とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/08(火) 02:01:49.28 ID:5mxw6cl00
華仙?以来の能力暴走→気絶な流れか?
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 19:39:50.37 ID:RxJWPspB0
吸血鬼!悪魔!フランドール!
527 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:49:26.15 ID:5mMXkw8t0
>>523
貴方の出番は終盤までないです(無慈悲)

>>524
フランにとって過去の出来事はかなりのトラウマものなので、そのショックで一気に正気に戻ったんです
暴走時の記憶は殆ど残ってないので、改めて惨状に直面することとなったわけですが

>>526
死体蹴りはやめて差し上げろ(切実)
528 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/03/21(月) 23:50:41.69 ID:5mMXkw8t0
これから投下を開始します
529 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:51:45.21 ID:5mMXkw8t0





     *     *     *





530 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:52:55.08 ID:5mMXkw8t0

上条「おいっ土御門! しっかりしろっ! おいっ!?」



上条当麻は足下に転がる親友に対して必死に声をかける。
しかし親友は彼の声に反応することはなく、だらりとその四肢を投げ出していた。


土御門元春は今、自身から吹き出した血の海の中に沈んでいる。
彼の肉体は至る所が裂け、剥き出しになった肉から鮮血を垂れ流し続けている。
トレードマークであるはずのアロハシャツは余すことなく真紅に染まり、最早元の色などわからない。
その姿は、誰がどう見ても死体としか見ることができないほどであった。


――――彼はフランドールの魔手をその身に受けた。上条当麻を危機から遠ざけた代償として。

531 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:53:55.11 ID:5mMXkw8t0

あの時、当麻が土御門を助けようと飛び上がった刹那。土御門は当麻を静止させようと警告を発した。
何故ならば、上条当麻の『幻想殺し』はフランドール・スカーレットの『物質崩壊』に対して相性が悪いからだ。
『幻想殺し』は『右手首より上』という、限定的な部分にしか効果がない。それ以外の部分は一般人と同じ。
故に超能力や魔術を打ち消すには、『右手を対象に当てる』という操作が絶対に必要となる。


この動作こそが、『幻想殺し』が持つ弱点の一つ。
『幻想殺し』を打ち消すモノに当てることができるかどうか。


例えば広範囲に効果を及ぼすようなものであれば、どこでもいいから一部分に触れさえすればいい。
『範囲が広い』ということは『的が大きい』ということ。範囲が広ければ広いほど、『幻想殺し(みぎて)』を当てることは容易になる。
場合によっては右手を前に突き出しているだけで、向こうから異能がぶつかってきて消滅するだろう。


その一方で、効果の範囲が狭いものほど右手を当てることは難しい。動きが早ければ尚のこと。
空飛ぶ羽虫を素手で捕まえることが困難であるのと同じように、『幻想殺し』は小さく素早い異能には不得手だ。
当麻自身の危険察知能力のおかげで、その弱点はある程度カバーできているが、何事にも限度がある。
銃弾の如き速さで雨あられと異能を降り注がれてしまっては、『幻想殺し』も対処しきれないのだ。


効果範囲の違いによって生じる相性。フランドールの超能力はそう言った意味で相性が悪い。
彼女の能力の効果範囲は彼女自身の肉体。彼女の超能力を止めるためには、『幻想殺し』で直接体に触れる必要がある。
こちらから動かなければならないため、その分余計な手間がかかるのだ。

532 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:55:03.94 ID:5mMXkw8t0

しかし、それだけならば問題ない。直接触れなければ効果を発揮しないのは『物質崩壊』も同じこと。
『幻想殺し』も『物質崩壊』も、その効果範囲は自身の体から逸脱しない。故に、両者の戦いは必然的に肉弾戦となる。
そして、肉弾戦は上条当麻の得意分野だ。体格差も考えれば、彼がフランドールに後れを取るなどあり得るはずもない。



――――そう、普段の彼女であったのなら。



フランドールは今、大凡一般の少女から逸脱した身体能力を持っている。
それは、体術は素人のそれでありながら、土御門に対し『撤退できない立ち回りをさせる』程のものだ。
そんな彼女が繰り出す素早い連撃を右手一本で捌ききるなど、
いくら当麻が肉弾戦を得意とするとはいえ、それは余りにも危険すぎる。
故に土御門は当麻を遠ざけようとしたのだ。最悪の事態を回避するために。


しかしその行動は、自身を危険に晒す結果となってしまった。
親友の無謀な行動を止めよう動いた彼は、その代償としてフランドールの腕を避ける時間を失ってしまった。
その僅かな時間さえあれば、足止めの手段を一つでも取れたかもしれないのだが、その時には既に遅く。
フランドールの渾身の右腕を無防備な腹部に受け、彼女の能力を一身に受けた結果。
彼は全身から鮮血を吹き出し、その体を自らの血で染めた。

533 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:56:30.44 ID:5mMXkw8t0

上条(くそっ、俺なんかのために……ふざけやがって!)



当麻は心の中で悪態をつく。土御門に身を庇わせてしまった己自身に。
その不甲斐なさに、自己嫌悪に陥りかける。


ただ、一つだけ幸運なことがあった。
本来であれば土御門の体は破壊され、四肢は飛散していた。
いや、血煙となって跡形もなく霧散していたかもしれない。
にもかかわらず彼が原形を保ち、尚かつ五体満足でいられるのは、当麻が彼の体を触っていたからだろう。
『幻想殺し』のおかげでフランド−ルの能力が中途半端に解除され、結果として全身に裂傷が走るだけに留まった。



上条(血が止まらねぇ……いくら『肉体再生』持ちだからって、これじゃ……!)ビリッ!


だがそうだとしても、土御門の命が危険に晒されていることには変わらない。
未だ血を垂れ流し続ける土御門を何とか助けようと、当麻は着ている服を千切って応急処置を行う。
しかし彼の努力を嘲笑うかのように、土御門の血液は段々と体から失われていく。
傷の範囲が大きすぎるのだ。布きれ一枚二枚で覆いきれるようなものではない。
当麻の行動は正しく、『焼け石に水』と言えるものである。


だがそれでも、何もしないよりはマシだ。
ただの人ならば生存は絶望的であろうが、土御門はレベル0ながら『肉体再生』の超能力を持っている。
『破れた血管を徐々につなぎ合わせる』というそれだけの能力であるが、有るのと無いのとでは雲泥の差だ。
今は危篤状態ではあるが、峠さえ越えれば能力で徐々に回復していくだろう。
無論それは、峠を越えるまで保てばの話ではあるが。

534 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:57:20.87 ID:5mMXkw8t0

禁書「とうまっ……!? もとはる!?」



当麻の元に駆け寄ってきたインデックスは、目の前の惨状を見て硬直した。


土御門は己から流れ出た血の海に身を投げ出し、当麻は両手を血に濡らしながら土御門の治療をしている。
べっとりとへばり付いた鮮血によって彼等の衣服に描かれたコントラストは、見ているだけで吐き気を催しそうだ。
漂ってくる血生臭い匂いがインデックスの鼻腔に油のようにまとわりついた。


その壮絶な状況に一瞬思考が真っ白になるが、当麻に声をかけられたことで直ぐに現実へと引き戻される。



上条「インデックス! 手を貸してくれ!」

禁書「う、うん! でも、どうしたら……」

上条「布が足りない。 お前の修道服を代わりに使いたいんだが、いいか?」

禁書「それは大丈夫なんだよ!」

上条「すまん、後で返す」

535 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/21(月) 23:58:39.33 ID:5mMXkw8t0

インデックスは修道服をつなぎ止めている安全ピンを外し、袖の部分を当麻に渡す。
嘗ては『歩く教会』という名を持つ数少ない至高の魔術礼装であり、
今では『幻想殺し』で破壊されたために、ただの破れた衣服になっている修道服。
しかしながら、自身にとって最も思い入れのある服であるそれを、彼女は躊躇いもなく手放した。


当麻はインデックスから渡された修道服を使い、最も出血が多い部分に宛がって止血を施す。
傷口が小さい部分については、既に能力による修復が始まっていたため、大きな傷口さえ何とかすれば大丈夫の筈だ。



土御門「う……ぐ……」



傷口に触られた痛みか、土御門が小さく呻き声を上げる。
意識はまだ戻らないが、呻き声を上げることができた分、快方には向かっているはず。
後はこのまま状態を維持して、『肉体再生』に任せても大丈夫になるまで持ちこたえれば――――

536 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/22(火) 00:00:22.15 ID:2hXVXZ3L0

「あ、ぅ……」

上条「――――」



当麻の耳に声が届く。それは、怯えを帯びた少女の声。


体が凍り付く。氷水を頭からぶっかけられたかのように、全身の筋肉が強ばる。
呼吸が止まる。空気が水になったかのように、息をしようとしても酸素が肺に入ってこない。
全身が鉛のように重くなり、上手く体が動かなくなった。
しかしそれらを無理矢理振り払い、当麻はぎこちない動きで声がした方向を向く。


