とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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291 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:05:49.23 ID:q27/xudW0

あの災難から逃れ、家に帰り着くまでの間はその恐怖をすっかりと忘れていた。
その代わり道中の記憶は全く無く、言ってしまえば放心状態で帰巣本能に従いながら歩いていたことになる。
そして我が家に辿り着き、玄関先にいた姉を見て我に返り、
逃げるようにして自身の部屋に閉じこもったその時、再度その恐怖を思い出したのである。



フラン(どうして、こんな事になっちゃったんだろ……)

フラン(先生の言うことを聞かなかったから? お姉さまから逃げ出したから?)

フラン(それとも……)



自身が巻き込まれた不幸。その原因を、彼女は自問自答する。
人は自信に降りかかる災難に、何かしらの理由を求めようとするが、それはある種の危機回避によるもの。
災難の原因を理解すれば、それを解決し、災難を回避することが出来るから。


それでは、フランドールが今回の災難を回避するためには、一体何が必要だったのか?

292 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:06:19.19 ID:q27/xudW0





先生達の話を素直に聞き、超能力開発の授業を受ければ――――


姉の追及から逃げ出さず、彼女の説得を聞き入れれば――――


変に意地を張らずに、直ぐに頭を冷やして家に帰れば――――


姉から出来るだけ離れようと、街まで遠出などしなければ――――


男達に眼を付けられた時、形振り構わず逃げ出せば――――





293 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:07:16.23 ID:q27/xudW0

思い返してみれば、災難を回避するチャンスはいくらでもあった。
最適な選択肢を選んでいれば、あのような暴力を受けずに済んだのだ。
今回の不幸の全ては、自身の身勝手な行いが招いた結果である。


しかし、フランドールはどうしても己の罪を素直に受け入れることが出来なかった。
頭では判っている。しかし、感情がそれを拒んでいるのである。
己の罪を認めることは、精神的な苦痛を伴う。それは自尊心を自ら傷つける行為だからだ。
さらにそこから自身の行いを正すとなれば、それなりの覚悟が必要となる。
大の大人でも難しいというのに、身も心も未成熟な彼女がそれ出来る理由など無い。


そして己の罪を認めることを拒否した彼女は様々な思考の末、ある一つの結論に至った。

294 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:08:08.18 ID:q27/xudW0

フラン(もしも、あの力が使えたら……)



自身が持つ、ビルをも容易く崩壊させる力。
もしもその力をあの場で使えたなら、あのような輩を恐れることなど無かった。
それどころか、逆に彼等を後悔させることも出来たはずである。その圧倒的な力で。


教師達の懇願や、姉の小言という厄介事を持ち込んできた超能力。
しかし今の彼女にとっては、自身にのし掛かる一切合切の問題を解決してくれる一条の光に思えた。



フラン「……ぁは、ははは」



口を大きく歪ませながら、フランドールは嗤う。
一体何故自分はこんなにも悩んでいたのか。答えなど、直ぐ目の前にあったではないか。
この結論に早く至れなかった自分がとても馬鹿馬鹿しく、また滑稽に思えた。


先ほどまでの陰鬱な雰囲気は霧散し、代わって満ちあふれる活気があたりを包む。
自信を悩ませていた荷が下ろされたのだ。喜ばないわけがない。
今まで悩んできた分、それを解した時の爽快感は格別。彼女の心中は実に晴れやかであった。

295 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:08:54.86 ID:q27/xudW0

フラン(そうよ。 この力があれば、もう何も恐く無い。 みんなみんな、『これ』でぶっ飛ばしちゃえばいい)

フラン(まだ自分でもこの力はよくわかってないけど、それはこれから知っていけばいいし)

フラン(先生達なら、喜んで教えてくれるだろうしね)

フラン(お姉さまの言うとおりなっちゃったのは、ちょっと癪だけど……)



フランドールは、心の中でそう溜息を付く。
姉に対して強く反発してしまった手前、その姉の言うとおりに行動するのは気が引ける。
だがそれは、自身の目的の達成――――超能力の制御を学ぶためであれば些細な問題だろう。


大きな力というものは、持っているだけでも抑止としての力が働く。
それをちらつかせるだけでも相手を萎縮させ、更には自信の言いなりにしてしまうことも可能だ。
上手く扱えるようになれば、大半の粗暴な輩はその場で追い返すことが出来るようになるだろう。

296 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:09:58.88 ID:q27/xudW0

そして何より、超能力を持つということは周りから羨まれる存在になるということでもある。
フランドールの同学年には、未だ超能力を発現してない人が多い。
発現していても、その大半はレベル2以下。レベル3に至っては片手で数えられる程度である。


しかし、彼女の超能力は破格のレベル4。言ってしまえば学校の頂点に上り詰めたのだ。
今はまだ学校の皆には知られていないが、彼女が学校側の提案を受け入れた時点でそのことが公になるのは必至。
その時、クラスの皆は一体どんな反応を示すのだろうか。
驚愕か、それとも羨望か。今から楽しみで堪らない。


とにかく、そうと決まれば直ぐ行動。行動の速さは彼女の取り柄である。
しかし粋がってはみたものの、時計を見ると時刻は既に夜中の11時だった。かなりの時間考え込んでいたらしい。
この時間帯では、流石に姉も寝静まっているだろう。起こせば何を言われるかわからないし、行動は明日に回すしかないだろう。


フランドールは再び思考を巡らせながら、ぼろぼろになった衣服を着替えるのだった。

297 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:11:58.82 ID:q27/xudW0





フランドールは己の力を自覚し、それを自分の誇りとした。
自身の存在を更に価値のあるものに昇華せしめる一要素と考えたのだ。


それは何も、彼女のみが考えるような特別な思考というではない。
超能力は一人に一つ。一見同じような能力でも、その中で得手不得手が必ず存在する。
言ってしまえば超能力とは、『その人だけが持つ唯一無二の力』なのである。


故に、その力を自身の利点として捉えることは当然のこと。
彼女のような幼子ともなれば、その力に舞い上がってしまうのは自然な反応だろう。


しかし注意しなければならないのは、『矜持』と『慢心』は非常に似たものであるということだ。


自身の利点を誇りに思うことは、決して悪いことではない。
自分に自信を持つことは本人の精神を安定させる上で必要なことである。
しかしそれが行きすぎて、待たざる者を卑下するようなことはしてはならないのだ。
大きな力には常に責任が伴う。その責任を自覚出来て初めて、漸く一人前と言える。


しかし、年若いフランドールがそのことに気づけるはずもなく。
それが後に、更なる悲劇を招くことになる。





298 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:12:25.34 ID:q27/xudW0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 00:32:34.16 ID:FdkMWr+IO
乙です
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 06:25:12.35 ID:g8Bi33NL0

壊すだけの力ってのは難儀だよねぇ
301 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/10/13(火) 00:04:48.95 ID:St3u5X900
これから投下を開始します
302 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:05:33.87 ID:St3u5X900





     *     *     *





303 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:06:50.62 ID:St3u5X900

あの事件の後に、彼女の身の回りで起こった出来事を簡潔に纏めると以下のようになる。


始めに事件の翌日の朝。
超能力に目覚め、それをものにしようと決心したフランドールは、
姉に対して開口一番に個人授業を受けることを承諾する旨を伝えた。


前日から180度ひっくり返った妹の態度は、レミリアに相当な衝撃を与え、
妹に昨日何があったのかを聞きそびれてさせてしまうほどであった。
フォークに刺したハムエッグを口に含んだまま固まってしまった姉を尻目に、フランドールはそそくさと食事を済ませ、
テキパキと準備をした後に悠々と学校へと向かうのだった。


学校に着いてから彼女は、教室に足を運ぶことなく真っ先に職員室に向かい、
大きな欠伸をしながら朝礼の準備をしていた担任に対して、姉と同様に個人授業の件を説明した。
突然のことに驚いた担任ではあったが、その驚きはたちまち喜びへ早変わり。
そしてその情報は直ぐさま他の教師達へ伝播し、その結果朝礼は中止となる事態になった。


『学校の威信に関わることなのだから、代わり映えのしない朝礼など後回しにするべき』ということなのだろう。
フランドールの超能力を正式に申請するため、教師達は先ほどの倦怠な雰囲気は何処へやら、
生き生きとした表情で忙しなく職員室内を動き回り始めるのだった。

