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ホームレス(38)「メリークリスマス。もう死んでやる」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 01:20:02.92 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「希望なんてない。もうおしまいだ」

ホームレス(38)「38年よく生きたよ」

ホームレス(38)「しかし今日は一段と寒いな」

ホームレス(38)「」ブルブル

ホームレス(38)「12月24日0時2分」

ホームレス(38)「こんな時間なのに都内は人が多い」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「今年のイルミネーションは綺麗だ」

ホームレス(38)「それだけで俺は…」ブルブル

ホームレス(38)「生きてて」ブルブル

ホームレス(38)「よかっ……」ガタガタ

ホームレス(38)「…………t」





「――――おじちゃん何してるの?」

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VIPでTW ★5 @ 2024/03/29(金) 09:54:48.69 ID:aP+hFwQR0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711673687/

小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 01:28:08.94 ID:ZF/pjP7sO

始まった
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 01:29:37.43 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「……」

ホームレス(38)「へ?」

「おじちゃん。何してるのって」

ホームレス(38)「…」ガタガタ

ホームレス(38)「何って…」

「?」

ホームレス(38)(この女の子…7〜8歳くらい、か?)

ホームレス(38)(可愛い。まるで天使だ)

天使「おじちゃん」

ホームレス(38)(イヴの夜。街中の喧騒に包まれながらも隔絶された世界で生きる、今にもうのたれ死のうとする汚ない中年が一人。そしてまだ世界の何も知らない無垢で可愛らしい女の子がやってきて…)

ホームレス(38)(はは)

ホームレス(38)(何かの映画のワンシーンみたいだな)

ホームレス(38)(死ぬ前にサンタがくれたクリスマスプレゼントか)

天使「……答えてよ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 01:41:07.16 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「」キョロキョロ

ホームレス(38)「君…。お母さんやお父さんは?」

天使「え?」

天使「死んだよ」

ホームレス(38)「! はは…」

ホームレス(38)(見かけによらずキツい冗談を言う子だ…)

ホームレス(38)「……俺もね」

ホームレス(38)「死ぬんだ。今から」

天使「えー。今から〜?」

ホームレス(38)「……あ、ああ」

ホームレス(38)「今からさ」

天使「嘘。じゃあ死んで」

ホームレス(38)(何なんだこの子)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 01:50:19.77 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)(…周りにこっちを見ている人はいない。いたずらじゃない)

ホームレス(38)(……もし俺が結婚していて、娘がいたんだとしたら)

ホームレス(38)(ちょうどこの子くらいなんだろうか)

ホームレス(38)「早く家に帰りなさい。雪も降ってきた。これからもっと冷える」

天使「帰ったって誰もいないから」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「じゃあ一人で暮らしてるの?」

天使「うん」

ホームレス(38)(両親不在。一人暮らし。こんな小さな娘が)

ホームレス(38)(あり得ない…。からかわれてるな)

ホームレス(38)「いいから早く」

天使「おじちゃんが死んでくれたら帰る」

ホームレス(38)「俺はおじさんではない」

天使「おじちゃん」

ホームレス(38)「…」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 02:01:12.84 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「ひとつ、弁明をさせてもらおう」

天使「べんめいって何」

ホームレス(38)「俺はかれこれホームレスを8年続けてる」

天使「私と同じ」

ホームレス(38)(ああやっぱり8歳なのね)

ホームレス(38)「その間、風呂には入っていないし、髪も切ってない」

天使「臭い」

ホームレス(38)「だからそういう生活を続けていれば誰でも一層老けて見えるのであって俺は断じておじさ…ええッ!!?」

ホームレス(38)「ここで!?」

天使「まだ死なないの?」

ホームレス(38)「サンタは何てクリスマスプレゼントを寄こしやがった!悪魔だ悪魔!」

天使「遊ぼう」

ホームレス(38)「……はあ?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 02:14:00.60 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「遊ばない。帰りなさい」

天使「死ぬか遊ぶか。お願い」

ホームレス(38)「何つう選択肢なんだよおい」

天使「…」

ホームレス(38)「……俺は寝るからな」

天使「その段ボールで?」

ホームレス(38)「ああ」

ホームレス(38)「そうして8年過ごしてきた」

ホームレス(38)「苦しい時間は長く感じる。…もう80年はこうしてきたような感覚だ」

ホームレス(38)「もう俺は疲れた。だから寝る」

ホームレス(38)「ずっとそこにいればいい。飽きたら帰りなさい」

ホームレス(38)「今日はクリスマスだ。こんな街中の片隅で汚いおじさ…お兄さんと話していたって、いいことなんかない」

天使「そうだね」

ホームレス(38)「…ええ!?」

天使「ばいばい」

タタタタ…

ホームレス(38)「…」








ホームレス(38)「待てーーーーーーーーーーーーーいッ!!!!!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 02:26:37.63 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「本当に帰ったな…」

ホームレス(38)「何だったんだ…」

ホームレス(38)「…くそ。何だかもやもやする」

ホームレス(38)「まあいい。死ぬ前に少しは楽しめた」

ホームレス(38)「もう…」

ホームレス(38)「……、」

ホームレス(38)「ん?」

ホームレス(38)「あの娘、何か落としていったか?」

ホームレス(38)「いかにもクリスマスプレゼントな箱が…」

ホームレス(38)「あれ? あの娘と話すさっきまで、無かったよな?」

ホームレス(38)「かと言ってまさか大人が片腕で腹に抱える程の大きさの箱なんか持ってたら、普通気付く」

ホームレス(38)「何も持ってなかったような…。あれ?」

ホームレス(38)「落し物? もともとあった?」

ホームレス(38)「うーん…」

ホームレス(38)「…………、」

ホームレス(38)「くそ…」ダッ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 02:41:05.65 ID:NJVJvcWa0
タタタタ…



ホームレス(38)「くそ…」

ホームレス(38)「まともな運動、何年振りだ?」

ホームレス(38)「脚が重い…」

ホームレス(38)「肺が痛む…。息切れが…」

ホームレス(38)「はあ、はあ」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「やめだ、やめ」ピタリ

ホームレス(38)「……」

ホームレス(38)「どうせ俺は死んだところで地獄行きだ」

ホームレス(38)「悪行のひとつやふたつ…今更増えたとこで……」

ホームレス(38)「開けてやる」

ホームレス(38)「」パカッ

ホームレス(38)「…………」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 02:51:21.41 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「…サンタ帽、だな」

ホームレス(38)「……」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「被る、か」

ホームレス(38)「」スッ

ホームレス(38)「………」

ホームレス(38)「何やってんだろ。俺」

ホームレス(38)「死のう。早く。雪景色が綺麗な内に」

シャンシャンシャン…

シャンシャンシャン……

ホームレス(38)「ん? 何か聞こえる」

シャンシャンシャン…シャンシャンシャン…………!

ホームレス(38)「ああ。クリスマスだしな。鈴の音くらい…」

ホームレス(38)「?」

ホームレス(38)「音…近付いて……」

ホームレス(38)「……上?」

シャンシャンシャンシャンシャンシャン!!!

「危ねえーーーーッ!!!!?」

ドゴォ!!!
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 03:11:36.42 ID:NJVJvcWa0
「痛っ。…てめえこの! 信号送ったろうが!!」

ホームレス(38)「お前こそいきなりぶつかってきておいて…なああああァ!!?」

「あ?」

ホームレス(38)「サ、サササ、」

ホームレス(38)「サンタ!?」

「? 当たり前だろ。今の衝撃でボケたか」

ホームレス(38)(ソリ。トナカイ。サンタの…コスプレ? いや…)

ホームレス(38)(今。こいつ上から降ってきたよな? 間違いない。見た)

ホームレス(38)(こいつの言う通り、衝撃よりも前に、死ぬ間際の頭がお花畑でなければ、確かに)

ホームレス(38)「……サンタ。本物、か?」

「? ああ。86号だ。そら免許証」スッ

ホームレス(38)「免許証…つったって」

サンタ86号「……お前。仕事着は?」

ホームレス(38)「仕事着? そのサンタ服か?」

サンタ86号「お前。もしかして新人…?」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 03:23:57.88 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「馬鹿言え。新人どころか、無職だ」

サンタ86号「てめーこそ馬鹿言え! 無職にサンタが見えるか!?」

サンタ86号「人間にサンタが見えるか!?」

ホームレス(38)「……はあ?」

ホームレス(38)「つうかお前、その物言い。見たとこ20代半ばだろ。その口の聞き方をまず」

サンタ86号「るせえぞ無職。早く死んじまえ。生きる価値なし」

ホームレス(38)「今まさにそうしようとしたとこでお前がぶち当たってきたんだろうが!」

サンタ86号「けっ。仮にもサンタが職を無くして真冬の路上で自死たあね。嫌な話だ」

ホームレス(38)「…無職にサンタは見えないんじゃないのか」

サンタ86号「……そうだ。そうだ。…お前は何なんだ?」

サンタ86号「サンタはサンタクロースという職を辞めた時、サンタでなくなる」

ホームレス(38)「そりゃあな」

サンタ86号「すると人間でもサンタでもないその存在はまず、俺たちサンタを認識できなくなることから始まる」

サンタ86号「見えない。触れることもできない」

サンタ86号「だがお前は俺を認識している。しかしそれでいて、見るからにサンタじゃない。どちらかと言えば人間だ」

サンタ86号「てめー、何なんだ?」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 03:37:40.60 ID:NJVJvcWa0
ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「訂正。俺、サンタ」

サンタ86号「あ?」

ホームレス(38)「ほら。被ってるだろ。帽子」

サンタ86号「…」

サンタ86号「はあ」

サンタ86号「あのなあ。調理師らしい格好してりゃあ誰でもその瞬間から一流のシェフか?」

サンタ86号「常識でもの見ろよハゲ」

ホームレス(38)「誰がハゲだ。フサフサだろうが」

ホームレス(38)「俺からすれば、お前の存在自体、常識の外だ」

ホームレス(38)「…何かそのソリ、発光してるし。浮いてるし」

ホームレス(38)「実在したんだな。サンタ」

ホームレス(38)「死ぬ前に見れて、良かったよ」

サンタ86号(! こいつ…)
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 03:48:22.77 ID:NJVJvcWa0
サンタ86号「…」

サンタ86号「サンタは夢を届ける仕事だ」

サンタ86号「世界中の子供たちに笑顔と元気を届ける重要な仕事だ」

サンタ86号「世界をハッピーにする尊大な仕事だ」

ホームレス(38)「ご苦労さん」

サンタ86号「だからな。てめーみてえなクソッタレを見てると、どうにかしたくなる世話焼き体質が、俺らサンタクロースなんだよ。来い」

ホームレス(38)「は?」

サンタ86号「てめーが人間だかサンタだか知らねえが…」

サンタ86号「俺が見える。俺に触れられる。俺と出会った」

サンタ86号「そしてそいつは最悪なことにどうしようもないゴミクズ・オブ・ゴミクズらしい」

ホームレス(38)「おい。かっこ良い呼び方をやめろ」

サンタ86号「かっこ良くねえ」

サンタ86号「見せてやるっつってんだ。俺らの仕事」

ホームレス(38)「……は?」

サンタ86号「どうせ死ぬなら人の役に立ってからでも遅くねえだろ」

サンタ86号「なあオイ。てめーの絶望は、俺らの希望で今日、これから死ぬぜ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 06:06:25.48 ID:izRtGeTT0
やだ…このサンタさんイケメン
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 06:27:37.37 ID:HTZ5saYp0
12月24日 0時36分
フィンランド上空

ホームレス(38)「なあ。夜景は綺麗だし風も気持ちいいし言うことないんだけど」

ホームレス(38)「高いところ苦手なんだ。いい加減降ろしてくれ」

サンタ86号「高所恐怖症のサンタクロースか。生きる価値ねえな」

ホームレス(38)「お前は俺を生かしたいのかそうでないのかどっちなんだ」

サンタ86号「お前次第だ」

サンタ86号「サンタは夢を与える。元気。笑顔…」

ホームレス(38)「それはさっき聞いた」

サンタ86号「だが結局はてめー次第だって事だ。これは純真な子供からお前みたいな薄汚い大人まで、どんな奴にだって言える」

ホームレス(38)「薄汚い言うな」

サンタ86号「…要は」

サンタ86号「俺たちサンタクロースは、誰かに元気を与えること『まで』しかできない」

サンタ86号「そいつがその先どんなに酷く辛い目に会っても。それを逐一解決してやれるだけの力は、俺たちにはない」

ホームレス(38)「……当たり前だろ」

ホームレス(38)「サンタ風情が、神様気取りかよ」

サンタ86号「…神様でも何でもいい。サンタにとって、全ての原動力は、与える相手の元気だ」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 06:50:58.24 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「綺麗ごとだな」

サンタ86号「そう聞こえるだろうな。てめーみたいな奴には」

サンタ86号「…誰かに本気で憧れたこと、あるか」

ホームレス(38)「……さあ。どうだったかな」

サンタ86号「師。ヒーロー。神様。何だっていい」

サンタ86号「つまりは自分を導いてくれる強かな存在だ」

サンタ86号「そういう存在を心に秘めてる奴は、その存在への憧れによって自分自身もまた、誰かに元気を与えようとしたくなるもんだ。形は何だっていい」

サンタ86号「恩は返せないことの方が多い。だからそれを与えてくれた奴じゃない、また別の奴に恩を与え、バトンのように、また誰かに引き継いでいく」

サンタ86号「人間世界はそうして生き長らえてきた。サンタもその一助として力添えをしてきたんだ」

ホームレス(38)「力添え、ね」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 06:59:04.09 ID:HTZ5saYp0
サンタ86号「元気ってのはな。永続的に求められるものだ。生きていく上で必要不可欠なものだ」

サンタ86号「いつどんな時代にも必要なものだ。おかげで俺たちサンタは廃業せずにここまでやれてる」

サンタ86号「サンタにできることは元気を与えること『まで』だが、それが正解だ」

サンタ86号「それを人が求める時、いつだって、俺たちもまた、傍にいてやれることができる」

サンタ86号「直接に干渉できなくたって、直接に解決してやれなくたって、元気って形のないモンが、そいつの傍にいてやれる」

サンタ86号「こんな究極的なもんはない。『元気』ってのは世界を保つ」

サンタ86号「この仕事にプライドを持ってる奴皆が思うだろうな。誰かのために働けている」

サンタ86号「そこん所は人間と同じだな。自分でなく、誰かのために何かをする時、ポテンシャルを最大限活かせる」

サンタ86号「だからサンタクロースは、子供の夢で在り続ける」

ホームレス(38)「世の中には誰かに元気を与える能力のない人だっているだろ」

サンタ86号「能力? それで食ってくってんなら、正しい表現だ」

サンタ86号「思いやりだろ。人に対しての。まともな育ちしてりゃ、自然、生まれるもんだ」

サンタ86号「自死なんざ、自分しか見えねえ奴の最も愚かしい行為だ」

ホームレス(38)「……強い奴の意見だよ。それは」

サンタ86号「…かもな」

サンタ86号「サンタも人も。強さ無くして、生きられねえんだよ」

サンタ86号「だから与える」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 07:17:26.95 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「それを受け入れられない人だっている」

ホームレス(38)「サンタは人間の弱さを知らない」

ホームレス(38)「弱さは醜さだ。罪とも言える」

ホームレス(38)「生きてく中で、捻くれて、強さや正しさに向き合えず、受け入れられない。お前らみたいな奴を、受け入れられない奴だっている」

サンタ86号「……歳だけは食ってるようだな。絶望の泥水をよほど堪能したか。臭え訳だ」

ホームレス(38)「人は臭いぞ」

サンタ86号「お前の言う通り、正しさは万能じゃない。だが『元気』は違う」

サンタ86号「間違ったアプローチで与える元気もある。だがそれはサンタの仕事じゃない」

サンタ86号「だからてめーの言うことは十分理解できるし、否定もしない。サンタはサンタの思いやりの届く限りで全力を尽くすだけだ」

ホームレス(38)「俺もそれは理解できる。けど、俺の絶望は多分、結局、どうにもできない。サンタクロースには」

ホームレス(38)「俺は今日このクリスマスで一仕事終えたら、予定通り死ぬつもりだ。それは変わらない」

サンタ86号「…」

サンタ86号「好きにしろ。だがこれだけは覚えておけ」

サンタ86号「――たとえ届かなくたって、お前をどうにかしてやりたいと願う奴がこの世界のどこかに必ずいるってことを」

ホームレス(38)「…少し話して分かった。やっぱ若えよ。お前」

サンタ86号「当然だ」

サンタ86号「……着いたぞ」

サンタ86号「サンタクロースの住処。総本部とでも言うか」

サンタ86号「フィンランド、サンタクロース村だ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 07:59:26.83 ID:HTZ5saYp0
12月24日 0時42分
サンタクロース村

ガヤガヤ…

ホームレス(38)「うお…。マジでサンタだらけ」

サンタ86号「迷うなよ。まあその体臭なら見失うことはねえか」

ホームレス(38)「そんなに酷い?」クンクン

ホームレス(38)「あら本当」

サンタ86号「…。ああ酷いな。ちょっとこっち来い」

ホームレス(38)「?」

サンタ86号「そらよ」ヒュッ

シュボッ!

ホームレス(38)「おわっ!?」

ホームレス(38)「…何だ。何した?」

サンタ86号「魔法をかけた。俺は魔翌力には自信ねえが…まあ体臭と見てくれを清潔にする程度なら訳ねえ」

ホームレス(38)「ちゃんとイケメンになってるか?」

サンタ86号「安心しろ。救いようがねえ」

ホームレス(38)「…」

サンタ29号「ダーリン!」ガバッ

サンタ86号「うおっと」

サンタ29号「会いたかったー! もう。無駄に仕事熱心だからクリスマス時期にならないとろくに顔も合わせられないわ」

ホームレス(38)「…?」

ホームレス(38)「サンタにもそういうの、あんの?」

サンタ86号「サンタにもこういうのはあるな」

サンタ86号「安心しろ。無論お前は救いようが」

ホームレス(38)「うるせえよ!」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 08:14:44.91 ID:HTZ5saYp0
サンタ29号「この人は? 新人?」

サンタ86号「新人どころか無職だ。元サンタか人間かその中間かこれからサンタになるのかどういう存在かすらよく分からん」

サンタ29号「つまりその辺に転がってる紙くずとでも思えばいいわけね」

サンタ86号「その通りだ」

ホームレス(38)「何てカップルだ!」

サンタ29号「よろしく。私29号」

ホームレス(38)「…ああ。よ、ろしく。ホームレスだ」

サンタ86号「後で手ェ拭いとけよ」

サンタ29号「魔法があるもん!」

ホームレス(38)「誰か武器をくれ! できるだけ強力なものを!」

サンタ86号「どうだ。寒いか?」

ホームレス(38)「……? あ、そういえば」

ホームレス(38)「俺の住む日本より大分寒い筈なのに」

ホームレス(38)「こりゃサンタ帽もいらねえかな…」

サンタ86号「止めろッ!!!」

ホームレス(38)「…っ」

ホームレス(38)「……何、だよ」

サンタ86号「推測だが。恐らくお前とサンタ世界を繋ぎ止めてんのはその帽子だ。今は被っておけ。まだ力が馴染み切ってない」

ホームレス(38)「…これが?」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 22:25:34.00 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「…つまり。これを取ればお前らサンタクロースから開放されるわけだ」

サンタ86号「取ってもいい。てめーの自由だ。が、心の準備ってものも必要だろう」

ホームレス(38)「どういう意味だ?」

サンタ86号「さっき飛んでる時にソリの上でお前の帽子に触れて確認した。力が宿ってる」

ホームレス(38)「いつの間に…」

サンタ86号「それはサンタ1号…初代サンタクロースの力が宿ってる帽子だ」

サンタ29号「!」

ホームレス(38)「初代…?」

サンタ86号「その力に一定時間触れ続けると、サンタとしてその存在を変容させる」

ホームレス(38)「…は!?」

サンタ86号「だがそれまでお前は人間でもサンタでもない。さっき言ったことはそういう意味だ。今、お前は何者でもない。そして」

サンタ86号「サンタとしてその存在を完成しない間にそのサンタ帽を取れば、まあ…ここまで言えば予想はつくだろ」

ホームレス(38)「…………死ぬ、のか」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 22:28:19.99 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「…。死ぬか、サンタか。そういうことか!?」

サンタ86号「本来サンタクロースというものは、クリスマスにその生命を終える…主に人間という存在が、何らかの形で訪れる帽子の力に触れ、そしてこちらの道を選択し、クリスマスの化身へと変貌を遂げた者を指し示す」

サンタ86号「まさしく夢という存在に、夢に死ぬってことだ」

ホームレス(38)「そして帽子を取れば、現実に死ぬ…」

サンタ86号「お前はもう死者だ。どの道な」

サンタ86号「人には戻れない」

ホームレス(38)「……………………!」

サンタ86号「この形でサンタになるケースはもうほとんどない。だからてめーの帽子に触れるまでこの話は忘れてたし、サンタでもねえ奴が何故俺と接触できるか戸惑った」

サンタ86号「最初会った時…ぶつかる時に、信号を感覚できてなかったから人間で間違いないと思い込んでただけにな。つまり元人間がサンタにってことは、もう今じゃ無いと言っていいんだよ」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 22:30:06.93 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「どうして」

サンタ29号「この人間世界における『信じる心』の強さが、年々弱まっているから」

サンタ29号「サンタクロースは人の『信じる心』がなければその存在を維持できない」

サンタ29号「今、世界の負は強さを増してきてる」

サンタ29号「だからその負の感情を、少しでも浄化する。このクリスマスに。サンタクロースの役目のひとつよ」

ホームレス(38)「…元サンタの可能性もあるって話は何だ」

サンタ86号「サンタはサンタを辞めた時、サンタでいた時の記憶なんかは消えるが。稀に認識だけは継続することがある」

サンタ86号「だがまあお前の認識能力はその帽子の恩恵だろう。タイミングから言ってもな」

ホームレス(38)「お前らは元人間じゃないのか?」

サンタ86号「純正だ。サンタとサンタの間から生まれた。数が減少してるとは言え、サンタも歴史は長い」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 22:46:01.58 ID:HTZ5saYp0
「おっと。説明してる間に時間だ。少し離れる」

サンタ29号「村長のとこ?」

「ああ。こいつを連れて仕事する旨を伝えなきゃな。少し待ってろ」タタタ…

ホームレス(38)「…」

サンタ29号「ねえ」フイ

ホームレス(38)「何だよ」

サンタ29号「どうして死のうと思ったの?」

ホームレス(38)「出会ったばかりの奴に話すことじゃない」

サンタ29号「…ふふ。あなた、少し彼に似てる」

ホームレス(38)「は?」

サンタ29号「そういう遠慮のないところ。出会ったばかりの私に、普通そんなむくれた態度取る?」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/24(水) 22:46:58.13 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「…性格だ。あんなのと一緒にするな」

サンタ29号「だから信じられない。自分の手で自分を、なんてことを。あなたがするなんて」

ホームレス(38)「目に見えることだけがそいつの全てじゃねえだろ」

サンタ29号「ジャパンだっけ? あの辺だと、余計そうよねー」

ホームレス(38)「……。お前も深く詮索しない辺り、弁えてるな」

サンタ29号「あなたの闇なんかに興味ないもの」

ホームレス(38)「…」

サンタ29号「だって、彼が今日、そんなもの、全部浄化してくれるから」

ホームレス(38)「やけに自信あるな」

サンタ29号「言ったでしょう。彼とあなた、似てるって」

サンタ29号「だから抱えてる闇だって、そっくり」

サンタ29号「あなたの痛みを本能的に理解したから、何とかしようと思った。そのはずよ」

サンタ29号「だって彼。仕事以外でこんな他人に尽くすこと。滅多にないから」

ホームレス(38)「…へえ。確かに。そうかもな」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 23:03:40.85 ID:HTZ5saYp0
サンタ29号「元人間のサンタはみんな闇を抱えているわ」

サンタ29号「だってクリスマスに死のうと思う人たちよ。何かひとつは十字架を背負ってるでしょう」

ホームレス(38)「? 待て。クリスマスに生命を終える存在がサンタクロースになるってのは」

サンタ29号「ええ。事故死や病死じゃない」

サンタ29号「自決よ」

ホームレス(38)「…。夢のない話だな。童話か何かの裏設定でも聞かされてる気分になる」

サンタ29号「ハッピーを与えられる人は、それと同じくらい闇だって抱えてる」

サンタ29号「だから強い意志を持ってこの仕事に臨んでるサンタばかり。元人間さんはね。今は殆どいないけど」

サンタ29号「サンタを選ばない人が増えてるのね。よほど負が蔓延してるのかしら」

サンタ29号「あなただって。帽子によって今世界を感覚できてるけど。本当ならもう死んでるの」

ホームレス(38)「そりゃ分からないだろ。死ぬのは明日かもしれなかった」

サンタ29号「いえ。だって帽子があなたの前に現れたもの」

ホームレス(38)「…なるほど」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/24(水) 23:34:41.90 ID:HTZ5saYp0
ホームレス(38)「ならあの時の女の子は、天使どころか、死神みたいなもんだったのか…」

サンタ29号「女の子?」

ホームレス(38)「ああ。多分、その娘がこの帽子を」

サンタ29号「そんな話、私は知らない」

ホームレス(38)「え?」

サンタ29号「帽子に備わる力が初代のものだってことは私もさっき知ったけど。元人間がサンタになった話は本人達から何回も耳にした」

サンタ29号「女の子が現れたなんて話。あなたが初めて」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「あの女の子は一体…誰だったんだ」

サンタ29号「……私には分からないけど。もうその話は誰にもしない方がいいんじゃない」

サンタ29号「せっかくのクリスマスだもの。そういう宝物はそっと取っておいたほうがいいわ。誰にも話さずに」

――おじちゃん。

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「おい。話がついたからちょっと来い!」タタタ…

サンタ29号「あ。戻ってきた」

サンタ86号「ついでに29号、お前も来い。どうやら今年のクリスマスはお前と一緒に働くことになりそうだ」

サンタ29号「本当!? やったあ! ダーリン流石!」

サンタ86号「俺の判断じゃねえ」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「……おい、何呆けてんだ。てめーもとっとと来い」

サンタ86号「ボサッとしてる暇なんてねえぞ。お前の決断はこのクリスマスイヴの日がタイムリミットだ」

サンタ86号「望まねえ結果を迎えたくはねえだろ。一秒でも多く悩んでこの世界をしっかり直視しろ」

サンタ86号「てめーはもう死んで何者でもねえが、心はまだ人間だろ」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/25(木) 00:12:23.69 ID:viyGAVUo0
12月24日 1時02分
サンタクロース村 長の住処

サンタ86号「こいつがこの村の…ひいては全サンタクロースを統括…ってほどでもねえな。傍観?」

サンタ86号「まあとにかく。長だ」

村長「随分な紹介だな86号」

サンタ86号「ちったあらしい所を見せろってんだよ! クリスマス時期以外、まともに仕事しやしねえだろうが!」

村長「だってサンタクロースだもの」

サンタ86号「くそじじいがその口調は止めろ。攻撃に等しい」

村長「相変わらず目上年上に対して辛辣だな86号は」

サンタ86号「年は関係ねえ。気に入った奴。気に入らない奴。それが全てだ」

村長「ほほ。結構結構」

サンタ29号「やっほー村長!」

村長「おお29号。相変わらずキュートで何よりじゃ」

ホームレス(38)「…えっと」

村長「おお。君が久しく見ない元人間のサンタクロース!…候補、だったかな」

ホームレス(38)「なりませんが」

サンタ86号「いやなる」

ホームレス(38)「ならん」

サンタ86号「なる」

「「……」」

村長「ほほ。早速意気投合しておるな。こりゃあ余計な心配は無用か。円滑な仕事を期待できそうじゃ」

村長「せっかくだからの。諸君の担当区画はジャパン…日本に指定させてもらおう」

村長「そのためのチームを編成した。まあ、86号と見知ったような奴ばかりじゃが。…来なさい!」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/25(木) 00:47:46.67 ID:viyGAVUo0
「…60003号」ボソッ

