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【R-18】狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/10(木) 23:38:38.36 ID:B3+6TW7+0
R−18です! お子様はみちゃダメですよ


『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のSSです。

【R-18】狸吉「アンナ先輩に拉致監禁」綾女「SOXイ○ポッシブル!」【下セカ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440076680/

の続編というか、アンサーSSみたいな感じです。
前作のIFストーリーが進んでいるので、特にアンナ先輩の性格が変わっているように感じるかもしれません。
是非前作を読んでいただければと思います。長いですけども。


アニメに出てこないキャラがたくさん出るのですが、基本は

・SOXにアニメにはいないキャラがいる(ゆとりってキャラです)
・狸吉の母親が出てくる
・多分鼓修理の父親も出てくる
・多分アンナ先輩の親も頑張ってくる


を理解していればわかるかと思います。原作の内容には出来るだけ触れずにいますが、かなり踏み込むかもしれません。
ネタバレになったらごめんなさい、出来るだけ触れないように頑張ります。

あと普通にエロシーンありますが、華城先輩みたいに下ネタは書けません。多分シリアス寄りになると思います。


前提が長くなって申し訳ありません。では投下していきます。























「うう……」

 足がひたすら重い。飢えたアナコンダの檻に向かう気分だ。しかもそのアナコンダは猛毒ももっている。ところでアナコンダのアナはどのアナなんだろう。

 現実逃避の思考は時間稼ぎにならず、僕は生徒会室に向かっていた。

 今日は華城先輩もゴリ先輩もいない。アンナ先輩と二人きりの生徒会室。何も起こらないわけがなかった。

 僕の誘拐事件から、アンナ先輩に決定的な変化が起きてから十日。

 アンナ先輩の家を出てから、二日が経っていた。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441895918
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part6 @ 2024/03/16(土) 18:36:44.10 ID:H9jwDXet0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710581803/

昔、スリに間違えられた @ 2024/03/16(土) 17:01:20.79 ID:TU1bmFpu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1710576080/

さくらみこ「インターネッツのディストピアで」星街すいせい「ウィキペディアね」 @ 2024/03/16(土) 15:57:39.74 ID:7uCG76pMo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710572259/

今日は月が……❤ @ 2024/03/14(木) 18:25:34.96 ID:FFqOb4Jf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710408334/

どうも、僕は「げじまゆ」をヤリ捨てた好色一代男うーきちと言います!114514!! @ 2024/03/14(木) 01:23:38.34 ID:ElVKCO5V0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710347017/

アサギ・とがめ・新生活! @ 2024/03/13(水) 21:44:42.36 ID:wQLQUVs10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710333881/

そろそろ春だねー! @ 2024/03/12(火) 21:53:17.79 ID:BH6nSGCdo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710247997/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part5 @ 2024/03/12(火) 16:37:46.33 ID:kMZQc8+v0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710229065/

2 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/10(木) 23:40:58.98 ID:B3+6TW7+0

 僕は色々あってアンナ先輩の家にずっと泊まる羽目になっていたのだけど、そこでアンナ先輩といちゃいちゃのぐちょぐちょなことをやっていたけど、僕の逃げ口上やアンナ先輩のプレイスタイルによって初日以外は辛うじてB止まりでおさまっていた。昨日から学校にも登校を再開して、それを機に自分のアパートに戻っている。アンナ先輩は引き止めたのだけど、僕の母さんにいつまでも甘えてるわけにはいかないみたいなことを言ってもらって、何とか自分のアパートに戻ったのだ。

 生徒会室の前に立つ。背筋がゾワゾワする。今日は誰も止める人がいない。かと言って他に用事も思いつかず、華城先輩も休んでいてゴリ先輩も受験であまり生徒会の方に顔を出せず、生徒会の業務をほとんど一人でやっているアンナ先輩の負担は大きくて、僕が行かないわけにもいかなかった。

 すー、はー、と息を整える。ついでに息子の調子も確認しておく。大丈夫、まだ理性はきくはずだ。

 アンナ先輩は、あの事件以来、ひたすら飢えた肉食獣から媚薬という猛毒を持った蛇のように、襲い貪ることから誘い焦らすことを覚えてしまった。襲われていたころより、僕から求めるように焦らしながら誘うことを覚えたアンナ先輩は、以前よりよっぽど愉しそうでそして恐ろしかった。

 ん? もうそういう仲なんだしいいじゃんって? それ華城先輩にも言われたよ。アンナ先輩のセックスのテクは日に日に向上してたしね。そのうち視線だけで僕をイカせるようになったとしても、僕は全く驚かないよ? 顔も身体も声もテクニックも何もかもが最上級の人だよ? 正直、アンナ先輩がちょっとこっちを刺激するだけですぐ発射しそうになっちゃうよ?

 でもそれでも、逃げ続けなければならない理由があるのだ。

 コン、コンと、ゆっくりめにノックする。

 扉を開けると、生徒会室の主、アンナ・錦ノ宮が上品で穏やかな笑顔を浮かべながら、僕を迎えた。

「奥間君……、一日会えなかっただけですのに、ずいぶん長い間会えなかったような気がしますわ」

 上品で穏やかな笑顔は、僕だと認めた瞬間、捕食者の笑みに変わる。以前とは違って余裕こそ持ってるけど、むしろ危険度は増している。

「!?」

「んん……!」

 え、今座ってたよね? 立った瞬間から扉にいる僕のところまで一瞬で肉薄すると、僕を壁に押し付けつつ唇を重ね、舌を器用に使って唾液を送り込んでくる。

 以前のただ貪るだけのキスではなく、僕を昂ぶらせ、誘惑し、堕とすためのキス。

 アンナ先輩の唾液は媚薬のように、一気に僕を昂ぶらせ、僕の息子に一気に血液が集まってくる。

 どれくらい唾液を送り込まれたのか、二回くらいは飲み込んだ気がする。アンナ先輩は一旦離れると、僕の首筋に顔を埋め、鼻をクンクンと鳴らして、

「奥間君……ふふふ、わたくしとの約束は守ってくださっているみたいですね? 勝手に愛の蜜を出してはいけないというあの約束を」

 アンナ先輩、僕の愛の蜜(ようは精液だ)をより濃く美味しくいただくため、オナ禁を僕に命じていたのだった。勿論アンナ先輩には性知識がないからオナ禁って言葉も意味も分かってないんだけど、どうもアンナ先輩は愛の蜜は溜めた方がより濃く美味しくなると考えていて、実際それが当たっているから困る。性知識はないのに本能ですべてを習得してくる。この人本当に何か出来ないことってあるのかな。

 完全に空っぽになってから十日、朱門温泉で鍛えられた僕は普段なら我慢しようと思えばできる範囲なんだけど、アンナ先輩は事あるごとに僕を挑発してきて、僕からアンナ先輩を求めるように仕向けてくる。以前は喰われる恐怖から萎える面もあったのは否定しないけど、今のアンナ先輩はひたすら僕が堕ちるのを待てるようになってしまった。正直、今のキスだけで発射しそうになってる。

 その様子がわかるのか、くすくすと嬉しそうに愉しそうに笑うと、

「奥間君がおねだりしてくれれば、わたくしはいつでも構いませんのよ? ただ、愛の蜜を一滴も零したくないだけなんですの」

 アンナ先輩は敢えて見せつけるように、扇情的に舌をチロチロと動かす。アンナ先輩の下腹部からそこは以前と変わらず、粘り気のある水音が溢れんばかりに聞こえてくる。その下腹部を、僕の勃ちきった息子に強すぎず弱すぎない絶妙の腰使いで押し付け、僕の理性を飛ばそうとする。

3 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/10(木) 23:41:57.14 ID:B3+6TW7+0

「ああ、どちらがいいでしょう? ……舌を愉しませるべきか、私のお腹の中で奥間君の愛の蜜が広がり、染み渡るのがいいか……!」

 そう、僕が今でもアンナ先輩から逃げないといけない理由。

 アンナ先輩、中出しの味を覚えてしまったのだった。

 正直ゴム有なら僕ももう、アンナ先輩の言うとおりにしてもいいかと思っていたりも正直あるけど、アンナ先輩が妊娠したらアンナ先輩の両親からは社会的に命を絶たれ、僕の母さんからは生命的な意味で命を絶たれる。そして僕の死体はアンナ先輩が美味しく戴いてお腹の中でずっと一緒、ハッピーエンドだ。アンナ先輩、僕を傷付けないようにはしてくれてるんだけど、どうも食人趣味にも目覚めかけてて、この前喉元や小指を食い千切られそうになったんだよなあ。……あれは一時的な混乱と駆け引きの為のものだったと思いたい。

 とにかく中出しだけは絶対に出来ない。アンナ先輩は妊娠を望んでいるから避妊が出来ない。避妊抜きにゴムを着けなければならない理由も思いつかない。何よりアンナ先輩は上も下もどちらの口でも、僕の愛の蜜で満たすことが何よりも最上級の愛で快感らしく、故により美味しくいただきたいと、そういう発想に至ってしまっているらしい。

「ふふふひっ、忘れてはいませんわよね? ……わたくしの許可なく愛の蜜を出したら、オシオキですわよ? それとも、オシオキを望むなら、それでもわたくしは……ふふふふ、はあ、あはあ、あ、それも、いいですわね……! 奥間君が愛に悶える顔も見たいですの……!」

「ひ!」

 捕食者が悦びの声に思わず反射的な悲鳴が出た。強制的に快楽を与えられ続けて発狂しそうになった悪夢が蘇る。今のアンナ先輩なら間違いなくあれ以上のことが出来る。

「ああ、我慢はよくありませんわよ? ……ずっとわたくしの為に愛を確かめ合うことを我慢していたのはすごくうれしかったですけど、もう愛の試練は乗り越えましたし、奥間君が我慢する必要はもうありませんわ」

 さらに追い打ちでぐぐ、と腰が押し付けられる!

「たった一言でいいんですのよ? 『僕の愛の蜜を飲み干してください』と、それさえ言えばいいんですの」

 発射が目前だった。でもアンナ先輩が上で飲むのか下で飲むのかわからない以上、答えられない。ついでに言うならアンナ先輩もずっと僕と繋がってないから、下で飲みたがる可能性が高い。

「あら、……奥間君はオシオキがお望みですのね? それもいいですわね……!!」

 とうとう手が股間に伸び、僕の言葉を待たず息子を発射させようと「あ、先輩、ここ、ここじゃちょっと!」僕は両手を使ってアンナ先輩の手を押しのけようとするけど、アンナ先輩の怪力には当然敵わず、むしろ獲物の最期の抵抗を愉しむように嫣然と笑って、


『――皆さん、騙されてはいけません!』


 ――PMの強制放送が始まった。

 僕らの勝利ともいえるデモが行われてから、政府はその主張を否定する為に毎日PMで強制的に放送をしている。

 アンナ先輩の顔が、陰った。

「…………」

 さすがに萎えたようで、アンナ先輩は何も言わずに自分の席に戻る。

「奥間君、続きはまた今度にしましょう? 今日は申し訳ありませんが、綾女さんの分も仕事を頑張っていかなければ」

「……はい」

4 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/10(木) 23:44:56.19 ID:B3+6TW7+0

 寸止めで終わったけど、助かったとは思えなかった。

 僕がアンナ先輩の家からなかなか出なかった理由の一つに、このPMによる政府の強制配信があった。

 アンナ先輩はそのそぶりを見せないけど、この件でアンナ先輩の家は揉めている。僕を拉致監禁なんて暴挙に及んだのも、この件が無関係だったとは思っていない。アンナ先輩が気に病んでないわけがないのだ。

「大丈夫ですか?」

 思わず安っぽい声をかけてしまった。だけどアンナ先輩は、性欲とは全く関係なく、本当に嬉しそうに、

「ありがとうございます。その言葉だけで、わたくしは……」

 政府の強制配信はまだ続いている。真実がどちらかにあるか、《SOX》の一員である僕にはわかっているけど、アンナ先輩はわからない。本能で分かっていても、性衝動や愛が満たされて安定しつつあっても、知識という判断材料がなければどちらが正しいのかなんてわからないのだから。

 僕も何とか性知識を、真実を伝えたいのだけど、そうするとアンナ先輩は今まで自分の行ってきた崇高な愛が卑猥というアンナ先輩にとっての絶対悪だったことを教えることになるわけで、どうすればいいのかわからない。アンナ先輩が壊れたらどれほど恐ろしいことになるか、僕は十日前にさんざん思い知っている。ついでに言うなら僕はアンナ先輩に限らず他の時岡学園の生徒にも性知識を教えたら即退学になることをアンナ先輩の母親であるソフィア・錦ノ宮と約束させられている。

 本当に情けないけど、この期に及んで僕は何もアンナ先輩に伝えられていなかった。

「アンナ先輩」

 とっさに呼びかけてしまったが、かけるべき言葉は見つからず、

「あの、よければ……えっと、今日帰り、華城先輩のお見舞い行きましょうよ」

 今の僕だけじゃ、アンナ先輩の負担を軽くすることはきっと出来ないと思った。

 アンナ先輩には、僕だけじゃ駄目なんだ。

「ええ、そうですわね」

 アンナ先輩は強制放送が続く中、それでも喜びの顔を見せる。同時に悪戯っぽい笑みも浮かべて、

「綾女さんには内緒で行きましょうね。奥間君、一緒に病院に行く前にお見舞いの品物、買っていきましょう」

 その笑顔は可愛らしくも大人っぽく、以前の天使の笑みとはやはりベクトルが違っているけど、魅力の大きさは変わらずに僕の胸をドキドキさせる。

 だけど、無理しているように見えるのは、きっと気のせいじゃなかった。

 やっぱりアンナ先輩には、心の底から笑っていてほしい。

 政府の強制配信は、まだ続いていた。

5 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/10(木) 23:48:18.45 ID:B3+6TW7+0
前回よりさらに行き当たりばったりな感じになりそうですが、ゆっくり書いていきます。
そう、更新速度は遅くなるかも。2日に1回ペースを目処に頑張りたいと思います。感想ください(切実)

あとエロ少なくなるかも。しょっぱなからこんなのでなんですけども。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagasage]:2015/09/11(金) 00:20:42.06 ID:J8SA/MwjO
完結期待
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/11(金) 06:34:07.00 ID:kAEvQb/oo
乙です
待ってます
8 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/11(金) 22:10:29.17 ID:CrXcKRi30

「「「…………」」」

「あら、鼓修理ちゃんもいらしてたの。……えーと、そちらの方は? 確か、奥間君の中学生時代の……?」

「わ、わたしの小学生時代の友達でもあるのよ、アンナ!」

 とっさに眼鏡をかけた華城先輩、鼓修理、ゆとりがアンナ先輩に怯え、僕に非難の視線を浴びせてきた。

 本当、ごめんなさい。せめてメールしようと思ったのだけど、アンナ先輩がサプライズで驚かせたいなんて言うから無理だった。隙を見つけたかったけど、無理でした、本当ごめんなさい!

 ゆとりにはす、と目線を一瞬細めたが、すぐに僕や愛を育むものを邪魔する敵以外に見せる、上品で淑やかな会長モードに戻った。た、助かった? 正妻の余裕ってやつだろうか。

 ちなみに《SOX》はデモの効果が消えないうちに色々画策して、華城先輩は怪我で動けないながらも的確な指示と下ネタを言って更なる上の段階の性知識流布を行っている。結果は上々だ。《SOX》を敵視を通り越して殲滅すら望んでいるアンナ先輩にとっては腹立だしい結果だろうけど、感触としては第一清麗指定都市を中心に、政府よりも《SOX》の意見を支持している方が多数だ。今もその打ち合わせ中だったんだろう。本当に申し訳ない。

「えっと、邪魔ならすぐ帰ろうと」

「いえ、わたくしの方こそお邪魔して申し訳ありません。先客がいるとは知らなかったもので」

 完璧なお辞儀を披露し相手に一切不快感を与えない丁寧な所作は、ゆとりの怯えや毒気を抜いてしまう。困ったように僕に視線を向けてきた。僕に向けられても、正直本当に困る。

「奥間君の中学時代はどんな方でしたの?」

 さらりと当然のように雑談に入っていた。獣性に火がつくと本当にヤバい人なんだけど、それ以外では本当に人の心の隙間を埋めていく優しさと慈愛を持った人なのだ。獣性に火がつかなければ。

「狸、奥間の話訊きたいのか?……ですか?」

 ゆとりが慣れない敬語を使っている。鼓修理が話さないなと見てみると、あれ? いつの間にアンナ先輩の膝の上に乗ってるの? なんか姉が妹をあやすみたいに膝の上に乗せて頭をなでなでしていた。妹ががちがちに凍りついているのを無視すれば仲のいい姉妹に見えなくもない。なんか僕の愚息をなでなでしている時のアンナ先輩の嬉しそうな顔を思い出してしまった。

「普段の話し方で結構ですわ。それに、呼び方も普段通りに。その、以前はほんの少し、わたくしも我を忘れてしまった面は多少あったので」

 そのほんの少しでゆとりは縊り殺されそうになってたんだけどね。僕の名前を呼んだというだけで。

「えーと、その……」

 ゆとりは難しい顔をしてしまう。イメージとは一切違う、アンナ先輩の慈愛の一面に触れたからだろう。実際アンナ先輩は水が染み渡るように、すっと人の心に入り込んでしまう。これは僕がアンナ先輩と初めて会った小学生時代からそうで、アンナ先輩の本質の一部なんだろうと思う。

 ただゆとりは僕がアンナ先輩に襲われたこと、華城先輩を傷付けたことを最も怒っていて、その怒りはまだ消化できていなかった。華城先輩に関しては大事な人が狙われたという想いから理解は出来ても、僕の件に関しては本当にキレていた。

「……あんたに憧れて、卑猥を取り締まりまくってたよ」

 怯えと怒りから、その一言だけしかゆとりは言えなかった。

 事情は分からなくても、ゆとりが非常に複雑な、しかも負の思いを抱いていることはわかったのだろう。アンナ先輩は決して鈍い人間ではない。理解はするし察するが、それがどういうものなのかを実際に自分で経験したことがなかっただけで。

 その経験をさせなかったのがアンナ先輩の母親であるソフィア・錦ノ宮の教育なのだろう。

 汚いものを徹底的に廃し、それらから子供を守り、正しい事だけで子供たちを育てていく。

 その想いだけで《公序良俗健全育成法》を夫と共に作り上げ、実際に国の方針として通した女傑。

 それがアンナ先輩の母親だった。そしてアンナ先輩は、その方針の最大の成功例として一番に挙げられる子供だった。

 僕や華城先輩から言わせれば、それこそがアンナ先輩を歪ませた最も大きな原因なのに。

9 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/11(金) 22:11:03.95 ID:CrXcKRi30

「失礼しましたわ。……そうそう、綾女さん。わたくしと奥間君で選んだお見舞いの品を持ってきましたのよ」

 華城先輩なら官能小説(オトナ小説と《育成法》以降は呼ばれているけど)が本当なら喜ぶだろうけど、無論今の日本にはそんなものは売っていないので、アンナ先輩だとどうしてもお堅い小説を選んでしまうところを僕がなんとか華城先輩の好みそうな、比較的気軽に読める娯楽小説をいくつか選んで買ってみた。

「退院はいつになるんでしたっけ?」

「あー、再来週の土曜予定よ」

 本ありがとうと、生徒会モードの華城先輩が仏頂面で、それでもそれなりに嬉しそうに差し入れを喜んだ。ゆとりや鼓修理はそれを複雑そうに見ている。

 《雪原と青》として、アンナ先輩には左肩を外され、肋骨の八か所にひびが入る重傷を負わされた。華城先輩は知らせるつもりもないが、アンナ先輩は自分自身が親友を傷付けたことを知らずただ心配しているだけというのは、ゆとりや鼓修理でなくても怒りや気持ち悪さを覚えるかもしれない。

 ただ僕が関わらないところでは、華城先輩が差し入れを素直に嬉しく思っている様子も、アンナ先輩が心配しつつ励まし勉強のノートなどをフォローする様子も、本当に親友として、友情がちゃんとあるのだと、二人の他愛ない表情から分かって。

 僕も複雑な思いを抱いていた。親友同士で敵同士という複雑な関係は、非常に危うく思えてしまって。

 破綻がすぐそこにあるような、ひび割れたガラスがあとちょっとの力で完全に割れてしまいそうな、そんな危険を感じてしまって。

 ピピピピピピピ

「――失礼しますわ」

 アンナ先輩が席を立ち、病室から出て行く。緊張していた空気が少し和らぐと、

「本当にごめんなさい」

 まず開口一番全員に謝った。全員から非難の視線。うう。視線で孕んじゃうよお。

「まあ済んだことは仕方ないけど」

 華城先輩が仏頂面のまま、アンナ先輩の取ったノートをぱらぱらとめくる。ちらっと見ただけでも非常に丁寧にまとめられているのがわかる。僕も勉強を教わったことがあるけど、非常に本質を捉えた分かりやすい教え方をしてくれた。足コキされたから逃げたけど。

「あの化け物はどう出るつもりなんスかね。《SOX》にとって善導課よりヤバい敵じゃないッスか」

 鼓修理が強張りきった身体を何とか緩めようとしている。心底同情してやると、「気持ち悪い目で見るんじゃないッスこの狸サル!」意味不明な罵倒を言われた。どうも女性陣からはアンナ先輩とひたすらヤリまくってる印象しかないらしい。針のむしろだ。味方がいない状況に溜息を吐きつつ、

「アンナ先輩も一人の学生だし、簡単に情報は手に入らないと思うよ」

 アンナ先輩から僅かに聞いた話を統合してそう判断していることを伝えた。今は華城先輩が動けないこともあって、水面下で性知識を流布していく事を地道にやっているだけだ。派手な動きが出来ないししていない以上、アンナ先輩でなく善導課も新たな情報はロクに挿入っていないだろうと思う。性衝動と違って少しずつ情報を与えて発散させるわけにもいかないしね。

 でもこのまま上手くいくかというと、正直不安ではあるんだよな。アンナ先輩や善導課も、あんな騒ぎを起こしたソフィアの動きも。

「奥間君」

「はいっ!!」

 淑やかモードだったけど今しがたの思考のせいで思わず仕込まれた奴隷のように背筋を伸ばすと、僅かにアンナ先輩の表情にその反応を愉しむ愉悦が混じった。だがすぐに掻き消すと、

「申し訳ありません。慌ただしいのですが、今お母様から連絡がありまして。わたくしの家で話し合いをするということですので、今すぐ帰らないと」

「話し合いって、アンナのお父さんも?」

 華城先輩が探りを入れると、

「いえ、どうも奥間君のお義母様とみたいですわ。母とは親友らしいですの。大事な話があるらしく、わたくしのマンションを使わせてほしいと言われてしまって、おもてなしの準備をしなくてはならないので」

「「「「…………」」」」

 それではまた、と慌ただしくアンナ先輩は病室を出て行った。

 ソフィア・錦ノ宮。《公序良俗健全育成法》成立の立役者。

 そして僕の母親、奥間爛子は、下ネタテロリスト最大の恐怖であり《鋼鉄の鬼女》の異名を持つ善導課の生きる伝説。

 あとアンナ先輩。

 《SOX》の敵ボスラッシュだった。想像するだけで気絶しそうなんだけど、助けてほしいんだけど、女性陣もみんな恐慌状態で期待できそうになかった。

10 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/11(金) 22:12:30.88 ID:CrXcKRi30
アンサーSSと書いた意味、少しは伝わったでしょうか?

あんまり原作のような下ネタや軽快な感じを出せなくて申し訳ない。
これが自分のテイストなのだと理解していただきたいと思います。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/11(金) 22:42:26.36 ID:kAEvQb/oo
乙です
楽しめてるからOKです
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/11(金) 23:58:01.07 ID:AgbdpdqOO
乙です
確かにアンナ先輩のやったことは何も知らないからで許されることじゃないか
13 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/12(土) 21:56:49.89 ID:HuzlVoxP0

 奥間爛子は既に狸吉とアンナの仲は把握している。この娘が何故我が息子を選んだのか理解できないほど、よく出来た娘だった。

「どうぞ。粗茶ですが」

 優雅で上品な所作で、紅茶を二人分、自分とソフィアの前に置く。母親に対しても、あくまでホストがゲストを迎える丁寧さ。ソフィアはこういうところもきちんと躾けてきたのだろう。ソフィアは感情的な面はあるが、躾という点では本当に母親としては敵わないなと爛子は思った。

「すまないな。君も大変だろうに」

「いえ。お母様方の考えがあることなのでしょうから」

 自分たちの起こしたことで心労がかかっているだろうに、微塵も見せない貞淑な笑顔だった。

「それに、奥」

「あー、すまない。トイレは何処にあるだろうか」

 わざと遮り、立ち上がる。近くまで行くと、ソフィアに聞こえないように囁く。

「今のソフィアにうちの愚息と君のことを話したらややこしいことになる。時期を見て私からも話そう」

 あのバカ息子もまさか手を出してはいないとは思うが、男女交際なんて爆弾を今のソフィアにぶつけるのは自分も避けたい。ソフィアが感情的になって振り回されてきた過去を思い出すと、頭が痛くなってきた。強引さにかけては自分も人のことは言えないが。

 くすり、とあくまでも上品さを崩さない程度に秘密を共有する少女の笑みを零すと、

「分かりましたわ。お手洗いは、あちらにありますの」

 それでは、と、アンナは簡単な軽食を作りにキッチンに入った。

 不自然に見られないように一応トイレを済ませて戻ると、ソフィアは難しい顔をしていた。

「今の状況が厳しいのはわかるが、世論はまだ揺れ動いている。政府の言葉を無条件に信用しているのは少ないだろう」

「…………」

 ソフィアは言葉に反応しなかった。キッチンの方を見ている。

「どうした? 何か懸念でもあるのか?」

「……いえ、アンナが変わったように思っただけです」

「まあ、最近色々あったからな」

「いえ、そういうことではなく……」

 ソフィアも言葉にするのが難しいのか、黙り込んでしまった。

「夏休み前から、どうも私に反抗するようになって。以前はそういうことはなかったのに、何があったのか」

「反抗期というものはどんな子供にも存在するだろう。それに転校に反対する娘の為にこの汚染された第一清麗指定都市に私を呼んだのは貴様ではないか」

 ソフィアは感情的だし厳しすぎる面もあるが、決して子供のことを思ってないわけではなかった。むしろ信念を持って、子供の為を思って、《公序良俗健全育成法》を夫である錦ノ宮祠影と共に国に通し、成立させた。

 一人娘のアンナのことだって、あれほどまでの理想的な娘を誇りに思ってないわけがない。転校したくないという娘の意思をソフィアなりに考えたうえで、自分をこの都市に呼んだのだ。

「まあ、そうですが。このままだと、それも無意味になりそうですね」

 今もソフィアは子供たちの未来について考えている。だからこそ自分は協力しているのだ。

14 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/12(土) 21:57:31.34 ID:HuzlVoxP0

「貴様の夫は何と言っているのだ?」

「この件に関しては対立してます」

 あんな自爆テロみたいなやり方では当然だろうと爛子でも思った。

「あのやり方だけではなく、夫は政府の主張に反対していません。むしろ推進する方向で動いているようです」

 ソフィアのプロレス技のような拷問にかけられてそうなら、祠影はその方向で動いていくのだろう。

「ああもう! あの人も金子玉子も!! 腹立だしい!!」

 突然ヒステリックに叫ぶが、爛子としては慣れた反応だったし、心情としては自分もそうだった。

 金子玉子は与党所属の国会議員の一人でありソフィアと同じくPTA組織の幹部で、自分たちが反対している政府の方針を勧めようとPMの強制配信で自分たちの主張を潰そうとしている、自分たちの敵だ。

 今こそ世論は様子見と言ったところだが、政府の強制配信がこれからも続けば、一回のデモ程度の動きは簡単に塗りつぶされるだろう。

 性悪な頭脳を持つソフィアでも、簡単には打開案を思いつかないようだ。

 今日はどちらかといえば、作戦会議よりは疲れを癒すためという意味合いが強い。自分は傷痕が目立つしソフィアの容姿も娘に負けず目立ち、アンナには悪いがこのマンションの一室で軽く酒を交わすことにさせてもらいにきた。無論、酒は自分達で買ってきたものだ。

 がらん、と何かが落ちる音がしたのは、ワインの蓋を開けようとした時だった。

「――アンナ?」

 キッチンからだった。まずソフィアが動き、自分も追う形でキッチンに向かう。

 見るとアンナが蹲って、両腕で体の震えを抑えるように掻き抱いていた。ソフィアが背中をさすっている。傍には包丁が落ちていて、自分たちの為の料理を作っていた最中だったのだとわかる。爛子はとりあえずコンロの火を止め、包丁をまな板の上に戻した。

「アンナ!?」

「大丈夫か?」

 よく見ると頬が上気し、眼には僅かに涙が浮かんでいる。一瞬、爛子の動きが止まってしまった。

「あ、お母様……大丈夫、ですわ」

「熱でもあるのでは? 救急箱は……!」

「いえ、本当に大丈夫ですの、お母様」

 す、と一瞬で元の淑やかで上品な笑顔に戻る。あまりの突然の変化に、ソフィアも爛子も呆気にとられる。

「いや、君も心労がかかっていると思う。私達のことはいいから、もう休みたまえ」

「そうね。アンナ、あなたは休みなさい」

 はい、お母様と、あくまで貞淑に、出迎えた時と同じように上品に一礼すると、ソフィアの言うとおりに寝室と思われる方に向かっていった。

 蹲っていた時に一瞬見えた、自分が一瞬止まってしまうほどの不吉さを湛えた飢えた肉食獣のような笑みは、おそらく見間違いだろう。あのようないい子が、自分が見てきたどの犯罪者よりも不吉な笑みを浮かべるなど、そんなことがある訳がないのだから。

15 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/12(土) 21:59:17.00 ID:HuzlVoxP0

「奥間君」

 母と義母の言うとおりに、寝室に戻り着替えてベッドで休む。

 愛しい人と一緒にいる時には、感じなかった、思い出さなかった衝動を、料理している最中に、包丁を持った瞬間に思い出してしまった。



 ――敵を追い詰めた時の快感。

 ――敵の悲鳴、痛みに喘ぐ声を聞いた時の昂ぶり。

 ――どんな罰を与えようか考え、実際に痛めつけた瞬間のあの恍惚。

 ――足の腱を切ると包丁を取り出した瞬間に生まれた気丈な瞳からの怯えを見た時の、あの興奮。



「奥間君」

 愛しい人の名前を呼ぶ。使っていた鎖と、下着の匂いを嗅いで無理矢理に落ち着かせる。

 包丁を持った瞬間にフラッシュバックのように、あの気持ち良さを思い出してしまった。愛しい人が傍にいる時は、何も思い出さなかったのに。

 次に《SOX》に、《雪原の青》と会った時は、無傷捕縛を目指している。それが自分を変えてくれた人への誓いであり、周りからの祝福を得るための禊だと考えていた。そのために軍事や警察の捕縛術関連の本も購入して知識を蓄えている。

 だけど、衝動を解放するのは、愉しい。

 自分は覚えてしまった。壊す悦びを、恍惚を。

 誰にも相談できなかった。愛しい人にはこんな自分を見せたくなかった。嫌わないでいてくれるとは言ってくれたけど、そういう部分があるとわかってくれたけど、だからこそ尚更簡単に呑まれそうな自分を見せたくなかった。

 それが子供の、自分たちの為だからと信じ切って、大人たちから汚いもの、醜いモノから排されてきたアンナは、あらゆる衝動を抑圧したまま、昇華も発散もされないまま、無自覚のままにずっと溜め込まれて生きてきた。

 だから、どうやって発散すればいいのか、そんなのは全くわからなかった。解放することもいけないとすら思っていた。

 性衝動は満たされても、破壊衝動は全く満たされずに、ただ募っていく。

「奥間君」

 愛しい人の名前と匂いで、愛の蜜が溢れてくる。くちゅくちゅと指で愛を思い出して、辛うじて記憶の中の残虐な恍惚から逃げる。

 声も聞きたいと思ったけど、今の自分の声がどう聞こえるのか怖くて、電話はかけられなかった。
16 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/12(土) 22:01:44.25 ID:HuzlVoxP0
まあ、シリア○スパートです。
数日程度では、生まれた時から抑圧されて生きてきた子供の衝動をコントロールなんて出来っこないよって話でした。
親二人の話は原作読んでないと良くわからない部分もあったかもしれません。申し訳ない。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 23:11:42.86 ID:O/VGt3c50
アンナ先輩は一種のリョナラーと化したか
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 23:38:26.59 ID:oY0ZS7HbO
アニメ10話見たらわりと片鱗ある気がする
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 01:05:47.38 ID:NMSKvnnqo

アニメは錦ノ宮夫婦の関係描写を完全カットしちゃったもんな
アニメ範囲で唯一の「大本営の奥間主任の一喝」も
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 01:29:35.14 ID:pVmBSdf9O
乙、6巻以降の別選択肢選んだって感じだね
これ親ってか大人がたくさん出てくるみたいだけど、条例とかにもかなり踏み込む感じかな? あなたの解釈なら安心して読める、ソフィアの描写も単なる悪者になってないし
あとアンナ先輩、やっぱドSってかリョナってか、破壊衝動目覚めたか。破壊衝動の方は倫理持って自覚有るみたいだから次やったら言い訳できないな
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 01:47:20.59 ID:hqxLT23X0
おつ
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 02:20:00.21 ID:wCsE1lpHo
乙です
23 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/13(日) 23:37:30.96 ID:S/AbJokl0

 夢うつつの中、僕は目が覚めた。十二月の朝は寒い。布団の中は暖かい。ぼーっとした頭で予定を思い出す。

 うーん、今日は土曜で学校側の予定は特にない。本来なら生徒会業務である政府の方針推進の為の冊子作成と流布という仕事が溜まっているけど、どうも先生方がアンナ先輩の家の事情やアンナ先輩、僕、華城先輩が一気に休んだことを考慮したみたいで、一時的に休んでいいと言われたのだ。冊子作成自体は単純作業だから、別にアンナ先輩や華城先輩みたいな実務能力に優れてなくても、代わりに出来る人がいると判断してくれたらしい。その他の生徒会でしか出来ない業務は全部済ませてるみたいだしね。

 アンナ先輩もあれだけ愛し(ヤリ)まくって当面満足だろうし、一回ちゃんと《SOX》の会議にも参加しないといけない。今日は昨日と同じく早乙女先輩以外は参加だっけ。アジトの方でエロイラストをいつものように生産するだろう。会議の方はどうしても、華城先輩の病室に行かないといけないからな……窓から漏れる光は弱く、まだ朝は早いのがわかる。

 よし、二度寝しよう。まだ朝は早いし布団の中は暖かいし柔らかいし、

「ぁぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 声が漏れないようにするように必死だった。何でアンナ先輩が一緒の布団の中で寝てるんだ!?

 一気に目が覚める。アンナ先輩はすやすやと寝ている。何もしてないよね? あれ?

