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エヴァ Omit Scenes - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/05/31(日) 11:50:42.81 ID:U2HS3I1q0
エヴァSS 本編再構成

基本の流れはTV版+旧劇場版

本編からは何も引かない

omit scene(未放映/未公開シーン)の継ぎ足し・・・という趣向

漫画版、新劇場版その他の要素が適宜入ります

「**** omit scene ****」で挟まれた部分や「*」で始まる行が追加部分(書き方途中で変わるかも)

本編部分は必要箇所だけ投下するので、あとは適当に補ってください

■免責事項■

会話形式ですが情景描写のト書きみたいなものが随時入ります

前スレ http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420824210/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433040632
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part6 @ 2024/03/16(土) 18:36:44.10 ID:H9jwDXet0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710581803/

昔、スリに間違えられた @ 2024/03/16(土) 17:01:20.79 ID:TU1bmFpu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1710576080/

さくらみこ「インターネッツのディストピアで」星街すいせい「ウィキペディアね」 @ 2024/03/16(土) 15:57:39.74 ID:7uCG76pMo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710572259/

今日は月が……❤ @ 2024/03/14(木) 18:25:34.96 ID:FFqOb4Jf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710408334/

どうも、僕は「げじまゆ」をヤリ捨てた好色一代男うーきちと言います!114514!! @ 2024/03/14(木) 01:23:38.34 ID:ElVKCO5V0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710347017/

アサギ・とがめ・新生活! @ 2024/03/13(水) 21:44:42.36 ID:wQLQUVs10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710333881/

そろそろ春だねー! @ 2024/03/12(火) 21:53:17.79 ID:BH6nSGCdo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710247997/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part5 @ 2024/03/12(火) 16:37:46.33 ID:kMZQc8+v0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710229065/

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/05/31(日) 11:54:20.16 ID:U2HS3I1q0
(第壱話〜第伍話 略)

第六話 「決戦、第3新東京市」

(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

   涙を浮かべて力なく笑うシンジ

シンジ「自分には……自分には、ほかに何も無いなんて、そんなこと言うなよ」

   シートに横たわったままシンジを見つめているレイ

レイ「……」

シンジ「別れ際に『さよなら』なんて、悲しいこと言うなよ……」

レイ「……」

シンジ「うっ……うう」

   俯き嗚咽するシンジ

レイ「何、泣いてるの?」

   少し上体を起こし、シンジを見るレイ

シンジ「……」グスッ

   俯くレイ

レイ「……ごめんなさい、こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないの」

   顔を上げるシンジ 微笑んで

シンジ「笑えばいいと思うよ……」

レイ「!」

   ハッとするレイ  瞳に映りこむシンジの微笑み

   零号機事故の際、レイを救助したゲンドウの微笑みが重なる  

レイ「……」ニコ…

**** omit scene ****

シンジ「……」

   レイの微笑みに目を奪われるシンジ

   我に返って表情を緩め、レイに手を差し伸べる

シンジ「立てる?」

レイ「……ええ」

   結ばれる手と手

==== 零号機プラグの外 ====

   レイに手を貸しながらハッチから後ずさりに這い出すシンジ

   降りてきたレイに肩を貸す

   上空を見上げるシンジとレイ  舞い降りてくる救急VTOL

   側方のハッチから身を乗り出して、下方と機内に交互に何か叫んでいるミサト

    :
    :
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/05/31(日) 11:57:03.52 ID:U2HS3I1q0
==== 着陸しているVTOLの周囲 ====

   慌ただしく働いている救護班

   後方に降りてくるもう一機のVTOL

   救急機の側面に開いたハッチ

   ストレッチャーに横たえられているレイ

   傍らに立つシンジとミサト

   ガウンを羽織って見送るシンジ

ミサト「いいわ、お願い」

救護員「はい」

シンジ「じゃあね」

レイ「ええ」

   機内に運び込まれていくストレッチャー 

   レイを目で追うシンジ

   シンジを見ているレイ 

   シンジの肩に手を置いているミサト

**** omit scene ここまで ****

   擱座している零号機と初号機

   それらを照らしている月

(第六話 おわり)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:28:08.53 ID:d686+2eV0
第七話 「人の造りしもの」

(中略)

==== 朝 学校 ====

   窓の外を見ているシンジ  市街地に横たわる第5使徒の残骸を眺めている

   なにかに気付き眉をひそめる

シンジ「ん?」

   スキール音を響かせて駐車場に滑り込む青いルノー

トウジ「いらっしゃたで〜!」

   あっけにとられているシンジを押しのけて窓から身を乗り出すトウジ

   ビデオカメラ構えたケンスケ

   颯爽と降り立つミサト

   校舎の窓に鈴なりになっている男子生徒たち

男子「カッコイイ! 誰あれ!?」

男子「碇の保護者!?」

   席についているレイ

   机に肘をつき両手に顎をのせ、関心なさげに窓とは反対側のどこかを見ている

男子「なに!? 碇ってあんな美人に保護されてるの?」

   不愉快そうなヒカリと女子二人

ヒカリ「バカみたい!」

*    窓際からふと教室内に視線をもどすシンジ

* シンジ「……」

*    席についているレイの後姿

   ケンスケのビデオのファインダーの中  歩きながらVサインをこちらに突き出すミサト

トウジ「はあー、やっぱミサトさんって、ええわあー! うん!」

*  ケンスケの声に窓に向き直るシンジ

シンジ「そうかなあ……」

   :
   :
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:29:29.35 ID:d686+2eV0
(中略)

=== 旧東京 夕刻 ジェットアローン実験場====

   組み合ったまま停止しているエヴァ初号機とジェットアローンのシルエット

シンジ『ミサトさん! 大丈夫ですか!?――』

=== ジェットアローン内部 ====

   制御室の床に防護服姿のミサトが座り込んでいる

シンジ『――ミサトさん!!』

ミサト「ええ……。ま、サイテーだけどね……」 ハァ…ハァ…

シンジ『良かった、無事なんですね! 良かった、ホントに良かった!』

シンジ『でも凄いや。僕、見直しちゃいました。本当に奇跡は起きたんですね!』

ミサト「ええ…」

  防護服のバイザーの中、厳しい表情で顔を上げるミサト

ミサト(奇跡は用意されていたのよ……誰かにね)

   :
   :
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:30:28.39 ID:d686+2eV0
(中略)

=== 翌日 朝 通学路 ====

   歩道を歩いていくシンジ、トウジ、ケンスケ

トウジ「はぁ〜やっぱかっこえーなー、ミサトさんは!」

シンジ「僕もそう思ったけど、家の中じゃみっともないよ」

   憮然と答えるシンジ

シンジ「ほんと、ずぼらだし、かっこ悪いし、つくづくだらしないし。 見てるこっちが恥ずかし

いよ」

ケンスケ「羨ましいな、それって」

   立ち止まるシンジ

シンジ「どうして?」

ケンスケ「やっぱ碇ってお子様な奴」

トウジ「ほんまやな」

シンジ「どうして!?」

ケンスケ「他人のおれたちには見せない、本当の姿だろ?」

シンジ「……?」

ケンスケ「それって、家族じゃないか」

シンジ「あ……」

   少し困ったように微笑むシンジ

   :
   :
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:32:19.32 ID:d686+2eV0
**** Omit Scene ここから ****

==== 同日 午後 学校 ====

キーンコーンカーンコーン…

ケンスケ「終わった終わったーっと』

   レイの席のあたりを見ているシンジ

シンジ(綾波、どうしたのかな……結局、きょうは来なかったけど……)

トウジ「あーあ、腹へったなあ。なあ、シンジ、お好み焼きでも食うてこか」

シンジ「あ、うん――」

ヒカリ「ちょっと、どこ行くのよ。あなたたち、掃除当番でしょ?」

トウジ「ええやん。せんでも十分きれいや」

ケンスケ「そうそう」

ヒカリ「そうはいかないの! あ、碇くん。あなただけは帰っていいわ」

シンジ「え?」

ヒカリ「その代わり、これ」

   プリントを差し出すヒカリ

ヒカリ「修学旅行の通知。先生が綾波さんに届けてくれって」

シンジ「あ……うん。わかった」

  :
  :
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:34:05.50 ID:d686+2eV0
==== 同日 午後 レイのマンション ====

ガコーン ガコーン…

   戸口に立つシンジ  「402 綾波」の表札を見上げている

シンジ(ここに来ると、どうしても思い出しちゃうな……あの時のこと……)

   前回、レイを誤って押し倒した場面が蘇える

シンジ「……」カチッ カチッ…

   呼び鈴を押してみるシンジ

シンジ(まだ壊れてるのか……)

シンジ「綾波、いる?」ゴンゴン……

   鉄製の扉をノックするシンジ

ガチャ…

   開くドア  レイが目をこすりながら顔を出す

   学校の女子制服のワイシャツを羽織っただけの姿

レイ「なに?」

シンジ「あ……ごめん……寝てた?」

レイ「……ゆうべ零号機の試験、徹夜だったから」

シンジ「え? でも零号機はまだ――」

レイ「機能中枢の試験だけ、前倒しになったから」

シンジ「そうなんだ……大変だったね。あの、これ」

   プリントを手渡すシンジ 

シンジ「じゃあ、ゆっくり休みなよ。睡眠の邪魔してごめん」

   踵を返すシンジ

レイ「……少し、上がっていけば」

   立ち止まるシンジ

シンジ「……あ……うん……」

   :
   :
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:37:18.02 ID:d686+2eV0
==== レイの部屋 ====

シュンシュンシュン……

   台所で薬缶が湯気を上げている

   フロアの中央に置かれた椅子に少しかしこまって座っているシンジ

シンジ(相変わらず殺風景な部屋だな……花でも持って来ればよかったかな……)

   台所で何かしているレイの後姿

シンジ(でも、なんだか変な感じだ。綾波が台所に立ってるなんて)

シンジ「……?」

   腰を浮かせるシンジ

シンジ「どうしたの?」

   紅茶の茶葉の缶を持って考えている風のレイ

レイ「どれくらい入れるのかしら」

シンジ「え?」

レイ「茶葉。紅茶、あっても淹れたこと、なかったから」

シンジ「あ……い、いいよ。気を遣わなくても」

レイ「……これくらい?」

   茶葉をスプーン山盛りにすくって見せるレイ

シンジ「そ、それじゃ入れ過ぎじゃないかな……」

   茶葉をポットに入れ、お湯を注ぐために薬缶を掴もうとするレイ

レイ「あ」ガチャン…

シンジ「大丈夫!?」

   慌てて駆け寄るシンジ

レイ「少し……やけどしただけ」

シンジ「しただけって……早く冷やさないと!」グイッ

   少し乱暴にレイの手をとりシンクに差し出すシンジ

キュッ…ジャー……

   レイの手を流れ落ちる水道水

   それを無心に見ているシンジ

シンジ「あ……ご、ごめん!」

   レイに寄り添っていたことを意識し慌てて離れるシンジ

シンジ「あの、紅茶、僕が淹れるから、綾波は少しそうしてなよ!」

レイ「……ええ」

   少し頬を染めているレイ

   :
   :
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/07(日) 00:43:29.00 ID:d686+2eV0
   流し台の上に並んだ二つの紙コップ

   紅茶を注いでいくシンジ

シンジ「――っていうことがあったんだ」

レイ「そう」

シンジ「正直、家族って言われてもピンとこないけど……ミサトさんのこと、少し見直したっていうか……」

レイ「そう……よかったわね」

シンジ「うん……はい、これ」

   紙コップをレイに手渡すシンジ

   紅茶に口をつけるシンジとレイ

シンジ「……少し苦かったね」

レイ「ええ……」

   液面を見つめたまま少し微笑むレイ

レイ「でも、暖かいわ」

   しばし見とれるシンジ

シンジ「……うん」

   微笑み、答えるシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第七話 おわり)
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 15:32:53.79 ID:pHJmw4tC0
第八話 「アスカ、来日」
(中略)

==== 朝 飛行する輸送ヘリ機内 ====

ケンスケ「ミル55−D輸送ヘリ! こんなことでもなけりゃあ、一生乗る機会ないよ。まったく、持つべきものは友達って感じ! な、シンジ!」

シンジ「え?」

ミサト「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね。たまの日曜だから、デートに誘ったんじゃないのよ」

トウジ「ええっ! それじゃ、今日はホンマにミサトさんとデートっすか? この帽子、今日のこの日のために買うたんです〜! ミサトさ〜ん!」

シンジ「で……どこに行くの?」

ミサト「豪華なお船で太平洋をクルージングよ」

*トウジ「そう言やあ、綾波はどないしたんや。来んのかいな」

*シンジ「あ、うん。綾波は待機だって」

*ケンスケ「当たり前だろ。本部が空になってる間に敵が来たらどうするんだよ」

*トウジ「そらまあ、そうやな」

*シンジ「……」

   雲間から見えてくる海面

   航走する艦艇の群れ

ケンスケ「おおーっ、空母が5、戦艦4。大艦隊だ! ほんと、持つべきものは友達だよなあー!」

トウジ「これが……豪華なお船?」

ケンスケ「まさにゴージャス! さすがは国連軍が誇る正規空母、『オーバー・ザ・レインボウ』!」

シンジ「でっかいなあ!」

ミサト「よくこんな老朽艦が浮いていられるものねー」

ケンスケ「いやいや、セカンドインパクト前の、ビンテージものじゃないっすかあ!!」

  :
  :
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 15:55:23.66 ID:pHJmw4tC0
(中略)

==== 新横須賀(旧小田原) 港湾内 ====

   接岸した空母の横を車両に乗って走りすぎるミサトとリツコ

リツコ「また派手にやったわね」

ミサト「水中戦闘を考慮すべきだったわー……」

リツコ「あら珍しい。反省?」

ミサト「いいじゃない。貴重なデータも取れたんだし」

リツコ「そうね」ペラッ…

   書類をめくるリツコ

リツコ「……ん?」

   書類に見入るリツコ

リツコ「ミサト」

ミサト「んー?」

リツコ「これはほんとに貴重だわ」



==== 埠頭 ====

グウウウウウウゥン…

   起重機で吊り降ろされてくる弐号機

   その様子を見ているケンスケとトウジの後姿

   二人の背後、エスカレーターで降りてくるプラグスーツ姿のアスカ

   振り返るトウジ  驚いて

トウジ「ペ、ペアルック!」

   トウジの声にさっとビデオカメラを向けるケンスケ

ケンスケ「イヤーンな感じ!」

   アスカに続いて恥ずかしげに降りてくる赤いプラグスーツ姿のシンジ

   :
   :
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 16:07:08.05 ID:pHJmw4tC0
(中略)

==== 朝 第壱中学校 2年A組 教室 ====

キーンコーンカーンコーン…

   談笑している生徒たち

トウジ「――ほーんま、顔に似合わず、いけ好かん女やったなあ!」

ケンスケ「ま、おれたちはもう会うことも無いさ」

トウジ「センセは仕事やからしゃーないわなあ。同情するで、ほんま」

ガラガラガラ…

   扉が開く音に振り向く生徒たち、トウジ、ケンスケ、シンジ

   一様に驚く

トウジ「うわあっ!」 ガタン…「なはあっ!!」

   床に転がり、起き上がって入口の方を指さすトウジ   

   :
   :

カリカリカリ…

   黒板にドイツ語で名前を書いているアスカ

   振り返ってにっこり笑う

   げんなりした表情のトウジ、ケンスケ、シンジ

アスカ「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!」

  :
  :
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 16:19:03.17 ID:pHJmw4tC0
**** Omit scene ここから ****

==== 放課後 レイのマンション ====

   テーブル代わりのカラーボックスの上面  数枚のプリントが乗っている

シンジ「――っていうことがあったんだ」

   回転いすに座っているシンジ   

シンジ「最初から最後まで振り回されっぱなしだったよ」ハァ…

   眉をしかめて紅茶をすするシンジ

レイ「そう」

   シンジの向かい、紙コップを両手で包むようにしてベッドに腰掛けているレイ

シンジ「なんだか、ちゃんとうまくやっていけるか心配――どうしたの?」

   紙コップの中を見て少し俯いているレイ

シンジ「綾波?」

レイ「……なに?」

シンジ「あの、大丈夫?」

レイ「問題ないわ。なぜ?」

シンジ「い、いや、何となく」

   コップを持っているレイの指を眺めるシンジ

シンジ「あの……痛くない?」

レイ「何が」

シンジ「このあいだの火傷――」

   一瞬、シンジの顔を見るレイ

レイ「ええ、へいき」

   自分の指を見て微笑むレイ

シンジ「そっか、よかった」

   微笑むシンジ

   :
   :
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/13(土) 16:20:54.98 ID:pHJmw4tC0
=== 戸口 ===

ガチャン…

   閉まるドア

   見送っているレイの後姿

   振り返り部屋に戻るレイ

   立ち止まる

レイ(なせ?)

   胸のあたりをこぶしで少し押さえてみる

レイ(わからない。でも、とても嫌な気持ち)

   :
   :

==== 夕暮れ 路上 ====

   歩道を歩いているシンジ

   ふとレイのマンションの方を振り返る

   少し首をかしげながらまた向き直り歩き続けるシンジ  

   :
   :

**** Omit scene ここまで ****

(第八話 おわり)
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 00:07:34.97 ID:e6Ue2kmp0
第九話 「瞬間、心重ねて」

(中略)

==== 朝 通学路 ====

   歩いてくるシンジ

アスカ「ハローウ、シンジ!」

シンジ(えっ…)

アスカ「グーテンモーゲーン!」

シンジ「グ、グーテンモルゲン……」

アスカ「まーた、朝から辛気臭い顔して! このアタシが声かけてんのよ? ちったあ嬉しそうな顔しなさいよ」パチン!

   シンジの額を指ではじくアスカ

シンジ「痛っ……」

アスカ「――で? ここにいるんでしょ、もう一人」

シンジ「……誰が?」

アスカ「あんたバカぁ? ファーストチルドレンに決まってるじゃない」

シンジ「ああ、綾波なら――」

   シンジの視線を追って振り返るアスカ

   視線の先 ベンチで本を読んでいるレイの後姿

    :
    :

   本を読んでいるレイ そのページに影が差す

   影を避けるように本を移動させるレイ

   追うようにさらに射してくる影

アスカ「ハローウ!」

   不機嫌に視線を向けるレイ

アスカ「あなたが綾波レイね。プロトタイプのパイロット」

レイ「……」

アスカ「あたし、アスカ。惣流・アスカ・ラングレー」

   歩道橋の下、アスカの後ろに人だかりができている

アスカ「エヴァ弐号機のパイロット。仲良くしましょ」

   ページに視線をもどすレイ

レイ「どうして?」

アスカ「その方が都合がいいからよ。いろいろとね」

レイ「……命令があれば、そうするわ」

   あきれ顔のアスカ

アスカ「変わった子ね」

==== 歩道橋の上 ====

   二人のやりとりをあきれ顔で眺めているトウジ、シンジ、ケンスケ

トウジ「ほんま、エヴァのパイロットって、変わり者が選ばれるんちゃうか?」

シンジ「……」

*シンジ(な……なんか機嫌悪いな、綾波……)

   :
   :
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 00:25:54.75 ID:e6Ue2kmp0
(中略)

==== ミサトの家 リビング ====

アハハハ…

   テーブルを囲んで座っているトウジ、ケンスケ、ヒカリ、ミサト、レイ

トウジ「そうならそうと、はよ言うてくれたらよかったのにー」

ヒカリ「――で、『ユニゾン』はうまく行ってるんですか?」

ミサト「それが見ての通りなのよ……」

プー プピー

一同「……」

ビーーー

トウジ・ケンスケ・ヒカリ・ミサト「はぁ〜…」

カシャン…カラカラ…

アスカ「当ったり前じゃない!」

   アスカのヘッドフォンが飛んできて転がる

   訓練装置の上で息巻いているアスカ その隣の訓練装置で這いつくばっているシンジ

アスカ「このシンジに合わせてレベルを下げるなんて、うまく行くわけないわ! どだい無理な話なのよ!」

ミサト「じゃ、やめとく?」

   ミサトの隣でバインダに挟まれた書類を見ているレイ

アスカ「他に人、いないんでしょ?」

   したり顔のアスカ

ミサト「レイ」

レイ「はい」

ミサト「やってみて」

レイ「はい」

   立ち上がるレイ

アスカ「……え?」

   *顔を上げるシンジ

*シンジ(えっ?)

   *立ち上がったレイと一瞬目があう

   *少し驚くシンジ

   装置に向かって歩いてくるレイ

   不安げに見るアスカ

シンジ「……」

   隣でヘッドフォンをつけるレイを少しを見やるシンジ

   始まる電子音

   正確に同じリズムでこなしていくシンジとレイ

アスカ「えっ……」

   動揺するアスカ

   *ちらりとレイの様子をうかがうシンジ

   *黙々と動作をこなしているレイの横顔

   *向き直り、動作に集中するシンジ

トウジ・ケンスケ・ヒカリ・ミサト「おおぉー!」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 00:43:03.26 ID:e6Ue2kmp0
ミサト「これは作戦変更して、レイと組んだほうがいいかもね」

   *顔を上げるレイ

アスカ「ええっ!?」

   すまし顔でウーロン茶を飲んでいるミサト

*シンジ「……」ハァ…ハァ…

   *まだ息を切らせて屈んでいるシンジ

*シンジ(確かに……今までよりずっとやりやすかったな……)

   *隣のレイの様子をうかがうシンジ

   *ちらりと横目でシンジの方を見るレイ

アスカ「もう、イヤっ! やってらんないわ!」

ピシャッ!

   乱暴に扉を閉め部屋を飛び出すアスカ

シンジ「あっ……」

ヒカリ「アスカさん!」

トウジ「鬼の目ぇにも涙や」

ヒカリ「いーかーりーくーん!!」

シンジ「あ……」

   ヘッドフォンをはずすシンジ

ヒカリ「追いかけて!!」

シンジ「え……」

   *少し驚いた顔でヒカリを見るレイ

ヒカリ「女の子泣かせたのよ!! 責任取りなさいよ!!」

*シンジ「あ……う、うん……」

   *おずおずと立ち上がるシンジ ふと隣のレイを見る

   *先ほどの訓練姿勢のまま床に膝をついているレイ 床を見つめている

   *戸口に走るシンジ

   *それを見ている一同

   *戸を閉める間際、何気なく室内を振り返るシンジ

   *まだ装置の上に座っているレイ 外したヘッドフォンを包み込んだ自分の手を見ている

   *閉まる引き戸

     :
     :

==== コンビニエンスストア 店内 ====

   壁の冷蔵庫のガラス扉を開けたまましゃがみこんでいるアスカ

シンジ「あのー……」

アスカ「何も言わないで」

シンジ「……」

   アスカの右後ろにしゃがみこみ様子をうかがうシンジ

アスカ「分かってるわ。私はエヴァに乗るしかないのよ」

シンジ「……」

   立ち上がり扉を閉めるアスカ

アスカ「やるわ、私」

    :
    :
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 01:04:55.37 ID:e6Ue2kmp0
**** Omit Scene ここから ****

==== 夕暮れ ミサトの部屋の戸口 ====

ケンスケ「――それでは、失礼します!」

ミサト「ごめんね、みんな」

トウジ「ええんです。ほな――」

ヒカリ「でも……大丈夫かな、アスカさん」

ミサト「だーいじょうぶ。心配ないわよ」

   廊下を去っていく三人

   ミサトの後ろから出てくるレイ

ミサト「レイも、悪かったわね」

レイ「……いえ」

   真顔になるミサト

ミサト「でもいい動きだったわ。零号機がああでなきゃ、あなたに任せてたかもしれない」

   顔を上げるレイ  少し口惜しそうに

レイ「……失礼します」

   立ち去るレイ  後姿を見送るミサト

   ため息をひとつついて部屋に引っ込むミサト


==== ミサトのマンションの前の道 ====

   歩いて行くレイの後姿

   ふと、振り返ってミサトのマンションを見上げるレイ  少し目を眇める

   レイ「……」

   しばらく見て、また向き直り歩み去っていく

**** Omit Scene ここまで ****

   :
   :
 
==== 屋上 ====

アスカ「こうなったら何としてもレイやミサトを見返してやるのよ!」

シンジ「そんな、見返すだなんて……」

アスカ「なぁーに甘いこと言ってんのよ! 男のくせに!」

シンジ「……」

アスカ「傷付けられたプライドは10倍にして返してやるのよ!」

シンジ「……」クスッ…

   *ふと下界を見下ろすシンジ

   *歩み去っていくレイの後姿が目に留まる。

   *シンジ「……」

*アスカ「シンジ!」

*シンジ「……な、なに?」

*アスカ「『なに』じゃないでしょ! 行くわよ!」

*シンジ「う、うん――」

   *立ち上がるシンジ

   *少し振り返ってから向き直り、アスカに続く

    :
    :
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 01:13:12.67 ID:e6Ue2kmp0
(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ====

   灯りの消えた室内  床に横たわって寝たふりをしているシンジ

ヒタヒタヒタ…

   近づく足音

…ドサッ

シンジ(……え?)

   目を開けるシンジ 間近にアスカが横たわって寝入っている

シンジ(あ……!)

   目をしばたたくシンジ

シンジ「……」

   半ば閉じられたアスカの唇に視線が吸い寄せられる

シンジ「……」

   衝動的に顔を寄せていくシンジ

   視界をおおっていくアスカの寝顔

*シンジ「!」ハッ…

   *踏み込んだ零号機のプラグの中の光景がよみがえる

   *気を失ってうなだれているレイ

*シンジ「……」

   *少し驚いた顔をしたあと、静かに微笑むレイ

*シンジ「……」

   *つい先日おとずれたレイのマンション

   *紅茶をすするレイの横顔

   *唇に意識が吸い寄せられる

*シンジ「……」

アスカ「んっ…」

   我に返るシンジ

   アスカの唇が動く

アスカ「マ……マ……ママ……」

シンジ「!」

アスカ「ママ……」

   閉じられたアスカの瞼から涙が一粒伝う

シンジ「……」

   アスカが寝る布団から離れて床に横たわるシンジ

シンジ「……自分だって子供のくせに……」

   毛布を頭からかぶるシンジ

*シンジ「……」

   *ユニゾン訓練の直前、一瞬目があったレイの表情

*シンジ「……」

   *床に座り込み俯くレイの姿

   *毛布から目をのぞかせるシンジ

*シンジ「……」

*シンジ(何やってんだろ……)
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 01:26:32.17 ID:e6Ue2kmp0
(中略)

==== 翌日 発令所 ====

   主モニターの中、第七使徒の爆発クレーターに折り重なって倒れている初号機と弐号機

   それぞれの機体の上で受話器を片手に口論しているシンジとアスカ

   呆れ顔のミサトたち発令所職員

アスカ『――ひっどーい! 冗談で言っただけなのに、ほんとだったの!? キスしたのねー!?』

シンジ『してないよ! 途中でやめたんだよ!』

アスカ『エッチ! チカン! ヘンタイ! 信じらんない!』

ワハハハ…

シンジ『そっちこそ、寝言と寝相が悪いのが悪いんじゃないかあ!』

冬月「また恥をかかせおって……」

   :
   :


**** Omit Scene ここから ****

==== 数日後 レイのマンション ====

シンジ「――っていう感じだったんだ」

レイ「そう」

   小さな折り畳み式のテーブルの上、手作りらしい冊子が載っている

   表紙に「修学旅行のしおり」と書いてあり南国風の建築の白黒写真がプリントされている

シンジ「なんとか勝てたからよかったけど――」

   レジャー用のプラスチック製のカップから紅茶をすするシンジ

   ふと、レイ見る

シンジ「……」

   自分のカップの液面を見つめているレイ

シンジ「……案外、綾波のおかげかな」

   顔を上げるレイ

シンジ「あ、あのとき、綾波がやってみせてくれただろ? 惣流も、やればできるって、あれでわかったんじゃないかな」

   きょとんとしてシンジを見るレイ

シンジ「うん、きっとそうだよ」

レイ「そう」

   わずかに表情をゆるめるレイ

   微笑むシンジ
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 01:33:58.79 ID:e6Ue2kmp0
シンジ「あ、そうだ。これ――」

   テーブルの上のしおりをレイに手渡すシンジ  受け取るレイ

シンジ「班、いっしょだね」

レイ「え?」

シンジ「二日目の現地見学。名前の順だから。……あ、ケンスケも」

レイ「……」

   手渡されたしおりを開くレイ

シンジ「惣流はトウジと一緒だし――」

レイ「……」

シンジ「見たい場所、相談したり、下調べしたりするから――」

レイ「……」

シンジ「……どうしたの?」

レイ「待機」

シンジ「えっ?」

レイ「こんなに、パイロットが本部を明けられないと思う」

シンジ「あ……そっか……」

レイ「……」

シンジ「そうかもしれないね……」

   しおりを見ているレイ

シンジ「で、でも、そうと決まったわけじゃないし……それに、もしそうでも……いろいろ調べるのも、あの……楽しいんじゃないかな」

   顔を上げるレイ

   不安そうにレイを見るシンジ

レイ「そうね」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん!」

   安心したように微笑むシンジ  カップを口に運ぶ

   しおりのページをめくっているレイ

   紅茶をすすりながら、その様子を眺めているシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第九話 おわり)
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/25(木) 12:46:15.05 ID:A8yV3UKpO
原作の雰囲気がうまく出てて好き
続き期待してる
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/28(日) 10:36:54.26 ID:vK4e+EdN0
>>23 ありがとう
>>21>>22の微修正版から再開
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 10:40:02.05 ID:vK4e+EdN0
>>20 からつづく

(中略)

==== 翌日 発令所 ====

   主モニターの中、第七使徒の爆発クレーターに折り重なって倒れている初号機と弐号機

   それぞれの機体の上で受話器を片手に口論しているシンジとアスカ

   呆れ顔のミサトたち発令所職員

アスカ『――ひっどーい! 冗談で言っただけなのに、ほんとだったの!? キスしたのねー!?』

シンジ『してないよ! 途中でやめたんだよ!』

アスカ『エッチ! チカン! ヘンタイ! 信じらんない!』

ワハハハ…

シンジ『そっちこそ、寝言と寝相が悪いのが悪いんじゃないかあ!』

冬月「また恥をかかせおって……」

   :
   :


**** Omit Scene ここから ****

==== 数日後 レイのマンション ====

シンジ「――っていう感じだったんだ」

レイ「そう」

   小さな折り畳み式のテーブルの上、手作りらしい冊子が載っている

   表紙に「旅のしおり 市立第一中学校」と表題があり、その下に南国風の建築の白黒写真がプリントされている

シンジ「なんとか勝てたからよかったけど――」

   レジャー用のプラスチック製のカップから紅茶をすするシンジ

   ふと、レイを見る

シンジ「……」

   自分のカップの液面を見つめているレイ

シンジ「……案外、綾波のおかげかな」

   顔を上げるレイ

シンジ「あ、あのとき、綾波がやってみせてくれただろ? 惣流も、やればできるって、あれでわかったんじゃないかな」

   きょとんとしてシンジを見るレイ

シンジ「うん、きっとそうだよ」

レイ「そう」

   わずかに表情をゆるめるレイ

   微笑むシンジ

シンジ「あの……綾波の方はどうだったの? 父さんと一緒だったんじゃ――」

レイ「極秘だから」

シンジ「えっ……あ……ごめん」

レイ「……」

   少し気まずい沈黙
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 10:41:47.25 ID:vK4e+EdN0
シンジ「そ、そうだ。これ――」

   テーブルの上のしおりをレイに手渡すシンジ  受け取るレイ

シンジ「班、いっしょだね」

レイ「え?」

シンジ「現地見学。名前の順だから。……あ、ケンスケも」

レイ「……」

   手渡されたしおりを開くレイ

シンジ「惣流はトウジと一緒だし――」

レイ「……」

シンジ「見たい場所、相談したり、下調べしたりするから――」

レイ「……」

シンジ「……どうしたの?」

レイ「待機」

シンジ「えっ?」

レイ「こんなに、パイロットが本部を明けられないと思う」

シンジ「あ……そっか……」

レイ「……」

シンジ「そうかもしれないね……」

   しおりを見ているレイ

シンジ「で、でも、そうと決まったわけじゃないし……それに、もしそうでも……いろいろ調べるのも、あの……楽しいんじゃないかな」

   顔を上げるレイ

   不安そうにレイを見るシンジ

レイ「そうね」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん!」

   安心したように微笑むシンジ  カップを口に運ぶ

   しおりのページをめくっているレイ

   紅茶をすすりながら、その様子を眺めているシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第九話 おわり)
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 10:49:22.14 ID:vK4e+EdN0
第拾話 「マグマダイバー」

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ====

アスカ「えーっ!? 修学旅行に行っちゃダメぇ!?」

ミサト「そ」

アスカ「どうして!?」

ミサト「戦闘待機だもの」

アスカ「そんなの聞いてないわよ!」

ミサト「いま言ったわ」

アスカ「誰が決めたのよ!」

ミサト「作戦担当のあたしが決めたの」

*シンジ「……」

*シンジ(綾波が言ったとおりになっちゃったな……)

アスカ「あんた! お茶なんかすすってないで、ちょっとなんか言ってやったらどうなの!? 男でしょう!?」

シンジ「いや、僕は多分こういうことになるんじゃないか、と思って……」

アスカ「諦めてた、ってわけ?」

シンジ「うん」

アスカ「情けない。飼い慣らされた男なんてサイテー!」

シンジ「そういう言い方はやめてよ……」

ミサト「気持ちは分かるけど、こればっかりは仕方ないわ。あなたたちが修学旅行に行っている間に使徒の攻撃があるかもしれないでしょ?」

アスカ「いつもいつも待機、待機、待機、待機! いつ来るか分かんない敵を相手に、守ることばっかし! たまには敵の居場所を突き止めて、攻めに行たっらどうなの?」

ミサト「それができればやってるわよ」

シンジ、アスカ「……」

ミサト「ま、二人ともこれをいい機会だと思わなきゃ。クラスのみんなが修学旅行に行っている間、少しは勉強ができるでしょ?」

  シンジとアスカの学籍番号と氏名が書かれた記憶媒体を取り出して見せるミサト

  『2-A-003碇シンジ』『2-A-116惣流・アスカ・ラングレー』


ミサト「あたしが知らないとでも思ってるの?」

シンジ「うっ……」

ミサト「見せなきゃバレないと思ったら大間違いよ。あなたたちが学校のテストで何点取ったかなんて情報くらい、筒抜けなんだから」

アスカ「フン、バッカみたい! 学校の成績が何よ。旧態依然とした減点式のテストなんか、何の興味もないわ」

ミサト「『郷に行っては郷に従え』。日本の学校にも慣れてちょうだい」

アスカ「イーーーーーッだ!」

   :
   :
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:07:10.53 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 修学旅行当日 ネルフ本部 第一発令所 ====

女性オペ『――浅間山の観測データは、可及的速やかにバルタザールからメルキオールへペーストしてください――』

   各々、自席でくつろいでいるオペレーターたち

   読書しているマヤ、漫画を読んでいるマコト、ギターのイメージトレーニングをしているシゲル

リツコ「修学旅行? こんなご時世に呑気なものね」

ミサト「こんなご時世だからこそ、遊べるときに遊びたいのよ、あの子達」

   :
   :

==== ネルフ本部 プール ====

ザバアアン…

  水面に飛び込み、泳いでいく白い水着のレイ

  プールサイドのテーブルについているシンジ

  学生服姿、ノート型端末をテーブルに広げている

アスカ「何してんの?」

シンジ「理科の勉強」

アスカ「……ったく、お利口さんなんだからぁ」

シンジ「そんなこと言ったって、やらなきゃいけないんだから……あ……」

   顔を上げ、声を失うシンジ

アスカ「ジャーン! オキナワでスキューバーできないから、ここで潜るの!」

   ビキニスタイルで立っているアスカ

シンジ「そ、そう……」

アスカ「どれどれー、何やってんの? ちょっと見せて……」カチャカチャ…

シンジ「……」

   赤面して、屈んだアスカの胸元に目を奪われているシンジ

アスカ「この程度の数式が解けないの?……はい、できた。簡単じゃん」

シンジ「……どうしてこんな難しいのができて、学校のテストが駄目なの?」

アスカ「問題に何が書いてあるのか、分かんなかったのよ」

シンジ「それって、日本語の設問が読めなかったってこと?」

アスカ「そ。まだ漢字全部覚えてないのよねー。向こうの大学じゃ、習ってなかったし」

シンジ「大学?」

アスカ「あ、去年卒業したの。……で、こっちのこれはなんて書いてあるの?」

シンジ「あ、熱膨張に関する問題だよ」

アスカ「熱膨張? 幼稚な事やってるのね」

シンジ「……」

アスカ「とどのつまり、モノってのは温めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなる、ってことじゃない」

シンジ「そりゃそうだけど……」

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:09:29.00 ID:vK4e+EdN0
アスカ「あたしの場合、胸だけ暖めれば、少しはオッパイが大きくなるのかなあ?」

シンジ「そ、そんな事聞かれたって、わかんないよ!」

アスカ「つまんないオトコ……」

ザバア…

   水音の方を振り向くシンジ

シンジ「……」

   水から上がったレイがタオルで髪を拭いている

   その横顔に見入るシンジ

アスカ「見て見て、シンジ!」

シンジ「ん?」

   振り返るシンジ アクアラングを装着したアスカ

アスカ「バックロールエントリー!」

ドボン…

シンジ「はあ……」

*レイ「碇くん」

*シンジ「えっ?」

*   首からタオルをかけたレイがいつの間にかそばに立っている

*レイ「泳がないの?」

*シンジ「う、うん……」

*レイ「……なに?」

*シンジ「えっ……あの……あ、綾波も、学校の水着じゃないんだね」

*レイ「ええ」

*   少し顔を赤らめて視線をはずすシンジ

*レイ「どうしたの?」

*シンジ「いっいや! 何でもないよ!」

*   端末に向き直り何か打ち込み始めるシンジ

*レイ「?」

*シンジ「……」カチャカチャ…

   :
   :
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:17:34.06 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山地震研究所 地震波分析室 ====

   モニタを見ているミサト

   シートについているマコト、研究所の職員たち

ビーーーッ

女性オペ『観測機、圧壊。爆発しました』

ミサト「解析は?」

マコト「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青です!」

ミサト「間違いない、使徒だわ」

   顔を上げるミサト

ミサト「これより当研究所は完全閉鎖、ネルフの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、すべて部外秘とします」

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 ====

   床面モニタに映し出された透視画像

   卵のような楕円形の中にヒトの胎児のようなシルエット

   見下ろしているリツコ、マヤ、シンジ、レイ、アスカ

シンジ「これが使徒?」

リツコ「そうよ。まだ完成体になっていない、サナギの状態みたいなものね」

一同「……」

リツコ「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原形をとどめ、生きたまま回収すること」

アスカ「できなかったときは?」

リツコ「即時殲滅。いいわね?」

シンジ・アスカ・レイ「はい」

リツコ「作戦担当者は――」

アスカ「はいはーい! あたしが潜る!」

シンジ「……」

シンジ(でも、また僕なんだろうな……)

リツコ「アスカ、弐号機で担当して」

アスカ「はーい! こんなの楽勝じゃん!」

レイ「私は?」

マヤ「プロトタイプの零号機には、特殊装備は規格外なのよ」

リツコ「レイと零号機には本部での待機を命じます」

レイ「はい」

アスカ「残念だったわねー、温泉行けなくて」

レイ「……」

   黙って前方を見ているレイ

*  レイの横顔をそっと見やるシンジ

リツコ「A−17が発令された以上、すぐに出るわよ。支度して」

シンジ・アスカ「はい!」

  :
  :
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:23:26.28 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== ネルフ本部 弐号機ケージ ====

アスカ「いやあああぁ! なによ、これぇ!」

   着ぶくれてケージの横に座らされている弐号機

リツコ「耐熱・耐圧・耐核防護服。局地戦用のD型装備よ」

アスカ「これがあたしの……弐号機?」

一同「……」

アスカ「嫌だ! あたし降りる! こんなので人前に出たくないわ! こういうのはシンジのほうがお似合いよ!」

加持「そいつは残念だな」

   作業通路から見下ろしている加持

加持「アスカの勇姿が見れると思ってたんだけどな」

アスカ「いやーっ! でもこんなダサいの着て、加持さんの前に出る勇気なんてないわ!」

マヤ「困りましたね……」

リツコ「そうね」

シンジ「あの……僕が……」

   遮るように右手を上げるレイ

レイ「あたしが弐号機で出るわ」

アスカ「!」

パシッ…

   レイの手をつかんで降ろさせるアスカ

アスカ「あなたには私の弐号機に触ってほしくないの、悪いけど!」

   向き直るアスカ

アスカ「ファーストが出るくらいなら私が行くわ」

   弐号機を見上げるアスカ

アスカ「カッコ悪いけど、我慢してね……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 弐号機ケージ ====

ガコーン ガコーン…

  持ち場へ散っていく面々

女性オペ『――各担当は、所定の作業を速やかに完了させてください。――』

シンジ「あの……」

レイ「……」

   俯き佇んでいるレイ

シンジ「また、待機になっちゃったね」

レイ「仕方ないわ。命令だもの」

シンジ「うん……」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:31:52.52 ID:vK4e+EdN0
シンジ「じゃあ、行くね」

   ためらいがちに踵を返すシンジ  数歩歩き出す

レイ「碇くん」

   振り返るシンジ

   シンジの方を見ているレイ

レイ「気を付けて」

シンジ「う、うん。それじゃ――」

   少し表情が明るくなるシンジ

   振り返り走り去る

   見送っているレイ

   :
   :

==== ネルフ本部 エヴァ専用操車場 ====

グオングオングオン…

  駐機場に通じるリニアレールを、台車に乗って運ばれていく2機のエヴァ

  その様子を作業通路から見下ろしているゲンドウとレイ

レイ「碇司令」

ゲンドウ「何だ」

レイ「もし使徒の捕獲が失敗したら、私も現場に行くのですか」

ゲンドウ「いや……お前は本部で待機だ」

レイ「……」

  レイを見るゲンドウ

ゲンドウ「使徒の捕獲が失敗したら、初号機および弐号機が使徒の殲滅に当たる」

レイ「……」

ゲンドウ「もしそれにも失敗したら、上空で待機している国連軍がN2爆雷による熱処理を試みる」

レイ「……!」

ゲンドウ「それでも処理できなければ、使徒はここへやってくるだろう。お前はそれを零号機で迎え撃つ」

レイ「……」

ゲンドウ「それも失敗すれば……そこで終わりだ」

レイ「……」

ゲンドウ「そのためにお前はここにいる。いいか、レイ」

レイ「……はい」

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:36:38.42 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 昼 浅間山 ====

   割れ目火口の縁にクレーンが設置されている

女性オペ『レーザー、作業終了』

男性オペ『進路確保』 

女性オペ『D型装備、異常無し』

   クレーンに吊り下げられ火口直上に水平移動してくるD型装備の弐号機

マコト『弐号機、発進位置』

==== 仮設発令所 ====

ミサト「了解。アスカ――」

==== 弐号機プラグ内 ====

ミサト『――準備はどう?』

アスカ「いつでもどうぞ」

==== 仮設発令所 ====

ミサト「発進!」

==== 火口直上 ====

ガラガラガラ…

 吊り降ろされていく弐号機

アスカ『うっわあ、熱っつそおー!』

マヤ『弐号機、溶岩内に入ります』

アスカ『見て見て、シンジ!』

シンジ『え?』

アスカ『ジャイアント・ストロング・エントリー!』 

ゴボオオオオォ…

  ポーズをつけたまま脚から溶岩の液面に沈み込んでいく弐号機

シンジ『はあ……』

   あきれ顔のシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== その頃 ネルフ本部 零号機ケージ アンビリカルブリッジ上 ====

   ベンチに腰かけているレイ

   ゲンドウのメガネケースを手にして俯いている

レイ(使徒を殲滅できなかったら……「熱処理」?)

   ケースを不安げに握りしめる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:49:13.94 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

アスカ「――捕獲作業終了。これより浮上します」

シンジ『アスカ、大丈夫?』 

アスカ「当ったり前よ! 案ずるより生むが易し、ってね。やっぱ楽勝じゃん」

アスカ「……でも、これじゃあプラグスーツと言うよりサウナスーツよ。あー早いとこ温泉に入りたい! 」

==== 浅間山 仮設発令所 ====

リツコ「緊張がいっぺんに解けたみたいね」

ミサト「そう?」

リツコ「あなたも今日の作戦、恐かったんでしょ?」

ミサト「まあね。下手に手を出せば、あれの二の舞ですものね」

リツコ「そうね……『セカンドインパクト』……二度とごめんだわ」

ビーーーーッ

リツコ、ミサト「えっ!?」

==== 火道内 ====

アスカ「何よ、これぇー!?」

==== 仮設発令所 ====

リツコ「まずいわ、羽化を始めたのよ。計算より早すぎるわ!」

   モニタの中、急速に変容していく使徒のシルエット

ミサト「キャッチャーは!?」

マコト「とても持ちません!」

グオオオオ…

   捕獲器の電磁柵を突き破って腕のようなものを伸ばす使徒

ミサト「捕獲中止、キャッチャーは破棄!」

==== 火道内 ====

アスカ「くっ!」カチッ

   捕獲器を弐号機から切り離すアスカ

==== 仮設発令所 ====

ミサト「作戦変更、使徒殲滅を最優先!――」

==== 弐号機プラグ内 ====

ミサト『――弐号機は撤収作業をしつつ戦闘準備!』

アスカ「待ってました!」

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機ケージ ====

ビーーーッ

レイ「!」

   天井のスピーカーをふり仰ぐレイ

女性オペ『総員、第一種戦闘配置――』

   立ち上がるレイ

女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』』

   エントリープラグがイジェクトされている零号機に向かって駆け出すレイ

**** Omit Scene ここまで ****
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:54:36.26 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

グオオオオオ…ガキッ!

   弐号機の脚部を捕える使徒

アスカ「しまった!」

==== 仮設発令所 ====

リツコ「まさか、この状況下で口を開くなんて……」

マヤ「信じられない構造です」

==== 火道内 ====

バチバチバチ…

アスカ「ううっ…くっ…」

マヤ『左足損傷!』

アスカ「耐熱処置!」

バシュッ!

  左脚をパージするアスカ

アスカ「こんちきしょーっ!!」

ガキイイイィン

  使徒にプログレッシヴナイフを突き立てる弐号機

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

ヴォーーー…

   シートにつきインダクションレバーを握り締めているレイ

レイ「……」

レイ(私の中にはいつも、わら人形のようにぽっかりと空っぽの部分があった)

レイ(その空洞が、私をときどき怯えさせ……不安にさせる)

レイ(その部分を、碇司令を思うことで埋められるような気がしていた)

   左太腿のあたり、シート座面横の道具入れから少し覗いているメガネケース

レイ(なのに……)

   目を伏せるレイ

   開いた零号機の非常ハッチからこちらを覗き込んでいるシンジのシルエット

   火傷を冷やしていたレイから慌てて離れる赤面したシンジ

   修学旅行のしおりを差し出しているシンジ

レイ「……」

   わずかに目を開けるレイ  苦しげな表情

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 11:59:55.54 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 浅間山 火道内 ====

キュオオオオオオォン…ゴボゴボゴボ…

   溶岩の中を沈んでいく使徒の死骸

   弐号機を吊っているケーブルがちぎれかけており、破断した配管から冷却液がとめどなく漏出している

バキ…バキン…

   外圧で変形していく弐号機のD型装備

   フェイスプレートに亀裂が入る

アスカ「せっかくやったのに……」

   ほとんど破断している支持ケーブル

アスカ「やだな……ここまでなの?」

ブチッ…

   破断するケーブル

   溶岩の中を沈み始める弐号機

アスカ「……」

ガキイイイイイィン!