「ご、500号です。 よろしく」キリッ

村長「この二人と君たち三人、計五人でジャパンの一部を担当してもらう」

ホームレス(38)「随分数字が飛んでないかこれ」

村長「それだけ多いんじゃ。何しろ全世界の子供たちにプレゼントを配って回らねばならん。猫の手も借りたいという言葉はこの場合に適切かな?」

サンタ86号「付け加えると辞めたサンタの穴を埋めるみてえに新人がその番号を名乗ることになるから、数が若えからと言って年寄りばかりかっつったらそうじゃねえ」

サンタ29号「人間で言えば私は23歳くらい?」

サンタ29号「ダーリンは27。ごー君…500号は20。愛ちゃん…60003号は16ってとこ?」

ホームレス(38)「ごー君。愛ちゃん」

サンタ86号「サンタにもニックネームで呼び合うような風習はある。ま、俺の周りで派手に好き勝手名付けてんのは主に29号一人だが」

サンタ29号「ごー君はすぐ緊張しちゃう可愛い男の子で、誰にも負けない誠実さ、その真っ直ぐさと、サンタ番号をかけて『ごー君』にしたの」

サンタ29号「愛ちゃんは愛らしいから愛ちゃん。本読んだり歌を歌うのが好きなのよねー」

サンタ60003号「…」コクリ

サンタ29号「きゃー!今日も愛ちゃん可愛いー!!」

サンタ86号「やかましい」

サンタ500号「い、一緒に頑張りましょう! そして是非、このサンタ業界へっ」

ホームレス(38)「……先が思いやられるな」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/25(木) 02:19:17.70 ID:viyGAVUo0
とある場所

「え?」

「サンタクロースに。彼が?」

「…そう。まだ帽子の力で生死の境目にいる状態なの」

「ってことは、クリスマスに。彼は。命を…」

「会いたい」

「会いたいわ!」

「…会いたい」

「大丈夫」

「信じてる。会える」

「そう信じ続けて、ずっとここにいたの」

「奇跡は起こる」

「信じ続ける心こそ、人に残された最後の強さだから」

「ここにいる。クリスマスの日に、またあの笑顔を取り戻すために」

「――待ってる」



〜『メリー・ホームレス』〜
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/30(火) 04:03:38.58 ID:l5ANU/fu0
サンタ86号「急げ!!」

12月24日 1時22分
東京上空

シャンシャンシャンシャンシャンシャン!…

ホームレス(38)「なあ」

サンタ86号「私語は慎めもう仕事は始まってんだ」

ホームレス(38)「分からないことが多すぎるんだよ!」

サンタ500号「よ、よければ僕が質問にお答えします」

サンタ500号「彼はスイッチが入るといつにも増してピリピリするんです」

ホームレス(38)「本当に純正のサンタなのかよ…。人間と殆ど変わらないな…」

サンタ29号「一件目までもうすぐよー」

サンタ500号「質問は」

ホームレス(38)「…あ、ああ」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2014/12/30(火) 04:04:37.96 ID:l5ANU/fu0
ホームレス(38)「俺は12月24日、日本時刻のほぼ0時、クリスマスイブに入ったあたりで帽子を手にした」

ホームレス(38)「86号の言うタイムリミットはクリスマスイヴを指してたが、それは帽子を手にしてから丸一日って事か? クリスマスイヴの間ってことか?」

サンタ86号「んなこと気にしてる場合じゃねえぞ!」

ホームレス(38)「気にするだろ! 死ぬかサンタになるかの瞬間だぞ!」

サンタ500号「……日本時刻で言うなら、正確なクリスマスというものは12月24日の夕方から25日の夕方です」

サンタ500号「イヴという言葉は前夜、夕方、晩を指し示しますが、それは『クリスマスの日の晩』…まあ日没と言った方が分かり易いですかね。それに値します」

サンタ500号「つまり24日の日没…正確なクリスマスに突入した直後。サンタウォッチでの測定結果によれば、今年は日本時刻12月24日16時35分から同日23時59分までがクリスマスイヴということになります」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「ってことは、正確にはまだクリスマスイヴに入ってもないのか」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/30(火) 04:06:13.89 ID:l5ANU/fu0
サンタ29号「だから私達サンタクロースはクリスマス、子供の眠る夜、つまりイブを終え、クリスマス12月25日の0時ぴったりにはプレゼントを届けるの」

ホームレス(38)「じゃあ今から仕事始めるのは早くないか。それに全国、全世界の子にぴったり0時なんてのは…」

サンタ500号「魔法をかけるんです。プレゼントに。0時になるまで人間にそのプレゼントを視覚することはできません」

サンタ500号「なので、25日0時までにプレゼントを配り終えねばならないんです。24日からクリスマスイブの内に」

サンタ500号「ここで話が戻ります。サンタはクリスマスに自決した生命が帽子の力を受け入れることによって辿り着く姿でもある訳ですが…」

ホームレス(38)(小心者の割りに案外はっきりものを言うな)

サンタ500号「ここでいう『クリスマス』はクリスマスイヴを指します」

ホームレス(38)「…時間より先に、帽子が」

サンタ500号「あなたがイブに自決することはもう運命によって『決定事項』なので、行為に及ぶ前に、帽子は現れました。サンタになる25日のクリスマスまでにそれを取れば、正確にはあなたはもう一度『人間』に戻れるんです」

サンタ500号「死ぬために」

ホームレス(38)「…」

サンタ500号「…………あ、あああああ。また、口が過ぎてつい冷酷なことをっ。ごごご、ごめんなさい!」

ホームレス(38)「? あ、ああ。いやいいよ。…今の俺にはその方が親切だ」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/30(火) 04:09:18.07 ID:l5ANU/fu0
サンタ29号「ふふ。結論を言うと、リミットは25日0時ジャストでも、帽子を手にして24時間ってことでもない」

サンタ29号「あなたが『本来死ぬ時刻』がリミットってこと。…簡単な話だけど、その背景にある色んな事を知って欲しかったの、ごー君は。気を悪くしないで」

ホームレス(38)「大丈夫だって」

サンタ86号「500号の言った通り、俺たちは12月24日から同日クリスマスイブの23時59分までに仕事を終えなきゃならねえ」

サンタ86号「要はサンタの仕事は正確にはクリスマスに突入する前から始まってるわけだ」

サンタ86号「そしてイブに突入すると、サンタクロース村にあるクリスマスツリーが全世界に結界を張る。その結界は全サンタクロースの魔翌力を飛躍的に向上させる」

サンタ86号「お前のような仮のサンタクロースも同様だ。今は何一つ魔法を使えねえだろうが、イブに入れば多少はマシになる。そうなるまでにできることをやっとかねえとならねえ」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/30(火) 04:10:59.91 ID:l5ANU/fu0
サンタ86号「この『魔翌力』っつうのが、元人間には尚更に魅力的なもんでな。一度体感すれば、お前の今の考え方も一変する可能性がでかい」

ホームレス(38)(妙なこいつの自信はそれが裏付けになってるのか?)

サンタ86号「ついでに言うとお前の生命期限は何とまあクリスマスイブと同タイミングの24日23時59分だ。よほどドラマチックな死に方でも考えてたか?」

ホームレス(38)「…知るか。何しろまだやってないんだからな」

サンタ86号「以上だ。こんだけ伝えりゃ聞きたいことはもうねえだろ。急ぐぞ」

サンタ86号「最初の家庭訪問先は『タナカ家』だ」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/30(火) 12:40:40.74 ID:dAfLEblrO
メール欄にsaga入れようぜ
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2014/12/30(火) 16:17:11.09 ID:QoVOmywsO
すまんここ久し振りでsagaとsage間違えてた
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/04(日) 16:33:08.02 ID:kXzJAdFSo
まだかい
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/06(火) 01:34:10.24 ID:GEWz80sN0
〜タナカ家〜

【家族構成】
母(36):Y子
息子(10):S朗 以上2名

【幸福度】
☆☆☆・・・・・・・
(星十個中三個)

【不幸度】
★★★★・・・・・・
(星十個中四個)

【家庭事情】
・母子家庭
・母親の多忙による子供の孤独感

【信じる心】
☆☆・・・・・・・・
(星十個中二個)


12月23日14時25分
東京 とある小学校

「「「さようならー」」」

キーンコーンカーンコーン…

S朗「…」

S朗(冬休み前だっていうのに、帰りの時間はそう早くはならないか…)

S朗(まあ。早く帰ったってやることは…)

S朗(……もうクリスマスかあ)

S朗(今年のクリスマスは…)

「――おうS朗!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/06(火) 01:38:14.72 ID:s9TdntxDO
(ホームレズに見えたのは黙っておこう)
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/07(水) 19:00:23.92 ID:mVVeKPEi0
S朗「ああ、K太か」

K太「いよいよ冬休み到来だな。今年は何する?」

S朗「……勉強」

K太「相変わらず真面目君だねえ。クリスマスは?大晦日は?初詣は?」

K太「この冬休みの特別な空気感。わくわくしない?勉強なんていつでもできるだろ」

S朗「しない」

S朗「…期待なんてしない方がいい」

K太「は?」

S朗「……どうせ、裏切られるだけだ」

K太「…?」

K太「あーあー、分かった分かった。よし」

K太「ここでおまえにとっておきの情報を教えてやろう」

S朗「とっておきの情報?」

K太「そう」

K太「クリスマスになると俺たち子供にプレゼントを授けてくれる不思議なサンタクロース。どうやら不思議な都市伝説があるみたいでさ」

S朗「都市伝説?」

K太「ああ。サンタの正体はもしかすると人間だっていう都市伝説さ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 19:18:57.19 ID:mVVeKPEi0
S朗「…?」

S朗「親だろ」

K太「まーだそんなこと言ってる夢のない小学生がいんのかよ!」

S朗「お前こそ、現実見ろって。もう小四だぞ。恥ずかしくないのか」

K太「いいか。サンタはな、その存在を心から信じてくれる者にだけ、プレゼントを与えてくれるんだよ」

S朗「馬鹿馬鹿しい、帰る」ガタッ

K太「待て待て待て!」

K太「俺は小二のクリスマス、確かに聞いたんだ。寒空から雪のように降り注いでくるささやかで確かなベルの音を」

S朗「どっかの家が遅くまでパーティーやってたんだろ」

K太「違う。絶対違う。その後、近所の家という家に、聞いて回ったんだ。あの時間帯にパーティーやってたんじゃないかって」

S朗「じゃあそれ以外の理由で、とにかく誰かが」

K太「お前はとにかく何としても信じない方向に持っていくな。…それだけじゃないんだ。悲しいことに、その年のクリスマスは父さんは外国。母さんは夜勤。俺には兄弟もいない。紛れもなくあのクリスマス、あの家には俺一人だった」

K太「…あり得ないんだよ。サンタがプレゼントを与えてくれた以外には」

S朗「じゃあ百万歩譲ってサンタは実在するにしても、正体がやっぱ人間でしたっていうのはどうなんだ」

K太「違う。そういうことじゃない」

K太「実在する、俺たちの誰もが何らかの本や映画で目にするような、あのサンタが、実は人間だったんじゃないかって話」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 19:41:15.79 ID:mVVeKPEi0
S朗「ああ。お前の言いたいことが分かった」

S朗「実は人間がサンタでしたって話じゃなくて、サンタは人間でしたって言いたいんだろ」

K太「おお、そうそう!」

S朗「確かにこれならサンタが実在する仮定の上で成り立つ都市伝説だな」

K太「小難しい言い方だな。お前って本当何から何まで子供らしくねえよな…」

S朗「で?」

K太「ああ、そうだ」

K太「お前四組のA田、知ってるか?」

S朗「……ああ。あのやけに明るい奴」

K太「あいつが見たらしいんだ。親戚の、病気だかで亡くなった人と全く同一としか思えない人物が、ソリ乗って空を…」

K太「まさしく本や映画で見るようなあのサンタそのままの姿で、どこかへ飛んで消えて言ったって話」

S朗「…いつの話?」

K太「去年」

S朗「はああ、馬鹿馬鹿しい。腹でも減って幻見たんだろ。帰る」ガタン

K太「ま、待てって!」ダッ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 20:13:03.11 ID:mVVeKPEi0
廊下

タタタタタ!…

K太「待てって!廊下は走るな!」タタタタ

S朗「お前が追いかけてこなきゃわざわざ走らないよ!」タタタタ

K太「話を聞けって!」タタタタ

S朗「もう充分聞いた。俺には縁のない話だ」タタタタ

S朗「信心深いお前にならその都市伝説の真相を突き止めることができるかもしれないな」タタタタ

S朗「タイムイズマネー。時は金なり」タタタタ

S朗「くだらないことにあぐらかいてないで、ちょっとは将来への投資に勉強でもしたらどうだ?」タタタタ

S朗「現実は思う以上に過酷だぞ。何もしなかったツケは、後になって必ず返ってくる」タタタタ

K太「――そういうお前はどうなんだ!!?」

S朗「」ピタリ

S朗「……何?」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 20:13:53.81 ID:mVVeKPEi0
K太「確かに俺はお前みたいな大人と違ってまだまだガキだ。けどな、それでいいと思ってる」

K太「親父が言ってたぜ。人は年相応であるべきだって。むしろそれをちゃんと認識できている人こそが、よっぽど大人だってな」

K太「今、この小四の冬。「今」「この」俺たちにしかできないこと、考えられないこと、いっぱいあるだろ!」

K太「それを全部捨てて、先のことばっか見てたら、お前の方こそいつか損を見るぞ!」

K太「今しかできないこと…何もしなかったら、そのツケっての、返ってくるんじゃないのか」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 20:14:17.35 ID:mVVeKPEi0
S朗「…」

S朗「……、」

S朗「はあ」

S朗「大袈裟なんだよ、お前」

K太「…」

S朗「分かった。…付き合うよ」

K太「…おお!」

K太「遅えんだよ、この!」ポカッ

S朗「あだっ!?」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/07(水) 22:34:20.53 ID:mVVeKPEi0
四組教室

「え!?信じるの?」

S朗「…いや、まあ。話し次第では面白いのかなって」

K太「信じる!」

S朗「…、」ジー

K太「何だよ」

「そう!確かにこの目で見たのっ。誰も信じてくれないけど…」

「……ねえ、君。確か二組のS朗くん」

S朗「そうだけど」

「…ふうん」

S朗「何だよ」

「……ねえ。これから暇?」

S朗「いや。話が長くなりそうなら俺はこれで」ソッ…

K太「暇!!二人とも大が付くほど!」ガシッ!

S朗「…、」ジー

K太「何だよ」

R香「私、R香。A田R香」

R香「せっかくクリスマスも間近だし、ちょっとサンタについて調べに、一足働かせてみよ!ね?」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/08(木) 00:44:18.53 ID:ugz+H00f0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


ホームレス(38)「…これは何だ?」

サンタ86号「タナカS朗の記憶の中だ」

サンタ86号「俺たちサンタクロースは子供の記憶の世界に入り込んで、その子に与えるに相応しいプレゼントを探り出す」

ホームレス(38)「ずっと気になってたんだけど親が用意してたらプレゼントは二つになるんじゃないのか」

サンタ86号「プレゼントはただの光の玉だ。それは『意思』に過ぎない」

サンタ500号「誰がどんな形でその子供にプレゼントを与えようと、それはサンタの意思によるものなんです」

サンタ500号「光の玉という意思は親と一体化した上で子にプレゼントを用意するかもしれないし、子の望むプレゼントとしてそのまま0時に実体化するかもしれない」

サンタ500号「そのまま実体化するケースは周囲にプレゼントを与えるに適した人物の存在が見られない時」

サンタ500号「プレゼントを与えるに適した人物が存在すれば、光の玉がその者と一体化する」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/08(木) 00:45:14.95 ID:ugz+H00f0
ホームレス(38)「親とかがプレゼントを渡す際の0時ルールはどうなる」

サンタ500号「一体化している光の玉という意思が0時より前に器である人間にプレゼントを用意させることはあり得ません」

サンタ500号「ただし信じる心が星ゼロになれば、サンタはその子の記憶にこうして干渉できない」

サンタ500号「ということはその子の望むものも分からないために、光の玉を用意することはできない」

サンタ500号「そうなると、周囲に与える者がいない、いてもその気がない、こうなれば、つまり最悪、その子へのプレゼントはない」

サンタ500号「残酷ですが。信じる心を持たず、環境にも恵まれない。そういった子へのプレゼントは、ないんです」

ホームレス(38)「…そんな!」

ホームレス(38)「それを何とかするのがお前らサンタクロースじゃないのか!」

ホームレス(38)「環境に恵まれずに、心さえ貧しくなる、そういう奴に対しての『救い』こそ、お前ら『希望』だとか『夢』の役割じゃないのか!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/08(木) 00:45:53.59 ID:ugz+H00f0
サンタ29号「…、」

サンタ86号「それこそ綺麗ごとだ。…だからな」

サンタ86号「少しでもそういう奴を減らすために、信じる心を絶やさないよう努力をする」

サンタ86号「お前の言ったとおりだ。サンタは神じゃねえ。そうするしかねえんだよ」

ホームレス(38)「…っ」

サンタ29号「私たちはこの通り、子の記憶を見て、そして干渉できるけど…」

サンタ29号「一歩間違えば、逆にその子の信じる心を減らしてしまう危険性があるの」

サンタ29号「だから傍観を決め込むか、干渉するか。――『判断力』。この仕事をする上で、とても大切なこと」

サンタ86号「そしてそんだけでけえ事に関わってるっつう『責任感』もだ」

サンタ86号「元気の話をしたな。他者のためを思えば真の能力が引き出されるって話だ。それと同じだ。この二つにしたって、人間と何も変わりやしねえんだよ」

サンタ86号「腹くくれ。そして直視しろ。サンタっつう仕事はこうして世の流れに関係している」

サンタ86号「今のお前だ。お前が別れを告げようとしている世界の真実。その一側面を、全身全霊で感じ取れ」

サンタ86号「今お前はサンタクロースなんだからな。その資格があるだろ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 02:47:05.13 ID:BLSo6ets0
R香「幻を追いかけることってロマンチックだと思わない?」

12月23日16時12分
公園

S朗「そうだね」

K太「…で、何でこの公園にいるんだ俺たちは」

R香「この公園のブランコで途方に暮れてたら、去年のクリスマスイブに見かけたの」

K太「じゃあ明日にならないと今年も目にする可能性は低いんじゃないか?その親戚そっくり…同一人物としか思えないサンタ」

R香「もしかするといち早く仕事に乗り出してるかもしれないじゃない。だから今日の内から見張りをするの」

S朗「…寒い」

S朗「……ん」

K太「何だ?」

S朗「いや。去年の今頃。ここのブランコで途方に暮れてたって、もしかしてその親戚のことかなって」

R香「…、」

S朗「あ、いや、やっぱり」

R香「ううん。もう吹っ切れたことだから」

R香「そう、その親戚…叔父さんがいなくなったことで落ち込んでたんだ、私」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 03:09:15.99 ID:BLSo6ets0
R香「凄い仲良かったの。その叔父さん」

R香「私の家、お父さんいなくて。だからその叔父さんのこと、お父さんみたいに思ってた」

S朗(何でいないのかは…聞かないほうが良いんだろうな)

K太「何でそのお父さんいないんd」

ベシ!!

K太「痛ッ!!?何だよ!」

S朗「さっきのお返しだ」

R香「クリスマスにはプレゼントも貰ってた。毎年必ず可愛いぬいぐるみを…」

R香「その人には子供がいなかったみたいだから。何あげて良いか分からなかったのか、いくらなんでも子供っぽ過ぎるような感じもしたけど。嬉しかった」

R香「ほら。親が一人の家って、やっぱり不安なの。色んなことが。…だから、安心させてくれる存在って、凄く大きいの」

R香「何でも良いと思う。私だったらその叔父さんだったし、例えば何か好きなこと。夢中になれること」

R香「お母さんが色んなこと頑張っていてくれるから、私は何一つ不自由ないけど。私にとってはそのお母さんの頑張りが、何より不安だった」

R香「それは私が何に夢中になっていたってごまかせない。だから、二人きりの家に、少しでも温かさを与えてくれる誰かがいてくれることは大きかった」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 03:35:55.33 ID:BLSo6ets0
R香「で。私、思うの」

R香「多分その叔父さん、自分で死んだんじゃないかって」

K太「えっ?」

S朗「!…」

R香「家が近かったこともあって、本当によく遊びに来てくれたの。沢山可愛がってもらった」

R香「叔父さんはお母さんと凄く仲も良くて…あ、変な意味じゃなくてねっ」

R香「だから家に来て三人でご飯を食べる時なんか、いつも笑顔だった。その笑顔が凄く良い笑顔でね。今でも鮮明に思い出せる」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 03:37:17.84 ID:BLSo6ets0
R香「そんな叔父さんの笑顔が、子供の私でも簡単に察せるくらい、何がきっかけだったのか、日に日に曇っていったの」

R香「何か良くないことがあった。そんなことくらい、すぐ分かった」

R香「お母さんもよく叔父さんを心配してた。…ちょっと異常なくらい」

R香「何かの病気に掛かったのかとも思ったけど…何となく違う気はした」

R香「元気の衰えようは、日が経つたびにどんどん酷くなっていった」

R香「そして…」

S朗「…」

K太「…」

R香「当然でしょう?思うに決まってる」

R香「絶対に自分自身で…死んだんだって。私でも思う」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 03:38:59.58 ID:BLSo6ets0
R香「理由なんて何も分からない。分かる筈もない」

R香「落ち込んでた。そんな時に見たのが、その叔父さんとしか思えない、サンタクロース」

R香「私もあの時は凄く暗い気持ちが続いてて…。その心境が生んだ幻だって。普通は思う。でも」

S朗「とてもそうは思えない…。確かに見たから。だから、確かめたいのか。今年」

R香「…そうっ。一緒に探してくれるでしょ?」

R香「そのサンタクロース…叔父さんを今年のクリスマスに見つけて…いいえ、捕まえて、何があったか聞くの」

R香「そしてお礼も言う」

R香「遊んでくれて、ありがとうって」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 04:21:43.53 ID:BLSo6ets0
S朗「…その叔父さんは、いつ」

R香「12月24日のクリスマスイブって聞いた。私がサンタの叔父さんを見たイヴの前の年」

S朗(ってことは少なくとも一年はずっと苦しんでたのか…)

K太「…なあ」

S朗「お前はもう何も聞くな」

K太「何でだよ!いいだろ!」

R香「何?」

K太「ええっとだな…」

K太「どうしてそこまで俺たちに事情を話してくれるんだ?」

R香「そっか。気になるよね」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 04:24:27.06 ID:BLSo6ets0
R香「――凄く真剣だったから」

S朗「…ん?」

R香「ええと…」

R香「サンタの叔父さんを見た。…って、そんなこと言ったって、誰かがそれを聞いたって…」

R香「そんな訳ないって否定したりとか。面白半分で聞いたりとか。普通そんなものじゃない。実際周りの人皆がそうだった」

R香「でも二人は違った。分かるの。…目が、違ったから」

K太「まあ。俺はそういうの信じるっていうか…信じたいっていうか。もっとガキの頃から、個人的にそういうとこあるから。でもS朗なんか興味なさ気に見えなかったか?」

R香「ううん」

R香「サンタクロースとか。そういうメルヘンチックな、ファンタジーなものって、大体私たち小学生の頃には信じなくなっていく、卒業するものでしょ、皆」

R香「それで、目の彩りが落ちていくっていうのかなあ?それも成長なのかもしれないけど」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 04:28:35.02 ID:BLSo6ets0
R香「でも教室で二人が話を聞いてきた時、一目で分かった。『そういうもの』をまだ信じてる人だって」

R香「S朗くんは見るからに賢そうだから。…多分、興味ないフリして、気を使ってくれたんでしょ?余計な詮索をしないように」

S朗「…」

R香「あなたたち二人になら、いい。何を話したって」

R香「真剣なの。何を知ってもらおうと、信じてもらうためには必要なことなら、話すよ」

R香「だから二人も真剣に付き合ってくれる?サンタクロース探し」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 05:21:05.56 ID:BLSo6ets0
K太「当たり前!っていうか、何度も聞くな!…既にこうしてサンタ探し、付き合ってる訳だし」

S朗「…」

R香「S朗くん?」

S朗「……前に、何かの映画で見た」

S朗「サンタは寂しがりやな子供にプレゼントを与えて、その喜ぶ顔を見て、自分も元気を出す」

S朗「そこは色んな事情で身寄りをなくした寂しがりやの子供が集まる街。だからクリスマスになると沢山のサンタが活発的にやってきては、街に元気を与える。子供しかいない街が事もなく平穏を保っていられるのは、年に一度やってくるそのサンタクロースたちが魔法をかけてくれるから」

S朗「そしてその街の子供が成長し、沢山の友達を見つけ、孤独感も薄れていって、やがて一人で立って歩いていけるようになる頃には、その街を後にして、新しい居場所に向かっていく」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 05:22:42.76 ID:BLSo6ets0
S朗「サンタは卒業していく生徒を見送る先生のように、その寂しがりやの街に留まったまま、その成長した子供たちを見送っていく」

S朗「この物語の肝は、そのサンタたち自身が、誰より寂しがりやなんじゃないかっていう所で」

S朗「自分という存在に気付いてほしくて、親代わりとしても、子供たちにプレゼントを与えて続けていたんじゃないかっていう、考えさせられる話」

S朗「正直俺は、いくらか冷めてるとこがあって、多分、二人ほど『そういうもの』を信じる心はずっと弱いんだと思う。でも」

S朗「A田みたいに、その映画の子供たちのような孤独感――心の隙間を埋めてくれるものを、やっぱり心の奥底では求めてて、そのために、幻に目を向けようとすることもある」

S朗「同じだ。決定的に違うところはあるけど、凄く似てるところがある。…友達になれる相手ってのはそういう存在だと思うし、今、俺は…A田と同じ場所に立って、同じものを見たいって、そう思う」

S朗「だから。ええっと、つまり…」

K太「…………まどろっこしいな!サンタ探しも手伝う!友達にだってなってやる!それでいいだろ!」

K太「今日から俺たちは仲良し三人組。サンタ捜索隊だ!」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/13(火) 05:23:29.05 ID:BLSo6ets0
S朗「……ああ、何だよ、それ。恥ずかしいにも程があるだろ!」

R香「…うん。いいね、それ」

R香「今日から仲良し三人組。…えへへ」

S朗「……何にやけてんだよ…」

R香「君だって照れてる」

S朗「…探すからには、絶対に見つけるぞ。俺は無駄なことが嫌いなんだ」

R香「うん、分かった。見付けよう。見付ける、絶対」

K太「そのサンタだって、S朗の言う映画のサンタみたく、俺たちに見つけてほしいって思ってるに違いないからな。絶対に見付けるぞ!」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 18:39:21.42 ID:de25AyV+O
クリスマスでホームレスって、東京ゴッドファーザーズみたいだね
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 21:15:58.84 ID:vYOkiG6A0
ピピピピ!!


