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ダンス・ウィズ・セブン - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :チャプター1 [sage saga]:2015/06/22(月) 01:55:07.23 ID:kC6S4Huf0
 掛け軸のかかった十畳の和室。男は座布団の上であぐらをかきながら四脚のちゃぶ台を前にして一枚の紙を眠そうな目で眺めていた。

 窓際に吊るした風鈴が揺れて綺麗な音を奏でる。

「はぁ……」

 心安らぐ音を耳にしながら手元の紙の内容を確認する男は欠伸に近い間抜けな声を上げた。 

 間抜けな声の主は軍服を着ていた。

 白という清潔感はともかく軍服が醸し出す物々しい雰囲気はこの落ち着いた和室にはあまり合わない。

 だが男はそんなギャップなど特に気にもかけず自分の部屋でくつろぐかのように和室で過ごしていた。

 畳には男の私物と見受けられる軍事に関係する本がジャンルに関係なくごちゃごちゃと、あえて規則性があるとしたら同じような大きさの本が平積みされていた。

 点在する本のブロック塀の一角に白服の軍人の地位を示す白い軍帽が置いてある。

 この和室は軍人――提督と呼ばれる男の仕事部屋である執務室だった。

 提督は黒い革筒に皺ひとつなくご丁寧に丸められた状態で入っていた上層部からの指示が書かれた紙を全て読み終えるとちゃぶ台の上に投げた。

「さて、どうするかな」

 指示された内容について色々と思案を巡らせる。とはいえ既に提督の中でやることは決まっていた。

 茶を飲みながら大まかな段取りを組み立てていく。

 すると入口の障子が開いた。

「提督よ。あがらせてもらぞ」

 腰まで届く艶やかな黒髪と凛々しい顔立ちが印象的な女性だった。

 長門か。提督は和室にあがった長身の女性のことをそう呼んだ。

 彼女はその名の通り戦艦長門の魂を持つ艦娘と呼ばれる存在だった。

 今は提督の補佐する秘書艦の役目をする側らで彼の率いる艦隊の旗艦を務めている。

 長門は和室を見回して「また部屋を変えたのだな」と少し呆れ気味に言った。

 ああ、いいものだろう。提督は朗らかに笑った。

 まったく。長門はため息をついた。この人はどうしてこうなのだ……



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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :チャプター1 [sage saga]:2015/06/22(月) 21:45:44.82 ID:kC6S4Huf0
 提督はよく仕事場を変える。

 執務室は元々、床と椅子と机のあったよくある洋風な執務室だった。
 
 少し殺風景だが仕事場としては最適な模様だった。

 だが「味気がないな」とバッサリ切った提督はテーブルやソファーを置いてみたり、床や窓を変えてみたり頻繁に執務室の模様替えをした。

 この和室の模様は長門の記憶によれば一五回目の模様替えに似ていた。おそらくそこからの派生パターンなのだろう。

 部屋の模様替えなど軍人にとっては不必要で非論理・非効率的なものだ。それでも提督は模様替えをする。

 それが提督なのだと長門は受け入れている。もう慣れているとも言えた。

 この男がその気になれば執務室をつなぐ壁の2つ3つをぶち抜いてジュークボックスとカウンターを設けてちょっとしたバーにすることも可能なのだ。

 可能――というより提督は実際にやってのけた。

 この時は流石の長門も堪忍袋の緒が切れて提督をひどく叱った。

 直ぐに元に戻すように言ったが「折角作ったのにもったいないじゃないか」と食い下がられたので残した。

 バーとなった執務室は今では艦娘たちの憩いの場となっている。つまり今の執務室は二代目ということだ。

 今度、あそこに玉突きの台を入れてビリヤードバーしないか。

 長門にこっぴどく叱られた提督はまるで反省してないのか楽しそうに言った。

 提督は長門の頭を悩ませる。これまで何度ため息をついたかは覚えていない。

 我ながらよく付いてきていると思った。

「そうだ長門」

「ん?」

「今度、舞踏会を開こうと思うんだ」

「…………」

 提督の突拍子しもない言葉に長門のため息の記録がまた一つ増えた。
3 :チャプター2 [sage saga]:2015/06/25(木) 22:00:38.41 ID:Xm3zr63l0
 長門は座布団の上で正座するとちゃぶ台を挟んで提督と向き合った。

