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久世橋「九条カレンさん、私はあなたのことを……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:25:52.05 ID:PpSbly8Po
久世橋「九条さん、これで何度目ですか。廊下は走らないようにと言いましたよね」

下校の時間、廊下の曲がり角から突如目の前に現れた少女は今私に叱られている。
九条カレンさん、私のクラスの生徒である。

カレン「ご、ごめんなさいデス! ちょっと急いでて……」

久世橋「急いでいるからといって走っていいものではありません!」

そう一喝すると彼女は萎縮する。
いつもの元気な笑顔の顔が強張っていてまるで怯える小動物のようだ。
私としては別に怖がらせるつもりはなかったのでここまでやってしまうと多少罪悪感を感じてしまう。

が、そこは教師。時には心を鬼にしなければいけない。

久世橋「走っている途中で誰かにぶつかったらどうするんですか。大怪我に繋がってしまうかもしれないんですよ」

カレン「はぁい……」

久世橋「分かったら二度と走らないように。いいですね?」

念を押し彼女を解放した。
こっぴどく叱ったせいか流石の九条さんもすっかり落ち込んでいる。
そんな姿を見てやりすぎたかと思ったが、これで廊下を走らなくなるのならそんな気持ちも振り切れる。
ほっと一安心……した矢先だった。

カレン「シノー!!」

久世橋「九条さん!!」

友人を見つけて走り出した彼女を私は再び叱るのだった。



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アサギ・とがめ・新生活! @ 2024/03/13(水) 21:44:42.36 ID:wQLQUVs10
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そろそろ春だねー! @ 2024/03/12(火) 21:53:17.79 ID:BH6nSGCdo
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part5 @ 2024/03/12(火) 16:37:46.33 ID:kMZQc8+v0
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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/15(水) 02:27:15.68 ID:PpSbly8Po
九条カレンさん、明るく屈託のない性格で周囲を元気にさせてくれる彼女はクラスでも人気者である。
金色のロングヘアーは美しくもあり繊細なように見え、活発な彼女とはまた違った一面を覗かせるようにも思えた。
ともかく元気なのは結構であるしむしろ学生としては健全である。

しかし元気すぎるのは問題だ。
有り余ったエネルギーは時たま暴走し私を悩ます。
今日廊下を走っていたのもその一つであり、そのことを思い出すとため息が出てきた。
現在私は職寝室の自分の席で頭を抱えている。

烏丸「お疲れ様です、久世橋先生」

背後から声がし振り返ると烏丸先生がコーヒーの入ったカップを二つ手に持っていた。

烏丸「はい、どうぞ」

片方のコーヒーを私に差し出してくれる。
しかしそのコーヒーよりも烏丸先生の笑顔の方が私にとっては嬉しいものだった。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:27:50.28 ID:PpSbly8Po
久世橋「ありがとうございます、烏丸先生」

同じ職場の先輩である烏丸先生は私の憧れである。
物腰柔らかく大らかで周囲を癒してくれる存在感は私にとって理想の女性像だ。

烏丸「なにかお悩みですか?」

優しい口調で私の隣の席へと座った。
彼女が横にいてくれるだけで安心できる。

久世橋「ええ、まぁ……。生徒の一人がどうも落ち着くがなくて。注意しても直さないし」

烏丸「ふふ、そういう年頃ですものね。元気なのはいいことですよ」

久世橋「それは私もそう思いますが、加減というものが……。私の注意の仕方が悪いんでしょうか」

烏丸「大丈夫ですよ久世橋先生。先生の気持ちは生徒にもきっと伝わります」

拳に力を入れファイト、とポーズを取る烏丸先生。
その姿がまた愛くるしくて悶えそうだった。

烏丸「ポイントは生徒と目線を合わせることですよ」

なるほどと、烏丸先生の言葉を私は一言一句残さずメモにとったのであった。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:28:43.76 ID:PpSbly8Po
・・・・・

後日、授業が終わった家庭科室で私は再び九条さんを叱っていた。
調理実習の最中にうっかり小皿を割ったのが原因だ。
一度ならまだしも今日はこれで三度、一日に三皿、不注意にもほどがある。

あれこれ散々注意した後、ジッと九条さんの方を見る。
しょぼんとした九条さんは目線を合わせようとせず下を向いている。
そこで烏丸先生が言っていた『ポイントは生徒と目線を合わせることですよ』というアドバイスを思い出した。

少し叱りすぎたかもしれない。九条さんの気持ちも汲んであげなければ。
うつむいている九条さんの顔を覗き込んだ。
少しかがんだ程度では目を合わせられない。しゃがんで無理やり覗き込む。

ぎょっとした彼女と目が合った。

カレン「な、なんデスカ!?」

驚きで跳ね上がり数歩下がっていった。
余計怯えさせてしまったようだ。そんなつもりはなかったのに。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:29:47.16 ID:PpSbly8Po
久世橋「に、逃げることはないじゃないですか!」

カレン「だ、だってクゼハシ先生が睨んでくるからデス!」

久世橋「睨んでなんか……」

睨んでなんかいない……はずだ。
しかし彼女の怯えたリアクションを見るにどうやら断言はできないようだ。

コホンと一息間を取ってから、仕切りなおす。

久世橋「……とにかく、今後は気をつけるように。いいですね?」

カレン「サ、サー!」

なぜか敬礼のポーズを取る九条さん。本当になぜ?

久世橋「……じゃあもう戻っていいですよ」

カレン「クゼハシ先生は私のこと、嫌いデスか……?」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:30:10.57 ID:7S+rHgPbo
きんモザss来た!
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:30:44.98 ID:PpSbly8Po
敬礼を解きしおらしくなった九条さんが急に私に問いかけてきた。
唐突な質問に身を構える。
なぜそんな質問を? 厳しく叱りすぎて本当に嫌われていると思ったのだろうか

久世橋「そ、そんなわけありません! 生徒のことを嫌う先生がいるものですか!」

言葉通りもちろん私は九条さんのことを嫌っているわけではない。
どんな問題児でも大切な生徒の一人、厳しく叱るのも彼女を思ってのことである。
その想いを込めて精一杯否定した。

久世橋「私は九条さんのことを嫌ってなんかいませんよ」

ほっとする九条さんの顔。
どうやら私は叱りすぎて彼女を追い詰めていたみたいだ。反省しなければ。
これからはより良い関係を築けるように……。

カレン「それを聞けてよかったデス。これで私も安心して白状できマス」

……ん? 白状? なにを?

カレン「実は……」

そう言って九条さんは背後から何かを取り出した。

カレン「お皿、四枚割ってたデス」

久世橋「……」

家庭科室に再び私の叱り声が響き渡る。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/15(水) 02:35:09.67 ID:PpSbly8Po
スローペースになると思いますが今後もちまちま投下していきます
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 02:38:08.29 ID:7S+rHgPbo
期待
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/15(水) 02:50:17.22 ID:PpSbly8Po
>>1
笑顔の顔が→×
笑顔が→○

失礼しました
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/15(水) 22:13:25.36 ID:TP8ZxarYO
うむ
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:19:58.63 ID:b2FObSvUo
・・・・・

休日。今日は朝早く起き部屋の掃除も洗濯も済ませた。
ソファの上で足を伸ばしペットの猫と戯れながら午前中をくつろぐ。

お昼が過ぎた頃だった。今日は外でご飯を食べよう、と唐突に思いついた。
天気も良い、風も心地よい。外出するには絶好の日だ。
特に行きたいお店とかはないが、ぶらぶらと散歩しながらそれを見つけるのもまたいいだろう。
休日を満喫、自由になった気分になり外出することになんだかワクワクしながら着替えをはじめた。

外に出て開放感を味わったのはいいが、いざいつもは行かないような街へ遠出をしようか、というとそこまではなれなかった。
一人で知らない街へ行くのは億劫だ。目的もないのにそんなところへ行っても疲れて帰ってくるだけだろうし。
なにより一人だと不安になるだけ……。やはり知っている街がいい。

いつもの見慣れている街を適当に散策をしていると、なにやらかわいいお店が目に入った。
『ネコミミ喫茶』……?
こんなお店あっただろうか。ネコミミの喫茶店とは一体?
店員の人がみんなネコミミをつけて接客でもしているということ?
それは接客業としてどうだろうか。いや、でも……想像してみるとちょっとかわいいかも。

カレン「なにをニヤニヤしてるデスカ?」

背後からの突然の声に思わず叫び出してしまうところだった。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:22:20.32 ID:b2FObSvUo
振り向くと学校でいつも叱っている彼女がいた。

久世橋「く、九条さん!?」

制服と違い白いジャケットに中は黒地のシャツ、チェックのスカート穿いていて普段より大人っぽく見えるが
ぶらさげた可愛らしいポーチが彼女のあどけなさを表しているようだった。

それはともかくこの街に住んでいるはずのない九条さんが突如目の前に現れ驚くしかなかった。

久世橋「どうしてここに!」

カレン「今日はなんとなく知らない所まで探検したい気分になったのでこの街に来たデス。それでぶらぶらしていたらたまたまクゼハシ先生を見つけマシタ」

なという行動力……。私とは大違いだ。

カレン「ところでクゼハシ先生、こういうお店が好きなんデスか?」

久世橋「え!?」

カレン「看板をずっとニヤニヤして見つめていたデス」

ニヤニヤしていたんだろうか、自分では分からない。
だがしていたんだろう、彼女の私に対するニヤニヤがそう語っている。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:26:15.52 ID:b2FObSvUo
久世橋「す、好きではありませんしニヤニヤもしていません。九条さんには関係ありません!」

とりあえず否定する。そもそもお店の中に入ったことはないんだから好きかどうかなんて言えるわけがない。
足早にその場から立ち去ろうとするが、後から九条さんが追ってきた。

久世橋「……なんですか?」

カレン「せっかく会えたので、ご一緒にと。どこに行くデス?」

久世橋「お昼ご飯を食べに行くんですけど……」

カレン「OH! 私も丁度お腹が減っていたところデス! ご一緒しマス!」

久世橋「ええっ!?」

休日に生徒と教師が一緒にご飯を食べるというのはいいのだろうか。いや、休日だからいいのか……。
いやいや、休日だとしても立場上やはり問題も。

カレン「それで何を食べに行くんデスか? 私、食べ放題のお店に行ってみたいデス!」

悩んでいる私を尻目に九条さんはいつのまにか先頭を歩いていた。
どうしてこうも自由奔放でいられるのだろうか。
しかし色々考えても結論が出ず、九条さんに反論することもできず、とりあえず流れに身を任せる私だった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:28:58.15 ID:b2FObSvUo
休日にたまたま出会っただけですぐご飯に誘えるなんて、このコミュニケーション能力は大したものだ。
バイキング形式のお店でお皿を片手に何を食べようか悩んでいる彼女を見ながらそう思う。
私は結局彼女に言われるがまま食べ放題のお店に来てしまっていたのだ。

目の前には長テーブルに様々な料理が並べられている。パスタに揚げ物、お寿司にピザまでより取り見取り。
九条さんのお皿には今挙げた料理に加え他にもウインナーやベーコンなどをたくさん盛り合わせていた。
流石に取りすぎではないだろうか。

久世橋「く、九条さん! はしたないですよ」

カレン「へ?」

久世橋「こういうのは少しずつ取っていくものなんです」

カレン「えー、でも全部食べたいデス」

久世橋「食べ終わったら次の分をまた取りにいけばいいでしょう?」

カレン「めんどくさいデス」

そう言って次々とお皿に盛り合わせていく九条さん。
さらに注意しようかと思ったがここは学校ではないので少し躊躇ってしまう。

カレン「はい、クゼハシ先生も」

と、私のお皿にエビフライを乗せてきた。
揚げ物は今食べたい気分ではないのだけれど……。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:35:00.23 ID:b2FObSvUo
カレン「これは絶対に美味しいデス!」

久世橋「だったら自分のお皿に乗せればいいでしょう」

カレン「二人で同じものをお皿に乗せたら意味がないデス。後で食べさせ合いっこするデス!」

た、食べさせ合い……。教師と生徒の間柄でそんなことを提案してくるなんて。
私が学生時代の頃そんなことを担任の先生に言えただろうか。言えるわけがない。
九条さん、恐ろしい子……!
そんなギャップを感じている隙に、九条さんは私のお皿にどんどん食べ物を追加していった。
腕が重くなっていく。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/16(木) 01:36:24.89 ID:b2FObSvUo
ここまでです
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/16(木) 02:02:35.42 ID:kaBm5iSjo
乙乙
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/16(木) 03:19:57.87 ID:pPz6c73Mo
おつ!
いい感じ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/16(木) 10:47:34.71 ID:YHvKCqjoO
これは期待ですわ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/16(木) 12:26:27.70 ID:ogWNZdnUo
くぜカレは宇宙
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:13:17.95 ID:fTjsaA5xo
久世橋「どうして食べ放題のお店に来たかったんですか?」

私のお皿へ乗せるのを止めない九条さんに質問。

カレン「たくさん食べられるからデス!」

彼女らしいシンプルな答え。
そして山積みになっていく私のお皿。
「先生も遠慮なさらずに」と言うが遠慮して欲しいのはあなたの方です。

お皿から零れ落ちそうなほど積み、満足したのか九条さんは空いている席へと向かって行った。
大量の料理を落とさずにお皿を持ちながら難なく歩いていく。
一方私はそんな彼女とは違い、お皿から料理がこぼれないように慎重に、ゆっくりゆっくりと前へ進む。

先へ進んでいる九条さんがこっちだと合図をするように片手を大きく振った。

久世橋「くっ、九条さん!?」

思わず大声が出る。
そんなことをすれば身体のバランスが崩れ、お皿を落とすのは明白だった。揺れるお皿。
が、間一髪。九条さんはギリギリで建て直し、お皿を両手で持ち席へ座った。
彼女と一緒だとなんてハラハラするんだろう。
今日は休日だというのにまるで気が抜けない。恐らく席まで辿り着いたらまず初めに九条さんに説教してしまうだろう。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:14:21.91 ID:fTjsaA5xo
・・・・・

カレン「いただきますデス!」

向かい側の席に座っている彼女は両手を合わせてそう言った。
お皿にもりもりと乗ったものをどんどん口の中へ運んでいく。
大量に盛りすぎていて料理が混ざり合いもはやパスタなのかチャーハンなのか何なのか分からないものになっていた。
見た目は良いものではない。だから大量に乗せるのはやめた方がいいと言ったのに。

カレン「クゼハシ先生のも美味しそうデスネ!」

間髪いれず私のお皿からエビフライを取っていった。

久世橋「あっ、か、勝手に!?」

とりわけ食べたいものではなかったが取られるとショックだ。
というより彼女は私のお皿を取り皿にでも利用しているのでは。

カレン「先生にはこれをあげるデス」

と、ピザを私に向けてきた。
お皿に乗せず、手に持ってそのまま向けてきた。
向けてきた。

……え? これはどういう。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:15:31.98 ID:fTjsaA5xo
カレン「どうしたんデスか?」

久世橋「えっ、いえ、あの……えっと」

カレン「はい、アーン」

久世橋「ア、アーン!?」

カレン「食べさせ合いするって言ったデス」

なんていうことだろう。教師になってこんなことは初めてだ。
いや、教師になったこと以前にこんなことをされたのは産まれて初めてだ。

誰かにアーン。

ピザはまだ私に向けられているが私の口は閉じている。
開けることができない。
なぜアーンなんてことをいとも簡単に出来るのだろうか。
これが天然ですか。

カレン「これ嫌いデスカ? なら食べちゃうデス」

と、ピザが九条さんの口に向かってしまい私は少し息が漏れた。
心のどこかで後悔したのだろうか。いや認めたくない。認められない。
私があれこれ考えている内に九条さんはお皿に乗っていた料理を半分以上たいらげていたのであった。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:19:09.12 ID:fTjsaA5xo
カレン「ふー、美味しかったデスね!」

九条さんはあれから三回ほどお皿の料理を入れ替え、その度に大量に盛り、そしてそれを全て食べきった。
ちなみに私のお皿には最初に取った分がまだ少し残っている。
これが年の差というものだろうか。いや私だってまだ若いはず……。
そもそも食べ放題なんて来るつもりがなかったから心の準備もできていなかったし。
だが来てしまったものは仕方がない、私ももっと食べないとこのままでは食べ放題で元を取れた気がしないし何か取りに行こう。

カレン「次はデザートデス!」

私が席を立とうとすると同時にカレンさんも立ち上がった。
もうデザートですか。
ふとカレンさんの顔を見てみると口の周りが汚れたままだったのが目に入り、彼女に「ちょっと待ちなさい」と声をかけ制止させざるをえなかった。
また何か注意されるのかと思ったのか彼女の顔に一瞬緊張が走った、ように見えた。

鞄からハンカチを取り出し口の周りの汚れを落とす。

すると今度は不思議そうな顔で見つめられた。
そんな顔をされても困る。私なにかおかしなことをしてますか。
と思いながらもなぜか自分でも若干照れていた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:20:31.02 ID:fTjsaA5xo
久世橋「だらしないですよ。子どもじゃないんだから」

カレン「私はまだ高校生だから子どもデスよ」

久世橋「そ、それはそうですけど……。あともう数年で九条さんも大人になるんです。自覚はしてください」

口の周りを拭き終わると彼女は「ありがとうございました」と言いデザートコーナーへと向かった。
こういう素直なところがあるから憎めない。
目を輝かせながらスイーツを選んでいる彼女を見ていると、こっちの顔も綻ぶ。
彼女は自分の楽しいという気持ちを他人に伝染させる才能でもあるんだろうか。
クラスの人気者なのもなんとなく納得できる。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:24:23.21 ID:fTjsaA5xo
カレン「見てくださいデス! チョコレートケーキとチョコレートロールケーキとチョコレートドーナツデス!」

久世橋「全部チョコレートじゃないですか……」

戻ってきた九条さんが自慢げに見せびらかしてきた。
正直美味しそう。

カレン「食べ放題はたくさん食べないと元が取れないデスよ!」

どうやら考えていたことは私と同じことだったようだ。
教え子と共感を覚えちょっと嬉しい。
しかし違うのは行動力。彼女を少し見習おう。

久世橋「……そうですね。せっかくの食べ放題なら私もたくさん食べなければ!」

カレン「先生燃えているデス!」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/17(金) 02:24:51.87 ID:fTjsaA5xo
ここまでです
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/17(金) 02:31:01.98 ID:jTjx7jiNo
ひとまず乙
面白いので続きが楽しみ
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/17(金) 11:43:10.71 ID:h4CbgSQvO
うむ
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/04/17(金) 14:18:28.44 ID:dO6M7IBn0
面白い
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/18(土) 14:12:36.15 ID:AWSPENYTO
おつおつ
ニヨニヨしてくるな
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:02:58.52 ID:S5/pK7Ijo
・・・・・

久世橋「うぷ……」

食べ過ぎた。ケーキ五つにドーナツ三つ、ジュレ、ムースなどその他諸々。
気持ちが悪い。お腹の中でスイーツが混ざり合い混沌としているのが分かる。
公園のベンチでうつむきながら地面をジッと見つめてなんとか吐かないように努力していた。

カレン「大丈夫デスか?」

九条さんがペットボトルの烏龍茶を持ってやって来た。
近くには自動販売機も見当たらないしわざわざコンビニまで行って買ってきてくれたらしい。

カレン「これどうぞデス」

久世橋「あ、ありがとう……」

差し出したペットボトルを私が受け取ると横に座って背中をさすってくれた。
嬉しさと同時に情けなさも感じる。
生徒の前で食べ過ぎてグロッキーになるなんて私は何をやっているのだろう。
もしここでお腹の中のものを全て地面に出してしまったら教師としてもう立ち直れない。

茫然自失した私を優しく介抱しくれている九条さんに大丈夫だとアピールしたが、
それでも彼女は背中のさすり続けてくた。

カレン「お昼ごはんおごってくれたお礼デス」

意外と義理堅いのは育ちが良いからだろうか。

久世橋「生徒にお金を出させるわけにはいかないから……」

カレン「じゃあこれからは毎日クゼハシ先生をお昼に誘うデス!」

久世橋「……調子に乗らないの」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:04:25.02 ID:S5/pK7Ijo
九条さんから貰った烏龍茶を一口飲む。少しだけスッキリした。
背中をさすってくれた彼女にもういいわよとお礼を言い、ベンチにもたれかかる。
空は雲ひとつない晴天だ。だが今日は一生のうちでも情けない休日になってしまった。
私の顔は吐き気で恐らく曇りになっているだろう。
そして彼女の顔はこの空と同じく曇りひとつない笑顔。

カレン「今日のクゼハシ先生はいつもと違うデスね」

私の曇り顔を見つめてそう語ってきた。
ふいなことに私もきょとんとしてしまう。

カレン「なんだか怖くないデス」

やはりいつもの私は彼女に怖がられていたようだ。
ちょっとショックだが、今は怖がられてないというのはそれはそれで嬉しい。

カレン「今日のクゼハシ先生はまるで……」

久世橋「まるで……?」

カレン「生まれたての子馬みたいにプルプルしてるデス!」

吐き気でプルプルしていなかったら怒りでプルプルするところだった。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:05:48.94 ID:S5/pK7Ijo
カレン「でも誘ってよかったデス。先生と一緒にご飯食べれて楽しかったデス」

久世橋「おごってもらえて嬉しかった、ってことですか?」

自分でもちょっと拗ねたような感じで言ったしまったのが分かった。
いい大人が子どもに対してする態度ではないと思うが。
それでも九条さんはそんなことを気にせず笑顔で返してきた。

カレン「先生と初めてご飯を食べれたことが嬉しかった、ってことデス」

久世橋「……」

どうしてそんなことを恥ずかしげもなく言えるのだろう。
あまりにもストレートな言葉を受け思わず目をそらす。耳がほてる。
こんなことで生徒と真正面から向き合えない私自身に再び情けなさを感じてしまった。

しばらく沈黙が続き、私の様子がどうしたのかと九条さんが横から顔を覗かせた。
不審だと思われないように顔をきりっと作り直してから九条さんと顔を合わせ、何とか平静を装う。
目をそらした時点で不審だと思われたかもしれないけど。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:06:37.14 ID:S5/pK7Ijo
久世橋「そ、そういえば一緒に食事をするなんて初めてですね」

カレン「おかげでクゼハシ先生の意外な一面も知ることができたデス」

身体が少しびくっとなった。
そんなことを言われると自分の私生活が生徒に覗かれたようで緊張してしまう。
大げさかもしれないが普段自分が生徒を評価する立場なのに今は私自身が生徒に評価されようとしているのだ。
やましい秘密なんてない……はずだけど。

カレン「クゼハシ先生って、エビフライやハンバーグが好きなんて意外とお子様なんデスね」

久世橋「……それは九条さんが勝手に私のお皿に乗せたものでしょ」

安堵と同時にもはや呆れるしかなかった。
鶏は三歩歩けば忘れるというが彼女もそれなのだろうか。
鶏の着ぐるみを着た九条さんを想像してみたらちょっと可愛かった。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:07:56.76 ID:S5/pK7Ijo
お腹が落ち着くまでの間、九条さんと二人きり、公園のベンチで過ごした。
学校生活のことで言いたいことは山ほどあったが、さすがに休みの日までそんなことをガミガミ言うつもりもなく、
そうなると九条さん相手に特に話すこともないと気づく。
なんだか私と九条さんの関係が急に希薄になってしまったように感じ少し寂しくなった。

こんな時は教師としてどういう話をすれば今時の女子高生は喜ぶのだろう。
いや、休日に教師と生徒なんて関係を持ち出しても心を開いてくれるのだろうか。
こんなことさっきも悩んだような気がする。
ここはやはり立場を忘れてオープンな感じで接したほうが……。
オープン? オープンってどんな感じ?

