とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/26(木) 16:20:19.94 ID:rh69sNHZ0
>腐りかけた肉を顔に押しつけられたかのような
嫌すぎww
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/31(火) 01:47:36.12 ID:DR71R5XY0
>>645
???「なーんーだーとー きーさーまー!」
647 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/06/13(月) 01:18:15.66 ID:yRnDkTL00
>>644,>>645
芳香ちゃんは娘々がいつもケアしてるから大丈夫……のはず


これから投下を開始します
648 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:19:45.99 ID:yRnDkTL00





――――7月28日 PM10:32





649 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:20:51.34 ID:yRnDkTL00

レミリア「上条当麻……」



レミリアは目の前の青年が名乗った名を、噛みしめるようにして呟いた。


自分と友人だった女しかいない……いや、いるはずのない公園。
紛争地もかくやといわんばかりに破壊され、荒廃したこの場に現れた異分子。
自身が持つ能力『運命観察』にも囚われなかった男。



レミリア(コイツは、一体……)



自分が見た運命とは外れた未来が訪れる。
これまで自身の超能力が見せた運命は、それこそ両手では数え切れないほどあったが、
このようなことは、『ただ一度を除いて』起こったことはなかった。

650 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:22:14.78 ID:yRnDkTL00





     *     *     *





651 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:22:51.15 ID:yRnDkTL00

――――その『一度』が起きたのは、今から一年前。
舞台は学園都市のみならず、世界でも有数のお嬢様学校である常盤台中学。
関係者以外は、例え王族であっても入ることは出来ない聖域に於いて、
年に一度だけ、限られた区画のみが一般に公開される時期がある。


『常盤台中学女子寮盛夏祭』。その祭りに雑誌の編集者として訪れた時のことだ。


学生寮の住人と、彼等に招待された学生達がごった返す中で、レミリアが目的としていたのは、
催しの中で最も注目を集めていた項目である『学園都市第三位によるヴァイオリン演奏』だった。
学園都市の広告塔でありながらも、『常盤台中学』に属するが故に外部への露出が少ない少女『超電磁砲』。
その彼女に接触し、インタビューをして記事を仕立てれば、他雑誌よりも優位に立てると目論んでのことである。
情報の価値を決めるのは『新規性』と『希少性』、そして『需要の有無』。
『超電磁砲』の生の声ともなれば、それらの要素を全て満たしていると言えるだろう。


勿論、時の人である彼女に易々と近づける等という甘い考えは持ち合わせていない。
レミリアと同じく『超電磁砲』との接触を狙っている対抗馬は山ほどいるが、
間違いなくその全てが、接触どころか近づくことすら許されず警備員に追い出されることになるだろう。
雑誌記者は、有り体に言えばハイエナのようなものだ。『餌(ネタ)』になると判断した存在に対する執念は凄まじい。
そんな存在であるが故に、学園側は害獣の排除に手を緩めることはありえない。


だが、それだからこそ取材する価値があるというもの。
ここで追い払われて諦めるならば、最初からこの場には立っていないのだから。

652 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:23:56.08 ID:yRnDkTL00

目的の会場についた時、その場所は演奏会を目的とした生徒と報道関係者である大人でごった返していた。
生徒は憧れのレベル5である『超電磁砲』を一目でも見るために。
大人はレミリアと同じく、『超電磁砲』に接触して情報を得るために。
それぞれの思惑を胸に秘めた者達によって、会場はまさに混沌と化していた。
その混雑具合に少しばかり遅れたかと思いもしたが、何とか空席を見つけたレミリアは、
30分後の演奏開始時間までの間、喧噪と圧迫感の中で辛抱強く待ち続けることになった。


やがて演奏時間となり、壇上へと姿を現した『超電磁砲』。
恭しくお辞儀をした少女に、会場が矢庭に静まりかえった。
レミリアは少女の姿を捕らえ、少しばかり眼を細める。


レミリアが『超電磁砲』を直に見たのは、その時が初めてだった。
他の者の例に漏れず、彼女の中にある『超電磁砲』の人物像は与えられた情報の中での物でしかない。
そして一目見た時の第一の感想と言えば、『猫かぶりした少女』というもの。
それはただの直感でしかなかったが、『超電磁砲』は『お嬢様』と呼ぶには少しばかり御転婆な雰囲気が感じられたからである。
その予想は一年後、物の見事に的中することになったわけだが。

653 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:24:37.11 ID:yRnDkTL00

『超電磁砲』による、中学生としては十二分とも言える腕によるヴァイオリン演奏は、
特段変わったようなこともなく、順調に進行していった。
演奏時間が10分弱のものを3曲。学園祭の催しとしては丁度良いくらいだろう。


そして全ての演奏が終わり、喝采の中で『超電磁砲』は退場していく。
レミリアも『超電磁砲』に対し、パラパラとそれなりの拍手を送った。
ここに来た目的は演奏会ではなく、あまり無関係なことに気をとられてはいけないのだが、
祭りを楽しまないのも些か無粋であるとの考えから中途半端な拍手となった。


しかし祭りを楽しむのはここまで。これからは雑誌記者としての仕事が始まる。
演奏会を聞き終え、会場から人々が次々と流れ出ていく中で、
楽屋の裏に消える彼女を追おうと席から立ち上がろうとした――――その時にそれは起こった。

654 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:25:51.68 ID:yRnDkTL00






唐突に起きた立ちくらみ。


目の前に映る、この場のものではない光景。


多くのコンテナが積み上げられた敷地。


地面に網の目のようにして張り巡らされたレール。


血まみれになって倒れ伏している、虚ろな目をした少女。


月に照らされながら狂笑を上げている白髪の男。


その惨状を見て激高するもう一人の少女。


二人の人間が激突する。


飛び交う瓦礫。迸る雷光。吹き上がる突風。爆発。


そして――――まき散らされる少女の■■。





655 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:26:41.96 ID:yRnDkTL00

数秒にも満たない間に起こった出来事を前にして、レミリアは為す術無くその場に崩れ落ちた。
辛うじて椅子にもたれ掛かったが、猛烈な吐き気と共に冷や汗が吹き出し、身動きを取ることすらままならない。
異常に気づいた係員の手を借りて何とか事なきを得ることは出来たものの、『超電磁砲』に会うことは終ぞできなかった。


自身の視界に映し出された、ここではない、何時のものともしれない情景。
あの現象は紛れもなく自身の能力によるものだと、レミリアは落ち着いた後に考えた。


『運命観察』は自身の意志で制御できるものではなく、何時それが発動するのかはわからない。
今回のように日常生活の中で突然発動することもあれば、夜の睡眠中に発動することもある。
能力を得た当初は何時発動するかわからない能力に、少々憔悴していた時期もあったが、
慣れた今となっては驚きこそはあるものの、それが何時までも尾を引くようなことはなく、
冷静に超能力が見せた情報を吟味できるようになっていた。


にしても、あそこまで生々しく鮮明な運命を見たのは何時以来のことだろうか。
もしかしたら、初めて運命を見た時に匹敵するかもしれない。
今でも夢に見ることがある。妹が、フランドールが血まみれになったあの光景に。


――――そのようなことはさほど重要ではない。問題なのは、今回見た運命の内容だ。

656 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:28:50.23 ID:yRnDkTL00

運命の中に出てきた者達。出てきた人物は計3人。
一人は白髪の男。この男については、何者なのかは見当もつかない。
あのような狂った笑いをする知り合いなど、自身の記憶の中には存在しない。
むしろ、いて堪るものか。狂人とお近づきになるのはこちらから願い下げである。


二人目の少女は……こちらは先ず置いておこう。
この少女のことを考えるのは後回しにした方がいい。


問題は三人目の少女。
あの少女には心当たりがある。ありすぎると言ってもいい。
何故ならば、その少女の姿を直に見たばかりだったのだから。
茶色がかったショートヘアー。常盤台中学の学生服。あの姿は『超電磁砲』に間違いない。

657 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:29:21.97 ID:yRnDkTL00

その『超電磁砲』が、どのような理由であの場所に立つことになったのか。
あの白髪の男との関係は。何故その男と戦うようなことになったのか。
そして地に伏していた少女――――彼女が何故、『超電磁砲と瓜二つ』だったのか。


どんなに頭を捻っても、納得のいく答えを出すどころか、その切欠さえ掴むことができない。
『運命観察』が見せるのは『結果』だ。それに至るまでの『過程』は想像するしかない。
しかし想像するにしても、あの運命はあまりにも不可解であり、過程を知るには自身の想像力では限界だった。
白髪の男はまだしも、問題は『超電磁砲』と瓜二つの少女。あの少女は、一体如何なる存在なのか。


