:nVAsCJCm0

今回の敗者がはっきりしたところで、ゴーグルが席を立った。
心配事がなくなったのかすっかり晴れやかな顔をしていた。

「じゃあ俺飲みもの持ってくるっス」

「私ダージリン。あったかいのお願いね」

「アイス抹茶ラテ。あんま薄めんなよ」

「りょーかいっス」

少しして。
グラスを二つと湯気の立つカップを乗せたトレイを手にしたゴーグルが戻ってきた。
二人の前に飲み物を置くと、後ろを振り返りながら席に着く。

「なんかあっちにすごい客がいたんスよ」

そんな言葉を聞いて。
心理定規がカップを持ち上げながら首を傾げた。

「女子ばっかなんスけど、ドリンクバーオンリーどころか弁当とか缶詰持ち込みしてました。おまけに店員呼んでおかわり持って来いって言うんスよ!」

すごくないっスか? とゴーグルは自分の見てきたおかしなものを二人に伝えたが。
きっと席についたままの二人がその光景を見ることもこの感覚を共有することもない。
わざわざ見に行くどころか、きっとついで、で立つ用事もない筈だった。

39 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:53:01.08 ID:nVAsCJCm0


「随分非常識な連中だな。まぁ、お前みたいのがいないんだろ」

汗をかいたグラスを受け取ると垣根は意地悪く口元で笑った。
濁った底を混ぜ返すとカラカラと氷が音を立てた。

「それにしてもっスねえ。堂々としすぎっス。呼ばれたウェイトレスがかわいそうでしたよ」

「んな馬鹿共に構ってる暇があったらさっさと持って来いっつうの。氷、溶けてねえ?」

眉を寄せながら垣根はストローをくわえた。
それ以上の文句が飛んでこないので、どうやら気にしていた味の方は合格ラインに達していたらしい。

「ねえ、君の飲んでるそれは?」

ゴーグルの手にしたおかしな色にまじりあうジュースを心理定規が不審そうに見ていた。

40 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:58:43.49 ID:nVAsCJCm0

「これスか? ホワイトメロンジンジャーっス」

ゴーグルは得意げに答える。
なんて言っても、ドリンクバーに並んでいたジュースを適当に混ぜたものだ。
味はまあ、甘い炭酸飲料には違いない。
どうせ飲み放題なんだからそれぞれ一杯ずつ飲めばいいとか言ってはいけない。
これは、混ぜることに意味があるのだ。

「それ、香料と着色料がちょっと違うだけでほとんど砂糖水なんだよな。俺次コークジンジャー」

「1:2でしたっけ」

「そ。氷多めで。レモンあったっけ」

「それ他の店っス」

「やだなあ。あ、それこっちです。いただきまーす」

糖分の塊みたいな独自ブレンドを開拓する男子二人を無視して。
紅一点は目の前に運ばれてきたサラダに手を合わせた。


41 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:02:08.70 ID:nVAsCJCm0

「そう言えば。何でお前仕事中あんな感じになんの?」

「あ、私も気になってた。話し方とか妙にカッコつけてるよね」

普段は砕けた調子のゴーグルだが、『スクール』での有事の際にはそのキャラクターが度々変わる。
口数はうんと減るし、ふざけたことも言わなくなる。
おまけに敬語。
180度の路線変更を茶化され、ゴーグルは口にしていたサンドイッチを詰まらせかけた。
水で何とか流し込むとテーブルをグラスで叩いて反論する。

「おっ俺はTPOに合わせた感じにしてるんスよ! このノリじゃイザって時にしまらないってくらい自覚あるんス」

「あったのか」

ポテトフライをマスタードとケチャップまみれにしていた垣根が意外そうに眉を上げた。

「別にそのままでいいんじゃない? おかしくてつい笑いそうになっちゃう」

「後はほら……気持ち切り替えてるんスよ。俺ゲーム以外で物騒なのはそんな得意じゃねえってゆーか。だからあれは仕事用のキャラメイクっス」

42 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:05:53.19 ID:nVAsCJCm0

ゴーグルの言葉に垣根と心理定規は不思議そうに目を合わせた。
何言ってんだろうな?
さあ、わかんなーい
なんて無言のやりとりが聞こえてきそうだった。

「なんでそこで仲良く首傾げちゃうんスか……いーっスいーっス、俺だけ小者なのも自覚済みっス」

肩を落とすゴーグルをまじまじと見て、垣根は呆れた様に息をはいた。
改めて不思議そうに隣に目を向ける。
確かに、暗部組織や後ろ暗いものと関わりがあるようには見えない一見普通の少年だ。
普通の基準が『外』と学園都市では随分違ってしまっているとしても。

「はー。お前みたいなのがなんで『スクール』にいるんだかな」

「それは……お互い言いっこなしじゃないスか。ここで色々あった奴なんて山程いるんスから」

「……ご飯の間くらい、つまらない話はやめない?」

互いに一度視線を合わせると、三人は少しの間黙って目の前の料理を口に運んだ。


43 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:12:58.05 ID:nVAsCJCm0

「取りあえず、これからの方針は前と変わらず……でいいのかしら」

一通り食べて、大したことのない会話を終えて。
そう切り出したのはサラダとデザートを食べ終え、一足先に目の前の食器を下げさせてしまった心理定規だった。
彼女が眉を寄せる視線の先では、垣根が最後に運ばれてきたパンケーキにシロップをなみなみと注いでいた。

「動くのに必要な情報を得るにしても、もうちょっと懐に潜り込まないとっスよね」

『スクール』の中では各々の利害の一致から、ある程度の活動指針があった。
いつも電話をよこすエージェントから持って来られる話とは別に、それに沿って組織として動くこともある。

「やっぱり『直接交渉権』を引き合いに出来るくらいの位置にいかないとダメかな。組織でも個人でもいいんだけど、まだそんな話が出来る様な信用も対価も不十分よね」

心理定規はそう呟くと頬杖をついた。
それに答えたのは、それまで黙ってナイフを動かしていた垣根だった。
唇についたクリームを舐めとると。
暗部組織のリーダーは、店内の雰囲気に似つかわしくない裂いた様な笑みを浮かべた。

「信用なんか必要ねえ。ただ『スクール』が便利なポジションにいれば学園都市も俺達を利用せざるを得ないからな。まぁ、こっちが黙って頷くだけのいい子ちゃんじゃねえのはあっちもわかってんだろ」