「何故そんなことをする必要があるか説明してもらいたい」

「んぅ……そうだな」

 正座とあぐら。パッチリと開かれた切れ長な瞳と眠そうな半目。詰問するような厳しげな声とのんびりとした声。色々と対照的だった。

「俺たちの立場を良くするためだよ」

「私たちの立場……だと?」

 長門の眉がピクリと動く。少なくともいつもの模様替えとは訳が少し違うようだ。

「そ」とだけ言うと提督はお茶を啜る「俺たちって世界中の海を守るために深海棲艦と戦っているだろ」

「世界中は言いすぎだ。あくまで深海棲艦の存在が確認された海域に限る」

「ああ、じゃあそれでいいよ。とにかく深海棲艦に対抗できるのは艦娘だけだ。そして艦娘を保有している国は俺たちの国を含めてほんの僅か」

 そこまで言うと提督は「しかもだ」と続ける。

「どういう訳か艦娘のほとんどが俺たちの国の軍艦由来。我が国は世界最大数の艦娘を保有しているんだ。ぶっちぎりの数でね」

「ああ、そうだな」

 長門は利発な艦娘だった。今の提督の語りから何を言わんとするか大よそ想像できた。

「だから俺たちって世界中から警戒されているんだよね」

 ここまでは想像通り。しかし……

「今は深海棲艦っていう問題があるけれどその気になれば艦娘つかって制海権を好きなだけ握れるんだからさ」

「……なっ!?」

 長門は驚きの声をあげた。伸びやかな声だが提督の発言は過激そのものだ。これは想像してなかった。

 確かに提督の言っていることは事実ではある。

 だが、それを口にすることは長門には出来なかった。艦娘としての力の負の側面を認めたくなかったからだ。

「言っておくが提督、私にそんなつもりはないからな」

「俺だって興味ないよ」

「なら言葉にしないでもらおう。提督のことを疑ってしまう……」

「ごめん。でも現実、俺たちには深海棲艦と互角に渡り合う力がある」

「そこに私たちの意思は関係ない、ということか」

「どう見えるかは人それぞれさ。その気はないのに外野で勝手に盛り上がる。まったく面倒だよね」

「ああ、本当にな……」

 やれやれと緊張感なくため息をつく提督と違い長門は鎮痛な面持ちで頷いた。

 自分は深海棲艦から海と人を護るために戦っているのに疎まれている部分がある。理解していても耳に入って気持ちのいいものではなかった。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/01(水) 19:17:39.02 ID:uvvZ+1Dlo
5 :チャプター2 [sage saga]:2015/07/02(木) 01:14:50.38 ID:km9Dqci90
 真面目な奴だ。長門の表情を眺めている提督はそう思った。