ただ似ているだけの他人? 
それにしては似通いすぎている。双子なのではないかと思えるほどに。


ならば『超電磁砲』の双子? 
そんな話は聞いたこともない。それが本当なら、噂の1つでも立ちそうなものだ。


だとすると、考えられるのは――――

658 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:29:54.25 ID:yRnDkTL00

そこまで考えたところで、レミリアはそれ以上の思考を放棄した。
頭の中に湧き出そうになった1つの回答。それを知覚してしまうのを拒否したのである。
深入りしすぎると碌な事にならないような気がする――――
それは雑誌記者として働く中で身につけた、一種の感のようなものだった。


ただ、1つだけ理解してしまったことがある。
理解するも何も、あの映像が全てを物語っているのだが。
それは、運命の結末。『超電磁砲』の最期。
白髪の男により少女の命が散らされるという、残酷な未来。
レミリアがそれを見たことで、『超電磁砲』の破滅は確定してしまった。


しかしその事実に、当人の内心は驚くほどに穏やかであった。
人一人が死ぬというのに、それに対する感慨は微塵も起こらないのである。
これも偏に、運命を見ることに慣れてしまったからだろう。
自身が見た運命は変えられない。それは今までの経験の中で裏付けされた確固たる事実。
それを覆すなど不可能。しようとするだけ、労力の無駄というものだ。

659 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:30:43.52 ID:yRnDkTL00

それはある種の諦観とも言えるかもしれない。
過去に於いては、認めたくない運命に対して何度も反逆したものだが、今となってはその気概など無くなってしまった。
超能力の発動によって一方的に突きつけられる運命を、ただそのまま受け入れる。
そんな風になってしまってから、一体どれだけの時間が経ったのか。
今となっては知ることはできないし、知ったとしても詮のないことだった。


だからレミリアは、『超電磁砲』が死んでしまう運命を見たとしても特に何かをしようとは思わない。
一人の少女の行く末を、ただ憐憫の情を抱きながら傍観する。ただそれだけだ。
1つだけ心残りがあるとするならば、『超電磁砲』に対して最期のインタビューができなかったことだが、
それも仕方のないことだと諦め、彼女は目的を果たさぬまま帰途に着いた。





しかし彼女の中の常識は、数ヶ月後あっけなく覆されることになる。
『超電磁砲の生存』という形で。

660 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:32:13.06 ID:yRnDkTL00





     *     *     *





661 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:33:07.75 ID:yRnDkTL00

レミリア(――――まさか、いや、そんな……!?)



ほんの一瞬にも満たない回顧。
嘗て起きた、自身の常識を粉々に打ち砕き、そして一筋の光明を見せた出来事。
その回想の中で、レミリアは1つの可能性に辿り着いた。


――――もしや、この男がそうだというのか。


この男が、死に往く結末にあった少女の運命を――――己の力を打ち崩したというのか。


思い返せば、予兆らしきものはあった。それも数日前のことだったはずだ。
イギリス清教のシスター、インデックスが自身の住み家に訪れるという運命。
自分はそれを見た時、彼女を立ち入らせないために一計を立てた。


そして、その計略は成功した。
シスターは従者に言いくるめられ、館に立ち入ることなく帰途に着いた。


しかし、それで終わりだっただろうか?
何の憂いもなく、その出来事は結末を迎えたか?


――――否。その夜、己の従者が口にしていたはずだ。

662 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:35:23.49 ID:yRnDkTL00

シスターの付き添いで来た男。


そうだ。見た運命の中にそんな男の姿は影も形もなかった。だから男はその場に存在しないはずなのだ。
しかし、自分はその男のことを『能力の範囲外に位置する存在』として放置した。してしまった。


何故そんなことをしてしまったのか?
それは、自分自身の力に疑問を抱いていたからだ。信じきることができなかったからだ。


起きるはずのない『運命の回避』。
一年前のあの時から、自分は能力が見せる運命に対し懐疑的になっていた。
意識していたわけではないが、知らず知らずのうちに『運命』を一歩退いた視点から見るようになっていた。
それまで『運命とは絶対不可避なものである』と頑なに信じていたことの反動だろう。
一度自分を裏切ったものに、再び全幅の信頼を寄せるなどできるはずもない。
だから自分はその異常を、最も注目しなければならない情報を『ただの誤差』として認識してしまった。

663 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:36:28.21 ID:yRnDkTL00

――――根本からして、自分は間違えていたのだ。
『運命』は常にこの世の行く末を示し、そしてそれは必ず起こる。
『運命』が見せる未来が、訪れないことはあり得ない。


だがもし、万が一『運命』が外れることがあったとしたら。
それは自身の能力に因る『ただの誤差』等では決してない。
『運命』を無理矢理ねじ曲げるような存在が現れたということなのだ。
絶対的なモノに抗う英雄のような、そんな規格外の存在が。


そして今目の前に、それを可能とする男が居る。

664 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:37:48.95 ID:yRnDkTL00

レミリア「何故っ、今になって――――」



レミリアがその事実を認識した時、先ず心の内に沸き上がったのは泥濘に囚われたかのようなやるせなさ。
次いで沸き上がったのは、心の臓に絡みつき、嘗め回すかのような怒りの炎。


何故7年前に、自分の前に現れてくれなかったのか。
もしそうであったなら、フランドールが人を傷付けることも無かったはずなのに。
自身に宿った力を恐れ、自身の内に篭もることもなかったはずなのに。


予兆を感じていながらも、それに気づいた時には既に手遅れだった。
事の顛末を知ったのは、妹が運び込まれた病院で『警備員』から説明を受けた時。
『予兆』と『現実』が一つの線で繋がった時、レミリアはその場で崩れ落ちそうになり。
しかし、自身がもつスカーレット家としての矜持故にそれはできなかった。

665 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:38:36.01 ID:yRnDkTL00

あの時ほど、己の愚行を後悔したことはない。
あの時ほど、己の無力を呪ったことはない。
心に傷を負い、部屋に閉じこもった妹に対し何もできなかった。
身内の一人、唯一の肉親すら守れないなど、一家の当主として唾棄すべき事。
だからこそ、レミリアは壊れかけた妹を守るために『ありとあらゆる手を尽くした』のだ。


だがこの男の存在を知った今となっては、そんな不幸も陳腐なものに思えてしまう。
お前の不幸など、取るに足らないモノだと。
その不幸を打開しようとした労力の悉くが無意味であると。
目の前に突きつけられているように感じてしまう。
突然降って湧いた理不尽に、レミリアは怒りを抑えることができなかった。


しかし、それ以上に許せないのは。
『自分達の不幸を打破するであっただろう存在が、自分達を絶望の底に叩き落とそうとしていること』だろう。
自分達を救えたはずの存在が、自分達の敵として立ちふさがっている。
その事実を前に、彼女の理性は瞬く間に焼き切れた。

666 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:39:32.42 ID:yRnDkTL00

レミリア「お前がっ、お前がぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



レミリアは激昂する。
最早彼女に心の内には、目の前の男を欠片も残さず排除することしかなくなっていた。


本当ならば、自分達を弄ぶ『神』と呼ばれる存在に対してこの憎悪をぶつけたい。
だがそんなことができない以上、抑制できない彼女の怒りは何処かに矛先を変えるしかない。
ならば、その向く先が『彼女にとっての理不尽そのもの』である目の前の男――――
上条当麻になるのは当然の帰結である。

667 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/06/13(月) 01:40:39.11 ID:yRnDkTL00
今日はここまで
上条さん、面識もない幼女(吸血鬼もどき)に八つ当たりされるの巻


質問・感想があればどうぞ
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2016/06/13(月) 06:48:20.90 ID:AbXCBeXz0
乙!
正直 い つ も の としか思えないなw
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/13(月) 09:27:26.15 ID:u1NVTowKo
乙です
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/14(火) 16:46:53.78 ID:mv5l4c2y0
上条は紅魔館を何とか出来るんでしょうか
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 08:40:58.37 ID:95KbF/Ac0
ここからの戦闘描写ではニーアのVS魔王の時の曲でも脳内再生してみるか
672 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/04(月) 01:03:50.18 ID:mJXyVP0+0
>>671
BADEND確定じゃないですかやだー!!!


これから投下を開始します
673 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/04(月) 01:05:12.33 ID:mJXyVP0+0





     *     *     *





674 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/04(月) 01:05:49.81 ID:mJXyVP0+0

上条「……っ!」



当麻は怒りに吠えるレミリアの姿を、少しばかり手で遮りながら見る。


レミリアから向けられていた敵意。
それが明確な殺意へと変わった瞬間、『威圧』と呼ばれるものが風のように押し寄せてきた。
その表現は比喩では非ず。実際に突風が吹いたかのように、彼のYシャツは大きくはためく。
砂埃は吹き上がり、壊れた噴水から吹き出た水は何処かへと吹き飛ばされていった。


まるで台風の最中にいるかのようだ。
膨大な魔力は、ただ存在するだけで世界に大きな影響を及ぼすらしい。
その原理を当麻は詳しく知らない。知ったところでどうとなるわけでもない。
何よりその事実は今に於いて、さして重要なことではない。
『レミリア・スカーレットが、明確な形で自身に敵対した』。
重要なのはその一点のみである。

675 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:06:49.11 ID:mJXyVP0+0

レミリア「が、アアあぁぁぁぁァァァァァーーーーッッッ!!!」



ブシッ! ブシュッ!