そこには、土御門を血濡れにした原因である少女が。
彼女の体は土御門の血液に塗れ、紅白が特徴的であった衣服は紅一色に染まりかけている。
右腕は血飛沫を近くで被ったためか、未だ血液が地に落ちていた。


全身に血を浴び、滴らせ、呆然としたままの少女。
その光景はまるで、良くできたホラー映画の一コマのようだった。

537 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/22(火) 00:01:04.00 ID:2hXVXZ3L0

フラン「いっ、ぁ……」



当麻に目を向けられた少女の様子が、茫然自失から瞬く間に恐怖を帯びたものに変わる。
その姿は、怖いものを目の前にして怯える子供のそれと違いはない。
先ほどまでの狂気が嘘のよう。まるで憑き物が落ちたかのように、
少女は、フランドールは今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ている。



上条「フラ――――」

フラン「い、やぁああぁぁぁあぁぁあぁあああ!!!」



当麻が声をかけようとした所で、フランドールは堰を切ったように絶叫する。
小さな手の平で顔を覆い隠し、そのまま逃げるようにして館の中へと走り去っていった。



禁書「ふらん!?」

上条「インデックス! フランを追うんだ!」

禁書「で、でも……」

上条「大丈夫だ! 土御門のことは俺に任せろ! だから早く!」

538 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/22(火) 00:02:48.48 ID:2hXVXZ3L0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/22(火) 01:50:52.61 ID:tGVA0IRRo
乙です
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/22(火) 07:39:21.73 ID:XMMXrW/i0
あれは……出来るシスター、インデックス!?
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/22(火) 10:27:40.69 ID:eCE32zY50
フランの心の声?の件はどうなるのやら
542 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/03/27(日) 23:47:54.50 ID:Ruy/61mI0
インさんはヒロインなんだからもっと出張っても良いと思うの


これから投下を開始します
543 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:48:55.37 ID:Ruy/61mI0






     *     *     *






544 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:50:08.42 ID:Ruy/61mI0

フラン「はぁッ、はぁッ、づっ、あぁっ……!」



柔らかな明かりに照らされたほの暗い廊下の中を、フランドールは疾走する。
名伏しがたき恐怖から逃げるように。服が乱れるのを気にもせず。脇目もふらず。
肺が悲鳴を上げようとも、体の筋肉が激痛を訴えようとも、彼女の足が止まることはない。


心の中に渦巻くドロドロとしたナニカ。そしてその心を縛り上げる、茨の如き鎖。
ギリギリと、じくじくと。外側から、内側から心が蝕まれていくのを感じる。
今の彼女には、自分が壊れないように耐えるのが精一杯。
その他のことに気を向ける余裕など、ましてや自身の体を労る気持ちなど、微塵もあるはずもなかった。

545 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:51:52.55 ID:Ruy/61mI0

フラン「あ、ハァ、っ……!」



館の中を走り続けたフランドールは、やがて力が尽き果てその場にへたり込む。
もう、体が動かない。壁を支えにして立とうとするが、足で体を支えることすらできなかった。
しかしそれでも、少しでも目に見えぬ恐れから逃れようとして、彼女は腕の力のみで地を進み続ける。


その姿の、何と無様なことか。
ずりずりとのたくるその様は、地面を這い回る芋虫と相違ない。
全てから逃げ出した惨めな私には似合ってるか――――などと、彼女は心の片隅で想う。


やがて腕の力も尽き、身動き一つすら取れなくなった頃。
フランドールは息も絶え絶えに仰向けになって天井を見上げた。


ここは何処だろう?
無駄に広い館だ。闇雲に走ったために、自分がどこにいるのかもわからない。
玄関から近いのか、離れているのか。一階にいるのか、二階にいるのか。
全くわからない――――しかし、そんなことはどうでも良かった。

546 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:53:04.12 ID:Ruy/61mI0

フラン「どう、して……ひ、ぃ……ぐっ、どうしてぇっ……!」



フランドールは止めどなくあふれ出る涙を、顔が血で濡れることも構わずに腕で拭い、
体を震わせながら、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
親に叱られ、自室でぐずつく幼子のように。


こうならないように今まで気をつけてきたのに。
あんなことになるのは。あんな思いをするのはもう嫌だったから。
自分が持ってしまった危険な力に近づけさせないために、
差し伸べられようとした救いの手すら、振り払ったはずなのに。


現実は、いとも簡単に彼女の願いを粉々に打ち砕いた。
いや、『現実』のせいではない。そんなもの、責任転嫁も甚だしい。
彼女は彼等の大切なものを。他ならぬ自分自身の手で壊してしまったのだ。
自分が最も恐れた結末を、自分が引き金となって引き起こす。
あまりにも滑稽。こんなできの悪い悲劇など、そう簡単にはお目にかかれない。

547 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:54:31.23 ID:Ruy/61mI0

フラン「うっ、ふ、う゛ぅ……!」



これから私は、どうすればいいんだろう?
フランドールは、ただそれだけのことを考える。


――――今更おめおめと、二人の前に戻ることなどできはしない。
あんなことをしてしまったのだ。彼等は私のことを心底憎んでいるだろう。
いや、もしかしたら恐怖しているかもしれない。
7年前のあの日。今と同じように全身血まみれになった私。
その私を、バケモノを見るような目で見ていた『友達だった』人達。
もしもあの二人が、彼等と同じような目で私のことを見たとしたら。



フラン(――――やっぱり、私は。 外に出ちゃいけなかった)



変われると思っていた。歩き出せると思っていた。
かつての幸せで平穏な日々を、もう一度過ごせると。
追い出されてしまった人々の温もりの輪に、再び入ることができると。
根拠もない、あり得もしない幻想に縋ろうとしていた。

548 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:55:35.53 ID:Ruy/61mI0

自分の力が怖くて。それ以上に、周りの人達のことが怖くて。
お姉さまのことすら拒絶して、家に閉じこもった私。
呆然として過ごす毎日。何の価値も生み出さない自堕落な生活。
みんなに嫌われないのなら、あの視線を向けられないのならそのままでも良いと思った。
だけど、そんな惨めで情けない自分が大嫌いな私も心の何処かにいて。
『臆病な私』と『不遜な私』。二人の私がずっと、心の中で言い争っていた。


事件から3年経った頃。少しだけ、ほんの少しだけ『変わらなければならない』と心の中で思い始めた。
心の中の『不遜な私』が、『臆病な私』を押し返し始めた。
だけど、どうすれば変われるのかわからなくて。なにより、本当に変われるのか不安で。
結局私は悶々とした思いのまま、何もできずに無意味な時間を過ごした。


そして2年経って。私はいても立ってもいられなくなって。
自分がやらなければならないことをあれこれと、頭の中で何回も反芻し始めた。
だけどやっぱり、外に出る勇気はなかったから、結局は閉じこもったままだったけど。


そこから更に2年の月日が経ち。やっとの事で私は覚悟を決めることができた。
悲鳴を上げる『臆病な私』を無理矢理押さえつけ。震える手を何とか鎮め、ドアのノブを回して外に出た。
トイレの時と、時たま入るお風呂の時くらいにしか通らない廊下を、びくつきながら歩き。
鋼鉄のような重々しい威圧感を放っていると錯覚しかけた、姉の自室の扉を開いて。
あれ以来碌に会話をしていなかったお姉さまに、私は血を吐き出しそうな気持ちでその思いを伝えた。

549 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:56:39.82 ID:Ruy/61mI0

だけど、お姉さまはそれを許さなかった。
当然私は反抗した。私の決意を、泥靴で踏みにじられたかのように思えたから。
もう一度羽ばたこうとした翼を、思いっきり折られたかのように思えたから。
お姉さまに対してありったけの罵詈雑言を浴びせて、これでもかと言うほど喚いて。
ごねにごねて、結局お姉さまが折れて何とか外に出ることができた。


どうして、お姉さまは私を外に出そうとしなかったのか。
あの時はわからなかったけど、今なら理解できる。
むしろ、どうして今までわからなかったんだろう。
もっとよく考えていれば、こんなことにはならなかったのに。


――――お姉さまはみんなを私から守るために、私を閉じ込めようとしていた。
私は触っただけで何でも壊しちゃうバケモノ。そのバケモノから、みんなを守ろうとするのは当然のこと。
お姉さまは当たり前のことを、当たり前のようにしようとしていただけなのに。
それなのにバケモノの私は、人と一緒にいられると思い上がって檻の外に出ようとした。

