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マイリトルポニー&チェンジリング 愛情も魔法 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆QWO3xeEtwU [sage]:2014/08/17(日) 17:57:23.06 ID:QppAgQHQ0
・子供が見ても大丈夫なようにR-18的な展開はGともにありません
・後味は良い目のお話が多くなります
・時系列はティレックを倒した直後からのお話。トワイライトの家が壊れた関係上、そのあたりで矛盾が出る可能性はあります。
・主人公はタイトルから察しましょう。ただし、メーンシックスもきちんと出ます
・どこか別の作品で見たようなキャラが登場するかもしれませんが、気のせいです。きっと気のせいです。




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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 : ◆QWO3xeEtwU [sage]:2014/08/17(日) 18:22:41.01 ID:QppAgQHQ0

 一度目、プリンセスケイデンスを監禁し、シャイニングアーマーの愛をむさぼっての侵攻では、彼女達はケイデンスとシャイニングアーマー夫婦の愛の力の前に敗れた。ポニーヴィルの住人を根こそぎ廃人にした二度目の侵攻(アメコミ参照)では、トワイライトの魔法に対する才覚と、仲間を想う心に敗れた。

クイーンクリサリス(そういえば、私はなぜ、このように攻め込もうなどと思ったのだ? 確か、私は母親に言われて……私達は、か弱い種族だと言われて)

 クイーンクリサリスは、暗闇の中で一人歩き続けている。

クイーンクリサリス(母親は、私に、なんとしてでも次の女王を産めと……そのためには……)

 不意に、目の前に明かりが点る。

クイーンクリサリス「夢か……」

 周囲を見回す。周囲は石の壁に覆われた不思議な城の迷宮にある。だまし絵のような空間で、クイーンクリサリスは脱出することも出来ずにずっと閉じ込められていた。
 恐らくは、彗星の魔翌力で高まったトワイライトスパークルの封印が強化された結果だろう。兵隊のチェンジリングは一人また一人と死に絶え、仲間たちはそれを食料にして命をつないでいた。
 どれだけの時間が経ったのか。兵隊はもはや二人しか残っておらず、その二人ももはや命が風前の灯火。
 月日がたつことで、この石と階段と扉に囲まれた空間に掛けられた結界の魔法は薄く弱まっていることを感じるものの、それ以上に彼女の魔翌力も枯渇している。

クイーンクリサリス「……頼みの綱は、お前だけか」

 クリサリスの手元には先ほど捕まえた小さな鼠がいた。その鼠から愛を受け取れば、自分の魔翌力を回復できる。ある程度魔翌力が集まれば、弱まった封印を突破できる。
 その希望にすがるように、クリサリスは兵隊の肉片で餌付けする。ネズミはそれを食べると、お礼のようにクリサリスへと愛を返した。それはわずかなもので、魔法を放つのも満足には行くまい。
 あと少し、あと少しと粘っているうちに、ネズミは満腹になって眠ってしまう。
 ネズミが起きて、再び餌を食べるまで待ち、また眠る、また起きる。それを繰り返す。兵隊の命が薄れていく感覚を前にして、焦る気持ちがあってもどうにもならず、クリサリスは魔翌力が溜まるのを持った。


 そうして、七回目の食事が終った頃に、自分と兵隊の限界を悟る。ここで成功できるかどうかは謎だったが、ここで挑まなければ、二人のこのまま死んでしまう。意識もなくうずくまる兵隊を見て、クリサリスは覚悟を決める。
クイーンクリサリス「頼む……私に力をくれ」

 額のねじれた角にクリサリスが力を集中する。チャンスは一度、全身全霊の力を込めて、クリサリスは魔法を放つ。
 ドカーン(壁が崩れる)
3 : ◆QWO3xeEtwU [sage]:2014/08/17(日) 18:28:41.68 ID:QppAgQHQ0
クイーンクリサリス「成功したようだな……まずは食糧……私と、兵隊たちに……」

クイーンクリサリス(そういえば、残された兵隊は。ポニーヴィルに行かせた兵隊はどこに行ったのか?)

 そんなことを考えながら、クリサリスは虫を喰い、草を噛み、泥水を啜り、そしてそれらを倒れている兵隊に運んで言った。

クイーンクリサリス「まさか私がお前達の世話をするとはな……人生とは分からぬものよ。だが、残り少ない兵隊だ……死なせはせんぞ」

 目を覚ますまで、クリサリスは虫や小動物を狩り、口で噛み砕いて衰弱した兵隊に飲ませる。
 自分の食糧の確保も行わなくてはならないため、非常に疲れる作業であったが、やがて一人の兵隊が目を覚ます。

赤眼「クリサリス様……」
 赤い眼の兵隊が起き上がる。

クイーンクリサリス「起きたか? なんとか我々は脱出できたが、すでに私達はここに残った三人だけだ……何とか生き延びるぞ……」

赤眼「そんな、我々など見捨ててください、クリサリス様」

クイーンクリサリス「言うな、兵隊よ。他に兵隊がいるならそうしたさ……だが今は、あまりにも兵隊が少ない……せめて他の子供が生まれるまでは、寂しい思いはさせないでくれ……」

赤眼「すみません……私がふがいないばかりに」

「良い。お前らは私のために、最後は肉として残ろうとしただけ。ふがいなくなどない……今は私のために働けないことを許す。すべて許す……だから、早く自分で動けるようになるまで回復しろ。いいな?」

赤眼「ありがたき幸せです……」

クイーンクリサリス「ところで、お前には名前はあるか?」

赤眼「ありません」

クイーンクリサリス「だろうな……では、名前を授ける名誉をやろう」
 赤い眼の兵隊は目を輝かせている。
クイーンクリサリス「まだ起きていないのが残念だが、青い目で魔翌力が強いお前の名前は……今日よりパトリックだ。そして、目が赤くて力が強いお前には……ロイと名付けよう。パトリオット(Patriot)とロイヤリティ(Loyalty)にちなんでな……お前達。まだ私についてきてくれるな?」

ロイ「もちろんですとも。今眠っている彼も、答えは同じでしょう」

 ロイはまだ起き上がれないなりに敬礼をして、そのまま力尽きる。

クイーンクリサリス「……まだ、時間はかかりそうだな」
4 : ◆QWO3xeEtwU [sage]:2014/08/17(日) 18:29:49.52 ID:QppAgQHQ0
今日はこんなところで終了。この板は初心者なもので、改行とかで見苦しい点はどうかご容赦を
5 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/18(月) 20:38:49.47 ID:wutHkBwg0
 数日後

クイーンクリサリス:以下QC(どうするか……兵隊二人は歩けるまで回復したが、今のままではセレスティアやトワイライトスパークルには勝てん……まずは兵隊を増やして、どこかで愛を食べて回復せねば)

QC(そのためにも、潜伏できる場所で、なおかつチェンジリングのうわさが広まっていないところを探さねば)

 川沿いに歩く。

QC「あれは、フレイムポニー……」
 フレイムポニーとは、その名の通りタテガミが燃えているポニーで、マグマの流れを司るポニーである。
 燃えるタテガミの色はオレンジが最も多いものの、青や緑、白など様々な色と燃え方の違いがあり、体の毛色は他の種族と同じく色とりどりである。
 興奮すると体温が温度が上がってしまい、身の回りのものが危険にさらされてしまう。
 そのため、フレイムポニーは石草の大地と呼ばれる、非常に燃えにくい草木が生える魔翌力に満ちたこの地域にのみ暮らす少数民族である。

パトリック「どうしますか? 彼らと同じフレイムポニーに変身しますか?」

QC「いや、パトリック。普通のポニーに変身するんだ。奴ら、外界との交流を喜ぶと聞いている……いやまて。わざわざ変身に魔翌力を使うよりも、このままの姿で行けば案外……」

ロイ「上手く行きますかね?」

QC「上手く行かなければ、お前らが普通のポニーに化けて私を追い払え。私は悪党だとか適当に言いつくろえばいい。あとで普通のポニーに化けた私がお前達のリーダーとして現われる。
  まぁ、なんだ……泣いた赤ドラゴンのようなものだ」

ロイ「なるほど……では、まずはクリサリス様が一人で行かれるわけですね?」

QC「そうなるな。ロイ、パトリックも頼むぞ? もし受け入られそうならば、お前らも元の姿で来てくれればいい」

二人「了解です。ご武運を」
6 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/18(月) 21:01:41.71 ID:wutHkBwg0
 桃色の炎が燃えている、農作業中の女性にクリサリスが近づく。
桃色「おや……あんた誰だい? 見かけない顔だね」

QC「あぁ、我らは……その、ブラックポニーという種族だ。なんというか、その……災害で我らの集落が滅び、命からがら逃げてきたのだ」

桃色「あらまぁ、大変だったのね……しかし、随分身なりがその……みすぼらしいけれど、遭難でもしたのかい? 何か食べたほうがいいんじゃ……」

QC「良いのか? 食糧が余っているなら、そうしたいところですが……」

桃色「良いのよ良いのよ。ここら辺は私達しかいないから、食糧もそれなりに蓄えがあるし……そんな事より、お土産はないのかい? 食糧と引き換えってわけじゃないけれどさ。みんな外の人のお話とか聞かせてあげると喜ぶからさ。特に子どもなんかには懐かれちゃうよ」

QC「それは、なんというか……願ったりかなったりだ」

桃色「しかし、あなた……ポニーにしては変わっているわねぇ。しかも、アリコーン? もしやお偉いさんかい?」

QC「いや、アリコーンとはちょっと違うし、ブラックポニーと名乗っておいてなんだが、厳密にはポニーではないのだが……女王という立場だから、お偉いさんというのは間違いではないかもな。私一人で様子を見に来たが、兵隊も二人つれている。呼んでも問題ないか?」

桃色「それくらい問題ないわよ。今はただでさえ、食べ盛りの男たちが少ないんだ。増えてもらえると嬉しいくらいだよ。何もないど田舎だけれど、ゆっくりしておいき」

QC「それはどうも。しかし、私達のようなよそ者に対して随分と無警戒だけれど、そんなんで不貞の輩にいいようにされないのかい?」

QC(いくら何でも無警戒過ぎる……逆に怪しくすら感じるな)

桃色「盗む物なんて何もないよ、この村にはね。だから、馬鹿なことを考える奴もいないのさ」

QC「そうだ、名前を名乗っていなかったな。私の名は、クイーンクリサリス。よろしくな」

桃色「おやおや、これは失礼。私の名前はピーチタルト。名前の通り、タルトづくりは得意だから、期待してよね」

QC「それはいい。期待させてもらうぞ」

QC(予想以上に上手くいったな……兵隊二人を呼んで来よう)
7 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/18(月) 21:06:38.82 ID:wutHkBwg0
今日はここで終了

魔 力 と入力しようとするとなぜか『翌』の自我間に挟まる現象があるのだが、どういうことなのやら……


ところで、この板では画像を張るのってどうすればいいのでしょうか? 応援してくれる人がいたら教えてほしいです
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/08/18(月) 21:22:28.89 ID:b/KI/aHIO

突然ですがここで宣伝!!

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文句があれば↓スレまで!

クリリン「安価でサイヤ人と戦う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407567115/
9 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/19(火) 22:24:22.87 ID:vJ+4MKKz0
ロイ「成功したようですね、クリサリス様」

QC「あぁ、今はポニー達と敵対しても、我らは無力だ……問題を起こして敵対しないように気を付けてくれ、二人とも」
 二人は頷く。クリサリスがピーチタルトの前へ二人を連れていく。

QC「紹介しよう。こちら、左側にいるのがロイ。右側にいるのがパトリックだ。そして貴方はピーチタルトさんでしたね? お前ら、挨拶を」

ロイ「女王様をよろしくお願いします」

パトリック「同じく、よろしくお願いします」

ピーチタルト「おやおや、私まで傅かれると、何だかお偉いさんになった気分だねぇ。そんなに固くならないでも、私達なんて平民の中の平民みたいなものなんだから、失礼には当たらないわよ」

パトリック「クリサリス様の恩人は、我らにとっても恩人。無碍には出来ません」

ピーチタルト「そうかい、偉ぶったりしないで礼儀正しいって言うのは、いいもんだねぇ。(いい子たちだねぇ)」

QC(どうやら悪い印象は持たれていないようだな……とりあえず第一関門は突破といったところか)
10 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/19(火) 22:57:38.47 ID:vJ+4MKKz0
QC(悪意を持たれては愛を喰うことは叶わないからな……うけいれてもらえるのはありがたい)

 食料を与えてもらい、元気になったらしばらく仕事を手伝ってもらう条件で、村人は彼女らを温かく迎えた。
 この地域にだけ生える石草の魔翌力は建材として使える木にも及んでおり、決して火事にならない材木としてもてはやされているらしい。
 そのおかげで外界から商売に来るものも多く、水道や道路などインフラの整備はあまりされていないものの、意外に豊かな暮らしをしているらしい。
 クリサリスらに出された食事からもそれがうかがえ、トワイライトに敗れて以降、絶食や粗食で体力も衰えた彼女らにとっては、久々のまともな食事であった。。
 この村の住人は皆肉食ではないのだが、なぜか肉を出す準備が出来ていたようで、クリサリスが自分達は肉食であることを告げると、丁度捌いたばかりだという年老いた火炎ラクダの肝臓を振る舞ってもらえた。
 他の部位はあいにく口をつけることは叶わなかったが、栄養のある臓器だけに、彼女達が英気を養うにはちょうど良い食事であった。
 あまり王族などと接する機会がないせいか、村人たちは逆にクイーンという名を聞いても村人たちは怖気づいたりせず、普通の客人のように扱っている。
 『大きな女性だが、婿さんはいるのかい?』とクリサリスが聞かれれば、『何人でも構わんが、貰おうか?』と、女王らしく複数の男を侍らすのが普通という態度を見せつけたりもした。
 そんな冗談を言い合っているうちに、もともとの整った容姿が幸いしたのか、クリサリスに好意を向ける若者もいるようで。作り笑いの練習も役に立つものだなと、クリサリスは一人ほくそ笑んでいた。

QC(体力の回復をしなければならないがためにこの村に寄ってみたが……私を愛してくれる男性が現れるとは、好都合だ。魔法で自分を愛するだけの抜け殻にしてやって、男を使い捨てたらこの村を去ってやろうか……それとも、ここで兵隊を産んで戦力を整えようか……)
 そう思いながら、クリサリスは二週間をこの村で過ごした。
 その頃には、青いタテガミと薄青の体色を持つフレイムポニーのユニコーン、ラピダッシュ種の男であるブルーラブラドライトはクリサリスにべたぼれである。クリサリスは恋心を抱く男とクリサリスは親密な関係になって利用してやろうと、二人は夜に家を抜け出して会う約束をして昼の農作業を終えるのであった。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/08/19(火) 23:02:36.72 ID:s3IgUwCe0
MLPは珍しい、頑張れー
12 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/19(火) 23:17:20.67 ID:vJ+4MKKz0
応援どうもありがとです。そう言えば今日は終了宣言していませんでしたね……基本的に2レスで終了しますので、これからもよろしくお願いします。

ところで、トレス絵ですがキャラのビジュアルの確認ということで、ロイとパトリックを。
赤眼がロイで、力が強いアースポニーとの子供、青眼がパトリックで、魔翌力が強いユニコーンとの子供です
http://imepic.jp/20140819/836080
13 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/20(水) 21:27:58.54 ID:Hq/EsRNy0
ロイ「しかし、クリサリス様はいつまでここにいるつもりなのだろうか?」

パトリック「まだ、我ら兵隊の数は少なすぎるほど少ない。魔翌力の回復を待つのももちろん重要だが、それ以上に子種が必要だ。クイーンクリサリス様はブルーラブラドライトを篭絡して、魔翌力と子種を得るつもりなのだろう」 

ロイ「そうなると、あの快活な若者も廃人になるのは時間がかからんな。怪しまれる前に、どれだけ搾り取れるか……」

パトリック「それは塩梅次第だろう。クリサリス様の事だ、下手なへまはしなかろう」

 兵隊は、クリサリスの成功を祈りながらも、農作業の手伝いに時間を費やす平穏なこの生活を満喫している。もちろん、それだけではいずれチェンジリングそのものが滅びてしまうことになるのだが。クリサリスが『今はゆっくり休んで英気を養え』と命じた以上、彼らはそうするしかないのだ。
14 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/20(水) 21:51:39.14 ID:Hq/EsRNy0
ブルーラブラドライト(以下BL)「そう言えば、君はこれからどうするんだい? このまま、ずっとここにいるのかい?」

QC「どうだろうな。お前が望むなら、一緒にいてもいいのだが、お前はどうなんだ? よそ者と結婚なんかしたら、顰蹙を買ったりはしないのか?」

BL「結婚は出来ない……」
 目を逸らす。
QC「そうか、この村ではそういうしきたりなのだな」

BL「そんなしきたりじゃないさ。じいさんばあさんがクリサリスに婿はいるのかとか、いないなら貰ってくれとかって聞いてきただろ?」

QC「あぁ、そう言えばそうだな……そうか、しようと思えば結婚できるのか……(じゃあ、なぜダメなのだろうか?)」

BL「まぁ、生まれた子供が普通のポニーだったりしたら、同年代の子供と遊ぶ時に大火傷したりとか、いろいろ不便になりかねないから、結婚したところでこの村で暮らすって言うのは考えづらいけれど……よそ者と結婚するのがダメだとか、そういうしきたりはない。ただ、その……俺、生贄なんだ」

QC「生贄、だと? そりゃまた、どんな役割だ?」

BL「ケルピー……角が生えていて、ヒレが翼のように巨大な、シーポニータイプのアリコーン。ポニーなのに肉食で、肝臓だけは食べないんだ……一か月に一度、火炎ニワトリとか、火炎ラクダとかの肉……肝臓以外のすべての部位を要求してくるんだ。ほら、君が来た日はちょうどその生贄を差し出す日だったから、だから君のために肝臓を用意できたんだ。
 そして、家畜のほかにも一年に一度俺達フレイムポニーのユニコーンを要求してくるんだ。魔翌力を大量に持ち合わせているユニコーンの味は格別なんだって。
 そいつは……この大河の上流にある湖に住んでる。そこらへんは、ここと違って温泉のない綺麗な澄んだ湖なんだ。俺らの村ってさ、高台にあるだろ? あれ、毎年洪水が来るからなんだ」

QC「ふむ。その洪水から家が流れるのを防ぐために高台に作ってあるのだな?」

BL「そう。その洪水のおかげで、ここら辺の土地には火山から運ばれた石草の魔翌力を含む土と、栄養に富んだ土が運ばれてくるんだ。俺達は北の方のアースポニーみたく、土地を肥やす能力がない。だから、そういうものに頼らなければここでの生活が成り立たなくなる……水の流れを司るあいつは、それを人質……人質じゃないけれど、その洪水をせき止め、石草の農業を出来なくさせてやると脅して、俺達に生贄を要求しているんだ」

QC「お前らの手でどうにかできないのか?」

BL「炎で水中にいる相手に立ち向かえって言うのかい? 無茶を言わないでくれ……」

QC「それはいつだ? もしやとは思うが……」

BL「君は勘がいいのかな? もうすぐだ。次の満月の日だ。その日に俺は喰われなければならない……そういう事情を知っているから、村の女性は俺の事、相手にしてくれなくってね。君を好きになったのは、現実逃避なのかな……」

QC「(空には新月に近い月が浮かんでいるな……)あと二週間か……」
15 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/20(水) 22:00:59.59 ID:Hq/EsRNy0
今日の更新はここで終わりです。
オリキャラであるブルーラブラドライトは、ラブラドライトのCMを持つフレイムポニーです。
こいつとケルピー以降はオリキャラはしばらくでないかも

http://imepic.jp/20140820/791200
16 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/21(木) 21:36:07.83 ID:dsqqzQux0
QC「そのケルピーとやら、私が引き裂いてやろう」

BL「何を馬鹿な……俺達の相性が悪いってことを差し引いても、強大な魔翌力で太刀打ちできない相手だぞ? 奴は、川の流れすら変えてしまう力を持っているんだ」

QC「心配するな、私も……(ニヤリ)」

 クリサリスが河を睨みつけ、ありったけの魔翌力をぶつける。

QC「多少は強いつもりだ」
 すると、水面が真っ二つに割れて道が出来る。

QC「ついて来い。川の底がどうなっているのかを肉眼で見ることが出来る、貴重な機会だぞ?」

BL「なんてこった……こんな、すごいポニーと俺は話していたのか……」
17 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/21(木) 21:51:43.12 ID:dsqqzQux0
QC「われらブラックポニーは、愛を糧に生きるポニーだ。それゆえ、荒んだ世の中、戦争や犯罪の蔓延る世の中を生きる事は出来ないか弱いポニーでな……弱い私は、この村も平和にしなければならない」

BL「これのどこがか弱いんですか……(あぁ、敬語になっちゃった……)」

QC「強いのは私だけさ、直属の兵隊であるロイやパトリックはともかく、末端の兵隊はそう強くない。それもこれも……我らが……」
 言いかけて、クリサリスは口をつぐむ。

BL「我らが……?」

QC「いや、何でもない。気味悪がられて、愛されていないせいなのだ。ほれみろ、この穴開きチーズのような脚……」

BL「確かに、慣れればどうってことないけれど、初めて見たら気味が悪いかもね……でも、笑った顔が可愛らしいと思うけれどな……」

QC「可愛いだと? 私がか? (私も女だ、容姿を褒められれば嬉しくはあるが……兵隊は美しいというばっかりだったから、何だか違和感がある……)」

BL「うん、笑った顔が、可愛い。少し、無理して笑っているような気がするけれど……」

QC「そう見えるか? 私は、そうだな……(本当は心から笑っていないとは……言えないな4)」

QC「女王は常に真面目な顔をしていろと親に言われたのだ(適当に嘘でもついておこう)」

QC「だから、お前達みたいに大口を開けて笑うのは慣れていない」

BL「どうしたら慣れるかな?」

QC「お前が自然に笑わせてくれればいいんじゃないのか?(出来ればの話だがな)」
18 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/21(木) 21:58:02.30 ID:dsqqzQux0
今日はこんなところで終了です。クリ様いまいち扱いが悪いけれど、セレ様倒すレベルの強さにもなれるんだよね
19 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/22(金) 22:25:22.56 ID:Qb4TJNQI0
BL「俺がクリサリスに自然な笑顔とか……出来るかな?」

QC「やるのさ。でないと……」
 クリサリスは、一人で川底から上昇する。

QC「こうなるぞ」
 その言葉とともに、クリサリスの魔法で割られた河は、本来の流れを取り戻して、ブルーラブラドライトが溺れる。クリサリスは一瞬だけ溺れさせてすぐに彼を救出した。

QC「先ほども言ったように、私はか弱い種族だ。愛がなければ何も出来ぬほどにな……だから、そうだ。残された時間、私を愛するんだ。
 愛が枯れるまで、死ぬほど私を愛して見せろ。そのケルピーとやらがどれほど強くとも、お前の愛が深ければ、私は勝てる」
 クイーンクリサリスは川縁に彼を仰向けに置くと、首を起こせばキスを出来る位置に彼を置く。

QC「どうする? 私を愛してみるか? (前足を差し出す)」

QC「私に尽くす気があるなら、私の蹄に口付けをするのだ」

BL「やっぱり、可愛いじゃないか……(そんなことを言われたら、愛さないわけにはいかない)」

BL「仰せのままに、女王様」
 まだ仰向けのままのブルーラブラドライトの影にクリサリスの影が重なる。
20 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/22(金) 22:42:01.73 ID:Qb4TJNQI0
 その日から毎日、ブルーラブラドライトとクリサリスは夜に抜け出して仲睦まじく振る舞った。
 さすがに連日連夜ともなるといくらかの住人は気付いていたが、ブルーラブラドライトの生贄という立場を思えば、そっとしておいてやるのが一番と思い、何も言わないことにした。
 また、クリサリスがブルーラブラドライトが生贄であることを知らずに付き合っているのではないかと懸念する女性もいて、彼女にそれとなく聞いてみたこともある。
 しかし、クリサリスは『わかった上で付き合っている』と自信満々に即答するので、クリサリスはブルーラブラドライトの残された時間に喜びを与えているのだろうと、理解を示した。
 皆、一年に一度生贄を要求するケルピーを憎んでいることもその時分かった。
 この人口の少ない村で毎年一人の生贄を要求され続ける日々は非常に苦労していたため、ケルピーがいなかった頃の十数年前の日常に戻りたいと年配者は言っていた。
 その間、ブルーラブラドライトを抜け殻にする必要はなかった。シャイニングアーマーを抜け殻にした理由は、自身の愛を疑わせないようにするためである
 言動のおかしさ故にケイデンスがおかしくなったとシャイニングアーマー疑われたりもしたのだが、そんなことを疑うことすらできないように、彼の感情を奪って愛をむさぼり続けたのだ。しかし、今はそれが必要ない。
 多少の嘘はついたし、多少のは本性を隠しているものの、最初から正体を明かしているために騙す、騙されるといった要素がないおかげだろう。
 クリサリスは彼に変身できる能力も明かしたし、それが兵隊であるロイやパトリックにもあることを教えた。そこまで明かしてなお、彼はクリサリスに愛を注ぐことを何ら疑いはしなかった。
21 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/22(金) 22:44:14.79 ID:Qb4TJNQI0
今日はこんなところで。次回の更新では戦闘ありで
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/23(土) 02:50:37.69 ID:7Dn0qEn5o
MLPとは珍しい是非とも頑張ってくれい
ただ台本形式ならセリフはもっと小分けにするか、ある程度で改行したほうが読みやすいかも
23 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/23(土) 20:50:46.71 ID:1UzjJsfd0
 月日は過ぎて、ついに当日を迎える。クリサリスはブルーラブラドライトに姿を変えて、生贄として湖の湖畔に佇む。

 足には逃げられないように縄が巻かれ、大声を出せないように口には猿轡をかまされている。

 目隠しもされて、完全に何も出来なくなったクリサリスだが、気配くらいは探ることが出来る。

 それに、彼女にとってはこの程度の拘束など、魔法を封じられていなければあっても無くとも変わらない。

 ブルーラブラドライトの格好をした彼女を所定の場所に置くと、ブルーラブラドライトが入れ替わっていることを知らない村人たちは、
 遠くから望遠鏡を使って成り行きをかたずを飲んで見守っている。

 やがて、ざぶんと音を立てて水柱が立ち上り中から魔法を用いてケルピーがクリサリスを川の中に引きずり込む。

 その瞬間、クリサリスは戒めを解き、敵の顔面に魔法をぶつける。

 物理的な破壊攻撃に特化したその攻撃は、射程距離こそ短い者の威力は十分。

 まさかフレイムポニーから反撃を貰うとは思っていなかったケルピーは、驚き距離をとる間に、今度は背中を撃たれてしまう。

 その間にクリサリスは水から上がり、空中から湖面を見下ろしていた。遠くで見ている住民たちが、驚きの声を上げている。
24 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/23(土) 21:42:08.54 ID:1UzjJsfd0
QC「どうした、死人が起き上がった顔でも見たかのような顔をしているな?(ほう、本で見たことはあるが、シーポニーというのは本当に下半身が魚じゃないか)」

ケルピー「貴様、何者だ……」

QC「チェンジリング。愛を糧に生きる生物さ。名前は死ぬときにでも名乗ろうか」

ケルピー「邪魔をする気か……」

QC「あぁ、愛してくれる男を手放したくはないものでね」

ケルピー「そっちの事情はよくわからんが……邪魔をするなら、[ピーーー]!」

 ケルピーが湖の水を槍のようにとがらせてクリサリスに放つ。

 クリサリスはその槍の先端に自身の粘液を混ぜ込み、彼女の体液を混ぜ込むことで自身の魔翌力を円滑に伝道させて水の支配権を奪う。

 粘液を混ぜ込んだ水を操り、クリサリスは相手を包み込むようにして粘液をばらまき、ケルピーを包み込んだ。

 相手がエラ呼吸ならば、粘液のせいで呼吸が困難になるはずだし、そうでなくともチェンジリングの粘性の強い体液は動きは制限される。

 そうはさせまいとケルピーはすぐさま移動し、トビウオのように水面をはねて高速移動。粘液を混ぜた水を避ける。

 ケルピーがこんどは水を槍ではなく、礫のように飛散させる。一つ一つの威力は小さいが、その分拡散して避けづらい。

 さらに、今度はクリサリスの攻撃で流れた血液を水の中に混ぜ込んでいるため、魔法による攻撃の支配権を奪う事は出来ない。
25 : ◆QWO3xeEtwU :2014/08/23(土) 21:45:03.76 ID:1UzjJsfd0
今回はここまでです。
>>22
応援とアドバイスありがとうございます。頑張りますね
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/23(土) 21:53:00.30 ID:7Dn0qEn5o

投稿するときはメール欄にsagaと入れとくと[ピーーー]みたいなことにならないよ
大きなお世話っぽいけど下のスレを一応読んでおいたほうが色々便利かも

■ SS速報VIPに初めて来た方へ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406201788/
27 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/24(日) 20:08:50.23 ID:kw6hOrIC0
 だがそれをクリサリスは鼻で笑い、角から光線を放った。

 一直線に敵まで向かうビームが当たる間際で、ケルピーが同じくビームで反撃する。

 クリサリスの攻撃は案外弱く、そのためケルピーは簡単にその光線を押し返して、クリサリスを攻撃し返す。

 光線が着弾すると、煙とともにクリサリスは消滅していた。

ケルピー「おかしい……やけにあっけな過ぎる……」

 勝負が唐突に終了したことに違和感を覚えたケルピーはあたりを見回す。

 そうしてケルピーの視線が離れた隙に、物陰で待機していた二人の兵隊がクリサリスの姿をして、ケルピーの元に翔る。

ケルピー「な、二人!?」

 二人のクリサリスは、片方がバリアを張ってもう一人を保護し、もう一人は緑色の光を纏いながら突進を仕掛ける。

 突然二人に増え、その上警戒していなかった方角からの一斉攻撃にケルピーは焦る。

 とにかく対処せねばと思い、水飛沫を弾丸のようにして放つ。

 その直後に、ケルピーは背後から生涯体験したことのないような衝撃を感じた。

QC「詰めが甘いよ」
 背後からクリサリスの攻撃を受けてケルピーが倒れる。

 二人の兵隊は水しぶきを喰らうも、パトリックが張ったバリアに阻まれて被害は無し。

 クイーンクリサリスは、まだ魔力が完全に回復しておらず、シーポニーにとってホームグラウンドである場所で、アリコーンに挑むのは少々危ない事を自覚していた。

 そのため、部下に注意をひかせて自身が不意打ちを仕掛けるこの作戦。作戦というにはあまりに単純だが、そういった備えを用意していたのである。

 ケルピーはクリサリスが創造の魔法で用意した魔法を封印する枷をヒレと首に身に付けられ、陸に引き揚げられ、おまけに粘液の繭に閉じ込められたうえで陸に引き揚げられる。

 完全にがんじがらめにされたケルピーは、もはや抵抗など出来ないであろう。
QC「ミッションコンプリートだ(どやぁ)」

QC(あとはフレイムポニーの村で愛を受け取りながら、機を見て別の場所に移るまでのんびりするだけだ……)
28 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/24(日) 20:30:26.62 ID:kw6hOrIC0
BL「……本当に、やってくれたんだな、クリサリス」

QC「あぁ、お前が応援する声が、ずっと伝わってきたぞ、ブルーラブラドライト。愛の勝利さ」

ロイ「あっぱれですね、クリサリス様」

パトリック「いやはや、怖かったですけれど、お役に立てて嬉しい限りです」

QC「さて、村人も歓迎しているようだ……何も相談せずにやってしまったのは悪かったかもしれんが、悪いようにはしないだろう。
  我らが上手く村人に称賛される運びとなったら……」
 クリサリスが兵隊二人に耳打ちをする。

QC「褒美にお前達に、私へ口づけをかわす権利を与えよう」

ロイ「ありがたき幸せです、クイーンクリサリス」

パトリック「是非!」

 クリサリスの思惑通り、村人たちはクリサリスを囃し立てた。ちやほやされた。
 彼らの尊敬は信愛へと変わり、緩やかながらも彼女の中に愛として流れ込んでいく。魔力も蓄えられた。

QC(だが、まだだ……この程度の魔力では普通の卵しかできない……
  やはり、プリンセスとして、妻として、多くの者から愛されていたケイデンスほどの人物でなければ……
  魔力に満ち溢れた卵を作ることが出来ない。王台は作れない)
29 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/24(日) 20:35:22.27 ID:kw6hOrIC0
今日はこんなところです
>>26
なるほど、sagaですね。このお話いこうはしばらく血なまぐさい話もなくなるので、最終局面あたりで大いに役立てたいと思います。
応援ありがとうございます


ところで、ケルピーという生物ですが、これは馬の上半身に魚の下半身というもろにシーポニーな生き物です。
ニコニコ動画にしまっちゃうよおじさんとのMADがありましたが、あんな感じで水中に引き込んで獲物を食べてしまう肉食のお馬さんですね。
肝臓だけは食べないのは伝説通りなので、種族名が出る前にヴィランの正体が分かる人にはわかったかもしれませんね。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/24(日) 22:27:14.26 ID:6+gBBM1Co

こいつってやっぱシポニーの元なんかね
それともヒッポカムポスの方だろうか
31 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/25(月) 21:06:09.92 ID:BE6aH7yg0
 村人の愛を享受しながら、さらに一週間が過ぎた。ケルピーは悪さが出来ないように、北の街にある刑務所まで送られ、しかるべき処罰を受けてもらうことになるだろう。

QC(ここは危険もないし、しばらくは兵隊を増やして次の侵攻に備えよう)

 数日後の青天のある日の事……

?「皆様、ご機嫌麗しゅうございます」
 朝早く、火炎ニワトリが鳴き始め、多くの村人が起き上がり始めた頃。太陽の光を背に受けながら、それは現われた。
 村人が驚いて顔を上げると、純白の毛皮に身を包み、優雅にたなびく緑色のタテガミを持つアリコーンが空を駆けるチャリオットより舞い降りる。

村人A「貴方は、もしや……(なんてこった、実物なんて初めて見た……)
   プリンセスセレスティア様じゃ……ないでしょうか?」

プリンセスセレスティア(以下PC)「いかにも。今日は、こちらに訪れている客人に用があってまいりました」

 セレスティアは、ロイヤルガードが背後に着地したのを確認すると、目の前のフレイムポニーに気品を伴って微笑みかけ、禍々しい魔力を隠す気もなく殺気立っているクリサリスを睨む。

QC「プリンセスセレスティア……お前、何しに来たぁ!!(くそ、ここで戦うと村人たちに流れ弾が当たりかねない)
  どけ、お前ら!! 巻き込まれたくなかったらな」
 フレイムポニー達が家に隠れるのを確認して、クリサリスはプリンセスセレスティアを見る。

QC「何の用だ……プリンセスセレスティア!?(くそ、威嚇したはいいが、勝ち目はゼロだ……
  ブルーラブラドライトの愛は強いが、ケイデンスがシャイニングアーマーからの愛以上に民衆から愛されていた。その差が響く……
  それに、今はセレスティアがロイヤルガードを四人も連れている……私の兵隊だけでは対応できない)」
32 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/25(月) 21:15:25.17 ID:BE6aH7yg0
PC「おはようございます、クイーンクリサリス。今となっては過去の話ですが、彗星が接近する時期にポニーヴィルを襲撃した件、トワイライトスパークルより伺いました」

QC「それはどうも……そしてそれがどうした」

 プリンセスセレスティアが二歩踏み込む。

QC(何をする気だ……やられる前にやってらやる)

 クリサリスは何かされる前に攻撃してやろうと力を込めるも、セレスティアが耳元に口を近づけるまで、結局一切動けなかった。

PC「その時の生き残りが、とある場所にて開拓の仕事についております。皆、貴方の帰りを待っておりますよ」

QC「なんだって?」

PC「そこは、今は何もない森林地帯ですが、私の条件を飲むのであればそこをあなたの独立国家として認めましょう……ですから、ますは話だけでも聞いてみますか?」

QC「断ったら?」

PC「貴方は月で一生を終えるでしょうね」

 耳打ちしながら、一切のよどみなくプリンセスセレスティアが言う。本気であることは分かった。
 人質でも取ればどうということもないかもしれないが、それを失敗すれば今度こそセレスティアはこちらを赦しはしないだろう。

QC「わかった、話を聞こう(この女狐め……選択肢のない提案を出しやがって)」
 セレスティアはクリさ率の答えに満足げにうなずいた。
33 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/25(月) 21:18:38.10 ID:BE6aH7yg0
そんなわけで、月送りのプリンセスが物語に絡みます。
シーズン3でのディスコードのお話がなければ、こんな展開にはならなかったでしょうなぁ。

>>30
どうもです。恐らくシーポニーの元ネタは、タツノオトシゴ(シーホース)でしょうね。直訳すると海の馬なので、シーポニーで海の仔馬といったところでしょう。
34 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/26(火) 21:38:50.13 ID:172D48Rp0
PC「良かった……せっかくきれいになった月に、チェンジリングの模様がつくところでしたよ。
  話をお聞きになりたいのでしたら、二人きりで話を出来る場所へ行きましょう」

 二人は、村の集会所へと案内され、入り口にロイヤルガードを二人置いて、誰にも盗み聞きをされることなく、話をする。

PC「今回、ここで起こった出来事も聞き及んでおります。先日捕まったシーポニーのアリコーン。ケルピーから話を聞いて、ここにあなたがいる事を突き止めましてね。
  今回は、この村に起こる問題を解決して頂き、ありがたく思います」

QC「意外だな……お前が私にお礼を言うとは……」

PC「私とて、感謝すべきことにはきちんと感謝いたしますよ。それでですね、先ほども申しました通り、チェンジリングはとある場所で労働をさせております。
  皆、貴方の帰りを信じていまして、チェンジリングが国外追放される際に、目印になる場所を作るのだと、張り切っておりましてね。
  ですが、勝手な場所を開拓されても困るので、とりあえず場所を指定させてもらいました」

QC「もしも私が野垂死んでいたら、チェンジリングが寿命で全滅したところで、その土地を乗っ取ろうとしたという訳か?」

PC「さぁ、何のことやら?(ニッコリ)」

QC「抜け目のない道化め……」
35 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/26(火) 21:58:17.66 ID:172D48Rp0
PC「さて、私の要求ですが、二つあります。その一つが、二度と反逆を起こさないという事」

QC「あぁ、承諾するよ(こう言っておかないと話が進まないからな)」

PC「その言葉に嘘があるかどうかは詮索いたしません。そしてもう一つは、ポニーヴィルにて、愛の魔法を学ぶことです」

QC「愛の魔法、だと?」

PC「えぇ。貴方の魔力は結婚式のときほどではないですが、強まっているのを感じます。
  貴方の思惑は測りかねますが、貴方が単独で、そして正体を終始明かした上で、手に入れた愛情の賜物です。
  故に、私はその可能性ついて考えたい……貴方が、真実の愛を手に入れて、貴方が新たなクイーンを産む存在となることを」

QC(こいつ……私の目的を知ってやがるのか?)

QC「新たなクイーンを産む、か。知っているんだな、お前は?」

PC「えぇ、貴方の数世代前のクイーンとは、知り合いでしたから。
  貴方も知っていることでしょう。二〇〇年ほど前に貴方の先祖がしでかしたことを。
  そして、それが原因で貴方達チェンジリングは疎まれ、このエクエストリアを追放されたことを。
  ですが私は、今となっては貴方の先祖がしたことを評価し、恩義すら感じています。
  ですから私は、その恩義に報いるためにも、貴方に頼みたいことがあります。
  愛を学び、貴方が晴れて正式なクイーンとならんことを。
  貴方が、二つの条件を守る限り、私はあなたに協力を惜しみません」

QC(『いい、クリサリス? 私達は愛されなければ生きられない。
  そして、愛が満ち溢れた平和な世の中でしか生きられない、か弱い生物なのよ……
  だからね、もしも愛にあふれたポニー達の平和が乱れたら、それを元に戻す手助けをしなくてはいけないわ』。
  そうだ、これが母親の言葉だった。私は、ポニーを支配するのではなく、平和を導かなければいけなかった。
  だが、どうしろと……私達が迫害されるこの世界で、今更どうやってポニーと協力しろと?
  しかし、ポニーヴィルに置いてきた兵隊を見捨てるわけにはいかない。
  ポニーと協力する道を選ばなければ兵隊が路頭に迷うのであれば……仕方ないか。

QC「わかった、いいだろう。して、その協力というのは? (そう、セレスティアの要求を呑むしかない)」
36 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/26(火) 22:00:43.98 ID:172D48Rp0
今回はここまでです。
そんなわけで、近いうちにメーン6達も登場します
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/26(火) 22:10:29.59 ID:UuF2E9Dwo
乙です
38 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/27(水) 20:51:22.98 ID:a6eyaw340
PC「今回の事を、私の口からきちんと民衆に説明しましょう。貴方が、この村の大きなトラブルを善意で以って解決したことなどを。
  それを私の口から語ることで、きっと信じてくれる者はいるはずです。
  そういった者達から徐々に信用させていって、貴方が皆から慕われる存在になれば、その時こそ、完全なクイーンとして、チェンジリングを導く存在となれる事でしょう。
  もちろん、貴方達チェンジリングが二百年前に起こしたあの事件についても、貴方達の善意を踏まえたうえで、好意的に伝えようとおもいます」

QC(ふむ……プリンセスの言葉ならば、ある程度妄信的に信じる者もいるだろう。それをきっかけに、少しずつ状況を改善すれば、何か変化は起こるはずだ)

QC「いいだろう。だが、ポニーヴィルへ行く前に、兵隊が無事な姿を見せてもらおうか」

PC「分かっておりますよ。案内いたします。私達は近くで野営をして待っておりますので、明日までに出発できるように準備をしておいてください」

QC「わかった」
 セレスティアは集会所を出て、ロイヤルガードやチャリオットの御者とともに村の外へと飛び去っていく。その様子を見て、ロイとパトリックもクリサリスの元に駆け寄った。

パトリック「クリサリス様……話の内容はどうなりましたか?」

QC「パトリック。あとで話すから少し待っていろ。心配するな、殺されたりとかそういうことはない」
 遅れて出てきたクリサリスは、気が気でない様子の兵隊よりも先にブルーラブラドライトの元へと向かった。
39 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/27(水) 21:04:16.81 ID:a6eyaw340
QC「ブルーラブラドライト」

BL「クリサリス!」
 ブルーラブラドライトは嬉しそうにクリサリスに駆け寄った。

BL「プリンセスセレスティアとケンカって言うか……むしろ戦争を始めちゃうんじゃないかと心配だったよ……一体、何を話していたんだい?」

QC「あぁ、なんと説明するべきかな……私は(人気のない方向へ歩き出す)」

QC「私は、お前達に嘘をついていた……私は、本当はブラックポニーなどという種族ではないし、別に暮らしていた場所が災害で滅んだわけでもない」

BL「そうなのか? じゃあ、いったいなぜ私達の村の近くをうろついていて……」

QC「ここは辺境過ぎて知らない者も多かろうが、私はエクエストリアに対して牙をむいたのだ。二度もな」

BL「それって、重罪なんじゃ?」


QC「重罪さ。しかし、それもこれも、私達チェンジリングが迫害された歴史に原因があると、セレスティアは認めてくださったのだ。は、ありがたい話さ。
  私達、チェンジリングという種族は情報がいくらでも入ってくる街へ行けば、迫害の的なのさ。それを考慮して、ポニーにも非があるからとチャンスをくれるのだと」

BL「貴方達は……街に行けば、迫害されているのか……」

40 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/27(水) 21:04:55.87 ID:a6eyaw340
今日はこんなところで終了です。次回で一話目は終了します
41 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/28(木) 22:22:52.43 ID:vQBJOI5X0
QC「以前は見た目のせいなどといったが、迫害される本当の理由はこの見た目のせいじゃない。
  かつて、私達の先祖は、戦争を食い止めるために、変身能力を使い、数人のポニーに成り代わり、歴史を弄繰り回した。
  その時のやり方が、あまりにも酷かったもので、それゆえ嫌われたのさ……
  セレスティア曰く、その『戦争を食い止めた事』に恩義を感じているとの事らしいがな」

BL「戦争を止めたって言えば、素晴らしい事だけれど……」

QC「偉い人を殺せば止まる戦争もあるだろ? そういうことさ。
  私達は、愛がなければ弱い存在だ。だから、愛にあふれた平和な世の中でないと生きられない。
  そういうか弱い生物だから、戦争が起こったら止めるしかないんだ。
  戦争を回避する方法が誰かを殺す事なら、お前はそれを許すのか?
  誰が殺されたかにもよるだろうが、誰が殺されようと許せぬ者はどこかにいるんだ」
  クリサリスがため息をつく。

QC「ともかく、重罪人の私を赦す条件として、私はとある町に引っ越すことを要求された。そして、そこで愛について学ぶのだとさ」

BL「君が、愛を学ぶ必要はあるのかい? 俺と、愛を育んでいたじゃないか?」

QC「あぁ、すまない。もう一つ、それも嘘だったのだ。私はお前を魔力のためのおやつとしか見ていなかった。
  ここであらかた魔力を回復したら、こんな小さな村ではなくもっと大きな街に行って、その愛をむさぼりたいだなんて考えていた……」

BL「俺は、遊ばれていただけなのか?」

QC「でも感謝はしてるさ。お前のおかげで、私は大分魔力が回復したからな。
  でも、騙されていたとしても、結果的にはいいだろう? お前はもう生贄になる必要はない。
  お前はもう自由だ。だから、好きな女と恋をして、子供を産ませ、育み。生きるといい。
  お前は命を、私は魔力を貰ったから、貸し借りは無しだ」
 クリサリスはブルーラブラドライトの首に、自身の首をからませるように撫でる。

QC「本当に、感謝してるぞ。弱っていた私はもういない。お前のおかげだ」
42 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/28(木) 23:09:51.62 ID:vQBJOI5X0
QC(この言葉に嘘偽りはないし、こうして胴を摺り寄せる動作は、したくなったからしたに過ぎない。
  チェンジリングはこんなことで心を動かしたりはしないが、ポニーならば愛の炎は燃え上がる。ブルーラブラドライトも同じだ。
  そうとも、ポニーの雄なんてちょろいものだ。
  自分達チェンジリングは、どれだけ相手の事を思っても、兵隊がどれほどクイーンを崇め称えようとも、決して愛を放つことはない。
  だから、どういった感情が愛なのか分からない。誰かに自分を愛させる方法は分かっても、愛という感情がどういったものなのか、分からない。
  空しいものだな……ポニーヴィルで愛を学べば、それも手に入れることが出来るのだろうか?)
 一人目を閉じ、クリサリスは考えた。

QC(今はセレスティアに逆らったところで、チェンジリングに未来はない。
  もう女王は自分しかいないのだ。自分が女王を残さねば、チェンジリングという種は滅び去ってしまう。
  それだけはなんとしてでも避けなければならない……)

QC「いいか、ブルーラブラドライト。お前はもう自由なのだ

BL「わかった……でも、クリサリス。俺は、お前の事が好きだから……自由にって言うのならば、俺はお前と」

QC「くどいぞ。私はお前を愛してはいないというのに。そんな奴に、お前は心を預けるのか? それは愚かしい、何の得もしない行為だぞ?」
 駄々っ子を宥めすかす口調でクリサリスが言い聞かせる。まだ心では納得していない風のブルーラブラドライトであったが、何かを言いたそうにしながらも、彼はそれをぐっとこらえる。

BL「わかった……さよなら。クリサリス……」

QC「さよならは明日だぞ? ブルーラブラドライト」

BL「いいや、今日で構わない」
 そう言って、ブルーラブラドライトは小走りで去っていく。
QC「セレスティアの野営地じゃないのか、あっちは?」

QC(セレスティアに頼み込んで何かをするつもりかな? 意外に強情な奴だ……ふふふ……ん?)

QC「なんだ……今、一瞬……体に力が漲ったような……? 今のは……誰かに、強烈に愛された時に似ている。シャイニングアーマーと同じベッドに入った時のような……この感覚、一体なんだったのだ?」
 彼女はそれを、ブルーラブラドライトが飛ばした愛情だと解釈して、ため息をついた。これからロイとパトリックに事情を説明しなければならないと思うと気が重かった。

43 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/28(木) 23:20:22.13 ID:vQBJOI5X0
そんなわけで、第一話終了です。タイトル忘れてましたけれど一話目の『クイーンクリサリスの再起』です。

二話目は『おいでませ、ポニーヴィルヘ』です
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/29(金) 06:17:28.02 ID:wQD0V1mBo

45 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/29(金) 22:22:04.93 ID:N6Yr/2ep0


 セレスティアに案内された開拓地には、すでにたくさんの小屋が出来ていた。

 まだ満足な水道もなく、原始的な暮らしと言うのが正しい感じではあるが、道路のデコボコは綺麗にならされ、
 木の根っこや岩なども取り払われているし畑や家畜を育てるスペースもきちんと確保されている。

 驚いたのは、クリサリスが殺したはずの子猫達の生き残りが、この開拓地で放されていることであった。

 食糧を荒らすネズミやゴキブリ対策であり、そして何より、彼ら子猫は一様に人懐っこい。

 ささやかではあるが、それが愛情となって彼らチェンジリングに魔力を与えてくれるのだそうだ。

 短期的に見れば血肉を喰らい魔力を得る方がお得だが、セレスティアより『むやみに命を奪うことはダメですよ』と釘を刺されたため、今となってはそれはしない。

 もちろん、『どうしてもという時は食べることも許容します』とのことであったが、
 今は長期的に物事を考えなければいけないと兵隊たちも分かっているらしく、子猫たちは丁重に扱われ、その愛情は絶える事もないようだ。

 これならば魔力の枯渇で死ぬこともないと安心して、クリサリスはよくできた兵隊たちに満足していた。
46 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/29(金) 22:39:00.81 ID:N6Yr/2ep0
 クリサリスは、兵隊達にブルーラブラドライトとの子供が入った卵を預け、孵化させ育てていくように指示をした。

 セレスティアはあまり多くの兵隊を連れていけばポニーヴィルに負担になるし、
 住民にも不安を与えるからとロイとパトリックの二人だけしか連れていくことは許可されなかった。

 反乱を起こすのであればそれでは心もとないが、生活するだけなら二人だけでも何の問題は無かろうと、クリサリスはそれも了承した。

 話せばセレスティアも赤ん坊が生まれる予定の卵を放っておくようなことはさせなかったであろうが、クリサリスはそう言ったことを考えもせずに、兵隊に預けてしまう。

QC「それでは、私はポニーヴィルへ行く。お前達、しっかりと作業をしておくのだぞ」

兵隊達「了解です、クリサリス様!」

 残された兵隊達は、クリサリスが生きており、そしてそれをセレスティアの言葉ではなく自分たちの目で確かめられたことに歓喜し、大いに士気が上がっている。

 開拓を命じられた場所が条件付きで自分たちの領土になるかもしれないとクリサリスの口から聞かされたときは、歓喜を通り越して狂喜乱舞といった具合だ。

 しかしながら、その条件にはみな首をかしげていた。『ポニーの街などに行って、一体どんなものを得られるというのか?』とざわめき、
 『あんなところへ行っても愛どころか迫害されて不快な目に遭うだけではないか?』と口々に言う。

 それでも、『私は女王だから。今は兵隊と、何よりも自分自身を守るためには従わなければならない』と、クリサリスが兵隊をなだめる。

 どこまで信用していいかはわからないが、セレスティアも『受け入れてもらうための協力は惜しまない』と言ったのだ。

 たとえ胡散臭くとも今は信用するしかあるまい。なんだかんだで、あの女もエレメントオブハーモニーを持っているわけだから、約束事に対しては誠実なのだろうから。

 別れを惜しむ兵隊の視線を背中に受けながら、クリサリスはロイヤルガードに追従する形でポニーヴィルへと向かう。
 人を騙すことなく愛される者となるために、とセレスティアから勝手な目標を与えられて、気分が乗らないクリサリスは道中何度もため息を漏らしていた。
47 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/29(金) 22:42:23.73 ID:N6Yr/2ep0
今日はここまで。クリサリス様が産卵する絵を見てたらすごく目が幸せになる
48 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/30(土) 11:10:30.34 ID:zwERX3xB0
AJ「はー……セレスティア様が友達になって欲しい人物を連れて来るって言うけれど」

RD「以前は要件も言わずに訪ねてきて、ディスコードと友達になれって話だったからなぁ」

ラリティ「今度はティレックでも連れてきたりしてね。あんなに品がなくってサイズもコロコロ変わる種族の服なんてとても作れないわ」

TS「ラリティ、そんな事を言って本当に連れてきたらどうするの?」

PP「ねえねえなんでみんなそんなに顔が暗いの? だって友達だよ、友達になって欲しい子が来るんだよ? それってすっごくメチャクチャハッピーな気分になれない? 私はなれるよ、もう叫びたいくらい、アーーーー!!」

FS「私は、その……怖くない人だと嬉しい……」

スパイク「僕はドラゴンだったら嬉しいなぁ」
 プリンセスセレスティアが連れてくる人物に対しての期待や恐怖の反応は様々だが、ともかくそんな六人を待ち受けているのは言うまでもなくクイーンクリサリスなわけで。

スパイク「ねえ、あの真っ黒で緑の髪の虫みたいな翅の、アリコーンっぽいポニー……」
 視力の良いスパイクがまず最初に気づく。

RD「なんだそりゃ、クイーンクリサリスでもいるってのか……」

AJ「ねえレインボー。まさかその反応……」

RD「そのまさかだよ……今度はあいつと!?」
 露骨に嫌そうな声を上げるレインボーダッシュ。アップルジャックもスイーツを捨てられたことなど微妙に根に持って嫌な顔をしている。
 フラッターシャイに至っては『ひぃ』と小さな声を上げて既に近くにある植え込みの中に隠れてしまっている。
 こういう時だけはレインボーダッシュやピンキーパイよりも早いのではなかろうか。
49 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/30(土) 11:15:41.71 ID:zwERX3xB0
ラリティ「これも私たちに与えられた試練だとしたら、プリンセスセレスティアも私たちのことを期待してくださっているのね」

TS「プリンセスセレスティアは……ポニーヴィルを戦争の前線基地にでもしようというのかしら」

PP「また変身して遊んでくれるのかなぁ? 期待全開大興奮! そんな調子で相変わらず騒がしいので、ほかの五人は彼女にむやみに話しかけないことにした」
 とにもかくにも、歓迎してくれるのは一人のみ。
 それが露骨に態度に現れているため、それを見下ろすクリサリスは最初から機嫌が悪かった。

PC「おはようございます、皆さん」

TS「あの、プリンセスセレスティア……あなた後ろにいるのはもしかしなくても、私たちもよく知っている相手ですよね……?」

PC「はい、そうですよ。既に二度の面識がある以上、もはや紹介の必要もないでしょう。今回お友達になって頂いたいのは、クイーンクリサリスです」

QC「改めてよろしく……」

PC「いろいろあったのですが、クイーンクリサリスは今回、とても良いことをしてくれたのですよ」

TS「色々って……そこを詳しく話していただきたいのですが……」

PC「そうですね、プリンセストワイライト。今回、クイーンクリサリスをこうしてお招きしたのは、彼女が起こしたある行動によるものです。
  その行動というのも、フレイムポニーと呼ばれる種族の村にあった厄介事を、ひとつ解決したとても勇気ある行動なのですよ」

TS「フレイムポニー……たしか私のひいひいお爺ちゃんのトワイライトアンバーがそんな種族だったような……だから私も時々燃えてたっけ……」

PC「あらあら。ともかく、彼女はシーポニーと呼ばれる種族のアリコーン。ケルピーが毎年生贄を要求していたのですが。
彼女の頑張りでケルピーは排除され、村に平和が戻ったのです。と、これではざっくり過ぎて分からないですかね?」
 プリンセスセレスティアはざっくり過ぎる説明をし、周囲を呆れさせる。それじゃわからないってと言わんばかりの視線が彼女に突き刺さった。
50 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/30(土) 11:17:45.39 ID:zwERX3xB0
今日は午後から予定があるのでこんな時間で。ふらたそは可愛い
51 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/31(日) 21:18:40.90 ID:wbMcqoMQ0
RD「でも、どうせそれって愛を貪るためなんじゃないの? アースポニーが食料のために農業やるのとどう違うのさ?
  別にそんなの当たり前すぎて、褒める程の事でもないじゃないか。
  アップルジャックみたいに、皆に食料を届けるならともかく、もしもアップルジャックが育てた食糧を独占するようなものだから、ありがたみも何もない」

PC「あら、レインボーダッシュ。愛を得るためにいいことをして何が悪いというのです?
  愛を得るというのは、それなりの事をしなければいけないことを貴方は分かっているはず。
  そして、そのそれなりの事というのは、助け合いや競い合いのように、プラスになることでは?
  共生という奴ですよ。アップルジャックを例にとるなら、リンゴは子孫を増やせる、アップルジャックは食糧を得られる。
  確かに、収穫物を分け合わない農家を尊敬しろと言われても出来ないかも知れません。ですがしかし、リンゴの立場ならアップルジャックに感謝するべきなのでは?」

RD「それは、確かにそうだけれど……」

AJ「でも、レインボーダッシュの言うとおりだよ。確かに、自分で愛を育てて、それを食べるだけならば私と同じかもしれないけれど、
  あいつはプリンセスケイデンスに成り代わったり、子猫を食べたりしたこともある。まるっきりリンゴ泥棒と一緒じゃないか?」

PC「そう、しかし、それをさせたのは私達であることもまた事実です」
52 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/31(日) 21:28:18.42 ID:wbMcqoMQ0
PC「考えても見てください。あなた方がかつて演劇で演じた時のあの魔物ウェンディゴは、実に効率的で合理的な生態をしていました。
  寒くなれば食料が減る。食量が減れば、人々の心は荒み、冷たい感情が得られる。
  そして、その冷たい感情を糧にウェンディゴはまた魔力を生み出し、周囲を寒くする。
  かつてレインボーダッシュがポニーヴィルから追い払ったグレムリンだってそうでしょう?
  あいつらもまた、同じように人々に暗い気持ちを蔓延らせるために、黒い雲で空を覆うなどしていました。でしたら、チェンジリングはどうだと思います?
  彼女らは、愛が満ち溢れた世界の方が好きではないのでしょうか?
  でしたらウェンディゴたちとは逆に、愛の満ち溢れる世界になるよう努力するのではないでしょうか?」

AJ「それは……確かにそうですね。でも、そうは見えなかったのですが……
  あいつらに乗っ取られたシャイニングアーマーも、ポニーヴィルの住人も、まるで抜け殻のようだったし……」

PC「それをさせなかったのは、チェンジリングを悪とする風習なのではないでしょうか?
  例えばアップルジャック。もしもチェンジリングが畑仕事を手伝いたいと言ってきたら、貴方は断るでしょう?
  チェンジリングを畑になんて入れられない、と」

AJ「は、はい」

PC「では、その場合チェンジリングたちはどうやって食糧を生産すればいいのでしょうか? 畑や、実った収穫物を奪うしかないのでは?
  それと同じで、チェンジリングが友達になりたいと言ってきても、『チェンジリングと友達になんてならない!』と言われてしまえば愛を育むことなど土台無理な話。
  トワイライトスパークルは覚えがありませんか、約二百年前、歴史書に刻まれた事件について」

TS「えっと……二〇〇年ほど前というと、王族のなり代わり政略結婚でしょうか……?」

PC「えぇ、そうです。概要を皆に教えてあげてください」
 セレスティアに話を振られたトワイライトスパークルは、記憶の糸をたどって事件を語る。

PC「わかりました、プリンセスセレスティア」
 トワイライトは咳払いを挟む。

TS「昔の話のことなのですが、プリンセスセレスティアが統治するこのエクエストリアも、
  一人だけですべての統治を執り行うのは難しく、国を州で区切って各々当地を任されていたの。

  州ごとに様々な法律や税金があったり、州をまたいで宝石などの天然資源、食料が豊富な肥沃な土地などが偏ってたりするもので、
  当然恵まれた土地に住む王族を、貧しい土地に住む王族は不満に思っていたわけ。

  その関係で、貧しい州と豊かな州とで戦争が起こりそうになったとき、豊かな州に住む王は国民への体裁もあるから、
  『タダでは譲れない、友好の証としてお前の娘をよこして我が息子と結婚させよう』って、言ったの。
  だけれど、貧しい州の姫は『あんな肥え太った男はいや』と言い、王も政略結婚の申し出を断り、宣戦布告をした……
  のだけれど、なぜか数日後には突然に、王も姫も、申し出を受け入れ戦争を回避した。そういう歴史的出来事よ。
  でも、それにはチェンジリングが関わっていたの……」
 そこまで言い終えて、トワイライトスパークルはため息をつく。

QC「その時、我らチェンジリングは、貧しい州の王が宣戦布告をした時点で、既に王族二人を殺害した。姫の侍女に化けて、食事に毒を混ぜてな」
 今まで黙っていたクリサリスが、トワイライトを遮るように口を出した。
53 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/08/31(日) 21:30:28.73 ID:wbMcqoMQ0
チェンジリングの歴史をねつ造中。しかし、実際のところチェンジリングはポニー戦争が起きたら最も困る種族だと思う
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/31(日) 21:48:38.06 ID:ccQdwrmBo

こういう歴史とか世界観系は好きだ
55 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/01(月) 00:12:37.45 ID:9l5EAy+J0
終了宣言を忘れてたぁぁぁぁ!!
シーズン5がどうなるのやら楽しみでならない
56 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/01(月) 21:20:40.07 ID:9l5EAy+J0
QC「その意味はわかるだろう? 戦争が始まれば人の心は荒む。戦地に出かけて帰ってこない夫に涙する女子供が増える。
  そうすれば愛は消える。いずれ誰かを愛する余裕もなくなる。それを回避するために、私の先祖は美しい姫に化けて、政略結婚を承諾したのだ。
  だが、その正体は夫となった男……詰まるところ、豊かな州の王子の暴力によってバレた。
  貧しい国の姫だと思って調子に乗られ、チェンジリングが化けた姫は奴隷扱いされたのだよ。
  戦争の火種にならないよう従順にしていたというのに、それですら気に喰わなかったか、暴力で言うことを聞かせるのが好きなのか。
  そのあと、エクエストリアの住民がどんな反応だったかわかるか、お前ら?」

FS「その事件なら知ってるわ……その、チェンジリングは化物が美しい姫を殺して、財産を乗っ取ろうとした悪魔だって……そういう反応だったはずよね?」
 植え込みの木からちょこんと顔を出してフラッターシャイが言う。

QC「そうだ。ポニー達は戦争を回避できた事実に感謝もせず、殺して入れ替わったということだけを強調した。
  そして、殺した理由も捻じ曲げられた。
  それからだよ、入れ替わった時に、最低限コピー元を殺さないようにしろと、チェンジリングの間で言われ始めたのは。
  プリンセスケイデンスを殺さなかったのもそのためさ……
  そのせいで、ケイデンスが密かにキャンタロットに脅迫状を送っていたことには驚いたがな」

