とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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31 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:29:52.84 ID:l1/0db2U0

バキィッッッ!!!



レミリア「がッ……!?」



不意打ちで顔を殴られたレミリアは、そのまま受け身を取ることも出来ないまま吹き飛ばされる。
彼女は5メートルほど宙を舞った後、地面に勢いよく叩きつけられた。
しかし流石というべきか、彼女はそのまま地べたを無様に転がることなく、体制を立て直して起き上がる。


殴られた頬に鈍痛が走り、口の中に血の味が広がる。
吸血鬼の体を手に入れる上で血の味は文字通り散々舐め尽くし、今となっては慣れてしまったはずのものなのだが、
やはり自分の血の味に限ってはそうではなく、何とも言えない不快感が沸々と心に沸き上がる。
おそらく自分の身が傷ついているという事実が、その感情を発露させているのだろう。



レミリア「くっ!」



当然のこの場に闖入者に対し、鋭い視線を投げかける。


そこにはレミリアを殴った時の姿勢――――右腕を大きく振り下ろした状態のままこちらを睨み返す少年の姿。
全力疾走をした名残か、息を荒く吐き出しながら肩で呼吸をしている。

32 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:31:32.59 ID:l1/0db2U0

身長は大体レミリアの頭頂部が腹部に届くくらい。およそ170センチメートルといったところか。
格好は白のYシャツに紺のズボンと、何とも特徴のない服装をしており、一般的な高校生のようにも見える。
しかし体の肉付きはかなり良く、どうやら肉体派のようだ。
二の腕に鍛えられた筋肉の隆起が浮かび上がっているのが目視できる。
レミリアをノーバウンドで数メートル吹き飛ばす辺り、腕力は相当なものと伺えた。


顔はお世辞にも美男子とは言えるものではない。精々中庸といった所か。
だが相手を射貫くような鋭い目が、その男の印象を強烈に脳裏に焼き付ける。
烏の羽のような艶のある黒髪はヘアワックスで固められており、その形は大きな毬栗を連想させた。



レミリア「お前は……誰だ?」



レミリアはその少年に何者なのかを問うた。
そうした理由はその男とはまるで面識が無く、初対面であったこともあるが、
だがそれ以上に『彼がこの場に存在している』という事実に衝撃を受け、故に正体を知ろうとしたのだ。

33 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:36:13.11 ID:l1/0db2U0

この公園はパチュリーが施した『人払い』により、一般の人間は近寄るどころか注意すら向けられないようになっている。
公園に正面から入ることが出来るのは、術者本人が立ち入りを許可した人間だけだ。
それ以外の人間は解呪の魔術を用いて無理矢理打ち破るしか方法がない。


ならばこの男は魔術を扱える魔術師なのか?
その問いに答えるならば、それは『否』と断言出来るだろう。


その判断の根拠は大きく分けて二つ。
一つ目は、普通の魔術師であれば『拳で殴り飛ばす』などという直接的な攻撃手段をとるはずがないという点。
もちろん、魔術師全てが魔術を飛び道具として戦う者達ばかりというわけではない。
魔術と武術を併用し、遠近両方に対応できる者も当然ながら存在する。
だがそれは、あくまでも『武器を用いて戦っている』に過ぎず、
己の肉体、つまりは自分の足で走り、自分の拳で殴り合いをする様な者は皆無といっても良い。
仕事柄そう言った技術を身につける魔術師もいるだろうが、それはかなりの少数派だろう。

34 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:38:10.00 ID:l1/0db2U0

二つ目は、彼からは魔術を使っているような様子が見受けられない点。
レミリアの顔を殴り飛ばした時のパンチの威力は、確かにかなりものではあるが、
それでも通常の人間がもつ腕力で生み出すことが出来る範囲内に過ぎなかった。


もしも仮に己の拳のみで戦場を渡り歩くような超肉体派の魔術師がいたとする。
当然ながらその者は、敵の猛攻を凌ぐために自身の肉体を魔術で補強するだろう。
そうした場合、目にも止まらぬ速さで動き回り、巨岩をいとも簡単に粉砕するくらいの身体能力を付与するはずだ。
接近戦を挑む以上、それくらいのことはしなければ渡り合うのは難しいと言える。
そして、そんな人間の拳に顔を殴り飛ばされたとしたらどうなるか。
ほぼ間違いなく頭部が粉砕するか、首元から千切れるに違いない。運が良くても顔面陥没は必至である。


だが目の前の少年に殴り飛ばされた時に、そんな凄惨な状態になることはなかった。
己が持つ吸血鬼の肉体の御陰かとも思ったが、この体は筋力については優れているものの、
耐久性に関して言えば人間のそれとほぼ変わらない。
多少の傷はものの数分で傷跡残さず治るが、頑丈さという点で言えばそれほどでもなく、
ナイフで切られれば傷は付くし、打撲や骨折も当然起こりうる。


人と何ら変わらない耐久力であるレミリアの顔を、痣が出来る程度しか傷つけることが出来ない。
明確な敵意を持っていて、且つあれだけの気迫が籠もっていた以上、魔術を使わず手加減したということも考えにくい。
つまり、あの拳の威力がこの少年の全力であり、魔術を使っていない素の力であると推察した。

35 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:41:48.20 ID:l1/0db2U0

「……」

レミリア「……答えなさい。 貴方は誰?」



先ほどの問いに無言で睨みつけるままである少年に対し、レミリアは苛立ちを隠さずに再び問う。


魔術師でもないのにこの場に現れた少年。
何から何まで異質すぎるこの人間を前に、『未知への不安』がレミリアの心に芽生え、
それが『焦燥』という目に見える形となって表面化していた。
彼女にとってしてみれば、この男の介入は全くの不測の事態。
単純に予想していなかっただけではなく、『自身が見た未来にも確認できなかった真のイレギュラー』だった。



パチュリー「っ、貴方……何故……?」

「大丈夫かパチュリー? 助けに来た」



足下に倒れていたパチュリーが弱々しく少年の顔を見上げる。
それに対して少年は振り向くことはなく、しかし足下の女性を安心させるかのように、力強い声で返答した。
儚げに地面に跪く女を守るように、その身一つを壁として立ちふさがる様は、まるで姫を守護する騎士のよう。
何の武具を身につけていない丸腰の状態ではあるが、その体から漲る闘志は姫を守るのに相応しい。


36 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:46:49.42 ID:l1/0db2U0

レミリア「……」

「……」



レミリアと少年の視線が交差する。


片方には漠然たる疑念が。もう片方は確固たる決意がそれぞれ宿っている。
言葉が交わされることもなく、緊張の糸が限界まで張り詰める。


そして短くも長い時間が経ち、緊張の糸がついに切れるかと思われたが――――



パチュリー「ゲホッ、けほっ!」



パチュリーが体を起こしながら大きく咳き込んだ。胸を押さえながら苦しそうに体を震わせている。
喘息は少し収まったようだが、やはりまだ引きずっているらしい。
時折、掠れた呼吸が微かに周囲に響く。

37 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:47:33.66 ID:l1/0db2U0

少年「! おい、無理すんな……」



その声を聞いた少年は、そこで初めてレミリアから視線を外す。周囲の空気が少しだけ軽くなった。
彼は本当に心配そうな表情を浮かべて彼女の側に屈む。



パチュリー「コホッ……大丈夫よ、これくらい。 ……それよりも、何故貴方がここに?」

パチュリー「私は関わらないようにしっかり忠告したはず。 それを反故するなんて……」

パチュリー「貴方、自分が今何しているのかわかっているの? ――――上条当麻」

上条「……」



パチュリーは膝をついたまま、氷のような視線で少年――――上条当麻を睨みつける。
その視線は明確な怒りを込めたものであり、その目を見た者に背筋に氷を押しつけられたかのような、
ヒヤリとした錯覚を覚えさせられる程の眼力である。


一方、当麻はパチュリーの視線を前にして、自嘲したような笑みを浮かべる。
その顔は諦観と達観を合わせたような、少し複雑な表情をしていた。

38 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 00:59:15.10 ID:l1/0db2U0

上条「あんた、レミリアとフランをイギリスに連行するつもりなんだろ? 吸血鬼を創る魔術を広めないために」

パチュリー「! 貴方、何故それを……!」

上条「ステイルから全部聞いたよ。 あいつが素直に教えてくれたのは、今考えるとちょっと意外だけどな」

上条「あんたや土御門が俺達に作戦を邪魔させないように、本当のことを黙ってたってことは理解してる」

上条「確かにそれは世界の危機を考えれば正しいことだし、必要なことだってことはわかるさ」

上条「でも、それだとインデックスとフランドールは絶対に不幸なことになっちまう。 それだけはどうしても嫌なんだ」

上条「誰かが不幸になって得られる平和なんて俺はいらない。 あんたから罵倒を浴びせられても、これだけは絶対に譲れない」

上条「俺が、俺達が誰も悲しまないハッピーエンドってのを迎えられるようにしてやる」

39 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:01:04.75 ID:l1/0db2U0

パチュリーはその言葉を聞き、思わず口を閉ざした。


『誰も悲しまないハッピーエンドを迎えられるようにする』。
それが意味する所が何なのかを理解できないような彼女ではない。
つまるところ当麻は、レミリアもフランドールもイギリスに連行させず、
尚且つ吸血鬼を製造する魔術も跡を残さず破壊すると言っているのだ。
パチュリーと土御門に課せられた任務を無意味なものしかねない発言である。


