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【リライト版】真・恋姫無双【凡将伝】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. :2015/10/20(火) 21:39:29.43 ID:ZNYvTW3Oo
前スレ http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399473586/

 時は二世紀末、漢王朝の時代。
 四世三公の名家たる袁家に代々仕えし武家である紀家に生まれた一人の男児。
 諱(いみな)を霊、真名を二郎というこの男は様々な出会いや経験を重ねていく中で、やがて世を席巻していく。
 しかし、彼には誰にも言えない一つの秘密があった。
 彼の頭の中には、異なる世界における未来で生きてきた前世の記憶が納められていたのだ――。
 これは、三国志っぽいけどなんか微妙に違和感のある世界で英雄豪傑(ただし美少女)に囲まれながら右往左往迷走奔走し、それでも前に進もうとする凡人のお話である。


※一旦完結した作品のリライトとなります
※なろうにても投下しております。こっちで書いて推敲してからなろうに投稿って感じです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445344769
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part6 @ 2024/03/16(土) 18:36:44.10 ID:H9jwDXet0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710581803/

昔、スリに間違えられた @ 2024/03/16(土) 17:01:20.79 ID:TU1bmFpu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1710576080/

さくらみこ「インターネッツのディストピアで」星街すいせい「ウィキペディアね」 @ 2024/03/16(土) 15:57:39.74 ID:7uCG76pMo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710572259/

今日は月が……❤ @ 2024/03/14(木) 18:25:34.96 ID:FFqOb4Jf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710408334/

どうも、僕は「げじまゆ」をヤリ捨てた好色一代男うーきちと言います!114514!! @ 2024/03/14(木) 01:23:38.34 ID:ElVKCO5V0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710347017/

アサギ・とがめ・新生活! @ 2024/03/13(水) 21:44:42.36 ID:wQLQUVs10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710333881/

そろそろ春だねー! @ 2024/03/12(火) 21:53:17.79 ID:BH6nSGCdo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1710247997/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part5 @ 2024/03/12(火) 16:37:46.33 ID:kMZQc8+v0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1710229065/

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/10/20(火) 21:42:16.23 ID:ZNYvTW3Oo
 一陣の風が荒野を駆け抜ける。舞い上がる砂塵の色は黄色。蒼天に立ち向かい、立ち上るそれは見る間に霧散していく。突風一つでは蒼天は揺るぎもしない。輝く日輪がじり、と大地を照りつける。
 果てしなく広がる蒼天に注いでいた視線を黄色い大地に落とす。そこには雲霞のごとく集う軍勢がある。出撃の合図を待ちわびる姿は引き絞られた弓のように張りつめている。その軍勢が俺の号令を今か今かと待ちわびているのだ。なんとも場違いであるという思いが絶えない。
 ふう、とため息を漏らす。ここに至ってびびっている内心を漏らさぬように歯を食いしばる。俺の号令一つで膨大な人死にが出る。敵も、味方も。ここまで俺なりにベストを尽くしてきたはずで、それでも怖気づきそうな自分に――いや、怖気づいている自分を自覚する。だが、それでも退くわけにはいかない。背負ったものがあるのだから。

「七乃〜、喉がかわいたのじゃ〜。蜂蜜水を持ってたもれ〜。よーく冷えたやつを、じゃぞ?」
「え〜、今日はもうだめですー。夜に大変なことになっても知らないですよー?」
「うう、七乃はこっちに来てから意地悪なのじゃ〜」

 声の主は親愛なる主君とその忠実なる家臣かつ俺の同僚のものである。くすり、と。

「美羽様、そろそろ後ろに下がってくださいな」
「退屈なのじゃよー。いい加減、天幕の中も飽きたのじゃー」
「知らないですよ、お怪我をされても」
「ん?そちと七乃が守ってくれるのであろ?」

 にこにこと、無邪気でまっすぐな視線が俺を貫く。

「それは勿論です。ですがまあ、ここいらは矢玉が届きかねんということで一つ。お下がりくださいな。
 つか、七乃よ。美羽様の守護はお前の仕事だろうが。ちゃんと後方に下がっていただけるよう口添えくらいしろよ」

 じろり、と睨むのだが無論そんなのどこ吹く風である。

「えー、知らないですよー。美羽様の退屈を晴らすのも私のお仕事ですしー」
「それはそれとして、だ。よりによって前線に出てくることもないだろうって話だろうよ」
「やだなー。美羽様の退屈が一番紛れそうなとこに来ただけなのにー。ひどいぞー」

 ぶうぶうと不満を漏らす七乃とそれに便乗する美羽様にがくり、と脱力する。うん、いい感じに力が抜けた、と自覚する。膝の震えも、ばくばくいってた鼓動も落ち着きをみせている。マイペースな二人に、苦笑する。それを自覚する。口が笑みの形に曲がったことを自覚する。
 姦しく囀る二人から注意を前方に向ける。

――空にそびえる黒鉄くろがねの城――水関――を見据える。その威容は変わらず。だが。

「ま、なんとかなる!」

 向かうは精強たる董卓軍。翻るにこちらは群雄割拠する反董卓連合。うん、逆に考えるんだ。味方にはチート武将がたくさんいるんだから、自分でなんとかしなくていい、と。曹操とか劉備とか孫権とか。夏候惇とか夏侯淵とか郭嘉とか典韋とか趙雲とか馬超とか陸遜とか他にも色々!

 まあ、俺はこれで今の立ち位置が気に入っているのさ。そう。

 ――袁家の武将。紀霊という、今を。

 死亡フラグ?知らんなあ――。
3 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:43:36.41 ID:ZNYvTW3Oo
 さて、紀霊と呼ばれる自分。そして漢朝が天下を差配するという現実。つまりまあ、自分はいわゆる三国志と言われる時代にいるのだろうと認識する。そして、それは俺の未来が暗澹たるものになるということ。
 そこまで三国志に詳しい知識はないのだが、紀霊――俺が呼ばれる名前――という武将は三国志序盤から中盤あたりで張飛にずんばらりんと切り殺されていたはずだ。くそ!なんて時代だ!だが、戦わなきゃ、現実と!
 つか、マジでこの先生きのこるために尽力せんとお先真っ暗であるのだ。俺の仕える袁家というのは北方の名門で相当な勢力であるのだが、敵対したのがあの曹操である。分かり易く言うと戦国時代の織田家とやりあう羽目になるということである。つまり役柄は今川ってか!死亡フラグおかわりありがとうございますとでも言えばええんか!
 ――まあ、とりあえずまだ幼児の身ではあるがやれることはやっとかんとなあ。

「二郎様ー。お待ちくださいってば!」

 ち、かぎつけられたか。

「陳蘭、逃げやしねえよ!だから俺のことはほっといてくれよ!」
「もう、また勝手な!私は二郎様のお守り役なのですから!」

 ふんす、と鼻息も荒く俺の前に現れたのは陳蘭。本人が言うように俺のお守り役である。くそ、俺より数年の年長であるという体躯的な優越を駆使して悉く俺の前に立ちはだかるのだ。いや、お役目を真面目に果たしているというのは分かってるのだが。

「二郎様!今日と言う今日はもう、逃がしませんからね!」

 なお、二郎というのは俺の真名、と言う奴だ。何でも神聖なもので、勝手にその真名を呼んだら殺されても文句は言えないという物騒なものらしい。字あざなと諱いみなを足したようなものだろうと理解している。まあ、俺がその真名を二郎としたのにそこまで深い理由はない。前世――と言うかリーマンだったころの本名がそれであるから、だ。無論そんなことを言えるはずもなく、中華に伝わる神話の英雄的な二郎神君からあやかったということにしてある。
 ――よく考えると、日本人的には「スサノオ」とか「ヤマトタケル」を名乗ったみたいなもんかと悶えたこともあるのだが。周りで飛び交う真名がもっとキラキラしているのを知って吹っ切れた。なお、俺のとーちゃんの真名は一郎だからまあ、嫡子たる俺が二郎であること。なにもおかしなことはない。
 などと思いながら陳蘭から逃亡していたのだが、突如として足が大地から離れて空を蹴ることになる。

「こら、ぼうや。駄目でしょ、陳蘭を困らせたら」
「あ、ねーちゃん」

 ぶらーんと。襟首を掴まれてしまっては幼児である俺に何かできるはずもないし、この体勢で暴れてもどうにもならないから大人しくするが吉である。長いモノには巻かれるべきであるというのが俺の保身術である。
 俺を力づくで――傍目には微笑ましい光景なのだろうなあ――拘束するのは。

「あ、麹義様!その、二郎様は何もわるくありません!わたしが目を離しちゃっただけで・・・。なにもされてませんから!」

 ぷるぷると震えながら、涙目で俺を解放するように必死に訴える陳蘭である。うおう。込み上げる罪悪感。
 そして容易く俺を拘束してニヤニヤとしてるのは麹義のねーちゃん。俺が産まれる前に勃発した匈奴の大侵攻から漢朝を救った袁家の宿将、生きる伝説その人である。

「あら、二郎?おいたは、駄目よって言わなかったかしら?」

 にこにこ、とほほ笑むねーちゃんはすこぶるつきの美人さんである。だが、顔の半分くらいが火傷のケロイドに覆われており、その美醜のアンバランスさが奇妙な威圧感をかもしだすのだ――。

「書庫に籠るだけだし、悪さとか別にするつもりないし」

 その容貌とか肩書に恐れ入る俺ではない。何となれば、だ。とーちゃん――これまた対匈奴戦の英雄らしい――と古くからの知己であり、物心つく前から俺を可愛がってくれてたからなあ。かーちゃんだと思ってたよ。ガチで。一度かーちゃんと呼んだら実に微妙な顔をされてしまった。それ以来、ねーちゃんと呼んでいる。

「へえ?じゃあ別に陳蘭が一緒にいてもなにも不都合はないわよね?」

 ぐぬぬ。その通りなのだが。俺がしたいのは書物の紐を解くことではなくってだ。これからの行動指針なり、事業計画書の作成だったりするからできることならば人目を避けたかったのだよなあ。とも言えず。

「いや、陳蘭が追っかけてくるからその。ちょっと楽しくって」

 ここは無邪気な子供アピールである。

「へえ……?それはよかったわね、陳蘭。二郎は貴女と遊ぶのが楽しくってしょうがないらしいわよ?」

 くすくすと笑みをこぼす麹義のねーちゃんと頬を赤らめる陳蘭。なのだが。

「二郎も、陳蘭と離ればなれは、嫌よね?」

 にこにこと。

「そ。そりゃあ、勿論」
「だったらわきまえることね」

 ツン、と俺の鼻っ柱を弾くのだが。その動きを俺は感知できず、ただ衝撃のみを受ける。これが、匈奴とやりあった英雄のスペックか!

 そうして俺は決心した。というか理解した。英雄豪傑入り乱れる三国志で俺は雑魚でしかいないと。そこで俺がこの先生きのこるにはどうすればいいか、と。

 答えは簡単である。

「――三国志なんて、始めさせるものかよ」

 だから、これは俺の反逆の物語。英雄英傑がその真髄を発揮する場なぞくれてやらん。
 つまり、俺は抗うのだ。時代の、流れに。

「二郎さま!やっと見つけました!」

 えへへ、と笑う陳蘭にばきべき、と濁音が響く程度の拘束を受けながら俺はそんなことを思っていたのである。
 いや、痛い痛い痛い痛い。マジ痛いんですけど!この子すごい怪力なんですけど!
4 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:44:34.78 ID:ZNYvTW3Oo
「じ、二郎様、ごめんなさい!」

 涙目な陳蘭をどうどう、と宥める。そう、陳蘭の怪力ベアハッグにて俺は意識を失う寸前までいったのである。或いは逝ってたかもしれんな、とも思う。うむ、力こそパワーということである。

「いいって。もとはと言えば陳蘭から逃げてた俺も悪いしな」

 そりゃあ、守り役がその守護すべき対象を見失ったら責任問題であろう。陳蘭が必死になるのもむべなるかな、である。ひらひら、と手を振り重ねて気にしないように言う。
 しかしまあ、肉体的なスペックはおいといて、少しは鍛えんといかんなあとか思うのである。幼女に膂力でぼろ負けとか――。いや、俺も幼児ではあるのだがね。責めるでなく、色々と納得してもらった。
 というのが半刻前のこと。せっせと書庫にて筆を握る俺に興味津々とばかりに尋ねてくる。

「で、二郎様、何を書かれているのですか?」

 今泣いたカラスがもう笑ったとばかりに明るく陳蘭が聞いてくる。まあ、書庫なんぞ幼女にはヒマなだけだろうからな。図書館みたいに絵本とかあるわけないし、読み聞かせイベントもないし。むしろよくも半刻も大人しくしていたと言うべきか。

「ふむ。事業計画書をちょっとな」
「ふぇ?」

 さて、三国志を始めさせないと内心誓った俺ではある。では、どうすればそれが果たされるというかという話である。色々と細かい話は置いといて、乱が起きるその理由と言うのはただ一つ。

「まずは食わせろ。孔子様もおっしゃってるしな。陳蘭もひもじいのは嫌だろ?」
「は、はい!おなかがすくのは、やです!」

 だからと言って食べる量を減らすなんてのはナンセンス。つまり俺が目指すのは食糧増産。そのための事業計画書をでっちあげようとしているのである。とは言え、俺の頭に農業の専門知識があるというかと言うとそうではない。せいぜいが教科書レベルの歴史、そしてそのキーワードくらい。

「草木灰、備中ぐわ、千歯こき・・・」
「ふぇ?」

 非常に心もとないが、それでも西暦200年には届いていないであろう現段階では相当先進的な知識であるはずだ。そしてそれは俺がたくらむ農業改革の一端でしかない。本丸は効率的な苗の間隔、水やり、収穫のタイミングなどのノウハウの共有化なのだから。
 とにもかくにも食糧増産、である。幸いにして俺が所属する袁家が根拠地とする華北の地は中華が誇る穀倉地帯。効果が割合的には多少であっても母数が莫大だからな。こうかはばつぐんだ!となるはずである。
 と、陳蘭相手に力説してみる。当然帰ってくる反応は疑問符であるのだが。

「ほう、中々に興味深いのう。じゃが、それだけの知識、どこで得た?」

 そのような問いも想定の範囲内。欺瞞工作バッチこいである。

「そりゃあれよ。神農って知ってるか?」
「ふむ、古代の神仙。確か食べられる草と毒を自ら口にして区別した方、じゃな」
「そうそう。その神農様のありがたーいお言葉を記した書物が紀家の書庫にあったのを見つけてね。農徳書って」
「ふむ?じゃが紀家の書庫は先日不審火で全滅したじゃろう」
「そうそう。だからまあ、覚えている内容だけでも忘れないうちに書きつけといて、どうせだから実践してみようかな、って」

 というアンダーカバー的な――。ん?陳蘭ってこんなにじじくさいしゃべりだったっけ?と思って陳蘭を見ると、ぷるぷると震えており。その視線の先にぎぎぎ、と首を向けると。

「ん?どうした?続きを聞かせんか。中々に面白いことを囀る」

 そこには、白髪を長く伸ばして三つ編みにまとめた、筋骨隆々の、老人がいた。

 え。

 だ、誰--?

 そんな俺の内心を読んだかのごとく、老人は呵呵大笑する。

「む、名乗りがまだじゃったか。儂の名は田豊。今後ともよろしくな、紀家の麒麟児よ」

 にかり、といい笑顔でそんなことをおっしゃりやがりましたよー!

 そして軽くパニックになりながら現状を確認する。よし、大丈夫。多分致命的なことは口走っていない。ここまではOK。しかしてこの面前にいて圧倒的な存在感を放つ老人について考えよう。正直逃げ出したい気分だけんども。
 田豊。さほど三国志に詳しくない俺でも予備知識として知っている名前であり、これまでの生活でも耳にしている。すなわち、だ。ねーちゃんが袁家の武の要であるとすれば目の前の田豊と名乗った老人こそが文の要。そして俺の知る知識に於いてはこの老人の献策を袁紹は受け入れず、その結果として袁家は曹操に敗北することになるのだ。
 つまり、袁家にとっては鬱フラグブレイカーの一人であることは間違いなく、いずれは接触しようとしていたVIPの一人。こんなシチュエーションでドキがムネムネしてしまったがこれは存外な幸運とも言える。これは奇貨とせねばならん。袁家没落を防ぐために!そして俺の安寧な老後のために!
 故に頭を切り替える。企画書作成途中でプレゼンに臨まねばならないことなぞ幾度もあった。準備万端なプレゼン、商談なんぞ甘えである。突発的なイベントから企画をねじこむことこそ営業の本領。本来であればとーちゃんのコネを頼って袁家に波及させようとしていた事象。例えここでとちってもリカバリは効く。そしてプレゼンテイターたる俺は幼児であるからしてプレゼン内容には下駄を履かせてくれるだろう。なればローリスクハイリターン。
 男は度胸。なんだってやってみるもんさと偉い人も言っている。レッツ ショータイム!である。
5 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:45:11.09 ID:ZNYvTW3Oo
 神童と言い、麒麟児と言う。随分と麹義が可愛がり、自慢する紀家の嫡男。それがどれだけのものか、と知己を得るだけのはずであったはずなのだがな、と田豊は内心苦笑しながら紀霊の説く計画について吟味する。
 いくつかの農具と農法。田豊も聞いたことのないそれは神農が記したという書物にあったものという。袁家の軍師として名著には通じているという、自らの記憶にもないその書に首を傾げる。
が、始皇帝の焚書以降多くの書物は散逸し、紛失されている。かの太公望が記したという六韜すら名前しか伝わっていないのだ。まあ、そういうことなのだろうと田豊は頭を切り替える。重要なのはそこではない。
 突飛な知識なぞはまあ、若気の至り、或いは失われた知識を発掘したということで終わりである。だが、と思う。手柄に逸る若人から出されたとは思えないその骨子に田豊は違和感を覚える。
 若手の武官や官僚に多い、手柄を誇るその功名心――これはこれで組織の活性化に好ましいものである――とは一線を画している。いや、異質と言っていいだろう。

「まあ、実際その有効性というのは膨大な試験において検討せねばならないかと」

 農作物それぞれにおいて、水遣り、種植えの時期、間隔、それらは現在実際に農作業に当たる民の習慣、勘で為されている。それを膨大な組み合わせに於いて効率化を図る、と。それを為す、と。

「や、袁家の誇る官僚団。遊ばせておくことはないかと思うのですよね」

 しれっとそのようなことを嘯く。確かに、匈奴の脅威は近年では遠く。緊急の動員もない。名門袁家に仕える官僚はその有能さを内部の権力闘争に注いでいたのが近年の懸案事項ではあったのだ。

「なにせ、古代の書でありますから失敗もやむなきことかと。むしろ各事例の集計、分析。そしてそれを加味しての改良こそが大事かと」

 紀霊としては、PDCAサイクルにちょっと味付けをしただけのつもりではあったがそれは思いのほか大きなインパクトを田豊に与えた。

「なるほどな」

 紀霊の視線はあくまで遠くを見つめ、それでいてその歩みはいっそ物足りないくらいに堅実である。何より、若輩の身でありながら人を使うというその姿勢が頼もしいではないか。思いの外、袁家は次代の人材に恵まれているのかもしらん。そう思い田豊は紀霊の計画に一部修正を加え、実行に移す。

――即ち、紀家ではなく、袁家が紀霊の提案たる実験を実施するということ。そして、この決定がただでさえ隆盛な袁家の力を特盛にすることになるのである。
6 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:46:17.58 ID:ZNYvTW3Oo
「ちぇすとおおおおおおおおおおおおおおお!」

 渾身の雄叫びと共に握りしめた木剣を丸太に叩きつける。腹の底から放ち、喉を枯らすそれはもはや絶叫といっていい。むしろ猿叫か。
 更に連撃を叩きこむ。全身の筋肉の悲鳴を無視して、打つ、打つ、打つ。無酸素運動の稼働限界を越え筋肉が悲鳴を上げても尚、打つ。打つのだ。

 ぜえ、ぜえと呼吸が困難になり、意識に靄がかかるまでに打ち尽くす。それが俺の毎日の鍛錬である。三国志、つまり戦乱を防ぐと内心誓ったとしてそれが果たされるかどうかは別問題。ならば鍛えておかねば、というのはごくごく自然な発想である。
 そして、実践というか、実戦において猛威を振るったあの流派を俺は選んだ。いや、この時代、まともな武術とか流派とかないからね?
 そしてあの流派――(みんな大好き)示現流についてはちょいと道場に通ったこともあるしな!
 まあ、幼児のうちから立木打ちとかのトレーニングをしとけばきっといっぱしの戦闘力を身に付けているはずである、とか思いながらもひたすらに打つのだ。打つのである。努力はきっと裏切らない。といいな。

「二郎様、お疲れ様です・・・」

 ぜえぜえ、と息を切らす俺に陳蘭が水を持ってきてくれる。うん、生き返る。ぷはー、って感じ?
 だけんども実際、鍛錬したって気休めくらいなんだよなー。膂力で言ったら現状でも陳蘭には全然かなわんしね。とはいえ、白兵戦の能力を積み上げるのにこれ以上の鍛錬は思いつかなかった。俺が思うにこの鍛錬は自らの限界を越えてなお、相手を屠るためのもの。
 人は知らずにその振るう力にリミットを設けているという。それを取り払って発揮するのは非常時のみ。いわゆる「火事場の馬鹿力」というやつである。それを意識的に発揮することがこそが肝ではないのかな、と思うのである。いや、違うかもしれんけどね?そんなことを思いながらも腹の底から声を振り絞り、限界まで力を振るう。

 そんな感じで鍛錬に励む俺に思いもよらぬところから呼び出しがかかる。呼び出しの主は袁逢様。つまり、現在の袁家のご当主さまである。むむむ。まあ、否やはないのであるんだけどね。

「そんなに緊張しないで欲しいわね?」

 くすくすと優雅にほほ笑む袁逢様。そのエレガントなお姿に俺は心服するほかはない。只でさえ美人な袁逢様がエレガントなのである。これは何を言われてもハイかyesで応えるしかないじゃないですか!

「噂は聞いているわよ?紀家の麒麟児、神童、って」

 神童、長じれば凡人。はい、俺のことですね分かります。ちょっとなんか前世的な記憶によって早熟なだけなんだけどもね。もう数年したら三国志に巣食う天才、秀才、英傑、豪傑あたりがデビューするはずである。そしたら俺なんぞ普通に凡人ですだよ。やだー。

「過分な評価恐れ入ります。ですがこの身は非才故、皆の助力に頼っております」
「あら、余計なこと言っちゃったかしら。ごめんなさいね?」

 くすり、と微笑の袁逢様マジ天使。である。

「ほんと、田豊が言うのはほんとね。貴方のお父上もそうだったけど、お話ししてて安心できるのよね」

 なお、話題に上がった俺のとーちゃんはろくすっぽ政務をしていない。時折地方に出向いて歓待されるのがお仕事である。紀家の当主は俺のあこがれの役職である。とーちゃんマジ尊敬、リスペクトである。そんな地位を手放してなるものかよ!なんもなければ普通に相続できるんだし!
 という訳で、俺の目標はとーちゃんの跡目を相続すること。そしてそのためには袁家には隆盛でいてもらわんといかん。そのために全力でマッハなのだ。

「いえ、父や師父に比べると。いや、本当に非才だなと忸怩たる思いの毎日です」

 実際、俺のスペックはどう考えても凡人の範囲を逸脱できんしな。まあ、袁家というバックボーンや所々のコネがあるだけ恵まれているだろう。

「あらあら。紀家の麒麟児というのだからもっと尖っているのだと思ってたのだけれどもね」

 くすくす、とほほ笑む袁逢様マジ包容力Maxである。

「まあいいわ。紀霊。今日は貴方にこの子を任せたいと思ってたのよ」

 袁逢様は胸に抱いていた幼児を俺に示す。

「真名を麗羽、と言うの。この子をよろしくね?」

 真名。それは個人の友誼に大いに関わるが故にこうして関係性をあらかじめ結ぶためにも用いられる。政治、というやつだ。
 名門である袁家においてはそれくらいの腹芸はそこかしこで交わされている。まあ、袁逢様直々のお声かけということはとーちゃんやねーちゃんも了解済みのことだろう。
 はあ、時の抜けた返事をする。袁逢様の豊かな胸に抱かれた麗羽様。目と目が合って――なにこの可愛い生き物。マジ可愛いんですけど。

「二郎です、麗羽様。末永くよろしくお願いしますね」

 どれどれ、とばかりに差し出した指をきゅ、と掴んで麗羽様がきゃっきゃと笑う。

「あらあら。もう仲良しさんなのね」

 袁逢様の言葉を耳にしながら俺は不思議な感動に身を震わせていた。無条件にこちらを慕ってくる笑顔。その笑顔。守りたい、この笑顔。
 俺はきっとこれを忘れることはないだろうな、と思った。そしてそれ故に覚悟を決めるのだ。もう一度。
 ――三国志なんぞ、やらせはしないぜ、と。
7 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:47:26.82 ID:ZNYvTW3Oo

「ふぇえ・・・緊張しました・・・」

 まあ、袁家当主といきなりの面接とか陳蘭にしたら気が気ではなかったろう。当事者ではなかったとしてもね。陳蘭がここまでプレッシャーを受けるのもやむなしである。袁家は四世三公の名門だからして。
 そして武の名門として北方の盾となり数世代にわたり土着している。これがもたらすのは圧倒的な安定。そして発展。そして継続は力なり。豊かな資金により社会資本への投資が行われ、それが継続され蓄積される。

「社会資本、ですか?」

 俺が漏らした呟きを耳にして陳蘭が不思議そうに問うてくる。いわゆるインフラストラクチュアのことだ。後世――俺の中の人の時代で言う所の電気ガス水道や、道やら港湾やら。そういう民間では整備できない施設。ライフラインと言ってもいい。

「まあ、公共投資でないと整備できない――まあ、便利な施設ってことだな」
「は、はい。便利な施設。ありがたいです。お姉ちゃんが言ってました。袁家領内はとっても恵まれているって」

 ここで重要なのはその施設を造るのも、運用するのも人の手がいるということである。袁家の強みとは、そういった分厚い人材の層であると思うのだ。俺のあれやこれやの案も世慣れた官僚あってのことである。まあ、その官僚をまとめている田豊様マジ辣腕って感じ。

「まあ田豊様がいるからこそ俺も色々と提案できたってとこはあるよな」
「ふぇ?」
「いや。あれやこれやと思い付きを提案しているけどさ。明らかに駄目なものは除外するだろうし、惜しい案があったならば添削してくれるだろうって、な」

 何にしても方針としては富国強兵待ったなし、である。常備軍には金がかかるからな!それに糧食不足での敗戦とかは、将来前線組になるであろう俺看過できない。
 まあ、ここらへんは割と安心している。史実でも袁家は兵站についてはしっかりしていたからな。――兵糧の集積地をやられたらしゃあない。しゃあないと思うんよ。
 それさえなければ袁家は天下統一とまではいかずともいい線いってたはずなのだ。

「くく、袁家の栄光まったなし。そして俺は平穏無事に人生を終えるのだぜ――」

 早期リタイア。そして晴耕雨読どころか晴読雨読の高等遊民生活はじまるよー!である。
8 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:47:54.15 ID:ZNYvTW3Oo
「じ、二郎様なら大丈夫だって思います!あの田豊様も誉めてらっしゃいましたし!」

 まあ、田豊様の後ろ盾的なものは大変ありがたいのだが。そう。だが、なのである。

「田豊様と紀家が結んだとなれば、荒れるぞ・・・」

 呟く俺の言に陳蘭が狼狽える。

「ふぇ?どういうことですか?」
「田豊様は袁逢様の守役だったこともあって信頼が篤い。能力も化物的に優秀というか、飛びぬけているから政権の運営にも大過ない。だがそれだけに敵も多い」
「そ、そうなんですか?」

 袁家の派閥闘争は根が深い。毒殺暗殺ハニートラップなんでもありだ。

「だから逆に紀家の武力を背後に持ったという意味合いの方が大きいんだな」
「え、それじゃ・・・二郎さまが利用されるってことですか?」
「もちろん利点も大きいがね。こちらだけが恩恵を受けるわけではないってことさ」

 田豊様に危害を加えたら紀家の武力が火を噴くぜ!ってことである。

「武力的裏づけは官僚にはないからな。それが持ってしまったんだ。安易に手は出せないだろうさ。
 もちろん袁逢様がいらっしゃるうちはいいんだが、あの方身体が丈夫じゃあないからな」

「ふぇ・・・そうなんですか」

「恐らく、だ。麗羽さまの後見人として田豊様が指名されるだろう。それを他の奴らが黙っている訳がない。下手したら血みどろの政争になる。そのために先手を打ったんだろうさ」

 袁家の知恵袋は、伊達じゃない。

「袁逢様もそこらへん分かってるから俺と麗羽様を近づけようとしたんだろうな」

 だからこそ、袁逢様は自らいらっしゃったのだ。袁家は名門故に闇も深い。麗羽様だってその地位は安泰ではないのだ。だから、袁逢様は麗羽様と俺を近づけようとしたのだろう。
 そして、恐らく田豊様はそれに待ったをかけたのだ。最近の田豊様からの引き合いの強さがそれを裏付ける。あからさまなその動き。それには頭が下がるよ。

「ふぇ?なんでです?」
「袁逢様の死後、田豊様に権限が集中されるだろうからな。だから粛清対象は袁逢様や麗羽様ではなく、田豊様となったのさ」

 その忠義には頭が下がるね、ほんと。

「他の武家も袁逢様が麗羽様に武家の後ろ盾が欲しいというのは分かってるだろう。
 文、顔あたりが接触するはずだ。張は代々諜報畑だから距離を取るだろうし、
 バランスを取って両家から一人ずつ側近を派遣というあたりかな」

 あわわ、と混乱する陳蘭に心から同意する。政治、てやつに関わりたくないものだよね。

「まあ、麗羽様が袁家を継ぐという路線はできたっぽいからそれでいいか」
「そうですね。袁紹様。とってもお可愛くらっしゃいましたもんね」

 えっ?

「袁紹様。だと・・・?」

 そういや、三国志における袁家のキーパーソンはその人ですよねぇ。
 だが、ちょっと待て。誰それ聞いてない。

「麗羽様と袁紹様。くそ!どうすりゃいいんだ!」

 権力の集中は腐敗まっしぐらで世紀末フラグ特盛である。

「あの・・・。袁紹様の真名って、ご確認されました?」

 そんな陳蘭の言葉で俺は煩悶することになる。

「ちょっと待て。何で袁紹様の真名が麗羽様なの?わけがわからないよ」

 ねえ。俺の知ってる三国志となんか違うんだけど。違うんだけど。
9 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/10/20(火) 21:49:01.64 ID:ZNYvTW3Oo
ひとまず本日ここまですー
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/20(火) 21:56:15.68 ID:g23dNirUO
乙です
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/20(火) 22:01:20.21 ID:zeeCMAKU0
乙!
リライト版のスレも立ったことだし3周目行ってくる
12 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/20(火) 22:09:15.38 ID:ZNYvTW3Oo
反応早すぎやしませんかねえ・・・(困惑)

それはそうと前スレでお勧めSS紹介してくる(暗黒微笑)
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/21(水) 06:01:48.50 ID:+NGWW4flo
おかえりー(違
ども、沖縄さんですよー
祝リライト開始、またビクンビクンしながら読んじゃう
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/21(水) 14:45:05.82 ID:2sokRABz0
おや…ここからリライトですか、てっきり前スレの続きからかと思いましたが
またあの姐御のシーンを見れると思うと今からビクンビクン白目モノデスヨ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 19:40:40.14 ID:/6+P6tmAo
さて、何周目か忘れたがまだまだ周回せねば
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [さ]:2015/10/24(土) 04:40:14.80 ID:dA+npYjd0
おぉ、新スレたってましたか〜お疲れさまです。
17 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:19:58.37 ID:h5OebsGno
>>13
沖縄さん!申し訳ない沖縄さんじゃないか!
いあ、今作でもあんまり変わらないんじゃないかなあとおもうのですけどねw
筆の滑りにご期待ください!

>>14
そこまであ!

>>15
ありがとうです。
まだだ、まだ終わらんよ!

>>16
最近忙しいので、中々進めないのですけどね。。。
いや、粗もありましたけど、一旦完結させておいてよかったと思っておりますw
18 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:22:47.80 ID:h5OebsGno
「しかし、やってくれたわね」
「ふむ。我ながら会心の一手であったと思うがな」

 その言葉に麗人は苦笑する。顔の半分を覆う火傷の痕。それがその笑みの凄味を増しているが、相対する人物は毛ほども気にしない。
 余人を交えず、一室で相対しているのは麹義と田豊。袁家を支える武と文のトップである。その二人が護衛もなく相対するのはよほどのことである。

「まあ、今回は譲るわよ。流石にあの子があんなことを考えていたなんて分からなかったしね」
「儂とてそうよ。たまさかに、一度紀家の跡継ぎを見ておこう。それだけのはずだったのよ。それがどうしてどうして。まさかこの中華全土を視野に入れているとはな。
 あれはまさしく麒麟児。いずれ鵬のごとく羽ばたくであろうよ。儂の弟子なだけのことはある」
「待ちなさいな、二郎は私が育てたのよ?そこは譲れないわねぇ」

 両者が数瞬睨み合い、互いに苦笑する。

「――あの子はどうやら中華に乱があることを確信しているようよ」
「成程のう。そこに至るか、あの年で」

 田豊の額に深い皺が刻まれる。漢朝の現在と未来。それはけして明るいモノではない。宦官が実権を握り、私欲の限りを尽くしている。その対抗馬は何進。肉屋の倅と揶揄される諸人である。妹を今上帝に差し出して地歩を固めつつあると聞く。大将軍という埒外の地位を望み、それを得るのも遠い未来ではないであろう。
 そして財政難。その対策が売官という救いのなさよ。宦官の養子が三公の一席を買うなどという異常事態。漢朝の未来はどう考えても淀んでいるのだ。袁家が北方の盾として洛陽から距離をとりつつあるのもそれが故である。
 中央の政争に関わってられるか、というのが最前線の武家の考えである。

「ほんと、あの子は先が見えすぎるみたいね」
「その分、足元が疎かじゃな。危なっかしいことこの上ないわい」

 憮然とした田豊に麹義は深く同意する。

「そうね。あの子はとっても利発よ。だからもう、そのために何をするか分かっている。それで動いた。で、田豊?あの子の視野を足元に向けせさせるのかしら?」

 含みを持たせた麹義の言に田豊はニヤリ、と笑みを浮かべる。

「愚問よな。鵬は天高く羽ばたくものよ。足元がおろそか?そのような雑事は置き捨てるがよいだろうよ。むしろ高みを目指してもらわんと困る。まあ、足を引っ張る有象無象は沸くじゃろうがな」
「露払いは私たちの仕事。それはいいのよ。でも、いつまでも私たちが出張るわけにもいかないでしょう?」
「そうよな。その通りよ。だから、沮授を付けようと思っておる」

 ふむ、と麹義は黙り込む。妻も娶らず、派閥も作らぬ孤高の田豊。その彼が引き取ったという俊才。田豊の後継者として英才教育を受けているその名を麹義も知っていた。

「へえ、大盤振る舞いね」
「賭けるべきじゃと思うのよな。袁胤殿は洛陽に近すぎる。次代の袁家は麗羽様のもと、武家四家、袁家官僚も付き従うべし。
 かつて――あの乱の時にできたことをこの平時にできるやもしらんと思うのは甘いと思うか?」
「甘いと思うわよ。まあ、楽しみなことだけれどもね。
 ――でもね、その賭け、乗るわよ?全力でね。
 勿論協力は惜しまないわ」

 くすり、と笑いを漏らした麹義はこほん、と咳払いをする。そして全身に覇気を漲らせて喝破する。そう、ここからはあくまで対立する文武のトップとしての体裁。
 組織に緊張感をもたらすためにも、彼らは激しく対立していなければならないのだ。そしてそれを緩和し、習合させるのは自分たちの役割ではない。
 だから麹義は全身で吠えるのだ。

「ふざけるなよ田豊!貴様何様のつもりだ!紀家の小倅を抱き込み軍部に唾を付けるつもりか?それはいささか越権行為が過ぎるというものだ。身の程を知れ!」

 並の人物ならば心臓発作を起こしそうなほどの麹義の覇気に田豊は小揺るぎもしない。にまり、と口元を歪めて吠える。

「ふはははは!だから貴様は阿呆なのだ!袁家は一つにまとまるべきなのだよ!その旗印に麗羽様!それを支えるのは二郎しかあるまいよ。なにせ、貴様も儂も紀家には大きな借りがあるでな!
 あの匈奴大戦での最大殊勲は紀家よ。匈奴の汗ハーンを討ち取った紀家。その功に報えたかというと否!絶対に否!」

 実際、袁家の表も裏も仕切るのは紀家であるはずだったのである。しかし、匈奴の汗を討ち取り見事生還した紀家当主。彼が廃人同様であったからそれは見送られてしまっていた。それを好機、と思うほどに両者の心根は腐ってはいない。
 その嫡子。彼に全てを押し付けるつもりはない。だが、その器は麹義と田豊が共に認めるほどのもの。ならば我らは踏み台となろうというものである。喜んで。

「ふざけるなよ田豊!浅知恵で二郎を政争の具とするか!麗羽様との一件も貴様の入れ知恵か!そういうのをな、余計なお世話というのだ。引っ込んでろ!二郎はすぐにでも軍務に就かせるからな!」
「おうおう。吼える、吠えることよのう。虚しくならんかね。二郎の施策は儂の施策。刻すでに遅しということよ。残念じゃったのう」

 かんらかんらと呵呵大笑しながら田豊は更に煽っていく。ブックありきとは言えそれぞれに本音のぶつかり合い。そこに遠慮斟酌なんぞ介在しない。室の外で控える文官武官が身を竦めるほどにその気迫は激しくほとばしる。

「は?聞こえんなあ。もう一度その口を開いてみろ。二郎は私が育てた。譲る訳にはいかんな」

 麹義の口元が凶悪に歪む。そして売り言葉には買い言葉。

「は、儂の弟子をよくもまあ囲い込もうとする!女の妄執というのは度し難いものよな!」

 袁家のお家芸である派閥争い。袁家において緊張状態にあった軍と官僚の亀裂。この時期が最も高まった。と言われている。
19 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:24:13.05 ID:h5OebsGno

「と言う訳で、よろしくお願いしますね」

 にこやかに挨拶かましてくれるのは沮授。田豊師匠の一番弟子であり、将来の袁家の幹部候補生の筆頭である秀才である。K●EIのゲームでも知力90後半あるくらいの傑物であり、いずれ友誼を結ばなければいけないと思っていたキーキャラでもある。それが向こうから来てくれたのだ。拒む理由はない。

「こちらこそ、ドーモよろしく」

 実際挨拶は大事。だが、なんで?と思う。

「おや、信用できませんか?別にそれでもいいですけどね?」
「んー。あれか、ねーちゃんと師匠からのお目付け役ってことか?」
「いやあ、どちらかと言うと転ばぬ先の杖。その杖ってとこですね。
 いやあ、実際転ぶことはできないでしょう?ですから便利に使い潰してくれればよいのではないかと思うのですが」
「その笑顔が胡散臭いことこの上ないんだが・・・」
「それを面と向かって言うのもどうかと思いますよ」

 くすくすとおかしげに笑みを漏らす。いや、徹頭徹尾笑顔を崩さない。俺と同年くらい。それでこの肝の据わり様。これは間違いなく傑物ですわ。いや。その扱いをどうしようかというのは思うのだけれどもね。
 戸惑う俺を見て沮授は耳元で囁く。

「さて、農徳書。その施策は素晴らしいもの。だとしても君個人でやるのはいかにもまずいです。これまで袁家は武家が政治に口を出すのはご法度。まあ、偶然とはいえそれを察知した田豊様はそれを自らの施策であると抱き込んだのですよ?」

 む。む?

「うわ。うわあああああ。うわあ」

 やってもうてた。やってもうたんか俺ってば。既得権益に突っ込むとか。――いや、それを考えなかった俺の未熟さよ!

「これはねーちゃんと師匠に足を向けて寝られないなあ」
「おや、随分殊勝なのですねえ。もっと尖っていると思っていたのですが」
「ふざけんな。俺が隠居することで丸く収まるならばいつでも隠居してやるよ」

 むしろwelcomeな展開ではあるのだがね。そうもいかん。安寧な老後を迎えるにはこの時代とその行く末はアカンのだ。アカンのだよ。マジで。

「これは失礼。しかし、反省されているようですが、後悔してますか?」

 問う沮授の視線が鋭い。にこやかに笑いつつ、視線で刺す。なにそれカッコいい。

「いんや。後悔なんてしてないさ。するものかよ。絶対に必要だからな、食糧の増産は特にな。そして農徳書の理を利に転換する膨大な凡例。それこそが大事なんだよ。そうだな。来季の報告書を添付して内容を改訂しよう。題名も農徳新書、ってな」

 どっかにいるであろう曹操への嫌がらせとどっかにいるかもしれない奴への牽制である。だが、PDCAサイクルについては本気で根付かせようと思っている。2000年経っても報告書への粉飾なんてのはありふれているのだからして。この時代なんてお察しである。
 実際農産物の収穫なんてのは半分天候次第。それを言い訳にするのではなく、それを加味してどうやれば収穫が増えるかというのをきっちりと既知のものとしたいのよ。言い訳とか粉飾に使う官僚の能力を殖産に使うっていうのは当たり前だと思わんかね。

「そして食糧の増産。それはこの中華に必須さ。肥沃な袁家領内大地のこの北方の収穫。それがくしゃみをすれば中華全体が風邪をひく。所詮乱というのは食い詰めが起こすモノさ。
 だから、まずは食わせる」
「成程。孔子もそう言ってますね。衣食住。まずは食であると」
「そうよ。まず食わせるのが為政者の仕事だ、義務だ。それが出来ずして、何が政治家だよ!」

 っていつから口に出してたー!

「いや、割と最初から聞いてましたよ?」

 イヤー!グワー!

「ええと、姉ちゃんにも師匠にも言ったことないことなので、ね?」
「ええ、わきまえていますよ。そして、大したものだ、と思うのですよ。実際、僕にはそこまでの発想はありませんでしたし。
 実際、僕は驚愕しているのですよ?この際だから聞いておきましょう。二郎くん、と真名をお呼びしても?」

 むしろウェルカムである。はいとyesで応えた俺に沮授はにこり、と笑う。

「では、よろしくお願いしますね、二郎君」

 これが、生涯の友である沮授とのファーストコンタクトであった。
20 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:26:52.39 ID:h5OebsGno
「ふむ。これ、すっげえ収穫増えてない?」

 沮授が持ってきた資料を斜め読みした限りでは、今年の袁家領内での税収はメガ盛り。それは領内での農産物の豊作――それも桁違いの――が故である。

「そうですね。天候に恵まれましたが、それ以上に農作業の効率が上がったというのが大きいみたいですよ。
 お流石、と言っておきましょうか」

 くすり、と笑みを浮かべる沮授の顔かんばせはあくまで涼やか。どう見ても爽やか系イケメンです本当にありがとうございました。

「よせやい。道具や肥料を多少整えたくらいでこんなになるかよ。どう考えても民が頑張った成果だろうが。
 だからある程度還元させた方がいいんじゃね?」

 実は中華全土に目をやれば天災に事欠かない。南方では豪雨による洪水、西方では蝗害。だがしかし俺がいる袁家領内では特段の災害は報告されていない。
 とは言え、局所的な豪雨だったり旱魃はあってしかるもの。つまり、何らかの災害があっても天災と為さずに人為によって治めたということである。それは袁家の統治機構が健全に機能しているということである。
 いくら俺が農具やらなんやらを提案したと言ってもそんなに短期的な効果は上がるはずがない。俺の上申はノウハウの蓄積とその普遍化が主眼なのだからして。
 ――災害に合うのは為政者にその資格なしと天が怒っているという説がある。超一般的な解釈だ。しかし、それは逆なのだと俺は思う。災害なんていつもどこかで起こってるものだ。実際、それへの備えと対応がしっかりしていれば問題は最小化されるのだ。
 天災を治めて見せる。それこそが為政者の仕事だろう。まあ沮授には釈迦に説法だろうけんどもね。

「まあ、領内の運営が順調なのは間違いないのですが・・・」
「ん?どったの?」

 問う俺に、懸念するほどではないのですが、と断りを入れて沮授は。

「どうもこの頃、張家から上がってくる情報の質が落ちている気がするのです」

 張家。俺が所属する紀家、顔家、そして筆頭格である文家と並び袁家を支える四家の一つである。だがその役目は他とは大きく違う。携わるのは諜報、である。

「二郎君だから言うのですがね。このところの定点観測の報告の質がどうにも。
 異常なしとか状況に変化なしとか、無難なものが目立ってきているようなのですよ」

「世は全てこともなし、漢朝は安泰、袁家は繁栄。実に素晴らしいじゃねえか」

 くす、と沮授は笑みを漏らして。

「そうだったらいいのですがね。どうにも。過去十年くらいの張家の報告に目を通したのですが――いや、ひどいものなのですよ。最近のそれは」

 マジか。さらりと、とんでもないこと言ったぞこいつ。――まあ流石に全部に目を通したということではないのだろう。きっと。多分抽出法からの拡大推計って感じなのだろうが、それをやろうと思ってほんとにやるのが凄い。
 いやあ、敵に回したらいけないタイプの奴だな。媚を売りまくって友人ポジを確立させてよかったぜ!よかったぜ!
 実際気も合うし、打てば響きまくってくれるし。こいつが将来の政敵とかマジ勘弁である。政争とかしたら絶対負けるしな!

「まー、とりあえずは食料の備蓄強化だなあ。買い上げは順調かい?」
「ええ、じわりと低下傾向にあった米、麦、豆、粟などの穀物の価格は安定していますよ。
 備蓄のために購入しているのが効いている、と思いたいですね」
「ん、完全には価格の統制は無理だろうがな。豊作になったが価格が下落して農民が路頭に迷うとか洒落にならん。しばらくは注視しないとな」

 豊作貧乏、という言葉がある。豊作によって農産物の供給が過多になり、価値が下落。それを防ぐために袁家が買い支えをしているという訳である。

「ええ、そうですね。それと少しずつ他の農作物への転作の推奨も視野に入れないといけませんね」

 商品作物と言う奴だな。麻や綿花な繊維、藍みたいな染料とかそういう感じのやつだ。

「そうだな。だがまあ、しばらくは備蓄強化でいいだろ。財政も相当余裕あるんだろ?」
「ええ、金蔵の銭を束ねる紐が腐ってしまうくらいには」
「ふん、安物使ってんじゃねーだろな」
「いえいえ。最高級の絹糸ですよ」
「無駄にもほどがあるっちゅうの」

 顔を見合わせて笑い合う。俺がここ、田豊様の屋敷に入り浸っているというのにはこいつとの馬鹿トークを楽しみたいというのも大きなモチベーションだ。いや、田豊師匠って基本コワイからね。師事するのにやぶさかではないけれども。

「まあ、とりあえずはそんなとこか」

 うーんと伸びをして頭を切り替えていく。

「おや、もうそんな時刻ですか。今日も鍛錬を?」
「おう、田豊師匠には言ってるし、また場所借りるぜ」

 軍師とか言いながらも筋骨隆々な田豊師匠の私宅には割と立派な鍛錬場が整備されており、そこで汗を流すのが俺の日課である。努力は裏切らない!はずである。のだが。
21 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:30:36.77 ID:h5OebsGno
「あの。大丈夫ですか?」

 ぜえ、ぜえと呼気を漏らす俺に陳蘭が心配げに声をかけてくる。

「み、水を頼む・・・」

 こひゅーと呼気を漏らしながらした俺のリクエストに弾かれたように身を翻して駆けだす陳蘭。おっかしいなー。俺と同じメニュー以上に身体をいじめていたはずなんだが。
 走り込みの後に立木打ち、おまけに筋トレのフルコースなのだが。息も絶え絶えな俺に対し、陳蘭は鼻歌混じり――とまではいかないまでも。

「くっそ。俺の基礎体力が足りないのか陳蘭がすげーのかどっちだっての」
「そんなの決まってます。わたしはおねーちゃんなんですから」

 えへんとばかりに胸を――薄いのは年齢のためであるはず――偉そうに張る陳蘭である。まあ、陳蘭は俺より年上であるしこの年代では女子の方が身体的には優位であるのは確定的に明らかであるのではあるが。
 悔しいモノは悔しいのである。

「じゃあ、実技だな」

 基礎的なスペックで及ばないのであれば技巧だ!

「この円周から出たり、膝から上を地面に付いたら負けな」

 ずり、ずりと適当に地面に円を描いて仕切り線を追加する。

「ふぁ、はい!」
「後ぐーで殴るのも駄目な。こぶしを痛めるから。張り手は許可」

 つまり、相撲というやつである。傍目には子供がじゃれ合っているようにしか見えないだろう。そして俺は未来の格闘スキルがどれだけ通用するか。
 俺、気になります!



「ふぁれ?きゃっ」
「妙技、外無双――」

 俺はまさに技の百貨店やでぇ!

「こ、こんどこそ!」
「絶技、肩透かし――っ!」

「掴み投げ!」
「上手出し投げ!」
「下手投げ!」
「切り返し!」

 きゅう、と根を上げた陳蘭が不平を漏らす。

「力じゃ私の方が強いのに・・・」

 だからこそ俺の適当な知識による技術、技が有効か知りたかったのだ。

「ふ、身体能力の差が、戦力の決定的差でないということだな」

 だが、気を抜けば逆転されていただろう。基礎スペックというのは偉大である。レベルを上げて物理で殴る。これ最強。

「うー、なんかずるいですー」

 そこで感じるずるさこそが技巧。俺の持つ数少ない優位点なんだよなあ。

「陳蘭も覚えればいいさ」

 そんなことを言いながら思う。体格が互角ならばうろ覚えの技術であっても十分通用する。技の再現も思ったより容易にできた。
 思えばテレビで見た相撲や柔道、レスリングなんかは超一流の洗練された技。少林寺拳法だって4−5世紀後に発生するのだ。つまり俺が見ていたのは言わばオーバーテクノロジー。それを俺は視聴していた。これは見稽古につながるのではないか。そう思って試したのだが、予想以上に体が動いてくれる。これは嬉しい誤算だったのだ。
22 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:31:03.50 ID:h5OebsGno
「ふぅ・・・」

 大人げなく少女相手にいい汗をかいてしまった。柔道、プロレス、いろんな技を試した。某友情力がMaxな超人漫画の技の再現は無理だったな。ボクシングとか空手みたいな物騒なのは今度防具着用で試すか。
 幾人もの天才達が生涯をかけて昇華させた技の数々、使わせていただく。それが実在しても、しなくてもな!

「うう、二郎様にはかなわないです。わたし、おねえちゃんでお守り役なのに・・・」

 あれやこれやに付き合ってくれた陳蘭がそんなことを言う。何か語弊があるような、ないような。

「じ、二郎様のお守り役にわたしなんて。おやくにたてない・・・」

 ぐず、ぐずと湿っぽくなる陳蘭に戸惑う。

「や。陳蘭が俺の守り役を外れたら困る。ほんと困る」

 これはマジ話である。

「ふぇ?」

 不思議そうな顔の陳蘭であるが、彼女には正直感謝しているのだ。色々好きにさせてもらってるし。俊才とか言われる彼女の姉であったならばこうはいかないであろう(確信)。
 それはさておき、陳蘭の機嫌をとるべく俺は見え透いた一手を。

「ほら、美味しいものでも食べに行こうぜ」
「・・・今日も町に出るのですか?」

 今泣いた烏がもう笑った。陳蘭がにこやかにそう問うてくる。

「ああ、だからいつものように服の準備を頼むな」
「はーい」

 いつも着ている服は質素とはいえ流石に質がいい。もっと襤褸を着ないと良家の子供だってばれてしまう。流石に誘拐の危険は少ないが、町の実情とかを見るには都合が悪い。
 陳蘭に持ってきてもらった襤褸の服に着替えると、連れ立って町に出かけるのであった。
 息抜きマジ大事、実際。

 と、思っていたのであるが俺の完璧な計画は麗しい闖入者によって破綻することになる。

「きゃっ!袁紹さま、髪の毛引っ張っちゃだめです」
「きゃはは!きれい!ちんらんの髪、きれい!」

 後ろでは陳蘭が麗羽様のお守をしている。麗羽様は俺と陳蘭をいったりきたりでよく構ってくれアピールをしている。懐かれないどころか距離を置かれている沮授はちょっと寂しそうだ。
 ざまぁ。

「まあ、安心してください。流民が想定を越えて流入しても問題ないですよ」

 俺の懸念を先取りして沮授が言う。天災レベルの災害が地方で頻発している。そして袁家領内は安泰。さすれば流民が流れ込んでくるのは必定なのだ。これはもうしょうがない。漢朝は農民の移住を許していないが、だからと言って出戻らせたり収監するわけにもいかん。

「流民を受け容れつつ、備蓄を増やす。やれるか?」
「まあ、なんとかしますよ」
「さすがだなーあこがれちゃうなー」

 未だ公務とは無縁の俺とは違い、沮授は既に田豊様の補佐をしているのだ。無責任にあれこれ非公式なルートでぶちあげている俺とは違うのだよ。
 いや、これってすごいことよ?そしてあからさまに田豊師匠の後釜って感じの沮授に対する風向きは複雑だ。言ってみれば首席補佐官とか官房副長官的な地位にある沮授に対しては硬軟様々な圧力やらなんやらが押しかけているはずだ。
 できたら、少しでもこいつの助けになってたらいいなあ。精神的な意味だけでも、な。
 とか思ってたら気遣いしてくれたのか、沮授から話を振ってくる。
23 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:31:29.59 ID:h5OebsGno
「そういえば、もうすぐでしたか」
「おうよ、ようやく軍務に就けるのさ。やっと、だよ」
「ここはおめでとう、と言っておくべきなんでしょうね」
「そうだな、他でもない沮授にそう言ってもらえると嬉しいな。
 まあ、一番嬉しいのはアレだけどな!うひひ!」

 どうにもにやにやと笑みが漏れてしまうが、やっぱりアレは欲しかったのだよ。神話の時代から語り継がれる紀家の至宝。匈奴の汗ハーンすら討ち取ったというそれ。

「三尖刀、ですか」
「おう、紀家の家宝にして至宝だ。欲しかったんだよなーこれ。
 これで俺も二郎真君に一歩近づいたな」

 そう。中華の神話の大英雄たる二郎真君。俺の真名のモデルでもある。三尖刀と哮天犬、そして変化の術を自在に操るそれはマジチート。西遊記で孫悟空が二郎真君と伍し、変化合戦の後に老子様にやられたというのはあれだ。二郎真君の強さを引き合いに出して猿の実力を誇示したということに他ならない。正直天帝の甥とかは後追い設定を盛りすぎだろとか思うのだが。

「まあ、形から入るのは間違ってないと思いますよ?」
「うるへー」

 そして、俺はもうすぐ紀家の一軍への参加が認められるのだ。武力の掌握。これは非常に重要だ。某大陸の強国とか半島の独裁国家の例を出すまでもなく、武力を掌握している政権はまず倒れない。
 俺が武家の座にこだわったのはこれも大きい。べ、別に座学が苦手だなんてことはないんだからね!

「じろー、だっこー」
「はいはい、麗羽様。仰せのとおりに。陳蘭お疲れな」
「うう、あちこち痛いです・・・」
「よーし、肩車しましょう、そして駆け出しましょう!」
「わー、高い!はやいー」
「二郎君!夕食は食べていかれるのでしょう?」

 問うてくる沮授に諾、とジェスチャーで応え。

「おー、大盛りで頼むな。かーらーのー加速装置!」
「わぁ!」
「ふぁ、あ、危ないですよぅ!」

 そんな、いつも通りのごくごく平穏な一日であったのだ。
24 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/27(火) 00:31:55.23 ID:h5OebsGno
本日ここまでやねん

眠い
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/27(火) 01:02:46.38 ID:yz9N8YDHO
乙です
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/27(火) 09:39:23.08 ID:nVWeLRcU0
乙ですね
>>某友情力がMaxな超人漫画の技の再現は無理だったな。
たしかバスターは現実プロレスに逆輸入されたんだっけ?再現できなかった技は…まさか三大奥義か!?
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/27(火) 23:05:11.13 ID:50y6zu4+o
明らかに空飛べないと無理なんですがそれは・・・
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/28(水) 09:51:09.51 ID:QEvd1Qkf0
バスターは相手を捕まえた体勢から立ち上がって尻餅付く感じで出してたはず
冷静に考えたらあれ自分へのダメージもかなりのものだよな…それよりも問題はいったいどんな技を陳蘭にかけようとしたかだ
下手したら後遺症残るだろ、素人の関節技(打撃技なら大体再現可能だろうからほぼ間違いなく48の必殺技タイプを使おうとしたはず)
29 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/28(水) 22:37:57.78 ID:894L4XYqo
>>26
マジすかw
あんなん自分にも大ダメージくると思うねんけど……w

>>28
見たことあるんですかw すげえw

>…それよりも問題はいったいどんな技を陳蘭にかけようとしたかだ
そりゃあ、アレですよ、アレw

>下手したら後遺症残るだろ
恋姫時空だからへーきへーき
というのは冗談として、バスターにしろドライバーにしろ、女の子にかけるとすごい絵図になってしまいますよね……

そういや地獄の断頭台よりも、普通にニードロップの方が破壊力あるような気がする……
そしてパイルドライバーとかいう既知外技を普通に仕掛けていた昭和のプロレスはやばいと思い魔s
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/10/29(木) 11:53:51.56 ID:fwqv4vj30
>>やばいと思い魔s    …恍惚の笑顔
マッスルの技は昔古本屋で筋肉大全とか言う本で実際にプロレスラーにやってもらったっていうのがあったな
バロスペシャルとかやってたけどさすがにベルリンの赤い雨とハリケーンミキサーは際限不可とか言ってた気がする
31 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/31(土) 00:31:48.14 ID:BkZXP/1oo
ハウスがココイチを買収した……だと……
SBのコメントが欲しいとこですね

しかし、円満買収だというところが凄い

元々日本でカレーのチェーンが成立しないのはスパイスを輸入しているのがハウスとSBだけだからという説があってですね
それが円満買収かーそうかー

次は金沢のゴリラカレーかな?
32 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/31(土) 14:26:05.20 ID:r48+gvEQo
やったぜ(菓子)
33 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/10/31(土) 15:04:41.86 ID:r48+gvEQo
やったぜ(タイトル)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/31(土) 17:57:42.83 ID:F2/oxCuUo
ナビスコおめでとー

赤党の妹もニッコリでしたわ
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/01(日) 22:38:03.19 ID:wznpv8t10
友人との会話で恋姫の名が出たもんだから、久々にあのSS読んでみるかな
と思って1から読み返してみれば、リライトなんていつの間に始まってたんだ?しばらく更新が無かったからてっきり失踪したかと思ってたんだがな
36 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/01(日) 22:55:56.55 ID:vFx8+6nSo
>>34
ありがとうございます
勝ってみると、現地に行けばよかったと後悔しておりますw

>>35
>友人との会話で恋姫の名が出たもんだから
羨ましい環境ですねえw

>しばらく更新が無かったからてっきり失踪したかと思ってたんだがな
更新の代わりになろうで投稿してました
疾走はしても失踪はしませんよ多分
骨折しても風疹になっても頑張りましたもの
音沙汰なくなったら、失踪というより死亡でしょうねえ
37 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:32:29.08 ID:bJw0hpzqo
「商会、ですか?」

 沮授の問いである。つっても、もう作ったんだけどね。ずびび、と朝食の粥をすすりながら俺はそう答える。む。流石に田豊師匠んとこの朝食は美味いな。陳蘭が作るとこう、不味くはないんだけど美味くもないんだよなあ。

「おう、ただし袁家には無断での動きさ。むしろ糾弾されてもやむなし。そう認識はしている」
「なるほど。・・・それは二郎君に謝らないといけないかもしれませんね。いえ、認識はしていたし対策も打ち出していたつもりなのですが・・・」

 無為無策と言われてもしょうがありませんでしたからね、と沮授が頭を振る。

 実際農作物の収穫が増えるにつれ、その価格は下落傾向にあったのだ。沮授の施策で一定額での買い上げは進んでいるが、まだ領内には行き届いていないらしい。ならば豊作だからといって安く買い叩く商家が出てくるのは必然である。
 だがそれでは困窮する農家も出てくる。そのため袁家領内での最低買取価格を設定した。そして俺はその価格に基づき、買い付けをする商会を立ち上げたのである。無論安く買って高く売るのが商売の基本ではある。それを俺は私財でカバーしたわけじゃない。もっと高く売れるところへと運んで売る。それだけの話である。天災に見舞われた地域とかな!涼州とか。江南とか!

「商流の管理、が二郎君の主眼ですか?」

 沮授がちらり、とこちらを見やるがそんなの無理無理無理無理カタツムリ。である。

「いやいや。ぶっちゃけ袁家領内の物価の安定で精一杯、かな。それでも今のとこ上出来かなと思ってるんだけんどもね」

 なお、実務に俺は絡んでいない模様。餅は餅屋。出来る奴に任せる。そいつが俺のやり方、である。

「我々にとってもありがたいですが、初期投資費用はよろしいので?」

 まあ、そう来るわな。いくら高く売れるところへ運ぶとなっても初期投資というのは必要になる訳で。ちまちまと貯めた紀家の裏帳簿から出そうかと思っていたのだが、あまり表沙汰にできない金銭が――それも結構な大金である――俺に貸与されたのである。
 幾度も、多重厚層的にロンダリングされて流れてくるその金銭。気にしたら負けかなーと思いながらありがたく運用させてもらっている。
 多分田豊様あたりからの援助なんだろなーと思っているが定かではない。田豊様の一番弟子である沮授にそんなことを言う必要もないですしおすし。

「おうよ。資金の出所についてはまあ、お察ししてくれよ。そして知る必要はないと思うよ?
 それより、だ!思わぬ拾いものがあったんだってばよ」

 あからさまな話題逸らしに沮授はにこり、と笑みを深くして。それでも乗ってきてくれる。こいつ、全部分かってて聞いてるのと違うか。むしろ黒幕というのもありえるな。おおこわい、こわい。

「ほほう、拾い物ですか。二郎君がそんなに嬉しそうな拾い物のお話を伺いたいですね?」
「へっへー、沮授には分かんねーかもしれねーなー。へっへっへ。商会を任せるに足る人材を拾ったんだよ」

 俺の言葉は沮授にしても意外だったようでその澄ました顔がきょとん、とする。それは滅多に見られない表情であり。つまり、してやったり、である。

「おやおや、会ったばかりの人に二郎君のここまでの努力の結晶を任せるつもりなのですか?それは――ずいぶん高く買ったものですね」
「とんでもない、タダ同然の安値で拾ったんだよ」

 ニヤリ、と俺は会心の笑みを浮かべる。だって、それくらいの人材を拾うことが出来たのだから。いやあ、あの時ばかりは神の見えざる手に感謝したね。マジ話。
38 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:32:57.41 ID:bJw0hpzqo

「おー!やっぱり賑わってるなあ!」
「そうだな、人通りも多いし、活気に溢れている。実に活気に溢れている。流石は袁家のお膝元、といったところかな」

 暢気そうに声を漏らした青年をくすり、と可笑しげに見やって。赤楽はそれでも周囲を油断なく見やる。いくらこの南皮の治安がいいとは言っても気を抜く理由にはなり得ない。なんとなれば旅の道連れであるこの青年はどうにも育ちがよすぎるのか、無防備すぎるのだ。呆れるほどに、だ。

「だから、いくら洛陽での修行を終えて目的地に着いたとしてもあまりはしゃぐなよ?」
「分かってるってば」

 さて何を分かっているのやらと赤楽は内心苦笑する。そしてお気楽な発言が続いても苛立ちの欠片さえ生じないのは彼の生来の気性、そして受けた恩故か。それとも別の要因によるものだろうか、と内心に思考を巡らすのは数瞬。それでも、機嫌のよさそうな彼の表情に赤楽の口も緩む。漏れ出でる言の葉は事前に考えていたモノとは違ったのだが。

「君には本当に世話になった。私にはどうやって恩を返せばいいのか見当もつかないな」
「おおげさだなあ、おいらは当然のことをしたまでだって」
「だが、君は一度故郷に帰るつもりだったのだろう?」

 くす、と艶やかに笑う赤楽にむう、と唸る。

「そ、そうだな。だけど、一度南皮には来るつもりだったしよ・・・」

 そう。本来の目的地は南皮ではなかった。彼は洛陽で学問を修め、故郷に戻る途中に連れを拾ったのだ。――赤楽と言う名の自分のことである。そしてそう、文字通り拾ったのだ。拾ってくれたのだ。水害で行き倒れていた自分を。
 赤楽、という名前だって便宜上彼がくれたものだ。赤毛をざんばらにしていた自分が貰うには過ぎた名ではあるかと思うのではあるが。
 ――閑話休題。受けた恩とかはともかく、彼がここ南皮に興味を持ったのはある時期からである。もっと言えば袁家領内の統治ににある人物が登場してからであるとのことだ。それを象徴するのが「農徳新書」だ。かの、「神農」の言葉を記したというその書物。まともな知識人であれば奇書として一笑に付したであろうそれ。
 袁家という、漢朝でも最大の組織がそれを容れたというのだ。そしてその結果が目の前の繁栄である。そりゃあ、その著者に興味がわく――どころか、会ってみたいとかいうのもごく自然なことである。
 洛陽で学び、漢朝の腐敗、汚泥に触れたならそうするのは士大夫として自然なことなのだろう。なお、自分は洛陽で学んでもないし漢朝の実態についても詳細については知らないので割とどうでもいいのだ。目の前の安寧こそ赤楽にとって至上なのである。
 だから、眼前で起こるトラブルについても華麗にスルーしてしまおうと思っていたのである。いくら善良そうな子ら。将来が楽しみであろう子らであっても赤楽にとってはどうでもいい事象である。だから可憐な幼女が暴漢に向かってぷるぷると震えながら背後の男児を庇っていても。思う所がないわけではないが優先順位は確定している。さっさとこの場からおさらばしてしまうのが最上だと理性が語りかけてくる。のだが。

「二郎様を、どうにかするのなら!わたしが!」

 涙目で放つ言の葉の熱を感じて。ちら、と見た連れはこくりと頷く。まあ、そうだろうなあと思う。捨て置いておけばいいのに、と思う心を置き去りにして身体が動く。

「しぃ!」

 やってやれと無言で激励された赤楽は一呼吸で破落戸たちの意識を刈り取っていく。こういう時は中途半端が一番いけない。本当は後腐れなく殺しきるのが正解なのだがな、と思いながら。
 何だお前は、と誰何の声すら上げさせることなく赤楽は破落戸たちを駆逐する。幾人かは儚くなってしまったかもしれないが、正直知ったことではない。

「やれやれ。袁家領内と言っても治安についてはこんなものか」

 そう言いながらも周囲への警戒は怠らない。徒党でこられたら面倒だ。百人程度であれば問題なく対処できるだろうが。



 正直破落戸の百人や二百人であれば俺と陳蘭ならばなんとでもなると思っていたのがまずかったのかもしれない。或いはロクでもない嗅覚にひっかかったか?襤褸を身に纏い、灰や泥で小汚くしても見落としていた点があったのかもしれない。まあ、結論から言うと俺と陳蘭は破落戸どもに絡まれてしまったのである。ほんで、逃げるかぶちのめすかを逡巡していたわけだが。
 俺がどうしようかと思っている間にことは解決されていた。

「あ、ありがとうございました!」
「なに、礼なら連れにするがいい。私は君らに興味なかったのだからな」
「なんでそう憎まれ口をきくかなあ」

 おおう!流れに乗り遅れた!俺だけ置いてけぼりじゃねーか!くそ!なんて時代だ!
39 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:33:33.55 ID:bJw0hpzqo
「だから、割とこの先どうしようかと思ってるんだよ」

 苦笑しながらも悲壮感のない物言いは万人に好感を与えるであろう。無論俺だってそうだ。人当たりの良さもだが、一を言えば十を察してくる地頭のよさ。これは傑物やでぇ・・・。むしろ中央からのスパイか?と疑念を抱きながら思い切って聞いてみた。YOUは何しに南皮に?って。

「いや、ね。おいら、洛陽で学んでたんだ。それで、この書に感銘を受けてね。
 そんで、運がよければ作者に会えるかなー、とか思ってさ」

 無理目だろ?と笑う顔には邪気がなく、また、その書が予想外で絶句してしまう。
 その書は、「農徳新書」といった。いやいやいやいや。確かに農業のノウハウを拡散すべくばら撒いたのだが、まさか洛陽まで流れているとは。

「おいらも、せめて故郷への旅費を稼ぎたいなあ。日雇いでもして。連れの赤楽が仕事を見つけて、生活に目処が立つまで、かな」

 いや、そりゃ洛陽に学問するために行くくらいなら相当なもんだろうよ。赤楽っていった少女も凄腕みたいだし――。何だかぞくりと背筋に寒気が走る。

「あー、どっちも伝手がないわけじゃあないから、当たってみようか?」
「それは助かる。赤楽は、水害以前の記憶がないみたいなのでよろしくな。
 おいらは、読み書きとか簡単な計算ならできる」
「おうよ。あ、お前さんの名前聞いてないな」
「お、そうかすまんな。おいらの名は張紘ってんだ」

は?
はぁ?
はあああああああああああああ?

 ちょ。ちょっと!マジか。マジなのか。ちょっと眠たかった俺の意識が冴えるというか沸騰する。聞き間違いじゃないだろな。

「あ、すまん、もう一度、いいかな・・・」
「ん?張紘。それがおいらの名さ」

とんでもない大物が釣れました。釣りしてないけど。張紘と言ったら孫家の誇る二張の一角。K●EI準拠ならば政治パラ95以上確定の傑物じゃないですか、やだー。やったー。
 って、逃してたまるかこの大魚どころかもう、もう!乗るしかない!このビッグウェーブに!
 そこから始まる俺のリクルート。なんやかんやあって、俺のなりふり構わない必死の勧誘に張紘はついに首肯したのだ。
 いやあ、今日はいい日だ。マジで人生最良の日と言ってもいいかもしらんよ。くくく。

「で、おいらは何をすりゃいいんだ?」

 商会とか言われてもさっぱりだぞと首をかしげる張紘。ここいらへんの切り替えの速さは流石だと言わざるを得ないがなにもおかしくないな。思うところを軽く説明する。のだが。

「なるほど、物価の安定。それが第一義ってことだな」

 ふぅむ、と頷く張紘。ある程度の業務内容と企業理念を伝えただけでこれである。一を聞いて十を知るとはこのことか。ちなみに俺は頭が凡人なので三聞いて二くらいしか分からん。沮授は一を聞いて二くらいが精々と謙遜していた。倍返しか!

「おうよ、だから、赤字にならなきゃあ、それでいい」
「どちらかというと、買い上げ価格の広報が趣旨ってことだな」
「そういうこった。その場で買い付けるなり、町に売りにいかせるなり、さ。
 どっちでもいいんだ。差益の目安はまあ、後でうちのに相談してくれ」
「それは助かるなあ」
40 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:33:59.67 ID:bJw0hpzqo
 流石に商売のノウハウなんてないしな、と張紘は笑う。沮授が腹黒系イケメンなら張紘は爽やか癒し系イケメンだな、なぞアホなことを思いながら業務内容のばっくりしたとこを伝えていく。
 はっきり言って儲けの多寡なんぞは問題ではない。収穫量が急拡大した農作物の物価の安定がその主眼である。それを俺のてきとーな説明で理解した張紘はマジで能吏である。それも破格の。これはすごい人材をゲットしたでぇ・・・。
 これは、きちゃったかな。俺の時代が。

「盛り上がっているところすまないが、私は何をすればいいのかな?」

 そう問いかけてくるのは燃え上がるような赤毛を三つ編みに括った麗人である。張紘の連れで赤楽と言ったか。さて、俺の三国志知識にない名前だが。

「あ、すまねえ、おいらのことばっかだった」
「いや、それはいいんだ。実際、やりがいのある仕事だと思う。
 私も負けてられないな、と思っただけだ。
 とはいえ、張紘と違って身体を使う仕事しかできないがね」

 ニヤリ、と凄味のある笑みを浮かべて背負った剣をちらりと見せつけてくる。うん。そのオーラといい、身のこなしといい普通に強いなこの人。まあ、無名の武人ってとこか。だがそれは好都合というもの。

「あー、そうだな。とりあえず張紘の護衛をしてもらおう。
 しばらくは二人で近隣を回ってもらって商売の流れを掴んでもらうつもりだしな。
 最悪、荷とか資金は捨ててくれていい。ただ、張紘だけは無事に連れ帰ってくれ」
「把握した。なに、賊の百人程度ならなんとでもするさ」

 なにそれこわい。赤楽さんの凄味に泡吹いて白目向いて卒倒しても許されるんじゃね?とか思っていた俺の意識を現世に呼び戻したのは張紘の一言だった。

「ふむ。つまり、だ。おいらは金では買えないものを持ちかえれば期待に沿える、と思っていいのかな?」
「――然り。だから死ぬなよ。お前に死なれたら困る。
 人質に取られたら千金だって積んでやる。だから死ぬな」

「うーん。ずいぶんとおいらを評価してくれてるみたいだけど、なんでだ?」

 そりゃあ、K●EI参照しても屈指の内政特化の強キャラだしなあ。とも言えず。

「袁家ってな。化け物みたいな人が普通にごろごろしてるんだよね」

 師匠とかねーちゃんとか沮授とかな!

「それで、これでも人を見る目と言う奴はあると言わせてもらおう。そして張紘。お前は、だ。
 お前はこの中華でも屈指の才能を持っている。
 俺はこの中華、漢朝の治めるこの平和を保ちたい。乱世なんてまっぴらだ。
 俺一人でできることなんてたかがしれている。しれてるんだよ。だから、張紘の力を借りたい。お前の力が必要なんだ。
 ――頼むよ、力を貸してくれ」

 思えばここは正念場、である。
 張紘に出会えたのはきっと天佑。だがそれを活かすことが出来るかどうかは俺次第、である。断られたらどうしよう。這い寄るプレッシャー。震える両膝、薄くなる酸素。ぐらり、と揺れ。ぐにゃりと歪む世界に射した一条の光。
 ぎゅ、と痛いほど握られた手から伝わるぬくもり。そして痛み。いや、割とマジで痛いよ?陳蘭?マジで痛いよ?折れるよ?心の前に!物理的に!ほら、今俺涙目なのは君のせいだからね?
 などと目を白黒させ、支離滅裂な思考の海に逃避する俺を現実に引き戻したのは張紘の声であった。

「ああ、そこまで言ってくれるのはこそばゆいけど、承知した。おいらを如何様にも使ってくれ。
 その、思い描く治世。それにきっとおいらは役に立つ。役立って魅せるとも」
「頼りに、させてもらうぜ」

 張紘と俺との出会いはそういう感じだった。照れながらも手を差し伸べてきた張紘の笑顔を俺は、一生忘れることはないであろう。そう思った。
41 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:34:45.30 ID:bJw0hpzqo
 今日も今日とて鍛錬の日々である。固定値は裏切らない、というのは数少ない真理であると俺は固く信じている。そして鍛錬、座学と一口に言ったってやるべきことは多い。まあ、この時代ではありえないほど効率的にこなしているという自負はあるけどな。
 ・・・だが、今。ものっそい眠い。煌々と贅沢にも輝く灯火を頼りに書を紐解いていたのだがどうにも、ね。

「おや、お疲れのようですね。そろそろ一区切りにしましょうか。今、そこまで根を詰めても仕方ないですし」

 でも対面の沮授の方が疲れてるはずなんだよなあ。俺と違って既に実務の一端を担っているのだ。んでもってそれが田豊師匠の補佐なのだからその負荷は推して知るべし、である。いや、ガチでこいつは化け物だわ。俺みたいな凡人とは格が違った。――知ってたけどな。
 そんな沮授とのあれやこれやの打ち合わせやら相談――ぶっちゃけ俺から沮授への一方通行で、沮授にとっては負担でしかない――は更なる深夜に及んだため、まーた田豊師匠の屋敷に泊まっちまったのである。多分週の半分くらいは入り浸ってる気がするなあ。
 そして一番鶏が鳴く頃に肉体的な意味で俺の鍛錬は始まるのだが。

「じろー、もっとはやくー」

 俺を乗り物か何かと思っているのかな?麗羽様が当然のごとく肩車されている状況で俺に更なる加速を強いる。いや、遊んでるわけではなく、ウォームアップのための走りこみの中の負荷――ということにしている。気にしたら負けだ。
 ちなみに右腕には猪々子――文醜の真名である――を、左腕には斗詩――これは顔良の真名――を抱えてのランニングだ。
 まあ、幼女とはいえ、三人抱えればそれなりの負荷になるからいっかーとか思ってる。基礎スペック強化と共になんかイベントとかの伏線になってるかもしれんしね。
 なお、猪々子と斗詩との真名交換はまた政治的なあれやこれやで強制イベントであった。まあね、武家四家の跡継ぎ同士だからね、仕方ないね!
 つうか、ここに爆弾の一つも放り込まれたら袁家の未来はマッハで終わること請け合いである。いやマジで。袁家、顔家、文家と紀家の跡取りが全滅したら色々えらいことになりそうである。まあ、だからこそ見えないところで護衛がついてるはずなんだけどね。袁家配下の武家四家のうち張家はそういうのもお仕事だからして。
 と、もぞもぞと猪々子が動き出す。おいばかやめろください。バランスが!

「ちょ、動くなってばよ。って危ない、落ちるぞ?」
「へへへー、一度やってみたかったんだー、とおっ!」

 どこぞのバッタモデルの改造人間みたいな掛け声を上げて俺の腕から飛び出る。

「ふぇ?き、きゃっ!」

 なんと並走していた陳蘭に飛びついた。お、上手いこと負ぶさったな。なんつー運動神経だ。流石未来の猛将だな。などと思っていたのだが・・・。

「アニキー!いっくぞー!」

 こっちにまた飛んできた。猿かお前は。
 ちょっとバランスを崩したが何とかワンハンドキャッチ。また俺の右腕に納まる。

「へへへー」
「うー、いいなあ」
「姫もやってみたらー?」
「う、うまくやれるかな……?」

 やるんかい。

 結果、三人中二人の幼女が俺と陳蘭を空中で行き来することになったのである。あ、斗詩は大人しく俺にぎゅっとしがみついてたよ?これは、ほんまええ子やでぇ・・・。
 でもこの三人組がこのままのノリで成長すると理不尽に斗詩が苦労するような気がする。そう思って撫でくりまわしてやる。嬉しそうにしているが、君の将来は七難八苦マシマシになりそうなんだぞ。頑張れよ?うん、頑張れ!
 ま、麗羽様も猪々子も大人になれば落ち着くだろうて。多分、恐らく。きっと、メイビー。
42 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:35:12.57 ID:bJw0hpzqo
「しっかし麗羽様も結構師匠のとこに入り浸ってるよなあ」

 朝練の後。軽く水浴びをした後に水菓子を齧りながらふと思ったのだ。確か袁紹と田豊って不仲じゃなかったっけか?まあ、いい流れではあるな・・・と思っていたら俺の言葉に呆れたように沮授が。

「二郎君。・・・君が本気でそう思っていると言うのを僕は理解しています。ですが、世の中はそうではない。そして君の立場以上に袁紹殿はですねえ。そこのところを分かっていると思っていたのですが――」

 ええと。でもまあ、そういや麗羽様ってば政争の中心だったか。田豊師匠のとこに来るのはまずい?でも沮授が止めないということは師匠も問題視していないということであろう。

「むう。俺は袁家の政争に参入するつもりはないぞ」

 そりゃあ、麗羽様は今のところ俺に懐いてくれてるからして。上手くやればあれこれ好き放題できるだろうとかいうのは下衆の勘ぐりと言う奴だ。麗羽様を通じての袁家の舵取りとか俺の手に余るに決まっている。

「やれやれ、困ったものです。二郎君はそれでいいのでしょうけど。田豊様の思惑、知らないとは言わせませんよ?」

 え?なにそれ。ガチで知らないんですけど。知らないんですけど。知ってることになってるの?やめてよね。俺が本気出しても師匠の思惑とか分かるわけないじゃん。

「知ったことかよ。紀家は武家だぜ?そういうのは田豊師匠とかお前にお任せって感じさね」

 ここは逃げの一手である。大体腹芸とか向いてないしね。見ざる聞かざるである。

「――困ったものです。袁家の躍進、繁栄に大いに貢献している次世代の旗手である二郎君の言葉とも思えませんね」

 褒め殺しですね分かります。俺如きの動きが大身たる袁家にそこまで影響があるわけないですしおすし。まあ、俺が紀家を継ぐ時のバックボーンとしての下駄を履かせようとしてくれているのには感謝しといた方がいいのかな?

「いや、それもこれも袁家、ひいては漢朝への忠誠あってのことさ」

 日和った俺の言葉に肩をすくめて苦笑する所作はマジイケメン。座してイケメン、立ってもイケメン。歩く姿は超イケメンである。妬ましいことこの上ない。

「いえ、それほどでもないですよ」

 いつの間にか口に出していた俺のジェラシー混じりの雑言すら軽く受け流すこいつは輝くイケメンである。しかも爽やか系のだ。
 ぐぎぎ、ガチで俺とは格が違った。口惜しいから蹴ってやろう。げし、げし。
43 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:35:39.14 ID:bJw0hpzqo
 夕餉を皆でつつきながら更に沮授と雑談する。幼女三連星の面倒は陳蘭が見ている。念願のお姉さん的立ち位置だぞ頑張れ。というか頼むわマジで。俺には無理だ。
 ちなみに屋敷の主である田豊師匠はいない。最近はよく政庁や袁家に泊り込んでいるらしい。偉い人は大変だなーと思うのである。激務とはこういうのを言うのだろうなぁ。うちのとーちゃんとはえらい違いである。

「しかしまあ、麗羽様と田豊師匠の関係がいいなら俺には言うことはないな」

 当初二人の関係についてはある意味諦めていたのだ。しゃあないしゃあないって。でも、その関係性がよくなりそうな可能性があるならば後押しせねばなるまいて。いや、俺に何ができると言われたら困るのだけんども。

「――しかし田豊師匠は忙しそうだな」
「ええ、ただ充実はしてらっしゃるみたいですよ?」
「それは実に結構なこったね。まだまだ倒れられたら困るからな」

 俺の言葉にくすり、と沮授が笑う。

「そうですね。それを狙ってる人もいるみたいですけどね」
「はぁ?今の田豊師匠を狙うアホがこの袁家に――いないではないかもだがなあ。
 外からの介入、か?」

 政敵である麹義のねーちゃんだって流石に田豊師匠をどうこうとかせんぞ?袁家の行く末を考えれば猶更、だ。

「いえ。むしろ内部ではないかと」

 常ならばくすくすと可笑しげに笑うであろう沮授。だがその表情に一切の感情は浮かんでいない。そしてそこまで言うということは。つまりそれは既にある程度尻尾を掴んでいるということなのであろう。むむむ。

「・・・いらんことを聞いたか、すまん。だが麗羽様の守護に関しては全力を尽くすから」
「そうですね。逆に、あのお方に何かあったらその責は田豊様と二郎君に向かうでしょうし」

 ふむ、なるほど。まあ、田豊師匠にあれこれ聞いても答えてはくれんだろうし、師匠が暗殺云々で死ぬとも思えないけどね。

「二郎君も気をつけてくださいよ?」
「俺の心配する前に田豊師匠の一番弟子で腹心のお前の方がやばくね?」
「僕はまだまだ塵芥程度の小物なので気に留める人もいないでしょう。大体、二郎君の方が派手に動いてますし」

 ふむ。沮授がそうまで言うならば俺をどうこうしようという動きもあるのかな?

「まー、毒でも盛られない限りなんとかなるな」
「おやおや、珍しく強気ですね」

 まあね。も少ししたら俺は軍務に就くからして。身の安全を考えれば万全だし。軍事スキルが伸びるしな!これからの乱世、軍事スキルは必要不可避なのだよ明智君。

「まあ、なんにしても、さ。これからようやく実務に関わるからさ、よろしくどうぞ」

 あれやこれやと沮授とガチトークし、そののち馬鹿トークに移ろうとしたのだが。

「おやおや、大した人気のようで。羨ましい限りですね」
「ぬかせ」

 呼び出しである。沮授と余人を交えないミーティング(意味深)をしている俺を一方的に呼び出すことのできる人物なぞ片手で足りる。そして俺なんぞを呼び出すのは――。

「好かれてますねえ。いや、次代の袁家は二郎君を中心に動きそうでなによりです。その際はお引き立てのほどを――」

 沮授がいい笑顔で揶揄するわけである。呼び出しの主は麗羽様。要旨はまあ、あれだ。暇だから来なさい!ってことである。まあ、主君の無聊を慰めるのもお役目というものである。
44 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:37:33.86 ID:bJw0hpzqo
 ――さて、幼女とは些細なことで衝突をするものである。そしてあっけらかんと仲直りすると相場は決まっている。のだが。衝突する幼女が背負うものによっては周囲の胃袋はストレスで胃がマッハである。
 つまり眼前で繰り広げられる口論に俺のsan値が直葬されそう。

「もう!知らない!だいきらい!」
「アタイだって姫のことなんか、だいっきらいだ!」

 売り言葉に買い言葉ですね分かります。ってどうすんだこれ・・・。本人たちが後日和解するにしてもお付きの人員とかのメンタル、洒落にならんでしょ。俺とか豆腐メンタルなんだぜ。
 斗詩は猪々子を宥めながら、ちら、とこちらに目礼して猪々子を連れて出て行く。任せましたと言わんばかりの信頼に溢れた視線が痛い。どないせいと。
 ・・・説教なんて柄じゃない。でもただまあ、ほったらかしにしとくのも、なあ。ほっといても平気な気もするが、長引くと周囲がいらん邪推をするし、こじれたらかなわんからなー。ここは介入の一手しかあるまい。と決意する。損な役回りだぜ、と言ったら後日張紘に苦笑された。赤楽さんには舌打ちを頂いた。
 解せぬ。

 夕餉と入浴もそこそこに麗羽様は布団という絶対防衛ラインを崩そうとしない。他者の介在を拒むそれはまさにATフィールド。そりゃ近侍とかは何もできないわ。だがしかし、である。将来の袁家統領とその筆頭武将の不和なんて俺が看過できるわけもない。介入するべし、である。
 めりょ、と布団をめくってやる。何かじたばたと抵抗があったが営業トークで排除の一手。そして後ろから麗羽様を抱きしめる。もとい、拘束する。ん、逆か?

「じろー・・・」

 むっすりとしていた麗羽様の態度が大幅に軟化している。おこちゃまとは言え地頭はものっそい聡明なのだ。そりゃあ袁家に付き従う武家四家。その筆頭たる文家の次期当主(見込)との関係改善については思う所があるのだろう。

「はいな、二郎ですよ」

 それでも思う所はあるのだろう。ぶすっとして呟くのだ。なにこのかわいいいきもの。

「わたし、悪くないもん」

 力いっぱい自分の正当性を主張する。確かにささいな言葉の行き違いから発展した案件だからして、どっちが悪いとかはこの際どうでもよかったりする。まあ、とりあえず俺としてはこの涙目な麗羽様をどうするか、だ。

「だって、大嫌いっていっても、そんなこと思ってないって わかってるはずなのに」

 あー、取っ組み合いになるきっかけはそれだったなあ。ふと、じたばた暴れる――俺からしたらか弱いものだが――麗羽様を抱く手をほどき、正面から向かい合う。むす、としている麗羽様の耳元で優しく囁く。

「実は俺、麗羽様のこと、嫌い、なんですよ」

 麗羽様の目が大きく見開かれる。最初に混乱。そして何を言われたかを理解し、そしてまたパニックところころ表情が変わる。
 見る見るうちに表情が歪み、ぱっちりとした双眸に大粒の涙が溢れてくる。

「え、じ、じろー?うそ、でしょ・・・?」
「ええ、嘘ですよ」
「え、あ、ぇ?」
「勿論俺は麗羽様のことが大好きですよ」
「な、え?え?」

 混乱しているのだろう。ずびずびとむずがる麗羽様を抱きしめ、頭を撫でる。

「この二郎が麗羽様のことを嫌いなわけないでしょう?」
「で、でもきらいっていったもん!」
45 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:38:09.08 ID:bJw0hpzqo
 そう、放った言葉を取り戻すことはできないのだ。よしよし、と頭を撫で繰り回しながら囁く。

「麗羽様、言葉というものはね、思ったより大きな力を持ってるんですよ?」
「――!」
「だから、ね?大好きな相手には、きちんと言葉にして伝えないと」
「ぅ・・・」
「時間が経つと、仲直りしづらくなりますよ?」
「・・・うん、わかった。
 でもじろー?ほんとにわたしのことすき?」

 上目遣いでおそるおそるといった風で麗羽様が聞いてくる。双眸に溜まっていた涙は絶えず流れ落ち、頬を濡らす。俺に問う声も震えて、嗚咽混じりである。む。これはやり過ぎたかもわからんね。ここはフォローの一手である。

「何度でも言います。麗羽様、大好きですよ」

 ぎゅっと麗羽様を抱きしめる。すがり付いてくる麗羽様にちりちりと良心が痛む。いや、これほんとにやりすぎたなあ、と。

「ほんと?ほんとにほんと?」
「ええ、ほんと、です」
「じろーがわたしのこときらいだっていった時ね、胸のおくがきゅっとして、泣きだしそうになったの」

 麗羽様を抱きしめる腕に力を込め、耳元で囁く。

「麗羽様、大好きですよ」

 それでも、びすびす、と嗚咽を抑えきれない麗羽様の可愛さが俺の中でストップ高である。

「ほんとにほんと?」
「勿論ですとも」
「だって・・・」

 それでも、ぷう、と頬を膨らまして思いのたけを吐き出す麗羽様がとてつもなく、いとおしい。この思いが通じたらいいのにな、と思いながらひたすらに耳元で謝罪と甘やかしの言葉を囁く。

「じゃあ、言うことひとつきいて!」
「仰せのままに」
「今日は朝までいっしょにいて!」

 それは不味かろう。流石にそれは各方面から睨まれている視線が更に厳しさを増す気がするのではあるが。

「言うこと聞くっていったもん!」
「そうでしたね」

 癇癪を起した体で、その実俺の反応を不安げに見る麗羽様を見るとなー。まあ、仔細についてねーちゃんと師匠にソッコー報告しといたら何とかなる。と思う。どっちから行くかについては深く考えないようにしようそうしよう。

「でね、ずっと大好きって言ってね?わたしが眠るまで」
「ええ、承知しました。二郎は麗羽様が大好きですからね。お安い御用ですとも。まあ、麗羽様より先に寝ちゃう可能性もありますけどね」
「じょうじょうしゃくりょうはするから安心していいからね!」
46 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:38:35.41 ID:bJw0hpzqo
 ぺったんこな胸――袁逢様の胸部装甲を見ると将来性はあると思う――をそらせて麗羽様は笑う。その屈託のない笑顔を、俺は大切にしたいと思う。

 翌日、きちんと仲直りをしている幼女を見ながら呟く。

「子供ってすごいなあ」
「どうしたんですか?」

 不思議そうに陳蘭が問いかけてくる。

「いやー、すぐ仲直りできるってすごいな、と」
「ああ、昨日の喧嘩は激しかったですもんね」

 子供の特権。あんなに激しく喧嘩してても今泣いたカラスが、って感じである。俺がなんかせんでもよかったんじゃないか、と思っていたのだが。

「アニキー!」

 ドゴォ!という勢いで飛びついてくる猪々子を抱きかかえてやる。流石有名武将。幼女とは言えじゃれてくるのをあしらうのもそろそろ一苦労である。地味に肋骨が痛い。

「ありがとな。姫とすんなり仲直りできたよー」

 それに対して何か恰好いいことを言ってやろうと、キリッと表情を整えている間に俺の双の腕から離脱完了である。麗羽様と斗詩に向かって駆け出し、三人でキャッキャウフフとしている。
 うーん、この。いや、まあいいんだけどさ。



 それはそうと今日も今日とて鍛錬である。固定値は裏切らない。身体をいい感じに痛めつけて疲労困憊コンバイン。目指すは湯殿。そう、孤独で、だからこそ救われるような。そんな入浴で俺の鍛錬は完結するのである。
 そんなルーチンを淡々とこなすはずだったはずなのだが。

「そりゃー!」

 俺の声にきゃあと嬉しげに声をあげる麗羽様に遠慮なく湯をぶっかける。どしゃ、とな。怒涛の水流。かーらーのー洗髪である。俺なりに麗羽様の頭をごしごしと洗う。
 はい、麗羽様をお風呂に入れています二郎です。まあ、湯殿への道でインターセプトされたからね、仕方ないね。「お風呂?じゃあいっしょにはいるー」と言われたら「はい」か「yes」で応えるしかないじゃない。
 ――麗羽様の御髪おぐしとか、本来はものっそいトリートメントとかせんといかんのだろうなーと思うのだが俺にそんなスキルはない。構わずに光輝が顕現するような金色の髪の毛を、わしゃわしゃと遠慮なく洗う。
 てきとーな俺の洗髪が新鮮なのだろうか。割と麗羽様は俺に髪を洗ってもらいたがる。いいのかなあ。痛くないのかなあ。

「よーし、目をつぶってー」
「つぶったよ!」
「どっせい!」
「きゃーっ!」

 ざばばんと頭からお湯をかける。どばっとかける。遠慮なくかける。それに無意味にはしゃぐ麗羽様。うむ。ここからが本番である。

「溺れたら、め!ですからねー!」
「きゃー!」

 喜色満面な麗羽様を広大な湯屋に放り投げる。捻りと回転を加えるのがコツだ。絶叫系の娯楽施設であるかのごとく、その軌道が過酷であるほど麗羽様の満足度は高まる。それはそれでどうなのよ。
 ぶくぶくと沈み込む麗羽様を回収するのも俺なのだからまあ、いいとしよう。
でもまあ、こんなに乱暴に扱うのも俺くらいなもんだろうな。故に楽しく感じるのだろう。お風呂だけではない。かなーり俺にべったりである。
 ・・・十年後はともかく、幼女の裸体に欲情する性癖なんぞはないから何も問題ないし、無邪気にはしゃぐ麗羽様を見ているとそれだけで癒されるというものだ。

「ふあぁ・・・」
「そろそろのぼせてきましたか?」
「もうちょっとー」

 そういって麗羽様は俺におぶさってくる。これはのぼせてきたがまだ上がりたくないというサインだ。中々にお風呂好きの幼女である。だが脱水症状で倒れられても困るのでそのまま湯船から出る。

「あー、じろーのいじわるー。まだ入ってたいのにー」
「俺がそろそろ上がりたいんですよ。それとも一人で入ってます?」
「うー。じゃあいい。のども渇いたし」
「じゃあ、後でお水もってきましょか」
「うん、まってる!」
47 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:39:07.05 ID:bJw0hpzqo
 満面の笑みはまさに太陽のように光輝を放つ。その光輝にあてられて、まあなんだ。この方のためならばと普通に思っちゃうのは仕方ないよね。これが天性のカリスマってやつだな。ほんと、将来が楽しみである。

「ねえ、じろー」

 こくこくと冷やした蜂蜜水を飲みながら麗羽様が俺に問いかけてくる。

「ほいさ」
「じろーは、ちゅうってしたことある?」

 ぶほ!

 錯乱ボーイに何を言うのだこの幼女は。つかその意味分かってないでしょぉ?

「は、はあっ?」
「んーとね、母上が言ったの。寝る前に大好きな人に
 ちゅうをしてもらったら怖い夢を見ないって」
「は、はあ。と、言うと・・・?」

 袁逢様、娘さんに何を吹き込んでるのですか。と内心でクレームの嵐である。

「でね、昨日ね、怖い夢をみたの」

 ちょっと潤んだ目で上目遣いとか。効果が抜群すぎて困る。これ将来えらいことになるんだろうなあとか思いながら続きを促す。

「誰もね、いないの。かあさまも、じろーも、いいしぇもとしも、ちんらんも、でんぽーも。
 周りに誰もいないの。ううん、いるんだけどいないの。だれも私をみてないの」

 ――聡い子だな。そう思う。それが幸せかどうかは微妙なところだが。知らないほうが幸せってこともある。袁家の跡取りであるから自分がちやほやされているというのを感じているのだろう。本当に、聡い。

「じろーはどこにもいかないよね?」

 涙ぐむ麗羽様に俺は何と答えるだろう。どう応えられるだろう。だが、俺が頼りとばかりに縋り付く麗羽様。・・・思えば袁逢様の意向で交換した真名。だがそれはきっかけだ。俺は、俺の意思で麗羽様を守りたい、と思っている。

「どこにも行きませんよ。お側にいますよ」
「うん、そうだよね・・・」

 まだどことなく不安げな麗羽様。それがとても心細そうで、寄る辺なさそうで。

「きゃ?」

 だから俺は麗羽様をぎゅ、と抱きしめるのだ。
48 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:39:33.04 ID:bJw0hpzqo
「二郎はここにおりますよ。ね?」
「ふぁ、あ、うん。じろーはいるね。わたしのそばにいるね。じろーをかんじるよ・・・。
 もっと、もっとぎゅっとして?おねがい・・・」

 無言で俺はさらに抱きしめる力を強める。おそらく苦痛を感じてしまうだろうほどに。

「じ、じろぅ・・・」
「いらない、と麗羽様が言われるまでお側にいますよ」
「いらなくなんて、ならないよぅ・・・」

 潤んだ目で麗羽様が俺を見上げてくる。袁家、というバックボーン。それは光も闇も内包している。それはどこまでこの、聡い子の心を責め立てたのだろう。抱きしめる腕の力を込めるほどに嬉しそうに顔を綻ばせる。

「すん・・・」

 感極まったのか、麗羽様の双眸から涙が漏れてくる。

「麗羽様・・・」
「じろぅ・・・」

 そっと、その双眸に唇を寄せ、涙を吸い取る。

「ぁ・・・」

 続いておでこに唇を寄せ、頬に口付ける。

「俺がお側におりますよ」
「ん・・・」

 きゅ、と麗羽様が俺にすがりついてくる。潤んでいた目と、ぐずりつつあった鼻を押し付けてくる。何かをごまかす様に。

「あ、ありがと。じろー、だいすき!」
「俺も、ですよ」
「うん。ずっとだいすき!だからいつもみたいに、お話、して?」

 今泣いたカラスがなんとやら。ああ、麗羽様には笑顔が似つかわしいなあ。そしてその麗羽様がリクエストをしてくれる。

「いいですよ。――むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
 おじいさんは山で雌竜を狩りに、おばあさんは、川で雄龍を狩りにでかけました・・・。
 おじいさんは大鎚、おばあさんは双剣を得物としていました・・・。おじいさんは罠を仕掛けて・・・」
「くー」

 安らかに寝息をたてる麗羽様。安心しきって幸せそうなその寝顔。誓いを新たにする。三国志なんて、やらせはしない。
49 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/02(月) 23:42:02.73 ID:bJw0hpzqo
本日ここまです
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 23:56:36.76 ID:ATJH5P5GO
乙です
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/03(火) 11:39:18.61 ID:edot1S+n0
乙&誤字報告でーす
>>38
>>もっと言えば袁家領内の統治ににある人物が登場
○もっと言えば袁家領内の統治にある人物が登場
>>会ってみたいとかいうのもごく自然なことである。
間違いではないですが 会ってみたいと(か)いうのもごく自然なことである。 か が余計かと
>>40
>>なぞアホなことを思いながら
○などとアホなことを思いながら まあしゃべり言葉としては間違いではない気もします
>>42
>>君が本気でそう思っていると言うのを僕は理解しています。
○君が本気でそう思っているというのを僕は理解しています。 または 君が本気でそう思って言っているというのを僕は理解しています。 かな?
>>46
>>そんなルーチンを淡々とこなすはずだったはずなのだが。
○そんなルーチンを淡々とこなすはずだったのだが。

男3人がそろいましたねえ、こいつらの関係がとても好きなので今からwktkですよ
そしてれーは様を諭す二郎ちゃん、というか一回突き放してから甘い言葉の雨あられとかこれまんまやくざの手口じゃ…
しかも相手が親友とけんかして心が弱ってる時に…これ以上は危険な気がしてきたgkbr
52 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/06(金) 23:05:51.53 ID:ImN37rLao
>>51
誤字指摘感謝っす

きちんと点検したつもりやったんすけどねえ……ほんと感謝っす

>そしてれーは様を諭す二郎ちゃん、というか一回突き放してから甘い言葉の雨あられとかこれまんまやくざの手口じゃ…
意識してやってないからセフセフ


そして年末に向けて激務ですよ。
ほんと、逃げたいw
53 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:13:34.06 ID:1jyXWa9Co
 南皮の街を陳蘭を伴いぶらつく。昼は適当に屋台で買い食いである。

「あんまり無駄遣いしちゃ、駄目ですよ」
「ふ。小遣いってのは無駄なことに遣うもんだ。それに金持ってる奴が金使わないと経済が回らん。だから、持てる者である俺は金を遣うというのはもはや義務ですらあるのだよ。
 というわけであの餃子も試してみようそうしよう」
「もう、二郎様ってば・・・」

 陳蘭のお小言をBGMにしながら街の徘徊を続行する。ほんと、毎回付き合せて悪いなーとか思ったりもする。まあ、それがお役目と言ってしまえばそれだけのことなのだろうがよく付き合ってくれるものである。
 と、陳蘭が足を止めてなにやら見ている。

「どったの」
「い、いえ、すみません。あっちに、ほら」
「ん」

 見ると流しの芸人だろうか。琵琶を伴奏に女芸人が歌を歌っていた。終わるとちっちゃな女の子がおひねりを集めに籠をもって駆け回る。ふーんと思いながら小銭を投げてやる。
 こういった娯楽的な階層が目立つということはそれだけ民の生活が豊かになっているという証左だ。緩みそうな口を引き締めてエンドユーザーにリサーチをかけるとしよう。

「そんなに歌、上手かったか?」
「いえ、そうじゃないんですけど、その、綺麗だな、って」
「あー、衣装な。着飾ってるしなー」
「なんか、いいなあって思って」

 なるほど。芸事そのものだけではなく、その装飾も憧憬の対象、と。なるほど。これは見落としてたな。華やかだからこそ憧れる。言われてみれば当たり前ではあるのだが。
 これは陳蘭にご褒美をあげなければ、と熱い使命感を覚える。

「今度、ああいうの仕立ててもらうか」
「ふぇ?い、いいです。どうせ似合わないし」

 顔を赤くしてぶんぶんと手を振る陳蘭。んなこたないと思うんだけどなぁ。  まー、一般的に女の子が着飾るなんてまだ結婚の時くらいだからなあ。なんとか普通に女の子がおしゃれできるくらいには発展させたいねえ。

「あ、あの、ほんとにいいですからね?」
「ん、まあ、そのうち、な」

 陳蘭が綺麗なおべべお望みとあらば全力で叶えてやらねばなるまいて。ククク。

「話聞いてます?」

 聞いてるとも。陳蘭がちらちらと目移りするくらいにアクセサリーとかも充実してきているってことを認識するくらいにはな!
54 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:14:00.05 ID:1jyXWa9Co
 と、歩き出そうした俺に声がかけられる。

「あ〜ら、二郎さん、珍しいですわね。てっきり隠遁されていたかと思いましたわ」
「あ、アニキだ、ひっさしぶりー!」
「ご無沙汰しております」

 意外なところで麗羽様たちに出くわした。三人とも美幼女が美少女にランクアップしている。これが実に目の保養であり、感慨深いものがある。これは唾つけとくべきでしたよねぇ・・・。

「ええと。俺だってたまには仕事します、よ?」
「・・・まあ、猪々子さんよりはされるでしょうね」
「あー、姫ってば。アタイだってアニキよりは頑張るっての!ひっでーなー」

 斗詩が俺たちのやり取りにくすくす、と笑う。・・・これでも仕事で来たのは本当なんだけどね。

「麹義のねーちゃんに報告書出しにきたとこだったんだわ」

 うげ、と猪々子が呻く。うん、何を思ってもいいけど声に出すなよ扱いに困るし。
 麹義のねーちゃんは二十年近く前の匈奴の大侵攻の時から常に第一線を張り袁家の防衛線を張り続ける知勇兼備のウルトラスーパーな名将、レジェンドである。一朝事あらば、袁家軍の総大将は間違いなくねーちゃんだろう。猪々子にとっては口うるさい先達でしかないだろうが、実際たいした人なのだ。
 政戦両略に長けており、特にその政治力は隔絶。魑魅魍魎湧く袁家において後背からの圧力を援護へと変え、前面の敵を討つなんぞ凡百にできるものかよ。
 少なくとも俺には無理な芸当を鼻歌混じりにやってのけるねーちゃんはガチで英傑的な存在であるのは確定的に明らか。間違っても喧嘩を売ってはいけない。俺なんて媚びを売りまくりのバーゲンセールであるし。

「そうだアニキ、用事済んだんだろ?」
「おうよ」
「じゃあ手合わせしようぜー」
「話が見えん」

 なんだこの脳筋美少女。アタイより強い奴に会いに行く、とか言って旅にでも出そうだなおい。

「だってアニキー、あれじゃん?梁剛隊で百人抜きをしたじゃん!」
「なんで猪々子がそれを知ってるんだよ・・・」

 結構、年単位で昔のことなんですがねえ。

「えー、武官の間では結構広まってるぜー?
 紀家の後継は武においても抜きん出ていたってな!語り草ってやつ?」
「どーせ身内だから箔付けにインチキしたとかいう噂も出てるだろ」
「へー、よく知ってるなー。でも信じる奴はほとんどいないね。
 あの梁剛隊の面子が。絶対にそんなことするもんかい。
 まあ、アタイはアニキがものっすごく強いのは知ってたけどな!」
「買いかぶりもいいとこだっての」

 俺は強いと盲目的に信じてくれるのは嬉しいのだがねえ。小さい頃に相撲で勝ったくらいで、なあ。

「だから、また手合せしてよー。ねーってばさー」

 可愛くおねだりしてくる姿に心がグラリとするのを押さえつける。のだが。その内容がねえ。

「あーら、いいじゃありませんこと?」
「ちょっとぉ、これ止める立場でしょうが麗羽様は・・・。
 やるにしても得物はなしですよ?怪我してもいいことないですし」

 まあ、麗羽様がゴーサインを出した以上、それは決定事項なわけである。練兵場に移動し、構える。まあ、まだ武力全盛期ではないだろうし、なんとかなる、かな?
 なると、いいなぁ。

※この後、滅茶苦茶苦戦した。

 これ、ガチで猪々子の基礎スペック半端ないって!完璧に決まった上四方固めをブリッジで跳ね返すとか・・・そんなんできひんやん普通!
55 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:16:16.55 ID:1jyXWa9Co
 さて、久々沮授とお仕事のお話である。あれやこれやと報告を受けて意見交換をしているのだが。・・・実は想定以上に南皮他袁家領内に流入する流民が多い。食料がある所に民が群がるのは必然ではあるのだが、ね。そして都市部に流入する民には二通りある。
  一つは難民だ。天災で全てを失った者だ。特に江南からの難民が目立つ。なんでも大水害があったらしい。
 もう一つは農家の二男、三男などといった農村の余剰労働力、或いは穀潰しだ。――農業指導により同じ面積でも収穫が上がり、効率がものっそいよくなって耕す田畑を親からもらえなかった層だ。これが袁家領内を中心にかなーり増えている。
 こっちは比較的、懐に余裕もあったりするからそこまで治安への影響はただちにはなかったりする。だがまあ、いずれは食い詰めるのだろうけどね。だが、これはチャンスでもある。都市部での賃金労働者の増加が見込めるということ。
 これは産業革命の発生条件の一つだ。流石に機械化されてないから本格的なものは無理でも、工場制手工業マニュファクチュアならば、いける・・・かもしらん。いや、いけるいける。
 ちなみに工場制手工業とは地主や商人が工場を設け、そこに賃金労働者を集め、数次にわたる製造工程を1人が行うのではなくそれぞれの工程を分業や協業をおこない、多くの人員を集めてより効率的に生産を行う方式のこと。分業であるために作業効率が向上し、生産能力が飛躍的に上がるが、技術水準は前近代的なものにとどまる。経済史では、農民の副業として発展した問屋制家内工業の次段階とされる。さらに産業革命以降は、工場内で機械を用いて製品を大量に生産する工場制機械工業が工場制手工業の次の段階として登場する。ここまで前提。読み飛ばしてもよし。

「人口増加、ですか?」
「おう、想定より相当増えてるだろ?」
「そうですね。ですが、流民の流入は想定していましたからねえ。故に食料の備蓄に問題はありません。
 今のところ、他の地域に流す余裕が十分にありますよ」

 ここまでは順調か。よしよし。

「袁家領内が中華の穀倉となる日も近いな」

 俺の言葉に沮授はくすり、と笑みを浮かべる。

「ふふ、既にそうなっています。と言っても過言ではないでしょうね」

 流民の流入は想定の2割増(沮授調べ)。人口の自然増についても同様の傾向らしい。職と食が安定したら労働力確保もかねて子作りが盛んになる、というのは予測の範囲内。これから更に想定以上の人口増があるかもしれんから、食料の備蓄も継続している。蝗害とか怖いしね!

「ですがそろそろ都市部で流民の増加による揉め事が増えつつありますね」
「ふむ・・・」

 農家の二男坊以下や流民らへんが職を求めて都心部へと出てきたからであろうな。ここまでは想定の範囲内。なので対策も一応考えてある。

「そいつらは雇用の創出で賄う」
「と、いうと?」

 これは政治がせんといかんことだ。地方から出てきた余剰人口、他方から流入する流民をほっといてたらロクなことにならん。きっちりとその労働力の受け皿を造るのは為政者の義務である。働く意思がない奴については言及を避けるがね。

「公共事業だな。治水工事、街道整備、城壁の補修、まずはそんなもんかな」
「まあ、予算には余裕がありますからね」

 豊富な予算と(口減らしで都市部に来た農家の倅たちや流民で)安価な労働力。乗るしかないこのビッグウェーブに!大公共事業時代の到来である。ニューディール政策を先取りしてやんよ。
 とは言え、無駄なことをするつもりはない。公共事業・・・インフラの整備とは未来への投資なのだからして。なので自重しない。マジで。
 食料の増産と雇用の拡大。治安の維持には武力の増強よりもこっちが有効なのだ。という主旨の説明を沮授にしようとしたのだが。

「なるほど。膨れ上がった余剰人員については棄民しかない、と思っていましたが・・・。
 それすら資源として活かす。いや、二郎君の深謀遠慮には舌を巻く思いですよ。いや、その先見には嫉妬や敗北感があるはずなのですがね・・・」

 これでも田豊様の一番弟子として鍛えられていて、内政にはそれなりに自負があったのですがと沮授は苦笑する。

「しかしこれはもう認めざるを得ないですね、二郎君。僕はとても君にかないそうもありませんよ」

 ひらひらと両の手を挙げて降参の意思を伝え、首を振る。のだが。
いやいやいやいやいや。俺の拙い説明の、その切れ端で察した沮授こそが傑物でなくてなんなのだと思うのですだよ。産業構造の変遷とかあれやこれやについてを文字通り三行で理解するなんてありえないだろうよ・・・。

「いや、俺としては沮授がいてくれてよかったというのが本音なんだが」

 俺の言葉に沮授は苦笑の色を濃くする。その色は沮授にしては珍しく暗い。

「よしてくださいよ。二郎君だから言いますがね、敗北感なんてものじゃないですよ。一体自分は今まで何をしてきたのだって、ね」

 まてまてまてまて。なんでお前が、田豊師匠の一番弟子でスーパーエクストラ文官カスタムでウルトラエリートな沮授がネガティブ一直線なんだってばよ。

「いや、本当にね。自分の才というものがいかに小さいかを痛感しましたよ。本当に、ね。なけなしの矜持だって、あればあるほど惨めなモノです」
56 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:16:42.30 ID:1jyXWa9Co
 動揺しまくっていた俺だが、ネガ吐いてる沮授の言葉にカチンとくる。ああ、カチンとくるぜ、とさかにくるぜ。

「ちょ・・・待てよ。それ以上は許さんぜ。それ以上自虐は許さん」

 へえ?とでも言いたげな――ちょっと拗ねたような沮授の視線に俺は激昂する。

「あのな!俺がお前に実務で及ぶはずないだろうが!あれやこれや好き勝手言ってるけどな!それを実際に、実務に落とし込めるかどうかって言ったら少なくとも俺にはできんわ!」

 むしろ俺に出来るとかガチで思ってたら困ったものである。

「沮授よ。張紘が偉いのはな、すごいのは、だ。俺がてきとーにぶちあげた絵空事をきっちりとやりとげようとしてくれてることだ。だから、外は張紘に任せてきた。だったら内は誰が担うか、分かるだろ?」

 分かってください。お願いします。なんでもしますから。
 そんな思いを込めた視線を真正面から受け止めて・・・。刹那表情を引き締め。にこりと、笑ってくれた。

「やれやれ。これは張紘君に先んじられましたか」
「なに、沮授ならその差なんて大したことないだろう」
「と言うか、別に競争しているわけでもないですしね。煽られても困りますよ?」
「そういやそうか」

 苦笑する沮授に俺の考える公共事業の具体案を示していく。

「主要な街道には思い切って焼成煉瓦を敷き詰めよう。
 雨が降っても輸送距離が落ちなくなる」
「なるほど。各種物資の輸送にかかる時間を向上、安定させれば色々と捗りますね」

 プロジェクト「赤い街道」である。つまりまあ、街道を広げるだけでなく、アスファルト・・・は無理だから煉瓦で舗装してしまおうということである。それにより輸送コストが劇的なことになるはずである。そして沮授の言う通り、物資の輸送にかかる時間が想定しやすくなる。
 これは各種政策を立案する上で物凄く重要なことなのだ。まあ、本命は軍の移動速度向上なのだがね。言うまでもなく沮授はそれくらいご存知のはずである。

「なるほど、煉瓦の生産、原材料の需要にも雇用が生まれますね」
「お前と話すと話が早くていいよ。まあ、そういうことだ」

 失業率は低ければ低いほどいいのである。

「――ですがそうすると管理職の人手が足りなくなりますね。
 未だに出仕を拒む士大夫もいますし」

 なん、だと・・・。

「はぁ?!この期に及んで隠者気取りかよ。呆れたもんだな。――しゃあない。ほっとけ」
「ふむ、なるほどですね。士大夫層に媚びる気はないと」

 当たり前田のクラッカーである。いちいちご機嫌伺いなんぞやってられんよ。そんな奴らとはどうせそのうち衝突するだろうしな。

「引退した官僚に私塾をやらせろ。そうだな。有力者の子弟ならば問題なかろう。庶人を集めても、玉石混交で選別が手間だ。将来的には話が別だが」
「ふむ。悪くありませんね。豪商や官僚の子息であれば基礎教育も進んでいるでしょうしね。早速取り掛かるとします」

 くそ隠者気取りの協力は得られない模様。ならばこっちも責任を負う覚悟のない奴らに頼ってやるものかよ。

「しかし、さしあたっての実務についてはどうしましょうか。教育はいいとして流石にぽっと出の人材をねじ込むわけにもいきませんし・・・」
「ああ、それなら張紘が大丈夫だって言ってた。もう手元の商会の幹部級には旧知の人材を充てて、いくらかそれ以外にも管理職以上の役職が欲しい人材を確保しているってさ」

 流石は張紘である。各地の情報を吸い上げるわ、独自のコネクションで珠玉の人材を発掘してくるわ、俺の思いつきをフォローしてくれるとか。いやあ、張紘のためなら三顧の礼どころか三十くらい礼を尽くすっつうの。特盛マシマシアブラカラメでな!五体投地をフルセットで毎日こなしてもいいレベルである。

「流石は張紘だぜ。いや。奴は傑物だからな。それくらい朝飯前ってことかもな」
「信用してるのですね、張紘君を。そして彼の育てた、或いは育てる人材を」

 沮授の言に、にひひ、と笑って応える。

「信頼、だよ。沮授。勿論お前と同じく、な」
「おや、これは。――光栄の極み、と言っておきましょうかね」

 にこり、と笑う沮授はやれやれ、と頭を振る。何かを振り払う。
 そうして俺のことなんかほっといてあれやこれやと指示を飛ばし、書面に没頭していく。うん、どこか楽しげに。
 うむ。無表情に書類を捌くよりは余程よかろうて。そう思い俺はその場からそそくさと立ち去るのだった。
 ――仕事振られたらかなわんからね。
57 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:17:28.36 ID:1jyXWa9Co
世は全てこともなし。・・・さて、平時における軍隊というものが何をやっているか、というと訓練である。ひたすら訓練である。軍隊とは訓練がお仕事なのだよ。

「なーにしけたツラしとんねん」

 がしっと俺の頭を掴んだのは敬愛すべき我が隊の長、梁剛の姐さんである。

「いや、自分の立ち居地に納得いかないものがあってですね」

 梁剛隊にて軍務に就いた俺は、当初はすっごく兵卒扱いであった。しかし、一通り下っ端の雑用をこなすと、梁剛隊の副官である雷薄の補佐・・・つまり副官補佐みたいな感じになっていた。
 曰く。
「いつまでも下っ端の仕事しててもしゃあないやろ。
 二郎にはとっとと、指揮官として大成してもらわんといかんからなあ」

 そう言ってカラカラと笑う姐さん。なるほど。促成栽培とかエリート教育というやつである。俺としては下積みからじっくりやりたかったのだけんども。

「そらな、下っ端がどんな仕事してるかを知るのは大事やで?
 でもアンタは下っ端のままいるわけにはいかんやろ?
 将来はウチらを指揮する立場になるんや。そしたら、時間の無駄やんか」
「そんなもんっすかねえ」
「そんなもんや」

 そんなわけで最近は専ら部隊運用のノウハウを教わっている。流石こちらはガチで兵卒からの叩き上げだけあって合理的な運用法を確立している。と感心しきりな俺である。

「今日は・・・北西に偵察を兼ねて行軍ですか」
「せや、最近はここらへん、治安がええからなあ。ちょっと遠出せんと賊もおらへんわ。
 遭遇戦とか昔はしょっちゅうあったんやけどなあ」
「それ、わざと賊がいそうなところで訓練してたんでしょ」
「実戦は一番の訓練やからなあ。手柄にもなるし!」
「そっちが目当てっすか。流石紀家の最精鋭は発想が違った」
「やかましいわ。治安もよくなるし、民かて助かる。誰も損せえへん」

 軽くこづかれる。こんな気安いやり取りがすごく心地いい。袁家の闇やらを手探りで切り抜ける、そんな日々から比べると訓練の過酷さとかマジ天国。ああ、官僚志望でなくてよかったわ。

「まあ、実際ウチらが暇なんはいいことやしなあ、お給料が減ってまうけど」
「せっかくいい事言ってるんすからオチ付けなくていいっすよ?」
「その小賢しい発言がイラつくわ」

 うりうりと、こづき回される。周りの兵たちもニヤニヤ笑って見ている。ほんと、アットホームな職場だわ。

「姐さん、若。今日は大物をしとめましたぜ」

 そう言う雷薄に目を向けると、金冠ドスファン・・・もといでっかい猪を何人かで運んで来ているところだった。いやでもマジでけえよ、どうすんだこれ。

 まあ、それはいいとして、初日に梁剛隊とじゃれあった後、俺は「若」と呼ばれるようになっていた。血筋と腕っぷし。それらが相まって治まるとこはそういうことだったのだろう。いささかこそばゆいが俺の立ち位置としてはいい感じじゃないかな、と思う。

「おー、立派な大猪やな。よっしゃ今日はウチが腕を存分に振るったろ」

 姐さんの言葉に皆が盛り上がる。なんだこの一体感。ひとしきり隊の皆を煽った後、料理の準備に動き出す。

「よっしゃ、二郎、手伝ってもらうで、さっさとこっちきぃ」

 よしまかせろーと思うのだが。俺、料理ってカップラーメンとかレトルトカレーとかお茶漬けしか無理なんですけど。
 とは言え、弱音を吐くわけにもいかず。姐さんに指示されるままにあれこれ手伝う。腹かっさばいて血を抜いて、内臓を取り出して、洗って、代わりに笹で包んだ米を詰めて・・・。何これ超本格的なんですけど。

「せ、戦場料理というワリには手が込んでますね」
「当たり前や。食事は戦場唯一の楽しみやからな。手間暇かけてでも旨いもん作らな、な」
「まあ、飯が不味かったら士気も落ちますよねえ」
「お、わかっとるやないか。よし後は焼くだけ、やな」

 後はひたすら猪を焼くだけらしい。もちろん火加減は姐さんが指示をする。と思ったら結構テキトーらしい。肉を回転させながら均等に焼いていく。こうなったら絶対こんがり肉Gにしてやるぜとか思いながら焦げないように丹念に火の加減をしてやる。
 うむ、上手に焼けました!

「うめぇ」
「どや!」

 なんというドヤ顔であろうか。実質料理したの俺他数名じゃん。そんなことを思いながらも肉にかぶりつく。実際旨い。この、笹に包まれた米が脂を吸って、それでいて爽やかな笹の香りがこう、食欲をそそるぅ・・・。

 さて。たらふく飯を食ったらもう寝るだけだ。驚いたことに姐さんは天幕とか張らずに兵卒と一緒の条件で野宿する。姐さんは何も言わないが、指揮官の心得を示してくれてるのだろう。兵卒と同じものを食べ、同じところで寝る。部隊を掌握するための方法論とはいえ、中々できないことでもある。
 ・・・ただまあ、寝てる時に悩ましい声を上げるのは勘弁して欲しいと思う。近くには俺しかいないからいいものの、なあ。

「甲斐性なし、へたれ」
「へ?」

そんな感じで心身ともに鍛えられている俺であった。
58 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:17:54.40 ID:1jyXWa9Co
「陳蘭、弾幕薄いよ、なにやってんの!」
「ふぇ、ふぇええっ?」

 男なら一度は叫んでみたい台詞を吐けて俺は満足した。もう、このまま帰ってもいいかもしらん。

「じ、二郎様、来るなら来るって前もって言ってくださいよ。
 こ、こんな格好で恥ずかしい・・・」
「いやいや、イイ感じだぞ、というかど真ん中かもしらん」

 ポニテというものはどうしてこう、男の夢を膨らませるのかという個人的な思いは置いておこう。
 ここは袁家技術開発廠・・・まあ、工房である。ここでは今陳欄が俺発注の長弓のテストを行っているのだ。
 そして陳蘭は肩まである髪を一つに括ってポニテにしている。時代を先取り過ぎだろ・・・常識的に考えて。ポニテがひょんひょんと動いてチラチラ見えるうなじなんてもう。
 いかん、発想がセクハラだ。自重自重。陳蘭相手にそれはまずいってばよ。

「で、どうしてこちらにいらしたんですか?」
「いや、久しぶりに休暇を貰ったんで陳蘭の顔を見に来た」
「ふぇ・・・ありがとうございます」
「長弓の性能も確かめたかったしな」

 何せ俺の肝いりで造ってもらった兵器だからな。そりゃ進捗に興味深々ってやつだよ。

「そうですか・・・」

 弓をさっきまで引いてたのだろう。上気した顔の陳蘭の持つ弓を見る。俺発注の長弓だ。大体120−180センチくらいの長さである。これから矢を飛ばすのにも相当な筋力が必要なんだが陳蘭なら問題ない。――なんせ俺より膂力があるしな!

「で、でも、狙いなんてつけれませんよ?」
「問題ない。数で補う。大体の方向さえ合ってればいいんだよ」
「そ、そうですか?」

 一応射程は数百メートルを想定している。近づく前に弾幕で敵を殲滅する、俺の数少ない軍事知識の中でも切り札だ。
 これを実用化したイングランドはフランスとの百年戦争で圧倒的な力を振るったのだ。フランスの逆撃は、かの聖女ジャンヌ・ダルク。それと大砲の登場まで果たされない。時代を考えると比較的簡単に再現できるワリには費用対効果に優れた武器だ。と思う。
 そして俺はこれを大量配備するつもりなのだ。だって間違っても敵将と一騎打ちとかしたくないからな!乱射乱撃雨霰である。

 まあ、それにしても。かのアマゾネスは弓を引くのに乳房を切り捨てたというが、陳蘭にその必要はなさそうだな!胸当てはきちんと装備しているが、実に平坦で、豊穣の恵みを祈念せずにはいられない。

「二郎様」
「お?」
「なんか、とんでもなく失礼なこと考えてませんか?」
「今日はいい天気だな。ほい、差し入れ」
「露骨に話をそらしましたよね・・・」

 そう言いながらも俺の持ってきた点心を頬張る。ぷりぷり怒っているみたいだが、実に表情豊かで可愛らしい。

「もう、聞いているんですか?」
「おうよ、北斗七星をかたどった運足は暗殺拳の秘中の秘って話だろ?」
「全然違いますよ・・・。麗羽様の誕生日に何を贈るかって話ですよ」
「正直思いつかない。軍務でそれどころでもないしな。まだ先だしいんじゃね?」
「去年もそう言って直前まで準備しないで麗羽様が拗ねちゃったじゃないですか・・・」
「なんで選定の過程まで筒抜けなんだろな。もっと違うところに手間を割けっつうのな」
「で、どうするんですか?」

 ずい、と陳蘭が身を乗り出してくる。ふわり、と柔らかな香りが俺を包んで、どきっとする。そういや陳蘭も女の子だったなあと余計なことまで思いが至る。

「ええと。去年と同じく超高級茶葉でいんじゃね?」
「悪くはないと思いますけど、去年と同じだっていうのはどうかと思いますよ」
「改めてそう言われると、まずいよなあ。つか、去年の贈り物、覚えてるもんかな?」

 俺の問いににこり、と陳蘭は首肯する。

「それだけ、楽しみにされてるんですよ」
「ほむ。そうなあ、また考えるわ。まだ時間あるしさ。
 それより飯食いにいこーぜ。俺腹減ったわ」
「私、差し入れいただいたばかりなんですけど」

 呆れたような口調な陳蘭なのだが、ものっそい健啖家であるのは確定的に明らか。なんだかんだ言って俺のあれやこれやに付き合ってくれるのである。うむ。感謝感謝である。

 でも実際麗羽様の誕生日プレゼント、どうしよ。
59 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:18:44.25 ID:1jyXWa9Co
「アニキー、助かったよー。どうもアタイ、あの人苦手でさー」
「そうか?やることやってりゃ怖くないぞ?それにすこぶる美人さんだしな」

 火傷の痕も見慣れたらどってことないし。キツめの美人さん。ぶっちゃけものっそいタイプだったりするのである。

「アニキのそういうとこ、すごいと思うよ・・・」

俺と話し込んでるのは脳筋美少女こと猪々子である。報告書を提出しないといけないが、麹義のねーちゃんが苦手ということで付き添いを頼まれたのだ。まあ、俺も長弓のテスト結果と導入の稟議に行かないといけなかったからちょうどよかった。
 とーちゃんとは匈奴戦の戦友らしく、ちっちゃいころから可愛がってもらったから苦手意識とかないんだよな。猪々子も斗詩も微妙に怯えてるけんども。
 珍しく、びくびくした猪々子をからかいながら食堂に向かう。で、呼び止められる。

「ああ、紀霊殿。ここにいたのか。済まない、張紘が至急ということで呼んでる」

 俺に声をかけてきたのは、くすんだ赤毛を結い上げて――ポニテである――動きやすいからと言って男装をしている、ものっそい美人――キツメの――である赤楽だ。それにしても張紘が至急とは珍しい。商会に何かあったのだろうか。
 俺が張紘を責任者として立ち上げた商会はものすごい勢いで成長している。郷里から知り合いを呼んだらしく、人材面でも充実。重畳重畳。実際助かっているのだ。
 袁家の官僚機構は優秀だ。が、新規事業をいくつも立ち上げるほど余裕があるわけでもない。それを委託業務として実行することで、袁家の官僚団にそれほど負荷を与えず数々の事業に手を出すことができている。もちろん、利益も出しているけどな。そこいらへんの手腕は流石の一言。
 ほんと、張紘を登用できてよかったわーマジよかったわー。

「すまねえ二郎、呼び立てることになっちまった」

 そんな張紘が申し訳なさそうに語るだけで容易ならざる事態なのであろうと気を引き締める。

「問題ないさね。それよりどうした?」
「ちょっとおいらの手には余るかもしれない」

 張紘の手に余ることって、俺がどうしようもないと思うのですがそれは。そして張紘からの報告を聞いて俺は激昂する。

「くそったれ!」

 毒づく。だがそれはまだ現実逃避。そして、きやがったか。そんな焦燥感と納得が並列してなお危機感が俺を襲う。張紘ほどの傑物が俺に判断を仰ぐ事態。それを聞けば聞くほど俺は天を仰いだ。

「売り浴びせとかやってくれるじゃねえか畜生め・・・」

 400年という長期に繁栄してきた漢朝。それは貨幣経済を成熟させた。そして、近現代に通ずるほどの経済システムを作っていた。
 ・・・結論から言えば、俺の懸案事項とは農産物の価格の急落である。元々緩やかな価格の下落を目論んでいたから気づくのが遅れてしまった。価格が急落している地域は洛陽など中央に近い城邑である。
 つまり、物流の要所。で仕掛けてきてやがる。恐らく袁家領内で買い付けた物資を売り浴びせて価格の急落を誘っているんだろう。そうやって価格が下がれば、他に物資を保管している商家も狼狽売りをしてくる。ますます下がる価格。しまいにはタダ同然になる。で、その段になって回収していくのだろうて。
 洛陽を初めとする都市で適正価格で売れば莫大な利益になる。そしてめでたく袁家領内の農民は流民となり袁家の基盤にダメージを与えるってか。
 舐めやがって畜生。国土を荒らして何が政治だ。誰だか知らんが許さない。この俺をたった今敵に回したぞ畜生。絶対に許さん。
 だから、張紘にも徹底しろと言わずもがなの厳命である。

「買え。安く出回った農産物は全部買え。これまでの利潤を全て放出しても構わん」
「既にその方向で動いてる。追認ですまねえ」

 殊勝に頭を下げる張紘。だが、その五体は怒りに満ちている。飢えて、渇く。その苦しみを知っているからこそ、それを謀略に使うなど。虎の尾、逆鱗。

「むしろ感謝を。全力で頼む。お前が味方でよかったよ」

 がしり、とシェイクハンド!である。戸惑う張紘にニヤリ、と笑いかける。

「はは、二郎にそこまで言われちゃ、頑張るしかないや」

 ぽり、と照れ隠しに頬を掻く張紘に畳み掛ける。

「実際、張紘よ。お前みたいな英才と出会えて、こうして友誼を結べているのは奇跡みたいなもんさ」
「よせやい。実績もない、食い詰め浪人を拾ってくれたのは二郎だ。おいらはその恩義を忘れるほどに薄情じゃないさ。
 いや、そうじゃないな。確かに恩義はあるけどな。
 おいらは二郎、お前のために頑張りたいって思ってるんだぞ?」
60 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:20:52.68 ID:1jyXWa9Co
 ――不意打ちにもほどがある。張紘ほどの俊才にそんなことを言われて浮足立たない奴がいるものか!

「お、俺だって!」

 友誼に応えたい。そして、できることならば張紘の出身地の復興事業だって手がけたい。だって、だって、さ。

 「友達だものな。いや、君たちのやり取りは見ていてこう、清々しいんだけど恥ずかしいなあ」

 げし、と張紘と俺を蹴りながら赤楽さんがそんなことを言ってくる。

「なに、江南が地獄絵図だったというのは確かさ。援助はありがたくいただくとも。きちんと活用させてもらうとも」

 なにせ、私も行き倒れていたのだからな、と笑う赤楽さん。何か言おうと思ったけど、それ、コメントに困るのですが。

「ま、まあ商会と紀家だけじゃ手におえない可能性が高い。沮授も巻き込もう」
「そうだな」


 舞台は沮授の執務室に移る。オブザーバーは張紘である。内向きの仕事をするにはこれ、三国志でも最強クラスの面子だぜ。俺を除けばな!

「おやおや、血走った目をして、どうしたんです?」
「うっせー非常事態だ力を貸せ」

 沮授のいつもの余裕のある台詞で若干気持ちが落ち着く。狙ってやってるんだろうが、有効だ。ほんと頼りになることこの上ない。なので全力で頼ってやんよ。

「概要はお聞きしました。これは厄介ですね」
「おう、通常の商取引の形を崩してない。介入しにくいったらねえよ」
「袁家が大規模に介入すれば、政敵に付け入る隙を与えてしまいますね」
「くっそ、そうなんだよ。だが放置もできん」
「困ったものです」

 頼みの綱の沮授でも咄嗟にはいい手が浮かばないか。言い訳でもいい。物資を大量に買い集める言い訳・・・。
 を。あれならどうだ・・・?

「沮授よ」
「はい、なんですか?」
「今年の麗羽様の誕生お祝いは盛大にしないと・・・な・・・?」

 得心したのであろう。さわやかなスマイルを浮かべながら、やれやれ、と苦笑する。器用だなおい。

「おやおや、僕としたことがすっかり忘れていましたよ」
「ちょっとー沮授君ってば大丈夫ー?」

 麗羽様の誕生のお祝い。それは常であっても盛大にお祝いされていたのだが、今回はその規模を拡大する。どうせなんだから派手にぶわーっとやっちゃおう。袁家領内の主要都市でお祭りを開催しようというのが俺のプランである。
 やられっぱなしは性に合わないからな!