(いぎゃあああああ!!?)

 ヤバい、アンナ先輩寝ている間に僕に何かしたのか!? 僕のトランクスがガビガビになってる! まさか夢精した!?

「――ん」

 鼻をすんすんと鳴らすと、銀髪の陰に隠れていた瞼が開いていく。計算してるんじゃないかというぐらい可愛らしくあどけない表情で、

「おはようございますですわ、奥間君」

 まだ寝起きでボーっとしているのか、それでも僕の愛の蜜の匂いは嗅ぎつけたようで、

「あら……? 何やら、いい香りが」

 パジャマの上から僕の股間に顔を埋めてきた!

「あ、いや、先輩これはまず訳を聞いて」

「……約束を、破ったのですね? 奥間君」

 怒ってはいない。むしろいたぶる理由が出来て、心底嬉しそうな、凶悪な光が瞳に走る。

「あ、あ、あの! 先輩、いつから僕の布団に!?」

「昨夜の二時頃でしょうか……お母様方が帰ってから、我慢しようとしたのですが、どうしても奥間君が……恋しくなって」

 丑三つ時に布団に入り込まれるってそれなんて怪談?

「眠れなくて、つい。……奥間君の香りを嗅ぐと、安心できますので」

「……えーっと」

 アンナ先輩、僕と結ばれたことで変化はあっても安定したと思ったのだけど、それは僕が傍にいる時限定なのかもしれない。今の何かに怯える瞳はそうとしか考えられなかった。一回僕がいなくなっているから、その時の恐怖が蘇るのかな。この時の僕は、そう解釈していた。

 しかしすぐにその怯えは消え、僕をいたぶることに興味を戻してしまった。いや、その、これ見よがしに唇を濡らすのは止めてください朝っぱらから搾り取られる助けて!

「ああ、勿体ないですわ……せっかく溜めていたのに」

 僕の返事を聞くつもりなんてあるはずもなく、あっという間に僕の下のパジャマと下着をはぎ取ると、まず寝ているうちに出てしまった愛の蜜の香りと味を堪能する。

「スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー、ああ、やっぱり溜めるとより濃くて美味しい味になるのですね……!? ふふ、奥間君が寝ている間はただ触れるだけでいたのですけど、それだけで奥間君の突起物が大きくなっていって、夢の中でもわたくしを愛しているのだと思うと幸せで、ゆっくり眠ろうと思っていたのに逆に眠れませんでしたわ」

 夢精した原因やっぱアンナ先輩か! 予想通りだったけど!!

24 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/13(日) 23:38:06.55 ID:S/AbJokl0

「でも、約束を破ったのには変わりませんので……オシオキ、ですわね?」

「あああ、あの、その僕の話も」

「奥間君? 夢の中でもわたくしを愛してくださっているなんて、わたくしは本当に幸せ者ですわ。怒っているわけではありませんのよ? むしろ、嬉しいんですの」

 違うんですいや違わなくはないかもしれない夢の内容覚えてないけどここ数日さんざんアンナ先輩の悦ぶことをやってきたしそういう夢にアンナ先輩が出てきてもおかしくないんだけどとりあえず夢精は生理現象なんです!

「でも、約束を破ったことは、また別の話。このオシオキは、愛故のことなんですわ。それに、奥間君も……ふふふひっ、準備は整っているみたいですしね?」

 これは朝勃ちといってこれも生理現象なんです女性にはわからないでしょうけど!

 あ、やばい。喰われる。もう完全に捕食者の目だ。

 頬にかかっていた銀髪を耳にかける。その仕草だけでも殆どの男は落ちると思う。上目づかいで僕の動きをその視線だけで完全に止めて、

「ん……!」


 ぬる、ぐちゅっ


「はうっ!」

 ハーモニカのように僕の息子を下から唇で滑らせると、そのふくよかな唇に吸い込まれた。

 もう僕も上の口に出すだけなら、抵抗しなかった。というか、抵抗したら余計にアンナ先輩の獣性に火がついてしまうのがアンナ先輩の家に泊まっていた間にさんざん思い知らされていた。

 頭が振られる。動きに合わせて愛の蜜を啜ろうと吸われる感触と音。だけどアンナ先輩の習得したテクは絶妙な加減で、痛みは全くなく、ただ快感だけ。

「先輩、出、ます!」

 声と同時にアンナ先輩の頭の動きが止まり、先端部分、尿道口の部分を舌でこじ開けるようにねじ込んでいく。そして射精のタイミングと同時に一気に啜られるっ!

「は! はあ、はあ……!」

 僕が早漏なのか、アンナ先輩が上手過ぎるのか、それともフェラだけでイく時はみんなこんな感じなのだろうか。

 射精した後も、管に残った愛の蜜を啜ってお掃除フェラもきちんとしてくれると、

「はう……やっぱり、美味しいですわ……奥間君の、味……」

 心底幸せそうに、切なそうに身を捩らせながら十二月の朝という寒さなのにそれを吹き飛ばすほどの熱気を纏う。

 だけど経験から、アンナ先輩がこの程度で満足するわけがなかった。次は下のおクチを満足させに来る、オシオキとまで言い切ったのだから絶対来る!

(ゴム、ゴムは!?)

 華城先輩からコンドームをもらっている。せめて中出しをしないようにとのことだが、妊娠を望んでいるアンナ先輩にどう説明すればいいのかまだ上手い考えが浮かんでいない。

 でもこれ逆だよね。普通中出し求めるのって男だよね?

25 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/13(日) 23:40:34.12 ID:S/AbJokl0

 僕の愛の蜜の味の余韻に浸っていたアンナ先輩だったが、不意に立ち上がる。

「さて、今回はここまでにしますわね。オシオキは次回に持ち越しですわ」

「え?」

 不可解過ぎた。え? 何故? アンナ先輩が人目とか関係ない場所で止まるなんてそれなんて天変地異?

「その、わたくしも奥間君の蜜の匂いを嗅いで、わたくし自身すっかり忘れていたのですが……奥間君がそれでもいいのなら、いいのですが……その、昨日から、生理が来ているんですの」

「……あー、それは」

 さすがに性知識の一切ないアンナ先輩でも、今ぐちょぐちょして血で汚れるのは良くないことはわかるのか。

「それは、駄目ですね」

「本当はお腹の中で奥間君を感じて、わたくしの愛を掻き混ぜてほしいのですけど、やっぱり血で汚れるのは、嫌でしょう?」

「嫌というか、アンナ先輩の身体によくないですよね」

 思わずそのまま言葉を選ばず言ってしまった。何で寝ている間に手を出してこないかと思ったら、そういう理由だったのか。いや手は出されてたけど。

「ですからオシオキは、また数日後……生理が終わったら、すぐにでも」

 唇の周りが涎と僕の蜜で濡れまくっていて、そんな唇でそんなことを言われたら、エロさより肉食獣が極上の餌を前に我慢しているようにしか見えないよお。

「奥間君。今日は予定、あるんですの?」

「え、えーっと……その」

「今日、本当は綾女さんのお見舞いに行ったあと、実家で話し合いをする予定だったのですが、お母様からわたくしは休んでいいと言われましたの。ですからその、デートしたいのですが……駄目ですの?」

「……うーん」

 今日は青姦の可能性もなさそうだし、《SOX》の女性陣からはアンナ先輩が誘って来たら中出ししない限りそちらを優先して《SOX》のことを考えさせないように言われている。まああの様子じゃ、アンナ先輩が《SOX》のことを諦めるなんてあり得ないんだけど。

「綾女さんには昨日、メールして、今日は行けないことを伝えましたのよ。昨日も行きましたし、たまには息抜きをした方がいいと仰ってくれましたわ」

 おいそんな大事なことちゃんと伝えとけよ。おかげで真冬の怪談味わったじゃねえか。

 ってか、もう決定か。一応後で華城先輩には確認するけど、アンナ先輩はそういう部分でウソつかないしな。

「じゃあちょっとゆっくりして、それから出かけましょうか。どこか行きたいところ、あります?」

「うふふ、すべて奥間君にお任せしますわ。奥間君が連れて行ってくれるところなら、どこでも楽しいに決まってますもの」

 期待に満ちた目で、アンナ先輩はキッチンに入って朝食を作ろうとしてくれる。……なんでこんな完璧に僕の家の台所事情を把握してるのかは考えないでおく。

 あと、僕の夢精したトランクスがいつの間にか消えていることももう気にしちゃいけない。朝食作ってくれている間に、とりあえずシャワー浴びて、ぬるぬるの股間を洗っとこう。

26 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/13(日) 23:43:36.45 ID:S/AbJokl0
投下終了、自分の地域ではア○メ11話があと一時間で放映です。

やったね狸吉、アンナ先輩妊娠してないことがわかったよ! よかったね!
27 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/14(月) 00:25:10.32 ID:F1KxMyEz0
そうだ、これ特に筋には関係ないんで、まだ決めてないので、
デートさせてみたい場所とかあったら要望聞きます。
安価じゃなくこちらが書きやすい場所を勝手に選ぶ形になりますが、それでよければ遠慮なくどうぞ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/14(月) 00:31:54.82 ID:t2soYo6CO
>>1が連れてって貰ったら嬉しい場所
>>1が女と聞いて
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/14(月) 07:12:29.34 ID:y5mjI/eJO
乙です
30 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/14(月) 20:31:48.24 ID:F1KxMyEz0
>>28
自分の趣味だとオーディオ店とかなるんですけど…
多分、趣味が一般的な女性から外れてるので……ヘッドフォンとかAV(オーディオビジュアル)に興味あるので
電気街……でいいですかね?
31 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/18(金) 02:36:50.67 ID:W0qq2c3p0
すみません、完全にスランプで、デートの下り、ホームセンターによって帰りにいつもの《SOX》御用達の
喫茶店ってコースでいいですか? 全然思い浮かばなくて

もし読んでる方以内なら、HTML化しますけども、どうしましょうか
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 02:43:02.13 ID:gYQ2mpM20
大丈夫じゃないでしょうか
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 03:08:55.77 ID:Jgtlmy6DO
問題ないと思うよ
こんだけ面白い作品書けているんだから自分の判断にもっと自信持ってもいいんじゃないかな
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 09:26:42.48 ID:ve2k7G70o
>>1のお好きなように

座して待つのみ
35 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/18(金) 20:53:34.19 ID:W0qq2c3p0

 メールで華城先輩に確認したらその通りだったようで、何だろう、《SOX》から自分ハブられているんだろうか。メンバーからのアタリやたらと強いんですけど。

 しかしいきなりデートと言われても思い浮かばない。この前はアンナ先輩が行きたい場所を指定したけど、今回はお任せになったからな。メールでいつもの喫茶店のマスターにテーブルの下に鉄の処女膜を用意してもらっておくけど、それ以外のところも行かないといけないよなあ。一応は。

 映画館? 水族館? ショッピング? 全然思い浮かばなかった。

「あ、あの、とりあえず午前中は街をぶらぶら歩きませんか?」

 計画も何もなかったが、アンナ先輩は僕といるだけで嬉しいのか、

「奥間君となら、どこへでも」

 若干俯きながら恥じらうアンナ先輩の顔は、性獣状態とは比べ物にならない、僕が憧れていた時の綺麗で健全で清楚そのものの笑顔だった。

 ただ正直、その笑顔を見ると自分が悩んでいたことを思い出した。アンナ先輩はまだ、性知識を知らない。僕の意思を無視したのもそうだし、僕自身もも貞操を散らせてしまった責任が、やっぱりあると思ってる。あの状況でどう抵抗すればいいのかわからなかったけど、あれ以上の言葉が他にあったんじゃないかと思っている。後悔は残ったままだ。

 それに華城先輩は気にしてないようだったけど、アンナ先輩は無邪気に華城先輩の怪我を心配していた。自分自身が大怪我を負わせたにも拘らず。

 それは知らないから、それで許される罪じゃないと思う。ゆとりが言っていたように。

 ただ知らせることも出来ないし、僕も責任を清算しないといけないとは思ってるんだけど、華城先輩のことは伝えられないし僕もあれ以上のことを伝えることがどう言えばいいのかわからなかった。エロ本見せるわけにもいかないしな。

「奥間君?」

「え、あ……」

 アンナ先輩もシャワーを浴びて、起きた時とは違う服を着ていた。

 お出かけ用なのだと一目で分かった。白にパステルピンクカラーの小さい花柄のチュニック。網掛けタイプのカーディガンを羽織り、ロングのふわっとしたスカートは薄いグレーだった。マフラーの色が臙脂色でそこだけが色を主張していて、それがアンナ先輩の銀の髪と肌の白さを際立たせていた。

「あ、その……変ですか?」

「い、いえ! やっぱり制服姿が一番印象に残ってて、アンナ先輩の家ではもっとラフな服だから、お出かけの服を見るとまた別の感想が生まれるというかなんというか、見惚れてしまって」

「……もう。奥間君は、そういう言い方されると……狡いですの」

 ちょっと口をとがらせて、でも嬉しそうに笑う。獣欲のない、ただ嬉しいだけの笑顔。

 変化はあっても、こういう部分が消えなかったのは、ホント良かったと思う。いっつもビーストモードじゃ持たないし。

「い、行きましょうか」

 とりあえず目的も何もなく、街をぶらぶらすることにした。

 本当にこれでいいのかなあと、心にしこりを残しつつ。しこしこで解消できたらいいけどそれするとアンナ先輩ビーストモードに入るから絶対やらないんだからねっ。


36 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/18(金) 20:54:57.19 ID:W0qq2c3p0

「奥間君と歩くと、また街も違って見えますわね」

 第一清麗指定都市の地理はアンナ先輩の方が詳しいはずだけど、目的もなくぶらぶらしながら歩くというのは、もっと言えば学校の帰りにちょっと寄り道なんて経験すらもあまりないのかもしれない。

 ちなみに聞いて驚け、今僕とアンナ先輩は手すら繋いでいない。アンナ先輩は僕の袖をちょこんと摘まんで後ろをついてきている。昼は貞淑、夜は妖艶を通り越した性獣、何だろうこのギャップ。ずっとこのままがよかった。

 と、アンナ先輩に摘ままれた裾が僅かに引っ張られる。

「どうしましたか?」

「あ、奥間君、その……あれは……」

「う」

 看板には『Arcana's door』とある。タロットと占星術占い、そしてパワーストーンの店とあった。

「奥間君から以前もらったパワーストーンがあれば、一人でも寂しさを紛らわせそうなんですの……あそこで買ったものですの?」

「いやあれはかなり特殊なパワーストーンで、あそこには置いてないかと……!」

 というかアレ、パワー(物理)だから。チャクラとかそんなんじゃないから。

 でも占いか。ぼったくり値段とかじゃないなら女の子は好きかも。PMのネットで評判を調べてみる。

「あ、結構評判いいみたいですね」

 どうやら占い師は恋愛の神様とまで呼ばれているらしい。値段もさほど高くないようだ。

「えっと、どうします?」

 OPENとは出てるけど、なんか嫌な予感もする。

「わたくしと奥間君の将来について占ってほしいですわ」

 ほらやっぱりこんな感じになるよね! せめて占い師がまともな結果を言ってくれたらいいけど、そしてそれをアンナ先輩が聞いてくれたらいいけど、無理だろうなあ。

37 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/18(金) 21:00:19.27 ID:W0qq2c3p0
今日はここまで。ストーリー進まず。デート思いつかなかった、駄目だ自分
ちなみに占いネタは、次回も続きますが、まあ元ネタあります。わかりやすいといえばわかりやすいネタですが、どうでしょう?

実はアニメ11話のアクションが前のSSの先輩のアクションとかぶっててびっくりした件。アレ原作にない表現だったからびっくりした。なんだアンナ先輩キレてなくてもやること変わんないじゃん。

あと原作も最新刊読みました。アンナ先輩には切に幸せになってほしい…

9月末まで忙しいので更新速度は遅くなりますが、完結できるように頑張りますので改めてよろしくお願いします。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 21:31:05.76 ID:dIDypWi3o
おつおつ
11話と同じアクションって、スタンガンを奪って敵に浴びせたシーンかな
下セカはアニメしか見てないんだが、パワーストーンの話ってアニメ6話のやつだよね
6話ってアニオリ回だったけど原作者監修だったからその内容を取り入れたということでOK?

ゆっくり更新でもいいので、楽しみに待っています
39 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/09/18(金) 21:47:08.53 ID:W0qq2c3p0
>>38
そうですね、自分は原作アニメ問わずどちらも公式と考えているのでネタになるならどんどん取り入れます。
スタンガンのシーンですね、まあ自分のシーンとは全く意味合いが違うとは思うのですが、びっくりしました
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 21:55:28.19 ID:wdHDvGQZO
まあそんだけアンナ先輩をわかってるというか原作リスペクトしてるのはわかってるからww
占いは中の人ネタかな、店の名前と恋愛の神様ってことは
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 23:29:40.40 ID:Jgtlmy6DO
乙です
本当に文章のレベル高いよな
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 11:03:15.15 ID:IU4pyUs8o
乙です
続き待ってます
43 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 00:38:44.22 ID:Cifqe0J60

 店は少し地下にあった。扉を開けるとからんからんとベルの音がなる。レンガの壁に間接照明のランプで、外からの光は遮断されていた。いかにも占いの館っぽい。なんかのアロマの香りがして、クラシックのピアノが流れていて、店内には様々な色の石が綺麗に整頓されて、なんか不思議な空間を形成している。

「シューベルトの即興曲集第3番ですわね。ピアノを習っていた時、この曲が好きでよく弾いてましたわ」

 なんか懐かしそうに耳を澄ませている。そう言えばこの人ピアノのコンクールでも何度か入賞してるんだった。なんだろう、ピアノ上手い人の細く長い指が挑発的に僕を刺激していたのかと思うと、なんかこう、クるよね。あれ、僕だけ?

 扉を開けると黒づくめのいかにも占い師さんって恰好をした女性が出てきた。

「いらっしゃいませ」

 アンナ先輩に負けないくらい穏やかな声で出迎えてくれた。丸顔の童顔で多分僕の母さんとさほど変わらない歳だと思うけど、可愛いという感じの人だった。

「初めてのお客様ですね? ようこそ、Arcana's doorへ」

 丁寧で落ち着きのある接客で僕達に笑いかけると、

「本日は占いですか? パワーストーンを選びますか?」

「えっと、予算どれくらいかかります?」

「占いは1回3000円ですね。カップル二人の運命を占うのも、一回なら3000円ですよ。パワーストーンは、ピンキリなのでなんとも言えないですけど、予算に合わせて作れます」

「あの、愛を感じるパワーストーンを探しているのですけども」

 だからアンナ先輩そんなのここにはないんだってぇぇぇ! ほら占い師さんが困惑してるじゃないか!

「お二人は恋人同士ではない……?」

 なんか若干嬉しそうに見えるのは気のせいかな。「いえそうではなく」とアンナ先輩が説明不足だったことに気付いて、

「以前奥間君、この人からもらったプレゼントがあって、それがパワーストーンだったのですけど、どこにも同じものがなくて」

 そりゃないよ。パワーストーンじゃなく、不破さん手作りのピ○ローだもん。

「でも、壊れてしまって。あれがあると奥間君が、彼がいなくても寂しさを紛らわせそうなのですけど、なかなか入手できないみたいで」

 なんか卵形の、とかピンク色の、といった色や形状の説明がさらに加えられると、

「うーん、愛に関しているパワーストーンでピンク色って言ったら、ローズクォーツが一般的なんだけどね」

 占い師さんの言葉が砕けてきた。まあ自分の娘ぐらいの年だろうし学生の人気も高いから、接客はもともとこういう感じの人なんだろう。

 店の奥に引っ込むと、形状と色の一致した、ローズクォーツというやつらしい石を持ってきた。だけどもちろんアンナ先輩の求めるものではなくて、

「もっと軽かったですわ……他にはわかりませんの?」

「うーん、ごめんね。石も本当に種類があって、私もね、勉強中だから」

「いえそんな。こちらこそ、失礼しましたわ」

 落胆はしているのだろうが、誠実な対応に好感を持てたのか、アンナ先輩はこの店と店主が気に入ったようで、機嫌はよかった。

44 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 00:39:57.33 ID:Cifqe0J60

「あの、では是非占ってほしいですわ。わたくしと奥間君の将来を」

 ガハッ!

 く、予想はしてたけど効いた。男にとって結婚とか将来とかそういう話はものすごく重い話で強烈なボディーブローなんだってことに気付いてほしい。あと何故占い師さんが僕と同じような反応してるんだ。

「と、とりあえず現在の二人の状態を見てみましょうね。えっと、生年月日教えてくれる?」

 僕とアンナ先輩がそれぞれ誕生日を言い合うと、占い師さんは自分のPMに入力して、何か天文図?みたいなものを表示していく。

「これね、二人が生まれた時の星の位置なんだよ。さて、じゃあタロットの方も見ていこっか」

 占い師さんってもっと重々しい口調なのかと思ったけど、案外フランクだな。こんなものなんだろうか。

「カードをね、『〜〜をお願いします』って願うんじゃなくて、『どうなりますか?』って尋ねる感じで、念じてながら混ぜてね。えっと、二人の将来についてどうですか?ってカードに訊く感じかな。そんなふうに思いながら混ぜてみて」

 僕とアンナ先輩、二人で一応真面目に念じながら混ぜあう。結構混ぜただろうか。

「もういい? はい、じゃあそれじゃ、三つの山に分けるから……よいしょっと。じゃあこの三つの山から、二人が別の山から一枚ずつ選んで」

 先に僕が選んで、次にアンナ先輩が選んだ。二枚のカードが占い師の前に並べられる。

 残ったカードを片づけると、選んだ二枚のカードだけが残された。

「じゃあ出たカードと、この星の位置から二人の将来を視てみます。心の準備はいいかな?」

「な、なんか緊張しますわ」

「緊張するよね、わかるわkる。でも開いちゃうぞー、えい!」

 カードが開かれた。といっても、全く知識のない僕にはなんのこっちゃだった。アンナ先輩も同じなのだろう。

「えっとね、まずタロットは正位置と逆位置っていってね、向きがあるの。占い師側から見ての結果なんだけど、奥間君は節制の正位置で、錦ノ宮さんは法王の逆位置になってるんだけど……」

 ちょっと待ってね、と天文図の方を見ている。確認すると、まずアンナ先輩の方から問いかけてきた。

「えっとね、彼女さんはね、すごく白黒はっきりつけたがるタイプじゃないかな? どう?」

 おお、当たってる。悪・即・斬!の人だからね。

「すごくね、秩序とか、規則とか、ルールとかね、そういうのに厳しい人なんだよね。法王ってそういう意味のカードなんだけど、これが逆位置に出ちゃってる」

「あまり、よくない結果なんですの?」

 若干不安そうに訊ねる。占いなんだから気楽に聞けばいいと思うんだけどな。

「逆位置だから悪いってことはないよー。カード次第だから。ただね、ルールに縛られて何も出来なくなっちゃったり、あるいは今、ルールが絶対で聞く耳を持たなくなったりしてないかなって、そういう暗示は出てる。自己完結しちゃったり、だけど実はその自分ってものが所属している集団の考えであって自分の考えじゃなかったり、そんな不安定な状態になっちゃってるんじゃないかなって」

「…………」

「あ、でもそんな悪い結果じゃないよー。あなたはね、すごく恵まれた星の下で生まれているから、なんでもこなせちゃう人。で、すごくパワフルな人で、もうこれと決めたらすごいパワーを発揮できる人なんだよ。これだけ潜在的なパワーを持った人って、私初めて見たな」

 占い師さんは半分本気で感心しているらしい。僕はというと占いってここまでわかるのかと結構驚いていた。

「でね、一直線で突っ走って、それが正しい方向に行けばすごくいい方向に働くんだけど、ちょっと道がずれると自分でも修正が効かなくなって、止められなくなっちゃう。カードの結果はね、今ちょっと、自分の中のルールとかを見直した方がいいっていう暗示だね」

 でね、と次は僕のカードを指差した。

「彼氏さんはね、節制の正位置が出ててね、これは調節とか適応とか、そういう意味を持ってるんだけど」

 彼氏さん彼女さん呼びはもう置いといて、PMの天文図が切り替わる。多分僕の生まれた時の星の位置なのだろう、星の位置が僅かに動いた。

45 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 00:43:51.23 ID:Cifqe0J60

「彼女さんと違って、白黒はっきりつけるより、グレーゾーンが広い人。これはね、優柔不断に繋がることもあるけど、本質は善悪両方を呑みこむ度量を持っていて、これとカードの結果を合わせると、彼氏さんはね。組織で言う、バランサーだね。まず人の話を聞いて、上手く流れを作っていける人。だからね」

 占い師さんはアンナ先輩に笑いかけると、

「何か重大な決断を決断する時は、一人で決めずに、彼氏さんの意見を聞くといいよ。この彼氏さんはね、視野が広いし、ちゃんと周りのことも考えて、その上であなたにとって最良の考えを言ってくれる人だから。彼氏さんはね、彼女さんがいろんなものに縛られて動けなくなった時が来ても、その能力をうまく引き出せる人だから、安心していいよ」

 いやアンナ先輩の手綱を引っ張る事なんてとても無理だと思いますが、でもわりと説得力のある結果だった。こちらのことをちゃんと考えてくれているのが伝わっているからだろうか。

「なんというか、説得力ありますわね。恋愛の神様と言われていると聞きましたが、素晴らしいアドバイスでしたわ」

「……うん。なんかね、私自分の恋愛運を人に分け与えることが出来るみたいで、周りが幸せになるのは私が恋愛運を分けてくれるからだって誰かが言ったからそのあだ名がついたんだよね。おかげで私はいい人に巡り合えないけど」

 何だろう、いきなりどす黒いオーラを発揮し始めた。羅武マシーンの腐のオーラやアンナ先輩の嫉妬時の絶対零度暗黒オーラとはまた違った黒い瘴気みたいなのが出始めたんだけど、「いいの、私、おくりびとだからいいの」とかぶつぶつ言い始めたんだけど。

「あ、あの、大丈夫ですの?」

 アンナ先輩の呼びかけに占い師さんははっと我に返ると、「何かパワーストーンも買ってみます?」と無理矢理話を変えてきた。まあ僕としても何かしら買って帰るつもりではあったけど、この人大丈夫なのか、さっきまでの感嘆が薄らいでちょっと不安になってきた。

 結局それぞれの誕生石をメインに合わせて、二人おそろいの石を選んで、同じデザインの三連石のペンダントを作ってもらった。浄化とかよくわからないけどなんか霊的なパワーを補充する意味合いの説明を受けている間、アンナ先輩は楽しそうで、とりあえず選択としては悪くなかったならよかった。

 別の予約していたお客さんが来たので、僕達は退散することにする。また来ますわとアンナ先輩は微笑むと、僕達は店を後にした。

 ずっと薄暗いところにいたせいか、冬なのに太陽の光がやたら眩しく感じる。

「占いというものはよくわかりませんが、あの方がいい人なのはわかりますわ」

 おそろいのセミオーダーペンダントというのはアンナ先輩にとってきっとものすごくいい買い物をしたのだろうけど、僕にとってはまた引き返せなくなるなあと若干絶望していた。

「じゃ、じゃあお昼になりましたし、前に行った喫茶店に行きましょうか」

 そのままペンダントをしまおうと思ったのだけど、アンナ先輩はマフラーを再び巻く前に自分のペンダントを付け、

「……奥間君も」

 ネクタイを直すみたいな感じで、人目が僕達に注目していないのを確認してから、僕にもペンダントを付けた。

「おそろい、ですわね」

 アンナ先輩は恥ずかしくなったのか、自分のペンダントは服の中に仕舞ってしまった。

 僕もそれに倣うことにする。く、華城先輩たちが見てなくて良かった、絶対ゆでたこになってる、鏡を見なくてもわかるったらわかる。

「い、行きましょうか」

 いつもの喫茶店は歩いてもすぐ近かった。やっぱりアンナ先輩は僕の袖をつまみながら、恥ずかしそうにだけど幸せそうについてくる。

 ああ、ずっとこの時間が続くなら、僕はそれはそれで幸せだったと思う。

 喫茶店に入る。ぴし、と僕は固まってしまった。

「あら、お義母様」

 アンナ先輩は摘まんでいた袖を離し、珍しく慌てた様子でお辞儀する。その様子はむしろ初々しさを印象付ける。

 けど僕はそれどころじゃ無い。相席していたもう一人がなんでここにいるのかわかってないからだ。

「不破さん? どうして?」

 助けてください、と無表情ながら冷や汗をだらだらかいてこちらにいつもより更に濃いクマの上の目で訴えてきたけど、アンナ先輩の姿を見てその瞳は一気に絶望に染まった。

「お義母様、うちの学園の生徒が何かしましたの?」

 あ、アンナ先輩の気配が獲物をいたぶる蛇のそれに変わった。ごめん、不破さん、君の棺桶にはBL本をたくさん入れるよ。僕も生きて帰れるかわからないけど。

46 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 00:45:23.04 ID:Cifqe0J60
占い師のモデルが誰かとは言いませんが、占いの結果は割とストーリーの筋を示唆するものになっているかと。
あと書いてて思ったのですが、アンナ先輩の結果ってそのまま華城先輩にも当てはまりますね。
しばらく更新遅くなりますが、地道に更新続けていくのでよろしくです。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 01:51:07.46 ID:zbqdL5Y6O
おつ
不破さんいじめられすぎだな一応一般人なのにww
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 02:06:13.94 ID:h+Kr5fbGo
これってもうアニメ終わった?
49 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 03:04:31.97 ID:Cifqe0J60
うちの地域では明日が最終回ですね
ネタバレ嫌です、がんばります
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 18:19:54.02 ID:wrDe/zYyo
おつ
デートシーンだけ見れば純粋に可愛い女の子なんだけどなあ
デートシーンだけ見れば
51 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 22:35:36.61 ID:Cifqe0J60

「むう……」

「…………」

 前回の事件で大怪我を負った綾女に代わって、鼓修理とゆとりが主に動き回って《SOX》は以前よりさらに上の段階の性知識を流布している。結果は上々で、本来ならもう少し空気が軽くてもいいはずなのだが、

「綾女様、狸吉と化け物のデート、見張りに行かなくて良かったんスか?」

 まともに動けない綾女でも、一応鼓修理やゆとりがPMの動画機能を使ってリアルタイムで中継することは出来て、見張ろうと思えば見張れた。前回は見張っていたというか覗いていたに近い状態だったが、今回もてっきりそうするのかと思いきや、綾女もゆとりも動かなかった。

「なんというかね……悩んではいるのよ」

「あの化け物女に喰われる狸吉をほっとけってのか?」

 ゆとりが苛立ちを交えた声で糾弾する。綾女はというと、いつもの歯切れのいい口調はどこに行ったのか、

「もう喰われたでしょう、そう、下のオクチで」

 クチは上にしかねえよ!という狸吉のツッコミが本来ならあるはずなのに、ツッコミはおろか誰からも声すら返ってこなかった。

 《SOX》は狸吉がいない場所ではずっとこんな感じだった。組織として動いてはいるし結果も出ているが、女だけになるとどうしても狸吉の処遇について意見がまとまらない。

 とにかく綾女とゆとりの意見が対立しているのだ。狸吉と化け物の関係については、《SOX》の手から離して本人に任せるべきだという綾女の主張と、あくまで狸吉を化け物から守るべきだというゆとりの主張。

 自分としては綾女に従う以外にないが、ゆとりの意見も正直わかる。というより、心情的にはゆとり側だった。

 性別が逆だからわかりにくいが、狸吉は性被害者で、あの化け物は性加害者なのだ。狸吉はそうなった原因が《公序良俗健全育成法》で化け物が一切の性知識がないため、それが相手や自分自身も傷つける行為だとわかっていないだと言っていた。それを教えることが出来なかったから、だからその罪悪感の延長線で付き合っているようにしか見えない。

 卑猥な事象一切を徹底的に排除しようとするくせに、本人は卑猥自体が何かを知らないが故に超えてはいけない一線を越えてしまった、《育成法》の正負どちらの側面で見ても象徴的な子供。

「綾女様は狸吉があの化け物とくっついた方がいいと考えてるんスか?」

 何度か繰り返した問いだったが、また改めて聞く。

「くっつけばいいとかじゃない。狸吉はアンナの貞操を奪ったの。その責任は、きちんと取らないといけない。そこに《SOX》がどうという意見はないわ。別に恋愛は自由だもの。《SOX》が絡むと、またアンナが暴走する。狸吉自身が判断するべきことよ」

「あれを恋愛だとかいうのか? 狸吉は奪ったんじゃなく、あの化け物女が勝手に暴走して狸吉の意思を無視して、そんなのに責任だのなんだのおかしいだろ! 《SOX》としても完全にあの化け物女は敵として動いていて、そんなやつのもとに狸吉をおいとくのかよ! ばれたら殺されるより酷い目に遭わされるぞ!」

 ずっとこの調子で、二人は平行線だった。

52 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 22:36:05.80 ID:Cifqe0J60

 結局はあの化け物を昔から知っている親友でもある綾女と、もはや人間とすら思ってないゆとりの、どうしようもない壁だった。

 鼓修理はと言えば、ゆとりよりはあの化け物の近くにいる。時岡学園は中高一貫校で、鼓修理は中等部に春から編入していた。遠くはあるが、高等部の生徒会長としての演説や仕事ぶりは、中等部の奴隷男子ネットワークでもたくさん耳にしている。最近変わったという噂もそうだが、それ以前から、狸吉が入学する前から中等部にもファンがいるほどの人気だった。

 その人気は、鼓修理みたいに人心掌握を意識してやって獲得したわけではない。狸吉が絡まないところでは、ひたすらに完璧だからだった。容姿も、能力も、悪に対する姿勢も、それでいて悪事を犯さない弱者にはひたすらに手を差し伸べるその人徳も。

 その一面を知ってしまうと、《育成法》の被害者といいたくなる気持ちはわからなくもない。

 知識さえあったなら。

 綾女と狸吉が口を揃えて言う言葉だった。なら知らないなら許されるのかというゆとりの疑問には、二人とも答えてはいなかった。

 《育成法》の矛盾を考えさせられる問題に、最初はただ暴れたくて、次に綾女に憧れて、テロリストとしての考えなど持っていなかった鼓修理にも、流石に思うところは出てきてくる。

「ったく、何度目なんだぜコレ……!」

 ゆとりは頭を抱える。綾女はそんなゆとりを見ようとせず、窓の外をぼーっと見ている。今世論はガンガン動いていて、本来ならば《SOX》も動かなければならないのに、動いているはずなのに、停滞している。

「《育成法》の被害者だとか、ごちゃごちゃと……ややこしいんだぜ……」

「ゆとりは負の部分の被害者っスからね。あの化け物とはまた違って、ただ制定された時の余波を被っただけっスから、綾女様とも意見違ってくるんスよ」

 鼓修理の指摘にゆとりは俯く。ゆとりはあの化け物とはまた違った側面の《育成法》の被害者だった。それは綾女や狸吉も同じ。

 卑猥な犯罪を犯したり卑猥な職業に就いていた親のもとに生まれた子供。

 それだけで、本人は何もしていなくても、差別を受けてきた子供。

 化け物が“成功例”としての被害者なら、ゆとりは今の日本で賤業とされる酪農家の娘だった。動物の交配や交尾、去勢などのその職業に必要な、しかし卑猥な知識とされるものを持たざるを得なかったゆとりは、ずっと差別を受けてきたと聞く。

 知らないから超えてはいけない一線を越えた化け物に対して、知識を持たざるを得なかったがために差別を受け続けたゆとりにとっては複雑過ぎるのだろう。狸吉に惚れているとかそういうことを抜きに考えても。

「まあ、とにかく、今は狸サルのことは置いといて、《SOX》の今後を」

 話を切り替えた途端、視界が暗くなった。

 自分だけではないようで、綾女もゆとりも天井を見上げる。

「蛍光灯切れ? ――照明全部が、同時に?」

「停電……病院でか?」

 だだ、と、廊下から激しい音が聞こえてきた。

 全員、《SOX》として、下ネタテロリストとしてそれなりに場数をくぐってきた全員が、不穏さに気付く。だけど気付いた時には、もうどうしようもなかった。

53 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/20(日) 22:38:46.27 ID:Cifqe0J60
女性陣は全員いろいろ複雑だったようです。難しい話で自分も混乱してきました。
今夜がアニメ最終回なんですよね。どんな内容かは全然知らないので楽しみです。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/21(月) 08:37:16.72 ID:CheLJKwqo
おつです
最終回……は作者さんにどのように写ったのでしょうか
55 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/24(木) 03:57:05.91 ID:Z/ngbHSU0

(堪忍して下さい、助けてください)

(無茶言わないでこの二人に僕が逆らえるわけないでしょ)

 視線だけで不破さんとやり取りする。四人がけのテーブルに、母さんと不破さんを奥に押し込む形で、僕が母さんの側に、アンナ先輩が不破さんの隣に座る。

「えっと、どうして不破さんと僕の母さんが一緒にお茶を飲んでるの?」

 どうにかして助けてあげたいが、事情によっては不破さんの命はここまでだ。多分ついでに僕の命も。

「貴様がこの女を私に楯突いてまで救おうとしていたからな。事情聴取だ」

 ああああ、以前もこの話したっけ月見草が入ってきたから有耶無耶になったけどごめん不破さんこれ僕無理というかむしろ僕が危ない。

「そう言えば、その話について詳しく聞いていませんでしたわね」

 ひい、アンナ先輩からにこやかな暗黒オーラが立ち上ってる! 浮気相手認定されたら僕と不破さんの命が危ない! 弁解しないと!

