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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」

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259 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:19:08.32 ID:6M9N4qIs0

ソファに座った少女はのんびり雑誌をめくっていた。
学園都市内のブランドを扱ったファッション誌は中学生くらいの女子に向けたもので。
彼女の普段の服装と比べると並ぶ写真はどれも子供っぽく見えるものばかりだった。
『これで完璧! 最新秋ファッションのマストアイテム徹底特集! オシャレのレベルもアップしちゃおう!!』なんてフレーズが表紙を飾っている。
学区別に組まれたショップ情報。
大きく取り上げられるのは最新より一歩先、次のトレンド。
流行ることがもう決まっているから、と言うことなのだろうか。
一ヶ月以上先のことが透かしたようにわかるだなんて。
『樹形図の設計者』による精密な天気『予測』の様だ。
そんな大がかりなことに限らなくても当事者の都合はお構いなしに、第三者が作り上げた予定の上で様々なものが動いている。
自分の意志で歩いているつもりでも見えないレールの上に知らない間に乗せられているのかもしれない。
どこもかしこもそんな出来レースだらけだとしたら。
常識の、価値観の。
判断の基準はその『物差し』はどこにあればいいのか。
それを自分の外側に、他者に委ねることは簡単だ。
ただ口を開けてマジョリティの情報を飲み込んでしまえばいい。
万人受けする流行りの風潮やお約束のイメージに思考停止で流されてしまえば無駄なエネルギーを使わずに済む。
ページをめくるこの少女も時にそう言った使い分けをするタイプだった。

見た目、服装、第一印象。
○○な人と言う一人間関係の一番最初のラベルはそんな所から決まっていく。
そこから勝手に相手が考えて、都合よく解釈されるのは楽なことだ。
自己紹介文を長々と背負って歩く訳にはいかないんだし。
260 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:21:25.41 ID:6M9N4qIs0

心理定規はどこかつまらなさそうにページをめくっていた。
次のバイトまではまだ随分と時間がある。
ただの時間潰しならカフェでもいいんだけど、暑い中歩き回るのは気が進まない。
次の相手は会話と軽い食事も楽しむタイプ。ならたとえドリンクだって無駄にお腹を膨らめるのは嫌だった。
あとは移動時間その他色々。
そんな条件を考えると、この隠れ家を使うのが今日の彼女には都合がよかった。
ほとんど荷物置き場の様な部屋でも居心地は悪くない。
使っている建物や周囲の雰囲気にふさわしく、もしかしたら少しくらいメンバーの好みに合わせているかもしれない内装や家具は、すぐにでもここに住めそうなくらい整えられていた。

少女の指が写真の横の見出しをなぞっていく。
その爪先は明るいオレンジ色に塗られていた。
心理定規は黙々と記事に目を通していた。
次の『客』は大学生だった。
確か一三学区で教育実習をしているが、女子児童となかなか話が合わないのだと前に話していた相手だ。
背伸びをしたがる年頃の女の子とは、実際の目線より少し上の話をした方が良かったりする。
こうしてページをめくりながら心理定規はコミュニケーションに必要な、会話の種を拾っておく。
とは言っても、テストの前に仕上げたノートを貸してやるような真似をするつもりはない。
彼女がするのは精々ヤマのはりかたをアドバイスするくらいのことだ。
彼女の仕事は相手の面倒を見てやることではないのだから。
その他にも。
相手によって用意するものも中身も変わるが。
彼女にいつも求められるのは、『客』の気持ちを満足させてその時間を終えることだった。

最新の保湿成分の配合されたコスメの広告。
人気のスイーツの特集ページ。
新ドラマの紹介記事。
心理定規はそこで少し、ページを戻した。
少女の目がほんのちょっと真剣にページに向かっていると。
ドアが開いて携帯電話を耳に当てたゴーグルの少年が入ってきた。
ソファに座った心理定規に気付くと、片手で(失礼しまーす)とジェスチャーしてから頭を下げて隣の部屋に入っていった。

261 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:23:40.17 ID:6M9N4qIs0


「ええっ?!」

「なんで…なんでなんスか? ああ、そっスね。所詮俺はその程度ってことだよねええええわかりました。よーくわかりましたって」

「はぁ? ちっぱ…いやいやだから、その風潮がさあ? なんで同系統な女子はみんなまとめてつつましやかにされてしまうのかってむしろ聞きたいね。え、嫌いじゃなかったか? んな訳ないって!」

「心にゆとりのある娘は病まないなんて誰が決めたんだ青ピくん。君はそんな固定観念に縛られる男だったのか?! いいじゃないかネガティヴ巨乳!」

「いいんだよわかってくれれば…って俺ら何の話してたんだっけ?」


何だかやけに騒がしく話していたゴーグルの少年は電話を終えたらしく部屋から出てきた。

「……おともだち?」

「うーん、まあ。友だちがいの無い友だち…っスかね。こっちはそう思ってたんスけどね」

「ふーん。ケンカでもしたの?」

喧嘩って程でもないし誤解は解けたんスけど、とゴーグルの少年は言ったが。
なんとなく歯切れの悪い返事が返ってくる。
心理定規は視線を雑誌に向けたまま、
「もやもやしてるなら言ってみたら?」
と続きを促した。

聞きたくて聞いた訳ではない、騒がしい電話の様子ではちょっと揉めた後で解決した風だったのが。
それでも「誰かに愚痴をこぼしたい空気」が垂れ流されているのを放っておけなかったのは、この少女のある種の職業病だ。
気づいてしまった、床に落ちた小さなゴミをつまんで捨てるようなものだ。
放ったまま過ごすよりはちょっと気分がいいかな、くらいの。

262 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:25:27.10 ID:6M9N4qIs0

どうやらそのお友達はこの前町中でコスプレしている女の子と遭遇したらしい。
最近では、お嬢様の間でサバイバルゲームが流行ってるらしいなんて噂もある。
学園都市にはたくさんの人間がいる。
好みもそれぞれ、と言うことかもしれないが。
ゴーグルの少年がことのいきさつを話す間。
ふんふんと頷きながら心理定規はページをめくり続けていた。

「別に話してこいとか写メとらせてもらえとか、んな無茶も失礼なことも言わねっスよ。ただそんなネタがあんなら話の一つくらい振ってほしかったなーとかっスね。
『次は必ず』ってそんなポンポンチャンスが転がってたら世話ねっス。自称魔法使いな巫女さんとか気になるじゃないスか。何スかその盛った設定」

ジャンル問わず萌え語りの出来るヤツだと思ってたのは俺だけだったのかよ? ってちょっとした気持ちの行き違いがですね、とかなんとか一息で語った少年は。
オタクだった。

開き直っているのか、いろいろと諦めたのか。
それとも価値観の違いとかは気にしない人なのかは知らないけど。
こうして暗部組織のメンバーの前でも構わずシュミを話題に出来てしまうオタクだった。
女子中学生でもアニメやマンガくらいの理解はあるが、コスプレとか巫女さんみたいなワードには軽くカルチャーショックを受けるかも
って言うか引くかもしれない、とか考えないのか。
しかし。
三次元空間より点を線で繋いだ世界が好きなんだろうな、と相手の嗜好を疑いもしていなかった少女は。
この手の話題にいつもなら、
「そうねそれは残念だったわねそんな時もあるんじゃない気にしすぎると良くないよ?」
くらいのどうってことない返事でさっと流して終わらせるところを。

「君ってアニメの女の子以外も気になるんだ?」

珍しく。切らなかった。
少女とこの少年と二人で。
長く会話が続いたことはあまりなかった。
話が弾むどころか、共通の話題もほとんどない。
特別話す必要も任務以外では感じていないくらいだから、仕方ないかもしれない。

「コスプレは2.5次元っつうか。いや、まあそこは、フツーに?」

「ふうん。そうなの。普通ねえ」

「なんか…最近自分のポジションに自信がなくなってきました。俺はこれでいいんだろうか」

263 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:26:16.08 ID:6M9N4qIs0

そんなことを言いながら、ゴーグルの少年は心理定規の横を通り過ぎると。
キャスター付きの椅子をゴロゴロ転がしてきた。
広い部屋の壁に沿ってバーのカウンターテーブルみたいな長い作業机が置かれている。
そのうち、一台のパソコンの前がここでの彼の定位置だった。

「そう言えば心理定規いるなんて久しぶりっスね、おまけにオフ仕様っスか? んで、今日は垣根さんがいないんスか」

パソコンの電源を入れながらゴーグルの少年は部屋の中を見回した。
隣の部屋はもちろん、リビングルームにもあの存在感はかけらもなかった。
窓辺のカウチも空だ。

「彼も来てたけど。出かけたわよ」

いつものドレスではなく、夏っぽい服装の心理定規は短いスカートの下で膝を揃えた。

「へーえ。どうしたんスかね」

「大したことじゃないみたいだからその内帰ってくると思うけど?」

「心理定規と垣根さんて結構仲良いとは思ってたんスけど。実際どうなんスか?」

ゴーグルが聞き返すと、綺麗に塗られたネイルが並んだ両手の間を。
すとーん!
と雑誌が滑り落ちていった。

「え? 私と彼が? え。なんで?」

それまで気にも留めていなさそうだった心理定規は。
膝の上に落ちたファッション誌ではなく、ゴーグルの少年の方を向いていた。

264 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:29:27.99 ID:6M9N4qIs0

「だってよく二人で話してるじゃないスか。同じ空間にいてハブられたらさすがにわかるんスよ。俺だって」

「あのね。私たちは何? 学園都市の暗部組織でしょ。なかよしこよしのお友だちグループじゃないよね」

「そりゃ……わかってるっス。でも知り合った相手と仲良くはしたいじゃないスか。ギスギスしててもいいことないスよね」

「まあ一般的にはそうかもしれないけど。そう見える? 私だって特別親しいつもりないよ?」

むしろ逆、と言って心理定規は首を傾げた。
垣根からなのか、心理定規からなのか。
一体どう見れば仲良くしている様に見えるのかが本人にはわからなかったのか。
ちょっと真剣に眉を寄せて考えていた。

「三人でいてもそこはかとなく扱いの差を感じます」

「そこはしょうがないよ。私と君って役割が違うもの。でも君もよくやるでしょ、彼の思いつきを聞き流す係とか」

「俺はそれなりに真面目に聞いてますよ! えっ心理定規は流してるんスか」

不満そうにしていたゴーグルの少年は、心理定規のまさかのカミングアウトにガタっと体を起こした。
その勢いで椅子がぐらぐら回りそうになる。

「ああ言うのバイトで慣れてるもの。相づちはちゃんと打つよ? 機嫌悪くなっちゃったら困るし。
壁や観葉植物とか、金魚鉢に話しかけるよりは、いい話相手してるつもり」

「なんスかそれ。隠居したおじいちゃんスか。そう言えば前の部屋に水槽ありましたよね。
世話のいらない熱帯魚の。たとえばああ言うのに、したことあります?」

「ああ。あったね。そんなのも」

「あれ。女の子って動物好きじゃないスか? そんなリアクション?」

「うーん、たまに見るときれいだったけど。あれはペットって言うよりインテリアみたいだったじゃない。でも男の人は結構好きみたいよ、ああいうの。きれいで静かなものって癒されるみたい」

あきらかに気の乗らないざっくりしたリアクションにゴーグルの少年は残念そうに息を吐いていた。
きゃあ、おさかなさんかわいいよね! とかそんなのを期待していたんだろうか。

「えー。俺女の子は小さい生き物に話しかけるんだと思ってたんスけど。そんなもんなんスか……」

「それは人によるんじゃない?」

265 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:33:18.99 ID:6M9N4qIs0

「そっかー…あ。垣根さんは動物平気なんスかね。もしかして、犬とか猫とか意外と好きだったりして」

心理定規はあまり興味がなさそうだったが。
生き物にやさしい不良やヤンキーはベタな設定だ。
だからって動物相手にセリフを即興吹き替えしている超能力者、とかが和んだり萌えるかと言われるとそれはまたむずかしいかもしれない。
向こうのリアクションが怖くて反応にも困りそうだ。

「鳥…はなんか嫌がりそうっスよね。『何でわざわざ狭苦しい籠に押し込めなきゃいけねーんだ?』とか言いそうな気も――」

「ね、まって…今の何?」

「え? いや垣根さんなら『おいおい、こいつら自由に飛べるんだぜ?』とか言いそうじゃないっスか?」

ゴーグルが振り返ると心理定規は口元を手で隠していた。
肩がぷるぷる震えている。

「そうじゃなくて…なにそれ彼のものまね? ねえ、なんで……なんで最後にちょっと『フッ』ってするの?」

「(キリッ)とかのがいいっスか? じゃあ――」

「やめてもう、おかしいってば」

ゴーグルの少年は調子に乗って「垣根さんあるあるネタ」的なものまねを披露した。
もちろん似てない。
それでも、垣根がまず言わなさそうなおかしな発言をなんとなくの「垣根さん風」のセリフで言い続けると。
両手で顔を覆いながら心理定規は笑っていた。


「はあ。ちょっとほっとしました」

「どうして?」

ゴーグルの少年は、自分の胸をなでおろした手でそのまま頬を掻いた。
ちょっとばつが悪そうに心理定規から目をそらしていた。

「いやー俺もしかしなくても、心理定規に嫌われてんじゃないかなーとかっスね。避けられてんのかなーって…ははは」

心理定規は。
一瞬きょとんと目を丸くすると少し考えてから首を振った。
ちょっと眉を寄せてからの五秒間、ゴーグルの少年は聞かなきゃよかった! って顔をしていた。

「好みの問題じゃなくて。そうね…人には適切な距離があるでしょ? もちろん物理的な意味でもね」

自分の能力にあてはめたのか、一言付け足すと。
心理定規はゴーグルの少年を観察するようにながめた。

「そうね。たとえば君にとって親しみがある、特別な距離をあげるなら……
一メートル二〇センチとかどう? 普段、能力の使いやすい範囲ってそれくらいじゃない?」

「何で……知ってるんスか。俺、そんなこと話してないよな?」

「どの隠れ家でも、君のスペースは物の配置がいつもそっくりよ。座る位置も。
『手が届く所に好きなものを置いておきたいタイプ』だと思ったんだけど、どうかな。君は人よりその範囲が広いみたいだしね」

もし暴走とかされても十分離れれば安心出来そうだし、と言って心理定規は得意そうにほほえんだ。
いつの間にそんなことまで見ていたのか。
ゴーグルの少年ははぁ、と感心した様に息をはいた。
そして、一瞬ドアの方を気にすると声をちょっと小さくして質問した。

「じゃあ垣根さんは? えっと。心理的にまずい距離とかって、あるんスか」

「彼は……また他の子ともちょっと違うのよね。でも対処は出来ると思うよ。ちなみに暴走されると、
あの能力だと逃げ場なんて無いし防ぐこともきっと出来ないからお手上げ。巻き込まれないですむって幸運を祈るしかないんじゃないかな」

取扱い説明書でも読み上げるような口調で心理定規はそう言うと。
顎に指先をそえながら首を傾げた。
垣根もそうだが、この少女もどちらかと言うとドライな印象がある。
たとえ相手が仲間だろうと不測の事態への警戒や注意は人一倍、それもして当たり前と言った態度だ。
垣根の方は、「何が起きてもわざわざ備える必要がない」
ので常にマイペースな自然体に見えるが頭の中はどうだかわからない。

266 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:35:26.03 ID:6M9N4qIs0

「対処ってどうするんスか」

「彼の心に近付き過ぎなければいいの。ムカつく味方より、つまらない敵の方が関係性としてはずっと安全よ」

雑誌を横に置きながら心理定規は足を組んだ。
一瞬、何か思い出すように視線が上に向く。

「それも狙って出来るかはわからないけど。ほら、彼って結構気まぐれでしょ? 
でも彼の場合、他者への心の距離なんて扱いがほとんど一緒じゃないかな。彼の主観以外の一般的な分類もあんまり興味がないみたいだし」

「はぁ。なんかわかるようなわかんねえような…もしかして垣根さんの心理距離、測ったことあるんスか」

「会ったばかりの時にね。もちろん彼に言われてだけど。私の『心理定規』がどんな能力か知りたかったみたいだったから」

「えっどんな反応したんスか」

心理定規は返事の代わりに髪の先を人差し指に巻き付けていた。
カールした毛先がするりと逃げるのを目で追ってから口を開いた。

『ムカつくから止めろ』って。こわーい顔されちゃった。あれから、彼に力はあんまり使いたくないのよね。
勘もいいみたいだから、こっそりやってもバレそうじゃない?」

身を乗り出して聞いていたゴーグルはふと不思議そうな顔をした。

「あれ、でも仲良くなるのは悪いことじゃないっスよね? なんで精神的に近寄ると危ないんスか」


「そうね。彼に限ったことじゃないけど。興味がわくと期待するでしょ」

その反動が怖いのよ、と心理定規は真面目な目をして言った。
彼女が警告するように立てた人差し指を見つめてゴーグルは息をのんだ。

「だから。彼にあんまり期待させないこと。そしてそれを裏切らないこと、かな。それを守ってれば安全だと思うよ。これからもね」

「どうしてそうなるんスか」

頭の上にクエスチョンマークの乗っていそうなゴーグルの少年に、心理定規は眉を寄せる。
しようがないなあ、と口にはしないがなんかもうダメな子を見る顔をしていた。

「そうね、君風に言うなら……楽しく長い時間遊んでたゲームの結末がそれまでを台無しにするくらいひどかったら。ガッカリするでしょ?」

「あー…他がよくってハマった上でオチがひどいと凹み加減倍増っスね。しばらくはCMみるのもやんなりそうっス」

「それで済むならいいけど。彼の場合、本体ごとその場で壊しかねないと思わない? 『俺がこんなにやってやったのに!』とか言って」

肩をすくめる心理定規にゴーグルの少年は激しくうなづいた。
つまったり、気に食わないとゲーム機やコントローラーを叩いたり投げたりはその辺のやつでもするが。
超能力者の八つ当たりは規模がやばそうで怖い。