アスカ「うっ!!」

   沈んでいくケーブルの端をすんでのところで掴む初号機の手

アスカ「……シンジ?」

   上方で初号機の双眸が光っている

アスカ「バカ……無理しちゃって……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 同時刻 ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

ビーーーッ

女性オペ『状況終了』

レイ「!」

女性オペ『使徒の殲滅を確認。第弐種警戒体制へ移行』

レイ「……」ドサッ

   シートにもたれかかり、大きく息を付くレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 12:03:36.33 ID:vK4e+EdN0
(中略)

==== 夕方 浅間山麓 温泉旅館「近江屋」 男子浴室 露天風呂 ===

シンジ「はあー、極楽極楽……」

シンジ(風呂がこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかったなあ……)

ミサト『シンジくーん、聞こえるー?』

シンジ「は、はい!」

ミサト『ボディーシャンプー、投げてくれる?』

アスカ『持ってきたの、無くなっちゃったー』

シンジ「うん……行くよ!」

アスカ『りょーかい!』

   容器を放るシンジ

アスカ『痛っ! バカね、どこ投げてんのよ、ヘタクソ!』

シンジ「う……ごめん」

アスカ『もーお、変なとこに当てないでよね!』

ミサト『どれどれー?』

アスカ『あ、あん!』

ミサト『あー、アスカの肌って、すっごくプクプクしてて面白ーい!』

アスカ『やーだ! くすぐったいー!』
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 12:08:20.94 ID:vK4e+EdN0
ミサト『じゃ、ここはー?』

アスカ『きゃは! そんなとこ触んないでよー!』

ミサト『いいじゃない、減るもんじゃないし』

シンジ「……」

ペンペン「?」クー…

シンジ「わぁっ!」 ドボン

  慌てて湯に沈むシンジ

シンジ「膨張してしまった……恥ずかしい……」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

シンジ「はあ……」チャプン…

   星が見え始めた空を見上げるシンジ

パシャン…パシャン…

   仰向けに浮いているペンペン

シンジ「……」

シンジ(綾波、何してるかな……)

パシャパシャ…

シンジ(お風呂? シャワー……)

   初めてレイの部屋を訪れたとき遭遇した裸身が思い浮かぶ

シンジ「……」

   紅くなるシンジ

ペンペン「?」クー…

   湯船に沈み込むシンジ

シンジ「……また……膨張してしまった……」ブクブクブク…

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 12:15:47.37 ID:vK4e+EdN0
**** Omit Scene ここから ****

==== 翌日 夕方 ネルフ本部 ====

ガコーーン ドドド…

収容されていく2機のエヴァ

   :
   :

==== 地上 本部前エントランス ====

   軍用車両から降り立つミサトたち

ミサト「――終わった終わったーっと。さ、二人とも帰りましょ」

アスカ「シンジ? どこ行くのよ」

  本部に入っていこうとしていたシンジが振り返る

シンジ「えっと、図書室。こないだ借りた理科の参考資料、持ってきちゃったから……」

アスカ「バカね、何やってんのよ! 置いてくわよ!」

ミサト「まあまあアスカ――」

シンジ「あ、いいですよ、ミサトさん。バスでも帰れますから――」

   困った笑みを浮かべるシンジ

ミサト「そお? 悪いわね、シンちゃん」

アスカ「フンだ! いこ、ミサト」

   :
   :

==== ネルフ本部 図書室 ====

   広大な図書室 夕暮れの赤い光に満たされている

   窓際の席に座っているレイ

レイ「……」パタン…

   表紙を閉じるレイ 表題を見る

   『The Happy Prince and Other Tales』(幸福な王子 )

   「あれ?」

   振り向くレイ

   何かの本を片手にシンジが立っている

レイ「……」

   :
   :

シンジ「――っていう感じだったんだ」

レイ「そう」

   レイの席の斜め後ろに立っているシンジ

シンジ「そっか……こっちも大変だったんだね」

レイ「……」

   シンジの顔を見上げるレイ

シンジ「……綾波?」

   俯くレイ

レイ「よかった」

シンジ「え?」

レイ「碇くんが、無事で」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 12:18:44.09 ID:vK4e+EdN0
シンジ「い……いやだなあ、大げさだよ、そんな――」

   首を振るレイ

レイ「正常性バイアス」

シンジ「――え?」

レイ「誰も、自分が死ぬとは本気で思わないわ。客観的にどんなに危険でも」

シンジ「……」

レイ「あの時……もしセカンドが失敗していたら……」

シンジ「……」

レイ「私が……そのあと、使徒を倒したとしても」

シンジ「……」

レイ「その時、碇くんは、もうこの世にいないかもしれないと思った」

シンジ「……」

レイ「どうしたらいいか、わからなくなった」

シンジ「え……」

レイ「碇くん」

シンジ「な、なに?」

レイ「私は……」

シンジ「……」

レイ「私は……碇くんに……そばにいてほしい」

シンジ「え……」

レイ「だから――」

シンジ「ごめん」

レイ「……」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/06/28(日) 12:21:50.95 ID:vK4e+EdN0
シンジ「ごめん。ありがとう。あの……」

レイ「……」

シンジ「僕も……綾波に、そばにいてほしい」

レイ「……」

シンジ「ご、ごめん。こんなこと――」

   赤面するシンジ

レイ「ううん」

シンジ「……」

レイ「嬉しい」

   微笑むレイ

シンジ「う、うん」

  少し困った笑みを浮かべ、頬を指先でかくシンジ

シンジ「そ、そうだ。これ――」

   鞄をさぐるシンジ

レイ「?」

シンジ「はい、これ」

レイ「なに?」

シンジ「あけてみて」

レイ「……」ガサガサ…

   草花を封入したしおりが出てくる

レイ「……」

シンジ「あ、あのさ、お土産、何がいいかなと思ったんだけど、綾波、よく本を読んでるから……だから」

レイ「ありがとう」

シンジ「……」

レイ「大切にするから」

シンジ「そっか、よかった」

  はにかんだように笑うシンジ

  先ほどまで読んでいた本を開き、しおりをはさんで閉じなおすレイ

シンジ「あの、帰る? もしそうだったら――」

  出口に向かって歩き出すシンジとレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾話 おわり)
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 01:58:16.98 ID:QHnd+vbz0
第拾壱話 「静止した闇の中で」

(中略)

==== 午後 第壱中学校付近 ====

**** Omit Scene ここから ****

   蝉の声

シンジ「……」

   店先の公衆電話の前

   俯き何か考えている

   「碇くん」

   振り向くシンジ  少し離れた場所にレイが立っている

レイ「本部、行かないの?」

シンジ「え?……いや、あの……」

レイ「……電話?」

シンジ「あ、うん」

   緑色の公衆電話を振り返る

シンジ「進路相談。きょう、言われただろ」

レイ「ええ」

シンジ「父さんに言わなきゃと思って」

レイ「電話で話すの?」

シンジ「……うん……でも……何て話したらいいかわからなくて」

レイ「そう」

   シンジを見ているレイ

シンジ「……」

   鞄を開き、少し厚めの本を取り出すレイ

シンジ「……?」

   自販機を挟んだ少し離れた軒先まで歩いていき日陰に入るレイ

レイ「待ってるから」

シンジ「あ……うん」

   しばしレイの様子を見て、公衆電話に向き直るシンジ

   受話器をあげ、カードを差し込む

   立ったまま本を開くレイ  押し花を封入したしおりが挟まっている   

   しおりをいったん別のページに挟み込み、本を読み始めるレイ

トゥルルルル…

   受話器を耳に当てているシンジ

**** Omit Scene ここまで ****

女性オペ『――はい、しばらくお待ちください』

   電話の向こうで流れている保留メロディ

ゲンドウ『なんだ』

シンジ「あ……」

   少し緊張して顔を上げるシンジ

*  気づかぬふうで本を読み続けているレイ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 02:05:13.39 ID:QHnd+vbz0
シンジ「あ、あの……父さん――」

ゲンドウ「どうした。早く言え」

シンジ「――あ……」

*  ページをめくるレイ

シンジ「あ、あの……実は今日、学校で……」

   無意識に右手を握ったり開いたりしているシンジ

シンジ「進路相談の面接があることを……父兄に……報告しとけって……言われたんだけど……」

ゲンドウ『そういうことは全て葛城君に一任してある。くだらんことで電話をするな」

シンジ「……」

   通話にノイズが混じり始める

ゲンドウ「こんな電話をいちいち取り次ぐんじゃない――」 ブツッ…

シンジ「ん……」

**** Omit Scene ここから ****

   「どうしたの」

   レイがそばに立っている

シンジ「……切れちゃった」

   眉をひそめるレイ

レイ「司令が、切ったの?」

シンジ「うん……いや……どうなのかな……ちょっと違う感じだったんだけど……」

   受話器を置くシンジ  少し不満そうに

シンジ「ミサトさんに任せてあるって。くだらないことだって」

レイ「そう」

   ふと何かに思い当たったように、

シンジ「……綾波はどうするの?」

レイ「何が」

シンジ「進路相談」

レイ「……」

   やや表情を曇らせるレイ

シンジ「あの……もしかして、父さん――」

レイ「赤木博士に、任せてあると言われてるわ」

   俯くレイ

シンジ「そ、そう……」

   少しうろたえるシンジ

シンジ「ごめん、あの――」

レイ「行きましょう」

シンジ「う、うん……」

   歩きかけるシンジとレイ

   「こーんなとこで何やってんのよ、あんたたち」

   振り向くシンジとレイ

   アスカが歩いてくる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 02:12:02.66 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 道路上 ====

ミーンミンミンミー…

   陽炎が立つ二車線道路の歩道

   本部に向かって歩いているアスカ  そのあとをついていくシンジとレイ

アスカ「――それは碇司令、本当に忙しかっただけじゃないの?」

シンジ「そっかなあ……途中で切ったって言うより、なんか故障した感じだったんだけど」

アスカ「もーお、男のくせに、いちいち細かいこと気にするの、やめたら?」

   やりとりを黙って見ているレイ

   :
   :

==== ネルフ本部 地上部エントランスゲート ====

   カードリーダーにIDカードを通すシンジ

   表示部が消灯したままで反応がない

シンジ「……あれ?」

   もう一度通してみるが、やはり反応がない

    :
    :

   自分のカードを通してみるレイ

   やはり反応がない  カードの表面を確かめるように見るレイ

レイ「……」

アスカ「何やってんの、ほら、代りなさいよ!」

   レイを粗っぽく押しのけるアスカ

*  不満そうにシンジの顔を見るレイ

*  レイの顔を見てため息をつくシンジ

   自分のカードを通してみるアスカ  が、やはり反応がない

アスカ「ん?」

   何度も通してみるアスカ

アスカ「もおーっ! 壊れてんじゃないの、これぇ!?」

    :
    :
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 02:22:38.76 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== エントランス ====

レイ「――だめ。連絡つかない」

   携帯電話を耳から離すレイ

アスカ「こっちもだめ。有線の非常回線も切れちゃってる」

   公衆電話の受話器を置くアスカ

シンジ「……どうしよう」

   携帯電話を耳から離してレイを見るシンジ

レイ「……」

   鞄を開け、「TOP SECRET」と書かれた手のひら大の小冊子を取り出すレイ

   読み始める

*  冊子を読むレイの様子を見るシンジ

アスカ「あ!」

   はっとして自分も取り出すアスカ

   鞄を探り出したアスカの様子を覗き込むシンジ

シンジ「……何してるの?」

アスカ「あんたバカぁ!? 緊急時のマニュアルよ!」

レイ「とにかく本部へ行きましょう」

アスカ「そ、そうね。じゃあ、行動を開始する前に、グループのリーダーを決めましょ」

   きょとんとするシンジとレイ

アスカ「で、当然私がリーダー。異議無いわね?」

   ぽかんとした顔でアスカを見るシンジとレイ

アスカ「じゃあ行きましょう!」

   手を腰に当てて振り向くアスカ

   マニュアルを一瞥するレイ

レイ「こっちの第7ルートから下に入れるわ」

   アスカと反対方向を見て言うレイ  そちらを見るシンジ

アスカ「あ……」

   ひきつった笑みを浮かべるアスカ

   :
   :

==== 非常用ハッチの前 ====

   突き当りに薄暗い通路 「R-07」と書かれたドア

シンジ「――でも、ドアは動かないんじゃ……あ……」

   ハンドル付きの開閉装置がついている

シンジ「手動ドア……」

アスカ「ほらシンジ、あんたの出番よ」

   シンジを見るレイ

   :
   :

シンジ「んっ……んんっ!!」

   全身でハンドルを回すシンジ

シンジ「こーんな時だけ……人に頼るんだもんなあ!」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 02:51:45.09 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 闇に包まれた通路 ====

   耳を澄ます三人

   くぐもった自動車の走行音に混じってなにか聞こえてくる

マコト 『……! ……!』 

アスカ、シンジ「日向さんだ! おぉーい!!」

   前方の闇の中  構内道路と思しき道筋を明滅しながら通り過ぎていく前照灯

マコト『使徒、接近中! 繰り返す! 現在、使徒、接近中!』

アスカ、シンジ「……使徒接近!?」

レイ「時間が惜しいわ。近道しましょう」

アスカ「リーダーは私よ。勝手に仕切らないで!」

レイ「……」

アスカ「……で、近道ってどこ?」

   :
   :

==== ダクト ====

   四つんばいになって狭いダクトを進む三人

アスカ「いくら近いからって、これじゃカッコ悪すぎるわ!」

シンジ「ねぇ、使徒って何なのかなあ……」

アスカ「何よ、こんな時に!」

シンジ「使徒……神の使い……天使の名を持つ僕らの敵……」

   シンジの後ろを進んでいるレイ   シンジの方を見る

シンジ「なんで戦うんだろ……」

アスカ「あんたバカぁ? ワケわかんない連中が攻めてきてんのよ!? 降りかかる火の粉は払いのけるのが当ったり前じゃない!」

   :
   :

==== 通路 ====

   道が左右に分かれている

アスカ「うーん……右ね!」

レイ「私は左だと思うわ」

アスカ「うるさいわねぇ! シンジはどうなのよ!?」

シンジ「あの……」

   ちらりとレイを見るシンジ

シンジ「どっちかな……」

アスカ「もう! 私がリーダーなんだから、黙ってついてくればいいのよ!」

*  さっさと歩き出すアスカ

*  不満そうにシンジを見るレイ

*  ため息をつくシンジ

   :
   :
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 02:53:53.25 ID:QHnd+vbz0
==== 通路 ====

シンジ「やっぱり変だよ……上り坂だよ? ここ」

アスカ「やっぱりとは何よ! いちいちうるさい男ね……あ……」

   前方に「7」と書かれたハッチ

アスカ「ほら、今度こそ間違いないわ!」

   扉を蹴り開けるアスカ

アスカ「でええええいっ!!」ガンッ!

   陽光が降り注ぐ市街地 蝉の声

アスカ「……」

ガアアアアアアアン!!

アスカ「きゃっ!!」 ドサッ

   突然、目の前の路面に巨大な物体が突き刺さり、ハッチ内に倒れこむアスカ

   1ブロック先を通り過ぎていく、目玉模様のついた黒い物体

アスカ「えっ!?」

   慌ててハッチを閉じるアスカ

アスカ「はあ……ん?」

   冷たい目でアスカを見てるシンジとレイ

アスカ「……使徒を肉眼で確認! これで急がなきゃいけないのが分かったでしょ?」

*  顔を見合わせるシンジとレイ

*  開き直って歩き出すアスカ

   :
   :
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:01:24.11 ID:QHnd+vbz0
==== 通路 ====

シンジ「まただ……」

   分岐で立ち止まっている三人

レイ「こっちよ」

   歩き出すレイ

アスカ「!」

   小走りに追うアスカ

   :
   :

   レイに続いて歩くアスカ、シンジ

アスカ「あんた、碇司令のお気に入りなんですってね」

レイ「……」

   黙って歩き続けるレイ

アスカ「やっぱ、可愛がられてる優等生は違うわね」

シンジ「こんな時に、やめようよ――」

アスカ「いつも澄まし顔でいられるしさー」

レイ「……」

アスカ「くっ……」

   歩き続けるレイの前に回り込み立ちはだかるアスカ

アスカ「あんた! ちょっと贔屓にされてるからって、なめないでよ!」

レイ「なめてなんかいないわ」

   まだレイを睨んでいるアスカ

レイ「それに、贔屓もされてない。自分で分かるもの」

*シンジ(あ……)

*   昼間のレイの様子を思い出すシンジ

  :
  :
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:11:42.14 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 通路 ====

   突き当たり、R057と書かれた隔壁が損壊し、行く手がふさがっている

シンジ「これは、手じゃ開けられないよ」

レイ「仕方ないわ。ダクトを破壊して、そこから進みましょう」

   隔壁に進み出るレイ

   シンジに耳打ちするアスカ

アスカ「……ファーストって恐い子ね。目的のためには手段を選ばないタイプ――」

   瓦礫の中から黙って鉄パイプのようなものを拾い出すレイ

アスカ「――いわゆる独善者ね」

   隔壁の上方を見上げるレイ

*   黙ってレイの方へ進み出るシンジ

*   自分も道具になりそうなものを漁り出すシンジ

*アスカ「……何よもう!」

*   肩をいからせてにシンジに続き、瓦礫を漁り出すアスカ

   :
   :  
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:13:18.54 ID:QHnd+vbz0
正誤表

>>48

× ==== 通路 ====


○ (中略)

  ==== 通路 ====
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:21:45.53 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== ネルフ本部 ケージ ====

シンジ「――エヴァは?」

リツコ「スタンバイできてるわ」

シンジ「え?」

   薄闇の中にたたずむ初号機を見るシンジ

シンジ「何も動かないのに?」

リツコ「人の手でね。……司令のアイディアよ」

シンジ「父さんの?」

   作業員たちとともに歯を食いしばってケーブルを引くゲンドウ

リツコ「碇司令は、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」

   作業に没頭するゲンドウを見上げているシンジ

* レイを振り返るシンジ

* 微笑むレイ

   :
   :

(中略)

==== 地上 ====

ジュワーーーー……

  縦穴に溶解液を流し込んでいる使徒


==== ネルフ本部 地上付近の立坑に通じる横穴の一つ ====

   投棄され落下するバッテリーを追うように縦穴を断続的に流れ落ちていく使徒の溶解液

   横穴に待避している3機のエヴァ

レイ「――目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりね」

シンジ「どうすんの?」

アスカ「決まってるじゃない、やっつけるのよ!」

シンジ「だからどうやってだよ! ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れちゃったし……あと3分も動かないよ!」

ピピピピピピ……

   減っていく残時間表示

アスカ「作戦はあるわ」

   :
   :

アスカ「ここにとどまる機体がディフェンス。A.T.フィールドを中和しつつ、奴の溶解液からオフェンスを守る」

アスカ「バックアップは下降。落ちたライフルを回収し、オフェンスに渡す」

アスカ「そして、オフェンスはライフルの一斉射にて目標を破壊。これでいいわね?」

レイ「いいわ。ディフェンスは私が――」

アスカ「おあいにくさま。あたしがやるわ」

シンジ「そんな、危ないよ!」

アスカ「だからなのよ。あんたにこの前の借りを返しとかないと、気持ち悪いからね」

シンジ「……」

アスカ「シンジがオフェンス、優等生がバックアップ、いいわね?」

レイ「分かったわ」

シンジ「………うん」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:25:27.94 ID:QHnd+vbz0
アスカ「じゃ、行くわよ! Gehen!」

   縦穴に飛び出す3機のエヴァ

   手足を突っ張って縦穴を塞ぐ弐号機

   その背中に流れ落ちる溶解液

ジュー…

アスカ「うっ……ううっ!!」

   歯を食いしばるアスカ

   スラスターを噴射して減速、縦穴の底に着地する〇号機

   弐号機の下、手足を突っ張って上向を向いて機体を固定する初号機

シンジ「綾波!」

   下方に向かって手を伸ばす

*レイ「くっ……!」

*   歯を食いしばりインダクションレバーを握るレイ

   ライフルを投げ上げる零号機

   キャッチしたライフルを縦穴の上方に向けて構える初号機  

シンジ「アスカ、よけて!」

   ライフルを斉射する初号機

====  地上 ====

ズズズン…

  くずおれる使徒

==== 縦穴 ====

   落下する弐号機  受け止める初号機

アスカ「これで借りは返したわよ」

シンジ「うん」

   :
   :
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:32:19.69 ID:QHnd+vbz0
**** Omit Scene ここから ****

==== 縦穴 ====

ガシーン… ガシーン…

   縦穴をよじ登ってくる零号機

ピピピピピ…

   急速にゼロに近づく残り時間表示

シンジ「綾波、早く!」

レイ「……」

   初号機を見上げながら黙々と零号機を操るレイ

   手を伸ばす零号機

   零号機の手を掴んで、一気に横穴に引き揚げる初号機

ブヒュウウウゥン…

   ゼロを示す残時間表示

ガシャアアアアン…

   横穴の床に倒れこむ初号機 その上に覆いかぶさったまま活動停止する零号機

   青い非常灯の明かりに満たされる初号機プラグ内

シンジ「間に合った……」ハァ…ハァ…

   額の汗を拭くしぐさをするシンジ

   初号機の奥で擱座している弐号機

アスカ『まったく……何やってんのよ、見っともないわね!』

   非常灯が灯った零号機プラグ内

シンジ『綾波、大丈夫?』

   映像はなく音声だけが聞こえる

レイ「……ええ」

   青い闇の中  一瞬きょとんとし、微笑むレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/04(土) 03:43:03.04 ID:QHnd+vbz0
(中略)

==== 夜 市街地を見下ろす斜面の草地 ====

   眼下に、灯りが全て消えたビル群

   寝そべっているプラグスーツ姿のシンジ、アスカ
 
   膝を抱えて座っているレイ
   
シンジ「電気……人工の光が無いと、星がこんなにきれいだなんて、皮肉なもんだね」

アスカ「でも、明かりが無いと人が住んでる感じがしないわ」

   と、点々と明かりが灯って行く市街地

アスカ「――ほら! こっちのほうが落ち着くもの」

レイ「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」

アスカ「てっつがくぅ〜!」

シンジ「だから人間って特別な生き物なのかな……だから使徒は攻めてくるのかな……」

アスカ「あんたバカぁ? そんなの、わかるわけないじゃん」

**** Omit Scene ここから ****

アスカ「さーてと。行くわよ、あんたたち」

   立ち上がるアスカ

   身を起こすシンジ  まだ座ったままのレイ

   街に向かって斜面を下り始めるアスカ

シンジ「行こ」

   レイを振り返るシンジ

シンジ「……ん?」

   くぐもったエンジン音に続いてブレーキ音

   斜面の上方を振り仰ぐ三人  ドアの開閉音

ミサト「みんなー、無事ー?」

   斜面の上方から降ってくるミサトの叫び声

   上方の道路に車両が止まっている  傍らにミサトらしきシルエット 手を振っている

アスカ「……よくここがわかったわね」

   目をしばたたくアスカ

レイ「救難信号」

シンジ「え?」

   片手に携帯電話を持っているレイ パイロットランプが音もなく明滅している

アスカ「あ……あんたにしては気が利くじゃない」

シンジ、レイ「……」

アスカ「ほら、行くわよ!」

   斜面を登り始めるアスカ

   ぽかんとアスカの後姿を見ているシンジとレイ

   不満そうにシンジを見るレイ  困った笑みを浮かべるシンジ

   立ち上がり、アスカの後を追って斜面を登り始めるシンジとレイ

**** Omit Scene ここまで ****

   夜空

   ビル群の明りにかき消されがちな星の光

(第拾壱話 おわり)
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/14(火) 00:28:02.78 ID:n6INX21K0
>>54 修正

「(第拾壱話 おわり)」を削除

>>54の続きから
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/14(火) 00:33:45.67 ID:n6INX21K0
**** Omit Scene ここから ****

==== 数時間後 ネルフ本部 自販機コーナー ====

ピッ…ゴトッ

   自販機の取り出し口に落ちてくるパック飲料

   それを取り出すシンジの手

プシュッ

   スポーツ飲料のパックにストローを刺すシンジの手

シンジ「……」

   S-DATのイヤフォンをしたシンジ  学校の制服姿

   ベンチに腰を下ろし、ストローを口に運ぶ

   「帰らないの?」

   振り返るシンジ

   制服を着て鞄を手にしたレイが立っている

シンジ「ミサトさんを待ってるんだけど……」

   イヤフォンを耳からはずすシンジ

シンジ「アスカが、リツコさんに捕まってるから――」

   ケージ  吊り降ろされる弐号機

   背中の装甲が部分的に融解している

   作業通路でその様子を見ているアスカ、ミサト、リツコ、マヤ

   プラグスーツ姿のアスカが身振りを交えてリツコに何か訴えている

   腰に手を当てて聞いているリツコ

   バインダを胸に抱えてリツコの後ろからアスカの様子を見ているマヤ

   弁明するように言いつのっている風のアスカ

   アスカの後ろ、腕を組んで考えている風のミサト

レイ「――そう」

シンジ「うん……そうだ、綾波も乗せてってもらったら? もう遅いし……」

レイ「……」

  シンジの方を見ているレイ

シンジ「ミサトさんに頼んでみるけど」

レイ「……わかった」

シンジ「うん」

   微笑むシンジ

   傍らに置いてあった鞄をどかすシンジ

   空いた場所に腰掛けるレイ  鞄から本を取り出そうとする

   シンジがS-DATのデッキを鞄の脇に置こうとするのに目をとめるレイ

シンジ「……なに?」

レイ「それ、いつも聞いているのね」

シンジ「え?……ああ、これ」

   手を止めるシンジ

レイ「何を聞いているの?」

シンジ「うーんと……いろいろ。歌とか、クラシックとか――」

レイ「クラシック?」

シンジ「あ、うん、……チェロの曲が多いかな。習ってたから――」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/14(火) 00:36:39.28 ID:n6INX21K0
レイ「……聞いてみたい」

シンジ「これ?」

   イヤフォンを持ち上げてみせるシンジ

   うなづくレイ

シンジ「そ、そう……」

   イヤフォンのケーブルをほどいてレイに渡すシンジ

   両耳にはめるレイ

   再生ボタンを押すシンジ  動き出すテープ

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……何ていう曲?」

シンジ「え? えーと……」

レイ「……」

   イヤフォンをはずして差し出すレイ

   耳に当てるシンジ

シンジ「ああ、無伴奏チェロ組曲だよ、バッハの――」

レイ「碇くんも、弾くの?」

シンジ「えっ?……う、うん、いちおう――」

レイ「聞いてみたい」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

シンジ「い、いや全然、僕のは人に聞かせるような――」

レイ「……」

シンジ「……じゃ、じゃあ、そのうち――」

レイ「そう」

シンジ「う、うん」

  ヘッドフォンをはずしてレイに渡そうとするシンジ

レイ「一緒には、聴けないの?」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

   右手と左手にそれぞれもったイヤフォンを眺めているシンジ

   :
   :

   ベンチに並んで座っているシンジとレイ

   二人の間に置かれているS-DATプレイヤー  テープが回っている

   イヤフォンを片方ずつ、互いに近いほうの耳に挿しているシンジとレイ

   少し紅くなりながらストローで飲料をすすっているシンジ

   ちらりと隣を見る

   姿勢よく座り、目を閉じて聞き入っているレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾壱話 おわり)
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/14(火) 23:39:44.30 ID:LEdiZHl/o
乙です
目に浮かぶ
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:04:22.93 ID:jff3U5Ce0
>>58

ありがとう

>>57のつづきから
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:08:06.87 ID:jff3U5Ce0
第拾弐話 「奇跡の価値は」

(中略)

==== テストプラグ管制室 ====

   窓の向こうに半ばLCLに浸かった3本のエントリープラグ

リツコ「――シンジ君、よくやったわ」

シンジ「何がですか?」

リツコ「ハーモニクスが前回より8も伸びているわ。たいした数字よ」

アスカ「でも、あたしより50も少ないじゃん」

リツコ「あら、10日で8よ。たいしたものだわ」

アスカ「たいしたことないわよ!」

   リツコにくってかかるアスカ プラグスーツ姿

   その後ろで聞いているプラグスーツ姿のシンジ、レイ

アスカ「良かったわねぇ、お褒めの言葉を頂いて」

   シンジを振り返って皮肉交じりに笑って言うアスカ

シンジ「あ……あは…」

アスカ「先に帰るわ! バーカ!」

   言い捨てて立ち去るアスカ  それを目で追うシンジ

*  足音高く管制室を出ていくアスカの後姿   閉まる自動ドア

*  ふと、レイが自分を見ているのに気づくシンジ

*  ため息をつくシンジ

   :
   :

==== 夜 ミサトの自家用車の中 ====

   ラジオから聞こえてくるパーソナリティのトーク

   運転するミサトの横顔をおそるおそる窺うシンジ

シンジ「あ、あの……昇進、おめでとうございます」

ミサト「ありがとう。でも、正直、あまり嬉しくないのよね」

シンジ「あ、それ分かります。僕もさっきみたいに誉められても、あまり嬉しくないし……逆にアスカを怒らせるだけだし……」

ミサト「……」

シンジ「どうして怒ったんだろう……何が悪かったんだろう……」

ミサト「さっきの、気になる?」

シンジ「はい」

ミサト「そうして、人の顔色ばかり気にしているからよ」

   :
   :
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:16:54.09 ID:jff3U5Ce0
==== 夜 ミサトのマンション ====

   玄関のドア

   「御昇進おめでとう 祝賀会場 本日貸切」と貼り紙

子供たち「おめでとうございまーす!」

   乾杯する一同  座卓を囲んでいる

ミサト「ありがとう!……ありがとう、鈴原くん」

トウジ「ちゃうちゃう、言い出しっぺはこいつですねん」

ケンスケ「そう! 企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!」

   芝居がかって直立するケンスケ

ミサト「ありがとう、相田くん」

   ミサトの隣、俯き気味に黙って会話を聞いているシンジ

ケンスケ「いえ、礼を言われるほどのことは何も。当然のことですよ!」

トウジ「せやけど、なんで委員長がここにおるんや?」

アスカ「私が誘ったのよ」

アスカ、ヒカリ「ねー!」

ミサト「レイは?」

アスカ「誘ったわよ、ちゃんと。でも、付き合い悪いのよね、あの子」

シンジ「……」

* ==== レイの部屋 ====

*   明かりが消え、月光が射し込んでいる

*   チェストの上、内服薬の紙袋  少しはみ出している錠剤の包装シート

*   ベッドに腰掛けているレイ  何か指につまんでいる

*     :
*     :

アスカ「んー、加持さん遅いわねー」

ヒカリ「そんなにかっこいいの、加持さんって?」

アスカ「そりゃあもう! ここにいるイモのかたまりとは月とスッポン、比べるだけ加持さんに申し訳ないわ!」

トウジ「なんやてぇ!? もういっぺん言うてみいや!!」

   口論をはじめるアスカとトウジ

ミサト「……まだだめなの? こういうの?」

シンジ「いえ……ただ、苦手なんです。人が多いのって……なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろう」

   ミサトの横顔を窺うシンジ

シンジ「昇進ですか……それって、ミサトさんが人に認められたってことですよね?」

ミサト「ま、そうなるわね」

シンジ「だから、みんなこうして喜んでいるわけですよね……でも、嬉しくないんですか?」

ミサト「ぜんぜん嬉しくないってことはないのよ。少しはあるわ……でもそれが、ここにいる目的じゃないから」

シンジ「じゃあなんでここに……ネルフに入ったんですか?」

ミサト「さて……昔のことなんて忘れちゃった」

   ビール缶をすこし振ってみるミサト  わずかに残ったビールが音を立てる

シンジ「……」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:23:27.18 ID:jff3U5Ce0
(中略)

加持「――いや、この度はおめでとうございます、葛城三佐……これからはタメ口聞けなくなったな」

ミサト「何言ってんのよ、バーカ」

加持「しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、前例のなかったことだ。これも、留守を任せた葛城を信頼してるってことさ」

シンジ「父さん、ここにいないんですか?」

リツコ「碇司令は今、南極に行ってるわ」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 2日後 夕方 レイのマンション ====

   レジャーシートの上、折り畳み式の小さなテーブル

   学校からの配布物らしい紙が載っている

シンジ「――綾波も、来られたらよかったのに」

   テーブルの脇、クッションに座っているシンジ

レイ「いいの」

   テーブルから少し離れたところ ベッドに腰掛けているレイ

   プラスチック製のカップを両手で持っている

レイ「そういうの、あまり好きじゃないから」

シンジ「そう……そうだよね……」

   自嘲するように笑うシンジ

シンジ「南極……何で、南極なんかに行ってるんだろ、父さん」

レイ「……」

   俯いているシンジを見るレイ

シンジ「もし、昨日、父さんがいたら……少しは話せたのかな……」

レイ「……碇司令と、話がしたいの?」

シンジ「話して……何か変わるとは思わないけど……でも……」

レイ「……」

シンジ「でも、辛いんだ……今みたいなまま、エヴァに乗るのは」

レイ「……そう」

シンジ「ごめん、何でこんな話してるんだろ」

レイ「構わないわ」

シンジ「……」

   顔を上げてレイを見るシンジ

シンジ「綾波は、知ってる? ミサトさんの、お父さんのこと」

レイ「葛城博士?」

   頷くシンジ

レイ「知らない」

   カップの中 揺れる液面を見るシンジ

シンジ「聞いたんだ、ゆうべ。ミサトさんの、お父さんは――」

   シンジを見ているレイ

   :
   :

**** Omit Scenre ここまで ****
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:31:17.69 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== 翌日 ネルフ本部 発令所 ====

   コンソールからミサトを振り返るマコト

マコト「二分前に、突然現れました」

ピピピピピ……

  主モニターに映し出される軌道図

女性オペ『第6サーチ、衛星軌道上へ』

男性オペ『接触まで、あと2分』

シゲル「目標を映像で捕捉」

ブイン…

   主モニターいっぱいに映し出される宇宙空間の使徒の映像

   沸き起こるどよめき

マコト「こりゃすごい!」

ミサト「常識を疑うわね」

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 ブリーフィングルーム ====

アスカ「えーっ!? 手で、受け止める!?」

ミサト「そう。落下予測地点にエヴァを配置、A.T.フィールド最大で、あなたたちが直接、

使徒を受け止めるのよ」

シンジ「使徒がコースを大きく外れたら…?」

ミサト「その時はアウト」

アスカ「機体が衝撃に耐えられなかったら?」

ミサト「その時もアウトね」

シンジ「勝算は?」

ミサト「神のみぞ知る、と言ったところかしら」

   :
   :
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:33:27.90 ID:jff3U5Ce0
(中略)

ミサト「すまないわね……終わったらみんなにステーキおごるから」

アスカ「ええっ!? ほんと!?」

ミサト「約束する」

シンジ「わあい!」

アスカ「忘れないでよ!」

ミサト「期待してて」

   立ち去るミサト

シンジ「……ごちそうと言えばステーキで決まりか」

アスカ「今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら? これだからセカンドインパクト世代って、貧乏くさいのよね」

シンジ「仕方がないよ、そんなの」

アスカ「ふん! 何が『わあい』よ。大げさに喜んだりしちゃってさ!」

シンジ「それでミサトさんが気持ちよく指揮できるんなら、いいじゃないか」

アスカ「さてと、せっかくご馳走してくれるって言うんだもの。ど・こ・に・し・よ・う・か・なっと」

   「東京グルメMAP」と表紙に書かれたガイドブックらしい冊子を開くアスカ

アスカ「――あんたも今度はいっしょに来るのよ」

レイ「私、行かない」

シンジ「どうして?」

レイ「肉、嫌いだもの」

シンジ「……」

*   少し驚いた顔でレイを見るシンジ

   :
   :
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:35:40.74 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== ネルフ本部 エレベーター内 ====

   ケージに向かって上昇していくエレベーター内

   プラグスーツ姿で佇むアスカ、シンジ、レイ

   金網のドアの向こうを立坑内の明かりが通り過ぎていく

シンジ「ねえ」

アスカ「何よ」

シンジ「アスカは、なぜエヴァに乗ってるの?」

アスカ「決まってるじゃない、自分の才能を世の中に示すためよ」

シンジ「自分の存在を?」

アスカ「ま、似たようなもんね……あの子には聞かないの?」

   意地悪そうに笑ってレイの方を見るアスカ

   レイの方を見るシンジ レイの斜め後ろの横顔

シンジ「綾波には、前、聞いたんだ」

アスカ「ふーん……仲のおよろしいこと」

シンジ「……そんなんじゃないよ」

*アスカ「……」

*   黙って立っているシンジの横顔

*   やはり黙って立っているレイの斜め後ろ姿

*アスカ「……はん! どうだか!」

*   腕を組んでそっぽを向くアスカ

*シンジ「……」

*   向き直るアスカ

アスカ「シンジはどうなのよ」

シンジ「わからない」

アスカ「わからないって……あんた、バカぁ?」

シンジ「そうかもしれない」

   俯くシンジ

アスカ「……ほんとにバカね」

   立て坑の側壁が切れ金網の向こうに開けるケージの風景

   立ち並ぶ零号機、初号機、弐号機   

   :
   :
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:42:12.32 ID:jff3U5Ce0
==== 昼 とある谷合 ====

   水力発電所のような建造物の手前に待機している初号機

==== 初号機プラグ内 ====

   シートについているシンジ

シンジ「……」

   シンジ回想

   夕暮れ 新第三東京市の都心を見下ろす高台 

ミサト『シンジくん、昨日聞いてたわね。私がどうしてネルフへ入ったのか』

シンジ『……』

ミサト『私の父はね、自分の研究、夢の中に生きる人だったわ。そんな父を許せなかった。憎んでさえいたわ』

シンジ『!』

シンジ(父さんと同じだ……)

(中略)

ミサト『――結局、私はただ、父への復讐を果たしたいだけなのかもしれない……父の呪縛から逃れるために』

   シンジの脳裏によみがえるゲンドウの威圧的な面影、泣いている幼い自分

   初めてネルフ本部を訪れた日

   ギュッと目をつぶるシンジ

シンジ(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)

*  シンジの腕の中、歯を食いしばってうめくレイ

   フラッシュバックする、それ以降の困難に直面した場面の数々

------
----
--

シンジ「そう……逃げちゃだめだ」


==== 発令所 ====

シゲル「目標を最大望遠で確認!」

マコト「距離、およそ2万5千!」

   主モニターに映し出される使徒のシルエット

ミサト「おいでなすったわね……エヴァ全機、スタート位置!」

   クラウチングスタートの姿勢をとるエヴァ各機

   :
   :
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:46:54.74 ID:jff3U5Ce0
(中略)

==== 新第三東京市近郊の山稜 ====

   受け止めた使徒を必死で支える初号機

シンジ「うっ、ぐぁぁ……」

   地面にめり込む初号機の足

   走る零号機と弐号機

レイ「弐号機、フィールド全開!」

アスカ「やってるわよ!」

   落下地点にたどりつき使徒を支える零号機と弐号機

シンジ「今だ!」

   歯を食いしばるレイ

   使徒のA.T.フィールドをナイフで切り開く零号機

アスカ「こんのおおおおおぉっ!」

   目玉状のコアをナイフで突き刺す弐号機

   くずおれる使徒

   大爆発

   残された爆発クレーター

   :
   :   

==== 発令所 ====

   制服姿で立っているレイ、シンジ、アスカ

アスカ「ふふーん!」

   腰に手を当て、得意げに笑うアスカ

シゲル「電波システム、回復。南極の碇司令から、通信が入っています」

ミサト「お繋ぎして」

シゲル「はい」

   スクリーンに現れる「音声 SOUND ONLY」のウィンドウ

ミサト「申し訳ありません。私の勝手な判断で初号機を破損してしまいました。責任はすべて、私にあります。」

冬月『構わん。使徒殲滅がエヴァの使命だ。その程度の被害はむしろ幸運と言える』

ゲンドウ『ああ。よくやってくれた、葛城三佐』

ミサト「ありがとうございます。」

ゲンドウ『ところで、初号機のパイロットはいるか』

シンジ「あ、はい」

   驚いてウィンドウを見るシンジ

ゲンドウ『話は聞いた。よくやったな、シンジ』

シンジ「え?……はい」

   あっけにとられるシンジ

ゲンドウ『では葛城三佐、後の処理は任せる』

ミサト「はい」

   まだ呆然とウィンドウを見ているシンジ

* レイ「……」

*   シンジの右隣、目でシンジの横顔をうかがっているレイ

   :
   :
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:48:50.13 ID:jff3U5Ce0
==== 夜 新第参東京市街 ====

   とあるラーメン屋台の前に佇むレイ、シンジ、アスカ、ミサト

アスカ「ミサトの財布の中身くらい、わかってるわ」

   あっけにとられているミサト

アスカ「無理しなくていいわよ。優等生もラーメンなら付き合うって言うしさ」

レイ「私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

アスカ「私はフカヒレチャーシュー。大盛りね!」

   微笑むミサト

   :
   :

   差し出されるラーメンの椀

店員「へい、フカヒレチャーシュー、お待ち!」

   屋台の席についているレイ、アスカ、ミサト、シンジの後姿

   流れている流行歌  通過する列車の響き

シンジ「ねえ……ミサトさん」

ミサト「なあに?」

シンジ「さっき、父さんの言葉を聞いて、誉められることが嬉しいって、初めて分かったような気がする」

   箸を止めているミサトの横顔

   その向こうで食事を続けているレイ

シンジ「それに、わかったんだ。僕は、父さんのさっきの言葉を聞きたくて、エヴァに乗ってるのかもしれないって」

ミサト「……」

アスカ「あんた、そんなことで乗ってんの?」

   噛みながら割り込むアスカ

   微笑んでいるシンジの横顔

アスカ「……ほんとにバカね」

*   食事を続けているレイの横顔

   :
   :
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/07/26(日) 04:56:03.36 ID:jff3U5Ce0
**** Omit Scene ここから ****

   屋台の赤ちょうちん

ミサト「ごちそうさま」

アスカ「ごっちそーさまっ!」

シンジ「ごちそうさま……」

店員「まいどありい!」

   :
   :

==== 駅前の交差点 ====

   鳴り響くクラクション ほとんど動かない車列

   赤が点灯している歩行者用信号

アスカ「もう!」

   信号待ちをしている人混み

アスカ「まったく、何とかならないの、これぇ?」

   人並みの先頭で大げさに身振りするアスカ

ミサト「仕方ないわよ」

   斜め後ろの人混みに立つミサト 困ったように笑って言う

   ミサトの少し後ろ  ワイシャツ姿の男性の後ろに立っているシンジの横顔

   はっと顔を上げるシンジ

   シンジの薬指と小指をゆるく握っているレイの手

シンジ「……」

   斜め後ろを振り返るシンジ

   真顔で正面を見ているレイ

レイ「よかったわね」

   ぽかんとするシンジ  やがて微笑んで

シンジ「……うん」

   前を向き直るシンジ しばらくしてつぶやくシンジ

シンジ「綾波も、来れてよかった」

   シンジの斜め後ろの横顔を見ているレイ

   またレイを振り返るシンジ 微笑んでいる

   しばらくして微笑むレイ

   青に変わる歩行者用信号

   動き出す人並み  依然として動かない車列

   明るい駅舎の向こう、夜空に聳えるビル群のシルエット その縁で明滅する赤い航空障害灯

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾弐話 おわり)
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:40:41.64 ID:P/0Saxbj0
第拾参話「使徒、侵入」

(中略)

==== ネルフ本部 模擬体管制室 ====

リツコ「――また水漏れ?」

マヤ「いえ、浸蝕だそうです。この上のタンパク壁」

リツコ「まいったわね……テストに支障は?」

マヤ「いまのところは、何も」

リツコ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ……碇司令もうるさいし」

マヤ「了解」

   管制室全景  前方に模擬体の収められた水槽

   窓際に立つリツコとミサトの後姿

   その奥、多数のパイプを埋め込まれたエヴァ模擬体が吊られている

マヤ「シンクロ位置、正常」

男性オペ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」

男性オペ「エヴァ零号機、コンタクト確認」

   モニタ上、零号機の状態表示

   ステータス表示が高速でスクロールしていく

女性オペレータ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」

==== 零号機ケージ ====

シュオオオオオオン…

   立位で固定されている零号機

   なにかが作動する音

==== 第87タンパク壁 ====

   壁面材の継ぎ目にカビのような青黒い染みが広がっている

   と、染みがにわかにまだら状の赤い光を帯びる

==== 模擬体管制室 ====

   鳴り響く警報  赤く明滅する「ALART」の表示

リツコ「どうしたの!?」

女性オペ『シグマユニットAフロアに、汚染警報発令』

男性オペ「第87タンパク壁が劣化、発熱しています」

男性オペ「第6パイプにも、異常発生」

マヤ「タンパク壁の浸蝕部が、増殖しています。爆発的スピードです!」

リツコ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」

マヤ「はい!」

   「全閉鎖」ボタンを押下するマヤの指

   上部に並ぶ7つのトグルスイッチが一度にオフになる

==== 配管スペース ====

   次々に閉鎖される隔壁
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:44:34.82 ID:P/0Saxbj0
==== 模擬体管制室 ====

オペレータ「60、38、39、閉鎖されました!」

オペレータ「6の42に浸蝕発生!」

マヤ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!」

リツコ「ポリソーム、用意!」

   水槽の内壁が開いて水中ドローンが送り込まれる

リツコ「レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!」

   No.6とマーキングされた配管に向かって数機のドローンが近づいていく

ピピピピピ…

マヤ「浸蝕部、6の58に到達――」

   モニタ上、右上から赤色の標示が左下に向かって広がり、「PRIBNOW BOX」と書かれた領域を取り囲む3枚の隔壁に接触する

マヤ「――来ます!」

   模擬体の水槽内を凝視する一同

リツコ、ミサト「……」   

   過ぎてゆく時間

レイ『きゃああああああああっ!』

リツコ「レイ!?」

*シンジ『綾波!?』

*アスカ『な、なに!? どうしたの!?』

*==== 零号機プラグ内 ====

*レイ「く……」

*‘   右腕を押さえて顔をゆがめているレイ

*シンジ『綾波!? 大丈夫!? 綾波!』

ガシイイイイイィン!