44 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:14:55.64 ID:nVAsCJCm0

「やっぱ相当リスキーっスよ。後ろ盾も交渉材料もないし、手っ取り早くどっかの理事を引き込んじゃうとか出来ないんスか」

ドリンクバーとは別に注文したクリームソーダのアイスクリームを溶かしながら。
何気無くそう提案したゴーグルだがそれを聞いた垣根の顔が何故か不満そうになった。
むすっとした表情で再びスイーツと向かい合うリーダーに、心理定規はこれまた意味ありげに微笑む。
すっかり冷めていそうな紅茶をスプーンでくるくる混ぜながら口を開いた。

「ほら。やっぱりそうなるでしょ。だから話くらい聞いた方がいいよってアドバイスしたのになあ」

「嫌だっつってんだろ。お前やれよ」

「私にはまだそこまでのコネクションがないの。残念だけど」

「あのー。よくわかんないんスけど俺も混ぜてもらっていいスか」

ゴーグルは仲良くおしゃべりする二人に声を掛けたが、揃ってグラスとカップを突き出されてドリンクのおかわりを催促されてしまった。

45 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:16:15.29 ID:nVAsCJCm0

「垣根さん、いつもあんなにマネーカード持ち歩いてんスかね。ポケットにカードケースだけってどんだけ――あれ?」

テーブルの上を片付けていたゴーグルの少年が首をひねる。
用が済んだからといって買ったものを置いていくわけにもいかず。
箱に入れなおしていたおもちゃを見ると不思議そうな顔をした。

「どうしたの」

化粧を直していたらしい心理定規が荷物を取りに戻ってきた。
きれいに塗りなおされたピンクの唇を尖らせて、支度の遅いゴーグルの少年に声を掛けた。

「なんか剣が多いんスよ。ここの穴の数の割に、やけに余るような」

「勘違いじゃない?」

箱の横に印刷された仕様をみながらゴーグルはまだ首を傾げていたが。

「お前らなあ、早くしねーと車出すぞ!」

「はっ、はいいっ! 今行きます!」

疑問にけりが付く前に、強制的にピリオドが打たれる。
店の入り口から響いた怒号にゴーグルの少年はビシィ! っと背筋を伸ばした。
46 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:21:07.54 ID:nVAsCJCm0
ドーモ

禁書は学園物の割に殺伐としてるから普通の学生っぽいことしてるのがみたくなる
元暗部の中では『アイテム』がその辺は恵まれてそう。今は浜面もいるし。他は一応解散しちゃったし

モ○ゲーとかでやらないかな。大覇星祭系のイベント前に7、5以外の超能力者による選手宣誓デモンストレーション。でなきゃ描き下ろしカード
残りも男女ペアで1、3と2、4とかさー舞台裏がすげー殺伐としそうだけど
って考えると漫画でやったの七位と五位で大当たりだ。実行委員がかわいそうだわ
体操着の第四位とかいろんないみでヤバいっしょ

レスありがとう

乙の一言だけでやる気があがるぜ
がんばるわーまたかけたらくる

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/13(土) 03:11:47.19 ID:XsPgkEth0
おつ
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/13(土) 06:31:29.75 ID:vZ9uBWZR0
乙っす、原作大幅改変せずここまで面白いスクール書けるとは
続きお待ちしております
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/13(土) 11:21:29.64 ID:sZwdb27R0

なんだこいつら可愛すぎる、雰囲気が良いね
余った剣は白かったりするんだろうか

体操着の第二位と第四位が並ぶと何のプレイだとしか
50 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 18:15:46.71 ID:nVAsCJCm0
このSSとは関係ないんだけど
大覇星祭の選手宣誓を超能力者にやらせるかの話し合い
ネタ浮かんだんだけど、ここに落としてもいいかな
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/13(土) 21:35:42.54 ID:ni7CcYJm0
いいんじゃないかな
まったく別ジャンルのネタってわけでもないし
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/13(土) 22:14:47.50 ID:vZ9uBWZR0
上記の話の構成力からして、期待せざるをえないネタだね
別スレだと見つけられるか判らんし、ぜひここに落としてください
53 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:17:16.55 ID:nVAsCJCm0
レスあざまーっす
スレッド立てたの初めてだからこういうのやべえうれしい
まとめて失礼

>>48
まだおばかな『スクール』SSだけど、今後大幅改変入る予定
それも気に入ってもらえたらうれしっすー

>>49
剣なー、どうなんだろうなー
お互い見た瞬間、垣根も麦野も即チェンジっていいそう

>>51
ありがとー
こっからちょっと落としてく
54 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:20:06.19 ID:nVAsCJCm0
>>52
即興だから期待されると自信ないw
短いからわざわざ立てるのもよくないしね

じゃあ折角前振りもしたし、お言葉に甘えて

こっから12レスくらい
台本
一応sageますスルーしてもらって結構っす
55 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:22:04.56 ID:nVAsCJCm0

※SSの内容とは関係ない一発ネタです※

頂点決戦ネタあり、あそこは時間の流れも原作本編の軋轢もあんまり影響ないギャグ特化世界なのでいーっすよね
何度でも春夏秋冬のイベントがみれるよ!
暗部解体後のどっかのギャグ次元ってことでひとつ
なかよしレベル5が定期的にみたくなる