TS「へぇ……結婚式の前に送られた脅迫状って、貴方が送ったものじゃなかったんだ……」

QC「はは、あのプリンセス・ミ・アモーレ・カデンザは中々に賢い奴さ。
  最初は『私が別人と入れ替わっている』と書いた手紙を送ったが、それは悪戯だと思われたらしい。
  だからその後、脅迫状に作戦を切り替えたのさ……まぁ、そんなことはどうでもいい。
 ともかく、そういった危険性を考えねばならないというのに、わざわざ生かしておかねばならない理由は、そう言う過去に有ったのさ。
  チェンジリングにとって、その歴史はそれほど重要な意味を持っているのだ……悪い方にな」
57 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/01(月) 21:54:35.15 ID:9l5EAy+J0
PC「チェンジリングのやり方は確かにスマートではありませんでした。
  ですが、戦争を止めようとした意図を無視され、罪だけを晒され、濡れ衣を着せられ……
  それでは、今を生きるポニーがチェンジリングを色眼鏡なしで見ることは無理でしょう?
  ですからみなさん、ここは彼女らを広い心で赦してあげてほしいのです」
 問いかけるようにっセレスティアが言う。レインボーダッシュ以外の五人がそれに頷いた。

QC「我らチェンジリングはエクエストリアを追放されたその事件は、今となっては昔の話だが、今もそのしこりが残っている。どこへ行っても、我らは疎まれるのだ。フレイムポニーの集落のような辺境の土地を除いてな。
 それがどういう意味を持つかわかるか? もはや、お前らの思うような手段で……リンゴを育てるように愛を手に入れることなどかなわないということだ。ケイデンスやお前等の愛を奪わずに。どうやって生きろと? 私はそれを逆に問いたい。
 私たちチェンジリングは、何も愛されている者に入れ替わるだけじゃない。虐待をする親や、傍若無人な振る舞いをするごろつきに入れ替わって、そうして愛されるようになったこともある。皆が気付かないだけでな。暴君と成り代わることで作られた歴史だってあるのだ。それなのに、残虐と思われるのは正直なところ心外だな」
 珍しくしおらしいクリサリスを見て、皆思うところがあるのか、言葉が出ない。そんな中で、最もうるさいポニーだけは言葉を出す準備が完了したようである、

PP「うーん、でもさぁ。それって、ただの勘違いなんでしょ?
  勘違いなら私もしたことがあって、そのせいでここにいるみんなを危うく傷つけてしまいそうになったことがあるんだよね。
  でも、みんなが誤解を解いてくれたらこうやって今も仲良しすっかり元通りだし、
  クイーンクリサリスもきちんと謝ってみんなと仲良くなりたいことを伝えれば、きっと皆受け入れてくれると思うよ!
  ポニーもチェンジリングもお互い悪いところはあるんだもの、どちらも歩み寄ればきっと大丈夫だって、
  ディスコードだって私たちと仲良くなれたんだから、クイーンクリサリスとだって絶対大丈夫! だって私が歓迎すればみんなが笑顔になるもん!」
 ピンキーパイは、自身の体験を思い出しながらクリサリスに語る。
58 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/01(月) 21:57:02.27 ID:9l5EAy+J0
昨夜終了宣言をしないないと思ったのはリロードのし忘れと言う……F5ボタンは大事ですね。

こういう時に役に立つのはピンキーパイですね
59 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/02(火) 22:16:25.82 ID:r+x20RjY0
QC「ちょっと待て、ディスコードというのはあれか? 不和と混沌の精……あいつを懐柔したというのか?」

PP「ん、フラッターシャイが頑張って友達になってくれたんだ。
  すごいよね、私たち全員がさじを投げたのに、フラッターシャイだけでなんとか絆を保とうと頑張ってたんだ。
  それでもダメになりそうな危ない時もあったけれど、今では私たちとの友情以上に素晴らしいものはないって理解してくれているんだよ!」

FS「褒めてくれてどうも……あ、ありがとう……ピンキー……」

QC「そうか……あの悪名高いディスコードが……それに、よく見るとトワイライト……お前いつのまにアリコーンになったのだ?
  お前もケイデンスのように、いつの間にか成長したというのか?」

TS「そういえば、クリサリスとは私がアリコーンになってからは会っていなかったわね。
  見ての通り、私は友情の魔法の真の意味を理解して……そしたら、こうなったのよ。
  あの、クイーンクリサリス……私が言うのもなんだけれど、私も昔は友達なんていらないと思っていたし、それで大丈夫だと思っていた。
  けれど、今となっては友情なくしては生きていけないとすら思っているの。
  ダメな私でも、それだけ変わることができたわけだし、その……貴方もきっかけがあれば、いくらでも変わることが出来ると思うわ、クイーンクリサリス。
  貴方の言うとおり、ケイデンスや私の村を襲撃した件では、私たちポニーが悪い部分があったというのが理解できた。
  だから、ポニーもチェンジリングも一緒に変わってくべきなんだと思う。
  ポニーだけじゃない、チェンジリングも変わればきっと大丈夫だと思う! やってやれないことはないわ」

ラリティ「そうね。私もチェンジリングがいれば、服を作る作業が少し効率的になりそうだし、
     貴方達の変身能力も使い方次第でいくらでも応用が効くわね。
     そういう風に、お互いの長所で短所を補い合っていくのが大事だと思うわ」

FS「あの、私は……怖くしないなら、大丈夫です」

RD「僕は歴史とかそういうのよくわからないし、君たちが改心したって言うならそれでいいと思うよ。改心したのならね」

AJ「私も、歴史のこととかはよくわからないけれどさ。でも、あんたたちにはあんたたちなりの正義や目的がある。
  それを理解しようともしてなかったのは、確かに悪かったよ……何も知らないで、いらないものとか決めつけちゃうのはダメだもんな。
  うちのリンゴにも、どうしようもないくらいに加工が難しい品種があるけれど、きちんとしかるべき儀式をすれば最高の味になるリンゴがあるし。
  きっと、チェンジリングだってそうだよな。元から悪い奴じゃないんだ。
  料理のしようで、いくらでも味が変わるものだと思う。だから、改めてよろしく……クリサリス」
60 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/02(火) 22:32:35.85 ID:r+x20RjY0
QC「ふん、どいつもこいつも口ではそんな事を言って、親愛の情を向けているのはそこのピンク色だけじゃないか。
  レインボーダッシュの方が態度に出ている分よぽど潔い」

PP「ねー、クリサリス? 愛してもらえないなんて当然でしょ。だってあなたには笑顔が足りないもん!
  愛され上手は笑顔が上手、笑顔でいないで他人に愛されようだなんて、虫がいいにも程があるからね。
  もっと笑って、みんなによろしくお願いしますって元気よく言わなきゃ。愛情を奪うことに慣れて、愛される努力を怠っているんじゃないの?
  私ほどじゃなくたっていいから、スマイルと大きな声の挨拶ができないと、愛なんてとてもじゃないけれど手に入らないからね!」

QC「あ、あぁ」

ロイ「クイーンクリサリス様になんと無礼な……」

パトリック「全くあのピンクは……いつでも予想外のことをする」

PP「まずは最初にお口の体操! 大きな声でグッドモーニング! 口とほっぺた揉んで解して、顔の筋肉リラックス。
  そしたら次は笑顔の練習、大口開けたら口を『ニー』。それでもだめだめ笑顔が堅い? だったら笑おう心から!
  面白いのは鼻眼鏡? それでダメならジャグリング? それでもダメならクラッカー? 綺麗な花火で心を奪って今夜は一緒にショータイム!」
 ピンキーはどこからそれらを取り出したのか、鼻眼鏡、ジャグリングのためのボトルとボール、そして美しい色彩の花火を次々と披露する。その素早い切り替えに圧倒され、確かにチェンジリングたちは大口を開けて放心している。

PP「ほら、その顔を! こうしてこう!」
 力の抜けた顔になったクリサリスの頬を両側に引っ張り、ピンキーは無理やりにクリサリスの笑顔を作る。

QC「馬鹿、やめろ! 何をするんだ」

PP「その馬鹿なことをしないから私たちに負けるんだよ。損得計算だけじゃ、なんにも始まらないよ。
  考えてもご覧よ、あたしが人を楽しませてもお金もカップケーキもマフィンもクッキーもサンドウィッチもアップルサイダーもマシュマロもティラミスもアップルパイもドーナツもエクレアも、何ももらえないよ?
  損得計算だけなら、あたしがみんなを楽しませることなんて無意味じゃん?
  そんな私がこうやってポニーヴィルにいて、皆を楽しませるのはみんなが笑顔でいたいから、そんな笑顔が大好きだからだよ。
  だったらアンタも笑顔じゃないと、絶対だめだめつまんない。一緒に面白おかしく笑えないなら、友達にだってなれやしない。
  そんな調子で愛情向上? 無理無理そんなの、笑っちゃう。失敗フラグの摩天楼が建っちゃうよ!
  あのねぇ、クリサリス。愛情と友情の違いってあたしにはよくわからないけれど、そう言う気持ちを抱く相手が大切な人ってことは変わらない。
  大切な人って言うのは、苦しいことも悲しいことも、そんでもって楽しいことも共有するのが、そういう関係だと思うの!
  あたしがあんたを愛しているっていうのなら、あやしがあんたとそういう関係になりたいって思っているってことなんだよ。
  別に難しいことじゃないの。そっちのチェンジリングのみんながクイーンクリサリスを敬うように、クインクリサリスがチェンジリングたちを労わるように。
  そんな気持ちをあたし達に向けてくれればいいの。それが友情、愛情、そういうもんでしょ!?
  きっとポニーから疎まれて、擦れてこじれて根性ひん曲がったのかもしれないけれど、あたしは最初っからあなたたちのことが嫌いじゃないの。
  どうすればあなたたちと楽しくなれるか、想像を巡らせるだけで楽しくなっちゃう。
  だったらお互い気持ちよくなれるように、すっきりさっぱり生きていこうよ。ありのままの自分を見せて、本音で付き合って、そうすればきっとみんな仲良くなれるよ!
  誤解さえ解ければみんな仲良くしてくれるはずだから、みんなと仲良くしてチェンジリングの誤解を解けばいいのよ。千里の道も一歩から、まずはあたしと一緒に楽しもうじゃん!」
 ピンキーのマシンガントークがようやく終わる。それまで唖然としていたクリサリスの顔はそこでようやく笑顔となった。
61 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/02(火) 22:35:48.36 ID:r+x20RjY0
ピンキーのセリフの長さが異常。ディスコードの時も、最初は楽しんでいた彼女ならクリサリスも受け入れるはず。
62 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/03(水) 21:37:38.82 ID:dHctM9zf0
QC「ふん、ふはは……」
 瞼を軽く閉じたままクリサリスが笑う。

QC「お前は愉快なやつだな」

PP「やっと笑ってくれたね? でも、まだまだ笑顔が堅いよ?」

QC「笑顔が固いことなど知っている。だが勘弁してくれ、久しく笑っておらんのだ……主にそこのアリコーンのせいでな」
 クリサリスがそう言ってトワイライトスパークルを見る。

TS「なに、私があなたを閉じ込めたのは自業自得でしょ?」
 クリサリスに視線を向けられ、トワイライトスパークルは眉をひそめた。

QC「いや、違うな。もうひとり私を演技でもなく嘲笑でもなく、お前とは全く違うアプローチから笑顔にさせてくれた者がいたな。
  どうやら私は、愛されると笑顔が止まらないらしい」
 クリサリスがピンキーパイを見つめる。

QC「気に入ったぞ、ピンキーパイ。やはりお前の成すことは、実際にこの目で見ないと信じられん。
 過去の私に、お前に笑顔を与えられたなどと教えても、それを信じるのは難しそうだ」

PP「本当? やりぃ!! 」

ロイ「まさか、クリサリス様が……」

パトリック「ポニーに笑顔を向けるだなんて……」

QC「プリンセスセレスティア。いいだろう、私はこの町で愛の魔法とやらをてにいれてやる。その時、クーデターを起こされようとも後悔するなよ?」

PC「もちろんですとも。期待しておりますよ」

PP「そうだ、プリンセスセレスティア。いくつかクリサリスのためのおうちの候補を用意しておいたんだけれど、全部の場所に案内しちゃって大丈夫かな? いいところ一杯あるんだ」

PC「えぇ、お願いします、ピンキーパイ。あなたのおかげで、クイーンクリサリスもうまくこのポニーヴィルに馴染めるかもしれません。そして、トワイライトスパークル」

TS「はい、プリンセスセレスティア」

PC「愛情と友情、それらは遠く離れた概念ではなく、友情の中にも愛情はあり、愛情の中にもまた友情はあります。ですから、あなた達の友情を、クリサリスにも伝えてあげてください。あなた達は友情のプリンセスなのですから」

TS「かしこまりました。やります」

PC「期待しておりますよ。それでは皆さん、私も公務の方があるので、ここらへんでお暇させていただきます。久しぶりに顔が見れて嬉しかったですよ、皆さん」

六人「はい、プリンセス!」
63 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/03(水) 21:49:23.33 ID:dHctM9zf0
TS「クイーンクリサリス……少し、あなたのことを誤解していたかもしれません。あなたのこと、血も涙もない人物だと思っていたけれど……そんな笑顔も出来るんだなって」

QC「ほう、お前は少しだけ私を信用してくれたようだな、トワイライトスパークル。
  ケイデンスの事は悪かった。その後の、キューティーマーククルセイダーズのことも、悪かった。
  その後幽閉されたことが私の自業自得という言葉も甘んじて受け入れよう。だが同時に、私は思う。
  アレしかなかったのだ。人から愛を奪うしか、それしか手段はなかったのだ。そうしなければいけない理由があった」
 トワイライトに複雑な顔を向けてクリサリスが言う。
TS「……貴方は、そんなに愛を貪って、あなたは一体何をしたいの?」

QC「新たな女王を生むのさ。そのためには、卵が成熟する前に膨大な魔力がいる……魔力でこの体が満たされなければならない。
  そうしないと、女王が生まれる卵は作れないのだ。
  あるいは、プリンセスセレスティアやお前と一日だけでも入れ替わればそんな卵を作れるのならば、それでいいのかもしれない。
  もしかしたら、一生女王を産めず、チェンジリングという種はここで途絶えるかもしれない」
  クリサリスが言葉を切って間を置いてからピンキーパイを見る。
  だが、ピンキーパイ。お前の存在を見て、少しだけ賭けて見たくなったのだ。
  ありのままの姿で愛してもらうという選択肢にな。おそらく、今の私は街を歩くだけで石を投げられて文句は言えない存在だ。
  だけれど、お前と一緒ならそれも大丈夫。そんな気がする。愛の魔法というのはよくわからんが、お前は少なくとも私の魔力になる。悪くない、よろしく頼むぞ」

PP「りょーかい! それじゃあ、お家に案内するからついてきて!」

QS「あぁ、行こうか、ピンキーパイ」

TS「貴方だけじゃ心配だから、私も一緒に行くわ」

PP「いいよ、一緒に行こうトワイライトスパークル(ビュオン!)」

AJ「なんか……プリンセスルナがポニーヴィルに来た時のことを思い出すな。
  あの時は、プリンセスルナに『笑顔でいれば仲良くなれる』って言ったっけ。
  やっぱり笑顔っていいよ、少しだけ親しみが持てる」
 トワイライトとレインボーが連れて行ったクリサリスの後姿を、アップルジャックは笑顔で見送った。
64 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/03(水) 21:50:32.97 ID:dHctM9zf0
今日はこんなところで。AJはいい子だよね。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/04(木) 02:16:04.94 ID:2qcoGSRqo

某二次創作アニメシリーズを思い出す
66 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/04(木) 20:59:11.21 ID:U9DO6Zdc0
QC「ピンキーパイ……お前、さすがの速さだな……」

PP「うん、新しい友達が出来て、嬉しくなっちゃったから」
 言葉も出ないチェンジリングをよそに、ピンキーパイはクリサリスの言葉にごく当然のように言い放つ。こいつにはかなわないなと、クリサリスの口からは乾いた笑いが漏れた。

PP「この家は市庁舎近くの家だから、各種手続きも楽々。街の中心だから、街のどこにだって行けるよ!」

QC「ほう、だがここの市長は無能だと聞いたぞ? 頼りになるのか?」
 きっちりとそれを聞いていた市長、メイヤーメイアーは声の主をじろりと睨むが、声の主の姿を見て目を丸くする。

TS「こ、こら……クリサリス! そういうこと言っちゃダメだって」

PP「あはは、トワイライトが優秀すぎるだけだってば。比べたらかわいそうだよ」

 周囲を歩く住民は、クリサリスが街を闊歩する異様な光景に何度も振り返り、奇異の目を向けている。一度目の侵攻ではエクエストリアデイリーペーパーという新聞で。
 二度目の侵攻の時は、トワイライトが自ら危険性を説明した、チェンジリングの女王である。それがピンキーパイと仲良く歩いていて違和感を覚えないはずがない。
 周囲では、他の四人が事情を説明していた。フラッターシャイはおどおどしながら、レインボーダッシュはやる気に欠けた様子で。
 その他二人はごく普通に『彼女はもう乱暴させるようなことはしない』と説明する。
 それらの説明を聞いて、プリンセスセレスティアやプリンセストワイライトが言うならば、と納得する者もいれば、
 トワイライトが安全を保障すると言っても信用できずに家に閉じこもる者もいる。
 一人が家に閉じこもってしまうと、何があったのか訳も分からぬままに家に閉じこもってしまうものもいて、連鎖的にポニーヴィルから人の気配が消える。
67 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/04(木) 22:14:50.78 ID:U9DO6Zdc0
QC「なんだ、人が全くいないが……お祈りの時間かなにかか?」

PP「んーん。この町の発作みたいなものだよ。
  ちょっと怖い者とか怪しいもの、怖いものや未知のものがあると、すぐにこうなっちゃうの。
  でも、今のクリサリスは怖くもないし、怪しくもないから、いずれみんな出てくるようになるよ。そうでしょ?」

TS「そうですよクイーンクリサリス。昔もこういう風にみんなから避けられるようなポニーがいたけれど、今は普通にみんなと仲良くしているから、いずれはクイーンクリサリスもそうなるわ」
 ゼコラの事を思い出しながらトワイライトは言う。

QC「だが、そいつは何も悪い事をしていなかったのだろう?
  私の事を測りかねている奴にとっては、私は怖いし、怪しいさ。逃げられなくなるまでは先が長いだろうな」

PP「そんなに後ろ向きじゃダメだって。嫌われることを恐れたり、好かれていないからって諦めるのなんてダメダメ。
  なんでもいいから、チャレンジしてみて、笑顔を作るの。
  そうだ、歓迎パーティーもやらなきゃだし、その時に皆を笑顔にできる方法を考えてみなよ。
  黙っててても友達が出来るだなんて、そんな虫のいい話なんてないんだから、自分で動かなきゃダメダメ!」

QC「そんなことを言われても、誰かを楽しませるなどという事、私は今まで試したこともないのだが……」

PP「だからやってみるんでしょー? 何事も一歩踏み出さなきゃ何も変わらないんだから。
  そんなにうじうじしてると、最後は街のみんなみたいに家に閉じこもるしかなくなっちゃうじゃん。
  挑戦するのは怖い事じゃないんだ。失敗したって死んだりするものじゃないんだもの、私と一緒にやってみようよ」

QC「わかったわかった。お前の言う通りにしてみるよ、ピンキーパイ。パトリック、ロイ。お前らも何か考えろ」

パトリック「了解です。と言っても、何をすればいいのやら……

ロイ「かしこまりました。なんとかアイデアを出して見せます」
 チェンジリングたちは、誰もがそういうことをしたことがない。それゆえ、突然ピンキーパイに振られてもどうすればいいものやら、まるで分らなかった。
68 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/04(木) 22:16:33.52 ID:U9DO6Zdc0
>>65
乙ありがとうございます。
そのシリーズって、もしやピンク色の毛玉が出る奴ですかね?
あのシリーズのクリ様は平和で大好きなので、これもそれくらいクリ様が好きになれる作品を目指したいです。
69 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/05(金) 21:39:13.36 ID:g/YAV2+T0
 なので、とりあえず考えることはやめにして、ピンキーの案内をひたすら聞いていく。
 その中で一番に気に入ったのは、図書館近くの家である。
 その場所がどれだけ良い場所かについては、トワイライトスパークルが熱く語ってくれた。

TS「ここに来れば調べ物は何でも出来る! 愛される方法が分からないのであれば、愛され上手になるための本も、数冊用意しているし、
  ポニーの文化やパーティーで披露する芸についてもより取り見取り。
  ついでに歴史や数学、科学に恋愛小説、魔法の本だって読み放題だから、ともかく家と図書館が近い事に損はないわ、むしろ、ここ以外のおすすめなんてない!」
 と、水を得たシーポニーのごとく喋りまくる。

 トワイライトスパークルが進めてくれた本を手に取りながら、トワイライトスパークルは、『ほう』と声を上げる。
 中身を見たわけではなかったが、タイトルからして期待できそうな(クイーンクリサリスの主観であり、本を読みなれていない彼女にとっての印象である)本がいくつも並んでいるとなれば垂涎ものだ。
 いつでも本を読めるというのも悪くないし、もっとも厄介な相手であるトワイライトを近くで違和感なく観察できるというのは悪くない。
 それに、どうにも図書館は新築なようなのが気に入った。汚れも少ないし、長くいるのには適していそうだ。

QC「よし、いいだろう。ならば私の住処はこの家に決める」

TS「本当!? これから毎日本を読みに来てよね」

QC「保証はしないが、いいだろう」
 トワイライトスパークルは図書館の司書を任されているというのに、このポニーヴィルの住人はあまり勉強熱心ではないため、あまり本を借りに来るものがいないことをいつも気にしている。
 そのおかげだろうか、クリサリスがこうして図書館近くに住むことを決め、学ぶことに意欲的な姿勢を見せると彼女は大いにはしゃいでいる。

QC(こんなことでも喜ぶのだな……)

PP「やったね、クリサリス! 友達が増えるよ! これで私だけじゃなくって、トワイリーとも友達になれたよ!」

TS「そうね、ピンキーパイ」
 と、トワイライトスパークルも微笑んで見せた。
70 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/05(金) 22:00:23.41 ID:g/YAV2+T0
QC「友達が増える……こんなことでか……?」

TS「こんなことでも、よ。クリーンクリサリス。
  私も、正直なところこんなことで仲良くなれたかと言われれば自信はないけれど……でも、きっかけにはなるわ。
  あのね、クリサリス……愛って言うのは、すでにあるものを頂くものじゃなくって、育てていくものだと思うの。
  多分、クリサリスには……私が、本当は貴方の事をそんなに信頼していないことも、愛していないことも分かっていると思う。
  まだ、私が貴方の事を信じ切れていないことも分かると思う」
  本音を漏らしつつ、トワイライトスパークルは申し訳なさそうに顔を伏せる。

QC「あぁ、お前が口だけで本当は私を愛してなどいないことはよくわかるさ。だが、ピンキーパイだけは違う。
  あいつは本当に奇特な奴だよ。こんな私にも愛を振りまいてくれる……なんというか、生まれたてのひな鳥のようだ」
 クリサリスは、ピンキーパイを見て笑みを浮かべた。

TS「うん、確かに今はあなたを愛するだなんて無理だと思う……でも、いずれは大丈夫だと思うの。
  例えば、私達六人は今ではこんなに仲が良いけれど、最初の私もあなたと同じ、誰に対しても親愛の情を、友情を持ってはいなかった。
  でも、私と皆が仲良くなれるきっかけがあって、みんなで力を合わせて苦難を乗り越えて。そうして、今の私達のような関係がある。
  貴方が成り変わったプリンセスケイデンスだってそう。
  お兄ちゃん……シャイニングアーマーとケイデンスは互いに一目ぼれだったけれど、最初は互いにその気持ちに気付いていなかった。
  私や、お兄ちゃんの友人の助けも借りながらだけれど、お互いがお互いを一所懸命に理解しようと、信頼しようと努力をしたからこそ、あそこまで仲良くなれたの。
  だから、クイーンクリサリス。あんまり焦らないで、ゆっくりがんばりましょう。いつかきっと、望む物が手に入るわ」

QC「ふむ……愛とは、育む物、か。パトリック、きちんと覚えておけ」

パトリック「はい、わかりました」
 クリサリスに言われ、パトリックはこくりと頷く。

TS「雑用係だなんて。なんだかスパイクみたいね……色合いは兄さんみたいなのに

PP「そんな事よりも、住む場所が決まったならパーティーを始めなきゃ! 私が町中のポニーを呼ぶから、みんなで楽しもうよ! ウィー!!」

QC「私は引っ越しが終わったら休みたいのだがな……正直、飛びっぱなしで疲れた」
 トワイライトには聞こえるが、ピンキーに聞こえないくらいの小声でクリサリスは言い、こんなのとよく友達でいられるなとばかりに、トワイライトスパークルへ視線をやる。
 『大変でしょ?』、とばかりにトワイライトスパークルは肩をすくめて苦笑した。
71 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/05(金) 22:03:33.94 ID:g/YAV2+T0
今日はこんなところで。ピンキーパイと付き合うのは体力がいりそう
72 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/06(土) 21:52:45.35 ID:FmVOIz6O0
 図書館の一階で行われることとなったパーティーにおけるポニーの集まりは、非常に少なかった。
 レインボーダッシュも嫌々出席したものの、チェンジリング達といつもの6人を除けば、
 出席してくれたのはシュガーキューブコーナーのカップケーキ夫妻や、ペガサスのダーピーフーブス。
 その他、バンチが好きななチェリーベリーやチェリーベリー。好奇心旺盛なミヌエット。仲良し二人組のライラとボンボン。
 ダーピーに付き合ってきたドクターフーブスや、フラッターシャイに誘われたバルクバイセップスなど、少ない人数だ。
 いまいち盛り上がりに欠けるものの、噂好きで流行りもの好きなところのある面々ばかりだ。クリサリスがへまをしなければあるいは、今後の事が上手くいく可能性もある。

PP「さぁ、みんな今日は集まってくれてありがとう! 今夜のパーティーは、このポニーヴィルヘ引っ越してきてくれた、クイーンクリサリスだよ!」

スパイク「皆さんご注目!」
 司会を務めるのはピンキーパイとスパイク。スパイクはあまり乗り気ではなかったものの、ピンキーパイとトワイライトスパークルに強引に押し切られる形でアシスタントを務めている。
 ピンキーが図書館の中心に用意したステージから音が鳴り響き、下ろされたカーテンの奥からドライアイスの煙がもうもうと漏れ出してくる。
 やがてカーテンにはスポットライトの光が集まり、そのカーテンを照らす。カーテン幕が取り払われれば、その中に待機していたクリサリスが、すまし顔で現れる。

QC「ご苦労、ピンキーパイ。そしてようこそ、ポニーヴィルの住人よ」

RD「なんであいつあんなに上から目線なんだ……?」

AJ「ピンキーパイがありのままの自分を見せろとか言ったからじゃないのか?」
 レインボーダッシュとアップルジャックは、明らかに失敗の未来しか見えないクリサリスの挨拶に、苦い顔を見合わせる。

QC「以前の私はこの町に酷い事をし、幽閉された。
 しかし、現在私は改心し、プリンセスセレスティアの命により、ここで愛の魔法を学ぶ運びとなった。
 兵隊のロイとパトリックも合わせてよろしく頼むぞ、皆の者」
 パーティー会場がしんとなる。

PP「うわー! クイーンクリサリスの挨拶もう最高! 気品たっぷりで自信に満ち溢れているし、恥ずかしがらずに声もきっちり出てるね!」
 いち早く口を開いたのはピンキーパイ。彼女は恐らく素で褒めているのだろう。

TS「わー、クイーンクリサリス! いい挨拶だわ」

AJ「さ、さっすがクイーンクリサリス! 女王の貫録溢れる挨拶だね!」

ラリティ「ブラボー! ブラボー!」

FS「その、素晴らしい、です……」
 ひきつった笑みを浮かべながらも、トワイライト、アップルジャック、ラリティ、フラッターシャイと、称賛の声を上げる。
 本心の声ではなかったが、付和雷同を極めるこの街の住人にとって、村を独立させ政治すら取り仕切るようになったこの六人の言葉に追従しないわけはない。

「最高ね! クイーンクリサリス!」
「いいパフォーマンスだわ!」
 そんな言葉が、誰の口ともなくいろんな方向から飛んでくる。
 クリサリスにはその言葉のどれもが偽りであることは感じ取っていたものの、長い者には巻かれるタイプの住人である。
 いつかは自己暗示でも何でもして、クイーンクリサリスが本当に改心したとでも思いこむのではないだろうか。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/09/06(土) 21:53:09.85 ID:JhyZrqyJ0
理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410004413/

理樹(バスの事故から3ヶ月、

もう雪が降る季節だ。

僕らは悪夢のような出来事から目を覚まし、

今をこうして悠々と過ごしている)

日常系リトバスSSです!

亀更新ですがよろしくお願いします。
74 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/06(土) 21:59:55.99 ID:FmVOIz6O0
 その後、パーティーも佳境に入ったところで、クイーンクリサリスは新聞の切り抜きを提示して、フレイムポニーとのトラブルを解決したことについてを語る。
 兵隊が変身能力を持っているので、ブルーラブラドライトやケルピーの姿をとって状況を説明するなど、中々に臨場感のある寸劇である。
 それを自慢と捉えてしまうと印象は悪く、レインボーダッシュなどは『自分のしたことを得意げに自慢して鬱陶しい』などと、自身の行動を棚に上げて思っている。
 だが逆に、そういうった行動を評価し、少しだけ見直す者もいた。結局、あまり人数の集まらなかったパーティーではあったものの反応は上々といったところか。
 まだ複雑な気持ちを抱えたままで、半信半疑の者も多く、特にレインボーダッシュについては完全にクリサリスに対する警戒を解いていない。
 けれど、それでも。ピンキーパイの言う通り、自分から行動してみないと何も変わらない。そして、行動したからこそ変わったと言ったところか。
 まだ、ピンキー以外から愛の感情を感じない。ただ、この場に憎しみや憎悪といった負の感情を好む魔物がいたのならば、確実に居心地のよさは消えていたことだろう。そのくらいには効果があったのだ。
75 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/06(土) 22:04:30.59 ID:FmVOIz6O0
今日はこんなところで。次回でこのお話は終わって、次がフラタ回です
76 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/07(日) 22:20:03.03 ID:iRVfis6z0
 パーティーを終えると、すっかり疲れ果てて家に戻ったチェンジリング一行だが、彼女らにはまだやることが残っていた。寝るのはそれからだ。
QC「よし、準備はいいか、パトリックよ?」
「問題ありません、いつでもどうぞ、クイーンクリサリス様」
 クイーンクリサリスはトワイライトスパークルから譲ってもらったノートと羽ペンを手に、レポートを書き記す。
 そういったことについてはパトリックの方が得意なため、口述筆記は全て彼に任せることにした。
 トワイライトスパークルに、スパイクのようだと言われたパトリックとの関係だが、どうやら本当にスパイクと同じような扱いになりそうである。

QC「では、言うぞ。愛を得るためには、まず笑顔が大事だと言われた。
  愛するものというのは、感情を共有したくなるもの。だが、どうせならそれは楽しい感情でありたいものだ。
  それゆえに、笑顔でいる者の方が、愛され上手になるという事をピンキーパイは言っていた。
  考えても見れば、私はいつもポニーを憎んで生きてきた。そんな私では、ポニーの前で笑顔でいられるはずもない。
  だがあのピンキーパイは、そんな私にも愛を与えてくれた。まだあいつだけと言えばそうかも知れないが、最初の一歩が大事なのだ。
  加えて、トワイライトスパークルにはこうも言われた。愛はそこにあるものを頂くのではなく、育んでいくものだという。
  誰かを理解し、お互いへの信頼関係を深めていくことで、深く愛し合うことが可能であると。
  私にとっては、それらは未知の領域のため、一体どういうことなのかはわからない。
  だが、恐らくこの街で最も愛され上手なピンキーパイが言うのだ、信じてみるのも悪くない」
 言い終えて、クリサリスはため息をつく。
「以上だ、パトリック」
「はい、かしこまりました」
 適宜インクを補充しながら、パトリックはさらさらと羊皮紙に羽ペンを走らせ、クリサリスの言葉を写していく。
「クイーンクリサリス様」
「どうした、ロイ?」
 パトリックが口述筆記をしている間に、ロイが恐る恐る尋ねる。
「貴方は、以前はポニーをむしろ憎んでいたような気がしましたが……その、今は……そうでもないような、そんな気がするのです」
 まったくそんな事はないのではないでしょうか? と、尋ねるのが恐ろしくて、ロイは口をつぐむ。
77 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/07(日) 22:27:12.31 ID:iRVfis6z0
QC「憎んで……憎むことで、私がポニーに対しどれほどの悪行を重ねようとも心を痛めることなく行動すれば、新しい女王が生まれると言うのならば私はポニーを憎もう。
ポニーを根絶やしにしてでも、新たな女王を産もうと思っている。だが、現実はそう言うものなのかもしれないし、そういうものではないのかもしれない。
 押してダメなら引いてみろと言う言葉もある。ポニーを憎むのでは無く、仲良くすることで女王を産めるのならば、そうする。
とりあえずは、あの理解不能で得体のしれない、ピンキーパイというポニーを信じてみる。そういうことさ。
 こうなった以上、ポニー憎しとイライラしていても、私の心が持たないからな。少し、笑顔というものを考えてみたくなったんだ。
それに、ダメだったら従来通りのやり方をしてもいいだろうが、一度くらいは別のやり方をしてみるのも手じゃないか? 何事も、一つの事に執着しすぎては良くない」
 クリサリスは自分の考えを述べて、ロイの答えを待つ。

ロイ「なるほど……クイーンクリサリス様がそういうのであれば、このロイ、どこまでもついてゆきます」

QC「あぁ、頼むよ」
 と、クリサリスは笑顔になる。

QC「しかし、笑顔ってこれでいいのか……? 鏡がないからよくわからないな」
 と、クリサリスが言うと、彼女の顔を見つめていたロイと、同じく筆記を終えて顔を見ていたパトリックが一瞬驚き、笑顔になる。

パトリック「これは、なんというか……笑顔も素敵ですね、クイーンクリサリス様」

ロイ「その方が、素敵ですよ」
 そうして、パトリックトロイ。二人が口々にクリサリスを褒めるのである。

QC「お前らも、いい笑顔だぞ」
 そう言ってクリサリスは二人の頭に蹄を置く。

QC「その調子だ。もっとうまく笑顔になって、愛され上手になろうではないか」
 クイーンクリサリスに褒められ、歓喜に打ち震えんばかりの二人だが、しかし静かに『光栄です』とだけ口にする。わずかな蝋燭以外は家具も何もない夜であったが、その日チェンジリングたちは幸せな気分で眠りについた。
78 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/07(日) 22:29:08.53 ID:iRVfis6z0
これにて、『おいでませ、ポニーヴィルへ』は終わりです。次回からは『優しさは誰のため?』をお送りします。ちなみにふらたそ回。

>>76 ではちょっとミスってしまって済みません。だんだん素が出てるとか気にしちゃいけないのですよ
79 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/08(月) 19:44:32.78 ID:iXe4CSTy0
 クイーンクリサリスの引っ越しとパーティーを行った翌日。
 クイーンクリサリスは仕事を探さなくてはならないので、まずは市庁舎に行って住民票を取り、その後仕事を探すことにした。

QC「ふむ……マフィン職人。これはダメだ。ポニーの味覚は私には合わない。
  お天気ポニーの新規募集……町自体を開拓して広げるために、天候を操る範囲が増えるため人手が必要……
  出来なくはないが……私の仕事ではないな。お城の清掃員……お、これはトワイライトが募集しているのか……」
  プリンセスセレスティアの命により、きっちりと住民登録をしたクリサリスだが、彼女にはまだ職がない。
  当面の生活費はプリンセスセレスティアから工面してもらったものの、それも一か月もすればすべて使い果たしてしまうだろう。
  ポニーヴィルで生活する以上は、お金を稼ぐためには働く以外にないので、クイーンクリサリスは柄にもなく職探しという訳である。

ロイ「私はこれで行きます。力のある人募集中って書かれていますし、私なら全く問題ありません」
  そう言ってロイが提示してきたのは、土木作業員の募集である。
  この町はエレメントオブハーモニーの力で新しい城が出現したらしく、それに合わせてここをトワイライトキングダムの首都として発展させようという計画が持ち上がっているそうだ。
  そのため、天気を司るペガサスをはじめとして、色んなポニーの仕事の需要が増しているらしい。
  そのせいだろうか、いつもならばベビーシッターのバイトを探している学生も、給料の良い開発事業に向かってしまうことが多く、今現在はベビーシッターの需要が供給を上回っているらしい。

パトリック「ふむ……ならば私はベビーシッターだな。子供の世話なら、母親の姿でやるのが一番だろう。それが出来るのは我らチェンジリングだけだ」

QC「母乳は出ないが大丈夫か?」

パトリック「哺乳瓶で何とかするさ」
 と、パトリックの無駄に勇ましい声が帰ってくる。
 しかし、もともとは学生のバイトの仕事というのが相場のため、彼の口述筆記や魔力の強さを活かせないのではないかと考える者もいよう。
 クリサリスとしてもそのあたりは心配だったのだが、ちらりと覗いてみると、一人で五人も相手をする必要があるらしく、値段もそれ相応といったところ。
 どう考えても普通のポニーでは蹄が足りないので、そこらへんのユニコーンと比べてもはるかに強い魔力を持った彼ならばやってのけるかも知れない。
80 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/08(月) 20:19:29.74 ID:iXe4CSTy0
パトリック「哺乳瓶で何とかするさ」
 と、パトリックの無駄に勇ましい声が帰ってくる。
 しかし、もともとは学生のバイトの仕事というのが相場のため、彼の口述筆記や魔力の強さを活かせないのではないかと考える者もいよう。
 クリサリスとしてもそのあたりは心配だったのだが、ちらりと覗いてみると、一人で五人も相手をする必要があるらしく、値段もそれ相応といったところ。
 どう考えても普通のポニーでは蹄が足りないので、そこらへんのユニコーンと比べてもはるかに強い魔力を持った彼ならばやってのけるかも知れない。


QC「私はこれにしたぞ。警備員だ。このポニーヴィルがトワイライトキングダムの首都と制定されるにあたり、
  トワイライトスパークルは露店が連なる商店街の方の治安の改善を画策しているらしくってな。
  格闘技の経験などがある者や、強力な魔法が使える者に対しては優遇するそうだ。これも雇い主がトワイライトになっているから、面接も難しくはないだろう」

パトリック「おお、それは何ともクイーンクリサリス様向け」

ロイ「貴方の強さならば立派にやり遂げられる事でしょう」

QC「世辞はいい。そんな事よりも、この町で全く信用のない私がきちんと面接に通るかどうかが問題だ。
  薬も酒もたばこもやらないが、しかし種族だけで敬遠されることもある。昨夜のパーティーが良い影響を与えているということはあまり考えられんしな……」

パトリック「ともかく、受けてみない事には何ともなりませんし、職員に申請を行っておきましょうか」

QC「それもそうだな。整理券をとらないと……」
  整理券を取り、ソファに座って待つ間。場の視線はクリサリスや二人の兵隊に集中する。
  それも仕方のない事だろう、見かけない顔の、しかもポニーですらない面々がこんな場所に並び立っていれば、奇異の目で見つめたくもなる。
  しかも、以前の侵攻を知っている者達からすれば、クリサリスは敵に他ならない存在だ。それが平然と座っている様子は、少なからずイライラするものなのだろう。
  なんであいつがあんなところにいるのだと言わんばかりのひそひそ話は止むことなく行われる。
  ただ、クリサリスの強さは十分に理解しているのだろう、喧嘩を吹っ掛けるようなことをしないのがせめてもの救いだろうか。

QC「あまり歓迎はされていないようだな」

ロイ「仕方がありませんよ。トワイライトの言う通り、私達の事は少しずつ信用させるしかないんです」

QC「そうだな。睨まれても笑顔を返せるように練習しよう」
 クリサリスはそういって自嘲する。順番はまだまだ先であった。
81 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/08(月) 20:20:41.43 ID:iXe4CSTy0
今日はここまで、ブルーラブラドライトですが、7話目まで再登場しません
82 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/09(火) 20:35:21.51 ID:bWNN2nIi0
 クリサリスは事業所や依頼主への連絡の手続きを済ませ、後日の連絡を待つように言いつけられる。
 それ以降は特に予定もないので、クリサリスは空を飛びながら街をぶらつくことにした。
 やはりアースポニーであるピンキーパイの案内だけではカバーしきれないような僻地も多く、入り組んだ路地裏やら、
 ポツンと離れた場所に立っている家やら、空から観察しなければわからないものもある。
 こうしてみると、やはりのどかで愛にあふれた街であると思う反面、住民たちのやけにぎすぎすした態度も鼻につく町である。
 家族や友人には優しい彼らだが、どうでもいい人間に対しては冷たくあしらい、特に気弱なものに対してはごね得というべきか、強気に発言して相手の意見を封殺している風景が良く見える。
 まぁ、その気弱なものというのはフラッターシャイの事なのであるが。

QC「あの女……なんというか、損な性格をしているな」
 そう言えば、とクリサリスは昨夜のパーティーで彼女とはほとんど話していないことを思い出す。
 話さなかったというよりは話せなかったという方が正しいが、それはともかくとして。彼女はどうやら商店街順番を抜かされて困っている様子。

QC「そう言えばあれだ。今朝読んだ本に、『愛されるためには他人に親切であれ』と言われたな……これは親切の絶好の機会かもしれないな」
 トワイライトスパークルから借りた本をすでにして読み終えているクリサリスが、にやりと舌なめずりをする。

パトリック「そうですね、クリサリス様。話しかけてみますか?」

ロイ「そうしよう、パトリック。だが、あいつは臆病だからな……笑顔だ。笑顔で話しかけないと逃げられる可能性がある。こんな感じで大丈夫か?」
 クリサリスは兵隊二人に笑顔を作って見せる。

ロイ「ばっちりです、クイーンクリサリス様」

パトリック「麗しい笑顔です!」
 ロイとパトリックがそう言ってクリサリスを褒める。

QC「よし、では行ってくる」
 そう言って彼女は急降下。市場をとぼとぼと歩くフラッターシャイの元へと向かう。あまり勢いをつけすぎて驚かせるのも何なので、クリサリスは彼女の前にゆっくりと着地する。

83 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/09(火) 20:39:07.08 ID:bWNN2nIi0
QC「やぁ、こんにちは」

FS「あら、クイーンクリサリ……きゃぁっ!!」
 しかし、笑顔を向けてたはずだというのに、フラッターシャイはクリサリスの姿を見ただけで驚き、屋台の裏に隠れてしまう。
 やれやれと、クリサリスは魔法で彼女を引きずり出した。それでも彼女は逃げようとして脚と翼をばたつかせるが、クリサリスの魔力には逆らえなかった。

QC「フラッターシャイ……なぜ私を避ける? 私は笑顔をきちんと練習したというのに」

FS「だって、何か悪巧みしているような顔をしている……そんなの笑顔って言わない! 悪い顔よぉぉぉ!!」

QC「悪巧み? これが、この顔がか? ピンキーパイやトワイライトと一緒に練習したというのに、この顔が悪巧み?」
 驚き、顔を近づけながら叫ぶと、フラッターシャイは縮こまって震えだす。

FS「は、はい……」
 と言う声も、蚊の鳴くような声である。

QC「くぅ……笑顔についてはもっとピンキーパイによく見てもらわなければいけないな……っと、そんな事よりも。
  フラッターシャイ、お前満足に買い物は出来ているか?」

FS「い、い、いえ……買い物は、その、順番を抜かされて……こんなのはダメだってわかっているんだけれど、強く言えなくって……
  でも大丈夫です、何の問題もありません」

QC「欲しいものが買えなくってどこが問題ないというのだ……それが来るのが遅いからならばともかく、ずるい方法でその権利を取られるとは……
  あーあー、上空から見ていたが、やはりそうだったのか。欲しいものがあるのなら、私達が代わりに買ってやってもいいぞ?」
 酷く呆れた口調でクリサリスが言う。

FS「え、でも……そんなのは、悪いから……」
 彼女の提案に、フラッターシャイはあまり乗り気ではないようで、目線を逸らしながら断る。
 フラッターシャイはとにかく波風を立たせたくないのだ。
84 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/09(火) 20:48:42.98 ID:bWNN2nIi0
今日はこんなところで。ふらたそは怖がらせたくなります
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/09(火) 20:52:09.35 ID:Tump1oEAo
86 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/10(水) 21:10:22.85 ID:V4L8VSVw0
QC「気にするな。助け合いというのが大事であることはお前もよく知っておろう?
  いいや、お前らが一番よく知っているはずだ。お前達の日記を読ませてもらったぞ、お前達の助け合いの精神は素晴らしいものだったな」

FS「あ、褒めてくれて、その、ありがとう……」
 目を逸らしながら、フラッターシャイは後ずさる。

QC「あーもう、そんなことはどうでもいい。お前、悔しくないのか? あんな風にいいようにされて」

FS「それでトラブルが避けられるなら……」
 クリサリスは話しているうちにはっきりとしないフラッターシャイの態度にイライラして、声が大きくなる。

QC「その心がけが、いつか大きなトラブルを産むんだ。そうなる前に、少しくらい対処しろ……
 というかお前、日記に『甘やかすだけがやさしさじゃない』とか書いていたくせに、その体たらくはなんだ……」

FS「ぜ、善処します」
 蚊の鳴くような声で言うフラッターシャイに、クリサリスは諦めることにした。

QC「あー、ロイ。お前が代わりに買い物してやれ。フラッターシャイ、お前が買いたかったものは何なんだ?」

FS「エンジェルのために、その、アボカドとパインアップルを……」
 もう呆れきったクリサリスは、諦めてロイに買い物を命じる。

ロイ「はっ、直ちに」
 クリサリスの意図を察したロイは、フラッターシャイに変身して列の後ろに並ぶ。
 そうして、彼女が気弱なことを知っているのだろう他の客が早速、当然のようなしぐさで割り込みをしようとしてきたが、
 ロイは自慢の怪力で地面を蹄で叩いて、地面にひび割れを引き起こす。

FS(ロイ)「コホン」
 と咳払いを一つ挟むと、ロイはフラッターシャイの顔、フラッターシャイの声で言う。

FS(ロイ)「私が先に並んでいるのですが、その……マナーを無視しなければならないほどにお急ぎですか? お急ぎでしたら、譲らないこともないですが」
 息が触れる距離まで顔を近づけ、彼女特有の眼力を再現しながら詰め寄られる。しかも、地面のひび割れのせいでインパクトは十分。となれば、怖気づくのは仕方ない。
87 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/10(水) 22:08:29.53 ID:V4L8VSVw0
「ご、ごめんなさい」
 彼女の圧力に負けて、割り込みをした客は後ろに並びなおした。
 その後もフラッターシャイは不当に値上げをされたりもしたが、拾い上げた小石を蹄で挟んで砕く姿を見せたら大人しく普段の値段で売ってもらえる。
 周りではアイアンウィルのレッスンをまたやったのか? などとささやかれているが、そんなことはさて置いて変身を解くと、そこにあるのはチェンジリングの姿。
 今回のフラッターシャイの豹変について納得した住民は安堵の息を漏らしていた。

ロイ「見たか? 買い物というのはこうやってするものだ。客同氏は平等に並ぶ義務があるし、店の者は客は平等に扱わねばな」

FS「ちょっと乱暴じゃ……」

QC「奴らが横暴なのだ、これでちょうどいいくらいだ。ほら、ロイ……渡してやれ」

ロイ「ほいよ。お前ももう少し乱暴になっていいんだぞ?」

FS「はい、ありがとうございます……」
 お礼だけはきちんと言えるようで、三人は安心する。
 しかし、まだ買い物があるのだろうと思うと、すこしばかり放っておけない気持ちになったものだが、最後まで付き合ってはいられないため、その後は自分の買い物をすることにした。
 ポニーは基本的に草食のため、肉を売っている店は少なく、あったとしてもペット用といったところ。あまり肉が手に入らないのは仕方がないかと割り切って買い物を終える。
 その帰り道、ふと樹の上にある鳥の巣を眺めていると、そこにはカッコウがいるではないか。
 カッコウと言えば、托卵をすることで有名な鳥。他人に成り代わって愛をむさぼる自分達と似たような鳥だと思うと愛着もわく。
 そいつは、生まれたばかりのようで、すぐに本能的に他の卵を落として自分一人が餌を得ようとしているようである。

QC「もったいないな、その卵」
 どうせ落とされるくらいならば自分達で食べてしまおうかと思い、クリサリスは落とされるのを待つその卵を魔法で拾い上げる。

ロイ「それ、どうするのですか?」

QC「今日の昼食に……いや、そう言えば」
 フラッターシャイなら、こういう可愛そうな卵を譲ってやれば喜ぶのではないかとクリサリスは考える。
 ピンキーパイのように、少しでもいいから愛してもらえれば、それだけ魔力は強まっていく。
 早いところ全員からの信頼を勝ち取るほうが、食卓が潤うよりも重要だ。
 あの六人の友情は堅い。それだけに、一度でも信用してもらえば、その友情も愛情として確かな力を持つはずだ。

QC「気が変わった。このままフラッターシャイの家に行くぞ」

パトリック「え、あのドアマットの所に?」

ロイ「また、なんでそんな?」
 クリサリスの思惑をこんどは理解できていないようで、パトリックとロイは珍しく意図を尋ねる。

QC「なに、こういう卵を引き取るのなんかも好きそうな気がしたからな。好感度は上げておくに限る」

パトリック「なるほど……確かにそうですね」
 パトリックが納得し、それに追従してロイもうなずいた。

パトリック「では、その卵は私が持ちましょう。クリサリスさまは手ぶらで大丈夫です」

QC「頼むぞ」
 クリサリスはパトリックの申し出をありがたく受け取ることにして、どう話すべきかと思案しながらフラッターシャイの家まで飛んでゆく。
 今はまだ昼食時だろうか、動物たちの機嫌を損ねたら怒られるだろうか、用心せねば。

88 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/10(水) 22:09:59.63 ID:V4L8VSVw0
今日はこんなところで終了です。

いまさらですが、『ポニービル』ではなく『ポニーヴィル』なのは、パラレルワールドであることを明確にするためです。
89 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/11(木) 22:26:14.67 ID:tqFN6roP0
 空から彼女の家に降り立ってみれば、彼女は動物たちに餌やりの真っ最中のようである。
 あまり近くに降り立つと怖がられるかもしれないので、クリサリスは少し離れたところに降り立ってから、歩いて彼女の元に向かう。

FS「あら、クイーンクリサリス……どうしたのかしら、何か忘れもの?」
 一度会話を交わしたことで何とか怖がらなくとも済むようになったのか、フラッターシャイは先ほどとは違って怯えることなく応対してくれる。

FC「いやな、家に帰る途中で托卵されたカッコウが、自分の巣から他の子の卵を落とそうとしていたんだ。
  放っておいてもよかったのだが、お前なら面倒見るんじゃないかと思ってな」

FS「あらあら……卵はどうなったのかしら?」

QC「助けに行く必要はない。私達が助けておいた。なぁ、パトリック」

パトリック「はい、こちらに」
 クリサリスに促されてパトリックが籠に入れられた卵を差し出す。

FS「あらまぁ……カッコウって酷い事をするわ」

QC「生きるためだ、仕方なかろう?」
 暗い顔をするフラッターシャイにクリサリスは言い放つ。

FS「それは分かってる。私も動物たちに自分で捕った魚や虫を与えることもあるし……
  でも、他人の子供を生まれた時から殺すのって、なんだかなぁって、そう思うの。
  それも生きるためと言えばそうだし、スズメバチなんかもやっていることだけれどね」
90 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/11(木) 22:30:31.55 ID:tqFN6roP0
QC「耳が痛いな……我らも似たようなことをやっている」
 クリサリスは苦笑しながら言う。

FS「好みの問題よ。私も、そういう生き方しかできないって言うのなら、それを悪いとは思わないから」

QC「そういうものか。案外割り切っているんだな、お前。私は、とんだ甘ちゃんかと思ったぞ」
 クリサリスはフラッターシャイに対して生き物の食物連鎖などに悪いイメージを持っていそうな印象を持っていたが、
 意外にもそうではなく割り切った考えが出来ることに感心して笑む。

FS「どうかしらね。私は、自分が草食のポニーに生まれてよかったと思っているくらいだから……
  貴方達みたいに肉も食べなきゃいけない種族だったら。きっと葛藤に苦しんでいたでしょうね。
  だけれど、肉食を否定はしないし、出来ないわ。ポニーにだって肉食のポニーはいるもの。シーポニーとかバイコーンとか」
 そう言って、フラッターシャイは少し寂しそうな顔をする。割り切ってはいても、肉食の生物がいないほうが世の中もっといいのに、くらいは思っているのかもしれない。 

QC「ほう、だが、もしかしたら草も恐怖しているかもしれないぞ? 『ポニーに喰われるなんて嫌だよう、怖いよう』とな」

FS「んもう、クリサリスってば。意地悪なことを言わないでよ。それに、草は食べられることで種を遠くに広げるような種類もあるのよ?
  だから、食べられることを恐怖に想ったりはしないわ。どんぐりだってそう。
  リスさんや熊さんが巣に持ち帰る間に落としたり、地面に埋めて保存しているのが残ったり、そう言うのが発芽してやがて大きな木となるの。
  植物たちはそうやって、思い思いの方法で遠くに種をまくの。だから、草を食べる事は悪い事じゃないのよ」
 フラッターシャイはそういって、微笑む
91 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/11(木) 22:35:45.25 ID:tqFN6roP0
ふらたそは小魚やミミズを動物にあげるシーンがあるから、食物連鎖自体はきちんと肯定している甘くはない子。
RDのペット回でも猛禽やらスズメバチやら肉食獣をたくさん飼っていましたね。

今回のセリフは別のところで聞いた言葉を分かりやすくしたものですが、
動物を殺したくないが故にベジタリアンをしている人に対して『植物も生きているんだぞ! かわいそうじゃね?』とか言ってドヤ顔する人に対して、ありがたいお言葉だとおもいます。
ただまぁ、農薬で虫を殺していることに対してはいいのかと突っ込みたくもなりますが(
92 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/12(金) 22:59:57.53 ID:RWklKNU10
QC「逆に食べることで数を増やす動物がいれば肉食でも苦しむ必要がないという訳か?」

FS「多分いないと思うけれどね、そうね。あの蟲ならそのくらいはやりかねないけれど……」

QC「あの蟲?」

FS「パクパク蟲。バブスプライトの事よ。知ってるかしら?」

QC「あぁ、あれか」
 クリサリスは一度辺境の村で目にしたことのあるその虫の食害の事を思い出し、苦笑する。
 あの時、食糧を奪い合って殺し合いにまで発展したため、人知れずポニーを間引きしたことは、あまり口には出せないことだ。

 そんな事よりも意外なのは、フラッターシャイと案外会話が弾むことである。
 商店街の時のようにフラッターシャイが怖がって話にならないかとも思っていたが、彼女の調子に合わせていれば、
 ポニーとは喋り慣れていないクリサリスでもなんとか彼女を笑顔にすることはできるようだ。
 一見仲良くなるのは難しそうなフラッターシャイだが、卵を届けた事が効いたのだろう、一度警戒心を解かせてしまえば仲良くなるのは難しい事ではないようだ。

FS「ねぇ、そういえばクイーンクリサリスは、ペットとかを飼っていたりする?」
93 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/12(金) 23:10:06.46 ID:RWklKNU10
QC「いいや。引っ越したばかりでそんなことを考えている時間もなかったし、全く頭になかったが……私も飼ってみたほうがいいのか? 私としては、ペットなんてこいつらで十分なんだがな」
 と言って、クリサリスはロイとパトリックを見る。

パトリック」「ちょっと、クイーンクリサリス様。私達をペット扱いだなんて酷いですよぉ」
 クリサリスのペット扱い発言に、パトリックが軽い調子で抗議する。

QC「はっは、可愛がれば素直に喜ぶあたりが、ペットみたいで可愛いじゃないか。それにお前らは私に従順だしな」

ロイ「クリサリス様が可愛がって下さるなら、私はペットになりたい……」
 パトリックとは逆に、ロイは不穏な言動を吐き出す始末。

QC「ふふ、素直な子の方が可愛がりたくなるな。お前はどうだ、フラッターシャイ?」

FS「素直な子も可愛らしいですけれど、手のかかる子も可愛いものですよ。エンジェルも我儘だけれど、たまに私のために体を張ってくれるから、本当は優しい子なんです」

QC「ほほう、私がそう思えるようになるまでは時間がかかりそうだ」

 これはダメな男を育てる女だなと思いつつもクリサリスは特に反論することなく適当に流す。

FS「ほら、チェンジリングって愛を食べる生き物なんでしょう?
  だから、心を込めてペットを飼ってみたら、きっと愛情に触れる事も出来ると思うの。
  だから、差し支えなければでいいのだけれど……貴方にお勧めの人懐っこくって可愛い子がいるのよ。
  貴方が乗っ取ってしまった子猫の村の生き残りの子なの。その子を、引き取ってみないかしら?」

QC「あぁ、あの時の……」
 子猫の村とは、二度目の侵攻の時に拠点としてキューティーマーククルセイダーの三人などを監禁していた場所である。
 クリサリス達はそこにあった古城に封印されていたことから、あまりいい思い出のある場所ではない。
 フラッターシャイにとっても、多くの子猫を食い殺されていたあの場所にはあまり良い思いではないだろう。
 彼女は肉食も仕方ないとは割り切っているようだが、わざわざ子供に見せつけるようにくらい殺したのを知られたら、もしかしたら烈火のごとく怒るかもしれない。

FS「こんなことを言うのは勝手かもしれないけれど、私としては、その……さっきも言ったように、命を奪うことはいけない事じゃないと思うけれど……
  でも、むやみに奪って欲しくないから。だから、子猫がどれだけ可愛いのかとか、そういうことを知ってほしいかな、なんて……ダメかな?」
 フラッターシャイはうるんだ瞳でクリサリスを見つめる。
 どうにも断りにくい雰囲気だし、それに愛を得られるというのならば、今はとりあえず何でもやってみようという思いもある。
 馬鹿馬鹿しい思いもないではなかったが、今までやってきた事では、エクエストリアを陥落させることは不可能なのだ。
 やったことのない方法を試さなければ、何も始まりはしないだろう。

QC「いいだろう、私もペットを飼おうじゃないか」
94 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/12(金) 23:14:44.79 ID:RWklKNU10
今日はこんなところで。
この物語とは関係ないけれど、沢城美幸さんが結婚すると聞いたときには、『フラッシュセントリー貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』という気分になりましたね。ジャスパーとかジュードなら許すけれど、一目ぼれのロイヤルガードなんかには渡したくない気分になりました。シャイニングアーマーお兄ちゃんも『ふざけるなぁぁぁぁぁ!』とか、『罠だ! これは罠だ!!』とか、『松田ぁ!!』ってなったでしょうねぇ。
はい、世界観がごちゃごちゃですね、
95 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/13(土) 23:13:47.57 ID:aNhtmvq70
ロイ「クリサリス様……正気ですか?」
 予想に反して乗り気になるクリサリスに、ロイが尋ねる。

QC「そうさロイ。我々チェンジリングは、生身のまま変身せずに愛される方法がわからない。
  だから、なんでもいい。愛される方法を知らなければならない。そうだろう?
  そのためには、今まで正気ではとてもやらなかったことにも挑戦してみるべきだ、違うか?
  今までやらなかったことに時間を費やせるというのはとても有意義なことだと思うのだが」

ロイ「貴方がそう言うのであれば……」
 クリサリスは当然のようにそう返すので、下手に怒鳴られるよりもよっぽど堪える。ロイは反論のしようもなく従うことにする。

FS「パトリックさんも大丈夫ですか? ペットは、家族だから……家族全員が受け入れてくれないと」

パトリック「異論はない。愛してくれるなら、私達も相応のことはする」

FS「それなら大丈夫そうね。私が貴方達を怖くないんだもの、きっと大丈夫だわ」
 フラッターシャイは笑顔になって飛びあがり、蹄を打ち鳴らした。

QC「そういう基準なのか……?」
 フラッターシャイの言動にクリサリスが困惑していた。

FS「さぁ、子猫の村の生き残りの子供なんだけれど……ちょっと連れて来るから、待っててね」

FS
「嬉しそうにまぁ……」
 単純なものだとクリサリスは苦笑する。
96 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/13(土) 23:26:25.27 ID:aNhtmvq70
最後のセリフはふらたそじゃなくってクリ様でした……
今日は一回の投稿で終わりです。全部スマブラのせいです
97 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/15(月) 20:28:52.10 ID:wFTBsxbT0
パトリック「でも、フラッターシャイが私達に心を許しているのを感じます。このままもっと心を許してもらえれば、いずれはそれが愛に変わるでしょうね」
 それが嬉しい事なので、当然のようにパトリックは上機嫌だ。

ロイ「ペットを飼うという選択肢も悪くなさそうですね」
 ロイも、フラッターシャイの心の揺れ動く様子を見て、実感で納得したようだ。

QC「さて、どんな子猫が出てくるのやら」

ロイ「懐いてくれるといいのですがね」

パトリック「とりあえず、あまり手間のかからない賢い子がいいですね」
 どんな子が来るやらと、三人で期待を寄せて待っていると、玄関の扉が開く、ゆったり羽ばたきながら背中の毛を掴んでいるフラッターシャイの下にちょこんと佇んでいたのは、巨大な桃色の毛玉であった。

FS「紹介するわ。この子はフラッフルパフ。子猫よ!」

QC「これはなんだ……?」
 クリサリスが尋ねる。

FS「子猫よ」
 しれっとフラッターシャイが言い放つ。

QC「なんという種類だ……雑種か?」

FS「子猫よ?」

QC「いやどう見ても子猫という大きさには見えんのだが……」

FS「子猫だっつってんだろーがよ! しばくぞ!」
 フラッターシャイの表情が修羅のようになり、その表情を見てクリサリスは凍り付く。

QC「ごめんなさい……」
 今まで大人しかったフラッターシャイが、何度も自分の発言を否定されてしまい気が立ったのだろうか? 突然の大声に、喧嘩すれば負けることなどありえないはずのクリサリスが謝ってしまう事態に至る。

QC「子猫……うん、子猫なんだな。そうは見えないが、きっとそうなのだろう」
98 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/15(月) 20:46:45.64 ID:wFTBsxbT0
FS「そうよ。とっても人懐っこくて可愛い子なの。躾もちゃんとしてあって、手もかからないと思うから、
  クイーンクリサリスにもおすすめの子なんだけれど……どうかな?」

 フラッターシャイが子猫と称する毛玉、フラッフルパフから手を離すと、フラッフルパフはクリサリスの元に飛び込んできた。
 豊かな体毛がもふりとクリサリスの体に覆いかぶさり、ほのかな温かみを感じる。