304 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:08:22.99 ID:St3u5X900

その後職員室に騒動を起こしたフランドールは、その日の授業に参加することはなかった。
何故なら能力開発に関わる色々な手続きのため、一仕事しなればならなくなったからである。
教師の手助けがあるとはいえ、分厚い書類の中身に余さず眼を通す作業は苦行そのものであったが、
これも仕方のないことだと自身に無理矢理納得させ、少々汚い字でサインを記していった。


さらにその翌日。
筋肉痛になった指を揉みながら登校した彼女を待ち受けていたのは、同級生からの熱烈な歓迎であった。
良く見知った友達――――特に女子からもみくちゃにされながら理由を聞いてみると、
どうやらフランドールが能力者なったという情報が何処かから漏れていたらしく、
さらには昨日の昼頃には既にクラス全員に知れ渡っていたようである。
大勢の目の前に立って挨拶でもしなければならないのかと気に病んでいた当人にとっては、何とも拍子抜けな話であった。


そしてホームルームの時に改めて超能力を得たことを皆に伝えると、
またもや前日のように授業に参加することなく、担任により別室に連れられ、
今度は自身が受ける個人授業についての計画の説明を受けた。

305 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:09:25.35 ID:St3u5X900

説明によると、個人授業を行う時間帯は大きく2種類に分けられるらしい。
1つは能力開発の授業時。他の皆とは別々に、彼女専用に用意されるもの。
そしてもう1つは放課後。皆が帰った後に追加で授業を受けるというもの。
これは一時限あたり50分程度で済ませ、それを毎日行う予定らしい。
フランドールはこの二つの授業を毎日受けることになったのである。


何故そのような時間の割り振りになったのか。
それは能力開発の授業時間を利用するだけでは、圧倒的に時間が足りないからだそうだ。
超能力者になったからと言って、フランドールは未だ学生の身である。
能力開発ばかりにかまけて、本業を疎かにするようなことはあってはならない。


しかし時は既に7月半ば。言うまでもなく、学校側の授業スケジュールは既に確定している状況である。
このスケジュールには、フランドールのような高レベルの能力者を育てる授業を挟み込む余地など無かった。
とはいえ、何も手を打たずに彼女の能力をこのまま腐らせるのは論外である。
そこで教師達は苦肉の策として、放課後に授業を設けたのだった。


特に部活に入っていないフランドールとしては、時間の都合という意味での問題は無いが、
休息の時間を削られ、尚かつ更に宿題を課せられるとなると、やはりいい気はしないものだ。
しかしこれも、能力を上手く扱うためには必要なこと。
彼女は心にそう言い聞かせ、一人孤独な授業に望むのだった。

306 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:10:34.78 ID:St3u5X900





1ヵ月後――――





307 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:14:01.21 ID:St3u5X900

教師「――――このように、世界にある全ての物質は、『原子』と呼ばれるとても小さな粒が集まって出来ています」

フラン「……」カリカリ



それから1ヶ月余り過ぎた頃。
フランドールの個人授業は滞りない進展を見せ、現在は自身の能力について勉学に励んでいた。


今彼女が行っているのは、個人授業のカリキュラムの一つである『座学』。
己が持つ超能力。それに密接に関係する科学理論について詳しく理解するためのものだ。
その理解を深めることにより、超能力の出力や安定性を向上することが出来る。


ただの科学理論で超能力を理解できるのか。超常的な力を把握できるのか、疑問を持つ者もいるだろう。
確かに、超能力は普通の物理法則では考えられないような、様々な現象を引き起こす。

308 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:15:23.29 ID:St3u5X900

何も無い所に電気や炎を生み出す。
三次元的な移動を無視して、物質を瞬時にワープさせる。
動力不明の力を用いて、物体を自在に動かす。
人の心を読み取り、また人に心を読ませる。



今挙げたのは、数ある超能力の内のほんの一部に過ぎない。
この他にも普通の常識では測りきれない能力はごまんとあるのだ。
しかし如何に不可思議なものであったとしても、『科学』の枠組みから逃れられることはない。
何故なら超能力は、『科学によって生み出されたもの』だからだ。
そして超能力が科学である以上、『必ず人間に理解されなければならない』。
科学とは神が生み出した『秩序(ルール)』を、人間が理解するために生み出した『道具(ツール)』なのだから。



教師「――――この原子同士を繋いでいる力には色々あり、その中で最も強いものが……」カッカッ

フラン「……」カリカリ



黒板に書かれた文字をノートに書き留める。この他にも、時折教師から出される問題に答えなければならない。

309 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:16:19.29 ID:St3u5X900

『個人』授業なので教室にいる生徒はフランドールだけであり、教師から出された問題は全て彼女対して向けられたものだ。
逃げ場のない状況で教師に質問攻めにされるなど、一部の学生達にとっては拷問のようなものだ。
しかし『自分に当たるかもしれない』という、授業特有の重圧を受けなくて済むという点では、
覚悟が出来てしまえば精神的には良いのかもしれないが。


教師「これにより物質の中に生じた歪みによって、原子同士の結合が断絶。結果として物質は切断されるわけです」カッカッ

フラン(っ!? 間違った。 消しゴム消しゴム……)

フラン(あぁ、また離されちゃった。 早くしないと消されちゃう……)



教師の板書がとても早く、それを追いかけることに少々苦労しているようだ。だが、それについては諦めるしかない。
この個人授業は、元々その年の学校側の教育スケジュールに中には存在しなかったもの。
ただでさえ余裕のない計画を再度切り詰め、それで出来た空き時間に無理矢理ねじ込んだのである。
授業のスピードが足早になってしまうのは仕方のないことであった。

310 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:17:18.01 ID:St3u5X900

教師「……さて、フランドールさん。 ここで問題です」

フラン「! はいっ!」

教師「先ほども言ったように、原子を繋ぐ結合は様々あります」

教師「その中でも『共有結合』、『配位結合』、『イオン結合』、『金属結合』の4種類には、その結合の仕方に共通点があります」

教師「さて、その共通点とは何でしょうか?」

フラン「えーっと……」



フランドールは机の上に広げられた教科書とノートのページを捲り、質問の答えを探す。


彼女が用いている教科書は、学園都市外では主に高校生が勉学に使用するものである。
本来であれば、この教科書に書かれている内容は彼女が学ぶ学問のレベルを完全に逸脱している。
しかしこの場所は、外よりも2、30年は進んでいる科学技術を持つ街。
外では難解な科学理論も、この街の住人にとっては常識中の常識だ。
更には学園都市が発見し、外には秘匿になっているような新理論により、
外の常識がここでは別物に塗り変わってしまっている場合すらある。


従って、明らかに身分不相応の高度な内容を扱った教科書を用いていたとしても、
この街の住人にとっては至極当たり前のことなのである。

311 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:18:56.16 ID:St3u5X900

フラン「えーっと、『電子』……?」

教師「正解です。 では『電子』がどのように関わっているのかまで答えられますか?」

フラン「えっと、『互いの原子が電子を渡し合うことで、結合が形成される』……」

教師「その通りです。 きちんと予習してきているようですね」

フラン「……」ホッ



無事に正答出来たことに、フランドールは安堵する。
使っている教科書は難解な文字が多く、読み解くだけでも精一杯だ。
事前に予習をしてこなければ、間違いなく授業についていけなかっただろう。
一方、教師はフランドールの答えを受けて、更に専門的な内容の話を展開し始めていた。
『量子論』だの『超弦理論』だの、フランドールにとっては1割も理解できない内容ではあったが。


このように、フランドールの授業は主に『物質はどのようにして成り立つのか』を中心に行われている。
特に、『原子同士を繋ぐ力』に関しては詳しく解説しており、その結合力の計算の仕方など、
明らかに大学レベルの知識まで教え込まれていた。

312 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:19:47.25 ID:St3u5X900

では何故、そのような知識を教えられているのか?
それはその知識が、『フランドールの超能力』に大きく関わっているからに他ならない。


彼女が持つ力の名は『物質崩壊』。
その力の概要を一言で言い表すとすれば、『触れただけであらゆる物を破壊する力』である。
原理としては、物質の中にある僅かな歪み――――例えば結晶同士の境界にある結合の欠陥――――を、
『念動力』により力をかけることで歪みを増大させ、破壊するというものである。