   模擬体の右手のひらが、不随意に背面の壁に叩きつけられる

==== 模擬体管制室 ====

マヤ「レイの模擬体が、動いています!」

リツコ「まさか!」

   マヤのコンソールに駆け寄るリツコ

   水槽内、壁に背をつけるように並んだ3体の模擬体

   一番手前の模擬体が拘束を解こうとするように腕を背後の壁面に突っ張る

マヤ「浸蝕部、さらに拡大!」

   No.6と書かれた配管の外壁に急速に黒ずんだ染みが広がっていく

マヤ「模擬体の下垂システムを侵しています!」

ギギギギギ…

   水槽の中、模擬体が観測窓の方を向かって状態をよじる

   せりあがってくる右腕を厳しい表情で見下ろしているミサト
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:49:38.10 ID:P/0Saxbj0
グオオオオオオォ

   観測窓に掴みかかろうとする模擬体の右手

   コンソールの一角、「FORCED SHUTDOWN」と書かれた緊急スイッチのカバーガラスを拳で叩き割り、内部の赤いレバーを掴み一気に引き上げるミサト

   模擬体の右肩が爆破され、右腕が切り離される

*レイ『きゃあっ!!』

*   右肩を押さえて悲鳴を上げるレイ

*シンジ『綾波!』

   ミサトのいる観測窓に向かって惰性で飛んでくる右腕

   観測窓に激突、反動で漂い戻っていく

ミサト「レイは!?」

マヤ「無事です!」

*   プラグ内、右肩を押さえて両目をぎゅっとつぶって歯を食いしばっているレイ

リツコ「全プラグを緊急射出! レーザー、急いで!」

   3体の模擬体の頸部から一斉に上方に射出されるシミュレーションプラグ

*レイ『うっ!』

*シンジ『うわっ!!』

*アスカ『きゃっ!』

   シミュレーションプラグ通過後、天井の隔壁が閉じる

   No.6の配管とレイの乗っていた模擬体に向け、ドローンから一斉に赤色のレーザーが照射される

   と、多角形状の光の壁が展開され、レーザーが反射される

ミサト「A.T.フィールド!?」

リツコ「まさか!」

   水槽中を漂っていた模擬体の右腕、続いて模擬体本体の表面に赤色の

光の染みが広がっていく

ミサト「なに……これ……」

リツコ「分析パターン、青。間違いなく、使徒よ」

   鳴り響く警報

   明滅する「非常事態」「EMERGENCY」の表示

   :
   :
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:54:03.05 ID:P/0Saxbj0
(中略)
==== ネルフ本部 発令所 ====

自動音声『――自爆装置作動まで、あと15秒』

   両手を顔の前に組んで席についているゲンドウ

   モニタ上、「CASPER・3」と書かれた領域が白から赤に急速にモザイク状に塗りつぶされていく

==== マギシステム カスパー筐体内部 ====

ミサト「リツコ、急いで!」

リツコ「大丈夫、1秒近く余裕があるわ」

   膝に乗せた端末のキーボードを猛然と叩きながら応じるリツコ

自動音声『自爆装置作動まで、10秒――』

ミサト「1秒って!」

自動音声『9秒、8秒、7秒――』

リツコ「ゼロやマイナスじゃないのよ」

   モニタ上、カスパー状態表示の左下にわずかに残された白い領域が赤く塗りつぶされていく

自動音声『6秒、5秒――』

リツコ「マヤ!」

マヤ「行けます!」

自動音声『4秒、3秒――』

リツコ「押して!」

自動音声『2秒、1秒、0秒――』

一同「……」

   固唾をのんで推移をみている一同

   モニタ上、カスパー状態表示の左下の1ブロック残った白色が明滅している

   と、そこから白色が一気に全体に広がり、モード表示が「審議中」から「否決」に切り替わる

自動音声『人工知能により、自律自爆が解除されました』

シゲル、マコト「やったあーー!」

   筐体から這い出してくるミサト  安堵の声を上げるミサトとマヤ

自動音声『なお、特例582も解除されました。マギシステム、通常モードに戻ります』

リツコ「はぁ……」

   筐体内、安堵の息をつくリツコ   

   :
   :
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:55:26.92 ID:P/0Saxbj0
==== ジオフロント 地底湖 ====

   湖面に3本のシミュレーションプラグが浮かんでいる

女性オペ『R警報解除。R警報解除――』

==== シンジ用プラグ内 ====

女性オペ『総員、第一種警戒態勢に移行してください――』

シンジ「何がどうなっているんだろう……」

==== レイ用プラグ内 ====

レイ「……」

==== アスカ用プラグ内 ====

アスカ「もおー! 裸じゃどこにも出れないじゃないのー!」

==== 地底湖俯瞰 ====

アスカ『早く誰かたすけてえー!』

**** Omit Scene ここから ****

==== シンジ用プラグ内 ====

   通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」の表示

シンジ「あはは……」

シンジ(そうだよな、裸じゃ……)

シンジ(……裸……)

   シンジの脳内

   バスタオルを首から下げただけのレイの裸身が振り返る

シンジ「……」

   床に横たわっているレイが冷たく見つめ返している

シンジ「……」

   無意識に開閉するシンジの左手

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/02(日) 23:56:23.67 ID:P/0Saxbj0
レイ 『碇くん』

シンジ「えっ?」

   声が裏返っているシンジ

   側面に通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」 と表示

レイ『どうしたの?』

シンジ「えっ!? あ……えっと、あの……」

   膝を引き寄せて丸くなり、真っ赤になって答えるシンジ

==== レイ用プラグ内 ====

   側面に通信ウィンドウが開いている  「SOUND ONLY」の表示

シンジ『――な、なんでもないよ!!』

レイ「……そう」

シンジ『う、うん!』

   新たに通信ウィンドウが開く  「SOUND ONLY」の表示

アスカ『あーっ! イヤらしいこと考えてたわね!』

シンジ『えっ!?』

レイ「……」

   きょとんとした表情のレイ

==== 地底湖俯瞰 ====

   浮いている三本のシミュレーションプラグ

アスカ『――エッチ! バカ! ヘンタイ!!』

シンジ『ち、ちがうよ! 違うってば!』

   続くシンジとアスカの言い争い

    :
    :


**** Omit Scene おわり ****
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/03(月) 00:01:25.33 ID:DLvDJQSV0
==== ネルフ本部 発令所 ====

   床からせりあがり基部の複雑な配管が露出しているマギ=カスパーの筐体

   その傍ら、シートに腰掛け、コーヒーカップの液面を見つめているリツコ

   操作卓に腰を預けて立ち、リツコを見下ろしているミサト  片手にコーヒーカップ

リツコ「――私は母親にはなれそうも無いから、母としての母さんは分からないわ。だけど、科学者としてのあの人は尊敬もしていた。……でもね、女としては憎んでさえいたの」

   両手で包んだカップのコーヒーをあおるリツコ

ミサト「今日はお喋りじゃない」

リツコ「たまにはね」

グオオオオオン…

   床に向かって沈んでいくカスパーの筐体

リツコ「カスパーにはね、女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいることを守ったのね、ほんと、母さんらしいわ」

   立ち上がるリツコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 模擬体管制室 ====

リツコ「――以上が、今回の事故のあらましよ」

   観測窓を背に立つリツコ

   背後の水槽内、何人ものダイバーが破損した模擬体の修復作業に従事している

   リツコの前に立っているアスカ、その左に立つシンジ、レイ  学校の制服姿

   彼らの背後、操作卓のカバーを開け、オペレーターたちが何か作業をしている

リツコ「質問は?」

アスカ「結局、手抜き工事が原因ってこと?」

リツコ「手抜き工事じゃないわ。施工不良よ」

   リツコの傍ら、少し居心地が悪そうにバインダを胸に抱えて立っているマヤ

   目だけでちらりとリツコの表情を覗う

アスカ「どっちだっていいわよ! 何やってんのよ、もう! こっちは体張ってるのにー!」

   観測窓に向かって悪態をつくアスカ
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/03(月) 00:20:03.89 ID:DLvDJQSV0
   子供たちの背後、壁に背を預けて厳しい表情で腕組みをしているミサト

ミサト(そう……あの子たちの命に関わる事態だったのに……)

   眉をひそめるミサト

ミサト(委員会はともかく、司令はなぜ、あの子たちにまで事実を伏せようとするのかしら……)

シンジ「あの……テストは、もうやらないんですか?」

リツコ「いいえ。模擬体を含め、システムの修復が済み次第、再テストということになるわね」

アスカ「えーーーっ!? 乗る前のあれをもう一回やれって言うの!?」

リツコ「そうよ。もっとも、次のテストがいつできるようになるか、今の段階では何とも言えないけど」

   まだリツコにくってかかっているアスカ

   その様子をぼんやりと聞いているシンジ

   ふと左隣のレイの様子を振り返る

   関節を試すように右腕を少し動かすレイ

シンジ「痛いの?」

   小声で聞くシンジ

レイ「少し、違和感があるだけ」

シンジ「リツコさんには言ったの?」

レイ「ええ」

シンジ「そっか」

   また少し腕を動かすレイ

   制服の半袖がすこしずり上がり、白い二の腕が半分ほど露わになる

シンジ「……」

レイ「……なに?」

シンジ「えっ?」

   真顔でシンジを見ているレイ

シンジ「べっ……別に……」

   少し赤くなって前を向くシンジ

レイ「……」

   しばしシンジの横顔を見てから、リツコとアスカのやりとりに注意をもどすレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾参話 おわり)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:22:23.26 ID:YIYxGk++0
第拾四話 「ゼーレ、魂の座」

(中略)

レイ(――山。重い山。時間をかけて変わるもの)

レイ(空。青い空。目に見えないもの。目に見えるもの)

レイ(太陽。一つしかないもの)

レイ(水。気持ちのいいこと)

レイ(碇司令?)

レイ(花。同じ物がいっぱい……いらないものもいっぱい)

レイ(空。赤い、赤い空)

レイ(赤い色。赤い色は嫌い)

レイ(流れる水。血)

レイ(血の匂い。血を流さない女)

レイ(赤い土から作られた人間、男と女から作られた人間)

レイ(街。人の作り出したもの)

レイ(エヴァ。人の作り出したもの)

レイ(人は何? 神様が作り出したもの。人は人が作り出したもの)

レイ(私にあるものは命。心。心の入れ物)

レイ(エントリープラグ。それは魂の座)

レイ(これは誰? これは私)

レイ(私は誰? 私は何? 私は何? 私は何? 私は何?)

レイ(私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私)

レイ(でも、私が私でない感じ。とても変。体が融けていく感じ)

レイ(私が分からなくなる。私の形が消えていく。私でない人を感じる)

レイ(誰かいるの? この先に……)

レイ(碇くん)

*レイ(……かけがえのない人)

*レイ(あの人を思うと、とても不思議。不思議な気持ちになる)

*レイ(ずっと一緒にいたような感じ。私が私になる前から)

*レイ(どうして? あの人を見ると、心が動く)

レイ(この人知ってる。葛城三佐)

レイ(赤木博士……みんな……クラスメイト……弐号機パイロット)

レイ(……碇司令)

レイ(あなた誰? あなた誰? あなた誰?――)

   :
   :

レイ「……」ハッ…

==== 初号機プラグ内 ====

ヴォーーーー

リツコ『どう? レイ。初めて乗った初号機は」

レイ「……碇くんの匂いがする」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:23:29.55 ID:YIYxGk++0
==== 管制室 ====

ピピピピピ…

リツコ「シンクロ率は、ほぼ零号機のときと変わらないわね」

マヤ「パーソナルパターンも酷似してますからね。零号機と初号機」

リツコ「だからこそ、シンクロ可能なのよ」

   二人のやりとりを腕組みして聞いているミサト

マヤ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」

リツコ「レイと初号機の互換性に問題点は検出されず」

==== 初号機プラグ内 ====

リツコ『では、テスト終了。レイ、あがっていいわよ』

レイ「はい」

   周囲の光景が消え、ただの金属の壁面に戻る

   :
   :

(中略)

==== 零号機ケージ ====

マヤ『エントリー、スタートしました』

==== 零号機プラグ内 ====

女性オペ『L.C.L.電化』

マヤ『第一次接続開始』

リツコ『どう?シンジ君。零号機のエントリープラグは』

シンジ「なんだか、変な気分です」

マヤ『違和感があるのかしら?』

シンジ「いえ、ただ―」

==== 弐号機プラグ内 ====

シンジ『――綾波の匂いがする……』

アスカ「なーにが匂いよ! 変態じゃないの?」

   ひとりごちるアスカ

   :
   :

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:24:08.17 ID:YIYxGk++0
(中略)

==== 管制室 ====

ミサト「どう?」

リツコ「やはり初号機ほどのシンクロ率は、出ないわね」

マヤ「ハーモニクス、すべて正常位置」

リツコ「でもいい数値だわ。これであの計画、遂行できるわね」

マヤ「ダミーシステムですか?先輩の前ですけど、私はあまり…」

リツコ「感心しないのは分かるわ。しかし備えは常に必要なのよ。人が生きていく

ためにはね」

マヤ「先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも、納得はできません」

リツコ「潔癖症はね、辛いわよ。人の間で生きていくのが」

マヤ「……」

リツコ「汚れた、と感じたとき分かるわ。それが」

マヤ「……」

   顔をしかめるマヤ

==== 零号機ケージ ====

   拘留されている零号機

女性オペ『第3次接続を開始』

ググググ…

   顔を上げる零号機
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:26:25.45 ID:YIYxGk++0
(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

リツコ『――A10神経接続開始』

マヤ『ハーモニクスレベル、プラス20』

シンジ『!?』ハッ!…

   目を見開くシンジ

シンジ(何だこれ!?)

   額を押さえるシンジ

シンジ(頭に入ってくる……直接……何か……)

   細切れに想起されるイメージ

   レイの顔

   病室から去っていくレイ

   包帯を巻いている制服姿のレイ

   点滴を挿されストレッチャーに横たわっているプラグスーツ姿のレイ

シンジ(綾波?)

   レイのマンション、床に横たわりシンジを見返しているレイ

   校庭で座っている体操着姿のレイの後姿

   停電したネルフ本部内、拾い上げた金属のパイプを持ち、天井が崩落し塞がれた通路を見つめるレイ

   プラグスーツ姿で佇むレイ

   レイのマンション、ブラウスを着るレイの後姿

   零号機ケージ、ゲンドウに微笑んで受け答えするレイの横顔

   頭に包帯を巻き顔をしかめるレイ

   包帯を巻かれストレッチャーで運ばれていく入院着のレイ

   レイのマンション  バスタオルを首から下げてこちらを睨んでいるレイ

シンジ(綾波レイ?)

   シンジの頬を叩くレイ

   プラグスーツ姿で佇むレイの静かな横顔

   初号機の前面、閃光をバックにシールドを掲げている零号機の後姿

   シンジが踏み込んだ零号機プラグ内、苦しげに眼を開くレイ

   二子山仮設ケージ  月光を背景に佇むレイ

   *ネルフ本部の図書室  夕刻のオレンジ色の陽光を背に振り返る制服姿のレイ

   *レイのマンション  山盛りに紅茶葉をすくったスプーンをシンジに見せるレイ

   *商店の軒先、シンジが贈ったしおりが挟まれた本を鞄から取り出すレイ

   *駅前の人ごみ   振り返ったシンジに微笑み返すレイ

シンジ(綾波レイだよな、この感じ……)

   電線から飛び立つスズメたち

   道路の先、陽炎の中に佇む制服姿のレイ

   それを見つめているシンジ

   道路の先、誰もいない   

シンジ「綾波……違うのか!?」

   レイのイメージが急速にシンジに迫る
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:28:43.09 ID:YIYxGk++0
==== 零号機ケージ ====

   突如動き出す零号機

   拘束具を引きちぎろうとする

==== 管制室 ====

ミサト「どうしたの!?」

男性オペ「パイロットの神経パルスに異常発生」

マヤ「精神汚染が始まっています!」

リツコ「まさか!このプラグ深度ではありえないわ!」

マヤ「プラグではありません、エヴァからの侵蝕です!」

==== 零号機ケージ ====

   拘束具を壁から引きちぎる零号機

マヤ「零号機、制御不能!」

==== 管制室 ====

リツコ「全回路遮断、電源カット!」

==== 零号機ケージ ====

   零号機背面のソケットがロケット噴射で遠ざかる

   頭をかかえてもがく零号機

マヤ『エヴァ、予備電源に切り替わりました』

男性オペ『依然稼働中』

   管制室の観測窓ににじり寄っていく零号機

   観測窓の中央にプラグスーツ姿で佇んでいるレイ

==== 管制室 ====

ミサト「シンジ君は?」

マコト「回路断線、モニターできません!」

リツコ「零号機がシンジ君を拒絶!?」

マヤ「だめです、オートエジェクション、作動しません!」

リツコ「また同じなの!? あの時と……シンジ君を取り込むつもり!?」

   レイが立っている観測窓に拳を叩きこむ零号機

   割れて管制室内に飛び散る観測窓の破片

ミサト「レイ、下がって! レイ!」

   窓際に立ち厳しい表情で正面を見ているレイ

*レイ(碇くん……なぜ?)

==== 零号機ケージ ====

マヤ『零号機、活動停止まで、あと10、9、8、7――」

   頭部をケージ壁面に叩きつける零号機

マヤ『6、5、4、3、2、1、ゼロ!」

ギュウウウウウゥン…

   不自然な姿勢で停止する零号機

マヤ『零号機、活動を停止しました』

==== 管制室 ====

ミサト「パイロットの救出急いで!」

ミサト(まさか、レイを殺そうとしたの? 零号機が!)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:30:19.31 ID:YIYxGk++0
**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 病室 ====

   ベッドに寝かされているシンジ

   少し眉をひそめた表情のまま眠っている

   ベッドの傍ら  椅子に座り本を読んでいるレイ  学校の制服姿

**** Omit Scene ここまで ****

==== 会議室 ====

ミサト「この事件、先の暴走事故と関係があるの? あのレイのときと」

リツコ「今はまだ何も言えないわ。ただ、データをレイに戻して、早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」

ミサト「作戦課長として、可及的速やかにお願いするわ。仕事に支障が出ないうちにね」

リツコ「分かっているわ。葛城三佐」

   退室するミサト   残されるリツコ

リツコ(零号機が殴りたかったのは私ね……間違いなく)


==== 病室 ====

シンジ「……」ハッ…

   目を覚ますシンジ  半身を起こす

ラジオ音声『それでは、次の万国びっくりさんは、なんと! 算数のできるワンちゃんの登場です!……』

   また仰向けに横たわるシンジ

シンジ「嫌だな……またこの天井だ」

==== 発令所 ====

   受話器をコンソールに置くマコト

マコト「シンジ君の意識が戻りました。汚染の後遺症はなし。彼自身は何も覚えてないそうです」

ミサト「そう……」


==== 夜 ミサトのマンション ====

   不機嫌そうな顔で自室のベッドに仰向けに寝転んでいるアスカ

ラジオの音声『はーい、私は元気にやってんだけど、世間では南沙諸島をめぐ

ってのテロが――』

アスカ(ミサトも加持さんも教えてくれない。シンジは知りもしない)

アスカ「ファーストって、どんな子なの?」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 朝  新第三東京市立第壱中学校 ====

   校舎外観

キーンコーンカーンコーン…

教師「あー綾波……綾波はまた休みか。……まあいい」

   教室内   レイのいない席を後ろからぼんやり見ているシンジ

   :
   :
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:33:19.08 ID:YIYxGk++0
==== 午後 レイのマンション ====

   レイの部屋の前

   ドアをノックしようと拳を上げるシンジ  ふと通路の向こうを振り返る

シンジ「あ……」

   制服姿で手ぶらのレイが立っている

   歩いてくるレイ

   破頑するシンジ

シンジ「ちょうどよかった――」

   鞄から学校の配布物らしき紙を取り出すシンジ

シンジ「はい、これ」

   受け取るレイ

レイ「……」

シンジ「な、なに?」

レイ「ボタン」

シンジ「え?」

   自分の胸元を見るシンジ

   ワイシャツのボタンの一つが取れかかってぶらぶらしている

シンジ「あれ? ほんとだ、おかしいな――」

   シンジの脇をすり抜けてドアを開けるレイ

レイ「上がって」

   部屋に入っていくレイ

シンジ「――え?……あ、あの……」

   続くシンジ

レイ「直すから」

   室内、チェストを開け中を探っているレイ

シンジ「え?」

   学校教材らしき裁縫道具箱を手に振り返るレイ

シンジ「って……これ?」

   シャツの胸元、ぶら下がっているボタンをつまむシンジ

シンジ「い、いいよ!……悪いし――」

レイ「脱いで」

シンジ「いや、あの……」

   箱を開け、道具を取り出しているレイ

シンジ「あ……綾波、裁縫、できるの?」

レイ「教科書で、読んだもの」

   赤面し、ばつが悪そうにレイを見るシンジ

   一番上のボタンに指をかける

   :
   :
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:35:41.26 ID:YIYxGk++0
   部屋の中央の椅子に所在無げに腰かけているシンジ  Tシャツ姿

   ベッドに背筋を伸ばして腰掛け、シンジのシャツを繕っているレイ
   
   ふと、手を止め、シャツを鼻先に持ち上げる

シンジ「あ!……汗臭いよ!?」

レイ「……」

   少し考えてから作業を再開するレイ

レイ「……っ……」

   顔をしかめるレイ

シンジ「どうしたの!?」

   腰を浮かすシンジ

   シャツの下になっていた指を出すレイ

   先端に小さい血の球

シンジ「絆創膏! 絆創膏、どこ!?」

   :
   :

   ベッドに腰を掛けているレイ

   その指に絆創膏を巻いてやっているシンジ  真剣な表情

   少し頬を赤らめて大人しく手当されているレイ

   :
   :

レイ「――できた」

   シャツを広げるレイの手  さらに何枚か絆創膏が増えている

シンジ「あ……ありがとう」

   腰を浮かせるシンジ

   シャツを持って歩み寄るレイ

   受け取ろうとするシンジ

   シンジの目の前で何か確かめようと視線を宙に彷徨わせるレイ

シンジ「ん?」

   そのまま顔を寄せてくるレイ

シンジ「な……なに?」

レイ「……碇くんの匂いがする」

シンジ「え?」

   目を閉じてシンジの体臭を確かめようとしているレイ

   紅くなっているシンジ  目と鼻の先にレイの青い髪

   鼻の穴が少し広がる   
 
   ためらいがちにシンジの両腕がもちあがり、レイの背に廻りかける

   目を開くレイ

シンジ「!」

   ぱっとシンジの体側にもどる両腕

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:37:02.45 ID:YIYxGk++0
レイ「……なに?」

   少し怪訝に体側を見るレイ

シンジ「いっ……いや! その……」

レイ「……」

シンジ「あっ……綾波の……匂いが、する……」

   気を付けの姿勢で固まっているシンジ

レイ「……」

   不思議そうにシンジの顔を見るレイ

   :
   :

   ベッドに腰掛けているレイ

   紅茶の入ったグラスが汗をかいている  液面に氷が浮いている

シンジ「――ねえ」

   椅子に腰かけ、手の中のグラスを見ているシンジ

レイ「なに」

シンジ「綾波の母さんって……どんな人?」

レイ「……いない」

シンジ「えっ?」

レイ「いないわ」

シンジ「ご……ごめん。知らなかったから」

レイ「構わないわ」

シンジ「……」

レイ「……」

シンジ「……あの……お父さんは――」

レイ「いない」

シンジ「――そ、そう……」

レイ「……」

シンジ「えっと……事故……か何かで?」

レイ「わからない」

   少し眉根を寄せるレイ

シンジ「……覚えてないの?」

レイ「いいえ、知らないの」

   俯いているレイ

シンジ「知らない……って……」

   怪訝な顔をするシンジ

レイ「私が知っているのは、碇司令と、ネルフ本部だけ」

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:39:14.23 ID:YIYxGk++0
シンジ「父さん?」

レイ「それと、赤木博士」

シンジ「……ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

シンジ「だって……僕、綾波のこと、何もわかってなかった」

レイ「でも、知ろうとしたわ」

シンジ「あ……当り前だよ!」

   驚いた顔をするレイ

   少し怒ったような、困ったような表情のシンジ

レイ「……」

   微笑むレイ   

   :
   :

==== 夕暮れ 新第参東京市街を見下ろす山腹 ====

   駐車場に止められた青いルノー

   運転席についているミサト      

男の声『――サードチルドレンは、ファーストチルドレンの自宅を出ました』

ミサト「そう」

   襟のマイクに向かって答えるミサト

男の声『その都度、報告が必要ですか?』

ミサト「……」

   少し考えるミサト

ミサト「いいえ……必要ないわ」

男の声『了解しました』ブツッ

   市街地を見下ろすミサト

ミサト(あの部屋は、諜報部の監視も及ばない)

   わずかに眉をひそめるミサト

ミサト(碇司令は、何をしようとしているの?……あの子たちを使って)

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 司令執務室 ====

   桂馬を将棋盤に指す冬月の指

冬月「予定外の使徒侵入……その事実を知った人類補完委員会による突き上げか。ただ文句を言うことだけが仕事の、くだらない連中だがな」

ゲンドウ「切り札はすべてこちらが擁している。彼らは何もできんよ」

冬月「だからといってじらすこともあるまい。今、ゼーレが乗り出すと面倒だぞ。いろいろとな」

ゲンドウ「すべて、われわれのシナリオ通りだ。問題ない」

冬月「零号機の事故はどうなんだ? 俺のシナリオにはないぞ、あれは」

ゲンドウ「支障はない。レイと零号機の再シンクロは成功している」

冬月(レイにこだわり過ぎだな、碇……)

冬月「アダム計画はどうなんだ?」

ゲンドウ「順調だ。2パーセントも遅れていない」

冬月「では、ロンギヌスの槍は?」

ゲンドウ「予定通りだ。作業はレイが行っている」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/10(月) 15:41:53.17 ID:YIYxGk++0
==== ターミナルドグマ ====

ズシン…ズシン…

レイ「……」

   右腕にロンギヌスの槍を携え、水平の坑道を奥に進んでいく零号機   

**** Omit Scene ここから ****

==== 司令執務室 ====

冬月「常に血で濡らされたロンギヌスの槍……」

ゲンドウ「神を殺し、また神を生む力をもった槍……事は我々のシナリオどおりだよ」


==== ターミナルドグマ リリスの間 ====

   磔にされたリリスに向き合う零号機

   片手にはロンギヌスの槍

レイ(私……ためらってる)

レイ(なぜ? どうして? この槍を刺すだけでいいのに)

   リリスの仮面を見ているレイ

レイ「……」

   表情を引き締めるレイ

   リリスの心臓のあたりに槍を突き刺す零号機

   :
   :


**** Omit Scene ここまで ****

(第拾四話 おわり)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/08/13(木) 08:08:43.65 ID:hq/r9yI40
支援
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:26:38.10 ID:RqOiZdQp0
>>89
ありがとう 支援はうれしい
BD&DVD BOX発売までに投下完了と思っていたけど
とても間に合いそうもないな
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:40:55.64 ID:RqOiZdQp0
第拾伍話 「嘘と沈黙」

(中略)

==== 午後 新第三東京市立第壱中学校 2年A組教室 ====

レイ「……」

   床に膝をついて雑巾を絞るレイ

   水を張ったバケツに水が滴り落ちる

シンジ「……」

   その様子に見とれているシンジ

トウジ「メーン!!」パシッ…

シンジ「っ!……」

   シンジの頭にふいに打ち下ろされるホウキ

「まじめにやらんかい!」

   構えているトウジ

シンジ「ごめん……」

ヒカリ「まじめにやるのは、掃除でしょ!」

   廊下から戻ってきてトウジに怒鳴るヒカリ

   :
   :

(中略)

==== 放課後 ネルフ本部 実験場管制室 ====

ピピピピ…

   窓の向こう、半ばL.C.Lに浸かっている3本のテストプラグ

リツコ「――三人とも、あがっていいわよ」

==== 初号機プラグ内 ====

ヴォーーーー…

シンジ「……」

   目を開くシンジ


リツコ『お疲れさま』

アスカ『あーあ、テストばっかでつまんなーい!』

シンジ「……」

   右隣のプラグの方、レイの横顔を映した通信ウインドウを見るシンジ

   プラグ内壁モニタが切れ、ウインドウと風景が消え、灰色の壁面に戻る


==== 管制室 ====

リツコ「そう言えば、今日はまた一段と暗いわね、シンジくん」

ミサト「……明日だからね」

リツコ「そうね。明日ね……」

   :
   :
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:48:46.82 ID:RqOiZdQp0
==== ネルフ本部 エレベーター内 ====

カチン…カチン…

   切り替わっていく階数表示

   ドアの前に立つレイ

   その後ろ、壁際に立つシンジ

*シンジ「綾波」

*レイ「なに」

*シンジ「綾波は……父さんとはいつもどんな話してるの?」

*レイ「どうして」

シンジ「明日、父さんに会わなきゃならないんだ。何話せばいいと思う?」

レイ「どうして私にそんなこと聞くの」

シンジ「いつか、綾波が父さんと楽しそうに話ているのを見たから……」

   零号機のアンビリカルブリッジ上、会話しているゲンドウとレイの横顔がシンジの脳裏によみがえる

シンジ「ねえ、父さんって……どんな人?」

   レイの後姿に問うシンジ

*   口を開きかけるレイ

レイ「……わからない」

シンジ「……そう」

   俯くシンジ

*レイ「怖いの? 碇司令と会うのが」

*シンジ「……よく、わからない」

*レイ「この前、ほめてもらえて、嬉しかったんじゃなかったの?」

*シンジ「うん……でも……」

*レイ「……」

*シンジ「あのあと、口聞いてないし……結局、何も変わってないっていうか……」

*ゲンドウ『帰れ!』

*   シンジの脳裏をよぎるゲンドウの威圧的な姿

*レイ「……」

*シンジ「僕には、父さんが何を考えているかわからなくて……話して何か変わるかどうか、わからないけど……」

*レイ「……」

*   顔を上げるシンジ

*シンジ「嫌なんだ……こんな気持ちのまま、エヴァに乗ってるのは……」

*  俯くシンジ

*レイ「なら、そう言えば」

*シンジ「……え?」

*  顔を上げるシンジ

*  レイがこちらを振り返り、静かに見つめ返している

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:50:27.70 ID:RqOiZdQp0
*レイ「思ってる本当のこと、碇司令に言えばいいのよ」

*   驚いた顔でレイを見るシンジ

*レイ「そうしないと、何も始まらないわ」

*シンジ「……」

*レイ「……なに?」

*シンジ「うん。その……そうだね」

*   少し困った笑みを浮かべるシンジ

*レイ「……」

*シンジ「綾波の言うとおりだと、思う」

*レイ「……」

*   少し俯き、ドアに向き直るレイ

*レイ「……外でこんなに話すなんて、初めて」

*シンジ「えっ?」

*レイ「今日は、碇くん、すごくおしゃべりみたい」

*シンジ「あ……ご、ごめん……」

レイ「それが聞きたくて昼間から私のほうを見てたの?」

シンジ「うん……」

レイ「……」

シンジ「あ、掃除のときさ、今日の……雑巾絞ってたろ? あれって、なんか『お母さん』って感じがした」

レイ「お母さん?」

   わずかにシンジの方に顔を向けるレイ

シンジ「うん……」

   昼間のレイの様子を思い浮かべるシンジ

シンジ「なんか、お母さんの絞り方、って感じがする」

   シンジに背を向けたまま赤面しているレイ

シンジ「案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして。はは……」

*   赤面しているレイの横顔

レイ「何を言うのよ……」

   :
   :

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:52:24.98 ID:RqOiZdQp0
==== 夜 ミサトのマンション リビング ====

テレビ音声『――なによ……あの時別れようって言ったのは、あなたの方じゃない!!――』

   寝転んでテレビドラマを見ているアスカ

ミサト「ただいまー」

アスカ「おかえりー」

   入ってくるミサトの足

ミサト「もう寝なさいよー。明日デートなんじゃなかったの?」

アスカ「そ、美形と。あ、そうだ」

   起き上がるアスカ

アスカ「ねえ、あれ貸してよ。ラベンダーの香水」

ミサト「だめ」

アスカ「ちぇっ、ケチぃ!」

   奥の部屋で着替えているミサト

ミサト「子供のするもんじゃないわ。……シンジくんは部屋?」

アスカ「こもりっぱなしよ。父親に会うのがイヤみたい。嫌なら嫌って言えばいいのに、日本人てのはねー!」

   また寝転ぶアスカ

ミサト「嫌、っていうわけでもないのよ。……それが問題なのよね……」

   :
   :

==== シンジの部屋 ====

   ベッドに仰向けに寝転んでいるシンジの足

   見上げた天井の灯具をぼんやり見つめているシンジ

   思い浮かぶゲンドウの様々な姿

ゲンドウ『帰れ!』

シンジ「……」

   開いたエレベーターの扉の向こうから威圧的に見下ろすゲンドウ

   停電したケージで作業員とともにワイヤーを引くゲンドウ

シンジ「……」

ゲンドウ『よくやったな、シンジ』

   SOUND ONLYの通信ウィンドウ越しに聞こえるゲンドウの声

   それを聞いているシンジとレイ

*レイ『思ってる本当のこと、碇司令に言えばいいのよ』

*シンジ「……」

*シンジ(思ってる本当のこと……か……)

ミサト「シンジくん?」

シンジ「!」

   目を見開くシンジ

ミサト「開けるわよ」

   開く襖

   壁の方を向き、ミサトに背を向けて横たわっているシンジ

ミサト「恐いの? お父さんと二人で会うのが」

シンジ「……」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 00:57:15.96 ID:RqOiZdQp0
ミサト「逃げてばかりじゃだめよ。自分から一歩を踏み出さないと、何も変わらないわ」

*   はっと目を開けるシンジ

*レイ『そうしないと、何も始まらないわ』

シンジ「分かってるよ……」

   壁を向いたまま不満げに応じるシンジ

ミサト「これから分かるのよ。最初の一歩だけじゃなく、その後に続けることも大切だっていうことが」

シンジ「……」

ミサト「とにかく、明日は胸を張っていきなさい。お母さんにも会うんだから。……じゃ、お休み」

   閉じる襖

   目をギュッと閉じたままうつ伏せになり枕に顔をうずめるシンジ

   :
   :

(中略)

==== 翌日 午後 共同墓地 ====

   緩やかに起伏する大地

   見渡す限りつづく質素な墓標の群れ

   佇むシンジ

   ユリの花束を抱え、墓標の一つの前に立っている

   「IKARI YUI 1977-2004」と刻まれている

ゲンドウ「3年ぶりだな。2人でここに来るのは」

   シンジの後ろに立っているゲンドウ

シンジ「僕は、あの時逃げ出して、その後は来てない。ここに母さんが眠ってるって、ピンと来ないんだ。顔も覚えてないのに」

   墓標の前に跪き、花束を供えているシンジ

ゲンドウ「人は思い出を忘れる事で生きていける。だが、決して忘れてはならない事もある」

シンジ「……」

ゲンドウ「ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた。私はその確認をするためにここへ来ている」

   立ち上がるシンジ

シンジ「写真とか無いの?」

ゲンドウ「残ってはいない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」

シンジ「先生の言ってたとおり、全部捨てちゃったんだね」

ゲンドウ「すべては心の中だ。今はそれでいい」

シンジ「……」

   :
   :
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:00:15.83 ID:RqOiZdQp0
キイイイイイイイィン…

   降下してくるネルフのVTOL機

ゲンドウ「時間だ。先に帰るぞ」

   振り返りゲンドウに相対するシンジ

   踵を返し、着地しかけているVTOLに向かって歩き始めるシンジ

   VTOLの窓際、レイが座っているのがわかる

*   シンジの方を見ているレイ  瞬きをひとつする

シンジ「父さん!」

   振り返るゲンドウ

シンジ「あの!……今日は、嬉しかった。父さんと話せて」

ゲンドウ「……そうか」

   :
   :

ドオオオオオオォ…

   飛び去っていくVTOL

   見上げているシンジ  しばらくして踵を返し歩み去る

   :
   :

==== 夕暮れ ミサトのマンション ====

   聞こえてくるチェロの音

   バッハ 無伴奏チェロ組曲

   ダイニングの椅子に腰かけチェロを奏でているシンジの後姿

ペンペン「……」クゥーー…

   自分のベッドで寝ているペンペン

   最後の長音を弾き終えるシンジ

   背後から聞こえてくる拍手

シンジ「ん……」

   振り返るシンジ

   戸口に私服姿のアスカが立っている

アスカ「結構いけるじゃなーい。そんなの持ってたの」

シンジ「5歳のときから始めてこの程度だからね……才能なんて別にないよ」

アスカ「継続は力、か。少し見直しちゃった」

シンジ「先生に言われて始めたことだし、すぐやめてもよかったんだ」

アスカ「じゃあ、なんで続けてたのよ」

シンジ「誰もやめろ、って言わなかったから……」

アスカ「やっぱりね」

   シンジの脇をすり抜け、リビングに寝転がるアスカ

シンジ「早かったんだね。夕飯、食べてくるんだと思った」

アスカ「退屈なんだもん、あの子。だからさ、ジェットコースター待ってるあいだに、帰ってきちゃった」

シンジ「それはないと思うな……」

   リビングに大の字になっているアスカ

アスカ「あーあ! まともな男は加持さんだけね」

   屋外から聞こえる救急車のサイレンの音
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:13:25.71 ID:RqOiZdQp0
*シンジ「……」

*アスカ「さてと……よっ! ……と」

*   弾みをつけて起き上がるアスカ

*アスカ「着替えてこーようっと」

*    自室に向かうアスカ

*シンジ「……」

*   見るともなしに見送るシンジ

*   向き直り、床にかがむシンジ

*   床に置かれたS-DATのデッキ  テープが回っている

*   ボタンを押すシンジの手 テープの回転が止まる

*   拾い上げるシンジの手

*   イヤフォンを耳にはめて何か操作しているシンジ

*   しばらく何かの操作をしたあと、イヤフォンをはずし、またデッキを床に置くシンジ

*   デッキを何か操作したあと、弓を構え、またチェロの演奏を始める

   :
   :

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ダイニング ====

   受話器を耳に当てているシンジ

シンジ「――はい……はい……じゃ」ピッ…

   電話を切るシンジ

   奥から髪をタオルで拭きながら入ってくるアスカ

アスカ「ミサト?」

シンジ「うん。遅くなるから先に寝ててって」

アスカ「ええっ!! 朝帰り……って事じゃ、ないでしょうね!?」

シンジ「まさか。加持さんも一緒なのに」

アスカ「あんたバカァ!? だからでしょ!」

   :
   :

(中略)

==== 夜の路上 ====

ミサト「――あの時だって、加持君を利用してただけかもしれない! 嫌になるわ!」

   泣きじゃくるミサト

加持「もういい! やめろ!」

ミサト「自分に絶望するわよ!……んっ……」

   ミサトの肩をつかみ、唇をふさぐ加持

   ミサトの手から滑り落ちるハイヒール

   ためらいがちに加持の体側にそえられ、また垂れ下がるミサトの手

   :
   :
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:19:33.16 ID:RqOiZdQp0
==== ミサトのマンション ダイニング ====

*   リビングとの境の戸口 柱に背を預けて床に座っているシンジ

*   イヤフォンをはめ、膝に乗せた雑誌をめくっている

*   開かれている音楽誌

*   めくったページに付箋を貼るシンジの手

*   ステージ上、楽団をバックに正装した演奏家がチェロを構えている写真

*   手前にいると思われる指揮者を見つめている

*   さらにページをめくるシンジ

   テーブルに突っ伏して指で天板をこつこつと叩いているアスカ

アスカ「ねえシンジ……キスしようか」

シンジ「え? なに?」

   耳からイヤフォンを外しながら聞きかえすシンジ  イヤフォンから漏れ出す音楽

   手前の暗いリビングで寝入っているペンペン

アスカ「キスよ、キス。した事ないでしょ?」

シンジ「うん……」

   怪訝な顔で応えるシンジ

アスカ「じゃあ、しよう」

   テーブルから身を起こすアスカ

シンジ「え……」

   息を呑んで後ずさるシンジ

シンジ「……どうして!?」

アスカ「退屈だからよ」

シンジ「退屈だから……って、そんな!」

   赤面して俯くシンジ

   意地悪い笑みを浮かべるアスカ

アスカ「お母さんの命日に、女の子とキスするの嫌? 天国から見てるかもしれないからって」

シンジ「……別に」

   憮然とするシンジ

アスカ「それとも、恐い?」

シンジ「恐かないよ! ……キスくらい」

   立ち上がるシンジ

アスカ「歯、磨いてるわよね」

   立ち上がるアスカ

シンジ「うん……」

アスカ「じゃ、行くわよ」

   歩み寄るアスカ

   近づく顔と顔

   ふと止まるアスカの動き

   目を開けるシンジ
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:23:14.01 ID:RqOiZdQp0
アスカ「鼻息こそばゆいから、息しないで」

シンジ「あ……っ!?」

   シンジの鼻をつまんで一気に唇を押し付けるアスカ

   首筋まで紅くなるシンジ

   固まったまま動かないシンジとアスカ

   シンジとアスカの間を関心なげにすり抜けて自室に入っていくペンペン

   紅くなり、やがて青ざめるシンジの手

シンジ「ぶはっ!!………はあああっ……」

   後ろに跳びすさり、大きく呼吸をつくシンジ

アスカ「……っ……」ダダダッ…

   洗面所に駆けこむアスカ

   聞こえてくるうがいの音

アスカ「うっえーっ! やっぱ暇つぶしにやるもんじゃないわ!」

   続いて聞こえてくるうがいの音

   戸口にぽつねんとたたずむシンジ

*   シンジの足元   広げられたままの音楽誌とS-DATデッキ

   :
   :

==== ミサトのマンション 玄関 ====

プシュー…

   開く玄関ドア

加持「ほら、着いたぞ。 しっかりしろ!」

   自力歩行できないミサトに肩を貸して入ってくる加持

シンジ「加持さん」

   ダイニングから玄関に顔をのぞかせるシンジ

アスカ「えーっ!」

   飛び出してくるアスカ

アスカ「あ、加持さん!」

   :
   :

  自室の布団にうつ伏せに横たわり寝息を立てているミサト

  閉まる襖

加持「――じゃあ、俺は帰るから」

アスカ「加持さんも泊まっていけば?」

加持「この格好で出勤したら、笑われちゃうよ」

   着崩れた礼服の襟をつかんで見せる加持

アスカ「えー?」

   玄関に向かう加持に追いすがるアスカ

アスカ「大丈夫よ! ねえ、加持さんってばあ!」

加持「ハハ……またな」

   加持の腕にまとわりついていたアスカ  何かに気付きはっとして立ち止まる

   そのまま歩み去る加持

   眉をひそめるアスカ

アスカ「……ラベンダーの香りがする」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:28:37.85 ID:RqOiZdQp0
==== 玄関先 ====

加持「すまないが二人とも、葛城のこと頼んだぞ」

シンジ「はい」

加持「じゃ、おやすみ」

シンジ「おやすみなさい」

   立ち去る加持  閉まるドア

ピッ…

   ロックをかけるシンジ  先ほどからリビングの戸口に立ったままのアスカに気付く

シンジ「どうしたの? 元気ないね」

   我に返るアスカ

アスカ「あんたとキスなんかしたからよっ!!」

   自室へ走り去るアスカ

シンジ「……」

   唖然として見送るシンジ

   :
   :

==== 翌朝 第一中学校 2年A組 教室 ====

教師「えー、では、続いて女子。綾波……」

教師「お?……綾波は、今日も休みか?」

シンジ「……」

   頬杖をついてレイの空席を見つめるシンジ

   その背後の席、不機嫌そうに学習用端末の画面を見ているアスカ



==== その頃 ネルフ本部 大深度地下施設中央部 セントラルドグマ ====

シュオー…ドクン…ドクン…

   天井を占める脳を思わせる配管

   そこから続く脊髄のような配管から床につながっている透明な円柱

   内部に満たされた液体に浸かっている裸身のレイ 目を閉じている

   その様子をフロアで見ているゲンドウ

   目を開けるレイ  微かに笑みを浮かべているようにも見える

   微笑むゲンドウ

   佇むゲンドウの後姿

**** Omit Scene ここから ****

   踵を返し歩み去るゲンドウ

レイ(やっぱり……)

   表情を曇らせるレイ

レイ(私のことを気遣ってくれているようでも、本当は他の人のことを思っている)

   L.C.Lに揺れているレイの髪

レイ(何も始まっていないのは、私の方だわ……)

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:36:03.14 ID:RqOiZdQp0
(中略)

**** Omit scene ここから ****

==== 夕方 レイの部屋 ==== 

   折り畳みテーブルの上

   紅茶のカップが二つと学校からの配布物、付箋の張られた音楽誌が置かれている

   ベッドに並んで腰掛けているシンジとレイ

   互いに近いほうの耳にイヤフォンをひとつずつ挿している

   間に置かれているS-DATデッキのテープが回っている

   少し赤面して座っているシンジ

   かすかにチェロの音色が漏れている

   隣のレイの様子をちらりと窺う

   姿勢よく座り目を閉じて聞き入っているレイ

シンジ「あ……あの……」
  
レイ「なに?」

   目を閉じたまま聞き返すレイ

シンジ「綾波は……その……」

   赤くなって正面を見ているシンジ

   膝においた手を無意識に握ったり開いたりしている

シンジ「キ……キス!……したこと……ある?」

   目を開くレイ  正面を見たまま

レイ「ないわ」

シンジ「じゃ、じゃあ……してみる?」

レイ「……」

   シンジの顔を見るレイ

レイ「どうして」

シンジ「どうして……って……ことは、ないんだけど……その……」

レイ「……」

シンジ「あの……怖く……ない?」

レイ「怖くないわ」

   見つめ返しているレイ

シンジ「じゃ、じゃあ、いくよ?」

   赤面したまま顔を引き締めるシンジ

レイ「ええ」

   近づいていくシンジの顔

シンジ「あ……あの……」

レイ「なに」

シンジ「目……つぶってくれる?」

レイ「……」

   目を閉じるレイ

   ふたたび近づくシンジの顔

   少し躊躇し、やがてレイの唇に触れるシンジの唇
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:40:25.54 ID:RqOiZdQp0
   鳴り響いている重機の音

   顔を離すシンジとレイ

シンジ「……」

レイ「……」

   シンジを見ているレイ

   紅くなって見つめ返しているシンジ

   ゆらりとシンジの肩に額を預けるレイ

   驚くシンジ

シンジ「あ、綾波!?」

レイ「……体に、力が入らない」

   細い声で言うレイ

シンジ「えっ?」

レイ「もう少し、このまま」

   目を閉じているレイ  頬が少し紅い

シンジ「……」

   紅くなって目だけで自分の肩にかかるレイの青い髪を見下ろすシンジ

レイ「……どうして、こういうこと、するの?」

   目を閉じたままシンジの肩でつぶやくレイ

シンジ「えっ?」

   わずかに目を開くレイ

レイ「セカンドに、言われたの?」

シンジ「えっ!?……い、いや……あの……」

レイ「セカンドと、したの?」

シンジ「!」

   言葉につまるシンジ

   ゆっくりと身を起こし、シンジの目を見つめるレイ

シンジ「きゅ、急に聞かれて!……僕も、あの……ムキになってたって言うか……その――」
   
レイ「もう、しない?」

   真顔で問うレイ

シンジ「しっ……」

レイ「……」

   赤くなってレイの顔を見るシンジ

   少し汗をかいている

シンジ「……しない」

レイ「そう」

   シンジを見つめる赤い瞳

   見つめ返しているシンジの瞳

   瞳に写っているレイの顔

   :
   :
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/17(月) 01:43:51.17 ID:RqOiZdQp0
  ベッドに腰掛け、互いに上体を少し捻って向き合っているシンジとレイの体  顔は見えない

  レイの上体がシンジの方にさらに少し捻りながら伸びあがる

  一瞬硬直するシンジの上体

  そのまま静止する二人の体

  おずおずと持ち上がりレイの肘の上あたりに添えられるシンジの手

   :
   :

ヒグラシの声

夕日を受けて輝いている市街地のビル群

**** Omit Scene  ここまで ****

(第拾語話 おわり)
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/18(火) 00:02:01.73 ID:coJOReuYo
乙!
よくやったなシンジ
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:18:09.42 ID:xeUJh5yt0
>>104
 ありがとう

■正誤表

>>4
×トウジ「いらっしゃたで〜!」
○トウジ「いらっしゃったで〜!」


表記の統一漏れ
>>70
×女性オペレータ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」
○女性オペ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」

>>71
×オペレータ「60、38、39、閉鎖されました!」
×オペレータ「6の42に浸蝕発生!」

○男性オペレ「60、38、39、閉鎖されました!」
○男性オペレ「6の42に浸蝕発生!」

>>103の微修正版から再開します
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:20:11.23 ID:xeUJh5yt0
   ベッドに腰掛け、互いに上体を少し捻って向き合っているシンジとレイ(顔は画面の上端外になっていて見えない)

   レイの上体がシンジの方にさらに少し捻りながら伸びあがる

   一瞬硬直するシンジの上体

    そのまま静止する二人の体

    おずおずと持ち上がりレイの肘の上あたりに添えられるシンジの手

   :
   :

   ヒグラシの声

   夕日を受けて輝いている市街地のビル群

**** Omit Scene  ここまで ****

(第拾語話 おわり)
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:25:53.80 ID:xeUJh5yt0
第拾六話 「死に至る病、そして」

(中略)

==== 朝 ミサトのマンション ダイニング ====

   浴室から飛び出してきたアスカ バスタオルを巻いた格好で不満を並べている

アスカ「――シンジって、なんだか条件反射的に謝ってるように見えんのよねー! 人に叱られないようにさ!」

シンジ「ごめん……」

   学校の制服にエプロンをしているシンジ

アスカ「ほらあ! 内罰的過ぎるのよ、根本的に!」

ミサト「まあまあ、それもシンちゃんの生き方なんだから――」

   ビールを片手になだめるミサト

アスカ「彼の生き方を容認するなんて、甘い! 最近ミサト、シンジに甘すぎるんじゃない!?」

ミサト「そぉ?」

   両手鍋をもったままあきれ顔でやり取りを見ているシンジ

アスカ「加持さんと撚りが戻ったからって、他人に幸せ、押し付けないでよね!」

ミサト「加持なんかとは何でもないわよ――」

プルルルルル…ブツッ

   誰も受話器をとらないまま留守電が作動する

加持『よう、葛城。酒のうまい店、見つけたんだ。今晩どう? じゃ――』

ミサト「あ……」

アスカ「どーせ私はフケツな大人の付き合いなんて、した事ないわよ!」

   延々と不満を述べるアスカ

   あきれ顔で聴いているシンジとミサト

アスカ「なにさ! 保護者ぶったりしてさ。偽善的! 反吐が出るわ!」

   カーテンを閉めて浴室に消えるアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 朝 通学路 ====

   喋りながら歩いているシンジ、トウジ、ケンスケ

   ふと顔を上げるシンジ

   レイが横の道から文庫本を読みながら歩いてくる

   本の読み終わった方のページにしおりが挟まっている

シンジ「あ、綾波」

   無表情に顔を上げるレイ

シンジ「おはよう」

レイ「……おはよう」

   また文庫本に視線をもどし歩み去るレイ

シンジ「……」

   立ち止まって、しばし歩み去るレイをぼんやり見送るシンジ

   先日のレイのマンションでの口づけの場面がよみがえる

   少し赤面するシンジ

シンジ「ん?」

   我に返るシンジ  後ろで固まっているトウジとケンスケ
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:29:06.01 ID:xeUJh5yt0
シンジ「どうしたの?」

ケンスケ「綾波が――」

トウジ「挨拶しよった!」

シンジ「えっ?……うわっ!!」

トウジ「おいシンジ! なんや今のは!?」

シンジ「い……今のって?」

ケンスケ「綾波が挨拶するなんて今までいっぺんもなかったじゃないかっ!」

シンジ「あ……挨拶くらい! ……するんじゃないかな……」

トウジ「さては、お前らなんかあったな!?」

シンジ「な、何かって……」

ケンスケ「ちくしょう、なんだよ碇ばっかり……」

トウジ「ミサトさんのような美人と暮しとるだけじゃ、飽き足らんとでも言うんかあ!?」

シンジ「な、なんでそうなるの!?」

   文面に視線を落としたまま黙々と歩くレイ

   その後方、まだ言い合いながら歩いてくる三人

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 放課後 ネルフ本部 実験場管制室 ====

   窓の向こうには半ばL.C.Lに浸かった3本のテストプラグ

   コンソールにつくマコト、マヤ達オペレーター

   バインダに何か書きつけているリツコ

   腕組みして実験の様子を見ているミサト

ミサト「――どう?サードチルドレンの調子は?」

マヤ「見てくださいよ」

   嬉しそうに報告するマヤ

ミサト「え?」

ピピピピピ…

   1号テストプラグのハーモニクス・シミュレーショングラフの画面

ミサト「ほおー……これが自信につながればいいんだけどねー」

=== 1号テストプラグ内 ====

ミサト『聞こえる? シンジ君』

   目を開けるシンジ

シンジ「ミサトさん! 今のテストの結果、どうでした?」

   通信ウィンドウの中、親指を立ててみせるミサト

ミサト『はーい、ユー・アー・ナンバーワン!!』

   満面の笑みを浮かべるシンジ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:31:19.57 ID:xeUJh5yt0
**** Omit Scene ここから ****

==== 0号テストプラグ内 ====

ヴォーーーー…

  目を開くレイ

シンジ『――ホントですか!?』

ミサト『ほんとよ。 これが終わったら、詳しい結果を説明するから――』

  左隣のプラグに重なっている1号プラグ内ウィンドウを見るレイ

  笑っているシンジの横顔

レイ「……」

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== パイロット更衣室 ====

アスカ「まーいっちゃったわよねー! あーっさり抜かれちゃったじゃない?」

   脱ぎ捨てられた赤いプラグスーツ

   学校の制服に着替えているアスカの後姿

レイ「ここまで簡単にやられると、正直ちょっと悔しいわよねー」

レイ「……」

   黙々と着替えているレイ

アスカ「すごい! すばらしい! 強い! 強すぎる!」

   大げさに身振りを交えて喋り続けているアスカ

アスカ「あー、無敵のシンジ様ぁ! これであたし達も楽できるってもんじゃないのー! ねー!」

   着替え終わったレイ

   ロッカーを閉じる

アスカ「まあねー、私たちもせいぜい置いてけぼり食わないように、頑張らなきゃ!」

   部屋を出ていくレイ

レイ「さよなら」

   閉じる自動ドア

アスカ「……」

ガンッ!