運営委員「第一位さん入りまーす!」

一方「ったくなンなンですかァ……面倒くせェことで呼びやがって」

垣根「遅えぞ。第一位様は重役出勤ですかあー? こう言うのは最低五分前には動けよ」

一方「あァ? なンでオマエらがいるンだ」

麦野「大覇星祭の開会式ってのに超能力者の残りの面子が呼ばれたのよ。前に下二人が出たんなら、その上も使えると思ったんじゃない。こっちは迷惑だっつうの」

垣根「え。結果次第で『直接交渉権』の繋ぎがつくって話は? 第一位も来るし、当然来るよなって俺言われたぞ?」

麦野「アンタそれ、担がれたんじゃないの」

一方「超能力者を集めるって言ってもよォ。その割りに一人足りてねェみたいだけどなァ」

御坂「ごめんなさーい! 実験に付き合ってたら遅くなっ……ええっ?! 麦野沈利に一方通行も?」

麦野「来た来た。テメェなあ、人を呼ぶのにさんくらいつけたらどうなんだよ」


56 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:23:29.11 ID:nVAsCJCm0

御坂「えーと。そっちの人は?」

垣根「ああ、自己紹介が遅れたかな。はじめまして、俺は垣根帝督。第二位の超能力者だ。よろしく御坂美琴さん」

麦野「うわぁ」

一方「キモい」

御坂「どうも……あー、よかった超能力者って普通そうな人も私の他にいたんだ。安心したわ」

一方「残念だったなァ。こいつが一番非常識だぞ」

麦野「なーに猫被ってんだか。気持ち悪い」

垣根「人間、初対面の印象が大事なんだよ。こいつはこっち側じゃねえし、おまけに中坊だろ。無駄にビビらせてどうすんだよ」

麦野「相手で態度を使い分けるとか、性根の悪さが滲み出てるけど」

御坂「じゃあ、結局この中でまともなのは私だけかぁ」

垣根「……なぁ。こいつって実は性格悪いの? 単に口が悪いの?」

一方「口から出ちまうンだろ。悪意だらけなのはもっと酷ェぞ。まァ、悪気がないのは質が悪ィけどなァ」

麦野「第一位、アンタそのうち御坂の扱いも慣れてくるんじゃない?」

一方「オマエ相当ふざけてンなァ、麦野」

57 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:25:40.78 ID:nVAsCJCm0

垣根「で。俺たちに大覇星祭のイベントに出ろっつう話なんだよな。暗部が解体されたからって、随分と平和ボケしたもんだ」

一方「麦野オマエ、もォ断る理由がねェンじゃねェか?」

垣根「じゃあ麦野と御坂で充分だろ。俺たち来た意味ねえな。別に男女各一名、なんて縛りもねえだろうし」

御坂「ちょっと待って! 麦野と?」

麦野「私だってコイツとなんかごめんだっつうの」

垣根「ふーん。なんだ、お前ら仲良くねえんだ」

麦野「じゃあ、第一位と第三位でいいんじゃない。第二位と一緒は嫌でしょ」

一方「オマエ……それはマズいだろォが」

麦野「オリジナルとは嫌な訳?」

一方「俺個人の問題じゃねェよ」

御坂「嫌って言うか……複雑よね」

58 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:27:48.08 ID:nVAsCJCm0

垣根「御坂忙しそうだしな。メディア露出もかなり多いんだろ? じゃあ麦野と一方通行……は、ガキの教育に悪そうだな。目つき悪すぎ」

一方「腐ったドブみてェな目のヤツに言われたくねェ」

麦野「まるで自分はいいみたいな言い方ねえ。確かに子どもウケは良さそうだけどさー色々と」

垣根「テメェ、この中で一番格下の癖に俺に喧嘩売るとかいい度胸してんな。いっぺん痛い目みたくらいじゃ足りねえか?」

御坂「ちょっと、少しはまともに話し合いましょうって」

一方「もォオマエら並べば? リーダーさんよォ」

御坂「そうね。麦野と垣根さんなら二人とも丁度いいかもよ? スタイルとかバランスも」

垣根「美男美女なのはいいとして。これからたのしい運動会、ってガラじゃねえだろ。『外』でも流すんだよな確か」

麦野「何プレイだっての」

一方「オイ。せめて罰ゲームくらいにしとけ」

59 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:30:06.09 ID:nVAsCJCm0

垣根「まぁ、誰が出るにしてもだ。どんな感じか想定くらいしておこうぜ」

麦野「それはいいけど何でアンタが仕切ってんの」

垣根「だってお前らやる気ないだろ。これっぽっちも。こう言うのは誰かがやんねえとな、話にならねえ」

御坂「垣根さんて、意外と面倒見がいいのかな」

麦野「でも、確かに浜面は世話になったらしいのよね。滝壺のこととか」

一方「そォ言えばオマエ、口は相当ユルかったなァ。べらべら余計なことまで教えてくれてよォ」

垣根「そうか。そうかよ。そうですか。お前らそんなに俺が嫌いか」

御坂「えー。いや、ホラ今日あったばっかだし」

麦野「悪いけどさ、アンタみたいなの趣味じゃないから」

一方「ウゼェ」

垣根「俺だってテメェらなんか大っ嫌いだよ!!」

60 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:32:32.75 ID:nVAsCJCm0

御坂「まあ上から順に考えましょう。一方通行は、今回もし出るならどうするの?」

一方「もしもだろォ……カッコは前と同じでいい。面倒くせェ。最初に顔だけ出したら帰るからな」

御坂「前って……あー、あの応援団の」

一方「あれ暑いンだけどな」

御坂「じゃあほら垣根さんもあんな感じにすればいいんじゃない?」

麦野「長ランねえ、色は白でいいんでしょ。どうせ」

一方「裏地は紫ってかァ? 趣味の悪ィ」

垣根「テメェに服の話はされたくねぇ。っつうか、それだと俺は白組サイドってことでいいのか? 白手袋に白いハチマキ……あれ、結構よくねえ?」

麦野「一昔前のヤンキーみたいだなあオイ。ついでに派手な刺繍でも入れればいいんじゃないかにゃーん」

御坂「???」

一方「オイ、『超電磁砲』がついてこれてねェぞ。いつの時代のはなししてンだ」

垣根「なあ。それあんまりかわいくねえにゃーん?」

麦野「テメエらぁあ……ブチ殺し確定だぁああ!」

61 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:34:42.32 ID:nVAsCJCm0

垣根「まぁ、とりあえずカッコはその辺でいいとして。なんかこー、いい感じの煽り文句が欲しいよなあ」

麦野「その辺、第一位はどうだったのよ」

御坂「えっと、確か『最強の応援』だったかな?」

一方「じゃァ、コイツは『非常識な応援』でいいンじゃねェか。『上から二番目の応援』とか士気が下がンだろォが」

垣根「……『あのガキ、ケガしねェだろォなァ?(裏声)』」

御坂「ぷっ」

麦野「くふっ」

一方「垣根ェ……よっぽど愉快なオブジェになりてェらしいなァ?」

62 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:39:49.13 ID:nVAsCJCm0

垣根「用意するんなら横断幕は『未元物質』でいいぜー。間違ってもこっぱずかしいのは止めてくれ」

麦野「ふっ、ふふ…ガキの…名前とか?」

御坂「ちょっと、笑っちゃ悪いわよ」

一方「……気付いたら外堀からガッチリ埋められてた俺の気持ちなンざオマエらにゃわかンねェよ。はしゃいだアイツらにビデオ用意するだなンだって言われてから、参加するだろって話が出てくンだぞ」

御坂「ああ……それでアンタあんな似合わないことしたの」

一方「次はオマエらの番だろォなァ。楽しみにしてろォ」

御坂「なんかそう言われると嫌な想像しか出来ないんだけど……黒子とか、黒子とかマm」

麦野「ま?」

御坂「なっ、なんでもない!!」

垣根「……埋まる外堀がねえ」

63 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:43:41.43 ID:nVAsCJCm0

垣根「まぁ御坂は無難でいい感じにこなしてくれるとして、問題は麦野だろうな」

麦野「私?」

一方「体操服……着ンのか」

御坂「あんまり想像できないわね。確かに」

垣根「でなきゃチアとか……あんな短いの履く?」

麦野「あんなバカみたいなカッコ、誰がっ」

垣根「多分、お前スポーツとか似合うさわやかなキャラじゃねえんだよ。一方通行もそうだろうけどさ」

一方「否定はしねェ」

麦野「ああ? テメェは似合うってのかぁ?」

垣根「おお。そこのモヤシと違って腹筋割れてっからな。確認してみるか?」

一方「そこで脱ぐんじゃねェぞ。非常識野郎」
64 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:44:49.02 ID:nVAsCJCm0