 艦娘を指揮するという形で艦娘の力を振るう自分と実際に鋼の艤装を身に纏って力を振るう長門では力に対して感じるものが違うのだろう。

「だからさ。イメージアップさせろって上からきたんだ」

「イメージアップ。立場を良くするため……か」

「そ。深海棲艦を倒す英雄として世界中から賞賛と、それ以上の警戒をされている我らが鎮守府。そのイメージアップ大作戦が舞踏会という訳だ」

 提督のイメージする舞踏会が長門にも見える。

 豪華な会場。優雅な音楽。美味しい料理。華やかな衣装。溢れる笑顔。

 しかし長門には妙に胡散臭く見えた。

「単に自分が楽しみたいだけではないだろうな?」

「…………」

「そう言えばいつだったかな。私たち艦娘の肉体のより効率的修復ということで入渠施設にジャグジー風呂を設置しようと上申したな」

「そうだったかな? あまり覚えていない」

「安心してくれ。私はしっかり覚えている」

 長門は自分のこめかみの辺りを軽く指で叩く。

「幸い上申は通った。最もジャグジー風呂はな・ぜ・か・提督の執務室に設置されたが」

「…………」提督は長門の視線から逃げるように何も言わずお茶をすすった。

「提督!」

「他にいい方法がないから仕方ないだろ。仕方ない。そう……仕方ないんだ」

「むぅ……」

 言葉につまった長門。確かに提督の言うように長門には代わりの案が浮かばなかった。

「納得してもらえたか?」

「ああ……」長門は渋々頷いた「だが提督、私たち艦娘にダンスの経験はないぞ」

 長門を含めて艦娘は深海棲艦と戦うための存在。

 特に長門のように生真面目な艦娘にはダンスという娯楽の経験がほとんどなく正直、言葉として知っている程度だ。

 そんな自分も含めて録にダンスの経験のない艦娘がきちんと踊れるのだろうか。

 踊れない舞踏会など洒落にもならない。

 長門の心は不安になった。

 だが提督は長門の不安などなんのその「なに簡単さ」と言う。

「したことがないならすればいいんだよ」

「…………」

 長門は頭を抱えた。

「はぁ……」

 記録更新である。
6 :チャプター3 [sage saga]:2015/07/04(土) 22:45:58.62 ID:4uLOY0Rh0
 ここは鎮守府近くにある体育館。そこではラジカセから流れるクラシック音楽に合わせて艦娘たちが二人一組で踊っていた。

 ちなみに全員、体操服にショートパンツという格好である。

 提督の発案した舞踏会は上が通したことで正式に決定して、艦娘たちの社交ダンスの特訓が始まった。

 そして、そのダンスのコーチを担当することになったのが……

「ワン・ツー・スリー! ワン・ツー・スリー!」

 音楽に合わせて手拍子をするのは軽巡タイプの艦娘の那珂。

 提督の指示により艦隊のアイドルとして日夜ダンスの練習に励む彼女がコーチ役に抜擢されたのだ。
 
 もっとも那珂に社交ダンスの経験があるかどうかは分からないが。

「はいはーい! ながむつペア、そこ違います!」

 那珂は首から掛けたホイッスルを鳴らして長門とその姉妹艦である陸奥のペアに注意を飛ばした。

 姉妹艦だからてっきり息ぴったりかと思えば、そうでもないらしい。 このペアは先程から何度も注意を受けていた。

「特に長門さん、またステップが違っていましたよ。そこさっきもじゃないですか」

「しかしだな、那珂。私にはこのような経験が」

「言い訳しなーい!」大きな声でピシャリと言い放つ那珂「他の皆さんはそれなりに形になっているんですから! 長門さんだけ動きが固いんですよ」

「あまり私の足を踏まないでね。運動靴じゃなくてヒールだったら穴が空いちゃうわ」

「すまない……」

 那珂と陸奥に諫められた長門は頭を下げた。どうやら長門の踊りが上手くいかないようだ。

「おーやってるやってる」すると提督が体育館に入ってきた。

「あっ、提督。お疲れ様でーす」

「那珂もお疲れさま。皆の調子はどうだい、那珂コーチ?」

「そーですね、舞踏会には間に合いますと思いますよ。一組……いや一人を除けば」

「そ」チラリと視線を長門に送る那珂を見て、提督は納得した。

「…………」悔しいのか恥ずかしいのか。長門はバツが悪そうに提督から目を逸した。

「舞踏会まで時間はあるし大丈夫さ。優秀なコーチもいますし」

「ハーイ! 那珂ちゃん皆のレッスン指導、頑張ちゃいまーす☆」

「何だったらこの様子を録って一儲けしてみようか。ドキュメンタリータッチに編集してさ」

「キャハ! それいいかも。最近はステージの裏も見せて「マジ頑張ってます!」なアピールも大事だよね」

「では早速、上にそのための予算の陳情書を」

 提督がノリノリで頭の中で企画や予算(必要になるであろう経費より少し多め)の必要性を説く文章を構築していくと提督の肩を誰かが軽く叩いた。

「提督……それを私が見逃すと思うか?」

 長門が笑っていない笑顔を向けてくる。提督の肩に置いた手に力が入れると鈍い痛みが提督を襲った。

「…………那珂、今回は運がなかったと思ってくれ」

「そんなー! 折角のチャンスが〜〜……」

 那珂は分かりやすい位にガッカリした。そんな様子を陸奥は「あらあら」と言って可笑しそうに笑った。

 だが、その表情がすぐに不思議そうなものに変わった。何か考えるように髪をいじる。

「そういえば舞踏会では提督も踊るのかしら?」

 何気ない質問だったが陸奥の目には興味の光が宿っていた。
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