 官僚たちを集め、矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。そして沮授と打ち合わせ。やることを整理する。

「やることは大きく分けて二つだ」

 俺の言葉に沮授は頷き、応える。

「売り浴びせによる相場の暴落を防ぐための買い支えをすること。
 そして実際に袁紹様の誕生祝いの催しを華々しくする、ということですか」

 そう、シンプルなのだ、やることはね。達成が容易とは限らないんだけんども。

「そうだ。表立っては後者のための前者だが実際は逆だ」
「ええ、手段と目的が入れ替わっていますね。そしてそれを外部に悟られるのは避けたい、と」

 過不足なく沮授は俺の言いたいことを察してくれる。なにこのチートキャラ。
61 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:21:18.51 ID:1jyXWa9Co
「ああ、仕手戦が表面化すると参加者が増えかねない。負けるとは言わんが不確定要因は増やしたくない」
「気づく人も、いるでしょうしね」
「それが分かる奴には袁家が本気であることも分かるだろうさ。安易に手を出してはこない。はずだ」
「出してきたら?」

 くすり、と笑う沮授はきっと俺の答えを知っているはずだ。

「――叩き潰す。完膚なきまでに。袁家に手を出すとどうなるか、野次馬含めて見せ付けてやるのさ」

 くすりと笑みを漏らし、沮授はにこやかに嘯く。

「いやいや、これは怖いですね。二郎君を敵には回したくないものです」
「俺の台詞だっつうの」

 軽口を叩きながら物流の計画を立てていく。動員する人員、予算、責任者。大筋を決め、ふと気づく。

「いかん、肝心の麗羽様誕生祝賀会の企画内容に手が回らん。つーか、こんな莫大な予算、どう使うんだ」
「さて、僕は言われたことしかできませんので」

 ここまでだんまりの張紘を見る。

「お、おいら贅沢なんてしたことねえからわかんねえぞ。
 っていうかうちの商会は買い付けの方で手一杯だ」

 なんてこった。早くも俺の計画が頓挫しようとしているじゃねーか。なんで揃いも揃って金の使い方を知らないんだよ・・・。俺もだけどさ・・・。

「あーら、二郎さん。政庁にいらっしゃるなんて珍しいこともあるものですわね」

 ――女神様の降臨であった。

「・・・よくわかりませんけど。わたくしの誕生を祝う祝賀会を開催するということですのね?」
「はい、それも大々的に、です。大陸に響き渡るくらいの規模で、です」
「で、お金の使い道が分からない、ということですのね?」

 ため息を漏らす麗羽様である。うむ、久々に話すが麗しいことこの上ないな。ぶっちゃけすっげえ美人さんになったものである。金色の御髪は華々しく縦ロールにまとめられており、まるで光輝を放っているかのようだ。

「恥ずかしながらそのとおり」
「ほんと、情けないですわね。袁家の柱石たるあなた方がそんなことでどうしますの」
「や、一言もありません」

 実際お手上げな俺の様子に麗羽様はくすり、と笑みを漏らす。雲間から差し込む昭光のごときその笑み。これがカリスマと言う奴か・・・。俺には縁のないものである。

「よろしいでしょう。このわたくしが骨を折ってさしあげますわ」
「え、でも麗羽様を祝うのにご本人が計画から携わるのは・・・」
「わたくしが主役なのでしょう?わたくし以上にわたくしを満足させられる企画を立案する者などおりませんわ」

そ、そうかもしれないが、いいんだろうか・・・。何か違くね?とそれでも反駁するのだが。
 おーほっほっほと優雅に笑みを漏らして俺に言い放つ。

「御安心なさいな。二郎さんの顔に泥を塗るようなことはしませんわ。
 袁家の跡継ぎに相応しい催し。ちゃんと演出してみせますとも。
 ええ、華麗に、優雅に、雄々しく!」

 沮授と張紘に視線をやると、沮授は他人事な笑顔。張紘は露骨に目を逸らしやがった。

 そして麗羽様の誕生祝賀会はそりゃもう盛大に催されることになったのである。
62 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:21:57.02 ID:1jyXWa9Co
 公孫賛の感じたことを言葉にすればそれはまさに圧巻、であったろう。元々ここ南皮は袁紹――袁家の時期後継者であり、公孫賛の旧友――の住む町として発展を遂げていた。
 識者によるとその繁栄は洛陽より上位に推す者もいるとのこと。無論その統治の手法は学ぶことも多い。自身の住む都市と、規模の違いに圧倒されてしまう。これから表舞台に立つという意味では同じ立場のはずなのだが、どうしてもわが身を振り返ってしまう。

「白蓮さん?なにを呆けてますの?地味なお顔がより輝きを失ってますわよ?」
「う、うるさいな!地味って言うな!」

 おーほっほと高笑いする袁紹の声に反駁する。とは言え、今日の主役は間違いなく袁紹だというのは前提であるので傍目から見れば見目麗しい少女たちのじゃれ合いにしか見えない。というのを当事者である公孫賛もよく理解しており、くすくすと笑う袁紹に降参の合図を送る。
 満足気に頷く袁紹はいつもに増してきらびやかな衣装を身に付けており、群集に手を振る彼女は控え目に言って豪奢。そして華麗であった。その袁紹に手を振られた民が歓呼の声をあげる。それに応えるように横の顔良と文醜が福豆を投げる。
 絹の袋に入った福豆は更に金箔で覆われており、ちょっとした芸術品だ。それを惜しげもなくばら撒く袁家の財の底知れなさが恐ろしい。
 手元不如意な我が勢力を思いながら公孫賛はじっと手を見る。働けど働けど・・・。と、ずんどこの底に陥りそうな思考に覇気と反骨に満ちた声が入る。

「あきれたものね。ここまで贅の限りを尽くさなくてもよさそうなものなのに」

 自身と同じく袁紹の学友である曹操の声だと気づくのに数瞬かかったということに公孫賛の自失具合が察せられるであろう。

「あーら、華琳さん、何をひがんでらっしゃるのかしら?」

 とげとげしい曹操の声にも袁紹は余裕綽々で応じる。慣れたもの、ということであろう。

「フン。ひがんでなんかないわよ。ただ、こんな規模の祝賀会をするお金があればね・・・。
 もっと色々なことができる、そう言っているのだけど?」

 下の景色を見下ろしながら曹操が言う。常ならばその小さな体躯に似合わぬほどの覇気を漲らせ、相手を直視するものだが、この風景はそれほど衝撃的だったのだろう。
 ずしん、と地響きをたてて視界が動く。
 そう、ここは地上ではない。象、という生き物。その巨体の上の輿にいるのだ。こんな生き物がいるというのも驚きだが、その進む道先は真紅の天鵞絨ビロードが道を覆っている。正直どれだけの財貨が注ぎ込まれたのか想像もつかない。

「三国一の名家である袁家としてはこれくらい当たり前と思うのですけど?」

 応える袁紹は心底不思議そうで。公孫賛にはそれが本気の言だとしか見えない。器が大きいのやら、それとも・・・。その感想は横の曹操も同じだったようで。

「去年まではここまでじゃなかったじゃない」
「むしろ今までが地味過ぎたと言えるでしょうね」

 地味という言葉に反応しかけてしまうが、そうじゃないと留まる。が、去年までの宴席だって相当豪華だったはずなんだがなあと内心でツッコミを入れる。

「よくもまあ。袁家の家臣団が許可したわね、こんなのを」

 確かにそうだと公孫賛は内心首肯する。袁家の家臣団は極めて優秀だというのが世評であり、直接やりとりをするとそれが事実だとよくわかる。有名どころの人材にしても田豊を筆頭に、若手の切れ者と言われる沮授あたりがさらりと列挙される。彼等がただ虚名のためにこのような贅を尽くした催しを看過するはずはない。
 で、あればそれ以外の要素がある?と思うが、考えても無駄と思考を切り替える。ここらへんは前線指揮官として公孫賛が卓越しているところであろう。

「おーっほっほ。わたくしの美貌、高貴さ、それに心を打たれたようですわ。
 持って生まれた魅力というのはどうしようもありません。これまでの催しがわたくしの光輝を十全に相応しくはありませんでしたもの。それは皆にとって。いえ、この中華の大地にとって不幸なことではありませんこと?」
「・・・はぁ。答えになってないわよ」

 がくり、と肩を落とす曹操。これ以上論議をするつもりはないとばかりに、ひらひらと手を振る。

「おーほっほ。どうでもいいですけど、もっと朗らかにしてくださいな。
 華琳さんはただでさえ貧相なのですから。いえ、何がとは言いませんけども」
「な、なんですって!」

 袁紹が曹操をあしらう様子にさしもの公孫賛も仲介しようかと思う。まあ、民の前だしせっかく招いてくれて賓客として遇されているのだからして。毎度おなじみとは言え、この二人の喧嘩――あるいはじゃれ合い――を仲裁するというのも役回りというものであろうか。

「あ、白蓮さん、無理して笑顔を作ると、笑顔まで地味になってしまいますわよ」

 ――人が気を使ってやってるというのに。

 袁紹と曹操の間に挟まれて。内心思う所があっても、その場を穏便に済ませようとする公孫賛の苦労はまだまだ始まったばかりである。そう。祭りはまだまだ続くのだ。
63 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:22:50.19 ID:1jyXWa9Co
 少女は、目の前の光景に絶句していた。なんだ、これは、と。
 少女は、目の前の光景が理解できなかった。群集が溢れ、歓声が飛び交う。それはいい。町が活気に溢れているということだ。
 だが、なんだこれは。
 奢侈にもほどがある。これを考えた人間は頭がおかしいのではないか?
 例えば、と少女は思う。手にした福豆。それを包むのは最上級の絹。
豆自体も金箔で包まれている。この絹の袋一つでどれだけの飢えた民が救われるのだろう。
 少女は憤慨し、次に失望した。ばかばかしい。袁家は確かに名家だ。
だが、この有様はどうだ。娘の誕生祝いにこれだけ散財する。
 民のことなど何も考えてないのではないか。
 彼女は嘆息する。
 荀家の力を総動員して袁家への士官を実現したのだ。師父や係累には多大な迷惑をかけてしまうだろう。
 だが、こんなことをする主君を仰ぐ気にはならない。
 名門袁家といえども、少女はその才能でもって登り詰める自信があった。だが、自分の能力はけして主君に贅の限りを尽くさせるためのものではない。
 そうして少女は踵を返した。

 猫耳を模したフードを深く被りながら。

 少女は知らない。
 この催しの裏でどんな暗闘が繰り広げられていたのか。
 この催しを実行するためにどれだけの人員がその能力の限りを尽くしていたか。この催しがなかったならば、どれだけの流民が生まれたか。
 この催しの光彩はあまりにも煌びやかで、未だ井の中の少女はその輝きに目を囚われていた。

 それこそが、この催しの黒幕たちの真の目的の一つだと知ることもなく。黒幕たちの想定する敵の条件すら満たさず。
 黒幕たちの怒りも、嘆きも、そして愛情も一顧だにせず、少女は南皮から去ることになる。

 幼さゆえの潔癖さ。それがこの外史にどんな影を落とすのか。
 それは、まだ誰にも、分からない。
64 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/07(土) 00:23:16.75 ID:1jyXWa9Co
ひとまず本日ここまです
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/07(土) 01:06:00.88 ID:rRGIQnmmO
乙です
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/07(土) 14:02:39.03 ID:YHvf0lxf0
乙&誤字報告を
>>57
>>「いや、自分の立ち居地に納得いかないものがあってですね」
>>いささかこそばゆいが俺の立ち位置としてはいい感じじゃないかな、と思う。
「立ち位置」とは「当人の意志」によって如何様にも変え得るようなそれbyはてなキーワード
立ち位地は誤字ですね、周りからみられるそれは[立場]の方が正しいかと。立ち位置でも間違いとは言い切れませんが
>>62
>>袁家の時期後継者であり、
○袁家の次期後継者であり、   あれ?デジャヴ
>>これまでの催しがわたくしの光輝を十全に相応しくはありませんでしたもの。
○これまでの催しがわたくしの光輝の十全に相応しくはありませんでしたもの。 かなあ接続詞が多いからちょっと自信がない

ここは私の好きなシーンベスト3ですね〜ちなみにベスト3のうち2つが麗羽様関連(むしろ主役)です(笑)
二郎ちゃん?残りの一つにはハイッテルヨ
67 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/09(月) 00:39:09.78 ID:9MQ7ezKEo
>>66
ありがとうございます!
ほんと、見返してても中々・・・w

本当に、自分ほど信用ならないものはないというものですよ

>ここは私の好きなシーンベスト3ですね〜ちなみにベスト3のうち2つが麗羽様関連(むしろ主役)です(笑)
ありがとうございます

麗羽様についてはねえ。
本当に、エンディングでちろっとデレを出すくらいの予定だったのですよね。。。

なんだかんだでヒロイン力の圧倒を更に頑張りたいと思います
68 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:08:11.98 ID:fFGdTY6uo
 麗羽様誕生祭は尚も盛り上がり、続いている。膨大なヒト、モノ、カネが南皮に集まり、動いている。乗数効果により、その経済効果についてはもう正直把握できないくらいである。というかそれが主目的じゃないし、いっかなーってこれ以上考えないことにした二郎です。そこらへんは沮授とか張紘があれこれ考えてくれるだろうし。
 しかし通常の業務に加え、麗羽様誕生祭の計画。運営と業務は多岐に渡り膨大である。前例もないのにこれを短期間で計画し――原案は麗羽様である――実施した袁家家臣団には頭が下がるのだ。恐るべき袁家の官僚集団である。改めて袁家という組織の強みを見た気がする。
 戦時においても、同様に種々のオペレーションがどれだけ円滑に運営されることか。他陣営の追随を許さないだろうことは確定的に明らかである。

「しかし、こう言っちゃなんだが斗詩が裏方に回ることなんてないんだぞ?」
「そうですか?」

 目の前で次々と持ち込まれる案件の処理をてきぱきとさばいているのは控えめ美少女の斗詩である。麗羽様と俺、あとちょっとだけ猪々子が無責任に立ち上げたイベントや思いつきを実際に形にして運営している官僚集団の指揮を執っているのは沮授だが、運営にはかなり顔を出したりするのだ、斗詩は。
 いざ祭りが始まると斗詩も出番が多くて時々進捗状況のチェック等しかする暇はないのだが、それでもちょくちょく顔を出しては事務処理を手伝っている。

「いや、ほら、割と麗羽様と猪々子って企画の思い付きだけで後は知らんぷりじゃん」
「そうですねえ。だからあの二人の後始末してるの、大体私なんですよ。はぁ」
「それはご愁傷様だな。貧乏くじにもほどがあんだろ」
「ええ、そうですね。でもまあ、悪いことばかりじゃないですよ?」

 そう言ってにこり、と笑みを浮かべる。うむ。花に例えたいのだが俺にそんなスキルはなかった。だけんども、ものっそい可愛かったということは断言できる。

「あー、それならいいんだが。ま、後はやっとくから麗羽様のとこに戻っとけ。
 護衛が本文だからな。あと少し休憩もしとけよ?」
「ええ、この書面に返信したら失礼しますね」

 まったく、真面目でいい子だなあ。こういう気質は顔家特有のモノなのだろうか。先代も兎角生真面目だったと聞くし。
 ――過労死は防がなきゃ(使命感)。
 と、斗詩の護衛対象があっちからやってきた。

「あら、斗詩さん、こんなとこにいましたの。
 そろそろ大会が始まりますわよ。
 ・・・それにしても二郎さんが真面目にお仕事してると雨でも降るのかと思ってしまいますわね」
「ひどい言い草ですが、俺だってやる時はやるんですよ?」

 ・・・別にいつもサボっているわけではない。最近俺が積極的に動くと色々勘ぐる奴が多いからあえて普段は仕事をしていないのだ。ということで一つご理解願いたい。
 ただまあ、今日はそうも言ってられないのでメイン指揮をしているのだ。なお、案件を人に振るのがメイン業務である。これはこれで難しいんだけどね?
 本当は天下一武道会と銘打った――無論命名俺である――武術大会とか観覧したり有望な武官にスカウトしかけたりしたかったのだよ。おろろろーん。

「はい、駄目でしたー」
「どうしたんですか、いきなり」

 お茶を淹れてくれる陳蘭にぼやく。

「いや、天下一武道大会、そう。俺が銘打った武術大会を見たかったなーと思ってさ」
「すごく、盛り上がったそうですよ」

 み、見たかった。くそう。武官としての飛躍のフラグを一つ折ってしまったのではなかろうか。まあ、ここは切り替えよう。今この時点でスカウトできそうな人材の情報が入ったと考えるべきだ。ポジティブにいこう。

「で、優勝者は誰になったんだ。
 まさか猪々子とか出てないだろうな。本人出たがってたが」
「あはは、流石に止められたみたいですよ、勝っても負けても角がたつ、って」
「まーなー。勝っても八百長の噂は出るし、袁家筆頭の武家の次期当主が負けるわけにもいかん。妥当な判断だな。
 で、誰が優勝したんだ?」
「それが、ですね。」

 陳蘭が口にした名前は黄蓋。呉の、孫家の忠臣である。

「ご存知なんですか?」

 その名前を耳にして狼狽えてしまった俺に陳蘭が問いかける。黄蓋ね。ゲームとかではよく知ってるよ!めっちゃ呉の名将じゃねーか。在野なら是非とも勧誘したいとこだけどな・・・。
 将来、歴史どおりに進むなら孫家とは敵対する。なんとかその前に唾つけときたいもんだ。が、黄蓋は既に孫家に仕えているとのことで、俺は大いにがっかりしたのだった。

 そしてその夜、俺は意外な来客を迎えることになる。俺が勧誘を諦め、孫家に対する警戒心をマシマシにする切っ掛けになった黄蓋その人である。
 え、マジで?マジなの?マジだった!
69 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:10:00.64 ID:fFGdTY6uo
 目の前には見事なおっぱいがその存在を高らかに主張している。それは大地の豊穣を象徴するかのような双丘。しかも、その頂には何かを主張するぽっちのようなものが服の上からでも認識できる。ありがたや、ありがたや。正直、もう黄蓋が女性でしたとかどうでもよくなっている。慣れた慣れた。もう慣れたわ。

「というわけで、沮授殿に紹介いただいたというわけじゃ」

 何でも、武術大会での優勝商品とかの代わりに孫家の使いとしての面談を申し込んだらしい。しかも袁逢様に、だ。内容を吟味した沮授がこっちに振ってきた、と。全権委任という名の丸投げは俺の必殺技のはずなんだが、やられたね。まあ、いいおっぱいを拝めたからよしとするか。ふぅ。
 いや、孫家との縁をどうするかの判断を沮授が俺に委ねてくれたってことだとは分かってるんだけどね。そんな判断しとうなかった。

「で、江南の孫家に援助をして欲しい、と。
 随分率直だな」
「腹の探り合いは苦手でのう。時間の無駄じゃろ?」

 黄蓋のその笑みは満面。だが背負っているものがあるのだろう。凄味を内包しているのに気付かないほど鈍感じゃあない。でも美人って凄んでも魅力的だよね。
 まー、このおねーさん、こんなこと言っといていざという時には苦肉の策とかしやがるだろうからその覚悟たるや推して知るべし。つまり。

「そこまで水害の爪痕はひどいのか」
「うむ。恥ずかしい話じゃが、手が回っておらんのが現状よ」

 数年前の水害。張紘から聞いた災害。その影響がまだ残っているという。駄目になった農地、民は流れるか賊となるしかない。そして賊を討伐することでめきめきと影響力を増したのが孫家。
 が、江南は豪族が割拠している治めにくい土地だ。勢力を伸ばす決定打に欠けていた孫家の一手が袁家への援助依頼というわけか。物資と権威。なるほどそりゃあ欲しいだろうよ。
 というか、黄蓋クラスの武将がいなかったら統治に支障をきたすだろうに。いや。それでも黄蓋を派遣せざるをえないほどに孫家は逼迫しているのか?
 まー、いずれにしてもそれだけ本気でこの交渉に臨んでいるってこったろう

「そういう訳での、余り長居もできん」
「お帰りならあちらへどうぞ」

 江南の勢力争い、それに迂闊に介入はできるものかよ。そんな案件を持ってきた沮授め。今度なんか奢らせてやる。そう思いながら俺は気を引き締めなおしたのだ。
 いや、江南への援助については前向きなんだけどね。それにしたって孫家はちょっと・・・。俺の将来の死亡フラグ的に、さあ。ほら、袁術って孫家を子飼いにして裏切られるやんか・・・。鬼門なんやって、ほんまに。
 ぼすけてー。
70 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:12:03.44 ID:fFGdTY6uo
 公孫賛は控え目に言ってその光景に圧倒されていた。袁家の隆盛を知ってはいたものの、だ。親友である――真名を交わしたのだからそうに違いない――袁紹の誕生祝いということで、公孫家としても贈り物を用意してきたのだ。・・・袁家であってもあれだけの名馬は中々手に入らないであろう。そのくらいとっておきの名馬を贈ったのだ。袁紹もそりゃあ喜んでくれたのであるが。
 返礼の贈答品に圧倒されてしまった。馬車に積まれた金銀財宝。ちなみにあの豪奢な馬車も含まれるそうな。倍返しどころではない。のだが。

「あら、わたくしは白蓮さんのお気持ちが嬉しかったのですわ。
 あのお馬さんたちは貴女の領内でも出色なのでしょう?それくらいはわたくしにだって分かりますもの。
 だったら、あれくらいお返ししませんとわたくしの気が済みませんわ!」

 そう言って高笑いをする。いや、おーほっほという笑い声なのはどうなんだと公孫賛としては思うのだが。だがまあ、実際助かったのは本当である。袁家領内から安く食料が流れてくるのはいいのだが、肝心の財政が心許ない。手元不如意という奴である。切実に。正直、今回南皮に来たのは借金を紀霊の仕切る商会に打診しに来たというのもあるのだ。
 うう、匈奴の侵入さえなければなあ。と内心滂沱の涙を流しながらも公孫賛は応える。

「ま、まあ、ありがたく受け取っておくよ、実際助かるしな」
「それはよかったですわ。・・・これでも頼りにしてるんですわよ?
 北方が安定しないと、わたくし達も困りますし」
「そうだな、頑張るよ」

 袁家が北方の三州――幽州、冀州、青洲――を治めるのには北方の匈奴への盾としてというのが大きい。実際、大規模な匈奴の侵入に際し、袁家の総力を挙げて戦ったこともある。

「あら?そういえば華琳さんはどちらにいらっしゃったのかしら?」
「ああ、市街に出てったぞ。視察だそうだ」
「せわしいことですわね。優雅さが欠けていますわ」
「は、ははは・・・」

 本当は賓客として武術大会に顔くらいは出したほうがいいと思うんだがなあと公孫賛などは思うのだが。そういったことに無頓着のようで、さっさと街に行ってしまったのだ。
 或いはそれでも南皮の街を視察したいということだろうか。発展した町並み、軒を並べる商家。そして卓越した治安に街の活気・・・。公孫賛から見ても学ぶべきことはたくさんある。まあ、公孫賛は地理的に近いこともあって度々来ているからそこまで今回街を巡る必要もないのだが、曹操はそうも言ってられないのだろう。学ぶことに貪欲なのは相変わらずである。
 むしろそういった催しの運営なんかの方に興味があるしな、と観覧した後で裏方を覗くことにした。まあ、多分袁紹のことだから二つ返事で承諾してくれるに違いないと公孫賛は思う。ただし高笑いが漏れなくついてくるであろうが。

「むう」

 圧巻。であった。武術大会の優勝者のことだ。名を黄蓋と言うらしい。他の参加者と比べても頭抜けていたと言ってもいいであろう。此度の武術大会は慣例通りの射に加え、木剣を使用した白兵戦も――民草の娯楽のためであろう――実施されていたのだが、見事二冠達成である。

(射ではとても敵わないな)

 公孫賛とて馬上からの射を得手とする――匈奴の技、騎射である――のだが、それにしたって格が違うというものだ。まったく天下は広いということか。少々気落ちしながら席を立つ。本来の目的であった運営について多少なりとも視察しようというのである。大会の終わった今ならば然程迷惑になるまい、と考えるあたり知人たちと比べて良識というものを弁えている。
 適当な官僚に声をかけて実行委員会なるものに通されたのだが、そこの一番偉い席に座っている人物が意外で、歩みを止める。
71 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:12:50.13 ID:fFGdTY6uo
「じ、二郎?二郎が武術大会仕切ってたのか?」
「ん?白蓮じゃん。そういや招待状出してたっけか」

 そして驚いたことに、目の前に積まれた書類の山を実に見事に処理していくのである。常々「働いたら負け」とか「晴読雨読が俺のやり方」とか「さっさと隠居してえ」とか言っていた人物の働きようではない。これは本物か?と若干失礼なことを公孫賛が思ったのも無理からぬことである。

「あー。二郎、忙しそうだな」
「ん?まあそうだな。白蓮、せっかく来たんだ。お茶でも淹れてってくれ」
「それ、普通は招待された私がすることじゃないよな」
「いいじゃん、白蓮が淹れるお茶、俺より美味いんだし」
「まったく、仕方ないなぁ・・・」

 ああ、こいつは本物だなと内心ぼやきながら二人分のお茶を淹れる。その間にも紀霊は着々と書類の山を片付けていっている。やる時はやる。そういうことなのか。公孫賛は内心で紀霊の評価を是正する。――まあ、実際は誰に案件を投げるかという識別だけやってるから仕事が早いように見えるのであるが、流石にそこまで見抜くことはできない。いや、それを看破したとして仕事の振り先があるのかと落ち込むこと間違いないのではあるが。

「はぁ」
「どした?」
「いや、なんかさ、南皮に来るたびに自分の至らなさを思い知ってるなーと思って」
「白蓮はよくやってるだろ」
「ん。二郎はそう言ってくれるし、私なりに頑張ってるつもりなんだけど、さ。もっともっとやりようはあるのじゃないかって思ってしまうんだよな」

 通常の三倍くらい愚痴っぽくなってしまっているなあと紀霊は思う。それくらい公孫賛は次々にまくしたてる。それを時に苦笑し、時にフンフンと頷き、にかり、と笑う。

「いいことじゃないか」
「なにがいいんだよ」
「来るたびに思うところがあるんだろ?
 つまり、そのた度に白蓮は前に来た自分より成長してんだよ」
「な――。何を、言うんだ」
「いや、実際白蓮はよくやってるよ。少なくとも、俺はそう思ってる」

 狼狽、してしまう。自分が言ってほしい言葉をくれたことに。そしてその言葉でまた頑張れる、と思う自分に。先ほどまでは下向きであった視線は紀霊を真正面から捉え、更に目線を上げる。歯を食いしばり。

「なあ二郎。この際だからちょっと相談なんだけどな」
「ほいさ」
「為政者にとって、一番大事なことってなんだろう」

 きっと正解なんてない。それでも公孫賛は問わずにいられなかった。袁家の中枢で、自分に見えないモノを見ているであろう彼が見ている景色が見たくなったのかもしれない。

「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり・・・」

 借り物の言葉だけどな、と言いながらも紀霊の表情はいつになく真面目で。こいつはこんな顔もするんだな、なんてどうでもいいことを思ってしまう。

「ありがとな、二郎」
「べ、別に白蓮に助言を与えたわけじゃないんだからねっ!」
「はいはい、そういうことにしとくよ」

 でも、また借りが増えたな、と公孫賛は思う。その心理的負債は結構積み重なっているのだが、生真面目な公孫賛にはそれを踏み倒すという発想はないのであった。
72 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:13:58.39 ID:fFGdTY6uo
 人、人、人。見渡す限りの人の海に黄蓋はくらり、と眩暈ににた感覚を覚える。活気に溢れ、人が行き交う。猥雑ながらもその空気は統制がとれており、治安機構の優秀さが見て取れる。

「これは蓮華様や穏あたりに見せておくべきかもしらんな」

 数瞬の自失から回復し、呟きながら屋台で売っていた料理に舌鼓を打つ。塩がほどよく効いていて、旨い。この辺りの立ち直りの早さは流石である。想定よりも早く南皮に到着したので路銀にも余裕があることであるし。
 袁家の領内が想定以上に発展していたのも驚きであった。まず、第一に道が整備されている。治安もいい。宿場も街道沿いに整備されているので結構な旅程にも関わらず疲労感が少ない。野宿も覚悟していたのだが・・・。所々の物価も安く安定しており、物質面での豊かさには戸惑いどころか、目眩を覚えるほどである。
 そして、移動には乗合馬車なるものを利用したのだが、その移動速度が尋常ではなかったのが旅程が早まった最大の要因である。

 ――街道に煉瓦を敷き詰めればそりゃあ旅程も捗るというものである。ぬかるみにはまることもないし、馬へかかる負担も少ない。だが、それを具現化してしまう袁家。その資金力にため息をついてしまう黄蓋である。
 是非とも孫家の領内でも導入したいものだが。

「残念ながら孫家はその日の食料にも困る有様、とな」

 黄蓋はそれを打開するためにここに来たのだ。と思いを新たにする。のだが。

「しかしまあ、余裕もあることじゃし。今少し楽しんで――視察をしても問題なかろう」

 ちょうど、袁家次期当主である袁紹の誕生の祝いと重なるとは。と黄蓋は自らの幸運にほくそ笑んだ。それはそれ、これはこれである。どうやら、袁家はご息女の誕生祝賀会を盛大な祭に仕立て上げたらしい。
 まあ、それは分からなくもないのであるが、規模が桁違いである。これだけの規模の催しをするとなると、どれだけの資金がかかることか。どれだけの手間がかかることか。袁家の地力に笑うしかない黄蓋である。
 いつかは孫家でもこれだけの催しを開きたいものじゃな、と思いを馳せつつ。今度は腰を落ち着けて熱々の饅頭に舌鼓を打ち、盃を傾けながら改めて南皮の民たちの様子を見やる。
 ――しかしまあ、南皮の民たちの楽しそうなことよ。女子も相当着飾っている。普段お洒落とは無縁そうな庶民さえ、ハレの日には着飾る余裕があるということであろう。改めて江南との格差を嫌でも認識してしまう。
 この光景を周瑜が見たらさぞかし悔しがるだろう。いや、それとも貪欲に利を得ることに徹するだろうか?などとまだ若年ながら優秀な孫家の軍師の反応をあれこれと想像しながら街を散策する。その黄蓋が何とはなしに違和感を覚える。女子の格好が洗練されておるな、と。それはいい。だがその方向性がどことなく統一されてはいないだろうか。と思ったら指南書のようなものが出回っているらしい。

「阿蘇阿蘇?珍妙な名前じゃの」

 色つきの美麗な絵図入りで衣装の着こなしとそのアレンジメントを指南する絵草子、みたいなものであった。どう着飾ればよいか、これなら字が読めずとも庶人にも分かる。
 そしてそれを出版しているのは紀家が後援する商会。名を母流龍九商会と言う。特徴的な商会名であったので道中にあった宿場やの街道の整備を手がけていたな、と。
 政商。その言葉が浮かぶ。紀家は生粋の武門と聞いていたが、どうしてどうして、手広いではないか・・・。黄蓋の識見と経験がそこまで考えを及ばせる。紀霊がそのことを知れば「流石は呉の誇る名将」と唸ったことであろう。まあ、紀霊にしてみればそこらへんは探られても痛む腹はないのであるが。――ないはずである。
 それはそれじゃとばかりに心に棚を造り上げ、黄蓋は自らの真名でもある「祭」を存分に楽しむのであった。これもお役目、いたしかたなし。なんて呟きながら。
 その甲斐はあり、なんやかんやで武術大会にエントリーし、優勝までかっさらうのだから流石は黄蓋である。流石は孫家の宿将である。

 黄蓋は一つ伸びをして、ため息を漏らす。どうにかこうにか武術大会で優勝を果たすことができた。それも圧倒的な実力を見せつけて、である。とは言え、楽勝であったわけではない。背負ったものの重さを感じながらも実力を発揮するのはやはり亀の甲よりもなんとやら、であろう。
 ――しかし、黄蓋にとってはここからが本番である。あくまで、武術大会での勝利は目の前で爽やかに微笑む青年――本当は更に背後にいるであろう人物――と面会するための前提条件でしかないのだ。そして孫家の存亡はこの一戦にあり、と黄蓋は心得ている。流石に疲労が重くのしかかる身体に鞭を入れ、目の前の青年。沮授に向き合う。

「というわけでな、褒美なんぞいらん。孫家の名代として袁紹殿とお話がしたいのじゃ」
「なるほどですね。でもそれはできない相談ですね」
「なんじゃと」

 殺気を込めて沮授を睨む。黄蓋からすれば青二才と言っていいくらいの年代だが、沮授は黄蓋の殺気に特に反応しない。そよ風でも吹いたかのように軽く受け流す様子に黄蓋は沮授に対する評価を数段上方修正する。これは手ごわい、流石は袁家の柱石となる人材だと。
73 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:14:29.52 ID:fFGdTY6uo
「袁家ご息女たる袁紹様の誕生を祝う催しの目玉たる武術大会の優勝者に褒美を出さないなど、袁家の面子にかかわりますしね」

 その言葉尻を捉えて黄蓋は問う。

「では、その後であれば袁紹殿と会談の席を設けてくれる。そういうことじゃな?」
「いえ、そうではありません」

 黄蓋が縋ろうとする細い道筋。それをにこやかに切り捨てる。ばっさりと。ひくり、と頬が引き攣るのを隠すように問いただす。

「どういうことか聞いても構わんか?」
「言葉の通りですよ。貴女を孫家の名代とは認めません。一介の武芸者として褒美を与える。そういうことです」
「なん・・・じゃと・・・?」

 つまり交渉のテーブルに着くつもりはないということか。ギリ、と歯軋りの音が漏れる。黄蓋は沮授を睨みつけ、殺気を叩きつける。先ほどの牽制のような生易しいものではない。思考回路がカチリ、と音を立てて切り替わる。穏便に済まないのであれば非常の手段を摂るべし。目の前のこの男を人質に取ってしまうか。
 そう決断してゆらり、と僅かに腰を浮かせる。こんなうらなり瓢箪、締め上げればどうにでもなる・・・か?さてそこからどうするか・・・。

「おい。あんまりオイタするなよー、いや、むしろしてくれって言うべきなのかなー?」

 それまで全く興味なさげに壁に背を預けに立っていた少女がニヤリ、と嗤う。空色の髪をしたその少女の笑みの獰猛さに黄蓋は内心盛大に舌打ちする。どうやら自分は相当に焦っていたようだ。あの少女が穏行していたわけでもないというのに。

「アタイ、ほんっと後悔してんだよなー。アニキと斗詩が止めるから参加しなかったんだよなー、天下一武道会。それでまさかの二冠する奴が出てくるとかさー。
 そいつにさ、沮授相手に調子こかれちまったら護衛のアタイの立場ないよなー。
 ・・・喧嘩売られてたら不味いよなー。
 沮授よー、やっちゃっていいだろー?身の程って奴を教えてやらんといけねーなー、いけねーよー。今のこいつなら、ぶち殺し確定、だぜー?」

 朗らかに笑う少女――文醜――は年齢に見合わぬ闘気を黄蓋に叩きつけて牽制する。黄蓋が沮授を確保しようとしても初手で逆撃を喰らうであろう。疲労の残る身体はベストコンディションとは程遠い。だが。

「じゃとしても、よ。ここで退くわけにはいかんのう。手ぶらで帰ることなぞできんからのぉ」

 我が意を得たとばかりに文醜が笑みを深める。

「アンタがどれだけのモンを背負ってるかは知らねーし知るつもりもない。アタイはただ、姫の、アニキの敵をぶっとばすだけだかんな」

 じり、とにじり寄る文醜。その気迫にさしもの黄蓋も舌打ちする。沮授に護衛が付くのはある程度想定していた。しかしここまでの腕利きを、と。

「文醜様、その辺で」
「は?」

 気勢を削がれた文醜が沮授に噛みつく。

「沮授、お前何言ってんの?」
「いえ。天下一武道会優勝者への表彰とかも終わっていませんしね。ここで黄蓋殿を害されても困るのですよ。主に二郎君が。彼、一応今回の催しの責任者ですし」

 その声に文醜は、あー、と声を漏らす。

「それは・・・不味いか。うん、不味い」
「でしょう?それに、そろそろ二郎君が来る頃ですよ?」
「え、なにそれ聞いてない」
「言ってませんからね」

 しれっとして言い放つ沮授。だからこいつは今一つ信用できないんだと文醜は思う。思うのだが、心酔する紀霊が絶対の信頼を寄せるのだからその判断は適切なのだろう。適切に違いない。適切であったとしても、むかっとするのは仕方ない。ガルルルルと威嚇することしかできないが。
74 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:15:14.50 ID:fFGdTY6uo
 先ほどまでの闘気を霧散させた文醜と、何より沮授の口ぶりに黄蓋は噛みつく。

「どういうことか聞いてもいいんじゃろうな」
「ええ、無論ですとも。袁紹様は貴女と面会しませんし、天下一武道会の優勝を以って袁家との交渉をするのも認めません。こういう催しでそういう直訴とかの前例になっても困りますのでね」

 肩をすくめる沮授の言い様に違和感を覚える。

「つまり、どういうことじゃ?」
「黄蓋殿。孫家の宿将である貴女が孫家の名代としていらっしゃる。これは正直言って不測の事態です。そしてそういう予期せぬ事案を担当する一門が袁家にはあるのですよ」

 袁家の譜代に四家あり。文、顔、張、そして紀。紀家の本分は遊兵である。

「ええい、まどろっこしいのう。分かり易く言わんか」
「貴女の願いは叶う、ということですよ。喜んでくださいね?」

 ちらり、と沮授が向けた視線の先には一人の青年がいた。

「つまり、黄蓋さんよ。あんたと話すのは俺の役目ってことだし、これは既定路線さ。――天下一武道会に出るだけならともかく、二冠とかやっちゃうからめんどくさい話になったってことさね」

 苦笑交じりの声が響く。即ち。

「真打登場ということですよ」

 沮授はそう言って席を立ち、後方に控える。文醜がその隣に立ち、顔を綻ばせる。その豹変ぶりに流石の黄蓋が言葉を失う。

「もう、アニキってば来るなら来るって言ってよー。もー」
「おう、すまんな。想定外のお客さんが来たもんでね。後で旨いもん奢ってやるから」

 そしてどっかと席に座る。

「紀霊だ。黄蓋殿、委細は俺が承ろう」

 その名に黄蓋は精神を立て直す。若造と侮るなかれ。現在では政敵として火花を散らす袁家の二枚看板。「常勝」麹義の秘蔵っ子にして「不敗」の田豊の愛弟子。そしてその血筋は先の匈奴大戦で汗ハーンを討ち取った紀文の嫡男。南皮市中で噂になっていた紀家の麒麟児である。
 いや、事前に市中を回ったのは無駄ではなかったというものである。ニヤリ、と歪む口角の動きを隠そうともせず黄蓋は気合いを入れなおす。さあ、孫家の興廃はその背に負われているのだからして。
75 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:16:18.64 ID:fFGdTY6uo
「江南はこのままじゃと、荒れに荒れてしまうじゃろう」

 黄蓋は率直に現状、或いは窮状を訴える。江南を襲った未曾有の水害。以来、田畑は荒れ、耕す民は流民となった。孫家はその中で勢力を増していった。何より大きかったのが江南の虎と異名を取る孫堅の武威。そして、北方より格安で流れてくる食糧。そしてその商流をいち早く捉えた周瑜の功績が大きい。
 孫家に従えば飢えない。その風聞が故に孫家の勢力は拡大を続けてきた。・・・かなり綱渡りではあったが、それを成し遂げてきた。
 だが、その根幹はあっけなく崩れた。これまで北方――袁家領内から江南に流れてきていた食料が高騰。逆流こそ食い止めたが、じり貧である。このままでは瓦解すらしかねない。
 ――孫家の首脳の動きは早かったと思う。だが、割けるリソースに余裕がなかった。本来ならば孫堅の補佐として黄蓋は来る予定であったのだ。が、圧倒的な軍略、カリスマで孫家を拡大した孫堅が三の姫の出産時の産褥にて亡くなってしまっているのだ。
 ――有り体に言って孫家は崖っぷちなのである。故に、袁紹との面会が叶わないとなれば、眼前の青年相手に踊るしかないというわけである。幸いなことに沮授は口を挟むつもりはないようだし、文醜はこちらが紀霊に害を加えると判断しない限り問題なかろう。爛々とした双眸を見ると若干不安になるが、それくらいの良識はあるはずである。

「という訳で沮授殿に色々とお願いしておったのじゃがな。暖簾に腕押しといった風で埒があかぬのでな。せめて腕っぷしくらいは見せようとそこの文醜殿に一手ご教授願おうかと思っていたところじゃったのよ」
「沮授?」
「まあ、そんなとこですかね。大体合ってますよ」

 にこりと笑って沮授は嘯うそぶく。嘘は言っていない。どうにもこの場を愉しんでいるようだ。いい空気吸っておるな、などと益体もないことを黄蓋は思う。が、沮授が中立というのは悪くない。

「で、江南で勢力を増している孫家に援助をしてほしいと。随分明け透けだな」
「腹の探り合いは好かんのでな。時間の無駄じゃろ?」

 小手調べとばかりに殺気をぶつけてみる。が、跳ね返すでなく、競るでもなく、受け流すでもなく。まさか無関心とは。それとも牽制と読まれているのか。文醜すら微動だにしなかった。

「ふむ。黄蓋ほどの人物にそこまで言わせる。そこまで水害の爪痕はひどいということか」

 黄蓋は是、と応える。恥も外聞もなく江南の窮状を訴える。一部では文字通り骨肉相食む地獄絵図すらあると聞く。これはけして他人事ではないのだとばかりに。

「なんと、江南の虎と呼ばれた孫堅殿が儚く、な」

 どうやら孫堅の武名は北方にも響き渡っていたようだ。

「堅殿亡き孫家には江南は重いと?」

 どこか投げやりな黄蓋の言葉に紀霊は否、と応える。

「策、権。どちらが継ぐか知らんがね。孫家のことだからきっちりと盛り立てるんだろ?」
「無論じゃな」

 我が意を得たり、と黄蓋は首肯する。孫策、孫権。ともに孫家を担うだけの大器。だが、恐るべきはそこまで知る紀霊である。では、と喜色を見せる黄蓋に紀霊は冷や水を浴びせる。

「江南には百家ある。孫家に肩入れする理由がないな」
「これはしたり。孫家の謝意は価値がないと?」
「謝意とか借りとかって踏み倒したらそれまでだかんな」
「ほう、形のあるものをお望みか。
 じゃが、わしに用意できるものは限られておるのでな・・・」
「ふん。例えば?」

 黄蓋は妖艶に笑い、組んでいた足をゆるり、と組み替える。見事に視線が露わとなった脚線美に流れる。

「孫家は袁家への恩義を忘れはせんよ。孫家の始祖に誓ってもよい。
 生憎、わしが今用意できるのはこの身だけじゃが・・・」

 ぬるり、と席を立ち紀霊にしなだれかかる。この身一つで孫家の安泰が購えるならば安いものであるとばかりに豊満な胸を紀霊に押し付ける。その所作を拒むでなく、感触を楽しんでいる様子に満足げに頷くのだが。

「あー。俺一人ならばどうかわかんねーけどさ。流石にこの状況でそういうことされても、その、なんだ。困る」

 む、と黄蓋は内心唸る。が、考えるまでもなくそりゃそうである。むしろ沮授と文醜が無言で見守る中で堂々とハニートラップを仕掛ける黄蓋の肝の太さこそ賞賛されるべきであろう。

「まあ、手土産の一つくらいもらわないと言い訳も立たんしな」
「そりゃそうじゃの。こうまであからさまに求められるとは思っておらなんだが」

 苦笑しつつ紀霊の眼前に書物を示す。

「孫子。写本じゃがの」

 さしもの紀霊が絶句するのを見て黄蓋は内心安堵する。いや、ものの価値が分かる相手でよかった、と。
 だから退室を促されても、黄蓋は紀霊より色よい返事があることを確信していたのである。
76 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:16:56.76 ID:fFGdTY6uo
 さて、手元には黄蓋からもらった孫子。写本とは言え超貴重品である。これ華琳とかすっげえ欲しがるんだろうなあとか色々思う。何せ21世紀に至っても戦争の教本として最上級の扱いを受ける書物だ。その価値は計り知れない。いや、俺が持ってても宝の持ち腐れに近いんだけどね?
 まあ、孫子のエッセンスは何冊か解説本読んだから把握している。ということにしよう。独自に解釈を加えるようなことをするようなのは華琳に任せておく。そういや孟徳新書っていつ出るんでしょね。
 閑話休題。こっから本題。

「というわけで孫家を援助して江南を押さえさせることにする」
「結構ですよ。二郎君の判断、異存はありません」

 考えこむこともなくさらりと肯定する沮授である。いや、別に反対されるとは思ってなかったけど即断すぎでしょ。これは・・・。

「というか沮授よ。お前の絵図面どおりじゃねーの?」
「おや、それは過大評価というものですよ。そうですね・・・。どちらかと言えば潰す方向に誘導したつもりだったんですけれどもね」

 やれやれ、と苦笑すら爽やかだね。いつものことだけど。まあ、沮授もそう思うかー。

「まー、どう考えても厄介な勢力だかんなー」
「二郎君ならば孫家を使いこなせる、と?」
「んー、わかんね。でもまあ、江南が荒れたままっていうわけにもいかんしな。張紘にも約束してたし」

 沮授が孫家の扱いを俺に丸投げしたのには訳がある。表立って江南に袁家が援助をするわけにはいかないからだ。そりゃー、自領以外に干渉したらマズイってばよ。漢朝の中枢ににいらん疑念を与えてしまう。
 だから俺んとこの母流龍九ボルタック商会を通せば、如何様にも言い逃れはできる。分かる奴には分かるんだろうけどな。

「実際、どうするつもりなんです?」
「江南に母流龍九商会の支店を作る。あくまで表向きは商活動だ」

 ふむ、と頷き沮授は更に問うてくる。

「なるほど。それで誰を送るのです?」
「張紘が推挙してきてた人材だな。魯粛、虞翻、顧雍。地元の復興事業だからやる気も湧くってもんだろ」

 実際は孫家の首に付ける鈴である。社外取締役兼監査役と言えば分かりやすいだろうか。孫家の中枢に食い込んで意思決定に干渉していくのだ。孫家に取り込まれないように何年か単位で入れ替えるが、まずは最高の人材を送ろう。・・・流石に張紘は送れないがな。
 そして手を出すからにはきっちりやる。江南はきちんとやれば二期作、二毛作などが可能な気候。肥沃な大地はものっそい魅力的である。人口が少ないのがネックだが発展すれば伸びしろは相当あるのだ。

「なるほど、流石は二郎君。おみそれしましたよ。それであれば袁家内部の調整はやっておきますので」
「ほんとはなー。孫家の扱いとかは沮授に任せたいとこなんだが、こればっかは仕方ないかー」
「ええ、僕が仕切ると袁家としての介入と思われてしまいかねません」
「その点。俺ならば商会を挟むから誤魔化しようがあるしなー」

 ここらへんは結構綱渡りになってくるんだけどねえ。そこで沮授が俺を切り捨てることはないと思いたいものである。ほんと、高度な外交的判断とか俺にさせないでほしいものである。いや、相談とかめっちゃするけどね。

「沮授も張紘もなー。助言はくれるけどいざとなったら逃げるもんな」

 責任問題になりそうなことは俺に押しつけてくるのだ。ぷんすか。

「決断力というもの。いや、二郎君のそれがあるからこそ僕達も安心してついていけるというものです」
「うっせー、責任の所在をこっちに押しつけてるだけだろうが」
「まあ、そういう解釈が成り立つかもしれませんね」

 くすくす、と可笑しげに笑う沮授の減らず口をどうやって黙らせるかと思っていたら場が動いた。

「二郎、来たぞ。お前の言うとおりだったな。十中八九、今回の売り浴びせの主犯だ」

 息を弾ませて張紘が吉凶定まらない報をもたらす。更にその商人の背後関係までつらつらとレクチャーしてくれる。俺の弱い頭にも分かり易い親切な説明だ。流石張紘、パーフェクトだ。

「ん、来るかどうかは五分五分だと思ったんだがな。沮授、ちょっと喧嘩買ってくるわ。支払い準備よろしく」

 くすり、と沮授が笑う。

「おやおや、できるだけ値切ってくださいよ?」
「いやいや、高く。高く買い占めてやるよ」

さて、ここからが本番である。袁家領内の相場に手を出してくれたんだ。きっちりけじめはつけてもらわんとなぁ?
 ニヤリ、と歪む口元を自覚しながら俺は向かうのだ。そう。血の流れない戦場に。
77 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:18:02.14 ID:fFGdTY6uo
「いや、お初にお目にかかります」

 目の前で自己紹介をするのは一見どこにでもいそうなおっさんだ。営業スマイルを顔に貼り付け、こちらをつぶさに観察しているのを隠そうともしない。名前?黄蓋みたいな美女ならともかく、所詮は木端商人。覚える気にもならんしそのつもりもない。

「というわけでしてな、此度の祭のために買い集められた物資を引き取る準備があります。
 いや、物資を集められたがそれほど使われてはいないご様子で・・・。蔵に納めておいても腐るだけでございましょう?
 どうでしょう、お買い求めになられた価格に多少色をつけてお引取りいたしますとも」
「んー、それだとそっちに利はないだろ」
「いえいえ。これを機に私どもとお付き合いいただければ、と思いまして・・・」

 にこり、と笑いやがる。まあ、なんて誠実そうに見える笑顔!ふむ、それなりにやり手のようだな。互いに益があるように持ちかけてくる。
 ・・・だが、断る。

「あー、残念ながら物資は江南の商会がお買い求め成約済だ。遅かったねー」
「な、なんですと?そんな馬鹿な!荒れ果てた江南にそんな資金があるはずがない!
 いかに孫家に勢いあろうともそこまでの資金力があるわけがない!」
「ほう、物知りだなー」
「と、当然ですな。情報こそ我らが扱う最上の商品。
 いかがです?私どもとお付き合い頂ければ上質の情報もお持ちいたしますが」

 なるほどなるほど。伊達に袁家領内で好き勝手やってくれただけのことはある。多少の劣勢は即座にひっくり返してくるか。見事な我田引水。
 だが無意味だ。

「は、熨斗つけて返品してやんよ。で、三倍だ」
「は?なんですと?」
「耳が悪いならそろそろ隠居した方がいいかもな。仕入れ価格の三倍だと言った」

 表情を変えずに俺は告げる。ここにきて流石におっさんが表情を変える。

「それは流石に・・・」
「うっせえよ、お前んとこが困ってんのは知ってんだよ」

 元々こいつの商会は中華の穀倉たる袁家領内で食料を買い付け、洛陽へと卸すのが商いだ。それだけでもそれなりの利益は出せるんだが、途中でオイタをしやがった。手にした食料を売り浴びせる。そしてタダ同然になった食料を買い集めれば自然暴利を貪れるってことだ。
 恐らく、他の地域でも同様のことをしてきたのだろう。そのオペレーションはまあ、見事と言ってよかった。だが今回は相手が悪かった。
 即ち、張紘。
 恐らくこの化物ぞろいの人物が乱舞する三国時代においても五指に入るであろう政治的手腕を持つ俊英。その張紘が袁家の商圏に君臨しているのだ。時が時ならば一国をも背負えるその破格の傑物がそれを見逃すはずがない。そして張紘の背後には俺がいる。基本的に張紘が挙げてくる稟議には無条件でOKの三連呼である。
 まあ、それはいい。
 つまり、目の前のおっさんは、本来の職責である食料のノルマを調達する目論みが外れたのだ。同情するつもりはない。なぜならば。

「いいか、お前は袁家に喧嘩を売ったんだよ。北方にて匈奴の脅威から漢朝を守護し、三世四公を輩出した名門中の名門たる袁家に、な。
 貴様ごとき木端商人の目論みを読めないとでも思ったか?ほどほどならば見逃してやったものを・・・。 
 よくも舐めてくれたものだ、な」

 顔色を白くさせながらも表情を崩さないこいつはやはり相当なものだろう。ならば倍プッシュだ。

「だからてめーは潰す。とことん潰す。袁家に手を出したらどうなるか思い知らせてやる。
 死ね。生まれてきたことを後悔しながら死ね。
 築き上げたものが崩れるのを見ながら死ね。
 愛するものから恨まれながら死ね。
 この世のあらゆる苦痛を受けながら死ね」

 す、と手を上げた俺にさしもの彼奴の表情が凍りつく。

「そ、そんな無体な!」
「そうそう、喋れるのも今のうちだからなぁ。精々歌っとけ」
「わ、我が商会を潰したら、いかに袁家とは言えども無事とは思わないことですな!」
「!」

 そうだ、それだ。その言葉が聞きたかった。実際こいつはどうでもいい。問題はこいつの背後で糸を引いてる奴だったのだ。それが誰か。張紘が気にしていたのもそれだ。ちょっとした小遣い稼ぎならばともかく、本格的に袁家領内の経済活動に楔を打ち込んでくるこの打ち筋。袁家に喧嘩を売るその行為。ひも付きでなければできるものかよ!

 俺の表情が変わったのをどう解釈したのか。やや余裕を取り戻したのかおっさんが言葉を紡ぐ。

「わ、私どももいささか強引な商売をしてしまいましたからな。
 いかがでしょう。五割り増しで引き取りましょう」
「ふん。倍、だな」
「――承りました。これを機にご贔屓にお願いします」

 そう言うと慌てて席を立つ。失言に気がついているのかいないのか。ともかくこれ以上情報は引き出せないようだ。まあいい。背後関係を洗えば見えてくるものもあるだろう。

「おい、客人のお帰りだ」

 俺はそう言って手を叩く。その合図に、完全武装した兵士――梁剛隊の皆さんである――が百人ほど出てくる。あ、姐さん、別に色っぽいポージングとかいらないですから。その点雷薄の威圧スキルは流石の一言である。巨体に傷跡だらけのいかつい顔。効果は抜群である。
 ターゲットの顔が更に色を失い、引き攣るのもいたしかたなし。いや、これでビビッてくれんかったら困るわ。だからニヤリ、と笑いながら念を押す。

「宿までお送りしろ。丁重にな。くれぐれも」

 脅して脅しすぎるということはない。こういうのは舐められたら終わりなのだ。ここまでやれば袁家でオイタをする商会も減るだろう。室内に静寂が戻る。いや、疲れたわ。圧迫面接、上手にできたかな?取りあえず、俺は茶を所望した。いや、俺も緊張してたし喉が渇いたのよ・・・。
 なお、陳蘭が淹れてくれたお茶は不味くはないが美味くもない微妙な味であった。
78 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:21:03.27 ID:fFGdTY6uo
「やほー。孫家への援助物資の目録の素案持ってきたよー。目を通しといてねー」
「うむ、ご苦労」

 頷いて分厚い書類を受け取る。持ってきたのは魯粛だ。うむ。これまた呉のビッグネームのお越しである。おこしやす。さて、書類を受け取った俺をニヤニヤしながら窺う彼女――うん、またしても女性なんだ。もう慣れた――がここにいるのには勿論理由がある。俺が立ち上げた商会――張紘にぶんなげた奴である――の幹部として張紘が推挙してきたのである。知己を頼ったということで当然江南出身の人材になったのだが、驚くべきはそのネームバリュー(俺調べ)である。
 いや、張紘が推挙してくるんだから否応なく厚遇するつもりだったんだけどね?三国志のゲームだけでもやったことのある人ならばどれだけの陣容かというのが分かってもらえると思う。目の前の魯粛を筆頭に顧雍、虞翻、秦松など・・・。流石張紘の人脈は格が違った。
 張紘半端ないって!将来呉の柱石になる人材めっちゃ推挙してくるもん・・・。そんなんできひんやん普通・・・。
 まあ、考えてみれば張紘が洛陽に行ってたのも留学っちゅうことだから、かなーり毛並みはいいはずなのよな。そう思えば納得すると共に商業という賤業に身を落とさざるをえない江南の惨状が察せられる。そりゃ孫家もヘルプ出すわ。孫堅死んでるならなおさらな!つか、まだしも漢朝に忠誠心とかあった孫堅亡き後の孫家って・・・。
 戦闘民族まったなしである。穏健派で先の見える孫権でも絶好調の曹操に喧嘩売るとかさあ。俺なら間違いなくスピニング土下座して隷属するところである。イケイケの孫策が当主とか戦慄で青褪める俺を誰が責められようか。いやそんな奴ぁいねえ(反語的)!
 ここまで一秒で脳内会議をしていたのだが、魯粛の視線が俺に仕事をしろと強いてくる。くそう、見た目小学生のつるぺたのくせにぃ。うむ。江南の食糧不足は深刻なようだな。などと思っていたらどことなく誇らしげに胸を張ってきた。うむ。壊滅的にぺったんこ。えぐれとる。

「分かってないねー。江南では貧乳は希少価値なんだよ?右も左もばいんばいーんだよ?」
「なんだその楽園!」
「まー、江南が食糧不足でえらいことになってるのは確かだけどねー。私財での底支えなんてあっという間に尽きちゃったし」

 そりゃあなあ。多少の蓄えあってもなあ。個人資産と国家予算を考えてみよう。個人資産が例え10億円あったからと言って、東京都の予算ですら6時間も支えられないのと同様。そして金がないのは首がないのと一緒である。

「だからさ。張紘が声をかけてくれて嬉しかったんだよね。何をしても無力で無意味と等価値でさ。とりあえずは食べる為に就職したけどさ。案外悪くないね、商ってのもさ。そう思ってたんだよ。
そしたら今回の件でしょ?孫家を通じて江南に援助してくれるって言うじゃない。そりゃ、乗るしかないでしょ」

 いえーいとばかりに飛び跳ねる魯粛に苦笑してしまう。

「で、母流龍九商会ってなんなの?」

 気を緩めたらこれである。ああ、俺が張紘にぶん投げた商会の名前のことだ。金儲けも勿論重要なタスクであるがそれだけではない。

「今はまだ及ばんが、龍を治めるまでいかなくとも、宥めることができればと思ってるよ」

 へえ、と声を漏らして魯粛は頷く。

「つまり、治水ってことだね?なるほど、古来より河川の荒ぶる姿は龍に例えられていたからね。なるほどなるほど。九という数字、母という象徴。いや、本気で立ち向かうんだ。龍に」

 言えない。某ぼったくりなゲームのアレな商会と龍をてきとーに結びつけたとか言えない。ついでに阿蘇阿蘇と並んで、俺以外にこの世界に来ている奴がいたら反応するだろうと思ったのだが今のところ反応ないしなー。

「よせよ、恥ずかしいじゃないかね」
「いやいやー、いずれは黄龍すら治めてくれると信じとくからね。うん、だから私たちは全力で頑張るよ?」

 にまり、と無茶ぶりしてくる。黄河の治水とか二千年くらいかかるんじゃないか?歴史的に考えて・・・。いや、精一杯やるけどさ・・・。

「孫家の首に鈴をつける。そのための援助でしょ?いけるいけるへーきへーき。むしろ漲ってきてるよ?」
「なんでさ」

 俺の問いに魯粛は苦笑する。

「そりゃそうだよ。まさか江南の復興の手助けができるとは思ってなかったからね。私らから見ても孫家はちょっと危なっかしいからね。首につける鈴となるならば嬉しい限りなんだ」

 どこまで本気だか分からない。それでも張紘がここに送ってくるならばきっとそういうことなんだろう。あいつが裏切るとは思わない。付き合いはそんなに長くないが、親友だと思っている。一方的に、かもしれないけど。
 まあいい、やることはやったのだ。そう、今更ながら現代知識である。ククク、ここには公正取引委員会とかいう組織はないのだ。カルテル、トラスト、コンツェルン・・・。売り浴びせに買占め・・・。圧倒的な権威と資本力を背にした優越的地位の乱用美味しいです。そう、容赦はしない。徹底的に絶対儲けるマンである。嬉々としてその手法を繰り出す魯粛たちを笑顔で見守る俺であったのだ。
 なんでって?いや、袁家領内にちょっかい出してた商人を泳がせてたら麹義のねーちゃんに甘いってものすごーく絞られたからさ・・・(物理と精神両方)。
 彼奴をじわじわと嬲り殺しにするという申し開きでようやく開放されたのだ。そしてその結果として、母流龍九商会の経済的影響力は袁家領内でとんでもないことになっている。おかしいなあ。ごくごく真面目な製造業を営んで民政の足しにするだけのつもりだったのに。
 現在袁家領内はものっそい好景気に沸いている。まずもって俺がでっちあげた農徳新書。ごくごく普通の農業振興策と新規農具コンセプトシートの走り書きだったそれは今や農業指南書となっているのだ。そして毎年各地からの報告により改訂に次ぐ改訂。正直著者が俺とは言えないような代物になっているのだが・・・。
 農業の生産効率が上がり、農村の二男三男なんかが都市部に流入。あと流民とかも。その労働力を活かして産業革命待ったなしである。工場制手工業と分業による熟練工の促成栽培的ななんやかや。以下略。興味のある方は西ドイツが冷戦時代にやってたことをご参考ください。
 まあ、そんなわけで孫家への援助くらいどうってことないのである。むしろ資金物資で孫家に鈴を付けられるのならば安いものだ。いや、あいつらガチで戦闘民族だからな。

「なーにか一人で深刻ぶってるとこ悪いけどさ。こっちはやる気満々なんだからね。もうちょっと景気よくいこうよ!」
「あー。まあ、そうだな。そういう深刻ぶるのは張紘の役割だったわ。よし、魯粛よ!母流龍九商会の全力で江南を富ませてこい!孫家は適当にこう、ふわっとうまいこと丸め込む方向で!」

 なんか、そういうことになった。いや、いいんだけどさ。
79 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:21:50.24 ID:fFGdTY6uo
 俺は黄蓋と昼食を一緒に摂っている時に例の情報を改めて確認する。内々に張紘経由でその可能性を示唆されてはいたのだ。いたのだが、実際にその情報が正しいとなると内心穏やかではいられない。まさか、三国志初期の英傑が、である。

「そうじゃ。誠に残念なのじゃがな・・・」

 孫堅は確か黄祖に殺されたんだっけか。ほんで劉表との遺恨になって孫策が生き急いだりすんだよなー確か。

「改めてお悔やみ申し上げる。
 が、やはり戦で?」
「いや、産褥で、の・・・」

 更なる衝撃である。というかマジか。つか、そうなると孫堅も女子ってことになるなあとか、孫策とか孫権も女子なのかな。なんて頭のどっかで思うくらいには俺は冷静であったと思う。続く黄蓋の言葉を追うのが精一杯だっただけかもしれないけれども。

「三女の尚香様を産まれた後の産後の肥立ちがよくなくて、の」

 どこか遠くを見て、黄蓋が幾分かの苦味を含んだ声色でそんなことを言う。その表情は刹那、沈痛で。
 そういや近代になるまで出産というのは非常に致死率の高いものであったか。

「そっか、そりゃ悪いこと聞いたか」
「いや、かまわんよ」

 くすり、と漏れる笑みには苦味が溢れていて。

「なに、孫堅殿の弔いではないけどな。江南。きっちり復興事業をやらせてもらうとも」

 かたじけない、と頭を下げる黄蓋。鷹揚にその感謝を受け取る。のだが。何か、三国志の知識があまり役に立たんなあ。まあ、有能そうな武将の名前が分かるだけよしとするか。
 つっても、有名な武将はまずもって現段階でも評判高いし、後世出世する在野武将なんて見付かんねえけどな!そう言う意味では珠玉の人材をゲットした張紘には感謝感激雨霰である。
 などとあれこれ考えながら食事を進める。いやー、なんだかんだ言っても美女とのランチとか役得でしかない。着飾り、化粧をした黄蓋は控え目に言って超美人さんであるからして。自然、トークも弾むというものである。

「だから俺は言ってやったんだよ、それは北斗を背負う者の定めだってな!」
「ほほう、北斗にはそのような宿命があったとはの・・・」

 内容のない馬鹿トークでもころころと笑ってくれる。うん、完全に接待されてるけどそれでも楽しいぜ。ここはありがたく談笑を楽しむとしよう。キャバクラに行ったってこんな美女いないんだし。
 食事を終え、席を立ったところで黄蓋が話しかけてくる。江南の援助については内々にGOサインを出してたからな。ここからが本番と言ったところか。流石に慎重なことだ。

「時に紀霊殿」
「ほいさ」
「わしが江南に戻った後、南皮に誰かを派遣しようと思うのじゃが面倒を見てやってくれんかの」

 ふむ、人質か。よっぽどこちらに気を使っていると見える。
80 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:22:50.02 ID:fFGdTY6uo
「んー、構わんけど?
 俺としてはまた黄蓋が来てくれたら嬉しいな」

 にひひと下卑た笑いを浮かべてやる。まあ、むさいおっさんとか来られても困るし。何より、黄蓋とはうまくやってけそうだしな。

「ふふ、ありがたいの。できればそうしたいの。
 ま、誰を派遣するかはまた連絡させてもらうとするかの」

 にまり、と妖艶な笑みを浮かべながらしなだれかかってくる黄蓋。その豊満かつ引き締まった肉付きを存分に満喫しながら俺はぐびり、と酒を呷るのであった。おいちい。ハニートラップ?俺がそんなんに引っかかるわけないじゃない・・・。

「ほい、これが物資の目録な。見りゃ分かるけど食糧が最優先だが、衣料と建材についても手配してる」

 ほれほれ、これが欲しかったんだろうとばかりに差し出した書類。喜色を隠そうともせずに手に取った黄蓋が目を通しながら・・・。目を丸くしている。
 内容のダイジェスト的なものはまあ、全般に及ぶ物資の供与から始まる。衣食住を取りあえず整備せんといかんというのが魯粛を首魁とする江南出戻り組の総意だったのだ。だったら俺に否やはなく、やるならば全力である。

「・・・かたじけない」

 いつもの余裕綽々な態度はどこへやら。しおらしく謝意を伝えてくる黄蓋は其の大任を果たしたからであろう。喜色を隠そうともしない。だがそこに水をさしてやろう。どばばー。

「それと、人を派遣するんでよろしく」
「人、じゃと?」
「ああ。江南に母流龍九商会の支店を作る。その立ち上げにな。
 だがまあ、それは表向きだ」
「というと?」
「孫家の重要な会議には必ず出席させること。
 そして、孫家に助言を与えさせてもらおう。幅広く、な」
「なん、じゃと・・・」

 そうきたか、という黄蓋の表情に緊張が走る。なんだ、可愛いとこあんじゃん。

「助言、とおっしゃるが、そんな甘いものではなかろう?」
「例えば?」
「その、助言というやつに拒否権的なものはあるのかのう?」

 上目づかいに、ぷるぷると震える風を装ってくるその図はあざといのである。常ならば黄蓋ほどの武人がこうまですることに敬意を表して(強調)いくらか妥協もしてやるのだがね。ことがことだからね、しょうがないね。

「喧嘩を売るならばもっと高値で売りつけてくれんとな。お蔭様でこっちゃ好景気だからな。いつでも高値で買うとも」
「失言じゃった
 。いや、ありがたいのう。南皮の発展具合を見ても、袁家の方に助言を頂けるとは望外のことじゃ。きっと孫家、ひいては江南のためになるに違いない。わしも肩の荷が下りた気分じゃ。
 元々、無理目なお願いじゃったからのう。紀霊殿にも何かお礼をせねばなるまいて」

 妖艶な笑みを浮かべて再びしなだれかかってくる。うん。役得役得。

「ま、それは次に会った時にじっくりと相談しようや」

 すべては江南の復興事業次第である。

「そうじゃの、ぜひゆっくりとご相談したいのう」

 まあ、それはそれ。これはこれである。主導権はあくまでこちらにあるのだ。・・・一つ、確認しておかないといかん。

「孫家は何を望む?」

 流石の黄蓋が咄嗟に反応ができない。そりゃそうだ。俺みたいに色仕掛けに鼻の下を伸ばすような若造は舐めきってたろうからな。だからこそ、この奇襲が効くのだ。

「孫家に援助をするのはいい。江南が治まるのもいい。
 で、その後に、肝心の孫家は何を望む?」

 俺のその問いに、黄蓋は迷いなく答える。

「江南に平穏を。安定を。それだけが望みじゃ。
 それ以上なぞ、ありはせんよ。
 ――堅殿の最後のお言葉が、江南の平和じゃった。故にわしらは江南さえ治められればそれ以上は望まん。何やら警戒されておるようじゃが、孫家は袁家からの恩を忘れんよ。
 とはいえ、信じてもらう根拠はないんじゃがの」

 この身体くらいしか対価はないしの、とからからと笑う黄蓋は確かに英傑である。そしてそのような英傑に恥をかかせてしまったかな、と思う。

「そっか、んじゃま、今後ともよろしくな」

 こうして、袁家と孫家。本来ならば殺しあう両家に誼が結ばれた。俺の独断で。さて、吉と出るか、凶と出るか。
 まあ、とりあえずは沮授と張紘の知恵を借りるとしよう。俺一人で考えてもしゃあないしね。三人寄れば文殊の知恵ってね。
81 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:23:33.56 ID:fFGdTY6uo
「はぁ、困りましたねえ。
 これじゃ、殺しておしまいってわけにもいかないですねぇ」

 口にした言葉ほど困った様子もなく、少女が呟く。にこにことした表情は固定されていながらも不自然さはない。心底楽しげな口調にもおかしなところは何もない。

「なになに、梁剛と深い仲になった可能性が大、と。
 これは意外ですねぇ。てっきり幼馴染あたりと乳繰り合うと思ったんですが」

 ぺらり、と報告書の分厚い束ををめくりながら言葉を紡ぐ。鼻歌混じりに。

「さらに、手元の商会を通じて江南への介入、内容は孫家を通じての援助ですか。
 これはまあ、どうでもいいですね。むしろ手元の人材が減るだけでしょうに。
 たまによく分からない手を打ちますねぇ」

 せっかくの珠玉の人材を得たというのに、と。応える者もいないまま、少女の独白は続く。あくまで笑顔のままに。

「それにしても業腹ですねえ。袁家内で保たれていた四家の均衡が完全に崩れちゃったじゃないですか。
 文家も顔家も、どうして危惧しないんですかねえ。次期当主の側近派遣で満足してる場合じゃないと思うんですが」

 全く、困ったものである。今の袁家は非常に危ういバランスの上に立っているのだ。それを理解しているのはごく一部のみ。
 そもそも当主の袁逢とてその地位は盤石ではない。本来彼女は匈奴との大戦における神輿にすぎなかった。最前線に袁家当主が立つということなどありえない。それが成されたからこそ士気は徹頭徹尾高く保たれていたのだ。無論戦争に万全などない。討死の可能性も大いにあった。つまり袁逢は戦死しても惜しくない、だが袁家当主としては不足ない。そういう立ち位置であったのだ。
 予想外であったのはその戦績である。「魔弾の射手」と異名をとるほどに最前線で兵を鼓舞しながらも自ら弓を取る姿はまさに武家当主の理想。いわゆる「匈奴戦役」を生き抜いた兵士、士官、将からの支持は凄まじいものがあり、そのまま袁家当主という地位を得たのである。
 だが、潜在的な政敵は多い。そこをあえて病弱を主張し政治に関わらないことで袁家のパワーバランスは安定していたのだが、袁逢が愛娘たる袁紹と紀家の跡継ぎたる紀霊を引き合わせてよりその構図が変わりつつある。

 ふぅ、とため息を漏らす。憂いが笑顔に影を落とす様は一流の役者の演技が如く迫真。

「大きくなりそうな火種も眠ってますしねえ。
 袁家が栄えるのはいいんですが、これ以上はちょっと不味いかなぁ?」
「火種・・・。彼奴きゃつの婚姻、かな」

 不意に少女に声がかけられる。その声に驚いた風もなく、少女が答える。憂い顔から喜色満面。花開くが如く。

「そうなんですよー。水面下で動いてる人もいますけどねー。
 顔家、文家も紀霊さんと次期当主を娶わせたいみたいですよ。
 今のところ袁家の後継たる袁紹様が本命ですけどねぇ」

 文武の首魁たる田豊と麹義。両者もどうやらその流れに異を唱えるつもりはないようである。

「ふう。妥当ではあるな。紀家の力が肥大化したならそのまま取り込めばよいおだから」
「そこが一番穏当な落とし所でしょうねえ。ただ、他の係累が黙ってないでしょうけど」

 ククク、と少女の言を受けて笑みを漏らす。

「まさか外患を誘致するとはな。これは流石に想定外であったとも」
「あー、それはそうかもしれませんねー。ちょーっと調子に乗りすぎかもしれませんねえ。紀霊、それとあの方。どっちに釘を刺しますか?」

 如何しましょうか?と小首を傾げる張勲に、影は囁く。

「ふむ。まあ、いい。しばらくは放置だ。いいな、娘よ」

 愉快そうにしているその声。それすら擬態であることを少女はよく知っている。

「はい、お父様。お父様のご意向のままに。
 私はお父様の意図に従い、糸のまま動く操り人形。袁家に張られた糸を紡ぐ人形。
 ――紀霊は蜘蛛の糸に絡め取られた獲物にすぎません。
 もがけばもがくほどに、糸に、意図に絡められ、動けなくなるでしょう。
 毒を与え、針を刺すその日のために、私はただ、糸を張り、意図を巡らしましょう」

 それは蜘蛛の理。袁家の闇の底の、さらに底。そこには糸が張り巡らされている。
 けして光の当たらぬ蜘蛛の巣の真ん中で絡新婦じょろうぐもはひたすら糸を紡ぐ。意図を巡らす。
 それが張勲の在り方であり、役割であった。袁家にて諜報を担う張家。異才奇才ひしめく張家。彼女はその中でも最高傑作である。
82 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/12(木) 23:24:13.59 ID:fFGdTY6uo
本日ここまですー

あっちでのルビがやってもうたところについてはスルーしてくだしあ

南無い
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/12(木) 23:30:54.37 ID:cWYqzjIkO
乙です
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/13(金) 09:24:29.81 ID:TV79hsfAO
乙です。

リライト版つう事は、元がある?
あってもこっちの方がいい。

公孫賛とも結んで、堅実堅固な外敵防衛しないと 内政やら商売やら出来ないだろうに(ステマ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/13(金) 13:42:58.52 ID:y2sR/JcY0
乙です&誤字報告
>>68
>>案件の処理をてきぱきとさばいているのは
○案件の処理をてきぱきとこなしているのは 処理と捌くは意味が重複するので(案件を処理する、案件を捌く)もしくは 案件をてきぱきとさばいているのは がいいと思います
>>護衛が本文だからな。
○護衛が本分だからな。 本分だと序文とかと併せて書物関係になりますね
>>71
>>つまり、そのた度に白蓮は前に来た自分より成長してんだよ」
○つまり、その度に白蓮は前に来た自分より成長してんだよ」
>>72
>>と眩暈ににた感覚を覚える。
○と眩暈に似た感覚を覚える。 誤字ではないですが漢字にした方が読みやすいですね
>>道中にあった宿場やの街道の整備を
○道中にあった宿場や街道の整備を
>>69で 面談を申し込んだらしい。しかも袁逢様に、だ。
>>72で 孫家の名代として袁紹殿とお話がしたいのじゃ」
となってます、そのあとも袁紹様になってますが、状況的に次期当主より現当主との面会を望むのが普通かな?それともいくらなんでも現当主は偉すぎるから次期当主か…とりあえず統一した方がいいですね
>>非常の手段を摂るべし 栄養?
○非常の手段をとるべし 漢字にするなら採る(手段を採用する)、もしくは執る(手段を執行する)辺りかと
>>74
>>その豹変ぶりに流石の黄蓋が言葉を失う。
○その豹変ぶりに流石の黄蓋も言葉を失う。 流石の黄蓋が〜だと二つ名みたいになっちゃいます
>>76
>>独自に解釈を加えるようなことをするようなのは華琳に任せておく。
○独自に解釈を加えるようなことをするのは華琳に任せておく。
>>漢朝の中枢ににいらん疑念を与えてしまう。
○漢朝の中枢にいらん疑念を与えてしまう。
>>77
>>三世四公を輩出した
○四世三公を輩出した あれ…デジャビュこれは前回地味様が優遇される確約があったように月ちゃんが優遇されますかねえ(ゲス顔
>>75で 「なんと、江南の虎と呼ばれた孫堅殿が儚く、な」
>>79で 内々に張紘経由でその可能性を示唆されてはいたのだ。 デジャビュ再び…孫堅の話は前日にしてたよね
>>80
>>「失言じゃった
 。いや、ありがたいのう。
改行間違えてますよ
>>流石の黄蓋が咄嗟に反応ができない。
○流石の黄蓋も咄嗟に反応ができない。
>>81
>>報告書の分厚い束ををめくりながら
○報告書の分厚い束をめくりながら
>>紀家の力が肥大化したならそのまま取り込めばよいおだから」
○紀家の力が肥大化したならそのまま取り込めばよいのだから」

マルマル>>69がいらない気もします。というか>>69だとすげなく帰してる描写なので間違いですよね
そして>>82
>>南無い 逝っちゃダメー!!
寝言更新北是
…ふう、今回は結構多かったのでもしかしたら抜けがあるかも。
ついに孫家への介入が始まりましたね二郎ちゃんは俺の独断で誼が結ばれた。と言ってるけど史実でも袁術の下についてたんだから大きな問題にはならない、と良いなあ
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/13(金) 13:51:38.51 ID:y2sR/JcY0
あと>>84さん
つ ttp://www49.atwiki.jp/bonshoden/
内容はほとんど変わらないけどR18シーンとオリキャラのイメージとかが書かれてる(ただし陳蘭は除く)
87 :84 [sage]:2015/11/13(金) 21:54:28.15 ID:TV79hsfAO
>>86

ご紹介ありがとうございます。

まあ、ぼちぼち読んでますが。(申し訳ないが終わった後の話読んでもリライト版にどう繋がるか 見えない…とか言ったら フルボッコ全殺の上出禁なんだろうな…)ビクビク
88 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/13(金) 22:01:10.18 ID:6yMPS587o
>>84
>>87

ご新規さんいらっしゃい!ありがとう!読んでくれて!ありがとう!
良かったら好きなキャラとか読もうと思ったきっかけとか好きなエピソードを語ってくれると一ノ瀬が踊ります(物理)

ええと。リライトと言うか清書してる感じなんですけどねw
無印を読むと分かると思うのですが、基本的に一ノ瀬は呑んだくれて泥酔の果てに電波ソングを聞きながら書いていたので結構アレなとこがあったんですよね。
なので、推敲しようというのがリライト版なわけです。
※泥酔していないとは言っていない

なので、推敲しているはずなのに誤字脱字を指摘されるって寸法さ!これもうわかんねえな!

出禁とかありえませんので。ありえませんんおで!(必死)
89 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/13(金) 22:02:26.55 ID:6yMPS587o
>>85
誤字脱字諸々ありがとうです。助かってます。
あっちに追いついたら編集してから先を進めまする。
ほんと、ありがとうございます。



優遇してほしいキャラいたら、言ってもいいのよ?
90 :87 [sage]:2015/11/13(金) 23:25:09.63 ID:TV79hsfAO
>>88

ご丁寧な挨拶、傷み入ります。

恋姫で好きなキャラ

公孫 賛 白珪 (白蓮)

地味上等。普通最高。国境防衛の要。白馬長史は 伊達でないぞ。

恋姫は実はパチンコから入ったど素人。だからエピソードはあんまし知らない。

この『凡将伝』では…紀霊さんかな。このリライト版しか読んでませんので彼がどう成長進化するを楽しんでおります。

所で、『三国志をさせない』なら究極は皇帝に婿入りして後漢を発展させつつ道州制で実力者に統治させる。も有りですか?
91 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/13(金) 23:44:38.03 ID:6yMPS587o
>>90
>地味上等。普通最高。国境防衛の要。白馬長史は 伊達でないぞ。
きゃー地味様かっこいい!

>恋姫は実はパチンコから入ったど素人。だからエピソードはあんまし知らない。
ぬふふ、こっから先は地獄だぜい(特に意味なし)

>所で、『三国志をさせない』なら究極は皇帝に婿入りして後漢を発展させつつ道州制で実力者に統治させる。も有りですか?
アリですね。
道州制については置いといて、ですが。
誰が権力握っても、世が治まってればそれでいいのよ。というのが主人公的存在の二郎ちゃんの基本理念ですからして。

地味様はね……。すっごい見せ場が在りますと言うか、本当にこのキャラを無印でなぜ普通に見せ場もなく○したって感じですよほんと。
恋姫ssで、うちくらい地味様を優遇してるとこはあんまないと思います!

多分。
92 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/13(金) 23:50:28.88 ID:6yMPS587o
>所で、『三国志をさせない』なら究極は皇帝に婿入りして後漢を発展させつつ道州制で実力者に統治させる。も有りですか?

無論、ありです。
ただし、皇帝陛下が女子とは限らない・・・っ!
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/14(土) 00:43:18.23 ID:t2xWef9AO
皇帝が男なら…まあ妃はいるから、紀霊(二郎)に姫を娶らせて…いや効果薄いか。逆に『官位買えます』だから内政系を 金で押さえて『逆らったら民からフルボッコ』な 施策を国家単位で少しずつ。紀霊(二郎)は公共投資の大切さを理解しているから、内務官僚を信者に出来れば…


…紀霊(二郎)が楽出来ないね。そんな運命?
94 :85 [sage saga]:2015/11/14(土) 09:19:52.85 ID:NHd2yHoh0
>>あれ…デジャビュこれは前回地味様が優遇される確約があったように月ちゃんが優遇されますかねえ(ゲス顔
ということで月ちゃん(董卓)の優遇おなしゃす!(菩薩顔)
えっ駄目?詠ちゃんでもいいのよ(にっこり)…姐、はおりキャラだしアレだし、二郎、沮授、張紘のトリオで閑話とかお願いしてもいいです?
どれも無理でしたら…蜂蜜なのじゃと絡新婦さんで(リライト前の二郎ちゃんとの3人合わさった空気とか大好物です)
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/14(土) 11:22:13.38 ID:uFt2xp3ko
要望言えるだけ幸せよ
夢キボーもない沖縄さんよりいいじゃない(白目
96 :90 [sage]:2015/11/14(土) 14:44:38.17 ID:t2xWef9AO
なろう(小説家になろう)版も見つけたので平行して読んでますが…
ガチでシビアで面白い。 リライト版との比較も楽しみ方として有りだね。

出来れば…でよいのですが、袁紹さんが紀霊(二郎)に対してどういう感情を現時点で抱いているのか。
チラッとでも出せ…ますか?(恐る恐る)


…今度の投下であの胸糞話か…でも避けられないから心して読もう。


因みに、マイヒロイン。最強の普通将。365000顧の礼でパートナーにしたい公孫賛の主役級SSは結構ありますよ。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/14(土) 15:19:32.03 ID:3P/iP08yo
そういう物語の芯に近い部分は終わった後の暴露ぐらいで聞かないと個人的には白けるが。
完結後に改めて読むのが楽しいのであって。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/14(土) 17:25:08.51 ID:NHd2yHoh0
チラッとなら出てるじゃないか
じろーに嫌いと言われて百面相したり、私が眠るまで大好きって言って、といったり
まあ幼女モードの時の話だけど
99 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/19(木) 23:30:56.29 ID:nh09Ryi9o
>>93
二郎ちゃんは楽したいのですが、それがどうなるかはまた別のお話ですねw

>>94


まあいいや。if董家ルート実装したらええんやろ(白目


>>95
沖縄産にはごめんなさいしないといけないよね

>>96
>出来れば…でよいのですが、袁紹さんが紀霊(二郎)に対してどういう感情を現時点で抱いているのか。
ラブとライクが天元突破やで(適当)

地味様については凄い重要キャラになっていきますから!

>>97
ありがとうございます

>>98
当初案ではエンディングまでデレない鉄壁のはずでしたとだけ
100 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:37:10.28 ID:nh09Ryi9o
 ――その少女は、控えめに言って華麗であった。豪奢であった。光輝をまとい、高貴であった。少女の伸びやかな四肢は青い果実を思わせ清冽であった。そしてその双丘は豊かで、妖艶な色香すら匂わせていた。相反する魅力を見事に調和させ、あくまで彼女は――傲慢にもそれを当然のものとしていた。

「はぁ」

 その少女に対するもう一人の少女の思いは複雑である。憧憬があり、嫉妬があり、賞賛があり、羨望がある。少女達の関係は、友人という曖昧なものであった。

「あーら、華琳さん、辛気臭いため息つかれてどうしましたの?
 ただでさえ貧相な身体が更に縮まってますわよ」
「誰が貧相よ、誰が!
 相変わらず朝っぱらからお元気そうでなによりね!」
「当然ですわ。袁家の日輪たるわたくしが消沈していては、民の顔にも影が落ちますもの。
 あら、お食事も進んでいませんわね。そんなんだからいつまでたってもお胸にも未来が感じられないなのですわ」
「う、うるさいわね!朝からこんな大量に重いもの、食べられるわけないじゃない!」
「いけませんわ、華琳さん。朝餉は一日の活力の素ですわよ?
 あっちの貧乏くさい白蓮さんなんて、がっついておかわりまでされてるというのに」

 話題に上った少女――公孫賛――が顔を赤くして反論する。

「う、うるさいな!おかわりを勧めたのは麗羽じゃないか!
 いいじゃないか、うちじゃあこんな豪華な朝餉なんて出ないんだから!」
「正直なのは白蓮さんの美徳ですわね。豪華なだけではありませんわよ?
 美容にだって効果があるんですから。医食同源。袁家の食は更なる高みにいますのよ」

 おーっほっほと笑い声を上げる少女を曹操は複雑な目で見る。武芸でも、学問でも一度だって負けたことはない。だというのに、人の輪の中心で光彩を放つのはいつだって袁紹なのだ。
 最初は、家柄のせいだと思っていた。四世三公というのは伊達ではない。袁家の血筋というだけで栄達は約束されたようなものであるのだからして。
 だが、それだけではないのではないということを曹操は認めざるを得なかったのである。袁紹のことを思うと、心が乱れる。それはもはや、恋着といってもいいのかもしれなかった。自分にないものを持つ袁紹という存在をひれ伏させる。 そんな暗い情念に曹操が思いを馳せるのは一度ではない。
 そんなことを引きずっても仕方ない。曹操は軽くため息をつき、袁紹がよそってくれた粥を口にする。一流の舌を持つ曹操を大いに満足させる味だったのが、ちくり、と胸に痛みを残した。

 対して公孫賛にはそのような懊悩はない。高笑いする袁紹の声なぞなにするものかとばかりに朝餉に舌鼓を打つ。満足げに幾度も頷き、目の前の豪華な食事を次々と胃袋に送り込んでいく。

 喰える時に喰っておけというのが公孫の家訓なのだからして。常在戦場を体現する彼女のメンタルはまさしく鋼である。毒気を抜かれたのか、その様子を見た曹操も微妙な顔をしながら粥をすすっている。
 意地っ張りで素直じゃない華琳も、麗羽の言うことは結構素直に聞くのだなあと暢気なことを思う彼女は間違いなく大物である。いや、袁紹と曹操に挟まれてなお普通に友人関係を維持し、なおかつ真名を交換しあうのだからその器は深く、大きい。
 そして公孫賛から見て袁紹と曹操の二人は対照的である。ああ、個人としての総合能力で言えば曹操が上回っているのであろうとは思うのだが。

「一人の天才が百歩走るより、千人の凡人が一歩でも歩を進めるほうが前に進んでるんだよ」

 どこぞの凡人の台詞であるが、公孫賛なりに納得したものである。それと、千人に歩を進ませるほうが大変というのは小なりと言えども軍閥を率いる公孫賛には納得である。
 それに。

「曹家の泣き所は譜代の家臣がいないことだな。血縁は優秀でも数が少ない。
 少数精鋭もいいが、それだけじゃなあ」

 袁家も家臣の質がいい方じゃあないけど、譜代はそれなりにいる。数は力、と言い放つ紀霊の言葉にはなるほど、と唸るしかない。なにせ公孫賛には質、量ともに頼りになる家臣がいないのだからして。

 とは言え、自分が考えても仕方のないことである。袁紹と曹操が漢朝においてどのような足跡を刻むのか。大変興味深いところではあるが、公孫賛にとっては自分の率いる郎党の行方こそが一大事なのである。そういう意味では頼りになる親友が次期当主である袁家が隣であったということに感謝しないといけないであろう。――実際既にあれやこれやの援助を貰っていることだし。
 紀霊が立ち上げた、母流龍九商会は既に公孫賛の領内でも必須な存在になっている。彼が重点的に投資したというのが大きいのだが。街道の整備、橋梁の補強に新設など、必要であると分かっていても手が届かないことを請け負ってくれているのだ。
 そのことについて馬鹿正直に謝意を告げた公孫賛に紀霊は苦笑で応えた。この恩はきっちり返すという彼女に対して。

「そのうち、身体で返してもらうよ」

 というのは悪ノリが過ぎるというものではあるが。なお、公孫賛は頬を赤らめるだけで特に抗議はしなかった模様である。

「白蓮さん?食べなれないものを食べたからかしら?お顔が赤いですわよ?」
「ちちちちちがう、なんでもない。れ、麗羽、この肉をおかわりもらっていいか?」
「いいですけど・・・。朝からまた追加されますの?昔から健啖家ではいらっしゃいましたが、昼が食べられないとかいうことのないようにお願いしますわよ?」
「まままま、任せとけ!」
「ならばいいのですけれども」

 そうやって笑い合う二人を曹操は何とも言えない表情で見つめるのであった。
101 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:37:42.25 ID:nh09Ryi9o
 張紘と沮授。言わずと知れた俺の最も信頼する腹心の二人である。袁家の外と内に目を光らせて、それぞれの立場をしっかりと認識した上で様々な助言をしてくれる貴重な存在というか――。いや、様々な厄介ごとを二人に投げまくっているというのは自覚している。いやほんと。だから、俺の丸投げ被害担当の右翼である張紘からの一報には耳を傾ける価値がありまくりである。

「なるほど。敵は洛陽に在り、か・・・」
「ああ、彼奴きゃつは元々洛陽を本拠にしてる商会だから目星はつけてたんだ。そんで、ようやく裏が取れた」

 袁家領内を荒らそうとしていた商人。彼奴の後ろ盾を探れば自然とその黒幕は見えてくるというものである。麹義のねーちゃんには甘いと散々説教(物理)を受けたのだが、それでも泳がせた甲斐があったというものである。いや、これで成果が出なかったらどうなっていたことか。

「流石は張紘。諜報においてもその手腕は卓越していて頼もしい限りだぜ」
「よせやい。対応も後手だったしな。これくらいはしねえと立つ瀬がねえって」

 俺の減らず口に乗らずにやれやれ、とばかりに張紘は嘆息する。察するに裏を取るにも相当の苦労があったようだ。これは、結構大物がかかったか――?

「で、どこのどいつだ。俺達に喧嘩ふっかけてきた奴は」

 口が重い張紘をせかす。が。更に口は重く。度重なる催促にぼそり、と。まだ確証とまではいかないのだがと強調する。

「十常侍」

 張紘がその名を出すのを躊躇うわけである。いやさ、よくぞ言ってくれたというべきか。或いはそこまで辿り着いた張紘の手腕を褒めるべきか。いや、とびっきりの大物である。

 ――十常侍。漢朝の政を仕切る宦官の元締めみたいな奴らだ。漢朝の腐敗の戦犯と言えばいいだろうか。権勢とか蓄財とか内向きのことにしか興味がないと思ってたんだがな。
 俺の抱いた疑念に沮授が応える。

「――袁家が力を付けすぎたのかもしれませんね」

 沮授曰く、袁家は既に中央から危険視されるほどに力を蓄えているとのことだ。

「ただでさえ袁家の領内は肥沃な華北の大地です。そこに二郎君が発掘した農徳新書ですよ。袁家領内では既に十年単位で匈奴との戦いに備えるだけの物資があります」
「更に母流龍九商会だな。おいらが言うのもなんだが、すげえことになってるんだぞ」

 なんでも、効率化された農業。そこからあぶれた労働力が都市に流入。さらに漢朝各地、とくに江南から流民が流入。それらを労働力として工場制手工業が成立。様々な物資が安価に量産されることになる。強化していた街道等のインフラ整備がマッチして袁家領内は空前の好景気に沸いているのだそうな。いや、知ってた知ってた。何かすごい景気がいいのは知ってた。でも、そこまでえらいことになってるのは知らんかった。もう、完全に俺の手を離れてるね。

「明確に袁家の力を削ぎに来てるか。それならば厄介だ、な」

 北方の異民族への備えとしての袁家。それはいい。だがその権勢が過度に大きくなればどうなるか、ということである。中央への色気を疑われる。いやさ警戒されるのはごくごく自然なことだ。歴史に学べば有力な家臣がどうなるかなんて明らかだしな。特に中華の歴史では。それは粛清と決まっているのだ。もっとも、むざむざやられてやるつもりはないが、ね。

「まあ、まだ正面切ってどうこうってことはない、か。
 だが、対応については考えんといかんだろうなあ」

 袁家領内と江南でも手一杯なのに十常侍まで出てきたらどうなることやら。それに、まだ十常侍が黒幕と決まったわけでもない。現状俺にできることは盛大にため息を漏らすことだけだった。と思っていたのだ。思っていたのだが。更なる懸案事項が沮授によってもたらされる。なんてこったい。

「黒山賊?」
「ええ、最近活発なんですよ」
「ええい。このクソ忙しい時にまた・・・」

 ただでさえ十常侍に対する方針が決まってない上に、黒山賊の蠢動とはな!
 説明しよう!黒山賊とは、常山を根拠とする賊の名前である。以上!だが・・・厄介なことに常山は袁家の領内の外れにある。そこは梁山もかくやという天然の要害であり、流れた犯罪者、山賊が集う一大拠点だ。流民やら無頼やらが流れ込み、いっぱしの軍事勢力となりつつある。

「・・・蠢動しやがるか。よりによってこの面倒な時期に」
「ええ、困ったものです」

 袁家領内では食糧事情が非常によい。故に、食べるに困って犯罪者になるというのはまずない。つまり、袁家の領内の犯罪者というのは、ただ真面目に働くこともできず、奪うことでしか生きられない者共である。ある程度適応性のあるごろつきは「侠」というシステムに拾われるのだが、それにすら所属できない奴らなんぞ、社会にとって害悪でしかない。

「大掃除、するしかないかな?」
「それもいいかもしれませんね」

 内政重視できていた袁家であるが、本来その存在意義は北の護り手。故に袁家の武威が舐められているなぞ看過できるはずもない。
 ――ならば、実力行使あるのみ。

「黒山賊と十常侍か。ぶつかる予定はなかったが、喧嘩を売られたならば話は別だ。やられたら、やり返す。倍返しくらいがちょうどいいだろうさ」

 そう、この世界、舐められたらアカンのである。手を出して来たら痛い目を見るときっちり理解してもらわなければならない。一歩引いたら二歩踏み込まれる。そういうものだ。妥協やら譲歩やらは殴り合った後のことである。無論引く気はない。

「軽く言うけどなあ。十常侍だぞ?――でもまあ、二郎が決めたのならやるしかないかぁ」
「やれやれ。張紘君は弱気ですね?折角二郎君がやる気になってるんです。降りかかる火の粉。振り払うついでに火元を消し飛ばしてやるとしましょう」

 苦い顔の張紘と、楽しげですらある沮授。それぞれの言葉に俺はニヤリ、と笑う。そうさ、俺一人で彼奴らと干戈を交えるわけじゃない。こんなにも頼もしい奴らが支えてくれるんだ。

「二人とも、頼りにしてるぜ」

 ばんばん、と二人の背中を叩く。返ってくるのは溜息と、笑顔。それが何よりも頼もしい。こいつらがいたら怖いものなんてない。袁家に喧嘩を売ったことを存分に後悔させてやるぜ。
102 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:38:14.34 ID:nh09Ryi9o
「あらあら、これは面白いことになってきてますねえ」

 蜘蛛の巣の深奥で張勲はくすくす、と微笑む。ぺらり、とめくる書類。袁家領内外の動向がまとめられたものだが、最近は紀霊に関する報告の比重が高まっている。

「これはどう考えても偶然なんでしょうけどね・・・。ちょっと紀霊さんには気の毒かなぁ」

 いっそ、暢気といえるであろう表情のままに首を傾げる。紀霊という獲物は思いのほか元気だったようだ。想定よりもその動きは活発で、激しい。これは想定外である。

「動けば動くほど糸に縛られていくというのが分かってないですねえ・・・。といって、動かなければそのまま追い詰められますし。――結局、何をやっても無駄なのになあ」

 あくまで平淡――にこやかではあるのだが――な声からは何も読み取ることはできない。なぜならば、意図を束ねて糸を紡ぐ彼女もまた繰り人形でしかないから。そして、もはやその生が何のためにあるのか、彼女には分からない。
 ――既に彼女は生に倦んでいた。どうしようもなく心が膿んでいたのだ。
 だが、それがどうしたというのか。彼女はただ繰り手の意図通りに踊ればいいだけなのだ。そんなことを考える彼女の背後の闇がその濃さを増す。それこそが彼女の操り手。袁家の闇を一身に背負う張家の当主である。

「娘よ。戦が起こるな」

 それは、異形であった。容姿は整っていると言っていいだろう。だが浮かべる笑みは災厄を連想させ、発する言の葉からは破綻と崩壊を匂わされる不吉。纏う空気には死と血の赤黒い闇が色濃く匂う。そして、広げた両の手。そこに常人ならば違和感を抱くであろう。そう、広げた掌。そこにある指は六本。闇に生まれ闇に生き、名前すら捨て去って深淵から蒼天を睥睨する。希代の暗殺者でもある彼は、ただ、【六】という記号で認識されている。恐怖と嫌悪と畏怖を込めて。
 そしてその娘は張家の最高傑作と言われるほどに完成されている、という。その張勲がくすり、と笑む。父の言、その物騒な言葉をおかしそうに受けとめる。

「ええ、お父様。戦が起こりますね。しかも袁家が巻き込まれちゃいますねー。これは厄介ですねー」

 いっそ朗らかと言っていい口調で張勲は嘆息する。諜報が張家の本領。だからこそ不穏な空気を見逃さない。そしてその流れは変えることは困難であるし、そのつもりが全くない。そう。目の前の不吉な空気を纏う男にはそんなつもりがないのだ。

「――派手に火を放つべし」

 その言を受けて張勲が問う。

「それはいいんですけど、紀霊さん、死んじゃうかもしれませんよ?今彼がいなくなったら色々面倒じゃないですか?」
「ここで死ぬならその程度の駒というだけのことだ。精々抗ってもらおうじゃあないか。まだまだ紀霊は小物よ。奴一人が死んだとて知れている。
 それより田豊だとも。奴の手が見えん」

 ふむ。と数瞬熟考し、張勲は頷く。

「そうですねえ、田豊さん。表面的には全く何もしていないみたいなんですよねー。何もしてないわけがないのに。すごいですねー」
「そうだ。流石は田豊と言ったところか。こちらの絵図をある程度は察知しているだろうよ。それで動かないならそれで構わんとも。監視にも気づいているだろうが、それでいい」
「牽制ですかー。そういう駆け引きって、あの方には無意味っぽいですけどねー。
 ――いっそご退場願った方がよくないですか?」
「それには及ばん。あ奴がいなくなれば流石に乱れすぎる。
 沮授ではまだまだ袁家を押さえられんよ。
 それに、あ奴を消すとすればこちらも総出で挑まんといかん。不敗、という二つ名は伊達ではないのだ」

 過日の匈奴の大侵攻において、軍師という立場でありながら最前線で戦線を支えた――物理的に――猛者である。流石の【六】も尋常な手段では討ち取れないと判断する。

「はいはーい、了解です」

 その辺を理解しているのであろう。張勲はあっさりと引き下がる。察しがいいことである。本当に。

「ふ、お前は良くできた人形だよ。実によく踊ってくれる」
「あら珍しい。お褒めにあずかるなんて、いつ以来ですかねえ」

 張勲の問いに応える存在は既に室にはなく、その声は虚しく響くだけである。

「んー。どうしたものですかねえ」

 と言っても、どうしようもないのだ。彼女は人形でしかないのだから。どろり、と濁った瞳は闇を乱反射し、更に沈んでいく。そう。別に現状に不満があるではなし、問題はない。何も問題はないのである。絡新婦はただ、糸を繰るだけである。意図のままに。
103 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:41:53.24 ID:nh09Ryi9o
 トントン、と軽やかな音が俺の耳朶を刺激する。それは慣れきっているにしても無視できない音響。一日の始まりを告げる音響。
 更に美味そうな匂いが鼻腔をくすぐり、意識が急浮上していく。夢の底から意識が急浮上していく感覚は嫌いではない。くあ、と欠伸を一つ。大きく伸びをする。これでも寝起きはいい方なのだ。いや、そうなるように鍛えられたと言うべきか。

「お、ようやく起きたかー。ちょうどええし、ご飯食べやー。ま、その前に顔洗っといで」

 にひひ、と悪戯っぽい笑みを浮かべた声の主――俺の上司の梁剛姐さんで、あれやこれやと俺を容赦なく鍛えてくれた人物である――が俺の尻を叩く。最近では週の半分くらいはここに入り浸っている。勝手知ったるなんとやらとばかりにささっと顔を洗い、食卓につく。

「ほら、とっとと食べてまいやー」

 いただきます。そして文字通りがっつく。ものっそい美味いんだからこれは仕方ない。姐さん曰く兵站に伝わる簡単な野戦料理のアレンジらしい。まあ、姐さんはもともと兵站出身らしいからなあ。などと思うのだが。
 卵と小麦粉に野菜と肉を混ぜたものを鉄板で焼いたそれは、多分お好み焼きそのものである。どろっとしたソースが食材の旨みを引き立てる。うん、ラーメンとかチャーシューとかあるからそりゃソースくらいあるよな。ここら辺は深く考えるだけ無駄であろう。
 しかし、兵站で経験を積むと料理が上手くなるのだろうか。ならば陳蘭にも兵站に異動させるべきだろうか。いや、別に不味くはないのよ。ただ、そのまあなんだ。けして美味くはないのであって。いや、不味くはないのよ。けして美味くないだけで。うん、別に不味くはないのだ。

「ごちそうさま!」
「はいな、よろしゅうおあがり」
「そしたら、夕方には詰め所に顔出せると思うんで」
「今日も泊まってくのん?」
「そのつもりっす、遅くなるかもしらんので、飯は・・・」

 十中八九遅くなるけど、どうしようか。と迷う俺に姐さんはくすり、と笑う。

「ええよ、どっちでも。冷めててもええんなら作り置きしとくさかいな。
 食べて帰るなら朝にするし」

 ひらひら、と手の平を振るって好きなようにしろと言外に。いやほんと、好き勝手させてもらってるなあと痛感する。

「そしたら、行ってきます」
「無理せんとな」

 ちゅ、と軽く唇を合わせてから俺は政庁に向かう。最近は訓練よりも中央との打ち合わせの比率が高い。隊の事務的なことは大部分を任せてもらっている。袁家の各方面との面通しということなんだろう。そこいらへんのノウハウもそうだが、そのついでに斗詩や沮授と会えるのが助かる。流石に一日訓練してから打ち合わせとかは無理だからな。
 本来なら猪々子もいるはずなんだが、日常業務に追われているそうで滅多に合流できてない。ここいらへんは個人の適性があるからしゃーないしゃーない。
そして本日のメインイベントである。麹義のねーちゃんに軽く挨拶だけすると、俺は待ち合わせの会議室に向かった。
104 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:42:19.03 ID:nh09Ryi9o
「あら、二郎様、今日は早いですね」
「そりゃ斗詩もだろ……ってここでお仕事か」
「ええ、今日は来客もないですし」
「そっか」

 斗詩と猪々子は麹義のねーちゃんにびしばし鍛えられている。特に斗詩は何でもできる万能タイプなので重宝されてるようだった。まあ、袁家を支える名門の次期当主だから英才コース待ったなしである。俺?げ、現場優先で一つ・・・。
 まあ、戦乱にあっても前線参謀さえつければ猪々子で心配ないだろ。斗詩が後詰で沮授が後方支援。うむ、負ける気がしないな。俺?ゆ、遊撃こそ紀家の本領だから・・・。とーちゃん見習って領内を水戸黄門的行脚して治安維持に努めるつもりである。
 うむ。袁家配下の名家である紀家当主(見込み)が巡回すれば領内安堵間違いなし、である。そして受ける接待の嵐なんだぜ・・・。かー、つれーわー。毎日接待を受けるとか気が休まらないわーつれーわー。

 というのが俺の将来設計である。うむ。後は前線に引っ張られる前にさっさと隠居するだけである。そのためにも色々頑張らんとな……。

 さて、姐さんに送り出されて向かった先は政庁である。いや、俺だっていつも遊び歩いているわけではない。たまには仕事もするのだ。――それに今日のお仕事は俺が発起人だしな。そのために袁家の重鎮に召集をかけたのである。もっとも、その面子は斗詩と猪々子、それと沮授に張紘という超身内ではあるのだが。
 とは言え、いずれも次世代の袁家を担う人材であるというのは間違いないところである。麗羽様を旗印に、クソッタレな時代に立ち向かう戦友となるのは確定的に明らか。つか、このメンツが信用できないならもうなにも信じられないぜ。
 とは言え、各人は超多忙であり、打ち合わせの時刻に来ていたのは斗詩だけであったのはやむを得ないところであろう。むしろ万難を排してくれたであろう斗詩には感謝である。
 まあ、大筋については事前に打ち合わせてるしな。そしてイレギュラーな案件についても問題ないだろう。――黒山賊の討伐を紀家軍が担当するという案件だ。陳蘭に任せてた母流龍九商会の私兵もそれなりに使えるようになったらしいし、ちょうどいい。実戦テスト、って奴だ。
 くすり、と斗詩が笑う。

「それにしても二郎様がきっちり仕事されるようになったって、文ちゃんがぼやいてましたよ。最近相手をしてくれないって」

 ころころ、と軽やかな笑み。清冽さと、漂う艶やかさの危うい均衡にくらっとしかける。これは年頃の女子の特権なのだろうな。箸が転がっても面白い彼女らは、微笑み一つだけで魅惑的なのである。つい最近まではちっちゃい女の子だったのになあ。いかん、おっさんくさいぞ俺。

「いや、別に相手はしてるぞ?斗詩や猪々子みたいな美少女が来て相手しないとかありえんさ」

 実際、俺の横で飛び跳ねてた幼女軍団がいつの間にか美少女軍団に様変わりである。時の流れというのはすごいなあと思うのだ。いやだからおっさんくさい述懐だというのは認識しているのよ……。

「もう……。二郎様はまた、そんな調子のいいこと言って……」

 頬を朱に染め、どこか憮然とした表情の斗詩の頭をぽんぽんとはたいてやる。いや、この表情見ただけで世の男どもは八割方ノックアウトですわ。

「いや、ほんとだって。実際、歓迎はしてんだけどなあ。茶も菓子も出してるぜ?そのまま飯食って、泊まって帰ることだってあるんだぞ?
 嘘だと思ったら斗詩も遊びにおいでよ。全力で歓迎するぜー」

 これで相手していないとか言われると流石の俺も思う所はあったりなかったり。

「ああ、そういうことなんですね……。それは……文ちゃんが一方的にご迷惑をおかけしているだけですよね……。お仕事から逃げ出して二郎さんがサボり仲間と思ったらきちんとお仕事をしてたから愚痴ってただけという……」

 がくり、と肩を落として斗詩が頭を抱えてもだえる。よせよ、可愛いじゃないかね。

「いいっていいって。なんなら斗詩も机並べて仕事しよーぜー。
 斗詩みたいな可愛い子が横にいたら……駄目だな気が散って仕事になんねえや。
 今のなしー」

 ぷっと吹き出す斗詩。おかっぱにしている綺麗な黒髪が揺れる。

「もう、そんなこと言われたら……本気にしちゃいますよ?」
「いや、ほんとのことしか言ってないから」
「そうじゃなくて、ですねえ……。もぅ……」

 斗詩が笑いながら抗議の声をあげる。うむ。斗詩が睨んできても可愛いだけである。このこの、とぐりぐりとなでくりまわしてやる。
 と、ガチャリと戸が開く。
105 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:42:50.23 ID:nh09Ryi9o
「おやおや、お邪魔でしたか」
「お邪魔というか遅いというか」
「すみませんね、最近立て込んでまして」

 これっぽっちも悪いなんて思っていないであろう胡散臭い笑顔で沮授が言葉を続ける。

「どうも、色々頻発している事象はつながってないみたいなんです」

 沮授の言葉に思考を切り替える。あれこれと袁家領内で起こる不具合はあれこれあったのだが、それの根っこは繋がっていると思っていたのだが。無論、沮授の調査よりも根深いだけという可能性もある。むしろこっちの方が蓋然性は高いであろう。

「……逆に厄介だなそりゃ」
「統一された意思の元動いているならこちらも対抗し易いんですが、少なくともその意図は見えないですね」

 やれやれ、困ったものですとばかりに肩をすくめる沮授。意外と消耗しているようで、激務っぷりが目に見える。頑張れ。超頑張れ。

「一つ一つ潰していくしかないかー。それでも沮授なら傀儡は炙り出せるだろ?
 ここまで大掛かりにやってくるんだ。囮くらいは仕込んでくるだろう」
「ええ、その通りですね。それも巧妙に隠蔽されてましたがね。それでも外患を誘致しているとされる黒幕気取りの人形は粗方捕捉できそうです」

 流石は沮授である。ひとまず後方は安心して任せてよさそうである。つか、他に任せる人材なんていないのだがね。

「よし、ま、とりあえずは黒山賊か」
「そちらはお任せしますよ?」
「応よ。外向きのことはまあ、任せとけ。紀家は遊撃がそのお役目。果たして魅せるともよ」

 攻勢には文家、守勢には顔家。そして遊撃こそが紀家の本領。とーちゃんが地位に拘らず、領内安堵に努めていたのもきっとその本領を保つため。そしてその紀家に於いて最精鋭たる梁剛隊である。一朝ことあらば士卒が将となるエリート部隊なのだ。

「気を付けて、くださいね……。月並みなことしか言えないですけど」
「なに、所詮は野盗の類さ。どうということもない」

 とは言え、史実全盛期の袁紹でも殲滅できなかった黒山賊が相手なのだ。慢心はしないとも。末端が相手だとしても、な。

「アニキー、ごっめーん遅れたー!」
「二郎すまねえ、色々揉めててな」

 まあ、メンバーが揃った会議自体は四半刻で終わったんだけどね。いや、事前に根回ししてたし。袁家の次代を担うこのメンツが一堂に会してあれこれやっているという事実が重要なのだよ。うむ。

 ――俺は俺で万全を期していたとこの時は思っていたのである。
106 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/19(木) 23:43:20.03 ID:nh09Ryi9o
本日ここまで、ということで
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 23:51:21.82 ID:ChPLBoTRO
乙です
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 00:22:51.95 ID:1jcune0AO
乙です。


…確かに、中華の歴史上の能臣で粛清されずに天寿全うした人って少ないイメージ。

…所で紀霊さん?公孫賛に唾付けるなら、それなりのモン出して貰えるよね?具体的には公孫家を 盛り立てる有能な超有能な事務集団とか。ね?ね?
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/20(金) 10:35:24.80 ID:1UIHydpJ0
乙&いつものを
>>100
>>そんなんだからいつまでたってもお胸にも未来が感じられないなのですわ」
○そんなんだからいつまでたってもお胸にも未来が感じられないのですわ」
>>それだけではないのではないということを曹操は
○それだけではないということを曹操は
>>意地っ張りで素直じゃない華琳も、麗羽の言うことは結構素直に聞くのだなあと暢気なことを思う
>>ああ、個人としての総合能力で言えば曹操が上回っているのであろうとは思うのだが。
他のところを見るに地の文では真名を出してないので上の方が間違いかな?どちらも公孫賛の【思う】なので統一した方がいいと思います
>>103
>>ちゅ、と軽く唇を合わせてから俺は政庁に向かう。
>>104
>>さて、姐さんに送り出されて向かった先は政庁である。
重複してるので片方削っていいと思います
>>どこか憮然とした表情の斗詩 …まあ憮然はもうそういう意味でいいか、もし直すならむすっとした表情とかかな
>>105
>>あれこれと袁家領内で起こる不具合はあれこれあったのだが、
○あれこれと袁家領内で起こる不具合はあったのだが、

さてさて不穏なフラグを立てた引き方ですね
適度に足を引っ張ってきそうな有能な内患張家、今回で一斉摘発は出来そうだけど最後っ屁をかましそうな無能な内患、大っぴらに敵対できない十常侍、そしてゴキブリ並みにしぶといだろう黒山賊
めんどくさいことこの上ないですね…とくに絶妙な嫌がらせをしてきそうな張家はノーマークですし、十常侍も手筋が読めない。足元掬われそうな悪寒
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/20(金) 19:28:39.15 ID:yuwnikPBo
史実じゃ孤軍奮闘で袁家と10年近く戦争してたんだがww
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 07:34:39.51 ID:C36veOsOO
ラブひなコイバナ伝が作者によりエタ宣言されちゃいました(涙
更新を楽しみにしてた2次作品がなかなか更新されてない中
二郎ちゃんには頑張ってほしいものです
112 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/23(月) 22:31:22.80 ID:6BhA6RWmo
連休は大洗で観光+鹿最終戦観戦でした
大洗は町ぐるみでガルパン応援してるんやなあというのが伝わってきました
映画、ヒットするといいですね
久しぶりにキャラグッズにお金を使いました(ピンバッジとお酒)

>>108
>…確かに、中華の歴史上の能臣で粛清されずに天寿全うした人って少ないイメージ
権力争いに勝ち続ければ大丈夫ですよw

>…所で紀霊さん?公孫賛に唾付けるなら、それなりのモン出して貰えるよね?
そりゃもう援助てんこ盛りやで

>>109
いつもすまないねえ……

>適度に足を引っ張ってきそうな有能な内患張家、今回で一斉摘発は出来そうだけど最後っ屁をかましそうな無能な内患、大っぴらに敵対できない十常侍、そしてゴキブリ並みにしぶといだろう黒山賊
言語化するとやってられない状況ですねw
頑張れ超がんばれw

>>110
黒山賊のことですよね?
全盛期の袁紹が討伐できないという時点でお察しのしぶとさですよねー

>>111
更新待ってる作品はねー
一ノ瀬もたくさんありますけどねー
中々哀しいものがありますねえ

二郎ちゃんの活躍はまだ始まったばかりだ!
113 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:21:20.50 ID:6BhA6RWmo
 男が暗がりの中で酒を呷る。ぐびぐび、と咽喉に酒を流し込む。一見豪快な所作。だが時折小刻みに震える指先がそれを裏切る。

「ふふ、落ち着きませんことですわね。心配することなど何もありはしませんのに」

 女が艶やかな声で囁きながら酌をする。

「お、落ち着かねえのは仕方ないだろうが!
 あ、あの袁家に喧嘩を売ったんだぞ!」
「そうですわね。落ち着かないのも無理ありませんわ。
 だって、今までと比べ物にならないくらいの……戦果ですもの、ね?」

 くすり、と女が笑う。

「たくさんお金を持ってたでしょう?
 たくさん食料もあったでしょう?
 たくさん綺麗な女もいたでしょう?
 たくさん、たくさん殺したでしょう?
 たくさん、たくさん奪ったでしょう?
 たくさん、犯したでしょう?
 たくさん、楽しんだでしょう?」

 今さら怯えても、遅いのだと女が毒を注ぐ。
 今さら改心しても遅いのだと女が煽る。
 ――だから毒を注ぐ。

「もう、戻れないものね」

 くすくす、とおかしげに女が笑う。嗤う。

「て、てめえが!てめえが言ってきたんじゃねえか!
 袁家は豊かだから一回で一年くらいは遊んで暮らせるって!」
「袁家の領内は熟れた果実。それは間違ってなかったでしょう?美味しかったでしょう?
 もう、今さら黒山に戻れないのではなくって?」
「うるせえ、うるせえ……」

 男は気弱げに呟く。もう、あんな山奥には戻れない。ならば、もう少し。
 そう、もう少しだけ稼いでトンズラすればいい。なに、随分稼いだが袁家に目をつけられるのはまだ先のはずだ。いざ目をつけられたら逃げればいい。それまでに一生遊んでくらせるだけの財貨を得ればいい。
 それは、果たして誰が囁いたことなのか。それすら曖昧模糊としている。だが、どうせこうなっては退くことはできないのだ。と、思いこませたのは誰なのか。

「酒だ!酒を持ってこい!」

 どろりと欲望に濁った目を光らせながら男が叫ぶ。不安は目の前の快楽に溺れることでしか晴らせない。注がれた酒を一息に呷ると、目の前の美女を荒々しく組み敷く。所詮、この世は奪った者勝ちなのだ。
 偉そうに言葉を紡ぐこの女も、暴力という絶対的な価値の前では股を開く弱い存在でしかない。
 荒々しく衣服を剥ぎ取りながら男が言う。

「逃げられないとしても、お前も道連れだ、分かってんだろうな」

 くすり、と女が笑う。男の情欲を煽るようなその笑みは蠱惑的で、それでいて気品すら漂う。その笑みに男は暴力的に女体を思うままに蹂躙する。いや、それすらも女の掌の上。

 蹂躙されながら、浸食する人型の化け物。その名を李儒という。
114 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:22:19.01 ID:6BhA6RWmo
 早朝、いや、まだ払暁であろう時刻に姐さんは起床する。同衾している俺を起こさないようにそっと起き上がるのであるが、常在戦場を叩きこまれているのであるからして。

「ああ、起こしてもうたか。寝ててかまへんで」
「そっすか。じゃあ、お言葉に甘えようかな・・・」

 とは言うものの、一つ大きく伸びをしてから意識を覚醒させる。これから朝の鍛錬をするのだ。柔軟、走り込み、立木打ち。そしてクールダウン。日課となっているそれを姐さんは揶揄する。

「なんや、えらい元気やな。昨夜は手抜きやったんかな?」
「いやいやいやいや。あれ以上やってたら姐さんの旨い朝ごはんにありつけないだろうなあと思ってのことですよ」
「飢えたケダモノめ。うちをあんだけ鳴かせといてまだ余裕があるんかいな」
「がおー」

 目を合わせて互いに笑い合う。最近、姐さんのとこに入りびたりである。いいじゃん。若いんだもん。青い山脈は狂った果実だということで、ひとつ。そりゃ障子から怒張が天元突破するというものである。

「塩と酢、どっちにする?」
「塩でー」
「はいな、と」

 汁物の味付けを器用に調整しながら鼻歌を歌う姐さん。あれだな、幸せってのはこういうことなんだろうなあ。・・・しかし、裸エプロンか・・・。マンモスマンが火事場のクソ力であるが、自重自重。である。そんな姐さんが投げかけたのは驚愕の台詞であった。

「あんな、ウチ、今回の出兵が終わったら紀家軍を辞めよう思うねん」

 なん、だと・・・。人間、本当に驚いた時には声が出ないものだな、と思った。つか、マジで?

「なーに間抜けな顔しとんねん」
「いやだって、姐さんがいなくなったら隊はどうすんのさ」
「二郎。アンタがおるやん。
 ウチはむしろおらへん方がええんちゃう?」

 そんなことを言いやがりますよこの方は。

「俺じゃあ、まだまだまとめきれませんってば。雷薄とか韓浩とかを指先一つでこき使う姐さんってばすごいんですよ。っつーか、まだまだ色々学びたいですし・・・」

 愚痴、である。姐さんの決めたことを俺がどうこうできるわけがないのだ。そんな俺をぴしり、と鼻先を爪弾いて笑顔で姐さんが言う。

「教えられることはもう叩き込んだっちゅうねん。
 後は自分の身で学ぶこっちゃな。万全の戦場なんてあらへん。常在戦場にして臨機応変にすべし、や」

 にひひ、と悪戯っぽく笑う姐さんは小悪魔めいていて。チェシャ猫の笑いというのはこういうものだろうか、などと益体もないことを思う。
115 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:22:50.27 ID:6BhA6RWmo
「はあ、分かりましたよ。で、辞めた後どうするんすか?」

 にんまり、と姐さんが今日一番いい顔で笑いかける。

「んとな。うち、ご飯屋さんやるつもりなんよ」

 なるほど、と納得する。姐さんは料理が上手い。むしろ絶品である。紀家軍の士気が高いのは姐さん由来の食糧事情に依るところが大きかった。そして姐さんは元々は軍人になるつもりもなかった。
 ・・・戦乱の中で生き残るためにあがいて今の地位にいる。それはそれで凄いんだが、本人にとっては不本意ということなんだろう。

「なら、寂しくないですね」
「お、ご贔屓にしてくれるん?」
「姐さんの料理が食べれるならむしろ紀家軍の皆が殺到するでしょうよ」
「はっはは、まあ当然やな。餌付けした甲斐があったっちゅうもんや」
「姐さんなら料理だけで勝負できるでしょうに」
「せやろか?でもまあ、二郎がそう言ってくれるならそうなんかもしらんな。うち、ちょっと自信出てきたわ。
 いやー、これでうちのお店も安泰やわー。紀家軍の総帥がご贔屓にしてくれるからなー。
 かー、きっと二郎はお客さん、ぎょうさん連れてきてくれるんやろなー」

 けらけら、と笑う姐さん。その声は明るくて、つまりずっと描いていた夢なんだろうなあというのが否応なく理解できる。だったら、どうせなら繁盛してほしい。飲食店は立地八割だ。そして姐さんに恥をかかせるわけにはいかない。だから最高の物件を手配しなければならん。俺の声掛けだけの集客なんて。
 と決意を新たにしていたのであるが。

「なあ、二郎?」
「なんすか?」
「丈夫な子供、産んだるさかいな」

 その言葉に絶句してしまう。色々と考えていた――妄想とも言う――俺の頭が真っ白になる。

「なんや、愛想ないなぁ。毎日あんだけしといてほったらかしかいな。
 まあ、ウチはそれでも別にかまへんけど、な」
「いや、そうじゃなくって!」

 けらけらと俺を見て笑う姐さん。ああもう、翻弄されてるのは自覚するけど可愛いなあ。

「やから、うちとこのお店。食材は安く卸してな?」
「・・・まあ、いいですけど。そこらへんは張紘が上手くやってくれると思いますよ」
「なに、拗ねてんのん?いや、二郎はそういうとこ、可愛いねんよなあ」

 ニヤニヤ、艶っぽい笑みで迫ってくる姐さん。近い。近いってば。

「・・・言葉にしないとわかんねーこともあるんすよ」

 大人気ない。我ながらそう思う。思うのだが、やっぱりこう、そこはストレートに言って欲しい。とも言えず。だってさ。そんなあっさり身を退くとか、伝手で優遇しろとかさ。いや、流石に姐さんが俺のバックボーン目当てで近づいたとは思わないけどさ。でも、こう、な。

「つまらん意地を張る。うちは恰好ええと思うよ。むしろ武家の棟梁やもん。それくらいでないとあかんわ。
 ほんま。二郎はええ男になったわ。
 うん。ええ男や」

 ほう、とため息交じりの声。そして決定的な言の葉が脳髄の奥底までをも揺らす。

「ほんま、な。二郎はええ男になったわ。うち、な。ほんまに惚れてもうたんよ。
 やから、うち、二郎の子供が欲しいんよ。せやから、鉄火場とはおさらばやねん。
 せやねん。こっぱずかしいんやけどな。うち、二郎がほんまに好きやねんよ・・・」

 その言葉に俺は耽溺した。籠絡された。いや、もともと惚れていたのを自覚しただけなのかもしれない。

「姐さん。俺だって、姐さんに惚れてるし、俺の子を産んでほしい」

 つまり、そういうことである。俺だって姐さんのこと、間違いなく好きなのである。惚れてるのである。うん、これは確かだ。
 自分の好き勝手な都合だけでなく、他人のために頑張る。それってすごく頑張れる。だから。これ見よがしに、にししとほくそ笑むのをなんとかしたいものである。いや、ほんとに。
116 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:23:39.40 ID:6BhA6RWmo
 黒山賊は常山に本拠を置く武装集団である。その軍事動員数は数万に達するとも言われている。通常は私兵集団として辺境の街道の安全保障をしたりしている。あのあたりを通る時は奴らに金を払って安全を買うわけだ。払わない奴には見せしめ的な制裁があったりする。
 まあヤクザがPMCとか傭兵団やってるみたいな感じであるな。特に袁家と対立することもなかったんだが、最近はちょっと関係が怪しいそうな。張紘の情報網ではどうも洛陽方面からけしかけられているとのことだ。袁家の勢力を殺ぎにきているというのは本当らしい。
 今回袁家領内で暴れているのは極少数、ほんの数十名程度だ。通常ならそこらへんに常駐している兵力で対応できる範疇なんだが。

「ったく、厄介この上ない」
「ほんまなー、ありえへんやろ、内部から情報が漏れるとか」
「外患誘致とかぶっ殺すべきっすね」

 袁家の冷や飯食らいどもが何をトチ狂ったのかやらかしてくれている。警備隊の動きをリークすることで、賊が自由に領内を食い荒らしてやがるのだ。少数の兵力ということもあり、なかなか捕捉も難しい。
 そこで腰を上げたのが紀家だ。とーちゃんのお仕事のおかげもあり、元々各地の治安組織との関係もいい。更に袁家内では比較的自由な裁量で動ける遊撃軍という位置づけも後押しした。梁剛隊の兵力は百余名。それに母流龍九商会の私兵が百名ほど動いている。
 賊の広域捜索も想定されているので、彼奴等のおよそ十倍以上の動員となっている。

「サクッと片付けんとな」
「ええ、誰に喧嘩売ったのか思い知らせてやりましょう」
「気合を入れるんはええけど、入れ込みすぎるとあかんでー」
「へいへい、おれはしょうきにもどりましたよ、と」
「あかんやん」

 姐さんに軽く小突かれながらも粛々と進軍する。つい最近被害を受けた村落が目的地だ。そこを仮の根拠地とし、賊を捕捉し殲滅する。そして内外の敵に警告を発するのだ。
 喧嘩を売る相手に。次は、お前だぞ、と。何せ武家というのは舐められたらいかんのである。

 到着した村はまあ、控えめに言ってひどい有様だった。家は焼かれ、財貨は奪われている。陰鬱になる俺達を出迎えた村長は涙ながらに謝辞と、被害と、税の軽減を訴えてきた。確かに、この村から例年通りの税を取ると流民になりかねん。
 というか、他の村落もここまでひどいのだろうか。低金利で母流龍九商店に融資を検討させよう。そう考えつつ、言葉を交わす。どうやら賊は二十人程度で、この村を襲った後に北に移動したそうだ。事前情報通りである。しかし、この有様では、ここを根拠地にするのは困難と言わざるをえない。

「あかんなあ。ここは使い物にならんわ。移動するで」
「そっすね。泊まろうにも屋根のある建物もほとんどないっすもんねえ」
「せや。むしろ村に負担になるわ。・・・それにうちらは復興の手助けに来たんとちゃうんやし」

 そう、あくまで賊の殲滅がお役目。それ以外は埒外である。思う所がないではないが。

「本末を転等させるわけにはいかねっすもんね」
「そういうこっちゃ。残念ながら野営が続くで」
「問題ないっしょ。姐さん肝入りの訓練。天幕も張らずの一ヶ月自給自足よりは全然マシっすわ」
「ならええ、ここの援助は後続に任せて野営地を選定するで」
「ういういー、雷薄を先行させますね」

 そうして、俺達は村を後にする。村長がちょっと物言いたげだったのはこのまま見捨てるように見えたからだろうか。だが、他の村落の被害を考えるとそこまでのフォローはできん。兵は神速を尊ぶのである。
 そして、雷薄が見つけた野営地は近場に水場もあり、理想的な平地だった。流石は雷薄。歴戦オブ歴戦。人相が悪いのが玉に疵ではあるがね。いや、戦場ではプラス要因なんよ?威圧スキル持ち確定のいかつい形相であるのだ。

「若、そりゃあひでえですよ」
「あれ、口に出てたか」
「そりゃもう、ばっちりと」

 隊の皆が笑う。よし、流石梁剛姐さんの直卒。士気にも問題はない。天幕を張り、仮の根拠地設営を進める。明日からは賊の追跡と索敵だ。実に地味だが、段取り八割ってね。
117 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:24:13.04 ID:6BhA6RWmo
 軍を見送った長の顔がぐにゃり、と歪む。

「これで、よろしいのか」
「ええ、そうよ。なかなか見事なお芝居でしたわ」
「これで、孫は・・・」
「ええ、傷一つ付けずにお返しするわ。それとこれが焼いちゃった建物の代価ね。
 これだけあれば十分でしょう?」

 女がじゃらり、と重量感のある袋を差し出す。くすくす、と愉快そうに笑う。

「ええ、ご苦労様だったわね。それじゃあ、もう会うことはないでしょうし、失礼するわね」

 無言で女を見送る。年老いて皺の刻まれたその顔は、内心の苦悶に歪んだままであった。
118 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:25:03.51 ID:6BhA6RWmo
 野営地の設置は滞りなく行われた。今日はこのまま休息を取り、明日から本格的に索敵業務開始である。これまでの傾向から、賊は居場所を転々としながら村落を襲っている。その動きはかなりランダムで読みにくい。
 よって隊を四つに分ける。俺、雷薄、韓浩が三十ずつ兵を率い、北、東、西を索敵する。賊を発見し次第本陣に連絡。現場の判断で撤収、あるいは威力偵察。もしくは殲滅を行う。母流龍九商会の私兵については合流し次第編成しなおす感じかなー。機動力ではやはり騎兵を中心とした紀家軍に一日以上の長がある。まあ、別運用でもいいしな。合流するまでに片付ければいいだけの話ではある。

「うっし、やってやるぜ!」
「おお、若が珍しくやる気だ!明日は雨ですな!」
「ちょっと待ってみようか。誰が雨乞いの達人だ!」

 げらげらと俺と雷薄のやりとりに皆が笑う。

「ほら、アホなこと言ってへんで、さっさと手伝う!」

 姐さんの声で皆がきびきびと動き出す。実にごもっともである。やはり引退とかありえんよな。姐さん指揮下の戦場料理に舌鼓を打ちながらそんなことを考えていた。



 梁剛は出撃する部下を見送るとすぐに食事の支度に取り掛かる。タダでさえ野営は過酷。屋根の下で眠れることを期待していた皆には申し訳ない気持ちでいっぱいである。だから、せめてご飯くらい美味しいものを食べさせてやろう、と気合いを入れる。
 ・・・梁剛は元々軍人になど縁はなかった。輜重に物資を納入する立場であったのだ。それがいつのまにやらごらんの有様である。まあ、それを愚痴っても仕方ない。正直人を率いて戦うより、手料理で士気を鼓舞する方が性に合っている。
 今でも自分がなんでこんな地位にいるのか、戸惑いがある。戦にいい思い出なんかあるはずないのではあるし。それでもまあ、自分の職責を果たしているうちにこういうことになった。紀家軍のトップたる幹部を預かるとか、非常時のみの扱いかと思ったら戦後平時でもその職責は維持されてしまったのである。
 だが、それももうすぐ終わりである。ようやく、紀家軍のトップの座を譲ることができる。そして夢であった自分の店を持てるのだ。それに、だ。子供を産んでやろうと思う男に会えた。まさか、と自分でも思うのだがどうにもベタ惚れである。

「二郎」

 なんとなく名前を呟いてしまう。初めは生意気なガキかなと思った。だが、その立ち振る舞いを見るに、流石は紀家の跡継ぎよと感嘆するようになった。支えてやらなければ、と自然に思う。情が湧く。気づけばご覧の有様だ。
 ――紀霊は色々と事業を手掛けている。そして成果を出している。しかし、危うさを感じる。これは幾多の戦場を潜り抜けた梁剛の直感であるから、根拠としては意味をなさないのではある。それでも、思った。どこか危うい、と。

 それも過去形で語るべきことであろう。自分と一夜を共にしてからの紀霊は地に足をつけることを覚えたようである。一歩一歩、踏み出したその立ち位置を大切にしてくれている。

「ほんまええ男になったわ」

 万感の思いを込めて呟く。そして、思う。自分が紀霊をそこまで魅力的に仕上げたというのは自惚れではない、と。だから、長生きしたいな、と思う。添い遂げられるわけではない。それでも、と思う梁剛の思索は断ち切られる。

「か、火事だー!」

 なるほど、敵襲。梁剛は理解する。つまりここが正念場。

「総員、戦闘態勢!舐めたらあかん!日没までには偵察に行った部隊が帰参するよって!それまで凌ぐんや!」

 応、と唱和する人員の質と量に梁剛は満足する。それが数名であっても、だ。

「死んでたまるかいな。うちは、こんなとこで死ぬわけにはいかんのや!」

 咆哮とともに迫る兵卒を切り捨てようとしたのだが、届かない。

「くっ!」

 見れば右膝を矢が貫いている。なるほど、これでは満足な動きができない。それでも、できることはある。梁剛は数少ない部下に指示を飛ばす。一秒でも長く持ち応えるのだ。
 そう、持ちこたえたらば援軍がくるのだから。その双眸には確かに不屈の炎が宿っていた。
119 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:25:53.81 ID:6BhA6RWmo
 胸騒ぎなんてものはしなかった。虫の知らせなんてものもなかった。俺が一番早く引き返したのはもっと単純な理由だ。ノルマの地区を偵察して野営地に還る。その距離が最も近かっただけ。俺の率いる騎馬兵の動きが他の部隊よりも機敏だっただけ。
 だから、理解できない。どうして野営地から煙が上がっているのか。

  俺は何か叫びを漏らしながら愛馬に鞭を入れる。愛馬は間違いなく駿馬であろうが、もどかしくて仕方ない。馬を責めに責める。潰れる寸前に飛び降り、自身の足で駆ける。全速力で駆ける。

 間に合え。間に合え、間に合え。速く、もっと速く。俺が鍛錬したのはこの日のためではないのか。ただ、駆ける。駆けた。賭けた。そして。
120 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:26:20.76 ID:6BhA6RWmo
 男達が腰を振る。白濁の液体に塗れた女体をなお責める。びくりと震えて精を放つ。

「ったく、締まりが甘くなってきたなあ」
「そりゃそうよ。活かさず殺さずが一番いいってのに」
「そうそう。首を絞めたら締まるっつってもよう。死なせたらいけないだろう」
「だな。抵抗の一つもしないってのはいいけど、なあ」

 男達が笑う。びきり、と肉が爆ぜる音が聞こえる。

「しかし、惜しいなあ、こんだけの女が自分で腰を振るとかないぜ」
「そうだよなあ。もうちっと飼ってもよかったよな。ほんと、ありえないくらい従順だったのにさ」
「これで袁家の将軍だってんだろ。いやあ、俺、こっちに来てよかったわ。
 こんな美人で具合よくて従順でさ――」

 砕けろとばかりに力の限り握った三尖刀。ばきり、と何かが壊れる音が脳髄に響く。喪失感を万能感が塗りこめていく。視界が赤く染まる。紅に、朱色に。そして、吼える。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 紅を浴びて撒いて散らす。襲い掛かってくる肉塊を散らす。それでも足りない。足りない。逃げ惑う肉塊を斬る、叩く、叩く。肉塊を叩く。かつて人であった塊をそれでも叩く。塊が散って、しまう。溢れる奔流の捌け口を失って、項垂れる。

「ちくしょう、ちくしょう。ちくしょう・・・!」

 慟哭する。取り返しのつかないことに、俺はどうすることもできない。ひたすらに、ひたすらに慟哭する。そして散っていく。仮初の力が霧散していく。喪失感だけが俺を支配する。

「ちく、しょう・・・」

 激昂すら霧散。脱力感が全身を襲う。それでも、譲れないものがある。やらんといかんことがある。それだけが俺を正気にとどめている。

「若・・・?」

 いつの間にか合流した雷薄の声に頭を振って意識を覚醒させる。

「いかんな、姐さんを綺麗にしてやらんと・・・」

 雷薄と、韓浩にこの場を任せて姐さんを抱きかかえて水場へ向かう。きっと一秒でも生き残ろうとしていたのだろう。生き足掻こうとしていたのであろう。生き残ったもんが勝ちだというのが姐さんのモットーだったからな・・・。賊に媚びてでも、それを貫いていたのだろう。味方の合流のための時間稼ぎをしようと全力で挑んでいたのだろう。

「間に合わなかった、ですよ」

 ツン、と鼻梁に込み上げるものを食いしばる。
 水辺に葬る。姐さんは水遊びが好きだったから。きっと喜んでくれる。そして、悼みに来よう。そして。

「くそ、くそ!くっそう!うう、う、うう!」

 激昂する意識。嗚咽を堪える裏で冷えた声が響く。そう、これは俺を狙った謀略なのだ。たまたま姐さんがその網にかかっただけ。これを仕掛けた奴にとっては軽い警告くらいのつもりであろう。

「喧嘩、上等。高く、高く買い取ってやる・・・」

 俺に売ったその喧嘩、買ってやる。誰に売りつけたかを後悔させてやる。尚も激昂する意識と裏腹に脱力していく身体。膝をつき、意識は薄れていく。だが、この喧嘩を売りつけてきた奴を俺は、絶対に許さない。この恨み、晴らさないではおかない。
121 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:26:47.69 ID:6BhA6RWmo
 暗い天幕の闇の中。どれだけうずくまっていたのだろう。何をするでもなく、何も出来ず、俺はうずくまっていた。こんな姿を隊の皆に見られる訳にはいかない。指揮官はいつだって平然としていなければならないのだから。頭ではそんなことを思っても、何をする気にもならない。したくもない。
 何をしたって姐さんは帰ってこないのだ。身体を何か得体の知れないものが覆っている気がする。全身を痛みが、悼みが駈け、無力感と脱力感が巡る。とは言えいつまでもこうしている訳にはいかない。頭ではそう分かっているのだが。
 ふぁさ、と、天幕の入り口が開けられる音がする。

「・・・っ!入って来んなつったろうが!」

 声を荒げて拒絶する。こんな姿を見られる訳にはいかない。

「二郎さま、お食事持ってきました」

 咄嗟に反応できない。なんで陳蘭がここにいる?そんなに時間が経ったのか?俺はどんだけ自失していた?
 靄のかかっていた頭が徐々に思考能力を取り戻していくのを感じる。

「――おう、すまねーな。そういや飯食ってなかったわ。
 置いといてくれ、ちょっとしたら食うからさ」

 俺の声は震えてないだろうか。陳蘭と目を合わせることができない。誤魔化すように伸びをしながら、立ち上がろうとする。ぐらり、とふらついた俺を陳蘭が支える。
 がしゃん。音を立てて飯が落ちてしまう。だが、ちょうどいい。食欲なんてあるはずもないんだ。

「あ、悪いな。せっかく持って来てくれたのにな」

 どうにも月並みな台詞しか出ない。いや、そんなに洒落た台詞を吐くキャラでもなかったしいいや。陳蘭がもう一度食事を取りに行っている間に本格的に再起動しないと。そう思いながら更に適当な戯言を吐こうとしたのだが、ぎゅ、と抱きしめられてしまった。
 ふわり、と女の子の匂いが鼻腔をくすぐる。

「大丈夫、です」
「な、何がだよ、俺は!」
「わたしは、ここにいますから」

 ぎゅ、と俺を抱きしめる腕に力が込められる。――その温もりに甘えてしまいそうになる。溺れたくなってしまう。甘えてしまう。溺れてしまう。

「く・・・。う、う、うぅ!」

 また嗚咽が漏れ出す。吐き出してしまう。

「俺が、俺がいたなら!姐さんは死ななかった!後続部隊がいるのに兵力分散とか愚の骨頂だ!
 俺が殺したようなもんだ!何が紀家の麒麟児だ!上司を・・・。
 惚れた女一人守れないじゃないか!」

 陳蘭の胸の中で俺は甘える。自らを責める言葉。それらは全て甘えだ。それでも、口に出してしまう。

「泣き言なんて情けないよな」
「いいんですよ。わたしは二郎さまよりおねえちゃんなんですから」

 口にした自嘲を優しく抱きしめる言葉が、嬉しい。

「だから、二郎さまを大切に思ってる人がいるっていうことも知っておいて欲しいんです」

 そう穏やかに言って、陳蘭はその唇を、俺のそれに重ねた。

「私のこと・・・、嫌いになりました?」
「昔も、今も大好きだよ・・・」
「嬉しい、です・・・」

 肌のぬくもりに耽溺していく。包んでくれる暖かさを貫いて慟哭を漏らす。怨嗟をため込む。
 ごめん、もう少し。もう少しだけ、甘えさせてくれ。ほんの少しだけ、眠らせてくれ。そうしたら、頑張るから。
122 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:27:32.54 ID:6BhA6RWmo
 戦闘の顛末を報告する使者を走らせる。始末書どころの話ではない。賊討伐に赴いて、だ。紀家軍最精鋭の梁剛隊の隊長が戦死なのである。これは責任問題であるからして。なので進退伺いを報告書に同封している。雷薄や韓浩に責を負わせるわけにはいかんからね。

 袁家からの使者が来たのは数日後だった。驚くべき早さと言っていいだろう。しかも、使者の格が違った。

「黒山賊の討伐、ご苦労さまでした。母上も満足されておりますわ」

 なんと、麗羽様――次期袁家のトップである――が使者とは予想外である。使い走りさせていいような人材ではないし、格でもない。などと考えているのを見抜いたのか、にこり、と微笑みながら口上を続ける。

「賊の奇襲に対し、一人で相手を殲滅したこと、まことに天晴れ。
 流石紀家の跡取りは武において比類ない。母上はそうおっしゃっております」

 ・・・む。

 絶句する。これは更に予想外のお言葉である。そんな俺を見て刹那、麗羽様の顔が微かにゆがむ。どこか痛ましげに。

「いや、お役目を果たしたのみ。袁家領内を荒らす賊は討ち果たす。お褒めの言葉を頂くほどのことでもありません」
「これは頼もしいことですわ。その意気やよし。しかして賊が跳梁跋扈しているのも事実。故に二郎さん。貴方には紀家軍再編を命じます。領内安堵と慰撫がその任となります。よろしくお願いしますわね?」

 おーほっほと響き渡る麗羽様の笑い声に武者震いが起きる。これまで平時に必要ないと分割されて長城へ派遣されていた紀家軍一万。その再編が命じられる。いずれは、と思っていたが随分早い。俺にそんな資格が、能力があるのだろうか。甚だ疑問であるのだが。
 思考の沼に沈もうとする俺の耳元で麗羽様が囁く。

「力をくれてやるからさっさと立ち上がれ。お二方からの伝言ですわ」

 嗚呼、なるほど。なるほど。師匠もねーちゃんも・・・落ち込むなんて贅沢は許してくれないということか。つまりそれが内外の最前線である袁家の幹部であるということなのであろう。紀家のトップに立つということなのであろう。
 瞑目する俺に、くすり、と麗羽様が笑いかける。

「そして。わたくしも、いずれ袁家頭領として立ちます。その時は応援してくださいますわね?」
「そりゃまあ、無論ですとも」

 袁逢様の後継争いというのは意外に熾烈である。多数派工作が今現在も繰り広げられているはず。まあ、兵を握っている文家、顔家、紀家の麗羽様支持は固いから多分安泰だけどね!でも実際麗羽様を予備にして、袁胤殿を当主にってのは結構バカにできない勢力なんだよなあ。
 本来は匈奴大戦の後に袁胤殿が当主になるはずが、使い捨てであったはずの袁逢様が予想外に武勲を挙げたのだ。軍幹部が壊滅状態であったから緊急措置として袁逢様が袁家当主となった。序列考えたらかしこき血の流れある袁胤殿であろうという主張は根強い。

「俺以下、紀家軍は麗羽様を支持しますとも」

 俺の返答に満足したのか、麗羽様はもっぺんあの笑いを場に響かせて――いや、ほんとよく響くのよ――場を去る。

「きな臭くなってきやがったな――」

 くい、と袖が引かれる。心配そうな陳蘭に笑ってやる。大丈夫だ、問題ない。何せほっといたら乱世が始まるからな。俺はそれを防ぐために力が必要なのだよ。落ち込んではいられない。いる暇はない。
 だって、俺が麗羽様を、袁家を支えなければいけないんだもの。俺がしゃっきりとしてなかったら、誰に付け込まれるか分かったものではないのだ。

 そうして、俺は南皮に華々しく凱旋することになったのだ。忸怩たる思いは別として。
123 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:28:16.34 ID:6BhA6RWmo
「随分とご機嫌のようだな、李儒よ」
「あら、分かる?
 望外の収穫だわ。やっぱり私自ら来てよかったわ」
「そうなのか?折角けしかけた黒山賊は全滅しただろうに」
「うふ、本当によく踊ってくれたわ。ええ、素晴らしいわ」

 その言いぐさに華雄は舌打ちを漏らす。どうにもこいつとは相いれない、いけ好かないのだ。いや、それを言うならばそのような人物を護衛せねばならない我が身はどうだと問うことになるのだが。

「うふ、貴女にも分かるように説明してあげるわ。
 今回私がここまで来たのは袁家の力を削ぐため。それはいい?」
「ああ、それは散々聞かされたからな。
 過ぎた力を蓄えたんだろう?袁家は。
 だが、今回はお前が・・・あんなことしてまで黒山賊を動かしたのにたった10人くらいの兵の犠牲しか出せてないだろう」

 華雄の問いに李儒はくすくす、と心底おかしげに笑う。

「それでいいのよ。数はどうあれ、黒山賊が袁家に害を加えた、というのが重要なの。
 これまで黒山賊と袁家は別に敵対していなかったわ。当然よね。必要もなく喧嘩を売るなんて、獣だってしないわ」

 ふむ、と頷く。だが華雄は更に問う。所詮黒山賊の一部が暴走しただけだろう、と。言外には李儒の示唆によってであろうという揶揄を込めて。
 その声に李儒はくすくす、と深い笑みをこぼす。

「袁家はそうは思わないわよ。領内を荒らされて面子も潰れたもの。
 そう思えないわよ。だから、黒山賊もこれよりは袁家と本格的に敵対しないといけないでしょうね。
 だから、最低限の成果は最初から約束されてたようなものなのよ。
 でも、今回はもっともっと色々火種を撒けたわ」

 む?と華雄が問う。

「と、言うと?」
「そうねえ。正直、紀霊みたいな大物が釣れるとは思わなかったもの。
 適当に小競り合いするだけでもよかったのよ。
 でも、そうはならなかったわ。幸いにも、ね」
「そういえばそうだな。確か、警備の兵とはかち合わないように貴様が調整してたのだったか」
「ええ、袁家内部から情報が来るとは思ってなかったもの。それを活かさないと、ね。
 袁逢を旗頭に袁家は一枚岩と言われてるけど、そうでもない。それが分かったのが一つ。
 そして、袁逢を疎んじる勢力は外患を招くほどに焦っている。しかもそれなりに力を持っている。
 これは貴重な情報ね」

 ち、と華雄はいらだたしげに舌打ちを漏らす。

「ふん、唾棄すべき奴らだな」
「ええ、貴女はそう言うでしょうね。だって紀霊が出てくる時期まで知らせてくれるんですもの。
 死地にご招待できてよかったわ。そのために色々仕込んだんですもの」
「ふむ。まあ、ずっと逃げ回っていたから本陣の警戒が緩んだというのは分かるが」
124 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:28:42.81 ID:6BhA6RWmo
 つい、李儒の話に引き込まれていて、華雄は内心舌打ちを重ねる。言葉を交わすほどに耳が、心が汚されていくようで。

「あら、意外ね、貴女がそこに気づくなんて。そうよ。だって後続の兵を待たれたらどうにもならないもの。
 そのために絶えず動き回り、逃げ続ける。だから攻めてくるなんて思いもせず、全力で索敵したものね。
 普通に考えたら、いい判断だと思うのだけれどもね」
「ふむ・・・。なるほど、村長に黒山賊の数を半分に言わせたのもそのためか」
「ええ、そうよ。相手が同数と知れば流石に兵力分散なんてしないでしょうからね。
 でも、50の賊なら最精鋭の梁剛隊なら30でも正面からぶつかっても勝てる。
 実際そうなったでしょうしね」

 勝ち誇ったような李儒がどうにも腹立たしいのだが、言っていることは確かなのだ。実際に彼女の思うままに盤面は展開していった。

「ふむ、なるほどな。だが、村で援軍を待ったら?
 それにたまたま今回は野営地の近くに伏せられたが、他のところに陣を構えたらあそこまで襲撃が上手くいかなかったろう」
「それをさせないために村を焼き払ったのよ。そしてあの村から北上すると野営地に相応しい場所はあそこだけ。
 そのためにあの村を襲うのを最後にしたのよ」

 悪辣な!その内心を漏らさないほどに華雄は器用ではない。

「なんとも性悪なことだな!だがお前の性格からして、人質を返すどころか金を握らせるとは思わなかったんだが」

 華雄の糾弾に李儒はくすり、と応える。

「うふ、よく見てるわね。それにも意味があるわ。
 袁家はきっとあの村に援助をするわ。でもね、援助が届く前に村はあのお金で復興するわね。
 当然、疑問に思うわね。すると分かるでしょう。徹底的に略奪、破壊された村がどうして自力で再建できるか」

 そうしたら、賊徒と結んでいたという結論が出るでしょう?助けに行った領民に裏切られたということになるでしょう?それは、とてもとても素敵なこと。そうして、それを知って袁家は民にその恩恵をもたらすのかしら?

「貴様、何を言っている?」

 李儒の毒言。触れるものを毒するその言は華雄にはある意味通じない。だが、何かしらの悪意があることは察知する。その本能で。

「うふ。でも、最大の収穫は紀霊の武を見れたことかしらね。
 てっきり紀家の御曹司としての上げ底の評価だと思っていたのだけれども」

 あの激情を、悲痛な慟哭をこいつに語らせるとこうにも醜悪に響くのか、と華雄は頭を振る。

「紀家に名高い三尖刀。それを振るう紀霊の武威は相当なもののようだ。それで?」

 個人的には手合せしたい。そう思わせるだけの武勇を紀霊は持ち合わせている。だが、前後の事情を知っていると話は別である。
 華雄の問いに李儒はくすり、と唇をゆがめる。

「ええ、そうね。名門袁家に息づく猛将。極めて厄介であると言えるわよね」

 袁家は力をつけすぎたのだ、と笑う李儒を華雄は嘆息交じりに見やる。重ねて思う。どうして自分がこのような奴の護衛をせねばならないと。

 ぽつり、と大地を穿つ雨粒はきっと涙雨なのだろう。華雄は李儒を置き捨て、馬に飛び乗る。後ろで抗議の声が聞こえるが知ったことか。
 黒幕気取りの李儒が華雄にはとても疎ましく思えたのである。

「毒婦、め・・・」

 その呟きを、遠くで響く慟哭を雨音が消し去っていく・・・。
125 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:29:21.70 ID:6BhA6RWmo
 怒涛のような歓声が響き、俺を包みこむ。そう。俺は南皮に凱旋した。そう、凱旋だ。袁家領内を荒らしまわっていた賊百名を一人で殲滅した英雄ということになっている。
 なるほど。奇襲を受け、指揮官が討ち取られるも、単騎で駆け戻り賊を討伐する。紀家の麒麟児は武においてもまた素晴らしい。そんな筋書きが湧いてくるのには納得である。納得ではある。姐さんは所詮紀家の陪臣だったからなあ・・・。それに俺の立場を強化するという意味もある。だから納得するしかない。だが、思う所はあるのだ。あるのだよ。くそう。

 長らく平和だったからだろう。適度に危険の香りのするこのエピソードはあっという間に広まった。何も知らない者は歓呼で出迎え。ある程度事情を知るものは咎めるような視線を向け。更に深く知るものは道化として俺を見るだろう。造られた英雄。それが俺というわけだ。
 ――惚れた女一人守れない。それが俺だ。だから振り向けないし、涙を見せるなどもってのほか。感傷にひたる贅沢なんて許されない。
 そして、賊を皆殺しにした容赦のなさから異名も広まりつつある。

「怨将軍、ね」

 勇名である。いわば戦国時代の「鬼柴田」とか「鬼吉川」の鬼みたいな意味合いであるのだよ、怨というのは。まあ、持ち上げ過ぎだろうとか思うのだけれども、それだけの期待を受けているということなのであろう。それくらいは理解している。
 俺の凱旋の裏で囁かれる噂。麗羽様がいよいよ袁家の当主となられるらしい。引継ぎのためだろうか、袁逢様の姿をお見かけすることもなくなっている。体調が相当悪いのだろう。そして、ある日、袁家の主要な家臣が集められる。
 ここで麗羽様の後継を宣言するのだろうか?しかし傍流、反対派なども勢いを増しているのだがなあ。待ち合わせていた沮授と合流し、広間に向かう。

「しかし、麗羽様もいよいよかー、早いもんだなあ」
「ええ、そうですね。でも、今日はそれだけじゃありませんよ」
「あ?そうなのか?何があんの?」
「それはお楽しみということで」

 胡散臭い笑みのまま沮授が言う。こいつ、ほんといい性格してやがるよなあ。とりあえず蹴っとこう。うりゃ。おら。てや、てややー。
 などと沮授にちょっかいをかけていたのだが、後から思えば暢気すぎたのだよなあ。


「まあ、そういうことだったのかよなあ、と俺は脱力しまくりだのだよ」

 半ば呆然としたまま部屋に戻り、頭を抱える。沮授が意味深に笑うわけだ。流石だよ、流石だよ。つか、そんな一手は思いもよらなかった。

「ど、どうされたんですか?」

 陳蘭が茶を淹れながら問いかけてくる。よーし、おちつけ、KOOLになれ俺。

「やられたよ。あれもこれもこの日のためかよ。やーらーれたー」
「とりあえず落ち着いてください」

 淹れてくれた茶を啜りながら頭を整理する。うん、不味くはないが美味しくもない。いつもの陳蘭の茶だ。

「袁家の非主流勢力というのがあってだな」

 まあ、麗羽様を次期当主にしたくない勢力である。これが意外と手ごわいのだ。いや、流石に伝聞でしかないのだがね。そんな面倒な勢力と関わるつもりはないしね。麗羽様支持だけで十分だと思っております。奥向きのことにこれ以上関わるのは流石に俺の立場がやばくなるしね。越権行為にもほどがある。

「はい」
「それがまあ、非常に追い詰められつつあったわけだ。そりゃまあ、田豊様が腕を振るい、麗羽様が着々とその地位を固める。武家の文、顔が側近として仕え、紀うちとも関係は良好だ。
 そりゃあ、付け入る隙なんてないやな」
「そうですね」
「だから外部と結んだわけだ。
 外部にはこっちも手を出すのが難しいからな」

 忌々しいことである。まあ、追い詰められた勢力が外患を誘致するというのは歴史的にもよくあることである。なおその末路はお察しください。

「十常侍、でしたっけ」
「そうそう。黒山賊とも繋がってるだろうなあ。外患を誘致するなぞ愚の骨頂なんだがな。例え袁家の主導権を握ったとしても、現場おれたちがついていくものかよ。
 そういうことも分からないから主流派になれないんだな」

 なんでも反対の野党勢力が何かの間違いで政権を取ったらそりゃあ、国は乱れるよ。

「でも、それじゃどうしようもないですよね」
「だから、あえて袁家内に対立軸を仕立て上げたんだ」
「な、内部にですか?でも、麗羽様に対抗できる人なんていませんよね?」
「そう、だったんだよなあ」

 袁胤殿がその筆頭だ。特に外部――特に洛陽――とのパイプが太い。とはいえ、本来ならばそれはプラス要因だったのではあるのだが。実際今回の一件でそれが裏返ってしまった。その、絶妙なタイミングでの一手である。流石に狙っていたわけではないと思うのだが。

 俺は頭を振りながら、記憶を呼び起こす。麗羽様が当主を継ぐこと、それに従い、猪々子と斗詩がそれぞれ当主になること。
 それはいい。いいんだ。まあ、予想よりちっと早かったが既定路線だ。
 だが、そこに袁逢様がおいでになったんだ。病床に臥せっているという噂で、ここ暫く――半年くらいかなあ――はお姿をお見かけすることもなかった。
 その時。広間の空気がざわついた。
126 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:29:47.84 ID:6BhA6RWmo
「久しいわね、皆」

 袁逢様が声をかけられる。相も変わらず鈴をころがすような麗しいお声である。が、俺達は反応できない。なぜなら、袁逢様は一人ではなかったからだ。その豊穣たる、豊かな胸に、赤子を抱いていた。それに一同の注目が集まり、無言の問いかけが袁逢様に向かう。
 にこり、とその空気を読んだかのように袁逢様は言の葉を紡ぐ。既に場は袁逢様に支配されており、流石は袁家当主だと後から唸ったものである。

「そして紹介するわね。袁術。私の娘よ」

 嫣然と袁逢様がおっしゃる。どういうことだ?これは出席者のほぼすべてに共通した思いだろう。いや、落ち着け俺。袁術ってあれだ、確か三国志では袁紹の異母兄弟だ。
 じゃなくて!

「ふふ、皆驚いているようね」

 そりゃそうでしょ!不意打ちどころの話じゃないっての!

「この娘を無事産めるか分からなくてね、皆には黙ってたのよ」

 ・・・あー、まあ、確かに袁逢様のお体を考えたら非公開にするのも致し方ないと言える。かの孫堅も産褥にて儚くなってしまっているのだからして。なのだが。なのだが。これはあんまりでしょう田豊師匠・・・。仕える主、そして生まれてくるお子様すら政略の彩にするとか、非情すぎませんかねえ・・・。
 こんな手、思いつかねえよ普通。思いついても、普通、やるか?あ、普通じゃないか。俺の茫然自失具合を見たら高笑いされるか殴られるかどっちかだろうなあ・・・。あ、蹴られる可能性もあるか。
 などと口から魂を出しながら現実から逃避していた俺に更なる試練が!

「そして、守役には紀霊と張勲。よろしくね?」

 なん・・・です・・・と・・・!



「ええ、袁術様の守役、ですか?」
「おうよ。拒否権なんてねえな絶対」
「それって、いいことなんですか?」
「何とも言えない」

 実際何とも言えないのだ。麗羽様と俺の関係はいたって良好。しかしここで袁術様の守役になった。
 これは見ようによっては左遷だ。
 しかし、袁術様の後ろ盾としては申し分ない。仕立て上げられたとはいえ、英雄な俺と、張家の跡取り娘だ。あるいは袁術様を奉じて袁家を牛耳ることも可能。そう、係累に思わせることができるだろう。

「つーか、張家含む不穏な勢力を俺に抑えろ、ってことなんだろうなあ」

 むしろ特に張家、かなあ。

「ふぇ、えええ?」
「あー、田豊様マジ鬼畜。鬼だ。悪魔だ」
「じ、二郎さまなら大丈夫ですよ!わたしもお手伝いしますし!」
「ありがとな」

 あー、マジへこむわ。360度365日周囲が敵じゃねえか。せめて事前の打診とか欲しかったでござる。いや、その場合全力でお断りさせていただきたいのだけど。
 ――と、とりあえずは武力だ。紀家軍はもちろん、母流龍九商会の私兵も増やさねばいかん。あれこれと考えながら頭を回していると、来客を告げられた。

「張勲、だと・・・」

 袁家の闇を支配する張家。その次代当主たる張勲のご指名に俺は頭が真っ白、である。いや。どないせいっちゅうねん。俺、アドリブに弱いのよー?
127 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:30:42.86 ID:6BhA6RWmo



「ふん、ご苦労だったな」
「は」

 華雄は指令を果たしたという高揚感、それを打ち消して尚余りある忸怩たる思い。その、冷静と情熱の間で持て余した感情をどうしたものかと思いながら仔細を報告する。
 その懊悩を察したのだろうか、すさまじい威圧感が華雄の身体を縛る。

「なんだ、かなり不満そうじゃないかよ」
「・・・やはりあのような策は忌避したく」
「はは。おかしなことを言う。お前の任務は李儒の護衛。それ以上でも以下でもない。
 お前の見解など知らんな」

 冷然と切り捨てるが如く、響く。それには冷笑が含まれていると思うのは華雄の思い過ごしであろうか。

「無論、だ!一切口は出していない。それでも、それでもやはり承服しがたい」
「ほう。随分と愉快なお仕事だったらしいな」
「守るべき民草を蹂躙するなど、いくら袁家の勢力を削ぐためといえ、妥当とは思えん!
 それに、貴方は十常侍とは対立しているはずだ。なぜ十常侍の走狗たる李儒の護衛など申し付けたか!
 袁家の力が充実し、邪魔なら正々堂々と兵を起こせばいいではないか!
 黒山賊などという盗賊ごときの!片棒を担ぐなど!」

 怒号。しかしてその内実は哀願に近い。それほどまでに両者の力関係は隔絶している。少なくとも華雄はそれを理解している。
 そして、そのような華雄の哀願を聞いた男は笑みすらなく、淡々とした言の葉を紡ぐ。

「ふん、苦界に身を沈めてみるか?そんなこと言えなくなるぞ?
 ああ、それがいいかもしらんな。ま、現実と向き合うにはまだまだ足りんだろうがな」

 ニヤ、と笑う男に華雄は反発する。

「わ、私をそこまで愚弄されるというのか!」
「愚弄ではない。正当な評価だよ。
 武だのなんだのに拘ってる限り、お前は最強などには辿り着けんよ」

 華雄は反論できない。目の前の男の単純な武力。それに華雄はかつて膝を屈したのだからして。

「まあいい、お前の内面などには期待してなかったさ。
 ちゃんと、李儒は袁家に喧嘩を売ってきたのだろう?」
「――は。それに関しては間違いなく」

 ニヤリ、とした笑み。何進の笑み。滅多にない感情の発露にさしもの華雄も戸惑いを覚える。

「それでいい。袁家の勢力を削ぐとかはどうでもいいのさ」

 そのような華雄の思いを無視するが如く、更に笑みを深める。

「どういうことだ?李儒は色々火種を撒いてたようだが」
「クハ、それはどうでもいい。重要なのは十常侍が袁家に害を成したと言う事だ。
 今の袁家は日の出の勢いだからな。あのような小細工で止められるものではないさ」
「・・・よく、わからない」

 貴様はそれでいいとばかりに笑みを深めて言い募る。

「李儒の工作が十常侍の意思だというのは袁家に看破されるだろうよ。それに気づかぬくらいならば、逆にありがたかったのだがな。まあ、それはいい。そうすると、俺が差し出した手は限りなく貴重なものとなる。
 袁家と俺。同時に喧嘩を売るのはよっぽどの愚者だろうよ」
「・・・やはり、私に内向きの話は向いていないようだ」
「ふん、やはり一度輪姦でもされてこい。貴様に足りんのは弱者となることよ。視野が広がるぞ?」

 げらげら、と下品な笑い声を残し男が立ち去る。妹を使い、のし上がった成り上がり。肉屋の倅。彼を忌み嫌う者はそう言うのだ。
 漢朝に巣食う佞臣と言われ、権力をほしいままにするその男。事実上の漢朝の最高権力者。大将軍という並ぶものない地位を得た、魔都洛陽の実質的な最高権力者。

 その名を、何進、という。
128 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/23(月) 23:31:51.99 ID:6BhA6RWmo
本日ここまで

これにて第一部完となります

続きはちまちまと此方に投下
誤字脱字チェックと推敲したらなろうに投下いたします
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 23:44:13.97 ID:GqKphqwPO
乙です
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/24(火) 11:49:19.21 ID:qNzKSYqm0
オツ&ゴジホウコク(シンダメ)
>>118
>>一秒でも長く持ち応えるのだ。
○一秒でも長く持ちこたえるのだ。 もしくは持ち堪える 応えるの使い方は[期待に応える]という形になるのでちょっと違和感があります
>>126
>>「そして紹介するわね。袁術。私の娘よ」 間違いではないですが袁逢の娘ならそりゃ袁がつくよ…ということで
○「そして紹介するわね。公路。私の娘よ」 の方が自然かと思います。まあ読者としては袁術の方が分かりやすいんですけど
>>127
>>ニヤリ、とした笑み。何進の笑み。
中略
>>その名を、何進、という。
途中で何進、と名前は出さない方がいい気がしますね。ほかのところでは男、と表現してますし
>>ニヤリ、とした笑み。悪党の笑み。とか非道の笑み。とかの方が良さげなきもします

さて、私の嫌いなシーンベスト3ですよ(慟哭)まあこういうのがあったからこそより物語の好きなシーンが引き立つんですが(嗚咽)
もしかしたらこういった喪失を知らなければ二郎ちゃんはどこか現実感のないままだったかもしれませんしねえ
まあ李儒はぶち殺し確定として>>120の最後で激昂しながら気絶してたのに>>121で萎んでる二郎ちゃんですが一種の躁鬱状態になったのでしょうか?
李儒には地獄を見せるとして黒山賊に無謀な突撃をかますでも黒山賊絶対殺すマンになるでもなくヒッキー状態になった二郎ちゃん…現代人の精神力ならこんなものですかねえ
李儒死すべし慈悲はない。PS嫌いというか、理解はできるけど納得できないシーンでして、何とか姐さんには幸せになってほしかったと言うだけで決して作者および作品をdisるつもりはありません。李儒に災いあれ
131 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/24(火) 23:04:25.78 ID:KNfvXAcqo
>>130
いつもすまないねえ(おめめぐるぐる)

>さて、私の嫌いなシーンベスト3ですよ(慟哭)
好きなシーンと言われたらびっくりですよ(便乗)

>もしかしたらこういった喪失を知らなければ二郎ちゃんはどこか現実感のないままだったかもしれませんしねえ
凡将伝の世界観は、原作恋姫より殺伐としていますので……

>PS嫌いというか、理解はできるけど納得できないシーンでして、何とか姐さんには幸せになってほしかったと言うだけで決して作者および作品をdisるつもりはありません
いいええ、お気持ちはありがたくいただきます
ディスるとか、全くそんなことは思いませんので
本当にありがたく思っております

第一部完ですが今後ともよろしく……
132 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/11/24(火) 23:47:01.21 ID:KNfvXAcqo
あと、第一部のサブタイトル的なものを募集します

現状の案としては

・黎明編
・立志編
・とある外史の事前編
・外史序章

なんか、しっくりこないのですよね
ご意見いただけたら、と思います
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/11/25(水) 09:17:04.68 ID:3dzzfv9T0
胡蝶の羽ばたき編 この世界が夢か現か分からないことと主人公の行動によるバタフライエフェクト的に
凡人の小さな足掻き編 でも基本二郎ちゃんはいつもあがいてるか
袁家転換期 歴史から見ても外史から見てもここが転換期という事で
袁紹、その道の始まり もういっそ彼女が主役でいいんじゃないか(オイ)
134 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/11/25(水) 22:18:15.52 ID:TGLj8j4Do
>>133
案ありがとうございます

下積み編
袁家編
袁紹編

このあたりでも面白いかもですね
もちっと練ってみます

まだまだ募集しております
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/04(金) 08:57:33.14 ID:OXjqZCJ/0
袁家編と袁紹編は…この先もその二つはメイン張る位置にいるだろうから
下積み編がいいかもね
立志編、隆盛編、立身編
とかどうでしょう
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/06(日) 12:52:10.88 ID:IKmj46CMO
胎動編 色々なものが動き出す前準備とその後の波乱を予期させるいうことで
接触編 様々な人との接触からはじまるということで。その後発動篇が…

没ネタ はじめの一歩
4部構成だったら 無印・R・S・SS、始・続・終・余
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/06(日) 22:27:01.56 ID:yILyDwIs0
竜堂兄弟乙
四部構成と聞いて
始まりの風、激流の水、戦争の火、治める土。とか考えたけどどことなく四天王っぽくなってしまった
138 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/12/06(日) 23:07:20.45 ID:ivXQPK87o
>>135
>立志編、隆盛編、立身編
どれもいいですね!
でも隆盛編なんて転落間近っぽいw

>>136
>胎動編 色々なものが動き出す前準備とその後の波乱を予期させるいうことで
おー、一番しっくりきたかもです
これで仮確定としときます

>接触編 様々な人との接触からはじまるということで。その後発動篇が…
やめてください外史が壊れてしまいますw

>4部構成だったら 無印・R・S・SS、始・続・終・余
なのはさん、いい加減結婚しても誰も文句言わないと思います
そしてあの作品はもうエタったと思っていいのかなあw

>>137
>始まりの風、激流の水、戦争の火、治める土。とか考えたけどどことなく四天王っぽくなってしまった
なぜか南斗五車星を連想しました
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/10(木) 08:55:33.89 ID:vwJcrpxd0
人気投票から除名されてしまったユーノ君ェ
140 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/14(月) 22:23:18.90 ID:HH8h3xJAo
 本日は晴天なり。日輪がもたらす暖気は暑くもなく寒くもなく。実に快適な旅路を提供してくれている。遥か彼方の地平線さえもが見渡せるほどに澄み切った空気。時折寄せる砂塵も大人しいものである。黄塵、舞うも儚げなり、と。
さて、現実逃避もほどほどにしようか。

「七乃ーあれはなんなのじゃー?」
「あれは、枇杷という果物ですよー
 葉もお薬になったりするんですよー
 だから、お医者さんの庭にはよく植えてありますねー
 実も甘くて美味しいですから後で食べましょうねー」
「分かったのじゃー。七乃は物知りじゃのう。
 でもどうして道沿いに色々な木が生えておるのじゃ?」
「道行く人が自由に食べられるようにですねー
 誰でも取っていいから、地元の人が集めて売ったりして
 お小遣いにしたりもしてますよー」
「なんと、早いもの勝ちということじゃな!
 早く取ってしまわんと食べられなくなってしまうのじゃ!
 七乃、急ぐのじゃ!取ってきてたもー」
「はいはーい、後で手配しますから安心してくださいねー」

やいのやいのと賑やかなことだ。この二人は馬車の中でずーっとこの調子で騒いでいる。あー、俺、馬にしとくべきだったかなあ……。ため息が漏れるのを誰が責められようか。いや、ない(おざなりな反語)。

「二郎さーん、なに辛気臭い顔してるんですかー?
 欲求不満ですかー?
 美羽様がおねむになったらちゃーんとお相手しますからー
 ね?」

 責めてくる人がいました。見た目は美少女、中身は混沌!這い寄る張家の跡取りこと張勲、真名を七乃という腹黒系女子である。

「ね?じゃねえよって。どんだけ俺は飢えてんだよ。誘うにしても、もちっと考えろってばよ」
「いやあ、そろそろ溜まってるころかなー、と思いまして。
 ほら、男の人って二日で欲求不満になるらしいじゃないですか」

 どこで仕入れたその知識!割と正しいぞ?