   ロッカーのドアに叩き込まれるアスカの拳

アスカ「くっ!……」

   悔しさに震えているアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 夜 路線バスの車内 ====

   後部座席に背筋を伸ばして座り、本を読んでいるレイ

   その隣で本を読みながら小さく鼻歌を歌っているシンジ

   シンジの様子を横目で見るレイ

レイ「嬉しいの?」

シンジ「え?」

レイ「今日のテストの結果」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:34:20.72 ID:xeUJh5yt0
シンジ「そりゃ嬉しいよ! 初めて一番になったんだもん」

レイ「前にシンクロ率が良かったときは、そんなに嬉しそうじゃなかったわ」

シンジ「――え?」

   ぽかんとレイを見るシンジ

シンジ「そ、そうかな……」

レイ「……」

シンジ「そう……だったかもしれない」

レイ「今は違うの?」

   少し考えるシンジ

シンジ「うん……何ていうか……ちょっと前とは違う感じで……」

   シンジを見ているレイ

レイ「……」

シンジ「何か、こう……わかったような気がするんだ。だから――」

レイ「……」

シンジ「よくわからないけど……嬉しいんだと思う」

レイ「そう……よかったわね」

   レイを見るシンジ

   わずかに笑みを浮かべているレイ

シンジ「うん!」

   微笑んで答えるシンジ

   :
   :

=== バス停付近 ===

   方向指示器を点滅させながら近づいてくるバス

==== バスの車内 ====

   立ち上がるレイ

   軽く握手を交わすシンジとレイ

レイ「おやすみなさい」

シンジ「うん……おやすみ」

   微笑むシンジ

   ほどかれる手と手

==== バス停 ====

   降りてくるレイ

   閉まるドア  方向指示器を点滅させながら走り出すバス

   行き過ぎるバスの窓  シンジが手を小さく振っている

   少しバスを見送ってから踵を返し歩み去るレイ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:39:09.95 ID:xeUJh5yt0
==== バスの車内 ====

   バスの後部座席、一人で座っているシンジ

シンジ「……」

   先ほど握った手の感覚を確かめるように右手を握ったり開いたりしている

   目を閉じるシンジ

   軽く握られている右手

   昼のシンクロの感覚を思い出そうとするシンジ

   目を閉じているシンジ

   テストプラグ内の回想  プラグスーツに包まれている自分の腕

   目を閉じているシンジ

   エヴァ初号機の頭部

   目を閉じているシンジ

   初号機の右手

   目を閉じているシンジ

   不意に力強く握り締められる初号機の手

   目を開くシンジ

   握られているシンジの右手

**** Omit Scene ここまで ****

アナウンス『次は、セイショウカノセ、セイショウカノセ。古本、中古ソフトの店、バシャール前』

   右手を握ったり開いたりしているシンジ

シンジ「……よし!」

   前の方の座席に座っている小学生らしき子供たちがシンジのしぐさを見て笑っている

シンジ「あ……」

   我に返り、少し困った表情になるシンジ

   :
   :


==== 昼 ネルフ本部 発令所 ====

   鳴り響く警報音  明滅する警報表示

女性オペ『西区の住民避難、あと5分かかります!』

男性オペ『目標は微速で進行中。毎時2.5キロ』

   開くドア  駆け込んでくるミサト

リツコ「遅いわよ」

ミサト「ごめん!」

   シゲルの方を振り向くミサト

ミサト「どうなってんの!? 富士の電波観測所は!!」

シゲル「探知してません。直上にいきなり現れました」

マコト「パターンオレンジ。A.T.フィールド、反応無し!」

ミサト「……どういうこと!?」

リツコ「新種の使徒!?」

マヤ「マギは判断を保留しています」

ミサト「もう……こんな時に碇司令はいないのよね……」

   :
   :
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:45:28.17 ID:xeUJh5yt0
==== 市街地 ====

   ビル群の上空をゆっくりと移動していく白黒の球体

   そのあとをビルの陰に隠れながら移動するエヴァ初号機

ミサト『みんな聞こえる?目標のデータは送ったとおり。今はそれだけしか分からないわ』

   ライフルを構えている零号機 

ミサト『慎重に接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空外への誘導も行う』

   ビルの陰に隠れて斧を構えている弐号機

ミサト『先行する1機を残りが援護。よろしい?』

アスカ「はーい、先生! 先鋒はシンジ君がいいと思いまーす!」

シンジ「はあ?」

アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?

シンジ「……」

アスカ「それともシンちゃん、自信無いのかなぁ?』

   顔をしかめて聞いているシンジ

==== 発令所 ====

シンジ『行けるよ!……お手本見せてやるよ、アスカ!』

アスカ『んなっ……な、なんですってぇ!?』

   困った顔で二人のやりとりを聞いているミサト、リツコ、オペレーターたち

ミサト「ちょっと、あなたたち……」

   主モニターに映し出された各エヴァのプラグ内画像

シンジ『言ったでしょ、ミサトさん。ユー・アー・ナンバーワン、って』

ミサト「いや、あれは……」

シンジ『戦いは男の仕事!』

   親指を立ててみせるシンジ   消えるシンジのウィンドウ

アスカ『前時代的ぃ! 弐号機、バックアップ!』

レイ『零号機も、バックアップにまわります』

   つぎつぎと消えるウィンドウ

ミサト「あの子達、勝手に……」

リツコ「シンジ君、ずいぶん立派になったじゃない?」

ミサト「だめよ、帰ったら叱っておかなきゃ」

リツコ「……あなた、いい保母さんになれるわよ」

(中略)

==== 市街地 ====

   ビル影から球体の様子を窺う初号機

シンジ(まだか……)

   零号機と弐号機のいると思しき方角に視線を走らせるシンジ

   右手を握り締めるシンジ

シンジ(こっちで、足止めだけでもしとく!)

   ビル影からさっと身を乗り出し拳銃を発砲する初号機

   着弾と同時に消失する球体
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:49:16.59 ID:xeUJh5yt0
==== 発令所 ====

リツコ「消えた!?」

ピーーーー!

ミサト「なに?」

マコト「パターン青、使徒発見!初号機の直下です!」

==== 市街地 ====

   初号機の足元にさっと広がる黒い円形の影

シンジ「はっ! か、影が……あっ!!」

   影がふいに泥沼のようになり初号機の足元が沈下していく

   足元の陰に向かって発砲する初号機

   なおも沈んでいく初号機

シンジ「何だよこれ、おかしいよ!」

   直上を見上げて目を見張るシンジ

   白黒の球体がエヴァ初号機の直上にいつの間にか浮かんでいる

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「あ……」

   怯えた表情のシンジ

ミサト『シンジ君、逃げて! シンジ君!?』


==== 零号機プラグ内 ====

   初号機がいると思しき方角を振り返るレイ

レイ「碇くん!!」

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「バカ! 何やってんのよ!」

(中略)

==== 発令所 ====

シンジ『ミサトさん! どうなってるんですか!? ミサトさん! アスカ、綾波、援護は!? ミサトさん! 聞こえてます!? ミサトさん!!』

   我に返るミサト

ミサト「プラグを強制射出! 信号送って!」

マヤ「だめです!反応ありません!」

==== 市街地 ====

   首だけ見えている初号機   さらに沈んでいく

シンジ『ミサトさん! ミサトさあああぁん!!』

   ついに影に飲み込まれ見えなくなる初号機

ミサト「シンジ君!」

   走る弐号機

ミサト『アスカ、レイ! 初号機を救出! 急いで!』
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:52:20.83 ID:xeUJh5yt0
(中略)

   斧とナイフを足掛かりにビルの屋上に逃れる弐号機

   振り返ると一面タールの海のような陰に兵装ビル群が傾いて半ば沈んでいる

アスカ「街が!」

ミサト『アスカ、レイ。後退するわ』

アスカ「えっ……ちょっ――」

レイ『待って!!』

アスカ「!」

   零号機の通信ウィンドウをみやるアスカ

レイ『まだ初号機と碇君が!!』

   必死の表情のレイに目を奪われるアスカ

==== 発令所 ====

   俯き、肩を震わせているミサト

ミサト「命令よ……下がりなさい」

リツコ「……」

   :
   :

==== とあるビルの屋上 仮設発令所 ====

シゲル「国連軍の包囲、完了しました」

ミサト「影は?」

マコト「動いてません。直径600メートルを超えたところで停止したままです。でも、地上部隊なんて役に立つんですか?」

ミサト「プレッシャーかけてるつもりなのよ、私たちに」

   使徒を見ていた双眼鏡を降ろすミサト

アスカ「やれやれだわ! 独断専行、作戦無視。まったく、自業自得もいいとこね! 」

   腰に手をあてて使徒のいる方を眺めているアスカの後姿

   その手前、壁によりかかって腕組みして立つレイ

   アスカの様子を横目で見ている

アスカ「昨日のテストでちょっといい結果が出たからって、お手本を見せてやる? ははあ!! とんだお調子もんだわ!……ん…… 」

   立ちはだかるレイ

   アスカを冷たく睨む

アスカ「な、何よ……シンジの悪口を言われるのが、そんなに不愉快!?」

レイ「あなたは、人に誉められるためにエヴァに乗ってるの?」

アスカ「違うわ! 他人じゃない。自分で自分を誉めてあげたいからよ!」

ミサト「やめなさい、あなたたち」

   使徒の方を眺めているミサトの後姿

ミサト「そうよ……確かに独断専行だわ」

アスカ、レイ「……」

ミサト「だから……帰ってきたら叱ってあげなくちゃ」

**** Omit Scene ここから ****

アスカ「……フン! ほんっと、ミサトはシンジに甘いんだから!!」

   肩をいからせて立ち去るアスカ

115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/23(日) 23:57:49.38 ID:xeUJh5yt0
   まだ睨んでいるレイ

ガチャン…

   アスカが入っていったハッチが閉まる

   振り返るレイ

   先ほどの姿勢のまま、黒い海を見晴るかしているミサト

   その様子をしばらく眺め、やがて俯くレイ

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)
==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「ん?」

   周囲の景色が赤みを帯びていることに気付くシンジ

シンジ「水が濁ってきてる! 浄化能力が落ちてきてるんだ!」

   浮遊物を手ですくうしぐさをするシンジ

シンジ「うっ!」ゴボゴボゴボ…

   口を押えて目を見開くシンジ

シンジ「生臭い…… 血? 血の匂いだ!」

   内壁上面の非常ハッチを開こうとするシンジ

シンジ「嫌だ! ここは嫌だ! なんでロックが外れないんだよ!」

   内壁を力任せに叩くシンジ

シンジ「開けて! こっから出して! ミサトさん、どうなってるんだよ、ミ

サトさん! アスカ! 綾波!……リツコさん……父さん……」

   うずくまるシンジ

シンジ「お願い、誰か、助けて……」

   :
   :

==== 夜 仮設発令所 ====

ミサト「エヴァの強制サルベージ?」

リツコ「現在、可能と思われる、唯一の方法よ」

リツコ「992個、現存する全てのN2爆雷を、中心部に投下。タイミングを合わせて残存するエヴァ2体のA.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路1000分の1秒だけ干渉するわ」

リツコ「その瞬間に、爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する」

ミサト「でも、それじゃあエヴァの機体が……シンジ君がどうなるか……救出作戦とは言えないわ!」

リツコ「作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ」

ミサト「ちょっと待って!」

リツコ「この際、パイロットの生死は問いません」

ミサト「!」

パシッ!

   リツコの頬を打つミサト  上空をヘリが飛び去っていく

リツコ「……シンジ君を失うのは、あなたのミスなのよ! それ、忘れないで!」

ミサト「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由は何!?」

   リツコにつかみかかるミサト

ミサト「エヴァって何なの!?」

リツコ「あなたに渡した資料が全てよ!」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:00:55.45 ID:cAuTFgys0
ミサト「嘘ね!」

   遠くを行き過ぎていくサイレン

リツコ「ミサト、私を信じて」

ミサト「……」

リツコ「この作戦についての一切の指揮は、私が執ります」

   メガネを拾い上げ、ミサトの脇をすり抜けているリツコ

   拳を握りしめ立ちつくすミサト

リツコ「……関空には便を廻すわ。航空管制と空自の戦略輸送団にも連絡を」

男性オペ『了解』

ミサト(セカンドインパクト……補完計画……。まだ……まだ私の知らない秘密があるんだ……)


**** Omit Scene ここから ****

   トレーラーハウスのような仮設の部屋の入口の階段を上がっていくレイ

==== 仮設パイロット控室 ====

   入ってくるレイ

   数人の女性職員が働いている

女性職員「――ううん、それはサードのよ。ファーストはそっち」

女性職員「これね」

   手提げ袋に収められたレイたちの衣類、手荷物などを整理して並べている

レイ「……」

   シンジの手荷物の袋

   たたまれた学生服の上にS-DATプレイヤーが載っている

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 仮設発令所 ====

ピピピピピ…

マコト「エントリープラグの予備電源、理論値ではそろそろ限界です」

マヤ「プラグスーツの生命維持システムも危険域に入ります」

リツコ「12分予定を早めましょう。……シンジ君が生きている可能性が、まだあるうちに」



**** Omit Scene ここから ****

==== 仮設パイロット控室 ====

   ベンチに腰掛け、目を閉じてシンジのS-DATを聞いているレイ

   わずかにチェロの音が漏れている

女性オペ『作戦開始、30分前』

   目を開けるレイ

女性オペ『各パイロットは搭乗して待機――』  

   立ち上がるレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:04:54.71 ID:cAuTFgys0
==== 初号機プラグ内 ====

(中略)

シンジ「ここは嫌だ……一人はもう、嫌だ……」

シンジ「保温も、酸素の循環も切れてる……寒い……だめだ、スーツも限界だ……ここまでか……もう、疲れた……何もかも……」

   目を閉じるシンジ

   ひそめられていた眉が緩む

   シンジの頬に射す光

   光る空間で膝を抱えて浮かんでいる裸身のシンジ

   髪の長い大人の女性のような光のシルエットがシンジを抱きしめるように包み込む

シンジ「お母さん?」

   こちらにかがみこんでいる女性のシルエット

   逆光で顔立ちはよくわからない

女性「もういいの?」

   両手で赤い飴玉のようなものを付きだして、笑って何か話している幼児

   シンジに似ている

女性「そう……よかったわね」

   :
   :

==== 明け方 市街地 ====

シゲル「エヴァ両機、作戦位置」

マヤ「A.T.フィールド、発生準備よし」

   ビルの上、たたずむ弐号機と零号機

リツコ「了解」

マコト「爆雷投下、60秒前」

   上空、伸びてくる多数の飛行機雲

**** Omit Scene ここから ****

==== 弐号機プラグ内 ====

   使徒のいる方に身を乗り出すように構え、表情を引き締めているア

スカ

==== 零号機プラグ内 ====

   インダクションレバーを握り締めているレイ

   その太腿のあたり

   シンジのS-DATが留められている  

*** Omit Scene ここまで ****

==== 市街地 ====

   使徒の影が落ちた路面に突然亀裂が入り、割れていく

アスカ「何が始まったの!?」

ピーッピーッ…

ミサト「状況は?」

マコト「分かりません!」

マヤ「全てのメーターは、振り切られています!」

   突如、球体が破れ、大量の血のような駅が噴き出す

   這い出してくる初号機  中空に向かって咆哮する
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:08:48.19 ID:cAuTFgys0
リツコ「まだ何もしていないのに!」

ミサト「まさか、シンジ君が!?」

リツコ「ありえないわ! 初号機のエネルギーは、ゼロなのよ!?」

   どよめく一同

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「私、こんなのに乗ってるの?」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」

   :
   :

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

ミサト「シンジ君、大丈夫!? シンジ君!」

   シンジに縋って泣くミサト

シンジ「……ただ会いたかったんだ、もう一度……」

   ミサトの後ろ、初号機プラグの戸口に立ってあきれ顔のアスカ

アスカ「……叱るんじゃなかったの?」

*   プラグ外、アスカの後ろで佇んでいるレイ

*   右手にS-DATを携えている

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

ザアアアアアアアァ…

   大量の水で高圧洗浄されている初号機

リツコ「私は今日ほど、このエヴァが恐いと思ったことはありません。本当ににエヴァは味方なのでしょうか?」

ゲンドウ「……」

リツコ「私たちは、憎まれているのかもしれませんね」

   オレンジ色の雨合羽を羽織って作業を眺めているゲンドウとリツコ

リツコ「葛城三佐、何か感づいているかもしれません」

ゲンドウ「そうか……今はいい」

リツコ「レイやシンジ君がエヴァの秘密を知ったら、許してもらえないでしょうね」

ゲンドウ「……」

   :
   :

==== 夕暮れ ネルフ本部 病室 ====

   ヒグラシの声

   目を開けるシンジ

*   ページをめくる音

*   本を読んでいるレイ  ベッド脇に腰かけている

*   本にシンジが贈ったしおりが挟まれている

*   その様子を見ているシンジ

   それに気づきシンジの方を見るレイ

   起き上がるシンジ

レイ「今日は寝ていて。後は私たちで処理するわ」

   立ち上がるレイ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:11:58.10 ID:cAuTFgys0
シンジ「うん……でも、もう大丈夫だよ」

レイ「そう、よかったわね」

シンジ「!」

   はっとするシンジ

   開く自動ドア  覗き込んでいたアスカが慌てて引っ込む

   思わず吹き出すシンジ  病室の外、ばつが悪そうにしているアスカ

   歩み去るレイ  閉じるドア

   ふと右手の匂いをかぐシンジ

   ふたたびベッドに仰向けに横たわる

シンジ「取れないや……血の匂い」

   :
   :


**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 零号機ケージ ====

   吊られてくる零号機

   その手前の作業通路

   腰に手を当てているリツコ  その後ろにミサト

   リツコの前に立つプラグスーツ姿のレイ  俯いている

リツコ「――もういいわ。行きなさい」

レイ「……失礼します」

   歩み去るレイ

ミサト「……で?」

リツコ「2日というところね。さいわい致命的な損傷はなかったみたいだから」

ミサト「よかった」

リツコ「エヴァはこういう仕事向きじゃないのよ。作業班には、今回は例外中の例外だと、あれほど釘を刺したのに」

ミサト「少し張り切り過ぎたわね」

リツコ「レイもわかってるはずなのに。考えられない行為ね。何が原因かしら」

ミサト「……愛、じゃないの?」

リツコ「……何を言い出すの?」

ミサト「え?……いや、あの……」

リツコ「……」

ミサト「シンジくんに、後はやるから寝てなさいって請け合ったんですって」

リツコ「レイが?」

ミサト「それに、ほら、シンジくんが飲み込まれたとき、アスカにはすごい剣幕だったし。だから――」

リツコ「まさか! ありえないわ」

ミサト「……ま、そうよねー」

   笑うミサト

ミサト「さーて、あたしも書類片付けなくっちゃ」

   立ち去るミサト
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:14:02.50 ID:cAuTFgys0
   ため息をついて零号機の収容作業を見下ろすリツコ

   ふと、眉をひそめる

リツコ「……まさか……ね」

   通路を歩いているミサト  眉をひそめている

ミサト(確かに……そんな微笑ましい話だけとは限らないわね……)

   :
   :

==== 夜 ネルフ本部 病室 ====

   寝息をたてているシンジ

   丸椅子に座ってそれを眺めているレイ

   ふとシンジの額に係る前髪を指でかき分ける

   :
   :

   目を開けるシンジ

   ベッド脇に丸椅子があるが誰もいない

   ふと枕元に目をやるシンジ

   S-DATデッキが置いてある

   ふとんから手を出してそれに触れるシンジ

   顔に引き寄せ、ふと匂いをかぐ

   安心したように目を閉じるシンジ

   :
   :

==== 午後 レイのマンション =====

   共用廊下、ドアの前に立つシンジ  学校の制服姿

   ノックするが返事がない

   配布物を鞄から取り出すシンジ

   郵便受けに入れようとしたところでドアがあく

   眠そうな顔で出てくるレイ  寝間着代わりのシャツ姿

シンジ「あ、ごめん……起こしちゃった?」

レイ「……」


==== レイの部屋 ====

   折り畳みテーブルの上に置かれているプリント

   テーブルの脇に座るシンジ  紅茶が入ったカップを持っている

シンジ「――ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

   ベッドに腰掛けたレイ  カップを持っている

シンジ「だって、綾波は心配してくれてたのに」

レイ「……」

シンジ「僕が……いい気になって……」

レイ「そうね」

シンジ「……ごめん」

レイ「でも、いい」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:16:36.83 ID:cAuTFgys0
シンジ「……え?」

レイ「帰ってきたもの」

シンジ「……」

   :
   :

   流しで二つのカップをすすぐシンジ

シンジ「じゃあね。綾波もゆっくり休んで」

   レイを振り返るシンジ

   シンジを見るレイ

   向かい合ったシンジとレイの足下

   スリッパを履いたレイの白い足が少しだけ背伸びする

   :
   :

   戸口に向かうシンジ

   その背中を見ているレイ

   寝間着代わりのシャツのすそを握り締めている

   ドアノブにかかるシンジの手

レイ「碇くん」

シンジ「え?」

   振り返るシンジ

   シンジの前に立つレイ

シンジ「どうしたの?」

   少し考えて、シンジの体に腕を回すレイ

シンジ「え……」

   レイの腕がさらに締まり、体が密着する

   ブラウスの胸がシンジの胸で柔らかくつぶれる

シンジ「あ、あの……まずいよ……その……」

   紅くなるシンジ

レイ「嫌」

   かすれた声

シンジ「えっ?」

   シンジの肩口に顔を埋めるレイ

レイ「いつ、またああいう目に遭うか、わからないもの」

シンジ「で、でも……」

   レイの髪に半分隠されているシンジの顔

   視線が動く

   シンジの目に写る、レイのベッド

   :
   :

==== レイのマンション 外観 ====

   道路に沸き立つ陽炎

   響き渡る重機の音

   :
   :
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/24(月) 00:23:36.87 ID:cAuTFgys0
==== レイの部屋 ====

   誰もいないベッド

   カーテンの隙間から傾いた日差しが差し込んでいる

   浴室でシーツの一隅をバケツに入れた水でゆすいでいるシンジ  学生ズボンにTシャツ

   ふと振り返るシンジ

   脱衣所に立つレイのシルエット

   寝間着代わりのワイシャツ  虚ろな表情

   立ち上がるシンジ

シンジ「あ、ああ、だいたい落ちたよ」

レイ「……」

シンジ「だから、あの――」

   シンジに向かって倒れこむレイ

   慌てて抱き止めるシンジ

シンジ「だ、大丈夫!?」

   シンジの肩に預けられたレイの青い後ろ頭

レイ「……痛かった」

   細い声

シンジ「えっ?」

   赤面するシンジ

シンジ「ご、ごめん! あの――」

レイ「でも、幸せ」

シンジ「――えっ?」

   シンジの体にレイの腕が回る

   シンジの肩に顎をあずけ、目を閉じているレイ

レイ「こういう気持ち、初めて」

シンジ「……」

レイ「みんなに、教えてあげたい」

シンジ「そ、それは……まずいんじゃないかな……」

レイ「わかってる」

   体を少し離すレイ

レイ「だから、ひみつ。私たちだけの」

   少し眠そうな顔で微笑むレイ

シンジ「……うん」

   シンジの顔に近づくレイの顔

   向かい合った二人の足

   レイの裸足の白い足が少しだけつま先立ちになる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾六話 おわり)
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/24(月) 00:37:47.31 ID:ocEN/04to
何度でも言う
よくやったな、シンジ!
しかしこの先心配だ( ; ゜Д゜)
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/24(月) 22:57:48.13 ID:1g91kOhl0
支援
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/25(火) 02:43:33.31 ID:xJIsfZO/o
期待してる
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:05:06.42 ID:IYErnIOp0
>>123 ありがとう レス早杉w

 >しかしこの先心配だ( ; ゜Д゜)

 本編で起こったことは全部起こります

>>124 ありがとう

>>125 ありがとう できればsage進行で



>>122の微修正版から再開します
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:10:00.21 ID:IYErnIOp0
==== レイの部屋 ====

   誰もいないベッド

   カーテンの隙間から傾いた日差しが差し込んでいる

   浴室でシーツの一隅をバケツに入れた水でゆすいでいるシンジ  学生ズボンにTシャツ

   ふと振り返るシンジ

   脱衣所に立つレイのシルエット

   寝間着代わりのワイシャツ  虚ろな表情

   立ち上がるシンジ

シンジ「あ、ああ、だいたい落ちたよ」

レイ「……」

シンジ「だから、あの――」

   シンジに向かって倒れこむレイ

   慌てて抱き止めるシンジ

シンジ「だ、大丈夫!?」

   シンジの肩に顎を預けるレイの、青い後ろ頭

レイ「……痛かった」

   細い声

シンジ「えっ?」

   赤面するシンジ

シンジ「ご、ごめん! あの――」

レイ「でも、しあわせ」

シンジ「――えっ?」

   シンジの体にレイの腕が回る

   シンジの肩に顎をあずけ、目を閉じているレイ

レイ「こういう気持ち、初めて」

シンジ「……」

レイ「みんなに、教えてあげたい」

シンジ「そ、それは……まずいんじゃないかな……」

レイ「わかってる」

   体を少し離すレイ

レイ「だから、ひみつ。私たちだけの」

   少し眠そうな顔で微笑むレイ

シンジ「……うん」

   シンジの顔に近づくレイの顔

   向かい合った二人の足

   レイの裸足の白い足が少しだけつま先立ちになる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第拾六話 おわり)
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:14:07.86 ID:IYErnIOp0
第拾七話 「四人目の適格者」

(中略)

==== 午後 病院 ====

   病院の廊下を歩くトウジ

   看護師たちの話声がオーバーラップする

看護師「12号室のクランケ?」

看護師「例のE事件の救急でしょ? ここに入院してからずいぶん経つわね」

看護師「なかなか難しいみたいよ、あの怪我」

看護師「まだ小学生なのに」

看護師「今日もきてるんでしょ、あの子」

看護師「そうそう。週2回は必ず顔出してるのよ、妹思いのいいお兄さんよねえ……」

看護師「ほんと、今時珍しいわね、あんな男の子」

   :
   :

=== ネルフ本部 自動通路 ルート15 レベル20 ====

   ベルトコンベア式の自動通路に立ったまま運ばれていくゲンドウ

   その後方に立ち同様に運ばれているレイ

ゲンドウ「――レイ、今日はいいのか?」

レイ「はい。明日、赤木博士のところへ行きます。明後日は学校へ」

ゲンドウ「学校はどうだ?」

レイ「問題ありません」

ゲンドウ「そうか、ならばいい」

*レイ「……」

*   ゲンドウの後姿を見つめるレイ

*   何か言おうと口を開きかけるが、しばらくしてつぐむ

*   俯くレイ

   :
   :

==== 朝 第壱中学校 2年A組 教室 ====

ヒカリ「きりーつ! 礼! 着席!」

教師「あ?……ああ、今日の休みはいつもの綾波と、相田か……あと、今日は小池先生がお休みで――」

   後方の席のトウジを振り返り小声で話しかけるシンジ

シンジ「ケンスケ、どうしたの?」

トウジ「新横須賀。今日も軍艦の追っかけや。ミョウコウとかいうんが入港しとるんやと」

老教師「――鈴原!」

トウジ「あ、はい!……はい……」

   慌てて起立するトウジ  首をすくめて前を向き直るシンジ

老教師「後で、綾波にプリントを届けておくように」

トウジ「はい!」

   気を付けをして返答するトウジ

*   着席するトウジ

*トウジ「……って、ワシ?」

*   怪訝な顔で前方のシンジに小声で話すトウジ

*   トウジを振り返って困ったように笑うシンジ
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:21:39.91 ID:IYErnIOp0
(中略)

==== ネルフ本部 エスカレーター ====

ミサト「――で、残った参号機はどうするの?」

リツコ「ここで引き取ることになったわ。米国政府も第1支部までは失いたくないみたいね」

ミサト「参号機と四号機はあっちが建造権を主張して強引に作っていたんじゃない! いまさら危ないところだけうちに押し付けるなんて、虫のいい話ね」

リツコ「あの惨劇の後じゃ誰だって弱気になるわよ」

ミサト「で、起動試験はどうするの?例のダミーを使うのかしら?」

リツコ「……これから決めるわ」

   :
   :

==== ネルフ本部  実験場 ====

   暗い大きな工場のような部屋

   「REI DUMMY PLUG EVANGERION 2015 REI-00」と書かれたプレートが打ち付けられた赤いエントリープラグが天井から吊り下げられている

   それを見上げているゲンドウとリツコ
  

リツコ「試作されたダミープラグです。レイのパーソナルが移植されています」

ゲンドウ「……」

リツコ「ただ、人の心、魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです。パイロットの思考の真似をする、ただの機械です」

ゲンドウ「信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロさえすればいい」


ゲンドウ「初号機と弐号機にはデータを入れておけ」

リツコ「まだ問題が残っていますが」

ゲンドウ「構わん。エヴァが動けばいい」

リツコ「はい」

   :
   :

==== セントラルドグマ L.C.Lプラント ====

   オレンジ色の液体で満たされたガラスの円柱に収まっている裸身のレイ

   目を閉じている

ゲンドウ「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう。あとは君のほうでやってくれ」

リツコ「はい。調整ならびに起動試験は、松代で行います」

ゲンドウ「テストパイロットは?」

リツコ「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から」

ゲンドウ「4人目を選ぶか」

リツコ「はい。一人、速やかにコアの準備が可能な子供がいます」

ゲンドウ「任せる」

リツコ「はい」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:23:53.25 ID:IYErnIOp0
ゲンドウ「レイ、上がっていいぞ」

   目を開けるレイ

   わずかに微笑んでいる

レイ『はい』

ゲンドウ「食事にしよう」

   微笑んでいるゲンドウ

レイ『はい』

リツコ「……」

   ゲンドウの後ろ  冷やかな目でやりとりを見ているリツコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 総司令公務室 ====

   長いテーブルの両端の席についているゲンドウとレイ

   黙々と食事をしている  ふと手を止めるレイ

レイ「碇司令」

ゲンドウ「何だ」

   手を止め、顔を上げるゲンドウ

レイ「……」

   何か口を開きかけ、やめるレイ

レイ「……いいえ。何でもありません」

   食事を再開するレイ

ゲンドウ「……そうか」

   その様子をしばらく見た後、食事を再開するゲンドウ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで****


==== 昼 第壱中学校 ====

キーンコーンカーンコーン…

ヒカリ「きりーつ! 礼!」

   :
   :

トウジ「さーて、メシやメシ! 学校最大の楽しみやからなあ!――」

アスカ「えーっ!?」

トウジ「――ん?」

   シンジの席  机に両腕をついてシンジに挑みかかっているアスカ

アスカ「お弁当、持ってきてないの!?」

シンジ「き、昨日は宿題で、つくる暇なかったんだよ……」

アスカ「だからって、この私にお昼無しで過ごせってえの、あんたは!!」

トウジ「なんや、また夫婦喧嘩かいな……」

   笑う生徒たち  赤面するシンジとアスカ

シンジ、アスカ「ち……違う(わ)よっ!」

   :
   :
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:27:33.72 ID:IYErnIOp0
==== ネルフ本部 リツコの研究室 ====

(中略)

ミサト「――えっ……よりにもよって、この子なの?」

リツコ「仕方ないわよ、候補者を集めて保護してあるのだから」

ミサト「話づらいわね、このこと」

リツコ「……」

ミサト「アスカはいいのよ、エヴァに乗ることにプライド賭けてるから。レイは例外としてもね……いいことないもの、私たちとエヴァに関わったって。それを一番よく知っているのがシンジ君だものね。これ以上辛い思いは、させたくないわ」

リツコ「でも、私たちにはそういう子供たちが必要なのよ、みんなで生き残るためにはね」

ミサト「きれいごとはやめろ、と言うの?」

   :
   :

==== 午後 第壱中学校 2年A組 教室 ====

   三々五々、帰っていく生徒たち

   帰り支度をしているトウジ  歩み寄るヒカリ

ヒカリ「鈴原、今日から週番なんだから、ちゃんとやりなさいよ」

トウジ「何のことや?」

   トウジの鼻先に紙の束を突きだすヒカリ

ヒカリ「プリント!」

   そのうちの1枚、全市一斉のシェルター避難訓練の各家庭への通知

ヒカリ「届けてくれって先生が言ったでしょう?」

トウジ「なんやイインチョ、相方がおるやろ」

ヒカリ「綾波さんは今日休み!」

トウジ「綾波とワシなんか。そら、しゃーないなあ……でも、女の家に一人じゃ行けへんしなあ」

   表情がぱっと明るくなるヒカリ

ヒカリ「それなら、私が一緒に――」

トウジ「シンジ!」

   教室を一人で出ようとしていたシンジが立ち止まる

トウジ「帰り、頼むわ」

*シンジ「え?」

*トウジ「なんや、ええやろ。いつも届けとんのはシンジやないか」

*シンジ「そうだけど……」

   シンジの方に歩み去るトウジ

ヒカリ「あ……」

   何か言いたげにトウジに手を伸ばしかけるヒカリ

   教室を出ていくシンジとトウジ

   閉まる引き戸

ヒカリ「……」

  :
  :
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:32:56.11 ID:IYErnIOp0
==== 午後 レイのマンション ====

   絶え間なく響く重機の音

   共用廊下に立つシンジとトウジ

   呼び鈴を押すシンジ  鳴らない

シンジ「綾波、入るよ」

トウジ「女の部屋に黙って入るんは良うないと思うで」

シンジ「しょうがないよ」

   郵便物やチラシが乱雑に詰まったままになっている郵便受け

シンジ「ここに入れても見ないだけだし」

   ドアを開けるシンジ  覗き込むトウジ

シンジ「お邪魔するよ」

=== レイの部屋 ====

   見回すトウジ

   ベッドやチェストの脇に紙屑が散乱している

トウジ「なんや、これが女の部屋かいな!無愛想やなぁ」

   ベッドに歩み寄り、枕元にプリントの束を置くシンジ

   ビニールのゴミ袋に紙屑を集め始めるシンジ

トウジ「なんや、勝手にいじって、叱られるで」

シンジ「片づけてるだけだよ」

トウジ「ワシは手伝わんで! 男のする事やない!」

シンジ「うん……でも、ミサトさんに嫌われるよ、そういうの」

トウジ「あ……くっ……かまへん! ワシの信念やからな!」

   部屋の隅でゴミ袋の口を縛っているシンジ

トウジ「……ほんま、変わったなあ」

シンジ「何が?」

トウジ「シンジや」

シンジ「え?」

トウジ「初めて会うたときは、正直いけ好かんやっちゃと思うとったけど、人のために何かやる奴とも思えんかったし」

シンジ「……」

トウジ「ま、要するに余裕なんやろなぁ、そないなことは」

シンジ「……」

ガチャ…

   入ってくるレイ

トウジ「お邪魔しとるで」

レイ「何?」

トウジ「あれが溜まってたプリントや」

レイ「……」

   怪訝な顔で見るレイ

シンジ「ごめん。勝手にに片づけたよ、ごみ以外は触ってない」

   シンジを振り返るレイ

   ゴミ袋を掲げてみせるシンジ

レイ「あ、ありがと……」

   赤面するレイ
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:37:11.08 ID:IYErnIOp0
==== 夕方 道路上 ====

トウジ「ほんま、エヴァのパイロットって変わりもんばっかりやなぁ」

シンジ「……」

==== 夕方 レイのマンション ====

   擦り切れたカーテンの隙間から午後の陽光が差し込んでいる

   ベッドにうつ伏せに寝転んでいるレイ

レイ「ありがとう……感謝の言葉……初めての言葉」

   レンズにひびが入った眼鏡が床に転がっている

*  レイ回想  夕暮れのネルフ本部、シンジからしおりを贈られた図書室

レイ「あの人にも言った事なかったのに……」

**** Omit Scene ここから ****

==== 路上 ====

トウジ「じゃあな、シンジ」

シンジ「うん。それじゃあ」

   交差点で手を振って別れるトウジとシンジ

シンジ「……」

   トウジの後姿を見送っているシンジ

   しばらくして引き返す

   :
   :

トウジ「……ん?」

   シンジと別れた交差点を振り返るトウジ  誰もいない

トウジ「……」

   また歩き始めるトウジ

   :
   :


==== レイの部屋 ====

ガチャ…

レイ「……」

   体を起こして入口を見るレイ

   入ってくるシンジ

シンジ「あの……さっきはごめん」

レイ「びっくりした。鈴原くんがいたから」

   キッチンでお茶の支度を始めるシンジ

シンジ「僕が届ければよかったんだけど、トウジと綾波が週番だからって先生が――」

   部屋を横切りシンジの隣に立つレイ

レイ「掃除なんかしたら、おかしいと思われるわ」

シンジ「え? い、いや、でも……」

   手を止めるシンジ

レイ「?」

シンジ「あの……このあいだの……ゴミだったらまずいと思って」

レイ「え……」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:41:41.62 ID:IYErnIOp0
シンジ「い、いや、よく考えたら、とっくに片づけてあったんだけど……」

レイ「……」

   驚いた顔で赤面しているレイ

   赤面したまま準備を続けるシンジ

シンジ「……ねえ」

レイ「なに?」

シンジ「実験のとき……食事はどうしてるの?」

レイ「碇司令と、食べることが多い」

シンジ「父さん?」

レイ「ええ」

シンジ「そっか……」

レイ「……碇くん」

シンジ「なに?」

   俯いているレイ

レイ「もし、碇くんが、碇司令といっしょに食事ができたら」

シンジ「……えっ……」

レイ「同じテーブルに着くことができたら……もっと話しあうことが、できるのかしら」

   シンジの目を見るレイ

シンジ「で、でも……父さん、そんなこと――」

レイ「もし、碇くんが、話し合いたい気持ちがあるなら――」

シンジ「え?」

レイ「司令に、言ってみる」

シンジ「……綾波――」

レイ「……」

   心配そうな眼差し

シンジ「……うん」

   安堵したように息をつき、表情を和らげるレイ

   シンジに歩み寄るレイ

   向かい合った二人の足

シンジ「長かったね」

レイ「うん」

   テーブルに置かれている郵便物の束

レイ「会いたかった」

   ぽつりと言うレイ

シンジ「え?……んっ……」

   黒い靴下をはいたレイの足が、少し背伸びをする

レイ「……」

シンジ「……えっと、あの……またゴミが出るよ?」

レイ「へいき」

シンジ「……」

レイ「今度は、ちゃんと点検するもの」

   :
   :
**** Omit Scene ここまで ****
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:45:31.08 ID:IYErnIOp0
(中略)
==== ネルフ本部 自販機コーナー ====

マヤ「――では、私は仕事がありますので、これで…」

   そそくさと去るマヤ

ミサト「あなたのプライベートに口出すつもりはないけど、この非常時にうちの若い娘に手ぇ出さないでくれる?」

加持「君の管轄ではないだろう? 葛城ならいいのかい?」

ミサト「これからの返事次第ね」

加持「……」

ミサト「地下のアダムとマルドゥック機関の秘密、知ってるんでしょ?」

加持「はて?」

ミサト「とぼけないで」

加持「他人に頼るとは、君らしくないな」

ミサト「なりふり構ってらんないの。余裕ないのよ、今」

加持「……」

ミサト「都合よくフォースチルドレンが見つかる。この裏は何? 」

   自販機に背を着けるミサト

   自販機に手をつきミサトに顔を近づける加持

加持「一つ教えとくよ。マルドゥック機関は存在しない。影で操っているのは、ネルフそのものさ」

ミサト「ネルフそのもの……碇司令が?」

加持「コード707を調べてみるんだな」

ミサト「707……シンジ君の学校を?」

   :
   :

==== 夕暮れ ジオフロント ====

(中略)

シンジ「――スイカ、ですか?」

加持「ああ、可愛いだろ? 俺の趣味さ。みんなには内緒だけどな」

   じょうろで水を撒いている加持

加持「何かを作る、何かを育てるのはいいぞ。いろんな事が見えるし分かってくる。楽しいこととかな」

シンジ「辛いこともでしょ」

加持「辛いのは、嫌いか?」

シンジ「好きじゃないです」

加持「楽しいこと、見つけたかい?」

シンジ「……」

加持「それもいいさ。けど、辛いことを知っている人間のほうがそれだけ他人(ひと)に優しくできる。それは弱さとは違うからな」

   携帯電話の呼び出し音

加持「――はい、もしもし?」

シンジ「……」

加持「葛城から。今からシンクロテストをやるそうだ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:50:36.15 ID:IYErnIOp0
==== ネルフ本部 実験場 管制室 ====

   窓の向こうには半ばL.C.L.に浸かった3本のテストプラグ

   モニタ上、目を閉じているプラグスーツ姿のレイ、シンジ、アスカ

マヤ『プラグ深度は3.2で固定。L.C.L.濃度は現状を維持――』

リツコ「やはりそうだわ。シンジ君のシンクロ率が落ちてきている」

ミサト「どういう事?」

リツコ「何とも言えないわ。ただ、先の事件のとき何かがあったんでしょうね、精神的なものが」

ミサト「ますます参号機のパイロット、話づらいわね」

リツコ「でも、本人には明日、正式に通達されるわよ」

ミサト「……」

   :
   :

==== 昼 第壱中学校 2年A組 教室 ====

キーンコーンカーンコーン…

ヒカリ「きりーつ、気を付け、礼!」

トウジ「さーあ、メシやメシ!」

   伸びをするトウジ  歩み寄るケンスケ

放送の声『――2年Aクラスの鈴原トウジ、鈴原トウジ、至急、校長室まで』

トウジ「何や?」

ケンスケ「なんかやったの?」

トウジ「いや、心当たり、ないわ」

   振り返り、そのやりとりを見ているシンジ

==== 校長室 ====

トウジ「鈴原トウジ、入ります!」

  ドアが開閉する音

リツコの声「鈴原 ……トウジ君ね?」

   :
   :

==== 屋上 ====

(中略)

シンジ「――エヴァ参号機?」

ケンスケ「そう。アメリカで建造中だった奴さ。完成したんだろ?」

シンジ「知らないなあ……」

ケンスケ「隠さなきゃならない事情も分かるけど、なあ、教えてくれよ!」

シンジ「ほんとに聞いてないよ!」

ケンスケ「松代の第2実験場で起動試験をやるって噂、知らないのか?」

シンジ「知らないよ」

ケンスケ「パイロットはまだ決まってないんだろ?」

シンジ「分からないよ、そんなの」

ケンスケ「俺にやらしてくんないかなあ、ミサトさん。なあ、シンジからも頼んでくれよ! 乗りたいんだよ、エヴァに!」

シンジ「ほんとに知らないんだよ……」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:54:23.52 ID:IYErnIOp0
ケンスケ「じゃあ、四号機が欠番になったって言う話は?」

シンジ「何それ?」

ケンスケ「ほんとにこれも知らないの? 第2支部ごと吹っ飛んだって。パパのところは、大騒ぎだったみたいだぜ」

シンジ「ほんとに!?」

ケンスケ「おそらくは」

シンジ「……ミサトさんからは何も聞いてない……」

ケンスケ「あ……やっぱ、末端のパイロットには関係ないからな、言わないってことは、知らなくてもいいことなんだろ? シンジにはさ」

シンジ「……」

ケンスケ「すまなかったな、変な事聞いて」

   立ち上がるケンスケ

ケンスケ「しかし……トウジの奴、遅いなあ……」

   :
   :

==== 午後 2年A組 教室 ====

老教師「われわれはセカンドインパクトと言う、この世の地獄から再び立ち上がったのです――」

ヒカリ「……」

   後ろを振り返り、空っぽのトウジの席を心配そうに見る

教師「いまは、年々子供の数も減ってきています――」

   ドアが開閉する音

トウジ「遅れて、すまんです」

教師「話は聞いてる。席に着きなさい」

   入ってくるトウジ

教師「……あー、これからの時代を担う君たち若い世代が……」

   :
   :

==== 午後 2年A組 教室 ====

キーンコーンカーンコーン…

ケンスケ「さっ、帰ろうぜ」

シンジ「トウジは?」

ケンスケ「あいつは遅くなるよ。当番だからな」

   振り返るシンジとケンスケ

トウジ「……」

   ぼんやりと自席に座ったままのトウジ

*アスカ「ちょっと! あんた、どこ行くのよ!」

*シンジ「どこって……」

*アスカ「あんたバカァ!? ミサトから連絡入ってるでしょうが!」

*シンジ「あっ……」

*ケンスケ「なんだよ、訓練か?」

*   物憂げに顔を上げるトウジ

*シンジ「う、うん。いや、テストだけなんだけど……ごめんケンスケ」

*ケンスケ「いいって。気にすんなよ」

*アスカ「ほら、さっさと行くわよ!」

   :
   :
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 00:58:22.11 ID:IYErnIOp0
==== 夕方 教室 ====

   ヒグラシの声

   誰もいない教室  ひとり自席に座っているトウジ

女子の声『下校の時刻です。教室に残っている生徒は、早く帰りましょう――』

   教室に入って来るヒカリ

ヒカリ「鈴原!」

トウジ「ん?」

ヒカリ「あの、週番なんだから……ちゃんと机ならべて、日誌付けなさいよ」

トウジ「ワシ、昼飯まだやったんやで。終わったらやるわ」

ヒカリ「……鈴原っていつも、購買部のお弁当だね」

トウジ「作ってくれる奴もおらんからなぁ」

ヒカリ「……鈴原……くん?」

トウジ「ん?」

   パックの牛乳を飲んでいたトウジ

ヒカリ「あたし、きょうだいが二人いてね、名前はコダマとノゾミ。いつもお弁当あたしが作ってるんだけど……」

トウジ「そら難儀やなぁ」

ヒカリ「だから、こう見えても、あたし意外と料理上手かったりするんだ」

トウジ「へえ」

ヒカリ「だからあたし、いつもお弁当の材料、余っちゃうの」

トウジ「そらあ……もったいないなぁ」

ヒカリ「え? 」

トウジ「残飯処理なら、いくらでも手伝うで」

ヒカリ「う……うん! 手伝って!」

   ぱっと明るい表情になるヒカリ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 女子更衣室 ====

   脱ぎ捨てられているプラグスーツ

   制服に着替えているレイ

   ロッカーを乱暴に閉じ、無言で出ていくアスカ

   ちらりとその様子を見て、着替えを続けるレイ

==== パイロット控室 ====   

   学生服でベンチにぼんやりと座っているシンジ

   「碇くん」

   顔を上げるシンジ

   戸口に学生鞄を提げたレイが立っている

レイ「どうかしたの?」

シンジ「え?」

レイ「元気ないみたいだから」

シンジ「そうかな……そうかもしれない」

レイ「……」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 01:00:50.16 ID:IYErnIOp0
シンジ「ねえ、綾波は聞いたことある?」

レイ「?」

シンジ「アメリカで作ってた3号機が日本に来るって話」

   眉をひそめるレイ

レイ「……ないわ」

シンジ「そっか……」

レイ「どうして?」

シンジ「きょう、ケンスケから聞いた」

レイ「相田くん?」

シンジ「僕は、聞いたことないって言ったんだけど……」

レイ「……」

シンジ「ケンスケ、自分をパイロットにしてくれって」

レイ「パイロット?」

シンジ「うん……」

レイ「……」

シンジ「アメリカで作ってたんだからさ、アメリカ人なのかな……やっぱり

、僕たちみたいな、子供なのかな」

レイ「……」

   ふいに明るく言うシンジ

シンジ「アスカみたいにさ、やる気満々だったらいいのかもしれないけど、でも……」

   第3使徒に右目を貫かれるエヴァ初号機

   第4使徒の触手に足を掴まれてほうり上げられ、山肌に叩きつけられる初号機

   その手元で怯えているトウジとケンスケが写ったモニタ

   第5使徒の熱線を浴びるエヴァ初号機  泡立つL.C.L  絶叫するシンジ

   全身焼けただれてくずおれる零号機

   L.C.L.が濁り始めたプラグ内  必死でハッチをたたくシンジ

レイ「……元気がなかったのは、そのせい?」

シンジ「……」

レイ「もし、本当に3号機が来るなら、葛城三佐から話があると思う」

シンジ「え?」

   レイの顔を見るシンジ

   シンジを心配そうに見ているレイ

レイ「心配するのは、それからでも遅くないわ」

シンジ「そっか……そうだよね」

   微笑む笑うシンジ

   少し安堵した表情のレイ

   :
   :

==== 控室前 廊下 ====

   手を振って別れるシンジとレイ

   歩み去るシンジの後姿をしばらく眺め、踵を返すレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/08/30(日) 01:06:04.85 ID:IYErnIOp0
==== 夕暮れ ネルフ本部 加持のオフィス ====

女性オペ『第3管区の形態移行試験終了。区内の輸送経路は――』

   開くドア  立っているアスカ

アスカ「加持さん!」

加持「アスカか? すまない、今ちょっと忙しいんだ、後にしてくれ」

   机に向かい忙しくキーボードを叩き続けている加持

アスカ「ふーん……」

   不機嫌な顔になるアスカ

アスカ「ミサトには会ってるくせに……」

   いたずらっぽく笑って加持の背後に歩み寄るアスカ

アスカ「わっ!」

   加持に後ろから抱きつくアスカ

加持「こら! 今はだめだ!」

   加持の端末のモニタを覗き込むアスカ

アスカ「これ、私たちのシンクロデータね?……え?……4人?」

   身を乗り出すアスカ

アスカ「何これ……どういう事? フォースチルドレンが、なんでこいつなの!?」

加持「……」

アスカ「嫌、わかんないわ!! 何なのこれぇ!?」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 司令執務室前 ====

プシュー

レイ「……失礼します」

  執務室から出てくるレイ

  閉じたドアの前で俯き、立ち尽くす

レイ(あの人が?……なぜ?)