「だから、母さんには何度も言ってるんですけど、別に不破さんだから助けたとかじゃなくて、あれは生き物が相手だったから納得できなかっただけなんですよ!」

 アンナ先輩は僕が不破さんを善導課に楯突いてまで助けた、ということしか知らないため、僕と不破さんと説明してアンナ先輩が母さんに確認を取る。

 簡単に言うと、不破さんが飼っているペスと名付けられた犬が繁殖用にタマタマとサオを残した本来なら処分されるはずの犬で、《子供を犯罪の被害から守り健全に育てる条例》に引っかかる表現“物”として、生き物としてみていた僕や不破さん、本心がどうあろうと立場上“物”として扱わないといけない母さんと対立した。不破さんはその件で善導課に捕まり、その間に“物”は処理された。

 不破さんはその時、非常に危うくなり、実際に善導課に自爆テロのようなやり方で殆ど意味のない体制への攻撃を仕掛けた。ただの八つ当たりに近い、自身の将来も考えないオナニーのようなことを、いやオナニーを馬鹿にしてほしくはないけど、とにかく不破さんは一回やらかしている。その為僕の母さんとも面識があったのだ。

「ああ、そういう理由でしたの」

 アンナ先輩はあの時の第一清麗指定都市の騒ぎに、非常に心を痛めていた。不破さんも自暴自棄となっていた面はあったし、あの一連の騒動に関してはアンナ先輩も不破さんを被害者と認識したらしい。

「そういう理由なら、奥間君なら助けるかもしれませんわね。奥間君は、優しいから」

 ペスの件に関しては、アンナ先輩の中では僕はそういう位置づけになったようだ。白認定されてホッとする。

 母さんが意外そうにアンナ先輩を見ていた。いやガン飛ばしてるだけにしか見えないけど、アンナ先輩は幸い容姿で人を判断する人じゃないし、なんというか、むしろ気が合っているというか、何故か着々と外堀が埋められていっている。アンナ先輩、性獣なのになんで外堀埋めるのこんなに上手いんだよ。そういうとこの如才のなさが獣の面とはまた別の意味で本当に怖い。

「意外だな。君もそういう意見なのか」

「無論、規制されるべき卑猥な物を持っていたことに関してはわたくしなら没収し捕縛しますが」

 アンナ先輩が、なんだろう、上手く表現できないけど眩しいものを見るような眼で僕を見ている。

「奥間君はそれでいいんだと、そう思いますの」

「ふむ」

 母さんが珈琲を啜ると、

「やはり君は、変わったか?」

 ああ、やっぱりそうなるのか。アンナ先輩の変化は顕著だからなあ。愛の儀式について語られたら僕殺されるなともはや悟りのような境地で聞いていた。

56 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/24(木) 03:57:50.51 ID:Z/ngbHSU0

「奥間君がわたくしを深く愛してくれていることに、先日ようやく気付いたんですの。わたくしが思っていたより、ずっと強く」

 アンナ先輩は、僕に笑いかけた。

「確かに奥間君がわたくしを変えてくれましたわ。ですがその変化はわたくし自身が研鑽を怠れば、悪い方向へ向かっていきますでしょう。わたくしは奥間君がわたくしを変えたのだと誇りを持って言える女性になるよう、努力していきたいと思っています」

 穏やかさの中に、強い決意があった。僕が圧倒されるほどの。

「そうか」

 母さんはアンナ先輩の様子に満足したのか、

「アンナのようになりたいと言っていたお前が、アンナにここまで言わせるようになったか」

「…………」

 何も言えなかった。ただ何も知らずにその歪んだ健全さに憧れていた僕しか知らない母さんは、そう思っている母さんには、何も言えなかった。

 不破さんは完全に外野の人間の筈だが、アンナ先輩が変化して一連の出来事に関わってたし、何か思うところがあるのかもしれない。ただじっと、無機質な瞳の中に何かを込めて、じっと僕を見つめていた。『それでいいのですか?』と問いかけているように聞こえたのは、僕の思い込みだろうか。

「……それで、わたしは解放していただけるのでしょうか?」

「わたくしは理由はありませんわね。今は生徒会長ではありませんから、持ち物検査をするつもりもありませんわ」

「残念ながら私も貴様のような要注意人物の所持品を見せてもらいたいところだが、今は休暇中だ」

 不破さんは何とか無罪放免になったらしい。でもこれ、僕がむしろヤバくなってない?

「不破さんには以前お世話になりましたし、わたくしが支払いますわ。マスター、彼女と奥間君のお会計はわたくしが支払いますので」

「狸吉を奢る必要はない。アンナ、狸吉を甘やかしてはいかん」

「いえ、ここに寄る前に、奥間君にはプレゼントを買っていただきましたの。その分を考えると、むしろわたくしの方がお世話になっていますわ。奥間君はわたくしが世話をしようとしても自分でやってしまったり、むしろもっと甘えてほしいぐらいですの」

「本当に愚息には出来過ぎた娘だな、君は」

 いやここでの世話ってもうほとんどペット的な扱いだから。家事とかだけじゃなく、勉強を教えてもらったりグチャグチャしたりご飯を食べさせたりお風呂に入れたりグチャグチャしたりグチャグチャしたり、とにかく隙あらば挑発してくるから。アンナ先輩、僕を学校辞めさせて自分のお部屋で飼いたいと思ってる節があるんだよなあ。

「せっかくですが、アンナ会長。自分の分は自分で支払います。もしわたしに何かを返してくれるというのであれば、わたしは別のことを求めます」

「え? 不破さん?」

 僕だったら即刻逃げるようなこの状況で、何を言いだすんだ?

「せっかくですから、アンナ会長と奥間さんのお母様、善導課の幹部でもあるあなたにも問いたい」

 不破さんの瞳はいつも通り無感情な、だけど何かを秘めた、挑戦的な光を込めていた。

「何故卑猥は悪なのですか? 行為の規制だけでなく、知識を求めることすら悪なのですか? それが社会のルールだから、正義だから、悪だから、嫌いだからという曖昧かつ感情的な理由ではなく、論理的かつ具体的な理由をわたしは知りたい」


57 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/24(木) 04:01:54.60 ID:Z/ngbHSU0

「…………」

 あ、母さんは無理だ。卑猥を取り締まる動機が正義ではなく憎しみだから不破さんの求める答えは持っていないし、理論や理屈に関しては僕は不破さんを上回る人を知らない。

「殺人はなぜいけないのかと同じレベルの稚拙な疑問だな。小学生レベルだ」

「そう思われるならばそれで構いません。何故ですか?」

「貴様のような小娘が知る必要はない。また答える義務も私にはない」

 議論する気はない、と母さんはバッサリ断ち切った。

「でしょうね。善導課の幹部なら、そう言うしかない。ならばわたしは、アンナ会長の解釈を知りたいと思います」

 意外にあっさりと引き下がり、おそらく最初からこれが目的だったのだろう、矛先がアンナ先輩に向けられた。不破さんの瞳に宿る挑戦的な光が強くなる。

「アンナ会長、お聞かせ願いますか? 卑猥は悪だからと教えられたからではなく、何故悪なのか、あなたの中に理由はありますか?」

 不破さんも、あの一夜に関して思うところがあったのか、わからない。

 ただここでアンナ先輩の暴走を止められる母さんがいるからこそ、不破さんは訊いているのだろうと思った。母さんが不破さんの指揮する特攻隊をポイポイと投げ捨てていく様子を見ているから、不破さんの観察力ならアンナ先輩と母さんが同等の身体能力を持っていることには気付いているだろうし。

「わたくしの考えでよろしいですの?」

 アンナ先輩が困惑しているように見えた。なんでそんな当然のことを聞くのだと言いたげな。

「そういうテーマのディベートをしたい、ということでよろしいですの?」

「そうですね。もしよければ、奥間さん親子にはそのジャッジをしていただきたいかと」

「……奥間君とお義母様がいいなら、かまいませんけど」

 どうしますの?と視線で問いかけられる。僕は母さんの方を見た。

「私は構わん。若い世代が考えるのは悪いことではないからな。ただ私は善導課の人間だ。狸吉、お前が決めろ」

 丸投げじゃねーかそれ。母さん、理屈で丸めこむんじゃなくて力業でねじ伏せて従わせるタイプだからな。

 でも正直、アンナ先輩が卑猥についてどう考えているかは僕も興味あった。というより、卑猥をどう捉えているか、何故絶対悪とするのか、社会は何故そう教え知識からすら一切を切り離していると思っているのか、アンナ先輩の頭脳ならある程度答えを持っているはずだった。それが僕らから見てどう歪んでいるにせよ、それがこの社会の在り方として、僕も理解する必要があると思えた。

「あの、アンナ先輩。不破さん、本当にしつこいですから、答えてあげた方がいいと思いますよ」

「いえ、その、意外でして」

 アンナ先輩の困惑は続いていた。

「不破さんがそういう方なのはわかっているつもりではありますが、不破さんはわたくしのことが嫌いだとばかり思っていましたわ」

「嫌い、ではありません。見解は絶対重ならないかとは思っていますが。ただ」

 不破さんが初めて、真正面から見るのではなく、眼を伏せた。いつも科学者として事実を追い求めていたあの強い好奇心の光はなかった。

「わたしも、大事な存在を奪われた時、自分で自分を止められなくなったことがありますので」

 それ以上のことは、不破さんは言葉を重ねようとはしなかった。

 そうか。

 ペスが善導課に没収され去勢された時の事と、アンナ先輩の目線では僕が奪われて怒りと憎しみに酔っていた時のこと、重ねているのか。

 それにあの時不破さんは、不破さんも含めた時岡学園の生徒たちの為に何も出来ないながら走り回っていたアンナ先輩を陥れようとしていた。そのことも、罪悪感が残っているのかもしれない。

 僕も不破さんはアンナ先輩のことを嫌っているのかと思っていたけど、むしろ反対で、心配しているのかもしれない。

 それがアンナ先輩にも伝わったのだろうか。あの夜を境に変化した、しかしやはり人を救う天使ではなく女神の微笑で、

「わたくしの考えで良ければ」

 少しだけ嬉しそうに申し訳なさそうに、不破さんの問いを受け止めた。
58 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/24(木) 04:08:21.59 ID:Z/ngbHSU0
アニメ最終話の感想

自分はきっと、もっとアンナ先輩を弄っていいんだ!!
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/24(木) 07:33:23.97 ID:/MKgBKQ5O
乙です
やりたい放題やってしまえばいいと思うでしょう
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/24(木) 13:37:30.37 ID:fZzxOsSco
アニメの下セカにはまる
 ↓
ここの作者の前作をたまたま発見
 ↓
前作が面白かった&原作の文章にも興味持った
 ↓
原作10巻まで大人買いして現在6巻まで読む←いまここ

何だかんだここの作者やSSには大きく影響受けたなあ
責任とってください(直球)
61 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/25(金) 02:54:08.58 ID:iXBR2I3H0

「卑猥と最も近い性質の犯罪は何だと思いますか?」

 まずアンナ先輩が問いかけた。僕も考えてみるけど、正直卑猥だけでは範囲が広すぎてすぐには思いつかない。

 不破さんも似たような感じだったのか、僅かに悩んだ。だがすぐに、

「暴力でしょうか」

 そう答えた。そうなの?

「単語を口にするだけで、行動だけで、特別な道具も何もなく非常に身近に、そしてすぐに行える部分が、該当するかと思います」

 そうかもしれないと思えた。アンナ先輩はいきなりは否定しなかった。

「そういう側面はあるかもしれませんわね。ですが窃盗なども同じことが言えると思いますわ」

 不破さんは反論しない。というより、アンナ先輩の考えを引き出すための呼び水としての意見だったらしく、強くは主張しなかった。

「実は、この国において完全に規制されている犯罪はたったの二つですわ」

 え? 

「卑猥と違法薬物、この二つのみなのです」

「???」

 え? アンナ先輩の日本ではそうなってるの? だから刃物向けたりするのもアンナ先輩の中ではOKなの? いやいや、六法全書に色んな犯罪が明記されていると思うんですけど、エロ本にエロがないみたいな言い方じゃないの、それ?

「なるほど、そういう捉え方ですか」

 え? 不破さん、なんで理解できてるの? ついていけない僕がおかしいの? いや、母さんも困惑してたから、まあ僕しかわからないだろうけども、とりあえず僕の頭どうこうという訳じゃないらしいのはよかった。

 僕の困惑が伝わったのか、アンナ先輩が改めて分かりやすく言葉を重ねる。

「今の日本で殺人は完全に規制はされていませんわ。日本には死刑制度があります。死刑を殺人というならば、殺人は暴力の延長線上にある犯罪と言えるでしょう。懲役刑も無辜の人間に行えば監禁罪に、罰金も個人の財産の窃盗に当たりますわ」

 言われた瞬間は面食らっていたけど、理解が進むとなるほどと思えてきた……気がする。

「司法の定める刑罰の中ですら行われていないのが、違法薬物と、そして卑猥に関する全てなのですわ」

 不破さんは反論せず、アンナ先輩の意見を最後まで聞く姿勢を取っていた。アンナ先輩もそれに応える。

62 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/25(金) 02:54:46.74 ID:iXBR2I3H0

「卑猥の蔓延していくその様子は、違法薬物が蔓延する様子と酷似していますわ。特に青少年に伝わりやすい面も含めて。わたくしにはよくわかりませんが、卑猥は違法薬物と同じように、手に入れることである種の快楽があるのでしょう。卑猥が蔓延してしまった学園の生徒の様子を見れば、それは歴然としています」

 いやアンナ先輩が多分学園内でもトップクラスに卑猥の快楽に嵌ってる人だと思うんだけど、それはツッコまないしツッコめないというか僕がもうアンナ先輩の中にツッコんでしまってるから何かを言うなんて出来るわけないよね。

「知識を一切切り離す理由もこれで説明がつきますわね。そもそも存在を知らなければ、違法薬物を試そうと思わないでしょう。だから卑猥は知識も含めて徹底的に排除されるべきなのですわ」

「知識がないからこそ、身近に迫った時に自分の身を守ることが出来なくなるのでは? 護身としての最低限の知識すら制限することは、むしろ危険性を認知できずに知らない間に被害に遭ってしまうのではないでしょうか」

 初めて不破さんが反論らしい反論を唱えた。だけどアンナ先輩は聞き分けのない子供を苦笑交じりに説き伏せるように、

「少しでも知ってしまえば、好奇心というものがどうしても生まれてしまいます。それが快楽に結びついているのならばなおさらそうですわ。むしろ危険性があると知れば、そちらの方が好奇心を刺激されてしまいます。どのような分野でも、知識というのは完全に教えるのは不可能ですの。ならば一切を切り離し、徹底的に排除するのが、大人の、行政の、国の役目でしょう」

「…………」

 不破さんは何か僕に問いたげに見てくる。正直、僕はアンナ先輩の言葉に一瞬納得しかけてしまった。演説の上手さもそうだし、何より綺麗な理屈に聞こえたから。

 だけど。

 アンナ先輩の理屈は、綺麗すぎた。

 アンナ先輩は卑猥を違法薬物と一緒にした。そもそも存在を知らなければ手を出すこともない、と。

 だけど現実は、アンナ先輩は今でも性知識を知らないのに、卑猥の快楽に最も嵌っている子供の一人だ。

 違法薬物に関しては、そうかもしれない。タバコやお酒も、知らなければ試そうとは思わない。そもそも知らないのだから。それはアンナ先輩の言うとおりだと思う。

 けれど卑猥は、性は、一切の知識がなくても、辿り着ける。それは人間の中に眠る本能から来る衝動だから。

 だからこの二つは、明確に違う性質の事柄なんだ。

 この程度のこと、僕が思いつくのに、不破さんが思いつかないわけがなかった。不破さんが最初に暴力と卑猥が似ていると言ったのも、人間は凶暴な部分が、破壊を求める本能的な部分があるからなんだろう。その類似を指摘したんだろう。

「奥間さんは、どう思いますか?」

 不破さんが、問いかけた。

「えっと」

 正直、どう答えればいいかわからない。知識を最低限必要という不破さんの主張に賛同したいけど、なんというのか、アンナ先輩の綺麗すぎる理屈に上手く反論できない。

 それに少しでも知ってしまえば、好奇心が刺激され、試したくなるというのも現実にそうだ。不破さんが代表格だしね。

「僕は風紀優良度、最底辺校の出身です。卑猥な知識は、今の時岡学園よりずっと多く触れる機会がありました。そこでの同級生を見る限り」

 息を吸い、善導課に補導される昔の同級生たちを思い出す。

「卑猥の危険性より、卑猥の魅力に取りつかれる奴の方が、多かったです。でも」

 何も知らないからこそ間違ってしまった、憧れていた女性を見つめる。

63 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/25(金) 02:55:38.58 ID:iXBR2I3H0

「アンナ先輩も、最初《雪原の青》とすれ違った時、それが卑猥なイラストをばらまいていたのだとわからなかったと言ってたじゃないですか。だから僕なんかが生徒会に入れて……その、だから、不破さんの主張も一概には否定できないんです。自分の身を守るのに、最低限の知識は、やっぱり必要なんじゃないかとは思います。でも知ってしまえば、好奇心に負けてしまうやつが多いのもそうで」

 なんだか伝えたいことはたくさんあるはずなのに、どう伝えればいいかわからなくなった。というより、混乱してきた。

「知識そのものには善悪はないというか……結局人それぞれというか……」

 しどろもどろになってしまった。それでも何とか伝えたくて言葉を重ねようとするけど、

 ピピピピピピピピ
 ピピピピピピピピ

「あれ」

「誰だ、休暇中に」

 僕と母さんに、ほぼ同時にPMに電話が入った。僕からの相手は、『華城先輩』?

「えっと、華城先輩からなんですけど、出てもいいですか?」

「構いませんけど……わたくしにも聞こえるようにしてもらえません?」

 浮気の電話だと思ってるのかなあ、アンナ先輩がにこやか暗黒オーラをまた立ち上らせていく。華城先輩、僕の心を削って楽しいですか?

 隣では母さんの気配が険しくなっていく。それにも不吉な予感を覚えつつ、PMの音量を操作する。

「もしもし」

『奥間君? アンナもそこにいるでしょう?』

 生徒会モードの、だけど切迫した声に、僕もアンナ先輩も不破さんも思わず聞き耳を立てた。

「どうしたんですか?」

『奥間君、アンナから離れないで。傍にいてあげて、いいわね』

 ぶつん、とあまりに不自然にPMが切れた。様子のおかしさに、僕達は顔を見合わせる。

「すぐ戻る」

 隣では母さんが立ち上がった。今の華城先輩の声も聞こえていたみたいで、

「今の女は鬼頭厚生病院に入院か病院に見舞いに行っていたりするのか?」

 母さんの顔が、いつになく真剣で険しかった。

「わたくしの親友が入院してますわ」

「すぐにニュースになるだろうから伝えておく」

 ちっと舌打ちする。僕は母さんが通れるように立ち上がり、その先の言葉を待つ。

「鬼頭厚生病院の最上階で入院患者、病院関係者、見舞客全員が人質となって立て籠もる事件が起こった。私は現場で指揮を執る」

 がたん、とアンナ先輩が立ち上がった。目を見開き、戦慄きながら。

「狸吉、その女の言葉通り、アンナの傍にいてやれ。いいな」

 その言葉を残して、母さんは出て行った。

「アンナ先輩」

 思わず呼びかける。アンナ先輩の表情は、銀髪で隠れて見えない。

 ただ僕の視線から逃れるように顔を逸らしたことだけがわかって、だけどその意味よりも華城先輩たちが気になって心配過ぎて、だからアンナ先輩が何に怯えたのか、わからないどころか気付きすらしなかった。

64 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/25(金) 02:59:53.80 ID:iXBR2I3H0
わたくしが妊娠すれば婚約は手っ取り早いのでしょうか(ニコ)

ちなみにアンナ先輩の主張は原作にはありません。なんか書いてたらこんなこと言い始めた。多分自分がいろいろ真面目に考える病気になってしまったのだと思います。

実際とのところはどうなのでしょうね。センシティブな問題なのでアンナ先輩の主張が一切間違ってると決めつけるのもなんか違う気がしますね。

知らなかった、下セカはとっても深いテーマをもった社会派ラノベだったのか!
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 04:02:23.81 ID:hSJcfN0DO
おつです
ああ、間違いなく社会派ラノベだな
原作者もそう言っているし(白目)
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 04:16:27.14 ID:nTX2Ccw9O
乙です
アンナ先輩の理屈がさっぱりわからんのは自分がバカなんだろうか
でもこの世界の卑猥の扱いってこんな感じなんだろうなとは思う
こういうのをなぞれるあたりが>>1すごいよなあ
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 06:23:54.06 ID:0Ry+Y4O/o
10巻まで読み終えた←いまここ

責任は、今後もこの面白いSSの続きを読ませてもらうという形で取ってもらいます(希望)

アンナ先輩の主張もアンナ先輩らしい思考だし
不破さんがすぐにそれを察することが出来るのも不破さんらしく思える
キャラをキャラ通りに動かすのが本当に上手いなあと原作読破した今ひしひしと感じる
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 07:19:12.31 ID:mnnvljefO
原作未読だけど主張に納得が行ける不思議
乙です
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagew]:2015/09/25(金) 17:57:35.81 ID:Ccp3HG3CO
なんか現実の日本でもいそうな主張だな
これ言われたらパッと反論すぐに思いつかないわ、自分なら
でも気持ち悪さはあって、この気持ち悪さがあの世界の歪みなんだろうなと思った
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 21:47:04.09 ID:fhwGQG3+0
71 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/26(土) 04:50:08.84 ID:+n5uO9m40


  ――緊急ニュース速報――  


『本日午前十一時半頃、第一清麗指定都市にあります鬼頭厚生病院にて人質立てこもり事件が発生しました。

 犯人グループは武装していると情報が入っておりますが、規模は不明とのことです。

 ――今入ってきた情報があります、どうやら犯人グループの要求は、

 《公序良俗健全育成法》そしてそれにまつわる全ての条例の廃止とのことです。

 警察では人質のPMは外されており、人質の人数は把握できていると発表がありました。

 第一清麗指定都市では《SOX》などによる卑猥なテロ活動が頻発しており、この事件に触発される犯罪の増加も懸念されます。

 政府は卑劣なテロ行為には屈しないとの声明を発表しました。

 人質には各界の著名人も多数いるとの情報もあり、現在は警察の情報の発表が待たれます』

72 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/26(土) 04:51:11.78 ID:+n5uO9m40

「なんだよそれ……!」

 ニュースは母さんが出て行ってから、二十分後にPMで流された。

 華城先輩の下ネタよりもタチが悪いニュースだ。こんなやり方で《育成法》が撤回できるわけないのに。

 だからこそ僕達が色んな人たちの力を借りて、ようやく開けた体制への小さな風穴が、ついこの間出来たのに。

 直感する。この事件は、《SOX》の開けた風穴を、全て無に帰す。

 政府はきっとこの事件を利用して、《SOX》と関連付けて、体制の強化への口実に乗り出す。

 だけどそれ以上に何よりも、華城先輩やゆとりや鼓修理が人質になっていて、今現在危険な目に遭っている。

 小さく、袖が引っ張られた。

「奥間君」

 アンナ先輩はまだ顔を逸らしたまま、

「警察に、任せましょう……わたくしたちがやることは、何もありませんわ」

「え?」

 何を言っているのか、わからなかった。

 僕がいなくなった時、あれほど憎しみに身を任せていたアンナ先輩が、そうでなくても悪を絶対に許さないアンナ先輩が、親友を人質に取られて何もしないことを選ぶだなんて。

 バスジャックも銃器を持った相手に一瞬で決着をつけ、《群れた布地》のスタンガンなどをもった数十人相手にも無双できるような、最強の最終兵器彼女なのに。

「アンナ先輩?」

 華城先輩はアンナ先輩の傍にいるように言った。暴走しないように見張っておけという事なのだとすぐ分かった。僕も事件を知った時、そうするべきだと思った。

 だけど実際は、暴走どころか、ひたすらに沈み込んでいる。予想と違う反応に困惑してしまう。

「アンナ会長、大丈夫ですか?」

 不破さんも異変に気付き、声をかける。多分不破さんも似たように感じたんだろう。

「……民間人に、未成年であるわたくし達は、待つしか出来ないと思うんですの。心配……もちろん、心配で、不安で……ですけど……」

 身体が震え、息が荒くなっている。発情とかそんな時のものとは明らかに違う。

「厄介なことになっておるようじゃの」

「うわ!?」

 いきなり現れた座敷童に思わず声が出る。いやアジトでイラストを描いていたのは確かに予定通りだったのだけど、正直ちょっと忘れていた。

「マスターよ、悪いがわしらの貸切にしてくれんかの? それと、アンナが休めるような部屋はあるかの?」

 華城先輩たちが人質になっているという異常事態、アンナ先輩のあまりの調子の悪そうな様子に、真剣ではあったけどいつものペースを崩さない早乙女先輩の声は正直ありがたかった。


73 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/26(土) 04:51:48.03 ID:+n5uO9m40

「あの、アンナ先輩。家に帰った方がよくないですか?」

 とにかくあまりにも調子が悪そうで、暴走どころかこのまま倒れてしまいそうだった。アンナ先輩の背中をさすりつつ、月見草に連絡して迎えに来てもらおうとPMを操作しようとして、

「奥間よ、今アンナを動かすとはまずいと思うのじゃ」

 早乙女先輩が、僕の動作を遮った。真剣な様子に、僕の手が止まる。

「マスターよ、悪いが今からここは貸し切りにしてもらうぞ。アンナ、奥の個室にはアンナが休めるぐらい大きなソファがあるからの、そこで一旦休むといい」

「え、ええ……」

 アンナ先輩は言葉を発するのも難しい程息が荒くなっていた。ここ数週間の疲れが、一気に堰を切って体調に現れたのかもしれない。

「アンナ先輩、僕がついて」

「奥間と不破は薬を買ってきてくれんかの?」

「は?」

 多分僕の目には苛立ちが込められていたと思う。小声で早乙女先輩の耳打つ。

「華城先輩にはアンナ先輩から離れないように言われました。今の状態を思うと、僕もそう思います」

「じゃが《SOX》としてもこの事件はどうにかせねばなるまい。それぐらいのことはわしにもわかるぞ」

「わかってますよ、でも今は……!」

「わしに任せてくれんかの、奥間」

 ふざけた調子の一切ない言葉に、僕は思わず黙り込む。

「多分じゃが、今おぬしが傍にいると逆にアンナは悪くなっていくじゃろう」

「……信じていいんですね?」

 早乙女先輩はニヤ、と不敵に笑うと、僕から離れた。

「不破よ、すまぬが」

「ええ。少なくとも奥間さんは、副会長を助けに行くのでしょう? ネットワークを使って必要な情報を集めておきましょう」

「頭がいいと助かるわい。奥間よ、おぬしは月見草に連絡をとれ。月見草も善導課の一員なら何かしら情報が入るかもしれん」

 不破さんがここにいるから言わないけど、早乙女先輩はそれ以外にも、《SOX》として出来ることを出来るだけしておけと視線で伝えてくる。

「その間のアンナは、任せておけ」

 いつになく頼もしく、早乙女先輩は親指を巻きつける卑猥な握り拳で、僕のお腹に軽く当てる。

「はい。よろしくお願いします」

 早乙女先輩を信じることにした。早乙女先輩は今のアンナ先輩の様子に、僕とは違って何かを確信している。

 それがわかったから、だから任せた。

 それがあんなに危険なことだとわかっていたら僕はきっと止めていただろうけど、それでもこの状態で何が最善かと言われたら、きっとこれしかなかった。

74 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/26(土) 04:58:57.27 ID:+n5uO9m40
時々忘れそうになりますが、アンナ先輩は女の子なんですよね(遠い目)
ところでアニメ最終話ですが、アンナ先輩はじゃんけんに勝ち続けたのでしょうか。何連勝したのでしょうか。
アンナ先輩に出来ないこと、真剣にわからなくなってしまいました。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sag]:2015/09/26(土) 08:24:07.58 ID:CAFmzsyTO
乙です
でもアンナ先輩は精神は不安定なんだよね
無垢だからこそ極端に走るし
あれだけ抑圧された教育されてきたらそりゃそうだよなあ
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 11:28:16.38 ID:xk8PqHbZo
少なくとも30枚、いや50枚は黒下着をつけているよな
じゃんけんにそんだけ連勝する方法か……
動体視力と反射神経を駆使して後出しをしまくったとか?
あまりに時間差が短すぎてバレていないとか
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/27(日) 05:36:30.86 ID:Ox7aRgXLO
早乙女先輩が頼もしい、だと……!?
おつです。アンナ先輩は我慢して辛いんだろうな
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/27(日) 13:52:19.81 ID:pyu8g+iDO
問題はナニを我慢しているかということだが……
性的衝動なら今まで通りだがここのアンナ先輩の場合は……
79 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 03:28:56.33 ID:2ol59LmN0

(ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ……)

 PMが外されたことをいいことに、精神安定のようにもはや下ネタといっていいのかわからないただ性器の名前をぶつぶつと呟いている《雪原の青》こと華城綾女の様子に、これ割とダメだとゆとりは確信した。

 今現在、人質のPMは全て強引な手段で外されている。外部の連絡手段を断つためというだけではない、何か、別の主張みたいなものを感じた。

 《公序良俗健全育成法》の撤廃。

 PMは、その象徴。これを外して、差別されない自由な社会を。

 犯人グループの一人が呟いた言葉だった。この犯人グループは自分が見ても訓練されていると思う。動きに乱れがなかった。武装している銃器も、モデルガンではなく違法改造したエアガンみたいで、実際に壁に穴を空けてみせた。誰も動けなかった。

 人質は18人。自分、綾女、鼓修理に加えてナースステーションにいた看護師が3名、医師が1名、綾女以外の入院患者が4名、その他の見舞客が7名。

 ただ、ただの人質ではなかった。この階は政治家や芸能人が逃げの為の特別病室となっていて、政財界の大物が3名にゆとりも知ってる芸能人1名が人質になっている。警備も厳重な特別な階で、面会にも入院患者からの確認、そしてPMによる照会が必要なほどだ。許可された人間のみが直通のエレベーターにまで案内され、基本はそのエレベーターでしか出入りできない。非常階段もあるとは思うが、ゆとりはそこまでここの病院の警備に関して詳しくはない。

 今は全員が大きな休憩スペースに入れられ、手錠で後ろ手に拘束されている。犯人の三人がこの部屋の中にいて、自分たちを見張っている。

 綾女はPMが外される前に何とか狸吉に連絡をとれたようだが、それ以外はどうしようもない状態だった。テレビが付けられていて、外の情報は一応把握できる。犯人の余裕の表れなのか、不幸中の幸いと言っていいのか、とりあえず小声の会話ぐらいは許されていた。

 テレビでは早速、最近の第一清麗指定都市の風紀悪化やソフィアのデモとこの事件を一緒に扱っていて、国がこの事件をどう扱っていくかが手に取るように分かった。

 だからこそ綾女は殆ど錯乱して三角座りをしながら声が隣の鼓修理と自分にしか漏れないようにぶつぶつと現実逃避をしているのだ。それで何とかなるなら自分も何か唱えようか。狸吉好き狸吉好き狸吉……

(おい頭の中を侵食すんな!?)

(からかわなきゃやってらんないっすよこの状況!)