「すげー納得しました。いやあ、原作公式に背中を撃たれるほど辛いことはないっスよね」
267 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:39:39.47 ID:6M9N4qIs0

「だからね、もしも。それが君自身や他の誰かの為でも、たとえ彼の為でも。
結果、君のしたことが彼のやり方を裏切ることになればそこでおしまいかな。きっとそう言うの、許せないと思うよ」

「じゃあ、もし俺が心理定規や垣根さんと引き換えにでも『スクール』の内部情報を売ったりしたら……」

「それで相手には見逃してもらえても、彼がトドメを刺しに来るんじゃない?」


恐ろしいことを笑顔で口にする心理定規に、ゴーグルはひきつった顔で笑い返した。
確かに。
理由はどうあれ背信間違いなし、ってとこだけで怒りがゲージを振り切りそうだ。
相殺しようにもきっと事情なんて説明する猶予も聞いてくれる保証もない。
ゴーグルの少年はうーんとうなった。

垣根が怒ったところには何度か遭遇しているが。
あのリーダーがガチギレするとどうなるのだろうか。
ムカついたとかよく言ってるがよっぽど、イライラでもつのらないと怒鳴ったりはしないと思う。
そんな垣根帝督が本気で怒りをぶつけてきたら一体どうなるのか。

もしかしたら静かに切れるタイプかもしれない。
一見いつもと変わらない態度と軽薄な笑顔で、真っ黒な目にだけ明確な怒りを燃やしてやって来る。
そんなの恐いに決まってる。

案外、語気も荒く怒鳴り散らすなんてこともするかもしれない。
冷静さを欠いて普段のイケメンぶりをかなぐり捨てて。あの垣根帝督が感情のままに悪意と怒りをまき散らす。
そんなの悪夢でも遠慮したい。

そして。
どうあっても最後はきっと、『未元物質』での粛清コースだ。間違いない。


「怖いっスよ! 俺自分の為なんかにはぜってえ裏切れません!! そんな予定もつもりもないっスけど!!」

うわあああああ! とうっかり怖い想像をしてしまったゴーグルの少年は頭を抱えた。

「自分以外ならいいの?」

「結局俺は助からないならやるだけすっげえ損じゃないスか。いや死ぬようなのはいつだって嫌ですけど」

ね、とうなづく心理定規と珍しく意見があった。
ステータスすらわからないボスモンスターみたいなリーダーと比べたら、この二人は紙防御もいいとこだ。
危ない目には、あわないのが一番。

268 :投下前半  ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/05/25(月) 03:42:36.55 ID:6M9N4qIs0

「まあ、そんな風にいろいろあるけど。私は彼とはビジネスライクな距離感を保たせてもらってるの。がっかりした?」

心理定規は笑ってそう聞いたけど。
思いがけずいろいろ聞かせてもらえて満足したのか、ゴーグルの少年は首をふった。

「二人並ぶと華やかでお似合いだなーとか思ったんスけど。うーん。でも俺の居場所がますますなくなりそうなんで、正直ちょっとホッとしました」

正規構成員現在わずか三名の状態でカップル成立なんてされてしまうと。
リアルに見切りをつけているゴーグルの少年でも、リア充度の高い空気にやられてしまいそうだ。
おまけにリア充爆発しろ、とか冗談でも言おうものなら速攻でアイエエエエ! カキネ=サンナンデ!? とか言ってこっちが爆発四散するはめになりそうで恐ろしい。サヨナラはきっと言えない。
いや、リーダーだっていくらなんでも公私混同して仕事中もイチャつくなんてことはないと思うが。

「つうかノロける垣根さんとか想像できねえ」

プライベートにずらっと?が並んでいそうなリーダーは。
意外なことを想像しようとしたところで、謎が深まるばかりだった。
269 :ここまで  ◆q7l9AKAoH. [ sage saga]:2015/05/25(月) 03:47:34.83 ID:6M9N4qIs0
ドーモ

長くなったんで今回わけた
とりあえず投下だけ
続きはまた来るね
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/25(月) 05:07:07.58 ID:7BFS1Wf+0
おつ
更新待ってたぜ!相変わらずいい感じにそれっぽいな
つーかゴーグルと青ピの会話が一瞬痴話喧嘩的なものかと思ったわww
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/25(月) 13:46:57.18 ID:Z5X06rzao
垣根が出てきてないのが笑えるなww
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/25(月) 14:19:14.11 ID:Uy/4op+/O
1乙
戻ってきてくれてうれしいぜ
長くなってもいいからまた読ませてくれ
ゴーグル青ピとどんな話してんだw
安価はまだ期待しててもいいか?
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/25(月) 18:32:20.08 ID:eqmdTNfH0
某スレの影響かゴーグルがほのぼのしてるだけでちょっと感動するわ乙
274 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ sage saga]:2015/06/19(金) 01:40:41.10 ID:kzjStP0s0

「ビジネスライクかぁ。ビジネスって言えば。よく小遣い稼ぎしてるって言いますけど、心理定規っていつも何してるんスか?」

なんでそんなことを聞かれるのか。
そもそも『暗部』の知り合いなんだから、おかしな副業・バイトよりよっぽど『本業』にまつわるその他いろいろの方が気になりそうなものだけど。
不思議そうにしている心理定規にゴーグルの少年は、
「おにいちゃんは心配してます」とか言いそうな顔で続けた。

「よくあるじゃないスか。洋画とかで出てくるお姉さんはみんなちょい派手なカッコで『お金が目的じゃないの。お互いの人間関係なのよ彼はかわいそうな人なのよ』って話すじゃないスか。まさか…そう言うのはしてないっスよね?」

ちょっと品のない想像をしてますよ、と遠回し何だかストレートなんだかわからないたとえ話で尋ねられたが。
当の少女は「ハレンチですぅ」とぷんすかするとかおろおろ困ってしまう、みたいな妹系年下女子にありがちなパターンは返さなかった。

「どんな返事を期待してるのかな。あと私は純粋にお金目的だからね」

「それはなんか前に聞いた気がしますけど」

淡々とした心理定規にゴーグルの少年は苦笑いをしたがちょっとほっとした様だった。
だが、それも次の言葉を聞くまでだ。

「そうね。人によっては、ホテルに行ったりもするかな」

やっぱり?! と、目をむいて食いつくゴーグルの少年に心理定規は小馬鹿にしたように笑い返した。
それをわかってて狙ってやったのだろう。
意味ありげな言い方をした少女はリアクションに満足したのか口元を綻ばせる。
275 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 01:43:08.32 ID:kzjStP0s0

「コミュニケーションは相手との距離感もだけど環境も大事なの。仕事なんだからその辺はサービスしておかないとね。にぎやかなファミレスが安心するって人もいれば静かなバーのラウンジがいい人。
二人きりでないとなかなか口も開けない人、とか色々。でもみんな紳士的よ? 何故かよく言われるけど、そんなに気にすることかな」

誤解を招いてるのは主に服装とかじゃないかなぁ、とゴーグルは思ったけど口には出さなかった。
今はそんな風には見えないけど心理定規と言ったら夜の蝶、とかそんな言葉がしっくりきそうな派手なドレスがトレードマークだ。
ホステスとか水商売のおねーさんと言われるとそういう方面につい考えてしまう奴だっているだろう。

「それでもっスねえ。ちっちゃいこが好きな危ない『紳士』も世の中には居るんスから気をつけないと」

まるで「最終下校時刻の後はあぶないから出歩いちゃいけません」と注意する様な言い方だった。
心理定規は、
「こんな能力なんだし、使う相手は選ぶよ」とちょっとムッとした様に返した。

「それに相手は男の人ばかりじゃないわ。つまらないことでも生身の人間と話がしたい人もいるし、会話の中で考えをまとめたい人もいるのよね。
ささいなストレスや不安の解消、欲求を満たしてあげること。そんなことの対価に私はお金をもらうの。それなりにね」

相手のリラックス出来る距離感と環境で話をする。
やってるのは、セラピーにもならない人生相談や気楽な話し相手みたいなものよ、と言って心理定規はたいしたことなさそうに笑った。

「心理定規の能力って話聞くとすごそうっスけど。具体的にどうなるんスか」

「私の能力は、相手の心の中の距離を自在に調節することが出来るの。とっても大事な対象から、思い出したくもない嫌な相手まで。そっか、君にはまだ使ったことなかったっけ?」

やってみてもいい? と聞かれてゴーグルの少年はどうぞどうぞ、とうなずいた。

276 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 01:45:08.88 ID:kzjStP0s0

ソファから立ち上がると心理定規はゴーグルの席の辺りをうろうろと見て回った。

「そうね例えば……初対面の人間が入ってきて」

出しかけの荷物がごそっとおかれたカバンの前で足を止めると。

「へえ。かわいいわね?」

心理定規が手を伸ばすとパシン! とテーブルの上のフィギュアが動いた。
そのまま彼女の手が届かなさそうなところまであっと言う間に移動する。
心理定規はちょっと目を丸くして弾かれた指先を見ていた。

「あ……あの、すんませんっス。なんかすげー嫌で、つい」

いきなりフィギュアを遠ざけてから、ゴーグルの少年は慌てて謝った。
自分で能力を使っておきながら心理定規にそこまでしたことに戸惑っている、そんな風だった。
心理定規の方は、別にショックをうけた様なそぶりも見せずにテーブルにもたれた。

「って、君の大事な大事なお人形を勝手に触ろうとしたらこうなるわよね。でも、ここでいつもくらいの距離にするとどうかしら」

「あ、そんなじゃないっスね。良かったらそれ見て下さいっス」

実は垣根さんに作ってもらったんスよ! と自慢する表情はもうすっかり普段通りに見えた。
ふーん。そうなの、と言って心理定規は一見どこにでもありそうな美少女フィギュアを手に取った。
実際は世界にひとつしかない特別製だが。
ケースに厳重に保管しておかなくても劣化したり壊れる心配がないのでゴーグルの少年は、はじめておもちゃを買ってもらった子供のように一番のお気に入りを持ち歩いていた。
心理定規はそれを不審そうな顔でしばらくみていたが、いきなりそんなもので喜ぶ非オタもあんまりいないだろう。

「さてと。今の違いは君でもわかるかな」

「そっスね。心理定規なのわかっててもムカッとするんスね。びっくりしたっス。あと、やっぱ隣に居ていきなりふんいき変わると変な感じするっス」
277 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 01:47:38.46 ID:kzjStP0s0


「今のは距離単位二五〇。『社会距離』くらいの心の距離まで離してみたわ」

「なんとか距離ってのは何スか?」

ゴーグルの少年は聞きなれない単語に首をひねる。
年上の男の子の疑問にも心理定規は親切に教えてくれた。

「『パーソナルスペース』って知ってるかな。人には、他人に近づかれると不快感を得る距離があるって考え方。
『社会距離』は相手と問題なく話ができる距離。仕事相手や知り合いと過ごす時の距離感って言われてるのよ」

そのあとの説明をまとめると。
分類は大きく四つ。
遠い順に『公共距離』、『社会距離』、『個体距離』、『密接距離』と分かれていてそれぞれ距離とあてはまる人間関係が決まっているらしい。
さらにその範囲をそれぞれ二つに分けたものを『近接相』、『遠方相』と呼ぶそうだ。
これは能力者じゃない普通の人が考え出したものだから、もちろん実際の相手との距離のことよ、と付け加えると心理定規は体の前で両手を向かい合わせに広げて見せた。

「一番近い『密接距離』は四五センチから。親しい…家族や友人が対象になるかな。『密接距離』の『近接相』〇から一五センチは恋人に許される距離感、ってところかしら。
だから、四五センチ以下一五センチ程度の距離に不快感を覚えない人とは友人以上のお付き合いができるかもね」
278 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 01:58:42.44 ID:kzjStP0s0

『発火能力』や『発電能力』の様に、実際にある物理法則と関係のある能力者が既存のそういった化学知識を活用していることはよくあるが。
『洗脳能力』や『思念使い』、『念話能力』の様に宇宙の法則を乱していそうな、一見どうやって何をしているんだかよくわからない能力でも、そんな風に理論や学説を持ち出してくることがあるのか。
大元では、量子物理学に即している能力がほとんどだろうから、全くの無関係、無駄なんてこともないのかもしれない。

「へえー。心理定規の能力って心の距離を操作するんスよね? それでもそう言うの役に立つんスか」

「目安にはなるかな。私みたいな曖昧なものを扱う能力者は大まかに力を使うより、自分の中でも区切りを付ける指標があった方がいいのよ。
自由度が高くてもやり辛いの。ちょっとしたマイルールみたいなものかな」

でも。同じ距離単位でも、相手との関係で受け取る印象はずいぶん違うの。その辺りはひとまとめに考えちゃだめなところね、と心理定規は説明した。
そこまで話すとぱっと両手をあわせてテーブルから離れた。

「じゃあ、次はもっと驚いてもらおうかな。騙されないぞってつもりで用心してても全然いいけど」

少し離れたところにある椅子の前まで進むと。
心理定規は座る前に一度振り返った。

「ここでちょっと問題。今、私たちはどれくらいの距離があるでしょうか。どんな感じがするかな」

「さっきより、ちょっと……嫌な感じがするんスけど。席をどっか移したいくらいっスかね」

そう言うが、二人の間はゆうに三人分はスペースが空いている。
決して近すぎる距離ではないがゴーグルの少年はなんだか居心地悪そうにしていた。

「そうね。今の私たちは距離単位三〇〇以上だから君には近く感じるかも。これを段々近づけていくと、どうなるか。君にわかるかしら」

「それくらいなら。人間、嫌なやつにも敏感になるじゃないスか」

それを聞いて。
心理定規はなんだか楽しそうに笑った。
学園都市の能力者が持つのは一人ひとり違った能力だ。
自分だけの特別な力、に自信や誇りを持つような子どもは少なくない。
そして彼女もそんな子どものひとりらしい。
今からそれを披露してみせる、と告げた少女は何だかとても得意げな顔をしていた。
279 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:01:37.75 ID:kzjStP0s0

「さて、どうかな? 君は普通にしてていいよ。って言っても、今はあんまり会話もしたくないと思うけど」

そう言って、雑誌と自分の荷物をそばに置いてから心理定規は椅子をカラカラ引き寄せた。
特に予備動作やアクションはなく静かに心理定規の能力のテストがはじまった。
漫画やアニメにでてくる魔法や特殊能力みたいに技名を叫んだり始動キーのいらない学園都市の能力は、初見だとまず誰が何をしているかわからない。

「あ。ゴメン」

小さなポーチの中身をテーブルの上に並べていた心理定規の手元から、黒いキャップのガラス瓶が転がってきた。
パソコンに向かっていたゴーグルの少年は横目で、ラメ入りのマニキュアの瓶をキャッチすると机に置いた。
黙ってそれを押しのけるように心理定規の方に転がし返す。

「ありがと」

そう言ってにっこり笑うと。
心理定規は受け取ったマニキュアをポーチから少し、離して置いていた。


それから少しの間。

二人はちょっとずつ会話をしていた。
心理定規の能力の効き目はばっちり出ていたらしい。
いつもなら、まあ世間話くらいはするのだが。
ほとんど口を開くのは彼女の方で、それでもなかなか話は弾まなかった。
内容は特に大したこともない。
これから心理定規は用事があるとか。
『スクール』や、前にあった任務のこととか。
ゴーグルの少年のシャツに、値札のタグがつきっぱなしだったなんてつまらないことだ。
そんな風に何事もなく過ごしていた。
280 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:07:50.30 ID:kzjStP0s0

「ねえ」

横から聞こえた声の近さにゴーグルが振り向くと。
ちょうど漫画雑誌を横向きに置いたくらいの所に心理定規が座っていた。

「あ、れ」

「こーんなに近くに来ちゃったけど。途中で止めなくてよかったのかな」

大体二五センチくらいの距離を実際に、更に詰めながら。
頬杖をつくと心理定規はゴーグルの目を見上げた。

「どう? 私がどこで力を使っていったかわかったかな」

「えっと……さっき化粧品拾った時? と、あと……あ。服、のも? もしかして」

つっかえつっかえの少年の『回答』に少女はうなずき返した。
どうやら悪くない答えだったらしい。
そんな彼女の反応をみながら、ゴーグルの少年は喉の奥がつかえる様な変化を感じていた。
ひどく緊張しているような違和感。
そうは言っても嫌な気分のものではなかった。

「まあまあかな。会話の中での同調、共感、そう言うのも人の心の距離を縮めるには都合がいいの。
もちろん肉体的な……例えばこうして距離を縮めたり、触ったりもね」

そう言いながら、少女の手がすっと伸びて少年のシャツに触れる。

「後は、好感ね。いい気分になると警戒心も薄らぐし」

曲がった襟をきれいに直すと小さな手は元の様に戻っていく。
指先のオレンジの軌跡を、名残惜しくみつめていたゴーグルの少年を見て。
心理定規は愉快そうに。
小さく声を上げて笑った。