そうだ、お互いの共通の話をすればいい。
しかし頭の中をいくら掘り返しても共通の話題は学校の成績やら叱ったことの思い出ぐらいしか掘り出せない。
私と九条さんの関係はこんなもの程度だったのか。教師と生徒の間柄なら別におかしくないのかもしれないが、なんだかショックだ。
ひょっとして私は九条さんのことをまるで理解していないんじゃないだろうか。

彼女は傍らにいるのに私たちの間には透明で固い壁が張っていて、お互いの世界が遮断されているように感じた。
息苦しい。生徒と一緒にいるだけなのにこんなにも疲れるものなのだろうか。
私は烏丸先生になりたい。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 01:08:29.30 ID:S5/pK7Ijo
ここまでです
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 02:27:42.68 ID:EFnfqjuvo
おつ
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 03:11:28.15 ID:pxzMkWADO
くぜカレいいわー。
続きも楽しみです。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 07:15:09.57 ID:Fz/k5uv8O
うむ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:01:55.61 ID:S5/pK7Ijo
一方そんな九条さんはマイペースに自分のやりたいことをやっていた。
ポーチからとりだしたスナック菓子を砕き、ばら撒き、ハトにエサをやっている。
私たちの目の前には数匹のハトが群がっていた。九条さんの放ったエサを夢中で食べている。
楽しそうにしている九条さんをなんとなく見ていると、彼女もこちらに気づいたのか目が合った。

カレン「先生もやりたいデスか?」

そんなつもりはなかったのだが九条さんは有無も言わさず私にエサを手渡す。
壁が彼女の手によっていとも簡単に壊された。
それと同時にようやく彼女との真っ当な関わりを持てたように思えて嬉しくなる。

しかし年下に引っ張ってもらうような感じになってしまい、年上で先生で担任の私の立場はこれでいいのだろうかと新たな疑問も出てしまったが
とりあえず今は言われたとおりエサをあげてみよう。

適当に手前にエサを放る。
すでにばら撒かれたエサを食べているハトの中から数匹がゾロゾロとこちらの方へやってきて、私の投げたエサを食べ始めた。
今までなんとも思わなかったが、こうしてみるとハトもかわいいものだ。癒されるものがある。

横の視線に気づくと九条さんがまだ私のことを見ていた。
またニヤニヤしてしまっていただろうか。そこまで緩んではないはずだけど。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:03:15.94 ID:S5/pK7Ijo
久世橋「なんですか」

また私のことを茶化す気だろうか。すこし機械的な口調で聞いた。
しかし返事はなく九条さんはにっこりと笑うとハトの方へと目線を移す。
なんなのか気になって問い詰めようとしたが、ハトがさらに寄ってきたので私もそっちに気が散ってしまった。

いつもならお喋りな九条さんも、何も話さずただエサを食べているハトをにこにこと眺めている。
二人の間には沈黙が流れていたが、それはさっきとは違い居心地の悪いものではなく落ち着いた不思議な空間だった。
当然そこに壁は感じない。静かで優しい空間。
普段落ち着かない彼女とこんな空間にいられるとは思いもしなかった。これも平和の象徴のおかげなのだろうか。
こんなのも……結構いいかもしれない。

休日らしいまったりとした時間だ。

しばらくすると九条さんの方から私に話題を持ち出してきた。
今日は本当は大宮さん達と遊ぶ予定だったが都合が合わなくなっただとか
お母さんが厳しいだとか
松原さんは玉が好きだとか
どれも話題はバラバラで急に話が変わったりするのでまったく要領を得てないが
楽しそうに話す九条さんを見ているのは悪い気分ではない。
私にとってもこんな風に九条さんの話を親身に聞くのは新鮮な体験だった。
ハトにあげるエサはもうとっくになくなっていた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:05:11.53 ID:S5/pK7Ijo
気がつけばすでに夕方になりかけていた。
お日様が沈み始めているのが分かる。
もうそろそろ帰らなければ。明日の準備もある。
私が腕時計で時間の確認をしていると、九条さんもこちらの方を覗き込んできた。

カレン「もうこんな時間なんデスね」

久世橋「ええ。そろそろ家に……」

カレン「クゼハシ先生! 私夕飯はカレーが食べたいデス!」

久世橋「そうね、カレーもいいわね。早速材料を買って……って、そうじゃなくてもう帰る時間です!」

不慣れなノリツッコミに私も違和感を覚える。
彼女と一緒にいる時間が長かったせいで危うく彼女に流されるところだった。
お昼にあれだけ食べておいて今もまた何か食べたいだなんて。
成長期だからだろうか。

カレン「じゃあお寿司でもいいデス」

なにランクアップしているんですか。

久世橋「ダメです。九条さんも早く帰りなさい」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:06:57.75 ID:S5/pK7Ijo
カレン「えー、もっと遊びたいデス。これからクゼハシ先生の家に行ってもいいデスか?」

いきなりの提案に面を食らう。
生徒が教師の家に入るなんて、世間にバレでもしたら即ワイドショーのスクープだ。
あれ? けど女性同士なんだからそんな大事にはならないんじゃ……。
いやいやいやいや、そういう問題じゃない。

一つ分かることは今の九条さんは私のことを先生ではなく友達か何かだと思っているということだ。
そうでなければこんな提案を出したりはしない。
さすがに最低限の分別ぐらいはわきまえて欲しい。
ここは一発ガツンと言わないと。

九条さん「く」を言い出そうとしたその時だった。

カレン「クゼハシ先生、携帯は持ってるデスか?」

久世橋「はへ……?」

叱ろうと出した声は急に間抜けなものになった。
九条さんはポーチからスマートフォンを取り出しそれを見せびらかす。

カレン「アドレス交換するデス!」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:07:45.18 ID:S5/pK7Ijo
久世橋「ア、アドレス……!?」

カレン「携帯持ってないデスか?」

久世橋「も、持ってますけど……」

カレン「じゃあ私から送るデス」

久世橋「あっ、ちょ、ちょっと待って」

催促されるように私は携帯を取り出した。
ここでも結局彼女の言われるとおりになってしまっている。
すっかり彼女のペースにはまってしまい、これでは教師としての面目丸つぶれである。

アプリを通して彼女のアドレスが私の携帯に届いた。
流されるように私も自分のアドレスを送る。

カレン「届いたデス! クゼハシ先生のアドレス!」

あまりにも自由奔放すぎるので仕切りなおして注意しようと思ったが
私のアドレスを眺めながら目を輝かせている彼女を見るとそれもできなくなる。
というより私も九条さんのアドレスに目をやると胸が少し躍ってしまった。
生徒とアドレス交換したのなんて初めてのことだ。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:09:32.41 ID:S5/pK7Ijo
九条さんは満足したのか、携帯をポーチに再びしまい、ベンチから立ち上がった。

カレン「今日はとても楽しかったデス! ありがとうございましたデス!」

楽しかった……のなら良かった。
私の方は九条さんと休日を過ごすなんて思わなかったからいっぱいいっぱいだったけど。

カレン「ふっふっふっ……」

久世橋「なんですか」

カレン「これでクゼハシ先生との秘密の関係を手に入れたデス」

久世橋「ひ、秘密ってなんですか」

いやらしい言葉の響きに動揺する。
この子は何を考えているのだろう。

カレン「これでテスト前にクゼハシ先生にメールでテストの答えを教えてもらえるデス!」

久世橋「……」

どうやら浅はかなことしか考えてないようだ。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:10:25.64 ID:S5/pK7Ijo
久世橋「そんなために使うのならこのアドレスは消去します」

カレン「あっ、じょ、冗談デス!!」

一瞬本気疑ってしまった。
九条さんならやりかねない。

久世橋「まったく……。テストはちゃんと勉強して挑んでください」

えへへと頭を後ろでかきながら笑う九条さん。
今日の宿題は終わらせたのかと言及しようと思ったが、可愛い表情にそれも言えなくなる。
なんだか私の説教を上手く回避させられたような気がした。

カレン「それじゃあそろそろ帰るデス」

そう言うと私に向かって律儀にお礼をした。
私もついつられて軽くおじぎをしてしまう。

カレン「またお昼ご飯おごってくださいデス」

久世橋「今度は割り勘です」

今度……今度なんてあるんだろうか。
九条さんとまたご飯を一緒になんて。
あるとしたら次は食べ放題だけはやめてほしい。
というか私は次の機会に期待でもしているんだろうか。
彼女の背中を見送りながら心が弾んだような気分になり少し戸惑った。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:11:56.85 ID:S5/pK7Ijo
家へ帰るとペットの猫が出迎えてくれた。
猫を抱えソファへダイブする。
休日だというのにどっと疲れた。明日の準備をしようかと思ったが身体が動かせない。
携帯を取り出し、九条さんのアドレスを開いた。
今日一日のことが頭の中で甦ってくる。不思議な時間だった。
今の私はニヤニヤしてるかも。

突如携帯が鳴る。
九条さんからのメールだ。

確認するとなんてことのないただの挨拶で、私もすぐに返信した。
またニヤつく。今日一日で一気に生徒と距離が近づけた気がする。
多少情けない姿も見せてしまったかもしれないけど、その分九条さんに心が開けたように思える。
九条さんのことも少し理解ができた。
ひょっとして私、烏丸先生になれた?
すると早速九条さんから返ってきた。
早い。さすが現役女子高生。

しかしすぐに終わると思ったメールのやり取りはその後も鳴り止まず、
一時間ぐらいしたところで「いい加減にしなさい」
と説教メールを私が送り、結局いつもと変わらないような感じでその日は幕を閉じたのであった。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/19(日) 12:13:02.88 ID:S5/pK7Ijo
ここまでです
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/04/19(日) 12:52:26.80 ID:KmvIfb820
楽しみ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 12:56:25.11 ID:pxzMkWADO
ああ、カレンがなに考えてるか想像しながら読んでたら顔がにやける……。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 18:25:09.37 ID:t7ieQseYO
ああ^〜
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/19(日) 19:19:04.19 ID:Dat2mg3go
再生が簡単だな

あぁ^〜
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:11:43.16 ID:QiftnW2vo
―――――――――――――――

本当なら今日の予定はアリス、シノ、アヤヤ、ヨーコのいつものメンバーで出かける予定だったが、
全員に急用が入ってしまい諦めることになった。
ちなみにホノカは部活である。
せっかく前日に何を着ていくか洋服まで決めていたのにこれでは全てパーだ。
この行き場のない気持ちはどうすればいい。
むがーっと叫びたくなったがママにうるさいと叱られそうなのでやめた。
ベッドの上で転がりながら携帯のアドレス帳を開き、今からでも遊べそうな人はいないか探してみる。
いない。
いざアドレス帳に目を通したのはものの、やっぱりいつものメンバーでなければ誘う気には乗れなかった。
結局誘うのは諦め、携帯をベッドの上に放り捨て何気なく机の方に目をやると、読みかけの漫画が置いてあった。

内容は確か冒険物だったと思う。主人公のかっこいい男の子が何やかんやで冒険に出かけてる話だ。
何やかんやといううろ覚えな記憶なのは、読んだのがだいぶ前で、その漫画はそれ以降放置されていたから。
とにかく主人公がかっこいいということしか覚えていない。

そこで閃いた。私もあのかっこいい主人公みたいに冒険に出かけよう。暇だし。
そうと決まれば急いで着替えて未知の世界へ出発、気分はもう主人公九条カレンだ。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:12:32.65 ID:QiftnW2vo
出かける前にママに宿題はやったのかと叱られた。クゼハシ先生と同じようなことを言わなくてもいいのに。
宿題なんていつでもできる、冒険は今しかできない。
盛り上がった気分が台無しになりかけたが、家から外に一歩出たらすぐにまたテンションがあがる。
オシャレはバッチリお金もバッチリ携帯の充電もバッチリ。いざ冒険へ。

そういえば出発が慌しかったせいでお昼ご飯を食べるのをすっかり忘れていた。
まぁ見知らぬ土地の見知らぬお店で食べればいいか。確かそういう漫画もあったはずだし。

電車に乗っていい感じの駅で降りる。いい感じと言うのは私の直感に従い、良いと思って選んだものである。
駅の改札口から出ると見慣れない景色が目の前に広がる。
家からはそんなに離れた所ではないし町並みは大して変わらないが、今まで来たこともない所だ。
冒険者としてこれほどワクワクすることはない。これから先何が待ち受けているのか。
お宝か、はたまた凶悪なモンスターか。

後者の方だった。

お腹が減ったのでとりあえず適当な飲食店を探していたら偶然エンカウントした。
そのモンスターは学校にいる時のいつものスーツ姿とは違い、白いシャツに淡い薄い水色のズボンというリラックスした姿で、
髪はシュシュでとめていたサイドテールをほどいており肩まで伸びていた。
普段とはまるで印象が違う。
モンスターはモンスターだが、凶悪と言うより優しそうなモンスターだ。
そしてその優しそうなモンスターはなにやら可愛らしい看板をニヤニヤしながら見つめている。
なんだか気軽に声をかけることがそう。と、思う前にすでに身体が動いていた。

カレン「なにをニヤニヤしてるデスか?」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:13:41.29 ID:QiftnW2vo

・・・・・

その日は不思議な日だった。一言で言えば楽しい。
楽しかったのだが、やはり変だった。
クゼハシ先生と一緒に、大人と一緒に、二人きりで休日を過ごした。
そんな経験は自分の親を除いて産まれて初めてのことである。
家に帰りベッドの上でゴロゴロとしながら今日一日のことを振り返っていた。

我ながら恐れ知らずなことをしたものだ。普段あんなに叱られているのに。
いや、今日も何度か叱られたような気もするけど。
それでも叱られて怖かったという感情はなかった。楽しさの方が勝っていた。
あれはなんだったんだろう。

自分の行動を思い返してみても、正直何も考えず思うがままに動いていたのでやはりそこでも楽しかった、ぐらいしか覚えていない。
ただクゼハシ先生の家に行ってみたいと言った時は、発言の後少し緊張していた。
それもなぜ? なんだけれども。
しかし断られた後ダメもとでアドレスを聞いてみたら成功し、無事クゼハシ先生のアドレスを手に入れることができた。
その時はその場で飛び跳ねたくなるぐらい嬉しかった。
またまたなぜ? アドレスを交換しただけなのに。

ヨーコの時もアヤヤの時もホノカの時も、アドレスを交換したぐらいであんなに喜んだだろうか。
ちなみにアリスとシノはそもそも携帯を持っていない。
それはともかくクゼハシ先生のアドレス、スマホを開きじっと見つめる。
ずらっと並ぶ名前の中でそのアドレスだけは異質なように見えた。

色んな宝石の中で、一つだけその宝石は私を魅了する光を放っている。
謎の魅力がある。これが大人の魅力というやつだろうか。
クゼハシ先生も意地っ張りだったりして結構子どもなところがあると思うけど。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:14:56.07 ID:QiftnW2vo
何はともあれあのクゼハシ先生と仲良くなれたのだ。いつも学校で私のことを叱っているあの先生が。
これはもしかしてチャンスかもしれない。ここで一気に好感度を上げれば今後クゼハシ先生に怒られることはないかも。

久世橋『九条さんとはいつも仲良くしてもらっているから、お皿五枚割っても怒りませんよ』

なんてことがあるかもしれない。とりあえず挨拶のメールは送っておこう。
文面を少し考える。いつものならスラスラと画面をタップできるのに。
ここでも少し緊張していた。なぜだー。

とりあえず無難に落ち着き、「今日はありがとうございました」と書きその後に可愛い絵文字を何個か付け足した。
そのまま勢いで送信。
そうしたら緊張の後に今度は謎の不安感が襲ってきた。
本当におかしい、今日の私。
うつ伏せになり足をバタバタとさせる。クゼハシ先生は私のメールをどんな顔で見ているのだろうか。
私の口を拭いてくれた時や、ハトにエサをあげていた時の様に穏やかに笑ってくれたら嬉しい。
いつもみたいに眉間にしわを寄せていたら悲しい。
もし読んでいなかったら……明日は学校に行けないかも。

すぐに返信が来た。身体を横向けにし携帯をチェック。
指がメールを開くのを一瞬ためらった。だからなぜだー。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:16:24.89 ID:QiftnW2vo
この目でしっかり確認。クゼハシ先生からのメールだ。
あのクゼハシ先生が、いつも学校でガミガミ怒ってるクゼハシ先生が、私にメールの返事をくれた。
しかも絵文字つきで。かわいい。

こんなかわいいところをさりげなく見せるから、私はあの人を避けずに接することができるのかもしれない。
可愛さのあまり、そして予想より早い返信のおかげで私の気分はすっかり高揚していた。
こんなに早い返信なのだからきっと先生も喜んでいるはずだ。私もすぐに返信しなければ。
二回目のメールは一回目と違いスラスラ書けた。

むふふ、と笑う。
ママが何か声をかけてきたが内容はまったく耳に入ってこなかった。
たぶん宿題をやったのかどうか聞いてきたのだろう。
そんなものは後でもできる、メールは今しかできない。

また返信が来た。
嬉しい。私のメールをちゃんと読んでくれたんだ。
これは‘楽しい’とはまた少し違っていた。
もっともっとメールして、クゼハシ先生を喜ばせたい。
いつの間にか夢中になってメールを続けていた。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:17:20.90 ID:QiftnW2vo
一時間が経ったぐらいだろうか。怒られた。クゼハシ先生に、メールで。
どうやらメールをやりすぎたのがダメだったらしい。
文面は怒っていたがその後についていた顔文字が可愛かったのであんまり怖くはなかったけど。

ひとまず言われたとおりメールをやめ、仰向けになって枕を抱きしめた。
なんという充実感だろう。
何かをやり遂げたような満たされた気持ち、幸福感、希望。そのどれもが私の心の中で踊り騒いでいた。
人はメールをしただけでこんなにも感激できる生き物だったのか。

枕をぎゅーっとする。

今日のこの不思議な気持ち達は一体なんだったのだろうかと考えてみようとしたが、そんなものを考えてどうなると思いとどまる。
難しいことなんて私にはいらない。
今の私は幸せだ。そう、クゼハシ先生と過ごした今日一日が私にとっては幸せな日だった。
その事実さえあればいい。

その日の夜はベッドに入っている間、寝付けるまでクゼハシ先生のあの笑顔をずっと頭に浮かべていた。
あの笑顔は私を幸せにする素敵な魔法の笑顔。
こんなことなら写真に撮っておけばよかったかな。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/22(水) 17:17:55.30 ID:QiftnW2vo
ここまでです
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/22(水) 18:48:59.29 ID:XffFvHoI0
ふぅ…いいぞもっとやれ
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/23(木) 00:25:58.68 ID:jMzOROsjo
次の日の学校、クゼハシ先生に宿題をやっていないことを問い詰められ怒られた。
昨日はあんなに優しかったのに、今日はいつもの眉間にしわを寄せた顔。
すっかり元通りの雰囲気になってしまっている。
なぜ。肩を落とし教室の自分の席に座る。

綾「カレン、また久世橋先生に怒られたのね」

アヤヤが教科書を片手に声をかけてきた。
そういえば次は移動教室だったっけ。

カレン「おかしいデス……あんなに怒るなんて……」

綾「おかしくないわよ。カレンはただでさえ常習犯なんだから」

カレン「でも昨日は優しかったデス」

綾「昨日?」

アヤヤに昨日の出来事を話した。
楽しかったこと嬉しかったこと新鮮だったこと、全てを聞いて欲しい。話したい。
まだ私の中では昨日の余韻が残っていたままだったのだ。
そのはち切れそうな思いをアヤヤに受け止めてもらった。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/23(木) 00:26:28.77 ID:jMzOROsjo
「へ、へぇ」と、意外そうな顔をするアヤヤ。
やっぱり他人からしてもおかしな出来事だったのか。