QC「こいつ……出会ったばかりの私に愛を振りまいているぞ? なんとちょろい奴だ……」

 子猫の村に訪れた時もそうだったが、こいつらは全くの無警戒に、他人へ愛を振りまくのだ。
 この人懐っこさや警戒心の薄さ、今までどうやって生き残ってきたのか疑問に思うほどだ。

QC「出会って間もない私に、愛を振りまくとは……病気を疑うぞ」

FS「そうじゃないわよ、クイーンクリサリス。その子は、愛することで生きているのよ。貴方とは逆」

QC「私と、逆? どういう意味だ?」
 フラッターシャイの言葉にクリサリスは首をひねる。

FS「その子たちは愛さなければ生きていけないのよ。それはまるで、呼吸をするように、自然に愛しているの。
  要するにね、あの子猫の村に生きていた猫ちゃんは、貴方のためにいるような子なの。ほら、抱きしめてあげて。もっと愛情を振りまいてくれるはずよ」

QC「あ、あぁ……」

 フラッターシャイの語る言葉と雰囲気に流されて、言われるがままにクリサリスがフラッフルパフを前脚で抱きしめる。
 雲のようにふわりとした感触を抱きしめてやると、フラッフルパフはより強い力でクリサリスに頭をこすりつける。
 まるで押し倒そうとしているかのような力で押されるも、クリサリスは倒れなかった。
 クリサリスは心ここにあらずといった様子で、フラッフルパフから伝わってくる暖かな力を受け取っている。
 フラッフルパフに触れている手足から、溢れんばかりに愛情が伝わってきた。
 思わず、クリサリスはフラッフルパフをギュッと抱きしめる。自分の内側からも暖かな力が湧き上がるのを感じた。

QC「なるほど、愛せずにはいられない……か。良い子じゃないか……殺して喰うだなんて、何とももったいない事をしてしまったものだ。
 こんなに良質な魔力が手に入るなら……彗星が来るからと焦らずにゆっくりしておけばよかったわ」
 思わず笑顔をほころばせながらクリサリスは言う。

FS「それは、魔力のためだけかしら?」
 フラッターシャイが尋ねる。恐らく、答えを確信した上で。

QC「わからないな。魔力だけではない気もする」
 クリサリスは、自分で口に出してみて、何を言っているのだと自問自答したくなる。

QC「例えば、私がシャイニングアーマーを永遠に支配したとして……これだけ、満足できるのだろうか?
  あいつを手中に収めた時はこれ以上に魔力を得ていたはずなのに……あれでは満足できない気がする。こいつのように愛されていないと、私自身を愛してもらえることで、何か違いがあるのか……」

FS「それが愛よ、きっと。愛し、愛されて……そしてとっても幸せな気分になるの。それが愛なんじゃないかって、私は思うの」
 フラッターシャイはそういってクリサリスに笑みを投げる。
99 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/15(月) 20:48:48.16 ID:wFTBsxbT0
新しいゲームを買うとつい熱中しちゃいますね。最近はマイリトルポニーのアニメが終わって寂しいです
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/15(月) 21:31:45.95 ID:x7A+jdeeo

十月に日本産コミックが出るらしいな!
101 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/16(火) 23:02:05.23 ID:3o2P6awA0
QC「は、何を馬鹿な……」
 言いながら、クリサリスはフラッフルパフから顔を離し、兵隊の方へと振り返る。

QC「ロイ、パトリック。お前、私がこいつを愛しているのを感じるか?
  今、ここでお前達二人がフラッフルパフに変身して私に甘えたら、愛を受け取れそうに見えるか?」
 フラッターシャイの言葉をクリサリスは鼻で笑い飛ばした上でクリサリスは言った。自分達チェンジリングは愛など知らない。
 そうでなければ、とっくにチェンジリング同士で愛し合っているはずだ。
 クリサリスが新たな女王を産むことなどたやすかったはずだ。

ロイ「いいえ、全く」

パトリック「愛なんて……全く感じませんが」
 ロイとパトリックの言葉に当たり前だ、とクリサリスは思う。
 こんなこと程度で愛を感じられるのなら、きっとケイデンスに化ける必要もなかったはずだ。
 兵隊二人が、愛なんてないと言い張ったことに、フラッターシャイは少なからずショックを受けているようで、どうにも意気消沈している様子であった。

QC「だ、そうだ。これでも私達は愛がそこにあるのかどうかを見分けることに関しては、命にかかわる問題でもあるから、専門家だよ……
  だから、私がこのフラッフルパフを愛しているだなんてことは……きっと、ない。
  私達チェンジリングはは、愛を喰う事は出来ても、生み出す事は出来ない……愛を知らない種族なんだ」

FS「そう……それは残念だわ」
 フラッターシャイは気落ちしている。

QC「でも、この子は大切にしよう。だから、そこは心配しないでほしい。愛……ひいては魔力のためだけじゃない。なんというか、その……一緒にいて気分がいい。そのためにも、大切にするさ」

FS「うん、分かったわ。私としてはそれが愛って感情なんだと思うのだけれど……」

QC「きっと似たような感情でも、異質なものなのだろう。我らはポニーとは全く違う生き物だからな」
「そう……でも、一緒にいて気分がいいなら、きっと大丈夫よね」
 少しだけ間をおいて、フラッターシャイが頷く。
 自分と同じように動物を可愛がってくれる者が増えてうれしいのだろう、彼女の顔は太陽のように晴れやかな笑顔をしている。

FS「可愛がってあげてね。餌はキャットフードとかお魚とか、体は大きいけれど、食べるものは一緒だから」

QS「了解だ。お勧めを教えてくれ。パトリックにメモをさせる」
 そうして、餌や世話の仕方などを一通り教えてもらってから、クリサリス達はキャットフードを分けてもらいつつようやく家に帰る。
 その後姿を見送りながら、フラッターシャイは考えていた。

FS「一緒にいて気分がいいって……それが、愛じゃないのかしら?
  大丈夫……お互いに感じ取ることは出来なくても、貴方達はきっと愛を知っているわ。
  愛することができるのだから、貴方もまた、きっと誰かに愛してもらえる。私は、そう確信してる」
 と。
102 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/16(火) 23:04:10.09 ID:3o2P6awA0
 一方、帰宅したクリサリス達はというと、家でレポートを書くのだが。

QC「まずは、そうだな……鬱陶しさと、かわいらしさは紙一重だ……まず私達はそれを学んだ。
  そして、あまりに一緒にいる事が慢性化してくると、得られる魔力もわずかなものとなってしまう。
  ほどほどに、メリハリをつけるのがちょうどいいのだ」
 クリサリスはため息をつく。

QC「だから、少し離れてくれ……フラッフルパフ」
 フラッフルパフの愛情によって魔力回復できたものの、あまりにまとわりつかれ、
 日記帳を開いたときに危うく紙を破きそうになったり、インクをこぼしそうになったりと暴れ方がひどいので、少しだけうんざりしているらしい。
 ただ、これからは魔力に困ることはしばらくなさそうである。それだけが救いだろうか。

QC「最後にと……フラッターシャイの愛情はとても優しく柔らかい。
  家を出てから背中に愛情を感じていたが、彼女の優しい性格が伝わってくるようだった。
  つまり、この日我々は二つの愛を手に入れたというわけだ。この調子で、翌日からも愛集め。ひいては魔力集めをがんばろうではないか」

 意気込みを口にして、それをパトリックが紙に書き写す。その様子を、ロイとクリサリスは、フラッフルパフにまとわりつかれながら笑顔で見守っていた。
103 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/16(火) 23:07:55.27 ID:3o2P6awA0
今回の更新で『優しさは誰のため?』は終了です。次回は『アップルジャックを救え』というストレートなタイトルのアップルブルーム回。オリキャラとして、ジョナサンとカルヴァドスというポニーが登場する予定です。名前が名前だからどういう関係か分かる人は分かります
104 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/17(水) 22:37:07.23 ID:kwKdxRoN0

 今日はスイートアップル農園にて、ロデオ選手権が行われた。大盛り上がりの大会では、身軽で力も強いアップルジャックが大健闘し、
 力任せなビッグマッキントッシュやブレイバーンは、検討したものの惜しくも敗れてしまった。
 結果、優勝候補であったアップルジャックが、順当に牛を乗りこなし、暴れ牛を手なずけて優勝を飾った。
 ピンキーパイは途中でアップルパイを食べようと牛を下りてしまったために失格という扱いであったが、危うく彼女が優勝になりかけたことも追記しておく。
 アップルブルーム達、子供達は子供の牛に乗って振り落とされながらも互いに笑いあっていた。
 今までキューティーマークのなかった子供が、その過程でロデオのキューティーマークを手に入れてしまったので、数年もすればアップルジャックを脅かす存在となることだろう。
 そんな大興奮の家族会が終わり、その夜アップルファミリーは各地に住んでいる家族が去って行った家の中でひとしきり騒いでから、各々就寝のために寝室へと戻っていった。

 深夜、目を閉じていたアップルジャックの部屋に、忍び寄る足音が聞こえる。
 足音の大きさからしてアップルブルームがトイレに起きたのかとも思ったが、その足音はトイレとは違う方向に向かっていて、
 その足音がアップルジャックの部屋の前で止まり、控えめなノックの音が響く。

AB「ねえ、お姉ちゃん」
 アップルブルームは眠れなかったのか、姉の部屋を訪ねに来たようだ。

AJ「起きてるよ」
 アップルブルームの声が小さいことから、寝たふりをしていればきっと諦めて部屋に戻るだろうとは思ったが、せっかくだからとアップルジャックは妹を招き入れる。
 アップルジャックの言葉を、受け入れられているのだと解釈したアップルブルームは、少ししおらしい態度で姉の部屋に入っていく。

AJ「どうしたんだ、アップルブルーム。眠れないのか?」

AB「うん……」
 控えめにうなずきながら、アップルブルームはちょこんと姉のベッドに飛び乗る。

AB「今日ね、バブス・シードと家族のお話したんだ」
105 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/17(水) 22:59:58.96 ID:kwKdxRoN0
AJ「うんうん、それで?」

AB「お母さんとお父さんの話になってね……あぁ、私達兄弟って、お母さんとお父さんがいないんだなぁって……」
 悲しげに語るアップルブルームに、アップルジャックはひきつった笑みを浮かべる。

AJ「いないわけじゃないさ、アップルブルーム。ただ、二人はペガサスでもたどり着けない高い場所で……お仕事をしているだけで……」
 アップルジャックはお決まりの文句を口ずさんで、あいまいな笑みを浮かべる。

AB「お姉ちゃん、私もう子供じゃないよ?」
 そんな優しい嘘はもうばれていると言わんばかりに、アップルブルームが釘を刺す。

AB「まぁ、まだ子供だけれど、お姉ちゃんが嘘をついているのが分からないほど、子供じゃないよ」
 顎をしゃくりあげて、アップルブルームは得意げな顔。
 まだ、真実を伝えるには幼すぎる年齢だと思っていた時期には、『ペガサスでもたどり着けないような遠いお空の上に行ったんだ』と説明したが、
 今はきっと、言葉だけでも死という物を理解しているのだろう。
 昔は、どうすればそんな高い場所に行けるのか、グラニースミスやチアリー先生に聞いて回っていたものだが、知らないうちにアップルブルームは成長してしまったようだ。

AJ「ごめんな、アップルブルーム。本当のことを教えられなくって」

AB「良いんだよ、お姉ちゃん。小さい頃は、きっと理解できなかっただろうし……お父さんも、お母さんも。死んじゃったんでしょ?」

AJ「うん、そういうこと。もう、二度と会えないんだ」
 アップルジャックは、ベッドの脚側の方に顔を向けて俯く。

AB「それで、お父さんとお母さんは、どうして……どうして、死んじゃったの?」

AJ「それは……私のせいなんだ」

AB「お姉ちゃんの?」
 唇をかみしめ、絞り出すようなアップルジャックの声。その声と、その言葉、両方に驚いてアップルブルームは声を上げる。
106 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/17(水) 23:01:27.79 ID:kwKdxRoN0
今回のお話は、本編との矛盾が多そうなお話。公式からの回答によればAJ両親は星になっているそうですけれどね
107 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/18(木) 21:42:12.65 ID:PXNno1fF0
AJ「今から話すことは、アップルブルームにはすごく不愉快なことかもしれない……それでも、聞くかい?」
 アップルジャックが神妙な顔をして前置きをする。

AB「お姉ちゃんは、私が聞いても大丈夫だって思う?」

AJ「半々だよ。お前に、嫌われるかも知れなくって。だから、語るのは怖い……
  それでも、聞きたいって言うのなら。私は、止められないよ。アップルブルームにも、知る権利はあるしね」
 姉にそう言われて、アップルブルームは少し悩む。姉のせいで両親が死んだと言われると、それを聞くのはとても怖いが、その反面で、好奇心もとめどなく湧いてくる。

AB「私、聞きたい」
 少し考えた末に、アップルブルームはそう答える。アップルジャックはうつむいたまま、

AJ「わかった」
 と答えた。

AJ「私はね、アップルブルーム。むかし、お前のことが嫌いだったんだ……アップルブルームは覚えていないだろうけれどね」

AB「どうして?」
 今はちっともそんなことないのにと、不思議そうな表情でアップルブルームは姉を見る。

AJ「お父さんとお母さんが、ずっとお前のことばかり見ているからさ。だから私はあの時、自分は大切にされていないって感じててね……お前に嫉妬していたんだよ。
  だから、イラついてメーンハッタンに自分探しなんかに出かけたこともあった」

AB「キューティーマークを手に入れた時の?」
 アップルブルームが尋ねる。
108 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/18(木) 22:06:50.83 ID:PXNno1fF0
AJ「そう、それ。でも、その時もお前がずっと泣いていたとかで、見送りに来てくれなかったのはショックだったよ……
  それで、レインボーダッシュのソニックレインブームがあって、キューティーマークを手に入れて帰ってきてからも、不満は募っていった。アップルブルームの事が嫌いだった」

AB「そう……」

AJ「今は大好きだから、心配するなよ、アップルブルーム」
 しゅんとしてしょげるアップルブルームの肩に手を置いて、アップルジャックが微笑む。
 だが、アップルブルームはその顔をまともに見る事は出来なかった。

AJ「それで、ある日心配させてやろうって、私は家出をしたんだ。近くの山に行って、両親が心配して探しに来るのを期待して……
  でもね、その日は運が悪いことに、クラウズデールのペガサスがストライキをしていたんだ」
AB「ストライキ? 何それ」

AJ「仕事が厳しいのに給料が少ないとか、ともかくそう言った不満がある人達が、みんなで仕事を休んで雇主を困らせて、給料とかを上げてもらうように頼むってこと。
  アップルブルームだって、たくさん働いたらたくさん食べたいだろ? でも、クラウズデールのペガサス達は、たくさん働いても少しのお金しかもらえなかったから……
  それで、天候の操作を放棄したんだ。
  そしたら、どうなったと思う? 天気は荒れに荒れて、大嵐……ハリケーンだったんだ。雷雲を見て、帰ろうと思ったときには、もう帰り道が崖崩れで塞がれて……
  そこを、駆けつけてくれた父さんが、ロープを投げて救ってくれた。けれど、その帰り道でまた崖崩れにあってね……
  その時、父さんは私をロープに括り付けて、私を投げたんだ。私は助かった……けれど、父さんと母さんは、私だけ助けて、そのまま……」
 そこまで言い終えると、アップルジャックは申し訳ない気持ちがこみ上げて、下唇を噛み締めて涙を流す。姉が涙を流す姿を見るのは初めてではなかったが、声を押し殺して涙を流す姿はアップルブルームでも初めて見た。
 こんなの、彼女が主宰を任された家族会で、自分達の家が壊れた時でさえなかったことだ。

AJ「ごめんな、アップルブルーム……私は、とんでもないことをして……」

AB「大丈夫だよ、お姉ちゃん……私、怒っていないから」
 いつもは失敗したアップルブルームを、アップルジャックが宥める構図だった。
 しかし、その夜限りは、逆の構図が展開される。申し訳なくて、つらくって、悲しくて、恥ずかしくて。
 妹に顔向けできない思いばかりが募って、アップルジャックは中々顔を上げる事すらできなかった。
109 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/18(木) 22:07:42.53 ID:PXNno1fF0
外国じゃ公務員が休みを取ることもあるそうですね。消防とかが休んだら火事が起こった時大変そうですが
110 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/19(金) 21:49:57.09 ID:+aMcT/km0
AJ「……それでね、アップルブルーム」
 顔を逸らしたまま、アップルジャックは再び語る。

AJ「父さんと母さんが、どうやって私の居場所を知ることが出来たのか、不思議に思っていたんだ……それを聞いてみたら、なんて言ったと思う?」

AB「え……急にそんなことを言われても、分からないよ」
 だろうな、とアップルジャックはかろうじて笑みを取り戻す。

AJ「アップルブルーム。父さんと母さんはお前に、教えられたんだって、言っていた。
  『アップルブルームはお前の恩人なんだから、大事にしてあげなさい』って、言われた。
  そのまま、二人とも帰らぬ人になったよ……今でも、お前が教えてくれたっていうのがどういう意味かは分からないけれどね」
 すべて語り終えて、アップルジャックは顔を上げる。

AJ「両親がいなくなって、本当に……本当につらかった。
  けれど、グラニースミスも、ビッグマッキントッシュも、何よりアップルブルームも辛いだろうって……
  そう考えると、弱ってなんかいられなくって、その日からは何でもがむしゃらに頑張った。
  まだ言葉もうまく喋られないアップルブルームの世話も、リンゴの収穫も。
  その頃には大きくなっていた兄と違ってさ。まだ小さい私の体じゃ、上手くリンゴの収穫も出来なくって。だから、時間を増やしてとにかく収穫した。風邪をひいても、蹄が割れても」

AB「大変だったんだね」
 同情したのか、アップルブルームは申し訳なさげに尋ねる。
111 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/19(金) 22:02:20.97 ID:+aMcT/km0
AJ「大変だったけれど、それも自分が蒔いた種さ。でも、そのおかげで今の私がある。それと、立派に成長したアップルブルームがいる。それが何より、嬉しいんだ」
 そういったアップルジャックの表情は笑っていなかった。暗く影を落とした顔。

AB「お姉ちゃん……私、お父さんとお母さんに会いたいって……ずっと思ってた」

AJ「ごめんな……私のせいで」
 しょげた声でアップルジャックが言う。

AB「けれど、お父さんとお母さんが今も生きていたら、それってお姉ちゃんに合えなかったってことだよね?」

AJ「そうなるな。いや、もちろん困らせてやろうとしたときに二人が見つけて繰らなかった場合のお話だけれどさ」
 アップルジャックの言葉に、アップルブルームがうんと頷く。

AB「お父さんとお母さんにもう会えないのは悲しい、けれど……それでも私は、お姉ちゃんと会えて、良かったと思う」
 目を潤ませ、鼻水をすすって、アップルブルームが言う。

AJ「ありがとう」
 アップルジャックが、そっとアップルブルームの肩を寄せた。

AJ「大好きだよ、アップルブルーム。両親に言われるまでもなく、誰よりも」

AB「うん、ありがとう……お姉ちゃん」
 月明かりに照らされた二人の影が一つになる。涙が乾くころには、姉の胸に抱かれたアポプルブルームは寝息を立てており、アップルジャックは、彼女をベッドの掛け布に押し込んで、雄鶏の声が聞こえるまで二人一緒に眠りにつくのであった。
112 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/21(日) 21:34:33.68 ID:9JbpY4JV0
 それから数週間が経った。スイートアップル農園は快晴。絶好の仕事日和となったこの日、異変が起こる。
 グラニースミスやビッグマッキントッシュが起き出しても、アップルジャックが起きてこないのだ。
 働き者の彼女がさぼったりすることなど考えにくいと、様子を見に行ったビッグマッキントッシュは、あまりの驚きに眼を見開いた。

BM「な、何が起こったんだ!?」

AJ「兄貴……助けて……トワイライトと、ゼコラを……」
 ベッドに横たわったまま力なくうつろな目をしているアップルジャックは、体が半透明になって、体の向こうにはへこんだ枕が見えている。

BM「アップルジャック……何があって……」

AJ「わからない……朝起きたら、こうなってて……ともかく、症状に覚えがないなら、少しでも詳しそうなポニーを……」

BM「わかった、すぐに二人を呼んでくる」
 いつもは、誰かの問いかけに対して『だな』ぐらいしか言わないビックマッキントッシュも、今のアップルジャックの状態には面食らって、すぐさま他の家族の元に舞い戻り、今の状態を伝えた。

BM「俺は、トワイライトに伝えて来る。アップルブルームはゼコラにこのことを伝えてくれ。グラニースミスは、アップルジャックの事を見ていてくれ」

AB「わかった、行ってくる」
 ビッグマッキントッシュの指示を受けて、アップルブルームはわき目も振らずに駆けだす。

GS「あいよ! アップルジャックの事は任せときな!」
 グラニースミスは蹄を踏み鳴らしてビッグマッキントッシュに答える。それだけ確認すると、ビッグマッキントッシュもトワイライトの図書館へと駈け出した。
113 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/21(日) 21:40:12.02 ID:9JbpY4JV0
BM「トワイライト! 大変なんだ!!」
 図書館の扉を、壊しかねない勢いでビッグマッキントッシュが開ける。

QC「トワイライト? ここにはそんなものいないよ、坊や」
 妖艶な声でそれに答えたのは、クイーンクリサリスであった。頭をフラッフルパフにガジガジと甘噛みされているが、気にも留めていないあたり、彼女も大物である。

BM「あれ、トワイライトは?」
 ビッグマッキントッシュはあたりを見回すが、そこにはスパイクもトワイライトもいない。

QC「どうしたんだい? 今、トワイライトはスイートアップル農園に買い物に行っていてね。
  私は仕事が非番なもので、ちょっと留守番を頼まれているのさ。今は図書館には私しかいないんだ。
  お前は確かアップルジャックの兄のビッグマッキントッシュだろう? 愛をくれるなら、いいことしてあげるよ?」

BM「そんな暇はない! 今はトワイライトに会わないと!」

QC「トワイライトじゃないとどうにかならない事なのかい? 私の魔法も見くびられたものだな」
 いつものように恋愛小説を読み漁っていたクリサリスは、そう言いながらビッグマッキントッシュに鼻先を近づける。

BM「そうは言われても……ああもう。とにかく大変なんだ! 協力してくれるって言うなら、勝手に農園にでも何でも行っていてくれ!
  俺はトワイライトを呼びに農園に行く……って、そこが目的地だ」

QC「おやおや、自宅にプリンセスを連れ込もうとしたのかい? 罪な男だねぇ。ならば私も連れて行くといい。つれないことは言うなよ、ビッグマッキントッシュ?」
 振り返って今度は家へと向かおうとするビッグマッキントッシュに空を飛んで併走し、クリサリスは言う。

QC「このまま、テレポートでアンタの家に行ってもいいんだよ?」

BM「何か企んでいるんじゃないのか? うちの妹に乱暴したお前の事はどうにも信用できない……」
 クリサリスがポニーヴィルを襲撃した際、彼女はキューティーマーククルセイダーズをさらって人質にした。
 ビッグマッキントッシュとしては、まだそのことを根に持っているようである。

QC「まさか!? 私が誰かに親切にすれば、私は誰かに愛してもらえる。本で読んでわかったことさ。それを実行しようとしただけ、何か問題あるかい?」
 クリサリスは、愛の本質という物をいまいち理解していない。
 それゆえ、的外れなことをしてしまったり、今回のように言葉にしてしまったら台無しなことを言ってしまったりする。
 ただ、親切にしないと愛を得ることは難しいということを学習したり、今後エクエストリアを乗っ取ろうとしたら月送りというプリンセスセレスティアの脅しが利いたのか、
 基本的には他人へ害を与えない存在へとなっていた。
 現在は商店街での警備員として、恐れられつつも頼りにされている。

BM「勝手にしてくれ! 俺は行くぞ!」

QS「では勝手にするぞ?」

BM「うおぅ!?」

QC「乗り心地は保証しないが、そこは勘弁してくれ」
 言うなり、クリサリスはビッグマッキントッシュを軽々と拾い上げて空を飛び、スイートアップル農園に向けてテレポートをした。

QC「着いたぞ」
 大したことのない仕事だと言わんばかりにクリサリスが言う。

BM「あぁ……その、なんだ。ありがとう」

QC「お礼は愛情で返してくれると嬉しいな、ビッグマッキントッシュ」
 つまみ上げた彼を覗きこみながら、クリサリスが嫌らしく笑みを浮かべていた。

114 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/21(日) 22:02:28.21 ID:9JbpY4JV0
 十数分後。こういった症例に詳しそうな者を呼んで、半透明になってしまったアップルジャックを見てもらったが、あいにくゼコラもトワイライトも難しい顔をしている。

ゼコラ「済まぬな……私にもこのような症例の知識はない。口伝にも書物にも、一切合財覚えがない。役に立てずに申し訳ない」
 ゼコラが自身の無力さに項垂れる。

TS「貴方でもダメなのね……これじゃ八方塞がりね」
 結局、アップルジャックの家に訪れたトワイライトスパークル、ゼコラ、
 どちらにも半透明になったアップルジャックの対処法は全く分からず、いきなり暗礁に乗り上げた形となる。

PP「どうしよう……このままじゃアップルジャックは半透明? 半透明じゃ、体でものを隠す事も出来ないし、日焼けも出来ないよ!」
 騒ぎを勘付いて駆けつけたピンキーパイはどうでもいい事で騒ぎ立て、周囲にいるポニーにしかめっ面をさせる。

TS「そんなことはどうでもいいけれど、とにかく元気がないのが心配ね……明らかに良い兆候には見えないし……」
 トワイライトスパークルがアップルジャックの額に触れる。熱は高くないが、それもいつ容体が変化するかわかったものではない。

TS「とにかく、手遅れになる前に本を漁らないと……他の皆はどうしているかしら……」
 トワイライトが言う。図書館や森にある古城の資料を漁るということになると、人手がいる。いつものようにみんなを集めて手分けして当たらねばなるまい。

FS「はぁい……」
 そんなことを考えているうちに、窓をこんこんと叩く音とともに、フラッターシャイがアップルブルームを伴って現れる。
 連れられてきたアップルブルームはクリサリスを見て驚いていたが、今はそんなことを口にする余裕もないようだ。

TS「フラッターシャイ! 来てくれたのね」

FS「レインボーダッシュとラリティはすぐに来るわ……それで、アップルブルームから聞いたのだけれど……」

TS「うん、見ての通り半透明になっちゃっているのよ」
 トワイライトがアップルジャックを蹄で指し示すと、フラッターシャイは困った顔をする。

FS「まぁ、大変……彼女、アップルブルームとはどんな関係なのかしら?」
 どうやら、フラッターシャイはアップルジャックを忘れているようだ。

AB「何言っているの、フラッターシャイ?」
 フラッターシャイの言葉に驚いてアップルブルームが声を上げる。
115 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/21(日) 22:04:28.43 ID:9JbpY4JV0
TS「アップルブルームの言う通りよ、フラッターシャイ? アップルジャックは、アップルブルームの姉で……私達の親友でしょ?」
 トワイライトも、驚きを隠せず唖然として尋ねる。

FS「いや……私は知らないわ」
 フラッターシャイが首を振る。

TS「どういうこと……?」
 トワイライトが首をかしげていると、窓の外から大きな声が聞こえて来る。

RD「トワーイラーイト!!」
TS「レインボー! 来てくれたのね」
 レインボーダッシュがラリティを連れてやってきたようだ。
「まったく、音速で飛ぶから、髪が乱れちゃったわ」
 彼女たちが窓から入り込むと、ラリティは乱れた髪を直し、レインボーダッシュはアップルジャックの事を怪訝そうな顔でまじまじと見つめる。

RD「なぁ、トワイライト。この子がアップルジャックでいいのか?」

TS「レインボーダッシュ? 貴方まで何を言っているの?」
 まるで申し合せたように二人にペガサスが彼女を忘れているので、トワイライトは驚き彼女に問う。

ラリティ「そうよ、レインボー。確かに、アップルジャックと私達の交流は少なかったけれど、忘れるなんて非常識だわ」
 ラリティはアップルジャックの事を覚えているようだが、それでもなぜか言動が不穏だ。

TS「少なかったって、ラリティ、貴方も言っていることがおかしいわよ!? 一体、どういうこと? 私やピンキーパイはきちんと覚えているのに……」
 疑問は深まるばかりであった。
116 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/21(日) 22:07:04.50 ID:9JbpY4JV0
土曜日は一日中板が落ちていたので、今日の香辛料は多めです。
人数が多すぎると書くのが大変よね。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/21(日) 22:11:03.60 ID:bq6Yj5xso
おつ
なんかムーミンの透明の子の回を思い出した
透明ってことしか共通点はないけど
118 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/22(月) 23:00:27.99 ID:e0XkWp+I0
Disc「ごーきげんよう!」
 そんな時、アップルジャックが壁にかけておいた帽子からずるりと這い出る細長い何か。
 全員が大声に驚いて振り向くと、振り向いた先にはひょうきんな顔をしたディスコードが、アップルジャックの帽子をかぶってもろ手を上げたガッツポーズをとっている。

QC「本当に、ディスコードだ……まさかあの不和の精が懐柔されているとは……」
 クリサリスはこの町に引っ越してきて初めて見た彼の姿に、本当に懐柔されていたのかと驚き口を開けている。

RD「あー……ディスコード? 一体何しに来たの?」

Disc「おいおいおい、私の存在を忘れたのかい、心の友よ。こんなに面白いことが起こっているのに。見逃すなんてありえないじゃないか!」
 ディスコードが髪を整える動作をすると、あっという間にピンキーのタテガミがディスコードの頭に生える。
 代わりに、ピンキーの鬣は無くなり、何とも寂しい禿げ頭になってしまっている。

PP「これじゃピンキーセンスが発動しないよー! どうしよう、ねえどうすればいいの?」
 ピンキーパイが騒ぎ出すも、皆はそれを無視して話を進める。

TS「あーっそう……今から私、図書館に行って資料を調べなくっちゃいけないから、邪魔しないでくれる?」
 さすがにこのタイミングでディスコードにちょっかいを出されるのは嫌なのか、トワイライトはそういって彼を邪険にする。

Disc「そんな必要なんてないさ。この症状なら私も知っている。そう、これは、まさに、最大の悲劇! どうしてぇぇぇぇぇl」
 ラリティの真似をしたのだろう、汚らしい声で叫び、ラリティのソファまで魔法で創造し出したディスコードに、周囲の人間は全員冷めた表情をしている。
 ピンキーパイの鬣もそのタイミングで本人へ戻っていった。ピンキーパイは、『あら、良かった元通り』と言って静かになった。

Disc「と、なるようなことが昔起こったというわけだ」
 急に真面目な口調になってディスコードは続ける。

Disc「要するに、アップルジャックはすでに死んでいたはず。今、それが現実になっているってことだ」

PP「アップルジャックが死んでたってどういうこと? 今までのアップルジャックは全部お化けなの? キャーーーッ!」

TS「あの、ディスコード。言っている意味が……わからないんだけれど。死んでいたってどういうこと?」
 ピンキーパイが喚く横でトワイライトが尋ねる。他の者達も、口々にどういうことだとディスコードに視線を向けている。

Disc「ふむ、詳しく説明するとだね。アップルジャックは本来は、すでに死んでいたはずなんだ。
  だけど、それが何らかの手段で死ななかったことにされた。例えば、誰かが未来から過去に渡ってアップルジャックを助けるなどして」
 白髪をはやしたディスコードがミニチェアな機械仕掛けの車に乗って、高速でアップルジャックの部屋を走り回りつつ言う。どうやら、タイムスリップものの映画の真似をしているらしい。
119 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/22(月) 23:31:49.74 ID:e0XkWp+I0
TS「未来から……そういえば、随分前にスタースワールの魔法でそんなことをしたっけ……」
 そういった魔法に心当たりがあるトワイライトは、ディスコードの言葉を復唱した。

Disc「だけれど今現在、誰も過去のアップルジャックを助けに行こうとしていない。
  だから、死ななかったことになっているアップルジャックが、今度こそ死んだことになってしまおうとしている。そういうことなんだ。
  ちなみに、私のように魔力が強い者達は記憶を保持しているけれど、魔力のないアースポニーやペガサスは……」
 ディスコードがフラッターシャイやレインボーダッシュの方を見る。

RD「忘れてるって言いたいのかよ?」
 不機嫌そうにレインボーダッシュが言う。

Disc「そういうこと。あぁ、困った困った」
 レインボーダッシュの鼻面をつつきながらディスコードが言う。

Disc「ユニコーンでも、魔力が弱いと徐々に忘れちゃうけれどね」
 と、ラリティを見ながら付け加えた。

AB「でも、ピンキーパイはアップルジャックの事を覚えているようだけれど……私達も。それはなぜ?」
 アップルブルームが言う。彼女はアースポニーであるため、魔力なんてないはずだ。
 それなのに、アップルジャックのことをはっきり覚えているということでは、ディスコードの説明と合致しない。

Disc「それは、アップルジャックが命を失うきっかけになる事件よりも前から彼女の事を良く知っていたからだろう。
  つまり、その死ぬきっかけとなる日は、『ピンキーパイと知り合いになった後』と言うわけだ。私が分かるのはここまで。
  あとは自分で考える事だね。時間移動なら、トワイライトが出来るだろう? それで誰かが過去に行って、アップルジャックを助けて上げるんだな。
  もしもアップルジャックが死んでいたら、そうだね。俺様をエレメントオブハーモニーで処理することが出来なくて、
  このポニーヴィル、ひいてはエクエストリアがどうなっていたことだろうね? それ以前の問題もあるかもだけれど」
 アップルジャックが死んだ事件の原因に関して、これ以上のことはディスコードでも分からないのだろうか、
 彼はアップルジャックのハットを顔にかぶり、壁に寄りかかったまま壁の中へ埋まっていき、消えていった。

RD「はぁ……今回は素直に助けてくれたな」
 レインボーダッシュがため息をつきつつぼやく。

FS「きっと、私達と友達になれない世界は嫌なのよ。だから、アップルジャックには生きていてもらわないと困るのよ……多分。
  アップルジャックがいないとエレメントオブハーモニーは発動できないんでしょう?」
 その隣で、フラッターシャイが嬉しそうにしていた。
120 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/22(月) 23:38:27.77 ID:e0XkWp+I0
>>117
おつありです。ムーミンはよくわからないのですが、今回のお話はタイムパラドックス的な何かです。
最初のアップルジャックのお話をよく読めばどういうことかは分かるとおもいますが
121 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/23(火) 22:22:45.07 ID:kmVatRZq0
TS「ディスコードの話をまとめると……ピンキーパイとアップルジャックが出会うのは、少なくともキューティーマークが現れて以降ということになるわね?」

PP「うん、そうだよ! 私がパーティーポニーになったのは、レインボーダッシュのソニックレインブームを見てからだもんね!
  アップルジャックの事は、ポニーヴィルに来て二日目で覚えたよ!!」
 ピンキーパイが断言する。それを信じるのであれば、それ以降ということになる。

RD「よくわからないけれど、それはつまり僕とフラッターシャイがクラウズデイルから引っ越してくる前ってことだよね?
  えーと……アップルジャック? 君は覚えがある?」

TS「えっと、補足すると……ソニックレインブームの後で、なおかつレインボー達が引っ越してくる前で、その上で……
  死にかけたけれど、何らかの不思議な要因のおかげで助かった……そういう事件ね。過去に戻る方法は任せて、私の魔法で何とかする」
 レインボーがまくしたてるように尋ねるが、それだけでは混乱しそうなため、トワイライトスパークルが補足する。

AJ「覚え……それは……ある、けれど……それって、まさか」
 アップルジャックの意味深な独り言に、その場のだれもがいぶかしむ。しかし、アップルジャックはそれ以上語らず、口をつぐむが、やがて意を決してアップルブルームを見る。

AJ「皆……ゼコラと、アップルブルーム以外は、ちょっと部屋を出てくれるか……」

TS「どうして、アップルジャック?」

AJ「大事な話があるんだ……アップルブルームにだから……ごめん。あと、ゼコラは、一応保険ということで……」

TS「わかったわ。みんなも、一度部屋を出ましょう」
 トワイライトの質問に、重要な部分を隠しつつ答えて、アップルジャックはアップルブルームを見る。心配そうな顔で姉の事を見つめていた。

QC「ふむ……理由は分からないが。愛が揺らいでいる……あいつめ、何をする気だ?」
 ゼコラとアップルブルームを残して退出する際、アップルジャックに視線をやりながらクイーンクリサリスがほくそ笑む。
 今この状況で愛情を奪うのは無理なことだが、もし奪えたらと思うと、よだれが流れ落ちるような愛の強さを感じていた。
122 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/23(火) 22:34:24.75 ID:kmVatRZq0
AJ「アップルブルーム。以前話した、私達の両親が死んだ原因について覚えているか?」
 二人きりになった室内で、アップルジャックは息も絶え絶えに尋ねる。

AB「うん、覚えてる……お姉ちゃんを助けようとして、身代わりになっちゃったんだよね?」

AJ「そう、それ……それなんだよ。ディスコードが言っていた、私が本来死んでいた事件って言うのは」
AB「えぇ!?」
 アップルブルームが驚き、声を失う。

セコラ「どういうことだい? 話が見えないよ……」
 二人にしかわからない会話をされて、状況が呑み込めないゼコラが二人に尋ねる。

AB「えっとね、昔ね……お姉ちゃんが家出をして、遠く離れた場所に隠れちゃったの……でも、その時……
  ペガサスのストライクだか何だかで、酷い台風が起きてね、それで……
  がけ崩れに巻き込まれる寸前で、お父さんとお母さんに助けられたんだけれど、その時にお父さんとお母さんが死んじゃったんだって」

AJ「その時に、言ってたんだ。父さんが、『アップルブルームが居場所を教えてくれた』って……。
  その意味が、さっきのディスコードの言葉で分かったんだ。だから、多分、今回助けに行くのはアップルブルームじゃなきゃいけないんだと思う……」

ゼコラ「ふぅむ……なるほど。だけれど、その話を聞く限りじゃ、その……アップルブルームが、過去に戻って両親にアップルジャックを助けるように言ったとして。
  そしたら、両親がアップルジャックを助ける代わりに、アップルジャックの両親が、死んでしまうんじゃないのかい? その役を、アップルブルームにやらせるのかい?」

AJ「だから、ゼコラにも聞いてほしかったんだ」
ゼコラ「……なるほど」
 アップルジャックの真意をくみ取り、ゼコラは頷く。

AB「お姉ちゃん、どういうこと?」
 アップルブルームに問われて、アップルジャックはどう言葉を選んだものかと考える。やがて、重かった口を、時間がこじ開ける。

AJ「お前には、これからトワイライトの魔法で……過去に行ってもらう。その時、私の居場所を両親に教えるかどうか、アップルブルームが選んで欲しいんだ……」

AB「でも、お父さんとお母さんに教えなかったら、お姉ちゃんが死んじゃうんじゃ……?」

AJ「そうだよ。教えたら、私達の父さんと母さんが死んじゃうんだよ……私は、そんなの望んじゃいなかった。
  というか、誰も望んでいないけれど、どっちかを選ぶかって言われたら……アップルブルーム。
  お前のために、両親を……父さんと、母さんを生かしておいてあげたかったんだ……自分が死ぬべきだったって、思ってしまうこともある」

ゼコラ「よく聞きなさい、アップルブルーム。要するにね……アップルジャックは、貴方が両親とお姉さんの、どちらかを選べるようにしてくれているというわけで……そんなことを言われても困るだろうけれど」
 ゼコラがアップルブルームの目を見て諭す。ゼコラの瞳に見つめられたアップルブルームは、涙目になって目を逸らす。

123 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/23(火) 22:39:56.27 ID:kmVatRZq0
ゼコラってエクエストリアガールでは結構若い姿みたいですが、おばさんじゃなかったんですね……30越えていると思ってた
124 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/24(水) 22:42:56.60 ID:u80hV6lD0
B「それは……私は、お父さんやお母さんに会いたいし、出来るなら生きていて欲しいけれど……でも、お姉ちゃんを失うなんて、出来ないよ……」
 当たり前だろう、とゼコラは思う。こんな小さい子に親か姉化の二択を課すことなど、酷なことでしかないと。

AJ「だから、アップルブルームが選ぶんだ。馬鹿な私を見捨てて親を守るか、それとも私との思い出を大切にするか」

AB「でも……」

AJ「アップルブルーム!」
 アップルジャックが、弱った体であらん限りの声を上げる。アップルブルームは飛びあがって驚き、恐る恐る『何……?』と姉の顔を覗き込む。
 アップルジャックは力を振り絞ってアップルブルームを見据えるために首を持ち上げる。

AJ「私の目を見て、よく聞いて……私は、アンタに選んで欲しいんだ……だから、口出しできないように、ビッグマッキントッシュやグラニースミスには、このことは伝えないでほしい」
 そこまで言って、アップルジャックは力尽きたように首を横たえ、荒く息をつく。
AB「私は……どうすればいいの、ゼコラ?」
 尋ねられて、ゼコラは黙って首を横に振る。
ゼコラ「私は決められない。恐らく、ここでアップルブルームが両親を選んだとしたら、きっとこれまでの生活そのものも変わる……
  その結果、良くも悪くも、貴方が貴方じゃなくなることもあると思う。貴方の家族も、きっとまるで別物になる……
  そういう選択を、幼い貴方に任せるのは、酷かもしれないけれどね。けれど、それは逆に言えば、アップルジャックが貴方の事を大人だと認めている証拠だよ。
  貴方が大人として、どう行動するべきかを考えろって……アップルジャックは言っているのよ。私がどうこう言える問題ではないわ」

AB「私が、大人……」
 言いながら、アップルブルームが自分の太ももを見る。当然、まだキューティーマークは出ていない。

ゼコラ「まだキューティーマークがなくとも、私は貴方が大人だと思っているわ。きっと、アップルジャックも同じ気持ちよ」
 最後に、ほんのりと笑顔を見せてから、ゼコラはアップルジャックを睨むように見下ろす。

ゼコラ「どんな結果になっても、私はアップルブルームの事を見守るよ。私も、少しずつ貴方の事を忘れてしまっているけれど、アップルブルームの事は覚えている……」
 ゼコラにも魔力があるのか、彼女は色々なことを覚えているという。そんなことはともかくとして、そう言って笑いかけたゼコラがアップルブルームを抱きしめる。

AB「うん……お願い、ゼコラ……あとは、トワイライトの元へ頼むよ……」
 ゼコラの言葉を聞いて安心したアップルジャックは、険しかった表情をいくらか軟化させて、ほっと息をつく。

ゼコラ「そういうことだ。行くよ、アップルブルーム」

AB「うん」
 ゼコラに促されるままにアップルブルームは部屋を出る。うつむいたままの彼女の背中には、見えない重荷がきつくのしかかっていた。

125 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/24(水) 22:50:45.94 ID:u80hV6lD0
 ゼコラは、トワイライトスパークルに諸事情をうまく隠しつつ、アップルジャックがアップルブルームに過去へ行くように頼んだことを話す。
 そして、グラニースミスやビッグマッキントッシュはとある事情で遠慮してほしいということも伝えた。

TS「なるほど……分かったわ。それでね、アップルブルーム……過去へ滞在できる時間は、多分一〇分が精いっぱいだと思う。
  これでも、アリコーンになって魔力が成長したほうなんだけれど、それ以上は多分無理だわ……その時間で、一人で出来るかしら?」

AB「それは……不安だけれど、やるしかないよ。お姉ちゃんが危ないんだもの!」

QC「なるほど、良い心がけだ」
 自信を奮い立たせるために、強気な言葉を口にするアップルブルームを褒めたのは、クイーンクリサリスであった。
 その発言に、一同の視線がクイーンクリサリスに集まっていく。

QC「不安ならば、トワイライト。私を連れていってはどうだ? 私ならある程度難しい魔法も使えるし、空も飛べる。
  だから、なにかあった時に、アップルブルームをサポートするくらいなら訳ないし、それに……」
 クリサリスは首を一振りすることで、全身に光を纏い、姿を変貌させる。

QC「こうすれば、見た目にも目立たないだろう?」
 ビッグマッキントッシュの声と姿でクイーンクリサリスが言う。

TS「何か企んでいないでしょうね?」
 トワイライトが尋ねる。

QC「いーや。人に親切をする者は愛されると、本で読んだだけだ。それ以上の理由はないよ」
 と、クリサリスはビッグマッキントッシュの口調で言う。
 トワイライトスパークルは半信半疑ながらも、ここで余計なことをしてアップルブルームに不利益なことをすれば、愛どころか恨まれる可能性だってあることは本人も理解しているはずと推測する。
 ならば下手なことはしないだろうから大丈夫と、トワイライトは判断する。

TS「ふむ……まぁ、見返り前提とはいえ、悪い事をしようとしているわけじゃないし……そういうことなら、アップルブルームが良ければ……」

AB「私は……いいよ。色々されたけれど、今はいい人になったっていう、プリンセスの言葉を信じるから……それに、私一人じゃ不安だし」
 ゼコラとしては一瞬止めようかどうかと迷ったものの、クリサリスがアップルブルームに要らない口を挟むことはないだろうと、反論はしないことにした。

TS「わかったわ。アップルブルームがそう言うなら、クイーンクリサリスに任せる。皆も、異論はないわね?」
 アップルジャックがいつ消えてしまうかもわからぬ時に、これ以上話し合っている余裕もなく。今回ばかりは皆もクイーンクリサリスを信じることにしたようだ。
126 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/24(水) 22:53:20.55 ID:u80hV6lD0
この作品では変身能力をちょっとした悪戯やいい事にしか使っていないクリサリス様。
どんな能力も使い方が大事で、存在してはいけないものというのはめったなものじゃないとおもいます。
127 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/25(木) 23:28:50.34 ID:dilClwWV0
 数分後、スタースワールが残した魔法の発動の仕方を学んだクリサリスとトワイライト、そしてアップルブルームで並び立つ。
TS「それじゃあ、行くわよ」
 日時と場所を再確認しつつ、トワイライトが二人を見る。

QC「準備は出来ている」
 クイーンクリサリスが頷く。

AB「お願い……トワイライトスパークル」
 不安を湛えた瞳を揺らしながら、アップルブルームが言う。アップルブルームの言葉に頷いたトワイライトスパークルは、角を光らせ魔力を集中させる。
 クリサリスも同様に魔力を集中させる。トワイライトはアリコーンと化したことで強化された魔力で。
 そしてクリサリスはアップルジャックを救うために託された思いで強化された魔力を使い、彼女らは遠い過去、長時間のタイムトラベルを行う。
 魔力の渦が激しくうねり、家にある調度品が宙を舞う。激しい光が眩く辺りを包み、その光とともに、アップルブルームとクイーンクリサリスは居間から消えた。

TS「アップルブルーム……アップルジャックを頼んだわよ」
 トワイライトが祈るようにつぶやいた。


 たどり着いた場所は、アップルブルームが生まれて間もない頃のスイートアップル農園の外れだ。
 本当は家のすぐ近くに降り立ちたかったが、少しくらいずれてしまうのは仕方が無かろう。
 空を見ればすでに、西からは不穏な雲が立ち込めている。空気を舐めるようにして意識すると、アップルブルームはすぐに気が付く。

AB「風が生ぬるい……湿っている。それに、空気が薄い……嵐が来る」

QC「わかるのか、アップルブルーム?」

AB「うん……本当に、本当に嵐が来ようとしてるってことだ。……嵐が来ると、林檎に損害が出るから。
  だから、分かるよ……わからないと、農家失格だって、おばあちゃんが言っていた」

QC「そうか……だが感傷に浸っている暇はない。行くぞ」
 この日がアップルジャックの言っていた、両親の命日だということを、嫌でも意識せずにはいられない。

QC「さぁ、行くぞ。両親に助けを呼ぶのだろう、もたもたするな、アップルブルーム」
 兄であるビッグマッキントッシュの声でクリサリスが言う。

AB「うん……」

QC「どうした?」
 この日が両親の命日であることを知らないクリサリスは、思いつめた表情のアップルブルームを見て怪訝に思う。

AB「何でも……無い」

QC「そうか……あちらに見える、緑のタテガミとピンクのタテガミのポニーが両親かな? 手っ取り早くテレポートで近づいて、話しかけるぞ」

AB「まだ、心の準備が」

QC「急げ。時間は少ないのだぞ? この懐中時計が……二つ目の数字を指す前に、行くぞ」
 クリサリスは、じれったくなったのか強引にアップルブルームを連れていく。
 彼女は家の影になる場所にテレポートをすると、その裏側にて、嵐に備えて木の枝や落ちたリンゴなどの処理をしている最中の両親に歩み寄る。
128 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/25(木) 23:36:28.66 ID:dilClwWV0
QC「あの……ジョナサンさんと、カルヴァドスさんですね」
 ビッグマッキントッシュの姿でクリサリスが語り掛ける。
 アップルブルームはまだ心の準備が出来ていないが、もう後に引くことも出来ないので、その後ろを黙ってついていった。

J「ん、君たちは……ビッグマッキントッシュと、アップルブルーム!? 大人になって……どういうことだ!?」
 青緑色のオールバックのタテガミに、鼠色の体毛。シンプルなポニーテールの尻尾に、ラリティの色違いと言えば分かりやすいだろうか、ルビーのような真っ赤なひし形が三つ並んだキューティーマーク。
 アップルジャックたちの父親であるジョナサンが、緑色の目を見開いて驚いている。

C「色が、子供達の完全にそれだけれど……貴方達は一体……」
 くすんだ桜色の、ふんわりとしたカールを描くタテガミ。そして、タテガミの色をさらに暗くした色の体毛。
 タテガミと同じくふんわりとしており、ボリュームもある尻尾。キューティーマークは二つの酒瓶の口をクロスさせたもの。
 写真で見せられたとおりのカルヴァドスは、ありえないものを目の当たりにして、黄色い眼をうろうろと泳がせて二人を見ているいる。

QC「未来から来たんだ……その、アップルジャックを、助けるために……ほら、アップルブルーム」

AB「う、うん……」
 クリサリスに促され、アップルブルームが前に出る。

AB「あ、あのね……お父さん、お母……さん」

QC「まぁまぁまぁ……二人とも、今の小さい姿が嘘みたいに成長しちゃって……でも、アップルジャックを助けるって言うのは、どういうこと?」
 成長した姿で現れたアップルブルームもビッグマッキントッシュも、どちらも整った外見に成長している。
 特にビッグマッキントッシュ(に変身したクイーンクリサリス)は父親と母親の両方の性質を受け継いでおり、親としては嬉しい事だろう。
 だから一瞬、嬉しそうな顔をした両親だが、聞き捨てならない言葉を聞いて、雲行きの怪しい表情をとる。

AB「あのね、お父さん、お母さん。あんまり長い時間いられないから、嘘だと思うかもしれないけれど、最後まで聞いて……今日ね……アップルジャックが、死んじゃう、の」

J「死んじゃう、とは?」
 アップルブルームの父親、ジョナサンが尋ね返す。

129 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/25(木) 23:44:37.59 ID:dilClwWV0
ジョナサンとカルヴァドス。文章では目の色が逆に説明されていますが、絵の方が正しいです、はい。
アップルファミリー回を見た時から思ってましたが、どことなくチアリー先生に似てないかな、お母さん。
母親が昔使っていたお絵かきノートが家で見つかったというアップルジャックの公式小説から考えるに、どうやら母親がグラニースミスの子供みたいですね。
http://imepic.jp/20140925/851850
130 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/26(金) 21:05:47.27 ID:cMui/fOx0
AB「うん……私達が未来から来たのはね、アップルジャックが死んでしまうという今日の出来事を、無かったことにするためなの。
 今日、お姉ちゃんが死んじゃうけれど、私達がそれをこうやってお父さんとお母さんに伝えることで、二人にお姉ちゃんを助けてもらって……
 それで、お姉ちゃんが死んじゃうことを無かったことにしなきゃいけないの。
 そうしないと、未来の世界にいるお姉ちゃんが消えて居なくっちゃうんだって。だから、助けてもらわないと……台風に巻き込まれる前に。
 お姉ちゃん、まだ小さな私にやきもち焼いて、ちょっと心配させようってつもりで家出しちゃったんだって……
 それで、がけ崩れに巻き込まれて、死ぬはずだったって。それを防ぐために、私達が未来から来たの」
 アップルブルームの説明は、まだ幼い子供というのを差し置いても酷くたどたどしいものであった。それほどまでの動揺しているということだろう。

C「なるほど、今日はペガサスがストライキとかで、その影響でハリケーンが強いままポニーヴィルを直撃するって聞いたな。
 普段ならペガサス達がハリケーンは弱めてくれるけれど……それが関係あるのかしら……?」
 アップルブルームの母親、カルヴァドスが納得する。

AB「うん、そうなの、母さん……だから、その、お姉ちゃんが死なないように、助けに行ってあげて!
  私達は、もう数分しか過去にいられないから、助けに行っても間に合わないと思うから」
 アップルブルームが涙ながらに説明するのを聞いて、両親は頷いた

J「あぁ、もちろん。俺達の娘は命に代えても助けるさ。それで、場所は?」
 父親、ジョナサンが問う。

AB「場所は……」
 そこまで言いかけて、アップルブルームは口を閉ざす。もちろん、アップルブルームは場所を忘れたわけではない。

AB「場所は……」

J「どうした、早く教えてくれ……アップルブルーム?」

QC「そうだ、教えないのか?」
 ジョナサンと、ビッグマッキントッシュの格好をしたクリサリスが一緒になってアップルブルームに問いかける。

AB「言えない、言えないよ……」
 アップルブルームは、肩を震わせて涙を流し始めた。
131 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/26(金) 21:14:41.82 ID:cMui/fOx0
QC「なぜだアップルブルーム? お前はアップルジャックが死んでもいいって言うのか!?」
 クリサリスが問う。アップルブルームが睨み返す。

AB「そんなわけないじゃん! クリサリスは何も知らないくせに勝手なことを言わないで!」
 そう叫んだ途端に、全員の視線がアップルブルームに突き刺さる。

QC「アップルブルームめ……馬鹿なことを言ったものだな……」
 呆れてものも言えないといった様子で、クリサリスが首を振る。
 声はビッグマッキントッシュのものだが、口調は完全にクリサリスのものになっている

C「アップルブルーム……クリサリスって言うのは、誰の事?」
 カルヴァドスに問われ、アップルブルームはハッとして口を開ける。

QC「私だよ」
 ため息をつきつつ、クリサリスが正体を現した。

QC「私の正体など、今回の件には関係ないだろうに? 話をスムーズに進めるためにお前の兄の格好をしておいたというのに、余計なことを口走りおって」
 明らかに不機嫌な調子で、クリサリスが言う。両親は言葉を失っていた。

QC「まあいいさ。私が関係ないというのならば、あとは好きにすればいいさ」
 そう言って、クリサリスはそっぽを向く。

AB「……あのね、お父さん、お母さん。彼女は、クリサリス。魔法が使えるからって、ついてきてくれた親切なひとなの……
  私を過去に送り届けてくれたプリンセスが、私達を過去に送り出せるのは一人だけが限界だからって、
 代わりにわざわざ魔法を使ってついてきてくれて、それで、変装までしてさ、助けてくれたの……」

J「そ、そうか……あの人に騙されているとか、そういうことはないんだね?」
 ジョナサンがアップルブルームに尋ねると、アップルブルームは涙目になりながら頷いた。

AB「でも、そ、そんなことはどうでもよくって、そうだった……あのね、お父さんとお母さんは、お姉ちゃんを助けるとね。助けるときに、死んじゃうの。
  お姉ちゃんは助かるけれど、二人とも……死んじゃうの!! 嫌なの、私は死んで欲しくないの、二人に!!
  だから、だから……お姉ちゃんが遭難した場所を、教えられない……私のせいで二人が死ぬとしたら……そんなの嫌だもん」
 アップルブルームの血が混じりそうなほど思いつめた言葉に、ジョナサンとカルヴァドスは顔を見合わせたが、二人とも言葉が必要ないほどに、意見は一致していた。
132 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/26(金) 21:18:57.85 ID:cMui/fOx0
ジョナサンというのは、リンゴの品種の一つで、日本では紅玉という名前です。キューティーマークがラリティと同じ宝石なのはそこから。
カルヴァドスというのは、アップルブランデーのブランドの一種で、アップルジャックと同じくリンゴ酒に関する名前なのです
133 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/27(土) 22:32:03.31 ID:Y4QHZqj80
J「なぁ、アップルブルーム。例え、死んでしまうとしても、アップルジャックが助かるのなら、俺達は行く」
 ジョナサンがアップルブルームに告げる。

C「えぇ、私も気持ちは同じ。なるべく死にたくはないけれど、それでも、アップルジャックの命には代えられない」
 カルヴァドスもまた同じ意見だ。
AB「どうして……? どうしてそんな風に言えるの!? 死んじゃうんだよ? もう、大切な人に二度と会えなくなるんだよ?」
 二人の言葉に、涙と鼻水に塗れた顔を上げてアップルブルームが尋ねる。

QC「愛があるからさ」
 しかし、その質問に答えたのはアップルブルームではなくクリサリスであった。

J「そうだ、愛だ」

C「うん、愛ね……子供達への愛は、それほど強いのよ」
 ジョナサンとカルヴァドスも、クリサリスの言葉に頷く。

QC「親子なら、それほど珍しい事じゃないさ。子供のために命を捨てるというのは……あぁ、分かったぞ、アップルジャックの真意が。
  アップルブルーム……お前、こうなることを姉はお見通しだったみたいだな」
 クリサリスが一人納得して頷いた。
AB「こうなることって?」

QC「お前が、両親と姉、どちらを救うかを迷うという事さ……アップルジャックとしては、どちらでもよいのだろうな。
  変な意味ではなく、アップルブルームがそれを望むのならば、死ぬ覚悟は出来ているということだ。
  お前が、両親を選ぶのならば、あいつは自分が死んでもいいと思っているのだ。それほど、お前の姉の、お前に対する愛は深いのだよ。
  私達チェンジリングにとっては、よだれが出る程上質な愛を、お前は向けられているんだ。
  とはいえ、両親の愛も中々だ。二人合わせれば、さすがのアップルジャックの愛も腹持ちは劣りそうだ。量より質を求めるのならば姉の方が良かろう」
 クリサリスはアップルジャックを見下ろしながら、嘲るように言い放つ。

QC「と、愛の専門家である私が見立てている。だが、お前達ポニーは愛の大きさでは腹は膨れん。どうするかは、お前が決めろ、アップルブルーム」

AB「私は、そんな……」
 クリサリスの無情な言葉に、アップルブルームの目が泳ぐ。
134 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/27(土) 22:57:38.02 ID:Y4QHZqj80

AB「決める事なんて、出来ないよ……」
 アップルブルームは目を伏せ、悔しそうに歯噛みする。
J「それなら、俺達も何も出来ない……アップルブルームがそうしたいというのなら、そうするべきなのかもしれないが」
 そんなアップルブルームに、ジョナサンが残念そうに口にする。

C「アップルブルーム……私達は、アップルジャックを助けに行かなかったら、きっと一生後悔することになる。
 こんなことを言うのは卑怯かもしれないけれど、死ぬとしても私はあなたのお姉ちゃんを助けにいきたいわ。アップルブルーム……貴方は、お姉ちゃんは嫌い?」

AB「嫌いなわけ……無いよ。クリサリスなんかに言われなくたって分かる。お姉ちゃんがどれだけ私を大切にしてくれたか!
 だから、助けたかった! でも、二人を目の前にしちゃうと……私が、父さんと母さんを殺したみたいで……」

QC「では、お前はアップルジャックを見殺しにするのだな?」

AB「そんな言い方!! 事実だけど……」
 クリサリスの歯に衣着せない言葉に、アップルブルームは声を張り上げようとして、しかし反論も出来ずに黙ってしまう。

C「アップルブルーム……私達は、例え死んだとしても、アップルジャックが生きているのならば、後悔はしないわ」

J「だな。むしろ、アップルジャックを救えないとなったら、そっちの方が後悔しそうだ」
 カルヴァドスとジョナサンが、二人そろってアップルブルームに言う。

AB「わかった……」
 両親の目を見て、その言葉に偽りがない事をアップルブルームは悟り、消え入りそうな声で告げる。

AB「スティードケイヴ……って谷にいるはず。それ以上の事は覚えていないって、お姉ちゃんは言っていた」

J「わかった……行こう、カルヴァドス」

AB「待って!」
 すぐにでもアップルジャックが遭難した谷、スティードケイヴ出発しようとする二人を呼び止め、涙ぐんだ顔でアップルブルームは言う。

AB「私、お父さんとお母さんに、抱きしめてもらった覚えがないの……お姉ちゃんには、何度もしてもらったけれど、まだ二人には……」

C「覚えていなかったのね……そっか。今のアップルブルームは小さいものね」
 安心させるために微笑みながら、カルヴァドスがアップルブルームに寄り添う。

J「そうだったな。お前の気持ちを無視していた……ごめんな、こんなダメな父親で」
 アップルブルームの最後の頼みを、二人は承諾して彼女を抱きしめる。リンゴの甘い香りがする、アップルファミリーらしい匂いがほのかに漂った。

135 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/27(土) 23:01:22.82 ID:Y4QHZqj80
今日はここまでです。実は現在10話目を書いてる途中。
136 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/28(日) 22:31:49.02 ID:WwB9FdpO0
 そう言って寄り添う二人を見て、クリサリスは不満げな顔をしながらアップルジャックに変身する。
QC「ふむ……その、なんだ……あれだ。お前達の娘は今こんな風に成長していてだな。仲間に囲まれて幸せにやってるよ……それでだ。
  アップルジャックに、お前達両親の姿を土産にしてあげたいから、なんだ……その、私にも同じように愛を向けてくれないか?
  私がお前達の愛の言葉を、お前達の姿でアップルジャックに伝えてやる」
 このまま愛のおこぼれにあずかれないのはどうにもおさまりが悪いクリサリスは、愛のおこぼれをおねだりする。
 両親としてはアップルブルームとの別れを邪魔されたくはなかったが、最後に言葉を伝えてもらうというクリサリスの提案には乗るべきだと思ったようだ。

C「こんなに大きくなるのね……アップルジャックは。じゃあ、クリサリスさん……伝えてくれるかしら? 『―――――――――――――――』って」
 仕方ないとは思いつつも、そう言ってカルヴァドスはアップルジャックの姿をとったクリサリスに寄り添う。

J「必ず、娘に私達の声を届けてくれよ……『―――――――――――――――』とな……」

QC「確かに、承った」
 抱きしめられながら、クリサリスは舌舐めずりをするほどの愛を感じていた。
 久々の強い愛に、魔力の胃袋が満たされるような満足感が体中を包む。だが、いつまでもこうして愛を横取りしていては、アップルブルームに嫌われる。
 それはまずいと、クリサリスは元の姿に戻る。

QC「あとは子供と一緒にいてやれ」
 そう言って、クリサリスは身を引いた。なぜなら、がっつきすぎは身を亡ぼすと本で読んだからである。
 それがポニーのやり方なのだと、とりあえず実践してみる。今はそれが彼女の行動理念であった。
 クリサリスが身を引いたことに安心して、アップルブルームはクリサリスの事を一瞥すると、再びそっと両親の胸に抱かれる。
 そのまま、押し黙ったまま数十秒。