彼女の肉体から水漏れのように血が吹き出る。頭から。腕から。脇腹から。脹ら脛から。
ありとあらゆる部位から余すことなく噴出し、既に紅く染まっていた服を更に色濃く染め上げる。
しかし、彼女の咆哮はその痛みによるものではなく、それすらも凌駕する憤怒によるもの。
本当であれば、立っていることすら苦痛であろうというのに。
それに反して、彼女の両足は根を張るかのように直立し、血が滝のように流れ落ちる体を支えていた。


レミリアが何故あれほどまでに怒っているのか。
それはおそらく、自分達が彼女の妹――――フランドールに手をだしてしまったからだろう。
彼女が何の目的で、このような事態を引き起こしてしまったのかは知らない。
もしかしたら、自分では想像もつかないようなことをしでかそうとしているのかもしれない。
だが少なくとも、妹のことでこれだけの怒りを抱けるほど『まともな感性を持っている』ことに、
当麻は少なからずの安堵の感情を抱いていた。

676 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:07:44.90 ID:mJXyVP0+0

上条(吸血鬼とか言ってるけど、やっぱり人と同じじゃないか)



当麻その事実を再確認する。
例え人ならざる存在に墜ちかけようとも、レミリアもフランドールも心は人なのだ。
他者の心を解し、他者のために動くことができる『普通の人間』。
それならば、彼が歩みを止めることは決してない。


嘗て一人の『魔神(しょうじょ)』を助けようとした時と同じように。
例え彼等が人ならざるものであったとしても。救いの手を差し伸べない理由にはなりはしない。



パチュリー「ケホッ! っ、すごい土埃……落ち落ち寝てもいられないわ」

上条「!」



背後を見やると、パチュリーが体をふらつかせながら起き上がるのが見て取れた。


月の意匠が施された帽子は、レミリアから発せられた突風のためか何処かへと飛ばされており、
露わになった紫の頭髪も同じく突風でかき乱されてしまっている。
均整の取れた顔は少々青ざめており、未だ体が不調であるということが明白だった。
しかしその眼は未だ衰えてはおらず、おそらく今立ち上がることができているのは気力のみによるものなのだろう。


当麻はその姿を見て、思わず心配の言葉を彼女にかける。

677 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:08:50.43 ID:mJXyVP0+0

上条「パチュリー、起きて大丈夫なのか!?」

パチュリー「こんな状況で寝ていることなんて、できるわけがないでしょう?」

パチュリー「無理にでも起きてないと、無防備のまま巻き込まれることになるわ」

パチュリー「それに任務として派遣させられた手前、一般人の貴方に全部投げ出すのはプライドが許さない」

上条「でも、そんな体で戦えるわけが……」

パチュリー「その点は心配無用よ。 貴方たちが睨み合っている間に、ある程度応急処置はしておいたわ」

パチュリー「本当の応急処置だから、大きくは動けないけど……なにもしないよりはマシでしょう」



そう口にしつつ、パチュリーは服についた埃をはたき落とし、目の前のレミリアを睨めた。
紫水晶のような瞳孔が、吸血鬼に墜ちかけている少女を捉える。
レミリアの体から放出されている魔力。濁流のようなソレを全身に受け止めながら。

678 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:09:53.19 ID:mJXyVP0+0

パチュリー「上条当麻、もう一度だけ確認するわ」

上条「……なんだ?」

パチュリー「あの子は魔術を使って体を吸血鬼に造り替えてしまっている」

パチュリー「そして『最大主教』のオーダーは『吸血鬼製造の魔術の完全なる根絶』……僅かな痕跡も残してはならない」

パチュリー「だから私達、イギリス清教の観点からでは彼女に対する対処法は『殺害』、
もしくは『行動不能にしてからの捕縛および恒久的な拘留』しか取り得る手段はない」

パチュリー「だけど貴方にはそれ以外の――――言ってしまえば、穏便な手段を所持している……それでいいわね?」

上条「あぁ。 俺の手にあると言うよりは、それができる奴を知ってるってだけなんだけどな……」

パチュリー「オーケー、わかったわ。 それだけ聞ければ十分よ。 詳しい話は全部終わった後で聞くから」

パチュリー「その時まで私達が生きていれば、だけどね。 で、これからどうするの?」

上条「まずレミリアを何とかして落ち着かせないと……」

パチュリー「とすると、武力行使しかないわね。 話し合いでどうにかなる様子でもなさそうだし」

上条「だよな……」

679 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:13:02.25 ID:mJXyVP0+0

上条を荒ぶる少女の姿を見て、内心溜息を漏らす。
手の内の策を実行するにも、先にこの場を治めてからでないとどうにもならない。
すなわち、レミリアを平静に戻すのが最優先の事柄であると言える。


しかし彼女の激昂を見るに、話し合いどころか言葉に耳も貸してくれなさそうだ。
こちらへの返答の代わりとして、握り拳が飛んできそうですらある。平和的解決というものは望めそうにない。
となると自分達の残された手段は、やはり一つしかない。



上条「パチュリー、レミリアの奴ってどれだけ強いんだ?」

パチュリー「とりあえず、桁外れの筋力とそれに付随する俊敏性ってところかしら?」

パチュリー「踏みしめるだけで地面をたたき割り、眼で追うのが難しいくらい素早いわ」

パチュリー「魔術の心得もあるみたいだけど、リスクがあるから早々使わないと思うわね」

上条「……そうか、わかった」

パチュリー「驚かないのね?」

上条「不幸なことに、そういう奴等とは何度もやり合ってきてるからな。 もう慣れたさ」

パチュリー「……ご愁傷様ね」

680 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:14:26.98 ID:mJXyVP0+0

何でもないことかのように言う当麻を見て、パチュリーは肩を竦めた。


『聖人』だの『魔神』だの、人外とも言えるような輩と拳を交えてきた彼にとって、
『少しばかり力があって素早い』相手など、最早慣れたものだ。
『理解できる』という時点で、脅威の部類からは大凡外れるものと言える。
彼が相手にしてきた存在とは、それほどにまで常識とはかけ離れたものだった。


だが、それを理由にレミリア・スカーレットを舐めるようなことは決してしない。
上条当麻が立ち向かうのは『力』に非ず。相手の存在意義とも言える『信念』なのだから。



上条「パチュリー、辛いだろうけどサポートを頼む」

パチュリー「了解。 でもさっきも言ったけど、今の私にできることは限られるわ」

上条「大丈夫だ。 タイミングは任せる」



当麻はその言葉を最後に、悠然とした足取りでレミリアの方へと歩んでいった。
その足取りには怯えは見られない。両手を固く握りしめ、目の前の少女を見据える。

681 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:21:00.78 ID:mJXyVP0+0

レミリア「はっ、ぐっ……話し合いは終わったか?」



ぞわりと、底冷えをするような声でレミリアは当麻に言葉を投げる。


血液で顔面にへばり付いた青髪。その隙間から覗く眼孔。
口から剥き出しになった犬歯は異様なほど長くなっており、その表情と相まって猛獣のような印象を受ける。
全身に生じた裂傷とそこから滴る血液。それらに彩られた彼女はもはや、動く死体と表現しても過言ではない。
しかしその姿に反して、彼女から感じられる生気はあまりにも濃密に過ぎる。
魔力による突風はいつの間にか収まっていたが、その代わり眼に見えない圧迫感が一帯を支配していた。



レミリア「そうだ、お前のせいだ……お前さえ居なくなれば……」



片手で頭を抑えつつ、レミリアはぶつぶつと何かを呟く。
その様子は、どう見ても正気を失っているようにしか見えない。
彼女から向けられる殺気は収まることを知らず、当麻の肌に突き刺さる。


数秒ほどの静寂。嵐の中の一瞬の静けさ。
しかしそのことを当麻が感じることはできなかった。
それはあまりにも細事なもので、そしてなにより脆すぎた。



レミリア「お前が……お前がァァァァッッッ!!!」



レミリアはぎょろりと真紅の眼球を当麻に向けて。悪鬼のような表情をその顔に浮かべて。
そして堰を切ったかのような叫びと共に、彼に対して飛びかかった。

682 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/04(月) 01:22:42.22 ID:mJXyVP0+0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 02:45:36.28 ID:Gwx14Uujo
乙です
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 06:23:42.41 ID:iKebT7ME0
乙!
やっぱりおとんみたいにバサカ化するんでしょうかねー?
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/04(月) 08:57:13.86 ID:h9boLdCv0
うう〜ん……回復薬も他の仲間も無しに瀕死で立ち上がられてもなぁ(RPG感)
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/14(木) 17:31:37.34 ID:ggIKf8LC0
悪魔のような顔……バルバトスのブルア顔でもイメージトレスしとくか
687 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:08:13.13 ID:5IR1oQeN0
これから投下を開始します
688 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:09:52.36 ID:5IR1oQeN0

その速さ足るや、10mは離れていた二者の距離を言葉通り『一瞬で』詰めるほど。
一連の流れを見た者がいるならば、その者は『瞬きする間に移動していた』と評価するかもしれない。
それは正しく弾丸。そんな速さで向かってきた存在に対し、直ぐに反応できる者などいるはずもない。
できるとするならば、それは弾丸となった本人だけだろう



ブォンッ!