「七乃ー。溜まるって何が溜まるのじゃー?」

 不思議そうに美羽様が七乃に問う。いかんいかん。この場には純真無垢な幼子(おさなご)がいるのであった。

「美羽様にはちょーっと早いかなー?」
「だったらあえて口にするなよ!」

 にんまりと微笑むその表情は慈母のように見えるが、個人的には極めて胡散臭いなあと思うのである。と思っていたら目が合った。

「まだ口にしてませんよー?せっかちですねえ。
 そんなにおねだりされたら、仕方ないなあ。
 美羽様はちょーっとあっち向いててくださいねー」
「わかったのじゃー」
「ええかげんにしなさい!」

がおーっと叫ぶときゃーっと笑う主従。

つ、疲れる……!

しかしなーんか、七乃とも馴染んじまったなあ。と、俺の部屋を訪ねてきた当時のことを思い出すのであった。
 いや、当然警戒はしてるよ?してるってば。
141 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/14(月) 22:24:05.31 ID:HH8h3xJAo
現在俺の名は若き英雄、怨将軍として袁家領内では知れ渡っている。どうせなら虚名であっても利用しちまえ、ということで積極的にプロデュースしてみたのである。
講談師や流しの芸人にお手軽な英雄譚として話や楽曲を提供したら広まる、広まる。最近では阿蘇阿蘇(アソアソ)に姿絵入りでお話の連載も始めた。
なにこのリアル二郎真君似のイケメンって感じの絵姿だから、かえって街をぶらついてもばれなかったりする。
皆平和で退屈してたんだろーなー。匈奴の侵攻以来大規模な軍事的衝突なかったし。
……麹義のねーちゃんやうちのとーちゃんが未だに英雄扱いなのもむべなるかな。ねーちゃんと田豊様なんてまだ現役だかんなー。

以上、現実逃避である。

「はじめましてー、と言ったほうがいいと思いますー?」
「俺に聞くなよ俺に。そっちが避けてたんだろうが」
「あちゃー、ばれてましたかー」
「あんだけ露骨なら当たり前だっちゅうの」

あはー、と笑うのは張勲。張家の跡取り娘だ。
諜報を一手に担うという情報機関。それが張家。できればお近づきになりたくなかった存在である。いや、俺の立場からしてそれは無理だと分かってはいるのだけんども。それでも、だ。そんなおっかないとこには近づきたくなかった。
んで、どーせだ。きな臭い話に決まってるからとりあえず自室に招き入れたのだ。少なくとも俺と張家の跡取りが怪談――じゃなくて会談していると知られたら色々面倒なことになるのは必定。目の前でにこにこ笑っている娘さんはそれも狙いなんでしょうけどねえ。
 ま、いざとなったら三尖刀でずんばらりんとやってもうたらええねんということで一つ。いや、俺だってやる時はやるのよ?武家だしね。と主張しておこう。

「で、何しに来たんだ?挨拶ってわけでもあるまい」
「半分はそれですよー?
 一緒に美羽様を支える守役じゃないですかー。
 きちんとご挨拶をするのが筋かなーと思ってですねー」
「ああ、そりゃ結構なこって。はいよ、よろしく。お帰りはあちら」
「あれー、残り半分は聞いてくれないんですかー?」

 ありゃー?と戸惑う表情が本気そうで、読めない。心胆とか察せるはずもないしね。しょうがないね。凡人だもの。ここは塩対応待ったなしである。

「興味ないからいい」
「随分つれないですねえ。まあ、身から出た錆ですかねー」

 こいつ。本気で分かっているのかいな…………。

「ああ、言っておきますけどね。黒山賊の一件に張家は手出ししてませんよー?」
「――お前らが直接手を下さないってのは先刻承知さ。だが、止める手立ても打たなかったろう」
 
 じろりと張勲をにらむ。そうだよ。張家はきっとあの襲撃について情報を得ていたはずなのだ。それを知らんとは言わせん。言わせるものかよ。

 うーん、と言った風に逡巡して、にこやかに応える。

「あからさまに紀家に肩入れするわけにもいかないですしー」
「肩入れどころか足引っ張ってたじゃねえかよ」
「えー、そんなことないですよー。ただまあ、ちょーっと相手が悪かったですかねー」
「十常侍以外に誰かいるってことか」
「はい、そうですー。それで、残りの半分を聞いて頂けたら、なんでも教えちゃいますよー?」

 にこにこと笑う張勲。その凄味にいまさら気づく。捨て身、とはまた違う。こいつは、自分が今俺にぶち殺されることすら計算の内に入れて立っているのだ。その覚悟が尊いとは思わないが、ね。
 まあ、裏は張紘に当たらせたらいいか。
142 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/14(月) 22:24:41.57 ID:HH8h3xJAo
「で、残りの半分ってなんだ」

 俺の問いかけににんまりとした笑顔で張勲が言う。

「命乞い、ですー」

 は?なに言ってんのこの子。

「はあ?何言ってんのお前
 俺は何か、殺人鬼かなんかか。
 出会っていきなり命乞いとか意味分からんぜ」

 正直、こいつ含めて張家の粛清も考えたけどね。流石に無理っぽいからね。しょうがないね。

「いえいえ、怨将軍の容赦のなさは知れ渡ってますからー
 ちょーっといきなりばっさりやられても不思議はないなーと」
「やんねえよ何かその気もないではなかったけど失せたから帰れよ」
「あはー、それはそれでありがたいんですけど、瞬間的なものじゃないですかー
 ですから、永続的な安全宣言を頂きたいなー、と思ってですねー」
「なんだよそれ……」
「もちろん、無条件(タダ)というわけじゃありません」

 どーんと身を乗り出してくる張勲。顔が近いよ。いやまあ、普通に美少女だからかまわんけどさ。

「なんと、私の身体を貴方にささげちゃいますー。きゃー言っちゃいましたー!」

 ちょっとまて話が見えないぞ?

「いやー、それがですね。私、結構敵が多くってですねえ」
「そりゃまあ、そうだろ」
「どうせなら紀霊さんの女、愛人、情婦、肉奴隷、まあ表現はなんでもいいですが。
 ただならぬ関係になったら手を出してくる勢力に対して牽制になるなあって。それもすこぶる有効な、です」

 待ってちょっと待って。ほんと、ちょっと待って。色々待って?

「ちょっと現状把握できていないのですがそれは」
「それにー、結構紀霊さんって情にもろいタイプだからー、自分の女なら積極的に守ってくれるだろうなーって」

 ぐいぐい攻めてきますやん。そして……否定できないのが辛いとこだな。――っていかん。話のペースを持ってかれっぱなしだ。

「ですから、ね?」
「ね?じゃねーっての。こっちに何も益するとこないじゃねえか」
「えー、そんなことないですよー?
 美少女で名家の令嬢、しかも処女が奪えるんですよー?
 男なら奮い立つとこだと思うなー」

 おい。おい。

「自分で処女とか言うなよ、逆に萎えるわ。しかも確かめようないし」
「えー、疑り深いですねー、信じてくださいよー」
「張勲、お前を信じる理由が見つからない」
「やだなー、張勲だなんて、他人行儀ですねえ。七乃って呼んでくださいよー」
「知らねえよってそれ真名かよ軽いなおい!」

 あれ、こんなに軽い扱いじゃあなかったと思うんだが、真名って。俺が言うのもなんだけど。こう、命よりも重いものじゃなかったっけ?

「そんなことないですよー?真名を許したのは紀霊さんが初めてなんですからー」
「おいおい、いっそ清々しいくらいに嘘くさいな。家族とかどうしてんだよ」
「我が家は、そういう馴れ合いなんてないので、娘、お父様と呼び合ってます。
 名前なんて呼ばれたことないですねー」
「なんだよその家庭環境。さらっと重いなおい」
「というわけで、七乃って呼んでくださいね?」
 
 にこり、と笑う七乃。あかん、こいつ相手にペースなんて取り戻せないわ。そしてなんでか、蜘蛛の巣にかかってしまった自分を幻視してしまう。

 あれ、なんか俺。詰んでね?
143 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/14(月) 22:25:48.78 ID:HH8h3xJAo
本日ここまでー

明日もやります

感想とかくdしあー
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 22:40:30.32 ID:dXe/UMilO
乙です
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/15(火) 09:10:39.76 ID:FkvRiGXAO
乙。

>三尖刀でずんばらりん

…某TRPGのアーチーを思い出したw

何か…パターン的に…ここから、ハーレムキングへの始まりのような…悪寒…
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/15(火) 10:55:38.26 ID:5hKy2NyA0
乙ですー
誤字が…見当たらない!?そんな馬鹿な!!
とりあえず無理やりにでも
>>140
>>どこで仕入れたその知識!割と正しいぞ?
○どこで仕入れたその知識?割と正しいぞ! の方が?マークと!マークの意味としては正しいような気がします
>>141
>>「随分つれないですねえ。まあ、身から出た錆ですかねー」 …三国時代でことわざって通じるんですかね?しかも主人公じゃない人が使ってますけど、原作恋姫ではどうだっけ?

空っぽの操り人形に芯が出来ましたね、ただこれってもしかすると超勲としては弱体化したのかもしれませんねえ
空っぽで何もかもに価値を見出さないからこその強みが失われたとも言えますし…でもこの方がずっと好感が持てますよね
後の問題は先代の六さんがこの変化に気付くかとどう対処するか、ですかねえ
147 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 21:29:37.74 ID:a8pHVNnEo
>>145
>…某TRPGのアーチーを思い出したw
わが青春のソードワールド……
GMしてて、出してはいけないと思ったモンスター
バグベアードとアイアンゴーレム
全滅案件でした(笑)

>>146
>誤字が…見当たらない!?そんな馬鹿な!!
寝言も、誤字脱字も、卒業したんやで……

>空っぽの操り人形に芯が出来ましたね、ただこれってもしかすると超勲としては弱体化したのかもしれませんねえ
公式で「本気になったら天下が取れる」という隠れチートな七乃さん
彼女が本気になるのはやはり美羽様絡みというお話であります
本編では本気にならず、敢えて如南袁家を滅ぼしにかかってましたが……

> …三国時代でことわざって通じるんですかね?
故事成語、言い回しについては考え出すと難しいところはあります
故栗本薫先生が、グイン・サーガの後書きで、「伊達ではない」とかそう言う言葉については異世界なのだからあり得ない云々と語っておられました
結論的には……どうだったっけかな
馬についても、ウマという生物で馬に極めて近いけども馬と同一ではないとかどうとか語ってらっしゃいましたねえ
まあ、凡将伝においては、「何か違う言語で書かれたのを現代の日本語に翻訳した」ということで、一つ
そんかしカタカナ表記は封じておりまする
148 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 22:43:47.10 ID:a8pHVNnEo
「というわけで、七乃って呼んでくださいね?」

その笑顔は輝くばかりに眩しいのだが、どうにも胡散臭いものを感じてしまう。そりゃねえ。年相応な感じで笑ってくれているのだが、如何せん背景が厄い!実際どう考えても騙しにきているとしか思えないんだよなあ…………。
などと思いながら張勲――七乃――を睥睨すると、もじもじしながら上目遣いでこちらを見つめてくる。

「あ、あの、二郎さんって呼んでも、いいですか?」

 つい、頷いてしまう俺。
すると、へにゃり、と笑顔を浮かべてこんなことを言う。

「よかった。私、他人の真名を頂くの、初めてなんです」

 く、あざとい。あざといまでに可愛いぞこいつ!自分をどう見せたら一番いいか分かっているタイプの攻め方だこれ!でも流されちゃう!

とまあ内心煩悶しまくりな俺だったのだが。

「ほんと、二郎さんってちょろいですねー。
 まさかこんなに上手くいくとはおもってませんでしたー」

 おい、おい。

「か、返せ!俺の純情を返せ!この、悪女!」
「えーひどいですよー。それに嘘は言ってませんよー?」

 待て待て。真名を交わすのが初めてとかそれはないでしょう。常識的に考えて。いや、張家というのを考えたらそれも妥当なのか?という気もする。

「いちいち重いよ!微妙に真実っぽいよ!」
「やだなー、二郎さんに嘘なんてつきませんってばー」

 くすくすと、どこか可笑しげに笑うその笑顔は無垢っぽくて。どこか諦観を感じさせて。それでも強い意思の光を宿している。俺の一言一句に対しての反応。俺が何かするたび。いや、何もしないでも一秒ごとに絡め取られていくような錯覚に陥る。
 困ったことに、それが不快ではないのだ。悪意とは無縁と思うのだ。きっとね。

「わ、わかった。分かったからとりあえず一度帰ってくれ」
「えー、駄目ですよー、きちんと奪ってくれないとー。
 こういうのって、機会を逃すと次は難しいんですからー。
 ほら、勢いでこう、ね?」
「ね? じゃねえっつの。そんな気になんねえっての」
「一応、出来れば週一、少なくとも月一回はお情けを頂きたいんですよー」
「なんだよそれ!義務感で同衾するとかやだぞ俺!」

 男の子は繊細なんやぞ!義務とかなったら勃つものも勃たんわ!

「だってー、唯でさえ身体だけの関係じゃないですかー。
 やっぱ定期的に情を交わさないといけないと思うんですよねー。
 あまり期間が空くとよくないと思うんですよー」
「自分で身体だけの関係とか言われたらこっちも困惑するわ。
一理あるけどいつの間にか丸め込まれてる感が半端ないぞ」

 俺の言い様にくすくす、と笑みを深めてこちらを見やる。

「ふふ、でもね、二郎さん?」
「なんだよ」

やさぐれ気味に答える。翻弄されっぱなしだ。なんだかなー。
149 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 22:44:29.75 ID:a8pHVNnEo
「でもでも、思うんですけどね。ほんと、二郎さんって不思議な方ですよねー」
「何がだよ。なんだよそれ。」

 褒められている感じもしないが貶されている感じもしない。つまり、どういうことだってばよ。

「んー、何というのかなー。
 正直、もっと怖い方なのかなーと思ってたのですよね」
「んだよそれ」
「いえ、所詮戯言ですし、お気になさらずに」

 てへり、と愛嬌をふりまく姿が普通に可愛いのだ。が、それ故に凄味というか、怖いよこの子!

「気にするなと言われると余計に気になるっての」
「女の子は、謎めいているくらいが魅力的。みたいな?」

 貴方のお父上がおっしゃってたそうです、とか適当に煙に巻かれてしまう。いや、とーちゃんならそれくらい言ってそうだぜ。

はあ、とため息をつく。なんだろうなあ。なんか、もっとギスギスとしたやり取りを想定していたのだ。手強いのは手強いんだが、ベクトルが想像と違うと言うか。

「まあ、その気にならなくても、手付けに唇くらいは受け取ってくださいね」
「は?」
「もちろん、唇を許すのも、初めてなんですよ?」

と、俺の唇に七乃のそれがふわり、と押し付けられていた。





眠気を伴う事後の余韻。心地いい感覚に身を委ねながら、俺は七乃の身体をなんとなくまさぐる。情欲を伴うものではなく、後戯というやつだ。
そんな俺に甘えるように七乃が身を寄せる。このまま眠気に身を任せれば、また甘く、淫蕩な関係が始まるのだろう。だが、それでも俺は問いかける。問いかけざるを得なかった。

「で、どうして俺に抱かれたんだ」

その言葉に七乃は答える。

「決まってるじゃないですかー。
 美羽様のためですよー」

その言葉は意外で。予想外だった。

なん……だと……。というか、どうしてそうなる。

「そんな顔しないでくださいよー。
 つまりですねー、二郎さんを篭絡しないと美羽様が危険だな、と」

 む?

「なんでだよ。俺は美羽様の守役だろ」
「んー、そうなんですよねえ。
 でも、どちらかと言うと袁紹様に近いお立場でしょ?」

 ちらり、と視線を散らす七乃。その笑みは深く、張りつめている。ように思う。

「まあ、仲は悪くないな」
「悪くないなんてもんじゃないでしょうにー。
 で、まあ今回の人事の肝ですが。美羽様の周りに袁紹様へ不満を持っている人達が集められてますよね?
 表面的には張家も含めてですね。
 それを二郎さんが抑えるという格好ですよね」

 ふむ。そういう一面もある…………というか、そういうことだなあ。袁家の奥底に眠るマグマの蓋が俺ということになるのか。
150 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 22:45:11.64 ID:a8pHVNnEo
「まあ、ぶっちゃけそうだな」
「つまり、逆に、ですよ。実質美羽様は反袁紹勢力の旗頭ということになりますねー」
「それを俺が抑えるとか正直田豊様は鬼だよな」

 麗羽様に何かあった時のための美羽様。その後ろ盾に立てということなのであろう。いや、普通に麗羽様に助力させてくれって。

「鬼なんて生やさしいもんじゃないと思いますけどね。
 それはさておき、です。私が二郎さんの立場なら美羽様を殺しますね」
「は、はあ?」

何を言っているんだこいつは。

「その容疑者ということで私をはじめとする不穏分子を一掃します。
 見事粛清完了ですねー。
 袁家は袁紹様の下で一致団結、めでたしめでたし。ですよ。
やったぜ、ですね」

 いやいやいやいやいや。

「いや、その場合更に俺が粛清されんだろ」
「いえー、美羽様を守れなかった責は不穏分子を粛清した功で購えます。
 怨将軍にまた一つ派手な挿話が追加されますね。
 それに、正直不穏分子が一掃されれば美羽様の存在価値だって大方無くなります。
 むしろまた混乱の種になるんですよねー」
「……不穏分子を糾合するためには美羽様が必要である、と」
「そういうことですねー。ですから、美羽様含めて一掃するわけです」

絶句する。そんな俺を可笑しげに七乃は笑う。その笑みは軽くて、深いように見える。そして試すような、縋るような視線をくれながら言の葉を。

「私もですねー、実際ただの駒と思ってたんですよー。
 でもですねー。こう、袁逢様から預けられて、です。美羽様を抱っこしたんですよー。
 そしたらですねえ、ほんっとに美羽様ってかわいいんですよ!」

急にヒートアップする七乃。えらい剣幕で美羽様の可愛さについて語る語る。

「私の顔を見て、笑ってくださったんですよ!
 それでね、指をちゅぱちゅぱとしゃぶるんですよ!
 ああもう、あんなにちっちゃいのに一生懸命で!
 お乳なんて出ないのにー。正直なんで私は母乳が出ないかと思いましたよ!
 それで、また、きゅ、と握るんですよ私の指を!
 もう、お可愛らしいったらないですよー!
 それにね、美羽様を抱っこしてると、こう、暖かいんですよねー。ふにゃ、ってしていて、本当にお可愛らしい!
 ああ、私はこの方にお仕えするために生まれてきたんだなーって思ったんですよー」

力説する七乃さんである。言葉を挟むこともできやしねえ。なんだこれ。

「ああ、明日も……今からでも美羽様のお世話をしたいなあ。
 もう、美羽様なしでなんて生きていけません!」

 以下、四半刻ほど美羽様が如何に可愛いか理論を述べていた七乃なのである。ようやるわ。

「それでね、抱っこしてる時に思ったんですよー。
 美羽様の周囲で、美羽様のことを考えてる人間がどれだけいるのかなーって。
 そしたらですね、多分、私しかいないなーって思ったんです。
 でも、その私にしたって、二郎さんには嫌われてますし、いつ殺されてもおかしくないんですよねー。
 そしたら、美羽様は本当に一人ぼっちじゃないですかー。
 そんなの、あんまりじゃないですかー」

その言葉に反論できない。確かに美羽様……袁術に俺は特に思い入れはない。今この時点では。むしろ三国志の知識があるだけに疎ましくすら思うところだ。嫌だぞ帝位を僭称した勢力なんて泥船。
151 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 22:45:38.79 ID:a8pHVNnEo
「で、ですね。頼りにできそうな人って。…………結局二郎さんくらいしか思いつかなかったんですよー。
 ですから、せめて私を殺さずに済ませて欲しいなーって思ったんですよー。
 お味方になってほしいのはやまやまなんですけどね。それは期待薄ですしねえ」

分かります?と小首をかしげる七乃。

わかんねえよ。わかりたくもねえよ。
そう思う俺の甘さを嘲笑うかの如く七乃は詰め寄ってくる。

「ですから、お慈悲を、お情けを頂きたいんですよー。
 私にできることでしたらなんでもしますし、何をされても構いません。全裸で街中を徘徊くらいしますし、公開輪姦だって大丈夫です。 腕や足の一本くらいなら今すぐでも切り落としてください
 自分でするのはちょっと、その、怖いんですけど。
 でも美羽様を抱っこできなくなるから腕よりは足がいいなあ。それくらいは考慮して頂けたら、ありがたいですねえ」
「やめろって!」

 たまらずに、七乃の言葉を遮る。どうしてこいつはそんなに苦界に身を沈めようとするんだ。どうしてこいつはそんなに自分を大切にしないんだ。
まだまだ俺は甘っちょろいということなのだろうと痛感させられる。そして、七乃だ。

七乃を抱きしめる。抱きしめてしまう。
ほぅ、と七乃の口から溜め息が漏れる。

「お前に責め苦を与えて何になるよ。それより。もっとお前は有用だろうよ。
 ……張家の握ってる情報を流せ」

辛うじて俺はそう言った。

「はいー、了解ですー」

――即答しやがった。

「じゃあ、お前の言う不穏分子って誰だ。
 それと十常侍の他にいる敵って誰だ」

七乃はすらすらと名前を口にする。確かに袁家の重鎮と言ってもいい名前だ。
バランスを取って美羽様の後ろ盾になったと思ったら、とんでもねえな。
そして、七乃の口にした名前に俺は戦慄する。

「李儒、だと…………」
「そうですー、ご存知なんですか?流石母流龍九商店の情報網もたいしたものですねー」

違う。俺が持っている三国志の知識だ。が、なんとも難敵だ。
だが、覚えたぞ李儒。怨将軍の名が伊達じゃないことを思い知らせてやる。

「私が接触できる情報ならいつでもお調べしますし、提供いたしますよー。
 ですから、ね?」
「ああ、分かった。とりあえずは信用する」

沮授と張紘に相談しなきゃならねえな。正直俺の手には余りそうだ。と言うか、余る。

「今日はちょっと遅いのでここに泊まらせてもらってもいいですか?」
「ああ、好きにしたらいい。ちょっと寝台が狭いかもしらんが」
「ふふ、構いませんよ。あ、欲情されたならいつでもご奉仕しますからね?」
「今日はもう十分だっつの」

 くすくす、と笑む七乃の笑みは無垢さと妖艶さが共存していて。

「……二郎さん?」
「――ん?」
「自分じゃないぬくもりがあるって、なんだか不思議ですね」

そう言った七乃の笑顔が余りにも透き通っていて。俺の顔を見た七乃が吹き出すのを見て、こいつにはかなわんと思ったのである。
そして、多分それはずっとそうなんだろうなあと思った。
152 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/15(火) 22:47:55.82 ID:a8pHVNnEo
本日ここまでー
感想とかくだしあー

タイトルとしては「凡人と絡新婦」かな?「凡人と絡新婦の邂逅」だとちょっと冗長かな?
もっとよさげなのあったらそっちにします

また暫く書き溜めに入ります

エロシーン?
要望があったらノクターンに投稿しますよ
このスレ、R-18付けてないですしね
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/15(火) 23:01:51.08 ID:FQ+eoDTKO
乙です
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 00:17:03.11 ID:t6E4YihAO
乙。

現在恋姫各種を平行プレイ中ですが、正直袁術は ちゃんとした教育があれば国主として十分やって行ける感が個人的に強いので、紀霊さんが父or兄役で仕込めばと期待。
つか紀霊さん。流され過ぎwww
趙勲さんは暗部にいるから逆に袁術を守る為に自身も利用する。感心しますね
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 09:07:59.49 ID:Lre4Wc3io
乙でした

> 寝言も、誤字脱字も、卒業したんやで……
次はお酒からの卒業…

>「よかった。私、他人の真名を頂くの、初めてなんです」
美羽様「七乃に真名を許したのは妾が先なのじゃ」
七乃「えーっと(汗 そうそう美羽様は他人じゃないってことで」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/16(水) 12:48:16.44 ID:b5uzKi3S0
連日投稿乙でしたー
凡人がついに袁家の闇の中枢と邂逅しましたねー
その深さは分からなくても濃さは垣間見えたんじゃないでしょうか
七乃は…胡散臭いけど多分この胡散臭いのが素なんだろうな
演じるのが生活の一部になってるというか人形であることが根っこにあるというか
イロイロ考えると>>この方にお仕えするために生まれてきたんだな が凄く重いよなあ
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/16(水) 13:34:40.46 ID:RadF3EgOo
乙したー

ノクターンにも書いてくれるなら嬉しいなぁ
本編進めてもらいたいのが一番だけど
158 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/12/16(水) 22:17:52.66 ID:NFfjnimZo
澤さん、引退かあ

澤穂希 獲得タイトル

国内リーグ優勝 11回
リーグカップ優勝 3回
皇后杯優勝   12回

FIFAワールドカップ優勝  1回
FIFAワールドカップ準優勝 1回
オリンピック準優勝     1回
女子アジアカップ優勝   1回
女子東アジアカップ優勝  2回

FIFAバロンドール受賞 1回
FIFAワールドカップMVP 1回
FIFAワールドカップ得点王 1回
アジア年間最優秀賞    2回
日本女子サッカーMVP   2回
日本女子サッカーベストイレブン 11回

国民栄誉賞         1回

澤の前に澤なし、澤の後に澤なし


>>154
>正直袁術は ちゃんとした教育があれば国主として十分やって行ける感が
七乃さんはどう見てもまともな教育をするつもりがなかったみたいですからねえ。原作では。

>つか紀霊さん。流され過ぎw
基本的に二郎ちゃんは右往左往するのが持ち味です(断言)

>>155
>次はお酒からの卒業…
無理難題を申すな
あと、七乃さんは美羽様には適当に嘘をついていじくってます

>>156
>凡人がついに袁家の闇の中枢と邂逅しましたねー
ようやっと、って感じでございます

>七乃は…胡散臭いけど多分この胡散臭いのが素なんだろうな
疑い出すときりがない。それに疑ってもどうせ尻尾出さないだろうし敵わないくらいの気持ちでおります

>>157
>ノクターンにも書いてくれるなら嬉しいなぁ
>本編進めてもらいたいのが一番だけど
やりますねー
そんなに手間ではないですし
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/19(土) 08:49:09.19 ID:9RY0isFN0
七乃が袁術のことを美羽様って呼んでるから(真名を貰うの)初めてじゃ、ないじゃんって言ってるんだと思いますよ>>155さんは
160 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/25(金) 23:21:59.60 ID:+EqiI7aJo
「アーニーキー!」

文醜は声と共に紀霊の執務室に飛び込む。

「おー、どうした猪々子?」

 サボりか?と紀霊が目で問うてくるのを認めて抗議する。

「あー、ひっでーなー。違うって、今日はちゃんとお仕事だって!」
「なん…だと…!」

それを聞いた紀霊が目を見開くのを文醜は満足げに頷く。そして大成功!とばかりに胸を張る。なお、胸部装甲の厚みについては親友である顔良には遠く及ばないのは衆知の事実である。
 まあ、本人は全く気にしていないのだが。

「だってさー、ほら、アニキって袁術様の守役になったろー?
 するとあれだ。麗羽様とハバツが違うからテキタイカンケイになりやすいんだろ?
 でも、上同士がキンミツな関係なら問題ないって麹義さんが言ってた。
 つまり、アニキと仲良くするのはアタイのお仕事ってことだ!」
「大体合ってるけど、猪々子お前よく分かってないだろ。んで大義名分作っただけで仕事からの逃避に来てんじゃねえかよ」

こつり、と文醜の頭を小突く。ぞんざいな扱い。それが嬉しい。うひひ、と笑ってじゃれつく。構ってオーラ全開だな、などと苦笑する紀霊の様子に文醜は持参した爆弾を投下する。

「アニキー、これ、見た?」

そう言って文醜は懐から一枚の紙を取り出す。

「お、おう…。つーか俺が描かせたから、なあ…」

なんとも微妙な顔つきでぼそぼそと呟く紀霊の顔を見て文醜は満足そうに大笑する。
そして文醜が取り出したのは、人気沸騰中の姿絵だ。

「最初は誰だよこれって笑っちゃったよ」
「うるせーよ。その方が売れるんだよ。お陰で面会希望者が増えたよ。
 そんで、俺をみると『あぁ…』って微妙な顔しやがんだよ」

ぶすっとした顔でぼやく紀霊を見て文醜は更に呵呵大笑。

見る目のない奴らだなあ、と文醜は思う。彼女が思うに、紀霊の魅力は別に顔の良さじゃないのである。いや、別に不細工ってわけではないのだ。
内心フォローしつつ、思う。紀霊の魅力とは…全体の雰囲気であろうか。最近特にぐぐっと格好良くなったし、どこがどう、とは説明しにくいなあと煩悶する。まあ、何が気に食わないかと言うと、だ。ちっちゃい頃から恰好いいなあ、と思っていた男が急に持ち上げられていて、なんだかもやもやするのである。自分の方が先に眼をつけていたのだぞ、と。
 なお、袁紹と顔良は同着だからいいか、と思っている。

「見る目がないよなー、アニキはちゃんと格好いいのにさー」

 あれこれと複雑ながら、概ね憤懣というベクトルに収斂される感情を隠そうともしない文醜の物言いに紀霊は苦笑し、くしゃ、と文醜の頭を撫でまわす。その手つきが嬉しくて、自然に頬が緩んでしまう。

「ま、そう言ってくれるのは猪々子くらいだよ。さあ、この饅頭をお食べ」
「おー、ありがとー」

貰った饅頭にかぶりつきながら、文醜は思う。やっぱりアニキは最高だな、と。
そして、だ。散々、馬鹿にしたけど、アニキの姿絵、全部持ってるって言ったらば、どんな顔するだろうかと。
161 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/25(金) 23:22:28.53 ID:+EqiI7aJo
凡人の肖像 猪々子編でした
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 23:37:24.62 ID:cvnVTWLbo
乙です
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/27(日) 09:15:05.98 ID:YBcKJcsA0
乙でしたー
>>160
>>自分の方が先に眼をつけていたのだぞ、と。
○自分の方が先に目をつけていたのだぞ、と。

蓼食う虫も好き好きというかあばたもえくぼというか…
いや二郎の顔がどんなものかは分からないんだけどさ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/27(日) 09:53:05.95 ID:KBZJlzAAO
乙。

紀霊さん自身の顔は多分 平均的な中の中。
ただし纏う雰囲気やオーラが「修羅場を潜って来た」それ。
後細マッチョは確定。

…インテリヤクザ?(違

…麗羽やら顔良やらも紀霊さんの絵姿コンプリートしてたら面白いが(にまにま)
165 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2015/12/28(月) 23:14:26.75 ID:2GErPQ01o
>>163
>いや二郎の顔がどんなものかは分からないんだけどさ
フツメンくらいだと
顔面偏差値45-55くらい?

>>164
>紀霊さん自身の顔は多分 平均的な中の中。
大正解っす

>ただし纏う雰囲気やオーラが「修羅場を潜って来た」それ
なお、周囲の人物はもっとすごいオーラを出す模様

>…麗羽やら顔良やらも紀霊さんの絵姿コンプリートしてたら面白いが(にまにま)
こら!ネタバレは駄目って言ったでしょうw
166 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/28(月) 23:15:17.13 ID:2GErPQ01o
「ふぅ…」

顔良は軽く伸びをして、溜め息を漏らす。ようやく今日のお仕事の目処が立ったのだ。他の幼馴染よりも、かなり早い段階で家を継いでからは彼女の予想以上に多忙であった。
量はそれほどでもない。だが、自分の決断で家が動くというのは大変なことだ。
本当なら、文ちゃんに誘われるままに二郎さんのとこに遊びに行きたかったんだけどな、とため息をもう一つ。ううん、と伸びを一つ。そして。
そ、と引き出しから綴じられた紙の束を取り出す。色鮮やかな絵姿。どれもこれも紀霊を描写したものである。文醜がわざわざ、親友である彼女のために店に並んで買ってきてくれたものだ。

「文ちゃんは『こんなのアニキじゃねーよな』とか言って大笑いしてたけどね……。うん、文ちゃんとは違う意味で私もそう思う。だって…二郎さんはもっと格好いいもの」

 それでも、仕事の合間に取り出しては眺めてしまう。この気持ちに気づいたのはいつからだろう。いつから懸想していたのだろう。

「ふぅ…」

ちっちゃい頃は、憧れのお兄さんだった。でも、文醜みたいにお兄さん的な呼びかけをするのは嫌だった。
でも、お兄ちゃん、って呼んでみたかった。
でも、お兄ちゃんと呼んだら、彼との関係が兄と妹になってしまう気がしてしまって。

「お兄ちゃん、か…」

顔良は、思う。ちっちゃい頃は陳蘭と紀霊はきっと結婚するのだと思っていた。その陳蘭も顔良達の面倒を見てくれたお姉ちゃん的な存在である。二人のやり取りはとっても自然で、割って入る余地なんてなかったのだ。二人が男女の仲になったと知っても、ああ、そうかと納得したものだ。
むしろ遅かったと言ってもいいんじゃないかな?と顔良は思うのだ。傍から見ても、陳蘭の紀霊への想いは明らかで。真っ直ぐで。応援していたのだ。
だから、良かった、と心から祝える。でも、それは無理な話である。紀霊に限らず、顔良や文醜。勿論袁紹もだが、その婚姻というのには政略的な意味合いが大きい。
紀霊のお嫁さんになるというのは顔良の幼い夢でもあった。でも、顔良や袁紹はある意味、陳蘭よりも駄目なのだ。袁家の武を司る四家、その均衡が崩れてしまう。紀家が勢力を突出させてしまう。それを袁家は許さないだろう。それは自明の理であるのだ。そう、そうやって顔良は蓋をするのだ。

「うぅん」

どうも、仕事を再開する気にならないな、と顔良は思索を続ける。現実逃避とも言うが。そしてその議題は対匈奴戦。或いは匈奴戦役と言われる過去の激戦である。
武家四家中三家の当主が戦死するという袁家最大の戦い。そして間違いなく紀家前当主は大戦の英雄だった。少数の精鋭で匈奴の本陣を叩き、汗(ハーン)を討ち取り生還。功績から行っても袁家軍の頂点に立ってもおかしくはなかった。いや、それこそが既定路線であったのだ。
 だが、四家の均衡が崩れることを防ぐために彼は一線から退いたのだ。それでも、実務から遠ざかるのではなく、現場主義を貫いた。袁家領内を自ら巡回し、治安の回復に努めたのだ。
地味で、成果も中々目に見えない。だが、実務をするとその重要さが分かる。分かるのだ。戦後の袁家の復興は紀家当主とその配下が治安の維持に心血を注いだからだ、と。
今は昼行灯なんて言われることもあるけど、実務をしたことがある人は皆分かっている。紀家当主は、実際たいしたものなのだ。

「はぁ…」

話がずれてしまった。でも、確かなことがある。顔家当主になる自分と、紀家当主となる彼が結ばれることはないのだ。決して、ないのだ。
でも、だ。この、胸を焼き尽くしそうな想いは、どこに行ってしまうんだろう。
 どうなってしまうのだろう。

 そして、自分はどうしたいのだろうか、と自問する顔良であった。
167 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2015/12/28(月) 23:15:47.33 ID:2GErPQ01o
本日短いけどここまでー
明日は飲み会が浅ければやります
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/28(月) 23:55:43.06 ID:30fBz5vTo
乙です
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/29(火) 16:12:04.62 ID:DZLCpEu00
乙です
>>166
>>功績から行っても袁家軍の頂点に立ってもおかしくはなかった。
○功績から言っても袁家軍の頂点に立ってもおかしくはなかった。

ネタバレも何も>>161で 凡人の肖像 猪々子編でした と書いてますよ〜
次はきっと 凡人の肖像 麗羽編 になると薄々感じてます
それにしても絵姿より本物の方が格好いいとか…恋は盲目というやつか
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 07:53:01.68 ID:E41VUAK0O
麗羽様の絵姿ください
ちび麗羽様ならなお可
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 10:27:03.75 ID:IJ+LtjwAO
乙。

>大正解っす
うしっ!(ガッツポ

>ネタバレはいけません
え!?(困惑)
「こうだったら面白いだろーなー」
で書いたんですが…
自重を検討します(自重するに非ず)
172 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/01(金) 10:57:35.61 ID:A8jDNEUr0
あけましておめでとうございます
今年も楽しく拝読させていただこうと思います
173 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/01(金) 12:18:32.51 ID:XPpejUuYO
あけおめー
今年は董卓編まで行けるかな?

考察とか長文は歓迎だったと思うけどリライト前を知ってる人はネタバレに注意してくれると嬉しいなって
174 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/04(月) 22:17:03.73 ID:BQl4QwQ4o
あけましておめでとうございます

おみくじは末吉でした
それはそうと新年早々にウンコ踏みましたのでウンが憑いたということでめでたいですね
まあ、クソ実家に40万円ほど吸い取られたので金策に右往左往ですよコン畜生

>>169
>それにしても絵姿より本物の方が格好いいとか…恋は盲目というやつか
それですな

>>170
>麗羽様の絵姿くださいちび麗羽様ならなお可
ガチで欲しいわw

>>171
>自重を検討します(自重するに非ず)
面白いのは積極的に拾います(ガチ

>>172
あけおめです
今年は転勤がありそうです
楽な職場に移れたらいいなあ(既に今の職場は相当ホワイト)

>>173
>考察とか長文は歓迎だったと思うけどリライト前を知ってる人はネタバレに注意してくれると嬉しいなって
董卓編とか言ってる時点でどうなんやw

恋姫無双のssの壁は反董卓連合やからねーそれ越える作品なかなかないのよねえ



今年は肝臓を労われたらいいなあと思います
なお現在ガンガン呑んでいる模様
175 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/04(月) 23:53:26.96 ID:29wp21aAO
明けましておめでとう御座います。

反董卓連合…麗羽さんつか袁家はどうすんのかな
個人的には董卓そっちのけで曹翌劉孫をフルボッコにする。
原因は紀霊さん。


…ありえんか。

ただ経済戦で十常侍一党をフルボッコにするのは やりそうで怖い。
176 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/01/05(火) 00:01:57.67 ID:bT82fO2zo
>>175
あけおめっす

当初想定してたルートはもっともっと殺伐としてました、とだけw
177 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/05(火) 01:53:17.53 ID:9SpTzW2YO
ほら、プロローグで反董卓軍出てたやん・・・

董卓編以後がどうなるか楽しみやんね
178 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/05(火) 09:16:20.42 ID:e6vetR1U0
考察カー
原作では蜂蜜おばかとダダ甘やかしの二人だったけど二郎(紀霊)が加わることでどう変化するのかが楽しみですねー袁術陣営
あとは小覇王陣営とは原作通りの殺伐感なのか二郎が間を取り持つのか、上手く首輪取り付けたいなー物理的に(オイ)…自分から首輪をつけてくれと懇願する孫策、いいかも(この先は血に濡れて読めない
179 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/01/05(火) 22:14:00.83 ID:P14Iw99ko
>>177
>ほら、プロローグで反董卓軍出てたやん・・・
素で忘れてたw

>>178
>原作では蜂蜜おばかとダダ甘やかしの二人だったけど二郎(紀霊)が加わることでどう変化するのかが楽しみですねー袁術陣営
やってること考察すると七乃さんは全力で袁術陣営を壊しにかかっているとしか思えないw
萌将伝での動きなんてガチで恐ろしいくらいです
孫家から身を守るためにまさか、ねえ……

>上手く首輪取り付けたいなー物理的に(オイ)…自分から首輪をつけてくれと懇願する孫策
歪みねえな!
孫家とのやりとりもたっぷりある予定ですぞ
180 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/05(火) 22:32:59.80 ID:P14Iw99ko
「どもですー。失礼しますよっと」

 聞きなれた、どこか能天気な声とともに扉が開かれる。袁紹はその声に仕事の手を止め、席を立って出迎える。次期袁家当主が確実とされる袁紹がそこまで礼を尽くす相手はそう多くはない。

「あーら、二郎さん、どうしたんですの?」

 紀家の御曹司たる紀霊その人である。袁紹との関係はすこぶる良好であったのだが、最近は周囲のいらぬ気遣い、勘ぐりがある。それによって彼との関係が微妙になりつつあったのだ。それを察知したのだろうか、彼からの訪問は意外であった。

「いや、いい茶葉が手に入ったのでお裾分けに、ね。
 それに最近麗羽様の顔を見てなかったですし」

 袁術の守り役とされ、彼は袁紹派閥からは袁術派と見なされていた。これまでの蜜月と言っていい関係が仇となり、可愛さ余ってなんとやら。袁紹の取り巻きからは仇敵のように扱うような言も出ていたのである。
 ぱん、と柏手を一つ。袁紹は取り巻き達に声をかける。それは、紀霊が政敵ではないという何よりの主張。色々とこじれる前に両者の仲は変わらずということを喧伝するには中々の妙手である。

「あら、殊勝な心がけですわね。
 では、小休止としましょうか、みなさん、二郎さんがお茶を差し入れてくださいましたわ」

 適度な休憩は仕事の能率を上げる。そんな言い訳めいた言葉を鹿爪らしく語ってくれたのも懐かしく感じる。何より、自分に会いに来てくれたということが純粋に嬉しかった。

「では、二郎さん、こちらへ。お茶菓子はこちらが用意いたしますわ」

 浮き立つ心を抑えつつ、青年を案内する。袁紹のその反応に、紀霊に鋭い目線を向けてた官僚が表情を消す。なるほど、袁紹と紀霊。二人の関係は絶えたわけではないのかと。
 それを知ってか知らずか。袁紹の足取りは、浮き立つようであった。

「あら、やはり二郎さんがお持ちになる茶葉は絶品ですわね」
「まあ、伝手がありますからねえ」
「母流龍九商会ですわね。ふふ、色々。本当に色々とされてるようで」

 にんまり、と笑いかける袁紹。紀霊は引きつった笑みで応える。

「あー、ええと。まさか」

 取り出した、それを見て。案の定、紀霊は頭を抱える。
 その様がおかしくて、笑いが漏れる。ひとしきり笑った後に、表情を改める。これはきちんと言っておかないといけないことなのだ。袁家を担う者として。姉として。そして――。

「二郎さん。美羽さんを、よろしくお願いしますね」
「はい、任されましたとも 」

 即答に袁紹は安心する。この人がいれば、妹も間違った方向にはいかないだろう。そんな安心感がある。
 そしてふと、思う。この人がいなかったら自分はどうなっていたのだろう。

 今だから分かる。幼い日々は、間違いなくこの青年に守られていたのだと。
 幼い頃から、周囲は自分を利用しようとする大人たちばかりだった。田豊の屋敷に度々遊びに行ったのは間違いなくこの青年に会うためだった。だって彼はけして自分を道具扱いしなかったから。
 遊んでもらった。色々教えてもらった。自然、田豊に師事することになった。正直、気難しい老人だ。きっかけがなかったならば自分から近づくことはなかったろう。むしろ、遠ざけていたのではないだろうか。
 田豊という後ろ盾の大きさに気づいたのも最近だ。あの青年は間違いなく自分の世界を広げてくれた。目を開けてくれた。彼と出会わなければ、自分は、猪々子と斗詩しか信じることができず、手足たる官僚を疑い、迷走を繰り返したのではないだろうか。

 そして袁術は自分以上に悪意の坩堝で育っていくのだ。何せ、守り役の片一方はあの張家の跡取り。それでも、この青年がいれば、いてくれたら、きっと大丈夫。大丈夫だ。いつだって、青年は憧れのヒーローなのだから。

「まあ、なんにせよ俺がいますから。美羽様についてはお任せくださいな」
「二郎さんがそうまでおっしゃいますもの。何も心配することはありませんわね」

 おーほっほと笑う袁紹を見て、取り巻きたちは確信する。紀家の当主と袁紹の繋がりは消えてはいないのだと。
 一挙手一投足に意味合いが出る。それが彼等の生きる世界である。
181 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/05(火) 22:33:34.72 ID:P14Iw99ko
本日ここまですー
新年一発目に来るあたり、やはり麗羽様は格が違った
182 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 01:55:55.77 ID:PCBBQ3MPo
乙です
183 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/06(水) 09:02:06.50 ID:XMmsGsdj0
乙ですー
そうか、ここの麗羽様が原作と何が違うのかいまいちピンとこなかったんだけど
視野の広さが違うのか…基本的に原作とほとんど変わらないけどたしかに違うからどう違うのかなーと考えてたけどようやくしっくりきた
このカリスマ(真)っぷりはさす麗
184 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 10:23:24.08 ID:ojUllhDAO
乙。


うあうあ青春だあ(羨望

で、憶測で申し訳無いですが紀家は袁家の旗本ですよね?という事は紀霊さん麗羽美羽どっちかの婿認定を袁家直系からは されてるだろーなーと。

非常にお馬鹿な反董卓連合回避策。十常侍一党を 〆た後、月と詠を紀霊さんの秘書に。但し恋の反董卓連合結成のリスク有り。
185 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/06(水) 21:26:28.69 ID:snKXQ3IYo
>>183
>視野の広さが違うのか…
原作であんだけ名家名家言ってて文官の一人も出てこないあたり権力闘争すごそう
んで地盤固めに反董卓連合を起案するという辺り、発想はいいのですよね


>このカリスマ(真)っぷりはさす麗
なお二郎ちゃんは絶対そこまで考えてない(確信)

>>184
>うあうあ青春だあ(羨望
一ノ瀬もこんな青春送ってみたかったやで

>で、憶測で申し訳無いですが紀家は袁家の旗本ですよね?という事は紀霊さん麗羽美羽どっちかの婿認定を袁家直系からは されてるだろーなーと。
こら!ネタバレは駄目っていったでしょ!
まあ、展開予想されてて合ってても気にせず書きますけどね
既読の方は勘弁な!


なろうの章立てをようやく実施。
ふらりとアクセス確認したら6-700アクセスある模様
ありがてえなあ……

はよ続き書かなきゃ(使命感)
186 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 22:46:31.98 ID:ojUllhDAO
リライト版しか読んでないです。つか今までの流れで「紀霊なんぞに麗羽を嫁がせる?あり得ん」の方が…ねえ。

所で二郎さん。鞍と鐙、開発してみません?
去年、乗馬体験した時に 威力を実体験したので北方の白馬騎馬隊にあったら公…隊長はもっと楽だろうな。と。

紀霊さんが袁家中枢に姻族認定される事はこの先にも威力発揮しそうな気がするんですが(ネタバレ?
187 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/06(水) 23:03:41.81 ID:snKXQ3IYo
>>186
>リライト版しか読んでないです。
ありがとうございます。ガンガン考察なりしてください。しれっと拾うこともあるかもしれませんw

>つか今までの流れで「紀霊なんぞに麗羽を嫁がせる?あり得ん」の方が…ねえ。
一応次々回くらいにそこら辺が出る予定です

>所で二郎さん。鞍と鐙、開発してみません?
ですよねえ……。これ考えたんですよ。考えましたよ。
分かり易い現代知識チートキタコレ!ですよねえ。

ですがねえ、これ原作では実装されてるような気がするんですよねぇ……
それとweb恋姫(ブラウザゲーム)の騎兵は、画像を見ると多分その二つが描かれてるっぽいんですよねえ
なのでこれは原作尊重でお蔵入りです。一応そんな理由はあるのですよ……

元ネタのK○EI三国志とか無双シリーズには普通に常備されてるからね、仕方ないね

あと、あくまで二郎ちゃんは凡人なんで、そんなに大した技術力はないです
精々ばっくりとした概念くらい?
188 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/06(水) 23:16:47.57 ID:snKXQ3IYo
「やれやれ。二郎め、好き勝手言いやがって」

 苦笑交じりのその声に沮授は深く頷く。全く、困ったものだ、と。
 ……まあ、声の主である張紘にしても紀霊に呼ばれたらば否やはないのであるが。
 思えば長い付き合いになったものだ、と沮授は思う。師である田豊が高く評価をしたということで、子供心に嫉妬したこともあるのだ。今でも初対面の時のことは思い出す。

「お前が沮授か?ものっそい頭いいんだってな!俺のことは二郎と呼んでくれ!」

 初対面での真名の押し付けである。これには師である田豊も苦笑いであった。流石の沮授も面食らってしまい、頷くことしかできなかった。
 色々と話すにつれ、かなわないな、と思うようになった。自分が目の前の課題に精一杯だったというのに、彼の目線は遥か彼方を見据えていたのだ。

 ほんと、かないませんよ、と今では言える。苦笑交じりにでは、あるのだが。

 彼は、いっそ生き急ぐが如くに走り続けるのだ。紀家の農場で色々試すという話を聞いた時は耳を疑った。更に彼の計画書の骨子を見たときには目を疑った。

 計画→実行→検討→当初計画の修正。いわゆるPDCAサイクルであるが、その概念は当然存在すらしていない。継続的に続けられる進歩を前提とするそれは、非常に画期的なものであり、沮授や張紘はその発想に愕然としたものである。
 現在袁家が抱えるプロジェクトの多くはこの概念が練り込まれており、かつてない勢いで領内は発展を続けている。それまでの停滞が嘘のように、である。それを、飛躍をもたらした青年といつしか、友と言っていい関係になり、今では親友だと自負している。
 彼の歩みに負けないように沮授とて精進する日々なのだが、紀霊の歩みは更に先を行くように思える。今日も、驚くべき報を持ってきた。

「というわけで、張家から情報を引っ張ってこれるようになった」
「いや、結論から言われてもわかんねえぞ」

 呆れたように紀霊を小突く張紘は紀霊が拾ってきた――彼ほどの人材には相応しくないが、そう言うしかない――傑物である。
 商、という賤業に手を染めながらその気質は誠実にして篤実。人として信頼でき、その知性は打てば響くどころの話ではない。一体全体どうやったら張紘のような人材を拾ってこれるのやら、である。

「とはいえ、その情報の裏は確認しないといけませんね。
 偽報に踊ることになったら目も当てられません」
「まー、そうなんだよなあ。だがまあ、欺瞞工作含め情報源が増えるのはいいと思わね?」
「それはまあ、そうなんですが」
「仕掛けてくるとしたら、いざと言う時の情報かなあ。
 一応、おいらの情報網で裏は取るようにするさ」

 そもそも、だ。どうやって袁家の暗部たる張家から情報を引き出すことに成功したのやら。沮授も張紘もそこには指摘をしない。今更、である。
 ……打ち合わせは数時間に及び、今後の方針を確認すると、紀霊はまたどこかへと駆け出して行った。それを見送りながら。

「ほんっと、せわしない奴だよなあ」

 苦笑する張紘に沮授は同意する。

「ええ、あれで一日も早く隠居して遊んで暮らしたいなんて言ってるんですからね。
 本当に隠居する気があるのやら。疑わしいものです」
「ちげえねえや」

 ニヤリ、と笑い合う。全く、彼より精力的に動けと言われたら困るくらいだというのに。
189 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/06(水) 23:19:08.27 ID:snKXQ3IYo
本日ここまですー

そして野郎どもは流石に姿絵コンプリートなんかしてません。ただの版元とプロデューサーです

なお、二郎ちゃんは色々事業やらプロジェクトやらを立ち上げて軌道に乗ったらそれをあっさり手放すどっかの起業王のようなムーブをしている模様
190 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/06(水) 23:31:49.37 ID:PCBBQ3MPo
乙です
191 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/07(木) 11:02:36.21 ID:Rg2A/v0F0
乙ですー
>>本日ここまですー
なんて微妙なところで誤字ってるんだ
からかえないじゃないか!!
192 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/08(金) 23:05:20.51 ID:+dDDe1kUo
>>191
からかって、いいのよ(誤字とは言ってない)
193 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/08(金) 23:07:20.36 ID:+dDDe1kUo
 顔良は、思わぬ人物の訪問を受けていた。正直、苦手と言っていい相手である。

「どもどもー失礼しちゃいますよー」
「は、はあ」

 張勲。張家の息女であり、次期当主と見なされている人物だ。紀霊ともに袁術様の守役となった人物。だが、何の用なんだろう。正直、接点だってないし、と顔良は怪訝に思う。なんせ張家は言わば袁家の暗部だからして。

「実はですねー、ちょっとご報告に来たんですよー。
 実はこのたび私、紀霊さんの愛人になっちゃいましたーきゃー言っちゃいましたー」

 絶句する。一体何を言ったのだこの女は。
 頬を染めてわざとらしく、いやんいやんとくねくねする張勲。そこに顔良が感じるのは怒りでも嫉妬でもなく、困惑と混乱であった。

「あれー、反応がないですねー。
 そんなにショックですかー?」
「し、信じられません!そんなこと!」
「ま、信じなくても結構ですけどねー」

 にこにこと笑う張勲。その笑顔は常と変らず。いっそ無垢なまでに愉しげに、ころころと鈴を転がすような声を。

「ああ、安心してくださいね、身体だけの関係ですからー。
 私が一方的に言い寄って、お情けを頂いただけなのでー」
「そ、それが本当だとして何で私にそれをわざわざ言うんですか」

 辛うじてそんな問いを発する。違う、そんなことが聞きたいんじゃない。そんなことはどうでもいい。あの人は、陳蘭さんと結ばれたのではないのか。だから諦めれると思ったのだ。
 そして、四家の均衡はどうなる。紀家と張家が結ばれるなぞあってはならないことだ。いや、それが故に顔良は自身の気持ちに蓋をしていたのであるが。
 わけがわからなくなりそうになる。
 そんな顔良をみて張勲は薄く哂う。――心底楽しげに。

「いえねー、紀霊さんに想いを寄せてる方の中では一番こっち寄りかなーと思いまして」
「どう、いう、ことですか」

 問いに答えず、薄く哂い続ける。その笑みが透き通っていることに、顔良の何かが警報を鳴らす。

「だ、大体、どうして二郎さんと関係を持ったりしたんですか!」

 追い詰められた顔良はそんなことを言う。そんな顔良を見て張勲はくすり、と笑う。
194 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/08(金) 23:07:47.04 ID:+dDDe1kUo
「いえねー、姉妹と母娘、どっちがいいかなーと迷ったんですけど、
 絆的にはやっぱり母娘かなー、と思うんですよ」
「……一体何を、言っているのですか?」
「ですからー。美羽様と棒姉妹になるのもいいなあと思ったんですよ。
 でもね、それよりは私が産んだ子供と美羽様を娶わせたいなーと思うんですよねー。
 だから、紀霊さんに孕ませてもらおうと思ってるんですよ」

 何を言ってるんだこの人は。わけがわからない。そんなことができるはずがない。
 だって。

「そ、そんなことができるはずがないじゃないですか!
 紀家の当主と張家の当主が婚姻なんて出来るわけないじゃないですか!
 だって、だって!」
「あはー、そうですねー。婚姻関係は無理かもですねー」
「だったら!」

 激昂する顔良に張勲は変わらず、笑みを向ける。

「別に婚姻関係みたいな形式を気にするつもりもないですからねー。
 紀霊さんからは子種だけ頂ければいいんですよ」

 ぞくり、と背筋に怖気が走る。これ以上この人の言うことを聞いてはいけない。
 そんな悪寒が顔良を襲う。空気がどろりと粘り気を持ち、呼吸が苦しい。

「紀霊さんは袁家内の有力者のご息女と婚姻できません。これは暗黙の了解です。
 唯でさえ勢力の大きい紀家が他の家と結ぶと突出してしまいますからね。
 同じ理由で袁紹様や美羽様も難しいですね。
 でも、です。これにも抜け道はあります。
 さて、ここで問題です。袁紹様や美羽様の父親が誰だか問題になったことはあったでしょうか?」

 そう言って浮かべた笑みが深くなったように感じる。
 いや、お二人の権威は父親ではなく、袁逢様のご息女であるということに尽きる。当主が女性の場合、父親については不問とするのが慣例であり暗黙の了解ではある。あるのだが。
 まさか……。

「ですからー、袁家、文家、顔家の当主は女性になりますよね?
 そのうちどれかと紀家が結べば問題になります。
 均衡が崩れますから。
 でも、どうでしょう。全ての家と紀家が結んだら?
 かえって袁家の結束は強くなりませんか?
 結果として紀家の勢力、いえ、紀霊さんの力が増します。
 でも、それって問題ですか?」

 この人はなんてことを考えるのだろう。なんてことを考えたのだろう。

「いいじゃないですか。私達の代は紀霊さんに支配されても。
 外から訳の分からない婿をそれぞれ引っ張ってきてお家騒動になるよりよっぽどいいですよ。 
 顔良さんも、見知らぬ、そうですねー、皇族の係累とかにその身体を好きにされるより、紀霊さんに抱かれたくないですかー?
 紀霊さん、とっても優しく抱いてくださいますよ?」

これは、毒だ。聞いてはいけない。でも、それでも、余りに魅力的な提案だ。

「紀霊さんはあれで権勢に興味のない方です。
 もっと大きなものを見てらっしゃいますね。
 公私共に支えてあげるのもいいと思いますよー?」

 くすくす、と笑う。声が耳を抜けていく。身じろぎ一つできない。あたかも見えない糸に縛られたかのように。

「なんで私にそれを言うんですか」

 力なく問いかける。そんな顔良に張勲は優しく、囁く。

「袁家の文武の柱、田豊様と麹義様にこれを諮ってきますー。
 いえね?きっと顔家次期当主は乗り気であったというのはいい説得材料になると思うんですよ。
 それに、貴女なら誰にも漏らさないでしょうし」

 薄く哂って張勲が立ち去る。心底を見透かされ、毒を注がれた顔良は呆然と見送るしかない。悄然と立ちすくしかない。

 助けて、と思う。
 想うのは、たった一人で自縄自縛。泣くことすらできない。できないのだ。
195 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/08(金) 23:09:46.94 ID:+dDDe1kUo
本日ここまですー

タイトル的には「絡新婦の囁き」かな?
もっといいのあったらオナシャス

斗詩はいぢめたくなる不思議
196 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/09(土) 03:12:57.10 ID:gjy+SEG90
久しぶり(年単位)にSS速報見に来てスレッド一覧眺めてたら
まさかのリライト版開始してたという……
まだですがこれから読みます

かつては長文だの考察だのやりまくってたけど、リライト版は控えめに静かに見守っていこうと存じます

ところで
書き直し……つまり、最後あたりの読んでて「は?」と声が出たグダグダ状態がいい感じに変わる可能性がっ!
197 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/09(土) 11:22:23.72 ID:HOfVDRCS0
乙でしたーいつものを
>>193
>>紀霊ともに袁術様の守役となった人物。
○紀霊とともに袁術様の守役となった人物。
>>わけがわからなくなりそうになる。 なりそうになるだとなるのかならないのか分かりにくいので
○わけがわからなくなりそうだ。 の方がいいと思います

二郎ちゃんハーレム化計画を裏から推し進める絡新婦さんと最初に毒を注入されたいぢめられっこprpr
外堀から埋めるのと脆いところから攻めるのと敵を寝返らせて味方を増やすのは計略の基本だよね
なんとなく芋づる式って言葉が頭をよぎった
198 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/09(土) 19:52:33.63 ID:GPiiydgAO
乙。

紀霊(二郎)さんにとっては悪夢なんですが、七乃さん。
つか、本気で惚れた人と あんな別れ方した人には ちと辛いような


鞍と鐙のお蔵入りの理由 了解。
確かにそれらしい絵が有りますね。


二郎さんは概念しか伝えられない。
絵図書ければ職人はなんとかしますよ。多分。
確か鉄器生産技術あるから、農具も現代風の開発してるだろうと推測。
二郎さんが大卒なら、物理を応用して生物力クレーンは実用化してそうだし。


くどいようですが、この時の紀霊(二郎)さんが ハーレムを受け入れるのか?そこは注視。
199 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/10(日) 09:36:36.98 ID:jDtJdk6e0
確かに元現代人の二郎がハーレムを受け入れる精神を持ってるかは微妙だけどそれを言ったら女性陣が二郎をあきらめて適当な皇族とかを婿にとれる精神かも微秒…特にノウキン系の猪々子とか
諦めなきゃいけない理由(今回顔良が張勲に言ったようなもの)があるならともかく囲い込む理由(今回張勲が顔良に言ったようなもの)が有れば公人としても私人としてもGOサイン出ちゃうんじゃない?
二郎ちゃん本人の意思は袁家という巨大な存在の前ではわずかにしか考慮されないんだよ(完全に無視されるとは言わないけど)
200 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/01/11(月) 21:49:05.99 ID:6KJtiS2uo
>>196
>まさかのリライト版開始してたという……
おー、ありがとうございます。今後ともご贔屓に

>かつては長文だの考察だのやりまくってたけど、リライト版は控えめに静かに見守っていこうと存じます
おお、長文感想くれてた方ですか!モチベーションは感想から湧いてきますので、本当にありがとうございました

>書き直し……つまり、最後あたりの読んでて「は?」と声が出たグダグダ状態がいい感じに変わる可能性がっ!
いつも通り見切り発車です。電波とダイスとお酒のお導きなのです

>>197
いつもすまないねえ……ホロリ

>外堀から埋めるのと脆いところから攻めるのと敵を寝返らせて味方を増やすのは計略の基本だよね
実に真っ当な手でございます(手段が真っ当とは言ってない)

>>198
>確かにそれらしい絵が有りますね。
そうなんですよね。
普通に肉まんとかラーメンとかドリル髪用のヘアパーマ機とかあるから現代知識無双はかなーり慎重にせんとね……

>確か鉄器生産技術あるから、農具も現代風の開発してるだろうと推測。
備中鍬と千歯こきは実装しておりまする
なお、私大卒ですが生物力クレーンを寡聞にして知りませぬ
三角関数とかも忘れたしなあ……
精々三平方の定理とかですかね、何か役に立ちそうなのは(それ絡みでお話書く自信ないですw)

>くどいようですが、この時の紀霊(二郎)さんが ハーレムを受け入れるのか?そこは注視。
まあ、この時代で幼少期から過ごしてますし、郷に入っては郷に従え的な方向性かと

>>199
>二郎ちゃん本人の意思は袁家という巨大な存在の前ではわずかにしか考慮されないんだよ(完全に無視されるとは言わないけど)
梁剛姐さんにしても陳蘭ちゃんにしても、情人とか愛人的な扱いでしょうしね
そこは、実際二人ともわきまえております……
201 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/01/11(月) 21:50:44.22 ID:6KJtiS2uo
次回、「江南の風」

今日投下できるかは微妙っす
202 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/11(月) 22:36:19.15 ID:6KJtiS2uo
「しかし、同じ町とは思えんのう」

呟きながら黄蓋は嘆息する。ここは長沙の町。言わずと知れた孫家の根拠地である。つい最近までは水害の爪痕が色濃く残されていたものだが。田畑が荒れ、食料がなくなり民が流れる。
流れた民は食料を求めて北に流れ、或いは賊となる。だが、それもまだ動くことのできる余裕がある者のみ。飢えて死ぬ者も相当数出ていた。……それ以上は言うまい。
まさしく悪循環、地獄絵図とはこのことであったのだ。それがどうだ。

「んー、皆が頑張ったからじゃないのかな?」

腰まで垂れる黒髪をふぁさっとかきあげて、さらっと言う少女は魯粛。袁家――より正確に言えば、紀霊により派遣された人物である。母流龍九商会の責任者、支店長だとかなんとか言っていたか。見た目は幼女、頭脳はとびっきり!という自己紹介についてはどうかと思うが、その能力については疑問を挟む余地はない俊英である。

「ふん、袁家の援助のおかげというのは理解しておるともよ。
 孫家は忘恩の徒ではない。きっちり恩は返す」
「いいのいいの、そんなに構えてなくても、さ。
 黄蓋さんが義理堅いのは分かってるよー。
 それにこっちも儲けさせてもらってるしねー」

そういって笑うさまは無邪気なもの。だが、魯粛の影響力は日々増していっている。当初は袁家からのお目付け役として胡散臭い目で見る者が多かったのは確かだ。しかし、彼女らが運んできた大量の食料、資金。
何より彼女らの誠心と勤勉さが認められ、すっかり孫家に受け入れられている。元々実力主義な孫家においては自然な流れだが。

「まったく、頭が下がる思いじゃ。
 策殿もお主らのように勤勉ならのう」
「あははー、確かにねー。
 でもあれはあれで組織の長としては一つの形だと思うなー。
 組織の長がばたばたと駆けずり回るとさ、下っ端は何事かって思うしね」

それにしても惜しいな、と黄蓋は内心幾度目かの歯噛みをする。
この識見、人格。折角江南出身なのだから孫家に仕官してくれていれば、と思う。だが、思うだけ無駄なことでもある。先立つものが無ければいかに有能な士がいても活かせない。実際、袁家からの援助があと一月遅ければどうなっていたことか。

「でもまあ、江南に来れてよかったよー。
 私の実家もこっちだからねえ。
 張紘に呼ばれて商会の仕事を始めてさ、そりゃ楽しかったんだけど。
 窮状は気になってたからさー」

感傷、いや、未練か。そんなことを黄蓋は思う。もし、孫家にもう少しの余力があったならば、というのは。

「だからまあ、こっちに派遣してくれた紀霊さんには感謝、だねー」

どこか遠い目で魯粛は呟く。
そしてその言葉でまずは満足しておこうと黄蓋は思う。今の状況は本当に僥倖であるのだからして。
203 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/11(月) 22:40:07.51 ID:6KJtiS2uo
「た、確かにありがたいが、本当にこれだけの物資を提供していただけるのか……?」

周瑜が魯粛に問いかける。その目録をすさまじい速度で確認する。これで四度目か、とどこか他人事と思いながら魯粛はその形相に色々と察する。

「そだよー、とりあえず急場を凌ぐためにはそれくらいは必要でしょ?
 第二陣の内容は実態を見て、かな」
「これだけの物をすぐに用意し、運べるとは。
 隆盛は聞きしに勝るものだな」

流石の周瑜が嘆息する。実際孫家の家計は火の車である。むしろよく回っていると思うくらいのもの。武辺者と自称する黄蓋ですらそう思うのであるのだ。実務を取り仕切る周瑜の気苦労はいかほどのものか。

「あくまでこれは母流龍九商会から、だからね。そこは押さえておいてね。
 それとこれは別に提供するわけじゃないからね?
 きっちり利子付けて返してもらうからねー」
「それは……返済まで百年はかかりそうだな……」

深く、深く嘆息する周瑜である。黄蓋は美人が台無しじゃのう、などとお気楽な感想を抱くのだが。
そんな周瑜に魯粛が笑いかける。

「だいじょぶだいじょぶだってー。
 一応、こっちの試算では十年くらいを目処に完済できる見込みだよー」
「そんな馬鹿な。民からどれだけ搾取するというのだ!」
「そーんなに凄まないでよー。きちんと事業計画書と返済計画書があるからー。
 まあ、あくまで試算だからもっと短くなる可能性もあるよー」

魯粛の差し出した書類に目を通す周瑜。眉間のしわが濃くなり、薄くなり、また、それまでよりも深くなる。そして表情は険しいまま。

「つくづく袁家というのはとんでもないな」
「どもどもー、お褒めに預かり光栄だね」

なんとも対照的な表情ではある。一方は渋面、一方は笑顔。

「しかしこれでは随分そちらの手出しも多いのでは?」
「先行投資ってやつだね。だからいいの。
 母流龍九商会(うち)の理念は、損して得とれだからねー」
「ふむ……」

 唸る周瑜に追い打ちが来る。

「それにね、別に孫家に対して含むところもないからさ。
 あんまり負債で縛って暴発される方が厄介だしね」

さらりと言いよるわ、と黄蓋は苦笑する。一瞬が鋭くなる周瑜の表情に、まだまだ未熟、と苦笑する。まあ、これもまた経験というものだ。

 当然、魯粛も周瑜の表情には気が付いている。放っておいても収まるとこには収まるのだろうが……。

「どうせこちらに選択の余地などないんじゃ。
 あちらの条件丸呑みの方がよかろう」
「駄目駄目ー。
 こういうのは最初が肝心なんだからきっちりと条件を確認してもらわないと。
 でないと信頼関係なんて築けやしないよー」

 魯粛の注意をひきつける。それが数秒であっても周瑜ならば立て直すだろう。

「なるほどのう。まあ、確認作業はわしには向いておらん、冥琳任せたぞ。
 わしはそういう内向きのことはよく分からんのでな」

 そう言って席を立つ。これでまた十数秒くらいは稼げるか?と思い周瑜に視線を流すと、申し訳なさそうに目礼をしてくる。
 よし、これで大丈夫だとばかりに黄蓋はその場を去る。今は亡き孫堅の墓参りにでも往くか、と。墓参りには酒が必須だなあなどと思いながら。




「すまなかったな。少々こちらの対応が良くなかった。
 この内容で大筋に異存はない。
 これからよろしく頼む」
「こちらこそよろしくー。
 ちなみに一つだけ聞きたいんだけど」

 視線を合わせていた魯粛の目線が下がっていき、一点を凝視する。所謂ガン見、である。何を聞かれるのかと身構える周瑜であるのだが。

「黄蓋さんもそうなんだけどさ。どうして孫家の人には巨乳が多いの?
 江南出身者として解せないんだけど」

 ……どう答えろと言うのだ。
204 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/11(月) 22:45:09.39 ID:6KJtiS2uo
本日ここまでー
貧乳はステータス&希少価値って六韜にも書いてある


次回は江南の風その2
205 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/11(月) 23:13:11.76 ID:gbX5/pbmo
何だかんだで恋姫キャラでも貧乳のほうが少ない確かに希少価値
あれだ「可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは」の方向で(酷)
206 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 00:57:52.91 ID:+ObhvQK2o
乙です
207 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/12(火) 11:33:55.20 ID:1A0RQN8g0
乙ですーいつものを
>>202
>>つい最近までは水害の爪痕が色濃く残されていたものだが。田畑が荒れ、 中略 地獄絵図とはこのことであったのだ。それがどうだ。
○つい最近までは水害の爪痕が色濃く残されていたものだ。田畑が荒れ、 中略 地獄絵図とはこのことであったのだが。それがどうだ。
文脈からしてがの位置は最後にした方がいいと思います
>>203
>>流石の周瑜が嘆息する。
○流石の周瑜も嘆息する。
>>武辺者と自称する黄蓋ですらそう思うのであるのだ。
○武辺者と自称する黄蓋ですらそう思うのだ。 もしくは 武辺者と自称する黄蓋ですらそう思うほどであるのだ。
>>母流龍九商会(うち)の理念は、損して得とれだからねー」  間違いではないですがこの時代の儒教やら社会構造の在り方や他諸々から
○母流龍九商会(うち)の理念は、損して徳とれだからねー」  の方が受け入れやすく合ってる気がします
>>一瞬が鋭くなる周瑜の表情に、
○一が鋭くなる周瑜の表情に、 もしくは 一瞬目(線)が鋭くなる周瑜の表情に、 でしょうか?

犬はエサで飼えて人は金で飼えて…虎は恩で飼えるのか?これだけやって貰って噛みついてくるならそりゃもう虎じゃなくてイナゴだよね…きっちり躾けれるといいなあ。原作みたいに虎視眈々としなきゃいいけど
208 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/12(火) 11:42:52.34 ID:1A0RQN8g0
あれ、間違えた
>>一瞬が鋭くなる周瑜の表情に、
○一瞬鋭くなる周瑜の表情に、

まあ飼うと言うと語弊があるけど要は背中を預けられるかとか武器、伴無しで相手の陣地に行けるかとか、最低限の信用が出来るかって意味なんですけどね
なんだかんだ言いつつ恩はあるけどそれはそれ、今は悪魔の微笑む時代なんだよって言いそうなのが怖いところ
209 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/13(水) 23:19:15.72 ID:KVHerBjGo
>>205
幼女以外での貧乳って、実は希少だったりしますよね

>>207
いつもすまないねえ

>なんだかんだ言いつつ恩はあるけどそれはそれ、今は悪魔の微笑む時代なんだよって言いそうなのが怖いところ
家康はんかて散々お世話になった今川はんにひどいことしたよね
それを考えるとノブノブの身内への甘さは実際すごい
210 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/13(水) 23:24:50.06 ID:KVHerBjGo
「魯粛殿はどう思われる?」

 議事を進行していた周瑜の言葉に場がシン、と静まりかえる。議題は長沙の復興都市計画と周囲の豪族への対応等の基本方針である。意欲的な政策が並ぶが、それもこれも独力では到底果たせぬものばかり。つまりはスポンサーの代弁者たる魯粛の権限の大きさたるや、である。
 探るような、窺うような、睨むような。様々な視線を受けながら魯粛は小揺るぎもしない。ここ江南で、或いは南皮で。彼女の潜った修羅場は数知れないのである。

「大筋で問題ないと思うよー」

 魯粛の声に、場の空気が弛緩する。無論、魯粛が言えばすべての案を没にすることも可能である。孫家の首魁。その首の挿げ替えすら可能であろう。いや、そんなことはしないのだが。伝家の宝刀は抜かないことに意味があるのだ。
 実際、孫家と無駄に対立しても意味はないしねー。と魯粛は内心苦笑する。というか、方針は基本融和友好が既定路線。
 紀霊曰く「戦闘民族」たる孫家と良好な関係を築くのが魯粛のメイン任務である。もちろん、江南の復興も重要ではある。だが、それはあくまでも手段であって目的ではない。
 そんな紀霊の言に魯粛は内心思う所がないではないのだが。江南出身者として。
 だが、いざ孫家の首に鈴をつけようとして痛感する。孫家は控え目に言って化物揃いだ。包み隠さずに紀霊に主要人物の評を伝えている。
 曰く、孫策は本能と勘で勝っちゃう戦争の天才。
 曰く、周瑜は王佐の才と言っていいほど万能の天才。
 曰く、黄蓋は歴戦の名将で弓術の達人。
 曰く、甘寧は江賊出身にて水軍の達人。
 曰く、周泰は諜報の専門家で超一流の密偵。

 未来はないと去った江南にこのような勢力があったとは、と内心で苦笑したものだ。もし、自分が江南にずっといたら馳せ参じてたであろうと思うほどに、だ。
とはいえ、今の自分は母流龍九商会江南支店の支店長。ここは間違いなく鉄火場。血が流れない戦場。だからこそ分かる。孫家と敵対しても百害あって一利なし。孫家の潜在力を遠い南皮にて見抜く紀霊の慧眼こそ評価されるべきであろう。

「一つだけお願いがあるんだけど」

 その声に再び緊張が走る。この場合お願いと命令に等しい。それがいかなるものか。

「求人するから、そのお手伝いだけお願いするねー。
 物資の搬入と管理で手一杯なんだよー」
「求人、とは募兵ということか?」

 いくらか――かなり硬い声で甘寧が問いかける。やだなあ、目が怖いよと魯粛は肩を竦める。

「違うってば。母流龍九商会では街道と港湾施設の整備を最優先で取り組むからさ。
 その人夫を集める手伝いをしてほしいんだ」
「道と港を作る?いや、構わんが、商会とは商売をするのではないのか?」

 訝しげな甘寧。まあ、そうだよねえ、と魯粛はここからが本番と気を引き締める。

「うん、商売というのは元々古代商の国の人が物を生産地から消費地へと運んだことにちなんでるんだ。
 つまり物流は商売の基本ってことだね。そしてその物流を円滑にするためには施設が必要なんだ。
 荒地を馬車は進めないし、船は崖には停泊できないからね。
 先行投資ってやつだよ」

 もちろんそれだけではない。雇用を創出することで困窮している民の糊口を凌がせるのだ。更に、雇用された人に食事を配給、或いは販売するための人員も必要だ。お食事処的なものを自然発生させるには手元の食糧を何らかの形で市中に流さなければならないのだが。これを考えるのはまあ、顧雍や虞翻という頼りになる人材の役割だからして。近日中になんとかなるのは確定的に明らかである。
 でも、そこまで説明する必要はないしするつもりもない。分かる人だけ分かればいいのだ。あまり民政にまで口出しするつもりもない。
 さて、と視線を回したら周瑜と目が合った。ニヤリ、とニコリの中間くらいの実に魅力的な笑みを浮かべてくる。その笑みは虚勢か、それとも。

「まー、考えるだけ無駄だね。あんなのと張り合えとか。紀霊さんってあれで結構人使い荒いよねー」

 そう呟く魯粛の口元は、楽しげな笑みを浮かべていた。
211 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/13(水) 23:27:06.63 ID:KVHerBjGo
江南ここまでー

次回、南皮に来訪者。あのキャラが出ます。(初)

「凡人と○○○」

タイトルは募集すると思います
212 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/13(水) 23:37:39.04 ID:uQTmUx3Io
乙です
213 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/14(木) 09:03:34.58 ID:ZRtc6Qx/0
乙でしたーいつものを
>>210
>>この場合お願いと命令に等しい。
○この場合お願いとは命令に等しい。

未来知識があってこその慧眼だけど周りからは分からないからねえ、本当に生き馬の目を抜くって感じだよね
次回出るのは誰かなー本命劉備、対抗数え役満、大穴董卓あたりかな
劉備がお金持ちに集りに来るか黄巾の影がちらつくか、今から反董卓連合の布石が打たれるか…それともほかの誰かか?もしかしたら一之瀬さんが加筆する可能性があるから本気で読めない
214 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/14(木) 09:35:22.13 ID:OpwuWBxAO
乙。

魯粛さんが支店長で、虞翻さんが部門長的立場。 この商会。まじチート


>生物力クレーン

多分、『動滑車と静滑車の組み合わせと人力や牛馬による』クレーンかな?

戦闘民族孫家。何となく格好良い(厨二)


現状で一番面白いのが、 校正さんがいるスレという点。
つか校正さんの技量ハンパねー(感動)
215 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/16(土) 08:59:19.23 ID:y+aGvDyf0
まさかの1読者の俺にファンが出来たことにびっくり!!
技量というほどのものは持ってないですよー(テレテレ)
216 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/17(日) 21:37:37.03 ID:zoL2x/Ldo
>>213
いつもすまないねえ・・・

>未来知識があってこその慧眼だけど周りからは分からないから
何気にチートですが、他の二次創作だともっと現代知識チートやってたりするので比較的地味に感じる不思議

>もしかしたら一之瀬さんが加筆する可能性があるから本気で読めない
まさかのノーマルルート開始とか(ないけど)

>>214
>魯粛さんが支店長で、虞翻さんが部門長的立場。 この商会。まじチート
顧雍さんとかもおるで!出番は多分ないけど
魯粛も本来は出番ないはずだったけどぐいぐい来ます

>多分、『動滑車と静滑車の組み合わせと人力や牛馬による』クレーンかな?
ああ、あれね、知ってる知ってる(白目)

>戦闘民族孫家
サイヤ人かな?

>現状で一番面白いのが、 校正さんがいるスレという点。
確かにw

>>215
ほんと、いつもお世話になっております。
確認してるつもりなんですけどね。酔っ払いだからね、仕方ないね
217 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/17(日) 22:02:51.99 ID:zoL2x/Ldo
「ほー、ここが南皮かー。流石にぎわっとるねー」
「もう、真桜ちゃんは気が早いのー、まだ城門も潜ってないのー」
「ほら、沙和、真桜、しゃんとしろ。まだ仕事は終わってないのだぞ」

 女三人いればなんとやら。賑やかな声が南皮の城門前に響く。

「ほおー、さっすがやなー。ぶ厚い城壁の周りに空堀かい。おお、城門は吊橋を渡らないとあかんのか。なるほど。あの鎖で橋を巻き上げるんやな……。
 城壁も、上から弓を射やすいようになっとるし、よく見たら真ん中にも通路があるやんか!
 いやあ、これは血が滾るでえ!」

 腕組みして城壁を見やるのは、藤色の髪を無造作に括った少女。極めて軽装であり、それで護衛が務まるのかというほど……端的にいってそれは水着姿。それもビキニスタイルであったりする。そしてその胸部装甲は南皮の城壁を向こうに回しても張り合えるほどに豊満であった。

「あー!あの子、阿蘇阿蘇(アソアソ)に載ってた服装を上手く崩してるのー!
 春物の流行を押さえながら、ちょっと挑発的な色合いが調和してるのー。
 これは負けてられないのー」

 声を張り上げる少女もまた軽装。栗色の髪を三つに編み上げて垂らしている。眼鏡の奥の瞳を彩るのは雀斑(そばかす)。常であれば短所とされるそれを魅力的に彩るのは彼女のコーディネイトの賜物であろう。

「あの、すみません。きちんと護衛の任は果たしますので。
 なにぶん、田舎者なもので……申し訳ない」

 生真面目そうな少女がわいのわいのと姦しい連れの様子にぺこぺこと頭を下げる。護衛、と言うだけあってその眼光は鋭く、周辺への警戒を怠らない。右目と頬、そしてそのしなやかな身体に幾筋もの傷跡が走り、まさに精悍。

「でも、護衛とか言ってもお仕事何もなかったのー。
 ほんと、こんなお仕事ばっかりだったら楽なのー」
「せやなあ。ほんま、いっそ申し訳ないくらいやったわ。それに、や。街道が煉瓦で舗装されとるからなあ。
 あのお陰で馬車の移動速度が飛躍的に伸びとるんや。建築素材としても貴重な煉瓦を敷き詰めるとか、どんだけやっちゅうねん!」

 紀霊の肝いりのプロジェクト「赤い街道計画」は順調に進んでおり、まさに袁家領内の大動脈として物流の根幹となっている。ひたすらにインフラを整備するその指針には異論もあるものの、結果がそれを封じている形である。

「こら、二人とも!」

 彼女らが就く護衛というのも雇用対策の一つ、治安の一環である。護衛がいれば野盗と言えど容易に襲撃はできない。また。一定以上の武力を持つ者の囲い込みにもなる。富に溢れる袁家に集う様々な不安定要素。それらをまるごと抱き込むという沮授と張紘の苦心の策でもある。
 なお、そもそもの元凶たる紀霊はそのころ……。
218 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/17(日) 22:03:20.78 ID:zoL2x/Ldo
 今日も今日とて町の視察である。いや、お仕事だよ?ほんとだよ?きちんと予定にも入れてるし、視察の報告書だって出してるもんな。きっちりと課題とか、頑張ってる役人とかの報告してるし。こういう事前事後の事務仕事をしないと、ただのサボりになるわけだ。
 具体的に例示すると、猪々子とかさ。

「おやじー、その串焼きおくれー。陳蘭も食うだろ?」
「あ、はい。頂きます」

 どうせなら、町の様子の考察に女子の視点を取り入れたいというのは至極当然な発想だったりする。陳蘭も楽しそうだし、ほら、みんなハッピーでwin-winだ。いや、ほら。七乃との一件もあったから陳蘭にちょっと後ろめたいじゃない?気にしないって言われても、さあ。いや、だからこそ、か。
 今日は週に一度の定期市が立つ日でもあるしな。地方からいろんな産物を持ち寄ってなかなかの賑わいだ。いやあ、賑々しくて大いに結構!もっとやれ!倍プッシュだ!

「二郎さま、この後どうするんですか?」
「んー、このまま市を冷やかして、運営の方に顔を出そう。陣中見舞いだ。
 そうだ、何か差し入れ持ってってやらんとな。何持ってくかは陳蘭に任せるし」
「ふぇ?わ、わたしですか……?」

 びくり、と戸惑うさまが小動物めいているんだよなあ……。実際可愛い。

「おう。てきとーに大人数でつまめるようなお菓子か軽食的なものが無難かな」
「は、はい。分かりました」

 気合を入れる陳蘭。いやあ、頑張る女の子って、可愛いねえ。うん。
 そんな時だった。

「なんやねんそれ!どういうこっちゃねん!」

 女の子の声が響き渡る。

「ここ、空いてるやんか!この市は誰でも参加できるんやろ!
 なんでウチらが参加でけへんねん!」

 ……傍目にはおにゃのこ三人組に強面のおっさんが絡んでるようにしか見えない。いや、迫力的に立場は逆かな?

「じ、二郎さま……」

 陳蘭が俺の袖をちょい、と引く。いや、分かってるって。

「はいはーい、どしたー?」

 どう見てもおにゃのこ三人組の方が荒事になったら……勝っちゃうもんな。それはまずい。

「あ、若……」

 ガラの悪い男が俺の顔を見てちょっとほっとしている。そうだよなー、格の違いくらいわかる。でも立場上引けないもんなあ。えらいえらい。きちんと報告書に載せとくから。

「兄ちゃん!聞いてや!そこのおっさんがひどいねん。
 ウチらがここで商売しようと思ったら因縁つけてくんねん!
 なんとかしたってーな!」
「そうなのー、ひどいのー!何様のつもりなのー!」

 なんとも威勢のいいことである。もう一人は油断なく無言で周囲――主に俺と陳蘭――を警戒している。いいコンビネーションだねえ。

「あー、ここの市は確かに誰でも参加できるけど、きちんと事前登録したか?
 場所代、払ったか?そうは見えないんだが……」
「はあ?ウチらこの町に到着したんは昨日や!そんな暇あるかいな!
 場所代やったら商品が売れたらきっちり耳を揃えて納めたるがな!」
「そうなのー。あちこちでお買いものしちゃって、もう手持ちのお金なんてないのー。
 今すぐ出せって言われてもないものはないのー」

 なんということでしょう。なんということでしょう。どないせいと。これ落としどころに困るぅ!
219 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/17(日) 22:03:47.43 ID:zoL2x/Ldo
「んで、商品はどんなの?」
「これや!品質は全部最高級やでー!」

 そう言って見せてきたのは籠、笊などの雑貨だった。ふむふむ、確かに高品質で均等な出来だな……。感嘆せざるをえない。

「どや、ええ商品やろ?」
「そうなのー、真桜ちゃんの商品は一流なのー」

 だがしかし、である。

「ああ、でもそれってこの辺りだと浮くぜ?超浮くぜー?」

 そう言って周りを指し示す。ここは屋台ゾーン。店も客も飲食するところだ。ここで雑貨売っても、なあ。いや、買い食いして気力充実したとこで商売開始って感じだったんだろうけどね。

「あ……」
「それに、そこの場所も本来屋台が出るはずだったんだぜ?
 急遽出店できなくなっても、これから場所の予約待ちの屋台が来るぞ?」
「え、え?」

 まあ、半分ハッタリなんだが、当たらずとも遠からずだろう。視線をやると、おっさんが目礼をしてくる。この路線で大丈夫そうだ。
 一気に意気消沈する女の子たち。なんだ、素直ないい子たちじゃないか。

「なあ、兄さん、なんとかならへんかー?
 ウチら、路頭に迷うてまうわぁ……」
「そうなのー、か弱い女の子を見捨てるなんて、ひどいのー!」

 媚びるならきちんと媚びろよ!とは思うのだが、素人さんにそれは酷な話である。やだ、俺って極道みたいじゃない。

「あー、分かった分かった俺が預かろう。
 直接客とのやり取りは出来ないが、これ一式母流龍九商会で買い受ける。
 ちょっと安値になるが、とりあえず手元に金は残るさ。
 んで、これだけで過ごす資金稼ぐつもりはなかったんだろう?」

 乗りかかった船だ。泥船であろうと浮かしてやるのが俺のお仕事だろうさ。こんなに可愛い娘たちなんだしね。社会の荒波から守るのは当然なタスクである。

「はい、当座の資金を得て、それぞれ仕事を探すつもりでした」
「それぞれ何ができる?俺が口を利いてやる」

 もとより口入屋、職の斡旋は母流龍九商会の本業に近い。近年続く好景気で常に人手は不足しているのだ。

「は、私は楽進。無手の武術の心得があります」
「沙和は于禁っていうのー。読み書きできるし、お洒落にはうるさいのー」
「ウチは李典や!絡繰りにはうるさいでー!」

は?はあ?はああああああああああああああ?
 暫し凍りついた俺を責められる奴がいようか、いや絶対いないね!当事者の三人娘からは怪訝そうな、或いは不安そうな目で見られたのだけれども。けれども。
220 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/17(日) 22:05:04.98 ID:zoL2x/Ldo
ほい、本日ここまでー
南皮は超豊かになってるからね、モノ売るならそこでしょうよ

も少し三人娘
或いは孫家
221 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/17(日) 22:31:52.40 ID:GYPC66TvO
乙です
222 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/17(日) 23:54:40.68 ID:yPAG+0c9o
乙したー

気がついたら生け簀に大物が三匹、みたいな
223 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/18(月) 00:44:51.80 ID:2Vw5iZr0o
乙です
若干二郎さんの反応が前回と違う気もするので
なんかのフラグじゃないかと戦々恐々

寒中見舞に去年のあれ(?)仕上げてみました
ttp://www1.axfc.net/u/3603058
P:地味様が太守を務めた都市を半角英数6文字で

R−17くらいなのでパスは難しめにしてます
元がデカすぎたので、サイズ小さくしたら何が何だか
高画質の方が良ければ他のろだ探してみます
224 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/18(月) 13:39:54.24 ID:muWu0s0n0
乙&いつものでーす
>>217
>>女三人いればなんとやら。
○女三人寄ればなんとやら。 女三人寄れば姦しいですよね
>>雇用対策の一つ、治安の一環である。 間違いとは言い切れませんが
○雇用対策の一つ、治安向上の一環である。 もしくは 雇用対策の一つ、治安維持の一環である。 の方がいい気がします
>>また。一定以上の武力を持つ者の囲い込みにもなる。 また だけで【。】を使うのは変な気がします
○また、一定以上の武力を持つ者の囲い込みにもなる。

おお、三羽烏。袁家がただでさえ科学力と衣料関係でリードしてるのにさらに加速してしまう
え?もう一人いるって…気に関するあれやこれやが発展するかもね(するとは言っていない)
でも武将たちが気を会得して強化する可能性が無くはない(同上)
225 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/18(月) 23:44:46.98 ID:MyK8wjBjo
いやあ、雪で大変でした
今日は無理明日も微妙

>>222
>気がついたら生け簀に大物が三匹、みたいな
ため池作ったらなぜか錦鯉が泳いでたくらいにびっくり案件です

>>223
>若干二郎さんの反応が前回と違う気もするので
気のせいきのせい(白目)

>寒中見舞に去年のあれ(?)仕上げてみました
ファッ?
いや、ありがとうございます!まさかの肌色!これはprprせんといけない案件ですよ猿渡さん!
1コマめの台詞が見えないのが無念なのじゃー!

いや、ありがとうございまs。めっちゃテンション上がったす

>>224
いつもすまないねぇ……
ほんま、見返してるはずなんやけんども

>科学力
真桜はね、螺旋の力を手にしてるからね

>…気に関するあれやこれや
猛虎蹴撃という必殺技はweb恋姫出所です
え、そこじゃない?
226 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/19(火) 10:07:37.67 ID:uETx0X2AO
乙。白い悪魔との闘いも乙です。


>生け簀に大物が三匹

何か増えそうな気がするんですが…

>紀霊(二郎)さんが極道

つうより『侠』か『頭目』?

>事前と事後の書類あればサボりでは無く視察


……二郎さん。妙なフラグ立てしたような?後で誰かが悪用しそうな悪寒


>>224

校正乙です(感謝)

>技量大したこと無い。
文法を正しく理解してその上で文章に合わせて修正。私には無理。


…田豊さんの人物像に興味ある今日この頃(戯言
227 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/19(火) 11:36:35.19 ID:FPTGtTrho
wiki見れば分かるよ(非推奨)

CV:秋元羊介とだけ
228 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage saga]:2016/01/19(火) 20:30:17.65 ID:OF8jhK6x0
地味さま太守…幽州?
6文字にならないな
229 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/19(火) 20:46:43.82 ID:tDlM+glMo
今日は多分サッカー観戦してます

>>226
>何か増えそうな気がするんですが…
(増えちゃ)いかんのか?

>……二郎さん。妙なフラグ立てしたような?後で誰かが悪用しそうな悪寒
悪用ではなく活用ですw 成功事例の水平展開的な

>…田豊さんの人物像に興味ある今日この頃(戯言
田豊師匠の小話でも書くかねえ

>>228
>地味さま太守…幽州?
節子!それ太守ちゃう州牧や!
太守やったら都市名やと思うで!
230 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/20(水) 23:11:28.76 ID:oeuWF5XNo
 さて、目の前にいるのは于禁、李典、楽進。言わずと知れた曹操の宿将達である。あれだけ人材にうるさい曹操の下で将軍してたんだ。能力はまあ、言わずもがなだろう。なのでまあ、まずはスパイや工作員という線を考えた。

「ま、ないだろうな」

 現段階での曹操陣営ははっきり言って人材不足だ。譜代の臣がおらず、身内だけで回していると言ってもいい。……それで回ってるのが恐ろしいところなんだが。まあ、そんな状況でこの面子を外に出すとかありえない。むしろ、その程度ならば安心できるのだが。
 何より。

「いやー、兄さん、偉い人やったんやなー。おおきに。助かったわ」
「それにとっても親切なのー。まさか初日にお仕事が見つかるとは思ってなかったのー」
「本当にありがとうございます。この恩は、必ずや」

 この娘たちにスパイとか無理だと思うの。

「あー、再確認な。于禁は服飾関係、李典は技術関係の仕事をしてもらう。
 当然下っ端からだが文句は言うなよ?実力が認められたらすぐ上にいけるし
 給料だって上がるからな」
「おおきに」
「分かったのー」
「んで、楽進は、そうだな。ちょいと腕試ししてみっか。
 陳蘭!」
「ふぁ、はい!」

 陳蘭を呼び寄せ、楽進と相対させる。

「まずは、攻め手をしてもらおうか。陳蘭、攻撃はなしな」
「分かりました」

 きり、と戦闘モードに移る陳蘭。無手での戦闘は小さい頃から俺と繰り返し、近代格闘術をそれなりのレベルで再現させている。
 膂力だけなら俺より上だしな!

「凪ちゃん、頑張ってー!」
「凪ー!いてもうたれー!」

 無言で構える楽進。おおう。なかなかの気迫だ。

「はじめ!」

 俺の言葉と同時に楽進が陳蘭に飛び掛る。軽くフェイントを入れてから回し蹴りを放つ。
 陳蘭は慌てずバックステップで避ける。
 更に追撃。流れるような連続攻撃。拳と蹴りを組み合わせたコンビネーション。ふむ、なかなか見事だ。
 だが、まだまだ。俺や陳蘭の域には達していない。
 まあ、そりゃそうだ。俺達は武術の完成形に近いものをなぞっている。対して楽進は一から模索しているはずだ。逆に言えば自己流であそこまで磨き上げているというのは凄いとしか言いようがない。実際、膂力ゴリ押しじゃないのにびっくりしたよ。
231 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/20(水) 23:12:35.38 ID:oeuWF5XNo
「くっ!」

 連続攻撃を凌がれた楽進が一度距離を取る。そして構えを解き……ん?

「は、あああああ!猛虎蹴げ……!」

 いかんいかん、何だか知らんがヤバいのは分かる。楽進の気迫が凄まじい勢いで上昇していくのが俺にも分かる!

「そこまで!」

 流石にアレを受けたら洒落にならんだろうことは確定的に明らか。慌てて止める。何らかの必殺技的なものを発動させようとしていた楽進だが、大人しく指示に従ってくれる。これは正直助かった。

「次は楽進が受ける番なー」

 俺は陳蘭を軽くねぎらいつつ、攻めのパターンを指示する。
 
「二郎様、楽進さん、只者じゃありません」
「分かってる。いや、これは拾いもんだったな。だがまあ、やることは変わらん、いけるな?」
「はい」

 緊張気味ながらも陳蘭が頷く。実際やることは変わらない。近接格闘の文化の極み、見せてやれ!

「はじめ!」

 俺の声と同時に陳蘭が身を沈め、楽進の足を取りに行く。何千、何万回と繰り返した動き。必殺の初見殺し。いわゆるタックルである。そのままマウント。かわされたら回り込んでのスリーパーホールド。
 このコンボが俺達のとっておきである。これはいざという時にしか使わない切り札であり、陳蘭の他には猪々子と斗詩くらいしか見たこともないはずである。流石の楽進もこれにはどうすることもできず……いや、タックルかまされながら肘を落とそうとするとかどんだけだよ。

「そこまで!」

 陳蘭がマウントを確定させたところで俺が声をかける。
232 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/20(水) 23:13:29.09 ID:oeuWF5XNo
「も、もう一度、もう一度お願いします!」

 やや必死に楽進が言ってくる。不本意なのだろう。そりゃそうだ。恐らく持ち味を全く出せなかったと思っているのだろう。俺からしたら十分すぎるのだけれども。

「いいの、いいの。楽進の実力は分かったから」
「し、しかし!」

 食い下がる楽進。
 
「いいとこ見せられなかったからって焦ることはないって。実際大したもんだと思うし。
 ほんじゃま、勤め先は連絡するんで、頑張ってねー。
 あ、宿はこっちで手配しといてやるから。
 んで、職場決まったら家もいいとこ紹介してやるから心配すんなよー」



「兄さんほんまええ人やなあ、気風もいいし、惚れてまいそうやわー」
「おうよ、ありがとなー。家賃も安くしとくから安心してくれていいぞ」
「すごいのー。感激なのー。」
「ほいさ。後で連絡入れるから今日はもう休んどきな」

そう言って俺と陳蘭はその場を去る。……彼女らが見えなくなったくらいの所で陳蘭に問いかける。

「で、楽進はどうだった?」
「は、はい。身体能力は、わたしより上です」

 やはり、な。っちゅうことは俺より上でもある。同姓同名の別人という線はこれで消えた。そんなモブがいてたまるか!となればやはり本物か……。いや、もうこの際なんで女子やねんとか言うのは不粋ってもんだろう。そういうものなのだ、きっと。
 だが……思わぬ拾い物に俺はほくそ笑む。どうせ優秀なのは分かっている。だったら最初っから優遇して囲い込んでしまおう。

「……なんか、楽しそうですね」
「ん?ああ、とびきりの人材を拾えたからな。いや、俺、持ってるわ」
「……三人とも可愛い女の子ですもんね」

 ん?

「い、いや、陳蘭、そうじゃなくてな?
 純粋に人材としてだな……」

 慌てる俺を見て陳蘭はくすり、と笑う。

「ふふ、冗談ですよ。二郎さまったら慌てちゃって」
「あ、あのなあ」
「いいんですよ、別に誰に色目を使ったって。
 わたしはお側にいられるだけでいいんですから」

 そういって、腕に抱きついてくる。く、流石陳蘭!それ俺のツボやて。あかんて……。

「今晩は、どうされるんです?」

 上目遣いでそう聞いてくる。いかんなあ。最近主導権を握られてる気がする。

「美味い飯屋を見つけたんだ。一緒に行こうぜ」
「はい!」

 にこりと笑う陳蘭と一緒に俺は街の雑踏に飲み込まれていくのだった。
233 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/20(水) 23:13:59.24 ID:oeuWF5XNo
本日ここまです

眠いっす
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/20(水) 23:48:51.52 ID:iI1FBZzqO
乙です
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/20(水) 23:52:05.34 ID:OtnZfvHk0

陳蘭のヒロイン臭がぱない
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/21(木) 09:16:11.56 ID:mrKQEXZR0
乙でしたー
前回ラストで名前しか名乗ってなかったけど移動中に字も聞いたのかな?
まあ三羽烏そのままの名前聞いたら普通に本物だと信じるよね、一人一人だと微妙だけど
無手の武術とかこの時代だとほとんど無かっただろうしそりゃ一日の長ってレベルじゃないよね
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/21(木) 11:07:08.92 ID:mrKQEXZR0
校正さんって呼ばれてるけど実際にやってることは校正というよりは添削?
話の内容には口出ししないし(キャラ押しはしてるけど)あくまでも1ファンとしての分はわきまえてる…はず
238 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/21(木) 21:48:29.75 ID:Ao7OEUWQo
>>235
年上の幼馴染でちょっとポンコツで貧乳と言うハイスペックさ

>>236
>前回ラストで名前しか名乗ってなかったけど移動中に字も聞いたのかな?
字ね、字。
凡将伝では極力字は使用しません。だって紀霊の字がわかんないんだもの。文醜や顔良もね!

>無手の武術とかこの時代だとほとんど無かっただろうしそりゃ一日の長ってレベルじゃないよね
まだ少林寺すらできてないですからね
現代格闘技の洗練といったらないのです。数多の天才たちが築いてきた歴史、そして産みだされた技
それこそが現代知識チートだと思うのですよね。地味だけんども。
一ノ瀬は貧弱な体格ですけど、修羅の国のキャバレーで外国人と喧嘩したことがあるんです
大内刈りから袈裟固めで瞬殺でした(殺したとは言ってない)
つまり、そういうことだと思うのです

>>237
赤ペン先生かな?
いや、いつもお世話になっております
239 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/21(木) 22:46:58.05 ID:Ao7OEUWQo
 さて、ここは南皮の奥の奥。そこで対峙するは袁家を支える文武の要、田豊と麹義。匈奴大戦からの戦友であり、文武の派閥の頭目。つまりは政敵というやつである。
 文武の巨頭に挟まれながらも常通りの笑みを絶やさぬ沮授こそが流石であろう。その内心はともかくとして。

「何だこれは、ふざけているのか?田豊よ」

 挨拶代わりに殺気を振りまくのをやめてほしいものだと沮授は痛切に思う。麹義のそれは、例え直接向けられたのではなくとも息苦しさを覚えるほどに濃密なものである。それを向けられる田豊は揺るがない。小揺るぎもしない。

「いや。至って真面目だが」

 軍師と言いながら筋骨隆々のその肉体に恥じないほどの気力。頭髪は白一色であるがその表情は溌剌にして闊達。麹義の向ける殺気をどこ吹く風かとばかりに切り捨てる。
 ち、とばかりに麹義が舌打ちを漏らす。田豊とは長い付き合いである。かの匈奴大戦より文武筆頭として袁家を牽引してきた仲である。
 時に争い、時に和す。だがしかし、この度において明確に利害は対立している。だが、ここまでギスギスとしたやり取りは近年稀であり、それだけに深刻なのだろうと沮授は察する。

 数分、或いは数秒であったろうか。重い沈黙を田豊が討ち破る。

「やれやれ。難儀なことよ。貴様ら軍部の要望については最大限応じたと思うのだが」

 重々しい口調で鋭く麹義を射抜く。

「ふざけるなよ……」

 地獄の底から、と言うべきであろうか。その低い声にさしもの沮授も肝を冷やす。いや、微動だにしない田豊を賞賛すべきか。

「一万、だぞ。一万の兵……」

 いっそ悲愴と言っていいだろう。その口調から沮授は察する。これは人員削減なのであろうと。いくら袁家は北方の護り手だとしても、だ。洛陽から危険視されるほどに戦力は充実しているのだ。なればこそ。手塩にかけた兵を手放すとなればその悲痛な声にも納得である。

「一万の増員とはどういうことだ!」

 その声に流石の沮授が絶句する。

「なに、予算が余ったのでな」

 流石の沮授もこれには苦笑いすら浮かべられない。一体これはどういうことなのだ、と。予算の策定会議というのはもっとこう、殺伐としているものではないのか。予算を奪い合うものではないのか、と。

「ふざけるなよ田豊!兵を鍛える士官が足りんぞ!」
「そこよ。二郎が孫家に肩入れしておるのは知っておるじゃろう?」

 思いもかけずに出てきた友の名に沮授の表情が引きつる。またあの男はなんかやらかしたのか、と。

「人質という名目で幹部を招聘しているらしいからのう。そこらへんを遊ばせておくのも、のう?」
「孫家の将兵の練度については聞き及んではいる。が、まさか孫家の将に訓練をさせるわけにもいかないだろう?」

 確かに、孫家の将がいくら有能であろうとも兵を鍛えさせるとかいうのは論外である。のだが、田豊は不敵に笑う。

「じゃろうな。じゃから責任者は二郎とする。二郎はあれで生真面目よ。足繁く通うじゃろうよ」
「……二郎子飼いの兵にするということか」
「うむ。麹義よ。貴様とて十常侍の遣り様に思う所はあるじゃろう?」

 先ほどまでの言い争いなぞ馴れ合いの極み。そう沮授をして思わせるほどに田豊は殺気、或いは覇気を放つ。

「無論その通り。なるほど。先に手を出したのは彼奴等だからな。誰に喧嘩を売ったかを思い知らせないといけないということか」

 これまでは洛陽から危険視されないように手元の即応戦力については縮小していたのだ。ぎりぎりの戦力で北方防衛を果たしていたというのに、だ。

「暢気な二郎が本気になっておる。なれば泥をかぶるのは我らが役目であろうさ」
「……そうだな、洛陽に引き籠る御器噛りどもには教育が必要だ」

 二人の台詞に沮授は震撼する。つまり、十常侍は虎の尾を踏んだのだ。だからこそ袁家の重鎮は正面切って十常侍と遣り合うと決定した。
そしてそのための兵力を増強するというのだ。そしてそれを率いるのは紀霊だということになる。それを若輩である自分の前で明らかにするのはやめてほしいものだが。知りたくはなかった。
 袁家は北方の護り手にして漢朝有数の名家。だが、その本質はあくまで武家である。その権威が毀損されたのであれば報復あるのみということなのであろう。馬家に続いて袁家も叛旗を翻すことになるのかもしれない。
 と、静かに決意を深めていた沮授ではあるが。

「それはそれとして、ね。予算編成がめんどくさくなったから適当に増員したって話も聞いたのだけれども?」
「……軍部の要望は丸呑みしたじゃろ?」
「そこはせめて否定くらいはしてほしかったわね」

 不都合な真実というものはどこにでもあるものである。キリリ、と痛みを腹部に感じながら沮授は貼りついた笑みを崩さない。彼ができる意趣返しとしたら、親友たる紀霊にこの胃痛をお裾分けすることくらいであろう。
 いずれにしろ、袁家の戦力増強は既定路線となったのだ。それがこの中華にどのような影響をもたらすか、沮授は思いを巡らすのだった。
240 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/21(木) 22:48:47.14 ID:Ao7OEUWQo
はい、本日ここまですー

だもんで次回は孫家の人質きたるんるん
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/21(木) 23:03:32.07 ID:bdlL6DcAO
乙です。

>タックル→マウントorスリーパーホールド

ふむ。合理的(褒め)
つか原始的格闘しか無い時代だから、理論立てた 対人格闘術持ち込んだ事もチート?
つか二郎さん、無手格闘系やってたとか?

>曹操陣営の将軍

前世知識の罠ですな。二郎さん、ご用心。


…生け簀云々で、現在の南皮が巨大な人材生け簀?と考えたら、既に無意識下で曹操にダメージ与えまくっていると気付いた。あわわ…
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/21(木) 23:05:06.85 ID:RD3Q9rSyo
乙〜
そういえば二郎さんの示現流って薩摩以外では江戸中期にはほとんど姿消してるのだが、
島津の分家の系譜らしい+剣術道場の孫の御遣いは実際の術理を知ってる可能性があったり

セリフ見えないとのことでもうちょっとゆるめたのをうpしますた
835kb、1154×1600と重くでかいので注意
ttp://www1.axfc.net/u/3605281
(pは前回と同じ)

セリフは普通の鼻歌ですが某団体対策のため中文訳してるだけです
実際当時はこんな文法も言葉もありえんのですが(右から左表記は○)、まぁ外史時空ということで
風呂もどうかとは思ったんですが、二郎効果+本人に言い訳させて誤魔化しております
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/21(木) 23:13:48.31 ID:DMjJWGXgO
乙です
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/21(木) 23:29:54.73 ID:bdlL6DcAO
おお、田豊様だ。

投下ありがとうございます。


……何と申しますか、生え抜きの重臣を体現された方ですね。
容姿はきっと苦み走った 眼光鋭い御方?


……ただ、紀霊さんと誰かの子の前では凄まじい爺馬鹿になりそうな気も
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/22(金) 00:55:49.23 ID:mUzbwOTN0
乙でしたー
ところで>>まだ少林寺すらできてないですからね と言ってますが少林寺が建立したのっていつでしたっけ?まあ隋の時代に改名して少林寺になったそうですからどちらにしろあとか…ちなみに武術の名前を言うのでしたら少林寺拳法は日本発祥、中国発祥は少林拳です、その前身と言われるカラリパヤットが中国に伝わったのは達磨さんが少林寺に来たころだそうですのでどちらにしろこのころの中国は体系立った無手の武術はなさそうですが
無駄知識はこのへんにしまして

>>239
>>その声に流石の沮授が絶句する。
○その声に流石の沮授も絶句する。
ちなみに 流石の沮授もこれには苦笑いすら浮かべられない。 は問題ないです
>>ここまでギスギスとしたやり取りは 問題ないですが下では漢字を使われているので(袁家の重鎮は正面切って十常侍と遣り合うと)
○ここまでギスギスとした遣り取りは の方が良いと思います

いつもの添削をエラそうにしつつ細かいところもネチネチと、私三国志は横山さんくらいだから都市の名前とか分らないのでちょっと八つ当たり気味な自覚はあります

これは閑話というべきか裏話というべきか…凄まじい職と食によるインフレスパイラルの影響がこんな所にも、それにしても1万人を生産性のない兵士にできるって恐ろしいですねえ、実際には公共事業やったり広大な袁家領土の見回りにしたりするから無駄飯ぐらいにはならないんでしょうけど
…そうだよ、袁家の軍人って本気でやることいろいろあるんだよなあ、これだけの人員を無駄にせずに扱えそうなあたりが袁家の真の恐ろしさかも
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/22(金) 01:03:50.47 ID:2UMhENc/o
乙ー

一万人の兵士に需要があるのがすごいところよな

ところでノクターンやるの?
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/22(金) 01:36:46.04 ID:8GH7c73AO
まあ、『元気(余力)が あれば何でも出来る』
と某氏も言ってますし。

一万人の武装工兵いたら まあ袁領内の治安維持だのインフラ整備だのはかどりますわ。それ以前にそれだけの収入を齎した 二郎さんと母流龍九商会の手駒を与える事で裏の戦力を作ろうという思惑も見え隠れ。


さて、孫家からは誰が二郎さん食べに(意味深)来るのかな?
248 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/22(金) 22:15:46.89 ID:q+E43nWHo
本日はサッカー見ます

>>241
>ふむ。合理的(褒め)
基本ですよねw

>つか原始的格闘しか無い時代だから、理論立てた 対人格闘術持ち込んだ事もチート?
チートです。が、派手さはないです

>つか二郎さん、無手格闘系やってたとか?
世界最高峰のガチ試合をスロー再生付きで見るって、見稽古としては破格すぎると思いますね……
二郎ちゃんが経験あるのは示現流だけです

>既に無意識下で曹操にダメージ与えまくっていると気付いた。あわわ…
被害者の会が結成されたら会長はきっと曹操w

>>242
>島津の分家の系譜らしい+剣術道場の孫の御遣いは実際の術理を知ってる可能性があったり
原作で明言されてないので、なんとも
よそ様の二次創作ではそう言う解釈をするケースもありますが・・・

>もうちょっとゆるめたのをうpしますた
保存しました。保存しました。保存しました。
くそ!肝心なとこがみえないぜ!だがそれがいい!畜生!なんて時代だ(錯乱)
いや、ほんとありがとうございまsる

>セリフは普通の鼻歌ですが某団体対策のため中文訳してるだけです
某団体は怖いですからね
気を付けねば(戒め)

>>244
>おお、田豊様だ。
田豊師匠のお話でした。

>……何と申しますか、生え抜きの重臣を体現された方ですね。
なお、生身で匈奴と渡り合えちゃいます

>容姿はきっと苦み走った 眼光鋭い御方?
そんな感じそんな感じ。

>……ただ、紀霊さんと誰かの子の前では凄まじい爺馬鹿になりそうな気も
そらもうデレデレよ

>>245
>どちらにしろこのころの中国は体系立った無手の武術はなさそうですが
ローマだったらレスリングがあったからここまで無手で無双できなかったかもしれない
でも創成期だからワンチャン?……

まあ、緻密な歴史考察とかはすると一ノ瀬の頭がフットーするのでふわっとした感じでオナシャス

>私三国志は横山さんくらいだから都市の名前とか分らないのでちょっと八つ当たり気味な自覚はあります
ある意味ネタバレになっちゃうのですが、蒼天航路とかでも出てきます。襄平ですな。

>これは閑話というべきか裏話というべきか…
幕裏扱いですかね。

>それにしても1万人を生産性のない兵士にできるって恐ろしいですねえ
人口流入が激しいですからね。治安要員も必要っちゃ必要なのですよ(欧州を見ながら)
江南からの流入人員が一番ぎらぎらしている。となればそこを調練するには江南出身者がうってつけ、ですよねと

>>246
>一万人の兵士に需要があるのがすごいところよな
すごいんですよ。なお実務を考えると軽く死ねるけどそれをさらっと何とかしてしまう官僚たちもすごいんです

>ところでノクターンやるの?
はい

>>247
>まあ、『元気(余力)が あれば何でも出来る』
誰のエロをやりましょうかねっと

>一万人の武装工兵いたら まあ袁領内の治安維持だのインフラ整備だのはかどりますわ。
そこに気づくとは……やはり天才か……

>それ以前にそれだけの収入を齎した 二郎さんと母流龍九商会の手駒を与える事で裏の戦力を作ろうという思惑も見え隠れ。
こら、ネタバレは駄目って言ったでしょ!

>さて、孫家からは誰が二郎さん食べに(意味深)来るのかな?
多分予想通りの面子です
249 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/22(金) 22:17:28.60 ID:q+E43nWHo
今月中にノクターンにエロ投下しますが

・梁剛
・陳蘭
・張勲

現在この三者についてアクセスできます
誰との濡れ場を見たいですか?
あ、こっちはR-18付けてないからいきなりノクターンにやりまs
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/22(金) 23:18:09.81 ID:XbvL+5ud0
ヒャッハー!
七乃でオナシャス!!
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/22(金) 23:26:10.18 ID:mUzbwOTN0
時系列を考えたらやっぱり姉御かなあ
でも俺姉御の濡れ場よりもそのあとのピロートーク的なものの方が趣味に合いそうなんだよなあ
姉御にリードされる二郎ちゃんか二郎ちゃんに翻弄される姉御が見たいです(現代日本人のエロの探求からの知識も十分チートと呼べると思うんですよ)
252 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/25(月) 23:29:15.48 ID:m4SH56obo
無事転勤できたならばノクターンじゃ
転勤して関西復帰したいのう

がんばる
253 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/25(月) 23:41:33.94 ID:m4SH56obo
「す、すごい……。なんて高さ……。城壁があんなに高いなんて……」
「城壁で一々驚いてたら身が持たないよ?町はもっと凄いんだからねー」

 呆然とした孫権の声に引率役の魯粛が笑いかける。それを苦笑交じりに見守る黄蓋。まあ、黄蓋にしたって初見の時には似たり寄ったりの反応であったのだが。しかし前回と違って今回は長い滞在になりそうだ。

「これだけの城壁を造るだけでも袁家の凄さが分かるわね……」

 南皮の入り口にも至っていないというのに萎縮してもらっては困るのだがなあ、と黄蓋は思う。人質とはいえ、孫家を背負って来ているのだ。……とは言えそれを言うのは酷というものだろう。内心そんなことを思いながら声をかける。

「権殿、今からそんなに緊張していては倒れてしまいますぞ?」
「わ、分かってるわよ!」
「穏を見習いなされ。余裕綽々ですぞ?」
「あれはちょっと違うと思うのだけれども……」

 南皮へ送られる人質については割とすんなり決まった。まずは黄蓋である。袁家――紀霊と面識があるのは彼女のみであるからして、これはいの一番に決まった。
 周辺豪族への抑え、それに軍を率いるにしても孫策が残ればまあ大過ない。暴走のきらいもあるが周瑜があればそれもある程度は制御できる。また、周瑜をもってしても制御できない事態であればそれこそ孫策の持つ、孫家独特の勘が動いた時であろう。
 次に決まったのが孫権である。流石に当主である孫策殿を出すわけにはいかない。そういう意味では人質としての価値は孫策に次ぐのだからして。甘寧は喫緊の課題である江賊対策での主戦力であるし、周泰は周辺への探りとして江南を飛び回っている。消去法で陸遜となったのである。孫権と同じく、孫家の次代を担う者として袁家から学ぶべきことも多いであろうという期待も勿論大きい。
 人質、という名目であるが孫家の十年先を見れば中々に得難い機会でもあるのだ。それは同時に十年先を思う余裕が生じたおかげでもある。そう思い、終始無言であった陸遜に目を向けるのだが。

「ほれ、穏、しっかりせんかい」
「し、失礼しましたー」

 謝罪の言葉も上滑り気味。吐息は熱く、頬は紅潮。陶然とした表情はとろりと揺れる。悪癖が出たか?と黄蓋は内心頭を抱える。……陸遜は活字に没頭すると困った発作――発情というのが一番相応しい――を発症する。てっきりそれは活字だけのことかと思ったが、現状を見るに知的好奇心が満たされるとそれが起きるのか……。これは流石に想定外である。

「ほいほーい、んじゃ、付いてきてねー。
 商会の事務所に紀霊さんがいるはずだよー」

 そこらへんを華麗にスルーな魯粛の気遣いに黄蓋は頭が下がる思いである。やれやれと頭を一つ振り、久方ぶりに南皮の城門を潜るのであった。




 思えば、第一印象は良くなかった。いや、最悪と言ってもいい。

「おー、黄蓋、久しぶりー。
 ……相変わらず、扇情的な装いだな。けしからん、実にけしからん。
 目の毒、目の毒」

 にへら、と、だらしない顔でとんでもないことを言ったのだ。その男は。

「おぬしも変わらんのう。そこまであからさまじゃと怒る気もせんわ」

 答える黄蓋は落ち着いたものである。慣れっこと言わんばかりに軽くあしらい、どうだとばかりに胸を張る。それに見事につられて、男の視線は黄蓋の上半身の一部分……というより胸に釘付けだった。そしてその胸部は言うまでもなく豊満であった。
 にやにや、とだらしなく笑いながら次に陸遜に視線を移して……これまた胸を凝視している。

「随分ご執心のようじゃがな。貴殿が注目する乳の持ち主について紹介くらいはさせてもらってもいいと思うんじゃが」
「おうよ、どんとこい」
「わしはまあ、今さらじゃからいいとして、こちらが孫家二の姫、孫権殿。
 貴殿が助平な視線を向けておったのが陸遜じゃ」

 その声に男――この男が紀霊であるらしい――の目が一瞬鋭く光る。そしてじろり、と値踏みするような視線でこちらを見やる。品定めと言わんばかりの視線に精一杯胸を張り、笑みを浮かべる。
 上から下まで舐め回すような視線をくれて、やはり胸の辺りで視線が……止まらない?!なんだろう。ものすごく腹が立つ。ものすごく馬鹿にされた気がする。この男は敵だ。そう、全身に刻み込まれるくらいの屈辱である。

「孫権です。祭や魯粛から色々噂はお聞きしておりますわ。よろしくお願いしますね」

 辛うじて無礼にならない程度に挨拶をする。声が震えていなかったろうか。いくら気に食わないとはいえ、この男の胸先三寸で孫家の命運は左右されてしまうのだ。粗相をするわけにはいかない。
 
「おう、紀霊だ。よろしくな」

 にか、と笑いかけてくる。普通に好感を持てる笑みなのだろうが、さっきまでの印象が最悪だ。こちらこそ、と愛想笑いをするのが孫権には精一杯だった。

「陸遜ですー。あの、農徳新書、読ませていただきましたー」

 珍しく陸遜が自分から話し出している。ああ、そういえばあの書の著者だったか、と納得する。陸遜は随分とあの書に執心だったからして。……正直、著者本人とその著作の内容のあまりのギャップに目眩すら覚える孫権である。

「あららー、ご機嫌斜めみたいだねえ」

 魯粛の声に肝が冷える。いけない、態度が露骨であったかと。

「そんなことはないわよ。ちょっと緊張しているだけ」
「ふふーん?まあ、そういうことにしておこっか」

 にんまりと笑う魯粛。この娘も浅いようで読めない。見透かされているような、試されているような視線に居心地の悪さを覚える。何を言っても曖昧模糊ながらも当意即妙。このような傑物が留守にしても構わないほどに母流龍九商会は充実している。虞翻、顧雍などの識見には舌を巻いたものだ。
 まあ、いい。所詮は人質の身なのだ。だが、孫権は勿論それだけで済ます気はない。孫家の次代を支える者としての覚悟は完了している。袁家が繁栄しているならそこから学ぶべきことはたくさんあるはずだ。けして、遊びに来たのではない。
 私は孫家を背負って。孫家の代表としてここにいるんだ。決意も新たに紀霊を見やる。のだが。
 黄蓋と陸遜に挟まれて鼻の下を伸ばす彼に、一体どういう表情をしたらよかったのだろうか。まあ、少なくとも舌打ちをしてしまったのはまずかったなあ、と思うのである。多分彼には聞こえてなかったとは思うのだが。
254 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/25(月) 23:42:40.17 ID:m4SH56obo
凡人と人質

本日ここまですー

まあ、蓮華の魅力は尻だからね、しょうがないね
あと、めんどくさいとこも好きです
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/25(月) 23:55:49.93 ID:vyPMV+H0O
乙です
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/26(火) 00:04:36.02 ID:OhDaLfNAO
乙です。


消去法選択ならこうなりますね。
ただし、先を見据えた本気が孫家にはありますね 黒幕は周楡さん?

陸遜さんは「呉の放火魔」が…このコピー知った時本人には申し訳ないですが、爆笑。


……さて、そろそろ陳蘭さん辺りに〆て貰わないと。紀霊さん。
初対面の女性をジロジロなんてどこの狒々爺すか 陳蘭さんにしっかり絞って貰いなさい(意味深)
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/26(火) 10:31:47.43 ID:EcYSO0yv0
乙でしたー
>>253
>>私は孫家を背負って。孫家の代表としてここにいるんだ。決意も新たに紀霊を見やる。のだが。 ちょっと。が多い気がしますまあ彼女の覚悟とか緊張を表してるともいえるのでこれはこれでOKですね
○私は孫家を背負って、孫家の代表としてここにいるんだ。決意も新たに紀霊を見やる。のだが。 …ふむ文章としてはこの方が読みやすいけど彼女の心境としては一ノ瀬さんの方がいいかも

お互いに利用価値があれば裏切りづらいし信用もできるわけですが…とはいえどう見ても袁家が出しすぎなんだよなあ、神の視点(未来知識)無いとそこまで肩入れする理由が分からないという。これが袁家、孫家の方々にどう取られるか…二郎ちゃんの親友二人は信頼しつつもいざというときの為に準備してることは想像に難くない
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/26(火) 11:19:57.33 ID:OhDaLfNAO
>>257


袁家が出すというよりあくまでも母流龍九商会の出資という体を取ってると想像。
で必要な物資を袁家が払い下げなら単なる御用商への行動の一環だから、どこからつつかれても「言いがかり」と反論可能

孫家にしたら今はとにかく復興支援欲しい。裏がどうあれ袁家の大商人が 支援してくれるなら受けざるを得ないし、担保としての人質も商会として取る訳で直接袁家が取る訳でもなさそうだし。


つか張勲(七乃)さん辺りはこの程度織り込んでいるだろうし、田豊様なら袁家としての言いがかり反論を部下に作らせているだろう。


張紘さん達も最悪を想定して水面下で動いているのは間違いないでしょう 二郎さんがリスクヘッジを仕込んでいない訳ないし。


ただ、担保に人取ってどうするんだろ。大規模破綻なら彼女達個人の価値で釣り合わないし、政略婚目当てなら黙っていない方が一人。
259 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/26(火) 22:05:03.61 ID:Ebaqbqn/o
>>256
>先を見据えた本気が孫家にはありますね 黒幕は周楡さん?
はい。

>陸遜さんは「呉の放火魔」が…このコピー知った時本人には申し訳ないですが、爆笑。
爆笑三国志は、名著だったと思っております
赤兎馬ロボ説とか超笑ったw

>初対面の女性をジロジロなんてどこの狒々爺すか
いやあ、あんなに扇情的な衣装を目にしたらそら凝視する。誰だって凝視する。孫家未来に生きすぎだと思いますw


>>257
いつもすまないねえ(ほろり)

>どう見ても袁家が出しすぎなんだよなあ、神の視点(未来知識)無いとそこまで肩入れする理由が分からないという。
まあねえ。袁術配下であることを考えれば未来知識さえあれば納得なのではありますがw
現在の欧州事情に近いものがあります
流民の過度の流入を防ぎたいなら、シリアの復興と安定が一番の近道という感じ

>>258
>袁家が出すというよりあくまでも母流龍九商会の出資という体を取ってると想像。で必要な物資を袁家が払い下げなら単なる御用商への行動の一環だから、どこからつつかれても「言いがかり」と反論可能
>孫家にしたら今はとにかく復興支援欲しい。裏がどうあれ袁家の大商人が 支援してくれるなら受けざるを得ないし、担保としての人質も商会として取る訳で直接袁家が取る訳でもなさそうだし。
ほぼ満点です。解説ありがとうございました。

>張紘さん達も最悪を想定して
参考までに張紘あたりが想定している最悪とかを考察していただけるとwktkでございます

>ただ、担保に人取ってどうするんだろ。
孫家には他に出せるものがないという哀しい台所事情
孫家精一杯の誠意だが一般的には「フーン」で済まされる模様
なお二郎ちゃん、面子の名前見るだけでご満悦
苦肉の策、碧眼児、放火魔という曹操と劉備という化け物を撃退した戦闘民族のメイン戦力(なお全員美女)
260 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/26(火) 22:19:23.19 ID:Ebaqbqn/o
本日はサッカー見るので投下はナッシン

次のエピソードは文醜顔良の二枚看板予定です
孫家ご一行は暫くお休みかなー

エロシーンについては無事転勤が決まったらノクターンします
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/27(水) 00:01:14.61 ID:VPpqtPRAO
>張紘さんが想定する最悪


商売だけならまず孫家の夜逃げとそれによる治安崩壊。

まあ孫家に踏み倒された負債は特損で計上するし 魯粛さん辺りが管財人で再建に当たったり回収したりで何とかするでしょう。

問題は商売出来ない位治安崩壊したら回収以前の話で。最も、呉の四姓(朱、顧、張、陸)と結べばある程度の治安維持は 出来るかな?


ここに政治が絡んだ場合 特に十常侍周辺から


「孫家と袁家が商人を使って通じている。怪しい」


と騒がれたら、さすがに面倒だし商会や紀霊さんを切り捨てる可能性もある。


あくまでも憶測ですが、孫家からは「水害の窮状を商人により知った袁家の厚意」
で支援して貰っているという申し立て。
袁家からは「揚州の窮状を商人が知らせた事で義により」商会に支援を命じたという申し立て。

この2つを取ろうと奔走しているんじゃないかなと。


でも張紘さんは紀霊さんの命を第一に考えるだろうから、最終手段は商会から紀霊さんを完全に切り離して偽装解散までするかも。

その前に袁逢様や田豊様がロビー活動しそうな。 租授さんも必死で死角無しの反論書を書き上げそう。


…あ。孫家の人質の必要 解ったわ。
夜逃げした時に囮にしたら捕まるかも。
後彼女達に再建の矢面立たせれば良いのか
262 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/27(水) 00:46:51.75 ID:uISbtx/8o
やったぜ(五輪)

>>261
考察ありがとうございました。
あれこれ語りたくもあるのですが、ネタバレもいかんだろうということで、作中でご確認してくださいませ

ものっそい参考になりました、ほんまありがとうございました
ただ、袁家は二郎ちゃん切り捨て路線は(今のところ)ないですとだけ
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/27(水) 09:21:40.18 ID:F4eJJneP0
そりゃあ袁家上層部は個人としては二郎ちゃん切り捨てはあり得ないわけだし
公人としてみても切り捨てて得られるもの失うもの、切り捨てないことで得られるもの失わないもの…あとはこの先の展望諸々を加えれば
あれ?袁家が次郎ちゃんを切り捨てる理由がでっち上げれないぞ?のレベルですからよっぽどのバカが早まった真似をしない限りは袁家としては二郎ちゃん金のなる木として囲い込むよね
強いて言うなら上の方で顔良と張勲が相談してた力が一か所に集まりすぎることかな
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/27(水) 14:17:40.57 ID:VPpqtPRAO
>>262>>263

袁家、いや袁家中枢や主要家臣(田豊様、祖授さん、文醜さん、顔良さん 等)は二郎さんと紀家を切り捨てる事は無いでしょう。


が、専制君主制である以上「勅により」今回の支援に対する審問あれば二郎さんに僻みや嫉妬持ってる者が暗躍しかねない
更に支援の担当が母流龍九商会であり設立主体が二郎さんである以上、理不尽な「勅」の火の粉が降らないとも云えない。

張紘さんは「可能性」としてここまで考えて、で、二郎さん大事で水面下で商会と自らの情報網とで洛陽の動きを観測しつつ自らのコネで袁家に接触。


あくまでも憶測です。つか一介の高卒が天才の考え判んないよ
265 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/27(水) 21:38:38.36 ID:I66ZNE9eo
>>263
>あれ?袁家が次郎ちゃんを切り捨てる理由がでっち上げれないぞ?
まあそうなんですが

>よっぽどのバカが早まった真似をしない限りは
国会中継見てたらw ほんとどうしようもねえなとw

>>264
>が、専制君主制である以上「勅により」今回の支援に対する審問あれば二郎さんに僻みや嫉妬持ってる者が暗躍しかねない
>更に支援の担当が母流龍九商会であり設立主体が二郎さんである以上、理不尽な「勅」の火の粉が降らないとも云えない。
参考になります
どうしても一人であれこれ考えておりますので、すごくありがたいのですよ
なるほどなあと思いながらご意見を頂いております

お礼代わりに袁家の内情をちょっと公開しちゃいましょう
色々と火種も地雷もある袁家ですが、七乃さんが知らん間に消化、地雷撤去をしてくれております
斗詩とのやりとりもその一環だったりします

あれこれと有象無象が蠢動しますが、残念そこは絡新婦の守備範囲だ!出直して来るんだな状態でありまする
二郎ちゃんはもっと七乃さんに媚びへつらうべきそうすべきw

まあ、そんなかんじです(どんなかんじだ)

七乃VS華琳様とか誰か書いてくれないかなあとか思ったり
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/27(水) 22:34:05.38 ID:m1ZeFr8do
この前はいろいろとすみませんでした
ちび麗羽様がご入り用というのを思い出しなぜかSDを描きたくなりお詫び代わりに描いてみましたww
まだ線画ですがサンプルとしてどうぞ
http://www1.axfc.net/u/3608775

他のSDも描いたけど最終パーティの片方の面子でまたネタバレだからどうしよう
267 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/27(水) 22:43:59.43 ID:I66ZNE9eo
>>266
ファー?!
なにこの麗羽様超可愛いんだけど!可愛いんだけど!
絵心ってやつは残酷な才能なんだぜ……

うわーうわーありがとうございますー
SDキャラ素敵すぎますわー
助さん格さんばりに斗詩と猪々子を従える感じで高笑いしてそうですね!

最終パーティの面子ネタバレ?
つまりさっさと続きを書けと言うことですねがんばりますw

がんばりっす!
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/27(水) 23:18:56.41 ID:m1ZeFr8do
褒められてうれしいのでおそらくネタバレにならない助さん格さん追加
http://www1.axfc.net/u/3608810.png
http://www1.axfc.net/u/3608811.png

実は俺には絵心は全くないっ!
まぁあんまり似てないけどきっと愛だと思う、多分
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/28(木) 02:58:22.02 ID:W2FRgkGpo
成し遂げたな(五輪)
日韓戦楽しみやわぁ

リライト前のスレ民に漂ってた七乃を敵に回すとどうなるのかという恐怖感(震え
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/28(木) 12:32:54.75 ID:NHhHvZGAO
そういや七乃さん今何やってんだろ?
消化もとい消火やら地雷撤去やら暗部仕事を地味にこなしているのは想定出来るが、袁術にろくでもない事吹き込む子育てしてる可能性の方が有り過ぎて怖い。
271 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/28(木) 22:17:55.05 ID:e2J8Ja7lo
>>268
これはいい助さん格さん
二郎ちゃんはうっかり枠やな(確信)

ありがたく保存しました

>>269
>成し遂げたな(五輪)
やったぜ

>>270
七乃さんの出番はもちっと後かな
まあ、ご想像通りじゃないかなあとおもったりしますw
272 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/29(金) 23:28:04.71 ID:iR7mmiQ0o
「アニキーアニキー!」

今日も今日とて空は青く、透きとおっている。その空気を震わせる声が響く。それが美少女の叫び声、なおかつ俺を呼ぶ声であればいかほどに嬉しいことだろう。言わずもがな、脳筋美少女こと猪々子の声である。
俺を求める声は道を失った幼子のように響き、庇護欲をそそる。あくまで快活な声は彼女の溌剌とした魅力を引き立てていた。などと現実逃避をしていたのだが。

「アニキー!」
「近い!顔が近い!」

この娘はどうして警戒感がないのかねえ。がぶり寄りと言っていいくらい近いっつうの。

「聞いてよアニキー!」
「いや、聞くから聞くし聞かせてもらうから。だから顔が近いって!」

まあ、どうせ聞きゃあしねえんだけどね。そしてどうせ仕事がおわんねえとか仕事が大変とかそういうこったろう。

「仕事が終わんないよー」
「予想通りか!意外性仕事しろよ!」

猪々子は不思議そうな顔をしてやがるが……。まあいいや。

「猪々子が仕事に追われて俺か斗詩のとこに泣きつくのはいつものことだしな」
「うん、頼りにしてる!」
「いや、少しは頑張れよ!」
「頑張った結果がこの有様だよ!」
「お、おう……」

頼った結果がそれならば仕方ないな。いつもの猪々子だ。周囲の文官もくすくす笑いながらも仕事の手を止めない。いわゆる日常茶飯事というやつだ。

「ほんで、今日はどうした?始末書の書き方か?それとも財布でも落としたか?
 まさか、うっかりねーちゃんの秘蔵の酒を呑んだとかか?それはちょっと困るな」

 師匠は秘蔵なぞせずにあるだけ呑んでしまうしな。

「……アニキがアタイをどう思ってるか分かった気がするよ」
「なんだ、違うのか。ならどうにかなるぞ」
「うん、新兵の編成が終わんない」
「それ結構前の案件だぞ……」

 先日の袁家軍大増員である。表向きには一万の増員という大本営発表だったのだが、実際はそれどころではないのである。俺の指揮する紀家軍だけで一万+αの増員である。まあ、そのおかげで俺個人の裁量で動かす兵員についても算段がついたのはありがたいところ。遊撃がお役目の紀家軍は必要最低限の兵員で回してたからなー。なお、+αについてはこっそりと実験部隊的なモノを立ち上げているのは内緒である。
文家と顔家についてもそれなりに増員されたらしいと風の噂で聞いた。いや、七乃が言ってた。しかも北方から精鋭を引き抜きつつあるというのだ。常備軍そんなに備えてどうすんの。いやマジで。
 実際びっくりしたんだが、ねーちゃん曰く「黒山賊への備えだ」で終わった。妥当な理由だけど何か裏にありそうな気がするのは勘ぐりすぎだろうか。
「だってよー、一人動かしたらそこの穴埋めに一人動かさないといけないしよー。
 更にその穴埋めに一人動かしたらまた一人動かさないといけないじゃんかー」
「いや、人事ってそういうもんだろ」
「無理。アタイには無理。助けてよアニキー」

そう言って俺に抱き付いてくる猪々子。この娘はもうちょっとあれだな。慎みとか持ったほうがいい。俺としては無防備宣言状態な猪々子に、それはアカンやろと言いたいのですよ。

「あー、分かった分かった。手伝ってやるからとりあえず離れろ」
「アニキー!ありがとー!やっぱいざっていうときは頼りになるなー!」
「おはようからおやすみまで、猪々子を見守ってるしな」
「やったぜ!アニキが一緒にいてくれるなら、怖いものなんてない!」

 悲報。猪々子にボケてもツッコミは期待できない模様。いや、知ってたけどさあ。こういう時にはやはり斗詩の常識力が頼りになるのだなあと認識を新たにする。
273 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/29(金) 23:28:40.63 ID:iR7mmiQ0o

「とは言え、文家の内実はわかんねえからな。誰かできる奴を派遣するわ。
 んー、これを機にむしろ四家の人材交流くらいした方がいいのかもなあ」

 統合整備計画的な感じでマニュアルの整備とかした方がいいのかなあ。めんどくさそうだけれども。連携とか考えたら必要なんだろうなあ……。うし、やるか。

「よくわかんないけど、アニキに賛成!」
「いや、もう少し考えようよ」
「考えた結果、アニキの意見に従うー!」
「いや、明らかに考えてねえだろ。文家ってのは袁家を支える武家の筆頭なんだからさ、もうちょっと考えようよ」
「えー、正直向いてないしー」
「……それは否定でけんなあ」

 正直、大本営であれこれ考えているよりも、単身で前線に立って脊髄反射で動いてる方が向いてる気はするんだよね。トップもそうだし部下もそんな感じだしね。
 じゃれついてくる猪々子の口に菓子を押し込みつつ引き剥がす。少し不満そうに、だが無言で菓子を咀嚼している。もっきゅもきゅという擬音が似つかわしい。

「アニキはアタイにとりあえずお菓子を食わせとけばいいと思ってる気がする」
「いやいや、慣れない頭脳労働した猪々子に対する正当な報酬だ。ほれ食えやれ食え」
「いや、もらうけどよー」

 もっきゅもっきゅと更にかぶりつく猪々子。これはほっこり案件ですわ。飼育係とか餌付けとかいう言葉が浮かんだが気のせいだろう。

「しかし、いつもなら斗詩に泣き付くだろうに、珍しいな」
「うーん、最近斗詩がふさぎこんでてさー。ちょっと声かけづらいんだよ。
 アニキからもなんか言ってやってよー」
「猪々子が言って駄目なら俺が何言っても駄目だろ」
「え、それ本気で言ってんの?」

 それはないわーといった風に俺を見やる。解せぬ案件ですねこれは。

「……まあ、いいや。気が向いたら斗詩に声かけてあげてよ」
「おうよ」

 まあ、斗詩は悩みがあっても一人で抱え込んでしまうとこがあるかんなー。そこはフォローしたげないといかんだろう。愚痴を聞くくらいはできるだろうしな。
 そういやあ、最近斗詩と会ってないなあ。猪々子が来る時は三回に一回は斗詩も一緒に遊びに来てたんだが。
 猪々子の持ってきた書類に目を通しながら俺は思いをめぐらすのだった。
274 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/01/29(金) 23:30:15.09 ID:iR7mmiQ0o
本日ここまですー
次回は二枚看板の片割れのフォロー

題名募集中
凡人と○○

何もなければ「凡人と二枚看板」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/29(金) 23:31:24.77 ID:QqJCsl2pO
乙です
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/29(金) 23:47:03.05 ID:zAjrqFL7o
乙したー

オリキャラ勢もっと見たいわぁ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 00:00:08.33 ID:nhxKO3KAO
乙です。

>意外性仕事しろ

???
赤ペン先生ヘルプ!


タイトル案

『凡人と懸案』
……(頭抱え)
こんなのでも良いですか?(涙目で恐る恐る)
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 00:09:27.70 ID:nhxKO3KAO
追伸

>意外性仕事しろ

読み返したら読解しました。
一ノ瀬さん赤ペン先生、すみませんでした(土下座)
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/30(土) 09:22:27.48 ID:PQAcwkoS0
乙でしたー
はいはい赤ペン先生(自称)ですよー
>>272
>>頼った結果がそれならば仕方ないな。 上の会話からすると
○頑張った結果がそれならば仕方ないな。 ですかね もしくは 結果的に頼ったならば仕方ないな。 …こっちは無いかな

アホのこは可愛いですねえ(ほっこり)それにしても1万人増員パネエ!が次郎ちゃん所だけでそれ以上とは…4家合わせて何人増員したんだか
土から生えてくるわけでもあるまいし引き抜かれた北方涙目、そしてどれだけの袁領地農家次男三男が集まったのか
農民を常備兵にしてもやっていける…それが万単位とか脅威ですよ
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 11:11:48.38 ID:aKfsoIo70
リライト版は溜まってから読もうと思ってたら結構増えててびっくり。
233の陳蘭可愛い。リライト前から風や韓浩と1、2を争って好きなキャラですよ〜(中後半影が薄くなったのは…)
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 11:12:29.70 ID:aKfsoIo70
232でした。連投申し訳ないです
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 21:11:51.63 ID:KrNTlmPto
あ、t抜くの忘れてましたすみません
今回は間違えないように……、ほい(ネタバレ注意)
ttp://www1.axfc.net/u/3610354
P:旧版で韓浩と旧知の仲であり、陳蘭の姉でもあった人物を半角英数7文字で

今の話題的にもちょうどいい、かな?
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/01/31(日) 15:49:44.25 ID:+eR8k7WJ0
チ…シOニーちゃん!!
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/03(水) 09:54:55.74 ID:fWj0zUDu0
抜いたのはhではないだろうか?ボブは訝しんだ
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/03(水) 23:39:03.92 ID:dVaiSSR3o
>>284
また間違えてましたがもう出がらしも出ないんで勘弁して下さい

>>1
まだ募集中だったら、「凡人と宵の風」などどうだろうか
286 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/04(木) 00:04:34.67 ID:CY6dkO3go
>>276
おっすおす
オリキャラと括らずに個人名の方が何かと捗りますのですだよ?

>>277
>こんなのでも良いですか?(涙目で恐る恐る)
あると思います!
ガンガンご意見ご希望はありがたく承りまくりですぜ!

>>279
赤ペン先生!赤ペン先生じゃないか!
いつもありがとうですよ。もうコテ赤ペン先生でいいんじゃないかな(適当)

>アホのこは可愛いですねえ
癒し系です(断言)

>引き抜かれた北方涙目
その穴埋めに何をするかというと、地方軍閥の推挙でry

>農民を常備兵にしてもやっていける…それが万単位とか脅威ですよ
さて、誰にとって脅威なのですかねえw

>>280
>リライト版は溜まってから読もうと思ってたら結構増えててびっくり。
ちまちま書いております
ご贔屓にオナシャス。
韓浩はグインのリギアばりに後半からが本領発揮のキャラだと思います(適当)

>>282
アバー!ナンデ?SDキャラナンデ?
いや、マジ感謝っす。ネタバレが約1名すごいけど。
ちなみにの第一師団司令官の表情が一番ぐっときました。かわええっす。
保存しました。保存しました。

マスクデータになってる能力値とかスキルとか所有アイテム効果とか、オープンにした方がいいのだろうか悩んでおります
二郎ちゃんの三尖刀とかはオープンにした方がいい気もするのですがね・・・


>>285
>、「凡人と宵の風」
めっちゃ詩的やん。素晴らしいやん。
うむ。ここで使わなくてもどっかで使おうと思いました
287 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/04(木) 00:05:25.27 ID:CY6dkO3go
「困ります!」
「俺は一向に困らんがな。そこをどけよ」
「いえ、困りますから!」
「それじゃ待たせてもらうとするかな」

 さて、斗詩である。猪々子があれこれ言ってたくらいだからな。大口叩いた手前フォローをせんといかんだろう。思い立ったが吉日とばかりに俺は顔家を訪問していた。こう、こっそりと忍び込んでやろうかとも思ったのだが流石に自重した。
 時既に夜半。それをしたらまるで夜這いになっちまうからして。世間体を考えて裏口からの侵入を試みたのだが、使用人に留め置きされている俺なのである。うむ、不審人物全開である。やはりこっそりと忍び込んだ方がよかったか?
 まあ、どっちにしろ一歩間違えれば醜聞(スキャンダル)となりかねないのではあるがね。どうせ俺が何やかやとやっちまうのは今に始まったことではないし、顔家の家人もわきまえているだろうから漏れることはないだろう。きっと、多分。メイビー。
 何故に訪問がこの時刻かというと、一応斗詩の素行聞き取りをそれとなくやってたからだ。
 どうやら、斗詩が元気がないというのは本当らしい。精力的に仕事はこなしているものの、表情が冴えない、憂いを帯びているなど証言多数だった。やっぱり何か抱え込んでるんだろうな。いや、体調不良であるという線もなきにしもあらずではあるのだが。

「やだ、二郎さん……ほんとにいらっしゃったのですか」

 常よりもカジュアルで……いけませんよそんなに太腿とか二の腕露出するような普段着。まあ、俺にとっては目の保養ではあるのだけんども。けしからん。実にけしからん。こうして改めて見ると、だ。斗詩のスタイルは端的に言って、立派に育ったなあ。などと思う俺なのである。

「おう、いい酒手に入ったからさ、一緒に飲もうかなって、さ」
「え?えと、ええと。その、……はい」

 こくりと頷く斗詩に安心する。いや、これで嫌ですとか言われたら俺は間抜けの塊であるからして。

「ここじゃ、なんなのでこちらにどうぞ……」

 通されたのは、斗詩の私室であった。というか、寝室であった。いや、それは流石にまずくね?

「いやいやいや、ここは流石にまずいだろうよ」
「こんな時刻に女の子を訪ねておいてそれはないなあ、って思うんです」

 にこり、と小悪魔的な笑みを斗詩が浮かべる。いや、そんな表情見たことなかったんですけど。こ、これがギャップ萌えという奴か?いやいやいやいや。

「だって二郎さん、深酒になったらそこらで寝ちゃうじゃないですか。だったら最初からそのつもりの方が楽しく呑めるでしょ?」

 くすくす、と笑む斗詩は心底楽しそうで、来た甲斐があったというものである。うむ。手酌酒も悪くないけど、美少女のお酌が格別美味なのは確定的に明らか。数少ない世界の真理の一つなのである。
288 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/04(木) 00:06:44.62 ID:CY6dkO3go
「はぁ……」

 溜め息を一つ吐いて、寝台に横たわる。全身を覆う疲労感に徒労感。それでも、眠れない。しょうがないから仕事に逃避している。没頭するあまり、気がつくと向こう一週間はなにもしなくてもよくなった。
 でも、何かしていないと、落ち着かない。私室に居たって、やることがあるわけでもない。阿蘇阿蘇の最新号を買ったはいいけど、内容なんて一つも頭に入ってこない。

 張勲との邂逅、会談。それが顔良に及ぼした影響は大きい。動けないのだ。そして誰に相談することもできない。できるはずもない。もはや自分がどうしたいのかすら分からなくなってしまっている。

「はあ……」

 のそり、と起き上がり、引き出しから紙の束を取り出す。

「二郎さん……」

 彼の絵姿である。大切に、慎重に扱っているのである。だが幾度も手に取っているからだろう。紙が傷んできている、色も褪せてきている。それでも、彼女の拠り所はこれしかない。ないのだ。
 なんなんだろう。自分は何をしているんだろう。何をするべきなんだろう。わからない。わからない。
 不意に張勲の顔が浮かぶ。

「ずるい」

 こんなにも、自分は紀霊が好きなのに。あんなにも小さい時から慕っていたのに。あの人は横から現れてあっさりと彼の横でにこにこ笑っている。そんなのって、ない。
 自分の方が彼のことをたくさん知ってる。たくさん想ってる。絶対に。
 ずきずき、と胸が痛む。そんな時だった。家人から、来客が告げられたのは。正直、今は誰にも会いたくない。そんな気分だったのだが。
 来客の名前を聞いた顔良は飛び起きて身づくろいを始める。これは夢じゃないだろうかとばかりに、可及的速やかに。

「おう、いい酒手に入ったからさ、一緒に飲もうぜ」

 爽やかで、なおかつ武将に必須な野性味を残した笑みに顔良は心が蕩けそうになるのを堪える。いや、その心根は既に蕩けきっていたのかもしれないが。

だが、それどころじゃない。駄目だ。髪はぼさぼさだし、最近よく眠れてないからお肌だって万全じゃないのだ。ひょっとしたら目の下に隈だってできてるかもしれない。最低限のお化粧くらいしてくればよかったと今更ながら後悔しきりな顔良である。

 手酌で杯を進めようとしたのを制止して酌をする。ちら、と見ると嬉しそうな笑みが胸を満たす。それまでの、ちりちりとした痛みを覆ってなお甘く。更に、広がる。満たされる。
 そして、至る。如何にこの思いが強くて深いか、を理解する。だって。一緒にいてくれるだけで、こんなにも嬉しい。
 とりとめのない話、どうでもいい話。彼が紡ぐ言の葉が、どうしようもなく、愛しい。自分を見てくれるのが、嬉しい。
 だから、なんとなく来訪の意図も察せられる。その、至った結論が嬉しく、少しさびしい。だからこれはお酒のせいなのだ。そう、思うことにする。

「なーんか、悩んでるんだろ?ほれ、俺に言ってごらん?」

 その、言葉に甘えることにする。だっていつだって、そうだったのだ。袁紹や文醜ばかりが彼に遊んでもらって。でも、もっと構ってほしいなんて言えなくて。ただ見つめることしかできなくても。
 彼はいつだって私を見てくれていた。ためらう自分を輪の中に引きずり込んでくれたのだ。
 そう、いつだって彼は、自分を見てくれていたのだ。――何か、心が軽くなった気がする。一体自分は何を悩んでいたんだろう、と。

「ふふ、ありがとうございます。
 お言葉に甘えちゃいますね」
「おうよ。ない頭搾ってやろうじゃないの」

 そんな、なんでもないやり取りが、本当に嬉しい。だから甘えよう。彼を困らせてやろう。……めんどくさいと思われないくらいの範囲で。

「えっと、張勲さんからお話を頂いたんです。
 何かしら、思うところがあるらしくて。
 でも、私はそれに納得はできないんです。
 なのに、張勲さんの描く絵図は私も、その、いいなあ、なんて思っちゃうんです」

 支離滅裂だな、と内心苦笑する。それでも一生懸命に聞いてくれているのが、嬉しい。
289 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/04(木) 00:08:11.52 ID:CY6dkO3go
「あの、やり方とかはどうかな、と思うんです。
 でも、反対する理由もなくって。
 私はどうしたらいいのかなって」

 相当ぼかしている……というか、ぼかし過ぎて何を言っているのか分からないだろう。大体口にしている自分だって何が言いたいか分からなくなってきているのだ。

「んー、そうだなあ。正直、よくわかんねえけどさ。
 多分、七乃は斗詩に協力してほしいって思ってるんじゃねえかな」
「え?」

 それは思いもよらない言葉だった。 

 言葉を選びながら、だろう。慎重に、それでも誠実に顔良に向かい合ってくれている。それが嬉しい。

「七乃もなあ。素直にこうしたいから助けて、って言えない女だからなあ。
 正直、斗詩の影響力が大きいからそういう話を持っていったと思うんだわ」
「私の、影響力、ですか」
「おう、基本的にあいつは自分の計画とか思惑は漏らさないしな。
 それをあえて斗詩に言ったってことは、斗詩の動き次第ではぶっ壊れると思ったんじゃねえかな」

 それは思ってもみなかったことである。だが、そう思うと色々納得がいく。つまり、張勲が打ち込んだ楔はたったの一つ。本当に困ることはその一つ。後はどうなってもよかったのだろう。
 つまり、自分の抜け駆けを恐れていたのだ。そしてそれを見事に封殺してのけたのだ。
 うん、お見事としか言えないな、と素直に思える。へな、と身体から力が抜ける。

「お、おい?斗詩?」

 慌てたように自分を気遣ってくれるのが、嬉しい。その気持ちが溢れる。零れる。漏れる。涙が、嗚咽が。そして、思いが決壊する。

「よしよし。斗詩は泣き虫だなあ。
 ちっちゃい頃から変わらないなあ」

 そう言って背中を撫でてくれる。優しく抱きしめてくれる。その温もりに、匂いに包まれて安心する。
 でも、自分はもうちっちゃい女の子じゃない。そんな思いを込めて、ぎゅ、としがみつく。

「ん?斗詩?」

 きゅ、と抱きしめてくれるその優しさに甘えてしまおう。

「私は、今でもちっちゃい斗詩のままですか?
 引っ込み思案な女の子のままですか?
 そうなのかもしれません。
 私の想いはあの頃から変わっていません。
 ずっと。ずっとお慕いしてました。お慕いしてます」
 
 言った。言ってしまった。……一生胸に秘めていこうと思っていたのに。

「え、あ、マジか?」
「はい。――ご迷惑ですか?」
「や、そんなことはない。ないんだ。ないんだけど。まずいだろ色々」

 心底慌てた様子でそんなことを言うのだ、この男は。だからすんなりと胸に落ちる。絡新婦(じょろうぐも)の意図が判った気がする。なるほど、糸の繰手なわけである。正直、掌の上だという自覚はある。だが、それでも、と思う。
 それでも、自分はこの思いを諦めたくないのだ。

「内緒にすれば、いいんですよ」
「ちょ、斗詩……。それって」

 表情を引きつらせる男にしなだれかかってやる。拒まれないのが、嬉しい。伝わる温もりが、嬉しい。

「いやです。二郎さん以外の男の方に抱かれるなんて。
 そりゃ、将来的には婿を取らないといけないかもしれません。
 でも、せめて、せめて初めてくらいは二郎さんがいいです。二郎さんじゃないと嫌です」
「と、斗詩……」
「はしたない、と自分でも思います。それでも、それでも私、二郎さんじゃないと、やです」

 もう、強がりはここまでである。言うべきことは言ってしまった。後は裁きを待つだけ。だから、がくがくと身体が震えて、一気に不安になるのも仕方ないこと。仕方ないこと。
 返答が聞きたい、でも聞きたくない。ぎゅ、と目を閉じて赤子のように身を縮みこませる。

 そんな身体が、ぎゅ、と力強く、熱く抱きしめられる。ちっちゃい頃から包んでくれていた腕だ。その力強さに、溺れた。荒々しく蹂躙されても、怖くなかった。むしろ、嬉しかった。
 もう、戻れない。そんな背徳感に酔う余裕すら、あった。
290 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/04(木) 00:13:36.27 ID:CY6dkO3go
本日ここまでー

二枚看板、二枚目
でも突破は一枚目という

いやあ、ドロドロしてきましたねえ(白目)

次回は絡新婦とちょっと触れ合ってから(比喩)公務ですだよ

ご意見ご要望は24時間受付中です
なお対応については
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/04(木) 00:31:04.27 ID:hm21+kB7O
乙です
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/04(木) 10:24:48.42 ID:77ZV25xb0
乙でしたー 私がコテ付なんて恐れ多い
>>289
>>それでも誠実に顔良に向かい合ってくれている。それが嬉しい。 ここは顔良の心情(一人称)のようなので
○それでも誠実に自分に向かい合ってくれている。それが嬉しい。 他の部分でも自分って言ってますしね
>>ぎゅ、と目を閉じて赤子のように身を縮みこませる。
○ぎゅ、と目を閉じて赤子のように身を縮こませる。

袁紹、文醜、顔良の3人の中で一番苦労性っぽいですよね、二人のブレーキ役をやって疲れてる所を労ってあげたい衝動に駆られる
しっかりしなきゃってなってる所を支えてあげちゃう二郎ちゃんマジジゴロ
多分数少ない斗詩が甘えられる相手なんだろうなあ(男で言ったら唯一かも)しっかり系の子の支えになるとか…良いよね
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/04(木) 21:20:12.39 ID:VKEneY7oo
斗詩さんはスモック着てたころからズボンのすそをきゅ、とつかんでたとわかるシーンですね
一人あぶれてるときは特にそんな感じだったのかも

データはアイテムもそうだけどリライトのノリだとあんまり出さない方がよさそうに見えます
文章でこんな人だ〜とか、物だ〜と語る分にはそこまででもないと思います
仮にするとしても、外伝として(列伝とか解説とか)完全に分離させる形が望ましいです
ぶっちゃけお前が言うなと言われそうですがww
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/04(木) 21:28:59.84 ID:gkbw9wK3O
乙したー

確かに四家の中だと一番官僚とかに信頼有るのは斗詩じゃないかなぁと
絡新婦・能天気・ヤ○ザ・常識人の4択だし

リライト前はちょくちょくTRPG的な楽しみが有ったけど、今回は純粋に物語を楽しみたいと思いまする

あと全く関係ないけどニューイヤーカップお疲れ様でした(最下位)
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/04(木) 22:22:14.01 ID:p9bypoVAO
乙ですだすどす。

>四家(紀、文、顔、張or田or袁)の兵力増


……人員については分母(袁領)の総人口によって難易度が。と思考
つか1945当時の日本みたいな根こそぎじゃなさそうだし。
>北方からの抽出(引き抜き)
……対兇奴対策の完全成功による余剰兵の復員や 袁直轄兵力の交代も有り得そうだけどなぁ…
北方が極度の緊張状態なら主力三家には早急の新兵錬成を求めそうだけど 紀、文を見てると其処までの要求されてる風でも無し。
ただ、これが「官軍として」の状況度外視の政治の結果なら話も変わってくる。


文醜さんについては、アホの子いうより軍再編成に慣れていない印象。
多分兵站参謀が居ないんだろうなぁ…
ただ、机の前で知恵熱出しながら真面目に必死に 考えてる文醜さんに萌え
職業軍人を最低で一万人増員して経済破綻させずに運用出来る袁家の財と 国力は確かに凄い。
人件費て馬鹿にならない負担だからね。


……観測してる外野の勝手な言い種だけど、二郎さんはもう少し情報と諜報に留意した方が……



……リア充爆散しろ(ボソ
296 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/08(月) 23:19:53.55 ID:OHn7gUJHo
>>292
いつもすまないねえ……

>袁紹、文醜、顔良の3人の中で一番苦労性っぽいですよね、二人のブレーキ役をやって疲れてる所を労ってあげたい衝動に駆られる
無印でも真でも文官のネームドがいない袁家を支えるのはいつだって顔良です。
なお、戦場で関羽と会ったら即死不可避という、この薄幸キャラ

>しっかりしなきゃってなってる所を支えてあげちゃう二郎ちゃんマジジゴロ
メンタルケアはごく一般的だと思います。なおその効果たるや

>>293
>斗詩さんはスモック着てたころからズボンのすそをきゅ、とつかんでたとわかるシーンですね
脳内再生余裕でした
きゃわわあわっわ

>データはアイテムもそうだけどリライトのノリだとあんまり出さない方がよさそうに見えます
さいだすね。描写で勝負!頑張るます

>>294
>確かに四家の中だと一番官僚とかに信頼有るのは斗詩じゃないかなぁと
そらそうよw

>あと全く関係ないけどニューイヤーカップお疲れ様でした(最下位)
乙でしたなんだよ
鹿は金崎君の穴を埋められるかが勝負でしょうなあ

>>295
>……人員については分母(袁領)の総人口によって難易度が。と思考
まあ、半分くらいは口減らし……というか雇用の創出という側面もあったり

>ただ、これが「官軍として」の状況度外視の政治の結果なら話も変わってくる。
度外視はしません。現地の軍閥をその任にあてます。つまり。あとはわかるな?