綾「先生と一緒にお出かけなんて……すごいわね」

その「すごいわね」は普段の私たちの関係からして出た言葉だろう。
私も同意だ。
でも食いついてきてるし、もう少し話してみよう。

カレン「先生とはアドレスも交換したデス」

綾「ア、アドレスも!? よく聞き出せたわね……」

全くもってそのとおり。
昨日の自分を褒めてあげたい。

カレン「メールだってもうしたデス。一時間も先生とメールしたデスよ」

つい嬉しくなって自慢げに話してしまう。
たぶんクゼハシ先生と一時間もメールしたのは世界でたった一人、この私だけだろう。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/23(木) 00:27:00.71 ID:jMzOROsjo
綾「久世橋先生って意外とフレンドリーだったのね。まぁでも、陽子が先生のことを馴れ馴れしくクッシーちゃんって呼んでも怒らないし、案外親しみやすいのかもしれないわね」

アヤヤの言葉にピクリと反応してしまう。
そういえばクゼハシ先生のことをあだ名で呼んでいるのはヨーコだけだった。
たぶんクッシーなんて呼び方をしているのは世界でただ一人、ヨーコだけ。なんか羨ましい。

綾「けど休日は休日、学校は学校よ。カレンはケジメをつけなさい。そもそも宿題忘れて怒られないわけないじゃない」

正論を言われて返す言葉もなく、机にうつ伏せになる。
けど今日宿題を忘れたのは私だけ。そのことで怒られたのも私だけ。
あれ、いいかもしれない。

綾「ほら、教室移動しましょ。遅刻でもしたらまた久世橋先生に怒られるわよ?」

あの眉間にしわを寄せた顔を思い浮かべた。
……やっぱり怒られるのは嬉しくない。
机の中に入れっぱなしの教科書を引っ張り出し、アヤヤと一緒に次の授業へ向かった。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/23(木) 00:28:36.57 ID:jMzOROsjo
・・・・・

学校が終わり帰る人たち、部活に行く人たち、委員会がある人たち、みんながそれぞれの放課後を過ごすため教室から出て行く。
教室にまだ残っているのは私を含めて数名だ。

穂乃花「カレンちゃん、また明日ね」

部活へ向かうホノカが帰りの挨拶をしてくれた。それに元気よく応える。
私もそろそろ帰ろう。シノとアヤヤの二人と一緒にアリスの教室に行き、いつもどおりみんなと下校。
今日はどこか寄り道でもしようかな。

忍「カレン、私たちも帰りましょう」

シノが声をかけてきた。アヤヤも一緒だ。
だがその後、二人ではない人の声がした。

久世橋「九条さん、ちょっと待ちなさい」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/23(木) 00:29:02.66 ID:jMzOROsjo
ここまでです
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/23(木) 00:52:50.92 ID:sMX+lVfLo
いいゾ〜^これ
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/23(木) 00:57:50.59 ID:w0c3Wn0co
いいところで中断とは

とりあえず乙
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/25(土) 00:19:50.58 ID:zWEvP89Ko
視線がその声の方へすぐに移る。
凛々しいようでいてその中にどこか可愛さを含んでいるあの人。クゼハシ先生の声。
どうやら怒ってる様子でもない。
ほっと一安心するも、先生の姿が目に入ると心が張り詰める。

その理由はいつもなら怒られるからというのが九割ぐらいを占めているのだけど、
今日は半分ぐらい何か期待をしているかのように気持ちが踊っている。
何を期待してる? なんだろう。
自分でも分からないままだが、身体は自然とクゼハシ先生の方に関心を寄せていた。

久世橋「お話があるんですが、少し時間をもらってもいいですか?」

カレン「私にデスか!? もちろんOKデス!!」

勢い良く返事。良すぎて若干先生が引いているようにも見えるけど、とりあえず気にしない。
私に話があるなんて嬉しい。
私もクゼハシ先生とたくさん話したい。
授業が難しかったとか、お昼に食べたお菓子が美味しかったとか、帰りはどこに寄ろうか迷ってるとか。
話題はなんでもいい、とにかくクゼハシ先生とお話がしたかった。説教抜きで。

綾「カレン、やけに元気ね……」

アヤヤが困惑している。そこまで戸惑うほど元気だろうか。

忍「カレンはいつも元気ですよ」

シノの言うとおりだ。元気であることこそ私のモットー。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/25(土) 00:21:06.29 ID:zWEvP89Ko
久世橋「じゃ、じゃあ私について来てください。ごめんね大宮さん、小路さん。少し九条さんを借ります」

「はい」と素直に答えるシノ。
借りていく、なんて言われたら先生に独占されるみたいでちょっと嬉しい。
……あれ? 私は何を喜んでいるの?
なんで先生に独占されて嬉しがれるんだろう。
あれれ?

久世橋「九条さん何をしているんですか。こっちです」

考えようとしたがクゼハシ先生が私を呼ぶ。
行かなきゃ、と身体が考えるのをやめさせるように先生の方へと動く。
けど頭の中にはさっきの疑問がじっと居座っているわけで。
身体と頭がお互いに正反対の行動を取らせたがっていて、その間で揺れる私には居心地の悪い違和感が付きまとっていた。

なんというのだろう。少し照れてる……?
照れてるって……何に対して?

「この辺でいいでしょう」と人目の少ない廊下の隅で先生は止まった。
部活のある生徒は外や各教室にいるのでここは閑散としている。
この空間は今まさに私とクゼハシ先生、二人きりの空間だ。寒々とした廊下が温かく明るい光で満ちているように見えた。
クゼハシ先生の雰囲気も朝のように怒った感じとは違う。落ち着いている。
そんな先生を前にすると恐怖感はなくなり、逆に胸が希望で高鳴った。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/25(土) 00:27:54.13 ID:zWEvP89Ko
先生の話ってなんだろう。わざわざ二人っきりで話したいということは、私と先生だけに関わる話かな。
だとすると……もしかして、今週の休みにまた二人でお出かけしたいということじゃないだろうか。
そうだとすると嬉しい。
クゼハシ先生から誘ってくれるなんて。昨日はすごく楽しんでくれたということだろうか。

私だって楽しかったよ先生! 今週末の予定は絶対空けるからね!
と、嬉しさのあまり英語で喋りだしてしまいそうだった。
クゼハシ先生に英語は伝わるんだろうか。
今度試してみよう。

まぁとりあえず、そうと決まれば早いうちに予定を立てなければ。
どこに行こうか。何を着て行こうか。美味しいお店はないだろうか。
先ほどの違和感なんてもはやどうでもよくなっている。

頭の中で今週末の計画を立てている私の前で、先生が「九条さん」と私の名前を発した。
考えていたことが全て吹き飛んでしまいそうなほど、私の心が一気に華やぐ。

カレン「もちろんOKデス! 先生ったら、そんなことのためにわざわざ呼び出すなんて……積極的デスね」

久世橋「……はい?」

クゼハシ先生が本題を言う前に私が口火を切った。先生はなにやらポカンとしているがその理由は分かってる。
照れてるだけでしょ?、とウィンクでアピールしてみた。
が、先生はジトっとこちらを見ているだけだ。もう、先生ったら照れ屋さん過ぎ。

久世橋「九条さん……何の話と思ったのかは分からないですけど、私が九条さんを呼んだのは昨日のメールの件についてです」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/25(土) 00:29:45.17 ID:zWEvP89Ko
カレン「へ……?」

予想していた返答と違い戸惑い、ちょっぴりがっかりした。
クゼハシ先生との二人きりの廊下が少し暗くなる。
まさか昨日のメールのことで説教を? でもそんな様子でもなさそうだし。

久世橋「昨日は私も浮かれ……こほん」

不自然に咳払いをする先生。
微かに頬が赤くなっているような気もするけど、話はそのまま続いた。

久世橋「昨日のことは私も反省しています。早いうちにメールを切り上げるべきでした」

カレン「えっと……?」

先生は私が何のことか分からない様子でも気にせず、淡々と口を動かしていた。

久世橋「私とのメールのせいで九条さんの宿題をする時間が奪われてしまったのなら、謝ります」

何を謝る必要があるんだろう。
時間があろうとなかろうと宿題をする気なんてなかったのに。

久世橋「ですので今後はお互いメールを控えましょう。勉学に支障をきたしてしまうのなら、あんなものはやめた方がいいです」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/25(土) 00:30:19.11 ID:zWEvP89Ko
ここまでです
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/25(土) 02:37:07.75 ID:N1RqICpGo
シリアスになりそう
乙ゥ^〜
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/25(土) 14:48:29.70 ID:GLJFa6u5o
リシアスが近付いてくる予感
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/26(日) 01:29:02.07 ID:5pdMw+nQo
1です。
次回からある程度まとめて投下しようと思うので3、4日間が空くと思います。
申し訳ありません。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/04/26(日) 03:04:17.63 ID:R4MxZAorO
待ってるよ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:15:43.65 ID:aUao/xfCo
空気が止まる。予期せぬ言葉に数秒瞬きを忘れてしまった。
そして頭の中で先生の言葉がようやく再生される。
説教の方がまだましだったかもしれない。
今まで浮かれていた気分が瞬く間に奈落の底へ叩き落された気分だ。
昨晩あれほど心躍ったやりとりが、たった一日で終焉を迎えようとしている。
そんなのは絶対に嫌だ。

カレン「な、なんでデスか!?」

とりあえず衝撃度の方が強すぎて、その理由が頭の中からすっぽ抜けてしまったのでもう一度聞こう。

久世橋「だから、メールばかりして勉強ができなくなるのなら、メールなんてやめた方がいいと言っているんです」

カレン「そんな! メールは関係ないデス!」

久世橋「けど昨日はメールだけで一時間費やしてしまったし……やっぱり良くはありません」

カレン「メールなんかしなくても、宿題なんてやってこなかったデス!!」

先生との繋がりを切り離したくないあまり、つい本音が出てしまった。
はっ、としてしまうが時すでに遅し。クゼハシ先生が眉をしかめる。
これではまるで宿題なんか初めからやる気がなかったと言っているようなものだ。実際そのとおりだけど。

カレン「あっ、いえ……メールのせいじゃなくて、普通に忘れてただけ……デス」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:16:09.91 ID:aUao/xfCo
久世橋「それはそれで問題ですが……」

呆れた声で返された。
そしてクゼハシ先生の怒りのボルテージが徐々に上がっていく。

久世橋「まさか……最初から宿題をやるつもりはなかったと?」

カレン「ち、違うデス!! えっと、その……やろうとしたけど、そうは問屋がおろさなくて……」

なんとかこの場を取り繕おうと必死になったが、クゼハシ先生の眉間はますます寄っている。
宿題をやってこなかっただけならまだしもそれがわざとだとバレてしまったら、火に大量の油を注ぐようなものだ。
今までと違い最悪な印象を与えて、間違いなく嫌われてしまう。こんなことなら真面目にやっておけばよかった。

喉がきゅっと絞まるようだった。誤魔化そうとするがいい案が思いつかない。
口をパクパクとさせながら視線はあっちへ行ったりこっちへ行ったり、頭はパニック状態。
自分でも明らかに不自然な状態だと分かった。クゼハシ先生の眉間がそれをさらに証拠づけている。

久世橋「九条さん!」

ピシャリと空気が張り詰めたように一変する。驚いて一瞬呼吸が止まってしまった。
心臓がバクバクし始める。嫌な緊張だ。
しかしその後のクゼハシ先生の口調は、私が予想していたものとは違っていた。

久世橋「……明日には必ず宿題を提出してください」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:17:24.65 ID:aUao/xfCo
さっきの怒り声とは違い、とても落ち着いている。
いや、落ち着いてはいるけど物静か過ぎる、
どこか悲しんでいるような声に聞こえた。

カレン「クゼハシ先生……?」

クゼハシ先生の顔はうつむいている。眉間もすでに元通りになっていた。
が、顔は怒っても笑ってもいない。無表情だ。

胸がズキっと痛む。

久世橋「話はこれで終わりです。もう大宮さん達のところに戻っていいですよ」

そう言うと先生はすぐに私の前から立ち去っていった。
一方、取り残された私はさっきのあの表情が頭から離れず、動けないままでいる。
先生を呼び止めようともしたが、そうしようとした時すでに先生の姿は見えなくなっていた。

朝怒っていた時とはあまりにも様子が違う。どうやら非常にまずいことをしてしまったようだ、ということは理解できた。
私があまりにも宿題を忘れすぎたせいだろうか。昨日にタイムスリップしてやり直したい。
後悔の念が私の中で徐々に膨れ上がり、先ほどの胸の痛みを圧迫する。気づいたらうっすらと涙が出ていた。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:18:46.93 ID:aUao/xfCo
・・・・・・

カレン「アヤヤ〜!!」

綾「ど、どうしたのカレン!?」

教室に戻ると真っ先にアヤヤに飛びついた。
シノとすでに来ていたアリスと陽子も何事だと目を丸くしている。

カレン「勉強教えてくださいデス!!」

綾「何……急に?」

状況を説明しようにも頭の中はパニックでまともに話せそうもない。
この中で一番成績が良いのはアヤヤだ。とにかくアヤヤに宿題を手伝って欲しかった。

カレン「お願いしマス!! アヤヤしかいないんデス!!」

みんなは困ったように目配せをしている。
私も困っている。みんな困ってしまった。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:20:05.13 ID:aUao/xfCo
・・・・・

学校から一旦家に帰り、放置されていた宿題を回収して、今私は図書館でアヤヤと一緒に机に向かっている。
アリス達は先に帰った。本当は一緒にいて欲しかったけど用事があるらしいから仕方がない。
アヤヤがいるだけでも十分だ。とりあえずなんとしても宿題を終わらせ今日中に提出し、クゼハシ先生に与えてしまった最悪の印象を消さなければ。
日本では汚名挽回っていうんだっけ、こういうの。

綾「本当になにもやってないのね。真っ白だわ……」

隣の席のアヤヤがプリントを見て唖然としていた。
思いのほか神妙な表情なので先ほどのクゼハシ先生を思い出して再び胸が痛む。

カレン「お願いデス、アヤヤ! 早く終わらせてクゼハシ先生に提出したいんデス!」

アヤヤが口の前に指を当ててシーッとした。
ここが図書館だと忘れていて思わず大きな声が出てしまったので、私もすぐに両手で口を塞ぐ。
「はぁ」とため息の後、「仕方ないわね」といった感じで鞄から筆入れを取り、机に出した。
私も取り出しお気に入りのペンを手に持つ。

カレン「よろしくおねがいしますデス、アヤヤ先生」

今度は小声でお願いした。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:22:54.97 ID:aUao/xfCo
綾「内容は難しいものじゃないから、すぐに終わるわよ。どうしてこんな簡単な宿題もやってこなかったの」

少し説教っぽい口調だ。
が、今の私は反論できる状況でもなく、ただ唸るしかなかった。
しばらくして黙っていてもしょうがないと思い、昨日のことを話す。

綾「つまり……初めから宿題をやる気がなかったってこと?」

カレン「いやー、頭の中からスッポリ抜け落ちてマシテ……」

綾「これじゃあ久世橋先生も怒るわけよ。せっかく作った宿題が蔑ろにされるようなものなんだから」

アヤヤの言葉でクゼハシ先生の怒りの理由が改めて理解できた。
そして自分がどれほど浅はかだったかということも。

カレン「私……クゼハシ先生に謝ったほうがいいデスか?」

綾「まぁ、その方がいいと思うけど……」

カレン「クゼハシ先生、なんだか悲しそうだったデス。いつものような怒った感じじゃなくて……」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:27:20.14 ID:aUao/xfCo
この際だからアヤヤに放課後のことを全てを話すことにした。
私の胸を痛めつけているのは宿題をやってこなかった罪悪感だけではなく、どうやら他にもあるみたいだ。
それは自分では分からない。けど話すことで自分の頭を整理したかったのかもしれない。

とにかく話した。図書館なので小さな声で。
先生の様子がいつもと違っていた、とか。先生の最後に見せていたあの顔が忘れられない、とか。
振り返ってみれば今日はアヤヤに話してばかりな気がする。

綾「忘れただけじゃなくそれを誤魔化そうとするなんて、そういう態度が悪かったんじゃないの?」

さらに胸を抉られたようだった。
改めて他人に自覚させられると格段にショックだ。

カレン「もう終わりデス。クゼハシ先生に嫌われたらもう学校には行けないデス……」

綾「そ、そこまで言う? いつも怒られているんでしょ?」

カレン「だから今日は違うんデス。本当になんだかいつもと違うんデス。いつもよりショックが大きいデス……」

放課後のことを思い出すだけでへこむ。
私にしては珍しく、悪い方向への考えが止まらない。
底なし沼へどんどん沈んでいくような気分だ。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:29:11.01 ID:aUao/xfCo
「うーん」、となにかを悩むアヤヤ。
ペンの頭を顎にくっつけながら考えている。それが離れると同時に口が開いた。

綾「ねえ。カレンにとって、クゼハシ先生ってどういう人なの?」

意表をつく質問だった。そんなこと、改まって考えたこともない。
先生は先生で、いつも怖い。
けどたまに可愛いところもあって、優しいところもあって。
そんな先生のことがいつの間にか頭から離れなくなって。
……あれ、私にとってクゼハシ先生ってどういう人なんだろう。

綾「きっとカレンにとってクゼハシ先生は大好き人だから、今回の件で嫌われたと思ってショックを受けた……んじゃないかしら」

最後は自信なさげだったが、割とすんなり聞き入れることが出来た。
私はクゼハシ先生のことが大好き、なのかもしれない。
大好き……大好き……。
大好きって?

カレン「私はアヤヤのことも大好きデスよ?」

綾「な、なに急に」

アヤヤの顔は少し赤くなっているが気にせず続けた。

カレン「アヤヤだけじゃなくてアリスもシノもヨーコもホノカも、みんな大好きデス」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:31:32.05 ID:aUao/xfCo
言葉に出すそれぞれへの大好き。
だが、それら全てはクゼハシ先生に対する大好きには当てはまらなかったみたいだ。

カレン「でも、クゼハシ先生はみんなの大好きとはちょっと違う感じがするデス。みんなの大好きは一緒にいると楽しいって感じなんデスけど、先生のはそれプラスなんか……緊張しマス」

綾「緊張?」

カレン「こう……胸がドキドキするデス。でも気持ち悪いものじゃなくて、私のことを幸せにもしてくれるような、そんな不思議なドキドキデス」

綾「……」

語り終わるとアヤヤは目を見開いて、顔を赤らめこっちを見ている。
何だろうと首を傾げると、一回咳払いをしてからアヤヤが口を開いた。

綾「カ、カレン……私はカレンのことが好きよ」

カレン「なに言っちゃってるんデスかアヤヤー。ふふふ、ヨーコという人がいながら」

綾「ちゃ、茶化さないの! 今は陽子はか、関係ないでしょ。……もし。もしもよ? 今の言葉を私じゃなくて、久世橋先生が言ったとしたら……?」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:32:26.25 ID:aUao/xfCo
クゼハシ先生が? 頭の中で再生してみる。

カレン「……」

久世橋『九条さん、私はあなたのことが好きです』

カレン「……」

再生してすぐには実感がわかなかった。
二、三秒してから心臓が高鳴る。
その後はどんどん鼓動が早くなっていく。
頬が熱い。耳も。あれ? あれれ?

カレン「えっ……ぁ……ぇう……」

声にならない声が出てしまった。
頭の中で再生していた妄想が止まらない。
とめようと思ってもクゼハシ先生が何度も囁いてくる。

久世橋『私はあなたのことが好きです』
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:34:06.63 ID:aUao/xfCo
バタンッ、と机にうつ伏せになる。物音がしたせいで周りから注目されているだろうか。
視界は真っ暗なので分からない。

それは今までにはない衝撃だった。
雷に撃たれるというのはこのことなんだろうか。身体は動かないが、体内では何かがグルグルと高速で駆け巡っているようだ。
心臓はマラソンをしたわけでもないのに音が聞こえるほど早く動いている。
頭はほぼ真っ白。だが顔は間違いなく真っ赤になっている。鏡を見なくても分かる。
思いっきり叫びたいが辛うじて残っている理性がそれを引き止めた。
もっとも、これは叫んだところで治まりそうはない。

産まれてからこんなことは一度もない。
……いや、何かで見たことはあるかもしれない。
そう、漫画とかで。特に恋愛シーンとかで。
もしかして、これはいわゆる……恋?