人間砲弾となったレミリアは眼前の少年に対し、その腕を振り上げる。


少女に相応しい、すらりとした華奢な右腕。
戦う手段としてはあまりにも頼りなさ過ぎるように見えるそれは、
その身に刻まれた刻印の恩恵により、人の頭蓋をも粉砕しうる凶器と化す。
人を遥かに凌駕する、吸血鬼の筋力により生み出されるスピード。
そして、それにより生み出される破壊力は相当なものだ。

689 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:11:35.93 ID:5IR1oQeN0

人体の大部分を占めている物質は水である。
そして水は高速で叩きつけられた時、コンクリートにも匹敵する硬度を持つようになると言われている。
『血袋』とも揶揄される人体の一部を高速でぶつけられたとしたならば、
その衝撃は如何ほどのものなのか。想像に難くはない。



上条「――――!!!」



そんな迫り来る棒状の血袋を、当麻は事前に知っていたかのように避けた。
半身ほどその身を右にずらし、レミリアの突撃と右腕による攻撃を躱す。
風切り音と共に、彼がいた場所を少女の体が通り抜けていった。


上条当麻が持つ特技、『前兆の感知』。
相手の僅かな筋肉の動きから、先に起こすであろう行動を予測する技術。
未来予知にも匹敵する判断力は、怪物同士の戦場でも渡り合える存在へと彼を押し上げる。
しかしその技術を持ってしても、心中は穏やかにはならない。

690 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:12:45.47 ID:5IR1oQeN0

当麻(っ! 速い!)



前兆を察知してから、彼の肉体が動き始めるまでには僅かな間がある。
それは彼が人である以上、どうしても生じてしまう隙。
レミリアがその隙を突く速さで襲いかかってきたならば為す術はない。
相手の行動を読めたとしても、避けられなければ意味がないのだ。


しかし幸いのことに、レミリアの速さは彼の察知能力と動作速度の許容に収まるものであった。
だが安心はできない。対応できたにはできたが、余裕は殆ど無いと言ってもよい。
一瞬でも判断に遅れたならば、攻撃を躱せずに直撃してしまうだろう。
その先に待つのは、逃れようもない『死』のみだ。

691 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:13:56.34 ID:5IR1oQeN0

ぞわぁっ!

上条「!?」



突進を避けたことを確認する間もなく、当麻の背筋を強烈な悪寒が走り抜ける。
そして直感に従うまま、彼はその場からできるだけ遠くへと全力で飛び退いた。
レミリアが反転し、再び襲いかかってきたのだ。
当麻に攻撃を躱されてから地面に足を着き、再び彼に飛びかかるまでにかかった時間は1秒足らず。
あまりにも速すぎる突撃の再来に、当麻は内心で冷や汗を流す。


後方に勢いよく体勢を崩した結果、半ば背面跳びのような形となるが、
持ち前のバランス感覚で体の位置を矯正し、危なげなく着地する。
しかし、そのことに安堵する余裕はない。これから彼は、
この曲芸師のような所業を何度も繰り返さなければならないのだから。

692 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:16:13.31 ID:5IR1oQeN0

レミリア「がァッ!!!」



三度目の突進。
鋭い声と共に、今までよりも更に勢いを増して襲い来る野獣。
当麻はそれを視認するより先に、音のみを頼りにしてレミリアの強襲を察知し、
彼女の攻撃から身を遠ざける最善の行動を弾き出し実行する。
小柄な体から生み出される風圧が、彼の髪をがむしゃらにかき乱した。



当麻「っ!」



避けると同時、当麻は背後を振り向く。しかし、そこには既にレミリアの姿は無く。
彼の目に映ったのは、捲れ上がった地面が宙を舞う光景のみであった。少女の姿は影も形も残されていない。
明らかに、初撃よりも速度が増している。もはや確認する暇すらない。



上条(拙い、見失っ――――)

「後ろだ、餓鬼が」



周りを見渡す間もなく、背後から聞こえてくる死神の声。
首筋の舐めとるような怖じ気を振り切り、声の方向を見やったその先には。
硬い握り拳を造り、腕を大きく振りかぶるレミリアの姿があった。

693 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:17:14.70 ID:5IR1oQeN0

レミリア「死ね――――」

「U A M S(水の精霊よ、数多の壁となれ!)」



少女の拳が当麻の顔面に振り下ろされるその瞬間、女の声が辺りに響き渡り、
二人の間を遮るように、当麻を護るようにして水の柱が吹き上がる。
目下から突き出す水流を視認したレミリアは、その身を翻してそれを躱した。


空に打ち上げられた水は辺り一面に降り注ぎ、地面を泥にして跳ね上げる。
全身に冷水を被った当麻は、それを気にすることなく水柱の影に隠れた。
周囲を見渡し、レミリアの姿を再びその眼に捉える。



レミリア「邪魔をするなぁッ! パチュリー・ノーレッジ!」



レミリアは自身の邪魔をしたパチュリーに怒声を浴びせていた。
怒りのあまりか、当麻の方には完全に気が向いていない。
周囲には水柱が節操なく乱立しており、その身の一部を振りまいている。
視界は最悪。集中豪雨にも似たこの状況では、件の魔術師を見つけることは叶わない。
おそらくパチュリーは、この場所から離れた場所で魔術を行使しているのだろう。

694 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:21:43.30 ID:5IR1oQeN0

パチュリー『上条当麻、私からの援護はこれが精一杯よ』



どこからともなく、パチュリーの声が聞こえてくる。
土砂降りにも関わらず耳元で囁かれているような、妙にはっきりした声だ。



パチュリー『ありったけの魔力をつぎ込んだわ。 これならしばらくの間は持続するはずよ』

パチュリー『その代わり魔力を使い切ったから、これ以上手助けすることはできないけど……』

パチュリー『ついでに簡易的な聖水式の術式を施しておいたわ。 本当に僅かだけど、その水には聖なる力が宿っている』

パチュリー『本来は自軍の補助のために使う物だけど、『幻想殺し』を持つ貴方には無意味ね』

パチュリー『でも、吸血鬼になりかけているあの子には有効の筈。 私達が知るあの吸血鬼なら、だけどね……』

パチュリー『傷を与える程の効果はないわ。 でも、動きを縛る程度ならできる筈よ』

695 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/07/25(月) 00:35:04.19 ID:5IR1oQeN0

確かに言葉通り、レミリアの様子を見ると体の動きが鈍くなっているように見える。
未だにパチュリーの姿を探しているが、その動作にキレがない。全身に重石を着けられたかのように緩慢だ。


パチュリーの思惑通りになったことを喜ぶべきか。
それとも吸血鬼に一刻一刻と近づいているレミリアに焦燥を抱くべきか。


ざあざあと降りしきる雨の中を当麻は駆け出す。
レミリアに気づかれないように気配を消しながら。
激しい雨足と雨音のおかげか、近寄るのは容易であった。
彼女が平静を失っていたことも大きいだろう。未だにあり得ない程の殺気をまき散らし続けている。
彼女は敵に対する攻撃の躊躇が一切なくなる代わりに、思考が一つに固定化されやすくなっていた。
故にパチュリーに怒りが向いている間は、彼女はパチュリーのことしか考えることができない。
彼女の思考が逸らされるのは他者による干渉があって初めて起こる。



上条「らあぁぁっ!!!」



レミリアの背後から、当麻は雄叫びを上げて彼女に目掛けて両手で握り固めた拳を叩き込む。
狙うは後頭部。正確無比に、全霊を込めて殴り抜いた。

696 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/07/25(月) 00:37:31.27 ID:5IR1oQeN0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/25(月) 21:20:24.63 ID:GvsLbN200
ずぶ濡レミィ乙!
9条流的ビターン!はありますか?
698 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:31:36.01 ID:Bpm/9TPL0
これから投下を開始します
699 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:32:38.53 ID:Bpm/9TPL0

ズガッ!!!