>机の前で知恵熱出しながら真面目に必死に 考えてる文醜さんに萌え
不真面目なわけじゃない、不得手なだけなんだ!なにそのかわいいいきもの。
なお文官からは白い目で見られる模様

>職業軍人を最低で一万人増員して経済破綻させずに運用出来る袁家の財と 国力は確かに凄い。
常備軍の維持。それらがもたらす影響については信長さんをご参考くださいw

>二郎さんはもう少し情報と諜報に留意した方が……
超してるし!……沮授と張紘が
297 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/08(月) 23:39:47.73 ID:OHn7gUJHo
「おはようございますー」

とってもいい笑顔で七乃が歩み寄ってくる。肩と肩が触れるか触れないかという微妙な距離感。同僚にも恋人にも、見る側の観測次第でどうとでも取れる距離。かすかに触れる手と手。なんだこの距離感、見ようによっては、あれだぞ。
……いや、もう幾度となく肌は重ねているのだけれども、それは秘すべきものだろうに。こいつの考えてることは良く分からん。というか俺ごときの脳みそでいくら考えても無駄な気がせんでもない。

「なんだよ」

七乃の、何か言いたげな目つきに問うてみる。

「いえー、思ったよりお手が早いんだなー、と思ってですね」

 ちょっと情報早すぎやしませんかねえ……。顔家の家人から漏れたのか?それはないと思いたいのだが。がががが。

「な、なんで七乃が知ってるんだよ」

 くすり、と笑みを深くしてから七乃はひらひら、と手を振る。

「いえいえ、ご心配には及びませんよ?でも腹芸の苦手な人は見つかったみたいですね?」
「おい。おい」
「安心してください。張家の網にも何もかかってませんし。 それこそ私が、かまをかけないと確認できないくらいにはですね。
 そこらへんの統制はお見事としかいえませんねえ。違和感と言えば、ちょっとお幸せそうなくらいですしね」

 マジか。そっからどうやって色々推察を組み立てるというのか。

「あー、お前が敵でなくて良かったと思うよ」
「光栄の至りですねえ。敵だなんてとんでもない。二人三脚で美羽様を支えるって契ったじゃないですかー
 あ、後はちゃんと孕ませてもらわないとなー
 よ、この種馬!利用価値がなくなったらもげてしまえー」
「使い捨てか!お前が言うと洒落にならんわ!」

 そんなん聞かされたら物騒すぎて同衾も軽々しくできんわ!
いや、七乃の表情はあくまでにこやかで、口調も穏やかなんだけどね。それが逆に怖かったりするのですよ。
 いや、これは話題転換が必要。

「そ、そういや最近美羽様ってますますお可愛らしいよな?」

 美羽様の名前をきっかけに七乃のマシンガン賛美が始まったでござる。いや、相槌うつので精一杯である。ギスギスした駆け引きよりよっぽど気が楽なのだ。いや、敢えて乗ってくれたという可能性も大いにあるのだが。
まー、どうせ目的地は同じなのだから、会話を楽しまないと損だよなあ。今日はこれから会議なのだ。それも武家四家の次代を担う四人の密室会議である。参加人数は当然四名。議題については一応用意してはいる。
なお言いだしっぺは俺である。意外とすんなり開催されてしまって戸惑ってもいる。七乃とかどうせろくでもないこと考えてるのだろうなあ、と思ってたら蹴られた。
地味に痛いんですけど太腿の付け根を膝蹴りとか。歩くのに支障をきたさないギリギリの痛さとかちょっとそのスキル地味に怖いんですけど。
 おお、この満面の笑みの裏で何を考えているのやら。張家の闇は深そうですねえ。

「知りたいですか?」

 いえ、結構です。マジで。世の中には知らない方がいいことってあるのだと思うのです。はい。
298 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/08(月) 23:41:04.76 ID:OHn7gUJHo
「うぃーっす」

 会議室に入ると、斗詩が既に着席していた。暇潰しに阿蘇阿蘇の最新号を読んだりしている。女の子してるなあ、そう思って見てると視線が絡み合う。
 どこか艶めいた視線をくれる斗詩は、なんというかこれまでにない色気のようなものをまとっていた。

「おはようございます」

 そう言って微笑む斗詩はまあ、控えめに言ってすごく蠱惑的だった。ちょっとドキッとしたし。

「おはようございますー」

 そう言って七乃が つ、と歩を進める。斗詩と七乃の視線が絡み合う。んー。どうしてか室の空気が凍った気がする。おっかしいなー。どういうことなんだろなー。

「張勲さん、今日もご機嫌がよさそうでなによりです」
「あらー、知らない仲じゃないんですから、他人行儀すぎますねー。
 よし、この際だから七乃って呼んでくださいねー。
 末永いお付き合いになりそうですしー」
「ええ、そうですね。それでは私のことも斗詩とお呼びくださいね」

 うふふ、と笑いあう美少女達。うーん。胃が痛いぞー?口を挟めるような雰囲気でもないぞー?
 なんでさ!
 そして殺伐とした空気が漂う会議室に鋼の救世主が!

「ごっめーん!遅れたー!」
「猪々子!よく来た!えらい!この月餅を食らえ!」
「いや、遅刻してなんでお菓子もらえるのさ」

 そう言いながらぱくつく猪々子。ありがてえありがてえ。そしてこのまま押し通す!

「はい。定刻をちょっと過ぎてますけども、参加者が揃いましたので第一回四家会議を始めたいと思います。
 よし、筆頭の猪々子、開会の挨拶を」
「え、それ無理。アニキに頼んだ!」
「いや、こういうのって序列的に猪々子がやるべきなんだけど」

 一応、こういう場でしきるというのも慣れてほしいとこなんだけど。これからそういう機会も少しずつ出てくるだろうし。

「そういう偉そうな権限でアニキにそういうのとか議事進行とかの任を移譲する!」

 すごいいい笑顔だよこの子。

「あのなあ……」
「んー、まあいいんじゃないですか?」

 思わぬインターセプトである。まあ、七乃が何を企んでいるかとかは考えるだけ無駄としよう。

「私たちを召集したのも。いえ、そもそも主催者は二郎さんですし、ここで形に拘っても仕方ないでしょう?
 形式に拘るならここまで出席者を削る必要もなかったはずですよね」

いやまあ、そうかもしんないけどさあ。
見れば猪々子は我が意を得たりというようなドヤ顔だし、斗詩もにこりと笑って賛意を示す。いいのかなあ。
ま、いっか。

「ほんじゃまあ。四家会議、始めよっか」

我ながらシンプルすぎる開会の挨拶だった。
299 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/08(月) 23:44:17.55 ID:OHn7gUJHo
「さて、議題だけど、四家で人材交流をしようと思う」

 この面子だから余計なことは言わず、本題に切り込む。疑問符でいっぱいの猪々子、少し考え込む斗詩。にこにこと読めない七乃と三者三様の反応である。

「アニキー、別に反対ってわけじゃないんだけどさー。
 うちにそんな余裕ないぞー?
 やーっと新兵の編成が終わったとこなんだからさー」

 挙手しながら口火を切る猪々子。ちなみに会議で最初に意見を言うのは結構勇気が要ったりする。だから議事進行するにあたってサクラを仕込むこともあったりする。無論猪々子がそんなことまで考えているわけがないのであるが。

「うーん、文ちゃんのとこの事務手続きを手伝うというのなら、反対ですね」

 小首をかしげながら斗詩が発言する。猪々子はガビーンといった風で見事な顔芸を披露している。大丈夫、表情が崩れても美少女だぜ。
 まあ、顔芸に免じてフォローしてやろう。というかこっからが本番。

「うんにゃ、そうじゃあないんだ。近くはあるが、そうじゃあない。
 言わば事務手続きの平準化、だな」
「どういうことですか?」

 七乃が口を挟む。
 
「うーん、この前、猪々子が新兵の編成に手間取っててさ。それを手伝ったんだ。
 これまでは、大枠の方針とか、麹義のねーちゃんに出す報告書の手伝いばっかだったんだよね。
 ほんで、初めて文家の内部の書類を見たんだわ」
「そうそう、あんときゃありがとなー、アニキ!助かったよー」

 纏わりついてくる猪々子を撫で繰り回しながら引きはがす。よーしよしよしよーし。

「どういたしまして。そんで思ったんだけど、文家の内部手続きは実際煩雑すぎるわ」
「え、どういうことさ!」
「いやー、当主の承認がいる案件が多すぎるだろ……。
 一兵卒の能力に対する所感とか適正評価とか、ありえねえって」

 いやマジで。新兵一人一人に対する所感の項目が多いのとそれが当主自らの評価項目って。ありえん。
 そのことが分かるのだろう。斗詩と七乃も驚き、戸惑っている。そうだよなー。実際俺もマジでびびったもんなー。

「猪々子の事務能力がとんでもなく低いってわけじゃあないんだ。
 業務がな、ものっすごく多岐に及ぶんだ。
 そりゃあ、真面目にこなしてりゃあ一兵卒まで掌握できるだろうよ。つか、文家軍の強さの一因でもあるんだろうなあ」

「星を砕くもの」とさえ言われた先々代の文家当主はそりゃあ、才媛だったらしい。多分自分用の組織運営のマニュアルを作って、後代に引き継ぐ時には変更するつもりだったんだろうなあ。それが対匈奴戦役で予想外の戦死。
兵数が少ない今まではそれでもなんとか回してたんだろうが、急な増員で処理能力がとうとうパンクしたんだろう。猪々子だからこそ、変に糊塗せずに表面化してよかったのかもしれない。

「まあ、そんなわけで、各家の無駄と思われる業務を平準化して、効率化しようというのが今回の議案の目的だ。
 数千人の増員で四苦八苦してる状況はいかにもまずい。
 いざ実戦になった時に混乱しか招かん。戦いは数だとは言っても、その数を有効活用できなかったら意味がない」

俺の言葉に考え込む斗詩、大きくうなずく猪々子、にこにことしている七乃。

「っちゅうわけで、ある程度業務の平準化をしようと思う。それぞれの家でやり方は違う面もあるとは思う。
 だけどまあ、今のうちにやっとかんとな。どっかの家が壊滅して残存兵力を抱え込んで、そいつらが
 足手まといになったら目も当てられん」
「顔家は賛成します。軍官僚からは反対があるでしょうが、押さえます」
「張家も賛成しますよー。反対する理由がないですねー」
「文家は大賛成!仕事が減るって知ったらみんな喜ぶ!」
「お、おう」

 なんだ、文家は配下も脳筋揃いなのか?まあ、全会一致で一番の懸案事項が可決されたのだった。こまごまとした意見交換の後、解散することになる。

「いやー、早く査察がないかなー。楽しみだなー」
「手の内を見られるのを嫌がる人もいるでしょうけど、そこは押さえて見せますから」
「ああ、急がないと美羽さまのお昼に間に合わない!」

 三者三様で会議室を後にする。
 ……会議室に静寂が戻り、俺は大きく溜め息を漏らす。何でって?後半戦があるからだよ!
300 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/08(月) 23:46:38.59 ID:OHn7gUJHo
凡人と会議(表)でした

本日ここまでー

しかし中々区切りのいいとこまでいかんですな
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 23:55:49.58 ID:o6TL4B6WO
乙です
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 00:45:35.95 ID:1BuJzb1AO
乙。ですよ。


えと、二股の当事者が揃うとこうなりますわな。 幸い、女性側は殺意や害意を(内心ともかく)男性には持ってはいないようなのでこの程度で済んでる感。
まあ二郎さんは女性から ボロカス言われても仕方ない。ついでに女性の嫉妬と鞘当てに慣れないと 真のリア充にはなれないぞっと(白眼)


>文醜さんが全てやる
……まあ無茶な事を(呆れ)これはあんまりだ


>故に業務の平準化、共通化

……単位軍編成の概念使うのか、それとも会社組織の部課制にするのか。

……今回の四家会議。二郎さんに二郎さんラブに二郎さんに懐いている娘に二郎さんのお手つき

……これで開催出来ないなら二郎さんの人格疑うよ


最後に、四則演算と九九って地味チートかもと思う。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/09(火) 22:18:53.86 ID:z1mJX5bP0
乙でーす
最近添削が少なくて嬉しいような寂しいような
>>299
>>「手の内を見られるのを嫌がる人もいるでしょうけど、そこは押さえて見せますから」
○「手の内を見られるのを嫌がる人もいるでしょうけど、そこは押さえてみせますから」 見せる必要はないですね

一人の天才が力を揮うより1000人の凡才を使えるようにするという意味ではこれは非常に大きな一手
二人は二郎ちゃん囲い込み計画に理解はしていてもそうそう納得はできないって感じですね…あれ、鞘当してるってことは七乃の二郎ちゃん好感度がかなり高め?七乃って美羽様以外はすべて理詰めで感情を排しそうだと思ってたけど二郎ちゃんのこともかなり大切に想ってるのね
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 00:34:37.83 ID:ZE9D6soAO
>>303

まずは添削乙です。


七乃さん。確か二郎さんとの子欲しいと言い切っていたような。
顔良さんもそうだけど、避妊具も生理周期を利用した避妊も無いこの時代に妊娠上等で二郎さんと 交合する時点で二郎さんラブは確定でしょう。
更に本能で強い雄認定されている訳だから、当然 独占欲も出てくる。男女共に。
ついでに二郎さんに指摘しとくと、この時代の妊婦、新生児の死亡率は現代と比較にならない位高い。文字通り命懸け。
『それでも』と受け入れた訳だから、その想いには本気で向き合わないと

二郎さん。偉そうな事言ってごめんなさい。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 08:47:24.20 ID:7mgQ0Ta2o
乙したー

七乃以外の二人は兄妹みたいなモンだしなぁ
そう言うと七乃の幼少期が気になって仕方ないですな
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 21:11:16.63 ID:Iw3gHVm0o
>>304
七乃の場合二郎の子供が出来れば家の乗っ取りが出来るから、必ずしもラブである必要はないんだよね。
弟もいるから家督を継ぐ必要も必ずしもあるわけでないし。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/10(水) 22:54:14.16 ID:UaLlXKjwo
うし追いついた
リライト前から見てますが相変わらず面白い
途中の画像が見れなかったのがつらいけど…
そういえば食事に関してのお話ってリライト前からあったっけ…
308 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/10(水) 23:38:54.70 ID:eQV309Hso
>>302
>えと、二股の当事者が揃うとこうなりますわな。
尚、七乃さんはあの空気とかをエンジョイしている模様。いい空気吸ってます。

> 幸い、女性側は殺意や害意を(内心ともかく)男性には持ってはいないようなので
持たれてたら即死ですわw

>……単位軍編成の概念使うのか、それとも会社組織の部課制にするのか。
そこまで大したことしません 

>今回の四家会議。二郎さんに二郎さんラブに二郎さんに懐いている娘に二郎さんのお手つき
コネって大事ですね(白目)

>最後に、四則演算と九九って地味チートかもと思う
アラビア数字とかもですよね
まあ、そこらへんは原作恋姫がふわっとしてるので……


>>303
>最近添削が少なくて嬉しいような寂しいような
ゼロのつもりで書いてるんですけど、やはり自分ほど信用できないものはないですねえ

>一人の天才が力を揮うより1000人の凡才を使えるようにするという意味ではこれは非常に大きな一手
統合整備計画みたいなものですね
これにより初期配備が旧ザクからザク改になるという強力なイベントです

>…あれ、鞘当してるってことは
これ七乃さん、相手を煽って楽しんでるだけです。それを分かっていてもそういう遊びに二郎ちゃんを巻き込むことに憤慨する顔良さんの純な思い

>>304
>避妊具も生理周期を利用した避妊も無いこの時代に
えと、時代考証はね、恋姫空間だからということでふわっとしたかんじでオナシャス
ただまあ、顔良さんの思いの強さは本物ですし、そこを無碍にしたりはしません、とだけ
七乃については……w

>>305
>そう言うと七乃の幼少期が気になって仕方ないですな
ロクでもない教育を受けているのは確定的に明らかではありますが

>>306
>七乃の場合二郎の子供が出来れば家の乗っ取りが出来るから、必ずしもラブである必要はないんだよね。
そこに気づくとは……。やはり天才か。

>>307
>うし追いついた
いらっしゃっせー
ちまちま書いておりますよ

>そういえば食事に関してのお話
気が向いたらやりますけど、恋姫時空というのをご理解ください
309 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/10(水) 23:55:28.09 ID:eQV309Hso
「それではー。第一回袁家実務者会議をはじめたいと思いまっす!」

 景気づけに声を張り上げる。ぱちぱち、と気のない拍手が俺を包み込む。
 にこにことした沮授と、どっか呆れた表情の張紘である。
 これが何の集まりかというと、だ。先の会議を受けて実際どうするかという実務者協議になるわけである。まあ、大筋で合意された軍務の平準化については俺に一任されているからして。
 実際どんな感じにするかというのをこれから検討するわけだ。

「それで、どうするんです?」

 沮授が俺に問いかける。

「いや、どうもこうもねえよ。今のままじゃあ、急な増員にすら組織が対応できない」
「んー、でも、文家以外は対応できてたんだろ?」
「おう、だがまあ、ちっとばかりそこには訳ありでな。
 紀家、張家、顔家はまあ、人員をとりあえず編成した感じなんだな。
 訓練なんかはここからだ。対して文家は実戦主義だ。
 ある程度能力を測定してから兵卒ごとに適正を判断。
 そっから配置を組み立てていく。
 そりゃあ、ぱっと見、文家は編成が遅いだろうさ。しかしいざ実戦となるとそりゃ最強は文家だ。
 袁家筆頭は伊達じゃあねえってこった」
「最初は手間取るとしても、組織としての最終的な完成度はとんでもないことになる、と」

 軽く沈黙が落ちる。

「でもそれって、いざ戦時となると……」
「おう、戦時にそんなことやってられんだろうがよ。補充兵の適正を見てとかやってる場合じゃないだろう」

 そんなリソースあったら兵站とかに割くっつうの。

「今回みたいに、平時に戦力の増強ならまだ対応できる。
 でも実際戦乱になった時、次々と補充兵が来たらどうなるか、ということか」

 張紘が問題をまとめる。まあ、そういうことなんだよな。だもんで別に大規模な軍制改革をするつもりじゃない。単に軍務の洗い出しとその標準化、そして手続きの書式など事務手続きの共有化を行うのである。
 なお、今回の増員については俺もその規模を把握できていない。紀家軍については一万ほど純増であるのは確かなのだが、文家、顔家については北方からの引き抜き、その補充等が複雑になされており……。
 結果だけ言えば、何故か四家に属さない兵員が五千ほど湧いていた。なおそれは母流龍九商会の抱える傭兵的な扱いになっている。いったいどういうことなの。

「しかし、軍の業務を平準化すると言ってもどうするんです?
 実際にどの辺りまで業務が必要か、可能かという判断基準を我々は持ってませんよ?」
「それについては問題視してない。ちょうどいるじゃないか。つい先日まで鉄火場にいたのが」

 俺の言葉に二人が目を見開く。

「そ、黄蓋だ。適任だろ?」

 絶句する二人。そりゃ、匈奴戦役を体験した人も生きてはいる。しかしそれは俺達が生まれる前の出来事でもある。実戦の軍務という意味ではこの上ない経験の持ち主だ。

「しかし、外部に袁家の軍機密を漏らすのはいかがなものかと思うのですが」
「もっともな懸念だな。だが無用な懸念でもあるだろ。誰に内実を売るってんだ?」
「……売らなくても、孫家が牙を剥く可能性だってあるんじゃねえか?」

 どうも沮授も張紘も反対みたいだな。実に妥当な意見である。そのバランス感覚がありがたい。だが、ここは押し通す。

「漏れて困る相手といったら十常侍くらいか。そこと孫家が結ぶとは思えない。
 それに、今の段階で孫家がこちらに牙を剥いたら……。張紘には悪いが、潰す。
 徹底的に潰す」

 事務処理のルーチンを真似されても、そこまでの痛手ではない。そりゃあ効率化とかで多少手ごわくなるかもしれんがね。そのくらいで牙を剥くくらいの浅慮ならば却って味方にする方が危険だ。有能な敵よりも無能な味方の方が脅威度は高い。今の袁家には特に。

「いや、おいらのことはいい。そうさせないための魯粛達でもあるし、商会を通じての援助だ。
 それを無下にするんだったら。いや。……無下にしないと信じてぇところだなあ」

 苦い表情で張紘が言葉を搾り出す。商業というのは賤業というのがこの時代の常識。それにどっぷりと漬かっても尚。その人格は清冽にして柔和という世評を得ているのは流石としか言えない。罵詈雑言しか口にしない太鼓の達人だってこいつの悪口は差し控えるに違いない。

「しかし、兵力の増強に対する洛陽の反応が気になりますね。ただでさえ警戒されている袁家です。いささか不味いことになるのではないでしょうか」

 沮授が話題を変えるように呟く。

「逆なのさ。追い詰められたのは十常侍だろ」

 俺の言葉に二人が首をかしげる。
310 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/10(水) 23:56:18.65 ID:eQV309Hso
「隆盛を極める袁家。その勢力に危惧を覚えた十常侍は黒山賊を利用して牽制してきた。
 ここまではいいな?」
「ええ、その通りですね」
「それに対して、袁家は軍備を増強させた。黒山賊対策を名目にな。
 これがどういうことか分かるか?」
「なるほど。喧嘩を買ったってことだな。素晴らしく高値で。
 やるなら、受けてたつ。そう意思表示をしたってことか」

 張紘が苦笑する。その笑みがそこそこ引き攣っているのが事の重大さを示している。だけどそれだけじゃないのだ。

「十常侍の弱点は兵力を持っていないことだ。軍権は何進に握られているからな。
 宮中ならともかく、彼奴等の手がここまで伸びるかというとそうでもない」

 ふむ、と頷いて沮授が応える。くすり、と笑みを浮かべて。

「つまり、十常侍は眠れる獅子の尾を踏んでしまったということですね」
「そうだ。黒山賊への介入の中途半端さを見ても、あれは個人の独走だったに違いない。
 そいつが袁家と十常侍の対立を煽ってしまったという構図だな。
 てっきり十常侍の威光に恐れ入るものだと思ったら、とんでもないことになった」
「つまり、兵力の増強という一手で内部の引き締めと外部に対する牽制を兼ねた、と」

 そういうことだ。嘆息する。なんという手を打つのだろうな。
これに軍事力の後ろ盾のない十常侍は焦るはずだ。十常侍と一括りにしていても一枚岩ではなかろう。そこに亀裂が入るかもしれない。
田豊師匠と麹義のねーちゃんの高笑いが聞こえてきそうだ。

「それ、とんでもねーぞ。わかってたとしても……。その手はおいらにゃ打てねえよ」

 張紘の笑いが凍りつく。そしてその意見には俺も完全に同意である。漢王朝の中枢に巣食う癌細胞ども。それが害悪だと分かっていても、それに喧嘩を売るとか。安定志向の俺には少なくとも無理です。
 だがまあ、賽は投げられた……というか、砲弾は放たれたのである。それも盛大に。

「そんくらいの胆力がないと袁家という看板は背負えないってことだろうさ。それを……身をもって教えて下さったわけさ。ありがたいこったよ」

そうとも、腹を括ろう。手元の一万の兵。それにフリーハンドで使える五千の兵。そこまでお膳立てしてくれたんだから。まあ、どう使うかはまだ何も考えてないけどな!
 
「まあ、そんなわけで。なんやかんやあるけど、頼りにしてるぜ。そして今後ともよろしく、な」

 マジでこの二人が生命線だからなー。

「おいらでよけりゃ、おいらなりに」
「やれやれ、困ったものです」

 この後、滅茶苦茶打ち上げで馬鹿騒ぎした。
311 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/11(木) 00:00:33.26 ID:qPE/R5xlo
本日ここまですー
袁家会議裏でsった

表も裏も、二郎ちゃんの関係者ばかりじゃないか!(驚愕)


さて、次回は中央の反応を軽く
その後は内勤かな


明日はSMTショウを見学しに国際展示場に赴きます
KKの缶詰は毎回楽しみなんですよねー
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/11(木) 00:21:15.26 ID:9yxe/DxQo
乙したー

今の哀家は確実に二郎をハブにして回ってるからね、仕方ないね

なお、外からだとドロドロな権力闘争している風に見られている模様
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/11(木) 00:36:55.73 ID:wCISk0SNO
乙です
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/11(木) 06:39:25.74 ID:CenIWi9HO
一瞬SMショウに見えたぞ
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/11(木) 10:47:12.15 ID:cWwE7TMG0
乙でしたー
>>310
>>「つまり、十常侍は眠れる獅子の尾を踏んでしまったということですね」 慣用句が混ざってしまってますので
○「つまり、十常侍は虎の尾を踏んでしまったということですね」  もしくは「つまり、十常侍は眠れる獅子を起こしてしまったということですね」

二郎ちゃんは潤滑油だった?ぶっちゃけ灰汁の強い方々をまとめる能力としては現代日本人ってかなり高そうよね
二郎ちゃんの最も重要な力は繋ぐ力(確信)もちろんそれ以外も疎かにして良い訳じゃないけど
316 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/12(金) 21:45:58.47 ID:wKSVTPvao
>>312
>今の哀家は確実に二郎をハブにして回ってるからね、仕方ないね
先達のお二方も敢えてそのようにしようと暗躍(?)されてますしねー

>なお、外からだとドロドロな権力闘争している風に見られている模様
そうなんですよねw ほんとこれっすw ありがとうございます!

>>314
>一瞬SMショウに見えたぞ
そりゃあ、空目するようにしましたもの
やったぜ

>>315
いつもすまないねえ……(今回は完璧と思ったのにw くやしいのう、くやしいのうw)

>二郎ちゃんは潤滑油だった?
ローション扱いと申したか。なお

>二郎ちゃんの最も重要な力は繋ぐ力(確信)もちろんそれ以外も疎かにして良い訳じゃないけど
本人はスペック凡人ですので、コミュで組織を回す感じですねー
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/12(金) 22:32:59.09 ID:sNSJ14lPO
空目に引っ掛かるとは不覚

それより今年からナビスコカップはビスケットカップになるのだろうか?
318 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/12(金) 22:37:50.63 ID:wKSVTPvao
>>317
ヤマザキナビスコでナビスコカップやから、ナビスコカップじゃないかなあと思います(マジレス)

そしてむーちゃん復帰やったぜ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/13(土) 00:12:28.22 ID:almySa2Do
そのヤマザキナビスコがナビスコとのライセンス切れでヤマザキビスケットに改名するんやで
あと永木返して(´;ω;`)

あ、リライト版になってから初めてレスするけど初版に引き続き楽しませていただいてます
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/13(土) 11:12:47.35 ID:REowwF/x0
初版を一日かけて読んできたが面白かった。リライト版も期待
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/13(土) 17:36:48.23 ID:dG8hGGea0
1…日?あの量を1日とか一ノ瀬さんの以外抜いたとしても凄いな
ちなみに好きなシーンと好きなキャラを書き込むと一ノ瀬さんがテンションあがるぞ
322 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/15(月) 00:26:44.79 ID:qjhk772ro
>>319
バーバリーが直販に変えて利益を摂るのと同じ縮図なのかな?
ブランドが浸透したら委託なんてしない!
いや、正しいと思いますが

>あと永木返して(´;ω;`)
湘南さんは鳥栖みたいに監督がいなくなるわけじゃないから大丈夫だと思います(マジ話)
ボランチは層が厚いと思わせて結構やばいからねー
満男は加齢、岳は海外移籍、軸たる山村は桜に転勤。次世代期待してた梅鉢は修行の旅へ

青木と久保田のダブルボランチって不安しかないもん
永木君に期待するところ大なのですよ

>あ、リライト版になってから初めてレスするけど初版に引き続き楽しませていただいてます
ありがとうございます!なろうの方にもブックマークとか感想とか評価とかオナシャス

>>320
>初版を一日かけて読んできたが面白かった。リライト版も期待
一日……だと……
すごすぎでしょう……。
頑張り魔s


>>321
>ちなみに好きなシーンと好きなキャラを書き込むと一ノ瀬さんがテンションあがるぞ
大騒ぎして頑張るモチベーションですがリライトだとネタバレになっちゃうからね……
つまりさっさと話しを進めろってことかー
323 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/15(月) 00:31:35.32 ID:qjhk772ro
「ククク、カハ、はっはは!
 これは傑作だ、傑作だとも……く、くくく」

 笑い声が室内に響く。心底楽しげな声が響く。その声の主がこのように感情を露わにするのは珍しい。

「どうか、したのか?」

 笑い声の主は何進。現在の漢朝の最高権力者である。大将軍という隔絶した地位を目前にし、卓越した手腕で漢朝を差配する。清廉でも潔白でもなく、汚濁と権益によって世を動かす。その権力は肉親たる皇后、そして皇子に由来している。
 不敵に笑うこの男を追い落とそうと幾多の士大夫、宦官が挑んだ。そしてその全てを退けてきたのだ。
 その凄味を華雄が理解してはいない。ただ自分を屈服させた男が英傑であることを疑わないのみ。故にその英傑を守ることこそが武人としての本懐。
 だが、ここまで声を上げて笑うことは滅多にないことである。怪訝そうな声に何進はニヤリ、と笑って応える。

「ああ、やられた。見事に先手を打たれたのさ。
 流石は田豊よ。不敗の二つ名は伊達ではないといったところ、か」

 不敗の田豊。袁家の最重鎮である。対匈奴の戦役では軍師として戦場に立ち、圧倒的な匈奴の攻勢を凌ぎ続けたと言う。彼のいる本陣は後退することはなく、自ら敵陣に単身切り込むなど逸話には事欠かない。
 当主の袁逢さえもが弓矢を放つほどの激戦。実際、実戦経験がある武家と言えば同じく北方の防壁たる馬家くらいであろう。

「まあ、読んでみろ」

 そう言って何進は手に持っていた書簡を投げて寄こす。
 袁家が一万人兵を増やした、極論すればそれだけである。黒山賊といつぶつかるか分からないし、ありえる動きではあろう。

「これが、何か?」
「ああ、分からんか。まあいい。
 せっかくこちらから救いの手を出そうとしていたのだがな。
 流石死線をくぐり抜けた奴は腹が据わっている。機を逸しちまった、俺としたことが」

 ぶつくさと言っているが、勿論華雄にはその内容は分からない。それをすんなりと口にすることができるのは彼女の美点であろう。多分。

「ええと、よく分からない」

 舌打ちを一つし、何進は状況を整理する。

「ふん、凡百なら十常侍……洛陽からの圧力に惑い、怖れるしかないだろうよ。
 だが、袁家はそれを逆手に取って戦力を増強した。
 やれるもんならやってみろってわけだ。
 ここまで強硬に来るとは思ってなかった。武家の矜持という奴を読み誤ったわけさ、十常侍も俺も」

 実際には別に十常侍は漢朝の意思を代弁しているわけではないのだが、それは内部に深く関わらないと分かるはずもない。だから十常侍の専横が止まらないのである。

「では、袁家は漢朝に叛くと?」

 直截的な問いに何進は苦笑する。

「そこは違うな。全然違うとも。単に、つっぱねただけださ。
 俺としてはその前に仲介なり結託をするつもりだったんだがなあ。
 そうそう上手くはいかんか」

 そう言いながらも。欠片も悔しそうではなく、むしろ楽しそうな表情を浮かべる。
 何進。肉屋の倅などと貶められることの多いこの男は日々その勢力を拡大している。
 皇后たる妹、その息子である皇太子の威光を存分に使っているのだから。皇甫嵩や朱儁のような傑物を尻目に大将軍――その権は三公すら凌ぐ――の地位に就くのも目前である。

「まあいい、王允を呼べ。袁家にそろそろ渡りをつけんといかんからな」

ギラギラと覇気を撒き散らすかのごとく浮かべる笑みこそ何進の真骨頂だろう。その気概こそが漢朝を黄泉路より引き戻すのである。少なくとも華雄はそう確信している。

「クハ、面白くなってきたじゃねえか」

 史実においても権謀術数が幾重にも織られる宮中において、正攻法ではあの十常侍すら武力行使という非常の手段でしか排除できなかった傑物。
 その、ある意味政治的怪物が袁家との接触を試みることになるのである。そしてその窓口となるのは――。
324 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/15(月) 00:32:24.66 ID:qjhk772ro
本日ここまですー
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/15(月) 01:03:36.91 ID:uNf5frr8O
乙です
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/15(月) 10:18:36.52 ID:1YNksfXQ0
乙でしたー
いつものです
>>323
>>当主の袁逢さえもが弓矢を放つほどの激戦。 弓も一緒に放っちゃってますので
○当主の袁逢さえもが矢を放つほどの激戦。 もしくは 当主の袁逢さえもが弓で射るほどの激戦。 もしくは 当主の袁逢さえもが弓を引くほどの激戦。
他にもいろいろあると思いますが【弓矢】にしたい場合ですと 当主の袁逢さえもが弓矢を手に取るほどの激戦。 辺りが適当だと思います

よっ大将軍!!と思ったらまだだったんですね、何進
ここからは昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵、の陰謀渦巻くドロドロパートスタートです!!(待て
私の好きなオリキャラ第1位、原作キャラ含めてもベスト3に入る何進さんの本格始動にwktkですよ(ちなみに二郎ちゃんはベスト5には入ってマスヨ
何進さんが喜んだのは使える手駒以上の使える仲間が出来そうだからか、丁々発止できそうな好敵手が現れたからか、はてさて
327 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/15(月) 23:25:33.81 ID:7+tKx37oo
>>326
いつもすまないねえ……

>よっ大将軍!!と思ったらまだだったんですね、何進
チャート確認したら大将軍になってたw
大勢に影響はないので、前段かこっちかどっちか修正します

>ここからは昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵、の陰謀渦巻くドロドロパート
これメインにすると脳細胞が死にますがねw

>私の好きなオリキャラ第1位、原作キャラ含めてもベスト3に入る何進さん
未読の方にも好きになってくれたらうれしいなあ
書いてて楽しいキャラではあります、何進
328 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/19(金) 01:18:36.55 ID:X6DEx/bJo
業務連絡です
転勤決まりそうです

引っ越しその他業務でくっころです

後、蕪が不作なのでご飯食べるときはリンガーハットでオナシャス

dじゃおい
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/19(金) 01:59:52.04 ID:hjWsMGlAO
乙。そして転勤オメです

……何進さん。個人的には生き方が好きなキャラです。成り上がり、そして潰される。しかしその間を閃光のように輝きながら駆け抜けた、乱世の 人物。


ここの何進さんは、実力も伴った英傑の匂い。
ただ惜しまれるかな、紀霊という伏兵を見いだせていない。この先紀霊(二郎)と邂逅した時にそれを見切れるか注目。


……翻って実務者会議の二郎さん。うん、芯の通ったビジネスマンだわ。 つか転生前も密かな注目株と想像。


現役武官の黄蓋の経験を所属関係無く採り入れる柔軟さ。袁家に害為すなら投資を無駄にしても切り捨てる冷静さ。パネェ

……SMT。調べたら裏側スキーにはWKTKな 見本市ですね。
過去、建機やら建材やらの見本市は参加しまくっていた身としては久々にクル情報でした。
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/19(金) 23:33:45.24 ID:feWQCcLJO
転勤先は…ダイスの神様が荒ぶるのにお任せ

リンガーハットはねぇ最近週2で行ってたからちょっと飽きたでやんす
その代わり最近は浜勝にはまってます
331 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/20(土) 00:11:48.82 ID:zilhfAoCo
>>329
引っ越し引越しさっさと引っ越し!
荷物片付かない(絶望)

>成り上がり、そして潰される。しかしその間を閃光のように輝きながら駆け抜けた、乱世の 人物。
清河八郎とか芹沢鴨という名前が惹起されましたw

>ただ惜しまれるかな、紀霊という伏兵を見いだせていない。
流石にこの段階では無理っしょw
乾がスペインで普通にやれるとか野洲高校時代見て分かるはずないっていうw
しかし何で清武や本田に比べて乾の報道がないんでしょうねえ

>現役武官の黄蓋の経験を所属関係無く採り入れる柔軟さ。袁家に害為すなら投資を無駄にしても切り捨てる冷静さ。パネェ
実際、すごいことなのですよね、これ

>……SMT。調べたら裏側スキーにはWKTKな 見本市ですね。
食品メーカー、什器メーカーなど色々と楽しいですよ
そして、地方公共団体が出展してますのですよ。各地の美味しいモノ試食でお腹いっぱいになりますw
お酒もありますよ!メーカーブースではお土産もあるぞ!

三月には幕張で類似イベントのフーデックスもあります
事前申請したら無料で参加可能なのですw

>>330
>リンガーハットはねぇ最近週2で行ってたからちょっと飽きたでやんす
それは行きすぎでしょう……w

まあ、国産野菜とちゃんとうたってるのがリンガーさんと王将くらいじゃなかったかなあ
松屋も野菜サラダはそうだっけか

まあ、最近リンガー蕪は手放して、今は塚田農場とかに乗り換えましたね

最近は畑が朱い赤い。どうしたものかですよね。

お願いとしては、銀河高原ビールをよろしく、とだけw
332 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/20(土) 00:15:24.78 ID:zilhfAoCo
俺は目の前に広がる恵みの象徴に目を奪われていた。それは豊穣を象徴しており、大地の恵みたる地母神を想起させる。巨乳、と一言で言うのはたやすい。だがその漢字二文字の表す言葉は目の前の女体の奇跡を表現しきっているだろうか、いや、十分ではない。
大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な質感を持った谷間が俺を誘うかのごとく色香を放っている。グランドキャニオンはここに顕現したのだ。世界遺産も真っ青である。
うん、けしからん。実にけしからん。
そんなけしからんおっぱいの持ち主二人と俺は密室にいるというのがある種の罰ゲームである。これはいけません――。


「なんじゃこれは」

などとあれこれと考えていた俺のピンク色をした思考を断ったのは黄蓋である。その声色は控え目に言って――呆れていた。

「わあ、これはすごいですねー」

 もう一人は陸遜。のほほんとした声色と、たわわに実った胸元がギャップ満点である。いや、直截的に言えば、エロいよこの娘。無防備エロ!そういうのもあるのか!畜生!孫家は未来に生きてるな!
いや、黄蓋は現段階で孫家の重鎮だし陸遜は未来の大都督なのだが。なのだが。ちなみに孫権は余り実務他あれこれに慣れてなさそうだったので呼ばなかった。いや、色々混ぜっ返されても困るしな。

さて諸君、目の前には四家会議の後、それぞれの軍務の手続きやらなんやらを記した書類の山がある。兵卒と士官にヒアリングした業務内容を取りまとめた業務チャート図とその詳細についてはかなりの力作である。頑張った斗詩、それに沮授と張紘には感謝感激雨霰である。俺?監督監修ってことで。
 七乃が予想以上に協力的だったのが不可思議ではあったのだが。解せぬ。

まあ、この書類の山を二人に見てもらって妥当性を検討していくわけだ。黄蓋は歴戦の名将だし、陸遜はあれだ。知力95以上はあるであろう化物だ。うん、軍政にうってつけの人材がいるって素晴らしい!
 ククク、立場的には協力を断ることもできんだろうて。パワーハラスメントなんて概念はあと二千年くらいしないと生えてこないし。なお、俺のお仕事はその内容がいかに手抜き骨抜きできないかのチェックするだけのお仕事である。
 ほら、俺ってサボるの得意だから!そういう感じで政策とか法案のを抜け道を塞ぐのは割と得意なのよねー。サラリーシーフは俺だけの特権なのである。




「なんじゃこれは」

黄蓋は卓の上の書類の山に戸惑いを隠さなかった。一方、傍らの陸遜はにこにこしながら遠慮呵責なしに手に取り目を通し始めている。

「うん、別に今日中ってわけじゃないから、じっくり頼むわ」
「話が見えんぞ」

黄蓋としてもちょっと手を借りたいとしか聞いてなかったのだ。どうせ拒否権なぞない、と思っていたらご覧の有様である。先導されるままに入った一室。
黄蓋的には、てっきり手篭めにでもされるのかと思っていたのだ。無論陸遜についてもその覚悟はあったはずである。それが目の前に広がるのは書類の山。

「んー、言ってなかったっけか。袁家の軍務の諸手続きの統合整備計画だな。
 一応整理はしたんだが、袁家と旗本たる武家四家。それぞれ手の続きを可能な限り統合した書式なんだが無駄や重複もあると思う。
 まあ、そこはご容赦くださいということで」
「いや、それこそが軍事機密じゃろう。わしらに見せる意味が分からんのじゃが」

ちらり、と見ると兵の編成方針やら評価基準、訓練の申請方法など、いずれも門外不出であろう文書ばかり。自由な家風である孫家の中でも、型破りで豪気で知られる黄蓋もドン引きである。こんなものを見せてどうしようというのか。

「いやー、正直手続きが煩雑なとこもあってさ。いざ実戦っていう時にこれじゃいかんなと。
 ほんでまあ、先日まで戦場を駆けてた君らにどこまでが必要でどこからが不要か見極めて欲しいのさ」
「えらく壮大な話じゃが、こんな機密をわしらに見せて構わんのか?」
「おう、大丈夫だ。問題なんてない」

即答されるとさしものの黄蓋も黙るしかない。そして思う。正直、器を見誤っておったかもしれないか、と。

「目を通して所見を述べるのにやぶさかではない。
 が、その後に始末されたりはせんじゃろな」
「しないしない。こんな立派なおっぱい達を失うなんて人類の損失だ。
 そんな愚行は俺の目が黒いうちは許さんよ」
「へらへらとゆるんだ笑み。これが心根を惑わすためのものならばたいしたものじゃなー」
「声に出てるぞ、おい」

いまひとつ本気かどうか分からないというのが黄蓋の正直な思い。だがまあ、否なぞありえない。拒否権なぞないのだと腹をくくる。
傍らの陸遜にちらり、と目をやるとにこり、とうなずいてくる。袁家の軍政を目にするのはこちらにとっても益になろう、と。特に陸遜、次代の孫家の軍師である。人質生活といっても、暇を持て余すよりはよっぽどよかろうと黄蓋は思う。

実際、この南皮で生活するだけでも……。

「権殿や穏にはよい刺激になるじゃろうて」

 そうあってほしい、と黄蓋は思うのだ。次代の孫家を担う二人がここ南皮に派遣されたのだ。その意義を、期待を背負っているのだ。彼女らは。
それはそれとして、袁家という漢朝の藩屏。その内実に触れられるのは願ってもないこと。まずは、情報収集である。
 そう理性は語る。だが、高鳴り燃ゆる胸の鼓動よ。袁家、どれほどのものか。ニマリ、と歪む口唇を自覚する寸前、耳朶に囁き。

「それ以上はよくないかとぉ」

 甘ったるい口調、無垢なる仮面。

「分かっておるとも」

 孫家次代の軍師たる陸遜の言。黄蓋と孫権のお目付け役として派遣された彼女こそが孫策と周瑜の切り札。その真価を知るのは黄蓋だけなのだ。そのはずだったのだが。
 陸遜について、一家言ある人物が袁家にいたというのは孫家にとって幸か不幸か。その断が下されるのはまだまだ先のことである。
333 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/20(土) 00:16:31.62 ID:zilhfAoCo
本日ここまでー 感想とかくだしあ

そして始まる生活苦!
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 01:01:03.05 ID:aNOF14oZO
乙です
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 01:05:31.31 ID:nC0O7UkAO
乙。

「手の続き」→手続き?

立場上断れないからパワハラはこの場合何か違うような。うまく言えませんが。


>黄蓋と陸遜の描写
DTには良いオカズ(意味深

蕪は趣味と実益でスパゼネをコツコツとそれなりに(総会前に御挨拶来るレベルww)
後は…お付き合いで雑多に。
ただ、蕪屋の営業がウザイ。塩漬け前提なんで。

さて、黄おっぱいと陸おっぱいは紀霊に食べられるかな?注目
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/20(土) 10:26:11.06 ID:Y61QIo6B0
乙でしたー
二郎ちゃんが傍から見たら仕事してますね
>>332
>>大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な質感を持った谷間 圧倒的な質感とは何ぞや?滅茶苦茶柔らかそうってことかな?それとも張りがある?
○大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な質量を持った谷間 もしくは
○大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な量感を持った谷間 単純に大きさを表すならこちらですかね
○大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な迫力を持った谷間 カタカナ使っていいならボリュームがしっくり来る気もしますが
○大胆に胸元をあけた衣装からは圧倒的な重量感を持った谷間 巨乳っぷりを示すならこれかなあ?
長く解説するなら 掌に吸い付きそうなきめ細やかさとどこまでも埋まりそうな柔らかさとそれでいて手を離せば一瞬で元に戻るであろう張り このあたりで圧倒的な質感?と思いますが…テンポ悪いですね気にしないでください
>>そういう感じで政策とか法案のを抜け道を塞ぐのは割と得意なのよねー。
○そういう感じで政策とか法案の抜け道を塞ぐのは割と得意なのよねー。
>>それぞれ手の続きを可能な限り統合した書式 上の方、添削先生になっても大丈夫ですよ?
○それぞれの手続きを可能な限り統合した書式
>>即答されるとさしものの黄蓋も黙るしかない。そして思う。正直、器を見誤っておったかもしれないか、と。 2か所訂正します
○即答されるとさしもの黄蓋も黙るしかない。そして思う。正直、器を見誤っておったかもしれない、と。 黄蓋の口調だと最後は【おったかもしれんな】も良いかもしれません
>>ニマリ、と歪む口唇を自覚する寸前、 間違いではありませんが
○ニマリ、と歪む口元を自覚する寸前、 の方が良い気がしますね、口唇だと色っぽい感じがするので誘惑する場面だとピッタリな気がします

パワハラは要はいやがらせですからねえ、無茶な仕事を割り振るという意味ではこれも立派?なパワハラと言えるでしょう
オッパイへの愛が迸ったせいかなんかやたらと長くなった誤字修正があるような…気のせいですね
黄蓋たちからしたら好色な青年がついに自分たちを毒牙にかけるか、と思って付いて行ったら機密一杯の場所で軍人として働けと言われたでござる、と言う
しかも自分はともかく陸遜の情報なんて0のはずなのに…なにこれ怖い
そしてサラッとボッチにされる孫権、あれ、離間の計?自分はただの人質で一緒にいた二人はお仕事(重要)を任せられてるとか澱んじゃうよね
337 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/22(月) 00:26:40.80 ID:fNTUTYR8o
>>335
修正あざっす

>立場上断れないからパワハラはこの場合何か違うような。うまく言えませんが。
これはあれですね。
優越的地位の乱用ですね

>蕪は趣味と実益でスパゼネをコツコツとそれなりに(総会前に御挨拶来るレベルww)
すごいじゃないづえさー!
大株主!富豪キタコレ!

>ただ、蕪屋の営業がウザイ。塩漬け前提なんで。
一ノ瀬も塩漬け配当目当てですが多分桁が違うっすw
ネットだけのあれこれなのでw

>さて、黄おっぱいと陸おっぱいは紀霊に食べられるかな?注目
美味しそうに実っておりますがw

>>336
>二郎ちゃんが傍から見たら仕事してますね
雨が降りますねw

>パワハラは要はいやがらせですからねえ、無茶な仕事を割り振るという意味ではこれも立派?なパワハラと言えるでしょう
優越的地位の乱用と言う方が合ってるなあと思いました
なお、現代社会においても解決されていない模様  ○菱の糞が

>黄蓋たちからしたら好色な青年がついに自分たちを毒牙にかけるか、と思って付いて行ったら機密一杯の場所で軍人として働けと言われたでござる、と言う
間違いなく覚悟完了してたのですよねw

>しかも自分はともかく陸遜の情報なんて0のはずなのに…なにこれ怖い
怖すぎですよねwでも現代人からしたら陸遜とかいう大都督w

>そしてサラッとボッチにされる孫権
流石に孫家二の姫をこきつかうとまずいかなーくらいの心胆w
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/22(月) 08:54:14.96 ID:GNrCTUwAO
>>337

>塩漬け配当目当て

あ…そかそか配当忘れてた。祖父の代からの相続分に20ン年間買い増しでいつの間にか増えたからなあ。

>大株主

うーん。総発行数に対して比率4%行かない位ですよ?私個人で動議出しても否決されるレベル。 ついでに毎年確定申告は 必須だし配当金は税金と 蕪屋の手数料に消えてますwwwwww

>優越的立場の乱用

黄蓋さんは当てはまるが 陸遜さんは何か喜々として始めているからどなんだろ?
ちなみに恋姫時空では陸遜さんは新しい情報に触れると発情するらしいが…

>孫権さんぼっちww

お姫様はお姫様同士、まずは外交ルート構築が必要でしょう。


という事でプリンセス外交に奮闘する孫権さん見たいです(希望)


最後に二郎さん。鋳造は実用化されてる?
339 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/22(月) 23:06:11.64 ID:vU49oVhgo
>>338
>あ…そかそか配当忘れてた。祖父の代からの相続分に20ン年間買い増しでいつの間にか増えたからなあ。
一ノ瀬はまだ十年もやってませんからw

>うーん。総発行数に対して比率4%行かない位ですよ?
いやいやいやいや
十分すごいと思いますよw
蕪屋さんが来るとなるとやはりそのレベルなのだなあと

>黄蓋さんは当てはまるが 陸遜さんは何か喜々として始めているからどなんだろ?
そら嬉々とするとか想定外っすよw

>という事でプリンセス外交に奮闘する孫権さん見たいです(希望)
孫権さんハードですけど頑張ってもらいましょう


>鋳造は実用化されてる?
web恋姫に鍛冶場があるということで、鍛造もあるという前提で運営しております
340 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/22(月) 23:19:25.86 ID:vU49oVhgo
 陸遜は若いながらも将来を嘱望される智謀の士である。のほほんとした人柄のがその才気を隠しているが、その智謀は切れ味鋭く、思慮は深い。
 彼女が袁家へ派遣される人員――人質となることについては彼女本人の意思もあったのだが、周瑜の強い推挙があった。だが、これには反対意見も根強かった。陸遜という人物はまだこの頃それほど声望は高くない。
 よしんば周瑜をよく補佐しているとは思われても、それだけである。そのような若輩者を派遣すれば、袁家を軽んじているということになりはしないか。ここは周瑜が赴くべきであろう。
 一時はその意見が大勢を占めたのである。孫家は江南で首魁的な地位にあると言っても、あくまで地方豪族のとりまとめでしかない。だから彼らの意見――孫家の頭脳たる周瑜を遠ざけてしまおうという魂胆――を無視することはできない。
 それを救ったのは魯粛の一言だった。

「紀霊さんって、きつい女の人、あんまり好きじゃないんだよねー」

 この一言で陸遜の派遣が決定づけられたのである。ちなみにこれは完全に虚偽である。紀霊の好みはキツメの美人であるのだからして。
 それはともかく、魯粛は周瑜と語ったものである。

「魯粛殿、お口添え感謝する」
「だってさー、周瑜さんがここを離れたら孫策さんを抑える人がいなくなっちゃうじゃん。
 あの人を抑えられるのって、黄蓋さんか周瑜さんくらいでしょ?
 二人ともいなくなったら何がどうなるか分かったもんじゃないよー」
「ふふ、反論できんのが情けないことだ」
「それに実務面でも相当困ったことになるしねー。
 まあ、豪族の皆さんとしてはその隙に乗じたいんだろうけどねえ」
「慧眼恐れ入るよ。いや、お恥ずかしい限りだ」
「私としてはよくこれだけ逆風の中で江南を押さえきっているというのが驚きなんだけどね」

 打ち解けた口調、おどけた仕草。和やかな空気の中、互いに視線一つ、口調一つで牽制し合う。江南出身の両者は対照的であった。片や孫家の頭脳、片や孫家の利権の代表者。
 この場に紀霊がいたら背丈であるとか肌の色であるとか胸部装甲についてツッコミを入れたであろうなあなどと魯粛は緊迫する空気の中で思う。余裕があるのは別に優劣が故ではない。単に前提条件が違い過ぎるのだ。いわば金銀飛車角落ちで対局しているようなもの。
 それでも真っ直ぐに立ち向かう周瑜の精神力。それを魯粛は内心賞賛する。だからといって手加減をすることはないのだが。
 そして陸遜は二人の会話に割り込むことはできなかった。まだ、まだ足りない。まだこの二人のいる高みに自分は至っていない。だがいずれは。その思いは強い。そして袁家へ赴くことは自分にとって転機となる。そう確信していた。
 ……孫家は危機を乗り越え、江南での地歩を固めている。一般的にはそう認識されている。一面ではそれは正しい。が、実のところ危ういというのが周瑜と陸遜の共通認識。
 かつて江南は深刻な食糧難に襲われていた。未曾有の飢餓、である。未来のための種籾すらその日の飢えをしのぐために費やされた。そこで起死回生の一手として黄蓋が袁家を頼ったのである。
 孫堅というカリスマを失った直後でもあり、非常にリスクの高い一手であった。結果として袁家からの援助を引き出すことに成功はしたのだ。それは、いい。願ってもないことだった。だがそのことが周瑜や陸遜の頭を悩ませることになったのである。幾度となく周瑜と陸遜は語り合ったものである。

「分からん。こちらから助けを請うておいて、なんだが。袁家がここまで手厚く援助してくれる理由が皆目見当もつかない」
「そうですねぇ。孫家への援助というよりは江南全体への援助です。
 それも、破格の」
「北はいい。公孫賛殿は袁紹殿の旧友だ。また、匈奴への備えということもある。
 だが、江南へ袁家が投資する意味が分からない」
「張紘さんや魯粛さん、虞翻さんに顧雍さんは確かに江南出身ですが、公私混同をする方々でもありませんし」
「うむ……」

 どうせほっといても孫家が勢力を伸ばすのだから、恩を売って取り込んでしまえ。などという紀霊の雑な思惑を読める者がいたらそれは間違いなく人外か狂人の類であろう。
 孫家の今の地位は袁家の後ろ盾あってのことである。であれば、その地位を奪うには袁家の、極端な話紀霊の歓心を買えばいい。そう、豪族達が思うのも自然なことであった。
 そしてそれを周瑜と陸遜は正確に読んでいた。
 読んでは、いたのだが。

「……打つ手、なし、か」
「江南の復興で手が一杯ですしぃ。
 そちらの手を抜くと本末転等ですからぁ」
「うむ、それこそ統治機能なし。と孫家を見限られてしまうことになるな」

 答えなど出るはずもなく、二人して溜め息をつくのが常であった。
 であるから、袁家への派遣が決まってからの陸遜は勤勉であった。呂蒙への事務の引継ぎをこなしつつ、情報を収集する。

「彼を知り、己を知らば百戦危うからず」

 孫子の一節である。余りにも彼の情報が少ない。何を意図して孫家を助けるのか、その判断材料がない。だから、知らねばならない。その心根を、その根底を。

「うーん、正直私にもよくわかんないんだよねー。
 でも、袁家では紀霊さんの道楽ってことになってるよー。
 なにせ、うちの商会そのものが紀霊さんの道楽扱いだからねえ。
 まあ、おかげで好き勝手できるのだけども、ね」

 陸遜の問いにそう言って笑む魯粛。そしてこれだけの規模の商会が道楽扱いというのに陸遜は目眩を覚える。実際には賤業として見下されているという面も大きいのではあるが、そこまでは流石に思い至らない。
 ただ、袁家領内では江南への援助は大きく二つの見方があるようである。黄蓋が訴えた江南の窮状に胸を打たれたという見方。
 もう一つは、単に黄蓋の色香に迷って紀霊がほいほいと手を差し伸べたというものである。前者は英雄譚を好む庶人に、後者は多少なりとも紀霊を知る士大夫にそれなりの説得力を持って受け入れられている。
 それでも。袁家領内の大多数にとっては、江南がどうなろうと知ったことではないというのが実際のところなのであろう。陸遜はそう結論づける。きっと、紀霊が勝手に自分の財産と人手を使って何かしている。それくらいの認識なのであろう。
 そして陸遜は紀霊の情報を集め続ける。逸話から風聞、果ては商会に出される命令書まで入手し、その書式から、筆跡から少しでも彼を理解しようとする。そして袁家内部の情勢を知れば知るほど、彼一人の独断で江南への援助が行われているというのが明らかになる。
 で、あるならば。
 彼を理解し、その思考を辿ることで答えが出るだろう。
 彼を理解し、その嗜好を探ることで彼の歓心を買えるだろう。
 
 それは、もはや恋着と言ってもいいくらいの執着であった。
341 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/22(月) 23:20:08.30 ID:vU49oVhgo
「くふ、ぅ……」

 既に日課となった思索に耽る。目の前には可能な限り集めた紀霊の資料、紀霊の出した指示、書類。幾度となく読んだそれらに目を通す。風説から、指示の傾向から、筆跡から。
 ありとあらゆる資料を手に取りながら、紐を解く。紀霊という男の紐を解く。
 未知の書物を読むような、難解な暗号を解読するような、そんな興奮が陸遜を包む。既にその身は火照り、江南に珍しい白い裸身は紅に染まっている。
 知らず、白魚のような指がくちゅり、と水音をたてる。
 視線は宙を彷徨い、意識が遠くなっていく。雑念が飛んでいく。
 高ぶる身体とは対照的に、思考はいよいよ冷め切っていく。火のように燃え盛る身体、氷のように冴え渡る思索。炎と氷を併せ持つ。それが陸遜という希代の軍師であった。
 悦楽に翻弄されればされるほどに、思考は研ぎ澄まされていく。やがて辿り着く恍惚を繰り返すほどに、思考すら超越した解が脳裏に弾けて消える。頂を越えるほどに、それに手が届きそうになる。忘我の果てに掴んだそれは、目覚めと共に去るのが常であった。
 それでも、日ごと、夜ごとにつかめそうな気がしている。陸遜はその稀有なる脳髄の全てを振り絞り、紀霊という名の書物を読み解こうとしていたのである。本末と主客は転倒し、その中で陸遜は陶酔する。
 周瑜が後継者と認めるほどの天賦の才。異なる世界では三国に冠する英雄に死をもたらすほどの智謀の冴え。その全身全霊を持って、彼女は、紀霊に恋焦がれるようになっていたのである。



「いらっしゃっせー」

 そしてその出会いは突然で、あっけなかった。南皮の城門を潜り、昼食を終えたあたりで一人の男が声をかけてきたのである。瞬時に警戒する孫権。のんびりと視線をやる陸遜。そして、歴戦の武人たる黄蓋は。

「なんじゃ、おぬし自ら出迎えか。
 もう少し勿体ぶらんとありがたみがなくなるぞ」
「いや、歓迎してる証と思ってくれよ。しかし相変わらずけしからんおっぱいだな。
 目の毒、目の毒」

 そう言ってやにさがる男は傍目にもだらしなかった。しかし、陸遜はそれどころではない。これまで恋焦がれていた男が突然現れたのである。
 だから。目で、耳で、可能な限り紀霊の情報を受信する。蓄える。味わう。
 紀霊の視線が自分に突き刺さる。遠慮のない視線が自分の身体を嘗め回す。陸遜は歓喜に打ち震えながら、男の思考を、嗜好を探る。

 足りない。視覚と聴覚では足りない。触覚で、嗅覚で、味覚で。
 五感の全てをもってこの男を味わいつくしたい。味わわなければ。どろどろとした欲望が陸遜の身体を灼く。嗚呼、つまり。
 自分は、この男に抱かれなければならない。一つにならねばならない。男女が分かり合うにはそれが一番手っ取り早い。

 まだ、まだ駄目だ。冴え渡る頭はあくまで冷静に判断する。自分は所詮無名の士である。
 この男に認められるのが先だ。容色と肉体についてはいささかの自信がある。が、それだけではこの男は心を開かないであろう。色仕掛けなど慣れきっているはずだ。
 いかにしてこの男に自分を刻み付けるか。火照った身体を持て余しつつ、あくまで陸遜の思考は澄み切っていた。
342 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/22(月) 23:25:32.64 ID:vU49oVhgo
本日ここまですー
陸遜さんと言えば本読んだら発情するという特殊体質でしょう
孫家未来に生きすぎだと思いました

今回の題名を募集いたします
仮題としては「陸遜という女」くらいですがしっくりきてません
奮ってご提案くだしあ。
おひとり様何案でも結構です


次回は地味様の憂鬱予定
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/22(月) 23:31:28.75 ID:EJV8mJ9TO
乙です
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 00:23:58.82 ID:pIQlAfHAO
乙。

>>340

「主客転等」→「主客転倒」
>>341でちゃんと記載されているので勿体無いです

タイトル案
『凡人に焦がれる陸遜(おんな)』


相変わらずセンス無いな(頭抱え)
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/23(火) 14:54:19.20 ID:Ef8S3b7l0
乙でしたー
ペタペタ
>>340
>>のほほんとした人柄のがその才気を隠しているが、
○のほほんとした人柄がその才気を隠しているが、
>>「私としてはよくこれだけ逆風の中で江南を押さえきっているというのが驚きなんだけどね」 接続詞に違和感があります
○「私としてはこれだけの逆風の中で江南を押さえきっているというのが驚きなんだけどね」  が自然な感じがします、多分
>>そちらの手を抜くと本末転等ですからぁ」
○そちらの手を抜くと本末転倒ですからぁ」
>>情勢を知れば知るほど、彼一人の独断で江南への援助 一人と独断が意味が重複してるので
○情勢を知れば知るほど、彼一人の判断で江南への援助 もしくは 情勢を知れば知るほど、彼の独断で江南への援助 でしょうか
>>341
>>江南に珍しい白い裸身は紅に染まっている。  裸身・・・素っ裸なの!?お前読解と自慰とどっちに重き置いてんのよ

読み解く女が読み解けない男。 とか?うん俺は人の粗探しは出来ても自分で何かを作ることはできないと再確認した
陸遜による読解、難解、誤解。 とりあえず二つほど案を出しておいて
二郎ちゃんの凄いところは凄い人を上手に使いこなすところ、実態はともかく周りからは有能な怠け者に見える名司令官っぷり
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 19:51:13.11 ID:pIQlAfHAO
>>345

本末転倒。でしたね
要らん事はするもんではない(反省と自戒)


二郎さんと恋姫キャラの 未来の子孫が某「不敗の魔術師」?
イヤだって、共通項結構多いよ。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/23(火) 20:31:11.75 ID:pIQlAfHAO
追加

孫家にとっては破格の江南への援助。
気候風土を知ると実は投資先としては有望。
治水と水利を対策すれば 温暖な分巨大食糧庫に化ける可能性を秘めているし。
個人的には、長江から一定範囲を遊水池にしてその外に堤防で仕切った田畑、更にその奥に高台化した集落や都市。という感じで区画整理します。多分支流や湖も結構あるから逆手に取って運河や 農業水源に利用。
ただこれ莫大な費用と期間掛かるんですよね…… 後恋姫時空であっても、植生調査をさせておけば 正直冷涼な袁領より化ける。と思います。

費用対効果で考えるなら まず人的損害の軽減。次いで水生作物や救荒作物の普及。この辺りなら孫家と魯粛さん達でやれるか?


……とはいえ、芋類なら 南蛮に探しにいかにゃならんので、誰かネコの軍隊に追い掛け回される役目引き受けて貰わんと。

…一ノ瀬さん。戯言ですからスルーで
348 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/23(火) 21:30:07.57 ID:7fd/JrZIo
>>344
>凡人に焦がれる陸遜(おんな)
いい感じやと思います
検討さしてくださいませ
しかし、言葉を捻りだすのはマジでセンスやなあと思いますわ

>>345
>裸身・・・素っ裸なの!?お前読解と自慰とどっちに重き置いてんのよ
体質ですからね、仕方ないね
読解してたら、もう辛抱たまらんというか、辛抱するつもりもないというか

>読み解く女が読み解けない男。
読み解く女、がシンプルでいいかもですね。やはり他者の感性というのは大事だなあと思います

>二郎ちゃんの凄いところは凄い人を上手に使いこなすところ、実態はともかく周りからは有能な怠け者に見える名司令官っぷり
使いこなすというか、丸投げというかw
これも生まれがよかったからでしょうね。底辺から伸し上がるモードだと中々難しいでしょうね

>>346
>イヤだって、共通項結構多いよ。
共通項……言われてみればw

>治水と水利を対策すれば 温暖な分巨大食糧庫に化ける可能性を秘めているし。
二期作二毛作万歳な土地ですからねえ
三国時代は人口が少なくて人狩りまでしてましたが

>ただこれ莫大な費用と期間掛かるんですよね……
使い道に困る財源があるじゃろ?

>この辺りなら孫家と魯粛さん達でやれるか?
多分大丈夫だと思います
内紛にリソースがどれだけ割かれるか、次第かなー
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/23(火) 22:04:17.07 ID:Ef8S3b7l0
使い道の困る財源…1万人の追加兵のことかー!!(それだけではありません
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/24(水) 15:03:59.10 ID:l9HKIuYAO
使い道の困る財源…

商会からの運上?
つか母留流九商会の売上規模が想像つかない。
まあ、訳の判らん特殊法人作らんだけ真面目な人々が多い世界。だね


そういえば商会にも私兵五千配置されてますが、試しに幾らか甘寧さんに預けて水軍と水運も仕込んで貰うと物流の幅が広がるような(机上の愚考)
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/25(木) 14:41:19.63 ID:JUGrJdxY0
そのまま取り込まれないかが心配だな
外側から見れば圧倒的に袁家>>孫家だけど一緒に訓練して同じ釜の飯食って小覇王様の覇気を身近で感じたら一般人は孫家に傾くかもしれない
孫策だったらなんとなく内政よりも調練しまくってるイメージ
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/26(金) 02:35:32.19 ID:++Xir1XAO
>>351

取り込まれたとしても、商会と孫家の間が良好なら逆に船員と護衛を孫家に委託して船運に専念するという手もあり。

逆に孫家が水軍の一部を抽出して船運を請け負うつう稼ぎ方も出来るし


まーそーなるとサボリ魔の虎さんがしれっと乗り組むだろーなー
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/02/26(金) 09:08:23.37 ID:9NtpsuLG0
いやーどーだろ他から見たら孫家に民草引っこ抜かれた袁家って外聞悪くね?
労働力の貸出ししてるなら問題ないけど袁家から孫家に民が流出してるならよっぽど袁家が悪政なのかよっぽど孫家が善政なのか…みたいな噂が流れるかも
考えすぎかね?
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/27(土) 00:54:44.24 ID:vvMKumhNo
今気づいた お尻様が完全に目立ってないww
同じく陸家ってあんまり外史では目立ってないわけか

俺もタイトル考えた「想い着く先」
355 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/29(月) 23:17:44.88 ID:N+0deZAzo
>>349
熱烈歓迎であります

>>350
>訳の判らん特殊法人作らんだけ真面目な人々が多い世界。だね
一番不真面目なのは二郎ちゃんです
実際、張紘君とか私欲には全く興味がないという不可解さ
人格が高潔すぎやしませんかねえ

>そういえば商会にも私兵五千配置されてますが
使い道は決まっておりますのです

>>351
>小覇王様の覇気を身近で感じたら一般人は孫家に傾くかもしれない
それをさせないために珠玉の人材を派遣しております
実際魯粛、顧雍、虞翻あたりは普通に漢朝の重責を担うレベルですしおすし

>>354
>お尻様が完全に目立ってないw
目立たないことで目立つ。そういうのもあるのです

あと陸遜にスポットが当たる恋姫二次って中々ないと自負してます!
356 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/29(月) 23:18:26.25 ID:N+0deZAzo
 いつもは一つに括っている髪を今日は下ろしているので、何か落ち着かない。いや、落ち着かないのは髪形だけじゃない。今日の衣装、派手じゃないかな……?
 公孫賛は視線を泳がせながら、それでも胸を張り場に立つ。ここは戦場。血の流れない戦場。
 宴席と言う名の戦場に、公孫賛は立っていた。

 さて、袁家が北方の最前線から兵力を――それも精鋭を――引き抜いたという事実。それは当然最前線にて匈奴と向かい合う戦力に不安をもたらすものであった。
 そのことを放置するほど袁家は無責任ではなかった。いや、北方を守護する漢朝きっての武家という矜持がそのようなことを許さない。では、どうするのか。答えは簡にして単。

「外注(アウトソーシング)しかないじゃん」

 手元に集った兵力の充実、そして北方の戦力の不足を突き付けられた紀霊は事もなげにそう言い放った。段取りだけかまして、実務と後処理を押しつけてくる先達のご丁寧な指導(かわいがり)については、盛大に絶叫していたようだが。
 足りないならば、あるとこから引っ張ってくる。当然の帰結。そして紀霊が選んだのは公孫賛であった。騎兵を以って匈奴と伍し、その人格は誠実にして実直。その言動に裏表はなく、あくまで正道を選ぶ。袁紹や紀霊とも親しく、委託先としては申し分ない。ないのだが、足りない。実力はともかく声望と実績が足りないのだ。
 だから、こういう場で立場を好転させねばならない。それが派閥の領袖としての役割。向けられる助平な視線や、ちょっとしたお触りくらいどうということもないのだ。



 「阿蘇阿蘇?」

 訝しげな公孫賛の問いに紀霊は重々しく頷く。まあ、紀霊がこういうもったいぶった時ほど、口にするのはくだらない案件であったりする。流石に幾度も振り回されていれば免疫もできようというものだ。

「確か雑誌……だったっけ?」
「おう、情報発信誌というやつだな」

 丁々発止のやり取りの後に室に招き入れられたのは琥珀色の髪を束ねて、悪戯っぽく笑う少女だった。そばかすと眼鏡が彼女の陽性の魅力を引き立てている。
 そして、彼女の誘導によってあれよあれよという間に公孫賛は着せ替え人形と化したのであった。

「いや、これは流石に胸元が開きすぎじゃないか?それにこんなに派手な色使いはちょっと……」

 気後れする公孫賛に于禁は笑いかける。

「大丈夫なのー。公孫賛様は元がいいから、磨き甲斐があるのー。
 今日の主役、は流石にまずいけど……いい感じに仕立て上げるのー」
「まあ、そこは一任するさ」

 そして于禁の熱意とセンスが公孫賛に襲い掛かったわけである。


 さて。今回の宴における公孫賛への注目度は低くない。むしろ、高いと言っていいだろう。袁紹と真名を預け合い、紀霊からは有形無形の援助が注がれている。果たしてそれだけの価値があるか否か。目先の効く者は公孫賛を品定めしようと視線を向ける。

 そして、宴席の主役は金色を基調とした豪華な衣装に身を包み、艶然と笑む。左右に大戦の英雄である田豊と麹義を従える図は圧巻ですらある。さらに後方には沮授と文醜、顔良が控える。

「なんだかなー」

袁家の隆盛を目の当たりにして、溜め息が漏れそうになる。人、物、金。紀霊が言っていた、組織を運営する上で重要な要素をとんでもなく高い水準で備えている。つくづく、圧倒される。

それでも、今の自分にできることを最大限にやるしかないのだと公孫賛は気合いを入れなおす。そして目前の相手と談笑を続ける。常ならば相手にされないことも多いのだが、今日は違う。于禁の選んでくれた衣装のお陰なのだろうか。いつもより身体を嘗め回すような視線を多く感じる。
まあ、それで私に興味を持ってくれるなら安いものだ、と頬に貼りつかせていた笑みを更に深めていく。そう。小なりと言えど派閥の領袖なのだ。だからまあ、多少尻を触られたり密着されたりするのも我慢我慢、我慢の一択なのである。
357 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/29(月) 23:18:52.21 ID:N+0deZAzo
「つ、疲れた……」
「まあ、今日は頑張ってたよなあ」

 ここは公孫賛に宛がわれた一室。大きく肩を落とした公孫賛を紀霊が労っている。或いは、からかっている。だが、その戯言にも似た労いに公孫賛が癒されているのも事実である。

「いや、二郎には世話になったよ」
「んなことないって」

 ひらひらと手を振るこの男には、実際助けられたなあと思うのである。
 なにせ雅な宴なぞとは縁のない粗忽ものである。要所要所での助言には実際助けられたのだ。
 曰く。宴席中はそんなに料理をがっつくなとか、今日は綺麗系の装いだから歩幅は縮めろとか……。綺麗系と言われて胸が高鳴ったのはきっと気のせいである。何せ普段、地味とか普通とかしか言われないのだからして。
それでも、まあ、嬉しかったのは認めないといけないだろう。だが。

「でもなあ、惜しいことしたなあ。あんなに豪華な食事、うちじゃあ目にすることだってないもんなあ」

 未練がましくぼやく公孫賛に紀霊は苦笑する。花より団子、とはよく言ったもの。だが、花が団子を所望するとはこれいかに。


「ほら、燕の巣の汁物だ。多分今日の宴席では一番価値があるな
美容にもいいらしいからな、たーんとお食べ」

 そう言う紀霊がいつもどおりで、ちょっと甘えてしまう。うん、お酒のせいだ。そうに違いない。

「袁家はすごいよなあ。
 料理一つとっても、うちじゃあこうはいかない」

埒のあかない愚痴。或いは弱音。

「どんなに私が頑張ってもさ、袁家が隣接してると見劣りするみたいなんだよな
 地味だとか。普通だとかさ」

 我ながら愚痴っぽいなと自嘲する公孫賛は聞こえる笑い声に憤慨する。

「二郎……。笑うことないじゃないか!」
「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
 まずアレだ。白蓮はよくやってるって。田豊様も麹義のねーちゃんも褒めてるぞ」

想定外の有名人、その有名人の自己への評価に公孫賛は目を白黒させる。

「それにまあ、嫌になったらいつでも俺んとこ来いって」
「何だ?養ってくれるのか?」
「逆!俺の仕事全部白蓮にやってもらって俺は隠居するし」
「はあ?そんなこと出来るわけないじゃないか。というか私に二郎の代わりなんて出来るか!」

その言葉を受けて紀霊がにんまりと笑顔を浮かべる。うわ、うざい顔だなあというのが公孫賛の率直な感想なのだが。

「同じだよ、俺に白蓮の仕事なんてできないさ」

 だから今後ともよろしくな、と笑う紀霊に公孫賛は苦笑する。今後ともよろしくしてほしいのはこちらだというのに、だ。

「二郎が私に何を求めてるかは知らないけどな、きちんと借りは返すから、さ」

 まずは目の前の料理をありがたくいただくことにする。

「おかわりもいいぞ」

 余計なことを言う男には肘鉄が相応しいであろう。そして大仰に痛がる彼との絡みは公孫賛が思うより長く、深くなることになるのである。
358 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/02/29(月) 23:20:41.90 ID:N+0deZAzo
本日ここまですー
感想とかくだしあ

後一つくらいエピソード投下したら暫く更新ないです
なろうの方をやります

今回のエピソードも題名募集します

地味様の○○

他、いいのあったら嬉しいなって
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 23:31:28.01 ID:97Jk0bWuo
乙です
360 :351 [sage saga]:2016/03/01(火) 09:55:27.10 ID:pm+fvymT0
乙でしたー
地味様可愛いよ地味様
>>356
>>目先の効く者は公孫賛を品定めしようと視線を向ける。
○目先の利く者は公孫賛を品定めしようと視線を向ける。

私が取り込まれるかも、と言ったのは商会の私兵を甘寧さんに預けてみたら、と言う>>350さんへの私見ですよ
地味様が3割増くらいで輝いた名場面ですね、有名家臣がいないのに最前線で普通に領主やれる地味様は有能(確信
タイトルは…地味様戦場に立つ。とか、閑話・地味様奮闘記【おめかし編】とか?微妙だな
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 21:51:50.69 ID:H+q5S7xAO
乙です。


……ジャンルは違うけど 某アイドルの「普通」と 同じレベルの証明された 公孫賛の回の巻
隣に超絶美人やら超大企業やらがいたらそらハイレベルでも地味に見えます。

陰の功労者は沙和。つか 一目で素材の良さを見抜く眼力はさすが。
つか「本日の主役」にしても良かったのに。
その程度でどうこうなるなら、袁昭の器も袁家の器もそこまで。


……で、領主である所の 公孫賛を酌婦か何かと莫迦にしているセクハラくそったれ共にトマホークなりRPGなりぶっこんでも構わないですよね?
まあ二郎さんは役得ですが。

タイトル案
『地味の仮面を外した女(ひと)』
『地味様レベルの違いを 魅せる』
『地味から開花した白き蓮』


……あうう(頭抱え)
362 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/02(水) 23:06:31.37 ID:LbAExHwDo
>>360
いつもすまないねえ……

>地味様可愛いよ地味様
地味様はほんと可愛い
何故実在してくれないのかと吠えるレベルで可愛い

>>361
>陰の功労者は沙和。つか 一目で素材の良さを見抜く眼力はさすが。
多分地味様を見ながらきゅぴーんとか効果音が鳴ってたと思います

>つか「本日の主役」にしても良かったのに。
反逆の沙和っすかw
まあ、色々制限あって素材が極上とかいうシチュエーションは沙和、燃えるでしょうw

>……で、領主である所の 公孫賛を酌婦か何かと莫迦にしているセクハラくそったれ共にトマホークなりRPGなりぶっこんでも構わないですよね?
そういうのがまとまって群れているのが袁家の原作だと思います
だって軍師一人すらいないですからね!多分そういうのを切り離して袁家を浄化しようとしていたのでしょう、原作の袁家の三人は

>まあ二郎さんは役得ですが。
ほんとこれっすw

タイトルはほんと参考にしております


そして、なろうの方の更新はじめました
363 :361 [sage]:2016/03/03(木) 00:16:52.85 ID:la0bDWgAO
了解です。

……つか「なろう版」も ブクマで抜かり無し(ぼそ)


所で、某処とのお付き合いでサッカーのスタジアムシーズンシートを購入したのですが……
スタジアムでの観戦作法 てググった以外に何かあります?
サッカーて全く観た事無いですよ。
野球はまあこれもお付き合いで2チームばかし毎年シーズンシート購入しておりますが。
364 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/03(木) 21:56:09.86 ID:yaUMDdG1o
>>363
>……つか「なろう版」も ブクマで抜かり無し(ぼそ)
ありがてえ……ありがてえ……

半年ぶりくらいの更新なのに結構なPVあってありがてえなあと思いました
今日も更新するやで

>所で、某処とのお付き合いでサッカーのスタジアムシーズンシートを購入したのですが……
お、おう(白目) 蹴球への出資ありがとザンスw

>スタジアムでの観戦作法 てググった以外に何かあります?
いや、正直チームによると思いますがゴール裏以外なら特に縛りないと思いますよ
個人的には試合前にタオルマフラーを皆で振り回す鹿スタの応援が大好きですが
そして、こう、階段を上ってピッチが見えた瞬間が好きですね

後個人的には、誰か一人を視線で追いかけたりするのもいいかなあと思ったりですね。
まあ、ひたすらスタジアムグルメを堪能するのもありと思いますがw

yes!フォーリンデブ というブログで公式食べ歩きをされてますのでご参考くださいな
鹿スタならおススメできるんだけどなー!かー!鹿スタならなー!

なお、転勤のため鹿スタは通えなくなってしまいますw

>野球はまあこれもお付き合いで2チームばかし毎年シーズンシート購入しておりますが。
野球はTV観戦組ですねえ
現地行ったらビール呑んで野次飛ばす関西のおっさんスタイルになります
が、面白い野次はほんとうに面白いんですよねえ(日生球場感)
365 :363 [sage]:2016/03/03(木) 22:58:22.95 ID:la0bDWgAO
更新キタ!

>蹴球への出資
……チーム名は控えますが、長居の桜ユニフォームとは小口ですが長いお付き合いです。後京都の紫も立ち上げ当時からの お付き合いです。後方支援的にチケットを大量買いしたり後援会にも大口加入したり位ですが。
両チームの営業さんとは 良いお付き合いさせてもらっております。

日生球場を御存知とは。ちなみに私「大阪」「藤井寺」「日生」「西宮」球場でリアル観戦世代ですが。
……関西の電鉄蕪は球団売却で優待分以外は売っ払いましたが(白目)

観戦アドバイス感謝です。営業さんに「何も無いですから!治安は保証します!」と散々言われても怖くて行けなかったけど、一ノ瀬さんのレスで 勇気でました。


……鹿島かあ。凡将伝キャラの武運長久祈願がてら……フーリガンいない?(スタジアム観戦しない理由)
366 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/05(土) 01:06:18.34 ID:nI/8/JkEo
あっち短いけど更新しました

>>365
>……チーム名は控えますが
いや、自重ありがとうございましたw 見に行く試合にどっかで同席してそうですねえw

>日生球場を御存知とは
実家からは見える範囲ですたよw
わが青春の藤井寺

なお、心酔したのは甲子園の三連発w

>営業さんに「何も無いですから!治安は保証します!」
実際サッカーは平和っすよw
野球ではあるような野次でも問題になるくらいっすわw

>フーリガンいない?(スタジアム観戦しない理由)
フーリガンはいません(断言)

欧州のアレに比べたらお上品なもんですよ。
ゴール裏とかでもない限りカラムこともないですしね

吹田スタジアムには参戦しようかなあと思っております
後は岡山とか四国かなあ

J2の試合にはクリスタルな才能の本山選手を観戦しに行きます
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/05(土) 23:04:17.92 ID:B0quagbTO
あっちでの更新乙です

にしても「絡新婦」で「じょろうぐも」なんて知らないと読めません
凡将伝のおかげで一つ賢くなりました
368 :351 [sage saga]:2016/03/07(月) 15:08:35.82 ID:L/2nQBub0
久しぶりに覗いたら双子弟さんのログが過去ログになってた。残念
369 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/07(月) 22:53:46.26 ID:cweWUtw1o
>>367
>にしても「絡新婦」で「じょろうぐも」なんて知らないと読めません
マジっすかと思ってルビ振ろうとしたけど題名は無理だったでござる

京極世代だからね、仕方ないね

>>368
マジすか

自分で精一杯であちこちチェックできてないからなー
残念無念また来年

こちらもきちんと完走できるよう頑張ります
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/08(火) 00:09:27.27 ID:pBd9RtrAO
なろう版更新乙でした。
>吹田スタジアム

関係者内覧会で見た限り設備面は良い印象(当たり前だ)
ただド素人故選手やクラブ関係者の使い勝手はどうなんだろ?
尚吹田スタジアムに自動車で来るなら、時間の余裕だけはしっかり取って下さい。関係者内覧会ですら帰りに渋滞ありました。
……道路を使わない交通がモノレールだけというのもなあ。新幹線やJR利用者は混雑さえ耐えられたら、地下鉄で座れるから良いけど。

>絡新婦
私も読めませんでした(苦笑)
辞書引きました。


どこかのスタジアムで場違いなスーツ姿で応援もせずにほけっとしてるおっさんがいたら私かも知れません。
多分応援に圧倒されてます。


……紀家には縁談話て持ち込まれないのかな。
当時の婚姻制度が良く解らないからなんとも。
371 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/08(火) 23:48:22.44 ID:AfZEvyFIo
三人娘の登場アップしました
過去一番ひどいサブタイトル。代案あったらオナシャス。もっとひどくなる方向で

>>370
>関係者内覧会で見た限り設備面は良い印象
内覧会かー行きたかったなーでも募金小銭だったからなあw

>尚吹田スタジアムに自動車で来るなら、時間の余裕だけはしっかり取って下さい。関係者内覧会ですら帰りに渋滞ありました。
フムフム、なるほどですね……鹿スタも渋滞すごいし、イベント時はしゃあないのかもですね
や、アクセスについての配慮は絶対必要だとは思いますのですが

>私も読めませんでした(苦笑)
初出絡新婦にルビふってみましたw

>……紀家には縁談話て持ち込まれないのかな。
火薬庫みたいな状況ですからね、持ち込む胆力ある人は分別あるので持ち込みませんわw
ほんま婚姻関係は袁家の火種やでぇ
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 22:28:11.33 ID:1LS4R+IAO
なろう版最新話。真面目なのに爆笑した。

後「長ぇよ!」とツッコミたくなるタイトル。
ひどくなる方向なら
『三人娘。凡人に囲われる』
『凡人、地位権勢以て田舎娘三人手中にす』

嘘は無い(しれっと)


許可を戴きたい案件が
この作品の二次SS書いても宜しいでしょうか? 小ネタ集しか書けませんが。
373 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/10(木) 22:54:41.35 ID:TxE+Gq1So
>>372
>なろう版最新話。真面目なのに爆笑した。
真面目に馬鹿をやるお話というのは凡将伝のコンセプトです。
だからどうしたと言われたら困るのですが。
くすりとでもしていただけたら嬉しい限りですだよ。

>後「長ぇよ!」とツッコミたくなるタイトル。
最近のラノベに触発されてみましたのでこれから増えるかもしれません

>『凡人、地位権勢以て田舎娘三人手中にす』
これいいっすね
ちょっと加工するかもしれませんが

>この作品の二次SS書いても宜しいでしょうか?
いいっすよー
むしろウェルカムです!
今から超楽しみなんですけど!マジで!
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/10(木) 22:56:59.66 ID:R8oZfRx30
>>372
もしや二宮さん!?・・・ってそんな訳ないか
私も一つ  凡人、三羽烏を鞭と飴で縛りつける ヒドサを追求してみましょう
375 :372 [sage]:2016/03/12(土) 01:02:05.77 ID:d9ZbV1uAO
一ノ瀬様、許可ありがとうございます。

サンプル出来ましたので レスお借りして投下。


添削大歓迎です(赤ペン先生をチラチラ)
376 :372 [sagesaga]:2016/03/12(土) 01:20:21.11 ID:d9ZbV1uAO
袁家が北方異民族防衛の戦力を縮小し領内の戦力強化に振り向ける。

その決定は袁家譜代の我が家にも伝え……否御前会議の席で自身で知ったが……
その決定に対して何やらきな臭いモノを感じる私であるが、その後に知らされた公孫家との盟約で 主袁家が北方異民族防衛を軽視していない事を再確認する。

(公孫家。小なりといえ 精強騎馬隊を有し、馬の 生産育成にも定評がある 袁紹様とは親友。誼を結ぶには良き相手ではある)


……これまでの側仕えで 知り得た事を総合し、この盟約決定を主導したであろう田公の慧眼に一人感嘆の息を吐く


が、実は公孫賛本人には 会った事が無い。
側仕えといってもそこまで重要な立場に居る訳でもなく、単に先の異民族大侵攻時の戦功で袁家譜代の末席に座っている。 家格は主要四家の次である。

まあ父は本陣で袁逢様を援護して異民族を片っ端からタコ殴りした。
私は紀家先当主に付いて ひたすら汗(ハーン)の 側近や守備兵をタコ殴りし続けただけ。だが。

その結果が袁家主催の宴席に列座出来る立場とは 殴り甲斐があったのか。

益体も無い事を考えながら手酌で呑んでいると、 ふっ、と私の前に影が差した。
視線を上げた私の前には 艶やかに粧った女性(にょしょう)が酒瓶を片手に対面へと坐る所であった。
宴席に侍る女官とは違う 凛、とした武家統領と覚しき居住まいに知らず背筋が伸びるのを覚えながら

「まあ、どうです?一献」


と差し出された酒瓶の口を干した杯に受けながら

「何処の御家中かは存じませぬが、斯様な麗人に 酌をして貰えるとは…… これ一事だけでも、列座した甲斐有り」


と受けると、麗人照れたようにはにかんで


「麗人は褒め過ぎです。 私は、姓を公孫、名は賛 字を伯珪。この度袁家と盟約を結びし者です。お見知り置きを」


……ぽろっ


思わず杯を取り落とした
えええーこんな美人が白馬長史!?
誰だ普通だ地味だと言った奴ぁ。
彼女が地味なら、私の妻は空気だぞ


妻に失礼な事を考えつつ 呆然としている私の前から公孫賛殿はいつの間にか移動し、後には間抜け顔を晒した私がいた。
377 :372 [sage]:2016/03/12(土) 01:28:51.46 ID:d9ZbV1uAO
最新話のおめかし公孫賛に出会った反応情景。

こんな感じで第三者視点で進めようかと。
後、個人的に設定お借りしてやりたいネタも。


書きためたらスレ立てます
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/12(土) 12:34:09.41 ID:xbaDiNZP0
乙ですよー
第三者視点とは面白いですね、凡将伝では名前もでない人たちからの視点がいい感じです
添削を希望とおっしゃるならば…

>>その決定は袁家譜代の我が家にも伝え……
○その決定は袁家譜代の我が家にも伝えられ…… もしくは その決定は袁家譜代の我が家にも伝わり……
>> (公孫家。小なりといえ 精強騎馬隊を有し、馬の 生産育成にも定評がある 袁紹様とは親友。 細かいかもしれませんが
○ (公孫家。小なりといえ 精強騎馬隊を有し、馬の 生産育成にも定評がある 現当主は袁紹様とは親友。 家と袁紹なのか現当主と袁紹なのか…そういえばこの時期って公孫賛が当主でよかったでしたっけ?次期当主?袁術ちゃんが生まれた時に袁紹が当主になったしそのあたりで公孫賛が当主になってるかな
>>と受けると、麗人照れたようにはにかんで
○と受けると、麗人は照れたようにはにかんで

ぜひともまた書いてほしいです。次回を楽しみにしてますよー
379 :372 [sage]:2016/03/12(土) 14:18:59.95 ID:d9ZbV1uAO
>>378

乙&添削ありがとうございます。

流石にここで投下は要らぬトラブル招きますので ある程度書きためたら、 きちんとスレ立てします
その際には一ノ瀬様含め ご報告致しますので、その節にはお引き立ての程よしなにお願い致します

敬具
380 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/12(土) 14:28:27.59 ID:p7g+DjMWo
乙です

モブと思ったら汗(ハーン)討伐吶喊とか捨て身のガチ精鋭だったでござるw
こういうモブ(棒)がいる組織は強いんだよなあ……

読んでてとてもワクワクしておりました。是非に続きが読みたいところであります。

しかし地味様は可愛いなあ……
地味様の可愛さが天元突破で実に嬉しかったです


一点だけ。
白馬的な地味様のアレについては本編でイベントを予定しておりますので、そこだけご配慮くださいませ

いや実際、楽しみにしております
381 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/12(土) 15:06:28.29 ID:p7g+DjMWo
そして流石の赤ペン先生である
382 :372 [sage]:2016/03/12(土) 16:40:20.77 ID:d9ZbV1uAO
>>380

お褒めの言葉、光栄です

>モブかと思いきやガチ
SSサイト全盛期によくこういうキャラを出していました。
紀霊さんの父上も、まさか一人で特攻はするまい じゃ、仲間が援護。
剣じゃその内斬れなくなる。
じゃ鈍器でぶん殴る。
ただぶん殴るのもつまらん。
よし、タコ殴りだ。

こんな感じです。


つか縁の下の脇役に興味を持つ変わった奴なので これからの作品にも地味様が霞む位の地味キャラばかりです。


>一点だけ注意
基本一ノ瀬様が投下した 話からネタ戴きますので 留意はしておきます。


地味様可愛い。この話の後日談で野郎ばかりのハーメルンが発生するつうのもありますよ?
つかサンプルの「私」なら地味様にセクハラかます莫迦たれ共を涼しい顔でタコ殴りにする問題児 でもあります。


因みにKOEIパラなら 武80他75つう
「うーん……」
な人。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 18:14:47.46 ID:ESWcpH06O
スレ建てはよ
384 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/14(月) 23:07:56.50 ID:EUhjJTRqo
引っ越し決まってweb環境がどうなるか分かりません
どういうことだ、ワグナス!
ちなみにワグナスって誰だよ!

>>382
ケータイでは見れるからスレ立てはよ……

袁家は武家にして漢朝最強。だから有望そうな人物が脳筋とかDQNとかチンピラとかアリと思います!
むしろ本編で一ノ瀬が書いてるのは相当お行儀がいい人らばかりやからね……

紀家で生き残りとかなったら、ヤザンとかサーシェスとかトロワみたいなガチばっかりだと思うので。思うので!
でも、ハマーン様は大好きです

最近鉄血の折るフェンス視聴しましたけど、ガチで面白いですね。流石サンライズですわw
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 23:19:05.95 ID:09x8a/s4o
>web環境
ポケットwi-fiやWiMAXを契約すればいいんやで
386 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/14(月) 23:21:22.29 ID:EUhjJTRqo
>>385
>ポケットwi-fiやWiMAXを契約すればいいんやで

どういうことだワグナス!
自慢じゃないがITには詳しくないぜ
387 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/14(月) 23:31:47.71 ID:EUhjJTRqo
頑張るよ

少なくともプランターでネギと紫蘇育成に奔走しますよ
それを応援してくれるんだったら、頑張りますよ勿論


エタしても怒らないでねw
388 :372 [sage]:2016/03/15(火) 01:00:56.46 ID:s4njwGVAO
溜まった。


という事で3/15午後スレ立てします。


スレ立て完了後再度ご挨拶に参ります。もう少しお待ち願います。
389 :372 [sage]:2016/03/15(火) 15:27:26.06 ID:s4njwGVAO
スレ立てました。


【凡将伝】どこかの誰かの話【三次創作】-SS速報VIP
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458019413/


よろしくお願い致します
390 :372 [sage]:2016/03/17(木) 14:34:34.08 ID:K2fLzY/AO
なろう版、ひっそりと投下続いてますね。乙です

見解を伺いたい事が。
袁紹さんの誕生日イベントに登場した象。
どこから入手したのでしょうか?

袁紹さんの誕生日イベントのネタはものごっつい 書きたいんですが、そこだけ引っかかってます。

袁家か商会かはたまた売り込みか。
これだけでも御願いします。


……なんか大変そうですが、宜しければ御願いします。
391 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/17(木) 20:45:41.63 ID:0Z+4zSIKo
送別会続きでしんどいっす
お仕事がてんやわんや

>>390
>袁紹さんの誕生日イベントに登場した象。

袁家ルートっすね
多分孔雀とかもいるんじゃないかな

そして象兵は浪漫ですよね……
392 :372 [sage]:2016/03/17(木) 22:01:44.31 ID:K2fLzY/AO
送別会と引き継ぎ乙です 身体特に肝臓を大事にww

>象兵は浪漫

激しく同意。後倶利伽羅峠の火牛計も。


>象は袁家ルート。

見解有り難いです。

おし。これでネタがまた一つ。


書けるようなら、今夜中に一本投下予定。
393 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/22(火) 21:45:10.69 ID:luf4dHZVo
おそ松さんを見て、才能というのは残酷なのだなあと思いました
何あの脚本、面白すぎやん……w
あんなん書ける人がいるなら日本の未来は明るいなと思います

自分にできることを頑張るだけなのですよね
いや、ガチでおそ松さんは面白いというだけのお話です
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/22(火) 22:40:31.41 ID:CFG6nxka0
オソマツさんはすごいよね。ムツゴという個性潰れそうなキャラがそれぞれ個性持ちつつ全員クズキャラとか普通考えないわwww
395 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/22(火) 22:46:31.27 ID:luf4dHZVo
>>394
いや実際、期待値は低かったと思うのですよ
声優の豪華さとかキャラ付も凄いですけど、個人的には脚本と演出やと思います
特に脚本

あんなんできひんやん普通!

と叫んでしまうくらい面白い
おそ松さんの評価をビジネス誌とか始めてますが、普通に面白いという書評がないのですよね
特異性に言及するだけで

いや、しゃあないねんやろうけどね。
サブ狩るを極めてる研究者とか、一人しか知らんわw
※ハルヒダンスをやるくらいのガチw
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/23(水) 17:05:57.33 ID:wo37hRW30
幻の第1話…デカパンマン…決してイヤミに頼りきりにならないストーリー。チャレンジ精神旺盛でこれぞギャグ漫画!!て感じよね
397 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/26(土) 09:39:57.00 ID:2AsQxyrfo
>>396
あれこれはっちゃけてるけど、それを原作に対するリスペクトがないと言う論は全くない
製作者のガチで綱渡りする気合いと覚悟が凄い

そして、赤塚先生なら絶対喜んでるやろという謎の信頼感
赤塚先生は絶対笑ってる(確信)
398 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/26(土) 14:08:43.77 ID:2AsQxyrfo
さて、これからまた書き溜めに入るのですが

書いたらこっちに投下と、書き溜めてからこっちに投下のどっちが嬉しいっすかね
現在進行形で進めた方がエタってないことが分かっていいかなあとも思うのですががが

どないしょかね
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/26(土) 20:29:38.49 ID:Cx9hQyJP0
書き溜めを放出ですと添削が大変なのでできれば少しずつ…
もちろん一気に投下していただいた場合もできる限り頑張りますが
400 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/26(土) 20:41:30.06 ID:2AsQxyrfo
 さて、俺は美羽様のお守役である。のだが、その任をきっちりやっているかというと非常に疑問が残る。いや、一日に一回は顔を見に行ってるのよ?あやしたりもしてるんだが、いかんせん滞在時間が少ない。
 その点、七乃はほぼ一日中べったりだ。仕事すら持ち込んで美羽様の顔を見ながら書類と戦っているらしい。
 気を抜くと美羽様に見入ってしまい、手が止まるというのが本人の弁だが。まあ、一緒の部屋に居るというのが重要なんだろう。

 さて、その美羽様は現在、数少ない血縁である女性の胸に抱かれながらすやすやと眠っている。

「ほんとに大人しいですわねえ」

 うん、麗羽様だ。もったいぶる必要もなかったな。

「わたくしもこんな時期があったと思うと、不思議な気がしますわねえ」

 優しげな目で美羽様を見やる。なんともほほえましい光景である。執務の合間を縫って、麗羽様はできるだけ美羽様に会いに来ている。
 数少ない肉親というのもあるだろうし、袁逢様から託されたからというのもあるだろう。
 まあ、三国志において袁紹と袁術は仲が悪かったからなあ。そんなフラグが立たないように、麗羽様が来る時にはできるだけ同席するようにしている。
 美羽様を抱いた麗羽様と俺がだべって、時間が来れば名残惜しそうに麗羽様が帰っていく。こんな関係が続けばいいなあ。
 いやいや、続かせるのが俺の仕事っちゅう話だ。

「麗羽様は元気でしたからねえ」
「もう、覚えてないことを言われても分かりませんわ」

 頬を赤らめながら麗羽様が軽く抗議してくる。
 まあ、ちっちゃい頃の話をされても反論できねえしなあ。

「あら、美羽が目を覚ましましたわ。騒がしかったかしら」

 あ、ぁ、と軽く声を上げながら美羽様がふわふわと手を伸ばす。当然の帰結として、麗羽様の女性の象徴。豊穣の神を思わせるそれ……胸に手が当たる。
 手の動きに合わせて豊かな胸が形を変える。眼福、眼福。

「あら、おなかが空いたのかしら、ね二郎さん…ってどこを見てらっしゃるのかしら」
「いや、時の流れというのは実に偉大だな、と」

 あのつるぺったんだったちび麗羽様がなあ、と思うと感慨深いものがある。

「……なんだかとっても失礼なことを考えてませんこと?」
「とんでもない。今も昔も赤心に変わりはないですよ」
「もう、二郎さんは昔から……ってあら」

 みるみるうちに美羽様の表情が崩れていく、あ、泣くかな。

「あらあら、おもらしですのね。ふふ、可愛いこと」

 うろたえるでもなく、乳母が持ってきたおしめを受け取り交換する。最近では手馴れたものだ。
 うん、俺もよく麗羽様のおしめを取り替えたもんだ。
 知ってるか?赤さんのうんちって、臭くないんだぜ?母乳だけだからなんだろうな。ちなみに、離乳食を摂り出すと臭くなる。これ豆な。

「ほんと、赤ん坊って手間がかかるんですわね」

 すごく優しげな顔で麗羽様が呟く。再び美羽様を胸に抱えて、揺すり、あやす。
 この姉妹がいがみ合うようなことになってはいけない。そう、思う。

「二郎さん?」

 そう言って麗羽様が美羽様を俺に差し出す。
 美羽様が俺に向かって手を伸ばしてくる。

 美羽様を胸に抱きながら麗羽様と談笑する。幸せってこういうことなのかも知れないなあ。
 ふと、喪ってしまった未来に胸を痛めながら、俺はこの時間を噛み締めるのだった。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 22:36:44.38 ID:nIr/maJkO
更新乙です
あっちでもチェックしてますよー

穏やかな時間の流れに慈母のごとき麗羽様
あいかわらずのヒロイン力

ところで麗羽様と美羽様の年齢差って如何ほど?
二郎と麗羽様が5歳差くらいで
麗羽様と美羽様が12歳差くらいかなと解釈してます
402 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/26(土) 22:42:08.01 ID:2AsQxyrfo
>>401

>穏やかな時間の流れに慈母のごとき麗羽様
夫婦かな?という感じですよねw

>ところで麗羽様と美羽様の年齢差って如何ほど?
想定されてるくらいなのだと思いますががが

恋姫については幼生体(インファント)と成体(エルダー)のみではないかなあと思っております。
恋姫は老いない。そんな感じのふわっとした感じで一つ。
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 08:28:49.76 ID:4279XnXX0
乙です〜

こっちではお久しぶりです〜ww
個人的には、都度こっちで投下して貯めて向こうでが良いかと〜

リアルお忙しいそうですけど、無理せずに〜
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/27(日) 22:41:16.14 ID:fq4pmHSG0
乙でしたー
なんという穏やかさ
これなんかもう後日談みたいな空気だよ(笑)
麗羽様のオーラに母性が加わってさらに強化されてるwww
今回は特に添削ポイントはなかったかな…一ノ瀬さん、立派になって(ホロリ)
405 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/27(日) 23:36:01.77 ID:uFWNK6Zjo
>>403
>こっちではお久しぶりです〜w
どもです。お久でございまするるるる

>個人的には、都度こっちで投下して貯めて向こうでが良いかと〜
やっぱそうですよねー^^
そうしようと思います

忙しいですけど、今がまだ楽なので。できるだけ進めたいなあと

>>404
>これなんかもう後日談みたいな空気だよ(笑)
ここで完でもいいかなとかw

>麗羽様のオーラに母性が加わってさらに強化されてるw
麗羽様のヒロイン力が、どんどん高まっていくんですけど……w


添削されないように頑張っております
つまり、酔いが足りなかったってことですね(お目目ぐるぐる)
406 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/27(日) 23:37:26.49 ID:uFWNK6Zjo
「義勇兵、ねえ」

 第二回袁家実務者会議の最中に張紘から思いもよらない言葉が出てきた。

「ああ、そうだ。ちょっと問題になってきてる」
「どういうこった。話が見えないぞ」
「被害……と言っていいのかはわかんねえが、盗賊を独自に討伐してるらしい」
「つっても盗賊の被害なんてないに等しいだろうが」

 ……袁家領内の治安はかなりいい。これには理由が三つある。
 一つは食糧事情が非常にいいこと。餓えのあまり生きるために犯罪に走らざるをえないような人間が少ないということだ。昔から食糧増産に励んだ理由はここにある。人間、おなか一杯だったら大体おっけーなもんだよ。

 もう一つは母流龍九商会による黒社会の支配。どうしても真面目に働けないあぶれモノというのは出てくる。
 そういった社会の落伍者を救い上げるシステムとして黒社会が機能しているのである。私刑、粛清という恐怖により半端モノを締め上げている。規律への違反は峻烈な制裁によって裁かれる。それこそ表の司法機関より厳しいくらいだ。

 最後は法の厳格な運用と厳罰主義だな。流石に信長の一銭切りまで極端ではないが、かなーりの厳罰が与えられる。
 社会の光と闇の治安維持システム。双方から零れ落ちた社会のクズども。何かを産みだす事もせず、ただ社会に寄生し、害をなすしか能のない奴ら。そいつらの使い道は一つしかない。
「見せしめ」である。

 法を守らないとどうなるか、守っていて良かった。そう。法によって守られていることを庶人へと伝えるツールとして積極的に厳罰を与えているのだ。罪人、社会的不適合者も大事な資源です。有効利用しないとね。
 
「ええ、ですがゼロではありません。それに往々として後手に回ってしまいますからね……」

 軍の訓練がてらに賊の討伐は行われているが、広大な領内だ。取りこぼしだって出てくる。

「そうだ、それで自分らの手で……ってことらしい」
「ちょっと待て。武器や兵站はどうなってるんだ」
「武器は出所がわかんねえ。商会(うち)は通してねえ。食料は……各地で寄付を募っているみてえだ……」
「おい、それって……」
「ええ、実質は恐喝に近いでしょうね。村に武装集団が現れて寄付を募る。断れるはずがありませんから」

 ぎり、と歯軋りをする。
 食糧事情がいいからそこまで表面化はしてないが、これが飢饉の際なら場合によっては村落の存亡に関わるぞ。

「二郎君の華々しい活躍もあり、軍への入隊希望者も増えています。
 選抜に漏れた人を掬い上げて人員を確保しているのでしょう」

……耳が痛い話だ。プロパガンダが裏目に出たか。討伐もしづらい。だが放置もできん。厄介この上ないな。

「自治組織としての自警団ならまだいい。
 だが根無し草の軍事力が存在するというのは大きな問題だな」
「ええ、そもそも袁家の制御外にある武力があるというのはまずいでしょう」
「それを言われるとおいらも耳がいてえなあ」
「いや、黒社会は治安維持のための必要悪でもあるし、地域に根ざしている。
 そこにある思想はあくまで保守だ。社会が乱れると黒社会も困るしな。
 善良な民草あっての黒社会だ。その程度はわきまえてるだろ。
 商会の常備兵については実質俺の私兵だ。陳蘭が指揮官だしな」
 
 ……流石に陳蘭に裏切られたら泣いちゃう。みっともなく号泣する自信があるぜ。

「討伐しますか?」

 沮授がにこやかに問いかけてくる。曇りのないいい笑顔だ。……逆に怖ええよ。
 逆に張紘はしかめっ面だ。

「……とりあえずは保留だな。
 義勇軍を官軍が討つとか笑えねえだろうよ。
 まずは情報だな。最優先は指揮官と武器の出所だ。
 張紘、頼めるか?」
「もちろんだ。既に動いてる。二郎には張家への協力も頼む」
「……ああ。あんまり七乃に借りは作りたくないが、そうも言ってられないしな」

 ……味方になったらなったで厄介なんだよなあ。いや、敵に回したら勝てる気がしないけど。

「軍はどうします?」
「……入隊希望者が多いなら、こちらで掬い上げるしかないな。
 あくまで正統は官軍、更なる増員やむなし……。だが、予算は大丈夫か?」
「緊急に補正予算を組みましょう。ご心配なく」
「よろしく頼むぜ」
「ええ、任されました。明日中には予算を確保します」

 頼りになるなあほんと。一人じゃない。それはとても素敵なことなのだなあと痛感するのだ。知らず天を仰いだ俺を張紘はにやにやと、沮授はにこにこと眺めていた。

「ありがとな、親友達」
「よせやい、水臭いって」
「そうですよ。僕達の仲じゃないですか」

 ニヤリ、と笑い合い、拳を討ちつけ合う。この世界での俺の財産は前世知識とかじゃない。色々あって結べた、人との縁なのだと強く思う。思うのだ。
 いつも通り、この後滅茶苦茶飲み明かした。
407 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/03/27(日) 23:38:49.19 ID:uFWNK6Zjo
蠢動編、開始です

「凡人と義勇軍」

直接対峙してないから時期尚早かなあ、このタイトル
タイトル案募集いたしまする
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:06:35.15 ID:c8on/IPno
乙です
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/28(月) 11:45:43.43 ID:ACnub4Pt0
乙でしたー

>>406
>>規律への違反は峻烈な制裁によって裁かれる。 多分これでもいいような気もしますが
○規律への違反は峻烈な制裁が下される。 上の文だと 憤怒の表情で激怒する のような微妙な違和感があるのでこっちの方が自然な気がします
>>それに往々として後手に回ってしまいますからね……」
○それに往々にして後手に回ってしまいますからね……」
>>「ええ、そもそも袁家の制御外にある武力があるというのはまずいでしょう」 あるあるが続くと違和感があるので
○「ええ、そもそも袁家の制御外の武力があるというのはまずいでしょう」 もしくは 制御外に武力があるという もしくは 制御外にある武力という
どれでも問題はないと思いますのでお好みで
>>曇りのないいい笑顔だ。……逆に怖ええよ。 問題はないですがいいいが読みづらいので
○曇りのないイイ笑顔だ。……逆に怖ええよ。 もしくは 曇りのない良い笑顔だ。……逆に怖ええよ。 もしくは 曇りのない善い笑顔だ。……逆に怖ええよ。
イイだと祖儒の腹黒さが、良いだと祖儒の頭の良さが、善いだと手を汚す覚悟完了っぷりが出るかな?あくまで私見ですが平仮名だとちょっともったいない気がします
>>ニヤリ、と笑い合い、拳を討ちつけ合う。 討ちつけあったら死んじゃうよう
○ニヤリ、と笑い合い、拳を打ちつけ合う。

この前1万人増員したけどまだまだいるのか、次男三男…戦いは数だよ!!と考えたらもう勝ったな。と言っていい筈なのにまだまだ安心できない、不思議!
タイトルは…義○○、義勇軍を見据える とかどうでしょう、と思ったけどそう言えばまだそうなってないや、親友だった、この三人
凡人、結実と取りこぼしに思案する 凡人の成果と新たな不審 タイトル考えるだけでも難しいな
410 :372 [sage]:2016/03/28(月) 12:32:17.29 ID:vyaMGdnAO
乙です。


タイトル案

『凡人と朋友と不穏』

多分使い方は間違っているけど響きで採用。
センス?何それ?(頭抱えつつ開き直り)


……紀霊さん。このままだと袁術ちゃんに『お父様』呼びされそうな。

張勲さんに借りを作ると 甘辛い一夜が待ってるとか?


……確かに支配者の統制外の武力集団は叛乱の火種にしかならない。
きな臭いのが、某大国の火付け諜報組織みたいな 援助の仕方が。


後、陳蘭さん大事にしなさいよ。
つか案外同棲してたりして
411 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/03/30(水) 07:52:17.88 ID:X5ySrW5vo
引っ越しなのです
しばらくネット回線とかどうなるか未知数です
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/30(水) 09:19:12.45 ID:DT0rxnbd0
了解でーす、舞ってます
413 :一ノ瀬スマホ [sage]:2016/04/01(金) 07:58:14.33 ID:OwzElALsO
新居ガス漏れ
入居できず
どないせいと(´・ω・`
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/02(土) 13:50:44.87 ID:VdM7fY1v0
アレ?
エプリルフールじゃなくて、マジで?〜
415 :一ノ瀬スマホ [sage]:2016/04/02(土) 18:06:49.01 ID:06I1F0L5O
ほんまなんす
(´・ω・`)
四月馬鹿ならどんだけよかったか
床板バリバリ壁ぶち抜きですよ
(´;ω;`)
416 :372 [sage]:2016/04/03(日) 09:43:16.22 ID:dHDA85zAO
>>415

そこまでなら、不動産屋に仮宿手配と同価格帯の 別物件探す義務生じますな。

物件自体の瑕疵ですからね。

場合によっては、弁護士沙汰ですかね。

お疲れ様です。



……所で、一ノ瀬さんぽいレスを頂いているのですが公式コメ重要なので コテ入れて頂けると有り難いです(勝手なお願い
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/04(月) 09:21:19.17 ID:jpxxu1xHO
タイトル案「放浪編 安住の地を求めて」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/06(水) 00:00:44.08 ID:paagLn3Zo
このスレに触発されて恋姫のゲームに手を出してみたけど、
どうも鈴々とかのロリ系はストライクゾーンから外れているようだ
バインバイン系以外のR18シーンは飛ばしてストーリーを追いかけてみる
419 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/08(金) 17:20:43.61 ID:6ASSl5K0o
てす
420 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/08(金) 17:28:17.22 ID:6ASSl5K0o
復活の一ノ瀬でございまする
明日から完全復活します
やったぜ、ネット開通したし、ガス漏れもなくなった!

>>416
宿代請求の咆哮です

あっちの案件でのコメントはあっちでやらせていただきます。
明日。

>>417
>タイトル案「放浪編 安住の地を求めて」
追放前提っぽいんですがそれはw

>>418
>このスレに触発されて恋姫のゲームに手を出してみたけど
二次創作やってる身としては一番の褒め言葉ですわ
ありがとうです!
つか、恋姫知らなくて読んでくださってあざっす!

>どうも鈴々とかのロリ系はストライクゾーンから外れているようだ
>バインバイン系以外のR18シーンは飛ばしてストーリーを追いかけてみる
そんな性癖晒されたらこっちも晒すしかないじゃない

お世話になった(意味深)恋姫たち

無印:愛紗、翠
真:シャオ、翠
萌:七乃

萌の袁術主従の優遇っぷりはすごいと思いました
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/08(金) 21:16:10.01 ID:u3Dqf2pOO
れーは様とお尻様にお世話になってないとはww
桃の名前がないのは…あっ(察し

にしても真以降の愛紗の不遇っぷりには泣けてくる
422 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/09(土) 22:51:45.30 ID:YwwKjJvZo
 端的に言って、孫権は不機嫌だった。もちろんそれを態度に出したりはしない。この身は江南の平和を担保する人質だと孫権は理解している。袁家の、いや。あの男の機嫌一つで江南は焦土と化してしまうだろうことを理解している。……納得できるかどうかは別問題であるのだが。
 そして、農耕馬どころかわが子すら生計のために犠牲にせねばならなかった民の惨状を思い出す。それを考えると南皮は別世界と言っていいだろう。市場には物があふれ、民の顔には笑顔がある。子供は一日中遊び、婦女子は装身具や化粧に気をつかう。男達は夕暮れには酒を酌み交わし、笑いあうのだ。

 訳もなく悲しくなって、眠れぬ夜を幾度も過ごした。

 どうして。どうしてこんなに違うのかと思った。姉さまだって、冥琳だって寝る間を惜しんで頑張ってたのに、と。
 皆、頑張っていた。頑張っていたのだ。もちろん自分だって。それなのに、それなのに……。

 いや、だからこそ自分がここにいるのだ、と前を向く。心が折れても立ち上がる。
 間違いなく彼女は孫家の血筋。瞳に炎を宿して上を向く。袁家からの援助が途絶えぬよう、縁を結ぶ。そのために自分がいるのだと決意も新たに。
 ……だが、ここ数日の孫権は機嫌が悪かった。

◆◆◆

 これもあの男のせいだとばかりに孫権は不機嫌さを隠しもしない。黄蓋と陸遜は紀霊に呼ばれて何やら押し付けられたようだ。それに引き換え、自分は放置されている。
 歌舞楽曲を鑑賞する毎日。
 こんなことをするために自分はここにいるんじゃないとばかりに焦燥の炎が身を焼く。
 自然、目の前に居る護衛と言う名の監視役への視線も険しくなってしまう。厳しい表情で身動き一つしない女性。身体にはいくつも傷があり、歴戦であることを思わせる。
 この女も恐らく紀霊の手の者なのだろう。
 ふと、思いついて問うてみる。あの軟弱な男は部下、特に女子からはどう思われているのだろうか。

「ねえ、楽進、と言ったわね」
「は、自分は確かに楽進と申します」

 想像以上に生真面目なようだな、と孫権は微笑ましく思う。

「貴女から見て、紀霊という男はどんな人物なのかしら」
「は。は?き、紀霊様、ですか……?」

 少々困惑した様子を見せる楽進。まさかこの娘もお手付きとかだったら救われないなと孫権は内心苦笑する。

「とても、立派な方だと思います。
 私はつい最近お目にかかりました。正直なところ、私ごときがあれこれ言っていいとは思えません。
 しかし、個人的には恩義もありますし、悪い噂は余り聞きません」

 妥当なところであろう。流石に雇い主の悪口なんて言えないだろうからして。

「そう。よければどんな噂なのか教えてもらえるかしら?
 そういうことが、耳に入ってこないのよ」
「し、しかし私が知っていることとはいえ、軽々しく風評をお伝えしては……」

 本当に真面目なのだな、と孫権は楽進の評価を高める。そして。手の内にこんな駒があるという紀霊の懐の深さを垣間見た、と思う。

「貴女の耳にした噂で構わないわよ。流石にそれだけで彼を判断したりしないもの。
 それに、彼とはうまくやっていかないといけないのよ、私って。
 江南の民のためにも、ね?」

 そう言って悪戯っぽく笑いかける。困惑しながら、あれこれ思案顔な楽進に孫権は幾ばくかの罪悪感を覚える。

「き、紀霊様は……」

 幾分か緊張した顔で語る楽進の言葉、表情を孫権は注意深く観察する。そう、まずは敵を知らないといけない。
 かの、孫子の末裔たる身が恥とならないよう。あの男に楔を打ち込むべく、情報を集めるのだ。
 孫家のために。江南のために。自分のできることをするのだ。

「それで、聞かせてもらえるかしら」

 まだ口ごもる楽進に重ねて問う。彼女の口から聞けたのは、通り一遍等の風聞だった。
 曰く、農徳新書を幼くして編纂した麒麟児であった。
 曰く、武にも秀でており、一人で賊を百人殲滅した袁家の誇る怨将軍。
 曰く、広く財をなしながら民にそれを還元する仁徳の人である。

 ……どこの英雄か聖人だそれは、と改めて思う。全てが嘘ではないだろうが、相当に誇張をされているはずだ。だって。
 あの男の姿絵を思い浮かべる。思わず失笑が漏れたものだ。似ても似つかないではないか。

 なるほど、為政者が自らを美化するのは有効なのであろう。そういった民草の風聞というのは馬鹿にできないものだ。孫権とてそれくらいは理解している。だが、あの男のそれはやり過ぎのきらいがあるように思われる。そこまで考えて、至る。
 ……なるほど、自分はあの男が嫌いなのだ。気に食わないのだ、と。
423 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/09(土) 22:53:42.71 ID:YwwKjJvZo
 言葉を選びながら、慎重に、それでも誠実に語る楽進。一通りの説明を聞いて孫権は問いかける。

「それで、貴女は彼のことをどう思うのかしら」
「え?わ、私ですか?
 しかし、紀霊様とは知り合って間もないので……」

 僅かに顔を赤らめながら、楽進は口ごもる。

「それなら、彼と出合った時とかの印象とか出来事を教えてくれない?
 ちょっと興味あるもの」
「は、はあ。それならば……」

 なんでも、強面の男に絡まれていたところを助けてくれた上に、仕事まで紹介してくれたそうだ。
 ん?

「え、結局その強面の男って、彼の部下だったのよね?」
「は、はい、そのようでした」

 ……それって自作自演って言わないだろうか。こんな誠実な子をそんな小芝居までして手の内に納めたのかあの男は。
 不愉快だな、と思う。
 また、楽進が心からあの男に感謝しているのが不愉快さを助長する。だが、孫権の口から何を言うわけにもいかない。
 楽進は更に語る。

「武人としても私の及ぶところではありませんし。その、正直気にかけて頂いてるのが何故か分からないくらいです」

 また顔を赤らめながらそんなことを言う。
 ん?もしや。

「あ、あの、楽進。言いづらかったらいいんだけどね。
 その、もしかして、彼の、彼と、その、手を……」

 手を出されたのか。自分は何を聞こうとしているんだろう。自己嫌悪を覚えながらも聞いてしまった。

「あ、は、はい。お相手をして、頂きました」

顔を赤らめながら、そんなことを言う楽進。なんてことだ。なんてことだ。この純朴そうな子がもうあの男の毒牙にかかってしまったというのか。

「も、もしかして、無理やり、とか?」
「いえ、とんでもありません。私からお願いいたしました」

 恐らく、そうせざるをえないように仕向けたのだろう。見え透いている。

「その、正直、全く相手にならなくって、最初は何もできずに気を失ってしまったのです」

 語られる内容に孫権は言葉を失う。

「何度かお相手をするうちに、少しはお相手できるようになったのですけれども……。
 いえ。精進、あるのみです」
424 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/09(土) 22:54:43.42 ID:YwwKjJvZo
 孫権は知らず、天を仰ぐ。そして、思う。
 最低だ、あの男。
 そんな男を相手取って江南に、孫家に益をもたらさないといけない。そんなわが身を呪ってしまったとしても、誰も彼女を責められないはずだ。
 そして不意に、黄蓋と陸遜が心配になる。あの二人は大丈夫だろうか……。
 だが自分に何ができるだろう。何をするべきだろう。孫権は必死に頭を働かせるのだった。

◆◆◆

 楽進は孫権にあれこれ語りながらあの日のことを思い出していた。楽進達の、楽進の運命を変えたあの日を。

「お待ちください!」

 陳蘭に手も足も出なかった楽進は、暫くして彼らを追いかけた。やはり、納得できない。違う、悔しいのだ。せっかくの機会に持てる力を出せなかったわが身が口惜しいのだ。
 追いつき、その旨を精一杯伝える。自分は、もっとできるはずなのだ、と。その訴えに紀霊は苦笑して楽進を誘う。いいさ、と。
 鍛錬場で向き合う。紀霊と、立ち会う。……審判として立つ陳蘭が声を放つ。

「はじめ!」

 その声と同時に向かい合っていた姿が掻き消える。速い!
 辛うじて視線を下にやると、予想通り――その速度は予想以上――楽進の足を取りにくる姿が目に入る。
 あ、と思うまもなく引き倒されそうになる。背中から着地し、一瞬意識が飛びそうになる。が、一度経験した技だ。辛うじて身を捻り逃げようとする。
 刹那、拘束が解かれる。だが再度、拘束される。首に巻きつく大蛇を想起。そして楽進は意識を飛ばされていた。

 意識を取り戻した楽進は、更に幾度か挑んだがあっさりと組み伏せられた。それなりに鍛錬は積み重ねてきていたはずだが、相手にならなかった。ここまで絶望的な差を感じるのは初めてだった。
 この方なら、或いは。そう思い、問いかけてしまう。何度も手合わせを頂いただけでもあり得ないのに、更に図々しく甘えてしまう。

「紀霊殿の武に感服いたしました」
「あー、ま、初見の相手ならまあね、多少はね。実際負けることはないかな。だから今日使った技は内緒ってことで」
「……そのような秘中の秘を私などに……。ありがとうございます」
「いやいや、身体能力(スペック)は楽進の方が上だからな。もっと強くなれるって」
「ありがとうございます。そして……強く、ですか……」

 そう言う楽進を不思議そうに紀霊は見る。そうだろう。埒もないことを楽進は言おうとしている。

「秘中の秘を見せていただいた以上、私も奥の手を見せたいと思います」

 そう言って、庭に向かう。気を練り上げる。丹田に集中し、全身にくまなく行き渡らせ、叫ぶ。これこそが楽進の奥の手。

「猛虎蹴撃!」

 ばきり、と鈍い音を立てて木が折れる。しばし、言葉を失っていた紀霊が口を開く。

「生身とは思えんな。もしかして、気。というやつか」
「は、お流石です。気を全身に纏わせ、強化しております」
「ふむ……もしかして、纏わせるだけでなく、放ったりできたりするか?」
「!……お察しの通り、です!」

 正直驚愕した。気を使えないであろう方が気弾まで推察されるとは、と。なるほど、一流の技は全てに通ずるという奴だろうか。もしや、この方なれば……。
 そんな思いが楽進を襲う。
 誰にも言ったことのない迷いを口に出させる。

「――正直分からないのです。武を鍛えても、気の鍛錬をしても、結局は破壊の業(わざ)です。
 結局、武の行き着くところはそんなものなのでしょうか。所詮人殺しの業なのでしょうか……」

 これは于禁や、李典にも語ったことのない懊悩だ。鍛えるほどに湧き上がる疑問。

「武を、鍛えてきました。ですが、その終着はどこにあるのでしょう。
 所詮、人殺しの業にしかすぎないのでしょうか。
 世のために武を振るいたくても、暴力にすぎないと言われたこともあります。
 この世に、平和を、安寧をもたらすことなどできないのでしょうか……」
425 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/09(土) 22:55:27.56 ID:YwwKjJvZo
 いつしか楽進は双眸から流れる涙を自覚した。殺されたから、殺す。そんな終わりのない円環の理(ことわり)からは逃れられないのだろうか。

「教えてください。武を求めるということは、怨讐を、背負うということなのでしょうか……」

 しばしの沈黙の後、力強い言葉が楽進を叩く。貫く。

「俺は人を殺さない。その怨念を殺す!」
「怨念を。殺す……」

 楽進には思いもよらない言葉であった。そんなこと、考えたこともなかった。
 自(みずから)の拳で、そんなことができるのだろうか……。
 
「心にて、悪しき空間を絶つ!即(すなわ)ち、断空拳!」
「断空拳……」

 自分の心が、意思が。怨念を、悪を絶つことができるというのか……。憎しみの、悲しみの連鎖を止めることができるというのか……。楽進の双眸からとめどなく熱いものが溢れる。
 そんな、そんなことができるのか、と。

「それこそが活人拳の奥義であり、真髄である…」
「活人拳、と」

 人を殺すのではなく、活かすための拳。そう呟く紀霊はその背中は頼もしく。そして楽進に問うていたのだ。
 ついて来られるか、ならば黙って俺に3ついてこい。そんなことをその背が語っていた。
 我知らず、叫ぶ。

「ま、またご指導ください!
 私のことは凪、と及びください!」
「二郎で、いいとも」
「ありがとうございます!」

 楽進は踵を返し、駆け出す。心は羽根のように軽く、揺蕩(たゆた)う。
 そしてこの出会い、絆。それを楽進は終生忘れることはなかった。
426 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/09(土) 22:56:48.97 ID:YwwKjJvZo
本日ここまで

魔性の女ですね、凪ちゅんは
ぎゅんぎゅん回る回路が黙ってないから吠えるのですよ

感想とかくだしあー
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 23:18:17.68 ID:CgSsgTZRo
乙です
428 :372 [sagesaga]:2016/04/10(日) 10:12:32.70 ID:1QJrKzdAO
乙です。


……孫権姫、焦りともどかしさが変な方向に向いておりますwww
亡国の姫様じゃないから ガンガン袁家の内政方法を自ら吸収した方が精神衛生上宜しいかと。


楽進さん。経験から来る悩みなんでしょうか。
紀霊さんに出会って少しは楽になれたかも。


ただ、『断空拳』
……何か聞き覚えがww ネタ元を思い出せない。
429 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/11(月) 22:25:57.38 ID:LWX0t38Uo
ファック!
12月にスマホデビューしたと思ったらそれが不良品とかベリーシット!
#め。ものづくりは真面目にしろや!くっそ。
色々アプリがリセットされるらしく、本当にふざけんなというか、もうね
はやく戦争になーれ



>>428
どもです

>……孫権姫、焦りともどかしさが変な方向に向いておりますw
第一印象は最悪ですた。さて。

>……何か聞き覚えがw
分かる人には分かる。
そんなネタを散りばめております。
ネタばらしは野暮ってものなのですよw きっとね。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/12(火) 12:03:53.54 ID:+b0i2agT0
乙でしたー 遅れちゃいました
>>422
>>彼女の口から聞けたのは、通り一遍等の風聞だった。
○彼女の口から聞けたのは、通り一辺倒の風聞だった。
>>424
>>「いやいや、身体能力(スペック)は楽進の方が上だからな。もっと強くなれるって」  これは楽進の回想なので(スペック)はいらないと思います
○「いやいや、身体能力は楽進の方が上だからな。もっと強くなれるって」  次郎視点なら言ってないけど思ってることで有りかもしれませんが
>>「ありがとうございます。そして……強く、ですか……」 【そして】に違和感があるので
○「ありがとうございます。それにしても……強く、ですか……」 もしくは 「ありがとうございます。ですが……強く、ですか……」 あえておうむ返しにして 「ありがとうございます。もっと……強く、ですか……」 楽進の強くなることへの戸惑いと言うか意味を考えるなら…どれがいいですかね?【それにしても】ならあやふやに迷ってる、【ですが】なら否定的になってる、【もっと】なら次郎に答えを求めてる感じが出ると思います
>>425
>>「活人拳、と」 これって楽進の言葉ですよね。この場面ではかなり胸いっぱいになってるようなので
○「活人拳」 もしくは噛みしめるように 「活人、拳」 もしくは 「活人…拳」 の方がらしい気がします
>>ついて来られるか、ならば黙って俺に3ついてこい。
○ついて来られるか、ならば黙って俺についてこい。 或いは ついて来られるか、ならば黙って俺に3歩下がってついてこい。(大和撫子か!?w)
>>私のことは凪、と及びください!」
○私のことは凪、とお呼びください!」

いやー背中がむずがゆくなるフレーズがちょいちょい出てきますね
言葉が足りないせいで勘違いするのはよくある話ですが楽進は顔を赤くしながらお相手していただきましたって狙ってやってんのか!?と突っ込みたくなるレベル
431 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:08:40.37 ID:qmVDkhuUo
>>430
いつもすまないねえ……
つか、今回多いな。流石凪は魔性の女やでぇ(適当)

>言葉が足りないせいで勘違いするのはよくある話ですが楽進は顔を赤くしながらお相手していただきましたって狙ってやってんのか!?と突っ込みたくなるレベル
凪ちゃんがそんな狙うとかありえへんですよ(断言)
素だからこその凪ちゃんですよ
ジョインジョインナギィ……
432 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:14:24.99 ID:qmVDkhuUo
 さて、俺の目の前には陸遜がいるわけなんだが。なんだろう、どうして朝から頬が上気してんの?目がとろんとしてんの?呼吸が荒いの?
 これは、あれだな……。

「風邪か?根を詰めて作業してくれたみたいだからなあ。今日は帰って安静にしてくれや」
「いいえー、体調はー、万全なんですー」

 にこり、と微笑みながらつい、と歩を進める陸遜に思わず半歩後ろに退いてしまう。

「本日はぁー、貴重なお時間を頂きましてありがとうございますー」
「お、おうともさ。んで、孫子だっけか。持って来たぞ」
「ああー、これこそ孫家の至宝、孫子様の書かれた書なのですねー」
「つって俺も孫家から貰ったに過ぎないけどな」
「いえいえー、孫家の臣といえども目にする機会はないと言っていいほどに貴重な至宝。それを目にする機会を下さってありがとうございますぅ」

 うっとりとした顔の陸遜。いや、何かクスリでもやってんのかと思うくらいには恍惚としてらっしゃるのだよ、これが。まあ、喜んで貰えるならいいということにしよう。

「そんなもんかね。書物なんてその叡智を拡散してなんぼのもんだろうに」
「秘すからこそ、その貴重さが増すということですぅ。ご存知でしょうけどもぉ」

 まあ、ここいらは多分俺の感覚の方が異端なんだろね。

「それと、農徳新書の最新版の閲覧許可書な。これ持ってけば好きなだけ読めるぞ。写しもご自由に、ってな」
「ああー、素晴らしいですー。ありがとうございますー」

 さて、ここで農徳新書についてちょっと語ろう。実は既に俺の手を離れているのだ。最初は俺のあやふやな記憶の書付でしかなかったんだがねえ。
 今や何十冊にもなる書となっているのだ。これは、農業の指導書ではあるんだが、それは今や袁家の農政の結晶と言ってもいい。つまり、毎年の農政の施策とその結果の膨大なデータ集となっているのだよ。
 毎年の天候、災害などを加味しながら、最も効率のよい農法を検討している。もはや毎年編纂されるそれは俺にも内容がよく分からん。未だに編纂者に名前が出ているのが恥ずかしいくらいだっつうの。
 ……本来ならば機密に類することなんだろうが、比較的安価で諸侯の求めに応じて提供している。食料増産こそが平和の礎だと信じての俺のわがままだ。
 黙認してくれている田豊様やねーちゃんに感謝、なのだ。

「あぁ、たまりませんー」

 何やら嬌声を上げながら陸遜が頁(ページ)をめくっている。いやいやいや。……何で本を読むと色っぽくなるの?喘ぐの?
 わけがわからないよ!いや、マジで!

 そして四半刻もしたら……。頬を上気させ、潤んだ瞳で俺を見つめる陸遜。……めっちゃエロいですやん。

「駄目なんですぅ。書を、名著を紐解くと、身体が火照ってしまうんですぅ……」

 なん……だと……?
433 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:14:53.26 ID:qmVDkhuUo
「大丈夫です……一度達してしまえば、治まりますからぁ……」

 むわり、と牝の香気が俺を包む。フェロモンってレベルじゃねーぞ。

「ねえ、いつもわたしのこの、おっぱい……見てましたよね……」
「お、おうともよ……」
「触って、みたく……ないですか……?」

 自らの手でその、処女雪が積もったヒマラヤ山脈を思わせる魅惑の胸を揺らし、陸遜が問いかける。 
 たゆん、と胸が揺れる。形を変える。震える。その、雪崩的な破壊力にごくり、と生唾を飲んでしまう。

「触り、たくないですか……?」

 じり、と近づく陸遜。俺の肩に手をかけ、しなだれかかってくる。いっそう、濃密さを増した香気が俺を包み込む。

「好きにして……いいのですよ……?」

 その悪魔(メフィストフェレス)を思わせる囁きの蠱惑さよ。その誘惑に俺は、堕ち……ることはなかった。

 陸遜の蠱惑的な瞳の中に剣呑な光を感じた瞬間、俺はす、と冷め切ったのだ。苦笑しながら陸遜を押しやる。

「あー、分かった分かった。中座するから、落ち着いたら呼んでくれ」

 いや、そりゃね?俺はおっぱいとか大好きよ?それがこんな美人のおっぱいなら言うことないよ?
 でもさー、今は勤務時間なのですよ。
 
 小市民と笑わば笑え。でもまあ、こんな明るい中、しかも勤務時間内になかなかそういう気分にならんっちゅうの。
 それに、だ。壁に耳あり障子に目あり。もしもねーちゃんの耳にでも入ったら……。そう思うだけで息子がきゅってなるっちゅうの。

 ぽんぽんと陸遜の頭を叩いてから席を立つ。あ、フォローもしとこう。

「あー、別に陸遜が魅力的じゃないとかじゃないからな?
 そんな、その体質につけこむのが嫌だってだけだし。
 まあ、今度ゆっくりとその胸を堪能させてくれや。嫌じゃなかったらな」

 ……我ながらフォローになってるのか分からない台詞を残して部屋を去る。
 しかしまあ、危なかったなあ。そう、心から思う。

 昨晩、七乃に搾り取られてなかったら危なかったかもしらん。今度七乃に美味い飯でも奢ろう。

 そんなことを思いながら俺は厠を目指すのだった。
434 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:15:45.49 ID:qmVDkhuUo
◆◆◆

 陸遜は歓喜に震えていた。際限なく火照る身体と冴え渡る思考。知らず、笑みが零れる。
 やはりか、と確信する。擬態であったか、と。
 推論が証明され、扉が閉まった瞬間には絶頂すら覚えたものだ。

 あは、と笑みが零れる。
 
 誘惑を跳ね除けられた体の陸遜であったが、彼女は全く落ち込んでいなかった。
 ……容色には自信がある。
 江南にいた時にはよく言い寄られたものだし、襲われたことも両手の指では足りない。……前者は上手くかわし、後者は武を持って叩きのめしたものだ。
 相手が紀霊のような男なら口説かれたろうし、身を委ねたろう。だが、ことごとく陸遜の要求水準を満たさない男ばかりだったのである。浅い男ばかりだったのである。

 陸遜は今日のこの機会のためにその能力の全てを振り絞った。およそ一月余り。それが与えられた仕事に対する期間であった。
 
 不眠不休で励んだ。自分は無名の士でしかない。ならば、求められる以上の結果をもたらさないとわが身に価値など生まれないだろう。紀霊(おとこ)の信頼を勝ち取ることなどできないだろう。個人的な時間など貰えないだろう。最後の三日三晩など、一睡もしていなかった。

 そうして得たこの機会に陸遜は勝負を賭けた。そして見事に負けてしまったのである。
 だが、収穫は思いのほか大きかった。
 そう、紀霊のあの軽薄な態度は擬態であると陸遜は断じた。つまり、風評から得ていた、江南を援助するのは色香云々というのは否定されたというわけである。
 であれば、何らかの思惑があるはずである。だから、それを読み取らねばならない。

 くすり、と陸遜は妖艶な笑みを深める。手にした書が想定以上に傑作だったような悦び。絶頂の余韻、そして底知れなさ。
 紀霊に対する思いは恋着とも執着とも違って尚、深まっていくのであった。


◆◆◆

「穏!大丈夫?!」

 ばたり、と開け放たれた扉の向うには、仕える姫君がいた。浸っていた余韻を断ち切られ、僅かに苛立ちを覚えながら視線を向ける。多少の悋気を含んでしまったのは未熟さゆえであるのだろう。
 孫権は、一瞬怯んだような表情をしながらもこちらを気遣い、重ねて問うてくる。

「大丈夫?変なことされてない?」

 ……むしろこちらから仕掛けたと知ったらこのお姫様はどう反応するだろうか。そんなことを思いながら陸遜は、問題ないと答えるのだ。

「なら良かったわ。さ、行きましょう、ね?」

 冷め切った思考で孫権を見やる。そう、孫家次代を背負うお姫様を。この方は何も分かってないのだな、と密かに嘆息する。
 元来、陸遜が随員として周瑜に強く推されたのは、その身を紀霊に捧げるためでもあった。孫家への援助と言いながら、実質江南全体を視野に収めたその内容。孫家の権威は袁家からの援助による物質的なものが非常に大きい。
 であるならば、都合が悪くなれば孫家を捨てて他の豪族を援助することも十分に考えられる。孫家を援助する対象として選んだ理由が分からなければ、それを繋ぎ止める策も打ちようがない。
 黄蓋と魯粛の証言からは、いよいよ紀霊個人の独断で孫家に肩入れしているということしか分からなかった。であれば、まずは世評で言われている処の色仕掛けから接触するしかあるまい。
 それが周瑜と陸遜の導き出した結論であった。

 黄蓋は確かに紀霊に抱かれてもいいくらいの意識はあったろう。が、危うい。彼女はあくまでその本質は武人。気質は苛烈。娼婦の真似事ができても、長続きするわけもない。
 孫権は論外である。孫策よりは理性的であろうが、孫家の気性はあくまで炎。温室育ちなせいか、潔癖な面もある。
 実際、紀霊にあれほど反発を覚えるとは。未だぷりぷりと怒りを示すその姿に思わず嘆息する。
 だがそれでも、孫策よりは扱いやすいのだ。そう思うと師でもある上司の苦労が思われる。
 ともかく、紀霊にその身を差し出すことで誼を確かなものにするというのが陸遜の役割であったのだ。このような汚れ仕事ができるのは孫家の臣では自分か周瑜くらいであろう。
 思いのほか薄い陣容に嘆息が漏れそうになる。せめて。
 せめて呂蒙がもう少し思慮を深めてくれれば。それが周瑜と陸遜の共通した思いであった。

 そして、この身体を差し出すはずだった紀霊。彼のその思惑が、陸遜にはまだ見えない。
 それを推察するためにも、理解するためにも。

 やはりこの身は紀霊に抱かれなくてはならないだろう。

 くす、と妖艶な笑みを浮かべる陸遜。
 そしてその表情に孫権が気づくことはなかったのである。
435 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:16:25.85 ID:qmVDkhuUo
本日ここまですー
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/12(火) 23:36:41.27 ID:1DGTKFg3o
乙です
437 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/12(火) 23:46:46.41 ID:qmVDkhuUo
タイトルは「凡人と焦がれる女」
かな。
よさげのあったらありがたいせう
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/13(水) 09:50:01.38 ID:P0OFXvDFo
乙したー

二郎ちゃんマジ小動物!!
つくづく資本主義の犬やなぁ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/13(水) 11:33:22.67 ID:07NL/dju0
乙でしたー
>>432
>>「それと、農徳新書の最新版の閲覧許可書な。 たぶん間違い…かな
○「それと、農徳新書の最新版の閲覧許可証な。 許可書で間違ってない可能性もありますので微妙
>>434
>>そうして得たこの機会に陸遜は勝負を賭けた。
○そうして得たこの機会に陸遜は勝負に出た。 もしくは そうして得たこの機会に陸遜は賭けに出た。 もしくは そうして得たこの機会に陸遜は女を賭けて勝負に出た。 辺りでしょうか 〜を賭けた勝負と言いますので【女】の部分は陸遜が何を賭けたかによりますが
○そうして得たこの機会に陸遜は勝負を仕掛けた。 これは何か微妙か?この場合陸遜は誇りを賭けたのか手込めにされることを考慮すれば人生を賭けたのか…その辺はぼかした方が面白い気もしますので単純に 勝負に出た。か 賭けに出た。 がいい気がしますね
>>多少の悋気を含んでしまったのは未熟さゆえであるのだろう。 悋気≒嫉妬?ちょっとしっくりこないので
○多少の怒気を含んでしまったのは未熟さゆえであるのだろう。 もしくは 含む思いを漏らしてしまったのは未熟さゆえであるのだろう。  もしくは 多少の憤懣を含んでしまったのは未熟さゆえであるのだろう。  怒気だと強すぎる気がしますね、含む思いだとナニを考えてるのかちょっと怖すぎるかも憤懣辺りがちょうどいいかな、と思います

陸遜さんが次郎ちゃんを読もうとしてますが上手くかわされますね、七乃がいなけりゃ危なかったみたいですが
そして空回ってる孫権ちゃん…ガンバレ?
タイトルは…今回は次郎ちゃんよりも陸遜がメイン張ってたので『焦がれる女、深みにはまる』とかどうでしょう
440 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/13(水) 22:24:15.00 ID:vn1qzkp3o
>>438
小市民です。凡人です。
豪放磊落とか無縁の修飾語でございます。
本人なりに頑張っているつもりです。これでも。

>>439
いつもすまないねえ……
やっぱどうしても酔っぱらうと日本語不自由になるのかなあ

>陸遜さんが次郎ちゃんを読もうとしてますが上手くかわされますね
陸遜さん的にはそれでもオッケーという怖さw

>七乃がいなけりゃ危なかったみたいですが
七乃さんを敵に回してはいけません(断言)

>そして空回ってる孫権ちゃん
一生懸命な真面目女子って可愛い……可愛くない?