 使い物にならない綾女を挟んで全く実にならない喧嘩をする。《SOX》の主要メンバーは殆ど身動きが取れないし、狸吉もあの化け物女を抑え込むのに精いっぱいだろう。

(一回《群れた布地》やっつけてるだろう、お前達)

(装備も動きもかなり訓練されてるっスよ? 鼓修理の持ってるスタンガンレベルじゃなく、あの銃は人を殺せるッス……壁の穴を見ればわかるッス。それにあのときはその、あの化け物の力も借りての事っスよ)

 一体どうやってそんな協力を取り付けたのか、ゆとりは純粋に驚いた。どうやったのか詳しく聞きたいが、今はそういう場合じゃないと頭を切り替える。

(あいつら、他の下ネタテロリストのやつらか? 見た事ねえけど)

(多分、違うわ。鬼頭慶介がこんなこと、許すとは思えない)

 ようやく会話に綾女が入ってきた。なんとか眼には力が戻っているが、綾女の怪我はまだ重く、普通の動きも難しい。

(きっと、ずっと時機を見てたんだわ。いつ生まれるかわからないチャンスを逃さないよう、必死に訓練してきたのでしょうね。……見た限り、犯人グループの殆どは、まだ若いわ。私たちと同じぐらいじゃないかしら)

 そう言われて、ゆとりも気付いた。そう、犯人グループの殆どは、確かに自分達とさほど変わりのない年齢だった。

(要求からすると、きっと……ゆとりの方が理解できるんじゃないかしら)

 《育成法》の撤廃を、PMからの自由を。

 それは、昔のゆとりが守ろうとしてだけど無理だった、差別を受けてきた子供の叫びだった。

 この事件は歪んだ健全な社会に切り捨てられた子供の、捨て身の反抗だと気付いた。

 《SOX》と出会う前の自分そっくりで、だけど流されて終わることを選ばず、せめてもの反抗を選んだ子供たち。

 世間が、世論が、政府と対立して揺れた時機を見ての決行から見ても、流されていた自分よりもずっとしっかりとした頭を持っているんだろう。《雪原の青》のように。

 ゆとりは昔の自分を思い出してしまって、何も考えられなくなってた。

 綾女も同じだったのだろうか、綾女も黙る。

 《SOX》のしてきたことを全て無に帰すかもしれないこの事件に、責める感情は生まれなかった。

(どうして、待てなかったんだよ)

 ゆとりの呟きに、誰も答えない。答えはわかりきっていた。

 救いは今、欲しいのだから。その救いがいつか来るかもと期待することは出来ない程に、この世界に責められ続けてきたのだろうから。

 犯人たちはきっと下調べもしていろいろ準備もして訓練も自分たちなりに頑張って、それでもこの事件は無駄にしか終わらないだろうと思うと、これが《SOX》の末路にも思えて、ゆとりにはもう未来は見えなかった。

 やっぱり、駄目だったんだ。流されておけばよかった。期待するからこうなった。

 そんな昔の自分と同じ考えが生まれて、情けなさにどうしようもなくて、でもこの状況を狸吉が何とかできるとはとても思えなくて、もうどうしようもなくなってた。

80 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 04:29:25.53 ID:2ol59LmN0

 外に出て、歩きながら考えるけど何も浮かばない。とにかく情報が欲しかった。PMを操作し、とにかく電話をかけてみる。

「あ、撫子さん! あの、何か連絡ありましたか!?」

『善導課から連絡が来た時はとうとう捕まったのだと思ったけどね。まさか別の奴らに捕まってるとは思わなかったよ』

 飄々としているが、華城先輩の育ての親である華城撫子の声は苦かった。当たり前だけどそんなに情報は持っているわけがないが、それでも保護者の立場から何か聞いているかもしれない。

「あいつら、下ネタテロ組織のやつらですか?」

『違うだろうね。多分、あんたらに触発されて自分も動きたいと勇み足踏んだ奴らだろうさ』

「うちのメンバーが、殆ど……早乙女先輩以外、全員があの病院に……」

『それでうちの綾女は怪我してるんだろう? お荷物だね』

「華城先輩はお荷物なんかじゃ!」

『で、あんたは善導課の連中にこの事件を任せる気かい?』

「そんなつもりはありません! ありませんけど……!」

 はあ、と溜息がPM越しにも聞こえてきた。当然だろう。

『あんた、泣き言言うために電話してきたのかい? こっちはそんな暇ないんだけどね』

「鬼頭慶介に、コンタクト取れないですか? 電話でも構いません」

 鬼頭慶介。鼓修理の父親であり、日本中の下ネタテロリストを影から支援し、コントロールしている

 鼓修理が捕まっているというだけでない。犯行の舞台は、鬼頭系列の病院なのだ。

 かなり曲者で僕一人じゃ交渉は難しいだろうけど、それでもやるしかない。

『連絡は取れる。だけど何を武器に、どんな交渉をするつもりだい?』

 ぐ、と詰まる。何の考えもなしにはやっぱり、交渉は無理か。

「分かりました。一旦頭を冷やします。……連絡の準備は、いつでもできるようにしていただけますか?」

『ああ。まあ一筋縄じゃいかないだろうけどね。あれはなかなかの親バカだし、娘が捕まってるなら向こうは何かしら対策をとるだろうさ』

 親バカというよりはバカ親だけど、その対策がおそらく《SOX》とは相いれないものになると思うからこそ、連絡を取りたかった。だけど今は何も浮かばない。童貞の早漏連射砲じゃなく、何かテクが必要な相手だ。

 撫子さんの電話を切り、一旦冬の冷たい空気で頭を冷やそうとするけど、外の空気は身近で起きた大きな事件に浮かれまくっていた。関係のない人間からすれば、政府の動きも《SOX》の主張もこの事件の目的も、きっとただの乱痴気騒ぎでしかないんだろう。ところで乱痴気騒ぎってやっぱり乱交パーティーの事かな。つまり今、この街は乱交パーティー真っ最中なのか。

「奥間さん」

 白衣姿の不破さんが戻ってきていた。ついでに月見草も一緒だ。

「月見草、お前も来てくれたのか」

 前回一番の功労者といっても過言ではないこいつが来てくれたのは、アンナ先輩対策としてありがたい。

 そう言えば、アンナ先輩のことも非常に気になるのだけど、まだ月見草には連絡を取っていないのにどうしてここにいるんだ?

「先程アンナ様から連絡がありました。喫茶店前に来て待機するように、と」

「待機? 理由は」

「存じません」

 やっぱコイツ役に立たないか。いないよりはマシだろうけど。

 喫茶店前で待機……僕が帰ってくるのを待っているのかな。一緒に帰りたいとか。

81 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 04:30:05.75 ID:2ol59LmN0

「単純に調子が悪いだけならばいいんですけどね」

 不破さんが僕の思考を読んだのか、不破さんなりにアンナ先輩のことが気になるのか、口を挟んできた。

「不破さんの方はどう?」

「芳しい情報は何も。テレビで言われている以上のことはわかりかねます。ただ、情報の確度は高くないのですが、犯人たちは十代中心という情報があります」

 うーん、不破さんのネットワークでもそんなふにゃちん程度の情報しか得られないのか。といってもまだ事件のニュースが流れて一時間も経っていないし、不破さんのネットワークも一般学生からのものだから、過度の期待をする方がむしろ酷だよね。

 とりあえず、アンナ先輩も心配だし、喫茶店に戻ることにする。アンナ先輩をほっといてから30分ぐらい経ってる。事件のニュースが流れてからは1時間ぐらいか。

 喫茶店に戻ると、ドアの前にマスターが立っていた。「?」と近づく。

「二人きりにさせてほしいと言われましてね」

 マスターはそれ以上何も言わなかった。とりあえず入ろうとしたドアノブに手をかけた瞬間、

「!!?」

 心臓を鷲掴みにされ、背骨に直接錐をねじ込まれるような、そんな最悪の感覚が全身を貫く。

 アンナ先輩から半年以上逃げ回り、《センチメンタル・ボマー》として鍛えた鋭敏な感覚が全身に撤退を求める。だけど動けない。

「……みんな。悪いけど、外で待ってて」

 あの夜に感じた空気の軋みをドア越しにも感じた。僕ほどでなくても、不破さんは気付いたらしく、この寒い中冷や汗をダラダラと流しながら、

「月見草、不破さん捕まえといて」

「かしこまりました」

「ちょっ」

 今にも逃げたそうにする不破さんだったけど、この中で僕の骨を拾ってくれそうなのは不破さんだけだから逃がさないよ?

 月見草に羽交い絞めにされ、身動きの取れなくなった不破さんは諦めたように、

「生きて帰ってきたら何かお返ししてもらいます」

 ちゃっかりと約束を取り付けた。でも僕は答える余裕なんてなかった。

 早乙女先輩は何をして、一体どうなったのか。

 喫茶店の扉を、精一杯力を込めて開く。

 いつもの喫茶店の筈なのに、まるで魔王の城みたいな強烈な圧迫感があった。奥の個室にいるはずだけど、そこが明らかに異質な空気になっている。

 あの夜の、人質交換の時のような、何かが完全に解き放たれた気配。

82 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 04:31:06.82 ID:2ol59LmN0

「――アンナ先輩?」

 奥の個室に、精一杯の勇気を込めて乗り込む。

「――奥間君」

 声は静かだった。だけどむしろその静かさが異常だった。

 部屋の中で破壊されていないものがソファ以外、殆どなかった。テーブルも椅子もバラバラになっていて、壁にはあちらこちらに穴が開いていて、窓のない部屋だからガラスなどは割れてないけど、そこだけ巨大地震でも発生したかのようだった。

「おおお、奥間!」

 しゃがみこみ後ずさって泣きそうになっている早乙女先輩を、アンナ先輩がいたぶるように一歩ずつ追いつめている。早乙女先輩が僕に気付いて叫ぶが、ただでさえ状況がわからない僕は、完全にこの空気に呑まれていた。

「ありがとうございますですわ、早乙女先輩。わたくし、感謝しています。本当ですわよ?」

 鈴の鳴るような涼やかな声に、か弱い獲物をいたぶる嗜虐が混じっていた。ただ僕をいじめる時とはわけが違う、相手の安全を考えない、僕を性的に襲う時とは全く違う衝動に酔いしれた声。

 アンナ先輩が早乙女先輩に手を伸ばし、無理矢理に立たせる。そしてそのまま僕の方へ投げ「うわっ!?」

「はわわわわ、お、思っていた以上に危ない状態だったみたいじゃ! い、いや予定通りではあるのじゃが、あとはおぬしに任せた!」

「おい!」

 僕から飛び降りると凄まじい勢いでいなくなった。スケッチブックだけはしっかりと回収してたけど。

「奥間君」

「ははは、はい!?」

 あの夜のような、迫力を持って他者を傅かせる圧倒的な美が、無条件に従わせるカリスマ性を持って、それらすべてを僕に向ける。

「ねえ、奥間君」

 どこか甘えるような、言い聞かせるような、そして獲物の抵抗を期待するような、陶酔しきった声。僕がどんな返事をしようとも、力尽くでねじ伏せられる。むしろそれを愉しみたいとすら思っている。

 本当、早乙女先輩は何をしたんだこの人に!?

 だけどその疑問は次のアンナ先輩の言葉に吹き飛ぶ。


「わたくしを、あの病院に行くことを、許してくださいまし。あそこには、正義に仇なす巨悪がいますの。悪を殲滅したいんですの」


 ぞわっとした。今のアンナ先輩は、人質を無傷で救おうとか、そもそも人質の安全を考えていないとはっきりわかる。

 「僕以外の人間はいらない」と、《雪原の青》に見せつけるように僕を無理矢理に発情させた、あの瞳そのままだったから。

 ただ衝動に任せて酔いしれたいだけ。

「――ダメです」

 そう答えるしかなかった。こんな言葉で止まるとは思えなかったけど、それでもこう答えるしかなかった。

「ふふ、ふふふひっ」

 舌で唇を濡らし、僕を完全に獲物としてロックオンしたことを、今の嬌声に近い笑い声で知った。

 これ、もう死ぬしかないよね? 僕死ぬよね? アンナ先輩のお腹の中に入ってずっと一緒エンドだよね?

83 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 04:38:47.25 ID:2ol59LmN0
…………

自分が書くと何故アンナ先輩はこうなるのか、まあアンナ先輩が愉しそうになったからいいや。
なんだかんだで衝動に身を任せてる時が一番アンナ先輩が輝く場面なんですよ、そう信じてます!
84 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/28(月) 05:09:55.32 ID:2ol59LmN0
あと、前作とここまで読んだ方ならおそらく気付いてはおられるかと思いますが、

自分ヤンデレリョナ大好物なんです、女→男の方で。
そういうのでハードな方向に来そうになったら投下前に予告します
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 11:52:26.61 ID:1HxjR5Wbo
おつ
あ、やっぱりヤンデレリョナ好きだったんですね
前作での小指だけでも体内にという発想がヤバイと思ってました

今回のテロリストは原作に出てきた下ネタテロリストたちと一線を画しているんですね
まあ要求が反体制側なくせに立てこもり先が鬼頭病院だというところで
何となく下ネタテロリストではなさそうだとは思っていたけれど
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 23:44:27.25 ID:tuRla57lO
このSSのアンナ先輩のラスボス感はほんとパないなww
早乙女先輩は役に立ったのかよくわからんけどアンナ先輩を元気にはしたし、不破さんが逃げようとするのをたぬきちが月見草に羽交い締めさせるとことかは原作にもありそうなシーンだね

これってオリキャラとか出す感じなの?
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/29(火) 01:01:37.84 ID:As/W4KsNo
衝動に身を任せているアンナ先輩は確かに可愛い
だけど最新刊のアンナ先輩見ているとようやく憑き物が取れて穏やかになってくれてよかったと思っている
それでも衝動に身を任せているアンナ先輩は可愛い(強調)
88 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/09/29(火) 02:45:22.21 ID:4uh+fXz40
オリキャラというほどのキャラは出ません。犯人の名前も出すつもりはないですね。
会話は一応ありますが、非常に無個性にするつもりです。

やっぱり「おくまくぅぅぅぅん❤❤❤❤❤」って言ってる時のアンナ先輩が一番可愛い
愛の蜜100パーセントジュースを無理矢理飲ませようとするアンナ先輩が一番輝いている
アニメのハートに見せかけたピンク色の何かを瞳に宿した時のアンナ先輩がやっぱり一番だ
二期無いかなあ、中の人が心配で仕方ないですね
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/29(火) 20:33:32.09 ID:DjkLA2pDO
ぶっ飛んでるアンナ先輩のほうが魅力的ではあるんだが
ここのアンナ先輩はこのままだと身も心も傷つけてしまう悲惨な末路を辿ってしまいそう……
90 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:03:31.81 ID:HPBUUiz40

「奥間君……どうしていかせてくれませんの?」

 アンナ先輩にとっては拒絶の言葉だったろうに、むしろわくわくしているかのように捕食者としての笑みが深くなっていく。今朝見た時よりもはるかに熱が大きく、周囲の空気が歪んでいた。

「病院にはとびっきりの悪がいますのに。あの悪を殲滅すれば、わたくしの正義はより強固なものとなって、奥間君への愛も深まりますのに」

「アンナ先輩……その、まずこの状況を説明してほしいんですけど……」

 とにかくなんでこんなあらゆる本能衝動全開モードになってるのか、経緯を知れば少しは対策が見えるかもしれない。

 と、アンナ先輩は胸の中から……胸? え、何挟んで

「何ですかそれぇぇぇ!?」

 な、な、な、な!?

 こ、これは昔の不健全図書で噂に聞く、ち○こを模したオトナの玩具……ディルドじゃないか!? なんでそんなものがアンナ先輩の胸に挟まってるんだ!?

「ああ、人肌で温めたら、より感覚が近くなりますわね……色も形も大きさも感触も、奥間君がわたくしを愛したいと最大に願っている時のもの、そのものですわ」

 アンナ先輩の瞳が僕の下半身を捕食したいという方の欲望で一気に染まる。愛おしそうにペロペロと舐めている姿は確かにフェラする時そのものだったけど、ってかあれ僕のカタチなの!? 僕に関しては不破さんと同じレベルの観察力を発揮するアンナ先輩が言い切るんだからそれだけ精巧に作られているんだろうけど、なんで!?

「早乙女先輩が、不破さんと一緒に作ってみたと仰っていましたわ」

 あの無駄な方向へ無駄に才能を発揮するバカ二人には男女平等パンチ見舞ってやる!! チョップじゃ済まさねえ!!

「奥間くぅん……ねえ、いかせて下さいまし」

 甘える調子が強くなる。このモードで外に出すと確実に死者が出る。まず真っ先に僕が死ぬ。病院より葬儀屋に直行する。あと『いく』の意味が違って聞こえるのは僕は悪くない。

「あああ、あの、その、えっと」

「それとも、わたくしと愛し合ってくれますの? 初めての夜のように、深く、熱く、激しく愛してくださる?」

 まずい、全然言葉が浮かばない。アンナ先輩、大人のこけしをペロペロしながら自分で胸を揉みしだき始めるほど発情してるし、もはや僕の言葉が聞ける状態じゃない。分かっていたけどこんなに一気にメルトダウン起こされるともうどうしようもない。

 だからといってアンナ先輩が僕の貞操を奪った時ほど愛し合う暇なんてない。っていうか、体力的に持たない。

「疲れたくないのであれば、これを使えばいいと思いますの」

 そういう意図かバカかぁ!

「でも、でも、やっぱりわたくしは悪を殲滅したいんですわ。……《SOX》を逃がしてから、ずっと募ってきた想いがありますの」

 瞳にピンクのハートっぽい何かを宿していたアンナ先輩が、またあの不吉過ぎる気配に戻る。

「奥間君。やっぱり、わたくしは」

91 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:04:35.97 ID:HPBUUiz40

 声には怯えがあった。様子が変わったアンナ先輩を、思わず僕は見つめてしまう。

 一瞬だけ、躊躇ったように見えた。だけどすぐにその熱に浮かされるままに、



「奥間君以外はいらないんですの。わたくし以外に優しさを向けないでほしいですわ。わたくし達の邪魔をする者に愛の罰を与えることを考えると胸がざわついてゾクゾクしますの。《更生プログラム》のことも、世界の悪をわたくし達の愛で塗り替えられたら、どれだけわたくしは満たされるでしょう」



 あの夜、人質交換の時に再会した時の恐怖がそのまま蘇る。

 性衝動と破壊衝動が、愛と憎しみから来る激情が、アンナ先輩の中で『愛とそれを邪魔するものへの罰』となって変換され、矛盾なく両立されていく。

 だけど両立されていくそのさまに、アンナ先輩がそれを自覚していて、そして傷付いていた。その様子に、少なからず僕の方が驚いていた。

「奥間君は言いましたわよね? 『こんなアンナ先輩は嫌です!! 僕が憧れたアンナ先輩は、僕の好きな先輩は、人を傷つけて悦ぶような、そういう人じゃない!!』……一言一句覚えていますわ」

 衝動も激情も先程からそのままに僕に向けられていて、けれど今はアンナ先輩に脆さを感じていた。

「だけど、こうも言ってくれましたわ」



 ――僕はそういう衝動を持つことだけで、アンナ先輩を嫌いになったりしません。絶対に。



「持つことだけでは嫌わないと、そう仰ってくれましたわね」

 衝動も激情も、アンナ先輩自身を傷付けるほどに極度に肥大していたから。

 知識もなく、機会もなく、それらを覚えることすら許されずに育てられたアンナ先輩は、

「では、今、この身を焦がしているこの熱は、どうすればいいんですの?」

 危うい、という言葉が僕の中で浮かんだ。

 命の危機を感じているのはこちらなのに、崩れ落ちそうなのはアンナ先輩の方だった。



   *


 ――少し時間は遡る。



「ペットボトルで済まんの。水じゃ」

「あ、ありがとうございますですの……」

 義母から事件を聞き、PMでニュースが配信され、それが事実だと認識した瞬間、アンナはぐらぐらと頭が揺れる感覚に陥った。

 早乙女先輩が持ってきてくれた水を飲んで熱を冷ます。だけどこの程度の水では熱が冷めない。促されるまま、奥の個室のソファに横にさせてもらう。頭は熱に浮かされたように、ぼうっとして働かない。働かせたくない。

「奥間君は……奥間君は、どこですの?」

 愛しい人といれば、この熱も忘れられるのに。愛しい人の愛があれば、このこみ上げる熱と同じぐらいの熱を放ち、幸せを感じられ、忘れることが出来るのに。

 だけど返ってくるのは、アンナにとっては無慈悲な答えだった。

「奥間は薬を買いに行っている。薬局はちょっと遠いからの、しばらくはかかるじゃろうて」

 優しい声だったが、怒りを感じた。今一番の薬は奥間君からの愛なのに、なぜ奪う?

 熱が強くなり、持ってきてもらった毛布に頭ごとかぶり、外からの音を遮る。息が荒くなっていくのがわかる。「んっ」指を口の中に入れて震えを止めようとするけど、うまくいかない。

92 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:05:57.14 ID:HPBUUiz40

「辛そうじゃの、アンナ」

 トントンと背中に一定のリズムで優しく叩かれる。善意から来るものだとは分かっていたが、今は止めてほしかった。

「奥間には愛してもらってるのかの?」

「ん、ええ……まあ……」

「アンナがいいなら構わんのじゃが、どうもアンナも奥間に遠慮しているように見えての」

「……わかるんですの?」

「そりゃあ、儂はおぬしと奥間が愛し合っている姿が最高のモデルだと確信しておるからの。奥間からも少しは話を聞かせてもらってるのじゃが、とにかくアンナらしくない気がしての」

「…………」

 別に遠慮という訳ではないのだが、愛されていると確信があるし不満というほどではないが、満ち足りているか、と言えば正直嘘になる。

「その、奥間君にはわたくしのお腹に入って愛をもっと激しく掻き乱してほしいのですが、……どうも、そこだけは避けられているようで、正直寂しいですの」

 ただアンナからは直接求めるような真似はしていなかった。その他の愛情表現には応えてくれているし、身体の中から溢れる愛の熱はそれなりに解放できている。だけどやっぱり、あの初めての夜のように、とにかく激しくひたすらに愛しい人の身体を貪りたいという欲求は間違いなくある。

 それでもそれをしないのは、

「その、奥間君の愛の蜜もわたくしと同じように流れ出るのかと思っていたのですが、どうも限界があるみたいで……それに、愛の蜜を出した後、奥間君、すごく体力がなくなっているようで、だから男性にとって愛し合う行為は非常に体力がいるのではないかと、そう思いまして」

 だから自分から求めるようにお誘いをかけているだけに留めているのだ。向こうから求めてきてくれる方が満ち足りるし、“お誘い”する行為も楽しいし、その時の奥間君の顔も可愛くて、だからそれが不満という訳ではない。

 実際あの夜の後の奥間君は2〜3日は足腰が立たなくなっていて、どうもそれが愛し合った為だと薄々は気付いてた。確かに自分も愛し合った後、幸せではあったが確かにどんなスポーツをするよりも体力を消耗した。愛の蜜を放った後の愛しい人の顔を見るとすごく可愛い反面、自分よりも明らかに体力を消耗していて、回数を重ねるごとに味も薄くなって量も減って、だから男性は自分と違って一旦溜めないといけないのではないかと、そう考えたのだ。お誘いをかけて向こうがそれに乗って、向こうのペースでお腹の中に愛の蜜を入れてくれるのが一番いいのではないかと、アンナなりに愛しい人のペースを考えてはいたのだった。

 実際は体力はアンナが異常すぎるのと、愛の蜜どうこうはシタノクチの中で出すわけにはいかない向こう側の理由と、あと実際にはそのお誘いは挑発であり、アンナの捕食者としての本質が獲物を追いつめ甘噛みする快感に変わってしまってその様が恐怖を与えていた為に逃げ回っているという現実があったが、それはアンナにはわからないし知らないことだった。

「あー、アンナの体力に奥間がついていけんのか。おぬしはそう考えているのじゃな」

「ええ、女性に体力が劣るというのは、奥間君を傷付けてしまうのではないのかと思うと、それは言えなくて」

 別のことを考えていたためか、熱でぼうっとしていた頭は少しは回ってきた。ただその代わり、下腹部から愛の蜜が湧き出る感覚が生まれ、愛しい人に傍にいてほしいという気持ちはむしろ強まるばかりだった。

「ふむ、じゃあこれが役に立ちそうじゃの」

「はふぁん!?」

 アンナがお腹の中に入れたいとずっと願っていたものがそこにあった。一瞬で身体が発情し、奪い取ってぺろぺろする。お腹に入れた過ぎて、思わず腰を蠢かしてしまうほど、色も形も愛しい人の完全戦闘態勢時の突起物そのままだった。

「はあはあはあはあ、そ、そっくりですわね、奥間君に……こ、これはいったい?」

「儂もあまり三次元は得意じゃないからの。不破に協力してもらって、一度試しに作ってみたんじゃ。ああ、舐めても色は落ちんぞ、練り込んであるからの。カタチはまあ、頑張って観察させてもらっての。ちなみに感触はどうなのじゃ? そのあたりは不破が材料を決めていたが」

「は、うん、はあ、はあああ!」

「答えなくていいぞ、その反応で十分にわかる」

 うんうんと早乙女先輩は満足げだった。口に含み、ためしに僅かに軽く噛んでみる。さすがに味や匂いや温度はなかったが、触感や固さはそっくりだった。

93 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:06:40.54 ID:HPBUUiz40

「ちょ、彫刻も手掛けていくつもりですの?」

「いや、それは試しに作ってみただけじゃ。儂はあくまで絵描きなのでの。まあそれはデッサン人形のようなものじゃったが、多分アンナは喜ぶじゃろうと思うてな。冷たく感じる時は、人肌で温めると良いと不破は言っておったぞ」

 なるほどと思って、胸に挟んでみる。冷たいけどすぐに慣れて、胸を寄せて感触を楽しんでいると本物を挟んだ時の触感を思い出して「はふぅ」思い出すと更に奥間君が欲しくなった。愛の蜜があふれ出してくる。これなら今日は奥間君を血で汚すこともないし、これで思い切りお腹の中を掻き混ぜてもらおうとおねだりすることを考えてみると幸せな気持ちになれた。

 だけど。

「のう、アンナ。ここには今、儂とおぬししかおらん。奥間はおらん。だからの」

 真剣な声だった。

「無理に隠そうとしなくてもいい。儂は誰にも言わんよ」

 奥間君が欲しいとずっと思い続けていたためだろうか。愛が溢れてきているからだろうか。

「おぬし、奥間に隠してることがあるじゃろ」



「――――っ!!」



 ゾクゾクゾク!と熱が電流に変化した。電流が身を焼いていく感覚に、「あああん……!」身体をもぞもぞと動かす。ギリギリで我慢する。できた。

「な、何をおっしゃっていますの? わたくしは奥間君に何も隠し事など」

「儂はあの夜、おぬしと一緒にいたんじゃぞ? 今更取り繕うことも無かろう」

 あの夜。

 熱が更に電流に変化し、頭にわだかまる霞を飛ばそうとする。興奮のあまり目に涙が溜まってきたが、構っていられない。毛布にしがみつく。だけど込める力が強すぎて、引き千切ってしまう。

「おぬし、本当に《SOX》の殲滅を諦めたのか?」

 無遠慮に考えてこなかったことに入り込んでくる声に、だけどそれでもアンナはギリギリで耐えた。

「あ、諦めたとかではなく、《SOX》は今まで通り、無傷捕縛を目指して」

「それがおぬしの本心なのかの? では愛の罰とやらを与えたいと《雪原の青》を追いかけまわしていたのは何だったのじゃ?」

「そ、それは」

 記憶を刺激されて無意識に口角が上がってくる。にやつく口元を必死で抑えた。

「アンナよ、これを見てくれんかの」

「――――ッ!!」

 見せられたのは、《雪原の青》に馬乗りになって恍惚に酔い切った、自分自身の絵だった。

 圧倒的な描写力で持って、自分が周りにどう見られていたかを思い知らされる。

「アンナよ、今無理矢理に我慢していることが、儂にはわかる。この夜のおぬしの魅力が今のおぬしにはない。何を言われたかは知らんが、特に奥間に見せたくない面かもしれんがの。でも、ここには奥間はおらん」

「――奥間君が、いない?」

94 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:07:54.91 ID:HPBUUiz40

 思い出して、しまった。

 愛しい人がいなくなった時、それを実感した瞬間、憎悪で満たされると同時に感じた、あの頭がクリアになっていく感覚。

 あの時と同じように、頭の中の霞が消えていく。

「あは、ふふ、ふふふふふふひっ!」

 飛び起きる。テーブルを殴りつける。椅子を壁に投げつける。だけど求めているのはこれじゃなかった。

「ひ、ひぃ!」

 怯えて隅で丸くなる早乙女先輩の姿が目に入る。一歩近づいてみた。必死に後ずさる姿がむしろ可愛くすら思える。

「先程までのわたくしには、あの夜の魅力がないと仰いましたね?」

 割れたテーブルに更に踏みつけ、砕いていく。だけど《雪原の青》の肩を外したあの恍惚にはとても敵わない。鳩尾に肘を落とした時に伝わった骨がみしみしと悲鳴を上げる感触とは全然違う。

「今のわたくしでは、どうでしょうか?」

「あああ、ある!! そ、そうじゃ、やっぱりその、偽りのない姿というのじゃろうか!?」

「これが、わたくしの……偽りのない……」

 間違いなかった。

 どう偽っても、あの夜感じた恍惚は忘れられないし、無かったことには出来ない。

 そして知ってしまったからには、誤魔化すのも限界だった。

 悪に罰を与えるのが、自分はやっぱり愉しい。

 そして今、この熱を発散させるに十分すぎるほどの悪が、すぐそばにある。

「でも、奥間君は止めるでしょうね」

 あの夜と同じように。それがわかった。自分の愛しい、大好きな人は、そういう人だった。

 この姿を見せるのは、「嫌です」とまた拒絶されるだろうと思うと、それはあまりにも怖すぎた。

 もし、また拒絶されたら、その時は?

 く、と喉が興奮で引き攣る。それでももう、隠すことは出来ない。

 気配が近づいてくる。すぐに匂いで誰かわかった。更に下腹部に熱が集まってくる。蜜があふれ出してくる。



「――アンナ先輩?」

「――奥間君」



 もし、拒絶されて、離れていこうとするならば。

 それならばもう、この衝動と激情で愛しい人の気持ち全てを塗りつぶして、自分のものにするしか、それしか思いつかなかった。

 それが世界にとって間違いであっても、自分にとって絶対の正しさは、この人への愛だけしか、それしかないのだから。

95 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/09/30(水) 08:18:42.04 ID:HPBUUiz40
アンナ先輩もいろいろ我慢してたんだなあ(遠い目)

ちなみにPMに監視されない方法でどうやって作ったかというと、



1、早乙女先輩が三方向からの狸吉のそれを写実的に描きます。どうやって見たのかはご想像にお任せします

2、不破さんがそれを3Dプリンタに反転させた状態で、型を三分割した形で作ります

3、早乙女先輩が着色を、材料は不破さんが担当して、型を組み合わせ、多分シリコンっぽいものを流し込んで細かなバリを削って完成



本人たちは善意のプレゼントのつもりのようです。バカ二人の組み合わせはいいですね。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/30(水) 09:31:48.42 ID:WuKtltnTo
わあい
タヌキ○ンポ(戦闘状態)だあ

10巻では狸吉の愚息(戦闘状態)のサイズがついに明らかになったしな
ゆとりにも作ってあげればいいんじゃないかな
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sag]:2015/09/30(水) 10:50:28.34 ID:db4l2psoO
アンナ先輩がたぬきちの身体を気遣っていた事実に衝撃
思ってた以上に早乙女先輩が仕事してた、谷間からの玩具出現には笑った

ここのアンナ先輩は、原作とは違った危うさがあるよね。でもアンナ先輩の価値観でも醜いと思う部分をさらけ出すのは勇気いるだろうな
身体能力からキワモノ扱いされがちだけど、アンナ先輩は本当は精神や価値観はすごい純粋で不安定だから、壊れて欲しくないなと思う
98 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/02(金) 08:39:01.36 ID:MDIMzKS90

 アンナ先輩の言葉に、やはり僕と二人きりの世界を望んでいたことに、ショックがなかったと言えば嘘になる。

「それが、アンナ先輩の本心ですか?」

「ええ。間違いなく」

 でもよく考えると、いやよく考えなくても、

「今更、ですよね」

 恐怖で僕もおかしくなっていたのかもしれない。僕は思わず笑ってしまっていた。

「……?」

「知ってましたよ、そんなこと」

 アンナ先輩の嫉妬の炎でどれだけ色んな人間が犠牲になりかけたと思っているのか、親友の華城先輩ですら刃物で刻み殺そうとしていたような人が望む世界なんて、そんなものだろう。あの夜以前から、獲物を、敵を追い詰めることがある種の快感を生む人なんだというのは、ハエの交尾実況の時に屋上で追い詰められたの恍惚の微笑から気付いていた。

 うん、知ってた。

「アンナ先輩、ずっと我慢してたんですね。……すみません。どうすればいいか一緒に覚えていこうと言っておきながら、僕は何も考えず、一人で全部抱え込ませてしまって。気付きもしなくて」

 アンナ先輩の気配は変わらない。隠そうとしない。

 本心を包み隠さず、全てをさらけ出している。

 本人が傷付くほどに、怯えるほどに深い部分までを、アンナ先輩にとって最も大事であろう僕に対して。

 剥き出しの心は酷く傷つきやすくて、やっぱり純粋だった。

「アンナ先輩が、あの病院に悪がいると、そう断言するのは、ただ社会的な判断だからとかそういうことじゃなくて」

 僕自身、ニュースを聞いた時の怒りを思い出す。

「華城先輩が、親友が人質に囚われて、それに怒らない方がおかしいですよ。正義とか、悪とか、そういうことじゃなくて、アンナ先輩はただ、助けに行きたいんですよね」

「…………」

 だけど僕の言葉を、アンナ先輩は否定する。

「わかっているのでしょう? 目的と手段が入れ替わっていることに。あの夜、わたくしを止めた奥間君なら、気付いておられるはずですわ」

 どうしてこういう時まで観察力を発揮するのかな。やっぱりアンナ先輩相手に誤魔化しは利かない。

「月見草のプレゼントを買いに行った時も、似たようなことを言ってませんでしたっけ。プレゼントを買いたいというのは口実で、僕とデートしたいだけだって」

 月見草の誕生日プレゼントを買いに行きたいと一緒にデートした時、アンナ先輩はそんなことを言っていた。

「だけど、月見草を思ってプレゼントを選んでいた時のアンナ先輩の優しさは、本物だったと思ってます」

 僕は続ける。

「あの夜、僕を助けたいと思っていた気持ちも、嘘じゃないですよね」


99 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/02(金) 08:42:27.36 ID:MDIMzKS90

 暴走してしまって、終わってしまいそうになったけど、心が壊れそうになるほどに僕を助けようとしていたあのアンナ先輩を、嘘だとは思いたくはなかった。

「アンナ先輩。今、アンナ先輩の心の中は、華城先輩のことが心配で、華城先輩に危害を加えるかもしれない犯人たちが憎くて、だから助けに行きたくて、きっとそれだけなんです」

「奥間君」

 気配は変わらないけど、どこか自嘲的な昏さが加わった気がする。

「わたくしはただ、綾女さんのことを口実に、悪を殲滅する気持ち良さを味わいたいだけですの」

「人質が華城先輩じゃなかったら、悪を殲滅したいという気持ちは、ここまで強く起こらなかったはずです」

 強く言い切る。アンナ先輩はやっぱり、潔癖過ぎるのかもしれない。変わってから、心の負の部分を覚えてから清濁を併せ持ちつつあっても、本質はやっぱり、醜さを徹底的に排除する、その清廉さにあるんだろう。