550 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:57:11.09 ID:Ruy/61mI0

その結果がこの様。わかりきった結末。
また壊して、傷つけて、不幸をまき散らしてしまった。
ばかばかしすぎて、もう後悔の感情すら起きない。
私の中には、もう何も無い。ぽっかりと穴が空いているだけだ。


もう、どうでもいい。
もう一度掴むことができたはずの希望も。
それを自ら潰してしまった絶望も。
皆と一緒に笑顔でいたいという夢も。
未だに独りで孤独に涙を流している現実も。


何もかもが、どうでもいい。
そんなものに振り回されるのは、疲れた。


いっそのこと、このまま跡形もなく消えてしまえたら――――

551 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:58:03.88 ID:Ruy/61mI0










「ふらん……?」










552 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:58:34.31 ID:Ruy/61mI0

フラン「っ……!?」



耳に中に滑り込んでくる澄んだ声。
その声にタールのような泥沼から意識を引き上げられると同時に、私の体はびくりと大きく痙攣する。
まるで金縛りにあったかのように、体中の筋肉の隅々が石のように動かなくなった。


心臓の動悸が止まらない。荒い呼吸が静まらない。
酷い風邪を引いた時のように、嫌な寒気と噴き出た汗が体にまとわりつく。
口の中が酸っぱくなり、危うく吐きそうになる所を何とか押しとどめた。


誰が私を呼んだのか。誰が私の後にいるのか。それは振り向かなくてもわかっている。
彼女は私にとって、とても大切な人。待ち焦がれていた人。
だけど、今は絶対に顔を合わせたくない人でもある。
会いたいけど、会いたくない。二つの全く違う感情が、『私』を真っ二つに引き裂こうとする。

553 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/27(日) 23:59:45.52 ID:Ruy/61mI0

振り向いて、あの子に縋り付きたい。己の罪を、全て吐き出してしまいたい。
そうしたら、どれほど楽になれるだろうか。この重荷を下ろせることができるだろうか。
この心の痛みを拭い去れるなら、とても魅惑的な行動にも思える。
だけど、それはできない。できるはずがない。
臆病者の私には、自分の体を処刑台に差し出すような勇気など無い。
もしもそれで、あの子が私のことを嫌ってしまったら。
私の心は、グチャグチャに、跡形もなく潰れてしまう。


そんなことになるくらいだったら、このまま逃げてしまった方が良い。
怖いものから逃げるのは、何もおかしいことじゃない。
生き物なら、同然の行動。責められるべきことは何も無い。
――――それだというのに、私の体は、勝手に、背後を見ようと動いていた。


やっぱり私は、一人でいることには耐えられないみたい。
どんなに強情を張っても、本心だけは偽れなかった。
だいたいそうでなければ、私は外に出ようとは思わなかったはずだから。


ぎちぎちと、ゼンマイを回すかのようにゆっくりと首が動く。
紅く濁った私の双眼が、あの子の姿を捕らえた。










誰も羨むような、蒼銀の豊かな髪をしたシスター。
インデックスがそこにいた。

554 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/28(月) 00:00:40.19 ID:KGla6Plh0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:08:02.30 ID:c8on/IPno
乙です乙です
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/28(月) 20:38:21.72 ID:SYFoL4qc0


村人A「死者が出るのなら出番かしら」
青い女「死体なら作り直してあげるわ」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2016/04/01(金) 02:27:58.53 ID:jtCXghRL0
今のフランちゃんが壊す、殺す事に何の躊躇もしない連中の行動を見たら何を思うんだろう
558 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/04/10(日) 23:50:15.09 ID:Md0M/DQT0
これから投下を開始します
559 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:50:42.22 ID:Md0M/DQT0





     *     *     *





560 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:52:06.81 ID:Md0M/DQT0

インデックスは傷ついた土御門を介抱する当麻にその場を預け、
フランドールを追って館――――スカーレット邸へと向かった。
友達が住んでいる大きな館。一度だけ外観を見たその建物に足を踏み入れた時。
彼女の視界に広がったのは、『アカ』のみであった。


紅。赤。朱。
大凡、それら以外の言葉では言い表せない。
床に敷かれたカーペットならいざ知らず、天井、壁紙、窓枠に至るまで、全てがその色に統一された光景は、
紅茶色の外観から想像していたものを、遥かに超えるものであった。


血塗られた城。
人の生き血を啜る怪物が住む人外魔境の地。
一歩踏み入れたら最後、自身もその真紅の壁に取り込まれ、そのまま一部となってしまうかのような。
そんなあり得もしない未来を幻視し、不意に寒風に吹かれたかのような震えが走る。

561 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:53:53.47 ID:Md0M/DQT0

禁書「……っ!」



眼球に突き刺さる生々しい色調に、一瞬だけ思考を奪われてよろめく。
彼女は完全記憶能力の保持者だ。一度見たものは、外部から手を加えられない限り忘れることはない。
今この場で見たものも決して忘却することなく、永遠に脳髄へと刻まれるのだろう。
その時に感じた、心の底が冷え付くような感覚と一緒に。


だが、どれがどうした。
インデックスは絡みつく恐れを振り払うように、頭を大きく振りかぶる。
そして意を決したようにして、自ら血の沼へとその歩み足を進めた。
自分の友達が、フランドールが救いを求めているのに、そんなことで怯えていてどうする。
自身はイギリス清教の修道女。神の教えを伝え、迷える子羊を導く者。
そんな私が、未だ涙を流している『子羊(フランドール)』を救わずに逃げるなどあってはならない。

562 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:54:36.20 ID:Md0M/DQT0

禁書「ふらん、どこ……?」



インデックスは赤黒い廊下をただひたすら駆ける。
引き裂かれるような叫びと共に逃げ出した、大切な友達を見つけるために。


しかし、それを成すことは容易ではない。言わずもがな、スカーレット邸は広大である。
学園都市に来て以来、これだけの広さを持つ邸宅にはお目にかかったことがない。
いくら彼女が完全記憶能力を持っていたとしても、未知の建物の内部構造を予め把握することなどできるはずもなく。
故に彼女は、ただひたすら友達の背中のみを求めて当てもなく走り回るしかない。


アカの風景が次から次へと過ぎ去っていく。
まるで、巨大な怪物の腸の中を潜り込んでいくような感覚。
この廊下が怪物の腸なら、自身はさしずめ咀嚼物の言った所か。
歩みを止めてしまうと、心も体もドロドロに溶かされてしまうのではないか――――
そんな思考を振り払うように、彼女は足を動かし続けた。

563 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:55:51.78 ID:Md0M/DQT0

幾つかの廊下、曲がり角を通り、道すがらの扉を開けて部屋の中を確認する。
無意味に過ぎていく時間。徐々に体に溜まっていく疲労。抗いがたき焦燥が彼女に襲い来る。
どれだけの時が経ったのか。時計を持っていないので、それを確認する術は彼女にはない。


まさか、もうこの場所にはいないのでは――――
その考えに至ろうとした時、インデックスの耳が自身の足音以外の音を捕らえた。



「ひっぐ、ぐす……」



押し殺すような。いや、押し殺しきれずに啜り泣く声。
微かではあるが、インデックスにとっては聞き覚えのある声。
それを聞いた彼女は、弾けるように音が聞こえた方へと走り出した。


それは例えるなら、磁石に引き寄せられる金属ように。
もしくは、花の芳香に誘われる蝶のように。
脇目もふらず、それだけを求めて近づいていく。

564 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/10(日) 23:58:51.20 ID:Md0M/DQT0

禁書「――――」



真っ赤なカーペットが敷かれている路の上。シャンデリアの淡い光に照らされる中。
一人の少女が、フランドール・スカーレットが地に伏せていた。


ぐすぐすと鼻を啜り、カタカタと背中を小さく震わせ、嗚咽を漏らしている。
はじめて会ったとき時の快活なイメージとは反対の、怯える小兎のようにも思えるその姿は、
インデックスに少なからずの衝撃を与え、思考を吹き飛ばすには十分であった。



禁書「ふらん……?」



一瞬の空白の後。ふと思い出したかのように、ただ呆然と声をかける。
思考を停止したその言葉には、喜怒哀楽のどの感情も乗ることはない。
自分の口から出たはずなのに、誰かに喋らされているような。
まるで他人事のように感じながら、言葉を発していた。

565 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:00:26.61 ID:BXfdLX/q0

フラン「っ……!?」



びくりと、フランドールの体が大きく跳ねる。
インデックスのことに気づいたのか、啜り泣くことはなくなった。
しかし震えは止まらないまま、彼女は少しばかり体を起こし、
ゆっくりとインデックスの方へと向き直った。


その時、インデックスは見た。フランドールの『紅く染まった瞳』を。


ルビーのように鮮やかな紅色をした『ソレ』。
『ソレ』が湛えている光は余りにも妖しすぎて、一目で人が持ちうるものではないと理解できるほど。
見ているとそのまま吸い込まれそうな。そんな錯覚を覚える。