S朗「!」

R香「? 着信音?」

K太「S朗のじゃねえか?」

S朗「…ああ。ちょっと」ピ

S朗「もしもし」

S朗「……」

S朗「――えっ」

S朗「…」

S朗「……」

S朗「はい」

K太「?」

S朗「はい。はい。…はい、はい」

S朗「…分かりました。すぐ行きますっ」ピ

K太「どうした?」

S朗「…母さんが、」

R香「、」ピクリ

S朗「母さんが、倒れた」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 21:37:31.21 ID:vYOkiG6A0
12月23日16時58分
病院、病室

S朗「…」

S朗「ごめん」

Y子(S朗母)「なんで謝るの。毎回毎回」

Y子「それにいちいち倒れる度に駆けつけなくたって」

S朗「来るに決まってるだろ!!」

Y子「…」

Y子「そっか。ごめん」

Y子「今のは母さんの言い過ぎだった。ごめんね」

S朗「…ああ。今のは言い過ぎだ」

S朗「ぶっ倒れた母親見捨ててのうのうとサンタ探しに没頭する馬鹿がどこにいるんだよ…」

Y子「サンタ探し?」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 21:38:46.15 ID:vYOkiG6A0
S朗「…」

S朗「そう。サンタ探してたんだよ。…友達と一緒に」

Y子「ふふ。そう。K太くんと?」

S朗「ああ。K太と。…それと、A田って奴」

Y子「…そう。増えたのね、友達」

S朗「…………情けなくなってくること言うなよ。友達くらい、いくらでもいる」

Y子「嘘ばかり」

S朗「嘘じゃない」

Y子「嘘。良い学校に進むために毎日毎日勉強ばかり」

S朗「学生が勉強するのは当然のことだ」

Y子「また父さんに似て堅いこと言う。小学生の仕事は遊ぶことよ。今しかできないことをしないと」

S朗「…さっきも似たようなこと言われたよ」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 21:39:26.33 ID:vYOkiG6A0
Y子「……S朗が必死に机にかじりついてるのは母さんのためなんでしょ」

Y子「そういうのはいいの」

S朗「いいことあるか!!」

Y子「いいの」

Y子「あんたは真面目すぎる。…私はもっと、S朗には今しかできないことをしてほしい」

S朗「…だったらいつもいつもぶっ倒れては息子を心配させるような真似はするな」

Y子「そうね。今度は倒れてもすぐ起き上がれるようにトランポリンでも持ち歩くようにする」

S朗「馬鹿言ってんなよ。ひっくり返るぞ」

Y子「ふふ」

S朗「…」

S朗「はあ」

S朗「ちょっとジュース買ってくる」

Y子「私、アイスコーヒー」

S朗「大人しく寝てろ!」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 22:17:58.62 ID:vYOkiG6A0
廊下

K太「…」

S朗「K太は、初めてだったか」

K太「お前が妙に真面目君だった理由が、やっと分かったよ」

S朗「別に真面目じゃない。…そうしないといけないだけだ」

K太「そういうのを真面目って言うんだよ」

R香「…」

S朗「A田と同じ。俺の家も母子家庭でさ」

S朗「それも借金付き。とうさ…親父がさ。夢見がちなロマンチストでさ」

S朗「それがちょっと度が過ぎてたっていうか。そんで終いには事故で…」

S朗「良い人だったのは間違いない。母さんは今でもよく親父のことを話しては褒めてる。…良い母親だよ本当」

S朗「でも俺はそんな勝手な親父を許せなかった」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 22:19:25.57 ID:vYOkiG6A0
S朗「夢を見るなら尻くらい自分で拭えって話でさ」

S朗「家庭なんか持ってんじゃねえって思ったこともあって」

S朗「でもひょんな時に口を滑らして、そんなこと考えてたのかって」

S朗「母さんに怒られてさ…」

S朗「多分、あの時以上に怒った母さんは見たことないし、これからも見ないんだろうな」

S朗「だって俺、生まれちまったもんな」

S朗「俺を生んでくれたんだもんな」

S朗「親に向かって口にする言葉じゃなかったって。今でも強く反省してるけど…」

S朗「それでも未だささやかには、親父を憎んでるけど」

S朗「ああはなりたくないって」

S朗「現状から見て。母さんを救えるのは、俺しかいない。俺が頑張るしかない」

S朗「毎日毎日仏壇に向かってはどっか遠いところを見るような目、あれを見てると、あの調子じゃ、再婚もしないだろうし」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 22:20:14.29 ID:vYOkiG6A0
R香「……偉いね」

R香「私なんて、すがってばかりで。叔父さんに」

R香「…今でも」

S朗「悪いことじゃないよ」

S朗「誰だって、孤独に苛まれれば、何かにすがりたくなるんだよ。きっと」

S朗「だから信じてるんだろ。サンタクロース」

R香「……うん」

S朗「俺とお前は、同じだけど、違う。それでも」

S朗「もう、その…なんだ。友達に、なっちまったから」

S朗「お前みたいな考え方も、良いって。思えるようになるかもしれないから」

S朗「そう信じたいから」

S朗「だからこんな馬鹿なこと…。今しかできないこと。サンタ探しだって、やってやる」

S朗「この重苦しい現実を何か変えられるかもしれないしな」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 22:20:59.49 ID:vYOkiG6A0
S朗「もうちょっとしたらここ出て、サンタ探し、再開しよう」

K太「!いやいやお前それは」

S朗「いいんだ。さっきは母さんに言い過ぎだって言いはしたけど、本当にこんなこと、よくあるんだ。過労」

S朗「いくら言っても聞かないし…。俺に力がないから」

S朗「とは言え、あまり長居してたら母さんの罪悪感を助長させかねないからな」

S朗「めいっぱい遊ぶ。俺たちはまだ子供だけど、もう遅い時間になるけど、そんなもんは関係ない」

S朗「だろ? K太」

S朗「探そう。俺は欲しいよ。力が」

K太「……行こう」

R香「K太くん!」

K太「明日から冬休みだ。夜更かししても大丈夫」

R香「そんな問題じゃ」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/14(水) 22:22:03.45 ID:vYOkiG6A0
K太「逃がしちゃうかもしれないだろ、A田の叔父さん。サンタ」

K太「とっ捕まえて、A田の知りたい色んなこと聞いて、お礼も言って、そんでもって、プレゼントを貰うんだ」

K太「俺たちがこの先どこに進めばいいか。その道しるべになるもの」

K太「見つけてやろう。寂しがりやのサンタクロース」

R香「……」

R香「…」

R香「私、緑茶」

K太「なら俺はコーラ!」

S朗「金よこせお前ら!!」




病室

Y子「…」

Y子「ふふ」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/15(木) 00:23:37.03 ID:8zv/o5Kr0
病院前

ゴクゴクゴク…

K太「ぷはぁ!!」

R香「ごちそうさま」

S朗「…まあいいけどさ。サンタ探し続行しようって言ったのは俺だし。ジュースくらい…」

K太「ん」

S朗「何だ?」

K太「一気飲みしたらトイレ行きたくなってきた。ちょっと病院戻る。待っててな!」タタタ…

R香「…」

S朗「とりあえず俺も早く飲み干して準備するか…」

R香「ねえ」

S朗「何?」グビ…

R香「私あなたのことが好き」

S朗「――ッ、」ブバッ!!
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/15(木) 00:24:17.68 ID:8zv/o5Kr0
S朗「は!!!?」

S朗「え!? 何だ急に!」

S朗「ちょっ、ちょっと、いくらなんでも早いって言うか、ついさっき話すようになったばかりっていうか」

R香「えへへ。そういうとこ、可愛いね」

S朗「いや、その…」

R香「急じゃない。…ずっと前から気になってた」

R香「でも別のクラスで話しかけるきっかけなくて…」

R香「……S朗くん。凄いカッコいいって、頭も良くて、だから遠い人だって、そう思ってて、でも」

R香「こんなに近い人だって思わなかった」

S朗「…近い?」

R香「同じ痛みを知ってる人」

S朗「……」

S朗「俺、は」

S朗「俺は。お前のこと――」





K太「――悪い悪い待ったかぁ!!」タタタタタ

R香(早い…)

S朗(早えよ…。何秒で済ませたんだよ手は洗ったのかよ)

K太「じゃあ探すぞサンタクロース!」

K太「まずはさっきの公園に戻ろうっ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/15(木) 00:32:27.56 ID:8zv/o5Kr0
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/15(木) 00:59:09.18 ID:8zv/o5Kr0
〜〜〜〜〜
〜〜〜



ホームレス(38)「帰っていいか?」

サンタ86号「小学生の恋沙汰でいちいち機嫌損ねてんじゃねえぞ」

サンタ86号「んなことより分かってきたか?」

ホームレス(38)「は?」

サンタ86号「タナカS朗に与えるべきものだ」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「少し魔力を分けてやる。初仕事だ、行ってこい」

ホームレス(38)「え? いやちょっと待てって!」

サンタ86号「プレゼントは後だ。それはイブを終えた25日0時以降だ」

サンタ29号「今あなたがすべきことは25日0時以降、最も気分良くプレゼントを手にできるようお膳立てをしておくこと」

ホームレス(38)「そもそも記憶に干渉してどうなる。事実が変わるわけじゃない」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/15(木) 01:02:20.76 ID:8zv/o5Kr0
サンタ29号「そうよ。干渉によって事実と生じる齟齬は、プレゼントを受け取る前、クリスマスに見た夢の中のものとして補完される」

サンタ500号「ただしそれは日頃人間が体験している夢とは比較にならないほどの鮮明度と影響力を持つ夢です。軽率な真似はできません。気をつけて」

ホームレス(38)「くそ。どいつもこいつも人の尻をここぞとばかりに叩きやがって」

サンタ86号「当然だ。今俺たちは不本意だがお前の上司なんだからな。仕事の説明もする、尻も叩く」

ホームレス(38)「…上司。ああ、そうなるのか残念なことに」

サンタ86号「今てめーは揺らいでるな。分かるぜ。何をどう見て感じてそうなってんのかは知らねえが…」

サンタ86号「最初に会った時の死人みてえな目は大分マシになってるぜ」

ホームレス(38)「余計なお世話だ」

サンタ86号「運命に触れて来い。ここは記憶っつう幻に過ぎねえが…」

サンタ86号「心の隙間はたとえ幻でも埋めることはできる。意志が込められてんならな。そらさっさとしろ」

ホームレス(38)「で、でもさ…」

サンタ29号「大丈夫。愛ちゃんも一緒だから」

サンタ60003号「…………行こう」ボソリ

ホームレス(38)「…くそ。分かったよ」

ホームレス(38)「……、」

ホームレス(38)(今俺がこの純真な子供たちの葛藤、その一部分を見て思ったことは…)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/16(金) 03:13:09.15 ID:sHN542WT0
S朗とR香は確かに似ている。

同じ痛みを知っている。

けれど同じ痛みを味わってさえ、向かう方向は違った。

S朗は幻を嫌悪し現実に死んでしまいそうになっていた。

R香は現実を恐れ幻に死んでしまいそうになっていた。

人ってのはそういうもんだ。

俺もまた、この子供二人と同じように『孤独』を味わって、そして。

行き着く先は、ここ。死。

俺はもう生きることはできないらしい。

俺が望んだことだ。

だから。

この二人には、その痛みによって間違った方へ歩んでほしくはない。こちらには来てほしくない。

それが、この俺、道端の糞のような中年が、可能性に満ちた二人を見て、思ったこと。

この俺。寂しがりやの、仮初めのサンタクロースにできることは、『道しるべ』になること。

俺はそれを失い、全てを捨てることを決断した。

この二人ならまだ大丈夫。

人は幸せになるために生きてるだなんて到底思わないが。

人は幸せになろうと努力しなければならないのは分かる。

それには道しるべが必要だ。

その『地』に辿り着くために。

不安定が人を不幸にするなら。そいつが安定できる場所を一生かけて見つけなきゃならない。

全てにおいて二面性を持っているこのクソ面倒くさい世界で。誰もがその中でバランスを保てる居場所を見つけようと戦っている。

サンタクロースっていう夢、希望、幻もまた、そこへ向かって歩かせるだけの『元気』を与える、道しるべなんだろう。

俺にその役割を担う資格なんてあるわけがない。しかし許してくれ。俺は今サンタクロースなんだ。

死ぬ前に。最後に一度。他人のために。

今日だけは。このクリスマスだけは。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/16(金) 03:31:30.78 ID:sHN542WT0
R香「――今見なかった!?」

12月24日0時11分
公園

K太「うそ!?」

S朗「えっ。どこ!」

――――シャン…

K太「!」

K太「おい。マジであれおいマジで、…えっ!?」

S朗「……本当に何か飛んでないか。あっち…赤いの……」

R香「追いかけよ!早く!!」

S朗「本気で探してたけど本気で見つかるなんて…いやいやいや。あれ、これ幻覚じゃ」

K太「馬鹿言え三人とも見えてる!急げ!」

K太「走るぞ!」

ダダダダダ!!!
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/16(金) 03:55:17.38 ID:sHN542WT0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


――――シャンシャンシャンシャン!…


ホームレス(38)「とりあえずこのままソリで飛ぶ!」

ホームレス(38)「魔法は初めてだけど…今俺はR香から見れば叔父さんにしか見えない、そのはずだ!」

ホームレス(38)「今の魔力じゃこの変身とトナカイ操るので精一杯だから、60003号は――」

サンタ60003号「愛ちゃん」

ホームレス(38)「え!?」

サンタ60003号「愛ちゃんって読んで」

ホームレス(38)「んなこと言ってる場合か!」

サンタ60003号「言うこと聞かない」

ホームレス(38)「愛ちゃんは景色を変える魔法をかけてくれ!できるだろ!?」

サンタ60003号「できる」コクリ

サンタ60003号「どんなの?」

ホームレス(38)「……そうだな」

ホームレス(38)「ファンタジーらしく…『山の麓』っぽい景色を頼む!」

ホームレス(38)「光る雪みたいなのが降ってたらより『らしい』な!夢だからな、それ位がいいだろ!!」

サンタ60003号「分かった」コクリ


シャンシャンシャンシャン…
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/16(金) 04:13:06.26 ID:sHN542WT0
12月24日0時15分
魔法の世界

サアアアアアアアア――――…

R香「え!?」

K太「…何だ。何だ、これ何だ!!?」

S朗「景色が…変わってく…。メッキが砂のように剥がれてくみたいだ…」

サアアアアアアアア――――…

K太「くそ!何があってもサンタは見失うな!!」

S朗「当たり前だ!ここまで来て…」

ダダダダダダダ!!…

R香「はあ、はあ」

K太「大丈夫かA田!」

R香「大…丈夫……」

R香「絶対…捕まえる…」

R香「ありがとうって…一言……」

S朗「…」

ギュ

R香「ふぇ!?」ドキッ

S朗「手、握ってるから。頑張れ!」

R香「う、うん」

K太「少し右逸れたぞ!」

K太「二人とも頑張れ!文化系!!」

S朗「見失うなよ体力馬鹿!」

ダダダダダダダ!!…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/16(金) 05:11:02.18 ID:sHN542WT0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


――――シャンシャンシャンシャン!…


ホームレス(38)「――のああああああああああああァ!!?」

ホームレス(38)「景色が!?何だこりゃあ!!!」

サンタ60003号「…駄目?」ウルッ

ホームレス(38)「い、いやいやっ。期待以上!凄いなサンタは!」

サンタ60003号「朝飯前」エヘン

ホームレス(38)「驚きのあまり思わず魔法が緩みかけたっ。右にずれちまった、軌道修正!軌道修正!」

サンタ60003号「落ち着いて」

サンタ60003号「堕ちちゃう」

ホームレス(38)「…あ、ああ。分かってるっ。魔力も何だか馴染んできたかもだ!」

サンタ60003号「どうするの?」

ホームレス(38)「……、…、」


シャンシャンシャンシャン!…


――運命に触れて来い。ここは記憶っつう幻に過ぎねえが…

――心の隙間はたとえ幻でも埋めることはできる。意志が込められてんならな。


シャンシャンシャンシャン!…


ホームレス(38)(プレゼントは決まってる)

ホームレス(38)(そのためのお膳立てをどうするか…)

ホームレス(38)(最善の形でそのプレゼントを受け取ってもらうためにはどうするか)

ホームレス(38)「…6……愛ちゃん」

ホームレス(38)「もうひとつ、頼まれてくれっ。後は俺がどうにかする!」

サンタ60003号「」コクリ
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 09:14:25.31 ID:YYs1mxVDo
熱いな
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/16(金) 16:35:20.22 ID:3Z9TdBH/O
更新遅くてご免なさい
今全体の1/3くらいだと思います
今月中に書ききるのが目標
誤字も多いし日本語も下手で本当すみません
もし読んでる人いたら引き続きメリーホームレスを何卒…
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 17:55:18.60 ID:ebP+SHqPo
期待してるよー
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 02:10:41.36 ID:DdiY23M00
12月24日0時22分
寂しがりやへの道標

K太「はあ、はあ」

S朗「…追い付いた」

ホームレス(38)「…」

R香「!」

R香「…………、」

R香「…」

R香「――――叔父さんッ!!!」

ホームレス(38)「…」

R香「…っ」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「R香」

S朗「!」

R香「叔父さん!!」

R香「叔父さんなんだよね!?そうなんだよね?」

ホームレス(38)「答えられない」

R香「…えっ」

ホームレス(38)「…」

S朗「あの人相を見て、どうなんだ」

R香「うん。…どう見ても……叔父さん…」

R香「なんで…せっかく会えたのに。そんな意地悪、言うの?」

ホームレス(38)「…」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 02:25:39.27 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)(…間違えるな)

ホームレス(38)(言葉。ひとつ、ひとつ)

ホームレス(38)(今。この子は、分岐点にいる)

ホームレス(38)(S朗)

ホームレス(38)(幻を追いかけて。そして)

ホームレス(38)(真実を確かめようとしてる)

ホームレス(38)(自分の進む先を見ようとしてる)

ホームレス(38)(ここはあくまでS朗の記憶)

ホームレス(38)(けれど、全く同じで、全く対であるR香を見て、)

ホームレス(38)(自分と重ねている)

ホームレス(38)(R香にかける言葉のひとつひとつは、或いはそれ以上に。S朗に響く)

ホームレス(38)(S朗は幻を嫌った)

ホームレス(38)(だからこうして、その幻を追いかけたR香を介さないと、S朗には何を言っても意味を成さない)

ホームレス(38)(この物語の登場人物にR香という人間は必要不可欠だったんだ)

ホームレス(38)(何かの運命なのか。その繋がりが生んだ奇跡こそが彼にとってまさしく今の自分であるサンタクロースなのか)

ホームレス(38)(分からない)

ホームレス(38)(だけど)

S朗「…」

ホームレス(38)(こんなもんとよぎった瞬間、夢は力を失くす)

ホームレス(38)(俺は彼に…力を与えてやりたい)


――探そう。俺は欲しいよ。力が
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 02:44:36.31 ID:DdiY23M00
R香「叔父さんは…サンタさんになったの?」

ホームレス(38)「……サンタだよ」

ホームレス(38)「ただし、君の言う叔父さんかどうかは、答えることができない」

R香「…」

R香「じゃあ、これは答えられる?」

R香「――どうして、自分で死んじゃったの?」

S朗「…」

K太「…」

ホームレス(38)「…」

R香「あんなに、毎日のように、遊びに来てくれて…」

R香「凄く。凄く、楽しくて…」

R香「なのに…」

R香「どうして?何があったの?」

R香「ねえ……叔父さん…」

ホームレス(38)「…」

R香「寂しかったよ…」

R香「ううん…」

R香「今でも。寂しいよっ…!」グスリ

ホームレス(38)「…」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 03:12:21.30 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「――幸せになろうと、ずっと頑張ってた時期があった」

R香「…」

ホームレス(38)「美味しいものを食べるとき。大切な人と話すとき」

ホームレス(38)「幸せは、身近にあるものだって言う人がいる」

ホームレス(38)「たくさん泣いて、たくさん苦しんで、たくさん倒れて、また立って。少しずつでも進んで」

ホームレス(38)「幸せは、頑張った先にあるものだって言う人がいる」

S朗「…」

ホームレス(38)「本当はどっちなんだろう」

ホームレス(38)「幸せって何だろう」

ホームレス(38)「人って何のために生きてるんだろう」

ホームレス(38)「そんなこと考えてる間にも、時はどんどん進んで、何も分かっていやしないのに、大人になって」

ホームレス(38)「何も分からないものだから、そうなると、誰かに教えてもらうしかない」

ホームレス(38)「でもそんなことを答えられる人なんていなくて」

ホームレス(38)「そして、」

ホームレス(38)「出逢いが、あった」

ホームレス(38)「それは自分にとっての道しるべになってくれた」

ホームレス(38)「だから、その道を進んだんだ」

ホームレス(38)「でもそれは、戦う日々の始まりでもあったんだ」

ホームレス(38)「それはもう苦しくて」

ホームレス(38)「すると、ある時に、その道しるべを信じたことは間違いだったんだと」

ホームレス(38)「そう思うようになった」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 03:44:28.82 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「道しるべは夢だ。希望だ。理想だ。憧れだ。幻だ。そして、道しるべだ」

ホームレス(38)「でもその道の先にあるものを追いかけようとすると…」

ホームレス(38)「それを確かめようと、現実と戦うことになる」

ホームレス(38)「戦うことが嫌になって、歩くことをやめてもみた」

ホームレス(38)「そうすると今度は何も見えなくなって、ずっと不安で仕方なかった」

ホームレス(38)「ある時に気付いた」

ホームレス(38)「目に見えない何かを確かめようと、人は幻にすがって、そして戦うことをする」

ホームレス(38)「幸せになりたかったんだ」

ホームレス(38)「幸せを確かめたかったんだ」

ホームレス(38)「これが幸せなんだと、自分に偽ることなんてもう止めにして」

ホームレス(38)「心から、ああ、幸せだって、そう思いたくて」

ホームレス(38)「このあまりにも理不尽な世界で、確かな幸せを見たくて」

ホームレス(38)「満たされたくて」

ホームレス(38)「気付いたことっていうのはつまり、幻を追いかけて現実と戦うことも、今目に見えている現実(もの)に幸せを見出すことも同じだって事なんだ」

ホームレス(38)「全くの反対なのに」

ホームレス(38)「理想と現実は、同じ処にあったんだ」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 03:44:56.99 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「現実と向き合いながら、理想を見据え続けることも」

ホームレス(38)「向き合っている現実に、理想を見出すことも」

ホームレス(38)「同じだった」

ホームレス(38)「特別なことなんて何もない。奇跡なんてない。だから地道に頑張るしかない。そいつなりの理想を、一生不確かなそれを不確かなままに、懸命に生きていくこと」

ホームレス(38)「理想は不確かだけど。それを信じ続けるから、人は歩いていけるんだ」

ホームレス(38)「それが人に残された最後の強さだって、今となっては思う」

ホームレス(38)「――過ちを、犯したんだ」

ホームレス(38)「それは同じ処にあるのに。……その一方しか、見てなかったんだ」

R香「…!」

S朗「…、」

ホームレス(38)「行き過ぎた思いは、道を踏み外すきっかけになった」

ホームレス(38)「自分はまだ世界の何も分かっていやしなかったんだ」

ホームレス(38)「それを強く思い知った時には、暗闇にいた」

ホームレス(38)「もう道なんて見えなくて」

ホームレス(38)「だからその暗闇に、身を委ねてしまった」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「R香」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 04:06:12.90 ID:DdiY23M00
R香「…何?」

ホームレス(38)「R香は今何歳だっけ」

R香「10…」

ホームレス(38)「そうか」

ホームレス(38)「今の話、分かったか?」

R香「全然分からない」

ホームレス(38)「うん」

ホームレス(38)「けど、覚えていてくれ」

ホームレス(38)「いつか道の分岐点さえ見えなくなって、立ち尽くしてしまいそうになった時は」

ホームレス(38)「あの中年のサンタが、そういえば妙な話をしていたなって、あれは何だったんだろうって」

ホームレス(38)「思い出してくれ」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 04:06:38.40 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「何も見えなくなった時。自分は確かにそれに気付いた筈なのに」

ホームレス(38)「それを軽く見るあまり、自分で見つけたしるべだったのに」

ホームレス(38)「踏み外してしまったんだ」

ホームレス(38)「自分はもう君のような可能性に満ちた10歳の頃に戻ることはできないけど」

ホームレス(38)「10歳の君に伝えてあげられることはできる」

ホームレス(38)「これから君は君の理想を見つけるために、色んな可能性を捨てていくことになると思う」

ホームレス(38)「その先に辛い現実が待ってる」

ホームレス(38)「そんな時、サンタクロースのことを思い返してみてほしいんだ」

ホームレス(38)「君に伝えた意思。与えた元気。それは、信じることを止めない限り、いつでも、何度でも、蘇る」

ホームレス(38)「孤独に負けないで」

ホームレス(38)「サンタは、君の叔父さんは、いつでもこの空のどこかで、君の事を応援しているよ」

ホームレス(38)「意思は。元気は。信じる限り、ずっと君の傍にいる」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 04:40:53.66 ID:DdiY23M00
R香「…うん」

R香「うん」

ホームレス(38)「いい子だ」

ホームレス(38)「…だから、その褒美に、クリスマスプレゼント」

R香「え?」

ホームレス(38)「何でもいい。願いを言ってみなさい」

ホームレス(38)「ひとつだけ、叶えてあげるから」

R香「…いいの?」

ホームレス(38)「ああ」

ホームレス(38)「サンタが子供にプレゼントを与えるのは当たり前のことだよ」

R香「…」

R香「……叔父さ…」

R香「サンタさん!」

ホームレス(38)「…」

R香「どうか…、お願いします」

R香「私はずっと、それを後悔して、この先生きていくかもしれない」

R香「でも、それは、背負ってみせる」

R香「だから、どうか…」

R香「どうか」

R香「今、この空のどこかにいる叔父さんに」

R香「――――ありがとうって、伝えてください」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 04:41:30.76 ID:DdiY23M00
S朗「……」

S朗「…」

S朗「――――!」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)(分かってくれたか。S朗)

ホームレス(38)「……ああ。伝えよう」

ホームレス(38)「必ず」

ホームレス(38)「…S朗」

S朗「…えっ」

ホームレス(38)「君には夢の力を見せてあげよう」

S朗「ゆめの、ちから?」

ホームレス(38)「」ヒュッ

――――シュボッ!
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 05:27:22.05 ID:DdiY23M00
S朗「な…」

S朗「何だ…これ……」

――ほ、本当か。赤ちゃん。俺たちの、子供。うあああああ!!Y子やったなァ!!!

――S朗。子供の名前は、男の子だったら、S朗にしよう。いや。男に決まってる!……でも女の子だった時の名前も考えておこう。

――……よくやった。本当に、よくやった。俺たちの子だ。…男の子だ。無事に生んでくれて、ありがとう。

――見てくれY子!S朗が歩いた!歩いたぞ!!