「表情も大事な武器よ。ね、さっきから私が何回笑って見せたか覚えてるかしら?」

「す…すごすぎて、軽く女子が怖くなりそうなんスけど……」

「女の子だけじゃないわよ。君だって相手や行先で服装に気をつかったりするでしょ? 
まあ、さすがにここまでは普段意識しないと思うけど。私はこう言う実際の感覚も能力に活用させてもらってるの」

木を隠すなら森の中、って言うよね。と心理定規は得意そうに付け足した。
何でそんなことをわざわざするのか。
問答無用で心の距離を維持しておさえつけるくらいこの能力なら簡単そうだった。
281 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:10:43.97 ID:kzjStP0s0

「だって……私が変えられるのは距離だけだから。感情も、前後の記憶のそのままだもの。いきなり変化すれば、どうしたって違和感は出ちゃうのよね」

いざと言うときにはもちろん手段を選ばないだろう。
それでもどうせなら、もっと上手に能力を使いたい。高めたい。
そんな口ぶりだった。

それでも。
頭でわかっていてどうにか出来るレベルのものじゃないくらい、今のゴーグルの少年にはわかる気がした。
それまでマウスにかかっていた右手をテーブルにつきながらゆっくり息を吐く。
だってそうだ。
心理定規は同じ組織のメンバーで。
かわいいけど女の子として特別意識したりすることはなかった。
それなのに。
隣に座った彼女とのこんな少しの距離が。
もっと近ければいいと感じたことは今までなかったはずだ。
こんな風に「冷静な判断」めいたことを考えてみても、気持ちはちっとも落ち着かなかった。

「でも、いつの間に…こんな」

心理定規から目をそらしてゴーグルの少年は少し考え込んでいたが、いったいいつの間に『普段以上に近い距離』に踏み込まれていたのかがわからない。
わかっていても無駄かもしれない。
目に見えない精神的な能力の干渉に抵抗は難しいだろう。

282 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:13:18.70 ID:kzjStP0s0


「さっきの『パーソナルスペース』もだけど、男の人は自分の体の前、縦方向に意識を向ける傾向があるから横には注意がいかないのかもね。それにしても、君はパーソナルスペースが広い『他人との接触を避ける』タイプだと思ったんだけどなあ。
いつもの距離単位からあとは全然気にしなかったね。鈍いのかな。それとも、好意をもつと相手に甘くなっちゃうの?」

「一生に一人の大親友や運命の相手、なーんて言うのも私なら好きなだけ、出会う前から作り放題」

「一目ぼれって言うのも便利な言葉よね。根拠のない好意を一方的に抱いても疑いもしないの。人間は思ってる以上に上手に自分のことを騙せちゃうんだから」

「ただ距離を変えるだけでも工夫すれば色んなことが出来るのよ。君が思うよりもずっと、ね。私なら……相手の行動だってやり方次第で操ることも難しくないかな」

どうしてでしょう、と問いたげに心理定規は笑った。

「なんで…っスか?」

そこで、やっとゴーグルの少年は声を出した。
それまで頷いたり、首を振ったりと最低限のリアクションは取っていたが。
隣にいる心理定規からすっかり目が離せなくなっていた。
普段と変わらない筈の声も表情も何だかとってもキラキラしていた。
視線ひとつ、何気ない仕草の一つまで。
彼にはとびっきりの、まばゆいエフェクトをかけたみたいに見えていた。
ゴーグルの少年は知らないが。
この時、二人の間の距離単位わずかに一〇。
肩が触れ合う様な近くにいても相手の存在を許せてしまう。
それくらいの親しみを感じてしまうように調節されている。
心理定規の能力に文字通り心を奪われてしまっていた。
283 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:15:53.14 ID:kzjStP0s0

「向こうがそうしてくれるのよ。好感のある相手には良く思われたいし、お願いだって少しくらい聞けちゃうでしょ? 
今ならちょっとわかるんじゃないかな。そんな気持ち」

手のひらで転がして、遊んで、飽きたらポイってできちゃうんだから。
そんな笑顔を向けられても。
ゴーグルの少年は今この瞬間、彼女を嫌いになんてなれそうもなかった。

「心理定規っ、ズルいっス」

「ズルいのは…イヤ?」

心理定規はわざとらしく眉を寄せてみせる。
からかわれているのはわかっていた。
能力で心の中を探られて、遊ばれているのはわかっていた。
わかっていても、それでも抗えない。
心臓は勝手に早くなる。
もちろんそんな顔だってサイコーに可愛いちょいセクシー小悪魔系あざとカワイイ心理定規ちゃんマジ暗部のヒロインごちそうさまですって気分になりますね最高にハイってヤツですねええ

我慢できなくなって、ゴーグルの少年は大きく息を吸った。

「はいっ! 好きです!!」

「あはは。君、面白い」

284 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:17:22.21 ID:kzjStP0s0


ソファに座ったゴーグルの少年は自分の手を握って下を向いていた。
隣には、さっきより近い心理定規。
この後の予定は聞いていたから出かけると言うのは知っていた。
それが気になると話したら、じゃあバイトの方も試してみない? と言われてしまい。
能力で心に干渉されたゴーグルの少年はいつも以上にされるままだった。
狭いスペースで、物理的にも心理的にも彼の逃げ場はない。

「そうね。何か、不満とかある? 『スクール』の活動とかで。あ。心配しなくても、私聞いたことは他の人に漏らしたりしないから好きに話していいよ」

「うーん……そうだなあ。大したことじゃねえっつうか。ここみたいな隠れ家でよく垣根さんと会うんで、一人でゆっくりゲームが出来ないのが最近の悩みって言えば悩みで。秘密基地独り占めだーってのが楽しかったんスけど」

「ゲームくらいすれば? 彼も気にしないでしょ」

「そうなんスけど。こことか PC もテレビも画面すぐ見えるじゃないスか。いや、えっちいのはしないっスよ? まだ俺じゃ買えないんで出来ないっスけど。ギャルゲじゃない普通のでもなんとなくやりづらいんスよ」

「ふーん」

「この前もっスね、たまたま鉢合わせたら何か出かけるって言うんでついてったんスけど。結局俺が良く行くとこ回っただけみたくなって。垣根さんは……よくわかんねえっス」

「君さ、それでよくハブられてるって言えたね」

それまで相づちをうちながら、彼女の言うところの「いい話し相手いい聞き役」をしていた心理定規がふと口をはさんだ。


285 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:19:58.04 ID:kzjStP0s0

尋ねると言うかなんとなく、不満めいたものを感じてゴーグルの少年はドキっとした。
彼女の機嫌をそこねるような話をしたつもりはないし、あるならもっと他のところだと思う。
ゲームとか、ゲームとか。ゲームの辺が。

「え。何でっスか」

「私もプライベートで出かけたり、一緒に遊んだりなんてしないよ?」

ちょっとむっとした顔もかわいいなあなんてのん気に萌えながら、ゴーグルは慌てて言い訳した。

「一緒に遊んだって言うか。遊んでもらったのか、つきあわされたって言うのか……あれは垣根さんにも原因がっスね? 
いや悪くはないかもしんないっスけど、あんな言い方されたら即『 yes 』の選択肢を選びますよ。俺は他の娘ルートでも本命の誘いは断れない、そんなプレイヤーなんスよ」

「ごめん。よく…わかんない」

「レン子ちゃ……ゲームん時の悪い癖が出たんですよ。それ以前に俺が、垣根さんに『結構ですおひとりでどうぞ』って言えると思いますか」

「それもそうだったね」

しょうがないなあ、と呟く横顔にほっとしつつ、ゴーグルの少年は思い切って提案した。

「じゃあ、あの今度心理定規もどっか行きます?」

「あら。デートに誘ってくれるの?」

「でっ、デート……はい。その、良かったら」

あえて説明しなくても、彼は三次元の女の子とのデートはしたことがない。
液晶内の2D女子なら数えるのも嫌になるくらい経験済みだ。自慢にはならないが。

「そっか、ありがとね。でも…私結構忙しいの。また、今度ね?」

トドメににっこり微笑まれて、遠まわしにお断わりされたかもなんてことはどうでもよくなっっていた。
286 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:22:21.71 ID:kzjStP0s0


「でも、君がそんな風に考えてるとはね。彼にはもっと懐いてるのかと思ってた」

「やっぱそこは世界が違うっつうか。俺けっこうヒールも好きなんで垣根さんみたいな人も嫌いじゃないんスけど」

ピンと来なかったのか首をかしげられてしまった。
そこでゴーグルの少年は、心理定規でも知っていそうな、超有名なアニメの悪役の名前をあげた。
けど、聞いた途端心理定規は何言ってるのこの子?! みたいな顔をしてきた。

「いや! すごいんスよ? ばいき○ま○! 頭いいしなんでも作れるし実はハイスペックなんスけど。
それをあ○ぱ○ま○をやっつけることにしか使わないんスよね。つめが甘いのと展開上いっつも返り討ちっスけど憎めない悪い奴って感じで。俺好きです」

「彼がばいき○ま○なら、私はどき○ちゃ○なの?」

「あれ、ぴったりじゃないスか? かわいいし」

ゴーグルの少年の熱弁にやっぱり首をかしげる心理定規はそんな悪役サイドのヒロインに似ているかもしれない。
雰囲気は気が強そうでわがまま、ツンっぽくて。
男相手にも命令したり手玉にとっちゃう系なイメージなのもちょっぴり。

「じゃあ君は?」

「俺は……そっスね。かびる○る○、とかじゃないスか」

「なんで?」

「いると画面が寂しくないけど、別にいなくてもいいガヤ要員とかパシリっつうか」

「……せめてマスコットってことにしておけば?」

下を向いたゴーグルの少年の自虐的なコメントに。
心理定規はものすごく同情したかんじで軽く肩を叩いてきた。
少年は、いつもよりずっと悲しかった。

287 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:23:52.01 ID:kzjStP0s0

「あの…俺からも、聞いて…いいっスか?」

「なあに?」

「心理定規ってどう言う人が好きっスか?」

好きって言っても色々あるんだけど、と心理定規は

「一緒にいて楽しいひと、って言うのはやっぱり大事よね。あとはそうね……安定してるひとかな」

「えっと…経済的に? それとも落ち着いてるって言う前向きな解釈もオーケーでしょうか」

「そうね。精神的にもかな。だから、君とか彼とかはちょっと、ね? 特に彼は仕事もプライベートも気分次第で振り回しそうなんだもん」

やっぱり自分が振り回したい系なんだろうか。
他人を操る能力者ってわたしがだれよりいちばん! って感じするけど実際どうなんだろうか。

「じゃっ、じゃあ肉食系より草食系のほうが好きだったりします?」

「うーん、そうなるのかなぁ」

わずかな可能性に、今のゴーグルの少年は本気で喜んでいた。
勢いよくガッツポーズまでしてしまう。
そして。
その勢いのまま、気になっていたことを思い切って口にした。


「あと、あ。名前。俺っ心理定規の名前知らないっス!」

それまで。
面白そうにゴーグルの反応を見ていた心理定規は、一瞬目を丸くした。
しかし、すぐににこにこした顔で目を細める。
288 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:25:24.88 ID:kzjStP0s0

「そんなの記号じゃない。呼ぶときに困らなければなんだって」

「でも大事っスよ。俺は『スクール』の『ゴーグル』ってのは結構気に入ってきたんです。ここでしか呼ばれないし。でも、能力名だと、それが自分なのか能力のことなのかわかんなくなりません?」

真剣に聞いてみたが少女から返事はない。

「そう言うの、垣根さんはなんか嫌がってるみたいじゃないっスか。だからもしかして……君も」

「……そう言うの、つまらないわよ」

さあっと波が引くように心理定規は冷めた目をして呟いた。
突然、目の前に見えない壁が現れた様だった。
そこにぶつかったゴーグルの少年はかあっとなって言葉を叩きつける。

「そんなことないだろ? なんで、そんな風に!!」

「ちょっと! もう、調子に乗らないの!!」

勢いあまって腕をつかむと心理定規にしかられた。
はっとして離した手を細い指でおさえつけられる。


「あ…俺、ごめん」

ゴーグルは慌てて謝ったが心理定規はうつむいていた。
やりすぎちゃったかな、と少し戸惑ったように呟いていた。

289 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:27:05.11 ID:kzjStP0s0

「仕方ないなあ。でも、これはもうおしおきね」

おしおき、なんて言いながら心理定規は隣に座ったままもう反対の手もゴーグルの少年に握らせる。

「じゃあはい。こうやって手握っててね? しっかり、ちゃんとね」

「はい」

おとなしく従うゴーグルはちょっとうれしそうにしていた。
今彼の心の中では心理定規はとても身近な存在になっている。
何も、警戒する様子も疑うそぶりもなかった。

「いくよ?  3 、 2 、 1 ……はい!」

「ひっ……?!」

短いカウントが終わると。
安心しきっていたその表情があっと言う間に変わる。

「あれっ? 急にどうしちゃったのかな? ごーぐーるくーん?」

「な、なに……なんスか? なんスかこれ?! め、心理定規っ止めて下さい!」

「何のことかしら。私何かしたかな? 隣に座ってるだけだよね?」

心理定規は目を細めている。
つかまえた虫で遊ぶ子猫みたい、と言うとちょっと可愛いが。
可愛い顔していじわるな笑みを浮かべていた。
一方、あわてるゴーグルの方はいっぱいいっぱいだ。

「嫌っス、とにかく嫌っスこれ! 怖いっス一体何と距離合わせたらこんななるんスか!! いますぐッ、能力を」

「え? なあに、きこえなーい」
290 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:29:05.52 ID:kzjStP0s0

ついさっきまで、能力で心理定規は本当にかわいいなあなんて状態になっていたゴーグルの少年だが、今の反応は真逆もいいところだった。
心理定規が嫌でいやでたまらない。
これもさっき調子に乗ったおかえしと言うことらしい。

「近い近い近いッ! ごめんなさい俺ごときが調子乗ってすいませんでした謝るんで今すぐどいてください!!」

「嫌ならはねのければ? ああ、手が塞がってると難しいの?」

ソファにひざをのせた心理定規は嫌がるゴーグルにさらに近づいた。
そして目の前に、さっきつながせた両手を持ち上げてみせる。
たったそれだけだが、隙の無い追撃だ。
それに一瞬固まるとゴーグルは目をつぶって頭を振った。


「へ。手、ぇ繋……ヒッ、無理無理無理だって! 勘弁して下さい!!」

「身動き取れないくらい嫌なの。ふーん。ねえ、そんなにダメ?」

ほぼ一方的に大声を上げるゴーグルの少年を心理定規は不思議そうに見下ろしていた。
291 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:32:02.44 ID:kzjStP0s0

そんな風に騒ぐ二人の声の合間に。
部屋のドアが開いていた。

「何だ? お前らずいぶん盛り上がって――」

「っく」

「あ。おかえりなさ」

ガチャン。
開いたと思った次の瞬間。
何事もなかった様にドアは閉められてしまった。
その向こうに消えてしまった垣根に向かってゴーグルは必死に叫んでいた。

「垣根さぁん! 垣根さん心理定規っ何とかしてください!! も嫌っス! これ、助けてくだざぁい゛!!」

入り口から中の様子を伺うと。
もう一度垣根は部屋に入ってきた。
ソファの上にはぶるぶるしながら半べそのゴーグルの少年。
その上に、楽しそうな顔をした心理定規が座っている。
メンバーの意味不明な状況を見下ろしてリーダーはあきれ返った顔をしていた。

「一体何してんだお前ら」

「心理定規があ、ひど…これ…どけてくだ、ざい」

「ねえ、今の聞いた? 女の子に対してずいぶん失礼よね」

ぐすぐすしているゴーグル。
それを見下ろしてむくれる心理定規。
垣根は、はあ、とため息を吐くと面倒そうに頭を掻いた。

「お前もあんまり馬鹿で遊ぶんじゃねえ。うるせえだろ」

「はぁーい」
292 :268からつづき  ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 02:33:57.84 ID:kzjStP0s0

素直に返事をして心理定規が膝から降りた後。
ゴーグルの少年は恐怖のおしおきがよっぽど嫌だったのか、ものすごくテンションが低かった。
パソコンの前に戻り、椅子の上で器用に膝を抱えるとヘッドフォンをつけて『笑える動画』みたいなタグのムービーを片っ端から流しはじめた。
かわいい彼女がいきなり目の前でぐにゃぐにゃの遠い星から来た系のバケモノに変身したり、母親がモンスターに乗っ取られていたのを見てしまった。
それくらいのショックだったのかもしれない。

「ああ。こいつの能力、ムカつくだろ? 気をつけろ、エグいことも平気でやるからな」

「もう。私は無駄に、そんな趣味の悪いことはしないよ?」

「あれでいい方なんスか……一体何と同調してたんスか?」

からかうような垣根の言葉に反論していた心理定規は。
ふりむくと唇をつりあげた。

「え? ふふふ。ナイショ」

「うー、わー。だから怖いっスって」

髪を整えていた心理定規は鏡に向かってにっこり笑った。
それはとっても可愛い笑顔だったが。
今日、女子の怖さをちょっぴり知ってしまったゴーグルの少年はまっすぐそれを見れなかった。
293 :  ◆q7l9AKAoH. [sage saga]:2015/06/19(金) 02:39:16.34 ID:kzjStP0s0
ドーモ
垣根、ゴーグル、ときて心理定規ちゃんの能力のターン
距離単位の謎の数値が気になってたけど「パーソナルスペース」ってのがいい感じだったからこじつけた
レスと小ネタがまた今度
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/19(金) 07:49:55.03 ID:4gR2xwEs0

勉強になったが、よく考えたら自分の人間関係では生かせる場面がない疑惑

ゴーグルくんがビビりまくるものというと、背中から羽生やす系のホストぐらいしか思い付かない…
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/19(金) 15:52:02.36 ID:uUR+u3SzO
1乙
いつもネタだらけでウケる
ゴークルはもげろよ!
心理定規をひざ抱っことか吹き飛べばいい
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/06/19(金) 19:26:28.56 ID:pnrUKCIS0
>>294-295
ゴーグルがひざに垣根を乗せてるって?(乱視)
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/19(金) 21:01:21.37 ID:n0mynaJmo
なんだ。TDNホモか
298 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 23:02:37.65 ID:kzjStP0s0
ドーモ
過去レスまとめ

>>219
いくらネタやギャグといっても好き嫌いってあるもんね。ごめん。書けるものなのか興味がわいてしまった

>>220
その手があったか!