垣根「いっそエロい路線でいけばいいんじゃね? ラウンドガールみたいに競技とか学校の紹介してまわれば?」

御坂「ステージ用のレーザーやライトも必要ないわね」

麦野「人のこと、馬鹿にしてんだろテメェら」

一方「……浜面が喜ぶンじゃねぇか」

垣根「あー、あいつそう言うの好きなの。チューブトップとか」

一方「バニーとかなァ」

麦野「……ぜっっったいに出ない」

御坂「へ?」

麦野「私は、そんなの絶対しないからなあっ! 畜生、帰るっ!!」

御坂「うっそ、本当に帰っちゃうの? ちょっと?」

垣根「超能力者ってさあ、めんどうなヤツばっかだな」

一方「まァな」
65 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:46:16.12 ID:nVAsCJCm0

垣根「……なんか、俺らも帰っていいってよ。デモンストレーションは無しだとさ」

御坂「急にどうしたの?」

垣根「前回出た、削板軍覇がどっかから聞きつけて『また出てやろうか』ってノリノリで立候補したんだと」

一方「それで懲りたってのか。下らねェ」

垣根「ああ。運営委員会の連中は超能力者が一筋縄じゃいかねえ、あいつらの思う様に動いてなんざくれねえってことを思い出したんだろうな。第七位でアレだ、その上の怪物なんて持て余すに決まってる。まぁ、賢い判断じゃねえのか」

御坂「うーん。大覇星祭自体私は好きだから、開会式くらい別にいいんだけど」

垣根「あっちは削板は使いたくないらしいから……『心理掌握』と並べば? 常盤台の株も上がるんじゃねえ。けどあいつもさー、中学生らしくねえよなあ」

御坂「!! やっぱり止めた!!」

垣根「女ってさあ、めんどうなヤツばっかだな」

一方「まァな」

垣根「……テメェ、ほんっとにやる気ねえな?」

一方「まァな」

66 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/13(土) 22:48:26.70 ID:nVAsCJCm0

ドーモ
お目汚ししつれいっした
暗部5は口調がどうも被っていかん。麦野は口が悪すぎて一方さんと被るし
とりあえず垣根以外は「アイツ」ってのはおぼえた。ちいおぼ

新規でキャラの描き下ろし増えねえかなーって思うわけっすよ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/14(日) 01:17:52.68 ID:aiBeIzT30
乙wwwwww
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/14(日) 17:28:02.33 ID:WFb9Wojy0

こういうレベル5のギャグ的なのとても好き、掛け合いが面白い
この4人の中で一番マシな組み合わせは……垣根と美琴?
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/14(日) 23:29:25.08 ID:OKRHc2e70
乙っす、期待を裏切らない面白さでした
次回も期待しております
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/15(月) 11:24:41.38 ID:sdtYvko4O

面白い
71 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/21(日) 22:38:16.50 ID:sCgSYa+Z0
ちっともみさきちでないから今から投下するわー

>>68
垣根と御坂は営業スマイルも得意っぽそうだし、関わりないからお互い嫌がる理由もなさげだよね
ただ、垣根に頼みごとすると後で何を要求されるかが怖そう
72 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:39:39.28 ID:sCgSYa+Z0

とあるマンションの一室。
広い部屋の中ではキータイプやクリックの音が折り重なる様に響いていた。
他は静かなものだ。
電源の点いたモニタの前に座る垣根も、パソコンから背を向けてじっとしていた。
手には少年漫画が一冊。
その近くには漫画が山と積まれていた。
どれもゴーグルがレンタルショップから借りてきたものだ。
ついさっきも垣根に、

「こんなにどうすんだ?」

とつっこまれたが、ゴーグルは胸を張って答えた。

「明日からたのしーたのしー夏休みっスから! パーっとまとめ読みするんス!!」

それを聞いた垣根はわざとらしく頷いていた。
もしかしたら夏休みなんて感覚がそんなにないのかもしれない。
超能力者には学校も授業もあまり重要じゃなさそうだった。
今現在『スクール』に与えられた任務は特にない。
だが、ゴーグルの少年はこの隠れ家でしばらくデスクワークの予定だった。
任務とは関係ない『スクール』の夏休みの課題、なんてところだ。
飲み物や弁当、スナック菓子をコンビニで調達し遠足気分でカンヅメの準備を進めていたところにたまたまリーダーがやってきて寛ぎはじめたのだ。

73 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:40:31.92 ID:sCgSYa+Z0

「あーあ。だからどこもかしこも、下校時刻前だってのに学生だらけなのかよ。このクソ暑いのに」

むっとした顔で垣根は愚痴る。
ファミレス、ゲームセンター、カラオケなどなど。どこの娯楽施設も飲食店も浮かれた学生で溢れているだろう。
何しろ明日から夏休み。
ちょっとはしゃぎすぎても大目にみていただきたい。

「垣根さん……ちょーっとそれ、暑がってる風には見えねえっス」

今着ている長袖のジャケットをなんとかしてしまえばいいんじゃないか、とゴーグルは思う。
思うだけだ。
そこまでは口にしない。

「んなの気分だよ。気分。ったく、どうしろってんだよ。ギラついた日差しの下を呑気にお散歩でもしろってのか」

言われて目を向ければ、ここまで暑い中歩いてきた様には見えない。
汗なんてかいた様子もなかった。
街の混雑っぷりがお気に召さなかったらしいリーダーは、涼しい顔でエアコンの設定温度をいじっていた。
まさかわざわざ手伝いに来たとはゴーグルも思っていないが、どうやら本当にただ暇を潰しに来ただけらしい。
74 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:41:15.12 ID:sCgSYa+Z0

パタン、と本を閉じる音にゴーグルはふとつぶやいた。

「垣根さんて漫画はゆっくり読むんスね」

「そうか? 普通じゃねえの」

「いつも資料とかはぱーっと目通しちゃうじゃないスか。あれスか、ああ言う時ってフォトリーディングとかしてるんスか」

「ホットリーディング?」

椅子にもたれたまま垣根はかくん、と首を傾げた。
どうやら聞きなれない言葉だったらしい上になんだか聞き間違っていた。

「それだと心理定規とかの分野っス。フォトリーディング、速読法の一種っスよ」

ホットリーディングはどちらかと言うとパチモン占い師の技能で、自前に調査しまくった情報を素知らぬ顔で「たった今あなたから読み取りましたよーすごいでしょーう」なんてわざとらしく披露することを言うらしいからちょっと違うかもしれない。