この世の全ての物資には、何処かしら脆い部分がある。
それは生物であっても例外ではなく、当然人間にも存在する欠陥だ。
非常に範囲が狭いかつ小さいものであり、人の眼には決して見えぬものであるが、
彼女の能力はその箇所に限定的に働きかけ、その結果『全ての物質を崩壊させる』のだ。


つまり、彼女の能力が物質を形ある物にするために不可欠な『結合』に影響するものである以上、
その『結合』の知識について徹底的に教育を施すことは確定事項であった。

313 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:20:37.49 ID:St3u5X900

教師「……おや? もうこんな時間ですね」

フラン(あ、いつの間にか時間過ぎてる)



ふと、教師が顔を向けた方向を同じようにつられて見てみると、時刻は既に授業時間を過ぎていた。
板書を書き写す事に忙しかったために、時間を気にする余裕など全くなかったが、
思い返せば長いようで短いような、そんな授業であった。



教師「もう少し進めたかったのですが、仕方ありません。 今日はここまでにしましょう」

教師「今日も宿題がありますので、予定表を見て必ず解いて来てくださいね」

フラン「先生、ありがとうございました」

314 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:21:14.13 ID:St3u5X900

フランドールが起立して一礼すると、教師は微笑みながら教室を後にする。
一人教室に残された彼女は、帰宅する準備をするべく机の上に広げられた書物を鞄の中に仕舞い始めた。


外からはグラウンドで練習している野球部の声が聞こえる。
その声は教室の中を僅かに木霊し、孤独感を一層煽り立てた。
もうこの学校には、フランドールのクラスメイトは一人も残っていないだろう。


彼女はまだ幼く、部活に入る年齢でもないため、学校に残る用事というものがないのだ。
何もせずに校内をうろうろしていれば、教師達に早く帰るように注意されることは目に見えているし、
第一そんなことをするよりだったら、友達と街を遊びに行く方が良いに決まっている。
故に、彼女が一人学校に取り残されるのは自然の成り行きである。



フラン(放課後に授業なんて当たり前だし、宿題の数も凄く多い)

フラン(みんな遊べる時間も殆どなくなっちゃったけど、まぁいっか)

フラン(これのおかげで、みんなに自慢できるんだからね)



しかしフランドールはそのことについて、それ程気にしてはいなかった。

315 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:24:04.93 ID:St3u5X900

確かに、放課後友達と一緒に遊べないのは辛い。
だがそれ以上に、日中に於いて周囲から注目の的になるのである。
学校でたった一人のレベル4。その事実は同級生達に羨望の情を抱かせるには十分な要素であり、
そしてそれを一挙に独占することも容易なものなのだ。



フラン「さて、と。 早く帰って、さっさと宿題終わらせよっと」



最後の教科書を鞄に詰め込み、しっかり鍵をかける。
片手にぶら下げると、中に入った書物による加重が腕に大きく掛かった。
日常の授業に使う本の重さと、個人授業に使う本の重さ。
それは、他の子供達では味わうことの出来ないものである。


彼女は片肩から感じる重みにちょっとした優越感を感じながら、彼女は教室を後にするのだった。

316 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:25:12.04 ID:St3u5X900
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 00:37:24.05 ID:hp7XgLUHO
乙です
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 09:57:59.93 ID:CZu76lz80
もっとのんびり生きたい
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 20:36:52.98 ID:Sd9SpoTTo
ミテルヨー
320 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/10/26(月) 00:33:28.08 ID:CYcEgEI30
これから投下を開始します
321 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:34:19.07 ID:CYcEgEI30





――――PM 8:37





322 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:35:44.45 ID:CYcEgEI30

レミリア「フラン、ちょっとこっちに来てくれないかしら?」

フラン「んー? いいけど……」



その日の夜。
宿題を片付けていたフランドールは、前触れもなくレミリアに呼ばれた。


内容が全く知らされない急な呼び出し。
その時点で嫌な予感しかしないのだが、後の面倒を考えると拒否など出来るはずもない。
解きかけた宿題に後ろ髪を引かれつつ、渋々部屋へと向かう。


居間に入ると、そこには椅子に座ったまま考え事をしている姉の姿。
テレビは点いておらず、雑音の無い静かな空間の中で彼女は思案していた。
その表情は憤怒とも困惑ともつかない、何とも表現し難いものであり、本心を伺い知ることは出来ない。
そんな姉の様子に不安を感じながらも、フランドールは無言のまま姉の向かいの席に座った。

323 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:37:08.66 ID:CYcEgEI30

レミリア「……」

フラン「……」



沈黙が彼女達を支配する。
フランドールが座った後も、レミリアは一言も言葉を発しなかった。それどころか、身じろぎすらしない。
妹が目の前に座っていることは、とうの昔に気づいているだろうに。
直ぐに話を繰り出さないのは、話すことを迷っているのか、それとも……



レミリア「……………………フラン」

フラン「……何?」



数分ほどそうした後、漸くレミリアは重い口を開いた。
開かれた真紅の瞳は、静かに自身の妹を見据えている。
自身と同じ色の瞳。見慣れているはずのものなのに、何故かフランドールはそれに一抹の恐怖を覚えた。


その恐怖は一体どこから来るものなのか。普通に答えるならば、『姉に小言を言われる事』からなのだろう。
それだけとは言い切ることのできない、漠然とした『何か』があるように思えてならない。
ただ、その『何か』を理解することはできそうにない。

324 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:37:41.74 ID:CYcEgEI30

レミリア「貴方が能力に目覚めてから一ヶ月……調子はどうかしら?」

フラン「調子? ……そこそこかな」

レミリア「そう。 躓いたりしてない? 勉強が上手くいってないとか」

フラン「特に何も。 何も問題ないよ」

レミリア「……それは、よかったわ」



他愛のない会話を繰り広げる二人。しかし、そこには和気藹々とした様子など微塵も感じられない。
レミリアの声には抑揚が感じられず、フランドールに至っては警戒心が剥き出しだ。
お互いに腹の探り合いをしているようにも見え、とてもではないが居心地の良い雰囲気とは言えない。



フラン「……お姉さま」

レミリア「何かしら?」

フラン「言いたいことがあったら早く言ってよ。 私、まだ宿題が残ってるんだから」

レミリア「……」

325 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:40:55.61 ID:CYcEgEI30

フランドールはレミリアに対し抗議し、早く終わらせるように催促する。
宿題のこともあるが、それ以上にこの雰囲気の中にいることが耐えられなかった。
何せ、姉の考えが全く読めないのである。フランドールにしてみれば、時刻のわからない時限爆弾の前にいるようなものだった。



レミリア「……1ヶ月前」

フラン「……?」

レミリア「貴方が超能力に目覚めた晩のことだったかしら?」

レミリア「家を飛び出して、ぼろぼろになって帰ってきたことがあったわね?」

フラン「……それがどうかしたの? 喧嘩しただけだって言ったはずだけど?」

レミリア「聞いた話だと、その日と同じ日にビルの崩落事故があったらしいのよね」

レミリア「崩落の原因は不明。 爆発物を使った形跡もなく、捜査は難航しているようだけど……」

レミリア「噂に聞いた話だと、能力者の仕業らしいのよね」

フラン「……」

326 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:41:52.14 ID:CYcEgEI30

レミリアは淡々と言葉を紡ぐ。
それを前にフランドールは、ただ沈黙を貫いていた。


レミリアが言うビル崩落事故を引き起こした犯人。
それが自分自身であることを、フランドールは理解している。
当時は暴力を受けた後で意識が朦朧としていたために、いくつかの記憶が抜け落ちている。
だがあの時、自身の能力がビルに亀裂を走らせ、崩壊に追い込んだことは覚えていた。



レミリア「……」

フラン「……」

レミリア「……フラン、貴方に一つだけ言っておくことがあるわ」

フラン「何よ?」



幾許かの沈黙の後、再び姉は口を開く。先ほどと同じように、その言葉に抑揚はない。
だが明らかに違う点が一つだけある。彼女は何かを見透かすような眼差しを向けていた。


まさか、気づかれたのか――――そんな思考がフランドールの脳裏を過ぎる。
彼女が事件を起こしたという証拠はない。あったとしても、それをレミリアが知ることはできない。
姉はただの一般人。事件の捜査状況を一般人に情報を漏洩させる程、『警備員』の管理は杜撰ではないはずである。
よって、姉が持っている情報は人からの又聞きでしかない。


