魔王「死ぬまで、お前を離さない」 天使「やめ、て」

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374 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/05/11(水) 04:33:01.74 ID:ofIrSduQ0

―――――――――――――――――――――――――――」

天空宮殿・最上階
天守閣


魔王「……は。まったく魔王らしくない」


魔王「深く望みすぎて。僅かにでも叶うのならば、それだけでも代えがたい価値があると思えてしまう。……滑稽だな」

神「魔王、それでは―― それでは、帰ってきてくれるのだな!?」

魔王「………信じたいとは思う。だが、本当に可能性があるのか」

神「――――っ」

魔王「ないなら、諦めよう。素晴らしい夢物語だった。希望を語る神の話術、見事だった」

神「ある……! だが、口で説明しても信じてもらえないような方法だ! 言えば、余計に疑われるような!」


魔王「…言ってみろ」

375 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/05/11(水) 04:35:28.63 ID:ofIrSduQ0

神「――魔王の身体。その魔素を抜き、再び浄気によって満たす……」

魔王「浄気を…?」


神「お前を、元の天使へと戻す」


魔王「……は」


魔王「はは…。 なるほど、そういうことか。つまり俺を殺して、別人を作ろうというんだな」

神「別人ではない! 元々は天使なんだ、その身体は本来は浄気を受け入れられる…! 我々を憎み、拒んでいる魔素さえなければ出来るんだ!」


神「魔素さえなくせば、世界はまたひとつに戻せる!!!!」

魔王「……」

神「お前の体を流れる力を、すべて入れ替える強引な方法ではあるが――」

魔王「仮に、それで俺が浄気に耐えうる身体を手に入れたとして……」


魔王「魔族はどうなる。魔の国は? …世界の一部を壊してなかったことにするのが、お前の言う“ひとつの世界”か?」

神「〜〜〜それはっ」

376 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/05/11(水) 04:36:23.80 ID:ofIrSduQ0

魔王「神界のすべての神族を犠牲にしたように。魔国のすべての魔族を犠牲にして、俺に天使へ帰化しろというのだな」

神「……っ一部の魔族、そして神族は復活できると考えている」

魔王「一部…?」

神「元が神族の4種族。それから魔王の血を過去に引いた者。あるいは魔素の影響も浄気の影響も受けず、自己の生命力を用いて生きるもの…」

魔王(……そんな一族がいただろうか? ……まさか、精霊族…?)


神「長い歴史の中で多くの血は混じり合う…」

魔王「………」

神「必ず、浄気への耐性を強く残す者は多くいるはずだ! その彼らは、浄気による統一世界で復活が可能になる!」

魔王「不確定ではあるが、大多数が見込める、と?」

神「そうだ…! 決して魔族を無碍にしているわけではない! だがこれは夢物語のような綺麗事ではないからこそ…… 犠牲が出るのは、やむをえまいと考えていた…っ」


魔王「……ふ。確かに、聞けば聞くだけ胡散臭い話だな。犠牲と危険が多すぎる」

神「だが、出来る! 魔素にさえ阻まれなければ、神の力はそれを可能にする!!」


377 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/05/11(水) 04:43:35.36 ID:ofIrSduQ0

魔王「……理想を信じ、神の力にすべてを委ねろ、というのか。無茶を言うものだな」

神「だが信じてくれさえすれば、我々はお前を倒して無理やりをせずとも、もっと確実に統一世界を作り出せるだろう!」


魔王「信じる……か」

神「ああ! 信じてくれ!! 我々を疑うべきことなど、本当はなにひとつ無いのだから!!」



魔王「――疑うことは容易いのに。どうしてこうも、信じることは難しいのだろうな」

神「魔王……それでも、どうか……」」


神「どうか、信じてくれ」


神が目を閉じ、手を合わせた。
祈りをささげるようにして、切に願う相手は、魔王。

その異常性に、常識が崩れていく。
信じるべきもの、疑うべきものがわからなくなってくる。


魔王「――………


魔王が、口を開きかけたその時だった。



『陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』


まるで現実を呼び覚ますかのような必死の声が、響きわたる。


378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/11(水) 05:53:45.47 ID:BioB9KdLo
乙ー
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/11(水) 09:59:14.61 ID:Fs/LUzHeO
おつんつん
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/24(火) 23:35:11.12 ID:yrtEUdA+o
   __     __
 /__\   /__\
 ||´・ω・`| |  / |´・ω・`|| へいか〜
/   ̄ ̄  、ヽ//  ̄ ̄  、ヽ
└二⊃   |∪ |   ,、 ( ゚д゚ ) 
 ヽ⊃ー/ノ   ヽノ ヽ〆
    ̄`´ ̄   ̄   ̄ 
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/13(月) 02:26:01.88 ID:LZPNt5o+0
続きばよぉぉぉぉぉぉ
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/23(木) 13:31:41.69 ID:EL3CwGtAo
まだ?
383 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:24:47.67 ID:6Endy8Rh0

魔王「!!」

神「!? こんな時に、何者だ!!」


誰よりも先にピリと空気を張りなおしたのは魔王だった。
叫び声とほぼ同時、大きく崩れて開いた入り口に近衛と亀姫が姿を現す。


近衛「陛下ッ!! ご無事ですか!?」

魔王「近衛… それに、亀姫……」

亀姫「お待たせいたしましたわ、陛下。ただいま御前に参上仕りました」


獣王「…っ。ようやく、来たカ…。良かっタ……」


誰よりも深く安堵の息を吐いたのは獣王だった。
獣たちは先ほどから、魔王にかける言葉を見つけ出せずにいたからだ。

魔王の迷いを目の当たりにしてしまった獣王。
すがるように希望を求める“匂い”が魔王から漂ってくるのを、その嗅覚で感じ取ってしまっていたのだ。
そしてその匂いは、今もまだ消えていない。

目の前で籠絡されてしまいそうだった絶対的な主人、魔王。
もし神の手を取っていたなら、獣たちは従うしかなかった。統率は乱せない。それが獣の掟なのだ。

主人の想いを知りながら、神に食いつき言葉を止めるべきなのか……
獣たちもまた、葛藤に苛まれて身動きが取れずにいた。

384 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:25:19.24 ID:6Endy8Rh0

獣王(魔王サマは… なんト、答えルつもりだったのだろうカ…)


