やはり俺の脳内選択肢が青春ラブコメを全力で邪魔しているのは間違っている。

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499 : :2017/12/23(土) 23:52:58.17 ID:3Fc34ll60
 その後、メンタルをボロボロにされた海浜幕張の生徒たちは、話の流れをあまりよく理解していない一人を除いて帰ってしまった。

かおり「お疲れー」

生徒B「お、つかれー……」

 残った一人は他の人を見送った後、俺たちに話しかけてきた。

かおり「比企谷じゃん! うーわ久しぶりー!」

八幡「……おう」

雪乃「比企谷くん?」

八幡「中学の時の同級生だ」
500 : :2017/12/31(日) 22:24:32.75 ID:QLSv32Uz0
雪乃「どこかで……」

八幡「もう覚えてないのかよ……」

雪乃「人の脳には、不必要な記憶と必要な記憶を分ける機能があるのよ」

 つまり雪ノ下さんにとって折本さんの情報は不必要、と……。

 まあ、あの時は陽乃さんもいたから、どちらかというとそっちに気を取られていたんだろうけど。

かおり「え、っと、改めて。折本かおりです。クリスマスパーティー、一緒に頑張ろう! じゃ、私も帰るから」

 海浜幕張の生徒でただ一人だけ、俺たちに挨拶していった折本さんの背中を、誰も声をかけず見送っていた。

 ……俺たちの間に流れた空気に、いろは会長がおどおどしていたことは、俺だけが気づいた。だからどう、というわけでもないけれど。
501 : :2018/01/07(日) 15:35:23.02 ID:HyXKpmxv0
いろはす「あの……」

 翌日、一色さんが部室にやってきた。

 雪ノ下さんに「今回だけと言ったでしょう? もうこれ以上関わる必要はないわ」と圧力をかけられ、今日も行く気だった俺・八幡・由比ヶ浜さんはおとなしく部室で暖を取っていた。