QC「……アップルブルーム。あと二十秒もないぞ」
 時空のうねりが、二人を元いた時間軸へと運ばんとする。それを感じ取って、クリサリスは別れを惜しむ三人に言葉を投げる。

AB「それじゃあ、お父さん、お母さん。私は、大丈夫だから……お姉ちゃんを助けて上げて」

C「うん、元気で生きるんだよ。お姉ちゃんと、仲良くしてあげるのよ」
J「上手くは言えない。だけれど、健やかに生きてくれ。アップルブルーム」
 父と母の言葉に涙を流しそうになるも、アップルブルームは最後は笑顔を保ち、頷きながら現代へと帰る。
137 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/28(日) 22:33:04.14 ID:WwB9FdpO0
TS「お帰り、アップルブルー……貴方、泣いているの? もしかして、失敗したんじゃ……」
 帰ってきた二人の表情を見て、トワイライトが悪い未来を連想する。

AB「違うよ、きっと成功した……」
 その言葉とは裏腹に、アップルブルームの表情は浮かない。

TS「じゃあ、クリサリス……貴方、何かしたの?」

QC「失礼だな、プリンセストワイライト? 何かはしたが、こいつの不利になるようなことは何もしていないぞ」

AB「うん、クリサリスは何もしてないよ……むしろ、勇気をくれた……だから、責めないで」
 力ない声でアップルブルームが告げる。しんとなった居間では、言葉を失ったアップルブルームが、蹄を震わせ静かに泣いている
 そうこうしているうちに、アップルジャックの様子を見ていたフラッターシャイとアップルジャックが階段を下りてやってくる。

AJ「アップルブルーム……」
 喜んで駆け寄ってもよさそうなものなのに、アップルジャックの顔は浮かない顔である。
 なぜなのかは、事情を知らない者には見当もつかないため、困惑するばかり。
 付き添っていたフラッターシャイも、心配そうな面持ちでアップルジャックを見つめている。

AJ「ピンキーパイ」

PP「な、何!?」
 アップルジャックが深刻な顔を向ける。予想外の反応に、ピンキーもいつもの調子でいられない。

AJ「私が元気になって、パーティーの一つでもしたいと思っているかもしれないけれど、今日の所は……その、そういう気分じゃないんだ。パーティーは少し待ってくれ」

PP「うん、分かった。アップルジャック、いつかは、元気になるんだよね?」

AJ「あぁ、約束する」
 アップルジャックは力なく頷いた。
138 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/28(日) 22:41:47.08 ID:WwB9FdpO0
今日はこんなところで。この作品とは無関係ですが、一次創作も書いていて微妙に忙しいです
139 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/29(月) 22:01:45.47 ID:DSCd8pdH0
PP「それならいいよ。その時にパーティーすればいいんだもんね……約束だよ、ピンキープロミス!」
 アップルジャックの心情を察してか、ピンキーはいつものように口にジッパーの動作や、嘘ついたら目にカップケーキを突っ込むという動作を要求したりしなかった。ピンキーパイもたまには空気を読むのだ。

AJ「あぁ、ピンキープロミス。他の皆も……あぁ、ゼコラはここで少しだけ待っていてくれないか。アップルブルームと二人で、話をしたい……」

ゼコラ「承知したよアップルジャック」
 待機を頼まれ、ゼコラが頷いた。

AB「クリサリス……貴方も、一緒にいていいよ。いや、お姉ちゃんと一緒にいてあげて」
 と、言ったアップルブルームに、みんな少なからず驚いた顔をする。

QC「わかった。お前らの話が終わるまでは、ここで待機させてもらう」

ゼコラ「なんだか妙なコンビになったね」
 ゼコラとクリサリスの言葉に、アップルジャックとアップルブルームは頷いた。

 そうして、アップルジャックとアップルブルームは、納屋へ向かい、二人きりになる。

AJ「アップルブルーム……ありがとう」
 アップルジャックがかろうじてその言葉を絞り出す。

AB「お姉ちゃんのバカ……」
 アップルブルームも、その言葉を出すだけで精いっぱいであった。

AB「なんで……なんで、どうしてお母さんとお父さんを困らせようなんてしたのさ!! あんなにやさしい二人だったのに、お姉ちゃんのせいで!! お姉ちゃんの、せいで……」
 アップルブルームが、姉の胸を蹄で何度も殴りつける。その痛みにアップルジャックは黙って耐え、謝罪の言葉すら歯をくいしばって耐えた。

AJ「言葉もないよ……アップルブルーム」
 アップルブルームも、腕を伸ばせば顔に届くというのに、顔だけは決して殴らずアップルジャックの胸だけを狙う。やりようのない怒りは、すべてアップルジャックが受け止めた。何度も殴り続けて疲れたのか、馬鹿らしくなったのか、アップルブルームは姉の胸に縋りつくようにして、すすり泣いた。
140 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/29(月) 22:12:44.22 ID:DSCd8pdH0

AB「お姉ちゃん」

AJ「なんだい、アップルブルーム」

AB「私、お姉ちゃんが大好きなのに……今は、顔を見たくない。顔を、見られないよ」

AJ「うん、私も似たようなもんだ。辛かったら……」
 そこまで言いかけて、アップルジャックは口をつぐむ。

AB「辛いよ。大好きなお姉ちゃんを、いつものように面と向かってみることが出来ない! 大好きなのに、怖い顔しかできない……なんでこんなことに……」
 アップルジャックも、しおらしく俯いてしまう。

AJ「辛いなら、アップルブルームの好きにして欲しい……だから、お前のしたいことを、教えてくれ」
 アップルジャックの胸に抱かれながら、アップルブルームは鼻を啜る。

AB「私、しばらく家を出るよ……頭を冷やしてくる」

AJ「その間、どこにいる?」

AB「わからない……けれど、知らない人の所にはいかないから、安心して」

AJ「了解、わかったよ、アップルブルーム。私は、お前がいつ帰ってきてもいいようにしておくから……だから、いつでも、帰ってきてくれよ」
 アップルジャックが耳元でささやく。アップルブルームがゆっくりと頷いた。

AB「うん」
 その声を信じて、アップルジャックは何も言わずに後姿を見せるアップルブルームを見送った。
 そうして、一人残された納屋の中で、アップルジャックは一人立ち尽くす。

AJ「叩かれた場所が痛いな……あいつ、こんなに力が強くなってたんだ」
 現実逃避のようにアップルブルームの成長を実感して、アップルジャックは涙と一緒に笑みを浮かべる。しばらく彼女は、床に敷かれた藁に顔を突っ伏し、一人で涙する。
141 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/29(月) 22:13:43.19 ID:DSCd8pdH0
AJが泣いている姿は悲しい。ラリティおばさんはなんかどうでもいいけれど
142 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/30(火) 20:19:17.10 ID:aNL3Y6Xx0
QC「なぁ、アップルジャック」
 いつの間にそこにいたのか。リビングに待機していたはずのクリサリスに納屋の外から話しかけられて、アップルジャックは顔を上げる。

AJ「クリサリス? そういえば、妹がお世話になったみたいだな……フラッターシャイから聞いたよ。入ってくれ」
 アップルジャックは涙を拭ってクリサリスを納屋に入れた。

QC「あぁ、その件で少しばかり、用がある」
 言うなり、クリサリスが変身する。何をするのかと、呆然とした頭で考えていたアップルブルームは目の前にいるポニーを見て、言葉を失う。

AJ「母さん……母さんじゃないか!?」
 自分のせいで死んでしまったことがあまりにも申し訳なくて、今でも顔向けできない存在にアップルジャックは目を逸らす。
 それが偽物だとわかっていても、そうしなければいられなかった。

QC「過去の世界に行ったとき、この姿を覚えておいたんだ。お前の母親から伝言を預かっているが、聞くかい? 今じゃなくてもいいけれど」

AJ「うん……聞きたい。今すぐ」
 目を逸らしながらアップルジャックは言う。今まで、償いのためにアップルブルームを大切にしてきたが、今後彼女にどう向き合っていくべきか、今でもわからない。
 母親の伝言を聞けば、それも分かるだろうか? そんな期待をして、母親の姿をしたクリサリスを見る。

QC「アップルジャック」
 幼いころ、悪いことをして父親に叱られた後、母親が慰める時の目で、声色で、クリサリスが言う。

AJ「うん」

QC「『貴方がここまで立派に大きくなってくれたなら、それだけで私達は幸せよ。アップルブルームも生きている。だから、貴方を救って死ぬのならば悔いはないわ』」

AJ「母さん……ごめん……」
 アップルジャックはうつむくようにして涙を流す。そのアップルジャックの頭に、クリサリスは胸を押し付けた。
143 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/30(火) 20:19:49.15 ID:aNL3Y6Xx0
QC「『いいのよ、アップルジャック。死ぬってわかって向かったのだもの……』」
 そんな伝言は受け取ってなどいないのに、クリサリスは耳打ちするようにアップルジャックへ告げた。
 舌なめずりをするほどに暖かな愛が、アップルジャックから流れ込んでいるので、クリサリスも少々悪乗りしている。
 そんなクリサリスの思惑をなんとなく理解していてなお、アップルジャックもその好意に甘えていた。

QC「満足した?」

AJ「うん」
 アップルジャックがクリサリスの問いかけに答えると、クリサリスが二歩下がって、今度はジョナサンに変身する。

QC「なぁ、アップルジャック」
 怒られるかと思ったアップルジャックには意外なことに、父親の声は厳かだが、優しいものだった。思わずアップルジャックは背筋を正す。

QC「『お前が立派に育ってくれて、俺達は本望だ。説教の一つでもするべきかと思ったが、アップルブルームを見る限りじゃ必要はないようだな。
  あんな立派な子供に好かれる姉が、立派じゃないはずがない』」

AJ「うん、ありがとう……父さん」
 涙ぐみながら、アップルジャックは天井を見つめる。クリサリスは変身を解いて、本来の姿に戻った。

AJ「私、許されてもいいのかな……」

QC「よく意味が分からんが、両親はそこまで怒っていないんじゃないかな? あるいは、死ぬということに実感がなかっただけか……」

AJ「願わくば、後者でないことを祈るよ」
 力なく笑ったアップルジャックは、帽子を下げて泣き顔を隠す。

QC「どちらにせよ、お前は愛されているよ。妹だって、お前を嫌ってもなお、お前の事が大好きだ」
 クリサリスはしばらく無言のアップルジャックを見下ろしていたが、やがて彼女から愛を受け取ることはもうないだろうと悟り、静かにその場を去ろうとする。

AJ「なぁ、クリサリス……」

QC「なんだ?」
 クリサリスがこの場を去ろうとする気配に気づき、呼び止めたアップルジャックの方にクリサリスが振り返る。

AJ「ありがとう」
 アップルジャックは、クリサリスに愛を投げかけた。そのおかげで、魔力がかすかに潤ったのを感じ、クリサリスが口角を釣り上げる。

QC「どういたしまして」
 彼女は、魔力の収穫に気を良くしながら納屋を出ると、翅で羽ばたいて自宅へ戻っていった。

144 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/09/30(火) 20:22:05.89 ID:aNL3Y6Xx0
今日はこんなところで終了です。休日が早くも待ち遠しくなってきた
145 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/01(水) 20:31:54.30 ID:8EDZnndJ0
QC「家族、か……」
 空を飛んで帰る道のりの途中、クリサリスは物思いにふけって呟く。

QC「私が母親から望まれたのは、女王を産み育てる事だけ……そのために、自分はとにかくがむしゃらだった。
 頑張るうちに、上手くいかないことをポニーのせいにして、ポニーを怨みもして……その結果が、あの結婚式か」
 我ながら、無茶をしたものだと思う。それで女王を産んでいればまだ親に誇ることも出来たのかもしれないが、今の様ではとても誇ることなど無理だろう。

QC「それでも、あの魔法で過去に帰れば、私の母jはまた抱きしめてくれるのだろうか……?」
 答えを返してくれるものなどいるはずもない問いを空に投げる。

QC「愛されてもいないというのに抱擁を恋しく思うだなんて、私も焼きが回ったな……母親は、私を愛してなどくれなかったというのに……
 少し、愛してもらえるアップルジャックが羨ましい。今からでも、あいつと入れ替わりたい気分だ」
 独り言ちて、クリサリスは独り言を止める。家はもうすぐそこであった。


 家に帰り付き、クリサリスは料理をしながら兵隊の帰りを待った。その後、兵隊二人が帰ってきて食事を済ませると、彼女は昼間あったことを書面に残すべく、口述筆記をパトリックに命じた。

QC「以上が、今日の出来事だ」

パトリック「……はい、筆記終わりました」
 今日会ったことを語り終えて、クリサリスは満足げに笑む。

QC「あと、まとめのもう一言を頼みたい」

パトリック「えぇ、どうぞ、クリサリス様」
 パトリックに促されるなり、クリサリスはコホンと咳払いを挟む。

QC「『今回私が学んだことは、家族愛を守る手助けは、非常に感謝されるということだ。感謝は愛に繋がる。それゆえ、アップルブルームからも、アップルジャックからも、愛を受け取ることが出来た。家族とはかけがえのないもの。命の次に、どころか命より大事にしているものもいるだろう。
 だから、積極的に人を助けてやれ。その行為が、自らを強く高める魔力の源になることもある。我らがチェンジリングの繁栄のため、家族の愛は十分に利用せよ』」

パトリック「……了解です。すべて書き終えました」
 口にペンを咥えて文字を書き記したチェンジリング、パトリックが告げる。

QC「よろしい。ご苦労だった、パトリック」
 クリサリスがねぎらうと、パトリックは傅いて言う。

パトリック「女王様のご命令とあらば……この程度のことなど造作もありません」

QC「ふふ、嬉しい事だな」
 すまし顔で笑顔を浮かべるクリサリスの表情を見て、チェンジリングはつられるように笑みを浮かべた。
QC「今回の事で、アップルファミリーは分裂してしまったからな……そのまま絶縁ということはないだろうし、
  あやつらの愛にあやかるためにも、もう少し観察して出来る事があれば手を貸していこうと思う。異論はないな?」

パトリック「あるはずないじゃないですか、クリサリス様」
ロイ「そうですとも」
 クリサリスの問いに、二人は笑顔で即答した。
146 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/01(水) 20:34:03.74 ID:8EDZnndJ0
これで『アップルジャックを救え』は終了です。次回からは『仲直りのためには』をお送りします。
147 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/02(木) 22:23:36.70 ID:+MMG4vuT0

 ある日、商店街の警備員としての仕事中、クリサリスは高台から見下ろしている最中に、無謀にもひったくりを行ったダイヤモンドドッグスを発見する。
 宝石を露店販売していた女性は、取り返してくれと叫んだものの、周りの者達は関わり合いになるのを恐れて動く様子がなく。
 監視していたクリサリスは、急降下してそいつの脳天に脚を叩きつけてその場に貼り付けにしてやる。

「ふん、魔法を使う必要すらない」
 ダイヤモンドドッグスを鼻で笑いながら、クリサリスはそいつの後頭部を踏みにじる。俄かに歓声が上がり、クリサリスを称賛する声が上がった。
「ポニーヴィルの住人は簡単な事で手の平を返すとは聞いたが……こうも単純とはな」
 今まで自分達に対して悪意、敵意を向けらていたのがよくわかっていたクリサリスだが、今はその感情が一気に消えている。
 愛情に変わるための準備段階と考えれば嬉しい事なのだが、こんなにも単純だと、詐欺師に騙されやすそうだとクリサリスは苦笑する。
 実際、詐欺師には二回も騙されるような街だからこそ、クリサリスの見解は大当たりである。

 ともかく、クリサリスはひったくりのダイヤモンドドッグスを警察に引き渡し、奪われそうになった商品を店の主人に返す。
「災難だったな。だが、警備を増員したトワイライトスパークルと私のおかげで、大事に至る前に事件は収束した。感謝することだな」
 上から目線でクリサリスが言うと、この店の主人である水色の鬣をした、クリーム色の麗しい女性ポニーは笑顔になってお礼を言う。
「ありがとうございます。大事な商売道具を奪われて、子供が路頭に迷うところでしたよ」
 深々と頭を下げて、地面にキスをする勢いで彼女は言った。
「そうか。ならば、助かった分子供を愛してやれ。ついでに私も愛してくれると嬉しい」
 そんな態度に気を良くしたクリサリスは、ついつい変なことを口走ってしまう。
「へ?」
 その言葉には、店主も首をかしげるばかり。
148 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/02(木) 22:24:24.75 ID:+MMG4vuT0
「おっと、何でもない」
 クリサリスは、アップルジャックからのアドバイスで、愛されたいならば『あんまり愛してくれ』とか積極的に言わないほうがいいんじゃないかな、と困り顔で言われたことを思い出す。
 ピンキーパイからは言わなければ伝わらないよと言われたので、どうすればいいのか悩んだりもしたが、こうして口に出してしまうと、確かに相手からは微妙な反応をされることが多い。
 そのため、いまだに塩梅が分からないというのが、今の彼女の目下の悩みであった。
「あぁ、そう言えば。聞いたよ、あんたは愛してもらうことで魔力を得るんだって? だから愛してほしいんだろう? だったら、私が愛するよ。警備員の元気が無くなっちゃったら困るからね」
「ふふ、頼むよ」
 気さくな態度で接してくれる店主に、クリサリスは自然と笑顔を見せた。
「しかし、あれだね。アンタ美人さんなのに、宝石の一つもつけていないのかい?」
「ん? まあな……あまりそう言うのを意識したことはなくって……」
「愛されるためには見た目の良さも必要だよ、あんた。そうだね、仕事が終わったらウチに来てくれよ。泥棒を捕まえてくれたお礼に、サービスで見繕ってあげるからさ」
 いきなり親切なことを言われて、そして本当に言葉通り愛されているのを感じて、クリサリスは目を丸くする。
「良いのか? 私は職務を全うしただけ、きちんと給料は出るのだから、別にお前のサービスなどなくとも対価は支払われているのだが……」
「お堅いねぇ。親愛なる人に対して贈り物をするのは当たり前よ? 盗まれた額に比べりゃ大したことないから、遠慮なんてしなさんな」
 ハハッと笑い飛ばして店主は言った。
「それは知ってる……だが、親愛をそんなにも簡単に与えてくれるものなのかと思って……愛というものはもう少し手に入れるのが難しいと思っていたな」
 戸惑いながら、クリサリスは正直な自分の気持ちを伝える。
「そうね、確かに簡単に手に入ったわね。でも、なんていうのかしらね……プリンセストワイライトから言われたの。チェンジリングは、平和な世界を好むって。
 引き合いに出されたハートウォーミングデーとウェンディゴのお話なら私も知ってるよ、ウェンディゴなんかは憎しみや喧嘩を好むような生物だって話じゃない。
 でも、アンタはその逆だって。ちょっと不器用なところがあるけれど、アンタも本当は悪い子じゃないのね。
 プリンセス・ミ・アモーレ・カデンザの結婚式を邪魔する前からチェンジリングは危険な生き物だって教わったけれど、そんなこと全然ないじゃない。いい子だわ」
「……それが正しい認識だ」
 なんだか、照れくさくて、クリサリスはツンとした態度でそう言った。
「えぇ、私も正しい認識をみんなに広めるわ。お仕事頑張ってね」
「承知した」
 そう言って、彼女はそっけなく立ち去る。そして後で後悔する。
「あぁ、くっそ……最後の最後で笑顔を見せられなかった。なぜだ、ピンキーに笑顔でいろと言われたのに……」
 後悔などしなくとも、彼女の良さは十分店主に伝わっている。店主は客の相手をしない間、クリサリスにはどんな宝石が似合うかを考えていた。
149 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/02(木) 22:25:41.16 ID:+MMG4vuT0
今日はこれで終わりです。G3.5のトゥーラルーラとか、スターソングメロディもゲスト出演してほしい今日この頃
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/03(金) 09:43:08.84 ID:XJ9iyoAro

ポニーヴィルの住人はちょろすぎだもんな!いつものことだけど
G3.5?そのようなものはあろうはずがございません
151 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/03(金) 22:15:20.49 ID:bbY9znDF0

 後日の事である。
「なーなー、クイーンクリサリス!」
「すごくて強いクイーンクリサリス!」
「なんだお前ら……」
 商店街の警備員の仕事中に、クリサリスは青の体毛と黄土色の鬣、辛子色の体毛と青緑の鬣を持つユニコーンの二人組にまとわりつかれる。こういう時の対処法はフラッフルパフのおかげで分かっているので、クリサリスは無言で魔法を使って。まとわりつく二人を引きはがす。視線はやらない、腐った魚を見るよう根まで見下ろす事すらしない。本当にうざったいときは、これに限る。フラッフルパフもこれをやるとようやく諦めてくれるのだ。
 彼らからは、尊敬交じりの愛を感じる。スターやモデルに対するあこがれを伴う愛だ。愛には違いないとはいえ、彼女にとってはあまり魔力の元とならない愛である。チェンジリングにも好みはあるのだ。
「仕事中だ、あまり邪魔をするな」
 目を合わせずにクリサリスは言い放つ。
「ねーねー、そんな冷たいこと言わないでよー。俺はスニップス」
 ハサミのキューティーマークを持つ青のポニーがそう名乗る。
「そうだよー。あ、オイラはスネイルズね」
 カタツムリのキューティーマークをもつ辛子色のポニーも続いて名乗る。
「大体お前らなんの用なのだ!? 業務中に話しかけないでもらいたい」
「いえ、その素晴らしい強さをどんなふうに手に入れたのかが気になりまして」
「なので、お話を聞かせていただきたく」
 スネイルズとスニップスが、目をキラキラさせながらクリサリスを見つめていたかと思うと頭を深々と下げて頼む。
「断る。私に益はなさそうだ」
 だが、クリサリスはそれを冷たくあしらった。
152 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/03(金) 22:22:58.98 ID:bbY9znDF0
「えぇ、どうして!?」
 二人そろって、息の合った声が上がる。
「なんというか、お前達と一緒にいると貧乏くじを引きそうなのと……あと、お前ら、強さならトワイライトにでも聞いてみろ。あいつだって強いだろ、じゅうぶんに」
「トワイライトにはもう聞いたよぉ!」
 スニップスが抗議の声を上げる。
「ならば、フラッターシャイには聞いたか? ピンキーパイには?」
「それは……まだ。でも、二人とも強くなんてないだろぉ?」
 スネイルズは言うが、クリサリスは静かに首を横に振る。
「二人とも、あれはあれで強い奴らだ。アップルジャックも、そのほかの奴らも。私の強さなど、女王として生まれた生まれつきのもの。努力ではない。確かに強いことは認めよう、うぬぼれではなく私は強いだろう。だが、喧嘩の強さだけで語るのならば、それはお前ら、本質が見えていない。本質の一つも見えていない奴に憧れてもらったところで、私は大した愛も得られまい。
 だから帰れ。私は愛をくれない者にまで親切にするほど心は広くない」
「そんなぁ!」
「お願いしますよぉ!」
 縋るスニップスとスネイルズをクリサリスは脚で小突く。
「ふむ……仕方がない」
 あまり無碍に扱って、子供達からの印象が悪くなるのは具合が悪い。少しくらいは付き合ってやるかと、彼女はため息をつく。
「わかった、非番の日にな……って、明日がその非番じゃないか」
「やったぁぁぁ!」
 意外とその日が近い事に、なぜだかクリサリスは憂鬱になって蹄で顔を覆う。目の前の二人は、対照的に喜んでいるのがことさら嫌な気分を加速させた。
153 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/03(金) 22:57:40.46 ID:bbY9znDF0
今日はこんなところで終了です。
いやその、G3,5と言っても、FiM風にリメイクした感じでですよ?w RDとかチアリーとかスコ太郎とか甘鈴とかPPみたいな。
このサイトで ttp://www.dolldivine.com/mlp-fim-pony-creator.php

本体 2S000000E08C5093FFC49D003011F9B83UN183730000000191FE5ED1FFB3FE17107F3FCC004CB2

アクセサリー 066CC669301616066CC66066CC66066CC6604E8FBAFFFF8C166CC66066CC66066CC66066CC66
で、スターソングメロディっぽくなるはず
154 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/04(土) 22:20:41.18 ID:C0sXh1NP0
 その後、商店街の営業が終わると、クリサリスは言われた通りに宝石屋に訪れ、宝石を見繕ってもらう。
「こんばんわ。私だ」
 店じまいをして、屋台を畳み終えた主人は、ほとんどの荷物を荷車に載せて、折り畳み式の椅子に座って待っていた。周囲にはすでに人はほとんどおらず、いるのは世間話を続行している住民くらいなもの。他の出店の主人たちはとっとと帰っている。
「あら、来てくれたのね。それじゃあ、早速だけれど……まず考えてみたのは、貴方は緑色をしているからね。それにアクセントとして最も目立つ赤い宝石というのを考えてみたのだけれど、どうかしらね? ルビーは官能的、性的な力を強めたり、情熱的な力を与えてくれるの」
「これはルビーか? 少し派手すぎるかもな……だがまぁ、悪くない」
 クリサリスの首にネックレスをかけてみると、確かに目立つものの、目立ちすぎる。暗緑色の色に合わないこともないが、個人的には控えめな方が良さげに思える。
「ふむ、それではこのトパーズはどうでしょう? 貴方は髪以外の部分が黒いから、オブシディアンやオニキスのような黒い宝石以外なら何でも似合いそうね。この石には誠実って意味が込められていて、良い出会いをもたらしてくれると言われているわ」
 今度は悪目立ちしない程度に控えめな色の宝石で、今度は角の部分に取り付けるタイプのもので、垂れ下がる金属がティアラのように飾られ、動くたびに装飾が揺れるようになっている。銀と金と螺鈿をちりばめた装飾の中心には全体的にみると緑色の角と馴染む色合いをしている。
「あらいいわ。これは女王様って感じが良く出てる」
「だが、きちんと髪を整えていないと毛が挟まって痛いし、なんというか……気になるな。あまりこういったじゃら付いた物は好きではない」
「そうね、ならこれはどうかしら? こんどは寒色系で、青いラブラドライトの首飾りよ」
「ラブラドライト……それは、どんな石なんだ?」
「あら、ラブラドライトはお好き? この石はね、月と太陽を象徴する石。宇宙のパワーに満ちたこの石はね、あらゆることを言い方向へと導いてくれる力を持つわ。貴方が自信を無くした時や、生まれた意味に悩んだ時、そっと力をくれる存在になるの。その鮮やかな輝きはアゲハ蝶の翅にも例えられるのだけれど……クリサリス(サナギ)という名前の貴方にはちょうどいいんじゃないかしら?
 眠れる可能性を引き出してくれるかも」
「なるほど……少し、付けさせてはもらえないか」
 そう言ってクリサリスは、ネックレスを魔法で拾い上げる。
155 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/04(土) 22:28:29.54 ID:C0sXh1NP0
「もちろんですよ」
 店主が用意してくれたラブラドライトの宝石は、ブルーラブラドライトのキューティーマークと同じ、ハートの形の宝石をしていた。
 その宝石によく似たキューティーマークを持つ彼の事を思い出しながら、クリサリスはネックレスを付ける。
 彼女の暗緑色の髪になじむように、深いブルーの宝石が装着されると、彼女を持ち主と認めるかのようにきらりと光を反射する。
 トパーズやルビーと違って、暖色系ではないために非常に落ち着いた色合いになる。あいにく青い色は夕日の中では見えにくかったが、中々気品あふれる色合いではないだろうか。
 これまでのものと比べると自己主張は激しくないが、その分だけ上品な印象だ。
「これがいい。私は活発な感じのものよりかは、こっちのほうが性に合っている。このラブラドライトの宝石が気に入った」
 胸元に光る宝石を覗き込みながらクリサリスは微笑んだ、
「あいよ。そいつは私のサービスよ。愛を手に入れるために頑張るのよ、クリサリス。私も応援しているからね」
「あぁ、ありがとう」
 ぺこりと頭を下げて、クリサリスはその場を去る。あまり普段から付けているのではなく、たまにおしゃれをする程度に付けようと思いながら、クリサリスはネックレスを見る。
 きらりと光を照り返した青い宝石が、ブルーラブラドライトの顔を思い出させた。
「良い物を貰ったな……愛というのは、魔法を得るだけではないとなれば、俄然やる気もでる……よし、明日からも頑張ろう」
 一仕事終えた彼女は、翅をはためかせて飛び去っていく。満足げな顔は家に帰ってもしばらく続き、兵隊たちに指摘されてようやく自分の表情に気付くのであった。
156 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/04(土) 22:29:33.54 ID:C0sXh1NP0
今日はこんなところで終わりです。最近稲荷神社にお祓いに行きたいです。狐の妖怪のお話書いているので、悪い狐に取り憑かれないように。でもいい狐には取り憑かれたいです
157 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/05(日) 22:36:38.26 ID:EWtu1RkX0

「来てやったぞ」
 あまり機嫌のよくない口調で、待ち構えていたスニップスとスネイルズにクリサリスが告げる。
 二人は喜びをあらわにしながら彼女に近づくと、蹄をなめんばかりの勢いで擦り寄った。

「それで、話を聞きたいとのことだが……」
「あぁ、それなんですけれど、どうしてあなたがそんなに強いのか、教えてもらいたいのです」
 スネイルズが尋ねる。
「愛されたからだ」
 インタビューも早めに終わらせようかと、クリサリスはそっけない答えを告げる。
「ピンキーパイや、フラッターシャイやそのほかいろいろなポニーにな。ポニーじゃない者にも愛されているし、それに……アップルブルーム」
「え、私?」
 クリサリスが横目をやって、突然話を振ってきたので、アップルブルームが驚き声を上げる。
「私はお前達姉妹にも愛されていたな」
 笑みを浮かべてクリサリスが言う。
「ちょっと、そういう変なこと言わないでよ! それに、お姉ちゃんの事なんて、今は知りたくない」
 クリサリスの言葉が気に障り、アップルブルームは顔を赤くしてそっぽを向く。
「人を愛することを恥ずかしがる必要はないと聞いたぞ? 何をそんなに恥ずかしがる?」
 純粋に疑問なのか、クリサリスは真顔で尋ねる。
「そういう問題じゃないの! もう……」
 そんな彼女の態度がウザったいのか、アップルブルームはむきになってそう言った。
「というか、お前まだ喧嘩しているのだな。仲直りはしてないのか? アップルジャックは怒っていないぞ?」
「仲直りはまだしてないよ……どんな顔して会えばいいのかわからないし……まだ、ゼコラの家に泊まってる」
 優しく諭すような声のクリサリスに、今の状況を思い出してアップルブルームはうつむき気味に答える。
「そうか。だが、お前は笑顔であいつの傍にいてやれ。そんな顔じゃ、アップルジャックも同じ顔になる。そしてだれにも愛されなくなるし、誰の事も愛せなくなる」
「分かってるよ……もう、知らない」
 クリサリスとの会話で傷口に塩でも塗られている気分なのか、アップルブルームはそういってキューティーマーククルセイダーの二人とともにどこかへと行ってしまう。クリサリスはそれを見送ると、スニップスとスネイルズに向き直った。
158 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/05(日) 23:04:07.74 ID:EWtu1RkX0
「さて、会話の途中だったな。ともかく、私が強いのは女王としての生まれつきな面もあるが、きちんと愛を貰っているからこそという面もある。他人を利用しなければ、私は強くなどないさ」
「えぇー、そうなの!?」
 スネイルズが不満げに声を上げる。
「強さには理由があるが、私の場合は努力によって出来たものではない。それだけの話だ。他に聞きたいことはあるか?」
「趣味は?」
 これ以降、スネイルズが尋ね、スニップスはそれを書き取る体勢に入っている。
「ペットを撫でる事」
「特技は?」
「ポニーの観察」
「好きな料理は?」
「地面に落ちて発酵した(アップルジャック曰く腐った)林檎」
「将来の夢は?」
「一国の女王」
「小さい頃は何してた?」
「産卵。今でも続けているがな」
「産卵って何?」
「ニワトリみたいに卵を産むことさ。その準備はとても気分がすっきりする」
 非常に問題のあることを言ったような気がしないでもないが、相手が子供なためにさっと流されて質問は次へ行く。
「ふむふむ……休日にやることは?」
「ペットと散歩したり、ピンキーのパーティーに行ったりさ」
「ところで、今付けているその宝石は何ですか?」
「ラブラドライト」
 そんな調子で、スニップスとスネイルズの質問攻めは続く。しかし、クリサリスは例外なくそっけない答えしか返さないため、質問内容もすぐに枯渇していくことになる。
「満足したか?」
「うん、やっぱりクイーンクリサリスってすごいポニーなんだね」
 スニップスの言葉に、今回の会話のどこにそんな要素があったのだと、クリサリスは複雑な気分になる。
「そうだな」
 どう返答するべきかわからないため、最後までそっけない返事でクリサリスは質問回を終わらせた。こんなところまで来ても、クリサリスが質問に答えるだけで何もしなかったので、他の生徒たちは帰っていくクリサリスを不思議そうな目で見つめている。
 クイーンクリサリスは、怖いやつじゃないのだろうか? そう言った疑問は、こうやってだんだんと解けていく。クリサリスは怖くないのだと。
159 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/05(日) 23:06:20.48 ID:EWtu1RkX0
今日はこんなところで終わりです。ペガサスが台風を連れてくるようなので、皆さん気を付けてくださいな
160 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/06(月) 23:21:47.28 ID:VuAOrL5e0
 学校でのインタビューを終えたクリサリスは、そのまま家に帰ることはせず、スイートアップル農園に向かう。
 時間帯はすでに夕方に差し掛かっており、本来なら野良仕事も終わっている時間帯のはずなのだが、アップルジャックはまだ仕事をしている。
「あぁ、クイーンクリサリス。どうしたんだい?」
 リンゴの木の手入れをしている最中のアップルジャックは、若干いつもの元気に欠けた様子でクリサリスに言う。恐らく、精神面のみならず体力の面でも苦労しているのだろう。
「私の方はどうもしていないさ。それよりも、お前の方がどうかしているんじゃないのか?」
「私がどうかしてるって? そりゃ、どういう意味さ?」
「アップルブルームの事だ。まだ仲直りしていないようだな?」
 クリサリスに言われると、アップルジャックは納得した様子で顔を逸らす。
「あぁ、そのことなら確かにどうかしてるよ。あいつ、私に似て意地っ張りなところがあるから、どうすれば謝れるかわからないんだろうな……
 私も、分からない。両親か私か、どちらを生かすなんて選択を強いたら、そりゃ私を嫌いにもなるよな……」
「だろうな。だが、反面でお前を許したいという気持ちもあるようだ。その気持ちを無視するわけにはいかないだろう?」
「分かってる。けれど、ここで変な謝り方すると、さらに意地を張られてどうしようもなくなる気がして、
 怖いんだ……私が迎えに行って、それでなんて言えばあいつが意地を張らなくっていいのか……私には」
「お前の家は、このポニーヴィルの食糧を担う存在だ。食糧がなければみんな生きていけないし、お腹がすくとイライラしてポニーヴィルの住人の愛も育たない。
 お前らの家族が一人でも欠けると困るのだ……そのままじゃ体を壊すぞ、お前?」
「耳が痛いよ。今は、アップルブルームの分も私が頑張っているから……結構、無理してるのかもな」
 クリサリスの言葉を真正面から受け取ってアップルジャックは言う。アップルジャックは言葉にあまり裏表がない。
 彼女に余裕がないのも裏表を作ることが出来ない理由の一つなのだろうが、誠実で愛されやすそうな子だとクリサリスは思う。
「しかし、クリサリス……どうして私の事にそんなに構うんだい?」
「言うまでもなく、自分のためさ。お前らの心に余裕がなくなると、誰かを愛する余裕もなくなってしまう。
そうなれば、我らチェンジリングは満足に愛を喰えん。高々アップルブルーム一人、されどその一人との関係が上手くいかないだけで、お前は他の誰に対しても余裕を持てなくなる。
 事実、お前はいつもの愛想が悪いじゃないか。普段のお前は、もっと明るくて快活で、人当たりの良い女のはずだ。そんなお前を、私は取り戻したいだけなんだ」
「私のために行動するのが、巡り巡って自分のため、か。なんにせよ、心配はしてくれるってわけだね。嬉しいよ」
 クリサリスの言葉を聞いて。アップルジャックが力なく微笑んだ。
161 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/06(月) 23:26:32.08 ID:VuAOrL5e0
「そんな時に頼りになるのがお前らの友達だろう? たまには頼ってもいいんじゃないのか?」
 ただ、クリサリスは同時に、自分だけではアップルジャックを笑顔にできないことを感じている。
「良く言われる。私はいつでも一人で抱え込みすぎだって……そうだね、みんなを呼んでみるよ……あ」
 そう言って、アップルジャックが農園の外を覗くと、そこにはラリティを連れたスウィーティーベルと、レインボーダッシュを連れたスクータルーが遠くに見える。
「どうやら呼ぶ必要もないみたいだな。少し、話をしていこうじゃないか」
 アップルジャックとクリサリスは、その四人がこちらへ来るのを待つ。相手も気付かれたことに気付いたようで、駆け寄ってきた。

「こんにちは、みんな。それとも、もうこんばんはの時間帯かな?」
 アップルジャックは、やはり元気の足りない声で四人に言う。
「あら、アップルジャック。貴方ちょっと痩せたんじゃない? 太っている女性が痩せたのならともかく、貴方は痩せると美しさが損なわれるわよ? きちんと体重を維持しなきゃ」
「ほんと、しばらく仕事が忙しいとか言っていたから姿を見てなかったけれど、そんなになってたんだね。無理しちゃって……君がそんなんじゃ、僕との力比べは無理そうだね」
 ラリティとレインボーダッシュは口々にアップルジャックのうやつれた容姿を心配する。レインボーダッシュは見下すような口調をとっているものの、これが彼女なりの心配である。
「ところで、クイーンクリサリス。貴方、素敵な宝石を付けているわね? 良く似合っているわ」
 ラリティはクリサリスの宝石を見て、そう評す。
「あぁ、これはラブラドライトだ……宝石の露店から、泥棒を捕まえたお礼にもらったんだ」
「まぁ、良い輝きだわ。ラブラドライトはこの辺じゃ手に入らないから、機会があったら私も行ってみようかしらね」
 今はそんな状況ではないというのに、ラリティはそんなことを考え、口に出していた。
162 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/06(月) 23:31:20.34 ID:VuAOrL5e0
今日はこんなところで終了です。台風は意外とたいしたことなかったですね
163 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/07(火) 22:46:09.05 ID:39gdqbyg0
 そんな姉を放っておいて、妹であるスウィーティーベルが一歩前へ出る。
「あの、こんばんは、アップルジャック。その、今日はアップルブルームの事で相談が……」
 案の定、要件はアップルブルームの事。スウィーティーベルも彼女の事を心配しているのか、いつもよりも元気が足りない。
「最近、アップルブルームが全然元気なくって、いつもゼコラの家に帰っているんだ! でも、理由を話してくれなくって……どうすればいいのかわからないの。クイーンクリサリスはなんだか事情を知っているみたいだったけれど、今ここにクリサリスがいるのは、関係あるの?」
 スウィーティーベルとスクータルーが目を潤ませ、アップルジャックに訴える。
「ううん、クイーンクリサリスは、むしろアップルブルームのために頑張ってくれたのさ。どう頑張ったかについては……そうだな、アップルブルームもきっと語りづらいんだろうな。そう言えば、せっかく集まってもらってたのに、ゼコラ以外には事情を話していなかったね……事情を知っているのは、うちの家族と、クリサリスとゼコラだけだったから。
 分かった、どうしてアップルブルームがこんなことになっているのか、教えるよ。軽蔑するかもしれないけれど……」
 そう言って、アップルジャックは幼い頃に両親と死別したエピソードからさかのぼって、今回の事件について詳しく語り始めた。その過程でアップルブルームに、両親と姉のどちらを助けるか、選択を迫らせたことも包み隠すことなく。
「そんなことをさせられたら、そりゃ嫌うよな。私のせいで両親が死んだだけじゃなく、その上そんな選択を迫られて、きっと私を許せなくなったのだと思う」
 アップルジャックはそういって話を締める。
「でもそれ、今更蒸し返されてもアップルジャックだって困ってるだろ? それなのに、一方的に嫌うって言うのもなんだかなぁ」
 レインボーダッシュが暗にアップルブルームを責めることを言う。
「そう言って、貴方が同じ状況になったらアップルジャックを嫌いそうな気がするけれどね、レインボーダッシュ」
 ラリティはそんなレインボーダッシュを鼻で笑って見せた。
「なんだよラリティ、その言い方!」
「貴方は現実が差し迫ってこないと現実を認識しないタイプですもの。だから、物事を見据えるのが苦手なのよね」
「う……」
 今までの数々の言動からラリティが推察するレインボーダッシュの行動に、言われた本人はぐうの音も返せなくなる。
「私としては、アップルブルームの気持ちは分かるわ。レインボーダッシュの言う通り、今更蒸し返されても困る問題だというのは確かだけれど。でも、アップルジャックを許せなくはなると思う……」
「そうだね、お姉ちゃん。私だって、アップルブルームが怒る気持ちは分かる」
 ラリティとスィーティーベルが言うと、アップルジャックは顔を伏せる。
164 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/07(火) 22:47:07.42 ID:39gdqbyg0
「たださ、貴方達姉妹ほど仲が良いのならば、いずれ仲直りするのはそれほど難しい事じゃないと思うわ。だから、なんていうのかしらね。時間が解決……」
「その必要はないな。もう時間は十分だ」
 ラリティの話の途中に、クリサリスが割り込んで言う。
「そうなの?」
 ラリティが問い返す。
「アップルブルームはどんな顔をして会いに行けばいいかわからないと言っていた。お前達も聞いていただろう?」
 クリサリスはラリティの問いに答えると、キューティーマーククルセイダーズの二人に視線をやる。
「うん、聞いてたよ。本当はもう、アップルブルームも家に帰りたいんじゃないかな?
 でも、アップルジャックが怒っているんじゃないかとか、何を話せばいいのかとか、きっと迷っているんだと思う。
 酷いことを言っちゃったときって、どうやって仲直りすればいいかわからなくなるから……それが、そんな大きな問題なら、なおさらだと思う」
 スクータルーがしおらしい顔で言う。
「このままじゃ、アップルブルームも、アップルジャックも可愛そうで見てられないよ……どうすればいいのかな?」
「私にもわからないんだ」
 スウィーティーベルがついたため息に、満足な答えを出すだけの事は、今のアップルジャックには出来ない。

「あ、そうだ」
 そんな時、ラリティが何事かをひらめいた。
「クリサリスが今言ったように、アップルブルームも、本心ではもうすでにアップルジャックを許しているのでしょう?」
「あぁ、アップルブルームは意外と大人だよ。感情がごっちゃになって、どうすればいいかわからなくなって発作的に姉に対して怒りはしたが、
 今はそうした自分を恥じているようですらあった。仲直りは、きっかけさえあれば簡単じゃないのか?」
 と、クリサリスは考察する。
「なら簡単よ。アップルジャック、覚えているかしら? 私が、貴方の代わりに途中から出場した、姉妹レースの事。あの時の方法を使えばいいのよ」
 そう言って、ラリティはクリサリスを見る。
165 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/07(火) 23:05:44.41 ID:39gdqbyg0
ラリティのセリフで何をやるのか、分かる人は分かる。単純なことですよね
166 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/08(水) 21:39:37.18 ID:R71o6Wdu0

 夜、ゼコラの元でアップルブルームは眠れない夜を過ごしていた。眠れない理由は、森が怖いからではない。
 この森はディスコードのまいた黒いイバラの魔力を取り除いてからというものすっかり平和なので、ゼコラと一緒なら怖いことなどあるはずもない。
「眠れないのかい?」
 アップルブルームは寝返りばかり打って、眼を閉じていてもなかなか眠りに付けないでいた。彼女を心配してゼコラが声をかけると、アップルブルームは小さくうんと頷いた。
「そういう時は、星を見ているといい」
「星を? 羊を数えるんじゃなくって?」
「そうだよ。星を見て、星の数を数えてごらん。馬鹿馬鹿しくって、すぐに眠くなるよ」
「馬鹿馬鹿しいって、そんな……」
「うじうじ悩んでいるよりは、馬鹿馬鹿しい事をしてでも、何もかも忘れちゃった方が健康にいいよ」
 ゼコラは優しくアップルブルームに寄り添う。
「分かってるけれど……」
「なら、実践できるようになるまで何回も練習するのがいいのさ。いずれ吹っ切れるようになったら、きっとアップルジャックとも仲直りできるさ」
「そんなの、いつになるかな」
 弱気になってアップルブルームは言う。
「貴方がその気になればすぐよ。それはいつでもいいはずよ。なるようになるのよ、そういうのは。貴方は、仲良くしている方が貴方らしいわ」
「お姉ちゃん、怒っていないかな」
「あの子が貴方のちょっとした癇癪に腹を立てるものですか。大丈夫よ、貴方のお姉さんは貴方に嫌われたくらいで嫌い返すほど幼くはないわ」
 不安げにベッドのシーツを弄るアップルブルームに、ゼコラが微笑みかけた。
「うん……クリサリスも似たようなことを言っていた。アップルジャックは大丈夫だって」
「なら、答えはもう出ているじゃないか。アップルブルーム、いつでもいいから謝りに行くといい」
 優しく諭されて、アップルブルームは力なく頷く。
「星を見て来る。寝不足の顔じゃ、お姉ちゃんも驚いちゃう。すぐに眠くなれるように……」
「うん、遠くへ行っちゃだめだよ。迷ったりしたら危ないからね」
 優しく語り掛けるゼコラの声を聴いて、アップルブルームはゆっくりと頷いた。
「分かっているよ。それじゃあ、お休み」
「えぇ、お休み」
 ゼコラは微笑み、外へと出ていくアップルジャックを見送る。星を見るアップルブルームは、姉の事を想いながら静かに涙を流した。
167 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/08(水) 22:03:51.21 ID:R71o6Wdu0
 翌日、朝早くの事。ゼコラは起床して、隣にアップルブルームがいるのを確認してから、水瓶を持って外へ出ると、大木をくり抜いて出来た家の壁にはクリサリスが寄りかかっている。
「おやまぁ、珍しい客人もいたものだねぇ。街の様子はどうだい、貴方は町の住人に受け入れてはもらえている?」
 ゼコラは水瓶を置いてクリサリスに話しかける。
「まだまだ時間がかかりそうだ。だが、来た当初よりはずっと良くなっているし、アップルジャックの家であった時よりも、少しだけ信頼されている。
 そのおかげかな、最近は体の調子がいい。体が軽いよ」
「そうかい、それは何よりだ。私も昔は町に行くだけでみんな家の中に隠れてしまっていたからねぇ。最初っからそうじゃないだけ、貴方は恵まれているわ」
「この町はそういうものなのか? お前みたいに物腰柔らかな奴を怖がるだなんて、どうかしている」
 ゼコラの言い様にクリサリスは苦笑する。
「みんな、見たことのない者は怖がるものだよ」
 ゼコラは、今となっては笑い話なのか、なんてことないかのように笑っていた。
「ここだけの話……最初は、プリンセスセレスティアにここに連れてこられて、気に喰わなかった自分がいた。
 だが、最近はどうなのかな、安定して愛を得られるなら、それも悪くないと思えるようになっている。いや、むしろ来てよかったと」
「いい事じゃないかい。結婚式や彗星の時のように、敵対するよりもよっぽど建設的だよ」
「だが、その反面で、焦ってもいる。私達チェンジリングは、愛に満ち溢れた状態でなければ、次世代の女王を産むことが出来ないのだ……
 だが、それは皆から愛される愛のプリンセスに成り代わった時でさえも無理な事だった……
 この町にいて、成り代わりをせずに、それだけの愛を得る事なんて出来るのだろうか? そう思うと、焦ったり、不安になったりもする」
「ふむ……」
 少し顔を曇らせたクリサリスを見て、ゼコラが何かを思案する。
「そもそも、お前はチェンジリングの兵隊たちに愛されたりはしないのかい?」
 ゼコラが疑問を口にする。
「それは、無理なんだ。我々自身には愛の感情というものが存在しないのか、それとも愛が芽生えていないだけなのかわからんが……
 兵隊から愛を受け取ったなどという話は一度も聞いたことがない」
「そうかい、それでは例えば私がお前を愛したとして、そうすればお前は魔力が回復する。そこは、間違いないね?」
「そうだが……」
「では、その愛情は他のチェンジリング達にはどう見えるんだい? もう喰われた後の、食べかすのような愛はどう見えるんだい?」
「話が見えてこないな……私に向けられた愛は、私しか食う事は出来ない。だから、そのチェンジリングが私に変身する以外に横取りする方法はないな。要するに、お前の愛は餌として認識されない」
「それじゃあ、もう一つ聞こうかね。もしも、自分の体の中に生き物がいたとしたら? そしてそれがお前を愛しているとしたら?」
「寄生虫か何かか? わからないな、そもそもそんな奴が自分を愛したりするのかどうか」
「例えばの話よ。寄生虫が宿主を愛するなんて聞いたこともないしね……いや、そういう魔物もいないことはないけれど」
 ゼコラはそう言って、話の続きを促した。
168 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/08(水) 22:07:14.51 ID:R71o6Wdu0
ベッドシーン終了。けもケットは台風でまずいことになりそうですね、私は行くつもりはなかったですが、マイリトルポニーやポケモン本が手に入らずに泣く人は多そうです
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/08(水) 22:15:36.90 ID:4dCmUJt7o
乙です
170 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/09(木) 22:53:25.90 ID:OAncjgzU0
「では、私の仮定を言おうかね。そもそも、チェンジリングは自分が誰かを愛した時に、その愛が自分の中で消費されているから、気付かないなんてことは?
 そう、例えば体内にいる生物が貴方を愛したら、その愛は他のチェンジリングに感知できるのかねぇ、という話は、ここに繋がるのさ。
 誰よりも、自分自身が誰かを愛した時、その愛は自分の中で消費されたとしても、不思議な事じゃないのさ」
 ゼコラに問われて、クリサリスは目を見開く。
「考えたこともなかったな……私が生んだ愛は、私の中で消費される……?」
 ゼコラに言われて、クリサリスは自分の過去を振り返る。思い当たる節は、いくつかあったような気がした。
「まぁ、本当のところは分からないよ。ただ、もしかしたらそれが鍵なんじゃないかと思ったのさ。
 誰かがお前の事を想い、お前が誰かの事を想う。そんな状況が、愛に満ち溢れた状況なんじゃないかとね。
 私もチェンジリングの事は良く知らないから、何とも言えないのが心苦しいけれどね」
「そう、か……いや、考えたこともなかった」
 クリサリスはゼコラに言われたことについて、自分の中で何度も反芻して考える。
 フラッターシャイにも愛がどうのこうのと言われた気がするし、思い返せば自分の気持ちの変化で内側から暖かな力を感じたことも思い出した。
 ブルーラブラドライトやフラッフルパフと居る時などに、外部からではなく内部から。
「そうか、それが……」
「私の言葉が何かのヒントになればいいのだけれどねぇ……ところで、今日ここに来たのは世間話をするためではないわね? もしかして、アップルブルームの事かしら?」
 思い出したようにゼコラが尋ねれば、クリサリスはうむ、と頷いた。
171 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/09(木) 23:13:46.87 ID:OAncjgzU0
「あぁ、そうだ。本来の目的を忘れるところだった。だが、まだアップルブルームは起きていないのだろう?」
「そりゃね。ここのところ眠れない夜が続いているし、ただでさえ子供だから睡眠時間も長いし、起こさなければ昼近くに起きることもあるよ」
「じゃあ、待っている。今日は露店そのものが休みだから非番なものでな。時間はあるのだ」
「わかったよ。何をする気かは知らないけれど、可愛いアップルブルームのためなんだろう? それならば大歓迎さ。あとで朝ご飯を食べにおいで」
「かたじけない」
 ゼコラは、どうやら近くの泉に水を汲みに行き、帰ってくる時には薪も少々背負っていた。それを手に中へ入ると、中からはいい匂いが漂ってくる。物音を聞く限りではアップルブルームもすでに起きているようであり、楽しそうな声と愛情に満ち溢れた様子が感じ取れた。
「良い関係だな。アップルジャックと同じく、親代わりといったところか……ゼコラ、こんなところに住んでいるせいか、あまり関わりもなかったが、愛情にあふれたいい奴ではないか」
 愛の色、愛の形、愛の匂い。愛の存在を近く出来ない生き物に対してどのように説明すればいいのかわからないが、そんなものを感じ取ってみる限りでは、ゼコラとアップルブルームの関係は、親子のように感じられる。アップルジャックが、自身が嫌われるであろうことを予見してゼコラにも事情を知ってもらったことは、恐らく正しい判断だったのだろう。
 アップルブルームの心のよりどころとなれる大人は、家族以外では恐らくゼコラ以外はいないのだろう。
「もう出来たよ、入っておいで」
「おう、待ちわびたぞ。腹もぺこぺこだ」
 ゼコラの呼びかけにアップルブルームはきょとんとしていたが、クリサリスの声を聴いて状況を理解する。
「く、クリサリス。いったいなんの用よ?」
「なにって、アップルジャックの事さ」
 アップルブルームに対してクリサリスは何ら隠すことなく、単刀直入に告げる。
「お前は、早いところ仲直りするべきだ」
「何よそれ……説教か何かのつもり?」
「そのつもりだが?」
 あからさまにアップルブルームに嫌な顔をされたクリサリスだが、彼女は退かない。ぐいぐいと攻め込むようにアップルブルームに言う。
172 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/09(木) 23:18:04.97 ID:OAncjgzU0
今日はこんなところで終わりです。モンスターハンターももうすぐ発売ですね。
173 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/10(金) 21:12:41.11 ID:WoKGDazV0
「いや、説教というのとはまた違うかもしれんがな。だが、ともかく謝る練習でもしておくべきじゃないのか?
 どんな顔をして会えばいいのかわからないと言ったな……別にどんな顔でもいいのだ。
 さすがににらめっこのような顔はいけないとしても……だ。少ししょげていたって良い。笑顔でもいい。申し訳なさそうな顔でもいい。
 お前の姉が、アップルジャックが。それほど器量の狭い女だと思うか? お前がどんな顔をしていようとも、あいつはきっと受け入れるだろうさ」
 だから大丈夫だと言わんばかりにクリサリスは諭す。
「クリサリスにお姉ちゃんの何が分かるんだ!」
 アップルブルームがむきになって喚くが、クリサリスは彼女を冷たく見下ろす。
「経験則だ。私が、ポニーを観察していないとでも思ったか?
 あれだけお前に愛情を注ぎ、そして慈愛に満ちた女はそうそういない。だから、自信を持って言えるんだ。アップルジャックは大丈夫だと」
 クリサリスが全く視線をそらさずに言うので、アップルブルームは何かを覆い返す事も出来なくなってしまう。
「お前、ムキになるほど姉の事が好きなんじゃないか? ならそれを、私でなく姉にぶつけてみせろ。
 お前が一番アップルジャックの事を知っているというのならば、それを証明すればいい」
「そうだよ……私がお姉ちゃんのことを一番知ってるんだ」
「そうだろう? では、お前から見て、私が言うことは正しいかどうか、言ってみろ。お前の姉は、妹が変な顔をしているくらいで受け入れられないような、器量の狭い女だと思うか?」
「難しい言葉はよくわからないけれど、私がどんな顔をしていても大丈夫だって言うのは、正しいよ」
 『器量が狭い』という言葉の意味はよくわからないが、言わんとしていることは伝わったため、アップルブルームはそう答える。
「ならば何を怖がる? ぶつかっていけ。愛されているのだ、お前は」
「わからない……なんで、謝ることが出来ないのか」
 クリサリスの問いに、アップルブルームは首を振って答える。
174 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/10(金) 21:37:29.76 ID:WoKGDazV0
「……よくわからんが、そう言うものなのかもしれないな。自分が意地を張ってしまうのではないかとか、そんなことを思い悩んでいるのだろう?」
「そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
 アップルブルームは自身の胸中に渦巻く微妙な気持ちが、どんな意味を持つのか理解しがたく、あいまいに答えた。
「ならば、練習なら出来るか? 私相手になら、言いたいことも言えるだろう。本番も、同じようにすればいい」
 言いながら、クリサリスはすでにアップルジャックへと変身している。いつものカウボーイハットもきちんとつけていて、妹の眼から見ても本物がそこにいるとしか思えない。
「私がお姉ちゃんだと思って、ちょっとは練習してみたらどうだい?」
「どうして……」
 姉にそっくりな姿で話しかけるクリサリスに、アップルブルーームが狼狽える。
「どうして、クリサリスはそんな風に私に構うの?」
「深い理由なんてないよ、アップルブルーム。人に親切にすれば人に愛される……ただそれだけの話じゃないか。
 でも、自分の魔力のために頑張ることが、皆に悪影響を与えるわけじゃないだろ?
 だから、アップルブルーム……私を、クイーンクリサリスを信用してはくれないかな? 私は、愛されたいだけなのだ」
「結局は自分のためにやっているくせに……」
「共生って奴だよ。野菜にだってあるだろ? ナスとトマトを一緒に育てると、どちらの育ちもよくなるとかさ……
 私達チェンジリングとポニーは、きっとそういう関係になれると思っている。違うかな?」
 姉の声、姉の姿でクリサリスが言う。
「……やっぱり、ダメ」
 アップルジャックが涙声になる。
「偽物だってわかっていても、申し訳なくって涙が出ちゃう……ごめんなさいって言いたいのに言えない。なんで、私こんなに憶病になっちゃったんだろう……」
「それでも、伝わる気持ちはあるはずだよ、アップルブルーム」
 クリサリスが一歩、歩み寄り、アップルブルームを抱きしめる。アップルブルームはもはや何も言わず、クイーンクリサリスに縋り付いた。
 いまだ不安の拭えないアップルブルームが泣き止むのには時間がかかったが、やがて彼女が静かになったところで、クリサリスは変身を解いて優しく語り掛ける。
「次は、家の中にいるお前に姉が尋ねてきたってシチュエーションで、練習をしてみよう。泣いてすっきりした今なら、きっと言えるはずだろう? 『ごめんなさい』ってさ」
「うん、言えるように頑張ってみる」
 クリサリスに背中を押されて、アップルブルームはおずおずと頷いた。
「それじゃあ、朝食を終えたら再開だね」
「うん、クイーンクリサリス!」
 泣いたことで少しだけ吹っ切れたのか、アップルブルームはそういって、ゼコラの家に入りなおした。
 ゼコラはこれから起こることをなんとなくわかっているのか、クリサリスに向かってほほ笑みながら『うまくやるんだよ』と言って、自宅に入っていった。
175 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/10(金) 21:56:50.82 ID:WoKGDazV0
アップルブルームにもはやくCMが付いてほしいものです。また明日会いましょう。モンハンに夢中でなければ……
176 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/11(土) 22:43:08.40 ID:jFcIsfUR0
 そうして、朝食を食べ終えてから、テイクツー。アップルジャックがコンコンと木の扉をノックする。外に待ち構えているのはクリサリス。そう思っているアップルブルームは、変に喜ぶこともせず、冷静に対処している。それではある意味練習にならなそうな気もするがともかく、アップルブルームはアップルジャックに向かって頭を下げる。
「お姉ちゃん……ごめんなさい。お姉ちゃんの事、本当は嫌いじゃない。大好きだけれど、あの時だけは許せなかった……それだけなのに、言っちゃいけないことを言ってしまって、本当にごめんなさい」
 言い終えて頭を上げたアップルブルームを、アップルジャックがそっと抱きしめる。その瞬間、アップルブルームが目を見開いた。
「違う!」
「な、何が?」
 アップルジャックの目が泳いでいる。
「匂いも、抱き方も、感触も……クリサリスとは違う……お姉ちゃん? 本物の?」
 驚いて顔を上げるアップルブルームに、アップルジャックもまた驚いた顔をしていた。
「分かるもんなんだな」
 ばつが悪そうに彼女は言う。正真正銘、返信したクリサリスではなく、アップルジャック本人であった。
「分かるよ、本物はこう……リンゴの良い匂いがするし、それに……私の事を抱きなれてる。クリサリスよりもずっと安心する……匂いは近づくまでわからなかったけれど……やっぱり、全然違うよ。それに、昔(S2E5参照)同じような作戦で、ラリティとスウィーティーベルの仲直りをサポートしたことがあるから」
「ふぅ、随分な言われようだな。匂いはともかく、演技の方はもう少し改良の余地ありか」
 そう言って、クリサリスはテレポートして二人の近くに現れる。
「しかし、良かったじゃないか。簡単に仲直り出来て」
 ゼコラがアップルブルームに微笑みかけると、アップルブルームは首を振る。
「簡単じゃなかった……皆が協力してくれて、やっと仲直り出来たんだ……特に、クリサリスが、協力してくれたからその……ありがとう、クリサリス」
 まだ心の整理の付かないままにお礼を言うアップルブルームに、クリサリスが微笑みかける。
「いいさ、お前らの愛は、この労働に見合うだけの強さがある。だから、お前はこれからも愛を振りまけるように、豊かな心を持っていることだ。恩返しは、普通にしていればいい。お前らしくしていれば私はそれで構わない」
「あぁ、クリサリス。私からも、アップルブルームや私達のために、わざわざありがとう。いつかまた、お礼をするから楽しみに待ってて。でも、今は……その、アップルブルームと二人きりにしてもらっていいかな?」
 アップルジャックの頼みにクリサリスは頷く。
「最初からそのつもりさ」
177 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/11(土) 22:46:58.15 ID:jFcIsfUR0
 後日、改めてクリサリスの家まで大量の林檎(若干腐敗しているが、クリサリス曰く発酵している)を送り届けたアップルジャック姉妹は、
 様子を見に来たゼコラに頼まれ、交換日記を見せてあげることになった。
「『お互いが素直になれば、結構すんなりと許し合うことも出来るものです。しかし、お互いが素直になることってすっごく難しいです。
 でも、だからこそ、同じように悩む人がいれば、今回の私達がそうされたように、助けてゆくべきだとおもいます』か……。いい事を書いているじゃないかい、アップルブルーム」
「いや、当たり前のことだよ、ゼコラ」
 と、ゼコラに対して照れながらアップルブルームは言う。
「その当たり前を、きちんとできるように心がけるっていうのはなかなかできる事じゃないよ。そうだね、今度は言葉ではなく、実行できるといいね。可愛いアップルブルーム」
「うん、ありがとう、ゼコラ」
 にっこりと笑みをこぼしてアップルブルームは礼を言う。
「私も少し書き加えていいかい?」
 褒められて喜ぶアップルブルームにゼコラが頼む。
「もちろんだよね、お姉ちゃん?」
「あぁ、ずっとアップルブルームを励ましてくれたんだもんな。是非、ゼコラに書いてほしいな」
 姉妹は揃ってゼコラの頼みを快諾する。ゼコラは微笑んで見せた。
「よし、それじゃ書こうかね」
 ゼコラが鉛筆を咥え、紙にそれを走らせる。
「『今回の件では、私の変身能力は、人の愛を再確認させるためにも使えることが分かった。
 騙すということは、悪い事ばかりではない。愛を育むためにその能力を有効利用した私は、褒め称えられるべきだな。クイーンクリサリス』、と」
「あの、ゼコラ……?」
 と、アップルブルームが声をかけたその時に、クリサリスは変身を解く。
「はっは、やっぱり肉親ほど慣れ親しんだ相手でなければ正体はばれないか? 今回は私も頑張ったのだ、これくらいは書く権利があるだろう? フハハハハハ!」
 クリサリスは高笑いするなり、声だけを残してテレポートでどこかへと消えていく。リビングに取り残された二人はしばらく唖然としていた。
「お姉ちゃん、どうする……?」
「このままにしておこう。あいつの言う通り、今回はこれくらい書く権利があるよ」
 アップルジャックはクリサリスが書いた記述を蹄でなぞりながら言う。
「愛を食べる生き物、チェンジリングか……なんてことはない、私達アースポニーと同じじゃないか」
「同じ? アレが?」
「自分で食べるものを自分で育てることが、さ。林檎にとって、仲間が増えるのがとても素晴らしい事であり、私達は仲間を増やしてあげる代わりに、その果実を美味しく頂いている。
 そして、私達にとって愛を育んでもらえるのはとってもいい事じゃないか。そのかわり、チェンジリングは魔力を得ている。
 そんな風に歯車さえかみ合えば、全く違う生き物同士だって助け合える。分かり合える、チェンジリングはきっと、どんな生き物よりも愛を大事にする生き物だよ」
「私達が、リンゴを大事にするように?」
「そうさ、アップルブルーム。皆にも、分かってもらいたいものだよ、この気持ち。クリサリスは……最高だって! そう思えるくらいに晴れやかな気分だ」
 アップルジャックは自身の内に沸く、率直な思いを口にする。アップルブルームもまた、そうなのかもしれないと、彼女の評価を改めるのであった。
178 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/11(土) 22:51:18.62 ID:jFcIsfUR0
これにて、『仲直りのためには』は終了です。次回からは『友達限定だからね!』をお送りします。RD回だとおもいます。
Amazonに頼んだらOKだと思ってたら、当日に来なくってKonozamaだよ!
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/12(日) 00:21:23.16 ID:nzWL3n1Ko