>>221
ごめんそれより先にゴーグルが。ゴーグルが、うん

>>222
安価いただきました!!やった面白そうなのがきたぞ!
もしかして女装なのか?ていこちゃんをご希望なんでしょうか
ギャグで全てが許されるなら垣根に真面目にバカをやってもらおうか

>>223
キリスト教系のみなさんは能力みせた瞬間にキレないでせうか

>>224
全レスはけっこう好きでしてるんだ。スクロール長くなるけどすまんね
もしそんなネタを番外で投下する時は事前予告注意書きsage進行、あとは本文反転ってここ使えるのかな。配慮したい
アドバイスありがとう。とてもためになる

>>225
な。イケメンだにゃー

>>226
良心のある方がここにも

>>227
鬱っぽくなるよなあ胸糞注意だよなどうやると鬱らないんだろうね
そこまで出来たらあとはスレを立てるだけだながんばれ(棒)

>>228
需要はあるんじゃないかな特定層とかに(棒)
ゼロなら何故こうなったのか、こっちの安価を振り返った>>1が泣く

>>230
不肖>>1めは申し開きもございませんのことよ

>>231
おまたせー……してます

>>232
ほしゅありですよ

>>233
がっつり暗部絡みなら15巻らへんの話かな
季節感ないけどこのSSまだ夏やすみじゃん。がんばってみたい。がんばって、うん。がんばる

>>234
大変お待たせしていた>>1です

>>235
すいません
二期の頃の盛り上がりを思えば確かに今は穏やかだけど三期が来たら再沸しないかな。三期まだ諦めてないよまだ。動く未元物質と垣根みたいぞ

>>236
すいませんすいません
なかったことにしてもいいんだけど書いてしまった。もったいないからそっちはそっちで活用するね
よかったな垣根あいされてんなかきね

>>237
1のパターンが読まれている……だと……
いや、今回は長かった。スレにきたけど投下はしてないからと>>1>>1は反省してみたり

>>238
ご心配をおかけしました

>>239
大丈夫だ。やめるときはhtml化だっけお願いして落とす宣言するから。>>1だって黙って落としたくはないぎりぎりなときあるけど

>>240
ありがとう。フォローしてもらってすまない
299 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 23:08:02.17 ID:kzjStP0s0
>>250
乙ありー!ありがとうがんばりますことよ

>>251
字面もキャラも一番面白いのは一方さんだと思ったんでやってもらった!

>>252
そんな感じ!一方さんの勘違い。わかりづらくてすまんね
関西弁デフォな青ピと、つっちーの分担が逆だったらこうはならなかった
メインは垣根と愉快な仲間たちなんだけど1が妄想を書き散らすスレでもある……スマヌ、スマヌ

>>253
ごめんちょっと怖すぎていろいろ吹っ飛ばされた。何その恐怖の権化極道な第四位。アネリ付き浜面でも勝てるのかそれは

>>254
それは一方弁とか言うンですかァ?

>>255
ミコッちゃんは何がいいかね
御坂(関西)「ビリビリ言わんといて! うちは御坂美琴ゆーんやっ!!」
関西弁だとこんな感じ?
方言変換のサイトに禁書の名言打ち込むと楽しいよ

>>256
すいませんすいません、すいません
キレた麦野みたいに言って貰ってもいいですか

>>257
こいつはドーモ
かわいいAAもドーモ

>>258
保守ありですの



>>270
乙ありー!それっぽいって何っぽいんだ
なんだそりゃって読み返したらたしかになんか痴話喧嘩だったw大丈夫だゴーグルはロリショタじゃないし青ピも2D美少女じゃないから

>>271
垣根は二人の心の中に居ましたよ

>>272
ありがとうそう言ってもらえると長文でもほっとする
虹嫁の包容力の話ですよ>電話
安価は進捗かな?次かな?
次回投下で200、その後201。222はまだだから間に本筋が入る(予定)
500くらいいったらまたやるかその辺で考える。一年またぐのが先かどうかヒヤヒヤ

>>273
乙ありです
某スレとはどこのことでしょうかと>>1は気にしつつ、ほのぼのですかええ何しろまだ八月ですからねとメタな発言をかまします

ドーモ
とりあえず前々回前回レスでまたな
お前ら本当にホモが好きか好きだな好きですね三段活用
予定では次がお待ちかねのホモ安価ですけどたぶん幻想はブチ殺す
300 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/06/19(金) 23:17:05.50 ID:kzjStP0s0
あぶないあぶない
>>252ちゃんのみたがってた『スクール』の武勇伝
>>249の続きなのですよー!
コピペサボってるのは見逃して欲しいのです。でないとゴーグルちゃんがうっとおしいことになるのですよ


垣根「『スクール』だ」
ゴーグル「お願いします!」
心理定規「……リーダーいつものやってあげて」
垣根「おう。聞きたいか? 俺の武勇伝」
ゴーグル「そのすごい武勇伝をゆったげて!」
垣根「俺の伝説ベストテン」
心理定規「…れっつごー」
ゴーグル「武勇伝武勇伝、武勇でんでんででんでん」
心理定規「れっつごー」

垣根「手ぶらで暗部の仕事いく」
ゴーグル「すごい荷物係がちゃんといる」

垣根「行列あっても並ばねえ」
ゴーグル「はい! 俺と下っ端で代わりに待機!」

垣根「雨が降っても傘はいらねえ」
ゴーグル「すごい翼があるから濡れません!」

垣根「ス◯バの注文めんどくせえな」
ゴーグル「すごい!『いつもの』でトッピング追加されてる!」

垣根「電車は滅多に使わねえ」
ゴーグル「えっ、自動改札に喧嘩売ってる?!」

垣根「意味はねえけどムカついたから、割り箸あるだけ割っといた」

ゴーグル「武勇伝武勇伝武勇でんでんででんでん」

バッサァ

ゴーグル「すごいっスよ。垣根さんすご過ぎっスよ! なんでそんなにかっこいいんスか? 教えてほしいっス!!」
垣根「しゃらくせえ」
ゴーグル「ぎゃあ! い、いきなり蹴ることないじゃないスか?」
垣根「そんなもん、言葉にした瞬間に色あせちまうだろうが!」
ゴーグル「かっこいーっ!」

バッサァ

ゴーグル「原作全然出番はないけど」
垣根「まだまだ活動終わらねえ」
心理定規「…ぺけぽん」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/20(土) 00:34:59.09 ID:yOuiCVwWo
心理定規のぺけぽんで俺の腹筋に会心の一撃!

>>273の某スレってのは
垣根「世界が悪意で溢れても」の事じゃあないかな?
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/20(土) 07:49:18.82 ID:EHAR3zgb0
>垣根「雨が降っても傘はいらねえ」
>ゴーグル「すごい翼があるから濡れません!」

翼と水滴を煌めかせながら雨の街を歩くホスト
面白さを通り越してある種の神々しさすら感じそう
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/20(土) 08:52:59.62 ID:VZUkczkYO
>>294-297
おまいらのおかげでホモごっこのコピペ思い出したぞどうしてくれる
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/20(土) 08:54:20.19 ID:VZUkczkYO

帰ってきたのにびびってドア閉めちゃう垣根かわいすぎか
でも心理定規サービスしすぎ?フラグ勃った?
305 : ◆q7l9AKAoH. [sage]:2015/06/21(日) 00:38:19.31 ID:jCisfFMW0
取り急ぎ

>>301
あーあそこか!ありがとう
シリアス暗部いいよなあ!かっこいいし
最近みなかったからちょっと心配してたけど生存報告きてたのか。よかった
ゴーグルは…かっこ良かったよな

頂点さんレベル5ブースターとかありませんかね。メルヘンブースターなんて贅沢言いませんから
キャラ別Bの腕時計みたいなデザインきらいじゃない
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/22(月) 17:22:30.91 ID:V/jS1NtDO

ここみた後に出てきたマンガの広告がギャルと地味なオタクが付き合うなんてーなやつでなんかドキッとした
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/23(火) 13:00:48.52 ID:3dLX9NzpO
心理定規がメッチャかわいいんだけど
垣根とはイチャつかないのか
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/23(火) 15:03:27.18 ID:5/rSleNAo
逆に考えるんだ。好きだからこそいちゃつけないと考えるんだ。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/24(水) 14:29:19.22 ID:PWNFgseNO
おまえら雑談もほどほどにな
おれは帝春も好きです
310 : ◆q7l9AKAoH. [sage saga]:2015/06/26(金) 00:29:05.99 ID:JnvHKwgO0
ドーモ
レスと報告

>>294
大丈夫だなんかのネタにはなる問題ない
心理定規が言っていた。相手からイニシアチブぶんどるのに年齢性別問題ないと
もし心理定規≒垣根であの反応だったら、後の安価分で阿鼻叫喚地獄絵図ですわ

>>295
そうですね。おまけにミニスカですよ

>>296
君も眼鏡の度があってないのかな?(近視)

>>297
しばらく悩んじゃった。「ただの」か

>>302
垣根「かっこいーだろ? メルヘンだぜぇ?」

>>303
電車の中でWカップルのやつかね

>>304
「よくわからんけど修羅場っぽい」状況で構わずはいってきちゃうのは超能力者でも麦野と削板くらいだとおもう
定規ちゃんは格下相手になめてたらちょっと反撃されたんで仕返しをですね
って良くしつけられた予測変換ですね

>>306
それっぽいのみかけて調べたらタイトルずばり3D彼女でびびった

>>307
かわいい心理定規大好きだけど、出来る女っぽいクールなのも好きでついツンクールになてしまう

>>308
おんなごころってむずかしいのな

>>309
別に気にせず雑談してくれ。1は投下ん時に顔だすくらいだけど
埋め立てる勢いじゃなきゃ全然。保守代わりにもなるしね


安価>>200が28日以降になりそうなので一応
本文をあぶり出しで投下、どうやってもレス数が過去最多になりそうなので読みづらさを含め事前報告しておきます
モブのダサ良い名前が無事ついたのでひとあんしん
311 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2015/06/26(金) 00:33:52.46 ID:JnvHKwgO0
>>303
ググるついでに改変したけど
ネタはこれでいいんでせうか

『スクール』でコピペ改変

ゴーグル:組織のやつらとホモごっこで盛り上がってたら垣根さんがそれっぽく「挿れてもいいんだぜ?」って俺の膝に乗って肩に腕回して
抱きつきながら言ったんだけど、
俺が「垣根さんいつももっと切羽詰って言うじゃないスかw」って返したせいで今周辺の空気がデカイ任務中みたいになっててヤバい
何より笑いが取れなかった垣根さんの無表情がヤバい

『超能力』でコピペ改変

垣根:超能力者でホモごっこしてたら一方通行がそれっぽく「やだァ早く挿れてェ」って俺の膝に乗って肩に腕回して
抱きつきながら言ってきたんだけど、
俺が「お前いつももっと上手にねだれるだろ?」って返したせいで今麦野が大爆笑しててすげーうるさい
何よりこっちを見てる食蜂の笑顔がヤバい。こっちにリモコン向けたら容赦しねえぞ

312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/26(金) 01:23:40.77 ID:WL9zEGJAO
みさきち腐女子疑惑ww
クッソワロタwwww
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/26(金) 15:53:58.05 ID:lwCz4qiT0
みさきちwwww
この場に御坂さんいたらどうなってたのだろうか
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/26(金) 20:44:09.72 ID:oAn/qenYo
顔真っ赤にして目を手で覆う(指の隙間から覗く)んじゃない?
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/27(土) 18:21:11.55 ID:6H+HHBK5O
みさきちわろたwwww
SSもだけどこういうちょっとしたネタすきだわ
また楽しみにしてる
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/29(月) 22:03:37.87 ID:Dk2XOFmwO
もう29日だよ>>1
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/29(月) 23:04:26.68 ID:dRd7G9W1o
28日以降(6月とは言っていない)
SSは待ち難きを待ち・・・忍び難きを忍ぶ事だと昭和天皇もおっしゃっていたよ。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/01(水) 15:26:07.35 ID:NpRwQ9Jy0
SSでのみさきちって腐ってること多い気がしないでもない

HTML化されなければいくらでも待てる
むしろHTML化されてもずっと待ってる、ずっとずっとずっといつまでも…
エタって数年経つようないくつもの垣根スレだっていつかは再開するはずだからずっと待ってるんだよ……(ハイライトoff
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/01(水) 21:38:27.55 ID:HdPs7ZKRo
そうだよ(便乗)

待てばこのSSも愉快な仲間たちシリーズもいつかは復活するんだよ(ガンギマリ)
320 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2015/07/02(木) 00:42:10.74 ID:uW//TFY30
ドーモ
まず前回のコピペ改変ですが。えーと垣根が好きな人には「者」がちゃんと見えているはずですね1にはみえます。嘘です
脳内補完をおねがいします

そしてこっから>>200の安価分を投下します
特殊ネタなので
あぶり出しsage投稿ですよろしく
ながくて辛い
321 : ◆bdfKbGMUnwwb [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 00:46:50.99 ID:uW//TFY30



ザリザリと何かが擦れる音がしていた。
不愉快だ、と垣根は雑音に眉をひそめた。
開きかけたまぶたはまだ重かった。
頭も鈍い痛みがある。
体にかかる怠い重さと不快感から逃れるため彼は目を閉じようとしたが。
視界の端に映ったきらめきが垣根にそれを許さない。
光源は光を照り返したナイフだった。
危機感が鈍った感覚に警鐘を鳴らす。
垣根はそこでようやく「なにかおかしい」と感じることが出来た。


「やっべぇ。縛る前に上剥いとけばよかったんじゃね? 腕抜けないじゃん。服切る? え、それならやっぱ起きてからしたいんだけどイイ?」

「お前ほんと頭わりーなー。 つか脱がす必要あんのー?」

「なんかさあ刃がゼンゼン通んないんだわスパっとイカねえ。ナニコレ何製? 新種の超合金シャツ?」

「ここに運んできて裸じゃねえやつとか新鮮な。逆に」

近くでは緊張感のない声が次々と上がっていた。
遮音性の高いイヤホンを耳に挿したまま外の音を拾った時のように、聞こえづらいぼんやりとした音声が垣根の耳に届く。
沈みかけた意識を引き上げると。
彼はまだはっきりとはしない視界で辺りを見回した。
うつむき気味の姿勢のまま、静かに視線をめぐらせ状況を確認していく。


どうやら、垣根は椅子に座らされているようだった。
腕は更にその後ろで縛られてでもいるのか。動かせそうになかった。
今まで気絶していたのか。それとも眠らされていたのか。
どちらにしても随分と舐めた真似をされたものだ。
目がさめる前は……どうしていたか。
確か、喫茶店でコーヒーを注文した。
口をつけた記憶はなかったから運ばれてくる前に何かされたのか。

そうして思い返し思案する垣根の視界が大きく揺れる。吐き気をもよおす程の強いめまいが襲う。
おまけに頭もひどく痛むせいか、考えが思うようにまとまらない。
能力の使用に必要な演算に集中する以前の問題があるように感じられた。
まるで、考えると言う作業そのものが、のしかかる重い痛みに端からすり潰されていくようだった。
322 :こうか? >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 00:56:44.29 ID:uW//TFY30


見える範囲に男が三人。
一人は垣根の前に屈み、折りたたみ式のナイフをチラつかせていた。
残りも若い男だ。いずれも大学生くらいの同年代に見えた。
だがいかにも不良を絵に描いたような、路地裏のスキルアウトとは少し違う印象だった。
服装も雰囲気も全員バラバラだが。
身綺麗だった。
いい服に時間と金を割くだけの余裕があるのだろう。
そして。
服や香水だけでは隠しがたい汚臭がした。
軽蔑すべきクソ野郎に共通した、濁った臭いだ。


どうやら垣根がいるのはどこか建物の中らしい。
薄暗い部屋の中では時間も場所もはっきりしない。
床も壁も打ちっ放しのコンクリート。
生活感のない室内は清潔さには程遠かった。
埃っぽく湿った空気に、垣根は舌打とうとして。