「悪を殲滅したいという気持ちが華城先輩たちを助けることに繋がるなら、僕はその気持ちを間違ってるなんて言いません」

 衝動の解放の仕方は、とりあえず今の事態が解決してから改めて考えよう。

 やっぱりどうしても、アンナ先輩の能力は、この事態を解決するのに最も強力な戦力なんだ。

「その、本当なら、危ない場所にアンナ先輩を行かせたくはないとは思ってます」

 それも本音だ。アンナ先輩が危ういのは事実だ。だから。

「僕達がサポートします。この事件は早期に解決しないといけないんです。だから、お願いします。

 ――華城先輩たちを、助けてください」

 ぴく、とアンナ先輩が震えた。

「人質の安全を最優先に考えるなら、相手が無抵抗でないなら、犯人に対してちょっとぐらいは罰を愉しんだって……親友を傷付けようとした人間に怒りを露わにしたって、誰も間違ってるなんて言いません。言うやつがいたら僕がそいつをぶん殴ってやります。だから」

「奥間君」

 それ以上の言葉は、言葉では意味がなかった。

「それでも、今のわたくしでは、悪に罰を与える愉しみに溺れるでしょう。この熱を、どこかに逃がさない限りは」

 切実な期待で満ちた声。う、やっぱりそうなるか。このままだとヤバいのは僕から見てもそうだ。

 一発やらかしてストレス解消させないといけないんだろうなあ。あのバカ二人の作ったモノが大丈夫かわからないけど、使わせてもらわないとダメなんだろうな。

「奥間君。わたくしを愛してくださいまし。奥間君の愛で、わたくしを満たして……!」

 もうこの熱に耐え切れないとばかりに服を脱いでいく。あっという間に下着姿だけになる。PMを使って何やらメールを送った後、そこだけ無事なソファに仰向けになる。

「奥間君、来てくださいまし」

 ああ、断る権利はなさそうですね。ってか断ったらむしろ僕を捕食して僕の愛の蜜全てがカラッカラになるだろうから、とにかく僕からアンナ先輩の身体にご奉仕することに決めた。

 なんかアンナ先輩が従順で働き者の奴隷を見て満足するような女王様のように見えたけど、それは気のせいということにする。気のせいったら気のせいだ。

100 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/02(金) 08:48:02.61 ID:MDIMzKS90
なぜだろう、アンナ先輩がどんどん女王様みたいになってってるのは?
このSSでのアンナ先輩の扱いがそういう扱いだからですかそうですか。
狸吉がどうじゃなく、アンナ先輩が性に対して余裕を持ったら自分の中ではこうなってしまいました。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 12:28:19.39 ID:yt8MUXydO
いいと思います!
乙です
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 13:00:24.50 ID:alr4DbZDO
アンナ先輩から覇王色の覇気を感じる……
103 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:05:04.49 ID:ItUzk+zo0

 薄い水色の上下お揃いの下着に黒のニーハイソックスのみとなったアンナ先輩が、僕を貪るのではなく僕に愛してもらおうと、僕のアクションを待っていた。

 ブラジャーのホックを外す。ぼろん、と本当に零れるように豊かなおっぱいが飛び出てきた。「んっ」先端はビンビンに尖っていて、空気に触れるだけで感じたのが身体の跳ね方から分かった。アンナ先輩は完全に僕に身を任せることに決めたようで、僕に強制したりはせず、されるがままに腕を上げて、ブラジャーを剥いでいく僕の様子をうっとりと眺めていた。

 問題は下の方なんだけど……アンナ先輩、生理だって言ってたけど、その状態で異物を挿入れて大丈夫かな。といっても、もうアンナ先輩は準備万端で待ち構えているし。あと個人的な趣味から靴下はそのままにしておく。これぐらいはいいと思うんだ。

「アンナ先輩、痛かったり、気持ち悪かったら、すぐ言ってくださいね」

 こくん、と頷くだけだった。興奮のあまり目には涙が溜まっていて、早く早く!と無垢な子犬のように光っている。

 かなり勇気が必要だったけど、もうこの状態に来てしまった以上は避けられない。パンツをゆっくりと脱がしていく。

「???」

 あれ、アンナ先輩生理だって言ってたよね? ナプキンしてるし本当にそうなんだろうけど、アンナ先輩は量が少ない体質なのか、それとも愛の蜜の分泌量が凄まじすぎて血を薄めてしまっているのか、思っていたほど血で真っ赤ということはなかった。

「奥間君、は、早く」

 じれったそうに腰を蠢かす。でも僕の懸念としては、バカ二人の作ったこのこけしが大丈夫なのかという問題がある。

「――挿入ますね」

 とりあえず、カリ首の部分だけ入れてみることにした。


 ぬるっ


「はうぁああん!!」

 ビクンビクンと腰回りが痙攣した。けど思い出せるだけでも、あの夜ほど深く激しい痙攣ではないから、アンナ先輩はこれでは満足しないだろう。

 アンナ先輩の中の浅めの部分を、カリで引っ掻くように混ぜていく。「ふわ、は、あああ……!」押し返してくる力が思ったより強い。お、おま○こってこんなに圧力強かったのか。アンナ先輩が特別なだけかもしれないけど。

「お、奥間君……焦らさないでくださいまし」

「…………」

 や、やばい。いつも喰われる側だから、こうやって懇願してくるアンナ先輩って実は新鮮だ。乞う暇があったら喰ってるからね。その、主導権がこちら側にあるってパターンがあまりないから、ちょっとこの表情を見ていたいとか思ってしまう。別に焦らすつもりとかではなくこけしを入れて大丈夫かどうかの確認のつもりだったのだけど、もう少しだけ切なそうにこちらを見るアンナ先輩を見てみたいとか思ってしまう。

「気持ちよくは、無いんですか?」

 浅い部分をもう少しだけゆるゆると混ぜてると、表情に切なさがより強くなっていく。か、かわいい。

「き、気持ちいいですけど、このままじゃ満たされませんの……もっと深く、激しいのが欲しいんですの」

 正直もう少し見ていたかったけど、時間もないしアンナ先輩が襲って来たら元も子もないので、アンナ先輩の望みどおりにすることにした。

 一気に力を入れ、奥まで突き入れ、こけし全部を呑みこませるっ!

「はうっ……!」


104 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:06:15.79 ID:ItUzk+zo0

 またびくんびくんと痙攣した。さっきよりも激しい痙攣。でもアンナ先輩がこの程度で満足するわけがない。

 だから僕は手を休めることなく、こけしのピストンを強く開始していく。アンナ先輩の唇から涎が大量に零れ、眼は焦点を合わせず、

「これ、これ! これが欲しかったんですの!! あ、あ、あ、ああああ!!」

 悲鳴に近い嬌声を上げてまた腰が跳ねる。多分今、アンナ先輩はイキっぱなしの状態になってる。もうこのまま押し通そう。刺激に慣れないようにピストンの動きから変えて奥をこじ開けるように掻き混ぜるように動かしていく。

 ぶるんぶるんと震えるおっぱいが目に入る。僕も理性が飛んでたんだと思う。きっと中出しさえしなければいいなんて最低の発想があった。でもこんな極上の女性が僕をこんなにも求めていて、それに抗う方が無理だった。

 こけしの動きを止めないままに、空いた手の方でおっぱいを掴む。

「そ、、そんなつ、強く、また、愛が、あああ、あ!」

 またびくんと跳ねた。下を掻き混ぜ、空いた手で片方のおっぱいを揉みながら、僕の口はもう一つの山頂に吸い付いていた。

「そ、それも、それも欲しかったんですの! 奥間君、もっと、もっと! はあああ!!」

 掻き混ぜる音、掌に吸い付く感触、啜るときの甘い汗の味、熱すぎる体温、感じきった声、全部が僕を刺激する。

 いったん胸から唇を離し、完全に別の世界に飛んでるアンナ先輩の唇に舌を挿入てこじ開け、唾液を啜っていく。

「ふ、んんんん!! んぁ、うぅぅぅんんんあ!!」

 こんな状態でもアンナ先輩のキステクは的確に僕の口腔内全てを挑発する。息継ぎすら惜しく、アンナ先輩の唾液をひたすらに貪っていく。おっぱいを揉む手にもこけしに込める力も勝手に強くなり、乱暴に突き上げる。

「ん―――――ふぁあああん!!」

 ひときわ大きく痙攣した後、一瞬ぐた、と力が抜けた。

「――あ、アンナ先輩!?」

 ヤバい、やりすぎた!? 我に返っておっぱいからもこけしからも手を離し、アンナ先輩の肩を軽く叩く。

「……あ、う、ああ、お、おくま、くん?」

 陶酔しきったとろんとした声で、辛うじて僕の呼びかけには答えた。反応の鈍さが僕のやらかしたことの大きさを物語っていた。

「す、すみません、大丈夫ですか!?」

「う、あ、え、ええ……あは。うぇふふふふひっ……!!」

 ちょ、完全に別世界にイッてる! どうしようコレ!

「おくまくん、いぢわるしましたわ……わたくしに」

 え? 何言ってるの?

105 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:07:16.01 ID:ItUzk+zo0

「おくまくん、じらしましたの……わたくしはもっとはやくほしいと、いったのに」

 上の口が締まりがなくなってにへらにへらと笑ってる。まるで子供返りしたみたいに。

 あ、あばばばばばばばば、これマジでヤバい!! 直感する、今この人には最低限の理性もない!!

「えへ、えへへへへ、おくまくん、いぢわるしたから、おしおき……!」

「へ? あえええええ!?」

 体勢があっという間に上下逆に変わる。とろんとした余韻の恍惚に酔いしれているのに、素早さと手際と怪力だけは変わってない。

「えへへへへへへ、おくまくんの、あいのみつ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶのみますの」

 抵抗する間もなくベルトは外されズボンごと下着も下ろされる。僕の愚息は一連のアンナ先輩の反応で100%まで大きく育っていた。

 じゅぶっ

「あ、あアンナ先輩!? あの、お願いです今オシオキだけは――あqswでrftgひゅじk!!」

 極上のフェラテクを惜しげもなく披露してあっという間に発射しそうになるけど、竿の中ほどでアンナ先輩がぎゅっと絞めて出させないようにしていた。

「ああああああそれ駄目、駄目な奴です先輩お願いですそれだけは!!」

 強制的な寸止めに勝手に腰がビクビクと跳ねる。さっきと全く逆の立場に、だけどアンナ先輩はとろんと幸せそうに笑うだけ。

「うふふふふふ、おくまくんのあいのみつは、ためるとおいしくなりますの。おくまくんのあいのみつ、ぜんぶおいしくのむんですのっ」

 いったん僕のビクンビクンが収まったのを見て手を離し、またじゅぶじゅぶと飲み込んでいく。ま、まさかこれを繰り返す気か!? 寸止めって炎症起こしたりしてヤバいってあの父さんでも言ってたのに! 強制寸止めのせいでタマタマが痛くてこれ絶対ヤバい!

「あはあ、おくまくんの、こくておいしいの、のみたいですの」

「あああああの、こ、これだけは、許してください、あの、本当に、これは、その!!」

 僕の悲鳴じみた懇願にも幸せそうに笑うアンナ先輩の顔に、僕はもうカマキリの雄のように喰われることを覚悟した。その時だった。



 きゅいーんきゅいーんきゅいーんきゅいーん



 PMに内蔵されているアラーム音の一つが、アンナ先輩のPMから大音量で鳴り響いた。

「…………」

 幸せに蕩けきった顔から、何とか現実に戻ってきた。気怠そうにPMを操作し、アラームを解除する。

「……時間切れ、みたいですわね」

 心底残念そうだったけど、助かった。多分さっき、PMでメールを送るついでにアラームもセットしたんだろう。多分自分でも僕にも止められなくなることをアンナ先輩なりに危惧して予め時間を決めておいたのだろう。その思考が働く理性があって本当に助かった。
106 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:07:44.83 ID:ItUzk+zo0

「ね、奥間君……一回だけ、愛の蜜、飲ませていただけませんか?」

「い、一回だけですよね? その、はい」

 アンナ先輩がいなくなったらこっそり抜いておこうと思っていたけど、一回だけなら上のオクチに出しても大丈夫だろう。僕の体力的には。

「んっ」

 またじゅぶじゅぶとウエノクチに僕の竿が呑み込まれていく。いつの間にか僕はこけしを手放していたんだけど、今見たら辛うじてカリ首のとこで引っかかっていた。アンナ先輩はウエノクチで僕の愚息を呑みこみながら、シタノクチでもこけしを自分で押し込んで呑みこんでいく。

「は、あ、で、出ます!」

 一回強制寸止めさせられて、出したくて仕方なかったらしい愚息は自分でもわかるほど普段より強い勢いで、どぴゅどぴゅと愛の蜜を放出していく。

 それを満足そうに、管に残った分まで啜りきって呑みこむと、ようやくアンナ先輩は顔を上げた。まだこけしをお腹の中に入れたままだけど、理性の光はまた少し戻っていた。

「幸せ」

 アンナ先輩は本当に幸せそうに呟く。

「わたくし、本当に幸せですわ」

 その幸せそうな瞳に、決意の炎がみなぎってくる。

 華城先輩と僕の前で《SOX》を捕縛し善導課に引き渡すと宣言した、あの決意の炎と同じもの。

「この幸せを、壊そうとする不届き者がいるみたいですわね」

 アンナ先輩の手が、先ほど作ったおそろいのペンダントを握りしめる。

 獰猛な肉食獣の恐ろしい笑みを浮かべ、あの夜見せた絶対的なオーラを放ちながら。

「ふふっ、あの夜のように、霞が晴れる感覚がありますわ。力も思考も湯水のように湧き出て、今のわたくしなら何でもできる気がしますの」

 本当に、何でもできるだろうと思う。だからこそ。

「少しオシオキに行きますわね。奥間君、手伝ってくださる?」

「――はい」

 あの夜、性を解放したことで起きた変化が、憎しみを覚えたことで知ってしまった破壊衝動による変化が、それがいいものかどうかはやっぱり僕にはわからない。

 だけど今はその変化が凄まじく頼もしかった。今のアンナ先輩なら、何でも任せられると思えた。

「お願いします。助けてください」

 駆け引きや収めるための言葉じゃなく、心から素直にそう言えた。

 アンナ先輩がその言葉を聞いて嬉しそうに笑ってて、だからなおさら大丈夫だと、そう思えた。

107 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:15:51.64 ID:ItUzk+zo0
今のアンナ先輩の装備ってこけしと黒ニーハイだけなんですよね。いいですよね、黒ニーソって。

やっぱりアンナ先輩のエロシーン書くの楽しいなあ、でも焦らしたらアウトだってはっきりわかったね、これ
受けに回っても一切油断できないのがアンナ先輩の素敵なところだと思います。
108 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/03(土) 09:33:29.14 ID:ItUzk+zo0
あと、基本生理の日は止めておきましょうね
女性の身体はデリケートなのです
これあくまでフィクション、ファンタジーだからねっ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/03(土) 12:41:23.49 ID:fPtlWR+go
おつ
フィクションなのもそうだし、アンナ先輩自身が規格外だから
このSS内では全く問題ないね
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/10/03(土) 13:57:42.58 ID:llJi0ikEO
幼児返りしたアンナ先輩かわいい(錯乱
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/04(日) 19:57:28.63 ID:N6zGV19TO
続きまだですか?
112 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/05(月) 03:42:12.66 ID:MXwmeyu90
すみません、更新遅くなってしまって。
だらだらと書いている感が出ているかと思いますが、プロット立ててから書くんじゃなく、考えながら書いているので、
ラグは出てくると思います。もう少しお待ちいただけたらありがたいです
113 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/08(木) 17:39:41.45 ID:MRMo9FIB0

 ぐちょぐちょになったアンナ先輩にはシャワーを浴びてもらって、僕はトイレのウォシュレットで後始末をして、マスターに器物損壊や勝手にシャワーを借りたことを詫びて、そしてバカ二人に拳骨を喰らわせた。

「なんてものを作ったんだよお前ら!」

「お、おぬしはそれで助かったんじゃろうが!」

「別にわたしは実験的に作っただけで実用するつもりはありませんでしたし」

「するなよ? ゼッタイするなよ!? っつかなんで僕のカタチ知ってるんだよ!? ……いやいい、どうせ早乙女先輩が覗いたんだろうってことはわかる」

 はあ、と諦めて溜息を吐く。今はそれどころじゃ無いし。

「……また派手に……」

 マスターが惨状に嘆いていた。アンナ先輩から修理費とかは出してもらえるだろうけど、本当に申し訳ない。といっても、アンナ先輩のことは《SOX》メンバーからよく聞いているので、それ以上は何も言わなかった。というか、あの母娘にはもう関わりたくないオーラが出てた。仕方ないね。

 テレビをつけ、報道番組を垂れ流す。情報は何も変わらない。

「ちなみに、覗いてないよね?」

「あの瘴気に勝る防護服は用意していませんでした」

 アンナ先輩を放射性物質扱いするなよ。まあ確かにあのオーラはそう呼びたくなるかもしれないけど。早乙女先輩は「またアンナの合体を見逃した!」とか嘆いているし。合体自体はしてないからね?

「そういえば、月見草は?」

「メールを受け取った後、どこかに行きましたよ」

 アンナ先輩の指示かな。メール送ってたし。

「あー、その、不破さんはまだ僕達に協力してくれるの? アンナ先輩も動くことになったけど」

「ま、そうなるだろうとは思っていました」

 不破さんは冷静な無表情を崩さずにマスターの出した珈琲を啜る。

「わたしとしては現在のアンナ会長の状態次第、でしょうか」

 理論派だがアグレッシブで行動力の高い不破さんにしては、慎重な意見だった。まあ前に巻き込んだこともあるし、保留にしてくれているだけでもありがたい。今の僕らには圧倒的に足りないものがある。

「不破さんのネットワークに引っかかったものはある?」

「あると言えばありますが、まだ協力すると決めたわけではありません」

 そう、情報が足りない。情報を集めるという点では僕は《SOX》の中で一番弱い。早乙女先輩はまあ、そういう面は期待してないし他に役割のある人だから仕方ない。

 だから不破さんのネットワークだったり分析力は今一番欲しいんだけど、アンナ先輩が参戦するとなると不破さんは慎重になってしまった。僕相手ならまだ、協力すれば生徒会として見逃したり卑猥の知識を得られるかもしれないというリターンを意識出来るんだろうけど、アンナ先輩相手にそれは効かないどころか不破さんは《SOX》の協力者という認識をアンナ先輩は持っているから、むしろ僕だったら即逃げる案件だ。

 からんからんからん

「月見草か」

 『Cloosd』の看板が掛けられているのに入ってきた人物は、月見草だった。何やら鞄を手に持っている。

「アンナ様の着替えをお持ちしました。アンナ様は今どちらに?」

「あー、早乙女先輩、持ってってくれませんか?」

 場所を説明するのが面倒だったので早乙女先輩に任せた。月見草に聞きたいこともあったし。

「アンナ先輩から何か指示を聞いてるの?」

「善導課を通じてこの件の情報を得られるだけ得てくるようにと言われました」

「で、結果は!?」

114 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/08(木) 17:40:23.73 ID:MRMo9FIB0

 身を乗り出す。けど月見草の返答は芳しくなく、

「最上階の見取り図は手に入ったのですが、私は所属する部署が違うので」

「うーん。それは……そうだね」

 善導課だけではなく人質籠城事件に特化した警察の部隊も出ているんだろう。

 でも見取り図だけでもありがたい。月見草がPMの投影機能を使って画面を虚空に表示する。

「やっぱりセキュリティが厳しい分、忍び込んで不意打ちは無理か」

 《群れた布地》の時は占領した範囲が総司ヶ岡学園と広く、鼓修理が見つけていた抜け道も存在していたため、そこから善導課の目を盗んで《SOX》や時岡学園の生徒会や風紀委員たちも入ってこられた。だけど今は、あの病院の特殊なセキュリティによって、特別階に行く道は直通のエレベーターと非常階段二つの三か所しかない。人質の場所も犯人たちがどのような配置についているのかもわからないのであれば手の出しようがない。

「不破さん、双眼鏡で確認って」

「出来るわけがないでしょう、常識的に考えて」

 くっそ不破さんに常識を説かれると腹立つ! だけど正論だ。そもそも入院患者のプライバシーを守るためにあんな厳重なセキュリティが施されているのだ。報道を見る限りでも窓にはカーテンが引かれていたし、所詮学生である僕達に手に入る情報なんて限られている。

「お待たせしましたわ」

 ふわっと、一気に室内が華やいだ。あくまでも落ち着いた穏やかな生徒会モードのアンナ先輩だった……あれ?

「アンナ先輩、制服なんですか?」

 アンナ先輩は時岡学園の制服を着ていた。さっきまで着ていたお出かけ用の服じゃない。まだ髪は濡れているけど、一番見慣れたアンナ先輩の姿だ。

「この制服が一番身も心も引き締まりますので。今の局面には一番ふさわしいかと」

 月見草に取りに行かせたのは制服だったのか。勝負服ということなのだろうか。ところで勝負下着って女性はどういう基準で選んでるんだろうね。黒とか赤とか紫より白とかパステルカラーの方が清純さを醸し出すから好きなんだけど、時岡学園の女生徒を思い出すとそうでもねえなって思えてきた。華城先輩に始まり、アンナ先輩も早乙女先輩も不破さんもその他もろもろ。

「さて、では作戦会議を始めたいのですが」

 いつもの喫茶店が、真面目な話をするときの生徒会の雰囲気に染まる。アンナ先輩が不破さんの方を見る。

「その前に、改めて皆様の意思確認をさせてください。わたくしどもに、ご協力をお願いします」

 早乙女先輩は無条件にこちら側に来て、月見草も当然アンナ先輩の傍に立つ。僕もアンナ先輩の隣に座る。

 動かなかったのは、不破さんだけだった。

「不破さんは、ご協力頂けないと?」

「何故協力してもらえると思うのですか?」

 なんでいきなり胃がキリキリするようなやり取りになるんだ。アンナ先輩の気配を不穏にするのは止めてくれ本当に。

「アンナ会長たちが助けに行きたいという想いはわかります。副会長が人質になっているのですから。ですがそれはわたしには関係ない話です。わたしと副会長には個人的なやり取りはありません」

 不破さんの考えをそのマグロのごとき無表情から読むことは難しい。多分アンナ先輩も同じだろう。

「先日の件で恨んでいる、と?」

「そういうわけではありません。まあいい迷惑でしたが、貴重な話も聞けましたし体験しましたし」

 あの愛の再現実験については僕許してないからね?

「素人のわたし達が現場を引っ掻き回してプロの警察たちを混乱させる方が問題でしょう」

「不破さん、それは」

「奥間君、大丈夫です」

 アンナ先輩が遮った。目は真っ直ぐに不破さんを見つめている。

115 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/08(木) 17:43:14.90 ID:MRMo9FIB0

「不破さん、わたくしどもに、あなたのアナリストとしての能力をお借りしたいのです」

 アナ、リスト!? そ、そんな言葉がアンナ先輩から!? 早乙女先輩もビックリしてるし

「……分析官、ということですね」

 おい今一瞬不破さんの目も泳いだぞ。発想は同じか。

「人質籠城事件の基本は早期に鎮圧すること。ですが警察では難しいでしょう。人質の中には政財界で貴重な人材もいますから」

 むしろ上の、国からの指示と現場との指揮系統が混乱しているだろうとアンナ先輩は言った。報道を視線を移したので釣られて僕も見ると、《育成法》について色々といい部分だけをコメンテーターがそれらしく言っている。

「こういった思想犯に対しては国は引けませんわ。人質を無傷で救出するより、思想犯の要求を突っぱねたという姿勢の方がしばしば重視されます」

 実際、国は『卑劣なテロリストには屈しない』とはっきり明言している。水面下でどのような交渉が行われているにせよ。そしてこの事件は解決後も国によってうまく使われていくんだろう。

 《SOX》としての僕はそれも阻止していきたいのだけど、いい案が思い浮かばない。

「それも国にとっての正義ならば仕方ない事なのでは?」

 冷たい言葉だった。だけど僕はもう言葉を挟まなかった。

「綾女さんを犠牲にしなければ為せない正義ならば、わたくしはそれを否定します」

「アンナ先輩……」

 政府と対立した母親に対してすら、あれほど思い悩んでいたアンナ先輩が、親友のためとはいえこれほどキッパリと正義を否定するとは、正直僕は意外だった。

 アンナ先輩の根幹の正義は、国が押し込んだ理想そのままの筈なのに。

「協力出来ないならば仕方ありません。無理強いは出来ませんから。ただ手伝っていただけるのであれば、それ相応の報酬は支払うことを約束しましょう。金銭的な面でも、その他の部分でわたくしに出来ることでも」

「もし、わたしに対して卑猥の取り締まりを無くせ、というのが要求だったらどうするんですか?」

「……わたくしや奥間君は見て見ぬふり、ということになりますわね。風紀委員の方にも不破さんをブラックリストから外すよう通達しましょう。先生方や綾女さんに関しては、わたくしからは何も言えません。それが限界ですわね」

「…………、本気、なんですね」

 不破さんが驚いた、と思う。やっぱり無表情で分かりにくいけど、言葉の間が長かった。

 僕にしたって意外過ぎる言葉だ。アンナ先輩にとって卑猥は絶対悪で、それを見逃すような発言をするなんて、絶対にあり得なかった。以前なら。

 アンナ先輩の表情は変わらない。平然としているように見える。だけど僕が見てもアンナ先輩の考えていることがわからないのは、本来嘘を吐くのが苦手なアンナ先輩が、一見して何を考えているのかわからないのは、つまり本心を隠しているからだ。

 アンナ先輩にとっても、この持ちかけは苦渋の決断なんだ。それだけの覚悟を持って、アンナ先輩はこの事件と向き合おうとしている。

 単に本能のままに暴れるためじゃなく、華城先輩を助けるために。

「折角ですが、自分で言っておいてなんですが、その申し出はお断りします。ですが、別のことを提案させていただきます」

「何でしょうか」

「……心配なさらずとも、その提案が実行不可能であっても、わたしに出来ることなら協力します。いくつか条件が重ならないと実現出来ない話ですので。その条件がクリア出来たら、改めて提案させていただきます」

「回りくどかったが、つまりここにいる全員が綾女たちを助けに行くということでいいのかの?」

 早乙女先輩がまとめると、不破さんがこくんと頷いた。ただ、不破さんの提案ってなんだろう? 恥的好奇心ぐらいしか不破さんが動くことって無いと思うんだけど、不破さんはやたら真剣な顔に見えて、その真剣さがペスが奪われた時の不穏な空気とすごく似ていて、何も聞かなくていいのか迷った。

「しかし、ずいぶん買ってくれているようですが、現在の情報量ではわたしにもわかりかねますね」

「そうですわね。とにかく情報が足りませんわ」

 不破さんとアンナ先輩、この場にいる知能派二人揃っての言葉に全員が悩んでしまう。

 どう動くにしても、とにかく情報が欲しい。発情しきった状態のアンナ先輩が僕の愛の蜜を求めるレベルで情報が欲しい。もうそれぐらいなりふり構わず情報が欲しい。


116 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/08(木) 17:48:22.49 ID:MRMo9FIB0
アナリストってエロい言葉に聞こえるのは自分だけですかね
更新遅くて済みません。乗り込むまでが長いし華城先輩たちの活躍が少ないのはもうしばらく許してほしいです
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 21:48:54.53 ID:Cd+vKduGo
アナリストがゲシュタルトした
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 23:56:32.89 ID:L47MGmxmo
おつです
勝負下着云々のところで「狸吉が女性陣の下着の色を知っている・・・だと!?」と一瞬思ってしまった
清純なのが合わないってことか
ちなみにアニメで確認取れる範囲だと綾女とアンナは白下着
あとは不明(最終話で無理やり黒下着履かされたのは除く)
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 03:10:36.86 ID:f2htfQpxo
よくよくアニメを見返すと早乙女先輩はくまさん付きの白パンツ
不破さんは6話でずぶ濡れで服を乾かしているシーンで白(若干水色?)であることが確認できるな
え?私は変態じゃないですよただの下セカファンですよ?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 03:48:30.16 ID:rRCELLIDO
>>118
いや、狸吉は下着の色知ってるだろ
アンナ先輩はアパートでの襲来時
華城先輩は雪原の青状態のときに被っているから
早乙女先輩と不破さんは>>119の通り
つまり狸吉は「身近なやつら皆白下着だけど清純じゃねえ!」ということのはず

女性たちの下着の色を把握している狸吉は立派な下ネタテロリストだね!!
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 08:07:49.32 ID:l6sA8VvjO
不破さん、アナリストか……
真面目な言葉なのに下セカの世界だとエロい言葉に聞こえる不思議
アンナ先輩は精神は清純だろいい加減にしろ!!
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 12:30:43.39 ID:i1p3tE4J0
123 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/09(金) 15:42:33.00 ID:VBhKlDi30

「《SOX》出てこねえな」

「なんか一言欲しかったけどね」

 犯人たちの会話から漏れ聞こえる《SOX》への期待感に、綾女は苛まれていた。

(自分でぶち壊しにするような真似しといてよく言うッス!)

 鼓修理はキレていたが、ゆとりは自分と似たような絶望が伝わっているのか、黙っていた。

 人質の中で綾女だけが拘束されていない。単純に怪我の重さから、拘束する必要がないと判断されているだけだ。実際左の肩は固定してあるし、肋骨のヒビも箇所が多くこの特別階において、綾女は最も重傷人だった。だけどそんなことは正直どうでもよかった。

(下ネタ言いたい)

 犯人たちが期待する、政府への叛逆とかそんなのは、全て後付けの理由だ。

 綾女はあくまで下ネタを言いたいだけで、下ネタが好きな自分を否定するこの世界が嫌いで、だから反抗しただけだ。

 最初は助けてくれる大人がいても、あくまで一人だけの戦いだった。

 いつから若い世代の期待は、《雪原の青》から《SOX》になったのだろう。

 答えはわかりきっていた。

(狸吉……)

 狸吉とともに《SOX》を立ち上げてからだ。

(下ネタ言いたい)

 そして聞いてほしい。ツッコんでほしい。律儀に全部返してくれる狸吉に安らぎを覚え始めたのはいつからだったろう。

 でも今の自分にそんな資格はないと思った。

(私は、見捨てた)

 あの夜、自分は親友であるアンナの心を切り捨てた。

 狸吉は見捨てず、自分とアンナ両方を生かす道を探して、そして今、自分もアンナも終わらずに今ここにいる。

 自分だったら無理だ。自分が正しいと思わないと生きていけない。世界が間違っているとしか、そんな子供じみた事しか言えないような自分では。

 ソフィアの件でも、その他の事でも、狸吉は《SOX》以外のことも考えていて、《雪原の青》が見捨てようとした第一清麗指定都市も救おうとして、実際に繋げてみせた。

 なのに自分は、切り捨てた。自分も切り捨てられる側だったはずなのに、どうして、いつの間にこうなったんだろう。

124 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/09(金) 15:44:18.92 ID:VBhKlDi30

(嫌われたくない)

 もうアンナはあの夜ですべて終わるものだと思ってた。だから《SOX》の延命を図った。それ自体は間違っていたとは思っていない。

 だけどアンナは自分の涙のない泣き顔を見逃さなかった。

 そして踏みとどまらせたのは、狸吉の涙と、泣いている人を見逃さないアンナの本来の優しさだった。

 誰よりも知っているはずの親友の優しさを信じられなかった自分がどうしようもなく醜い人間に思えて仕方なかった。それに、

(羨ましいなあ)

 アンナのことが、羨ましくて仕方なかった。

 愛する人に愛しているとてらいなく言えるその堂々とした姿に。愛する人が自分の変化に悲しむ姿を見て、だけど変化そのものを否定せず、あくまでもその変化を良きものとしていこうとするその姿勢に。

 アンナはいい子だ。能力もその性格も。極端から極端に行ってしまうけど、それは狸吉がカバーできる。あの夜のアンナですら止めてみせた狸吉なら、きっと出来る。

 親友や《SOX》の支持者がたくさんいるこの第一清麗指定都市の人間を切り捨てた自分なんかより、よっぽど相応しい。

 だけどどうして、自分はそこまで切り捨てるようになったのか。《SOX》を優先したのか。

(狸吉と一緒に下ネタ言いたい)

 そうか。

 狸吉との居場所を、自分は優先しただけ。

 組織の長としての判断ではなく、自分の欲望を優先した結果だ。

(嫌われたくない)

 このまま自分を変えることも出来ないまま、自分と意見の合わない他人を切り捨てていく自分を見て、いつか狸吉が自分に幻滅する時が来るのを待つよりは。

 このまま。

 このまま、アンナと狸吉は、親友とその彼氏という関係でもいいんじゃないかと思えてきた。

 狸吉は《SOX》を抜けて、アンナの彼氏になった方が、幸せなんじゃないか。

 少しでも傍にいるだけで、それでもう十分すぎるんじゃないか。下ネタを許してくれるだけで、それ以上を望むなんて、そんなことは――

 思考がぐるぐると回る。《雪原の青》としての判断も思い浮かばない。あの勝負パンツを履いてない自分なんて、こんなものだった。

 鼓修理とゆとりの二人が心配そうにこちらを見ていることはわかっていた。だからせめて《雪原の青》としては何も言わず、今は時機を見ているふりをして、二人の心配を誤魔化した。

125 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/09(金) 15:47:24.85 ID:VBhKlDi30
パンツネタだけでそこまで言い合えるあんたら流石や! あの世界の未成年の下着はデザインをそもそも選べるのかすらわからないレベルですよね。

華城先輩、悪いモードに入ってまーす。なんだかんだでアンナ先輩と傾向が似ていると思います。ベクトルは逆方向だけど。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 16:14:47.47 ID:BUgAh9NAO
アンナは悪く上に向かっていく思考

綾女は普通に下に向かっていく思考
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 16:48:03.91 ID:rRCELLIDO
上の口から出る言葉は下ネタばかりだが
内部思考では綾女が一番清純だという可能性
あると思います
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 17:18:03.85 ID:KeB/3ZjdO
綾女は肯定されたことがないから否定される前に自分から引く
アンナは否定されたことがないから否定される前に自分色に染めてしまう

そんなイメージで見てる、合ってるかはわからんけど
129 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/09(金) 23:37:27.94 ID:VBhKlDi30
今の時点で分からない部分ってありますか?
プロット立てずに推敲してないので、矛盾点がそろそろ出てくる頃だと思うので

伏線として張ってること以外にはお答えしようかと思います。あと、これからアンナ先輩には試練が待っているので、ちょっとお気を付け下さい。

愉しみにしていただけている方も多く、嬉しい限りです。頑張ります。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/10(土) 00:35:58.91 ID:h6x11RxPo
特に不明な点はないかな
試練か・・・・・・怖いもの見たさで待ってます
131 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/11(日) 23:17:22.75 ID:AjzIUCP/0

