ミリマスSS投稿スレ

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202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/22(金) 06:47:41.98 ID:b1UrZIx70
 雪は降っていなかった。
 連日の寒波に人々は体を震わせ、時折吹き抜ける風に、木々は残り少なくなった枝葉を揺らす。灰色の雲は重くのしかかるでもなく、かといって散ることも出来ず、ただ仕方なく夕陽を遮りながら浮いている。
 どっちつかずの灰色で曖昧な空を切り取るコンクリートのビル群も、また灰。その足元を行き交う人、人、人。皆色を失って見えた。
「冷えますね」
 灰の中にあって一際輝く灰。否、その色は銀。スラリと背の高い銀の女性は誰に話すでもなくポツリと呟き、そして踵を返した。
 風が吹いた。向かい風に銀髪がたなびく。彼女は双眸を細めながらも、尚歩みの速度を上げる。カツ、カツ、カツと小気味良い靴音を石畳に響かせながら、人混みの中を歩く。歩く、歩く、歩き、歩いて、着いた。
 赤い暖簾。食欲をそそる香りの中で仄かに鼻をつく獣臭。暖簾をくぐり、戸をくぐり、湯気をくぐり、席の一つに着いた。
「醤油一人前」
 酒に焼けた大声が返事を返す。ズルズルと啜る音、ザクザクと刻む音、ゴボゴボと沸く音、フーフーと吹く音、モグモグと噛む音、プチプチと千切れる音、ゴクゴクと飲む音。オーケストラだった。
「お待ち」
 白く白く立ち上るその奥で、てらりと光る脂、肉、黄身。彩りを添える葱、くたりとしていながらも角の立ったメンマ、所在なさげな海苔。それらの更に奥、黄金色の大海の底にとぐろを巻いて。
「いただきます」
 彼女は壇上で、指揮棒を無我夢中に振るった。縦横無尽に。野生じみた直感を頼りに。それでいて優雅に。無我夢中に振るった。
 やがて、終わる。歓声が響き渡る。鳴り止まない拍手に包まれ、彼女の目には星が瞬いていた。
「……御馳走様でした」
 勘定を済ませ、来た時と同じように湯気をくぐり、戸をくぐり、暖簾をくぐった。
 刺すように冷たい風も、火照った肌には心地良い。
 ぶぶ、ぶぶ。ぶぶ、ぶぶ。
 食後の余韻を断つ振動。鞄からその元を取り出し、指先を滑らせる。
『ハッピーバースデー貴音。遅くなってごめん』
 液晶に光る文字がゆらりと揺れる。
「こんなにも焦らすなど、真、いけずなお方です」
 雪は降っていなかった。空には雲一つなく、月が静かに輝いていた。
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