更なる違和感に気付かされた。

「あー? こいつやっと起きたんじゃねー?」

「おい、お目覚めだって。はじめんぞ支度しろ」

好き勝手喋っていた男たちが垣根に注目し、ドアの開く音がした。
どうやら垣根の背後からもう一人、歩いてきたらしい。
カツコツとひときわ硬い靴音が床を叩く。
手には小型のハンディカメラを持っていた。
垣根の前まで回りこむと、そいつは神経質そうに眼鏡のフレームに手を伸ばした。

「これで……映ってんのかと。今時旧世代のビデオとかどんだけアナログかと。マニアックだと」

「今度の客はテープでねーと嫌なんだとー。デジタルデータは幾らでもコピーも修正も効くからとかなんとかー。
でも能力者マトにしてわざわざつかまえてくんだからすげーよなー」

「コイツのために店ごとやったんだし……おお、すっげ! なぁやっぱりオレらニュースになってんじゃん。やっべぇの」

ナイフを畳むと男は、いじっていたスマートフォンの音量を上げた。
横向きの画面の中にはネットニュースの動画が流れている。

323 :よしよし >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:03:44.68 ID:uW//TFY30

今日の夕方、第五学区の喫茶店で薬品の流出事故があったと報じられていた。
バイク便のドライバーが荷物の受け渡しを店内で行った際に薬品の梱包に不備があることを荷受人が発見し、その場で中身の無事を確認した。
その際、容器内の高濃度の麻酔ガスが漏れ出し当時店内に居た従業員、客を含めた一二人が昏倒。
その後周辺の通行人が異変に気付き警備員に通報したため、被害は調理場で火にかかっていた鍋が焦げた程度。
幸いにも重症者や火災、関連した事故の発生には繋がっていないと言う。
荷受人は「中身がなにかは知っていたがまさか開けただけでこんなことになるとは思いもしなかった。本当に予想外の事故だった」と繰り返しそれだけをコメント。
安全管理の欠如、管理者の怠慢だとアナウンサーが淡々と語っていた。
その時店内の一人が、それも超能力者がそんな騒動の陰に隠れて連れ出されたことは。
きっと誰も知らない。

状況をひとつひとつ、ゆっくりと噛み砕くようにしていきながらも垣根は落ち着いていた。
気付いたら拘束されて知らない場所に居て。普通ならパニックになりそうなものだが、
「何でこんなことに?!」なんて、ありがちな第一声も垣根にはふさわしくなかった。
取り乱す暇があったら、ほかのことに頭を使う方がましだろう。

彼の身上ではこの状況を引き起こしそうな理由が嫌と言うほどあった。
何しろ暗部組織に所属する超能力者だ。
目的も金目当ての誘拐、交渉用の人質、下らない私刑。おかしな実験のモルモットに、なんてのもありそうだった。
そして敵になりそうな相手も多い。
下らない実験を蹴ってやった研究機関、鼻で笑ってやった研究者個人、情報を掠め取ろうとするブローカー、格下の能力者、群れるしか能のない武装無能力者ども。

潰した相手の数もいちいち覚えていない。
恨みを買うことなど気にもしていない。
垣根にはその全てを真正面から打ち払える自負があった。
その点では、搦め手で来られた今回は少しばかり慢心していたと言えるかもしれないが。
何よりそれ自身が学園都市の抱える最高クラスの実験成果。生きた傑作の超能力者だ。
垣根の身に何か――起きることの方が難しそうだが――あれば、その損失はどれほどのものになるのか。
それを防ぐ意味でも、垣根には不本意ながらいくつか後ろ盾として機能するものもあった。
そんな相手におかしな真似をして、タダですまないことくらい考えなくてもまずわかりそうなものだが。
負けることがわかりきっていても向かってくる者も中にはいる。
目の前の状況を見る限り、残念ながら学園都市にはそんな馬鹿も多いようだ。

324 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:07:52.59 ID:uW//TFY30

「やばいのはこっからだろ」

「ハーイお客サマお名前なんだっけ? どれどれええっとカキネクン。え。コイツレベル5じゃん? やっべぇミンナ知ってた?」

次にメールアプリを開いていた男は仲間の前にそれを見せて歩いた。
何らかの標的のデータは最低限与えられているらしい。
それでも、超能力者と聞いても彼らの反応は大して変わらなかった。
大能力者以上はその力を兵器と比較されるくらいなのは有名だが。それにしたって拍子抜けするほど平然としている。

「アクセラレータとかレールガンは知ってっけどダークマター? ナニソレじゃね?」

「相手は情報だけでも値段が桁違いになる超能力者だと。暗部組織でアングラならマイナーってのも納得かと」

「それちゃんと効果あんのかー。事故るとやべーぞ。前みてーにボヤじゃ済まねーぞ」

「演算阻害装置は四台とも問題なく稼働中かと。薬も効いてる筈だと。搬送用の麻酔と運動機能の制限、それに加えて二種類投薬ずみだと」

カメラ役は片手で壁際に置かれた二台のスピーカーのようなものを示した。
この状態で確認はできないがおそらく垣根の背後にも同じようなものが設置されているのだろうと安易に想像がついた。
頭痛の原因はこれなのか、それとも何か投与されたと言う薬品の方か。まだ決まったわけではないが。
まず、普段通りには能力を使えない筈だと言うことを。
垣根は体の不調を通して体感していた。

「ちゃんとムショでも使われてるってイイヤツ借してもらってんだから。ヘーキっしょ」

「俺らはレベル低いから何ともねえよな。逆に」


「よおしじゃあカキネクン景気づけにカメラに向かって自己紹介オナシャース!」

バカにしたように騒ぐ男を垣根はただ睨みつけた。
いや。それしか出来ない。
体はまるで言うことを利かなかった。
立ち上がり、椅子を蹴り倒すことはもちろん。
目の前に並ぶクソ共の顔に唾を吐きかけることすら今は難しいだろう。
325 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:10:52.31 ID:uW//TFY30

「はいムリー! ですよねえってことで今日はお薬バッチなんで寂しく撮影スタートでえす」

「平気かー? 前効きすぎて呼吸止まった餓鬼いたろー」

「男と女は体格も効きも違うのだと。時間差でまた打つ。レベルの高い能力者には慎重になるべきかと……
それにあの子は弛緩剤の舌根沈下じゃなく別の薬が体質的に……」

「おーいDここカットで! ハッチャン泣かしてんじゃん? ヘイカメラ、こっちパース」

突然顔を背けた仲間からカメラを受け取ると、次の撮影係はハイテンションで寄ってきた。
あちこち遠慮なくレンズを向けてくる。

「なんだーまた思い出し泣きー? 商品ダメにしたり出荷の度に泣いてたら将来卒業式とか来た日にゃ泣き死ぬんじゃねー?」

「どうせこう言う奴が社会に出ると真面目ないい先生とか言われるようになんだろ? 逆に。世の中怖えよな。
はっちゃんの日誌キモいぜ、ガキ一人ひとり出荷まで毎日つけてんの知ってっか」

「外野がウルセーナー、ゴメンナーカキネクン。オッケー見えてる? 聞こえてっかな? うん、目はさめてんね。今からオニーサン達と遊ぼおな?」

駄弁る仲間をよそにカメラと、ペンライトを持った男は垣根の両目を確かめていた。
垣根の顎を掴むと顔を上に、横に向かせ不満げな表情を至近距離でレンズにおさめる。
そして背中に手を回すと垣根の腕を縛りつけていたものをナイフで切った。

「ハーイ。じゃあなにか一言ヨロシク」

「は、ぁ……かはッ。くゥ、お……」

何か。
このタイミングなら。聞くに耐えないほどひどい言葉が口をついておかしくない筈だ。
だと言うのに。出てきたのは言葉にならない音だった。
まるで呂律が回っていない。
息をするにも苦しげな垣根の喉は、か細い声しか出せていなかった。

326 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:13:36.86 ID:uW//TFY30

椅子に座らされたままだらんと手足を投げ出して。
顔をしかめるばかりの垣根に目の前の男はにやにや笑っていた。

「ああムリムリ。喋ると疲れるよ。さっき別のお薬も打ったからアタマもぼんやりすんだろ。手え動く? ムリ? 
そうだよなあっちこっちダリィよなあ。やっべぇっしょ。ヘイヘイミナサマ主役は準備オッケーよ?」

重たそうに頭を垂れる垣根を囲んで男達は立っていた。
そのうち一人が、うんざりした顔で口を開いた。

「こいつこのままヤっちゃっていいんかー? ちゃんと眠剤抜けてんのかよ。今までで一番活きがねーぞ。ぶっかけっかー?」

隣の男に水の入ったペットボトルを振って見せた。
それに、その反対側にいた眼鏡が首を振る。

「室内を無駄に汚すなと。暴れない位が好都合だと。それにこんなでも、自分の置かれた状況を理解するくらいの頭はある筈だと。
そうでないとこの先の作業の意味がなくなるかと」

「まあカキネクンもわかると思うけど。イケナイバイトとかしてっとイラネー敵が出来んじゃん? 
そんなオトモダチからやっべぇオシオキしてやってって話。ザンネンでしたあ」

「目を付けられた相手が悪かったって話だと。ここまで話よこしたのは学園都市の上層ってことらしいと」

「あー? オレどっかの研究所って聞いたぞー。サンプルをおとなしくしとけってんじゃねーのー? おかげでこっちもいい迷惑だよなー。
男回されてもよーたのしくねーよ」

「アホか。これで幾らになると思ってんだよ。前金だけでもガキさばくのの倍以上だぞ。カメラ回すだけで成功報酬いくらになんのか。
後から女なんか遊び放題だろ。感謝しねえと逆に。破格の超能力者様々ってよ」

露骨に報酬の話をし始めたところで、カメラのレンズを見た眼鏡が呆れた様に頭を振った。

「お前ら……全部撮ってるんだと。少しは口をつつしめと」

「イイじゃん。リアルなドキュメンタリーつうことで。お金でなんでもするオレらみたいなんでも、イイってオシゴトくるんだしさあ」

フレームを押さえてため息をつく眼鏡。
それに、
「今さらっしょ」とへらへらしながらカメラをもったままの男は垣根の前に屈んだ。

「今度のはズイブンおっきいコだけど。いつもの出荷用みたく色々仕込んどいたらボーナスでっかなあ」

「オイオイ逆だろ。余計なことはすんなって話。プライドたっかい能力者様をひでえ目に合わせんのが今回のコンセプトだろ。
こいつ楽しませてどうすんだ逆に」

「そこまで珍しくないかと。後々自分で手を掛けたいってやつは多いものだと」
327 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:18:31.92 ID:uW//TFY30

仲間うちで楽しげに、ゲスさのにじむおしゃべりをしていたかと思うと。
そのうち一人が垣根を振り返った。

「なー。まだ何されんのかわからねーって面してねーか。誰かこいつにちゃんと教えてやればー?」

「ああ、さっさとボコらねえから不安か? 今日はそっちじゃないらしいぜ。よかったな、ってそうでもねえのか。逆に」

意味ありげに、背の高い男が笑って見せた。
頭痛をこらえ、彼らの会話からなんとかつなぎ合わせておおよその状況は把握できても。
まるで事態が飲み込めていない垣根は眉を寄せる。
どこかの大馬鹿に金を詰まれたこの馬鹿共は。
厳重に能力者を拘束しただけで、まだ何もしていない。
一方的な制裁ショーでも始めるのかと言うのも違うらしい。
人質や何らかの材料として取引でもするつもりなのか。
こんな所に閉じ込める目的が見えてこなかった。

「今からレベル5のカキネクンを、オニーサン達でブチ犯しちゃいまあす。ちゃあんと動画も撮るよ? 
まあ今日は四人いるんで、満足してもらえっかなあと思いまあす。つうことで? ヨロシク」

「やっぱ頭数にはいってんかよー。今から帰っていいかー俺」

「ここで帰ると損だぞ。逆に。ほら、立たせっからそっち持て」

「お、流石に動揺しているようだと。そこまでは想定していなかったのかと」

カメラを受け取りにきた眼鏡は薄く笑うと。
頭がおかしいとしか思えない、連中の宣言に強ばる垣根の顔を見上げていた。

「やっべぇウケる。イイねえカキネクンさあモテるっしょ? イケメンだもんな。ま、男相手はさすがにはじめてっしょ」

「げー。あってもキモいだろこいつ俺より背あるぞー? つか重いー」

「なんのために作業台があんだよ」



328 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:21:55.55 ID:uW//TFY30

垣根は無理やり金属製の台の上に担ぎ上げられた。
さらに両腕には手錠がかけられた。
吊り下げるのには短く、動きを封じるには少し長い鎖を引っ張られて垣根は上体ごと顔を上げさせられる。
腕は相変わらず動きもしないので、縛られても意味はない。
彼を拘束しておくつもりのものではないらしい。

「チョーエリートのレベル5が、オレらみたいなのにこんなんされちゃってんのってどんな気分? 
ねえねえどんな気分? やっべ、カキネクン目チョーコエーんだけど」

怖い怖いと言いながら男の顔は笑っていた。
まるで有名な落語の一席の、その落ちのようだった。
これからはじめると告げられたのはクスリとも出来そうにない、ばかばかしいオハナシだが。

「こおゆう瞬間はオレレベル低くてよかったって思うわ。レベル高いヤツいじめんのってタマンネーじゃん」

「お。やっぱ超能力者って金もらってんだな。この服ブランドもんだろ? けど『開発』されまくってんのに、そっちは未開発かよ。逆に」

「流石に超能力者ともなると管理も厳しいのかと。この顔でこの歳まで手付かずかとうらやましい限りだと」

「いやー。ガキをいきなり喰っちまう先公もそーそーいねーだろ。そんで、てめぇが教師になるとかレア過ぎ。そーゆーのなんつーんだっけ?」

くだらない話に花を咲かせながら、男たちは分担して作業に取りかかっていた。
それを黙って聞かされる垣根は解剖実験前のラットのように台の上に置かれていた。
震える程度も、唇は動かない。
呟くことすら、ましてあらん限りの力で叫ぶことも。
出来ないことをその事実を眼前に突きつけられた垣根帝督はただ静かに喉を引きつらせた。

「なんだっけほら、歴史は繰り返すって言うだろ」

「あ。オレわかったかも。ズバリ負の連鎖じゃね? FAで。どお?」

「よくできました、かと。後で丸をつけてやると」

台に上げる時脱がせた上着を広げると男がポケットの中を探りはじめた。


329 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:24:10.76 ID:uW//TFY30

「あったあった。元から電源切れてりゃチェッカーで見つからねえはずだよ。でもこれなら電波も拾われてねえだろ。
もしストーカーがいても盗聴の心配も無し。お互い良かったな。逆に」

他の奴にこんな状況は知られたくないだろう、と告げると。
男は取り出した携帯電話を床に捨てて踏み潰した。
垣根は自分で電源を切った覚えはなかったのだが、今更意味のない疑問だろう。
垣根の居場所を知るための手段も、外部との連絡もこれでどちらも望めなくなった。

「ここはさあ公平にジャンケンで。勝ったヤツが超高額な一番槍の権利と、栄えあるレベル5のバックヴァージンゲットだぜえ!! っつうことで! ハーイミナサマ下唇噛んで復唱」

MC気取りでまくしたてる男だが。
その場の誰も返事をしなかった。

部屋の中でじゃんけんの掛け声が間抜けに響く。
それだけなら。
子どもが、友達同士仲良くおもちゃで遊ぶ前のような。無邪気さと興奮のある声だった。
だがこれから始まるのはそんなほほえましいものではない。
かつての子どもは学園都市でいびつに育ってしまったらしい。
その今日の玩具は、超能力者だ。

「はー。まじかよー、俺おまえらと違って男は好きじゃねーよー。譲ってやっから金くんねー?」

「別にオレらもホモじゃねえってば。ファッションホモってかビジネスホモ? 金貰えんならオスガキもいっかなあくらいよ?」

「くれぐれも普段の仕事とは違うことを忘れるなと。撮影を終えたら可能な限り完品で渡す条件だと。派手に傷などつけるな、と」

お遊戯の時間と呼ぶのも悪趣味な。
観客不在の見世物が人知れず始まろうとしていた。

330 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:26:18.78 ID:uW//TFY30

垣根の両足は金属製の台の上でおさえつけられていた。
腰を高く上げた屈辱的な姿勢を強いられながら、垣根には抵抗することが出来ない。
硬い台の上に押し当てられた頬は自らの汗と唾液で濡れていた。
開いたままの口で呻くように息をするのがやっとだ。
目の前に放り出された指先にすらろくな力はこもらない。
苦痛に足掻くこともかなわない彼に許されたのは、首から上をわずかに動かす程度。
それでも。
超能力者のプライドは折れてはいなかった。
逃げ、あるいは祈り。
現実から目を背けるようなことも、苦痛に怯え固くまぶたを閉じることも垣根はしなかった。
苦悶と憎しみのこもった両目にはまだ力がある。