  不安げに顔を上げるレイ   

レイ(……碇くん……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 米国 ネルフ第一支部 ====

   離陸する大型輸送機

   吊り上げられていく参号機

==== 日本 夕暮れ ヒカリの家 キッチン ====

ヒカリ「ふふふんふん……ふふふんふん……」

   鼻歌を歌いながら炊事をしているヒカリ


==== 夕暮れ 学校 バスケットボールのコート ====

トウジ「……」

   狙いを定めてボールを放るトウジ

   ゴールに吸い込まれるボール

(第拾七話 おわり)
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/30(日) 01:40:43.33 ID:bxaNVmzcO
>>126
乙です
そうだよね 覚悟しとくわ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/03(木) 22:02:13.95 ID:9e777ScF0
支援
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:14:27.07 ID:1tBgRefx0
>>141
>>142

ありがとう
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:20:32.33 ID:1tBgRefx0
第拾八話 「命の選択を」

==== 昼 米国上空 ====

   ヱヴァ3号機を吊り下げて雲上を飛ぶ大型輸送機

無線の声『エクタ64より、ネオパン400。前方航路上に積乱雲を確認』

無線の声『ネオパン400確認。積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せず、到着時間を遵守せよ』

無線の声『エクタ64、了解』

   積乱雲の中に消えていく輸送機

   輸送機が消えた積乱雲で稲妻が数回、閃く

   :
   :


==== 朝 ミサトのマンション 玄関 ====

(中略)

   学生服姿のシンジと、ネルフの正装のミサト

シンジ「――でも、アメリカから参号機が来るって。松代でするんでしょ、起動実験」

   ミサトの旅行鞄を見るシンジ

ミサト「うーん、ちょっち4日ほど留守にするけど、加持が面倒見てくれるから心配ないわよ」

シンジ「でも実験は……」

ミサト「リツコも立ち会うんだし、問題ないわよ」

シンジ「でもパイロットは?」

ミサト「その……パイロットなんだけど……」

   呼び鈴の音

シンジ「はーい!」

   開くドア

ケンスケ「おはようございます! 今日は、葛城三佐にお願いにあがりました!」

   気をつけしてお辞儀しているケンスケ

シンジ、ミサト「……」

ケンスケ「自分を……自分をエヴァンゲリオン参号機のパイロットにしてください!」

ミサト「へ?」

:
:

(中略)

==== 昼 第壱中学校 屋上 ====

   ひとり佇むトウジ

レイ「鈴原くん」

トウジ「ん?」

   わずかに振り返るトウジ

トウジ「なんや、綾波か……シンジやったら、ここにはおらんで」

レイ「……」

トウジ「知っとんのやろ? ワシのこと。惣流も知っとるようやし」

レイ「うん」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:25:50.15 ID:1tBgRefx0
トウジ「知らんのはシンジだけか……」

*   ぽかんとするレイ

*レイ「……碇くんは、葛城三佐から伝えられていると……思う」

*トウジ「さよか……なら、ええけどな……」

トウジ「人の心配とは珍しなあ」

レイ「そう? よくわからない」

トウジ「おまえが心配しとんのは、シンジや」

   はっとするレイ

レイ「そう……そうかもしれない」

トウジ「そや」

*レイ「……」

*   眉をひそめるレイ

   :
   :

(中略)

==== 放課後 道路上 ====

   歩道を並んで歩くヒカリとアスカの後姿

ヒカリ「ごめんねアスカ。いつもなら碇君と一緒に帰ってるのに」

アスカ「いいのよ、シンジとは義務でいるだけだし、今日は顔見たくない気分だったし」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 夕方 レイのマンション ====

   戸口に出てくるシンジとレイ

   手をつないでいる

シンジ「じゃあね」

レイ「うん」

   つないだ手をほどく

   共用廊下を歩み去るシンジ

   後姿を不安げに見送るレイ

   :
   : 

==== 道路上 ====

シンジ「あ……」

   立ち止まるシンジ

   何かに気付きレイの家の方を振り返る

シンジ「……」

シンジ(聞きそびれちゃったな……)

   少し頬を紅くするシンジ

   またミサトのマンションに向かって歩き始める

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:28:16.66 ID:1tBgRefx0
==== 夕暮れ 高台 ====

(中略)

ヒカリ「鈴原の好きな子って、綾波さんかもしれない」

アスカ「鈴原が!? あの優等生を!?」

ヒカリ「お昼、仲良さそうだったし……」

アスカ「安心してヒカリ! それはないわ! あの女はシンジの1万倍も人との付き合い知らないもの」

ヒカリ「そう?」

アスカ「そう!」

   微笑むヒカリ

アスカ「ね、ひとつ聞いていい?」

ヒカリ「なに?」

アスカ「あの熱血バカのどこがいいわけ?」

ヒカリ「……」

   赤面して顔をそむけるヒカリ

ヒカリ「……やさしいところ……」

アスカ「へ……」

   固まるアスカ

   :
   :

==== 夜 ミサトのマンション リビング====

   座卓で雑誌を読んでいるシンジ

   床にうつ伏せに寝転んで雑誌を読んでいるアスカ

   テレビがつけっ放しになっている

テレビ(女)『ああ! やっぱりあの時、あなたと撚りを戻したのが全ての

間違いだったのよ!!』

テレビ(男)『今更そんな――』

シンジ「そういえばさあ――」

アスカ「加持さんお風呂長いのねー」

シンジ「……参号機って、誰が乗るのかな?」

アスカ「えっ?」

   思わずシンジを振り返るアスカ

アスカ「……まだ聞いてないの?」

シンジ「誰?」

アスカ「……」

   面白くなさそうな表情になり、そっぽを向くアスカ

アスカ「知らない」

   不満そうなシンジ

   :
   :
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:41:45.02 ID:1tBgRefx0
(中略)

==== 深夜 リビング ===

   布団を敷いて雑魚寝している加持とシンジ

   月光が室内に影を落としている

シンジ「もう寝ました? 加持さん」

加持「いや、まだ」

シンジ「僕の父さんって、どんな人ですか?」

加持「こりゃまた唐突だな。葛城の話かと思ってたよ」

シンジ「加持さん、ずっと一緒にいるみたいだし」

加持「一緒にいるのは副司令さ。君は自分の父親のことを聞いて回っているのかい?」

シンジ「ずっと……一緒にいなかったから……」

加持「知らないのか」

シンジ「でも、このごろ分かったんです、父さんのこといろいろと。仕事のこととか、母さんのこととか。だから――」

加持「それは違うな。分かった気がするだけさ」

シンジ「……」

加持「人は他人を完全には理解できない。自分自身だって怪しいもんさ。100パーセント理解し合うのは、不可能なんだよ」

シンジ「……」

加持「ま、だからこそ人は、自分を……他人を知ろうと努力する。だから面白いんだな、人生は」

シンジ「ミサトさんとも、ですか?」

加持「彼女というのは、遥か彼方の女と書く。女性は向こう岸の存在だよ。われわれにとってはね。男と女の間には、海よりも広くて深い川があるって事さ」

シンジ「僕には大人の人は分かりません」

*   肩越しにシンジの方を窺う加持   ふと笑って

*加持「いや……すまなかったな。おやすみ」

*シンジ「……おやすみなさい」

*   目を閉じるシンジ

*   しばらくして聞こえてくる加持の寝息

*   ヤシマ作戦の直前、月を背景に佇むレイの後ろ姿を想い起す

*シンジ「……」

*   イヤフォンを片耳に挿して目を閉じて音楽を聴いているレイの横顔

*   寝間着代わりのワイシャツ姿で紅茶のカップを持って微笑むレイ

*   目を開けるシンジ

*シンジ(僕と綾波との距離は、出逢った頃に比べたら確実に縮まっていると思ってたけど……)

*   ふと頭を動かして半月の浮かぶ夜空を見上げる

*シンジ(本当は……向こう岸の存在なのかな……)

*   一片の雲が月を隠していく

*シンジ(……寝よ)

*   窓とは逆の方に寝返りを打ち、毛布にくるまり直すシンジ
   :
   :
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:45:31.38 ID:1tBgRefx0
(中略)

==== 翌日 昼 第壱中学校 2年A組教室 ====

   弁当箱の包みを提げて教室を見回すヒカリ

ヒカリ「まだ来てないよねえ、アスカ」

アスカ「ああ……今日は来ないかもね」

ヒカリ「今日こそはと思ったのに……」

   アスカに弁当の包みを差し出すヒカリ

ヒカリ「食べる?」

   :
   :

==== 屋上 ====

ケンスケ「参号機って、もう日本に到着してんだろ?」

シンジ「うん。昨日着いたみたいだけど」

ケンスケ「いいなあ……誰が乗るのかなあ……」

   うなだれるケンスケ

ケンスケ「トウジの奴かなあ……今日休んでるしなあ……」

シンジ「まさか!」

   笑うシンジ

*シンジ「きっと、パイロットも一緒なんだよ。弐号機のときは、アスカが

いっしょだったし……」

*   哀願するようにシンジを見上げるケンスケ

*   また肩を落とす

*ケンスケ「そうかあ……そうだよなあ……」

   :
   :

==== 長野県松代第2実験場  エヴァ3号機起動実験 中央統括指揮車内 ====

(中略)

ピピピピ…

   画面上、次々に赤からグリーンへ切り替わっていく接続状態表示

女性オペ『リスト、ニーゴーゴーマルまでクリア。ハーモニクス、すべて正常位置』

   見守るリツコとミサト

女性オペ『絶対境界線、突破します』

   画面上、「BORDER LINE」のマーキングを超える接続表示

ピーーーーー

   参号機の目が赤く光る

ビーッ ビーッ ビーッ…

   突然、鳴り響く警報音

リツコ「実験中止、回路切断!」

   切り離される電源ソケット

   なおももがく参号機

女性オペ『だめです。体内に高エネルギー反応――』

リツコ「まさか――」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:49:42.09 ID:1tBgRefx0
   参号機頸部のプラグカバーが跳ね上がる

   粘着性の物質が白く糸を引く

リツコ「――使徒!?」

   咆哮する参号機

   閃光――

   :
   :

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 昼 第壱中学校 屋上 ====

ピピピピ…

   ポケットから携帯電話を取り出すシンジ

シンジ「――はい……え?」

ケンスケ「?」

シンジ「今から……ですか?」

マヤ『詳しいことはこちらで説明するわ。とにかく、すぐに来て!!』

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 発令所 ====

*冬月「目標jの状況は?」

*シゲル「本部に向かい、接近中」

マコト「パターンオレンジ、使徒とは確認できません」

ゲンドウ「第一種、戦闘配置」

シゲル『総員、第一種戦闘配置!』

マコト『地、対地戦用意!』

マヤ「エヴァ全機、発進!」


==== 初号機ケージ ====

   開くフェンス

マヤ『迎撃地点へ緊急配置』

男性オペ『空輸開始は、フタマルを予定』

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ====

(中略)

ゲンドウ「……エヴァンゲリオン参号機は現時刻をもって破棄。目標を第拾参使徒と識別する」

マコト「しかし!」

ゲンドウ「予定通り野辺山で戦線を展開、目標を撃破しろ」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:51:56.90 ID:1tBgRefx0
==== 野辺山付近 初号機プラグ内 ====

シゲル『目標接近!』

マコト『全機、地上戦用意!』

シンジ「えっ?」

   驚いて顔を上げるシンジ

シンジ「まさか……使徒……これが使徒ですか?」

ゲンドウ「そうだ。目標だ」

シンジ「目標って、これは……エヴァじゃないか!」

   モニタの中、夕日を背景に歩いてくるエヴァ参号機

アスカ「そんな……使徒に乗っ取られるなんて……」

シンジ「やっぱり、人が……子供が乗ってるのかな……同い年の……」

アスカ『あんた、まだ知らないの!?参号機にはね――』

   突然アスカの通信ウィンドウがノイズに満たされる

シンジ「アスカ?」

アスカ「きゃああああああ!」

   突然、通信ウィンドウが消える

シンジ「アスカ!?」

   :
   :

==== 野辺山付近 ====

(中略)

   零号機がライフルを構えてうずくまる山影を通り過ぎ、背中を見せる参号機

   インダクションレバーを握り直すレイ

ピピピピピ…

   照準が重なったモニタに目を凝らす

レイ(乗っているわ……彼……)

   ふいに立ち止まる参号機

   不自然に体を丸めた次の瞬間、零号機に向かって後ろ向きに跳躍する

レイ「あっ……きゃあ!」

   一瞬で組み伏せられる零号機

   零号機に粘液のようなものをしたたらせる参号機

レイ「ああああっ!!」

   左腕を押さえて痛みをこらえるレイ

==== 発令所 ====

マヤ「零号機、左腕に使徒侵入!神経節が侵されて行きます!」

ゲンドウ「左腕部切断。急げ!」

マヤ「しかし、神経接続を解除しないと!」

ゲンドウ「切断だ」

マヤ「はい……」

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 00:59:41.71 ID:1tBgRefx0
==== 野辺山付近 零号機プラグ内 ====

バシュッ!

   ちぎれ飛ぶ零号機の左腕

レイ「きゃあ!」

ドゴオオオオォン

   家屋を押しつぶし落下する左腕

レイ「く……!」

   左肩を押さえて痛みをこらえるレイ

   歩み去る参号機

マヤ『零号機中破、パイロットは負傷』

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「そんな……」

ゲンドウ『目標は進行中だ。あとフタマルで接触する。おまえが倒せ』

シンジ「でも目標って言ったって……」

   夕日を背景に歩いてくる参号機のシルエット

シンジ「人が乗ってるんじゃないの?………同い年の子供が……あっ!!」

   初号機にとびかかる参号機  弾き倒される初号機

   :
   :

(中略)

==== 発令所 ====

ゲンドウ「シンジ、なぜ戦わない」

シンジ『だって、人が乗っているんだよ、父さん!!』

ゲンドウ「構わん! そいつは使徒だ。我々の敵だ!」

シンジ『でも……でも、できないよ!……助けなきゃ……人殺しなんてできないよ!!』

ゲンドウ「おまえが死ぬぞ」

シンジ『いいよ! 人を殺すよりはいい!』

   立ち上がるゲンドウ

ゲンドウ「構わん。パイロットと初号機のシンクロを全面カット」

マヤ「カットですか?」

ゲンドウ「そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ」

マヤ「しかし、ダミーシステムにはまだ問題も多く、赤木博士の指示もなく……」

ゲンドウ「今のパイロットよりは役に立つ。やれ」

マヤ「はい…」

==== 初号機プラグ内 ====

ブヒュウウウウウゥン…

   内壁モニタが消え、青い非常灯の灯りに包まれるプラグ内

シンジ「ぐはっ!……ハァ……ハァ……あ?」

   首を絞められる感覚から解放されるシンジ

   照明が赤色に変り、シートの背後でディスクが高速回転を始める

シンジ「何だ……?」

   高まる回転音  「OPERATION  DUMMY SYSTEM REI」の文字が浮かび上がる

シンジ「何をしたんだ、父さん!」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 01:10:39.31 ID:1tBgRefx0
(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「くっそう……止まれよ!」

   インダクションレバーをやみくもに押し引きするシンジ

シンジ「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!」

   血に染まる川

   なおも参号機を蹂躙する初号機

シンジ「……」ハッ…

   参号機の素体の残骸の上、エントリープラグを握り締める初号機の右手

シンジ「やめろーっ!」

   プラグを握りつぶす初号の右手   飛び散るL.C.L.

シンジ「やめろおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」

==== 発令所 ====

   自席で顔を覆っているマヤ

   呆然と主モニターを見あげるオペレーターたち

*==== 零号機プラグ内 ====

*   蒼白になりモニタ上で繰り広げられる光景に目を見開いているレイ

==== 発令所 ====

   停止する初号機

シゲル「エ……エヴァ参号機……あ、いえ……目標は、完全に沈黙しました……」


(中略)

==== 夜 野辺山付近 ====

   山裾に跪いている初号機のシルエット

   足元で明滅する赤色灯の群れ

==== 初号機プラグ内 ====

(中略)

   シートについたままうなだれ、すすり泣くシンジ

シンジ「ミサトさん……僕は……僕は人を……父さんが……やめてって頼んだのに……」

ミサト『シンジ君……ごめんね……ごめんね……』

マヤ『エントリープラグ回収班より連絡。パイロットの生存を確認――』

シンジ「生きてた!?」

   ぱっと顔を上げるシンジ

   初号機の足元で行われている救助作業の様子がモニタに映し出されている

ミサト『あの……参号機のパイロットは……』

シンジ「……」

   眉をひそめ、身を乗り出すシンジ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 01:11:56.62 ID:1tBgRefx0
ミサト『フォースチルドレンは……』

   防護服の人物に脇の下を掴まれて引き出されるトウジ

   黒いプラグスーツ姿  ぐったりとして口から血を流している

シンジ「……トウジ?」

ミサト『シンジ君?』

   目を見開くシンジ

ミサト『シンジ君……シンジ君?……シンジ君!?……シンジ君!!』

シンジ「……」

   見開かれたシンジの目  瞳孔がすっと窄まる

   絶叫

(第拾八話 おわり)
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/04(金) 01:13:30.30 ID:1tBgRefx0
正誤表

>>149

× *冬月「目標jの状況は?」

○ *冬月「目標の状況は?」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 21:55:50.01 ID:wbxFf2Ue0
>>62の微修正版投下します
通読するとエラー多いな
全部終わったら校正版投下しなおすか
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/09(水) 21:56:32.88 ID:wbxFf2Ue0
>>61から続く

加持「――いや、この度はおめでとうございます、葛城三佐……これからはタメ口聞けなくなったな」

ミサト「何言ってんのよ、バーカ」

加持「しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、前例のなかったことだ。これも、留守を任せた葛城を信頼してるってことさ」

シンジ「父さん、ここにいないんですか?」

リツコ「碇司令は今、南極に行ってるわ」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 2日後 夕方 レイのマンション ====

   レジャーシートの上、折り畳み式の小さなテーブル

   学校からの配布物らしい紙が載っている

シンジ「――綾波も、来られたらよかったのに」

   テーブルの脇、クッションに座っているシンジ

レイ「いいの」

   テーブルから少し離れたところ ベッドに腰掛けているレイ

   プラスチック製のカップを両手で持っている

レイ「そういうの、あまり好きじゃないから」

シンジ「そう……そうだよね……」

   自嘲するように笑うシンジ

シンジ「南極……何で、南極なんかに行ってるんだろ、父さん」

レイ「……」

   俯いているシンジを見るレイ

   顔を上げてレイを見るシンジ

シンジ「そうだ、綾波は知ってる? ミサトさんの、お父さんのこと」

レイ「葛城博士?」

   頷くシンジ

レイ「知らない」

   カップの中 揺れる液面を見るシンジ

シンジ「聞いたんだ、ゆうべ。ミサトさんの、お父さんは――」

   シンジを見ているレイ

   :
   :

**** Omit Scenre ここまで ****

>>63へ続く
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 10:56:12.45 ID:tKgfSj8d0
>>153の続きから再開
次から
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 10:58:49.94 ID:tKgfSj8d0
第拾九話 「男の戦い」

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ===

   主モニターの中、ケージに固定された初号機の映像

マヤ「シンジ君、話を聞いて!」

   立ち上がるマヤ

マヤ「碇司令の判断がなければ、みんな死んでいたかもしれないのよ!」

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「そんなの関係ないって言ってるでしょう!?」

   怒りに震えるシンジの手

シンジ「父さんは……あいつは、トウジを殺そうとしたんだ!」

   インダクションレバーを叩くシンジの手

シンジ「この……僕の手で!!」


==== 発令所 ====

シンジ『父さん! そこにいるんだろ!? 何か言ってよ! 答えてよ!!」

ゲンドウ「……L.C.L.圧縮濃度を限界まで上げろ」

マヤ「えっ?」

ゲンドウ「子供の駄々に付き合っている暇はない」

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「まだ直結回路が残っ――」

   赤い光に満たされるプラグ内

シンジ「がはっ!」

   目を見開くシンジ
   
シンジ「ちくしょう……」

   くずおれるシンジ

シンジ(ちくしょう……ちくしょう……)

   :
   :

(中略)

==== ネルフ中央総合病院  病棟の廊下 第壱脳神経外科前 ====

   壁に背を預けて立つアスカ  頬には絆創膏

   長椅子に腰かけているレイ

アスカ「――だめかもしれないわね。あのバカ、立ち直れないわよ、きっと」

レイ「碇くんは?」

アスカ「怪我はしてないんだし、そのうち気付くわよ。今ごろ夢でも見てんじゃないの?」

レイ「夢?」

アスカ「そう。……あんた、見たこと無いの?」

レイ「……」

   俯くレイ

   :
   :
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:00:26.96 ID:tKgfSj8d0
==== ネルフ 中央総合病院 病室 ====

ピッ……ピッ……

   ベッドに横たえられているトウジ  酸素マスクをつけられている

   目を開ける

   ふと右隣に目をやる

トウジ(シンジ……)

   やはり酸素マスクとモニタをつけられたシンジが横たわっている

トウジ(なんでシンジが横に寝とんのや……)

   天井を見上げる

トウジ(ここは……どこやろ……妹の病院か……)

   深く息を吐き、目を閉じるトウジ

   :
   :

==== 夕暮れの列車 ====

   吊革につかまって立つトウジ

   隣の車両、シンジが座席に座り、その向かいにレイが座っている

トウジ(何や……シンジと綾波やないか)

   聞こえてくる会話

レイ「碇くん、どうしてあんなことしたの?」

シンジ「許せなかったんだ、父さんが。僕を裏切った父さんが」

レイ「……」

*シンジ「あのとき……」

*   シンジ回想

*   ユイの墓前に立つゲンドウとシンジ

シンジ「せっかくいい気持ちで父さんと話ができたのに、父さんは僕の気持ちなんか分かってくれないんだ」

レイ「碇くんは分かろうとしたの? お父さんの気持ちを」

シンジ「分かろうとした」

レイ「なぜ分かろうとしないの?」

シンジ「分かろうとしたんだよ!」

   頭を抱えるシンジ

レイ「そうやって、いやなことから逃げているのね」

シンジ「いいじゃないか! いやなことから逃げ出して、何が悪いんだよ!」

   :
   :

トウジ(なに口ゲンカしとんのや、あの二人……)

   :
   :

==== 闇 ====

   「面会は特別だから、5分だけよ」

   「はい、ありがとうございます」

   明るくなる視界

   病室の灯具

   ベッド際に座るヒカリ   こちらを見つめている
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:01:48.62 ID:tKgfSj8d0
==== ネルフ 中央総合病院 病室 ====

ピッ……ピッ……

トウジ「……なんや、イインチョやんか」

ヒカリ「鈴原、大丈夫?」

トウジ「ああ、生きとるみたいやな」

   隣のベッドを見やるトウジ

トウジ「なんや……シンジがおったような気がしとったけど、夢やったんかいな」

ヒカリ「碇くんは、昨日退院したそうよ。3日も寝てたんだから、鈴原は」

トウジ「そうか……3日もか……」

*トウジ「……綾波は?」

*ヒカリ「えっ?」

*トウジ「……綾波がおったような気がしたんやけど……夢やったんかな……」

*ヒカリ「……あ、あの……鈴原?」

*トウジ「ん?」

*ヒカリ「あの、やっぱり……綾波さんと……」

*トウジ「何言うとんのや」

*ヒカリ「だって! あの時、屋上で――」

*トウジ「あ?」

*ヒカリ「だから……」

*   失笑するトウジ

*トウジ「あのな、あん時、綾波と話しとったのは、シンジのことや」

*ヒカリ「えっ……」

*トウジ「ワシがエヴァに乗るのをシンジが心配するて、綾波が心配しとって、それでワシのところに来たんや」

*ヒカリ「そ……そうだったの……」

*   天井を見るトウジ

*トウジ「シンジと……綾波がおったような気がしたんやけどな……」

*ヒカリ「……」

   ヒカリに視線を移すトウジ  微笑む

トウジ「イインチョは――」

ヒカリ「あっ……」

   うろたえるヒカリ  少し紅くなって

ヒカリ「ここに来たのは委員長として、公務で来たのよ! それ以外の何でもないのよ」

トウジ「ああ、分かっとるわ」

ヒカリ「……分かってないわよ……」

   すねるように横を向くヒカリ

トウジ「済まんかったな……弁当、食えへんで」

ヒカリ「いいのよ、そんなこと……でも、ごめんね。ここでお弁当食べさせちゃいけないんだって……」

トウジ「イインチョ……」

ヒカリ「なに?」

トウジ「一つ、頼んでええか?」

ヒカリ「うん……」

トウジ「妹に、ワシは何でもあらへんと、言うといてんか?」

ヒカリ「……うん」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:03:31.77 ID:tKgfSj8d0
(中略)

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

   手錠をかけられゲンドウのデスクの前に立つシンジ

ゲンドウ「命令違反、エヴァの私的占有、稚拙な恫喝……これらはすべて犯罪行為だ。何か言いたいことがあるか」

シンジ「はい。僕はもう、エヴァに乗りたくありません。ここにもいたくありません」

ゲンドウ「では出て行け」

シンジ「はい。先生のところへ戻ります」

   踵を返すシンジ

ゲンドウ「また逃げ出すのか」

シンジ「……」

ゲンドウ「おまえには失望した。もう会うこともあるまい」

シンジ「はい、そのつもりです」

   退室するシンジ

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 通路 ====

   ややうつむいて歩いてくるシンジ

   ふと顔を上げるシンジ

   少し先にレイが立っている   制服姿

   立ち止まるシンジ

レイ「碇くん」

シンジ「……」

   憮然として顔をそむける

シンジ「綾波は……知ってたんだろ?」

レイ「え?」

シンジ「トウジが乗るってこと。……父さんから聞いてたんだろ?」

レイ「……私は――」

シンジ「どうして言ってくれなかったんだよ」

レイ「……」

シンジ「わかってたら……もしかしたら……もしかしたら、もっと……何か出来たかも知れないのに」

レイ「碇くん――」

シンジ「それなのに……父さんは――」

レイ「でも!」

シンジ「……」

レイ「あの時、碇くんは、戦うことができたはずだわ」

シンジ「……」

レイ「碇司令の命令がなかったら、碇くんは――」

シンジ「父さんか……」

   はっとするレイ

シンジ「父さんなんか、もうどうだっていいよ」

レイ「碇くん――」

シンジ「綾波は……結局、僕なんかより父さんの方が大事なんだろ」

レイ「そうじゃない――」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:06:06.79 ID:tKgfSj8d0
シンジ「父さんが……あんな……ダミーシステムなんて――」

   はっとするシンジ

   レイの顔を見るシンジ

   怪訝な顔で見るレイ

シンジ「……それも知ってたの?」

レイ「え?」

シンジ「ダミーシステム……綾波の『実験』って――」

レイ「違う、私は――」

シンジ「……もういいよ」

レイ「聞いて、碇くん――」

シンジ「もういいよ!」

レイ「……」

   レイの脇をすり抜けて出口に向かうシンジ

シンジ「僕はもう……エヴァには乗らない」

   スカートの太腿のあたりを掴んでいるレイ

   歩み去るシンジ

   取り残されるレイ  俯いている

レイ(ダミー……システム……)

   眉をひそめるレイ

レイ(……実験?)

   顔を上げ、シンジが去った方を見るレイ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 地上 ====

   道路を歩み去るシンジの後姿

   聞こえてくるゲンドウの声

ゲンドウ『私だ。サードチルドレンは抹消。初号機の専属パイロットはレイをベーシックに、ダミープラグをバックアップに回せ』


==== ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   ベッドに横たわり灯具を見上げているシンジ

   携帯電話の呼び出し音

   横たわったまま、携帯電話を耳にあてているシンジ

ケンスケ『シンジか? ここから出てくってホントか?……ホントなんだな?」

シンジ「……」

ケンスケ『でもなぜだよ、なぜいまさら逃げんだよ』

シンジ「……」

ケンスケ『俺はおまえに憧れてたんだ。羨ましいよ、俺たちとは違うんだからな』

シンジ「……」

ケンスケ『ちくしょう……トウジまでエヴァに乗れるって言うのに、俺は――』

女性オペ「この電話は盗聴されています。機密保持のため回線を切らせていただきました。ご協力を感謝いたします」

   切れる電話
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:08:00.81 ID:tKgfSj8d0
**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

   ゲンドウのデスクから少し距離を置いて立つレイ

ゲンドウ「どうした、レイ」

   顔を上げるゲンドウ

レイ「お聞きしたいことが……」

ゲンドウ「……」

レイ「ダミーシステムのことで……」

   レイを見ているゲンドウ

   立ち上がる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 駅 改札口前 ====

(中略)

ミサト「わかってると思うけど、これから先、あなたの行動にはかなりの制限がつくから」

シンジ「はい…あの…」

ミサト「なあに」

シンジ「一つだけ教えてください。なぜトウジなんですか?フォースチルドレンが」

ミサト「……第4次選抜候補者は、全てあなたのクラスメートだったのよ。私も最近知ったわ。全て……仕組まれていたことだったの」

シンジ「みんなが……クラスのみんなが……」

   苦しげにつぶやくシンジ

ミサト「鈴原君のことは、いくら言葉で謝っても取り消されるミスではないわ……でもシンジ君、正直私は、あなたに自分の夢、願い、目的を重ねていたわ。それがあなたの重荷になってるのも知ってる」

シンジ「……」

ミサト「でも私たちは、ネルフのみんなは、あなたに未来を託すしかなかったのよ。それだけは、覚えておいてね」

シンジ「勝手な言い分ですよね……」

ミサト「それは分かってるわ」

シンジ「……」

ミサト「本部までのパスコードとあなたの部屋は、そのままにしておくから」

シンジ「無駄ですよ。片付けておいてください」

ミサト「……」

シンジ「僕はもう、エヴァには乗りません」

==== 黒塗りの車の車内 ====

   後部座席に座るミサト

ミサト(積極的に話をしている……初めてね、こんなの)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 地上施設 廊下 ====

   肩を落として歩くレイ

   ふと立ち止まり窓を見上げる

   青空に白い雲が流れている

   憔悴した面持ちで見上げているレイ

**** Omit Scene ここまで ****
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:09:13.85 ID:tKgfSj8d0
==== 駅のホーム ====

   2番線ホームに立ち列車を待つシンジ

   街に鳴り響くサイレン

シンジ「!」

   頭上の電光表示を見上げるシンジ

構内放送『ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました」

   「政府専用特別急行列車R-13 13:38発 新厚木行」の標示が「避難通路 EMERGENCY PASSAGE」に切り替わる

構内放送『住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します――』 

シンジ「使徒だ…」

(中略)

==== 発令所 ====

男性オペ『第1から18番装甲まで損壊!』

マコト「18もある特殊装甲を、一瞬に?」

   駆け込んでくるミサト

   片腕を三角巾で吊っている

ミサト「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ。弐号機をジオフロント内に配置、本部施設の直縁に廻して!」

   射出されていく弐号機

ミサト「アスカには目標がジオフロント内に侵入した瞬間を狙い撃ちさせて!」

ミサト「零号機は?」

マヤ「A.T.フィールド中和地点に配置されています!」

リツコ「左腕の再生がまだなのよ」

ミサト「戦闘は無理か……」

ゲンドウ「レイは初号機で出せ。ダミープラグをバックアップとして用意」

ミサト「はい」

* ==== 通路 ====

*   走るレイ   プラグスーツ姿

*女性オペ『エヴァンゲリオン初号機、発進準備』

*レイ「!」

*   思わず立ち止まり、天井を見上げるレイ

*女性オペ『零号機パイロットは、7番ケージへ』

*レイ「……」

*   表情を引き締めるレイ

*   再び走り出す

==== 初号機ケージ ====

   頸部に挿入されるエントリープラグ

   閉じる頸部カバー

女性オペ『エントリースタート』
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:10:33.93 ID:tKgfSj8d0
==== 初号機プラグ内 ====

レイ「……」

   プラグ内壁モニタの表示状態が次々に変っていく

マヤ『L.C.L.電化』

レイ「……」

リツコ『A10神経、接続開始』

レイ「うっ!?」

   全面真っ赤に染まるプラグ内壁モニタ

   口許を押さえるレイ

レイ(だめなのね……もう……)

==== 初号機ケージ ====

女性オペ『パルス逆流!』

   モニタ上、次々に切れていく接続状態表示

マヤ「初号機、神経接続を拒絶しています!」

リツコ「まさか、そんな……」

冬月「碇……」

ゲンドウ「ああ」

   厳しい表情でモニタを睨むゲンドウ

ゲンドウ「私を拒絶するつもりか」

==== 初号機プラグ内 ====

レイ「……」

   赤い光に満たされたプラグの中、うずくまるレイ

==== 発令所 ====

ゲンドウ「起動中止。レイは零号機で出撃させろ。初号機はダミープラグで再起動」

ミサト「しかし零号機は!」

レイ『構いません。行きます』

ミサト「レイ!」

==== 初号機プラグ内 ====

   赤い光の中

   口を押えて背を丸めているレイ

レイ「……」

**** Omit Scne ここから ****

  (レイ回想)

==== セントラルドグマ L.C.L.プラント ====

   暗い室内

   呆然と立ち、こちらにある何かを見上げているレイ

   オレンジ色の光に正面から照らされている

レイ「ダミー……」

   手前の方をときどきゆったりと横切る人体の一部のようなシルエット

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:12:24.95 ID:tKgfSj8d0
レイ「これが……」

   レイの後方の闇から歩み出るゲンドウ

ゲンドウ「そうだ」

   レイに並び、レイと同様に手前にある何かを見上げるゲンドウ

   断続的に聞こえるかすかな音声

   多数の少女の重なり合った笑い声のように聞こえる

   呆然と見上げているレイ

   :
   :

  (レイ回想終わり)

**** Omit Scene ここまで ****

レイ(私は死んでも、代わりはいるもの……)

==== 地上 市街地 ====

   眩い光を閃かせる使徒   

   多数の十字形の爆炎があがる

   見下ろしているシンジ

シンジ(僕はもう、乗らないって決めたんだ……)

男性「君、何をしている! 早くシェルターに避難しなさい!」

(中略)

==== ジオフロント シェルター付近 ====

   針葉樹林の向こう、飛び交う対空砲火の光

   それを見上げているシンジの後姿

   崩壊した外壁の外、ジオフロントの地表を右往左往する人々

男性職員「怪我人は第6ブロックへ!」

男性職員「無事なものは第3シェルターへ集合しろ!」

男性職員「こっちだ! 早く!」

   男性職員の一人がシンジを見咎め立ち止まる

男性職員「おい君! 何をしている! 死にたいのか!」

   弐号機の残骸を呆然と見るシンジ

シンジ「アスカ……」

   「シンジ君じゃないか」

   振り返るシンジ

シンジ「加持さん……」

   樹林の手前、ワイシャツ姿の加持がじょうろを持って佇んでいる

シンジ「何やってるんですか、こんなところで」

加持「それはこっちのせりふだよ。何やってるんだ、シンジ君は」

シンジ「……僕は……僕はもうエヴァには乗らないから…そう決めたから…」

加持「そうか……」

シンジ「……」


加持「アルバイトが公になったんでね。戦闘配置に俺の居場所はなくなったんだ。以来ここで水を撒いてる」

   じょうろの下、丸々としたスイカが実っている
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:14:10.01 ID:tKgfSj8d0
シンジ「こんな時にですか?」

加持「こんな時だからだよ。葛城の胸の中もいいが、やはり死ぬ時はここにいたいからね」

シンジ「死ぬ……」

   使徒の目が閃き、また爆発が起こる

加持「そうだ。使徒がここの地下に眠るアダムと接触すれば、人は全て滅びるといわれている。サードインパクトでね」

シンジ「……」

加持「それを止められるのは、使徒と同じ力を持つエヴァンゲリオンだけだ」

   地下からリフトで上昇してくる零号機

   左腕の肩から下がない

シンジ「綾波!? ライフルも持たずに!」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「くっ……」

   インダクションレバーを押し込むレイ

==== ジオフロント ====

   使徒に向かって駆け出す零号機 

==== 発令所 ====

リツコ「自爆する気!?」

ゲンドウ「レイ!」

==== ジオフロント ====

   突進する零号機

   直前で零号機に向き直る使徒

   右手に掴んだN2爆雷を押し付ける零号機

   使徒のA.T.フィールドに阻まれる

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「A.T.フィールド、全開!」

*   歯を食いしばるレイ

*レイ(碇くんが、もう――)

*   使徒のA.T.フィールドを押しのけコアに肉薄するN2爆雷

*レイ(エヴァに乗らなくてもいいようにする! だから!!)

   コアに叩きつけられるN2爆雷

   一瞬早くコアをシャッターのようなものが覆う

   閃光――

==== ジオフロント スイカ畑 ====

シンジ「うっ!……」

   爆風から顔をかばうシンジ

==== 発令所 ====

マコト「零号機は……」

   たたずむ零号機の頭部を使徒の腕が直撃する

   倒れる零号機

ミサト「レイ!」

リツコ「何てことを……」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:16:23.27 ID:tKgfSj8d0
==== ジオフロント スイカ畑 ====

シンジ「あ……あ……」

   目を見開き震えるシンジ

加持「シンジ君、俺はここで水を撒くことしかできない。だが、君には君にしかできない、君にならできることがあるはずだ」

シンジ「……」

加持「誰も君に強要はしない。自分で考え、自分で決めろ。自分が今、何をすべきなのか」

シンジ「……」

加持「ま、後悔のないようにな」

   爆発音

シンジ「……」

   表情を引き締め、ひとつ頷く

(中略)

==== 初号機ケージ ====

   モニタを埋める赤い警報表示

男性オペ『ダミープラグ、拒絶』

ゲンドウ「……」

男性オペ『だめです! 反応ありません!』

ゲンドウ「続けろ。もう一度、ヒトマルハチからやり直せ」

   「乗せてください!」

   アンビリカルブリッジを見下ろすゲンドウ

   膝に手をついて息を切らせているシンジ

シンジ「僕を……僕をこの……初号機に乗せてください!」

   シンジを見下ろすゲンドウ

   睨みかえすシンジ

シンジ「父さん……」

ゲンドウ『なぜここにいる』

   拳を握りしめるシンジ

シンジ「僕は……僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです!」

   :
   :

==== 発令所 ====

シゲル「目標は、メインシャフトに侵入、降下中です!」

ミサト「目的地は!?」

マコト「そのまま、セントラルドグマへ直進しています!」

ミサト「ここに来るわ! 総員待避! 急いで!」

マコト「総員待避! 繰り返す、総員待避!」

   鳴り響く警報

   明滅して消える主モニター

   主モニターのある壁面が崩れ、使徒が踏み込んでくる

マコト「ああっ!」

マヤ「きゃあああ!!」

169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:18:47.44 ID:tKgfSj8d0
ミサト「!!」

   ミサトの立つ司令塔に肉薄する使徒

   目が光を帯びる

   突如、側壁が崩れ、エヴァ初号機がなだれ込む

   エヴァに殴り飛ばされる使徒

ミサト「エヴァ初号機!!……シンジ君!?」

   使徒とともにケージになだれ込む初号機

==== 初号機ケージ ====

シンジ「うわあああああ!」

   使徒に殴りかかろうとする初号機

   使徒の目が輝き初号機の腕がちぎれ飛ぶ

   ゲンドウが立つ作業通路のすぐ近くの側壁に叩きつけられる初号機の腕

   飛び散るエヴァの体液にまみれるゲンドウ

シンジ「わああああああ!」

   左肩を押さえて絶叫するシンジ

   使徒を射出口に追い込む初号機

シンジ「ミサトさん!」

ミサト「5番射出、急いで!」

   きらめきとともに打ち出される初号機と使徒

   高速で行き過ぎていく内壁に使徒を押し付ける初号機

==== ジオフロント ====

   使徒もろとも高々と打ち上げられる初号機

   地表に叩きつけられた使徒に殴りかかる初号機

   使徒の外皮を引きちぎろうとする初号機

   と、糸が切れたように動きが止まる

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「はっ!」

   ゼロを示す内部電源残時間表示

シンジ「エネルギーが切れた!?」

(中略)

==== ジオフロント ====

   破壊された地上施設から地表に駆けだすミサト達

一同「ああっ!!」

   高々と掴み上げられ、地上施設に叩きつけられる初号機

ミサト「シンジ君!」

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け!」

   使徒の攻撃の振動がプラグ内にも伝わってくる

   必死でインダクションレバーを動かし続けるシンジ

シンジ「動け、動け、動いてよ!」

   外部映像が消えたプラグ内壁が亀裂で覆われていく
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/12(土) 11:21:54.01 ID:tKgfSj8d0
シンジ「今動かなきゃ、今やらなきゃ、みんな死んじゃうんだ! もうそんなの嫌なんだよ!」

   絶叫するシンジ

シンジ「だから、動いてよ!」

   心臓の拍動のような音――

   はっと顔を上げるシンジ

   :
   :

==== ジオフロント ====

   突如として光を帯びるエヴァ初号機の目

   使徒の腕を捉え使徒本体を掴みよせる

   使徒を蹴り飛ばす初号機

   無残に転がる使徒

   その様子を眺めている加持

   立ち上がるエヴァ初号機

マヤ「エ……エヴァ、再起動……」

(中略)

   動かなくなった使徒に四つんばいで肉薄する初号機

   使徒の残骸に顔をうずめ喰らいつく

ミサト「使徒を……食ってる……」

リツコ「S2機関を自ら取り込んでいるというの!? エヴァ初号機が!」

マヤ「うっ!……」

   嘔吐するマヤ

   立ち上がるエヴァ初号機

   上体の装甲板がはじけ飛ぶ

リツコ「拘束具が!」

マコト「拘束具?」

リツコ「そうよ……あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押え込むための拘束具なのよ。その呪縛が今、自らの力で解かれていく」

   咆哮するエヴァ初号機

リツコ「私たちには、もうエヴァを止めることはできないわ」

(中略)

==== 総司令執務室 ====

冬月「始まったな」

ゲンドウ「ああ」

   咆哮する初号機

ゲンドウ「全てはこれからだ」


(第拾九話 おわり)
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:07:31.51 ID:hO8keGxx0
第弐拾話 「心のかたち、人のかたち」

(中略)

==== 第1日 ネルフ本部 第1発令所 ====

マヤ「エヴァ両機の損傷は、ヘイフリックの限界を超えています」

リツコ「時間がかかるわね。全てが戻るには」

マヤ「幸い、マギシステムは移植可能です。明日にも作業を開始します」

リツコ「でも、ここはだめね」

シゲル「破棄決定は、もはや時間の問題です」

リツコ「そうね……とりあえずは、予備の第2発令所を使用するしかないわね」

マヤ「マギはなくとも、ですか?」

==== 第2発令所 ====

リツコ「そうよ。埃を払って、午後には仕事を始めるわよ」

マヤ「椅子はきついし、センサーは硬いし、やりづらいんですよね、ここ」

シゲル「見慣れた第1発令所と造りは同じなんですが」

マヤ「違和感ありますよね」

リツコ「今は使えるだけマシよ。……使えるかどうか分からないのは、初号機ね」

==== 初号機ケージ ====

   ケージに固定されているエヴァ初号機

   拘束具が失われた部分肩口から頭部にかけて包帯のような布で巻かれている

   むき出しになった瞼のない眼球

   包帯の表面のあちこちに血のような染みがある

ミサト「ケイジに拘束……大丈夫でしょうね」

マコト「内部に熱、電子、電磁波ほか、化学エネルギー反応無し。S2機関は完全に停止しています」

ミサト「――にもかかわらず、この初号機は3度も動いたわ」

(中略)

==== ネルフ本部 総司令公務室 ====

加持「いやはや、この展開は予想外ですな……委員会、いえ、ゼーレの方にどう言い訳つけるつもりですか?」

冬月「初号機はわれわれの制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」

ゲンドウ「よって初号機は凍結。委員会の別命あるまでは、だ」

加持「適切な処置です。しかし、ご子息を取り込まれたままですが?」

ゲンドウ「……」

==== 発令所 ====

   鳴り響く警報音

   マギ・バルタザールからの排出コマンドをエヴァ初号機が拒否したことを表す表示が明滅している

マヤ「やはりだめです、エントリープラグ排出信号、受け付けません」

リツコ「予備と疑似信号は?」

マヤ「拒絶されています。 直轄回路もつながりません」

マコト「プラグの映像回線つながりました。主モニターに回します」

   どよめきが漏れる

   シートにはだれもおらずシンジのプラグスーツだけが漂っている

ミサト「何よ、これ!」

リツコ「……これが、シンクロ率400パーセントの正体」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:09:39.29 ID:hO8keGxx0
(中略)

==== 第2日目 夜 ネルフ中央総合病院 病室 ====

   病室の中央   ベッドに横たわっているレイ

   頭に巻いた包帯に片目までおおわれている

   目を開け呟くレイ

レイ「……まだ生きてる……」

**** OmitScene ここから ****

   室内をぼんやりと見まわすレイ

   (レイ回想)