――S朗はちょっと母さん似だなあ。

――S朗ももう少しで小学生だな。

――S朗、S朗…

S朗「…」

S朗「……父さんの…記憶」

ホームレス(38)「君が一回その手で殴ってやりたいと、そう思ってる、父親。その父親は君が生まれた時にどんな顔をしたか。普通はそんなもの、見れやしない。できても、写真やビデオのようなものだろうね」

ホームレス(38)「でもこの魔法は、一味違うだろう。もっと鮮明に。まるで君がその場に立ち会ったように。そう感じるだろう」

S朗「…」

サンタ60003号(とっておき。メモリアルスノウ)エヘン
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 05:29:03.73 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「……君は今一人で戦っているけれど。決して見失ってはいけないものがある」

ホームレス(38)「君の友達も」

S朗「…」

K太「…」

K太「何だよ。馬鹿」

S朗「いや。…そうか。……そうか」

S朗「…K太」

K太「ん?」

S朗「――ありがとう」

K太「気持ち悪っ!!」

S朗「言うと思ったよ!」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 05:29:33.62 ID:DdiY23M00
ホームレス(38)「S朗。忘れるな」

ホームレス(38)「世界は君を一人にしない。君が一人になる時は、君自身が世界を見捨てた時だ」

ホームレス(38)「君が必死に走っている間も、世界は回っているし」

ホームレス(38)「友達や家族は、確かにいる」

ホームレス(38)「君のするべきこと。分かったろう」

S朗「…ああ」

S朗「ありがとう。……サンタクロース」

ホームレス(38)「どういたしまして」

ホームレス(38)「…じゃあ、そろそろおいとまするとしよう」

ホームレス(38)「次の子供が待ってる」




ホームレス(38)「――メリークリスマス」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/17(土) 06:10:56.04 ID:DdiY23M00
チュン…チュン……

S朗「………………」

S朗「…夢」

S朗「……」

S朗「夢…?本当に?」

S朗「……」

S朗「」ドクン、ドクン…

S朗「まだ。高鳴りが…」

サンタウォッチ〜エピローグモニタリング〜
【現在設定:12月25日9時20分】

S朗「…」

S朗「どこから。どこまでが…夢だ?」

S朗「こんな感覚。初めてって位…」

S朗「時間は…9時ちょい、か」

S朗「そうか。もう冬休み二日目…」

S朗「……喉渇いたな。下に降りて冷蔵庫…」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 02:30:16.35 ID:d4ywXmj00
S朗宅リビング

S朗「…」

S朗「何だこれ」

S朗「プレゼント箱だ」

S朗「……クリスマスプレゼント」

S朗「誰が?」

S朗「母さん…。いや。まだ病院のはず」

S朗「え…」

S朗「嘘だろ」

S朗「本当にサンタが?」

S朗「…」

S朗「あ」

――いいか。サンタはな、その存在を心から信じてくれる者にだけ、プレゼントを与えてくれるんだよ。

S朗「心から、信じる。か」

S朗「何だろう。中」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 02:37:53.72 ID:d4ywXmj00
S朗「っていうのも。俺、無趣味のがり勉」

S朗「欲しいものなんかないぞ」

S朗「K太に子供らしくないとか何とか言われたっけか。…言えてるよ」

S朗「これで中身が筆記用具だったりしたら笑えるな」

S朗「…」

S朗「本当になんだろう」

S朗「例えば中身がサンタ帽で。それ被ったらサンタクロースに…なんてな」

S朗「まあ。悪くないかもしれないけど」

S朗「俺がこれから何者になっていくのかは、まだこれからゆっくり考えるさ」

S朗「さあて」

S朗「開封!」

S朗「」ガサゴソ

S朗「」…パカリ

S朗「…」

S朗「これ…」

S朗「確か…」

S朗「――――!」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 02:46:20.92 ID:d4ywXmj00
【現在設定:12月25日11時41分】
S朗宅、自室

S朗「…」カリカリ

S朗「ふう」

S朗「休憩」

S朗「……冬休みの宿題なんて三、四日でとっとと終わらせて、中学受験の勉強に集中しないとな」

S朗「…」

S朗「そういえば去年の冬休みもずっと勉強漬けだったっけ」

S朗「……」

S朗「今年は――」

ブウウウ…

S朗「ん」

S朗「メールだ」

S朗「…」

S朗「お。母さん、今日にも帰ってくるのか」

S朗「家族と過ごすクリスマスの夜は小一以来だっけな」

S朗「そっか。良かった。今年のクリスマスは…」

ブウウウ…

S朗「ん?」

S朗「またメールだ」

S朗「!」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 03:01:29.55 ID:d4ywXmj00
『from:K太』

『title:お前A田に告白されたろ』

『message:返事しないの?』

S朗「…」

S朗「…」

S朗「…」

S朗「」ピポパ

S朗「」プルルルルル

S朗「」ルルルルルル

S朗「」ルルルルルル…

S朗「」タダイマデンワニデレマセン

S朗「」プツッ

S朗「…」

S朗「…」

S朗「……、」

S朗「」ピポパ

S朗「」プルルルルル

S朗「」ルルルルルル

S朗「」ルルルルルル…

K太『はいもしm』

S朗「――――何で知ってんだよッ!!!!!!?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 03:18:40.39 ID:d4ywXmj00
【現在設定:12月25日12時13分】
小学校、校庭

K太「せっかくのクリスマスだってのにその今にもチェーンソーでも使って八つ裂きにしてきそうな目は何だ?」

S朗「お前確信犯だったのかよあれ!見てたな!」

K太「頭の良いお前にしては珍しいな。その確信犯って言葉、本来の意味だと使い方間違ってるらしいぜ。何かの漫画で読んだ」

S朗「そんなことはどうでもいい。だがしかし付け加えると言葉なんてものは誤用が本当になったりして意味が変わってくもんなんだよ分かったか阿呆んだら」

K太「へえー。ひとつ賢くなった」

S朗「A田の件…」

K太「ああ。そう。見てたよ」

K太「わざとじゃない。トイレが清掃中で使えなかったから仕方なくすぐ引き返してったんだ」

S朗「それで、か」

S朗「でもそこで出てこないで影で見てることだってできた」

K太「そうしてほしかったのか?」

S朗「…」

S朗「いや。そうじゃ、ないけどさ」

K太「嘘付け!どうせ、何でこんなに早いんだ、ちゃんと手は洗ったのか、なんてこと考えてたんだろあの時」

S朗「凄いなお前人の心が読めるのか」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 03:33:57.05 ID:d4ywXmj00
K太「出てった理由はただひとつ」

K太「あの時は12月23日だった」

S朗「…?」

K太「クリスマスじゃなかった」

S朗「…」

S朗「それだけ?」

K太「それだけ」

S朗「…」

S朗「お前漫画は読むか」

K太「さっきも言ったろ。読む」

S朗「俺は大して読まないからな。本当に有名なものを二、三ちょっとかじった程度だ」

K太「へえ」

S朗「お前『ドゥラゲンボゥッ』って漫画知ってるか?」

K太「当たり前だろ!国民的漫画だぞ」

S朗「俺あの『ジャン拳』って技が割りと好きでさ」

K太「ああー。あの結構初期のやつか。懐かしいな」

S朗「あれチョキって実際子供が真似したらまずいよな。目潰し。大事になる」

K太「確かにそうかもな」

S朗「ちょっと試していいか?」

K太「今回の件に関しましては誠に申し訳ございませんでした」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 03:51:45.73 ID:d4ywXmj00



K太「…痛え」

S朗「軽いグーだ。これでチャラになるだけありがたいと思え」

K太「くそ。がり勉のお前が漫画の影響なんか受けやがって」

S朗「…じゃあどうするか。帰って宿題の続きでもするかな」

K太「お前。この冬休みに友達を前にしてそれはないだろ。しかも殴るだけ殴っといて」

S朗「殴ったことに関しては1ピクセル程の罪悪感もないけどお前を置いてくってのは確かにそうかもな」

K太「…おお。これまた珍しいな」

S朗「何が」

K太「いつものお前なら気にせずにずかずか帰るとこじゃん」

S朗「…そうだったか」

K太「ああそうだ」

S朗「ま。俺もあれだ。少しは他者に対しての感謝の念ってやつを重んじることを覚えたんだよ」

K太「また子供っぽくないこと言い出しやがって」

S朗「これが冗談じゃないんだよ。夢でサンタに…」

S朗「……そうだ」

S朗「お前に聞きたいことがあったんだ」

K太「何だよ」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 04:12:12.95 ID:d4ywXmj00
K太「――夢と現実の区別が付かない?」

K太「お前マジで勉強のしすぎで頭くるくるぱーになっまったんじゃないのか」

S朗「今回ばかりは頭くるくるぱーになっちまってることを肯定してやってもいい」

S朗「お前12月23日から今までのこと覚えてるか」

K太「まあ。大体」

S朗「まずA田の件。あの時に至るまでを簡単に説明してくれ」

K太「…おいおいマジで言ってるのかよ」

S朗「頼む」

K太「はあ…」

K太「23日は冬休み前最後の登校日。気だるげないつものお前を見てさ」

K太「これから待ち受けているであろう冬休み中のイベントの数々。それを思うだけでわくわくしないのかって思ってさ」

K太「下校時間、お前に話しかけた」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 04:15:30.45 ID:d4ywXmj00
K太「――――、」

K太「――――、」

K太「――――、」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 04:42:58.91 ID:d4ywXmj00



S朗(…)

S朗(同じだ。夢の中…いや。記憶と)

S朗「分かった。じゃあA田の件以降だ」

K太「…そんでサンタ探し再開。没頭してる内に、もう真夜中も真夜中。日付も変わっちまって0時過ぎ」

K太「何だか鈍い光が見えたような気がして」

S朗「!」

K太「よっぽど疲れてたんだろうな。あちこち意味もなく走り回って、そんでまた公園に戻って休み始めた途端のことだった」

K太「その光を追いかけたんだけど。結局あれは、飛行機だか衛星だか流れ星だかで」

K太「まああの夜空は本当映画でも観てるような気分にさせられるほど綺麗だったから」

K太「あれを見て俺たち三人が、何だかそれまで無我夢中でしてたことがいきなりおかしくなって、一斉に笑い出して」

K太「またその夜空を戻った公園でひとしきり堪能して。何か満足しちゃったんだよな。その夜空がさ。何ていうか、それまでおかしなことしてた俺たち三人をクリスマスがお疲れさんって言ってねぎらってくれたような気がして。あ、これお前が言ってたことだぜ?」

K太「そしたらあの場で解散。親に連絡通してたとは言え、時間も時間だったし。何より疲れてたしな。まあ良い思い出だよな。ああいう馬鹿やるのも」

S朗「…ああ」

K太「ああ、じゃねえよ。あそこで三人が解散した後に、お前とA田だけまた公園に戻って、病院前でした話の続き…って流れだろ!その時はクリスマスイブだったんだ!」

S朗「…ああ」

K太「……はあ。あーあ。がっかりだよお前にはさあ」

S朗「…」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 04:56:06.87 ID:d4ywXmj00
S朗(言われてみればそうだった気がする)

S朗(そんなことをしていたような)

S朗(けどその実感と、魔法の世界に入っていった時…夢でのこと、あの現実感が、ほとんど同じ処にある感じがする)

S朗(まるであの時だけ自分が分裂して別々の世界を歩んでたような。いや、むしろそうでしたってオチの方がまだ納得がいく)

S朗(夢にしてはリアルすぎる)

――理想と現実は、同じ処にあったんだ。

S朗(…!?)

S朗(いや違う。あれはそういう意味じゃない)

S朗(意味じゃないけど…)

S朗(…)

S朗(あの夢は、夢で終わらせたくない)

S朗(あれも俺にとって、ひとつの世界だった。そう思う方が、ずっといい)

S朗(馬鹿みたいな話だけど)

S朗(ほんの少しの間、俺はふたつの世界を体験した)

S朗(そんな物語もあっていいだろ)

K太「せっかくイブの夜だったってのにさあ…」ブツブツ

S朗「……何でお前がそんなに悔やんでるんだよ」

S朗「それに24日の0時は正確にはまだクリスマスイブじゃないんだ。知らないか?」

K太「へ?」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 05:21:14.89 ID:d4ywXmj00
S朗「正確なクリスマスは24日の日没から25日の日没まで。イブはその24日の日没から日付が変わるまでの間だ。…まあこれ、意外と高校生とかでも知らない人多いらしいけど」

K太「……ってことは、イブこそ終わっちまったが、クリスマスは続いてて、だけどそのクリスマスももう…」

S朗「そうだな。残すところ四時間ちょっとかな」

K太「まだ間に合う!」

S朗「何が」

K太「何がじゃねえだろ!告白の返事!!」

K太「クリスマスの内にやっとけって!」

S朗「だからどうしてそこまでお前がこだわるんだよ…」

K太「……言ったじゃんか23日に。もう忘れたのか?」

K太「お前のそのくるくるぱーな頭で見た夢は、その他者への感謝の念がなんたらってことを教えてくれたんだろうけど」

K太「俺たちがちゃんと経験した現実でも、あのサンタ探しっていう馬鹿を堪能した時にあの夜空が教えてくれたんじゃねえか」

K太「――今この俺たちにしかできないことをしようって。そしてそれを空が祝福してくれたろ。証明に。してくれたんだ、絶対!」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/18(日) 05:22:08.10 ID:d4ywXmj00
K太「お前のあの気だるげな目は、あのサンタ探し以降、ほとんど晴れてまともになってる」

K太「となれば後は恋愛だろ。ガキのあおくさい恋愛ってやつ?」

K太「お前には。もっと楽しんでほしいんだよ。色々とさ」

S朗「…」

K太「見てて危なっかしいんだよお前。お前は凄いし、賢いし、頑張るけど」

K太「不器用だろ。多分、馬鹿の俺よりも」

K太「だからダチの俺が、そこんところは支えてやる」

S朗「K太…」

K太「だからお前も俺を支えてくれ。具体的には冬休みの宿題を丸写しさせてくれ」

S朗「アホ。…まあ手伝いくらいならしてやる」

K太「明日にも手伝ってくれよ。約束な」

S朗「今日じゃなくていいのか?」

K太「だから、お前は今日、急ぎでやらなきゃいけないことあるだろ」

S朗「あ」

K太「はあ…」

K太「番号、教えてやる。ていうか、何で俺が知っててお前が知らないんだ。そら、携帯」

S朗「面目ない…」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/20(火) 06:41:02.91 ID:ZILTHzjP0
【現在設定:12月25日16時02分】
小学校、教室(四組)

S朗「…よ」

R香「…うん」

S朗「…」

R香「…」

S朗「ごめん…。冬休みにこんな所に呼び出して」

R香「全然っ!…びっくりした、けど」

S朗「え?」

R香「電話…」

S朗「……ああ。K太から聞いて」

R香「K太くん?」

S朗「へ?番号、教えてたんじゃ」

R香「う、ううん」

R香「だって。教えるなら、まず…」

R香「…………、」

S朗「…あ」

S朗「うん…」

S朗(あいつ…A田の友達から聞いたのか)

S朗(多分、この時のためだけに、わざわざ)

S朗(…退くに退けなくなったじゃんか……あの馬鹿)
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 03:33:45.16 ID:ORM8Wk+e0
S朗「……昨日…何してた?」

R香「イブだから…。友達の家で、パーティー」

S朗「そっか」

R香「…」

S朗「…」

R香「……S朗くんは?」

S朗「俺は…」

S朗「勉強」

S朗「……しながら」

R香「?」

S朗「ずっと、23日からのこと。考えてた」

R香「…うん」

R香「私も」

S朗「…」

S朗「夢を、見たんだ」

R香「……夢?」

S朗「そう」

S朗「あの日三人で、サンタを探して」

S朗「そのサンタを本当に見つけた世界に、いたんだ」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 03:54:01.73 ID:ORM8Wk+e0
R香「夢…」

R香「……聞かせて?」

S朗「…」

S朗「あの公園でひと休みしてた時に」

S朗「お前が見つけたんだ。夜空を翔るサンタの姿を」

R香「…うん」

S朗「そしてサンタを追いかけると…景色が一変していった」

S朗「魔法の世界に入っていったんだ」

S朗「そこはまさしくファンタジーな光景で」

S朗「大自然。満点の夜空と光り輝く雪に照らされた山の麓」

S朗「そこは、俺たちのような…寂しがりやにとっての、道しるべだったんだと思う」

S朗「サンタがいた。サンタクロースが、いた」

S朗「見たところ、その世界のA田は、間違いなく叔父さんだって、そう言った」

R香「……うん」

S朗「でも俺は、違うと思ったんだ。口にはしなかったけど」

R香「どうして、違うって思ったの?」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:04:44.34 ID:ORM8Wk+e0
S朗「…俺は、幻を嫌った」

S朗「世界は、人生は、そんなにハッピーなもんじゃない」

S朗「――どうせこんなもんだ」

S朗「そう心のどこかで決め付けてて」

S朗「まるで諦めるように、今まで勉強し続けてきた」

S朗「楽しいことなんかそうない。大人たちの目を見て思うんだ」

S朗「今の大人たちの背中をみて思ってしまったんだ」

S朗「だからせめて苦しまないように、これ以上大切な人を苦しませないように」

S朗「他の事なんてどうでもいいから、まず、勉強だけし続けた」

S朗「スポーツなんてくだらない。皆がわき目も振らずに楽しんでるゲームや漫画だって、ちっとも面白くなかったし」

S朗「正直この学校生活だって、どうでもよかったんだ」

S朗「ただの将来へのひとつの過程」

S朗「ずっと明日を見て頑張った」

S朗「つくづく小学生らしくない」

S朗「よく言われたよ。時には嫌味っぽく。…それさえも俺にはどうでもよかったけど」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:22:55.46 ID:ORM8Wk+e0
S朗「12月23日。クリスマス目前」

S朗「俺はK太に引っ張られて、お前に出会った」

S朗「話を聞くとどうにもロマンに生きてるというか。いかにも女の子っていうか」

S朗「普通なら、ついていけない。そう思って、心では遠ざけてたかもしれない」

S朗「でもお前は俺たちの目を見て、見ただけで、初対面だってのに自分の傷を簡単にさらけ出す」

S朗「変な奴。そう思った」

S朗「でも。それよりも、それ以上に、こんなにも違うのに、まるで真逆なのに」

S朗「なんでこんなに同じなんだって思った」

S朗「俺もお前も、似た傷を持ってたんだ」

S朗「孤独だった」

S朗「それに気付いたとき、急に、何となくお前が気になりだした」

S朗「母さんが倒れて病院に行って」

S朗「そしてお前も多分、俺と同じようなことを思って――」

R香「…うん」

S朗「サンタはさ。きっと俺とお前は似たもの同士だってことを見抜いてて」

S朗「その夢の中――俺の世界で、サンタは自分に何か説こうとしてて」

S朗「だけど、幻であるサンタには、俺に言葉を、その意思を届けるのは難しいって、そう、思ったんだよ。多分」

S朗「だからまず、お前を説く必要があった」

S朗「――A田に響く言葉なら、俺にも響くから」

S朗「叔父さんの姿をしていたのは、そのためだって。俺はそう、思ったよ」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:34:59.15 ID:ORM8Wk+e0
S朗「そしてサンタの言葉はA田に響いた」

S朗「それはやっぱり、俺にも」

S朗「その世界でお前は、サンタに願い事を言ったんだ」

S朗「それはサンタのクリスマスプレゼント」

S朗「今、この空のどこかにいる叔父さんに」

R香「――ありがとうって、伝えてください」

S朗「…」

S朗「そう」

S朗「その時に、その言葉で」

S朗「今。何を見るべきか。何を見直すべきか。分かった」

S朗「サンタは理想も現実も同じ処にあるって言った」

S朗「そうかもしれない。そう思った」

S朗「俺に足りなかったのは夢を見る力」

S朗「この世界で、現実で、理想を見出す力」

S朗「そしてそのための第一歩として…」

S朗「人に、感謝する気持ち」

S朗「世界を肯定するための、全ての始まりの気持ち」

S朗「それに気付かされた。A田に。A田の、言葉に」

S朗「……馬鹿な話かもしれないけど…」

R香「ううんっ」

S朗「…」

S朗「だからさ…」

S朗「――ありがとう。」

R香「……うん」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:47:55.84 ID:ORM8Wk+e0
R香「…あ」

S朗「?」

R香「夕日…」

S朗「…」

S朗「綺麗、だな」

R香「…うん」

S朗「…」

R香「…」

S朗「クリスマスは…」

R香「?」

S朗「24日の日没から、25日の日没まで」

R香「…知ってる。それ」

S朗「もうすぐ、クリスマスが、終わる…」

R香「うん」

S朗「…」

S朗「――R香」

R香「っ」ドキ

R香「……はい…」

S朗「…、」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:48:45.84 ID:ORM8Wk+e0
























S朗「――好きだ」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:52:23.69 ID:ORM8Wk+e0























――――――シャン…
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 04:54:52.79 ID:ORM8Wk+e0
























叔父「メリークリスマス。R香」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 05:06:12.09 ID:ORM8Wk+e0
【現在設定:12月25日19時28分】
S朗宅、リビング

Y子「メリークリスマス!」パァンッ!!

S朗「…いつの間に帰ってたんだ。そしていつの間に部屋を装飾してたんだ。ちなみにいつの間にこんな豪勢な料理を用意しておまけに何故K太がいる!!」

K太「お邪魔してまーす。お、やっぱR香も一緒か」

R香「…お邪魔、します」

Y子「K太くんに聞いちゃったっ」

S朗「……………………何を」

K太「何をって、そりゃ、お前がA田に愛のk」

S朗「ざああああああけんなあああっ!!!」ガッシャーン!

Y子「きゃあああ!」

K太「落ち着け!まずは落ち着けS朗!」

S朗「これが落ち着いて…!」

S朗「……まあ、いいよ。もう」

K太「お?逆鱗タイムもう終わり?」

K太「やっぱ幸せをその手に掴んだ人間の余裕は一味違いますなあ」

S朗「母さん。クラッカー貸して。まずこいつの聴力を消す」

K太「止めろ!目が!目がマジだ!」

R香「」カアアア…
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 05:22:27.48 ID:ORM8Wk+e0
Y子「――だからそれを聞いて、そのいない間にパーティーの準備をしようって思って」

Y子「K太くんにも手伝ってもらったの。お礼言っときなさい」

S朗「…ありがとう」

K太「感謝の念ってやつを覚えた人間のする表情じゃねえな」

S朗「本当なら一週間は口きかないところだ!」

R香「これ、美味しい…」

Y子「でしょう?ちょっと料理には自信あるの」

S朗「…遅れたけど、退院おめでとう」

Y子「ありがとう」

S朗「もう、無茶すんなよ。いい加減」

S朗「…そろそろ心配のあまりこっちの方が倒れそうだ」

Y子「……うん。ありがとう」

Y子「で、何て告白したの?」

R香「ンっ…」ゴホッ

S朗「蒸し返すな話を!」

K太「まあこいつなら多分ストレートに好k」

S朗「るさいッ!!」

S朗(また読心術発動しやがって…)

Y子「…楽しいね。S朗とこういうクリスマスを過ごすのも久し振りだもんね」

S朗「まあな…」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 05:42:06.99 ID:ORM8Wk+e0
K太「にしてもずるいよなあ」

S朗「何の話?」

K太「いやだから、夢とは言え、お前だけちゃんとあの時にサンタ見つけたってことなんだろ?」

K太「確かにあの吸い込まれるようなきらきらした夜空も良かったけどさ。やっぱ見つけたかったよなあ、サンタクロース」

S朗「…いるわけないだろ、サンタなんて」パク

K太「お前まーたそんなこと言って」

R香「ふふ」

K太「何?」

R香「確かにずるい。だって、サンタは自分の、自分の中にあるって思ってるから、そんなこと言うんでしょ?」

R香「S朗くんの中にだけなら、確かにサンタクロースはいるもんね?」

S朗「…」パクパク

K太「なるほどねえ。でも夢と現実が混ざるくらいリアルな夢なんて、それだけで羨ましいぜ」

Y子「えー。どんな夢?」

S朗「母さんには教えない」パクパク

Y子「ケチ。いいよ、K太くんかR香ちゃんに聞いちゃうから」

K太「いつでも」

R香「いいですよっ」

S朗「俺に味方はいないのか!」

Y子「…ねえ。来年も、また家に来てね。二人とも」

Y子「また来年のクリスマスも、パーティーやろうね」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 05:53:28.88 ID:ORM8Wk+e0
K太「…はい」

R香「来ます。絶対」

Y子「ありがとう」

S朗「…」

S朗「あ、そうだ」

S朗「母さんにクリスマスプレゼントあったんだ」

Y子「え?嘘っ。何?」

K太「なけなしの小遣いで何買ったんだっ?」

S朗「やかましいわ!」

Y子「それがここだけの話。家、結構お小遣いはあげてるの。S朗、勉強頑張ってるから。…使ってなさそうだけど」

K太「…ここだけの話、おいくらでしょう」

Y子「ここだけの話…。3」

S朗「台無しにするな空気を!!」

R香「私、早く見たい」

S朗「…ほら。母さん」

Y子「うわっ。綺麗なラッピング!こんなの見たことない…」

Y子「……じゃあ、開けるね」

Y子「」パカリ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 06:06:06.99 ID:ORM8Wk+e0
Y子「…」

Y子「――――ッ!?」

S朗「…」

R香「…腕時計?」

K太「ちょっと古びてるな。新品じゃあないな…?」

Y子「S朗…。あんた……、これ、どこで…」

S朗「……俺が見つけたわけじゃない」

S朗「あくまで夢の中でだけど。サンタに会った」

S朗「どうやら夢から持ち帰ってきたみたいだ。それ」

S朗「サンタが俺にくれたクリスマスプレゼントは、母さんへのクリスマスプレゼントだったよ」

Y子「…」

K太「あの…それ」

Y子「これは…」

Y子「今はもう…いないけど……」

Y子「S朗のお父さん。私の夫が、昔にくれた、クリスマスプレゼントなの」

R香「!」

Y子「ちょっと…色々あって…捨てたはずなのに」

Y子「捨てたときに…こっそり取っておいたの?S朗…」

Y子「それとも…本当に、その夢の中のサンタが……」

S朗「……信じる方にすればいいよ」

Y子「…うん」

Y子「ありがとう、S朗…」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 06:19:17.97 ID:ORM8Wk+e0
S朗「その時計が、俺たち家族の時間を、針を、先に進めてくれるんだって、そう思う」

S朗「父さんがいなくなってから…どことなくわだかまってた何かが、今日から、ようやく晴れるんだと思う」

S朗「もうこの際話すけど。その夢の中で、父さんの記憶を見た」

S朗「その表情、直接流れ込んでくる感情を目の当たりにして…」

S朗「なんて自分はガキだったんだろうって。何を意固地になってたんだろうって」

S朗「あんなにも自分を愛してくれたのに」

S朗「最後…まで」

K太「…」

R香「…」

S朗「俺は今日から、人の優しさを欠片も見逃したくないんだ」

S朗「後になってありがたみに気付くなんて…そんなのはもう嫌だ」

S朗「貰った恩を相手にそのまま、それ以上に返すことなんて、できないのかもしれないけど」

S朗「少なくとも、もう父さんには、できないけど」

S朗「恩知らずのまま大人になるのだけは嫌だ」

S朗「もっと。――――感謝して、感謝されたい」

S朗「そういう大人になるために、これからはもっと勉強するし」

S朗「自分がこれから何者になっていくかは、それを考えた上で探していきたいって、そう思ってる」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 06:33:00.59 ID:ORM8Wk+e0
S朗「だから母さん…」

Y子「…?」

S朗「今まで育ててくれて、ありがとう。」

S朗「母さんに貰い受けた恩を返すのはもう難しいくらいだと思うけど…」

S朗「また誰かに、K太やR香にも、もしかしたら今はまだ顔も名前も知らない誰かに、」

S朗「恩を、またそして次の誰かへ、継いでいけるように」

S朗「そんな世界の輪の中に入って、立派な大人になれるように」

S朗「頑張るから」

S朗「だからまだまだ、もっと、見ててくれ」

S朗「母さんだって、絶対に支えられるようになってみせるから」

S朗「そのためにも…」

S朗「ずっと元気でいてくれ。…頼む」

S朗「母さん」

Y子「…」

Y子「…」

Y子「…ううー」ホロリ

Y子「……子供は知らない間に大人になっていくって、本当ね。もう…」

Y子「分かった。…頑張る」

S朗「…ああ」

R香「S朗くん…」

K太「……それじゃ、湿っぽいのもここまでにして」

K太「まだまだ食べるぞー!」

Y子「待って!私からも三人にプレゼントあるから!」

K太「マジっスかっ!」

R香「やった!」

Y子「S朗には5000円のコンパス!!」

S朗「――いらんっ!!」





・・・・・・・・・・。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 07:13:48.65 ID:ORM8Wk+e0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