「犯人が分かったぁぁ!!?」

 そういえば不破さんが一応進展はあったと言っていたので聞いてみると、大した情報ではないのですがと前置きした上でもたらされた情報は犯人の素性と思われるものだった。

「この状況を打破するのに優先順位の高い情報ではないので」

「説明してくださる?」

 アンナ先輩が促すと、不破さんがPMを起動し画面を表示し、虚空に映す。何かの掲示板のやり取りの一部だった。

「《育成法》に何となくレベルで反発している市民は多いですが、明確に悪法と言っている人間はそれほどいません。施工されてから十六年という年月はそういった声をさらっていきました」

 例えば僕達が生まれる前の話でいうと、消費税が導入された時はものすごく国民からの反発があったそうだ。だけど今は数%の値に右往左往しても、消費税そのものを悪法だと言わないように、《育成法》もPMの利便性から受け入れられている。

 元々ネットの検閲の激しいこの国だけど、《育成法》そのものに関しての反発は、もうほとんどない。潰されてしまった、流されてしまったという方が正しいだろうけど。

「《SOX》が人気を得たのも、PMという絶対的な枷を外して好き放題に卑猥な言葉を発することの出来るある種のダークヒーローとしての面があるからです」

 《SOX》の言葉に一瞬ひやっとするが、アンナ先輩は静かに不破さんの言葉に耳を傾けていた。

「とにかく、こんな時代で《育成法》そのものに本気で反発を唱える人間がいるとすれば、ネット上でも何らかの意思表示がきっとなされていると考え、調べてみました」

 すると声がやっぱりあったそうだ。

 《育成法》によって差別を受けざるを得なくなった人たちの声が。健全な社会に切り捨てられた人々の恨みの声が。

 僕や華城先輩の親みたいに犯罪として捕まっただけでなく、ゆとりみたいに卑猥な知識を持たざるを得ないがために中傷を受け続けた人々が集まる、愚痴の言い合うような場所が、とあるSNSのコミュニティで見つかったそうだ。

 不破さんが表示された画面にはこんなレスがあった。


『《育成法》が作ったモノを潰してやればいいんじゃね?』


「報道からすると、PMのことかの? 怖い言葉じゃな」

「ネット上では珍しくありません。とにかく、数年単位でネットの検閲に引っかからない範囲で、愚痴を言い合っていました。それが今年に入ってからにわかに活気づいてきたのです」

「《SOX》の活躍と比例して?」

 僕の疑問に不破さんは頷いた。撫子さんが言っていたように、やはり《SOX》に触発されたやつらなのか。

 そのSNSの中で立てられたスレッドに、意味不明なものがあった。他にもいくつか同じ名前のスレッドが、別のサイトでも立てられている。

「これは、日付、でしょうか? ですが、そのあとの数字は?」

 アンナ先輩が疑問の声を上げる。不破さんが簡潔に、

「緯度と経度です。当てはめると、第一清麗指定都市の、更にあの病院付近であることが判明しています」

「予告文、ってこと?」

「じゃが回りくどいやり方じゃの。国やマスコミに送りつけるわけじゃないなら、誰に対しての予告なんじゃ?」

 早乙女先輩のもっともな疑問に僕も考えるが、不破さんはとりあえず情報を吐きだすことを優先するようで、サクサク進めていく。

132 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/11(日) 23:18:28.53 ID:AjzIUCP/0

「まあ実はこれは、わたしが考えた事ではなく、ネット上で謎解きを楽しむ一定数の暇人が解読しただけです。その解読者たちは無駄なスキルをお持ちのようで、ある程度情報源は漏れています」

 不破さんも大概だけどねとは言わなかった、礼儀として。

「ネット上で言われているのは、風紀優良度最低辺校の中高生ではないかと。わたしも読みましたが、確度は高くないとはいえ、信憑性は高いと感じました。とにかく、《育成法》によって中傷を受けてきた人間であることは間違いないかと思われます」

「《SOX》も時岡学園の生徒でしょうし、同じ世代に共感を得たのかもしれませんわね」」

 アンナ先輩は冷静に言っていたけど、僅かに痛ましそうな、不破さん達が自暴自棄になった時のような悲しい目になったように見えたのは、僕の欲目だったかもしれない。

「ですが確かに、欲しい情報はこれではないですわね。いえ、不破さんは十分に情報を集めてくださいましたわ。ただ、今必要なのは、犯人と人質の配置、犯人の装備の情報ですわね」

「流石にネットではそのあたりの情報は集まらないですよね」

 僕も思わず溜息を吐く。不破さんが優先順位の高くない情報で進展がないと言った意味が分かった。犯人の生い立ちを知っても正直意味はない。

「奥間はそのあたりの情報を手に入れられる人物に心当たりがあるんでないかの?」

「あー、……そうなんですけど」

 早乙女先輩が突っ込んできた。ただ《SOX》でない不破さんやアンナ先輩にどう説明したらいいのか悩ましい。ただ話さないわけにもいかなかった。

「鼓修理の父親が、あの病院の経営のさらに上の人なんですよ」

「鼓修理ちゃんのお義父様は、奥間君のお義父様じゃないんですの?」

「えっと、それなんですけど」

 鼓修理、ごめん。後で合わせてくれ、お前の腹黒演技なら大丈夫だ。

「その、腹違いの娘なので、養子に出したんです。いろいろ厄介な手続きを経て。その、鼓修理のことは実は母さんも知らなくて、だからアンナ先輩も、鼓修理のことは母さんには黙っていてほしいのですけど……」

 何とかこれで通じてくれ、と神頼みする。日本はち○こやま○この神様もいるっていうけど、華城先輩経由のネタだからどこまで本当なんだろうか。

「奥間君も大変ですのね」

 なんとか通じたらしい。早乙女先輩も冷や汗かいたみたいだけど、だって、ねえ?

「鼓修理ちゃんの保護者はじゃあ」

「鬼頭慶介っていう。知ってますか?」

「母から聞いたことがありますわ。父とよく話しているらしいと」

 まあ不思議ではないか。色々裏工作が得意な親子だもんな。

133 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/11(日) 23:19:08.29 ID:AjzIUCP/0

 鼓修理の父親、鬼頭慶介は将来《育成法》が崩壊することを見越して、性産業を一手に手に入れようと企んでいる。そして《育成法》が崩壊する時期をコントロールする目的を持っていて、多分だけど鬼頭グループとしてはこの事件は、《SOX》の性知識流布によって政府の信用をいますぐ失うことを阻止する為に利用したいと考えている。

 ただものすごい親バカと言うかバカ親で、一人の父親としては、鼓修理を無事に守りたいという想いも、多分、あるはず、きっと、おそらく。

 そう言った相反する事情があることを説明し、とにかく取引材料がなければ交渉できない事を伝える。勿論《SOX》のこと、《育成法》崩壊による性産業の独占目的はぼかしたけど、アンナ先輩はそれでも複雑な事情を大体わかったようで、

「わたくしなら鼓修理ちゃんを一番に考えますけど、経営者としてはいろんな判断をしなければなりませんものね」

「取引材料、のう」

 どうする? と早乙女先輩がちらっと僕を見てきた。《SOX》としての切り札は早乙女先輩にあるけど、その他の貴重な不健全雑誌も、《雪原の青》の判断なしに勝手に動かすわけにはいかない。だけどそれぐらいしかこちらには慶介を揺さぶる材料がないのも事実だ。

「奥間さんのお母さんは」

「無理、絶対。まだこっちの方が脈ある」

 断言すると不破さんは黙る。あの母さんが聞いてくれるわけないじゃないか。

 しばらく無言の時間が過ぎた。月見草、お前も何か話せよ。反応がマグロなのは不破さんだけで十分だ。

「奥間君」

 しばらくして、アンナ先輩が口を開いた。

「わたくしに、交渉させていただけませんか?」

 う、と思わず黙り込む。

 これ、下手したら《SOX》どころか他の下ネタテロ組織まで壊滅の危機じゃないだろうか。けど他に手は思い浮かばない。

「何を、取引するんですか?」

「相手の出方次第なので、すみませんが、今は何も」

 アンナ先輩の答えは正直怖い。アンナ先輩の交渉術自体を疑っているわけじゃないんだけど、向こうの方が上手てだろうし。

「勝算はありますか?」

「ありますわ」

 強く言い切った。けど不安は拭えない。

 ……だけどこのまま言い合いを続けてもじり貧で他に打開策もなく、時間を無駄にするわけにもいかない。

「少し待ってもらえますか? あっちがすぐ繋がるかもわからないので」

 一手間違えれば何もかもが危なくなる、危険な綱渡りだった。でももう、これしかない。

 席を立ち、撫子さんに電話する。鬼頭慶介とのラインを繋ぐために。

134 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/11(日) 23:24:55.69 ID:AjzIUCP/0
うーん、いいのかなあ、狸吉結構ヤバいかもなあ
と不安になる展開。鼓修理が聞いたら卒倒しますよね、きっと

ところで今日、アンナ先輩に包丁を背中に突き付けられながらデートする夢を見ました。
これは悪夢なのでしょうか、いい夢なのでしょうか、悩むところです
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 23:58:10.61 ID:k09ZcQXoo
乙です
いい夢なんじゃないかな
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 00:25:37.92 ID:x3qCd4xcO


キマシタワー(白目)
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/12(月) 03:54:35.02 ID:B/NWb5dDO
ヤンユリなアンナ先輩……ありだと思います
138 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/12(月) 23:22:05.87 ID:Rs6fpcJX0

「うわーん、鼓修理ぃぃぃ!!」

 ばたばたと手足をばたつかせ、大の大人が部屋中をごろごろしていた。

 ゴスロリドレスという森の妖精スタイルで。

 秘書はもう慣れていたが、やはり不気味だった。だが仕方ないだろうとここは見守ることにする。

 愛娘がジャックされた人質の中にいるのだ。思わず精神安定のために女装してゴロゴロ転がるのも仕方ないだろう。

「まったく、厄介なことになったもんだよ、本当に」

 一通り暴れ回ったところで、慶介は秘書に半ば愚痴のように零していく。

 鬼頭グループとしても、ここの判断は間違えれば危ないところだった。

 《育成法》に反対する犯人グループは《SOX》に触発された若い世代だ。憧れの《SOX》を人質に取っていることも知らずに。

 政府はこの事件を理由にした規制強化を目論んでいる。より過激に踊ってもらいたい、というのが本音だろう。

 だが鬼頭グループとしては、愛娘が人質に捕られていて、それでもこの事件を利用する姿勢をとったら、今従っている下ネタテロ組織にも簡単に切り捨てられるかもしれないという不信感を抱かせてしまう。かといって積極的な解決を国に持ちかけると、今まで築いてきた人脈からそっぽを向かれてしまうことになりかねない。

 故に消極的な介入、善導課への情報提供がせいぜいだった。一番身軽に動いてくれる肝心の《SOX》が捕まっていて、割と八方ふさがりなのだ。

 だからといって実質何もしない、という今のこの状態は、あまりよろしくない。早いうちに決め打ちしなければならない。

「会長、お電話が入りました」

「誰から? 僕今それどころじゃ」

「朱門温泉の清門荘の女将からです」

「……ふーん?」

 《雪原の青》か、狸小僧か。状況を見るに後者だろう。

「ま、聞くだけ聞いてやるか。回線回して」

 回線が届く。女将が出てすぐに向こうも回線が回される。

『――もしもし?』

 鈴の鳴るような、涼やかな声だった。《SOX》にこんな声の持ち主はいただろうか?

『突然のお電話失礼いたします。わたくし、アンナ・錦ノ宮と申します』

「錦ノ宮、もしかして祠影さんのお嬢さん?」

 意外なところからの電話に平然を装っていたが内心では驚いていた。

『そうですわ。父がいつもお世話になっております。このたびは、鼓修理ちゃんが大変なことに巻き込まれまして……』

「いや、はは。まあ何とかなると思ってますよ。それで、どのような用事ですか?」

 鼓修理が巻き込まれたことを知っているということは、向こうもある程度こちらの事情が分かっていると見た方がいい。

 要求は端的だった。

『この事件を長引かせたくはないんですの。あの病院の経営をなさっているなら、犯人の人数や装備、人質の場所なども報告が上がっていますでしょう? その情報をいただきたいんですの』

「直球だねえ、お嬢さん」

 アンナ・錦ノ宮についてはあまり接点がない。非常に良く出来た、《育成法》が作り上げた理想の子ども、という世間の評判と同じ程度の印象でしかなかった。

139 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/12(月) 23:23:59.99 ID:Rs6fpcJX0

「一体何がしたいのかな」

『人質の救出、そして可能ならば犯人グループの殲滅ですわね』

 祠影やソフィアの誇っていたような“理想の子ども”が、こんなことを言うだろうか。電話越しだが、ソフィアに負けず劣らずの隙のなさを感じる。狸小僧が何か仕掛けたのか?

「あー、こう言ったら悪いけど、お嬢さんみたいないい子をあんな危ない場所に行かせるわけにはいかないなあ」

『ですが、その危ない場所に鼓修理ちゃんがいるんですのよ? 国は早期解決より犯人の主張を逆手にとっていろいろ進めていこうとしているようですが、それは人質を切り捨てるのと同じことですわ』

 政府のこれからの動きも理解している。単なる世間知らずのお嬢様という印象を改めた。

「ふうん。それで? 善導課にも出来ないようなことをあなたが出来ると?」

『わたくしだからこそ出来ますの。大人の事情に関係のない、わたくし達子どもだからこそ、自由に動けるのですわ』

「確か、《群れた布地》の事件、あなたも解決に関わっていたね」

 《SOX》が戦力不足を強化する為に時岡学園生徒会に掛け合い、風紀委員と共に解決に導いたのは記憶に大きく残っている。

『ああ、実力に関してはこう言えばわかると、とある方から伝言がありますわ。「アンナ会長は《鋼鉄の鬼女》と同じレベルですよ」……すみません、これはどういう意味なのでしょう?』

 電話の向こうで別の人間に問うような声音になったが、この言葉が狸小僧からのメッセージだとすれば、本当ならば実力は疑いようがない。何度部下が《鋼鉄の鬼女》の餌食になったことか。

 思い出すだけで冷や汗が出るが、こちらにメリットがない以上、ただ情報をくれと乞われるだけでは話にならい。

「いや、そのとある方のメッセージは伝わったよ。ただやっぱり親の立場から見ても、僕は君のようなお嬢さんが危ない場所で危ない真似をするのは大人として止めるよ」

 鼓修理が聞いたらまずその女装癖を何とかするッス!と怒り心頭になるだろうが、鼓修理はこの会話を聞いてないので全く問題はない。

『お父様と悪だくみをするような方がですか?』

 くすっと、少女らしい笑声が耳にくすぐったい。だが言葉は皮肉でこちらを牽制してくる。

『将来、わたくし達はどうなるのでしょうね』

 急に話が抽象的になった。意図が読めず、思わず聞く姿勢に入る。

『きっとわたくしはお父様とお母様の人脈を受け継いで、色々と為していくのでしょう。その時、鼓修理ちゃんが傍にいてくれたら、何を為していくにしても、また鼓修理ちゃんが何になるとしても、きっとお互いに手助けになるでしょうね』

 一見抽象的だが、意味は伝わった。

 この少女は、将来自分が受け継ぐ人脈という最大の財産を交渉に使っている。

『なんでしたら、その時期を早めてもいいかもしれませんわね。お父様とお母様の人脈を積極的に受け継いでいけば、時期を早めること自体は難しくはありませんから』

「それは、自分のご両親が作り上げてきたものを乗っ取ると取っていいのかな?」

『……ふふっ、怖い言い方なさるんですのね。お父様とお母様には内緒にしてくださいますか? 悪い子だと叱られてしまいますので』

 言葉とは裏腹に、意図が伝わったことが嬉しそうに、向こうの雰囲気があからさまに明るくなる。もう少し経験を積めばこのあたりも自然にこなせ、相手に演技だと気付かれないのだろうが、今の時点ではまだまだだ。無論、この年齢でここまで駆け引きをこなせるのであれば、十分すぎるほど将来が怖いが。

『ただわたくしと鼓修理ちゃんと、そのお父様であるあなたとの関係を密にしていくことは、鬼頭グループにとっても決して悪い事ではないと、そう言わせていただきたいだけですの』

「なるほどね」

 《SOX》と手を組んだりなど、この少女は自分の目的の為なら手段を選ばないタイプなのはわかった。血統も才能も能力も実績も備えている。あとはソフィア譲りのカリスマ性もおそらくは開花させていくだろう。今現在でも、他の人間が言えば失笑する交渉だが、この少女の言葉となると従ってみたいという気にさせられる。

 少女が受け継ぐ人脈も勿論だが、この少女の将来性も含めて抱き込むことは悪くはない。

「あー、そこにとある方っていう人、いるよね? いやわかってるんだよ、奥間狸吉君だろ? 替わってくれないかな」

 さて、狸小僧がどんなつもりでこの少女をけしかけたのか、どう操縦するつもりなのか、聞かせてもらおうじゃないか。
140 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/12(月) 23:31:12.81 ID:Rs6fpcJX0
今日の投下完了

あの化け物の電話越しの演技を見抜いたパパぱねえっス! とでも言われれば慶介さんは満足するんでしょうか。
あと狸吉は皆さん知ってのとおり操縦なんて出来てません。どうするつもりなんでしょうか。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 01:50:37.15 ID:tDw6eV2nO
おつ
アンナ先輩、自分の将来を交渉材料にしたのか
正直、この交渉は読めなかった。基本駆け引き出来ない人なんだってこのSSでは言われてるけど、これで駆け引き出来てないって言われるのはハードル高すぎる

>>1は交渉や駆け引きとか得意そう(偏見
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 02:12:43.64 ID:AJxytrZvo
おつです

原作ルートだと7巻〜10巻中盤にかけてアンナ先輩は精神的にボロボロになっていき
終盤でようやく狸吉たちの配慮に気づけて精神的に持ち直せた感じだったけど
このSSだとこういう交渉術とか含めてアンナ先輩活き活きとしているよな
『お父様と悪だくみをするような方がですか?』なんてセリフ
原作ルートのアンナ先輩だとまず出てくることなさそうだし
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 02:22:18.07 ID:jtvHghsBo
いきなり進化しすぎじゃねというか混じってるというか
144 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/13(火) 04:45:13.55 ID:MAbJ52uF0
一応変化していってる途中なんですよね
最初に注意した通り、違和感があるとは思います、それは割と意図的な部分もあります
性に安定してきて憎しみも覚えて、羽化している最中と申しますか
ただよく自分が二次書くと、全てのキャラの頭良くなる傾向があります、それは自覚してます
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 04:53:50.72 ID:t9+UW6jKO
ソフィアの真似してる感じがして違和感自体はそんなになかったな、前のSSでもたぬきちの母親の思考を真似して苦手な部分を克服してたし
アンナ先輩が性に触れて余裕持って、親や社会が遮断してきたものに触れて、押さえられた才能や衝動が一気に開花してるのだと思うとそんなおかしいとは思わないけど、そんな自分は少数派なのかねえ
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 19:25:33.15 ID:e5ZUZUwDO
おかしくはないと思うな

なんというか、ここのアンナ先輩は原作より危うい形ながら原作よりも成熟している感がある
性的衝動・破壊衝動を抱いてしまうのはある意味当然だから単に拒絶せず上手いこと受け入れることにしたためか
清濁併せ持つ、原作よりも遥かに交渉力のあるアンナ先輩が出来上がったんだろうな
原作のように正しいことだけを求めるだけだと藻女みたいのに絡め取られちゃうしな
147 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/13(火) 20:31:50.84 ID:MAbJ52uF0

 し、心臓に悪い。

 鬼頭慶介とアンナ先輩のやり取りを聞いた感想はその一言に尽きた。スピーカーモードにしていたため、僕は勿論早乙女先輩や不破さん、ついでに月見草やマスターもやり取りを聞いていたが、多分きっと全員がアンナ先輩が自分の将来を切り売りし売り込むとは思っていなかっただろう。

 慶介が僕を指名したため、一旦保留にし、回線が僕に回ってくる。電話に出ようとして、それでもどうしても聞きたくなった。

「いいんですか? アンナ先輩」

「全てのことは後で聞かせてもらいますわ。今は相手方との取引を優先してくださいまし」

 生徒会モードにより深刻さが加わったアンナ先輩は、今しがたの余裕の声が嘘のように真剣な声で先にやるべきことを済ませろと言ってくる。

「すみません、内輪の話もあるので、外で話してもいいですか?」

 全員が頷いたので、喫茶店の外に出させてもらう。この状況でアンナ先輩が盗み聞きするとは思わないけど、色々聞かれたらまずい話もあるし、念には念を入れておきたい。

 外の風はやっぱり冷たい。喫茶店そばの路地裏に身を隠して、

「もしもし」

『いやあ、すごいお嬢さん捕まえたねえ。どうけしかけたの?』

 愛娘が人質に取られているというのに以前聞いた時と変わらない、どこか相手をおちょくるような口調だった。こういうところ鼓修理と似てるよな。逆か。

「アンナ会長は困っている人を見捨てないだけですよ」

 先輩ではなく会長と言い換える。あまり意味はないだろうけど、関係が察せられるようなことをわざわざ口にしなくていい。華城先輩みたいにPM無効化装置のような便利な道具がこっちにはないからね。あれば下ネタ言い放題、いいよなああれ。

『いやはや、子どもは親を良く見てるんだね。そして最近の子どもは怖いねえ』

「で、取引材料としてはみなしてくれるんでしょうか?」

 アンナ先輩は自分の将来までもカードに切ってきたのに、これでダメなら正直お手上げだ。

『どうやってあのお嬢さんを操縦するつもり? 割と結構、手段選ばないタイプみたいだけど』

「愛ですよ。愛は正義ってやつです」

 分かってほしくはないので適当に誤魔化すけど、勿論嘘ではなかった。

 アンナ先輩の世界は結局、愛と正義で構成されている。それ自体は以前も今もそのままなのだから。

『ふーん。教えてくれないんだね』

 特に落胆した様子も見せずに軽く流す。多分慶介にはわからない世界だろう。僕も正直アンナ先輩の価値観はよくわからなくなる時はある。

『《鋼鉄の鬼女》と同じレベルって、本当?』

「互角ですね。12階のビルから飛び降りても平然と追いかけてくるレベルです」

『それ人間の話?』

「言わないで上げてください……」

 思わずしみじみと頷いていた。それが逆に説得力をもたらしたのか、

『まあ、送ってあげてもいいよ、それぐらいの情報なら』

「本当ですか?」

 もっと足元を見られるかと思ってたけど、『鼓修理も人質だし』との一言に、一応親の気持ちがあるんだと思うことにした。時々森の妖精になるけど。

148 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/13(火) 20:33:38.40 ID:MAbJ52uF0

『将来有望な若者に貸しを作っておくのも悪くはないしね』

「言っておきますが、アンナ会長は下ネタテロ組織とは一切無関係ですよ」

 言うべきか迷ったが、もし誤解されたままだと全ての下ネタテロ組織が壊滅しかねないので一応言っておくことにした。

『君が《SOX》を名乗らない時点でそうだろうとは思ったよ。心配しなくても、これはあくまでアンナお嬢さんと僕との約束にしておくから』

 あまりの物わかりの良さに、裏があるんじゃないかと疑ってしまう。ただ向こうは僕の疑念に答える気はないようで、

『じゃあ使いの人間に分かる範囲のこっちの人質の配置と犯人の情報をもって行かせるよ。多分すぐ着くと思うから』

 そういうと、一方的に切られた。

 何か思惑があるかもしれない。多分向こうの事情も色々あるんだろう。

 だけどとにかく、一番大事な情報は何とか手に入りそうだ。


 ピピピピピピピピピ


「はい、もしもし」

『上手くやったのかい?』

 撫子さんからだった。ハイ、と頷くと

『一応私からも牽制しとくけどね。まあ貸しを作る相手は間違えない方がいい』

「肝に銘じます」

 多分華城先輩達を助けた後、華城先輩にも同じこと言われるんだろうなと思うと射精直後の賢者タイム並みに身体が重くなった。あの三人に怒られる未来しかないって嫌すぎる。

「撫子さんはこっちには来ないんですか?」

『女将の仕事は簡単には抜けられないんだよ。一応4時頃には病院前に一回様子見に行くつもりだけどね』

「4時……」

 時間を確認すると1時だった。事件が起きてから1時間半ほど経っている。

『鬼頭慶介の使いは割とすぐ来るさね。あんたも動けるようにした方がいい』

 ぷつっとすぐに切られた。みんな大変のはわかるけど、ガチャ切りよくない。

 しかしすぐって言ってもなあ、そもそも使いって誰だと思ったら、本当にすぐそれらしい人が来た。車で。慶介と電話してから10分も経ってないぞ。

 車から降りてきたのは優秀なキャリアウーマンっぽい、僕の母さんと同じぐらいの年齢の女性だった。手のひらサイズの小型タブレット端末を一方的に渡される。

「あ、あの」

「コンロ×鍋!」

 ぶわっと一気に周囲が腐海の森になった、そんなイメージが駆け巡る。

 こいつ、《羅武マシーン》かよ!? 素顔こんな感じの人だったの!?

 《ベーコンレタス母の会》という四大下ネタテロ組織の一つである組織の代表に何か挨拶するべきかと思ったが、

「注射器×点滴! 睡眠薬×カフェイン!」

 もう会話が成り立たなかった。というか何を言ってるかすらわからない。

「あ、ありがとうございます」

 一応礼を言うが一切反応せず、どこかよろよろと、禁断症状の末期患者のような青ざめた顔して去って行った。あの人社会生活やっていけるんだろうか。

 とにかく、おそらくこれで情報が手に入った。喫茶店に戻ってこのタブレットを見れば、きっと何かが進展するはずだ。

149 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/13(火) 20:44:44.50 ID:MAbJ52uF0
投下完了です。

なんというのか、元々愛の為なら罪の意識すらなく殺人も犯せると不破さんに指摘されるような人だったので、自分の中ではそれほど違和感なかったのです。心の負の一面をアンナ先輩自身で理解するとそれがなんかこうなったのです。
原作でも母親から攻略したり浮気Gメンの一面を見るに、策士の部分はあると思います。ただ、意図的かどうかはわかりません。天然の可能性はあると思います。逆に厄介かもしれません。どうなのでしょう。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 21:35:54.39 ID:tO/PwhDEO
おつです
でもなんだろう、安定はしてるんだろうけど、狂ってる感じがものすごいする
なんか不吉さしか感じないんだよね、先が怖い
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 00:16:09.22 ID:nz//b7oHo
おつ

原作のアンナ先輩だと「普段なら悪いことだけど愛のためなら許容される(免罪される)」という考えで行動するから
アンナ目線で「だから自分は悪いことは一つもしていない」と考えている(た)節があるけれど
ここのアンナ先輩は「お父様と悪だくみをするような方」と手を組もうとしている認識があったり
「悪い子だと叱られてしまいますので」と両親目線で自分の行動が悪く映ることも分かっている
そういう「自分は今悪いことをしている(かもしれない)」という認識を抱えたうえで
「それでも病院に突撃したい」という目的を遂げようとしている点で、清濁併せ持つようになったなと感じた

ソフィアはそのあたりの妥協ができる人なんだよね
不健全雑誌を身にまとうのは悪いことで嫌なことだけど
ラブホスピタル計画をなくすというもっと大きな目的のためにはそれも受け入れる
そういう妥協とか悪いことも受け入れられる度量がないと交渉に強くなれないものだけど
ここのアンナ先輩はソフィアのそういうところも上手く取り込めるようになったのだろうな
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 00:23:15.47 ID:A7fhlGPto
乙です
何というかここの読者も作者もすごいなと
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 00:25:28.33 ID:9lV313IyO
乙です
不破さんにも「卑猥の取り締まりを見逃す」って言ってるし、限界(アンナ先輩にとって綾女が取り締まりを見逃すことは有り得ないしできないだろうから)も告げてる
たぬきちがアンナ先輩の価値観に合わない破壊衝動も認めて許容してくれたのがこう作用したんだなって感じ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 00:33:50.16 ID:F9kseFTDO
しっかり読みとってる読者が多くてすごいな
俺なんかパンツの話しか出来ないのに
155 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 21:50:06.62 ID:F6NmpfxW0


 外にいた時間は20分ほどだったと思う。女性陣(一名除く、あ、マスターも)は何をしているのかと思うと、不破さんがドライバー片手に何やら弄っていた。細かい作業をしているようで、アンナ先輩は見張るというより単純に作業自体が珍しそうに見ている。そのアンナ先輩はサンドイッチをつまんでいた。お昼食べてなかったな、そう言えば。

「奥間君、どうでしたの?」

「一応、これ渡されたんですけど」

 早乙女先輩と月見草の姿がなかった。多分それぞれ役目があるのだろうと思って、まず優先するのはこのタブレットの情報を精査することだと中身を見ることにする。

「作業と並行していきますので、そちらもどうぞ」

 何か不破さんは道具を作っているみたいだ。不破さんって何でも作れるよな。ピ○ローとか一から作り上げたし。これから不破えもんって呼ぼうかな。

 それはともかく、細かい作業をしているようなので、邪魔しないようにアンナ先輩と一緒に鬼頭慶介からもたらされた情報を見ていく。

 タブレット端末からVR投影機能を使って虚空に映す。

「これは、監視カメラのようですわね」

「あの階に監視カメラがあったのか」

 いくつかあったのは知っていた。だけどどうやらあの階は防犯などを予防するためのあからさまなカメラと、パッと見にはわからない仕込まれた監視カメラの二つのカメラがあったらしい。実際犯人たちが壊しているのは廊下の隅にあるあからさまなカメラで、それがこのカメラにも鮮明に映った。廊下に三点、ナースステーションに一点、そして休憩室に一点。

 そして人質はおそらくすべて、休憩室に集められている。魚眼レンズで顔まではわかりにくいけど、とにかく詰め込まれているのがわかる。

「装備はおそらくエアガンでしょう。壁に弾痕が見えます」

 不破さんがちらっと見ただけで断言した。不破さんが言うと弾痕が男根にしか聞こえないけどもうスルーで。

「空気銃も侮れませんわ。当たれば怪我をしますし、当たり所が悪ければ死にます」

 アンナ先輩がつぶやくけど、アンナ先輩が撃たれて死ぬ場面が一切想像できない。最小限の動きで躱して一瞬で相手を沈める図しか想像できないんだけど、仕方ないよね、アンナ先輩だもん。

「病室そのものにはカメラはないのですね。当然と言えば当然ですけども。人質が一か所に集められていることから、犯人の一部が病室にいるということはないと思うのですが、一か所ぐらいは作戦室として利用しているかもしれませんわ」

 しばらく見ると、アンナ先輩の考えの通り、一番大きな病室から犯人の一人が出てきて見張りをしていた一人と交代している。

 アンナ先輩は5か所のカメラを同時にチェックすると、先ほど月見草が手に入れた特別階の見取り図にチェックを入れていく。

 直通のエレベーター前に3人。

 非常階段にそれぞれ4人。

 人質のいる休憩室の内部に3人、その前の廊下に1人。

 そして大きな病室に?人と注釈をつけた。

「それが正しいでしょう」

 不破さんがちらっと見ただけで断言する。これらの分析は一瞬で行われて、正直僕が3つ目のカメラをチェックするのがやっとといったところでだった。アンナ先輩もだけど不破さんはさらに別の作業しながら横目でそれを確認したってことで、観察力と分析力本当に凄い。

 僕、まだ何も出来ていないなとふと思った。結局交渉もアンナ先輩の将来を切り売りする形になって、自分は安全圏で流れを見ているだけだった。

「奥間君、ありがとうございます」

「え?」

 だけどアンナ先輩は、本当に感謝していた。

156 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 21:51:04.82 ID:F6NmpfxW0

「奥間君がいなければ、この情報は手に入りませんでしたわ。パイプ役も大変でしたでしょう?」

「いや、でも、交渉はアンナ先輩が……」

「奥間君がいなければ、そもそも交渉そのものが出来ずにいましたわ。これは奥間君のお手柄ですの」

 本当に自分の事のように誇らしげなアンナ先輩に、正直戸惑いがあった。

「そこは素直に受けておけばいいと思いますよ、奥間さん」

 不破さんがこちらを見ずにただ言葉だけを投げてくる。けど僕の中の「これでいいのか」という疑問は消えない。

「アンナ先輩。その、ご両親の人脈を乗っ取るとかそういうのって」

「乗っ取ると言うと聞こえが悪いですけど、この事件がなくても、いずれ受け継ぐことが決まっていたものですわ。その時期についてはともかく、これから鬼頭グループとの付き合いを密にしていくことは、先方にも言った通り、決して悪い事ではありません」

「でも、お父さんと悪だくみがどうのこうのって」

「お母様の愚痴をちょっと聞いたので、それを投げかけただけのことですわ。何も知らないと思われるのは、あの場合良くはないと思ったので」

 ブラフってやつか。確かに悪巧みしまくってたからな。多分、慶介にとってはソフィアの持つ人脈の方に魅力を感じたんだろう。祠影とソフィアだと人脈が重なるようできっと違うだろうから、その両方を手に入れるっていうのは非常に魅力的なのはわかる。

 だけど、これでいいのかという疑問はまだ消えない。何か、奥歯に物が挟まったような気持ち悪さがある。

「出来ました」

 その気持ち悪さがなんなのかよくわからないままに事態は進んでいく。不破さんが作っていたのは、何だろう、親指の爪より少し小さめの、U字型の金具みたいなやつだった。

「ちょっと試験してみます。ちょっと特殊な付け方なので、わたしが着けますね」

「お願いします」

 僕がよくわからない間に不破さんがアンナ先輩の耳にさっきの金具を装着する。

「それ何?」

「小型のスピーカーです」

「スピ、え?」

 不破さんがさっさと外に出て行く。出て行った不破さんに替わってアンナ先輩が説明してくれた。

「これ、耳付近の骨に直接振動を与えて音を伝えるんですって。……ん、月見草さんの声が聞こえますわ」

「え? 全然聞こえないんですけど」

「月見草さんは奥間君がいない間にこれのテストをするために外に出て行ってもらったんですの」

 ちょっと近くで聞いていいですかと耳元に近づく。テレビの報道の音もあるけど、耳元で耳を澄ませてようやく月見草の声がかすかに聞こえる程度だ。

「聞こえましたか?」

「ええ、わたくしには充分に。これなら使えそうですわ」


157 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 21:51:36.01 ID:F6NmpfxW0