もしかしたら、彼女は吸血鬼になっているかもしれない。
瞳が紅いのは、吸血鬼だからなのかもしれない。


この場は曲がり形にも戦場であり、目の前の相手が怪物の可能性がある。
本来であれば真っ先に自身の身を案じ、警戒しなければならないはずなのに。
それなのにインデックスは、フランドールの瞳を見て『綺麗だ』などと思ってしまった。

566 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:02:42.29 ID:BXfdLX/q0

禁書「ふら――――」

フラン「っ、来ないでぇっ……!」



近づこうとするインデックスを、フランドールは絞り出すような声で拒絶する。


恐怖と後悔、そして深い悲哀。
それらの感情がフランドールの面貌、フランドールの声色となって、
インデックスの視覚と聴覚に深々と突き刺さり、心の奥底まで侵入する。
じくじくとほじくり返されるような痛みを前に、彼女は思わず足を止めた。



フラン「やめて、こないで……じゃないと、あなたを壊しちゃ……!」

禁書「ふらん、落ち着いて! 大丈夫だから!」

フラン「だめなの、『私じゃないワタシ』が……!」

禁書「……!」

567 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:03:41.76 ID:BXfdLX/q0

インデックスの説得を、フランドールは頭を抱えて首を大きく振り、尚も否定する。
その姿を見て、インデックスの心の中に『心配』とは別の『疑念』の感情が芽生えた。
『フランドールは何かを恐れている。だが、恐れ方が何処かおかしい』と。


確かに彼女は自身が持っている能力を使って、土御門元春を傷つけた。
ありとあらゆる物を触れただけで破壊するという超能力『物質崩壊』。
当時の彼女の様子は何処か普通ではなく、その行為が果たして本人の確固たる意志によるものなのかは疑問だが、
例えそうだとしても彼女が能力を使って誰かを傷つけたことには変わりない。
危険な力を人に使って血の海に沈め、その返り血を浴びたのだから、
正気に戻った彼女がその光景を見て取り乱してしまうのは当然だ。
その力が自分にとっての大切な存在――――インデックスや上条当麻に向かうことを恐れることも。
フランドールが自分達を守るために自身を拒絶しようとしていることを、彼女は痛いほど理解していた。


ただ、一つだけ疑問がある。それは、フランドールが今しがた口走った言葉。
『わたしじゃないわたし』。まるで、自分が多重人格であるとでも言うかのような。
あの時、彼女の様子がおかしかったのはそれが原因なのか。それを知る術は持ち合わせていない。
ただ確実なことは、フランドールは『自身の存在すらも』心の底から恐れている。

568 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:04:44.31 ID:BXfdLX/q0

フラン「……あの時と一緒なの」

禁書「あの時……?」



ぽつりと、少女は言葉を漏らす。
体の震えは消え、時折聞こえた啜り泣く声も無い。
しかしその代わりに、諦念と自嘲の思いが、僅かに覗ける顔から読めた。


少女は懐かしむかのように口を開く。



フラン「そう、今から7年前の話。 私がまだ普通に外に出られた頃のことよ」

フラン「私はその時受けた『身体検査』で、この超能力を手に入れた」

禁書「超能力……『物質崩壊』のこと?」

フラン「うん。 手に入れた時点での『強度』は既に『4』だった。 あなたは知らないと思うけど、これは異常なことなの」

フラン「大抵の人はレベル1とか2とかから始まって、少しずつ訓練してレベルを上げていく」

フラン「それはこの街に7人しかいないレベル5だって例外じゃない。 最初から強い人なんてほんの一握り」

フラン「だから、あの時は周りの反応はすごかったわ。 みんな私のことを褒めちぎるんだもの」

フラン「レベル4どころか3すらいない学校だったから、仕方のないことだったのかもしれないけどね」

569 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:06:07.19 ID:BXfdLX/q0

微かに笑いながら――――いや、『嗤い』ながらフランドールは話し続ける。
その嘲りを多分に含んだ『嗤い』を向けているのは、他ならぬ自分自身。
過去を思い出す度、それを言葉にする度に、彼女の心はズタズタに引き裂かれていく。


とめなければならない。言葉を紡ぐのを止めさせなければならない。
そう思いつつも、インデックスは終ぞ体を動かすことができなかった。



フラン「最初は面倒なことになったと思ったわ。 何でって、先生達とかお姉さまはいらないお節介をかけてくるし、
友達は事ある毎にちやほやしてくるし……」

フラン「正直に言って、鬱陶しいことこの上なかったわ。 家出しちゃうくらいにはね」

フラン「だけどね、ある日気がついたの。 この力は、すごく素晴らしいものなんだって」

フラン「力があれば誰にも舐められない。 嫌な奴は、みんなぶっ飛ばしちゃえば良いんだって」

フラン「――――よく考えたら、その時点でああなるのは決まっていたのかもしれない」

570 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:06:55.02 ID:BXfdLX/q0

スイッチを切るように、嗤いが途絶える。
そして既に書かれていた台詞を朗読するように、単調な声色で話し出す。
ぞわりと、空気が体を嘗め回すような異様な感覚に襲われた。



フラン「今でも思い出せる。 あの日、私は仲が悪かったクラスメイトと喧嘩した」

フラン「アイツのことは前から嫌いだった。 いつもちょっかいを出してきて、説教してくるんだもの」

フラン「あの顔を殴り飛ばせれば、どんなに良いか……そんなことを、何度思ったかわからない」

フラン「でも、思うだけで何もできなかった。 アイツは、私よりも先に力を手に入れてたから」

フラン「そのせいで、私はずっと我慢するしかなかった」



言葉の一つ一つに質量があるような。そしてそれらが、肩に次々とのし掛かってくるかのような。
自身の体が目に見えない圧に悲鳴を上げるのを感じながらも、インデックスは目の前の処女から視線を外さない。

571 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:08:10.29 ID:BXfdLX/q0

いや、視線を『外さない』のではなく『外せない』。
まるで魅入られたかのように、彼女の眼球は釘付けになってしまっている。
例えるならば、打ち棄てられた子犬を不意に見つけてしまった時のように。
目の前の少女を見て沸き上がった感情が、彼女の心を支配している。



フラン「だけど、私は力を手に入れた。 だから、今までの鬱憤を晴らすためにアイツに喧嘩を売ったの」

フラン「その時のアイツの顔といったら。 ほんと、傑作だったわ」

フラン「アイツの力を、正面から潰してやったんだもの。 信じられないって顔してた」

フラン「それでね、呆けた顔になったアイツをね、力を使って――――コワしてやったの」



そう口にし、首を上げた彼女の顔には。
何の感情も込められていなかった。

572 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/11(月) 00:09:10.64 ID:BXfdLX/q0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 00:30:07.44 ID:p1upoq8w0
乙!
まぁそのなんだ。ピンク髪委員長(だっけ?)さんもさ、腕無くなっただけならまだ良いだろ……フレ/ンダ さんよりかはな
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 00:36:44.73 ID:quRSa9r7o
乙です
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 05:26:42.42 ID:TVog8MFV0
能力を使う時に腕が消し飛ぶ人も居るしな
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/24(日) 17:32:52.16 ID:yX4JpoRJ0
それにはお空も入るな。何だ?超能力者の間では隻腕がトレンドなのか?
577 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/04/25(月) 00:01:01.67 ID:iYeb0eqs0
>>575,576
だって、腕が変形するってかっこいいじゃん?(中二並感)


これから投下を開始します
578 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/04/25(月) 00:01:39.50 ID:iYeb0eqs0

禁書「――――」



インデックスは、ただただ絶句した。
彼女が知りうる少女からは、余りにもかけ離れたその表情に。


これが、『あの』フランドールだというのか。
能面に埋め込まれた二つの灼眼。僅かに見開かれた目から感じるものは『狂気』の二文字。
その色は『紅』にも拘わらず、底なしの『黒』を帯びているようでもあり。
先ほどの吸い込まれるような感じとはまた違う、それこそ魂を剥がされ、
引きずり込まれるかのような、禍々しい引力を携えていた。


しかし、その表情は直ぐに再び自嘲めいたものへと代わり、
けらけらと軽く乾いた嗤いと共に、再び口を開く。

579 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/04/25(月) 00:04:08.63 ID:iYeb0eqs0

フラン「ふふ、えぇ、本当にすごかったわ。 アイツの肩からスプレーみたいにぷしゅーって血が吹き出たの」

フラン「勿論、私はそれをまともに浴びて血だらけ。 丁度、今みたいにね」

フラン「もの凄く臭くて、頭がくらくらした。 どうにかなりそうだったわ」

フラン「いえ、その前から既にどうにかなっていたのかもしれないけど」



インデックスは、自分の体が震えているのを感じた。それは、寒さからではない。


それは人ならば誰もが持ちうる、当たり前の感情。しかし、今は決して抱いてはいけないもの。
救うべき相手を前にしてそのような感情を抱いてしまうなど、実に浅はかで愚かしい。
そんな感情が芽生える程度の覚悟なら、最初から助けなければいいことだ。