獣王はそんなことを思いながら、魔王のすぐ脇で牽制の姿勢をとりなおす。
獣たちも、新たに入ってきた近衛たちに合わせて編成を組みなおしていった。


神「……貴様等…ことごとく邪魔をしおって…」

亀姫「うふふ。貴女こそ景観の邪魔ですの。陛下のお傍に控えるにしても不釣合い…身の程をわきまえなさって?」

神「貴様! 誰に向かって口を利いている!」


魔王「……全員下がっていて構わん。神は既に戦意を――」

近衛「いいえ。油断なさらないでください、魔王陛下」

魔王「……油断だと?」

近衛「陛下は騙されているのです。 ……そいつは、神ではありません!」



魔王「――何…?」

神「!!!」


ゆらり、と。
視界に神を捉えた魔王の瞳が、揺れた。

385 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:25:44.62 ID:6Endy8Rh0

近衛「地下に、本物の神がいました…! そこにいる者は神の護衛だという、『戦神妃』です!」

神(戦神妃)「なっ…… お前ら、なぜそれを…!?」


神が目を見開いて驚嘆した時点で、それが事実かどうかなど答えは明白だった。
それでも魔王はゆっくりと刀を握る手に力を込め、静かな声で聴き返す。


魔王「…近衛。それは、確かなのか」

近衛「はい! 天使の父を名乗る者が別の塔に閉じ込められており、その者より聞き出しました!」

魔王「天使の…父…?」

亀姫「……まずは陛下、こちらをご覧下さいませ」


剣を構える近衛に代わり、亀姫が差し出したのは斬りおとされた一首だった。


戦神妃「なっ!?」

386 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:26:17.89 ID:6Endy8Rh0

首だけになってもなお美しい顔立ち。
血の気のない肌は決して土気色に染まることはなく、
青ざめた氷の結晶のように透けてみえる。

一目見れば、その首が特別なものであるとわかる。


魔王「………これが…本物の『神』、か」

戦神妃「あ、あああああああっ!?!?!? 神様! 神様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


跪いていた神――戦神妃は、立ち上がることも忘れ
亀姫の腕の中にあるそれをみて絶叫していた。

神の名を呼び、狂乱する戦神妃。
魔王はその姿をしばし見つめた後で、自嘲気味に嗤った。


魔王「………『疑うべきことは一つもない』、か…。クク」

獣王(魔王サマ……)


獣王だけが感じる、魔王の“匂い”の変化。
その匂いがわかるからこそ、獣王は魔王の顔を見ることができなかった。

387 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:26:45.29 ID:6Endy8Rh0

魔王「……………………戦神妃、といったか」

戦神妃「………っ!!!」


魔王「よく、ここまで俺に夢を見せてくれたものだよ。……褒めてほしいか?」

戦神妃「ま、魔王…! あ、これは…!」

魔王「……今なら、初代魔王がどれほど神を憎んだかわかる気もする」

戦神妃「待ってくれ! 魔王、私は――!!!」

魔王「正体すらも欺かれていたとは、さすがに予想外だった」


魔王が目を伏せたのと同時、獣たちは一斉に身を固くして尻尾を丸め込んだ。
噴き出した匂い。脳髄を焼き焦がす、死の香り。


魔王「どうやら信じるべきことなど………、ひとつもなかったようだな」


戦神妃「違う… 名を偽ったのは、お前と話などできないと思っていたからで……」

魔王「………もう、いい。今度こそ、充分だ」

戦神妃「!!」

388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 21:26:54.73 ID:f9iPY4yc0
待ってた!
389 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:27:20.51 ID:6Endy8Rh0

言い捨てると同時、充分すぎる殺気を刀に纏わせる魔王。
屠るために構える時間など、本来は必要ない。

それでも構えたのは、生を惜しむ時間を与えるためか。
あるいは、罪に恐怖という罰を与えるためか。それとも――


戦神妃「お前が…」

近衛「……?」

戦神妃「お前が、来たせいで……お前が、いなければ…っ あと少しで、理想郷への道が開けたというのにっっ!!」

近衛「……心外ですね。そもそも我々を呼びつけたのは、そちらです」

戦神妃「お前のようなもの、呼んでなど―― 


ギッと、魔王の後方にいる近衛を睨み付けた戦神妃。
真正面から視線がぶつかった後、先に顔色を変えたのは戦神妃だった。


戦神妃「…っ!」

390 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:27:49.92 ID:6Endy8Rh0

近衛「……自分の事を呼んでない、と?」

戦神妃「おまえ、は…」

近衛「ああ、覚えていてくださいましたか」


近衛「……自分は、すぐにわかりましたよ。貴方の声には聞き覚えがあります…」


戦神妃「まさか………『勇者』……っ」

近衛「………」


近衛「ああ、その響き。間違いなくあなたが、自分を巻き込んだあの時の『声』だ」

戦神妃「………まさか…そんな。勇者は、魔王による人間世界侵略で…」

近衛「そういえば、神には言えず仕舞いでしたね。代わりに貴方に語っておきましょう」


近衛「死ののちに行き着く場所があるならば、そこで神にも教えてあげてください。自分の、昔話を」


魔王「………」


391 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:28:34.24 ID:6Endy8Rh0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