綾「カレン……」

カレン「ア、アヤヤ……?」

私、クゼハシ先生に恋しちゃった……?
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/04/28(火) 02:34:38.41 ID:aUao/xfCo
ここまでです
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/28(火) 04:58:16.34 ID:Nim8ahY+o

つづきが気になるな
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/28(火) 05:54:49.38 ID:Kb4ybU/DO
うはあっ、めっちゃ萌えな展開ですね!
続きも楽しみですっ!
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/28(火) 10:55:23.04 ID:0V63cqj+o
女教師と女生徒ってすごくいいよね!
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/29(水) 01:59:15.04 ID:vlI859EBO
すばらしい…
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/29(水) 02:35:12.85 ID:AxCefLD40
タマリマセンワー
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:38:29.75 ID:pBWuK89Eo
横を向くとアヤヤと目が合った。二人とも口はポカンと開いている。
なぜかアヤヤまで顔が真っ赤になっていたがそんな疑問は特に気にならず、お互い硬直状態で見詰め合ったままだ。
瞬きも忘れている。私が受けた衝撃がアヤヤにも伝わってしまったのだろうか。

少しずつ、自分を見つめる。どうやら私は自覚したようだ。全て辻褄が合う。
クゼハシ先生とメールして心が浮いた気分になったのも、何でも良いから話をしたかったのも、先生に怒られていつもよりショックなのも、悲しい顔を見て胸が痛むのも、
あの優しい笑顔を私にもう一度向けて欲しいと思っているのも、一日中先生の顔を思い浮かべていたのも。
全ては私がクゼハシ先生のことを特別な意味で好きだからである。
いつから? 昨日から? もっと前からかもしれない。
いや、好きになった時期なんてどうでもいい。
私は先生に特別な想いを持っている、それをようやく自覚したのだ。

今まで色んな人を好きになった。
例えばアリス。小さい頃は私にとってはお姉ちゃんみたいな存在で、いつも彼女にくっついていた。
それがお互い年齢が上がり、身長も私の方が上になったりして流石にアリスのことをお姉ちゃんだとは思っていないけど、好きだという気持ちは昔から変わらない。
そうでなければわざわざ彼女を追って日本に来たりはしなかったし。
日本に来てからはシノ、アヤヤ、ヨーコ、ホノカ、と好きな人がたくさん増えていった。
私の日常は好きな人に囲まれた幸せな世界だ。

けど、そんな世界にポツンと大きな木が突如現れた。いや、正確に言えば前から少しずつ存在していた。
それはきっと初めは小さな木で、今まで霧がかかって見えなかったんだろう。
それがいつの間にかどんどん大きく成長していって、今日と言う日に突然霧が晴れ私の目の前に現れたのだ。
私の心にしっかりと大きな根を張り、とてもじゃないが動かすことの出来ない大きな大木。
けどその木には綺麗な花や可愛い花、刺々しい花など色んな花が咲いていて私を魅了する。
どうやら私はその花を咲かせる木の虜になっているようだ。

他の好きが霞んでしまいそうなぐらい、大きな大きな木。
どこまで伸びているのか分からないほど大きい。
けど確かに存在している。私は今までどうしてこんなにも大きな木に気づかなかったんだろう。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:39:16.74 ID:pBWuK89Eo
綾「あ……えっと……」

硬直状態だったアヤヤがようやく声を出す。
私もようやく瞬きすることを思い出し、半開きになっていた口も閉じた。

綾「ご、ごめんなさい、変なこと言っちゃったかしら……。しゅ…宿題の続き、しましょうか……」

そう言うと突然英語の教科書を取り出しノートに単語を書き始めた。
どうやら冷静な状態ではないらしい。私もだけど。

綾「カ、カレンは確か、好き人がいたわよね。えっと……なんだっけ……そう、アレクサンドロスくん! そうだったわよね!?」

私に話しかけていながらも目はノートから動かないアヤヤ。手も単語を書いていて止まらない。
ちなみにアレクサンドロスくんとは私が読んでいる漫画のキャラクターである。
なぜ今になってそんな話題を出すのかと言うと、たぶんさっきの話をなかったことにしたいからだろう。
しかし今の私にはアレクサンドロスなんて男はどうでもよくなっていた。もはや顔も思い出せない。

綾「後あのキャラも好きだって言ってたわよね! えっと、えっと……パリスくんだったかしら!」

もう私より動揺しているのではないだろうか。視点が定まっていない。
ノートにはいつもの綺麗な字ではなく、ミミズの這ったような字がびっしりと書かれていた。正直怖い。

カレン「ア、アヤヤ……ここは図書館なので静かにした方がいいデス」

落ち着きのないアヤヤを見ていると私の方が逆に冷静になってきた。
アヤヤを連れて来たのは正解だったかもしれない。
いなかったら私の方がずっとこうなっていただろう。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:39:43.68 ID:pBWuK89Eo
綾「あ……ご、ごめんなさい」

ペンを持っていた手が止まり、我に返ったのか辺りを見回した。
幸いなことに周りには人が少ないので注目を浴びることはなかったが、これがもし大勢に囲まれていた状況だったらどうなっていただろう。
女子高生二人が不審な行動を取っていると通報されていたかもしれない。

お互い合図をして、深呼吸で気持ちを整えた。
と言っても心臓はいまだにハイペースで動いているし、手も震えている。
顔は火照っていて、まるでお風呂にでも入った後みたいだった。

しかし悪い気分だけではない。
今まで心の奥に隠されていた先生に対する好意が全て解放されて清々しさも多少あった。
そして改めて自分の気持ちを自覚する。これはきっと生まれて初めての恋。初恋というやつだ。

カレン「アヤヤ……」

綾「な、なに……!?」

びくっとした反応に私の方もびくっとしそうだった。
それを堪えてアヤヤに話し続ける。

カレン「私……気づいちゃったデス」

綾「……」

アヤヤはごくりと息を飲むと、再び私の方をじっと見つめてきた。
私も内心ドキドキだ。けど誰かに話せば気持ちが落ち着くかもしれない。
そうあってほしい。一生このままは正直辛い。

カレン「クゼハシ先生のことが……好き、デス……」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:40:20.01 ID:pBWuK89Eo
綾「……そ、そう」

カレン「そうデス……」

また無言に戻る。館内の時計の音がはっきりと聞こえた。
時計の針は私の気持ちなんかどうでもいいと言うかのように相も変わらず進んでいる。
私以外の世界は無慈悲なものなんだなと実感するが、隣のアヤヤは私の目を真剣に見てくれていた。

それはすごく安心するものだった。
吐き出すことで落ち着くと思っていた気持ちは、繊細なものだったようで、今にも壊れそうだ。
嬉しさも怖さも希望も絶望も、あらゆるものが私の心に絡まり複雑なものになっていく。
自分でも驚く。わけが分からず涙が浮かびそうになったが、曝け出したものをアヤヤが受け止めてくれたおかげでなんとか踏みとどまれた。

カレン「私、おかしいデスか……?」

おかしいって何が?
同学年ではなく年上を好きになったこと?
その相手が先生で私の担任だということ?
そしてそれが女性であるとういこと?
なんていちいち考えている余裕もなく、それはただ漠然と出しただけの言葉だった。
答えなんて求めていない。
そんなことを聞かれるアヤヤの立場からしたら困ったものかもしれないけど。

綾「あ、あのねカレン……。大丈夫よ……」

私の左手をアヤヤが両手でぎゅっと握る。
私と同じく震えていたが、温かかった。

綾「大丈夫……大丈夫だから……」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:40:54.43 ID:pBWuK89Eo
声も震えていた。とにかく大丈夫と繰り返すアヤヤ。
それはまるで自分にも言い聞かせるようにも見えた。
ただ、口ではそう言うもののその様子はあまりにも大丈夫ではないので、そんなギャップに思わず笑ってしまう。

綾「な、なにが可笑しいの」

カレン「だって、なんだかアヤヤの方が泣き出しそうデスから」

綾「へ!?」

うっすら涙が出ているのに自分では気づかなかったのだろうか、驚いて目をパチクリさせている。
そんなアヤヤがまた面白くて、可愛くて、また笑ってしまった。
でも私もちょっと泣いていた。鼻が少し詰まっている。

綾「わ、笑わないでよ。やだ、どうしちゃったのかしら私……」

カレン「あははっ。……ありがとうございマス、アヤヤ」

綾「え?」

カレン「アヤヤのおかげで、気分がほぐれたデス。アヤヤはまるで、私のこと癒してくれる……子うさぎのような存在デスね」

綾「なっ……ど、どんな例えよそれ」

私としては最上級の褒め言葉だったのだけど、あまりお気に召してないようだ。
ふるふるしているところとか可愛くてそっくりなのに。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:41:57.58 ID:pBWuK89Eo
ともあれ、アヤヤのおかげで私を付きまとっていた不安感がどうでもよくなったことは確かだった。
けど胸の中では衝動的な何かが疼いているのも確かで、気持ちは高揚し続けていた。

クゼハシ先生のことが好き……。

不思議だ。不思議すぎる。
初恋というのは恐らく誰もが経験するのだろうけど、私の場合はそれが年上で先生で女性である。
そんな経験をする人が、世界中でどれだけいるだろうか。きっと数えられるぐらいしかいない。
でもどんな初恋にせよそれを経験した人はみんなこう思うだろう。
『好き』って、こんなにも嬉しいものなんだ。

綾「カレン、それより宿題はどうするの? 今日中に提出するんでしょ?」

涙はふき取っていたがアヤヤの目は赤いままだった。
強がっていてもそれを隠そうとしているのはバレバレである。
なんでアヤヤが泣いてしまったんだろう。
……まぁいっか、と疑問は頭の隅に行きまた笑ってしまった。

綾「も、もうっ。やる気ないなら帰るわよ」

カレン「あっ、ありマスありマス!」

帰るふりをしたアヤヤを引きとめ、再び宿題と対峙する。
ここに来た時のような憂鬱な気持ちはすでに吹き飛んでいて気分は爽快。
隣にいる大切な友人に感謝しつつ、ペンを走らせるのであった。
ありがとう、アヤヤ。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:43:16.29 ID:pBWuK89Eo
・・・・・

時計は6時近くになっていた。
この時間ならまだ大丈夫、と思いつつも急いで図書館を出た。
宿題はアヤヤのおかげで完璧に仕上がった。これからはちゃんとやるので、どうにか先生に許してもらえますように。

学校に着くと運動部が遅くまで活動していたからだろうか、校門はまだ開いたままだった。
下駄箱で靴を履き替えるのを忘れそうになり、アヤヤに注意される。
慌てて履き替えるが、焦って上手く履けない。

綾「私も一緒に行ってあげようか……?」

心配そうに声をかけてくれたアヤヤも靴を履き替えようとしていたが、ここから先はどうしても一人で行きたかった。

カレン「ありがとうございマス。でも大丈夫デス、宿題を渡すだけデスから」

ようやく上手く履けた。すぐさま職員室へ向かう。
私の心臓は走ったせいもあるか今までにない以上に音が高鳴っていた。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:44:01.00 ID:pBWuK89Eo
職員室の扉。
いつもならなんとも思わないけど、今日はもの凄く威圧感と重々しさを感じる。
この先にクゼハシ先生がいる……のだろうか。
辿り着いてから気づいた、もう帰ってしまった可能性もあるかもしれないと。
その場合はどうすればいいんだろう。先生の机に置いておけばいいのかな。
いや、こればかりは今日中に、なんとしても手渡しで直接渡したい。
なら先生の家に行けばいい、と思ったが住所を知らなかった。
こんなことなら昨日強引にでも先生の家に言っておくべきだったのに……私のバカ。

烏丸「どうしたんですか? カレンさん」

背後からの声に身体がざわめいた。
振り返るとそこには優しそうな笑顔のカラスマ先生がいた。
この笑顔は、ほっとできる。

烏丸「職員室になにか用ですか?」

カレン「えっと……クゼハシ先生に用事があるデス」

手に持っていた宿題を後ろに隠し、笑顔を作った。
この笑顔は先生のと違って多少引きつっているかもしれない。

烏丸「久世橋先生? 今ちょうどいますよ。さ、どうぞ入って入って」

それを聞いて安心したが、同時にに緊張が走った。
いよいよクゼハシ先生とご対面である。
今日の放課後、怒らせ、悲しませてしまった先生と。

今のクゼハシ先生は私に会ったら何を思うんだろう。
顔も合わせてくれないようだったらショックで死んでしまいそうだ。
私が死んだら先生は泣いてくれるのかな。……いや、やっぱり死にたくはない。
先生には笑って欲しいし私も笑いたい。
つまり、全て丸く収まると願うしかなかった。
でも会うのはやっぱり緊張する。

そんな私の思いもつゆ知らず、カラスマ先生は職員室の扉を軽々と開けた。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:44:55.34 ID:pBWuK89Eo
目の前に職員室の景色が広がる。教室とはまるで違う景色。
奥の方にいる久世橋先生の姿をすぐに見つけることができた。
自分の席に座りうつむいていて、表情は見えなかったけどなにやら落ち込んでいる様子は感じ取れる。
私のせいだろうか。また罪悪感がわいてきて、胸がざわつく。

烏丸「久世橋先生〜、カレンさんが先生に用があるそうですよ〜」

心の準備がまだできていないのにすぐにクゼハシ先生を呼ばれてしまった。
内心ぎょっとする。クゼハシ先生も驚いた顔でこっちに視線を向けた。
その顔を見て私の身体が硬くなる。

またさらに緊張してきた。嫌な緊張の方だ。
クゼハシ先生のことが好きだと分かったが、放課後のことはまた別問題である。
ここで失敗したら元も子もなくなる。ちゃんと謝らなければ。

一歩一歩、ゆっくりとクゼハシ先生に歩み寄る。
緊張しすぎてクゼハシ先生の顔をよく見ることが出来ない。
怒っているだろうか、眉間にはしわができているだろうか。
息苦しい。クゼハシ先生の周りは酸素が薄いのかな。酸素ボンベでも持って来ればよかった。
なんて冗談で気を紛らわせようとしたがそれもあまり効果がなく、先生に近づくにつれより一層重苦しくなっていく。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:45:55.19 ID:pBWuK89Eo
とうとうクゼハシ先生の目の前までやって来た。
先生は座ったままだ。が、目を合わせることが出来ず視線は膝の方へと行ってしまう。
先生の脚……きれい。

久世橋「九条……さん?」

クゼハシ先生の声で我に返り、そのまま先生と目を合わせてしまった。
緊張が最高潮に達する。胃がひっくり返りそうだった。

カレン「あぇ……ぅぐえ……」

謎の鳴き声になってしまった。先生も不審そうな顔になってしまってる。
こんなのいつもの私じゃない。いつもの私なら何も考えず勢いバーッとやってガーッとするはずだ。
戻って来い、いつもの私。

カレン「クッ……クゼハシ先生!」

今度はハキハキと大きな声を出せたがチラっと先生の方を見ると、目をパチクリとしていた。
驚かせてしまったようだ。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:46:49.10 ID:pBWuK89Eo
だが一度勢いをつけたら後はなんとか乗り切るしかない。
このまま言いたいことを吐き出す。

カレン「すみませんデシタ! 反省して宿題もちゃんとやってきたデス! だから、どうか許してくださいデス!」

久世橋「えっ、いえ、あの……え!?」

カレン「ごめんなさいデス!!」

なんとしても先生の許しが欲しい、必死に頭を下げた。
十秒、二十秒、と数えているわけではないが感覚的にはそれぐらいずっと下げっぱなしだっただろうか。
それしか頭になかったので周りの状況が見えなかったが、少し頭を上げるとどうやらクゼハシ先生はあたふたとしているようだ。
さらに上げてみる。

久世橋「く、九条さん! そこまでしなくていいですから!」

頭が真っ白なのでよく聞こえなかったが、なにやら困っているようだ。
私のせいだろうか。ならばさらに頭を下げなければ。

カレン「ごめんなさいデス!!」

久世橋「九条さん!?」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:47:25.18 ID:pBWuK89Eo
いっそのこと土下座もしようかと考えたがその前に先生に止められてしまった。
謝ることに関しても私はなにかミスを犯してしまったのだろうか。だとしたら私にできることはもうない。終わりだ。
絶望しているとカラスマ先生が私にイスに座るよう促してきた。どうやら自分の席のイスらしい。
これからお説教が始まるのだろうか。ああ……死にたい。

イスに座りクゼハシ先生と真正面に向き合う。ここでようやくハッキリと先生の顔を見れた気がする。
また身体が固くなる。脚はきっちりと閉じ、無意識のうちに背筋はピンとなっていた。

久世橋「いきなりそんな風に謝られても困ります」

いきなりが不味いとすると事前に予告が必要だったのか。難しい。
しかしクゼハシ先生の顔は怒っているというわけでもなく、なんだかこちらの様子をチラチラと気にしながら落ち着きのない感じだった。

久世橋「それで、宿題をやってきたということですが……」

カレン「ハ、ハイッ」

鞄から慌てて宿題を取り出す。
取り出したときに少しクシャクシャになってしまった端の部分を綺麗にし直してから、両手できちんと先生に差し出した。

先生は私の宿題をただじっと見つめているだけだ。
私もじっと、無言で先生の反応を待つ。
後ろにいるカラスマ先生が「わざわざ宿題を持ってくるなんて偉いですね」と声をかけてくれたが、あんまり褒められた気分にはなれなかった。
私にとっては持って来ざるをえない状況になってしまっただけであって、本来ならばちゃんと期限を守って提出をしてクゼハシ先生に褒められたかったものだ。
今さら後悔してもとっくに遅いけど。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:48:26.34 ID:pBWuK89Eo
久世橋「……」

クゼハシ先生の無言は続く。息苦しさとその場にいられないような感覚で今にも職員室から走って出て行きたい気分だ。
不慣れな姿勢のせいか背中が疲れてきたところで、先生がようやく口を開けた。

久世橋「確かに受け取りました……次からは忘れたりしないでくださいね?」

先生の口元が緩むのがはっきりと見て分かった。
その顔を見て、張り巡らしていたものが全て解けていく。
背中の疲れも、心の緊張も、なにもかも全て吹き飛んでいった。

カレン「じゃ、じゃあもう許してくれるデスか……?」

久世橋「なんのことですか?」

カレン「だって先生、宿題を忘れた私のこと嫌いになったんじゃ……」

久世橋「そ、そんなこと誰が言っていたんですか!?」

驚く先生。誰が言っていたわけでもなく私がそう思っていたなのだけれど。
……あれ、ということは先生は私のことを嫌っていないということ?

久世橋「九条さんの忘れ癖については参っていますけど、そんなことで嫌うはずがありません」

カレン「先生……!」

先ほどの暗く重かった時間が華やかになるような感じだった。
絶望が希望へ一気に反転し、胸が高鳴り、思わず身体が前のめりになる。
嫌ってないということは、先生は私のことを……。

久世橋「九条さんのミスなんて全て計算済みです。それぐらい担任として慣れました」

にっこりと、自信ありげな口調で先生はそう言った。
クゼハシ先生、その笑顔はあんまり嬉しくないかも。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:49:27.12 ID:pBWuK89Eo
久世橋「ですが先ほども言ったとおり、次からは忘れ物に気をつけてくださいね」

少しきりっとした顔つきになったが、怒っているわけでもなさそうだ。
凛々しい先生の顔も今ではかっこよく見え、改めて私は先生に惚れたんだなぁと実感できた。

久世橋「聞いているんですか?」

ぽけーっとしていた私を不審に思ったのか、先生は眉をしかめる。
慌てて姿勢をただし「ハイッ」答えた。

久世橋「ならいいです。それと……」

数秒、先生の言葉が止まった。なにやら考え事をしているように見える。

カレン「なんデスか?」

久世橋「い、いえ……。なんでもありません。遅くなるといけないから、今日はもう早く帰りなさい」

先生が言いかけた言葉が疑問となり頭に残ったが、今日は素直に先生の言うことを聞いたほうがいいだろうか。
いっそのこと、このまま好きだという気持ちも伝えてしまいたい気分だけどそれもまだ早すぎる。
当然だけど先生もまだ私の気持ちに気づいてはいないし、時間をかけタイミングを見計らってからにしよう。
正直言うと私もまだ気持ちの整理がついてはいないんだけど。

久世橋「九条さん」

鞄を持ちイスから立ち上がり帰ろうとした際に、先生が声をかけてくた。

久世橋「また明日」

全身が熱くなる。その言葉は今日一日で一番幸せな瞬間と言ってもいいほど十分なものだった。
この一瞬を神様に感謝したいぐらいだ。
また明日、先生と会える。先生は明日も怒るかもしれないし笑うかもしれない。
それでもまた明日には、会えるんだ。私の『好き』は明日も続いていく。

カレン「ま……また明日デス! 先生!」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:50:38.16 ID:pBWuK89Eo
・・・・・

カレン「アヤヤーッ!!」

下駄箱の前で待っていたアヤヤを見つけると、私は彼女に向かって勢い良く飛び掛り抱きしめた。
この嬉しさを表現せずにはいられない。それにアヤヤには今日手伝ってもらったこともあるし、一番に感謝している。
アヤヤの方は抱きつかれて困っているけど、私はさらに強く抱きしめ内から湧き上がる幸福感を開放していた。

綾「カ、カレン? その様子だと……大丈夫だったみたいね」

カレン「ハイ! 先生もまた明日って言ってくれたデス!」

綾「明日?」

カレン「明日もまた先生やアヤヤにも会えるデスよ!」

アヤヤはよく分かっていない感じだったが、私の気持ちは察してくれたらしい。
「よかったわね」と微笑んでくれた。

カレン「そうだ! アヤヤに何かお礼をしなくちゃデスね!」

両手は肩を掴んだままで抱きついていたアヤヤから離れ、何をどうお礼すればいいか頭の中で考えを巡らせる。

綾「お礼なんていいわよ。私は大したことしたいんだし」

困ったように笑っているが、何かお礼をしないと私の気がすまない。

カレン「あっ、遊園地のチケットがあったはずなのでそれを明日アヤヤにあげるデス」

綾「遊園地……?」

カレン「あともう一枚はヨーコにあげマスから、二人で一緒に遊びにいくといいデス」

綾「な、なんで陽子と二人っきりなのよ!?」

とか言いつつも真っ赤になっているアヤヤは満更でもなさそうに見える。
やっぱりこのお礼がベストなようだ。明日は忘れずに持ってこなきゃ。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:54:14.36 ID:pBWuK89Eo
・・・・・・

あの後アヤヤとは駅で別れ、私はそのまま自宅まで真っ直ぐ帰宅した。
気づいたらもう夕飯の時間だったけど、一旦自分の部屋に入り鞄を放り投げベッドの上にダイブした。
制服がしわになるかどうかなんて今の私は気にもせず、この幸せな気持ちにずっと浸っていたい気分だ。
ベッドの上で枕を抱えながらクネクネ動く私は他の人から見たら気持ち悪いことこの上ないだろう。
それでも嬉しいのだから仕方ない。