580 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/04/25(月) 00:05:07.37 ID:iYeb0eqs0

フラン「ねぇ、インデックス。 あなたは、自分の中にあるナニカに怯えたことってある?」

フラン「自分の中にある、認めたくないけど確かにある感情のこと」

フラン「潜在的な狂気、と言えばいいのかな? それのことよ」

フラン「例えば、人の血を見るのが堪らなく好きだったり、必死になって頑張っている人を、
自分の手で絶望の底にたたき落としたくなったり」

フラン「その逆で、絶対に許しちゃいけない悪い人を、何でかわからないけど擁護してみたくなったり」

フラン「そんな思いがね、悪いことだとわかっているのに、どうしても抑えきれなくなるの」

禁書「……」



自分の中に、認めたくない自分がいる。
それはおそらく、人が持ちうる『悪性の自我』のことだろう。

581 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:06:17.58 ID:iYeb0eqs0

人は必ずしも清廉潔白な存在ではない。
そうであるが故に『倫理』や『道徳』という物が存在し、それらを戒める鎖としている。
人が人であるが故に、自身の個を得てしまったが為に抱えている『大罪』。
その罪を犯さないために、人はあらゆる文言を並べ、自身を雁字搦めに縛っている。
だがそれでも、人の中に渦巻く我欲を、『悪欲』を御しきることは出来ない。
ふとしたことで、鎖が緩んだ一瞬の隙を突いてソレは心を食い破らんと暴れ回る。
そしてソレを抑えきれなくなった時。人は悪の道へと走ることになる。


しかしそれは、誰もが経験していることだ。
自分の感情が抑えられなくなることは、別段珍しいことではない。
相手の言動が気に入らなくて、ついつい口汚く罵倒してしまったり。
自身の境遇に不満を感じて、その鬱憤を周りに当たり散らしてしまったり。
精神が未熟な子供は当然として、大の大人であっても己の悪欲に身を委ねてしまうものだ。


だから、それらを行ってしまったことを恥じる必要はない。
悪行に走ったことがない人間がいたとするならば、その者は『聖人』か『狂人』のどちらかだろう。
もしも恥じるとするならば、それを顧みずに同じ過ち繰り返す愚かさに対してするべきである。


だからフランドールは、そこまで思い詰める必要はない。
彼女はまだ若い。道を踏み外すこともあるだろう。
まだ引き返せる。己の過ちを認め、それを正すことができる。
それなのに……

582 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:07:22.56 ID:iYeb0eqs0

フラン「……あの時も、さっきもそう。 自分でもわからない内に、いつの間にか狂ってる」

フラン「目の前にあるモノを、コワしたくてコワしたくて仕方なくなるの」

フラン「それに、さっきので確信したよ。 私の狂い方、前と比べて明らかに酷くなってる」

フラン「あの時はまだ自分が何をしているのかわかったのに、今はもうわからない」

フラン「私がワタシに食べられていくの。 少しずつ少しずつ、飲み込まれていくの……」



フランドールは諦めてしまっていた。
蝕まれていく自我を前に、彼女は抗う様子を見せない。
虚ろな声で、淡々と言葉を口にしていく。


数えれば、たった二度の過ち。
しかし、その過ちは彼女の心を『くの字』に折り曲げるには十分すぎるもの。
人を傷つけるならまだしも、その行為を嬉々として行った。しかも、自覚があるから尚悪い。


もしも最初から多重人格だったのであれば、その人格に罪を押しつけることも出来ただろう。
責任転嫁に過ぎず、何の解決にもなりはしないが、それでも本人の心の平穏は辛うじて保たれる。

583 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:08:21.57 ID:iYeb0eqs0

だが、フランドールの場合はそうではない。
何時からおかしくなったのかはわからない。如何にして狂ったのかもわからない。
彼女の中に全くの別の、凶悪で残忍な人格が生まれていたとして、
果たしてそれが彼女の人格と何時入れ替わったのかがわからない。
もとより、本当に『入れ替わった』のか。もしかしたら、『浸食された』のかもしれない。
じわじわと気づかない内に新たな人格に影響され、結果として凶行に走った可能性も捨てきれないのだ。


『本来の人格』と『新たな人格』。
その二つに境界を敷けない以上、フランドールは己の成した罪から逃げられない。
故に彼女は今、拭い去れない罪に押し潰されようとし、そして己が『ナニカ』に蝕まれていくことに恐怖している。



フラン「だから、私のことは放っておいて……このままだと、あなたに何をするのかわからないんだもの」

フラン「もしかしたら今にも、気が狂ってあなたを襲うかもしれない」

フラン「この力で、あなたをぐちゃぐちゃにしちゃうかもしれない」

フラン「そんなこと、耐えられない。 それくらいだったら、ずっと一人の方がいいよ……」

禁書「そんな……」

フラン「心配しなくても大丈夫だよ、インデックス。 一人でいることには慣れてるから」

フラン「7年間ずっと、この家に閉じこもってきたんだもの。 いつもの生活に戻るだけだよ」

フラン「そう、いつもの、つまらない毎日に戻るだけ……」

584 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:10:49.45 ID:iYeb0eqs0

フランドールは、乾いた笑いを浮かべながら語り続ける。
その瞳には光が無く、焦点も合っていないように見える。


自分が今何を言っているのかさえ、わかっていないのではないか。
目の前のインデックスをも忘却し、譫言のようにぶつぶつと呟き続けている。
再生機能が壊れた、古いテープレコーダーのように、己の心の内を吐露し続けている。



禁書「――――」



インデックスはその光景を前に、何も出来なかった。


彼女はイギリス清教の『禁書目録』。
その立ち位置は組織の中では殊更肝要であり、他の者とは一線を画す。
組織での役割故に権力を得るは許されないが、身分としてみれば十二分に破格の扱いだ。
本来ならば、数百の修道女の上に位置しているはずの者。それが『禁書目録』という存在。
だが、そんな大層な身分であるはずの彼女は今、何も出来ずにその場に立ち尽くしている。

585 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:11:51.04 ID:iYeb0eqs0

結局の所、その身分は他人から与えられたものでしかなかったということだ。
清教を守護する最固の城壁。それ故に、彼女は籠の中の小鳥として飼われていた。
いや、ただ飼われるだけならばどんなに良かったか。
『人間』として扱われているだけ、まだマシというものだろう。


悪いことに、彼女は組織の中に於いては『人間』ではなく『道具』だった。
そして組織は、自我を持つ道具である彼女を律するため、彼女の体に細工を施した。
一年毎に訪れる脳の記憶限界。それに伴い必要となる記憶の消去。
周期的に記憶を消すことで彼女の意識を一新し、自身の在り方に疑問を持たせないようにする。
その呪いは一年前の七月二十八日、上条当麻の右手で破壊されるまで続いた。


――――人の心を動かすためには、『重みのある言葉』が必要だ。
そしてその言葉は豊富な経験、確固たる意志の中から生まれ出でる。
心に響く名言を残す者は、往々にして波瀾万丈の人生を送っている。
平凡に生きている軟弱者の言葉などに、誰が耳を貸すというのか。


インデックスは今から2年ほど前までの記憶しか持っていない。
それ以前の記憶は消されてしまい、最早取り戻すことは叶わない。
かつての自分がどんな思いを持って、どんな風に歩いて生きていたのかわからない。
自分の傍にいて励ましてくれた人も、そして掛け替えのない大切だった人ですらも思い出せない。
言わば彼女は、知識だけを与えられた赤子のようなものだ。

586 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:12:45.99 ID:iYeb0eqs0

つまり、何が言いたいのかと言えば。
過去を失ってしまった彼女には、人を説得させられるだけの確かな言葉を生み出せないということ。
どんなに着飾った言葉を並べ立てても、理屈立てた言葉を発しても、彼女の言葉は何処までも空虚だ。
外側だけで中身が無い。聞こえは良くても現実味が無い。
聞いたのが大人ならば、子供戯れ言として鼻で嗤われるだけ。
歳が近い者であっても、『お前に私の何がわかる!』と言われて突っぱねられてしまうだろう。