近衛の人間時代――
地上

突然に襲い掛かってきた魔物。
大切な妹が襲われるのを見ても、助けに行けばより酷いことになると 諦めて立ち去った自分。

無力感と、激しい刺傷痛。
炎と煙で赤黒く染まっていく空と、朦朧とする頭。現実以上に、思考そのものが世界を歪ませて見せていた。


青年(近衛)「……ハァ…ック、 ァ、は、ァ……痛ッ…」ヨロ…


この世界には、もう自分はいられない。
迷惑を掛けた。

厭われて、狙われて。
愛しいものも守るべきものも、守れないままに見捨ててしまった。

392 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:29:09.48 ID:6Endy8Rh0

青年(近衛)「ぁ…ぁ、ぁぁ……っ」ブルッ


急激な寒気。怪我のせいなのか熱もある。

寒い。暑い。痛い。苦しい。悲しい。虚しい。
嫌悪感。拒絶。不安。恐怖。後悔。怒り。

炎風のごとき勢いで駆け巡る感情に、目を回す。
足がもつれて地を踏む感触がわからなくなる。

確かめようと足元を見た瞬間にバランスを失い、青年は顔面から崩れ落ちた。


――いやだ……


青年「嫌だ… 嫌だ、嫌だ嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ」

青年「う、うぁあああああああああああああ!!!!!」


393 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:29:37.96 ID:6Endy8Rh0

地に這ったまま叫ぶその口に、土がへばりつく。
血の味。土の味。動く気力を失った四肢。

地を這う虫になったようで。
なのに、虫けらなどよりもよほど無力だ。
何者も信じられない。それなのに、縋りたい。

ぼろぼろと流れ出す涙。
悔しい。悲しい。このまま終わるだなんて……  寂しい。


もしもまだ、間に合うのなら。
どうかこの世界と、愛しいものを救えるのなら。



惨めで憐れ。
こんな姿で叫ぶしかできない情けない自分を、誰か同情してくれるだろうか。
世界中から憎まれた今、こんな自分に同情してくれる人がいるだろうか。

もしもいるのなら、聞いてほしい。
救いを乞い、助けを求めるこの声を――

394 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:30:39.71 ID:6Endy8Rh0

青年「どうか、お願いです…助けて、ください……」


『――……探したぞ。世界一の、不幸者…』


いつからそこにいたのか。
驚くだけの生命力も残っていない。

顎を地に擦りながらもたげた首で、声を見上げた。


『…この世界をお前の望むように救ってやろう。ただし――…』


青年「……約束、する…。どんな、こと…でも…。いつ、まで…でも……」

『…いいだろう。では…』


パタリ、と木片を打ち鳴らすような音が響く。
カタカタと地が震え、急速に風が吹き荒れていく。
何が起きているのか、地上15cmの目には何も映りはしない。

声だけが、鮮やかに脳に飛び込んでくる。


魔王『さあ祝え。これは生誕祭だ』



あの日、僕たちの世界は守られた。

突然 魔物達が襲来したときのように
突然に、この国は救われた。


魔王とその特異すぎる力によって、地上は世界から”はじきだされ”ていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

395 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:33:18.57 ID:6Endy8Rh0

―――――――――

天空宮殿 天守閣


近衛「人間世界は、上の神、下の魔――そのどちらからも逃れ、丸く転がり続ける球の表面でひっそりと生きています」

戦神妃「そん、な? 世界からの離別だと…? そんな。それでは、まるで・・・・・・」

魔王「父君と魔物による全体侵略。地表の全体に魔素が充ちていた……くく。我ながらド派手な大仕事だったがな」

戦神妃「地表は焼き尽くされたのではなく・・・」

近衛「引き剥がされたのですよ。陛下の、魔素を操る御業によって」


戦神妃「そんな、強引で荒い方法で。一歩間違えば、滅亡ではないか」

魔王「……滅亡したならその時はその時だ。元々は父君の侵略戦争・・・滅びるはずの物だった」

戦神妃「なぜ? いったい、なぜそんなことを? 何が目的だった?」

魔王「………――」


近衛「……目的など知りません。ですが陛下はおっしゃいました。『お前自身が、代価となれ』と」

戦神妃「お前自身が…代価…?」

396 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:35:00.94 ID:6Endy8Rh0

近衛「自分は、自分の世界を買ったんですよ。自分自身と引き換えに」

近衛「――”勇者”の存在と引き換えに、この世界を守ってくれと願い出た」

近衛「自分はこの若き王に仕えることでしか、あの世界を守る事が出来なかった無力な勇者」

近衛「魔王と交渉して世界を守ってもらう勇者なんて。どこの冒険譚でもみたことがありません」

戦神妃「だが、そもそも侵略してきたのも魔族だろう!?」

近衛「ええ。そして、自分を勇者などにして人間世界侵略戦争の原因を作ったのは――貴方です」

戦神妃「――ッ それは! 違う!勇者を作ったのは、確かに人間世界の平和のため…!」


近衛「救いも絶望も一方的に与えられる不条理から、陛下は解き放ってくださった」

近衛「だから、自分は生涯を捧げると約束した」



近衛「今の僕にとって、神もあなたも―― 正直、目障りです」


397 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:35:26.15 ID:6Endy8Rh0

戦神妃「絶対の聖たる神に、なんという…! それまでニンゲン世界を導いていたのは誰だと思っている!?」

戦神妃「幾多なる内紛、種族同士での殺し合い、その全てに我々は無限の愛をささげてきた!!」

近衛「………無限の、愛…ですか?」

戦神妃「そうだ! 神はヒトの全てを愛し、見守ってきた! 決してお前と敵対する存在ではなかった!」


魔王「……愛、ねぇ」クク

近衛「愛情・・・感じたこと、あったでしょうかね」

戦神妃「な……」


魔王「世界は広い。さしづめ、よく見もせずに天からばら撒いていたのでは?」

近衛「土に肥料をまくようにですか? 博愛だなんて言って、『薄愛』なんですね」

魔王「ククク。神の愛情とはかようなものか。勉強になった」

398 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:39:59.93 ID:6Endy8Rh0

軽口をたたきながら、近衛と魔王が戦神妃を挟み込む。
縋るとも憐れむとも言えない目で近衛を見上げてくる戦神妃。
そして、うつろに絶望を浮かべた蒼白の顔で、一言。



戦神妃「魔王…… 私は。 神は…決してそんな存在では……」



魔王「―――その表情。演技ならば、見事だった」



前から、魔王の刀が。
背後からは、近衛の剣が。




戦神妃「――ああ…魔王、君が私を信じられないのは……私たちの、最大のあやま……――」




―――ド゙シュッ………


剣と刀が同時に突き刺さり、戦神妃はゆっくりと瞳を閉じた。
貫いていた刃物を胴から抜きはらわれると、ドサリと臥して動かない。


399 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:41:54.71 ID:6Endy8Rh0

戦神妃は、確かに強い力を持っていたようだ。
死後に体内から抜け出ようと溢れる浄気はとどまるどころか勢いを増していくばかり

獣王たちや亀姫は、浄気にあてられ苦しそうに身をよじっている。


亀姫「……なんて気力ですの… っ、これでは…っ」

魔王「…………」

近衛「陛下・・・?」


魔王は、戦神妃の最後の言葉に気を奪われていた。
あんな最期の最期まで、演技を続ける必要があったのだろうか……


亀姫「っ、陛下。どうかお願いです…これ以上は、皆の身体に障り動けなくなりますわ!」

魔王「――……」

亀姫「陛下… どうぞ、帰りましょう? 私たちの穏かな日常へ……」


魔王「――ああ」


400 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/06/25(土) 21:43:23.43 ID:6Endy8Rh0


亀姫の言葉に素直に従ったのは
責任逃れにすぎなかったのかもしれない。

判断が正しかったのか、自信が持てない。後味の悪い勝利。
だが、いまは一刻も早くここを離れる必要がある。



魔王たちが部屋を立ち去って、しばらくの後。
聖骸の首と、戦神妃の躯を並べ、その横に力なく座り込む影が一つあった。


神従者「………間に合った…っ」


手を合わせ、声を震わせて 胸の前で刻んだ十字。
神界に残るは、ただ彼一人。
鎮魂の歌を捧ぐ彼の心象を知るものなど いるはずもなかった。


401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 22:31:18.49 ID:RCGlaGXXo
待ってた
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 06:09:58.85 ID:pegDr1EVo