75 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:42:03.44 ID:sCgSYa+Z0

「ああ。別に意識してねえ。能力開発されてるヤツにしたらそう言うのって工夫で何とかなるんじゃねえの」

『能力開発』も表向きは記憶術や脳科学のジャンルだ。
育脳なんて呼ばれることもあるが実質的には量子力学に基づいた『観測』がメインだ。
育てる前に捉えることが必要で、ある程度の演算能力がないと扱えない。
そんな能力者の頭脳にはその為に欠かせない訓練や開発もされていた。
もちろん個人差はある。
複雑な演算をしなければいけない高レベルの能力者の方がその辺の処理能力は高いはずだが、能力が使えてもお馬鹿さんなやつもいる。

「にしても、ああ言うのはテクニックと効率重視で実が少ないんス。かさましの専門書ならともかく小説や漫画にディッピングとかあり得ねえっスよ。様は他を読み飛ばしてるようなもんスから」

「そんなもんか」

「ファンは些細な描写も大事にしたいんスよ。アニメだって、作画で一喜一憂するし。キャラの公式プロフィールがあれば好きなものとか押さえときたいんス」

「そりゃ随分と暇だな。いや、忙しいのか?」

口と手を忙しく動かしながらモニタをにらみ続けるゴーグルに、垣根はキャスター付きの椅子を引きずりながらやる気なさそうに答えた。
読み終えた本をそばに積まれた山に戻しているらしい。
76 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:42:52.94 ID:sCgSYa+Z0

「あれば……それもあればの話なんスけどね。いくら脇扱いでも誕生日や身長体重くらいもったいぶらなくていいと思うんスよ……」

「なぁ、これ続きねえの」

ゴーグルのマイナーな独り言は今や当然の様に流される。

アニメやゲームの話題に垣根や心理定規がいちいちなんだそりゃ、と聞いてくることはほとんどなかった。
下部組織の下っ端くん達は、愛想笑いでたまに頷く。

「あー、借りてんのはそこまでっスね。それは『外』の作品なんで買おうにもこっちでの流通少ないんスよ。確か既刊はまだあるんスけど。気に入りました?」

「読むと続きは気になんだろ」

「じゃあ後借りたらまた持ってきます」

「っつうかここはお前の家じゃねえからな」

『スクール』の中で恐らく一番身軽な垣根から釘をさされて、ゴーグルはペコっと頭を下げた。
ここは『スクール』の隠れ家として使っている部屋だが、ゴーグル個人の荷物も多い。
物理的な重量なら心理定規もいい勝負かもしれなかった。
室内のパソコンのうち1台もゴーグルの私物だった。
一体型のオシャレなやつの隣に置かれた、今使っているミニタワーがそうだ。
ネットサーフィンにはまるで必要なさそうな機能が充実している。

77 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:44:29.23 ID:sCgSYa+Z0

「今日は合間に読もうと思って持ってきただけなんで。置いてきませんから大丈夫っス」

そうか、と返事すると垣根は別の漫画を手にとって読みはじめた。

78 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:45:13.77 ID:sCgSYa+Z0

「垣根さんは……カリスマ性ばっちしなんで特質っスよね。操作系ってか具現化よりで中身は多系統の複合能力っぽいっスけど」

「そんなのここの能力者なんて操作か放出のどっちかってのがほとんどだろ」

ついさっき、
「休憩! 俺は今から絶賛休憩タイムに入ります!!」とハイテンションに叫んで作業を中断したゴーグルは漫画を片手に垣根とだべっていた。

「でも例外っぽいのもたまにいるみたいっスよね。レアな能力者とか。後は何でしたっけ『外』でたまーに自然発生するって言う『原石』とか。あ、このマンガじゃないスけど、磨けば光るっていいっスねえ。うらやましーっス」

「まぁ、学園都市の能力開発なんざ……たとえば必要な機材と材料を全部揃えた上で、適当な手順で人工ダイヤでも作ってる様なもんじゃねえの。発現する能力もやってみるまでわかんねえんだから。そうやって作ったもんも、それなりのカットを施せる出来かさえ怪しいレベルだろ? 磨いても光るかわからねえってのはひどい話だよな」

そうやって試行錯誤、失敗の繰り返しの中でたまたま見つけ出されたのが、この垣根の様な超能力者、と言う事になるんだろうか。
開発を受けている本人たちでさえ、この街で行われていることについてろくに知らなかったりする。


79 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:46:00.31 ID:sCgSYa+Z0

「垣根さんは手元から離しても能力使えますよね。羽根飛ばしたりしないんスか」

「羽伸ばしたりはするけど」

何だよ、と言いたげに顔を上げた垣根の表情を確認するとゴーグルは身を乗り出した。
この流れなら大丈夫! と判断して、思い切って『未元物質』の話題を振ってみた。

「バラして飛び道具にするのカッコよくないっスか? 『フェザーショット』的な。流石に敵を操るのは別能力っぽいから難しいかもっスけど」

「カッコいいのかよ。それ」

垣根は内心複雑そうに眉を寄せた。
だがゴーグルは首を縦に振る。
『未元物質』はすごい能力だ。
単純に戦闘面だけみても高い防御性能と攻撃力、そこにオールレンジ攻撃も可能そうな飛び道具なんてプラスされたら。
もしも何かのゲームキャラならよっぽどの弱点を設けるか他のパラメータを調整しないとバランスブレイカー過ぎて禁止キャラ扱いになりそうだった。
そう思いつくとぜひ一度試してもらいたくなる。

「やってみて下さいっス。すげーカッコいいですって」

広げた六枚の翼から『未元物質』を掃射する痩身の少年……は想像するとやっぱり絵面がシュールすぎるかもしれない。
そう思ったがゴーグルは黙っておいた。
垣根は満更でもない顔をしていた。

80 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:47:47.60 ID:sCgSYa+Z0

「やっぱり、四六時中『未元物質』で遊んでるうちに能力が使える様になってたりしたんスか」

「別に。俺の場合は多分……他の奴らとはやり方がちょっと違ったかもな」

垣根が自分の能力の話をするのは珍しい。
ゴーグルは期待して聞き返した。

「違うって。どんな風にスか」

「俺についた開発官どもがやったのなんざ、俺が発現出来るようになった『未元物質』ってのが何なのか、理論的にこじつけた様なもんだ。既にあった何かの理論から上手いやり方を見つけてくるんじゃなく、その為に一から積み上げなきゃならなかった訳」