レミリア「っ!? がっ……!」



鈍い音と共に、レミリアは前に大きくよろめく。
一回りも体が大きい男の拳をまともに受けたのだ。普通であれば地面に倒れ込んでもおかしくはない。
しかし彼女は片足を前に踏み出し、衝撃に耐える。よろめきは見られず、意識の混濁もないようだ。



上条(あまり、効いてない!?)



全力で殴ったにも関わらず、よろめく程度に終わったその事実に当麻は驚愕する。
生身の体であれだけの眼に止まらぬ高速移動を行うのだ。
それに耐えられるような体になっているのは当然と言える。
しかし話に聞いていたとはいえ、実際に目の当たりにすると驚きを隠せない。

700 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:34:16.84 ID:Bpm/9TPL0

この事実は、当麻にとってかなりの問題だ。
言うまでもなく、彼の主な攻撃方法は四肢を使った近接格闘であり、それ以外の方法は持ち合わせていない。
肉弾戦が不利と言うことは、それはそのまま戦局自体が不利ということである。
パチュリーの補助があるとはいえ、この事実を覆すのは如何ともし難いだろう。


一方、その容姿に似合わない頑丈さでもって奇襲を凌いだレミリアは、
敵意の方向を背後にいる少年に切り替え、憎悪の感情を滾らせながら振り向き様に反撃を試みた。
振り返りの遠心力を加えた、鋭い拳が放たれようとする。



上条「っ!」

バキィッ!!!

レミリア「ごっ――――!?!?!?」



だがそれを予期した当麻は、追撃としてレミリアの振り向きに合わせて更に拳をお見舞いする。
フックを効かせたパンチがレミリアの頬に突き刺さり、皮膚と皮膚、骨と骨が衝突した時の凄惨の音が木霊した。
顎部に加えられた衝撃が彼女の脳を揺さぶる。歯が何本か折れ、口から飛び散っていく。


だがその程の衝撃にも関わらず、レミリアの両眼はしっかりと相手の姿を捉えていた。

701 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:35:05.87 ID:Bpm/9TPL0

ズドッ!

上条「ぐ、ぁ――――!?」



唐突に体を走り抜ける衝撃。そして遅れてやってくる耐え難い痛み。
レミリアの足が当麻の胴体、正確には肋骨部分に直撃していた。
『只ではやられない』。その意志をのせたレミリアの右足は、当麻の体に鈍重な衝撃を送り込む。
ミシミシと体が軋む。肺の中の空気が無理矢理押し出される。
酸欠で意識が遠のき、視界がストロボのように点滅する。


互いに攻撃を食らい合った2人は、弾かれるようにして逆方向に吹き飛ばされた。



どしゃっ!

上条「ぐぁっ!」

レミリア「づっ!」



泥を大きく撥ね飛ばしながら、二人はそれぞれ勢いよく墜落した。
当麻は白のYシャツが。レミリアは紅みがかったスカートが。
土の茶色によりべっとりと汚れ、斑模様を呈していた。

702 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:36:43.71 ID:Bpm/9TPL0

一見、同じような状況立たされているように見える二人。
しかしその身に受けた傷には歴然とした差がある。
無論、傷の大きさは当麻の方が上だ。聖水の雨で弱体化されているとはいえ、
吸血鬼の肉体から繰り出される蹴りは、鍛えられた人間のそれを軽く凌駕する。
本来であれば肋骨は粉砕され、それらが心臓に突き刺さり即死していた。
故に、『骨に罅が入る程度』で済んだのは幸運と言えるだろう。


脇腹に捻子を数十本ねじ込まれたかのような激痛を耐え、当麻は四つん這いから体を起こして立ち上がる。
本当であれば激痛に悶絶して直ぐには動けないはずだが、それを彼は圧倒的な精神力で押さえ込んだ。
過去に腕を切断したこともあるのだ。この程度の痛みなど、最早慣れている。


一方のレミリアも、おぼつかない足取りで立ち上がろうとしていた。
当麻を睨もうとしているが、彼女の眼の焦点は明らかに定まっていない。
顎の強打によって脳が揺さぶられ、平衡感覚を狂わされているのだ。
如何に体が頑丈でも、流石に脳はそうも行かないらしい。
今彼女の視界は、さぞグロッキーなことになっているのだろう。
だがそれでも、彼女からあふれ出る闘志は留まることを知らない。



レミリア「やるじゃ、ないか。 吸血鬼である私にここまで縋り付くなんてね」

上条「そりゃどうも。 でもパチュリーの援護がなかったら、こうはなってないさ」

レミリア「だろうな。 動き難いったらありゃしない。 お前の攻撃も躱せずに殴り飛ばされることにもなっている」

上条「俺としては穏便に話し合いで解決したいんだけどな……降参してくれないか?」

レミリア「……ふん、お断りだ」

703 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:37:11.18 ID:Bpm/9TPL0

レミリアは当麻の言葉を一笑すると、自らの魔力を右腕に集中させた。
紅電が迸り、バチバチという音と共に真紅の槍が具現する。
それと同時に彼女の体から血が吹き出るが、その傷は直ぐさま消え去り止血された。


ざりっと左足を前に出し、腰を低くする。右手で槍を握りしめ、左手はただ柄に添えるだけ。
その姿はお世辞にも、槍術を学んだ者の構えには到底及ばない。
しかしその一方で、人が編み出した術には存在し得ない『獣のような雰囲気』を感じさせる。



レミリア「パチュリーが施した『人払い』の結界。 その中にどうやってお前が入ってきたのか、未だに分からないが……」

レミリア「今となってはお前が何者かなんて、最早『どうでも良いことだ』」



ぽつりと獣は呟く。
少しばかり前のめりになり、槍を握る手に力が籠もる。
その力に呼応するかのように、槍は鈍い光りを明滅する。

704 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:38:39.42 ID:Bpm/9TPL0

レミリア「お前は私の障害物。 それ以上でもそれ以下でもない」



獣の気配が濃密になる。
彼女の周囲がぐにゃりと歪んだように見えたが、それは錯覚だ。
しかしそう錯覚してしまうほど、彼女の気迫は凄まじい。



レミリア「邪魔者は排除するだけ。 それ以外に、理由なんていらない」



空気が悲鳴を上げている。キリキリと金切り声を上げている。
それは間違いなく幻聴であるが、本当に聞こえたかのように当麻の鼓膜にへばりついて離れない。
ザワザワと寒気を感じ、勝手に冷や汗が吹き出して彼の体を濡らす。



レミリア「お前を殺して、パチュリーを殺して、フランに手をかけた奴も殺して……全員皆殺しにして仕舞いだ!」

705 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:39:35.00 ID:Bpm/9TPL0

ドンッ!と、地面が爆ぜた。


愚直な直進。だがそれ故に最速。
只ひたすら前に進むために解き放たれた脚力は、一分も余すことなく地へと突き刺さり、
そのエネルギー全てが前方への推進力へと変換される。
得物を手に持ちながらも、その速さは先ほどに勝るとも劣らない。
レミリアは風のように流れていく背景を気にも留めず、目の前にいる少年のみを直視する。


風よりも速い突撃から繰り出される刺突。
迷いが一切含まれないその一撃は、岩石をも容易く貫く魔の一刺しへと成り果てる。
刺し貫かれた部分には、歪みのない真円の穴が刻みつけられるだろう。


無論、それを只呆然と見ている上条当麻ではない。
彼は1秒にも満たないその間、レミリアの動きを察知して行動に移した。
レミリアの突撃に対し、その射線から『僅かに右へとずれる』。
レミリアからつかず離れずの微妙な距離。その行動の意図明らかに回避ではない。
彼女の俊敏性は脅威だ。一度目を外してしまえば、再び眼で捉えることは難しい。
それならば。眼で捉えられている今にのみ反攻の機が存在する。

706 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:40:19.78 ID:Bpm/9TPL0

上条「……っ!」



当麻は右手の拳を握りしめる。彼にとっての唯一、且つ最大の武器。
それをカウンターでレミリアに叩き込むことこそが、彼がとるべき最善の策。
愚直な直進に対して間を合わせることなど、彼にとっては難しいことではない。
眼の前の危険に自ら身を差し出すことなどいつものことである。
故にその策は、彼にとっては失敗する要素のないものだ。


――――しかしそれは、相手の意図が彼の思う通りのものであったらの話であるが。



ズガッ!