12月24日 1時32分(現実時間)
東京上空

シャンシャンシャンシャンシャンシャン!…

サンタ86号「――初仕事ご苦労」

サンタ29号「お疲れ様っ」

サンタ60003号「…お疲れ様」

サンタ500号「お疲れ様でした!」

ホームレス(38)「……ああ」

サンタ86号「ふ」

ホームレス(38)「ん」

サンタ86号「くっ」

サンタ86号「ははははははははは!!」

ホームレス(38)「何だよ!」

サンタ86号「……やっぱお前、サンタになれ」

サンタ86号「天職としか言いようがねえな。流石のもんだ」

サンタ86号「途方もない闇を経験してきた人間ならではの記憶干渉だ。てめーの失敗談をフル活用しやがったな」

ホームレス(38)「ふざけるな。俺の覚悟は変わらない」

ホームレス(38)「だからこそ、どこの誰だか知らないけど、死ぬ前に、何か託したくて…与えてやりたくて。全力を尽くした。それだけだ」

サンタ86号「くく。ひとつ、教えてやる」

サンタ86号「――それを『生きる』ってんだよ。憶えとけ」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「サンタはいつだって命がけだ。今回の件のお前のようにな」

サンタ86号「元人間のサンタは闇を経験してきている。俺のような純正では敵わない面も多分にあるが…」

サンタ86号「そうして命を賭して、それこそ死ぬつもりで、誰かに元気を与え、その輪の一部になろうと懸命になる」

サンタ86号「お前には天性のサンタクロースの素質があるが…たとえ浮浪者だったとしても、立派にお前はこの世界の住人で、そして、どこまでいっても人間だ」

サンタ86号「弱い者の世界を知っている。同じ目線でものを見ることができる。これは勇気を与えるものにとっての、何よりの武器だからな」

サンタ86号「まあ、何にしてもご苦労。少し休んだら次行くぞ。トナカイのペースも落とさせる」

ホームレス(38)「まだ次があるのかよ…」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:01:50.10 ID:ORM8Wk+e0
サンタ29号「そういえば」

ホームレス(38)「…休憩に差し障りない程度に頼む。へとへとだ」

サンタ29号「R香ちゃんに叔父さんだって言われて、それをぼかしたのに。どうして自分で死んだってこと、否定しなかったの?」

サンタ29号「あれじゃ結局肯定してるみたいなものじゃない」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「R香…を介して、S朗に言いたかった」

ホームレス(38)「これから本当にいっぱしの大人になるために、多くの苦労をする」

ホームレス(38)「R香の叔父さんのような弱い人は、世の中にはとてもありふれていて」

ホームレス(38)「いつか成長して大人になった時に、あのサンタの正体はR香の叔父さんではなかったんだってことを、それを通して実感してほしいんだよ」

ホームレス(38)「ま。でも本当に賢い奴だったから。もう叔父さんではなかったってことには勘付いてるだろうけど」

ホームレス(38)「ならどうしてあの時正体をぼかしたのか。そこを考え続けてほしい」

ホームレス(38)「弱い人は世界に沢山いる。それを知ってほしい」

ホームレス(38)「それを知った上で、そういう奴に対して何を思うか」

ホームレス(38)「とある浮浪者のメッセージってことで」

サンタ29号「ふうん」

サンタ29号「…凄いね」

ホームレス(38)「え?」

サンタ29号「ちょっと、尊敬しちゃう。人間って、そんなに辛い思いをするんだね」

サンタ29号「これからサンタを続ける上で、凄く参考になる。ありがと!」

ホームレス(38)「……どういたしまして」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:20:07.07 ID:ORM8Wk+e0
サンタ500号「それにしても、S朗くんの言っていた、寂しがりやのサンタクロースの話には惹かれてしまいました」

ホームレス(38)「何が」

サンタ500号「サンタは人の『信じる心』がないとその存在を保てない」

サンタ500号「世界が負に満ちたとき、それはもうイブの夜に散ろうとする人間もさぞ増えることだと思うんです」

サンタ500号「そうしてサンタになるか否かの選択を迫られたとき。負の世界で信じる心を失ってきた人間の中に、こちら側の道を歩もうとする者がどれだけいるでしょう」

ホームレス(38)「…そりゃもう少ないだろうな。下手すると、ゼロかも分からない」

サンタ500号「サンタは、サンタクロースを、仲間を絶やさないために、気付いてほしいんです。信じてほしいんです。その存在を。人間に」

サンタ500号「世界から元気が途絶えれば、サンタは廃業を余儀なくされる。そうなれば世界もサンタも、名実共に終焉を迎える」

サンタ500号「だからこうして、地道に負を浄化していく。その映画の設定と酷似してると僕は思います」

サンタ500号「僕らも。あの時確かにサンタクロースだったあなたも等しく、寂しがりや…孤独なんですよ。きっと」

ホームレス(38)「……なるほどね」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:30:13.54 ID:ORM8Wk+e0
ホームレス(38)「R香が見たサンタってのはさ。本物だったのかな」

サンタ86号「…さあな」

サンタ86号「元人間のサンタは散々言ってる通り希少だ」

ホームレス(38)「いやそれもそうなんだけど。ほら、サンタはサンタにしか見えないんだろ」

サンタ86号「普通はな」

ホームレス(38)「普通?何か特定の条件を満たすと人間もサンタが見えるようになるのか」

サンタ86号「かもな」

ホームレス(38)「かもなって…」

サンタ86号「まあ。信じる心が特別に強い、それも純真な子供であれば或いは…」

サンタ86号「それに奇跡という要素も付随して、ようやく、見えることがあるのかもしれねえな」

ホームレス(38)「へえ…」

ホームレス(38)「本物だったらいいな。R香の見たサンタ」

サンタ86号「お前がこの業界に入ることを決断すりゃ、同業者であるそのサンタの存在を確かめるのにも苦はねえな」

ホームレス(38)「さらっと勧誘するな」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「それにしてもプレゼントの実体化には驚かされたな。まさかあんなものが出てくるなんて」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:48:49.17 ID:ORM8Wk+e0
サンタ29号「光にどんな意思を込めたの?」

ホームレス(38)「…とにかく、まず何より、あのS朗の母親に感謝の意を伝えられるもの」

ホームレス(38)「そればっかり意識してたら、あれが実体化された」

サンタ86号「…あれだけ家族の事情に的確なプレゼントを実体化させるには、思いの強さが必要になってくる」

サンタ86号「だからお前はサンタの才能があるってんだよ」

ホームレス(38)「あーあー。うるさいんだよさっきから。少しは余韻に浸らせろ」

サンタ86号「サンタになりゃこんな余韻いくらでも」

ホームレス(38)「やかましいっての!」

サンタ86号「…まあ。クリスマスは長い。おまけにまだイブも控えてる。チャンスはあるさ」

ホームレス(38)「……そういえば、俺はあの記憶世界にどれだけいたんだ」

サンタ86号「一分」

ホームレス(38)「…は?」

サンタ86号「一分」

ホームレス(38)「……嘘だろ?」

サンタ86号「なあ。サンタだって基本的に年中、定期的に休みながらも働いてはいるがな」

サンタ86号「本命はやっぱクリスマスだ。分かるだろ?」

サンタ86号「ならその一日で一年分働いたって、何もおかしいことねえだろ」

ホームレス(38)「嘘だといってくれ!」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:50:31.73 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「まあ…初っ端からそこまで強いることはしない。そもそも記憶干渉にも魔力は必要になってくるからな」

ホームレス(38)「あ…そう。まあ最悪どこかで帽子取るけどな。時間来る前に」

サンタ60003号「…38号」

ホームレス(38)「へ?」

サンタ60003号「38号」

ホームレス(38)「…俺のこと言ってるのか?」

サンタ86号「そういや38号は欠番だったな。名乗れ」

ホームレス(38)「有無を言わせねえな!」

サンタ60003号「38号。プレゼント。腕時計…よかった。次も、頑張ろう?」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「……いや」

サンタ60003号「?」

ホームレス(38)「プレゼントはあの腕時計じゃない」

ホームレス(38)「――笑顔だよ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 08:53:42.94 ID:ORM8Wk+e0
〜タナカ家〜



【幸福度】
☆☆☆☆☆☆☆☆・・
(星十個中八個)


【不幸度】
★★★・・・・・・・
(星十個中三個)


【信じる心】
☆☆☆☆☆☆☆☆☆・
(星十個中九個)



プレゼント→『思い出の腕時計』
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 09:09:54.59 ID:ORM8Wk+e0
タナカ家編長すぎワロタな感じなんですけど、今月中に完結できるか自信なくなってますけど、とりあえず区切りです。
更新遅くてすみません。書き込み嬉しいですありがとうございます。寝ます。皆仕事頑張って。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 22:53:56.91 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「……ち。最悪の家庭状況だな」


〜サトウ家〜

【家族構成】
長女:M子(12)
次女:A菜(6)
父:K治(42)
母:N美(39)

【幸福度】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

【不幸度】
★★★★★★★★★・
(星十個中九個)

【家庭事情】
・家庭内暴力

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)


サンタ500号「……サンタウォッチの、測定結果です」

ホームレス(38)「信じる心が…ない?」

サンタ29号「あら…。これじゃ子供の夢に入れないね…」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 23:04:07.90 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「まさか二件目にいきなりこれたあな。まあそういうこともあるだろう」

サンタ86号「運が悪かったな。次行くぞ」

ホームレス(38)「い、いや、ちょっと待てって!!」

サンタ86号「…」

サンタ86号「何だ?」

ホームレス(38)「何だ、じゃねえだろっ」

ホームレス(38)「見捨てるのか!?」

サンタ29号「…」

サンタ86号「……お前はサンタは神じゃないと言ったな」

ホームレス(38)「…まあ神気取りかって話はしたな」

サンタ86号「そう。俺たちサンタは神じゃない」

サンタ86号「救えない人間だって山ほどいる。当然だ」

サンタ86号「全ての人間を自分の力で変えてやることができるだなんておこがましい事を考える馬鹿は、そいつこそまさに救いようがねえ」

サンタ86号「お前ら人間も、例えば遠い国で貧しい思いをする者に対し何か干渉するわけじゃねえだろ」

サンタ86号「そういうことがある。そういうこともある。そういう存在がいる。――そうして『知る』ことこそが、大事だと」

サンタ86号「お前ら人間はそう考えるだろう。そしてそれは正しい」

ホームレス(38)「……そうだな」

サンタ86号「話が早い」

ホームレス(38)「だが少なくとも、それは人間の話だ」

サンタ86号「…」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 23:18:22.02 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「…お前は話は早えようだが」

サンタ86号「過信もどうやら早いらしい」

ホームレス(38)「…、」

サンタ86号「一人の子供をその手で変えることができて、今お前には幾ばくかの自信が芽生え始めていることだろう」

サンタ86号「それは確かに俺の思惑でもある」

サンタ86号「だがな。…過信はやめろ。自惚れるな」

サンタ86号「その歳で蛮勇か?お前はこの現実世界で闇の何を見てきた?」

サンタ86号「…てめーの自死願望なんざ所詮、それほど軽いものだったってことか。お笑いだな」

ホームレス(38)「違う!」

サンタ86号「なら何だ。なぜこだわる」

サンタ86号「まだこの業界に無知だからってんなら、多少の時間を犠牲にしても、長い目で見たとき効率が良くなるよう。今ここで、お前を説得してやってもいい」

ホームレス(38)「いるか。んなもん」

サンタ86号「…」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 23:37:33.95 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「500号もお前に言ったはずだ」

サンタ86号「――信じる心を持たず、環境にも恵まれない。そういった子へのプレゼントは、ない」

サンタ86号「他人に救われるつもりなんてさらさらない。救いなんてある訳がない。そんな奴に対して何を言っても、何をしても、無駄だ」

サンタ29号「ちょ、ちょっとダーリン」

サンタ86号「てめーは黙ってろ」

サンタ29号「でも…」

サンタ86号「いいから」

サンタ29号「嫌」

サンタ86号「…」

サンタ29号「ダーリン。あなたの過去は、あなただけのもの」

サンタ29号「誰にも口を出す権利なんてない」

サンタ29号「でも私は、私だけは、その隣にいることだけは許してもいいって」

サンタ29号「そう言ってくれたでしょう。いつか」

サンタ86号「…」

サンタ29号「その隣で過去から今までずっとあなたを見てきた私にこそ言える事だってある」

サンタ29号「自分の過去を、他人に対しての牙なんかにしないで」

サンタ29号「過去はそんなことのためにあるものじゃない。…でしょ?」

ホームレス(38)「…過去?」

サンタ86号「……だからと言って、どうしろってんだ。夢の中には入れない」

サンタ86号「干渉する方法なんて、ねえんだぞ」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 23:55:36.58 ID:ORM8Wk+e0
ホームレス(38)「……確かに。全く。全ての希望から自分を切り離してる奴に、何も信じようとしない奴に、」

ホームレス(38)「何か救いの手を差し伸べることは、難しい、いや、できないのかもしれない」

ホームレス(38)「けどさ」

ホームレス(38)「そいつにはそいつなりの幸福を何かひとつは持ってるものなんだよ」

ホームレス(38)「他人に理解されるつもりなんてない。他人を理解しようとも思わない」

ホームレス(38)「そんな圧倒的な孤独によって世界を見捨てた奴にも、あるんだよ。それがどんなに小さくても」

サンタ86号「…何がいいたい?浮浪者に独善的な説教をされるつもりはない」

ホームレス(38)「説教じゃねえよ。…これはひとつの提案だ」

ホームレス(38)「よく見ろよ」

ホームレス(38)「確かに信じる心は星ゼロだ。けど」

ホームレス(38)「幸福度には星が、ひとつだけ付いてる」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/21(水) 23:56:28.80 ID:ORM8Wk+e0
サンタ86号「!…」

サンタ29号「あ」

サンタ500号「本当ですねっ」

サンタ60003号「ひとつ」

サンタ86号「……だから何だ」

ホームレス(38)「言ったろ。これはただの提案だ。新人が上司に向かって押し付けがましいことはしねえよ」

ホームレス(38)「まだ希望は、残されてる」

ホームレス(38)「お前のサンタクロースとしてのプライドは、誇りは、このたったひとつの星を見て、何も思うことはないのか」

ホームレス(38)「ないなら。俺は黙って、このままお前の言うことを聞く。次の家に行くさ」

ホームレス(38)「どうなんだ。86号」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 01:13:55.89 ID:tB44b1I6o
いやーなかなか熱くて面白かったなーもう大団円かー
と思いながら読んでたら >>136-137 で電車の中で吹きましたw
続きも期待!
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:24:41.60 ID:qa/IfGi50
サンタ86号「……」

サンタ86号「たったひとつの希望、か」

サンタ86号「…」

サンタ86号「…」

サンタ86号「…、」

サンタ86号「手はある」

ホームレス(38)「!」

サンタ86号「まず…」

サンタ86号「幸福度と信じる心が星ゼロになり、且つ不幸度が最大である状態」

サンタ86号「――こうなると、人は死ぬ」

ホームレス(38)「なっ…」

サンタ86号「…………言ってなかったが…てめーはまだその条件にぎりぎり達してねえ」

ホームレス(38)「!」

サンタ86号「だから救える。そう思った」

ホームレス(38)(…本当にサンタにするつもりなんて……なかったのかよ…)

ホームレス(38)(サンタの仕事を通して…生の世界に望むよう仕向けでもしてたのか…)

ホームレス(38)(どこまでいってもこいつはサンタクロースで…元気を与える側の奴だったんだ…)

ホームレス(38)(馬鹿かよ…本当……)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:25:43.12 ID:qa/IfGi50
ホームレス(38)「…でもサンタ帽は俺のところにきた。俺の死はもう、確定事項だったんじゃないのか」

サンタ86号「ああそうだ。お前はもう死ぬ。普通ならな。だがそうなるために満たっている筈の条件に不足が生じている」

サンタ86号「つまりてめーはイレギュラーだってことだ」

――――おじちゃん

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「だがこのサトウ家の姉妹だが…」

ホームレス(38)「…………一歩間違えれば…俺たちが……この姉妹を死なせることになる…」

サンタ86号「そうだ」

サンタ86号「イレギュラーは滅多にねえからイレギュラーなんだよ」

サンタ86号「てめーは星が条件に満たない内にサンタ帽を手にした。もしこの姉妹にもイレギュラーが起きるとすれば…」

サンタ86号「星が条件に達しても死の運命がやってこない事態だ。が…」

サンタ86号「まずあり得ねえだろう」

サンタ86号「この姉妹の残りの幸福度をひとつ減少させ、更に不幸度をひとつ上昇させてしまえば」

サンタ86号「通常。…いや間違いなく。イレギュラーなんざそう起きねえ」

サンタ86号「二人は死ぬ」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:26:44.70 ID:qa/IfGi50
ホームレス(38)「…」

サンタ86号「夢でなく、現実に干渉する行為は危険度が桁違いだ」

サンタ86号「さっきの件とは次元が違う」

ホームレス(38)「俺たちが現実に干渉するすべがあるのか?」

サンタ86号「幸福度が星ひとつでも残ってるならな…」

サンタ86号「サンタは夢以外に、その幸福という何らかの形にも干渉ができる」

サンタ86号「だが普通そんなことはしねえ。夢と違って現実で干渉すれば当然時間はその分経過する。どう考えても非効率だ」

サンタ86号「子供は全世界に大勢いるんだからな。無駄足踏んでる暇はねえ」

サンタ86号「そして現実干渉は星の動きを極めて左右させやすい行為になる。針に糸を通すようなもんだ。危険度が高えってのはそういうことだ」

サンタ86号「これを全て知った上でお前は…この残りかすみてえな希望にすがるか?」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:27:39.32 ID:qa/IfGi50
ホームレス(38)「……」

ホームレス(38)「…」

――やっぱお前、サンタになれ。

――だから救える。そう思った。




ホームレス(38)「…ああ」

サンタ86号「何のためだ?」

ホームレス(38)「お前のためだ」

サンタ29号「――――!」

サンタ86号「…な、に?」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:28:49.39 ID:qa/IfGi50
ホームレス(38)「気付いてないか。お前、さっきから変だぞ」

ホームレス(38)「お前みたいな奴なら、俺の死の条件不足は最後まで隠し通してた筈だろうに」

ホームレス(38)「ここにきて、あっさり真実を口にする。おまけにサンタの癖して妙に人間くさい目付きに変わった」

ホームレス(38)「俺に全てを明かしてまで、この家に関わるかどうかの選択を委ねるってことは」

ホームレス(38)「危険性を伝えるため?それなら他にも方法はある。嘘八百だっていい」

ホームレス(38)「この家に来てからというもの。お前はいち早くここを出たがってるように見える」

ホームレス(38)「死でもサンタでもなく。たとえ1パーセントにすら満たない可能性だとしても、生という選択肢が俺に出てくるのなら」

ホームレス(38)「俺のサンタとしての、この仕事への真剣さはがた落ちする、そう考えてるだろ」

ホームレス(38)「そうなればこの家にこだわる必要はなくなるもんな」

サンタ86号(! ……こいつ…人の弱さを瞬時に理解し思考を読み取る能力だけなら間違いなく全サンタクロースでもトップクラスだな…)
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/22(木) 06:29:40.34 ID:qa/IfGi50
ホームレス(38)「だが俺の決断は変わらない。俺はこのクリスマスに死ぬ。それは曲げない。そして、だ」

ホームレス(38)「俺は、お前がお前の逃げたがっている何かと向き合うべきだと判断した」

ホームレス(38)「お前が俺を救うつもりだったんなら、俺もお前を救ってやることに今決めた」

ホームレス(38)「86号。向き合えよ」

ホームレス(38)「お前は俺みたいな似非とは違う。正真正銘のサンタクロースだろ?」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/23(金) 02:58:32.78 ID:aggVZbx10
サンタ86号「…」

サンタ86号「知った風な口聞くんじゃねえよ」

サンタ86号「29号」

サンタ29号「なあに」

サンタ86号「お前のとっておきの」

サンタ29号「それより先に、謝って」

サンタ86号「…あ?」

サンタ29号「私に『てめー』て言ったの、謝って?」

サンタ86号「……、」

サンタ86号「…」

サンタ86号「…………悪かったよ」

サンタ86号「…気が立ってたんだ。許せ」

サンタ29号「ふふ。よし許すっ」

ホームレス(38)(…29号だけにはこいつも牙が折れるんだな)
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/23(金) 03:00:35.69 ID:aggVZbx10
サンタ60003号「86号。顔…赤い?」

サンタ86号「赤くねえ」

ホームレス(38)(本当、何がサンタだ。人間と何も変わらない)

サンタ500号「29号だけには温いですよねー86号は」

サンタ86号「うるせえ」

ホームレス(38)(……他の皆も)

サンタ29号「じゃあ…久し振りに本気出しちゃうかな?」

サンタ86号「おい38号」

ホームレス(38)「誰が38号だこら」

サンタ86号「ここまでは散々口だけの先輩風を吹かしてきたが…」

サンタ86号「てめーのせいで重大任務だ。とちればあの温厚間抜けなヒゲ村長もたちまち鬼と化す」

サンタ86号「そうなればサンタ界も終焉だ」

ホームレス(38)「マジかよ」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/23(金) 03:02:21.56 ID:aggVZbx10
サンタ86号「初仕事でへたれてんだろうから、順序は狂ったが、とりあえずお前は俺らの仕事をじっと見とけ」

サンタ86号「お前は何を経験し今何を思いそして何故それほど真っ直ぐなまでに死へ踏み出そうとしているかは俺の知ったことじゃねえ」

サンタ86号「…所詮、お前も、俺にとっては救えない、遠い存在なのかもしれねえな」

サンタ86号「だが最後の最後でお前の眼中になかった選択肢を提示してその白髪が禿げ上がるほど悩ませるくらいの足掻きはできると思ってる」

ホームレス(38)「どうだろうな」

サンタ86号「何度でも言うがサンタはいつでも命がけだ」

サンタ86号「俺はお前に救われるまでもなく、自分の過去に、お前の目の前で打ち勝ってやる」

サンタ86号「そして仕事の様を見せよう」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/23(金) 03:22:30.46 ID:aggVZbx10
サンタ86号「お前の言葉を借りるんなら…」

サンタ86号「あの青年のサンタが、そういえば妙な話をしていたと、あれは何だったんだと」

サンタ86号「結末を迎えるときに、思い出せ」

サンタ86号「泥臭え足掻きは誰もがいっとう輝ける瞬間だ」

サンタ86号「命の光だ」

サンタ86号「お前を照らせるかどうか、勝負だな、おい」

ホームレス(38)「…楽しみだよ。先輩」

サンタ86号「29号」

サンタ29号「はーい」

サンタ29号「…」

サンタ29号「とっておき。――ファインドハピネス」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:23:49.74 ID:tBeZXZBy0
そしてようせいたちはたちあがった

もりをけがすわるいにんげんたちにまけるな

じぶんたちのすむこのせかいをまもるのだ

わるいにんげんをおいはらうためにようせいたちはかんがえた

どうすればこのもりをまもることができるのか

そこでようせいたちはなかまのなかからとくべつなちからをもったようせいにわるいにんげんをたいじするためきょうりょくしてもらうことにきめた

あめのようせい

かぜのようせい

かみなりのようせい

つちのようせい

ひのようせい

ふりそそぐおおあめはわるいにんげんたちをひるませ

ふきあれるかぜはわるいにんげんたちをはばみ

なりひびくかみなりはわるいにんげんたちをおどろかせ

ゆれうごくだいちはわるいにんげんたちをくずし

もえさかるほのおはわるいにんげんたちをおいはらった

ようせいたちはかったのだ

ようせいたちはわるいにんげんからもりをまもったのだ
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:48:59.21 ID:tBeZXZBy0
M子「…人って、何て愚か」

12月24日 2時01分
サトウ家 姉妹の部屋

A菜「お姉ちゃん、またその本読んでるの?」

A菜「ゲームやろうよ、ゲーム」

M子「駄目。A菜、ゲーム始めたら騒ぐでしょ。またあいつの機嫌を損ねたら大変」

A菜「だいじょうぶ。こっそりやる」

M子「駄目。そもそも今起きてることがばれたらそれだけで大変」

A菜「うう」

A菜「ねえお姉ちゃん」

M子「もう。もう少し声小さくしてよ」

A菜「まだケガなおらない?」

M子「前のちょっと過激だったから…長引きそうかも」

M子「でも平気。慣れてるから」

A菜「こんどは、わたしがお姉ちゃんまもるから」

M子「駄目。A菜だったら死んじゃう」

A菜「……しんじゃう?」

M子「怖いでしょ。だから止めな」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 03:16:01.09 ID:tBeZXZBy0
A菜「きょう、クリスマス」

M子「そうだね」

A菜「ケーキたべたい」

M子「今日お母さんだけだったら食べれたかもね。あいつ、明日も家いるから今年は難しいね」

A菜「ケーキ…」

M子「私お金ないもん。わがまま言わないで」

A菜「ケチ」

M子「はあ…」

M子「A菜も早く大人になりなさい。でないと、この家を出るとき苦労するよ」

A菜「おとな…よくわからないもん」

M子「分かりなさい。いざという時、置いてっちゃうよ」

A菜「やだ…」

M子「なら駄々こねない。もう小学生でしょ」

A菜「……うん」

ポッ…

M子「きゃっ」

A菜「…どうしたの?」

M子「……ううん。…何でも」

M子「今、この本が光ったように見えただけ」

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 03:34:44.87 ID:tBeZXZBy0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


ホームレス(38)「これが幸福度ひとつ星の子供か…?」

ホームレス(38)「割と普通に話してるな」

サンタ86号「馬鹿言え。…だから怖えんだよ」

サンタ86号「小学生位は…まあ長女の歳なら差こそあるが、普通苦しみがあるなら多少は表立つ」

サンタ86号「だが全くその気配がねえ。これほど恐ろしいこともねえよ」

サンタ86号「迂闊に手が出せない」

サンタ29号「大丈夫?」

ホームレス(38)「?」

サンタ86号「…ああ。過剰なんだよお前は」

サンタ86号「何の問題もねえ」

ホームレス(38)「……あのさ。俺たちは今どこからこの景色を見てるんだ。記憶世界と何も変わらない感じなんだけど」

サンタ86号「今の面子で幸福干渉できる魔法を扱えるのは29号だけだが…」

サンタ86号「さっきの29号の魔法はその幸福感の対象となるものの中に入り込むことができる」

サンタ86号「有り体に言や、今俺たちは本の中ってことだ」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 03:48:58.32 ID:tBeZXZBy0
ホームレス(38)「…ってことはチャンスじゃんか」

ホームレス(38)「本が好き。物語が好き」

ホームレス(38)「これほど信じる心に結び付く要素があるか?」

サンタ86号「感覚としてはどうなんだ」

サンタ29号「……うーん。三つ葉っちの言い分だと単純にそれは『嗜好』になるけど」

サンタ29号「伝わってくる気持ちは『諦め』が大きいかな」

サンタ29号「現実に飽き飽きして、仕方なく物語世界を居場所にしてる感じ」

サンタ29号「作り物は裏切らないから、かな。多分」

サンタ29号「氷みたいに、心が凄く冷たい。…手強いよ、これ」

ホームレス(38)「三つ葉っちって誰のことだ」

サンタ29号「え?キミ」

サンタ500号「ブフッ」

ホームレス(38)「…」

サンタ500号「…すみません。つい」

サンタ60003号「みつばっち。かわいい」

ホームレス(38)「…で、ここからどうするつもりだ?」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 04:16:29.90 ID:tBeZXZBy0
サンタ86号「まあ確かにお前の言うとおり、不幸中の幸いってやつで、ここはチャンスといって問題ない」

サンタ86号「例えばそいつが骨人形に幸福感を見出す異形の価値観の持ち主だとしたら、俺たちは危うく心霊現象そのものだ」

ホームレス(38)「サンタ自体似たようなもんだけどな」

サンタ86号「とにかく様子を見るつもりはねえ。仕掛けるぞ」

サンタ29号「うん」

サンタ500号「賢明な判断だと思います」

サンタ86号「信じる心にひとつでも星が付けば、その瞬間にすかさず記憶世界に入れる。そこまで行けば一気に巻き返せる」

サンタ29号「そうなんだけどそのひとつが凄く重そうなのよねーこの感じだと」

ホームレス(38)「慎重に行くべきだったんじゃないのか。そんなに急いてどうする」

サンタ86号「あのな。さっきも言ったがここは記憶世界じゃねえ。時間は当たり前に経過する」

サンタ86号「確かに数日、数週間、数ヶ月…と見ればどんだけ堅実なことだろうな。だがクリスマスは泣いても笑っても25日の日没までだ。その上お前のタイムリミットはイブの終わりだ」

サンタ86号「暢気にしてられるか。アサガオの観察じゃねえんだ」

サンタ86号「早急に。ただし慎重に。基本だ」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:51:08.54 ID:xKUdgAdQ0
12月24日 3時47分

A菜「」スースー…

M子「…」ペラ

M子「…あれ?」ペラ…

M子「…………これ、『妖精物語』であってるよね?」

M子「内容…変わってる?」

M子「…やばい」

M子「物凄く疲れてるんだきっと。…寝なきゃ」

M子「でも…」ペラ

M子「そんなことって…ある?」ペラ

A菜「」スースー…

M子「…」

M子「寝よ…」

M子「――痛っ…」ズキ…

M子「……」

M子(あと何日生きよう)

M子(死にたい)

A菜「」スースー…




M子(A菜がいなケレバナア――…)
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 02:03:09.41 ID:xKUdgAdQ0
〜〜〜〜〜
〜〜〜


「「「「「――――ッ!?」」」」」ゾクッ!…

サンタ86号「…っと。こいつは……、」

サンタ29号「早くも黒いの…来たね」フラッ…

サンタ86号「おいっ。しっかりしろ!」

サンタ29号「……うん…大丈夫」

サンタ60003号「ううう〜…」ガタガタ

サンタ500号「術者の29号は勿論…子の心情とリンクしてるだけに、そのおぞましい思念がダイレクトに来ますね……」

ホームレス(38)(こいつ…)

ホームレス(38)(――――もう、やばい)

ピー!ピー!