いろはす「ここの席失礼しますねー」

 一色さんが座ったのは、いつも依頼者に座ってもらう椅子。

 雪ノ下さんが無言でスッと出した紅茶にほっと一息ついてから、一色さんは話し始めた。

いろはす「大変なことになりました」

雪乃「手伝わないわよ。愚痴ならそこの二人が聞くから、そっちを向いてくれるかしら?」

いろはす「相談、というか依頼ですよう!」
502 : :2018/01/14(日) 21:23:36.03 ID:Em6pIGNZ0
雪乃「……」

八幡「……で? なんだ。部長の意向だし、愚痴くらいなら聞いてやる」

いろはす「だから依頼ですってば! 今回は解決してほしいとかじゃなく、単に人員が少なすぎるので手伝ってほしいってことなんですけど」

奏「人員が少ない?」

 昨日の今日で、いったい何があったのだろう。

いろはす「昨日SNSで連絡があって……。要約すると『やっぱりそれぞれの学校で行う方がいいよね!』だそうです」

奏「えーっと、それってつまり……」

いろはす「海浜幕張高校が、主催だったはずのクリスマスパーティーが、各校で開催になっちゃったんですよ!」

 なっちゃったって。
503 : :2018/01/20(土) 23:22:13.65 ID:r/8Wa9gr0
雪乃「……どういうことなのかしら」

 雪ノ下さんが頭痛をこらえるようにこめかみを抑えながら行った。

いろはす「そちらには優秀なスタッフがいるようだから、別に僕たちがいなくともなんとかなるだろう! 幸運を祈るグッドラック! だそうです」

八幡「そもそも合同でやること前提のイベントじゃないのかよ……」

いろはす「そうなんですよ! しかも向こうからの誘いなのにうちも続けることになってるんですっ!」

奏「会長権限でやめられないの?」

いろはす「この学校には生徒会長よりも権限のある人はいくらでもいるんですよ。例えば平塚先生とか」

 あー……。
504 : :2018/02/03(土) 22:40:09.37 ID:TlBG9dnF0
静「私からも説明しよう」

八幡「……平塚先生」

 ガラッと戸を開けて入ってきた平塚先生が話し始めた。

静「といっても、私も詳しいことは知らない。向こうが突然断ってきた理由とかな。とりあえず今の時点で確実なのは、スタッフ側の人数が足りないということだ」

八幡「中止にする線は?」

静「残念なことにないぞ比企谷。海浜幕張側が既に、近隣の小学校と幼稚園にお誘いをかけている」

八幡「なら向こうがやれば――」

静「そういうわけにもいかないんだ。簡単に承諾をもらえるとは思っていなかったらしくてな。どうやら複数の幼稚園や小学校に声をかけたそうだ。で、結果的に参加者が非常に多い事態になっている。まさか今から中止にはできんだろう。向こうの予定もある」

奏「……キャンセルは、強行開催よりはいいのでは?」

 無理なことと可能なことはどうしたって出てくる。それが青春だとか人生だとか仕事だとか言われてしまえばそれまでなのだが、ぎりぎり引き返せるところにいるなら引き返すべき案件だと思う。

静「……上の方から、高校生にとっても小さい子にとっても有意義なイベントだと認識されてしまっていてな」

 ……引き返せないらしい。どうするんだよまったく……。

【選べ
1、諦めきれずに床を転げまわって駄々をこねる

2、「それじゃあ、ブレインストーミングを始めようか!」

3、諦めて結婚する                    】
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 11:55:24.04 ID:bVrfk/F3O
2かな
506 : :2018/02/10(土) 17:32:58.41 ID:UaIpxUsY0
 結婚は……諦めてくれ……っ! ごめんなさい……!

奏「それじゃあ、ブレインストーミングを始めようか!」

 平塚先生以外からすごい目で見られてしまった。これでゾクゾクする趣味はないんだ……。

静「生憎、やることはおおよそ決まっている。というか、限られた予算でできることを消去法で決めた。必要なものは、当日及び準備におけるスタッフだ。今のままでは、イベントの開催が非常に困難だ。つまり、私の評価がだな……」

結衣「平塚先生の評価はともかく、このままイベントがなくなっちゃったりしたら、楽しみにしてた子たちがかわいそうだよ! 手伝おうよ、ゆきのん!」

 平塚先生の涙は見なかったことにされた。

雪乃「由比ヶ浜さん、近い……。でも、そもそも手伝わないという話で……」

奏「先生。これは奉仕部としてでなく、個々に頼んだ方がいいのでは?」

静「……ああすまない。まともなことを言ったんだな」

 先生の俺に対する評価がひどい!

静「どういうことだ?」

奏「雪ノ下さんは奉仕部として手伝うことをためらっている、ってことでいい?」

雪乃「まあ、一色さんに頼られ続けるわけにはいかないもの。ここはそういう部活よ」

奏「なら、さ。奉仕部としてでなく、総武高校の一生徒として、学校のイベントを手伝う、っていうのならどう? 足りないのは開催運営側だけど、メインじゃなくて手足になるスタッフなんだから」

雪乃「……手足?」

奏「こ、構成メンバーの一人!」

 手足は嫌らしい。
507 : :2018/02/17(土) 10:08:06.00 ID:wmwHju3a0
結衣「ゆきのん……。ゆきのんと一緒だと心強いんだけどな……」

 由比ヶ浜さんの上目づかい! 雪ノ下さんに効果は抜群だ!