後ろから突かれ揺さぶられる度にジャラジャラと鎖のすれる重い音が響いていた。
そこに、濡れた肉を叩く音と荒い息が混じる。

「やっぱラクなのはイイけどつまんねえじゃん。抵抗ナシ文句ナシ悲鳴もナシってオマエらおもろい?」

ひとり騒がしい男はそんな様子をみながら。
頭をかいてぐちっていた。
何を言ってるんだこいつ、と言いたげな仲間の視線に男は頬を膨らめる。

「オレはくやビクがすきなんだよお。でもこれカンペキマグロじゃん。冷凍モノカチンコチンじゃん。カントクう、もおチョイなんとかなんないんですかあ」

「あのなあ手抜いてやって抵抗されたらどうすんだ。逆に。それよりあいつ顔色ひどいけどいいのかよ。吐くんじゃねえの」

背中に張り付いたシャツが男の手で後ろに引かれる。
脂汗をかきながら垣根はゆるんだ口を懸命に閉じようとしていた。
しかし、短い呻きがその隙間から漏れる。
乱暴に、無様に。醜態をさらし続けるその姿を映していたカメラが一歩、二歩と被写体に近寄っていった。

331 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:28:39.20 ID:uW//TFY30

「だから薬が効いているのは四肢中心の筋肉の動きだと。痛みや感覚はそのままだと。この馬鹿共何度言ったら覚えるのかと。
おいおいお前も、喉だけは詰まらせんなと。今回は、洒落にならねえんだと」

「なに? また腹パン? げえ。オニチクな」

撮影係に悪態をつかれ、仲間に茶化された男はうっとうしそうに息をはいた。
最初から大した気もなさそうな態度だったが。
その間もゆるい抽送は続いている。

「おめーなー……ッみてたろーが。まだ、してねーよ」

「ま、こんなんブチこまれりゃ吐きたくもなるわ。麻酔でケツも弛んでんならよかったんじゃね逆に。俺らん中でこのケチのが一番凶悪だろ」

「えー、これで緩いんかよマジかよー。けっこー……締まるぞー?」

「お前遅いんだから口じゃなく腰動かせって。後がつかえんだろ」

「変わり映えのない画面は面白みに欠けると。お前のケツを拝んで誰が得すんだと」

「いやー顔見なけりゃけっこーイケる。男でもこっちの穴は変わんねえなー」

「お、何だよカキネクンイイ顔してんよ? な、ちょいちょい。こっち撮って撮って。やっべぇってオマエにらみコロしそおな目してるって。
んん? どしたあ、ムカツクー? ソウデスネーよかったなあ」

腰を打ちつける仲間の横を通り、台の前で男はしゃがんだ。
垣根と目線をあわせながらガキ相手の馬鹿にしたような口をきいている。
いや。
そいつは道端の野良猫にでも向けるように、俺は自分より目下のモノをかわいがっています、なんて言いそうな顔をしていた。

「こいつ幸せだよなあ。異能力以上でいいなら学園都市の能力者の半分くらいストライクゾーン入りなんじゃねえか」

「ただし好き放題出来る状況に限る、かと。流石にこういう男はどうなのだと」

「レベル5で遊んでイイとかウソみてえ。やっべぇなあ」

うきうきとした呟きに男達は顔を見合わせた。
駄目だこいつ、と馬鹿に心底呆れた目をしていた。
早く何とかしないと、いけなかったのかもしれないが。すでに手遅れだろう。


332 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:31:38.87 ID:uW//TFY30

「しんどかったねえオツカレ。アーンてしてみ? やっべぇのあんだよねえ」

「おいおい良いんかよー何食わすんだー?」

「オマエのでこんな苦しんでんだからカワイソじゃん。これくらいならヘーキヘーキちょっと元気になるだけっしょ。
ついでにさあ……ちょっとはキョーリョクしてもらえっかもよ?」

そう言いながら男はテーブルからプラスチックケースを取った。
中に入っていた薬の袋を次々破って中身を混ぜると。
垣根の口を無理やり押し開けて何色も混ざってカラフルになった粉末を落とした。

「ざ、けっ……ん?」

むせながらなんとか吐き出そうとしていた垣根は眉を寄せたかと思うと。
口の中を舌で探ってから。
何か考える様に目を細めた。

「ナー、ダイジョブっしょ? ラムネみたいっしょ。これ、元はガキ用の薬。『能力開発』の奴。
ハッチャンはキョーシになっから、色々ナイショでパクってきてくれんの。つかこんなん誰でもやってんじゃん?」

そう言って男は、別のケースからタブレット錠を粗く砕いたような薬の粒を手のひらに広げて見せた。
そのまま飴の様に自分の口に放り込む。

「いやそれ使い方おかしーだろ。今これにやったの、飲むやつじゃなく口で溶かすやつだろ? 一口で相当いってんだろ」

「ウッソォガキ用シロップのバカ飲みとかミンナしねぇの? 気分アガってタノシーよ?」

「自分で試すことではないかと。本来は小児相手の高吸収経口薬だと。それでも極少量で足りるもんだと」

経口摂取する薬剤の多くは、胃液での変質を避ける必要があるため小腸で成分が吸収されるよう加工される。
だがそれでは効果が出るのはどうしても飲んでから時間が経ってからになってしまう。
それを早める為には摂取法や薬の形態を変えなくてはいけない。
多層コーティングを施して一錠あたりの成分の吸収を調整し時間差で効き目を持続させたり。
他にも口の中、鼻、目など各所の粘膜から素早く吸収させることも可能だ。
学園都市では、対象である小さな子どもが自分でも簡単に扱えるように工夫されているものが幾つかあった。
服用からいちいち教師がついて回って、更に必要なタイミングで薬剤の効果がしっかり現れているかひとり一人調べていたら人手が幾らあっても足りなくなる。
そして。
多くのよく効く薬が、裏を返せば有効な毒物でもあるように。
本来の用途から外れたことに使用されるケースもあり得る。

「ハイ先生、オレいっつも鼻からいっぱい吸っちゃうけどダイジョブですかあ」

「小学校からやり直せるもんなら指導してやってもいいかと。お前頭は悪いが顔は良いのだと」

「わあ、先生のロリ! ペド! メガネえ!」

「眼鏡って悪口なんかー?」
333 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:39:29.07 ID:uW//TFY30

「あ」

騒がしいおしゃべりが途切れたのは唐突だった。
べえ、っと舌を突き出して垣根が台の上で口を開けていた。
ヒナが親鳥にエサをねだるようにして、空になった口の中を晒した。

「ホーラ、カキネクン気に入ったってよ? もおチョイいっとく? 他にもタノシくなんのあっけどどうする?」

取り出した薬の小さな包みをいくつかつまんで男はにやにや笑う。
ピンクの錠剤、ライトグリーンの粉末、そのほかどれもほんの少しずつしか入っていない。
そんないくつもの薬が垣根の目の前に並んだ。

「……こ、ちの」

かすれきった声の垣根は何とか目を動かして視線で選ぶ薬を決めていた。

「イイネ! 欲しがるねえカキネクン。デモサー。こんなんでもお薬ダメって言うキビシーのがいるから、オネガイしてみよっかあ?」

眼鏡の肩をつつきながら男がはやしたてる。
それを聞いた垣根は。
鈍った筋肉を動かしてぎこちなく笑みを浮かべた。
ほんの一口、と言っても本来なら成人(一五歳以上)が服用しても多すぎる量の薬を放り込まれて。
態度を変えた超能力者を男たちは下卑た目で眺めていた。

「お。笑ったぞ。けなげな、逆に」

「ウケるー超能力者がこびてんぞー。んなしょぼい薬にー」

「ハーイ、カキネクンの貴重なスマイルいただきましたあっ。カメラサン下から、ナメてナメて。アップも撮ったげて」

「言われるまでもねえんだと」


334 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:42:27.50 ID:uW//TFY30

「じゃあハーイ、リクエストのお薬ここでえす。このノリでジョーズにペロっと舐めてもらおっかなあ? 
ああ? これくらいさあ、出来るよなあオイ?」

袋をまとめて破ると男は垣根の顔の横に足をかけた。
革靴の上にそのまま薬をぶちまけて、低い声でハイエナのように笑う。

「んふ……は、ぁ」

べちゃべちゃと口の周りを汚しながら犬の様に舌を這わせる超能力者の姿に。
男たちは手を叩いた。
目論見どおり、順調に。
彼らの「撮影」が進んでいるのはもちろん。
笑えるほど哀れなオモチャの状況を楽しんでいるようだった。

「超能力者が靴舐めてっぞー。爆笑もん。写真撮っていいかー? 撮影駄目? ケっチくせー」

「あああベタベタじゃんよ。全然ダメじゃんカキネクーン靴フェラもおチョイガンバって。ちゃんとキレーにしてなあ」

まともに顎を開くことも難しい状態で口元に靴の先を押しつけられる。
笑い声の響く中で垣根はひとり顔をしかめていた。

「まだ一人目だが、そろそろ注射の時間だと。お前ら遊んでばかりで無駄に時間を使うなと」

「や、だ……ね」

にらむ様に目を細めると。
垣根はいーっと歯を剥いてから舌を出した。
明らかに馬鹿にした態度を取られると、眼鏡は使い捨て注射器のパッケージを乱暴に破り捨てる。
その横で、薬のパケットがまるで子どもをあやすようにつまんで振られた。

「今度はイヤイヤ入りましたあ。まあデモ注射はしとこうな? お注射したら、こっちもあげるから」

「な…ぁ、やく…ほし……?」

そう聞いて、垣根は不快そうな表情をたちまち緩めてみせた。
それを見ていた男が爆笑して、腹を抱えた。

「おーい催促されてんぞーどっちもさっさとやればー?」

335 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:46:39.43 ID:uW//TFY30

「くッ、ぁ……」

垣根は天井を眺めていた。
真っ黒な目はドロドロに濁った悪意を煮詰めたように沈んだ色をしている。
今度は仰向けに寝かされ、上半身は腕ごとしっかりと固定されていた。
服を脱がされ下半身は膝を曲げた窮屈な格好でキツく縛られていた。
流れ落ちる汗に濡れた喉がひゅう、と鳴った。

「ガンバってたけどやっぱイくもんだなあ。あんだけされたらしゃあねえっしょ。なあなあ、さっきのキョーアクなオモチャ。新作?」

「いーや、買ったやつ。最高クラスの静音仕様とか馬鹿にしてんのか。逆に。音で煽って耳から犯してナンボじゃんよこう言うの。
即ポチ衝動買いはダメな。音がしない以外はいい感じなんだけど一度バラすっきゃないわ」

男は残念そうに言うと、色とりどりの悪質なジョークグッズが幾つも並んだ中から一つ選んで手に取った。
根元に並んだボタンを一つ押すと。
垣根の中をグチャグチャに掻き回していたものが動き出した。
内蔵されたLEDで色を変えながらケミカルで歪な塊がまるで深海の生き物のように蠢いている。
派手な動きに反して小さな、それも耳をすませても聞こえるかどうかの音を立てて、と言うのが何だか奇妙だった。

「うーい。おつかれ、俺そんなつかれてねえけどな。逆に」

カチャカチャ音を立ててズボンを上げると、男は垣根の顔をつかんだ。
まるでチップでもやるように口に薬をざらざら放り込む。
そして、垣根が少し咳き込むのを見て。
テーブルに置かれたボトルの水を口元、ではなく顔目掛けて無造作に零した。

「口の中パッサパサ! パッサパサだよカキネクン」

「おめーはまたなつかしーのいってんじゃねーよ!」

ぎゃはは、と耳障りな笑い声が重なった。

336 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 01:54:11.14 ID:uW//TFY30

「……く、くくっ……あは」

むせながら薬を舐めとった垣根は笑っていた。
汗と水分でくしゃくしゃになった髪を顔からはらいのけることも出来ないまま、口をゆがめてただ笑っていた。
やけを起こしたのか。
幾つも流し込まれてすっかりクスリがキマってしまったのか。
ギラついた目を天井に向けて彼は楽しそうに笑っていた。

「おっとお。カキネクン楽しくなってきたんじゃね? じゃあ次はオニーサンと遊んでくれたらお薬な。上手に出来たら追加したげっから」

ガチャガチャと、あちこち縛られた垣根の拘束を解きながら。
次の番が回ってきた男はケタケタ笑っていた。

「毎度ゲージュツ的な縛りだけどこれやりすぎじゃね? こんなんオーケーなの?」

「いや、ローテじゃなかったらもうちょい置いとくんだけどな」

「げー。もーちょいが小一時間だかんなー。こいつも運が良かったなー?」

「お? 逆にい?」

何本も締められた細い革ベルトを外されると、肌の上には痛々しい赤い跡がくっきりと残っていた。
別の薬剤のパケットを開けると男は垣根の前にかざして容器を振って見せる。
垣根が首を振ると、うんうん頷きながらそれを全て自分で使ってしまった。

「これもイイんだけどなあ。メッチャキラキラすんの。カキネクンは、シャキッとする方が好みかなあ?」

「だから余り調子に乗るなと。元の商品価値を損なうと報酬に響くと」

「キツイのキマるとヤバいだろうけどあれくらいならいんじゃね。今のところ問題もねえしさっさと片付けばいつもより楽な気してきたわ。逆に」

男は気の抜けた様に返すとだるそうにあくびをした。
一人、二人と用事を終えた男たちは順調な仕事の進み具合に何の疑問も抱いていないようだった。
337 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:01:38.02 ID:uW//TFY30

「やあったのしかった! 久しぶりにガンバっちゃったんだけど。ハメはずしてw」

「なーにしてんだおめーは。それ好きなー」

「お前人のこと言えねえぞ。逆に。つか、痕つけすぎだろ。どんだけだ」

「カキネクンあっつくてオイシーんだって。みてみホラーここも真っ赤じゃん。心臓バックバクだし」

「だから、それは最後に一人でやれといつも言ってんだと。後どうしろと」

一斉に非難されて茶髪の男は唇を尖らせた。
子どもの様にむくれると台のそばでしゃがみ込む。
すぐ横の垣根の顔は、あちこち汚された上にものすごく不愉快そうだった。
さっき男が喜んでいた、視線だけで相手を殺しそうな目をしていた。

「エー。だってオレら生NGじゃん。イイだろこれくらいさ。ダイジョブダイジョブ、そんなに上手くかかんなかったしイケメン白も似合うからw」

「それはあくまで撮影用の預かり物だと。掃除。清掃。何より俺が不快だと」

カツカツと苛立った様子で床が叩かれる。
続いて。
パカーン、と間抜けな音を立てて。
投げつけられた除菌ティッシュのケースが男の頭に当たった。

「なんだよ。こまけえことはイイじゃんなあ。ま、よくできましたっつうことで。じゃあカキネクンやっべぇおねだり! しってくださあい!」

文句を言いながらもとりあえず顔は拭き終えると。
男はうれしそうに垣根に声をかけた。
垣根は少しうんざりした様に口を開いた。

「…ッさと、よこせ、よぉ……な?」

これでいいか、と言いたげな目を前に。
要求した男はブンブン音がしそうな勢いで首を振った。

「ブー。カワイーのがイイでえす。カワイーおねだりガンバってえカキネクンのお、チョットイイトコみてみたいーって。な?」

ぐぐぐ、と垣根の顔が更に険しくなる。
眉間にしわを寄せる垣根の前で、男は両手でバツを作ってみせた。
どこから出したのか、紙に「がんばれ❤がんばれ❤」と書いて大きく振った。
338 :やばい >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:04:53.02 ID:uW//TFY30

「ちょ、お…い?」

「もおチョイガンバってみよ! スゲー惜しかった。あっちのカメラに向かってワンモア!」

「クスリぃちょー、だ…ぃ?」

垣根は何とか搾り出すように口にした。
あっちゃあ、と男は顔を覆う。
馬鹿馬鹿しいほど大袈裟に残念そうに首を振ったが。
その顔は相変わらず笑っている。

「オニーサン的にはそこ『ら』がよかったけどオーケーガンバりました! ハーイお口あけて。
お薬ふたっつー。イイコちゃんにはさーらーに、もひとつオマケしたげちゃうぜえ」

「あー……っ、ケホ、ゴホッ」

「多いかんナー。しゃあないネー」

男は悪びれた風もなく、ただにやにや見ているだけだ。
息を詰まらせそうになった垣根は横を向いた。
もごもごと口の中で飴を転がすようにざらついた薬品を舌で混ぜていく。
目を閉じると、薬が回るまで荒い呼吸を繰り返した。

「……みず」

「んん? どしたん」

「たりねぇ、よ……ソ」

「お水かあ。ちゃんとお薬飲めたあ? 薄まると効かねえよ。んん、いいけどストローねえし、マウストゥマーウスでオーケーかなあ?」

「……チッ、らねぇ」

不快極まりない提案に、垣根は今度こそ。
はっきりと舌打ちした。
反抗的な態度をここにきてとられたが。
ペットボトルを持ち上げた男は見せ付けるようにそれに口をつけた。
うまそうに喉を鳴らしながら飲んでいた男は、不意に手を下ろして。
垣根の顎を持ち上げて、無理やり割りいるようにして口をふさいだ。

「ぷは、ァ……っげほ……ェ」

「欲しいって言ったのに吐いちゃダメっしょ。もったいねえの。なんだよカキネクーンまだツンツンしてんの? 
元気あんねえ。やっべぇ、コイツすっげぇおもしれえわ」

「あんだけ汗かかして水無しってのも有りじゃねえ? 回り早くて。逆に」

「鬼かよー粘膜死ぬわー。あーウケる腹いてー」


339 :nemui >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:08:26.66 ID:uW//TFY30