インデックスには、理屈をこねくり回して誰かを説得することは出来ない。
だから、今彼女に出来ることは――――

587 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:13:32.62 ID:iYeb0eqs0

禁書「……」カツンッ



足を一歩、前へと踏み出す。
しっかりと大地を踏みしめるように。目の前の少女へと歩み寄る。


膝を持ち上げ、少しばかり前に下ろす。
ただそれだけの動作だというのに、生気を根こそぎ奪われたかのように感じる。
体は鎖を巻き付けられたかのように重い。それどころか、後ろに引っ張られているような錯覚すら受ける。
一度気を抜いたら最後、そのまま引きずられて二度と彼女の下には辿り着けない。そんな気がする。


だから、そうならないように。大切なものを失わないように。
しっかり前を見て。体を奮い立たせて歩き出す。

588 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:14:09.61 ID:iYeb0eqs0

フラン「……どうして、どうしてなの? どうして近づいてくるのよッ!?」



少女は白い修道女の行為を見て、目を見開いて絶叫する。
その叫びは既に悲鳴のようであり、彼女の心を剥き出しにしたかのよう。
過呼吸を起こしたかのように息を大きく乱し、体を縮ませているその様は、
何処をどう見ても年相応の子供でしかない。


――――あぁ、なんて馬鹿馬鹿しい。
こんな子を、誰かのために自分を犠牲にするような優しい子を怪物扱いしていたなんて。
そこらの人間よりも優しい心を持つ彼女が、どうして卑下されなければならないのか。


わかっている。忘れてなんかいない。
この子はスカーレット一族。イギリス清教に牙を剥いた異端者の一人。
そして彼女の中には、何かおぞましいものが居ることも。
十字教の一員として、イギリス清教の『禁書目録』として。
反逆者を、神に仇為す吸血鬼を断罪しなければならない事は。


だが、それがどうしたというのか。
今のフランドールは狂気に犯されていない。彼女はこんなにも純粋で温かな少女だ。
彼女を見捨ててしまったら、今度こそ本当に身も心も化け物に墜ちてしまうだろう。
そんなことはさせてはならない。自身の目の前で誰かが闇に墜ちるなんて、許せるものか。

589 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:15:02.71 ID:iYeb0eqs0

フラン「私はバケモノなのよ!? どんなものも触っただけで壊しちゃう怪物なの!」

フラン「それに、私は、壊すことを心の何処かで楽しんでる……私は狂ってるのよ!」



フランドールが拒絶する。だが、足は止まらない。
互いの距離は、初めのころの半分を既に切っていた。


――――フランは救われることを望んでいない。諦めてしまっている。
自身に巣くう狂気を受け入れて、そのまま自壊しようとしている。
それが彼女の願望であり、自身の行為はそれを叩き潰すものだ。


だからこの行動は。この思いは。
自分の欲望からこぼれ落ちた身勝手なものだ。
相手の都合を考えず、己の行動理念のみで救うなど、偽善の最たるものだろう。


だけど、例えそうだとしても。私は彼女を助けたい。
その場では恨まれることになっても、いつか一緒に笑い会える時がまた来ることを願って。

590 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:15:58.76 ID:iYeb0eqs0

フラン「嫌、おねがい……」



あの子との距離はもう僅か。2、3歩足を踏み出せば辿り着く。
ただその数歩の間に、どうしようもなく深い溝があるようにも思えた。
望みが真逆なのだから、それは当然のことなのかもしれない。
最後の『拒絶(まよい)』が、私の目の前に立ちはだかる。


それを前にして私は。戸惑うことなく前へと踏み込んだ。



フラン「おねがい、だから……来ないでよぅ……!」

591 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:16:28.54 ID:iYeb0eqs0

――――フランは泣いていた。
ぽろぽろと瞳から泪を流し、啜り泣いていた。
彼女にはもう、私を突き放す気持ちも、覚悟も無い。
ただ、目の前にいる誰かを怖がっている少女がいるだけ。


そんな彼女を、私は正面から抱きしめる。
しっかりと両手で背中を抱え、自身の胸へと引き寄せた。


フランの体は、思ったよりも華奢だった。
私の両腕を回してもまだ余るくらい、彼女の体は小さく、そして柔らかい。
当麻の体に抱きついたことは何度もあるけれど、フランのような小さな女の子にしたことはあまりない。
『女の子の体ってこんなに柔らかいんだなぁ』と、心の何処かで思いつつ、ぎゅっとフランにしがみついた。

592 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:17:25.48 ID:iYeb0eqs0

フラン「あ……」



フランは、呆けたような声を上げる。
今彼女がどんな表情をしているのかはわからないけれど、
もし見ることが出来たのなら、さぞや気の抜けた顔をしているのかもしれない。
彼女にしてみれば、いきなり抱きしめられるなんて想像もしていなかったことだろうから。


彼女の体の震えが、私の体に伝わってくる。
それだけじゃなく、不規則な呼吸の音も、早鐘を鳴らしている心臓の鼓動も一緒に。



禁書「大丈夫だよ、ふらん。 怖がらなくてもいいんだよ」



そんな彼女に、私はそう言葉を口にした。
びくりと彼女の体が一際大きく跳ねて、一気に息づかいが荒くなった。
そして、戸惑いを隠せない声で私に答える。

593 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:18:49.84 ID:iYeb0eqs0

フラン「でも、私は――――」



彼女は繰り返そうとする。自己の否定と、私を拒絶する言葉を。
それを私は遮って、別の言葉を彼女に覆い被せた。


禁書「そんなの、気にしなくていい。 ふらんはふらんだよ」

禁書「元気いっぱいで、太陽みたいに明るい私の大切な友達。 友達を助けるのは、当たり前のことなんだよ」

禁書「だから、怖がらないで。 自分を追い詰めないで」

禁書「たとえ何があっても、あなたが誰であっても、私はあなたの傍にいるから。 だから――――」










「あなたはもう、一人ぼっちじゃない」
594 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:19:35.65 ID:iYeb0eqs0

フラン「――――」



その瞬間、時が止まる。


刹那でありながら、永劫とも思える空白。
その中で、フランドールは泣きじゃくることも忘れて呆然とした。


修道女の、インデックスの言葉が、すとんと綺麗に彼女の中に落ちる。
言葉から滲み出るインデックスの思いが、彼女の心を覆っていた暗霧を吹き払い、
そして乾いた大地に滴った水滴のように染み込んでいく。


言葉の通り、心が洗われるようだった。
自分の中に巣くっていたドス黒いナニカが、綺麗さっぱりと霧散していた。
代わりに残ったのは、『あたたかいもの』と『小さな棘があるもの』。
その二つが、心の中を節操なく転がり回っていた。

595 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:20:36.07 ID:iYeb0eqs0

フラン「……いいの?」

禁書「うん?」

フラン「本当に、私は、あなたと一緒にいてもいいの?」


フランドールは途切れ途切れに問い返す。『私には、あなたの傍にいる資格はあるのか』と。
インデックスの言葉は素直に嬉しい。だけど、心がまだ納得していないと。
人生の半分もの間、彼女を悩ませてきた罪の意識。それを振り払うのは容易ではない。


だが、不可能ではない。現に、フランドールはインデックスに許しを求めている。
それは彼女が自分自身を許そうとしている証拠。その切欠が欲しいだけ。
心の底から自分は許されないと思っているのなら、問い返すなんてことはしないだろうから。



禁書「いいよ。 私はあなたの友達なんだから。 遠慮なんかしなくていいんだから」

禁書「だからもう一度、あなたの笑顔を見せてほしいな」

フラン「……………………ふっ、ぐすっ、うぇぇっ……!」



再び嗚咽を漏らし、泣き出すフランドール。
しかしそれは、嘆き、悲しみから流されたものではなく。


二人はそのまま、寄り添うようにして互いに抱きしめあっていた。

596 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/04/25(月) 00:21:08.74 ID:iYeb0eqs0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 00:32:09.37 ID:L6OM2Utyo
乙です
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 03:43:02.78 ID:7zU4GD7c0
温情がある
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/27(水) 19:48:54.85 ID:8kD7oEqi0
よし!そっからフランブリーカーだ!
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 15:02:33.74 ID:bVGy5Zlo0
で、あの上条ダッシュパンチに至るまでどれくらいの時間がかかったんだろうなぁ
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/29(金) 19:42:00.25 ID:5YLCg2c00
んじゃつっちーは?まさかくたばった?
602 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/05/09(月) 00:09:44.51 ID:zb1y6MLC0
GWだったのに全く筆が進まんかった……書き溜めがががg


これから投下を開始します
603 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:10:29.69 ID:zb1y6MLC0