待ってた
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/26(日) 06:21:43.86 ID:YCQPnyrfo
乙ー
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 17:45:20.80 ID:QrUUq2IHO
おつー
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/22(金) 22:01:18.96 ID:1GjiMdXjo
あげ
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/23(土) 01:19:54.04 ID:56hbDDO0o
下げ
407 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:30:51.16 ID:0zkY4LHl0

―――――――――――――――――――――――――

天空宮殿・雲上


近衛「――陛下。ここからの帰路なんですが…やはり来た時の大穴をまた降りるのでしょうか?」


近衛の言葉に、魔王が振り向く。
見ると、近衛の横では亀姫も同じように首をひねっていた。

いつのまにやらそうも仲が良くなったのだろうか、と
魔王は思わず言葉をかけそびれる。


亀姫「陛下でしたら、竜巻を作り上げて“巻き上げる”ことも、渦を用いて“落とし込む”ことも可能でしょうけれど…正直、その」

近衛「昇るよりも怖ろしそうですね」

亀姫「……怖ろしいというよりも。空に吹き上がるのではなく、地に叩き込まれるのですもの。……何名生きていられるかしら」

獣王「魔王サマ、どうすルつもりダ?」


獣王にうながされ、魔王はぼんやりと臣下たちの観察をやめた。
戦が終わったというのにどうにも後味が悪く、すっきりしない。
こんなふうにぼんやりとみているのがいい証拠だろう。

魔王は自分自身を軽くいさめると、皆に背を向けてから口を開いた。

408 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:31:47.49 ID:0zkY4LHl0

魔王「…気付いていないのか。もう、降りはじめているのだが」

亀姫「え?」


魔王の言葉に、一同は周囲を見渡した。
景色は何も変わることはない。雲上ということもあり、空との距離すらもあいまいだ。
だが、風の流れの違和感などを観察していると、下降しているのを察する程度の事は出来た。


魔王「おそらく、この大地自体は植物と雲を神気によって固定化したものだ。神気はもともと浮力が強い。それをまとめておくことで、その上にある宮殿をも空中に滞留させていたのだろう」

亀姫「…この大地が落ち始めたのは、神が死んだからですのね」

近衛「土地の持つ神気の結束が弱っている…」

魔王「ああ。つまり、放っておいてもゆっくりと落下し、いつかは下に降りるだろう」

獣王「気の長イ話ダ…」


ため息を吐いた獣王に、魔王はククと笑いを零す。
軽く目を細めて怪訝にみあげてきた獣王の視線から逃れるようにして、魔王はくるりと背をむけた。


魔王「何、待ってやるつもりはないさ。魔素を打ち込んで神気の分解を促してやればいい」

近衛「分解を促す… と、いうのは」

魔王「クク。……神界のこの土地を、“物理的”に落としてやるのだよ」

近衛「それは一体――…

409 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:34:30.15 ID:0zkY4LHl0

近衛の言葉を聞くよりも早く、魔王は片手をあげて魔力を収束させた。
無言のままで足元に連続で打ち込まれていく魔力弾。

吸い込まれるように地を抉り取るそばから、蒸気に似た白い煙が立ち上っていく。
メキメキと植物の裂ける音が足元で響き、獣たちが尾を立てて唸り始めた。


魔王「懸念の必要はない。余力のあるものは、俺に続いて打ち込め」


魔王の言葉に、最初に従ったのは亀姫だった。
小さな結界を作り、扇でそれを叩き付けるようにして地へと打ち込んだのだ。
――威力こそ小さいものだったが、亀姫がそれを無言で繰り返しはじめたのを見た他の魔族も、各々の方法で自らの持つ魔素を大地へと浴びせていく。


土地はメシメシと裂け、枝とも根ともわからぬ植物が断面から飛び出し、
しなやかに伸びてはブチブチと引き裂かれる。
それは、動物の持つ神経や血管にも酷似して見えた。


裂けて小さくなった大地は、落下を速めていた。
魔物たちの打ち込む魔力で、大地は数十に別れてはパラシュートのようにゆっくりと落ちていく。


魔王「……これくらいで十分だろう」

亀姫「あとは、着地を待つだけですわね。ふふ、戦の帰路が僅かに揺られる穏やかな時間だなんて、嘘みたいですの。まるで船旅のよう…」

魔王「……楽園を見つけられないままに、彷徨いおちる箱舟か?」クク



410 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:37:10.94 ID:0zkY4LHl0

ふと魔王が上方をみやると、宮殿が浮いたまま残されていた。

魔王達のいる土地よりもずいぶんと高い場所
そこにいまだ大きい面積を残した大地があり、まるで何かあったことに気付いていないかのようにそびえたったまま残されていたのだ。


魔王「ほう。……あの城はよほど広く、根を張っていたらしいな。……ふむ」

亀姫「陛下、どうかなさいましたの?」

魔王「いや。天の… 神の在り方の根深さを、少し考えていた」

亀姫「…?」

魔王「根ばかり広げて…花を咲かせることを忘れては、惹き寄せられるものも惹き寄せられまい」

亀姫「花を……?」


魔王は掌にとりわけ大きな魔力をためると、上空の宮殿に向かって放った。

ボフ!!という、重さを感じる着弾音。
下から打ち上げられた土地が、胞子を吹きだす植物のように塊状の白煙を吹きだしてきのこ雲となり、爆ぜた。


亀姫「……確かに、花開くさまに見えなくはないですが…あれで何かを惹き寄せられるのですの?」

魔王「花開く前に枯れたのだ、もはやだれも寄り付かぬまい――」

亀姫「ではいったい、あれは…」

魔王「……意味などないさ」



霧散して消える花など、遠き日の隣人へのはなむけとは呼べないだろうから。

411 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:38:46.79 ID:0zkY4LHl0

――――――――――――――

魔国――



魔王達が地に降りたつまで、二刻程もかかっただろうか。
ともあれ神界を無事に落とし切り、この戦を見事に乗り切ったのだ。

魔の土地を踏んだ魔物たちは、興奮冷めやらぬ様子でめいめいに騒ぎ始めている。
ようやく緊張がほどけたのだろう、魔王がいまだ傍にいるというのに 皆、落ち着きがない。


着地したのは魔王殿よりもやや離れた場所で、一同はそれぞれに歩を進めた。
魔族の中には、そのまま自らの領地へ戻るものもいる。
戦の終わりとは思えない散会の仕方に、近衛は苦笑しながら魔王の後ろを歩いた。