垣根はそう言うと組んでいた腕をつまらなそうに伸ばした。
開いた右手の周りにはパキパキと音を立てて『未元物質』が展開されていた。
室内照明からの光を不自然にねじ曲げ、反射しながら能力の産物はトゲだらけの螺旋を描いて伸びていく。
眺めていくうちにその形が歪み、滑らかになり、最後はチリ一つ残さずにきれいさっぱり消えてしまった。


「それでも、これが何なのか誰もわからなかった。この俺だって、こいつで何が出来るのか隅から隅まで理解してる訳じゃねえ。演算式もまだ未完成って所だし」

ぷらぷらと右手を振って、垣根は息を吐いた。
飽き飽きした様に吐き捨てる超能力者だが。
それを見ていたゴーグルの声は正反対なくらい興奮していた。

「それでも超能力者って……垣根さんがマジになったらどうなるんスかね。『未元物質』完全掌握! とかしちゃったらヤバいっスね!!」

「……いいな、それ」

垣根は驚いた様に目を丸くすると、ふっと微笑んだ。


81 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:48:28.78 ID:sCgSYa+Z0

「まぁ、最初から情報が足りてねえのは自覚してるけど。無い物ねだってもどうにかなる訳じゃねえし」

垣根は頭の後ろで腕を組むとそのまま深く椅子に体を沈めた。
ギィィ、と背もたれが音を立てた。
不自由はしていない、しかし現状に満足もしていない。
そんな態度がみて取れた。

「能力者の法則って言えば、垣根さんが前に調べてた事例ってのはどうだったんスか?」

「暴走能力者か? ああ、ありゃダメだ。中身も参考にはならねえ。何より使われてんのが色々と悪趣味過ぎる」

そう言うと垣根は近くの収納を漁りはじめた。
少しして、分厚い何冊かの資料と共に小さなケースを取り出した。

「……なんスか。これ」

プリントアウトされた書類の方はぱっと見て「大脳生物学」とかの難しそうなものらしいこと以外よくわからない。
そしてケースの中から出てきたのは薬局にでもありそうな小さなビニールのパウチ。
中には白い粉末がごく少量だけ封入されていた。



82 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:49:36.22 ID:sCgSYa+Z0

「『能力体結晶』。試すか? トベるかもよ」

垣根はつまんだ袋を指で叩くと底に溜まった粉末をならしてそう言った。
封を切ったスナック菓子でもすすめる様な気軽さだった。

「いいッ?! 『体晶』ってこれっスか? 能力者何人も潰したって薬っスよね。俺いいっス、遠慮しときます」

ゴーグルは思わずのけぞって首を振った。
適性があれば、極一部の能力者には大幅な能力の上昇効果があると言われる薬品だ。
だが、暴走状態を起こす強烈な副作用の方が有名で、その名前だけならゴーグルも聞いたことがあった。

「垣根さんまさか……試しました?」

「はぁ? んな無駄なことする訳ねえだろ、俺が」

おそるおそる聞いたゴーグルは苛立った目を向けられて慌てて謝る。
ゴーグルは、この人が暴走状態になったらどうやって止めるんだろう、とか怖い想像をしてしまったのだが不要な考えだったらしい。
超能力者、現在学園都市でも最高峰に位置する能力者がわざわざ危険な賭けに手を出す理由がなかった。


83 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:32:40.75 ID:p1jngrY10

「これって何で出来てるんスか」

「暴走能力者の脳内には独自の伝達回路があるらしい。そこで異常分泌される神経伝達物質なんかを集めて精製したのがそれだ。物としちゃあ、暴走時の脳内を再現しちまうのか、それとも他の能力者の伝達回路ってのに使用者が拒否反応でも起こすんじゃねえかと思うんだけど」

「あれ。拒否反応って初耳っス。どうしてそう思うんスか?」

「『多重能力(デュアルスキル)』の研究は知ってるか。俺達能力者は、まるで違う二つの能力を使う事が出来ねえ。一つの能力の幅を広げる事は出来ても、開発で開いた脳回路を元から増やすなんざ負担がデカすぎるって立証済みだろ。そこに他人のおかしなモンをブチ込んでみろ、どうなるか……っつうか拒否反応以前に気持ち悪いだろ。それ、元は他の能力者の一部だぞ」

うげっ、と舌を出すと垣根は嫌そうに顔を顰めた。
劇薬で引き起こされる危険な暴走よりも、そちらの方が余程不快だったらしい。

「複数の能力使おうとするのはやっぱ無理なんスかね……能力使用に必要な、例えばOSみたいなもんの入ったドライブのパーテーションはいじれなくても、外付けとか他ドライブ経由なら何とかならないスかね? パソコンだって、既存のOS維持したままの切り替え方法くらい幾つもあるんスから」

学園都市に居る数多くの研究者の中には、愉快でイカレた仮説を立てたり実験してみたりする人間もいる。
今のはゴーグルがほんのちょっと思いついただけの事だが、探せばどこかにそんな「実例」もありそうだった。
84 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:33:48.52 ID:p1jngrY10

「必要なもんを外から丸ごと持ってくるってことか? 今の段階じゃそれも難しいだろ、何しろ『自分だけの現実』や『AIM拡散力場』でさえ研究途中の分野だからな。たとえ脳を移植したって、能力は変わらないなんて話もあるし。開発してない人間に既存の能力者の機能だけあてがうとかするんなら、暴走はひとまず防げるかもしれないけど」

「あー。でもそれやると、能力開発そのものがいらなくなっちゃいますね。俺たちもお払い箱、とか」

いや、と垣根は少し何か考えてから首を振った。
いつの間にか真剣な顔をしていた。
雑談には変わりないが、つまらない内容が思わぬ方向に向かっていた。

「狙った能力者が手に入らねえうちは、『絶対能力(レベル6)』の可能性に当たるまで数をこなしたいってのも恐らくは学園都市の本音だろ。気軽にそんな真似したんじゃ本末転倒だろうけど、別に互いに潰し合う様な条件じゃねえ。まぁ、そんな技術が使えるかどうかは別として、今まで無駄に開発させられた下位能力者連中にはそれなりに同情するけどな」

現段階で、学園都市に暮らす180万の学生のほとんどは強能力者以下に振り分けられる。
日常生活で便利だと思える程度の異能さえ、手に入れられていないものが数多くいる。
85 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:34:47.03 ID:p1jngrY10

「やっぱり超能力者から上ってのを作るのが学園都市の目的なんスかね」

能力開発を受ける為に希望を胸にやってくる子どもや、行き場のない子どもたちの為にただの親切や善意でこの街が開かれていないことは、垣根もゴーグルも嫌と言うほどわかっていた。
なんの為の能力開発か、なんてところに焦点があたった。