最後の一人は着替えながら途中で眼鏡をかけると後ろを振り向いた。

「ちゃんと撮れてたんだろうな? と。お前らは今ひとつ当てにならねえんだと」

「ダイジョブダイジョブ、今日もイイケツしてましたあ」

「……やる気あんのかとお前」

「つぎ、なにした、くれ……だ?」

何度目かの要求を垣根は静かに口にした。
それまでは機嫌よく応じていたのに、そのセリフを聞いた男の顔が途端に不満そうになった。
垣根はその変化をじっと見据えていた。

「お薬かよお。なんだよサビシーなあやっぱミンナそれ目当てになんだよなあ。なあなあもう一周しよおぜ? まだ尺ダイジョブっしょ?」

「別にいいけどお前はほいほいタマ出してアメをヤリすぎなんだよ。ムチはどうした。逆に。すぐそれでガキを駄目にすんだろ」

「『置き去り』を何人潰したかまさか忘れたとは言わないかと」

「なんだオマエら何イキナリdisってんの。 イイじゃんカキネクンはスッカリイイコだし。もし、オレらで『躾』しろって話がきたらサービスしたげよおぜ」

ね、と。
女子が大げさな仲良しアピールでもするように。
男は転がったままの垣根の肩を抱こうとした。
次の瞬間だった。

「ばっかじゃ、ねえ、の」

ジャリン、と鎖が鳴った。
持ち上がるはずのない垣根の腕が。
男の胸ぐらをがっちりとつかんでいた。

「は?」

次の瞬間。
ドサァ! と男の体が勢いよく後ろに飛んだ。
頭が床に落ちる前に宙で止まる。
仰向けの姿勢のまま、倒れることも出来ない男の腹や肩、 背中を抜けて。
白いものが突き刺さっていた。
だが現れた白い凶器は間にあった垣根の腕も貫いていた。
翼の形も取らないそれは、ただ適当に線を引いてギザギザに囲んだ部分を切り取っただけの様に見えた。
なんとも不格好な白い塊だった。
普段の垣根なら『未元物質』なら、そんな無様な姿は見せないだろう。
垣根の腕を巻き込んでいた『未元物質』がばらばらに崩れ落ちると。
うざったそうに首を振って垣根は起き上がった。
ゆっくりとふらつきながら立ち上がる。
両腕を軽く振ると、ガシャン! と床に手錠が落ちた。
340 :nemui >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:11:30.47 ID:uW//TFY30

「……っ、げほ。あー、痛ってえな。余計なことさせるんじゃねえっつうの。あーあ、見ろよ。どうしてくれんだ? 貴重な俺のDNAマップが」

ぼたぼたと床に落ちる自分の血液に舌打つ姿は、ついさっきまでされるまま転がっていたのが嘘のような豹変ぶりだった。
咳き込み気味ではあるが声もなんとか通っていた。
垣根は重そうに頭を振ると。
近くに落ちた薬を二包み分鼻に当てて吸い込んでから、新しいミネラルウォーターのボトルを手に取った。
一息で半分空けると残りを頭から被る。

「お、おい……だってまだ薬は、装置も」

「何やってんだと! こいつ何とかしねえと」

「なんでもいいだろ早くしろよ!!」

口ぐちにわめきはじめた男達を前にした垣根は。
小さく吹き出すと。
次の瞬間には声を上げて笑い出した。
肩が揺れる度に、濡れた髪からぽたぽた水が落ちる。

「おいおい、本気で言ってんのか? まだ間に合うって? 『もう遅い』の間違いじゃなくてか」

縦に大きく裂けた傷口から。
血が伝ったままの右腕を振ると。
垣根は目にたまった涙を汚れていない指ではらった。
おかし過ぎて我慢が出来なくなったらしい。


「テメェらも甘いんだよ」

笑い終えた垣根の声はゾッとするほど冷え切っていた。
男達は気圧されたのか押し黙る。
垣根は手のひらで顔を拭うと前髪をうざったそうにかきあげた。

「たかがこの程度でこの俺が。『未元物質』がどうにか出来るなんざ、本気で考えてたのか。
随分と可哀想な頭してやがんな。やべえ、哀れ過ぎてまた笑えてくんだけど」

喉を鳴らすような小さな笑い声に続いてガッ、ゴシャア! と騒音が響いた。
部屋の中に置かれていた対能力者用の機材は周囲の物を巻き込んで、全て潰れていた。
被害はそれだけに留まらなかった。
離れた床や壁も能力の影響かあちこち破壊されている。
混乱した室内の空気は先ほどまでとまるで違っていた。

341 :nemui >>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:18:06.92 ID:uW//TFY30

狩られるはずの獲物は息を潜めて反撃のチャンスを待っていたのだ。
たとえばの話だが。
頭のいいキツネを狩るにはそれより賢く対処しなくてはいけない。
狩場に慣れた猟犬が獲物に出しぬかれるなんて珍しくはないのだから。
それも、相手がキツネならと言う話で。
牙を剥いた猛獣相手に少々の訓練を積んだ犬ごときが太刀打ち出来るわけもない。

「暴走なんざビビって能力者やってられっか。本気で無力化させるつもりなら、意識そのものを奪っとくんだったな。
無様っぷりを思い知らせようなんざ、下らねー理由で俺を起こしておいたテメェらが悪い。弁明出来るもんならしてみやがれ、コラ」

場の支配権はすっかり変わっていた。
強者は弱者に、弱者は強者に。
その序列がかわっていく。
『未元物質』の出現がそれをはっきりと表していた。

「思考が鈍ってようが、たとえコンディションが最悪だろうが。演算が出来てりゃ能力そのものは使えるんだけど……
ああ。テメェらにはわかんねーか。クソ以下のゴミムシだったなそう言や」

それは汚されて貶められ、散々な醜態を今のいままで晒した者の態度ではなかった。
つまらない。道端のゴミを眺めるような目をしていた。
垣根は床に落とされていた自分の服を拾いあげた。
それらを順に身につける間、喉を慣らすように彼はゆっくりと語り続ける。


「まぁ、美味い飴も貰えたしな。あんなのはメシがわりみてえに散々食わされたけど。昔開発官に言われなかったか? 薬の扱いには注意しろって。
特にこれは血流と代謝の促進、ついでに感覚がえらく冴えちまうのが服用時に目立つ作用だ。
リスクとベネフィットを考えねえと、他の薬の邪魔をしちまう薬品があるって話も少なくねえ。
お勉強が足りてねーな」

ゆっくりとした言葉は噛んで含めるよう。
だが、まるで教える気のない台詞だった。
馬鹿を相手にする気はないのか。
勝手気ままに呟く口調は楽しげで、同時に吐き捨てるようでもあった。
342 :けしてなかったorz>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:20:58.58 ID:uW//TFY30

シャツの襟を直しながら語っていた垣根は。
黙って突っ立っている連中を鼻で笑った。
男たちは動くことも出来なかった。
さっきブチのめされた仲間の一人は中途半端なブリッジみたいな姿勢のまま、悲鳴を上げて。
まだ。
確かに動いていた。
白い凶器に貫かれたグロテスクなストレッチを並んで一緒にしたがる奴はここにはいないらしい。

「ほら、お仲間がついてこれてねーぞ。なんでテメェらはしくじったんでしょうか? 答えてみろよ。センセー」

「……あの馬鹿が、余計な真似をしたからかと。脳の血流が促進されれば働きは活性化される。鈍らせていた思考力が戻るだけでなく、
四肢の麻痺までこんなに早く抜けるとは……ちくしょうお前、俺たちを、騙していただと」

「おいおい、ちょっとそっちのレベルに合わせてやっただけで随分な言われようだな。それに痛みってのは人間の体に必要な信号だぜ? 
喜べよ。テメェらのお気遣いは最初っから充分過ぎるほど受け取らせてもらった、ってな」

と、そこで垣根は一度言葉を切ると、

「まぁ、一つ賢くなったろ? 超能力者を……あんまり甘くみるんじゃねえ」

堂々と言い放って最後にジャケットを手に取った。
軽くはたいてから上着に袖を通し他の着衣の乱れも確認する。
多少の汚れに目をつぶれば、見た目はいつも通りの彼の姿がそこにあった。
体は長い時間痛めつけられ、おまけに能力で傷ついている。
それでも。垣根は自らの力でそこに立っていた。

確かめる様に腕を、指を曲げ伸ばしながら垣根は首を鳴らした。
だるそうに一つ息をはくと。
その両手をポケットにさし入れた。

「大分……マシだな。悪くねえ、いい気分だぜ? 久しぶりに――心底ムカついてるよ。この俺がさぁ」

引き裂くような笑みと共に音もなく背中に現れたのは六枚の翼。
能力者としての圧倒的な力の象徴だった。
散々垣根を馬鹿にしていた男達は。
最早。
ただの一人も口を開くことが出来ずにいた。
目を反らすことも許されていない様にただその白い翼を見つめていた。
343 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:24:03.91 ID:uW//TFY30

ビリビリとしたプレッシャーが室内に満ちる。
その沈黙を破ったのは間抜けな電子音だった。
散らばった雑多な物に紛れて床に転がっていた携帯電話からだ。
垣根のものはとっくに踏み砕かれていたから、不愉快な三下連中のうちいずれかの持ち物だろうが。
垣根はうるさく呼び出し音を鳴らすそれを当たり前の様に拾いあげた。

『随分長い間音信不通だったが、問題はなさそうだな』

通話中のよその回線に勝手に割り込んでくる、なんてことも平気でやるくらいだ。
暗部組織の『制御役』を自称する正体不明のエージェントが、その辺の電子機器を乗っ取っても今更垣根は驚かない。
しかし彼は怪訝そうに眉をひそめた。
『未元物質』まで披露した反撃のタイミングで、まるで水を差されたように感じたのか。

「空気は読めねえ癖に相変わらず、ぞっとする程察しのいいヤツだなお前。まぁ、いい。これだけ時間があったんだ、勿論裏は取れてんだろうな」

垣根は馬鹿にしたように、挑む様に口にした。
「何があったのか」も「どうしたのか」も相手には聞かれなかった。
「垣根の無事」も、わかっていなければそもそもここに電話を掛けてくる意味がない。
それを踏まえて垣根は問い返した。

この状況を「何故」、「どうして知っているのか」は問題ではない。
余計な質問はする気もなかった。

だから結論だけを求める。
それが相手には可能だと彼は理解しているからだ。
この相手が、暗部の任務でも、それ以外のケースでも。
必要に応じて複雑に入り組み刻々と変わる過程を把握した上で。
その先を行くようでなくては。
甘んじて、下された指令を仰ぐなんて真似を今まで垣根は許さなかっただろう。
そこにあるのは信用でも信頼でもない。
暗部で仕事をこなすうち積み重なった事実に基づいた関係性だった。

344 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:27:42.91 ID:uW//TFY30

『そいつらは『人形製造(バックオーダー)』。『置き去り』中心の人身売買をしていた組織だ。
顧客や資金の出所も、今ある『素材』の保管場所も押さえてある。
今日の話を持ちかけたやつの方は……時間の問題だ。
それでお姫様、いつお迎えにあがりましょうか? 馬車の支度は済んでおりますよ』

電話の『制御役』は淡々とした口調から一転して明るいトーンで答えた。
メルヘンチックな言い回しが余計だが。
垣根に対する馬鹿にした態度はむしろいつも通りだ。
超能力者の略取なんて学園都市ではいい笑い話だ。
それだけでなく結果として、下衆な取引にも使えそうなネタを今回垣根は不本意ながら提供してしまった。
暗部の尾をどこまでとらえられるかは別として。
もしこいつらが、そして悪趣味な依頼主とやらがその気になれば脅迫の対象は垣根個人にとどまらないかもしれない。
だが。
そんな風にして『スクール』の看板に泥が塗られそうになるのを、みすみす見逃すつもりは上の人間どもにもないらしい。
そう垣根は理解した。
彼が無事なら撃って出るのに戦力は充分すぎる。

「そうか。舞踏会と洒落込む前にとりあえずシャワーと着替えだな……清掃車を二台回せ。
『酸性浄化』は多め、忘れんなよ。ちまちました後片付けなんざしてられっか。ここのゴミ処理と掃除は任せる」

雑用をこなす下部組織への指示を伝えると垣根は深く、長く息をはいた。
乾いた唇が愉快そうに弧をかく。

「ああ、そう急がせなくていい。ゆっくり来いよ。俺も……もう少し遊んでくからさ」

通話はそのままに、元のように床に落とした携帯をバキバキ踏み砕くと垣根は振り返る。

「さぁーて。お楽しみはこれから、そうだよな。簡単に楽になれると思うんじゃねーぞ? 死ぬ程ひでえ目なんざありふれててつまんねえだろ。
死ぬより悲惨な状況ってのをたっぷり味わわせてやるから感謝していいぜ。テメェらにふさわしい末路ってのを与えてやろうじゃねえか。
トレンド入り間違いなしの最新の生き地獄をさ」

垣根は笑っていた。
凄惨な処刑の宣言に軽々しく言葉を並べて。
いっそ晴れやかなくらい、心底楽しそうな顔をしている様に。
そう、見えた。

345 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:31:12.10 ID:uW//TFY30

「あー、まだダメだな。調子出ねえなぁ、なんかすっげえ外れるんだけど。どっかのバカ共がおかしな真似してくれたおかげだろうな。
っつうことは、これはもう仕っ方ねえよなぁ?」

垣根は白々しく男に尋ねた。
仕留める為に狩るのではない。獲物をただいたぶるだけのようなそんな態度だ。
首を掴まれ、背後の壁と白い翼に挟まれた男は答えられずにうめいていた。
刃物の様に鋭く尖った羽根が何度も男に突き刺さるが、どれも急所は捉えていない。
翼は撫でるような動きで体の上を行き来する。
無数の羽根の先はずぶずぶと浅く深く肉を抉っていた。

「く、クソぉ……」

「おっと。テメェらも大人しくしてろよ。そう焦るな、順番に相手してやるからさ」

そう告げた途端。
ゴシャア! と残りのメンバーも床の上に崩れ落ちた。
垣根はズボンのポケットに右手をしまうとその内一人に近寄っていく。
頭に足をかけると靴底の泥を落とすようにして顔を踏みつけ、上を向かせた。

「テメェは……そうだな。関節一つひとつすり潰してやる、とかどうだ? 人形気分が味わえそうだろ。
安心しろ、あっさり楽にはしてやらねえから。テメェの体が使いものにならなくなるのをただ黙って見てやがれ」

床の上で唸る男には一見、何もされていない様だが。
体に接した床に、わずかな亀裂が走っていた。
『未元物質』の作用による異常な重圧が男の体を押さえつけているようだった。
人間の体は意外にも丈夫に出来ている。
ゆっくりと少しずつ圧をかけていけば、数百キロなんて潰れずに耐えてしまう。

その時。
ごり、と鈍い音がした。
おさえつけられ赤く変色した指が、途中から空気の抜けた風船のようにくたくたになっていく。
目の前で少しずつ、端から順に。
自分の手指がゴム手袋のように変わり果てていくのを男は目の前で見せつけられていた。
大きく見開かれたまぶたの中でがちゃがちゃと目玉が揺れる。
それに見つめられた垣根は。
端正な顔に笑みを浮かべたままゆっくりと首を左右に振った。

「うわぁあああああ! ああああ……あ、お゛ッ」

ぼきん。
今度は、叫び出した男の頬からだった。
片方の顎の関節が「黙れ」と言わんばかりに一足先に砕かれた音だった。

「お望み通り遊んでやるよ。テメェら……俺を満足させてくれんだろ?」

無様に、なす術なく転がる男たち一人ひとりを見下ろして。
垣根は愉快そうに笑う。

「ははははは!! ははははははははッ!!」

バサリと白い翼が一閃する。
タガの外れたような笑い声と共に。
鬱屈とした部屋の中を真っ白な暴虐が吹き荒れた。
346 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:33:58.65 ID:uW//TFY30


「気をつけろ。そこのダルマ、それまだ生きてんぞ。せっかく失血なんざで死なねえ様に、余分なパーツを丁寧に削ってやったんだ。
クソつまんねえ一生を簡単に終わらせてやるなよ」

垣根は乱れた髪を手で直していた。
すぐ横で肉塊のお片付けをしている下っ端をイラついた様子で睨みつける。

「そういやすげー腕の医者がいるんだっけ? なあ、そこにそのガラクタ持ってったらそんなんでも治すと思うか? 
そいつら、きっと死にたがると思うけどさぁ」

今度はケタケタと腹を抱えて笑う。
機嫌がいいのか、悪いのか。
一転してはしゃいだ口調はいつもより子ども染みた様に聞こえるが判断はつかない。
声を出すのは垣根一人。
残りの連中は黙々と手順に従って、現状の清掃を行っていた。

「おいおい。お前らぁ……返事は?」

それまで勝手気ままに吐き出されていた呟きが一瞬で冷めたものに変わった。その一言に。
ざわざわざわ、と低いざわめきが広がった。
下を向いて作業していた男達はそれぞれ勝手に呟き返したようだった。
言葉に最低限従わなければ残虐な白い矛先が向けられるとでも思ったのか。
何人かは歯の根が合わないような震えた声だった。
凄惨な室内に広がるなんとも異質な光景だが、いやに上機嫌な垣根は反応があったことに自体に満足したのか。
微笑むと大きく腕を伸ばしていた。