しかし、それを承知の上で疑いの目を向けているとするならば……
フランドールは姉の次の句に備えて身構える。


そして――――

327 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:42:43.60 ID:CYcEgEI30










レミリア「……力を過信すると、痛い目を見るわよ?」










328 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:43:45.83 ID:CYcEgEI30

フラン「……???」



その言葉の意味を、フランドールは直ぐに理解することができなかった。
それは自身の予想から外れた言葉であったために。
そして、『その言葉を口にした理由自体を解せなかった』ために。


てっきり、姉にビル崩落事件の犯人ではないかと問い詰められると思っていた。
それは今までの会話の流れを考えれば当然のこと。むしろ、それ以外の考えに至る方がおかしいと言える。
彼女は一瞬の思考の空白を経て、直ぐさま我に返り、頭の上に疑問符を付けながら再度姉に問うた。



フラン「どういうこと?」

レミリア「使い方を誤ると、碌でもないことになるってことよ」

レミリア「この言葉、良く肝に銘じておきなさい。 でないと……後悔することになるわ」

フラン「ちょっと――――」



ところが、レミリアは妹の疑問に答えることは無かった。
彼女は席を立ち、そそくさと自室へと戻ってしまったのである。
残されたフランドールは、氷解しない疑念を抱えたまま呆然と椅子に座り続けるのだった。

329 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:44:32.64 ID:CYcEgEI30
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 00:52:14.19 ID:BHhat95mO
乙です
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 21:48:22.74 ID:6KJTxciJ0
現実的な姉妹の仲なんてこんなもんだよな
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/28(水) 13:33:04.50 ID:odyNFNds0
根気よく続けてくれるのはありがたいな
333 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/02(月) 00:22:56.99 ID:2biU/Avf0
これから投下を開始します
334 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:23:46.51 ID:2biU/Avf0





     *     *     *





335 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:24:41.20 ID:2biU/Avf0

レミリア「……何がしたかったのかしらね」



レミリアは自室のベッドに座り、ぽつりと言葉を漏らした。


その声には心なしか、疲れと呆れの感情が滲み出ている。
まるで自嘲するかのように、彼女は僅かに口角を釣り上げて薄笑いを浮かべていた。



レミリア(本当、こんなことに悩むなんて…… どうしちゃったのかしら、私)

レミリア(あんなもの、気にすること自体がおかしいのに。 疲れてるのかしら?)

レミリア(こんなんじゃ、学校のみんなに笑われるわね。 しっかりしないと)



己の不甲斐なさを叱責しながら、その一方で精神に活を入れる。
それは自身の心を安定させるため。自傷行為のようなものだが、案外落ち着くものだ。
独り言なので人前でやったりすると、間違いなく変な目で見られるだろう。

336 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:25:55.57 ID:2biU/Avf0

何故そんなことしなければならないほどに、彼女は悩んでいるのか。
事の始まりは今日の朝。彼女が目覚めた時に遡る。


――――夢を見たのだ。そしてそれは、とても恐ろしい夢だった。


残念ながら、どのような夢を見たのかを詳細に思い出すことは叶わない。
夢の内容を細部まで記憶して目覚めるなど、そうそうあることではない。
殆どは覚醒と同時に記憶から抜け落ちるのが当たり前。
仮に覚えていたとしても、漠然とした印象しか残らないのが『夢』というものだ。


しかし全てを覚えていなくとも、その夢の一場面が余りにも強烈すぎて。そして鮮明すぎて。
あたかも目の前で見たかのように、あの光景が網膜に張り付いて離れないのだ。

337 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:26:47.74 ID:2biU/Avf0










妹が、フランドールが血まみれになって立ち尽くしている。


例え夢であっても、そんな光景をどうして忘れることができようか。










338 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:27:26.64 ID:2biU/Avf0

驚愕のあまり、夜中に大声を上げて飛び起きてしまったほどだ。
幸いフランドールに気づかれることはなく、夜中に騒ぎになる事態は避けられたが、
冷静になるまでに相当時間がかかり、結局朝まで再度寝付くことはできなかった。
それから今日丸一日、今に至るまでその夢を忘れたことはない。



レミリア「……っ」



それを再び思い出してしまったのか、レミリアの表情が強ばる。
夢の中のフランドールは、全身にべっとりを血を浴びながら、虚ろな目で呆然としていた。
あの血が誰の物なのかは判らないが、少なくとも妹の物ではないことは確かだ。
夢なのでもしかしたら覚えていないだけなのかもしれないが、妹の体に傷らしきものは見られなかった。
だがそれは裏を返せば、『誰かの返り血を浴びていた』ということになるわけだが……

339 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:28:15.38 ID:2biU/Avf0

レミリア「……ふ、言った傍からこれじゃあ駄目ね」



心を落ち着かせようとして、結局できていないことに気づく。
多少のことなら動じないと思っていたが、案外自分も脆いものなのだとレミリアは改めて自覚した。


彼女はどちらかというと自尊心が強く、そして強気な人間だ。
かつては歴史ある一族の次期党首として、様々な教育を受けていた身である。
誇りある一族の長としての身の振る舞い方を、彼女は既に身につけていた。
その結果としての、幼い容姿からは想像もできない大人びた思考と発言。
それは彼女を初めて見る者に、強烈な違和感を与えるには十分なものだ。
しかし、だからこそ彼女は学生でありながら、フランドールの保護者的な立場にいることができる。


だがそんなレミリアでも動揺し、取り乱すことはある。
いくら教育を受けたとしても、彼女は年端もいかない少女だ。
彼女の中にあるのは『知識』だけであり、『経験』が欠如している。
不測の事態への対処方法は未だ不慣れであり、焦燥に駆られるのは当然のことだろう。
ただ、それでも動揺を表に出さないのは流石と言った所だろうか。

340 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:29:06.02 ID:2biU/Avf0

レミリア(……いい加減にしなさい、私。 何故こんなにも恐れているの?)

レミリア(所詮アレは夢に過ぎない。 『空想』を恐れるなんて、ばかばかしいにも程があるでしょう?)

レミリア(こんなことはさっさと忘れてしまうのが一番。 こんな小さな事で悩むなんて、私らしくないわ)



再度自分に言い聞かせて、今度こそ心の中の不安を取り払う。
無理矢理ではあるが、これで悩みを断ち切ることができた。


『夢』は所詮『夢』だ。
夢に深い意味なんて無いし、ましてや『夢が現実になる』なんてことがあるはずもない。
超能力であれば、もしかしたら――――などと考えもしたが、そもそも自分は無能力者である。
妹とは違い、何の特別な力も持たない一般人にすぎないのだから。



レミリア(なんて、自分で言ったら自虐もいいところね)

レミリア(さぁて、明日の準備をしなくちゃ……)



夢のことを頭から完全に忘れ去ると、レミリアは明日に向けて準備を始めるのだった。

341 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:30:53.83 ID:2biU/Avf0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 01:07:55.60 ID:Mm0MF04RO
乙です
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 19:15:42.46 ID:HUPTlfT90

その夢は能力の一端か
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 21:43:26.83 ID:4IUcFUBa0

ん?『運命観察』はまだ持ってない?それとも自覚なし?
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 16:29:08.06 ID:5wNKoBeC0
あ〜あ、やらかしちゃうのかフランちゃん
346 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/16(月) 00:30:38.51 ID:Ad0FEgFD0
これから投下を開始します
347 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:31:12.87 ID:Ad0FEgFD0





――――数日後





348 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:32:11.52 ID:Ad0FEgFD0

「ねぇねぇ、最近できたお菓子屋さんのこと知ってる?」

「ゲームセンター向かいにできたお店のこと?」

「そうそう! この前の日曜日に行ってきたんだけど――――」



真夏の昼下がり。学校では丁度お昼休みの時刻。
子供達が勉強漬けの一日の中で、纏まった休息を得ることができる唯一の時間帯である。


教室内でただひたすら駄弁りながら過ごす者。
体育館やグラウンドで運動に汗を流す者。
教師からの注意も顧みず廊下を走り回る者。
図書室に出向いて静かに本を読みふける者。