   ジオフロント

   頭部を破損し地面に横たわる零号機

   エントリープラグの中

レイ「っ……」

   苦しげに眼を開けるレイ

   周囲の風景が消えたプラグ内壁面モニタ

   生命維持モードに入っていることを示す文字が明滅している

   装甲を通じて伝わってくる震動

   大儀そうにコンソールを操作してモニタを起動するレイ

   暗視モードの粗い映像

   闇の中を四つん這いで行き過ぎていく初号機

レイ「!」

   地表にうずくまっている初号機のシルエット

レイ「……」

   その様子を呆然と見るレイ

   身を起こし咆哮する初号機
     :
     :

   ベッドの上   起き上がるレイ

   怯えた表情

レイ(碇くん……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 夜 ミサトのマンション ====

アスカ「あの女が無事だって言うのは分かったわよ!」

   灯りの消えた室内

   床に散らばるカップの欠片、破れた雑誌、中綿のはみ出したクッション

アスカ「ミサトもいちいちそんなことで私に電話しないでよ、もう!」

   荒々しく受話器を叩きつける音

   ベッドにうつ伏せに寝転び顔を枕に押し付けているアスカ

アスカ「何も……何もできなかったなんて! ……あのバカシンジに負けたなんて……」

   更に枕を顔に押し付けるアスカ

アスカ「……悔しい!」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:12:23.64 ID:hO8keGxx0
(中略)

==== 第3日 初号機ケージ ====

   包帯を巻かれた初号機の頭部

   作業灯に照明されている

マヤ「――そうです。プラグの中のL.C.L.成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似しています」

ミサト「生命のスープか……」

リツコ「シンジくんを構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している。現に彼の自我イメージが、プラグスーツを擬似的に実体化させているわ」

マヤ「つまりサルベージとは、彼の肉体を再構成して精神を定着させる作業です」

ミサト「そんな事できるの?」

リツコ「マギのサポートがあれば」

ミサト「理論上は、でしょ? 何事も、やってみなくちゃ分からないわよ」

**** OmitScene ここから ****

==== 夜 初号機ケージ ====

   作業員が去り照明がほとんど落とされたケージ内

   初号機の前に佇むレイ

   頭に包帯を巻き、腕を吊っている

     :
     :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 第4日 初号機プラグ内 ====

   抜け殻のようなプラグスーツが漂っている

シンジ「何だ、これ? どこだ、ここ? エントリープラグ? 初号機の? でも誰もいない。僕もいない」

シンジ「何だこれ、何だこれ、何だこれ? よくわかんないや……」

   波打ち際のイメージが明滅する

シンジ「この人達……そう、僕の知っている人たち、僕を知っている人たち」

   ミサト、レイ、アスカ、クラスメートたちの顔が目まぐるしく浮かぶ

シンジ「そうか、みんな僕の世界なんだ……」

(中略)

   ネルフ本部 長い下りエスカレーターに乗って運ばれているシンジとレイ

レイ『なぜお父さんが嫌いなの?』

シンジ「当たり前だよ! あんな父親なんて」

レイ『お父さんが分からないの?』

シンジ「当たり前だよ……ほとんど会った事もないんだもの……」

レイ『だから嫌いなの?』

シンジ「そうさ、父さんは僕がいらないんだ。父さんが僕を捨てたんだ!」

レイ『その代わりが私なの?』

シンジ「そうさ! そうに決まってる! 綾波がいるから僕は捨てられたんだ!」

レイ(幼児)『自分から逃げ出したくせに』

シンジ「うるさい、うるさい、うるさい! 父さんがみんな悪いんじゃないか! あの時だって、ほんとは父さんに嫌いだって言うつもりで!」

シンジ『これに乗って、恐い目に遭えって言うの? 父さん』

ゲンドウ『そうだ』

シンジ『なんだよ、嫌だよ、何を今更なんだよ、父さんには僕がいらないんじゃなかったの?』

ゲンドウ『必要だから呼んだまでだ』
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:15:22.35 ID:hO8keGxx0
シンジ『なぜ僕なの?』

ゲンドウ『ほかの人間には無理だからな』

シンジ『無理だよそんなの! 見たことも聞いたこともないのに、できるわけないよ!』

   うずくまるエヴァに乗る前のシンジ

   それを見ているプラグスーツ姿のシンジ

シンジ「違う……僕は知っていた」

   はっとするシンジ

シンジ「そうだ、僕はエヴァを知ってた……そしてあの時、僕は逃げ出したんだ!」

   窓ガラスに手をついて、手前にある何かを笑顔で見下ろしている幼いシンジ

シンジ「――父さんと母さんから!」

**** Omit Scene ここから ****

==== 夜 レイのマンション ====

   カーテンの隙間から漏れてくる月明かり

   ベッドの上に横たわっているレイ   目を開いている

   部屋の中

   キッチンの洗い物かごに置いたままの二つのカップ

   視線を動かすレイ

   半開きになったクローゼットの中

   折りたたまれたテーブルと巻きとられたレジャーシートが少し覗いている

   (レイ回想)

シンジ『綾波は……結局、僕なんかより父さんの方が大事なんだろ』 

レイ「……」

シンジ『父さんが……あんな……ダミーシステムなんて――』

レイ「……」

   セントラルドグマ

   オレンジ色の光に照らされ、呆然と何かを見上げているレイ

   :
   :

   ベッドの上

   目をぎゅっと閉じ、枕で頭をおおうレイ

   かすかにこだまする多数の少女の笑い声のような音

   :
   :   
   

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== 第30日目 ネルフ本部 初号機ケージ 管制室 ====

マヤ「サルベージ計画の要綱。たった一か月でできるなんて、さすが先輩ですね!」

リツコ「残念ながら原案は私じゃないわ。10年前に実験済みのデータなのよ」

マヤ「そんなことあったんですか? エヴァの開発中に?」

リツコ「まだここに入る前の出来事よ。母さんが立ち会ったらしいけど、私はデータしか知らないわ」

マヤ「その時の結果は、どうだったんですか?」

リツコ「失敗したらしいわ」

   :
   :
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:17:58.75 ID:hO8keGxx0
==== 第31日目 ====

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 ジオフロント 噴水のある庭園 ====

レイ「……」

   泉水のほとりにしゃがみ込み、片手を水に浸しているレイ   

   「こんなところにいていいのかい」

   レイの後姿  わずかに頭が上がる

   加持がぶらぶらと歩いてくる

   片手に作業用のヘルメットをぶら下げている

加持「シンジくんのサルベージ作業がもうすぐ始まるんだそうだが……行かなくていいのか?」

レイ「……どうして、私にそういうこと言うの」

   振り向かずに言うレイ

   物憂げに自らの後ろ頭をかく加持

加持「いや、すまん。君はいつも碇司令といっしょだったから……つい、ね」

   ポケットを探る加持

加持「アスカにも言ってみたんだがね。シンジくんの名前を言ったとたんに電話を切られちまった」

レイ「……」

   煙草を取り出し、火をつける加持

加持「鈴原君の一件があったからな……顔を合わせづらいのはわかるが……」

レイ「……」

加持「シンジくんは、一度はここを去った。だが、もう一度、エヴァに乗ることを決めた。シンジ君自身の意志で、だ。そして、俺たち全員を救ってくれた」

   頭上を仰ぎ、煙を吐き出す加持

加持「そのことは、認めてあげてもいいんじゃないか」

   泉水に浸していた手を引き揚げ、しばらく見つめるレイ

レイ「……私にはそんな資格、ないもの」

加持「どうして、そんな風に思うんだい?」

レイ「……」

加持「物事を知るって言うのは、いいことばかりじゃない。中には受け入れがたいことだってある」

   わずかにレイの後姿がこわばる

   それを見ている加持

加持「いろんなことを見たり、聞いたり、自ら経験することで、否応なく人は変わっていく。だが、変わらないものもある」

レイ「……」

   レイに背を向ける加持

加持「君にシンジくんに会う資格があるかどうか、俺にはわからない。だが、それはシンジ君と顔を合わせることができたらの話だ。違うかい」

   レイの横顔

   わずかに目が見ひらかれる

レイ「碇司令は……赤木博士に一任していると……」

   携帯灰皿に煙草を押し付ける加持

加持「りっちゃんは、はっきりとは言わなかったが……」

   同じ姿勢のまま泉水を見つめているレイ

   肩越しにレイの後姿を見ている加持

**** Omit Scene ここまで ****
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:19:52.12 ID:hO8keGxx0
========

シンジ「優しい……あったかい……」

   青空のイメージ

シンジ「人の温もりなのかな、これが……知らなかったな……」

   水音

   エレベーターに乗っているシンジとレイ

レイ『「寂しい」って何?』

シンジ「これまで分からなかった。でも今は分かるような気がする」

レイ『「幸せ」って何?』

シンジ「これまでは分からなかった。でも今は分かる気がする」

レイ『優しくしてくれる? 他の人が』

シンジ「うん」

レイ『どうして?』

シンジ「それは、僕がエヴァのパイロットだから」

シンジ「僕がエヴァに乗っているから、大事にしてくれる。それが、僕がここにいてもいい理由なんだ。僕を支えている全てなんだ」

   夕暮れの列車

   向かい合って座るシンジとレイ

シンジ「だから僕は、エヴァに乗らなきゃいけない」

レイ『乗って?』

シンジ「敵……そう、みんなが敵と呼んでいるものと戦わなきゃいけない」

レイ『戦って?』

シンジ「勝たなきゃいけない……そう、負けちゃいけないんだ」

シンジ「みんなの言う通りにエヴァに乗って、みんなの言う通りに勝たなきゃいけないんだ」

シンジ「そうじゃないと、誰も、誰も……誰も……」

(中略)

シンジ「……誰か僕に優しくしてよ。こんなにまで戦ったんだ。こんなに一生懸命戦っているんだ」

シンジ「僕の事を大事にしてよ、僕に優しくしてよ!」

   絶叫するシンジ

ミサト「優しくしてるわよ?」

(中略)

ミサト「私と一つになりたい?」

アスカ「心も体も一つになりたい?」

レイ「とてもとても気持ちいいことなのよ」

ミサト「ほら、安心して」

ミサト、レイ、アスカ「心を解き放って――」

==== 初号機ケージ ====

女性オペ『全探査針、打ち込み終了』 

男性オペ『電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています』

   初号機頸部に固定されているエントリープラグ
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:21:16.90 ID:hO8keGxx0
**** Omit Scene ここから ****

==== 通路 ====

   走ってくるレイ

   片手に作業用ヘルメットを掴んでいる

   ケージに続く入口の前で立ち止まる

   息を切らしているレイ

   表情を引き締め、入口をくぐる

==== 初号機ケージ ====

   初号機の後姿を見下ろす作業通路のひとつ

   作業通路のひとつに佇むレイ

   初号機を見下ろす

**** Omit Scene ここまで ****

==== 管制室 ====

マヤ「自我境界パルス、接続完了」

リツコ「了解、サルベージ、スタート」

マコト「了解、第1信号を送ります」

シゲル「エヴァ、信号を受信。拒絶反応無し」

マヤ「続けて、第2、第3信号送信開始」

男性オペ『対象カテクシス異常無し』

女性オペ『デストルドー、認められません』

リツコ「了解、対象をステージ2へ移行」

   リツコたちの後ろで腕組みをして立つミサト

ミサト「……シンジくん……」


========

シンジ「……」ハッ!

   目覚めるシンジ

アスカ『バカシンジ!』

シンジ「……」ハッ!

リツコ『シンジくん!?』

シンジ「……」ハッ!

トウジ『おう、シンジ!』

シンジ「……」ハッ!

ケンスケ『やあ、シンジ!』

シンジ「……」ハッ!

レイ『碇くん』

   :
   :

(中略)

   次第に早回しになる呼びかけの声

==== 管制室 ====

   鳴り響く警報音

マヤ「だめです、自我境界がループ上に固定されています!」

リツコ「全波形域を全方位で照射してみて!」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:23:16.09 ID:hO8keGxx0
リツコ「だめだわ……発信信号がクライン空間に捕われている……」

ミサト「どういう事!?」

リツコ「つまり……失敗……」

   苦しげな表情を浮かべるリツコ

ミサト「えっ……」

リツコ「干渉中止! タンジェントグラフを逆転。加算数値をゼロに戻して」

マヤ「はい!」

シゲル「Qエリアにデストルドー反応。パターンセピア!」

マコト「コアパルスにも変化が見られます。プラス0.3を確認!」

リツコ「現状維持を最優先、逆流を防いで!」

マヤ「はい!」

女性オペ『体内アポトーシス作業、予定数値オーバー、危険域に入ります!』


*==== 初号機ケージ内  作業通路のひとつ ====

*   響き渡る切迫したアナウンスにはっとするレイ

*   スピーカーがあると思しき天井を振り仰ぐ

==== 管制室 ====

マヤ「プラス0.5……0.8……変です。せき止められません!」

リツコ「これは……なぜ……」

   思わず主モニターを見上げるリツコ

   エントリープラグ内  さかんに泡立つL.C.L.

リツコ「帰りたくないの? シンジくん……」

==== エントリープラグ内 ====

   うずくまっているシンジの像

シンジ「分からない、分からない……僕は……僕は……」

ミサト『何を願うの?』

アスカ『何を願うの?』

レイ『何を願うの?』

   こちらを向いている大人の女性 逆光で顔立ちは見えない

女性『何を願うの?』

==== 発令所 ====

マヤ「エヴァ、信号を拒絶!」

シゲル「L.C.L.の自己フォーメーションが、分解していきます!」

マコト「プラグ内、圧力上昇!」

リツコ「全作業中止、電源落として!」

マヤ「だめです、プラグがイグジットされます!」

   突如開く初号機のエントリープラグのハッチ

   アンビリカルブリッジにあふれ出すL.C.L.

   L.C.Lに乗って浮かんで手前に流れてくるシンジのプラグスーツ

ミサト「シンジくん!!」

* ==== 初号機ケージ 作業通路 ====

* 怯えた表情のレイ
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:24:47.15 ID:hO8keGxx0
========

シンジ「……」ハッ…

   ベッドの上で目を開くシンジ

シンジ「ここは……」

   いつの間にか夕暮れの列車に乗っている

   「エヴァの中だよ」

   シンジの向かいに座る幼いシンジが答える

シンジ「エヴァの中? 僕はまた、エヴァに乗ったのか……どうして……」

ミサト「もうエヴァには乗らないの?」

シンジ「僕はエヴァにはもう乗らないって、決めたんです」

ミサト「でもあなたは乗ったわ。エヴァンゲリオン初号機に」

シンジ「……」ハッ…

ミサト「シンジくん。あなたはエヴァに乗ったから、今ここにいるのよ」

ミサト「エヴァに乗ったから今のあなたになったのよ」

ミサト「その事を、エヴァに乗っていた事実を、今までの自分を、自分の過去を、否定する事はできないわ」

ミサト「ただ、これからの自分をどうするかは、自分で決めなさい」

シンジ「僕は……僕は…… 」

==== 初号機ケージ ====

   露出している初号機のコアの前

   シンジのプラグスーツを抱きしめ、作業通路にうずくまってむせび泣くミサト

ミサト「人一人……人一人助けられなくて、何が科学よ……」

ミサト「シンジくんを返して……返してよ!」

**** Omit Scene ここから ****

   作業通路上

   呆然と立つレイ  手すりを握り締めている

   初号機の後頭部を見るレイ

   水の中

   逆さになって漂うレイの裸身

   ケージの作業通路上、初号機の後頭部を見ているレイ

   目を閉じる

   水の中を漂っていくレイ

   視界の奥  暗がりにたたずむ巨大な黒い影

レイ(碇くん……どこ?)

   水中の闇の中、あたりを見回すレイ

レイ(碇くん……どこ?)

   行く手を遮っている巨大な黒い影

   それに向かって泳ぐレイ

レイ(碇くん……どこ?)

   :
   :
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:26:34.62 ID:hO8keGxx0
========

   電線から飛び立つ鳥たち

   ベッドの上で目を開けるシンジ

シンジ「匂い……人の匂い……」

シンジ「ミサトさん……?」

シンジ「綾波……?」

シンジ「いや、違う……」

シンジ「そうだ、お母さんの匂いだ……」

ゲンドウ『セカンドインパクトの後に生きていくのか、この子は。この地獄に』

ユイ『あら、生きていこうと思えば、どこだって天国になるわよ。だって、生きているんですもの。幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ』

ゲンドウ『そうか……そうだったな』

シンジ「母さん…… 」

ユイ『決めてくれた?』

ゲンドウ『男だったらシンジ、女だったらレイと名づける』

ユイ『シンジ……レイ……フフ……』

シンジ「母さん……」

   :
   :

==== 初号機ケージ ====

   泣いているミサト

   背後で何かがあふれ出す音

   振り返るミサト

   むき出しになった初号機のコアの前の通路 ずぶ濡れで倒れているシンジ

ミサト「シンジくん!」

****  Omit Scene ここから ****

==== 初号機ケージ 作業通路 ====

   手すりにつかまったまま通路に座り込むレイ  肩で息をしている

   ヘルメットをかぶった頭を手すりにもたせ掛ける

   脳裏にこだまする多数の少女の笑い声のような音

   目をぎゅっとつぶるレイ

==== アンビリカルブリッジ上 ====

   シンジを抱きしめて座り込んでいるミサト

   かけつける救護員

   毛布でくるまれ、ストレッチャーに運び上げられるシンジ

   ふと顔を上げるミサト

   作業通路を見上げる

   誰もいない

   不思議そうな顔で通路を見上げているミサト

   背後で動き出す、シンジを乗せたストレッチャー

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 15:31:34.89 ID:hO8keGxx0
==== 第33日 夜 ミサトの運転する車内 ====

リツコ「――初号機の修復、明後日には完了するわ」

ミサト「結局、神様の力まで道具として使っちゃうのね、人間ってやつは」

リツコ「どうかしら。委員会では凍結案も出ているそうよ」

ミサト「人造人間エヴァンゲリオン……人が造ったにしては、未知のブラックボックスが大きすぎない?」

リツコ「……」

ミサト「ま、結果としてシンジくんが助かったから、いいけどさ」

リツコ「私の力じゃないわ、あなたの力ね、多分……どう? 久しぶりに飲んでかない?」

ミサト「ん? ごめん! 今日は、ちょっちね……」

リツコ「そう…… 」

==== 交差点 ====

   ドアが閉まる音

ミサト「じゃ」

   走り出すミサトの青いルノー

リツコ「シンジくんが無事と分かったら、男と密会とはね……」

   見送るリツコ

リツコ「人の事は言えないか……」


**** Omit Scene ここから ****

ミサト「……」

   運転するミサト

   リツコの言葉を思い出す

リツコ『あなたの力ね、多分……』

ミサト「……」

   シンジを胸に抱いて見上げた作業通路

ミサト(……私の力でもないわね、多分……)

   眉をひそめるミサト

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== ホテルの一室 ====

ミサト「――いやだ! 変なもの入れないでよ!」

   枕元に薬のカプセルのようなものを置くミサトの手

ミサト「こんな時に、もう……何!?」

加持「プレゼントさ、8年ぶりの」

ミサト「……?」

加持「最後かもしれないがな……」


(第弐拾話 おわり)
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/22(火) 14:53:10.21 ID:xH+nrfIh0
支援
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/23(水) 22:21:30.11 ID:BR1tHgC/0
>>182
ありがとう

>>181の微修正版から。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:24:39.05 ID:BR1tHgC/0
==== 第33日 夜 ミサトの運転する車内 ====

リツコ「――初号機の修復、明後日には完了するわ」

ミサト「結局、神様の力まで道具として使っちゃうのね、人間ってやつは」

リツコ「どうかしら。委員会では凍結案も出ているそうよ」

ミサト「人造人間エヴァンゲリオン……人が造ったにしては、未知のブラックボックスが大きすぎない?」

リツコ「……」

ミサト「ま、結果としてシンジくんが助かったから、いいけどさ」

リツコ「私の力じゃないわ、あなたの力ね、多分……どう? 久しぶりに飲んでかない?」

ミサト「ん? ごめん! 今日は、ちょっちね……」

リツコ「そう…… 」

==== 交差点 ====

   ドアが閉まる音

ミサト「じゃ」

   走り出すミサトの青いルノー

リツコ「シンジくんが無事と分かったら、男と密会とはね……」

   見送るリツコ

リツコ「人の事は言えないか……」


**** Omit Scene ここから ****

ミサト「……」

   運転するミサト

   リツコの言葉を思い出す

リツコ『あなたの力ね、多分……』

ミサト「……」

   (ミサト回想)

   作業通路を見上げているミサト

   誰もいない

ミサト(……私の力でもないわね、多分……)

   眉をひそめるミサト

**** Omit Scene ここまで ****

(中略)

==== ホテルの一室 ====

ミサト「――いやだ! 変なもの入れないでよ!」

   枕元に薬のカプセルのようなものを置くミサトの手

ミサト「こんな時に、もう……何!?」

加持「プレゼントさ、8年ぶりの」

ミサト「……?」

加持「最後かもしれないがな……」


(第弐拾話 おわり)
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:27:33.42 ID:BR1tHgC/0
第弐拾壱話 「ネルフ、誕生」

==== 西暦2000年 南極大陸 ====

   古いビデオ映像

(中略)

   爆発音

   荒廃した鉄骨コンクリート造りらしい施設内の映像

男「……槍を引き戻せ!」 

男「自分で行くぞ!」

男「わずかでもいい!  被害を最小限に食い止めろ!」

女「ガフの扉が開くと同時に、……処理を開始」

男「コンマ一秒でもいい。奴に、アンチA.T.フィールドに干渉可能なエ

ネルギーを絞り出させるんだ!!」

男『――解除不能!』

自動音声「カウントダウン、進行中――」

   重々しい足音のような音

男「羽を広げている! 地上に出るぞ!!」

   低い獣のような唸り

   廃墟のような通路の向こうを白い人型が通り過ぎていく

   途切れる映像

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 2015年 夕暮れ ネルフ中央総合病院 病室 ====

   病室の中央に置かれたベッド

   横たわっているシンジ

   目を開ける

   ドアが開く音   頭を動かしてドアの方を見るシンジ

   カートを押してレイが入ってくる

   見ているシンジ

   レイに見えた人影が看護師になっている

   まだ見ているシンジ

看護師「具合はどう?」

シンジ「……問題ありません」

   テーブルの用意を始める看護師

   上体を起こすシンジ

看護師「今夜様子を見て、異常がなければ退院していいそうよ」

シンジ「……ありがとうございます」

   カートから夕食のトレーを取り出す看護師

   また入り口をぼんやり見ているシンジ

**** Omit Scne ここまで ****
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:34:08.12 ID:BR1tHgC/0
==== 日中 新第三東京市郊外 ====

   緑色の公衆電話 残り度数は999と表示

ミサトの声『はい、ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ』

   公衆電話に向かう加持の後姿

   青い空  草の生い茂った道路端  奥には林

   受話器を置く音

加持「最後の仕事か……」

   電話機から取り出したネルフの赤いカードを見る加持

加持「まるで血の赤だな」


**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジに一人たたずむゲンドウ

ゲンドウ「……」

   エヴァ初号機の頭部を見上げている

==== ネルフ本部 通路 ====

   歩いてくる冬月

冬月(息子が無事、生還したと言うのに、面会もなしか)

   物思いに沈む冬月

冬月(まったく……碇は何を考えている?)

   冬月の背後に差す何者かの影


**** Omit Scene ここまで ****


==== ネルフ本部 ミサトのオフィス ====

   デスクについているミサト

   デスクの前に立つ黒服、黒眼鏡の男たち

ミサト「拉致されたって、副指令が?」

諜報部員「今より2時間前です。西の第8管区を最後に、消息を絶っています」

ミサト「うちの所内じゃない! あなたたち諜報部は何やってたの?」

諜報部員「身内に内報、および先導したものがいます。その人物に裏をかかれました」

ミサト「諜報2課を煙に巻ける奴? ……まさか!」

諜報部員「加持リョウジ。この事件の首謀者と目される人物です」

ミサト「……で、私のところにきたわけね」

諜報部員「ご理解が早く、助かります。作戦課長を疑うのは、同じ職場の人間として心苦しいのですが、これも仕事ですので」

   黙って懐から拳銃を取り出し、相手に銃把を向けて机に置くミサト

ミサト「彼と私の経歴を考えれば、当然の処置でしょうね」

   机に置かれている拳銃とIDカード

諜報部員「ご協力感謝します。――お連れしろ」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:35:19.85 ID:BR1tHgC/0
==== 闇の中 ====

   照明が灯され、椅子に座らされ後ろ手に縛られている冬月の後姿が浮かびあっがる

冬月「久しぶりです、キール議長。まったく手荒な歓迎ですな」

   浮かび上がるモノリス状の通信ウィンドウ

キール(モノリス01)「非礼を詫びる必要はない。君とゆっくり話をするためには、当然の処置だ」

冬月「相変わらずですね……私の都合は関係無しですか」

モノリス07「議題としている問題が急務なのでね。やむなくの処置だ」

モノリス03「分かってくれたまえ」

冬月「委員会ではなく、ゼーレのお出ましとは……」

モノリス02「われわれは新たな神を作るつもりはないのだ」

モノリス09「ご協力を願いますよ、冬月先生」

冬月(冬月先生……か……)

   回想に没入する冬月

   :
   :

(中略)

==== ネルフ本部 第4隔離施設 ====

   暗闇の中

   膝を抱えてうずくまるミサト

ミサト(暗いとこは、まだ苦手ね……いやな事ばかりを思い出すわ……)


(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 通路 ====

   廊下を歩くシンジ

   学生服姿

   ふと顔を上げる

   庭園に日が降り注いでいる

   視線を廊下に戻し歩き続けるシンジ

   ふと立ち止まる

   また窓外を見るシンジ

   泉水のほとりに座っている壱中の女子制服がぽつりと見える

   無意識に握ったり開いたりするシンジの手

   少し眉を寄せて窓外を見ているシンジ

   手が静かに握られる

   歩き出すシンジ

   :
   :   
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:36:58.34 ID:BR1tHgC/0
==== ネルフ本部 噴水のある庭園 ====

   降り注ぐ日差し  流水の音

   泉水のほとり

   石段に膝を抱えて座るレイ

   とめどなく流下する泉水をぼんやりと見ているレイ

   「あの……」

   身をこわばらせるレイ

シンジ「……ごめん」

レイ「なぜ、謝るの」

   レイの後ろ、少し離れたところに立っているシンジ

シンジ「このあいだ、僕、君にひどいこと――」

レイ「ごめんなさい」

シンジ「……」

レイ「謝るのは、私の方だわ」

シンジ「ううん」

   首を振るシンジ

   シンジを見るレイ

シンジ「綾波の言うとおりだった。僕がちゃんとしなきゃいけなかったんだ。僕がちゃんとやってれば、トウジだって……」

レイ「……」

シンジ「この前だって、僕が勝手にエヴァを降りて……使徒が来て……アスカや綾波や、みんなを危ない目に遭わせて」

レイ「いいの」

   また俯くレイ

レイ「いいの。私は」

シンジ「……」

レイ「私が死んでも、代わりはいるもの」

シンジ「……」

レイ「だから――」

シンジ「違う」

レイ「……」

シンジ「それは……僕も同じだよ」

   顔を上げるレイ   ゆっくりと振り返る

   流れる水を見ているシンジ

シンジ「アスカだって……ミサトさんに聞いたんだ。僕たちのクラス、全員パイロット候補だったって」

レイ「……」 

シンジ「エヴァのパイロットなんて、いくらでも代わりがいるんだ。何も知らないで、危ない目に遭って……トウジみたいに」

レイ「違う。そういう意味じゃ――」

シンジ「でも、綾波は綾波しかいない」

レイ「え?」

   レイを見るシンジ

シンジ「エヴァのパイロットだって、そうじゃなくたって、綾波は綾波しかいない」

   目を見開くレイ
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:38:49.26 ID:BR1tHgC/0
   俯くシンジ

シンジ「考えてみたら、僕のせいで綾波を危ない目にあわせてばっかりだ」

レイ「……」

シンジ「初めてここに来た時も、僕がすぐ乗るって言ってれば、綾波は連れてこられずに済んだのに」

レイ「……」

シンジ「ごめん」

レイ「いい」

シンジ「……」

レイ「最後は助けてくれたもの。あの時も、このあいだも。でも……」

シンジ「……」

レイ「碇くんは、これでよかったの?」

シンジ「……」

   無言で流れる水を見ているシンジとレイ


**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 初号機ケージ ====

リツコ「……」

   アンビリカルブリッジに立ち、初号機を見上げるリツコ

マヤ「あの、先輩!」

   物思いから覚めるリツコ

リツコ「ああ、ごめんなさい。――レイの再テスト、急ぎましょ」

   マヤと連れ立ってブリッジ上をケージ外へ向かうリツコ

マヤ「葛城さん、今日、見ませんね」

リツコ「え?……そうね」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== ネルフ本部 噴水のある庭園 ====

   泉水のほとりに座っているレイ

   並んで佇むシンジ

シンジ「――ねえ」

レイ「なに?」

シンジ「いま、僕たちにはエヴァに乗ること以外、何もないかもしれないけど……」

レイ「……」

シンジ「生きてさえいれば、いつか必ず……生きててよかったって思う時が、きっとあるよ。それは、ずっと先のことかもしれないけど」

レイ「……」

シンジ「だから、その時までは生きて行こうよ。」

レイ「……」

シンジ「いっしょに行けば、何か見つかるかもしれない……こんな、苦しいことばっかりの世界でも」

   手を差し伸べるシンジ

   少しためらってから手を伸ばすレイ

   ほっとしたように笑うシンジ
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:39:47.69 ID:BR1tHgC/0
   手をつないだまま立ち上がるレイ

レイ「私、碇くんに遭えてよかった」

   真顔で言うレイ

シンジ「僕も、綾波に遭えてよかった」

   はにかむように笑うシンジ

シンジ「案外、戻って来られたのは、綾波のおかげかもしれない」

レイ「え?」

シンジ「あの中にいたときのことはよく覚えてないんだけど……ずっと、綾波と話していたような気がする」

レイ「……そう」

シンジ「そうだ、加持さんにお礼を言うわなきゃ」

レイ「加持一尉?」

シンジ「うん……あの時、自分で決めろって言われたんだ」

レイ「……」

シンジ「僕にしかできないことだから、誰も強要しないからって。それで……」

レイ「私も」

シンジ「え?」

レイ「碇くんが、自分の意志で戻ってきたって。そのことは認めてやってもいいんじゃないかって」

シンジ「加持さんが?」

レイ「だから、行ったの。碇くんのところへ」

シンジ「……」

   レイの顔を見るシンジ

   レイの携帯電話が鳴る

   ポケットから引き出し、画面を見るレイ

   口惜しそうにシンジを見るレイ

   苦笑するシンジ

レイ「ごめんなさい」

シンジ「いいよ」

レイ「行ってくる」

シンジ「うん」

   名残惜しげにほどかれる手と手

シンジ「頑張って」

レイ「うん」

   走り去るレイ

   見送るシンジの後ろ姿

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:42:27.63 ID:BR1tHgC/0
(中略)

==== 2010年 箱根 ゲヒルン本部 発令所 ====

   薄暗い発令所

   自席から振り返る赤木ナオコ

   暗がりに立っている幼いレイ

ナオコ「……何かご用? レイちゃん」

幼いレイ「道に迷ったの」

ナオコ「あらそう……じゃ、私と一緒に出ようか?」

幼いレイ「いい」

ナオコ「でも、一人じゃ帰れないでしょ?」

幼いレイ「大きなお世話よ、ばあさん」

ナオコ「……何?」

幼いレイ「一人で帰れるからほっといて、ばあさん」

ナオコ「人のこと『ばあさん』なんて言うもんじゃないわ」

幼いレイ「だってあなた、ばあさんでしょ?」

ナオコ「……怒るわよ、碇所長に叱ってもらわなきゃ」

幼いレイ「所長がそう言ってるのよ、あなたのこと」

ナオコ「嘘……」
幼いレイ「『ばあさんはしつこい』とか、『ばあさんは用済み』だとか」

   ゆらぐナオコの視界
幼いレイ『ばあさんは用済み。所長が言ってるのよ』

ユイ『あなたの事。ばあさんは用済みだとか』
幼いレイ『所長が言ってるのよ、あなたのこと……』

   :
   :

   息が詰まる音

   幼いレイの細い首を掴んでいるナオコの両手

   碇にゆがむナオコの顔

ナオコ「あんたなんか……あんたなんか死んでも代わりはいるのよ、レイ! 私と同じね」

   だらりと垂れさがる幼いレイの両腕

ナオコ「……」ハッ…

   息を呑み目を見開くナオコ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

レイ「……」ハッ!

   :
   :
==== ネルフ本部 零号機プラグ内 ====

   呆然と目を見開くレイ

   プラグの作動音が耳に戻ってくる

リツコ『どうしたの? レイ』

レイ「……」

   不安げにプラグ内を見回すレイ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:44:29.68 ID:BR1tHgC/0
==== ネルフ本部 実験場 管制室 ====

レイ『何でもありません』

リツコ「……」

マヤ「ハーモニクス正常。精神汚染の兆候はありません」

   不安げにリツコを見上げるマヤの顔

   手元のコンソールからの照明に照らし出されている

リツコ「そう……」

   レイが写ったモニタを見るリツコ

リツコ「レイ?」

レイ『はい』

==== 零号機プラグ内 ====

リツコ『続けるわよ。いいわね?』

レイ「はい」

   喉元を指先でおそるおそる触れるレイ

   眉をひそめる

レイ(……これは……何? )

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


(中略)

   (冬月の回想)

冬月「――キールローレンツを議長とする人類補完委員会は、調査組織であるゲヒルンを即日解体。全計画の遂行組織として特務機関ネルフを結成した。そしてわれわれは、そのまま籍をネルフへと移した。」

冬月「ただ一人、マギシステム開発の功績者、赤木博士を除いて……」

   発令所のフロアに血が飛び散った後

   不自然に手足が捻じれた形の人型が白墨で描かれている

   :
   :

==== 公衆電話の前 ====

   テレフォンカードのイジェクト音

加持「さて……行きますか」

**** Omit Scene ここから ****

==== ミサトのマンション ダイニング ====

   テーブルの上に置かれた電話

   ツー、ツーと話中音が数回したあと途切れ、録音ありを示すランプが点灯する

   部屋の入口

   駆け込もうとしていた風で入口に手をかけ、半ば身を乗り出した姿勢で固まっているアスカ

   眉をひそめている

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:46:34.79 ID:BR1tHgC/0
==== とある建物の中 ====

   開くドア

   暗闇の中 後ろ手に拘束され椅子に座らされている冬月

冬月「君か……」

   椅子に座ったまま大儀そうに振り返る冬月

加持「ご無沙汰です。外の見張りには、しばらく眠ってもらいました」

   冬月の拘束を解く加持

冬月「この行動は、君の命取りになるぞ」

加持「真実に近づきたいだけなんです。僕の中のね」

==== 通路 ====

   辺りをうかがいながら進んでくる加持

   続く冬月

加持「――それに、アダムのサンプルを碇司令に横流ししたのがバレそうなんでね。自己保身も兼ねとかないと……やばいんですよ。いろいろね」

**** Omit Scene ここから ****

==== ミサトのマンション ====

シンジ「ただいま……」

   静まり返った室内

   誰もいないリビング

   襖が半分開いたままのミサトの部屋

   襖が閉じているアスカの部屋

シンジ「……」

   自室に入り、着替え始める

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== ネルフ本部 第4隔離施設 ====

諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

   銃とカードを差し出す諜報部員

ミサト「もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

ミサト「そう……」

   怪訝な顔で銃とカードを受け取るミサト

ミサト「彼は?」

諜報部員「……存じません」

   目を伏せるミサト

   出ていく諜報部員

   悲しげに眼を開くミサト
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/23(水) 22:48:49.86 ID:BR1tHgC/0
==== 夕暮れ 新第三東京市内 ====

   壁面に据え付けられた巨大な換気ファン

   その前に立つ加持

加持「よう、遅かったじゃないか」

   銃声


==== 夜 ミサトのマンション ====

   自室で膝を抱えS−DATに聞き入っているシンジ

ミサト「ただいま……」

   ダイニングに入ってくるミサト

   冷蔵庫を開けビールを引き出すミサトの手

    :
    :

   ダイニング・テーブルに肘をつき、合わせた手を額に当て、祈るように電話を待っている風のミサト

ミサト「?」

   電話機の留守番電話に録音があることを示す赤いランプが明滅している

ミサト「……!」

   用件再生ボタンをおすミサトの震える指

加持「葛城、俺だ。多分この話を聞いている時は、君に多大な迷惑をかけた後だと思う。すまない。リッちゃんにもすまないと謝っておいてくれ」

   呆然と電話機を見つめるミサト

加持「あと、迷惑ついでに……俺の育てていた花がある。俺の代わりに水をやってくれると嬉しい。場所はシンジ君が知ってる」

加持「葛城……真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。もし、もう一度会えることがあったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。……じゃ」

自動音声「午後、0時、2分、です」

   テーブルに突かれたミサトの両手

   ぱたぱたと落ちる水滴

ミサト「バカ……」

   とめどなく流れる涙

ミサト「あんた、ほんとにバカよ……」

   嗚咽するミサト

シンジ「……」

   シンジの部屋  イヤフォンをはずすシンジ

   ダイニングをのぞき、慌てて引っ込む

   声を上げて泣くミサト

   自室のベッドで枕をかぶってうずくまるシンジ

シンジ(語り)「その時僕は、ミサトさんから逃げることしかできなかった。他には何もできない、何も言えない子供なんだと、僕は分かった」

(第弐拾壱話 おわり)
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:02:23.74 ID:4gzoYOEk0
第弐拾弐話 「せめて、人間らしく」

==== 夜 太平洋上 ====

  空母の飛行甲板に寝転んで星空を見上げているアスカと加持

(中略)

アスカ「――ちぇー! 加持さんともしばらくお別れか。つまんないの。ブー!」

加持「日本に着けば新しいボーイフレンドもいっぱいできるさ。サードチルドレンは男の子だって話だぞ」

アスカ「あーあ、バカなガキに興味はないわ」

   ごろごろと転がって隣の加持に抱き着き、馬乗りになるアスカ

アスカ「私が好きなのは加持さんだけよ」

加持「……そいつは光栄だな」

   興味無さそうに上を見上げたままの加持

アスカ「もう! 加持先輩だったら、いつだってOKの3連呼よ。キスだって、その先だって!」

加持「アスカはまだ子供だからな。そういうことはもう少し大人になってからだ」

アスカ「えー、つまんなーい! 私はもう十分大人よ!」

   自分の襟元を両手でつかんで胸元を加持に見せつけるアスカ

アスカ「もう大人よ!」

   リフレインされるセリフ

   さまざまな場面がフラッシュバックされる

幼いアスカ「だから私を見て!」

   :
   :


==== ネルフ本部 実験場 ====

   窓の向こうには半ばL.C.L.に浸かったテストプラグ

リツコ「聞こえる? アスカ。シンクロ率、8も低下よ。いつも通り、余計な事は考えずに」

アスカ『やってるわよ!』

   シンクロ率を表すモニタ表示

マヤ「……最近のアスカのシンクロ率、下がる一方ですね」

リツコ「困ったわね、この余裕のない時に……やはりレイの零号機を優先させましょう。今は同時に修理できるだけのゆとりはないわ」

(中略)

==== 初号機ケージ ====

   初号機を見上げているミサト

ミサト(あのアダムより生まれしもの、エヴァシリーズ……セカンドインパクトを引き起こした原因たるものまで流用しなければ、私たちは使徒に勝てない)

ミサト(逆に生きるためには、自分たちを滅ぼそうとしたものをも利用する……それが人間なのね……)

ミサト「やはり私はエヴァを憎んでいるのかもしれない。父の仇か……」

マコト「葛城さん!」

   :
   :
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/09/30(水) 23:07:24.23 ID:4gzoYOEk0
==== 夕刻 ジオフロント ====

   灯りが灯った遊歩道の一角

   背後の森の向こうではピラミッド型の本部施設の再建が進む

ミサト「――エヴァ13号機までの建造開始? 世界7個所で?」

マコト「上海経由の情報です。ソースに信頼は置けます」

ミサト「なぜこの時期に量産を急ぐの?」

マコト「エヴァを過去に2機失い、現在は22機も大破ですから。第二次整備に向けて予備戦力の増強を急いでいるのでは?」

ミサト「どうかしら……ここにしてもドイツで建造中の5、6号機のパーツを廻してもらってるのよ。最近、ずいぶんと金が動いてるわね……」

(中略)

==== 夕暮れ 駅のホーム ====

アスカ「……」

   携帯電話を耳に当てているアスカ  学校の制服姿

自動音声『おかけになった電話番号は、お客様の都合により、現在使われておりません』

アスカ「変ね……やっぱりつながらない。またどっかに行っちゃったのかな……」

   通話を切るアスカ

*   マンションで聞いた加持の留守電を思い出すアスカ

*アスカ「……」

*   眉をひそめるアスカ

女性アナウンス『まもなく2番線に電車がまいります。危ないですから白線の内側に下がってお待ちください――」

アスカ「……!」

   向かいのホームを振り返り、はっとするアスカ

   ベンチに腰かけているレイと、傍らに立つシンジの後姿

アスカ「……」

   シンジが何か盛んにレイに話かけている

   アスカの表情が険しくなる

アスカ「……こないだまで1か月もエヴァに溶け込んでたくせに……何よ、すっかり元のサヤにおさまっちゃってさ!」

   レイに話続けているシンジ

   何か楽しそうに目を細める

アスカ「どうせ私は負けたわよ……あんたなんかに!」

(中略)

==== 夜 ミサトのマンション 浴室 ====

   浴槽の栓を手にぶら下げ、湯船を眺めているアスカ

アスカ「――ミサトもイヤ。シンジもイヤ。ファーストはもっとイヤ!」

   揺れる水面を見ているアスカ

アスカ「パパもイヤ。ママもイヤ」

   腹部を押さえ身を折るアスカ

アスカ「でも!……自分が一番イヤ!!」

   蹴とばした洗面器が脱衣所のドアに当たって跳ね返る

アスカ『もうイヤ! 我慢できない!!』

   自室でアスカの叫びを聞いているミサト  厳しい表情

アスカ『何で私が! 私がああああああぁっ!!』

   :
   :
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/09/30(水) 23:10:11.31 ID:4gzoYOEk0
==== 翌日 ネルフ本部 実験場 ====

マヤ「シンクログラフ、マイナス12.8。起動指数ギリギリです」

リツコ「ひどいものね。昨日より更に落ちてるじゃない」

ミサト「アスカ、今日調子悪いのよ。2日目だし――」

リツコ「シンクロ率は表層的な身体の不調に左右されないわ。問題は、もっと深層意識にあるのよ」

   険しい表情でモニタを見るリツコ

リツコ(弐号機のコア、変更もやむなしかしらね……)

リツコ「アスカ、上がっていいわ」

(中略)

==== ネルフ本部 エレベーター前 ====

   エレベーターを待っているアスカ

女性オペ『第七環状ルートは現在事故のため閉鎖中です。迂回ルートは12号線を利用してください――』

チン…ガラガラガラ……

   開く扉

アスカ「!」

   不機嫌そうに肩をいからせて乗り込むアスカ

   閉まる扉

==== エレベーター内 ====

レイ「……」

アスカ「……」

   ドア付近、ドアの方を向いて立つレイ

   奥の壁に腕を組んで不機嫌そうに壁にもたれているアスカ

   エレベーターの作動音だけが聞こえる

レイ「――心を開かなければ、エヴァは動かないわ」

アスカ「心を閉ざしてるってえの? この私が!」

レイ「そう。エヴァには心がある」

アスカ「あの人形に?」

   あざけるように笑うアスカ

レイ「分かってるはずよ」

アスカ「はん! あんたから話かけてくるなんて、明日は雪かしらね!?」

レイ「……」

アスカ「何よ、私がエヴァに乗れないのが、そんなに嬉しい? 心配しなくっても、使徒が攻めてきたら無敵のシンジ様がやっつけてくれるわよ! 私たちは何にもしなくていいのよ、シンジだけがいればいいのよ!」

レイ「……」

アスカ「あーあ、シンジだけじゃなく、機械人形みたいなあんたにまで同情されるとは、この私も焼きが回ったわねー!」

レイ「私は人形じゃない」

アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が[ピーーー]と言ったら死ぬんでしょ!?」

レイ「そうよ」

アスカ「くっ!……」

   頬を叩く乾いた音
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:12:50.44 ID:4gzoYOEk0
==== エレベーター前 ====

   開く扉 あとずさりに降りてくるアスカ

アスカ「やっぱり人形じゃない! あんたって人形みたいで、ほんと昔っから大っ嫌いなのよ!」

レイ「……」

   左頬が腫れているレイ

アスカ「みんな、みんな、大っ嫌い!」

   閉じる扉

   足音高く歩み去るアスカ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== 午後 レイのマンション ====

   ベッドの上に足を崩して座っているレイ   寝間着代わりのワイシャツ姿  

   レイの頬に濡れたタオルのようなものを当てるシンジの手

   少し顔をしかめるレイ

シンジ「あ、ごめん」

レイ「ううん」

   シンジの手の上からタオルを押さえるレイの手

   そっと手を引き抜くシンジ

   レイに向かい合って足を崩して座っている  Tシャツ姿

シンジ「……命令なら死ぬの?  本当に?」

レイ「命令なら、そうする」

   床の方を見ながら言うレイ

シンジ「でも――」

レイ「そうしなければ、他の人たちが死ぬもの」

シンジ「え?」

レイ「私たちにしか、できないことだもの」

シンジ「そっか……そうだよね」

レイ「……」

   まだ床の方を見ているレイ

   その横顔を見ているシンジ

レイ「……ごめんなさい」

シンジ「え?」

レイ「私、思い切り叩いたもの」

   きょとんとするシンジ

シンジ「あ……あの時のこと?」

   ネルフ本部のエスカレーター上

   振り向きざまにシンジの頬を張るレイ

シンジ「仕方ないよ……綾波は、父さんしか頼る人いないの、知らなかったし」

   シンジの頬に手を伸ばすレイ

レイ「……痛かった?」

   表情を曇らせてシンジの目を見るレイ

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:16:39.37 ID:4gzoYOEk0
シンジ「う、うん。まあね」

   苦笑するシンジ

シンジ「――ねえ、さっきみたいに言えば、わかってくれたんじゃないかな、アスカも」

   気を取り直したように言うシンジ

レイ「……うまく言えなかった」

シンジ「うん……」

レイ「……」

   頬にタオルを当てているレイの手の甲を包むように触れるシンジ

   目を閉じ、顔をシンジの手に預けるように少し傾けるレイ

シンジ「……」

   アスカの荒れた様子を思い出すシンジ

シンジ「それとも……やっぱり聞いてくれなかったかな……」

レイ「……」

   シンジを見るレイ

   浮かない表情のシンジ

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


==== 夜 シンジの部屋 ====

シンジ「……」

   ベッドに仰向けになって天井の灯具を見上げているシンジ


==== 翌朝 第壱中学校 教室 ====

ケンスケ「――シンジ、今日も来ないな。綾波はいつもの事として」

ヒカリ「アスカも来ない。鈴原もまだ退院できないし……」

   生徒の数もまばらな教室内

ケンスケ「学校どころじゃないんだな、今や」

(中略)

==== 翌日 新第参東京市 市街地 ====

   低く垂れこめる雨雲

   降りしきる雨

   上空から斜めに射し込む光条に包み込まれている弐号機

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「いやあああああ!」

   頭を抱えるアスカ

アスカ「私の、私の中に入ってこないでええええぇ!」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:19:02.15 ID:4gzoYOEk0
正誤表

>>197
saga忘れ 
× アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が[ピーーー]と言ったら死ぬんでしょ!?」
○ アスカ「うるさい! 人に言われたまま動くくせに! あんた碇司令が死ねと言ったら死ぬんでしょ!?」
さらにsage忘れ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:20:37.49 ID:4gzoYOEk0
(中略)

==== 市街地  ====

   ライフルを構える零号機

男性オペ『――薬室内、圧力最大』

マコト『最終安全装置、解除!』

女性オペ『解除、確認』

マコト『すべて、発射位置!』

   HMDをかぶっているレイ

レイ「くっ!」

   ライフルを発射する零号機

   雲を貫いて宇宙空間に達するビーム

   使徒が展開したA.T.フィールドに阻まれ四散する

==== 発令所 ====

シゲル「ダメです。この遠距離でA.T.フィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!」

マコト「しかし、出力は最大です! もう、これ以上は……」

マヤ「弐号機、心理グラフ、シグナル微弱!」

リツコ「L.C.L.の精神防壁は?」

マヤ「だめです。触媒の効果もありません!」

リツコ「生命維持を最優先。エヴァからの逆流を防いで!」

マヤ「はい!」

リツコ(この光はまるでアスカの精神波長を探っているみたいだわ……まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの!?)