私は恋をした。
その人は年上で担任で女の人だ。
おかしなことだというのはさすがの私でも分かっている。
じゃあこの幸せな気持ちもおかしいもの? そんなはずはない。自分の気持ちは否定しようのないものなんだ。
今幸せだと感じている私は確かにここにいるし、それを無理やり押し殺してつまらないことはしたくない。
誰がなんと言おうと、産まれて初めて体験したこの感覚は絶対に間違ってなんかいないし大切にしたい。
私はクゼハシ先生のことが『好き』だ。

携帯を取り出し先生のアドレスを開いた。
なんて書こうか。書きたいことは山ほどある。
けどあれこれ書いたらまた怒られてしまう。それにまだ仕事中だろうし……。
ならとりあえず一言、「お疲れ様デス」と顔文字も。送信。

ママが呼んでいる。ご飯ができたのかな。
書きたいことはいっぱいあるし、伝いたいこともたくさんあるけど、今は少しずつ進もう。
まずは腹ごしらえからだ。ご飯を食べ終わって戻ってきたら返信があるかな。
携帯を充電器に挿し、着替えてから私はママの元へ向かった。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/02(土) 22:58:04.04 ID:pBWuK89Eo
ここまでで第一章的なものは終わりです
次からはまた久世橋先生視点から始めます
GW中は忙しいのでちょっとお休みします
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/03(日) 01:00:10.81 ID:m49q+mvbo
あら^〜
いいですわゾ^〜
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/03(日) 01:05:00.78 ID:7FwzeQBP0
ひとまず、乙です
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/03(日) 14:15:37.14 ID:B/Bgm2avo
乙デース
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/04(月) 21:02:02.14 ID:C+tkEMcZ0
私待つわ。いつまでも待つわ。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/08(金) 04:11:42.50 ID:YWZXQUWY0
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/09(土) 00:53:59.15 ID:gEyV5+QR0
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/09(土) 01:23:40.84 ID:wVqz6EDAo
うむ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/09(土) 02:35:01.82 ID:zhHcX4LJo
らん
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/09(土) 16:56:42.38 ID:fFMDkgS60
まらか〜〜〜〜〜〜
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/09(土) 23:39:33.00 ID:gEyV5+QR0
ふぅ
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/10(日) 01:38:48.22 ID:462P+uKfO
あばば
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:01:05.94 ID:iVCv6gUZo
―――――――――――――――

九条さんの行動は私の頭を悩ませる。
この前、何度目かは忘れたが九条さんが宿題を忘れたときは流石にへこんでしまった。
というのもその出来事が起こるちょっと前に「家庭科に割く時間を他の教科の勉強に回したい」という生徒の立ち話が耳に入ってしまっていて、
その教科を教える立場の私としてはひどく自信を失ってしまい、その後の九条さんの件は私にとってさらに追い討ちとなるものだったからだ。
発言をした子は二年生で、恐らく早いうちから受験を見据えているのだろうけど、あそこまでストレートに言われてしまうと立ち直れない。
そういう時は怒るような気分にもなれず、頭の中はかえって冷静になりただ落ち込むしかなかった。

だから九条さんがわざわざ宿題を当日までに間に合わせて持ってきた時は感動したし、救われた気分にもなった。
本来なら当たり前のことでもあるが、そこは九条さんである。彼女の日ごろの行いとはかけ離れていたからこそ感動してしまったんだろう。
必死に頭を下げられるとこっちの罪悪感を抉られているようで心苦しいものがあるので、あそこまでやらなくてもいいと思ったけど。
それでも、きっかけは分からないけど九条さんの意識が少しでも変わったのなら良いことなのだろう。

そう、確かに彼女は変わった。
変わったのだけど……なんだか違和感がある。
例えば授業中も集中しているようでしていない、板書を見ているようで見ていない、私ばかりを見ている気がする。
授業以外の時間も、朝のHRや昼休み、放課後も彼女の視線を感じる。
自意識過剰なのかとも思うが、それでもなぜ九条さん相手に自意識が過剰になる必要があるのかと疑問が出る。
一緒に休日を過ごしたことがあったり、メールをしたりして他の生徒よりも時間を共有する機会が多いからだろうか。
気づけば一日に一度以上は必ず九条さんが頭の中に出現する。
彼女は常に私を悩ます存在のようだ。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:01:46.39 ID:iVCv6gUZo
放課後になり、残りの仕事も終え職員室で帰りの支度をしていると携帯が鳴った。
開くと‘いつも’の九条さんからのメールだ。時間を見計らってか、だいたい仕事上がりの頃にメールがやってくる。
九条さんとアドレスを交換して一週間以上経ったが、この期間携帯を手に取る機会が増えた。
メールが多すぎると注意し多少は減ったが、それでも毎日三回以上は九条さんからメールが送られてくる。
まぁ、正直言って九条さんからのメールは気分が悪いものでもなく、
こんな風に友達感覚でやりとりしてもいいのかと疑問は残りつつも生徒と触れ合える貴重な機会なので少し楽しんでしまっている。

九条さんの文面は相変わらず可愛らしい。とりあえず返信。
私が学生時代の時にはここまで携帯に触れていただろうか。今ではメールを書く動作もずいぶん手馴れたものになった。
私が書く文は短い挨拶やちょっと説教っぽい内容になったりした文なのだけど。
もっと可愛らしい文を書けるようにしたい。

烏丸「最近よくメールが来てるみたいですね〜」

右隣の席の烏丸先生に声をかけられ、はっとする。
烏丸先生が気にかけるほど携帯に触れる頻度が多いのだろうか。

烏丸「誰からなんですか?」

久世橋「いえ、えっと……」

素直に答えていいのか戸惑ってしまう。
生徒とメールしていることを公表しても良いのだろうか。悪いことではないだろうけど、立場上なんだか気が引けてしまった。

烏丸「まさか……恋人ができたんですか!?」

私が考えている間に烏丸先生はあらぬ方向に答えを導き出してしまったようだ。

烏丸「け、結婚式には呼んでくださいね……」

様々な過程をふっ飛ばし、結婚まで至ってしまっている。
ここまでくると、それはもはやただの妄想だ。
烏丸先生は僅かながらショックを受けているようにも見えるし、ここで訂正しておかないと式のスピーチは私に任せてくださいと言い出しそうだ。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:02:31.25 ID:iVCv6gUZo
久世橋「そんなわけないじゃないですか。落ち着いてください」

だいたい結婚するなら私より烏丸先生の方が先ではないだろうか。
ほんわかした雰囲気とか、お嫁さんにぴったりだし。
旦那さんになる人が羨ましい。

烏丸「じゃあ、誰なんですか?」

言葉が詰まる。話題が振り出しに戻ってしまった。
しかしここでまた黙ってしまっても変な方向に勘違いされそうなので、素直に言うしかないようだ。
素直に……無理かも。

久世橋「と、友達です」

烏丸「そうだったんですか。仲が良いんですね〜」

九条さんが生徒から友達にランクアップしてしまった。
あくまで彼女は私の中で生徒であり決してそれ以上の関係とは思っていないけど。
ならこの嘘にはなんの意味が? 意味なんてない。真実を言いづらいだけだ。
烏丸先生に嘘をつくのは心苦しいけど、それでも納得してくれたのでこっちとしては一安心だった。

話をしている間に机は片付け、荷物もまとめ帰りの準備は整った。
烏丸先生も同様に席を立つ。

烏丸「それじゃあそろそろ帰りましょうか」

久世橋「はい」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:02:57.69 ID:iVCv6gUZo
校門を出て烏丸先生と一緒に、横並びで駅まで向かった。
この時間は仕事の話をするわけでもなく、なんでもない会話を先生と楽しくできるので大好きだ。
私にとって烏丸先生は憧れでもあるので一緒にいられるだけで幸せものである。

烏丸「あっ、そうだった」

先生が何かを思い出したように声をあげた。

烏丸「ちょっとコンビニに寄ってもいいですか?」

久世橋「またですか?」

烏丸「はい。家の冷蔵庫になもないから、お弁当買って帰ろうかなって思って」

その言葉を聞いたのは今月に入って五度目だった。
どうも先生の家の冷蔵庫はすっからかんになっていることが多いらしい。
自炊とかしないのだろうか。家庭的な雰囲気もあるのに。

ちなみに先生がいつもコンビニで買っているのはから揚げ弁当にビール、おつまみとレジ前のショーケースに売られている揚げ物だ。
私のイメージするゆるふわな先生とはかけ離れた食事内容だし、家庭科を担当する教師としても栄養面であまりいい食事だとは思えない。
というよりなんだか悲しいものがある。

そんなことを思っている私の傍らで、烏丸先生はうきうきとコンビニの中へ入っていった。
ため息をして、私もその後に続く。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:03:30.32 ID:iVCv6gUZo
烏丸「今日はハンバーグ弁当にしてみようかな〜」

楽しそうにお弁当を選んでいるが、コンビニ弁当ばかりだと私の方は心配に思ってしまう。

久世橋「先生はご自分で料理とかされないんですか?」

堪らず聞いてみた。
お弁当売り場から背後にいる私の方へと視線を移動した先生の顔は、図星を突かれたかのように少しオドオドしていた。

烏丸「つ、作りますよ? 作りますけど……最近買い物する時間がなくって」

なんだか口調が怪しいが、嘘をつくような人でもないしとりあえずそうなんだろうと納得した。
買い物に行けてないのなら仕方がない、作りたくても作れないんだろう。
ならばここは後輩として、烏丸先生の手助けをしなければ。

久世橋「あの、よかったらうちに作り置きの料理があるんですけど……」

声が萎んでいってしまった。
烏丸先生に栄養のあるものを食べて欲しいと思い手作り料理を振舞おうとしたが、
いざ言葉に出すと案外勇気がいるみたいだ。先輩を家に招こうとするなんて。

きょとんとする烏丸先生。
さすがにこのままでは気まずいのでなんとか続けて声を出してみようとがんばってみる。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:04:18.57 ID:iVCv6gUZo
久世橋「その、昨日肉じゃがを作りすぎて、たくさん余ってしまいまして……烏丸先生にもどうかと思いまして」

なんだか締まりがない言葉だなぁと思いながらも、とりあえず伝えたいことは伝えられた。
けど先生から視線を外してしまう。照れもあるし、もし断られたらという考えが頭の中をかすめ自信がなかった。

烏丸「本当ですか!」

不安がる私の前で弾んだ声が聞こえた。烏丸先生は満面の笑みで私のことを見つめている。
先輩相手に失礼かもしれないが、もの凄く可愛らしい笑顔だ。
どうやら私の提案を喜んでくれているようで、ほっとする。

烏丸「ぜひお願いします。久世橋先生の作るご飯、食べてみたいです」

烏丸先生が期待で目を輝かせているのは私が家庭科の教師だからだろうか。
料理に関しては自信がないわけではないけど、期待されるとそれはそれで緊張してしまうわけで。

久世橋「でも、簡単に作ったものですよ? ほんと、手のこんだものじゃなくて……それでよかったら……」

自分で誘っておきながら予防線を張るのはどうだろうかとは思うが、つい口に出てしまう。
烏丸先生のことだから、私の料理の腕前がプロ級だと飛躍して考えそうだし。

烏丸「久世橋先生が作ったものならなんだって構いませんよ。食べさせてもらえるだけでも嬉しいです」

久世橋「あ……はい。じゃあ」

嬉しいという言葉に私も嬉しくなる。勇気を出して誘ってよかったと心の中でガッツポーズをした。
私たちはコンビニを出てそのまま私の家に向かった。
夜風は冷たいが、私の身体は少々の緊張と興奮でほてっている。
人に料理を食べさせるなんていつ以来だろう。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:05:24.16 ID:iVCv6gUZo
・・・・・

久世橋「どうぞ、入ってください」

烏丸「おじゃまします」

玄関を開け、家の中に招き入れる。
この家に引っ越してから、誰かを呼ぶなんてことは初めてだったのでこの状況はなんだか新鮮な感覚だった。
靴を脱ぐだけでも先生の視線が気になってしまう。
そういえば前に九条さんが家に来たいって言ってたっけ。あの時は断ったけど。

烏丸「わぁ〜。久世橋先生のお部屋綺麗ですね」

部屋の中に入っての第一声がそれだったので嬉しくなる。
こういう時のため、というわけでもないが常日頃から人に見られても恥ずかしくないように部屋の掃除はこまめにしておいてよかったと思える。
帰宅したのに気づいたのか、ペットの猫が私たちの方へ駆け寄ってきた。

烏丸「あっ、これが前に言ってた猫ちゃんですね」

烏丸先生には以前ペットを飼っていると話をしていたので、すぐに私の猫に反応した。
先生はうさぎを飼っているからだろうか、慣れた手つきで私の猫を撫でていてまったく嫌がられていない。

久世橋「その辺で楽にしていてください。今準備しますね」

ソファのあるリビングに先生を誘導し、私はキッチンへ向かった。
さて、昨日の肉じゃがを温めなければ。

久世橋「……」

コンロの火をつけてから、数秒考え込む。
肉じゃがだけでいいのだろうか。せっかく来てもらったんだし先生にもっとご馳走してあげたい。
今からで何か作れないか。お味噌汁やサラダなら……すぐにできる。
そうと決まれば冷蔵庫を開け材料を取り出し、調理器具を準備し急いで調理にとりかかった。

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:06:32.85 ID:iVCv6gUZo
・・・・・

久世橋「どう……ですか?」

誰かのために料理をするなんて久しぶりだったので、恐る恐る聞いてみた。
対面にいる烏丸先生は、テーブルに並べられた料理をもくもくと口に運んでいる。
その顔は笑顔だったのでどうやら不味くはないらしい。よかった。

結局肉じゃがとご飯以外にもお味噌汁とサラダ、後デザートにうさぎの形に切ったりんごを用意した。
どれも美味しそうに食べてくれて安心する。私が食べているわけでもないのに、こっちまで幸せな気分になってしまいそうだ。

先生が右手に持っていたお箸をお茶の入ったコップに持ち替え、それを飲んだ。

烏丸「はぁ……最高です。こんな美味しい料理が食べられるなんて」

久世橋「そ、それほどまででも」

烏丸「久世橋先生は食べないんですか?」

久世橋「あ……」

そういえば作ることばかり夢中になっていて私の分を用意するのをすっかり忘れていた。
作っただけでもう満足してしまってあまり空腹感はしないのだけれど。

久世橋「今日は、もう大丈夫です。お腹も減ってないですし」

烏丸「そんな、もったいないですよ! こんなに美味しいのに」

といっても昨日私も食べたんですけどね、その肉じゃが。

烏丸「お一口だけでもどうぞ。はい」

そう言うと先生は再びお箸を手に持ち私に肉じゃがを差し出してきた。
……え?

烏丸「アーン」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:07:04.74 ID:iVCv6gUZo
久世橋「ええっ!?」

思わず声が出る。すぐに先週のことを思い出した。
九条さんと食事をした時、彼女にやられたことだ。
アーン。その出来事が再び私の前で起きた。
なんなんですかそれ、女性同士では普通のやり取りなんですか。

驚いている私のことなんて気にもせず、箸は肉じゃがを挟んだまま前に出ていた。
烏丸先生はどうしたのかと私の顔を覗いている。

烏丸「食欲ないんですか? 体調不良とか?」

不良どころか突然の出来事で身体中が変に活発しているのが分かる。
あの烏丸先生にアーンしてもらえるなんて、幸せなような恐れ多いような。

烏丸「元気がない時こそ、食べなきゃダメですよ」

なんだかこんどは心配させてしまったようだ。
グズグズしていては申し訳ない。

久世橋「た、食べます食べます!」

ちょっと興奮してしまったのでくい気味になってしまった。
変かな。恥ずかしい。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:09:25.67 ID:iVCv6gUZo
久世橋「あ……あーん」

不慣れな感じで口を開ける。
この前はできなかったが、今日は出来た。産まれてはじめての体験。
うん……緊張で味がよく分からない。

烏丸「美味しいでしょ?」

久世橋「は……はい」

口の中でジャガイモがコロコロと回っている。
飲み込めないというか、飲み込むのがもったいないというか。
幸せと恥ずかしさで両手で顔を隠してしまった。顔が熱い。
世の女性達はこういうことを平然とやっているんだろうか。
私が意識しすぎなのだろうか。

烏丸「うん、やっぱり美味しいですね」

先生が再び肉じゃがをつまみ、箸を口の中に含んだ。
含んだ。

これは……ひょっとして間接キスというのをしてしまったのでは。

久世橋「……」

再び顔が熱くなった。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:10:08.46 ID:iVCv6gUZo
・・・・・

烏丸「ふぅ……美味しかったです。ご馳走様でした」

目の前のお皿を綺麗さっぱりにして、先生は満足そうにお礼をした。
私もあの後りんごを何個かつまんだりしたが、衝撃的な出来事の後だったので味はまったく分からなかった。
今は多少冷静さを取り戻しているが、身体のほてりは治まらない。

烏丸「先生は本当に料理上手ですね。きっといいお嫁さんになれますよ」

久世橋「そ、そうでしょうか」

烏丸「こんな美味しい料理を毎日食べることのできる旦那さんが羨ましいです」

褒められているんだろうけど、あんまり実感がわかない。
むしろ私としては烏丸先生の笑顔を毎日見ることのできる未来の旦那さんの方が羨ましい。
というか、私たち二人とも結婚とかするんだろうか。いまいち想像できない。
そういうことは視野に入る年齢だとは分かっているけど。

烏丸「あっ、そうだ。久世橋先生、明後日の日曜は空いていますか?」

ちょうどコップのお茶を入れ替えようとしたとき、何かを思い出したかのように烏丸先生が話題を変えてきた。
お茶を注ぎながら予定を思い出してみる。

久世橋「日曜ですか……? 大丈夫ですけど」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:10:59.08 ID:iVCv6gUZo
烏丸「実は私、行きたいところがあるんですけど一人でいく勇気がわかなくて……。もしよかったら一緒について来てくれませんか?」

久世橋「行きたいところ?」

烏丸「釣堀です」

今までの雰囲気とは全く関係のない単語が突如現れ違和感を覚える。
先生は釣竿を持ってクイクイッと魚を引っ張るマネをして見せているが、それでも私はぽかんとしたままだ。

久世橋「どうして、釣りなんですか……?」

烏丸「実はこの前、アリスさん達と釣りの話題で盛り上がったんです。アリスさん釣りが上手らしいんですよ。それで私もやりたくなったんです」

再び魚を釣るマネをして見せる。
どうやらよっぽど興味があるみたいだ。

烏丸「けど、私一人じゃなんだか行き辛くて」

久世橋「まぁ……私でよければいいですけど」

釣りなんて私もしたことがなかったけど、烏丸先生が誘ってくれるのなら行ってみよう。
休日に職場の先輩と一緒に街に出歩くのって、なんだかいかもしれない。
その相手が烏丸先生なら尚更。

烏丸「ありがとうございます! よかった、なんか久世橋先生って釣りが得意そうだから一緒に来てくれると安心です」

久世橋「や、やったことないですよ私。自信もないですし」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:12:08.01 ID:iVCv6gUZo
・・・・・

烏丸先生としばらく談笑した後、遅くならないうちに先生は帰宅した。
残っていた肉じゃがをタッパーに積め渡しておいたので、明日もコンビニ弁当で済ませるなんてことはしないだろう。
お皿も荒い終わりふぅ、と一息つきながらソファの上で少し休む。猫も隣に座っている。

そうしていたらアーンの件を思い出してきた。
恥ずかしい……のだけれど、あれが世間で普通ならば私は恥ずかしがる必要はないんだろうか。
いや、必要がなくても恥ずかしいものは恥ずかしい。慣れるのは時間がかかりそうだ。
だけど嬉しかったのも事実なわけで。否定できるものではないと思うしかなかった。
先週も、九条さんは特に何も気にせずやっていたしやっぱり普通なのか。
あの時彼女は今日の先生と同じように好意でやってくれたのかもしれないし、私も受け入れるべきだったかもしれない。
もし次にされたらアーンと口を開けてみよう。いや、私もアーンした方がいいのか。ウーン。

そういえば九条さんで思い出した、と携帯を見てみる。
案の定メールが届いていた。
もうすぐ夜中になるし、明日は土曜で休みだが遅くまでメールさせるわけにはいかない。
長々とやりとりすることは出来ないので、「今日はちょっと忙しかったので返信が遅れました。おやすみなさい」とだけ書いて送っておいた。
九条さんもよくここまで私とメールする気になれるものだ。楽しいのだろうか。
私はちょっと楽しいけど、九条さんを楽しませている自信はない。
そう考えてるうちにすぐに九条さんからの返信が来た。

「日曜日はひまデスか? また遊びに行きたいデス!」と可愛い顔文字。
ちょうど日曜は予定を入れたばかりだったので心苦しいが断るメールを返すしかなかった。
というより、よくこうも気軽に誘えるものだ。やはり私は彼女の友達の一人としてとでも見られているのだろうか。
良く言えば誰とでも分け隔てなく接することが出来るし、まぁ私も正直嬉しいといえば嬉しいけど教師として見てくれているのかという心配も……。

再び返信。
「分かりマシタ。おやすみなさいデス。良い夢を」という文の後に可愛い顔文字。
良い夢……。
今日起こったことを思い出すと確かに良い夢は見れそうだ。
また顔が熱くなっていく。
シャワーを浴びて早く寝よう。浴室から出てもこの火照りは治まらなさそうだけど。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/10(日) 10:13:00.45 ID:iVCv6gUZo
ここまでです
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/10(日) 13:55:18.54 ID:2Goz5WfQO
このもどかしさ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/05/10(日) 14:25:33.25 ID:2ENVUN7P0
雲行きが怪しくなってきたな
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/10(日) 23:55:00.73 ID:TvbuEUu5O
実際原作でもクッシーはカレンよりカラスちゃんスキーなんだよな…
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 00:47:04.14 ID:aW9oR+7o0
乙です
地の文がありですが文が読みやすくていいですね、次も楽しみです
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 02:10:52.36 ID:qxKEXUAho
ムムム…
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 23:35:31.21 ID:LNL3rG+o0
あぁ^〜
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:31:13.31 ID:SHQrum/so
・・・・・