時間の使い方は多種多様であれど、皆が皆思うままに行動している。
辛い勉学の事を一時ながらも忘れ、楽しそうに趣味や遊びに興じていた。


そんな男子の叫声やら女子の歓声があちこちから響き渡る中。
昼休みに何故か机に向かって勉強している変わり者が一人。
349 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:32:52.80 ID:Ad0FEgFD0

フラン「……」カリカリ



金髪の少女――――フランドールは、自身に課された宿題をこなすべく鉛筆を走らせていた。
机の上には個人授業に使う教科書と参考書。そしてA4版の学生ノートである。
獣医の雑音を気にも留めないその様は、まるで体が机と一体化したかのようにも見える。
年頃の小学生としては、少々異様ともいえる姿がそこにはあった。



女子1「フランちゃんったら、ま〜た勉強してるの?」

女子2「最近、休み時間中ずっと勉強してるよね?」



そんな彼女の様子が気になったのか、二人の女子が傍に近寄ってくる。
折角の休みをそっちのけで勉強しているのだ。興味を持たない方がおかしいだろう。
だが実際興味を持っても、彼女達のように近寄ってくる人間は珍しいといえる。
一種の鬼気迫る姿から近寄りがたい雰囲気が出ているためだろう。
宿題を片付けているフランドールに話しかけるのは、席が近く会話をすることが多い彼女達くらいのものだろう。

350 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:33:25.35 ID:Ad0FEgFD0

フラン「こうでもしないと終わらないのよ。 まだ半分しかできてないし……」

女子1「ふーん……」



フランドールは友達に目を向けることもせず、ただひたすら鉛筆を動かし続ける。
一方少女2人は机の上に広げられている教科書や参考書を覗き込んだ。


目に飛び込んでくる、見たこともない漢字と難解な図面。
それらが所狭しと並び、まるで何かの紋様のようにも思える。



女子1「……」

女子2「……」



たちまち彼女等の顔の眉間に、深い皺が寄せられた。明らかに『理解できない』といった顔つきである。
フランドールが使っている教科書は、範囲が限られているとはいえ早くとも高校で学ぶものばかり。
それをただの小学校低学年の子供が理解できるはずもなく、彼女等はノートとそれを何度か交互に見た後、
少しばかりの溜息をついて首をかしげた。

351 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:34:41.42 ID:Ad0FEgFD0

女子1「わっかんない」

女子2「私も」

フラン「でしょうね」

女子1「フランちゃんはわかるの?」

フラン「だって、教えられてるし……わからないと先生から怒られるし」

女子2「……大変だね」

フラン「まぁ、ね」



短い会話が続く。しかしそれでも、机に向かう少女の手が休まることはなかった。


そしてその後、一同に沈黙が訪れた。話すことが無くなったためである。
フランドールは宿題を片付けることに躍起になっていて、周りを気にする余裕はない。
少女達はそれを眺めるだけであり、今までのようにおしゃべりをすることもなく、
近くの椅子に座ってぼうっとするだけである。
352 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:35:41.12 ID:Ad0FEgFD0

ただ悪戯に時間を無駄にする行為。
フランドールは別として、取り巻き少女達にとっては貴重な休みを浪費する愚行である。
しかし彼女達にとしては、そんなことは最早どうでも良かった。
というより、『おしゃべりする』ことも『フランドールを観察』することも、彼女達の中では同じ事なのだ。
外から見れば無駄なことでも、当人にとっては同じ『暇つぶし』に過ぎない。


そうして幾許かの時間が流れた後、女子の片割れがふと思いついたように言葉を口にした。



女子1「……ねぇ」

フラン「ん?」

女子1「そろそろ見せてよ、フランちゃんの能力。 あれからもう大分経ってるんだよ?」

女子2「1ヶ月位前だっけ? 能力者になったの。 ビックリしたよね」

女子1「なんだかすごいみたいだけど、まだ一回も見せてもらってない!」

353 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:37:37.89 ID:Ad0FEgFD0

フラン「無理。 先生にまだ使うなってきつく言われてるから」

女子1「そんなの無視しちゃえばいいじゃん」

フラン「あのね……約束破って怒られるのは私なんだけど」

女子1「みーたーいーのー!」

フラン「うるさい!」



駄々をこねる少女に対し、フランドールは苛立ちを隠さずに怒鳴る。
どうやら相当宿題に手こずっているようで、その焦燥が彼女に荒い言葉を吐かせたのだろう。
だがそんなことで怯む少女達などではなく、むしろ駄々がエスカレートしていった。


『見たい、見たい』の大合唱。その声は廊下まで響くほどだ。
挙げ句の果てには体を揺すってガタガタと椅子を鳴らす始末。
近くでこうも騒がれては、勉強に集中することなどできはしない。
全く以て迷惑千万であるが、注意したどころで効果は薄いことは先ほど見たとおりである。
仕方なくフランドールは、取り巻きを黙らせるために『とっておき』を使うことにした。

354 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:38:43.59 ID:Ad0FEgFD0

フラン「あーもう、放課後お菓子でも奢ってあげるから、それで勘弁して」



そのとっておきとは、『餌を与えて黙らせる』というもの。
愛玩動物よろしく、食べ物で大人しくさせるのだ。
フランドールが能力者になってから、女子の騒ぎを沈静化するために新たに編み出した手法である。


本当であれば、こんな方法などそうそう使えるものではない。
毎回お菓子を奢っていては、いくらお金があっても足りないからである。
ではどうしてこんなことが出来るのかと言えば、偏に彼女がレベル4の能力者になったおかげだ。
月に1回もらえる奨学金の額が、以前と比べて倍にまで跳ね上がったのだ。


よってフランドールの財布の中は、小学生とは思えないほどリッチな状態になっており、
お菓子を買う程度であれば容易に無くなることはないのである。

355 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:39:37.47 ID:Ad0FEgFD0

女子1「本当!?」

女子2「さっすがレベル4。 太っ腹だねぇ〜」

フラン「……はぁ」



先ほどの騒ぎは何だったのか。2人とも目を輝かせながらこちらを見ている。
お菓子をちらつかせた途端大人しくなった一同を見て、フランドールは呆れたように声を漏らした。
何やらお菓子目的でたかられているような気がするが、これも仕方のないことだと割り切る。


彼女は超能力を持てば良いことばかりであると思っていたようだが、そんなことはない。
有名になると言うことは、それと同時に厄介事にも巻き込まれやすくなるのだ。
有名人には多くの人が集うが、皆が皆いい人というわけではないのである。
『敵意』や『嫉妬』と言った負の感情をぶつけられていないだけ、まだマシと言えよう。

356 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:42:39.01 ID:Ad0FEgFD0

女子1「それじゃフランちゃん、お願いね〜」

フラン「わかってるわよ……」



憎たらしいほどの笑顔を見せる友人を余所に、フランドールは再び机に向かう。
この遣り取りだけで、貴重な休み時間の多くを浪費してしまった。早く後れを取り戻さなければ。


彼女が勉強を再開しようとすると――――



「あなたたち、何してるの?」



フラン「ん?」

女子1「うげっ……」



声がした方向を見ると、教室の出入り口に一人の少女が立っている。
髪が桃色の、少し堅物な印象を受けるその子は、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。

357 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:43:16.15 ID:Ad0FEgFD0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 01:02:23.98 ID:49G6oZf9O
乙です
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 03:53:13.04 ID:1vgPj+Qz0
「そんなに……彼女の力が見たいのか……?」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 20:10:43.74 ID:vqkxz1Xb0


桃髪少女か
能力者が能力を使う際の脳の働きを模写することで劣化コピー技を使えそうだな(適当)
361 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/30(月) 00:49:59.48 ID:oTN8jzTy0
これから投下を開始します
362 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/30(月) 00:50:59.84 ID:oTN8jzTy0

フラン「……なんだ、委員長か」

委員長「なんだとはなによ。 口の利き方には気をつけて」



ぶっきらぼうに言うフランドールに、『委員長』と呼ばれた少女は厳しい口調で非難する。
しかし非難された本人には、反省の色は見られない。


フランドールと委員長。
彼女等の仲は最悪とまではいかないにしても、良好な関係とは言い難かった。
その理由は二人の性格が、致命的と言っていいほどそりが合わないためである。