雪乃「……」

 効果は抜群。でも、まだ決めかねている。

 必要なのはあと一押し。

 それは――

八幡「……俺はもともと動くつもりだった。一色を会長にしたのは俺だしな。わかりやすく一生徒としてって名目ができたから、動きやすい。生徒会長の一色を、生徒会を助けるんじゃなく、一生徒として作り上げることに参加する。……まあ俺たちにとっては苦手分野だが、それを言ったら総武祭実行委員だってそうだしな。雪ノ下。お前がいると、俺もやりやすい」

 八幡の言葉だった。

 そこにはメインの仕事を任せて裏方にまわれるとか、できるだけ仕事をサボりたいという意思がなかったわけではないだろうけど、それでも一押しになった。

雪乃「……わかったわ。私も協力しましょう」

結衣「ゆきのーん! ありがとう!」

雪乃「だから由比ヶ浜さん、近い……」
508 : :2018/02/25(日) 12:14:41.97 ID:ldzWIq2m0
静「さて。そうと決まればさっそく始めてもらおう。一色、資料を」

いろはす「もってきますね〜」

 ぱたぱたと一色さんが部室を出ていった。

静「……すまないな。手伝ってもらえることを感謝しよう」

八幡「なんか平塚先生に感謝されると変な気がしますね。……ア、アイアンクローはやめて、体罰ですよ」

静「君が訴えなければ何もないことになる」

八幡「ええー……。でもまあ、一番『奉仕』部って名前に則した依頼じゃないですかね。学校と地域に奉仕するわけでしょう?」

静「ある意味ではそうなんだが……。ん、待て。比企谷お前、それは自分から働くということか?」

八幡「はっ? いやそんな……」

静「冗談だ」
509 : :2018/03/03(土) 12:14:54.49 ID:PWI2A0Lb0
 一色さんが資料を持ってきて、おおまかな役割を確認した。

奏「けっこうしっかり配分されちゃったね……」

 帰り道。俺と八幡は並んで帰っていた。

八幡「ったく、余計なことを……」

 笑ってはいない。

 でも、どこかほっとしたような表情だった。

 このどこかぬるま湯のような関係が続くことを、果たして望んでいいのだろうか。

 それでも、今はまだ……。そのぬるま湯を望んでいる俺が、俺たちがいた。
510 : :2018/03/11(日) 14:25:29.31 ID:7FOdsJ2h0
生徒「各所への、変更に関するお知らせとお詫びの文書、送り届け終わりました! 来ていない返事は2件、確認した返事は了承のみです!」

雪乃「そう。了承いただけて良かったわ。報告次」

いろはす「はい。次は私から。再調整したスタッフの当日の仕事の割り当てが終わりました。表にまとめましたので、改めて全員自分の役割を確認しておいてください」

雪乃「聞いていたものはこれで全てね。他に報告は?」

 会議の場に使っている教室が、完全に無音になる。

雪乃「では、これで今日のミーティングを終わります。一日おつかれさまでした」

 その一言を待ってました! と言わんばかりに、生徒たちから声が上がった。

静「お疲れ、雪ノ下」

雪乃「お疲れ様です、平塚先生。私は一色さんの用意したミーティングの流れの原稿と、今日報告のある人のリストを見て進行をしているだけですから、そう難しくはありません。……当然、最初言われていた以上の仕事であるという認識はしていますが」

静「そこは、まあ、なんだ……許してほしい。実際、雪ノ下が前に出るだけで生徒たちの真面目さが一気に高まったからな」

雪乃「本当は、一色さんが作らないといけないものですけれど」

いろはす「あ、あははー……。そこはまあ、いずれということで……」
511 : :2018/03/24(土) 13:30:56.74 ID:BWZliUXS0
静「甘草」