サンタ86号「!」


【幸福度】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)


ホームレス(38)「――おいッ!!?」

サンタ86号「騒ぐな!!……深夜で鬱になってるだけだ」

サンタ86号「…もう就寝する。星の変動は落ち着くはずだ」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 02:25:36.46 ID:xKUdgAdQ0
【幸福度】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)


ホームレス(38)「…」

サンタ86号「…」

サンタ29号「…」

サンタ60003号「…」

サンタ500号「…」

ホームレス(38)「……動かなく、なったな」

サンタ86号「…いいか。今俺たちは本当に綱渡りしているってことを忘れるな」

サンタ86号「人の心情なんてもんは時と場合によってころころ変わる」

サンタ86号「心は動態だからな」

サンタ86号「そしてその心に内から干渉してるってことも忘れるな」

サンタ86号「ほぼ限界まで水を含んだコップに小せえ石ころを入れるようなもんだ」

サンタ86号「術者らが大きく取り乱せば、干渉相手にも影響が出る」

サンタ86号「今何より平静を保たなけりゃならないのは俺たちと…」

サンタ29号「……術者の、私」

サンタ86号「分かったら落ち着け。いいか」

ホームレス(38)「…、」

サンタ86号「心は反響する。この五人全員が冷静でいなきゃ駄目だ」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 02:51:38.60 ID:xKUdgAdQ0
ホームレス(38)「じゃあどうして五人全員で突入だったんだよ…」

ホームレス(38)「特に6…愛ちゃんなんか、まだ子供だろ……」

サンタ60003号「」ブルブル…

サンタ86号「…そうだな。何なら俺と29号の二人でも良かったかもな」

ホームレス(38)「なら!」

サンタ86号「――だがこの全員でいることで生まれる安心感もあるだろ」

サンタ29号「…」ニコリ

サンタ29号(やっぱり、変わってる…)

ホームレス(38)「……。そう、かもな。ああ…」

サンタ60003号「私。頑張る」プルプル

サンタ500号「僕も…。もう取り乱したりなんか、しません」

ホームレス(38)「…………質問。今回みたいに妹や兄なんかがいたりすると星の扱いは別々なのか?」

サンタ86号「そうだ。そして自我の形成がまだ曖昧な年頃の子には星の測定は難しく記憶への干渉もできない」

サンタ86号「だが案ずることはない。自我の極めて弱い、言ってみればまだ未発掘のような心は少し触れただけで求めるもののイメージがすぐわいてくる。人の自我こそがそれを知ることを阻む壁だからな」

サンタ86号「A菜くらい小さい子なら、欠片でも魔力を持ってりゃ無条件でプレゼントを把握できる。だから新人は本当はこのくらいの年頃を担当するのが常だ」

サンタ86号「つまり今はやはりM子にこそ全神経を注ぐことだ」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 03:17:53.68 ID:xKUdgAdQ0
ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「はあ!?」

ホームレス(38)「じゃあ俺は、手本を見せられることもなく、いきなりぶっつけ本番で小四の記憶に干渉させられたってのか!」

サンタ86号「結果は文句なしだったろ」

ホームレス(38)「ふざけんな!後からなら何とでも言えるだろうな!」

サンタ86号「俺の目利きでお前の才能を見抜いたから任せたんだ。後から云々じゃねえよ」

ホームレス(38)「このスパルタ上司!友達いねえだろお前!」

サンタ86号「んなことてめーに言われる筋合いはねえ!」

ホームレス(38)「は! いねーんだな? いねえんだろ!」

サンタ500号「あの…お二人ともお静かに…」

サンタ60003号「仲良し」

「「仲良くねえ!!」

ギャーギャー…

サンタ29号「…」

サンタ29号(ダーリンじゃないけど…)

サンタ29号(私も38号…三つ葉っちには、サンタになってほしいな)

サンタ29号(ダーリンはいつも口が悪いけど…)

サンタ29号(三つ葉っちに対しては…本当に遠慮ない感じがする)

サンタ29号(この五人で…ずっと仕事ができたらいいのに)
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 04:01:17.88 ID:xKUdgAdQ0



サンタ86号「――――何にせよ、最初の接触は、星ひとつこそ失ったが、完全には間違っちゃいねえ」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「……後ひとつだぞ、星」

サンタ29号「!」

サンタ86号「確かに干渉によって不安定の助長にはなってるが…」

サンタ86号「こいつはそうでなくてももう末期だ。放っておいても結果は同じだ」

ホームレス(38)「だから賭けるってのか?…その子の、命を」

サンタ86号「賭けじゃねえ。懸け、だ」

サンタ86号「命を、懸けてんだよ」

サンタ86号「人の命を握る事だってある。それがサンタだ。何度言や分かる」

ホームレス(38)「それも責任か?」

ホームレス(38)「自分の命ならいくらでも懸けろ。…子供のッ」

サンタ29号「待って」

ホームレス(38)「…っ?」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 04:02:16.92 ID:xKUdgAdQ0
サンタ29号「これ以上は、駄目」

ホームレス(38)「いや、でも」

サンタ29号「正解なんてないって、私は思う」

サンタ29号「自分だけじゃなくて…他人の命も懸けた救いなんて」

サンタ29号「偽善かもしれない。一方的な蛮勇かもしれない。押し付けがましい正義かもしれない」

サンタ29号「でも…」

サンタ29号「このまま放っていたら、結局この子は…」

サンタ29号「さっき伝わってきた感情で、分かったでしょ?……キミなら、余計」

ホームレス(38)「……」

サンタ29号「大丈夫。信じて」

サンタ29号「S朗くんの記憶世界で、あの道しるべで、三つ葉っちも言ってたよ」

サンタ29号「――信じ続ける心こそ、人に残された最後の強さだって」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 04:03:24.86 ID:xKUdgAdQ0
サンタ29号「本気の覚悟に勝るものなんてない」

サンタ29号「ダーリンは全て背負って。今、その強さで戦ってる」

サンタ29号「自分に打ち勝とうとしてる」

サンタ29号「キミに言われたから、向き合えって言われたから、この子と、何より自分と戦おうって決めたの」

サンタ29号「ここでダーリンを攻めるのは、お門違いだと思わない?」

ホームレス(38)「…………まあ、確かに」

サンタ29号「キミは確かに素質があるし、それはダーリンより上かもしれない」

サンタ29号「でもダーリンにはこれまでの多くの経験がある。何より、後輩に格好悪いところは見せないから」

サンタ29号「信じて」

ホームレス(38)「……、」

ホームレス(38)「…分かった」

ホームレス(38)「86号。お前を信じる」

サンタ86号「…」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 04:07:21.16 ID:xKUdgAdQ0
ホームレス(38)「…新人は大人しく黙って先輩の仕事を見てなきゃな」

サンタ29号「そもそも背中を押したのは俺だし」

サンタ86号「俺も言い方が悪かった。適切に本意を伝えられてなかったかもな」

ホームレス(38)「口悪いからな、お前」

サンタ86号「…ああ」

ホームレス(38)「次は、どうする?」

サンタ86号「次は…」

サンタ86号「朝になれば星がひとつは回復してるだろう。その分僅かに押しにいく。…あと少し、直接的に干渉するぞ」

サンタ500号(……ここにきて、連帯感がようやく強まってきてはいるものの…)

サンタ500号(水際の戦いであることには、何も変わらない)

サンタ500号(86号は…)
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 05:22:49.64 ID:xKUdgAdQ0
12月24日 9時16分

【幸福度】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

【不幸度】
★★★★★★★★★・
(星十個中九個)

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)



N美(母親)「――起きなさいっ」

ガバッ

M子「……」ボー

A菜「う…」ムクリ

N美「今日。お父さんの機嫌がいいみたいだから」

N美「クリスマスだし、パーティーやろうと思うの」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 05:23:32.24 ID:xKUdgAdQ0
M子「…パーティー……?」ボー…

M子「パーティー?」

N美「そう。だから買い物お願いしようと思って」

N美「冬休み入ってどうせ暇でしょ?」

N美「お父さんには内緒で少し多めにお金あげるから、ちょっと外で何でもいいから遊んで息抜きしなさい」

A菜「ケーキ食べれる?」

N美「食べれるわよ。お母さん、ケーキ作るから」

A菜「やった!」

M子「…本当に大丈夫なの?機嫌」

N美「M子は余計な心配しなくていいから。母さんが機嫌保っておくから。ほらお金」スッ

M子「……」バシッ!

N美「…、」

M子「貰うけど。…ありがとうなんて言わないから」

M子「行こ、A菜。支度支度」

A菜「うん」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 23:33:55.52 ID:iNq31kVHO
12月24日9時46分
外 〇△駅付近

M子「ひいふうみい…」

A菜「お姉ちゃん何してるの?」

M子「お金数えてるの」

A菜「さっきもらったの?」

M子「それもあるけど」

M子「今まで少しずつくすねてきたお金全部」

A菜「くすね…る?」

M子「A菜」

M子「――家、出るよ」

A菜「もう出てるよ」

M子「違う。もう帰らないってこと」

A菜「え?」

A菜「…………どこいくの?」

M子「分からない」

M子「どこか、遠く」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/25(日) 23:43:16.03 ID:iNq31kVHO
12月24日10時2分
電車内

ガタン…ゴトン…

A菜「お姉ちゃん…お腹減った」

M子「ほら。さっき買ったおにぎり」

A菜「お菓子食べたい」

M子「それは後で」

A菜「分かった」

A菜「」パクパク

M子「…」

M子(とは言ったものの…どうしよう)

M子(これからどうしよう)

M子(三年間我慢してきたのに…)

M子(自立できる時になったら逃げ出す予定だったのに)

M子(何か、早まっちゃった)

M子(今の今まで堪えといて。どうして今日、我慢が途切れちゃったんだろ)

M子(……)

M子(手持ちのお金だと…どう考えても一月持たない)

M子(小学生じゃ働けないし)

M子(親戚の家に転がり込んだら足がついちゃう)
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/25(日) 23:56:09.64 ID:iNq31kVHO
M子「A菜は、お父さん好き?」

A菜「ううん」

A菜「お姉ちゃんのこといじめるから、きらい」

M子「じゃあ、お母さんは?」

A菜「好き」

A菜「お姉ちゃんのこと守ってくれるから、すき」

M子「…そっか」

M子「でもねA菜。A菜もいつか大人になったらわかるよ」

M子「そりゃあいつ…お父さんが一番憎くて当たり前だけど」

M子「殴ってきたりして。お母さんは、そんな光景を三年間目にしてきて、結局、ずっと私を守ってくれなかった」

A菜「まもってくれなかった?」

M子「そう。守ってくれなかった」

M子「やり方なんていくらでもあったはず。なのにどうして三年間もこの状態を放置したのか…私には理解できない」

M子「一生憎んでやる。…許せない」

M子「絶対、許せない」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 07:28:21.78 ID:gk+DC9NY0
ガタンゴトン…

M子(そう)

M子(私にとって、唯一の味方はA菜、一人だけ)

M子(私にあるのは現実から逃げるための本、そんな私を現実に繋ぎとめてくれているA菜)

ガタンゴトン…

M子(私にあるのはこれだけ…)

M子(他には何もない)

ガタンゴトン…

M子(他に信じられるものなんて)

M子(何も…)

――――北へ向かって

M子「え?」

――――そこまで行けば、わるいにんげんたちから開放される

――――もりがきっと、君を救ってくれる

――――待ってる

M子「……A菜?」バッ

M子「…」スースー…

M子「…え?」

M子「今」

M子「……何?」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 07:30:05.62 ID:gk+DC9NY0
ごめんなさい流石に
M子「…」スースー…←×
A菜「…」スースー… ←○
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 07:52:43.06 ID:gk+DC9NY0
そしてようせいたちはそのこどもをすくうためにたちあがった

こどもをけがすわるいにんげんにまけるな

じぶんたちのすむこのせかいで

わるいにんげんのいるせかいからこどもをまもるのだ

こどもをすくうためにようせいたちはかんがえた

どうすればこのもりでこどもをまもることができるのか

そこでようせいたちはなかまのなかからとくべつなちからをもったようせいに

こどもをすくいだすためきょうりょくしてもらうことにきめた

あめのようせい

かぜのようせい

かみなりのようせい

つちのようせい

ひのようせい

あめはこどものけがれたこころをあらいながし

かぜはこどもをもりふかくへといざない

かみなりはときにみちのしるべをてらし

だいちはやがておとをかなで

ひはこのつかれはてたこころをあたためた

ようせいたちはまもったのだ

ようせいたちはわるいにんげんからそのこどもをまもったのだ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 08:02:24.97 ID:gk+DC9NY0
お帰りM子

ただいま…

遅くまで何してたの?

……友達の家

もう。お父さんカンカンよ。どうしたらいいの。

私に聞かないでよそんなこと。お母さんが何とかしてよ。

私にはもう無理なのよ…。

え?

だから、私にはもう無理なのよ。

どうしようもない。

そんな。

だって。母親でしょ。

何とかしてよ。

おかしいよこんなの。

家だけだよ?こんなにおしおきが厳しいの。

皆言ってるもん。私の家はおかしいって。

おかしいんだって。

ねえ。

助けてよ。

…。

助けてくれなかったらお母さんのこと、もうお母さんって、呼ばないから。

…。

ねえ。ねえ…。ねえ!!

…………あ…。

――お父さんが、あいつが、やってきた。

もう誰も助けてくれない。

誰も、守ってくれない。

私を。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 08:14:15.29 ID:gk+DC9NY0
テストの点数。

好きな男の子。

将来の夢。

皆、くだらないことで頭を悩ませている。

そうして心の中で自分と戦いながら、それぞれの答えを出している。

そんな考えたってどうしようもない不安なんか、どうでもいいじゃない。

そう思わない?

私は不安なんかと戦っているわけじゃない。

目に見えない不安なんかと戦っているわけじゃない。

私の敵は、姿かたちを持った、紛れもない恐怖だ。

不安なんて妄想じゃない。

私の敵はいつも現実だ。

だから実際に戦わないといけないんだ。

でも間だ子供の私はあまりにも非力で。

またそれ以上に子供の妹を守るには全然力が足りなくて。

本当に、どうしようもなかった。

あまりに残酷な現実は、人に話すと遠ざけられる。

私という存在を遠ざけられる。

どうやらこれもまた、現実らしい。

残酷すぎる現実は、見てみぬ振りをされるらしい。

私はただ、可哀想と、そういう酷い現実の一部として見られるだけ。

誰も干渉してこない。

私はここにいるのに。

遠くの人のように。

そんな目で見ないで。

こっちに来て。

誰か、助けて。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 08:20:29.86 ID:gk+DC9NY0
お姉ちゃん。

…なあに。

これ、がっこうでもらってきた。

……図書室の本じゃない。駄目でしょ勝手に。

ちがう。もらったの。

…そうなの?ふうん…。見せて。

はい。

私、全然本なんて読まないんだけど…。

どうして?

どうしてって…興味もないし。

字、読むの苦手だし。

わたしよんだよ。

え?凄いねA菜。

……なるほど。童話かあ。

妖精物語、か。

これ位簡単なら、A菜にも読めるね。

お姉ちゃんもよんで?

……分かった。ちゃんと読むね。

うん!

…A菜。

なに?

ありがとう。

うん!
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 08:30:49.90 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…

12月24日15時26分
電車内

A菜「…あ」

A菜「お姉ちゃん、おきた」

ガタン…ゴトン…

M子「ここは…」

M子「あ、そっか…」

M子「私、家出して」

M子「そして行き先を北に変えたんだっけ」

ガタン…ゴトン…

A菜「ここ、どこ?」

M子「…分からない」

A菜「どこいくの?」

M子「……妖精のいる森」

A菜「もり?」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 08:31:38.79 ID:gk+DC9NY0
M子「…なんて」

M子「馬鹿みたい」

M子「精神的にも肉体的にも疲れ果てて」

M子「ついには幻聴まで」

M子「しかもそれに従って…」

ガタン…ゴトン…

M子「……馬鹿みたい。私」グスリ

A菜「…お姉ちゃん?」

M子「私。どうするんだろ。これから」

M子「…………っ、」

ガタン…ゴトン…

A菜「お姉ちゃん。お姉ちゃん」

A菜「…なかないで?」

A菜「わたしがいるよ」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 09:38:13.86 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時31分
東京上空

シャンシャンシャン…

ホームレス(38)「くそ…」

ホームレス(38)「俺は見てるだけじゃなかったのかよ…!」



――作戦を伝える。

――結論から言わせてもらえば、幸福干渉は29号一人に切り替える。

――今年のクリスマスイブは16時35分からだ。

――会って間もない時に俺はお前に話したよな。

――…誰かに本気で憧れたことあるかってな。

――師。ヒーロー。神様。何だっていい

――つまりは自分を導いてくれる強かな存在だ

――てめーはタナカ家の時に、確かに道しるべになった。

――サンタは常に子供の希望でなきゃいけねえんだ。

――それが子供の夢だろ。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 09:38:48.06 ID:gk+DC9NY0
――今。世界中で他のサンタも俺たちと同じようにプレゼントを配って回ろうと必死になってる。

――今この世界で戦っているのは俺たちだけじゃねえ。

――希望の灯が、確かに少しずつ世界を照らしている。

――今年のクリスマスも、世界に希望の力が少しずつ宿ってきている。

――イブの結界は無条件で発動するわけじゃない。

――過去と未来から25日0時の一点に希望が一定以上集まったとき、それは成立する。

――結界はサンタの魔力を飛躍的に向上させると言ったな。

――サンタの魔力ってのはつまりは希望の力だ。

――イメージを現実にする力だ。

――思いは形になる。強く思い続ければ、必ずな。

――魔法ってのはその象徴なんだよ。

――世界とサンタの希望の力が共鳴したときに。

――夢でなく。現実世界にそれは現れる。

――魔法の世界だ。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 09:39:34.74 ID:gk+DC9NY0
――M子の信じる心は星ゼロのままだが…。

――現実で魔法の世界に誘うことができれば、まず間違いなく浄化は成功するだろう。

――だがその世界を現実に召喚するためには…おおよそ子供百人分の希望が必要になる。

――ファインドハピネスの幸福干渉で29号はM子を現実に繋ぎとめ続け、

――俺たち四人はその間に他の家から子供にプレゼントを与えて希望を生み出す

――子供百人分の希望を集め、イブの結界が発動し、世界とサンタが共鳴したら、

――魔法の世界。妖精の森を、姉妹二人の行く先、北の地で召喚する。

――そこで浄化を行う。信じる心は間違いなく発生する。

――夢に干渉し、彼女の求めるものを見つけたら…

――プレゼントを与える。

――ここまでがサトウ家の物語だ。クリスマスの妖精物語だ。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 09:40:24.58 ID:gk+DC9NY0
――あ?俺が目を離す間にお前が帽子を取るかもしれないと?

――今更だな。お前はそんなことはしない。

――例え世界を去るにしても、きっちりけじめをつけてからだろ。お前は、てめーはそういう奴だ。

――男気ってやつか。話す内にお前からそういうものが垣間見えたよ。

――だから、信じてるぞ。

――奇跡を起こす。この五人で。いいな?
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 18:38:07.65 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時34分
日本南方

サンタ60003号「とっておき。メモリアルスノウ」

シュオオオオ…

「……ありがとう」

「ありがとう、サンタさん!」

サンタ60003号「…どういたしまして」

サンタ60003号「――メリークリスマス」

サンタ60003号(これで16人目)
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 18:45:40.30 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時38分
日本北方

サンタ500号「…だから、君はそこまで背負うことはないんです」

サンタ500号「見てください。世界はこんなにも綺麗だ」

サンタ500号「僕はこの空で、君の事を応援しています」

「ありがとう、ありがとう…!」

「私、頑張るからッ」

サンタ500号「……頑張ってください」

サンタ500号「――メリークリスマス」

サンタ500号(これで22人目)
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 18:53:33.08 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時45分

ピー!ピー!ピー!

【幸福度】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)



サンタ29号「う…」フラッ

サンタ29号「もう…駄目……かも」ゼイゼイ

――お前を信じる。29号。

――必ず希望を集めて戻る。

サンタ29号「……う、ぐ」

サンタ29号「うぐぅー…」

サンタ29号「そんなこと言われたら…諦められないよね」

サンタ29号「ダーリン。皆。早く…!」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 19:02:09.26 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時51分
日本南方

サンタ86号「俺たちサンタクロースは必ず元気を届ける」

サンタ86号「せいぜい悩んで見せろ。だがサンタは子供の抱える闇に負けない」

サンタ86号「来年もまた来る。お前が信じている限りはな」

「…大人になっても、ずっと?」

サンタ86号「そりゃ贅沢だ」

サンタ86号「大人になったら、プレゼントは恋人にでも貰っとけ」

「……変なサンタさん。口も悪いし…」

「でもサンタって、こんな格好良かったんだ」

「私、あなたのお嫁さんになりたいな」

サンタ86号「馬鹿言うな」

「えへへ」

「…ありがとう、サンタさん……」

サンタ86号「…ああ」

サンタ86号「――メリークリスマス」

(これで42人目。あいつは…)
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 19:12:53.13 ID:gk+DC9NY0
12月24日15時58分
日本北方

ホームレス(38)「…失敗なんて、いくらでもしていいんだと思うよ」

ホームレス(38)「挫折だって、新たな決断のための大切な一歩だ」

ホームレス(38)「君は前に進もうとしてる」

ホームレス(38)「進むのを諦めようとしない」

ホームレス(38)「それはいつか大人になった時、何よりの財産になると思うから」

ホームレス(38)「頑張れ。信じ続けてくれさえいれば、サンタはいつでも君の隣にいられる」

ホームレス(38)「意思は君とずっと一緒だ」

「……ありがとう、サンタさん」

「また会えるよね?」

ホームレス(38)「…………、」

ホームレス(38)「ああ」

「うん、ありがとう」

ホームレス(38)「ああ…」

ホームレス(38)「――メリークリスマス」

ホームレス(38)(これで20人。皆は…)

ピピピピ!

ホームレス(38)「!」

ホームレス(38)「サンタウォッチ…」

――集合だ!

――29号の所へ戻るぞ!
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 19:35:50.37 ID:gk+DC9NY0
12月24日16時21分
サンタクロース村 長の住処

村長「…86号らの担当する日本ではもうすぐクリスマスイブか」

村長「今年の世界の浄化度は例年に比べて順調のようじゃの」

村長「……」

村長「86号らの仕事はそう進んでいないようじゃが…」

村長「なるほど。一人の子供のために百人の子供の希望を集めているのか」

村長「幸福へ干渉し、闇の淵で慟哭する女の子を救い出そうとしている…」

村長「あれだけ結果に固執する86号がそれを無視して、一人の女の子のために…」

村長「或いは自分に打ち勝つために…」

村長「全ては…」

村長「彼のおかげか」

村長「……彼は…」

村長「…」

村長「答えは…」

村長「もうすぐ、か」

村長「世界中で響くベルの音が、サンタクロース皆の苦も楽も、わしに全て教えてくれる」

村長「内から押し寄せる不安も、外から襲い来る恐怖も、全て希望に変えてみせろ」

村長「クリスマスが続く限り」

村長「わしはここで、悲劇も奇跡も、余さず見届けよう」

村長「頑張れ…。皆」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:27:51.52 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…

12月24日16時32分

M子「…来た」

A菜「北?」

M子「……」

M子「――お迎えだよ」

A菜「お姉ちゃん?」

M子「まだA菜は分からないかもしれないけれど」

M子「この妖精物語の結末はとても悲しいものなの」

M子「一時は凌ぎ切ったものの、結局はわるいにんげんたちにその森を侵されて」

M子「世界から弾き出されその森へと逃げ込んだたった二人のいいにんげん…こどもは、残された妖精たちと一緒に天へ召されてしまうの」

M子「随分オブラートに包んでるというか、綺麗に表現してるから、そういう解釈が難しい描き方になってるけど…」

M子「私は全てを信じないことで恐怖と戦い続けてきた」

M子「でももう、それもいいのかな」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:29:58.59 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…

M子「聞いて、A菜」

M子「私は何か考えがあってA菜とこの遠くの地まで逃げているんじゃないの」

M子「ただ、とにかく、逃げたかった」

M子「その先のことなんて何も考えてなかった」

A菜「…そうなの?」

M子「でも、結果としては、これが一番良かったのかな」

M子「行動してみるものね」

M子「だってさっきから、妖精が、現実なんかにいる筈もない妖精が…恐怖が生み出す幻想が…私に囁いてる」

M子「この本の物語も…本来の描かれ方から一変して、何だか随分直接的な表現に置き換わってきてる…」ペラ

M子「これも幻…。幻覚」ペラ…

M子「もうすぐ私は完全に幻に支配される」

M子「でもそれでいい。この現実に侵されるくらいなら…」

A菜「お姉ちゃん?」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:31:52.79 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…

M子「A菜を連れてきてよかった」

M子「……一人ぼっちは、寂しいものね」

M子「私は、幻を信じるわ」

M子「ううん。本当は、ずっと信じたかった」

M子「全部諦めたかったから」

M子「幻を信じたかった」

M子「そしてついに幻が私をどこかへ誘ってくれる」

A菜「…お姉ちゃん。お姉ちゃん?」

M子「今日はクリスマスイブ――」

M子「クリスマスの妖精が、サンタクロースが、この世界から、恐怖から、私を救ってくれる」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:33:58.72 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…















M子「ありがとう、サンタさん」

M子「――――最後に、幻を信じることができて、良かった」

M子「私の人生は、それを信じることができただけで、幸せだったよ」

M子「さあ。来て」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:35:51.07 ID:gk+DC9NY0
ピ--------------…












【幸福度】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:36:41.42 ID:gk+DC9NY0





















――――イレギュラーは滅多にねえからイレギュラーなんだよ
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 20:51:42.17 ID:gk+DC9NY0
ガタン…ゴトン…

12月24日16時35分
クリスマスイブ
走行中の電車真上

――――――――……オォッ!!