約束の日曜日。今の時間は十二時を少し過ぎたくらいだ。
釣堀に行くということでフィッシングウェアを揃えてみようかと思ったが、流石にガチガチな格好で行くと引かれると思い諦めた。
というわけで今日は動きやすくなるようジャージっぽいスポーツウェアである。
鏡の前で身なりをチェックしてみる。
せっかくの烏丸先生とのお出かけというのに、この格好はいささか不似合いな気がした。
本当ならばお洒落してカフェ巡りとか、先生と大人の女性っぽい休日を過ごしてみたかったけど本人が釣堀を希望しているのだからしかたない。

釣堀についても、烏丸先生が困らないように事前に私が色々とチェックしておいた。
近場の釣堀ではどうやら釣った魚を調理したり持ち帰ったりすることができるらしい。
それを聞いた烏丸先生は大喜びだった。
「たくさん釣ってたくさん食べましょうね」と言っていたけど、釣り初心者二人が果たしてたくさん釣れるのだろうか。
一応釣りの入門講座という本を買ってみてざっと読んではみたが、不安である。

そろそろ出発の時間だ。最後にもう一度鏡の前でチェック。
髪は休日なので下ろしている。寝癖は大丈夫。どうせ帽子を被るけど。
服装に乱れはなし。荷物も問題なし。
気持ちは……若干浮ついている。
烏丸先生とお出かけなんて楽しみだ。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:32:41.75 ID:SHQrum/so
待ち合わせ場所は駅前の広場。時間より早く着いたのでまだ烏丸先生の姿はない。
周りも待ち合わせしているのか、ポツポツと人が集まっている。
なんとなく、カップルが多い気が……。

烏丸「お待たせしましたー」

声がした方を向くと烏丸先生が手を振りながらやってきた。
私と同じく軽装だが、ジャージはやはりいつものジャージだ。
にこにこ笑顔の先生に手を振り返し挨拶をする。
先生と一緒だと私も自然と笑顔になってしまう。

烏丸「待たせちゃいましたか?」

久世橋「いえ。私もちょうど今来たところですよ」

なんだかカップルっぽい会話だ。私と烏丸先生は女性同士だけど。
近くのカップルの同じような会話が耳に入って、なんとなく気恥ずかしくなった。

烏丸「どうしたんですか?」

周りをキョロキョロしている私を変だと思ったのか、烏丸先生が顔を覗きこんできた。
ドキッとする。変に意識しすぎなんだろうか。何やっているんだろう私。

久世橋「い、いえ。電車に乗りましょうか」

烏丸「はいっ」

恥ずかしさを誤魔化すように早歩きになってしまうが、そのせいで烏丸先生との距離が微妙に離れていく。
「そんなに急いで、楽しみなんですね」と笑われてしまったが、私の頭の中は釣りよりも烏丸先生と休日を過ごせるという期待でいっぱいだった。
釣り入門書で覚えたことは、ほとんど吹き飛んでいる。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:34:27.74 ID:SHQrum/so
・・・・・

電車で三駅、目的の釣堀は思いのほか近くにある。
何回か来たことのある土地だったが、釣堀があるというのは昨日知ったばかりだ。
馴染みがないスポットなので最近新しくできたのかと思ったが、結構前から存在しているらしい。
若干古びた木造の建物もそれを物語っている。

烏丸「なんだか興奮してきますね」

先生は魚を釣るマネをしながらはしゃいでいる。
かわいい。
目的地に着くと私も少し身が引き締まる思いだが、やはり女性二人で釣堀に入るのは違和感があった。
あんまり景色に馴染めてない気がする。
しかしそんな不安は、建物に入ってから風に吹かれるかのように消えていった。

中に入り、受付へ行こうとするとすでにそこには少女が二人。
片方は金色のツインテールで、ふわっとしたその髪は九条さんのストレートとは違い柔らかく優しい印象があり
小さな背丈も相まってまるで天使と言っても過言ではない女の子だ。
もう一方の女の子は少女漫画のお姫様が着ているようなピンクのロリータちっくな服を着ていて、黒のおかっぱ頭が浮いてしまっている。
服と髪型は水と油のようにまったく相性が噛み合っていないように見えた。
私たち以上に違和感のある存在に少しぎょっとする。

烏丸「アリスさんと大宮さん?」

横にいる烏丸先生が声をかけそれに少女二人が振り向く。
確かにその少女達はアリスさんと大宮さんだった。
休日に二人と会うなんて驚いたが、向こうも同じく驚いている。
しかし、大宮さんの方はすぐに笑顔になり私たちの元へやってきた。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:35:02.10 ID:SHQrum/so
忍「烏丸先生〜!」

スカートをふりふりさせながら寄ってくるその様は釣堀の館内の景色と合わさって最高にミスマッチだった。
大宮さん、服装にはTPOというものがあってですね。

烏丸「こんにちは大宮さん。その洋服素敵ね」

烏丸先生は大宮さんのファッションを褒めている。恐らく本心からだろう。
言われた本人は照れているので、ここは何も言わず苦笑いで流すことにした。

大宮「こんなところで会うなんて偶然ですね!」

大宮さんは嬉々としている。そういえば前にどこかで大宮さんは烏丸先生に憧れているという話を聞いたことがある。
なるほど、私と同じようだ。
フリフリと着飾っている大宮さんを眺めていると、彼女と目が合った。
数秒何も言わずただこっち見つめているだけなのでなんだろうと思ったが、その後ようやく口を開いた。

大宮「もしかして久世橋先生ですか!?」

久世橋「なんだと思ってたんですか」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:36:05.89 ID:SHQrum/so
大宮「ごめんなさい。いつもと髪型も服装も違うので一瞬分からなくて。帽子も被ってますし」

申し訳なさそうにしてるあたり本気で分からなかったようだ。大宮さんは少し天然なところもあるし、仕方ないとは思う。
しかし服装に関しては私よりも大宮さんの方が普段と断然違うのでこっちの方が一瞬本人かどうか疑ってしまうほどだ。

アリス「カラスマ先生、クゼハシ先生。こんにちは」

アリスさんが後からやって来て挨拶をしてくれた。
こっちは普段のイメージ通りのアリスさんだ。シャツにスカートといった普通の格好をしている。なんだか安心する。

忍「先生たちはどうしてここへ?」

大宮さんが首をかしげながら質問してきた。この二人が並ぶと、アンバランスさが際立つ。
大宮さんの服はアリスさんが着たほうが似合うんじゃ……いや、もうそんなことを考えるのはよそう。
これも個性だ。

烏丸「この前アリスさんの話を聞いたら、私も釣りをしてみたくなったんです」

クイクイっと魚を釣るマネをしてみせる烏丸先生。その動作は気に入ったんだろうか。だんだん手馴れた感じになっている。

忍「私とアリスも、釣りの話をしてからなんだかやりたくなったんです」

大宮さんも同じくマネをしてみせた。なんだか嬉しそうだ。
アリスさんも少し戸惑いながら、大宮さんに続いてマネをした。
なんだろうこれ。この三人すごくかわいい。
私も混ざってみたくてやろうしたが、理性がそれを引き止める。
そんな理性を振り払って架空の釣竿を持ち上げようとした瞬間、三人はポーズをやめ再び談笑をしはじめた。
完全にタイミングを逃してしまった。ちょっと寂しい。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:37:19.77 ID:SHQrum/so
・・・・・

受付を済ませ、借りた釣り道具を手に持ち私たち四人は魚の泳いでいる囲い池までやってきた。
独特の生臭さと草のにおいが鼻を通り抜ける。周囲は木がたくさんあって風がその葉を煽ると擦れた音が聞こえ自然を感じさせる。
釣堀というより自然公園の一部だと言っても違和感はない。
しかし案の定、周りはおじさんだらけで女性は私たちだけだった。
私と烏丸先生と金髪少女とロリータ少女。はたから見たらおかしな光景だろう。

釣りのできる空いた場所を探していると、ちょうど一つのスペースがまるまる空いていた。
「ここにしましょう」と烏丸先生が設置された箱型のイスの周りに荷物を置く。
烏丸先生の右隣をすぐに大宮さんが取った。先生の隣がどうしてもいいらしい。
私も同じ思いなので烏丸先生の左隣へ。そうすると結果的にアリスさんが大宮さんとは一番離れたところに座ることになった。

右から大宮さん、烏丸先生、私、アリスさんの順。
大宮さんは嬉しそうだけどアリスさんは不満だというのが目に見えて分かった。
アリスさんが大宮さんに懐いているということは私も知っているし、場所を変えるよう提案した方がいいだろうか。

烏丸「それじゃあさっそく始めましょうか」

忍「はい先生っ」

遅かった。二人はすでにノリノリで準備を始めている。
ごめんなさいアリスさん。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:38:27.13 ID:SHQrum/so
右で楽しそうにしている二人と左で不服そうにしている少女に挟まれながら、さて私も準備に取り掛かろうと気合を入れてみる。
道具は釣堀で至急された釣竿と練り餌と呼ばれる団子状のエサだ。正直ミミズや謎の虫をエサに使わなくてほっとしている。
そんなものを使おうとするなら釣りどころじゃなくなるだろう。
後は持参のクーラーボックス。烏丸先生がたくさん釣ったときのためにと用意した。
これが有効活用されるように今日は祈るしかない。

針の先にエサをつけ、こんなものかと周りを見てみる。みんな同じように出来上がっていた。
ここから水に向かって投げるわけだが、はて。どこにめがけて投げれば釣りやすいのだろう。
入門書で身に着けたにわか知識を振り絞ってみる。確か潮流の緩いところにめがけて投げると書いてあった気が。

久世橋「……」

だめだ、その潮流が分からない。どこがどうやら
困っている私を尻目に三人はそれぞれ思うところに釣り糸を投げていた。
私もいつまでも空中にエサをぶら下げているわけにもいかず、直感で投げることに。

確か深さは一メートルぐらいまで落とすんだっけ、と釣り糸が水深くまで落ちないように慎重にリールを回す。
なんか釣りをやってるみたいで楽しくなってきた。いや、実際やっているんだけど。
子どもっぽい間抜けな自分の感想に思わず口の中で笑ってしまった。
そうしたら九条さんのことが思い浮かんだ。
きっと彼女がこの場にいたら子どもみたいにはしゃぐのだろうと、安易に想像できる。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:39:16.71 ID:SHQrum/so
一分、二分。釣り糸は四人ともピクリとも反応しない。
まぁこんなものか、ともうしばらくじっとしてみる。
十分が経過した。まだ誰も釣っていない。
さすがに不安になってくる。

しかし烏丸先生と大宮さんはというと、そんなことも気にせずほんわかと笑いながら談笑していた。
釣りを楽しんでいるというよりも、この場の空気に溶け込みつつ自分達の世界を上手く構築している。
ほんわかでゆるふわな世界だ。私も溶け込んでみたい。

水面に目を向けると、微かに波を打っていて魚の姿もチラリと見える。
しかし私たちのエサには一匹も食いつかない。魅力がないんだろうか。
ここまで来ておいて魚に無視されるのは辛い。

集中するのも疲れたので少しリラックスし、肩の力を抜いた。
水と空に挟まれ、周りを木々で囲まれているこの空間は自然の箱庭のような場所で落ち着くには割りといい場所だと気づいた。
カフェや街の休憩所とは違った趣がある。小波が立ちぷくぷくと小さい泡ができたり消えたりする水面を見ながら風を感じていると、日常の慌しい事が全てそれらの自然によって流れ去っていくようだった。
おじさん達がここに来るのも、釣りが好きなだけじゃなく落ち着きを求める意味もあるのかなと思ってしまう。
これで魚も釣れたら万々歳だろう。

ぽけーっと釣竿の先端を眺めていたら、左横でムムムっと唸り声が聞こえた。
アリスさんが真剣な眼差しで水面を見ている。鬼気迫るものを感じた。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:39:58.09 ID:SHQrum/so
アリス「釣らなきゃ……釣らなきゃ……」

自分に言い聞かせるようにしているその姿は釣りを楽しむどころか命をかけているのかと思うほどだ。
何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか。釣りは得意だと聞いていたが。
そんな彼女を横目で見ていると手に持っていたものがグンっ、と反応する。
それに合わせて私の身体もびくっとなった。

烏丸「久世橋先生! 釣れてますよ!」

烏丸先生が嬉しそうに私の隣で声を上げているが、こっちは喜んでいる余裕もなく突然の事態に慌てるしかなかった。
和んでいたと思ったらすぐに緊張が走っている。釣りって忙しい。
ところでこれどうすればいいんですか。情けないことに「わっ、わっ」と声を上げることしかできなかった。

忍「引っ張ってください先生!」

大宮さんのアドバイスを聞き釣竿を引っ張りつつも、リールを回したり巻き戻したりしてそれっぽいことをしてみた。
私今、釣りしてる。

烏丸「がんばってください、あと一歩ですよ!」

先生の応援が一押しとなった。
力を振り絞り、思いっきり引っ張る。
素面から勢い良く、魚が釣り糸に引っ張られ現れた。
そしてそのまま私の目の前へ。

久世橋「や、やった……やりました!」

半ば放心状態だったが、達成感は確かに得た。
跳ねている魚に驚きながらも、嬉しさで一杯になり思わず飛び跳ねたくなる。
さすがにそんな九条さんみたいな真似はできないが。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:41:08.65 ID:SHQrum/so
ここまでです
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:47:46.62 ID:SHQrum/so
アリス「釣らなきゃ……釣らなきゃ……」

自分に言い聞かせるようにしているその姿は釣りを楽しむどころか命をかけているのかと思うほどだ。
何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか。釣りは得意だと聞いていたが。
そんな彼女を横目で見ていると手に持っていたものがグンっ、と反応する。
それに合わせて私の身体もびくっとなった。

烏丸「久世橋先生! 釣れてますよ!」

烏丸先生が嬉しそうに私の隣で声を上げているが、こっちは喜んでいる余裕もなく突然の事態に慌てるしかなかった。
和んでいたと思ったらすぐに緊張が走っている。釣りって忙しい。
ところでこれどうすればいいんですか。情けないことに「わっ、わっ」と声を上げることしかできなかった。

忍「引っ張ってください先生!」

大宮さんのアドバイスを聞き釣竿を引っ張りつつも、リールを回したり巻き戻したりしてそれっぽいことをしてみた。
私今、釣りしてる。

烏丸「がんばってください、あと一歩ですよ!」

先生の応援が一押しとなった。
力を振り絞り、思いっきり引っ張る。
水面から勢い良く、魚が釣り糸に引っ張られ現れた。
そしてそのまま私の目の前へ。

久世橋「や、やった……やりました!」

半ば放心状態だったが、達成感は確かに得た。
跳ねている魚に驚きながらも、嬉しさで一杯になり思わず飛び跳ねたくなる。
さすがにそんな九条さんみたいな真似はできないが。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/16(土) 03:48:41.14 ID:SHQrum/so
誤字があったので再投下を
他のレスにも誤字脱字あると思いますが申し訳ないです
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/16(土) 04:35:41.66 ID:kxkU7exkO
おつん
わざわざ空き席がない方に座る鬼畜こけし
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/19(火) 20:47:03.65 ID:iQwSMPRUO
続きがすごく楽しみ
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/20(水) 23:34:51.15 ID:zCNZiRpFo
>>1です
申し訳ないですが次は少し遅れて土曜の投下になります
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/21(木) 08:43:04.97 ID:wGFD0MiAO

待ってる
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/21(木) 19:24:15.99 ID:cotLeJb4o
待ちきれないデス
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/22(金) 21:09:16.32 ID:sgPVWWvw0
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/23(土) 23:52:03.56 ID:NeXFzFabo
デース!
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:20:21.23 ID:HHZHSQwuo
ぴちぴちと跳ねる魚をクーラーボックスの中へ。
持参したクーラーボックスが役にたって嬉しいのか、先生は中の魚をにこにこ眺めている。
私も釣れたことに内心ほっとした。もっとたくさん釣って先生を喜ばせなければ。

アリス「わ、わたしも頑張るからね、シノ!」

カータレットさんが気合を表し、拳を作りぎゅっと力を入れた。
なにやら焦っているような、余裕がないような、いつものカータレットさんとは違った様子だ。
その小さくて可愛らしい見た目とはかけ離れた、熱々しいオーラを発しているようにも見える。
むむむ〜っと唸り声を出し視線を釣り糸のたれている先に集中させているが、釣れる気配は一向にない。

そうしている間に今度は大宮さんの釣竿にヒットした。
続いて烏丸先生にも。二人とも大はしゃぎで釣りを満喫している。
埋まっていくクーラーボックスを見て、だんだんと期待も高まっていった。
やっぱりlこういう所は来店者に満足できるように作られているんだなと思いながら横に目をやると、
下唇をかみ締めるように悔しそうな顔をし、ぷるぷると震えたカータレットさんが釣り糸の先を睨みつけていた。
彼女だけまだ釣れていない。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:21:20.91 ID:HHZHSQwuo
久世橋「カ、カータレットさん。大丈夫ですか?」

思わず声をかけてしまった。
はっとした顔をしたカータレットさんがこちらの方を向く。

アリス「だ、大丈夫です先生」

笑顔は作られているが身体は強張っているままだ。
釣竿を握っている手にも力が入っているのが分かる。
一体何が彼女をそこまで駆り立てているのだろうか。

久世橋「カータレットさんは釣りが好きなんですか?」

単刀直入には聞きづらいので、少し的を外して質問をしてみた。

アリス「小さい頃はよくやってたんです。その時はたくさん釣ったりして」

昔のことを思い出しているようで、表情は少しリラックスしたものになっていた。
カータレットさんの小さい頃……今よりもさらに小さかったんだろうか。
幼いカータレットさんが釣りをしているところを想像したら和んだ。というか可愛すぎる。

アリス「きょ、今日は久しぶりだからちょっとブランクがあって釣れないのかも……」

言い訳っぽく言葉の後を付け足していくカータレットさん。
エメラルド色の輝かしい瞳が段々と濁っていっていくのが分かる。

久世橋「心配しないでくださいカータレットさん。ここは釣堀なんですから必ず釣れますよ」

教師として、なんとか生徒を励まさなければ。
そうしていると、釣竿がぴくりと反応した。
私の釣竿だったが。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:22:22.39 ID:HHZHSQwuo
久世橋「あっ……ま、また!?」

身体が反応して、手に力が入る。
横のカータレットさんがショックを受けたような気もするが、こちらはフォローする余裕もなく魚の方に集中が行ってしまった。

続けて大宮さん、烏丸先生の釣竿にも再びヒットした。
私たち三人、それぞれ思いのままに釣竿を引っ張ったりリールを巻いたりしている。
魚って意外と重い。そんなことを考えているうちに思いっきり引っ張ったらまた魚が水面から現れた。
他の二人も続けて釣り上げる。なにやらよく分からない高揚感だが、とても楽しい。
しかし盛り上がっている私たち三人を横に、冷え切った少女が一人いることを思い出した。

アリス「……」

じっと動かず、ただ黙々と水面に垂れた糸を見つめている姿はかわいい人形にも思えた。
その淀んだ瞳が輝いていれば完璧だっただろう。
なぜ彼女だけ釣れないのか。場所が悪いのだろうか。

久世橋「カ、カータレットさん。場所を交換しましょうか?」

アリス「いいんですか、クゼハシ先生!」

私の提案にカータレットさんの曇った顔が少し晴れた。
烏丸先生の横を離れるのは名残惜しいが、かわいい生徒のためだ。
釣竿を手に持ちながら、私たちはお互いの席を入れ替えた。

アリス「ありがとうございます、先生!」

カータレットさんの笑顔を見れただけでも提案して良かったと思える。
魚を釣れる可能性が上がるのもそうだが、大宮さんに近づけたのが良かったのだろうか。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:23:51.74 ID:HHZHSQwuo
再び張り切り、釣りを続行するカータレットさん。
烏丸先生と大宮さんも楽しそうにしている。
また烏丸先生が釣り上げたみたいだ。

アリス「去年はいつもの五人で山に行った時に釣りをしたんです」

カータレットさんが口を開く。
どうやら私に向けてのようだったが、一瞬分からず反応が少し遅れてしまった。
担当しているクラスも違うし、カータレットさんにこういった風に話しかけられるのは初めてなので少し肩に力が入る。
彼女はそのまま言葉を続けた。

アリス「その時も私は釣れなくて、カレンばかり釣れて……」

聞いているとなんだか声のトーンがだんだんと下がっていっている気がする。
九条さんは釣りが得意なのだろうか。勉強以外のことはそつなくこなしそうなイメージだ。
学生としては致命的だが。

アリス「だから、今日こそはたくさん釣ってシノにいいところを見せたいんです……!」

下がっていた口調が今度は強くなっていった。
なるほど、と今日のカータレットさんが気合を入れていた理由が理解できた。
去年の雪辱を果たしたいというわけだ。

この場に九条さんがいないのはカータレットさんにとっては幸いなことだろう。
もしいたら、カータレットさんの前であれよあれよと魚を釣り上げていたかもしれない。
なんだか簡単に想像できる。魚を釣り上げる、九条さんのドヤ顔。