委員長は言ってしまえば『真面目』という言葉が歩きまわっているようなものであり、融通が利かず頑固な性格である。
そして何事にも本気で取り組み、決して中途半端に妥協することは無い。
そんな性格から来る不真面目な男子に対して事あるごとに説教をする様は、もはや日常風景と言っても良い。
故に一部の同級生からは煙たがられているのだが、その反面、教師達からの信頼は厚かった。
363 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:52:07.30 ID:oTN8jzTy0

それに対してフランドールは、『全く』とまではいかないにしても、それほど真面目な性格では無い。
興味を持った事柄に対しては積極的に動くが、そうでないものに対してはいい加減に対処してしまう。
そして彼女は『熱しやすく、冷めやすい』。仮に興味を持ったとしても、途中で飽きてしまうこともしばしばある。


『毎回のように本気を出すのは疲れるだけ』。
『結果さえ出してしまえば、やる気なんて関係ない』。


ある意味合理的だが、ある意味では不真面目にも捉えられる価値観を持っているのが彼女であった。


真面目さに価値観を見出すことなく、程々のやる気で物事を解決しようとするフランドール。
真面目過ぎる性格であるが故に、他人の不真面目を許容できない委員長。


これが漫画等で見られる『真面目な学級委員長と不真面目な生徒』という、
よくあるシチュエーションであったのならそれほど問題は無かっただろう。
『口煩い学級委員長の説教を、のらりくらりと受け流す生徒』。そんな構図が出来上がったはずである。
それに於いては『柳に風』の如く、正面から衝突するようなことは無い。

364 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:53:53.99 ID:oTN8jzTy0

しかし困ったことに、フランドールにはそのようなことが出来るだけの器量はなかった。
自身と真逆の思考を持つ存在が居るという事実に、我慢ができなかったのである。
故に彼女は、委員長に対し露骨なまでの敵意を抱いていた。


ところが、そこまで不仲だったにも拘わらず、実際に二人が正面からぶつかったことはこれまでにない。それは何故か?
それは彼女二人の間には、かつて『超能力を持っているかいないか』という明確過ぎる一つの差があったからである。


フランドールは最近レベル4相当の超能力を持っていると判断された身であるが、
過去に於いては僅かどころか全く能力を持っていない、レベル0の無能力者だった。
一方桃色髪の少女は、以前から学内では数人しか存在していないレベル3相当の能力者である。
その二人がぶつかればどうなるか。その結果は火を見るよりも明らかだろう。
そしてそれを理解できないほど、フランドールの頭は悪くない。


『力を持つ者』と『力を持たざる者』。
『超能力』はこの街、『学園都市』の根幹であり、最も重要視されるものでもある。
どんなに頭脳明晰でも、どんなに聖人君子であっても、『超能力を持っている』という価値には代えられない。


露骨なまでの超能力至上主義。
それは『学園都市』が抱える病であり、容易に直すことができない難病だ。
時には周囲の人間からの侮蔑として。時には本人の心の内に湧き上がる劣等感として。
その病は子供達の心を蝕み、追い詰め、食らい尽くすのである。

365 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:55:56.98 ID:oTN8jzTy0

フランドールも例に漏れず、その毒牙の犠牲となった一人だ。
『負けたくない相手が、自分が持っていないものを持っている』という事実は、
ある種の敗北感を彼女に植えつけるには十分である。
そして何より、『むかつく奴を見返すことができない』という状況が彼女をこの上なく苛立たせていた。


しかし、それはもう過去の話。二人の間柄は、以前とは大分違っている。
言うまでもなく、フランドールが能力を得たことで『超能力の有無』という明確な違いが無くなったためだ。
加えてフランドールはレベル4相当の能力者であり、その力関係は逆転したと言えるだろう。


フランドールは、相手よりも優位な立場に立つことが出来るようになった。
つまりは、それまでのように委員長に対して引く必要がなくなったということでもある。



フラン「それで、一体何?」

委員長「放課後の外出は禁止になってるでしょ。 それなのに、外出するみたいな話をしてる」

フラン「めんどくさいなぁ。 一々私のやることに口出さないでよ」

委員長「クラスの風紀を守るのが私の役目よ。 危険なことをするつもりなら止めるわ」

委員長「それに貴方こそ、私に口を出されないように気をつけたらどうなの?」

366 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:57:59.12 ID:oTN8jzTy0

ところが、力関係が変わっても人間関係は依然として変わっていなかった。
相も変わらず委員長は、フランドールの一挙一動に目くじらを立て、その都度彼女を諫めている。


フランドールとしては、超能力を持った時点で委員長からこちらに従うと考えていた。
『自身がそうだったのだから、相手もそうだろう』という思考に基づくものである。
そして委員長が事あるごとに自分に突っかかってくるのは、自分よりも力があるからだとも考えていた。


だが実際の所、そんなことを気にしていたのはフランドールだけであり、
委員長は彼女のことをどうとも思っていなかったのだ。
フランドールは委員長のことを『気に入らない奴』として敵視していたが、
委員長にとってのフランドールは、『少しひねくれた同じクラスの人』程度でしかない。
委員長にはフランドールを見下しているつもりなどないし、自身の力を傘に優位に立とうなどとも思っていない。
彼女が口うるさく言うのは、純粋に委員長としての使命を全うしようとしているからにすぎない。



しかし残念ながら、フランドールは委員長の考えに事実に気づいていない。
そして、委員長もフランドールにどのような目で見られているか知らない。
お互いに相手がどう思っているかなど理解することはなく、すれ違いばかりが続いていた。

367 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:59:21.14 ID:oTN8jzTy0

フラン「ほんっと、あなたって生意気よね」

委員長「……どういうこと?」

フラン「毎回毎回口出しして、一体何様のつもりなの?」

委員長「言ったでしょ、私は委員長。 クラスのみんなを正しく纏めるのが役目よ」

フラン「別に、あなたに纏めてもらおうなんて思ったこと無いんだけど」

委員長「貴方がそう思わなくても、誰かが纏めなきゃいけないわ」

フラン「自分勝手ね。 そもそも、委員長なんて居ても居なくても同じでしょ」

フラン「あなたが委員長になったのは、他の誰も成ろうとしなかったじゃない」

フラン「みんな委員長なんてどうでも良いのよ。 むしろ、そんな面倒くさいものなんかこっちから願い下げなの」

フラン「あなたのことなんか誰も望んでないわけ。 その辺わかってる? 『委員長さん』」

368 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:00:19.19 ID:oTN8jzTy0

委員長に対しフランドールは辛辣な言葉を投げかける。
その発言の一言一言に、彼女の敵意が乗せられているかのようだ。
相手の心をより深く抉るように、言葉を選んでるようにも感じられる。
『お前の存在なんて誰も望んでいない』と、相手の存在を全力で否定している。


実際の所、現状を鑑みると彼女の言葉は嘘ではない。
委員長がクラスの者から大部分から避けられているのは、紛れもない事実である。
真面目すぎる性格に加えて、極度のお節介焼きでもある彼女。
何か事あるごとに周りに口出しをし、さらには長々と説教をする人間を好く者など、
その者と同類の人間か、余程の物好きな人間しかいないはずである。



委員長「確かに、私はクラスの皆に嫌われていることは自覚しているわ」

委員長「私のような説教臭い人間なんて、嫌われて当然でしょう」

委員長「『先生達と仲が良い』という点も、その理由の内に入るでしょうね」

委員長「でも、皆に嫌われたとしても、誰も望まなくても、私は与えられた役目を果たすだけよ」



しかしその事実を指摘されても尚、委員長が狼狽えることはなかった。
むしろ、その逆境を目の前にして燃えているという節すらある。
相も変わらず彼女は、強固な意志が見え隠れする眼でフランドールを見据えていた。

369 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:03:03.94 ID:oTN8jzTy0

フラン「……」



一方その反応を見たフランドールは、眼を見開き、そして顔を強ばらせることになる。
その愕然とした表情は、己の予想から外れた事象を目の当たりにした時のもの。
委員長を言い負かそうとしたのに、全く堪えていないのである。
言い負かそうとした当人にしてみれば、明確な敗北感を覚えるものだった。


だが考えてみれば、委員長の反応は当然のことといえるだろう。
周囲の人間の行動に対して口出しするには、自分の考えに自信を持っていなければならない。
何故なら迷いを抱えていると、その発言に力がなくなってしまうからである。
言葉に強い芯が通っているからこそ、人はそれに耳を傾け、心が動かされるのだ。
批判されたからといって簡単に意志を曲げてしまっては、何度も他人に口出しなどできはしない。

370 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:04:27.88 ID:oTN8jzTy0

フラン「……………………は」



僅かな間が空いた後、フランドールの口から乾いた笑いがこぼれた。
口角が僅かながら釣り上がり、眉をひそめ、眼からは覇気が霧散している。
その表情は正しく、『失笑』の一言が相応しい。


そしてその時、彼女は目の前の少女に対し言論で勝つことを放棄した。敗北を認めたのだ。
そう認めざるを得ないほど、委員長の意志は固いことを自覚したのである。
ただし勘違いしてはいけないことは、それは『全面降伏』という意味ではないということ。
勝負の方法は、別に口論だけというわけではない。もっと単純明快でわかりやすい方法も存在する。


例えば――――『腕力による勝負』とか。

371 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:05:41.17 ID:oTN8jzTy0

フラン「――――あー、ほんと、うざったいわねっ!」

委員長「!」



突然、フランドールは大きく右手を振りかぶった。
彼女の細腕が大きくしなり、末端の手の平が相手の頬に吸い込まれる。



バチィンッ!