(中略)

==== 夜の街 (アスカの心の中) ====

   人並みに逆らって進もうともがくアスカ  プラグスーツ姿

アスカ「助けて!助けて、加持さん!」

   ミサトのマンションの廊下

   加持の腕にまとわりついていたアスカ

   顔を曇らせ手を放す

加持『――アスカはまだ子供だからな』

アスカ「!」

   加持の腕の中に隠れるように立つシンジ

   目を見開くアスカ

アスカ「なんでアンタがそこにいるのよ!」

   荒々しく襖を閉めるアスカ

アスカ「何もしない……私を助けてくれない! 抱きしめてもくれないくせに!!」

   クレヨンで書きなぐられた絵

   子どもの絵のようだが凄惨な絵柄

アスカ「誰も! 誰も! 誰も!……だから私を見て!」

   :
   :
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/09/30(水) 23:22:47.52 ID:4gzoYOEk0
(中略)

==== 弐号機 プラグ内 ====

   頭を抱えてインテリアシート上にうずくまるアスカ

アスカ「……汚された……私の心が……」

アスカ「加持さん! ……汚されちゃった……どうしよう……汚されちゃったよう……」

   光を失う弐号機の目

==== 発令所 ====

(中略)

シンジ『僕が初号機で出ます!』

冬月「いかん! 目標はパイロットの精神を侵蝕するタイプだ!」

ゲンドウ「今、初号機を侵蝕される事態は、避けねばならん」

シンジ『だったら、やられなきゃいいんでしょう!?』

ゲンドウ「その保証はない」

シンジ『でも、このままじゃアスカが!』

ゲンドウ「構わん。レイ、ドグマを降りて、槍を使え」

*==== 零号機プラグ内 ====

*   驚いた顔のレイ

*ゲンドウ『……聞こえたか、レイ』

*レイ「……はい」

*==== 発令所 ====

冬月「ロンギヌスの槍をか! 碇、それは――」

ゲンドウ「A.T.フィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すには、それしかない。急げ!」

(中略)

女性オペ『セントラルドグマ10番から15番までを開放。第6マルボルジェ、零号機、通過。続いて、16番から20番、開放』

   メインシャフトをワイヤにつかまり降下していく零号機

*   零号機プラグ内

*   下方の闇に目を凝らすレイ

==== セントラルドグマ ====

   ワイヤを空中で放し、残りの距離を落下して降り立つ零号機

==== 発令所 ====

女性オペ『エヴァ零号機、セントラルドグマ最下層へ到達――』

冬月「碇、まだ早いのではないか?」

ゲンドウ「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ、冬月」

冬月「しかし、だが……」

ゲンドウ「時計の針は元には戻らない。だが、自らの手で進めることはできる」

   L.C.L.だまりに腰まで浸かりながら進む零号機

冬月「老人たちが黙っていないぞ!」

ゲンドウ「ゼーレが動く前にすべて済まさねばならん」

   リリスの胸に刺さったロンギヌスの槍の柄を両手でつかむ零号機

*   表情を引き締め前方を見ているレイ

   槍を引き抜く零号機
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:25:01.96 ID:4gzoYOEk0
ゲンドウ「今、弐号機を失うのは得策ではない」

冬月「かと言って、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だぞ」

   リリスの下半身が泡立つように膨張し、2本の脚が生える

*   レイ「……」

*   零号機プラグ内、呆然とリリスを見るレイ

ゲンドウ「理由は存在すればいい。それ以上の意味はないよ」

冬月「理由? おまえが欲しいのは、口実だろう?」

マコト『弐号機のパイロットの脳波、0.06に低下!」

マヤ『生命維持、限界点です!」

シゲル『零号機、2番を通過。地上に出ます!」

==== 地上 ====

   警報音とともに地下からリフトで斜めに上昇してくる零号機

*   プラグ内 上空を見上げているレイ

==== 発令所 ====

ミサト「あれがロンギヌスの槍……」

シゲル「零号機、投擲体制!」

マコト「目標確認、誤差修正よし!」

==== 地上  ====

   槍を両手で掴み掲げる零号機

マヤ『カウントダウン、入ります。10秒前――」

*   零号機プラグ内

*   インダクションレバーを握り、半身で上空を見上げているレイ

*   プラグ内壁モニタ上で小刻みに揺れている、使徒の位置を示すカーソル

   槍を引き絞るように後方に上体をひねる零号機

マヤ『8、7、6、5、4、3――』

   左脚を踏みしめる零号機

マヤ『2、1、ゼロ!』

   歯を食いしばるレイ

   2本に分かれた槍の先端が互いにまきつく様に捻じれる

   数歩踏み出し槍を雨雲に放つ零号機

   雨雲を薙ぎ払って宇宙空間へ駆けあがっていく槍

   使徒のA.T.フィールドに阻まれる槍

   捻じれた先端部に櫛の目のような模様が浮かび上がり、A.T.フィールドを突き破る

   弾けるように消える使徒

==== 発令所 ====

シゲル「目標、消滅!」

マヤ「エヴァ弐号機、開放されます」

冬月「ロンギヌスの槍は!?」

マコト「第一宇宙速度を突破。現在、月軌道に移行しています」

冬月「回収は不可能に近いな……」

マコト「はい。あの質量を持ち帰る手段は、今のところ、ありません」

ゲンドウ「……」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/30(水) 23:30:10.33 ID:4gzoYOEk0
==== 大気圏外 ====

   宇宙空間を回転しながら飛び去るロンギヌスの槍


(中略)

==== 数時間後 雨上がりの市街地 ====

   リフトで地下へ下降していく弐号機

   「CAUTION 立入禁止」と黒字でプリントされたオレンジ色のテープで非常線が張られている

   その奥、リフトの開口部の縁に膝をかかえて座り込んでいるアスカの後姿

   非常線の後方に立つシンジ

シンジ「……よかったね、アスカ」

アスカ「うるさいわね! ちっともよくないわよ!!」

   シンジに背を向けたまま叫ぶアスカ

アスカ「よりにもよって、あの女に助けられるなんて! あんな女に助けられるなんて……そんなことなら死んだ方がマシだったわよ!」

シンジ「……」

アスカ「嫌い嫌い! みんな嫌い、大っ嫌い!」

*   後ろを気にするように、わずかに首を振り向かせるシンジ

*   シンジの後方の建物の陰

*レイ「……」

*   アスカから見えない位置で壁にもたれて俯いているレイ

(第弐拾弐話 おわり)
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 00:55:48.97 ID:M/XOxjg00
支援
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:48:47.09 ID:C6NmoC8d0
>>205 ありがとう

ここはやたら時間がかかる

>>204から続きます
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:51:31.29 ID:C6NmoC8d0
第弐拾参話 「涙」

==== 夜 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

   薄暗い室内

   積み上げられたインスタント食品の容器、ビールの空き缶

   机の上の電話機から流れる加持のメッセージをきくミサト

(中略)

加持『――葛城、真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。もし、もう一度会える事があったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。じゃ』

ミサト「鳴らない、電話、か……」

(中略)

==== 夜 ヒカリの家 ====

   テレビの前に座り込んでゲームに没頭するアスカ

   ベッドに腰掛け、その様子を見ているヒカリ

ヒカリ(学校にも行かず、家にも帰らず、ずっとゲームばっかり……)

(中略)

==== 夜 ジオフロント ネルフ本部 リツコの研究室 ====

リツコ「そう、いなくなったの、あの子」

リツコ「ええ、多分ね。ネコにだって寿命はあるわよ。もう泣かないで、おばあちゃん」

リツコ「うん、時間ができたら一度帰るわ。母さんの墓前にも、もう三年も立ってないし」

リツコ「今度私から電話するから。じゃ、切るわよ」

   電話を切るリツコ

リツコ「……そう、あの子が死んだの……」

   猫の置物を見るリツコ

*リツコ「……」

*   姿勢を変え、机の上の書類を取り上げるリツコ

*リツコ「……」

*   リツコが見ている書類の上部

*   「サード・チルドレン行動」……と読める

**** Omit Scene ここから ****

==== 翌日 朝 ミサトのマンション リビング ====

   電話の呼び出し音

ミサト「……はい……ああ、リツコ――」

リツコ『シンジくんはいる?』

   視線を動かすミサト

   わずかに襖が開いているシンジの部屋

   気配がない

ミサト「もう出かけたわ」

リツコ『どこへ?』

ミサト「どこって……学校――」

リツコ『きょうは臨時休校のはずよ』

ミサト「……」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:53:38.75 ID:C6NmoC8d0
リツコ『レイのところね』

ミサト「……」

==== レイのマンション ====

   椅子に腰かけ、チェロを奏でているシンジ 制服姿

   背筋を伸ばしてベッドに腰掛け、目を閉じて聴き入っているレイ 制服姿

==== ネルフ本部 リツコの研究室 ====

   受話器を肩で支え、手にした書類をめくるリツコ

リツコ「通いづめじゃない」

ミサト『……』

リツコ「あなた……いつから知ってたの?」

ミサト『私たちには、あの子達にとやかく言う権利は無いわ』

   ため息をつくリツコ

==== ミサトの部屋 ====

リツコ『しかたないわね……でも――』

ミサト「……」

リツコ『辛い思いをするのは、シンジくんよ』

ミサト「え?」

   切れる電話

   怪訝な顔で受話器を見るミサト

==== リツコの研究室 ====

   受話器を置くリツコ

   椅子の背もたれに体をあずけ、額に手をやる

==== レイの部屋 ====

   台所で洗い物をしているレイの後姿

   パッヘルベルのカノンの旋律を小さく口ずさんでいる

   ふと動きが止まり室内を振り返る

   部屋の中ほどに置かれた折り畳みテーブル

   その前のクッションに座ったまま眠りかけ船をこいでいるシンジ

   その様子を見ているレイ

     :
     :

   目をぼんやりと開けるシンジ

   明るくなる視界

   次第に焦点が合う

   こちらを見下ろしているレイ

シンジ「綾波……」

   レイに膝枕をされていることに気付く

シンジ「ごめん……僕……」

レイ「いいの」

シンジ「……ありがとう」

   安心したように微笑むシンジ

   シンジの顔を覗き込みわずかに微笑むレイ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:54:48.39 ID:C6NmoC8d0
レイ「碇くん」

シンジ「何?」

レイ「私、主婦が似合うの?」

シンジ「え?」

レイ「前にそう言ったわ」

シンジ「あ……そうだったね」

   はにかむシンジ

レイ「なら、そうしたい」

シンジ「え?」

レイ「主婦になりたい」

シンジ「い……いいと思うけど……でも……」

   天井を見るシンジ

シンジ「綾波、頭いいし……もっと、普通の人にはできないような仕事だって――」

   首を振るレイ

レイ「普通がいい。人と違うことは、もう一生分やったもの」

   レイの顔を見上げているシンジ

   顔を上げ、室内を見るレイ

レイ「掃除をして、洗濯をして――」

シンジ「……」

レイ「買い物をして、晩ごはんをつくって――」

シンジ「……」

レイ「待っている。碇くんが、帰ってくるのを」

シンジ「えっ?」

   驚くシンジ

シンジ「僕?」

   シンジを見下ろすレイ

レイ「誰のことだと思ったの?」

シンジ「でも……綾波は……それでいいの?」

レイ「他に考えたこと、ないもの」

   シンジの前髪を少しかきわけてみるレイ

   見上げるシンジ

   見下ろしているレイ

   レイの後姿  背中が少し丸まり、シンジが少し身を起こす

   互いの顔が重なる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

==== 闇の中 ====

ゼーレ「ロンギヌスの槍……回収はわれらの手では不可能だよ」

ゼーレ「なぜ使用した!?」

ゼーレ「エヴァシリーズ。まだ予定には揃っていないのだぞ」

ゲンドウ「使徒殲滅を優先させました。やむを得ない事情です」

ゼーレ(モノリス)「やむを得ないか……言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ!」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:57:26.23 ID:C6NmoC8d0
モノリス「最近の君の行動には、目に余るものがあるな」

   電話の呼び出し音  受話器をとるゲンドウ

ゲンドウ「冬月、審議中だぞ」

   聞き入るゲンドウ

ゲンドウ「……分かった」

   受話器を置くゲンドウ

ゲンドウ「使徒が現在接近中です。続きはまた後ほど」

モノリス「その時君の席が残っていたらな」

   消えるゲンドウの映像

   闇の中に取り残されるモノリス群

モノリス01「碇……ゼーレを裏切る気か?」

**** Omit Scene ここから ****

==== レイのマンション ====

   折り畳みテーブル

   視界の端、床の上に衣類が少し見える

   テーブルの上の二つの携帯電話が同時に鳴り出す

   聞こえてくる声

シンジ「綾波……綾波!」

レイ「ん……」

   鳴りつづける呼び出し音

   跳ね起きる音

**** Omit Scene ここまで ****

==== 昼 地上 ====

   疾走するミサトの車の中

ミサト「あと15分でそっちに着くわ。零号機を32番から地上に射出、弐号機はバックアップに廻して……そう、初号機は碇司令の指示に。私の権限じゃ凍結解除はできないわよ。じゃあ」

   電話を切るミサト

   窓外、流れ去る木立のむこう  青空に浮かぶ、輝くリング状の物体

ミサト「使徒を肉眼で確認……か……」

==== ネルフ本部 カタパルト ====

   射出される零号機

==== 発令所 ====

女性オペ『零号機発進、迎撃位置へ!』

マコト「弐号機は現在位置で待機を!」

ゲンドウ「いや、発進だ」

   驚いて振り向くマコトとシゲル

マコト「司令!」

ゲンドウ「構わん、囮くらいには役に立つ」

マコト「はい……」

(中略)

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」

シゲル『目標は、大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています』
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 11:58:21.46 ID:C6NmoC8d0
==== 発令所 ====

マコト「目標のA.T.フィールドは依然健在」

   駆け込んでくるミサト

リツコ「何やってたの?」

ミサト「言い訳はしないわ、状況は!?」

シゲル「膠着状態が続いています」

*ミサト「初号機は?」

*リツコ「4番ケージで待機中よ。凍結はまだ解除されてないわ」

*ミサト「そう……」

**** Omit Scene ここから ****

==== 初号機プラグ内 ====

   シートに付きインダクションレバーを握るシンジ

シンジ(くそ……)

シンジ(前はあんなに戦うのがイヤだったのに……待つのがこんなにつらいなんて)

   目を閉じるシンジ

シンジ(また僕だけこんなところで手をこまねいているだけなのか)

   モニタウインドウに映し出されている地上の零号機の映像

シンジ(これでもし、あのときのアスカみたいに、綾波に何かあったら)

シンジ(あったら……僕は……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 発令所 ====

マコト「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています!」

ミサト「どういう事?」

マヤ「マギは回答不能を提示しています!」

シゲル「答えを導くには、データ不足ですね」

リツコ「ただあの形が固定形態でない事は確かだわ」

ミサト「先に手は出せないか……」

==== 零号機プラグ内 ====

   モニタを睨んでいるレイ

ミサト『レイ、しばらく様子を見るわよ』

レイ「いえ、来るわ!」

   輪をほどき零号機に向かって伸びる使徒

==== 発令所 ====

ミサト「レイ、応戦して!」

マコト「だめです、間に合いません!」

==== 地上 ====

   零号機のA.T.フィールドをやすやすと突き抜けて零号機の腹部に突き刺さる使徒の先端

レイ「くっ……」

   使徒の胴体を左手でつかみ右手でライフルを撃ち込む零号機

   零号機の腹部と左手の接触部の表面に植物の根のような隆起が伸びていく
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:00:16.09 ID:C6NmoC8d0
==== 発令所 ====

シゲル「目標、零号機と物理的接触!」

ミサト「零号機のA.T.フィールドは?」

マヤ「展開中、しかし、使徒に侵蝕されています!」

リツコ「使徒が積極的に一次的接触を試みているの? 零号機と!」

   山の斜面に背中から倒れこむ零号機

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「綾波!!」


==== 零号機プラグ内 ====

   レイの腹部にも隆起が広がっていく

==== 発令所 ====

マヤ「危険です! 零号機の生体部品が侵されて行きます!」

ミサト「エヴァ弐号機、発進、レイの救出と援護をさせて!」

==== カタパルト ====

   射出される弐号機

==== 地上 ====

   さらに使徒に押され倒れこむ零号機

==== 零号機プラグ内 ====

マヤ『目標、さらに侵蝕!』

レイ「……」

   顔をしかめてモニタを見ているレイ

==== 発令所 ====

リツコ「危険ね、すでに5%以上が生体融合されているわ」

==== 地上 ====

   22番ゲートが開き弐号機の機体が現れる

ミサト「アスカ、あと300接近したら、A.T.フィールド最大でパレットガンを目標後部に撃ち込んで! いいわね?」

   兵装ビルから現れるパレットガン

ミサト「エヴァ弐号機、リフトオフ!」

   立ったまま動かない弐号機

ミサト「出撃よ、アスカ、どうしたの? ……弐号機は!?」

マヤ「だめです、シンクロ率が二桁を切ってます!」

ミサト「アスカ!」

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「動かない……動かないのよ……」

==== 発令所 ====

ミサト「このままじゃ餌食にされるわ。戻して、早く!」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 初号機ケージ ====

シンジ「父さん!!」

   インダクションレバーをもどかしげに動かすシンジ

シンジ「僕を出して! 今すぐ僕を出してよ!!」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:00:48.50 ID:C6NmoC8d0
==== 発令所 ====

ミサト「司令!!」

ゲンドウ「……」

**** Omit Scene ここまで ****

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「……」ハァ…ハァ…

   身をのけぞらせて抵抗するレイ

   暗転する光景
   
レイ「誰? 私……エヴァの中の私」

レイ「いいえ、私以外の誰かを感じる……あなた、誰?」

   オレンジ色の水面、赤い空

   立った姿勢で浮かんでいるレイ

レイ「使徒? 私たちが使徒と呼んでいる人?」

   レイの前、赤い海に半ば浸かって立つ、もう一人のレイ

もう一人のレイ(使徒)『私と一つにならない?』

レイ「いいえ、私は私。あなたじゃないわ」

使徒『そう……でもだめ。もう遅いわ』

   レイの体に浮かび上がる根のような隆起

使徒『私の心をあなたにも分けてあげる。この気持ち、あなたにも分けてあげる』

   顔を上げるもう一人のレイ  微笑んでいる

使徒『痛いでしょう? ほら、心が痛いでしょう?』

レイ「痛い……いえ、違うわ……サビシイ……そう、寂しいのね……」

使徒『サビシイ? わからないわ』

レイ「一人が嫌なんでしょ? 私たちはたくさんいるのに、一人でいるのが嫌なんでしょ? それを、寂しい、というの」

使徒『それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちている。あなた自身の心よ』

レイ「……」

*使徒『気付いていたはずよ。あの時から』

*レイ「!」

*   セントラルドグマ

*   オレンジ色の光を浴びて何かを呆然と見上げているレイ

*   笑う使徒

*使徒『あなたはもう、知っているもの。否定することも、逃れることもできないことを』

*   さまざまな場面のシンジの笑顔

*   にじんで白い光に溶ける

   レイのプラグスーツの太腿にぽたぽたと落ちる水滴

   それを掌でうけるレイ

レイ「これが……涙……? 泣いているのは、私?」

==== 地上 ====

   零号機の背中が隆起し、様々な使徒のような形に膨れ上がる

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「綾波!」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:02:04.26 ID:C6NmoC8d0
==== 発令所 ====

ミサト「レイ!」

ゲンドウ「初号機の凍結を現時刻をもって解除。直ちに出撃させろ」

ミサト「え?」

ゲンドウ「出撃だ」

ミサト「はい!」

*==== 初号機ケージ ====

*ミサト『シンジくん、聞こえたわね!?』

*==== 初号機プラグ内 ====

*ミサト『行くわよ!』

*シンジ「はい!!」

==== カタパルト ====

   射出される初号機

==== 弐号機プラグ内 ====

アスカ「何よ、私の時は出さなかったくせに……」

==== 地上 初号機プラグ内 ====

ミサト『A.T.フィールド展開、レイの救出急いで!』

シンジ「はい!」

*==== 初号機プラグ内 ====

*インダクションバーを握るシンジの手

*シンジ(待ってろよ、綾波。今行くから!)

==== 地上 ====

   A.T.フィールドを展開する初号機

   それに反応し襲い掛かる使徒の先端

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「碇くん!」

==== 地上 ====

   ムチのように初号機に襲い掛かる使徒の先端部

シンジ「うっ!」

   身をかわす初号機

   砕けるパレットガン

   両手で使徒を掴む初号機

   使徒を掴んだ初号機の腕に「根」が広がる

シンジ「!」

   シンジの手にも「根」が広がる

ミサト『シンジ君、プログナイフで応戦して!』

*シンジ「はい!」

   プログレッシヴナイフを使徒に突き立てる初号機

使徒『グアアアアアアアアアアアア』

シンジ「!」

   シンジの手に多数の小さな顔が浮かび上がる
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:03:34.40 ID:C6NmoC8d0
レイの声『痛い……痛いの、碇くん……』

*シンジ「綾波!?」

   レイの裸身の形に変化する使徒の先端

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「これは……私の心? 碇くんといっしょになりたい?」

==== 地上 ====

   レイの姿をした使徒の先端が初号機に迫る

*   ナイフを向ける初号機

*   耳にこだまするレイの笑い声

*   ためらうシンジ

*シンジ(ダメだ! やらなきゃ僕も綾波もやられる!)

*   近づく使徒

*シンジ(やるんだ!)

*   使徒の体を縦に引き裂くナイフ

*使徒『きゃああああああ!!』

*   のけぞる使徒   響き渡るレイの悲鳴

*シンジ「綾波!!」

*   使徒の体が分岐し新たなレイの姿の先端が初号機に向かってくる   

   初号機の頭部にまとわりつく使徒

   されるままの初号機

*   初号機の頭部の側面に侵食が広がる

*シンジ「ぐっ!」

*   プラグ内、シンジの片頬に根のような隆起が現れる

*シンジ「ううっ……綾波……」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「だめ!」

   歯を食いしばり身を縮めるレイ

==== 発令所 ====

マヤ「ATフィールド反転、一気に侵食されます」

リツコ「使徒を押え込むつもり?」

==== 地上 ====

   零号機に引きずり込まれていく使徒

レイの声『きゃっ!』

   レイの形をした先端部が初号機からはがれ、零号機に引き戻されていく

   膨張する零号機のコア

==== 発令所 ====

マヤ「フィールド限界。これ以上はコアを維持できません!」

ミサト「レイ、機体は捨てて逃げて!」

==== 零号機プラグ内 ====

   明滅するモニタ

レイ「だめ。私がいなくなったら、A.T.フィールドが消えてしまう」

   シート座面のスイッチを操作するレイ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:04:43.87 ID:C6NmoC8d0
レイ「だから、だめ」

   レバーを引くレイ

   シート後部のディスクが高速回転しMODE-Dの文字が浮かび上がる

==== 発令所 ===

ミサト「レイ、死ぬ気?」

*ミサト「エントリープラグを強制射出!」

*マヤ「ダメです! 反応しません!」

*ミサト「そんな……」

==== 地上 ====

   零号機の膨張したコアが陥没していく

==== 発令所 ====

マヤ「コアが潰れます。臨界突破!」

==== 零号機プラグ内 ====

レイ「!」

   振り返るレイ

   光りの中、ゲンドウが微笑んでいる

レイ「……」

*レイ(碇司令?)

   見開かれる瞳   頬を伝う涙

*レイ(碇くんも……髭を伸ばすのかしら……)

==== 地上 ====

   中空に手を伸ばす零号機

   天使の輪を帯びて立ち上がる

   レイの姿に変化する

   閃光――

*==== 初号機プラグ内 ====

*シンジ「えっ!?」

==== 新第三東京市 遠望 ====

   大爆発

   吹き飛ぶ市街地

==== 発令所 ====

   白い光に埋め尽くされた主モニター

   呆然と見上げるミサトたち

==== 炎の中 ====

   立ち尽くす初号機

*シンジ「綾……波……?」

   呆然とモニタを見つめるシンジ
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/10(土) 12:06:34.72 ID:C6NmoC8d0
==== 発令所 ====

シゲル「目標、消失……」

ミサト「現時刻をもって作戦を終了します……第一種警戒態勢へ移行」

マコト「了解。状況イエローへ速やかに移行」

ミサト「零号機は? 」

マヤ「エントリープラグの射出は、確認されていません…… 」

ミサト「生存者の救出、急いで!」

リツコ「もしいたら、の話ね」

ミサト「くっ!」

   激しくリツコの方を振り返るミサト

   顔をそむけているリツコ

リツコ「……」

(第弐拾参話 涙 Aパート おわり)
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:47:50.62 ID:gx2BNkoS0
第弐拾参話 「涙」 Bパート

==== 芦ノ湖畔 零号機爆発クレーター ====

   芦ノ湖の湖水が瀑布となって流れ込んでいる

   遊弋するVTOL群

==== とある山中 ====

男性オペ『第16使徒の構成物質はいまだ発見できず。現在探索作業を続行中――』

女性オペ『零号機のパーツは損傷が激しく、回収は困難です――』

   オレンジ色の「立入禁止」の標識が掲げられた非常線

   変形し中央付近に亀裂が入ったエントリープラグが横たわっている

   取り巻くオレンジ色の防護服の人物たち

防護服の男「赤木博士……」

   裂け目からプラグの闇を覗き込んでいる防護服の人物

リツコ(防護服)「この事は極秘とします。プラグは回収、関係部品は処分して」

   立ち上がるリツコ

男「了解」

男「作業、急げ!」

(中略)

==== ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   ベッドに横になって天井を見上げているシンジ

   S-DATの音楽が流れているがヘッドフォンはベッドに転がったまま

ミサト「シンジ君、開けるわよ」

   襖が開きミサトのシルエットが床に落ちる

   シンジの隣に腰を下ろすミサト

*シンジ「綾波は……」

*ミサト「……まだ連絡はないわ」

*シンジ「この前の……自爆の時とは違う……」

*ミサト「……え?」

   シンジの顔を見るミサト

   天井を見ているシンジ

*シンジ「この目で見た……A.T.フィールドの内側で……使徒といっしょに吹っ飛んだんだ」

*ミサト「……」

*シンジ「死んだのかな……綾波……」

*   レイが微笑みを見せたいくつかの場面

*ミサト「……」

*   諜報部の報告書の束

*   「サードチルドレン行動」……との標題が読める

*ミサト「……」

*   正面に向き直るミサト

シンジ「ミサトさん……出ないんだ、涙。悲しいと思ってるのに、出ないんだよ、涙が……」

ミサト「シンジ君……今の私にできるのは、このくらいしかないわ……」

   シンジの手に、自分の手を伸ばすミサト
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:49:23.42 ID:gx2BNkoS0
シンジ「やめてよ!」

   寝返りを打ってミサトから離れる

シンジ「やめてよ、ミサトさん……」

   うずくまるシンジ

ミサト「ごめんなさい……」

   立ち上がる音  去っていく足音  閉じる襖

(中略)

==== セントラルドグマ ====

   空っぽのガラスの円柱  天井に続くヒトの脊髄と脳を思われる複雑な配管

   見上げているゲンドウ

   隣に佇む冬月

冬月「レイか……彼女は俺の絶望の産物であり、いまだお前の希望の依り代でもある」

ゲンドウ「……」

冬月「やはり忘れる方が無理というものか……」

==== 朝 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

   鳴り響く電話の呼び出し音

   机に突っ伏していたミサト

ミサト「はい……もしもし……」

   身を起こすミサト

ミサト「なんですって!?」

==== シンジの部屋 ====

   学生服姿でベッドに横たわっているシンジ

ミサト「シンジ君!」

==== ネルフ中央総合病院 第1脳神経外科 ====

女性アナ「第一内科のウガイ先生、ウガイ先生、至急、第二会議室へご連絡ください――」

   廊下

   窓に手をやり外を見ているレイ

   入院着  右腕を三角巾で吊っている

   走ってくる足音

シンジ「綾波!」

   振り向くレイ 額にまかれた包帯 右目には眼帯

*シンジ「……」ハァ…ハァ…

*   立ち止まり肩で息をしているシンジ  驚いた顔

*   後方に立っているミサト

*レイ「……」

*シンジ「綾波……」

*   笑顔になるシンジ

*   笑顔がゆがみ、嗚咽し始める

*シンジ「うっ……うぐっ……」

*   涙をぬぐうシンジ

*   シンジに並び、肩を支えるミサト

*レイ「……」

*   無表情にその様子を見ているレイ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:51:17.04 ID:gx2BNkoS0
==== 廊下 ====

   長椅子に座っているレイ  制服姿に変っているが包帯はそのまま

   壁にもたれているシンジ  制服姿

シンジ「良かった……綾波が無事で……」

レイ「……」

シンジ「あの、父さんは来てないんだ……」

レイ「……」

シンジ「ありがとう、助けてくれて」

レイ「何が?」

   レイを見るシンジ

シンジ「何がって……零号機を捨ててまで助けてくれたんじゃないか、綾波が」

レイ「そう、あなたを助けたの……」

シンジ「うん……覚えてないの?」

レイ「いいえ、知らないの」

シンジ「……」

レイ「多分……私は三人目だと思うから」

*シンジ「……三人目?」

*レイ「……」

*シンジ「三人目って……どういうこと?」

*マヤ「レイ」

*   振り返るシンジとレイ

*マヤ「お待たせ。行きましょう」

*   立ち上がるレイ

*シンジ「えっ……」

*マヤ「ごめんなさい、シンジくん。ちょっと、手続きがあるから」

*   少し後ろめたそうに言うマヤ

*シンジ「え?」

*   歩き出すマヤ   ついていくレイ

*シンジ「綾波! 待っ……」

*   歩み去るマヤとレイ

*   怪訝な顔で見送るシンジ

==== レイのマンション ====

   包帯をほどき鏡の前に立つレイ

   何の傷跡もない

   部屋を見回すレイ

   チェストに歩み寄りゲンドウのメガネを冷たく見下ろし、握り締める

   軋むメガネ

   レンズに滴る水滴   

レイ(これが……涙? 初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする)

レイ「私、泣いてるの? ……なぜ、泣いてるの?」

   :
   :
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:53:19.00 ID:gx2BNkoS0
(中略)

==== 夕方 ミサトのマンション リビング ===

   電話の呼び出し音

シンジ「――はい、もしもし?」

リツコ『そのまま聞いて。あなたのガードを解いたわ。今なら外に出られるわよ』

シンジ「……リツコさん?」

==== ネルフ本部 立入禁止区域 ターミナルドグマ レベル1 セクター2 ====

   何か入力しカードリーダーにIDカードを通すリツコ

   エラー表示

リツコ「……ん?」

ミサト「無駄よ」

   銃が突き付けられる音

リツコ「!」

ミサト「私のパスがないとね」

   リツコの背中に押し当てられた銃口

リツコ「そう……加持くんの仕業ね」

ミサト「ここの秘密、この目で見せてもらうわよ」

リツコ「いいわ。ただしこの子も一緒にね」

   灯る照明  リツコの横に佇み不安げにこちらを見ているシンジ

シンジ「……」

   銃口を少し下げるミサト

ミサト「……いいわ」

==== 旧・人工進化研究所 3号分室 ====

   殺風景なコンクリート張りの一室

シンジ「まるで綾波の部屋だ……」

リツコ「綾波レイの部屋よ。彼女の生まれ育ったところ」

シンジ「ここが?」

リツコ「そう、生まれたところよ」

リツコ「レイの深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強く残っているのね」

*シンジ(綾波……)

ミサト「赤木博士? 私はこれを見に来たわけじゃないのよ」

リツコ「分かっているわ、ミサト」

==== 廃棄物置き場 ====

   広大なフロア

   円形や四角形のピットに巨大な人体骨格のようなものが無造作に投げ込まれている

   それを見下ろすデッキに佇むリツコ、ミサト、シンジ

シンジ「エヴァ?」

リツコ「最初のね。失敗作よ。10年前に破棄されたわ」

シンジ「エヴァの墓場……」

リツコ「ただのゴミ捨て場よ。あなたのお母さんが消えたところでもあるわ。覚えてないかもしれないけど、あなたも見ていたはずなのよ。お母さんが消える瞬間を」

シンジ「あ……」

   怯えた表情でリツコを振り返るシンジ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:55:18.42 ID:gx2BNkoS0
==== ダミープラント ====

   広大な暗い部屋

   天井から続く、ヒトの脳と脊髄を思わせる複雑な配管

ミサト「これが、ダミープラグの元だというの?」

リツコ「真実を見せてあげるわ」

   手元のリモコンのスイッチを押すリツコ

   壁面がオレンジ色の光に満たされる

ミサト、シンジ「!!」

   周囲を取り巻くオレンジ色の水槽に目を見張るシンジとミサト

   無数のレイの裸体が液体の中に浮かんでいる

シンジ「綾波……レイ……」

   シンジの声が聞こえたかのように一斉にシンジを見るレイたち

   息を呑むシンジ

ミサト「まさか、エヴァのダミープラグは!」

リツコ「そう、ダミーシステムのコアとなるもの……その生産工場よ」

ミサト「これが!?」

リツコ「ここにあるのはダミー。そしてレイのためのただのパーツに過ぎないわ」

   水槽の中、笑みを浮かべて漂う無数のレイ

   循環する液体に髪がなびいている

*シンジ「そんな……」

*   ふらつくシンジ

*ミサト「シンジくん!」

*   支えるミサト

*ミサト「しっかり――」

*シンジ「わかってます……でも……」

リツコ「人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だからバチが当たった。それが15年前……せっかく拾った神様も消えてしまったわ……でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム。そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ」

シンジ「ヒト……人間なんですか!?」

リツコ「そう、人間なのよ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの。みんな、サルベージされたものなの。魂の入った容れ物はレイ、一人だけなの。あの子にしか魂は生まれなかったのよ。ガフの部屋は空っぽになっていたのよ。ここに並ぶレイと同じものには魂がない。ただの容れ物なの」

リツコ「だから壊すの。憎いから」

   リモコンの別のスイッチを押すリツコの指

*   泡立つ液体

   液体の中を沈んでいく、無数のレイの体の断片

*シンジ「!」

   周囲を満たす少女の笑い声

*シンジ「うわあああああああっ!!」

ミサト「あんた、何やってるか、わかってんの!?」

   リツコに銃を向けるミサト

リツコ「ええ、わかっているわ。破壊よ。人じゃないもの。人の形をしたものだもの」

   液体の中を沈んでいくおびただしい人体の残骸

リツコ「でもそんなものにすら私は負けた。勝てなかったのよ。あの人の事を考えるだけで、どんな……どんな陵辱にだって耐えられたわ! 私の体なんてどうでもいいのよ!……でも、でもあの人は、あの人は……分かっていたのに……」

   うなだれるリツコ
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:57:50.11 ID:gx2BNkoS0
リツコ「バカなのよ、私は! 親子そろって大バカ者だわ!」

シンジ「……」

リツコ「……私を殺したいのならそうして……いえ、そうしてくれると嬉しい……」

   銃を降ろすミサト

ミサト「それこそバカよ、あなたは……」

   リモコンを取り落とし床に座り込むリツコ

   すすり泣き始める

ミサト(エヴァに取り憑かれた人の悲劇……)

   肩を震わせて泣くリツコ

ミサト(私も……同じか……)

*   呆然とやりとりを見ているシンジ

*シンジ(父さんは……いったい何をしようとしているんだ)

*   零号機のアンビリカルブリッジの上で話すレイとゲンドウの横顔

*シンジ(綾波……)

*   初号機ケージ、シンジの腕の中で歯を食いしばるレイ

*   月明りが射し込むエントリープラグの中で微笑むレイ

*   教室、雑巾を絞るレイの横顔

*シンジ(君は……知っていたの?)

*   シンジが贈ったしおりを本のページに挟みなおすレイ

*   ベッドに腰掛けてシンジの演奏を聞き入っているレイ

*   レイの膝の上から見上げたレイの微笑み

*シンジ(君は……何を考えていたの?)

*   泣いているリツコ   それを見ているミサト

*シンジ(僕はこれから……どうしたらいい?)


**** Omit Scene ここから ****


==== 零号機の爆発クレーター湖のほとり ====

   湖岸に膝を抱えて座るシンジ

シンジ「……」

   初号機ケージ、シンジの腕の中で痛みをこらえるレイ

   ゴミ袋を提げたシンジに驚いた顔をするレイ

   微笑むレイ

シンジ「……」

   病院で会った、無表情な三人目のレイ

シンジ「……」

   レイ『知らないの……多分私は三人目だと思うから』

シンジ「……」

   レイ『多分私は三人目だと思うから』

シンジ「……」

   レイ『三人目――』

シンジ「そっか……」

   湖面を見つめ無表情でつぶやくシンジ

シンジ「死んだんだ……綾波レイは……」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 14:59:44.75 ID:gx2BNkoS0
==== レイのマンション ====

   クローゼットを開けるレイ

レイ「……」

   折り畳みテーブルと巻かれたカーペットが収められている

レイ「……」

==== 道路 ====

   とぼとぼと歩くシンジの後姿

==== レイのマンション ====

   ベッドにうつ伏せになっているレイ

   枕の匂いを確かめるように顔をうずめる

カチャン……

   身を起こすレイ

   俯いたシンジが入ってくる

   ふと顔を上げるシンジ

シンジ「!」

   レイに気付き驚いて立ち止まるシンジ

   ベッドで上体を起こしているレイ

シンジ「……!」

   開かれたクローゼット、無造作に床に投げ出されたままのテーブルとカーペットが目に留まる

   表情が険しくなる

シンジ「なんで……」

レイ「……」

シンジ「なんで君がここにいるの?」

   絞り出すような声  震えるシンジの拳

レイ「え?」

シンジ「ここは……綾波の部屋だぞ!? それなのに……」

レイ「……」

   ゆらりとベッドに歩み寄るシンジ

シンジ「なんで君がここにいるんだよ!」

レイ「……」

シンジ「綾波じゃ……ないのに!」

   つかみかかるシンジ

   自分にのしかかってくるシンジを無表情に目で追うレイ

   :
   :
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/11(日) 15:02:10.87 ID:gx2BNkoS0
   ベッドの上に背中から倒されたレイ

   その体にまたがりレイの首に両手をかけているシンジ

シンジ「うっ……く……」

レイ「……」

   無表情に見つめ返しているレイ

   歯をむき出してレイを見下ろしているシンジ

   と、その頬に添えられる白い手

レイ「……」

   レイの頬にポタポタと滴る涙

シンジ「う……うう……」

   嗚咽するシンジ

シンジ「……っ!!」

   部屋を飛び出すシンジ

   共用廊下を走るシンジの足音が遠のいていく

   身を起こすレイ

レイ「……碇くん?」

   ドアがきしみながら閉じる音

レイ「……」

   ベッドの上に座ったまま鏡の中の自分を見るレイ

レイ(綾波じゃ……ない……)

   :
   :

==== 道路 ====

    走っていくシンジ


**** Omit Scene ここまで ****

(第弐拾参話 おわり)
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 00:17:21.93 ID:1x7Z+/h1o
乙です
辛い、辛いぞ…
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:46:40.32 ID:HU0Ugh4g0
>>226 ありがとう

>>225から続きます
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:47:38.53 ID:HU0Ugh4g0
第弐拾四話 「最後のシ者」

(中略)

==== ミサトのマンション リビング====

   頬を張る音

   聞こえてくる会話

アスカ「いい加減なこと言わないでよ、バカシンジのくせに!」

シンジ「だから、何度言ったらわかるんだよ!」

   コーヒーポットが床に転がり、こぼれたコーヒーが広がる音

シンジ「もう加持さんはいないんだってば!!」

   呆然とするアスカ

アスカ「……ウソ」

(中略)

==== ネルフ本部 発令所 ====

マコト「諜報2課から、セカンドチルドレンを無事保護したそうです」 

ミサト「そう……ロストした挙げ句、7日後に発見とは、2課らしくないわね」 

マコト「わざと、でしょ。嫌がらせじゃないんですか? 作戦課への」
 
ミサト「かもね……」 

ミサト(で、今日、アスカの代わりのフィフス到着……出来過ぎてるわね、シナリオ) 


==== 昼 ミサトのマンション シンジの部屋 ====

   学生服姿でベッドに横たわり天井を見上げているシンジ

シンジ「綾波レイ……」

   回想   ダミープラントで見た数多くのレイの姿

シンジ「やっぱりそうなのか……あの感じ……」

   回想   ユイの墓標

シンジ「母さんの……」

   天井を見上げているシンジ

シンジ「綾波レイを……母さんを……何をしているんだ、父さん!」 


==== ネルフ本部 独房 ====

(中略)

   椅子に座りうなだれているリツコ

   その背後に立つゲンドウ

ゲンドウ「――なぜ、ダミーシステムを破壊した?」 

リツコ「ダミーではありません。破壊したのはレイですわ」 

ゲンドウ「いま一度問う。何故だ?」 

リツコ「あなたに抱かれても嬉しくなくなったから」

(中略)

==== 弐号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジから弐号機を見上げるシンジ

シンジ「どこに行ったんだろう……アスカ……」 

シンジ(でも会ってどうするんだ……綾波の話でもするのか?)

シンジ「……」
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:49:07.82 ID:HU0Ugh4g0
==== 夕暮れ  零号機クレーター湖岸 ====

   打ち寄せる波  オレンジに染まる湖面を見ているシンジ   

シンジ(トウジもケンスケもみんな家を失って他のところへ行ってしまった。友達は……友達と呼べる人はいなくなってしまった……誰も……) 

   回想   オレンジ色の水槽を沈んでいく人体の一部

シンジ(綾波には会えない……その勇気がない。どんな顔をすればいいのか、分からない)

*シンジ(もう……僕の知ってる綾波じゃない……)

シンジ(アスカ……ミサトさん……母さん……僕はどうしたら……どうすればいい?)

*   回想  最後に見たレイ(二人目)の微笑み

*シンジ(綾波……どうしたらいい? 僕は……)

   聞こえてくる鼻歌

   ベートーベン交響曲第9番第4楽章のメロディ

   声のする方を振りむくシンジ

   湖面から突き出した瓦礫の上に学生服の少年が腰掛け、湖面を眺めながら音楽を口ずさんでいる

   見とれるシンジ

カヲル「歌はいいね」 

シンジ「え?」 

カヲル「歌は心を潤してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ」

   シンジの方を向くカヲル

カヲル「そう感じないか? 碇シンジ君」 

(中略)

==== ネルフ本部 実験場 管制室 ====

   窓の向こう、L.C.L.に半ば浸かっている3本のテストプラグ

   プラグ内モニタの中でカヲル、シンジ、レイが目を閉じている

冬月「あと0コンマ3下げてみろ」 

   モニタ上、カヲルの棒グラフが3人の最高値を示している

冬月「このデータに間違いはないな?」 

マコト「全ての計測システムは、正常に作動しています」 

マヤ「マギによるデータ誤差、認められません」 

冬月「よもや、コアの変換も無しに弐号機とシンクロするとはな。この少年が」 

マヤ「しかし、信じられません! ……いえ、システム上、ありえないです……」 

ミサト「でも事実なのよ。事実をまず受け止めてから、原因を探ってみて」 


==== ネルフ本部 エスカレーターの上がり口 ====

   エスカレーターで上がってくるレイ

レイ「!」

   踊り場に佇んでいるカヲル

カヲル「君がファーストチルドレンだね?」 

レイ「……」 

カヲル「綾波レイ……君は僕と同じだね」
 
レイ「……」

カヲル「お互いに、この星で生きていく体はリリンと同じ形へと行き着いたか……」

レイ「……あなた誰?」 
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:50:31.00 ID:HU0Ugh4g0
(中略)

==== 夜 ミサトのマンション ミサトの部屋 ====

ミサト「……」

   アスカの部屋の前に立つミサト

   立ち入り禁止の貼り紙

ミサト「シンジ君も未だ戻らず……」

   空っぽの部屋

ミサト「保護者失格ね、私」 


==== ネルフ本部  エントランスゲート前 ====

   通路の床に座り込んでS-DATプレーヤーで第九を聞いているシンジ

   やってくるカヲル

カヲル「やあ。僕を待っててくれたのかい?」 

シンジ「いや……別に……そんなつもりじゃ……」 

カヲル「今日は?」 

シンジ「あの……定時試験も終わったし、後はシャワーを浴びて帰るだけだけど……」

カヲル「……」

シンジ「でも、本当はあまり帰りたくないんだ。このごろ」 

カヲル「帰る家、ホームがあるという事実は幸せにつながる。良いことだよ」 

シンジ「そうかなあ……」 

カヲル「僕は君ともっと話がしたいな。いっしょに行っていいかい?」 

シンジ「え?」 

(中略)

==== 大浴場 ====

(中略)

   湯船につかっているシンジとカヲル

カシャン…

   浴室の明かりが消える

シンジ「時間だ……」 

カヲル「もう終わりなのかい?」 

シンジ「うん、もう寝なきゃ」 

カヲル「君と?」 

シンジ「えっ!? ……あ、いや、カヲルくんには部屋が用意されていると思うよ。別の――」 

カヲル「そう……」

   浴槽から立ち上がるカヲル

カヲル「常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じる」 

シンジ「……」

カヲル「ガラスのように繊細だね。特に君の心は」 

シンジ「僕が?」 

カヲル「そう。コウイに値するよ」 

シンジ「……コウイ?」 

カヲル「好きってことさ」 

   微笑むカヲル
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:51:31.45 ID:HU0Ugh4g0
(中略)

==== 初号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジにたたずみ初号機を見上げるゲンドウ

ゲンドウ「――まもなく最後の使徒が現れる。それを消せば願いがかなう」 

   ゲンドウの掌に紫色の胎児のようなアダムが埋まっている

ゲンドウ「もうすぐだよ、ユイ」 

==== 月夜 レイのマンション ====

   明かりの消えた部屋

   ベッドにうつ伏せになっているレイ

レイ「私、なぜここにいるの? 私、なぜまた生きてるの? 何のために? 誰のために?」 

レイ「フィフスチルドレン……あの人、私と同じ感じがする……どうして?」 


(中略)

==== ネルフ本部 単身寮 カヲルの部屋 ====

   ベッドに横たわっているカヲル

   ベッドの横、床に横たわっているシンジ   

シンジ「――いろいろあったんだ、ここに来て。来る前は、先生のところにいたんだ。穏やかで何にもない日々だった。ただそこにいるだけの……でもそれでも良かったんだ。僕には何もすることがなかったから」 

カヲル「人間が嫌いなのかい?」 

シンジ「別に、どうでも良かったんだと思う……ただ、父さんは嫌いだった」

シンジ(どうしてカヲルくんにこんな事話すんだろう……) 

   カヲルを見るシンジ

シンジ「!」 

   シンジを見ているカヲル

カヲル「僕は君に遭うために生まれてきたのかもしれない」 

   笑うカヲル

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== カヲルの部屋 ====

   ベッドに横たわり、微笑を浮かべたまま目を閉じているカヲル

シンジ「……」

   ベッドの隣の床に横たわり、天井を見ているシンジ

   回想

   カヲル『好きってことさ』

シンジ「……」

シンジ(「好き」……)

   回想   レイ(二人目)の微笑んだ顔

シンジ(そう言えば……言われたこと、なかったな……)

シンジ(違う……僕も……言ってなかった)

シンジ(あんなに一緒にいたのに……)

   天井を見ているシンジ
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:54:34.44 ID:HU0Ugh4g0
カヲル「……」

   微笑みを浮かべたまま、また視線を天井に向け、静かに目を閉じるカヲル

    :
    :

**** Omit Scne ここまで ****

(中略)

**** Omit Scne ここから ****

==== 朝 レイの部屋 ====

レイ「……」

   ベッドに腰掛けているレイ

   部屋の中を見るともなしに見ている

   ふと、流しに置いてあるティーポットが目に留まる

レイ「……」

   立ち上がるレイ

   紅茶の茶葉の缶を掴んで眺める

    :
    :

   コンロで湯気を吹き上げる薬缶

レイ「……」

   紅茶の缶からスプーンを引き揚げるレイ

   茶葉が山盛りに盛られている

    :
    :

   薬缶を掴もうとするレイ

レイ「……つっ!」

   反射的に把手から手を引くレイ

   薬缶がひっくり返りそうになりながらかろうじて元の位置に落ち着く

   しばらく右手を左手で押さえているレイ

    :
    :

レイ「……」

   ティーカップにポットの中身を注ぐレイ

   ほとんど真っ黒な液体

   すするレイ

レイ「……」ケホ…ケホ…

   顔をしかめてせき込むレイ

レイ「……」

   右手の指の一部が赤くなっているのに気づく

   少し考えてから水道水にさらす

レイ「……」

   指を流れ落ちていく流水を無心に眺めているレイ

    :
    :
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:56:21.81 ID:HU0Ugh4g0
レイ「……」

   ふたたび紅茶の缶からスプーンを引き揚げるレイ

   ほぼ適量が盛られているスプーン

    :
    :

   部屋のなかほどに置かれた折り畳みテーブル

   少し紅茶が残ったカップが置かれている

   部屋の隅に置かれたチェロのケースを開けてみるレイ

レイ「……」

   無造作に弦をつま弾いてみる

   残響に聞き入るレイ

レイ「……」

   心臓のあたりに拳をあてがうレイ

レイ「……痛い」

   口に出してみるレイ

レイ「……いえ……違う」

   レイの脳裏に浮かぶ文字

   ”サビシイ”

   レイの足元

レイ(「寂しい」?)