しかしこういうの見てるとなんでチェンジリングがあんな凶行に走ったかわからんよな
ヴィランってのはそういうもんかもしれんけど
180 :</b> ◇QWO3xeEtwU<b> [saga]:2014/10/13(月) 22:11:38.46 ID:UGZqt9D40

「クイーンクリサリス様、報告があります」
「なんだ、ロイ?」
 ある日、家でフラッフルパフと一緒に、バスタブの中で泡を立ててのんびりしていると、ロイがバスルームへと訪れる。
「トワイライトスパークルから手紙を渡されたのですが、内容が、その……何とも言い難いものでして」
「ふむ、見せろ」
 クリサリスがロイから奪い取ったその手紙に書かれていたのは、プリンセスケイデンスからトワイライトスパークルへあてた手紙と、それに対するトワイライトスパークルの考察である。
「『このたび、クリスタルエンパイアで問題となっていた怪盗が自首したことにより、クリスタルエンパイアの美術館や骨とう品店では平穏の日々が訪れました。転売されてしまった美術品などの数々は多くが行方が分からず戻ってきませんが、それでも捕らえたことに意味はありました。
 しかし、この犯人というのに少々問題がありまして。彼女は、美術品を売りさばいたお金で、子供のための医療費を稼いでいたのです。今はその治療もほぼ完了したところなので、母親は安心して罪を償う事を選んだそうなのです。しかし、母親が逮捕され、施設に預けられた子供は、毎日母親を求めて泣きじゃくっているのだとか。
 母親と対面させようにも、母親自身が罪を償うことを固く誓っており、法的にも本人の意思を鑑みても、母親の釈放は出来ません。いったいどうすればよいのか、知恵を貸していただけないでしょうか?』……か。
 ケイデンスの奴、困っているのか。むしろこれは……愚痴を言いたかっただけではないのか?」
「女性の相談は受けてはいけないとは良く言いますからね。こういう時は、『そのままで大丈夫よ』と言ってあげればよいのでは?」
 手紙の内容を読み上げたクリサリスにロイが言う。
「続きだ。それに対するトワイライトの考察が、『チェンジリングに母親の代わりをしてもらえばいいんじゃないかと思って、プリンセスケイデンスに提案しようかどうか迷っています。クイーンクリサリスは以前、チェンジリングは虐待を繰り返す親に成り代わり、子供から愛を得ることもしていると言っていたので、もしよければ貴方の兵隊を一人回してほしいと思いまして……』なるほど。さすがトワイライトだ、少々女性としての感覚がずれている気がしないでもないが……まぁいい。ケイデンスの事は、色々と気になっていたところだし、いいだろう。こんどトワイライトに会ったときにでも話してみるさ」
「そうですか……その場合は誰を行かせましょうか?」
「無論、演技が上手い奴だ。仲間内で決めてもらおう」
 言いながら、クリサリスは考える。こうやって愛を手に入れる事はきっと間違っていない。だれも不幸にしなければ、チェンジリングはこれ以上嫌われる事はないし、好かれる方に転じるかも知れない。だからそのためにも、誰かを幸福にする方法を考えるのだ。
 その足掛かりとなればいいのだが。
181 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/13(月) 22:13:31.61 ID:UGZqt9D40
あれ、なんかトリップが変ですね……
モンハンのせいでいろいろ遅れました。開幕お風呂シーンですが今回は短いです。
182 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/15(水) 01:08:37.63 ID:SPtE9s6K0
 レインボーダッシュは最近、疎外感を感じながら過ごしていた。
 いつもの仲良しの五人や、スクータルーなど仲の良かったみんなが、クイーンクリサリスを受け入れているということに。
 彼女、レインボーダッシュはディスコードと仲良くなるようプリンセスセレスティアに頼まれた際も、
 最後までディスコードを信用しておらず疑いの目で見ていたが、クイーンクリサリスに対してもそれは似たようなものだ。
 どんなに良い噂を聞いても。ペットを集めたピクニックに参加して、フラッフルパフとじゃれあっている姿を確認しても、レインボーダッシュは彼女を信用できないのだ。
 ディスコードだって一度裏切ったのだから、クリサリスもきっと裏切るんじゃないか? そう考えると、手放しにクリサリスを信じてやることなんて到底できやしない。
 だというのに、他の皆は、アップルジャックを助けることに協力したあたりから、彼女を大いに信頼し始め、
 商店街でクリサリスのうわさを聞けば、もはや信じることが当然とでも言いたげだ。

 商店街のお店の主人も、お天気ポニーも、シュガーキューブコーナーの夫婦も、ダーピーも、チアリー先生も、みんなクリサリスを信頼している。
 きっと仲良し六人組が、噂を存分に流しているのだろう。ピンキーと一緒にパーティーしたこと、ペットを可愛がっている様子を見た事、
 図書館で熱心に愛について勉強したり、ラブロマンスの作品を好んで借りていること。ラリティのお店では、クリサリスがいれば、
 着用者本人がいない状態でも着心地や色の兼ね合いを確認できるため、特にサプライズプレゼントをデザインするときなどに一緒にいる事が多いという姿も報告されている。
 着せ替え人形のようにいろんな服を着せては、ラリティが楽しんでいるのだという。
183 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/15(水) 01:09:32.80 ID:SPtE9s6K0
 そうやって、クイーンクリサリスがみなと仲良くなるたびに、クイーンクリサリスを嫌っているレインボーダッシュは肩身が狭くなる。
 例えば何か遊びに誘われた時など、『僕はクリサリスが一緒ならいかない!』などと言おうものならば、参加できる遊びはもう一握りになってしまう。
 そうして一人で暇な時間が増えていくと、やれることなんてペットタンクと一緒に遊ぶくらいである。
「はぁ、僕何やっているんだろう……」
 レインボーダッシュは、外でフラッフルパフと遊んでいるクリサリスを見てため息をつく。
 彼女は、商店街で迷子の子供の親を、空に飛びあがって変身し、大声で『こいつの母親はいるか!? 迷子で泣いているぞ!!』と声をかけて迅速に迷子を親に引き渡したと称賛されている。
 この街に来た当初こそ針の筵であったクリサリスも、今は大半が受け入れているので、レインボーダッシュが批判するとポニーヴィルの住民には複雑な顔をされる。
 レインボーダッシュはまだそんなことを言っているのかと難色を示され、誰かを信じないだなんてちょっとかわいそうな子だなと。
 そう言う憐れんだような目で見られるのが、レインボーダッシュにはひたすら面白くなかった。

 レインボーダッシュは怖いのだ。クイーンクリサリスが二回目の侵攻を行ったとき、仲良し六人組はチェンジリングの声真似により仲違いをさせられそうになったのだ。
 その時のことを、彼女は今でも根に持っている。そう言えば、トワイライトが言っていた鏡の中の世界に生きるサンセットシマーとかいう女も、
 そうやって仲違いをさせて団結を阻止したというのを聞いている。ディスコードだってそうだ、六人の絆が、団結が怖いから、まず最初に仲違いを引き起こすのが常套手段だ。
 悪党というのはそう言うものなのだ、騙すものである。『みんな騙されている、今にクリサリスは僕たちに化けて友情を引き裂こうとしているぞ!』
 そう叫べればどれだけいい事か。そんなことをしたら、トワイライトスパークルからこってりとしぼられるだろうから、出来ない。
 仲良くするのは嫌だ。かと言って、仲間外れも嫌だ。そんなジレンマに悩まされるレインボーダッシュは、全く勉強が手につかなくなっていた。
184 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/15(水) 01:14:46.54 ID:SPtE9s6K0
大遅刻しました。グラビモスのせいです。
>>179
ありがとうございます。チェンジリングが悪事を働いていた理由としては、
1:チェンジリングが愛を簡単に手に入れられない理由があって
2:なおかつ、愛を大量に手に入れる必要があった
という解釈で進めています。

そのため、この物語では

1:チェンジリングが嫌われている
2:大量の愛がないと女王を産めない
という前提を用意しました。ここら辺は第2話当たりで語った通りですね。
これならば辻褄も合うかなと思ったのですが、2回目の侵攻ではトワイを乗っ取ろうとしているからワケワカランことに……本当にエクエストリアを掌握したいだけなのかしら
185 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/15(水) 23:41:21.40 ID:SPtE9s6K0
「と、言うわけなんだ」
 以上、長々とした言い訳を要約するとこういうことだ。勉強をなんだと思っているのかこいつは。
「それは貴方が勉強したくないのを誰かのせいにしたいだけでしょ、レインボーダッシュ」
 上記のような言い訳をするレインボーダッシュに、トワイライトスパークルは呆れていた。明日は第一級天候技師の資格試験の日。
 二級は実技試験と簡単な試験だけで突破できるため、レインボーダッシュはトワイライトスパークルがポニーヴィルに来る前に取得していたのだが。
 やはり一級をとったほうが給料がいいし、今まで扱えなかった天候の管理も任せられるため、僕も取得したい! ということになったのだが。
 しかし、レインボーダッシュの自主性に任せたところ、例のごとく彼女の勉強はおろそかになっている。
「でも、悩んでいるのは本当なんだ」
 言い訳にすらなっていないことを口走るレインボーダッシュに、トワイライトもため息をついた。
「そんなことを言い訳にしていたら、勉強だって出来ません! そんな事よりも、自分が今集中するべきことを集中したらどうかしら?」
 こんな調子である。トワイライトは、レインボーダッシュがまさか今回もあらかじめ勉強していないなどとは思いもよらず、すっかり油断していたために今回も図書館で一夜漬けとなりそうだ。
 いや、本は借りていたのだ。図書館から本を借りて家に持って帰るまではいい。
 けれど、彼女は途中で飽きてしまい、ダーリンドゥの本を読み直してしまい、その結果勉強がおろそかになってしまう。
 加えて言えば、途中で飽きる。というのも数ページで終わりだったりすることや、数分で別の事へ逃避してしまう事ばかりで、一割も読んでいない事なんてザラである。
 トワイライトスパークルからすれば、頭が痛い事この上ない案件だ。
186 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/15(水) 23:47:59.86 ID:SPtE9s6K0
「ねぇ、ワンダーボルト入隊試験の時みたいにさ。皆に協力してもらう勉強法をし――」
「ダメ! あんな方法を何回も取れると思っているの? ワンダーボルトは貴方の夢だから、だからみんなあんなに応援してくれたけれどねぇ!
 でも、あんなことを何度も何度もやるように、友達の好意に甘えてばかりじゃいつか友達から見放されるわよ!」
 厳しい口調でトワイライトが諌める。
「うー……どうして世の中にはこんなに勉強しなきゃいけないことが多いんだよぉ……」
 そんな、どうにもならないことを言いながら、レインボーダッシュは意気消沈する。
「物事を知らないままに何かを扱ったら危険だからよ。私だって、何も知らないままに好奇心で魔法を使ったら、たくさん変なことが起こったりしたし」
 自身の経験を思い起こしながらトワイライトが言うと、レインボーダッシュは待ち構えていたように反応する。
「キューティーマークが入れ替わったり、ぬいぐるみを奪い合ったり?」
 ほら、自分だって勉強不足じゃないかとでも言いたげに、レインボーダッシュが言う。
「そう、ね……私もきちんと資格取ったほうがいいかしら?」
 自身の行動を振り返りながらトワイライトスパークルは言った。彼女もいたいところを突かれて、反論が出来ないようだ。
「ほら、トワイライトだって僕と同じじゃないか! やっぱり資格なんて取らなくたっていいよ」
 そういう問題でもないのに、レインボーダッシュはまくし立てる。
「そんなんじゃ将来苦労するわよ! ワンダーボルトに入隊してからだって覚えることはたくさんあるんだから!」
 さすがにこれにはトワイライトも怒りをあらわにする。
「むー……なら、記憶するための方法とか教えてよ!」
「みんなが教えてくれたでしょうが! そんなにあの時の方法がいいのなら、地上に絵でも文字でもいいから自分で書いてその周りを飛び回りなさい!
 とにかく、今日まで怠けた分、明日まで徹夜で勉強するからね! 分かったかしら!?」
「ハーイ……」
 けだるげにレインボーダッシュは頷いた。
187 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/16(木) 00:01:36.56 ID:qbWnlpSp0
モンスター達が可愛くて困りますね。小さかったら飼いたいです。
そんな事はさて置き、レインボーダッシュのテスト回は、こいつ小学生かと思ったものです
188 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/16(木) 23:51:06.40 ID:qbWnlpSp0
 などと言いつつ、レインボーダッシュはすでに机に頬ずりをしている始末。これではトワイライトが語っているうちに居眠りするのも時間の問題だろう。
 こうなったら勉強が好きになる魔法でも探したほうが早いだろうかと、トワイライトスパークルも若干諦め気味である。
 ともかく、トワイライトは第一級資格を持つペガサスにしか扱うことが許されていないスーパーセルやサイクロン、
 砂塵にオーロラなどの天候について説明するが、しかしレインボーダッシュはあまり理解していない様子。
 言葉として、音として、単語単位では聞き取れているのだろうが、頭で理解するには至らない。
「つまり、紫外線というのはオゾン層によって遮られぎれているおかげで私達ポニーが地上で生きられる環境を整えられているという事で……」
 まるでお経を聞いているような感覚だ。それでは勉強が身に入るわけもない。そんなレインボーダッシュが考えるのは、いかにしてこの試験を乗り越えるかである。
 まさか白紙で筆記テストを提出するわけにもいくまい。
「成層圏まで飛行すること自体の難易度はもちろんだけれど、繊細な手つきでオゾン層を整えることがペガサスではだれも出来なかったことから、
 オゾンホール修復の役目は私達アリコーンの魔法によって行われるようになったというわけ」
 だけれど、勉強が出来るポニーに替え玉受験と言ったって、自分はタテガミが個性的過ぎて、染めてもばれやすい。
 今のトワイライトなら変身魔法で替え玉受験くらいは楽勝かもしれないが、そんな不正を許す彼女ではないだろう。
「プリンセスケイデンスもこの仕事をやったことがあるらしくってね。アリコーンになりたてで魔法がそれほど得意じゃなかった頃のお話だけれど、
 ケイデンスの働きで、オゾンホールのせいでサングラスと帽子が手放せなかった地域も……」
「そうだ!!」
 レインボーダッシュは閃く。いきなり授業を中断されるような大声を出されたトワイライトスパークルは、顔をしかめている。
189 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/16(木) 23:52:33.80 ID:qbWnlpSp0
「ちょっとレインボーダッシュ!? いきなり何なのよ?」
 『プリンセスケイデンスがいない頃は、そんなことも一人でやっていたプリンセスセレスティアは偉大ね!』と、続けたかったトワイライトスパークルは不満げに抗議する。
「ちょっと外に行ってくる! いい方法を思いついた!」
 レインボーが思いついた方法とは、まず――
「ふぎゃっ」
 その方法を実行する前に、レインボーダッシュはトワイライトスパークルの魔法で地面に縫い付けられる。
「逃げようったってそうはいかないわよ」
 そう言ってずるずると引きずられ、レインボーは床と足を鎖でつなげられた状態で授業を再開させられる事となる。

「それでね、その天候は晴れの恩恵と雨の恩恵を同時に受けることが出来るけれど、上手く日差しをコントロールできないと意味がないから、
 きちんと雲の量を調整しなきゃいけないわけ。極東の国では狐が結婚式を挙げるときに、この天候を作るんだって、何だかロマンチックよねー。
 で、その雲の量だけれど、植物の光合成の量との兼ね合いを考えて……」
 レインボーダッシュはどうやってこの状態を脱するべきか考えていた。しかし、トワイライトスパークルが創造の闇魔法で構築した鎖と杭は非常に堅固である。
 引っ張ったり蹴り飛ばしたくらいではびくともしないだろう。当の生徒がそんなことに意識を割いているというのに、トワイライトスパークルは得意げに授業をするばかり。
 今の彼女ならば、レインボーダッシュよりもよっぽどお天気ポニーへの適性はあるかもしれない。
 そんな時である。

「こんにちは、トワイライトスパークル」
 大量の本を伴って現れたのは、クイーンクリサリスであった。レインボーダッシュが待ち望んでいた相手である。
「クリサリス! ちょうど君に用があるところだったんだ!」
「断る」
 嬉しそうに声をかけるレインボーダッシュに。クイーンクリサリスは要件を告げる前に頼みを断った。
190 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/16(木) 23:53:53.16 ID:qbWnlpSp0
今日はここまで。
レインボーダッシュの考えていることは大体お見通しされると思う。
191 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/17(金) 19:36:13.84 ID:Kl/Dcrkf0
「な、なんだよ……まだ僕は要件すら言っていないじゃないか!」
 レインボーダッシュに言われて、クリサリスは自分の考えを整理する。
「第一の理由。お前は明日試験があると聞いた。
 第二、そしてお前は勉強していないとフラッターシャイが噂していた。
 第三、トワイライトが黒板に書いている内容は、試験勉強であることが見て分かる。
 第四、その足の拘束具。恐らくはお前が勉強を逃げ出そうとした証だろう。
 第五、その状態で私に頼みがあると言ったということは、大方私にお前のふりをして勉強して、
 代わりに試験に出てくれとかそのようなことを頼もうということだろう……と、推測したのだが、間違っているか?」
「そ、んなわけないだろ? 僕は……」
 あらゆる点でクイーンクリサリスの予想が当たっている為、レインボーダッシュは狼狽える。
「『僕は』、なんだ? 何を頼もうとしたのだ?」
 クリサリスはにやにやといやらしい眼でレインボーに尋ねる。
「と、トワイライトがいるこの場所で言う訳にはいかないな。僕がクリサリスに頼みたいのはプライベートなことだから……」
 そう言ってレインボーダッシュは誤魔化した。クリサリスはそれを聞いてレインボーダッシュに変身する。
「『と、トワイライトがいるこの場所で言う訳にはいかないな』だとさ。あっはっはっは! 腹がよじれる!!」
 と、クリサリスはレインボーがよくやるように、地面に寝転がりながら腹を押さえて嘲笑する。
「レインボーダッシュ。君はもうちょっと自分を磨く努力をするとしたほうがいいんじゃない?」
 ニヤついたレインボーダッシュの顔でクリサリスが言う。
192 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/17(金) 19:36:41.03 ID:Kl/Dcrkf0
「なんなのさ全く! 僕を馬鹿にして! トワイライトスパークルも何とか言ってよ!」
 激昂したレインボーだが、トワイライトはやれやれとばかりに肩をすくめている。
「でも、レインボーダッシュって人を馬鹿にするときはあんな感じだから、自業自得……なのかなぁ」
 ため息をつきつつトワイライトが言う。
「そんなぁ! 僕あんな笑い方しないよ」
 それに対して、レインボーダッシュは抗議をするが……
「いや、してるでしょ」
 トワイライトはクリサリスを肯定してしまう。
「してるぞ」
 レインボーの訴えは、一秒で否定された。
「で、本当のところどうなのだ? 私に何を頼もうとしたのだ? ん?」
 クリサリスは変身を解いてレインボーダッシュに尋ねる。
「あぁそうだよクリサリスの予想通りだよ……」
 ふてくされたレインボーダッシュは、それを認めてしまう。さすがにばつの悪そうな顔をしているが、反省はあまりしていないだろう。
「そうか。ならば私は断らせてもらうよ。ここには本を返しに来たのと、また別の本を借りに来ただけなのでな。
 あぁ、あとトワイライトスパークル……プリンセスケイデンスからの頼みごとの件、承った。
 開拓地から一人チェンジリングを向かわせよう……だが、明らかな過失がなければ失敗しても知らんそ?」
「本当? 助かるわ。大丈夫よ……そこは、私が貴方の兵隊を、責任もって推薦するから」
 二人の会話が何を意味しているのか分からず、レインボーダッシュはきょとんとしている。
「こういうのは賭けだ。成功するかどうかは分からないが……お前がケイデンスとの仲を取り持ってくれるつもりならば、嬉しいことこの上ない」
「私も。プリンセスケイデンスが貴方を赦すきっかけになって欲しいわ」
 そう言ってトワイライトスパークルは儚げに笑む。
193 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/17(金) 19:37:16.85 ID:Kl/Dcrkf0
今日は早めに更新です。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/18(土) 01:19:33.54 ID:NzwmRxhQo
乙です
195 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/18(土) 23:08:27.55 ID:SkECcJEr0
「ねー、二人の話してないでさぁ……クリサリス、どうしてもだめ?」
「ダメだ」
「どうしても?」
「どうしてもダメだ」
 レインボーダッシュが食い下がる。しかし、クリサリスはそれを意に介さずに、本の返却を続けている。
「プリンセスセレスティアから釘を刺されているのでな。『誰かに不利益を与えるような形で自分の魔法を用いてはいけません』と。
 試験の替え玉になるということは、試験管を騙すことになるし、そしてそれ以上に天候をお前に任せている者達全てを、一様に騙すことになる。
 それはものすごく卑しい行為だ。言葉に出来ぬほどにな。そうして騙したことで、お前が手におえないような仕事を任されたり、
 自分が犯した過ちに気付けず、荒れた天候で誰かを危険にさらしたら、私はお前の片棒を担いだ悪党になってしまうではないか?
 プリンセスセレスティアによる月送りは免れぬな。ははは」
 ラブロマンスの本を次々と棚に返しながらクリサリスは言った。

「それを自覚したうえで、お前は私に何かを頼もうというのか? 罪深いな、レインボーダッシュお嬢さんは……今の私には真似できないよ」
 言葉はきついものの、クリサリスから発せられた言葉は全て正論である。そのため、それに言い返す事も出来ずに黙ってしまった。
「友達は、協力する物だろ……?」
 レインボーダッシュは苦し紛れにそんなことを言うが、クリサリスはそれを鼻で笑い飛ばした。
「しかし、スパイクは以前『友達ならば間違ったことはきちんと注意してあげるべきだ』とも書いていてな。いいノートだな、あれは。
 それに、友達か……レインボーダッシュ……お前、それは本心から出た言葉か? 私にはそうは思えないのだがなぁ」
「う……わかったよ……」
 レインボーダッシュの方を見もせずにクイーンクリサリスが言うので、レインボーダッシュはもはや望みなしだと悟って、しゅんとして項垂れる。
「よろしい。それが賢明な判断だ。私も努力の手助けは出来るが、さぼりの手助けは出来ない、諦めてくれ」
 そんなレインボーダッシュに、クイーンクリサリスは口元に笑みを浮かべながら言い捨てた。
「ねぇレインボー。言い方は厳しいけれど、クイーンクリサリスの言う通りよ。友達というのは確かに助け合って支え合うべきだけれど、頼りすぎたり依存したりしてはいけないわ」
「そうだな、フラッターシャイも言っていたぞ? 甘やかしすぎるのはやさしさではないとな」
「もう、分かったよ……」
 最後の望みも絶たれたレインボーダッシュは、いよいよしおらしくなってため息をつく。
196 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/18(土) 23:12:15.93 ID:SkECcJEr0
「まぁ、今回の試験は諦めるにしても、次の試験までにまた怠けて直前になって焦るのは目に見えているからね。今日は逃がさず勉強をするわよ、レインボーダッシュ?」
「もう煮るなり焼くなり好きにしてよ!」
 トワイライトが不穏な言動を呟こうと、もうレインボーダッシュはされるがままに任せていた。
 そんな彼女を見て、本をすべて戻し終えたクリサリスは憐れむような視線を向けている。
「おい、レインボー。お前がどうしてもというのならば、替え玉受験はしないが、それなりの方法を用意してやるぞ?」
「どうせ無駄だよ……僕の頭はとことん悪いんだから」
「ははは、それは雑念が多いからだ。お前は勉強をしようとしても、頭の前に群衆が犇めいていて、脳みその中に中に入れる記憶が極端に少ないのだ。
 ならば、その脳の前で犇めいている群衆をを何らかの方法で眠らせてやればいい。そうすれば、知識はすんなりとお前の頭に入っていくはずだ。
 と、言われてもいまいちよくわからないだろうが、やってみるか?」
 と、言ったクリサリスの視線は、レインボーダッシュではなくトワイライトスパークルの方に流れている。
「不正じゃないのなら私は構わないと思うけれど……」
 クリサリスに視線を流され、トワイライトはそう答える。
「好きにしてよ……」
 と、レインボーは言う。
「ならば好きにさせてもらおうか」
 と、得意げに言い放ったクリサリスは、レインボーダッシュに魔法を放つ。その魔法に驚き、レインボーダッシュは驚きで目を見開くも、回避が間に合わずまともに喰らってしまう。
「れ、レインボーダッシュ……大丈夫?」
 トワイライトスパークルとしては、その魔法が攻撃ではないことは分かっていたが、それでも心配だ。はたして、魔法を喰らったレインボーダッシュはどうなったかと言えば……
「もんだいありません」
 抑揚のない声でレインボーダッシュが言う。
197 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/19(日) 00:19:31.92 ID:TjA5FcTA0
>>194
おつありです。
また明日(すでに今日)も更新しますのでお楽しみに
198 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/19(日) 23:47:31.31 ID:TjA5FcTA0

「よかったー……問題ないのね……って問題大有りでしょ!? 何よその喋り方は!?」
 レインボーダッシュの返答に一瞬だけ安心しかけるトワイライトスパークルだが、しかし数秒でまったく大丈夫ではないことを気付いて思いっきり声を上げる。
「私の魔法を存分に喰らったシャイニングアーマーのような喋り方だな。こいつは単細胞だから簡単に引っかかる」
「そんな……こんな状態で勉強なんて出来るのかしら?」
「出来るさ。なぁ、レインボー? 愛するクイーンクリサリスのために、勉強をしてくれるな? 愛する私のために、な?」
 愛する私のために、という言葉をまじないのように繰り返すと、レインボーダッシュはこくこくと頷いている。
 何か、酷いものを見てしまったような気がする。
「はい、かしこまりました、くいーんくりさりすさま」
「では、トワイライトスパークル、あとは頼んだぞ。明日の朝には魔法が解けると思うが、もしダメだったときは何とかしてくれ。
 そいつに『は私のために』というのを強調すれば言う事を聞くから、勉強は楽に教えられるはずだ」
 そう言って、クリサリスは家族愛をテーマにした作品が並ぶ棚に手をかける。
 すっかり彼女も本の虫なので、トワイライトは読書仲間増えてが嬉しいのだが、今はそんなことを言っている場合ではないようだ
「え、あ、うん……あの、レインボーダッシュ。クイーンクリサリスのために、一緒に勉強しましょう」
「はい、べんきょうしましょう、とわいらいとすぱーくる」
 焦点が定まっているのかどうかすらわからない目をしてレインボーダッシュは言う。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「これを仲良くなるきっかけにしたいのだ。私が大丈夫じゃない魔法をかけるわけないだろう?」
 トワイライトの問いに、クリサリスは照れながらもそう答える。
199 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/19(日) 23:49:12.86 ID:TjA5FcTA0
「なるほどね……」
 そんな彼女の仕草に好感を覚えてトワイライトは微笑み、レインボーダッシュへと振り返る。クリサリスは今度借りていく本の選別を続行するようだ。
「じゃ、じゃあまずはスーパーセルの予防法から……」
 戸惑いながらもトワイライトが授業を進めていくと、意外や意外、レインボーダッシュは確かに授業の内容をきちんと学び、話についてくるではないか。
 レインボーダッシュは雑念が多すぎて集中できないとクリサリスが言っていたが、どうやらそれは本当らしいというのがよくわかる。
 しかも、レインボーダッシュは記憶力も悪くない。勉強に対する姿勢が悪く、興味がないことに関しては全く何も出来ないだけで、本当は頭が悪くないのだと実感させられる。
 それだけに、彼女の頭脳は惜しいとトワイライトは思わずにはいられない。本来のレインボーダッシュは、恐らくケイデンスに負けないだけの頭脳の素質はあるだろう。
 まぁ、考えても仕方のない事ねと、トワイライトスパークルは授業を進める。
 一夜漬けの時間が余ったほどなので、スタースワールやプリンセスセレスティアの偉大なる足跡についてもご教授したりなどして、一夜漬けの勉強会は終わりを告げるのであった。
 翌日、クリサリスの言う通りレインボーダッシュは本当にいきなり正気に戻った。
 今まで何をしていたのかあまり記憶になかったようだが、トワイライトスパークルが今の状況を説明すると、だんだんと自分が何をされていたのかを思い出したようである。
 かつて見た、クイーンクリサリスの魔法にかけられて生気のないスクータルーを思い出し、レインボーダッシュは自分の姿を想像するだけでも鳥肌が立つ気分である。
 しかし、今日のテストへの対策が円満に行われたのは、そんな元気のない、生気が抜けた姿にされたからに他ならない。
 そう考えると、気持ち悪いなどというのは失礼ではないか?
 レインボーダッシュの中に葛藤が生まれた。その日、試験を手ごたえありな状態で終えてからも、クリサリスに対してどのように接していけばいいのか、彼女の悩みは尽きなかった。
200 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/19(日) 23:53:07.72 ID:TjA5FcTA0
今日はこんなところで終わりです。モンハンG級まで上がりました
201 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/20(月) 23:51:24.73 ID:hQGfVsGJ0
 合否の通知を待つ間、あれだけの手ごたえがあったなら、今頃は合格通知を待ち遠しく思っていることだろう。しかし、レインボーダッシュはそんな気分にはなれない。
 自分は、友達だなんて思っていない相手、クイーンクリサリスに体の良いことを言って縋り、そして友達だなんて思っていないことを看破された。
 そんな負い目がある自分に、クリサリスの奴は親切にしてくれた。その意味をレインボーダッシュは考える。きっと、愛が欲しいのだろう。
 友達になることで得られる親愛の情が欲しいのだろう。それは魔力のためなのだろう。しかし、魔力のために頑張ることがそんなに悪い事なのだろうか?
 自分を鑑みても、友達になるという事には、少なからず下心もあるだろう。
 アップルジャックと友達になれば、アップルサイダーを優先的に回してもらえるとか、そんなことを考えた時期もあった(結局そんなことはなかったが)。
 だけれど、最近のクリサリスを見ていると、魔力だとか愛だとかだけではなく、それらを抜きにした関係で繋がっているように見えてならないのだ。
 ペットの事、本の事、パーティーの事、おしゃれ着の事。アップルジャックのリンゴの収穫を手伝ったりしているとも聞いている。
「僕にはわからないや……」
 考えようとしても、考えれば考えるほど頭の中がこんがらがって、どうすればいいのやらわからなくなる。
 考えても何も好転しないので、レインボーダッシュは諦めて不貞寝する。外に出る気が起きないので、現実逃避のような睡眠であった。
「レインボーダッシュ」
 起きた時に聞えた声はトワイライトスパークルのものであった。
「あぁ、トワイライト……どうしたの?」
 眠い目をこすりながらレインボーダッシュが尋ねる。
「どうしたのじゃないわよ……今日はピクニックに誘ったじゃない、忘れたのかしら?」
 つまるところ約束をすっぽかされたことになるトワイライトはいかにも不機嫌そうな顔をしている。
「あぁ、そう言えばそんなのもあったね……ごめん、今そういう気分じゃないんだ」
 ふさぎ込みながらレインボーダッシュは言う。
202 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/20(月) 23:52:04.07 ID:hQGfVsGJ0
「どうしたのよ? 今日はクリサリスは参加しないわよ?」
「そうじゃ、無くって……僕、分からないんだ。クリサリスと、どうやって接していけばいいのか……」
「どうやってって……普通にしていればいいじゃない? 確かに、過去にいろいろあったけれど、だからと言って、今の彼女が悪いわけじゃない。
 死んだ人もいない、大切なものも壊されていない。取り返しのない事はしていないわけだし、そろそろ許してあげましょうよ……レインボーダッシュ」
「許す許さないの問題なのかな? だって、怖いじゃん。またディスコードみたいに裏切られたらと思うと、僕は気が気じゃないよ。
 今だって、プリンセスセレスティアを超える魔力を手に入れたら、いつ裏切るかもわからないじゃないか」
「彼女はもう大丈夫よ……あんなに自然と笑えているじゃない」
 レインボーダッシュに諭すようにトワイライトは言う。
「そんなの、演技かも知れないじゃないか?」
「そうかもしれない。けれど、信じて上げないとずっとそのままじゃない。クリサリスがあんな態度をとったのも、貴方に真摯な態度で向き合うためよ?」
 トワイライトがそう訴えると、レインボーダッシュはハトが豆鉄砲を喰らったような顔をする。
「あの態度が? ただ嫌味っぽいだけじゃないか!?」
「照れ隠しよ……クリサリスは。貴方と仲良くなりたいから貴方の事を手助けしたし、友達に道を踏み外してほしくないから、貴方に厳しい言葉を放った。けれどそれは、貴方が嫌いだからじゃなく、貴方と一緒に笑っていたいからよ……今回だって、本当はクリサリスもピクニックに行きたがっていたし、私達も誘いたかった。でも、貴方が反対するからって、クリサリスが身を引いたの。
 確かに、信用できないと思うところがあるのは分かるけれど。でも、友達なら、友達が何か道を踏み外しそうになったら止めてあげるのが友達でしょう? クリサリスがもし何か、間違ったことをした時は私達で軌道修正すればいいの。だからレインボーダッシュも、少しは彼女を受け入れてあげましょう?」
「僕は……」
「私も、心までは強制できない。レインボーダッシュがクリサリスを受け入れられない気持ちをどうこうすることはできない。だから、お願いしたいの……レインボー、今のクリサリスを見てあげて」
 トワイライトに言われてから、レインボーダッシュは少しだけ考える。
203 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/21(火) 23:55:16.32 ID:rHa9fTJB0
「ごめん、トワイライト。僕やっぱりピクニックには行けないから、クリサリスを誘ってあげて」
「さ、誘ってって……」
 いきなりのレインボーダッシュのキャンセルに、トワイライトは戸惑いながら問い返す。
「僕は急用を思い出したから、ちょっと行ってくる!」
 そう言うなり、レインボーダッシュは大空へと飛び出していく。急いで追いかけようとするトワイライトだが、彼女に追いつけるポニーなんて、ピンキーパイやその姉妹くらいである。トワイライトは追いかけることを諦め、彼女の好きにさせてあげることにした。恐らく、いつものレインボーならば、このまま逃げたりはしない。友達に対して真摯であるはずだから。
「貴方ならきっと、悪い結果を伴ってはこないわよね」
 信じて、トワイライトはクリサリスをピクニックに誘うことにした。

「まさかキャンセルが出るとはな……こんなものしか用意出来なかったが、それでよかったのか?」
 結局、ピクニックにはクイーンクリサリスが参加することになり、何も準備していないことを心苦しく思いながらも、彼女は家にあったクラッカーとチーズを持ち寄って来た、
「いいのよ……私もあなたのための食事を用意出来なかったから。一応即興でお口に合うかどうかは分からないけれど、リンゴを魔法で少し発酵させておいたから、味は悪くないと思うわ」
「そんな魔法どこで覚えたのだ?」
 まさに、クリサリスのためにおぼえたとしか思えないような魔法を口に出され、クリサリスは驚いて問いかける。
「んー……クリスタルエンパイアに保管されていた闇魔法の書物で覚えたのよ。ヨーグルトを作るのに役立ちそうだから。闇魔法だけに、本来は疫病を流行らせたりする使われ方もあったみたいだけれど、こんな使い方も出来るのね」
「相変わらずだなお前は……」
 魔法をいとも簡単に覚えてしまうトワイライトスパークルの才能に、クリサリスは叶わないなと苦笑する。
「おーい、クリサリス。うちの林檎はどうだい? 発酵しているリンゴの味はよくわからないけれど、うちの林檎は最高だろう?」
「あぁ、アップルジャック。最高だよ。そのままはあまり好きじゃないが、少し発酵させると美味しく頂ける」
「そうかい! なら、次は家で作ったブルーチーズだよ。好きだろ? ちょうど用意しておいてよかったよ」
 ピンキーパイは、こんなこともあろうかとクリサリス用のメニューを用意していたようだ。
「こんなこともあろうかとクリサリス用の食べ物をポニーヴィル中に隠しておいてよかったよ」
 といって、ピンキーパイは無邪気に笑う。
「アップルジャックもピンキーパイも、いろいろ用意してくれてたんだな。私は、急だったもので、あまり良い物は用意できなかったのだが」
 そう言って、クリサリスは大量のクラッカーを皿に並べる。
「大丈夫よ、みんなで楽しもうっていう気持ちが大事なのよ」
 そのクラッカーを魔法で摘み取り、齧りながらラリティは言う。彼女はピクニックだというのに、なんだかファッションショーにでも参加するかのように豪華な衣服を着ている。
「あの……よければトマトサンドも食べてください……」
 バターと、トマト、チーズで構成されたサンドウィッチを差し出してフラッターシャイが微笑む。
「ありがたく貰うとするよ」
 こんな様子で、ピクニックの食事はつつがなく進んでいるのだが。皆、レインボーダッシュがキャンセルをしてしまったことを気にしていた。クリサリスは、あいつは何を意地張っているのかと憤り、トワイライトは到着が遅い彼女のことを心配している。
204 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/21(火) 23:59:00.78 ID:rHa9fTJB0
 やがて、クリサリスを迎えてから十数分。空に虹の軌跡を残して彼女は現われる。
「みんなー!」
 大声を張り上げたレインボーダッシュは、パンパンに詰まったウエストポーチを携えている。
「あら、レインボーダッシュ。キャンセルしたって聞いたけれど……」
 ラリティが問う。
「ごめん、それは嘘!」
 ラリティの問いにレインボーダッシュは悪びれる事もなく即答する。
「嘘って……どういうこと?」
 アップルジャックは状況が呑み込めずにレインボーダッシュへ尋ねた。
「嘘は嘘だよ……嘘でもつかないと、クリサリスが参加しないと思ったから」
「おや、別に私はお前が参加しても、誘われたら参加して構わんのだぞ? 愛情のためなら、限度はあるがなんでもするさ」
 アップルジャックに返答するレインボーダッシュに、まるでこうなることが分かっていたようにクリサリスが笑う。
「分かってる……それでも、だよ。あの、クリサリス……今まで、辛く当たってごめん」
 今回はおふざけではなくまじめなのか、レインボーはきちんと頭を下げてクリサリスに謝罪した。
「気にしてはいない。当然のことだ……個性がなければ弱点は補い合えない。その疑い深さが役に立つ時もきっとあるさ」
 クリサリスにそう励まされるもレインボーダッシュはいまだ納得できていないようだ。
「でも、君は……僕と友達になりたがっていた。その気持ちを無視していた……」
「それがどうした? 例え喧嘩しても、仲直りするのが友達だろう? 小さいことを気にしている暇があったら、もっと言うべき言葉があるのではないか?」
「うん……ありがとう。僕の事、許してくれて」
「どうも。友達になるなら、そんなものは当り前さ。ところで、嘘をついてまで参加させようとしたからには、何かあるのだろう?」
 クリサリスに促され、レインボーダッシュは決心したようにうなずく。
「うん、それじゃあ……僕良い物をとってきたんだ! 行くよ!」
 レインボーダッシュはウエストポーチに蹄を突っ込み、空高く舞い上がると、その中身を空に思いっきり振りまいた。
「虹だ!」
 ピンキーパイが飛び跳ねる。
「ドレスが汚れちゃう!」
 と、ラリティは日傘を自身の上にかざす。フラッターシャイは虹で料理に辛い味が付かないようにラリティの日傘の下に避難させている。トワイライトとクリサリスはその虹がきらきらと霧状に拡散して落ちていくのを見つめる。それが顔にかかると、絡みを伴う匂いに花がむずむずして、クリサリスとトワイライトは二人そろって盛大にくしゃみをする。
 その様子を見た皆は、大いに笑い合っていた。
「綺麗じゃないか……中々粋な歓迎をするものだな」
 上機嫌になってクリサリスがレインボーダッシュを褒めると、彼女は誇らしげに胸を張る。
「まだまだ!」
 レインボーはそう言って、さらに急上昇からの急降下でソニックレインブームを披露する。クリサリスは、ほうと感嘆の声を上げる。
「どう、本来なら百万ビットの価値があるソニックレインブームを、お友達価格で無料で見せてあげたよ。お友達限定だからね!」
 自慢げにそう語るレインボーダッシュを見て、クリサリスはクスクスと笑う。
「あぁ、ありがとう。友達限定なんだな」
 友達と認められていることを確かめるようにクリサリスが口にする。
「ありがたいことだ」
 きっとレインボーダッシュはクリサリスに向かって、面と向かって友達と口にすることが照れくさくて非常に難しいのだろう。友達限定と強調することで、暗にその中に含まれているクイーンクリサリスを仲間と認めているようだ。クリサリスはその意図を読み取ってあげて、にやりと笑った。
205 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/21(火) 23:59:49.32 ID:rHa9fTJB0
最近、執筆する自分とモンハンやる自分とで影分身したいです。また明日合いましょう
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/22(水) 08:59:00.60 ID:vbr+FVJko

モンハンもいいけどぷっちぐみのMLPコミックも発売されてるでよ
207 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/22(水) 21:26:20.62 ID:BpBTTdxA0
「料理も持ってきたんだ。チーズケーキ……一緒に食べよう!」
 と、レインボーダッシュはもう一方の太ももに付けていたポーチからケーキを七つ取り出す。
「やったぁ! チーズケーキ! 私大好物だよ!」
「こら、ピンキー。がっついちゃだめよ」
「分かってるよ。初めてこの七人で食べるんだもの、みんなで一緒に食べようよ!」
 興奮するピンキーをトワイライトが宥めると、そんなの分かってますよとばかりにピンキーパイが言う。そんな時、空気を読まずにやってくるのは……
「おーい、みんなー! 大ニュースだよ、トワイライトスパークル!」
 スパイクである。みんなは配られたチーズケーキを手に、どうするべきかと固まった。
「あ、あぁスパイク……どうしたの?」
 トワイライトはケーキとスパイクに視線を行き来させながら尋ねる。
「皆が手に持っているのはケーキ?」
「そうよ、私のを半分食べるかしら? 食べ切れないと思うから」
 そんな時、誰よりも早く、自然に半分に割ったものを出したのはフラッターシャイであった。ケーキを譲らないですんだ他の面々はほっと胸をなでおろす。
「ありがとう、フラッターシャイ」
 スパイクはそれを笑顔で受け取った。
「ところで、御用はなあに?」
「うん、それなんだけれどね。プリンセスケイデンスと、シャイニングアーマーからの手紙が、届いたんだ」
「え、本当? 見せて見せて」
 スパイクの報告にトワイライトが驚いて、スパイクが持っていた手紙をひったくる。
「『トワイライトスパークルへ。元気にしていますか? こちらは、毎日公務が終わっても体が休まることなく大変です。
  今回手紙を出した要件だが、母親が逮捕されてしまった子供の処遇に関して、君が出してくれた提案の事だ。
  ケイデンスは反対したし、僕としてもあまり良い感情はないクリサリスだけれど、クリサリスを信じる君の事も信じてあげたい。
  それにチェンジリングの可能性というものも確かめてみたいのがあるというのが僕の本音だ。」
  なので、僕や、僕の直属の部下たちの監視のもと、チェンジリングの里親という案を許可したいと思う。クリサリスにはそう伝えておいてほしい』
 だ、そうよ……クリサリス、お兄ちゃんは貴方のことを許してくれるかもしれないわ」
「……そうか。ありがたいことだな」
 クリサリスは安心したのか、はにかんだような笑みを浮かべて言う。
「それと、もう一つ追伸があるわ。
 『それと、プリンセスセレスティアから一つ頼まれごとをしていてね。なんでも、トワイリーもプリンセスになったわけだし、ロイヤルガードの一人をつけてみてはどうかって。僕はそのロイヤルガード候補に訓練をつけていて、基礎訓練や言葉遣いなどの研修も終了したから、君の所でビシバシこき使って成長させてやってほしいんだ。ユニコーンだから、魔法も教えてやって、強く育ててあげて欲しい』って……なにこれ? 魔法を教えるのはいいけれど……そう言うのはお兄ちゃんの方が得意なんじゃ……あれ? まって、これ……」
 読み上げた後の記述に目を通してみると、トワイライトは重要なことに気付く。
208 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/22(水) 23:14:31.09 ID:BpBTTdxA0

「ねぇ、クリサリス。そのポニーの名前がね……ブルーラブラドライトだって! この名前、聞き覚えがあるわよね!?」
「その情報、本当か?」
「本当よ、ほら」
 トワイライトがその記述が記されている部分を蹄で指し示すと、それまで驚きで固まっていたクリサリスが、我に返って手紙を魔法で奪い取る。
「あいつが……来るのか!」
 嬉しそうな声を上げて、クリサリスに満面の笑みが灯った。
「あいつが……」
 その時、クリサリスの内側で不意に魔力が湧き上がるのを感じる。敏感なトワイライトスパークルもまた、その魔力の胎動に気付いていた。
「やったわね、クリサリス」
「あぁ、気分がいい。出来る事なら、この気分のままみんなで乾杯したいところだ」
 トワイライトに賛辞を贈られ、上機嫌でクリサリスがピンキーパイを見る。
「それじゃあ、皆! チーズケーキを食べようよ。みんなで一緒に……さん、はい!」

 いただきます!

 ピンキーパイの掛け声とともに、全員がチーズケーキを口に含んだ。最高の気分とともにピクニックは暗くなり始めるまで続くのであった。

209 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/22(水) 23:33:28.34 ID:BpBTTdxA0
そんなわけで、『友達限定だからね!』は終わりです。次回からは愛されていたのだな」をお送りします。 
>>206
おつありです! そう言えばコミック忘れてましたね……通販しないと
210 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/23(木) 22:43:39.27 ID:DgdUokPW0
「トワイライト……少し、頼みごとがある」
 フラッフルパフに頭をかじられながらという異様な光景を見せつけながら、クイーンクリサリスは図書館へとあらわれた。
「あら、どうしたのクリサリス? なんというか、おしゃれな帽子ね……帽子なのかしらそれ?」
「これのどこが帽子に見えるんだ? かぶっているのではなく齧られているのだが」
「いやね、分かっているわよ。それで、なんの用かしら?」
 クリサリスは本を読んでいたトワイライトスパークルの前に座り、彼女の目を見る。
「お前、感情の流れなどを観測することはできるか? 何かの機械を使って、この人は怒っているだとか、悲しんでいるとか、そういうことが分かるか?」
「出来ないことはないけれど、何をするの?」
 あぁ、とクリサリスは一泊置いてから話を始める。
「以前、帰らずの森にすんでいるポニー……ゼコラと話す機会があったのだが、興味深い仮説を聞かされたのだ」
「どんな仮説かしら? 研究ならば大好きよ!」
 仮説と聞いて、トワイライトスパークルが目の色を変える。本当に勉強大好きなのだなと、クリサリスが苦笑する。
「私達チェンジリングは愛を知らない生物。以前まで私はそう思っていた。そして、それは我らチェンジリングがお互いがお互いに愛を感じることが出来ない事から、疑うこともなかった。
 しかし、以前フラッターシャイにこれと同じ内容を話した際、私はこう言われた。
 『誰かと一緒にいるといい気分になること、それは愛なんじゃないか』って。私はそれを否定したが、
 その後……アップルブルームの件でゼコラの家を訪ねた時に、私はこう言われた。
 『貴方達チェンジリングは、自分が誰かを愛した時に、その愛を自分で消費するんじゃないのかい?』とな。
 つまり、自分の愛は自分の中で消費するから、他のチェンジリングには感知できないのではないか、という仮説だ」
211 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/23(木) 22:44:36.03 ID:DgdUokPW0
 クリサリスが言い終えると、トワイライトは考える。
「なるほど……興味深いわね。確かに、私達も貴方達チェンジリングがその子……フラッフルパフと戯れている時とか、愛情がないようには見えなかった」
 トワイライトは、クリサリスの言葉に自分の言葉を付け加えることで納得して頷く。
「ゼコラにその説を建てられた時は、愛とは違うよく似た、何かの感情であって、私達の糧とならない感情ということもあるんじゃないかと考えた。
 コウモリが鳥ではないように、クジラが魚ではないように。愛情によく似た感情はあるが、それが私たち自身の力にならないという考えかもしれないと思った……
 けれど、昨日の手紙からあの一報を聞かされた時。ブルーラブラドライトが来ると聞いたとき、私は私の体の中で、確かに力が湧き上がるのを感じた。
 そして、その感覚は以前にもあった。ブルーラブラドライトや、フラッフルパフに関わることが多かったが、ロイやパトリックなど私の兵隊。
 アップルブルームなどの幼い子供。そして、何よりお前達友達と一緒にいるとき。
 少しずつ、薪が燃え上がるように、私の体が熱くなるのを感じるのだ。魔力が、体に満ちるのを感じるんだ」
「確かに、私もそれを感じている。貴方の魔力が、ふとした瞬間に強力になるのを……じゃあ、まさか、貴方達にも愛は……ある?」
「そのまさかなのかどうかを、調べたいんだ」
「なるほど……でも、どうやるの? チェンジリングたちでも感知できない感情を、どうやって計測すればいいのやら……」
 トワイライトが悩み、首をひねる。

「その計測機器は、喉を通らないほどに大きいのか?」
「いや、それは……うん、通るわ。胃カメラみたいにやるのね?」
 トワイライトの質問に、クリサリスはあぁと頷く。
「でも、それを知ってどうするの? 私はそういう研究とか、何の役に立つんだろうっていう感じの事でも知的好奇心が満たされるから嬉しいけれど……でも、言っちゃ悪いけれど、貴方はそういうことを楽しむような人には見えないのよね? それを知って、貴方はどうしたいの?」
 トワイライトに尋ねられたクリサリスは、俯いて口をもごもごとさせる。
「恥ずかしい話、私は知りたいのだ。親に、愛されていたのかどうか……私は、知りたい。母親に抱きかかえられていた時の私が……あの時、私が愛されていたのだと信じたいので。それを知ったところで、今更どうにかなるわけでもないが……私達チェンジリングが、誰かを愛することが出来るということが分かれば、チェンジリングは何か一つ、先へ進めると思うのだ。
 どうやって前に進むのか、そもそも前に進めるかどうかも分からないが。知っておいて損はないと、そう思えるのだ」
「そうかもしれない。愛を感じることが出来ないとか、愛を知らないって言われると、チェンジリングはすごく冷たいみたいなイメージが湧いちゃうけれど……でも、もしもそれが誤りで、本当は誰かを愛することが出来るのなら……それは、チェンジリングのイメージを一新できるきっかけになるかもしれないわ。
 それって、素晴らしい事よね!?」
 トワイライトスパークルは、蹄を叩き合わせて喜びをあらわにする。クリサリスはそうやって自分の事のように喜んでくれるトワイライトに、嬉しい気持ちにならないでもなかったが、今は喜びをあらわにする段階でもないし、そういう気分でもなかった。
212 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/23(木) 22:57:10.66 ID:DgdUokPW0
今日の更新はこれにて終了です。ちなみに、前回のシャイニングアーマーの手紙にある『毎日公務が終わっても体が休まることなく大変です』というのは、お察しください
213 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/24(金) 22:29:42.09 ID:hf2Uq0Jh0
「それにな、私は……ブルーラブラドライトに言ってしまったんだ。『お前のことなど、愛していない』って。それを、謝りたい。謝るために、お前の力を借りたいんだ……トワイライト」
「なるほど、そういうことなら……わかったわ! しっかり協力する! のは、いいんだけれど……頭にそれ、フラッフルパフがついていたら、脳波を測る装置が着けられないから、外してもらっていいかな……」
「あぁ、こいつ中々離れないからな……」
 クリサリスは自分の頭を延々と齧っているフラッフルパフの事を今更意識して言う。
「まぁ足元でじゃれさせておけばいいだろう」
 クリサリスは魔法でフラッフルパフを引きはがすと、それを自分の足元に寄せる。
 フラッフルパフは毛玉の中からリボンを取りだし、それを脚に結んでくるので、クリサリスはフラッフルパフの体を抱き寄せながら微笑んだ。
 その光景を見て、やっぱりクリサリスに愛がないだなんて信じられないトワイライトは、ゼコラの仮説を立証するべく実験装置の準備を進めた

 そうして、クイーンクリサリスは頭に脳波を検出する装置をかぶらされ、口の中には感情を感知して測定する機器を突っ込まれた。ただでさえそれが不快な上に、フラッフルパフがそれを掴んで弄るものだから性質が悪い。だが、この無邪気な仕草が愛らしい。
 彼女にとっては、口に突っ込まれた機器が苦しくないのだろうかと心配で引き抜こうとしているので、悪気はないのだが、いかんせんその誠意はクリサリスには伝わっていないようだ。
「大丈夫だ、フラッフルパフ。これはそんなに苦しくないから」

214 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/24(金) 22:43:28.36 ID:hf2Uq0Jh0
 フラッフルパフの頭を撫でながら笑顔で言ってやると、クリサリスは自分の中に、力が湧き上がるのを感じる。笑顔で頭をぐりぐりと押し付けているピンク色の毛玉に対して、愛情と呼べるような感情を抱いているのだろう。
「クリサリス……観測結果は良好よ」
 ものすごい勢いで紙を吐き出している、観測結果の出力装置を見て、トワイライトが静かに喜びをあらわにする。
「要するに、貴方ににも愛はあるのよ!」
 抑えきれなかった。トワイライトは、はち切れんばかりの喜びを、叫ぶようにクリサリスへ伝える。
「本当か? トワイライト!」
「間違いないわ。貴方達が、愛と呼んでいる感情の波が、確かに刻まれているもの。貴方は、貴方自身の愛を力に出来るの……そして、これはまだわからないけれど、他人のどんな愛よりも、貴方自身の愛が魔力への変換効率がいいの。少ない愛でも、強い力になるの……ともかく貴方は、愛を知ってるのよ。良かったわね、クリサリス」
 トワイライトスパークルはフラッフルパフを避けてクリサリスを抱きしめる。
「あぁ」
 と言って、クリサリスは口から食道を通って腹の中に突っ込んだ計測用の機器を魔法で引き抜き、トワイライトスパークルを抱き返す。
「お前のおかげだ……感謝するよ、トワイライトスパークル」
「どういたしまして。でも、私達は友達なんだから、当然の事をしたまでよ」
 その当然を知らなかったクリサリスには、友達というものがどれほど素晴らしいものか、今回の経験で思い知ることになる。クリサリスは幸せだった。今まで生きてきた中で、セレスティアを倒しエクエストリアの支配を確信できた時以上に。

215 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/24(金) 23:00:43.52 ID:hf2Uq0Jh0
今日は短いですがこんなところで。明日はナイトメアナイトのイベントの関係で来れないかもです
216 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/27(月) 23:11:02.59 ID:RUJCjBRl0
 そうして、月日は進み、ブルーラブラドライトの引っ越し当日。
 彼は、クリサリスがポニーヴィルへと向かうために別れる際に、どうにかクイーンクリサリスと一緒にいられないかとプリンセスセレスティアに頼み込んだ。
 その際、クリサリスをポニーヴィルに送ることはプリンセスセレスティアの中で確定していたため、
 プリンセストワイライトのロイヤルガードという立場でならばクリサリスと同じ町に居てもよいという事であった。もちろん、それには多大な苦難が伴う。

 今まで土いじりばかりやっていたため、体力だけはあったブルーラブラドライトだが、魔法の方はあまり得意ではなかった。
 しかし、炎の魔法という特別な才能を持っていたため、ロイヤルガードとして料理のし甲斐はあるとシャイニングアーマーも意気込み、彼は短い期間の間にみっちりと魔法の基礎を仕込まれた。
 お蔭で、炎の勢いや温度、継続時間など、すべてが鍛錬を始める前とは段違いに高水準へと達したそうだ。
 総合的に見れば他のロイヤルガードと比べて劣るものの、炎を扱う魔法に書けてであればプリンセストワイライト以上と、シャイニングアーマーからの太鼓判も押されている。
 炎の魔法も奥が深く、以前このポニーヴィルを訪れたトリクシー・ルラムーンなどのように花火として娯楽に昇華させた炎の魔法もあれば、
 対象を焼き尽くすまで消えないという魔性の炎、誰かを包み込むように燃えて体を温める低温で優しい炎、光で目をくらますための炎など、炎魔法だけでも千差万別だ。
 それらの多くをマスターした彼ならば、何がしかの力になるはずだ。
 シャイニングアーマーはバリアを張る魔法を徹底的に仕込んだため、それ以外の魔法はトワイライトスパークルの方が教官として適任だろうという名目で、こうして派遣される運びになったわけである。
 しかし、本当の目的はブルーラブラドライトとクイーンクリサリスを会わせる事である。トワイライトも、そのことは分かっている。
 未熟者だから教育してくれと言う名目で派遣されるまでに至るまででも、ついこの間まで一般人であったブルーラブラドライトがどれほど努力したかは言うまでもない。
 その彼の努力に報いるための、セレスティア様の配慮なのだから。
217 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/27(月) 23:52:45.33 ID:RUJCjBRl0
 すでに新築の図書館にはピンキーパイが準備したパーティーの用意が完了してあり、あとは主役の登場を待つばかりの一行はクリスタルエンパイアからの汽車の到着を待ちわびている。
 プリンセスライジング・サンが住むというジャポニーのような時間通りに来るような汽車ではないので、まだかまだかとはやる気持ちはひとしおだ。
 待っている間ピンキーはブルーラブラドライトを迎えるにあたって、クリサリスの笑顔の練習を施している。まずは笑顔が固くならないように顔の筋肉をほぐす事から。
 その次は、笑う練習。何も面白くなくてもいいから、とにかく『わっはっは』と声に出して笑う事。笑顔の価値を分かった今は、クリサリスもピンキーパイの指導に素直に従っている。
 最初この街に訪れた時とは比べ物にならないほど素直になったクリサリスを見て、いつもの仲良し六人組は、プリンセスセレスティアの判断は正しかったのだと確信していた。
 レインボーダッシュも素直に認めたくなないが、悔しい事に内心で認めてしまっている。
 今度こそディスコードのように裏切ってくれるなよと、そう祈らざるを得ないほどに微笑ましい光景だ。

 すぐ近くでは、汽車を待ちながら男女が世間話をしている。
「なぁ、知ってるか? 最近、メーンハッタンやフィリーデルフィアで大人の神隠しが起こっているんだとさ」
「ちょっと、今から行こうとしているところなのにそんなこと言わないでよ」
「今から行こうとしているから言うんじゃないか」
 クリサリスはその会話を聞き流しながら先に様子を見に行くと言って飛び去って行ったレインボーダッシュを待つ。
 小さく足踏みをしながら待っていると、ようやくレインボーダッシュの姿が見えた。
「おーい! 汽車が来たぞー!」
 と、先行して様子を見に行っていたレインボーダッシュの甲高い声(ドップラー効果だろう)が響く。結局、汽車は十分ほど遅れてポニーヴィルへとたどり着いた。
 クリスタルエンパイアへの距離を考えれば、この程度は許容範囲であろう。待ちわびていたクリサリスは、レインボダッシュの声にすぐさま表情を変える。
 それはピンキーパイの調教の賜物なのか、輝くような笑顔であった。
218 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/28(火) 00:01:27.34 ID:GCB6FAX70
ナイトメアナイトでは死ぬかと思いました。体調不良になる人もいたので、体力がない人は要注意ですね。
今日の更新はこれで終わりです
219 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/28(火) 22:52:50.29 ID:GCB6FAX70
 次々と下りてくる乗客の中、ブルーラブラドライトはなかなか出てこなかった。
 理由は分かっている、本来フレイムポニーの炎は低温で、あんな見た目だが触っても火傷はしない。
 しかし、興奮すると体温が上がって身の回りのものが危険にさらされてしまうため、興奮することが分かりきっている現在のような状態では、うかつに人ごみに紛れる事は出来ないのだ。
 だから、ひときわ目立つ燃えるタテガミのポニーが汽車の中から顔を出したのは、最後の最後である。
「ブルーラブラドライト!!」
 その姿を認めた瞬間に、クリサリスが喚起して声を上げる。
「クイーンクリサリス!」
 一拍置いてブルーラブラドライトが声を上げると、二人そろって駆け寄った。ブルーラブラドライトは、案の定周囲に陽炎が出来るほどの熱気を振りまいている。本来ならば、プリンセストワイライトに頭を下げるのが先だろうが、こういうことに関してはトワイライトならば融通は利くので、トワイライトも二人のやり取りを温かく見守った。