では彼の考えに対して、パチュリー直ぐさま反論を並べ立てたのかと言えばそうではない。
パチュリー自身、任務の遂行に当たって起きる結末――――インデックスとフランドールの仲が引き裂かれることに対し、
何の感情も抱いていないというわけではないからだ。


友人との永劫の別れ。
幼少の頃に於いて、彼女はスカーレット家の滅亡――――レミリアとフランドールの死を理解した時、
父親の死も相まって筆舌に尽くしがたい虚無感というものに襲われた。
さらに追い打ちをかけるように母親が病で死んでしまい、その結果彼女は後見人となった父親の友人の言葉に耳も貸さず、
一時期は自室こもって読書に没頭するようになってしまった。
その1年後に何とか持ち直すことは出来たが、今でも当時のことは忘れていない。


そんな経験をしたことがある彼女だからこそ、当麻の言い分対して即座に反論できなかったのである、

40 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:02:43.65 ID:l1/0db2U0

パチュリー「……無理よ。 そんなことなんて、出来るわけがない」



そうは言っても、彼の言葉をそのまま鵜呑みにするわけがない。
仕事に私情を挟まないというのも一つあるが、そもそも彼の言葉は説得力に欠ける。


確かに、彼が求める『全員がハッピーエンドを迎える』という結末は素晴らしい。
それに対して異論を挟むつもりはない。全て丸く収まるのなら、それに越したことはないのだから。


しかし、彼はそれを『願望』という形でただ口にしただけである。
『どうやってそれを叶えるか』という手段が明らかでないのだ。
それでは首肯して同意することなど到底できない。

41 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:04:31.40 ID:l1/0db2U0

上条「できるさ」

パチュリー「――――」



だが彼はそれを知ってか知らずか、力強い口調で『できる』と断言した。


それを聞いたパチュリーは、思わず目を丸くする。
一体どこからそんな自信が湧いてくるのか、彼女には不思議でならない。
本来であれば、彼の言い分など直ぐさま妄言として切って捨てているはずのこと。
しかしそれが出来なかったのは、彼の目から絶対的な自信というものが垣間見えたからだ。



パチュリー「何か策があるの?」

上条「ある。 しかも土御門のお墨付きだ」

パチュリー「……彼にも会ったのね」

上条「あぁ。 今あいつには用事を頼んでる。 インデックスは今あいつ一緒にいる。 フランもだ」

パチュリー「一体何が起きているのか、是非ともご教授願いたいのだけれど――――」



現状を聞こうとした彼女だったが、それを知ることは叶わなかった。
何故ならばその言葉の続きを遮るようにして、突然怒りの叫びが二人を襲ったからだ。

42 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:06:35.12 ID:l1/0db2U0

レミリア「貴様ァッ!!! フランに……あの子に何をした!?」

パチュリー「ッ!?」

上条「……」



当麻が振り返ると、そこには憤怒の表情をしたレミリアの姿。


いや、憤怒などという生易しい物では無い。
その顔はまさに『鬼の表情』であり、その視線だけで人を殺せそうな勢いだ。
体からは『真紅のオーラ』と錯覚してしまうほどの怨嗟があふれ出している。


彼女が激怒している理由は言わずもがな、『フランがインデックスと一緒にいる』と聞いたからだ。
インデックスはイギリス清教のシスターである。今レミリアが敵対している組織の人間だ。
その清教の人間がフランドールと一緒にいる。しかも『土御門』という名の、
明らかに清教の関係者と考えられるもう一人の人間と一緒に。


それらから連想できることは何か。おそらく、万人が口を揃えてこう言うだろう。
『フランドールはイギリス清教に捕らえられたのだ』と。

43 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:08:06.71 ID:l1/0db2U0

レミリアはここに来て、目の前にいる謎の少年を『敵』として認識した。
最早彼が何者であろうと関係ない。そんな些細事は、彼女の妹のこと比べれば塵芥に等しい問題だ。



上条「……」



怒れる吸血鬼を前にして、当麻はゆっくりと立ち上がり彼女を見据えた。


その目からは、怯えの感情は全く見受けられない。
目を逸らすことなく、相手と同等かそれ以上の強い眼力で見つめる。
そして彼は、微塵も臆することなく堂々とこう宣言した。










「初めまして、だな。 俺の名は上条当麻。 ――――レミリア・スカーレット、あんたを止めに来た」

44 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/11(月) 01:15:48.57 ID:l1/0db2U0
今日はここまで


公式でJKサイキッカーktkr!
電波塔も引き倒すあのパワーならレベル4間違い無し!
妄想が捗りますね


質問・感想があればどうぞ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 19:56:00.65 ID:40hTLzf90

『運命観察』の対象外だろうと殴られれば粉々だぞ上条さん

そしてやっぱり出番のない誰かさんであった‥
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 20:43:21.93 ID:tTDkm7TgO
乙です
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 22:31:30.84 ID:oEBjjCiMo
そういえばここ学園都市だった
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/12(火) 09:03:03.39 ID:fsTpFcw10
満を持してッ!
乙!
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/05/18(月) 00:20:29.72 ID:AHJ3I8Bt0
残念ながら、上条さんの出番はまだなんじゃ


これから投下を開始します
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:21:50.50 ID:AHJ3I8Bt0





――――7月28日 PM9:42





51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:24:03.35 ID:AHJ3I8Bt0

土御門「予定時刻まで後20分……」




時間は、少しばかり遡る。


人々が自身の家で就寝の支度をし始め、人が出歩かなくなる時刻。
閑静な住宅街の一角。家屋と家屋の間にある狭い小道。
その薄暗がりの中で、土御門は自身の腕時計を見つめながら呟いた。


彼が居る場所は学園都市第14学区。
海外から学園都市に留学してきた学生達が住まう、俗に『外人村』と呼ばれる区画である。
しかし『村』と言うにはかなりの広さを誇り、アジア圏、中東圏、西欧圏といった形で、
区画が文化圏毎に更に細分化されている。
その集まる文化圏の多様性を見れば、世界中からの留学者がどれほど多いのか、容易に察することが出来るだろう。


その様々な文化が混在する第14学区に於いて、土御門が今居る区画は欧米圏。
中でも特に欧州の色が濃い場所であり、且つ学生ではなく大人達が多く住む区画である。
建物は煉瓦を中心とした石材を用いて建築された家屋が殆どであり、
立派なものになると意匠を凝らした鉄柵に、更にはこぢんまりとした庭園が付属したものまで存在する。
無論、土地面積が限られる学園都市の住宅事情を考えると、そういった豪勢な家屋は数少ない。
そのような家屋に住めるのは、ある一定の地位を確立した人間に限られる。

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:24:54.15 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(人影も疎らになってきた。 これなら、周囲の人間に気づかれずに行動できそうだ)

土御門(後は『標的』出掛けるのを待つだけだが……)



生粋の日本人であるはずの彼が、何故このような場所にいるのか。
その理由は単純、『仕事』のためだ。ただし、その『仕事』はかなり物騒なものだが。


イギリス清教から彼に下された任務は『吸血鬼製造の魔術の抹消』である。
その任務を遂行するにあたって、彼が今成すべき仕事。
それは魔術を保持しているであろう人物――――レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットを捕縛することだ。
姉の対処は戦力的に上であるパチュリーが担当し、土御門は比較的捕縛が簡単と思われる妹の対処をすることになっていた。


どうしてそのような、戦力を分散するような作戦にしたのか。
それは姉のレミリアが、件の魔術を用いて吸血鬼化している可能性があるからである。
確証があるわけではない。しかし、その予想が現実のものとなった場合、土御門では対処することが出来ず、
パチュリーとコンビを組んでもただの足手まといになってしまうからだ。

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:25:40.24 ID:AHJ3I8Bt0

彼は魔術を使うことが出来ない。
正確にはそうではないが、使う度に文字通り『身を削る』ことになる。
敵と面向かった状況で血反吐を吐きながら戦うのは、どう考えても無謀だ。