「不破さん、これなんなの?」

「骨伝導型の小さなイヤホンスピーカーをイヤリングの留め具に付けたものです。飾り部分ではなく耳たぶの裏側の骨の部分に直接振動を伝えるものです」

「早乙女先輩は?」

 二人に問う。月見草はこの骨伝導ミニミニスピーカーのテストで外にいるのはわかったけど、あの座敷童がいない。

「このスピーカーをイヤリングにするため、材料を買ってくると。すぐ戻ると言っていましたが」

「これ自体は月見草さんに頼んで用意してもらったのですけど、身体検査された場合、どう誤魔化すか悩んでいたのですわ」

「身体検査?」

「会長、奥間さんにはまだ話してないでしょう」

 不破さんはいつものように冷静だった。

「そうでしたわね。奥間君。どうやって乗り込むか、奥間君が外に出ている間考えていたのですけど」

 アンナ先輩は少しだけ、少しだけ困ったように笑う。

「人質交換で、わたくしが人質となろうと思いますの」

「え……?」

 間抜けな声が漏れた。いや声だけがね、漏れた。

「PMは外されるでしょうから、他の連絡手段を考えていたのですわ」

「電話の仕組みを考えれば、結局はマイクとスピーカーの二つの機能さえあればいい。そのうちの一つがこれです」

 そういうと不破さんはもう一つ作るとまた別の金具と何か部品を小さなドライバーで分解し繋げていく。本当はイヤホンのように耳の中に挿入れる、間違った、入れる、うん、どっちも同じ意味か? とにかくそういうタイプのインカムのようなものはあるんだけど、身体検査でばれないようにとなるとそれは難しいらしかった。このイヤリングタイプのスピーカーと、集音器(つまり盗聴器だ)をを組み合わせて外の僕らが状況を把握できるようにするつもりらしい。

 意味は分かった。個人の戦闘力を考えたら、アンナ先輩以外にいないこともわかった。

 だけど受け入れられない気持ちがどうしてもあった。突入ではなく、人質となって敢えて囚われるというのは、全く違う。

「……わかりました。ですけど、アンナ先輩ひとりですか?」

 それでも現実的な案としてはそれ以外にないと思う。だけど問題は、アンナ先輩を一人で行かせるかどうか。

「それなんですけど、迷ったのですが」

 アンナ先輩は虚空に表示された犯人と人質の位置が配置された見取り図を見ている。

「わたくしと、おそらく月見草さんの二人で人質交換に臨むことになると思いますの」

「月見草と?」


158 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 21:52:03.02 ID:F6NmpfxW0

 警察も同じように内部との連絡が取れるようなことをするだろうけど、アンナ先輩は上流階級の娘だから身体検査の時に危険に晒すような真似は出来ず、警察はアンナ先輩にはそれは出来ない。だから善導課の所属でもある月見草にその役割を担ってもらうのだという。

 月見草の所属と役目を考えたら、それは適当なんだろう。

 だけど、僕はこのまま何もかもをこの人の判断に任せていいのだろうか。

 言っていることはその通りなのだけど、何かを見落としている気がして不安だけが増してくる。何か、何かがずれている気がしてならないんだけど、言葉にならない。

「……もし、奥間君が少しでも傷付いたら、傷付く場面を見てしまったら、わたくしは自制出来なくなりますから」

 アンナ先輩がこの事件に関わると決めてから初めて見た不安の顔に、僕は何も言えなくなる。

 あの夜のことを思い出すと、もう何も言えなかった。

「だから、声をかけてほしいんですの。それで十分、わたくしは闘えますので」

「わたしもその方がいいと思います」

 不破さんの冷静な声に、その通りかもしれないとは思った。

 月見草ならいいのかと少し思ったけど、きっとアンナ先輩は僕とは全く別の信頼を月見草に寄せている。あの夜アンナ先輩の意向に逆らってアンナ先輩を守ることを選んだ月見草なら、アンナ先輩を守るだろう。傍にいるだけでも心を守るだろう。

「わかりました」

 無理はしないでください、と重ねて伝えると、大丈夫だとこちらを無条件に安心させる笑みを僕だけに向ける。

「ありがとうございます。本当に、わたくしが愛した人が奥間君で、よかった」

 その笑みを見て、さっき感じた何かがずれたような気持ち悪さは気のせいだったとはっきりわかった。

 アンナ先輩は、大丈夫だ。

「さて、連絡手段が整うまでしばらくかかりますわ。奥間君、またあなたにお願いしなくてはならないのですけど」

「はい」

「準備が整い次第、奥間君のお義母様と話さないといけないと思いますので。きっと、現場にいらっしゃるでしょう?」

「…………、そう、ですね」

 そうか、そりゃそうだよなあ、人質交換するには善導課の協力が不可欠でそのパイプは僕の母さんって必然だよね、アンナ先輩vs僕の母さんになるのかなあ。

「あと、おそらくわたくしの母も反対するので、説得の際には傍にいてくださると」

 アンナ先輩vs僕の母さん&ソフィアだった。ソフィアが現場にいるとは思えないけど、下手すれば病院乗り込む前に死人が出るよね、そしてその筆頭は僕だ。

 もとから楽なミッションじゃないのはわかってたけど、多分ここが膣とア○ルに二つ穴フィストフ○ックレベルの一番危ない場面じゃないかなあ、これ。

159 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 21:56:07.66 ID:F6NmpfxW0
みんな深く考察していて本当に嬉しいです。
IF物として、「もしこうなっていたらどうなっていただろう」というものを考えるのが自分は楽しいので、こうやって考えてくれるのを見ると自分もすごく楽しいです。

あともう少しで、アンナ先輩が病院に到着になるんですね。病院ふきとばないか心配です。
160 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/14(水) 22:01:08.08 ID:F6NmpfxW0
あ、すみません、

不破さんは骨伝導ミニミニスピーカーをアンナ先輩に付けた後、いったん外に出て、月見草に合図送って、また戻ってきたのでした。その描写が抜けていました。

あと羅武マシーンとも時系列的には素顔??見てるんですよね、色々ずれが出てきて申し訳ないです。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 22:43:40.47 ID:nz//b7oHo
おつです

そういえばコメ欄見返してみても
誰もアンナ先輩が強力エアガンに立ち向かうことを心配してないな

いい加減にしろ!アンナ先輩は(12階から飛び降りても大丈夫な)か弱い女の子だぞ!
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/15(木) 01:38:32.01 ID:Ox9CupzuO
人質になるのか
今のアンナ先輩を人質にしたらあのバスジャック犯より容赦なさそう
163 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 19:55:14.74 ID:yUHS+YYL0

 不破氷菓の作業は一段落し、今現在自分が急いでやることはなくなった。これをイヤリングに見せるには、早乙女先輩の彩色感覚で仕上げてもらうのが一番いい。

「会長はどちらに?」

 ここを逃すと聞く機会がなくなるだろう。奥間に問いかける。

「ああうん、奥の個室で。何か考えたいことがあるって言ってたけど」

「そうですか。ではわたしはアンナ会長と報酬の件について話してきます」

「卑猥な実験の相手とかは止めてね?」

「そうですか、残念です。今なら奥間さんが許可したことならば何でもしてくれそうなのに」

「だからストップかけてるんでしょ何言ってんの?」

 奥間はこの先、どう人質交換を母親に伝えて交渉してもらうかで悩んでいるようで、それ以上は何も言わなかった。

 気付いていないのだろうか。今の言葉の意味に。気付いていないのだろう。伝えるべきかどうか迷ったが、自分の中でも確信があるわけではない。

 疑念を確認しに、奥の個室へと向かう。

 破壊し尽くされた中に、会長が一人、立っていた。暖房もついておらず、この部屋だけが寒い。

「何をなさってるんですか、アンナ会長」

 呼びかけると、すぐにこちらに振り向いた。いつものアンナ会長だ。余裕に見せているわけでもなく自然体だった。

「そちらこそ、何か問題でも?」

「今わたしに出来ることがなくなったので少しお話しさせてもらおうと思っただけです」

「そうですの。お話とは? 報酬の件でしょうか」

「まあそれもありますが。会長はずいぶんリラックスされてますね。今から敵陣に乗り込もうかという時に、緊張や恐怖心はないんですか?」

「そうですわね。まあどちらも集中するのには必要ですので、」

 いつもの生徒会長状態だったが、相手が氷菓だけでそして氷菓の求める答えではないとすぐに気付き、言葉を切る。

 次の瞬間には、見た者全てを安心させるような慈愛の微笑は消え去っていた。

「ふふっ、不破さんじゃ隠すことはできなさそうですわね。鋭すぎるというのも、なかなか厄介ですわ」

 そう言いつつも隠す必要がないことを嬉しそうに、獣の笑みへと変わっていた。

 唇を舐め、鼻をくんくんと鳴らしながら部屋の空気を深く吸い込んでいく。

「緊張や恐怖心はないのかと訊きましたわね。答えてしまうと、ありませんわ。むしろ、楽しみで待ちきれないぐらいですの」

 《雪原の青》を追い詰め、その手に捕えた時に聞いた、昂ぶりと恍惚の声だった。ある程度想定していて覚悟はしていたしここで氷菓が襲われることはないだろうとわかってはいるが、理性の分析より本能に訴えかける恐怖のほうが遥かに大きい。

「今は“熱”を蓄えているんですの。《雪原の青》や今あなたが見せたような、怯えた表情を思い出すと、ふ、ふふっ」

 指を唇に当て、笑みを抑える。それでもくつくつと笑う声も、寒さではなく期待に震える身体も抑えきれていない。

「あと先程ここでたくさん奥間君に愛してもらったことも思い出していて。その二つの熱をじっくりと思い出してる最中ですわ」

 視線だけでなく身体が完全に氷菓の方に向いた。氷菓の目にはテーブルも椅子も壁も破壊されたこの部屋で、会長の言う愛してもらったと思われるソファだけが無事でいることが、アンナ会長の心象風景に見えてくる。

 性と破壊の快感を覚えてしまった獣の檻はこのような感じじゃないだろうか。

「話をするならば、テーブルのある場所で。ここは向きませんわ」

164 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 19:56:25.92 ID:yUHS+YYL0

 すっと横を過ぎ去り、作戦を立てているテーブルに戻る。どう母親に話すか悩む奥間がこちらに気付き、「あ、アンナ先輩?」多分こちらの顔色が明らかに悪かったのだろう、自分の顔を見て青ざめた奥間が立ち上がった。

「不破さんが話があるそうですので。申し訳ありません、奥間君は席を外していただけますか?」

「いや、その……」

「本当にすみません。ですけど、不破さんも奥間君がいると話しにくいようなので」

「いや、だけど」

「奥間さんは席を外してください」

 自分からも重ねて頼むと、奥間はわかったと渋々頷いて外に出て行った。

 カウンターでは早乙女先輩がイヤリングに仕立てるための作業中で、月見草は隣に座って待機している。

「先程は失礼しましたわ。ちょうどその、一番いいタイミングで入ってこられたので、つい」

 もう先程のような昂ぶりは見せていなかったが、楽しげな雰囲気は隠そうとしていなかった。

「そう言えば、報酬はどうしますの? その話じゃなかったんですの?」

「……一応、無いわけではなかったのですが、やはり保留でお願いします」

 正当な報酬とはいえ、ここで判断はしたくなかった。それよりも気になることを訊く方が大事だ。

「親友である副会長のことは心配ではないのですか?」

「心配ですわよ。だから乗り込むんじゃありませんの」

 心配している人間の態度じゃないと、言葉には出さなかったが氷菓にしては珍しくそのまま嫌悪感として表情に出ていたようで会長の微笑が深くなる。別に普段から表情を隠しているつもりはないのだが。

「不破さんはそう見てはくれませんのね」

「さっき、自分で乗り込むのが楽しみだと言ったではないですか。心配している人間の言葉だとは思えません。今のあなたは理由をつけて、《SOX》を潰せなかった鬱憤を晴らしたいようにしか見えません」

「そう見えますの?」

 周囲の空気がピリピリと張りつめていく感覚は氷菓は胃が痛くなってクマが更に濃くなりそうだったが、会長はそれも楽しめるようで、

「その通りだとして、不破さんに何の問題がありますの?」

 もう話を切り上げるべきか、一瞬悩んだ。その空白を見て取ったのか、

「不破さんは不思議なのでしょう? わたくしが卑猥を見逃すと言ってまで病院に乗り込む算段を付けようとしていることが」

 いきなり核心をついてきて、氷菓はやはり話を聞くことにする。

 もし会長が暴力の快感に取りつかれて、目的を選ばなくなっているのだとしたら。

 卑猥という会長にとっての絶対悪すら見逃してまで病院に乗り込もうとしている理由、動機。

 その動機がただの鬱憤晴らしなのか。目的のために手段を選ばないのか、手段の為に目的を正当化しようとしているのかでは全く違う。

 早乙女先輩の荒療治がどう響いたのか、奥間が何を言ったのかはわからない。だからこそ怖かった。

165 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 19:57:01.36 ID:yUHS+YYL0

「以前に言いましたわね。正しいことを積み重ねてのみ、人は愛され、受け入れてもらえるのだと」

 どこか自嘲気味な声音だった。無言で続きを促す。

「でも、奥間君は違ったんですの。暴力に酔うのは間違っていますわ。でも、そういった部分も受け入れてくれたのです」

 なんとなくそうはなったんだろうとは思っていた。会長が事件のニュースを聞いて衝動をギリギリまで我慢していたところを自分も見ている。

「人は間違っても、許し愛されることが出来るのだと、奥間君に教えてもらったんですの」

 アンナ会長は、本当に純粋に、幸せそうに微笑む。

「奥間君はずっとわたくしを愛してくれていたのです。愛し合うことを避けていたのにも理由があっての事でした。奥間君はわたくしが正しかろうが間違えようが、関係なく愛してくれていたのですわ」

 谷津ヶ森の一件の前に話した時にも感じた、致命的な齟齬がそこで生まれた。

「ずっと想ってくれていた。わたくしの身を案じて、愛の儀式を避けていた。あれほど切ない幸福を感じることすら我慢してくれていた」

 アンナ会長は陶酔しきったまま、ブラインドの隙間から奥間の姿を見つめる。

「奥間君はわたくしのことを想ってくれている。奥間君のやることには理由がある。だからわたくしは、奥間君の願いを叶えたい。奥間君の願いがどのような事であっても、わたくしは全てを尽くして叶えますの」

「どんな事でも、全てを尽くして?」

 不吉さが増して、思わず問い返す。

「ええ。奥間君の願いの実現には手段を選ぶつもりはありません。だって奥間君は、わたくしが間違えても受け入れてくれるから。綺麗でなくなっても、愛してくれるのですから。奥間君の願いには、わたくしの想いや幸せが含まれているのですから」

 意味が分からなくなってきた。会長の言葉は論理的でなくなっている。

 辛うじて読み取れたのが、『奥間の願いが会長にとって最上位に位置している』ということだった。

「奥間君はわたくしの心を慮って、敢えてこう言ってくれましたの。『華城先輩を助けてください』と」

 奥間はアンナ会長の心情や葛藤も思いやった上で、敢えて頼んだ。だからこそアンナ会長は手段を選ばず全力で奥間の願いを叶えに行っている。

 絶対悪である卑猥を見逃してまで、自分の将来を切り売りしてまで。

 一体“どんな事でも”とは、どの範囲までなのだろうか。

「もし奥間さんが、例えば副会長を殺してほしいと頼んだら、あなたはどうしますか?」

「奥間君はそんなこと言いませんわよ? まあもし奥間君がそんなことを言うのであれば、奥間君にとってよほどの理由があるのでしょう」

 小首をかしげて、僅かに悩むと、

「殺し方ぐらいは選ばせてもらいたいですわね。やっぱり親友ですし、出来るだけ苦しみのない方法を選びたいと思いますわ」

「――――」

 意味が分からず、思考が止まってしまった。

 先ほど感じた暴力への恐怖とは全く違うベクトルの、理解できないものに対する恐怖が心臓の動きを早くする。

166 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 19:57:51.61 ID:yUHS+YYL0

「それは、殺人は悪なのではないのですか?」

「悪ですわね。でも奥間君は、どんなわたくしでも受け入れてくれますから」

 以前のアンナ会長と今の会長で、一番明確に違う点が、ようやく分かった。

 以前の会長は、もっと言うなら昼間までの会長は、規範が社会のものだった。正しいこと、この社会の理想が詰め込まれていた。

 それが奥間の言葉、願いに変わってしまっている。奥間の行動は全て意味のあることで、それが全て自分の幸せに繋がっていると信じている。

 そして間違ってしまうという恐怖すらも今の会長にはない。最上位が奥間の願いであって、それを叶える行為は社会的に間違いであろうが、それは自分の幸せに繋がるのだから。

 以前の会長は、愛は絶対の正義であるが故に愛故の行動はすべて正しく、正当化というレベルを超えて罪を罪と意識していなかった。愛が正義という価値観は社会が刷り込んできた規範に基づいてのことであって、罪は社会が定めるものだから、だから会長の中では罪ではなかった。

 今の会長は、意識的に罪を犯せる。奥間の願いが社会の規範より上位にあるから。おそらく罪悪感があろうとなかろうと、それすら本人の中では関係ない。決めてしまっている。

 だから間違っているからという理由では、これからの会長は止められない。

「わかりました」

 何一つわからないし理解すら拒絶するが、それでもわかったことがある。

 奥間が望む、『人質を最優先に』を必ず守るだろう。この事件に関しては、それでいいとするしかない。

 だけど社会という強固な規範と違って、奥間個人の願いなんて簡単に揺れ動いてしまう。

 性と破壊の快感を覚えてしまった人間が意識して罪を犯せるというのは、最悪の予感しか生まない。

「アンナよ、あまり不破を不安にさせるのはどうかと思うぞ」

 早乙女先輩の言葉にアンナ会長がようやく気配を和らげ、恋人に対する陶酔から生徒会長として最もよく見慣れた慈愛に満ちた優しい微笑に切り替わる。

「奥間君を呼んできますわね」

 アンナ会長が立ち上がり、外に出て行く。無意識に息を深く吐いた。早乙女先輩が呟く。

「不破も大概心配性で、お人好しじゃな」

「どういう意味ですか?」

 自分が心配性でお人好しという評は誰からも聞いたことがなかった。だから問い返すが、早乙女先輩は自分の感じている不安や恐怖を共有していないようで、むしろそれが気になる。

「まだまだわしはアンナを描き足りん。今の話を聞いてよりそう思うた。それだけじゃ」

 画家としての感性が、アンナ会長の別の面を見ているのだろうか。氷菓には理解できなかった。


167 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 20:05:14.36 ID:yUHS+YYL0

 アンナ先輩と不破さんは何を話しているんだろう。あの二人どうしてもそりが合わないというかなんというか、仲良しなのは早乙女先輩の描くイラストや漫画の中だけなんだよな。アンナ先輩は割とそういう視線を向けられやすいポジションだから慣れているというか鈍感なんだけど、不破さんは居た堪れないらしくよく僕に回収を求めてきて、そのあたりの話かな。だったらいいんだけどな。

 喫茶店の扉横の壁にもたれ、報道をチェックする。進展はなかった。

「奥間君」

「あ、アンナ先輩」

 カランカランとベルの音と共に外に出てきた。中に入ろうと思ったのだけど、

「すみません。少しだけ、一緒に外の空気を吸わせてほしいんですの」

「え、あ、はい。いいですよ」

 冷えが一段と強くなってきているけど、暖房の熱気よりも外の冷たい空気に触れる方が頭が冴える気がするし、アンナ先輩もそうしたいんだろう。

「不破さんと何を話したんですか?」

 それを訊くと、少しだけ困ったように微苦笑してきた。

「女同士の秘密のお話ですわ。殿方が聞くのは、野暮ですのよ?」

 人差し指を唇の前に立てる。う、こういう普通の女の子っぽい仕草はアンナ先輩本当に可愛いな。

「不破さんには嘘が付けませんわね。誤魔化せないのでありのままを伝えましたけど」

 やっぱりなにか言い合いになったのだろうか、微苦笑の苦みが増していた。精液みたいに、っていつもアンナ先輩は美味しそうに飲んでるけどどんな味がするのか訊いたら発情スイッチを押しそうなので絶対訊かないことに今決めた。

「わかってはいただけなかったようですわ。仕方ないことですが、寂しいですわね」

 きゅ、と袖が摘ままれる。もう片方の手は、さっき作ったペアのペンダントを握っていた。

「不破さんが心配するのも当然ですの。それはわかりますわ。ですけど……」

 俯いて力ない声は今にも消えそうで、アンナ先輩のPMの形状のように儚く溶けていきそうな気がした。さっきまであれほど頼もしく、本当に何でも任せられそうな気がしたのに、なんでこんなに哀しげになっているんだろう。不破さんは何を言ったんだ。

「奥間君。わたくしは必ず、人質救出を最優先にして、綾女さん達を助けますわ。それが奥間君の望むことで、わたくしの幸せに繋がる事ですから」

 空を見上げたアンナ先輩につられて、僕も空を見る。曇天だった。

「あ、雪……」

 アンナ先輩の呟きに良く見ると、確かに雪が舞っていた。アンナ先輩が掌を上にして雪を拾おうとするけど、雪は掌に落ちた途端、掌の熱ですぐに溶けてしまう。

 何かを堪えるような哀切さを漂わせてながら、雪を拾えなかった手は再びペンダントを握りしめる。僕はその光景が崇高なものに思えて、何も言えなかった。

「すみません。戻りましょうか。そろそろ早乙女先輩も作業が終わると思いますし、イヤリングの状態でも機能するかテストしないといけませんので」

 すぐに生徒会室で見る怜悧な横顔に戻って、ペンダントをブラウスの中に仕舞うと、喫茶店の中に戻ろうと袖を引っ張る。

「奥間君は、優しいから」

「え?」

「……わたくしだけを考える人じゃないから、大丈夫」

 呟きはあまりにも小さすぎて、聞こえなかった。


168 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/16(金) 20:12:41.26 ID:yUHS+YYL0
狸吉→難聴発動

お約束ですね。デバガメ先輩はなんだかんだで年長者ですので意外にわかっているのかもしれないけどやっぱわかんねえな。

あとデバガメ先輩の言った不破さんが心配性でお人好しって、それヒロインというより主人公属性だよなってちょっと思いました。アンナ先輩に関しては、ここは皆さんの解釈にお任せします。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/16(金) 22:19:52.43 ID:wyURUd88O
乙です
アンナ先輩は自分の判断だと人を傷つけるからたぬきちの方を信頼してるのかな
不破さんに対しての言葉は意識的に露悪的にしてる気がする
それよか雪が熱で溶けるって熱暴走の予感しかしないんですが大丈夫でしょうか
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/16(金) 23:10:29.47 ID:SHt2Gt6no
今回はアンナ先輩が何らかの罰を受けつつやっぱり何らかの救いを得ていくストーリーなのかな
冒頭での性加害者云々の話もあるし試練を受ける云々もあるからある程度は覚悟しているが……
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 00:27:35.10 ID:5yNcgEwzO
おつ
自覚あるようだけど、間違っても許してくれるから(間違っても)大丈夫ってやばい考えだよな
清濁併せもって成長したのかと思ったけど、不破さんの心配もわかるよね

ってか不破さんはアンナ先輩を心配してるんだね、嫌ってるわけではないのか、相性が最悪なだけで
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 01:30:32.77 ID:1fdU/96so
鬼頭慶介との交渉シーンではアンナ先輩成長したな〜と思ったけど
やっぱり危うい形の成長だったか

不破さんは原作でもアンナ先輩相手だと折り合いが悪いからあれこれ避けているだけで
別に嫌っているわけじゃなさそうなんだよな
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 12:43:43.72 ID:DY9pz6Wyo
一歩間違うとマジに生命の危機だからな
原作でも、全身くまなく舐め取られてビクンビクンしてたりするけど
174 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/17(土) 19:15:30.11 ID:gQ2A6BJF0
作者が熱暴走を起こしたので(ただの発熱です)しばらく更新遅れますごめんなさい
華城先輩やSOXの活躍がなくて申し訳ないけど、もうこのSSに関してはアンナ先輩がメインヒロインということでおなしゃす
175 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/17(土) 19:19:10.03 ID:gQ2A6BJF0
またさげわすれたすみません
おそまつさん見てたら37度後半という微妙な発熱を起こしました
キャラの扱いについては色々あって不満も出てきそうですが、IFものとして色々解釈を広げていただければと思います
FOはしません、また更新しますのでしばらくお待ちください
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 20:14:22.14 ID:58WXntUno
お大事に
のんびり待ってるよ
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 21:06:38.49 ID:1fdU/96so
ゆっくり静養してください

え?メインヒロインは作者さんだろ?(すっとぼけ)
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sages]:2015/10/17(土) 21:18:39.51 ID:Y+OUmpe2O
おつ、風邪ですか?
アンナ先輩は自覚してるって意味で成長してると思ってる。続きは待ちますので、ご自愛なさってください
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 23:02:32.92 ID:OLer0atDO
そういえばご自愛下さいって自分を愛せ、つまりオ○ニーして下さいという意味になるのでは(ry

お大事に
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/17(土) 23:59:27.65 ID:gQ2A6BJF0
 以前の会長は、愛は絶対の正義であるが故に愛故の行動はすべて正しく、正当化というレベルを超えて罪を罪と意識していなかった。愛が正義という価値観は社会が刷り込んできた規範に基づいてのことであって、罪は社会が定めるものだから、だから会長の中では罪ではなかった。


こういう分析をさらっと書けるのがすごいなって自分は思ってます。お大事に!
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 00:07:47.45 ID:nvIdzE77o
IDが……え……?しかも日付が変わる直前……?
自演……?
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 00:23:44.62 ID:ZsoeQ2VGO
熱出してシャットダウンし忘れたPC使って、同居人がイタズラで書き込んだんだろう
そういう事にしてあげようよ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 00:34:50.80 ID:nvIdzE77o
まあ別に自演だったとしても気にせず読むけどね
この作品が好きだから
184 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/18(日) 01:03:21.72 ID:J6LkKqHB0
どうしました? 何か問題ありました?
185 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/18(日) 01:05:05.88 ID:J6LkKqHB0
ああ、IDかあ。以前も被ったことありました
……親が見てるとかだったら私自殺するんで未完になります、すみません
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 01:22:57.88 ID:+W7R7PDDO
まあIDが被ることもありはするさ
とりあえず、ゆっくり休んで下さい
そして早まらないで下さい(切実)
187 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/18(日) 02:12:19.89 ID:J6LkKqHB0
泊りに来ていた姪っ子(JD)の仕業だと判明しました。
殴っといた。熱上がりました。私は貝になりたい
「えー、そんなこと全然興味なさそうなのに、むっつりなんだねー」って言われた時の絶望感は何なんでしょう。
ついでに前作品も呼んだらしく、よく書けるねこんなのと言われ、私はどうすればいいのでしょうか。死にたい
二次創作は特に身内には読まれたくないんですよね……
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 02:45:46.67 ID:+W7R7PDDO
あー……
身内にバレるのはきついよな……

JDの姪っ子さんがどんな人かとか作者さんの年齢とか家族関係とか姪っ子さんの感想とか正直あれこれ聞いてみたいが……
今は熱的にも精神的にもお大事に……
続きはいつまでも待ってます
189 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/18(日) 04:40:16.32 ID:J6LkKqHB0
・サザエさんとワカメぐらいに年が離れてる姉妹(私が妹)
・姪が生まれた時自分は8歳ぐらい

熱暴走はこれぐらいにしておきます。変な時間に目が覚めました。自愛と自慰はやっぱり意味は違うと思うの


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 12:13:28.98 ID:nvIdzE77o
自演疑ってすみませんでした
あと、姪っ子さんに読まれた件、ご愁傷様です

そんだけ姪っ子と年齢が近ければ叔母・姪じゃなくて姉妹的なノリになるよな
タラちゃんとカツオぐらいの年齢差だしな
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/18(日) 13:00:02.29 ID:G0nMlsXrO
普通はすっとぼけるのに律儀に報告する>>1は、いい人なんだろうなと思った(こなみかん
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/20(火) 22:45:13.62 ID:Bo758u8+o
姪っ子さんの件から二日経過か……
姪経由で作者の親にも作品読まれて>>185の通り、とかじゃないよね?
193 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/21(水) 06:43:41.53 ID:BerYVkE10
ちょっとしばらくは体調と仕事が立て込んでおりまして、あと3日ぐらい?時間をいただければと思います、申し訳ありません
自殺はしてませんが、死にたくはなってます。そう言えばニコ生で一挙放送があるのでチェックしましょう!
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/21(水) 08:55:48.60 ID:8bomcF2Ro
ああ、ひとまず安心しました
ニコ生はタイムシフト予約しました
もう一度振り返りましょう
195 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/23(金) 11:48:08.48 ID:SwMl3gGS0

 用意されていたバンの三列シートの一番後ろに不破さんと早乙女先輩が詰め込まれ、僕とアンナ先輩が真ん中に座る。月見草は助手席で、免許を持っているアンナ先輩直属の風紀委員が運転して病院に向かっていた。距離は大したことがないのですぐに着くだろう。アンナ先輩と月見草が人質として潜入し、僕と不破さんと早乙女先輩は病院近くの駐車場に止めたこのバンの中から、監視カメラとアンナ先輩に仕込んだ盗聴器で状況を確認しつつ場合によっては指示を飛ばすという二つのグループに分かれることになる。

 早乙女先輩の作ったイヤリングは華美過ぎず主張しすぎすに、アンナ先輩の魅力を引き出す可愛らしいバラのようなデザインになっていた。本人の服は制服か作務衣ぐらいしか見たことないのだけど、流石に画家と言うべきか、こういったセンスは飛び抜けている。

「どうですの、奥間君?」

「あ、え、その、似合ってます……いや、本当に」

 言葉に詰まったことにちょっとジト目で唇をとがらせて、それでも褒められたことが嬉しそうだった。不破さんと早乙女先輩二人が後ろでにやにやなのかよくわからない反応してるけどつっこんでやるものか。

 息を吐いて、監視カメラをモニターする。音がないから会話はわからないけど、大きな変化はない、と思う。

「人質に危害を加えていない辺り、最低限の良心はあるのでしょうか」

 不破さんが呟いた。同情ではなく、あくまで観察者として犯人を分析していた。

「ここまで大規模な事件を起こしている以上、犯人も後がありません。良心に訴えかけて改心していただけると助かるのですけど、それは考えない方がいいですわね」

 不破さんの言葉が無機質なら、アンナ先輩の声はひたすら冷たかった。たった今僕に褒められた喜びの感情が微塵もない。その瞳だけが凶悪な獣となって、モニター越しに犯人たちをじっと睨んでいる。

「緊張しますわね」

 緊張というよりは昂ぶっている。アンナ先輩は少し考えると、

「奥間君を模したアレを下腹部に入れておけば、わたくしも少しは落ち着くでしょうか」

「すみませんそれだけは絶対やめてください」

 何その衆人環視プレイ、落ち着くどころか確実にビクンビクンして手加減できずに相手を殺してしまうじゃないですか! 憎しみに我を忘れているアンナ先輩も確かに怖いけど、アンナ先輩が一番怖い時は性獣モードなのを忘れてはいけない。愛に我を忘れている時は絶対に自制しないし僕の言葉も聞かないのは精液より明白な現実だ。

「動きが鈍くなったり動けなくなったら元も子もないじゃないですか、ね?」

 宥めるように、何とか必死に誤魔化した。月見草や運転手は事情が分からないから黙っているが、後ろバカ二人も説得に協力しろよ。

 そんなこんなでしばらく経過し、何とか説得が終わったのとほぼ同時に車は現場近くの駐車場に止められた。

196 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/23(金) 11:48:40.95 ID:SwMl3gGS0

「では、あとのことはお願いいたします。あ、そうそう」

 アンナ先輩はにこやかに後列の二人に笑いかけ、

「奥間君に変な気を起こしましたら、誰が何を言おうとも最大の愛の罰を与えますので、振る舞いには気を付けてくださいまし」

 暗黒オーラを放ちながらドアを閉めた。うん、このあたりだけはブレてないな。ブレていてほしかった。《センチメンタル・ボマー》の抹殺も絶対撤回しないんだろうなあ、これだけは。

 僕とアンナ先輩、月見草が病院に向かう。

「月見草さん、お願いがありますの」

 暗黒オーラは消え、歩きながら、後ろに付き添う月見草を見ず、ただ前を、病院を目指しつつ。

「人質交換が通りましたら、わたくしの安全より人質の安全確保に努めてくださいまし。わたくしなら自分で自分の身を守れますわ」

「それは……」

 月見草が迷っていた。判断を仰ぐように僕を見るが、僕も答えようがない。

「月見草さん。あなたにはわたくしの身の安全ではなく、心を守ってほしいのです」

「…………」

 月見草の無言は、現場前に到着するまで続いた。

「――かしこまりました。この件が終わるまで、『人質の安全』を最優先事項とします」

 アンナ先輩は返事をしなかった。

 後になって考えればこのお願いが最大の間違いだったのだけど、この時はその通りだと、そう思ってしまった。華城先輩や不破さんであっても、きっと同じくアンナ先輩のお願いに、アンナ先輩自身が我を忘れてしまうことを危惧していることに、安堵したと思う。

 『KEEP OUT』の黄色いテープが張られているのをアンナ先輩は当然のように潜り抜ける。

「おいこら、お前達!」

 善導課の職員が声を荒げるけど、

「奥間主任がいらっしゃいますでしょう? そこまで通してくださいまし」

 あくまで淑やかな、だけど有無を言わせない迫力を伴ったアンナ先輩のあまりに堂々とした佇まいに、職員は黙ってしまい、あろうことか母さんのいる場所まで案内してしまった。多分後で母さんに再教育されるだろう、ごめんなさい。

 母さんは小型のバスみたいなところにいた。多分ここが現場近くの臨時本部になっているんだろう。

「何故貴様らがここにいる?」

 ぴん!と無条件に背筋が伸びた。母さん、マジで苛々している時の声だコレ。

 そしてその声を聞いて、何故かアンナ先輩の微笑が深まった。これ周囲の人々に避難勧告出すべきじゃないかな、バトルになったら下手したら死人が出る。というか多分僕が死ぬ。


197 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/23(金) 11:49:53.36 ID:SwMl3gGS0
少しだけ投下しました、早めの昼休み
アンナ先輩は完璧超人なので、大きな障害があるとむしろ嬉しくなるのかもしれません。さすが性欲プレデター
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 12:48:18.86 ID:tTVn/bwS0
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 17:58:42.20 ID:miJJopP8O
乙です
体調大丈夫?