王殿の手前の庭にまでつくと、王の帰殿を待つ家臣の姿があった。


竜王「――お帰りを、お待ちもうしていた」

魔王「クク。お前はもう、俺の家臣ではないと言ったのだが」

竜王「知らぬようなら覚えてくだされ―― 主君に否定されたとて消えないものが、“真の忠義”というものじゃと」

魔王「―――クク。昔から、お前は説教くさくてたまらないな」

竜王「…………」


竜王の横を素通りする魔王の口許に、微笑。
頭を下げたままの竜王からは、安堵したかのような小さな溜息。

その様子を見ていた近衛と亀姫は、お互いに顔を見合わせて小さく笑った。
獣王は大きく伸びをしたかと思うと、ゴロリと転がって地に背をこすりつけていた。


魔王(………さて)

412 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/08/12(金) 09:39:37.39 ID:0zkY4LHl0

魔王は王殿にはいるなり、まず一番に自分の社殿へと向かった。
結界の中に閉じ込めてあるとはいえ、神が失せたとなればその影響は皆無ではないだろう。


魔王(…………)


しばしの間とはいえ、留守にしていた屋敷に 魔王は目もくれずに進んだ。
頭を垂れた使用人とすれ違ったような気もするが、よく覚えていない。

僅かでも歩を乱すことはなく、他に何を思うでもなく
気が付けばすでに大きな扉が目の前にあった。

焦っているような、落ち着き払っているような。
あるいは極度の緊張のあまり、心臓がとうに動きを止めてしまったような。

しかしそんな自分の状態にすら、意識を向ける時間は惜しい。



ゴゴギィと響く、重厚な開閉音。
暗い社殿の中に僅かな灯りが入り込む。


社殿の中にあった小さな蝋燭の灯のもとまで灯りが届くと、
魔王はそこでようやく、(ほぅ)と、気付かれぬ程度の安堵の息をついた。


天使「…………ぁ…」


天使が まだ、そこに居てくれた。

413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/12(金) 12:24:03.35 ID:+Z6eg/cko
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/12(金) 19:03:35.75 ID:eqOnn78Vo
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/08/12(金) 23:49:01.18 ID:VD2ejsGho
乙ー
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/13(土) 18:43:30.28 ID:tL3WOkehO
おつ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/16(火) 20:28:57.23 ID:JwSXkPgRo
      ∧_∧
     ( ´∀` )  ところでこのゴミ、どこに捨てたらいい?
     /⌒   `ヽ
    / /    ノ.\_M
    ( /ヽ   |\___E)
    \ /   |   /  \
      (   _ノ |  //⌒ヽ ヽ
      |   / /  |(  ^ω^)|
      |  / /  ヽ(  神ノ
      (  ) )     ̄ ̄ ̄
      | | /
      | | |.
     / |\ \
     ∠/   ̄
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/17(水) 02:19:20.03 ID:EPIrDK/w0
追い付いた

気付いたらこんな時間だよ面白すぎるわ乙!
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/19(月) 14:28:22.16 ID:9Rt/3CdWO
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 15:58:12.20 ID:PVM404J4O
作者さん帰ってこないかな…
421 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2016/10/16(日) 07:09:12.26 ID:74rVU4Wb0
居る。投下の度の乙とか本当に嬉しく思ってる
板汚しかもだけどエタらせずに最後まで書く
ごめん、ありがとう、がんばるくまー
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/16(日) 07:42:17.50 ID:x0CRrBgr0
気長に待ってるからゆっくり書いてくれ
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/10(木) 00:07:25.82 ID:P9iS0ru4O
保守
424 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2016/11/29(火) 05:25:28.76 ID:5xuBUqSR0

天使「や……」


魔王はゆっくりと近づき、天使の様子を伺う。

久方ぶりの魔王の姿に怯える天使。
厭ましく思ってその姿ですら天使の無事を示している気がして、変わらずにいてくれたと喜ばしくすら思ってしまうほどだ。


魔王「……この影響ばかりは、わからなかったからな」


自嘲し目を逸らした魔王が、庭先の気配に気づいてゆるりと振り返る。

大きく開かれた門扉の向こうに、亀姫と近衛の姿が見えた。
二人は階からやや離れた場所まで来ると、僅かにジャリ、と砂石を踏みしめる音をさせながらその場に膝をつき、控えて動かない。

――動かないというよりは、動けないという風体の近衛の様子に、魔王が気付いた。


魔王「近衛。無事か」


近衛が息苦しそうに背中を上下させ、ぎゅっと胸元の石を握りしめている。

天使が魔王の言葉を聞き、
そこに近衛がいることを知って、バッと視線を門扉の奥へと向けた。

近衛の姿は、天使の位置からは見えない。
見えるのは魔王の背中と、階の踏板の一部、それから……


天使「あ……」


天から『雲が降っている』様子だ。

425 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:31:08.02 ID:5xuBUqSR0

天使(あれは…神界……っ!?)


魔王「近衛。神界でも無事に動けたお前が…なぜ、魔国に戻ってから苦しむ?」

天使(近衛様が、苦しんでいらっしゃるの…っ?)


次から次へと天使に知らされる急事。
天使は恐れと不安にガタガタと翼を揺らすことしかできなかった。


一方、問いかけられた近衛も声を発しようとするも、まともに音が出ない。
門扉の奥にいるであろう天使に元気な声を聴かせたいのに…と振り絞ろうとするも、吸い込むので精一杯で吐き出せるものがない。


近衛「……っ、は、」

魔王「……」


目を細めて近衛を見つめる魔王に返答したのは、近衛の横に控える亀姫だった。


亀姫「僭越ながら、私から申し上げさせていただきとうございます」

魔王「亀姫。……わかるのか」

亀姫「はい。現在、近衛には結界をかけております…。そのせいではないか、と」

魔王「結界…?」

426 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:32:10.47 ID:5xuBUqSR0

魔王「…神界から戻り魔国へと降りた際、浄気除けは外したのではなかったか」

亀姫「お忘れですか、陛下。近衛は…この者はニンゲンでございますのよ」

魔王「……」


亀姫「近衛の胸の御石。ニンゲンである近衛が、この魔の国で生きるための魔素の濾過装置と伺っておりますわ」

亀姫「この御石の弱点は、浄気…。神界においても、近衛にはこの御石のみに結界を張り守っておりました」

魔王「…それで?」


亀姫「…順序が狂いましたが、ここでご報告申し上げさせていただきますわ。現在、魔国全体の魔素の濃度が急激に下がっております」

魔王「……ああ。それはわかる」


亀姫「先ほど、私のところに医局から報告がございましたの。大気中の魔素の濃度の低下に伴って、国土中で頭痛や眩暈、呼吸困難などの訴えが上がっていると・・・」

魔王「では、近衛もそのせいで?」

亀姫「……近衛の場合、少し違います」

427 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:35:22.18 ID:5xuBUqSR0

亀姫「今、この国で急速に濃度を増している浄気から御石を守るためにかけている結界。その結界自体が、御石の濾過効率を弱めて呼吸困難をひきおこしているのです」

魔王「…では、結界を解いてやったらどうだ」

亀姫「結界を解き浄気を吸って生きるには、近衛にとってまだ浄気も足りず、魔素も濃すぎるのですわ…」

魔王「……混合した大気では、どちらを選ぶにしても生きるに足りないのか」

亀姫「陛下のお傍…この魔王殿の近くでしたら、まだ魔素も多く残っております。御石に少しでも多くの魔素を触れさせていれば多少の回復も見込めると思い、差し出がましくも連れてまいりましたのですわ」