   床に水滴がいくつか落ちて染みを作る

レイ(……寂しいの?)

   レイの頬を伝う涙

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****


(中略)

==== ネルフ本部 弐号機ケージ ====

カヲル「さあ行くよ。おいで、アダムの分身……そしてリリンのしもべ」 

   アンビリカルブリッジから中空に歩を進めるカヲル

   そのまま宙に浮いている

**** Omit Scene ここから ****

==== レイのマンション ====

   顔を上げるレイ

レイ「……」

   窓外を見やる

**** Omit Scene ここまで ****

==== 発令所 ====

マコト「エヴァ弐号機、起動!」 

ミサト「そんなバカな! アスカは!?」 

シゲル「303病室です。確認済みです」 

ミサト「じゃあいったい誰が……?」 

マヤ「無人です。弐号機にエントリープラグは挿入されていません!」 
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:57:06.60 ID:HU0Ugh4g0
ミサト(誰もいない? フィフスの少年ではないの?) 

マコト「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」 

ミサト「弐号機?」 

マコト「いえ、パターン青! 間違いありません! 使徒です!」 

ミサト「何ですって!?」 

(中略)

==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「嘘だ嘘だ嘘だ! カヲルくんが、彼が使徒だったなんて、そんなの嘘だ!」 

ミサト『事実よ。受け止めなさい。出撃、いいわね?』 

==== メインシャフト ====

   宙に浮かんだまま下降していくカヲルと弐号機

カヲル「遅いな……シンジ君」 

==== 初号機プラグ内 ====

男性オペ『エヴァ初号機、ルート2を降下! 目標を追撃中!』

シンジ「裏切ったな……僕の気持ちを裏切ったな……父さんと同じに裏切ったんだ!」 

==== 発令所 ====

シゲル「初号機、第4層に到達、目標と接触します」 

==== メインシャフト ====

シンジ「いた!」 

カヲル「待っていたよ、シンジ君」 

(中略)

==== ターミナルドグマ ====

   空中を浮かんですすむカヲル

   施錠装置に視線をやりロックを解除するカヲル

==== 発令所 ====

シゲル「最終安全装置、解除!」 

マコト「ヘヴンズドアが、開いて行きます……」 

ミサト「遂にたどり着いたのね、使徒が……」 

一同「……」

ミサト「日向君」 

   黙ってうなずくマコト

(中略)

==== 発令所 ====

ミサト「状況は?」 

マコト「A.T.フィールドです!」 

シゲル「ターミナルドグマの結界周辺に、さっきと同等のA.T.フィールドが発生」 

マヤ「結界の中へ侵入していきます!」 

ミサト「まさか、新たな使徒?」 

シゲル「だめです、確認できません! あ、いえ、消失しました!」 

ミサト「消えた!? 使徒が?」 


==== メインシャフト ====

   メインシャフトから見下ろすレイ
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:57:43.04 ID:HU0Ugh4g0
==== ターミナルドグマ ====

(中略)

   初号機に握り締められているカヲル

シンジ「カヲルくん……どうして……」 

カヲル「僕が生き続けることが僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね」

シンジ「……」


カヲル「だが、このまま死ぬこともできる。生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」 

シンジ「何を……カヲルくん……君が何を言っているのか分かんないよ! カヲルくん……」 

カヲル「遺言だよ」 

シンジ「!」

カヲル「さあ、僕を消してくれ。そうしなければ君らが消えることになる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ」 

シンジ「……」

カヲル「そして、君は死すべき存在ではない」 

   天井の方を見上げるカヲル

   レイが作業通路から冷やかに見下ろしている

   レイに向かって微笑むカヲル

カヲル「君たちには未来が必要だ」 

   初号機に捕まれているカヲル

カヲル「ありがとう……君に逢えて、嬉しかったよ」 

   顔を伏せているシンジ

   カヲルを握り締めたまま動かない初号機

   :
   :

   破砕音

   L.C.L.溜まりに人頭大の物体が落下し水柱が上がる

**** Omit Scene ここから ****

==== リリスの間 ====

   握り締めた拳を掲げたままの姿勢で動かないエヴァ初号機

レイ「……」

   天井付近の足場から見下ろしているレイ

==== 初号機プラグ内 ====

   インテリアシートの上にうずくまっているシンジ

シンジ「うっ……うっ……」

   微かに漏れる嗚咽

==== リリスの間 ====

   見下ろしているレイ

   少し眉をひそめる

   心臓のあたりを押さえるレイの手

   :
   :
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 21:58:45.84 ID:HU0Ugh4g0
==== 発令所 ====

   表示がよみがえるモニタ

マコト「モニター、復活しました! 初号機パイロットの生命反応に異常なし。A.T.フィールドはふたつとも消失しています」

マヤ「弐号機からの信号もありません」

シゲル「エヴァ初号機、セントラルドグマを上昇します」

   メインシャフトの階数表示の間を上昇していく初号機の位置アイコン

ミサト「……」

マヤ「倒したってことですよね……17番目の使徒を……」

   後方で手を組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ

ミサト(シンジくん……)

**** Omit Scene ここまで ****

==== 初号機ケージ ====

   高圧水で洗浄されているエヴァ初号機

ゲンドウ、レイ「……」 

   レインコートを着て足場に立ち、見上げているゲンドウとレイ

*レイ「……」

*   見上げているレイ

   :
   :

==== 夜  零号機クレーター湖畔 ====

   たたずむミサト  膝を抱えて座っているシンジ

シンジ「カヲルくんが……好きだって言ってくれたんだ……僕のこと」

ミサト「……」

シンジ「初めて……初めて人から好きだっていわれたんだ……」 

ミサト「……」

シンジ「僕に似てたんだ……綾波にも……」

ミサト「……」

シンジ「好きだったんだ。生き残るなら、カヲルくんのほうだったんだ……」

ミサト「……」

シンジ「僕なんかより、彼のほうがずっといい人だったのに……カヲルくんが生き残るべきだったんだ……」 

ミサト「違うわ。生き残るのは生きる意志を持った者だけよ」 

   険しい表情で応じるミサト

シンジ「……」

ミサト「彼は死を望んだ。生きる意志を放棄して、見せ掛けの希望にすがったのよ。シンジくんは悪くないわ」 

シンジ「冷たいね……ミサトさん……」 

**** Omit Scene ここから ****

ミサト「……」

シンジ「……」

   傍らのシンジを見るミサト

   ふとミサトの表情から険しさが薄れる

ミサト「すまなかったわね……もっと早くに、彼が使徒だとわかっていれば……」

シンジ「……」
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/18(日) 22:01:18.79 ID:HU0Ugh4g0
ミサト「でも……あなたがやったことは正しいことよ。守るべきものを守ったんだもの」

シンジ「……」

   踵を返すミサト  シンジの方を見ずに言う

ミサト「今夜からしばらく本部に泊まり込みになるわ。当面必要そうなものは、寮に届けさせるから」

シンジ「……」

   ふとシンジの方を振り返るミサト

   無言で湖面を見ているシンジ

   しばらくその様子を見、歩み去るミサト

シンジ「……」

   時折、シンジの足元近くまで打ち寄せる波

シンジ(正しいこと?……守るべきものを……守った?)

   回想  加持、レイ(二人目)、カヲルの笑顔

シンジ(僕が本当に守りたいものは……次々と失われていくのに……)

   虚ろな表情で湖面を見ているシンジ

   対岸の灯りが湖面に揺れている

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(第弐拾四話 おわり)
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/24(土) 03:38:01.21 ID:IikJlILjO
辛いな…
原作よりも辛い…
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:01:05.61 ID:/6GNRNsM0
>>238 ありがとう
>辛いな…
>原作よりも辛い…

元が元だけに…

>>237から続きます
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:01:46.24 ID:/6GNRNsM0
第25話「Air」

**** Omit Scene ここから ****

==== 闇の中 ====

   パイプいすに座り、脳裏に浮かぶ言葉に頭を抱えているシンジ

   『何故 殺した』

シンジ「だって、仕方なかったんじゃないか!」

   『何故 殺した』

シンジ「だって、カヲル君は、彼は、使徒だったんだ!」

   『同じ人間なのに?』

シンジ「違う、使徒だ! 僕らの敵だったんだ!」

   『同じ人間だったのに?』

シンジ「違う、違う! 違うんだ!」

ガシャン…

   スポットライトを浴びてシンジの前に立つレイ

レイ「私と同じ人だったのに?」

シンジ「違う……使徒だったんだ……」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「そうさ……ああしなければ僕らが死んじゃう。みんなが殺されちゃうん

だ」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「好きでやったんじゃない! でも仕方なかったんだ!」

   また脳裏に浮かぶ言葉

   『だから殺した』

シンジ「助けて……」

   『だから殺した』

シンジ「助けて……」

   『だから殺した』

シンジ「助けて!」

   『だから殺した』

シンジ「誰か、助けて……」

   『だから殺した』

シンジ「お願いだから、誰か、助けてよ!」

   :
   :
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:02:33.54 ID:/6GNRNsM0
シンジ「……」ハッ…

=== ネルフ本部 第6ブロック 単身寮 ====

   目覚めるシンジ   ベッドに突っ伏している

   上体を起こして室内を眺めまわし、はっとする

シンジ(カヲルくんの……部屋)

   ふたたび、おそるおそる部屋を見渡す

シンジ(ちがう……造りが同じだけだ……でも……)

   先ほどの夢を思い出すシンジ

   冷やかに見下ろす3人目のレイ

シンジ「綾波……」

   夜が明けようとしている

**** Omit Scene ここまで ****

==== 昼 零号機クレーター湖畔  ====

シンジ「……」

   照りつける日差し

   独り佇むシンジ
   

==== ネルフ中央総合病院 アスカの病室 ====

   ベッドに横たわるアスカ

   心電図などが取り付けられモニタが断続的に電子音を発する

   ベッド際に立つシンジ

シンジ 「ミサトさんも、綾波も怖いんだ。助けて……助けてよアスカ」

*シンジ「綾波が……もう綾波じゃないんだ……ねえ、アスカ」

   眠ったままのアスカ

シンジ「「ねえ……起きてよ……ねえ……目を覚ましてよ」

   アスカを揺さぶるシンジ

シンジ 「ねえ……ねえ、アスカ……アスカ……アスカ! 助けて……助けて

よ……助けてよ……」

   半泣きでアスカを揺さぶるシンジ

シンジ 「助けてよ……助けてよ……またいつものように、僕をバカにしてよ…

…ねえ!!」

   揺さぶった反動でアスカの体位が変る

   センサーのパッチがはじけ飛び、衣類の前がはだける

シンジ「!」

  目を見張るシンジ

242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:04:34.28 ID:/6GNRNsM0
シンジ「……」

   胸をはだけたまま動かないアスカ

   見下ろしているシンジ

   次第に早く、荒くなるなるシンジの息遣い

シンジ「……」

*   薄暗いマンションの一室

*   シンジの息遣い

*   揺れる視界

*   寝乱れたシーツの上

*   無防備に横たわるレイの白い裸身

*   美しく眉を歪め片方の拳を口許に添えているレイ

*   次第に早くなるシンジの息づかい

*   次第にシンジのものではない細い息遣いが混じる

*   半ば目を開き、救いを求めるようにこちらを見る赤い瞳

*   耳を弄するばかりのシンジ自身の息遣い

*   再び瞼をぎゅっと閉じるレイ

*   ふいに首をのけぞらせる

……沈黙

   病室のベッド脇に佇むシンジ

   規則的に響く電子音

シンジ 「最低だ……俺って……」


==== 夕方 ネルフ本部 発令所 ====

   薄暗い司令塔に残っているマヤ、マコト、シゲル

マヤ 「――本部施設の出入りは、全面禁止?」

マコト「第一種警戒体制のままか……」

マヤ「なぜ? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が」

シゲル「ああ。全ての使徒は消えたはずだ」

マコト「今や平和になったってことじゃないのか」

マヤ「じゃあここは? エヴァはどうなるの? 先輩も今いないのに……」

シゲル「ネルフは、組織解体されると思う。俺たちがどうなるかは、見当もつかないな」

マコト「補完計画の発動まで、自分たちで粘るしかないか……」

(中略)

**** Omit Scene ここから ****

==== 夕暮れ ====

   半ば廃墟と化した市街地を歩くシンジ

   ふと顔を上げる

   遠くにレイのマンションが見える

シンジ「……」

   また背を丸めて歩くシンジ

   ミサトのマンションが見えてくる

   :
   :
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:08:00.85 ID:/6GNRNsM0
=== 闇の中 ====

レイ「私は誰?」

もうひとりのレイ(別レイ)『綾波レイ』

レイ「あなた、誰? あなたも綾波レイなの?」

別レイ『そう。綾波レイと呼ばれているもの。みんな、綾波レイと呼ばれているもの』

レイ「どうして、みんな私なの?」

別レイ『他の人たちがみんな、私たちを綾波レイと呼ぶからよ。あなたは、偽りの心と体を、なぜ持っているの?』

レイ「偽りではないわ。私は私だもの」

別レイ『いいえ。あなたは偽りの魂を碇ゲンドウという人間によって作られたヒトなのよ。人の真似をしている偽りの物体に過ぎないのよ』

レイ「……」

別レイ『ほら、あなたの中に、暗くて何も見えない、何も分からない心があるでしょ? 本当のあなたがそこにいるの』

レイ「私は私。私はこれまでの時間と他の人たちとのつながりによって私になった。他の人たちとの触れ合いによって今の私が形作られている。人との触れ合いと、時の流れ。私の心の形を変えていくの」

別レイ『……』

レイ「そう。綾波レイと呼ばれる、今までの私を作ったもの。これからの私を作るもの」

別レイ『でも、本当のあなたは他にいるのよ。あなたが、知らないだけ。見たくないから。知らないうちに避けているだけ』

レイ「……」

別レイ『人の形をしていないかもしれないから。今までの私がいなくなるかもしれないから。自分がいなくなるのが恐いのよ。みんなの心の中から消えるのが恐いのよ』

レイ「恐い? 分からないわ」

別レイ『自分だけの世界も、無くなるの。自分が消えるのよ』

レイ「いえ、嬉しいわ。私は死にたいもの。ほしいものは絶望。無へと還りたいの」

別レイ『……』

レイ「でも、だめ。無へは還れないの。あの人が還してくれないの。まだ還してくれないの」

別レイ『……』

レイ「あの人が必要だから私はいたの。でももう終わり。要らなくなるの、私。あの人に捨てられるの、私」

別レイ『……』

レイ「その日を願っていたはずなのに、今は、恐いの……」

   目に浮かぶシンジの怯えた顔

レイ「……」

   闇

   明るくなる視界

   初号機ケージの天井

   天井付近の管制室から見下ろしているゲンドウ

   レイに覆いかぶさっているシンジのシルエット

   自分の掌を見つめて目を見開いている

レイ「知らない」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:09:31.07 ID:/6GNRNsM0
   レイのマンションの天井

   覆いかぶさって呆然とレイを見下ろしているしているシンジ

   自分の声がする

   『どいてくれる?』

レイ「知らない」

   暗いエントリープラグの中

   左前方の非常用ハッチが開いている

   外は夜の森

   涙を流して微笑んでいるシンジ

レイ「知らない」

   レイのマンション

   ベッドに腰掛け半身をよじって、赤面してこちらを見ているシンジ

   近づいてくるシンジの顔

レイ「知らない」

   レイのマンション

   部屋のなかほどの椅子に座り一心にチェロを奏でているシンジ

レイ「知らない」

   レイの膝に頭を預けて眠っているシンジ

レイ「……知らない」

ゲンドウ『さあ行こう。今日この日のためにお前はいたのだ、レイ』

レイ「はい」

**** Omit Scene ここまで ****

レイ「……」ハッ…

==== 夜 レイのマンション ====

レイ「……」

   目を覚ますレイ

   虫の声   月明かり

   月をおおっていく雲

    :
    :

レイ「……」

   玄関から出ていくレイ

   部屋の床

   ゲンドウのメガネが割れて転がっている

   :
   :

==== 夜 ミサトのマンション シンジの部屋 ====

シンジ「……」

   ベッドに横たわりS-DATのイヤフォンを耳に差しているシンジ

   S-DATプレイヤーの表示板で電池切れ表示が明滅している

   救急車のサイレンが遠ざかる

245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:10:41.25 ID:/6GNRNsM0
==== 明け方 ネルフ本部 コンピューター室 ====

   配線スペースにもぐりこみノート型端末を操作しているミサト

(中略)

ミサト「!!」

   「DELETED」の文字がモニタを埋め尽くしていく

ミサト「気付かれた!?」

   とっさに銃を掴んで立ち上がるミサト

ミサト「……いえ、違うか……」

   室内を睨むミサト

ミサト「始まるわね……」

   :
   :
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 23:11:16.74 ID:/6GNRNsM0
とりあえずここまで
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/31(土) 22:59:05.58 ID:emuEaY6u0
(中略)

(第25話 おわり)

第26話「まごころを、君に」

(中略)

=== 衛星軌道上 ====

   12枚の翼を広げ身を起こす巨大なリリス

==== 黒き月 ネルフ本部 発令所 ====

(中略)

   床にうずくまってノート型端末のキーボードに手をかざしているマヤ

マヤ 「A.T.フィールドが……みんなのA.T.フィールドが消えていく……これが答えなの? ……私の求めていた……」

   マヤの手を後ろから延びた手が包み込む

マヤ「!」

   振り返るとリツコが微笑んでいる   

リツコ「マヤ……」

   マヤの頬をなで、抱きしめるリツコ

マヤ「センパイ!」

   涙を流してリツコを抱きしめるマヤ

マヤ「センパイ!……センパイ!……センパイ――」

   水風船がはじけるようにL.C.Lに還るマヤ

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

==== ジオフロント ====

   横たわる弐号機の残骸

   引き裂かれたエントリープラグ

   L.C.Lが流失したプラグ内のシートに死んだように横たわるアスカ

   左の頬に、前髪に隠れた左目から流れ出した血が固まってこびりついている

   右腕の肘から先が血まみれになっている

   失血により落ち窪んだもう片方の目が虚ろに開かれている

アスカ「殺してやる……殺してやる……」

   かすかにうわごとのように唇が動き続けている

   その顔に差す影

   アスカの目がわずかに見ひらかれる

   見下ろしている加持  微笑んでいる

   アスカの眼から涙が流れ落ちる

   アスカを抱き起そうとするようにかがむ加持

   アスカの左腕が力なく持ち上がり、加持の首にまわりかける

パシャン……

   L.C.Lが飛び散る

   プラグの奥の暗がりに制服姿のレイが佇んでいる

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/31(土) 23:04:16.27 ID:emuEaY6u0
(中略)

==== オレンジ色の世界 ====

シンジ「……」

   シンジの顔を見下ろしているレイ

シンジ「綾波……」

   裸で仰向けに横たわっているシンジ

   シンジに跨っているレイ

*シンジ「違う……君か……」

   下腹部や、シンジの胸に突いた腕がシンジの体と同化している

シンジ「……ここは?」

レイ「ここはL.C.L.の海。生命の源の海の中。A.T.フィールドを失った、自分の形を失った世界」

レイ「どこまでが自分で、どこからが他人なのか判らない曖昧な世界。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界」

シンジ「僕は、死んだの?」

レイ「いいえ。全てが一つになっているだけ。これが、あなたの望んだ世界そのものよ」

    手のひらに握っていたミサトの十字のペンダントを離すシンジ

    ゆっくり漂いだすペンダント

*レイ「そして……綾波レイの望んだ世界そのもの」

*シンジ「綾波の?」

*レイ「そう」

シンジ「……でも、これは違う。違うと思う」

    ペンダントを見つめるシンジ

*シンジ「違うと思う。綾波だって……」

レイ 「他人の存在を、今一度望めば、再び心の壁が全ての人々を引き離すわ。また、他人の恐怖が始まるのよ」

シンジ「いいんだ――」

   レイの手を握るシンジ

シンジ「ありがとう」

   :
   :


   レイに膝枕をされて寝転んでいるシンジ

   二人の頭上で水面が揺れている

*シンジ「綾波が死んだ日……こうしてもらったんだ」

*レイ「……そう」

*シンジ「あれが最後だった……その後は、もう……」

*レイ「……」

*   レイの顔を見上げるシンジ

*シンジ「君は……知らないよね」

*   あきらめたように笑うシンジ

*レイ「……知らない」

*シンジ「……」

*レイ「でも――」

*   シンジの前髪を愛おしげにかき分けるレイ

*シンジ「……」

*   不思議そうにレイを見上げながら髪をとかされているシンジ
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/31(土) 23:08:17.58 ID:emuEaY6u0
*レイ「……」

*   無心にシンジの前髪を鋤いているレイ

*シンジ「君は……僕の心の中の綾波?」

*レイ「……」

*シンジ「君は……僕の心の中のカヲル君?」

*カヲル「……」

*   シンジ達の前に立ち、微笑んでいる制服姿のカヲル

*シンジ「みんなは……父さんは……アスカは……誰を見てるのかな……」

*レイ、カヲル「……」

シンジ「あそこでは、イヤな事しかなかった気がする。だから、きっと逃げ出してもよかったんだ」

レイ、カヲル「……」

シンジ「でも、逃げたところにもいいことはなかった。だって……僕がいないもの。誰もいないのと、同じだもの」

カヲル「再びA.T.フィールドが、君や他人を傷付けてもいいのかい?」

シンジ「構わない。でも、僕の心の中にいる君達は何?」

   制服姿で立つシンジ

レイ「希望なのよ。ヒトは互いに判りあえるかも知れない……ということの」

   シンジの前に立つ制服姿のレイ

カヲル「好きだ、という言葉とともにね」

   足元に浮かんでくる無数の人の体

シンジ「だけど、それは見せかけなんだ。自分勝手な思い込みなんだ。祈りみたいなものなんだ。ずっと続くはずないんだ。いつかは裏切られるんだ。僕を……見捨てるんだ」

   脳裏に浮かび上がる様々な風景

* 「僕は……綾波を守れなかった。アスカには酷いことしたんだ。カヲル君も殺してしまった。ミサトさんも……父さんも……みんなも……」

*レイ、カヲル「……」

*シンジ「もう、取り返しはつかないんだ、今さら。でも――」

*レイ、カヲル「……」

シンジ「でも……僕はもう一度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから」

   浮かび上がる仲間たちのイメージ

    :
    :

(中略)

   宇宙空間を遠ざかっていくロンギヌスの槍と初号機

シンジの声『さよなら……母さん……』

(第26話 おわり)
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/06(金) 10:41:24.03 ID:Y/PX2Wo60
支援
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/07(土) 10:10:42.57 ID:/79cMatc0
■正誤表(再掲含む)

>>4
×トウジ「いらっしゃたで〜!」
○トウジ「いらっしゃったで〜!」

>>34
×女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』』
○女性オペ『エヴァ零号機、発進準備』


>>36
× 第弐種警戒体制
○ 第2種警戒体制

>>48
× ==== 通路 ====


○ (中略)

  ==== 通路 ====

>>52
× 〇号機
○ 零号機

>>70
×女性オペレータ「A.T.フィールド、
○女性オペ「A.T.フィールド、

>>71
×オペレータ「60、38、39、
○男性オペ「60、38、39、

×オペレータ「6の42に
○男性オペ「6の42に

>>84
×破頑
○破顔

>>109
×レイ「ここまで簡単にやられると、
○アスカ「ここまで簡単にやられると、

>>112
×アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?
○アスカ「そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?」

>>118
×本当ににエヴァは味方なのでしょうか?
○本当にエヴァは味方なのでしょうか?

>>149
× *冬月「目標jの状況は?」
○ *冬月「目標の状況は?」

>>196
×現在は22機も大破ですから
○現在は2機も大破ですから

>>197
× 碇司令が[ピーーー]と言ったら
○ 碇司令が[ピーーー]と言ったら

>>214
× *インダクションバー
○ *インダクションレバー

>>216
× 光りの中
○ 光の中

>>222
× 陵辱
○ 凌辱

>>236
× 後方で手を組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ
○ ミサト達の後方、手を顎の下に組み合わせてじっと正面を見据えているゲンドウ
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:22:33.60 ID:/79cMatc0
正誤表の正誤表

>>197
× 碇司令が[ピーーー]と言ったら
○ 碇司令が死ねと言ったら
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:24:07.03 ID:/79cMatc0
>>250
毎度ありがとう

>>249から続きます
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:42:51.53 ID:/79cMatc0
「ONE MORE FINAL:I need you.」

==== 夜 浜辺 ====

   白い砂浜に寄せては返す赤い水

   ところどころに突き出す建物や電柱の残骸

   地平に横たわる崩壊した巨大なリリスの半面

   杭に打ち付けられたミサトの十字のペンダント

   空に浮かぶ月  夜空を横切る赤い帯

   砂浜に横たわる学生服姿のシンジとプラグスーツ姿のアスカ

   アスカの右腕と左眼に包帯が巻かれている

シンジ「……」

   首だけ動かして側方を見るシンジ

   波間に佇んでいる制服姿のレイ

   再び見たときにはいなくなっている

   上半身を起こし、傍らのアスカを見下ろすシンジ

   :
   :

シンジ「くっ……うっ……」

   横たわるアスカの首を絞めているシンジ

   シンジの頬をなでるアスカの手

   首を絞めていたシンジの手がゆるむ

   むせび泣くシンジ

   アスカの顔にしたたるシンジの涙   

アスカ 「気持ち悪い……」

   :
   :

**** Omit Scene ここから ****

   波の音

   砂浜に横たわるアスカ

   その横に膝を抱えて座って赤い海を眺めているシンジ

   地平に横たわる崩壊した巨大なリリスの半面

シンジ「ありがとう」

   海を見たままぽつりと言うシンジ

   上体を起こすアスカ

   座っているシンジ

   その後姿を見ているアスカ

シンジ「アスカにすがったってダメなんだ……いまさら……」

   自分の右手を見つめるシンジ

アスカ「……」

シンジ「自分でやるしかないんだ。これは……罰だから」

アスカ「……」

シンジ「僕がしたことの……ううん――」

アスカ「……」

シンジ「――僕が、何もしようとしなかったことの」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:46:42.26 ID:/79cMatc0
   背後で立ち上がるアスカ

   シンジの後姿を見下ろす

アスカ(レイの声)「……どうするの」

シンジ「わからない……でも――」

   アスカの赤いプラグスーツ着て右腕と左眼に包帯を巻いたレイがシンジの後姿を見下ろしている

シンジ「言われたんだ、ミサトさんに。あんた、また生きてるんでしょうって」

レイ「……」

   シンジの後姿を見ているレイ  第壱中学校の制服姿になっている

   立ち上がるシンジ

   レイの方を振り返らず赤い水面を見ている

   東の空が白んでいる   

   :
   :

==== 昼 浜辺 ====

   打ち寄せる赤い波

   ミサトのペンダントが打ち付けてあった流木

   ペンダントがなくなっている

==== 砂丘 ====

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   砂丘地を彷徨うシンジ

   ワイシャツの胸に揺れているミサトのペンダント

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   なかば砂にうずもれたコンビニエンスストアの看板

   表情が明るくなるシンジ
  
==== 店内 ====

   窓とドアガラスが割れ店内の半ばまで砂に埋まっている

   店内を見回すシンジ

   客や店員のものと思しき一揃いの衣類があちこちに山になっている

==== 夜 店内 ====

   店内の奥の方、砂のない床の一隅でに何か敷いて眠っているシンジ

   窓から月明かりが差し込んでいる   

==== 朝 ====

   入口にまとめられたレトルト食品の空容器

   砂丘の稜線に向かってゆるやかに蛇行しながら伸びている足跡

   稜線の向こうへ消えて行こうとしているシンジの後姿

==== 昼 ====

   照りつける日差し

   日陰に腰をおろしペットボトルの飲み物を一口飲むシンジ

   傍らにリュックサック

   人はおろか生き物の気配すらない一面の赤い砂漠
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:49:16.94 ID:/79cMatc0
==== とある建物の中 ====

   部屋を覗きこむシンジ

   円をなして並べられた小さな椅子

   壁一面に貼られた、つたないクレヨン画

   椅子の輪の外側に数個の大人の衣類の山

   それぞれの椅子の近くにちょこんと山になっている小さな衣類

   目を見開くシンジ

     :
     :

   椅子の輪の近くに跪き、衣類をていねいに畳んでいるシンジ

   制服の胸の部分に花の形のプラスチックの名札がついている

   シンジ回想

   レイ『自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もがヒトの形に戻れるわ』

   たたんだ衣類を、すでに畳んである衣類の横に並べるシンジ

   袖で涙をぬぐい、次の衣類にとりかかる

   シンジの後ろ、制服姿のレイが佇んでいる   

     :
     :


==== 夜 駅の待合室らしき部屋 ====

   月明かりの下でノートに何か書きつけているシンジ

   夜空を見上げる

   輝く月の表面に血のような赤い筋があるのがわかる  

==== 昼 ====

   リュックサックを背負って川のあとらしき窪地を歩くシンジ

   水は一滴もない

   :
   :

   赤い海の海岸線

   破壊された町並みを歩いて行くシンジ

   ふと足をとめ、赤い水平線を見る

   :
   :

   繰り返される昼と夜

   歩き、何か探索し、眠るシンジ
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:53:50.09 ID:/79cMatc0
==== とある昼 ====

   一面の赤い砂漠

   ところどころに折れた電柱や建物の残骸が突き出している

   炎天下に横たわっているシンジ

   落ち窪んだ目  こけた頬       

   力なく仰向けになって空を見上げている

   数羽の大型の鳥のシルエットが上空を旋回しているのが見える

シンジ「鳥だ……」

   アスカが弐号機プラグ内で見たのと似た光景

シンジ「生き物が……」

   半ば目を開き微笑んだまま動かないシンジ

シンジ「ミサトさん?」

   空を見上げたままつぶやくシンジ

   砂の上に投げ出されたシンジの掌に乗っているペンダント

   包みこもうとするように指がわずかに曲がる

シンジ「これでよかったんだよね……」

   シンジの頭の少し後方に立ち、見下ろしている制服姿のレイ

   :
   :

==== 夕暮れ ====

   砂の上、レイに膝枕をされているシンジ

   レイの顔を見上げながら頬におずおずと手を伸ばすシンジ

   その様子を無表情に見下ろしているレイ

   力なくその頬をさするシンジ

   微笑みに似た表情でレイを見上げているシンジ

   シンジの顔を見下ろしているレイ

   ぱたりと地面に落ちるシンジの手

   レイの顎のライン 引き結ばれた唇

   微笑みを浮かべてレイを見上げたままのシンジの顔

   動かない視線

   その顔にぽつり、ぽつりと水滴が落ちる

   シンジに膝枕をしているレイの後姿

レイ「うっ……うっ……」

   時折漏れる嗚咽

   肩が震えている

   背が次第に丸まる

    :
    :

   水音  水面に広がっていく波紋

    :
    :
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 11:59:53.84 ID:/79cMatc0
========

シンジ「……」ハッ…

   目を開くシンジ

   夏の日差しが降り注ぐ路上に立っている

   学生服姿 鞄を背負っている

   自分の手を見るシンジ

   オレンジ色の受話器が握られている

シンジ「……」

   首を巡らせるシンジ

   シャッターが下ろされた商店の軒先

   目の前にはオレンジ色の「非常用公衆電話」

シンジ「!」

   道路の先

   陽炎のゆらめく路面に佇む制服姿の少女

シンジ「……」

   瞬きするレイ

バサバサバサ……

   頭上の電線に止まっていた鳥の群れがいっせいに飛び立つ

   思わず頭上を振り仰ぎ、しまったと言うように視線を路上に戻すシンジ

シンジ「!」

   輝きだすレイの体

   光を帯びたおびただしい胞子のようなものがレイの体から発散され風に吹き流されていく

   シンジの頭の中に響くレイの声

レイ『さよなら、碇くん』

シンジ「えっ?」

レイ『あなたの願いは、今、私の中にある』

   足元から上に向かって順に光の粉になって消えていくレイ

シンジ「『綾波』!!」

レイ「!」

   驚いて目を見張るレイ

   表情が寂しげな微笑みに変わる

シンジ「待って!」

   思わず手を伸ばすシンジ

レイ『私は、綾波じゃない』

   その顔が光に溶け込んでいく

シンジ「綾波!」

   突如として輝きを増し四散するレイの像

シンジ「!」

   とっさに目をギュッと閉じ、顔を庇う

   目を開けるとレイのいたあたりに、輝く胞子のようなものが空からゆらゆらと降り注いでいる

   しだいに輝きを失い見えなくなる胞子の群れ

   顔を庇っていた腕を降ろして佇み、レイのいたあたりの路面を呆然を見つめるシンジ
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:01:26.31 ID:/79cMatc0
==== 同時刻 ネルフ中央総合病院 病室 ====

   ベッドに横たわるレイ

   額に包帯を巻かれ、眼帯をした片目も、半ば包帯に隠れている

   目を閉じ、眠っているように見える

レイ「……」

   ベッド際に立つ制服姿のレイの後姿   

   ベッドの上のレイ   うっすらと目を開く

   白い天井

   目を開いて横たわっているレイ

   視線を巡らせる

   自分のほか、誰もいない病室

    :
    :

==== 同時刻 市街地 ====

ズズーーーーン……ビリビリビリ……

   くぐもった轟音に続き、商店街のシャッターや頭上の電線を揺らす空震

   音の方を振り仰ぐシンジ

   山あいから戦闘VTOL群が後退してくる

   続いて現れる第三の使徒の巨大な黒い姿

シンジ「……」

   唇を引き締めるシンジ

   踵を返し、ミサトの車が迎えに来ると思しき方向へ駆けだすシンジ

   向こうから疾走してくる青いルノー

   シンジのすぐ手前でスピンターンしながら助手席のドアを開け放つミサト

ミサト「グッドタイミング!!」

   サングラスをしたミサトがほくそ笑む

   助手席に飛び込みドアを荒々しく閉じるシンジ

   接地面から青い煙を上げスキール音を響かせながら、元来た方へ猛加速で走り去っていく青いルノー

   最初にシンジがいた辺りに落下するVTOLの残骸

   :
   :
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:06:08.43 ID:/79cMatc0
==== 1年後 新第三東京市 ====

   半ば破壊されたビル群

   その向こう、市街地の一角から十字形の炎が立ち上り、虹がかかる

==== ネルフ本部 発令所 ====

マヤ「エヴァシリーズ、沈黙!」 

   発令所にあがる歓声

ミサト「よしっ!」

   ガッツポーズをとるミサト

   傍らで大きく息をつく白衣姿のリツコ

冬月「勝ったか……」

   冬月の傍ら、顔の前に手を組んで司令席についているゲンドウ

ゲンドウ「……」

   ゲンドウの肩に手をおく冬月

   映像が回復する主モニター

   量産機の機体の一部を片手にぶら下げて佇む初号機

   片腕がなく、あちこちの装甲が脱落し筋肉組織が破断しているのが見える

ミサト「状況終了。第二種警戒態勢に移行」

シゲル「了解。 第二種警戒態勢に移行」

   主モニターの中、立ち尽くしている傷だらけの初号機

   と、眼の光が失われ、片手からから量産機の一部が落下する

   轟音

一同「!」

   糸が切れたようにくずおれる初号機

   立ち上る土煙

ミサト「パイロットの救出、急いで!!」

マコト「はい!」

   :
   :

==== 地上 市街地の一角 ====

   白い機体と折り重なるようにして倒れている緑色のエヴァ

   頸部のカバーが吹き飛ばされ、エントリープラグが半ば飛び出して止まる

   開くハッチ

マリ「痛ってててて……」

   這い出してくるマリ  緑色のプラグスーツ  背面に「5」のマーキング

   眼鏡の片方のレンズが外れ、額から少し血を流している

   市街地の惨状を見回す

マリ「あちゃあ……こいつはシッチャカメッチャカな状況ねー」

   自機の残骸をしみじみと見降ろすマリ

   手近な緑色の装甲の表面をさする

マリ「さよなら、エヴァ5号機。お役目ご苦労さん」

トウジの声「おーい!」

   視線を上げるマリ
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:12:45.75 ID:/79cMatc0
   地表をこちらに近づいてくるトウジとカヲル

   ともにプラグスーツ姿

   足をひきずるカヲルにトウジが肩を貸している

   トウジのスーツ背中に「3」、カヲルの背中に「4」のマーキング

   手を振るマリ

マリ「姫はー?」

トウジ「シンジたちと一緒ちゃうんかー?」

   :
   :

==== 市街地の別の場所 ====

レイ「……」ハッ…ハッ…

   不安げな顔で走っているプラグスーツ姿のレイ

   背後に零号機の残骸
 
   初号機の残骸によじ登るレイ

   歯を食いしばって頸部のハンドホールを開け、スイッチを操作する

   吹き飛ぶプラグカバー

   思わず顔を庇うレイ

   エントリープラグが半ば飛び出して止まる

レイ「うう……」

   渾身の力でプラグ側面の非常用ハッチのハンドルを回すレイ

==== 初号機プラグ内 ====

   闇

   くぐもった金属音

   側面の非常用ハッチが開き、光が射しこむ

   気を失っていたシンジ、目をあける

   ハッチから覗き込むレイ

   しばらく見て、微笑むシンジ

   その顔を見て微笑むレイ  涙があふれ出す

   インテリアシートの横に跪くレイ

   レイの手を握るシンジ

シンジ「いいんだ、もう」

   互いに引き寄せあうシンジとレイ

シンジ「これでいいんだ……」

   肩にかかるレイの青い髪に頬をよせ、目を閉じるシンジ

==== 地上 ====

アスカ「……」

   左腕を右手で押さえながら歩いてくるアスカ

   初号機の残骸を見上げる

   頸部からエントリープラグが飛び出しているのが見える

   立ち止まるアスカ

アスカ「エコヒイキ!!」

   初号機の頸部

   ハッチから顔をのぞかせるレイ
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:15:10.31 ID:/79cMatc0
アスカ「バカシンジは!?」

   後ろを振り返るレイ

   レイに支えられ、ハッチをくぐって出てくるシンジ

アスカ「……ったく。無理しちゃって」

   苦笑するアスカ   

   初号機の機体の上を伝わって降りてくるシンジ

   ふと立ち止まり、振り返って巨大な頭部を見上げる

   光を失っている初号機の目

シンジ(ありがとう……母さん)

   立ち止まり、シンジを見上げているレイ

   向き直るシンジ

   シンジの顔を不安げに見ているレイ

   寂しげに微笑むシンジ

シンジ「行こう」

   また降り始めるシンジとレイ

   機体の傍ら、こちらを見上げているアスカ

    :
    :

==== とある洋館 ====

   重厚な内装

   カーペットが敷かれた廊下の突き当たり

   分厚い木製のドアが開かれている   

   数多くの警官に脇を固められて出てくるキール・ローレンツ

   警官たちが去った後、扉から出てくる加持

   立ち止まって煙草を加える

   上衣のポケットに手をつっこんで、はたと動きを止める

   上衣のあちこちを手で探り出す加持

   立哨の警官がライターを差し出す

加持「すまん」

   苦笑する加持

警官「いいえ」

   火のついた煙草を吸い込み、天井に向かって長々と煙を吐き出す加持

   天井に行きつかず中空に渦を巻く白いの煙

    :
    :
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:19:08.70 ID:/79cMatc0
==== 14年後 晴れた昼下がり 新第三東京市 ====

   山裾に延びる道路に沿って真新しいマンションが立ち並んでいる

   子供たちのはしゃぐ声が響いている

   付近に立つ1棟の外壁に、デザイン化された「6」の文字

==== マンションの一棟(6号棟) 共用廊下 ====

   開いているドアから作業着の男たちが帽子をとってお辞儀をしながら後ずさりに出てくる

作業員「じゃあ、失礼しまーす」

   帽子をかぶり直して通路を歩き出す作業員たち

   見送りに若い男女が出てきて、男たちの去っていく方に頭を下げる

女性「ありがとうございました」

   顔を上げる女性  空色のショートヘア

   しばらく見送ってから部屋に入っていく二人

   閉じるドア

   ドアの脇の表札

   「402 碇」

==== 室内 ====

   戸口に立って、室内をひとわたり眺める女性 赤い瞳

   まだ梱包された家具や段ボール箱が積み上げられている

   部屋を横切ってベランダに出る女性

==== ベランダ ====

   手すりにもたれて屋外の景色を眺める女性

   風が空色の前髪をそよがせる

   眼下の広場では子供たちが嬌声をあげて走り回っている

   道路脇、先ほどの作業員たちが引っ越し業者のロゴが描かれたトラックに乗り込み走り去る

   隣接棟の向こうに新第三東京市の中心ビル群が覗いている

   部屋の奥から黒髪の若い男性が出てきて女性の隣に並ぶ

男性「天気が良くて、よかったね」

女性「そうね」

   しばし黙って景色を見ている

男性「……ホントに、ここでよかったの?」

女性「ええ」

   男性の方に顔を向け、微笑む

   手すりにかけた男性の腕に手を添える

   左手の薬指に指輪が光っている

女性「私たちの、はじまりの場所だもの」

   一瞬、あっけにとられる男性

   じっと見ている女性

男性「そうだね」

   少し紅くなって微笑む男性

   また正面の景色に向き直る二人の後姿

   鳥のさえずり  子供たちの声

   遠くにビル群と山並みが見えている

   二人の髪が風に少し揺れ、また止まる
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:22:55.47 ID:/79cMatc0
女性「お茶を入れるわ」

   手すりを離れる女性

男性「あ、僕がやるよ――」

女性「入ったら、呼ぶから」

   微笑んで踵を返し部屋に入る女性

   顔を向けて見送ってからまた正面に向き直る男性(シンジ)

シンジ(綾波……)

   真顔でどこか遠くを見る

シンジ(これで、よかったんだよね……)

   街並みを眺めながら心の中でつぶやく

   子供たちの声が響いている

==== 室内 ====

   部屋を横切る女性(レイ)

   ダンボール箱のひとつ  写真の額が少し覗いている

   結婚式の写真

   中央で正装しているシンジとレイ

   とりまく元パイロット、ネルフ職員の面々

   成人したサクラの顔も見える

   部屋の隅に置かれた姿見の前でふと足を止めるレイ

   鏡に相対する

   真顔で鏡を覗き込んでいる

   鏡の中  学校の制服を着た少女が佇んでいる

少女「……」

レイ『あなたは、これでいいの?』

   空色の髪 紅い瞳 無表情にレイを見つめ返している

少女(別レイ)『ええ』

   鏡の中のもうひとりのレイ(別レイ)と相対するレイ

レイ『なら……なぜ、あなたは泣いているの?』

   少女の手が少し震えて自分の頬まで持ち上がる

   涙のあとを指先で触れるもうひとりのレイ

別レイ『わからない』

レイ『あなたには、感謝している』

別レイ『……』

レイ『あの人を、私のところに連れてきてくれたから。でも――』

別レイ『……』

レイ『私は知りたい。あなたしか知らない、あの人の時間のことを』

別レイ『知らない』

   少し声が震えている

別レイ『私も、知らない』

   涙にぬれた目でレイを見る鏡の中の少女

レイ『いいえ』

   首を振るレイ
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:24:05.44 ID:/79cMatc0
   少し怯えた表情で鏡の中から見つめ返している

   優しげに微笑みかけるレイ

レイ「……」

   ゆっくりと差出した手の指先を鏡の面に沿わせ、掌をつける

   鏡の中の少女の手が持ち上がり、レイの掌に自分の手のひらを鏡越しに触れさせる

   鏡に触れた掌を中心に波紋が広がる

   波紋が重なり合い、鏡の中の像は乱れ判別がつかなくなる

レイ「……」

   波紋がおさまり、ただの鏡に戻っている

   鏡の中にもう少女はおらず、レイ自身の姿しかない

    :
    :

==== ベランダ ====

   景色を眺めているシンジ

   ふと我に返り、屋内を振り返る

シンジ「……レイ?」

   返事がない

シンジ「……」

   部屋に戻ろうと体の向きを変えるシンジ

   奥から、少し伏し目がち歩いてくるレイ

   すまなそうに笑うシンジ

シンジ「ごめん、わかんなかったかな……青いしるしを付けた箱に――」

   立ち止まり、シンジを見つめ返しているレイ
  
シンジ「……?」

   眉をひそめるシンジ

レイ「……碇くん」

シンジ「!」

   ぎこちなく微笑むレイ

   目を見開くシンジ

シンジ「綾……波?」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:27:17.42 ID:/79cMatc0
   笑って首を振るレイ

シンジ「え?」

レイ「同じだから」

シンジ「……同じ?」

レイ「あの時も、今も――」

   先ほどより柔らかく微笑むレイ

レイ「これからも」

   レイの顔を見るシンジ

   エントリープラグの中、プラグスーツ姿で微笑み返すレイの顔が重なる

   シンジの顔を見上げているレイ

   ハッチの縁に手をかけ、涙を浮かべて微笑んでいるプラグスーツ姿のシンジの顔が重なる

==== ベランダ俯瞰 ====

   互いに歩み寄るシンジとレイ

==== 6号棟俯瞰 ====

   手前の広場で子供たちが駆けまわっている

   ベランダの上、ゆっくりど抱きしめあうシンジとレイの姿がぽつんと見える

==== 市街地俯瞰 ====

   行きかう人々、車の列

   芦ノ湖の湖面にのびる船の航跡

   箱根の外輪山越しに見える、雪を頂いた富士の山容

   :
   :

**** Omit Scene ここまで ****

(ONE MORE FINAL おわり)

─── 終劇 ───
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 12:30:00.49 ID:/79cMatc0
■正誤表
>>266
× ゆっくりど
○ ゆっくりと

■MEMO

◎関連SSなど(本編時系列順)

・もしもあの時綾波レイの怪我が本編より少しだけ軽かったら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402415123/

・もしもあの時貞本エヴァでシンジのサルベージがうまく行かなかったら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420824210/

・もしもあの時貞本エヴァでアスカの症状が少しだけ軽かったら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416844213/

・もしもあの時綾波レイのつぶやきが皆に聞こえていたら
 http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-551

・もしもヱヴァ「破」であの時碇シンジがそのフロアにいたら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1398870354/

・もしもヱヴァ「破」で3号機の起動実験がうまく行っていたら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376493346/

・もしもヱヴァ「破」のあと初号機の中でも14年たっていたら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411265665/

・もしもヱヴァ「破」のあと「来い!」がクセになっていたら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412402005/

・もしもヱヴァ「Q」のアヤナミレイ(仮)がリナレイだったら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378826143/

・もしもヱヴァ「Q」で綾波レイも回収されていたら
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379514608/

・ヱヴァ新劇場版の結末を妄想してみる
 パターン1
   その1 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380811845/
   その2 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390831079/
 パターン2 http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-357
 パターン2' http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-368
 パターン3 http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-693

・漫画版LAST STAGEの続きを妄想してみる(断片的)
 パターン1 http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec72-687
 パターン2 http://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-3
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/07(土) 21:11:44.71 ID:bv9m1u1fO
おつ、『綾波』と結ばれたんだね
いいSSだった。まさにリリンが産んだ文化の極み
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 22:52:58.44 ID:/79cMatc0
■MEMO2

◎元ネタまたは参考にしたSSなど

・PSP 新世紀エヴァンゲリオン2 造られしセカイ 使徒、襲来 ベストED(動画)

・某総合スレッド ver12.0 10〜18
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 22:57:32.09 ID:/79cMatc0
>>268
 そう言ってくれる人がいると報われる
 ありがとう
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/09(月) 22:43:18.85 ID:ktwxb7jH0
■正誤表(再掲含む)

>>260
× 片手からから
○ 片手から

>>262
× 煙草を加える
○ 煙草を咥える

× 白いの煙
○ 白い煙

>>264 エヴァ新幹線記念で書き換え
× 成人したサクラの顔も見える
○ 成人したサクラ、ノゾミの顔も見える
   
>>266
× ゆっくりど
○ ゆっくりと

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