不意に何かが砕けるような、小さな音が聞こえた。
見やると、レミリアの槍が地面に突き刺さっている。
正しく表現するならば、『レミリアが地面に槍を突き立てている』。
当麻の場所から5メートルほどの地点。そこで彼女は自身の槍をバネにして、棒高跳びの要領で飛び上がった。

707 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/08(月) 00:42:23.21 ID:Bpm/9TPL0

上条「なっ!?」



見上げる当麻を置き去りにして宙に舞った彼女はぐんぐんとその高度を上げ、
降りかかる雨の中を突き抜けて、最終的には10階建てのビルの高さまで達する。
紅い月光によって薄く紅色に染まった夜空を背に、水濡れの地上を、そして上条当麻を俯瞰した。
片手に握る槍を肩より少し上に持ち上げ、体を大きく後ろに撓らせる。
その構えから連想できる次の行動はただ一つ。


上条当麻はそれを予見し、大地に突き穿たれようとする槍を回避しようと行動しようとし――――



パチュリー『避けては駄目! 防ぎなさい!』



耳元に響いたパチュリーの叫びを聞いて、行動を修正しようとした刹那にそれは起こった。


突如、目の前に広がる極光。
それは当麻が眼を覆う間もなく収まり、次に見えたのはあり得ないほどの大きさにまで肥大した真紅の槍。
物理的に大きくなったわけではない。先ほどの膨大な光がレミリアの槍に収束し、
それでも収束しきれなかった光が帯のようにしてその周囲にまとわりついている。
その光が槍を大きく見せているだけだ――――元の10倍にも、20倍にも。



上条「――――!」



当麻は咄嗟に自分の右腕を動かそうとする。
しかしそれよりも速く、レミリアの腕が、握られた紅槍が振り下ろされる。
キュンッ!と鋭い風切り音が鳴り響き、一筋の流星が当麻に降りかかった。

708 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/08/08(月) 00:42:52.19 ID:Bpm/9TPL0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/08(月) 00:46:58.21 ID:eF3htta6o
乙です
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/08(月) 05:11:57.48 ID:9FvYSr9/0
乙!
はたして、右手は届くのか
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/14(日) 21:25:00.82 ID:o5sJYBac0
マジ殺1000%スピア・ザ・グングニル?
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/17(水) 09:37:19.33 ID:PSp3yjgN0
こんなん受けたらひとたまりもない
713 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:53:58.44 ID:h55ri34l0
これから投下を開始します
714 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:55:56.78 ID:h55ri34l0

ギャギギギギギギィィィッッッ!!!



金属同士が擦れ合うような、身の毛がよだつ不快な音が大気を劈く。
吸血鬼の肉体から生み出される膨大な魔力をこれでもかとぶち込み、尚かつ一点に纏めて破壊に特化させた魔槍。
それは上条当麻が持つあらゆる幻想を瞬時に食らう右手『幻想殺し』に接触するも、
その身に宿る膨大な力を支えにして消滅の運命に抵抗し、消え去らぬままに軋む音を上げながら直進を続ける。


その推進力は、当麻が全力で踏ん張ってやっと拮抗できる程度の力。
一瞬でも気を許せば、圧し負けて胴体を容易く貫かれてしまうであろう。
しかも推進力は一向に衰える気配を見せず、今尚目の前の獲物に食らいつこうと迫る。
このままの状態が続けば、当麻の方が先に力尽きるのは明白。
その証拠に、足が地面を掘り返しながらズリズリと後ろへと押し込まれていた。

715 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:57:14.81 ID:h55ri34l0

上条「ぐ、あぁぁぁああああっっっ!!!」



力押しでは防げないと悟った当麻は、『防ぐ』のではなく『逸らす』事に意識を向けた。
手の平に突き刺さらんとする槍。それに乗せられた自分に向かうベクトルを、自分から逸れるように力を与える。



バギュインッ! 



すると硝子が砕けるような音と共に、槍は手の平を弾かれて当麻の右へと逸れていった。
ドゴン!という鈍い音を立てて槍が地面へと突き刺さり、砕かれた地面が瓦礫となって周囲に襲いかかる。
当麻はその石礫を払いのけながら、先ほどの槍のことを考察した。


『幻想殺し』のおかげで威力が削がれていたから良かったものの、
もしも力が削がれずに直接地に突き刺さっていたとしたらどうなっていたことか。
もしかしたら、着弾した場所を中心にクレーターができていたかもしれない。
そしてその爆発に巻き込まれて、自身は無惨な死体を晒していたかもしれない。
パチュリーが自身に『回避』ではなく、『防御』を選択させた理由を彼は今理解した。

716 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:57:59.50 ID:h55ri34l0

レミリア(防いだだと!?)



一方上空にいるレミリアは、自身の槍を正面から防がれたことに眼を見開いていた。


あの槍にはパチュリーに対して使った量の、倍以上の魔力が込められている。
それ故に、着弾した時にもたらされる破壊力は先ほどの比ではない。
彼女としては公園の全域を更地にするつもりで放ったのだが、
その意図に反して起こったのは、大幅に威力を削がれ地面を僅かに砕くという結果のみ。


小型ミサイル級の威力を持つ力の塊を、真っ向から防いだというその事実。
一体目の前の男は何者なのか。それを考えたところで、回答に辿り着けるわけがない。
二人は初対面であり、何も語ることなく戦っているのだから。
レミリアは目の前の男について『敵である』ということしか知らない。


だからレミリアは、『上条当麻』という存在について、あれこれと推察することを放棄した。
思考の泥沼に嵌ってしまったら最後、悪循環に陥って平静を失ってしまう。
戦いの最中で他のことに気をとられてしまうのは命取りである。


『あの男はこちらの全力を真っ向から受け止める力を有している』。今重要なのはその事実のみ。
それならば、別の方向から責め立てるだけだ。

717 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:58:46.59 ID:h55ri34l0

レミリアの体から重力に逆らう力が失われ、自由落下を始める。
その僅かな間に、彼女は再び手の中に自身の得物を生み出した。
姿形は一緒だが、その中身は全くの別物。『当たれば相手を貫ける程度』の魔力を込めた簡易なものである。
それを強く握りしめ、当麻に向かって素早い身のこなしで放り投げた。



上条「!」



バキィン!



レミリアの行動に気づいた当麻が咄嗟にかざした右手。
その手に寸分違わず直撃し、破砕音と共に槍は霧散した。


『逸らされる』のではなく『かき消される』。
その結果の差異を生み出したのは、槍に込めた魔力の違いによるものだとレミリアは気づく。
小さな魔力を込めた槍では容易く打ち消され、多くの魔力を込めた槍では拮抗するものの弾かれる。
何とも厄介な力だ。単発の攻撃ではあの不可思議な力を突破するのは難しい。
だが勝機は見えている。あの力はどうやら手だけにしか効果を及ぼさないらしい。
全身を包んでいるのであれば、わざわざ手をかざす必要など無いのだから。


それならば、自分がとるべき戦術は――――

718 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 00:59:56.64 ID:h55ri34l0

レミリア(――――数で責める!)



レミリアは再び槍をその手に生み出す。
先ほどの槍を右手に3本、左手に3本。計6本の真紅の槍。
それを当麻に目掛けて、『一度に全部投げ飛ばした』。


神速で迫る6本の尖槍。
当麻は心臓の鼓動が一瞬不安定になるのを感じながら、その光景を見据える。


自分に当たらないものはどれか。
自身の身のこなしで避けられるものはどれか。
右手で打ち消さなければならないものはどれか。


その3つの事柄を瞬時に思考し、正答を導き出した。

719 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 01:00:24.52 ID:h55ri34l0

当たるのは6本中3本。内1本は確実に回避可能。
残り2本については、その内のどちらか1本を打ち消す必要がある。
始めに動く方向は左側前方。飛び込みながら体を捻り、腹部を狙う1本目を回避。
頭部に目掛けてくる次の1本は、首を右に捻って回避。
胸部に迫る最後の1本は予め右手をかざして破壊する。


自身が生き残るために必要な動作。それを正確無比に実行する。



ドゴンッ! ズサァッ! バギンッ!

上条「ぐっ!」



果たして、上条当麻はその命を繋ぎ止めた。
しかし無茶な動作が祟って体の節々が痛み、碌に着地もできなかったために膝や肘に擦り傷が生じている。
そして何より槍自体は避けたものの、槍のよる地面破壊から生み出された数多の石礫は避けきることはできず、
それによって全身をくまなく叩かれる結果となった。


全身に走る痛み。しかしそれにかまけている時間はない。
上空を見ると既にレミリアは次弾を用意し、投擲を行う寸前であった。

720 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 01:01:35.65 ID:h55ri34l0

レミリア「そらそらァッ!」

上条「クソッ!」



ズドンッ! ボゴッ! バキィンッ! バガンッ!