魔王「魔素に触れさせる…か」


魔王「いや、あるいは…」

亀姫「……あるいは…?」



魔王(……天使と同じように… 魔素から離し、浄気の中で…)

魔王(……………天使と…ともに…同じ場所で…)


言葉を止めてしまった魔王。
だがいかに気になろうと、これ以上に先を促すのは失礼にあたる。
亀姫は魔王の言葉の先を考えつつも、かけられる言葉を探し、進言した。

428 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:37:46.25 ID:5xuBUqSR0

亀姫「……陛下。いかがなさいましょう。近衛の任を一時的に外していただければ、医局で近衛の身柄を預かることも可能かと」

魔王「………いや」


魔王「先ほどの話を聞くに、医局も房も手一杯だろう。『東の近衛』は王殿付きの者なのだからして、こちらで引き受ける」

亀姫「お気遣い痛み入ります。医局の者に陛下の御言葉を伝え聞かせれば、必ずや喜び、励みとなることでしょう」

魔王「……だがそれだけでは何の解決にもならぬ。――亀姫」

亀姫「……はい?」



魔王「亀姫。お前の守護結界は、どれほどの大きさのものまでを囲うことができる」


急な問いに、亀姫はやや首をひねりながらも返答する。


亀姫「……結界の使用時点で私自身が保持している魔素の量と、囲う物を囲いきるのに必要な結界の厚さによりますけれど……」

魔王「ふむ」

429 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:38:34.67 ID:5xuBUqSR0

魔王「問い改めよう。神界から降る雲のうち、霧散せずある程度まとまった大きさのあるもの全てを囲いたい。…どれほど必要だ?」

亀姫「な…!?」

魔王「どれだけの魔素がいる」

亀姫「……っ」


抑揚のない魔王の声に、本気で問われていることを悟った亀姫は
青い顔で、表情を曇らせた。
それからほんの数秒の間をおいて、深々と頭を下げて返答する。


亀姫「お、畏れ多くも申し上げます…。あれらは浄気の塊でございますわ」

魔王「承知の上だ」

亀姫「わ…私の体内に溜めおける魔素量が充足していたとしても、あれらを十かそこら封じた頃には魔素が枯渇して…結界を『維持し続けること』が難しいと思われます…」

魔王「では魔素さえ供給されれば、封じること自体は可能なのだな?」

亀姫「…ええ、左様にございます。魔素を集める術もあるにはあります。ですが、現在、魔国の魔素濃度は低下の一途にありますので…。そんなことをすればこの魔国の民への影響は計り知れませんわ!」


魔王「俺の持つ魔素を、お前に譲り分けてやろう。さすれば可能か?」

亀姫「……っ!?」


430 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:39:23.63 ID:5xuBUqSR0

魔王「神界で討った兵士共から、浄気が流れどこかへと吸い込まれていくのを見ていた。威力を持たぬただの気…。おそらくだが、地下にいたという神が吸収していたのであろう?」

亀姫「あ……陛下は、そのことをご存じで…?」

魔王「いや。神界の土地が吸収しているのだと思っていた。だが、地下に神がいたと聞いてから、そこに向かったのではと考えついただけだ」

亀姫「そうであらせられましたか…。ええ、神は浄気を地下の一か所に集め、それを放出する準備をしておりましたわ」

魔王「ふん…。まあいい」


魔王「あの浄気のように、魔力を乗せずに魔素のまま放出することができれば、おそらくお前もそれらを吸収することができるはずだ」

亀姫「ですが、そんなことをしては陛下自身のお力が!」

魔王「このまま浄気と魔素が混ざり合っては、相殺しあって“空”となった大気が充満するだけだ。そうなれば、最終的には俺とて無事では済まぬ」

亀姫「……」


431 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:39:57.92 ID:5xuBUqSR0

魔王「大量の魔素の供給と放出、そして結界の維持という能力のコントロールを同時にこなさねばならぬだろう。出来るか」

亀姫「……それは…」


魔王「無理ならばそう答えろ」

亀姫「…っ」



亀姫「出来る出来ないではございませんわ! 陛下の御身と御国のため、この亀姫、我が名と一族の誇りにかけて操り切って見せますの!!」



魔王「ふ……」


亀姫「陛下! どうぞその御力、私めにお譲りくださいませ!!」


魔王「………くく」


魔王「命を下すのもしのびないほどの苦行のはず。下手をすれば『生きた術式』とも化してしまうだろうに。まさか、“頼む”ことをする前に、おのずから申し出られてしまうとはな」

亀姫「私の身は、もとより陛下に捧げるはずのもの…。陛下の御為のなることならば、何も惜しいことなどございませぬ!!」


432 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:40:59.30 ID:5xuBUqSR0

亀姫の言葉を聞き遂げると、魔王はゆっくりと社殿の奥へと歩む。
背を向けたまま、低く、静かな声でゆっくりと言葉を紡ぎながら。


魔王「……ふむ。お前に言葉では敵わないと思っていたが……」


部屋の奥に立てられた一本の錫杖。
それを握り、高く持ち上げて引き出した。


魔王「今回ばかりは、お前の言葉にはひとつ間違いがあるようだ」

亀姫「……間違い…?」


魔王の歩くのに合わせ、厳かに鳴り響く金環。

その高らかな音色と、魔王の放ち続ける低い声音は
催眠術のように魔王の言葉を亀姫の心の奥深くに送り届けてくる。


433 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2016/11/29(火) 05:47:27.98 ID:5xuBUqSR0

魔王「お前を無くすのは俺が惜しい。主が惜しむからにはお前も惜しむのが正しいだろう。…決して軽んじてくれるな」

亀姫「………陛…下…」


視線を上げた亀姫は、いまだかつて見たことがない魔王の瞳に一瞬で魅せられた。
しかしその視線の交差を阻むように、錫杖の先が亀姫の眼前に突き付けられる。


ジャララン…!
ひときわ大きく鳴らされたその音が亀姫の耳に吸い込まれると同時。



魔王「必ず操り切って、その精神を保ち続けろ」




……っ――


目に見えるほどの高濃度の魔素が、一本の細い渦を巻いて錫杖の先からあふれ出す。
それはまるで獲物を襲い食らうヘビのように、亀姫の中へと潜り込み、体内を駆け巡っていった。