「また会えて嬉しい……だが、今はロイヤルガードとしてきたのだから、お前の上司に挨拶をしてやれ」
「あぁ、積もる話はあとにしよう」
 二人は抱き合って喜びを分かち合うことはせず、早々にトワイライトの顔を立てる。
「お初にお目にかかります、プリンセストワイライト」
 と、ブルーラブラドライトが跪く。
「初めまして、ブルーラブラドライト。貴方とクリサリスの関係は聞き及んでおりますが、仕事は手を抜かせませんからね」
 言いながら、トワイライトは慣れない足つきで前足を上げ、蹄を彼の前に差し出した。
 前足の蹄に口付けをするのは、尊敬示す行為。それで忠誠を示したところで、ブルーラブラドライトは頭を上げる。
「まだ未熟者ではありますが、これから任期が続く限り、命を懸けて使えさせていただきます」
 トワイライトをしっかり見据えてそう言うと、トワイライトは苦笑する。
「あら、いいのよ。そんなにかしこまらなくって。あなたの本当の目的は分かっているんだから」
 クイーンクリサリスと会うためでしょ? とは言わないが
「それでも、民の目がありますでしょう? こういう時くらい、貴方は王女らしく振る舞っていてください」
「もう、そんなこと言われたらそうするしかないじゃない」
 ブルーラブラドライトに促され、トワイライトスパークルは笑いながら肩をすくめる。それじゃあ、プリンセスセレスティアのように振る舞おうと、一度深呼吸して気持ちを整えた。
「ありがとうございます、ブルーラブラドライト。貴方の働きに期待しておりますよ」
「光栄にございます、プリンセストワイライト」
 トワイライトの言葉に、ブルーラブラドライトは頭を下げて応えた。
220 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/28(火) 23:40:05.96 ID:GCB6FAX70
「では、貴方の住まいに案内いたします。ついてきてください」
 自分が最も尊敬するプリンセスの振る舞いを頭の中に描きながら、トワイライトスパークルはいつもよりも優雅さを念頭に歩き、彼の新居へと向かった。
 彼の新居は、クイーンクリサリスと同じく図書館の近くにある空家を使わせてもらう。
 今回は準備期間がたくさんあったため、すでにベッドなどの最低限の家具は置かれているし、鎧の手入れに必要なものもそろっている。
「図書館の目の前で、便利ですね」
「私が図書館に暮らしているものね」
 家の立地を確かめながらブルーラブラドライトが言うと、その隣にクリサリスが並ぶ。
「つまりは、私の家のすぐ近くでもあるということだ。これからはいつでも会えるな」
「本当に、君は雰囲気が変わったね、クリサリス。プリンセストワイライトの手紙に書いてあった通りだ」
「だろうな。奴らと一緒にいれば自然とそうなるさ」
 ブルーラブラドライトの言葉に、クイーンクリサリスは微笑んだ。
「皆が変えてくれたのさ。突然の出来事とか、大きなきっかけじゃなく、少しずつ変えてくれたのさ」
 そう言ってクリサリスは振り返る。
「ほらほら、二人とも。そういう話はパーティーの最中にでもしなさい。ピンキーパイが待ちかねているわ」
 二人の様子を見守りながらトワイライトが微笑んでいる。
「そうだよ! あたしのパーティーの最中に話したほうが絶対に楽しいもん」
「どうやら、主役の俺がきちんとしなきゃいけないみたいだ」
 ピーンキーパイがせかすので、ブルーラブラドライトは苦笑する。
「クリサリス、パーティーでは俺と一緒に踊ってくれるかい?」
「もちろんだとも」
 二人は蹄を合わせて約束を交わすと、微笑みながら図書館へ向かう。
221 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/28(火) 23:42:08.06 ID:GCB6FAX70
今日の更新はこんなところなのです。また明日
222 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/28(火) 23:47:47.73 ID:GCB6FAX70
今日の更新はこんなところなのです。また明日
223 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/29(水) 22:45:08.32 ID:3PQbSUiD0
 ピンキーパイの司会進行により、パーティーはつつがなく始まった。トワイライトの部下ということもあり、どんな奴かと一目見ておきたい者は意外と多かったらしい。
 親しい知り合いばかりでなく、あまり顔を合わせたことのないような街の住人も大勢おとずれ、図書館はパンク寸前の状態であった。
 ブルーラブラドライトの顔を見れたら満足して家に帰るものが大半だったので、パーティーも中盤程になると人数はだいぶまばらになる。
 ブール―ラブラドライトは初めて見るポニーヴィルの文化に目を輝かせ、リンゴ咥えゲームなどの見たことのない遊びに興じていた。ダンスの方も、シャイニングアーマーから色々と仕込まれていたらしい。
 シャイニングアーマーは高校のイベントでケイデンスと一緒に踊った思い出について語りながら、上機嫌に踊りを教えてくれたらしい。
 トワイライトと踊る時は必要以上にボディタッチをしたら『消す』と脅しつつも、プリンセスに失礼のない最低限の作法だけは身についており、ぎこちないながらもその様子は様になっている。
 そうして。踊りの相手を変えることになると、ブルーラブラドライトは真っ先にクイーンクリサリスの元に向かう。
「よーし、ブルーラブラドライト! あたしと踊ろう!」
 が、ピンキーパイに回り込まれる
「そう言えば、ブルーラブラドライトの誕生日を聞いていないよね? 趣味とか好きな食べ物は何かな? 好きなポニーっている?
 私以外とのパーティーポニーには会ったことある? クリスタル円パ伊田での暮らしはどうだった? あそこ寒いから、フレイムポニーの君はあったかいって人気あったりしたんじゃない?」
「そ、そうだな……ははは」
 お互いに向き合いながら足取りを合わせて踊っている最中にこの調子だ。返答のタイミングもくそもないマシンガンのような質問にブルーラブラドライトはたじたじだ。
「よし、今度こそ」
 と、意気込んでみるも、今度はクリサリスがダーピーに取られてしまう。それが終わって今度こそ、と思えば今度はブルーラブラドライトがラリティに取られるのであった。
 婚活おばさん、恐るべしだ。そうして、ダンスの相手を幾度も変え、二人はようやく向かい合う形でダンスを始める。
224 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/29(水) 23:27:40.98 ID:3PQbSUiD0
「やっと会えたね……」
 苦笑しながらブルーラブラドライトが言う。
「まったく、あいつら私達の事をもっと気遣って欲しいものだ」
 二人とも、散々別の人物の相手をさせられた愚痴を吐きながら、踊り始める。
「私は、お前に謝らなければならない」
 踊りの最中、クリサリスは神妙な顔になって言う。
「何をだい?」
 謝られることに心当たりがないブルーラブラドライトは、そう言って首を傾げた。
「私がお前の事を愛していないと言い放ったことだ」
「あぁ、それか……」
 クリサリスの言葉に納得して、ブルーラブラドライトが頷く。
「大丈夫、気にしていないし」
「そうか……それならよいのだが。その、色々と分かったことがあるのだ」
「何かな?」
 二人で息の合ったステップを踏みながら、二人は微笑み合う。
「どうにもな、私達は今まで知らなかっただけで、実は誰かを愛する感情というものはきちんとあるらしいのだ」
「そうなんだ。良かったね」
「あぁ、それが分かった時は嬉しかった。だれよりもお前に報告したいと、そう思うくらいにな……あぁ、もう時間だ。それじゃ」
 曲が一巡して、相手を変える。名残惜しいが二人は手を離し、話の続きは後へと持ち越しになった。
225 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/29(水) 23:28:33.53 ID:3PQbSUiD0
今回の更新はこんなところで終了です。皆さんありがとうございました
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/29(水) 23:36:33.96 ID:IsEO4fz7o

おばさん呼ばわりはよせーっ!
227 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/30(木) 23:15:06.86 ID:qCdw5qjC0
 ロイヤルガードは気が抜けない仕事のため、お酒を飲めないパーティーであることは少々残念だったものの、
 美味しい料理と美味しいリンゴジュースを楽しめたブルーラブラドライトは、仕事を終えて満足して町をぶらついていた。
 本来ならば何人ものポニーが交代で24時間絶えることなく警護していなければならないロイヤルガードなのだが、
 ロイヤルガードが彼一人しかいないため、プリンセストワイライトの警備はあって無いようなものである。
 煌々と燃える炎は青白く道を照らし、闇夜でもその存在を色濃く自己主張する。それと並んで歩くクイーンクリサリスは、夜の闇よりも黒い体で、明るい彼とは対極的だ。

「それでな、その仮説を実証したというわけだ。口の中に器具を突っ込むのは少々きつかったが、しかしそれだけの価値があったよ。私は、親や兵隊に愛されていたのだということが分かった。きっと愛が外に漏れていなかったからそう感じないだけで、愛されていたのだと。それが分かるだけで、なんというのかな……すごく、すごく世界が明るくなったような気がしたんだ。
 自分は、親に望まれて生まれた存在なのだと、確信できた。そのおかげで、自分を愛せるようになった気がするんだ。そして何よりも、お前を愛していたのだということが分かったんだ。これが、私の中で最も嬉しい事なんだ」
「俺も嬉しいよ」
「そうだろう? そうだよなぁ? 私は、誇らしい」
 そう言って、クリサリスは彼を魔法で抱き寄せる。
「ロイヤルガードになってまで私に会いに来てくれて感謝するぞ。ともにこのポニーヴィルで、楽しく暮らそうではないか」
「うん、クリサリス。愛しているよ」
 自分の中で愛が満ちるのをクリサリスは感じていた。その魔法でエクエストリアをどうこうするということはもはや考えていなかった。今ならきっと、女王を産むことができる。今でなくともいずれきっと。
 そんな確信が彼女の中で育ちつつあった。
228 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/30(木) 23:27:12.27 ID:qCdw5qjC0
今日の更新はこれで終わりです。メンバーもそろったところで、次回からは一風変わった展開になるとおもいます
229 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/31(金) 22:55:05.94 ID:AYbYIGtZ0
 ブルーラブラドライトがポニーヴィルに訪れてから、数週間が経った。
 相変わらずプリンセスよりも弱いロイヤルガード(プリンセスが強すぎるだけだが)として彼は魔法の修行の毎日である。そして勤務中はむすっとした顔でじっと立っていなければならない。
 悪ガキやレインボーダッシュなどが笑わせようと努力しては、それを耐えようと無心になるのだが、それでもレインボーダッシュは容赦なく笑わせようとして、
 トワイライトの踊りを真似してみたり、くすぐってきたりなどするので性質が悪い。
 ともかく、彼は努力を一日も欠かすことなく日々を過ごしていた。

 そんなある日、彼は図書館の前で立ち尽くしていると、郵便屋さんから一通の手紙を受け取る。
「なんだこれ? 魔法はかかっていないようだし、このまま渡しちゃって大丈夫かな?」
 ドリームウッドという団体からの手紙であった。それを持って図書館に入ると、トワイライトスパークルはいつものように司書の仕事そっちのけで本を読んでいた。
 そっちのけと言っても、図書館に本を借りに来る客が少ないのが原因である。
 そばではクイーンクリサリスが愛されメイクの本を読んでおり、その眼前でフラッフルパフがメイクの再現をしている。
 アイシャドーは緑色、チークもほんのり暖色系ではなく、緑色というポニーには使いにくい色。
 ルージュも潤い感の溢れる緑色と、ポニーとは基本的に違うメイクの色合いだが、そのおかげで中々美人に仕上がっている。
「やぁ、プリンセストワイライト。何だかドリームウッドって団体から君宛に手紙が来ているけれど、今渡して大丈夫かい?」
 その様子を見て微笑みながら、ブルーラブラドライトが声をかける。
「ドリームウッド!? 本当に?」
 トワイライトスパークルは、団体名を聞くと飛びあがるように声を上げて、ブルーラブラドライトの元に小躍りして近寄る。
 その声に驚いてしまったクリサリスは、せっかくうまく言っていたお化粧が、最後のひと筆で台無しになってしまった。
「あぁ、ルージュがずれた……すまない、フラッフル」
 トワイライトとは無関係に、クリサリスはフラッフルパフに謝っていた。さて、トワイライトはと言えば、早速手紙を開封して中身を見ている。
230 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/31(金) 23:20:58.66 ID:AYbYIGtZ0
「ドリームウッドって、何の団体なの?」
「移動遊園地の経営団体よ。昔キャンタロットにも滞在していてね、そこでお化け屋敷やジェットコースター、フリーフォールにメリーゴーラウンド、サーカスに空中ブランコ。
 いろいろ楽しんだんだから。その頃は私はただのユニコーンだったから、今みたいに空を飛んでるような感覚なんて味わえなくってさ。すっごく興奮したものよ。
 ジェットコースターは楽しかったし、アースポニーやペガサスも魔法の杖でユニコーンのようにビームを放ったりして射撃を楽しんだり、念力でものを動かす体験が出来たりと、本当に楽しかったんだから。ねぇ、スパイク?」
「うん、僕もめいっぱい楽しんだよ。お化けではトワイライトと二人でシャイニングアーマーに抱き付きながら怯えたりしてさ」
「そうそう、怖かったもんねー、スパイク」
 遊園地なんて洒落た物に行ったことのないブルーラブラドライトには、トワイライトが言っていることが何のことやらよくわからないが、とにかく楽しい場所であるということは伝わる。
「それで、その団体がなんと、このポニーヴィルに移動遊園地を持って来たいから、場所を貸してくれって相談なのよ! 早速市長やみんなと相談しなくっちゃ!」
「ふむ、その暁には私もロイヤルガードとしてご一緒させてもらいましょうか」
「是非行きましょうブルーラブラドライト! もちろん、クリサリスも来るわよね?」
「私か……? 私は、そうだな……まぁ、気が向けば……ブルーラブラドライトと一緒に行こう。ロイヤルガードの補佐として」
「あら、心強い仲間が増えたわね。是非お願いするわ」
 トワイライトはみんなで盛り上がることができるのがとても嬉しいらしい。興奮して笑顔が止まらないようだ。
231 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/10/31(金) 23:57:15.21 ID:AYbYIGtZ0
今日はこんなところで終了です。すでに終盤に突入しておりますが、最後まで付き合って下さいな
232 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/01(土) 23:35:01.46 ID:uHrHwZHx0
 そうして、トワイライト達は新たなエレメントを発動することで築城された城にいつもの六人を集め、会議を始める。
「僕もフラッターシャイと一緒に行ったことがあるよ。あそこで魔法の杖を振って的当てを楽しんだよね」
「えぇ、すごく楽しかったわ。でも、お化け屋敷はダメ……あんなところに行ったら私死んじゃう」
「途中で気絶して僕が運んで行ったもんね。フラッターシャイは軽いけれど、さすがにゴールまで運ぶには重かったよ」
 と、レインボーダッシュとフラッターシャイは過去を振り返る。どんな種族でも楽しめる場所だというのがうかがえる。
「私は、遊園地の雰囲気を楽しむためにメーンハッタンまでお洒落していったわ。生地が痛むといけないから乗り物には乗れなかったけれど……注目の的だったわね」
 と、ラリティは言う。
「私は近くにドリームウッドが訪れた頃はパーティーポニーじゃなかったから行ったことなかったけれど、今ドリームウッドが来るなら盛大なパーティー出迎えて上げなきゃね!! 今から考えるだけでもわくわくするよ」
 ピンキーパイの本領発揮である。今回のようなイベントならば、ピンキーパイの力は最もうまく活かせることだろう。
「私は、とにかくリンゴのお菓子を大量に売ってみたいなぁ。そうすれば他の街から来たポニーにもいい宣伝にもなるし、これは開催するっきゃないでしょ?」
 ピンキーパイとアップルジャック、二人はそういってトワイライトスパークルに視線を投げる。
「皆、異論はないみたいね。それじゃあ、あとは市長に許可をとったら、会場となる場所の確保に、人員の確保。及び宣伝・広報や交通に関する……」
 トワイライトの独り言が流れていく。独り言を言いながら考え事をまとめたトワイライトスパークルは、市長に受け入れを提案する。
 受け入れの提案にゴーサインが出るや否や提出する書類をまとめるために必要なチェックリストを作り、
 それらの項目一つ一つに関してリサーチを重ねつつ、色んな業者にお願いもして、トワイライトスパークルは大規模な公務もそつなくこなしていく。
 もちろん、いつもの六人やブルーラブラドライト、スパイクにクリサリスも優秀な助手として働かされ、子供達への広報にはキューティーマーククルセイダーズにも手伝ってもらった。
 開催の日が近づいてくるごとに、街の方は少しずつ騒がしくなっていく。遊園地の組み立てが始まると、
 幕が張られ外部から見えないようにされた建設現場を住民たちが毎日見上げ、一部のペガサスが待ちきれずに上空から覗いたりなどして、騒ぎ立てる。町の住民のみならず、近隣の住民も含めて完成の日を待ちわびていた。
233 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/01(土) 23:37:17.16 ID:uHrHwZHx0
今日は短めですがこんなところでお願いしますです
234 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/02(日) 23:49:56.41 ID:5Nvc8O/D0
 そうして、移動遊園地は盛大な幕開けを迎える。会場には所狭しとポニーがひしめき合い、異常な熱気に包まれている。
「さあさあ皆さん! 今日からみんなに夢を運んでくれる楽しい遊園地、ドリームウッドが開園するよー!! みんな、楽しむ準備が出来たら蹄を鳴らして!!」
 開会式はエクエストリアに名だたるパーティーポニーであるピンキーパイによる司会進行を務め、シルクハットにタキシードという男物の正装で舞台に立っている。
 彼女の呼びかけに応じてポニー達は一様に蹄を奈良市、地響きさえ起こっている。
「よーし! みんな気合入ってるねぇ。皆が笑顔で私もついつい嬉しくなっちゃうよ! それじゃあみなさん、まずは開幕入場の前に、この遊園地のオーナーの挨拶を!」
「ご紹介どーも! わたくし、この遊園地のオーナーであります、クラウンズクラウンでございます」
 クラウン(道化師)の格好をしたペガサス、クラウンズクラウンが陽気に挨拶を始める。
「このわたくし、幼少の頃より人を楽しませるのが大好きでした。しかし、器用さや体力に劣る私には、
 連日パーティーを企画して皆を楽しませるパーティーポニーとなるのは厳しく、しかし人を楽しませたいという思いは強まるばかり!
 そんな時、私には経営の才能があることに気付きました。少しずつお金をためて、方々から借金をして、スタッフも苦労して集め、そうしてこの移動遊園地が形になりました。
 それもこれも、すべてが皆様に楽しんでいただくためであり、皆様が楽しんでくれたおかげでございます!
 長々と話していても、皆様開園を待ち焦がれていてほとんど聞こえていない事でしょう! では、最後にプリンセスの挨拶を以って、開園式は終わりとしたいと思います」
 そう言って、クラウンズクラウンは
「皆様。私も昔子供だった頃に、この移動遊園地に訪れたことがあります。その時と何が変わって何が変わっていないのか、準備の段階でいろいろ知ることが出来ましたが、断言します! 今も昔もここは最高に楽しい場所ですと! ですからみなさん、夢のひと時をどうぞお楽しみください! 以上です」
「さあさあ皆、聞いたかな? みんなの挨拶が終わったから、満を持して開園だよ! さあ、スタッフのみなさんご一緒に!!」
「ようこそ、ドリームウッドへ!!」
 その掛け声のタイミングで、レインボーダッシュがソニックレインブームを披露するそれが移動遊園地を大いに盛り上げる要因となって、移動遊園地は歓声で揺れた。
235 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/03(月) 00:06:06.78 ID:K+Vhd3dh0
 さて、そういうわけで開催された移動遊園地であるが、やはりと言うべきなのか、トワイライトの読みが甘かったのもあるが、開始と同時に人がごった返してはひどい有様であった。
 なにせ、ポニーヴィルの住人はマナーがなっていない。人気キャラクターである着ぐるみが現れれば、周りの迷惑など省みずに集まって身動きできずに立ち往生するばかり。
 ペガサスは空を飛んで覆いかぶさるように集まることもあるし、写真のフラッシュが花火のように鳴り響いて一時も心が休まらない。
 もちろんの事、アトラクションは並んでいても割り込みなどでトラブルが多発しているし、お化け屋敷ではスタッフを殴り倒してしまった客もいる。
 そんなこんなで一気に苦情が集まったところで、トワイライトも使いたくなかった手を使わざるを得なくなった。
「皆マナーが悪すぎてまともに楽しめないぞ!」
「なんとか取り締まれないの? 同じ金を払っているのに不公平だわ」
 そんな批判が支配人であるクラウンズクラウンやプリンセストワイライトに集中する。
「みなさん、落ち着いてください。本当はあまり気が進まないのでやりたくなかったことですが、こちらとしても警告措置を取らせていただきますので、今しばらくお待ちください」
「申し訳ありません。もう少しマナーが良いものとばかり思ってをりましたが、プリンセスの言葉をきちんと聞くべきだったかもしれません。ポニーヴィルはとんでもないところだな……」
 ポニーヴィルにはマナーが悪い者が多いというプリンセスの言葉を無視したわけではなかったが、しかし予想をはるかに超えてひどいマナーにクラウンズクラウンは憔悴していた。
「これより、マナー違反を犯したお客様にはイエローカードやレッドカードを提示します。それが溜まればアトラクションや売店などの制限をいたしますので」
 トワイライトとしては遊びたいという気持ちでいっぱいなのだが、これも公務、ポニーヴィルの発展のためと割り切って、秘密兵器を投入する。
236 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/03(月) 00:23:47.80 ID:K+Vhd3dh0
今日はこんなところで終了です。また明日合いましょう
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/03(月) 00:24:47.08 ID:jpDezZpFo
乙です
238 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/03(月) 23:58:01.65 ID:K+Vhd3dh0
 秘密兵器を投入されると、ある程度マナーは改善された。あるところでは、遊園地で人気のあるキャラクターであるウサギのルイス君を取り囲んでいると、
 突然クリサリスが変身を解いて、角に怪しい光を灯しながら魔法で周囲のポニーを浮かすとそれらにイエローカードを張り付ける。
 アップルジャックがお菓子を売っている最中に割り込みなどでトラブルを起こしている客を見かければ、アップルジャックがその客にカードを投げつけて貼り付ける。さすがの投擲技術である。
 フラッターシャイがことりと合唱をしている時に、ヤジを飛ばしたりステージを超えて乗り越えてこようとする困った客がいれば、エンジェルや熊さんが怖い顔をしてカードを張り付けた。
 特に熊に張り付けられた者は、遥か彼方まで吹っ飛ばされるのだから、怪我は必至である。
 移動遊園地の客寄せのためにと、トリクシー・ルラムーンが使うような花火の魔法を仕込まれたブルーラブラドライトも、訓練で身に着けた正確な念力でカードを次々と投げ貼り付ける。
 実戦ではこれで敵の脚や翼を狙って機動力を奪うのだそうだ。
 ちなみに遊園地での仕事のないラリティだが、遊園地にお洒落して出かけたいポニー達の服を作っているため現在それどころではない様子。遊園地に遊びに来ることができる日が来るのだろうか、それはまだわからない。
239 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/03(月) 23:59:24.74 ID:K+Vhd3dh0
 移動遊園地を盛り上げポニーヴィルの活性化のために働くトワイライトとその仲間たちは、ともかく甲斐甲斐しく働いた。
 クリサリスは神出鬼没にマスコットに化けては、マナーの悪いポニー達を粛正する。
 その際、偽物であることを見破ったら粗品を与えるというゲーム性を持たせることで、クリサリスの偽マスコットは一つの楽しみとして人気が出たそうな。
 その後は部下の二人まで動員してカップルや家族で訪れどちらが本物かを当てるイベントなども行ったりで、チェンジリングという種族そのものをうまく使ったイベントが行われた。
 それを考え出したのもクラウンズクラウンで、上手く客の心をつかむ彼の才能はやはり特別なものらしい。
240 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/05(水) 23:49:41.31 ID:BzOn/cxJ0
 そうして、遊園地の数日の稼働を終えて、クリサリスは営業終了後の、動くアトラクションが何もない遊園地を、ブルーラブラドライトともに歩き回る。
 この時間帯はもちろんスタッフ以外は立ち入り禁止のため、この遊園地で臨時に働きに出ている彼女らだけの特権である。
「なぁ、ブルーラブラドライト」
「ん、なんだい?」
「楽しい場所というものはいいところだ。愛し合う者達がたくさん来るから、良い空気が漂っている」
 笑顔でしみじみというと、釣られたようにブルーラブラドライトも笑う。
「だろうね。アトラクションとかに乗らないでもなんだか楽しくなってしまうような、そんな雰囲気があるよ。でも、君に向けられた愛情はないよね? それだと、魔力を得られないんじゃない?」
 ブルーラブラドライトは自身の言葉通りの状況ではないかと推察するが、それだとクリサリスが上機嫌な理由がよくわからず、尋ねてみた。
「感謝とは愛だ。スタッフの皆に感謝してくれる者がいるんだよ。全体の二割くらいだがな。マスコットに化けた時なんかは、偽物だとばれても面白がってくれる者がいる。
 落胆する者もいるが、遊びだと割り切って笑ってくれる奴はありがたいよ」
「そうか。感謝は愛。そんなのもあるんだね」
 クリサリスの言葉に、ブルーラブラドライトが微笑む。
「反面で、私達チェンジリングを露骨に嫌っている者もいる。改心しただとか、今は敵じゃないだとか、そんな事は関係なしに、かつてのチェンジリングがしでかした王族殺害事件がまだ尾を引いていると思うと、少し辛い。
 何もかも忘れて、楽しめればいいのだがな……そんな都合のいい事はないし、それこそが私の罰なのかもしれない。寂しいが、受け入れてしまわなければな」
 クリサリスはため息をつく。そんな彼女に、ブルーラブラドライトはそっと肩を寄せた。
「忘れさせればいいじゃないか。そんな苦い記憶よりも、楽しい記憶で上書きするつもりでさ。皆を楽しませる、街を警備して平和を守る。
 そんな風な君の活動が、きっといつか実を結ぶはずさ。そうやって、チェンジリングが昔犯した罪なんて、気にさせなければいい。
 ポニーだって先住民の虐殺やら、宗教戦争やら後ろめたい歴史の一つや二つあるんだ。でも、それを乗り越えて今のエクエストリアがある。
 君は、独立国家を作ろうとしているんだろ? だったら、その暁には、ここまでお金をかけた施設じゃなくともいい。
 みんなで楽しめる場所を作ろう。そこできちんとしたおもてなしが出来れば、チェンジリングを見直すポニーだってどんどん増えるさ」
「簡単に言ってくれるな、お前は」
 クリサリスは笑う。
「その時はお前が協力して、なるべく簡単に済むようにしてくれよな」
「うん、そうなるといいね、クリサリス」
 そう言って、ブルーラブラドライトはクリサリスに頬を擦り付ける。クリサリスはそれに抗うことなく彼を受け入れ、頬を上気させながら静かな時を過ごしていた。
241 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/05(水) 23:52:54.69 ID:BzOn/cxJ0

 さて、そんな平和な時を過ごしていたある日のことだ。その後も移動遊園地の経営は続いていた。
 アップルジャックは農場での仕事に区切りがつけば、家族で交代しながら遊園地で商売をしており、非常に商売熱心であるし、
 フラッターシャイも大好きな小鳥の魅力を多くの者に伝える事が出来るためか、非常に上機嫌で毎日少しの時間でもいいから通っては客を集めている。
 カードを張り付ける動作も慣れたもので、アップルジャックもフラッターシャイも割り込みなどにはバンバン貼り付けていくし、
 フラッターシャイの小さなお友達である動物たちも、それぞれ不当にフラッターシャイへと近づくものへは容赦なく貼り付けていく。ブルーラブラドライトも、魔法で優雅にカードを張り付けていた。
 その度に、『何しやがるんだ!』と罵声を浴びせて来る者もいた。そしてその度に、スタッフたちは『割り込み禁止です!』と注意をしたり、
 フラッターシャイの動物たちは『近づきすぎは厳禁です!』などというフリップを掲げたりするのである。
 だが、しかしその慣れた動作のせいで、彼女らは大きなトラブルを抱え込んでしまうこととなる。噴出した文句を一手に引き受ける羽目になってしまうのは、やはりお偉いさんである。

「列を横切っただけで割り込みしたと思われてイエローカードを張り付けられたじゃないか!」
「トイレに急いでいたのに、フラッターシャイの動物にいきなりカードを張り付けられて、少し漏らして恥かいたぞ!」
「熊にカードを張り付けられて、怯えた子供が泣き止まなくって大変なのよ!!」
「魔法アレルギーなのに魔法で張り付けられて、体中痒くて仕方がないんだ! 俺は空飛んでいる最中に眩暈がして不時着しただけなのに! 医者の薬だってタダじゃないんだぞ!」

 そう、もともと有能な彼女らは、慣れない仕事も数日でものにしてしまう。そのため、今までと同じ調子で、しかしすばやく迅速に対処しようとすると、
 一件違反行為に見えるそれが許すべきかそうでないかの見分けも難しくなってしまう。
 そして、それがトラブルを呼んでいるということに、苦情が殺到してようやくトワイライトも気付いたという次第だ。
242 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/06(木) 00:04:44.84 ID:CZbmdKql0
昨夜はいろいろ都合があって更新できませんでしたが、ちゃんと生きてました。明日もまた更新するとおもいます
243 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/06(木) 23:49:13.14 ID:CZbmdKql0
「そういう訳なんだけれど、みんなどうすればいいと思う?」
 移動遊園地のカフェテラスにアップルジャック、皆を集め、トワイライトが会議を開く。
「ふむ、確かに思い返せばそんなことがあったような気がする」
 トワイライトが持ち上げた議題に、クリサリスは身に覚えがあったようで、気まずそうな顔をして言う。
「そうね……私、皆が頑張ってくれるからそれに甘えちゃったけれど、考えてみればエンジェルたちは少しやりすぎだったかもしれないわ……私から、なんとかもう少し緩やかに警告してもらえないか、少し頼んでみる」
「あちゃー……私も片手間にカード投げが出来るようになって、少し調子に乗っていたかもしれないなぁ」
 フラッターシャイ、アップルジャックも思い当たる節があるようで、しゅんとして反省している。
「申し訳ありません、プリンセス。私がいたらないために、貴方に要らぬ世話を焼かせてしまいました」
 背後から歓声交じりの叫び声のようなものが上がっているところで、ブルーラブラドライトが頭を下げている。
「いいのよ、皆。失敗は誰にでもあるわけだし。とはいえ、具体的にどうするかを考えないと……」
「ねぇ、トワイライト……アレ……」
 ブルーラブラドライトを慰めている間に、アップルジャックが声に気付いて視線を動かしたその先には、巨大なディスコードを模したオブジェクトを乗せた山車であった。
「まずは、紛らわしい行動をしただけの人もいるかもしれないし、イエローカードは……って、何よあれは!?」
 ようやくアップルジャックの蹄が指し示す方向を向いたトワイライトは、驚いて大声を上げた。
244 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/06(木) 23:59:41.60 ID:CZbmdKql0
「ディスコード! 何やっているのよぉ!!!」
 ともかく、家よりも大きな山車なんかで遊園地を闊歩されては非常に危険であるため、トワイライトスパークルはディスコードの元に高速で飛んで目の前まで近寄った。
「おいおい、プリンセストワイライト。こんなに楽しそうなところに呼んでくれないだなんて、随分と寂しいじゃないか」
「あの、ディスコード……なんの用かしら?」
 トラブルの元になりそうなので、相手から干渉してこない限り触れないようにという腫れ物のような扱いをしていたディスコードが、ついに来てしまったかとトワイライトはため息をつきたい気分だ。
「水臭いじゃない、俺様にもちょっと遊ばせて欲しいじゃないか」
「ど、どうぞディスコード。楽しんでもらって結構だけれど、でもその巨大な車は……明らかに危険だから、遠慮してもらえないかなぁって」
「おや、走らせた方がお好みかな?」
 トワイライトスパークルが言い終わる前に、ディスコードは家よりも大きな車を走らせる。不思議なことに、轢かれそうになったポニーは一瞬姿が消えたかと思うと。
 ディスコードが通り過ぎた後の空中にて、泡に包まれたままゆっくりと降りて無傷で着地している!
「ディス、コードォォォォォ!! 走らせたりなんかしたら尚更に危険でしょうが!」
 だからと言って、暴走する車を放っておけという訳にはいかない。トワイライトが激怒して飛びあがり、創造魔法で生み出した物体を消去する光線を繰り出す。
 その一撃で音もなく山車が消え去ったかと思うと、ディスコードは落ちながら小さな傘を掲げてパラシュートのようにしてふわりと着地する。
「そんなカリカリするなよトワイライトスパークル。俺様はただ楽しみたいだけなんだからさ」
「だったら、規則を守りなさい! 今のでイエローカード一つ!」
 トワイライトスパークルがイエローカードを貼り付けようとするも、ディスコードは体に穴をあけてカードを素通りさせる。
 ディスコードは意趣返しとばかりにトランプを体の周囲に回転させ、指をパチンと鳴らすことでそれを連続発射する。
 トワイライトがバリアを張ることでそれを無視して突っ込む。こんどは魔法の力などない、翼の力で加速する物理的な体当たり。
 バリアを張っているのでトワイライトの体に魔法をかけて押し返す事も出来ないし、風で押し返すにはもう間に合わない。
 ディスコードもまたバリアを張ってトワイライトの蹄に張り付けられたイエローカードの攻撃を防ぎ、バリア同士の押し合いが始まる。
245 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/07(金) 00:09:14.90 ID:d57T6V2j0
今日の更新はこれで終わりです。執筆の方も、あとはエピローグを書くだけとなりました
246 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/08(土) 00:02:11.38 ID:04Zl8Ygg0
「おい、みろよあれ!」
「すっげー!!」
 下では観客たちの歓声が上がっている。トワイライトとディスコードのどちらが勝つか、賭けまで始める猛者もいた。
 押し合いはしばらく続いたがしかし、魔力の勝負ならば当然トワイライトスパークルが一歩も二歩も劣る。
 バリアを広範囲に広げる攻撃で弾き飛ばされたトワイライトは、闇魔法で黒い手を地面から伸ばしてディスコードの足を掴ませた。
 空間に穴をあけてディスコードの額にカードを貼り付けようとするも空間にあけた穴の数センチメートル先にもう一つの空間の穴をあけられ、トワイライトは自分の頭を自分の蹄でどついてしまう羽目になる。
 空間に穴をあけて、別の場所にワームホールを開く。そんな高等な魔法を全くの予備動作無しで使用できるのだから、化け物というほかない。
「あははははは。こいつは傑作だ。自分の技でやられるとはね」
 笑いながらディスコードは黒い手を薔薇に変えて、それを手に持って息を吹きかける。
 まるでタンポポのように花びらが舞い散れば、それは瞬く間にレッドカードとなってトワイライトの体に張り付かんと躍りかかる。
 テレポートでディスコードの背後に回りそれを避けたトワイライトが、そのままディスコードの後頭部にカードを張り付けてやろうとするも、いつの間にすり替えたのか、トワイライトが手に持っていたのはトランプのジョーカーであった。
 いつの間にかてトランプになっていたことを驚く間もなく、何もない場所、『上』から伸びてきた手が持っていたレッドカードが、トワイライトの体のいたるところに張り付けられる。
「おっとっと、イエローカードが警告なら、レッドカードは……」
 上からディスコードの声が聞こえて、トワイライトが上を向いたころにはもう遅い。
「な、何よこれ!? きゃあっ!!」
 トワイライトは貼り付けられたカードのせいで身動きが取れず、自分の身に何が起こっているのかもわからないうちにそのまま地平線の彼方まで吹き飛ばされた。
「退場かな?」
 トワイライトが飛んでいく光景をまじまじと見ながら、ディスコードは言う。トワイライトスパークルたちが用いていたイエローカードは、一度貼り付けられると遊園地を出るまで剥がせない仕様だが、ディスコードの持つレッドカードは、貼り付けると飛ばされてしまう。
 そんなものを即席で作り、しかもトワイライトを手玉に取れるのだから、やはりこのディスコードは化け物と言って差し支えない強さである。
247 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/08(土) 00:03:20.56 ID:04Zl8Ygg0
「こら、あんまり乱暴しちゃだめよ、ディスコード」
 そんな彼に近づいてフラッターシャイは優しくたしなめる。
「大丈夫だよ、フラッターシャイ。こう見えて安全には気を使ってるから」
「でも、だーめ」
 そう言って、フラッターシャイはディスコードにイエローカードを張り付ける。
「おやおや、油断させて一本取られちゃったね」
「もう暴れちゃだめよ? 次はレッドカードだからね」
 フラッターシャイは、優しくだが念を入れるようにしてそう言った。
「はーい。仕方ないなぁ全くもう」
 フラッターシャイが乱入してくると、ディスコードは打って変わって大人しくなる。フラッターシャイとしては、トワイライトとの戦いで彼女が怪我をしていたら烈火のごとく怒ったであろうが、
 ディスコードはなんだかんだ言って怪我をさせるような攻撃は一度もしていなかった。
 また、二人の戦いのおかげで客たちが大盛り上がりだったため、あれはディスコードなりのパフォーマンスだったのだとフラッターシャイは好意的に解釈した。
「ふむ、愛情をもって接してやれば、その者もまた愛情で返してくると……あのディスコードでさえも愛を芽生えさせるとは、分かっていたことだがさすがというべきか。
 フラッターシャイ、お前の底力を勉強させてもらったぞ」
 そんな光景を見ながら、クリサリスは勉強熱心に愛についての考察を深めている。
「というか、なんだ。ああいう風に、まずは優しく注意をしてから、それでも従わなければカードを張り付けるとか、そんな感じでいいんじゃないのかな?」
「それだよ、ブルーラブラドライト。私も次からはそうするよ!」
 その横で、アップルジャックとブルーラブラドライトは今後の方針を固めていた。物わかりがよく意欲も高い二人らしいと言えばそうなのかもしれない。
248 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/08(土) 21:03:37.24 ID:04Zl8Ygg0
 そうして、その日の夜。
「『相手が間違ったことをしているように見えても、それは仕方がなくやっていることだったり、間違っていると気付けずに行っているということも多いものです。
 それらを注意するときは、頭ごなしに注意して反感を持たれるよりも、優しく諭して相手に分かってもらうように努力することが大事です。今回の事件で私はそれを学びました』」
 トワイライトスパークルは若干イライラしながらも、スパイクにその文面で交換日記を記入させた。
 結局、ディスコードに遠くまで飛ばされたトワイライトスパークルが戻ってきたころには、ディスコードとフラッターシャイはデートのような様相を呈している。
 楽しそうな二人に対してそれ以上何も言う気力がわかず、彼女はどっと疲れた様子でスタッフの休憩ルームに帰って行った。
 彼女が休憩している間に、ディスコード自身もアトラクションのごとく振る舞って客を沸かせており、フラッターシャイとともに大いにもてなしていたため、トワイライトはさらに文句を言うタイミングを逃してしまって、
 もうディスコードを説教するタイミングは完全になくなってしまい、何とも消化不良のまま彼女は図書館へと逃げ帰って行ったのだ。そもそも、フラッターシャイがディスコードを嗜めてくれたおかげで、説教の必要もなかったのだが。

「トワイライト、イライラしていると肌が荒れるぞ?」
 クリサリスはフラッフルパフと一緒に、お互いの口にサンドウィッチを持っていきながら食べつつ、クリサリスに言う。
「あのディスコードの悪ふざけを私としては何とかしたいのよぉ!」
「はは、寛容にすることも愛され上手の秘訣だぞ。と、ラリティが言っていたな」
「あんたのはそれは面の皮が厚いだけなの!」
 神経質なトワイライトの性格が最も問題だと思うのだが、クリサリスはそれを口に出す事はせず、彼女の言葉に笑って返すのであった。

249 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/08(土) 21:06:35.14 ID:04Zl8Ygg0
これにて『移動遊園地開園』は終了です。次回からは『適材適所が大事なのだ』をお送りします
250 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/09(日) 23:21:19.03 ID:AKgMyozA0

 移動遊園地が開園してから数週間後。その日は朝から外が騒がしかった。朝早くから図書館の前で黙って立ち尽くしているブルーラブラドライトは、
 ロイヤルガードであるため無表情で周囲に警戒をしながら立っていなければいけない。道行く者達がどこへ向かうのかを気にしながらも、それを決して表に出さないようにしてぐっとこらえる。
 今の仕事でもっとも苦痛であることだ。
 とはいえ、平和なエクエストリアでは危険な仕事になる可能性も低いため、案外のんびりとした仕事であ……
「マンドラゴラの大群だぁぁぁぁぁ!!」
 るわけもなく。このエクエストリアは常に滅亡の危機に瀕しているとすら言われるほどの魔境である。
 どんな外敵が来るかわからないため、ロイヤルガードは常に死と隣り合わせだ。この日も、ペガサスが遠くから歩いてくる植物の根っこの魔物、マンドラゴラの到来を告げた。
「マンドラゴラ……耳栓しなきゃな」
 今回現われたマンドラゴラという生物は、叫び声を聞いたものを殺してしまう能力の持ち主である。
 これに対抗できるのは、音速以上の速度で飛行し、ドップラー効果や音から逃げる超スピードで叫び声を無効化できるレインボーダッシュやワンダーボルトなど超速のペガサスか、
 ブルーラブラドライトが考えているように優れた耳栓を着用したものだけである。
「あー!! 耳栓どこかにないかなぁ! ピンキーあたりが持ってきてくれると嬉しいなぁ!!」
 と、ブルーラブラドライトは大声で独り言を言う。すると、ピンキーパイがどこからか飛んでくる。一体どういう原理なのか。
「呼んだ? 耳栓なら町中にたくさん隠しているから持っているよ!」
 そう言って、がさごそと植え込みの木の中を探っては、ピンキーパイは耳栓を探し出してくれる。常識などどこ吹く風なことをしてくれるピンキーパイは、こういう時はすこぶる便利である。
「ありがとう。これから、トワイライトと協力してマンドラゴラの大軍を相手にするので、ピンキーパイは避難誘導をお願いしたい。君なら子供を怖がらせないように避難誘導できると思うから、頼んだよ」
「うん、分かった! 皆で騒ぎながら行けば、叫び声も効かなくって済むもんね! 頑張ってねー」
 全く、ピンキーパイは本当に万能な存在だとブルーラブラドライトは思う。彼女はきちんとトワイライトやスパイクの分も耳栓をくれたので、ブルーラブラドライトはそれを持って図書館の中へと入ってゆく。
251 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/09(日) 23:22:29.81 ID:AKgMyozA0
 トワイライトスパークルは昨夜、炎の魔法に関する論文を徹夜でまとめてくれたらしく、今はすやすやと寝息を立てている。
 雇主であるトワイライトスパークルに迷惑をかけてしまうことを恥じつつ、ブルーラブラドライトは彼女を起こす。
「ん……何?」
「おはようございます、プリンセストワイライト……実は住民がマンドラゴラの大発生で騒いでおりまして……出撃の許可をとろうと」
「マンドラゴラ!? 大変、あの生き物の叫び声を聞くと、心臓が弱い人は死んじゃうのよ!」
 まだ眠いだろうに、しかしトワイライトスパークルは緊急事態と知って飛び起きる。
「分かっております。ですので、耳栓はすでに用意してあるので、プリンセスは大事が起こらないうちにこれを。うるさい音はシャットダウンされますが、普通に会話する分には聞こえますので」
「耳栓ありがとう。でも出撃の許可なんていらないわ、一緒に行きましょう」
「ありがたき幸せ。全力でお守りいたします」
「ついてきて」
 こんな平和な町ではロイヤルガードなんていらないと思っていたトワイライトだが、自分に仕えてくれる存在が増えるのはまんざらでもないらしい。
 いつもの六人もトワイライトに何かあれば迷うことなく協力してくれるが、リンゴの収穫やドレスの納期やら、天候管理の仕事やら、仲間は仕事があるため忙しい事が多い。
 かといってスパイクに任せるには不安な仕事も多いため、いつだって都合がついて手伝ってくれるブルーラブラドライトという存在は、彼女にとって非常にありがたい存在であった。
 そのため、仏頂面しながらただ立っているのが仕事のロイヤルガードのはずが、食事の毒見という名目で一緒に食事に誘ったり、本の掃除などの仕事を手伝わせたりと、良い関係を築いている。
 そのため、真っ先に戦う意思を見せていたブルーラブラドライトに対しては、頼りにしていると言わんばかりの笑顔で見せていた。
252 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/09(日) 23:23:43.38 ID:AKgMyozA0
今日の更新はここまでです。エピローグまで書き終えましたので、死ななければ全部投稿できるとおもいます
253 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/10(月) 23:24:31.96 ID:6B7hbaxi0
 二人でマンドラゴラに立ち向かうために、トワイライトはブルーラブラドライトに足並みを合わせるため、翼を使わず徒歩で敵の元に向かう。
 遠くからはピンキーが子供達を怖がらせないように歌いながら逃げている声が聞こえ、ブルーラブラドライトは彼女に頼んでよかったと口元を緩ませる。
 現場に到着すると、すでにそこではクイーンクリサリスが戦闘を始めている。
「遅いぞお前等」
 そう口にするクイーンクリサリスは、ジズと呼ばれる巨大な怪鳥に変身して、マンドラゴラを一飲みにしていた。
「ありゃー……さすが」
 その規格外な戦闘スタイルに、ブルーラブラドライトは苦笑するばかり。
「私達も負けていられないわね」
 その強大な力と、自由度の高い変身能力に感心するブルーラブラドライトと、やる気をみなぎらせるプリンセストワイライト。
 トワイライトはビームを放って敵を薙ぎ払い、ブルーラブラドライトは炎を降り注がせて敵を焼き払う。
 クイーンクリサリスは、巨大な足爪で抉り潰し、踏みつぶし、嘴で引き千切り、丸飲みにして消化し、翼で打ち倒すなどパワフルな戦い方を見せている。
 マンドラゴラも対抗して叫び声を上げているものの、耳栓の効果は偉大である。本来ならば耳をつんざき、小脳や中脳、三半規管などを完膚なきまでに揺さぶり狂わせて、そのうち精神まで狂わせる力があるが、耳栓の効果で音量さえ下がればそれも大したものではない。
 対処さえ誤らなければ、そんなに苦戦する敵ではないのだ。
「やはり、上司の判断を仰いでいる時間があると、すこしばかり対応が遅くなるようだな、トワイライト。撃破数は私の勝ちだ」
 クイーンクリサリスは誇らしげに鼻を鳴らす。
「本当、すごいわねクイーンクリサリス」
「耳が痛いよ。確かに、出遅れちゃったからね……しかし、クリサリスが真っ先に出撃するとは」
 そんな彼女を見て、トワイライトとブルーラブラドライトは関心して声を漏らした。
「何、商店街の客がいなくなってしまったのでな。商店街を守るために出張したというわけだ。全く、いつもは早朝の勤務が眠くて仕方ないというのに、眠気が吹っ飛んでしまったな」
「わざわざ、商店街の外まで赴いて商店街を守ってくれたのね」
「それもあるが……」
 クリサリスはツカツカと歩いて、近くに置いてあった樽や水瓶を蹄で叩く。
254 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/10(月) 23:33:40.23 ID:6B7hbaxi0
「お前ら、何か言うことは?」
 それらに話しかけると、中からはキューティーマーククルセイダーの三人が首だけ飛び出した。
「ご、ごめんなさい!」
「悪者退治のキューティーマークが欲しくて……」
「マンドラゴラは耳栓付ければ大丈夫だってお姉ちゃんが言ったから……」
 スウィーティーベル、スクータルー、アップルブルームの順で、それぞれ弁明する。
「黙れ、アップルジャックのせいにするな! 奴らは危険だ、死ぬ可能性すらあるのだぞ? 特に、高音も聞き取りやすい子供の耳なら尚更だ。だから私は思いっきり巨大な生物に化けて、高音の叫び声を聞えにくいようにしたというのに! この、クイーンクリサリス本来の姿でマンドラゴラに挑んだら高音の叫び声が耳に届いて一瞬で死ぬんだ、この私でさえな」
 クリサリスは三人を魔法で救い上げると、その胸に蹄を当てて鼓動を調べる。
「自分の体ならわかるだろう!? お前らの心臓が張り裂けそうなくらいにドキドキしていることをな。私がその樽の中に押し込んでいなければ、お前等そのまま死んでいたかもしれないぞ?」
「まぁまぁ、クリサリス……あまり怒鳴ってばかりじゃ、三人もきっと頭に入らないと思うから……」
「そうだな。少し頭に血が上りすぎた。少し代わりに怒ってやってくれ……」
 ふぅ、とため息をついてクイーンクリサリスはトワイライトの後ろに回る。
「なんとなく事情が分かってしまったけれど、いったい何が起こったのか聞かせてはくれないかし?」
 トワイライトは脚を曲げ、目線を合わせて問いかける
「え、えっとね……私達、商店街で警備員のキューティーマークが付くかもしれないって思って、クイーンクリサリスと一緒にずっと立っていたの……そしたら、マンドラゴラの大発生って聞いたから、以前お姉ちゃんから聞いたように、耳に布を詰めてマンドラゴラ退治に出かけたの……」
「危ないとは思わなかったの?」
 アップルブルームにトワイライトが優しく問いかける。
「思った……けれど、でも、危険なことをしないとキューティーマークが付かないと思って……マンドラゴラの群れに突っ込んだの」
「危険なことをしないとって……そんなことないわよ。以前、私達のキューティーマークがどんなことで付いたのか、貴方達には教えたでしょう?」
「それに、キューティーマークは戦えばつくわけじゃないよ」
 トワイライトスパークル、ブルーラブラドライトでともに彼女らを優しく諭す。
255 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/10(月) 23:39:34.57 ID:6B7hbaxi0
今回の主役はキュ―ティーマーククルセイダーズじゃないです(
256 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/11(火) 23:57:54.17 ID:YLelHJ1J0
「俺達ロイヤルガードのキューティーマークはね。意外や意外、剣のキューティーマークよりも盾のキューティーマークの方が多いんだ。なぜだかわかるかい? 攻める事よりも守ることの方が重要だからだ。だから、むやみやたらに突っ込むような戦い方をしていたら、絶対にキューティーマークは付かないし、普段から体を鍛えていない君たちにそんなキューティーマークはつかないよ。
 戦うためのキューティーマークが欲しいなら、毎日く訓練をしなきゃダメだし、何より……死んだらキューティーマークはつかないよ?」
 ブルーラブラドライトは、『死んだら』と強調して警告する。
「俺達が守るから、君たちはきちんと守られること。自分がするべきことをきちんと把握するのも、キューティーマークが付くための秘訣だからね」
「はーい……」
 ブルーラブラドライトに諭されて、三人は力なく答える。

「全く、お前らがもしも死んでいたら、私は姉たちに合わせる顔がないのだからな。わかったらさっさと避難した奴らと合流して互いに無事を確認し合うことだな」
 不機嫌そうにそう言って、クイーンクリサリスは踵を返して商店街に戻ろうとするも、そこでふとあることに気付く。
「そうだ、ブルーラブラドライト。マンドラゴラはすりおろして肉にまぶすと美味しいんだ。私のために一つ持って帰っておいてくれ」
「そういえば、マンドラゴラは魔術の触媒にぴったりなのよね。私が使う分と、ゼコラへのお土産に一〇本ほど持っていきましょう、ブルーラブラドライト」
「あの、俺が一〇本持つのですか?」
「ロイヤルガードならそれくらい出来るでしょ? スパイクだってそれ位楽勝なんだから」
 ブルーラブラドライトは言葉を失うが、トワイライトは構わず歩き出してしまった。仕方がないので、ブルーラブラドライトは一一本ほど魔法で拾い上げて、ひいひい言いながら持っていくのであった。
257 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/12(水) 00:23:43.02 ID:o9fKwyrc0

「しかし、マンドラゴラなんて大量発生する物でもないのに、どうしてこんなに発生したのかしら……」
「さ、さぁ? 絞首刑や斬首刑に処されたポニーの血液や精液が垂れた場所に育つ植物ですよね? あんなに生えるほど誰かが殺されたならニュースになるはずですし……そもそも遊園地の敷地でそんな事件があったら、ポニーヴィルは大騒ぎですし……」
 魔法で集中している時に話しかけられ、ブルーラブラドライトはマンドラゴラを持つ角が震える。
「うーむ……斬首刑や絞首刑……あ、わかった!」
「何がでしょうか?」
「ディスコードよディスコード! 先週の、あいつ自分の首でジャグリングしてたじゃない! アレが原因に違いないわ」
「血も何も出てないのに、そんなことあるんですか?」
「ディスコードならあり得るわ。あいつのとんでもない魔力なら出来ない事なんてないもの。唾液や鼻水でも生えるわよ、あいつなら」
「何とも悪い方向に信頼されているものですね、ディスコードは……」
 決めつける口調のトワイライトに、ブルーラブラドライトは苦笑する。
「もーう、マンドラゴラが生えちゃったものは仕方ないんだから、後始末くらいはして欲しいものだわ……後でとっちめてやる」
 トワイライトスパークルは睡眠を邪魔された怨みもあってか、少々苛立っている様子。返り討ちに遭わなければいいがと、ブルーラブラドライトは苦笑するのであった。
258 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/12(水) 00:29:30.04 ID:o9fKwyrc0
今回の更新はこんな感じです。フラッシュセントリーとシャイニングアーマーしか判明しているキューティーマークはなかった気がしますけれど(
259 :</b> ◇QWO3xeEtwU<b> [saga]:2014/11/12(水) 23:18:13.43 ID:o9fKwyrc0
 その夜の事。
「『今日、声に出して分かったのは、攻める事よりも守ることの方が尊く、そして重要であることです。私のキューティーマークはあいにく盾ではありませんが、ロイヤルガードに盾の模様を持った者の割合の多さからもそれがうかがえます。』と……しかし、俺なんかが日記を書いてしまってもよろしいのでしょうか?」
「構わないわよ。それは書きたい人が書くべきものだもの」
 トワイライトは炎の魔法に関する論文をまとめながら、ブルーラブラドライトが日記を書くのを横目でちらりと見やっている。確かにこの日記自体はいつもの六人が書くことが多いものの、基本的には誰が書いても構わないものだと思っている。かつては、自分がレポートを書かなければいけないという固定観念にとらわれ過ぎていたために失敗したこともあったため、それを反省して今はある程度ゆとりを持たせ、柔軟にすることこそ大事だと考えているのだ。
 もちろん、その大事なことを忘れて暴走することもないでもないが。