豪雨と剛槍が降り注ぐ。
その中で当麻は全力で走って回避し、避けられない槍を片っ端から右腕で叩き落としていく。
だが多勢に無勢。右手1つでは全てを捌ききることができるはずも無く。
1本、また1本と彼の体には切創が刻みつけられ、血が服に滲んでいった。



レミリア「チッ、ちょこまかと……!」



レミリアは絶技とも呼べる身体能力で回避を続ける当麻に舌打ちしつつ、地面へと降り立つ。
そして今度は自身の背丈よりも5倍も長い槍を生成し、その槍を無造作に当麻目掛けて振り下ろした。

721 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 01:02:14.63 ID:h55ri34l0

上段からの振り下ろし――――当麻は真横に跳び、ズバン!と槍は地を叩く。


下段からの切り上げ――――当麻は背中を大きく逸らし、槍は彼の前髪を僅かに切り取る。


一端引いてからの鋭い突き――――当麻は体をくるりと回転させ、槍の上を滑るようにして避ける。



ガシッ!



レミリア「!?」



突如、彼女の手に槍を通じて異様な感覚が伝わってくる。
見やると、当麻が『左手を使って』槍を掴み取っていた。彼は掴んだ槍を、渾身の力で引き寄せる。
片方は小学生ほどの小柄な体格。もう片方は高校生男子の大柄な体格。
この両者が引き合いをすればどのような事になるのか、それは想像するまでもない。
吸血鬼の肉体を持っていたとしても、不意打ちではその力も十分には発揮できない。
よってレミリアは、大きくつんのめる形で当麻の方へと引っ張り寄せられた。

722 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/08/29(月) 01:02:50.56 ID:h55ri34l0

ぽーんと、半ば飛ぶような形で彼女は槍にしがみつきながら宙を舞う。
足は地を離れ、その場に留まろうと踏ん張ることもできない。槍に導かれるがままに引き寄せられていく。


そして彼女の向かう先には。
右手を強く握りしめ、こちらを睨め付ける当麻の姿が――――



上条「ッッッ、らあッ!!!」


バゴンッッッ!!!



彼の剛拳が、再び彼女の顎を捉えた。
大凡、人が出せるとは思えないような鈍い音が響き、ミシミシと彼女の顎骨を軋ませる。
その衝撃で彼女の歯は今度こそ無惨に砕け散り、異常に伸びた犬歯がへし折れて吹き飛んだ。

723 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/08/29(月) 01:03:47.29 ID:h55ri34l0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/29(月) 02:02:22.33 ID:k+UAV4jwo
乙です
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/29(月) 04:41:33.94 ID:Eq3zU+Bs0
乙!
まぁ吸血鬼だしすぐに治るから大丈夫だろ
んで、そろそろ空気の出番?
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 05:41:16.06 ID:MXa5cexz0
決まったー!上条さんの、あの男女平等パンチだ〜っ!
727 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/09/19(月) 23:53:29.20 ID:mw4mEHxs0
これから投下を開始します
728 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/09/19(月) 23:54:34.11 ID:mw4mEHxs0

レミリア「――――」



当麻の強烈なアッパーカットで空へと打ち上げられたレミリアは、
体を弛緩させたまま数秒ほどゆっくりと空を舞い、やがて少し離れた場所へ頭から墜落した。
ドチャッ!という水音を聞きながら、当麻は俯せのレミリアを睨みつける。
先ほどの比ではない力で、急所である顎を殴り飛ばされたのだ。
流石に起き上がることはできないだろう――――と思った矢先。



レミリア「が、ぅ……」

当麻(マジかよ……)



常人ならば確実に意識を刈り取られているはずの一撃。
それを受けて尚、レミリアは立ち上がろうともがいていた。

729 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/09/19(月) 23:55:52.25 ID:mw4mEHxs0

驚愕。そして戦慄。
明らかに人間を超越した耐久力。これが吸血鬼というものか。
聖水の雨を被ってこれなのだ。もしパチュリーの援護無しに戦っていたとしたら、結果はどうなっていたのだろうか。
おそらくここまで有利に決着がつくことはなかっただろう。
嘗て経験した命を捨てるような戦い。それを再び繰り返すことになっていたかもしれない。



レミリア「まだ、だ……! まだ、終わって、ない……!」

上条「……いや、もう終わりだよ、レミリア。 お前は戦えない」



雨が降りしきる中、当麻は自分でも驚くほど平坦な声でそう断じた。
全身が泥水に塗れ、地べたを這いつくばっている彼女。
こちらを睨んでいるように見えるが、その眼は焦点が合っていない。
未だに気迫があるようにも思えるが、それは只の強がりにすぎない。
ズタボロになった少女に更に追い打ちをかける気には、彼は到底なれなかった。


しかし、レミリアは当麻の言葉を断じて認めようとはしない。

730 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/09/19(月) 23:57:34.25 ID:mw4mEHxs0

レミリア「戦えない!? そんなわけがないっ! まだ私には立つ足がある! 拳を作る腕がある!」

レミリア「手足の1本も引きちぎれないお前が……勝ったような口を利くなぁっ!!!」



レミリアは叫ぶ。文字通り、血反吐を吐きながら。


超能力者が魔術の行使することによる副作用。
戦闘中における幾度にも渡る魔術の使用は、吸血鬼に由来する治癒力の許容範囲を遥かに超えた損傷を彼女の肉体に齎していた。
今まで問題無く動けていたのは、肉体中を循環する魔力が吸血鬼としての治癒力を活性化させ、副作用を相殺していたからだ。
しかし当麻に殴り飛ばされた衝撃により、集中力が途切れたことで魔力の循環が停止。
それに合わせて治癒力も失われてしまい、その結果今まで無理をしていたツケを支払うことになったのである。


だから、彼女はもう戦えないのだ。
これ以上は悪戯に苦しみを引き延ばすだけだというのに。
それでも尚、彼女の瞳から憎悪の炎が消えることはなかった。

731 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/09/19(月) 23:58:24.16 ID:mw4mEHxs0

レミリア「ここで私が倒れたら、誰があの子を守るのよ!?」

レミリア「気づいた時には父も母も殺されていて、故郷には二度と帰れなくなっていたわ……」

レミリア「街の外には十字教。 街の中は魔術師である私達にとって敵の科学。 
私達に本当の安住の地なんて、この世の何処にも存在しない」

レミリア「それでも外よりは中の方が安心だったから、この街で生きていくことに決めたのよ」

レミリア「だけど敵陣の中じゃ何時、何が起こるかわからない。 次の瞬間には、街の全てが敵になるかもしれない」

レミリア「もしかしたら、私達が生きていることに気づいた奴が、この街に乗り込んでくる事だってあるかもしれない」

レミリア「そして、もしそうなってしまったら、何も知らないフランには自分の身を守ることなんて出来ない」

レミリア「只でさえ強すぎる自分の力に怯えているのに、殺し合いなんて出来るわけ無いじゃない……!」



フランドールは幼すぎたが故に、自身の両親が殺された事実を知ることはなかった。
それどころか『魔術』というものすら、彼女の記憶の中には残っていない。
つまり『スカーレット家の魔術師』と言えるのは事実上レミリア一人であり、
フランドールは魔術というものに関しては最早、一般人同然なのである。
そのことが果たして良いことなのか、それとも悪いことなのか。それはレミリアにもわからない。

732 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/09/20(火) 00:00:35.54 ID:SvFSZngE0

もしも妹が両親の死の真実を知ったとしたら、十字教を相手に復讐しようとするだろうか。
もしも妹が一族の魔術を知っていたとしたら、自身と一緒にこの場で戦っていただろうか。


あり得たかもしれない未来。しかしそのことを考えるのは無意味だし、してはならないことだ。
フランドールから魔術を隠し、偽りの両親の死を教えたのはレミリア自身なのだから。
妹が魔術から身を守れなくなってしまったのは、他ならぬ自分の責任。
だから彼女はどんな存在が相手でも、どんな手を使ってでも無力な妹を守りきらなければならない。


それがレミリア・スカーレットの贖罪。
大切な肉親を欺いてしまった罪を償うための、彼女に残された唯一の手段だった。



レミリア「だから、あの子を護れるのは私だけ。 あの子に危害を加える奴は、神様だって許さない」

レミリア「十字教だろうが何だろうが知ったことか……誰だろうと挽き潰してやる……」

レミリア「私達に楯突けばどうなるのか、思い知らせてやるッ!」



レミリアは再び立ち上がる。目の前の敵を駆逐せんが為に。
そうしなければ、己に課せられた十字架に押し潰されてしまうから。
例えそれが自身を死地に追いやる行動であったとしても、彼女にはもう選択肢が残されていないのだ。
手足が潰れたとしても、彼女が戦いを止めることは決してないだろう。

733 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/09/20(火) 00:01:40.99 ID:SvFSZngE0