>『焦がれる女、深みにはまる』とかどうでしょう
陸遜とかいうストーカー気質の軍師系女子が凡人に焦がれてちょっと会っただけで執着するようになってしまった顛末のお話

とかいう頭悪い題名にしようかなと考えていたとは誰も知るまい……w
候補ありがとうございます。検討しまするるる
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/14(木) 09:05:06.29 ID:cwSi3MT90
信じて送り出した本好き系軍師が農徳新書にド嵌まりして痴女な服装で男を誘惑する話…嘘は言ってない
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/15(金) 07:05:04.71 ID:lBZCdsV0O
いやー揺れたよびっくりしたよ@熊本市
大きな火事なくって救いでした。
ノートPCの液晶に食器棚が直撃して画面あぼんしますた
水の出が悪いのが心配
443 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/15(金) 21:15:25.98 ID:1r75k7+Jo
>>441
長いタイトルアリですねw
ちょっと検討します

>>442
熊本市、余震も震度4とか大変と思います
何もできないのですが。リクエストとかあったら最大限頑張りますので、是非

阪神大震災、福岡の水害、東日本震災と行くとこで色々あったので本当にご苦労はお察しいたします
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/15(金) 21:51:19.27 ID:l12pVRZZO
442です
お気遣いありがとうございます。

リクエストは更新していただけたら嬉しいです。
できたらお尻様のツンデレを…

人の善意が身にしみます
445 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/15(金) 22:01:25.18 ID:1r75k7+Jo
>>444
ご無事なようでなによりです
お尻様については、これからがメインですというネタバレをひとつ

更新をお望みということで、これから秘蔵のお酒の封を切って(切った)ガソリン注入します。した。

九州には5年くらい在住しておりました。福岡の水害はガチで当事者でした。
本当に、余震で震度4とか不安になるかと思います。
頑張れとは言えません。
なんとかなる、としか言えません。

ただ、災害対策において現政権は当時の政権とは比べ物にならないと思います
遠慮せずに社会的インフラを活用してくださいませ

動揺の災害があったらその対応の一助となるのですから

本当に、本当に。

まずは自分にできることを頑張りますので
頑張りますので
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 00:44:53.42 ID:UC7AvrbEo
そういや、このSSも民主の糞っぷりがフラストレーションになって始まったとか言ってた気がするなぁ

ホント息が長いのな
447 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/04/18(月) 23:12:12.94 ID:SRlspmTyo
>>446
まあ、民主党の政権運営に満足してたのは日本の敵対勢力くらいじゃないですかねえ
震災のときにまともな政権であるというのは大きい
※なお熊本県知事
448 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/18(月) 23:21:23.10 ID:SRlspmTyo
 今日も今日とてお仕事である。書類的なサムシングとの戦いなのである。
 まあ、ぶっちゃけ前世のコンプライアンスやら法律やら規制とかに縛られた上での書類仕事に比べたら楽勝なのではあるが。
 別に俺が優秀なわけじゃあない。単なる経験の蓄積ってやつだ。俺より頭のいい連中なんてごろごろしてるからなあ。いや、マジで。恐るべし袁家の官僚軍団。いや、楽をさせていただいてますよ。あっちこっちに書類を転送したり、付箋貼って予算通せとか適当かますのがメインのお仕事です。

 そんな感じで鼻歌交じりにルーチンワークをしていた俺に来客が告げられる。そげな予定は入ってないぜ。
 まあ、気分転換にはなるか。美羽様の後援の係累からの口ぞえならしゃあないしね。

 などと、軽く考えていたんだがね。来客の名を聞いた途端。血が、冷えた。対する相手が通り一遍等の挨拶を終える前に口を開く。

「おう、黒山賊が俺に何の用だ」

 下手なことを言いやがったら切り捨てる。文字通りな。後がどうなろうと知ったこっちゃねえのさ。これに関しては誰にも文句は言わせねえよ。
 そんな俺の恫喝に対して、動揺を顔に出すこともなく。相対する張燕はにんまりとした笑みを浮かべた。

「流石だねえ。アタシのことまで把握してるとは思わなかったさね」
「口上はいい。さっさと用件を言ってから俺に殺されろ」
「おやおや、物騒だねえ。この場でアタシを殺したら立場がまずくなるんじゃないのかい?」

 無言で三尖刀に手を伸ばす。まあ、取りあえず殺そう。そうしよう。

「あー、取りあえず話を聞いておくれでないかい?」
「は、戯言もそれまでにするんだな。言い残すことがあったとしても聞くつもりもないし」

 死出の旅路に六文銭を恵んでやるつもりもない。のだが。
449 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/18(月) 23:21:49.08 ID:SRlspmTyo
「……物騒だねえ」

 あくまで表情を崩さずに張燕が言う。
 そう、張燕。飛燕将軍という異名を将来取るであろう名将である。史実において後漢王朝はこいつが率いる黒山賊を討伐することができなかった。袁家も討伐を繰り返すが、殲滅の前に官渡の戦いが起こってしまう。それ以後は確か曹操に従ったはずだ。
 メジャーじゃあないが、英傑の一人と言っていいだろう。軽く頭を振り、改めて向き合う。何とも不敵な面構えだ。

「で、わざわざ俺に何の用だ」

 俺が黒山賊を目の敵にしているのは周知の事実だ。いきなり殺されても文句は言えないだろう。よしんば俺を返り討ちにしたらまあ、袁家が全力で黒山賊を討つだろうさ。
 それくらいの影響力はあると自負している。

 俺の問いに、張燕は僅かに逡巡する。

「いやなに、手打ちをしたくってねえ」

 そんなことをほざきやがったのである。

「あ?喧嘩を売ってきたのはそっちだろうが」

 黒山賊への対応は俺に一任されている。というか任せてもらった。色々斟酌してくれたのか、仕事を丸投げされたのかは判断が難しいとこだが。

「いや、袁家と敵対するというのはアタシらの総意じゃないさね。
 身内からも討伐の手勢を出してはいたんだが。連中、中々捕まらなくてね」
「は。まあ、口では何とでも言えるな」

 俺の言葉に張燕は姿勢を正す。

「改めて詫びる。あれはアタシらの不始末であった。
 今さらとは思うが、ご寛恕いただきたい」

 深々と頭を下げる張燕。正直その首を落としたいなあ、と思うよ。

「アタシらとしても、袁家の怒りはもっともなことと認識している。
 謝って、はいそうですかということでもないことも認識している。
 だが、袁家と事を構えるだけの力はアタシらにはない。
 なんとかならないだろうか」

 美貌――キツめのそれはど真ん中ストライクである――に懇願の表情が浮かぶ。
 だが、なあ。

「遅いよ。既に黒山賊討伐のために軍備は増強されてる。
 今さら止まるわけねえだろ」

お前らはもう、死んでいる。そして絶対に許さないのだ。他でもない俺が。

「そこをなんとか、とお願いに来てるわけなんだよ。
 むやみに衝突しても、そちらにも損害も出るだろう?」

 少ない手札で、それでもこちらに勝負をかけてくるのはまあ、見上げたものである。

「そりゃ、さっさとアタシらを討伐して兵士を減らしたいというのも分かるんだけどさ。
 なんとかならないもんかね」

 ん。その意気やよし。なのだが、ね。
450 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/18(月) 23:22:16.43 ID:SRlspmTyo
「アタシらにできることなら何でもするからさ」

 ふむ、よっぽど切羽詰ってるのか。まあ、そりゃあそうだな。今の袁家と正面切って殴りあうとかありえんわな。
 ふと思いついた案を頭の中で検討する。うん、悪くない、か。

「あー、とりあえず、袁家は軍備をこのまま増強する」

 俺の言葉に張燕の顔が青ざめる。

「だからお前らにはそれに見合った勢力を維持してもらう」

 その言葉に黙ってうなずく張燕。そして紡ぐ言葉に俺は満足する。

「あくまで袁家と黒山賊は不倶戴天。そういうことでいいのかい?」

 ああ、流石だな。こいつは敵に回すと厄介だ。だからこそ、である。そう、仮想敵として軍備増強のダシとなってもらう。

「そういうことだ。お前らは敵だ」
「そしたら、アタシらは何をもって袁家に赤心を示せばいい?」

 本当にこいつは傑物だ。戦後を考えてだろう。その場しのぎではなく、きっちりとした従属関係を申し出ている。

「表面だってあれこれできないな。とりあえず現頭目の張牛角は隠居。張燕よ。お前が頭を張れ。
 それをもって黒山賊が袁家に恭順した証とする」
「承った」

 即答である。トップの交代とか難しいはずなんだがな。
 まあいい、従わなかったら潰すだけだし。

「黒山賊はあんたに忠誠を誓おう。なんなら寝所で確かめてみるかい?」

……俺はどんだけ女好きと思われてるんだろうか。いや、敢えてそういう風説を流布させたんだけど、ちょっと思う所はあるなあこれ。
見え見えのハニートラップは流石にお断り、なのである。だから定期的に活動方針とかの報告を自らすることを飲ませると、溜め息を一つこっそり漏らす。

 いい笑顔――猫科の猛獣を思わせる――を浮かべて室を辞する張燕を見送る。忸怩たる思いである。
 だが、それでも。それでも、張燕を私怨で斬ることはできなかった。そのために色々と整えていたのだが、いざその時になるとできなかった。
 そんなこと、できるはずがないのだ。袁家という巨大な組織。そのトップ近くの俺が公私混同なんてできるものかよ。
 
 だからまあ、ちょっと絡み酒になっても許してほしいものである。ごめんね。
 
※絡み酒の被害者についてはご想像にお任せいたします。
451 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/18(月) 23:23:40.54 ID:SRlspmTyo
◆◆◆

 張燕はこの上なく上機嫌であった。

「く、くく。いよいよアタシの時代かねえ」

 ふと呟く。聞くものとておらぬ馬上である。腹の底から沸きあがる愉悦に張燕は身を委ねていた。
 ……正直今回の役割は貧乏くじもいいところであった。厄介払い、或いは間接的な粛清であろうか。袁家への使者という役割が決まった時の憂鬱さすら今は心地よい思い出である。

 実際黒山賊は存亡の危機に揺れていた。隆盛を極める袁家。それが本腰を入れて黒山賊の殲滅に動き始めたのである。
 そもそも袁家は巨体である故に動き出すには時間がかかるのだ。それゆえの時間的猶予を有効に活かすことができなかった。動くことなどなかろうという推測。希望的観測。
 それが大勢を占めていたのである。人は信じたいことしか信じないということであろうか。

 混乱が生じたのは袁家の軍備強化が表面化されてからである。一万もの正規兵の増強。しかも標的は黒山賊と公表された。更に重ねて行われた募兵に訓練。そして北方の防備を担っていた精鋭の召集。
 はねっかえりが袁家領内の村落から略奪することはこれまでままあった。だがそれで黒山賊が本格的に討伐を受けることはなかった。
 それだけの武力を蓄えてきたからである。今回はそれが裏目に出たのだ。袁家が本腰を入れるだけの勢力として認識されてしまったのである。

 頭目の張牛角を筆頭に、黒山賊の上層部はパニックに陥った。当然である。袁家領内へと侵攻したのはあくまで黒山賊の中でもはねっかえり。
 中央の意向を無視することが存在意義という奴らだった。人数も少なく、袁家の領内の被害も少ない。まさか、まさか本腰を入れてこようとは。
 当初の袁家のアナウンスが怨将軍の戦果を誇るものであったことが希望的観測に説得力を与えたのもある。だが、それすら黒山賊を殲滅するための策であったのだろう。


 それが判明しても責任を取るものがいるはずもなく。ただただ、会議は踊るばかりであった。
 
 ……張燕が袁家への交渉へと派遣されたのは厄介払いという意味合いも大きい。実戦部隊を掌握する張燕は黒山賊の派閥争いで台風の目となりかねなかったのである。
 若輩故に危険視をされていないが、いつ粛清されてもおかしくない。それが張燕の立ち居地であった。故に袁家への使者として派遣されたのだ。
 張燕が交渉の窓口として紀霊を選択したのは賭けであった。怨将軍として知られる紀霊。
 黒山賊を目の敵にしているというのは有名な話である。更なる兵力の充実も紀霊の主導という話だ。
 だが、黒山賊への対応を一手に担っているという情報を掴むと、接触せざるをえなかった。このあたりの情報を掴むことができたのも張燕の優秀さを示唆してはいる。
 張燕にとっては正直、分の悪い賭けであった。何より、自分が黒山賊の幹部であるということを伝えた瞬間が一番危険だ、と判断した。
 だが、そこさえ乗り切ればなんとかなる。その思いで面会にこぎつけたのではあるが。

 まさか自分の名前が知られているとは思っていなかった。想定していた筋書きが崩れ、幾度も死を覚悟した。
 だが、結局張燕は賭けに勝利したのである。見事生存のみならず、袁家の後ろ盾すら確保したのだ。

 帰路を急ぐ張燕がわが世の春よとばかりに浮かれていても仕方のないことであろう。その帰路において、自分を切り捨てようとしてくれた幹部をどうしてくれようか。それを思うだけで暗い愉悦に酔うことが出来るというものである。


◆◆◆

 紀霊がその報を耳にしたのは張燕との面会より一月後であった。

 張燕が黒山賊の首領へとなったこと。そしてその際に黒山賊幹部――頭目であった張牛角を含む――の粛清があったこと。

 紀霊は虎に翼を与えたことを知り、人知れず懊悩することになる。そしてこれより袁家と黒山賊の確執、そして損害はその規模を拡大させていくことになるのである。
452 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/18(月) 23:26:47.59 ID:SRlspmTyo
本日ここまですー

感想とかくだしあー



急に窓からラーメンの美味しい匂いが流れてきてヤバい
この時間帯は飯テロでしょうが!
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/18(月) 23:30:29.51 ID:7U/XlN/1o
乙です
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/19(火) 11:26:05.80 ID:IVKRT2Of0
乙でしたー。実はシ・・・張燕さんの強かさはかなり好きなタイプです。オリキャラの中ではベスト5に入るくらい好きです
>>448
>>対する相手が通り一遍等の挨拶を終える前に口を開く。  通り一遍=うわべだけで誠意のないこと 一辺倒=一つの考えに偏り、ほかの考えを退ける 大体こんな感じの意味らしいです。通り一遍等は誤用になるそうなので(私も最近知りました)
○対する相手が通り一遍の挨拶を終える前に口を開く。  が正しいようです。
>>451
>>頭目の張牛角を筆頭に、黒山賊の上層部はパニックに陥った。 ここは張燕視点なので極力カタカナを使わない感じに
○頭目の張牛角を筆頭に、黒山賊の上層部は大混乱に陥った。 の方がいいと思います
>>当初の袁家のアナウンスが怨将軍の戦果を誇るものであったことが
○当初の袁家の公布が怨将軍の戦果を誇るものであったことが もしくは 当初の袁家の公式発表が怨将軍の戦果を誇るものであったことが 辺りでしょうか
>>それが張燕の立ち居地であった。
○それが張燕の立ち位置であった。 
>>このあたりの情報を掴むことができたのも張燕の優秀さを示唆してはいる。  【してはいる】だとそれ以外の含むものが感じ取れますがそうする場合は後に【だからこそ排除されそうになった】のような文が必要になると思います、そういった文は前の方で出してるので
○このあたりの情報を掴むことができたのも張燕の優秀さを示唆している。  でいいと思います

黒山賊は不倶戴天の敵である(大本営発表)ですね分かります
公私混同をしない(できない)次郎ちゃんは上に据えておくと丁度いい感じに回してくれるよね、リスクとリターンで理解はできても心情で納得はできない状況でそれを飲み込める次郎ちゃんマジ潤滑油
そしてこれで中央から「お前ら軍備増強しすぎじゃね」と言われても『黒山賊がどんどん強化しててマジヤバいんだって、そういうならあいつら何とかしてくれよ』と言えるわけで…どこまであの短時間で思考したのか分からないけど次郎ちゃんも地味に頭の回転早いよね、あの場で切り捨てない方が得できる選択肢を出せるんだから(思考方向が普通は切り捨てる場合の得を考えそうな場面で真逆の方向に思考できるあたり傑物だと思うわ)
455 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/19(火) 23:48:35.57 ID:/JrNXa0Fo
>>454
いつもすまないねえ……

>黒山賊は不倶戴天の敵である(大本営発表)ですね分かります
黒山賊は袁家の仇敵ですよ本当に

>公私混同をしない(できない)
師匠とねーちゃんに袁家の行く末を手渡されてますので、やはり自分に厳しく生きる感じです

>そしてこれで中央から「お前ら軍備増強しすぎじゃね」と言われても『黒山賊がどんどん強化しててマジヤバいんだって、そういうならあいつら何とかしてくれよ』と言えるわけで…
懸念してたのですね。兵力増強するとしてもどういい繕うの?って

>地味に頭の回転早いよね、あの場で切り捨てない方が得できる選択肢を出せるんだから(思考方向が普通は切り捨てる場合の得を考えそうな場面で真逆の方向に思考できるあたり傑物だと思うわ)
正直二郎ちゃんに必要なのはメイン軍師やと思いますw
456 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/20(水) 22:49:26.42 ID:0eqqLAaLo
 今日も今日とてお仕事である。書類的なサムシングとの戦いなのである。とはいえ、ルーチンワークは頭使わないからなあ。寝ぼけた頭にはちょうどいい刺激ではあるのだよ。
 機械的に筆を走らせながら軽く欠伸をする。ふむ、平和だぜ。これは今日は明るいうちから飲みに行けるかなあ。などと思っていたのだが。

「アーニーキぃ!」

 これは流石に予想外。猪々子の訪問である。珍しいな、昼間にやってくるとは。それに、いつになく嬉しそうじゃないか。

「んで、今日はどした」
「アニキにお礼を言わないといけないと思ってさ!」
「何かしたっけか」
「仕事が楽になったー!」

 満面の笑みである。

「そうか、良かったな。つーかそんなに楽になったのか」
「そうなんだよ!だって今日とか仕事終わったもん!」

 マジか。それは凄いの一言なんだぜ。いつも一月分くらいは仕事溜め込んでたというのに。それを斗詩と俺で手伝ってたのに。

「すげえな。あんなに仕事溜まってたのにもう処理したのか」
「ん?いや、溜まってるのはそのまま。とりあえず今日の分をやっつけた」
「いかんでしょ」

 なんというか、その発想はなかったわ。いや、それでも雪だるま式に内勤業務が増えないというのはきっと文家にとっての福音になるのであろうが。多分。きっと、メイビー。
 日々の業務も滞ってた猪々子である。導入開始直後でこれなら、相当効果が見込めそうだなあと内心頷く俺である。

「これで新兵の訓練にも本腰入れて力が注げるってもんさ!」
「え」

 文家の訓練は唯でさえ苛烈猛烈熾烈鮮烈という噂だ。それが、本腰入れてなかった、だと……?

「そ、そっかー。まあ、あまりやりすぎて死人が出ないようになー」

 その言葉に猪々子はきょとんとした顔で。

「へ?訓練って死人出るもんだろ。
 いざ実戦で足を引っ張られるのは勘弁だしなー」
「そ、そうか……」
「それに、戦場では死体も放置になっちゃうんだけど、訓練中なら弔ってやれるしなー」

 まあ、ここらへんの感覚は俺の方が非主流派なんだろうな。根源は平和ボケの日本人だし。
 にこにことしている猪々子を見ていると、とりあえず文家の兵卒でなくてよかったな、と思うわ。
457 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/20(水) 22:50:17.40 ID:0eqqLAaLo
「というわけで、アニキー、手合わせしよーぜー」
「んー、いいけどちょっと待ってな」

 とりあえず手元の書類を片付けてしまう。しかしまあ、こんなことを言ってくるんだから、よほど仕事に余裕ができたんだろうなあ。

「今日は本気のアニキとやり合いたいなー」
「いつでも本気で猪々子に叩きのめされてるじゃんか」
「違うってー、本気の本気だってばよー。三尖刀使った本気だよー」

 さ て、ここで三尖刀である。紀家の家宝であるそれは所謂宝貝(ぱおぺえ)というやつであるらしい。その効果を発動すると身体能力が著しく(当社比2割増しくらい?)増強されるというもの。
 なんだそのドーピングと思ったものであるが、その発動時間は限られている。具体的に言うとカラータイマーくらい。なお継ぎ足して連続発動すると、とーちゃんみたいにペナルティがある模様。
 用法用量にはご注意くださいってことだ。一応親しい人物にはこっそりオープンにしている。ほら、黒山賊百人を一人で皆殺しにしたってのも三尖刀のブーストあってのことだから。
 あれが普通にできるとか思われたらかなわん。マジで。

「軽々しく使えねえって知ってるだろうが」
「うー。分かってるけどさー。それでも本気のアニキとやりたいんだよなー」

ちなみに素だと猪々子には勝てん。むしろ俺が稽古をつけてもらうような感じになるのだ。三尖刀のブースト使ったらまあ、互角以上にはもってけるかな。

「大体、俺は一撃必殺だからなあ。
 それを防がれた時のやり取りとか無意味に近いぜ」

 今でも基本はなんちゃって示現流である。大上段からの必殺の一撃。三尖刀の効果と相まって中々にいい感じなのだよ。

「んー、それでもアニキと打ち合うのは楽しいからさ、頼むよ」
「そうさね、猪々子がそこまで言うなら、一度だけ、な」

 言いながら仕事を終わらせ三尖刀をかついで歩き出す。嬉しそうな猪々子が横に並び、あれこれと話しかけてくる。 
 何でも斗詩も呼んだらしい。はいはい、俺が公開フルボッコなわけですねわかります。
 そうだ、忘れるとこだった。猪々子の愛用してる斬山刀とかいう大剣は使わせないようにしよう。死人が出るぞ。そう思いながら猪々子と馬鹿トークを続けるのであった。
458 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/20(水) 22:51:37.44 ID:0eqqLAaLo
◆◆◆

 暗転。

 ……額には濡れた布がかけられ、何か柔らかいものが後頭部にあった。鈍痛に顔をしかめながら目を開くと、そこには陳蘭の顔があった。ああ、膝枕状態か。くっ。
分かってたけど情けない状況だなあと思う俺である。

「あー、痛ぇ」

 その声に困ったような、どこか安心したような笑顔をする陳蘭。気遣うような素振りを無視して取りあえず、身を起こそうとする。

「あ、ご無理はなさらないでください」

 ちょっと慌てたような陳蘭の声を聞きながら、よろり、と身を起こす。うん、大丈夫っぽい。そして記憶が一部蘇る。

 猪々子にやられた。以上。

 木剣とはいえ、まともに食らうとこうなるということだな。いやー、いつものこととはいえかっこ悪いなあ。
 軽く溜め息を漏らしながら視線を前にやると、猪々子と斗詩がやり合っている。
 おー、別次元だねこれ。猪々子の大剣に対し、斗詩は双剣だ。間合いを詰めつつ、間断なく攻撃を加える斗詩。舞踏のようなやりとりは実際目の保養になるレベルにある。

「ふむ。斗詩はやっぱ手数が多い方が活きるな」
「そう、なんですか?わたしにはよくわかりません」
「そうか?それでもあの大金槌はないだろ」
「あ、それはまあ、確かに」

 ……猪々子の謎なリクエストで一時斗詩の武器はでっかいハンマーだったのだ。流石にそれはない。元々器用な斗詩は手数とその運足で勝負する方が合っている。
 そんなわけで双剣を薦めてみたらまあ、どこの弓兵(エミヤシロウ)だというくらいに習熟するわするわ。
 うん、猪々子が大剣使いで斗詩が双剣。俺は槍なんだから盾でも持つべきだろうか。そしたら、二人はG級で俺は寄生プレイになるな。落とし穴とか痺れ罠でも仕掛けるか。

 そんな俺のアホな思惑とは対照的に真剣に二人の手合わせに目をやるのは凪だ。まあ、せっかくの機会だからとついでに呼んだんだが、思いの他刺激になっているみたいだ。
 そりゃま、武力90台後半の武将同士の手合わせとか見ようと思って見れるもんでもないしなあ。

 お、次は猪々子と凪か。おお、これはかなり気合入ってんな、凪。オーラ的なものを纏っているぜ。
 
◆◆◆

「断空砲!」
 響く凪の、裂帛と言っていい気合い。放たれる気弾。そして対する猪々子はまた気合いが入ってるようで。

 へー、気弾って気合い入れたら木剣で弾けるもんなんだ。知らなかったよ俺。そして、もはや残像すら見えそうな凪の連撃を得物で弾く猪々子。
 あー、そこでフェイント三つ入れるとかないわー。普通に対応するとかもっとないわー。
 見稽古ってこんなにつらたんなんですかねえ……。

くすん。

 やさぐれる俺に声がかけられる。

「アニキー、そろそろ本気で相手してよー」

 普通に本気でぶちのめされた訳だがそれは。

「いいじゃんかよー、ほら、楽進もアニキの本気が見たいってさ」

 目をやると、キラキラとした目で俺を見つめる凪がいた。あかんて。その目が俺を狂わせるってばよ……。斗詩も何か期待したような目つきで俺を見るし……。

「あー、気がすすまねー」
 
 そう言いながら立ち上がる。そして三尖刀を手にする。猪々子は嬉しそうに斬山刀を手にする。おいやめろ。それはアカンやろ。

「二郎様!頑張ってください!」

 凪がそんな声をかけてくる。斗詩と陳蘭も黄色い声をかけてくる。そんなの、頑張るしかないじゃない!だから吠える。

「とっておきを見せてやる!これが、俺の!全力!全開!
 くらえ――九頭龍閃!」

 三尖刀と同化する。身を包む全能感。そして俺は久々に。本当に久々に猪々子を圧倒するのであった。
 だからこれは三尖刀のズルあってのことだからね?そんなキラキラした目で見られても困るからね?

「いやー、やっぱアニキは強いなあ。ほんと、かなわないなー」

 そして追撃の猪々子である。
 俺は周囲で交わされる会話を全力で既読スルーするのであった。
459 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/20(水) 22:52:26.31 ID:0eqqLAaLo
本日ここまですー
感想とかくだしあー
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/20(水) 23:00:30.30 ID:5gGjR78Lo
乙です
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/20(水) 23:11:11.95 ID:p9LysyKzO
G級って茶羽とか黒光りする奴らのことかとオモタ
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/21(木) 09:53:18.94 ID:xaaFwRSy0
乙でしたー
お父さんも宝貝使えるってことは代々仙人骨の家系なんですかね
むしろ先祖伝来ってことは初代は山から下りてきた仙人もしくは道士かな?
今回は誤字報告なしですね。
キラキラした目が二つもあったらそりゃ多少の無茶もしちゃうよね、男の子だもん
463 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 22:52:53.55 ID:IaGcYlo9o
>>461
映画では茶色でがっかりだそうですね
彼奴らはやはり黒くないと!

>>462
>お父さんも宝貝使えるってことは代々仙人骨の家系なんですかね
たとえそうでも相当薄まってるでしょうねえ

関係ないですけど、恋姫と封神演義(フジリュー)のクロスSSで、おにゃのこばっかり強いのは妲己ちゃんが世界に融けてるからという考察には脱帽した覚えがあります。
久々チェックに行こうかな……

>今回は誤字報告なしですね。
いつ以来だろう。
やったぜ。
いや、毎回そうでなきゃいかんのでしょうけどもね。

ほんと、いつもすまないねえ
464 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 23:02:42.47 ID:IaGcYlo9o
 眼前には、袁家の軍勢がある。一糸乱れぬ行進は流石と言う他はない。

 武威というもの。

 軍勢が行進するだけでそれが示されるのだ。閲兵式というのはなるほど凄いものである。
 袁家の精兵達が一斉に敬礼をする。対象はもちろん袁紹である。あふれんばかりの光輝を背負い、艶然と答礼する。
 いや、見事なもんだと公孫賛は嘆息する。

 見物に来ていた民衆から歓声が起こる。赤色一色に統一された軍勢の先頭には文醜。袁家筆頭の武家である。先代当主は「星を砕く」とまで謳われた豪の者。永らく空位であった当主には文醜が就いている。

 続くのは袁家の盾、顔家。こちらは青色一色に統一されている。かの匈奴大戦において、その侵攻をせき止めたという実績は洛陽ですら畏怖を以って語られるほど。その用兵の妙を受け継いだとされる顔良は武のみならず、政においても高く評価されているそうな。

 さて、武家四家と言いながらも張家に関しては存在が秘されている。ただ、この閲兵式において、警備の要所に髑髏の仮面が目立つ。つまりはそういうことであろう。

 そして民の歓声が一際大きくなる。白を基調とした衣装は紀家。匈奴大戦以来、紀家は袁家で一番声望の高いのだ。
 うん、普段はへらへらしてる男(きれい)も、きちんとしたら格好いいじゃないかと公孫賛が思うほどにはその面目は満たされているであろう。

 そして、民の歓声は怒号と聞き間違うほどになる。金色を身に纏った袁家直属。大戦の英雄麹義将軍である。それは豪華絢爛にして質実堅剛。

「春蘭、どう?」
「は、威容は確かに。ですが、装備の華美さと軍の精強さについては無関係であることをいついかなる時でも証明できましょう」

 ……おいおい、何を物騒なこと言ってるんだ。というのが公孫賛の正直な感想である。

「全く、浪費にもほどがあります。あの金ぴかの悪趣味なこと。
 あれ一つでどれだけの民が救われるか」

 そう言ったのは線の細い少女だ。ネコミミが特徴的な被り物が目を引く。
 吐き捨てる口調になんだか納得できず、思わず口を挟んでしまう。

「そのへんにしといたらどうだ?
 流石にさ。招待された客が口にする言葉じゃあないと思うんだが」

 途端に突き刺さる視線の鋭いこと。こりゃ、嫌われたかな。だがまあ、戦場で匈奴と遣り合うことを思えば屁でもないというものだ。
 薄く笑うと、視線を外す。しかし恐るべきは袁家だ。袁紹と袁術に派閥が分かたれ、対立は深まっているらしいというのに、そんなもの微塵も感じさせない。
 ま、そんな袁家が背後に控えてくれているというのは実際ありがたい限りなのである。

 相変わらず突き刺さる視線を意識の外へ追いやり、席を立つ。そしてこの後の宴席で誰から挨拶するか、話題はどうするかを練り始める。
 なに、袁家精鋭とは幾度も轡を並べたのだ。その頼もしさについては間違いなく来賓の中で一番詳しいのだから。
 見るべきものは見たしな、と思いながら公孫賛は大きく伸びをするのであった。


◆◆◆
465 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 23:03:15.14 ID:IaGcYlo9o
 閲兵式。俺発案、麗羽様プロデュースのイベントは大成功だった。煌(きらび)びやかな衣装に身を包んだ袁家軍の威光は領内に拡散するだろう。阿蘇阿蘇(アソアソ)を通じて広報するしな!

「旦那にするなら兵士がお奨め!頼りになる肉体に本誌記者もメロメロ!」
「意外と稼ぐ正規軍。その収入を分析しちゃうゾ!」
「頼れるあの人の勤め先は……?敵は多い!恋せよ乙女!」

 ……煽り文句考えたの俺だが、疲れる小見出しだわな。まあ、これで装備がぼろぼろの義勇軍への憧れなんかはある程度砕けると思うんだが。うう、後手に回るのがもどかしい!いっそ殲滅してえ!
 まあ、表面上は洛陽に正式に喧嘩を売ったということになるのだろう。ここまで大規模な軍事的イベントを起こしたからには叛意ありと糾弾されても致し方なし。
 その覚悟を見せたわけである。黒山賊対策ということは、彼奴等をけしかけていた洛陽に対する宣戦布告でもあるわけだし。
 まあ、田豊師匠と麹義のねーちゃんの腹が据わってるからね、便乗しないとね。

 などと思っていたらネコミミ少女に絡まれた。なぜだ。あれこれと袁家の施策について駄目出しをしてくる。それはかなり的確だったりするのだが。つーか詳しいなおい。
 まあ、ノーチェックで俺んとこに来れるくらいだからどっかの官僚だか豪族だったりするのだろう。
 だが、足りん。覚悟知識経験人脈地盤看板なにより。袁家に対する理解が足りん。
 袁家は漢朝の藩屏にして北方の防壁。四世三公たる栄華は漢朝のためのものであるのだ。そしてその藩屏を蔑(ないがしろ)にしたのは誰だろうね。
 だから俺はこう答える。

「あー、一言だけいいかい」
「なによ」
「おとといきやがれ」
「……っ!」

 罵倒が浴びせかけられる前にその場を去る。めんどくせえ。何が金の無駄遣いだ。何がその金で民を救えるだ。
 くっだらねえ。
 そんなに民を慈しみたかったら税を永年免除でもしてろっつうの。施しを与えるだけならアホでもできるわ。
 そんなやさぐれた思考の俺に金髪ツインテールが現れた。
 しかも麗羽様と同じく縦ロール。いや、質感からいってドリルかな?実際ドリルの質感はまだまだ乏しい。胸部装甲と比例していて、因果関係について考察してしまう。
466 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 23:04:43.36 ID:IaGcYlo9o
「貴方が紀霊ね」

 まあ、ここに出入りしてるからして彼女もまた何かおえらいさんの係累なんだろうなあ。

「ちょっといいかしら」

 ツラ貸せってことですね。どこの不良ですか。などと言えるはずもなく。まあ、おつきあいしましょうかね。

「紀霊、私は貴方を高く評価しているわ」
「そりゃどうも」

 俺のあからさまに気のない返事に、対面の少女が僅かにイラつく。いかんね。生の感情など交渉の席で見せるものではない。

「袁家では貴方を使いこなせてないようね。思い当たる節があるでしょう?」

 いあいあ。とっとと隠居せねばならんとは思っているがね。まだまだ次期尚早であるのだけんども。

「私なら貴方を活かしてあげられるわ。
 その能力を私のために使いなさい。
 私に仕えなさい」

 なんというカリスマ。まーったくそんな気がなかったのに、多少なりとも心惹かれてしまうというのはどういうことなの。これが英傑というものか。しかしせめて名乗れってばよ。さっきのネコミミもそうだけどさ。自分に自信ある人って自分を知ってて当たり前とか思う傾向が顕著だよね。
 とか考えてた俺に豪奢な救いの女神が!

「あら、二郎さん、華琳さんと何をお話になってるんです?」

 ふむ、つまり目の前の金髪美少女は曹操か。
 って。曹操?なして俺を引き抜きに?ってまあ、曹操って人材コレクターだったか。なんだ袁家の中枢的な人材に声かけただけってことか、わかるわかる。曹操ならやりかねん。
 まあ、麗羽様と美羽様とこれだけ関わって曹操陣営に行ってきますとかありえんけどな。
 大体だよ。曹家なんてブラック勢力で有給どころか休日もないのは先刻ご承知だぜ!俺は袁家で悠々自適の生活するんだからな。と思う俺に麗羽様がだっこしてた美羽様を差し出してくる。

「いーえ、ちょっと引き抜きの打診を受けてですね。
 どうやったら穏便にお断りできるかな、と思ってたんですよ」

 受け取った、託された。
 ふ、あ。と声を上げる美羽様をあやす。ふふふ。残念だったな曹操よ。俺の忠誠は小揺るぎくらいしかしないぜ。だって袁家は超ホワイトだもの!天よ七難八苦から我を避けさせ給え。

「あらあら、華琳さん、二郎さんを持っていかれたら困りますわ。 
 美羽が頼る人がいなくなりますもの」
「袁家の陣容なら、重臣の一人や二人、どうってことはないでしょ?
 名家の余裕を示して欲しいものね」
「ふふ、功臣を放逐するのは余裕とは無縁ですわね。
 全く華琳さんは素直じゃありませんわねえ。
 二郎さんに懸想していると素直に言えばよろしいのに」
「な、何を言うのよ!」
「ごめんなさいね。図星を突いてしまって。
 それでも、二郎さんをお譲りするわけにはいきせんの。
 ご理解くださいな」

 ……俺は子猫かなんかか。あずかり知らないとこで所有権の主張をされてもなあ。
 まあ、いいや。
 取りあえず俺の立ち位置は変わらないみたいだしな。めんどくさそうな場所を離れ、美羽様をあやすことにしよう。

 ……ものほしげな視線の七乃に適当に美羽様の身柄を譲ることにしよう。そうしよう。

 そして俺がネコミミ少女の名を知って悶絶するのはその数日後であった。
 その名は荀ケ。逃がしたわけでもないけど、ディスった魚はこの上なくでかかったー!これ曹操陣営に対して印象最悪じゃないかよ!
 だから七難八苦は誰か他の人にお願いしますって言ったじゃん?自業自得?うるへえ。
 悶える俺を心配してくれても、何とも言えないからね。陳蘭。とりあえずお茶淹れてちょうだいな。
 まあ、俺の奇行とか乱心はいつものことだから話題にのぼることすらなかった。とだけ。
467 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 23:07:20.15 ID:IaGcYlo9o
本日ここまですー

まだ、はおー(笑)です
そしてちょこっと出るだけで全部もってく麗羽様マジ光の女神

副題は 「凡人と閲兵式」かな
いまいちだなあ……

感想とかくだしあー
468 :372 [sage]:2016/04/25(月) 23:23:39.84 ID:ljlgzwMAO

乙です。

感想やりだすと(超)長文になるのでこれだけを。


ウチの便利屋も閲兵式の末席に入れてください。

では。
469 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/25(月) 23:39:44.04 ID:IaGcYlo9o
>>468
超長文でもええんやで(むしろ喜ぶ)

>ウチの便利屋も閲兵式の末席に入れてください。
二郎ちゃんと麹義のねーちゃんが出てるし、田豊師匠の傍で雑用(と言う名の厄介ごと)に追われてるんじゃないかなあと思いますw
無論、望めば多分麹義のねーちゃんの副将クラスの場所を確保できたと思うのですけど、それは避けたいですよねw

あ、麗羽様の斜め後ろで立ってる重鎮ぽい感じのモブだけど、そらそこにいるんやから知恵袋でしょうというポジションはどうですか?

麗羽様が

「あら、髑髏で黒装束……。それも目立たぬように立ってますわね。あれはなんですの?」
「張家の手の者です。畏れ多くも尊きお方に対しては万全の態勢で臨んでいます」
「……お役目、ご苦労。としか言えないのも、もどかしいですわね」
「勿体ないお言葉。励みになります」
「麗羽、と」
「は?」
「袁家としては貴方に報いることはできません。
 そして私個人としては自由になるのは真名のみ。
 ですから真名を預けましょう。
 これまでの勲功、聞いております。そして、これからもよろしくお願いいたしますわ」

どうするどうなるの、私!

投げて唐突に終わる
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/26(火) 12:08:38.73 ID:Mud8Qoq50
乙でしたー
>>464
>>匈奴大戦以来、紀家は袁家で一番声望の高いのだ。
○匈奴大戦以来、紀家は袁家で一番声望が高いのだ。  もしくは 匈奴大戦以来、紀家は袁家で一番声望の高い家なのだ。
>>うん、普段はへらへらしてる男(きれい)も、 わざとならすいません
○うん、普段はへらへらしてる男(紀霊)も、 ひらがなにする理由・・・あったりします?
>>公孫賛が思うほどにはその面目は満たされているであろう。
○公孫賛が思うほどにはその面目は保たれているであろう。  面目は保つか立つモノですね
>>◆◆◆  あくまで個人的な意見ですが場面転換(視点変更)に使うのなら>>464の最後ではなく>>465の最初にした方がいいと思います
>>465
>>煌(きらび)びやかな衣装に身を包んだ袁家軍
○煌(きら)びやかな衣装に身を包んだ袁家軍
>>罵倒が浴びせかけられる前にその場を去る。
○罵倒を浴びせかけられる前にその場を去る。
>> 「あら、二郎さん、華琳さんと何をお話になってるんです?」
>>ふむ、つまり目の前の金髪美少女は曹操か。 外見では判断できずに真名で判断したというのにちょっと違和感があります
麗羽様が話してたんでしょうけど唐突に理解するよりは
>>464しかも麗羽様と同じく縦ロール。いや、質感からいってドリルかな?実際ドリルの質感はまだまだ乏しい。胸部装甲と比例していて、因果関係について考察してしまう。
この部分を しかも麗羽様と同じく縦ロール。いや、質感からいってドリルかな?実際ドリルの質感はまだまだ乏しい。胸部装甲と比例していて、因果関係について考察してしまう。 …はて?何か聞き覚えがあるような のような1文があった方がいいかと思います

公孫賛がしっかりと全体を見てる感じですね
というかこの場にいて冷静でいるあたり地味にレベルアップしてますね。昔の彼女なら自分所と比較して勝手に落ち込んでたでしょうに
それどころか領地を良くするために何をするべきかに思考を巡らせるあたり地味に抜け目ない
それにしても軽く諌めただけで睨まれるとか地味〜に運が悪い?別に普通のこと言っただけなのに、ねえ

ネコミミはなあ、お前の言う救える民ってどこの誰だよ、と。何?お金の無心を遠回りにしてるの?救って欲しいの?って感じだよね
次郎ちゃんが駄目出しがかなり的確って言ってるからその辺はさすが、の一言だけど・・・その先(何故そんな無駄遣いをしてて民たちが疲弊してないか)まで目が行かないあたりまだ経験が足りないですねえ。そんなんだから正史で後々袁家の統治が懐かしいって言われるんだ(無茶振り
はおー様は才を存分に発揮できるって引き抜きに来てるけどぶっちゃけ次郎ちゃんって袁家のマネーパワーとマンパワーと先代の名声があったからこそできたことも多い訳で…多分曹家に入ったらできること少ないと思うな(マジレス
袁家からの貸し出しと言う形ならまだしも引き抜いて後ろ盾無くなると…微妙だよ、凡人だし(多分中の上から上の下位?)

そ し て 麗羽様マジ麗羽様
さらっと美羽を預けたり優雅さが天井知らずだったり、これはカリスマ性で完全にはおーを上回ってますわ。将兵レベルなら互角かもしれないけど人民レベルで圧勝ですわ
471 :372 [sagesaga]:2016/04/26(火) 22:45:50.65 ID:P/yZi2CAO

>>469

当たっているだけに…… >田豊様の側で雑用という名の厄介事処理。

>麹義様の副将ポジ

平時なら丁重に断っております。
小ながら袁家傘下の独立組織を自負してます。
私さんの思考はあくまで 袁家の家来であって、兇奴戦役で共に戦った戦友の家来ではない。です。

>投下ネタ

袁紹様の側仕えですか。 本人は袁家に忠誠心持ってますから、正式な命あらば多分二枚看板以上に 身体張るでしょう。

ただ指摘頂いて気付いたのですが、私さんの立ち位置て端から見るとそうなんですよね。
修正するなら知恵袋というより『経験だけ豊富な護衛武官』と本人本気で思いこんでます。

真名を預けられても、多分麗羽さんに怒られるまで頑なに公私共『袁紹様』で通すでしょう。
つかガチの争奪戦を勝ち抜いて迎えた嫁大好き人間ですwww
浮気やら不倫やらは有り得ません。

向こうでも少し触れてますが、田豊様麹義様とは 兇奴戦役時戦場で同格の戦友です。
ただ、私一族の性質上
『袁を守れ、友を仲間を守れ、民を守れ』
で裏方で死に物狂いで戦ったので、戦後褒賞では 大差が付いてますがそれでも袁中枢と話が出来る立場になれたので満足してます。


……うわ−長文引かれるわーマジ引かれるわーww


どーするどーなるという事は書いて良いです?
つか時間掛かりますけど 書きますよ?(断言)
472 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:07:15.23 ID:4ASalAYao
長文感謝なんだよ

いえね、文章を書くということの煩雑さの方が先に立つと思いますので、本当に感謝感激なのですね。
これからも大歓迎ですだよ


>>471
>平時なら丁重に断っております。
>小ながら袁家傘下の独立組織を自負してます。
>私さんの思考はあくまで 袁家の家来であって、兇奴戦役で共に戦った戦友の家来ではない。です。
私さんのスタンス了解です。

>袁紹様の側仕えですか。 本人は袁家に忠誠心持ってますから、正式な命あらば多分二枚看板以上に 身体張るでしょう。
言葉足らずでした。勢いだけで書くとダメだなやはりw
麗羽様としては、私さんの忠勤に感じるところがあったのですね。
でも、彼女の裁量で待遇をよくするとかはできません。なので、私個人として忠勤を評価してますしこれからもよろしくお願いしますわという意味合いでした。
実際、まだまだ麗羽様も経験不足なので、どう報いたらいいかが分からないのですよね。それが田豊とか麹義と古馴染みのベテランならば。
本当に、自由になるのは自身だけであるというところで、真名を預けるということになったのです。
麗羽様がそんな、細々とした政略とか、しませんよw

まあ、そこらへんの双方のすれ違いとかもアリかなと思いますが、お任せしますw


>修正するなら知恵袋というより『経験だけ豊富な護衛武官』と本人本気で思いこんでます。
経験豊富で、聞いたことに回答があったらそれは知恵袋ですよw

>真名を預けられても、多分麗羽さんに怒られるまで頑なに公私共『袁紹様』で通すでしょう。
間違いなく麗羽様は気にしません。真名を預けて、それをどうするかは相手に委ねる方です。
むしろ、真名ゲットだぜ俺は時期袁家当主とツーカーだぜとかいうのと真逆な謙虚さに評価が鰻登りな可能性がw

>どーするどーなるという事は書いて良いです?
>つか時間掛かりますけど 書きますよ?(断言)
楽しみにしておりますぞ。

詳細のすり合わせは、いつでもどうぞ。
473 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:14:21.82 ID:4ASalAYao
>>470
いつもすまないねえ……
今回多かったなあ

実生活でもケアレスミスの多いこのごろ、いかがお過ごしでしょうか

>この場にいて冷静でいるあたり地味にレベルアップしてますね。昔の彼女なら自分所と比較して勝手に落ち込んでたでしょうに
やはり立場というものが人を成長させるというのかな、と思います
地味に、少しずつ成長していたのが形に現れたのかな、と。

>それにしても軽く諌めただけで睨まれるとか地味〜に運が悪い?別に普通のこと言っただけなのに、ねえ
ほら、地味様には不運がよく似合うw 今回はマジでとばっちりですが

>ネコミミ
ネコミミ好きな方にはちょっと申し訳ない描写かなあと思いながら

>はおー様は才を存分に発揮できるって引き抜きに来てるけどぶっちゃけ次郎ちゃんって袁家のマネーパワーとマンパワーと先代の名声があったからこそできたことも多い訳で…多分曹家に入ったらできること少ないと思うな(マジレス
はい、模範解答です。これ、はおーのとこ行ってもほとんど役に立たないですw

>引き抜いて後ろ盾無くなると…微妙だよ
ブラック君主のパワハラで廃人待ったなしです

>そ し て 麗羽様マジ麗羽様
出したらとりあえず持ってく麗羽様。
これはもう、メインヒロインかもわからんね
474 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:41:00.60 ID:4ASalAYao
 あー、酒呑んでもテンション上がんねー。はい。絶賛やさぐれてる二郎でござる。
 口の悪いネコミミと高飛車なはおーに絡まれて気分は最低ってわけだ。癒しの美羽様も七乃に没収されたしなあ。
 酒席にて、既にあいさつ回りもして一人手酌酒なのだ。俺のかもし出す、どよーんとした空気を察してか近づく者とていないのが救いである。
 などと思っていたのだが。白蓮がいるじゃないか。地味ながらも文武両道で安定感のある得難い人材である。白蓮だからこそ安心して国境防衛を外注できるというものなのだ。
 ふむふむ。見るに、もう一通りの営業は終えて高級料理堪能コースか。とかいつものごとくからかってやろうと思っていたんだが。

「聞かせろよその話」
「なんで?」
「ん?なんとなく」

 どうしてこうなった。からかいに行ったらなぜかやさぐれてる理由を追求されてた。見事な攻守逆転である。まあ、これで気遣ってくれてるんだろう、多分。

「んー、ちょっと面倒なことを仰せつかってよ」
「うん?」

 そう、別に曹家主従と遣り合ったことで落ち込んでいたわけではないのだ。流石にそんなことで鬱るほどメンタル豆腐ではない。

「今度洛陽に行くことになった」

 そう。花の都、魔都洛陽に出張です。やだー。

「へ?そりゃまたなんでだ」
「んー洛陽から使者が来てだな。
 もっと言うと何進大将軍からの使者なんだぜ」
「ちょっと。ちょっと待てよ二郎。それって私に話していいことなのか」

 少し慌て気味の白蓮。別に意趣返しと言う訳じゃないのに。黙って聞いてりゃいいのに義理堅いことである。
 ここまでの話で出た情報の価値に気づいたからであろう狼狽。流石白蓮である。情報と言う見えないものの価値をよく分かっている。

「なに。白蓮と俺との仲だしね、多少はね。」
「まあ、二郎がいいならいいけどさ」

 外注対象の勢力でも公孫は別格。優遇しまくってその勢力を拡大してもらわないといけないのである。

「おうよ、いざっちゅうときは頼むぜ。
 ほんでだ。結論から言うと、何進大将軍と組むことになりそうだ」
「へ?肉屋の倅と袁家が結ぶなんてありえるのか?」

 まあ、そうなるよなあ……。常識的に考えると。

「まあ、交渉次第だけどな。
 あっちは名家の後ろ盾が欲しい。袁家は宮廷への繋がりが欲しい。
 意外と利害が一致しているんだ。
 共通の敵もいるしな」
「十常侍、か」

 大正解でござる。敵の敵は味方、となるかは交渉次第である。俺の肩と胃が耐えられるかどうか。
475 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:41:36.14 ID:4ASalAYao
「そうだ。実際色々仕掛けてきてるしな」

 件(くだん)の義勇軍。あれも武器や当座の資金の流れはどうも洛陽からのようだ。実際その情報の裏取りできた時には割と大騒動だった。ニヤリと笑うねーちゃんとか、卓を叩き割った(素手)田豊師匠とかが怖くて俺はその場から逃げ出したし。

「うーん、妹を差し出して出世しているとか、何進には余りいい噂は聞かないけどなあ」
「だからこそ袁家の声望が欲しいんだろうさ。
 袁家も袁逢様が宮中での出仕ができなかったからな。
 そろそろ工作を仕掛けないといかん」

 何気に中央と疎遠なのよね。そら相互不信になりますわ。

「ん。もしかして麗羽が宮中に出仕するのか?」
「そこまではなんとも言えん。
 が、選択肢の一つではあるな」

腹案もあるのだが、流石に俺の一存では決められるものではないしね。

「それで二郎が洛陽に赴く、と」
「おう、真っ平ごめんなんだけど、ご指名とあらばしゃあない。
 つーか田豊様とねーちゃんに言われたからなあ」

 一度は洛陽を見てこいとか。その一度で背負う任務が重いんですけどぉ!何進を見極めてこいとか無理ぃ!

「うわぁ……」
「まあ、行くのはいいんだけどよ。
 沮授が張紘辺りを同行させようと思ってたら駄目だってさ」

 せっかく交渉とか丸投げしようと思ったのに。勘違いしないでほしい。俺個人の能力は本当に凡人なんだらね。そんなお偉いさんとのネゴシエートとか無理でしょ普通。

「はは、きっちり働けってことか。期待されてるなあ」
「頑張って誰かに振ろうとしたんだけどなあ。猪々子は根回しとか無理だろ。
 斗詩も顔家の当主になったばっかで無理。七乃なんて裏で何するか分からんしな。
 そこそこの重鎮で、身軽に動けるのが俺くらいというわけだ。
 仕事を部下に投げまくるんじゃあなかったかなあ。俺いなくても紀家は回っちゃうのばれてるし」

 くそ!軍務に雷薄、軍政には韓浩とか使える人材がいたのが仇になったか!サボりすぎたか!

「あのなあ、部下に丸投げで組織が回るとか。私からしたら夢物語なんだけど」

 ふはははは、それが袁家の底力というものよー。

「怒るぞ?」

 あら、声に出てたか、サーセン。

◆◆◆
476 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:42:35.85 ID:4ASalAYao
 はあ、洛陽なんて伏魔殿、いきたくねえなあ。十常侍とか全員豆腐の角に頭ぶつけて死ねばいいのに。
 さて、洛陽……というか何進への使者として俺が選ばれたわけだが。

「ううっ、一人は寂しいよー」

 なんと腹心とか相談役とか含めて随員、ゼロ!やったー鉄砲玉だよー。
 というわけではない。
 あくまで袁家と何進が手を組むに当たっての事前交渉。そんな動きはできるだけ悟られない方がいいに決まっている。なので、極秘に洛陽に入るわけだ。

 自然、壮行会とかもひっそりと個別に行われることとなったわけで。つーか個別に挨拶に回ってると言う方が正しいな。

「あらあら、二郎さんらしくありませんわね、そんな弱気なのは」

 今日は麗羽様と抱っこされた美羽様。それに七乃とに会いに来たのだ。

「とは言っても、洛陽なんて魑魅魍魎が住んでそうですしねえ。
 はあ、俺が下手に動いても鴨が葱背負ってるようなもんですよ」
「二郎さんなら大丈夫ですわ。それにまだ前交渉なのでしょう?
 そんなに気負うことはないと思うのですけど」
「いや、そうなんですけど、大体の方向性とか妥協点とかの目安を田豊様に相談しに行ったんですよ。
 そしたら、『好きにしろ』ですよ。丸投げですよ」
「あらあら、お株を奪われましたわね。丸投げされる気持ちが分かったのではなくって?」

 ころころと笑う麗羽様。
 いや、全権委任とか光栄なんだけどプレッシャーが半端ない。がっくりとした俺に美羽様があ、あ、と言いながら手を伸ばしてくる。
 随分と大きくなって、母親譲りで、麗羽様とお揃いである金色の髪も結構長くなってきた。

「あら、美羽は二郎さんが随分お気に入りのようですわね」

 そう言って美羽様を差し出す麗羽様。抱っこすると俺の顔をぺちぺちと叩いてくる。
 うーん、七乃に比べたらそこまで相手できてないんだが、割と懐かれている。何だ、ただの天使か。可愛いのは当然であるな。

 きらきらとした目つきで――真横で――うっとりしている七乃は意識から締め出そう。

 あ、あ、と声を上げる美羽様。言葉を喋るのも近いかもなー。

「じ、ろ」

 はい?

「じ、ろー」

 これはもしかして……。

「ああー。最初に名前を呼んでいただけるのはてっきり私だと思ってたんですけどねー。
 よ、この泥棒猫!妬ましいぞー」
「二郎さん、美羽が応援してくれてるみたいですわよ。
 気合入れないといけませんわね」

 それぞれの言い方で祝ってくれる。なんだろうね、この胸に湧き上がる暖かいものは。いかん、リアクションでけんわ。
 固まる俺の頬を相変わらずぺちぺち叩く美羽様。抱くての力を僅かに強める。

 あー。

 なんだなー。これは頑張らんといかんなー。やべ、泣いちゃいそう。

 フリーズした俺と対照的に美羽様はご機嫌で、ちょっとしたお祝いというかお祭りになったのだった。


 そして洛陽に向かって旅立つのだよ俺は。何か隣に美女がいるけど。いるのだけれども。
477 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/26(火) 23:43:09.57 ID:4ASalAYao
本日ここまでー
感想とかくだしあー
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/26(火) 23:45:56.46 ID:LcM7ZjHKo
乙です
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/27(水) 10:09:53.59 ID:GXgOIKr80
乙でしたー
>>475
>>実際その情報の裏取りできた時には割と大騒動だった。 間違いとは言えませんが
○実際その情報の裏取りができた時には割と大騒動だった。 の方がいいと思います
>>476
>>今日は麗羽様と抱っこされた美羽様。それに七乃とに会いに来たのだ。 ちょっと違和感があるので
○今日は麗羽様と抱っこされた美羽様。それと七乃に会いに来たのだ。
>>抱くての力を僅かに強める。  ては漢字の方がいいと思います
○抱く手の力を僅かに強める。  もしくは 抱く腕の力を僅かに強める。  でしょうか?赤ん坊相手だとどっちかな

なんと、大将軍からの熱い呼び出しですね。白蓮が言うように妹を差し出して伸し上がったお方ですが…冷静に考えたら上の人と家族になって力を増すのって普通じゃね(戦国日本感)?まあ肉屋がいきなり皇帝の家族になるとか周囲からしたら訳わかめですが
そして美羽タンから最初に名前を呼んでもらった、これは元気百倍ですよ。きっとピントになった時にこのことを思い出して切り抜けるんでしょうね(笑)
最後に出てきた隣の美女・・・いったい誰なんだ
480 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/27(水) 22:51:00.63 ID:Ydl0wkJfo
>>479
いつもすまないねぇ……
中々卒業できないでござるよw

>なんと、大将軍からの熱い呼び出しですね。
こっから話のスケールが大きくなっていく。はず。

>そして美羽タンから最初に名前を呼んでもらった、これは元気百倍ですよ。きっとピンチになった時にこのことを思い出して切り抜けるんでしょうね(笑)
はいw
そらもう元気百倍ですよ。

>最後に出てきた隣の美女・・・いったい誰なんだ
特に意味のない引きですw
すぐに明らかになりまするるる
481 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/27(水) 22:53:22.05 ID:Ydl0wkJfo
 というわけで旅の空な俺である。蒼天には雲一つなく、爽やかな風も相まって気分は上々。そりゃ鼻歌の一つも出ようものだ。

「あら、聞かない旋律ね。どこの地方の歌なのかしら」
「んー、何かどっかで耳にしただけだからわかんね」

 ちなみに、俺に護衛を付けるとか色々調整があったのだが。隠密行動ということで却下。むしろ俺はとある人物の護衛として洛陽に向かっている。そう、横にいる美女のことだ。

「そう、耳にしたことのない旋律だったから、思い出したら教えてちょうだいね」
「へいへい」
 
 そら二千年くらい後の、海の向こうの流行曲なんて耳にしてたらびびるわ。一瞬、自作とか言おうかとも思ったけど、そんなこと言ったら余計ややこしくなるなあ、と。
 ちなみにこの人物は蔡邑。洛陽から来た何進の使者だ。これも表向きには袁家の書庫に学びに来たということになっている。この時代トップクラスの文化人ということで、軽く講演会やらもしてもらったりしていた。
 俺?そういうの向いてないからねえ。詩歌とかさらりと詠める人はすごいと尊敬なのです。俺はあれよ、パトロンで十分。
 閑話休題(それはさておき)。蔡邑が妙齢の女性ということにはもう、驚きなどなかった。そういうもんなんだろう。
 本来庶人出の何進に従うような義理はないんだが、強く乞われたのと、十常侍の専横を見逃すこともできぬ。そういうところらしい。

 ……道程はそろそろ袁家領内を出るあたり。護衛と言っても賊が出るでもなく、あれこれ駄弁っているだけである。
 いや、しかし流石に頭いいわこの人。ぽろっと口走る言葉を拾う、拾う。うかつなこと言えんのよ。まあ、勉強になるからいいけどな!それに、洛陽の内実とか色々教えてもらってる。

「しっかし、売官ねえ……。そこまでやっちゃうかー」
「困ったことでしょ?」
「んー、実権ある地位まで売っちゃうのはなあ」

 売官。文字通り官位を売ることである。財政が困窮した時に名誉職なんかを売りに出して国庫の充足とするわけだ。
 実は俺はこれ自体はアリだと思っている。人間、富を得たら次は名誉と決まってるからな。富の再分配という意味でも有効だ。勲章ほしさに納税してくれるならまさにwin-winなのだ。
 ただし、これが実権のある地位となると話は別だ。三公とかまでいかなくても、普通に地方の徴税官でもえらいことになる。名誉のためじゃあなく、実利のために地位を得るのだから、そりゃ国土も荒れるわ。そら、費やした経費を回収するために搾取しますわ。

「そうね。まずはそこかしら……」

 何進自体の能力は知らんが、蔡邑をはじめ中々優秀なブレーンが付いてるみたいである。やっぱり宦官はクソだな。お掃除しなきゃ。使命感じみたものを感じる俺なのだ。

「組織が腐る時は上からだかんなー。精々、何進大将軍様には頑張ってもらわんとなー」
「袁家の後援も期待していいのかしら」
「まー、そだね。大筋では持ちつ持たれつでいきたいものだね」
「ふふ、ここで先走っても仕方ないものね。でも、正直肩の荷が下りた思いよ」

 まあ、重そうなものを身に付けてらっしゃいますからなあ。肩が凝るらしいですねえ。チラ見でもその豊満さは中々のもの。重力に抗い、揺れるそれはまさに漢王朝の今を示唆しているようだ。

「いやいや、実際袁家でもあんたの評判はよかったみたいだぜ?」
「ありがとう。でも余り交渉ごととかは向いてないのだけれど」
「大丈夫、多分俺もっと向いてないから」

 棍棒外交とか圧迫面接とかしか最近やってないしな!

 それはそうと、何進については予備知識があんまないんだよね。流石洛陽は既に商流がきっちりしてて、母流龍九商会が食い込むことはできなかった。つまり情報網も無きに等しいのが実際のところだ。
482 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/27(水) 22:53:57.37 ID:Ydl0wkJfo
 閑話休題(それはさておき)、袁家領内を出て思う。これはまずいと。

 思ったより荒れている。賊の噂もそこかしこ。それでも飢餓の影が見えないのは農徳新書の拡散の成果だと信じたい。
「いざ、というときは守ってくれるのでしょう?」
「おうよ、こう見えても袁家でも三本の指に……いや、五本……、うん、十本の指には入るぞ!」

 自分で言っててなんだろう、微妙?
 だって、猪々子だろ、斗詩だろ。まずここがぱっと浮かぶよな。なんだかんだで田豊様や麹義のねーちゃんにもかなう気がしない。そして張紘の護衛兼秘書兼恋人な赤楽さんにも勝てないね。うん、素ではこんなもんか。凪にはまだ勝てる。はず。多分きっとメイビー。
 武家の跡取りとはなんだったのか。いいもん、三尖刀発動したら多分三本の指には入るもん!
 ……そら蔡邑も苦笑するわ。
 話を変えよう。売官とか。考えれば考えるほどこれがアカン。この制度が続く限り漢朝は緩やかに壊死していくだろう。公的機関のトップや重鎮が、私腹を肥やすために経歴とか関係なく就任したらどうなるか。
 うわあ。職務遂行の能力や経験がないだけでなく、悪意を持って権限を行使したら……。こわや、こわや……。

 だがしかし。正直、宦官の腐敗に対する策がないのよな。宦官を敵視する士大夫層なんだがね。時系列で言えばまずこいつらが腐ったのだ。
 そのため、宦官が官僚のような役割をして後漢王朝の運営をしてたのよな。が、その宦官も腐ってきた。これに対する自浄作用がないのが今の後漢王朝の問題だな。

「上善は水の如しと言うが、水ですら一つのところにあると腐る。
 いわんや人間をや、だな」
「あら、若いのに達観してるのね」

 うるへー。中の人の実年齢考えたら妥当なんだってば。

「茶化すなよ。んで、宮中は俺の諧謔をせせら笑うほど清冽と思っていいんだろうな」
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったのよ。多分、貴方が思うよりひどいわ」

 マジか。マジなんだろうなあ。なんてこったい。

「……やれやれ、だぜ」

 袁家領内は食料増産も順調で景気もいい。だが、外部の不確定要素がどんどこ膨らんでくる。食料が潤沢と言っても流石に袁家領内の生産で中華全体の人口を養うことはできないしなあ。
 やっぱり何進と組むしかない……のかなあ。まあ、考えてもしゃあない。ばっくりと出たとこ勝負。とりあえずの戦略目標は宦官誅滅。世の為人の為になって俺も嬉しい大目標
 やってみせましょそれなりに。
483 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/27(水) 22:54:49.87 ID:Ydl0wkJfo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

タイトル案
凡人と同伴
凡人、洛陽へのおつかい

なんかいまいちー
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/27(水) 23:02:00.12 ID:ttE3pR6Zo
乙です
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/27(水) 23:04:19.31 ID:5QHTaneqO
前交渉でも婚前交渉は得意なのにね
486 :372 [sage]:2016/04/27(水) 23:30:30.57 ID:44a7EiAAO

乙です。

まずはタイトル案

「凡人と同行二人」

「凡人、新たなる才華と 魔都潜行の途に」


同行二人は用法を完全に間違えてますがイメージで。

天下りも売官も何が困るって国庫に集る白蟻化する事。
紀霊さんの分析が見事過ぎwwwwww


リアルで政治屋と絡む稼業なので、士太夫と宦官の分析は現在政界に嵌り過ぎて……ワロエナイ


主人公補正と実戦経験が 多分荒事で生きると、
勝手に想像。
つか袁武官の上位と渡り合えたら賊位は何とかなるでしょう。
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/28(木) 11:03:15.19 ID:9qq0WBWv0
乙でしたー
蔡邑さんと実のある話ができるとは…この凡人成長してやがる
今回も誤字は見当たらず
タイトル案は【凡人、首都へ向かう】シンプルすぎかな

この後珍道中になるのかさっさと首都に到着するのか…ところで今って二人きりですよね?賊の警戒的な意味で二郎ちゃん休めるのかな。蔡邑さん文官タイプだし
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 21:24:01.05 ID:pHvrootRO
タイトル案 「凡人、はじめてのおつかい」
後ろからこっそり張家の人たちが付いていってます
489 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/28(木) 23:35:57.87 ID:hMV6n9rPo
>>485
>前交渉でも婚前交渉は得意なのにね
このキレよ。このセンスには脱帽というか妬ましいんだよ


>>486
>天下りも売官も何が困るって国庫に集る白蟻化する事。紀霊さんの分析が見事過ぎw
貴方の言葉が重すぎですw

>リアルで政治屋と絡む稼業なので、士太夫と宦官の分析は現在政界に嵌り過ぎて……ワロエナイ
いやまあ、歴史は繰り返すものなのですが……
本来自浄作用の一助となるマスメディアがマスゴミとなりつつある昨今。日本の明日はどっちだ

>主人公補正と実戦経験が 多分荒事で生きると、
※主人公補正なるものは、ないですw

>>487
>蔡邑さんと実のある話ができるとは…この凡人成長してやがる
まあ、多分に蔡邑さんの接待的な気遣いあってのことだとは思いますが。思いますが。

>今回も誤字は見当たらず
やったぜ

>この後珍道中になるのかさっさと首都に到着するのか…
衝撃の展開はこの後すぐ!

>>488
>タイトル案 「凡人、はじめてのおつかい」
採用

>後ろからこっそり張家の人たちが付いていってます
いるかもしれないし、いないかもしれない
これは微妙なラインw
公式見解はなしでw

あくまで張家は袁家領内の諜報……とかいうのがブラフという線もありえるしなー
490 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/28(木) 23:38:50.17 ID:hMV6n9rPo
「寄り道?できれば真っ直ぐ洛陽を目指したいのだけど」
「まあ、固いこと言いっこなしってことで。
 それにこっちの道を通った方が治安がいい。
 護衛としてはお姫様の安全を第一に考えたいわけよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。
 いいわ、のせられてあげましょう」
「まあ、単純な距離ではちょっと遠回りになるけどさ。
 安全第一ちゅうことで」
「はいはい、頼りになる護衛の言うことは聞くわよ」

実際、そろそろ賊も出没するエリアにさしかかるのだ。俺一人なら賊の百人くらいならどうとでもなるが、お姫様がいるからなあ。
そして、選んだルートには曹操の勢力下にある陳留があるのだ。今はまだ県令という地位であるが、水面下で陳留の太守となるべく動いているらしい。流石の行動力である。

曹操。

俺が思うに、三国志最大の英雄である。文武に優れ、人材を愛し、漢王朝から魏へと時代を切り開いた英傑。ゲームのパラメータでも確か武力以外95越えの化物だったはずだ。
だが、その恐るべきはその不屈さではないだろうか。覇気と言ってもいい。
幾度も挫折しながら立ち上がるその心の強さこそが曹操の最大の強みだ。
スペックの高さもすげえけどな!

……袁家に引導を渡した曹操であるが、俺は実のところそこまで警戒はしていない。曹操を評した言葉で有名なのは「乱世の姦雄、治世の能臣」というのがある。要は、乱世にしなきゃあいいのである。
実際、人生の途中まで漢王朝のエリートコースを歩いてたしな。宦官の権力が半端ない宮中で、超えらい宦官OBを祖父に持つ曹操の前途は明るかったはずだ。
無茶もしたようだが、それしきでは排除されないという計算もあったはずである。
袁紹(麗羽様ではない、念のため)が宦官皆殺しを図った時に、権力を与えず使い潰すべきと言ったようなエピソードもあったはずだ。それは出自と無関係ではないだろう。
宦官が一掃された時に、漢王朝内部での地歩がリセットされてしまったと考えていいだろう。
出自で侮られ、係累以外に譜代の臣がいない曹操にとって宦官の人脈が使えなくなるというのは悪夢に等しいというのは想像に難くない。

まあ、なんだ。

ばっくり言うと、黄巾の乱で漢王朝の権威が落ちなけりゃいいのだ。そうすりゃ、宦官の大粛清も起こらず、勝手に出世するはずだ。宮中で出世し、世が治まってたら別に簒奪とか考えないだろうさ。
実際、生きている間は漢王朝の臣下であることを貫いたしな。
袁家は北方で匈奴に備え、曹操は宮中で政を司る。それが俺の描く絵図。やる気も能力もある人物がいるのなら任せてしまえばいいのさ。
うむ、やはりとにもかくにも国土を荒らさず、飢えた民を出さない。流民を出さない。つきつめればまあ、宮中の自浄能力を活性化、或いは発生させれば全て解決だ。
俺のお気楽隠居ライフのためにもな!

「随分と曹操を評価してるのね」
「まあなー。仕えようとは思わんけどな」

絶賛ブラックベンチャー勢力である。そんな過労死しそうな職場やだやだ。
まあ、袁家以外に仕える気もないしね。袁家あっての俺の地位だというのは俺が一番よく理解しているのだ。豊富な資金に有能な官僚機構。それがあるから俺のてきとーな思い付きでも上手く回るのだ。ほんと。
 などと考えながら俺たちは陳留の城門をくぐったのである。
491 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/28(木) 23:39:26.06 ID:hMV6n9rPo
◆◆◆

「ほえほえふにらー、のっぴょぴょーん」

へべれけな俺は言い紀文で鼻唄を歌いながら夜明け間近な陳留の町を歩く。久々の町ということでちょっとはしゃいで痛飲してしまったのよね。蔡邑も誘ったんだが、さらりとかわされてしまった。

まあ、情報収集と言えば酒場と相場は決まっている。適当に飲んで騒いで、同席した奴らに奢れば口も軽くなるっちゅうことで。ベタだけど、有効なのよな。

結果。
想像通り曹操は為政者として優秀でした。やったー。っちゅうか、あのネコミミこと荀ケもいるしなあ。流石は王佐というところか。
はっきり言って陳留の町は活気に溢れていた。昨日より今日、今日より明日がきっと豊かになる。そんな健全な人間の欲望、向上心が溢れていた。
袁家の施政のいいとこをきっちり模倣しながらブラッシュアップしてるのは流石と言うべきか。民からも怖れられつつも慕われている。
そんな感じだったなあ。いや、お見事である。これで太守じゃないんだから一体どうなってるんだよって感じ。いやむしろ既に太守を籠絡しているのかな……。曹操ならありえるなあ。

そんなことを酔っ払った頭でぼんやりと考えながら。鼻唄を歌いながらふらふらと歩く俺に、大量の水が降ってきた。
ぎゃー!
「きゃ、ご、ごめんなさいー!」

いやあ、呪泉郷で溺れたことがなくてよかった。じゃなくて。

「あ、あの、大丈夫ですか……?」

声の主――つまり下手人が慌てて駆け寄ってくる。
お前かー!と、怒ろうとしたのだが。

「あの、申し訳ありませんでした…」

うーん。駆け寄る幼女と手に持つ桶の巨大さがアンバランスである。心底申し訳なさそうな表情に怒りも霧散する。幼女を怒鳴りつけて悦に入る趣味はない。

「ええと、とりあえず何か拭くもの、もらえる?」
「あ、はい、こちらにどうぞ!」

幼女に先導されて建物の裏口から入る。ちょっとお邪魔しますよ、と。

「と、とりあえずこれをお使いください」
「ほいさ」

タオル的な布を渡され、上半身の衣服を脱ぎ、水を拭う。ついでに服を搾る。じゃばじゃば、と。

「本当にすみませんでした!」

ぺこりと頭を下げる幼女。ほんと。これを更に責めるほど嗜虐趣味はない。

「いいって。これくらいでどうこうなるほどヤワじゃない」
「で、でも大変なご無礼を……」

おろおろとこちらを見やる幼女。まあ、何か言ってあげたほうが心も落ち着くかな。

「んー、ここって見たとこ飯屋だろ?
 じゃあ、なんか軽く腹に入れるものもらえる?
 さっきまで呑んでてさ、ちょっと小腹が空いてるんだわ」

きょとんとした幼女。おそるおそると言った風で聞いてくる。

「あの、賄い程度の簡単なものしかお出しできませんけど、よろしいでしょうか……?」
「いーよ、それでまあ、貸し借りなしってことで」
「は、はいっ!お待ちください!」

軽やかに身を翻し、厨房らしきところに駆けて行く幼女。元気だねえ。
ああいう幼女が元気に暮らせているここ陳留はやはりよく治まっているのだろうな。そんなことをぼんやり考えていると、幼女が料理を持ってきた。ふむ、呑んだ後には嬉しい雑炊だ。いやあ、いい匂い。
一口、口に含む。
これは。

「う、ま、い、ぞー!」
「ひっ?」
「大胆で繊細な深い味わいっ!素材が、素材が口の中で踊っているっ!
 これぞ中華の食の文化の神秘……!
 うまい、限りなく、旨い!
 申し分なし、手を合わせ、言おう。
 ご馳走様!」
「は、はあ。お粗末様でした…?」

思わず出た味皇節にそりゃ幼女もドン引きである。
492 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/28(木) 23:41:40.98 ID:hMV6n9rPo
 こほん。わざとらしい咳払いをして俺は改めて礼を言う。

「いや、美味しかったよ。ほんと」
「いえ、そんな大したものでは……」
「いやいや、これが賄いだなんて信じられんよ。これなら南皮の店で出しても客が呼べるぞ」

俺の言葉に嬉しそうに微笑む幼女。

「えへ、そう言っていただけると、嬉しいです。
 私、自分のお店を開くのが夢なんです。
 今はまだ、このお店で下働きなんですけど。
 少しずつお金を貯めて、まずは屋台でお料理を出したいなって」
「ほほう……」

なんともしっかりとした将来設計だ。しっかりしてるなー。

「と言っても。まだまだ、目標の金額は遠いですけどね」

てへへ、と笑いながら頭を掻く。

「んー、この味が出せるならきっとその夢は叶うさ。
 少なくとも俺は応援してるよ」
「ありがとうございます!」

満面の笑みだ。可愛いのう。うんうん、頑張れ。

「そしたら、これ代金な。美味しかったよ」
「え?いただけません……それもこんなに!」
「いいのいいの、そんだけ美味しかったっちゅうことだから。
 それに、その腕でお金を稼ぐんだろ?安売りしちゃいかんって」
「それでも、これは多すぎます!」

律儀ないい子だねえ。まあ、雑炊一杯にしては合わないかもしれんけど……。

「じゃあさ、いずれ出すお店に絶対行くからさ。
 その時のお代の前払いっちゅうことで。
 楽しみにしてるぜ?」

にやりと笑ってぽむぽむと頭を叩く。何か色々考えている風なのをいいことに立ち去ろうとする。

「あ、あの!
 それでしたら、きっと来てくださいね!」
「ああ、贔屓にするよん」

ほんじゃね、と歩き出す。

「あの!名前、お名前伺っていいですか!」
「んー、二郎って覚えといてー」

なんという偽名っぽい適当な名前だ。だが真名である。

「あの、私、典韋っていいます!流琉って呼んでください!」

なん……だと……?混乱したまま、俺はその場を後にする流琉を見送るのだった……。
 見送るのだった。
え?
え?
えええ?

あ、悪来……だと……。
493 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/28(木) 23:43:48.89 ID:hMV6n9rPo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

タイトル案は「凡人の寄り道」
或いは「細腕繁盛記:起」

そんなとこかな
流琉とか凪の手料理食べてみたいのう……

それと、以前と違って長期休暇に実家に帰る必要なくなったので普通に更新がんばりますん
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/29(金) 00:00:28.17 ID:jgoYOsewO
> のっぴょぴょーん
元ネタがBD-BOXになるらしい

> 流琉とか凪の手料理食べてみたいのう……
流琉はともかく凪の手料理はちょっと

> それと、以前と違って長期休暇に実家に帰る必要なくなったので普通に更新がんばりますん
連休中集中連続更新の予告ですねww
495 :372 [sage]:2016/04/29(金) 09:36:43.46 ID:plKEW6oAO

乙です。

>俺一人なら賊の百人云々

……ですよねwwwwww
主人公補正無しでも十分強いという。

>袁が北辺を守り、曹が政を司る。
ほう。緩やかな連合で漢朝を支えると。
面白いです。


私も凪さんの料理は回避したいです(真顔)

長期休暇……今年は在って無いですね。
普段が端から見ると遊んでいるように見えているから、釣り合い取れてますな(自嘲)
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/29(金) 15:56:35.62 ID:3ef0ETLqO
タイトル案「凡人、道草を食う」

凪の手料理が不人気なためいっちーの
「なんでやー」と叫んでる姿が見えたw
497 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/29(金) 22:42:12.08 ID:fD9ddbeAo
最近とみに人生が辛いです
早くお金貯めて隠居したいものです

>>494
>元ネタがBD-BOXになるらしい
視聴率はよかったけどスポンサーが見つからなかったらしいっすねw
まあ、あの作品についてはいつかオフ会で語り合うことにしましょう(オフ会があるとは言ってない)

>流琉はともかく凪の手料理はちょっと
屋上

>>495
>ほう。緩やかな連合で漢朝を支えると
わりとしっくりくると思います

>私も凪さんの料理は回避したいです(真顔)
ちょ、待てよ!
よし、凪の手料理を食いたくなるようにしてやるぞ!
俺はやるぜ!

>長期休暇……今年は在って無いですね。
愚痴なりなんなりどんどこ書いてくださいませ
参考になりますし、勉強になりますし
そういう活きた、貴重な情報とか問題って公開されることはまずないので。


>>496
>タイトル案「凡人、道草を食う」
さてはて、その草は甘いか苦いか
いいタイトルだなあと。何もなかったらこれ採用になるかもです


>凪の手料理が不人気なためいっちーの「なんでやー」と叫んでる姿が見えたw
こっから凪のターンやで!
多分6月くらいかな
498 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/29(金) 22:45:32.71 ID:fD9ddbeAo
さて、一眠りした後遅めの朝食……というより、早めの昼飯を食いに俺は宿から出た。蔡邑は宿で済ませるそうだ。
まあ、それなりにハードな旅路だったし今後もそうなるだろうから、数日は陳留で休養するつもりだ。
曹操という人物についてこれまで結構放置してたしな。これを機にあれこれ調べるとしようかな、と思っている。
まー、それはそうと腹ごしらえっと。流琉につくってもらった雑炊はものっそい旨かった。あれが賄いなのだとしたら、きちんと定番商品にも期待ができますねえ。
たしかここいらへんだったと思うんだが。

おお、結構繁盛してるじゃないか。行列まではいかないが、満席に近い。お、流琉いるじゃん。

「やほー。早速きたよー」
「あ、二郎さま、いらっしゃいませ!
 なんになさいますか?」

元気だねえ。

「んー、流琉に任せるわ。品数は多い方がいいかな。
 ほんでご飯は大盛り。
 そんで酒を付けてくれや
 高くついてもいいから、美味しいとこ頼むわ」
「は、はいっ!わかりました!」

運ばれてきた料理は、まあ、こんなもんか。というもの。流琉がメインで造ってないからかな?美味しいけどまあ、それなり的な。
しかし流琉はよく働くなあ。給仕メインだが、厨房も手伝ってる。客の目も温かい。まさに看板娘だな。

勘定を払いながら亭主と話をする。

「よく働くいい子じゃあないか」
「へえ、つい一月前に拾ったんですけどね。
 今や看板娘ですよ」
「拾った?」
「ええ、さいで。着の身着のままでうちの裏口にうずくまってたんでさあ。
 叩き出そうと思ったんですけどね、『なんでもしますからここに置いてください!』
 ってね。
 私らも鬼じゃあないんで、試しに働かせてみたら、働くのなんのって」

けらけらと笑う亭主。まあ、よくある話なんだろう。試しに働かせるというだけでも温情のある話だ。
つまり、流琉は流民同然……というか流民そのものだったというわけだな。小遣い程度とはいえ、給金すら出してくれるこの店に拾われたのは彼女にとって僥倖だったろう。

「ふむ……。流民か。増えてるのかな?」
「うーん、そうですねえ。北西から来るのが最近増えてますねえ。
 やっぱり重税が課せられるとねえ」

……ここにも売官の影響がありやがるか。くそったれ。

「そっか、あんがとな。これ、お勘定」
「へ、だ、旦那、これはちょっと多すぎると思うんですが……」
「あの子を夜まで借りてく。手間賃考えたらそんなもんだろ」

探るような視線を向けてくる。

「……旦那。旦那なら変なことしねえでしょうや。
 まあ、あの子もそろそろ休みを取ってもいい頃でさあ。
 おーい、典韋!こっちおいで!」
「はーい、ただいま!」

駆け寄る流琉に色々話す主。流琉はちょっと驚いた顔で俺を見る。にかり、と笑いかけると、満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。

「さ、いくか」
「はい、二郎さま!」
499 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/29(金) 22:46:57.44 ID:fD9ddbeAo
◆◆◆

「ええと、二郎さまを案内しろって言われたんですけど、どんな所にご案内すればいいですか?」

流琉が尋ねてくる。

「そだね。とりあえず市場かな。ほんでまあ、そっからは適当だな」
「はいっ!まずは市場ですね。こちらです!」

元気だねえ。あちこち飛び回る流琉とはぐれないように手を繋ぐ。

「あ……」
「結構な人がいるからな。まあ、まったり行こうや」
「は、はい」

一時大人しくなった流琉だが、すぐにあれこれとおしゃべりを始める。昨日は大根が安かっただの、こないだはろくに血抜きもされてない肉を掴まされかけただの。
一生懸命にあれこれ伝えてくる流琉はとても生き生きとしていた。
んー、なんだか麗羽様のちっこいときを思い出すなあ。

「お肉はここがお買い得なんです。特に羊です!たまに脂身をおまけしてくれるんです!」
「ここのお野菜はいつも新鮮です!でもちょっと遠いんですよねえ」
「お塩や油なんかはここでいつも買います。ふふ、あのお姉さん二郎様を見てるでしょ。
 この間お見合いで断られちゃったらしくって焦ってるらしいんですよ」

あっちこっちへ俺を連れまわす流琉。なるほど。活気がある。中々に治まってるねえ。

「あー、踊り子さんが踊ってるー。珍しいなあ。
 あー、やっぱり混んでるなあ。見えないかー」

呼び込みの声に反応した流琉。精一杯背伸びしたりぴょんぴょん跳ねる流琉。

「んー、見たいならこうすりゃいいだろ」

そう言って俺は流琉を抱え上げて肩車する。
スカートならば躊躇したけどね。スパッツ的な衣装だからね。大丈夫よ色々。

「ひゃ?二郎さま?」
「ほら、これなら見えるだろう」
「あ、わ、あ、ほんとだ!」

演目がひと段落するまでそのまま待機である。
500 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/29(金) 22:47:54.35 ID:fD9ddbeAo
「あ、ご、ごめんなさい!二郎さまを案内しないといけなかったのに!」

慌てて謝ってくる。

「いいって、色々勉強になったわ」
「は、す、すみません…」

何でかしょんぼりとする流琉。

「いや、本当に助かったんだって。
 よし、お礼に何か買ってあげよう」
「え。え?」

混乱している流琉を引きずって小物屋であれこれ見渡す。うーん。今青色のリボンで髪括ってるから違う色……汚れにくい黒でいっか。それと蝶を模した飾りのついた髪留めをぱぱっと買ってやる。

「え、そ、そんな頂けないですこんな……」
「いや、俺陳留は初めてだかんな。それに実は方向音痴なんだわ俺って。
 だからさ。案内してくれて助かったよ。これはその正当な報酬ってわけだ。
 自分の仕事にはきっちり対価をもらわんといかんぞ?」
「う、うー」

軽く笑いかけながらさて、と思う。この子があの悪来典韋なのかどうかは分からん。
が、できることなら引っ張ってきたいとこだな。料理の腕だけでもお持ち帰りの価値はある。

そんなことを考えながらどう切り出したもんかと頭を捻るのだった。

「んで、屋台とかお店ってどこらへんに開くつもりなの?
 陳留?」

まあ、特に会話の導入が思いつかなかったのでずばり聞いてみる。こだわりないならテイクアウトしようそうしよう。

「いえ、違います。えっと……」

流琉が口に出した町は陳留から北西の方向にあった。

「どうしてもそこ、というわけではないんですけど、そこらへんかなあって」
「故郷なの?」
「いえ、違います。その町でその、友達と生き別れてしまって。
 だから、その辺りでお店を出して、有名になったら会えるかな、って……。
 その、食いしん坊な友達だったので、そうしたら会えるかな、って……」

どこか儚げな笑みを浮かべる。恐らく、薄々覚悟はしているのだろう。……幼女が一人で生きていけるような甘い時代じゃあない。
それでも、前を向いて歩こうとするその姿はとても尊いものだと思う。その気概は美しいと思う。厳しい現実に相対し、それでも上を向く。その姿勢にあの人を重ねてしまう。
 朗らかで、優しくて、前向きだったあの人を。

「そっか。会えると、見つかるといいな……」
「はい……」

いかん、これじゃ流琉も俺も気分的に沈む一方じゃんかよ。

「そうさな。もし、友達と会えたら南皮においでな」
「は、はい」

このまま流琉をテイクアウトする気満々だったんだけど。彼女が追い求めるその夢を応援したいな、と思ったのである。
501 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/29(金) 22:48:31.36 ID:fD9ddbeAo
人材登用失敗の回です

本日ここまで―
感想とかくだしあー
502 :372 [sage]:2016/04/30(土) 00:09:01.94 ID:jgIuuQjAO

乙です。

まずは>>497感謝です。
どこまで出せるかは正直 微妙な問題もありますのでお察し下さいましm(_ _)m

人材登用失敗。そうかなあ?
紀霊さんにしたら、典偉さんの目的を優先しただけで完全に縁が切れた訳でも無し。
第一はっきりと「家(紀家もしくは袁家)で働いておくれ」
と言って断られた訳でも無し。

後途中の回想、少し切なくなりました。
彼女も料理上手でした。 九泉の下にて、神仏相手に料理を振る舞いながら 紀霊さんを見守っているでしょうね。


凪さんの料理自体がダメというのではなく、激辛がダメという話ですよ
>一ノ瀬さんが「なんでや!」@凪さん料理不評

逆に陳蘭さんの為に将来 先生役連れてこないと、 無意識下で紀霊さん陳蘭さんの料理に対する不満が積もっている感があります。

503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/30(土) 10:32:05.81 ID:qHKgvy+50
乙でしたー
更新速度が・・・上がってる!?
>>490
>>だが、その恐るべきはその不屈さではないだろうか。
○だが、恐るべきはその不屈さではないだろうか。 もしくは だが、真に恐るべきはその不屈さではないだろうか。 あたりでしょうか?
>>曹操を評した言葉で有名なのは「乱世の姦雄、治世の能臣」というのがある。
○曹操を評した言葉で有名なものに「乱世の姦雄、治世の能臣」というのがある。 もしくは 曹操を評した言葉で有名なのは「乱世の姦雄、治世の能臣」である。 あたりでしょうか?
>>491
>>へべれけな俺は言い紀文で鼻唄を歌いながら夜明け間近な陳留の町を歩く。
○へべれけな俺は良い気分で鼻唄を歌いながら夜明け間近な陳留の町を歩く。
>>492
>>俺はその場を後にする流琉を見送るのだった……。 間違いだったらすいませんがこれって料理を食べ終わって店の入り口付近で話してるんですよね?その場を後にするのは次郎ちゃんの方なんじゃあ?もちろん食器やら何やらの後片付けに厨房の方に戻ることも考えられますが流琉なら次郎がいなくなるまで見送ってそうなイメージがあります
○俺は呆然としながらその場を後にするのだった……。 状況的にはこっちの方がいいような気がします
>> 見送るのだった。 という事で上の通りだとしたらですが
○ 後にするのだった。 でいい・・・のかな?自信はありません

ところで流琉は幼女なの?少女でなくて・・・まあ次に再会した時には少女になってるのかな
マンパワーがまだまだだし三羽烏も取られちゃった曹操軍は正史よりもブラックっぷりに磨きがかかってるんだよなあカワイソス
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/30(土) 11:15:21.90 ID:qHKgvy+50
乙でしたー
続きをぺたぺた
>>498
>>きちんと定番商品にも期待ができますねえ。
○きちんとした定番商品にも期待ができますねえ。  あと飯屋なんだし きちんとした定番料理にも期待ができますねえ。 の方がいいかもしれません
>>流琉がメインで造ってないからかな? 造るは基本的に大規模なもの(造城、造園など)に使う漢字で作るが小規模なもの(作画、絵本作家など)なので
○流琉がメインで作ってないからかな? の方がいいと思います
>>499
>>呼び込みの声に反応した流琉。精一杯背伸びしたりぴょんぴょん跳ねる流琉。  2回名前を呼ぶのは何か・・・こう・・・二郎がロリコンっぽく感じるので(偏見)
○呼び込みの声に反応して精一杯背伸びしたりぴょんぴょん跳ねる流琉。  の方がいいかな、と思います

ふうむ・・・家族の事を探してるわけではない+友人とはぐれたのは故郷ではない+北西からの流民が増えてる+お店を開こうとしてるのは北西の町
これはなかなかのハードモード人生を送ってる幼女ですね。さらにここに
当時は町と町がかなり離れている+一人で店の裏口でうずくまっていた…よくこんな素直なままでいられたと感心するレベルだね
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 14:39:44.30 ID:mSMy2haLO
タイトル案「凡人、幼女を肩車する。」

「凡人、幼女を肩車してその感触を愉しむ」にしたかったけどあんまりなので
506 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 20:24:21.80 ID:6H5nVSbeo
>>502
>どこまで出せるかは正直 微妙な問題もありますのでお察し下さいましm(_ _)m
場末ではありますが、身バレ警戒当然のことです。
慎重に、ご慎重に。

>第一はっきりと「家(紀家もしくは袁家)で働いておくれ」と言って断られた訳でも無し。
言い出すこともできませんでしたしねw

>後途中の回想、少し切なくなりました。
やはり重ねてしまうのです。
忘れたわけではないので。

>凪さんの料理自体がダメというのではなく、激辛がダメという話ですよ
そこなんですよねw
ま、ご期待ください

>>503
>更新速度が・・・上がってる!?
仕事がどうにも激務で。
余裕のあるうちにやっとかんといかんなという。

>ところで流琉は幼女なの?少女でなくて・・・まあ次に再会した時には少女になってるのかな
解釈難しいとこなんですけどね。流琉はロリでしょ?となるとそういう表現かなあと。
精神面含めてカテゴライズしております。
美熟女、美女、美少女、美幼女
このカテゴリだと幼女枠かなあと。まあ、色んな都合上成人しているのは間違いないはずなんですが

>ふうむ・・・家族の事を探してるわけではない+友人とはぐれたのは故郷ではない+北西からの流民が増えてる+お店を開こうとしてるのは北西の町これはなかなかのハードモード人生を送ってる幼女ですね。
100点満点の解読ありがとうございます。
でもこれちょっと味付けしてるけど原作準拠なんですよね……
ここへんについてはまた作中で触れることもあると思います

>>505
>タイトル案「凡人、幼女を肩車する。」
いやいやいやw
合ってるけどw合ってるけどw
的確なのが悔しいけど!
キレッキレやな!簡潔なのがまた……

>「凡人、幼女を肩車してその感触を愉しむ」にしたかったけどあんまりなので
これには脱帽w
いっそ
凡人が幼女お金にモノを言わせて身柄を束縛し、密着を強要するお話
とかどうでしょう
507 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 20:58:29.42 ID:6H5nVSbeo
「何でアンタがここにいんのよ」

うん、尋ねる相手を間違えたかもしれない。山と積まれた書類の中にネコミミフードの少女がいた。そう。荀ケというこの時代でも屈指の文官にして軍師。あの曹操をして、王佐の才と言わしめた俊才である。だが貧乳だ。
まあ、通りかかって挨拶なしも不味いだろうと曹操を訪ねてみたんだけど生憎不在。となると面識があるのは彼女だけということになるのである。そして対面したこのネコミミは、不機嫌さを隠しもせずに俺を睨みつけてくる。

「いやちょっと近くを通りかかったもんだから挨拶をだな」
「どうして近くを通りかかるのよ」
「んー、洛陽までちょっとおつかいに。
 あ、これ、内緒な」

初めて書類を処理する手を止めてこちらを見やる。おお、こわいこわい。

「……袁家がいよいよ宮中に手を伸ばすということかしら」
「んー、まだわかんね。その下ごしらえに行くってとこかな」
「……袁家ほどの名家が肉屋の倅に膝を着くのをよしとするなんてね。
 まあ、下品なあんたにはお似合いのお仕事ね。
 精々血の匂いに当てられないことね」

……見事なカマかけである。もしくは看破かな?流石だ。その態度と胸部装甲には問題があるがその見識たるや恐ろしい。この僅かなやり取りでそこらへんに至るとか。
おし。そろそろ帰ろう。一言ごとにどんだけ情報抜かれるか分かったものではない。このネコミミは張良クラスの化け物だと分かっただけでも来てよかった。
もっと言うと、こいつを使いこなす曹操についてもお察しですねえ。こわや、こわや……。
こいつらと戦って勝てると思ってはいけないな、と心に刻む。
やはり曹操と対立するのは袁家の滅亡フラグ。二郎おぼえた。

「待ちなさいよ」
「へ?」
「聞きたくもないアンタの汚らわしい声で集中が乱れたわ。
 仕事が滞って仕方ないわ。
 責任とってきなさいよ」
「いやそのりくつはおかしいだろう」

 常識的に考えて……。

「いいから、アンタくらいの空っぽの頭でもできそうなのは…これくらいかしらね」

そう言って一束の書類を俺に押し付けてくる。どないせいと。

とりあえずぺらり、とめくってみる。
んー。

「これ、見てもいいのか?」
「アンタの粗末な脳みそで理解できる範囲の書類しか渡してないわよ」

こっちをちらとも見ないでやんの。渡された書類は陳留のおおまかな予算案やら、治安状況の報告書だったりした。これで全てが分かる詳細な資料ではないが、ある程度の類推はできる。
ふむ。
俺……というか袁家が何進と結ぶ(これについては看破されていると確信している)という情報はこのネコミミにとってもそれなりの重みがある情報だったってことか。
 そして、渡された書類を目にして確信する。これ陳留は完全に曹操が牛耳ってるわ。これは太守の任命待ちなだけですわ。いや、これは凄い。書式のフォーマットとか組織図とかも袁家のそれを更にブラッシュアップしたものになってるし。
だから俺は黙ってネコミミから渡される書類を整理するのだった。
しかし、このネコミミ働きすぎだろう……。俺20人分は軽く働いてるぞ……。曹操がいないから代理でこなしてるんだろうけどさあ。
流石ブラックベンチャー勢力の中枢は無理という言葉を知らないほどにブラックブラック&ブラックでございました。
なお、人材の薄さについてもお察しである。曹操についてはネコミミよりも働いているらしい。軍務までやってるとか、おかしいですよカテジナさん!
 これ、実態をゲーム化したら過労死システム導入不可避だぞ、絶対。
……日暮れまで書類整理を手伝い、俺は退散することにした。いや、曹操とかネコミミの胸部装甲が貧弱なのって食事も摂らずに政務につきっきりだからじゃないのかな、などと思ったり。
そして、仮に失業して転職するとしても、ここに就職はない。マジない。やりがいとかカリスマ溢れる上司とかどうでもいいから。どうでもいいから。

スタコラサッサな俺は夕食を流琉んとこで摂る。いやあ、流琉のお酌で呑む酒の旨い事、美味い事。
ささくれだった心を癒すために強引に一室借りて流琉も借り上げて俺は消耗したメンタルを回復させるのだった。
改めて思う。袁家サイコー!ホワイト勢力さいこー!俺は袁家に忠誠を誓いまくりだっつーの!
508 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 20:58:56.05 ID:6H5nVSbeo
いけたらも少しやります
509 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 22:20:50.12 ID:6H5nVSbeo
「お前さんが紀家の跡取りかい。お役目ご苦労だな」

さて。俺の目の前には何進大将軍様がいたりする。
曰く、肉屋の倅。
曰く、妹の威光で出世した庶人。
曰く、大将軍。

そんな予備知識がまとめて吹っ飛んだ。なんだこの威圧感、この迫力。
オールバックにした黒髪は艶やかで乱れなぞない。そして目を引くのは傷跡。縦筋に鮮やか。
左目の脇を走るそれはよほどの深手であったのだろう、その縫い後までもが生々しく残っている。肉屋の倅とか言ったの誰だ。これ本人目の前にして同じこと言えるか?俺は言えない。

「まあ、座れや」

ここは何進の屋敷。そしてその私室である。内々の面会ということでここに通されたのだが、ぶっちゃけ圧倒されまくりである。

「何進大将軍にはご機嫌麗しく」
「ふん、虚礼はいらんよ」

その眼光は鋭く、俺を貫く。そしてどこか面白がっているようでもある。

「まあ、よく来てくれた。歓迎する」
「ありがたき幸せ……」
「虚礼はいらんと言ったぞ」

おかしげにこちらを見やる。

「ま、今日は面通しだけだな。詳しい話はまたしよう。
 とりあえず洛陽でのお前さんの安全はこの俺が保障する。宦官どもが蠢動するだろうがまあ、腕利きの護衛を付けよう。
 お前に死なれたら、喜ぶのは宦官どもだけだからな」

確かにそうだ。
ここ洛陽で俺が死ぬようなことがあれば、袁家と何進が手を組むなどありえなくなるだろう。

「まあ、おれと袁家が組むってのは一応極秘だからな。
 そうそう、襲われることもないだろうが、ね」

ニヤリと笑うと手を叩き人を呼ぶ。入ってきたのは妙齢の女性だった。立ち振る舞いに隙がなく、相当の手練れと思わせる。

「華雄、このお方を守れ。お前は死んでも構わん。
 ただ、護衛の任は果たせ」
「は、承った」
510 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 22:21:31.83 ID:6H5nVSbeo
引き締められた顔からはその命令に対する感情は読み取れない。
ただ、俺をちらりと見た瞬間に僅かに表情が歪む。
ふむ?

華雄に先導され、室を後にする。いやあ、本当に簡略だったなあ。それでも圧倒されたけど。
しかし、蔡邑と組んでたり、華雄を部下にしてたり。これは何進に対する評価を一からやり直さないといけませんねえ。何よりあの威圧感は只者ではない。

「なあ、華雄さんよ」

俺を先導する華雄に声をかける。

「何だろうか」

訝しげにこちらを見てくる。

「さっきの御仁は何進大将軍その人で間違いないんだよな」

これが最初に浮かんだ疑問だ。あれは本当に何進なのか。俺の予備知識との乖離が激しすぎる。

「おかしなことを聞くな。間違いなく何進様だ」
「そうか、すまんね。どうにも風説と人物像が一致しなくてな」
「ふむ、そんなものか。だが、噂などあてにならぬものではないか?」

それを言われると怨将軍という道化としては黙らざるをえないのだが。

何進。

妹が皇帝に見初められ、栄達をし、最後は宦官に暗殺されたという人物である。
最後が間抜けなせいか、或いは出自が卑しいからか某ゲームでも押しなべて能力値は低い。

ん。

何だろうか、この違和感。

妹を皇帝が見初めたというが、肉屋の娘がどうすれば皇帝の目に留まるというのか。……後宮の宦官を通じて妹を差し出したと考えるしかないだろうな。そうすると何かが繋がりそうな気がする。
肉屋、肉屋か。果たして只の肉屋が宦官と通じるだけのコネを作れるものだろうか。
よしんば通じることができても、大将軍となるだけのバックグラウンドはどこから来た?
……金だろう。それは間違いない。だが、一介の肉屋にそれだけの蓄財が可能だろうか。いや、肉屋というのはあくまでも象徴に過ぎないかもしれない。
肉屋の元締めという線はどうだ。これならまだしっくりくる。まあ、食肉業なんてのは闇が深い業界だからな。現代日本でもそこは語られることのないブラックボックスだ。例え死人が出ようとも、流通業より川上にその追求が及ぶことはない。マスコミだってあれだけ偉そうにしてても、小売りはともかく卸に問題があるとなったら途端にだんまりだったし。
この時代ならなおさら影響力は大きいのだろう。

ん。

闇の勢力……、裏社会……。何か見えてきた気がする。ちくしょう、こういう時に沮授と張紘がいりゃあ助かるんだが。
ってそうだよ。母流龍九商会だ。色々現代資本主義の手法を持ってして裏技的に急成長した商会だ。だが、洛陽には食い込むことができなかった。
流石は二百年続いた後漢王朝。ある程度資本主義的な組織がしっかりしていると思ったものだ。
つまり、洛陽には財界のようなものが存在していると考えていいだろう。そしてそれが権力に食い込もうとするのは本能のようなものだ。現在の後漢においてもそう動いているはずだ。

ぞくり、と背筋が寒くなる。

つまり、何進とは。洛陽の財界、そして裏社会のトップなのだろう。
そして、何進と宦官の戦いとは、既存の勢力――既得権益――に対する新興勢力の暗闘ではなかったのか。
統治機能を喪失したとされる後漢王朝を支えたのは実はそういった勢力だったのではないのだろうか。
そして……何進はその権力闘争に勝ちきったのだろう。結局宦官勢力は暗殺という非合法な手段によってしか何進を除くことはできなかったことであるし。
そして董卓があそこまで汚名を着せられたのは、その新興勢力の希望の灯であった弁太子を廃したからではないのか。

その結果、結局商人達が権力の中枢を握ることはできず、あろうことか宦官の孫が王朝を築くことになる。
曹操が後世において悪人とされるのはそのためではないだろうか。

いかんな。少ない判断材料で先走りすぎている気がする。だが。俺はひょっとしてものすごい歴史の転換点に立っているのではないだろうか。袁家だけでなく、もっと大きなもの。歴史の奔流の分岐点にいるのではないか。

いや、それでも俺のやることに変わりはないんだけどね。多分きっとメイビー。
メイビー。

……メイビー。
511 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/04/30(土) 22:31:54.29 ID:6H5nVSbeo
本日ここまです
感想とかくだしあー


感想こそが心のガソリンでありまして
前に進む原動力なのでございますよ
正直、此度の職場はしんどいのです
どうかご声援くださいませ
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 22:51:11.30 ID:KL204KasO
何進の存在感がパネェっす
会ったのが二郎だったかこうなったけど七乃だったら
雰囲気に飲まれずにもうちょっと気の利いたことが言えてたかも
はたまた麗羽様だったらどうなっていたか考えると面白いですね

タイトル案「凡人、社会の闇を垣間見る」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 12:47:21.09 ID:kA5qojAkO
乙したー
あの頃はステータスやらAAやらで色んな楽しみがあったけどこんなのもニヤニヤしながら見れてええな
今回だと何進さんだな

後、リメイク前を読んでる人、あんまり書き込んで無い感じかな?
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 16:44:58.71 ID:6ZOjXFeXO
>>513
リメイク前から読んでるよー
前はアンケの集計しといて自分の票入れ忘れたり、今回同様茶々入れたりしてたよ
今はもっぱらタイトル案考えるのが楽しい
あっち見て自分の考えたタイトルが載ってるの見ると感慨深いものがあります

後は入れた茶々に一ノ瀬氏がどう反応するかも楽しみの1つです。
(婚前交渉とか肩車とかw)
ちなみに今まで胎動編とはじめてのおつかいが採用されてます。
一ノ瀬氏に感謝しきりです
515 :372 [sagesaga]:2016/05/01(日) 22:47:24.63 ID:bQTMQXTAO

乙です。

ネコミミさん。相変わらずですね(苦笑)
非公式訪問だから感情を表に出しているのか?
外交官としては能力に?付けます。

で紀霊さんも迂闊。厳しくなりますが、御自分が袁家の外から見るとどういう立ち位置かをそろそろ自覚される時期ですね。
ひょっとして、外交の経験値を積ませる為にやらせたか?(憶測)

曹家の小ささが、ブラックな現状を生んでいる? ただ曹操自身が万能型なので、手足となる官僚にも即戦力を求め過ぎる事が知識層から敬遠されている?(憶測その2)

逆に袁家の場合は基礎的な知識を体得していれば 必ず仕事が回って来るし 家の歴史の長さ故子飼いから着実に平均的な人材は供給される強みがあるか?


>胸部装甲と激務

有り得るような関係ないようなww
そっとしてあげるのが吉かと。


>何進大将軍の背景

基本的には紀霊さんの推測に同意。
ただ、この時代から食肉業が賎業かは疑問。
食材を宮中に納入する元締め故に宦官と接触出来たと考える方が自然かと。

屠畜が賎業とされたのは 仏教の思想が意図的に曲解されて押し付けられた(日本の場合)
と個人的には考えております。
商業を賎業とする考えは 凡将伝の中にも登場してますから、これから『肉屋の倅』になったのではと。

>財界が権力に手を伸ばすのは自然

肯定www財界の論理は 『権力と結ぶ事により、自らに有利な経済活動と 自らに有利な法を手中に収める』
ですが。

何進個人が洛陽財界の代弁者として宮中に接触するなら財界は後方支援を 惜しまないし、また何進個人が洛陽財界を裏切らないならいつまでも支援し続けるでしょう。


賎業と食肉業の話は、闇も含めてならご希望なら 話せる範囲内で別に話しますが?
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/02(月) 10:03:36.41 ID:PpzO8XrG0
お疲れ様でしたー
とりあえず>>372さんがコワい!!感想云々が吹っ飛びそうなブラックを垣間見た気分です
今回も誤字は見つけられず…おかしいなあ(笑)・・・1つ強引にでも
>>510
>>つまり、何進とは。洛陽の財界、そして裏社会のトップなのだろう。 そして、何進と宦官の戦いとは、〜略〜そして……何進はその権力闘争に勝ちきったのだろう。〜略〜そして董卓があそこまで汚名を着せられたのは、 【そして】が多いので
○つまり、何進とは。洛陽の財界、そして裏社会のトップなのだろう。 だとしたら、何進と宦官の戦いとは、〜略〜そして……何進はその権力闘争に勝ちきったのだろう。〜略〜ということは董卓があそこまで汚名を着せられたのは、 辺りでどうでしょう?意味は変わらなくても違う接続詞を使ったほうがなんとなく文章がグダッてない気がするかもしれません(個人の感想です)

ところで次郎ちゃん>>ささくれだった心を癒すために強引に一室借りて流琉も借り上げて俺は消耗したメンタルを回復させるのだった。
どう見ても事案です本当にありがとうございました・・・そういえば前回の水ぶっかけられたときに店長さん出てこなかったよね
まさか強引に借りたって流琉からであって店主に話し通してないとかないよな
517 :372 [sagesaga]:2016/05/02(月) 21:20:04.26 ID:lCjt9V4AO

>>516

>>372がコワイ

そう……ですか?申し訳ないです。

私の稼業(反社会的ではないが真っ当でもないのでこう表記)では様々な 団体とお付き合いします。

無論同業者もいますし仲間もいます。
ただ、内容が内容なので 私個人は内心ともかく表面は本気で中立を貫かなければなりません。

小沢一郎先生は、祖父の 下働きをしている頃から薫陶を受けさせて頂きました。
正直、調整能力の凄さは 御本人の努力の賜物です。
それと「自分が動かないと誰も本気で付いてこないぞ」
と散々お叱りを受けました。
実際、霞ヶ関への行動力と地盤へのなりふり構わぬ溝板振りは凄まじい物がありました。
そこから調整能力を培ったと背中で教えて頂きました。


正直、こういう場所でないと出せないです。
見ている人は『妄想乙』 『ニート乙』と話半分で スルーしますから。


だから赤ペン先生、怖がらないで下さい。
私個人はどこにでも居る 普通のおっさんです。
518 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/02(月) 23:00:49.10 ID:MDvC3dBMo
きたーく
いやあ、久々残業続きですわ
やはり手の抜きどころを掴むまでは真面目に仕事セナあかんなあという思いであります
土曜日までは更新できないのではないかと思っております


>>512
>何進の存在感がパネェっす
そりゃまあ天下の大将軍様ですからね

>会ったのが二郎だったかこうなったけど七乃だったら雰囲気に飲まれずにもうちょっと気の利いたことが言えてたかも
七乃さんだったらむしろ淡々と事務的にこなすだけになったのではないかなあと思います

>はたまた麗羽様だったらどうなっていたか考えると面白いですね
うーん、これは名勝負になりそうですが、年季の分何進に分があるでしょうねぇ。いまのとこ

>>513
>後、リメイク前を読んでる人、あんまり書き込んで無い感じかな
いやまあ、何をいってもネタバレになるしご新規さんも面白くないでしょうから気を使ってくれているのだと思います
思います。

>>514
>前はアンケの集計
貴方が神だったか

>今はもっぱらタイトル案考えるのが楽しい
中々難しいですよね。タイトル。

>後は入れた茶々に一ノ瀬氏がどう反応するかも楽しみの1つです。
正直、婚前交渉にはやられたですよ
こういう鋭い、尖ったセンスは本当に羨ましいです
あと胎動編はこっちが感謝してます。いい案をこれからもよろしくですw

>>515
>ネコミミさん。相変わらずですね(苦笑)
ツン10デレ0というまさかのツンデレ比が持ち味ですからねw

>非公式訪問だから感情を表に出しているのか?
まだそこまで気が回っていない……と思います

>で紀霊さんも迂闊。厳しくなりますが、御自分が袁家の外から見るとどういう立ち位置かをそろそろ自覚される時期ですね。
これ何進の指名なくても田豊麹義は二郎ちゃんを洛陽に派遣してたと思います
今彼らが二郎ちゃんに望んでいるのは
「取り返しがつくくらいの失敗」
をすることですからねー。どんどん失敗すればいいと思ってます。
周囲を上手く使って小器用に立ち回っているのが頼もしくも歯がゆい。もっと大きく羽ばたけ的な。

>曹家の小ささが、ブラックな現状を生んでいる? ただ曹操自身が万能型なので、手足となる官僚にも即戦力を求め過ぎる事が知識層から敬遠されている?
それもあるでしょうし、官僚になりそうな士大夫層は、宦官の孫だからと下風に立つのをよしとしないという背景が大きいです

>逆に袁家の場合は基礎的な知識を体得していれば 必ず仕事が回って来るし 家の歴史の長さ故子飼いから着実に平均的な人材は供給される強みがあるか?
NTTドコモとかJALに就職するようなもんですかね(ただし仕事が楽とは言ってない)

>ただ、この時代から食肉業が賎業かは疑問。
ここらへんはちょっと現代日本を引き合いに出したのは失敗だったかなと思ってます。
単に何進は財界のトップであるということを出したかったということ
あと、裏社会を仕切っている経済マフィアであろうということが言いたかったということです。
うん、そう書けよという話ですね。
ここは練り直します。
まあつまり。財界と裏社会のボスなので皇帝に妹を引き合わせることができましたということで。

>賎業と食肉業の話は、闇も含めてならご希望なら 話せる範囲内で別に話しますが?
すごい興味があります。某全世界規模な食肉メーカーの方と話してもこう、きな臭い香りがぷんぷんしてましたもんでw
凄いんだろうなあというのは想像でしあないのですよね。
差し支えない程度でフェイク入れてこっそりとお願いしたいですw

>>516
>どう見ても事案です本当にありがとうございました・・・
多めに店主に金を渡して幼女を連れ出す。そして一晩とかこれもう……w

>店主に話し通してないとかないよな
流石にそこは筋を通していますw
ちょっとそこらへん加筆するようにします
519 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/02(月) 23:10:06.60 ID:MDvC3dBMo
>>517
>正直、調整能力の凄さは 御本人の努力の賜物です。
そこか、と思いました。
資金力じゃないだろうなあとは思ってたのですよ。まさか努力とは。

>「自分が動かないと誰も本気で付いてこないぞ」
これも小沢さんが言うと凄味が違いますねえ

>実際、霞ヶ関への行動力と地盤へのなりふり構わぬ溝板振りは凄まじい物がありました。
最終的には人と人、ということなのかもしれません。
それをあの人がやるから凄味があるのでしょうけど

まあ、能力の使い方を間違えてんじゃねーのかなというのが正直な思いですが。
組む人間違えてやしませんかねえとか、結局何がやりたいかが見えないとか

それでも昭和を代表する政治的化け物だとは思っております

モーニングでやってる池田勇人の漫画、面白いですよね。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 00:11:29.44 ID:gRjSMfn6o
疾風の勇人クッソオモロいよなぁ

政治って漫画なんかよりもっとどす黒いモノなんだけどその実感が日本人にはないなぁと思う(外交なんかもっと)

宗教的にデモとかの誘いが多いんだけど考えて行動してる人どん位いんの?っていっつも思っちゃう

表立って討論も出来ないからなお質が悪い()
521 :372 [sagesaga]:2016/05/03(火) 14:31:40.58 ID:NnQpAziAO

>>520

>政治って漫画よりどす黒いもの

近い位置で接していても 見えない位の闇は見て感じますよ。
どの政治団体も利権代表に劣化してますから余計に闇が深くなったと個人的に感じます。

>宗教的にデモ参加を誘われる。どれくらいが考えて参加しているのか?
デモ参加も動員も付き合いでありますが、一応全員考えてますよ。
保身の為に参加するしない、興味本位、暇つぶし その他。
逆に、無条件で盲目的に参加している人の方が考えているか?とwww

>討論も出来ないのがたち悪い

そういう状況に長い期間かけて持って来た事に闇の一端がwww


ただ、SNSやネットの存在が深い所で威力を発揮しているのは実感。
また一ノ瀬さんや貴方のように体感体験から来る 感想を発信する方がおられる事はまだ救いです。


横から失礼。つか麹義様と横着夫妻から

『はよ書け』

と急かされてますから失礼(脱兎)
522 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/07(土) 18:30:22.23 ID:/J/YBZ5Oo
「ほう。そなたが袁家の使いかえ」
「は、左様にございます」

跪く俺に嫣然とした声がかけられる。皇太子たる弁皇子のご生母にして後宮の支配者たる何皇后その方である。

「よい、面を上げよ」
「は」

顔をあげ、ご尊顔を拝む。うん、流石絶世の美女と言って差し支えないであろう。黒髪は艶やかに、唇の朱は薔薇の鮮やかさを連想させる。瞳に宿る星は輝き、俺を射抜く。

にこりと、勿体なくも微笑みをいただく。濃密な花の香りが俺を包み、くらくらと眩暈がするほど。
いかんいかんと気合いを入れなおして瞳を見やる。どこか爬虫類を思わせるその視線は捕食者。圧倒的な階梯の違い。格の違いに自然と頭が下がる。なるほど、漢朝を奥から差配するに納得というものである。
ああ、この方のためならば皆、死も恐れはしないだろう。身命を賭すだろうよ。誰だってそうする。俺だってそうする。
脳裏に色んな人たちが浮かんでは消えていく。え、これ走馬灯状態?呼吸が……できない?
四肢が痺れ、石のように強張っている。
何かが俺を侵食していくような気色悪さすら遠く感じてしまう。目の前の一切から現実味が喪われていく。頭が働かない。
脳裏に浮かぶのは、縋るのは。
困った顔の陳蘭。苦笑する沮授と張紘。にこりと笑う斗詩に快活な笑みの猪々子。くすりと笑う七乃、高笑いの麗羽様。そして。

「じろ……」

手を伸ばす美羽様を抱きしめる。それはきっと幻想。それでもかけがえのない絆。俺が生きてきた証。

ぶちり、と舌の先を噛み切る。熱い痛みとぬるり、とした塩味がじくり、と広がる。くらり、としながらも必死に食らいつく。意識を、取り戻す。取り返す。
何皇后の視線がおかしげに揺れる。

「ほほ、頼もしいことじゃの。
 兄上の申された通りの快男児じゃ。
 わらわと弁をよろしく頼むぞ?」

軽く微笑むとその場から去っていく。その歩みはどこか大蛇を思わせていて、戦慄を覚える。

何だあれは。俺は全身が冷や汗でずぶ濡れであることに気が付く。だが、激しく脈動する心臓は治まる気配がない。

「は……ァっ!」

辛うじて息を吐き出す。いや、死ぬかと思った。俺は何を見た。何と遭った。
いや。何皇后だ。それはわかってる。だがあれはいったいなんなんだ。

そんな俺に嘲笑が浴びせかけられる。

「どうした。立てないのかね?」

何進の声だ。くそったれ。足よ、動け!
渾身の力を込めて立ち上がる。生まれたての小鹿みたいに覚束ないが、立ち上がる。立ち上がった。
523 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/07(土) 18:32:01.03 ID:/J/YBZ5Oo
「ほう、大したもんだな」
「お見苦しいところを」
「ふん、気にするな。アレと向き合ってそこまで踏ん張れるお前さんは大したもんだよ」

くらり、と眩暈がする。

「あれは最高傑作だ。
 幼いころから歌舞楽曲、教養、房中術を完璧に仕込んだ」

どこか謡うようにつぶやく何進。

「妹君、なのでしょう?」

その声に苦笑する。

「ああ、そういうことになってるな。 
 そういう意味では何百人といた妹の中の一人だな」

つまりは、そういうことか。こわや、こわや……。

「なぜそれを俺に?」
「ああ、お前は俺と同類っぽいからな」

にやり、と笑う何進。

「お前さんは銭の力って奴を理解しているようだからな」

こりゃまた唐突だな。そりゃまあ、お金が万能のツールたる資本主義の番犬ではありましたよ?
俺の沈黙をどう捉えたのか、何進は言葉を続ける。

「銭を嫌う奴はいる。銭に狂う奴もいる。だが、銭を使いこなす奴はほとんどいない。
 更に、相応の地位にある奴という条件を付けるとしよう。
 その怖さも、力も理解し、溺れず、狂わずに銭を制する。
 おそらく俺を除けばこの中華にお前さんぐらいだろうさ」
「それは……過分な評価恐れ入りますよ」

恐れ入るのは俺の方だ。経済ヤクザが権力の中枢――なんたって大将軍という破格の地位――にいるのはやばいぞ……。
財力、暴力、権力。それらを一手に握る何進という人物の危険性。俺が洛陽に来てよかった。こいつの凄味は直接会わなければ分からなかったろう。

「そんなに警戒するなよ。これからは味方同士なんだからな」
「そういえばそうでしたね」

こいつは敵に回したくないなあ。というか、手を結べるのは僥倖だ。
とはいえ、不安もある。

「皇后陛下が宦官に取り込まれるというのが一番怖いのですが」
「ああ、そのために蔡邑と王允を付けてる。
 抜かりはねえさ」

……王允も女性なのかよ。今更だけどな!内心頭を抱える俺に何進が声をかける。

「そう言えば、会わせたい人物がいるんだった。
 いいかね?」
「断る理由は特にないですけど」

正直今日はもう帰りたいけど……断るという選択肢は俺にはないのだ。
524 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/07(土) 18:33:46.78 ID:/J/YBZ5Oo
◆◆◆

「ほう、貴殿が袁家の誇る怨将軍。紀霊殿か。
 噂はかねがね耳にしている」

つくづく格の違いというのを感じる一日である。俺が引き合わされたのは堂々たる武人だった。
馬騰。涼州を根拠とする馬家の当主にして漢朝の忠臣である。かの名将馬援の子孫でもある。

「いえ、馬騰殿の有名こそ響き渡っております」

何せ涼州にて匈奴の侵攻を一手に引き受けてる傑物だからな。その名声と実績は袁家に勝るとも劣らない。特にその騎兵軍団は漢朝随一との評である。

「はは、正面きってそう言われるとこそばゆいものだな。
 だが、私も君のような清々しい若人を見るのは嬉しいものなのだよ」

ちらり、と何進を見ると思わせぶりな笑みを浮かべてやがる。俺は改めてこの何進という人物の辣腕に舌を巻いた。

国家の役割とは何か。

その最低限は治安と国防である。夜警国家というやつだな。
民を理不尽な暴力から守るのが国家の最低限の役割だということだ。そして、何進は国家の盾たる馬家と結び、禁軍を制している。ここに袁家が加わるわけだ。
対外的な脅威が北方のみであることを考えると、何進は漢朝の守護者としての役割を十全に果たしている。ならば、俺としては精々仲良くするしかないのであるよ。特に野心とかないしね。

「しかし、袁家が味方となれば心強い。
 獅子身中の虫を除くべく、この馬騰、粉骨砕身の覚悟であるとも!」

ばしばしと背中を叩いてくる馬騰さん。うむ、痛いっす。とも言えず。

「北方の護り手である馬家。その当主である馬騰殿と知己を得られたのは幸いなことですよ」

何進について更に考察を進める。そういや、黄巾の乱、結局何進の指揮のもと綺羅星のごとき将帥が集い、滅したのだったか。そう。大将軍という責務を果たしきったのだったか。

「無論……袁家も漢朝のために力をふるう所存です」
「うむ。このような機会がなければ接することもなかったろうな。
 いや、君のような若武者が涼州にもいればな。
 どうだね。娘が年頃なのだが、一度考えてみてくれたまえ」

馬騰さんの娘とかもしかして。

「名を超、真名を翠と言う。一度会ってみてくれ。
 じゃじゃ馬だが気性は真っ直ぐだ。気に入ってくれると嬉しいな」
「は、はあ」

やっぱ錦馬超かよ。いや、正直ご勘弁願いたいのですが。

「おいおい、まずは漢朝を立て直すのが先だぜ、馬騰よ。親愛なる兄弟よ」
「うむ、そうだったな。これは先走ってしまったか。
 はは、ご容赦願いたいものだ」

そういや何進と馬騰は義兄弟であったのであったか。そんなことを思いながら何進のニヤニヤ顔を無視する。これを借りとは思わんからな。

しかし、張紘も沮授もいないというのはこれほどに辛いものか。いやあ、この会談の着地点とか含めて助言くれる方を大募集なのですよ。軍師大募集なのですよ。
俺って、こういう駆け引きとかそこまで得意じゃないので。そこまで頭回るほうじゃないので。
混乱する俺に何進はニヤリ、と笑いかける。

「まあ、飯でも食ってけや。一席設けるからよ」
「フム、そうだな。大いに語ろうではないか!」

この消耗した状態で接待とかマジきついんですけど。でもまあ、断るという選択肢がないというのが現実でございますよ。くそ!戦ってやるとも現実と!

悪いようにはしねえよとか言う何進に、正直ごめんなさいと言って逃亡したくなった。踏ん張ったけどさ。踏ん張ったからさ。誰か誉めてよ、ほんと。

つらたんです。
525 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/07(土) 18:34:32.49 ID:/J/YBZ5Oo
いったんここまで
凡人と大将軍

なのはいまいちなのでまたまた題名募集しまする
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/07(土) 22:22:58.25 ID:dmZNeAb/o
乙です
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 00:41:31.00 ID:xIcp97ZpO
乙です
今回は茶々入れようのないほど緊迫した場面で引き込まれました
この緊張感の出し方勉強になります

> なのはいまいちなのでまたまた題名募集しまする
「なのは」がいまいちだと!?
と仕込まれた空目にのっかってみますた

タイトル案「凡人、抗う」
「凡人、土壇場で踏み留まる」
あたりかな
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 00:47:58.21 ID:xIcp97ZpO
> 「ああ、そういうことになってるな。 
>  そういう意味では何百人といた妹の中の一人だな」

セントラルドグマにスペアがいっぱいいるってことですねww
529 :372 [sagesaga]:2016/05/08(日) 09:56:48.74 ID:p4Ux9swAO

>>528

そっちも良いけど
一万人の妹たち(シスターズ)
の可能性も微レ存?
530 :372 [sagesaga]:2016/05/08(日) 10:32:43.11 ID:p4Ux9swAO


乙です。

花の香りで、思考と行動を操る……
あ……(察し)

>「銭を嫌う奴もいる。銭に狂う奴もいる。だが銭を支配する奴は少ない」

……深い。


現代の一般人の感覚なら 経済ヤクザになるか。
個人的には外資のハゲタカ共や老害霞が関官僚を 想起します。
まあ、まだ若いですけどね。何進さん。


馬家登場。どうやら好意的なようですが、単純そうに見えるのは……仮面なんだろうなあ。


今回の話で一ノ瀬さんの 実力の片鱗を確認。
いや本当に勉強になります。
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 12:04:09.41 ID:PNvePSimO
栗の花の香だったら嫌だなー
532 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/08(日) 21:53:08.94 ID:mJQH7YQjo
感想どもです
暫くは週一投下できるかどうかになりそうです
正直仕事の抜きどころがまだ分からん
結構な激務ではあるのですがががが

>>527
>今回は茶々入れようのないほど緊迫した場面で引き込まれました
>この緊張感の出し方勉強になります
てへり。ありがとうございます。素直に嬉しいですw
まあ、基本はゆるーいテイストが持ち味なのですが、たまにはね

>タイトル案「凡人、抗う」
このあたりはちょっと頂くかもですね。も少し考えます。

>>528-529
ああ、そっち連想しましたかw
水槽の中の裸体か妹たちかで世代が分かりますなw

>>530
>あ……(察し)
なにを察した!多分合ってるぞ!

>……深い。
ありがとうございます。
まあ、嫌うにも狂うにも、それだけのお金が身近に欲しいものです。
それにつけても金の欲しさよ

>個人的には外資のハゲタカ共や老害霞が関官僚を 想起します。
そこら辺を連想するのはパンピーには難しいっすw
でも天下りした官僚さんって、流石に滅茶苦茶頭が切れるというのは複数筋から聞いたことがあります
その能力を活かしているかどうかはさておき

>単純そうに見えるのは……仮面なんだろうなあ。
って思うじゃん?

>実力の片鱗を確認。
いや、ありがとうございます。
もっと具体的に誉めてくれていいのよ?

>>531
>栗の花の香だったら嫌だなー
その発想はなかったw
むしろ醒めるわw




多分今日は投下なしです
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/09(月) 10:22:21.37 ID:AX66EcS70
乙でしたー
>>523
>>「それは……過分な評価恐れ入りますよ」 恐れ入るのは俺の方だ。 この言い方だと「恐れ入りますよ」に(こちらこそ)と言っているニュアンスを感じるので(何進が「恐れ入ったぜ」とか言った場合ならこれがいいと思います)
○「それは……過分な評価恐れ入りますよ」 本当に、恐れ入る。 とかの方が言いと思います

恐ろしい兄妹だなあ・・・次郎は美羽のアレが無ければこのまま服従してたんだろうね
そしてバトーさん現る。この二人の関係も実に面白いですよね、こういう奴が下についてると言う事も何進の一筋縄ではいかない所を如実に表してるよなあ
534 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/09(月) 23:30:55.86 ID:Eh8t4DgHo
あかん、仕事終わらへんし仕事引き継いだ同期はなんか上から目線だし

>>533
いつもすまないねぇ……

>次郎は美羽のアレが無ければこのまま服従してたんだろうね
精神操作系にはとことん弱い主人公です
はおーのカリスマにもちょっと中てられてたですし

>こういう奴が下についてると言う事も何進の一筋縄ではいかない所を如実に表してるよなあ
何進と馬騰さんの絡みは書いてて楽しいです



なんとか早く帰られるようにがんばろう……
所得税の関係で6月までは残業手当もらいたくないのや・・・
535 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/12(木) 22:20:16.98 ID:KF96QHPOo
さて、ちょっとご飯におよばれするかと思ったら宴席である。何進の人脈を窺わせるそれは様々な人物が訪れていた。いや、確かに料理も酒も珠玉で……美味い。しかし、落ち着かねえなあ。あれは誰だ、袁家の……という声が嫌でも耳に入る。

ん。ちょっと待てい。これは……。

や、やられた!

「あら、どうしたのかしら、顔色が変わったわよ」

そんな声をかけてくるのは蔡邑さん。この席で極めて数少ない知り合いである。

「ええと、あれだ。嵌められたなあと思って」
「どういうことかしら?」
「……本気で言ってるのかわかんねえけどよ。
 一応俺が単身洛陽に来てるのは何進様と袁家の繋がりを隠すためだろ。
 それがこれじゃあ、一方的に何進の権威を後押ししてるだけじゃねえか。
 くっそ、やられたぜ。と今になって思い至ったところというわけだ。
 こんだけの人数を呼べるんだ。事前に根回しも完了ってとこだろう。
 今更袁家は何進と組まないなんて言ってもよ。誰も信じないだろうさ」

思案気な蔡邑。そして、なるほどと頷く。

「そういえばそうね。
 でもそれに気づくのは大したものと思うわよ?」
「うるへー。
 今更気づいても遅いっつうの。しまったなー」

天を仰ぐ俺をくすくすと見やる蔡邑。はいはい他人事ですよねわかります。
そうやってやさぐれていく俺に声がかけられる。

「何だ、紀霊ではないか。どうしてお前が洛陽にいるんだ」

その言葉に振り返って。ええと、誰?
声をかけてきたのは艶やかな黒髪。その長髪をオールバック気味に後ろに垂らした美女である。
つか。できるな、と俺でも分かる。あくまで優雅な運足はいつでも必殺の一撃を放ちそうな、決壊寸前の大河を見るような。そんな大物感がある。いや、胸部装甲だけではなくね。

「ええと、どなたでしたっけ」
「なんだ覚えてないのか。
 うん、違うか。私が一方的に見知っているだけだった。
 改めて名乗ろう。
 夏候惇。華琳様を武によって支える曹家の大剣だ」
536 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/12(木) 22:20:44.16 ID:KF96QHPOo
まさかの場所でまさかの大物。曹操陣営の最古参にして股肱の臣、夏候惇将軍である。隻眼が有名だがまだ両目ともご無事なようで何より。

「つーかそっちこそ何で洛陽にいるのさ」

ネコミミとかあんだけ仕事に埋もれてたのにね。あれなら確かに猫の手でも役に立つという状況だぞ。

「いや、なに。夏候家の当主として官位を受け取りに来たのだ。まったく、それだけというのにひと月も待たせよって。
 宮中の腐敗はここまでかと思っておったところさ」

え?それはおかしいでしょうよ。

「ちょっと待て。単に官位を受け取るだけならいくらなんでもそんだけ待たねえぞ。
 お前なんかしたろう」
「む、失礼な。
 宮中で騒ぎなど起こすはずもなかろう。
 せいぜい、賄賂を要求してきた官吏の顎を砕いてやったくらいだ」

それだー!……って顎を砕く……。砕いた、だと……?

「それ、流石にやりすぎだろうよ……」
「何を言う。華琳様の領内ならば切り捨てていたところだ。
 まったく、どこにでも下賤な人間はいるものだな」

なんということでしょう。曹操陣営は腹黒。そう思っていた時期が俺にもありました。
なにこの裏表なく、脳みそが筋肉でできてそうなこの夏候惇さん。d姉とでも呼んでやろうか。

「さいですか。つうかあんたが本気で殴ったら死ぬだろ普通」
「ふん、そこで死ぬならばその程度ということよ!」

肉体スペックの高い奴らはこれだから困る。まあ、宮中の現状に憤懣やるかたないというところなんだろうけどさ……。

「目的が果たせないだろそれじゃ」

いいから俺に任せろと言いそうになって口ごもる。いかんな。今現在はそれどころじゃあないってのに。
と、思っていたのだが、目の前でぷりぷりと義憤に震えるその様には苦笑を禁じ得ない。まあ、いいか。なんかほっとけないよねこういう御仁は。

「そしたらさ、一つ俺に任せてみろって。
 さっさと帰らないと過労死するぞ、ネコミミとか」

ぼりぼりと頭を掻きながら。いかんなあと思う。こういうのってガラじゃないんだけどなあ。
537 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/12(木) 22:21:10.30 ID:KF96QHPOo
◆◆◆

「うむ、おかげさま、ということなのだろうな。ようやく華琳様の元に帰参できそうだ。
 礼を言う」

かの、未来の名将夏候惇との邂逅の翌日のことである。結局俺は彼女が官位を受け取れるように奔走した。
宦官勢力とパイプの太い曹操配下に俺が便宜を図ることになってしまうわけだが。一方的に宦官勢力と対立するわけではないというPRにもなるだろう。
……軽く何進への意趣返しにもなるしな。無論、宦官勢力に肩入れする気は全くないが。

「まあ、いいってことよ。麗羽様のご友人だからな、曹操さんは」
「ふむ、いずれにしろありがたい」

まあ、この子はそんな俺の思惑やらは全く気にしてないだろうけどな!

「そういえば紀霊よ」
「なんじゃらほいさ」
「以前、華琳様自らお誘い頂いたことがあるだろう」
「そんなこともあったかねえ」

まー、あっちは本気じゃなかったと思うけどね。

「なぜ、断った?」

視線も鋭く問う彼女は、主君を貶されたならばと気負う彼女は。控え目に言って魅力的であった。こういう真っ直ぐなのが股肱の臣であるところが曹操という人物。その器が窺い知れるというものである。
いや、絶対仕えたくないけどね。何度も言うけどブラックベンチャーはノーセンキュー。ビバホワイト大手、である。福利厚生万歳、QOLの尊重、ライフワークバランス万歳。
とも言えず。

「あー、たとえばだ。
 飛ぶ鳥落とす勢いの何進大将軍からアンタがお誘いを受けたとする。
 そしたら曹操さんの下を出奔するかい?」
「そんなわけなかろう!この身も、心も!華琳様ただ一人に捧げたものだ!
 侮辱するつもりか!」

うわ、この子結構扱い方めんどくさい……。同じ脳筋でも猪々子はもっとこう、可愛いよなあ。素直だし。よし、猪々子の勝ち。胸部装甲以外は。

「んー、だからさ。
 俺も既に袁家に忠誠を誓ってるのでね」

察してくれと笑う俺なのである。
ふむ、と考える様子の夏候惇。納得してくれたろうかねえ。

「なるほど。それならば赤心揺るがぬのも無理なし。
 まあ、曹家の武は私と秋蘭がいれば問題ないしな!」

お、そうだな。その通りだな。まあ、現段階では信頼できるというのが最重要項目だろうしなあ。

「そうだね夏候惇将軍がいれば問題ないよね」
「なんだ、よくわかってるじゃあないか!
 そうだな。色々助力してもらったしな。
 私のことは春蘭と呼べ!私の真名だ!」

なにこの流れ。いやまあ。いいけどさあ。

「袁家の臣、紀霊。真名が二郎ですだよ。今後ともよろしく」
「ふむ、二郎も一度陳留に来い。
 華琳様が治める町だ。考えが変わるかもしらんぞ」

大笑しながら、ばしばしと俺の背中をたたく。痛い。

「いや、来る途中寄ったってば。って聞いてないなこれは」

そのあと、気をよくした春蘭に引きずられ、飲み明かすことになってしまったのだ。あ、えっちなイベントとかはなかったからな?せいぜい立派なおっぱいをチラリと鑑賞したくらい。

まあ、この魔都洛陽で裏表のない人物と語るというのは一服の清涼剤みたいなものだからして。ものだからして。
ふむ、あの何進が馬騰さんとつるんでるのもそういうことかな、とふと思ったわけです。
538 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/12(木) 22:21:59.96 ID:KF96QHPOo
久しぶりに早く帰れたので本日ここまで
感想とかくだしあー

次回はちょっと閑話
お留守番組のお話とか見たい……見たくない?
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/13(金) 09:16:51.83 ID:GICk/JZt0
乙でしたー
私の中で(原作とほとんど変わらないけどちょっとだけ違うキャラの)好きな人ベスト3に入るd姉キター
ちなみに1位は麗羽様です
そして次郎ちゃんの回避能力が高いwこれ下手な嘘ついたら野生の勘でばれてたんじゃね?と思うし小難しいこと言ってもよく分からん!!って一蹴されそうだし・・・絶妙に好感度稼ぎつつこれ以上の引き抜きを牽制したなかなかの交渉力よ
540 :372 [sagesaga]:2016/05/13(金) 23:38:36.49 ID:bGDNn5GAO

乙です。

>>538

留守番組の様子、知りたいです(切望)

夏侯惇さん登場。
個人的に好きなキャラの一人です。

>文醜さんとの脳筋レベルの差

当主の意識の差と規模の差、ですか。
文醜さん、まだ汚い世界に触れて無いですよね? というか触れる可能性すら無い。
それだけの規模なんでしょうね。袁家。

武人故の真っ直ぐさって 神経戦と腹芸が日常の面々にとっては、楽なんでしょうね。
解る気がします。


この後、あっちで小ネタ 置いてきますので宜しければ御笑納下さいませ。
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/14(土) 01:24:50.52 ID:TyDwnU/CO
ヤればデキる姉者登場

愛される脳筋って一本筋が通っていてぶれないのが理由なのかな
それはそれ、これはこれができるのが愛される脳筋じゃないかなって思います

どっかのSSで知力も武力と同じで鍛えればあがるって言われて
文醜と夏侯惇が知的な会話で意気投合してた場面があったんだが思い出せない
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/14(土) 02:13:10.44 ID:yVQkRh1AO

>>541


「神代ふみあき」「Over the Rainbow」


探ってみ?
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/14(土) 06:55:51.75 ID:TyDwnU/CO
>>542
思い出した。ありがとです
544 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 21:41:34.54 ID:THqwCr98o
>>539
>wこれ下手な嘘ついたら野生の勘でばれてたんじゃね?
きっと姉者のアホ毛は嘘を感知するアンテナなのです

あと基本的に二郎ちゃんは嘘をつきません
ただ、間違うことはありますw

>絶妙に好感度稼ぎつつこれ以上の引き抜きを牽制したなかなかの交渉力よ
なお、意図したわけではない模様

>>540
>文醜さん、まだ汚い世界に触れて無いですよね? というか触れる可能性すら無い。
適材適所ができるというのは組織の強みなのですよね
今私はとても向いてない部署にいます。誰か助けてw

>>541
>それはそれ、これはこれができるのが愛される脳筋じゃないかなって思います
なるほど、わからん!
この台詞が恋姫で一番似合うのは姉者だと思いますw
545 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 22:19:02.29 ID:THqwCr98o
「今日も冷えるのー。底冷えなのー。正直、辛いのー」

ぶちぶちと愚痴る于禁を李典は苦笑しながら宥める。

「まあ、しゃあないわ。ここ南皮は中華の地でも結構北の方やさかい。
 うちかて、最近は結構着こんどるもん。ほんまはもっと身軽でおりたいんやけどな」

本来はとても。とても薄着であり、場合によっては下着くらいの恰好がデフォルトである李典である。その李典ですら衣装を重ね着するのだからして、南皮の冷え込みというのは中々に厳しいのだ。

「真桜ちゃんはもう少し普段から衣装を整えるべきなの……」

そんな李典が羽織っているのは于禁から提供を受けた流行最先端のものなのだが、無造作に重ね着をするその様子に于禁も苦笑一つ漏らすのみである。
まあ、人には向き不向きというものがあるのである。勿体ないな、という思いはあれども。

「でも、三人揃ってのごはんは久しぶりなのー」
「せやなあ。ほんま、いつぶりやろうなあ」
「真桜ちゃんがなかなか帰ってこないからなのー。
 いくら研究が楽しいからって、研究室に何日も籠るのは女子としてどうかと思うのー」

ぷりぷりと我がことのように膨れる于禁に李典は苦笑を漏らす。

「いやー、ちょっと集中したらもう日の出やったりするから、なあ?」

なあ、じゃないぞとばかりに于禁は語調を僅かに荒げる。

「……ごはんもロクに食べてないときだってあるのに、その胸は卑怯だと思うの」
「いやー、胸から痩せるってあれは嘘やな。
 どんだけ食事抜いてもばいんばいんやで。
 ああ、もう少し小ぶりでもええんやけどなあ」
「持てる者の余裕が妬ましいの……。
 気を抜いたらお腹にお肉が付いちゃうのに……」
「ああ、最近、屋台の食べ歩き企画を始めたんやっけ?
 うちらの研究室も結構参考にしとるで。
 いやあ、ありそうでなかった企画やもんなあ。
 人気も結構あるんやろ?」
「そうなのー。
 話題のお店もそうなんだけど、読者の方からも結構情報が集まってくるのー。
 自薦、他薦と情報量が多くて目が回るのー」
「ほうかー。まあ、忙しいのはいいこっちゃなあ」

昔はやることもなく、ただ駄弁っていただけの彼女らだったのだ。好きな絡繰りを作る材料も、図面を書く紙も無かったころを考えると天と地だと李典は思う。

「まあ、どうせあれやろ。
 阿蘇阿蘇(アソアソ)のそんな突拍子もない企画を作るのはあの御仁やろ」
「ご明察なのー。
 凪ちゃんの愛しの、お師匠様なのー」

その声にぶは!と吹き出す声が響く。

「な、何を言うんだ!師であるのは確かだがそんな愛しのだの妙な前置きをつけないでくれ!」

おー、照れとる。照れとるなあと李典は内心ニヤニヤする。ひょっとしたら、多少は表情に出てしまったかもしれないが。

「何言うとるねん。うちらに隠し事はなしやって。
 っちゅうか、見とったら誰でも分かるっちゅうねん。
 ほんま凪は乙女やわー」
「か、からかうな!わ、私は。そんな邪な思いなど抱いていない!」

顔が赤い、見事に赤い。と于禁と李典の内心が見事にシンクロする。

「図星刺されて痛いんはええけど、手元がお留守やでー」
「ああ、火加減が!ああ、もう!」

けらけらと笑いあう二人に楽進は恨めし気な視線を一つやりながら手元に集中しなおす。
そして、やはり三人揃わないと調子が出ないな、というのは多かれ少なかれ三者に共通した思いであったろう。
546 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 22:19:37.77 ID:THqwCr98o
ぶつぶつと文句をつぶやきながらも料理の手を休めない楽進に李典が声をかける。

「なんか手伝うことあるかー?」
「ない!というか、出来上がり直前にそんなこと言うな!」
「きゃー、凪ちゃん怖いのー」
「ああもう、そんなに暇なら食器くらい並べてくれ!」
「りょーかーい」

なるほど、今日は鍋中心かと李典は納得する。寒い日にはありがたいメニューである。

「おー、旨そうやなー。鶏の鍋かー。
 おお、ええ出汁出てるやん」
「んー、暖まるのー。
 あ、真桜ちゃんお野菜も食べないと肌が荒れるのー。
 ただでさえ生活が不規則なんだから、お野菜食べないと」
「うげ。まあ、しゃあないなあ。
 お、そのつくねいただき」
「あー、狙ってたのにー」
「ほら、まだまだあるから、喧嘩しない」

身体が温まるにつれ、舌も滑らかに動き会話は弾んでいく。
そして話題はやはり今日の料理(メニュー)。

「でも、最近凪ちゃんのお料理の傾向が変わったと思うのー」
「んー、そういや、そうやな」
「そうか?何か味付け、変かな?」
「ちゃうちゃう、そうやない。
 まあ、変っちゃあ変やねんけどな」
「そういえばそうなのー」

だって。

「「辛くない!赤くない!」」

于禁と李典が声を合わせて指摘する。
南皮に来てから、赤い料理の登場頻度がぐぐぐっと下がったのだ。赤いモノ大好きの楽進が作るのに、である。

「こんな寒い日はさぞかし真紅の衝撃かと思ったんやけどなー」
「覚悟完了!って感じだったのー」

正直拍子抜けしたというものである。
そんな二人に楽進はコホン、と咳払いを一つ。

「二人とも、勘違いしてるぞ。
 辛い料理は寒い日に食べるものじゃない。
 あれは汗をかいて、暑い日を乗り切るためのものだ。
 本来、辛みには辣(ラー)と麻(マー)の二種類がある。
 辣はその字の通り刺すような辛さ、麻はじんわりと染み込んでくる辛さだ。
 私が辛いのを好むのは生まれが南だからだな。これには防腐作用もあるからな。
 だから、北方では辛みというのは余り用いられないんだ」

ほー、と。棒読み以上感嘆未満の二人である。
これはまあ、指摘するのが礼儀なのかな?と。
547 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 22:20:05.05 ID:THqwCr98o
「でもまあ、個人の嗜好もあるやろ。やからな。
 極端に赤い料理が減る理由としては弱いで」
「うっ」
「そうなのー。凪ちゃんなら、体が冷えるとか気合いでなんとかするに違いないのー」
「ほれほれ、ほかの理由があるんやろ?
 言うてみい、吐いてみい」

やいのやいのと昔馴染みの二人に追及されると楽進も弱い。

「その、だな」
「ほうほう」
「二郎様が、辛いのは。苦手だと」

吐いたな。ニヤリとした口元は于禁と李典が同時に浮かべたもの。

「きゃー!凪ちゃん乙女ー!
 かっわいいー!
 慕うあのお方のために好きなものを断って、お料理の幅を広げるなんてー。 
 愛なのー。これは間違いなく、愛なのー」
「うんうん、これはうちらも全力で応援せんといかんわー」
「だ、誰が、愛か!」

きゃあきゃあ騒ぐ于禁に真っ赤な顔して抗弁する楽進の様子は、常であれば怜悧なのが勿体ないなあと思うくらいに表情豊かで。

「凪ー?」
「な、なんだ」
「ご馳走様、や」

真っ赤なお顔がもっと真っ赤になったなとか思いながら李典は本当に思う。ほんま、ごちそうさま、と。

◆◆◆
548 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 22:20:33.50 ID:THqwCr98o
「そういえば、真桜ちゃん?」
「なんやー?」
「研究研究って言ってる割には何してるか聞いたことない気がするのー」
「まあなあ。
うちのやってるお仕事っちゅうか研究内容は専門性が高いからなあ。
それになー、守秘義務とかいうのがあってやなあ。
 あんまり話せへんのよ」
「確かに阿蘇阿蘇でも醜聞関連の取材の情報源は絶対明かせなかったりするのー。
 それなら仕方ないのー」

本当は李典とてものすごく語りたいのである。そして自分の研究とか発明に彼女らが興味を持ってくれたのは本当に久々だからして。

「まあ、話せる範囲でええか?そんかし他言無用やで?」
「心得た」
「わかったのー」

まあ、素人の視点とかも馬鹿にでけんかったりするとかどっかの風来坊が言ってたからよしとしよう。李典は脳内で護身を完璧にする。

「ぶっちゃけ、巨大兵器の開発しとる」
「巨大……兵器……?」

良く分からないといった風の二人に李典は簡単な説明をする。

「せや。どでかい兵器や」

それは余りに粗雑で適当な説明ではあった。が、于禁と楽進はそれで納得したようである。

「何に使うのー?」
「さあ?うちらは指示された物を開発するだけやし。
 それがどう使われるかは知らへんなあ」
「おそらくは黒山賊の根拠地を攻める時を想定しているのだろう」

楽進の推察に李典は口元が緩む。工房でも実際そうなのだろうという推論が飛び交っていた。それが嬉しくて、つい口が滑る。

「それだけやないで。一応、この南皮を攻略するための運用法も併せて開発しとる」
「え、なんか怖いの」
「それに合わせて防衛用の兵器とか、施設の研究、開発もしとるのやで」
「なるほど。平時に乱を忘れないということか。流石は袁家。北方の盾だな」

うんうんとうなずく楽進。それに李典は思う。まさか自分が改修の一助をした城壁の攻略法を考えることになるとは、と。
だがやるならば徹底的に。それはもう少しで形にできそうなところまできている。

「それでー、どんな兵器を作ってるのー?」
「ありふれとんで?
 衝車とか投石器やなあ」

まあ、李典印の平気なのだからして、常識とか良識を投げ捨てた程度のスペックになるのだろうというのは当然の帰結。

「あー、真桜ちゃんが悪い笑顔してるのー」
「あー、真桜その、なんだ。やり過ぎるなよ?」
「失敬な。うちがいつやり過ぎたっちゅうねん」
「いつものことなのー」
「いつもだろうが……」

む、と膨れる李典に追い討ちが。

「爆発に巻き込まれるのは勘弁してほしいのー」
「本当にそうだ」

ぐ、と詰まりながらも李典はへこたれない。その精神はきっと金剛石(ダイアモンド)でできていた。そう、金剛石(ダイアモンド)は砕けないのだからして。

「それはまあ、あれや。技術の進歩のためには仕方ないんや」

まあ、巻き込まれるのが自分たちでないならば。純粋に応援できるというものである。
そう、どこぞの凡人が技術の進歩とやらの成果を目にするまでにはまだ幾ばくかの時間的余裕があったのである。
549 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/14(土) 22:23:01.28 ID:THqwCr98o
本日ここまでー
感想とかくだしあー

お留守番組のお話でした
タイトルは

「女子が三人集まれば姦しいのは当然であるのだが、女子力については検証の余地があると思われる」

くらいかなあ
ちょっと募集いたします


露骨なテコ入れ回でしたね
これで皆、凪のお料理を忌避せんだろうて……
550 :372 [sage]:2016/05/15(日) 10:31:35.47 ID:9P+beOCAO

乙です。

激辛だから忌避するのであって、辛くないなら大歓迎。
>楽進さんの料理。


>兵器開発
ボウガンは基本的な機構を教えたら、開発しそう。
高純度のアルコールが精製出来れば、火炎瓶が作れる。
植物油が主流だろうから 火力は弱いが混ぜると燃焼時間は伸ばせる。


つか二郎さん、自転車の駆動概念を教えるだけで 爆発的に進化する気がするのですが……


テコ入れ回wwwwww確かに 三羽烏が空気になってましたから。

個人的に突っ込むとすれば、沙和と真桜て凪並みの料理出来るの?


タイトル案

「女子会の壱。三羽烏の場合」
閑話ネタだから、この先同様な話でも使い回せる

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/16(月) 09:16:55.82 ID:JT6Y3yW+0
乙でしたー
>>548
>>本当は李典とてものすごく語りたいのである。そして自分の研究とか発明に彼女らが興味を持ってくれたのは本当に久々だからして。 接続詞に違和感があります
○本当は李典とてものすごく語りたいのである。なにせ自分の研究とか発明に彼女らが興味を持ってくれたのは本当に久々だからして。 【なにせ】って標準語?
○本当は李典とてものすごく語りたいのである。なぜなら自分の研究とか発明に彼女らが興味を持ってくれたのは本当に久々だからして。 固くなっちゃうけどこちらでも
>>まあ、李典印の平気なのだからして、
○まあ、李典印の兵器なのだからして、

後漢時代って調味料はどの程度の価値だったんでしょうね?実際あの真っ赤になるレベルはかなりの金がかかりそうでもあるけれど
唐辛子っていうくらいだしまだそこまで広がってなさそうなイメージ、原作ではどこから調達してたんでしょうね?
552 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/16(月) 23:16:20.13 ID:Mu9Lx4xFo
お仕事ってこんなに大変だったんだなあと
残業とかしたくないんですけどー

今日はお休みです

>>550
>ボウガンは基本的な機構を教えたら、開発しそう。
ボウガンと弩のちがいがよくわからなかったり

実際恋姫世界の技術力が謎なので技術チートはあまりしません
だって、麗羽様とか華琳のドリル縦ロール。あれ専用の機械があるんですぜ
龍とかいて水着の材料になるとかなんとか

鐙もそうだけど、ほんと恋姫世界の文明は謎でござる

>個人的に突っ込むとすれば、沙和と真桜て凪並みの料理出来るの?
無論できません
辛いけど美味い。辛いのさえなければなあというのが二人の思いだったでしょうねえ

>「女子会の壱。三羽烏の場合」
多分使わせてもらいます

>>551
いつもすまないねえ

>後漢時代って調味料はどの程度の価値だったんでしょうね?実際あの真っ赤になるレベルはかなりの金がかかりそうでもあるけれど
文明もそうだけど、食文化についてもふわっとしとこうかな、と。
web恋姫では肉まんとかシューマイとかが実装されてましたね……
ラーメンとか普通にあるみたいだしねえ

技術も含め、真面目に考察している方もいらっしゃるみたいですね
恋姫時代の後漢でググってみたら面白いかもです
553 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/21(土) 21:58:13.66 ID:UF6TLTE4o
さて、俺が洛陽にまで来たのだ。いつまでも遊んでいるわけにもいかん。いや、本当に遊んでいたと言う訳ではないのだけれども。
そろそろ本題の下交渉である。
何進と手を結ぶに当たってどれだけのものを引き出せるか、だ。

現在、袁家は北方三州を束ねるという破格の勢力を保っている。かの匈奴との大戦の功績。また、匈奴からの再侵攻に備えるという意味もある。
正直、中央から見たら危険極まりない勢力とも言える。十常侍じゃなくても警戒する。俺が洛陽に居たら本当に警戒する。むしろ勢力を削ぎに出るだろう。
だがしかし、実際に袁家にあるから分かるのだ。匈奴の脅威を防ぐにはそれくらいの権勢、権益、権力が必要なのだと。
そこらへん、現場と中枢の認識の違いというのはどうしようもないことではある。

「ふむ、袁紹殿が袁家を継がれ、朝廷に出仕された暁には、現状通り三州は認めよう。
 ……いろんな筋から相当危険視されてはいるがな」

にやりと笑いながら何進が言ってくる。
まあ、妥当なところだ。

「更に州牧を一つ。そして太守の枠を二つ用立ててほしいですね」
「ほう?」

探るような目つきで俺を見てくるが。ふん、散々利用されたんだ。こんくらいはせんとな。

「袁家の治める州の数は三つ、これは変わりません。
 新たに州牧に推したい人物が一人います」
「ほう」

先を続けろ、と視線で促す。流石の貫録である。

「太守の枠は袁家に一つ、もう一つはまた推したい人物がいます」
「……とりあえず、言ってみろ」

そして俺は何進相手にその胸中を語る。
……田豊師匠は交渉は俺に任せると言ってくれた。だから、俺は俺の絵図を描く。
ぼんやりと考えていた未来図。この洛陽に来て何進という傑物に出会い、修正を加えたそれを。

「北方の一州は公孫に。
 袁家には荊州を新たに」

荊州。

三国志後半の主役、諸葛孔明を排出した土地である。

沈黙を破ったのは何進の言葉であった。

「ふん。根拠たる北方三州から一つ減らし、なじみのない荊州を押さえるか。
 一応、領地が分散するということにする、か。
 袁家の勢力が削がれる、と思いきや、懇意の公孫をもって匈奴に当てる。
 既に連動している公孫ならば国防の盾としても申し分なし。か」

ぎろ、と睨まれる。

「だが、荊州は劉表がいるぞ?
 そこはどうする」
「益州へ。益州を治める劉焉殿はお体の調子がすぐれないそうですね」

中央への出仕を拒み僻地に独立王国でも築きそうなのは何進とて気にしているだろう。

「ふむ、代替わりの時に入れ替える、か。
 だが、劉表も劉焉もそれでは納得すまい」

まあ、皇族である劉姓。その二人の去就を移り変わる天気のように軽く扱っている話の流れがおかしいのではあるが。
そのあたりに全く触れないということが示唆する何進の政治力というものはちょっと笑えない。いやむしろ笑える。

「劉焉殿の嫡子……劉璋殿を宮中に出仕させ、箔を付けます。
 しかる後に益州へ再派遣すればよろしい。
 それに併せ、劉表殿は再び荊州へ」
「ふむ、それだと袁家の勢力が減るが?」

まあ、荊州を永続的に治めるつもりもないのである。あくまで人材を青田刈りしたいだけだし。

「その時には徐州を」
「ふん、何を考えているのやら」
554 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/21(土) 21:58:53.48 ID:UF6TLTE4o
当然、この絵図にはほかの意味もある。一番大きいのは孔明青田買いだけどな!鳳の雛あたりもセットでお買い上げしたいところ。
何なら水鏡先生とか徐庶もセットでお持ち帰り上等のつもりである。

まあ、他にも理由はあるがね。

「……前向きに検討しよう」

微かにに苦い表情で何進が言う。人事をいじるのはしんどいからなー。各所への根回しやら調整だったりが大変なのだよね。でもまあ、何進にとっても悪くない絵図面であるはずだ。だからこそ前向きに検討するという破格の言質を得られたのであろう。
だが、まだまだ俺のターン!