サンタ86号「――――来た!結界だ!」

サンタ86号「魔法の世界を召喚する、手ェ出せ!」

サンタ29号「…待って、何だか様子が」

サンタ86号「一刻を争う、早くしろ!」

サンタ500号「はいっ」スッ

サンタ60003号「うん」スッ

ホームレス(38)「ほら」スッ

サンタ29号「…、」スッ

サンタ86号「よし」スッ

サンタ86号「……確かに満たされてるな。いくぞ!!」

――――ッッッ!

――――……

――――――――サアアアアアアア…



ホームレス(38)「…これは。S朗の時と、同じ……」

サンタ60003号「魔法の世界」

サンタ500号「イメージが…具現化されていく」

サンタ29号「妖精の森へ…」



――――ドクン!

サンタ86号「!?」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 21:04:21.54 ID:gk+DC9NY0
メリークリスマス。サンタさん。

私はずっと世界の恐怖と戦い続けてきた。

だから私は何も信じることができなかった。

でも、あなたたちが現れてくれた。

クリスマスの妖精さんが、私の前に現れてくれた。

最後の最後で、私は幻を信じることができた。

凄く、嬉しい。

でもそれが終わりの証だなんて。少し、寂しい。

ねえサンタさん。

人はこの世に生まれ落ちたその瞬間から、もう死ぬための準備を始めている。そういう生き物だと私は思うの。

じゃあ、死ぬためには、何が必要になるんだろう。

私はきっと「信じるもの」なんだと思う。

心から信じるものができたときに初めて、人は死ぬための資格を手に入れられる。

私は今まで死ぬための資格がなかった。

妹だけが、私の唯一の味方だったから。

妹だけは信じたかったけど。

逆に。妹がいたから、私はこの世界を離れることができなかったの。

妹を信じても、それは世界から旅立つための資格には成りえない。

だからこの旅に連れて来た。

結果として、あななたちは私の目の前に現れてくれた。

妖精物語の筋書き通りに。

私たち、世界から弾き出された惨めな子供二人を、導いて。

サンタさん。今日だけは、幻を信じるわ。

信じることができて、良かった。

ありがとう。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 21:15:15.53 ID:gk+DC9NY0
--------------イイイ…


【幸福度】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)

ドクン

ドクン

サンタ86号「馬鹿、な」

サンタ86号「幸福度は…消えた。が…」

サンタ86号「信じる心には、星が、付いてる、付いた、それなのに…!」

サンタ29号「…………イレギュラー…」

ホームレス(38)(…信じることで、死を受け入れたのか……)

ホームレス(38)(これじゃ俺たちは…妖精どころか)

ホームレス(38)(……死神…………、)

ドクン

ドクン

サンタ60003号「…死んじゃう」

サンタ60003号「鼓動。どんどん、弱く…」

ドクン

ドクン

ホームレス(38)「何かの病気かっ?どうして…」

サンタ86号「くそが…ッ。幸福干渉時に少し移った魔力で自死を図ってやがる。んなことがあり得んのか……!」

ドクン

ドクン

サンタ500号「もう…鼓動が…」

ドクン

サンタ86号「――――ッッ、あああああああ!!!!」

「ダーリンッ!!」

ザザザザッ…!

ザザ・・

ザ…

――――――

―――






202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/28(水) 23:00:28.41 ID:gk+DC9NY0
数年前
フィンランド サンタクロース村

サンタ29号「初めまして。私29号」

サンタ86号「86号だ」

サンタ29号「…」

サンタ86号「…」

サンタ29号「愛想ないのね」

サンタ86号「てめーも大概だろ」

サンタ86号「で…」

サンタ86号「なぜ村長は俺のような成績トップクラスのサンタにお前のようなズブの素人サンタをあてがうんだろうな」

サンタ29号「…やけに自信あるのね。あなた」

サンタ86号「自信ひとつねえ奴がサンタの仕事に関わってんじゃねえ」

サンタ29号「……え?」

サンタ86号「自信は仮初めでもいい。要はそれが結果に繋がればいい訳だからな」

サンタ86号「自分に自信がねえってのを免罪符にして常におどおどしてるような奴に子供に関わる権利があると思うか?」

サンタ86号「サンタの仕事は子供のその後を左右するものといってもいい」

サンタ86号「半端な覚悟で入っていい世界じゃねえんだよ」

サンタ29号「…いきなり説教。やな感じ。こんなのが上司なんて」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 01:11:34.34 ID:hvHh0vzK0
サンタ29号「大体、もう元人間の人間なんて殆どいなくなって…」

サンタ29号「今となってはもう純正が大半でしょ」

サンタ29号「自信ないなら止めろって…、それって記憶や認識を全て捨てて人間になれってことじゃない」

サンタ29号「そんなサンタ、そういない」

サンタ29号「だって怖いもの。この仕事を通して人間界の闇を垣間見てるから。その世界に足を踏み入れようだなんて」

サンタ29号「皆がどん詰まりよ。でも頑張ってるの。あなたみたいに皆が強いわけじゃない」

サンタ86号「俺は強く在れだなんて言ってねえ」

サンタ29号「!…?」

サンタ86号「強くなろうとしろっつうことだよ」

サンタ86号「…変わろうとしない奴には、何を言っても無駄だ。俺は世の大人に言ってやりたいね。てめーなんかに生きる資格はねえ、自ら可能性の全てを捨てた奴にかけてやる言葉はねえ」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 01:12:01.08 ID:hvHh0vzK0
サンタ86号「自分をクズだと認識するだけじゃ足りねえんだよ。んなことは皆痛感してる。当然の感覚だ。それでも変わろうとしねえ奴には、誰かが真摯に強い思いのもと、言ってやらねえと駄目なんだよ。『お前には生きる資格がねえ』ってな。それが本当の優しさだ」

サンタ86号「だがそれは残念ながらサンタの仕事の範疇じゃねえ。腐った大人に喝を入れるのは同じ人間のもの書きにでもさせりゃいい」

サンタ29号「……だから可能性を持った子供へ奉仕するこの仕事に臨んでるの?」

サンタ86号「そうだ」

サンタ86号「俺は人間の大人の大半は嫌いだな。限りある資源を貪り何をのうのう過ごしてやがるってな」

サンタ86号「そういう奴は可能性を求めている人間の阻害にしかならねえ。…邪魔だ」

サンタ86号「可能性のある子供と真剣に向き合うことを止めたいのなら、とっととサンタの看板を下ろして、そういった堕落した人間の大人の仲間入りでもしてろってことだよ」

サンタ86号「希望を捨てた奴に、サンタを名乗る資格はねえ」

――――パンッ!!
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 01:13:20.77 ID:hvHh0vzK0
>>203
元人間の人間←×
元人間のサンタ←○
本当すみません。正直バテてるかもです
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 01:35:31.68 ID:hvHh0vzK0
サンタ86号「…」ヒリ…

サンタ29号「……最低ね。友達いるの?あなた」

サンタ86号「組んで初日、上司に向かってビンタ。流石だな」

サンタ29号「罰は受けるわ。村長に報告すれば?」

サンタ86号「するか、んなこと」

サンタ29号「!…」

サンタ86号「仲間を作るにはまず敵を作ることが必要だ」

サンタ86号「自分の意見を発言し、それに衝突する者はまず自分の世界から廃することができる」

サンタ86号「そして賛同する本当の仲間が浮き彫りになってくる」

サンタ86号「俺は探り合いっつう七面倒なことは嫌いでな」

サンタ86号「まず今日から同じチームになるお前が俺の賛同者かどうかを見極めることから開始しなきゃならねえ」

サンタ86号「結果はご覧の通りだが…てめーが正直者で助かる。事が早く進むからな」

サンタ86号「てめーはここから先、俺を敵と認識した上で行動を共にしろ。割り切りの悪い奴は段取りも悪い。仕事上、害になる」

サンタ29号「…ねえ」

サンタ86号「質問か?」

サンタ29号「……違うけど。その『てめー』って言うの、止めて」

サンタ29号「私は29号だから」

サンタ86号「…」

サンタ86号「ああ。分かった」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 02:17:45.38 ID:hvHh0vzK0
シャンシャンシャン…

サンタ29号「…ねえ」

サンタ86号「私語は慎め」

サンタ29号「始めはコミュニケーションも大事だと思うんだけど」

サンタ86号「…何だ」

サンタ29号「さっき生きる資格がどうだとか言ってたけど」

サンタ29号「じゃあ、死ぬ資格ってあるの?」

サンタ86号「は?」

サンタ29号「私は生きる資格なんてものがあるのなら、死ぬ資格もないとおかしいって思う」

サンタ29号「あなたはそう思わないの?」

サンタ86号「…」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 02:34:43.60 ID:hvHh0vzK0
サンタ86号「世の中は二面性で成り立ってる」

サンタ29号「え?」

サンタ86号「生きる奴と死ぬ奴。生と死」

サンタ86号「光と闇。幸福と不幸。希望と絶望。理想と現実。罪と罰。自信と不安…」

サンタ86号「そういう目でものを見た時、世界は全てそれで成り立ってることに気付く」

サンタ86号「人はその二面性の両極端を知り、経験し、そしてその間を見つけ出すことで生きていかなきゃならねえ」

サンタ86号「そのバランス感覚は例えば人間がよくこだわる『才能』ひとつにしてもそうだな」

サンタ86号「才能とはバランス感覚だと言い換えてもいい」

サンタ86号「…ここでひとつ雑談をしよう。人間の脳には左脳と右脳がある。人の持つ性質の大半はこれひとつで説明が付く。複雑なようで人って生き物は思ったより単純ならしい」

サンタ86号「例えば数学。例えば美術。例えば音楽。文学…」

サンタ86号「あらゆる才能はこのバランス感覚がものをいうらしい」

サンタ86号「一流は誰もがコンディションを馬鹿に気にかけるだろ。そういうことだ」

サンタ86号「つまり俺が言いたいのは…」

サンタ86号「お前の言う通り、生きる資格が存在するというなら、同時に死ぬ資格もあっておかしくはない」

サンタ86号「だがな。生は皆一様にして腹の中から。平等だ」

サンタ86号「だが生まれたその瞬間、世界の空気に触れたその時から、人は平等っつう概念の外に放り出されることになる。分かるか?」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 02:57:43.29 ID:hvHh0vzK0
サンタ86号「生まれた瞬間は平等。しかしそれ以後から死にかけては平等じゃない」

サンタ86号「生と死は二面性だが、ここではバランスという概念は介在しない」

サンタ86号「要するに対比関係にこそなってるが、間の地点が存在しない以上、お前の言う資格もその両極に備わっているとは限りえないって話だ」

サンタ86号「愛情の結晶として生まれ落ちた宝物とも呼べる命が生後三年で朽ちるような例に、死ぬ資格なんて要素は発生しないだろう」

サンタ29号「…難しいけど。その間の地点があれば、何を付随させても成り立つってこと?」

サンタ86号「自信と不安は二面性だ。そこに『根拠』を付け加えるとどうなる?」

サンタ86号「根拠のない自信。根拠のない不安。…成り立つ。バランスが発生する二面性には何を付随させても成り立つ」

サンタ86号「だが生と死ほど究極的で、人が語るだなんて甚だおこがましい話もねえんだな」

サンタ29号「……半分くらい分かった。そして聞くんじゃなかった」

サンタ29号「あなた一を十で返す人よね。嫌われるよそういうの」

サンタ86号「悪かったな」

サンタ86号「…無駄話をしてる間に一件目の家に着くぞ」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 03:00:23.47 ID:7cQVic9A0




「――ありがとう、サンタさん」

シュウウウウ――…

サンタ86号「こうして記憶世界に干渉し、子供の求めるプレゼントを掴んでいくわけだ」

サンタ29号「…」

サンタ86号「…おい?」

サンタ29号「…へえ……」

サンタ29号「…」

サンタ29号「……凄い…………、」

サンタ86号「…」

サンタ86号「……少しは良い目をするじゃねえか」

サンタ29号「え?」

サンタ86号「…いや」

サンタ29号「あなた人を褒めることができるの?」

サンタ86号「失礼甚だしい奴だなお前は。手も出る。サンタ云々の前に一個人として根本的に何か見直していく必要がありそうだな」

サンタ29号「あなたにだけは言われたくない」

サンタ29号「…でも」

サンタ29号「こうして子供の心を浄化するところを目の前で見たのは、初めて」

サンタ29号「ちょっと感動しちゃった」

サンタ86号「……そうか」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 03:18:44.15 ID:7cQVic9A0
休憩中

サンタ29号「ねえ」

サンタ86号「…」

サンタ29号「何でそう不満そうな顔するの?」

サンタ86号「休憩中くらいゆっくりさせろ…。お前と俺とで憩いの中交わす言葉はないはずだ」

サンタ29号「ああ。叩いたこと、まだ根に持ってるの? …ごめんなさい」

サンタ86号「別に根に持ってるとかそういうことじゃなくてな…。お前は俺を仕事上敵とみなし」

サンタ29号「忘れちゃった。もう」

サンタ86号「は?」

サンタ29号「だから忘れて。あなたも」

サンタ29号「ね? はい、仲直りー」

サンタ86号「……………………」

サンタ86号「ちょっと今から村長にチームの再編成をするよう掛け合ってくる。待ってろ」

サンタ29号「待って!」

サンタ86号「触んな。馬鹿が移る」

サンタ29号「レディに向かってそういうこと言うんだ?」

サンタ86号「どこにレディがいる?」

サンタ29号「ちょっと老眼鏡でも持ってきてあげようかお爺ちゃん?」

サンタ86号「なら俺は鏡でも持ってきてやろう。シミひとつ見逃さない特別製だ。村に安値で売ってたな」

サンタ29号「…それは大変ありがとうございます」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 03:33:46.19 ID:7cQVic9A0



サンタ29号「…流石よね」

サンタ86号「当然だ」

サンタ29号「……普通いきなり流石って振られたら、何が?って返すのがやり取りの常だと思わない?」

サンタ86号「面倒だからなそういうのは」

サンタ86号「仕事のことだろ」

サンタ29号「まあ…そうなんだけど」

サンタ86号「お前の第一印象は無愛想な感じでろくなもんじゃねえと思ってたが…」

サンタ29号「私も全く同じ感想でした」

サンタ86号「あれを見た途端、童心に返ったかのように目を輝かせていた」

サンタ86号「お前もまた、希望に対して素直な奴なんだろうな」

サンタ29号「素直、か」

サンタ29号「で、聞きたいんだけど」

サンタ29号「何でサンタの仕事をしようと思ったの?」

サンタ86号「…そりゃ、サンタに生まれたからだろ」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:35:17.26 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「闇が深かろうが何だろうが。人間ってのは良いな。何しろ可能性がある」

サンタ29号「…さっきの話?」

サンタ86号「それも含めていいが。子供は色んなことを経験し、時と共に、無限にも思える選択肢をひとつずつ捨てていき、そうして何かひとつの道を見出していく」

サンタ86号「だが馬や蜂なんかに生まれた日には、そんな選択肢なんか現れちゃくれねえからな」

サンタ86号「人は飯さえ食えりゃ何をして生きていくことも許される」

サンタ86号「だがサンタは違う」

サンタ86号「サンタも馬や蜂と同じく、生まれてからやるべきことは定められてんだよ」

サンタ29号「…私が聞きたいのは、そのサンタに生まれて、サンタを余儀なくされて、そんな中であなたは…そう、オンリーワンを目指してるように見えるから」

サンタ29号「どうしてそうまで決められた定めに必死になれるのかって、そう思ったの」

サンタ86号「頑張ったって、頑張らなくたって、あなたはサンタでしょ」

サンタ86号「何だそういうことか。最初にそう聞け」

サンタ29号「…」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:37:27.17 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「……俺はさっき選択肢がどうと言ったが」

サンタ86号「実のところ、サンタも人もそう変わらないと思う面もある」

サンタ86号「結局、大きな括りで見てしまえば。政治家だろうが野球選手だろうが何だろうが、何をしていてもそいつは人であることには変わりねえだろ」

サンタ86号「だが男ってのは人もサンタも同じようでな。生まれたからには何かでナンバーワン或いはオンリーワンを目指したいもんなんだよ。それが性だからな」

サンタ29号「ふうん…」

サンタ86号「そして俺たちサンタクロースは人間に堕ちるか子供にプレゼントを与え続けるか、その二択しかない」

サンタ86号「まあ商人だの兼業してる奴もいるがな。サンタは子供の希望に触れ続けないとその存在を保てないからな。人が食事をするように、これは避けては通れない」

サンタ86号「誰もが自分と同じことをしている。そんな中でどうオンリーワンを見出すか」

サンタ86号「ある日に自分なりの答えを考え付いた」

サンタ29号「……何?」

サンタ86号「…景色だよ」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:42:04.71 ID:7cQVic9A0
サンタ29号「…景色?」

サンタ86号「世界はな。自分の見方次第で形を大きく変える」

サンタ86号「変わるのは本質的には世界の側じゃない。いつだって自分自身だ」

サンタ86号「俺もお前と同じように、最初にサンタクロースの仕事を目にしたときは言い表しようのない感動を覚えたもんだが…」

サンタ86号「俺が特に着眼したのは、子供の笑顔だった」

サンタ29号「…」

サンタ86号「誰が何をしようとも。サンタはサンタだ。変わりない。だがそのサンタっつう仕事の中で外に与える影響、第三者の反応」

サンタ86号「これはサンタ自身と違って、様々だった。…思わねえか?」

サンタ86号「この世に全く同じ笑顔なんて、ひとつとして存在しないってな」

サンタ29号「……かもね」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:43:05.60 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「俺は俺自身ばかり見ていたから、世界に飽き飽きしていたんだったと思う。しかし」

サンタ86号「俺がすることによって世界に影響することへ視点を置いたとき、まるで白黒の世界に色が宿ったみてえな変化を感じた」

サンタ86号「だから俺はその日から、誰かに元気を与え続けることを強く決意した。そのためには何を犠牲にしてもいい」

サンタ86号「自分でなく、誰かへの元気が、俺に世界を実感させてくれる」

サンタ86号「自分を満たすことより、誰かに与えることを知ったとき、本当の幸福は後者にあることを学んだ」

サンタ86号「俺は誰も目にしたことがない究極の笑顔に出遭うために。オンリーワンになるために」

サンタ86号「幸福になるために」

サンタ86号「……こういうことだ。つまりはな」

サンタ29号「…男ってロマンチスト」

サンタ86号「かもな」

サンタ29号「でもそういうの、いいね」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:45:03.53 ID:7cQVic9A0
サンタ29号「じゃああなたの言う選択肢ってつまり…」

サンタ86号「選択肢は現れるのを待つもんじゃねえ。希望は現れるまで縋るもんじゃねえ」

サンタ86号「――自分で、作るもんだ」

サンタ86号「サンタはサンタ以外の何者でもねえが…考え方、見方ひとつで、多用な幸福の在り方を生み出す」

サンタ86号「誰にでもできることを、誰にでもできる訳じゃないところまでやってみりゃ、新しい世界が生まれる」

サンタ86号「だから希望を捨てた奴ってのは生きる資格がねえってんだよ。そういうのを甘ったれってんだ」

サンタ86号「待っていたって世界は何も変わらない」

サンタ86号「何もしねえ奴に希望を語る資格はねえ」

サンタ86号「どんなに無力なゴミクズだろうがな。前に進もうとさえすれば、希望は、選択肢は、生み出すことができる」

サンタ86号「――待つな。進め」

サンタ86号「…村長の好んで使う言葉のひとつだ。お前も仕事を始めりゃ後で嫌っつうほど聞かされるから覚悟しとけ」

サンタ29号「……」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 04:46:26.01 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「子供は余りある選択肢に眩暈を起こし、どこに進めばいいか『道しるべ』を求めてる」

サンタ86号「大人は選び取った道に多くは後悔し、常に誰かから『赦し』を求めている」

サンタ86号「だがその大人もな。自分で選択肢を生み出すことができるはずなのにだ」

サンタ86号「それをしようとも思わず、ただただ今の自分を赦してくれる何かを求めてうずくまっている。とんだ馬鹿だ」

サンタ86号「進もうと思えば、進めるだろうが」

サンタ86号「何度でも言ってやるが、進もうとしない奴に、生きる資格はねえ」

サンタ29号「……最初からそういう言い方をしてくれれば叩くこともなかったのに」

サンタ86号「どう言われようが叩くな」

サンタ29号「…」

サンタ29号「私も、進めるかな」

サンタ86号「……鈍足そうだが。お前は打たれ強そうだしな」

サンタ86号「できるだろ」

サンタ29号「…ありがと」
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 05:18:55.40 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「だが俺はなにぶん考え方がこんなもんだからな」

サンタ86号「まったくもって対であるオンリーワンへの憧れもある。俺は俺の道を進む以上、一生選び取ることのできない可能性だ」

サンタ29号「対?」

サンタ29号「…何、それ」

サンタ86号「俺はいつも希望を見ている。希望を極めようとしている」

サンタ86号「可能性に満ちた子供への希望を見続けている」

サンタ86号「だが…もし」

サンタ86号「もしも、その全く逆」

サンタ86号「可能性を捨てた大人たちへの希望を見続ける者」

サンタ86号「絶望のどん底を見て、絶望を極めたサンタクロース」

サンタ86号「闇を、人の弱さを知っている者は、他者に勇気を与える上での何よりの武器になる」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 05:19:36.68 ID:7cQVic9A0
サンタ29号「でもサンタの仕事は子供相手でしょ」

サンタ86号「そういうことじゃねえんだよ」

サンタ86号「俺を希望とするなら、さしずめそいつは絶望だ」

サンタ86号「これもまた二面性だな…」

サンタ86号「絶望の淵を這いつくばって強くなったサンタクロースなんて奴が現れるんだとしたら、おそらくそいつは元人間のサンタ以外にはありえないだろう」

サンタ86号「俺とは背負うものが違う」

サンタ86号「そんな最強のパートナーを俺は探してるんだがな…」

サンタ86号「期待してみたらまあお前のご登場っつうわけだ」

サンタ29号「…悪かったね」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 05:21:53.13 ID:7cQVic9A0
サンタ29号「あなたの言う、その二面性の間を探そうとは思わないの?」

サンタ86号「…無理だな。純正のサンタに人間の闇の底を理解しきるなんてのは無理な話だ」

サンタ29号「そう…」

サンタ29号「……まあ」

サンタ86号「?」

サンタ29号「その内、会えると思うよ」

サンタ29号「サンタクロースを続けていれば、きっと」

サンタ29号「その最強のパートナー」

サンタ86号「だと良いな…。当分はど素人のお前を教育に終始するざまを見るがな」

サンタ29号「ご指導のほどよろしくお願いしまーす」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 05:40:12.34 ID:7cQVic9A0
三年後、クリスマスイブ
T井家



サンタ86号「…よし、よくやった」

サンタ29号「……これが…私のとっておき…」

サンタ86号「三年の歳月を費やしただけあるな、上出来だ」

サンタ60003号「ファインドハピネス。かっこいいっ」キラキラ

サンタ500号「幸福干渉魔法ですか。ようやくこのチームにもそれができる数少ないサンタが…」

サンタ29号「……」

サンタ86号(紆余曲折あって今やメンバーは四人)

サンタ86号(これだけチームが育てば、本当にあと俺が望むメンバーは一人なんだがな…)

サンタ86号「これでこの子供とも接触できる。…だが気を付けろ」

サンタ86号「通常の夢の干渉とは訳が違う。危険度が桁違いだ」

サンタ86号「覚悟して臨むぞ」

サンタ500号「はいっ」

サンタ60003号「うん」

サンタ29号「…分かった」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 05:50:38.70 ID:7cQVic9A0







――――――ドクンッ



【幸福度】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)



サンタ86号「……なっ…」

サンタ500号「そんな…」

サンタ60003号「ううう〜」ガタガタ

サンタ29号「…途中まで……順調だったのに」


――――――ドクンッ


サンタ86号(…死なせてしまう)

サンタ86号(俺の、責任だ……)

サンタ86号(紛れもなくこの俺が、この子を死なせるんだ…)

サンタ86号(何て、愚かだ)

サンタ86号(俺は自分の能力を過信していたのか)

サンタ86号(それとも…)

サンタ86号(俺は人の闇を…知らな過ぎた…のか…………)


――――――ドクンッ


サンタ86号(人の闇は……)

サンタ500号「――86号ッ!!」

サンタ86号(どこまで…深い?)





ピーーーーーーーーーーー……


・・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 06:33:15.44 ID:7cQVic9A0
サアアア――…

サンタクロース村



――本当はお前には厳重な罰が与えられる

――だがお前は現状成績トップ。数多くの優秀な人材を育て上げ…

――業界に大いなる貢献を果たしてきた

――今回だけは罰は軽いものにしよう。具体的な決定が下るまでしばらく頭を冷やしておけ



サンタ29号「村長。優しいね…」

サンタ86号「…」

サンタ29号「…」

サンタ29号「雨。強くなってきたから。屋内に戻ろ」

サンタ86号「…」

サンタ29号「…」

サアアア――…

サンタ29号「…」

サンタ86号「俺は…」

サンタ29号「…」

サンタ86号「サンタ…失格だ」

サンタ29号「…そんなこと、ない」

サンタ86号「――――んなことあるんだよッ!!!」ダンッ!