ならば、魔術ではなく他の手段――――体術や拳銃ならば役に立てるかと言えば、そうでもない。
確かに、彼の体術は容易に人が殺せるほどの力量であり、拳銃の腕も一流である。
それは幼い頃より行ってきたスパイの経験と、学園都市の暗部に所属していた頃の経験により培われたもの。
命の遣り取りが日常的に行われている世界において、絶対に生き延びるために会得した技術の数々だ。
そこらのチンピラ程度であれば、多人数であっても苦もなく制圧できると彼は自負している。


しかしそれらの技が通用するのは、あくまでも『普通の人間』が相手だった場合のみ。
人外である吸血鬼にそれがどれだけ通用するというのかわからないが、
それほど有利には働かないであろうことだけは間違いなかった。



土御門(だからオレが、対処が容易なレミリアの妹を担当し、パチュリーは一人でレミリアと対峙することになった)

土御門(『最善の策』って訳じゃないが、少なくとも現状で考えられる中で最もマシな策だろうな)

土御門(不安があるとすれば、吸血鬼の情報が少なすぎることと、パチュリーの体調か……)

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:26:15.41 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(吸血鬼の情報は直接会ってみない限りは知りようがないから仕方ないとして、
    やはり最も懸念すべきはパチュリーの持病だな)

土御門(薬で抑えるとは言っていたが、万が一のこともある)

土御門(手っ取り早く妹を捕まえた上で脅しをかけて、戦闘を中断させた方が良さそうだ)



吸血鬼の力を手に入れたであろうレミリアを、正面から相手して勝利を収めることは困難である。
ならば、戦うことなく相手を御することが出来る策を用意すればいい。
例えば、彼女のアキレス腱である存在――――フランドールを人質にして服従させるといったように。


『人質を取る』という作戦は、普通に見れば卑劣極まりないものなのかもしれない。
しかし戦いに於いて、相手の弱点を突くのは至極当然のことである。
確実に勝利を手にしたいのであれば、一々手段など選んではいられないのだ。

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:26:58.79 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(オレが『標的』の妹を首尾良く捕まえることが出来れば、それだけ手間を省くことが出来る)

土御門(『標的』には不確定要素が多すぎるからな。 これが一番確実な方法だろう)

土御門(無論、人質を無視するケースも考えられるが……それは無いと言い切れるな)

土御門(奴の周辺を洗ってみたが、周囲の人間からはかなりの好印象を持たれている)

土御門(人格にそれほど難があるわけでも無し、人並みの倫理観は兼ね備えているはず……)

土御門(たった一人の身内を見殺しにするような、薄情な人間じゃないことは確かだ)

土御門(こっちとしてはかなり好都合なことだがな……)


レミリアがそれなりに真っ当な性格をしているという事実は、土御門にとって朗報であった。


彼女がフランドールに情を抱いている。
つまりそれは、フランドールは人質として機能するということである。
もしも彼女が人質を意にも介さないような冷淡な人間であったのならば、この作戦は成り立たない。
人の情につけ込む。卑劣ではあるが、だからこそ強力な策となりうるのだ。

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:27:43.90 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(さて、そろそろ出てきてもおかしくはないんだが……)



土御門は物陰からレミリア・スカーレットが住まう『家』を睨む。
いや、『館』と表現した方が正しいだろうか。周囲にある一般的な家屋よりも二回り以上も大きい。
土地面積が逼迫している学園都市の住宅事情を考えると、その敷地の広さは異常である。


しかしそれ以上に、圧倒的な存在感を放っているのが『館の色』だろう。
ここ一帯に建てられている建物は、基本的に灰色と茶色を基調としており、比較的に落ち着いた雰囲気のものが大半だ。
ところがスカーレットの館は外壁、屋根、窓の枠に至るまで全てが、その名の通り『紅』で統一されている。
しかも普通の『紅』ではなく、少々黒ずんだ、もっとわかりやすく表現するならば『静脈の血液』のような暗赤色だ。


塗装をする際に人間の生き血をそのまま用いたかのような――――
常識的に考えればあり得るはずがないのだが、今回は事情が事情なだけに、そんな考えを抱いてしまう。
『吸血鬼が住む』というだけで、そこには恐ろしい何かがあるような錯覚に囚われてしまうのだ。
それだけ吸血鬼という存在は、『強大な怪物』の代名詞として人々に認知されているということなのだろう。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:28:15.05 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(下調べの段階である程度知ってはいたが……予想以上に大きな建物だな)

土御門(しかも目に毒なくらい真っ赤だな。 『標的』の趣味なのか?)

土御門(赤色に対して固執するようになった? 吸血鬼化の影響か? 推測の域を出ないな)

土御門(どちらにせよ、この敷地から妹を見つけ出すのは少々骨が折れそうだ。 何かおびき寄せる方法があれば良いんだが……)



ギィ……



土御門が思案していると、どこか遠くから僅かに木が軋む音が聞こえてくる。
音がした方向はレミリアが住む紅の館。その玄関の木製の扉が開かれようとしていた。



土御門(……来たか)



土御門はその様子を、物陰で姿を隠しながら注意深く観察する。
やがて館の扉が開け放たれると、中から一人の少女が悠然と姿を現した。

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:29:00.27 ID:AHJ3I8Bt0

桃色をベースとして、所々にフリルが付いた可愛らしいスカートを着込み、
青みがかっている銀髪の頭には服と同じ色のナイトキャップ、そして足には紅色のブーツを履いている。
中世の貴族の娘のような出で立ちであり、現代社会においては奇天烈としか言い様がない。
しかし背後の西欧色が前面に強く押し出されている建造物が、その少女の姿を違和感のないものに仕立て上げていた。



レミリア「……」



その少女――――レミリア・スカーレットは静かに玄関の扉を閉めると、
出掛ける挨拶もせずに無言のまま、軽い足取りで石の階段を下りた。
淡い月光に晒されたその姿は何処か神秘的であり、同時に妖しい雰囲気を醸し出している。
その光景は、一枚の絵画に納められると思える程様になっていた。



土御門(指定した時刻まで後10分……ここから公園まで、徒歩で丁度辿り着く時間か)

土御門(怖じ気づいて出てこないのかと思ったが、その心配はいらなかったか)



そんなことを考えている土御門を余所に、レミリアは鉄柵の門を開けて敷地の外に出た。
そして自身の手で扉を閉めると、夜の道をたった一人で歩いて行く。

59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:29:45.41 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(……見送りには誰も出てこなかったな。 まぁ、当然か。 奴と一緒に住んでる人間は妹とメイド一人だけだからな)

土御門(聞く所によると、『標的』と妹の仲は良いものではないらしい。 過去に何かあったらしいが……)

土御門(メイド……十六夜咲夜の方は数時間前に家を出たまま戻ってきていない。
    ここいら一帯の監視カメラをジャックしたら、6時頃に出掛けていく姿が確認できた)

土御門(何しに出掛けたのかは、絶対的な根拠はないが大方予想は付く)

土御門(最近起こっている『連続通り魔事件』は、おそらく『標的』があのメイドに指示したものだろう)



『連続通り魔事件』における最大の特徴である、『被害者の血液が抜き取られている』という事実。
その事実とレミリアの存在が結びつけられるのは必然のことと言える。
実際、一部のオカルト好きの人間には吸血鬼の仕業ではないかとまことしやかに噂されているのだ。
一般人ですらそうなのだから、オカルトに全身が浸かっている土御門が気づかないはずがない。



土御門(……それにしても、未だに戻らないのは少しおかしいな。 何かあったのか?)

土御門(いや、それは今考えることじゃない。 重要なのは『潜入するなら今が絶好の好機』だということだ)

土御門(オレにとってすこぶる相性の悪いあのメイドが居ないのは有難い)

土御門(後は『標的』がいなくなれば、妹は無防備も同然だ。 これ以上のチャンスはない)

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:31:42.88 ID:AHJ3I8Bt0

レミリアはパチュリーと出会うために家を留守にし、十六夜咲夜は今尚も帰宅する気配はない。
つまり、この瞬間こそがフランドールを捕縛できる唯一の機会であり、これを逃す手はない。


一つだけ懸念があるとすれば、自身が潜入している時に咲夜が帰ってくる可能性があることだが、
土御門としてはその心配はあまりないと思っている。
何故ならば、仮に彼女がレミリアから与えられた仕事を終えたとして、
その時向かうのはこの館ではなく、レミリアの元であると考えているからだ。


入手した『血液』がレミリアにとって重要なものであるならば、
咲夜はそれを届けるためにまず主の元へと向かうであろうことは容易に想像が付く。



土御門(この非常時にメイドに対して妹を守るように指示をしなかったのは、
    その血液の存在が妹以上に重要だと言うことを意味する)

土御門(それだけ重要なものなら、先に自身の元に届けさせるように命令するはずだ)

土御門(……他に妹を守らない理由があるとするなら、『妹を守る心配がない』と確信している場合か)