「俺個人も欲しいものがあります」
「なんだ?金か、地位か、女か」
「地位っす」

きっぱりと言ってやった。

「どんな地位だよ」
「督郵(とくゆう)ですね」

役人の監察官の地位である。普通は各エリアに置かれるそれ。俺が望んだのは、エリアを限定しないそれだ。

「ま、腐敗した地方の官を見た時、処分できる権限がほしいんですよ」
「ほう?」

どこか意外そうな、可笑しげな何進であるが実際、ひどいもんなのだ。流琉の故郷近くとかなあ。こればっかりは現場を見て回らんと実感湧かないだろうなあ。
いや、それが根本的な解決に繋がらないというのは分かってる。それでも、手に届く範囲でなんとかできることはなんとかしたいと思うのだ。

――督郵の地位は俺のためのもの。そしたら袁家のためのものも一つ頼んでみるとしよう。
俺的にはこちらが本命である。

「ほう。……しゃあねえ。毒食わば皿までだ。なんとかしよう」

限りなく即答に近い回答が何進の影響力を窺わせる。つーか、なんとかなるのかよ。
俺が要求したものはそんなに軽いものではなかったのだが。流石大将軍。その決断力と権勢に痺れる憧れる。
そしてやっぱりお近づきにはなりたくないものである。

「なるほどな。お前は……たいしたもんさ。居場所に困ったら俺んとこに来い。
 悪いようにはしねえさ」

そんなことを言いやがる。

「過大な評価ありがたくありますが……。あいにくそんな予定は全くないですねえ」
「は、気が向いたらで構わねえよ」

カハ、と軽く笑う何進。気が向くわけねえっちゅうの。

「では、ひとまずそういうことで」
「ああ、よろしくな」

次に洛陽を訪れるときには麗羽様や美羽様の随員でしかないだろう。だからこんな疲れる交渉は金輪際ということになる。いやあ、疲れた。

でもまあ、何進という人物を知れたのは得難いことであった。そう思いながら用事は済んだしさっさと尻に帆をかける決意をする俺なのであった。
555 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/21(土) 21:59:42.45 ID:UF6TLTE4o
本日ここまでー
魔都洛陽ともこれでおさらば、のはず

感想とかくだしあー
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/21(土) 22:20:58.78 ID:KrEfE/OeO
乙したー

地味様が息してないの!!
557 :372 [sage]:2016/05/22(日) 01:02:39.49 ID:zImcgeeAO
乙です。


今回の交渉、お見事。
欲張らず、それでいてきちんと権益を確保しつつ 協力者への褒賞も確保。

百点です。

それと督郵を望んだのも なかなか。


所で公孫家の任地には是非とも幽州を。
小勢力ですが、公孫賛の 負担を軽く出来る一族が いますよ(猛アピール)


今回の洛陽行は紀霊さんを大きく成長させたと思います。
というか、何進大将軍という中央の超大物に認められた事は大きな財産になりますよ。



軍師の青田買いしても、 臥龍鳳雛って確か胸部装甲が……
おっぱい星人ぽい紀霊さんには、今爆乳メガネと 爆乳腹黒が近くにいますが?
それとも完熟水鏡センセ?


……いかん。ハーレムになりそうな未来しか見えないぞ。

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/05/24(火) 09:18:04.47 ID:Je8FZyTD0
乙でしたー
>>553
>>あくまで人材を青田刈りしたいだけだし。  刈るのはよくある間違いだそうです意味としては戦術・・・兵糧攻めの一種ですね
○あくまで人材を青田買いしたいだけだし。  人材確保ならこちらですね
>>554
>>「地位っす」  間違いではないですがそれまで丁寧口調だったのになぜいきなり三下風に?
○「地位です」  でいいような気がします。あえてそれっぽく振る舞って擬態するにしてもどう考えても何進にばれそうだし
>>それでも、手に届く範囲でなんとかできること ちょっと違和感【手に届く】だと【お手元に商品が届く】のニュアンスがあります
○それでも、手が届く範囲でなんとかできること 多分こちらが慣用句としては一般的ですねちなみに【手の届く】だとお手軽な、という意味になるそうです

何進大将軍も居場所に困ったらって言ってるけどこれだけ認めてる二郎ちゃんが袁家にいられなくなるって北方の盾的意味で国がヤバくなる事態じゃね?
>>何進から見た紀霊・・・袁家の4大武家の一角の麒麟児、バトーさんが認めるほどの武人、怨将軍の異名、妹を前に自分を見失わない精神力、自分を前にして無理のない範囲で意見を出せる頭の回転。これが自分を頼って袁家から出奔してきたらガチでヤバいわw
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 20:17:22.06 ID:sXKFO3ig0
1週間音沙汰無いとリアルが忙しいんだろうなあ、と思うけど1週間くらい普通なんだよなあ、一ノ瀬さんが筆まめなだけで
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 21:10:31.14 ID:QcCvWxD0O
H×Hの思いしたら一週間くらい誤差の範囲内
561 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/30(月) 22:05:49.55 ID:eH/WOH6+o
公私ともに忙しく、気力というものが沸かずにおりました。
ひと月で去年の残業時間超えたのは確実w
手の抜きどころがまだわからんのじゃー
上司超細かいしー

>>556
>地味様が息してないの!!
大丈夫!まだばれてないから!

>>557
>今回の交渉、お見事。
どもです。凡人、頑張りましたw

>督郵を望んだのも なかなか。
なかなかに使いでのある地位と権限なのですよ
下っ端官吏だとあれですが、これに権威が紐づくととっても厄介
もちろん大将軍様は先刻ご承知なわけです

>所で公孫家の任地には是非とも幽州を。
こら、ネタバレはダメって言ったでしょ!

>猛アピール


>今回の洛陽行は紀霊さんを大きく成長させたと思います。
これは確かだと思います
お、成長とか主人公らしいですねえw

>軍師の青田買いしても、 臥龍鳳雛って確か胸部装甲が……
つるぺたですねえw

>……いかん。ハーレムになりそうな未来しか見えないぞ。
既にハーレムタグをつけておりますw

>>558
赤ペン先生、いつもありがとうございます
なかなか卒業できません!

>何進大将軍も居場所に困ったらって言ってるけどこれだけ認めてる二郎ちゃんが袁家にいられなくなるって北方の盾的意味で国がヤバくなる事態じゃね?
そういうことも想定しているのか、それても単なる社交辞令なのか。
受け取り方でいろいろと変わります。ちなみに二郎ちゃんはそこまで考えてません

>>559
>1週間音沙汰無いと
いやほんとご無沙汰いたしまして……
本当は土曜日にやろうと思ってたのですが飲み会が思ったより長引いたのと帰ってきて沈没したのと……
ここのローカルルールでは確かひと月書き込みがないと落とされるというものだったかなと


>>560
あれと比べられても……
いや、お話のクオリティ的な意味で、ですよ?

火の鳥とかゼロの使い魔とかグイン・サーガに比べたら……

なおベルセルクとFSSはたぶん完結無理だろうとあきらめております
562 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/30(月) 23:01:52.80 ID:eH/WOH6+o
「だから俺は言ってやったのさ『振り向くな。刻よ止まれ、君は美しい』ってな」
「ふむ、それは気取りすぎというものだろうよ」
「そりゃどうも」

さて、陳留経由で南皮に帰る旅路である。往路と同じく同行者がいるのである。美女であるのも同じである。だがその中身はまるで違うぜ。

「しかし流石にいい馬を持っているな」
「南船北馬と申しまして、北方のお馬さんは一流なのだ」
「ふむ、そうだな。今度とびきりの馬を用立ててくれ。
 華琳様にふさわしい、駿馬をな!」

というわけで、曹操さんちのd姉こと夏候惇さん――よくわからん経緯で春蘭という真名を貰った――と同行している俺であった。ふ、同行者が彼女なら宦官勢力も手を出しづらかろうという姑息な思惑もあったりする。いや、実際俺の命を狙いそうな勢力ってそこくらいだしな。

「ほいさ。でもいい馬は高いけど?」
「金に糸目は付けないとも。とびきりのを頼む」

流石は曹家驚異の資金力である。三公の一角を買ったというのは伊達ではないということ。実に気前がいいことだ。ちなみに曹操のお父さんだけどね、買ったのは。

「おうよ。しかし、まさか単騎で洛陽に来てるとは思わなかったわ」
「ん?一人の方が身軽だろう?
 足手まといなんぞいらん」

うん、実はだ。ある程度の団体なのだろうから、そこに紛れて帰ろうと思ったら……マンツーマンだったでござるの巻。
まあ、ちょっと脳みそまで筋肉で詰まってそうなとこはあるけど、文句なしの美人だしスタイルもいいしな!馬上でお胸様がたゆんたゆんと揺れる様には――眼福ご馳走様である。

「ふん、視線がずいぶんと露骨だぞ」
「いや、ご立派なお胸様のご威光に目が行くのは仕方ないって。
 気に障ったらすまんが」
「手を出したら切り捨ててやるところだがな。
 この身も心も華琳様に捧げている。
 恩がある故今回は黙って見逃してやろう」
「それはありがたいねえ」

って、まさか……。
百合か。百合なのか。なんと非生産的な。

「ってあれか、ひょっとしてあのネコミミ軍師もお手付きだったりする?」
「ふん、あのような貧相な奴など。所詮一時の気まぐれに過ぎん!」

なんかぷりぷり怒ってらっしゃる。しかし否定してほしかったなあ。割とマジで。
563 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/30(月) 23:02:24.39 ID:eH/WOH6+o
「まあ、そこは知らんわ……しかし寵愛争いとか結構余裕あるのな。
 あ、ちょっとあっちの町に寄ってっていい?」
「少し回り道だぞ?」
「んー、知り合いが知り合いとはぐれた町でさ。
 なんか手がかりがあればいいな、と」
「まあ、構わんぞ」
「あんがとね」

というわけで行きにちらりと寄った町を再訪する。
相変わらずさびれてるねー。つか、空気がよどんでいる。

「……ふむ。貴様が寄ろうというからどれほどのものかと思ったのだが……
端的に言って、しけた町だな」
「口に出すなって」
「ふん、華琳様が治めれば見違えるように繁栄するだろうに」
「まあ、そだろね」

実際そうなのだろうと思う。陳留からも近いし、勢力圏に入るのはそう遠い日ではないと思う。そうなればいいな、と思う。流琉の友達とやらを思って。
そして、そうなると厄介だな、とも思う。曹操という希代の英雄を思って。

「何だ、わかってるじゃないか!」

ばしばしと背中をたたいてくる春蘭。痛い。割とマジで痛い。骨すらきしみそうな勢いである。これだから身体能力スペックに恵まれた奴は……。

「しかしまあ、活気というものが見事に存在せん町だわ」
「ああ、幸い飢えてる民は少なそうだが、な。
 これではお前の知り合いの知り合いの知り合い……だったか?
 それを探すのも手間だろうな。そんなに時間はかけられんぞ」

そう、ここは流琉が知り合いとはぐれた町。そして流琉が店を出そうと思っている町。しかしその未来は相当暗いぞ、おい。

「あー、実は、だな」

探し人の名前も特徴も知らんと言ったら散々馬鹿にされた。いや、いちいちごもっともではあるのである。そして、一方的に罵られても、その言いようはからっとしていて反感を覚えない。その人格というものに脱帽する。いや、人徳と言うべきかな?
いや、実際すごいんだって。某ネコミミフードのちんちくりんとは雲泥の差である。胸部装甲含めて。

「いやまあ、知り合いが探しに来るっつうからさ。
 町の様子だけでも伝えようかと、ね」

そう言いながらあちこち見て回る。この町で店出して、ペイするのはきついだろうなあというのが正直な感想なのだ。いやマジで。大変だぞここで事業を成功さすのは……。

◆◆◆
564 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/30(月) 23:03:16.17 ID:eH/WOH6+o
「まったく、だ。あのような辛気臭い町なぞ、さっさと華琳様に支配されるべきなのだ」
「そうだね、その通りだね」

流した俺の態度に舌打ちを盛大に響かせる春蘭である。

「いや、ね?時間があったら査察とかできるんだけどね。
 とはいえ、そこまで暇でもないからなあ……」

流石に町のテコ入れとかやってる義理も義務もない。とはいえ、気が滅入るのも確かではあるのだ。などと思っていたのだが。


「おう、私だ!ただいま洛陽より帰参した!
 華琳様へ使いを出せ!」

ってこの人はほんと天衣無縫。だからなのか、人望は思いのほかあるようである。その声に歓声が湧く。そして。それを他人事として見守る俺の身の振り方であるが。
さて、それこそ他人のふりして、と。

「どこへ行く二郎!
 さあ、凱旋だ!」
「いや俺曹操さんの配下じゃねえし、凱旋とか意味わかんねえし」
「何だ、細かいことをぐちゃぐちゃとつまらん奴だな。
 いいからついてこい!」

お断りします。
ということでさくっと逃げようとしたのだが。知らなかったよ。春蘭からは逃げられない。くそ、これだからフィジカルエリートは……。

というわけで春蘭についてくしかないのね。
ああ、民の「誰こいつ?」的な視線が微妙につらたんです。はいはい、俺は添え物だから気にしないでください。できたら探さないでほしかった。

「ご苦労だったな姉者」
「うむ、ただいま帰参した。
 息災だったか?」
「おかげさまで大過なく。
 ところで姉者、後ろの御仁は?」
「ん?ああ、まだいたのか。
 洛陽で世話になったのだ。そうだな。紹介しよう。
 二郎!私の妹の秋蘭だ!」
「夏侯淵だ。よろしく頼む」

いや、まだいたのかとか春蘭が逃してくれんかったんだろうとかいうのは野暮というものだろう。
しかしマジか。クールビューティきたと思ったら夏侯淵とか。春蘭と秋蘭がいるなら夏蘭とか冬蘭とかもいるんですかねえ……。
ちょっと俺の扱いがぞんざいすぎるとか思ってたけどまあ、よしとしよう。

「紀霊。袁家に使える紀家の関係者さ。今後ともよろしく」
「姉者が世話になったようだな。感謝する」
「いやいや、何もしてないって」
「ふふ、謙遜することはないさ。
 姉者が真名を許したのだ。私のことも秋蘭と呼んでほしい」

なんだろう。真名というものはそんな初対面にほいほいと預けるようなもんだっけ?いや、それだけこの姉妹の絆が強固ということなのだろう。たぶん。

「ええと、二郎で。よろしく。
 つーか、俺としてはこれで失礼したいんだが」

あまり絡みたくないのだよね。微妙に死亡フラグと戯れているような気がして、さ。

「まあ、そう言わないでくれ。
 珍しいのだ。姉者が真名を許すというのはな」
「え。そうなのか」

それはともかく、曹操とかネコミミに会うのが気まずい現在いかがお過ごしでしょうか。と、Bダッシュのために力を込めていたのですが。

「あら、紀霊じゃないの。どうして貴方がいるのかしら」

はい、見つかりました。視野の広さは流石です曹操さん。
つーか自ら春蘭の出迎えに来たのかよ。股肱の臣だからなのか、愛人だからなのか解釈に困りますねえ……。

しかし、美少女と美少女がキャッキャウフフと戯れるのはこう、絵になるね。

網膜にレコード機能があればいいのになあとか思いながら俺はいつの間にかいたネコミミ。彼女が淹れてくれた茶をすするのであった。あら美味しい。
いや、普通に飲んだけど毒とか入ってないだろうな?入ってないよね?
565 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/05/30(月) 23:05:07.75 ID:eH/WOH6+o
本日ここまですー

感想とかくだしあー

題名は

凡人の旅は道連れ世も末


うーん、いまひとつ。
ご提案オナシャス
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/31(火) 20:14:10.21 ID:9iDoBXL8O
凡将伝読んでから姉者のファンになりました
しゅら〜んのAAがお気に入りです

タイトル案「凡人と春と秋と背中の紅葉ところにより百合の花」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/01(水) 08:53:35.33 ID:3vCxpns30
乙でしたー
凡人の旅は道連れ世紀末 に空目してしまった

>>564
>>「ご苦労だったな姉者」 間違い?としては微妙ですが【ご苦労】は目上からかける言葉なので
○「お疲れだったな姉者」 の方が立場その他から言えば正しいんですが…そこまで彼女たちが気にしないような気もしますね

タイトル案は【姉者、凡人を連れまわす(物理)】で
568 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/03(金) 22:23:43.68 ID:fkH7Eonoo
>>566
>凡将伝読んでから姉者のファンになりました
姉者はねー
正直はおーを口説こうとしなかったら結構いい関係を築けると思うのですよ
姉者のおバカ的なとこは本当にはおーのせいだと思います

>凡人と春と秋と背中の紅葉ところにより百合の花
これ、かなり刺さるのです
ちょっと検討さしてください
紅葉と百合が秀逸なんだよなあ……

>>567
>凡人の旅は道連れ世紀末 に空目してしまった
むしろそうしようかなと思ってましたw
西暦でいうと190年くらいのことだから世紀末覇王伝説もありなんだよなあ
569 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/04(土) 21:31:30.12 ID:Ka67dGZZo
「あら。久しいわね、紀霊。
 どうして貴方がここにいるのかしらね。
 やっと私に付き従う決心ができたのかしら?」

世紀末覇王のありがたいお言葉である。うげ、という内心が声に出なかったことに安堵しているくらいにチキンな俺なのである。

「いやそれはないっすわ。
 旅は道連れ、世は情けと申しまして」

かくかくしかじかと事情をかいつまんで説明する。

「そうね、春蘭と一緒ならば命の危険は減らせるでしょうね。いろいろな意味で。
 それで、わざわざ陳留(ここ)に立ち寄ったのはどうして?」

うん、流琉がどうなってるか気になっただけなんだすまない。
などと言えるわけもなく。
下手に紹介したらこの百合の園に召し上げられてしまう。それは避けたい……避けたくない?

「いや、行きにも寄ったんですけど、挨拶できなかったんでね。これは義理を欠くなと思った次第で」
「ふうん?殊勝な心構えね。
 それならば、そうね。魯粛と虞翻と顧雍をよこしなさいな」

なんという飛躍。なんという上から目線。なんという人材コレクター。付け加えると美少女のみ選んでるところとかもうね。百合の庭園が咲き誇るわけですよ。

「あげませんってば。別に俺に仕えているわけでもないですし」
「あら残念ね。気が変わったいつでも言ってちょうだいな」

流石覇王、人の話聞いてない!

「変わりませんってば」
「で、ここからが本題なのだけれども。
さて。督郵様が何の用かしら?」
「げ」

悪事千里を走る。違うか。

「あら、知られてないとでも思ったの?
 流石に何進大将軍様とね。どんな密約を結んだかまでは知らないけれども」
570 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/04(土) 21:31:56.75 ID:Ka67dGZZo
……あえて「知らない」と断言することで「ひょっとしたら知られているかも」とか色々考えさせる、か。
密談の相手があの何進じゃなかったらほいほいとブラフに引っかかってたかもしれんなあ。
ああ、早く南皮に帰って癒されたい。一挙手一投足に神経めぐらせるとか、ストレスがマッハパンチである。
きっと督郵という、官の不正を暴く地位を得て真っ先に陳留に来たという事実。そこに警戒心がマックスなんだろうな。どうせ後ろ暗いことしてるに決まってる。偏見だけど。
これが麗羽様相手だったら、俺がどうして督郵という地位を望んだのか、そっから始まってあれこれトークが弾んだろうに。
いや、優劣じゃなくて、俺との相性っていう話なのである。つまり麗羽様サイコー。現代社会においても、だ。離職の理由の八割は職場の人間関係、信頼関係ですってよ?

「お流石、としか言えないですねえ。
 別に陳留の査察とか考えてませんからご安心を」
「あらそうなの。まあいいわ、春蘭が世話になったようね。
 歓迎するわ」

……最初からそれだけで済んだんじゃねえの。よほど後ろ暗いとこがあるのだろうねえ。督郵という地位はそれだけ有効な地位なのだよ。実際。将棋で言ったら銀とか桂馬的な、ね。
そんな俺の視線を受けて、ふ、と笑い、踵を返して歩き出す曹操。
こわや、こわや……。
そんなことを考えながら俺は目の前の料理を腹に納めていた。なんと曹操手ずからの料理だそうである。

◆◆◆

「ふん、あんたなんかに食べさせるには勿体ないわ」
「相変わらず口が悪いな、と俺は思うのだが、表面上は問題にしていないという態度を選択する。ただし思うのだ。
 良家の子女とは思えんぞ」
「なによ、言いたいことがあったら言いなさいよ」
「いや、たった今この場で言ったばかりなんだけど」
何か探るような目でこちらを見てくるネコミミ。ふふふ、深読みしても俺に深慮遠謀なんぞないからな。幽霊の正体が枯れ尾花だと知るがよい。

「まあ、あんたがあの脳筋の世話をしたからこそ華琳様の手料理を口にすることが出来たんだから、あんたの下品な顔を見ないといけないというのは耐え忍ぶことにするわ」
「お、男は見た目じゃないし」
「じゃあなんだって言うのよ」
「金かな」

思わず本音がポロリである。我ながらに、中々よろしくない答えであった。
なんとも言えない、微妙な顔でネコミミはため息を漏らす。

「そんなに俺の相手するのが嫌なのかよ」
「勘違いしないでほしいわね。華琳様直々に饗応役を仰せつかったんですもの。
 そこに好悪など存在しないわ」

え、男嫌いのネコミミに、だ。わざわざ俺の相手を言いつけるとか……。これはもしかして、プレイの一環か?

「ならもちっと愛想よくしろよ」
「嫌よそんなの。どうして私があんたごとき凡才に媚を売らないといけないわけ?」
571 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/04(土) 21:32:24.18 ID:Ka67dGZZo
意外と思われるかもしれないが、このネコミミとの会話はこれで楽しいものだった。字面だけだととんでもない罵詈雑言が混じってる気がするのだが、そこに悪意が存在しないため単なる軽口になっている。
何せ地頭がいいのだろう。何を言っても当意即妙、いや、流石王佐の才。しかしこれを使いこなせるのは曹操くらいだろうけどね。

「わかればいいのよ。わかったなら跪いてそこの床でもお舐めなさい」
「って靴ですらねえのかよ」

その発想はなかった。
まあ、多少の問題はあれども歓談を楽しんでいたのである。となると、自然とこういう話になる。

「それにしても、華琳様の才能を認めない凡百たちには腹が立つわ。
 あんたもそう思うでしょ?」
「いやまあ、そりゃ曹操さんはすごいと思うが……。まだ若いし、仕方ないとこもあんじゃね?」
「いいえ、一刻も早く華琳様はその才能にふさわしい地位へと栄達されるべきなのよ!」
「そーですね」

実際、さっさと出世してほしいもんである。そして何進と権力闘争を盛大にすればよろしいねん。

「それで、アンタは華琳様の才能にはどのくらいの地位が相応しいと思うのかしら?」

ちろり、とこちらを見ながら言ってくる。どこか探るような、胡乱げな視線である。うん、相槌がいいかげんすぎたかもしらん。
ここは存念を大いに語っておくとしよう。

「んー?ふさわしいとかいうより、丞相くらいなら普通に行くんじゃね?」
「な!」

だってあの曹操だもんねー。三国志最大の人物ですよ、奥さん。

「ま、普通に漢朝を差配する器だろうさ」

まあ、あとは簒奪とかに気を付けるのみである。乱世にさえならなければ大丈夫、なはず。きっと多分、メイビー。

とりあえずはまあ、売官をどうすっかなあ。あれさえなければちっとは楽になりそうなんだが。
そんな難問は俺より頭いい奴らに相談するに限るね。餅は餅屋に。これ最強。

なんか、唖然とするネコミミにあれこれ言ってたらふく酒を呑ませてやった。もっと言うと、酔いつぶしてやった。
いや、俺としてはたまにはゆっくりと休息した方がいいのではないかという押しつけがましい親切心だったのだけれども。

後日曹操に怒られた。お仕事が滞るとのことです。いや、人が一人一日いないだけで影響が出るという現状をどうにかしなさいよ……。
572 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/04(土) 21:33:42.59 ID:Ka67dGZZo
本日ここでまですー

凡人とはおー

シンプルにこれでいこうと思いますがもうちょっとなんかないかなー
ご提案お待ちしております
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 21:43:04.58 ID:vgJUQJ6KO
乙したー
ネコ耳と二郎の会話ものすごく好き

はおー様陣営は少数精鋭というけど、哀家の手札が多いだけなんじゃないかと思う。
青田買いしたからだけど。
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 21:46:11.07 ID:eolegVJJo
乙です
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/06(月) 09:25:11.56 ID:DHgFKheF0
乙でしたー
>>569
>>「あら残念ね。気が変わったいつでも言ってちょうだいな」
○「あら残念ね。気が変わったらいつでも言ってちょうだいな」

ネコミミは次郎を凡才と言ってるけどそれってはおーを人を見る目が無いって言ってるのとほぼ同義だって理解して…るうえで軽口を楽しんでるのかねえ?
男嫌いなのと無能嫌いなのが分けられてなくって公私も微妙に混同しちゃってる感じがあるけど
まあ次郎の場合本人よりも人脈とかの方が大きいんだけど
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 22:46:04.99 ID:28RnuwW0O
ネコミミが転生したら「坂本少佐(はぁと)」って言ってそう

>>575さん
はおーが認めてるからこそ男であるじろーと会話が成り立つのではと考えています。
その上で気安く悪口が言える相手として見ているのではないでしょうか。
あまりに悪口がすぎるとはおーから閨でおしおきされるかも…
それが目当てだったりしてw

タイトル案「凡人、評価する」
「凡人、はおーに怒られる」
577 :372 [sage]:2016/06/08(水) 21:52:47.70 ID:gWiOmb7AO

お疲れ様です。


二郎さん、最強(暫定)の護衛と共に帰還。


ネコミミさんが、少し丸くなった!?

いやまて、督郵を得た二郎さんにビビっている可能性も……


で、はおー(仮名)さん
人材寄越せと仰るなら、対価を支払う覚悟は?
具体的には母流龍九商会の経済支配を受け入れる とか。


……曹操あんまり好きじゃないです(オブラート百重に包んで)

578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/09(木) 01:58:06.87 ID:VjQkHAz+o
乙です
579 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/09(木) 22:58:07.35 ID:Opgwet2Eo
>>573
>ネコ耳と二郎の会話ものすごく好き
実は当初プロットではメイン軍師はネコミミだったのです

>はおー様陣営は少数精鋭というけど、哀家の手札が多いだけなんじゃないかと思う。
組織が大きいから袁家の手札もさほど多いとは言えない現状なのですよね……

>>575
いつもすまないねえ……
中々赤ペン先生から卒業できないですねぇ

>ネコミミは次郎を凡才と言ってるけどそれってはおーを人を見る目が無いって言ってるのとほぼ同義だって理解して…るうえで軽口を楽しんでるのかねえ?
割と踏み込んだ挑発も兼ねておりますね
もちろん男嫌いというのもあります。男なんて無能一色からしたら実は認めているという解釈も成り立つ不思議

>本人よりも人脈とかの方が大きいんだけど
二郎ちゃんを引き抜くと一気に人材が補充されてしまいますw

>>576
>はおーが認めてるからこそ
この時点ではどうなんでしょね。あくまでバックボーンと資金力と人脈人材メインなのかな?
中身がガチで凡人だからそんなに惹かれない気もするし……(マスクデータです)

まあ、ガチレズ集団の曹家が男子に興味を持つという時点ですごいのかもしれない

でも麗羽様お気に入りの人材なら奪ってやろうくらいの方がはおーらしい気もします

タイトル案ありがとうです!ちょっと検討しまs

>>577
>二郎さん、最強(暫定)の護衛と共に帰還。
実際姉者と同行してたらご安全なわけですよ

>ネコミミさんが、少し丸くなった!?
ツンデレ比奇跡の10:0のネコミミですが、はおーに粉かけないとこうなるのですw

>いやまて、督郵を得た二郎さんにビビっている可能性も……
ああ、後ろ暗いこといっぱいやってますもんねw
ただ、彼女の場合帳簿は完璧に糊塗してそうでございます
裏帳簿?頭の中ですが?みたいな

>人材寄越せと仰るなら、対価を支払う覚悟は?
そんなん支払う気は皆無でしょうね
現東京都知事が可愛いくらいの面の皮の厚さはあると思います

ほんと、梟雄というのはね、お近づきになりたくないものですよ(小物感)

>……曹操あんまり好きじゃないです
これは似たような人がいたと見たw
580 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/09(木) 23:33:36.82 ID:Opgwet2Eo
【急募!】
二郎ちゃんの愛馬の名前を募集します!

東海帝王を考えて他のですが、流石にまずい……まずくない?
王とか入ってたらまずいかな、とかなんとか。

ご提案なければ以下かなあ……

怒涛
衝撃
静寂

いや。東海帝王で問題なければそれでもいいのですがね……。
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/09(木) 23:42:46.44 ID:hJRID4Ugo
流石にまんまはまずいなら渤海帝王とかにしとけば?ww
領地的にも渤海に面してるし
582 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/09(木) 23:47:57.80 ID:Opgwet2Eo
渤海帝王か……
ならば普通に渤海ってのもアリ、かにゃ……?

タイトルもそうですが命名も難しい……。
気の利いた名前を思いつく人ってすごいなあと思うのですよ
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/10(金) 00:20:30.15 ID:TG8N8uoU0
二郎真君にあやかって哮天犬から哮天とか
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/10(金) 00:44:36.53 ID:8yhOHG+UO
確かに「帝」とか「王」とか入ってたらまずいかもしれない
前回は牧場王もいたなぁ

いっそのこと「松風」「黒王」
過去の名馬から
現実社台
新参
灰成功
静鈴鹿
米淋浴

どれも今ひとつなので東海帝王で」いいんじゃないんでしょうかww
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/10(金) 09:02:00.39 ID:TG8N8uoU0
紀霊→綺礼→ランサー(クーフーリン)→愛馬の名はマッハ→音超
紀霊→綺礼→アーチャー(ギルガメッシュ)→ヴィマーナ→空駆
真名でなく普通の名前からの連想で
586 :372 [sage]:2016/06/10(金) 10:26:07.90 ID:l/aCccYAO


厨二ノリで

旋風、烈風、無頼、驀進 天翔、万駆、左桜、右橘 華蘭、瑚鷺、漆闇、芦閃

面倒なら一文字も有りでは?

個人的には琳花 又は華桂なんて如何?wwww

587 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/12(日) 21:52:50.36 ID:q7HV22rMo
名前の候補ありがとうございました

>>583
>哮天犬
アリですね……

>>585
>紀霊→綺礼
これがやりたかっただけちゃうんかとw

>>586
烈風といえばカリン様
ということは間接的に、はおーに跨るようなもの……?

旋風、烈風はすごく惹かれますね
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/13(月) 23:58:19.95 ID:YesQcaB5o
馬の名前まだ大丈夫かな?
宝貝はあれなので顕聖二郎神君から文字って「嶮晟」
師匠の馬とか父ちゃんの愛刀とかにあやかりたいけど思いつきませんでした
589 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/14(火) 21:57:49.12 ID:YyuFc8cyo
>>588
>馬の名前まだ大丈夫かな?
随時募集してます

二郎神君について

より正確には顕聖二郎真君(けんせいじろうしんくん)と呼ぶ。
二郎神(じろうしん)、灌口二郎若しくは灌江二郎(どちらも読みは「かんこうじろう」)、清源妙道真君(せいげんみょうどうしんくん)など様々な別名がある。

一般に額に三只眼を持ち、鎧を身につけた眉目秀麗な武人の姿で描かれる。
七十二の変化の術を使いこなし、刃先が3つに分かれた柄の長い大刀「三尖両刃刀(さんせんりょうじんとう)」を得物とする。また袖の中に哮天犬(こうてんけん)と言う名の神犬を潜ませている。

魔物を退治する場面に登場する神としては非常に普遍的な存在であり、また「西遊記」などの文学作品や民間伝承にも頻繁に名前が登場する。
「封神演義」の登場人物の一人楊?(ようせん)と同一視される事もある。

◆◆
引用ですが、妙道とかはありですねえ

二郎神君の、それっぽい活躍が読みたい方は
「長安異神伝」
がおすすめですw
590 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:46:44.71 ID:a1npC1mBo
「ああ、まだ頭が痛いわ……」
「自分の酒量をわきまえんうちはまだまだ子供ってことさね」
「あんたのせいでしょうが、あんたの!」

馬上である。
まだ顔色が悪く、辛そうなネコミミにちょっかい出しながら軍を進める。そう、軍を進めるのだ。いや、おかしいだろうが。この状況。

「しかしまあ、大胆というかなんというか……」
「何よ、文句あるの?」
「文句は別にないんだけどね。
 いいのかい?ほいほいと俺に手の内見せることになると思うんだけど」
「どちらかというとお手並み拝見、ね。
 醜態晒すのは勝手だけども、北方の防壁たる袁家の武威に傷が付くかもしれないわね」

つうわけで。曹操の軍を預かって盗賊討伐に駆り出されてる俺なのであった。
うん、客将ってやつだね。
本来秋蘭が率いてネコミミが補佐する編成だったのらしいのだが、ごらんの有様である。昨夜宴席の後に片づけておかないといけない書類の処理が二日酔いでおじゃんだったとか。
その穴埋めに秋蘭が奔走し、俺が駆り出されたとか、おかしいやろ。

「ま、責任の一端がないではないしな」
「一端どころがほとんどアンタのせいでしょうが、アンタの……」

わなわなと震えるネコミミ。しかし二日酔いのせいか迫力がないことこの上ない。
そこらの野良猫のほうが迫力あるぞ。ほれ、フシャーとか言ってみろって。
そういや、猫がフシャーというのはルーツである埃及(エジプト)らへんの地でコブラの威嚇音を真似たとかなんとか。いや、知らんけど。

「んで、接敵までの時間は?」
「一刻くらいのはずよ。そして横からの奇襲になる手はずよ」

曹操の勢力圏内で悪事を働いている盗賊団。それの移動経路を掴み、殲滅してしまうらしい。流石は曹操一味。相当に精密なオペレーションである。

百五十ほどの賊に対し、騎兵のみ百での襲撃。蹴散らした後は殲滅するだけの簡単なお仕事です。

◆◆◆

ほほう、あれが野党……じゃなくて夜盗の集団か。まあ、21世紀の故郷では本質は似たようなもんだったような気もするが……。

「で、どうするつもり?」
「どうもこうも、突撃、粉砕、勝利しかないだろ。
 ぶっちゃけいかに奇襲し、戦意を喪失させるかで決まるし」
「一応、一理あるわね」

へえ、と言いながらこちらを見やるネコミミ。
なお顔色はよろしくない。ゲロ袋を渡すべきであろうか。いやこれはギリギリ耐えている顔。ならば素知らぬ顔をするのが筋ってもんだろうて。

「まあ、小難しい陣形とか作戦とかあっても俺。そもそも預かった部隊を掌握とかしてねえしな」
「ふーん、あんたなりに考えてはいるのね」
「まあ、最善は尽くすさ」

さて、ここで問題です。
全然掌握できてない部隊を率いて戦う場合どうすればいいでしょう。

「曹家客将、怨将軍こと紀霊!吶喊するぜえ!」
「ちょっと、アンタ!」

指揮官先頭による突撃である。これが紀家の必勝メソッド。
これをすると自然、部隊(ただし一定以上のレベルが必要)はついてこざるをえない。そして、百五十くらいの集団なら、頭目を見分けるのはたやすい!
まあ、こんくらいならば奥の手である三尖刀があればなんとでもなるし。殲滅も可能だし。

動揺する雑魚には目もくれず、親玉に接近。

「成敗!」

後はまあ、ネコミミの見事な指揮で殲滅、追撃されるのを見守るだけである。
がんばれ!がんばれ!
591 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:48:25.67 ID:a1npC1mBo
◆◆◆

「アンタ、なんて無茶すんのよ」
「えー、上手くいったじゃんよ」
「それなら事前に言いなさいよ!」
「いや、いきなりだから皆必死に付いてきてくれたんだろうよ」

機を見るに敏。違うか。敵をだますにはまずは……って別に敵をだましたわけでもないしな。

「ま、これで義理は果たした、かな?」

俺が猪武者だと思ってくれたらめっけもんである。いや、実際その一面はあるんだけどね。
作戦は簡潔なのに限る。つうか複雑な戦術行動とか、むーりー。

事後処理をネコミミに任せてのんびりと愛馬(名称募集中にて最有力候補は烈風)の世話をするのだった。

◆◆◆

さて、賊を殲滅した俺たちは陳留に帰還した。
凱旋した俺たちは催された祝賀会場で勝利の美酒に酔って……などいなかった。

「そんな暇あるわけないでしょうが。 それにあんなの勝って当たり前の雑務でしかないわよね。
 つくづく……アンタって本当に極楽とんぼね。
 袁家って全員こんなにおめでたいのかしら?
 ああ、もう!私は忙しいんだからこれ以上付きまとわないでちょうだい!」

蔑むような目つきで言いたいこと言いながら軽く駆け足で去っていくネコミミ。
ふむ。
そういや、袁家ってことあるごとに宴席だー祝賀だー、とやってるからなあ。いや、飲みニュケーションって大事だと思うのよね。

いいもーん。一人で祝賀会するもーん。
592 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:49:56.86 ID:a1npC1mBo
◆◆◆

「その時彼女は言ったのさ。『苦しいときは私の背中を見なさい』ってな」
「へー、かっこいいですね、その方」

なにせ……世界の頂点を掴んだレジェンドだからな!

ニコニコと流琉がお酌をしてくれる。最近厨房に立つことも増えてきたそうだ。
いやあ、めでたい。順調みたいでなにより。
まだまだ雑用がメインらしいが、流琉だったらばいずれは看板シェフの座も遠くはないであろう。

「でも、また来てくださってうれしいです!」

まあね、多少はね。袖擦り合うも他生の縁というやつさ。下心もあるしな!いや、性的な意味ではないのですと主張する俺である。
 
「いやいや、約束は守るさ。流琉との約束ならなおさら、だ」
「え……。あ、ありがとうございます!」

やっぱり流琉は元気なのが一番なのだよ。

「流琉ならそのうち本当に自分のお店出せるさ」
「ありがとうございます!
 一生懸命お金ためてるんですよ。
 しばらく頑張ったら屋台くらいは出せるかもしれません。
 あ、でも。屋台も借りものでしょうけど……」
「いや、そりゃすごい」

いや、実際の話、だ。この幼女頑張ってるなあと感嘆しきりな俺である。

「屋台にしろ、出すならやっぱあの町?」
「はい。やっぱり手がかりはあの町にしかないと思うので……」
「んー、ちょっと洛陽に行くついでに寄ったけどかなり荒んでさびれてたぞ」
「はい……。それでも、そこじゃないと、って思うんです」

こんだけ固い決心ならば俺が何を言うこともない。

「ま、当分先ではあるだろうしな。
 そのころには、多少は状況もよくなってるさ」

だがしかし、あの町の治安についてはなんとか、せんとな。曹操勢力を強化してもらうか……?
だがそれは俺個人での介入できる権限を越えているし、あまり曹家に強大になられてもなあ。

「まずは、ここで厨房に立って経験を積むことさね。
 多数のお客さんに料理を出すのは大変だからなあ」
「はいっ!がんばります」

逃げに近い俺の言葉に首肯する流琉。本当にいい子だ。正直お持ち帰りしたいところでもある。

「頑張るのはいいけど、無理はせんようにな」

だが、やっぱりね。ご飯屋さんを構えたいというその夢を横合いからカットすることは俺にはできんよ。俺にできることと言ったら多めに心づけを渡すくらいのものさ。

あ。

「はぐれたっちゅう知り合いの名前聞くのまた忘れた」

まあ、俺なんてこんなもんである。昔の人は言いました。自分ほど信じられない存在があるか、と。
けだし名言であると思うのである。
593 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:50:23.22 ID:a1npC1mBo
◆◆◆

「で、どうだったんだ。二郎の奴の指揮っぷりは」
「正直、何とも言えないわね。
 お手並み拝見といきたかったのだけれども、結局単騎駆けに引きずられてしまったし。
 賊については、頭目を討ち取られた後の掃討戦は私が指揮を執らざるをえなかったのよね」

憮然とした顔で戦闘の詳細を報告する荀ケ。主君である曹操は荀ケと夏候惇のやり取りを瞑目したまま聞いている。
と、思案気な顔をしていた夏侯淵が呟く。

「軍師殿が虚を衝かれたということか。これは侮れんだろう。
 最初に頭を潰すというのも理にかなっている。
 袁家が誇る武家たる紀家。その頭目なのだ、流石、ということだろう」

夏侯淵の言を否定できないから荀ケは黙らざるをえない。個人の武力以外に新たな情報を吸い取れなかったのも事実であるからして。

「秋蘭の言う通りね。単なる猪武者ではなさそうね。
 掌握していない部隊をどう扱うか。それが見たかったのだけれども。
 まさか何もせずに済ませるとは、ね」

苦笑気味に曹操が口を開く。

「申し訳ありません、華琳様。
 紀霊の、ひいては袁家の用兵のクセを見極めるどころか手の内を晒してしまいました」
「気にすることはないわ。
 本来の目的である賊の殲滅はできているのだから。
 雑事に秋蘭を出さずに済んだと思うことにしましょう」
「はいっ!」

落ち込んだ様子から一転、元気を取り戻す荀ケ。が、夏侯淵はその表情の裏を読む。その心眼こそが彼女の真価である。
夏候惇、そして荀ケという極端な才能の相克を軟着陸させるという、稀有なその才を、或いは貢献を曹操は過不足なく理解している。

「他にも何かあるんじゃないのか?」
「く、余計なことを……」

小さく呟いた荀ケの言葉を曹操は聞きとがめる。

「桂花?」
「いえ、華琳様のお耳に入れるようなことではないかと……」
「桂花、私は貴女を高く評価しているわ。
 その貴女が愁眉を開かない。その理由、聞かせてくれるわね?」
「は、はい」

そして荀ケは語る。酒の上での話だと断って。
紀霊が曹操を漢朝の丞相になるという話。袁家も後押しをするという話を。その話に流石の曹操も思案顔になる。ならざるをえない。
主君の沈黙に耐えかねたように荀ケは言葉を続ける。

「その場での思いつきという感じではありませんでした。
 ひょっとすると袁家では華琳様との共闘を考えているのかもしれません。
 ですが、この期に及んでもそのような打診はありません」

荀ケの声にようやっと曹操は口を開く。

「袁家は宦官と全面対決するつもりはないのかもしれないわね。
 いえ、むしろ対決するからこそ私への繋がりを大事にする、ということかしら」
「どういうことでしょうか」

曹操の言葉に夏侯淵が問いかける。

「戦いというのは始めるのは易く、収めるに難いものよ。
 だからある程度のところで私に調停を頼みたいのかもしれないわね」
「それでは何進とは一線を画す、と?」
「断言はできないけれども……。
 一蓮托生のつもりはないようね。
 ま、袁家と対立しても得るものはないもの。せいぜい利用させてもらうとしましょう」

くすり、と笑いながら絵図を描く曹操。
その覇気に荀ケはうっとりと頬を染め、夏候惇は血をたぎらせ、夏侯淵はくすりと笑みを深めるのであった。
594 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:50:48.96 ID:a1npC1mBo
◆◆◆

「しかし、話を聞けば聞くほど他愛もないない戦だったようだな」

夏候惇の声に荀ケが答える。

「そうね、私が補佐に付いていたのだもの。そこいらの兵卒が指揮しても勝てたでしょうね」
「そうか。ならば季衣に経験を積ませてもよかったかも知らんな」

夏候惇の言葉に桃色の髪を二つに束ねた少女が反応する。

「えー、無理ですよー。
 だってボク、まだお馬さんにもまともに乗れないし」
「季衣ならば馬を背負っても行軍速度は落ちないだろうさ」

夏候惇の言葉にその場の全員が笑みを漏らす。

「流石にボクでもお馬さんを担いだらお馬さんには勝てないですよー」
「ならば訓練あるのみだな。今日もこれから鍛えてやろう」
「はい、ありがとうございます!」
「うむ、二郎程度なら容易く勝てるようにしてやる。
 なに、あいつも結構粗忽でな。
 人を探すのに尋ね人の名も知らぬという具合だ!
 っと、季衣も人を探していたのだったか」
「はい。流琉というんです。
 はぐれてから結構経ってしまってはいます。
 でもボクよりしっかりしてるから絶対どこかで無事に暮らしていると思うんです。
 だから、流琉が気づくようにボクは早く偉くなって、見つけてもらうんです!」
「うむ、よい覚悟だ。その思いがある限り季衣はどこまでも強くなれるさ。
 ま、流琉という人物に関しては部下にも通達を出しておく。
 早くに会えるにこしたことはないからな」
「春蘭様、ありがとうございます!」

満面の笑みの季衣……その名を許?という。
彼女と探し人の再会。
求めあいながらも未だ触れ合えない二人。

彼女達を待ち受けるのは美酒か、苦杯か。
未来はまだ。

定かならず。 
595 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/15(水) 22:56:50.80 ID:a1npC1mBo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

前回と併せて「凡人と覇王陣営」かなあ
いまいちなので、やはりタイトル募集します

愛馬の名前も募集なんだよ
二郎ちゃんの愛馬は凶暴じゃないからね、頼むよ

あと許?ね
荀ケとかもそうだけど環境依存文字はあまり使いたくないなあ
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 23:45:53.82 ID:48fg3hUOo
乙です
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/16(木) 11:46:26.95 ID:qNgmuqrh0
乙でしたー

馬の名前 紀霊→綺礼→FATE→運命→デスティニー→タネデス→3番目のクレジットさんの愛機【インパルス】→堤下でw
誤字報告を

>>590
>>本来秋蘭が率いてネコミミが補佐する編成だったのらしいのだが、
○本来秋蘭が率いてネコミミが補佐する編成だったらしいのだが、
>>591
>>それにあんなの勝って当たり前の雑務でしかないわよね。  間違いではないですが、ネコミミがちょっと親しげになってる気がします。そのあとは普通にいつも通りだし
○それにあんなの勝って当たり前の雑務でしかないわよ。  今回の件で認めたとしたらありかも…いややっぱないかな(驚異のツン率100%だし)
>>いや、飲みニュケーションって大事だと思うのよね。 コミュニケーションが正しくコミニュケーションは間違いですね(ゲームとかでコミュるとは言いますがコミるとは言わないですよね
○いや、飲みニケーションって大事だと思うのよね。  なので【ュ】はいらないですね
>>592
>>袖擦り合うも他生の縁というやつさ。
○袖振り合うも他生の縁というやつさ。
>>593
>>紀霊が曹操を漢朝の丞相になるという話。
○紀霊が曹操は漢朝の丞相になるという話。 ただ、別に確定したわけではないので 紀霊が曹操は漢朝の丞相になれるという話。 の方がいいかもしれません
>>594
>>「しかし、話を聞けば聞くほど他愛もないない戦だったようだな」
○「しかし、話を聞けば聞くほど他愛もない戦だったようだな」
>>ま、流琉という人物に関しては部下にも通達を出しておく。  真名を知らなくて呼び合ってる星たちにうかつにそれを使った一刀君が斬りかかられる世界ですし、その世界で生まれて生きてる彼女が真名を呼ぶのは違和感が大きいです。同時にこれだと部下たちも【流琉という人物】ことになってしまうのでさすがに最初に誰かが真名を呼んだ時点で季衣が訂正してると思います
○ま、典韋という人物に関しては部下にも通達を出しておく。 細かいことはともかく描写外で普通に名前を聞いてるんじゃないかな、と思います

許褚・・・出ないなら言干 ネ者 とかで無理やり? 許褚(きょちょ)とかも良いかもしれませんね

とりあえずは次郎ちゃんが情報戦を制したか…それでも曹操陣営も負けたわけではないからなあ
袁家の将と共闘して自分の領土内の野盗を殲滅。そもそも手の内をさらしたといっても賊滅の手腕程度なら大して痛くないよね>>荀ケ
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/16(木) 11:47:47.87 ID:qNgmuqrh0
ってあれ?出た 許褚 もう一発
599 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/17(金) 21:57:34.09 ID:qeGaOAhJo
てす

許褚
600 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/17(金) 22:01:17.91 ID:qeGaOAhJo

& # 3 5 0 9 8 ;

で出るのだなあ。よくわからんw

>それでも曹操陣営も負けたわけではないからなあ
別に負けたわけではないですねw
情報を吸い取れなかった、ゆえに二郎ちゃんの鑑定もうまくいかなかったくらいでw

>袁家の将と共闘して
ここでこのアピールをできたのは何気に大きいのですよね
601 :372 [sage]:2016/06/19(日) 20:17:49.24 ID:VAX8TEtAO


ぱお。(乙です)

>ただの猪武者ではなさそうだな。

膂力も剣技も並みならば 知恵と度胸と経験で補うのが凡人です。
どこかの姉妹や某〇留在住の縦ロール(貧)と一緒にしたらあきませんえ

確かに紀霊さん周りは何かあると飲み会やってますね。
ただ、肝機能も並みならば潰されて搾られる事も 結構ありそうな。

紀霊さん。思い当たる節、御座いませんか?


602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 20:39:25.83 ID:6WbQ+jAl0
アルコール度数が低い可能性もあるからなあ
どの二次創作だか忘れたけど度数低いから恋姫キャラは酒をカパカパ飲めるとかあった
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 22:33:59.29 ID:bZ6X/THyO
お酒に関しては作者ゆずりらしい
604 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/19(日) 23:00:22.10 ID:PNFPNO0bo
恋姫二次じゃなくてもこの時代のお酒は弱いという三国志作品は読んだことがあります
北方三国志だったかなあ

>お酒に関しては作者ゆずりらしい
私ゆずりだったら相当やらかしてますよw

飲んでも飲まれるな。でも飲まれるくらいに痛飲する方が楽しいんだよなあ……
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 23:32:59.71 ID:6XbAn+0So
痛飲もいいけど次の日二日酔いで休日潰したりして後悔するんだよね・・・
606 :372 [sagesaga]:2016/06/20(月) 01:35:00.30 ID:UF4D8DOAO

二日酔いどころか、テキーラで急性アルコール中毒の経験者(20代)

蒸留出来れば、アルコール度数は上がるから……

目当ての女性将を潰して なんて悪辣な手段も(黒
待て。弱い酒で二日酔いてネコミミさん……


607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 15:02:09.76 ID:Mkyu8cwFO
痛飲しすぎて通院しないように
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 21:08:36.38 ID:fqj6eycJO
>>317
JリーグYBCルヴァンカップになったそうな
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 00:30:03.65 ID:o8UtKwFI0
むしろ今から2000年近く昔なんだから酒が弱いのが普通だと思う
ただ恋姫世界ならもしかしたら現代と同じレベルの酒でもおかしくはないかな
猫耳さんは下戸+徹夜続き+もともと体格が小さい+宴会とかに不慣れ×そこに二郎が(親切心から)現代日本で鍛えられた?お酌でよい潰そうとたらふく飲ませた・・・といったコンボのせいだと思う
というかよく読んだらこの猫耳(昨夜宴席)で酔い潰れて、その次の日に二日酔いの状態で盗賊退治に出てるぞ・・・曹家はブラック、はっきりわかんだね
610 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/23(木) 23:47:32.21 ID:X8Htzdkho
>>601
>膂力も剣技も並みならば 知恵と度胸と経験で補うのが凡人です。
>どこかの姉妹や某〇留在住の縦ロール(貧)と一緒にしたらあきませんえ

実際、才能優れた方々については、自分ができることができない意味が分からないのですよね。
ガチで。

>>605
>痛飲もいいけど次の日二日酔いで休日潰したりして後悔するんだよね・・・
どっちかというと、痛飲よりは完徹とかで休日を潰していたのです
睡眠、大事!

>>606
>二日酔いどころか、テキーラで急性アルコール中毒の経験者(20代)
あわわ……耐性がないのでしょう……

ビールとか、日本酒ロックとかで度数を低めて乗り切らなければ
飲み会前に牛乳とかヨーグルトを補給するのは鉄板ですが

>蒸留出来れば、アルコール度数は上がるから……
こら、ネタバレはダメって言ったでしょ!

>目当ての女性将を潰して なんて悪辣な手段も(黒


>待て。弱い酒で二日酔いてネコミミさん……
アルコールは毒のようなもの、体格に恵まれないネコミミが弱いのはリアル路線ですね
かー!凡将伝はリアル路線(棒)だからなー!ネコミミは酔っちゃうなー!


>>607
>痛飲しすぎて通院しないように
これは、やられたね。鋭く刺すこの言語的センスを盗みたい

>>608
なんにしても鹿島が勝てば問題ないな(強がり)
情報サンクスです
611 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/23(木) 23:59:09.28 ID:X8Htzdkho
>>609
>ただ恋姫世界ならもしかしたら現代と同じレベルの酒でもおかしくはないかな
こら、ネタバレはダメって言ったでしょ!

>猫耳さんは下戸+徹夜続き+もともと体格が小さい+宴会とかに不慣れ×そこに二郎が(親切心から)現代日本で鍛えられた?お酌でよい潰そうとたらふく飲ませた・・・といったコンボのせいだと思う
満点なのでなんかリクエストあったら聞けることは聞くかもしれない

>・曹家はブラック、はっきりわかんだね
やりがいはありますぜ。トップがカリスマなんでw
612 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/24(金) 00:03:15.10 ID:C1W6ykvbo
次回更新は鹿島が優勝できるかどうかで決まるかもしれません
モチベーションって大事だからね
613 :609 [sage saga]:2016/06/24(金) 09:02:40.09 ID:926Iz3qs0
マジですか!?
それじゃあ・・・私塾時代の麗羽様+地味様+曹操で、というかこの3人がどう仲良くなったのか、みたいなのってお願いできますか
614 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/24(金) 17:08:33.24 ID:C1W6ykvbo
英吉利がEU離脱か……
これは経済混乱からの戦争があり得ますねえ

資本主義社会においての戦争ってのは要するに
経済戦争に負けた国の一発逆転ゲームですから……

ミッドランドみたいな覇権が目的の国は特殊
まあ、拡大政策せんと国内が割れるという面もでかいのでしょうけど

なんにせよ、怖くて証券会社の口座確認してへんw
あばばばばばばばw
615 :372 [sagesaga]:2016/06/24(金) 20:42:48.90 ID:wtwoAC5AO

>>614

まあ織り込み済みとはいえ、株主総会でクッソ忙しいのに何というタイミングで発表しやがる。

英国は元々EU内では距離置いてましたしねえ。 戦争はとりあえず無いでしょう。
国連含めた全てのしがらみ切ったのなら要注意ですが。



……つうか、FXみたいな忙しい取引でもないなら、冷静に。


何年も総会に参加してますが、何も無い年ってないなあ。
総会屋やハゲタカ共は絶滅寸前になったな。とは感じますが。

616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 20:54:51.56 ID:adqNH/tDO
> 英吉利がEU離脱
鹿島がJリーグ脱退するようなもの?
袁家が漢王朝から独立するようなもの?

教えてエロい人
617 :372 [sagesaga]:2016/06/24(金) 22:03:29.35 ID:wtwoAC5AO

>>616

鹿島がJリーグから離脱 かな?>英吉利のEU脱退

国民投票で出た結果ですのでね。
『私達に利がないから居ても意味が無い』

と意志表示してしまいましたから……

ただ、
『やっぱりもう一回参加する』

も確か可能なので、前者の意味合いの方が強いかも(秋津洲談w


エロくないけどレス。

618 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/24(金) 22:12:06.80 ID:C1W6ykvbo
>>616
エロいから回答

三国志的には荊州と益州(全盛期の蜀)が漢王朝から離脱したみたいな?

個人的にはここから戦争が始まってもおかしくないと思ってます。
最悪のシナリオは中ロ+南北半島VS日本単独

日米同盟は大事。
米国は単独で全世界を相手にしても負けないくらいの戦力だからして。

英吉利を見るに、やはり移民受け入れは火種になるなあ、と。
労働力を安く使おうという経団連の発想がいかんでしょ、と。
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 22:49:39.82 ID:QVY9pzO1O
エロい人もエロくない人も回答ありがとです

戦争になるかどうかは別として国の一大事を国民投票できちんと
決めることができるというのは凄いことだと思います。

EUにCPBかましたれww
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 21:02:02.20 ID:891iyfboO
鹿島優勝おめっとさん

さぁモチベーションが上がったところで酒盛りじゃぁー
あれ?何か違うような気がする
621 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 21:37:15.06 ID:EhvL4pNpo
勝ったぜ(鹿)

酒がすすむぜえ!
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 21:59:48.89 ID:qFE3V0/cO
ワイ福岡市民J2出戻りを決意(白目)
うちの赤いのはまたタイトルがと嘆いとりました

EUにしろ参院選にしろやっぱ政治家は経済と国防に注力せんとなぁと
九条変わったらまずはNATO入りしてくれんかな・・・

れーは様の学園生活非常に気になります
623 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:48:33.75 ID:EhvL4pNpo
>>619
民主主義がいいのかというのは置いといて、機能するためのハードルは高いと思います
国民に対する教育、そして情報を供給するマスメディア
日本は潜在的に前者は備えていましたが後者については疑問符がつきます
報道の自由なランキングについては、あれですよ。
自主的な自粛が影響してるのではないかなと思っております。

>>620
飲んでます

>>622
>ワイ福岡市民J2出戻りを決意(白目)
実は数年福岡に住んでいたことがありまして……

スタジアムの利便性で言ったら鹿島よりはるかに上ですから!
盟主のおかげで優勝できたので……w

>れーは様の学園生活非常に気になります
ネタはできてる

あとは書くだけ
624 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:49:31.20 ID:EhvL4pNpo
「南皮か……何もかも懐かしい……」

懐かしの我が家に帰還、である。ちなみに陳留を去る時にはネコミミと春蘭が見送ってくれた。
塩でも撒かれるかと思っていたので意外ではあった。まあ、ネコミミとは戦友……的なものと強引に言えないこともないし、春蘭とはなんやかやあって真名も交換したしな。

以上ちょっとした現実逃避。

おっかしーなー。
懐かしの……南皮の城壁の上になんでゴテゴテとでっかい兵器が備え付けられてるんだろう。あれ、俺が出発するときにはなかったよね。
投石器に巨大連弩かあれは。城門も鋼鉄製になってるし。空堀三重とか……いったい誰と戦うつもりだ。

いやまあ、備えあれば憂いなし、か。誰に備えているのかを追求するのは後にしよう。きっと使い道のない予算を公共事業で適当に消化したとかそういうことに違いない。俺は詳しいんだ。

軽く頭を振りながら城門を潜る。下馬し、城に向かい歩き出す。
と、声がかけられる。

「二郎さん」

そちらを見やると、麗羽様がそこにいた。艶然といった微笑みをいただけるこの幸せよ。

「あ、麗羽様。なんでまたこんなとこに」

我ながら間抜けな台詞ではある。くすり、と笑いながら麗羽様は口を開く。

「二郎さんのお出迎えに決まってますわ。
 洛陽への使者の任、ご苦労様でした」
「あー、二郎、ただいま戻りました。
 麗羽様にはお変わりないようで何よりです」
「ふふ、私はそうでも、ずいぶんと変わった子もいますのよ。
 ほら、美羽さん?」

見ると、麗羽様の後ろにちっちゃい子が隠れて、こちらをちら、と覗いている。
ん、この子はもしや……。

「じ、じろう……。お帰り……、なのじゃ」
「あらあら、あんなにこの日を楽しみにしていましたのに。
 照れ屋さんだこと。ほら」

麗羽様の陰に隠れようとした幼女。見忘れるものか。見失うものか。これぞ、美羽様である。いや、わかるってマジで。
その、おずおずとした美羽様を麗羽様がこちらに押しやる。
そんな美羽様が目を伏せながら、ちらり、と上目づかいで俺を見てくる。

これは問答無用で可愛いですよ。可愛いは正義ですよ。
美羽様の前でかがみ込み、目線を合わせる。

「はい、美羽様、二郎です。ただいま戻りました。
 いい子にしてましたか?」

にこり、と笑いかける。と、にちゃり、と笑みが満開である。

「うむ、お勉強もいっぱいしたのじゃ!」
「二郎さんを驚かしてやるといって、一生懸命でしたのよ?」
「麗羽ねえさま、それは!」

キャッキャウフフとじゃれ合う姉妹が微笑ましいことよ。
あー、帰ってきたんだなあ。そう実感する。

「そりゃ」
「ひゃ?じろう?」

あわてる美羽様を肩車するのだ。幼女にはこれが一番なのだよ。俺は詳しいんだ。

「うわぁ、高いのじゃ……」

すぐにおとなしくなり、あたりをきょろきょろとする美羽様。うむ、正しい幼女の姿である。

「あら、美羽さん、いいですわね。
 ふふ、そういえばわたくしもよく肩車してもらいましたっけ」
「そうですね。……麗羽様と比べて、美羽様はおとなしくてお利口さんですね」
「まあ、二郎さん、ひどいですわ」

城に向けて歩き出しながら姉妹と談笑する。
ふと、窺えば。猪々子が、斗詩が、凪が、陳蘭が周囲をさりげなく固めているのを認識する。出迎えと護衛、ということなのだろう。
それぞれに軽く目礼をしながらゆったりと歩みを進める。おひさー。

明日からは忙しい日々が始まるだろう。そしてそれを楽しみにしている俺が、いた。
625 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:50:00.47 ID:EhvL4pNpo

◆◆◆


というわけで宴席である。
うん、とりあえず宴会という袁家の家風って俺にぴったりー。飲めや歌えや……って昭和か!

それはさておき。七乃さんよ。

「あのさ。一応俺の任務内容って極秘だったと思うんだが」
「極秘ですよ?これはあくまで任務で長期出張してた二郎さんの帰還を祝う会です。
 任務内容を知ってる人なんてごく一握りですよ」
「あー、そっか、留守してたことには変わりないか」
「そうですよー?どれだけお仕事たまってるか楽しみですねー?」
「うっせー」

まあ、通常業務というか、ルーチンについては問題なく雷薄と韓浩が回しているからね。よほどのことがないと俺まで回ってくることはないし。

……それはそうと、何で俺が南皮に到着するタイミングを狙って麗羽様と美羽様がスタンバってたかは聞かない。
どうせ七乃の情報網に引っかかったんだろうさ。張家の情報網、こわや、こわや……。
それはいいんだが。

「なんで美羽様俺に貼りついてんの?」
「いやあ、慕われてますねえ。憎いぞ、このー」

俺の服の裾を握ったまま眠っている美羽様である。

「いやまあ、それは嬉しいんだけどさ」
「本当に聞きたいですかー?」

刹那、目を光らせて七乃が笑う。

「聞くともさ。聞かせろよ」
「簡単ですよー。美羽様の周りで、美羽様のことを考えてるのが私と二郎さんしかいない。そういうことですね」

軽く瞑目する。

「そっか。七乃にも苦労をかけたか」
「私はいいんですよー。そんなの今更ですからねー。
 ですが、美羽様の教育上、悪意と欲望にさらし続けるのはよくないかな、と」

ある種の政治的空白地域を作ってしまった、ということなのだろう。そら取り込んだら袁家の中での序列がえらいことになる美羽様である。有象無象が蠢動するのも……むべなるかな。

「俺の不在が有象無象の蠢動を招いた、か」
「ええ、そうですねー」

あくまでにこにこと俺を見やる七乃。おそらく独りで悪意への防波堤を勤め上げたのだろう。
そんな七乃の表情には俺への糾弾も非難の色もなく、薄く笑みを浮かべるのみである。こういう時の七乃は怖いんだよなあ。

「ま、俺が帰ってきたんだ。好きにはさせんともさ」
「あららー、二郎さん、本物ですかー?らしくないですよー?」
「うっせえよ。俺だってやる気がある時だってあんだよ」
「頼もしいなー、でもそれがいつまで続くかなー?」

あのなあ……。人が珍しくやる気になっているというのに。

「お前は俺の心を折りたいのかよ」
「まさかー」

にこにことしたまま。巧みに美羽様の手を俺の服から外し、抱きかかえる。

「では、頼りにしてますからねー」

にこり、といつもの、どこか全てを拒絶するかのような笑みを浮かべて退室していく。
残された俺はじっと手を見る。
そしてため息が漏れるのを自覚し、苦笑する。深刻ぶってもいいことなんてない。できることからやってくしかないのだ。
とりあえずは、美羽様のご機嫌を取りに行こうそうしよう。さっきはあんまり話せなかったしね。

そうと決まれば。朝一でアポなし突撃するとしよう。夜討ち朝駆けは営業の基本なのである。

◆◆◆
626 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:50:34.36 ID:EhvL4pNpo
「なんで七乃もいるのさ」

早速もって美羽様に土産話をしに来たのであるが。

「つれないですねえ。私がいたっていいじゃないですかー」
「いや、別に悪かあないんだけどさ」

悪くはない。悪くはないのだ。だが、こう、微妙に苦手意識……とも違うな。謎の気後れがあるというか。

「妾が呼んだのじゃ。どうせなら七乃にも聞かせてやりたいと思っての」
「ああ、美羽様。そのお心遣いに七乃は感激ですー。
 お年に似合わぬそのお気遣い、早熟にもほどがあるぞー。よ、袁家開闢以来の神童!麒麟児!」
「うむ、もっとじゃ。もっと誉めてたもー」

……なんだかなあ。褒めて伸ばす。それはいい。でもなんか違う気がする。こう、微妙に当て擦りがあるような気がするのだが、きっと気のせいさ。

◆◆◆

そして始まるダイジェスト洛陽の怪人たち!いやあ、おっかねえ。

「とまあ、そんなわけで洛陽はおっかねえとこだっつう話ですよ」

俺の言にガタガタブルブルと震える美羽様。

「そ、そんなとこに行きたくないのじゃー」

涙目の美羽様である。なにこの素直すぎてかわいいいきもの。美羽様をいじる七乃の心境がちょっとだけ分かった俺である。

「二郎さんー、ちょーっと脅かしすぎじゃないですかー?
 ほら、美羽様、蜂蜜水ですよー」
「うむ、七乃、ありがとうなのじゃ!」

こく、こくと渡された蜂蜜水を飲み干す美羽様。まあ、おこちゃまは甘いもの好きだよなあ。
そんなことを考えながら三人で談笑する。

ん、しばらくすると美羽様がうつらうつらと船を漕ぎ出した。

「美羽様がおねむのようですねー。
 ほら、二郎さん、手伝ってくださいー」

そう言うと寝間着を美羽様に手際よく着せていく。いや、手伝えとか言われてるうちにてきぱきと七乃が済ませたのだが。まあ、幼女のつるぺたを見て欲情とかせんしな。

「七乃ー、じろうー、いっしょに寝るのじゃー」

心の底から眠そうな様子で美羽様がそれでも一生懸命に言葉を紡ぐ。うわ、これはガチで可愛い。これは将来が楽しみというか、不安というか……。
ハチミツは自粛させなくてはいけないという謎の義務感。

「んー、七乃、どするよ」
「せっかくだからご一緒しましょうねー。
 こわーいお話した二郎さんは責任を取るべきだと思いますー」
「さよけ」

まあ、いっか。
ごくごく軽い気持ちで俺は同衾に同意したのである。
627 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:51:00.52 ID:EhvL4pNpo
◆◆◆

「……ななのぉ、起きてたも、起きてたもー」
「どうしたんですか、美羽様?」

二人のやり取りに意識が浮上する。これでも軍人のはしくれ。寝起きはいい方なのだ。なのだ、が。

「ななのぉ……どうしたらいいのじゃ……」
「あー、美羽様、やっちゃったんですねー。
 もう、しょうがないですねえ」
「うう、せっかく二郎と七乃と一緒じゃったのに……。
 きっと二郎に呆れられるのじゃ……」

べそ、べそと美羽様の泣き声が聞こえる。
あー、あれだ。
おねしょってやつか。
立派すぎかつ広大な寝台であるからこういう自己申告がなければ分からなかっただろうに……。

「うう、うう」
「はいはーい、お任せくださいなー。
 この場は私がなんとかしますので、お風呂にいっちゃいましょうねー。
 そうすれば、ばれませんよー」
「ほんとかや?ほんとに二郎にばれんかや?」
「大丈夫ですよー。
 二郎さんには絶対にばれませんよ」

……これは実に気まずい。ここでは寝たふり、狸寝入り一択である。
そんな俺に気づいてか気づかないでか、べそべそとぐずる美羽様を抱っこして部屋を出る七乃を薄目で見送る。えと、目が合ったのは偶然のはずである。

◆◆◆

「ふう……」
「いやー、美羽様、可愛かったですねえ。
 大好きな二郎さんと一緒に寝られてはしゃいで、
 おねしょしてしまって泣きべそかいて。
 うーん、美羽様は可愛いなあ」

気配が消えて人心地、と思ったら背後から聞こえる美羽様賛歌。

「ってはや!もう風呂行ってきたのかよ」
「いえいえ、それは侍女に任せてきました。
 ほら、二郎さんに美羽様がおねしょなんてしていないって思わせないといけませんから」
「いや、流石に知らんぷりするっつうの」
「ですよねー。
 ですから、本題はこちらです」

そう言って俺にのしかかってきてって……おい。

「昨夜は思うが儘にされちゃいましたからねー。
 お返ししちゃうぞー」

◆◆◆

どこかびくびくした美羽様と上機嫌な七乃。
二人と朝餉を一緒にする前に搾り取られてしまった俺であった。

◆◆◆

今回のオチ。

「ああ、美羽様可愛かったなあ。
 二郎さんにばれてやしないかとびくびくして。
 それが杞憂と知って安心して。
 うん、眼福でしたねー」
「知らねえよ。
 つーかおねしょくらいでなあ」
「二郎さんは女心が分かってないですねえ」

そんなもんかねえ。
しかしまあ、狙い澄ましたようにおねしょしちゃったもんなあ。
って、あれ。

「おい」
「はいはーい?」
「お前、昨夜わざと寝る前の美羽様に蜂蜜水飲ませたろう」
「そうですよー?」

なんとも言えないであろう俺の顔を見て、七乃は心底楽しそうに笑うのであった。
……かなんわ。
628 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/25(土) 22:52:45.90 ID:EhvL4pNpo
本日ここまですー


麗羽様とはおーと地味様の若かりし頃についてはまた別の機会っすねー

いや、お話はできてるんだけど、それを具現化すうるのdかおいは

なのsでう!
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 22:54:45.76 ID:kRAeidMjO
まぁた寝言化してる・・・

所詮はJ2の盟主レベルということよ・・・
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/25(土) 23:06:54.18 ID:xyyj0/qvo
乙です
631 :372 [sagesaga]:2016/06/26(日) 22:16:55.04 ID:thr6ChzAO

乙です。

まずは紀霊さん。お帰りなさい。ですよ。
羨ましいのが、巨乳美女に艶っぽい笑顔で迎えて貰える事。

南皮城が要塞化された事もびっくり。
ただ、どこの家中が施工したかは……
この下り読んだ瞬間、プロットが湧きました。
下さい(直球)

袁術ちゃん。かわええ。 紀霊さんには、張勲さんとは違う甘え方をさせると期待。


ただ、張勲さん。
『貴女何がしたいの?』

と聞きたい。

何というか、袁術ちゃんにおかしな教育と行動取ってないかい?
原作もそうだっただけに ……


原作で一番不憫と感じたのが袁術ちゃんだけに、 彼女がちゃんと育つ事を 願ってます。



……しかし、宴会好きな 袁家だねぇ。
そら人材も南皮で止まる。
陳留の縦ロール(貧)さんも、もう少し見習ったら良いのに。

632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 00:19:14.81 ID:MQ8ZGJjqO
タイトル案
「凡人、再び幼女を肩車する。」
「凡人、今度は主君の姫君を肩車する。」
「凡人、主君の令嬢に密着を試みる」

なんかいまいち
633 :372 [sage]:2016/06/27(月) 08:34:46.98 ID:3StX4g3AO


タイトル案

『凡人、肩の主家令嬢の重さに成長を知る』

『凡人。主家令嬢の肩車に旅の終わりを実感す』

久々に考えたが、相変わらずセンス無ぇ(白目)

……コピーライターで飯食ってる人ってすげーな。

634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/27(月) 11:33:08.36 ID:ihwB+F210
乙でしたー
>>624
>>にこり、と笑いかける。と、にちゃり、と笑みが満開である。 【にちゃり】ってなんか汚くないですか?
○にこり、と笑いかける。と、にっかり、と笑みが満開である。  とか にこり、と笑いかける。と、にぱー、と笑みが満開である。  の方がいい気がします
>>627
>>……かなんわ。
○……かなわんわ。  もしくは ……かてんわ。  でしょうか?

美羽タン可愛いよ美羽タン、ところで二郎ちゃん?七乃が(昨夜は思うが儘にされちゃいましたからねー。 と言っとりますが…情況的にまさか美羽様の横でハッスルしたんじゃあるまいなw
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 13:09:42.79 ID:ZaGYnMoTo
ハッスルしてんだよなぁ・・・(リメイク前)
636 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/27(月) 22:09:12.83 ID:2kcy8tZ2o
>>629
>所詮はJ2の盟主レベルということよ・・・
でも前節川崎に引き分けたのはすごいと思いますよ
勝ちきれなかったのが盟主らしいですががが
福岡という高校サッカー強いのに野球王国というねじれ現象解消のためにも頑張ってほしいものです
なお、フロントがアカンという噂は聞いていますが
鳥栖も一時やばかったすねえ

>>631
>羨ましいのが、巨乳美女に艶っぽい笑顔で迎えて貰える事。
ほんに。
ちなみに出迎えスケジュールは張家がばっちり予測を立てておりました

>南皮城が要塞化された事もびっくり。
二郎ちゃんが予想している通り余った予算を設備投資で消化したというピラミッド的公共事業ですw

>下さい(直球)
あげます(即答)
要望として、現場監督(見習い?)として経験を積まされている李典さんがいたという設定だけ踏まえてくださいませ
一人で好き勝手やってたのが組織の中で腕を振るう……本質は技術者なんだけど組織の運用もできてしまうという異能
トーマス・アルバ発明王さんとか京大の山中教授みたいな化け物的才能を持っているという設定でひとつ
登場の必要はないです

>袁術ちゃん。かわええ。
かわいいのです

>ただ、張勲さん。『貴女何がしたいの?』
一ノ瀬の考察的なものを後述しようかと思っております

>……しかし、宴会好きな 袁家だねぇ。
組織の縦割りを補完する横のつながりって、意外とこういう昭和な行動が大事なのですよね
一ノ瀬が実習に行った、最前線で頑張る公的機関の方々は手弁当でそうされてました
いや、頭が下がります

>陳留の縦ロール(貧)さんも、もう少し見習ったら良いのに。
はおーは、人の心がわからない……というか。なんで人が自分と同じようにできないのか理解できないのだろうと思います
本当に、できないことを探す方が難しい人なので……

>>632
案ありがとうです。
ちょっと考えてみます。ありがとうです。
しかしどれも見ようによってはいかがわしいw

>>634
いつもすまないねえ……

> 【にちゃり】ってなんか汚くないですか?
言われてみるとそうかもですね。ちっちゃい子の全力の笑顔というイメージで使用してました
ここらへんは言語センスなのだろうと思います。なお。そのセンスに自信ないぜい

>美羽タン可愛いよ美羽タン
きゃわわわわなのです

>情況的にまさか美羽様の横でハッスルしたんじゃあるまいなw
七乃さんは床上手ですよ(意味浅)
ノーカット版をノクターンにのっけましょうw

>>635
なお美羽様には気づかれずにすんだ模様
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/28(火) 01:07:24.03 ID:QSDb0GzTo
それがフロント良くなったからJ1上がれたんですわ・・・

アパマンショップがついてくれて何故か井原監督とかFWを引っ張ってこれた

まだまだ付け焼き刃ってことで
638 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/28(火) 23:41:07.45 ID:e9nYJFOoo
>>637
なるほどですね。
フロント力というのは本当に難しいですねえ
でも、フロントが強いとこはチームも強いです

浅い知識で評価しているのは川崎ですね
ここは凄い。陸上トラックがスタジアムにあるのがもったいない!

次に広島、松本山雅、甲府という感じですかね

FC東京はもう、いつ目覚めるのでしょうかねw
639 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/30(木) 22:52:53.59 ID:wbJ0zEnwo
「また、とんでもねえことを考えたもんだな……」

掠れたその声。それはうめき声に限りなく近い。そしてそれを発した張紘は内心頭を抱える思いであった。
いや、それは必然であったのかもしれない。紀霊が帰還して最初にしたのが最も信頼する彼ら二人――張紘と沮授である――との会合であったのだから。しかも場には酒食があるのだ。
日が高いうちからの宴会は最高だよね、という紀霊の言を額面どおりに受け取らないほどには彼らは聡明であった。むしろ紀霊という人物との付き合いが深かった。
まあ、それでも公的には報告できない裏事情であるとか洛陽の趨勢とかを語るのであろう。その認識はある意味正しかった。内容の重大さを除けば、である。

「なんだそりゃ。聞いてないぞ」

そう言いながらも張紘は頭を抱えながらも、内心苦笑する。いつだってこいつは唐突に、とんでもないことを実行してきたのだから、と。
張紘が反駁し、沮授が黙したそれは袁家の大戦略を左右するもの。本来であれば文武の要(かなめ)である田豊と麹義が図るべきものである。それを独断で何進大将軍と擦り合わせたとか、並みの神経の持ち主であれば卒倒していたであろう。

「なるほど。幽州を公孫に託し、袁術様は荊州へ移る。ですか。
 なかなかに大変そうですね?」

ちっとも大変そうじゃない風に呟く沮授の鉄面皮具合に、張紘はいっそ感嘆する。まあ、沮授が大変そうとかいう言葉で済ませるのだ。本来ならば独断専行などという言葉が生易しいような、ある意味越権行為が紀霊には許されているのだろう。
いや、むしろそれを期待されているのかもしれない。きっとそうなのだろうと張紘は自身を納得させる。

「んー、まあ当分先のことだかんな。
 ぼちぼち準備しとけばいいだろ」

呑気な紀霊の言いように、つい言葉が鋭くなる。

「なんでそんなに他人事なんだよ。
 領地替えだぞ?これは大変なことなんだぞ?」

今まで築き上げた地盤、そのほか諸々を無に帰する所業である。常ならば穏やかな人格者という評の張紘の思わぬ剣幕に、紀霊はどこか困った顔でぼりぼり、と頭を掻く。

「で、太守の枠を二つでしたか。
 一つは公孫賛殿として、もう一つはどうするのです?」

助け舟のつもりであろうか?考え込むそぶりを見せて沮授が問いかける。いや、沮授は苦しむ紀霊をクスクス笑って見守る感じのはず。つまり本当に気になっているのであろう。
……そう。要求した太守の枠二つ。その一つは公孫賛だろうと張紘も内心同意する。流石にいきなり州牧とはいかない。実務的にも太守という地位を経験させるのは当然のこと。抜擢というのは実務面において、相当に困難を伴うからこそ中々なされないのである。

「袁術様についてはどうせ実務担当は袁家の官僚団から引き抜くんだろう?
 袁術様は太守で実務経験を積む……って感じでもないだろうし」

年齢的にも、実務を担えるわけがない。そうなれば先に州牧に就いて適当に箔をつける方がいいであろう。だからこそ、疑問が募るのだが。
そんな二人の親友の様子に僅かに首を傾げて、紀霊は重々しく腹案を告げる。

「孫家に長沙を治めさせる」

さしもの沮授すら言葉を失う。

「な……!」

孫家は制御の効かない危険な武力集団。それが彼らの共通認識。そのような無頼集団相手に、実際魯粛や虞翻、顧雍はよくやっているのだ。
だが、いつ暴発するか分からない存在だ。それに太守の座を預けるなど、正気の沙汰ではない。

「太守の座を以て江南の虎を鎖につなぐ。治世の苦労というものを味わってもらいたいな、ってね。
 そして……州牧の座から虎を飼い馴らすのさ」
640 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/30(木) 22:53:20.94 ID:wbJ0zEnwo
いっそ淡々とした紀霊の言に張紘は違和感を覚える。

「孫家の恐るべきはその戦闘能力だ。
 さらに厄介なのはその心胆。彼奴(きゃつ)らは漢朝にこれっぽっちも重きを置いていない。
 これは魯粛や虞翻からの報告にあった通りだ。極論すれば彼奴らはとびきり強力な野盗の頭目。
 それが孫家だ」
「なるほど、責任ある立場を与え、自覚を促しますか。 
 しかし、そう上手くいきますかね?」

沮授の問いかけに張紘はうなずく、もっともだ、と。得た地位をただ孫家の隆盛のために使うという懸念は妥当なものだろう。

「そのために荊州に乗り込むのさ。
 沮授は無理だろうが、できれば張紘には付き合ってもらいたい。
 失敗したらまあ、潰すしかないだろう、さ」

ぞくり、と背筋が凍る。いったい紀霊はこんなにも凄みがあったろうか、と。

「張紘、そん時は手間をかける」
「構わねえ」

反射的に答える。仮想敵としての孫家。その殲滅方法はすでに整っている。
それはいい。いいのだが……。

「二郎、一ついいか?」

張紘は紀霊に問う。問いかける。

「洛陽で、何があった」

そう、問いかける。

「うん、そうだな。お前らには言ってもいいな。
 あれだ。本物の化け物がいた」

その言葉を吐く紀霊の顔は笑みという形にありながら引き攣っている。

「大概袁家も化け物の巣窟だが、とびきりの奴がいた。
 あれと遣り合うにはなりふり構ってたらアカン。
 ああ、俺ごときが片手間にどうこうできる相手じゃなかった」

沈黙が部屋に降りる。はたして紀霊がそこまで言う相手とはいったい何者なのか。
いや、両者ともに予想はついている。

「何進大将軍はそこまでの傑物でしたか」

沮授が問いかける。常と変わらぬ笑み。それにいつもの余裕がないと感じるのは自らの心境ゆえであろうか。

「ああ。
 あれはいかん。負けないまでも……勝てる絵図を描けんわ」

◆◆◆
641 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/30(木) 22:53:48.63 ID:wbJ0zEnwo
俺ら一服中である。はあ、お茶が美味しい。お酒はもっと美味しい。

「しかし二郎、大将軍に勝てないまでも負けないってのはどういうことだ?」

張紘が問いかけてくる。まあ、肉屋の倅云々等、ロクな世評は伝わってねえしな。実際触れてみるとあれはほんと政治的化け物だと思うのだよ。

「そうだな、負けないためにはどうしたらいいと思う?」
「ん?なんだそりゃ……。うん?あ、なるほど」

さすが張紘。叙述トリック――そんなたいそうなものではない――に気づいたか。

「そう、戦わなければいい。これなら負けようがない」

訝しげな顔の沮授にうひゃひゃと笑いながら解説を続ける。

「まあ、ぶっちゃけた話。権力闘争で大将軍とやりあっても勝てるはずがねえよ」

本人が化け物クラスってのもあるがそれだけじゃあない。

「まず、何皇后を通じて弁太子を握っている。外戚として権勢がゆるぎない」

そう言って懐からあるものを取り出す。何進にダメもとで頼んだアレだ。それを目にして、流石の沮授が顔色を変える。
ちなみに張紘はそれを一瞥した後、無言で酒を呷っている。かなりのハイペースで。
やったぜ。

「これは、勅でしょう……!しかも白紙の……」

はい、沮授君、大正解であります。

「そうだ。こんなものを用意できるほど何進は漢朝を掌握しているのさ。
 つまり、何進大将軍様のあらゆる行動は正当化できるっつうことだ」

流石の沮授すら表情が凍っている。
うん、俺も正直びっくりしたからなあ。だってこれ、何進を討て的な勅に加工できるんだぜ?そしてそれがどうした状態の何進ってことなんだぜ?これはいけません……。
さらに、だ。

「それに、大将軍として軍権を掌握しているってさ。
 さらに、涼州の雄。馬家とも繋がっている。馬家当主たる馬騰殿とは義兄弟の契りを結んだそうな……。
 内外の武力を握った外戚と対立するとか、ないわー」

張紘が頭を抱える。ふはは、俺が味わった衝撃をおすそ分けだ。おかわりもいいぞ!……って冗談はさておき、あんな化け物が外戚として権威を握り、武力も持ってるのだ。
正直手を結べたのは僥倖としか言えるだろう。袁家の隆盛が粛清対象になる可能性もあったからな。
井の中の十常侍はそこに気が付いてないのか、未だに何進とは決定的な対立しているみたいだが。それも何進の政治力の凄み、かな。
まあ、勝算はともかく既得権益を守ろうとするのは自然なことだわな。勝ち目があるかどうかは置いといて。
そもそも、宦官が権力を握れたのは皇帝陛下の信頼が厚いからだ。そこのラインを外戚に握られた時点で詰んでる。現状権力を握っている全能感があるが故に気づけないのかもしれないがな。

「ま、そんなわけで宮中での権力闘争には関わらないのが一番だな」
「君子、危うきに近寄らずというわけですね」

沮授がくすり、と笑いながら言う。立ち直りはえーよ、このイケメンめ。

「だが、それだといずれ袁家も目を付けられねえか?」
「張紘の懸念はもっともだ。
 だから宮中には更なる化け物をもって充てる」

麗羽様や美羽様をあんな伏魔殿に置いとけないしな。あんなとこいたら心が病むよ。よくないよくない。
などという本音は多分こいつらには筒抜けだろうから一々解説はしない。照れくさいし。

「ふむ、そんなに都合よく有能で上昇志向があって宮中に伝手があって大将軍と張り合う覇気のある人物などいるのでしょうか?」

沮授よ。お前分かって言ってるだろう……。

「いるともさ。曹操という化け物がな」

この時代最高のチートキャラである。ただし……胸部装甲を除く。
――化け物をもって化け物を制す。袁家は双方と繋がって地方で国防に専念するのだ。荒れそうになったら介入すればよかろうよ。キャスティングボードを握るという美味しい立場でいこう。
まあ、それだけじゃないが、とりあえずはそれで十分だ。

「二郎、ほんとお前ってやつは……」

張紘のぼやきに沮授の爽やかさと胡散臭さが同居する笑み。そこに俺の適当な放言を併せれば、だ。これぞ俺たちのいつもの在り方、なのさ。いやあ、酒が進みますねえ……。
642 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/06/30(木) 22:54:43.00 ID:wbJ0zEnwo
本日ここまですー

タイトル案は「凡人の男子会」もしくは「男子会」
かな?

これぞというものがあればご提案くださいませませ

感想とかくだしあー
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 23:18:57.75 ID:qV0LGUdAO
乙したー
タイトル案は「酒会〈鼎談〉にて」

凡将伝の良いとこは男子諸君がちゃんと生き生きしてるところだなぁとつくづく

上半期終わるー
644 :372 [sagesaga]:2016/07/01(金) 23:13:46.02 ID:ZtxSkwuAO

乙ですよ。

『百聞は一見に如かず』を体感して来た紀霊さんだけに、言葉の説得力がパナイ。

孫家は確かにそんな節ありますね>漢を屁とも思ってない
影響力、支配力が弱いからかな?
野盗の頭目より、無自覚な反政府勢力?

で、袁術さんの身柄隔離 ですか……
まあ猛獣は要らん事せず 専守防衛に徹していれば 何とかなるんですが…… この虎には頭脳があるからなあ。


しばらくは注視。
次回に期待です。

645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/02(土) 13:48:31.25 ID:GgEFGiQv0
乙でしたー
>>639
>>内容の重大さを除けば、である。
○内容の重大さを除けば、であるが。  の方が自然な気がします
>>そう言いながらも張紘は頭を抱えながらも、内心苦笑する。 【ながらも】が二つ続くと変な感じがします
○張紘はそう言って頭を抱えながらも、内心苦笑する。
>>そんな二人の親友の様子に僅かに首を傾げて、紀霊は重々しく腹案を告げる。 【傾げて】だと疑問の感じるニュアンスがありますが、この場合二人の反応は妥当なものだと思うので
○そんな二人の親友の様子に僅かに頷いて、紀霊は重々しく腹案を告げる。 ではないでしょうか? 二郎が二人の様子に【?】と感じたなら上で問題ないですが
>> 「太守の座を以て江南の虎を鎖につなぐ。 この時期は江南だったんで間違いではない?
○ 「太守の座を以て江東の虎を鎖につなぐ。 でも一般的に有名な二つ名はこっちだし…どうなんでしょう?
>>640
>>得た地位をただ孫家の隆盛のために使うという懸念は妥当なものだろう。
○得た地位をただ孫家の隆盛のために使うのではないかという懸念は妥当なものだろう。  もしくは 得た地位をただ孫家の隆盛のために使わないかという懸念は妥当なものだろう。  でしょうか
>>ぞくり、と背筋が凍る。いったい紀霊はこんなにも凄みがあったろうか、と。  
○ぞくり、と背筋が凍る。紀霊はこんなにも凄みがあったろうか、と。  もしくは ぞくり、と背筋が凍る。いったい何があって紀霊はこんなにも凄みが増したのたろうか、と。  昔からあったのを今気づいたなら前者、今回の洛陽での経験によるものなら後者がいいと思います
>>641
>>それを目にして、流石の沮授が顔色を変える。
○それを目にして、流石の沮授も顔色を変える。
>>正直手を結べたのは僥倖としか言えるだろう。
○正直手を結べたのは僥倖と言えるだろう。 もしくは 正直手を結べたのは僥倖としか言えないだろう。 ですね
>>井の中の十常侍はそこに気が付いてないのか、未だに何進とは決定的な対立しているみたいだが。 決定的な対立って言うともう殺すか殺されるか、のレベルな気がします、A国とC国の対立が決定した、みたいな
○井の中の十常侍はそこに気が付いてないのか、未だに何進とは徹底的に対立しているみたいだが。 多分こっちの方がいいかな?海軍と陸軍の徹底的対立みたいな感じで

本当にこの3人のやり取りが大好き、そして何進さん怖すぎワラ…ワラエナイ(レイプ目
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 18:00:16.38 ID:Xv2uyg1xo
最近ティンとくるものがないのでリライト仕様の封神演義風ロゴを作ろうと思った結果
真の文字入れられなかった(←馬鹿)
篆刻っぽい風味を出したかったけどうまくいかなかった
それでもよかったらどうぞ(P:sin)

ttp://www1.axfc.net/u/3686337.png
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 22:52:23.84 ID:GgEFGiQv0
んー恋姫無双が右から左で凡将伝が左から右なのが違和感
でも雰囲気は出てるGJ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 23:22:22.59 ID:Xv2uyg1xo
言われるとは思ったんで修正版
ttp://www1.axfc.net/u/3686513.png

元ネタがこれ
ttp://stat.ameba.jp/user_images/20110115/11/discovery-blog/0b/dd/j/o0432024710984132469.jpg
だからこっちはこっちで違和感あるけどね
649 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/04(月) 20:41:16.77 ID:ooEao2VTo
>>643
>タイトル案は「酒会〈鼎談〉にて」
暫定ですが使わせていただくと思います
シンプルかつ雰囲気が出ててティンときました!

「渚にて」はいい終末小説

>男子諸君がちゃんと生き生きしてるところだなぁとつくづく
オリキャラですので、そういっていただけると嬉しいです

>上半期終わるー
第一Q、未達でしたw

>>644
>『百聞は一見に如かず』を体感して来た紀霊さん
何進との出会いは一つのターニングポイントですたねえ

>野盗の頭目より、無自覚な反政府勢力?
反政府までは行ってないと思うのですが……
真田丸の真田パパとか伊達のまーくんに近いような気もする

> この虎には頭脳があるからなあ。
しかも、とびっきりの、です

>>645
いつも校正ありがとうございます

>この時期は江南だったんで間違いではない?
まあ、ここらへんはふわっといきたいかな?
いつか突っ込みくるとは思っておりました。が、時期と地名で江南にしとこうかなあと

>海軍と陸軍の徹底的対立みたいな感じで
陸軍としては海軍の案に反対するという文脈ですねw

>本当にこの3人のやり取りが大好き
二郎ちゃんにとっては一番気楽に馬鹿できるメンツです。
この馬鹿やってる三人がいずれ袁家を仕切っていくと思うと楽しみですねえ

>そして何進さん怖すぎワラ…ワラエナイ(レイプ目
漂うラスボスの風格を感じていただけたら嬉しいです

>>646
>>648
ありがとうううううう
早速保存しました!
保存しました!
650 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/04(月) 23:52:16.36 ID:ooEao2VTo
さてここは洛陽にほど近い商都であるのだ。
そんなところで何をしているのだろうと公孫賛は自らを省みる。
一日三度とはいかないが、結構な頻度で実行しているのに心の安定は一向に訪れない。
その原因たちが囀っている。

「あーら華琳さん、熟考が過ぎるのはよくないですわねえ。
 そんなだからお胸も背丈も遅々として伸びないのですわ」

「考えなしに上にも横にも広がるよりはいいと思うのだけれども、麗羽」

「羨ましいならばそう言った方がいいのではなくって?
 正直あれだけ美食を摂ってここまでちんちくりんなのですもの。
 ……もう、駄目なのではなくって?
651 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/05(火) 00:09:27.06 ID:qhOFmtEbo
さてここは洛陽にほど近い商都であるのだ。
そんなところで何をしているのだろうと公孫賛は自らを省みる。
一日三度とはいかないが、結構な頻度で実行しているのに心の安定は一向に訪れない。
その原因たちが囀っている。

「あーら華琳さん、熟考が過ぎるのはよくないですわねえ。
 そんなだからお胸も背丈も遅々として伸びないのですわ」

「考えなしに上にも横にも広がるよりはいいと思うのだけれども、麗羽」

「羨ましいならばそう言った方がいいのではなくって?
 正直あれだけ美食を摂ってここまでちんちくりんなのですもの。
 ……もう、色々望めないのではありませんこと?」

「持って生まれたものを卑下するつもりはないわよ。
 駄肉がぶら下がるよりは随分マシよ」

「ですわね。駄肉なんてぶら下げてる方は本当に気の毒なこと」

おーっほっほと高笑いな袁紹に公孫賛は内心苦笑する。
だって彼女の肉付きは一種の理想形であるのだからして。

「あら、白蓮さん?何を呆けてらっしゃるのかしら。ただでさえ地味なのですもの。
 きちんと装いくらいは整えないといけませんわよ?」

「く、地味っていうな!気にしてるんだぞ!」

そして、袁紹と曹操。このセレブ二人にとって日常訪れる店にある商品……服飾品なんて公孫賛の手に届くはずがないのである。
――清貧洗うがごとしとはよく言ったものである。

「まあ、白蓮さんのその、微妙な美点を押し上げそうな商品は残念ながらこのお店にはほとんどありませんからね……」

「むしろ多少でもあることにびっくりだよ。場違いだって自覚はしているけどな!」

「場違いという意味では麗羽もそうでしょうよ。貴女みたいなのが直々にお店に来るなんて、どういう風の吹きまわしかしら?」

その言に公孫賛は内心同意する。服飾にしたって宝飾品にしたってほっといても集まるのに。と。

「あらあら、つまらないことをおっしゃいますのね。
 だって、たまには自分で選んでみたいものでしょう?」

言ってみれば月並みな言葉に曹操は軽く笑う。

「あら、麗羽のお付きはよほど怠慢なようね。主に着る服を選ばせるとか」

その挑発めいた言葉に公孫賛は内心ハラハラするものだが、袁紹はまたしても高笑いを響かせる。

「いやですこと、華琳さん。わたくしに捧げられる服飾に不満がないとは言いませんわ。でもですわ。
それがどのような品揃えの中から選ばれたものか。それを知っているとそうではないのは大きな違いがありませんこと?」

「まあ、一理あるわね。で、麗羽。貴方はどれを選ぶのかしら?」

その言に、笑みを深める袁紹に公孫賛はどうせろくでもないことを思いついたのであろうと推察する。規模はともかくとして。

「それは、決まってますわ。このお店にある品、すべて頂きますわ」

「は?」

呆けてしまった公孫賛を責められるものはいないであろう。

「麗羽貴女何を言ってるの?」

「で、す、か、ら! このお店の品物をすべて買い上げすると言っておりますの。
 まあ、大きさが合わないものもありますからね。
 ちんちくりんの華琳さんに進呈差し上げるものだってありますわよ。きっとね」

以下略
まあ、三人娘の私塾時代というのは曹操と袁紹が無駄にやり合って公孫賛が突っ込み入れつつ胃を痛める。
そんな楽しくも騒がしい日常が繰り広げられていたのである。

多分、きっと、メイビー。
652 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/05(火) 00:11:39.78 ID:qhOFmtEbo
以前頂いたリクエストに対するお答えです
まあ、こんな感じでキャッキャしてたんだろうと思いますよ

即興なので粗くてもきにしない!

タイトル未定、収録するタイミング未定です

まあ、普通に考えて曹操と袁紹と公孫賛がいたらほかのモブは話しかけるのにも遠慮しますわなあ
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/05(火) 10:57:44.93 ID:7hCVZf/a0
乙でしたーありがとうございます!
>>651
>>服飾にしたって宝飾品にしたってほっといても集まるのに。と。
○服飾にしたって宝飾品にしたってほっといても集まるのに、と。
>>ちんちくりんの華琳さんに進呈差し上げるものだってありますわよ。 進呈≒差し上げるですので
○ちんちくりんの華琳さんに進呈してあげられるものだってありますわよ。 もしくは ちんちくりんの華琳さんに差し上げられるものだってありますわよ。 とかどうでしょう

女三人寄れば姦しい。そこに貴賤はない って感じですね。この近くではアホのことか馬鹿な子が護衛として騒いだりしてるんでしょうかね?少なくとも陰に潜んでる護衛はいそうですけど
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 21:51:23.83 ID:FDF/+mBPO
にちゃんのまとめを見てたら久しぶりにはなりんの話がまとめられてた
ネタとして読んでも面白いよ
655 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/05(火) 23:31:52.66 ID:qhOFmtEbo
>>653
>女三人寄れば姦しい。そこに貴賤はない って感じですね。
まあ、能力値的にも近しいので……w
地盤から言ったら地味様がぐいぐいいってる感じっすw

>>654
>久しぶりにはなりんの話がまとめられてた
それ知らないっすw

できたら詳細とリンクとくださいませw

明日こそやるぜ
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/06(水) 05:16:02.93 ID:8YGBSFjGO
>>654
はなりんの話

はおーに恋するあまりはおーとのメール交換を自作自演していた漢
そのメールを嫁によまれて…
というお話

ttp://chi.blog.jp/archives/970202.html
657 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/06(水) 23:28:05.16 ID:6oVMGGzMo
今日は無理す
土曜までにはなんとか。


>>656
見てきましたが……w

いや、何重もの修羅場やったんやなって
しかし、はおーの部下プレイとか二郎ちゃんとは対極の発想ですねえ……

よくもまあ、めんどくさいことをするなあというのが素直な感想でしたw
658 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:44:51.47 ID:rzThCiqEo
「ねえ、これは本当に紀霊のやったことなの?」

孫権は目を通した資料を手にそう問いかける。

「ええ、間違いないと思いますよぉ?」

孫権がこの地で信じられる立った二人の臣。その片割れたる陸遜がそう言うのだ。
だが、これがとてもあの軽薄な男の成し遂げた足跡とは思えない。

「こんなの、こんなの信じられるもんですか!」

孫権の癇癪――よくあることである――に陸遜は無言かつ笑顔。慣れたものである。
孫家の血筋は炎。その中で孫権のそれは、その母と姉に比べたら極めて理性的と言える程度のものなのだから。

「……ごめんなさいね。資料をまとめてくれた穏にう台詞じゃなかったわね」

軽く頭を振り、謝罪の言葉を口にする孫権。その在り様が孫家にとってどれだけ重要であることか。次代は孫権に、と公(おおやけ)に当代当主たる孫策自身が口にするのは故あることなのである。

「いいえぇ、手間はいいのです。それにぃ、かけた手間は活きると思いますしぃ」

にこり、と責めない陸遜に孫権は内心恥じ入るのみである。その、自らを省みるという貴重な性格がこの上なく評価されているのだが、本人がそれに気付く日が来るのであろうか。それは陸遜にも分からぬことである。
……孫権にとって、連日の歌舞楽曲に辟易しての暇つぶしが半分だったのだ。接待を受けることそれ自体が自分の役目だと知ってはいたのだが、それにも限界がある。
接待を受けるにつれ知る袁家の繁栄。それの根幹を知りたいというのは孫権にとって極々自然なことだった。
そして陸遜に集めたもらった資料、特に紀霊の人物を理解するためのそれは端的に言ってすごいものであった。――ある意味偏った資料でもあったのだが。

農政から民政、商会の立ち上げからの街道整備に始まる公共投資に軍制改革、南皮の要塞化計画等……。軍制改革については陸遜も手を貸した、らしいのだが。

「ねえ、穏。これほんとに一人の、紀霊という人物が手掛けたのかしら」

思わず問うてしまう。その問いに陸遜は我が意を得たり、と笑みを深くする。

「そうですねえ。じ……紀霊様にお聞きしたんですけどぉ、その事業の立ち上げについては間違いないみたいですよ?
 手元を離れた事業が多いとはおっしゃってましたけどぉ」

むしろ、である。多岐に渡る提言、そして着眼点は驚くべきことだ。袁家の隆盛の一因は紀霊にある。渋々ながらも――それを認めないわけにはいかないだろう。
それは、孫権にとって……とてもとても不愉快なことだったのだけれども。

「ねえ、穏。
 私が紀霊ほどの見識を持っていれば、孫家ももう少し……。
 いいえ、そうね。もっと豊かだったのかしら」

視線を下に落として、いささか自嘲気味に呟く孫権の言を陸遜はにこやかに否定する。

「それはありません。
 紀霊さんの施策は持てる者がその財力を背景に実施したものですから。
 孫家の財力ではとてもとても」

残酷だけれども、正確な言葉。こんなことを言ってくれる臣がいるというのはきっと得難いものだろう。そう、こんなにも自分は恵まれているのだと孫権は自分を鼓舞する。

「そうね、ありがとう。
 穏が南皮までついて来てくれてよかったわ」
「うーん、ありがたいお言葉ですねぇ。
 ついでにご提言してもよろしいですかぁ?」
「なあに?ほかならぬ穏の提案ですもの。私に否やはないわ」

これは孫権の心からの言である。

「南皮は洛陽に匹敵するほど発展しているということを知られました。
 ならば、ここ南皮を視察するべきかと。
 私もいろいろと……色々と見分を深めたいですしぃ」

にこやかな陸遜の言は至極妥当なものである。

「うん、そうね。ずっと建物内にいても気づまりするもの。
 それに、袁家の施政の成果を見るのは江南にとっても益があるはずだわ」

その言に陸遜はにこにこと賛同する。そして孫権は思うのだ。頑張ろう、と。孫家次代の主、と言われているが、まだまだ自分は未熟この上ない。
だから、頑張らなければ、と。

◆◆◆
659 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:45:50.49 ID:rzThCiqEo
「どうして貴方がいるのよ……」

思わず漏れたその言葉に対面した紀霊は渋面を見せる。

「んだよ文句あんのかよ。
 たまたま俺も今日は町の視察が公務だからだっての。だったら俺が引率したら護衛も兼ねれて一石二鳥じゃん?」

その率直な言に孫権は失言を悔いる。

「いえ、文句というわけではないのよ。でも引率はともかく護衛なんて必要ないし……」

……本当は魯粛か楽進にお願いしたかったのだ。でもそんなことが言えようはずもない。

「まあまあ、民政に精通していて、識見があって都合が付く方というとなかなかいらっしゃいませんしぃ……」
「んだよそれ、俺が暇人みたいじゃねえかよ」
「あらやですぅ、そんなつもりはないんですよぉ?」

わざとらしく紀霊にしなだれかかる陸遜。あれは自分の失言が招いたもの。ではあるのだが、やにさがる紀霊の表情にいらっとしてしまう。

「いやいや、いいってことよ。いやあ、識見があるって言われてるようなもんだしな!照れるぜ」

本当に……なんでこんな男に陸遜は懸想しているのだろうと孫権は思うのだ。
だから、見てられないとばかりに会話を打ち切る。

「そろそろ行きましょうか。
 穏、手配ありがとうね」
「はい。
 いってらっしゃいませぇ」

にこりとした陸遜の視線が、何でか生暖かった。
まあ、孫権としては楽進についてきてほしかったのだろうが、実際についてきたら苛々しただろうなあという陸遜の推察。その是非については闇の中である。

◆◆◆
660 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:46:18.25 ID:rzThCiqEo
さて、美少女と街中をデートだぜ!という自己暗示が解けつつある。明らかに俺、嫌われてるよね?空気がギスギスしてて、楽しくないぞ!どうせ市中の視察という散歩するなら美少女と行った方がいい!あわよくば仲良くなれれば、とか思ってたんだけど……。
俺、結構気を使っているんだけどなあ……。ああ、穏と二人ならこう、なんだ。キャッキャウフフとじゃれ合いながらあわよくばあの豊穣の象徴たる胸部に挑みかかかることもできたろうに……。
などと思ってたらひとまずの目的地に着いたようである。

「あ、若。久しぶりっすねー」

そう、元紀家軍の奴がやってる商店に来たわけである。

「おうよ、商売は順調か?借金増えてないか?」
「おや、若が俺らの心配するとか……。
いやあ、急に雨が降ると思ってたら納得ですな!」
「うっせえよ、も少し俺をねぎらえよ、敬えよ」
「はいはい、ああ、なるほど。こりゃ失礼しやした。
 どこの令嬢をだまくらかして連れ出したか知りませんがね。ええ恰好したいなら事前に言ってもらわないと」
「あのなあ、そんなんじゃねえっつの」
「またまたぁ。いつか背中から刺されますぜ?」

ええい、減らず口が……って昔からこんなんだったわ。

「もういいって。で、最近どうよ?」
「ええ、静かなもんすよ。おかげさまで女房子供ともども食うには困ってませんや」
「そか、いつもすまんな」

差し出された書付を懐にしまって歩き出す。ついでに貰った魚の干物。軽く炙ったそれを齧りながら軽く目を通す。

「ねえ、さっきのお店で何を受け取ったの」
「このいやしんぼめ。目ざといな。ほら、食えよ」

気を利かせてか孫権の分もくれたのだろう。少し小ぶりな干物を口に突っ込んでやる。

「はぐ……あら美味しい。もぐ。
 じゃなくて!なんか貰ってたでしょう」

むむむ。誤魔化されはしないか。流石に。流石は孫権。さすそん!いや、この場合はさすけん、だろうか

「目ざといねえ。いや、単なる仕入れの相場の書付だぞ」

それに付随して市況とか色々メモってあるそれは現場の情報。とても大切なものである。

「どうしてそんなものをわざわざ貴方が貰うのかしら。一介の商売人から」
「んー。別にこれが情報源の全てってわけじゃねえよ。
 ただまあ、自分の足で情報を集めるのも必要かな、と」
「相当お暇なようでうらやましいことね。
 そんなの、部下に頼めばいいことでしょう」
「そりゃそうだ。が、部下にまかせっきりというわけにもいかんわな」

なんか突っかかってくるなあこの子。

「あら、貴方の配下は信頼できないということかしら?」

んー。まあ、割とそうでもある。俺だって市況報告とか、結構適当に当たり障りないこと書いてたからなあ。とも言えず

「あのなあ、水ですら留まると腐るんだぜ?いわんや生身の人間をや、ということだな。 
 上善は水の如し、というがね。腐った水をありがたがるわけにゃあいかんわな」

管理職が現場を知ってるという事実。それは現場の怠惰さを割と駆逐するのである。いやマジで。
そして今度はだんまりな孫権である。それでも絵になるくらいの美少女っぷりが見事なのである。
しかしこれが俺の部下ならお尻ぺんぺんものな態度である。お尻ぺんぺんか……そういうのもあるのか!
あるのか!

◆◆◆
661 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:46:44.18 ID:rzThCiqEo
さて、飯だ。飯なのである。日に三回しかない、人間の根源欲求を満たす一大イベントである。
イライラしてても美味しいもの食べてうんこしたらなおるよ!なおるよ!
大事なのは切り替え、切り替え!これはデート!いやさ接待!感じ悪いお得意様への接待!よし!覚悟完了!

「どこへ向かってるの?」

おんや、声から刺々しさがなくなったぞ。
そっかー、イライラしてたのはきっとお腹が減ってたからなんだな。

「んー、馴染みの店ー」
「へえ……」

少し怪訝そうにしながらもおとなしく付いてくる孫権。まあ、どうせ高級料理店とかを想像してるんだろなあ。

ところがどっこい、である。

「へい、らっしゃい!あ、若!お久しぶりっす!」
「おう、元気そうで何よりだ。
 ん、繁盛してそうじゃんか」
「若のおかげっすよ。
 隊のみんなも結構来てくれてますしね」

そう、これまた元紀家軍の兵卒である。戦闘で足を負傷し、切り落とさざるを得なかった。
退役後にこの店を開いたのだ。出すのは戦場料理に毛が生えたようなものだが、良心的な価格でそこそこ……結構繁盛している。
うん、その日を暮らしていくに困らないくらいの儲けしか考えない。その方が結果繁盛するという池波理論である。まさかマジで繁盛するとはなあ。詳しくは剣客商売を参照すること。
潰れそうになったらメニュー開発とか色々テコ入れする準備もしてたのに、正直拍子抜けである。

「あ、若ー、ちーっす!」
「おうよ、お疲れちゃーん」

現役紀家軍の奴らである。
まあ、安くて量があるこの店は兵隊さんにうってつけ。荒っぽくても治安を担う奴らが集うおかげでここら辺は相当平和だったりするのである。なお。

「なんすかー、若ー、そんな美人さん連れちゃってー。
 どういうことっすかー」
「ねーねー、俺らと一緒に飲まないー?」

こいつらはまあ。こんなもんである。このノリが紀家軍の伝統である。うむ。

「お前らもう出来上がってんのかよ…。
 あー、この子はあれだ。
 江南の孫家。そこのお姫さんだ。
 お前らが気軽に口をきける方じゃねーぞ」

釘を刺したと思ったのだが。

「えー、お姫さんなの?すげー!お姫ちん!」
「姫さん、まあ、座りなよー。ほら、お酒どうぞー」
「ってお前ら人の話を聞けよ!むしろ聞いた上でそれかよ!」

いやまあ、薄々こうなるかなーとは思ってたけんども。何せ紀家軍はアットホームでフレンドリーな職場だからな!

◆◆◆
662 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:47:47.82 ID:rzThCiqEo
さぞかし名店なのだろう。わざわざ外で食べるというのだから。と、孫権は思っていたのだ。だが予想に反し、紀霊が歩く道はいつまでたっても猥雑で、けして高級さなんてなくて。それでも、活気にあふれていた。

そして入ったのは、どこにでもありそうな、ありふれた店だった。店主らしい男性と紀霊が言葉を交わす。馴染みの店というのは本当らしい。

「姫さん、まあ、座りなよー。ほら、お酒どうぞー」

物思いに耽っていた私にそんな声がかけられてちょっとびっくりしてしまう。
後は、怒涛。

「ほら、姫さん、この串焼きが旨いっすよ!」
「おめえ、そんなのよりこの煮込みの方がお口に合うに決まってんだろ!」
「ほら、ここの蜂蜜酒はなかなか他の店では飲めないっすよ」
「いやいや、肉に合わせるならこっちの干した果物が!」

囲まれて本当に怒涛。孫権は流石に少し戸惑ってしまう。
それでも、薦められたお料理を食べたり、お酒を飲んだりするたびに皆が喜んでくれるのがうれしくて。
ちら、と紀霊を窺うと、あっちはあっちで楽しそうなのだが……。

「そっかー、借金返し終わったかー。めでたい!
 よーし、今日は全部俺のおごり!飲め!食え!歌え!」
「若のお大尽が出たぞー!飲めー!食えー!若が歌ってる間に飲んで食えー」

うん、とんでもなく馬鹿騒ぎだ。清貧という美徳とは無縁のその光景に孫権は苦笑する。それでも、部下を鼓舞するという意味では見習うべきものだろうと思っていたのだが。

「飲んでるー?」

てっきり自分なぞほったらかしで騒ぐものかと思っていたのだが。横に座りあれやこれやと話題を提供してくるのが意外である。

「ええ、楽しませてもらってるわ」
「そりゃよかった」
「でも、意外だったわ」

その言葉に、特に緊張もしないこの男はきっと本当に、心底この場を楽しんでいるのだろう。

「なにが?」
「貴方が私のことを、姫だなんて紹介したじゃない」

その、孫権としては結構色々な思いを乗せた言葉。その思いに紀霊は気づかない。

「実際そうだし」
「それで気後れするどころか、どんどん絡んでくるのね。
 孫家だったら皆遠巻きに見てるだけよ」

ふーんとばかりに興味なさげ。それが孫権にとって……いっそ心地よいと感じるのはいかなる心境の変化であろうか。

「そんなもんかねえ。紀家軍(うち)の連中がもし麗羽様とか美羽様と飲む機会に恵まれたら……。
 そりゃもう、我も我もと言葉を交わそうとえらいことになるんだろうけどな……」

けらけらと笑いながら料理に手を伸ばし、酒を呷る。そこに間違っても凄みであるとか知性の煌き的なものを感じることはできなかった。
だがそれが、その表情を浮かべる彼が何を成し遂げてきたかを思う。自分が彼の立場であったとしたら、と。
だから、口にしたそれは彼女の本音。
 
「ねえ」
「んー?」

お酒のせいだろうか。思ったことをそのまま口に出してしまうのは、などと思いながら。

「私、貴方のことをもっと知りたいわ」

表情を凍らせる紀霊の反応が面白くて。陸遜のようにしなだれかかってみる。固くなるその態度がちょっと、可笑しい。
うん、悪くない、と孫権は思う。
孫家の次代を担う者として、紀霊と親しく接するのは悪くない。むしろ称賛されることであろう。

これが、孫家二の姫と紀家の麒麟児。二人が本格的に向き合うその馴れ初めである。
そしてこの二人の出会いが、関係が。中華の大地が紡ぐ歴史という潮流に、大きく変動をもたらすことになるのである。
663 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/07(木) 22:52:23.28 ID:rzThCiqEo
本日ここまですー

タイトルは

「凡人と孫家二の姫その2」

を予定しております

感想とかくだしあー
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/07(木) 23:38:28.55 ID:JoITbRtQO
乙したー

えらいフレンドリーに絡んできた紀家軍だけど赤ん坊から見知った仲もいるだろうから単なるモブ集団じゃなく二郎ちゃんの心の支えなのかな、と

現代知識チートも地盤が無けりゃ役立たずと見つけたり
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/08(金) 11:13:01.96 ID:8mD1Qh5r0
乙でしたー
>>658
>> 孫権がこの地で信じられる立った二人の臣。
○ 孫権がこの地で信じられるたった二人の臣。
>>資料をまとめてくれた穏にう台詞じゃなかったわね」
○資料をまとめてくれた穏に言う台詞じゃなかったわね」
>>そして陸遜に集めたもらった資料、
○そして陸遜に集めてもらった資料、
>>659
>>……本当は魯粛か楽進にお願いしたかったのだ。 勘違いかもしれませんが魯粛さんここにいましたっけ?江南から帰ってきてた?江南でにらみを利かせてそうですが
>>いやあ、識見があるって言われてるようなもんだしな! 上でそう(まあまあ、民政に精通していて、識見があって都合が付く方)いわれてますよね(苦笑い
○いやあ、頼りにされてるってことだしな! もしくは いやあ、頼りになるって言われてるようなもんだしな! とかでどうでしょう

孫家の場合は上が清貧にするのが正しいんだろうね、ぐちゃぐちゃで下手したら人を食う(物理)になりかけてたわけだし
袁家の場合は上が豪勢にするのが正しいんだろうね、溜め込んで腐らせるところを知ってるわけだし循環させる力もあるから
タイトル案 【凡人と孫家の姫の逢引き?】
666 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/08(金) 17:07:40.92 ID:mdhHfM/wo
>>664
>えらいフレンドリーに絡んできた紀家軍だけど
例の百人組手の相手とかいますしね。距離感はかなり近いと思われ

>単なるモブ集団じゃなく二郎ちゃんの心の支えなのかな、と
黄金時代、そして捧げ……う、頭が!

>現代知識チートも地盤が無けりゃ役立たずと見つけたり
二郎ちゃんについてはそうですね
正直、貧乏なとこでのし上がる他のオリ主とは格が違います。低い意味で。何せ凡人なもので。

>>665
いつもすまないねえ……
単純な誤字脱字にはほんとこう、ね。あかんなあと。

>勘違いかもしれませんが魯粛さんここにいましたっけ?江南から帰ってきてた?江南でにらみを利かせてそうですが
そこに気づくとはやはり天才か……
いや、実は江南治まってきたので。イケイケどんどんな魯粛からきっちりした……というか堅物の虞翻に引き継いだという裏事情。
創業初期の奔放かつワンマン経営から、きちんと監査役を入れた感じに舵をきっておるのです。
いずれ書くつもりの内容の伏線でありましたが、そこに気づくとはやはり天才か……

孫家という戦闘民族を相手にする虞翻さんの胃壁を労わってあげてくだしあw

>孫家の場合は上が清貧にするのが正しいんだろうね
文化が違いますからね。前提となる経済状況については言うまでもなく。
ここで来たのが孫権であるというのが割と重要ファクターなのですよ

>袁家の場合は上が豪勢にするのが正しいんだろうね
財政支出が悪と言われて我が国がどうなったかってことですよw
そういう二郎ちゃんが音頭をとる袁家はつまり徳川政権における米将軍時代の尾張の政策的な
なお、支出を上回る歳入に頭を抱える凡人

袁家のイケイケどんどんに見える政策、実は結果論的に緊縮財政となっております。
使いきれない税収!
限りのある人的リソース!どうすんのよw

という中で真桜の南皮要塞化計画とかいう別に本気で提案していない案が素通りして予算が5割増しで充当されるという。

次回

南皮要塞化計画 その裏で画策。。。するほど政治的能力ない技術者と語り合う便宜上の主人公


そして選挙ですよ。いつもおもうのです。行け言っても行かないし。開き直ろうよ

みんな!選挙行くなよ!俺の一票がそれだけ重要さを増すからな!

これ
667 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/11(月) 23:22:48.38 ID:LiIPTr0Jo
さて、ここは魔境。あるいは伏魔殿、或いはもっとおぞましいかもしれない何か。
それとも特異点だろうか。足を踏み入れるのに躊躇う俺なのである。

「何やいつになく……しょぼくれた顔しとんなー」

ここは袁家技術開発部直轄特務機関。母流龍九商会の工房である。
んで俺の目の前でニヤニヤしてんのは開発主任こと李典、真名を真桜である。
まずは追求しとこう。俺、責任者兼出資者的な立場だったけど、あれ聞いてないし。

「なんで南皮が要塞みたいになってんの」

これである。どうせこいつが主導したに決まってるのだ。

「えー?だって最近物騒やん?
 安心を提供するのもうちらの役目と思うんよ」

つらつらと官僚的答弁を口にするのだ。こいつ……できるぞ。ええい、そういうのは俺の十八番(おはこ)だからな!そういうのが聞きたいわけじゃないっての。
だから、こっちも身構えた感じでなく素で聞く。

「で、本音は?」
「うちの考えたかっこいい防衛拠点!」

マジかよ!そんな本音聞きたくなかったよ!
――とりあえず……でこぴんを一つくれてやる。ぴしり、とな。

「でへへ、でも、驚いたやろ?」
「そりゃあ、な」

むしろ度肝を抜かれたというべきである。そらびっくりしたよ。

「何とか二郎はんが帰ってくるまでに仕上げようってみんなで頑張ってんで」

俺の帰還までに仕上げようというのがモチベーションになるのが謎なんですがねえ……。

「つーか、何でああなったんだ?」
「んー、うちも申請した稟議が通るとは思ってへんかってんけどな。
 現状の城壁の補修くらいでけたらええなあ、と思ったんよ。あわよくば……うち考案の絡繰りを配備したりな。
 ほんで、最初からそれを上申しても規模がちっさくなるやろ?
 やからどーんと南皮要塞化計画をぶちあげたわけや」

なんというドヤ顔。得意げに胸を張るのでなんというか、目のやり場に困る。困るから釘付けになっちゃうでしょ!
お尻もいいけどやっぱおっぱいだな!
そんな俺の視線を知ってか知らずか、真桜は言葉を続ける。

「でも手は抜いてへんで。
 考えられる最悪の敵を想定して、それでも撃退でけるように頑張ったんや。
 正直、どんな大軍が来ても力押しでは落ちへんで」

どこの大坂城だ。ちなみに大坂城は武力で落ちたことはない。政治的交渉にて所有権が移ったいう点で虚空の女王たるイゼルローンに勝る(断言)。つか。政治的には落ちるとかいうフラグ立てるな。まあ、それはともかく。
668 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/11(月) 23:23:46.90 ID:LiIPTr0Jo
「ふーむ、で、仮想敵はどう設定したの」
「二郎はんやな」

おい。なんでやねん。俺が仮想敵とかどういうことだ。

「今回は特別顧問として顔良はんに助言頂いたんよ」

おお、ディフェンスに定評のある顔家か。斗詩は防衛戦が得意って言ってたもんな。なおソースは寝物語である。

「ほんで、南皮の防衛戦で、誰が攻めてきたら一番厄介かて聞いたんよ」

うん。……うん?

「それが俺だったということに違和感しかないのだが」

攻城戦とかしたことないんですがねぇ……。

「せやろか?顔良はん曰く、野戦と違って攻城になったら一番ねちっこく攻めてきそうって言ってはったで」
「……まあ、猪々子とか城壁に突撃とかしそうだしなあ」

割と苦し紛れな話題反らし。その俺の言に真桜がけらけらと笑う。

「それ、顔良はんも言うてはったわ。
 そういう認識なんやなあ」

マジか。斗詩もそういう認識なんか。

「あの子、ちょっとアレなところあるからな……」

しみじみと呟いてしまう。いや、いい子なんだけどね?それに実際の戦場ではそんなことしないと思う。多分。きっと。メイビー。

「まあ、それはええ。ほんで二郎はんならどう攻めてくるかっちゅうことで助言もろうてん」

ええと、何かおかしい気がするが。うん。うん?

「ほしたらな、まあ、まともには攻めてこんやろっちゅう話やった」
「そりゃそうだ。攻城戦で突撃とかありえん」

203高地戦は反面教師、小田原攻めが理想かな。それが俺のドクトリンさ(あるとは言ってない)。

「まあ、持久戦とか謀略はとりあえず除外したんよ。本筋とずれてまうやん」
「そりゃそうか」

防衛設備の検討だかんな。って、じゃあ俺関係ないじゃん。ないじゃん。

「ほんで、いざ二郎はんがどう攻めてくるかっちゅうたら、金を湯水のように注いで攻城兵器をぶつけてくるやろうと」
「まあ、妥当だな。金に糸目はつけんだろうさ」

いや、俺ならそうするだろうけど、それって攻め手が俺の必要ないよね。とか思うんだけども。

「せや、攻城兵器は厄介や。
 門扉や壁が破壊されたらどうすることもでけん。顔良はんにはどうこられたら厄介か助言もろうた。
 いや、参考になったわ」
「まー、拠点防衛は顔家の専門分野だからなあ」

清楚な美少女が楽し気に語ってくるのが防衛戦術とか、俺も最初は戸惑ったものさね。まあ、斗詩が可愛いから気にしないようにしたけど。

「せや、二人でな、二郎はんならここでこう攻めてくる。
 ここはもっとねちっこく攻めてくるとか想定しててん」
「ちょっと待て、それって斗詩がやられて困ることを想定しただけだよね?
 意外と俺がどうこうって関係ないよね?」

俺である必要ないよね?
669 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/11(月) 23:25:06.19 ID:LiIPTr0Jo
「ちゃうねん、二郎はんが攻めてくるっちゅうのがええねんやんか。
 ああ、二郎はん、ほんまいけずやわー、とか。ここで二郎はんはこっちから来てまうんやろうなー、ほんまにやらしいわー、とか」

なんだそのガールズトークっぽいの。

「なんか釈然としないぞ」
「気にしたらあかんって。
 でも、顔良はん、やけに具体的に二郎はんの攻め方を想定してはったなあ。よっぽど息が合っとるちゅうことなんやろうけど」

は、肌は重ねたけどね!とも言えず。

「ごほん。
 で、それがあの兵器群に繋がるのか?」
「せや、結局一番厄介なんは攻城兵器っちゅうことになってな。
 だったら壊せばええやんか。っちゅうこっちゃ」
「なるほど。対軍というよりは対攻城兵器ってことか。その想定であれば納得だ」

いや、それでも……あの威容はなあ。各所からクレームくるだろうなあ……。

「せやでー。固定したら命中率とかええ感じに上昇したしな!
 でもそれだけやない。
 対軍としても通用するよう、色々考えとる」
「そっか、お疲れな」
「ええんよ。まだ終わってへんし」
「何ですと?」

これ以上魔改造するというのだろうか。

「最強の盾は創った。お次は最強の矛や。
 この南皮を攻め落とすための方策、ほんで兵器を模索中や。
 墨子が指揮しても落としたる!」

想定が防衛戦の達人、墨家のトップとか気宇壮大にもほどがあるわ。

「あー、無理はしないようにな」
「ありがとな、二郎はん。うち、頑張るし!」

にかり、と笑う真桜。
ぐ、と握る拳に合わせて震える胸部装甲に目がいったのは無理からぬことだと思う。
ち、チラ見だからバレてないはずだし……。セーフ。圧倒的にセーフ案件ですよ。

しかし真桜の胸部装甲の圧倒的戦力はすごかった。あれは孫家のグランドキャニオンたちに単独で勝るとも劣らない。などと沮授と張紘にこの前語ったら……なんとも言えない顔をされたものである。

解せぬ。
670 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/11(月) 23:25:36.47 ID:LiIPTr0Jo
本日ここまですー

感想とかくだしあー
671 :372 [sagesaga]:2016/07/12(火) 00:35:11.53 ID:g5xhobvAO

乙ですよ。

仮想敵が紀霊さん。て痴話喧嘩の果てに城から追い出された紀霊さんを入れない為の対策?

見てくれは、厳つくなったろうな。
日本の城は、厳つさを余り表に出さずそれでいて しっかり守りは固める。 美意識の違いなのか、時代が違うからか……


孫権さんの感想を知りたい。とも思います。

目の前で金に糸目付けず 要塞と化す光景を見て、心中複雑だったろうな。

紀霊さんが携わったら、多分無意識にはおーさんを仮想敵にしてそうだな
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/13(水) 08:59:17.85 ID:3MQcHqMm0
乙でしたー
大抵の技術者は金と時間、あと上からの要望によってコスパと言う壁があるからなあ
まさかの、金はいくらでもあるぞ!!と言う袁家の金満っぷりによって間違いなく技術レベルが大幅に上がったな
673 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:01:12.13 ID:E0H4NB6go
>>671
>仮想敵が紀霊さん。て痴話喧嘩の果てに城から追い出された紀霊さんを入れない為の対策?
だいたいあってますが、女子たちで、気になるあんちくしょうを話題にしてたというのが真相じゃないかとw


>見てくれは、厳つくなったろうな。
そらもう、威圧感を与えることもお役目ですのでs

>孫権さんの感想を知りたい。とも思います。
お尻様はなー作中少ない成長前提キャラなのですが、成長したら政治的には無敵になるのですよねー

今は混乱してますが、ほどなく至るのですよ
母流龍九商会が江南を豊かにします
そしてそれを、その富をどう運用するかが重要なのだと
それを姉とその恋人ができないであろうことに至るのです
三国志のスペックで言うと、何進と並んで政治100なのが孫権お尻です

>紀霊さんが携わったら、多分無意識にはおーさんを仮想敵にしてそうだな
多分意識的にはおーを仮想的にして心が折れて誰かに丸投げするかとw

>>672
>大抵の技術者は金と時間、あと上からの要望によってコスパと言う壁があるからなあ
ここに使い道のないお金があるじゃろ?

なお みずほ銀行

それはともかく、真桜という真のチートキャラに予算を与えたらえらいことになるですよねえ……
674 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:10:56.00 ID:E0H4NB6go
「ふむ……」

現在俺は母流龍九商会であれこれの報告書に目を通している。べ、別に公務がめんどいから遊びに来たわけじゃないんだからね!ここのお茶と茶菓子が凄く美味しいのも関係ないんだから!
こほん。取り乱しました。というか、違和感があったのだよな。いつもなら魯粛か赤楽が俺を誘導するのだが今日は張紘である。
ま、久しぶりに親友とあれこれ戯れるのもありだな。と思っていたのですよこれが。

「二郎よ」

苦み走った表情で張紘が告げる内容は中々に厄介ごと。そら張紘が俺の相手するとしたらそういう事態なのだよなあ。
つまり……。今現在それだけの厄介ごとが持ち上がっていて、俺の前に積まれた資料はそれに関するものである。つまるところの……くそったれ案件である。

◆◆◆
675 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:12:13.82 ID:E0H4NB6go
「千を超えた……。だと……」
「ああ、正直困ってる。というのが正直なところだ」

義勇軍である。そういうものが湧いた。一時治安が悪化したからね。仕方ないかもしれないね。だがそれも正規軍の絢爛豪華さを喧伝した結果、その絶対数はそれほど増えなかったのだ。
が、それでも少しずつ増え、俺が洛陽から帰ってきたら千を超える集団になってしまっていた。そしてそれは人の集団なのだ。
そしてその集団は。それは労働もせず、付近の村落から食糧や金銭を平和裏に強奪する寄生虫となり果てる。

常備軍がどんだけ金食い虫か、ということ。その維持拡大にまつわる稟議説得裏工作に俺がどんだけ苦心したか。

ああ、袁家領内の村落にそれなりの備蓄があるからまだ表面化してない。これがほかの領地ならあれだ。略奪とか武力衝突があるだろう。つまり即討伐対象だ。
つーか統治者の手を離れた武力集団とか悪夢である。厄介者である。排除すべき慈悲はない。それが基本方針である。

◆◆◆

「おやおや、今を時めく袁家の首魁。紀家の若大将においては……随分な面構えじゃないか」

この、ややこしい時に来客を告げられた俺である。そして、来賓室に入室してきた人物こそ俺の天敵。――いやさ仇敵がいた。

「ここで俺の目の前にいたのが不幸となるかもしれんなあ。なんで貴様がここにいるのか」

ここで会ったが百年目。不倶戴天を擬人化したらこうなるであろう。そういう奴が俺の目の前で不敵に笑っているのだ

「お言葉だねえ、あんたの懸案を解決しに来たんだけどねえ」

張燕。
飛燕とも別名を持つ英雄である。史実の袁紹――それも全盛期の――はこいつを討伐しきることができなかった。
その傑物が俺の目の前にいる。俺が対峙した後、黒山賊を掌握した傑物が。

「あんたには借りがあるからねえ。
 ふ、袁家が後ろ盾にいたからねえ、簡単だったよ。
 洛陽からは物資が届くしねえ」

その言葉に俺は激昂する。やはりか。そんなに袁家が邪魔だったかよ、十常侍よ。
いいぜ。
お前らは俺の、敵だ。お前らの足跡を無に帰してやる。

決意と憎悪を新たにする俺の渋い顔をニヤニヤと見つめる張燕。
実際、こいつが黒山賊を掌握したと聞いたときは頭を抱えたものだ。

「悪かったねえ。大方、内部で揉めればいいって思ってたんだろう」

ぶっちゃけそのとおりである。先代だって別に失点があったわけではない。それなりに黒山賊をまとめていたのだ。
それを引退させるのだから相当揉める、あわよくば割れるかもしれないとか思っていたのだが。

「まさか、粛清とはな」

嘆息する。粛清というか、要はクーデターだ。大胆にもほどがある。

「あたしゃまだ死にたくないからね。
 一番安全な方法を摂ったまでさ」
「安全、ねえ」

俺的にはリスクがでかい道だと思うんだが。

「そうさ、正直あれ以外で生き残る絵図は描けなかったねえ。 
 軍権は握ってるものの、序列で言えばせいぜい五番目程度だったからね。
 そんなあたしが先代に引退通告とか真っ当にゃ無理さ」
「ぬう……」

肩をすくめる張燕。だからクーデターをするっつうのは俺にはない発想。だからこそ、その凄みが分かる。安全圏で適当にあれこれやってる俺とは違う。鉄火場に身を晒しているその、凄み。

「ま、袁家以外に攻めてくる心配はなかったしね。
 おかげで後背になんの憂慮もなく事を起せたってわけさ」

にんまり、と凄味のある笑みを浮かべる。ち、仕掛けた策を逆手に取られたか。

「感謝してるのは嘘じゃないよ?
 どうせあのままだったらあたしに未来はなかったからね?」

かけらも感謝なぞしてねえなこいつは。実際、虎に翼を与えたようなものであったであろうことは容易に想像できる。やっちまったぜ。

「で、俺の懸案事項ってどういうこった」
「簡単さ、義勇軍とやらに頭を悩ませてんだろ?
 それをどうにかしてやろうってことさ」

にんまりと、そんなことを言う。それって、どういうことだろう。

◆◆◆
676 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:12:53.56 ID:E0H4NB6go
「すみませーん、遅れましたー」

微妙に緊迫した空気を打ち破ったのはそんな台詞だった。

「七乃か、どした」

いや、だって俺はこの子を呼んだ覚えはないのだから。

「どうもこうもないですよー。義勇軍絡みですよね?
 内情のご報告ですよー」

ちら、と張燕を見るが、まったく表情が読めない。
まあ、七乃がこの場で俺に報告するっつうことは張燕に聞かせても問題ないってことだろう。

「ではご報告しますねー。
 自称義勇軍という武力集団ですが、頭目は郭図という人物ですねー。推挙を受け文官として一時文家に仕えてますが、数か月で辞してます」

逃げたな。
文家は文官にも軍事調練を強いるからな。それも相当な。いや、それはそれでどうなんだという話もあるのだけれども。

「その後、空白期間があります。ここでどうしていたかは不明ですねー。
 おそらく袁家領内からは去ったのではないですかねえ。
 そして袁家領内に舞い戻り、義勇軍を旗揚げしたというわけです。集団を破綻なくまとめてますから、有能っぽいですねー」

まあ、問題はどこと繋がっているか、ということだ。

「確か資金源があるって話だったな」

資金の流れというのはこれで中々ごまかせるものではない。マルサ……う、頭が!

「ええ、結構追跡に苦労しましたが、洛陽から流れてきてたみたいです」

仮説が確定的になる。
「十常侍か」
「大元はそこでしょうね。直接関わったのは李儒じゃないかというのが張家の推察です」

それが聞きたかった。よっし。敵は十常侍。全力でやってやるぜ。ただし。

「厄介な……」

あいつら潰す、と思っても具体的に何もプランないからなあ。

「ですねえ。で、初期は資金援助もあったため、義勇軍としての活動をそれなりにしていました。
 が、いつごろからか梯子を外されたみたいですね。
 それ以降、善意の寄付を周辺の村落に求めるようになってます」
「やってることは野盗と等しいじゃねえか」

思ったより悪質だな。つか、梯子外されるとかさらっと重要な情報だぞそれ。いや、七乃は先刻ご承知なんだろうけどさ。

「そうですねー。悪貨が良貨を駆逐しちゃったみたいですねえ。
 貧すれば鈍するといういい見本かもしれませんねー」
677 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:13:20.52 ID:E0H4NB6go
にこにこと報告を続ける七乃。それを聞く張燕の表情は相変わらず読めない。
それか既知の情報なのかもしれんな。

「母流龍九商会からも結構な陳情が届いてますねー。
 物流や商取引に支障が出てきてる模様ですー」

それは、そうだろう。義勇軍でございと言っても、千人に及ぶ武装した奴らがいるんだ。安心なんてできるはずもない。

「対応は?」
「義勇軍が向かう先の村落で自警団を組織してますー。
 これには魯粛さんが動いてますねー」
「だが、都合よく動きなんて読めないだろう」

にんまりと七乃が笑う。
深み、そして凄味のあるそれ。いつもと同じ笑顔のはずなのに。どうしてか俺の胸を打つ。

「手の者を派遣してますので、だいじょぶですよー」
「はあ?」

にしても都合よく連携とかできんのかよ。相当優秀な奴を送り込まんと無理だろ。

「赤楽さんって、ほんと有能ですよねー」
「え、あ……。おい……、おい!」

おいおい、万が一があったらえらいことだぞ。……まあ、腕は立つけどな、普通に俺よりも。

「そこまで手を打ってるのか」
「内向きのことは張家の裁量である程度やらせてもらってますよ?」

にこにこ。徹底して笑顔なのだ、七乃は。揺さぶっても無駄なのである。
こいつはほんと底知れないのである。
678 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:19:12.44 ID:E0H4NB6go
◆◆◆

「で、動きを誘導してどうすんだ」

正直嫌な予感しかしない。

「んー、分かってるくせにー。
 どうしてここに張燕さんがいるんでしょねー」

にこり、と俺を見やる。

「そっから先はあたしから言おう。
 その義勇軍とやら、潰してやるよ」

やはりか、と納得する。だが、問いかける。

「どうしてそうなる。
 お前らには関係ないだろう」
「大ありさね。
 わけのわからない集団にシマをうろつかれるとさ。うちの商売がね……あがったりになっちまうのさ」

商隊からのみかじめ料か。
そりゃ、物流が滞ったら減収減益待ったなしだろうよ。

「だからと言って袁家領内にお前らを招き入れられるかよ」
「だから、さ」

凄味のある笑顔で張燕は嘯く。

「義勇軍を討った黒山賊をさ、討っちまいなよ、怨将軍さん?」
「な、に?」

こいつは何を言っているんだ。

「いやね、旧幹部の派閥の奴らが生き残ってるんだけどね?
 そろそろおかしな動きをしてきやがってんのさ。
 だから、さ」
「厄介払いをするのか」
「そういうことさね。
 流石にあたしが更に手を下すわけにもいかないからね」

沈黙する。これは決して……悪い話じあゃない。義勇軍も始末できるし、黒山賊の兵力も削げる。
義勇軍が弱卒の集まりとなれば参加者も減るだろうし、軍の威も揚がる、か。取り込むことも考えたが、半ば野盗と化してる以上それはできんしな。

「……選択の余地はなさそうだな」
「よろしく頼むよ?にっくき賊を討ち漏らさないよう、きっちり殲滅しておくれよ?」

にまり、と張燕の口元が笑みを浮かべる。そして……これで俺と張燕は共犯ってことか。

「あくまで袁家、特に俺と黒山賊は仇敵だ。
 それを忘れるなよ」
「分かってるさ、分かってるよ。
 よおく、ね」

席を立つ張燕。

「今後ともよろしくありたいねえ、怨将軍サマ?」

思わず顔をしかめる。歪んだ俺の貌に張燕はくすりと笑みを深める。
まあ、互いに利用価値がある間は仕方ない。仕方ないのだ。そう、自分を納得させる。

頭を振ると室に七乃を残し、紀家軍に向かう。派遣する兵を編成せんといかんからな。
いや、実務は雷薄とか韓浩に投げるんだけどね。

それにしたって気に食わない。気に食わない事案だ。

そう、くそったれな事案だよ。
武力による討伐とかいうのは、だ。
679 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/16(土) 23:19:41.80 ID:E0H4NB6go
本日ここまですー

感想とかくだしあー
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/16(土) 23:56:42.24 ID:+S8+N5+Fo
乙です
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/17(日) 13:14:31.82 ID:dBRUre7m0
乙でしたー
>>674
>>◆◆◆  場面転換、大きな時間経過、視点変更の時に使用してますがこの場面では前後でそれらが行われてないようなので入れなくても大丈夫だと思います
>>675
>> 一番安全な方法を摂ったまでさ」 【摂取】だと違和感があります
○ 一番安全な方法を執ったまでさ」 【執行】もしくは  一番安全な方法を採ったまでさ」 【採用】でどうでしょう

なんというか・・・選択肢はあるけど実質選ぶ余地のないこれは良いことなのか悪いことなのかw
問題提起がされると同時に対応策と内外による連携がされるとは…これも袁家という巨大かつ強大な後ろ盾があってこそやね
3人寄れば文殊の知恵を人海戦術でさらに底上げできる恐ろしさとそれらの道筋を立てられる首脳陣の層の厚さに草も生えねえwww
682 :372 [sagesaga]:2016/07/21(木) 01:18:29.74 ID:aXOohr9AO

乙です。

うーん、謀略の適当さが 官僚らしいwww
翻って張家(張勲、張紘)の能力の高さ。
つか火付けするなら、炎上するまで燃料は絶やすなよ。

……義勇軍とやらが哀れ。

更に哀れなのが、黒山賊の権力闘争にまで利用される。


……義勇軍に軍師がいたら、正座で小一時間は問い詰める。詰めるったら 詰める。


これで義勇軍の頭が、それなりの英傑なら勿体無いよな。

683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/21(木) 09:12:39.48 ID:vdOWyD9G0
義勇軍の頭は郭図・・・正史では袁紹に諫言()して田豊さんと祖儒さんを陥れたり、軍師だったこいつの策で顔良が討死したり
祖儒が反対した烏巣に糧食を配置する案を提案したりして、袁紹が「田豊の言うこときいときゃ良かった。今からでも軍師に復帰させようかな」と言った時に「今頃田豊は袁紹様の事馬鹿にしてるぜ」って言って処刑させたりした
684 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/21(木) 22:57:04.18 ID:7aL/V7OYo
しんどいっす
心身ともに
今週は更新ないかもです


>>681
>なんというか・・・選択肢はあるけど実質選ぶ余地のない
そこに気づくとはやはり天才か……
ちょっとそこらへんについて加筆しようと思ったけどしんどいから没ります

>問題提起がされると同時に対応策と内外による連携がされるとは…
今回の首班は七乃さんです、とだけ

>>682
>うーん、謀略の適当さが 官僚らしいw
まあ、ある程度以上の打撃が与えられればいいや的な?
少なくともエース級の人材を拘束してますので……
それだけではないのを書く余裕があるかなあ……

>つか火付けするなら、炎上するまで燃料は絶やすなよ。
こら、ネタバレはダメって言ったでしょ!

>……義勇軍とやらが哀れ。
国を思い、民を思い行動に移した結果がこれだよ!
まあ、某若者を代表しているという売り文句でメディアが大好きな集団みたいなもんじゃないですかね

>>683
>義勇軍の頭は郭図
某書籍では「出ると負け軍師」という素敵な二つ名を贈られていましたー
袁家滅亡フラグを持っていると言っていい方ですねー

つか、解説ありがとうございます
685 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/28(木) 23:18:27.67 ID:xTvilvkio
「おい、赤楽!次の村落はまだか!」

粗野な声が思索を遮る。即座に思考を切り替えて滞りなく答える。求める答えで応える。

「ふむ、もう少し北西にいったところかな。
 なに、絹の生産で潤っているらしいからな。快く寄付をしてくれるだろう」

赤楽のその応えに満足そうにうなずく。声の主は郭図。千を越える義勇軍の発起人にして、それを束ねる男である。
ただ、その瞳は酒精の影響であろう。どろりと濁っている。

「おや。随分と……ご機嫌なようだな」

平淡な声で赤楽が尋ねる。その揶揄を解さぬほどには鈍っていない。だから、こう応える。

「呑んでるさ、呑んでるとも。
 何か問題でも?」

文句があれば言ってみろとばかりの気迫。その凄みはそれなりに修羅場を潜っただけのことはある。だが、使いどころを間違えているし、何より……。
かつては玲瓏たる笑みだったのだがな、と赤楽は思う。

「すぐに出発しよう。今から発っても日没までに間に合わないかもしれない。
 野宿が続いているからな。流石にこれ以上士気が落ちるのはよくない」

論旨をずらし、喫緊の話題。そして妥当すぎる案を以て反論を封ずる。だから郭図は言わざるを得ないし、納得するのだ。
そして耳に痛い諫言に安堵する。それを容れるだけの器量が自分にあるのだと。そして気づかない。諫言こそ甘言のごとく響く今の有様に。その変容に。

「そうだな、そうするとしようか」

出立の声を郭図がかける。
のろのろ、といった風で集団が緩慢に動き出す。
ほとんどは徒歩であり、騎乗しているものなどごくわずかだ。
身なりは粗末であり、重さ故に多くの者は武具を身に着けず、荷駄に放り込んでいる。

その荷駄を引く牛馬とて、このまま数日経てば屠殺される他ないだろう。それほどまでに困窮している。

赤楽は思う。よくもまあ、ここまで落ちぶれたものだ、と。

それは正直な感想である。
それを成したのが自分だとしても、だ。ここまで転げ落ちるとは、というのが赤楽の実際の思いである。

そして、実務面で言うと、もう何日も屋根のない生活が続いている。義勇軍、と華々しく唄った当初の士気や統制など微塵も存在しない。
それでも集団としての態を失わないのは、郭図の一応の人望、そして逃散しない程度に宛がわれる酒食だろうか。
だからその線をつなぐ。逃散されては意味がないから。

「ふむ、では私は先行して宿と食事の交渉をしてこよう」
「ああ、頼む」

騎乗した赤楽は馬の歩みを速める。

「そろそろ、かな」

そんな言葉を呟きながら。
686 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/28(木) 23:18:54.28 ID:xTvilvkio
◆◆◆

赤楽が村に着いたのは黄昏時だった。なるほど、一応の防壁に門扉、それなりに裕福なようだ。そんなことを思う赤楽に近づく人影がある。

「やほー、待ちかねたよー」

にこやかな笑みで赤楽を出迎える。そう、彼女らは旧知の仲なのだ。

「世話をかけるな、魯粛」
「んー、いいってことさ!」

にこやかに笑いかける魯粛。その態度は無論背後に控える村落を意識したもの。自らがきちんと義勇軍、というわけのわからぬ武力勢力の幹部と繋がりがあるということを示すもの。交渉ができると示すもの。
それを分かっているから、苦笑して赤楽は下馬する。ここまですれば村落の信頼は得たようなもの。そして邪魔なく打ち合わせできる恰好の、無二のタイミング。早口で情報を、意見を交換する。

「で、どうする?一応百くらいのご宿泊を予定してるけど」
「そうだな、消耗が思ったより激しい。三倍は欲しい」
「分かった、手配する。じゃあ残りにも天幕くらいは準備したほうがいいね」
「そうだな。ここにきて逃散されてはかなわん」
「そだね。お金もちょっと多めに包むね」
「頼んだ」
「そっちこそ、大丈夫?」
「ああ、苦でもないさ」

そして、緊迫した交渉を擬しても会話内容は収斂されるのだ。

「いつも済まないねえ……」
「ふふ、それは言わない約束だろう?」
「そうだったね!」

にしし、と笑みを浮かべ村落に取って返す魯粛。
幾度となく繰り返されたやり取りだ。

ふと、出立する前にされたやり取りを思い出す。

ここまで長期にわたって潜入するとは思わなかったのだがな、と密かに嘆息しながら。

◆◆◆
687 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/28(木) 23:19:19.65 ID:xTvilvkio
「というわけで義勇軍とかいうのが発生して、それに困ってるんだよねー」

魯粛の声に張勲がふむふむ、と頷く。

「二郎さんも懸念されてましたねー。
 どう動くか分からない武力がうっとおしいみたいですー」
「当然だろう。そしてそれが洛陽の紐付きともなればな」

赤楽の声に張勲は深くうなずく。実際にはこの時点で紀霊にはこの情報は伝わっていない。それを知らぬ魯粛と赤楽ではないが、それを気にする二人でもない。だからこそ張勲の笑みは深まるのだが。

「正直その紐さえなければ取り込む線もあったんですけどねえ。
 背後が怖くてとてもとても」
「ふむ、紐はいずれ切られるとみているのだろう?
 その隙に抱え込むのはどうだ?」
「それも考えたんですけどねえ。
 どうも、既に他からお声があるようですねぇ」

ふむ、と赤楽は頷く。

「およそ天秤にかけられるだけ、か」
「そですねー。
 だからまあ、ばっさりやっちゃおうかと」

くすり、と張勲が笑う。その笑みにその場の残り二人は特に反応しない。そして理解する。
取り込むつもりはなく。みせしめとして炎上させるのだと。そして、なるほど。汚れ仕事であるのだなと。
そして、それについて異論はない。異議もない。
既に自分たちの役割も察している。

「では私は潜入し、掌握しよう。
 義勇軍を野盗手前の無頼集団に落とそう」

紐があるならば斬るべし。そして切るべし。小火(ぼや)が大火になるのを防ぐべく、草を薙ぐべし。

「じゃあ私は商会を通じて無頼集団に備えるねー。
 そうだねー、自警団でも組織するかな」

無秩序なる武力集団には備えが必要なのだ。それがない処は収奪されるだけのこと。
備えあれば憂いなし。備えなく憂いすらないのは単なる阿呆である。

「ふむ。義勇軍と自警団が睨み合うのか。世も末だな」

二人のやり取りに満足そうに張勲が笑う。

「そして膨らんだ義勇軍には退場してもらいます。
 幕引きはできるだけ派手に、悲惨にお願いしますねー」
「ああ、任されようとも。
 見事な、鮮やかな徒花を咲かせてみせるさ」

余計な問いなどない。なぜ自分らが選ばれたのか。それを理解しているからこその言である。今の袁家領内の安寧の価値を知っているからこその人選である。

「でも、二郎さんは大丈夫?
 いい顔しないと思うけど」

魯粛の問いに張勲は貼りついた、いつもの笑みで応える。

「そこはお任せくださいませー」

そして思う。
だってあの人は小心だもの。だってあの人はあんなにも傷心したもの。

手にしたものを喪うことに耐えられないだろう。その小人さに張勲は笑みを深める。
袁家とか漢朝での栄達に価値を見出さないという一点において、彼は信頼できるのだ。きっと自分と同類なのだ。
688 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/28(木) 23:19:50.49 ID:xTvilvkio
◆◆◆

張勲の言葉に二人はおかしげな、それでいてどこか苦みの内包された笑みを浮かべる。魯粛と赤楽。裏方に回っている故に目立たないが、その能力は折り紙付きである。魯粛は江南の荒廃を治めてみせた。孫家という暴れ馬を御して魅せた。
赤楽はそれほど派手な功績を建てていない。だが、常に張紘の傍にありてその意を滞りなく行う。そしてそれよりも重要なのは。幾人もの刺客を闇に葬ってきたこと。
張紘という袁家の、紀霊の切り札、いやさ鬼札。それを守り切るほどの剣の冴え。カウンターテロを決める見の冴え。本人が望めば袁家内でもその地位は相当なものになるであろう。

「じゃあ、私はこれで」
「あらー、張紘さんと会って行かれないんですかー?」
「ああ、ご存知の通りあいつは相当に甘いからな。いい顔はせんだろうよ」
「あらあら、だんまりで去ると心配されませんか?」
「そこらへんは魯粛に任せるとしようか」
「ええ?私?!
 ちょ、ちょっと待って?張紘さんを丸め込むとか無理に決まってるんですけど!」

にやり、と口元を歪めた赤楽。その表情を知ってか知らずかどんよりとした魯粛。
――張勲は変わらずにこやかである。

そして思考は交差し共感するのだ。一つの結論に収束するのだ。

「あの男(ひと)に余計なことをさせるべきではない」

それは彼女らの共通感覚。
この時代において傑物である彼女ら。その彼女らだからこそ心底理解していた。

「紀霊は、異質である」

と。

そして不穏の陰に思う。
紀霊の異質。それこそが袁家にとっての福音になるであろうと。
だが、時代の趨勢は彼女らの予見をすら上回る荒波に、波乱になるのである。
689 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/07/28(木) 23:20:57.69 ID:xTvilvkio
本日ここまですー


感想とかくだしあー
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/28(木) 23:46:18.69 ID:JOoNOIK3o
乙です
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/29(金) 23:57:28.07 ID:mqc6BODSO
乙したー
色々と荒れていくよなぁ

赤楽ちゃんprpr
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/07/30(土) 09:20:35.07 ID:d5CIemYW0
乙でしたー
>>688
>>赤楽はそれほど派手な功績を建てていない。
○赤楽はそれほど派手な功績を立てていない。

腹黒とも違う、この3人を何と表現すればいいのか…大切なものを守るためならそれ以外を進んで切り捨てられる?ちょっと違うか
張勲が身内以外を信用してるように見える(彼女の身内って多分自分と美羽様だけ、もしかしたら次郎もかな)地味にこれってすごいことな気がする
相手の弱みを握ったりしてるわけでもなく、もちろん相手側にも相応のうま味があるとはいえ、謀略に巻き込むんじゃなくて謀略に手を借りるとは
諫言を受け入れる度量がある(改めるとは言っていない)郭図の明日はどっちだ・・・ネタバレ;無残な死
693 :372 [sagesaga]:2016/07/30(土) 21:07:14.55 ID:Ka/Ex+VAO

乙です。

赤楽さん何者?
前から気になっていたが ますます注目。


裏や、綺麗事抜きの現実を見続けてきた面々故に 紀霊さんの異質さ(中の人の次郎さん)に気付いたんだろうな。と。


曾祖父から聞いた、対中国から対米戦争当時の謀略機関を思い出した。


……今回の話が張勲(七乃)さんを敵に回せない 象徴話だね。
くわばらくわばら。

694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/08/01(月) 08:55:17.93 ID:AFFCtbBx0
乙でしたー
ちょっと違和感が…>>カウンターテロを決める見の冴え。
この3人が話し合ってて次郎がいない状態で【カウンターテロ】って言葉が出てくるとなんかもやっとします
695 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 22:35:10.18 ID:DTgfiFkBo
>>691
>赤楽ちゃんprpr
こら、それは張紘のものでしょ!