「『だから、キューティーマークが出ないとしても、無鉄砲に何かを攻撃して出そうとしてはいけない。その時を待ち、必要になった時に出ることを信じることが大事だと、私は考えました』と。よし、これでOK」
「良い言葉ね。これがキューティーマーククルセイダーズに届けばいいのだけれど……昔よりかは聞き分け良くなったあの子達だけれど、まだまだ危なっかしいからなぁ」
 ブルーラブラドライトの文章を見てトワイライトスパークルが苦笑する。
「あんなことをいつもやっているんですか? 彼女らは」
「そんな感じ。きちんと反省できる良い子ではあるんだけれどね。身近に格好いい大人がいるから、早く大人になりたくって必死なのよ……私達だって、格好悪い時期なんていくらでもあったのにね」
「大人っていい事ばかりじゃないんですけれどね。たまに、子供に戻りたいと思うこともありますよ」
「そうね。責任がついて回るから、辛かったりきつかったりすることがいくらでもあるわ。でも、その役目に耐えられるからこその大人なのよね。女王が私にしかできない役目なら、私も頑張らなくちゃって思えるの」
 トワイライトスパークルは笑顔でそう宣言する。
「俺は、ロイヤルガードに向いているのかな……クイーンクリサリスに近づきたいがためにこの役職になったから、いまいち自信がなくって、たまにあなたに仕えていていいのか悩みます。俺なんかよりもずっと強いクリサリスに全部任せちゃった方がいいんじゃないかって、そんな風に思うことも……」
「いいのよ。貴方にしかできないことがたくさんあるわ。スパイクも、貴方のおかげで睡眠時間が増えたもの。今まで赤ちゃんドラゴンだったのに、無理させていたから。それに何より、貴方はスパイクにはできないことを出来るじゃない?」
「それって、何?」
「小さな子供に注意をすることよ。クイーンクリサリスはまだ不器用だから、怖がらせてばっかりな言い方だったけれど、貴方は優しく諭す事が出来るから。いつかはそれも追い抜かれそうだけれどね……クリサリスは、よく学び、吸収するのが得意だから。なんだかんだ言って、観察力が優れていなければ誰かに変身してもすぐにばれちゃうでしょう?」
「そんなぁ……でも、クリサリスは本当に賢いのは事実だから、確かに子供への接し方も学んじゃうんだろうなぁ」
 そんなことになったら、今度こそ自分はお役御免じゃないかとブルーラブラドライトは声を上げる。
260 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/12(水) 23:19:02.86 ID:o9fKwyrc0
「でも、絶対に貴方にしか出来ないこともあるから大丈夫よ」
「それは何?」
「彼女の力になってあげる事よ。クイーンクリサリスの。例え、私のロイヤルガードが出来なくなったとしても、彼女の傍にいて上げなさいよ。私は、それが一番だと思うわ」
「プリンセスにそんなこと言われると……ちょっと照れます」
「本音言うと、私は貴方よりもロイヤルガードになって欲しい人がいるのよね。だから、貴方はクイーンクリサリスにあげようかなって」
「俺の事は厄介払いですか? 酷いですよ」
 トワイライトスパークルの本音に、ブルーラブラドライトは苦笑する。
「ともかくね。どんな人にも、役に立てる場面や、場所がある。ブルーラブラドライトも、それを理解して、実行するの。
 ラリティなんかがいい例だけれど、自分の役割というものはキューティーマークだけが全てじゃないわ。貴方は、ラブラドライトのキューティーマーク。
 誰かを良い方向に導くラブラドライトのような存在となるマークだけれど、今朝のように誰かを守る役目もきちんとこなしている。そういう才能を見つけて伸ばしてあげるのも、きっと大人の仕事ね」
「そうですね。子供を安全に守ることもきっと、そのための仕事の一つなのでしょう。きっと、彼も……」
 と言って、ブルーラブラドライトはスパイクを見る。
「そうね」
 すやすやと寝息を立てているスパイクを見て、トワイライトスパークルは微笑んだ。
261 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/12(水) 23:21:25.00 ID:o9fKwyrc0
変身系の能力者って演技力がかなり高くないとやってられないですよね。クリサリスは生理中でイライラしていたケイデンスでも観察していたのだろうか
262 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/13(木) 22:54:03.58 ID:K2B4oFsC0
 トワイライトが移動遊園地の視察(という名の満喫)に訪れたとある昼下がり。気持ちのいい陽気に包まれながらトワイライトスパークルが歩いていると、遊園地の広場には人だかりが出来ていた。また何か大道芸人でも着たのだろうかと覗いてみると、その中心にはペガサスがいた。ペガサスと言っても、羽毛の翼ではなく、(クリサリスは知る由もないが)いつぞやのラリティのような虫の翅のような翼をつけている。半透明の薄羽は、どちらかというとチェンジリングに近いかもしれない。
 桃色とピンクの鬣、紫の体。目の色は派手なサングラスに隠れて見えない。左足には緑色のリングを装着しており、ささやかなお洒落を演出している。キューティーマークはト音記号と五線譜と八分音符という、今まで見たこともない豪華なキューティーマークだ。これまでも音符やト音記号のキューティーマークを見たことはあるが、五線譜までセットというのは初めてだ。きっと、さぞや音楽に強いキューティーマークなのだろう。
「さぁ、皆さん。私の歌声を聞いてくださいな」
 彼女が宣言すると、俄かに歓声が沸き上がる。この騒ぎようからして、少なくとも彼女は一曲は歌っていて、そしてその歌声が素晴らしいものであることがうかがえる。トワイライトスパークルも聞いてみて、一瞬で心を奪われる。透き通る歌声、伴奏も何もなしにアカペラで歌っているのに、彼女一人の声だけで場を支配できるほどに力強く響く声。少しばかり太り気味な体型をしている彼女だが、恐らくその体型もあの声を出すために必要なのだろう。体の中で声を響かせているのだ。
 ふわりと浮きあがった彼女が歌声を振りまくその姿は、まさに歌姫と呼ぶにふさわしい。ラリティやフラッターシャイなども歌が上手いが、この女性にはとても敵うまい。讃美歌を静かに歌い終わり、盛大な拍手に抱かれながら彼女が地上に降り立つ。
「皆様、盛大な拍手をありがとうございます。わたくし、こうして歌を聞いてもらい、そして誰かの心を癒すのが大好きで、こうして旅を続けさせてもらっています。皆様の拍手は満足の証。今日も私の願いが満たされているのを感じます。
 まだまだ歌は続きますので、ぜひ最後までお聞きになってくださいな。次は、子供のころに本で見知って再現した曲でございます。この曲は、エクエストリアに生きるポニー達が平穏に生きられるようにと、スタースワールの魔法の言葉を織り込んだ歌となります」
 一曲終わるごとにそんな感じで、彼女は歌の紹介をする。そして美しい歌声で魅了しては次の曲に進む。そして、最後の曲を終えて、ようやく彼女はその名を名乗る。
263 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/13(木) 22:57:01.55 ID:K2B4oFsC0
「皆様、ありがとうございます。私の名前はスターソングメロディと申しまして、旅を続けながらこうして歌を振りまく流浪の身にございます。
 人を癒すのが趣味とは先ほど申した通りですが、しかし先立つものがなければ旅は続けられず……ですので、皆様にはお心ばかりのおひねりを頂ければと思います。
 もし皆様にその気持ちがあれば、私が着けているものと同じタイプのサングラスをご購入いただければと思います。お値段は五ビットでご提供させていただいています」
 そう言って、スターソングメロディが頭を下げると、ポニーヴィルの住人は彼女に殺到する。
「クリサリス! 早く買おう」
 ブルーラブラドライトが興奮気味に言う
「ふん、きな臭い奴だ……ポニー達の気分を高揚させる魔法を……ペガサスの体に隠れてこそこそと使ってやがるな!?」
 興奮気味に列に向かうトワイライトやブルーラブラドライトなどのポニーを冷めた目で見つめながら、クリサリスは言う。
「おい、ブルーラブラドライト!」
 クリサリスは彼を抜け殻にする魔法を使い、何でも自分の思うが儘に仕立てあげる精神状態に仕立てあげる。
「愛する私のために、今はデートを優先しようではないか」
「はい」
 ブルーラブラドライトがうつろな目をして答えるのを確認して、クリサリスはあたりを見回す。
「ねぇ、トワイライト! 約束に送れちゃうって……いったいどうしたのさ? いつもは予定通りにいかないと焦る癖に、今日に限って遅刻してでも歌を聞きたいだなんて、どうかしてるよ」
 そのすぐ近くでかわされる会話を横目で聞き流しながら、クイーンクリサリスは自分が今している行いが正しいと確信する。
 そして、スターソングメロディの中に隠れた存在が使っている魔法が、やはりポニーにしか効果がない事も確信した。
「いいじゃないスパイク! 素敵な歌を聞かせてもらったんだし、サングラスを買わなきゃ失礼よ」
「もう、そんなこと言うなら僕知らないよ!」
 スパイクは一人図書館へと帰って行った。
「……ロバはいるかな? あぁ、やはりか」
 ふと人だかりの中にロバがいないか、独り言を口走りながら探していたクリサリスは、あまりにひどいポニー達の熱狂ぶりに困惑気味のロバ夫婦を見つける。
 やはりこの事態、ポニーにだけ効く何らかの力が働いているようであった。
「行くぞ、ブルーラブラドライト」
 長居は無用とばかりに、クリサリスは足早にその場を立ち去って行った。
264 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/14(金) 00:18:11.99 ID:9M+K/bxV0
不穏な気配がt理通ってまいりました。また明日
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/14(金) 02:49:55.46 ID:fdCOgOlio
おつ
266 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/14(金) 23:01:05.98 ID:9M+K/bxV0
 そうしてクリサリスは徒歩で図書館に向かい、図書館の居住スペースにて不貞寝をしているスパイクの元に歩む。
「よう、スパイク」
 ぶっきらぼうに話しかけると、スパイクは目をこすりながら起き上り、相手がクリサリスであることから、本の返却に出も来たのかと推測する。
「あぁ、クリサリス。今日は本でも借りに来たの? あ、ブルーラブラドライトも一緒なんだ……今日は、トワイライトは居ないよ。
 なんだか、どうしても歌を聞きたいとか言って……少し様子が変だった。」
「いいや、ちょっとお前に会いに来たのだ。トワイライトにも用はあるが……まずはお前に」
「珍しいね? いつもトワイライトに会いに来ることはあっても、僕に会いに来ることなんてなかったのに」
「そりゃ、ポニーには出来ない事だからなぁ……」
 そう言って、クリサリスはスパイクに近づく。
「今日、トワイライトの様子がおかしいと言ったが、具体的にどんな感じだった?」
「トワイライトの? あのスターソングメロディの歌を聞いてから……歌を聞きたいだとかなんだとか言って、そのままスターソングメロディの後をついて行ったよ。
 スターソングメロディが遊園地のいろんな場所で歌いたいとか言っていたから、それについて行くんだってさ」
「そうか。ブルーラブラドライトの様子もおかしくてな。それで今、正気に戻すために一時的に私の支配下に置いているのだが……」
 言われてスパイクはブルーラブラドライトの方を見る。
「あはは! 本当だ、目がどこ見てるのかわからないや。前にレインボーダッシュも似たような感じになってたよね。顔に落書きしちゃっていいかな?」
「すぐに落とせるようにしておくのならばな……と、言いたいところだが、今はその時間も惜しい」
 スパイクの無邪気な問いに、クリサリスは笑って答える。
267 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/14(金) 23:05:20.67 ID:9M+K/bxV0
「それで、だ。単刀直入に言うと、あれはモンスターの仕業だ。トワイライトスパークルを正気に戻さないとまずいが……アリコーンであるあいつはマークされている可能性があるからな。
 まずはお前が強引にでも図書館まで連れてきて、そこで話がしたい。スパイク、『クリサリスが話があるらしい』とだけ伝えて、トワイライトスパークルを連れてこい。下手すれば、敵に街ごと乗っ取られるぞ」
「えぇ? 本当に? というか、敵って何?」
「エクスタシー……という魔物だと思われるが、確証はない。とにかく、私はいろいろ調べ物をしているから、詳しい説明は後だ」
「あぁ、そうさ。だから全力で連れてこい。プリンセストワイライトの命すらも危ういぞ。いまからブルーラブラドライトも正気に戻すから、こいつと一緒に行け」
 言うなり、クリサリスは角から光線を放ち、ブルーラブラドライトを正気に戻す。
「あれ、俺は今まで一体何を……? 確か、スターソングメロディの歌を聞いて……あ、そうだ。今の話も聞いていたよ。ロイヤルガードとして放っておけないし、行ってこなきゃ」
「それならば、水筒に水を入れて持っていけ。トワイライトスパークルに水をぶっかければ頭が冷えるはずだ。氷も入れておけ」
「ロイヤルガードとして、プリンセスにそれは……いや、やらなきゃダメか」
 氷の入った水をかけるなどという畏れ多い行為をプリンセスに対してできるものじゃないとブルーラブラドライトは一瞬ためらうも、すぐに背に腹は代えられないと思いなおす。
「頼んだぞ、ブルーラブラドライト。スパイクはどうする?」
「ぼ、僕も!」
 クリサリスに話しを振られて、スパイクは慌てて了承した。
「頼むぞ、二人とも」
 クリサリスの脅しに怯えたのか、スパイクは足早に行ってくる! と走り出した。
「さて、エクスタシー対策は……聖火だったな。取りに行く方法が書かれた本がないか調べてみるか」
 そう言って、クリサリスは図書館の本を漁り始めた。
268 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/14(金) 23:39:18.44 ID:9M+K/bxV0
また明日合いましょう。お休み楽しみだなぁ
269 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/15(土) 23:59:10.74 ID:J4BuHjzJ0
 数分後、二人はトワイライトを連れてやってくる。
「あの、クリサリス……私は、一体……何だったのかしら? 私が、私じゃなかったような……」
 トワイライトは自身の行動に酷く動揺した様子で、少し目が怯えている。
「今から説明する。早速本題に入ろうか。今日現われたスターソングメロディというポニーだが、なんというかモンスターに取りつかれている。そのモンスターの件だが名前はエクスタシー」
「それって、快感とか、恍惚感って意味の言葉よね? それが、魔物?」
 クリサリスが出した名にトワイライトが尋ねるが、それはどうやら違うようだ。
「そうだ。そういった感覚を与える魔物と言ったところか。奴らは、誰かに取りついて精神を乗っ取るモンスター。いわゆる悪霊さ。あのポニー……スターソングメロディは、それに囚われている」
「そんなものがいるんだ……まだまだ勉強不足ね……でも、どうしてわかったの?」
 トワイライトが問う。
「ポニーが皆正気ではないからだ。ポニー達を惑わす魔法を使い、歌と合わせることでトランス状態にしたのだろう。そのせいで、あの場は異様な雰囲気ではなかったか?」
「異様も何も、予定に厳しいトワイライトが予定を無視して行動している時点でありえないよ」
 クリサリスの言われたことに心当たりしかないスパイクが言う。
「そう、ね」
 トワイライトもこれについては肯定するしかない。
「エクスタシーは、恍惚とした状態な者達に近づき、取り憑く。そして、『恍惚とした気分をもっと味わいたい』という感情を食べて、奴らは増殖する。
 増殖するとき、奴らは麻薬のように意味もなく取り憑いた物を幸せな気分にさせる。そして、その幸せな気分をもっと味わいたいと思えば、またもや奴らは増殖する。
 そのうち、取り憑かれた者は何も出来なくなって、幸せな顔をしたまま餓死をする。私と同じく感情を食べる生物の中でも、かなり危険な魔物だ」
「恐ろしい……魔物ね。それで、そのエクスタシーの対処法はあるのかしら? このままじゃ危ないのでしょう?」
 恍惚とした状態に至らせるまでの、スターソングメロディの歌声も大したものだが、あそこまで熱狂するのは奴らの力も大きいだろう……それで、対策法だがな」
 トワイライトに問われ、クリサリスはあぁと頷きながら一冊の本を差し出した。
「奴らの弱点は聖火だ。聖火とは太陽の光を集めて着火した炎だが、今回のものはより純度が高いものが必要でな……太陽に炎を直接取りにいかねばならない。
 奴がサングラスを購入させたのも太陽に弱いためでな……だから、お前らにサングラスを購入させて、夜に本格的に活動を開始するはずだ。
 奴らを打倒すだけなら、取り憑かれたポニーごと殺せばいいが、それは流石にいけないだろう。だから、奴らだけを退治する方法となると、聖火しかない……だが、その聖火というのは、取りに行くのがきつくてな」
「そうね……私達も月までロープで伝ったことはあるけれど、太陽は流石に……どうすれば」
 トワイライトが首をひねると、それも調べてあるとばかりにクリサリスがコホンと咳払い。
270 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/16(日) 00:02:53.65 ID:xR/TM7/F0
「直接太陽から持ち出すことが出来るのは、恐らくプリンセスセレスティアと、フレイムポニーの一族だけだ」
「え、俺?」
 いきなり自分の種族の名を告げられて、ブルーラブラドライトは驚き、目を丸くする。
「あぁ、そうだ。出来ないというのならば、スパイクに今すぐ手紙を出してもらって、プリンセスセレスティアに頼む方がいいと思うが……」
 クイーンクリサリスはブルーラブラドライトの表情をうかがいながら言う。
「私としては、プリンセスの手を煩わせたくないけれど……でも、ブルーラブラドライトが不安なら……」
 同じく、トワイライトスパークルもブルーラブラドライトの方を見る。
「いえ、やります!」
 二人に表情をうかがわれながらも、プレッシャーに耐えてブルーラブラドライトは口にする。
「ほう」
 と、嬉しそうにクリサリスが言う。
「ならば、お前には翼を授けないとな」
「あれ、クリサリスは翼を作る魔法を使えるのかしら? 私も翼自体は作れるけれど、燃えやすいからどうすればいいのかと思ってて……」
「翼を作る魔法なぞ必要ないさ。私が翼となって太陽の近くまで飛べばいい。使う魔法は、そうだな……空気が薄くなっても呼吸が出来るように、空気を連れていける膜の魔法が必要だが、それくらいだな……あとは、トワイライト。お前、確か重力を反転させる魔法を使えるだろう? そいつを使う」
「俺を抱えて太陽よりも上に飛ぶって……クリサリスはそんなことできるの?」
 不安げに尋ねるブルーラブラドライトの不安をかき消すようにクリサリスは笑う。
「そんなに私が軟弱ものに見えるか?」
「いや、全然。聞くまでもない事だったね」
 クリサリスが質問に質問で返すと、ブルーラブラドライトはそう言って苦笑した。
「それで、太陽の近くまでいけば太陽の引力に惹かれて落ちるから……聖火をとってくると同時に私が重力反転の魔法を使えばいいわけね? ともかくそれで聖火をとってきたとして……それで、その聖火をとってきた後は、どうすればいいの?」
「あぁ、それなら、適当に町の上で掲げておけばいい。奴は……スターソングメロディは恐らく、最もその力が高まる夜にもう一度リサイタルを開くだろう。その時、歌声に引き寄せられて恍惚となっているポニーにエクスタシーたちは取りつき、増殖するだろう。だが、聖火があれば奴らの力を弱まらせ、上手くいけば消滅させることも出来る。というより、させないと危ない。
 奴らに乗っ取られたら最後、そいつは奴らの養殖場になってしまう。あのスターソングメロディのように、エクスタシーを増やすために働かせられたり、な。スターソングメロディ……あいつも、助けてやらねばな」
 何の気のないクリサリスの一言であったが、ポニーを助けることに義務感を感じているクリサリスに、やはり彼女は変わったのだとトワイライトは実感する。いまするべきことではないが、プリンセスセレスティアへの報告には書き留めておくべきことだろう。
「そんなぁ、そんな大変な奴らを相手にしなきゃならないの?」
 スパイクがクリサリスに尋ねるが、彼の頭をトワイライトが撫でる。
「大丈夫よ、スパイク。私達はどんな敵が相手でも、戦い抜いて、そして勝ったでしょう? 今回だって、切り抜けられるはず。さぁ、行くわよブルーラブラドライト」
「はい、プリンセストワイライト」
 このままじっとしては居られない。クリサリスと共にこの街を救うのだと、トワイライトは奮起した。
271 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/16(日) 00:05:11.08 ID:xR/TM7/F0
今日の所はこんなところです。来週はケモコンというイベントがあるのですが、そこにポニーは来てくれるのかドキドキです。
私も参加するんだけれど、青い子犬の悪魔でポニーとは無関係なんですよね
272 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/16(日) 22:18:34.59 ID:xR/TM7/F0

 今回は太陽に近づく必要があるため、ロイヤルガードの任務であっても鎧は着用できない。もしも鎧をつけてその場に赴けば、鎧は蝋燭のように溶けてなくなってしまうだろう。
 太陽に直接触れるというのは、それくらいに危険なことであり、スパイクをはじめとするドラゴンの体表ですら危うい任務である。
 しかし、炎の魔法を操り、炎に愛されたポニーであるフレイムポニーならばそれが出来る。ブルーラブラドライトは、クリサリスに抱えられてひたすら空へと昇っていた。
 だんだんと空気は薄くなるが、クリサリスとトワイライトが特別にこしらえた空気の膜の魔法のおかげで窒息することはない。
 周囲の温度は目に見えて上がっているし、真っ黒な体のクイーンクリサリスは太陽の光をもろに受けて非常に暑苦しそうだ。
 太陽の近くまで飛ぶためには、相当遠回りしてやらねばならないだろう。
「くっ……案外きついものだな。こんなに暑いとは思わなかったぞ……バリアも、もう少し厚く張っておくべきだったか」
 すでに雲は遥か下に位置し、空気は薄いがその分日差しばかりがさんさんと降り注ぐ。ブルーラブラドライトは何ともないが、それ以外の生物には辛い。
 燃えやすい素材のものならば、すでに着火してもおかしくない温度である。空気を連れていける膜の中でクーリングの魔法を行ってはいるが、どうにもそれだけでは足りないようだ。
「大丈夫なの、クリサリス?」
「ダメだ。もう少し粘りたかったが、限界だ。トワイライト!」
「オーケー。今から重力反転の魔法をかけた後に貴方を強制的にテレポートさせるから、ラブラはきちんと歯を食いしばっておきなさい」
 音を上げたクリサリスに託される形でトワイライトスパークルがブルーラブラドライトに重力反転の魔法をかけた。
 今回はそれだけでは発動せずに保留状態となり、ついでテレポートの魔法を用いて彼は太陽の引力圏まで移動させられる。
273 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/16(日) 22:22:12.91 ID:xR/TM7/F0
 そこから先、ブルーラブラドライトは太陽から聖火を手に入れたら、自力でトワイライトが掛けてくれた重力反転の魔法に魔力を追加せねばならない。
トワイライトも直接彼に魔法をかけられるのであれば楽なのだが、射程距離が短く、太陽にいる彼に直接魔法をかける手段はない。
 そのため、ブルーラブラドライトにはあらかじめ魔法をかけておき、彼自身の魔力を追加することで魔法を発動できるように調整するとのこと。
地上では何度も練習して成功させたが、ブルーラブラドライトのプレッシャーはものすごく、トワイライトも自分の無力さには歯噛みしていた。
 彼もユニコーンであるし、見習いとはいえロイヤルガード。何かの時のために簡単なものならば使えるため、そこまで問題ではないだろう。
さて、テレポートをしてから太陽の引力に引かれて落ちていったブルーラブラドライトは、光に目をやられないように蹄で目隠しして、魔法で自身の体を包み込んで減速して着地した。
 炎の塊である太陽に降り立ったら、次はそれを程よい大きさにちぎって咥えてもって行く。ペガサスが雲や虹をつかめるように、フレイムポニーは当たり前のように炎を掴むことが出来る。
 シャイニングアーマーも驚いたこの能力だが、太陽から聖火を持ち出すなどという機会が訪れるとは、正直彼も予想外であった。蹄は目隠しに使っている為、不恰好でも口でくわえるしかないのが難点だ。
 トワイライトの魔法に魔力を追加しなければならない。口の中が今まで体験したこともないくらいに乾ききり、声を出すのもつらいが、なんとか『太陽の重力を跳ね返せ』と呪文を唱えると、
トワイライトが掛けてくれた魔法が発動して、太陽から斥力が働いて太陽から離れていくのを感じる。
 自由落下の浮遊感に包まれながら目を閉じていると、並んで飛んでいるクリサリスの気配を感じる。そろそろ目を開けても大丈夫かと、聖火を咥えたまま気配のする方向を見てみれば、こちらを笑顔で見つめるクイーンクリサリスが見て取れた。
274 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/16(日) 22:39:22.51 ID:xR/TM7/F0
ちなみに、トワイライト達が月まで行ったことがあるというのはコミック版のナイトメアラリティ回の時です。決してバナナ的なあれではないです
275 :</b> ◇QWO3xeEtwU<b> [saga]:2014/11/17(月) 23:46:59.34 ID:AmpikBjD0
「よくやったぞ、ブルーラブラドライト」
「ご苦労様、ラブラ」
 クリサリスとトワイライトが賛辞を贈る。これにはブルーラブラドライトも感無量だ。
「はい! ありがたき幸せです」
「さ、あとはゆっくり降りていきましょう」
 トワイライトスパークルも一緒になって飛び、地表が近づいてきたあたりで二人は両側からブルーラブラドライトを掴み、少しずつ減速していく。
 じわじわと地面が迫ってくるが、それを危険だと感じさせない程度まで速度を落としたところで、彼らは地面に降り立った。
 ブルーラブラドライトの口には、神々しく燃え盛る美しい聖火が、誇らしげに咥えられている。
「この聖火の光を奴らに近づけるだけで何とかなると本には書いてある……あとは、エクスタシー退治など簡単なものさ」
 クリサリスが微笑む。
「良かった……失敗したらどうしようかと思ったよ」
 地面に降り立って安心したのか、ブルーラブラドライトはプリンセスの御前だというのに座り込んでしまう。
「しかし、あれだな……あとは簡単、と言えるのも思えばお前のおかげだな。感謝するぞ、ブルーラブラドライト」
「あぁ。でもそれはロイヤルガードとして当然のことだし、それにほら、クリサリスのためにもね」
「そんなことは分かっているさ。トワイライトもねぎらってやれ」
 クリサリスがすまし顔で言う。
276 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/17(月) 23:55:06.39 ID:AmpikBjD0
「そうね、ありがとう……ブルーラブラドライト」
 そう言って、トワイライトは自身の角を彼の肩に当てる。王族や貴族が行うこの動作は、相手への深い感謝と敬意を表す行為である。
 王族からこれをしてもらえるのは最高の名誉であり、ブルーラブラドライトは感激で体が震えそうになるのを押さえて、平静を振る舞った。 
「ブルーラブラドライトが、街の皆のために頑張っていて……そして私も、お前達のために頑張っている」
 ふと、今の状況を確認するようにクリサリスが言う。
「いいな、この感じ。今まで感じた事も、想像したこともないような一体感だ。こんな時になんだが、私は誇らしく思うぞ。
 ただの、チェンジリングの女王であった時にはなかった感覚だ」
 今までにない笑みを浮かべて、クリサリスは誇らしげに言い放った。
「俺も、クリサリスとともに戦えて嬉しいよ。何というか、ロイヤルガードとして自信がなくってさ……プリンセスを守るために戦うなら、クリサリス一人で十分なんじゃないかって。
 でも、俺にしかできないような役割もあるんだなって思うと、すごく誇らしい……太陽に似ることが出来るのは、俺達フレイムポニーだけだなんて、意外なところで役に立つものなんだな……」
「フレイムポニーにペガサスがいないのも、そう言う理由らしいわ。太陽から聖火を持ち帰って戦争に利用されたらたまらないからって……でも、こうやって平和利用する分にはいい能力ね」
「あぁ、ありがとうございます、プリンセストワイライト」
 地震の能力を褒められて、ブルーラブラドライトは照れ臭そうに笑みを見せた。
「しかし、ブルーラブラドライト。自分にしかない役割があるなどと……今更何を言っておるのやら。私がお前より強い事に疑いの余地はないが、しかしその強さをくれるのは……お前達の愛だ。
 私達チェンジリングは、一人じゃか弱い種族だ。お前達のおかげで、私は強くなれる……それだけの話じゃないか」
 クリサリスはブルーラブラドライトの言葉を笑う。
「そして何よりお前は、私に最も早く、ありのままの姿でも愛されることが出来るのだと教えてくれたじゃないか。それ以上の役割を探そうだなんて、贅沢だぞ?」
「そうだね、クリサリス……愛してるよ」
 愛おしげな眼でクリサリスとブルーラブラドライトが見つめ合う。トワイライトスパークルとスパイクは見ていられず、その場をそっと立ち去るのであった。
277 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/17(月) 23:55:50.04 ID:AmpikBjD0
人前でも平気で愛してると言えるあたりはアメリカン的なのりを意識してみました。
278 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/18(火) 22:46:55.78 ID:bB501rIK0
 聖火の準備を終えたクリサリスは、トワイライトとブルーラブラドライトを休ませ、自身は一人戦力を集めに向かう。
「悪い事してると、プリンセスセレスティアに月へ送られちゃうぞー」
「つきおくりはいやー!」
 パトリックはいまだに五人の子供を一手にあずかるベビーシッターの仕事をしていた。彼はよっぽど子育てが上手いのか、最近では彼が子供を預かっている昼のお母さんは好きだが、夜のお母さんはつまらなくて嫌だと愚痴をこぼすほどになっていた。
 しかり方もうまく、本物の母親程ヒステリックにしかったりしないため、彼の方がよっぽど子供も従ってくれるのだ。
 チェンジリングの特性を存分に生かしつつ、なおかつ相手に合わせた接し方をきちんと考えて行うパトリックは、持ち前の頭脳で本に書かれた上手な育児に憑いてを叩きこんでいる為、どこの家に行っても子供をなれさせるのはお手の物であった。
 そんな彼の元に、来客が現れる。
「パトリック、子供と戯れながらでいいから聞いてくれ。今日の夜に仕事を頼みたい」
「おや、珍しいですね。いつもはブルーラブラドライトに頼むのに……いいですよ、もちろん。私でよければ喜んで参りましょう」
 最近はあまりクイーンクリサリスに構ってもらえていなかったパトリックは、そう言ってうれしそうに微笑んだ。

「ロイ、仕事明けで済まないが、すこしばかり用がある」
 夕暮れ時、パトリックよりも先に家に帰っていたロイは、流した汗をバスルームで流して、リビングでストレッチをしながらくつろいでいた。そんな時、クリサリスは無造作に玄関のドアを開けて、中にいたロイに話しかける。
「おや、どうしました? 確かに体は疲れていますが、まだまだ余裕ですよ」
 ロイは相変わらずの肉体労働に従事しており、しかしその怪力と、働く際のまじめな態度のおかげで、職場では一定の信頼を受けていた。
 のためか最近が働くことが楽しいとのことで、ついつい頑張りすぎて疲れてしまっているようであるが、やせ我慢も一流のようである。
「頼むぞ。この仕事、ポニーには頼めないのだ……すこしばかり戦いになるが、ポニー達に牙をむくことはない。安心して思いっきり、チェンジリングの強さを見せつけてやろうではないか」
 クリサリスはそう激励してロイのやる気を滾らせる。すっかり乗せられたロイは、期待に応えようとやる気十分にうなずいた。
279 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/18(火) 22:55:46.15 ID:bB501rIK0
 そうして、夜が来る。美しい歌声は、今度は町中に届く勢いで拡散された。夜だから音が届きやすいというのもあるのだろうが、どうやら魔法で遠くまで音が届くように仕掛けているらしい。
 きっと耳栓をしたところで無駄だろう。昼間にその歌声を脳裏に刻みつけられた者は、歌声に誘われるがままにふらふらと導かれている。トワイライトも危うく正気を失いかけたが、魔法をシャットダウンする特性の耳栓を耳に詰めることで何とか正気を保つ。
 そうして、歌を無視してたどり着くと、広場にはいかにも歌に興味がなさそうなレインボーダッシュや、仕事で忙しいであろうラリティなど、とても誘われそうにない者達まで訪れている。
 アップルジャックは昼間に歌声を聞いていないのかこの場にはいないが、それ以外はいつものメンバーが集結しているようだ。しかし、トワイライトスパークル以外は正気を保っていないようで、うつろな目をして恍惚としている。
 正直な話、そのようにうつろな目をしていない者達があまりに多すぎても敵が警戒してしまうのではないかと考え、今回はあえていつもの六人で作戦を共にすることはしなかった。そうでなくとも、数人いれば方がつく算段だ。

 恍惚感、快感や悦楽などは、『魂が抜けたような』、と表現することもある。エクスタシーという魔物は。そういう状態の者に取り憑き、そして心身ともに乗っ取るのだ。取りつかれてしまえば、不毛な快感が精神を焦がし、その精神は死ぬまでの幸福感を約束される。
 その状態から抜け出すのは並大抵の精神力ではかなわないだろう。
 あの真面目なトワイライトスパークルでさえも囚われてしまった存在だ。弱点はあっても、聖火をとることが出来なければ、強敵ということに他ならないだろう。
 クリサリスは現在、ポニーに化けてこの場にいる。トワイライトスパークルから少し離れた場所に陣取り、援護をしようと思えばすぐできるし、かといって敵が何か手を打っていても、一網打尽にはならないような位置取りだ。
 この隊列自体はブルーラブラドライトのアイデアで、散開して一気にやられないようにするのがいいと、彼が進言したのだ。ロイヤルガードとしての知識は教科書通りなりに役に立っている。
「みなさま、こんな夜更けに再びお集まりいただき、誠に感謝いたします。今宵は、天にも昇る気持ちでわたくしの歌を聞いていただけたらと思います。それでは皆様、昼のうちにサングラスを購入して頂いた方は、ぜひサングラスを装着してください!」
 そう言って、スターソングメロディが恭しく頭を下げる。エクスタシーは、夜行性で太陽の光に弱い。その弱点を補うためのサングラスなのだろうが、聖火の前ではそんなものは無駄だ。
「その必要はない」
 名前も知らないアースポニーに化けたクリサリスが、群衆の輪を抜けてスターソングメロディの前に立ち、彼女のサングラスを奪い取る。
 スターソングメロディのサングラスの下には、緑色に怪しく光る闇魔法に侵された眼。
 見る者が見れば、一目で魔法にかけられているとわかる形相だ。
280 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/18(火) 22:58:49.31 ID:bB501rIK0
幻覚剤や麻薬などを服用して恍惚とした状態になるのは、魂が半分抜けた事が原因だとか、またそういう状態の体に何かの幽霊が入り込んだという信仰は世界中に見られます。
この物語に出て来るエクスタシーは、何かの拍子に魂が抜けた者に取り憑く幽霊ということです。このお話の場合では、素晴らしい歌を聞いたことで魂が抜けたということですね。
それではまた明日会いましょう
281 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/19(水) 22:38:44.10 ID:f7a1VfGZ0
「え?」
 と、スターソングメロディが驚いているうちに、群衆の中に紛れ込んでいたチェンジリング二人が彼女にのしかかって押さえつける。
「ラブラ! 聖火を出せ!」
 クリサリスとトワイライトが協力して、観衆のサングラスを外す。ラブラドライトが黒い箱に封じ込めていた聖火を取り出すと、それはさんさんと輝いてあたりを照らした。
 どっぷりと日も暮れて太陽の明かりが一切なくなった夜に、いきなり昼と見まがうような光が現れ、そこにいる全員が目をくらませてしまう。クリサリス達も目が慣れるまではとても直視できたものではないので、散々他人のサングラスを奪っておいてなんだが、自分達だけはサングラスを着用していた。
 その状態で見た光景は恐ろしいもので、聖火の光に照らされたエクスタシー達は、歌に魅せられたポニー達の体に入り込もうとしている姿をありありと映し出されている。そして、炎に照らされ正体を暴かれたそれらすべてが、例外なく苦しんでいた。
「くっ、やめて! その光を当てないで!」
 スターソングメロディがうめき声を上げる。しかし、そんな声に耳を貸すはずもなく、ブルーラブラドライトは魔法で炎を掲げ続けた。
「すみません……ファリグ様……」
 煌々と燃える炎がスターソングメロディを照らし続けると、彼女はそう言い残したあと静かになって、ぐったりと横たわった。エクスタシーは全て消え去っている。
「くっ……思ったよりも威力が高いな、一人や二人生け捕りに出来る方が良かったのだが……聞きたいことが山ほどあったというのに」
 ひとまず危機は去ったのだが、クリサリスは予想以上に効果てきめんな聖火の威力に、毒づいていた。
「ねぇ、トワイライト……いったい何が起こったの?」
 クリサリスやチェンジリングがスターソングメロディから離れたところを見届けて、ラリティがトワイライトスパークルに問いかける。
「あぁ、今のは……あのスターソングメロディってポニーに、なんというか、悪い魔物が取り憑いていたの。それを、クリサリスと一緒に退治したのよ。目立たないように、あくまで秘密裏にね。
 怪しまれて逃げられてもいけないからってことで、貴方達に伝えなかったのは悪かったわ」
 トワイライトがラリティ達に謝る。
「いや、何事もなく終われたなら、僕はそれでいいよ」
「そうね、何事もなくてよかったわ」
「でも、今度は私達に頼ってよね」
 それに対してレインボーダッシュ、フラッターシャイ、ラリティがそんなコメントをしたところで……
「悪者を倒したってことは、お祝いしなきゃだよね!? パーティーしなきゃ!!」
 ピンキーパイはこのありさまだ。
「……今日は疲れたから明日にしてくれ。今日は、ブルーラブラドライトと二人で静かに過ごしたい」
 クリサリスは、勘弁してくれとばかりに項垂れていた。
282 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/20(木) 00:27:05.54 ID:O4dCmojT0
 スターソングメロディは、長い事エクスタシーに取りつかれていた影響で幸福感に包まれた状態が当たり前になっていたおかげか、エクスタシーから解放された今、酷い虚脱状態に陥ってしまって、現在は病院に運ばれていった。意識もはっきりとしないので、これからは長いリハビリが必要だろうが、いつかはまた元気に歌える日が来るだろう。
 彼女には聞きたいこともあるので、そちらの理由も含めて速い所日常生活を取り戻してほしいものである。

 ともかく、ポニーヴィルからは脅威が去ったため、今回の事は日記に書くとともに、手紙にしてプリンセスへと報告する。
「『以上が、エクスタシーへの対処法です。これと同じ内容をプリンセスセレスティアにも送りますが、なるべく多くの目に触れるようにこちらの交換日記に記します』。よし、スパイク。これで頼むわね」
「アイアイサー」
 図書館の一階、蔵書スペースにて、トワイライトとスパイクが今回起きた事件について日記を書いている。その隣では、クリサリスとパトリックが愛を得るために大切なことについて記されたレポートについて書いている。
「じゃあ次、俺書きますよ。スパイク、お願いな」
「了解! ガンガン言っちゃって」
 愛のレポートに記入を済ませたところで、ブルーラブラドライトは交換日記への記入を始める。
「『今回の事件で、俺は俺にしか出来ないことを任された。それは誇らしい事であると同時に、今まで自分は役に立たないとか、必要ないんじゃないかと卑屈になっていた自分を恥じる機会でもありました。何かしら、自分にしかできない役割というのを持ち、そしてその時が来るまで役立たずだっていいじゃないか。そう胸を張って生きることが大事なのだとおもいます。
 もちろん、役立たずに甘えていいわけではなく、その時に備えて自信を高める事は忘れずに』。これでお願い、スパイク」
「オッケー」
 と、スパイクは羽ペンをインクを追加して、さらさらと記入を続ける。
「ねぇ、クリサリス。貴方達は何を書いたのかしら?」
「ん、読むか?」
 トワイライトが愛のレポートを覗いてきたので、にやけた表情でクリサリスが問う。
「もっちろん」
 と、トワイライトが言えば、クリサリスはパトリックに目くばせをした。
「ほらよ」
 と渡されたレポートには、今日起きたこと、行ったことを簡潔に書いた記述の後にこう書かれている。
「『やはり共同作業というものはいい。愛情が深まっていくのを感じる。お互いが力を合わせなければできない事、お互いの弱点を長所で補い合う事。そのすべてが、絆や愛情を育てていくのだろう。今回はそれを深く感じだ(クイーンクリサリス)』『本当、抱きしめられている間に、すごく一体感を感じたし、クリサリスの魔力が強まるのを肌で感じた。愛って偉大なものだと再認識したよ(ブルーラブラドライト)』。
 二人とも、仲良しなのね……いつか夫婦にでもなっちゃうんじゃないかしら」
 下世話なことを言う、トワイライトに、クリサリスとラブラドライトはしたり顔で言う。
「それもいいかもな」
「ロイヤルガードに暇(いとま)を頂いた暁には、そうさせていただきます」
 また結婚式をおこなう日も遠くない。トワイライトはそう感じて、思わず笑みがこぼれた。
283 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/20(木) 00:28:01.04 ID:O4dCmojT0
一次創作してたらすっかり忘れてた。次回から、最終章である『愛情も魔法』が開始します。かなり長いのでわけるかも
284 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/20(木) 22:09:31.40 ID:O4dCmojT0
「邪魔するぞ、トワイライト」
 今日も今日とて、クイーンクリサリスはフラッフルパフとともに図書館へ入り浸るつもりで非番の日を過ごす。
「あぁ、クリサリスさんおはようございます! 今日も朝から図書館のご利用感謝いたします」
「おはよう、クリサリス」
 中では、ロイヤルガードとして働いているはずのブルーラブラドライトがトワイライトと一緒に本の整理をしている。本来はプリンセス以外との口を利かず、必要なとき以外が微動だにせずに周囲に気を配っているはずのロイヤルガードとして、このふるまいはどうなのか。口調だけは真面目でクリサリス相手にも手を抜いていないが、本の整理はロイヤルガードの仕事ではなかろう。
「おや、スパイクはどうした?」
「ラリティと一緒にラスペガサスの客先へ納品しに行っているわ。なんでも、すごい大荷物になってしまったから自分一人じゃ抱えきれないし、それにラスペガサスでもいろいろショッピングをして回りたいとかで……あそこ、ネオンクラウズっていう光り輝く雲があるから、それをほどいて糸にすれば、光り輝く布が出来るとかどうとか……」
「ふむ、それでブルーラブラドライトがスパイクの代わりという訳か」
「そういうこと。本の整理も私のロイヤルガードになるなら必要なことだわ」
「それは本来秘書官の仕事だと思うのですけれどね……」
 トワイライトの言葉にブルーラブラドライトは苦笑する。
「大丈夫よ、普段はスパイクにやらせているから。でも、私の睡眠時間を守るのもロイヤルガードの仕事よ」
「敵いませんなこれは……」
 身内だけしかいないのもあって、ブルーラブラドライトは割とフランクに接している。それでも、敬語は解かないあたりは仕事中という自覚はあるようだ。

285 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/20(木) 23:13:18.26 ID:O4dCmojT0
「そういえば、ラスペガサスと言えば……最近神隠しの事件が頻発しているという新聞記事を見つけたが……物騒な事件もあるものだな」
「あぁ、それね。なんでも歓楽街……要するに、男女が遊んだり、いかがわしい事をするような場所で頻発しているらしいわね。しかも浚われるのは男女問わず。
 そう言えば、ポニーヴィルもいずれは発展させるつもりだけれど、発展するにつれてそう言うのも出来ちゃうのかしらね……
 市民のガス抜きを用意しないとそれが膨れ上がって悪い方向に向かうこともあるかもしれないけれど、かといって自由奔放にさせ過ぎても風紀の乱れが怖いわね……どう調整していくべきか」
 会話の中で出てきたワードに対して、トワイライトは真面目に考える。独立国家となった以上、国を背負わなくてはならないため、こうしたことを自然と考える習慣がついてしまった。
 苦労が絶えないその表情を見て、クリサリスは尊敬と好感を感じ、ブルーラブラドライトは気疲れしないかと心配している。
「恋愛が自由にできるような土地だと、そんな施設も必要ないのですがね。私の村では、皆が顔見知りだもんで、人数が少ない分出会いも親密さもぎゅっと詰まっていましてね。ですから、こう……男女の出会いの場と呼べるような施設はうちにはないのですよ」
「そりゃ、ね都会だと人数が多すぎて、一人を見つけるのが難しい、という訳か。だが、運命的な出会いがあれば、他が一万人いようが関係あるまい。なぁ?」
 と、クリサリスは言う。
「ええ、貴方に出会えて心から良かったとおもいます」
 ブルーラブラドライトはにっこりと笑ってクリサリスに返した。
「もちろんプリンセスともね」
 しかし、今の自分はプリンセスに忠誠を誓った身だという事を思い出して、慌てて彼はそうフォローする。
「ありがとう、ブルーラブラドライト」
 そんな彼をほほえましく思って、トワイライトは笑みを返した
286 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/20(木) 23:29:15.49 ID:O4dCmojT0
こんなところで今日の更新は終わりです。明後日はついに楽しみなイベントが……
287 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/21(金) 21:37:33.86 ID:uonqVrVx0
「しかし、なぜ歓楽街の、しかも大人ばかりなのか……わからないわね」
「不埒な男女はお仕置きだってことじゃないですかね? かつてのユニコーンは、不貞の輩には容赦しない法律もあったわけですし、その文化を今でも大事にしている過激派の一派とか……ありうるかもしれませんよ?」
 トワイライトのボヤキに、少々おどけた口調でブルーラブラドライトが言う。
「そうね……なんにせよラリティが、良さげな男に手を出そうとしてさらわれていなければいいけれど」
 トワイライトも少々お茶らけた様子で心配して見せた。
「その時はスパイクが助けてくれるだろうさ。あいつの愛は相当だよ」
 クリサリスはすまし顔で言う。
「そりゃ、ただの一目ぼれかと思いきや、二年以上も片思いを続けているわけだしね。あんな一途な恋なんて、そうそうお目に書かれる者じゃないわ」
「そうなのか? どおりで……見た目だけ似せても誘惑されないんだあいつ。一目ぼれという割には、ラリティには見た目だけで惚れているわけじゃないのだな……ふむ、興味深い。そんな愛はいったいなにから生まれてくるのか、調べてみたいものだ」
「クリサリス、貴方そういうことしたら可哀そうよ。あの子、ラリティの見た目だって好きなんだから」
 スパイクの愛情を試すような行為をしたクリサリスの言動に、トワイライトは困り顔をして言う。
「あいつが試せと言ったんだ。僕のラリティへの愛は世界一だってな。だから試しただけさ、文句を言われる筋合いはない」
 それに対して、クリサリスはにやりと笑って悪びれなく返すのみ。
「はは、それなら仕方ないわね……あの子、一言多いからそういうことをされちゃうのよね……我慢するのも大変だったでしょうに」
「上手くいけばドラゴンの子供を産めたのに、残念だ」
「か、彼はベビードラゴンですよ?」
 不穏な言動を漏らすクリサリスに、ブルーラブラドライトは突っ込みを入れる。
「私はそう言う種族なのだ。あまり気にするな」
 しかし、クリサリスは悪びれることなく言い放つ。やはりポニーとチェンジリングは、愛し合ったり友情をはぐくむことは出来ても、完全に相いれる事は出来ない壁があるのだと感じさせるやり取りであった。
288 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/21(金) 21:48:38.52 ID:uonqVrVx0
 本の整理が終わったトワイライトスパークルは、今日の用事の一つであるスターソングメロディお見舞いに行く。彼女はエクスタシーの支配を逃れてからしばらくは禁断症状に苦しんだものの、今現在は落ち着いており、病院ももうすぐ退院できると言ったところ。しかしながら、蹄で周囲を掻きむしろうとしたために縛られた跡が生々しかった。
「体の方はどうかしら?」
「昨日よりもいいですよ。今日は長いお話も出来そうです」
「本当? なら、貴方が思い出せる限り、あのエクスタシーの事について聞かせてもらうって……出来るかな? 今後のための資料として、残していきたいことがたくさんあるの」
「正直、よく覚えていない部分もたくさんありますが、それでもよろしいでしょうか?」
「構わないわよ。覚えていないということも、一つの指標となるでしょう?」
 そう言って、トワイライトスパークルが笑顔で応対する。ブルーラブラドライトも本来は笑顔ではなく無表情でいなければいけないが、警戒心を解かせるためにも笑みを浮かべて対応した。
「プリンセスと直々にお話が出来るなんて光栄です。えっと……なんて言えばいいのかな? 私、昔っから歌を歌うのが好きで、それで楽しんでもらうのが大好きだったんです。キューティーマークも五線譜と音符とト音記号がセットになってて、すごく豪華でしょう? 才能の表れなんだとおもいます」
「うん、音楽の才能の中でも、ここまでの者は初めてだわ。大きかったり豪華だったりすればいいものではないと思うけれど……貴方の歌声、すごく素敵だもの」
「でも、見た目が悪かったんですかね? このぽっちゃりとした体じゃないと、いい声だすの難しいんです」
「それって、迷信じゃないかしら? 腹式呼吸がお腹の脂肪に関係するのかしらね?」
「わかりません。けれど、がりがりに痩せているよりかは幸せに見えるから、幸せそうに歌えば、みんなもつられて幸せになるんですよ」
「うふふ、そうね」
 話し合いは和やかに進む。
「ともかく、私は歌は上手いけれど売れませんでした。ですが、ある日の夜に夢を見たのです。もっと売れるようにする手段があるって。そうやって私をそそのかしたのが恐らく、きっとエクスタシーだったのだとおもいます。売れると言っても、私は収入なんてどうでもいいから、皆に歌を聞いてもらいたくて、楽しんでもらいたくってその誘いを受けたのです」
「うんうん、皆に楽しんでもらいたいだなんて素敵な理由ね。貴方みたいなポニーがたくさんいれば、エクエストリアはもっと平和になりそう」
「だと、良かったのですがね」
 トワイライトの言葉に、スターソングメロディは表情を曇らせる。
289 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/21(金) 23:39:09.93 ID:uonqVrVx0
明日とあさってはお休みとなります。イベントに行くので……
290 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/24(月) 22:45:46.45 ID:qZ/Zuo++0
「でも実際は、そんな事はありませんでした。私の歌声に誘われた者は、確かに幸福な気分になりました。聴いた者が予定をキャンセルし、自分の仕事を放棄してしまうほどに。そして私も、その状況に酔っておりました。陶酔して、もっと多くのポニーを骨抜きにしたい。そんな風に考えるようになりました。
 しかし、その骨抜きになった者達には、エクスタシーが取り憑いて……そして、どこかに向かっていったのです。更なる快感……エクスタシーを求めて。私は、エクスタシーのリーダー的な存在に、良いように使われていたのでしょう」
「なるほどね。貴方は撒き餌扱いされてしまったのね」
「はい……そして、私以外にも、撒き餌にされてしまったポニーもいるらしく……今もどこかで、ポニーをさらってどこかへと連れて行っているのだと思われます。一人だけであった限りでは、名前がトゥーラルーラーとかいうユニコーンで、描いた絵を立体化させて触れ合うことも出来るという見たこともない魔法を使う方でした」
「そんな素晴らしい魔法を使うポニーが……利用されるだなんて」
 スターソングメロディの言葉に、トワイライトはううんとうなる。
「ですが、エクスタシーとて、ちょっとした浮浪者などを行方不明にするなど、細々と活動しているならともかく、そういった大規模な繁殖活動はポニーの反発を産むのでは?
 事実、これまでプリンセストワイライトはエクスタシーの存在すら知らなかったわけなのに、こんな風に大規模に活動するような生物だったらもっと有名になっているはずです。今回の行動は少しばかり不可解なような気がします……エクスタシーという魔物に、突然変異種でも出たのですかね?」
291 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/24(月) 23:16:30.75 ID:qZ/Zuo++0
 今回疑問に思っていたことの話題が出ないため、ブルーラブラドライトが尋ねる。
「私もそう思っていたところよ、ブルーラブラドライト。最初は私を狙っての行動かとも思ったけれど、それにしてはあんな風に不特定多数のポニーへ向けて歌うだなんて欲張りすぎるわ」
「いや、お前を狙ってと言うことはないだろう」
 と、クリサリスはトワイライトスパークルの言葉を否定する。
「奴らは、外部の者が集まる場所を優先的に狩場にしているだけにすぎないはずだ。外部の者が集まる場所で行方不明になると、誰が犯人だか非常にわかりにくい。逆に、過疎地や人の出入りが少ない場所では、犯人が分かりやすいという難点がある。
 今回はほら、移動遊園地がこの町に来たから、一気に人が集まったことが大きい……実はな、先ほど新聞記事で見た歓楽街での誘拐事件とかかわりがあるのではないかと私は睨んでいる。確証はないが。その、トゥーラルーラーとかいうのも、怪しいな。」
 ともかく、目立つ行動をするようになった背景には、突然変異種か、外部の種族かはわからんが、十中八九手引きした何者かがいるのだろうな……
 そうだな、最後に例のエクスタシーが呟いた、ファリグというのが怪しいが……どうなのかな。そいつはエクスタシーなのか、もしくは他の何かなのか」
 独り言を続けるクリサリスを横目に、トワイライトは口を開く。
「あぁ、なるほどね……スターソングメロディ。ファリグって名前に覚えはある?」
 クリサリスの言葉に、トワイライトは納得して頷いた。その話を聞きながら考えていたのか、何かを思い出したようにスターソングメロディが口を開く。
「そうだ……その名前、聞いたことがあります。ぼんやりとですが思い出して来ました。目的として考えられるのは、エクスタシーに命令を下していた、二本の角を持ったアリコーン……あいつが怪しい。ファリグ……そう、鱗を持ったアリコーンが怪しいです。私と融合していたエクスタシーの脳裏には、常にそのポニーの名前と姿が浮かんでいました。正気を失っている間に、対面した覚えもあります」
「二本の角のポニーって……それって……もしかしてバイコーン?」
 スターソングメロディが口にした容姿にトワイライトが戦慄する。
292 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/24(月) 23:26:02.62 ID:qZ/Zuo++0
イベント楽しかったです。また今日から更新していきますね
293 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/25(火) 23:28:08.02 ID:D3erzFy00
「バイコーン……なんですかそれ?」
 ブルーラブラドライトが尋ねると、トワイライトは苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。
「むかしね……かつてのエクエストリア。いえ、エクエストリアという呼び名すらなかったこの大陸には、聖職者……つまりユニコーンに課せられた厳しい法律があった。
 それは、結婚していない男女での姦淫。ありていに言ってしまえばセックスを禁止する法律。聖職はユニコーンしかなれない時代だったから、その頃のユニコーンは清純の象徴とされていたし、
 もし結婚した女性が処女でなければ殺してもいい、というか殺すべきだという教えがあったの。
 当然、男性も結婚前の姦淫は禁じられていたけれど、その中の男性の一人が禁断の行為に手を出したの、ポニーの女性に手を出せば周囲にバレるからと、小姓として……
 そして権威の象徴として家に置いていたドラゴンに、性行を行ったのよ」
「えー……スパイクとラリティもいずれそうなっちゃうのかな……」
 ブルーラブラドライトが顔をしかめる
「それは分からないけれど、そうして生まれた……生まれてしまったのが、バイコーンなの。ドラゴンの強靭な肉体と、ユニコーンの魔法をいいとこどりし、
 さらには魔力の塊である宝石を食べることで、ほとんど無制限に魔力を使用できる、あらゆる部分をいいとこどりをして化け物……
 そしてそれは、ドラゴンの欲望をも受け継いでしまい、そいつは凶暴な欲求に任せて、ポニーの全てを喰らいつくす勢いだったの……
 それに、その欲望は物欲や食欲のみならず、性欲にもおよび……それを満たすために、多くの男女が犠牲になったとか。
 まだプリンセスセレスティアやプリンセスルナもいない時代で、そいつを倒す手段はなかった。食事は自分が用意したものしか食べないくらいに警戒心が強かったし、寝込みを襲ってもどうしようもなかったそうよ。
 だから、偉大なる魔法使い、スタースワールはバイコーンをタルタロスに封じ込めるために、テレポート魔法で道連れになる方法を提案したの。
 幸いというべきか、それとも残念というべきか、提案したスタースワール本人ではなくテレポートが得意な弟子が不可逆のテレポートで一緒にタルタロスに落ちてしまったわ。それが、バイコーンの伝説だけれど……」
「まさか、先のティレックの件の後に、またもやタルタロスからバイコーンが脱獄したなんてことはないですよね……? ははは」
「どうかしらね……門番のケルベロスってよく抜け出すみたいだから……警備が、ザルなのよ」
 ブルーラブラドライトの苦笑に、トワイライトは気休めの言葉は投げられなかった。
294 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/25(火) 23:29:42.86 ID:D3erzFy00
「それに何より、今の話の限りだと、新しいバイコーンを産むこと自体は出来るような話ですよね。何らかの要因でユニコーンとドラゴンが交われば……」
 ブルーラブラドライトは、その光景を想像してしかめっ面をする。
「そうね。伝説となったバイコーンと、今回のバイコーンが同じとは限らないし、新たに生まれたバイコーンという可能性の方がずっと高いわ」
 トワイライトは納得して話を続ける。
「それで、そのバイコーンがどんな奴だったとか、目的は何かとか、覚えている?」
 トワイライトがスターソングメロディに問う。
「わかりません。ただ、エクスタシー達がそのバイコーンを非常に崇拝していること。目的は分かりませんが……私の歌でポニーにエクスタシーを取り憑かせ……そして、その状態のポニーを送り届けることが目的だったのではないかと。何かわからないのですが、その……ファリグ様。『ファリグ様も、これだけ送れば満足なさるだろう』とかどうとか言っておりました。それがどういう意味かは分かりませんが……」
「目的は不明だけれど、神隠しの事件の犯人だというのなら、看過できないわね。さっそくプリンセスセレスティアに知らせないと……あ、でもスパイクがいないんだった……仕方ない、郵便を利用するしかないか」
 顎に蹄を当ててトワイライトは言う。
「そうですね。なんだか、とんでもないことに繋がっているようですし、大ごとになる前に対策をしておいた方が良いでしょう。私の方も、知っていることは大体話したので……もしもまた何か思い出したことがあれば、プリンセスにお伝えいたしますので」
「そっか、もう知っていることはないのね……残念だけれど、仕方がないわ。あと、難しい事を考える必要はないから、貴方は体を良くすることに専念して、今度は改めて貴方の歌声を披露してくださいね」
「はい、どうもありがとうございます。一人で暇していたので嬉しいです」
 トワイライトに嬉しい言葉をかけてもらい、スターソングメロディは嬉しそうに微笑んだ。
295 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/25(火) 23:46:43.87 ID:D3erzFy00
いつぞやのフラッターシャイが口にしていた肉食のポニー。宝石も食べられるって中々の雑食性である。それではまた明日
296 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/26(水) 23:17:19.98 ID:dG1NWLdJ0
 ブルーラブラドライトとともに家に帰ったトワイライトスパークルは今回の顛末の追加報告としてスターソングメロディとの会話の内容をプリンセスセレスティアへ郵送で送る。スパイクが現在出張中のため、届くのは二日後くらいだろうか。それが終わった後は、返事を待ちながらバイコーンの資料について調べていたが、どれも自分が知っている以上に詳しく書かれた書物は存在しなかった。そんな中、スタースワールの手記をつづった本の中に、トワイライトは気になる一文を見つける。
 それは、スタースワールがあまりにも危なすぎるために封印したという禁断の魔法である。その概要というのも、バイコーンが使用した魔法は欲望を満たす究極の形だそうで、使用方法ももしもの時のためにどこかに隠したものの、あまりに危険すぎて清い心の者ですら簡単には触れられないような封印をいくつも施したとか。
 その隠し場所については当然書いてあるはずもなく、封印の詳しい内容も書かれていない。ただ、魔法を習得すると、数日以内にその魔法の存在そのものを忘れてしまうように設定しているらしいことは分かった。偉大なる魔法使いがそこまで厳重に隠す魔法、トワイライトとしても興味はそそられたが、逆に恐ろしい気もした。
「結局、バイコーンについては両性具有のポニーってことしかわかりませんでしたね」
 資料を漁り終えると、すでに外は真っ暗になっていた。ポニーヴィルの図書館のみならず、エバーフリーフォレストの中にある古城にも赴いたため、二人もくたくたである。
「そうね。まさか男女構わず子作りが出来るだなんて……便利だけれど、性別がないってどんな感じなのかしら?」
「少し気になりますけれど、きっと最初からそういう生物ならば性別がない事なんて気にならないんじゃないですか?」
 フレイムポニーであるブルーラブラドライトが先導して森を歩く。飛んで行っても良いのだが、その場合はブルーラブラドライトを抱えて飛ぶことになってしまうので、トワイライトは彼のメンツを重視して歩いて行く。丁度、彼に先導してもらうと明るくて足元も見やすいので、夜道を歩くときには本当に便利なものである。
297 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/26(水) 23:41:46.77 ID:dG1NWLdJ0
「そうかぁ……元から性別がないなら気にならない。子供の時は性別なんてあんまり関係なかったけれど、そういう感じで大人になる……のかな?」
「性別がないからこそ、ふしだらになるのかそれとも健全になるのか……ポニーだとどちらに転ぶでしょうかね」
「あらやだ、考え出したらプリンセスにあるまじきことを妄想しちゃいそう。そういうのを促すような発言は不敬罪に問うわよ、ラブラ?」
「はは、勘弁してくださいよ、プリンセス」
 帰り道を歩く間も、ブルーラブラドライトとの会話は楽しそうに行われる。男慣れしていないようなトワイライトだが、ブルーラブラドライトと話すうちに少しずつ男性との会話にも馴染んできているようで。
 想い人との距離はなかなか縮まることはないが、少しずつ男慣れしていく日々に、トワイライトは満足していた。
 家に帰り付く前に、二人はファストフード店に寄って食事を済ませ、その日は大人しく眠りについた。


 そうして数日。ラリティとスパイクは、予定の日に帰ってくることはなく、そして連絡すら来ない。おまけに新聞には、例の神隠し事件の事が載っている。
 その犯人が見つかったという今日のニュースには、トゥーラールーラーという女性ユニコーンの画家の名前が記されていた。現在取り調べの最中らしいが、あまり詳しい内容は乗っていない。
 
「二人とも、もしかして事件に巻き込まれたのかな……」
 心配で顔を曇らせたトワイライトが、家でスパイクの帰りを待っていると、図書館の外で物音がする。
 その音を聞いて、何事かと思って外を覗いてみると、丁度プリンセスセレスティアがチャリオットに乗ってポニーヴィルにたどり着いた音であったようだ。
 それだけではない、プリンセスルナ、プリンセスケイデンスも含め、プリンセスが勢ぞろいしている。
「トワイライトスパークル。図書館を借りますよ」
 険しい顔でプリンセスセレスティアは告げた。大事な話なのであれば、新しく出来たお城を使った方が良いような気がしたが、どうもそれを言い出せるような状況では無いようだ。
298 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/26(水) 23:47:48.96 ID:dG1NWLdJ0
暇なときはピンキーパイでも呼べば死ぬまで構ってくれそうな気がする。と、前回の更新分を見直して思った次第です。
また明日更新します
299 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/27(木) 23:42:06.09 ID:L4IFnAuP0
「今回の要件は、貴方が送ってくれたバイコーンの件と……この、手紙の破片の事です。そして、その、最近巷を騒がせている誘拐事件ともかかわりがあります」
「これは……」
 スパイクがプリンセスセレスティアとの手紙のやり取りに使うのは、魔法をかけた羊皮紙である。
 ラリティにも依頼主とのやり取りに便利そうだからとその魔法のやり方を教えたことがあるが、難しい魔法なのでラリティはほとんど成功していなかった。
 しかし、今回は手紙をものすごく小さくすることで、何とか成功させたようで、コートに使う毛皮の破片に魔法をかけて、その表面には血で書かれた小さな文字がびっしりと並んでいる。
「スパイクが送ってくれたものです。他にもいくつか送られてきたものをまとめた文章がこちらです。別に私以外の誰かに見せるわけでもないので暗号などは無いと思われます。そのため、改行については考慮せず、読みやすさを優先いたしました」
『前略、プリンセスセレスティアへ。私、ラリティはトゥーラールーラーという画家のショーを見ている時に意識が薄れたかと思うと、いつの間にかスパイクと一緒に牢屋へ捕らえられていました。
 スパイクでも破れない丈夫な牢屋です。捕らえられた者の様子はなんだかおかしく、ぼーっとしたまま無表情で時折瞬きするくらいです。
 どうにも、首謀者と思われる二本角のポニーが何かしている様子。あれは、バイコーン? 伝説の不浄の馬のように見えます。
 私は、スパイクと一緒に宝石掘りをさせられています。至急、トワイライトへ伝えてください』

『スパイクが絶食させられています。採掘中に宝石を食べたことが知られると、彼は殴られました。許せない。
 ドラゴンなので多少は耐えられると強がっており、そのスパイクの空腹が悪化したところで打って変わって大量の宝石を差し出されました。
 しかし、スパイク曰く、お腹がすいている時に大量の宝石を食べると、普通ならばとても幸せな気分になるはずなのに、お腹がいっぱいになっても全然気持ちよくないとのことです。
 何かがおかしい状況です』
「なによ、これ……」
 プリンセスセレスティアが差し出してくれた書類にはそう書かれている。トワイライトスパークルは、その手紙を呼んで、二人の置かれている状況を想い怒りと悔しさで手を震わせる。
300 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/27(木) 23:44:18.01 ID:L4IFnAuP0
「牢屋に閉じ込められて、少々気が動転しているのもあるのでしょう、私相手に出すには少しばかり丁寧さを欠いた手紙ですが、それだけおかしな状況……なのでしょうね。
 これは書き写したものですが、実際に届いたものは字が震えて、汗もたっぷり染み込んでいました。相当、精神も参っていることでしょう」
 ぶしつけな内容よりも、その焦り用が伝わってくる文章に、プリンセスセレスティアは顔を曇らせた。
「トワイライト、貴方の友人が助けを求めていますが、これはすでに貴方達だけの問題ではなく、国家の存亡にかかわる問題です……」
「国家の存亡……そうですね……そこらじゅうでポニーが浚われているようですし……」
 深刻な顔をしてトワイライトが言うが、プリンセスセレスティアは長い髪青靡かせながら静かに首を振る。
「ただ浚われているだけでは、大問題ではあっても国家の存亡には関わりません。この問題はただ単にポニーが浚われるているだけではありません。
 このバイコーン……生まれは不明ですが、遠くない将来、必ず手が付けられない存在となります。そうなる前に、我々の手でタルタロスに封印するか、もしくは殺めるしか手段はありません」
 いつものようなやさしさと気品にあふれる表情などない。厳しい顔でプリンセスセレスティアが断言する。
「そんなに、厄介な相手なのですか? 確かに、宝石を食べることで魔力を回復するという性質は厄介ですが……」
「バイコーンだけが使える魔法が、厄介なのです。いえ、バイコーンならばみんな使える魔法、と言ったほうが正しいでしょうか。
 例えば、貴方のロイヤルガードであるブルーラブラドライトをはじめとするフレイムポニーのユニコーンは、炎の魔法をほぼ全員が使えるでしょう?
  バイコーンが、かつてポニー達を苦しめた魔法を全員が使えるかどうかは不明ですが……ラリティの文面を見る限りでは、使えると思ったほうが確実でしょう」
「どんな魔法なのですか?」
 トワイライトスパークルが尋ねる。
「感覚を奪う魔法です。奪う、というのは文字通り奪うことで、例えば……貴方が美味しいものを食べている時に、私がその魔法を使って味覚を奪えば、貴方は味覚を奪われ、全く満足できないのに、お腹だけは一杯になっていくでしょう。
 そして私は、お腹を膨らませることなく美味しいものを食べた満足感に浸れるのです。太ることなく、顎を疲れさせることなく、食事を楽しめます」
「それって、今のスパイクの文面そのものですよね?」
 トワイライトの質問に、プリンセスセレスティアはえぇ、と頷いた。
301 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/28(金) 23:42:49.64 ID:9EODtwaE0

「バイコーンの生態については調べているようですから、簡単な確認だけにしますが、バイコーンがドラゴンの欲望を持ったポニーだというのはご存知ですね、トワイライト?」
 トワイライトが頷くのを見て、プリンセスセレスティアは続ける。
「その欲望の行き着く果てが、恐らくはこの魔法なのです……かつてエクエストリアには、食事を楽しみたいがために、わざわざ食べた物を吐いて、胃袋をからっぽにしてまで食事に没頭した貴族がおりました。
 しかし、それはとても体に悪く、胃袋などを痛める行為です。バッファローなども反芻はしますが、それとは違って、完全に吐き出してしまうのですから、それはもう胃袋に負担がかかるでしょう。
 しかし、先ほどの魔法を使えば食欲を満たすためにそのような行為をする必要もなくなり、犠牲さえあればいくらでも食事の楽しみを味わうことが出来ます。もちろん、犠牲というのは大げさですが、泥をかぶる者がが必要ですがね……」
「手紙でしか状況が把握できませんが、今回のスパイクがその被害を被っているわけですね?」
「はい。しかも、この魔法の素晴らしい所は、お腹が減った時に食べる食事が一番美味しいならば、別の誰かを絶食させればいいということです。
 自分は空腹を我慢しなくとも、誰か他の者に我慢してもらえば最高においしい食事が約束される……
 かつてバイコーンは、この魔法で性的な快感を得ようとして、さらってきた男女に性行を強要し、逆らうものを喰らい殺したと言います。その凶暴性もまた、バイコーンの恐ろしさです。
 この理不尽な仕打ちにさらされている臣民がいると思うと、私は怒りがこみ上げます」
 プリンセスセレスティアが怒りをあらわにした表情をとる。
「その犠牲になるスパイクはたまったものじゃないですよ。早く助けて上げなきゃ」
「トワイライトの言う通りじゃ。空腹の苦しみを味わわされて、美味しい所だけ持っていかれるなど、正気ではいられまい」
 ルナがトワイライトの言葉に賛同する。
302 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/28(金) 23:48:52.47 ID:9EODtwaE0
「そして、それ以上に厄介なのが、エクスタシーの存在です。恐らく、バイコーンはエクスタシーが与えてくれる快感を、すべて自分の元に集めて、禁断症状などの中毒被害を負うことなく快感をむさぼっている……トゥーラルーラーに取り憑いたエクスタシーから履かせた情報によると、奴はエクスタシーに対して力と知識を強化する魔法を与えているらしく……エクスタシーと、共生関係にあるようですね。
 これほど脹れあがった欲望を持っていては、恐らくバイコーンはポニーの限界を超えて、ドラゴンとしての自分に精神を支配されます。
 かつてスパイクが、誕生日プレゼントに興奮して巨大な姿に成長したように……
 それと同じことを、ユニコーンの魔力を併せ持った状態で行ったら、どれ程の被害が出るかはもはや想像も出来ません。
 前例に照らし合わせれば、このエクエストリアを壊滅させるほどの力を持っているでしょう。スタースワールですら、倒すことは不可能だと悟った相手ですから」
「……どうすれば。とにかく、ラリティを助けて、エレメントオブハーモニーを使うしかないのかしら」
「それが最も確実な……ん?」
 プリンセスセレスティアが玄関の方へ視線を向ける。
「トワイライト! ケイデンス! 大変だ!」
 大慌ての様子でシャイニングアーマーが現れた。トワイライトは驚き目を丸くしているが、その一瞬頭を押さえているブルーラブラドライトを見て、何が起こったのかをなんとなく理解する。
「どうしたの、シャイニングアーマー! クリスタルエンパイアの守りを放棄してまでくるだなんて……何があったの!?」
 ケイデンスが慌てて彼に問う。
「あー……お兄ちゃん? じゃないよね」
 しかしトワイライトは、突然の乱入者に白い眼をして睨みつけた。
 
303 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/29(土) 00:10:36.85 ID:BscFSstl0
さて、このエピソードもあと半分くらいです。最後までお付き合いいただければ幸いです
304 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/29(土) 22:50:22.71 ID:BscFSstl0