土御門(『標的』が持つ『運命観察』……それを使って判断した?
    もしそうだとするなら、オレは妹の捕縛に失敗することになるが……)

土御門(……悩んでいても仕方ないな。 奴が見た未来が何にせよ、ここで足踏みをしている訳にもいかない)

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:32:29.71 ID:AHJ3I8Bt0

相手にどんな思惑があろうとも、敵前逃亡など許されるはずもない。
そもそもそんなことをしても意味はないのだ。


レミリアが持つ超能力は『確定した未来』を見せるものである。
彼女が『土御門がフランドールの捕縛に失敗する』未来を見たのであればその通りになるし、
更には『土御門がフランドールを捕縛しようとする』という行動までもが確定事項となる。
つまりは、この場であれこれ考えたとしてもレミリアには筒抜けだと言うことだ。


ならば自分がするべき事は、彼女が見た『運命』の先――――
『未確定の未来』に対して、有利に働くように行動することだ。



土御門(……さて、これで建物の中にはの妹しか居なくなったな。 始めるとするか)



レミリアの姿が見えなくなったことを確認した土御門は、周囲に気を配りながら館の門前へと向かった。


この館の門には電子制御の施錠が施されており、無理にこじ開けようとすれば警報が鳴るようになっている。
解錠するには12文字の英数字を入力しなければならず、当てずっぽうで解錠するのはほぼ不可能。
玄関の扉に付けられた鍵と合わせて、この館は二重の施錠によって守られているのだ。


また館を囲う石垣にもセンサーが取り付けられており、石垣を乗り越える不審者を感知して警報を鳴らす。
ただの空き巣であれば、確実に防ぐことが出来るであろう強固なセキュリティである。


しかし土御門にとって、この程度であれば侵入に苦労するわけがない。

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:34:01.64 ID:AHJ3I8Bt0

土御門(今オレの手の中にあるのは、このセキュリティシステムを制作している会社から極秘に入手したアンロック番号のリスト)

土御門(これの中から館のセキュリティに使われている番号を抜き出して入力すれば、あっという間に解錠できるって寸法だ)

土御門(いやはや、これを手に入れるためには結構な労力をかけたな)

土御門(スキルアウトがたむろするスラム街……そこ点在する情報屋を何件も梯子したんだからな)

土御門(今回はかなり時間が厳しかったから、こうして間に合って良かった)

土御門(えーっと……暗証番号はこれだな)ピッピッピッ



カチャンッ!



制御板に数字を打ち込んでいくと、軽い音と共に施錠が外れる音が響く。
門の扉を静かに押すと、扉は音を立てることなく開かれた。



土御門(……誰もいないな?)



もう一度周りを見渡してみるが、周囲には人影は全く見られない。
この分なら、誰にも気づかれることなく潜入することが出来そうだ。
仮に見られたとしても深刻な問題にはならないが、後々の証拠隠滅にかける手間を考えれば、注意するに越したことはない。



土御門(さて、早い所捕まえてパチュリーの所へ向かわないとな)



館に敷地内に足を踏み入れた土御門は、足音を殺しながら玄関口へと歩いていった。

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/05/18(月) 00:35:05.63 ID:AHJ3I8Bt0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/18(月) 00:38:01.70 ID:Z+/9OM0jO
乙です
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/18(月) 01:42:57.38 ID:vcQ+8upq0

最後の血を届けられなかった咲夜さんだが、妹様のご様子は……
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/18(月) 06:16:40.27 ID:VtdtWazXo
制御板が御坂に見えた
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/18(月) 21:03:08.65 ID:g9/W+6uU0

甘くみてると館の外壁に塗られるぞ土御門‥
‥ってかあの凶悪能力については何の情報もないのか?

あとトリップはどうしたんだ作者
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/20(水) 21:37:33.56 ID:HuHdCWDL0
永夜組に新設定来ちゃったね(ニッコリ
69 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/31(日) 23:52:08.18 ID:hjBFLqMX0
>>67
酉付け忘れました。ごめんなさい
フランの能力の情報については勿論土御門も知っています

>>68
これ以上設定増えると大幅に路線変更しないといけないんですけお!
いや、想定していたストーリーの変更はモチベにかなり影響するんですよ本当に
ネタ投下は嬉しいんですが、設定を練り直すのは中々しんどい
70 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/05/31(日) 23:54:21.37 ID:hjBFLqMX0
これから投下を開始します
71 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/31(日) 23:55:42.59 ID:hjBFLqMX0





     *     *     *





72 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/31(日) 23:56:44.46 ID:hjBFLqMX0

フラン「……」ペラッ



第14学区の一角に存在する紅の館――――スカーレット邸。
その館の家主であるレミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットは、
二階にある自室のベッドの上で本を広げながら寝転がっていた。


今、この館には彼女以外誰もいない。
この館に住み込みで働いているメイドは夕方頃に家を出たきり未だ返っては来ず、
彼女の姉も用事があるといって、こんな夜中にも拘わらず何処かへと出掛けていった。
結果として館に一人残された彼女は、微睡みが自分を襲うまでの暇な時間を潰すために、
こうして静かに読書にふけっているのである。

73 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/31(日) 23:57:30.43 ID:hjBFLqMX0

フラン「……」ペラッ



黙々と本を読み進めていくフランドール。ページを捲る音だけが部屋に響き渡る。
外の喧噪すら聞こえてこない静かな室内。静かさのあまり耳鳴りが聞こえてきそうだ。


今のフランドールの様子は、年頃の女の子にしては少々大人しすぎるようにも見える。
普通であれば居間でテレビを見たり、携帯電話で友達と会話したりとそれなりに騒々しいものだ。
親と一緒に住んでいるなら自省の念が働くであろうが、ここは住民の大半が学生である学園都市。
一人暮らしが当たり前なこの街で、自身を律することが出来る子供は果たして何人いるだろうか。


このように、自分の部屋で読み物をしているだけでも珍しい部類と言えるが、
それに加えて彼女が読んでいるのは『文学小説』。『漫画』のような一般の学生が良く見るものではない。
アガサ・クリスティ作の『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』である。
いい年をした大人が好むような推理小説を彼女は読んでいるのだ。
『文学少女』と言えば聞こえは良いが、当麻やインデックスと一緒にいた時の様子とは全くといって良いほど真逆であった。

74 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/05/31(日) 23:59:17.78 ID:hjBFLqMX0

フラン「One little indians boy left all alone; He went and hanged himself and then there were none.
    (一人残ったインジャン・ボーイ その子が出てって首を吊り そして誰もいなくなった)」



小説の一文を小さく口ずさむと、フランドールは静かに本を閉じる。
今日の読書はここで終わり。続きはまた明日だ。


閉じた本を本棚に戻すと、再びベッドに俯せで飛び込む。
ボフンッ、というくぐもった音と共に、日干しした洗濯物特有の芳しい匂いが部屋に広がった。
取り込まれてから大分時間が経っているが、今でもその匂いが消えることはない。



フラン「んー……」



鼻腔を通り抜ける心地よい香りを思いっきり吸い込む。
少々息苦しいが、彼女はそんなこと微塵も気にならなかった。

75 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:00:38.50 ID:aLofG+8n0

数分ほど香りを堪能した後、彼女は転がって今度は仰向けになる。
天井にはこぢんまりとしたシャンデリアがぶら下がっており、部屋を仄かな灯りで照らしていた。
無論、それは蝋燭を使うような古臭いものではなく、LEDを用いた近代的なそれであるが。



フラン「……つまんない」



フランドールは茫然と空を見上げながら、そんなことを呟く。


姉からお仕置きとして外出禁止令を出されてから早3日。
フランドールは未だに一歩も外に出ることは叶っていない。
『3日』と聞けば非常に短いように思えるが、当の本人としては一ヶ月近く経ったかのような、強い閉塞感と憂鬱に苛まされていた。
何をどうやっても、陰鬱な気分が払拭できないのである。
お仕置きを受けているのだから、そうなるのは当然のことと言えなくもない。

76 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:05:32.30 ID:aLofG+8n0

しかし、こうして家の外に一歩も出られなくなったのはいつ以来だろうか。
いや、正確には一歩も『出なくなった』と表現した方が正しいか。


自身の身に起きた『とある事件』が切欠となって、家に引きこもるようになったのが今から7年前。
その頃は『世界』というものに対して極度の恐怖を抱いていて、外に出るどころか姉に対しても口を聞くことができなかった。
『もしものこと』があったら、それが原因で本当に自分の心が壊れてしまうのではないかと恐れたのだ。
結局、トイレやお風呂に行きたい時以外は一歩も自室から出ることは無かった。
その数少ない自室からに出る機会があった時も、家にやってくる訪問者に対して神経を尖らせていたのである。
もちろん、誰かが家に来ても狸寝入りを決め込んでいた。