あと、まだまだ荒れてませんw

>>692
いつもすまないねえ……

>腹黒とも違う、この3人を何と表現すればいいのか…大切なものを守るためならそれ以外を進んで切り捨てられる?ちょっと違うか
言ってみれば「覚悟完了」ですかね
この三人が覚悟完了してプロジェクトを進めるなら、それはもうね

>張勲が身内以外を信用してるように見える
信用と言うよりは利用ではないかなあと思います
あくまで、利害関係で引き込む
人を信じるとかいう感覚は七乃さんにはないですよw
……まだ

>>693
>赤楽さん何者?
数少ない凡将伝の謎ですからまあ、お楽しみくださいw
一ノ瀬的にはバレバレやろと思ってましたがバレなかったのでそれなりの難易度かな、とw
袁家の暗部担当として今後もそこそこ活躍が見込まれております

>曾祖父から聞いた、対中国から対米戦争当時の謀略機関を思い出した。
戦前の日本は諜報活動すごかったらしいですね

今は逆に手を引いてるという認識です
ソースは日経ビジネスオンラインで連載されてる福島さんの「チャイナゴシップス」

同じく日経ビジネスオンラインで連載されてる鈴置さんの「早読み深読み朝鮮半島」と併せて極東アジアの考察としてはすごく良質だと思います

>>694
>この3人が話し合ってて次郎がいない状態で【カウンターテロ】って言葉が出てくるとなんかもやっとします
ふむ。
了解です。
台詞含めてできるだけカタカナはなしにしようと頑張っております。
違和感あったらまたオナシャス
696 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 23:03:51.17 ID:DTgfiFkBo
「ふう……」

郭図はこの季節には珍しく照りつける日差し。その強烈さにげんなりとしていた。
ここ三日間は強行軍である。
付近で賊の出現があったという。だから全軍武装しながらの移動である。その分消耗が激しい。そろそろ不平が漏れてくるころだろう。

「赤楽、そろそろ……」
「ああ、そろそろだな」

ふむ、同じことを考えていたのか。
赤楽ほどの智者と考えが同調したことに満足感を感じながら郭図は言う。

「食事にするか、だがそろそろ糧食も心もとないのじゃなかったか」
「ふむ、人員が増えたからな。元々それほど輸送能力があったわけじゃなし。仕方のないことさ。
 だがそれももはやこれまで。
 見ろ、郭図」

その声に目をやると、突如として現れた――ように思える――軍勢がこちらに迫っている。
そう、軍勢なのだ。

「馬鹿な、物見は何をしていた!
 迎撃を、赤楽!」
「ふむ、心得た」

その声に満足し、突如現れた敵を見やる。なに、即応のために武装しての移動だ。即時対応に問題もなかろう。

「そう言えば、郭図よ」

赤楽の問いに振り替える。と同時に、喉に灼熱が走る。次いで激痛。そして口からあふれる血潮で窒息する。

「さよならだ」

ごぼり、という音とともに血が吐き出される。
郭図が目にしたのは、血濡れの刀を握った赤楽。

「が、ば!え!」

なにを!ということすらできず、ただ血をまき散らす。
郭図を見やる赤楽の貌からは特に何の感情も読み取れない。そして淡々と手にした刀を振るい血煙をそこかしこに振りまく。

「てめえ、何を!」
「裏切ったか!」

そんな声と共に義勇軍の幹部が赤楽に詰め寄る。

「ぬるい。そこで問うなんて、甘い。などと言っても仕方ないが……ね」

更に血煙が舞う。

倒れ伏した幹部と、涼やかに立ち尽くす赤楽。返り血すら届かない彼女を、美しい、と思う。
それが郭図の最期であった。
697 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 23:04:18.00 ID:DTgfiFkBo
◆◆◆

赤楽は付近にいた人員に取り囲まれる。既に十余名が地に伏しているその図は端的に言って地獄絵図。それにひるまず激昂する彼らはきっと英雄になる資格があるのだろう。
そんなことを思うほどに赤楽には余裕があった。確信があった。

「てめえ……!よくも!
 やっちまえ!」

その声を契機に、付近にいた数十名が殺到する。多勢に無勢。
振りかぶった剣が、槍が赤楽の身を突き刺す。突き刺した。
と、同時に赤楽の姿が掻き消える。

「どうした、私はここだぞ」

その声が響く。前から、後ろから、四方から。どこか嘲弄の色すらあるその声。それはきっと死を告げる冥界の使者。告知天使。


「げ、幻術だ!」

叫ぶ声に動揺が広がる。そして声の主は喉を貫かれる。

「ご名答だ」

既にそこには恐慌しかなく、それが鎮まるころには赤楽の姿はどこにもなかった。

それはわずか数分に満たない出来事だったろう。

だが、敵が迫る状況では致命的であった。

義勇軍は、指揮を執るものもなく、蹂躙された。数の有利を活かすこともなく、ただ狩られて行く。

千に届こうかという数の利を活かせずただ溶けていくのだ。

◆◆◆
「……脆い、な」

そう、脆いのだ。あまりにも。

それが黒山賊の共通した思いだった。敵は千を超える軍勢。
しかも転戦を経た精鋭。そのはずであった。

七百という人数はけして十分ではない。それが率いる将の認識であった。

だが、どうだ。組織的な反撃などなく、逃げ惑うのみ。
散発的な反撃も組織的には連動しない。いや、できていないのか?

ついには逃亡する部隊が出だす。次々とそれに続く人員が出てくる。
それはあまりに無様であった。

「勝った、か」

ふ、と指揮官が頬を緩める。これで張燕に大きな顔をさせない。この勝利は反張燕派の巻き返しにとって大きな一歩になるはずだ。この戦功。軍権を掌握する張燕といえども無視することはできないだろう。
ここまでの勝利は黒山賊にもかつてなかったはずだ。万を超す黒山賊。その中から精鋭を引き抜いた甲斐あったというものだ。

「よし、殲滅するぞ!」

……自分たちより多勢に戦いを挑むというのはこれでなかなか精神的につらいものがあったのだ。
何となればこれまでは数にものを言わせての威圧、収奪が常であったのだから。
だからこそ実戦担当の張燕の後塵を拝することになってしまっていたのだが。

その、緊張の糸が緩んだその瞬間であった。

「突!撃ー!」

戦場に第三者が乱入する。
698 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 23:04:44.53 ID:DTgfiFkBo
◆◆◆

さて俺です。二郎です。久々の戦場です。いや、そんなに戦場に立つ機会がないというのはいいことなのだと思うのですがね。

「……しかし、ここまで軍勢を出す必要があるかのう」

俺のすぐ横で眼下の闘争を睥睨する黄蓋。その声が俺の耳朶を賑わせる。ただしその声には少なからず嘆息の色が含まれているようだ。
ならば応えてやるのが世の情けよ。

「雷薄、言ってやれ!」
「戦いは数ですぜ、若!」

筋骨隆々の大男。あの匈奴戦役の生き残りにて紀家軍最古参にして俺の頼りとする最高幹部。堂々とした体躯に傷だらけの身体。楽し気に笑みを浮かべるそれは凄みを増して意気軒高。
その重低音の声が告げるのは戦場における真実。
その横では平淡な表情の――その胸部装甲も平坦であった――韓浩がこくこくと無言で同意の旨を告げる。尚胸は揺れない模様。格差社会ここに極まれりである。くそ、なんて時代だ!

いやまあ、当初は千で十分という話もあったんだよ。そもそも千の義勇軍、千足らずの黒山賊。それを同数で制しろとかね。もうね、阿保かと馬鹿かと。そら雷薄は激怒したですよ。
いやあ、数で圧殺するって素敵なドクトリンやん?
少数で大軍を討つとか気合でなんとかかんとか主張する基地外なんていなかった。と、いつから錯覚していた……?
いえ。それをやりきった孫家という戦闘民族の極みが黄蓋なのです。きゃーこわい。

胡乱げな黄蓋に苦笑するしかないのである。観戦武官と思いきや実はガチで客将的立場をお願いしております。頼もしいんだけど根性論が凄い。
まあ、孫家は十分な戦力を準備できなかったということなんだよなあ。それを将の才と現場の無理で押し切ったのは凄い。でもそれってBLACKですよね?

「戦いは数さ。気合とか戦術とかは結局それを埋められなかった言い訳に過ぎない」

ふん、と鼻を鳴らす黄蓋。いや、別に納得してもらわなくてもいいんだけどね?

今回の出兵に用意した兵力は三千。過剰戦力、オーバーキル上等である。ほんとは五千出したかったけど流石にね。隠密行動はできないだろうということである。
義勇軍と黒山賊がタッグしてきても五割り増しの戦力。まあ、妥協点であろう。ただし徹底して敵勢力の兵数は確認したがな。

さて、揃えた三千。そのうち騎兵は俺が率いる五百。残りは雷薄が歩兵を率いる。俺の左右には黄蓋と陸遜がいる。超心強いんですけどー。だって、二人とも俺より統率高いだろうし、歴戦でもある。
ぶっちゃけ、どっちかに指揮を委託しても楽勝だしー。
いや、雷薄に任せてもいいんだけどね。そこは孫家の宿将のお点前拝見したいじゃない?

と、目の前で軍のぶつかり合いが起きる。やだ、義勇軍……弱すぎ?どんだけ蹂躙されてんねんと。
これが七乃あたりが仕込んだこと……かな。
ま、いい。
俺たちは勝利を確信した黒山賊の横っ面を殴りつけるだけだ。
ん、いい感じに場が荒れてきたし……そろそろかな?

「今じゃ!」

黄蓋の声が低く俺の耳に届く。うっし。

「突!撃!」
699 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 23:05:11.26 ID:DTgfiFkBo
◆◆◆

「いやあ、黒山賊は強敵でしたね」
「どこがじゃ」

呆れたような声が俺にかけられる。黒山賊を討伐した祝勝会場だ。ほんと袁家って宴会が好きねえ。
いや、俺も好きだけど。
その俺にべったりな孫家の二人。黄蓋と陸遜である。

「負ける方が難しいではないか」
「ふ、戦いなら殲滅戦、勝ち方なら楽勝が俺の理想。
 そういう意味では理想的な戦いだったのぜ」
「ふん、面白味のない……」

ふん、苦戦とか接戦とか辛勝とか冗談じゃあない。ゲームならそれでもいいかもしれんが、自分の命がかかってんだからな。……無論、兵士のそれもな。兵卒や士官の教育にどれだけ時間と費用がかかるかということである。
……黄蓋と陸遜を連れてったのもそのためだ。色々勉強になったしなあ。やっぱ実戦経験の蓄積って馬鹿になんないわ。

「でもでもー、あそこまで楽に勝てるとは思わなかったですー」

巨乳軍師の陸遜だ。うん、眼福ごちそうさまである。ありがてえ、ありがてぇ……。

「何を拝んどるんじゃ」
「豊穣の象徴に、こう、だな」
「……この助平が」

そう言いながらも黄蓋の機嫌はいい。無論陸遜は言うに及ばず、だ。
袁家の主だったメンツが集まる宴席に出席できる機会はこれまでほとんどなかったしな。だってなあ、孫策とか無位無官だし。その家来ときたら、そこらのごろつき扱いされても仕方ない。
黄蓋はそれでも武術大会の実績があるからたまに呼ばれたりしてはいたが。
と、主賓の登場である。

「二郎さん、このたびはご苦労様でしたわ」

にこやかにねぎらっていただく。お酌までしていただくぜ。恐縮ですがありがたく頂戴いたしますとも。

「や、麗羽様、どうも」
「聞きましたわよ。義勇軍を打ち負かした黒山賊を蹴散らしたそうですわね?
 流石紀家の怨将ここにあり、ですわね」

返杯として注ぎ返す。それをくぴり、と干してにこやかな麗羽様。背後に舞う光輝半端ないぜ。

「いやいや、これも袁家のひいては麗羽様の威光あってのことですよ」
「ふふ、らしくありませんわね。もっと得意になってるかと思いましたけど」
「いやいや、流石に楽勝すぎたんで。
 この二人にも手を貸してもらいましたし」

俺の言を受けておっぱいたちが麗羽様に挨拶をする。麗羽様はそれを慇懃に受ける。
……あれ、これって。……南皮でも五本の指に入るお胸様が集ってね?
やっべテンション上がるわー。豊穣万歳だわー。

しかしまあ、黒山賊はぶっ殺せたし、義勇軍は消滅したし、紀家軍に実戦経験を積ませることもできたし。
言うことなしやんけ!

まあ、このようにして義勇軍とかいう、意識高い系テロ組織にまつわる諸問題については一応の解決したということになったのである。

その素地となった治安の低下に対する袁家武威の高揚。洛陽からの魔の手に対するカウンターなんぞとか色々とやることはあるけどね。

ま、もっと根本的な問題と向かい合うことになるのだが。それはもう少し後の事である。
700 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/03(水) 23:06:05.99 ID:DTgfiFkBo
本日ここまですー

感想とかくださ
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/03(水) 23:55:57.40 ID:7tcJKXjLo
乙です
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 02:49:18.50 ID:0pl4n9EJo
乙したー

韓浩ちゃん、マイメインヒロインの韓浩ちゃんじゃないか!!
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/04(木) 05:28:21.00 ID:3N0/oJO+0

ゆれなくてもいいのさ…
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/08/04(木) 13:48:10.91 ID:GVdHVn5G0
乙でしたー
>>696
>> 赤楽の問いに振り替える。
○ 赤楽の問いに振り返る。
>>697
>>散発的な反撃も組織的には連動しない。 散発的と組織的ってほぼ逆の意味な気がしますので
○散発的な反撃はあるものの組織的には連動しない。 でどうでしょう
>>698
>>そこは孫家の宿将のお点前拝見したいじゃない?  お点前は茶道の専門用語ですね
○そこは孫家の宿将のお手前拝見したいじゃない?  もしくは そこは孫家の宿将のお手並み拝見したいじゃない?  でどうでしょう
>>699
>>「何を拝んどるんじゃ」 「豊穣の象徴に、こう、だな」  ちょっと違和感があるので
○「何を拝んどるんじゃ」 「豊穣の象徴に、かな」  もしくは 「何をしとるんじゃ」 「豊穣の象徴に、こう、だな」  でどうでしょう
>>一応の解決したということになったのである。
○一応の解決をしたということになったのである。 もしくは 一応は解決したということになったのである。 でどうでしょう

数が多ければ死傷者も減るからねえ。3倍の兵力差があれば(戦力差が3倍で済むとは言っていない)より被害は軽微になるし
それにしても負ける方が難しいような戦いでも黄蓋さんは手を抜かずに戦ったのか・・・まあそういう半分調練に近いモノを頼まれてたのかもしれないけど
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 21:53:30.54 ID:7hEdWsWRO
>>703
胸なんぞただの飾りです。エロい人にはそれがわからんのです。
大事なのは尻です。
ということでお尻様の出番をw

タイトル案「凡人、拝む」
706 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:00:11.28 ID:dr/Nmx9Uo
>>702
>、マイメインヒロインの韓浩ちゃんじゃないか!!
平坦で平淡で兵站な彼女の見せ場はまだまだ先ですw
よろしくお付き合いくださいませ

>>703
>ゆれなくてもいいのさ…
たゆんたゆんという言霊

>>704
添削ありがとうです
ほんと、ありがたいなあと思っております

>数が多ければ死傷者も減るからねえ。3倍の兵力差があれば(戦力差が3倍で済むとは言っていない)より被害は軽微になるし
ランチェスターさん曰く乗数らしいですねw
つまりそういうことですよね

>それにしても負ける方が難しいような戦いでも黄蓋さんは手を抜かずに戦ったのか・・・
そりゃまあ、自分を売り込まないといけない立場ですし、元来まじめな方ですから

>>705
>胸なんぞただの飾りです。エロい人にはそれがわからんのです。
なんでや!揺れるんやで!

お尻様の出番は……あるけどもちっと先ですw
707 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:01:24.30 ID:dr/Nmx9Uo
手にした書類を卓に置き、張紘は嘆息しつつ問う。

「魯粛、この報告書の内容は……本当なのか?」
「そだよー。報告書で偽装なんてしないってばさ」

難しい顔の張紘に魯粛が間髪入れず、答える。その口調は軽く。今日の天気を、或いは昼の定食の内容を聞かれたくらいの気軽さ。

「おいらの目が節穴じゃあなければ、だな。
 袁家軍と商会が結託して、黒山賊もろとも義勇軍を殲滅した。
 そう読み取れるんだが」
「んー、その通りだけど?」

それが何か?という風で魯粛が首をかしげる。
それに対する張紘の顔は渋い。

「おいらが事前に頼んだのは、治安の維持、向上だったと思うんだが」
「そだよー。だから私たちは一生懸命、最善を尽くしたつもりだよー?
 臭いの元は根元から、ってね!」

深まる渋面の張紘に対し魯粛は満面の笑みである。
そしてその結果について理解できない張紘ではない。ないのだが。

「にしても……えげつねえなあ」

漏らしたその言葉を聞き、魯粛は表情を消す。

「なに?義勇軍をさ。商会の皆はあれだけ邪魔者扱いしてたじゃん。
 それがいなくなったんだから、もっと喜んでいいと思うけどなあ」

先ほどまでの笑みとは違う笑み。酷薄なその表情を見て張紘の渋面は憂いを増す。

「それでもさ。ここまでやるのか、って思っちまうよ」

張紘は天を仰ぎ嘆息する。
義勇軍。……元は義侠心に溢れた集団だったのだろう。その行く末としては、あまりといえばあまりな結末だった。

「張紘、ちょっといいかな?」

笑みを浮かべたままで魯粛は張紘に声をかける。

「私はね、この南皮を第二の故郷だと思ってる。
 だってさ。町を歩けば知り合いがいっぱいいてさ。みんな、今日より明日がきっと幸せだって、前を向いて生きてる。
 みんな一生懸命に今日を生きて、明日を目指してる。
 袁家領内が豊かだといっても、それはみんなが一生懸命頑張ってるからだよ」

珍しく真剣な声色の魯粛。その言に張紘は頷くことしかできない。

「そりゃね、最初は違和感もあったよ?
 目が覚めたらやっぱり夢で、今日のごはんの当てもないんじゃないかってね。
 でもね。だんだんと、この町に、人に。親しんでたんだよ。愛着が湧いてきたんだよ。
 そしてね。私が、私たちがこの町を、ひいては袁家を支えてる。そう自負してるよ。
 もう、そう思っちゃったんだよ」

張紘が軽くうなずく。
それは彼も感じていることであった。

「だからね。そこを荒らす奴は私の敵だ。
 絶対に許さないよ。
 一度で十分なんだよ。故郷が荒れるのを見るのは。
 もう、骨肉が文字通り相食むのなんて見るのは嫌なんだ。
 だからね。
 私は後悔なんてしていない。
 今回みたいなことが何度起こったって、同じ選択をするよ。
 平和ってね、安寧ってね、結構簡単になくなっちゃうんだよ?
 後で泣くくらいならさ。今この時に血を浴びる道を選ぶよ」



瞬時に真っ赤になる張紘。
くす、と笑いながらその唇に自分のそれを重ねる。

寄り添った影は。しばらく離れることはなかった。
708 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:02:24.13 ID:dr/Nmx9Uo
コピペミスしました
やりなおしです
709 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:03:38.27 ID:dr/Nmx9Uo
手にした書類を卓に置き、張紘は嘆息しつつ問う。

「魯粛、この報告書の内容は……本当なのか?」
「そだよー。報告書で偽装なんてしないってばさ」

難しい顔の張紘に魯粛が間髪入れず、答える。その口調は軽く。今日の天気を、或いは昼の定食の内容を聞かれたくらいの気軽さ。

「おいらの目が節穴じゃあなければ、だな。
 袁家軍と商会が結託して、黒山賊もろとも義勇軍を殲滅した。
 そう読み取れるんだが」
「んー、その通りだけど?」

それが何か?という風で魯粛が首をかしげる。
それに対する張紘の顔は渋い。

「おいらが事前に頼んだのは、治安の維持、向上だったと思うんだが」
「そだよー。だから私たちは一生懸命、最善を尽くしたつもりだよー?
 臭いの元は根元から、ってね!」

深まる渋面の張紘に対し魯粛は満面の笑みである。
そしてその結果について理解できない張紘ではない。ないのだが。

「にしても……えげつねえなあ」

漏らしたその言葉を聞き、魯粛は表情を消す。

「なに?義勇軍をさ。商会の皆はあれだけ邪魔者扱いしてたじゃん。
 それがいなくなったんだから、もっと喜んでいいと思うけどなあ」

先ほどまでの笑みとは違う笑み。酷薄なその表情を見て張紘の渋面は憂いを増す。

「それでもさ。ここまでやるのか、って思っちまうよ」

張紘は天を仰ぎ嘆息する。
義勇軍。……元は義侠心に溢れた集団だったのだろう。その行く末としては、あまりといえばあまりな結末だった。

「張紘、ちょっといいかな?」

笑みを浮かべたままで魯粛は張紘に声をかける。

「私はね、この南皮を第二の故郷だと思ってる。
 だってさ。町を歩けば知り合いがいっぱいいてさ。みんな、今日より明日がきっと幸せだって、前を向いて生きてる。
 みんな一生懸命に今日を生きて、明日を目指してる。
 袁家領内が豊かだといっても、それはみんなが一生懸命頑張ってるからだよ」

珍しく真剣な声色の魯粛。その言に張紘は頷くことしかできない。

「そりゃね、最初は違和感もあったよ?
 目が覚めたらやっぱり夢で、今日のごはんの当てもないんじゃないかってね。
 でもね。だんだんと、この町に、人に。親しんでたんだよ。愛着が湧いてきたんだよ。
 そしてね。私が、私たちがこの町を、ひいては袁家を支えてる。そう自負してるよ。
 もう、そう思っちゃったんだよ」

張紘が軽くうなずく。
それは彼も感じていることであった。

「だからね。そこを荒らす奴は私の敵だ。
 絶対に許さないよ。
 一度で十分なんだよ。故郷が荒れるのを見るのは。
 もう、骨肉が文字通り相食むのなんて見るのは嫌なんだ。
 だからね。
 私は後悔なんてしていない。
 今回みたいなことが何度起こったって、同じ選択をするよ。
 平和ってね、安寧ってね、結構簡単になくなっちゃうんだよ?
 後で泣くくらいならさ。今この時に血を浴びる道を選ぶよ」
710 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:04:09.76 ID:dr/Nmx9Uo
沈黙が室に降りる。

「すまねえ。頭じゃわかってたんだが、無神経だった」
「ううん、私こそちょっと感情的になった。
 でも、嘘は言ってない。
 この平穏を守れるなら私は喜んで手を血に染めるよ?」

その覚悟に、宣言に張紘は黙り込む。

「そりゃ、誉められるような手じゃないとは思うけどね
 でもね。本当に本当の思いなんだよ。そこを分かってくれたらうれしいな」

薄く笑いながら魯粛が室を辞する。
対する張紘の眉間には皺が深く刻まれている。

「怒っているのか?」

沈黙を破ったのは赤楽の声だった。

「いや、そうじゃねえ。そんなんじゃねえよ。
 自分の不甲斐なさを痛感してるだけだ。
 考えてみりゃ、おいら故郷が荒れてるとこを見たわけじゃねえんだよな。
 偉そうなこと言えねえや」
711 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:05:07.21 ID:dr/Nmx9Uo
自嘲気味に呟く。
そんな張紘を赤楽は、愛しく思う。その感情に戸惑い、苦笑する。
こんなにも感情が揺さぶられるものなのかと。

「らしくないな、張紘」
「そうか?いつだっておいらはこんなもんさ。
 そういう赤楽こそ。
 義勇軍に潜入するとか、どうしたんだ?
 野宿も多かったみたいだが」

常は張紘の護衛と秘書的なことを適当にやっている彼女である。
張紘が違和感を覚えるのも無理はなかった。

「なに、思ったより苦じゃなかったな。
 うん、ほんとに苦じゃなかった」

淡々と、呟く。

「まあ、行き倒れてたくらいだからね。きっと野宿なんて普通だったんだろうさ」

苦笑する。そう。笑うしかないではないか。宿なしであったのが日常など。

「それに、久しぶりに人を斬った。たくさんね」
「そうなのか」
「うん。成り行きでね。その方が結局はいいと思ったから」

薄く笑う赤楽。そんな彼女に幾度も守られた張紘は何も言うことはできない。
そんな葛藤を知ってか知らずか、赤楽は思いを口にする。

「やっぱりね、不思議な感覚だよ。
 剣を修めた記憶はないんだ。でも、身体が勝手に動くんだよね。
 どう動けば一番効率的に斬れるか、それが私には染みついてる」

だから、さ。
と、赤楽は呟く。

「何か思い出すかな、と思ったんだけどね」

張紘はその言葉に身を震わせる。

「やっぱり、気になる、よなあ」
「そりゃあね。自分のことだもの。
 ……ああ、勘違いしないでくれよ?私は別に今に不満があるわけじゃないからな」

それでも、と張紘は思う。
いつか、この人は自らを求めて去ってしまうのではないかと。

「ふふ、そんな顔をしないでくれ。
 結構どうでもいいんだよ?
 単なる好奇心さ。そうだな、今日の夕食が何か、くらいのね」

きっとそれは自分を思いやる言葉なのだろう。
張紘はそう思う。
ああ、こんな時に彼女になんと言えばいいのだろうか。どう言えばいいのだろうか。

「ああ、そうだ。一つ嘘があったな」

張紘の煩悶を知ってか知らずか、赤楽はくすり、と笑う。

「野宿も、人を斬るのも別にどうということはなかったんだ」

でもね、と赤楽は微笑む。

「張紘の顔を見れないのは、辛かったな」
「なっ!」

瞬時に真っ赤になる張紘。
くす、と笑いながらその唇に自分のそれを重ねる。

寄り添った影は。しばらく離れることはなかった。
712 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/06(土) 22:07:31.47 ID:dr/Nmx9Uo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

いやあ、ミスったミスった

ほんで、蠢動編はこれで完結です
しばらくあっちに投稿という感じになると思います

次は拠点フェイズをやって、激動編といきたいなあと

おいてきぼりなヒロインたちとキャッキャウフフなのが次です予定では
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 23:49:49.04 ID:23AZF+cZO
乙したー
一瞬おぃぃぃい!!!?ってなったけどミスで御座ったか

でも魯粛ちゃん現状でも胸部装甲が骨肉相食でr(発言者は粛正されました)
714 :372 [sagesaga]:2016/08/07(日) 00:16:03.70 ID:RCp4CMJAO

乙です。一区切りですね。

そかそか、張紘×赤楽か (にまにま)

??「ふむ。これはまた 見合いの席でも設けないといかんか」
??「見合いとまでは行かずとも、婚約位はさせねばの」
??「止めて下さい。多分放っておいても、若い連中がなんとかするでしょう」


……張紘さんの想いも、魯粛さんの想いも、正しいんだよね。
ただ、始めの立ち位置が少し違うから方法論が変わってくる。
紀霊さんに一回仲立ちしてもらう?

715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 05:23:34.56 ID:oqsjyGWb0

コピペミスか
カキ氷のイチゴだと思ったらブルーハワイでポルナレフだったぜ!
716 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/08(月) 22:15:43.28 ID:gn9rvNfEo
あっちに投稿して痛感。
赤ペン先生ありがてえ、ありがてえ……!
いやマジでありがたいなあと思います。感謝感激なのですよ。
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/08/09(火) 09:25:24.25 ID:jISmb5CV0
乙でしたー
そんなに褒められると照れてしまいます///
>>711
>> 瞬時に真っ赤になる張紘。くす、と笑いながらその唇に自分のそれを重ねる。  今回の閑話は張紘視点で書かれてる感じがあったのでこの部分にちょっと違和感があります
○ 瞬時に顔が真っ赤になるのが分かる。赤楽がくす、と笑いながら唇を重ねてきた。 とかどうでしょう?文は一ノ瀬さんの筆力にお任せします(丸投げ

読み返しをするときはやっぱりこっちよりもあっちの方がいいですね、赤楽さんの芯の立ちっぷりが男前すぎて惚れちまいそうだ
718 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/09(火) 22:05:29.03 ID:h3ELW0LSo
>>713
>一瞬おぃぃぃい!!!?ってなったけどミスで御座ったか
ミスでございました
掲示板はね、修正できないからね
あっちに投稿してるのはそれもあるのですよ

>でも魯粛ちゃん現状でも胸部装甲が骨肉相食でr(発言者は粛正されました)
貧乳は希少価値なんですよ、江南においては(力説)

>>714
>乙です。一区切りですね。
とはいえ原作開始時期が遠い遠いw

>……張紘さんの想いも、魯粛さんの想いも、正しいんだよね。
>ただ、始めの立ち位置が少し違うから方法論が変わってくる。
そうなんですよね……
見てきたものが違うのですよ
どっちがどうというお話ではないのです

>紀霊さんに一回仲立ちしてもらう?
二郎ちゃんが仲立ち……?
張紘と魯粛の仲立ちとか凡人にできるわけないじゃないですか!と抗議するかとw
まあ、これでどっちかが離脱ということはない。はずです。
ただまあ、同じ陣営で同じ出身地でも色々あるよということで

>>715
>カキ氷のイチゴだと思ったらブルーハワイでポルナレフだったぜ!
意味は分からないがこの言語センスが凄すぎて脱帽
このキレッキレなフレーズをどうやって思いついたか聞きたいしあやかりたいっす

>>717
いやマジで助かっております

>読み返しをするときはやっぱりこっちよりもあっちの方がいいですね
正直そう思いますw

>赤楽さんの芯の立ちっぷりが男前すぎて惚れちまいそうだ
覚悟完了系女子ですw
こんな女傑がしれっと裏方にいるのは強いですよねえ
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/10(水) 02:56:26.25 ID:VpbBJwIW0
>>718
イチゴは赤、ブルーハワイは青でそれぞれイメージキャラクターの髪の色のつもりでした
ねずみは白より灰色が多くて無理があったかもしれません
そうだよ!暑くてカキ氷が欲しかっただけだよww!
720 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/10(水) 23:15:05.51 ID:2CtLVVP1o
>>719
>イチゴは赤、ブルーハワイは青でそれぞれイメージキャラクターの髪の色のつもりでした
流石にわからんわw

>そうだよ!暑くてカキ氷が欲しかっただけだよww!
かき氷なんて多分20年くらい食べてないw

梅酒をシロップにするの、いいなあと思いますねえ。
練乳とかカルピスとか口にしてないなあ……

日本酒ロックな一ノ瀬なのです
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/13(土) 15:45:01.34 ID:nz3cCMoW0
最後に前作のおまけを見てから1年ぶりくらいに見に来ました〜
リライト版で文量が増えてるって思ったのは、前作の内容を忘れてるからではないはず
張紘と赤楽のイチャイチャを見るとついにやけてしまったww

好きなキャラを言うと陳蘭ちゃんと張燕さんと未だ出番待ちのメイン軍師さんですね〜。
陳蘭ちゃんはやっぱり幼馴染感が出ていたり世話焼きな感じや正妻って感じが大好きです。大弓を打ってる陳蘭ちゃんを二郎さんと一緒にずっと眺めてたい。その後疲れた陳蘭ちゃんを襲う二郎さんと襲われる陳蘭ちゃん見たい。一ノ瀬さんのHポイント貯まらないかな(真顔)
張燕さんは立場とキャラクター自身の食えない感じが好きですねぇ、前作末期の某シーンでの活躍もあるのですが、AAの影響もw
メイン軍師の事は言わずもがなですがまだ語らない方がいいのかなw
長くなってしまいましたがこれからも応援しておりますw
722 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/13(土) 21:57:29.04 ID:zxGyV0qno
>>721
>最後に前作のおまけを見てから1年ぶりくらいに見に来ました〜
おお、ご来訪ありがとうございまする。

>リライト版で文量が増えてるって思ったのは、前作の内容を忘れてるからではないはず
加筆修正なのですw
これってエタるパターンですよねw

>張紘と赤楽のイチャイチャ
書いてて楽しいカップルですw
当初、二人ともアレになるルートだったんだよなあ……

>好きなキャラ
ありがとうございます!そういうのが聞きたいのです!

>陳蘭ちゃんはやっぱり幼馴染感が出ていたり世話焼きな感じや正妻って感じが大好きです
目立たないでも、言及なくてもいつも隣にいる陳蘭ちゃんですw

>Hポイント貯まらないかな(真顔)
い、いつかノクターンに投稿します(震え声)

>張燕さんは立場とキャラクター自身の食えない感じ
意外と重要なキャラであったりしますのでw

>メイン軍師
実はガラガラポンしてたりします。
さてはて……
723 :372 [sagesaga]:2016/08/22(月) 14:51:47.35 ID:1HzjY3+AO

シン・ゴジラ。見て来ました。

予測通り、料金分は十分楽しめる出来でした。
相変わらず豪快に破壊してくれるしw


つかさ、平日午前中に6割の入りという時点で見る側がどう評価しているかが見えるんですが。


724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/22(月) 21:11:28.85 ID:kQs869qtO
あっちでの更新乙ですが、
あっちにてレス番消し忘れ発見
725 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/22(月) 22:23:24.05 ID:JjzYSOJqo
>>723
>シン・ゴジラ。見て来ました。
おう、行かれましたか

>予測通り、料金分は十分楽しめる出来でした。
楽しいというか夜間のアレは本当に怖かった
はよ帰ってくれとだけ思ってましたw

>相変わらず豪快に破壊してくれるしw
あの描写は本当にやってくれましたわw

>>724
お恥ずかしいったらありゃしない!
やってきました

ご指摘感謝です

いやあ、余裕がなくなってきましたぞーw
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 19:05:59.01 ID:i2AxzwNN0
なろうでレス番を見る→リライト版であることを知る→(初版とはいえ)最後まで読める!

そういうわけで初版もとても楽しませていただきました。
ぶっちゃけ思うところもありましたが、あれだけの物語を完結させたのがすごいのです!無茶苦茶面白かったです!
ちなみに一番好きなキャラは麗羽さまで、一番好きなエピソードは黄巾討伐直前二郎と麗羽さまの逢い引きです。

リライト版というだけあってこちらのほうが面白いと思います、体に気を付けてお酒を飲みすぎないようにして頑張ってください。
727 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/24(水) 22:15:21.11 ID:LrpIY5lio
>>726
>なろうでレス番を見る→リライト版であることを知る→(初版とはいえ)最後まで読める!
いやちょっと待ってあれはやらかしたけどちょっと待って
やらかした時から余り時間なかったのに読了とか……
何時間くらいかかりましたか?

>ちなみに一番好きなキャラは麗羽さま
くはー

感想ありがとうございました。
なろうでのリライトもご愛顧くださいませ

なお、ネタバレはダメって言ったでしょ!
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 22:56:08.49 ID:i2AxzwNN0
あああ、なろうには書かないほうが良いとは思いましたがネタバレに関してはこちらもでした…失礼しました。

おそらく20時間ぐらいではないかと、大体1スレ1時間ですね。
ただ途中からは一ノ瀬さんのレスばかり追っていました。
729 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/24(水) 23:09:41.09 ID:LrpIY5lio
>>728
20時間とな……
これ過去最速ちゃうかな……?

いや、もうアレよ。
ありがとうやでよ……。「

まあ、ネタバレダメはネタでもあったのですが、リライトだと、ねw

それでも、粗筋知った上で楽しんでくれる人も、むしろその方たちが多いと思ってますからw

今現在の課題は二郎ちゃんのお馬さんの名前なので、ご提案いただきたく存じまするるる

あと、リライトは。

お察しですねw
つまりそういうことだ!

俺はやるぜ(動物のお医者さん感)
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/25(木) 00:52:47.33 ID:VHi+kM5fo
あの物量を20時間ははえーよwwww
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/25(木) 20:24:00.41 ID:VVyBTsJRO
来年の息子の夏休みの読書感想文は凡将伝を読ませて書かせよう
その頃には完結してる予定だし
20時間あれば読めるみたいだからww
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/08/25(木) 20:35:05.39 ID:NSiLuMgz0
三国志演義の一種と言えば行けるなw
(史実とは異なる場合があります)の1文を入れておけば問題ない
733 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/25(木) 22:30:55.51 ID:usi22xP7o
>>731
いやちょっと待って

>その頃には完結してる予定だし
何それ聞いてないんだけど

>息子の夏休みの読書感想文
息子さんの情操教育によくないですよ!
一応R-15タグつけてるからね!

>>732
いや、さすがに恋姫やってないとアカンやろ……?
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 00:34:07.60 ID:b51l4g6Ho
恋姫知識0で追っかけ始めた原作勢が通りますよっと
735 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/26(金) 00:44:21.74 ID:JHWHME4xo
>>734
マジかよ

そもそもなんで読もうと思ったんだよ!
違和感ありまくりでしょうが!

恋姫知らなくて楽しめるものなのかいな……(困惑)
736 :372 [sagesaga]:2016/08/26(金) 11:30:58.20 ID:lEGYcdrAO

恋姫深くは知らなくても 楽しんで人がここに(挙手)


寝落ちは不得意ですが、 検査入院は得意っす(謎)

737 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/28(日) 09:20:48.05 ID:jfPN+eLIo
>>736
ありがてえ、ありがてえ……

がんばるんば

検査入院、つか入院したことない……
入院童貞です
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 09:37:51.52 ID:y1npjLGtO
恋姫知識0でも楽しめたよ!!

なお、原作麗羽様の性格に多大な違和感を覚えた模様
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/29(月) 13:32:44.79 ID:3WwQedtdO
初版の終わり頃に一度追い付いて、リライトに気付いて再度初版から読み始めて今追い付きました。
原作は無印と真やっただけですが、もうほんと、この作品大好きでww
二次創作に対する私の価値観を塗り替えてくれた、いわば私の人生の名著である凡将伝を、また読める喜びに震えるばかりですww

しかし、相変わらずこの作品は作者様も読者方も知能指数高いですよねぇ。
ぼへー、と読んでいるだけの自分が恥ずかしいやらww
740 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/08/29(月) 20:09:16.70 ID:nrRFDJBNo
>>738
>恋姫知識0でも楽しめたよ!!
マジすかw
それはかなりモチベーションです

>なお、原作麗羽様の性格に多大な違和感を覚えた模様
げ、言動は一貫してるはずだし(震え声)

>>739
>初版の終わり頃に一度追い付いて、リライトに気付いて再度初版から読み始めて今追い付きました。
どんだけ読み返してくださってるんですかw
ありがとうですよ。

>原作は無印と真やっただけですが、もうほんと、この作品大好きでw
ありがてぇ、ありがてぇ……
そういっていただけるとやる気がもりもりです

>、いわば私の人生の名著である
やったぜ
こっちもきちんと完結させる予定ですので……
つか。初版は実は最終エピソード書いてないんですよね
それをこちらで補完するつもりです

>しかし、相変わらずこの作品は作者様も読者方も知能指数高いですよねぇ。
一ノ瀬はともかく、レベル高い読者様のありがたいレスに勉強させてもらっておりまする

感想は心のガソリンですので、またあっちでもよろしくお願いいたします(露骨な催促)
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/03(土) 23:10:36.49 ID:7Z7MYOffO
あっちでの蠢動編完結お疲れ様でした

キャッキャウフフ早く読みたいぜぃ

それとwiki見てて思ったんだが無印って
2007年1月26日発売なのな
かれこれ10年近く前のことだということに気づいて愕然とした
月日の立つのは早いもんですなぁ
742 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/04(日) 08:14:34.10 ID:+DW4Ej8Yo
>>741
>あっちでの蠢動編完結お疲れ様でした
ありがとうごじゃいます。

ちまちまと書いておりますがちょっと難航しとります。
あと昨日今日と出勤で時間が取れないですだよ。

休日手当とかいらんわー時間をくれー

>2007年1月26日発売なのな
マジすか。
まあ、息の長いコンテンツになったことですよね
当時は衝撃だったなあ。
はわわ軍師の台詞で一気に世間の注目を集めた感がありますね

しかしそうか。当時まだ私は九州にいたのだなあと思ったり
743 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:30:47.86 ID:d3sLGSJ8o
日常編という名の拠点フェイズ始まるやでー

基本的にはヒロインとキャッキャウフフするだけのターンやでー(多分)
744 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:32:35.65 ID:d3sLGSJ8o
「ふわあ」

大きく伸びをしたのは文醜。袁家の誇る武家。数あるそのうち四家と言われる中でも筆頭を務める名家中の名家である。のだが。
木の上である、彼女が今いるのは。
樹上で月を見上げて文醜は意識をはっきりと取り戻す。さて、自分はなぜここにいるのだろうかと。
紀霊の祝勝会にて痛飲していたところまでは記憶があるのであるが……。
まあ、些事であろう。そう割り切る文醜の在り方は、袁家の中で貴重なものであった。

「あれ、あの勝負どうなったんだっけ」

記憶に浮かぶのは黄蓋との飲み比べ。袁家の沽券を――勝手に――賭けた大勝負の行方はどうなったんだろうかと小首をかしげる。
いや、本当は殺してやろうと思っていたのだ。黄蓋も陸遜も切り捨ててやろうと思っていたのだが。
尚、切欠は記憶にない。何か口論になったようなのは微かに覚えているのだが。まあ、それは重要なことじゃないし本質でもない。
ただ。

「猪々子のちょっといいとこ見てみたい!」

そんな声にほだされてしまったのだ。乗せられたとも言うが彼女はそこに気付かない。いや、気付いたとしても意に介さないであろうが。

「だって仕方ないじゃんか」

だって、と思う。

「アニキに言われたらさ、しょうがないじゃんか」

だって、楽しそうだったもの。姫も、斗詩も。そして言い出しっぺの……あの人も。

くすり、と笑みがこぼれる。

殺してやろうとさえ思っていた黄蓋と杯を酌み交わし、なんかなし崩しに真名すら交換し……いつのまにか自分は樹上である、と。

何かそれがしっくりしているような気がして、声を上げて笑ってしまう。ああ、可笑しい。
ひとしきり笑って頭上を見上げれば、満月。秋も深まり、自分を見下ろしている。これが親友の顔良ならば、詩でも吟じるのかもしれないけど、無骨な自分にできるのは杯を重ねることだけだ。
くぴり。

抱えていた酒壺から杯に酒を注ぎ、呷る。
夜風で冷め切っていた身体が熱を取り戻す。ほんとに、こんなに楽しいのは久しぶりだ。これはやっぱり。

「アニキがいるからだよなあ」

うん、そうだ。そうなのだと文醜は思う。姫と呼び、幼少から仕える袁紹も、幼い時からの親友である顔良も、だ。彼がいると違うのだ。

「今日だってさ。二人ともちらちらと見て、隙あらば話そうとしてたし」

それは自分もなのだけれども、それはそれ、これはこれ。である
二人ともあの男(ひと)のことが大好きなんだよなあ、と思う。いや、それは昔からだったな、と。
大概一途だよなあ、と。二人とも。
くく、と笑みをこぼす。

と、不意に思う。

自分はどうなんだろう。

アタイはアニキをどう思ってるんだろう。

ふと、そんなことを思ってしまった。

間違いないのは。

「アタイはアニキが大好きだ」

口にして思う。確信する。それは間違いない。

ちっちゃいころ、ぽんぽん投げられてたころから大好きだ。あの頃と気持ちは変わってないと思う。
だからきっと、顔良の「好き」とは違うんだろう。
彼と話すときに艶っぽい顔をする顔良。その顔は袁紹や自分に向けられることなんてない。
そして、仕える主である、袁紹の「好き」とも違う気がする。
袁家を継ぐ身としての彼女はいつも肩肘を張っている。立場に相応しくあろうと。そしてそれを果たしているのが流石なのではあるのだけれども。
でも、紀霊といる時の彼女は無防備だ。あんな顔を見られるのは紀霊だけだろうと思う。

「ま、ああ見えて姫は甘えんぼさんだかんなー」

さて、自分は彼をどう思っているのだろうか。

ぐび、と酒を呷り考える。実にらしくないことを考えているなあと思いながら。

そんな時、妙な旋律の鼻唄が聞こえてきた。 
745 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:33:01.69 ID:d3sLGSJ8o
◆◆◆

「じゃじゃじゃじゃーん♪」

扉を叩くのにこんなにリズミカルなのか。凄いな運命さん。しかし幸か不幸かそんな感じでノックされたことはないなあ。いや、されても居留守万歳であるが。
そんなことを思いながらふらふらと歩く。

ああ、いい月だ。いい風だ。花をたくさん愛でた。後は鳥だけか。くらり、とする酩酊感がたまらない。うん、やっぱりこんくらい酔っぱらわないと楽しくないな。

さてみなさん、お久しぶりです。主人公的存在の二郎でございます。今後ともよろしくお願いいたします。

……しかし、月がきれいだ。天女でも降りてきそうだな。と、益体もないことを思ってたら。

「アニキー!」

脳筋美少女が降ってきた。親方!空から美少女が!いやちょっと待て。

猪々子が空から落ちてくる系ヒロインになるとは……。これは胸が熱くなりますねえ。

◆◆◆

「えへへ」
「えへへじゃねえよ骨が折れるかと思ったちゅうの」
「えー、昔はよくやってたじゃん」
「結構昔だよなそれ!少なくとも、もっとちみっこかったよ?」

そんな紀霊のツッコミに文醜ははひしっとしがみついてやることにする。ちっちゃいころは背に回した手が届くこともなかったなあ、などと感慨深いものがある。

「あの、猪々子さん?ギリギリと締め上げられて割と苦しいんだけども」
「てい」

そんなことを言うのだ。だから彼をとびきりの力で抱きしめてみる。うん、これなら気恥ずかしさもないし。

「ぐぇ……」
「なんだよ雰囲気ないなー」

蛙がつぶれたような声を出す紀霊。文醜は彼に呆れたように声をかける。

ふんだ。
アタイだってドキドキしてんだから、アニキもちょっとは困ればいいんだ。なんて思いながら。

うん?

そうだ。今ドキドキしてるのだ。身体だって火照ってるのだ。紀霊をまともに見られない、のだ。そして自分が何を考えてるのかわからなくなる――。

そんな文醜に紀霊が声をかける。うん?よく聞こえないな……?。

「猪々子、お前……」
「へ?」

その声が消え去ると同時に文醜は紀霊に抱きかかえられていたのであった。それも、いわゆるお姫様抱っこである。
思考は混乱し、身体は火照り顔はますます上気していくのだった。

◆◆◆
746 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:33:28.70 ID:d3sLGSJ8o

「えへへ」
「えへへじゃねえよ」

ほんと、びっくりしたっちゅうの。

腕の中にいる猪々子を見る。いつも通り、にかりと笑って俺に抱きついてくる。って、痛い、いたたたたたた!

「あの、猪々子さん?呼吸が苦しいんだけども」
「てい」

ぐわー。

なんか猪々子が言ってるが聞こえん。身体能力でぼろ負けだから仕方ない。情けないとかいう感傷はすでにない。連戦連敗なのでありますからして、ね。

ま、それでも気絶せんだけ手加減してもらってると思おう。

きゅ、とそれでも抱きつく猪々子を軽く引きはがす。それでもしがみついてくる。なんだ、今日は甘えんぼさんだな。

そう思いながら猪々子見やる。

ん。

潤んだ眼。上気した頬。

「ぁ……」

どことなく儚げな声を上げるのだ。寄せてくる身体の熱を感じるのだ。

これは、ひょっとして……。

ごくり、と生唾を飲み込み、上記した頬に手を当てる。うっとり、どこか陶酔したような表情。

「猪々子、お前……」
「へ?」

そんな彼女に、言う。

「お前、風邪引いてるだろ」

◆◆◆

そんな言葉に文醜は思わず笑ってしまう。ちょっと身体が火照って、くらくらするくいらいで大げさな、と思う。こんなの、ちょっと寝たら治るのに。
風邪とか大げさすぎるよ、と。
そして幾分かの腹立たしさを感じる。もう、ちっちゃいころの自分とは違うのに、と。

「ほら」

それでも差し出された背中に負ぶさってしまう。あ、これ、いいな。なんて思う。
アニキの匂いだな、と。懐かしくて、落ち着いて。

きゅ、としがみつい匂いを胸いっぱい吸い込む。そして思う。

うん、アタイはアニキが大好きなんだなあ。
そう思ってしまう。

ぎゅ。

抱きついたって、自分のささやかな胸は何も主張できない。こればっかりはどうしようもないので鼻頭をこすり付けてみる。

なお、特に効果はなかった模様。
747 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:33:55.10 ID:d3sLGSJ8o
◆◆◆

風邪で発熱した猪々子を背負う。

まったく、肌寒い季節に樹上で寝たりするからだ。ぷんぷん。いやまあ、飲み比べをけしかけた俺が言うこっちゃないかもだけどね。
いや、黄蓋と穏を侍らしてたらなんか絡んできたからね、平和裏に治めたんだけどね。


あー、こっからだと猪々子のそれより俺の部屋のが近いな。

寝室に連れ込んでベッドに寝かせる。まあ、風邪なんて寝てれば治るもんだしな。
軽く欠伸をする。
さて、どっかで適当に仮眠でも摂るとするかね。

「朝になったら起こしにくるからな」
「やだ……」

予想外なお言葉である。今日の猪々子は甘えんぼう将軍か!

「行っちゃ、やだよぉ。アニキも一緒に、ね?」

そう言って服の裾を掴む猪々子。これは離れないな、膂力的に考えて。

「あー、わかったわかった、今日だけだぞ」

そう言って寝台にもぐりこむ。つーか俺の寝床だっつうの。

「ね……」

ん?と思う隙もあらばこそ、全身で俺にしがみついてくる猪々子。
意識しないようにしていたのだが……。女の、牝の香りが鼻腔を、だ。

くら、と揺れる俺を更に揺さぶるのが。

「アニキ、好きぃ……」

そんなことを言われたら、だ。どうしようもなく、猪々子が女だと意識してしまう。
これまで目を背けていた現実が俺を襲う。

くらり、と揺れてふらつく。
俺にしがみついている猪々子を抱きしめる。いや、縋りつく。

「あ……」

漏れる声はいつになく、弱々しく、艶めいていて。

「猪々子……」

何を言えばいいんだろう。そんな俺に猪々子が笑いかける。
いつもの猪々子の笑顔で。

「アニキ……。
 アニキにだったら、いいよ……」

かすれたその声に、俺は猪々子を押し倒し。荒々しく唇を貪る。
猪々子を貪る。貪ろうとする。
もし、少しでも抵抗されたならば俺は踏みとどまっていただろう。

……そして、俺と猪々子の関係は決定的に変わることになったのだ。
748 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/05(月) 22:35:33.87 ID:d3sLGSJ8o
本日ここまでー

感想とかくだしa-

えっちなしーんはカットしました。
HP(えっちなのを書くぱわー)が足りない!

ノクターンにエロシーン書くよりは本編を書かないといけないという義務感……
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/05(月) 23:11:22.66 ID:dGRIYUMto
乙です
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/06(火) 00:21:31.06 ID:1awBXxgUo
別にRに書いてもええんやで?

そしてやっぱりジローちゃんはもげろ
751 :372 [sagesaga]:2016/09/06(火) 13:51:10.39 ID:owsFtY6A0

再開乙です。

文醜『も』頂いた訳ですね。
某一刀君も真っ青の種馬街道を驀進するのかな?
続きを期待して待っとります。


752 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/06(火) 22:08:36.88 ID:yTEgx5sVo
>>750
>別にRに書いてもええんやで?
書く準備はある。いつか書く。
書きたいなあ。

>そしてやっぱりジローちゃんはもげろ
日常編という名の拠点フェイズは基本こんな感じっすw

>>751
>再開乙です。
どんどこいきます

>文醜『も』頂いた訳ですね。
据え膳すぎぃ!
なのです。
キャラクリということでひとつ。


>某一刀君も真っ青の種馬街道を驀進するのかな?
あそこまで緻密なフラグ管理はできないとは思いますがねw
どうなるかは割と。
753 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/06(火) 22:14:04.50 ID:yTEgx5sVo
かり。
腕が軽く噛まれる感覚で俺は目を覚ました。

「なにやってんの」

腕の中の猪々子が俺の腕をかじかじしている。

「え、アニキの味がするかなーって」

一体なにを言ってるんだお前は。だがまあ。

「その様子じゃあ、風邪は大丈夫みたいだな」
「うん、なんともないよ。言ったじゃん。」
「そりゃよかった」

……同衾した翌朝の会話としてはどうなんだろうな。とか思うのだが。
と、俺の腕をかじっていた猪々子がすりすりと頬を擦り付けてくる。
猫がマーキングしてるみたいだな。
今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうなのでこちょこちょと顎の下をくすぐってやる。
目を細めて嬉しそうにする猪々子。
うん、猫だな。

「アニキー、ちゅー、ちゅーしてー。
 ちゅー、ちゅーうー」

猫かと思ったらネズミだったようだ。まあ、いいさ。どっちにしても可愛いし。
軽く口づけしてやる。

えへへ、と照れたような笑顔。
なにこの可愛いいきもの。

「なんかさ、不思議だね。
 昨日までいつも通りだったのにさ」
「あー、確かになあ」

まさかこんな関係になるとはなあ。
手、出しちゃったなあ。出しちゃったんだよなあ……。いや、可愛かったしさ。こう、ね。
754 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/06(火) 22:14:49.26 ID:yTEgx5sVo
「でも、嬉しかったよ、アニキ」
「ん?」
「アタイ、女として見られてないのかなーって思ってたからさ」
「ないない、猪々子はちゃんと美少女だよ?」

いつも言ってたし。

「てっきり口だけと思ってたよー」

には、と笑う猪々子。

「だっていつも抱きついても特に反応しなかったじゃん」
「流すしかないだろうがそこは。
 流されたらえらいことになるっちゅうの」

なったし。

「今後はだな、自重するように。
 出来るだけばれんようにせんといかんからな」
「えー。無理ー」
「こら」

駄目でしょわがまま言っちゃ。

「だってー、いつもアニキに抱きついてたりしたじゃんかー。
 急にやめたらそれこそ怪しいってー」
「ぬう」

なんという逆転の発想。

「だからー、いつも通りにするってばよー」
「ある程度は自重しろよ?」
「するするー。するからちゅー、ちゅーしてー」

猪々子ってばこんなに甘えんぼだったっけか。
今度は本格的な口づけを交わし。

結局朝から一戦交えることになってしまった。

※斗詩には即バレ余裕でした。
なお、喜んでくれた模様。
うん。……うん?
755 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/06(火) 22:16:08.20 ID:yTEgx5sVo
本日ここまですー
感想とかくだしあー


こういうのが拠点フェイズでは続くと思われます
殺伐もいいけどラブラブもいいよね!
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/06(火) 22:41:30.43 ID:UxjMpAotO
乙!
ルータ不調で読めない間に更新されてた

えーと二郎ちゃん
「ゆうべはおたのしみでしたね」
ゆうべと言わず今朝からもお楽しみだったのね

> ※斗詩には即バレ余裕でした。
> なお、喜んでくれた模様。
> うん。……うん?
3人でお楽しみのフラグ?
そいや前回はフラグ建築士の資格持ってたような
あとはメインヒロイン麗羽様とみんなの妹美羽様で袁家コンプですな

とりあえず二郎ちゃんモゲロ
757 :372 [sagesaga]:2016/09/06(火) 22:47:10.87 ID:owsFtY6A0

乙です。


ラブラブ良いよね。
でも日常フェイズなら張弘×赤楽も是非。

所で二郎さん、馬どうすんの?
つか現状はリース?
いや素朴な疑問なんですが


758 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/07(水) 21:43:42.23 ID:fuJD5tSro
>>756
乙ありがとうです

>ゆうべと言わず今朝からもお楽しみだったのね
そらもうハッスルよ

>3人でお楽しみのフラグ?
プロットは完成しております。ただしHPが足りません

>>757
>でも日常フェイズなら
張紘と赤楽さんの日常については、メインで書くことはないと思われます
終わらないのよー

出番はありますけどね
詳しくはあっちにちょっと書いてみます

>馬どうすんの?
現状、烈風というまに騎乗しております。
持ち馬ですが、そろそろ代替わりかなあ、ということでお馬さん物色してるのが現状ですが

|д゚)チラッ

あーどこかにこういう雑務に強い人いないかなー

|д゚)

まあ、いい馬いなければ地味様に相談するかと思われ
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/09/08(木) 09:53:10.80 ID:cGPvwsJI0
乙でしたー
>>744
>>だって、楽しそうだったもの。姫も、斗詩も。そして言い出しっぺの……あの人も。  他の部分では(と言うか基本的に呼び掛ける時以外は)真名を使っていないので
○だって、楽しそうだったもの。姫も、顔良も。そして言い出しっぺの……あの人も。  だと思います
>>746
>>そう思いながら猪々子見やる。
○そう思いながら猪々子を見やる。

「チューしてー」が可愛過ぎる、二郎モグ
そしてサラッと二郎ちゃんももらってない黄蓋の真名をもらった猪々子・・・いい子だからね、思わず交換しちゃうよね
760 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:06:42.27 ID:qaKdHifIo
>>759
赤ペン先生あざっす
いつもすまないねえ……ほろり

>「チューしてー」が可愛過ぎる
ヒロインちからがどんどこですよ
猪々子のポテンシャルを出し切りたい(決意表明)

>そしてサラッと二郎ちゃんももらってない黄蓋の真名をもらった猪々子
そこに気付くとは……やはり天才か

気が合うか不倶戴天か両極端だろうなあと思ってますがダイス判定マブダチでしたw
761 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:14:31.43 ID:qaKdHifIo
轟音が響く。
木剣が大地を穿つ音である。舞う土煙。紛れて。

「しぃっ!」

静かな、だが鋭い声が漏れる。必殺の一撃を運足の妙で躱し、反撃に移る声。
木剣が奏でるそれは楽曲のようであり、二人の動きは舞のようですらある。

今は斗詩と猪々子が手合せしてるところなんだが。いやあ、毎回レベル高いわー。

少し離れた東屋(あずまや)では麗羽様が茶を喫しながら阿蘇阿蘇(アソアソ)に目を通してらっしゃる。いや、誰だよあれ渡したの。
その向かいでは美羽様が七乃の膝の上で昼寝をしている。のだが。
七乃が、だ。寝ている美羽様に変顔をさせて遊んでいる。……いいのかそれで。

そして俺は散々に打ち据えられた身体に軟膏を塗るのである。
痛いよー。

しかしこの場に隕石でも落ちてきたら袁家終了のお知らせだな。
……変なフラグ立てるのはやめよう。

と、手合わせが白熱してきた。実力はほぼ互角だからなあ、猪々子と斗詩は。
この上ない訓練相手と言えよう。切磋琢磨ってやつだ!戦闘スタイルは真逆だからこそ互いに得るものは大きいであろう。
一撃必殺乾坤一擲な猪々子に対して、斗詩の得物は双剣。それを活かした手数と、巧みな運足で相手を追い詰める。詰将棋みたいな感じだ。たまに残像すら見えるくらいの凄さである。

俺?

ほら、俺って二の太刀要らずの示現流――を目指している――だから、初手を防がれるとあかんのよね。
最近は大体俺が9割、猪々子と斗詩は7割くらいの力で打ち合えばいい感じに打ち合いが続く。
――手加減してもらってるってことだよ言わせんな恥ずかしい。

しかし呂布とか張飛とか関羽とかどんだけ強いんだろね。間違っても一騎打ちとかしたくないなあ。いや、戦場で一騎打ちってどんな状況なんだと言いたいところではあるのだが。

……張飛と関羽についてはこう、積極的に避けないといけない気がする。紀霊的な意味で。
死にたくないです。

はあ。
762 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:15:01.57 ID:qaKdHifIo
◆◆◆

「二郎様、どうぞ」

だらーっとしてる俺に凪が茶を淹れてくれる。
護衛兼給仕兼手合せの相手だ。

「うい、あんがとね。
 いちち」

口の中が切れてるから熱い茶がしみるー。痛いよー。でも美味いよー。流石は凪である。

「大丈夫ですか?」

心配ご無用!と言いたいとこだけどね。痛いのは確か。命に別状がないのも確かなのですよ。

「おうよ、これで相当手加減してもらってるかんな」

口にすると情けないことこの上ないな。だが事実なのだ。戦うまでもなく現実を受け止めております。
ですが、この世界の法則をいまいち、十全に理解できているとは言えない俺なのですよ。なので思いついたことを凪にぶつけてみる。
俺、気になるんやで。

「あれだ、凪さんや」
「はい」

俺の問いに目に見えて固まる凪である。いや、別に圧迫面接とかじゃないんだけど……。

「こう、気の力で怪我が治ったり、一撃くらっても痛くなかったりとかでけんの?」

俺の問いに、凪は申し訳なさそうな顔をする。

「申し訳ありません。
 その、自分は我流ですし、そういったのは分かりかねます……」
「いや、いいのいいの。
 聞いてみただけだから」

手をひらひらさせる。
かめはめ波はいつだって男の浪漫なだけである。
箒で牙突とかアバンストラッシュとかな!

「私はその、壊すことしかできないのですが……。気を医療に使うことは可能と聞いたことがあります」
「あ、できるんだ」

これは貴重な情報ですよ。つか、医療技術の未熟なこの時代。そんな技術を持った人物は抱え込まねば……。

「はい。
 五斗米道は気を治療に使用するとか…」
「五斗米道か……」

漢中は遠いなあ。遠いよ……。気軽に行ける土地じゃないのですよ。
地理的に南皮が仙台だったら漢中は鳥栖みたいな感じ。交通の要所ではあるのだがね。あと劉備がここを取ったら反乱フラグな。
763 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:15:27.52 ID:qaKdHifIo
「流れの五斗米道の医者とかいないかな」

言ってて無茶なことだよ。

「申し訳ありません。噂すら……、耳にしておりません」
「ふむ、ないものねだりしても仕方ない、か」

嘆息した俺の様子に凪が消沈する。

「お役に立てず申し訳ありません…」

いやいやいやいや。

「いやいや、凪はよくやってくれてるから!
 そこで落ち込まれると俺が悪者だから!」

美少女の落ち込んだ顔とか見たくないのである。

「あー、アニキが凪をいじめてるー」
「違うっての」

手合せをひと段落させた猪々子と斗詩がこっちに歩いてくる。互いにズタボロなんだが、こう、絵になるねえ。切磋琢磨。信頼。うむ、美しい。

「まーたアニキの毒牙が犠牲者を出したのかー。
 流石だなーあこがれちゃうなー」

おい……。おい。これは後でお仕置きタイム待ったなしですわ……。

「いえ、私が至らないばかりに二郎様にいらぬご心労を……」

どうして君はそう事態を深刻っぽくするかな。
ほら、麗羽様がこちらの様子に気付いて注視してますやんか!

「だー!俺は悪くねー!たぶん!」

くすり、と斗詩が笑う。ちろり、とのぞかせた舌が艶っぽい。いや、エロい。

「ま、詳しく聞かせてもらうぜー?
 あ、凪ー、アタイと斗詩にもお茶淹れてー」
「はい、承りました」

んで、東屋で麗羽様たちも交えてあれこれと談笑するのだった。
美羽様なら相変わらず寝てるよ。俺の膝の上で。可愛いのう。

気とかいう謎粒子についてはまあ、とりあえず気にしないということで。
764 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:16:00.28 ID:qaKdHifIo
◆◆◆

「じろー、あれはなんなのじゃ?」

頭上から美羽様が俺に問いかける。
最初はてくてくと自分の足で歩いてたんだが、疲れたらしく肩車をせがまれた。
麗羽様たちのちっちゃいころを思い出すなあ。
美羽様は麗羽様に比べると、頭上でやんちゃすることもなく、おりこうさんである。

「んー、芸人っすねー。
 歌と楽器かー。
 寄ってきます?」
「うむ!なんだかわからんが面白そうなのじゃ」
「あらほらさっさ、と」

男の芸人が弾く胡弓の音色に合わせて女の芸人が歌う。
どことなく物悲しい、故郷を思う唄である。

「なんじゃ辛気臭い歌じゃのう」

ぼそり、と美羽様が呟く。
まあ、おこちゃまにはわからん感覚だよなあ。

「南皮には江南からの流民が結構いますからね。
 結構胸に来る人は多いんじゃないっすかねえ」
「そんなもんなのかのう」

それなりに受けたようで、そこかしこからおひねりが投げられる。
俺も小銭を投げてやる。

「しかし、歌を歌うとお金がもらえるのかや……」

別にあんたお金に困ってないでしょうが。
ん、逆に直接使ったこともないのか。

「のう、じろーや」
「駄目です」
「ま、まだ何も言っとらんのじゃ」
「ではどうぞ」
「妾もお歌を歌ってお金を稼ぐのじゃ!」

はい予想通りでした。

「駄目です」
「な、なぜじゃ?
 妾の歌ではお金が稼げんかや?」
「そんなことはないですよ?」

実際結構なレベルなのだ。
七乃の伴奏でよく歌ってるけど、ぶっちゃけ上手い。ガチで上手い。

……まあ、民の慰撫と思えばありなのかなあ。
どうなんだろ。一考の余地はあるかもだな。歌う系カリスマ君主。……超時空要塞かな?

「じろー!聞いとるのか?」

ぺちぺちと俺の頭をたたく美羽様。うむ。

「今日は町の視察なんですから、お歌の披露はまた今度ってことで」
「うむ、楽しみにしておるぞ」

大人のまた今度は信用してはいけないとこの子が悟るのはいつの日であろうか。願わくばその日が来ないことを願う。切に。

あちこち覗いて回って、美羽様の初めてのお忍び視察は大成功に終わった。
……なにをもって大成功かは深く考えないでおく。美羽様が楽しそうだったからそれでいじゃんよ。

後で七乃にものすごく文句を言われた。かなりの猛抗議であった。
一緒に行きたかったらしい。
いや、そんなこと今になって言われても知らんし。

この後、滅茶苦茶ご機嫌取りした。
765 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/09(金) 22:16:54.80 ID:qaKdHifIo
本日ここまです
感想とかlくだしあー

タイトルは「凡人の日常」かな
しっくりぴったりなのを募集するのですよー
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/09(金) 23:00:39.47 ID:dNNTbYDmo
乙です
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/10(土) 01:26:42.90 ID:UhI7Q3ciO
乙っす!

信用してはいけない大人の言葉
・また今度
・お年玉はお母さんが預かっておいてあげるね

>ご機嫌取り
もげろ

タイトル案「凡人の穏やかな日常」
「凡人と凡人を取り巻く女性たちとの何でもない日々」
768 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 20:03:31.41 ID:xdysZ0hKo
>>767
>・お年玉はお母さんが預かっておいてあげるね
爆笑したですぞw

これ、あとがきに貰いますねw

>「凡人の穏やかな日常」
こちらかなあ。ちょっとまた考えまする
769 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:45:13.44 ID:xdysZ0hKo
「困りました〜」
「お主が言うとまったく困ったように聞こえんのう」
「そんなことないんですけどね〜」

のほほんとした声に黄蓋が苦笑する。

「で、どうしたんじゃ」
「実はですねぇ〜」

陸遜は打ち明ける。
なかなか紀霊に抱いてもらうところまで持っていけない、ということを。

「ちょっといい雰囲気になったことはあったんですけど〜。
 誘ったら袖にされてしまって〜。
 それまではおっぱいとか触ってきてたんですけどそれもなくなって〜」

これで陸遜は結構焦っているのである。紀霊篭絡というのは、公私ともに至上命題であるのだからして。

「ふむ、穏の胸を見てあやつが自重するとはのう」
「祭様はよくお尻とかも撫でられてるのに〜」

のほほんとした口調ながらもその内容に黄蓋は唸る。解せぬ、と。

「なんじゃなあ。あの助平が据え膳食わんとは意外なのじゃが」

黄蓋とて木石ではない。
これであの男――紀霊のことである――に恩義もあるので迫られたらまあ、一夜くらいは付き合ってもいいかな、と思っていたりもする。
今のところ軽くちょっかいを掛け合う関係が続き、それが結構気に入っている。だから自分から仕掛ける気はないのだが。
こういうのは自分から行ったら負けなのは世の定め。しかし、端から抱く気もないとすれば話は違ってくる。

「う〜、どうしたらいいんでしょう〜」

困った風に身をよじる陸遜。

「なんじゃのう、こういう時はあれこれ考えても仕方ない。
 よし、わしが仲をとりもってやろう」
「どうされるのですか〜?」
「決まっておろう」

にんまりと笑みを浮かべる黄蓋。そう、窮地でこそ、黄蓋の輝きは本領を発揮するのである。

「正面突破じゃ」

◆◆◆
770 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:45:57.37 ID:xdysZ0hKo
「なぜ穏を抱いてやらんのじゃ?」

危なく口に含んだ酒を吹き出すとこだった。いきなり何を言うてはるのこの人。ちなみに今は楽しい楽しい黄蓋との晩御飯の席である。褐色の肌は南皮では珍しい。そして極上のお胸様である。楽しくないわけがないだろうよ。

「あれが貴殿に寄せる思慕の情。それが分からんとは言わせんぞ」

さらに追求してきますよこの人。

「いや、だって、なあ」

明確なハニートラップは勘弁であるのだよ。だから、どうしても一線を越えるのに躊躇するというか、警戒しちゃうというか。
などというあやふやな説明で黄蓋が納得するはずもなく。

「なんじゃ、胸を揉むのはよくて抱くのが駄目とかよく分からんぞ」

いや、そこには大きく違いがあると思うんですけどそれは。そして揉んでもいないし!

「おぬしのよく分からんこだわりであれを泣かすでない」

説教食らっちゃいました。

「そもそも気を持たせ過ぎじゃろ。
 あれだけ助平な視線を向けといて梯子を外すのはいただけんのう」

まあ、エロい目で見ているのは確かなのですが。具体的なセクハラはしてないよ!あんまりね!

「あー、その、なんだ、一言もない」
「ふん、じゃったら行動で示すんじゃな」
「えと、今度そういう感じになったら前向きに検討する」

なんというその場しのぎ。先送りと人は言う。
だがまあ、黄蓋も満足そうなのでとりあえずはこれでよしか。

「聞いたぞ。ではそれで納得してやるとしよう」
「そりゃどうも」

ふう、と息をつく。

「後はその今度、とやらがいつか。じゃが」

いつになるのかねえ。また今度、つうことでひとつ。

「思ったより早く機会が来そうじゃぞ?」
「へ」

にんまりとした黄蓋が口を開く。

「穏!機は熟したぞ!」

げえっ!陸遜!
771 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:46:32.89 ID:xdysZ0hKo
ジャーンジャーンという銅鑼の音が脳内に響く。

そこにはにこにこといつもの笑顔の陸遜がいた。
「さて、あとは若いもんに任せとするかの」

にやにや笑いながら黄蓋が席を外す。
ちょ、待てよ!俺が一方的にものっそい気まずいぞこの流れ。

「失礼しますね〜」

さらりと黄蓋の席に着く陸遜。むう、身のこなしに無駄がない。
こやつ、できるっ!
じゃなくて。

「あの、陸遜さん?」
「はい〜、なんでしょう〜」
「いつからこのお店に?」
「ご想像にお任せします〜」

あ、あわてるな!これは陸遜のわなだ!
でもそれって俺じゃ看破できないよねー。
これは気づかなくても仕方ないな。うん。

「ええと、陸遜、まあおひとつどうぞ」

開き直った俺は杯を進める。
必殺営業モード!
接待相手に邪な気持ちなど抱きはしないという悲しい自衛策だ!接待でキャバクラとか行っても嬢の笑みに何も感じない氷の心。鋼の自制心。

「ありがとうございます〜
 でもでも〜、一つお願いがあるんです〜」
「なにかな?」

俺の言葉に陸遜はふわり、と笑いかける。
ああ、美人だなあこの子。
っていかんいかん。黄蓋に注がれた酒精が地味に効いている。まあ、許容範囲内だが。

「陸遜だなんて他人行儀じゃなく〜。
 穏って、呼んでほしいんです〜」

そうきたか。

「んじゃまあ、俺も二郎でいいよ」

その言葉に穏は嬉しそうに笑う。少し頬が紅潮しているのは酔っているからだろうか?
まあ、どっちでもいいや。
今日はおとなしくおうちかえるんだから。
うん、おうちかえるー。

◆◆◆
772 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:46:58.71 ID:xdysZ0hKo
陸遜は心からの笑みで紀霊を見つめる。
恋い焦がれた男が目の前にいるのだ。
自分の登場に一瞬顔が歪んだのを見た瞬間など絶頂すら覚えそうになったほどだ。

「失礼しますね〜」

火照る身体を椅子に座らせる。一挙手一投足を見逃さずに脳裏に焼き付ける。
絶好の機会に袖にされて以来、ここまで近づくことはできなかった。
戦場においても微妙に遠ざけられているのを勘付かないほど陸遜は鈍くない。
それはまあ、拙速だった自らに帰するものだ。そこに反省はあっても後悔はない。
あの席までに入手していた情報では自分は幾度でも同じ選択をするだろうから。

そう、過去のことは貴重な経験とする。それでいい。
大事なのはこれからだ。
軽く会話を交わしながら紀霊の表情を、声色を読み取っていく。自分の中の紀霊との齟齬を埋めていく。

「ええと、陸遜、まあおひとつどうぞ」

僅かな間に表情を立て直して杯を勧めてくる。にこやかな笑顔は完全武装を思わせる。
くすり、と笑みがこぼれそうになる。
そうではなくては。だって、この身を委ねるのだ。
恋い焦がれてしまっているのだ。

自分を手玉にとるほどの男であってほしい。

劣情に溶ける身体。
冴えわたる思考。

真名を交換しながら、目前の獲物を見る。

既に陸遜の中では、紀霊を籠絡することそのものが目的となっていた。

◆◆◆
773 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:47:26.02 ID:xdysZ0hKo
「えっと〜、早速なんですけど〜。
 どうして二郎さんは私を抱いてくれないんでしょうか〜」

なんという単刀直入。
もっとこう、高度に比喩とか暗喩の応酬で追い詰めてくるのかと思った。
まあ、どうせ断るんだ。ぶっちゃけよう。

「や、情が移ったら困る」

これに尽きる。
にこにことしたままの陸遜……穏に畳み掛ける。

「穏が俺をどう思ってるか知らんけどさ。
 結構情に流されやすいのよ俺。
 だから、お前を抱くわけにはいかない」

これ以上ない拒絶の言葉のはずだが、穏は蕩けるような笑顔を浮かべる。
思わず聞いてしまう。

「いや、何で嬉しそうなのさ」

その言葉に穏はその唇を開く。

「いえ〜、嫌われてるわけじゃないと知って、です〜。
安心しました〜」

そりゃまあ、こんなおっぱいを嫌いになるわけない。
まあ、それだけじゃないけど。

「いやまあ、俺個人の好悪とか関係ないし」

偽らざる本音である。
孫家なんて特大の爆弾みたいなとこと個人的なコネクションというか、だ。しがらみを作るメリットなんてない。

「その上で私としては抱いていただきたいんですけど〜」
「無理」

即答の俺カッコいい。惚れろ。いや逆だ。惚れるな。

「それは困りました〜」

だからなんでいい笑顔なのかね、ほんと。

「穏が言うと困ったように聞こえないのが不思議だな」
「よく言われます〜」

軽く小首をかしげる。

「でもでもぉ、お互いにとっていいお話だと思うんですよぉ〜」
「だからその気はないって」
「二郎さんは孫家に援助をしてくれてますよねぇ〜。
 でも、孫家を結構警戒されてると思うんです〜」
774 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:47:53.10 ID:xdysZ0hKo

その通り。
いつ手を噛まれるか……食いちぎられるかわかったもんじゃない。

「犬は餌で飼える。
 人は金で飼える。
 虎を飼う事は何人にも出来んだろうさ」

ま、だから鎖に繋ぐつもりなんだがね。

「そこなんですよねぇ〜。
 二郎さんはそんな孫家をどうして援助してくれてるんでしょうか〜」
「そりゃあれだ。江南は武力で抑え込まないと治まらんだろうが」
「そうですねぇ〜、豪族が強くて厄介なんですよ〜」

軽く首を振る穏。
ぷるんぷるん。
うむ。

「そんな江南、しかも扱いづらい孫家にどうして二郎さんは援助の手を伸ばされたんでしょうか〜」

そりゃあれだ。
説明しづれえなあ。

「孫家でもそれについては最優先事項です〜。
 理由もなく伸ばされた手など、いつ無くなるか分かりませんしねぇ〜」

そう言われてもなあ。

「知ってますか〜?
 二郎さんが江南に救いの手をのべた理由。
 大徳をもってそれを為した。
 或いは祭様の色香に迷った。
 どちらか、らしいですよ?」

知ってるよ俺がその噂を流したよ。だから。

「ほう……」

としか言えないんですけど。それも含めて見抜かれているような気がしないでもない。
これだから頭のいい奴との会話は疲れるのだよ!

「それ以外の理由があるのか、ないのかについても孫家では憶測しかできていません。
 判断材料がありませんし〜」

あかん、色々見透かされているような気がしてならない。という圧力を与えているのだろうけどね。まあ、色々考えても下手の考え休むに似たり。

「んなこと言われても、なあ」
「確かにそうなんですよねぇ。
 ですが、早くもそれをもって袁家と手を切るべきという方も出てきているのも事実です〜」

なんだそりゃ。ちょっと食う余裕が出てきたらそれか。
775 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:48:20.44 ID:xdysZ0hKo
「それは流石に、気に食わんな」
「そこですぅ〜。
 結局、江南……孫家への援助は二郎さんの一存ですよね〜」
「それについて誰かに文句を言われたことはないな」

軽く儚げな表情をする穏。

「ですから、なんとしても二郎さんの歓心を得ないといけないのですよ〜」
「穏ほどの人材がするこっちゃないだろうそれは」
「いえいえ、ご評価はありがたいですけどねぇ」

ころころと笑う穏。
その笑みに暗さはない。

「今の袁家が本気になったら孫家なんて鎧袖一触にもなりません〜。
 そして、たぶん二郎さんは私の想定することなど軽く超えて孫家を殲滅されるでしょうね〜。
 正直、そうなると打つ手がないのですよね〜」

まあ、今の段階で孫家が何をしてもどうとでもなる。それくらいの布石はするっちゅうの。

沈黙を是と受け取ったか穏が続ける。

「ですから、私に手を出していただきたいのです〜」
「んで、結局俺は助平心で魯粛や虞翻や顧雍を死地に派遣する阿呆だと思われるわけか」

俺の言葉に穏は笑う。
天真爛漫に見えるのが恐ろしい。

「不本意ですか?」

今日一番の笑顔で聞かれる。

は。

「望むところさ」

俺の風評一つで孫家の反乱分子を抑えられるなら願ってもない。

「だから。だったらきちんと抑えて見せろよ」

これが俺の要求だ。

「孫家もろとも江南を灰塵にしたいなら、別だがね」

精一杯凄味を効かせたが、穏は満面の笑みで俺の腕を取る。どこか艶然とした表情が俺の背筋に冷や汗を生じさせる。
抱き寄せた身体の熱さに戸惑う。
脳裏に鳴らされる警鐘を甘言がかき消す。

「優しく、してくださいね〜。
 その、初めてなので〜」

その言葉と甘い吐息に意識を混濁し、俺は白い身体を蹂躙するのであった。
776 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/12(月) 21:49:11.14 ID:xdysZ0hKo
本日ここまですー

「凡人とハニートラップ」

かな?
いまいちなので募集しますおながいしまうs

感想とかくだしあー
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 21:51:39.72 ID:6BeLhgl50
ネタ案として
「陳蘭『私が二郎様の事を一番理解してる....はずです』」
相も変わらず休みの日に周りのいろんな子と仲のいい二郎、だけど一番長い付き合い陳蘭は少し上のように不安に思いお酒に二郎を誘って本音を聞こうという感じ
「沮授『やれやれ、お二人はお盛んなことで』
男三人の飲み会。話題は二郎、張紘の周りの関係に
飛燕さんとかも考えたけどまず出てきた時点で日常じゃねぇなってなったぞ(良ければ出すけど)
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 21:56:55.31 ID:vgv/UkBVo
乙です
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 22:31:51.69 ID:UvLkosPqO
乙したー

HPの補充はまだかっ
780 :372 [sagesaga]:2016/09/13(火) 11:33:47.66 ID:oI9pdbEA0


乙です。

>袁紹様に阿蘇阿蘇を渡した人
本命、お付きの方々
対抗、顔良さん
穴、 文醜さん


大穴、袁逢様。

かな?


漢中との距離差の比喩例がサッカーファンですね。

>劉備が漢中抑えたら反乱フラグ


……今何しているでしょうかね?劉備さん。


取り急ぎ、感想だけ。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/09/13(火) 13:45:53.93 ID:5PjONDuz0
乙でしたー
>>771
>>「さて、あとは若いもんに任せとするかの」
○「さて、あとは若いもんに任せるとするかの」
>>772
>>そうではなくては。だって、この身を委ねるのだ。
○そうでなくては。だって、この身を委ねるのだ。

>>しかしこの場に隕石でも落ちてきたら袁家終了のお知らせだな。 ……変なフラグ立てるのはやめよう。
趙思温 「特にフラグを立てなくても隕石くらい落ちてきますよ」
二郎のこの自分の名声とかプライドとか恨みつらみとかを利があれば売れる精神がカッコいいと思う
飛燕の時もそうだけどけして安売りしてるわけじゃないけど高く売れる場面で躊躇せずに全ブッパするとか・・・
たしかに陸遜が詰将棋めいた手に出たけど二郎ちゃんがその気になれば盤面ごとひっくりかえせるという…ぶっちゃけ陸遜これ以外の手が無かったよね
782 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/13(火) 18:33:53.47 ID:1/ju7Uwbo
>>777
>「陳蘭『私が二郎様の事を一番理解してる....はずです』」
陳蘭ちゃんは多分そんなこと言わないw

ただ傍に居て、それで満足なのです。
どこまでも、何があっても付き従うのです。そういう存在なのです。
彼女に限っては何があっても裏切ることはないです

>男三人の飲み会。話題は二郎、張紘の周りの関係に
これはいい男子会の議題w
まあ、あれこれ言う二郎ちゃんを爽やかに躱す沮授君
そしてそういうの、口出ししないしされたくない張紘君

>飛燕さん
一気に修羅場だよう……

>>779
命の木の実ってどこに売ってるんですかねえ……w

>>780
>本命、お付きの方々
>対抗、顔良さん
>穴、 文醜さん
>大穴、袁逢様。
これ、分かんねえなあ……
これはお任せします。
個人的には本命は斗詩だと思いますががががw

>漢中との距離差の比喩例がサッカーファンですね。
え?いやそう思われるとはw
九州在住でしたのであっこの重要性は大事かと(錯乱)

つか、サガンクロスとかあほかと、馬鹿かと。
あれのおかげであっこで渋滞が発生するんだよなあ……
あれ、作り直した方がいいけど、できないだろうなあ

ちなみに鳥栖を知ったのは桃鉄

>>781
赤ペン先生!赤ペン先生じゃないか!

>趙思温 「特にフラグを立てなくても隕石くらい落ちてきますよ」
お、おうw

>二郎のこの自分の名声とかプライドとか恨みつらみとかを利があれば売れる精神がカッコいいと思う
ありがとうございます
ありがとうございます

>飛燕の時もそうだけどけして安売りしてるわけじゃないけど高く売れる場面で躊躇せずに全ブッパするとか・・・
自分の価値というものを正しく理解し、価値を認めないという二律背反だからこそできることなのでしょうね

>たしかに陸遜が詰将棋めいた手に出たけど二郎ちゃんがその気になれば盤面ごとひっくりかえせるという…ぶっちゃけ陸遜これ以外の手が無かったよね
陸遜的にはもう、これがダメなら。。。という最期の賭けでもありました。
正面突破というのはリスクが高いですからねえ。対人関係ではなおのこと。



>趙思温 「特にフラグを立てなくても隕石くらい落ちてきますよ」
783 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/13(火) 20:24:50.08 ID:1/ju7Uwbo
「ん……」

穏の身じろぎで意識が浮上する。
結局、昨夜は穏と同衾してしまったのだ。

そんなつもりなかったのになあ。
どうしてこうなっちゃったんだろうなあ……。

いやまあ、やっちゃったもんは仕方ない。
こっからどうするか、だな。

「あ、おはようございます〜」

のそり、と穏が寝台に身を起こす。
寝具からたわわな胸が零れ落ちる。とりあえず揉んでおこう。

やん、という声を無視しながら昨夜の痴態を思い返すのだが。

この子ほんとに生娘だったのか、という乱れっぷりではあった。
いや、生娘なのは確認したから確かなんだが。

「心ここにあらず、ですねぇ」

そんな俺に声をかけてくる。

「いやまあ、どうしたもんかなあ、と」
「後悔されてるんですか?」
「いやそれはないけどね」

役得、と割り切ることのする。
などと考える俺に穏が抱きついてくる。

「どしたの」
「いえ〜、やっと抱いていただけたので、今の幸せを満喫してるんです〜」

えへへ〜と笑う穏。これは演技じゃないみたいなんだよなあ。
正直なんでそこまでという気がする。

「どう思われてるかは想像がつきますけど、この思いはほんとですよ〜?」

なんでさ。
って聞くのも野暮だわなあ

「抱いていただくために私は南皮に来たようなものですし〜」

ほう。

「誰の意向で?」
「ん〜、発案は私ですね〜。ほら、男女が分かりあうには交わるのが一番っていうじゃないですか〜。
 二郎さんのことをもっとも〜っと知りたくて〜。
 ですから公私混同しちゃいました〜」
「会ったこともないのに?」
「会ったことがないから一層思いが募りました〜。
 孫家と江南の命運を握っているのは二郎さんじゃないですか〜。
 だから〜、四六時中二郎さんのことを考えてたんです〜。
 もう、一日二郎さんのことを考えてる日もありました〜」

こ、こわっ!

「それって、恋着と何が違うんでしょうね?」
「少なくとも聞こえが違うと思うんだ」
「あ〜、これは一本取られちゃいましたね〜。
 でも、心からお慕いしてるのはほんとですよ〜?」
「んじゃ、孫家と袁家が対立したらどうすんの」

その声に動ずることもなく、さらりと穏は答える。

「やですね〜。
 それをさせないために私がここにいるんですよ〜?」

柔らかに笑いながらそう言うのだ。
その覚悟。
それは信じてもいいと思うのだ。
まあ、孫家と仲良くできることにこしたことはないからな!

まあ、策に絡めとられたのも業腹なので、穏の白い肌に紅い痕跡を残すことにする。
所有印的な。

むしろ喜ばれてしまったのであるが。解せぬ。
784 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/13(火) 20:25:16.18 ID:1/ju7Uwbo
ピロートークでした

短いけど本日ここまです
感想とかくだしあー
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/13(火) 22:46:59.79 ID:EyY5+Ff8o
乙したー

鳥栖が通り道過ぎて福岡領扱いされてる事実はある
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/09/14(水) 12:56:17.51 ID:I0pbNNmf0
乙です
一ノ瀬さんが2回も気にしてるのでちょいと調べたら
二年,有星隕于庭,卒。
なんかこんな記録見つけました、星が庭に落ちて卒(死亡)ってことかな?というかWIKIの説明文が雑でワラタ
787 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/14(水) 21:23:02.51 ID:Lb/HVwOLo
>>785

>鳥栖が通り道過ぎて福岡領扱いされてる事実はある
サガンクロスとかいうクソインフラは立て直した方がいいと思うの

>>786
>一ノ瀬さんが2回も気にしてるので
どっかで見たんですよね
幹部が災害で全滅って

紙媒体やから何かは思い出せないんですけども
788 :777 [sage]:2016/09/14(水) 21:50:37.58 ID:i8DqA6Oj0
陳蘭ちゃんは流石にそんなこと言わなかったかぁ(少しヤンデレっぽくなりかけたのは気にしない)
久しぶりに夜、食事に誘われて嬉しい追加攻撃で食事後、夜の街を歩いて少し昔のやんちゃだった頃の二郎君を思い出す陳蘭ちゃんの第二案にするべきだったか(笑)
袁紹様sはお昼にお仕事中に色々絡まれるとかで補充できそうな気がする。
789 :372 [sagesaga]:2016/09/15(木) 21:32:03.86 ID:KLEl1qgA0
乙です。

二郎さん。身体持つの?

隕石て一種の天然質量兵器でしょ?
天文系記録漁ると、隕石落下でクレーター記述が結構ありますよ。

つか地表に衝突した際の飛び散った破片すら多分銃乱射並みの勢いかと。

個人的には隕鉄で刀剣を造ったら面白いだろうなぁと。

790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 22:21:34.13 ID:urKrIm9Qo
おつおつ

>>789
あるよ、流星刀
ttp://blogs.c.yimg.jp/res/blog-a0-6c/crinum_asiaticum_jp/folder/482324/71/9154871/img_0

実のところ不純物が多すぎてあんま刀の材料としてはよろしくない模様
791 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:26:48.96 ID:sxpr9cGqo
>>788
>陳蘭ちゃんは流石にそんなこと言わなかったかぁ
陳蘭ちゃんはそんなこと言わない(飛影感)

>夜の街を歩いて少し昔のやんちゃだった頃の二郎君を思い出す陳蘭ちゃん
本質は何も変わっていないのを理解しているのです
何も言わなくても後ろをついてきてるのが当たり前だから振り返りもしない二郎ちゃんです
んで、いきなり「お茶ー」とか言われてハイハイと

昭和の夫婦かな?

>袁紹様sはお昼にお仕事中に色々絡まれるとかで補充できそうな気がする。
用がなくても二郎ちゃんの方から遊びに行ってます
四半刻くらい駄弁って去るのがルーチン的な

>>789
>二郎さん。身体持つの?
亜鉛サプリとか飲んでるんじゃないかな(適当)
まあ、適当にインターバル挟んでるんじゃないですかねえ

>個人的には隕鉄で刀剣を造ったら面白いだろうなぁと。
鉄の含有率が高いから品質がメッチャいいとか何かで読んだけど何かが思い出せませんw
当時の製鉄技術がどうのこうの
隕鉄由来の刀剣は、浪漫の香りがしますねえ……
792 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:27:31.98 ID:sxpr9cGqo
>>790
え、質よくないのw
浪漫か。
浪漫やなw
793 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:32:35.61 ID:sxpr9cGqo
「穏と二人でゆっくりとするのも久しぶりな気がするわね」

しみじみと思う。孫権の腹心。陸遜と語り合う機会も最近はなかったのだ。
場の気安さに軽く伸びをして一日の疲れをほぐす。
最近は、孫権も。陸遜ほどではないけれども書庫に出入りしているのだ。
もちろん袁家の施策をそのまま持ち込むことはできない。それでも、一つ一つの施策から袁家の方針や思惑を読み取るのは楽しかったりする。
……多くは陸遜に解説してもらっているのだけれども。
陸遜曰く、推測にすぎない、とのことだが。今の自分に陸遜以上に深く推察することなどできないだろう。

「そうですね〜。
 と、蓮華様〜あちらをご覧ください〜」

軽く杯を傾ける陸遜。
その指す方向を見ると……。

「祭!それに紀霊……」

愕然とする。
紀霊にしなだれかかる黄蓋。どさくさに紛れその身体をべたべたと触る紀霊。
正直見ていて気持ちのいいものではない。
いくら袁家の重鎮だといっても、彼女があそこまでする必要なんてないはずだ。だらしなく鼻の下を伸ばす紀霊になんだかむかむかする。
見方を改めようと、できるだけ好意的に解釈するようにしているのだけれども流石にこれは無理だ。これはない。

「お静かに〜」

声を上げようとしたのを陸遜が制止する。
アレをみて何とも思わないのだろうか。
その、陸遜がなぜかあの男に懸想しているのはなんとなしに知っている。
だからこそ、彼女が平然と、だ。あの痴態を見ているのに納得がいかない。

「穏、これはいったいどういうこと?」

私の問いに穏は答えず席を立つ。

「ちょっと、行ってきますね〜」

その歩みはとても自然で、隙がなくて。
彼女に声をかけることができなかった。

◆◆◆
794 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:33:15.57 ID:sxpr9cGqo
呆然としていた自分に気付く。陸遜があの男の横に座るのを見守ることしかできなかった。
いったいなにがどうなってるんだろう。

「権殿?」
「あ……」

黄蓋が近づいてきたのにも気づかなかった。
そうだ、彼女にも聞かなければ!

「落ち着きなされ」

静かに、しかし圧倒的な気迫でもって自分を黙らせる。
その気迫は周囲にはまき散らされることなく、自分にだけ向けられることを理解する。

「うん、取り乱してごめんなさいね」

にこり、と笑うとさっきまで陸遜がいた席に腰掛ける。

「ここからは女のいくさよ。
 その姿、きっちりと見届けてやってくだされ」

その言葉の重みに気づかないほど馬鹿じゃない。
私は穏たちの交わす言葉に意識を集中させるのだった。

◆◆◆

「な、なんだか思ったより露骨に迫るのね」

陸遜の物言いは正直、あからさまというか、露骨だった。あんな風に言われてなびく男っているのかしら、と孫権は戸惑う。

「ふむ、そうじゃのう。正面突破でぶつかってみよ、とは言ったのじゃが……」

陸遜の物言いに黄蓋も戸惑っているようだ。
ということはあの物言いは仕込みではないのだろう、と孫権は推察する。
そんな抱け、抱かないのやり取りがいつの間にか一変していた。

「犬は餌で飼える。
 人は金で飼える。
 虎を飼う事は何人にも出来んだろうさ」

そんな言葉に背筋が寒くなる。
あの男は、そんな目で孫家を見ていたのか、と。

「知ってますか〜?
 二郎さんが江南に救いの手をのべた理由。
 大徳をもってそれを為した。
 或いは祭様の色香に迷った。
 どちらか、らしいですよ?」

知らなかった。
いや、知ろうともしていなかったのだろう。それは気づかないと、思いを馳せないといけないところだった。

私はいったい何を見ていたんだろう。
何を見なかったんだろう。

そして、気づく。
孫家の、江南の命運がいかにあの男の手に握られているかを。
黄蓋が、陸遜がどれだけの覚悟であの男に媚びていたのかを。
自分の軽率な行いが、態度がどれだけ孫家の存亡を危うくしていたかを。
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 22:33:22.24 ID:urKrIm9Qo
流星刀のwiki見たら書いてあるけど、普通の鉄と比べて性質が違いすぎて
既存の刀鍛冶の技術が役に立たないそうな

んでもって隕鉄は1つ1つ成分が違うので毎回手さぐりという
796 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:33:42.34 ID:sxpr9cGqo
「今の袁家が本気になったら孫家なんて鎧袖一触にもなりません〜。
 そして、たぶん二郎さんは私の想定することなど軽く超えて孫家を殲滅されるでしょうね〜。
 正直、そうなると打つ手がないのですよね〜」

目の前が真っ暗になる。陸遜が、彼女がそこまで言うのだ。
戦場では冥琳すら凌ぐこともある彼女が、だ。

「ですから、私に手を出していただきたいのです〜」
「んで、結局俺は助平心で魯粛や虞翻や顧雍を死地に派遣する阿呆だと思われるわけか」

あの軽率な振る舞いも擬態だったのだろうか。それすら分からないことを認識する。

「祭、至らない主でごめんなさいね」
「ふむ、そこまで卑下することはないと思いますぞ?
 わしとて穏ほど危機感は持っておらんかった。
 なるほど、冥琳が惚れこむわけじゃ」

身を挺して孫家に尽くしてくれる彼女に、彼女らに報いるにはどうしたらいいだろう。
遠い背中に追いつくにはどうしたらいいのだろう。
ううん、まずは。
覚悟を決めよう。
私は孫家を背負うのだ。
彼女の双眸の碧眼。そこに迷いも惑いもなく。静謐なるまま。だが、その変化に黄蓋は目を細めるのであった。
797 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:34:10.23 ID:sxpr9cGqo
◆◆◆

「あ、あの、それ、どうされたのですか?」
「あら、似合わないかしら」
「いえ、そんなことはないですけれども……」

楽進は言葉を失う。
驚愕、だった。
孫権の見事な髪。腰まで垂らされたそれは。自分のそれ――枝毛だらけで潤いもない――とは違うのだ。
正直羨ましく思ったことも一度や二度ではない。それを……。

「正直驚きました。
 見事な御髪(おぐし)でしたのに」

そう、腰まで届いていた髪は今や肩口まで。

「ふふ、ありがとう。
 ちょっとした心境の変化よ」
「はあ……」

これ以上立ち入ってはいけないだろうな、と楽進は沈黙を選ぶ。だが、よく見ると髪だけではない。
その身に溢れる覇気が段違いであった。
――人は何かをきっかけに「化ける」ことがあるという。紀霊からの聞きかじりであるが。

「やほー。おはよー。
 あれ、孫権髪切った?失恋?」

声の主は紀霊。僅かに着崩した衣装がこの上なく凛々しい、と楽進は思う。――いろいろと手遅れである。

「あら、貴方が気づくなんて意外ね」
「いや、そりゃ俺の目は節穴だよ?でも流石にそこまで髪形変わったら気づくって」

楽進は内心安堵の息を洩らす。
これまでの二人の関係はお世辞にもいいものではなかったから。まあ、孫権が一方的に紀霊を嫌っていたのであるが。
楽進的には板挟みのような心境であったのだ。だから、二人が仲良さげに談笑するのは大歓迎である。
――大歓迎なのである。

護衛として、数歩距離を置きながら楽進は雑念を振り払うのであった。
798 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:36:07.11 ID:sxpr9cGqo
本日ここまですー

日常編という名の拠点フェイズはいったんここまで

次回からは

「激動編」

始まります!そのとき歴史がウゴウゴルーガ的な感じですー

感想とかくだしあー


>>795
なるほどなー
手探りなのかー

でも浪漫兵器だよねー
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/15(木) 22:37:41.48 ID:urKrIm9Qo
おつおつー

投下にはさまってしまった
800 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/15(木) 22:41:56.21 ID:sxpr9cGqo
>>799
ええんやで(ニッコリ)

申訳ないと、思うなら
感想書いてって、どうぞ(懇願)
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 05:32:53.84 ID:2bhNf/gMo
乙ー

ここの蓮華はまおゆう女騎士感ある
802 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/16(金) 22:58:16.20 ID:ASY4tgUio
>>801
まおゆうはテキストで読むべきそうすべき
そして精霊ルビス伝説は読んどいたほうがいいと思います

完全にアレやからね

ルビスたん救済のお話しでもあるのですよ
一ノ瀬はそういう解釈です
803 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/16(金) 22:58:50.73 ID:ASY4tgUio
さて皆さま、お久しぶりです。二郎です。お仕事だってするのです。

「とまあ、方針としてはこのようにしたいと思ってます」

会議室には麗羽様、美羽様、猪々子、斗詩、七乃、沮授、張紘。
袁家の政官財軍の若手幹部が勢ぞろいである。
……メンツがメンツだから緊張しないことこの上ない。全員とツーカーといっても過言ではない。

「……なかなか大胆な手を打ちますねえ」

沮授が苦笑しながら言う。悪かったよ独断であれこれ決めて。

「白蓮さんに幽州を任せるのですわね。
 よろしいのではなくて?
 大過なく勤め上げてくれますわ」

麗羽様が手元の書類に目をやりながら言う。
俺が何進と打ち合わせた絵図面が簡単にまとめられているものだ。

まとめると

幽州:袁家→公孫
益州:劉焉→劉表→劉璋
荊州:劉表→袁術→劉表

という流れだ。
荊州の州牧を外れた美羽様は徐州あたりに転勤を予定している。
これらは劉焉が死んでから動き出す予定である。

「わ、妾が州牧かや……」
「ま、いきなりはアレなんで、しばらくは如南あたりの太守として実務の経験を積んでもらいます」
「太守で実務の経験とか、とんでもねえ話だなあ」

軽くぼやく張紘。うん、俺もそう思う。なお白蓮。

「でもさー、アニキー。せっかく治めた荊州からまた移っちゃうのもったいなくないー?」
「いいのいいの。どっちかっつうと孫家を抑え込む方が重要だから」

首をかしげる猪々子。

「はっきり言って孫家は今のところ信用できないからな。
 豪族の親玉な現状、漢朝への忠誠とか期待できない」
「それをあえて、長沙に封じますか」
「うん、それで諸侯として自覚が出ればよし、出なければまあ、潰す」
804 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/16(金) 22:59:17.42 ID:ASY4tgUio

ただまあ、そうなると面倒だからなあ。
そのあたりは今南皮に来ている三人に期待である。

「でまあ、如南から荊州にかけて母流龍九商会の商圏を広げる。
 洛陽方面はちょっと手出しできそうにないからな」

俺の言葉にうなずく張紘。

「んで、孫家の抱える江賊を中心とした艦船を商用に転用し物流を整え雇用を促進する。
 結構投資してっけど、まだまだ産業が育ってないからどうしても賊に身を落とす奴が多い」
「で、荊州から去った後も経済面で影響力を残すってわけか」

張紘の言葉に是と答える。戦乱さえなければ、世を支配するのは商人へと移っていく。
これは歴史が証明しているからな。土地の支配権から様々な権益に袁家の影響力を少しずつシフトさせていくのが俺の計画だ。

「洛陽はどうするんですか?」

七乃が小首を傾げながら言ってくる。

「何進と宦官の勢力争いは何進の勝ちが見えてる。袁家も何進につくしな。
 その後はまあ、何進とやりあっても仕方ないから武家らしく匈奴に備えるさ」

「でもそれだと今の宦官勢力みたいに袁家の力を削ぎに来るんじゃないですか?」
「ん、だから洛陽には強力な政敵を送り込んで政争でもしてもらう」
「と、言いますと?」

問う麗羽様にニヤリと笑って答える。

「麗羽様のお友達、曹操殿ですね」
 
麗羽様は納得いっていないようだ。

「華琳さん、ですか?」
「ええ、家柄はちょっとアレですが、能力と野心がそれを補うでしょう。
 優秀な部下もいますしね」
805 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/16(金) 22:59:45.50 ID:ASY4tgUio
十常侍を除いたとしても宮中では宦官の力はある程度維持されるはずだ。それを曹操ならまとめあげて何進に対抗していくだろう。政争が続く間は袁家に目が向くこともなかろう。
気を付けないといけないのは……。

「できるだけ長く膠着するように動けばいいんですね〜
 流石二郎さんは考えることが腹黒いな〜。」
「いや、七乃に言われたくないから」

清廉潔白とは言わないけどね。

「とりあえずは何進と組んで十常侍の排除が短期的な戦略目標ですね。
 麗羽様と美羽様は朝廷に出仕してもらうことになりそうです」

うなずく麗羽様と美羽様。シンクロである。

「ま、その前に印綬を受けに一度洛陽に行かなきゃですけどね」

ただ、なあ。

「……袁家領内を出たら結構荒れてますけど、驚かないでくださいね」
「そんなにひどいんですの?」
「ええ、地位を金で購った役人がそりゃもう苛政を」

一気に場の空気が重くなる。

「やはり売官をなんとかしないといけませんか」

沮授の言葉に俺は頷く。

「何進とも話したんだがな、それが最優先で取り組む案件になると思う。
 でもまあ、正直どうしようもないというのが現状だな」

なにせ三公ですら売り出されてるからなあ。

「二郎さん、ちょっとよろしいかしら」
「なんでございましょ麗羽様」
「ええと、その売官、でしたかしら。
 それって購入するのに何か資格とかありますの?」
「いえ、ないんです。
 ないからこそ厄介なんですよね」

思案気な麗羽様。ほんと、売官さえなんとかなりゃなあ。
苛政は乱のもとだからダメ、絶対!である。

「ごめんなさいね。
 二郎さんたちが何に悩んでいるのかよくわかりませんの」
「はあ」

沮授も交えてもう一度売官の問題点をつらつらと解説する。

「つまり、権限を持っている役職が売り出されているというのがよろしくない、ということですのね?」
「そうなんですよ」

そして俺に高らかに宣言されちゃいましたこの方。

「だったら袁家が買えばよろしいじゃありませんか」

そ、その手があったかー!
806 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/16(金) 23:01:31.87 ID:ASY4tgUio
本日ここまですー

感想とかくだしあー


連休は更新ありません
以降更新途絶えたら死んだものとしてくあ「

議員とかふあけんな
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 00:11:51.74 ID:OEHtgC27o
乙でし

ヒャッハー!独禁法なんて知るかあああああああ
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/09/17(土) 15:17:07.13 ID:TGOfPcnY0
乙でしたー
感想途中でフリーズするとか言う恐怖体験した
>>783
>>寝具からたわわな胸が零れ落ちる。とりあえず揉んでおこう。  寝具ってタオル?賭け布団的な何かでしょうか・・・それとも寝巻かな(マッパな気がする)
○掛布からたわわな胸が零れ落ちる。とりあえず揉んでおこう。 もしくは 寝巻からたわわな胸が零れ落ちる。とりあえず揉んでおこう。 【胸が零れ落ちる】なので寝巻っぽい気がしますが…どうでしょう?
>>もう、一日二郎さんのことを考えてる日もありました〜」
○もう、一日中二郎さんのことを考えてる日もありました〜」  の方がいいと思います
>>まあ、孫家と仲良くできることにこしたことはないからな!
○まあ、孫家と仲良くできるにこしたことはないからな!
>>793
>>「祭!それに紀霊……」  えーと孫権は黄蓋の真名を貰ってるのでしょうか?>>794で権殿って呼ばれてるし真名を許してるならお互いに呼び合ってる気がします
今まではどう呼んでたっけ…
>>だからこそ、彼女が平然と、だ。あの痴態を見ているのに納得がいかない。  文脈に違和感があるような無いような
○だからこそ、だ。彼女が平然と、あの痴態を見ているのに納得がいかない。  【だ。】で強調されるのでこの位置の方がいいような気がします
>>私の問いに穏は答えず席を立つ。  二郎以外の地の文では真名は使ってないですよね
○私の問いに陸遜は答えず席を立つ。
>>794
>>「権殿?」  それとも真名は交換してるのでしょうか?だとしたら
○「蓮華殿?」  ですね・・・この前はどう呼んでたか、今はちょっと読み直す気力が無いです
>>私は穏たちの交わす言葉に意識を集中させるのだった。
○私は陸遜たちの交わす言葉に意識を集中させるのだった。
>>796
>>戦場では冥琳すら凌ぐこともある彼女が、だ。
○戦場では周瑜すら凌ぐこともある彼女が、だ。
>>「祭、至らない主でごめんなさいね」
○「黄蓋、至らない主でごめんなさいね」

途中で固まるとこんなに気力が削がれるのね・・・
そしてこの場面はマイベストシーンですよ!!麗羽様のカリスマとお金持ちのスキルが存分に発揮されてまさしくこの発想はなかった
そんじょそこらのなんちゃって成金では考えもつかないお金の使い方の心得っぷりに一気に麗羽様のファンになったもんです
809 :372 [sagesaga]:2016/09/18(日) 00:09:21.33 ID:0ZAgmbFA0

乙です。

袁家で買い占めるのですか(呆然)
紀霊さん(二郎さん)の 知識がどの位の実質経済効果、金銭での税と税外収入、その他諸々に莫大な影響を与えたのか。

想像つかない。


孫権さん、覚醒。
個人的には長い髪の方が 好みなんですが(どうでもいい)

何かが動き出しました。 冷静に注視しましょうか。
原作なら管理人(カマッチョw)の介入が入るか?


所で、栗毛と鹿毛と黒毛 どれがいいです?

810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 18:33:14.81 ID:JRm2VMigO
れーは様スケールでかすぎ
私もこのれーは様のセリフ大好きです

私の一推しの蓮華とれーは様が出てきて大満足っす

>栗毛と鹿毛と黒毛 どれがいいです?
地味様「白馬…」

タイトル案「尻、目覚める」
811 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/19(月) 21:26:44.32 ID:DefxoXtpo
「た、確かに。
 袁家の力をもってしても三公の地位を得るのに時間がかかりますからね。
 それを最初からその地位をもって朝廷に乗り込めば十常侍との政争が楽になることこの上ない……」

コロンブスの卵である。いや。むしろコペルニクス的な感じかもしらん。
……これは神の一手かもわからんね。
変な昂揚感に包まれている俺に麗羽様が声をかける。

「二郎さん、何をけちくさいことをおっしゃってるのかしら?
 わたくしは、売りに出されている官位。そのすべてを買え、と言ってますのよ」

え。え?

「えっと。
 沮授?」

頭が真っ白になりつつも沮授に話を振る。
そんなんできるんですか。

「不可能、ではないですね。
 これまでの袁家の蓄えを吐き出せばあるいは……」

慎重な沮授の言葉を張紘が遮る。

「足りなければ母流龍九商会から借りればいい。
 そういうことなら無利子で用立てるぞ」

俺と違って優秀な二人が即座に算盤をはじく。その結果。
で、できちゃうのか……。

「使ってこそのお金でしょう?
 二郎さんが常々言ってらっしゃることだと思いますわ」

おーっほっほと高笑いの麗羽様。
あかん。器の次元が違う。

「二郎さん?何を呆けてらっしゃるのかしら」
「いや、麗羽様の器に感服した次第で」
「むしろわたくしとしてはどうして思い至らないかが不思議ですけれども」

その後、こまごまとした打ち合わせがあり、売官買占めプロジェクトが動き出すことになった。

三公のうち軍権の太尉は麗羽様、司徒は田豊師匠。司空はねーちゃんでいっか。
ククク、このメンツなら十常侍涙目間違いなしである。

◆◆◆

何進にも書簡で根回しをして、財貨の確保に動き出した我らが袁家であったのだが。あったのだが。
危機感を覚えた十常侍が手を回したようだ。

「売官終了のお知らせ、ねえ」

沮授と張紘が苦笑している。せっかく予算の見通しもたったのになあ。
つか、たっちゃったんだよなあ。

そう、権限のある地位に袁家の手の者を送り込まれることを嫌ったのだろう。
売官はその役割を終えたということで発展的解消となったのだ。

「ま、当初の目的は果たせたんだし、よしとすっか」
「そうですね。まさかこのような手があるとは思いませんでした」
「おいらもだ。つくづく自分が貧乏性だと思っちまう」

三人寄れば文殊の知恵というが。
俺たち三人の浅知恵を越えた麗羽様には感嘆するしかないやね。

まあ、なんだ。
数年どころか十年単位で取り組むつもりだった懸案事項が解消されちゃった。
麗羽様、パねぇわ。
812 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/19(月) 21:28:06.97 ID:DefxoXtpo
書き込みエラーでオチが出なかった(しょんぼり)

麗羽様マジぱないの

一ノ瀬的にもお気に入りのエピソードでございます。
813 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/19(月) 21:36:12.03 ID:DefxoXtpo
>>808
>感想途中でフリーズするとか言う恐怖体験した
書いてた文章が全部散逸とかもうねw
心を何度折られたかw

>えーと孫権は黄蓋の真名を貰ってるのでしょうか?
貰ってるという設定です
でも権殿呼びというのが黄蓋の立ち位置という感じですが違和感あるかな……?


>>809
>紀霊さん(二郎さん)の 知識がどの位の実質経済効果、金銭での税と税外収入、その他諸々に莫大な影響を与えたのか。
ぶっちゃけますと、このエピソードのために袁家を金満にしていたのです
この一手の説得力のためにあれこれやってました

>所で、栗毛と鹿毛と黒毛 どれがいいです?
栗毛で顔に白地の星でw
見栄えも脚も気性もよいという奇跡の子をオナシャスw

>>810
>れーは様スケールでかすぎ
パないの!

>タイトル案「尻、目覚める」
いかんでしょw
814 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:24:10.19 ID:IfIs6X8po
「クハハ……」

室に響く笑い声。華雄は意識を浮上させる。
声の主は何進。
この男が声をあげて愉快そうに笑うのは珍しい。寝台から身を起こし、問う。

「どうかされたか」

その声に振り返ることもなく手元の書簡を読み返す何進。
無視された形になるがいつものことである。のだが。

「ああ、そうだ。李儒を迎えに行って来い」
「今から、か?」

まだ日も昇らない未明である。払暁までも一刻はゆうにあるだろう。

「今から、だ」
「用件は、どう?」

手早く身支度をする華雄が問う。何進は薄く笑い。

「眠いなら、寝てればいい、と伝えろ」

ふむ、と頷き華雄は室を出る。無駄なことはしない何進のことだ。よほどの用件なのだろうと納得する。

そして。

「ク、クハハ!そうか、そう来るか!
 流石にその手は読めねえよ!」

独りとなった室。
何進は声を上げて笑う。手元の書簡は袁家……紀霊からのものである。そこには、売りに出されている地位を全て袁家が買い取る旨が記されてあった。
そしてその根回しを頼む、とも。

「ああ、してやろうさ、根回しというやつを……な。
 俺なりに、だがね……」

愉悦に身を委ねて再び哄笑する。これが通れば朝廷内の勢力図は一変するのは間違いない。
それにしても。

「恐るべきは袁家の資金力、か」

愉悦を味わいながらも手を組んだ相手の強大さを再認識する。ただ名家というだけではないのだ。資金を潤沢に持っている。そのことの重大さを真に理解しているのは自分くらいであろう。欲と俗にまみれたそれ。それこそが金の本質。
そして資金とは使ってこそ、なのだ。その使いどころ、会心の一手である。

「まったく、こうでなくては面白くない……」

李儒が室を訪れるまでの間、何進は私案とされた袁家の推挙する人材の配置に目を通すのだった。
そしてその顔に浮かぶ笑みには驚くほど邪気がなかったのである。
815 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:24:52.67 ID:IfIs6X8po
◆◆◆

「で、何用かしら」

未明……いや、深夜といっていい時間帯に呼び出された李儒は控え目に言って不機嫌であった。
無理もないことである。たたき起こされて、「眠いなら、寝てればいい」である。だが、何進である。彼がそのような伝言を寄越すということはそれだけのことなのだろう。
果たして李儒は何進の思うままにここにいるのだ。だから目線で問う。
一体何事なのか、と。

「フン」

鼻を一つ鳴らして何進が書簡を放り投げる。
それを受け取り――若干慌てて――目を通す李儒の表情が固まり、顔色は青ざめて。

「これは……!」

狼狽。

その様子に何進は呵々大笑する。

「クハ、ハ!
 どうだ、怖かろうよ。だがな、それはお前の目算の甘さよ。
 お前が敵に回した袁家。それくらいのことを仕掛けてくるぞ。
 さあ、どうするね。
 お前の思惑など吹っ飛んでしまうかもなあ!」

嘲笑を浴びた李儒の秀麗な顔は歪み、ぎり、と濁音が漏れる。
歪んだ笑みで問うその精神力に何進は内心で李儒の評価を一段高める。

「これは、貰っても?」

いっそ冷酷と言っていいくらいの口調で何進は応える。

「駄目に決まってるだろう。
 目は通したな? 
 ならば貴様の飼い主に注進するのだな。
 急げよ?今日の朝議で俺はこれを通すからな」

その声に李儒は忌々し気に舌打ちを洩らし。呻く。

「くっ!」

室を去る李儒に対し、最後まで何進はニヤニヤと下品な笑みを浮かべたままだった。

――売官という制度はその日のうちに廃止されることになったのである。
816 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:25:59.77 ID:IfIs6X8po
◆◆◆

華奢な体躯、抱えた書類の多さ。それを気にした風もなく少女は走る。走る。走る。
身に纏うのは猫を模したフード。ずり落ちるそれを気にもせずに少女は走る。
――大した速度ではないのだが、表情を見るに全速力なのだろう。

「か、華琳様!」

愛する主君の名を呼ぶ。
ぜぇぜぇと荒く息をつく。いつもの、整った声ではない。そこに曹操は口元に笑みを浮かべるのだ。

「あら、桂花。
 貴女がそんなに慌てるのは珍しいわね。どうしたのかしら」
「は、い。しつ、れいしました。
 こ、れを!」

必死で言葉を紡ぐと手に持った書簡を差し出す。曹操はそれを受け取り、目を通す。
見る見るうちに険しくなる表情に、傍らに控えていた夏候惇が声をかける。

「ど、どうされました、華琳様!
 凶報ですか!」

――しばしの沈黙の後、口を開く。

「いえ、どちらかと言えば吉報でしょうね。
 売官が廃止されることになったみたいよ」
「売官……ですか?」

きょとんとした夏候惇に夏侯淵が苦笑する。

「姉者、要は、だ。地位を得るのに、功績ではなく金銭をもって購(あがな)うということだ」

妹たる夏侯淵の言葉に夏侯淵は眉を顰める。

「なんだそれは!けしからん!
 ん?それが無くなるというのはいいことではないのか?」

いっそ晴れ晴れとしたその声に荀ケは吐き捨てる。

「だから華琳様が吉報って言ったじゃない、アンタ脳みそ腐ってんの?」
「なにおう!華琳様の麗しいお顔が憂いに満ちているからだ!」

いつものようにいがみ合う二人に曹操が声をかける。
817 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:26:26.77 ID:IfIs6X8po
「はい、そこまでよ二人とも。
 そうね、総論としては歓迎すべきことね。
 売官だなんて論外な制度が無くなるのは大変喜ばしいわ」

曹操の言葉に含まれている、ごく薄い苦いもの。その正体は。

「は、では華琳様のお顔がすぐれないのは……」
「袁家がね、売りに出されている地位をすべて買うと内々に打診があったそうよ」

その非常識さ。だがその有効さに荀ケは言葉を喪う。去来するのは無念。
場を導くその、とんでもない案。それを自らが立案できなかったこと。立案しても所属する曹家では不可能なこと。そして、それが主君の飛躍を封殺する可能性があること。

「な!」
「それでは……朝廷の勢力図が大きく変わりますね」

嘆息する夏侯淵。その言の軽さに荀ケは怒りの純度を高める。それどころではないのだ。

「そうね、だから十常侍は慌てて売官を廃止したのよ
 当然の判断ね」

「しかし、地位をすべて買い占めるとなれば袁家による朝廷への専横と見る輩も出たのでは?」

たまらず荀ケは言葉を挟む。常ならば彼女は拝聴するだけなのだ。それでも、黙ってはいられないのだ。

「馬鹿ねアンタ。そんなのどうとでもなるわよ。
 もともと売官ってね、歳入の不足を補うためのものよ。
 漢朝のために財を投げ打って貢献するとでも言えばいいわよ。
 代々三公を排出した袁家への清流派の期待はただでさえ大きいのよ?
 士大夫層はね、宦官も嫌いだけど肉屋上がりの何進。それはもっと嫌いだもの。
 いくらでも名分は立つし、周囲もそれを認めるわよ」
「むう、そんなものか」
「そうよ。でも三公だけならともかく、全部買占めとかいう発想は普通じゃないわよね」

頭を振る荀ケに曹操が声をかける。

「多分麗羽でしょうね。
 あの子のことだから、商家の品物を店ごと買い上げるような感覚のはずよ」

その言葉に荀ケの顔が引きつる。
漢朝の要職と衣服や菓子とを同列視するなどありえないことだ。

「でもね、本当に袁家が恐ろしいのはその発想をする麗羽でも、資金力でもないのよ」
「と、言われますと?」
「人、よ」

瞑目しながら曹操は呟く。

「袁家の財を成したのも人、声望を高めている治世を行っているのも人。
 そして一番恐ろしいのはね。
 官位を買い上げるのはいいとしましょう。
 その膨大な地位にあてがうことのできる人の当てがあるということ。
 更にはそれだけの人を朝廷に送り込んでも尚、袁家を回すことができるだけの人がいるということよ」

その場の部下たちは。あ、という表情をする。

「た、たとえどれだけ層が厚くても我ら、けして袁家に負けるものではありません!」
「ありがとうね、春蘭。もちろん貴女達の能力に疑問はないわ。
 でもね、数というのはそれだけで力を持つものよ」
「匹夫がどれだけ集おうと、打ち砕いて見せます!」
「そうね、貴女はそれでいいわ」

そう、一朝一夕に人材など育つことはないのだ。
それでも、太守になることを考えると人材の質と量はどれだけあっても困らないだろう。
育てるのが間に合わないならば、だ。

「奪う、のもいいかもしれないわね……」

酷薄な笑みを浮かべる曹操をうっとりと見つめる部下たち。
雌伏を終え、陳留の太守として飛躍する直前の日のことであった。

◆◆◆
818 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:26:53.29 ID:IfIs6X8po
「め、い、りーん。
 何を難しい顔してるのー?
 皺、消えなくなるわよー?」

暢気な声で孫策が軍師兼部下兼情人の周瑜に声をかける。

「雪蓮か。いやなに、穏からの書状を読んでいたのだがね。
 なんとも興味深いことが起こっているようだ」

くすり、と玲瓏たる笑みを漏らす周瑜に孫策は口を尖らせる。

「なによー、もったいぶらず教えてよー」

その稚気。そこに可愛いなと思う自分は手遅れなのだろうと思いながら周瑜は応えるのだ。

「自分で読み解こうという気はないのかな?
 雪蓮は孫家の当主なのだからな」

きっぱりと切り捨てるその声に孫策は笑みを深める。甘えるのだ。

「んー、冥琳に聞いた方が早いしー」

抱きつき、押し倒し、甘えるのだ。
そして応える周瑜。
それでも、辛うじて対話の恰好を整える。整えた。整っていたと思う。
……全裸に近いのだが、それはいいとしよう。

「はあ、仕方ないな。
 結論から言えば、漢朝から売官という制度が消えることになったようだ」
「へー、そうなんだ。
 なんで?」

くちゅり。

「袁家が官位を買占めようとしたら慌てて取り下げたらしい」
「なにそれー。
 ばっかじゃないの?
 店に並べといて、いざお買い上げの時にやっぱやめって?
 信じらんなーい!」

けらけらと笑う孫策につられ、苦笑する周瑜。水音は深く。

「まー、うちには関係ないしねー。
 どうでもいいんじゃない?」
「ん。
そ。……それがそうでもない」
「へ?なんでー?」
819 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:28:53.46 ID:IfIs6X8po
水音は深まり。高まる。

「朝廷に出仕する人材の中に私や穏。蓮華様、果ては亞莎の名もあった」
「何よそれー!
 どういうことよー!
 もう!」

ぶーぶー言う孫策に周瑜が苦笑しながら答える。
熱を逃しながら。

「おそらく穏が推挙したんだろうな。
 無位無官の我らから朝廷に出仕した経験者が出るのは名誉なことだ。
 もし推挙されたら断る理由はないな」
「そうかもしれないけどー」
「まあ、実現はしなかったからよしとしようじゃないか」
「なーんか釈然としないなあ」
「そう言うな。どっちに転んでも我らに損はなかったさ」

苦笑しながらどうどう、と宥める。心を。身体を。魂を。

「でもでもねー、結局使わなかったお金、どうすんのかな」
「穏曰く、軍備に回すそうだ」

その言に。むむ、と唸る孫策である。そこに周瑜はむしろ頬を緩める。
だから、孫策が漏らす冗談に乗るのだ。

「あー、やっぱりねー。いいなー、分けてくんないかなー」
「何を馬鹿なことを……」
「でもさー、ちょーっと最近手薄なのよねー。
 賊もそうだけど豪族だって仕掛けてくるしさー」
「まあ、確かに。
 思春や亞莎には申し訳ないくらいだな」
「そうなのよねー。
 寡兵を承知で送り出すのはもう、無能の極みなのよねー」

むう、と唸る周瑜。
袁家からの援助で物資では一息付けているのだが、圧倒的に人の絶対数が足りないのが孫家の現状であった。

「結局さー、力で奪ったもん勝ちなのよねー。
 今袁家に喧嘩売られたら漢朝でもやばいんじゃないの?」
「めったなことを言うな!
 ……だが、一理あるな」
「でしょー?
 結局さ、力を持ってるのが一番強いのよねー。
 袁家ってさ、お金が余ってるー!とか、匈奴がー!とか言いながらちゃっかり軍備を増強してるのよねー」

ふむ、と頷く周瑜。
820 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:29:19.35 ID:IfIs6X8po
「穏がようやくお手付きになったんでしょ?
 蓮華にも頑張ってほしいとこよねー」
「雪蓮、何を言ってるんだ?」

周瑜は少し鋭い口調で孫策を諫める。ま、この程度で収まる孫策ではないと知ってはいるのだが。

「あれー、冥琳もそのつもりで送り込んだんじゃないのー?」
「いや、確かに穏には紀霊を籠絡しろとは言ったがな、それはあくまで……」

にひひ、と笑む孫策は小悪魔めいていて、周瑜は黙り込むのだ。いつものように。

「単に籠絡するだけじゃもったいないわよー。
 子供ができたら色々引っ張ってこれるわよ絶対」

待て、と言いたいのだが。それが言えないのだ。

「そ、それはそうかもしれないが……」
「血は水よりも濃しってね!
 うん、孫家に紀霊の血を入れちゃおう!
 袁家の上層部で狙えそうな男子って紀霊くらいだしさ!」

妥当ではある。だが、不穏当でもある。それでも孫策の覇気に周瑜は頷くのだ。

「ま、まあそうだな」
「いっそ私たちが孕んでもいいかもねえ。どうせ大した男いないしさ!
 一度子種貰いに南皮に行こうよ!
 お礼かたがた、ってことでさ!」

盛り上がる孫策の言葉を検討する周瑜。そうだな、それは悪くない。と。

「ふむ、悪くないな。
 袁家とのつながりを強固にするという意味では最上かもしれない」
「でしょでしょー?
 書類仕事にも飽きたし、南皮に行こうよー」
「やれやれ、それが本音か。
 まあ、雪蓮にしては頑張ったと方かもしれないしな。
 検討しよう」
「やったー!
 冥琳大好きー!愛してるー!」
「こら、まだ昼間だというのに!」

抱きつく孫策を引きはがしながら周瑜は思う。
袁家とのつながりが、援助が紀霊の胸先三寸ならば、確かにそれは最上だろうと。
孫家の、江南を託された身。なのである。
ふと、背中を追うしかできなかったかつての主君を思い出し、こみあげるものを押し殺す周瑜であった。

「めいりん、かーわいい」

どこかの誰かには御見通しだったようではあるのだが
821 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/26(月) 21:31:06.57 ID:IfIs6X8po
本日ここまですー

感想とかくだしあー
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/26(月) 21:46:35.69 ID:77sNXGinO
乙でしたー

その時歴史が動いたにでてきてもおかしくないエピソードですよね
もっと言うなら馬騰さんとか桃たちの反応も見てみたいです
未だ袁家と接触がないからでてこないんだろうな

にしてもはおー様の着眼点には敬服いたしますな
物事の本質を見極めるのが上手いです

色々な状況でれーは様ならこう言いそうとかはおーならこう言うだろうなと
思わせる描写力も凄いと思います
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/26(月) 23:41:16.01 ID:s7ElG/LFo
乙です
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2016/09/27(火) 02:46:26.02 ID:vrZgGxVA0

乙です。


まずは、
『虎が出たぞー!!』(違)

何進さんの行動力。パないです。
でも夜中に誰が届けたんだろ?


今回の売官廃止で地味に痛手被ったのは曹操さんかな。
自らの分を買っておけば とりあえず宮中への取っ掛かりにはなるから。


後二郎ラバーズは二郎さんに徹底的にたんぱく質と亜鉛を摂取させよう。 (余計なお世話)

825 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/27(火) 21:29:45.16 ID:SQggXqpro
>>822
どもです。

>その時歴史が動いたにでてきてもおかしくないエピソードですよね
これ、あっちのあとがきで使わせてくださいw

>もっと言うなら馬騰さんとか桃たちの反応も見てみたいです
馬騰さん?

色々あった後に何進から詳細聞いて(もちろん酒席)二郎ちゃんに対する評価がうなぎ上りでしょうねえ……
そしてその熱い風評上昇を何進が煽る煽るw

馬騰さんは善意の人で、二郎ちゃんは割と善意を拒んだりできないので……w

きたないさすが何進きたない

モモちゃんについては。リアルタイムでこういうのは耳に入りませんとだけ。

>にしてもはおー様の着眼点には敬服いたしますな
はおー様はね。窮地に追い込んだとしても舌打ちとか笑みとか激怒とかしながら切り抜けるだけの鬼スペックがありますので……
こんなんチートや!

>色々な状況でれーは様ならこう言いそうとかはおーならこう言うだろうな
一ノ瀬なりのキャラの解釈ではあります。原作(アニメとweb恋姫含む)を本当に尊重しております。
多少キャラの解釈に違いがある方もいらっしゃると思いますが。恋姫愛についてはご納得いただければと。
※守りに入ったレスですw

納得感があるだけの文章を今後とも頑張っていきたいと思いますのでご声援よろしくお願いいたします。

>>824
>『虎が出たぞー!!』
とらでした!
虎なんだよなあ……w

>でも夜中に誰が届けたんだろ?
ネタバレですが、未登場の張家のキャラです。別に明言しませんので、ああ、こいつかと思っていただければw

>今回の売官廃止で地味に痛手被ったのは曹操さんかな。
肉親はきちんと売官を利用してますからねえ……w
権威、足がかりなくても利用できますし

とは言え、はおー様は自らの能力でのし上がりたいのだと思います。
側近に二郎ちゃんみたいなのがいれば別でしょうけど

じゃなきゃ姉者が官位一番乗りとかないっすわw

>後二郎ラバーズは二郎さんに徹底的にたんぱく質と亜鉛を摂取させよう。 (余計なお世話)
牡蠣!レバー!鰻!ニンニク!山芋!

鰻完全養殖はよ実現されるといいですねえ……
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/28(水) 10:34:43.66 ID:eesPmEQhO
>未登場の張家のキャラ
安永○一郎が描く「下っぱ」を連想したけど
玉ネギ部隊のほうが近いのかな

> 牡蠣!レバー!鰻!ニンニク!山芋!
>
> 鰻完全養殖はよ実現されるといいですねえ……

「農」の旗でも立ててまわりますかww
鰻の養殖は男の浪鰻?!
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/09/28(水) 11:06:44.19 ID:4cDZF5FV0
乙でしたー
>>816
>>妹たる夏侯淵の言葉に夏侯淵は眉を顰める。 夏侯淵が分身してます
○妹たる夏侯淵の言葉に夏候惇は眉を顰める。
>>817
>>「匹夫がどれだけ集おうと、打ち砕いて見せます!」  〜してみせるは分けて使わないはずなので
○「匹夫がどれだけ集おうと、打ち砕いてみせます!」  打ち砕いたものを見せる(見てもらう)なら間違いじゃないので微妙ですが
>>820
>> まあ、雪蓮にしては頑張ったと方かもしれないしな。
○ まあ、雪蓮にしては頑張った方かもしれないしな。
>>袁家とのつながりが、援助が紀霊の胸先三寸ならば、確かにそれは最上だろうと。 刃物を突きつける時などに使いますよね>>胸先
○袁家とのつながりが、援助が紀霊の胸三寸ならば、確かにそれは最上だろうと。  おそらく舌先三寸と混ざった誤用です。胸先三寸だと外に出ちゃってますから

はおー様の話を聞いてたしかに名ばかりで役立たずの人に官位を持たせるわけにはいかない、つまりそれなり以上に有能な人材を送り込むってことだよなあ…そしてそれらの人材を送っても袁家を回す人材には困らないってことは
さすが四世三公人材の厚みが半端ないぜ
828 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:47:48.33 ID:HKOPY95So
>>826
>玉ネギ部隊のほうが近いのかな
草不可避w
舞台を見たいようなそうでもないような……w
出て来たらまあ、この人かと思うかと思います

>鰻の養殖は男の浪鰻?!
いや実際クジラにしろマグロにしろ鰻にしろ、畜産国家からの圧力がうっとおしいなあとw

マクドナルドってすごいですよね
牛肉、小麦粉、オレンジ

自国の農産物を輸出するための食文化侵略ですよ
スケールが違うわw

>>827
赤ペン先生、いつもありがとうございます。

今回も中々致命的なミスをご指摘あざますw

>名ばかりで役立たずの人に官位を持たせるわけにはいかない、つまりそれなり以上に有能な人材を送り込むってことだよなあ…そしてそれらの人材を送っても袁家を回す人材には困らないってことは
日本国の官僚もすごい出来る人が大多数なのですよね
天下りとかしないと地位に対して飽和するというのも日本の強みではないかと
なお天下り先で活躍するとはいってない
829 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:52:27.97 ID:HKOPY95So
袁逢様が薬石の甲斐なく、逝ってしまわれた。
いや、それは違うな。
元々美羽様の出産が無事だったことすら奇跡だったのだ。
朝議に顔を出されることもなく。
ご尊顔を拝すこともなく。
実務は麗羽様が執られ、田豊様がそれを助ける。そう、いらっしゃらないのが当たり前の状況ではあったのだ。
それでも。
それでも袁逢様がご存命というのは大きかったのだな、と痛感する。

若くして袁家を継がれ、三公を歴任された。
不穏な領内に戻っては癖のある四家当主、「不敗」の田豊、名将麹義などの人材をまとめあげる。

匈奴の侵攻においては陣頭に立ちこれを撃退。甚大なダメージを負った袁家を戦後も支え続けたのだ。
文字通りその心身を削って。

俺自身も思う所がある。
色々袁家で好き放題させてもらえたのも袁逢様の後ろ盾あってのことだし……。これでも恩義は感じているのである。

改めて、袁家への忠誠を誓う俺だったりするのだ。いや、受けた恩だ。返さんと落ち着かないし。

「なあ、陳蘭」
「はい」
「頑張らんといかんな」
「はい……」

何を、とは言わないしその必要もない。
これからは俺たちが袁家を背負っていかないといけないのだ。田豊様もねーちゃんもいつまでも現役ってわけにはいかんし。

新たな屋台骨として。
頑張らんといかん。……俺なりにだが。
それが好き勝手さしてもらったことに対する恩返しだろう。そう信じる。

きゅ、と握られた手を強く握り返す。

そして誓う。
ご安心ください。
鬼に逢っては鬼を斬り、仙に逢っては仙を斬りましょう、と。

◆◆◆
830 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:52:54.83 ID:HKOPY95So
葬儀は粛々と進んでいく。
誰もがその死を悼み、失ったものに思いを馳せる。かつて戦場を共に馳せた戦友、政にて補佐した者たち。それぞれが改めてその存在の大きさを感じている。
だが、後継たる袁紹はすでに袁家の実務を担い、文武の両翼の田豊、麹義は健在である。
……たとえ彼女が横死しても袁術という後継もいる。
四家においてもすでに後継は定まり、袁家を支えるであろう。

だが、今はただ偉大な故人を悼もう。

「というのが今回の葬儀の筋書きというわけですね
「口に出すな、不謹慎だろうが」

裏方は俺と七乃である。共にまだ当主じゃねえからな。とーちゃんも久しぶりの公式行事であったりする。

「ああ、哀しみにくれる美羽様可愛いなあ。
 ぷるぷると震えて、涙が零れて、それでも健気に責を果たされてる美羽様可愛いなあ。
 ねえ、二郎さんもそう思いません?」
「仕 事 し ろ」

こいつが袁逢様の死に何も感じてないのは理解した。
まったく……。

「まあ、いい具合に盛り上がってますよー?」

俺の苦言にまったく反応せずに、笑みを浮かべたまま……やめてこういう場で耳とか舐めないで。

「何がだよ」
「袁逢様の死に紛れて色々画策してるみたいですねえ。
 まったく、こんな時期こそ監視が強まるとか分からない低能が多いですねー」

ちなみに、あれやこれや俺にちょっかいかけてる七乃なんだが。内勤の処理速度では俺より上なんだよなあ……。それもはるかに。

「釣れたか」
「釣るも何も、網に。大量にかかってますよー」

大漁です、と言われてもリアクションに困るんだがねえ。

……袁逢様から麗羽様への権力の移譲の空白期間にあれこれしようとする奴らは想定していた。のだが。
だがまあ、実務面ではすでに麗羽様が運営している。だからそこまで蠢動もないかと思ったんだがなあ。

「とりあえず泳がせて背後関係だな」
「はいはーい。よ、この黒幕気取り!
でも随分手ぬるいですねえ」
「看過できないようなら処してもいいけどね……」

まあ、七乃の千変万化な毀誉褒貶についてはもう、いいや。いちいち構ってられんよ。ああ、暗殺される前に警告くらいはくれると信じたいものである。
そんな俺の心を読んだのか、いつになくしおらしいのだ。

「ひどいおっしゃりようです。そんな、私は二郎さんの御心のまま、ですよ?」
「そうかい」

あー。
俺に手を汚せってことだよねそれは目線だけでそう言うとにっこりと笑ってくれる。

「ほんと、いつか俺はお前に暗殺されるんだろうなって思うよ」
「美羽様がそれを望まない限りそれはないですよー」

即答。
凄味などない普通の薄っぺらい笑顔が逆にこえーよ。
831 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:53:21.44 ID:HKOPY95So
◆◆◆

「はー、疲れたなあ」

ため息をつきながら東屋で酒を呷る。いや、疲れた。色々と。
何か、無駄な気苦労も背負った気がする。

空には満月。
なんとなくまたおセンチな気分になりそうでさらに酒を呷る。
これは泥酔して眠るのが得策ですねえ……。
と思っていたのだが。

「あら、二郎さん。どうしましたの」
「いや、なんとなく呑んでます。
 むしろ麗羽様こそどしたんすか」
「いえ、少し眠れなくて……」
「あー」

まあ、ねえ。
それだけじゃなさそうだけどね。
まあ、なあ。

「ここは冷えるし俺の部屋に行きましょう。
 つまむものとかもありますし」
「いえ、別にお腹は空いてませんわ」
「いや、酒しか持ってきてなくて俺が小腹へったな、と」

多分今日はなんも食べてないだろうしなあ。
おつまみ程度でも口に入れた方がいいだろうて。

「ふふ、ではお付き合いしますわ。
 お酌くらいはしてあげますわよ?」
「あら嬉しい。
 そこらの安酒が天上の美酒になっちまいますね」
「もう、二郎さんは調子がいいんですから」

よしよし。なんとか麗羽様のご機嫌が上向いてきたぜ。

「いやいや。
 麗羽様のお酌で酒を飲めるとか、王侯貴族でもかなわぬ泡沫の夢ですってば」
「そんなにお高くとまってるつもりはないんですけど?」
「いやまあ、つまり嬉しいってことですよ」
「最初からそうおっしゃってくださいな」
「たは、これは申訳ないっす」

なんかねー。
麗羽様とこう、馬鹿トーク(俺が一方的に馬鹿)すんのも久しぶりな気がするなあ。
そんなことを思いながら、俺の部屋に麗羽様をご招待するのであった。


一つ軽く苦笑を漏らして、麗羽様の額に軽く口づける。
そして、俺もいつしか妖精の撒く砂にまぶたを閉ざされるのであった。
832 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:54:50.16 ID:HKOPY95So
◆◆◆

「まあ、散らかってますがどうぞ」
「ほんとに散らかってますわね……」
「麗羽様に嘘なぞ申しませんとも」

じとり、とした目線をいただきました。だって最近忙しかったもの。
でもまあ、そこまで散らかってないと思う。たぶん。

「あー、男の部屋ってこんなもんすよ」

多分明後日あたりに陳蘭が掃除してくれるはずだし!

「そうですの?殿方のお部屋なんて見ることがないのでよくわかりませんわ」
「まあ、そりゃそうですよね」

むしろ。麗羽様が男の部屋に入り浸ってる方が問題である。

「でも、雑然とした雰囲気が二郎さんっぽいですわね」
「けして誉められたわけではないというのは理解しました」
「ふふ、なんだか落ち着くということですわ」
「そりゃ結構なことで」

気のない返事をしながら酒を用意し、適当なつまみを出す。
豆を炒ったり、小魚を干したりしたものだから間違いなく麗羽様は食べたことがない。
もの珍しそうに眺めている。

「ま、おひとつどうぞ」
「あら、すみませんわね」

くぴ、と酒を呷る麗羽様。
んー。

「今日はお疲れ様でした」
「ええ、二郎さんもご苦労様でしたわね」

しばし沈黙が落ちる。
ええい、めんどくさい。正面突破だ。

「麗羽様……」
「いえ、いいんですの。
 お心遣いだけで嬉しいですわ」
「いや、あのですね」
「いいんですの。
 わかってますわ。
 二郎さんや猪々子さん、斗詩さんがどれだけわたくしたちのことを思ってくれているか。
 今日はそれを痛感しましたわ」

軽く苦笑する麗羽様。
そんな顔は似合わないな、と思う。

「二郎さん。わたくしは上手く、ちゃんとできてましたかしら。
 袁家を背負う者として、お母様の死を悼みながらその職責を背負う。
 その役割を務められてました?」

なんだろう。何でこんなに苦しいんだろう。そうあってほしいと望んでいたのに。
833 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:55:41.68 ID:HKOPY95So
「ねえ、きちんと凛々しく振舞えてました?」

その声が、僅かに震えていたのは錯覚ではなかったと思う。
気づくと、俺は麗羽様を抱きしめていた。

「い、いけませんわ、二郎さん。
 いけません。
 そんなことされたら、甘えてしまいます……。
 いけません……」

震える背中を優しくさする。
その震えが一層激しくなる。

「いけません……。
 わたくしは袁家を背負うのです。背負ったのです。
 ですから、泣いてはいけませんの。
 いつも笑顔で臣下を導かなくてはいけないのです。
 わたくしにはそんなこと、許されてないのです……」

震えるその身体。
麗羽様が、愛しい。そう、思う。

「確かに公私混同はいけませんね」

その言葉に麗羽様は身を震わせる。そして俺から身を離そうとする。
が、弱々しい力では俺の拘束(くびき)を解き放つことなどできない。

「じ、二郎さん……」
「いけませんね。
 今は私の時間です。
 お立場とか気にする必要はないのです。だって。ここには俺しかいません。
 俺のほかに誰もいませんよ」

その言葉に。

「う、う!
 うー!
 お、母様!
 う、う!」

嗚咽があふれる。
それでも抑制されたであろうそれ。それを俺は優しく受け止める。
そうだ。
逝ってしまった人にはそれを悼む時間が必要だ。
それは、生きている人間にも必要なことなのだ。

そんな思いを込め、麗羽様を抱きしめる。
ぎゅ、と抱き返してくるのが愛しい。
そう、こんなにも、麗羽様も俺も生きているのだ。

「俺がいますよ。猪々子も、斗詩も」
「いなくなったり、しません?」
「麗羽様がいらない、と言われるまでお側におりますよ」
「いらないだなんて、ありえません……」

そう言ってぎゅ、と抱きついてくる。
応えるように俺も腕に力を込める。

「二郎さん……もっと、もっとぎゅっとしてくださいな……。
 二郎さんを感じさせてください……」

無言でさらに力を込める。

はぁ、という吐息が悩ましい。

安心した風に頬を俺にこすりつけてくる。
頭をなでながら、背中をぽんぽん、とたたいてあやす。

「じろうさん……」

細く響く声が庇護欲をそそる。
べそ、べそとすする声がか細くなっていく。
いつしか、すぅ、という寝息に変わっていった。

あー、ちっちゃいころから変わらないなあ。泣いて、抱きついて、泣き疲れて、寝て。
一つ軽く苦笑を漏らして、麗羽様の額に軽く口づける。
そして、俺もいつしか妖精の撒く砂にまぶたを閉ざされるのであった。
834 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/28(水) 22:56:27.74 ID:HKOPY95So
本日ここまですー

感想とかくだしあー

タイトル案は「凡人と葬儀」
いまいちなのでお知恵を拝借したいでござるます
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/28(水) 23:16:47.05 ID:Er3vvPWLo
乙です
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/28(水) 23:41:37.41 ID:rVmBditxo
乙ー

主君にして義理の妹的な雰囲気良いぞ良いぞ
837 :372 [sagesaga]:2016/09/29(木) 14:36:34.82 ID:EXcwoxOA0

乙です。


袁逢様、逝去。
謹んでお悔やみ申し上げます。

……日本式ですが、袁紹様に伝わります?


どこの世界にも馬鹿は居ると>蠢動する有象無象
まあ、選別して処理する方が後腐れ無いんだけどなぁ。
その数が逆に各所に支障きたすならそれはそれで問題だけど。


どうなるか?

838 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 00:14:23.74 ID:pUcTin6ro
>>836
添い寝、いいいよね……

>>837
>袁逢様、逝去。
巨星乙。じゃなく堕つ。
そういうお話しでした。

>……日本式ですが、袁紹様に伝わります?
きちんと円環の理に導かれ何度も出会うかと思います。

>まあ、選別して処理する方が後腐れ無いんだけどなぁ。
処理できるのは凄いけど。そういの。結構無理ですよねw



今日はオヤスミしますねます
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/30(金) 09:15:03.84 ID:tAfs9rKSO
この世界線のれーは様にとって二郎ちゃんはホント心の支えというか大黒柱なんやなって

もう何も怖くない!
840 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:31:02.11 ID:pUcTin6ro
>>839
>この世界線のれーは様にとって二郎ちゃんはホント心の支えというか大黒柱なんやなって
二郎ちゃんにとっても、麗羽様がいるからこそ頑張ろうと思うという感じのいい感じの共依存?
結局人は人のために頑張るのですよ

>もう何も怖くない!
アカンやつやw
841 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:41:01.81 ID:pUcTin6ro
葬儀は恙なく終わった。そして今は洛陽へ向かう準備でなにかと慌ただしい。
洛陽へ向かうのは麗羽様、美羽様の姉妹。
猪々子、斗詩、七乃、俺。袁家を支える武家代表者である。

麗羽様は三州の州牧となり、美羽様は如南の太守となる。んで、俺と七乃は洛陽から帰還し次第当主になる運びである。
まあ、その前にやっとかんといかんこともあるんだが。
東屋で茶を喫しつつぼんやりとしてたら肩を叩かれた。

「や、二郎。どうしたんだ、ぼーっとして」
「いや、諸行無常とはこのことかと思いを馳せていた。
というかご指摘の通り、ただ単にぼーっとしてた」
「ああ、そうだ。
……このたびはご愁傷様でした」

気遣いの人、白蓮その人である。俺の放言を見事にスルー。

「白蓮も遠いところからご足労を」
「いや、袁家には日ごろから世話になってるしな。
 袁逢殿にも目をかけてもらってたし」
「そか」
「うん、私のとこは弱小だからな。
 袁家の当主の一言は、そりゃあ大きいのさ」

笑顔の白蓮。確かに色々苦労してるみたいだからなあ。
それでも不断の努力な白蓮をリスペクトしている俺なのだ。マジで。

「ゆっくりしてくのか?」
「いや、なるべく早く帰らないとなー。
 匈奴は最近おとなしいんだけど、その分内勤がなー」

はは、と笑う白蓮。
優秀な文官というのはいつの時代でも引っ張りだこなのである。普通は。
袁家の官僚軍団というのは、ほんと質、量ともに半端ないのですよ。俺の思い付きを実際に運用するのは彼らだしね。
個人的には袁家の強みはここだと思うのよねー。

「で、いよいよ麗羽も州牧かー。
 流石袁家当主ともなると違うよなー」
「あー、そだね」
「なんだ気のない返事だなあ。
 二郎だって紀家を継ぐんだろう?」

まあ、とーちゃんもいつどうなるか分からんしな。袁逢様の葬儀だってかなり無理をしていたらしい。匈奴戦役の後遺症というやつだ。三尖刀の力を借り過ぎたとかなんとか。
842 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:41:29.04 ID:pUcTin6ro
なんとなく爆弾を放り投げてみる。てや。

「そだねー。
 ちなみに白蓮は俺たちが帰還したら太守になるからよろしく」
「うん、わかった」

そか。わかったか。重畳重畳。

「え?」
「襄平の太守だからね。頑張れ、頑張れ」
「え、なにそれ誰のこと?」
「白蓮だよ?」

目を丸くして口をぱくぱくさせる白蓮。うむ、眼福である。
やったぜ。

「ちょっと待て二郎、そんな話私は聞いてないぞ」
「うん。だから今、したろ?」

混乱でおめめグルグルな白蓮。これが、愉悦というものだろうか。

「いや、どういうことなんだよ」

抗議してくる白蓮に問うてみる。

「なんだ、嫌なの?」
「ぐ……。そんなわけ、ないだろうが!」

そりゃそうだ。
弱小軍閥勢力の頭目(ただし軍は精鋭)が太守様だ。

「そりゃさ、今まで尽くしてくれたみんなに報いれるならば、って思うよ。
 でもさあ、私に勤まるかなあ」
「白蓮ならできるさ」

前世知識というわけじゃない。俺が白蓮を見てできると思ったのだ。
それに。

「地位が人を育てるってこともあるからさ。
 多少大き目の服でも、すぐに身の丈に合うよ」
「な、なんだよ。
 二郎がそんな風に言うと気味悪いな」
「失敬な。普通に白蓮を評価してるだけさ」
「そ、そうなのか?
 だったら嬉しいな」

相好を崩す白蓮。
うん、太守ごときに怯んでもらったら困るのだ。

「そのうち州牧になってもらうし」
「え」

硬直、である。

やったぜ。なしとげたぜ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ二郎。
 太守だけでも未体験なのに……州牧とか無理に決まってるだろ」

からかっているのかとむしろ抗議の白蓮である。
だがしかし、現実は非情さ。

「決定事項だからな。
 白蓮にはいずれ幽州を治めてもらう」
「はあ?!」
843 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:42:00.56 ID:pUcTin6ro
もはや脳みそが沸騰してそうな白蓮である。のだが。

「あのな。二郎。太守もそうだけど州牧なんて、そんな栄達ができるような伝手(つて)私は持ってないぞ」

お金だってないしな!と苦笑する白蓮。なんとも実務家である。現実というものに幾度も這い蹲った証である。
ないないづくしだと苦笑する白蓮。いやさ、だから君なのだよ。

「袁家が推薦したから大丈夫。
 何進大将軍も承認済みだ」
「は、はあ?!」

話がそこまで進んでるの?
何進大将軍の名を出すとか洒落じゃすまないぞ!