「ったく……いってぇ。え、マジで痛えんだけど」


建物の外に停められていたのは一台のワゴン車だった。
ものはよくあるツーボックスフォードア。ただし、すべての窓に貼られたスモークで中はちっとも見えない。
すみからすみまで真っ黒な車に垣根が近づくと静かにドアが開けられた。
黙って乗り込むと彼はブランドもののジャケットを脱いだ。
どろりとした赤黒い汚れがあちこちついていたがしみついてはいないようだった。
不愉快そうにそれを睨むと、垣根はシャツもまとめて投げた。

「ったく、まだベタつく」

脱いだインナーで髪や顔、首周りをざっと拭うと返り血(その他etcドロドロしたもの)でぐしゃぐしゃに汚れたそれも垣根は放り捨てた。
革張りのシートが汚れるのはこれっぽっちも構わないようだった。

座席に置かれた紙袋を覗くと。
ビニールに包まれた、クリーニングしたての服が用意されていた。
見慣れた、なんの変哲もない、無機質な。
それでも日常の一端がそこにあった。
それを見て垣根は吐き出すように口を開く。

「まだ……だいぶ血腥えな。薄汚え、クソ共の臭いだ」

改めて、噛みしめるような言葉と共に。
右腕、その上に大きく走る傷を垣根は左手でなぞった。
出血は『未元物質』で既に塞がれていたが。
垣根の指は何度もそれを辿っていた。
347 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:43:10.22 ID:uW//TFY30

垣根帝督は決して長くはない人生のなかで。
有り余る、などという前向きな言葉でははかれない、過剰すぎるほど多くの経験を――良くも悪くも――積み重ねてきた。
その中でも先ほどまでの時間は、まぎれもなくトップクラスに『ムカつく』ひと時だった筈だ。
それでも、全てが無駄なものだったろうか。

打つ手はないと見えた状況が、覆せると気付いた時のひらめき。手ごたえ。
その為に必要なのはなにか、どうすれば手に入るのか。
窮地にあって少しでも己の勝利に向かってカードを引くだけの、それをかなえる力が彼にはあった。
はびこる現状を塗り替え、意のままに従わせる。
最後に笑う勝者はただ、一人だ。

勝てる。
負けない。

そう理解してからの時間は、次の手へ進めるために一分一秒でも早く過ぎるのを待つだけの退屈なものでしかなかったが。
垣根が得たのはそれだけではない。
怒りをねじ伏せ苦痛と、忍耐を幾度も幾度も重ねた上で解放された瞬間。
復讐をとげたあの味は。たまらなく甘美だった。
乾いた砂に水が次々と染みていくように。
喉を焼くほどの苦く重い甘さが垣根の脳に、腹の底に深く沈んでいった。

剥き出しの神経の束を肌の外に晒す様に。
薬剤で細く鋭く尖りすぎた感覚は余計な情報さえ耐えず頭に送り続ける。
要不要の精査もされず膨大で無作為な電気信号は、ガチョウの腹に流し込まれる穀類の様にただでさえ低下した脳の処理能力を圧迫していく。
少しバランスを崩せば即クラッシュ。
ハンドルからもう手は離せない。余所見をしている暇なんてない。
そんなギリギリまでアクセルを踏み続けた時のように追いつめられていた。
人間は本来ならきわめて強い緊張と恐怖を感じるように出来ているが。
同時にそれを克服し自滅を回避するための機能を備えている。

そんな危うい高揚感は体の中にまだ残っていた。
胸を打つ鼓動の高まりも、全身をめぐる血液のありえない熱も。
呼吸を忘れるほどの苦悶も。
得た一切の信号をみな快楽と錯覚するほど。


何より。
壊すことが、愉快だった。
思いついた暴力をただそのままに。
制限なく思い切り振り下ろすことが。
果物を剥ぐように、潰すようにして人の肉や骨を壊すことが。

タノシカッタ。

他のことが、頭の中の余計なものが。
チカチカ瞬く愉悦に押しのけられていく。
ぶつん、とスイッチを切り替えるように頭の裡が白く白く一色に塗りつぶされる。
タノシイからしているのか。しているのがタノシイことなのか。
どちらが先かわからないニワトリとタマゴのような問いはいつしか変わっていた。その境界もあいまいになっていく。
みずから尾をくわえた蛇のようにそれはぐるぐる回っていた。
今も、昔も。
わかっているしっていることがひとつあった。
善い悪い快不快メリットデメリット、正しいか否か。
それはみな一過性のゆらぐ価値観だ。見ようによっていくらだって変わってしまう。

そんなものより確かな一点を求めればいい。
単純な答えを掲げろ。

楽しんでしまえば、それでいいのだと。
348 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:48:11.86 ID:uW//TFY30

いけない、またタノシクなってきた。

「ふ、くくくっ……はははは、はははははッ!」

落ち着かない様子で垣根は膝を叩いていた。
おかしな高揚感はまだ体に残る薬品のせいなのか。
笑いが止まらないのはどうしてなのか。
ただただ、愉快だからなのか。

それだけ、なのだろうか。
むき出しの肩を掴んだ垣根は。
細い体を抱きしめる様に、背中を丸めて声を上げていた。

「あれ。お前……見ない顔だな」

ひとしきり笑い終えた垣根が顔を上げると。
声を掛けられた運転席の男はビクゥ! っと肩を震わせた。
乗り込んできたお偉いさんが突然ものすごい勢いで爆笑していたら、それだけでも充分恐怖の対象だろう。
男はこわごわとした様子でそうですかぁ、と尋ね返した。

「まぁ、下の奴らなんざ一々覚えちゃいないけど。でも新入りだろ」

若い男に所属を告げられると。
垣根は目を細めた。

「ふーん。そっか、最底辺の補充用かお前」

首を傾げて少し、考える様子の後。
垣根は前の座席に身を乗り出すと急にハンドルを切った。
ドライバーは慌ててブレーキを踏もうとしたが邪魔をされてなかなか止まらない。
その間も垣根がハンドルを切り続け。
騒いでいたドライバーが静かになる頃には車は道を外れて裏通りに停められていた。
辺りは暗く、人気もない。
真っ黒な車体は闇に溶け込むようだった。

「ひっ……あぶ、危ないだろぉ。何なんだよぉ」

「なぁ」

あくびを一つ。
首を鳴らして。
垣根は更に詰め寄った。
349 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:55:02.26 ID:uW//TFY30

「時間あんだろ。どうにも調子が戻らねえし、眠気覚ましだ。ちょっと付きあえよ」

何がなんだかわかんねえ、と言いたそうにまばたきした若い男は。
それでも何とかこの事態に対応しようとしたのか。
上着のポケットから携帯電話を取り出していた。

「あのぉ、予定だと、あんたを拾ったらまっすぐここに送れって言われてんだけどぉ」

「あのなぁ。俺は誰だ? そんなもん、俺がルールだろ。違うか?」

仕事内容を知らせるメールが表示された携帯の画面を見せられて。
ため息をついた垣根は勝手にサイドブレーキを引き、勝手にキーを抜いてしまう。
彼の態度に苛立ちや怒りは感じられなかった。
残念だ、と言いたげな憐れみに似たものが含まれているようだった。
諦めきった目をした垣根は肩をすくめて首を振る。
実に。
芝居がかった仕草だった。

「お前の仕事にはこれが無いと困るんじゃねえの? で。どうすんだ。そこまで言わねえとわからねえほど救えねえ馬鹿なのか。黙って俺に、従えよ」

ちらつかせたキーを握りこむと垣根はそこで再び笑った。
獰猛な笑みを向ける暗部組織のリーダーに、昨日今日入ったばかりの下っ端が歯向かえるだろうか。
答えは一つ。二択のどちらを選んだところで、恐らく結果は変わらない。

「なにをすんだよぉ…?」

「決まってんだろ。タノシイことだよ」

怯えきった男の姿を前に。
そう告げた垣根は楽しげに唇を舐めた。
350 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 02:57:14.93 ID:uW//TFY30

「なんで、なんで俺ぇこんな……こんなことっ…しに、来たんじゃぁ」

「うるせえ。想定外はこっちもだ。あー、まだ頭いてえんだけど。あとで調整すんのに面倒だから人の体に勝手におかしなもん使ってくれんなっつうの」

「リーダー? ちょ、あの俺本当……ほんとこんな趣味じゃぁないんだってほんとに」

「はいはいお前は大嘘吐きだな。せめてもう少し我慢してから物言いやがれ。なんだこのみっともねえザマは。
はぁ……やっぱさっきの、殺しといてやりゃよかったか? 死体にもなれねえのって悲惨だよなあ」

「聞いてねえ……っこんなの、え。待て待てほんとに?」

「いってえな。ったく、傷が開いたらどうしてくれんだよこの馬鹿。どうせならこっち押さえてろよ。ったく、まだ……グラつくな」

「まずいってまじかよぉ、うっそぉ……なんだこれ……っ」

「うるせえっつってんだよ聞こえねえのか! テメェの声は随分耳障りだな? 
ああ!? 雑魚は黙って、俺の、好きにされてりゃあ……んっ、いいんだよ……クソが!!」

「やばいっ……これぇやばいッ、らめらってぇ」

「静かにッ…して、ろっつうの……はぁ。殺すぞ?」

そう言ったきり、それまで一方的に口を動かし続けていた垣根も口を閉じた。
鈍い音を立てて。
しばらくの間車内は静かに。それでいて騒がしく揺れていた。

351 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 03:00:25.95 ID:uW//TFY30

「おい。車もう一台よこせ」

繋がった瞬間に垣根はそう下した。
相手は考えるより一瞬早く、それに応じた。
時差などない通話の間に短い沈黙が挟みこまれる。

『はい。ええと……確かこの前入ったって新人が向かった筈ですけど。ナビ通りならもう着いてる頃ですがどうしました。何かトラブルでも?』

「そうじゃねえ。運転もド下手クソだったからさ。ダメだな、ありゃ全っ然使えねえよ」

頭を掻くと垣根はちらりと後ろに目をやる。
停められた車は派手にボンネットが歪んでいた。
そのまますこし手を加えればすぐにスクラップに出来そうだった。
中のものは片付けた方が良さそうだが。

『じゃあその携帯から現在地を送ってください。すぐ代わりを用意させます』

リーダーの要求に応じると組織の構成員は彼の名を呼んだ。
不安や気遣いは感じられない、単純な疑問の声だった。

『それにしても一体何があったんです? こんな時間に突然連絡よこしといて、こっちが幾ら聞いても電話のあいつ何も言わないんですよ。
垣根さんが単独で出てるから迎えを出せばいいの一点張りで』

それを聞いた垣根の頭に突然、と言うのが少し引っかかった。
垣根と連絡が取れないと気付いたのはいつだ。
行方が追えなくなった時、『スクール』ではそれを捜索しなかったのか。
正規構成員でさえ、急に下部組織を動かした理由を知らされていなかったらしい。
まあ。
暗部組織なんてのは後ろ暗い人間の寄せ集めだ。
関連した組織も含めて一枚岩とはとても言えない。
詳細はともかくリーダーが行方不明、何者かに捕まった、なんて失態が組織内で不用意に広まるのを避けたのかも、しれない。

今は細かい思考の整理が出来る様な、そんな余裕は垣根にはなかった。
頭も体もぐちゃぐちゃで疲れきっていた。
後で考えればいいことだ。
そう疑問を断じると。
垣根は無駄にストラップをじゃらつかせた趣味の悪い携帯電話を肩で挟んで近くの建物の壁にもたれた。
再び袖を通した皺だらけのシャツが一層汚れる。
352 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 03:02:33.03 ID:uW//TFY30

「別に気にするほど大したことじゃねえよ。はー、しっかし俺も何してんだろな。らしくねえの。けど頭は少しマシになってきたかも……」

まるで。
そうしないといけないように。
何かに急き立てられる様に垣根はずっと口を動かし続けていた。相手のことはかまわない。
頭の中の雑音を散らすノイズ。代償行動の一つ。
独り言も気を紛らわせる作業だ。
壁を打つような。ただ地面を蹴るような行為でも無駄にはならない。
その感触から、自分が立っていると感じることが出来ればいい。
知覚できる現実が当人の世界の真実だ。
その足元がどれだけ汚れ歪んでいるかはまた別の問題になる。

『なにかしたんですか。似合わないこと』

「いや……一仕事終えて一服、みたいなもんかな」

無駄な雑談に応じる声に。
右のこめかみから側頭部を指で撫でながら垣根は答えた。
どくどくと指の下に流れる音は少しくらい落ち着いたかもしれない。

『垣根さん煙草なんてやりましたか?』

「だから。気が紛れっかなーって。効果はどうだか。わかんねえけどさ」

別に未成年だから、と言う社会通説一般常識に従ったわけではない。
なぜ好き好んで自分のコンディションを外的要因から乱されなくてはいけないのか。
垣根はそれが今まで疑問だったが。
もしかしたら息抜きやリラックスと言う面での効果だってあるかもしれない。
タバコとは随分とものは違うが、おかしな思いつきでもストレスのはけ口として役立つ期待をしていた。つもりだった。


353 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」  ◆q7l9AKAoH. [!orz_res saga sage]:2015/07/02(木) 03:05:32.79 ID:uW//TFY30

かといって食後の一服と言うのはどうか。
口直しのデザートと言うにも悪食過ぎるし酷いものだった。
八つ当たり、スケープゴート、いずれにしてもくだらない真似をしたのだとは、垣根も自覚していた。
そんなことでは満たされない。
屈辱はすすげない。
だが。
それをどう解決すればいいのか。今の垣根にはわからなかった。

垣根の実状も思惑も会話の意図さえしらない構成員はスピーカーから聞こえるため息をどう受け取ったのだろうか。

『お疲れですか。珍しく』

「ああ。あとな、すげー……喉が渇く」

では運転手に何か持たせます、と付け加えて通話が切れた。

過ぎてみればふり返ることもないくらい短い時間だった。

車を待つ間。垣根はふと頭上を見上げた。
分厚い雲に覆われた空は暗かった。
その上には月が出ているだろうか。
だが、垣根の目にはうつらない。
ならばそれは無いのと同じだ。それに遥か彼方、天上の意志は地上に立つちっぽけなものの事情には構わないだろう。
ただそこにあるだけ。晴れようが荒れようが変わらない。

つまらないことにいつまでも足を止め、立ち止まってはいられなかった。
今回降りかかったのは垣根にとって巨大な災厄ではなく小さな火の粉程度だった筈だ。
寝覚めの悪い、下らない。
だが。大したことのない問題だ。
垣根帝督に敗北は必要ない。どれだけその身を貶めても。
必要な二文字は、自分の腕でつかみ取る。
だから。
そんなものはきれいさっぱり忘れてしまえば、またいつものようにつまらない日々が帰ってくると。
その時の垣根は思っていた。
それ以外何があるかなんて。考えもしなかった。





突然別れを告げたありきたりの、昨日までが。
クソみたいな笑顔でやってきて片手を上げて挨拶する。
こんにちは垣根帝督、新しい『今日』がやってきましたよ。

ふざけるな、反吐が出る。



少年の日常は、その時一度、失われた。



354 :行間 蛇足・或いは  ◆q7l9AKAoH. [ saga sage]:2015/07/02(木) 03:08:11.50 ID:uW//TFY30


じりじりと舐める様な強い日差しの下で。
少女が二人、並んで歩いていた。
下校途中だろうか二人以外にも道には制服姿の生徒たちがあふれていた。
ファストフードの新商品、なんだか舌を噛みそうな名前のドリンクをストローでかき回していた少女は残念そうに肩を落とした。


今朝は何だかとっても萌え滾る夢を見たはずなんですけど、知らない人が出てきたんですよ。うーん。なんで目がさめるとちゃんと覚えてないんでしょうね


しらない人が夢に出てくるなんてあるんだ?あははーもしかして運命の人だったりして。
あ。ねえそこのお花かわいいねえ。これなんて言うの?


これですか? シロモッコウバラです。これは棘がないんですよ。えっと花言葉は、『夢は叶うもの』です


テキトー言ってない? 本当かな……そうそう今度の都市伝説も夢の話なんだよね。なんでもAIM拡散力場の干渉で他人の――




雑踏と街の喧噪にかき消されながら少女たちの他愛のないおしゃべりは続いていた。


355 :>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」でした  ◆q7l9AKAoH. [ saga sage]:2015/07/02(木) 03:14:23.17 ID:uW//TFY30

ドーモ。


>>200「ガチホモキメセク輪姦垣根」

モブマシセリフマシマシトウカチョモランマエロスクナメチュウニオオメカキネツラメ

とりあえずゴールしていいか
じゃあまた
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/02(木) 08:01:48.68 ID:5R/ytMyAO
乙、すげー乙
読み応えあってふっつーに面白かった、>>1の技量やべえ。
というか感服過ぎて何ホモ書かせてんだよって感想が一番にくるわww
マジで乙ww
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/02(木) 14:04:13.72 ID:eUF+Ye4DO
きてた!
まさか本当に書ききってくれるとは
激しくおつ
ただもしもしから読めないんだけどどしたらいい?
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/02(木) 17:10:01.02 ID:5R/ytMyAO
>>357
まとめ速報をgoogleで挟め、鳥ググればすぐいける
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