そうやって、無気力な生活を続けていたのが今年の初めまでの話。
7年すれば色々と気持ちの整理がつき、心に余裕が出来た結果、『このままでは不味い』と思い始めたのだ。
スキルアウト達のように非行に走ることなく、そう考えるに至ったその理由は、
彼女にも『一族の誇り』というものが心の何処かにあったからなのだろう。


彼女は自分自身を変えるために、その第一歩として『外に出たい』と姉に進言した。
7年も引きこもっていたにも拘わらずそのような決断するのは、些か大胆すぎるようにも思えるが、
そういった判断が出来たのは、彼女の思い切りの良い性格によるものかもしれない

77 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:06:31.55 ID:aLofG+8n0

兎にも角にも、彼女はある意味一大決心をして行動を移したわけだが、残念ながら決意は裏切られることになる。
どういうわけか今度は姉の方が『フランドールの外出は許可しない』と言い始めたのだ。
それを目の前で言われた時、フランドールは愕然とした。


訳がわからなかった。
姉の突然の心変わりも、そうなってしまった理由も、何一つ理解できなかったのだ。


早々出鼻をくじかれたフランドールは、当然のごとく姉に対し抗議の声を上げ、その理由を追及したが、
姉は『あなたは知らなくていい』の一点張りで教えてくれることはなかった。
結局フランドールは、姉の意図を何も理解できぬまま現在に至っている。



フラン「……どうして」



再び俯せになり、顔を枕に埋めながらフランドールは恨めしそうに呟く。


自分に対して懲罰を行ったことに対する憤怒。
何も教えてくれないことに対する鬱屈。
そして、かつての姉のことを知るが故の落胆。
その他にも大凡良いとは言えない様々な感情が彼女の中に渦巻き、少しずつその心を荒ませ始めていた。

78 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:07:45.53 ID:aLofG+8n0

――――いっそのこと家をぶっ壊して、そのまま何処かに消えてしまおうか。
あまりの苛立ちに、邪な考えが時折脳裏に過ぎることがある。
が、それを実際に敢行するに至るまでの感情が起こることはなかった。


そんなことをして何になる。何の解決にもならない。
家を飛び出した所で、街を彷徨っている所を『警備員』に保護されて結局は連れ戻されるだけ。
そもそも、自分には一人でこの街を生きていける力など無いのだ。
全く以て、誰が考えても骨折り損にしかならない。


だが、このまま何もせずにずっと閉じ込められるのも嫌である。
詰まる所、彼女は現状に対する嫌気と現状を打破しようにもどうすることも出来ないという、
二重の焦燥によって板挟みになっているのだった。



フラン「……みず」ゴソッ



フランドールは力なく起き上がると、ベッドから降りて部屋の扉へと向かう。
全く眠気が襲ってこない上に、胸のむかつきが収まらないのだ。
何かを口に入れないと、このむかつきを抑えることは出来ないだろう。

79 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:09:36.98 ID:aLofG+8n0

確か、冷たい飲み物が冷蔵庫の中にあったはずだ。
水でも牛乳でも紅茶でも何でもいい。コップ一杯の冷えた飲み物が欲しい。
部屋を出た彼女は、それだけのことを考えながら台所へと足を動かした。



フラン「……」トットットッ



光が乏しい暗い廊下を、ぽつぽつと一人で歩く。
姉が出掛ける前に不要な電灯を消したのか、廊下には最低限の明かりしかついていない。
無駄に多い館の部屋の殆ども、その室内は真っ暗闇となっていた。


自分の足音以外、何も耳には聞こえてこない。
さながら皆が寝静まった深夜に目を覚まして、一人でトイレへと向かう時のようだ。
本当であれば、何かしらの恐れの感情がわき起こるのだろうが、
今の彼女には恐怖に対して反応できるほどの心の余裕はなかった。

80 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:11:10.65 ID:aLofG+8n0

やがてフランドールは、部屋に備え付けられた大きな冷蔵庫の前に辿り着く。
相変わらず、この家に似つかわしくない無骨な姿である。


大分昔のことなので記憶がかなり朧気だが、この機械は確か、何処かの家電量販店でセールだった時に姉が買ったものだったはずだ。
あの頃は姉も若かったから、つい調子に乗ってそんなことをしてしまったのだろう。
姉はレベル3、自身もレベル4の能力者だったこともあって、お金が多少余っていたことも理由の一つかもしれない。


とにかく、姉がその時行った衝動買いはどう考えても馬鹿としか言い様がないことは普遍の事実である。
あの頃はメイドもおらず、姉の自分の二人きりだったというのに、大家族が用いるような大容量のものを買ってきたのだ。
大き過ぎる冷蔵庫は、必要な分だけ入れると隙間だらけのがらがらな状態となり、
かといって詰め込んだりしてしまうと、使い切ることが出来ずに食材を腐らせてしまう。
つまり、自分たちの身の丈に合わないものを買ってしまったということの他ならない。


姉の言い分では、『もしも大人数を家に呼んで料理を振る舞うことになった時に、
大きい冷蔵庫があれば材料をたくさん入れておくことが出来る』とのことなのだが、
『そんな限定的な状況なんて早々起きるようなことではないだろう』と突っ込みを入れたい気分であった。
しかし面と向かって言ってしまうと何が起こるかわからないので、その気持ちは心の中にしまっている。

81 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:13:26.01 ID:aLofG+8n0

フラン(お姉さまってば、仕事の人とかメイドとかに会っている時はいつも格好良く振る舞ってるけど……)

フラン(私から見たら、もの凄く変なんだよね。 ほんと、バカみたい。 我が儘なくせに……)



フランドールは声に出さずに、自分の姉に対して愚痴をぶちまける。
『何かと小言を言うが、先ずはその言葉を自分自身の向けるべきなんじゃないのか』と。


姉は我が儘で、負けず嫌いな人間だ。
今回のフランドールの謹慎についても、『妹から目を離した』という非が彼女にはあるはずだというのに、
それを棚に上げてフランドールのみに罰則を与えてしまっているような状況である。
少しくらい反省なり何なりをする素振りを見せるならまだ良かったのだが、
そんなものは何処の吹く風といった様子で普段通りに生活しているのだ。


そんなに自分の非を認めたくないのか――――フランドールは心の声で姉を罵倒する。
自分一人だけが罰を与えられているこの現状を、彼女が不満に思わないはずがないのだ。
だが、その不満を外に出すことはない。自棄になろうにも心の中のもう一人の冷静な自分が、
感情のままに暴走しようとする彼女を引き留めていた。

82 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:14:14.62 ID:aLofG+8n0

フラン「……っ」



心の中に燻る苛立ちを振り払うかのように、乱暴に冷蔵庫に手を突く。
ドンッ!と、扉を開くにはどう考えても似つかわしくない鈍い打撃音が響いた。


しかし、フランドールにそのことを気にする素振りはない。
乱暴なことをしているという自覚はあるのだが、『それがどうした』といった様子だ。
姉を前にして自棄になれない以上、こうして物言わぬ機械に八つ当たりしなければ、
心に内に溜まった苛立ちを発散することすら出来ない。
だから冷蔵庫が倒れるのではないのかと思うくらい、彼女は思いっきり手を叩きつけたのだ。


端から見れば、彼女が我を失いかけているように見えるだろう。だが、まだ彼女は冷静である。
何故ならば、自身の能力を使って冷蔵庫を粉々にしていないのだから。

83 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:14:54.88 ID:aLofG+8n0

フラン「……はぁ」



フランドールは嘆息しながら冷蔵庫の扉を開こうとする。すると――――



ピンポーン!