     *     *     *





604 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:11:21.55 ID:zb1y6MLC0

土御門「……ッ! げほっ、がはっ!!!」

上条「! 大丈夫か!?」



土御門がフランドールの凶手に倒れ、当麻がそれの応急処置に取りかかってから数分。
当麻の献身的な介護の甲斐があったのか、彼は予想よりも早く息を吹き返した。


気管に詰まった血塊を口から吐き出し、土御門は大きく咳き込む。



土御門「げぇほっ! ごほっ! ……カミやん、か?」

上条「喋るな! 血は止まったけど、まだ動けるほどじゃない」

上条「皮膚は治ったけど、中の方はまだみたいなんだ。 所々鬱血してる」

上条「無理に動いたら、また血が噴き出しちまう。 内臓にもダメージがあるだろうし、安静にしといた方がいい」

土御門「そう、か……」

605 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:12:07.42 ID:zb1y6MLC0

当麻の言葉を聞き、土御門は苦しそうに首肯した。


彼の体の至る所に走っていたはずの裂傷は既に消え、失われる血液は無い。
しかし裂傷があったはずの場所には生々しい紫の斑点が残り、まるで打撲のような様相を呈している。
皮膚の部分の傷は『肉体再生』縫合されたものの、内部の血管は未だに破れているためだ。
滲み出た血液が皮膚の下に溜まり、痣のようになっていた。


更にはまだ痛みが残っているのか、もぞもぞと体を捩らせている。
まともに動けるようになるまでには、もうしばらく時間がかかるだろう。
無論それは『体を動かしても大丈夫』という程度のことであり、戦線復帰の観点から考えると絶望的だ。
本来であれば、今すぐにでも病院に連れて行かなければならないのだから。



土御門「助けられちまったな……ほんと、情けないにゃー……」

上条「そんなこと言うなよ。 お前こそ、俺を助けようとしてくれたんだろ? 情けないなんてことはねぇよ」

上条「いくら『肉体再生』があるからって、無茶しすぎだとは思うけどな」

土御門「無茶ばっかりしてる、カミやんには言われたくないぜい……」

上条「ほっとけ」

606 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:12:49.72 ID:zb1y6MLC0

土御門「……………………んー」

上条「どうした?」

土御門「いや、ほんとは女の子に介護してもらいたかったんだけどにゃー」

土御門「野郎、しかもカミやんに看病されちまうなんてにゃー……こんな機会があるなんて、夢にも思わなかったぜい」

上条「土御門さん? 流石の上条さんでも怒りますですことよ?」

土御門「自覚があるなら、さっさと行きすぎた自己犠牲を矯正することをお勧めするぜい? ま、無理だろうけどな」

上条「ぐぬぬ……」



軽口を叩き合う二人。先ほどまで殴り合っていたのが嘘のようだ。
そもそも嵐が過ぎ去ってしまえば、普段の間柄などこんなものなのだろう。


殴り合いの最中に横槍が入ったものの、結果としては土御門が地に倒れ、対して当麻は五体満足。
決着は既についた。過ぎ去ったことを何時までも引きずるようなことは、この二人の間に関してはないと言うことだ。

607 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:13:33.25 ID:zb1y6MLC0

土御門「さて、どうしたもんかな……こんな体じゃあ、フランドールを捕まえることは出来そうにない」

上条「おい、まだそんなこと言ってるのか?」

土御門「当然だ。 オレの任務はまだ終わっちゃいないんだからな」

土御門「動けるんだったら体を引きずってでも奴を追いかけている所だ」

土御門「……いや、まて。 フランドールは何処に行った? 辺りにはいないみたいだが……」

上条「フランは屋敷に逃げていったよ。 インデックスが今追いかけている」

土御門「上条当麻、お前――――」

上条「『自分が何をしたのかわかっているのか』、か?」

土御門「……そうだ、奴はイギリス清教とっては大罪人だ。 しかも清教の手を逃れて、
あまつさえ学園都市に潜伏し続けていた魔術師」

土御門「そんな奴の所に『禁書目録』を一人で行かせるとは……!」

608 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:14:29.62 ID:zb1y6MLC0

土御門の語調が強まる。
その瞳に宿るのは憤怒。しかし彼が怒るのは当然のことだ。
『禁書目録』はイギリス清教とって、替えの利かない最重要人物。
彼女を失うことは、イギリス清教を守る城壁を失うことに等しい。
それを敵側の魔術師に送り込むなど、これほど愚かしい行為は存在しないだろう。


しかしそれ以上に、土御門としてはあれほどインデックスを気遣っていた当麻が、
いとも簡単に彼女を死地へと送ってしまったことが信じられないのだろう。
発狂したフランドールの恐ろしさを身近で感じていたのだから尚更である。


しかしそれを前にして、当麻は臆するでもなく、少しばかり沈黙した後に口を開いた。



上条「たぶん、お前が考えてるような心配は無いと思うぞ」

土御門「……は?」



その言葉に、土御門は訳がわからないとでも言うかのような顔をする。
『心配』とはおそらく、自身が想像している通りのことだと思うが、
その必要がないと言い切る理由がわからない。

609 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:15:32.85 ID:zb1y6MLC0

上条「フランの奴、泣いてたんだ」

土御門「何?」

上条「あの後血だらけになった自分を見て、泣いてたんだ」

上条「それと、悪い所を見られた子供みたいな顔もしてたっけな……」

上条「その後、悲鳴を上げて屋敷の中に逃げていったよ」

土御門「……」

上条「なぁ土御門、本当にお前が考えているような奴なら、そんなことすると思うか?」

上条「もし本当に危険な奴だったんなら、あんな風に泣くなんてこと、しないと俺は思う」



もしも、フランドールが人を傷付けることを何とも思わない人間だったとしたら。
あのように血だらけの手を見て驚愕し、罪を糾弾された罪人のような、後悔が極まった表情をするはずがない。
あんな顔の少女を見て、それに追い打ちをかけるようなことを当麻が出来るはずもなく。
それ故に彼は、土御門からフランドールを擁護する立場に立った。


端から見れば、彼を愚かな人間だと思うだろう。そしてそれは、実際にそうである。
常識的に考えれば、友人を血だるまにした人間に対して抱く感情など、良いものであるはずがない。
侮蔑に視線を送り、口汚く罵り、手を振り上げてもおかしくはないのだから。

610 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:16:43.04 ID:zb1y6MLC0

土御門「……はぁ、しょうがないにゃー」



土御門は当麻の言葉を聞き、やれやれといった顔で軽く溜息をついた。
その溜息には呆れに加えて諦めの色が乗っている。


上条当麻が理屈を度外視した行動をとるのは、今に始まったことではない。
『英雄』などと揶揄されてはいるが、彼は『善悪』に基づいて動くわけではない。
彼の体を動かす要因は、彼自身の心から湧き出るもの。
『善』だから助けるのではなく。『悪』だから倒すのではなく。
簡単に、端的に、身も蓋のない言葉で言い表すとしたら。
『自分がそうしたいから、そうした』ということだ。


解ってはいたことだが、何度実感しても慣れないものだ、と土御門は思う。
土御門は『スパイ』という身分である以上、その思考は合理的だ。
余程のことがない限り、感情を優先して動くことはない。
だからこそ、上条当麻の言い分は『理解』できるものの、『納得』までは中々出来ないのである。


ただそのことを何時までも突っついても、今更どうにもならないことはわかりきったことなので、
その感情はさっさと水に流してしまうことに決めたのだった。

611 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:19:13.49 ID:zb1y6MLC0

土御門「あい、わかった。 カミやんの行動については今更だし、これ以上はとやかく言わないぜい」

上条「あぁ……すまねぇな、土御門」

土御門「謝るくらいならこんなことはしないで欲しいんだけどにゃー……まぁ、そのことは置いといて、だ」

土御門「カミやんの言い分だと、フランドールはそこまで危険な奴じゃない」

土御門「仮にそうだとして、あの状態……暴走とでも言えばいいのかわからんが、おそらく吸血鬼化による影響だろう」

上条「そうなのか?」

土御門「ただの推測だがな。 奴等の親父……先代のスカーレット当主は、
自身を吸血鬼化した後に発狂したという記録が残っている」

土御門「線があるとしたらそれだろうぜい」

上条「……フランは完全に吸血鬼になっちまったのか?」

612 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:20:07.31 ID:zb1y6MLC0

当麻は土御門の言葉を聞き、ぎくりとして恐る恐る問い質す。
彼の考えでは、フランドール達をイギリス清教の標的から外すには、吸血鬼化をどうにかしなくてはならない。
しかし完全に吸血鬼化してしまっているとしたら、おそらくはもう手の施しようがないだろう。