……関係のない私までなぜか負けたくないと思い始めた。

久世橋「カータレットさん、今日は絶対たくさん釣りましょう! 九条さんに負けてはいられません!」

カータレットさんは急に気合の入った私を見て目を丸くするだけだった。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:29:27.78 ID:HHZHSQwuo
気合を入れたはいいがすぐに釣れるわけでもなかった。
気持ちだけ先行していて身体はじっとしないといけない状況は、逆に落ち着かない。

アリス「そういえば、クゼハシ先生はカレンと仲が良いんですか?」

カータレットさんの突然の質問に少し動揺する。仲が良い……のだろうか。
メールもするし学校でも他の生徒より接する機会が多い。
確かに仲がは良いかもしれないが、他の生徒にそう評されるとむず痒いし、不公平に扱っているのではないかと心配になる。

久世橋「ど、どうしてそんなことを?」

質問を質問で返してしまったが、とりあえず理由を聞いてみた。
九条さんだけ贔屓されているように見えているのなら、改善しなければ。
私は生徒全員を愛しているのだから。私の質問にカータレットさんが答える。

アリス「カレン、最近クゼハシ先生の話ばかりするから」

久世橋「え?」

アリス「今日もクゼハシ先生が綺麗だったとか、会えるのが楽しみとか、嬉しそうに話してますよ」

久世橋「……」

あの子は一体何を考えて友達にそんな話をしているんだろうか。
綺麗だなんてそんなこと……思っていたのが驚きだ。
正直なところ、てっきり口うるさいとか、鬱陶しいとか愚痴でも言われているのかと多少は思っていた。
……綺麗なのだろうか、私。烏丸先生の方がずっと綺麗でかわいいのに。
というか段々と恥ずかしくなってきた。

久世橋「わ、私、全然綺麗とかじゃないですから……」

アリス「そんなことないですよ? 私もカレンの言うとおり先生は綺麗だと思います」

前よりも九条さんの頭の中が分からなくなってきた。
彼女は私についてどういった評価をしているんだろう。
恥ずかしさと混乱で落ち着かない私を、カータレットさんは真っ直ぐ笑顔で見つめている。
この変な空気を生み出した九条さんを叱りたい気分だ。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:30:36.58 ID:HHZHSQwuo
久世橋「あ、ありがとう……ございます……」

否定するとそれはそれでかえって嫌みったらしくなりそうなので、結局素直にお礼を言うことにした。
綺麗だと言われただけで動揺する自分の余裕のなさが情けない。
言われて嬉しくないわけじゃないが、面と向かって言われたらやっぱり照れるものだ。
発言元が九条さんだというのがあまり釈然としないけど。

久世橋「九条さんは……まったく、いつも突拍子もないことばかり言うんだから」

思わず独り言が出てしまった。

アリス「カレンは昔からそうなんです」

その独り言を拾われてしまいまた恥ずかしくなった。

アリス「いつも思いついたことは口に出したり行動したりして、迷いがなくて」

昔の思い出をゆっくり掘り出すように、カータレットさんは優しい口調で言葉を続ける。
それは懐かしさと温かさと、どこか寂しさも表しているようだった。
気づいたら気持ちは釣竿からカータレットさんの方へと向いていた。

アリス「子どもの頃はまだ可愛げがあったんですけどね。今は子どもの頃のまま成長しちゃった感じで、カレンはほんと自由だなぁって」

まるで九条さんのお姉さんであるかのような優しい口ぶりに、こちらも少し微笑んでしまう。
カータレットさんがお姉さんで九条さんが妹、その絵を想像するだけでも癒されそうだ。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:32:35.60 ID:HHZHSQwuo
アリス「それがカレンの良さでもあるんですけど、振り回されたりして大変なんですよね」

ほぼカータレットさんに同意。
思えば私も九条さんに出会ってからは振り回されてばかりな気がする。
恐らく私やカータレットさん以外にもたくさんの人を彼女は振り回しているはず。
しかしそれでも、彼女が今までやってこれたのはその人柄があってのことだろう。
魚が餌に引き寄せられるように、彼女はその場にいるだけで自然と周りを魅了させる存在なのかもしれない。

ほっとくことのできない人間、色んな人から愛されていそうだ。
一方私は九条さんとは違うタイプで、どちらかというと世話をやく方の人間だ。
なんだか私と九条さんはその二つの役割がぴったりと噛み合うような関係な気がして、少し納得したような、むず痒くなったような。
それと同時にそんな経験を私よりもしてきたカータレットさんに少し同情してしまった。

久世橋「九条さんにはもう少し落ち着きを持って欲しいです。最近は私のことを友達かなにかと思っている節もありますし」

同情と同時に親近感も覚えてしまったのか、悩み相談のように言葉が出てしまった。
年下相手だというのに、なんか情けない。

アリス「ごめんなさい、カレンにも言っておきます。先生には気安く話しかけないようにって」

いえ、そこまでしなくても。
悪気のない笑顔がこちらに向けられる。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:33:16.47 ID:HHZHSQwuo
久世橋「べ、別に話しかけてくれるのはいいんで……。もう少しけじめをつけてくれれば。その点、カータレットさんはしっかりしているから偉いですね」

アリス「そ、そんなことないですよ」

可愛く照れているカータレットさんを見ているとこっちまで癒される。
大宮さんが彼女にべったりなのも納得だ。

見た目は子ども、と言ったら失礼かもしれないが、それに反して中身はちゃんとしているので安心する。
日本語が堪能なところをみるに勤勉さも窺えるし、大宮さんを追って日本まで来た一途さも好感が持てる。

烏丸「私もアリスさんは偉いと思いますよ」

忍「私もアリスのことを尊敬しています」

奥の二人も会話に入って彼女を褒める。
ますます照れるカータレットさんだが、直後、私の餌に魚が食いついたのを感じた。烏丸先生も大宮さんも引っかかったようだ。
しかしカータレットさんの釣竿は一向に動く気配がない。
ショックを受けるカータレットさんを横に、私たちは再びクーラーボックスを埋めるのであった。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:34:23.30 ID:HHZHSQwuo
・・・・・

釣りを始めてからもうすぐ二時間が経とうとしていた。
そろそろ利用時間が終了する頃である。

あの後も何匹か釣って、だいぶ釣りを満喫できた。
しかしカータレットさんはというと、いまだに一匹も餌に食いつかれていない。
なにかの呪いだろうか。

アリス「なんで〜……なんで釣れないの〜……」

半泣きになりながらお祈りするかのように、釣竿を握り締めている。
これはこれで可愛いのだが、そんなことは口には出せない。
私もカータレットさんが釣れるように祈るしかなかった。
すでに釣竿を置いた私たち三人は、手を合わせながらカータレットさんを応援している。

忍「がんばってくださいアリス! 必ず釣れますよ!」

烏丸「まだ時間はあります、焦らないでアリスさん!」

久世橋「が、がんばってくださいカータレットさん!」

金髪少女を囲って励ましている姿は周りから見たら異様そうだ。
しかしここで釣らないとカータレットさんにとって今日一日が苦い思い出にしかならない。
それは私にとっても辛い。がんばってカータレットさん。

アリス「うぅ〜……」

とうとう本当に泣き出しそうだ。なんだか心が痛い。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:35:04.33 ID:HHZHSQwuo
アリス「シノ、ごめんね……シノのためにたくさん釣ろうと思ったのに……」

忍「アリス!」

いてもたってもいられずか、大宮さんはカータレットさんに近寄り一緒に釣竿を握り締めた。

忍「私のパワーも分けます、だから泣かないでください!」

そういうものなんだろうか。
と、つっこもうと思うのもためらうぐらい緊迫した空気だ。
二人の友情に圧倒され烏丸先生は感動して涙まで流している。

私もお互いを支えあう二人を見て、ああいった関係は羨ましくも思えた。
あんな風にお互いのために一生懸命になれるようなパートナー、私にはいない。
横目でちらりと烏丸先生のことを見た。
先生は一生懸命応援している。それなら私も。

久世橋「ふ、二人ともがんばって!」

声が届いたのか、カータレットさんの釣り餌に魚が食いついた。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:35:48.28 ID:HHZHSQwuo
アリス「き、来たっ……!?」

動揺したのか釣竿を手にした腕が下がってしまったが、大宮さんがそれを持ち直す。

忍「大丈夫ですよアリス、私がついています」

カータレットさんにとってその言葉は何よりも支えになったのだろう。
緊張した顔がすぐに和らいだ。二人の間の絆が目に見えたようで、心が動く。
私の手にも思わず力が入った。

忍「あと少しですアリス!」

アリス「せ、せーのっ!」

二人が釣竿を思い切り引っ張る。水しぶきとともに上がった糸の先には見事、魚が食いついている。

アリス「やった……やったよシノ!」

忍「やりましたねアリス!」

ぴちぴちと跳ねる魚を見て目を輝かせる二人に、私も烏丸先生同様感動してしまうのであった。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:37:38.38 ID:HHZHSQwuo
烏丸「おめでとう二人とも! 二人の絆に私も感動しちゃいました!」

先生がカータレットさん達のもとへ駆け寄り、二人の肩に腕をまわし身体を抱き寄せた。
カータレットさんは驚いているが、大宮さんは嬉しそうだ。
感動の余韻に浸っていた私も、しばらくして先生の行動に驚き一歩出遅れたと気づいた。
あんなに自然に生徒と抱き合うなんて、すごい。
仲良さそうに抱き合ってる三人を見ていると、私もあの中に入りたいという思いが次第に強くなる。

今からでも遅くはない。一歩一歩とゆっくり近づく。
いきなりでは驚かせてしまうので両手を上げて抱擁するポーズをしておこう。
ここで抱きつくのはなにも不自然なことではない。私もただ感動を共有したいだけであって。

久世橋「カッ、カータレットさ〜ん、大宮さ〜ん……」

意識して口角を上げ笑顔を作ったが、思わず声が裏返る。

大宮「ひっ……!?」

大宮さんと目が合った。怯えている。
え?

アリス「く、クゼハシ先生……こわい」

あれ?

烏丸「久世橋先生、もうちょっと表情を柔らかく」

久世橋「……」

どうやら失敗だったらしい。
最近の私はだいぶ自然体の笑顔ができるようになったというのに。
生徒と接するのはなんて難しいのだろうと思いながら、下ろせない腕はいつまでも抱擁のポーズを続けていたのであった。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/24(日) 02:38:10.28 ID:HHZHSQwuo
少し遅れてしまいました
すみません
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/24(日) 04:37:42.37 ID:3Sl8z7ebo
おつおつ
待ってたぜ
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/24(日) 05:44:48.69 ID:uH0Ia7iH0
本編を見ているようで癒されるナァ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/28(木) 01:24:19.49 ID:/ZLm8O3xO
楽しみ
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/29(金) 12:35:03.23 ID:U96SGX9AO
不器用なクッシー先生かわいい
早くカレンとイチャイチャしてくれ
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/06/03(水) 00:59:56.32 ID:/s5CEh5L0
もう五回は読み返してる
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/05(金) 01:32:13.88 ID:SJkfep+Yo
まだか
182 : ◆tsDVCsdZQc [saga sage]:2015/06/05(金) 02:08:28.26 ID:QLzZ028yo
>>1です
すみません筆が進まないので来週までお待ちください
とりあえず酉だけつけておきます
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/05(金) 06:25:18.51 ID:x071EfK3o
待ってる!
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 00:25:12.36 ID:YVJtG8bF0
待ちマス
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 12:27:23.06 ID:J34DC5MWo
水着回という燃料があったからイッチのモチベも回復しただろうか
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 16:50:50.71 ID:lmO6Pnv0o
待つよ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/14(日) 14:39:58.54 ID:zXaU2IYQ0
本編の描写は多くないけど潜在的なクゼカレ派は多そう
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/06/17(水) 12:46:51.56 ID:KQqYxVSZO
待つデス
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/17(水) 19:50:01.31 ID:/sE2Nu6Eo
まだか
190 : ◆tsDVCsdZQc [sage]:2015/06/19(金) 00:28:41.98 ID:KASYsbPqo
来週には必ず…
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/19(金) 06:08:19.51 ID:VcMf2hUno
来週って月曜日?
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/20(土) 02:55:09.26 ID:s4qjD9T50
待ってるぜ
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/20(土) 03:28:49.23 ID:qHY4uDxQ0
私、待つわ
194 : ◆tsDVCsdZQc [sage]:2015/06/25(木) 22:50:32.78 ID:4Bz8Ky2co
遅れてすみません
土曜か日曜に再開します
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/25(木) 23:21:45.45 ID:h3zGyrL2o
待ってるぞ
196 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/06/28(日) 00:40:41.74 ID:/D3B17Xno
・・・・・

釣堀の隣にある別館で釣った魚を調理してもらい食べることができるというので、私たち四人はそこへ向かうことにした。
釣った魚を串に刺して焼いてもらえる他に、定食、カレーライスやラーメンも食べられるらしい。

忍「なんだか普通の食堂みたいですね」

確かに。
館内はとりわけ目立った装飾がされているわけでもなく、テーブルとイスが並べられているだけだ。
奥には調理場がある。私たち以外のお客さんもすでに数名いる。
大宮さんが言うように町にあるような定食屋の印象だ。
釣堀からいきなり日常の光景に飛ばされたようで少し戸惑ってしまったが、私以外の三人はすぐに席へと向かっていった。

烏丸「久世橋先生も早く〜」

久世橋「は、はい。……って、その前に釣った魚を渡さないと」

受付の人に案内を受け、先ほど釣った魚の調理を頼んだ。
塩焼きにしてくれるらしい。とりあえず人数分の四匹を注文し私も席へと戻った。

烏丸「楽しみですね〜。今日はこのために来たようなものですし」

えっ、そうだったんですか。
てっきり釣りそのものを楽しみたかったのかと思っていたのですが。

烏丸「見てください。メニューもたくさんあるみたいですね」

そう言って烏丸先生がお品書きを開くと私たちの向かいの席に座っている大宮さんとカータレットさんもそれを覗き込んだ。

アリス「お刺身とかもある……。あっ、生け作りだってシノ」

そのメニューを見つけたカータレットさんは少しはしゃいでいるのが分かった。
そういえば外国人にとって生け作りは珍しいものなのかもしれない。
私はあまりビジュアル的にあまり好きではないのだけど。
197 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/06/28(日) 00:41:52.41 ID:/D3B17Xno
烏丸「わぁ〜、美味しそうですね」

横の烏丸先生も目を光らせている。
食べたいのかな。食べたいんですか?

烏丸「……頼んじゃいますか?」

やっぱり食べたかったんだ。
私に同意を求めているが、流石に生徒との食事に生け作りを頼むのは場違いのような。
だってこれ飲み会とかで頼んで五〜六人前ぐらいの量があるものですよ。
ちらりと値段に目を向けてみたら、一番安いもので五千円からだった。

久世橋「か、烏丸先生。これはちょっとやめた方が。宴会の席とかではないですし」

そう言うと流石に諦めてくれたのか、「そうですね」と苦笑いをしていた。
あまり残念そうにしてないところを見るに、烏丸先生も冗談半分で言ってみただけなのかもしれない。
……もしそうなら私も少しフランクな返しをすべきだっただろうか。
せっかく烏丸先生と過ごす休日なんだし、真面目な自分は多少取り払ってもう少し先生や大宮さん達と親密になってみたい。

「よーし、せっかくですから今ここで宴会を開きましょう! って、なんでやねーん!」
……ノリツッコミってこれでよかったんだっけ。う、うーん。

烏丸「二人とも、飲み物は頼みますか?」

アリス「じゃあ私はお茶にします」

忍「私もアリスと同じで」

烏丸「久世橋先生は何にします?」

久世橋「それじゃあ私もお茶でいいです」

烏丸「私はどうしようかしら」

各々に聞き終わると烏丸先生はメニューを見ながら考え込んだ。
そして考え終わったのか、手をポンと叩く。

烏丸「やっぱりビールにしましょうか。あと枝豆も」

久世橋「えっ……」

あっ、これは……ボケ? いや、違う……のかしら。
ノリツッコミとかしていい雰囲気? ……いやいやいや。
本気なら止めなければ。でもさすがにいくらなんでも本気なわけないはず……。
うーん……うーん……。

久世橋「うぅーん……」

烏丸「ど、どうしたんですか久世橋先生。今ちょっとボケてみたんですけど……」

198 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/06/28(日) 00:44:40.54 ID:/D3B17Xno
結局他におにぎりとお味噌汁を頼み、調理された魚と共にテーブルに並べられた。
なんだか定食みたいな感じになっている。
塩焼きにされた魚は自分で釣り上げたからだろうか、いつもと違って格段に美味しく思えた。

アリス「おいしいね、シノ!」

カータレットさんも満足そうだ。こっちまで嬉しくなる。
それにしても彼女は箸の使い方や魚の食べ方がまるでお手本のように上手だ。
イギリス人なのにここまで上手だということは、相当練習したのだろう。この箸使いは彼女の真面目さを表している。
お魚を箸でつまんでモグモグしている姿は小動物みたいで可愛らしい。

烏丸「アリスさんの食べている姿は見てると癒されますね」

私の心の声を代弁したかのように烏丸先生が笑顔で話しかけた。
それを受けて少し恥ずかしがるカータレットさんもまた……かわいい。
ああ癒される。

忍「アリス、よかったら私のお魚を少しわけてあげましょうか?」

アリス「えっ、でも私の分まだ残ってるよ?」

忍「私の魚をアリスに食べて欲しいんです!」

大宮さん、餌付け的なことをしたいと言いたいのでしょうか。
分かります、その気持ち。カータレットさんはというと少々押されぎみで引いている。

烏丸「私の分もどうぞ。はい、あーん」

烏丸先生の爆弾発言に衝撃が走った。この前の九条さんとの食事を思い出す。
九条さんが唐突にした行為を今度は烏丸先生がしている。
しかも今日は先生が、生徒にあーん……。
いいんですかそんなことしちゃって!?
199 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/06/28(日) 00:45:58.65 ID:/D3B17Xno
アリス「じゃ、じゃあ……いただきます」

驚いている私の前で、差し出された魚をカータレットさんは口に含んだ。
ああ……なんていうものを見てしまったのだろう。
生徒にあーんを。間接キスを。まるで仲のいい友達のように。
烏丸先生、神ですか。

烏丸「どうかしましたか?」

先生の目線がこちらに向けられる。
衝撃的なものを見てしまったせいでおかしな顔をしてしまっただろうか。
冷静にならなければ。冷静に。

久世橋「なななっなんでもないです!」

忍「はいアリス。あーん」

アリス「あーん」

冷静になれない私の前で再びあーんが繰り広げられていた。
私以外、みんな落ち着いている。
こんなことで動揺する私がおかしいのだろうか。
というか、私もした方がいいのだろうか。あーん。

久世橋「あ、ああ……ああ〜……」

烏丸「久世橋先生、体調が悪いんですか?」

だめだった。
200 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/06/28(日) 00:47:43.13 ID:/D3B17Xno
短いですがここまで
また一週間以内には投下してクゼハシ先生パートは終わります
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/28(日) 00:52:24.58 ID:QxbiatWeo
うむ
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/28(日) 01:00:35.34 ID:GP4LjAfZo
待ってた!
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/28(日) 01:35:25.17 ID:MdhxEFjb0
和みますわ
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/28(日) 01:38:30.04 ID:MdhxEFjb0
和みますわ
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/29(月) 11:32:07.56 ID:ptX/x0CAO
おつ!
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/02(木) 17:57:36.13 ID:TcfoIExRO
はよ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/07/06(月) 21:52:36.37 ID:wScV4xHd0
あく
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/07(火) 08:06:50.35 ID:ZsYIlcpvo
はよ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/07(火) 18:04:54.02 ID:qYNWSQwNO
クシカレは宇宙
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/08(水) 01:05:33.06 ID:r0dvNqJso
まだか
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/16(木) 18:37:16.05 ID:eIEtYXeMO
待つよ
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/24(金) 21:04:38.56 ID:dqWFx8VAo
待ってるんだが?
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/31(金) 19:48:19.68 ID:CdgTZj7Ao
へい
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/07/31(金) 21:13:30.99 ID:YNykz2zR0
毎日暑いですね
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/31(金) 21:32:02.70 ID:EvC/AlDdo
まだか
待ってるぞ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/10(月) 09:03:18.60 ID:fYEv8bO0O
まだか
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/10(月) 12:34:07.96 ID:H4iJz+OsO
まだかああああ
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/10(月) 15:19:50.46 ID:HsOnjZEHo
ageてんじゃねーよ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/15(土) 14:55:56.07 ID:cUqqZG5Yo
はい
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/02(水) 14:55:44.31 ID:LefKzZEa0
はい
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 12:44:29.52 ID:30OMcZtR0
はよ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/27(日) 23:22:05.71 ID:GljTKB9vo
3ヶ月か・・・
223 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/09/28(月) 03:47:08.91 ID:QBfX0sGdo
烏丸「アリスさんと大宮さんは、本当に仲が良いですね。なんだか羨ましいわ」

目の前でイチャイチャを繰り広げている二人を見ていると私も同意だ。
これが若気の至りというものなのだろうか。
私が高校生の頃はこんなことをする相手なんかいなかったのだけど。
過去を思い返すとなんだか寂しい気持ちになってしまうので、気を紛らわせるために黙々と魚を口に運んだ。

そういえば以前、カータレットさんに大宮さんの抱き枕を作ってくれるよう頼まれたっけ。
よくよく考えてみれば突飛な頼みごとだと思う。
友人の抱き枕を作ってくれなんて。
何に使うんだろう?
抱き枕なんだから、抱いて寝るんだろうけど……。