と、来客を知らせる呼び鈴が彼女の耳に飛び込んできた。
フランドールは不意打ちで襲ってきた音にびくりと体を震わせ、音が聞こえてきた方角――――部屋の出入り口を恐る恐る見る。


こんな時間に来訪者とは。一体全体、何者なのだろうか?
姉の仕事仲間か?いや、今までこんな夜遅くに彼等らが来訪したような記憶は無い。
そもそも、他人をこの館に招き入れるようなこと自体が非常に稀なのだ。
フランドールに配慮してのことなのか、それとも姉自身が招きたくないのかはわからないが。

84 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:15:43.90 ID:aLofG+8n0

フラン「……本当、めんどくさいわね」



兎にも角にも、来訪者を確かめなければなるまい。
別に任されたわけではないのだが、現状に於いてはフランドールが実質この館の留守番をしているのである。
正直に言うとこんな役目は御免なのだが、やらなければやらないで後々良くないことが起こる可能性も否定できない。


例えば、本当に来訪者が姉の仕事仲間だった場合。
フランドールが狸寝入りを決め込んでいたことが彼等を通じて姉の耳に入ってしまうかもしれない。
その結果、謹慎の期間がさらに延長されることになってしまう……かもしれない。そんな事は真っ平御免だ。


ただでさえ心の余裕がない状況で降りかかってきた、面倒極まりない仕事。
これで何度目になるかもわからない溜息を付きながら、フランドールは玄関先へと足を向けた。

85 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:17:17.09 ID:aLofG+8n0

フラン「えっと……」ピッ



玄関へと着いたフランドールは、横の壁に貼り付けられた少し大きめのモニターを起動する。
これは来訪者が不審人物なのかどうかをチェックするための、所謂『テレビドアホン』と呼ばれるものである。
学園都市に限らず、外であってもそれなりにハイテクな家屋であれば備えられている機械だ。


『学園都市製』とくれば、大抵の人はオーバーテクノロジーが付加された得体の知れない機械なのかと身構えるだろうが、
これに限っては外のものとは殆ど変わらない、何の変哲もないテレビドアホンである。
そもそも『テレビドアホン』として必要な機能は、外の様子を知るためのカメラとモニター、
そして外にいる人間との意思疎通を可能とする通話機能があれば十分なのである。
それ以外の機能は蛇足であり、本来であれば必要のないものだ。


ところが、やはり学園都市には狂った発想をする人間がいるらしい。
巷には玄関先に芳しい芳香を漂わせたり、軽快なBGMを流したりする用途不明な機能がある商品や、
X線を照射して相手の持ち物を調べたり、催涙スプレーを噴射して不審者をその場で撃退できたりするという、
少々過剰すぎる機能をもつ商品が流通しているそうだ。


そんなものを一体誰が欲しがるのか些か疑問を呈する所であるが、驚くべきことに、
ヘンテコな機能が付いているにも拘わらず購入する人間がこの世にはいるらしい。
造る方も造る方だが、買う方も買う方である。これだから無意味な商品がいつまで経っても市場から無くならないのだ。

86 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:18:13.02 ID:aLofG+8n0

フラン(……見えてきた)



フランドールはモニターに映し出される映像をのぞき見る。


見えるのはいつもの見慣れた光景。
我が家の領域と外を隔てる、鉄柵の門が見える。
塵一つ無くしっかりと掃除された、見るも殺風景な門先が広がっていた。


フランドールはモニターのコントローラーを操作し、更に広い範囲を見渡す。
遠くに見えるのは、石造りの階段に木製の扉。言うまでもなく、我が家の玄関だ。
扉の両脇には大きな花瓶が置かれ、ケイトウが黄色い花を咲かせている。
外に取り付けられた白熱灯の明かりが、玄関を肌色の光で照らし出していた。


玄関から外に向かっては石畳延びており、その道の両脇には綺麗に整備された花壇がある。
花壇にはガーデンシクラメンが紅い花弁を大きく広げていた。

87 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:19:30.62 ID:aLofG+8n0

さらに横へとカメラを動かすと、こぢんまりとした小さな池が見える。
何時のことかは忘れたが、姉が気まぐれに拵えたものだ。
完成した時に洋風の館には似つかわしくない、錦鯉の稚魚が数匹放たれていた。
今ではかなり大きく成長し、二代目、三代目も一緒に泳いでいる筈だ。


……そう言えば、最近姉が魚に餌をやる光景を見ていない。
大方、メイドに世話をさせているのだろう。自分の持ち物なのだから、世話くらい自分でして欲しい。



フラン(……?)



玄関の外を観察し始めてから数分。
カメラで捉えることが出来る大方の範囲を見渡した所で、フランドールは来客者が見あたらないことに気づく。
インターホンを押したであろう人間が、何処にも見受けられない。


もしかして、ただの悪戯なのだったのか――――
そんなことを考えつつカメラの視点を戻した所で、彼女は一つの異常に気がついた。

88 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:20:20.86 ID:aLofG+8n0

フラン(そういえば、門が開いてる……?)



『門が半開きになっている』。ただそれだけの、何の変哲もない光景。
だがフランドールにとって、それは違和感しかないものであった。


あの門を開くことが出来るのは家内の者達だけだ。
鍵を解錠するために必要な12文字の暗証コード。
そのコードを知るのは館の住人であるフランドールとその姉、そして館で働く一人のメイドである。
それ以外の人間が館の敷地内に入りたい場合、家内の誰かに門を開けてもらわなければならないのだ。


フランドールにあの門を開けた覚えは全くない。
自分の部屋に閉じこもって本を読んでいたのだから当然である。
そして出掛けている姉やメイドが、門を閉め忘れるということも考えにくい。
ならば、どちらかが帰ってきたのだろうかと考えるが、
自分の家のインターホンをわざわざ鳴らす者などいるはずもない。


開くはずのない門。それが何故か開いている。そこから導き出される答えは――――

89 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:21:30.30 ID:aLofG+8n0










――――知るはずのない暗証コードを知る何者かが、あの門を開けたということだ。










90 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/01(月) 00:22:05.58 ID:aLofG+8n0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/01(月) 00:53:27.47 ID:KrjiSRs/O
乙です
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/01(月) 06:05:12.96 ID:Xq2pWIoco
乙!
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/01(月) 19:50:58.79 ID:GGEQa+Tj0


>新設定
二次創作ではよくある事さ
最悪「新作で出た設定は適用していません」とか言い張ってもええんやで?(暴挙)
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/01(月) 23:40:15.07 ID:ot6DUHTh0
ちわーす、三河屋でーす!お飲物(土御門)お届けに参りましたー!     ってか?ww

まぁ何だ。紺珠伝での新設定に”昔からの重要な事”に関わる部分があるとしたら困るかも知れないが、そうでない、もしくは重要度が低ければ、紺珠の時間軸で書けばいい(そこまで続くとは書かれてない)だけの話だしね

乙!
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/03(水) 10:12:59.58 ID:HN5w8slO0
自分の妹には優しいけど他人の妹にはどうかな?
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/04(木) 11:12:59.39 ID:qnwbDgq80
未来予知の薬?今回のドラキュラもどきを検査に掛けて分析したら作れるんじゃないですかね(適当)
97 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/06/08(月) 00:15:38.50 ID:YQoKBJAj0
これから投下を開始します



98 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:18:01.61 ID:YQoKBJAj0

ガシャンッ!



フラン「――――!?」



突如どこからか聞こえてきた破砕音に、フランドールは全身の毛が逆立つ。
方向からして、音の出所はおそらく館の外れ。丁度トイレがある場所だろう。
そしてこの固い物が砕ける音を考えるに、トイレの窓ガラスが割れたらしい。


何故ガラスが割れたのか。その理由は考えるまでもない。
あの門を開けた何者かが、窓ガラスを割ってこの館の中に侵入してきたのだ。

99 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:19:20.33 ID:YQoKBJAj0

フラン「……っ」



フランドールはその場に蹲り、息を殺して身を潜める。


侵入者は一体、どのような目的でこの館に入り込んできたのか?
真っ先に頭に浮かんだ疑問だが、それは侵入者本人に聞かなければ知りようのないことだ。
故に今は侵入者の思惑など、さして重要なことではない。


今考えなければならない問題は、『侵入者が館に入り込んでいる』という事実。
現状に於いて、館にいるのはフランドールただ一人。
姉もメイドも出払っていて、いつ帰ってくるのかわからない。
つまりは、フランドール一人で不審者を対処しなければならないということだ。


不審者の対処。日常生活ではまず体感することは出来ないこの状況。
実際にその場面に出くわしたとして、その時冷静に対処出来る人間はどれだけいるだろうか。
相手は姿形もわからない、そして人を傷つける手段を持っているかもしれない危険な存在である。


ましてやここは、超常的な力を使いこなす人間が数多くいる学園都市。
近づかなくとも人を死に至らしめられるような、凶悪な手段を持つ者がそこかしこに居るのだ。
その危険度は、学園都市の外にいるそれらよりも、比にならないくらい違う。
だからこそ、2階のフランドールの部屋に明かりがついていても躊躇なしに押し入ってこれるのだ。

100 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:20:14.65 ID:YQoKBJAj0

そんな危険人物が今にも目の前に現れるかもしれないと言うこの状況。


大半の人間はパニックに陥るだろう。
辛うじてそうならなかった人も、心臓が早鐘のように鳴り響くはずだ。
フランドールの場合もその例に漏れることなく、緊張のために口の中が乾き、全身に冷や汗をかいている状態だった。



フラン(どうしよう。 このままここにいて、変な奴が入ってきたら逃げられない)

フラン(でも、移動したら鉢合わせになるかもしれないし……)



ダイニングキッチンと廊下を出入りする扉は1箇所しかない。
そしてフランドールが今いる場所は、その扉の正面に位置する台所の影である。
つまり、不審者が部屋の出入り口の前で陣取った場合、逃げようとするフランドールの姿を見過ごすことはない。