レミリア「許さない、赦さない、ゆるさないユルサないゆるさナイユルサナイ……!」



彼女の口から呪詛のように言葉が零れ出す。
その顔は鬼の形相。視線で相手を殺せそうな程。
視界に入ったものを串刺しするかような憎悪は、その全てが目の前の人間、上条当麻へと向けられていた。


心の内から沸き上がる、圧倒的な破壊衝動。
嘗てレミリアの父も同じように破壊衝動の波に飲まれ、多くの人間を殺戮した。
このまま行けばやがて、彼女自身も破壊のみを求める怪物へと身を堕とすだろう。
彼女に刻まれた『竜の子の刻印』は、人間を吸血鬼へと昇華する代償として、
人の命を奪うことも躊躇しない残虐性を所持者に植え付ける。


人間から吸血鬼になるために支払わなければならない代償。
そしてそれは、かの『刺刑王(カズィクル・ベイ)』を生み出した原因とも言えるものなのだ。

734 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/09/20(火) 00:02:15.08 ID:SvFSZngE0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 01:40:53.05 ID:G+EO2MSAo
乙です
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 03:54:28.26 ID:pt8I8Kf90
乙!
その妹さん、ちょっと後に……
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 07:16:35.05 ID:HO351Fsq0
まだ盛り上げようがあるとは思わなかったな
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 16:41:07.06 ID:mg3IrYtq0
粘るな。やっぱり納豆食ってる奴は違うな
739 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/10/11(火) 01:10:10.25 ID:i8/dHQWr0
>>738
納豆を無限に生成する妖怪の話はNG
ここのレミリアも納豆好きではありますが、
無限の納豆(アンリミテッド・ファーメント・ビーンズ)の使い手ではありませんのであしからず


これから投下を開始します
740 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/10/11(火) 01:11:33.29 ID:i8/dHQWr0

――――元々『竜の子の刻印』は、嘗てのワラキア公国の国王『ヴラド三世』が考案したものである。


当時のワラキア公国は、ルーマニアやオスマン帝国といった強国に囲まれた、不運な小国に過ぎなかった。
とりわけオスマン帝国に至っては、西欧で最大勢力の神聖ローマ帝国と拮抗するほどの力を有しており、
何時攻め入られて滅ぼされてもおかしくはない状況にあったのだ。
そんな情勢で王位へ就いたヴラド三世は、常日頃から国を護るための力を求めていた。
最早、病的と言ってもいい。オスマン帝国の人質となり、ハンガリーの謀略によって父親を殺され、
更には敵国同士の代理戦争として身内と殺し合った彼は、何者にも犯されることのない強大な力を望むに至ったのである。


しかし神聖ローマ帝国やオスマン帝国に匹敵する力など、一朝一夕で手に入るようなものではない。
兵力は兎も角、彼の二国は双方共に強大な魔術国家でもあったのだ。
神聖ローマ帝国は十字教最大派閥であるローマ正教を内包し、その恩恵を最大限に受けることが出来る。
一方オスマン帝国も多くの宗教を受け入れ、十字教、回回教、六星教などによる多種多様な魔術を有している。
正しく魔術界の双璧。もはや彼等によって行われる魔術界の覇権争いに介入するなど、自殺行為も甚だしい。
下手に干渉したが最後、あっけなく踏みつぶされることになるのは明白である。

741 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/10/11(火) 01:12:48.88 ID:i8/dHQWr0

だが、それでもヴラド三世は諦めることが出来なかった。
敵が如何に強大であったとしても、それに迎合する選択肢は彼の中には存在しない。
今まで不本意に思いながらも敵国の傀儡としてしか生きて来られなかったが為に、
国王になってまでも人形として生きることは、決して許容できることではなかったのだ。
とは言っても、正攻法では敵わないということも純然たる事実。
故にヴラド三世は、葛藤の末に外法を用いて力を得ることを選んだ。


彼が目に着けたのは、伝説上の存在である種族『吸血鬼』。
血を啜り、不死の肉体を持つと言われる怪物である。
彼等の存在については民間伝承の中でのみ語られていたものであるが、
現代とは違って当時の民間人多くはその存在を固く信じ、そして恐怖を抱いていた。
そしてそれは魔術界にも当てはまり、魔術師達は不死の肉体を持つ存在、
さらにそこから連想される、無尽蔵の魔力を持った吸血鬼の魔術師の出現を警戒していたのである。

742 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/10/11(火) 01:13:47.49 ID:i8/dHQWr0

強大な魔力を持つ魔術師。彼等を味方に出来たら、どれほど良いことだろうか。
それを実現できれば、ワラキア公国は瞬く間に列強国の仲間入りを果たすことが出来るだろう。
だが実際は、その手段を執ることなど不可能である。相手は存在するのかどうかもわからない埒外の者達だ。
魔術が生まれて数千年。未だに御伽話の域を出ない存在に遭遇する事を期待するなど、あまりにも現実的ではない。
ならば、どうするか。どのようにすれば彼等の力を借りることが出来るのか。
散々悩んだ末に彼が思いついたのが、『偶像の理論』を利用することだった。


『偶像の理論』とは、姿や役割が似ているものは互いに影響し合い、性質や状態、能力までも似てくると言うもの。
この理論を実際に使用している具体例を挙げるとするならば、『丑の刻参り』が当てはまる。
藁人形を目に似せることで双方を同調させ、藁人形に釘打ち付けることで間接的に相手を呪い殺すことが出来る。


また、十字教の信者が常に身につけている十字架も『偶像の理論』を利用したものだ。
十字架が聖なる力を宿すのは、それが神の子が処刑される際に用いられたものを模しているからである。
『十字の形』という部分だけを似せたものなので、得られる力は元の億分の一でしかない。
だがそれは裏を返せば、それ程にまで力を分割されても十二分に効果を発揮できるということを意味し、
原本の十字架がもつ膨大な力を間接的に示唆していると言えるだろう。

743 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/10/11(火) 01:14:39.43 ID:i8/dHQWr0

そして姿形を似せることでオリジナルの力を借り受けるという方法は、道具だけに当てはまるものではない。
それは生物に関しても同じであり、十字教の中ではそれを利用して破格の力を手にした者が存在する。
十字教の開祖である『神の子』に生まれつき似ていたが為に、神の力の一端をその身に授かった者達。
『聖人』と呼ばれる彼らは、奇跡とも言い切れる偶然によって何者にも揺るがされない立場へと収まった。


生物同士であったとしても、身体的特徴あるいは魔術的記号を似せることで偶像の理論を成立させることができる。
それが意味することはただ一つ。『吸血鬼に似た体を造りだせば、吸血鬼と同じような力を手に入れることができる』ということだ。
偶像の理論を利用して吸血鬼の肉体を手に入れ、それによって得られる無限に近い魔力を自国の軍力とする。
それこそが、ヴラド三世が思い描いた構想であった。


だが言葉にするのは簡単でも、実際にそれを行うには問題が山積みだ。
その中でも最たるものが、『吸血鬼がどんな存在なのか分からない』ということだろう。
『偶像の理論』を成立させるためには吸血鬼の体を模倣すればよいのだが、その『吸血鬼の体』というもの自体が謎に包まれている。
似せようにも元となるものがわからないというのに、その理論を成立させることなどできはしないのだ。

744 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/10/11(火) 01:15:42.79 ID:i8/dHQWr0

だが全くの八方塞がり、手がないというわけでもない。
吸血鬼がどのような存在なのかについては、人々の口伝の中にその答えがある。


たかが口伝と侮る無かれ。
『火のないところに煙は立たぬ』と言うように、情報には必ずその元となったものが存在する。
吸血鬼の伝承はそれこそ、中東や西欧ではそこかしこから聞こえてくるほどありふれたものだ。
大半が偽情報だろうが、それだけの数があれば幾つかは本質を突いた情報があってもおかしくはない。
そしてその情報を総括することが出来れば、もしかしたら吸血鬼の秘密を暴くことが出来るかもしれない。


その僅かな望みをかけて、ヴラド三世は行動に移した。
世界中に間諜を放ち、吸血鬼に関する情報を集めさせる。
村落に伝わる伝説から、井戸端で話されるような噂話まで余すことなく記録するよう指示した。
それに加え、ヴラド三世は間諜たちにあることを取り決めさせた。
吸血鬼の存在は魔術界、特に十字教の者達にとって危険視されている存在である。
もしもワラキア公国が吸血鬼を探していると周辺国に知られれば、
オスマン帝国だけでなく神聖ローマ帝国をも敵に回すことになりかねない。
その危険を回避するためには、間諜をワラキア公国と関係がないように偽装させ、
尚かつ行動を出来るだけ目立たせないようにしなければならない。
その問題を解決するため、間諜達に偽名として統一した名前を持たせた。

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