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 06:38:24.23 ID:Exs0AkQNo


待ってたでぇ
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/01(木) 17:54:47.47 ID:xouDugG3O

数少ないオリジナル物だからね 決してエタらないでくれ
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/01(木) 20:14:45.54 ID:Ta50YPgIo

うぉぉ続きが気になる!
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/01(木) 21:16:04.96 ID:LRBbeozQO


待ってたよおおお
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 21:53:39.38 ID:+UcxEnMwO
ほしゅ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 00:47:55.98 ID:GAbwTE1gO
乙乙
やっぱり女勇者が規格外すぎるだけで魔王も強かったんだな
大した事ないのかと錯覚してた
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 00:48:45.21 ID:GAbwTE1gO
ごめん誤爆
441 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:47:40.52 ID:A9tED0Y40

―――――――――――

渦巻く魔素を飲み込んだ亀姫の瞳は、蛇のごとくに丸く瞳孔を開かせている。
溢れすぎる力に苦痛でもあるのか、亀姫はいつもの饒舌さを失ったまま、大きく袂をふるった。


亀姫「……っ、あ……ひとつ」


ヒュバッ…
風切音をさせ、袖から覗く細いしなやかな指先から魔力が放たれる。
細い糸のように伸びた魔力。
それは的確に空中の獲物…神界のかけらにぶつかると、ぶわりと膨張して飲み込むようにして雲を囲った。


魔王「……ほう…。これまでに見た結界術よりも、魔力に無駄がなく速い。……獲物に食らいつく蛇のようだ」

442 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:48:24.62 ID:A9tED0Y40

亀姫「……ふた…つ………っ」


今度は反対の腕を大きく広げ、別の雲を捉える。
振袖が舞い、髪が揺れる。魔力のコントロールのために滑らかに動く指先。


亀姫「みつ……よつ………っう、ぁぁ……」

亀姫「あ………。いつ…………むつ……っ」


数え唄を舞う亀姫の衣から、空へと放たれていく蛇と吐息。
愛でるように、撫ぜるように。獲物を捕らえ膨らんだそれを、抱くような仕草でひきよせ集めていく。

魔王殿周辺の大きな雲を囲いきると“霧散する浄気”は減り、周辺一帯はまた魔素の濃度を安定させた。


魔王「無事か」

亀姫「……は、い。陛下………」

魔王「苦しいのか。それともやはり負担が大きすぎたか」

亀姫「あ……。いえ…御力をだいぶ使うことで…頂いた直後よりは、だいぶ落ち着きましたわ」

魔王「呼気が乱れているし、すこしふらついているようだな。……大儀であった、しばし休むがよい」

443 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:52:51.79 ID:A9tED0Y40

魔王の許しを得て体の力を抜くと、いまにもその場にへたりこんでしまいそうだった。
どうにか身体を動かし、近くにあった大きめの庭石に手をかけて僅かによりかかる。


亀姫「私の体内で溜める魔素と、陛下からいただいたこの御力…。そもそもの濃度が違うようでございます」

亀姫「今はとても、その…。高揚からようやく醒めたような、不思議な気分ですの……」

魔王「ほう…?」


亀姫「私の魔力がどこからか湧き出て溜まる泉と例えるならば、陛下の御力はまるで熔けた鋼か銀のよう……」

亀姫「煮え立つあぶくが割れるごとくに私の中から勢いよく飛び出し、ほんの僅かに放たれたそれは冷めるようにかたまり、でもしなやかに伸びて……ああ、とても表現しきれませんわ」

魔王「他者の魔力とはそのようなものか」

亀姫「いいえ、きっと陛下の御力が特別で…………」

444 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:53:29.57 ID:A9tED0Y40

亀姫はチラと視界の端に写った近衛の姿に目をやった。
正確には、近衛が苦しげに握ったままの胸元の御石に意識をとられたのだ。


亀姫(……陛下の御力…血の結晶。はじめてそれについて近衛に聞いたときは、ほんのわずかに羨みを覚え、欲しいような気すらしたけれど……)

亀姫(硬くしなやかに私を穿った魔力も…放った力の残滓も、あんなものよりずっと陛下そのものに感じられて……)


身体に残る、苦痛めいた快感の余韻。
高揚し熱を持った身体がゆっくりと冷めていくのが、心地よいとも惜しいとも思う。

そんなことは、とても言葉にして伝えることなどできない。


445 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:54:47.01 ID:A9tED0Y40

歯切れ悪く会話を止めてしまった亀姫だったが
魔王はその先を促すことはなく、事務的に声をかけた。


魔王「して、どうだ。力は足りそうか」

亀姫「…維持をし続けるのに、出来うることなら一か所にまとめ、ひとつの大きな“浄気の牢”を作ったほうが良いかと思われますわ…。分散して結界を保つのは、消費も多くございます」

魔王「俺の社殿を使え。社殿そのものにも魔素が染み入っている分、結界も作りやすいだろう。…押し込めてしまうならば広さも十二分にたりるはずだ」


亀姫「……陛下。本来でしたら、陛下の社殿をそのように使うことは許されません」

亀姫「ですが…まだここから見える大きな神界のかけらを捉えることを思へば、私はその案に縋らせていただきとうございます」

446 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:55:17.17 ID:A9tED0Y40

魔王「ふ。どうした、素直になったものだな」

亀姫「社殿よりも、礼節よりも、陛下の御身を第一にお守りしたい私のわがままでございます」

魔王「………ああ。それでいい、構わぬ。捕えた浄気はすべて社殿へいれろ」

亀姫(……………社殿へ…)


亀姫は魔王の言葉を聞き遂げると、ゆっくりと目を伏せてから腕を伸ばし魔力を放った。
捕えた雲に細い糸が絡み、ピンと張りつめられ――


ビュルっ…ズバン!!!
大きな音を立てて、神界の雲は王殿の中へ吸い寄せられるようにして落とし込まれていった。


447 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:57:33.43 ID:A9tED0Y40

魔王「近衛」


呼び止められた近衛は、ハッと息を呑んで魔王を見つめた。


魔王「……近衛。おまえはその石を外して、社殿の中に入っていろ。中はすぐに浄気で満たされるはずだ…天界と同じように、すぐに動けるようになる」

近衛「陛、下…。ですが、この魔国の大事に自分ばかりそのようなこと…。それにこの御石を外すなどと…」

魔王「勘違いも甚だしいな。お前には任がある。中に入ったなら、異物を除去して社殿の外に出せ。石も、外さねばただの屑と化すだけだ」

近衛「それはそうですが…。あ、いえ。それよりも異物…とは?」

魔王「神界の雲だ。下層の樹木くらいならばともかく…上層の雲をいれれば神族の遺骸も混じりだすだろう」

近衛「っ」

448 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 10:59:35.56 ID:A9tED0Y40