この部屋に残るとほぼ確実に袋の鼠なる。
『ほぼ』と付けたのは、彼女の能力を使えば壁に穴を開けて逃げ出すことが出来るからであるが、
それはあくまでも最終手段であり、彼女としては出来る限り使いたくない。
その手を使わずに袋の鼠を回避するためには、今すぐにでも部屋を出て何処かに移動した方が良いことになる。

101 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:20:55.60 ID:YQoKBJAj0

しかしこの部屋を出たからといって、当然身の安全が保証されるわけではない。むしろ危険は大きくなるだろう。
不審者が今、何処で何をしているのか全くわからないのだ。
移動している最中にばったりと出くわすことも、十分にあり得る話である。
この部屋は玄関に近いので直ぐに外に出ることは可能だが、それでも不安は拭えない。


不審者がこの部屋に来ないことを祈りながら身を潜め続けるか。
鉢合わせになるリスクを覚悟で、この部屋を飛び出し外に出るか。


彼女が取ることが出来る行動は二つに一つ。



フラン(……ここから逃げよう)



結果として、フランドールが取った選択肢は後者であった。


何故その選択肢を選んだのかは、彼女自身もよくわかっていない。
ここに居て追い詰められるよりは、一刻も早く外に出た方が良いと考えたのかもしれないし、
例え不審者に出くわしたとしても、自分の能力を使えば何とか逃げられると思ったのかもしれない。


はたまた、もっと別の理由があるのか……

102 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:22:06.77 ID:YQoKBJAj0

フラン(……いない)



フランドールは扉の影から廊下の様子を見渡す。


廊下には人らしき影は見受けられない。どうやら不審者は近くまで来ていないようだ。
不審者が立てる物音も、先ほどの窓ガラスが割れる音以降聞こえてきていない。
ここまでの音がないと、かえって不気味ですらある。


何処かの部屋に入って物色でもしているのだろうか。
いずれにせよ、これから逃げる身としては好都合だ。
危険な場所に何時までも留まる理由はない。さっさと家から離れた方が良いだろう。


フランドールは足音立てないように注意しながら台所を出る。
そして忍び足で玄関に辿り着くと、扉のノブに手をかけてゆっくりと押し開いた。
軋む音を出すかもしれないと戦々恐々だったが、その心配は無用だったようだ。
扉はスムーズに開かれ、広々とした外の光景が視野に広がった。

103 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:23:10.46 ID:YQoKBJAj0

フラン(……何処に行こうかな)



周囲の様子を見渡しながら、フランドールは頭の中で考える。


これからの行動について、大まかなこと既に決めている。
まず不審者がいるこの館から離れ、しばらくの間何処かで時間を潰す。
ある程度時間が経ったら、不審者が家を去った事を確認しに戻ってくるのだ。
家を無断に離れたことに姉が文句を言うかもしれないが、今回に限っては十分な理由がある。
『必ず納得してくれる』などと楽観視するつもりはないが、自分に全面的な非があるわけではないことは説明できるはずだ。


それはそれとして、当面の問題は『どこで暇を潰すか』である。
ここは数多くの人間が住まう、家屋がそこかしこに乱立する居住地区。
ファミレスや漫画喫茶のような、暇潰しに適した施設があるのはここから大分離れた場所だ。
日中なら選択肢の一つとなっただろうが、生憎今は日がどっぷりと沈んだ夜中。
夜間の外出は街の規則により禁じられている。それは学校に通っていないフランドールにも当てはまることだ。
道端を徘徊している所を、『警備員』にしょっ引かれることだけは勘弁したい。


すると、他に候補があるとすれば近くのコンビニだろうか。
適当に雑誌を立読みするだけでも、十分な暇潰しになる。
夜のコンビニも柄の悪い人達が屯するらしいので、本当の所は余り近づきたくない。
ただ夜の街を出歩くのは久しく経験していなかったので、それなりに楽しみにしている自分もいたりする。

104 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:23:59.76 ID:YQoKBJAj0

フラン(……何も聞こえない)



家を出る前にもう一度耳を澄ます。が、やはり物音は聞こえてこない。
余程物色に夢中になっているのか。とにかく、逃げ出すなら今が好機である。


不審者が物色の気が済むまで、どれだけ時間がかかるだろうか。
物取りを理由にこの屋敷に来ているのであれば、それほど時間はかからないと思う。
住民が家に居ることを理解した上で犯行を行っているのだ。
いつ『警備員』が駆けつけてくるのかわからないこの状況。
手早く盗るものを盗って、早々に立ち去るだろう。

105 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:24:41.34 ID:YQoKBJAj0

フラン(……よし)



遠くにある半開きになった門を見据え、フランドールは心を決める。


門までの距離はおよそ10メートル。走れば5秒もかからず到達できる。
が、勿論そんなことはしない。走る音が館に居る不審者に聞こえてしまうかもしれないからだ。
だから焦らず、慎重に、ゆっくりと行くことにしよう。


フランドールは門へと向けて静かに歩き始める。
未だに屋内から物音は聞こえてこない。だがそれは、最早どうでも良いことだ。
この館から離れることができれば、自分の身の安全は保障されるのだから。

106 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:25:47.95 ID:YQoKBJAj0










しかし、彼女のその考えは、実に浅はかなものであった。










107 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:26:50.24 ID:YQoKBJAj0

パシュンッ!



フラン「うぁ……?」クラッ



不意に耳に聞こえて来る、空気が勢いよく抜けるような音。
その瞬間、首筋にチクリとした痛みが走ったかと思うと同時に、強烈な睡魔がフランドールを襲う。
体の力が抜けて立つことができなくなり、その場にへたり込んでしまった。


突然、前触れもなく起こった体の不調。
睡魔は抗おうとするその意思すら混濁せしめ、蟲惑な眠りへと誘う。
それに驚く暇もなく、彼女の意識は深淵の奥底へと引き摺り込まれていった。



「――――さて、おねんねの時間だぜい? お嬢ちゃん」



そして、彼女の意識が闇に沈みきるその刹那。
軽い雰囲気を感じさせる男の声が、何処からか聞こえたような気がした。

108 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/08(月) 00:28:09.78 ID:YQoKBJAj0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/08(月) 00:31:58.79 ID:vQVTFN33O
乙です
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/08(月) 06:06:40.45 ID:MOWlhtAs0

素直にお寝んねしたままフランは終了なのかッ!?
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/08(月) 22:10:21.52 ID:grtTIu4J0


どこかの姉が槍を構え、どこかのメイドが大量のナイフを取り出す音がした‥気がする
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2015/06/14(日) 07:20:29.77 ID:WVS1q3+M0
フラン?「クックック……そのままにしておけば良かったのにねぇ。中途半端に眠らせたりなんかするから、”私”の方が目覚めちゃうんだよぉ?」

フラン?「という訳でぇ……///」

フラン?「お礼に殺してやらぁ!!!!!!!!!!!!!」


 −−−(全略)−−−


学園都市は今日も平和だった(邦子的川越調)
113 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/06/15(月) 00:20:07.68 ID:Bc8AiHO00
これから投下を開始します
114 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:21:21.66 ID:Bc8AiHO00





     *     *     *





115 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:22:32.76 ID:Bc8AiHO00

土御門「……眠ったな」



土御門は足元に倒れ伏し、静かな寝息を立てているフランドールを見下ろしながら呟く。


その右手には一丁の拳銃。
少女を抗い難き眠りへと誘った、一発の魔弾を打ち出した元凶である。
彼はそれを手に持って館の玄関の影に身を隠し、フランドールが外に出て来た所に撃ち込んだのだ。


今回、フランドールを捕縛するにあたって彼が立てた作戦。
それは『中に潜む相手に揺さぶりをかけて、自分の前に飛び出させる』というもの。
窓ガラスを割ることでフランドールの不安を煽り、外に逃げようとした所を捕らえようとしたのだ。
屋内に突入して捕まえるのも一つの手ではあったのだが、それを実行するには幾つか問題があった。

116 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:24:54.31 ID:Bc8AiHO00

一つ目は、発見するまでにフランドールが外に逃げ出すかもしれないという点。
屋内に侵入したとして、土御門は建物の内部構造を詳細に知っている訳ではない。
そのような条件の中で標的を捜し出すのは非常に時間がかかる。
一方フランドールにとっては自分のテリトリーであるため、その身を隠すのは容易だ。
つまり『地の利』というアドバンテージの違いが、土御門とフランドールの間に存在するである。
まぁ、そもそも館の窓という窓が逃げ口になっている時点で、中に入って捕縛しようとするなど愚の骨頂なのだが。