アンナ先輩、着々とフラグ立ってる……
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/23(金) 22:20:32.42 ID:c9UWkXZuo
乙です
明日はついに一挙放送ですね
なんだかんだ1ヶ月ぶりに放送みるな……
201 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/10/24(土) 21:09:02.56 ID:bBZqZcuC0
一挙はじまってますが重すぎて(画面が)かちんこちんに固くて諦めました。プレミアムなのに真っ黒。コメント真っ白。

申し訳ないですが体調が芳しくないのと、やっと華城先輩たちの出番が復活するのでちょいとじっくり書くので、少し時間をいただければと思います。早ければ明日の夜、でも多分次回は明後日の夜投下予定です。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/24(土) 22:34:58.45 ID:4RbC5dmAo
りょーかいです
じっくり待ってます
こっちは一挙放送楽しんでます
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/25(日) 02:19:50.16 ID:4VwL5yhO0
かちんこちん
固くて
真っ黒

失礼しました。続き待ってます
204 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/26(月) 18:41:01.45 ID:G1egymaY0


 重傷を負った親友がいる、だからせめて自分と護衛をしてくれる風紀委員一名で人質交換を交渉してほしい。

 アンナ先輩の言った言葉は、結局のところその二つだった。その二つの言葉を聞いた母さんは、

「ぶげあ!?!」

「貴様あぁ!?」

 怒声に周囲の空気がびりびりと震え、僕は頬を殴り飛ばされここまで案内してくれた職員も巻き添えにしてぶっ飛んだ。周囲の職員が一斉に佇まいを直す。調教すげえ。

「ま、待って、かあさ、おぼぁ!? は、話聞いて」

「貴様は! 女を! 危険な場所に! 行かせるのか!? 何故、貴様が、行かんのだ!?」

 ぎゃ、が、母さん、腹は、ボディは止めて! 背中を丸めると何とか背中に集中して、そうして少しだけダメージを減らす。あんまり意味はなかった。

「奥間主任さん」

 あまりの怒りに周囲は一切動けないというのに、アンナ先輩だけが平然として母さんの役職としての名前を呼ぶ。

 鈴のように涼やかで軽やかな声が、その場にしんと染み渡る。母さんの攻撃も一瞬止んだ。

「これはわたくしの我儘ですの。奥間君までも危険な目に遭ったら、わたくしは自分でもどうなるのかわからないので」

 アンナ先輩は僕をぼこぼこにしていた母さんに向き直る。

「わたくしはアンナ・錦ノ宮。《公序良俗健全育成法》を作り上げた、錦ノ宮祠影とソフィア・錦ノ宮の娘です」

 アンナ先輩の視線は、子供なら裸足で逃げ出すようなおっかない風貌の母さんから一切ブレないまま、

「犯人たちも、わたくしとお話ししたいと思いますわ。きっと」

 微笑を一切崩さずに言ってのけた。こういうことで引く人じゃないのはわかっていたけど、やっぱり母さん相手に一歩も引かないのはすごい。

「わたくしと奥間君なら、護身術の腕はわたくしの方が上ですわ。これでも、自分の身は自分で守れますのよ」

 ……護身術って言った? 今?

 アンナ先輩は手でピストルの形を作って、人差し指をこめかみに当てると、

「わたくしならこの状態でも、引き金を引かれる前に反応して相手を組み伏せてみせますわ。手錠程度の拘束なら、力で抜けられますのよ」

 出来るんだろうなあ、きっと。

 アンナ先輩に言わせっぱなしじゃあんまりなので、僕からも何とか説得する。

「母さん。母さんたちにとっても、中の状況を伝えられる人間は必要だろ? どう対処するにしても。あくまでアンナ先輩は目くらましで、内部の状況にあわせて指示に動くのは、こいつ」

 後ろでずっと立っていた、月見草を指す。

「月見草だよ」

「…………」

 一時的な感情による暴走ではなく、それなりに頭を使って考えてきて、こちらが本気であることが伝わったのか、母さんは僕に手を出すことを止めた。

「ガキが口出しすることではない」

 ただ、そう吐き捨てた。反射的な反発として怒りが湧くけど、ここで母さんと喧嘩したって何にもならない。


205 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/26(月) 18:42:11.74 ID:G1egymaY0

「母さん。アンナ先輩がどれだけ友達を心配してるか、事件を伝えた母さんならわかってるだろ?」

「子どもが何とかできる範囲を超えていると言っている。これは私達の仕事だ」

「では、その仕事の権限はどこまで与えられていますか?」

 アンナ先輩が言葉の刃を返していく。僕もそれに続く。

「母さん。僕達でもいろいろ考えたんだけど」

 まだ地面に突っ伏した体を、何とか起こす。あちこち痛みはあるけど動くには支障ない。さすがにこのあたりは母さんも加減をわかってくれている。

「この事件、全員が人質の解放に動いているの? 違うよね、国としては少しでも引き延ばそうとしてるよね」

「誰がそんな戯言を言った」

 即座に切り捨てるけど、僕にはわかる。母さんには届いている。

「今、政府はあのデモで揺らいだ信頼を何とか取り戻したい。このテロの要求、《育成法》の廃止に対して決して屈しない姿勢を見せつつ、《育成法》に繋げて《ラブホスピタル》にも反論するやつらを悪とレッテルづける。それにこの事件はうってつけだ」

 はっきり言ってしまえば、《育成法》そのものと《ラブホスピタル》は、無関係だ。最終的な目的がどうであれ、ソフィアの立ち位置を見ても《育成法》を支持していることと《ラブホスピタル》に反対していることは、相反しない。だけど政府としてはそんなものはどうでもよくて、ただ立場がより強くなればいい。

 傷病人のいる病院をジャックした犯人は極悪人で、そういうやつらが主張する『《育成法》の廃止』は間違っていて、だから国の決めたことに反対するやつらは全部間違っていて、だからソフィアたちが起こしたデモも間違っている。

 めちゃくちゃな論理だけど、ここに人命が関わってくると、全部ひっくり返る。政府は主張を通すために、人質を切り捨てることもあり得る。無論警察の無能さを突かれるだろうけど、主張の通すために人命を犠牲にしたら、その主張はどれほど正しくてももう通らない。政府は自滅するのを待っていればいい。

 だけどその人質は、政府にとっては大勢の国民の一人でも、僕達にとっては大切な人たちの一人なんだ。

「母さんが心配するの、わかる。現場の責任者として簡単に頷けないのもわかる。だけど、ごめん。酷い言い方をすれば、母さんでも僕達は信用できない。母さんがどう思っていても、上からの命令とかそういうのが、きっと邪魔するだろうから」

 だからそういうしがらみのない、僕達子どもが動いてやるんだ。

「君も同じ意見なのか?」

 母さんがアンナ先輩に問う。

「ええ。別に善導課の皆様の邪魔をしたいとかではありませんわ。ただ、長引けば長引くほど人質の危険は高まります。綾女さんは重傷を負ってますから、一番危険な位置にいると思いますの。わたくしは健康ですから、いざという時も動けますけど、綾女さんはそうはいかないのです」

 アンナ先輩は雪の降る中、病院の最上階、人質が閉じ込められているであろう場所を見上げた。

「国が何を考えているのか、お母様方が何を思ってあのような行動に出たのか、わたくしにはどちらの言葉が正しいのか、わかりません。ですが、はっきり言えることはあります。大切な方がいて、その方を助けたくて、なのに出来ることを何もしないことは、間違っていると、そのことだけは、絶対に」

 アンナ先輩は再び、僕の母さんと視線を合わせる。

「改めて、お願いします。奥間主任さん。わたくしの身柄を人質の交渉に使ってくださいまし」

 アンナ先輩は母さんをお義母様とは呼ばず、敢えて役職名で呼んでいる。

 その意味が伝わってくれたのか。

「そうか」

 母さんはそう呟き、アンナ先輩に近付く。

「不甲斐無い大人で済まない」


206 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/26(月) 18:43:14.33 ID:G1egymaY0

 パシン、と小さく何かがぶつかる音だけが聞こえた。

 アンナ先輩の瞳には凶悪な獣の光が、母さんの顔には驚愕が浮かんでいる。え、なにこれ?

「酷いですわ、お義母様」

 ぎゃあああああ! よく見たら母さん、アンナ先輩のボディに拳入れようとしている格好で、アンナ先輩は母さんの手首をつかんで力が拮抗してるんですけど!? 母さん言葉が通じないからって親友の娘に実力行使するか!?

「言いましたわ、わたくし。たとえピストルをこめかみに突き付けられたとしても、引き金を引かれる前に反応できる自信がある、と」

 言葉が終わる前に母さんがアンナ先輩を気絶させようと動く。だけどアンナ先輩は全て弾くかいなすか躱すかをして、全ての攻撃をしのぐ。

 ハッキリ言って目で追うのが精いっぱいで、何が起こっているのかさっぱりわからない。二人のあまりの気迫に、周囲の善導課の皆さんも絶句している。多分母さんと互角にやり合える人を初めて見たんだろうな。それがこんな絶世の美女だったら絶句もするわ。

 互いに距離を取り、一旦攻防は止む。アンナ先輩が僕の近くまで下がってきた。母さんはちっと舌打ちする。

「身体能力までソフィア譲りか。可愛らしいお嬢さんだと思っていたが、言い出したら絶対に実行するところもそっくりだ」

 母さんは背中を向けてバスの中に入る。「母さん!」呼びかけるけど返事はなかった。

「多分調整に入ってくれたんだと思いますわ。少し待ちましょう」

「そう、ですね」

 異次元の戦いに僕が入る込める隙間はなく、ただそう頷くしかなかった。しかし、言うべきことは言えたはずだ。

「アンナ先輩、母さんがすみません」

「いえ、あれも親心、大人としては当然でしょう。わたくしも似たようなことはすると思うので」

「アンナ先輩、全部かわすか避けるかしてましたよね。反撃はしてなかったように思うんですけど」

「ええ。……腕が少し痺れていますわ。流石ですわね。一度、本気の手合わせをお願いしたいですわ。奥間君とお義母様がよろしければ」

 そう言うアンナ先輩の獣の瞳には、歯ごたえのある獲物を見つけた歓喜の成分が混じっていた。

 アンナ先輩、ただ自分より下の人間をいたぶるより、強敵を徹底的に叩き潰す方が好みなのかもしれない。ある程度交渉や策略も出来るようにはなったけど、それは舞台を整えるためであって、舞台に上がってしまえばやはり正攻法で相手を存分に叩きのめすんだろうな。



『アンナが本気になったら誰だって敵わないわよ。つきいる隙のない完璧超人なんだから』



 もしかしたらアンナ先輩は自分と同じ実力を持つ相手と戦ったことがないんだろうな。身体能力も頭脳も人より飛び抜けている人だし、何でもできたアンナ先輩は負けたことがないんだろう。だから中々上手くいかない《SOX》の捕縛も憎悪を覚える前は愉しげにすら見えたし、母さんに対しても強敵として一度本気の勝負をしてみたいのかもしれない。弱い人間が怯えるさまを見ることにもある種の快感を得てはいるようだけど、多分困難な相手の方がより燃えるんだろう。……もしかしなくてもアンナ先輩が僕に執着したのって、僕が避け続けてたせいかなあ、やっぱり。

 しかし、ストレス解消になるんだったら、母さんとの手合わせというのもお願いしてみるのはいいかもしれない。それは考慮に入れておこう。

「奥間君」

 大人たちを強敵とみて、どこか嬉しそうなアンナ先輩だったけど、急に顔が陰る。

「今からきっと、お母様が猛反対すると思いますの」

「そうですね……説得できそうですか?」

「…………」

 少しだけ、哀しさと寂しさが等分に混ぜられていた。


207 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/26(月) 18:43:42.80 ID:G1egymaY0


「奥間君。奥間君がもし、わたくしのお母様を殺してほしいと願えば、わたくしはありとあらゆる手段を使って、お母様を殺しますわ」

 唐突な、あまりに物騒な告白に思わず面食らう。真意がわからず、僕はただ言葉を待つしかなかった。

「奥間君とお母様なら、わたくしは奥間君を選びます」

 これは、いいことなのだろうか。ソフィアの教育に、理想に縛り付けられていたアンナ先輩が母親以外の選択肢を見つけたことはいいんだけど、やっぱり危ういと感じてしまうのは、どうしてだ。

「奥間君が一言、お母様に逆らえと言えば、わたくしは何も怖くありませんわ」

「……それは、アンナ先輩が、自分の意思でお母さんと対決しないといけないと思います。僕が言ったからとか、そういう逃げ道作ってたら、いつまでたっても向き合えませんよ」

「…………」

 アンナ先輩は嬉しさと寂しさという矛盾する笑顔を浮かべて。

「そうですわね」

 アンナ先輩のPMが鳴り響いた。「お母様からですわ」だろうなあ。

「少し、席を空けますわね」

 そう言うと、僕達のいない場所で何やら会話が始める。聞こえはしないが、アンナ先輩の表情自体は平然としているように見える。

 けどついこの間まで絶対だった人に逆らうというのは、どれほどの勇気が必要なんだろう。

「月見草」 

 隣でただ見ていた月見草に、僕は頼んだ。

「アンナ先輩のこと、守ってやってくれ」

「かしこまりました」

 月見草は普段通りに無機質に定型文を返してくる。

 だけど不安定なアンナ先輩には、そういうのも必要なのかもしれないと思った。

 アンナ先輩が戻ってくる。

「だいぶ怒られてしまいましたわ。ですが、こちらが引く意思を持たないことをわかってくれたようです」

 また、人質たちのいる最上階を見上げる。

「もうすぐですわ、綾女さん。鼓修理ちゃんに、ゆとりさんも」

 アンナ先輩は制服のタイの下、ペアで作ったペンダントを握りしめる。

「必ず、助けますから」

 雪はちらほらと、ちょっとした風であっちこっちにふらふらと舞い落ちていく。

208 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/26(月) 18:47:26.85 ID:G1egymaY0
次回からようやく病院潜入ミッションの開始です。《SOX》女性メンバーほったらかしで申し訳ない。
次回からは出番あるよ! 多分
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 21:55:24.89 ID:3c/OAnmLo
乙乙
待ってる
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 23:01:34.80 ID:ptiPcHP7o
おつ

そうだよね、あの戦闘力を見ればパンチやキックだけでなく突きを入れる隙だってないのは明白だよね
……すまん、茶化すつもりはなかったが誤字が気になってしまって
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/27(火) 01:22:03.16 ID:xS8M1uGmO
指摘うぜえ。どこの部分か知らんけどプロの校正が入っても誤字はあるときはあるんだよ

乙です。力関係って
覚醒アンナ先輩≧たぬきち母さん≧ソフィア≧通常アンナ先輩
だっけ、覚醒=胸吸われてびくんびくんしたあと。性欲が上がると身体能力上がるからなぁ、魔法のドリンク飲んだ時が一番最高だっけ。怖ぇぇ
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/27(火) 01:38:01.22 ID:f9kDFIkjo
作品内3強が全部女性という驚愕の事実
男性陣は女性たちに喰われる運命にあるのですね……
213 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/30(金) 20:04:29.04 ID:P3Za+YlU0


「――五人、解放する」

 犯人の一人からいきなりそう告げられ、人質たちはにわかに浮足立った。

(何か、交渉が成立したようね)

 《SOX》のリーダーである《雪原の青》こと華城綾女はどこか空ろに呟く。ゆとりはその様子にシンパシーと苛立ちを覚えた。

 狸吉とあの化け物女がくっつくのが嫌なら素直にそう言えばいいのに、このバカ。

(あんまりいい感じじゃなさそうッスけどね、犯人の様子を見た感じ)

 残念ながら、解放される人質に自分達は含まれなかった。一応病気という体で入院していた大物政治家や芸能人、それとその連れなど、そちらが優先されてしまっている。

(結構な人選ッスね。犯人にとっては余程の好条件を呑んだんじゃないッスか?)

(何だよ好条件って)

(知るかッス。報道だけじゃわかんないんスよ)

 だけどすぐに、その好条件の一端が見えた。



「綾女さん。鼓修理ちゃんに、ゆとりさんも……無事ですの?」



「「「…………」」」

 見る者を安心させる笑顔を浮かべる。その笑顔だけで何も知らない他の人質は心の疲労が癒されてしまってるが、何故化け物女が自分たちと同じように後ろ手に手錠をかけられてここにいるのだろう? あとついでにお付きの風紀委員もいるが、何故?

 化け物女が犯人に後ろから乱暴に突き飛ばされる。

「きゃっ」

「アンナ様!」

 反射なのか、確か月見草とかいう名前の風紀委員が叫ぶ。

「大丈夫ですわ」

 この程度であの化け物女がよろめくどころか突き飛ばされるわけがないので、多分というか絶対演技だ。

「本当にお友達を助けるためだけに自分から人質になったんだ。美談過ぎて気持ち悪い」

 突き飛ばした犯人が、女は本気で嫌っているのか、吐き気を堪えるような嫌悪感と共にそう呟いた。だけど化け物女は無視して殆ど抱きつくように綾女に近付く。

(少し、我慢してくださいまし)

(――――っひ)

 綾女が完全に固まった。見張りの犯人たちにも他の人質たちにも見えない角度だし、実際そんなことが行われているなんて思いもしないだろうから気付かれないだろうが、自分と鼓修理には見えていた。

 綾女の耳に舌を突き入れているところを。

(????????!!?!!!!?)

(ああああああ、あ、あんた、な、何を?)

「綾女さん? 大丈夫ですの?」

 一瞬見せた冷たい怒りの無表情は消え、再び安心させるような笑顔で綾女に笑いかける。ついでにこちらにも笑いかけられた。

214 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/30(金) 20:04:55.31 ID:P3Za+YlU0


「――ええ。大丈夫よ」

 綾女も一瞬、本気で恐怖に怯えていたが、綾女には今の行為が何か意味あることがわかったようで、すぐに頷いた。こちらは全然意味が分からないが。

 さっきまで見せていた消沈はなく、綾女は切り替えている。

 化け物女は綾女と鼓修理の間に割り込むように座る。ゆとりとは綾女を挟んでいる形になった。風紀委員は化け物女を守るためか、自分たちの前、犯人との間に座る。

 犯人たちは化け物女に興味津々のようだったが、見張りの交代の時間になったのか、犯人が入れ替わっていく。その隙をついて、綾女が今のことについて説明する。

(イヤホンがお耳にプラグインしたわ)

 そう言われて、はっと気付く。鼓修理はもう少し気付きが早かった。化け物女は頷く。

(口の中まではチェックしないだろうと。鼓修理ちゃんとゆとりさんの分も預かっているのですけど)

 僅かに口を開き、舌先に小さなビニールのチャック袋に入ったイヤホンが少しだけ見えた。しかしその、今のと同じやり方はさすがに不自然だしなんというか生理的に嫌だ。

(その、お姉ちゃん……鼓修理にその袋、渡してほしいんスけど)

 化け物女は一瞬考えたが、すぐに頷く。そしてまた一瞬だけ鼓修理の肩に頭を寄せたかと思うとまた上がった。それだけで鼓修理はおぞましそうに身を震わすが、今の一瞬の交錯で鼓修理の掌の上にビニールが落ちたのが見えた。唾液まみれなのはこの際気にしない。朱門温泉ではもっと体液にまみれたらしいしまあ大丈夫だろう。自分も生理的嫌悪感は無論あるが、流石に化け物女も真剣なのがわかったのでそんなことは言わない。

(少し落ち着いてからにしましょう。すぐにだと流石に不自然だから)

 綾女が真剣な顔で犯人の様子をうかがいながら言った。

(どうして、来たの?)

 そして綾女が僅かに非難するように、化け物女に問うた。

(皆さんを助けるため、ではいけませんか?)

(駄目じゃ、ないけど)

 綾女は複雑そうだった。PMを外される前に狸吉には言っておいたはずなのにと、そう思っているのだろう。

(ごめんなさい。わたくしのわがままですわ。全ては終わった後で)

 化け物女は舌なめずりをしながら、縄張りを侵された獣のように獰猛な笑みを浮かべる。全身の毛穴がぶわっと開き、冷や汗が止まらない。死ぬほど怖い。

(そう、全ては犯人たちにオシオキをした後で、聞きますわ)

 犯人たちは呑気にも気付いていない。そもそもこの化け物女は表面上は確かに清楚で綺麗なお嬢様にしか見えない。犯人たちもそう思っているだろうし、人質も送り込んだことに協力した善導課もきっと気付いていない。

(……む、向こうには誰がいるんスか?)

 鼓修理が訊ねる。化け物女は犯人たちを見据えながら答えた。

(奥間君に早乙女先輩、不破さん。わかりますか?)

 自分も鼓修理も頷く。外との連絡手段を得た。そして今回は、この化け物女はどうやら味方らしい。

 そして敵対した相手には善導課より他のテロ組織より、誰よりも容赦が一切ないのは自分達が一番わかっている。一番的に回してはならない人間の一人を敵に回した犯人たちに心から同情した。

215 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/10/30(金) 20:06:56.25 ID:P3Za+YlU0
誤字に関してはチェックしているのですが、推敲は自分だけだと思い込みもあってなかなかうまくいかず申し訳ないです。
ちょいと体調が悪かったけど治りました。のんびりペースですが頑張ります。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/30(金) 22:21:07.28 ID:NYupqGNZO
乙です
前作は原作リスペクト感出てたけど、今作は>>1の作風が出てるね
いやいいよ、基本シリアスな感じなのは知ってるつもりだしそういうのもいいし、何よりレベル高い二次はいいよな
犯人達はアンナ先輩に憎悪抱いてそうだね、育成法に守られて生きてきた成功例に見えてるうちはそんなものだろうな
願望としては犯人達をもっと描写して欲しいなと思う、応援してるよ
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/30(金) 23:43:27.66 ID:iISyAGeVo
おつ
アンナが化物並の強さなのは分かるんだけど
ころせるほどの威力がある凶器を所有し、ある程度は鍛えてそうな犯人たち相手でも無双できるのかね?
一応今のアンナは「人質を最優先に」という狸吉の願いを聞くわけだから
混戦になっても犯人側は人質で脅せばアンナも止まらざるを得ないわけだし……
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/31(土) 04:17:11.75 ID:KmKmDmGMO
多分不破さんや華城先輩が危惧したのはそこで、『人質を最優先に』より『犯人の殲滅』に天秤が簡単に傾きそうなのが今のアンナ先輩の不安定な部分であり、キーなんだろう
間違えても愛してくれるなら欲望を優先して構わないわけだし、本当はたぬきち以外はいらないわけだし
原作のアンナ先輩ならどうなんだろうな
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 13:11:57.88 ID:nXTu/OLfo
うわああああああああ
ここに書くことではないかも知れないが、ショックで混乱が収まらん、マジかよ…
220 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/11/02(月) 13:18:49.37 ID:my+MyrgH0
アンナ先輩の中の人の訃報にショックで言葉が出ないです。書きつづけることを迷うぐらいにショックで。
侮辱に当たるとまでは思っていませんが、流石に不謹慎かなとは考えています。
一応自分なりにキャラクターにはリスペクトしているのですが、中の人と切り離して考えるということが出来なくて。
アンナ先輩はあの声だったからというか、松来さんの怪演があったからこそ自分はファンになったので。
アニメから入ったので。ちょっと色々と、迷ってます。

すみません、少し時間を下さい。楽しみにしてくださっている方がいるなら申し訳ありませんが、
殆ど遺作に近いこのキャラクターを題材に二次創作するのは不謹慎じゃないかと、その想いがどうしても払えないのです。

謹んで哀悼の意を表します。アンナ先輩の中の人があなたで、本当に良かった。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 14:13:28.34 ID:ksvQPJoDO
ニュース見てこのスレ思い出して来てみればすでに作者さんがコメントしてたのか……

一読者としては続きはもちろん期待しているけれど
作者さんの下セカへのリスペクト具合やアンナというキャラへの理解・入れ込みようの深さはこれまでの文章で十分伝わってきて
それだけ入れ込んでいたのだからショックもひときわ大きいと推察します

これだけ良質なSSを書き続けることは決して松来さんへの侮辱や不謹慎な行動などではなく
むしろ一つの哀悼の意の表明法として認められるのではないかと個人的には思うのですが
故人本人でも遺族でも所属事務所の人間でもない人の意見なので何の根拠もない意見です
何より作者さん本人の気持ちの問題なのでたとえ遺族が認めていたり一般論としてどうなのかという話をしても意味がないのでしょう

とりあえず今はゆっくりお過ごしください
商業作品ならともかく、SSは詰まるところ続けるも止めるも作者さんの自由です

松来さんの訃報に心を痛めていると同時に、私は作者さんのことも心配しております
決して無理をなさらずお過ごしください
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 15:02:36.92 ID:akPA7AiiO
キツいよな。このニュースは。

あなたが原作リスペクトしてて、アンナ先輩という複雑なキャラをキチンと解釈しようとしてるのが伝わってきてて、IFものとして二次ならではの話を大変面白く思いながら読んでました。

二次そのものがグレーで、不謹慎かもしれないという懸念はもっともだと思います。そう思える人だからこそ、アンナ先輩というキャラをただの痴女モンスターで終わらせず、何も知らないままに処女喪失した女性が壊れたり歪んだりしていく様子を、それでも失わなかった優しさや愛をちゃんと書いてくれたりをできたんだなとも思っています。プロ作家でもここまでキャラを読み込む人は少ないかもしれません。

色んな考えがあると思います。続けるも否も、>>1さんの自由で。続けられないとなっても、状況的に仕方ないのはわかりますので。

アンナ先輩の声が松来さんで良かった。この言葉が全てだと思ってます。
223 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/11/03(火) 00:18:24.93 ID:6gJRNKNs0
いえ、自分のことは心配しなくて大丈夫ですよ。今はただ冥福を祈るばかりです。ショックなのは皆さん同じでしょうから。
他にも録り終えているのがあるのかもしれませんが、アンナ先輩が実質遺作なのかな、と。印象的にはそう思います。
二次書いてる途中でそのキャラに関わった人が亡くなった経験がないので、
悲しみと言うよりは空虚とか戸惑いの方が大きいです。

まあ結局は、続けていいのかどうかだけなんですね。迷っているのはそこだけです。
原作とは違って間違ってしまったアンナ先輩をこのまま放りだすのもあんまりな気もしています。
ただ不謹慎だという気持ちもあります。もう少しお時間をください。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 08:03:17.48 ID:pyNg6jLwo
分かった、待ってるぞ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 12:20:07.68 ID:ALYR/jzRo
まつらいさんの結婚を皆で祝いたかったよ・・・

今はゆっくり整理をつけて下さい
226 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/11/04(水) 19:43:25.38 ID:WJVr3P2X0

「全員、着けることが出来たようですね」

 不破さんが無感情に呟く。鼓修理とゆとりはしばらくしてからトイレに行くふりをして、何とか着けたようだ。流石にトイレの中までは監視しなかったらしく、手錠も一時は外してくれたようだ。このあたり鼓修理の話術が役に立ったみたいで、盗聴器がないから会話は聞こえなかったものの、まあ予想できる。アンナ先輩から一時的にも離れられることもあって、きっと頭をテッカテカにしながら籠絡したんだろうな。

 イヤホンはあくまでこちらの声を届けるだけで、向こうの音を拾うのはアンナ先輩の制服に仕込んだボタン型と万年筆型の盗聴器だ。ボタンはそのままアンナ先輩のブレザーのボタンと付け替え、万年筆はアンナ先輩のポケットに入っている。万年筆はなんとかポケットから出して床にでも落としておきたいのだけど、あまり不自然な行動は出来ない。

 不破さんがそれぞれイヤホンのチャンネルをミキサーのフェーダーを使って声が届いているか一つずつチェックする。全員同時にも、個別に指示を出すことも可能で、ちょっとしたラジオ局みたいになっている。MM号みたいにこっちは向こうが見えているのに向こうはこっちが殆どわからない、きっとエロいことしても、駄目だアンナ先輩は気付くわ。ってかそもそもそんなつもりは全くないし。

「すべてクリアです」

 不破さんが報告する。とりあえず第一段階はクリアだ。

「現在残っている人質は、18人から5人解放され、また新たに2人加わったので、13人となりました」

 情報を全員で共有する。あ、いや月見草はごめん、ハブってるけど。

「アンナ先輩、拘束は抜けられそうですか? 出来るなら右を向いてください」

 あらかじめ決めていたジェスチャーをする。基本的に右を向いたらはい、左はいいえということにしていて、それはもう向こうの女性三人にももう伝えてある。

 アンナ先輩は右を向いた。まあ、あの程度の手錠でアンナ先輩を拘束できるなら今までこんな苦労しないよね。

「犯人たちに気付かれない程度の小声で何か話せますか? 話せるなら何でもいいので話して下さい」

 不破さんが重ねて指示を出すと、向こうから僅かな声で、

『……綾女さん、大丈夫ですの……』

『アンナこそ、どうやってここに……』

 囁き声が辛うじて聞き取れるレベルで聞こえてきた。カメラで見ても不自然ではないと思う。不破さんが盗聴器から拾う音声の音量を調整する。ノイズも大きくなったけど囁き声の会話が聞こえるぐらいにはなった。

「結構です。テストは無事終了しました。発信、集音、共に問題ありません。こちらに伝えたい言葉があるときは一旦咳を2回するように。了解なら会話を止めてください。不明な点があれば会話の振りを続けながらこちらに言葉を送ってください」

 音量を微調整しながら不破さんは指示を出す。会話は一旦止まった。

227 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/11/04(水) 19:44:10.88 ID:WJVr3P2X0

「上手くいったね」

「これからが問題ですが。まだ人質の数が多すぎます」

「混戦になったらまずいよね」

 今の状態でもアンナ先輩なら不意を突いて制圧できるかもしれない。けど“かもしれない”で人の命を賭けるわけにはいかない。人質は全員拘束されている。アンナ先輩だから力業で抜けれるのであって、他の人はそうはいかない。

「殺傷出来る武器を持った相手が室内に3人、ドア前のすぐ入れる位置に1人。アンナ会長であっても簡単ではありませんね」

「アンナ先輩ひとりだったら楽勝なんだろうけど」

「室内にいるやつらを廊下に誘き出せんかの?」

「これだけ統率だった動きをしているのであれば、指示があるまで待機するでしょう。人質が自分たちの牙城の柱であることは犯人たちも十分にわかっているはずです」

「そもそも善導課が非常階段には待機してるから、やっぱり現実的じゃないよね」

 アンナ先輩を送り込めたら勝ちだと正直思っていたんだけど、そう簡単じゃなかった。

「人質を地道に減らすのが結局は近道でしょうか」

「どうやって?」

「それには、犯人たちの考えを知らないといけませんね。彼らはこの病院ジャックで何がしたいのか」

「《育成法》の撤廃が目的じゃないの?」

「病院をジャックすることでそれが叶うと思いますか?」

「いや思わないけど」

 ううん、と悩んでしまう。こいつらが一体、何をしたいのか?

「じゃが、それなりに意味がなければおかしいじゃろ。この特別階、セキュリティーが厳しいんじゃろ?」

「流石にこのように大規模な犯罪を想定していたわけではないでしょうけど、確かに人質を取りたいだけならば他にもっと簡易な場所がいくらでもありますね」

「えっと、つまり?」

「早乙女先輩の言った通りでしょう。この病院をジャックしたことには、犯人たちにとって意味があるはずなのです」

 この病院をジャックした、その意味?

「《育成法》の撤廃以外の目的があるってこと?」

「或いは、《育成法》の撤廃を決定づけるようなものが、わたし達に知らない中であるのかもしれませんが」

 不破さんが画面を見つめる。マイクを手に取ると、

「一連の話は聞いていましたね? 犯人たちの求めている具体的な計画が何かがわかれば、取引の材料に使えるかもしれません。可能不可能はともかく、とにかく相手が具体的に何をしたいのかをはっきりさせましょう。出来るならば犯人の誰かと対話を」

 向こうからのリアクションは基本的にはない。テストでは届いているから今も届いていると信じるしかない。

『――ねえ、聞いてもいい?』

 華城先輩のはっきりとした声が、スピーカーの上に乗る。

 いつもの頼もしい、華城先輩の声だった。僕達は耳を澄ませ、会話を聞いていく。

228 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga]:2015/11/04(水) 19:52:43.44 ID:WJVr3P2X0
悩みましたが、出来る限り書き上げていくことにします。
供養とかそういうことではなく、単純に、キャラをほったらかしにするのが無責任かな、と。

たかが二次創作と言われそうですが、キャラクターをお借りしているからこそ、最後まで書きたいと思います。
もうしばらくかかりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/04(水) 20:52:39.57 ID:RBGSSA7Uo
頑張ってくれ
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/04(水) 22:11:10.50 ID:anulP/e1O
乙乙
いくらでも待ってる
231 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/11/04(水) 22:31:19.19 ID:WJVr3P2X0
地味に伏線これから回収していきます
いろいろ投げておいたのですが、どれだけ網にかかるかはわかりません

松来未祐さんのアンナ先輩、最高だったなあ……

感想書いてくれるとモチべ上がるよ! 頑張るよ!
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/04(水) 22:36:32.67 ID:x4whDFTZo
おつ

やっぱりこの犯人たちには裏の目的があるのか……?
鬼頭系列の病院を舞台には選んだあたりから何かありそうだとは思っていたが……
伏線回収はわくわくするので期待

松来未祐さんの熱演によってアンナ・錦ノ宮というキャラが一段と際立っていたよね……
233 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/11/05(木) 12:19:29.63 ID:wg/Z3cOW0
>>×「現在残っている人質は、18人から5人解放され、また新たに2人加わったので、13人となりました」

>>○「現在残っている人質は、18人から5人解放され、また新たに2人加わったので、15人となりました」


まさかの小1レベルのミス!! +2を忘れていました。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/05(木) 21:57:18.05 ID:qAvB7pcTo
今まで松来が演じたキャラの中で1,2を争うほどのハマり役だったから残念でならない
235 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [saga sage]:2015/11/06(金) 16:57:38.90 ID:ySZU2GyZ0
なんでしょう、書きたいとは思っているし無理してるとかじゃないのですが、
今はPC開くと松来さんの動画を探してしまいます。ちょっと更新は時間かかりそうです。

制作発表でcv松来未祐ってだけで、ああアンナ・錦ノ宮は変態痴女キャラなんだと察していたころが懐かしくて。
察してはいたけどそれ以上のインパクトを残したキャラですね、アンナ先輩は。
すみません、自分は自分で思っていた以上に松来さんのファンだったようです。このSSは絶対に放り出さないので、よろしくお願いします。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/08(日) 13:03:18.59 ID:JJYwjiWho
何でや!CV松来未祐だからといって変態痴女キャラだとは限らんやろ!

でもやっぱりハマり役だったよな……
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/10(火) 00:52:45.62 ID:U9Ko0pgxO
>>1だいぶショック受けてそうだな
自分もだけどさ 死ぬ半年前の演技には見えないよね
プロのエンターテイナーだったよ、本当に
あとまつらいさんだって痴女以外の役やってたよwww 察したの>>1だけじゃないだろうけどさwww
落ち着いて書きたくなったら書けばいいしいやならやめていいんだぜ、気持ちは多分同じだからさ
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 22:27:34.54 ID:L5enyDPoo
まだお元気ですか?
239 :モノクマ学園長 ◆86inwKqtElvs [sage]:2015/11/23(月) 16:47:47.35 ID:quoDfgWi0
どうもすみません。
なんだか、書こうとしてもタイピングの手が止まってしまって。
松来ショックは思ったより大きかったようです。
もう少し落ち着いたら、後編として新たにスレたてようかなと思っています。ちょっともうしばらくは、すみません。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 16:50:26.60 ID:E5gTszYWo
落ち着いたらでいいから待ってます
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/24(火) 01:18:33.17 ID:cujKhq44o
私も待ってます
ゆっくりお過ごしください
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/29(火) 23:33:07.39 ID:w2R/RnAZo
原作はついに完ケツするそうですね
http://www.shogakukan.co.jp/books/09451594
作者さんはおげんきですか?
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