「さあな。だが、それだけだと思うか? だとしたら、第一位が確立した後の能力開発なんざそもそも意味なくなるだろ」

「うーん……たとえば約0.00000056%の確率のガチャを回したとして。一つでもマシなの引いたら、俺ならとりあえずそれを全力強化っスかね。次同じだけ回しても、いいのが出るとは思えないんで」

180万分の1の確率で見つかった金の卵。
それを、それこそ文字通りにレベルアップさせるなら、現在使えるベースで済ます方が早いに決まっている。
その後使うかもわからない素材を数万単位、数を揃える方が、余程手間がかかりそうだ。

「だが下は五歳から、ガキの能力者は今だって生産され続けてんだ。そんなに保険をかけたいのか、別に思惑があるのか。どっちにしろ学園都市の目的ってのがそこで止まるとはどうにも思えねえ」

学園都市は膨大なロスを抱え込んででも次の候補の発見に賭けたいのか。
それともその余剰すら必要だとでも言うのか。
たった二人の思いつきでは答えが出そうもなかった。

86 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:35:40.55 ID:p1jngrY10

「そう言えば最近出回ってるって言う……それ何だっけ?」

「『幻想御手』、まだ調査中っス。薬なのか特別な開発方法の資料なのか……それがどんなもんかもはっきりしないし、噂されてる能力増強の話もなにがなんだか」

今日は朝からインターネットの掲示板を中心に眺めていたゴーグルは椅子の上で伸びをしながら返事をした。
思い出したようにモニタに向かうと、いくつかのウェブページを開いた。

「ただ……効果はあったって話はよく聞くんスよねえ。で――これは使えそうなんスか」

コピーしたログを作業中のテキストファイルに貼り付けてゴーグルは垣根を仰いだ。

「いや。目についたもんは当たっておきたいだけだ。何が『直接交渉権』への突破口になるかわからねえからな。だが」

垣根はコキコキと首を鳴らすと眉を寄せた。
椅子から立ち上がると、ゴーグルの背後からモニタを覗いた。
マウスを取ると次々にウィンドウを開いてゴーグルがまとめていたファイルに目を通し始める。
87 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:36:35.39 ID:p1jngrY10

「どうも、話が広がり過ぎてねえか? 知られちゃマズいもんならさっさと情報が潰されてると思うんだがその様子もねえ。デマにしては息が長いだろ」

「そうっスね。『神様の頭脳』系の噂は山ほどありますけど、これは珍しいやつっス。噂の盛り上がりと探す書き込み、使用者の実体験報告がこの一週間で明らかに増えてます。燃料、何らかの裏付けがないと普通この手の話はあっと言う間に飽きられて消えちゃうんスけど」

「はぁ? 待て。そんなのわざわざ知らせてんのかよ。馬鹿じゃねえの」

呆れた様に垣根は聞いたがあるものはあるんだから仕方ない。

「ほら。ここに元無能力者の書き込みとか、こっちは動画とかあります。みんな自分の能力に変化があれば自慢したいんスよ。あーあ。現物があると色々わかりそうなんスけど」

「美味いだけの話なんざ、どうせ存在しねえ。馬鹿なやつらはろくに考えもせずに引っかかるんだな」

どう見てもチンピラな大男が、何もないところから火を起こして大はしゃぎする。
そんなある意味微笑ましい動画を横目に。
垣根はさっき出した資料と『体晶』を元の様にしまった。

「でも、調子にのり過ぎて騒ぎを起こすやつがいるなんて話もあるんスよね。そっちが大事になると……いよいよ俺らに話が回ってきますかね」

にしし、と愉快そうにゴーグルが笑う。
だが垣根は冷め切った目を細めただけだ。
あまり期待はしていない様だった。
88 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:37:30.61 ID:p1jngrY10


「下手に騒ぎになって警備員や風紀委員が絡む様だとかえって俺たちの出る幕は無くなっちまう。話の裏を取る前に、表向きそれらしい体裁が整えられちまうこともあるだろうし。そしたら余計な詮索なんざした所でこっちが怪しまれるだけだ」

痛くもない腹を探られるのは誰だって嫌だろう。
でも、人間痛いところをつかれるのも癪なものだ。
ただでさえ『暗部』の首輪が付いている様な状況で、牙を剥いたのではないかと今認識されるのは『スクール』としても望ましくない。

「引き続き様子はみとけ。だが、タイミングを見誤らない様気をつけねえとな。いいカードがあっても、それを引く前にこっちがバーストしたんじゃ意味がねえ」

はーい、と少年は軽い調子で答えると机の上に置いてあった輪の様なゴーグルを頭に付けた。
同時に、それまで暗かった近くのモニタも電源が入り室内からは立ち上がったハードディスクのシーク音が幾つもしはじめた。

89 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:38:42.46 ID:p1jngrY10

「まー、俺らみたいのが多少つつき回しても、次々わいてくるんスよね。この手の話。ネタに困らないのはいいんスけど今更そんなもんどうした、ってあっちも開き直りそうでムカつきません?」

「必要なのは、中核に食らいつける程の重みのあるもんだ。上辺だけ掬い取って掻き集めた所で、これっぽっちも役に立たねえだろうし」

繋いだケーブルをいじりながらゴーグルは愚痴っていた。
休憩時間は終わったらしい。

「もしも……もし、俺が……はじめっから」

「垣根さん? 何か言いました?」

垣根の呟きは、再びキーボードに指を走らせカタカタと作業を再開したゴーグルに拾われたらしい。

「別に。少しばかり面倒だってだけだ。何でもねえ」

肩をすくめると垣根はまた椅子に座った。
頬杖をつくと窓の外を睨む様に眺める。
学生で賑わう街は日が暮れようとしていた。
90 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:39:59.43 ID:p1jngrY10
ドーモ

『未元物質』のはなしする真面目ルヘンに挑戦
学園都市に知られ過ぎてたって言う『スクール』の動向が気になる
このあとはビリビリ大惨事になるから多分ゴーグルは泣くことになると思う。がんばれ
91 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/22(月) 02:41:27.19 ID:p1jngrY10

って投下しようとしてたらまさか我が家がビリビリ大惨事だった
煙でたり色々修羅場になった

垣根「ブレーカー上がんねえしお湯出ねえぞコラぁ!!」
ゴーグル「俺のせいじゃありません!!!!」
みたいな小ネタ足そうとしたからか
その呪いか、いや能力か
魔術師の仕業か

間あいたけど、たぶん抜けはないはず
とりあえずおやすみ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 03:30:07.02 ID:e5Zwx6bp0