次の瞬間、教室に大きく打音が響き渡った。その音は紛れもなく、肌同士がぶつかる音である。


フランドールの右腕は、委員長の頬の手前で止まっていた。
腕を止めたのは、委員長本人の左手。彼女はすんでの所で、防ぐことに成功したらしい。
彼女は腕に走る衝撃に苦悶の表情を浮かべつつ、目の前の少女を睨みつけた。

372 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:06:33.57 ID:oTN8jzTy0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/30(月) 01:25:17.94 ID:nGR6+K2Vo
乙です
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/07(月) 01:36:26.42 ID:o6OCx0+r0
あーあ、やっちゃうのかねぇー?
375 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/12/14(月) 00:50:14.20 ID:n7uuoCGq0
これから投下を開始します
376 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:51:06.51 ID:n7uuoCGq0

委員長「……っ、いきなり、何をするの?」

フラン「うっさい! 黙って殴られなさい!」



その抗議を意にも介さず、フランドールは相手を睨み返した。
彼女は止められた腕を戻し、間髪入れずに今度は蹴りを放つ。



委員長「っ!?」



委員長はその蹴りを、後ろに下がることによって躱そうとする。
が、それには距離が近すぎた。足裏が委員長の腹部を捉え、彼女は後ろに吹き飛ばされる。

377 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:51:47.04 ID:n7uuoCGq0

ドサッ!



委員長「ぐっ……」

フラン「ふん、思い知った?」



尻餅をついた委員長を、フランドールは薄笑いを浮かべながら見下ろす。
その瞳に浮かぶのは明らかな侮蔑。相手を見下す蔑みの眼である。
憎き相手を見下ろすことが、これほど清々しいものだったなんて――――
フランドールは心を支配する高揚感に、一人酔いしれていた。



委員長「貴方っ……」ギリッ

フラン「くすくす……謝るなら今の内だよ?」

女子1「やっちゃえ! フランちゃん!」

男子1「なんだなんだ?」

男子2「みんな! フランと委員長が喧嘩してるぞ!」



騒ぎを聞きつけた他の子供達が、何事かと集まってくる。
そして状況を理解した者から次々に、二人に対して野次が飛ばし始めた。

378 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:52:38.10 ID:n7uuoCGq0

日頃の委員長への不満を晴らすためにフランドールを応援する者や、
逆に生真面目な部分で共感を覚えている委員長を応援する者。
どちらに味方をするわけでもなく、ただただ騒ぎを楽しむ者もいれば、遠巻きにその光景を眺めている者もいる。


いずれにせよ皆に共通していることは、普段とは違った出来事に興奮を覚えているということだろう。
いつもの代わり映えのない日常に退屈していた彼等にとって、フランドールと委員長の喧嘩は興味の絶えないものだ。
例えそれが悪いことだとわかっていたとしても、内から沸き上がる狂熱に耐える術を持っていなかった。
まるで蜜に誘われる羽虫の如く子供達は喧噪に群がり、いつしかその騒ぎは教室の外にあふれるまでになっていた。



委員長「こんな騒ぎになっちゃうなんて、委員長失格……」



その光景に委員長は、現状を生み出してしまった己の不甲斐なさに歯噛みする。


大きくなりすぎたこの騒ぎを、彼女一人で抑えることは既に不可能。
先生達が来れば自然と沈静化するだろうが、そのような事態の収束を彼女は望んでいなかった。
それは、彼女が持つ矜持なのだろう。自身の役割を果たせずに終わることだけは許せなかったのだ。


だから彼女は、無理矢理にでも己の力でこの騒動に幕を下ろそうとする。
例えそれが、自身が最も嫌う方法であったとしても。

379 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:53:39.16 ID:n7uuoCGq0

委員長「……後で先生に怒られるかもしれないけど、仕方ないわね」



委員長は疲れたようにそう呟くと、上に向けて腕を伸ばした。
次の瞬間、部屋中の塵や埃が舞い上がり、手の平に集まり始めた。
灰色の球体は見る見るうちに大きくなり、やがて野球玉程度にまで成長する。



委員長「……こんな狭い場所じゃ、これが精一杯かな」

男子1「出たぜ、委員長の超能力――――『千里霧中(エアゾール)』だ!」



男子がその光景に叫ぶまもなく、委員長は手の平の球体をフランドール目掛けて飛ばした。
飛ばされた球体は二人の丁度中間まで来ると、大きく膨れあがり拡散する。
そして靄が相手を覆い込もうとする様子を見た彼女は、開いた手の平を今度は強く握りしめた。

380 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:54:29.38 ID:n7uuoCGq0

フラン「……!」バッ!



相手の意図に気づいたフランドールは、反射的にその場から飛び退く。彼女の体が靄を突き抜け、外へと放り出された。
その次の瞬間、靄は再び一点に集合し始め、元の球体の姿に戻る。
もしもあの場所に留まっていたならば、あの靄にまとわりつかれて身動きが取れなくなっていた所だ。


委員長が持つ超能力、『千里霧中』。
『念動力』の一種に分類され、小さな粒子――――塵や砂など――――を操る能力。
大きさが規定に収まっていれば何でも良いらしく、煙や霧なども操作でき、
それらの形を自在に変えたり、一箇所に集合させて固体として扱うこともできるそうだ。


その特性故に、土埃が飛散するような場所では驚異的な強さを誇る超能力であり、
噂ではその力を使って、絡んできた5人のスキルアウトを一撃で吹き飛ばしたと言われている。

381 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:55:14.02 ID:n7uuoCGq0

フラン「あぶ――――がっ!?」



相手の攻撃を避けたことに安心しようとした刹那、フランドールの首元が突然強く締め付けられた。


何事かと見やると、そこには自身の首に巻きつく灰色の糸が見えた。
そしてその線を辿って行くと、行き着く先には先ほど避けたはずの塵の集合体が。
なんと言うことはない、フランドールは委員長の攻撃を避けた気になっていたが、
実際のところ全く逃げ切れていなかったのだ。



委員長「もしかして、避けたつもり? だとしたら残念だったわね、そこはまだ射程圏内よ」

委員長「まぁ、この教室から逃げでもしない限りは、避けることなんてできなかったけど」

フラン「このっ……!」



首を抑えてもがくフランドールを、委員長は冷めた目で見つめる。
フランドールの首を捉えた糸は、時が経つに連れてどんどん太くなっていった。
糸の根源である球体が、その身を縮めて糸を太く、強固にしているのだ。
いずれは塵の全てが首に巻きつくことになるだろう。

382 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:56:24.16 ID:n7uuoCGq0

委員長「貴方はもう、私の手から逃れられない。 これで終わりよ」

女子1「ちょっと委員長! フランちゃんを離しなさいよ!」

女子2「そうよそうよ! この堅物!」

委員長「断るわ。 今離したら、何をしでかすかわからないし」

委員長「それよりもそこの男子。 静かにして」

男子1「えぇ〜! もう終わりかよ!」

男子2「つまんねーの!」

委員長「黙りなさい。 いい加減ににしないと……」

男子1「うっ……」



委員長は騒ぎ立てる男子に対し、無言の圧力をかける。
その剣幕に臆したのか、その男子を含めた野次馬が一斉に口を噤んだ。

383 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:56:52.48 ID:n7uuoCGq0

目前には委員長の手により首を捕まれているフランドールの姿。
彼女は脱出しようと暴れているが、一向にそれが成される気配はない。
灰色の糸は首にしっかりとへばり付き、逃げることを許さない。