「あぁ、ケイデンス……それはな……侵入者だ」
 と、言いながらシャイニングアーマーは変身を解いてクイーンクリサリスの姿に戻る。
「お前ら、いくらシャイニングアーマーがロイヤルガードの隊長だからと言って、顔パスはいかんな、顔パスは」
 後ろで、自分を通してしまったロイヤルガード達を嘲るようにクリサリスが言う。
「プリンセストワイライト……私は止めたのですが、その……すみません、言い訳は無用ですね。あとで処罰は受けます」
 ブルーラブラドライトは罰が悪そうな顔で言いかける。しかし、言い訳はいけないことだと気付いて、直ちに態度を改めた。
「いいわよ、ブルーラブラドライト。クリサリスも聞いておいた方がいいかもしれないし、どうせ貴方ではクリサリスの侵入は止められないし」
「言葉もありません……というか、隊長は『トワイライト』ではなく『トワイリー』とプリンセスの名前を呼ぶのに、みんな何やってるんだ……」
 ぶつぶつと言って、ブルーラブラドライトは再び外に戻り、警備の任務に戻った。申し訳ありませんというロイヤルガードの声が聞こえた。
「クリサリス……残念ながら立ちあがったままの会議になるわ」
「立ったままの話し合いの方が、眠くならなくて丁度いいさ」
 トワイライトの言葉に、クリサリスは答えつつケイデンスの方を見る。ケイデンスは何かを言いたげだったが、今言うべきことではないと感じたのか、目を逸らした。
 どうも、以前結婚式でやらかしたことについては恨みを持っているようだが、それだけではこの態度はありえない。
 と言っても、クリサリスはケイデンスがこのような態度をとる理由を知っている。例の、クリスタルエンパイアで母親が逮捕された子供にチェンジリングを派遣した件で、トワイライトスパークルから何度か途中経過は聞いている。
 最初は匂いが違うとかでばれるのではないかとも危惧されたし、実際初期のころは少し警戒されていた。しかし、数日もすればチェンジリングが化けた母親を母親と認めた子供は、術後の経過も良好で言葉もどんどん覚えてきているという。
 獄中の母親も、そうして送られてくる写真や手紙を励みに、毎日模範的な態度で過ごしている。要するに大成功なのだが、だからと言ってケイデンスとしても意地があるのだろう。手放しにお礼を言うことは出来ないし、かといって憎しみに任せて罵ることも出来ないというジレンマを抱えているのである。
 それを知ってか知らずか、クリサリスは得意げにケイデンスへ含みのある笑みを向けていた。
305 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/29(土) 22:54:45.43 ID:BscFSstl0
 そんなことはさて置き、会議は進んでいく。
「今回の作戦では、私は太陽から聖火を持ち出して、救出したポニー達に取り憑いたエクスタシーを壊滅させます。
 ルナは月の欠片を用いて、その聖火の力を強化し、なおかつ月光の力でエクスタシーを剥がされた者達の後遺症を防いでもらいます。
 出来ますね?」
「任せるのじゃ、姉上。それはわらわの得意分野だ」
 セレスティアの任命にルナが頷く。
「そして、プリンセスケイデンスとトワイライトスパークルは、奴らを直接叩いて、さらわれたポニーの救出。
 特に、エレメントオブハーモニーを使用可能にするために、ラリティを優先的に行ってもらいます。
 スパイクのおかげで居場所を逆探知出来ましたので、その座標に至急向かってもらいたいのです。
 正確な場所はつかめておりませんが、数百メートル単位では一致しているはずです……危険な仕事ですが、お願いします」
「了解です、プリンセスセレスティア」
「かしこまりました」
 プリンセストワイライトとプリンセスケイデンスが頷く。
「そして、クイーンクリサリス。もしよろしければ貴方にも協力を頼みたいのです。チェンジリングの変身能力や、いざとなれば私をも上回る……
 いえ、今のあなたは、私を上回る魔力を持っているでしょう。貴方なら、きっと二人にとって大きな助けになると思うのです」
「いいだろう。だが、成功した暁には……私を愛してもらうぞ、プリンセスセレスティア」
 にやりと笑みを浮かべながらクリサリスが言う。
「うふふ、存じておりますよ。貴方が英雄であるというニュースが国中に流れます、きっとね」
 クリサリスの率直な要求に、プリンセスセレスティアは戸惑うことも気が滅入ることもなく、笑顔で受け入れる。プリンセスセレスティアは人生経験が豊富なだけに、こう言った輩への対処も慣れているのだろうことを、トワイライトは感じた。
306 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/29(土) 22:59:05.52 ID:BscFSstl0
相変わらず自分で動かないプリンセスセレスティア。コミックでは、自分が出来る事は自分にやらせることで成長を促しているようなことを言ってましたね。
明日も更新しようと思いまする
307 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/30(日) 20:47:58.16 ID:xg8rZFHO0
 話が一通り済んだところで、プリンセスは改めて皆を見回し、口を開く。
「バイコーンが使う魔法は、実は私もかつて一瞬だけ使えたことがあるのです……」
「本当ですか、プリンセスセレスティア!? しかし、一瞬とは一体どういう意味でしょうか?」」
 セレスティアの言葉に、トワイライトスパークルが驚いて尋ねる。
「スタースワールの魔法により厳重な封印が施された魔導書に記されたその魔法は、覚えても数分で忘れてしまうし、再び覚えようとしても本の中身が見えないように魔法の仕掛けが施されております。
 もちろん、本の内容をどこかに写そうなどとすれば、その魔法の使い方以外の大切な記憶まで消してしまうという危険な魔道書でした。
 それに加えて、奪える感覚というのも嗅覚くらいなものでしたので、料理を楽しむには少し不足でしたが……
 ともかく、そういった理由で数分鹿魔法を使えなかったのですが、あの魔法は思った以上に魔法力の消費が穏やかで、普通のユニコーンでも平気で一時間以上の時間を使えるでしょう。
 ですが、それは逆に言えば……ケイデンスやトワイライトスパークルが得意とするバリアを張る魔法で、簡単に防げるということです。実際、それを試したところ、見事に防ぐことが出来ました。
 スタースワールは、あの魔法を悪用されることこそ防ぐべきであるという判断はしましたが、その反面で魔法を保存したのは恐らくそういった対策を見つけるためという理由なのでしょう。
 相手を魔法から引きはがすことで注意を逸らしたり、焦らせたりなどはできると思われます。
 ただ、逆に、怒って手が付けられなくなる可能性もありますので、バリアによる遮断は慎重に行って欲しいですが、ともかく、そういった手段もあるということを念頭に置いて頂ければと」
「はい、わかりました」
「必ず期待に応えます」
 ケイデンスとトワイライトは、勇ましく頷いた。
308 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/30(日) 21:14:57.80 ID:xg8rZFHO0
 そうして、トワイライトスパークル、プリンセスケイデンス、クイーンクリサリス、ブルーラブラドライトでチームを組んで現場へと向かうことになる。
 出撃に当たって、今日はゆっくり休みなさいとのお達しが出たため、クリサリスは警備の仕事を休ませてもらい、家に帰るのであった。
「この仕事、言うまでもなくあまりにも危険だ……絶滅危惧種である私がこのような任務に赴くことはおろかかもしれんが……まぁ、もしも私がここに戻らなかった時は、その時は後を頼むぞ」
 家に戻り、彼女は兵隊であるロイとパトリックにそんな話をした。
「そんな、貴方に死なれたら、我々は一体どうすればいいのですか? 路頭に迷うだけではない、この種族そのものが消滅しますよ? どうか、考え直してください」
「……考えたのだ」
 パトリックが懇願する声に、クリサリスが言い放つ。
「愛情とは何なのかということを。そして、その答えはいまだに見つからない。確かに、己の身を平然と誰かの前に差し出すことを、愛とは呼ばぬだろう。
 だが、友の危機を放置するのはいけないと……そうも考えている。実際のところよくわからないというのが現状だがな」
「確かに、友達の危機を無視するのはいけないと、私も思います。しかし……逆に言えば我らも種の存亡の危機にあります。
 それを、さらに滅亡の危機に追いやるような行為は、友達のすることではないのでは?」
 ロイが尋ねる。
「かもな。しかし、私は知りたいのだ……今まで、奴ら六人がいかなる危機も乗り越えてきたその力を。友情の魔法を。
 死んでもおかしくないような危機に平気で身を投じ、しかしその結束の力で乗り切ったあいつらの力を。
 友情と愛情は切っても切り離せぬ関係にある感情だ。私は、奴らの友情を見知ることで……何かを掴める気がするのだ」
「その何かを掴めば、女王を産むための……その、体に魔力が漲った状態になれるという事、ですか?」
 パトリックが尋ねれば、クリサリスはあぁと頷く。

「エレメントオブハーモニー……あのディスコードや、ナイトメアによって力を増幅されたプリンセスルナ。
 果ては、エクエストリアのプリンセス四人とディスコード……そして数多くのポニーの力を奪い取った、ティレックなる魔物も打ち倒した力。
 それは彼女らだけの力ではなく、彼女らの友情を触媒に、このエクエストリアに眠る魔力を呼び起こしただけではある。
 だが、呼び起こすための魔力も、途方もなく膨大だ。
 それはやはり、あの六人が力を合わせなければ不可能だろう……そして、何よりもケイデンスの力だ。プリンセスセレスティアの力を上回る私を、さらに上回って余りある力で私を押しのけた。私は、その力のヒントになるのではないかと考えている」
「しかし……」
 パトリックの質問に答えたクリサリスに、尚も彼は食い下がろうとする。
「ポニーヴィルで愛を育んだつもりだ。しかし、新たな女王を産める気配は一向に来ない……その日が来なければ、結局チェンジリングは滅ぶ。遅いか早いかの違いだけだ。ならば私は……トワイライトと共に過ごし、もし友が危うければそれを助けたいと思う」
「……わかりました」
 かなり不満そうではあるものの、パトリックは納得して頷く。
「失敗したら泣きますからね」
 ロイもそう言って、彼女の出撃を認めて快く送るしかないと悟ったようであった。
309 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/11/30(日) 22:09:35.20 ID:xg8rZFHO0
今日の更新はこれで終わりなのです。また明日
310 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/01(月) 23:42:17.91 ID:undOgPZc0
 翌日、クリサリス、ケイデンス、トワイライトの三人は、仲間たちから見送られて、プリンセスセレスティアから貰った地図の座標を目指して旅立つ。
 ポニー達が浚われていった場所は、樹海の奥地にある廃村。樹海には野生の果実がごろごろと実り、手つかずのためか宝石も豊富な場所。ラリティはそこでスパイクとともに宝石を発掘させられている。
 その宝石の用途は、バイコーン自体が魔力を回復させるためであり、またスパイクの食欲が満たされる快感を横取りにするため。
 ただ、幸運なことに、彼女らに見張りはつけられていないし、エクスタシーも取り憑いていない。最初こそラリティにもエクスタシーが取り憑いていたが、宝石集めを命じられたスパイクの計らいにより、彼女は特別に外に出ることを許されたのである。
 プリンセスセレスティアは、彼女らに向けて手紙をいくつか送り返した。あまり目立ってもいけないので、彼女らがそうしたのと同じように。ごくごく小さな紙片にびっしりと文字を書いていた。
 そこに記されていた『救援を送りました』という一文字には心が躍ったものだ。
 彼女らはその一文に希望を託して、救援として贈られた三名のポニーの到来をじっと待っていた。
「ラリティ……見つけた!」
 そんな折、トワイライトスパークルも彼女の事を見つけていた。双眼鏡で発見したため、まだ相手の姿は遠くだが。
 さっそくコンタクトを取るべく、トワイライトスパークルはあらかじめ合図として決めておいたホタルの光のような球を飛ばし、さりげなくスパイクとラリティ、二人に気付かせる。
 光を発見して、二人は声を上げて喜びそうになった。特にスパイクは嬉しさで大声を上げてしまいそうだったため、ラリティがあわてて口を押さえてそれを阻止した。
 そうして、二人に驚かせることなくトワイライトは接近する。身を隠して、恐る恐る近づいてみるも、近くに敵の気配はないので安全なようだ。
「ラリティ、スパイク……無事でいてくれて嬉しい!」
 静かにラリティを抱きしめてトワイライトが言う。
311 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/01(月) 23:44:53.10 ID:undOgPZc0
「私も……もう会えないかもしれないって思っていたから」
 涙をこらえようとしても、結局涙を流してしまいながらラリティは言う。 
「トワイライト……なんとか、ラリティも僕も無事だよ。酷い目にあったけれど、それでも、大丈夫」
「強い子ね、スパイク。それでこそ、私の大好きな助手だわ」
 恐怖から解放されて、少し泣きたい気分だが、スパイクは強がって笑顔を見せながらトワイライトへ言う。そんな健気な彼の事を、トワイライトは愛おしげに抱きしめた。
「トワイライト……まずはお前もポニーヴィルへ戻れ。エレメントオブハーモニーで一気に蹴りをつけるぞ」
 クリサリスが抱き合っている彼女に進言するが、トワイライトスパークルは首を横に振る。
「いいえ。まずは敵であっても説得するべきだわ」
「お人好しは自重することだな。勝てると思って慢心していると、足を掬われる。私が二度、そうなったようにな」
「プリンセストワイライト、畏れながら申し上げますが、最後にはわかってくれるとしても、一度痛い目を見せませんと……と、私も思います」
「そうね。クリサリスの言う通り、ここは万全の態勢で臨むべきだわ。せっかく勝利への道も堅そうな状況なのに、自らその勝利を捨てるような真似は良くないと思う」
 クリサリスが淡々と、ブルーラブラドライトが慎重に、ケイデンスが諭すようにトワイライトに意見を述べるが、トワイライトの意志は固いようだ。
「大丈夫、油断はしない。それに、この中で一番テレポートが上手いのは私なんだから、まずは捕まっている人達を助けて避難させないといけないわ。
 そのためにも一度忍び込んでみないといけないし。今すぐにエレメントオブハーモニーをつかうべくポニーヴィルに戻る必要はないと思うの」
「それも分かるのだが……まぁ、いい。お前がそういうのなら従おう。だが、我々が失敗すれば、今ここにいる人質を救う事が出来ようとも、また誰かが捕まって同じことの繰り返しとなることを忘れるなよ?」
 クリサリスは勝利を第一に優先して考えているせいか、まず人質の安全を優先するトワイライトとは意見が合わないようだ。
 ただ、この作戦はプリンセスセレスティア曰くトワイライトの主導で行われている。指揮を執るのが彼女である以上、今のところは従うべきとクリサリスも判断する。
312 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/02(火) 00:07:26.27 ID:8iz0gEUt0
この物語も終わりが見えてきましたね。明日に続きます
313 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/02(火) 23:27:49.39 ID:8iz0gEUt0
「分かってる。クリサリスも心配性ね」
 念を押すクリサリスに、トワイライトが強がって笑う。
「そりゃ、私や貴方が、クリサリスの野望を防いだからね。こんどは逆に、野望を防がれることを防がれるのが怖くて仕方ないのでしょう?」
 トワイライトの言葉に乗っかる形でケイデンスは言う。
 その言葉にクリサリスも苛立つものはあったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「よし、それでは私はラリティかスパイクに変身して奴の前まで行って、注意を引く。その間にトワイライトは捕まっているポニーの救出を行え。正体がばれた場合とトワイライトの説得が失敗した場合は即座に攻撃を行う」
「了解、クリサリス。それじゃあ、私は……そうね、やっぱり人質を助けないと。でも、どうしよう……クリサリスが変身してバイコーンに奇襲する役を負うとして、もう一人をどちらにするか……
 ラリティやスパイクにそのまま戦いの場に立たせるのは……あ、そうだ!」
 クリサリスの作戦では、ラリティかスパイク、どちらかが危険にさらされてしまう作戦である。勝利を第一に優先するならばそれで構わない作戦だが、疲弊しているであろう二人を、これ以上こき使うのも酷である。
「プリンセスケイデンス。ちょっと私の魔法を受けてみて!」
 そう言えばと、トワイライトは自分も変身魔法が使える事を思い出す。かつてクリサリスがポニーヴィルに攻めてきた際に、チェンジリングを一人締めあげて使えるようになるまで特訓に付き合わせた魔法であり、
 ブリージーのようなごくごく小さい生物にも変身できる魔法なので、スパイクに変身するくらいならば訳ない。今ではチェンジリングのそれよりかは時間がかかるものの、姿はそっくりにできるため、こう言った任務にはもってこいである。
 トワイライトはそう言った旨の説明をして、ケイデンスをスパイクの姿に変える。彼女は自分の姿に戸惑っていたが、翼が無くなって空は飛べないものの、魔法はそのまま使えるため、いざという時は魔法を解いて戦うことも可能である。
 それに、この魔法は魔法に心得がある者ならば簡単に解除できるようになっている為、治癒や守護の魔法が得意なケイデンスならば何ら問題はないだろう。
314 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/02(火) 23:57:15.43 ID:8iz0gEUt0
 バイコーンの陽動及び、説得が失敗した際の攻撃役は二人に任せ、トワイライトはラリティとスパイクの案内の元、捕まっている者達を解放に向かう。ブルーラブラドライトは、炎を出来る限り抑えつつ、手紙を燃やしてプリンセスセレスティアに逐一状況を報告する役目を仰せつかった。
「二本の角と、ドラゴンの翼があるポニーよ……見た目はそうとしか言えないし、見間違えることはないと思うから。だから、準備が出来たら思いっきりやっちゃいなさい」
「クリサリスもプリンセスケイデンスも、悪い奴をやっつけちゃってよね!」
 ラリティとスパイクは、別れ際そういって二人を鼓舞する。
「だから、一応説得するんだってば……それじゃ、二人の無事を祈るわ。私も、あとで合流するから、出来る限り説得して」
 トワイライトは二人にそう指示を下す。
「無理だと思ったら攻撃して構わないな?」
「うん、安全第一にね」
 クリサリスの問いにトワイライトがそう答えた。
「トワイライト。この戦いが終わったら、ゆっくりとスパでくつろぎましょうね」
「そうね。ケイデンスとはまた世界の危機の時に顔合わせすることになっちゃったし……たまにはゆっくりしないと」
 二人はそう言って、しばしの別れを惜しんで抱き合った。はた目にはスパイクとトワイライトの抱擁にしか見えないのが、何とも奇妙な光景である。
315 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/03(水) 00:00:21.63 ID:E2TlCWhp0
また明日更新します。それでは
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 04:53:17.76 ID:S32JxKXdo
乙です
317 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/03(水) 23:49:11.67 ID:E2TlCWhp0
 クリサリスとケイデンスは、あらかじめラリティとスパイクに協力して、大量の宝石を確保していた。これだけの宝石を見せれば、バイコーンのファリグもご機嫌になることだろうと踏んで。
 ラリティの教えたとおりの道順を歩き、廃墟の一画に座していたバイコーンのファリグの元へと二人は赴く。
「ファリグ様、宝石を持って来ましたよ」
 面倒そうに、けだるそうに言うラリティの声が響く。このラリティはもちろんクリサリスで、隣にいるスパイクはケイデンスが演じているが、今のところは正体がばれている様子はない。
「通れ」
 低く重たい声が扉の向こうから聞こえてくる。その声が響くとともに、朽ち果てた木の扉は、立てつけの悪い音を立てて、ぎしぎしと軋みながら勝手に開いていく。
 内装は埃っぽく、隙間から差し込んだ太陽光に埃がこれでもかと舞っている。綺麗好きなラリティにはいささかかわいそうな場所である。彼奴はプリンセスセレスティアを超える巨体で、全身はどす黒い。翼はドラゴンと同じ膜の張った翼。
 胴体には体毛ではなく羽毛が生え、四肢や首には鱗がある。角も、二本であって、普通のポニーとは似ても似つかない格好をしている。
 そこには、恐らくはスパイクと同じことをさせられているのであろうポニーが二人いた。見るからに憔悴しきった、元気がない状態の二人は、恐らく数日間何も食べさせてもらっていないのだろう。
 夢中で掻き込む食事は、普通ならば生き返るような、そんな至福が与えられるはずだ。しかし、その目には光がない。腹が満たされる快感を一切感じていないようであった。

318 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/03(水) 23:59:06.83 ID:E2TlCWhp0
「ほら、持ってきてあげたわよ。今日は大量だから感謝なさい」
 そんなポニーを横目に、ラリティに変身したクリサリスが宝石を差し出す。
「今日も疲れたよ……へとへとだよ」
 ラリティは高飛車に、スパイクは嫌味ったらしく。クリサリスもケイデンスも、初めて演じる相手を上手く演じるものである。
「ほう、今日は大量だな?」
「上手く大量に埋まっているところを掘り当てたのよ。毎日こんなに上手くはいかないわ」
 ツンとした態度でクリサリスが言う。このふるまいは、ラリティそのものなので、見慣れた者でも偽物と見破るのは難しいだろう。こういうところは、腐ってもチェンジリングの女王である。あとはこの調子で少しずつ時間を稼ぎ、トワイライトの合図があったと同時に攻撃に移るのみである。不意打ちという形になるため、卑怯と言えば卑怯だが、しかし手段を選んではおけまい。
「いいだろう、今日はもう休め。しっかり腹を減らしておけ」
 スパイクの訴えが、事実であることを感じさせる高圧的な口調と、そして命令の内容。なんて酷い事をする者だと、ケイデンスもクリサリスも顔には出さないが、怒りを感じていた。
 と、その時、大規模な魔法を使われた気配が遠くの方で感じられた。間違いない、トワイライトスパークルが大人数をテレポートさせたのだろう。
「なんだ? いきなり多数の気配が消えたぞ!? 侵入者か? ふざけおって、消し炭にしてくれるわ!!」
 ファリグはそれに気づいたのか、すぐさま翼を開いてトワイライトを殺さんとばかりにポニー達が捕らえられた場所へと向かおうとする。どうやら、説得できる状況では無いようだ。
 トワイライトを待ちたいところだが、奴が行動を起こすまでに決めねば。
「ケイデンス……交渉は不可能だ。まずは相手の動きを止める!」
「えぇ、分かってる」
 ファリグの姿を見上げながら二人は会話する。
319 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/04(木) 00:15:10.52 ID:JkYrNIXX0
そういえば、ブルーラブラドライトもついてきているのに、三人はと表記してしまっている……別所に載せるときは直します
320 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/04(木) 23:30:46.61 ID:JkYrNIXX0
 捕まってなお、高圧的なふるまいを崩さないファリグに、毅然とした態度でトワイライトは言い返す。トワイライトに見据えられると、さすがにファリグも葛藤する。このままタルタロス送りなどになってしまえば、もはや同じようなことは永遠にできないだろうと、足りない頭で考える。
「わかった」
 長い沈黙の後、しおらしくファリグは言う。
「ダメだ」
 しかし、それをクリサリスは速攻で遮った。
「こいつ、何も反省しちゃいない。態度だけはしおらしくしているが、その額……縦筋が寄っている。その表情は、怒りの表情だ」
「そうね、顔に出ているわ。残念だけれど、私も信用できないわ、トワイライト」
 クリサリスの言葉を受けてケイデンスも言う。トワイライトも数秒考えたが、結論はクリサリスと同じところに帰結する。
「わかったわ。確かに貴方達の言う通りね……説得は、無駄に終わったわ」
 ため息つをきつつ、至極残念そうな顔でトワイライトは言う。
「待て、嘘じゃない、本気だ!」
 それを見て焦るファリグだが、もはや誰も彼の話を聞く気はなかった。
「……捕らえられていたポニー達を見たわ。私が予想していたよりもひどい状況だったわ。エクスタシーに取り憑かれて快感中毒になって、禁断症状も出ているのに……なのに、快感を感じる時間すらも、こいつに奪われてひたすら呻き苦しんでいた。翻弄は最初から説得する気も失せていたけれど……一応形だけでもしておいてよかったわ。こいつは信用ならないってわかったから。今後何を取り繕うとも、信用しちゃいけないって」
「……意外だな、トワイライト。お前はもっとお人好しかと思ったが」
 クリサリスがそう口にすると、トワイライトは黙って首を振る。
「私だって、許せないことはある」
「私は許してもらったが、こいつとは何か違いがあるのか?」
 クリサリスに問われて、トワイライトは考える。
「貴方は、部下を思いやる心はあったから……だから、まだ何とかなるかもしれないって、そう思ったの」
「なるほど……最初から、愛を知るだけの素養は有ったというわけか」
 トワイライトの言葉を聞いて、クリサリスもふかつての自分に思いを馳せた。
「二人とも、今はそんなことを考えている場合じゃないでしょう? さっき逃げてっていった男女二人をキャンタロットに届けて上げないといけないし、それにこのバイコーンもタルタロスに送り込まなければいけない。そういうことはやることやってから考えましょう?」
「……そうね」
 ケイデンスの注意を受けて、余計なことを考え始めてしまったトワイライトも、今はそんな時ではないと思いなおして、改めて自分達がやることを再確認する。
321 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/04(木) 23:51:44.13 ID:JkYrNIXX0
「そうだ、ブルーラブラドライトも呼ばないと。もう安全だから来いって。少し飛び上がって合図をする」
「えぇ、お願い。それじゃあ私は逃げるように指示した二人を探してくる。トワイライトは、ここでそいつを見張っていて」
 ケイデンスはそう言いながら、バリアと粘液の二つによって拘束されたファリグを見る。このバリアはケイデンスが魔法をかけ続けなくとも丈夫さを保つように設定されている。その分範囲は狭いが、丈夫で長持ちの優れものだ。
「了解……大事にならずに済んでよかったわ」
 トワイライトは安心してほっと息をつく。そして、二人がその場を離れたところで、ようやく彼女は気付く。そう言えば、あまりにファリグが大人しい。
 もう少し暴れるなり、騒ぐなり、命乞いするなり、あがくことぐらいあってもいいはずなのに。
 意外に諦めがいいのだろうか? そんなことを考えつつファリグ見ると、その目がどんよりとした暗緑色のオーラを帯びており、口からは『認めない、認めない』と壊れたおもちゃのように繰り返している。
 闇の魔法を使う際に現れるあのオーラだが、ケイデンスの粘液に全身を浸されていては例え光の魔法であろうと闇の魔法であろうと魔法は使えないはず。
 あのプリンセスセレスティアですらも、あの粘液の中では魔法を使えなかったのだから。
 じゃあ、なぜ。考えられるとすれば、ファリグの力が圧倒的であれば破ることは不可能ではないのかもしれない。しかし、奴の魔力はそこまで高くなかったはず。
 だけれど、トワイライトは自分が魔力を暴走させた際に、普段からは考えられないような力でスパイクを成長させてしまった、あのキューティーマークが太ももに現れた日、魔力が暴走した結果スパイクが急成長したように。
 その時の光景がトワイライトの中でフラッシュバックする。
 何らかの原因でそうなったとして、やはり怒りか、悲観か。ともかく感情の高ぶりが、クリサリスの粘液を破ろうとしている。
「みんな、危ない!」
 たまらず、トワイライトは叫ぶ。
322 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/05(金) 00:05:55.88 ID:NyVzclYQ0
変身はラスボスの基本。また明日
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 03:25:41.55 ID:NGCKQJbgo
MLPのSS初めて見たわ。初めから読んでくるわ!
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 04:54:02.13 ID:NGCKQJbgo
>>72
付和雷同を極めるこの街の住人 長い者には巻かれるタイプの住人

その通りなんだよなぁ。んで掌返しが得意。良くも悪くも田舎気質だな。
まだ途中だけど楽しく読ませてもらってるよ。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 05:07:44.22 ID:NGCKQJbgo
>>79
クリサリスが職探ししてるだけで面白いわ。
スタイル良いからフォトフィニッシュ呼んできてモデルにしてもらおう。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 05:31:42.05 ID:NGCKQJbgo
>>93
ちょくちょく「二度目の侵攻」とか「キューティーマーククルセイダーの三人などを監禁」みたいなワードが出てくるけどコミックの話?
アニメは一応全話見たんだが記憶に無い・・・
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/05(金) 05:49:09.64 ID:NGCKQJbgo
>>103
まさかここでフラッフルパフが出てくるとは思わなんだ。
個人的な意見だけど、フラタの暴言シーンは良く無いなぁ。その後に謝るクリサリスも。急に日本アニメっぽくなってしまった気がして。
気を悪くしたらゴメン。
328 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/05(金) 23:26:59.22 ID:NyVzclYQ0
 その大きさに面喰っている間に、ファリグはトワイライトスパークルへ向けて光線を放つ。驚いて硬直していたトワイライトは、その一撃を喰らって、その刹那すべての感覚を奪われた。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、そのすべてが。
 ケイデンスとクリサリス、二人がトワイライトの方へ振り返った時にはもう遅い。巨大化することで完全に粘液の戒めから解き放たれたファリグが、ドラゴンの欲望に囚われた目であらゆる者の感覚を奪ってしまおうと、動き出していた。
「なんだアレは……」
 その巨大さに、全身の体毛をざわつかせながらクリサリスが戦く。
「トワイライト!!」
 敵がこちらを睨みつけている。そばにいたはずのトワイライトの方を見ないということは、つまりトワイライトはもう脅威ではないと判断されたということだろう。殺されたか、あるいは気絶しているのか。
「これが、スタースワールですら刺し違える以外の策を思いつかなかった敵か……」
 かつてない魔力を持った相手と対峙して、その威圧感にクリサリスは恐れを為す。しかし、奴の足元に転がっているトワイライトを見て、怒りがこみ上げた。
「トワイライトに何をした!!」
 無傷ではあったが、大切な友人が倒れているとあって、クリサリスも冷静ではいられない。激昂した彼女は吠えながら、相手の目に向かって粘液を放つ。
 しかし、それはバリアを張られて止められてしまう。バリア、それ自体は驚くようなことではない。
「なぜだ……今の魔法は、トワイライトが放ったものでは!?」
 バリア程度は驚かないがしかし、ファリグへの攻撃を防いだのは、ファリグ自身ではなくトワイライトである。彼女が倒れたまま、ファリグを守るようにしてバリアウォールを展開している。
 しかし、戸惑っている暇はない。何らかの魔法で操られているのならば、先にトワイライトを助けて奴の魔法から切り離してやればいい。
329 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/05(金) 23:42:05.80 ID:NyVzclYQ0
 地面に倒れ伏したトワイライトスパークルを助けるべく、クリサリスは一直線でそこに向かう。しかし、それを阻んだのはまたもトワイライトの魔法で、バリアウォールが張られて彼女を救い出せない。そうこうしているうちに、後ろからの攻撃がもう避けられないところまで迫っている。クリサリスがはっとして振り返った時に、間一髪でケイデンスがそれを阻止するが、驚きと動揺でクリサリスの表情はすでに憔悴している。
「なぜだ……あいつの魔法、トワイライトの人格を無視して操っているのか?」
 トワイライトの体で好き勝手され、クリサリスは憤る。
「今更、驚くほどのようなことでもないでしょう。あいつは、ポニーの事を何とも思っちゃいない。苦しもうとも、悲しもうともどうでもいいのよ」
 羽ばたきながら会話をしていると、再度の攻撃がファリグから放たれる。二人はそれを冷静に避け、反撃の魔法を放つも、それはトワイライトスパークルによって防がれてしまう。眼前に張り出されたバリアウォールに、二人の光線は弾かれ霧散する。
「トワイライトを敵に回すとこんなにも恐ろしいのね……」
「こんなもんじゃないさ、奴の恐ろしさは……くそッたれ。あいつの恐ろしさが完全に生かされていないのは救いだが……厄介なのには変わらんか」
 ケイデンスのボヤキに、クリサリスが毒づきながら返す。
「トワイライトのバリアが厄介だが……悔しいが、今の私の力では破れない。一度退いて体勢を立て直す」
「じゃあトワイライトスパークルを放っておくって言うの?」
「お前が、シャイニングアーマーがお前を愛するくらいに私を愛してくれるというのか!? 私は、誰かに愛してもらわないと本領を発揮できないのだ……
 退けば、ポニーヴィルの仲間と合流すれば勝算はある。それとも、お前は何かアイデアがあるのか!?」
 クリサリスが声を張り上げると、ケイデンスは何も言い返せずに顔をゆがめるだけであった。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/06(土) 15:54:28.43 ID:E3QUMdHbo
>>249
ディスコードこそ真のパーティポニー?と思うわ。
331 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/06(土) 23:17:14.65 ID:ZpIxPJZI0
「行くぞケイデンス、一度戦力を立て直す!」
 そう言って、振り返ったその先には虹色の軌跡。それが瞬く間もなくファリグに向かったかと思うと、ファリグの眼前でそれが爆発。虹色の衝撃波が相手の顔面を叩いた。
「今のは、ソニックレインブーム……まさかレインボーダッシュが来たのか?」
「それだけじゃないわ……わたしも……います」
 声に振り返ると、どうやらフラッターシャイも駆けつけていたようで、彼女は怯えて足を震わせながらも懸命にファリグを睨みつけている。
「それと、みんないる。ラリティも、アップルジャックも、ピンキーパイも」
 フラッターシャイが蹄で指し示したその先には、ラリティ、アップルジャック、ピンキーパイが前足を上げてクリサリスを鼓舞している。
「あんた、トワイライトに何かあったらただじゃおかないわよ」
「トワイライトに手出しはさせない!」
「操り人形にするなら、あたしを操ってみなさいよ!」
 皆、今駆けつけたとは思えないくらいに事情を把握した様子で声を張り上げている。
「僕の目の前で、トワイライトを傷つけさせたりしないぞ!」
 スパイクもいる。一斉にポニーヴィルに送られたはずなのに。
「お前等、ポニーヴィルに避難していたんじゃ……」
「ごきげんよう」
 ファリグに対しての目線を解かずにクリサリスが尋ねると、不釣り合いなほどに陽気な声が聞こえる。視線を配る余裕すらなかったが、誰だかわかる。
「ディスコードか……お前が連れてきてくれたのだな」
「ご名答」
 クリサリスの問いに、ディスコードが自慢げに答える。
332 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/06(土) 23:35:58.19 ID:ZpIxPJZI0
「貴方が来てくれたなら、悔しいけれど百人力だわ。一緒に戦ってくれるかしら?」
「いやぁ、フラッターシャイの頼みだから連れてきてあげたけれど、あいにくテレポートで魔力が切れちゃってね……だから、戦うのは君たちに任せるよ」
「そんな見え透いた嘘を……きゃっ!」
 ディスコードの出まかせに文句をつけようとしていたら、今度はケイデンスを狙ってファリグの光線が飛ぶ。
「おっと、傘を持っていてよかった」
 だが、ディスコードがそれを魔法すら使わず、傘だけで防いで見せたところで、にやりと笑う。図らずもディスコードに助けられたケイデンスは、こんな奴に助けられるなんて屈辱だと言わんばかりにディスコードを睨みつけていた。
「君たちなら俺様の力を借りないでも勝てるだろ?」
 ディスコードが挑発するがごとくクリサリスに言うと、彼女はああと頷いた。
「あぁ、今なら……出来る!」
 言いながら、クリサリスはファリグが放つ光線を避ける。
「おい、皆、聞いてくれ! 今から、私があいつを倒すために戦う。そのために、私の事を信じてくれ!」
「どういうことかしら、クリサリス」
 信じろと言われ、フラッターシャイが首をかしげる。
「私は、愛されなければ本領を発揮できない……だが、逆に言えばシャイニングアーマー程に私を愛してもらえれば、プリンセスセレスティアにすら勝てる。だからだ……いまから、私を信じて愛してくれ。ともに困難を乗り越えようと、気持ちを一つにして欲しい。トワイライトを助けるために、今だけでいい……私に力をよこせ!! 祈ってくれ、私のために、『がんばれ』と」
 半ば叫ぶようにして言うと、早速彼女の元に力が届く。
「今だけなんて寂しいことを言うんじゃない! お前の事は、プリンセスの事がなくったって愛してるつもりだ!」
 ようやく合流できたブルーラブラドライトの声だ。彼は、この事態で呑気に文章をつづるわけにもいかず、最低限『ピンチです、敵が巨大化してトワイライトが操られてます』とだけ大きく書いてプリンセスセレスティアに手紙を送り、クリサリスの真下あたりまで駆けつけていたようだ。
「貴方は、とっても優しくって動物も大好きだから……大丈夫、今だけなんかじゃない。ずっと友達よ」
 フラッターシャイの言葉とともに、愛の力が届く。
「危ない、クリサリス」
 その力を受け取っている間に攻撃が放たれるが、それをケイデンスがお得意のバリアで防ぐ。
「君は、僕の事を将来を見据えて考えて、厳しい態度で接してくれたからね。なれ合いじゃない、甘やかすでもない……僕に対して忠実でいてくれた。僕の事を真に思ってくれる君を愛さないわけないじゃないか」
 レインボーダッシュの愛の力が届く。
「あんたは、嘘もつくけれど、大切なことは正直な奴だ。それが鼻につくこともあるけれど、でも私達姉妹を救ってくれた恩も、その気持ちも忘れちゃいない。アンタになら愛なんて、いくらだって与えられる」
 アップルジャックの愛の力が届く。
「最初のころは笑顔が下手だったけれど、今はすっかり上手くなったよね。それに、遊園地でも皆を笑顔にしようと頑張ってた。私が一番大好きな笑顔を、増やそうとしてくれるんだもん。絶対、一生友達でいるんだから!」
 ピンキーパイの愛の力が届く。
「あー……私は、特に際立って恩があるわけではないけれどぉ……でも、貴方の事はファッションの事でもいろいろ助けになったし、私が何か無茶なお願いをしても、貴方は笑って許してくれたわね。それと、エクスタシーから街を救ってくれたのもあなただったわね。大丈夫、私は貴方の味方よ」
「お願い、トワイライトを助けて!」
 ラリティとスパイクの愛情が届く。
「任せろ」
 クリサリスが皆の想いに応えた直後、クリサリスの翅に変化が訪れる。緑色の薄い翅だったそれが、桃色に煌めく鱗粉を撒く蝶の翅となり、彼女はその翅で舞っていた。
333 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/06(土) 23:40:41.13 ID:ZpIxPJZI0

>>323-327
感想どうもありがとうございます。
えーと、二度目の侵攻というのはコミック版の事ですね。クイーンクリサリスの顔芸が楽しめる作品で、相変わらず魔境なポニーヴィルの様子も見ることが出来ます。その作品では全員が仲違いされそうになったり、CMCが浚われそうになったりするのですが、最終的にEOHも使わずトワイライト一人の魔法で何とかなってしまう感じです。

フラタの暴言については、あれはアイアンウィルの後遺症のようなものですかね……たまにそう言うのが出てしまう感じで。普段は優しい彼女なんですよ、本当に。

それでは、また明日の更新で会いましょう。
334 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/07(日) 22:26:35.97 ID:sJTGPhR50
「これだ……これが、愛が満ちた状態なのだな。今なら誰にも負ける気がしない」
 すべての愛情をその身に受けて、クリサリスは静かに呟いた。彼女の体からは、抑えきれない魔力が渦巻き、周囲に光を漏らして桃色に淡く、美しく輝いている。
「お前達の愛情……それが私に伝わって来た。私を受け入れてくれる友がいる。兵隊達とは違う、本能だけのつながりでは説明しきれない何かがいる。帰る場所がある。
 そして何より、誰かが私を愛し、私が誰かを愛することが出来る。それが嬉しい。トワイライト、聞こえているなら安心しろ。今の私は、もはやクリサリス(さなぎ)ではない。誰にも負けない、バタフライ(蝶)だ」
 トワイライトは当然のことながら何も言わなかったが、彼女もまたクリサリスに愛を預けていた。ケイデンスも何も言わなかったが、彼女の愛も届く。さらに増した自身の力を確信してクリサリスは自分の言葉に自分で頷いた。前でバリアを張っていたケイデンスが、空をゆっくりと歩くように移動するケイデンスの威厳に満ちた魔力に気おされ、言葉を発することすらできずに道を譲る。
 ゆったりとした動作で闊歩する彼女に向けて、ファリグもまた攻撃を仕掛けるが、しかしそれは全てバリアすら張ることもせずに、彼女を避けて飛散する。
「無駄だ。今の私にそんなものは通じない」
 ファリグは唸り声をあげながら、何度も何度もクリサリスに向かって光線を放つも、そのすべてが無効化される。流れ弾がフラッターシャイに当たりそうになったが、それも同様に着弾する前に飛散した。
「私は……ずっと勘違いしていた。魔法とは、人の心ひとつで世界を変える力があると……だが違う。心こそが、魔法に世界を変える力をもたらすのだ……それが、友情であれ、憎しみであれ、魔法とは使うものの心ひとつで表情を変えるものだと思っていた。
 だが違った。心が魔法を変えるのではなく、心こそが模倣そのものなのだな。お前達が友情を、友達を魔法だというように……トワイライトスパークルが友情で以って魔法を使うように……私は、愛で以って、魔法を使うことが出来る。愛で以って世界を変えられる。要は、愛情も魔法なのだ。私はそれに気づいた」
 にやりと不敵な笑みを浮かべてクリサリスが言う。そして、一度深呼吸を挟むとその表情は怒りへと一変する。
「ファリグ……トワイライトをさんざん玩具にしてくれた礼だ! 喰らえ!」
 彼女の角から閃光がほとばしる。紫、青、緑、黄、橙、赤、エレメントオブハーモニーと同じ虹色の奔流が、眩く煌めいてファリグを襲う。直視できないほどの白光となってファリグにまとわりついたそれは、トワイライトに張らせた障壁を紙のように破って攻撃を加える。
 ファリグは巨大な竜馬の姿から、みすぼらしく矮小なバイコーンとなるまで退化させられ、そのまま気絶させられている。その美しい光は、トワイライトスパークルを包み込むと、意識を失っている彼女を労わるように抱きかかえ、やがて光が収まるとともに、無傷の彼女の姿がそこにあった。
335 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/07(日) 22:31:48.74 ID:sJTGPhR50
「無事か……トワイライト? あぁ……無事だな」
 クリサリスがトワイライトの横に寄り添い様子を見ると、彼女は静かに寝息を立てている。どうやら、ただ気絶しているだけのようだ。
「すごい……クリサリスが、一人でエレメントオブハーモニーを発動させちゃった……」
「こうなると、トワイライトスパークルも立場がないね。新しいプリンセスの誕生かな?」
 驚き目を見開くフラッターシャイの横で、レインボーダッシュが冗談を口にした。
「クリサリス……今のあなた、美しいわ。……今すぐにでも、貴方のための服を作りたいくらい」
「すごいよ、クリサリス。上手く言えないのがもどかしいけれど……あんた、最高だ」
「帰ったら早速、パーティーだね!」
 トワイライトの元に寄り添ったクリサリスの元に、ラリティ、アップルジャック、ピンキーパイが寄り添う。
「あぁ、トワイライト……良かった」
 いまにも泣きそうな表情でスパイクがトワイライトに覆いかぶさる。
「……ありがと」
 トワイライトの様子を見守っているクリサリスに、ケイデンスが小声で言う。
「なんだ、ケイデンス?」
「ありがとう、クリサリス。私の大切な家族を助けてくれて……」
 改めてお礼を言うケイデンスに、あぁとクリサリスが頷く。
「当然じゃないか。お前の家族である前に、トワイライトは私の友達だ」
 クリサリスは誇らしげにそう微笑み、最後駆け寄ってきたブルーラブラドライトに目を向ける。

「クリサリス……その、お疲れ様」
「あぁ、ブルーラブラドライト……ほら、こういう時に起こしてあげるのは、ロイヤルガードの仕事だろ? トワイライトを起こしてやれ」
 クリサリスとブルーラブラドライトは、多くを語ることはしなかった。ただ、二人は微笑み合いながら視線を交わす。それで十分だった。
「起きてください、プリンセストワイライト。みんな、待ってます」
336 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/07(日) 22:38:56.93 ID:sJTGPhR50
今回で『愛情も魔法』は終了です。次回の更新からは最終話『魔法を胸に、進もう』です
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/07(日) 23:41:30.86 ID:TjzQLosio
>>283
今更だけど、日記を回し読みするとか顔から火が出そうだわ。そこらへんも含めて本当に仲が良いんだよなぁ。
338 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/08(月) 23:15:47.66 ID:6cQANWZX0

 ファリグをタルタロスに封印したトワイライト一行は、今回の顛末の報告及び、エクスタシーに取り憑かれた人々の容体を確認するために、揃ってキャンタロットを訪れて、プリンセスセレスティアへの謁見に向かっていた。
「ブルーラブラドライト……貴方に課せられた任務は、確かに私への提示報告でした。しかし、その任務の身に集中しすぎて、トワイライトスパークルを放置してはいけません。貴方はロイヤルガード失格ですよ」
 そこで、ブルーラブラドライトはプリンセスセレスティアより、理不尽な評価を受けていた。あの時の戦いで彼が割って入る余地はなかったし、そもそも彼は出来るだけの事をしたはずだ。
 与えられた仕事はきちんとこなしたのにこの評価である。相手がプリンセスセレスティアでなければ抗議していたところだが、ブルーラブラドライトは頷くことしかできなかった。
「プリンセスセレスティア……ラブラは与えられた仕事をきちんとこなしておりました。私は、彼に不手際があったとは思えません」
 代わりにトワイライトがブルーラブラドライトを擁護するも、プリンセスセレスティアは黙って首を横に振る。

「そして、クイーンクリサリス。貴方は、私の大事な友人であるプリンセストワイライトを助け、見事ファリグを打倒しました。その功績をたたえ、貴方に褒美……というよりは、許可を出したいと思います」
「ほう、それは光栄だな。それで、その許可というのは?」
 クイーンクリサリスは、プリンセスセレスティアと自分は同等の立場だと言わんばかりの態度で尋ねる。
「貴方の兵隊たちが今必死で開拓している土地へ……貴方が、ポニーヴィルを離れてあそこへ移転する許可です。
 もちろん、ポニーヴィルやキャンタロットへはいつ訪れても構いません、行き来自由です。いくらでも歓迎いたしますよ」
「ほう、それは……」
 願ってもない事だと、クリサリスは唾を飲む。
「ただし、貴方という存在には、私としても一抹の不安は残っております……そこでですが。ブルーラブラドライト。先ほども申しあげましたように、貴方はロイヤルガードとしては失格です。
 ですので、新たな仕事として、クイーンクリサリスの監視を頼みたいのですが、よろしいですか?」
 プリンセスセレスティアの言葉に、クリサリスとブルーラブラドライト、二人が顔を見合わせる。
「……喜んで!」
 プリンセスセレスティアの理不尽な言葉の真意を察して、心底嬉しそうにブルーラブラドライトが声を上げる。ロイヤルガードは、プリンセスの顔を立てるという意味も含めて大変栄誉ある仕事である。
 その任を蹴ってクリサリスに着いて行ったとあっては、ブルーラブラドライトの行為はトワイライトへの侮辱を意味してしまう。それはプリンセストワイライトに忠誠を誓う者達に反感を持たれる行為である。
 しかし、怪我や懲戒免職などの理由で辞めたのであれば、ブルーラブラドライトの名誉は傷ついてしまうかもしれないが、トワイライトの顔を潰すことはない。
 クリサリスについて行きたいであろうブルーラブラドライトに、そのための道を用意してくれたのだ。

「監視役がこいつなら大歓迎だ。私からも、ぜひお願いする……チェンジリングのために土地を拓かせてくれたことも合わせて、感謝するぞ、プリンセスセレスティア」
「いえいえ、ファリグを打ち倒してくれたことで、おつりがくるほど恩を返していただけましたので。それに貴方は、ポニーヴィルで愛と友情を学びました。
 今のあなたならきっと、もう道を間違えることはないでしょうと、信用できるのです。ですから、貴方が開拓する土地を、貴方の国として独立を認めても大丈夫。そう、確信しました」
 そう言って、プリンセスセレスティアは微笑みを向ける。
「光栄なことだな。そうか、私も……正式に国を手に入れたか……」
 あまり素直に感情をあらわしすぎても格好悪いと思ったのか、クリサリスは静かに喜びに打ち震える。声にこそ出さなかったが、上機嫌なのはその表情から誰もが理解できた。
「帰ったら早速パーティーだね!」
「お前はそれだけ言っていればいいから、後世にお前をモデルにした劇を作る時は楽そうだな……どんな作家がお前を書いても『パティーしよう!』と言わせておけばいい」
 ピンキーパイの予想通りの発言に、クリサリスは苦笑しながら言う。
「本当、そうよね。でも、私も『素敵な衣装作ったのよ』って言っておけばいいような気がするし、レインボーダッシュも『僕の事見ててよね!』とか何とか言っていればいい気がするわ」
「何さそれ、僕が単純みたいな言い方やめてよね」
 ラリティの言葉にレインボーダッシュが突っかかる。そこから、ああでもないこうでもないと口喧嘩に発展する二人を、他のメンバーは仲がいい事だと微笑ましく見守っていた。
「そうだ、良ければプリンセスセレスティアも一緒にどうですか? 国一つ作ることが決まったパーティーなんです、それくらいしてみなければ」
「それなら、わらわも是非とも参加したいぞ!」
 トワイライトの提案には、なぜか妹のプリンセスルナが乗っかることとなる。
「もちろん、私も参加しますよ。準備が出来たらぜひ招待してくださいね」
 プリンセスセレスティアは、柔和に微笑んでそう言った。
339 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/09(火) 00:00:25.32 ID:JQXWv41h0
 クイーンクリサリスは勲章を授与され、それを胸にキャンタロットの王城から外に出れば、城下町では歓声が広がった。あの悪名高いチェンジリングの女王が勲章を持つなどと誰も予想だにしないことが起こり、プリンセスセレスティアはご乱心だとか、すでにチェンジリングに入れ変わられているのではないかと口々に噂されている。
 もちろん、勲章の授与及び、開拓地の独立を受諾するにあたり、国民への周知は済ませているのだが。しかし、エクエストリアを滅ぼしかねないような脅威をクリサリスが退けたという話はどうにも信用しにくい話のようである。だから、プリンセスセレスティアが行った広報は、まだあまり意味をなしていない。いまだ、差別の根は深かった。

 それでも、彼女を理解してくれる者は多い。商店街で迷子になった際にクリサリスに親を探してもらった少年。クリサリスに泥棒を捕まえてもらった店主。陰湿ないじめを行う者に、クリサリスの世にも恐ろしい説教で撃退してもらった学生、そして何よりいつもの六人が。ポニーヴィルで暮らしている者は、彼女の親切さややさしさに触れて、過去の事を忘れはしないものの、今となっては彼女を受け入れている。
 いつか、このような認識がエクエストリア中に広まり、そしてその外まで知れ渡るまで。クイーンクリサリスは努力を続けるのだろう。その頃にはきっと、新たな女王がチェンジリングを育んでいるはずだ。

 楽しかったパーティーも終わりに近づいたところで、クリサリスは会場の熱気から逃れて夜風に当たっている。そんなクリサリスの傍にトワイライトがやってきて、彼女に極東の国、ジャポニー名産の濁り酒を差し出す。
「こういう癖のある香りのお酒、貴方好きだったわね」
「ほう……これはこれは。いい香りじゃないか」
 ソムリエにチョイスしてもらったクリサリスが好みそうなお酒を差し出して隣に立ったトワイライトに、クリサリスはお酒の香りを楽しみながら笑みを投げる。
「ピンキーから三〇回くらい聞かされたわ。貴方が助けてくれた時に、エレメントオブハーモニーを使っていたって」
「あの時は驚いたよ……私でも使えるのだな。てっきり、お前達ポニーでないと使えないと思っていたが」
 そう言ったクリサリスの言葉に、トワイライトはかぶりを振る。
「私にとって、互いが、互いを必要としあう事。それが友情の本質だと思う。愛情は、ある意味一方通行でも成立すると思うけれどね。エレメントオブハーモニーはポニーの力じゃない。種族を超えてそこにある心の力なの。
 私ね、ファリグに五感を奪われた時、暗闇の中で意識だけはあった。何も聞こえないし、何も見えない。匂いも触覚も、味覚もない。それでも、貴方の声が聞こえた。『聞こえているなら安心しろ』って。その声のおかげで、私はすごく安心できた。貴方を必要としたわ。それがきっと、あなたの力となったのね」
「そうだな、お前の愛も確かに届いていた。必要とされているんだって、実感できたよ」
 クリサリスはトワイライトに向けて笑みをこぼす。
「そうやって必要としあう事で、力が纏まっていく。一方的に必要とするわけじゃないからこそ調和していく。皆が皆を必要とすれば、それが合わさって強い力となるのよ。
 かつて哲学者がいったの……『人間とは考える葦である』って。一つ一つは弱く、蹄で簡単に折れてしまう葦でも、束ねて集まればどんな風にも折れない強さを持てる。それがエレメントオブハーモニー。調和し、結束する力よ。
 例えば、いがみ合っていた相手とだって、仲直りして心を通じ合わせればエレメントオブハーモニーは使える。それは、私の日記を読んで知っているでしょう? サンセットシマーっていうポニーとも、エレメントオブハーモニーを発動できたってことを」
「あぁ、知っている。だが、ポニー以外でも発動できることは知らなかった……ポニーとチェンジリングは食べる者が違う。死生観や貞操観念も違う。だから、分かり合えないと思っていた」
「それでも、笑顔が好きなのはおんなじでしょ? それだけでも同じなら、種族も性別も、年齢も何も関係ない。私達はきっと、この世界にあまねくどんな種族とだって心を通わせられる。エレメントオブハーモニーは発動できるはず。
 チェンジリングだけじゃない。ドラゴンも、バッファローも、グリフォンも、麒麟も、リカントも、何もかも、いつかは互いを必要としあえるようになるはず。貴方は、その長い道のりの大きな一歩よ」
 トワイライトに真顔で言われて、クリサリスは誇らしげに頷いた。
「光栄だ、プリンセストワイライト……そして、トワイライトスパークル。こんなか弱い私を強くしてくれて、ありがとう」
 二人の影がハグをして重なった。言葉に出来ない嬉しさは、すべて愛という感情で伝わってくる。嬉しいという言葉を語る必要は、クリサリスの前では必要ないのだ。
340 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/09(火) 00:02:31.36 ID:JQXWv41h0
今日は少し長めの更新です。エレメントオブハーモニーは今回の更新でのセリフ通り、サンセットシマーさんとも発動させることが出来ましたね。
いつかポニー以外の誰かとも、心を通じ合わせて発動させてほしいものです。
341 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/09(火) 20:58:40.52 ID:JQXWv41h0
 楽しいパーティーを終えてから数日。引っ越しの日を迎えたクリサリスは、街の外れまで見送りに来た六人に笑顔を向けて、フラッフルパフやブルーラブラドライト。そしてロイとパトリックと共に並び立っていた。
「アップルジャック……お前達の家族で、開拓に参加したがっている者達を送ってくれて感謝する」
「何、いいってことさ。あいつら、体力だけはあるからさ。休みと団欒の時間だけはきちんと確保してあげれば、どんなにこき使っても大丈夫だから、よろしく頼むよ」
「あぁ」
 チェンジリング達は、互いを愛し合っても、その愛で魔力を生み出すことが出来ない。そのため、ポニーをいくらか連れていきたいと相談したところ、アップルジャックは親戚と連絡を取ってクリサリスにいくらか人員を回してあげた。開拓の経験もあるので、素人ばかりのチェンジリングに良く指導してくれる存在となりそうだ。
「それと、フラッターシャイ。家畜や愛玩動物の手配もありがたい。こいつのように、皆に愛を振りまいてくれる存在となるだろう……きっと、大事にして見せる」
「ううん、貰い手がいなくって困っていた子ばっかりだったから……貴方達になら預けても大丈夫だわ。だから、可愛がってあげてね」
「任せておけ、フラッターシャイ」
 アップルジャックの与えてくれる人員だけでは愛の量も不安だと持ち掛けると、フラッターシャイは快くチェンジリングへペットを預けてくれた。彼女の言葉通り、貰い手が居なくて困っている子達。いわゆる余りものではあったが、皆かわいらしく愛想もいい子である。きっと、チェンジリング達の糧となるだろう。
「ラリティ。私のために専用の服をこしらえてくれてありがとう」
「いいのよ、プリンセスルナのようなダーク系の色合いに似合う豪華な服をもう一度作ってみたかったし。それにほら、貴方って美しいから……あの時の蝶の翅がすでに消えてしまっているのが残念だけれど、いつものあなたの翅でも十分に似合うと思うわ。もちろん、貴方が持ってる、ブルーのラブラドライトの宝石にもよく似合うわ」
「普段は兵隊たちの手伝いやらなんやらで着れないとは思うが、特別な日には着させてもらうよ。本当に、お前のセンスは最高だ」
「ふふ、どうも」
 別れ際に、ラリティは徹夜で目を真っ赤にさせながらドレスを送って来た。この日を迎えるまで余裕もあっただろうに、こうして締切ギリギリになるあたりが彼女らしい。だが、それはギリギリまでデザインを悩んでくれたという証なのだろう、それがクリサリスにはありありと伝わって来た。
「ピンキーパイ。今までお前が開催してくれたパーティーはどれも面白かった。いつか、私達の国でパーティーを開催することがあれば、その時は呼んでもいいか?」
「任せといて! 音より速く駆けつけるから!」
 パーティーというものは笑顔に溢れている。楽しい気持ちはチェンジリングの魔力にはならないが、しかし楽しいという気持ちを共有することが。そして、楽しむことで生まれる心の余裕が愛情を生み出すこともある。彼女がこの街にいなければ、クリサリスの中に溜め込まれた魔力はずっと少なかっただろう。
「レインボーダッシュ……は、まぁ勉強がんばれ」
「ちょっと、僕の扱い酷くない!? そんな言い方だと、餞別のソニックレインブームしてあげないよ?」
「ははは、それは勘弁だ。いや、私はお前にも感謝してるぞ? お前が疑い深ければこそ、お前の意見に従っていた者達も信用するきっかけになったからな」
 レインボーダッシュには、そう言えばソニックレインブームくらいしかしてもらったことがなかったような気がする。あれはあれで嬉しい事なのだが、取り立てて言うことがないのでクリサリスは笑ってごまかした。
「そして、トワイライトスパークル。お前と一緒に読んだ本は楽しかった。お前が勧めてくれた本は、大いにタメになった。そして、お前がいてくれたから、冷たい態度をとる住人達に睨まれても、私は大丈夫だった。この街で、友情の魔法を……そして愛情の魔法を学ぶことが出来たのはお前のおかげだ。
 プリンセスとしてのお前も、図書館の司書としてのお前も、そして何よりも友達としてのお前にも、感謝したい」
「私も、貴方に助けてもらったことだけじゃなく、みんなと仲良くしてくれたことや、最高の思い出をくれたことを、一杯感謝したい。またいつでも、ポニーヴィルに来て欲しいくらいだわ」
「それは私にも言える事だ。まだ何もない場所だが、私の国にもいずれ来てくれると嬉しい。最高のおもてなし出迎えたいのだ」
「うん、会いたくなったら遊びに行くわね」
 そうして全員への挨拶を終えると、クリサリスは全員と順番にハグをする。ブルーラブラドライトも同じく全員に挨拶をすると、トワイライトには特に深く敬礼をした。
「我々の主がお世話になった……友情の魔法を。そして、愛の魔法を教えていただいて。兵隊一同深く感謝している。ありがとう」
 ロイが深々と頭を下げる。
「一時はどうなることかと思ったが、こんなに良い結果になって、ポニー達には感謝してもしきれない……今までの対立が今となっては嘘のようだが……しかし、それもまだまだ世界中に広まったわけではない。いつか、我らのような関係をいたるところで築けるよう、ポニーと共に頑張りたい……我らの国は、その礎になって欲しいものだ」
 そう言って、パトリックは深く頭を下げた。ポニー達は皆、微笑んでいた。
342 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/09(火) 21:06:07.76 ID:JQXWv41h0

 汽車に乗り込み、景色が通り過ぎていく窓の外を覗いてみれば、約束通りレインボーダッシュがソニックレインブームでクリサリス達を送り出した。その光景を見て胸がくすぐられるような思いをしながら、風を感じつつクリサリスは後ろにいるブルーラブラドライトに話しかける。
「なぁ、ブルーラブラドライト」
「何かな、クリサリス?」」
「ファリグを倒したあの日、私は皆の愛と自身の愛が高密度で混ざり合って、その魔力が私の胎内で特別な無精卵を作り出したんだ」
「前に言っていた、女王が生まれる卵だったっけ?」
「あぁ……兵隊を産むだけならば無性生殖の卵で十分なのだが、女王を産む際は、有精卵でないといけない……手を、貸してはくれないか?」
 そう語りかけると、ブルーラブラドライトは同じ窓から外に顔を出して、二人で並んで風を浴びる。
「貸すのは手じゃない気がするけれど、喜んで」
 二人でそうしていると、フラッフルパフも一緒に並びたかったのだろう。二人の間に割り込むように入ってきては、ブルーラブラドライトの至福のひと時を邪魔してきた。なので、クリサリスとブルーラブラドライトは、二人そろってフラッフルパフの頭を撫でてあげて、その流れでお互いの蹄をフラッフルパフの頭の上でそっと合わせる。
 そこから伝わってくる愛情は、クリサリスの心ひとつで世界を変える力を持つのだ。ブルーラブラドライトとともに育んでいく愛情の魔法は、きっと国を導いてくれるだろう。朗らかに笑いあう二人を祝福するように、ハート形の雲が空に誇らしげに浮かんでいる。



 一方、その頃キャンタロット王城では。
「しかし、アフガニスタリオンの難民の受け入れ先にクイーンクリサリスの開拓地を指定して問題ないのでしょうか?」
 クリサリスが旅立ったことを手紙で受け取り、それを読み上げたプリンセスセレスティアの秘書官、レイヴンが尋ねる。
「本人が了承した以上、問題ありませんよ。あそこの方々をエクエストリアに受け入れると、どこに行っても不満が生じるでしょう。宗教的な問題も絡みますし、自国の文化をそのまま異国に持ち込もうとする方も多いですし。
 クイーンクリサリスは開拓のために人員を欲しがることを見越して土地を与えましたが、中々に上手く動いてくれたようで……これで、チェンジリング自治領に難民を受け入れさせて国際的な評価を上げつつ、その難民を厄介払いできるという一石二鳥の利益が得られましたし。それに、エクエストリアの外敵に対する障壁となる場所に国が出来たことで、防衛の拠点として利用できるし、いざとなれば簡単に捨てられる。敵の侵攻を押さえるにはもってこいです。
 クイーンクリサリスは本当によくやってくれましたね」
「彼女が今の発言を聞いたらどう思うのやら……」
 プリンセスセレスティアの思惑を聞いて、レイヴンはため息をつくのであった。

343 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/09(火) 21:20:34.38 ID:JQXWv41h0
これにて、『マイリトルポニ&チェンジリング 愛情も魔法』は全ての物語を終えました。
後書きなどは後日こちらに載せると思いますので、まとめてある場所へどうぞ。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4238893

一緒に掲載されている『私のぬいぐるみはボディーガード』シリーズもよろしくお願いします。


>>337
確かに仲が良いということもあるのでしょうが、交換日記には書けないこともあって、それを書くた目のノートに関するお話なんてのもあったりするのですよ、ノベル版ですがまだ見ていないお話なので日本語版が早く出てきてほしいものです。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/10(水) 03:54:51.48 ID:sY2HzCFro
>>343
乙。途中から一気読みさせてもらったよ。俺もMLPのSS書く気になったわ。もし見かけたら読んでね。
345 : ◆QWO3xeEtwU [saga]:2014/12/14(日) 21:25:17.57 ID:Oj3PGYmp0
>>344
お読みいただきありがとうございました。SSもぜひ頑張ってくださいね
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