だが幸運なことに、土御門は当麻の言葉を否定した。



土御門「いや、それはないだろう。 もしそうなら、この程度で済んじゃいない」

土御門「吸血鬼の戦闘能力なんざ噂でしか知らないが、それを鑑みてもこの状況は温すぎると思うぜい」

上条「そうなのか……いや、よかった。 まだ手遅れじゃなくて」

土御門「手遅れかどうか判断するには、まだ早いとおもうがにゃー……で、どうするんだ?」

上条「どうするって……」

土御門「とぼけるのは感心しないな。 ……何か策はあるのか?」

上条「それは……」

613 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:20:50.10 ID:zb1y6MLC0

当麻は土御門の言葉に返答を窮する。
その言葉は正しく、今の彼にとっての急所であるが故に。


土御門が怪我によって行動できなくなったことで、フランドールが捕縛されるという事態は防がれた。
怪我した本人には申し訳ないが、一先ず目的が達成されたことは喜ばしいことと言える。
だが、結局の所そこ止まり。問題は何も解決していない。
自分たちが、本当に向き合わなければならないこと。それは――――



土御門「カミやんはフランドールに危険はないといったが、イギリス清教の問題とはまた別だ」

土御門「奴が危険であろうと無かろうと、吸血鬼化の魔術の持ち主であることは間違いない」

土御門「イギリス清教が求めているものが、あくまでもその魔術の抹消である以上、奴は永遠にお尋ね者扱いってことだ」

土御門「裏を返せば、それさえ達成できるのであれば、スカーレットの奴等がどうなろうと知ったことじゃないってことだけどな」

上条「知ったことじゃない?」

614 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:21:25.67 ID:zb1y6MLC0

土御門「あぁ、スカーレット家の処断は10年前に既に完了している。 それを今更取り消すということはない」

土御門「いや、『出来ない』といった方が正しいか。 処断の完了を取り消すということは、
    『神の意志を執行せずに今まで見過ごしていました』と宣言するようなもんだからな」

土御門「ローマ正教やロシア成教に対する体裁がある以上、自身の弱味を晒すようなことはしないはずだぜい」

上条「ってことは、その魔術さえどうにかなればフラン達は助かるのか?」

土御門「理屈上はそうなるにゃー」



イギリス清教としては、スカーレット家がどうこうよりも、吸血鬼化の魔術さえどうにかなればいいらしい。
魔術をどうにかする具体的な方法は一先ず置いておいて、イギリス清教が求めているものがはっきりとしたことは収穫だ。
相手が望むことがわからないと、自分が為すべきことも曖昧になってしまう。
これで具体的な方策を改めて練ることが出来るだろう。

615 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:22:00.77 ID:zb1y6MLC0

上条「イギリス清教を諦めさせるためには、吸血鬼化の魔術に関するものを全部取っ払わなくちゃならない」

土御門「その通り。 で、その排除するべきものは大きく分けて三つある」

土御門「一つ目が吸血鬼化の刻印。 刻印はスカーレット一族の証のようなもので、代々受け継がれていくものだと聞いている」

土御門「レミリア、おそらくフランドールにもだろうが、体の何処かに刻まれているはずだ」

上条「それは俺の『幻想殺し』でどうにかなると思う。 魔方陣みたいなものだろうし、それを見つけて触ればいいはずだ」

土御門「実際何処にあるかはわからないけどにゃー。 ……そして二つ目が刻印の構築方法、それにまつわる情報だ」

土御門「レミリア達の刻印を破壊した所で、その構築方法が残っていたら意味がない」

土御門「刻印の拡散を防ぐためにも、それに関わる情報は徹底的に抹消する必要がある」

上条「『ヴォルデンベルクの手記』はイギリス清教に保管されているんだよな? ってことは、あとするべきなのは……」

土御門「レミリア達本人が、構築方法を知っているのかどうか。 ま、これに関しては奴等の頭の中を覗いてみるしかないにゃー」

616 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:22:42.19 ID:zb1y6MLC0

上条「頭の中を覗くって……あまりいい予感がしないんですけど」

土御門「確かに、他人の記憶を弄くるなんて趣味が悪すぎる。 『心理掌握』の例もあるからな」

土御門「一歩間違えれば廃人コースまっしぐらだ。 普通なら、そんな七面倒くさいことはしない」

土御門「『疑わしきは罰せよ』精神で、あっという間に幽閉だろう……普通なら、な」

土御門「カミやんが拝んで拝んで拝み倒せば、もしかしたら『最大主教』も心変わりしてくれるかもしれん」

上条「それはどうなんだ? いくら俺でも、そこまで融通を利かせてくれるとは思えないんだけど」

土御門「いや、カミやんはねーちんを初めとした聖人が数人に、レヴィニア=バードウェイといった魔術組織のトップ、
    挙げ句の果てには元魔神までいろんな奴と繋がりを持ってるからな」

土御門「流石の『最大主教』も、カミやんを易々と敵に回すようなことはしないはずだぜい」

上条「そんなものなのか?」

土御門(……知らぬは本人ばかりってか。 実際の所、既に籠絡されちまってるんだけどにゃー)

617 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:23:27.76 ID:zb1y6MLC0

驚く事なかれ、『必要悪の教会』の首魁、『最大主教』ことローラ・スチュアートは、
既に上条当麻によって手籠めにされているのだ。


ちなみに組織の中でそのこと気づいているのは土御門だけである。
他の面々であるステイルや神裂はローラの行動に異常を感じつつも、
腹黒なことで定評のある『最大主教』が恋に目覚めたなどと露ほどにも思っておらず、
ついにはローラ本人でさえも自身の感情の揺れを十分に理解していない。
生まれてこの方、まともに恋愛などしてこなかったことによる弊害であろう。


土御門としてはローラに教えても良かったのだが、放置すればもっと面白いことになると予感し、
本人が自分のよくわからない感情に狼狽するのを、ニヤニヤしながら見ることにしていた。


閑話休題。

618 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:24:06.24 ID:zb1y6MLC0

上条「ってことは、やっぱり一番問題なのは……」

土御門「どうやら、流石のカミやんも気づいているみたいだな。 いや、そうじゃないと困る」

土御門「問題は刻印によって生じる肉体の分解と再構築……言ってしまえば吸血鬼化だ」

土御門「どのくらい刻印が浸食しているのかはわからないが、姉妹共に確実に影響を受けているとオレは睨んでいる」

土御門「さて、どうする? 半端とはいえ、彼女達は吸血鬼だ。 真人間に戻すには、
    吸血鬼化した肉体とそうでない肉体を選り分け、吸血鬼化した部分を排除しなくちゃならない」

土御門「右腕だけ、肝臓だけみたいに区画毎にきっちり分かれて浸食しているならそれも出来るだろうが、
    そんな都合のいい展開を期待するのはナンセンスだ」

土御門「細胞レベルで混ざっているとなれば、カミやんの行きつけの医者でも不可能だと思うぜい」

619 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:24:35.87 ID:zb1y6MLC0

土御門の言うとおり、彼女達を元に戻すためには吸血鬼化した肉体を取り除かなければならない。
だが、それを行うためには吸血鬼化した部分を見分ける方法と、更にそれを選択して取り除く方法が必要不可欠。
そんなことが出来る人間など、果たしてこの学園都市に、いや、魔術側にもいるかどうか。


かの『冥土帰し』でさえも匙を投げてしまうのではないか。
そんなことはあり得ないと思いたいが、それでも不安は拭えない。
そもそも彼を、魔術側には関わらせたくないという思いもある。


せめて、吸血鬼化している部分を選択的に排除できるような方法があればいいのだが、
そんなご都合主義に極まる夢のような方法などあるはずが――――










上条(――――――――――――――――待て)

620 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:25:08.80 ID:zb1y6MLC0

ふと、彼の脳裏を何かが掠める。
それは僅かな違和感だったが、現状ではそれにすらも縋りたい。
当麻はその違和感をシャベルにして、自身の記憶の山を掘り起こす。



上条「吸血鬼……破壊する……いや、でも……」

土御門「……」



急に黙りこくった当麻を見て、土御門はその様子を見守る。
おそらく彼は何かに気がついたのだろうが、あえて話しかけることはしない。


スカーレット姉妹を救うのは、あくまでも上条当麻である。
間違ってでも土御門ではないし、故に彼が手助けすることはない。
最後に彼女等の手を取るのは、当麻自身でなければならないのだ。
土御門は『必要悪の教会』の一員であり、課せられた任務がある。
その任務を無碍にする行動をとるわけにはいかない。


数分ほどの逡巡の後、当麻は大きな諦観と少しばかりの覚悟を決めた顔となる。
策こそは見つかったものの、出来ればそれは使いたくないといった様子だ。
どんな答えを見つけたのか気になる土御門は、茶化すようにして当麻に催促した。



土御門「考えは纏まったかにゃー? さぁ、この土御門先生がカミやんが考えた案を評価してやるぜい?」

621 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/05/09(月) 00:25:49.72 ID:zb1y6MLC0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 01:01:32.88 ID:Xr3fStSGo
乙です
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 07:54:04.34 ID:nXBj00gj0
乙!
さて、予想は出来るけどどうかなー?
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 22:18:49.24 ID:AvpEwSzA0
脳みそが混ざってる場合は……しげちー的な事に?
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