魔王「社殿の中には天使がいる。……目に止まらせたくない」

亀姫(…………)


魔王の言葉に、また亀姫の心は揺れて、目を伏せさせる。

社殿の中に浄気をいれろと提案された時から気づいていた。
――それは魔王のためでも魔国のためでもなく、天使のためなのだと。


かき集めた、神界の浄気を集めた無数の球。
それらの全てを、たった一人の天使の為に捧げるのだ。


魔王は今も、天使の事を第一に慮って行動している。
魔王のために精神のすべてを研ぎ澄まさせて術を行使する亀姫の事は、本当は一体どれだけ魔王の心にあるのだろう。

449 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:19:47.81 ID:A9tED0Y40

近衛「……異物の除去とは、どのように行えばよろしいですか」

魔王「回復したのならば王殿の入り口近くに立ち、勢いよく放り込まれる結界を斬り破れ」

魔王「そしてその中から飛び出す異物だけを斬り打って、王殿の外に即時に排出しろ」

魔王「…外界から飛んでくる結界を打ち破り、王殿そのものにかけられている結界にまた閉じ込めるその一瞬の隙だけがお前に与えられる機会だ。くく、うっかりそれらにぶつかって死んでくれるなよ」

近衛「か…かしこまりました。かならずや成してみせます」


近衛は一瞬のためらいの後で首から御石を外すと、それを恭しく魔王に預けた。
もたつく足で階を昇り、開け放たれたままの社殿へ進んでいく。


450 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:20:41.05 ID:A9tED0Y40

魔王「…………」


近衛が社殿の中へ消えていくのを、魔王が見つめていた。


亀姫「………っ!」


――シュルッ…………  ズバン!!!


雲を手繰り寄せる亀姫の術が、冴える。
叩き込むようにして、あらたな浄気を社殿へと封じ込んだ。


揺らめいた結界は大気を歪ませ、薄く青紫がかった結界が一瞬だけ視界を鈍くする。
魔王がわずかに反応し、小さく顔をそむけた。


亀姫(………近衛をみつけた天使。天使に出会えた近衛…。そんな姿など見たくはないはずですのに、なぜ……)


亀姫(………そんなもので…陛下の心を捕えられたくありませんわ…)



視界を遮ったのは誰の為だったか。
必要以上に勢いよく放り込んだのは、亀姫のやり場のない憤りそのものだったのかもしれない。


―――――――――――

451 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:21:21.36 ID:A9tED0Y40

それまでに捕えていた浄気をすべて王殿に封じ込めると、亀姫は自分の一族を呼び出し、結界の維持の任にあたらせた。
4人の女が社殿の四方を取り囲み、祈るような姿勢で結界の維持に取り組む。


亀姫「こうしておけば、私がここから離れて浄気を捕えに行っても安全でございますわ」

魔王「……安全?」

亀姫「さきほど私が捕えたのは今ここから届く範囲のものだけでございますゆえ」


452 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:22:11.22 ID:A9tED0Y40

魔王「……なるほど。ならばお前はどこまで離れるつもりなのだ」

亀姫「苦しむ民がいるのですから、魔国中へ参り、各所で浄気を捕えとうございます…。陛下、そのことでお願いがございますわ」

魔王「なんだ」

亀姫「各地に住む種族へ、浄気を一時的に封じる場所として強靭な建物を提供するよう、伝令を放っていただきとうございます」


魔王「……なるほど。いちいちこちらに運び込むのも労であるか」

亀姫「私の魔素が減耗したならば、陛下に魔素をいただきに戻りますわ。その際に、溜めこんだものをひとつづつ持ち帰ります」

魔王「いいだろう。結界術の行使は俺は専門外だ。すべて亀姫…お前の望むように手配しよう」

亀姫「ありがたきしあわせ……」

453 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:22:45.48 ID:A9tED0Y40

魔王「……願いはそれだけか?」


魔王が亀姫に向けた視線は、穏やかなものだった。
必要とあれば聞き遂げようと、亀姫の瞳をまっすぐに見つめている。


亀姫「……………願、い……」


優しい言葉は、亀姫の願いを聞き遂げるためではない。
天使のために出来ることを惜しまないという魔王の心の表れだ。


亀姫(…………っ)


454 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2017/01/19(木) 11:23:12.38 ID:A9tED0Y40

長い袖の中で握りしめた手は、誰にも見つかることはない。
そして、心の中で押しつぶそうとしている自分の願いも、決して見つかることはない。



どうか、これから貴方様のために大任を負う私の為“だけ”にお言葉をかけてくださいませ、という願いなど…




亀姫「はい。それだけでございますわ、陛下」



未来永劫、見つけ出してもらえることはないのだろう。


―――――――――――

455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/19(木) 16:03:18.90 ID:twOt+3pGO
乙乙
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/22(日) 22:47:17.82 ID:z0n5eG5co
亀姫様健気過ぎる
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/11(土) 06:57:36.54 ID:/y6by9ACO
乙ー
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/07(火) 03:21:28.20 ID:TDBh8NMWO
ほっしゅ
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/03(月) 13:58:47.20 ID:2O9Zyc7jO
ほしゅ
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 18:33:58.62 ID:fuByej+k0
保守
461 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2017/05/11(木) 21:49:02.50 ID:W4kO0RkH0
こんなに長い間留守にしてたのに、保守してくださっている…。
ありがとうございます…必ず、書きます。
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/12(金) 00:18:31.49 ID:2IJ7CpJ6o
>>461
気長に待ってるよー
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 12:11:08.79 ID:539X8UsDo
待ってるよ〜
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 00:13:16.12 ID:imHioylz0
保守る
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/30(金) 00:38:15.32 ID:fvmHqiYEo
*
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/30(金) 02:48:54.98 ID:C6xlb7WOo
下げ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 04:47:22.58 ID:SLJ7Dqwe0
保守
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/03(木) 06:40:58.48 ID:JcRZVZSpO
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/11(金) 00:31:15.58 ID:uahGzJfDO
保守
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 09:26:12.14 ID:IqZPUrBk0
ほしゅ
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/12(木) 21:30:41.12 ID:L2O5Lud00
保守
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/13(月) 03:36:30.90 ID:da3R5ePLO
はよ
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/12/10(日) 03:17:00.04 ID:22BjhRFtO
まだ?
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