サンタ29号「っ!」

サンタ86号「…」

サンタ86号「一人の子供を…」

サンタ86号「この手で…」

サンタ29号「…、」

サンタ86号「何が…希望だ」

サンタ86号「馬鹿だった」

サンタ86号「全ては俺の…エゴだったんだ」

サンタ86号「間違っていたんだ…全て…」

サンタ86号「人の気持ちも理解せず…自分の考えこそ絶対だと信じるあまり…」

サンタ29号「…」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/30(金) 06:48:11.78 ID:7cQVic9A0
サンタ86号「俺の勝手な希望を与えようとしたことで…」

サンタ86号「知らない内に…とてつもなく大きな傷を……つけてしまったんだ…」

サンタ29号「…」

サンタ86号「正しいか正しくないかなんて…関係なかったのにな」

サンタ86号「どっちだろうが…俺が伝えることで……誰かに…取り返しの付かないほどの傷をつけてしまうことだって…ある」

サンタ86号「そんな簡単なことにも気付かずに…」

サンタ86号「俺は…」

サンタ29号「…」

サンタ29号「……仕方、ないよ」

サンタ29号「世の中には、頑張れって言われるほど、落ち込んじゃう人がいる」

サンタ29号「元気出せって言われても、そんな言葉が通じるような環境にいる訳じゃない、そんな人もいる」

サンタ29号「私たちサンタクロースが死力を尽くして頑張っても…」

サンタ29号「救えない人だって、いる」

サンタ29号「だから仕方なかったんだよ…」

サンタ29号「…ね?」

サンタ86号「…」

サンタ86号「……」

サンタ86号「希望さえ、刃になることがある」

サンタ86号「つまりは責任だ」

サンタ86号「どんな言葉を伝えるのにも、それは伴う」

サンタ86号「知らず知らずの内に、俺は誰かの命を追い詰めていたのかもしれない」

サンタ86号「今までしてきたこと、たまたま今まで気付かなかっただけで…」

サンタ86号「俺は既に幾人もの子供の命を…」

サンタ29号「考えすぎだって!!」

サンタ86号「…」

サンタ29号「そんなこと言い出したら…」

サンタ29号「人と人は…」

サンタ29号「サンタと人は…」

サンタ29号「関わり合えない。…そうでしょ?」

サンタ29号「何もできなくなっちゃうじゃない」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 02:35:36.21 ID:14gDUcwy0
サンタ86号「何もしなくて…いい」

サンタ86号「…そうすれば、誰も傷付かないで済む」

サンタ86号「俺は大罪を犯した」

サンタ86号「もう希望を語る資格はない」

サンタ86号「生きる資格も…」

サンタ29号「………………………待ってよ」



――ピチャン…



サンタ86号「…」

サンタ86号「…?」


サンタ29号「」グスッ…グスッ


サンタ86号「…!」

サンタ86号「……、」



サアアアアア――…



サンタ29号「これ以上は…私も、痛い……」

サンタ29号「…ううん。もう、あの時から、ずっと痛かったけど…」

サンタ29号「あなたがあなたを攻め…傷を抉る度に…私も……もっと…痛くなる」

サンタ86号「…」

サンタ29号「ずっと、あなたを見てきた…」

サンタ29号「命を懸けて子供に向き合うあなたの背中を…ずっと……」

サンタ29号「それを見たから…」

サンタ29号「最初の『あれ』を見た時から…」

サンタ29号「あなたに憧れて…」

サンタ29号「サンタって、いいなって…」

サンタ29号「世界が、変わって…」

サンタ29号「あなたは私の世界そのもので…」

サンタ86号「…」

サンタ29号「これ以上は…やめて」



サンタ29号「あなたの罪は…」

サンタ29号「私が全て赦すから」

サンタ29号「――だからあなたは、あなたの全てを赦す私に罰を与え続けて」

サンタ86号「…………罰…?」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 02:57:02.52 ID:14gDUcwy0
サンタ29号「意思を、与える力」



サンタ86号「!」

サンタ29号「私は知ってる。それが、あなたのとっておき」

サンタ86号「…」

サンタ29号「これは魔法なんか使わなくたって、誰にでもできること」

サンタ29号「例えば言葉。例えば歌。物語。絵画…。私たちの仕事も、そう」

サンタ29号「人もサンタも、何かを介して、自分の意思を相手に与えようとする」

サンタ29号「サンタクロースなら希望を、元気を与える」

サンタ29号「とても当たり前で、とても大切なこと」

サンタ29号「でもあなたのとっておきは違う」

サンタ29号「普通なら、人から人に意思が渡る時、必ず形が変わってしまうもの」

サンタ29号「受け取り方は人それぞれだから」

サンタ29号「けどあなたの魔法には、それがない。そのまま、100パーセントを、与える」

サンタ29号「ある意味、希望を与えるサンタクロースにとっては、究極的なもの」

サンタ29号「だから、費やす魔力も計り知れない」

サンタ29号「この三年間ずっと行動を共にしてきたのに、それを一度も見なかったのは、そういうことだよね?」

サンタ86号「…500号か」

サンタ29号「与えることができるなら…きっと」

サンタ86号「…」

サンタ86号「…っ!」

サンタ29号「――きっと、相手の意思だって、自分のものにすることもできる。そうでしょ?」

サンタ86号「……お前」

サンタ29号「それも、相手から完全にその意思を取り除いてしまえる。そこまでだってできる」

サンタ29号「魔法名は…ギフト」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 03:32:47.92 ID:14gDUcwy0
サアアアアア――…



サンタ29号「…」

サンタ86号「…」

サンタ29号「私」

サンタ86号「お前を愛してる」

サンタ29号「…………」

サンタ29号「え?」

サンタ86号「お前のあの輝いた目を見た時から…」

サンタ86号「或いは子供以上に…」

サンタ86号「ずっと。お前の笑顔を、見ていたかった」

サンタ86号「そしてこれからも…」

サンタ86号「…だから……」

サンタ86号「だから。そんな顔、するんじゃねえ」

サンタ29号「…………な」

サンタ29号「…何……、」

サンタ29号「…お、思い切り、落ち込んでおいて…」

サンタ29号「甘えてたのっ? 励ましてもらうことで…気持ちを、確かめようとか、そんなこと考えてっ…」

サンタ86号「29号」

サンタ29号「……っ」

サンタ86号「…」

サンタ29号「…」

サンタ29号「………………私も、あなたが、好き」
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 03:33:39.96 ID:14gDUcwy0
サンタ29号「あなたを、愛しています」

サンタ29号「だから…」

サンタ29号「この想いは…あなたが全て取り除いて」

サンタ29号「あなたが背負い続けて」

サンタ29号「私への…そしてあなたにとっても、それは……」

サンタ29号「それが…罰」

サンタ86号「…」

サンタ29号「…」

サンタ86号「……それが…一人の人を…」

サンタ86号「子供の命を…失くしてしまった……罪滅ぼしになるのか?」

サンタ29号「…ならない」

サンタ29号「けど…」

サンタ29号「私という存在が、あなたへの想いを忘れた私が…」

サンタ29号「その想いの全てを背負い続けるあなたの隣にいることで…」

サンタ29号「あなたへの戒めとして…そこに在り続けることはできる」

サンタ29号「私はあなたの戒めとして、ずっとあなたの隣にい続ける」

サンタ29号「この想いを忘れてしまっても。あなたの隣にい続けることだけは忘れない」

サンタ29号「だからどうかあなただけは…」

サンタ29号「今この瞬間の…私の意志を…忘れないでいて」

サンタ86号「……」

サンタ86号「ああ…」

サンタ29号「…」

サンタ86号「来い」

サンタ29号「…はい」



・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 03:44:44.40 ID:14gDUcwy0
一年後

サンタ29号「ダーリン!」ガバッ

サンタ86号「…ちっ、いちいち抱きつく癖どうにかなんねえのか!」

サンタ60003号「仲良し」

サンタ500号「あれれ?いつの間にそんな仲良しさんになっちゃったんですかお二人とも」

サンタ29号「二人も私たちに遠慮することないのよ?」

サンタ60003号「残念」

サンタ500号「何が!?」

サンタ60003号「まだ。ちょっと子供」

サンタ500号「君に言われたくはない!」

サンタ29号「やっぱ仲良しさんじゃない」

サンタ60003号「残念」

サンタ500号「この…。もう出先でお菓子切らしても、僕は知りませんからね」

サンタ60003号「やだ!ケチ!」

サンタ500号「あーもう知らないですよー」

サンタ60003号「ケチ!ケチ!」

ギャーギャー…

サンタ86号「…」

サンタ29号「……ダーリン?」

サンタ86号「いや…」

サンタ86号「何でもない」
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 03:56:41.78 ID:14gDUcwy0
サンタ86号(29号は、俺の魔法によってあの想いを全て取り除かれ、それが俺の中に封印された後にも…)

サンタ86号(また。こうして俺に好意を寄せてくれた)

サンタ86号(だが何となく、この好意はあの好意とは違うような気がした。…何かが)

サンタ86号(これは恋情と愛情の差だなんてくさい話なんだろうか)

サンタ86号(分からない)

サンタ86号(俺はあの時以降、この29号はあの29号とは別人だと捉えている)

サンタ86号(が…)

サンタ86号(時の経つたび、あの29号に近付いてきているように見える)

サンタ86号(いや。戻っているのか?)

サンタ86号(俺の魔力が、時の経過によって弱まっているというのか)

サンタ86号(分からない)

サンタ86号(何も分からないが…)

サンタ86号(事実として、やはりこの29号はあの29号とは別人で)

サンタ86号(そして俺への戒めとして、ずっと隣にい続けてくれている)

サンタ86号(俺は忘れない。忘れられない。あの日を)

サンタ86号(自分の希望が、人の命を奪ったことを)

サンタ86号(それでも俺はこの仕事を続けるしかない)

サンタ86号(何故なら俺はサンタクロースだからだ)

サンタ86号(この命尽きるまで、誰かの希望でい続けよう)

サンタ86号(俺にできることは、それだけだ)

サンタ86号(他には何もない)

サンタ86号(愛する人さえ失った俺には、それしかない)

サンタ86号(絶望の底を知らない俺には、これしかない)

サンタ86号(今年もクリスマスがやってくる)
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 04:14:14.04 ID:14gDUcwy0
ある12月24日――


シャンシャンシャン…

サンタ86号「…」

サンタ86号「今年のクリスマスは日本で仕事か…」

サンタ86号「薄暗え奴が多いと聞くが…」

サンタ86号「そんな国に億も人がいるなら、一人くらいは俺の探し求めてる理想のサンタ候補…パートナーがいてもおかしくなさそうなもんだがな…」

サンタ86号「……」

サンタ86号「俺には闇の底を見る能力がない」

サンタ86号「俺の対となる、強い絶望を背負ったサンタ…」

シャンシャンシャン…

シャンシャン…

シャン…

サンタ86号「……ん?」

サンタ86号「…何だ。飛行速度が…」

サンタ86号「待て。…待て。このままだと落下だ」

サンタ86号「…くっ」

サンタ86号「何だっ。魔力が通じない。どうなってるっ」

ガクン…

――ヒュウウウ……

――――ウウウウ!!

サンタ86号「く、そ。…!?」

サンタ86号「まずい。人がいる!」

サンタ86号「いや待て。あれが万が一サンタだったら…ッ」

サンタ86号「とりあえず…信号だ!」

サンタ86号「人間なら接触することもねえ。怪我はさせないはず…ん?」

サンタ86号「あいつ…サンタ帽?…」

――――ウウウウ!!

サンタ86号「危ねえーーーーッ!!!!?」

ドゴォ!!!





――痛っ。…てめえこの! 信号送ったろうが!!

――お前こそいきなりぶつかってきておいて…なああああァ!!?
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 06:41:21.71 ID:14gDUcwy0
――――――

―――



ザザザザッ…!

ザザ・・

ザ…

ホームレス(38)「――!」

ホームレス(38)「…何だ……今の…」

ホームレス(38)「あいつの…過去…?」

サンタ29号「ダーリンっ!!」

ドクンッ

ドクンッ




――ドクンッ…

サンタ86号「……ぐッ、」ゴホッ…

ホームレス(38)「!」

ホームレス(38)「……血?」

サンタ60003号「???」アタフタ

サンタ500号「86号…あなた……やはり」

サンタ29号「ダーリンっ!!!?」

サンタ86号「」ゼイゼイ

サンタ86号「…、」ゼイゼイ

サンタ86号「…」

サンタ86号「…………言い残したいことが…ある」

「「「「!」」」」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:00:02.20 ID:14gDUcwy0
サンタ29号「…………何……言ってるの…?」

サンタ29号「これから死んでいく人みたいな台詞……やめて…」

サンタ86号「――60003号」

サンタ60003号「…?」グスリ

サンタ86号「お前は他のどのサンタよりも…子供と対等に向き合ってきた」

サンタ86号「プレゼントをあげる立場だってのに…夢の中でよく子供に触発されて…もらい泣きしたり」

サンタ86号「子と打ち解ける早さもお前がずば抜けていた」

サンタ60003号「…」

サンタ86号「お前には相手を警戒させないっつう最大の武器がある」

サンタ86号「それは多分これからでかくなっても変わらない要素だと俺は…思う……」

サンタ86号「まだ乗り越えるべき壁はいくつもあるだろうが…」

サンタ86号「困ったときは500号にでも泣きつけ」

サンタ86号「奴は若干腹黒いが…それ以上の誠実さを持ってる」

サンタ86号「お前の悩みだって真っ直ぐに受け止めてくれるだろう」

サンタ86号「不器用ながら自立心の芽生えも見えてきているが…仲間を頼ることは弱さじゃない」

サンタ86号「これまでのお前を貫け。きっといいサンタになる」

サンタ60003号「86号…」

サンタ29号「……ねえ…、」

サンタ86号「――500号」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:14:39.62 ID:14gDUcwy0
サンタ500号「…」

サンタ86号「お前は聡い」

サンタ86号「おそらくこの中の誰よりもお前は賢い。だから…」

サンタ86号「俺に与えられた本当の罰も…ひとつの可能性として考えていたことだろうが…それを口にすることはついになかった」

サンタ86号「そしていつだったか、俺のとっておきを29号に漏らしていたことがあったが…」

サンタ86号「あれが今となっては大きなものに結び付き、結果として、お前は正しかった」

サンタ86号「何が正しくて何が正しくないのか…。結果を想定し、今何をするべきか、最善の選択をする上での判断力…」

サンタ86号「これがお前の最大の武器で…これまでの仕事の中で、その判断力に救われた場面は数え切れない。感謝してる…」

サンタ500号「…、」

サンタ86号「女々しい面してんな…。遠くから見たら男か女か分かりやしねえ」

サンタ500号「余計な…お世話ですよ…」

サンタ86号「……」

サンタ86号「お前は、いい男になる。…60003号を守ってやれ。いいな?」

サンタ500号「……はい…、」

サンタ500号「はい…、」

サンタ500号「…………86号…」ポロ。ポロ…

サンタ86号「……泣くな。馬鹿」

サンタ29号「ねえ…、」

サンタ86号「…」

サンタ86号「――29号」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:27:34.09 ID:14gDUcwy0
サンタ29号「…………聞かない」

サンタ29号「何も…聞きたくない……」

サンタ86号「…」

サンタ86号「もう。俺は死ぬ」

サンタ29号「――そんな訳ないでしょ!!?」

サンタ29号「こんな時に冗談言ってないでよ!!」

サンタ29号「M子ちゃん、ピンチよ!」

サンタ29号「早く助けてあげようよ!」

サンタ29号「ダーリンならできるでしょ!?」

サンタ29号「これまでだって、んなこともできねえのかって、何だってそつなくこなしてきたじゃない!!」

サンタ29号「私たちへの教育なんか今はいいから…早くM子ちゃんを」

サンタ86号「29号」

サンタ29号「……ッ」

サンタ86号「もう、駄目なんだ」

サンタ29号「…、」

サンタ86号「全ては俺の責任だ」

サンタ86号「29号。あの日、村長は気を使ってくれたんだよ。お前に」

サンタ86号「お前の前だから。今回だけは軽い罪にしてやると。お前の前だったから、あの日村長は、俺にそう言ったんだ」

サンタ86号「だがやはり子の命ひとつを失った代償は、重いんだよ」

サンタ86号「軽いわけがない」

サンタ29号「…、」

サンタ86号「村長が俺に与えた罰は…」

サンタ86号「もう一度同じようなことがあった時…」

サンタ86号「また子供の命を落とすようなことがあった時には…」

サンタ86号「俺の命も…」

サンタ29号「――うるさいっ!!!」

サンタ86号「…」

サンタ86号「29号」

サンタ29号「うるさい!うるさい!!」

サンタ29号「……うるさ、い…」

サンタ86号「…」

サンタ86号「29号。最後だ、聞いてくれ」

サンタ29号「…やだ、よ……」
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:38:51.11 ID:14gDUcwy0
サンタ86号「29号」

サンタ86号「俺は、お前を愛している」

サンタ29号「……知ってる」

サンタ29号「私も、あなたを愛してる」

サンタ86号「…」

サンタ86号「二度だ」

サンタ29号「…え?」

サンタ86号「お前は俺を、二度愛してくれたんだよ」

サンタ29号「……?」

サンタ86号「お前はあの日の記憶を忘れていないだろうが…」

サンタ86号「ひとつの想いが、欠片残さず、その心の中から取り除かれている」

サンタ29号「!……?」

サンタ86号「俺の命はもうすぐ終わる」

サンタ86号「だからこの魔法も…もう……終わるだろう」

サンタ86号「この想いを…お前に、返す」

サンタ86号「お前の罰は…今日、終わるんだ」

サンタ29号「…」



――――ポウ…



サンタ29号「…」

サンタ29号「…」

サンタ29号「…………!!?」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:46:24.10 ID:14gDUcwy0








初めまして。私29号

…いきなり説教。やな感じ。こんなのが上司なんて

……最低ね。友達いるの?あなた

……違うけど。その『てめー』って言うの、止めて

私は生きる資格なんてものがあるのなら、死ぬ資格もないとおかしいって思う

あなた一を十で返す人よね。嫌われるよそういうの

こうして子供の心を浄化するところを目の前で見たのは、初めて

ああ。叩いたこと、まだ根に持ってるの? …ごめんなさい

レディに向かってそういうこと言うんだ?

何でサンタの仕事をしようと思ったの?

…男ってロマンチスト

私も、進めるかな

命を懸けて子供に向き合うあなたの背中を…ずっと……

あなたは私の世界そのもので…

だからあなたは、あなたの全てを赦す私に罰を与え続けて

あなたを、愛しています
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 07:57:45.40 ID:14gDUcwy0





サンタ29号「――――」

サンタ29号「…………ッ!!、」

サンタ29号「ダーリン…。ダーリン……」

サンタ29号「…86号……、」

サンタ86号「…」

サンタ86号「久し振りだな。29号」

サンタ29号「…」

サンタ29号「……」

サンタ29号「…………、」

サンタ29号「駄目」

サンタ29号「何て言ったらいいか…分からない……」

サンタ29号「何て言っても…伝わらない……」

サンタ86号「…そんなもんだ」

サンタ86号「何気ない挨拶。他者への好意。自分の考えていること」

サンタ86号「人もサンタも、皆、不器用だ」

サンタ86号「自分の意思を…どうしたって、完璧に伝えることなんてできない」

サンタ86号「だからサンタはプレゼントを配るし…」

サンタ86号「人だって歌を歌ったり、絵を描いたり、」

サンタ86号「恋をしたり、」

サンタ86号「相手に何かを伝えるってのは…物凄く身近なことで…そして物凄く難しいことだ」

サンタ86号「いかにして自分の意思を伝えるかは…人それぞれだが…」

サンタ86号「少なくともお前の意思は…この数年、ずっと、俺の中で生き続けてきた」

サンタ86号「もう、何も言うな」

サンタ86号「全て分かってるから」

サンタ86号「――――ありがとう。29号」

サンタ29号「…………馬鹿……、」

サンタ29号「馬鹿…」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 08:10:02.80 ID:14gDUcwy0
ホームレス(38)「…」

サンタ86号「…」

サンタ86号「ここは今、魔法の世界だ」

ホームレス(38)「…ああ」

サンタ86号「見たろう。俺の記憶を」

ホームレス(38)「…ああ」

サンタ86号「俺がずっとお前を求めていたことも」

ホームレス(38)「…ああ」

サンタ86号「…」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「…」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「俺は」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「俺、は」

ホームレス(38)「……、」

サンタ86号「お前が…分からない……」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「人が…絶望が…」

サンタ86号「分からない。分からねえんだ…」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「だから死なせた。…二人も」

サンタ86号「人の闇は…計り知れない」

サンタ86号「希望は…こんなにも明快なのに……絶望は…まるで、闇だ」

サンタ86号「何も、理解することが、できなかった」

サンタ86号「どんなに仕事に打ち込んでも…努力しても…考えても…こればかりは、どうしようもなかった」

サンタ86号「サンタに人は理解できなかった」

サンタ86号「…できなかったんだよ……、」

ホームレス(38)「…ああ」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 08:22:40.69 ID:14gDUcwy0
サンタ86号「なあ」

サンタ86号「お前は今、何を考えてる?」

サンタ86号「俺の意思はどうしたらお前に届く?」

サンタ86号「何故それほど死に真っ直ぐなんだ」

サンタ86号「怖くはないのか」

サンタ86号「どうしてそこまで死にたいと思う」

サンタ86号「俺たちサンタは、どうしたら、お前みたいな人間を救うことができる」

サンタ86号「なんで生きようとしない」

サンタ86号「進もうとしない?」

サンタ86号「変わろうとしないっ?」

サンタ86号「教えてくれ。応えてくれ…っ」

サンタ86号「何も…分からない……」

サンタ86号「救いたい。変えてやりたい。助けてやりたい」

サンタ86号「お前を。人を。絶望する人を」

サンタ86号「俺はサンタだからだ」

サンタ86号「……だが…」

サンタ86号「命を張っても…何をしても」

サンタ86号「届かねえんだよ…!」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「見捨てるのが正解なのか?」

サンタ86号「諦めるのが正解なのか?」

サンタ86号「そういう奴もいる。そう受け止めることしかできねえのか?」

サンタ86号「何もできないのか!?」

サンタ86号「俺はどうしたら良かった!?」

サンタ86号「どうしたら救えた!?」

サンタ86号「変えてやれた!!?」

サンタ86号「――応えてくれ!!」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:01:54.19 ID:14gDUcwy0
ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「そんなもん…俺が知りたいよ」

ホームレス(38)「人にもサンタにも、そんなこと、分かる訳がない」

ホームレス(38)「どんな絶望にも負けない希望」

ホームレス(38)「そんなものがあったら、世界はまるで天国だ」

ホームレス(38)「…町を歩けば、自分より脚の長い奴、顔立ちの整った奴、服のセンスがいい奴、」

ホームレス(38)「自分よりモテる奴、何か夢中になれるものを持ってる奴、友達の多い奴、金を持ってる奴、」

ホームレス(38)「どんなに綺麗ごと並べたって、人には必ず差が生まれる。平等なんてあり得ない」

ホームレス(38)「他人と自分を比べるなって…。人の世界で生きていくのにそんなことができるわけねえだろって思わないか?」

ホームレス(38)「だから人は争うし、醜い」

ホームレス(38)「自分なりの幸せを求めて生きようとしても…」

ホームレス(38)「世界はあまりに理不尽で、ただ普通に生きていきたいだけなのに」

ホームレス(38)「その普通にしたって、他の誰かから見れば贅沢だったりして」

ホームレス(38)「お前のような存在から元気を貰いつつ、現実と戦って、幸せを見つけようとして、」

ホームレス(38)「でも人は病気や事故で死んだりするし」

ホームレス(38)「うつ病の奴にたらふく金をやればそれまでが嘘だったように簡単に治っちゃったりして」

ホームレス(38)「事実に基づく不安も、根拠のない不安も、いつも人を苦しめて」

ホームレス(38)「でも戦って」

ホームレス(38)「結果はいつだって不平等で」

ホームレス(38)「頑張れ頑張れって、そう言われたって」

ホームレス(38)「もう、頑張るって、何が頑張るなのか、分からなくて」

ホームレス(38)「考えてる内に、大人になって、中年になって、」

ホームレス(38)「やっと辿り着いた俺の幸せ…。家族さえ」

ホームレス(38)「神様に、奪われて」

サンタ86号「!…」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:04:09.52 ID:14gDUcwy0
ホームレス(38)「世界は全然理解できない」

ホームレス(38)「神様ってのがいるなら、そいつは何を考えてるか、全然理解できなくて」

ホームレス(38)「どんだけ生きたって、何も分からないということが分かるようになるだけで」

ホームレス(38)「受け入れるしかなくて」

ホームレス(38)「究極的には、人は生きるか死ぬか、そのふたつしかなくて」

ホームレス(38)「…なあ」

ホームレス(38)「俺は今、俺が何を言ってるか分からないよ」

ホームレス(38)「支離滅裂だ」

ホームレス(38)「俺だって答えが欲しい」

ホームレス(38)「何も分からないなんて、自分で答えを作るしかないなんて」

ホームレス(38)「不合理だと思うだろ。おかしいだろ」

ホームレス(38)「人はそれぞれ違う世界に生きるしかないんだ」

ホームレス(38)「自分で作った世界で生きるしかないんだ」

ホームレス(38)「全く同じ世界に生きてることなんて、ないんだよ」

ホームレス(38)「だから別世界の奴が救い出そうとしたって、多分それは難しくて」

ホームレス(38)「お前は希望は明快だと言ったな。絶望が闇そのもので理解できないとも」

ホームレス(38)「むしろ俺は逆だ。希望こそ分からない」

ホームレス(38)「お前は俺を宇宙人のように理解不能な目で見るだろうけど」

ホームレス(38)「俺だって、お前を始めとして、宇宙みたいに理解できないことが山ほどあって…」

ホームレス(38)「俺もお前と同じだ。何も分からない。だから応えてやれない。…お前の、最後でも」

ホームレス(38)「…訳分からないけど……。伝わったか?」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:19:14.15 ID:14gDUcwy0
サンタ86号「…ああ」

サンタ86号「伝わった。多分な」

ホームレス(38)「何だそりゃ…」

サンタ86号「…」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「……お前は…」

サンタ86号「死ぬための資格、見つけたのか?」

ホームレス(38)「…」

ホームレス(38)「分からない」

サンタ86号「…そうか」

ホームレス(38)「お前はさ。人の不幸と戦ってきた。抗おうとしてきただろ」

ホームレス(38)「それって、何ていうか、凄いよ」

ホームレス(38)「神様って言うか、運命みたいのものと、戦おうとしたみたいでさ」

ホームレス(38)「いつだって全力で。自分にできることを頑張って。限界なんか見ないで」

ホームレス(38)「俺よりもよっぽど、お前は人間だったよ」


――だからこそ、どこの誰だか知らないけど、死ぬ前に、何か託したくて…与えてやりたくて。全力を尽くした。それだけだ。

――それを『生きる』ってんだよ。憶えとけ。


サンタ86号「…」

サンタ86号「じゃあ…その分からないことを分かるために」

サンタ86号「俺は一足先に行くが…お前は最後にそれを理解するために、戦って来い」

ホームレス(38)「…何?」

サンタ86号「俺のとっておき。――ギフト」

サンタ86号「俺の意思。俺の希望、全てを、お前に託す」

サンタ86号「お前の中の極まった絶望。俺の中の極まった希望」

サンタ86号「ふたつが合わさった時に、どんな世界が生まれるか」

サンタ86号「そしてそこに俺たちサンタやお前たち人間の求めてやまない答えがあるかどうか」

ホームレス(38)「…」

サンタ86号「イブの結界でお前はこれまで体感したことのない希望を手にし…何かが変わるかと思ったが、どうやら全世界のサンタに等分したそれじゃ足りなかったらしい」

サンタ86号「なら俺一人の全て。希望を、お前にやる」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:21:58.81 ID:14gDUcwy0
俺の希望全てを託す。



後はお前次第だ…。



しっかりその目で世界を確かめろ。



この世に生まれたからには誰もがその義務を持つ。



無の死か希望の死か。



選べ。



お前の自由だ…。



……。



なあ…。



俺は…。



俺は、幸せ、だったのか…?



俺は…。



…。



246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:22:31.55 ID:14gDUcwy0
























――――86号は、この世界から旅立った。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:25:10.88 ID:14gDUcwy0
〜サトウ家〜



【幸福度】
・・・・・・・・・・
(星十個中ゼロ個)

【不幸度】
★★★★★★★★★★
(星十個中十個)

【信じる心】
☆・・・・・・・・・
(星十個中一個)



プレゼント→『無し』
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/31(土) 09:26:18.44 ID:14gDUcwy0
サトウ家編、終わりです。
次が最終章です。
まだもし読んでる人がいるなら、どうか最後までお付き合いお願いします。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/31(土) 10:35:26.02 ID:eW39fAKAO
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/14(土) 03:27:17.38 ID:Ca3aBcxTo
待ってるよー
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/09(月) 14:46:38.70 ID:PiQsE0eTo
はよはよ
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/28(土) 02:18:54.54 ID:qSaa/g/Vo
保守
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