二つ目は、フランドール自身に身を守る手段がある点。
彼女がただの一般人であれば、多少こちら側が不利だったとしても突入を強行したはずだ。
地の利の違いがあったとして、それを埋め合わせるのに十分な技術と経験が土御門には備わっているからである。
彼は幾重にも渡って命のやり取りを繰り返してきている猛者。逃げた獲物を追跡することなど手慣れたものだ。
生半可な人間が彼の追跡から逃れることなど不可能に近い。例え超能力を持っていたとしてもそうそう結果は変わらない。


ただ今回の相手は、『ただの一般人』と呼ぶには少々難しい。
確かに、フランドールは殺し合いなど演じたことも無い人間である。
実際に調べたというわけではないが、こればかりは確実と断言してもいい。
この日までの間、姉のレミリアを含めて彼女らの動向を監視していたのだが、
フランドールからは殺人を犯した者特有の『雰囲気』というものが感じられなかったからだ。


しかし彼女が真っ当だったとしても、彼女が持つ能力はそれ以上に危険極まりない。
『触れただけで物体を粉砕する能力』。その言葉だけでも危険性は十分に計り知ることができる。
何も考えずに捕縛しようとすれば、間違いなく触れた瞬間にこちらの体が粉々になっているだろう。
故に、彼女の面と向かい力ずくでねじ伏せる方法は難しいと言える。
この他にも能力を使って館を破壊され、崩落に巻き込まれる可能性も憂慮すべき事柄だった。

117 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:25:34.86 ID:Bc8AiHO00

そして三つ目は、姉のレミリアが魔術を使って館に罠を仕掛けている可能性がある点。
レミリア・スカーレットが魔術師であるということは周知の事実である。
本来であれば、超能力開発を受けている彼女が魔術を使えるはずが無いのだが、
彼女が持っているであろう『吸血鬼の肉体』が、その無理を道理としてしまう。
故に、彼女が魔術を用いて何かしらの防護策を館に講じているかもしれず、
その中に突っ込んでいくのは自殺行為でしかない。


このような館に侵入する上での様々な問題を考慮した結果、
土御門は『標的を炙り出して仕留める』という方法を選択することにしたのだった。



土御門(問題があったとすれば、吸血鬼かもしれない奴に麻酔弾が通用するかだったが……杞憂だったようだな)

土御門(人間相手なら着弾して数秒で昏睡させることができるから、本来ならそんな心配をする必要は無いんだがな)

土御門(さて、さっさとこいつを担いでパチュリーの下に向かうか)

118 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:27:40.99 ID:Bc8AiHO00

土御門はフランドールを担ぎ上げようとその場にしゃがみ込む。


ここからパチュリーの公園までそれほど遠くは無いが、人一人を担いで行けるほど近いというわけではない。
何より、少女を担いで徘徊している姿でも誰かに見られたら、間違いなく誘拐と判断されて『警備員』に通報されるだろう。
スパイである土御門にとって、そのような事態は不都合以外の何物でもないのだ。


そこで彼は何処からか自動車を拝借し、フランドールをそれに乗せて運搬することにした。
普段は海原に任せてはいるが、彼もそれなりに運転技術を心得ている。
無論、運転免許など持っているわけではなく、スパイ稼業を営むために身につけた技術なのだが。



土御門(普段から鍛えているとはいえ、気を失った子供を担ぐのは骨が折れそうだ)

土御門(筋肉が弛緩している分、バランスを取るのが難しいからな)

土御門(車を止めている場所まで少し距離がある……先に車を持ってくるべきか?)

土御門(しかし、その間に目を覚まされる可能性もある、か。 やっぱりもう一人くらい人数が欲しい所だな)

土御門(人員不足とは言え、一人しか派遣しないとは……いや、愚痴を零してもしょうがないか)



心の中でぶつくさと小言を言いつつ、フランドールの体に手をかける。
そして、そのまま持ち上げようとして――――

119 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:30:01.06 ID:Bc8AiHO00










「おい! 何やってんだ!」










何者かの怒声が、広い庭に響いた。

120 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:31:29.70 ID:Bc8AiHO00

土御門「……」



土御門はその声に一瞬身を固くするが、すぐさま平静を整える。
予期せぬ部外者の乱入は想定外のことではあるが、それで冷静さを失うようなことは無い。
何故ならば、この問題は自分達の任務には大きな支障を及ぼさないからだ。


彼に右手には、麻酔弾が込められた拳銃が未だに握られている。そして相手側にはこちらの顔が見えていない。
つまり麻酔弾を使って眠らせてしまえば、こちらの素性を知られることはないのだ。
暫くは『金髪のアロハシャツを着た男』の捜索が『警備員』や『風紀委員』の手で進められるだろうが、
似たような格好をした人間はこの街にいくらでもいる。
ましてやここは、住民の9割近くが日本国外からやって来た人間で占められているのだ。
先にそちらの方に捜査の目が向くことは想像に難くない。
生粋の日本人である彼の下にまで捜査の手が伸びることは、殊更に考えにくいと言える。


しかし――――

121 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:33:49.93 ID:Bc8AiHO00

「――――こっち向けよ、『土御門』!」

土御門「!?」



相手がこちらの素性を知っているとなれば話は別。そのような作戦など全くの無意味だ。
例えその作戦でこの場を凌いだとしても、その人間の口から噂が広まってしまうだろう。


作戦の前提を覆された彼に残された手段は二つ。
自傷覚悟で魔術を使い、その人間の記憶を消すか。それとも『死人に口無し』を実行するか。
何れにせよ、その人間と一悶着を起こさなければならないという事実は不変であり、
これ以上に無い面倒事であるということには変わりない。



土御門(――――いや、まて)



と、そこまで考えた所で、土御門の頭に一つの疑問が浮かび上がる。
『そもそも何故、土御門の素性を知る者がこのような場所に居るのか』という疑問だ。

122 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:34:54.04 ID:Bc8AiHO00

彼の学園都市の知り合いは大きく分けて二種類。
片方は『何も知らぬ一般人』。表の世界で平和に過ごす人々。
親しい友人の一人である青髪ピアスや、自身彼にとって命をかけるに値する義妹である土御門舞夏といった存在である。
彼らが第7学区を遠く離れたこの場所に現れる理由が、果たしてあるだろうか?
少なくとも、土御門が考える限りでは見当たらない。


もう片方は『自身の仕事仲間』。裏の世界の住民たち。
ステイル=マグヌスや神裂火織、パチュリー・ノーレッジといった同じイギリス清教所属の面々、
元暗部の仲間である一方通行、海原光貴(エツァリ)、結標淡希等々である。


果たして、彼らがこの場に現れる可能性はあるのか?やはり、無いと言い切れるだろう。
ステイルや神裂はここから遥か彼方のイギリスに居り、パチュリーはレミリア・スカーレットと戦闘中。
暗部の面子には、こちらから要請が無い限りは一切関わらないよう釘を刺してある。
一方通行に関しては、この約束が守られるとは思っていないが。


兎に角、自身の記憶の中にはこの場に現れうる知人など記憶の中には――――

123 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:35:35.01 ID:Bc8AiHO00










――――いた。しかも、とびっきりの『厄介者(トリックスター)』が。










124 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:36:27.03 ID:Bc8AiHO00

何故今まで、その男の顔が思い浮かばなかったのだろうか?


無意識に考えないようにしていたのか?だとすれば、自分は実に愚鈍である。
あの男ほど厄介事に首を突っ込み、周囲を困らせる人間はいないというのに。
自分が知り得る中で、最もこの場に現れる可能性が高い人間だというのに。


パチュリーの言葉を真に受け、安心してしまっていたのか?だとすれば、自分は実に浅墓である。
あの男がこちらの忠告を素直に聞いて、大人しくなどしているはずがないというのに。
不幸になる人間がいると知った上で、黙ってそれを静観できるような男ではないというのに。


土御門は硬直しきった体を、軋む音が聞こえるような動作で以って動かし、自身の背後を見た。
その視線の先に居たのは、まぎれもなく――――

125 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:37:59.40 ID:Bc8AiHO00










上条「……」

土御門「!? カミやん……!」











上条当麻。
土御門元春にとって最も身近な人間の一人。
そして今の状況に於いて最も会いたくない存在が、憤怒の表情でこちらを睨み付けていた。

126 : ◆A0cfz0tVgA [saga sage]:2015/06/15(月) 00:45:34.18 ID:Bc8AiHO00
今日はここまで
ちなみに次回からまた過去編が始まります


質問・感想があればどうぞ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/15(月) 00:58:32.66 ID:/pxLUKeUO
乙です
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/15(月) 00:59:56.87 ID:80MKV10H0
乙!
早い!もうノすか説得するかして来たのか!?
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/16(火) 20:26:57.65 ID:jXUaHeAc0

んん?このタイミングで誰の過去をやるんだ?
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/16(火) 20:26:57.65 ID:jXUaHeAc0

んん?このタイミングで誰の過去をやるんだ?
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