 昇降口で平塚先生に声をかけられた。

静「少しいいか。いや、別にまた今度でもいいんだが」

 靴は履いていたけれど、特に急いで帰る用事もない。

奏「大丈夫です」
512 : :2018/03/31(土) 22:00:16.40 ID:yHHjEa7+0
静「三人の様子はどうだ?」

奏「三人とは、八幡、雪ノ下さん、由比ヶ浜さんのことでいいですか?」

静「ああ。お前から見て、どう思う?」

 平塚先生の用件は、三人について俺がどう思うかだった。

奏「表面上はやり取りできているかと思います」

 事実、クリスマス会の準備は順調に進んでいる。奉仕部だけの話ではもちろんないけれど、それでも彼らの間にわかりやすい溝はない。

静「表面上は、か」

奏「はい」

 でも、おそらく誰だって経験したことのある壁が、確かにあった。

 必要があれば話すし、協力だってする。

 でも、どこか冷めたような関係。仲間ごっこを見ているような気分になる。
513 : :2018/04/20(金) 18:33:49.62 ID:+H9xiQVN0
静「ここからは独り言だから気にするな。溝ができるほど関りを持てたのだと言うべきか、それともまだ他人を排斥しようとしているのか。難しいところだな。どう動くか、それとも動かないのかすら、大人で、教師の立場の私からすれば難しい」

奏「……」

 独り言と言いながら、しっかりと俺に聞かせている平塚先生の意図は、よくわかる。

静「こんなことを考えるべきではないと思っているのだがな。それでも思ってしまう……。仲間たちで、彼らの間で解決はしないものか、と」

 その仲間に、俺は入っているのだろうか。

 単に動けるコマとして、俺のことを利用したいんじゃないのか……。

静「さて! 甘草」

奏「はい」

 どうやら、独り言は終わったらしい。

静「おまえが抱えている葛藤が何なのか、私にはわからない」

 ――ハッとした。

 俺は、葛藤していたのか?

静「動かなければなにも変わらない、なんていうのは幻想だからな。時間が過ぎると解決することもあるが、そうでないこともある。重い問題なら特に、な。だから、今後悔しないように最善を尽くせ。独身の私みたいに……ぅっ……後悔、するなよ」

 そういうだけ言って、平塚先生は歩いていった。
514 : :2018/05/17(木) 21:33:59.88 ID:Ib2J+Kgr0
 問題が山積みで、開催すら一時危ぶまれていたクリスマスパー−ティーも、参加する小学生たちの協力もあったりして、なんとか進んでいった。

 12月の寒空の下、街に地域住民の方々に向けてのパーティーのポスターを貼っていく。

 かじかんだ指先に息を吹きかけ、和らぐことのない凍てつきをごまかしていた。ショコラやふらのや謳歌は、風邪なんかひいていたりしないだろうか。

奏「……」

 ミッションの期限まで、あと一週間を切っていた。このまま何事もなければ、それで終わり。晴れて俺は元の生活に戻る。

 問題は、この現状維持がいつまで続くのか……。
515 : :2018/06/10(日) 17:13:07.86 ID:zDTNS4tN0
八幡「奏」

 ポスターもあと一枚というところで、近くを同じようにまわっていた八幡と遭遇した。

奏「あ、八幡。ポスター張りどう?」

八幡「おおかた終わった。あと数枚だな。そこの自販機で何か飲もうと思ってな。マッカン見えたし」

奏「寒いからね。俺も一息つこうかな」

八幡「ちなみにお前は? 残り何枚だ?」

奏「ラス1」

八幡「……お、おう」
516 : :2018/07/28(土) 22:20:33.05 ID:i/CXddmh0
 自販機に温められた缶を手の中で転がしながら、俺は八幡と談笑いながら帰り道を歩いた。

 ポスターを貼るのはすぐ終わった。というか、ふとした拍子に八幡と帰ることが増えてきた気がする。帰る場所は同じなんだから、タイミングが合えば一緒に還るのは当然と言えば当然なんだけど。

 このポスターを町の人に見てもらって、高校生が企画したイベントに来てもらい、地域の人たちとの交流をする。半ば押し付けられてしまったようなこの企画も、なんとか体裁ができてきた。ポスターを貼る許可をもらったりすることも交流の一つだった。

奏「そういえば八幡、よくポスター貼らせてもらう許可とれたよね」

八幡「俺ができないのはパリピみたいな日常会話だ、馬鹿にするな」

奏「自慢じゃないなぁ……」
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