おのれ魔術師!
未元物質って何がどこまでできるのかよくわからんよね

>脇扱いでも誕生日や身長体重くらい〜
名前すらないゴーグル君が言うと涙を禁じえない
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 04:05:21.68 ID:F4WqGn75O
乙ぅ
ゴーグル君の名前はいつ知ることが出来るの

未元物質がどこから出てきたか分かっただけで垣根が世界の全てに勝てると思うあたり
垣根の中の世界から出てきたとでも思うのが妥当なのかもしれない
現実との差異の演算次第でなんでも出来るかもね
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 04:40:14.76 ID:zFV1W3KlO
禁書はキャラ多いわりには正確な名前わからないキャラが多いんだよね
モブとメインキャラの中間みたいな
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/22(月) 18:23:40.03 ID:pE0HBHw70
未元物質って禁書SSのどらえもん的な感じあるよね
物質を生成できるってのがとても便利、一方通行よりチートに思えてならない
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/22(月) 21:59:43.75 ID:TWMzwHTT0
新約6の未元体の垣根の発言から未元物質は垣根の自分だけの現実から生成されてるって言ってたから未元物質はAIM系の能力で確定だね
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/24(水) 17:26:25.20 ID:sdgT9vT/O

能力者は大なり小なり物理法則を突破してるが、垣根のはその中でも「無から有を引き出す」という質量保存の法則ガン無視の超異能だからな……
未元物質自体の性質も合わせて、どうも魔術寄りな能力に思えてならない
98 : ◆q7l9AKAoH. [sage]:2014/10/06(月) 00:47:35.97 ID:iz+wV3nL0

一位が来る前に二位がカンストしそうだぞちくせう

前回ので一巻久しぶりに読んだ
能力開発って「もしかしたらあり得るかもしれないけど自然の状態ではまずあり得ない未来の現象の可能性」を
「それを観測した個人の頭の中から現実にひっぱり出す」みたいなことしてんだっけ

それを説教やワンパンで問答無用にブチ[ピーーー]上条はすげーなあと思うんだ

どうやら好きでやってるわけじゃないらしいのにそのおかげでメルヘンな羽しょっちゃう羽目になった垣根ってきっと頭おかしいんだろうなあと思うんだ

他にも周りを反射するやつとか、ものすごいビーム打っちゃうとか、他人をおもちゃにしてみるとか、前髪から放電するとか色々あれだけど。そんなのが自分の可能性って確かにみんな隠しきれない人格破綻者っぽいけど


>>92
それな。ゴーグルくんなんかモブの中でも名もなきモブだからな。『ブロック』のやつすら名前と過去とおかしな口調とキャラ設定あったからな

>>93
超電磁砲の外人研究者もアニメ化したら確か名前があった。つまり何らかの形で映像化されればワンチャン。それでも「ゴーグルの少年」のままかもしれないけど

>>94
あえて名前を出していないタイプがインなんとかさん、一方通行、冥土帰しあたりだとして……残りはなー期待しちゃダメなやつだよな

>>95
未元物質食べたりする話あったしね
きっとその気になれば衣食住完備出来る。なんでもありだ夢が広がる

>>96
「AIM系の能力はとりあえずなんかチートっぽい」イメージ。AIM拡散力場がよくわかんねー
あと超電磁砲SでフェブリのAIMを物質化する能力うんぬんかんぬんって出てきたときに「なんでそこで未元物質は触れられないしでてこないんだよ!」
と思った人は一人くらいいると思うんだ。なんとなく系統は近そうだよね

>>97
ほんとなんなんだ未元物質
科学発の能力のくせに天使に似た六翼なんてモロ魔術的な象徴を背負ってるあたり怪しいよな
一方通行のも風斬のも翼って作中で呼ばれてるがあっちは輪っかついてるけど形全然違うし
色々怪しんでるけどいつかかまちーが教えてくれんだと信じてる
99 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:51:27.74 ID:iz+wV3nL0

「はぁあああ……マジ雷空気読んでほしいっスわーありえねえっスわー」

しょげながらキーボードを叩くゴーグルの少年の口からはやる気のない愚痴がだらだらともれていた。
ソファに転がっていた垣根がその頭を狙って本を投げつけた。

「お前それ何回言い続ける気なんだよ。聞き飽きた」

「この前の落雷で最終回の予約がパーになったんスよ……円盤になるまで悔みきれねえっス。作業途中でふっとんだデータはなんとかなるからいいんスけど」

ぶつかる直前で急に下に落ちた本を拾うと、ゴーグルは次の巻を机の横から探して投げ返した。
ゴーグルの少年は先日に引き続き『幻想御手』に関する話をネットから拾い集めていた。
垣根はたまに顔を出してダラダラしながらゴーグルが借りてきた漫画を読んでいた。
ゴーグルを追い越してすっかり先まで読んでしまったらしく、そのうちレンタルの催促とかをされそうだった。
100 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:52:43.54 ID:iz+wV3nL0

「ああ、あん時はシャワーが水になったから焦ったけどすぐに戻ったな」

「こっちは突然全落ちっス。レンジもダメでした。この辺だけじゃなくて、やっぱそこそこの範囲に影響あったんスね。雷なんて予報になかった筈なんスけど」

「どっかの研究所がなんかやらかしたって話も聞かねえしな」

「人為的な落雷をあの規模で起こすのなんてどんな無茶っスか。それこそ超能力者でも呼んでこないと」

おかしな出来事、をそんな風に笑い飛ばそうとしたゴーグルだったが、はっと顔を上げると大声でしゃべり始めた。

「そう言えば。なんなんすかねー今朝! 朝の五時っスよ? 警備会社からすげー電話来たんスよ。あんまうるさいんで起きて出たら警報装置がどうの、もう用事済んでますーとか言ってなあなあで切られたんス。結局『スクール』で使ってるマンションからだったんスけど。あれもなんだったんだか。迷惑っスよね」

101 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:54:12.59 ID:iz+wV3nL0

「ああ。俺」

「へ?」

椅子のキャスターを転がしてゴーグルは思わず後ろを振り返ったが。
「私が犯人です」とあっさり自白した超能力者は呑気にコミック本のページをめくっていた。

「それ俺。そっか、お前んとこにも連絡いったのか」

大したことなさそうな垣根だが、ゴーグルはそうはいかなかった。
この超能力者がトラブルを起こしたと聞いてしまうと前例がいくつか浮かぶだけに嫌な方に考えてしまう。

「垣根さん? あそこって確かこの前借りたばっかっスよね? まさかもう何か壊しちゃったんスか!?」

「壊してねえよ。ったく、一々うるせえんだよな。ちょっと窓開けただけだっつうの」
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