抱いて、寝る。
カータレットさんが大宮さんを抱いて、寝る。

久世橋「……ぶはっ!?」

烏丸「久世橋先生!?」

想像したら思わずむせてしまった。
横の烏丸先生も驚いている。

久世橋「だ、大丈夫です……。すみません、突然」

思い描いたのは強烈過ぎる光景だ。
いくらなんでも女子高生が友人の抱き枕を抱いて寝るなんて、普通ならありえない。
普通ではないとするなら、もしかしてカータレットさんは大宮さんに対して友達以上の感情を持っているのでは……。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/28(月) 13:18:09.16 ID:FP7oKjUeO
きたか だが生殺しだ
225 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/09/29(火) 05:32:55.39 ID:LqZkyEd/o
アリス「どうしたんですか、久世橋先生?」

久世橋「あっ、いえ……なんでもないです」

いやいや、生徒に対して何いかがわしい妄想を。
あくまで友情の範疇なんだろう。今時の女子高生的に。

アリス「あっ、シノ。小骨取ってあげるね」

忍「わー、ありがとうございます」

というかカータレットさん箸使い上手すぎる。
彼女のお皿に乗っている魚の身と骨は綺麗に分かれていた。

久世橋「凄いですねカータレットさん。こんなに綺麗にお魚を食べるなんて」

アリス「日本に来る前から日本のことは色々と勉強してて……。お箸の使い方やお魚の食べ方もマスターできるようにしたんです」

久世橋「素晴らしいです」

これぐらいの勤勉さが九条さんにもあれば……。

アリス「シノのおかげで日本文化に興味を持って……今のわたしがあるのはシノのおかげだよ。わたしの人生はシノと共にあるんだね」

忍「ふふ。アリスってば、大げさなんですから」

……本当に友情?
226 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/10/01(木) 01:53:05.15 ID:J9ByNb1So
食事を終えしばらく談笑した後、大宮さん達と別れた。
生徒と一緒に魚釣りをして、一緒にご飯を食べて、楽しい時間を過ごして……アーンはできなかったけど、とにかく充実した日だった。
けどいつか必ず成し遂げてみたい。アーンを。

烏丸「久世橋先生、この後なにかご予定はありますか?」

久世橋「え?」

両手で魚の入ったクーラーボックスを持ちながら嬉しそうにしている烏丸先生が私に質問する。
こういったはしゃいだ姿を見ていると年上というより子どものように見えてしまう。
……口に出したら失礼だろうか。

久世橋「はい、特になにもないですけど」

烏丸「よかったら、今からうちに来ませんか?」

久世橋「か、烏丸先生のおうちにですか……!?」

烏丸「釣った魚もまだ残ってますし、今からまたうちで食べましょう!」

久世橋「は、はい! ぜひ!」

少し胸が高鳴った後考える前に『行きたい』という気持ちが前に出た。
なんかがっつきすぎだろうか。でも嬉しい。
もしかしたら今日一番の嬉しい出来事かもしれない。

烏丸「それじゃあ、行きましょうか」

烏丸先生と一緒に同じ家路を辿る。
それだけでとてもつもなく幸福感を覚えたが、ふと携帯が気になり取り出した。
そういえば今日は九条さんからも誘いがあったのを思い出す。
最近になって増えた彼女からのメールだが、今日は一件も来ていない。
ちょっと寂しい。

今頃九条さんはなにをしているんだろう。
ちゃんと遊んでいるのだろうか。
いやいや、遊ぶだけじゃなく勉強もしてほしいけど。

久世橋「……」

彼女からの誘いを断っておきながら、私だけ休日を満喫しているような気がして罪悪感を覚えているのだろうか。
少しの間、携帯が手から離せなくなった。
227 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/10/07(水) 21:05:31.53 ID:fm0KbYVCo
・・・・・

初めて訪れた烏丸先生のアパート。
部屋の中はきちんと整理されていて、ペットのうさぎが私を出迎えてくれた。
「アリスという名前なんです」、とどこか恥ずかしそうに紹介してもらったが、カータレットさんと同じ名前なのは偶然なのだろうか。

烏丸「久世橋先生、お酒は飲まれますか?」

久世橋「じゃ、じゃあ少しだけいただきます」

普段は飲まないのだがせっかく先生が誘ってくれているし、なにより休日という開放的な時間が私の心をゆるくしていた。
烏丸先生の家で烏丸先生と二人っきり。楽しまなければ損だ。

久世橋「そうだ、烏丸先生。何かおつまみでも作りましょうか?」

烏丸「おつまみ、ですか?」

久世橋「はい。お魚だけじゃ足りないでしょうし、他のおつまみを私が作ります。台所借りてもいいですか?」

烏丸「本当ですか? ぜひお願いします!」

喜んでくれると私まで嬉しくなる。
さっそくエプロンをして準備にとりかかろうと冷蔵庫を開けた。
中には……飲み物以外なにもない。
そういえば以前先生が冷蔵庫に何も入っていないと言っていたのを思い出した。
しかし卵の一つもないというのは、流石に生活していくうえでどうなのだろう。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/07(水) 21:45:53.06 ID:eMeWuK6po
おかえり
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 01:19:00.52 ID:Z/PnDureO
待ってました!
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/16(金) 00:03:42.96 ID:8x0o/7zv0
わくわく
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/16(金) 19:26:22.87 ID:/tRywk9e0
久しぶりに見にきたら更新されてて嬉しい
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 19:51:23.58 ID:GZWSXh9/0
捕手
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/07(土) 16:20:21.41 ID:HIrKuVqRO
保守
234 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/08(日) 00:30:09.06 ID:/bCRh8WXo
久世橋「烏丸先生、この冷蔵庫は……」

烏丸「あっ、そうだった。ごめんなさい、今ダイエットしてて余分な食べ物は買ってないんです。でも野菜室に家庭菜園で採った野菜がありますよ」

下の段を開けると確かに野菜が詰まっていた。
緑、緑、緑、赤、緑。
ぎっしり入っているのをみると話に聞いていた家庭菜園は思っていたよりも本格的だったようだ。
でもまさか、毎日この野菜だけしか食べてないのだろうか。

烏丸「本当は野菜ダイエットに挑戦してみようと思ってたんですけど」

先生は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。

烏丸「でも仕事終わりでお腹すいちゃうとつい買い食いしちゃって、『今日はいっか』って思って中々続かなくて」

久世橋「だ、だめですよそんな食生活。この前もコンビニ弁当でしたし……健康に悪すぎますっ」

烏丸「ですよね〜……。最近身体もダルいし、やっぱり食生活を見直さなくちゃいけませんね」

私からしてみればダイエットなんてする必要ないとは思う。
というより今がちょうどいい。可愛いし。
……気持ちをそのまま口に出すのは恥ずかしい、もとい失礼と思い一呼吸置いた。

痩せたいという気持ちは同じ女性として分からなくはないけど、無理なことをして身体を壊されたりでもしたら大変だ。
ここは家庭科担当でもある私がきつく言っておいた方がいいだろう。

久世橋「烏丸先生!」

烏丸「は、はい!」

久世橋「こ……今度からはちゃんとした食事をしてくださいね……?」

烏丸「は〜い」

憧れの先輩にきつく言うなんて無理な話であり、ほんわかした烏丸先生の笑顔に背中を押されたような気がしてとりあえず野菜のみで調理を開始したのであった。
235 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/08(日) 00:33:11.33 ID:/bCRh8WXo
だいぶ遅れて申し訳ないです
実生活が落ち着いてきたのでまた定期的に投下していきます
早くクゼカレデートに進みたいと思ってます
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 00:48:57.33 ID:fddp527p0
待ってた
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 01:51:27.56 ID:kDuA4hC2o
待ちわびたぜ
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 02:02:58.80 ID:S0jSd0vbo
待ってたよ
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/14(土) 19:21:49.92 ID:/dnc+rH80
待ってる
240 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/15(日) 19:33:17.45 ID:moCFIwAHo
・・・・・

あれから一時間ぐらい経っただろうか。
いや二時間? 三時間?体内時計がおぼつかない。
頭の中は左右にふらふらっと揺れているようで身体は軽くなり、どこからか湧き出てくる高揚感に支配されてしまっている。
私と烏丸先生は完全に酔っていた。

ふと見ると床に飲み干した缶ビールが10本ぐらい転がっている。
そういえばお酒が足りないって烏丸先生が買ってきてくれたんだっけ。
と言っても私が飲んだのはニ、三本程度だけど。
まぁどうでもいいか。
机には食べ散らかした料理の隣にまだ開けていない缶が数本残っている。
こんなところを生徒に見られでもしたら間違いなく失望されるだろう。
まぁどうでもいいか。いいよね。休日だし。

久世橋「とにかくですね! 烏丸先生! もう生徒が可愛くて可愛くて仕方がないんです! 抱きしめたいぐらい!!」

烏丸「じゃあ抱きしめちゃえばいいじゃないですか〜」

久世橋「そんなのできましぇんよ! 烏丸先生じゃないんですから!ただでさえ私怖がられているからみんな逃げちゃうし……うっ……ううぇ……」

烏丸「大丈夫ですよ〜。こわくな〜いこわくな〜い。笑って笑って〜」

久世橋「ふふ……ふへへえへへへ」

なんかこのテンションがおかしいのは自分でも分かるけど止められない。
私ってこんなに酔いやすかったっけと思いつつ、場の雰囲気に流されるのを楽しんでしまっている。
241 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/15(日) 19:33:49.02 ID:moCFIwAHo
烏丸「そうだ、一回練習してみましょう。私を生徒だと思って抱きしめてください」

久世橋「え〜? いいんですか〜?」

烏丸「どーんと来てください」

久世橋「それじゃあ……え〜い!」

勢いに任せ烏丸先生に抱きつく。
髪の毛からいい匂いがする。やさしくて少し甘い、落ち着く匂い。
それでもって抱き心地もやわらかくて最高だ。
もうずっと抱きしめていたい。

烏丸「あらあら、久世橋先生は意外と甘えん坊ですね」

久世橋「…………はっ」

少ししてから酔いを超えた何かがふつふつと湧き上がってくるのを感じた。
酔った勢いで後先考えずやてしまった。
ひょっとして自分は今とんでもないことをしているのではないだろうか。
この後烏丸先生に顔も合わせられないぐらい恥ずかしいことを。
してる。絶対にしてる。
これはまずい。
全身に緊張が走りふぬけていた身体がかたくなる。

烏丸「ん〜……これは生徒を抱きしめるという感じとはちょっと違いますね。こうするんですよ」

離れようとした瞬間、先生の腕が私の身体を掴んだ。
ふわっと引き寄せられるように、優しく密着する。
優しい匂いと柔らかい感触が顔に当たる。
これは……胸?
……胸!?

烏丸「よしよ〜し、久世橋先生かわいい〜」

久世橋「あ……あば……」

私の中の悪魔がささやく。
もう少しこのままでもいいと。
242 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/15(日) 19:34:27.91 ID:moCFIwAHo
烏丸「こんな感じでするんですよ」

ようやく開放されたが頭のてっぺんからつま先まで沸騰しているような感覚でまともに思考することができなかった。
この熱はアルコールのせいではないだろう。
鼻にはあの匂いがまだ残っているし、顔にもあの感触がまだ残っている。
身体も抱きしめられたときのまま硬直しっぱなしだ。

烏丸「久世橋先生?」

久世橋「……はっ。あっ、ご、ごめんなさい。なんですか」

烏丸「よだれ出てますよ」

久世橋「あっ、はい。……てわっ!?」

烏丸「ふふふ。なんだかこんな久世橋先生を見るのって新鮮ですね」

恥ずかしい。私は烏丸先生の前でなんてことを。
お酒を飲んでいたとはいえ、あんな破廉恥なマネとこんなみっともない姿を見せてしまうなんて。
幻滅されるのではないだろうか。
すでに私は私自身に幻滅しているけど……。

烏丸「今みたいな風に抱きしめれば生徒も喜んでくれますよ」

どうやら先生は気にしてないようだ。
酔っているからだろうか、なんだかいつも以上にゆるふわな雰囲気をまとっている。
逆に私は一連の流れですっかり酔いが醒めてしまった。
嫌な汗が出てくる。

というか「今みたいな」って、つまり胸に顔を当てろと……?
そんなの、シラフじゃ無理ですって。
243 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/11/15(日) 19:35:02.30 ID:moCFIwAHo
烏丸「今度カレンさんにやってみたらどうですか?」

久世橋「へ……?」

どうしてそこに九条さんの話が?
といった疑問が間抜けな声として出てしまった。

烏丸「最近のカレンさん、久世橋先生にべったりじゃないですか。気づいてません?」

久世橋「そ、それは確かに……以前に比べたら、なんだかよく視線が合う気がしますけど……」

烏丸「きっとカレンさんは、久世橋に憧れているんですよ」

久世橋「あ、憧れ……?」

まぁ前に比べて頻繁に見かけるし、メールもたくさんくる。
だけどべったり……なのだろうか?
それに九条さんが私に、憧れ……。いまいちピンと来ないような。

烏丸「だって久世橋先生真面目ですし、いつもキリっとしてますし。きっとそういうところにカレンさんも憧れているんですよ」

それが本当なら嬉しいけど、まだピンとこない。
少なくともそんな素振りはみせなかったし、最近はいつもより多少フレンドリーになったという感じだろうか。
前よりは仲が深まったという証拠と言えるかも知れない。
でも……うーん。
九条さんは私のことをどう思ってるんだろう。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/29(日) 20:57:03.77 ID:/oZ2YQSU0
捕集
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 00:41:54.49 ID:6+ssD1Lo0
待ってるぞ
246 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:24:21.16 ID:VqVO5rEno

まず最初に思いつくのが『口うるさい』だとか『怖い』だとか。
その辺だろう。あまり認めたくはないが自分でも自覚はある。
でもそうなら、嫌われているのなら、彼女はメールを送ったりしないのでは。

私が『怖い』とイメージしているのは単なる思い込みで、
烏丸先生の言う通り九条さんは私のことを尊敬してくれているのでは。

……自意識過剰だろうか。少し恥ずかしくなってきた。
私が九条さんに抱いているイメージと実際彼女が私に対して抱いている印象が
いまいちはっきりせずモヤモヤする。

烏丸「そんなに難しい顔をせず、こうすればいいんですよ」

再び烏丸先生が私に抱きついてきた。
先生の両腕が私の背中に回り、離そうとしない。
その束縛に再び身体が固まる。

烏丸「久世橋先生が愛情表現をしてあげれば、九条さんも必ず応えてくれますから」

久世橋「さ、さすがに教師と生徒のスキンシップとしては過剰なんじゃ……」

烏丸「これぐらいがいいんですよ〜」

いいのだろうか。
烏丸先生だから許されているのでは。

247 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:24:48.90 ID:VqVO5rEno
烏丸「私の愛情伝わっていますか?」

久世橋「そ、それはもう……」

ぬくもりに包まれながら先生の鼓動を感じる。
離れたくない。

久世橋「あの……烏丸先生」

烏丸「なんですか?」

久世橋「烏丸先生は……私のことをどう思っていますか?」

何も考えずに出した言葉だった。

烏丸「どう……? ですか?」

久世橋「あっ、えっと……」

そんな質問、答えるのに困るはずだ。
私と烏丸先生は同じ職場の先輩と後輩、ただそれだけ。
それだけなのに今の私は流れに身を任せたせいか……それ以上の答えを期待して。
こんな状況だから、二人っきりの空間だから、こんなにも優しく抱きしめられてしまったから、思わず聞いてしまった。

別に私は先生にとって『特別』な存在になりたいというわけではない。
好奇心が背中を押したから。
それに先生ならきっと私が傷つかないような答えを出してくれる、なんて甘えたかった。
そう、ただ甘えて安心したいだけ。

烏丸「私にとって久世橋先生は、大切な人ですよ」

期待を裏切らない答えに安堵する。
甘えて、抱きしめてもらって、癒してもらって……。
248 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:25:36.53 ID:VqVO5rEno

久世橋「……ごめんなさい」

烏丸「なにがですか?」

久世橋「私、いつも烏丸先生に頼ってばかりで……」

烏丸「なに言ってるんですか……頼っているのは私の方ですよ」

久世橋「……」

烏丸「いつも……ありが……」

久世橋「……烏丸先生?」

微かに寝息が聞こえる。
時計を見たらもう0時をとっくに過ぎていた。

転がっているビールの空き缶と机のお皿を片付け、先生をベッドまで運んだ。
私はどうすればいいだろう。
ここの玄関のカギを開けたまま帰るわけにもいかないし、かといって泊まるのは……いいんだろうか。

久世橋「……今日はだけはいいですよね」

やっぱりまだ酔っているみたいだ。
先生のベッドに潜り込み背中合わせになりながら私も横になった。
苦笑しながらも私のまぶたもだんだんと重くなっていく。
「まぁいいか」、普段ならこんな風に流されないようにしているが今日だけはだらしなく甘えるのであった。
249 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:26:13.92 ID:VqVO5rEno
・・・・・

久世橋「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

朝日が窓に差し込み部屋が少し明るくなった頃、目が覚めた私はまずベッドから転げ落ちた。

烏丸「どうしたんですか? 久世橋先生」

まだ眠たそうな烏丸先生があくびをしながら上体を起こした。

久世橋「あ、あの、わわ私……昨日酔って……それで……」

それ以上は口に出せない。
烏丸先生と同じベッドで一夜を過ごしていたなんて。
恥ずかしさと罪悪感と後悔で頭がごった返している。

烏丸「あっ!」

久世橋「は、はいっ!」

烏丸「久世橋先生、今日学校ですけど大丈夫ですか?」

久世橋「え……あっ!!」

昨日そのまま寝てしまったせいでなんの準備もしていなかった。
急いで帰ればシャワーぐらいは浴びれるだろうか。

久世橋「す、すみません! 私もう行きます!」

慌てて荷物を手に取り玄関までどたばたと駆けていく。
なんともみっともない。

烏丸「久世橋先生」

久世橋「なんですか?」

烏丸「またいつでも遊びに来てくださいね」

久世橋「……は、はい」

烏丸「それじゃあまた後で」

先生のまぶしい笑顔に目を奪われつつも急いで自宅へ向かうのであった。
250 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:26:42.27 ID:VqVO5rEno
・・・・・

家に戻った後、急いでシャワーを浴び身支度を済ませ、コンビニで適当に買ったパンを口に入れてなんとか通勤時間に間に合った。
頭がくらくらする。けど遅刻しなかっただけましだろう。
夜飲んでいたせいで遅刻なんてしたら生徒に示しがつかないどころか社会人として失格だ。

だるい身体に無理やり力を入れて、意識して背筋をまっすぐに歩く。
生徒に悟られないためだ。
毅然とした態度で私生活のみっともないところを隠している。
こんな教師、私の理想とするものではないのだが、やっぱり理想は理想。
現実は上手くいかない。情けない。

カレン「クゼハシ先生〜! オハヨウゴジャイマス!」

元気な声が背後から勢いよく迫ってくるのが分かる。

久世橋「お、おはようございます、九条さん」

もうすぐ校門にたどり着くというところで九条さんに出会った。
彼女の笑顔も太陽に負けず眩しい。
今の私には眩しすぎて直視できないが。

そういえば今日は一人なんだろうか。
いつも一緒にいるカータレットさん達の姿が見えない。

カレン「今日は先生に聞きたいことがあって一人で急いで学校に来たデス!」

私の疑問を見透かしたかのような答えに少し驚く。

久世橋「聞きたいことって……なんですか?」

カレン「クゼハシ先生、昨日アリスたちと一緒に遊んだって本当デスか!?」

久世橋「え……なんでそれを」

カレン「アリスから電話で聞いたデス!! ずるいデス! なんで私も誘ってくれなかったデスか!」
251 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:27:35.55 ID:VqVO5rEno
少し怒ったような口調だ。
メールを送らなかったのがまずかったんだろうか。

久世橋「あ、あれは元々私と烏丸先生の二人きりで予定してたことで……」

カレン「ところで先生」

急に話題が変わった。忙しい子だ。

カレン「今週の日曜日はお暇デスか?」

久世橋「今週……?」

カレン「暇なら! 付き合ってほしいデス!」

久世橋「付き合うって?」

カレン「あっ……ち、違うデス! 付き合うってそういう意味じゃないデス!」

顔を赤くしながら何か一人で盛り上がっている。本当に忙しい子だ。
頭がまだ少しくらくらする私とは対照的に元気いっぱいに話を続ける。

カレン「と、とにかく、大事なお話があるのでぜひお暇になってほしいデス! よろしくお願いしマス!」

言うだけ言うと呆然とする私の反応なんてお構いなしに、九条さんは目も合わせず猛ダッシュで学校まで行ってしまった。
まさに嵐のようだ。

ここ最近彼女といるとすっかりペースが流されている気がする。
さっきは何を興奮していたんだろう。

久世橋「……はぁ」

ため息をつきながら私も歩を進める。今は何も考えたくない。
九条さんのことはとりあえず置いておいて、ふらふらな状態をなんとかするため一先ず落ち着きたい。
私は今日もまた、安らぎを求めているようだ。
252 : ◆tsDVCsdZQc [saga]:2015/12/16(水) 22:28:05.53 ID:VqVO5rEno
ここまでです
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/12/16(水) 23:13:49.94 ID:JkAAjEgGo
乙〜
烏丸先生もいいコンビですね
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/28(月) 05:44:05.07 ID:gvi2uw4M0
久しぶりに見にきたら更新されていて嬉しい
来年も待ってるよ〜
255 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/09(土) 22:25:14.91 ID:6mC1cT+r0
保守
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/22(金) 09:57:37.58 ID:AguzaZiT0
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/05(金) 21:51:43.93 ID:XJeNrmPm0
待ってる
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2016/02/12(金) 13:03:45.10 ID:trTyvEbpO
保守
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/24(水) 17:13:28.98 ID:K7qg2Imu0
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 08:47:43.34 ID:2e29D2tq0
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