もしも逆らったら、自分も同じ目に会うかもしれない――――そんな予想が野次馬の中を伝播する。
無論、委員長がフランドールにしたことと同じ事をすると決まったわけではない。
むしろ、その可能性は低いだろう。元々委員長は、武力による制圧を望んでいないのだ。
このような状況になっているのは、フランドールが力で委員長を従えようとしたからに過ぎない。


だが、今の彼等にその考えに至るだけの余裕はなかった。
そして何より、委員長の剣幕と気迫が彼等の予想に現実味を帯びさせていた。
故に、野次馬達はぶつくさ言いながらも彼女の言葉に従うしかなかった。

384 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:57:39.43 ID:n7uuoCGq0

フラン「くっ、この……!」



その光景を余所に、フランドールは依然として委員長の束縛から逃れようとしていた。
首にまとわりつく糸を、どうにかして引きはがそうとする。
だが、その糸は強固の一言。まるでピアノ線を相手にしているかのようである。
微細な塵の集まりに過ぎないはずなのに、それはあまりにも頑丈すぎた。


それもそのはず、糸を作り上げている力の元は委員長の『念動力』。
その力によって粒子同士をつなぎ合わせ、その結果一本の糸を成している。
『念動力』とは物理法則から外れた力。人間の常識を逸脱した代物。
『念動力』を使えば、鋼線よりも頑丈な糸を創り出すことも可能なのだ。



フラン(ちくしょうっ……こんなっ……!)



どうすることもできない状況、己の醜態が晒され続けている状況に、フランドールは焦燥、屈辱、憤怒に支配される。
周りの様子を見ると、野次馬の注目は委員長だけに向いていた。フランドールのことなど気にも留めていない。
彼等は既に、『フランドールは委員長に負けた』と考えているのだ。

385 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:59:01.10 ID:n7uuoCGq0

こんな筈じゃ無かったのに――――彼女は心の中で歯噛みする。
そもそも、面と向かって争うこと自体が間違いだったのだ。
『強度』としてはフランドールの方が格上とはいえ、能力者としての経験の差が違いすぎる。
その事実は、フランドールが終始能力を使わなかったことに対し、
委員長は躊躇いもなく人に向けて能力を使った所に現れている。


委員長は『超能力の扱い方』というものを心得ている。
その言葉の中には、単純に『超能力を操作できる』というだけでなく、
『超能力を使うべき状況を判断できる』という意味合いも含まれている。
彼女の中には能力を使うべき『基準』というものがあり、それがあるからこそ迷い無く能力を行使することができる。


その『基準』は、実際に超能力者にならなければ定めることができない。
力をいつ、どのように使えばよいのか。それは当事者になった時に初めて理解できるもの。
故に、それを持たないフランドールには『今、力を使う』という選択肢が頭に浮かんでこなかった。

386 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:00:42.92 ID:n7uuoCGq0

フラン(っ、こうなったら……!)



だがそれは、あくまでも『力を使う機を判断できなかった』というだけである。使おうと思えば使えるのだ。
まだフランドールの敗北が、完全に決定付けられたというわけではない。


彼女は能力の演算を開始する。自身にまとわりつく糸に触れ、その性質を理解し、破壊しようとする。
この力を自身の意志で使うのはこれが初めて。能力に覚醒した時は意識が朦朧としていたし、
それ以降は先生達の許可がなければ使うことができず、その性質を知るための実験として使用したことがあるのみ。
言ってしまえば、今回が初めての実践ということなる。


自分に上手く能力を扱うことができるだろうか?
そんな不安が、彼女の脳裏を過ぎる。


今まで実験として色々な物を壊してきたが、超能力が作用しているものには試したことはない。
委員長の『念動力』により造られた一本の糸。それに自身の能力が作用するのかは、全くの未知数。
『糸の破壊に失敗し、結局逃げられなかった』ということも十分あり得ることである。


この行動が、必ずしも成功するとは限らない。だが、何もしなければ何も変わらない。
だから彼女は、この策が成功することに賭け、行動に移した。

387 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:01:38.97 ID:n7uuoCGq0

フラン(物を壊すには、物質同士を繋ぐ力を切っちゃえばいい筈……)

フラン(この糸を繋ぐ力は『念動力』だから……………………これだっ!)



フランドールは糸が帯びている力を見極め、それに自身の能力を作用させる。
委員長の『念動力』に、自身の『念動力』をねじ込み、糸を形成する力を妨害する。


すると――――



ブツンッ!



鈍い音と共に、触れた部分から糸が千切れる。果たして、フランドールの策は成功した。
彼女の能力は、『念動力』によって造られた糸にも効果があったのだ。


フランドールが持つ『物質崩壊』は委員長と同じ『念動力』に分類されるものであり、互いに干渉することができる。
ならば純粋に出力が上回る彼女の『念動力』が、委員長のそれに劣ることなどあり得ない。

388 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:02:31.61 ID:n7uuoCGq0

フラン(物を壊すには、物質同士を繋ぐ力を切っちゃえばいい筈……)

フラン(この糸を繋ぐ力は『念動力』だから……………………これだっ!)



フランドールは糸が帯びている力を見極め、それに自身の能力を作用させる。
委員長の『念動力』に、自身の『念動力』をねじ込み、糸を形成する力を妨害する。


すると――――



ブツンッ!



鈍い音と共に、触れた部分から糸が千切れる。果たして、フランドールの策は成功した。
彼女の能力は、『念動力』によって造られた糸にも効果があったのだ。


フランドールが持つ『物質崩壊』は委員長と同じ『念動力』に分類されるものであり、互いに干渉することができる。
ならば純粋に出力が上回る彼女の『念動力』が、委員長のそれに劣ることなどあり得ない。

389 :投稿ミス ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:03:15.91 ID:n7uuoCGq0

委員長「なっ――――!?」

「おぉっ!」



束縛を逃れたフランドールを見て、委員長は目を開く。
それと同時に、予想外の展開に周囲が一気に色めき立った。


フランドールがクラスの皆の目の前で能力を披露するのはこれが初めて。
彼女の能力の情報については、噂程度の物は伝わっていたものの、その詳細を知る者はクラスのどこにもいなかったのだ。
その理由は、教師達がフランドールの超能力の情報が不用意に広がる恐れ、
許可無しに能力を使わないよう釘を指したからであり、フランドールも律儀にそれを守っていたからである。


だが今回、彼女の頭に血が上りその約束を忘れたことで、超能力の正体があらわとなった。
その超能力に対し、委員長は自身の能力が破られるほどのものであることに驚愕し、
クラス一同はついに明かされる未知の力に、熱い視線を送る。
この瞬間、この場にいる人間の全ての視線がフランドールに集まっていた。


だがそれを前にして、当の本人はまるで気に留める様子はない。
彼女の頭の中は、『目の前の敵をどう打倒するか』ということしかなかった。

390 :投稿ミス ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:04:35.28 ID:n7uuoCGq0

フラン「……ははっ!」

委員長「くっ!」



フランドールは素早く身を起こすと、委員長目掛けて突進する。
それに少し遅れて、委員長が再び相手を束縛しようと能力を行使した。


再び、灰色の糸がフランドールに迫る。しかし、それらが標的を捉えることは無かった。
フランドールが糸を手で乱暴に鷲づかみにし、自身の『念動力』で片っ端から破壊したのである。
糸を自力で壊せるとわかった以上、それを恐れる必要など無く、その行動には一分の迷いも存在しない。
彼女は糸を手で握りつぶしながら、ものの数秒の内に委員長の下へと辿り着いた。



委員長「そんな……!」



自分の能力が全く効かない。その事実に委員長は大きく狼狽する。


ものの一分とかからずに覆された戦況。それを冷静に受け入れるには、彼女はまだ若すぎる。
彼女は荒事を経験したことがあるとはいえ、その対処には『力による強引な排除』という手段しか執ったことがない。
『戦いの最中に戦略的な方法を考える』などという経験は無かった。
故に彼女は、突然訪れた危機的状況に対して咄嗟の判断をすることができない。

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