そんな反応である。ごちそうさま。なお。

「じ、二郎。
 冗談、じゃ」
「ありませーん」

いかな白蓮とはいえ精神的にダメージは甚大な模様。むしろ度重なる衝撃にきちんと対応するその精神力と律義さには感動すら覚えるよ。

「二郎、二つほどあるんだがいいか?」
「ばっちこい」

だから、白蓮には隠し事はなしである。何を聞かれても答えると決める。……よほど都合の悪いことでない限り。

「まず、私にそれだけ袁家が肩入れする理由が分からない。
 そして、私には残念ながら大きな組織の運営をした経験がない。
 もろ手をあげて能天気に喜ぶ気にはなれないよ」

白蓮の欠点の一番はこれ。自己評価の低さ、である。だから応える。そして袁家の思惑もあるということで安心させてやろうとも。

「いいぜ。もちろん一方的に白蓮を押し上げるだけじゃあない。
 もちろん思惑あってのことだ」

あ、露骨にほっとしてやんの。
そらそうよな。無償の好意とかむしろ忌避するわ、為政者に近いならことさらにね。

「袁家はこれから朝廷の政争に介入する。具体的には何進に与して十常侍を討つ。
 これは決定事項だ」

白蓮の表情が臨戦モードでキリリ、と引き締まる。この切り替えの早さは流石最前線で匈奴と対しているだけのことはある。

「最終的には兵を挙げることになるかもしれない。
 そうすると、後背に匈奴の脅威を抱えたままにはできんのよ」

「なるほど。
幽州を私に任せて後背の憂いを断つということか。それならばまだ、分かる。
でも
なぜ、私なんだ?」

袁家の適当な人材でもいいだろう。

その問いは割と本質を突いているのですよこれが。
そして白蓮を何故に選んだかと問われたらこう応える。

「能力、識見、人格だな」
「は?」

ほんと、この子はもう……。
844 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:42:35.29 ID:pUcTin6ro
「ぶっちゃけ、白蓮以上の人材が見つからない。
 ああ、袁家が総力で十常侍とやりあうからという意味だぞ」
「い、いや。
 そんなに評価されてる、のか?
所詮地方の軍閥の頭目というのが実際の私だと思うんだが」

人、それを過小評価と言う。

「おうよ。匈奴の不定期な侵攻に対応し、民を安んじている。
 実績は十分だ。
 それに、白蓮なら俺を背中から刺さないだろう?」

――数秒。秀麗な眉間にしわを寄せ、頷き、真っ直ぐに俺を見る。

「なるほど。分かった。
 匈奴の脅威への防壁が私の役割ということだな
 そして幽州という最前線を任せてくれる、と」
「そうだ」

見つめ合い、頷く。

「そして二郎の背中を守る、ということだな」

鋭い。これが白蓮の凄いところだ。最短距離で要所を衝く。
まあ、袁家の人事とかあれやこれや。俺が分不相応に権力を握っているのだよ。
麗羽様とか美羽様は暗殺対象じゃないからな。つまりそういうことであるのだよ。
俺を排除したら俺の立ち位置に居座れると思うのだよ。

「なんだ、言いたいことがあるなら言っちゃえよ」

くすり、と笑いながら白蓮が煽る。煽ってくる。
だから応える。本音で。

「背中は預ける。済まんが、死守で頼むわ」

刹那、呆けた白蓮。彼女が笑う。

「任せろ、やってやるとも」

だから、安心してくれよな、二郎。って。
破顔する白蓮ってマジかっけー。

のだが。

「しかし、太守から州牧へと移るにしても私には実務の経験が圧倒的に足りない」

ですよね。だが、俺には腹案があるのだよ。トラストミー。

「ああ、そこは協力する」
「協力してくれるのはありがたいんだが、実際はどうするんだ?
 二郎がそうするとは思わないけどさ。善処するの一言でおざなりにされたらたまったもんじゃあない」

そらそうよ。そして目先の利益で白蓮の信頼を失うとかもうぶっちゃけありえない。そらもう最大限に支援よ。リターンも貰うけどね。

「軍務と政務、人材を貸す。
 軍においては中級指揮官も派遣する」

どういうことだ、という問いに答える。

「韓浩と魯粛を貸す。
 そんかし、士官の教育を頼むわ。
 最前線での経験って貴重だしね。うちの軍制内容を共有するからよろしくどうぞ」
845 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:43:11.61 ID:pUcTin6ro
沈黙。そして始まる問いの乱撃。

「ちょっと待て。
 袁家の軍制改革とか、最高機密だろう」
「うん、だから他でもない……公孫と共有化しようと思ってるのさ」

絶句する白蓮。こちらの本気を汲んでくれたかな。

十常侍と対立すること。領内を潤わせること。それを両立せんといかんのだよね。

「ま、そんなわけで今後ともよろしくな」

そして、現実を受け止め数瞬瞑目。そして白蓮はまた階梯を上るのだ。

「任されたさ」

一言。破顔し颯爽と去る白蓮。

頼りにしてるぞ、と。
そして、収穫が大きかった。あそこまでぶっちゃけるつもり、本来はなかったんだけどな。
そして韓浩と魯粛ならば安心して任せられるだろう。白蓮を補佐し、うちの中級指揮官を匈奴との実戦で鍛え上げる。
うん、我ながら悪くない。

上機嫌で練兵場に向かう。
雷薄には紀家軍の統括を、韓浩には転勤のお知らせである。

「把握した。これより引き継ぎを実施。しかる後、公孫賛の指揮下に入る」
「ん、頼むわ」

紀家の誇る軍官僚のトップである。指揮もできる才媛だけどね。
いつもお世話になってます。ガチで。

留守番を雷薄に頼んで、と。
いざ、洛陽、である。

やだなー。
846 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/09/30(金) 21:44:04.90 ID:pUcTin6ro
本日ここまですー

感想とかくだしあー

原案と地味様の飛躍
もしくは地味様の飛躍

いまひとつなので案募集です
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/30(金) 21:45:37.52 ID:5c+tEwXAo
乙です
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/30(金) 23:14:32.01 ID:YhnWb8/qO
韓浩だ!(条件反射)

やっぱ地味様いい女ですわぁ
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/01(土) 11:40:55.14 ID:YrFPExxM0
乙でしたー
>>830
>>「というのが今回の葬儀の筋書きというわけですね
○「というのが今回の葬儀の筋書きというわけですね」
>>俺に手を汚せってことだよねそれは目線だけでそう言うとにっこりと笑ってくれる。  一息だとちょっと読みづらいので
○俺に手を汚せってことだよねそれは、目線だけでそう言うとにっこりと笑ってくれる。  の方がいいと思います
>>「美羽様がそれを望まない限りそれはないですよー」  【それ】が2回あると違和感があります
○「美羽様がそれを望まない限りはないですよー」  もしくは 「美羽様が望まない限りそれはないですよー」  がいいと思います
>>831
>> 一つ軽く苦笑を漏らして、麗羽様の額に軽く口づける。
>>そして、俺もいつしか妖精の撒く砂にまぶたを閉ざされるのであった。 すみません、どういうことでしょう?これから二郎の部屋に行く途中でなんか寝ちゃいそうになってるっポイんですが、まぶた閉じてたら転びますよ(ツッコミ と言うかよく読んだらその後>>833で使ってるのでコピペミスですね
>>843
>>白蓮の欠点の一番はこれ。自己評価の低さ、である。だから応える。 【応える】だと【応じる】に似た意味になるのでこの場合だと自己評価の低さに応じる(認める)ニュアンスがあるので
○白蓮の欠点の一番はこれ。自己評価の低さ、である。だから答える。 白蓮の疑問に答えを出す方がいいと思います
>>そらそうよな。無償の好意とかむしろ忌避するわ、為政者に近いならことさらにね。 【ことさら】には【ワザと】と似た意味があるそうで間違いとは言いきれませんが(為政者なら故意に無償の好意は受け取らない)
○そらそうよな。無償の好意とかむしろ忌避するわ、為政者に近いからことさらにね。 おそらく文脈としてはこちらが正しい…はず
○そらそうよな。無償の好意とかむしろ忌避するわ、為政者に近いならなおさらにね。 強調するならこちらの方がいいと思います

巨星、円環の理に導かれる 凡人、後背の憂いを断つ 激動してますね、今まではある程度余裕を持って行動できましたがここからは様々なことが起こって二郎君も対応に後手後手になることもありそうな気配ですよ
生き馬の目を抜く世界で凡人がどこまで頑張れるか、どこまで頑張らないでいられるか(周りに頼れるか)、楽しみですね
850 :372 [sagesaga]:2016/10/02(日) 12:12:49.92 ID:p2zwDzyA0

乙です。

さてさてさて、始まりますな。
ちと斜めな見方ですが、袁姉妹の事を「眼福が来る」とwktkしてる皇帝なら結構面白いんだけど。

魯粛さんは難易度が下がった分、活躍の余地有りと見た。

士官教育か。前線指揮官を育てるのも公孫賛様が楽になるからなぁ。


まあ、嫌でも何でも繋がり持った以上は行きましょうね?紀霊さん?


……所で、紀霊さんは『督郵』をもう持っているのかね?
持っていれば、曹操さん宅みたいに逆転状態になるけど。

851 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 20:36:20.73 ID:09UGK1Uso
>>848
>韓浩だ!
韓浩やで(ニッコリ)

>やっぱ地味様いい女ですわぁ
無印恋姫の扱いには今でも憤懣やるかたないのですよw

>>849
添削ありがとうございます。
いつもすなまいねえ……。

>巨星、円環の理に導かれる 凡人、後背の憂いを断つ
これ使うかもです

>今まではある程度余裕を持って行動できましたがここからは様々なことが起こって二郎君も対応に後手後手になることもありそうな気配
所詮凡人なんで対処療法しかできないのでw
今までも頑張って対処を速めていただけという

>生き馬の目を抜く世界で凡人がどこまで頑張れるか、どこまで頑張らないでいられるか(周りに頼れるか)、楽しみですね
よろしくお付き合いくださいませ

>>850
>魯粛さんは難易度が下がった分、活躍の余地有りと見た。
まあ、基本優秀なんで、活躍しまくりらくりまくりすてぃかと

>士官教育か。前線指揮官を育てるのも公孫賛様が楽になるからなぁ。
教えることは学ぶこと。
つまりそういうことです。

>まあ、嫌でも何でも繋がり持った以上は行きましょうね?紀霊さん?
すまない。寄り道をするんだ。すまない。
852 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:02:20.48 ID:09UGK1Uso
寝落ちして
書いた文章10kくらい消えてたw


はは、わろす


まあ、しゃあないしゃあない
まれによくある
しゃあないしゃあない
853 :372 [sagesaga]:2016/10/03(月) 21:28:38.55 ID:C88zGFnA0

大丈夫です。

覚醒していても、操作ミスで前半部分を吹っ飛ばした奴をしれっと投下する奴がここに。

ただまあ、ね。
寝落ちするという事は、身体が疲労しきってるという事ですから。


互いに、身体だけは大事にしましょう。



つい最近、行政に提出する書類を寝落ちで飛ばして蒼くなった男が言える セリフではないですが。危うく、おいくら億円の 入札に間に合わない所でした(あはは)

854 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:53:13.27 ID:09UGK1Uso
>>853
>互いに、身体だけは大事にしましょう。
ちょっと最近ガチでお酒は減らそうかなあと思ったりしています
せめて一日焼酎500mlくらいにしようかなと

>おいくら億円の 入札に間に合わない所でした(あはは)
絶句w

私の社会経験が及ばないのでお勉強させてくださいw
なんやかやであれやこれやがうまくいったらいつか赤ペン先生交えてどっかで飲みたいですw
ガチでw
855 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:53:49.82 ID:09UGK1Uso
「おう、二郎!久しぶりだな!」

ドゴォ!という音が聞こえそうな勢いで背中をたたかれる。
この、馬鹿力め……。
いや、これで親愛のつもりなのだというのが分かるから責められない。くそう。

「春蘭も久しぶりだな。元気してた?」
「うむ!日々是精進だ!」

微妙にかみ合ってない気がする。

「まあ、歓迎するぞ!ゆっくりしていけ!」
「そりゃどうも」

そんなわけで陳留に到着した袁家ご一行は曹操の歓待を受けているのだ。
洛陽までの通り道だからね。無視するとかできないよね。麗羽様いらっしゃるしね。
俺単独でスルーしたかったけどそういうわけにもいかないのですよねえ。

「そう言えばこの料理ずいぶん美味いなー、っていねえよ」

残念、春蘭はもう立ち去った後だった!
相変わらずフリーダムというか、天然だなあ。

「なに馬鹿面してるのよ。ただでさえ貧相なのがよけいみすぼらしくなってるわよ」
「うっせえな、地顔だよ、ほっとけよ。
 男は顔じゃない!」
「あら、じゃあ女は顔だということかしら。
 やあね、これだから男って……」

やあ荀ケさん久しぶりだねいきなりの罵詈雑言とか。逆に落ち着くわ!そのネコミミを撫でまわしてやろうか!
いや。しないけどね。

「って挨拶くらい普通にさせろよ。久しぶりだな」
「いっそ一生会わないくらいでちょうどいいのだけれどもね。
 さっさとそこらの路地裏で醜く行き倒れればいいのに」

挑んでくるその目線。そこには違いがある。俺を汚物ではなく、搾取するという対象。それはつまり。
歩んでいるのだ。彼女も。
856 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:54:15.97 ID:09UGK1Uso
「歪みないほど歪んでるなあ。
 俺、なんかお前にしたっけ?」
「フン!アンタなんかの言動に私がどうして縛られてやらなくちゃなんないの?
 思い上がりも甚だしいわね。ほんとこれだから名家出身のは嫌なのよ」
「いや、お前も割と名家出身だろうよ……」

痛いとこを衝かれたのか、フシャーといわんとばかりの鼻息でござる。
そこからの罵詈雑言はいっそ芸事として金をとれるのではないだろうかというほどのもので。

もう、なんなのこの子。
当たるもの皆傷つけないと気が済まないのかしら。まあ、痛くもかゆくもないけどね。
ただ、融和ムードのためにも話題を転換するのだよ。
ふ、これこそが俺の数少ないスキルさ。なお、習得は容易な模様。

「しかしまあ、この料理美味いな」
「当然でしょ?
 華琳様自ら陣頭指揮を執られて、中には手ずから造られたものだってあるんだから!
 アンタの口には勿体ないわよ」

なるほど、麗羽様の歓迎に手料理で迎えたのか。
中々の友情じゃあないか。

「ふむ、流石曹操殿。なんでもできるんだなあ」
「当然ね。
 古今東西の天才達が束になっても華琳様にはかなわないわ」
「そうだろうなあ」

政戦に発明、ファッションに詩歌。
一つでもいいから才能を分けてほしいものである。この時代最高の才能なんだよなあ……。

と、荀ケが顔をゆがめてこちらを見ている。

「どったの」
「アンタに同意されるとどうしてこう、嬉しくないのかしら」
「知らんわ」

けなしたら突っかかってくるくせにと思いながら適当にあしらう。まあ、不器用ながらに袁家領内の治世に対する探りを入れてくるのには驚いた。
なので、あたりさわりないとこは明かしたし、農徳新書最新号も提供を確約してやる。

ま、適当に時間つぶしたら抜け出そう。
軽く曹操には挨拶も済ませたし。
ちら、とたまにこちらを窺う覇王の視線とか気づいてない振りするし。
猪々子でも誘って町に繰り出そうかな。

。美少女とのデートというのは心が躍るものである。釣った魚に餌をやらないという方針の人もいるらしいがね。俺からしたら論外である。
想いに応えるのが男子の本懐だろうよ。つか、好き好きオーラを出して懐いてくれる美少女はそりゃあ可愛いに決まっているのである。

そういや。流琉元気かなー。

◆◆◆
857 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:54:42.59 ID:09UGK1Uso

「へへ、アニキと町に繰り出すのも久しぶりな気がするなー」

俺の横で満面の笑み。猪々子である。これで袁家内で武家筆頭。文家当主である。

「そうか?あー、最近構ってなかったかー」
「えへ、いいのいいの、こうやって連れ出してくれたんだからさー」

陳留の町に繰り出した俺と猪々子である。宴席はまあ、こっそりばっくれた。
だって曹操の顔が少しずーつ捕食者のそれになってきた気がするんだもん。
気のせいじゃないと思う。多分。

流石に宴席の最中は麗羽様の相手で手が離せないだろうけど、アフターに誘われたら断りきれん。いや、なんでキャバクラ嬢的な気遣いを俺がせんといかんのだ。

……ちなみに春蘭が俺のとこにきたのは、曹操を除けばまともな官位を持ってるのが彼女だけだからだ。
そういった人物にはゲストをもてなす役割がある。春蘭の場合、それをわきまえているかは非常に疑問だが。
荀ケが寄ってきたのは……。まあ、いいか。

「アニキー、あの屋台旨そうー」

考え事をしている俺の腕を猪々子が引っ張る。
そちらに足を向けると腕を組んでくる。

「えへへ」

なんとも嬉しそうでこっちまでなんか、ほっこりする。いつもよりちょっとだけ大胆に密着してくる。
うむ、南皮ではあれで自重してたのか。えらいぞ。ここだったら知り合いに見られる心配もないしな。

猪々子と肌を合わせた回数はそんなに多くはない。
だが、なんというか、こうやって全身で「大好き!」と示されると、こう、ね。

串焼きを適当に頬張りながら馬鹿トークを続ける。
見知らぬ町の様子にあっちこっちに目移りする猪々子を見て、やっぱ女の子なんだなあと思う。

「で、アニキ、どこ向かってんの?」
「んー、知り合いが働いてる店、かなー」

ここらへんだったと思うんだが。

「へー、知り合いねー。
 どうせ女の子だろ?」
「何だよその決めつけ。 どういう意味だよ」
「どうせ女の子だろ?」
「……そうだよ」
「やっぱりなー。
 これは姫と斗詩にも報告しなくちゃだな!」

猪々子よ。
君が俺に抱いているイメージがとても知りたいよ。

「いやなら口止め料が発生しまーす」

いしし、と笑う猪々子。
その唇を軽く奪ってやる。途端に顔を真っ赤にする。実際可愛いぞ。

「これでいいか?」
「……うん」

ぎゅ、と俺の腕に抱きついてくる猪々子。
この子まだこういう不意打ちには弱いのよね。可愛い可愛い。

しばし無言で歩を進め、目的の店にたどり着く。
店構えを猪々子が興味深そうにきょろきょろ眺めている。

「アニキ、なんか普通のお店だね」
「ん?どんなお店だと思ってたんだよ」
「いや、こう、ばいんばいんな。おねーちゃんがいるような……」
「おい」

ぴしり、とでこぴんを一つくれてやり店に入る。
適当につまみと酒を頼み、店主に尋ねる。

「流琉は元気してる?」
「ああ、あの子なら少し前に辞めましたよ?」

な、なんだってー。
858 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:55:14.75 ID:09UGK1Uso
店主に詳しく経緯を聞いてみる。
なんでも、ある程度お金が貯まったから、屋台で独立するんだ、ということらしい。
幼女にしては無茶なレベルの結構な借金もこさえたらしい。
普通はもちろん金貸しも貸さないが、店主が口添えしたそうだ。流琉の腕っぷしと腕前もそれを後押ししたそうな。
なるほど。

「なに、あの子の腕前なら大丈夫ですよ」
「まあなあ」

やはり生き別れた友達の消息が知りたかったのだろう。
屋台を引くのはその町だそうだ。中々見上げた行動力である。

「アニキー、話が見えないー」

隣に座った猪々子がぶーぶー文句を言う。

「いやな、ここで働いてた幼女が生き別れた友達探すために屋台を引くんだと」
「ごめん。アニキ。ほんとに分からないぜ」

うん、端折り過ぎたね。
もうちょっと丁寧に説明しよう。

「友達を探すつっても大変だろ?
 だからお店を開いて、繁盛店にして友達が気づくようにしたいんだと。
 実際料理の腕はよかったしな。
 ちょっと急ぎ過ぎな感じもするけど、それだけ気になってるんだろうな」
「ふーん。そうなんだ。
 でも、ぶっちゃけそんなちっさい子が手に職もなく、生きてるとも思えないけどなあ」

遺憾ながらもそれには同意、である。
薄々流琉も分かってたとは思うんだよね。だから焦ったのかなあ。

「でもアニキがそんだけ評価するって、そんなに料理美味かったの?」
「おう。たとえばだな、曹操。
 アレの料理はアレだ。最高の料理に必要な最高の素材を最高の環境で調理する。
 腕もあるけどそりゃあ、美味い。
 流琉の場合はそこらへんの手元にある材料で料理を組み立てて、それが絶品、って感じかなあ」

シェフと主婦の違いとでも言おうか。
いや、シェフだって賄いとかはありあわせで作るんだろうけど。

「へー、そりゃ食べてみたいなあ。
 んー、残念ー」

俺も残念だけどね。
夢に向かう幼女がその歩みを進めたんだ。
ここは店の発展と健勝を祈念すべきだろうさ。

まあ、行方知れずというわけでもない。
屋台とはいえ、一国一城の主になったんだ。
開店祝いに顔を出すべきだろう。

そんなことを思いながら俺は猪々子とのデートを満喫するのであった。
859 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/03(月) 21:59:46.41 ID:09UGK1Uso
本日ここまですー

感想とかくだしあー
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 22:56:24.17 ID:Nif6u5bIo
乙です
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 09:54:43.22 ID:PlhE/cXjO
猪々子かわいいよ猪々子

お金貯まったら恋姫買おう
862 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/04(火) 22:23:45.50 ID:wi8W/ub7o
>>861
恋姫コンテンツにお金を落としてくれる……
二次創作を書いている者としてこれほどうれしいことはない……

しかし恋姫も結構昔のコンテンツなのだよなあと思ったり
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 22:37:40.07 ID:EJfaROFwO
今年なんかソフト出てなかったっけ
864 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/04(火) 22:48:02.82 ID:wi8W/ub7o
>>863
PS4の格闘やっけか?

そのためにPS4を購入したと言ったら信じてくれる?
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 23:23:11.66 ID:HzLuST1/O
私も10数年待ったゲームの為にPS4買うつもりだから大丈夫

恋姫はなんでこんなに息が長いんやろな
866 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/04(火) 23:33:22.77 ID:wi8W/ub7o
>>865
まあ、三国志コンテンツというのは強いんだろうなあと
キャラを掘り下げる前に一定の理解もあるし、そっからのギャップで二度美味しいと

後はやはりインパクトやろなあ
武将女体化と併せて

「はわわ……ご主人様、敵が来ちゃいました」

これは当時レムリアインパクトやった……

後は中身の出来の良さかな。やってクソやったらポイーやったろうけどね
ビターエンドというのがちょうどよかった

エロゲとかほぼやってない一ノ瀬でも食いついたくらいに優れたコンテンツやったわ
なお、アニメとかソシャゲはいまいちな印象
まあ、及第点かな?

設定とかお話がふわっとしていたから二次創作が捗ったというのもあるとは思いますが

まあ、自分の読みたい二次創作がないから一ノ瀬は書くことになったんですがw


なおお世話になったのは愛紗と翠です
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/04(火) 23:41:15.13 ID:HzLuST1/O
DMMでまた新作ソシャゲ出すしなー 一定のファンはしっかりついてんだな

てかその割には翠ちゃんの扱いアレじゃない?
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/05(水) 10:33:40.36 ID:w1ixq7xk0
乙でしたー
>>855
>> 挑んでくるその目線。そこには違いがある。俺を汚物ではなく、搾取するという対象。それはつまり。
○ 挑んでくるその目線。そこには違いがある。俺を汚物としてではなく、搾取する対象として見ている。それはつまり。  でどうでしょう
>>856
>> 華琳様自ら陣頭指揮を執られて、中には手ずから造られたものだってあるんだから! 製造したもの(酒蔵のような)でなければ基本的に料理は【作る】もしも全く新しい料理なら【創る】もありですが
○ 華琳様自ら陣頭指揮を執られて、中には手ずから作られたものだってあるんだから! の方がいいと思います
>>。美少女とのデートというのは心が躍るものである。釣った魚に餌をやらないという方針の人もいるらしいがね。俺からしたら論外である。
○美少女とのデートというのは心が躍るものである。釣った魚に餌をやらないという方針の人もいるらしいがね。俺からしたら論外である。
>>そういや。流琉元気かなー。  【。】を使うとそれぞれの文章で話題を一区切りするか、強調する感じがしますがこの場面ではそこまででも無さそうなので
○そういや、流琉元気かなー。  の方がいいと思います

ネコミミは持て成す側のくせになぜそこまで突っかかってくるのか・・・いやなら来るなよ、適当に斗詩とかの相手してろよ(なお得られるモノ
これ二郎が気にしてないとはいえ《芸時として金が取れるほどの罵詈雑言》って周囲からの視線が危険で危ないのでは?
まさか周りに聞こえないように耳元で睦言を交わすように悪口を言ってたわけじゃないだろうし(それはそれで周囲から睨まれそう)
ぶっちゃけこの場面での他の方々はこの二人の掛け合い(一方的)をどう見ていたのやら(二郎ちゃんを気にせずに宴を楽しむ人もあまりいないでしょうし)

一緒にお酒ですか?何とも恐れ多い、お二人ほど博識ではないので相槌を打つだけで終わりそうwほんの少し読むことが好きなだけでソコまで大したものじゃないですよ私
869 :372 [sagesaga]:2016/10/05(水) 22:11:57.40 ID:V5WGFBjA0

乙です。

何だろう、手綱取れて無い感が……
リアルを持ち込むのは無粋と解っちゃいますが、

『親しき仲にも礼儀有り』


この言葉がずっと目の前をよぎった。


紀霊さんは気にしないんだろうけど。

……仮にも軍師だろ。皇帝やら三公九卿が男でも その態度取るのかね。
恋姫でのネコミミが男嫌いになった理由は理解してますが、社交接待の場でパワーバランスが一方有利なこの状況ではそれを殺すのが大人の対応。

無理なら体調不良理由に引きこもる方法も取れるのに。

まあ、ネコミミはどう変化するか追いかけますか。


翻って、文醜さん。
可愛いつうより、一途。 ただ、紀霊さん絡みで逆鱗に触れたら暴発する危険をはらんでいるかも。

一番は『腕っ節』で借金出来た典偉さん。
すごいね。
料理の腕は商売上当然だし、集客を確実に見込めるから出資するのは解る。


……私自体は馬鹿ですよ。
確かに人よりほんの少し 経験を積んで、ほんの少し周囲の師匠方に恵まれただけ。
やってる仕事も、きちんと専門教育受けて基礎を持っている若者に簡単に 抜かれる仕事。
違いは、愚直に積み上げた人脈位?


お誘いは有り難いです。 感謝です。


ちな夏候惇さんは生暖かく微笑ましく眺めております。
彼女は経験で化けそうと 踏んでます。


870 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/05(水) 22:36:04.35 ID:y5ew7Oi9o
>>867
>DMMでまた新作ソシャゲ出すしなー 一定のファンはしっかりついてんだな
マジすかそれは知らんかった

流石に追いきれないですなあ……
基本無課金だし!

でもweb恋姫でも月間300kくらい注ぎ込んでる人がいたんですよねえ……(遠い目)

>てかその割には翠ちゃんの扱いアレじゃない?
翠ちゃんのロールを一ノ瀬なりに再現して凡将伝に実装します
好きだからこそ、です。今回どうなるかはわかりませんが。

>>868
いつも済まないねえ。。。

>ネコミミは持て成す側のくせになぜそこまで突っかかってくるのか
ツン10デレ0という奇跡の黄金比のキャラですしおすし(公式見解)

>これ二郎が気にしてないとはいえ《芸時として金が取れるほどの罵詈雑言》って周囲からの視線が危険で危ないのでは?
袁家への推挙を蹴った彼女です。つきっきりでいることに意味があります
会話内容というのはそこまで影響ないです。袁家を袖にした荀ケが紀霊を饗応(違和感)することに意味があるのですね
ネコミミの実家はそれなりに名家なので、これは割と手打ちの儀式でもあって……
やはりネコミミの態度はあれだ、二郎ちゃんの鷹揚さに甘えていますね。いや、利用してるのかな?

>お二人ほど博識ではないので相槌を打つだけで終わりそうwほんの少し読むことが好きなだけでソコまで大したものじゃないですよ私
まあ、機会があったらくらいで、ひとつw
871 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/05(水) 22:42:52.99 ID:y5ew7Oi9o
>>869
>恋姫でのネコミミが男嫌いになった理由は理解してますが、社交接待の場でパワーバランスが一方有利なこの状況ではそれを殺すのが大人の対応。
ネコミミはまだまだ頑張ってもらわないといけないですねえw
色々踏まえて、踏まえないで二郎ちゃんはあれこれスルーしてます

>可愛いつうより、一途。 ただ、紀霊さん絡みで逆鱗に触れたら暴発する危険をはらんでいるかも。
何が危険って、文家が袁家の武家筆頭ってとこですねw

>一番は『腕っ節』で借金出来た典偉さん。
すごいんです
でも世間の荒波はもっとすごいんです

>……私自体は馬鹿ですよ。確かに人よりほんの少し 経験を積んで、ほんの少し周囲の師匠方に恵まれただけ。
そのお話を聞いてみたいなあと思っていたのです。きっと珠玉なのだろうなあと。
まあ、機会があったらくらいの軽い感じでw
色々なエピソードから、リスペクトしておりますので。
今後ともお見捨てなきようお願いいたします。

>ちな夏候惇さんは生暖かく微笑ましく眺めております。彼女は経験で化けそうと 踏んでます。
化けるのかなあ。
むしろ完成されているような気もします。

ただ、竜狼伝のd兄はもっとかっこよくてもいいと思いました。
872 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/06(木) 22:24:26.83 ID:h2XCH6Ito
「んじゃちょっと行ってきますわ」
「はいはーい、お気をつけてー」

単身、袁家ご一行から離脱する俺である。愛馬にまたがり、出立はこれから。
見送るのは七乃だけである。
麗羽様たちは洛陽に向けて先行してるし、美羽様はちょっと拗ねちゃってるらしい。
旅支度については、いつものように陳蘭に任せてるから問題ない。

「冷えてきましたし、行き倒れたりしないでくださいねー」
「おうよ、あんがとな。
 美羽様のことを頼むわ」

まあ、多少回り道で道草食っても洛陽周辺で合流できるはずである。

「お任せくださいなー。
 でも、ちょーっとだけ待ってくださいねー?」
「ん?いいけど」

美羽様の馬車に歩を進め、何やら話しているようだ。
と、しばしして美羽様が出てきた。

七乃にだっこされ、こっちに近づいてくる美羽様である。涙目である。

「ほらほら美羽様ー、二郎さんに言いたいこといっちゃえー」

なんじゃそりゃ。と思ったのだが。

「じ、二郎のあほー!
 どことなり行ってしまえばいいのじゃー!
 う、う!」

叫ぶと、今度はぐずり始めた。
え?ええと。
その様子を見て下馬し、美羽様に近づく。
七乃の胸に縋り付く美羽様を引きはがしてだっこする。そして抱きしめて耳元でささやく。

「美羽様。ちょっと寄り道するだけです。ちゃんと帰ってきますから」

逆効果であったでござる。
べそをかく美羽様がわんわんと声を上げて泣き出す。

「あららー、いけないんだー。
 美羽様泣かせちゃってー」

嬉しそうに七乃が俺を責めたてる。いや、ここまでぐずられるとは正直思ってなかった。
ってほんとに嬉しそうだな、七乃よ。
おっかしいなあ。俺、幼女の扱いには自信があったんだけどなあ。

「いや、美羽様?」
「ぐすっ。知らんのじゃ。二郎は妾(わらわ)のことなんてどうでもいいのじゃ」
「んなわけないですってば」
「嘘じゃ、嘘じゃ。
 二郎は口ばっかじゃ」

困ったな。
ちら、と七乃を見ても助け船を出してくれる様子はない。
……だから何でそんなに嬉しそうなんだよお前。
873 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/06(木) 22:24:53.75 ID:h2XCH6Ito
「嘘じゃありませんよ」

俺の言葉にツーンとしながら、縋り付いてくる美羽様。
困ったなあ。
聞き分けのいい美羽様にしては珍しい。

「そうだ、俺が戻ってくるまで、俺の大切なものを美羽様に預けましょう。
 絶対戻ってくる証拠に、ね?」

じ、と上目づかいで俺を見つめてくる。
涙と鼻水でくしゃくしゃだが、可愛らしいことこの上ない。
将来は美人さん間違いなしだな。流石は袁家の血筋やでえ。

「三尖刀です。美羽様にお預けしますので、俺が帰ってくるまでよろしくお願いしますね」

その言葉に美羽様の目が丸くなる。

「三尖刀じゃと?し、しかしそれは……、紀家の」
「帰ってきますから、ね?」

俺の言葉にこくり、と頷く美羽様。
だっこしてた美羽様を地面に降ろし、その手に三尖刀を預ける。
その重さに美羽様がたたらを踏むも、必死に支え、踏みとどまる。

七乃が気を利かせて代わりの剣を差し出してくる。
あんがとね。流石に丸腰じゃあなあ。

「んじゃ、行ってきますね」

馬上から二人に挨拶をする。

「は、早く帰ってくるのじゃぞ!
 三尖刀を妾(わらわ)が失くしてしまっても知らんぞ!」
「というわけなのでとっとと用事を済ませて合流してくださいねー」

二人の言葉に軽く苦笑し、馬に出発を指示する。

一生懸命に手を振る美羽様と、薄く笑い、薄く手を振る七乃を置いて。
俺は前を向き、歩を進めるのであった。

◆◆◆
874 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/06(木) 22:25:27.64 ID:h2XCH6Ito
一生懸命に二郎さんを見送る美羽様可愛いなあ。

張勲は笑みを深める。あの男が地平の彼方に消えるまで手を振り続ける主君を優しく見守りながら愉悦に浸かっている。微小な妬心と共に。

「七乃ぉ、二郎は帰ってくるじゃろうか……」

心細そうに呟く主君に緩む頬を引き締める。三尖刀を握って離さないのが実に健気である。
……再度頬に力を込める。

「だいじょぶですよー、二郎さんは帰ってきますってー」

普段聞き分けのいい主君にしては珍しいなあ、などと思うのだが。

「母さまみたいに急にいなくなったりせんかの?」

不安げな目。そしてその目を見て思い至る。だから、優しく抱きしめる。
ただ一つの縁(よすが)である三尖刀ごと抱きしめながらささやく。

「大丈夫ですよ。二郎さんも私も、お側におりますから」

きゅ、と抱きついてくるのがいじらしい。

「二郎と、七乃と、麗羽姉さまと。
 みんな一緒がいいのじゃ……」

ぽつり、とつぶやくその声。その儚げなそれ。張勲は誓いを新たにするのだ。

ええ、ご安心くださいな、と。

この身は美羽様のためにこの世に生を受けたのです。きっと、きっとその願いを叶えて差し上げましょう。
立ちふさがるものはきっと蜘蛛の糸に絡まれ、毒に沈むでしょう。
ですから、今宵は心安らかに。

「おやすみなさい」

いつしか腕の中で眠りに落ちた主君に優しく囁く。

そして、虚空に目を向ける。

思うのは、一人の青年。
蜘蛛の糸に絡まりながらも上を、前を向いて歩こうとする青年。
その歩みを、冷ややかに見ながら。目が離せないという状況。きっとそれは愛する主君の執着が故である。

切り捨てる。排除する。張勲はその選択肢を完全に放棄することにしたのである。

「困ったなあ。父上の思惑とは違ってきたなあ。これは割と困っちゃったなあ……」

呟く張勲は、変わらずに笑みを張り付けているのであった。
875 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/06(木) 22:27:45.99 ID:h2XCH6Ito
本日ここまですー
感想とかくだしあー

三連休は神有月なので、オヤスミなんであぜ

出雲付近で鹿を見かけたら一ノ瀬かもしれません
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/06(木) 22:40:35.27 ID:pAKRPg7PO
乙したー 今日は山口に祝い酒じゃ!!

七乃んは相変わらずやの(白目)
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/06(木) 23:02:13.94 ID:v0bRIuGZo
乙です
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/08(土) 10:50:26.90 ID:VCNnm3uU0
乙でしたー
>>873
>> 一生懸命に手を振る美羽様と、薄く笑い、薄く手を振る七乃を置いて。 薄く手を振るに違和感があります。正解かは微妙ですが
○ 一生懸命に手を振る美羽様と、薄く笑い、軽く手を振る七乃を置いて。 軽快に手を振る。のイメージで【軽く】の方がいいと思います

七乃が嫉妬したのって実は大きな変化な気が・・・美羽の事を大切にしてるのはもちろんだけど今までの七乃だったら「うらやましいぞー」とか言いつつ相手の事を実際には別にどうでもいいとか思ってそうだったなあ。私見ですが
下手したら【美羽様】とそれ以外(自分含む)の世界だった感のある七乃が他のモノにも目を向けたというか、そんな感じの今日この頃
879 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/10(月) 21:35:15.18 ID:O/NTY84Eo
神有月は最高だぜ
神さんは実在するので近くの寺社に参詣してお賽銭するように(色々あった)

>>876
>七乃んは相変わらずやの(白目)
もっと緊張感ある関係になるはずだったんですよw

>>878
いつもすまないねえ……
ただまあ、今回はちょっと考えまする

>七乃が嫉妬したのって実は大きな変化な気が
そこに気付くとはやはり天才か……

しかし今回はちょっと七乃さんの内心を洩らし過ぎたので。
あっちではちょっと修正するかもです

七乃さんは書いててしんどいけど楽しい
880 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/10(月) 21:50:16.93 ID:O/NTY84Eo
本当に死にそうなくらいしんどいのでちょっとオヤスミくだしあ


ミニリュウは石見銀山で超発生してたで……
駐車場少ないから注意しいや……

881 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/12(水) 22:39:47.36 ID:HugFn/wTo
寒風吹きすさぶ道程は省略する。特にトラブルに巻き込まれることもなく、目的の町にたどり着く。
さて、流琉を探さんとな。広大な街で幼女一人を探すとか我ながら酔狂なことよ。
宿に馬と荷物を預け、散策を始めるとする。なに。人材探索(フィールドワーク)は嫌いじゃない。

と。

「あれ、二郎さま?わ、二郎様だ!」

おい、おい。

「お、おう。流琉よ。久しいな」

いたよ、求める幼女が。
こう、ばったり出会うとかこれはもう運命を感じますねえ。

◆◆◆
882 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/12(水) 22:40:27.92 ID:HugFn/wTo
歓談である。まあ、流琉の近況を俺が聞いてただけ、なのだがね。嬉々としてあれこれ言ってくるのは、非常にほほえましいものである。

「つか、とうとう一国一城の主だな。おめでとさん」
「えへへ、ありがとうございます。
 といってもちょっと無理しちゃったんですけど」
「聞いたよ。ちょっとどころじゃあないって聞いたぞ?」
「うーん、ま、なんとかなるかな、と」

照れながら流琉が言葉を紡ぐ。
屋台とはいえ、自分の店を持てたのがうれしいのだろう。

「んで、お店はどこにあるんだ?」
「もうちょっと離れてるんですよ。
 今は仕入れの帰りなんです」

両手いっぱいに食材を抱える流琉なのである。
どれ。

「ほれ、持ってやろう」
「あ、ありがとうございます。
 重さはどうってことないのですけど、かさばっちゃって……」

ふむ、そうだろうなあ。体格的にはあくまで幼女。
色々抱えるにも大変だわな。

「あ、ここです」

そう言って示したのはなんの変哲もない屋台。
だが、あちこち丁寧に手入れされているのが見て取れる。花の意匠は流琉のお手製かな?なんともファンシーなそれは目立たない所に。うむ。

「あ、典韋ちゃんお帰りー」

身なりの汚いおっさん……ぶっちゃけ浮浪者がそう声をかけてくる。

「うん、ただいまー。
 おじさん、お留守番ありがとねー」

どうやら、買い出し等の不在の間はこのおっさんが屋台の番をしているらしい。
報酬はただ飯だそうだ。
なるほどね。
なかなか世慣れてるみたいで何よりである。

「それじゃ、仕込みを始めます!」

そう言って腕を振るう流琉である。真っ直ぐな瞳は未来への希望に輝いていた。

それはとても貴重なものだと思うのだよ。やっぱ肩入れしたいと思うのだよ。

◆◆◆
883 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/12(水) 22:40:56.70 ID:HugFn/wTo
すさまじく手際のいい流琉の仕込みをぼーっと見ながら、おっさんに問う。

「なあ」
「なんですかい」
「流琉の屋台、繁盛してんの?」

俺の言葉におっさんは軽く考えながら言う。

「最近は常連が増えやしたねえ。
 なにせ、最近は寒くて、外を出歩くのも一苦労なんでさ。
 そんな中じゃあ、頑張ってると思いやすぜ」
「そうかい」
「ええ、お料理自体は絶品ですからねえ。
 最初はまあ、アレでしたが、ね」

ひ、ひ、と笑いながらおっさんが言う。
まあ、軌道に乗りつつあるなら何よりだ。客商売なんて最初は赤字上等だしなあ。
ここは流琉の料理を褒めるべきなんだろう。

しばらくすると、いい匂いがあたりに漂う。うむ。嗅覚を刺激するのは重要。屋台なんて業態なら特にな。
メニューは串焼きに汁物。
屋台で汁物を出せるのは流琉の膂力――水の補給の手間的な意味で――があってのことだろう。
普通は無理だわ。つか、めんどいし。
ほんと、手間暇惜しんでないのだなあと思いながら注文を出す。

「うーん、旨そう。
 適当に串焼き盛り合わせてくれな。あと酒」
「はいっ!ありがとうございます!」

心底嬉しそうに流琉が応える。
出された料理に舌鼓を打つ。
うん、美味い。

酒が五臓六腑に染み渡る。寒さを増す外気を吹き飛ばす。

軽く串焼きと酒をおかわりして、まったりと流琉と駄弁る。

「だからさー、一旦あのお店に行ったんだよー。
 そしたら流琉いないしさー。
 びっくりしたよー」
「ええ、わざわざそこまでしてくださったんですか。
 ありがとうございます!」
「いいのいいの、流琉のごはんが食べたくてしてることだから、さ」

えへへ、と照れる流琉。
その一方で徐々に増える客をてきぱきと捌く。
うむ、手馴れている。これは練達の域ですよ。
これは俺が心配することもなかったかな。

そんなことを思いながらもカンバンまで俺は流琉の店で粘るのだった。

しかし、冷えるね。流石内陸部は寒いわ。

ぶる、と震えると俺は宿に向かうのだった。

◆◆◆
884 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/12(水) 22:41:50.57 ID:HugFn/wTo
典韋には親という存在がいなかった。
いや、木の股から産まれたわけでもないだろうからかつてはいたのだろう。だが、物心がついた時には存在していなかった。だから典韋は家族というものを知らない。
あえて言えば、同じ境遇だった許?だろうか。
他にも同じ境遇の孤児たちはいたのだが、冬が訪れるたびに減っていった。

……典韋が育ったのは名もない寒村である。村には無駄飯ぐらいを養う余裕などほとんどなかった。故に典韋も、許?も幼い身ながら必死に働いた。
自分が役立たずではないと証明するために。人の何倍も働いた。
幸い二人には並外れた膂力があり、その日をしのぐだけの糧を得ることはできていた。
それでも飢えたときには典韋が木の皮や草の根など――残飯などというものは存在しない――を食べられるように調理した。
寒さに震える日は抱き合って暖を取った。だが、少しずつ破局は近づいていた。

典韋にはよく分からない。いつからか、納める税が重くなり、村から笑顔が消え始めた。

そして、ついには身寄りのない孤児たちは売られることになったのである。

「もういいよ、逃げちゃおう」

そんな親友の声に応えて逃げ出したのがこの町。この町のどこかに彼女はいるだろうか。
意識が覚醒するのを感じながら流琉はぼんやりとそんなことを考えていた。

ふと、久しく感じていなかった人肌の温もりを感じ、縋り付く。
夢でもいいから今はただその温もりに溺れてしまいたかった。

◆◆◆

もぞ、と胸元で何かが動いて俺は目を覚ました。
ん。
見ると流琉が寝ぼけながら抱きついてきている。

さて、どうしてこうなったかというと。昨日アフターしてお持ち帰りしました。
以上。

うん。端折り過ぎた。
まあ、この町に来たのは流琉の開店祝いなわけですよ。ぶっちゃけ他にやることなかったのよね。
まさか来て早々に見つかると思ってなかったしさ。だからまあ、流琉のお店をお手伝いしたのよ。つっても料理なんてできないから呼び込みと会計だな。
気分はテキ屋のおっちゃんである。

まあ、お手伝いの甲斐もあってその日は日没を待たずに見事完売、である。やったぜ。なしとげたぜ。うむ、久々に商売に打ち込んだ気がする。
……最近商会の仕事も政治的なことばっかでモノを売るという基本を忘れていた気がする。
たまにはこういうのもないとな!

で、その日は打ち上げという名の夕食を一緒に食べて、飲んで。疲れてたのだろうよ。そのお店で流琉が寝ちゃったのである。
まあ、気が緩んだんだろね。

流琉の宿とか知らんから俺んとこに泊めたというわけである。

さて、お姫様のお目覚めだ。

「あ、あれ? どうして私……。
 っ!」
「ほい、おはようさん」
「じ、二郎様、ご、ご迷惑を……!」

いや、別に迷惑とかないし。むしろ寒いとこに懐炉的な感じで有り難かったんだけどねえ。

「いいよ、疲れてたんだろうさ。
 たまにはゆっくりせんとな。大丈夫、やらしいことはしてないし」
「も、もう!からかわないでください!」

真っ赤っかな流琉がとても可愛いのですよ。これはいけません……。

「今日は仕入れも付き合うよ。 中々一人だと大変だろ?」
「あ、ありがとうございます。
 正直助かります」

こんな幼女一人じゃあ、足元見て下さいって言ってるようなもんだしな。
久々の仕入れという末端の実務にワクテカな俺である。
いやー、懐かしいなー、価格交渉とか。
見せてやろうじゃないか、母流龍九商会の総帥の腕前を!
885 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/12(水) 22:44:02.35 ID:HugFn/wTo
屋台居酒屋「るる」

幼女が店主で絶品の料理が売りです
幼女は包容力も満点なのです

そんなん絶対常連になるやん……
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 22:47:41.89 ID:NmUJIG0wO
恋姫コンテンツにお金落としてきました
CR戦国†恋姫に

もちろん大負けして帰ってきたのですが
1度だけ画面上に「凡将」の文字が出てきたのにはびっくりしました
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 22:55:54.16 ID:NmUJIG0wO
リロってないうちに桃香されてたでござる

リライト前を知ってるだけに流琉の元気さが痛々しく思えます

>見せてやろうじゃないか、母流龍九商会の総帥の腕前を!
実務は丸投げだけどやるときにはやる(ヤる時にはヤるとも言う)二郎ちゃんです
何進との交渉を思えば場末の業者なんか三下以下にしかならんですぞ
888 :372 [sagesaga]:2016/10/13(木) 00:39:00.72 ID:v24Nb0NA0

乙です。
燗酒が美味く感じる季節に差し掛かる今日この頃。


>見せてやろう、母流龍九商会を率いる総帥の腕前を

つうと、
「典偉さんの欲しい食材の良い奴を大量に安く押さえて、配達までさせて ついでにオマケ付き」

これをさらっとやったワケですね?

……やりそうな。


冷える屋外で熱い汁物を出せる屋台。
そら繁盛します。
多分口コミで爆発的に客は増えます(予言)


後、袁紹さんが、

「見せて差し上げます。袁の当主の腕前を」

で、高笑いと一緒に食材を金で買い占める。

典偉さん、唖然。


というのも連想。

なんじゃろね。二郎さんが最近幼女のお父さんしてる?


懸念は許楮さんが曹軍在籍。
きっと曹操さん、典偉さん取りに来るな。

二郎さんは典偉さんを引き込むのか?
それとも曹操さんに渡すのか?


個人的には二人して袁に 引き込む。
が幸せだと思うけれど。

二郎さんの考えも見どころ。

889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 11:42:17.92 ID:ucWqutgFO
乙したー ロリコンは御用じゃあ!

昨日余り玉で恋姫打ったらアッサリ当たったでござる
なお、単発だった模様
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/14(金) 09:15:07.38 ID:FzT5DoZa0
乙でしたー
許褚は文字化けしやすいみたいですな
今回は誤字が見つけられず…一抹の寂しさ(笑)
まあ町と言っても代官なりなんなりのおひざ元と言うか手の届く範囲でなければ治安の関係もあってそこまで広くは出来ないでしょうし見つかる可能性は高いですよね
それでも初日で見つけるのは運が良いですけど。
>>……最近商会の仕事も政治的なことばっかでモノを売るという基本を忘れていた気がする。
そもそも最初っから周りに丸投げしててその基本を自分でやってたことはほとんど無かったのでは(いぶかしげな眼
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 18:26:44.98 ID:2NWnQVoRO
誤字なしおめ

勝ったで(赤)
892 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 21:37:08.48 ID:1WsCt0KGo
忙しくて気力減退しておりましたすまんです

>>886
>恋姫コンテンツにお金落としてきました
PS4の恋姫演武を買いました
アクションの腕前がないのはメルブラで知っていたはずなのに……w
必殺技なんて出せません

>1度だけ画面上に「凡将」の文字が出てきたのにはびっくりしました
くっそw
やったぜあなたこそが凡将だ!

>何進との交渉を思えば場末の業者なんか三下以下にしかならんですぞ
現実逃避ともいうw

>>888
>燗酒が美味く感じる季節に差し掛かる今日この頃。
貧乏暇なしな生活を過ごしておりますw
燗酒はつまみが欲しくなりますねw
もう、最近は燗するのもめんどくさくて、ひやでいただいております

>なんじゃろね。二郎さんが最近幼女のお父さんしてる?
幼女が養女に……いやなんでもない

>二郎さんの考えも見どころ。
流琉の細腕繁盛記もいよいよ大詰め
ご期待ください

>>889
>昨日余り玉で恋姫打ったらアッサリ当たったでござる
一ノ瀬はまったくパチンコしないのですが、単発でどんくらいのリターンなんざんしょ

>>890
>許褚は文字化けしやすいみたいですな
季衣の出番が減るわけですよ(力説)

>今回は誤字が見つけられず…一抹の寂しさ(笑)
久々になしとげたぜ

>まあ町と言っても代官なりなんなりのおひざ元と言うか手の届く範囲でなければ治安の関係もあってそこまで広くは出来ないでしょうし見つかる可能性は高いですよね
本屋で知り合いに出会う確率の高さといったらw

>そもそも最初っから周りに丸投げしててその基本を自分でやってたことはほとんど無かったのでは(いぶかしげな眼
そのツッコミが欲しかった(ガチ)

>>891
>勝ったで(赤)
ルヴァンルヴァーン(おめ)
893 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 23:08:27.36 ID:1WsCt0KGo
「二郎さま、本当にすごいです!」
「いやあ、それほどでもあるともさ」

流琉の尊敬のまなざしが心地いい。とはいえ、大したことをしたわけじゃあない。
ごくごく初歩的な商売のノウハウを実践してみせて、解説しただけである。
例えば、大量の仕入れに対しての値引きであったり、継続的な仕入れの保証での信用獲得であったり。
細々とした交渉の詳細は省く。
ぶっちゃけ、大阪のおばちゃんなら息を吸うように発揮するスキルである。
だが、そういったノウハウの蓄積はこの時代最早特殊なスキルである。そしてそういった知識というのは秘匿されるものだ。
読み書きすら特殊なスキルだからなあ、この時代。いや、読み書きそろばんが必修という社会がおかしいというべきかもしれないが。
閑話休題。
限られた時間の中で流琉にできるだけの知識やらノウハウやらを伝えたい俺なのである。

というか流石に食材の善し悪しなんてわからんし、それは流琉の方が詳しいからな。
俺は俺にできることを伝えるのみである。

しかしまあ、純粋な幼女がきらきらと尊敬の眼差しを向けてくるというのはなかなかに気持ちがいいものである。
色々と熱がこもるというものだ。

「えへへ」

流琉が嬉しそうに笑う。

「どしたの」
「こんなふうにお話するのって久しぶりだな、と思ったんです」

まあ、幼女一人でお店を切り盛りしてたら気を張ってるわなあ。

「そだな、俺が勤め先解雇されたら流琉に雇ってもらおうかな」
「ええ、二郎さま一人くらいなら私が養ってあげます!」

その前に借金を返さないといけないんですけどね、と流琉が苦笑する。
しかしまあ、セカンドキャリアとしては悪くない。
政争に負けて放逐されたら流琉のお世話になるのも悪くないなー。

などとヒモ根性丸出しの妄想を楽しむ。ん、マジでヒモ生活悪くないような。
そんなことを考えながら荷物を抱えなおす。もう少し先の路地を曲がれば流琉のお城に到着である。
食材は大量であり、重さはともかくかさばるのをなんとかせんとなと流琉と話し合いながら。

◆◆◆
894 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 23:09:29.38 ID:1WsCt0KGo
と、何か焦げ臭い香りがする。
妙な胸騒ぎがする。嫌な予感ほどよく当たる、などという言葉が頭をよぎる。
まさかな、という思いが流琉に伝えるきっかけを失わせる。

緊張をはらみながら、角を曲がる。
そして、俺が見たものは。
流琉の夢を具現化した屋台。その焼け跡であった。

「え……」

流琉が気の抜けた声を出す。
ぺたり、とその場にしゃがみ込む。

そう、流琉の屋台があった場所。いや、屋台が並んでいたこの区画。
それが消し炭と化していた。

「な、なんで……」

心ここにあらずといった風で流琉がつぶやく。現状が理解できていない。
いや、したくないといったところか。無理もない。
つか、俺もショックである。言葉が出ない。

「あー、典韋ちゃん、きてもうたかー」

いつぞやのおっさんが声をかけてくる。流琉はそれに応える余裕などなく、俺が応える。

「どういうこった、これは」
「すまんなあ、わしも見とったんやけどなあ。
 ちょっと目を離した隙にやられてもうたわ。
 昨日は寒かったさかいになあ」
「はぁ?」

お前は何をやっていた、という言葉を飲み込む。
このおっさんがその場にいても止めることなどできなかっただろう。一時の暖を得るために屋台を焼くとか暴徒寸前……というか暴徒そのものだ。
治安が悪い、というのは易い。だがつまりはそういうことであるというのを甘く見ていたかもしれない。
気まずいのか、おっさんはそそくさとこの場を後にする。
経緯を知らせてくれただけでもありがたいと思うべきなのだろう。

そして、流琉は。
一切の表情を無くし、焼け跡を見つめていた。
 
何も言わない、反応しない流琉をとりあえず俺の部屋に連行する。
それに一切の抵抗も反応もしないことに危惧を覚える。

「流琉……」

俺の呼びかけに僅かに表情を動かす。
更に呼びかけようとして、流琉の言葉に黙り込む。

「もう……嫌です……」

聞くに結構な額の借金すら背負って開いたお店である。
そのショックはいかばかりのものだろうか。

「もう……いいです……」

声もなく嗚咽する。

「流琉……」
「もう、いいんです……」

ぽつりとこぼす言葉には常の元気などどこにもない。
895 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 23:10:15.89 ID:1WsCt0KGo

「お、おい……」
「生きてきて、あんまりいいことなかったです。
 それでも、私なりに頑張ったんです。頑張ってきたんです。 
 でも、もう、いいんです……」

俯き、嗚咽を洩らし、絞り出すようなその声。精一杯の声。

「いや、生き別れた友達はいいのかよ」
「季衣だって多分もう……。
 どうせ、会えるわけありません……」

生きてはいないだろう、そうつぶやく流琉。

「もう、売られるのはたくさんです……。
 それならいっそ……」

そう、呟きながら俺の顔を見つめてくる。
どろり、と濁った双眸が痛々しい。

「二郎さまは、お武家さんなんでしょ……?
 だったら、一思いに楽にしてください……」
896 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 23:11:49.52 ID:1WsCt0KGo
泣き笑い。

そんな表情で流琉が俺に囁いてくる。楽にしてくれ、と。
その言葉に、俺の何かが沸騰する。はらわたが煮えくり返る。
ふざけるな。
ふざけるなよ。
ふざけたことを言うな。
俺は……俺は!
そんなことのために武家にいるんじゃない!
この身はそんなことのためにあるんじゃあない!

俺は、吠える。そう、かつて喪った女(ひと)のために。
ああ、そうだ。
あの女(ひと)ならこれくらいで絶望なんてしなかった。あの女(ひと)を投影するのは俺の我儘なんだろうか。
いや、そうだとしても俺はその我儘を押し通す。苛立ちをそのまま流琉にぶつける。

「命を捨てるか。
 けじめをつけるにはあっぱれかもしらんさ。 
 だが、許さん。
 捨てる命なら俺が拾う。
 死ぬなど許さん」

俺の言葉に流琉が不思議そうな目を向ける。

「で、でも。
 私にそんな価値なんて、きっとありません。
 それに、借金だって……」

ふん、確かに並の武家なら一生かかるかもしらん額だろうさ。
だがな。

「俺を誰だと思っていやがる!」

そう、高らかに宣言する。

「北方三州を治める武家の頂点!
 袁家が傘下の武家四家!即ち文、顔、紀、張!
 彼の匈奴大戦において匈奴の頭目を討ち取った紀家当主が長男!紀霊!
 それが俺だ!
 流琉が借金を背負っているのなら!それごと買い上げてやる!
 お前がその身を捨てるというならば!お前の身も心も俺のものだ!
 勝手に失うことなど許さん!」

俺の叫びに流琉は呆然としている。
さらに畳み掛ける。

「改めて我が真名を授けよう。 
 我が真名は二郎。

 そして流琉よ。お前は俺のものだ。
いいな」

圧倒されたのか、流琉がこくり、と頷く。

流琉の身体を抱き上げ、抱きしめる。
耳元で繰り返す。或いは呪詛を刻み込む。
お前は俺のものだと。
勝手に死ぬことなど許さぬ、と。

流琉は嗚咽を止め、いつしか眠りに落ちていた。
抱きしめる身体は熱を放ち、しっかりと生きている。生きているのだ。
手から零れていくものは仕方ない。……仕方ない。
だが、手にしたものは。手にしたのならば。
せめて、と思うのだ。抱きしめたこの熱。
人が人を救うとか、思い上がりかもしれないが、それでも、と思う。
行く宛もない幼女がたまたま出会った男に拾われる。そんな話があってもいいじゃないか。
そんな優しい世界があってもいいじゃないか。

七乃あたりに言ったら鼻で笑われるだろうなあと思いながら、腕の中の確かな熱を抱きしめる。ひし、と抱きついてくる流琉がこの上なく貴重なものに思える。

そう、この熱に俺は救われているのだ。
いや、救われたいのだと思う。

俺は、自分の為に頑張れるほど強くないから。
897 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/18(火) 23:15:23.86 ID:1WsCt0KGo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

久々難産っすわーw
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 00:52:23.76 ID:lyG09Klbo
乙したー
レイプ目の幼女を買い上げたってなんだこの犯罪的な絵面はwwww

赤の優勝祝いに付き合わされて飲み慣れないロゼ飲んで頭が痛かったのなんの
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/20(木) 09:51:17.22 ID:hxIwoBZq0
乙でしたー
>>894
>>と、何か焦げ臭い香りがする。  香水、香油、と言ったように基本的に【香り】は良いモノです
○と、何か焦げ臭い匂いがする。  ただこれだと【臭い】と【匂い】が被ってしまうので
○と、何か焦げ臭い空気を感じる。  もしくは と、何か焦げ臭い気がする。  の方がいいかもしれません
>>895
>>俯き、嗚咽を洩らし、絞り出すようなその声。精一杯の声。
○俯き、嗚咽を漏らし、絞り出すようなその声。精一杯の声。  が正しいようです

借金してお店を持った幼女、お店が焼き払われ偶然再会したお武家さまに買われたでござる
偶然だけどこれ日にちが多少前後してたら駄目だったよね…流琉が呪いをかけられちゃったね、これはいざと言うときは自分の命を捨てて二郎を守りますわ
凡人、落ちるモノを必死ですくいあげる
寒いから放火をするとか世紀末の態ですな。私はSHOCKです
900 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/20(木) 21:59:35.92 ID:YUxcMKB7o
>>898
>レイプ目の幼女を買い上げたってなんだこの犯罪的な絵面はw
それを言うなw

>赤の優勝祝いに付き合わされて飲み慣れないロゼ飲んで頭が痛かったのなんの
赤さん優勝おめでとうございます
ロゼはなー意外とワインって14-15度あるからなー
結構な量呑んでても気づかないんですよね

>>899
いつも済まないねえ……

>借金してお店を持った幼女、お店が焼き払われ偶然再会したお武家さまに買われたでござる
ドラマチックが止まらない!

>…流琉が呪いをかけられちゃったね、これはいざと言うときは自分の命を捨てて二郎を守りますわ
不惜身命がこれほど似合う子もいないでしょうきっと

>凡人、落ちるモノを必死ですくいあげる
割と必死でした

>世紀末の態ですな。私はSHOCKです
実際三国志ってときはまさに世紀末ですからねえ
官渡のアレが199年ですしおすし

今日は疲れたので呑んでまったりします
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/21(金) 08:52:59.39 ID:A3wvGWks0
世紀末・・・SHOCK・・・暗殺拳伝承者
902 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/21(金) 22:24:45.79 ID:F7MJcguRo
>>901
空気の澱んだ街角で出会ってしまったからね、仕方ないね

西暦で言うと180年の末くらいだからね

they are living 80年代って感じですよね
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 01:19:34.28 ID:A6wEDM0Po
二世紀末救世主伝説 乙でした(以下配役)

ケンシロー:二郎
燐:美羽
ボールの棒:流琉
朱鷺:凪
花の冠:星
八鼻:恋
904 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2016/10/23(日) 22:52:10.98 ID:2kGOrUlA0

乙です。

長文書く時間無いので

二郎さんの男気に拍手。 メシウマが妻や娘だと、ガチで生活に張り出ます (実話)
『冷めても美味い』
を素で出来るてどんだけ 凄いのよ。という。

ただ暖を取る為に屋台に放火?
絶対どこかの思惑が介入している(偏見と憶測) そろそろ二郎さん専用の 諜報組織がいると思うのですが。
つか伏龍鳳雛が遊んでいるから拉致って来たら? (物騒発言)


理想は孫から猫スキーか 甘のネキを引き抜けたらなあ……

905 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/24(月) 22:55:41.20 ID:IcEpkHq9o
>>903
く、花の冠のネタが分からん!

>ケンシロー:二郎
あっさりシンにヒロイン奪われるくらいの武力に納得

>燐:美羽
ロリ

>ボールの棒:流琉
バットですね分かりますんw

>朱鷺:凪
ジョインジョインナギィ

>八鼻:恋
とりあえずラ王枠かな?

>>904
> メシウマが妻や娘だと、ガチで生活に張り出ます (実話)
ほほう・・

>ただ暖を取る為に屋台に放火?
いや、これ普通にあることだと思うんですけど
あったと思うんですけど
少なくとも治安悪いとこならそんなもんですと思ってます
治安悪いってのはそういうことだと思ってます

>そろそろ二郎さん専用の 諜報組織がいると思うのですが。
まずは軍師が必要だと思います(ガチ)

>つか伏龍鳳雛が遊んでいるから拉致って来たら? (物騒発言)
荊州を目指そう!
906 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/24(月) 22:59:08.63 ID:IcEpkHq9o
「よっし。追いついたな」

馬上の俺と流琉である。
流琉を膝の上に乗せ、愛馬烈風を急がせる。

流琉の借金を肩代わりするのに一悶着あったり、途中盗賊に襲われてる隊商を助けたりとそれなりにいろいろあった。
立ち回りもそれなりにあったのだ。そして確信した。うん、流琉って俺より素で強いわ。ガチで。
流石は悪来典韋である。悪来の異名は伊達じゃない!
史実で曹操のメイン盾は格が違ったです。マジで。膂力があれば人は空を飛べるのだと知った俺でした。えへへ、と笑う流琉に戦慄したのは一度や二度ではない。
まあ、その笑顔が可愛いからよしとした俺なのである。
うむ。やはり幼子(おさなご)はこうでないと。

◆◆◆
907 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/24(月) 22:59:35.20 ID:IcEpkHq9o
そんなこんなもあったけど……概ね順調に旅は進み、袁家ご一行に追いついたのだ。
うん、想定より早く追いついたなあ。
流石は白蓮だ。とある伝手を頼って譲ってもらったらガチの名馬だったでござる。汗血馬と白蓮秘蔵の駿馬との間に生まれた最高傑作、とのこと。
あと、特筆すねきなのだが、気質が人懐っこく乗り手を選ばないのだ。
うむ。俺にぴったりだな!乗り手を選ぶ悍馬とか乗りこなせないし!乗りこなせなかったし!いや、毎日お世話とかできるわけじゃないしね、器でもないしね。
動物に無駄に好かれるとかそういう特性とかはなかったし。まあ、しゃあないしゃあない。
烈風、頼りにしとるからねー。

警備兵が近づいてくるが、流石俺だ、顔パスである。流琉を見て数瞬訝しげな顔をするが概ねスルーされる。
うむ、任務ご苦労。お偉いさんムーブも慣れたものである。

「うわぁ、二郎様ってほんとに偉い方だったんですね」
「何だよ、疑ってたのか?」
「いえ、そんなことはないんですけど、改めてすごいんだな、って」

流琉があちこちきょろきょろしながら言う。可愛いのう。
くしゃ、と頭を撫でてやると嬉しそうに目を細め、頬を俺に擦り付けてくる。
随分と甘えんぼさんになったものだ。まあ、この年頃ならこんなもんか?
下馬する俺たちに声がかけられる。

「あららー、その子はどうしたんですかー?」

出迎えてくれたのは、声の主は七乃である。意外や意外。である。

「んー。……拾った」

七乃の問いに端的に答えて流琉を前に押し出す。一から十まで説明するのもめんどくさいし、説明はシンプルな方がいいよね。

「あ、あの!典韋といいます!
 二郎様にお仕えすることになりました!」

ぺこり、と頭を下げる流琉。
七乃はくすり、とほほ笑んで。

「はいはーい、よろしくですね。
 てきとーに頑張ってくださいねー」

にこにこと笑う七乃。ちら、と俺に流し目を一つ、艶っぽく。が、何か背筋に冷たいものが走った気がする。するのだが……なんで?
それとも、これ気のせいかな?きっとそうだよね。俺に限ってそんなもんを感じる能力があるわけないし。

「それで、美羽様にも?」
「ん、この足で紹介しとこうと思ってるんだが」

くすり、と笑みを深める七乃である。ちょっと、思わせぶりすぎて怖いんですけど。

「はいはーい、ではあちらへどうぞー」

馬車へと七乃の誘導に従う。

「袁術様は俺がお仕えする主だ」
「えっと、二郎様のご主人様ってことですよね」
「そうだな」

深く頷く。こういう順法意識というのはこの末法の世で貴重なものだと認識する。

「二郎様は私のご主人様だから……。
 ご主人様のご主人様はご主人様も同然!
 ってことですよね?」
「……お、おう」

間違ってない。
間違ってないよな?
まあ、どっちかっていうともっとフランクに仲良くなってくれたらいいなとも思うのだ。同年代だしね。
908 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/24(月) 23:05:07.46 ID:IcEpkHq9o
「二郎、遅かったではないか」
「いや、これでも結構頑張ったんすよ」

どことなく不機嫌な美羽様である。
どうしたんだろうね。

「まあ、よい、さっさと馬車に乗るのじゃ」

そう言って踵を返そうとする。

「あ、美羽様」
「なんじゃ?」
「新しく俺んとこに来た典韋です。
 ごあいさつを、と」

その言葉に振り返った美羽様はこれまたお機嫌麗しくない。有体に言うとめっちゃ不機嫌オーラがあふれている。あら珍しい。
どしたんだろね。

「典韋といいます!
 精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「うむ、努めよ」

そう言って馬車に歩を進める。

「ん、流琉は烈風の世話を頼むわ」
「はい!分かりました!」

流琉が手持無沙汰にならんように指示を下して馬車に乗り込む。

「何じゃあの女は」

そんな俺に美羽様が機嫌の悪そうな声をかけてくる。

「ん、前言った知り合いですよ。
 路頭に困ってたから引き取りました」

俺の答えに柳眉を逆立てる美羽様である。何故だ。

「何じゃ何じゃ二郎はそんなにあの女が大事か」
「んー、まあ、大事っつうか、ほっとけないというか」
「むー」

何でこんなに機嫌悪いの?
七乃の方に目をやると。
駄目だこりゃ。
機嫌悪そうな、っつうか悪い美羽様をうっとりと見つめてる。

「まあ、義を見てせざるは勇無きなりっつうことで」
「二郎はいつだってそうじゃ。口ばかり達者じゃ」

んー。
なんだかいつもより美羽様ご機嫌斜めである。解せぬ。
こういう時は一時的接触に限るのだ。
七乃の膝の上の美羽様を抱え込む。
七乃に縋り付くのをべり、と引きはがして抱きしめる。こっちを向かせて……こつん、と額を合わせる。

「美羽様、ただいま戻りました」
「……うう、知らん知らん。
 二郎のあほー」

じたばたと暴れる美羽様を優しく抱きしめてやる。
ちっちゃい子はとにかく抱きしめるに限る。
というのは某麗羽様とか二枚看板を相手にした上での経験則である。

つーか七乃もちっとはフォローしてくれよ。
そんな視線を向けると、にっこりと拒絶してきた。
楽しそうですね。

「ほんと、二郎さんといると退屈しませんねー」

それ、褒めてないのは流石にわかるぞ。
……解せぬ。

実際世の中不可解なことばかりだなあと思いながら美羽様をわしゃわしゃ、といじくりまわす俺なのであった。
909 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/24(月) 23:06:26.97 ID:IcEpkHq9o
本日ここまですー

感想とかくだしあー


題名大募集
今回の〜プランです

いやあ、本当にちっちゃい子が拗ねるとかなんでかよくわからないですね
910 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/24(月) 23:36:02.05 ID:ZegUFfNOo
乙です
911 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 00:18:02.14 ID:pr1y615uo

美羽様嫉妬可愛い(挨拶)
二郎(下半身、桃もそうだが)みたいな魅力高い人って共通して変に鈍いところがあるな

花の冠:ひつきぼしの水鳥の握りこぶしの口伝者。義の星の男。“胸の7つの傷の男のため”まで(に)追って一族を殺されて、彼の奪い去った妹の行方に。
多分ハワイでの花の首・頭飾りからの訳と思われww
星「teme鰓の血のすこしどんな色――――!!」
912 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 08:35:33.79 ID:NWuFqt7jO
乙っすー

美羽様の嫉妬きゃわわ
七乃さんは流琉を拾うことになった顛末(夜を含む)
張家の人たちから聞いてそう

私の中で張家の人達がスーパー集団になっていってる気がするww

タイトル案「ガール・ミーツ・ガール」
913 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/26(水) 21:52:29.53 ID:KxzbLEA7o
>>911
>美羽様嫉妬可愛い(挨拶)
出張にいったパパが知らん娘連れて帰ってきた的な嫉妬ムーブ
これは可愛い(確信)

>変に鈍いところがあるな
メタ視点で自覚がないのが二郎ちゃん
自覚してるのかよくわからないのが一刀さん
確信しているであろう桃ちゃん

>花の冠:ひつきぼしの水鳥の握りこぶしの口伝者。義の星の男。“胸の7つの傷の男のため”まで(に)追って一族を殺されて、彼の奪い去った妹の行方に。
ああ、なるほどですね

>星「teme鰓の血のすこしどんな色――――!!」
いったいどうやったらこういう言霊を生産できるのかと思うのですよ
正直この言語センスには嫉妬を感じざるを得ない

>>912
>美羽様の嫉妬きゃわわ
泣いても拗ねても起こっても笑っても可愛い美羽様マジ天使

>七乃さんは
どっちかっていうと七乃さんは護衛対象が勝手な行動したことにお怒りなのですよね
そして張家の情報網は袁家領内でこそ真価を発揮するので・・・・

何も考えないで烈風号を走らす二郎ちゃんの、小さくなる背中を見て絶望な張家末端諜報員の明日はどっちだ!
的なw
914 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/27(木) 09:08:45.21 ID:TBAMcE0v0
乙でしたー
>>907
>>あと、特筆すねきなのだが、気質が人懐っこく乗り手を選ばないのだ。
○あと、特筆すべきなのが、気質が人懐っこく乗り手を選ばないことだ。 の方がいいと思います

【凡人、小さき主の嫉妬をなだめる】美羽様可愛いのう。七乃から引きはがされて額合わせたところとか最高だね!
915 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/27(木) 21:43:52.43 ID:rlGcufOIo
web恋姫、今年の四月にサービス終了してたと知ってちょっとショック
あれで月●0万円とかつぎ込んだ人とか知ってたからさあ……
私もかなりの時間を費やしたものでした
いや、何かログインできなくなって辞めたんですけどね?
七星剣を呉れた方には感謝です

>>914
うわー、今回も中々致命的な誤字ですね
いや、ありがとうございます。

>美羽様可愛いのう。七乃から引きはがされて額合わせたところとか最高だね!
美羽様がこんなに可愛いのはなんでなんだぜ
可愛いが正義だとしたら美羽様は大正義やねえ……
そら七乃さんも転ぶわ
916 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/31(月) 22:25:59.91 ID:pPSs7udvo
「はあ……」

盛大にため息を洩らしながら書類を決裁している人物。彼の名は張紘。母流龍九商会を取り仕切るVIPである。

「おやおや、どうにもお疲れのご様子、と。茶でも淹れてくるさ」

くすり、と小さく笑いながら問いかけるのは赤楽。
張紘の秘書兼護衛兼情人――本人曰く――である。

「ああ、頼む。ちょいと……ああ、疲れちまった」

大きく伸びをする張紘。彼の面前には積まれた書類が鎮座している。それを毎日片づけるというのは最早偉業に近い。それを知るどこぞの武家の跡取りは菓子やら酒やら珍味やらを送りつけてくるのだが。
もうちょっと違う形で貢献すればいいのにというのが赤楽の正直な感想だが、愚痴一つくらいで眼前の懸案に向かい合う張紘の顔を見たら何も言えないのである。
惚れた弱み、という奴だ。

「ふふ、張紘がそこまで疲れるのは久しぶりだな」
「んー、そだなあ。実際二郎がさ。長期にいないからってさ。あちこちからちょっかいがひどくて、な」

……母流龍九商会の総帥は紀霊である。彼が不在の間は大局的な判断も張紘の役目となる。
無論、重要案件については書簡にて相談もするが、一々確認していられないのが現状だ。
いつの時代でもレスポンスが早いにこしたことはないのである。
無論張紘には全権が委任されているし、その決定に異を挟むものはいないだろう。だが、それだけに感じるプレッシャーというものがあるのである。
これまでの不在については一時的なものとしていたが、今回はひょっとしたら長期にわたるかもしれない。その展望から目を反らすことができるほど張紘は無責任ではない。
だからこそ、肩が凝る。胃も痛む。
赤楽の淹れた茶をすすりながらため息を一つ洩らす。

「はあ……」

どちらかと言えば後ろ向きなその声音に赤楽は問う。
どうしたんだ、と。

「いや、二郎っていつもへらへらしてるじゃねえか。でもさ。あいつもこんな重圧をいつも感じてるのかなって。
 だったらすごいなあ、ってさ。
 正直おいらにゃしんどいなあ」
「ふふ、張紘以外に勤まる人なんていないだろう」
「そんなことねえよ。魯粛でも虞翻でも、顧雍だっているさ」

それにお前もな、とは言わない。

「それぞれ傑物ではあるな。だが魯粛は後先考えない節があるし虞翻は四角四面だ。顧雍は汚れ仕事ができないだろう。
 ああ、一応言っておくがな。私には致命的にやる気がない」
「できないとは言わないんだな」

張紘の言葉に赤楽はにんまりと笑みを深める。
そんな二人に声がかけられる。

「張紘殿、田豊様がおいでです」

うげ、という声。その、漏らした声に楽進は首をかしげる。

「お召しを散々逃げ回ったからな、いよいよご本人ご出馬、ということだろうさ」
「ああ、二郎め、こんな時にいないんだもんなあ」
「いないからだろうよ」

頭を抱える張紘を室から追い出して赤楽はくすくすと笑う。

「あの、どうされたんでしょうか」
「ああ、貴殿は別に悪くないぞ。田豊様も単に予算の消化に困ったからこっちに丸投げしにきただけだろうからな。
 やれやれ、さ。人使いが荒いのは、あのお気楽な殿御だけかと思っていたがな。どうやらお家芸らしい。
 ……さて、明日から忙しくなるな」
「は、はあ……」

まったく理解が追い付いていないな、と赤楽は内心苦笑する。

「貴殿にも、相当働いてもらうことになると思うぞ?」
「は!承知しました!」

しゃちほこばる楽進に茶を淹れるように指示し、未決済の案件に必要な経費を算出していく。

「まあ、金がなくて何もできないよりは金に埋もれて苦しむ方がましだろうさ」

くすり、と笑みを漏らす。だが、仕事に追われて張紘が仕事に拘束されるのは本意ではないのだ。これで赤楽は意外と内助の人である。
想い人がぐったりとした様子で帰還するまで、赤楽は無心に眼前の書類を片付けていくのだった。
917 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/31(月) 22:26:28.15 ID:pPSs7udvo
◆◆◆

白髪の老人――ただ者でないのが傍目にも分かる――が建物から出る。その気迫は裂帛にして軒昂。
……何かいいことでもあったのだろうか、非常に満足そうな顔をしている。それ見送る青年は逆に憔悴した様子である。
老人を見送って建物に入ろうとした青年に声をかける。

「あの〜すみません〜、ちょっとお尋ねしたいのですが〜」

声をかけたのは蜂蜜色の髪を長く伸ばした少女。その双眸は眠たげに半分閉じられており、その真意を窺うことができない。
のんびりとした声音は警戒心を解くような、それでいてさりげないもの。陽だまりのようなそれはささくれだった張紘に染み渡る。

「ん?おいらになんか用か?」
「ええ〜。紀霊、という方にお会いしたいのですが〜」
「んー、誰かの紹介とかか?」
「いえ〜、そういった類のものは全く持ち合わせてませんね〜」

ふむ、と軽く考え込み張紘がこちらを見やる。その値踏みするような視線に彼女は特に反応を示さない。ただ、その視線をぼんやりと受け止める。あくまで、眠たげに。
そして彼女の名は……。

「ああ、いけませんね〜。申し遅れました〜。
程立と申します〜」
「ふむ、程立さんか。おいらは張紘だ。んでお求めの紀霊はさ。申し訳ないが紹介はできないな。
 いや、ちょっと……出かけてるからなんだけどな」
「お待ちいたしますが〜」

即座の応答に張紘は戸惑う。中々に腹が据わっている。だが今日明日という話ではないから、その覚悟も無意味になってしまうのをどこか申訳なく思う。

「いや、ちょっとな……。これは内々にしてほしいんだが。あいつ洛陽まで行ってるんだ。だから今日明日に帰ってくることはない」

張紘が放つ渾身の御断り文句であった。

「あらら〜これはご縁がないのかもしれませんね〜」
「まあ、残念だけどそういうことだ」
「では、こちらで何かお仕事を頂きたいのです〜。 
 少々路銀が乏しくてですね〜」

相変わらずに眠たげな表情。その表情を変えずに程立が言う。
ふむ、そういうことなら。と張紘が考え込む。

「程立と言ったか。読み書きは?」
「農徳新書を諳(そら)んじるくらいには不自由ありませんね〜。
 算術も少々修めております〜」

その言葉に張紘は目を丸くする。渡りに船とはこういうことだろうか。

「よし分かった。母流龍九商会で雇おう。仕事内容は……一緒に考えるか」
「了解です〜」

まあいいか、と程立はあっさりと妥協する。
どっちみち路銀は必要であるし、この張紘という青年は紀霊に近しそうだ。あの白髪の老人は只ならぬ雰囲気を漂わせていた。彼を見送る張紘はきっとこの商会でも上の人物だ。であれば総帥たる紀霊との人脈としては申し分ないだろう。
まあ、そんな自分の思惑くらいは読まれているだろうがそれも問題ない。

「くふふ、楽しくなってきました〜」

そんな余裕の彼女が阿鼻叫喚の予算編成に巻き込まれるまでは一刻の猶予が残されていた。
それでも、彼女は自分のペースを崩すことはなかったのだが。

呈立。
太極を修め、大局を図る彼女が中華の歴史に介入するには幾許かの時と、少しの運と偶然が介する出会いが必要となる。
そしてそれは歴史という名の大河がその流れを奔流とするのと時を同じくすることになるのである。
918 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/10/31(月) 22:30:10.89 ID:pPSs7udvo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

スパロボにヒュッケバインが復活すると聞いて購入を決心しました
※ガンダムさんに似ているから滅っ!された機体なのです

今回のタイトルは「義兄弟の比較的平穏な一日」かな

今一つ決まらんので募集いたしまするるる

張紘と赤楽さんは書いてて楽しいんだけど、ほっといたらずっとイチャイチャしてて困る
919 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/31(月) 22:35:16.26 ID:R5yDmZ520

来た!メイン軍師来た!これで勝つる!(まだ早かった)
赤楽さんの回はほのぼのしていて大好きですねぇ、風もほのぼのしてますけど
この何気ないイチャイチャ見てて楽しいです
920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/31(月) 23:00:29.00 ID:wsmckTMGo
乙です
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/01(火) 00:24:54.07 ID:5QYjsprOO
乙したー
タイトル案は「風雲未だ急を告げず」

むしろ張紘と赤楽はもっとイチャついても良いと思うの

>>919
やっぱ書いてる奴居たか(メイン軍師)
922 :372 [sagesaga]:2016/11/01(火) 09:01:22.07 ID:YnZjzHNA0
乙乙。

小さな子にとって、異分子の混入って自分の大事な物を取られるor取られた思考するからなあ。

馬の話は書きためてますが、投下の暇ががが(業務連絡)

この手の嫉妬なら、移動中常に一緒で大抵は治まる。と思うけど……
>袁術様


田豊様久々。
というか、祖濡さんの予算案を内々に摺り合わせに来た?

赤楽さんマジ有能。
張紘さん。絶対手離したら駄目。
大人の恋愛してる赤楽さんが良い。



軍師(候補)来たよ。
荊州に拉致りに行かなくて済んだ(物騒発言)


疑問。張勲さんと赤楽さんが対峙したらどうなる?
空気が凍るだけで済むか?

923 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/01(火) 11:14:58.97 ID:yOp7FN6v0
乙でしたー
>>916
>>母流龍九商会を取り仕切るVIPである。 >>147で そんかしカタカナ表記は封じておりまするとありますので(私の中では二郎ちゃん視点の場合は別枠にしてますが)
○母流龍九商会を取り仕切る要人である。  もしくは 母流龍九商会を取り仕切る大物である。  或いは(趣味) 母流龍九商会を取り仕切る紀霊の懐刀である。  VIPは・・・直訳すると要人ですね
>>いつの時代でもレスポンスが早いにこしたことはないのである。  レスポンス(反応、応答、返答、返信、回答)大体こういう意味らしいので
○いつの時代でも対応が早いに越したことはないのである。  でどうでしょう
>>だが、それだけに感じるプレッシャーというものがあるのである。
○だが、それだけに感じる重圧感というものがあるのである。  もしくは だが、それだけに感じる重みというものがあるのである。  でどうでしょう
>>917
>>呈立。  (下から3行目)
○程立。

【母流龍九商会の平凡な激務】【母流龍九商会の激動な日常】
たしか前にカタカナは使わないとか言ってたような…とパラ読みしました。
二郎ちゃんは凡人ですから彼を支える天才のおかげでこれだけの影響力を持てるんですよねえ
そしてまた一人支柱になってくれそうな人が来ましたねえwkwk
924 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/01(火) 21:59:51.87 ID:FPKai/Xko
>>919
>!(まだ早かった)
サラマンダーより速ぁい!

>赤楽さんの回はほのぼのしていて大好きですねぇ
出すとさりげなく自己主張してくるのです

>>921
>タイトル案は「風雲未だ急を告げず」
うわめっちゃかっこいい
今回じゃなくてもどっかで使います!

>むしろ張紘と赤楽はもっとイチャついても良いと思うの
行商しながら狼と香辛料をやる案もありましたw

>>922
>小さな子にとって、異分子の混入って自分の大事な物を取られるor取られた思考するからなあ。
そこがいいと言う人とうっとおしいなあと思う人とに分かれるのですが、美羽様は可愛いので問題ないです

>馬の話は書きためてますが、投下の暇ががが(業務連絡)
ある時払いで結構ですともw
リアルだいじに!

>この手の嫉妬なら、移動中常に一緒で大抵は治まる。と思うけど……
と、思うじゃん?(言いたかっただけです)
ただちに影響はない

>赤楽さんマジ有能。
実際有能です

>荊州に拉致りに行かなくて済んだ(物騒発言)
それはそれとして有能な人材はいくらいても困りませんからw

>疑問。張勲さんと赤楽さんが対峙したらどうなる?
対峙することがなさそなのでなんとも
ガチでやり合うとしたら、直接会うまでに片を付けようとするでしょうし

ガチでやり合ったら?
七乃さんが辛勝して一発逆転を狙って赤楽さんが闇討ちに向かうも包囲されて万事休す
そこからまさかの包囲網を殲滅するも七乃さんは既に逃走済……とかが浮かびましたが
まあ、美羽様と張紘君がガチでやり合うことにならない限り実現しない対戦カードですねえ

>>923
赤ペン先生いつもありがとうございます

カタカナ表記やっちゃったですね。ご指摘感謝です

>二郎ちゃんは凡人ですから彼を支える天才のおかげでこれだけの影響力を持てるんですよねえ
地盤看板鞄なしにはこの物語は成り立ちませんし、張紘君は実際チートじみた能力値です。内政全振りですが

チート主人公とか書いてみたいけど向いていない気がします
まあ、次回作の前にさっさと完結させねば……
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/01(火) 22:56:57.68 ID:zVc+7BRk0
赤楽さんやっぱり凄いなぁ...本気で護衛するときがいつか来たらその時だけ武力と知略99になりそう(小並感)
昔みたいなKOKE基準の奴を次スレ建てたときのあまりの時にでもリライト基準で見てみたかったり
926 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/03(木) 22:40:14.85 ID:GoEM/WNFo
>>925
>赤楽さんやっぱり凄いなぁ...本気で護衛するときがいつか来たらその時だけ武力と知略99になりそう(小並感)
その時だけとか言ったらなんか三尖刀みたいに代償がありそうですよw
なお、そのような事態にならないように張紘君を支えている内助の人なのです
メイン業務は張紘君の愚痴を聞くこと。これガチで重要なのは分かる人にはわかる。そして張紘君は当然ドはまり。

>昔みたいなKOKE基準の奴
一部、どこかの誰かのスレで公開してますが、変動はあまりないですね
能力値とか、スキルとかは敢えて公開してなかったのですが、やっぱ皆さま見たいのですかねえ。
927 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/03(木) 22:42:07.19 ID:GoEM/WNFo
さて、洛陽にもうすぐ到着の袁家ご一行である。
うん、途中野盗が襲撃してきたり美羽様が拗ねたり甘えてきたりそれを七乃がうっとりしながら見つめてたり。
麗羽様が幽鬼を見たり斗詩が食あたりをおこしたり猪々子の馬が逃げ出したり。
あ、流琉はずっと一生懸命働いてたな。
以上、それなりに色々あったのよ。

「また来ちゃったか、この魔都に」

伏魔殿には近づかないようにしようと誓った俺なのに、である。ああ、やだやだ。
現実と戦うために気力を溜めてた俺に猪々子が声をかけてくる。

「アニキー、なんか、お出迎えだってさー」

前方を見ると、百騎ほどの騎兵……それも一目でわかる精鋭が一糸乱れぬ動きでこちらに近づいてくる。
それを先頭で率いるのは例によって女子である。もう慣れた。
女性が参画する社会。いやあ、実に結構なことであると思うよ。

で、掲げられてるのは馬の旗。ああ、馬騰さんの配下か。

麗羽様と美羽様にお出迎えの口上を述べてる。
美羽様よりは年上だろうか。元気な眉毛が印象的な女の子だ。
口上を述べた後、馬家軍に周囲を守られ、洛陽へと進む。

俺は烈風に跨りながら袁家ご一行を先導する。猪々子と斗詩が左右に続き、麗羽様、美羽様を七乃が後ろでフォローする。儀礼的な装束が窮屈だが致し方なしとのこと。
洛陽に袁家が入るとなるとこんくらいのことはせんといかんのであろうなあ。
と、猪々子が問いかけてくる。

「なー、アニキー、ここまでしないといけないもんなのか?」

心底面倒そうな猪々子に内心同意なのではあるのです。でもね。

「あー、実は袁家って相当期待されてるのよ」
「んー、どゆこと?」

さっぱりわからんとばかりに問う猪々子。まあいいか。応えてやるのが世の情けというものである。

「洛陽は漢王朝の首都だからして、士大夫の数がとても多い。
 んで、士大夫層は大体宦官の専横に憤ってる」
「まあ、そりゃそうだよなー」
「だが、そのにっくき宦官。その政敵たる何進も士大夫全体の支持を取り付けてはいないのが現状だ」
「えー、なんでー?」

こっからは色々とややこしいんだが、あえて問題を簡略化する。

「その出自が庶人、だからだな。
 肉屋の倅と蔑む奴も多い」
「へー、そんなもんかねー」
「そんなもんなんだよ」

不思議そうにする猪々子。むしろそんな反応こそが希少なのである。ふぁっきん儒教だ。
実際「あの」曹操を推挙しようとしているのも儒の影響力を削ごうという意図も大きい。誰にも言ってないけど。曹操はガチで法家だからな。

「だから名門たる袁家に期待してるってことだな」
「ふーん」

なんとなく不満げな猪々子だ。おや珍しい。

「どしたの」
「なーんかむかつくよなー、って」
「ほう。
……というと?」

むむむ。と唸りながらも猪々子は自分の思いを形にしようとする。やっべ、可愛い。

「うーん、上手く言えないけどさ。
 自分らじゃ何もしない癖に出自で嫌ったり期待したりさ。一体何様のつもりなんだろ、と思ってさ」

猪々子のこの感性は貴重なものだ。名家と言われる袁家の武家筆頭たる文家当主がこういう意識を持っているというのはありがたい。
……まあ、文家は過酷なほどに実力主義らしいからそうなるのかもしらんが。
くしゃり、と猪々子の頭を軽く撫でる。目を細めて嬉しそうにする猪々子。

「猪々子は賢いな。
 それは、その感じは正しいものさ。頼りにしてるぜ」
「えへへ、よく分かんないけど分かった!」

薄い胸を精一杯張る猪々子に目を細めていると、馬家の使者がこちらに寄ってくるのが目に入る。軽く身構える猪々子を視線で抑える。
928 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/03(木) 22:42:53.67 ID:GoEM/WNFo
「貴方が紀霊さんでいいの?」
「おうよ。紀家次期当主の紀霊だ」
「いっけない、こちらから名乗るのが筋だよね。馬岱、馬騰叔父様の姪、かな?」
「そりゃどうも」

なるほど、使者は馬岱だったか。うん、改めて見ると活発そうな女の子だ。美少女と言っても文句は出ないだろう。
だが、その口から出たのは驚くべき台詞だった。

「なるほどね、叔父様に認められるわけだ。お姉さまの許嫁なだけあるね。うん、雰囲気あるなー」
「な!」

これは流石に予想外の……。つか、それはマズイって。
咳き込んでしまう俺に四方からくる、この重圧は!なんだ!

「二郎さん?どういうことなのかしら?」

うん。
項羽が味わったという四面楚歌。俺以上に共感できる奴はいないね。

「ちょっと待て。本当に待て。いや待ってくださいというかおかしいだろ!」

断固抗議する俺の反応に合わせて……あ、この笑顔愉快犯だ。見たことある。俺はくわしいんだ。

「えー、何でそんなに狼狽えてるのかわかんなーい。
 あ、お姉さまの将来の旦那様だから、たんぽぽって読んでね。真名だよ?」
「おい人の話を聞けよ聞いて下さいお願いします」
「わたくしも聞きたいですわね」
929 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/03(木) 22:43:50.44 ID:GoEM/WNFo
ちょっと待って。凍り付く空気待って。
ほんと一番ややこしいことになる人が聞いてた案件どうしよう。ちょっと待って。

「ええと、ご説明というか、説明というか、あのですね」

元凶に視線を移すと……心底楽しそうな馬岱。蒲公英だっけか。
こいつは、あれだ。小悪魔というか、人をおちょくって楽しむタイプの人間だ。
口に手を当てほくそ笑む表情を隠してる、つもりかこのやろうばかやろう。
だがまずは麗羽様のお機嫌を!

「いや、馬騰さんの冗談というか軽口というか」
「えー、叔父様武辺者だから冗談とか言わないよー」

お前は黙ってろこんちくしょう。ばかやろうこのやろう。

「いや、あの場には何進大将軍もいらっしゃっていつになく上機嫌で、だな」
「うんうん、何進大将軍も笑って賛意を示してたって、叔父様言ってたなあ」

やめて!俺のライフはもうゼロどころかマイナスよ!

「二郎さん?後で詳しく、ええ、詳しくお話を伺いたいのですけれど?」
「れ、麗羽様……ご、誤解ですってば」
「く、わ、し、く!お話を伺いたいのですけれど?」
「う、承りました……」

なんだろう、やましいところなんてないのに何で俺はこんなに追い詰められてるの?
くそう。世界はいつだってこんなはずじゃなかったことばかりだ。
何で味方のはずの馬家に背中から刺されないといかんのだ。
ぐちぐちと思考が負のスパイラルである。くそう。

「ごめんなさいねー、思ったより深刻だったー?」
「ふざけるなこのやろうばかやろう」

てへり、といった風の馬岱に猛抗議をする。

「たんぽぽ頭悪いからよくわかんなーい」
「あのなあ、本当に怒るぞ」
「きゃーこわーい」

はしゃぐ馬岱に脱力してしまう。狙ってやってるのなら大したもんだ。
先ほどの爆弾発言とは違って周囲の人物には聞こえない程度の音量でふざける。
……確信的にふざけてると判断する。

「一応言っとくけど割と洒落にならない事態になってるからな」

おそらく多分。きっとメイビー。

「えー、そんなわけないでしょー。
 有力な武家の次期当主に名家の令嬢との縁談なんてひっきりなしに決まって……。
 って。
 ええと、そういえば袁家の要人って女子ばかりだったような……」

目と目で通じ合った。

「え、ええ?たんぽぽそんな気はなかったのごめんなさーい!」
「だが許さぬ。お前の冗談はそういうことだ。これは馬騰殿にも委細報告するからな」
「え、ええ?たんぽぽそんな気はなかったのごめんなさーい!」
「時すでに遅し。それが嫌なら関係各所にきっちり説明してもらおうか」
「……はーい。うう、ちょっとした冗談だったのになー。
 っていうかー。わりかし冗談でもなかったんだけどなー」

マジか。マジなんだろうな。縁談とかマジで勘弁願いたい。火種がマッハでスパークだ。
これはいけません……。
ま、まあ。初っ端に警告を受けたということにしようそうしよう。いや、何進のことだからガチでそういう仕込みかもしらん。
これは火消しに走らないといけませんねえ……。いや、マジで。

俺ってば今回は単なるお伴、おつき、おまけでしかなかったはずなのになあ。くそ、なんて時代だ!
などと現実逃避を続ける俺なのであった。
930 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/03(木) 22:47:03.37 ID:GoEM/WNFo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

いやあ、蒲公英はダンディライオンでしたね。そこにいましたか。

タイトルは「凡人と馬家二の姫」或いは「凡人と、今そこにある危機」
今一つなのでまたまたまた募集しますよろしくお願いいたしますマジで
931 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 23:31:05.94 ID:3z+iK/dno
乙です
932 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/04(金) 12:57:39.45 ID:diObAo5EO
乙したー
れーは様くっそカワイイんじゃ〜^

グランパス・・・
933 :372 [sagesaga]:2016/11/04(金) 21:08:18.56 ID:yHYrUuZA0
乙です

麗羽様が幽鬼を見たり斗詩が食あたりをおこしたり

……何があったんだ?


つか、袁紹様が自分の本心に気付いたwww
善きかな。
洛陽では袁家の繋がり欲しさに有象無象が紀霊さんに縁談用意してるだろーなー。


しかし、馬岱が出迎えねぇ。
しかも、当主袁紹を差し置いて紀霊さんに挨拶とは……

馬超が来ると思ったのだが。


……ぬう。
934 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/05(土) 09:55:30.08 ID:aylz/6fn0
乙でしたー
>>927
>>さっぱりわからんとばかりに問う猪々子。まあいいか。応えてやるのが世の情けというものである。  問答と言いますので
○さっぱりわからんとばかりに問う猪々子。まあいいか。答えてやるのが世の情けというものである。  の方がいいと思います
>>929
>>だがまずは麗羽様のお機嫌を!  テンパってる描写ならアリですが
○だがまずは麗羽様のご機嫌を!  ご機嫌麗しゅう。のように機嫌を丁寧にする場合はご機嫌(御機嫌)ですね

袁紹様には>>927で出迎えの口上を述べてるので対外的には問題ないですね、あと姉の婚約者()ですから声をかけるのも間違っていない、と
【凡人、魔都にて孤立する】・・・【凡人、魔都にて味方を失い危機に陥る】嘘は言わない方向でこんなのどうでしょう?
ついに到着。これで後は何進と話を付けて肩を組めば・・・勝ったな。風呂入ってくる
935 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:18:53.02 ID:RmNixGYDo
>>932
麗羽様の可愛さは三千世界に響き渡るでぇ……
嫉妬しても可愛いのは美羽様とも通じるところな大正義ですね

鯱さんはね……
小倉監督の時点で「えらい博打やなぁ」とは思いましたが
人件費削減が前提な時点でアレでしたね
積極的な投資がないとやっぱりアカンのだと思います

>>933
>……何があったんだ?
多分凡将伝がドラマCDとかになったら購入特典にそのお話が収録されるでしょうw
まあ、オバケ騒ぎについてはアニメのエピソードに準ずるのではないかなあと

>洛陽では袁家の繋がり欲しさに有象無象が紀霊さんに縁談用意してるだろーなー。
そらそうですよねw

馬超さんの出番はもちっと待ってね

>>934
うむ。完封ならず。いつもお世話になりまして大変ありがとうございます。
ごもっともなご指摘ありがとうございます。あっちの時に反映させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。げへへ。

>【凡人、魔都にて孤立する】
これは違うとこで使えるかもですね。ありがとうございます

>・・・勝ったな。風呂入ってくる
フラグ建築ありがとうございますw
936 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:30:14.00 ID:RmNixGYDo
さて。洛陽に到着した袁家ご一行である。歓迎の宴が何進主催であるのだが、それまでにしておかなければならないことがある。
逆根回しだ。
宴の場でうっかり馬騰さんなり何進大将軍が俺と馬超の婚姻の話題でも出したらそれはもう正式な打診になってしまう。
これから手を携えて十常侍と対しなければならないというのに、いきなりお断りで空気を悪くすることになりかねん。
というわけで俺はBダッシュで駆けまわったのだ。無論蒲公英こと馬岱にも同行してもらうのだ。

「ごめんなさーい、たんぽぽ先走っちゃったー」

てへり、と悪びれないこいつの神経が羨ましい。が、俺一人で事情を説明することを思うと、随分とスムーズに話は進んだ。
如才ないというか、コミュ力が凄いというか。俺が言葉に詰まるような袁家内部の事情についても適当に話を誤魔化してくれるというファインプレーを幾度も。
まあ、最初に大失策してくれやがったので差し引きゼロ評価なのだがね。
そして、何進大将軍はニヤニヤと、馬騰さんは心底残念そうに縁談については触れないことを確約してくれた。

「いやしかし残念だな。良縁だと思っていたのだが、事情がそうなら仕方あるまい。
 まあ、これで話が終わったわけではない。気が変わったらいつでも言ってくれ。馬家は君を歓迎しよう」

満面の笑みの馬騰さんに何と応えたものか。いや、むしろ俺に対するその高評価はどっからくるのだよとか思うくらいに好意的なのだ。無論、馬騰さんほどの武人に評価されるのは嬉しいんだけどさ。

「でもたんぽぽびっくりしたなあ。あんなに叔父様が入れ込んでるとは思わなかったー」

道すがらに蒲公英がしみじみと言う。俺もそう思うよ。

「何を評価してもらったのかは知らんけどな」
「でも、本当にごめんなさい!」

間髪入れずにぺこり、と頭を下げる。ぴょこんと一つにまとめた髪が跳ね上がる。
快活な彼女が心底申し訳なさそうにしていたら、それ以上なんも言えない。そして、だ。

「いや、却ってよかったかもしらん。いきなり宴席で話を振られたらどうしようもなかった」

偽らざる本音である。それに何進とか馬騰さんが袁家首脳陣に対する縁談を自粛したならば、有象無象からのそういう雑音は排除できるだろうし。

「でしょー?たんぽぽもそう思って前もって、あ痛!」
「調子に乗るなって」

なにこの子むっちゃメンタル鋼なんですけど。

「あくまで結果論だからな、そこのところを認識しといてくれ」
「はーい」
「返事はいいんだよなあ」

にひひ、と笑う蒲公英を見ていると苦笑とため息が生産される。
そんな俺の表情なんぞ関係なしに楽しそうに言葉を紡いでいくのを見ると、まあいいか、と思ってしまう。
937 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:30:42.40 ID:RmNixGYDo
「でもでもー、聞いた話がほんとならお姉さまとの婚姻は難しいって感じー?」
「んー、俺が袁家を離れるわけにはいかんしな。ま、無理だろうよ。
 馬超殿も涼州を離れることはできんだろうし」
「そうなると、本当に無理なんだー。
ちぇー、残念ー。姉さまがどんな顔して許嫁と会うのか見たかったなー」
「そいつは残念だったな」

だが、袁家と馬家の結びつきという点で考えると悪い手ではない。いや、妙手と言ってもいいだろう。
北方より絶えず侵入を繰り返す匈奴。
それを防ぐ防壁となっている袁家と馬家。この二家が組むというのは実に有意義なのである。婚姻という形は非常に有用で望ましいものである。

「残念ー。でも叔父様は二郎さまを諦めてないと思うなー」
「とは言っても現状ではどうしようもないだろうよ」

仕方ないね、と言う俺に蒲公英はにひひ、と笑う。

「そうでもないよー?」
「ん?」
「たんぽぽが嫁ぐって線もあるしー」
「ぶは!」

何を言ってるのこの子。つか、ここぞとばかりにすり寄ってくるなって。また話がややこしくなるだろうがばかやろうこうのやろう。

「お前なあ、婚姻自体がすでに難しいって言ってるだろう」
「んー、だからたんぽぽは妾でも……情婦だったいいんだよ?
 子供さえ授かっちゃえばこっちのものだしー」
「こっちってどっちだよ……
 つか、姪御を妾にとか馬騰さんが許さんだろ」

それはどうかなー、とほくそ笑む蒲公英。
つか、なんでそんなに乗り気なんだよお前は。

「えー?だってさ。お相手にはさっさと目を付けとかないとねー。
 いつ死んじゃうか分からない身だしー」

さらり、と述べた言葉に黙り込む。そう、この子もすでに匈奴と矛を交えているのだ。
自分がいかに過酷な時代に生きているか。
つい袁家領内の平和にかまけてそのことを忘れていた。

◆◆◆
938 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:31:12.38 ID:RmNixGYDo
さて、蒲公英と別れ、対外的な処理をした後はそう、内部の調整である。
その、つまり、なんだ。ため息を一つ吐いて歩を進める。
俺に気づいた侍女が声をかける。

「袁紹様、紀霊様がお見えです」
「お通ししてくださいな」

入室を許されてほっとしたよ。出入り禁止とか言われたらどうしようかと思った。

入った室。麗羽様はまあ、機嫌がよさそうには見えない。いや、むしろ悪いよ。そらそうよ。

「皆、下がりなさい」

俺が口を開くより先に麗羽様が人払いをする。まあ、みっともない言い訳やらをせんといかんからこれはありがたい。
室内には俺と麗羽様の二人っきりになる。
つーんと明後日の方向を向いている麗羽様に、さて、なんと言って声をかけたものか。

「あー、麗羽様。その、怒ってらっしゃいます?」

ちらり、とこちらを向いて口を開く。

「ど、う、し、て。ええ、どうして二郎さん。二郎さんは、わたくしが怒っていると思われるのです?」

いや、怒ってるじゃん。とも言えず。

「いえ、その、何といったものか……。
 ご、誤解なんですってば」
「聞いておりませんし知りませんわ」
「いえですからあれは先方が勝手にですね」
「自分で言ってて苦しいとは思われません?」

ぐうの音も出ない正論ではある。だが、わが身は潔白なのだからして認める訳にはいかんのですよ。

「一言もございません。
 ございませんが事実です。ほんと、馬騰殿が暴走しただけなんですってば」

ジト目で俺を見やる麗羽様。そりゃ普通はそんな話が出るってことは俺が賛同したと思うわなあ。

「んー、その、参ったな」

マジで涙目である。どうしよう。解決の糸口が見えない。

ええと、女性の機嫌を取るにはどうしたらいいんだっけか。
そうだ!プレゼント作戦だ!って麗羽様ものっそいお金持ちじゃん手に入らないものなんてほとんどないじゃん。
知りません、とばかりにまたあさっての方向を見ちゃってるし。これはお手上げ案件である。困った。
939 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:32:05.27 ID:RmNixGYDo
「ええと、その、勘弁してくださいよ。
 麗羽様にそんな冷たくされたら、ぶっちゃけた話。本当に辛いです」

ちらり、とこちらを見やる麗羽様に続けて言う。

「その、勘弁してくださったら何でも言うこと聞きますから」

もうどうにでもなーれ、の気分である。こんな針のむしろ、いっそ死ねと言われた方が気楽だ。

「今。何でも、とおっしゃいまして?」

早まったかなあ。でもこれしか思いつかんかった。

「ええ、何でも、です」
「何でも、ですわね?」
「はい、何でも、です」

念押ししてくる麗羽様。
……ここで逡巡してはならない。たとえ広げ過ぎた風呂敷でも、だ。

「ふふ、何をお願いしましょうかしら」

楽しげに麗羽様が呟く。今の俺は俎上の鯉である。どんとこい。
……どんとこーい。

「嫌ですわ、二郎さん、そんなに緊張なさって。そんなに無体なことをお願いすると思ってますの?」
「い、いえ。そういうわけじゃないんですが。そりゃ緊張もしますよ」

俺の言葉にくすり、と。今日初めて笑顔である。

「そうですわね、特に今はしてほしいこととか思いつきませんし。
……また今度にしましょう」

くすり、と艶やかな笑みでそんなことを言う。生殺しですねわかりますん。
しかしまあ、この場をなんとか乗り切ったということでよしとせねば。
内心胸をなでおろす俺に麗羽様が話しかける。

「……ほんとは、本当は。分かってますのよ」
「へ?」
「今回のこと、咎めるとすれば勝手に縁談を進めたこと、でしょう?
 でも、それが誤解と分かれば二郎さんを責めるのは筋違いなのですわ」
「はあ、そりゃまあ……」

この展開は予想外、である。呆けたような俺の声に構わず麗羽様は言葉を続ける。

「ですから。ですからこれは八つ当たりにすぎませんの。
分かってはいるのですけれども、いけませんわね。
 本当は最初からそう言うつもりでしたのに……。
 二郎さんのお顔を見たらどうしても抑えきれませんでしたの」

ぽつり、ぽつりと話す麗羽様。
むう。

「私情を持て余して……。当たり散らして。
これでは二郎さんに呆れられても、文句は言えませんわね」

自嘲気味に呟く。どことなく儚げで、瞳も潤んでいる気がする。
俺はそんな麗羽様を軽く抱きしめる。
麗羽様も、そ、ともたれかかってくる。その重みが、あの頃と比べて増した重みが、嬉しい。愛しい。
麗羽様の耳にささやく。

「あー、その、麗羽様がわがままで甘えんぼうなのは昔からなので、俺は別に、なんとも。
 冷たくされるのに比べたらどってことないです」

俺の言葉にまあ、と声を上げる麗羽様。

「そんなこと言ってよろしいのかしら?わたくし、これでも一杯。たくさん我慢してますのよ?」
「どんとこい、ですよ。まあ、その、できれば無理のない範囲で」

その言葉にくすり、と笑う麗羽様。

「そうですわね、でしたらしばらく、このままでよろしいかしら」
「お安いご用です」

ちっちゃい頃のように軽く頭を撫でる。
くすりと。
微かな笑みと共に麗羽様がより、近くなる。

そして俺が室を辞するまでの一刻の間、言葉なんて、いらなかった。
肌のぬくもり。それがすべてを覆っていった。
940 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/05(土) 21:33:57.40 ID:RmNixGYDo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

タイトルは……まったく浮かばない!助けて!

しかしほんとにね。
蒲公英登場で頑張ってかき回してるのに……
麗羽様の容赦ない存在感はどうしたことか
941 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 21:55:31.28 ID:np02+QU1o
乙です
942 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 00:47:42.17 ID:PRUA/ajMo
乙でした
ツンデレとも違う麗羽様の気持ちの移り変わりが見事
上司、プライベートの間でやきもきというかなんというか
存在感はカリスマの一部ということで

タイトルはあんまりひねらずに「獅子牙の役」
アニメ風に言うなら「凡人、獅子牙の役に翻弄さるるのこと」
朱筆求ムww
943 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/07(月) 13:19:37.81 ID:Y4nh6wAh0
乙でしたー
前の投下の誤字を見逃してた
>>928
>>あ、お姉さまの将来の旦那様だから、たんぽぽって読んでね。真名だよ?」
○あ、お姉さまの将来の旦那様だから、たんぽぽって呼んでね。真名だよ?」
>>937
>>ちぇー、残念ー。姉さまがどんな顔して許嫁と会うのか見たかったなー」 ここだけ【姉さま】呼びしているのは違和感があるので
○ちぇー、残念ー。お姉さまがどんな顔して許嫁と会うのか見たかったなー」 だと思います
>>「んー、だからたんぽぽは妾でも……情婦だったいいんだよ?
○「んー、だからたんぽぽは妾でも……情婦だっていいんだよ?

【凡人、洛陽にて地盤を固める】、【凡人、魔都にて進退窮まる】、【凡人とその主、洛陽にて心通わせる】
もうひとひねり欲しいな、難しい。タンポポが予想以上に武家の娘してる、そりゃあの親だもの、前線張って覚悟完了してるよね
そして相も変らぬ圧倒的存在感よ。二郎と2枚看板くらいかな?麗羽様が弱いところを出せるのは
944 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/08(火) 23:25:15.31 ID:8Rj+GqEUo
>>942
>ツンデレとも違う麗羽様の気持ちの移り変わり
つーん デレとかどうでしょw

>上司、プライベートの間でやきもきというかなんというか
オフィシャルな場では無論キリとしてますのでね

>>943
>前の投下の誤字を見逃してた
ありがたや……

どうしてこう、誤字が発生するのですかねえw
他の人はどうやっているのやら

>【凡人、洛陽にて地盤を固める】、【凡人、魔都にて進退窮まる】、【凡人とその主、洛陽にて心通わせる】
あと一歩的なこう、ね。逆に使う時があるかもです

>予想以上に武家の娘してる
実際二郎ちゃんとかより身体張ってますからねえ……
いつ死んでもおかしくないのです

>二郎と2枚看板くらいかな?麗羽様が弱いところを出せるのは
斗詩と猪々子は癒し
二郎ちゃんは救いと甘え

そんな感じですかね
多分このあと「いくらなんでもやってしまいましたわ」って感じでお布団ゴロゴロする麗羽様であると思います
背伸びして頑張ってるのです麗羽様
945 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/08(火) 23:49:46.46 ID:8Rj+GqEUo
……麗羽様の室を辞して美羽様の室に向かう。
ちっちゃくて、わがままで、可愛い。俺のご主人様だ。
最大の難関でもあるのだが……。
七乃はたぶん援護とかしてくんないだろうしなあ。

軽くため息を吐きつつ美羽様の逗留する部屋に立ち入る。
何やら七乃と話していたっぽい美羽様がこちらを見る。
戻りました、と口を開く間もあらばこそ。

「じろー!」

俺に飛びついてくる美羽様。

「おかえりなのじゃー」

どこかふわふわとした口調で出迎えてくれる。

「はい。二郎です。ただいま戻りました」
「うむ、ご苦労だったのじゃ」

そう言うと、緩やかに動きを静かにしていき……俺の腕の中で安らかに寝息を立て始めた。
くー、くー、と健やかな寝息を立てる美羽様を抱えつつ、七乃を見る。
いつも通りにこり、と真意の見えない笑みで応えてくれる。

「あらー、やっぱり寝ちゃったかー。美羽様おねむだったからなー。
 二郎さんの来るのがもうちょっと早かったらなー」

そう言いながら美羽様を受け取り、お布団に寝かしつける。

「ずいぶん頑張ってたんですよー?
 二郎さんが来るまで起きてるっておっしゃって」

ぷりぷりと怒った口調でにこにこする。ほんとうに七乃の真意は読めない。いや、俺に洞察力とかそんなものはないから仕方ないけどね。

「そうか、そりゃ悪いことしたかなあ。
 つか、おねむにもちょっと早くないか?」
「色々ありましたからねえ。お疲れだったみたいですよ?
 ね?二郎さん?」
「そりゃ悪かったよ。だがまあ、事情の説明は明日に持ち越しかー」

さくっと今日中に済ませときたかったんだがなあ。

「あー、馬家との一件ですか?それなら私がきっちり美羽様にお伝えしときましたから大丈夫ですよ?」

マジか。
946 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/08(火) 23:50:58.75 ID:8Rj+GqEUo
「なんと。どうやったのさ」

麗羽様以上にこじれると思ってたんだが。

「ああ、美羽様可愛かったなあ。『二郎はどっかに行ってしまうのかや?』とそりゃもう不安に揺れる儚げな双眸。
 あれは一生に一度見れるかどうかの愛らしさでしたねえ。眼福とはこのことと思いましたよー」
「おい」
「黙って聞いてください、いいところなんですから。
 そして私がなんと答えたと思います?」

知らんがな。

「いや、普通に分かんねえから」
「相変わらず愚鈍ですねえ。まあいいでしょう。その時私は儚く縋り付く美羽様にこう言ったんです。
 『二郎さんは誰かを拾ってくることはあっても、お持ち帰りされることはありませんよー』
 ってね」
「おい」
「そしたら美羽様も『なるほど、その通りじゃな!』とご安心されたんですよねー。
 いやー、信頼されてますねえ、このスケコマシ!憎いぞー!」
「か、欠片も褒められた気がしねえ」
「そりゃそうですよー。べつに誉めてませんしー」

がくり、と項垂れる俺に七乃が追撃してくる。
だがまあ、これは感謝しとくべきところなんだろうなあ…。

「ま、まあ美羽様の御心を安んじてくれてありがとう、と言っておく」
「はいはーい、承りましたー。でもでもー、少しは自重してくれてもいいかもですけどねー」

にこり、と笑いかける七乃の笑みの剣呑なこと。
でも今回俺は悪くないと思うんだけどなあ。悪くない。……悪くなくない?

「こっちも色々大変だったんですからね。少しは私も労わってほしいものですねえ」

だがしかし。七乃が大変だったというのだ。それは本当に大変だったのだろう。
普段は愚痴も不満も嫌味すらなく俺を支えてくれている――多分――七乃である。
いや、あれこれ言ってくるそれは軽口の体で割と色んな示唆があったりするので俺の中では諫言である。
そんな七乃が、「これはクレームですよ」的なことを言うのだ。それは拝聴すべきことである。それもじっくりとな。
なにせ七乃が真意を語ることはめったにないのだからして。

「わーったわーった。今度メシでも奢るから勘弁してくれ」

実際ね。神様仏様七乃様、である。今回はマジで助かったし迷惑もかけたろう。
美味しいとこをさ。ご馳走くらいはせんといかんだろうよ。

「ふふ、誤魔化されてあげますよ?」

俺の思惑を色々見抜いてそうな、とても深い笑みで七乃が囁く。
いやね。ほんと、腹芸とかしても敵わないのは知ってるからさ。
俺はいつだって無条件降伏なのだよ?

言っても仕方ないから、ため息は深まる。俺だってたまには愚痴っぽくなるのである。愚痴るときもあるさ。
そんな思いを誤魔化すように強引に抱き寄せた七乃が、抵抗しないのが意外だった。

そう。くすり、と。笑みを一つだけ。

その笑みは蠱惑的で、どこか儚く。
確かめようとする俺を、無粋だとばかりにその笑みは瞬時に散華し。

気付けば美羽様の寝息と虫の音のみが響く。

そう言えば……七乃の寝顔を見たことがないな、ということに……今、気付いた。
そして、何かを思いついたはずなのだが、俺の思考は睡魔に沈む。
くすり、と。常ならば剣呑に響くその声音すら……子守歌にして。
947 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/08(火) 23:53:13.69 ID:8Rj+GqEUo
本日ここまですー
感想とかくだしあー

タイトルは前回含めて「凡人と約束」かなあ
いや、正直いまいちだわw
ご提案お待ちしております
948 :372 [sagesaga]:2016/11/09(水) 22:27:39.00 ID:qtscvQTA0
乙です。

袁術様は主人。
……じゃ、袁紹様は?

というか、袁術様のお父さん兼袁紹様の王配(候補)路線で固まりつつあるような?


今回の話で張勲さんがちゃんと袁術様と向き合っているのが判明。
つかお母さんしてるね。
紀霊お父さんは一回袁術様をしっかり抱きしめながら、目を見てきちんと 話してあげた方が良いと思う。


後流流さん。野郎共の飲み会でおつまみ係やりそうで怖い。


張勲さんが袁術様に話した紀霊さんの評価が余りにも的確過ぎて画面のこちらで頷いてしまった。
タイトルなんですが。

今回に関しては、凡人抜きで

『約束』

凡人が絶対必要なら

『凡人。きっかけの約束』

もしくは、

『凡人。きっかけの約束を契る(か、交わす)』

ネタに走るなら

『嫉妬と恋慕が交差する 時』


ちょっと意味合い違いますが、

『変変恋恋』(吉川英治 新平家物語より)



業務連絡。
近日中に馬の話と依頼の件、投下予定です。

949 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/10(木) 21:39:13.71 ID:rLHMGK3Xo
>>948
>……じゃ、袁紹様は?


>というか、袁術様のお父さん兼袁紹様の王配(候補)路線で固まりつつあるような?
麗羽様。当初プロットではエンディングまでデレない予定だった(マジ話)

>今回の話で張勲さんがちゃんと袁術様と向き合っているのが判明。
空虚な傀儡であった人形が愛に目覚めたのです。うむ。可愛いは正義。美羽様は正義。

>張勲さんが袁術様に話した紀霊さんの評価が余りにも的確過ぎて画面のこちらで頷いてしまった。
割と表現はひどいんですけどねw

>馬の話と依頼の件
了解です

再度キャラをスタンバイさせときます
950 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/10(木) 23:09:14.35 ID:rLHMGK3Xo
さて、洛陽は伏魔殿であるのは今更言及する必要もないと思う。
漢王朝400年の澱やら怨念やらが空気にまで蔓延している気がする。十常侍やら何進やらが呼吸している空気。何ぞ毒性があっても驚きはしない。
あ、漢朝の中断期間については色々説明面倒くさいからカットね。まあ、為政者に人格とか必要ないという証左であると俺は思っているのだが。
余談である。もしくは現実逃避である。

そして漢朝の中枢に俺たちはいる。地理的な意味でも、権力的な意味でも。
つまり、謁見の間であるのだ。

既に実務の話は済んでいる。
いや、さすがに俺の縁談云々だけで何進とのアポは難しいからね。実務的なことも盛り込んでいきました。まあ、事前に根回しは済んでいるから念押しくらいだけだったけど。

特に波乱もなく麗羽様は三州の州牧を、美羽様は太守を任じられる。任じられた。

そしていよいよ何皇后のお出ましである。ぞわり、と全身の毛が逆立つような感覚を受ける。
圧倒的な存在感。見るものすべてを虜にするような視線。

「苦しゅうない、楽にせよ」

かつての俺はその一言で意識を失いかけた。呑まれかけた。
甘い毒霧のようなその存在感。影響力。
切り裂くのは金色の光明。光輝。

「ありがたき幸せですわ」

麗羽様の一言。それだけで。

「袁家には期待しておる。
 弁をよろしく頼むぞ」
「漢朝のため、粉骨砕身、尽くす所存ですわ」

麗羽様がまとう光輝が顕現するような錯覚を受ける。
何皇后の出す魔性とも言える空気を意に介さず……いや、そこにそんなものがないかのごとく受け答えする。
麗羽様のオーラ、パねぇ。これは光の翼ですよ。むしろオーラバリアかもわからんね。精神攻撃を防ぐからATフィールドではない。

いや、儀礼的挨拶って当事者以外はこんな感じじゃない?ほら、朝礼で校長先生のお話聞いている時とかさ。

◆◆◆

特筆すべきはそのあとの宴席だ。ここで前回の訪問時はアクセスできなかった大物と知己を得ることができた。
漢王朝末期の名将、皇甫嵩である。

皇甫嵩。
漢王朝末期の名将である。
ぶっちゃけると正史で黄巾の乱を治めたのはこの人の力量によるところが非常に大きい。董卓との政争がなければ普通に漢王朝を支え続けたんではなかろうか。
ふむ、この宴席に来ているということは何進に与するつもりなのだろうか。
確か宦官とは対立しているはず……というか宦官と組む士大夫がほぼいないという話である。


なるほどねえ。いや、七乃の分析に納得の俺である。実際七乃ってチートかと思うくらいに有能だからなあ……。
だから聞いてみようそうしよう。

「その何進を、七乃はどう思う?」

少し緊張して問う。それに一瞬考える顔をして、七乃は極上の笑顔で答えてきた。

「さあ?美羽様の敵になったら叩き潰す。それだけですが何か?」
「……ぶれないねお前さんは」

あの化け物に興味がないとか俺には言えない。できるとも思えない。
いや、七乃VS何進とか洒落にならんから。俺とか巻き添えで死ぬ未来しか見えないから!

生き残りたい!生き残りたいでござる!
生存戦略こそ俺の根底であると再認識しました。

いやまあ、極楽お気楽にアーリーリタイアを目標とする俺にもね。多少はね。
951 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/11(金) 09:18:01.24 ID:kw/PDmVK0
乙でしたー
>>946
>>美味しいとこをさ。ご馳走くらいはせんといかんだろうよ。 これって普通にごはんのお誘いですよね?
○美味しいとこでさ。ご馳走くらいはせんといかんだろうよ。 美味しい思いをさせる(意味深)なら上でもいいかもしれませんが

タイトルは【凡人、因果応報を受ける】良い意味でも悪い意味でも今までの二郎ちゃんの行いがあったからこそこうなったよね
ところで寝落ちしちゃったのかな?
タイトルは【凡人、英傑の対峙に慄く】とか?麗羽様さすが麗羽様そして考えただけでブルっちゃう《何進対七乃》絶対起こしちゃいけない(確信
952 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 11:53:07.41 ID:Qo23xORvo
乙したー
流石れーは様のオーラ力は中華全土に染み渡るでぇ・・・

鯱さん人抜けすぎじゃね・・・?
953 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/14(月) 21:34:33.72 ID:31ma1F71o
>>951
寝落ちしておりましたが、一応そこで区切りまではたどり着いておりました

>良い意味でも悪い意味でも今までの二郎ちゃんの行いがあったからこそこうなったよね
行いがいい影響だけとかのご都合主義の恩恵は二郎ちゃんにはありませんのでw

禍福は糾える縄の如しでございます

>麗羽様さすが麗羽様
麗羽様はお流石でございます

>絶対起こしちゃいけない
脳内処理が追いつくかどうかw
起こしちゃいけない(戒め)

>>952
>流石れーは様のオーラ力は中華全土に染み渡るでぇ・・・
あかん中華が浄化されてまうw

その前にハイパー化しなきゃ(使命感)
954 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/14(月) 22:49:08.10 ID:31ma1F71o
さてはて、ある程度洛陽での用事も済み、もうすぐ南皮へ帰還することになる。
それと共に麗羽様が正式に袁家の当主としてデビューすることになる。
まあ、実務はずっとしてきたし特にどうということもないだろう。
俺は俺でそろそろ家を継がないといけないのだがその前にしておきたいことが……。

「難しい顔してどしたのー?」
「いやちょっと将来のこととかを、だな」

目の前で茶を喫しているのは蒲公英である。呑気な顔である。リラックスしすぎでしょうよ。
色々あって、色々言ったのだが。割ときつめに言ったのだが。何だかんだで俺にくっついてくるのである。
暇なのか、暇なのだな、きっと。

「へー、意外。そんなこと考えるんだー」
「そりゃ多少はね。
ってお前は考えたりしないのかよ」
「たんぽぽ将来のこととかよくわかんなーい。
 さっさといい男見つけないとー、とは思うんだけどねー」

ほくそ笑みながらこちらをチラ見してくる。

「とりあえずは今日が楽しければいいかなーって」
「さよか」

これはこれで常在戦場の心得なのかもしれない。
根底にはいつ自分が死んでもいいように、という心構えがあるというのを俺は知っている。

「なのに叔父様ったらひどいんだよー、たんぽぽ頭よくないのにあれこれ押し付けてくるんだもん。
 人の顔とかいきなりたくさん覚えられないよー」

ぷりぷりと全身で不本意を表現する。ころころと変わる表情は見てて飽きない。
まあ、ここは馬騰さんをフォローしとこうか。

「んー、ある程度内向きの仕事を任せたいって思ってるんじゃね?
 きっと期待の表れじゃねえかな」
「えー、たんぽぽそういうの勘弁してほしいなー。
 あー、だからお姉さまじゃなく私を連れてきたのかー。
 てっきり匈奴への布石と思ってたのになー。洛陽を楽しみ尽くしたかったのになー」

がくり、と項垂れる蒲公英。
だが、納得はしているようである。なるほど。

「なんだ。意外と……きっちり馬騰さんの期待には応えるのか」
「そりゃねえ。叔父様にはお世話になってるしー。なってるもん。
 でも……やだやだー、何進さんとかと交渉とかしたくないよー」

そりゃそうだ。俺だって御免こうむりたい。そんな気配あったら尻に帆かけてすたこらサッサである。

「ねえ、二郎様ー、たんぽぽおなか空いたなー」

唐突だな!そして自由か!だが俺も空腹を感じている。よし、飯だな。

「んー、どうすっかな。外か内か、選ぶ権利をやろう」

まあ、一人孤独のグルメよりは美少女と相席の方が嬉しいに決まってる。

「んー、内ってことは袁家のごはんが食べれるのかー。
 豪華な料亭もいいけど……。ここはやっぱり!
 突撃!袁家の昼ごはん!」
「へいへい」
955 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/14(月) 22:49:33.93 ID:31ma1F71o
と言っても俺昼飯はいらないって言っちゃったからなあ。

というわけで、俺と蒲公英の飯の用意なぞされてるわけもないので個人的なコネを使うことにする。
向かう先は厩舎。

「あ、二郎さま!」

烈風を熱心にブラッシングしていた流琉がこっちに駆け寄ってくる。

「おう、流琉、ご苦労な」
「いえ、皆いい子たちですから」

天山とか流星なんかは結構気性が荒いんだが、気は心、という奴だろうか。
俺に飛びつこうとして、泥だらけな恰好に気づいて寸前で止まってこちらを上目遣い。そんな流琉の頭をくしゃくしゃと撫でながらそんなことを思う。

「で、どうなされたんですか?」
「ん、俺と蒲公英の飯を作ってもらおうと思ってな」

そこで蒲公英に気が付いたようで、頭を下げる。

「俺の身の回りのことをやってもらってる典韋だ、よろしくしてやってくれ」

にこりと笑い合う少女たちの美しいことよ。いやあ、よかったよかった。

んで、流琉に飯を作ってもらうことになったのだ。

「でも袁家ってすごいねー。さっきの馬たち、涼州でも滅多に見ることのないくらいの名馬揃いだよ」
「ふふん、あれ全部俺の馬だし」
「え!ほんとに!うわー、すごーい!」

流石馬家の人間には馬の善し悪しが判断基準になるようである。
しかし、そこまで馬家の人間に評価をもらえる馬を提供してくれた白蓮には感謝の一言だ。

「お待たせしましたー」

ほかほかと湯気の漂う皿が置かれていく。
炒飯に回鍋肉、汁物とメニュー自体はごくごくシンプルである。
それを見て僅かに落胆した蒲公英がはむ、と。

「なにこれ美味しい!超美味しい!」
「ふ、当然だな」

一気に箸の速度を上げた蒲公英にニヤリと笑いかけながら俺も料理を味わう。いただきます。そして。
う、ま、い、ぞー!
956 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/14(月) 22:51:04.29 ID:31ma1F71o
しばし無言での食事が続く。というか終わった。

「なにこれ信じられないくらい美味しかったんだけど」
「ふふふ、味っ子たる流琉にかかれば厨房のありあわせの素材でもこれくらいは当たり前……」

クククとほくそ笑む俺に蒲公英はしばし考え込む。

「よし決めた。あの子を馬家で引き取ります」
「ん?何か言ったか?まったくもって聞こえんなあ……」

けちー、と騒ぐ蒲公英にぴしり、とでこぴんをくれてやる。
けらけらと笑う蒲公英。

「もーう。割と本気なのにー」
「こっちはもっと本気だぜー。そこは馬騰さんからの要請だっとしても頷けんなあ……」

にひひ、と笑う俺なのである。
むう、と頬を膨らます蒲公英。
その頬をぷすりと指で突けばぷしゅ、と音がする。

「もーおー。これでも馬家の令嬢なんですけーどー」

にひひ、と笑いながらそんなことを言ってくる。

「これは失礼したかな?
 いつかまあ、ご令嬢に相応しい宴席に招くとしようか」
「ちょっと待ってたんぽぽそういう場が苦手だから二郎様のとこに来てるんだけど」
「馬家の令嬢は謙遜が過ぎるようで……。
 なに、これで俺も武家の令息だからな。相応しい場に招いてやろうとも」

うはははは。吐いた唾は飲めないのだぜー。

「うう、ひどいやひどいやー。これが袁家のやり方なんだね、たんぽぽ覚えた」

この悲壮感のない台詞よ。

「まあ、いつでも歓迎するさ。気が向いたらおいでよ」

にひひ、と笑って蒲公英が応える。

「うん、たんぽぽがやらかして、どうしようもなくなったら二郎さまのとこに行くからよろしくね!」

なんだそれ。

「おう、困ったら俺んとこにこい。なんとかしてやるよ」

まあ、こいつのことだから……。なんかしでかすんだろうなあ……。
でもまあ、困ったときはお互い様、というか、なんかほっとけないのである。

まあ、袁家放逐されたら蒲公英に養ってもらえるかなあとか考えたのは事実である。

膝に矢を受けたとか言ったら働かずに済むだろうし。
済むかな?
済まんな。

よし、袁家万歳で頑張ろう。
957 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/14(月) 22:54:06.77 ID:31ma1F71o
本日ここまsでえすー

感想とかくだしあー

タイトルは「凡人と馬家二の姫」

二の姫というのに違和感ありすぎぃ!

対案おなしゃす


追伸
誰だよトランプ大統領ありえないって言ってたやつ!
今すぐ、少なくともテレビと雑誌から去れよ!


まあ、多少トランプ氏からお小遣い貰ったんですけどね(比喩
958 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 23:20:35.70 ID:yTgCY58xo
乙したー
ハーレム主人公してんなーじろちゃん

日本のメディアと仲良しな米国メディアがほぼクリントン支持だから国内の情報が偏ったのが悪いんだよなぁ
959 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 23:26:05.06 ID:iN9tDFxHo
乙です
960 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/16(水) 10:59:35.26 ID:H9NH/QE00
乙でしたー
>>956
>>「こっちはもっと本気だぜー。そこは馬騰さんからの要請だっとしても頷けんなあ……」
○「こっちはもっと本気だぜー。そこは馬騰さんからの要請だったとしても頷けんなあ……」  もしくは 【要請だとしても】 ですね

【凡人、馬家の悪童と軽口を交わす】・・・【凡人、馬家の令嬢を宴席に誘うも断られる】【凡人、令嬢をもてなす】有り合わせの食材で二郎ちゃんの舌を満足させるとかやっぱり凄いな
961 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/16(水) 22:36:29.60 ID:oTJqQXsfo
>>958
>ハーレム主人公してんなーじろちゃん
ハーレムタグつけてますしおすしw

>日本のメディアと仲良しな米国メディア
あれですね。朝日新聞が反対することは日本にとって正しい的なw

>>960
添削ありがとうございます。
なんとか、独り立ちしたいけど無理ですねこれw
ほんとありがとうございまs

>有り合わせの食材で二郎ちゃんの舌を満足させるとかやっぱり凄いな
流琉ちゃんはミスター味っ子とかソーマ的な感じです。
ありあわせでも美味しい!

多分二郎ちゃんの舌は流琉ちゃんの腕に追いついてないと思い魔s
962 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/16(水) 22:40:18.42 ID:oTJqQXsfo
「ああああ!これじゃいつまでたっても仕事が終わらないー!」

太守の仕事ってこんなにたくさんあるのか。まだ引き継ぎ段階なのにもう処理能力が追い付かない。
公孫賛は嘆く。これでもそれなりに事務仕事には自信があったんだけどなあ、と。
そしてぐったりとを卓に投げうつ。
そしてその身にかけられるのは極めて平坦な声である。

「慣れない業務内容。習熟するまで時間がかかるのは当然。
 ただし貴女はすべて自分でやろうとしすぎている。
 それでは処理が追いつかないのも無理からぬこと」

声の主は韓浩。袁家より派遣されてきた軍官僚である。
これでも一応慰めてくれているのだ、多分。
公孫賛はそう思う、思いたい。思わないとやってられないじゃないか、と。

「組織の上に立つ者は仕事を部下に割り振るのとその評価をするのが仕事。
 一々自分の手で決済をするというのはありえない」

韓浩の口から紡ぎ出されるのは正論である。いや、正論なのだ。正論なのだが。

「そりゃそうだろうけどさあ、私の部下は戦場働きはともかく。
あまりこういうのに向いてないんだよー。
 それに一応目を通しておかないと、どこで何が起こっているか分からないじゃないか」

反駁しながらもどこか嬉しく。

「正論ではあるがお勧めしない。ひと月も経たずに……お手上げ状態になるのが予見される。
 それは実際確定的に明らか」
「あ、相変わらず歯に衣を着せないんだな……」

実際の話、もう少しは……多少は遠慮した表現をするべきなのではないだろうかと思う。思うのだが。公孫賛は韓浩のその言い様に頬が緩まるのを感じる。

「無意味な修飾が欲しいのであれば、はっきりと言うべき。ただ、私は応えることはできないが。
 気に食わないのであれば遠慮は害となると思う。
 首脳陣の方針の齟齬は百害あって一利なし」
「いや、そういう意味じゃないんだ。感謝してるんだぞ?」

淡々と言い募る韓浩に、公孫賛は慌てて。

「韓浩の直言には、感謝してるんだよ。本当に、な」

公孫賛の心からの思い、である。
太守、という重責。紀霊が送ってくれた韓浩と魯粛がいなければ右も左も分からなかったろう。
というか、正式な任命前に引き継ぎしてくれるとか普通はありえない。それを公孫賛は理解している。そして、だ。
冷静で的確な言は耳に痛く響く。だが、それは求めても得られなかったものであるのだ。渇望していたものであるのだ。
だから、多少の――公孫賛基準で――問題発言は受け流すのだ。

「貴女がそういった皮肉を言うことはないというのは理解している。
 ただ、もうちょっと肩の力を抜くことをお勧めする」
「んー、そんなに力んでるかな」
「自分の状況を客観的に分析できないのはよくあること。気にする必要はない」

再び手元の資料に目を落とす韓浩を公孫賛は複雑な思いで見る。
……最初はとっつきにくいなーとか思っていたのだ。だが、慣れたらそうでもない。
そして、紀家の軍官僚と聞いたが、軍事以外のことも熟知している。
これが名家の強みかと思う。人材の分厚さがとんでもない。

まあ、下手の考え休むに似たり、である。ならば休むにあたって問題はなかろう、と。
このあたりの割り切りは実戦指揮官としての有能さに通ずるのだ。少なくとも韓浩はそう判断するであろう。

「一息入れるかー。
 韓浩もお茶、飲むかー?」
「ご相伴に預かる」
「ん、茶菓子はいつも通り多めな」
「……期待している」

表情を変えずに応える韓浩の、その無表情さの中に浮き浮きしたようなものを感じて。
くすり、と。
それくらいには打ち解けてきたのである。分かってきたのである。

「しかし、手が足りないというのはどうにかしないとなあ」

昔の知り合いにでも声をかけてみるか。
正式に太守になったらきっと応じてくれる……と思うんだけどな……。

なお、その希望的観測は粉々に打ち砕かれることになる。
963 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/16(水) 22:40:54.75 ID:oTJqQXsfo
本日ここまですー

感想とかくだしあー
964 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/16(水) 22:41:26.30 ID:oTJqQXsfo
タイトルは「地味様の憂鬱」でどうでしょ
965 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/16(水) 22:46:39.86 ID:f4bq4hwUo
乙です
966 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 08:42:45.03 ID:6kny8xfZo
乙したー

韓浩ちゃんも楽しそうやな(ニッコリ
967 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/18(金) 09:43:34.26 ID:PYFCHMBe0
乙でしたー
>>962
>>そしてぐったりとを卓に投げうつ。 【投げ打つ】は身を投げ打ったりして命がけとか全身全霊のような意味になりますね
○そしてぐったりと体を卓に預ける。 多分これがいいと思います、
>>「そりゃそうだろうけどさあ、私の部下は戦場働きはともかく。 【戦場働き】は普通は使わないような気がしますので
○「そりゃそうだろうけどさあ、私の部下は戦働きはともかく。 もしくは【戦場の働き】ですね

憂鬱になるのはこれから(希望が粉々に砕かれた時)でしょう。と言う事でタイトル案【地味様、約束された太守の地位に努力する】なお努力が報われるとは・・・
いよいよ素直クールな彼女が地味様の元に来ましたね、これからは地味様も周りに頼ることを覚えることでしょう
968 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/21(月) 21:45:29.76 ID:enhc5+pqo
>>966
>韓浩ちゃんも楽しそうやな(ニッコリ
楽しいかどうかは微妙ですが、いい空気は吸っていると思いますw

>>967
いつも済まないねえ……

今回はなるほど勉強になりました
ありがとうございます

今後ともお見捨てなきよう……

>憂鬱になるのはこれから
お、おうw

>地味様も周りに頼ることを
そもそも頼る周りがいなかったという非情な現実があるのですがそれはw
969 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2016/11/21(月) 23:30:32.26 ID:/i+4SbqA0

乙ですよう。

進み過ぎて追いかけるのがががが。

何皇后は強烈なフェロモンか何か危険な薬物香でも纏っているのかな?
袁紹様のカリスマで吹っ飛んだ事を見ると、フェロモンぽいが。

……まさかと思うが、二郎さん落とす為にフェロモンの操作法、何皇后に聞いて無いだろね?
袁紹様。

……有り得ないか。

ほら、メシウマを側に置いたら幸せになれた。
つか影が薄くなった陳蘭さんを鍛えさせなされ。


笑ったのが、公孫賛様の 家臣評。
いやいや、読み書き算盤出来ればこの時代の事務は出来るっしょ。

やっぱり、荊州に幼女拉致りに行かないと駄目かww(物騒発言再び
970 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/29(火) 20:55:00.31 ID:zoXK0eEro
>>969
>進み過ぎて追いかけるのがががが。
年末にかけて亀の歩みになりますw

>何皇后は強烈なフェロモンか何か危険な薬物香でも纏っているのかな?
似たようなものですw
国母たるもの魅了オーラくらい纏っているということでw

>……まさかと思うが、二郎さん落とす為にフェロモンの操作法、何皇后に聞いて無いだろね?
麗羽様が何皇后とサシで会うことはないでしょうしw

>いやいや、読み書き算盤出来ればこの時代の事務は出来るっしょ。
まあ、工場長レベルがいきなり支店長から支社長までひっぱりあげられているという感じですからね
そこに至る業務を理解しようとするとそりゃあまあパンクしますって

荊州幼女の登場が待たれますねえ
971 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/11/29(火) 21:15:59.17 ID:zoXK0eEro
敗因:いつもの赤との対戦通りの天の声
972 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga sage]:2016/11/29(火) 21:27:25.79 ID:zoXK0eEro
追記しますが、赤さんに含むところはあんまりないです
実際いい試合だったと思っていますし

ただ、初年度の緑と同じ匂いがしてねえ……
Zが吐いたのをバッシングするだけで自浄作用というのがないというのがねえ
今も変わらないなあと

上げ底してもレベルは上がらないんやで

2002で躍進した某国が世界から尊敬受けたか?
ライト層が地上波で目にする今回にそれはあかんやろと
973 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/29(火) 22:06:13.00 ID:zoXK0eEro
「それでは一度領内に戻られる、と?」
「おう、一度きっちり領内をまとめとかんとな。
 しばらくしてから改めて出仕するさ」

これからの袁家と何進一派の動きの打ち合わせを王允としている。
ここでの決まったことが割とそのまま袁家と何進のこれからの動きを決めると言ってもいい。
つっても、こっちの言い分を割と丸のみしてもらってる感じで割と拍子抜けである。
……まあ、袁家と組むというのはそれだけ何進にとっても価値のあることなのだろう。
間違っても俺の交渉力が高いとかいう話ではない。背負っている後光の違いである。ぴかり。

「それでは袁家の協力を疑う者も出てくると思いますが」
「旗色を鮮明にしたし結構士大夫層も動いたと思うけど?」
「今は袁家が洛陽に逗留されてますからね。ですがその影響も去れば薄くなるかと」

ふむ。
確かにそうかもしれないなあ。

「おし、落ち着いたら人を先行させる」
「それなりの方でないと意味ありませんよ?」
「分かってる。袁家の窓口として士大夫の相手もせんといかんからな」

何進とか皇甫嵩とかの相手をせんといかんとなるとずいぶんと限られてくるが、まあ致し方なし。
軽く思案し、頷く。

「ではお願いしますね」
「おうよ、んで、出仕したら……分かってるな?」
「ええ、袁紹様には太尉の地位をお約束いたします」

三公のうち軍事を司る地位である。
これであれば万が一黄巾の乱みたいな大規模反乱があっても袁家がイニシアチブをとれる。
更に、内向きにはそれほど介入しないという意思表示でもある。外敵である匈奴の動きがおとなしい今、三公のうち最も名誉職に近かったりする。
袁家は洛陽の権力争いで何進に協力するがけして矢面に立つ気はないのである。あくまで北方で匈奴に備えるのが本分。この姿勢は貫く。

「それと……曹操に適当な官位を見繕ってやれ」

王允の顔が僅かに歪む。ふむ。

「名門袁家が宦官の孫を推挙する、と?」

その問いに応えてやるのが世の情けよ。

「おうよ。どうせ宦官との争いは数年じゃきかんだろ。 
 それに勘違いすんなよ、敵は十常侍であって宦官じゃあない」
「同じでは?」
「違う、な。
ああ。全然違うぜ?」

宦官とて一枚岩ではない。こちら以上に。
ただ、敵が大将軍という圧倒的な勢力であるから十常侍の下で団結しているだけである。
そこに楔を打ち込むのだ。

「あの曹操が十常侍ごときに遅れを取るかよ。
 見てなって。宦官勢力をきっとまとめ上げるぜ?」
「そのような傑物が宦官勢力をまとめると非常に厄介と思うのですが」

ぎろ、と王允を一瞥しながら俺は言い放つ。

「勘違いしているようだな?
袁家の目的は権力にあらず。漢朝の再生こそがその本懐だ。
 ……既に一番の懸念である売官制度は崩壊した。させた。
 汚濁の根源たる十常侍の排除こそがその目的だぞ」
974 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/29(火) 22:06:40.50 ID:zoXK0eEro
十常侍には個人的に含むところもある。だからこいつらだけは排除する。それくらいはさせてもらうし、そうする。
まあ、そのあとは何進と曹操による楽しい陰謀劇の始まりだろう。
……だが、民にとっては宮中の陰謀などどうでもいいものだ。粛清が相次いだ則天武后の治世において民の反乱がほぼなかったことを考えればいい。
好きにすればいいのさ。そして袁家はキャスティングボードを握りつつ静観させてもらう。
そうなれば俺ものんびり隠居できるだろう。

何進と曹操。
どちらが権力を手にしても十常侍よりひどくなることなどありえんさ。
名宰相として歴史に名を刻むのじゃないかな?

王允は黙り込み、こちらを窺う。俺の思惑をどれだけ読んだかは知らん。
そう。
別に何進政権にひれ伏すためにここにいるのではないのだ。
ただまあ、危険視されても粛清されないだけの戦力、勢力は保たないといけない。
それと、中央から退いてもこっちを潜在的な政敵と思わないようにあからさまな政敵も作ってやる、と。
何進も曹操も殺しても死なないような奴らだ。
俺が寿命をまっとうするまできっと仲良く喧嘩するに違いない。いやむしろしてくれ。
いやいや、するように頑張ろう。頑張れ。仲良く喧嘩しといてくれ。

「まあ、敵の敵は味方と考えるこったね」
「……」

物言いたげな目つきで俺を見てくるが知らん。
ぶっちゃけ俺の中で漢王朝とか俺はどうでもよかったりする。
ただ、破壊からの再生とかめんどいだけである。既存のシステムが上手く回ってるんだからそれでいいじゃないか。上手く回るのならそれでいいじゃん。
どうせ王朝が変わっても社会システムが変わるわけじゃなし。
大概のものは壊すのは簡単だけど作るのは大変なものだ。社会を変えたいとか言うなら地道に既存の制度で権力を握ってちまちまやってくしかないのだ。
俺にはできないけどねー。
変革はいいことだけど、それを目的にするとロクなことにならんっちゅうのは歴史が証明しているのさ。

そういえば、王允といえば……。
黙り込んでいる彼女に――これまた妙齢の美人である――純粋な好奇心で聞いてみる。

「そういや王允の手元に絶世の美女という貂蝉って人がいると聞いたんだけど、どうなの?」

日本で一番有名なハニートラップの使い手じゃあなかろうか。
二番目には話しかけるだけで相手が寝返る天馬に乗ったシー○さんを推したい。手ごわいシミュレーション。

「……ええと。あの。当家にそのような人物はおりませんのですが……?」
「あ、そうなの。なんかどっかと勘違いしたのかなあ」
「きっとそうでしょうね」

ふむ、残念。
しかしまだいないのかそもそもいないのかも分からん。
魏や呉の有能な人物が袁家で働いてるしなあ。中途半端に予備知識があると逆に色々足を掬われかねんなあ。
とは言え、別に自重するつもりは全くないけどな!俺に自重させたら大したもんっすよ。

そんなことを思いながらその場を辞する。
あー、やること一杯あんなあ、とか思いながら。

この時はまだまだ平穏だったのよなあと、後になって思い返すことになんてならないといいなあとか思いながら。

◆◆◆
975 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/29(火) 22:07:05.13 ID:zoXK0eEro
「なるほど、袁紹殿は太尉となられるのか」
「ええ、まあ領内を安んじてからではありますが
 優先順位はそっちなんで」
「道理だな。匈奴への備えこそ我ら武家の本分であるとも」

深く頷く馬騰さん。
いや、そこまで感じ入られるほどのことを言ってるつもりもないんだけども。

「そしていささか耳が痛くもあるな。
 翠に軍をまとめる経験を積ませるというつもりでもあったのだがな」
「涼州が、何か?」
「うむ、匈奴よりも周辺の豪族が蠢動し始めたらしい。
 まったく、忌々しいことよ」

なるほど、韓遂やらが動き出したのかな。アレって生涯叛乱って困ったチャンだし。
や、それと義兄弟という馬騰さんについてもわけわからんが。

「なれば我らも一度涼州に戻る必要がある。
 中々洛陽を去るわけにもいかなかったが、袁家のおかげで同志たる者が増えた。
 獅子身中の虫を潰す時間くらいはあるだろう」
「それでは?」
「うむ、明日にでも発つ」
「そりゃ急なことで」
「先んずれば人を制す。……拙速であろうとも鶏口牛後だ。覚えておきたまえ」

ありふれた言葉ではあるのだが、この人が言うと重みが違うなあ。だってこの人漢朝に喧嘩売ったんだぜ?

「ご教授ありがたく」
「はは、そうしゃちほこばるものではない。
 いかんな、年を食うと説教臭くなってしまうものだな」

からからと笑う馬騰さん。マジ好漢である。
そんな俺たちに慌てたような声がかけられる。

「えー、叔父様ほんとに明日発っちゃうの?
 たんぽぽまだちょっと準備ができてないんだけどー」
「準備など無用。身一つでついてくればよかろう」
「え。いやそうじゃなくてー。もうちょっと洛陽で色々学びたいなーとか思ったりするんだけども」
「いかんな蒲公英、優先順位を間違えてはいかん。そもそもだな……」
「あ、わ、分かりました!たんぽぽこれから準備に取り掛かります!」

説教が始まるかと思ったら慌ててその場を立ち去る。
なかなかに微笑ましい。
軽く苦笑しながら馬騰さんは俺に向かう。

「機会があれば涼州に来るといい。歓迎しよう。
 大したもてなしはできんがね」
「いえ、ありがたく。 必ず伺います」

がっちりと握手をして、再会を誓う。

……手、痛い。骨が軋んだ。
976 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/11/29(火) 22:15:05.14 ID:zoXK0eEro
本日ここまですー
感想とかくだしあー
タイトルは「凡人の考えは休みに似ているのであろうか」

似ているとかそのものですが、いい案あったらくだしあ

あと艦これイベントは2面クリアすらできない模様
977 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 23:31:00.99 ID:4nrVkl1ro
乙です
978 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 00:15:11.22 ID:6nq4zCR+o
乙したー
ギラつくはおー様が目に浮かぶなぁ

浦和と大宮で三冠取れば良いよ・・・
979 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2016/11/30(水) 11:44:43.45 ID:LvOzihbA0
乙です

『宦官』という集合体と 『十常侍』を明確に切り分けて戦術目標を示すあたり、だんだん軍師ぽくなって参りました。

二郎さん、姐さんの無念 晴らしてください。

翻って王允さん。
この当時の思想なのか、硬直してるなあと。
言葉は悪いですが、
「使える物は親でも使え」
「白猫でも黒猫でも鼠捕るのが良い猫」
的思考が出来ないと政略は出来ませんよ?


馬騰さん。良いっす。
田豊様や馬騰さんみたいな方と接する事で二郎さんが成長するんですね。判ります。


ただ……
隠居。させる訳ないでしょ。
二郎さん、諦めません? www


980 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/12/01(木) 11:35:42.79 ID:f7k8bqAw0
乙でしたー
>>973
>>ここでの決まったことが割とそのまま袁家と何進のこれからの動きを決めると言ってもいい。
○ここで決まったことが割とそのまま袁家と何進のこれからの動きを決めると言ってもいい。  の方がいいと思います
>>つっても、こっちの言い分を割と丸のみしてもらってる感じで割と拍子抜けである。  2回続くと変な感じがしますので
○つっても、こっちの言い分を概ね丸飲みしてもらってる感じで割と拍子抜けである。  もしくは【かなり】とか【だいぶ】とかがいいと思います
>>その問いに応えてやるのが世の情けよ。  問答と言いますし
○その問いに答えてやるのが世の情けよ。  呼びかけに応える(呼応)と問いかけに答える(問答)で考えるのがおすすめです【応答】と言うものもありますが…
>>974
>>ぶっちゃけ俺の中で漢王朝とか俺はどうでもよかったりする。
○ぶっちゃけ俺の中で漢王朝とかどうでもよかったりする。  もしくは ぶっちゃけ漢王朝とか俺はどうでもよかったりする。  ですね

二郎ちゃんが引退したい引退したいって言ってるけど多分今の問題を解決したところでまた新たに問題が発生しそうな気がするw
二郎ちゃんは曹操の事を滅茶苦茶買ってるけど彼女って今のところそんなに有名じゃないよね?多分
人を見る目が周りからすると化け物じみてるよなあ(某商会の会長を見つつ)
981 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/04(日) 00:34:21.28 ID:vOR9aWyno
親父の用意した酒が呑めなくなったなったので

おめでとうございます(鹿)
982 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/04(日) 07:24:22.48 ID:I9OjZJMxo
やっちゃったぜ(鹿)

>>978
>ギラつくはおー様
ただでさえ肉食オラオラ系なはおーが……w

>浦和と大宮で三冠
単純に規模でいくとそこに横浜と大阪が加わるのかな、と
本当は千葉と福岡と名古屋と北海道にも頑張ってほしいとこでしょうけど……

>>979
>『宦官』という集合体と 『十常侍』を明確に切り分けて戦術目標を示すあたり、だんだん軍師ぽくなって参りました。
まあ、本家では袁紹勢力が宦官皆殺しをやってるわけですが、そこまでせんでもええやろ的な所から始まっております
結果的に宦官勢力の切り崩しにつながれば、と
なお、はおーの手腕はまだこれでも低く見積もっている模様w

>無念
無論

>この当時の思想なのか、硬直してるなあと。
儒教って基本的には停滞どころか衰退思想ですからねえ
基本理念が「昔はよかった」ですから

>田豊様や馬騰さんみたいな方と接する事で二郎さんが成長する
まあ、実際に、凄い人と一緒に仕事するとそれだけで目から鱗だったり、引き上げられるような感覚ってありますもんね

>隠居。させる訳ないでしょ。
周囲は当然
「はいはい」とか「まーた始まった」
な感じでしょうねw

>二郎さん、諦めません? w
二郎「い、意思表示はしておかないと……!」
まあ、急に隠居言い出したら絶対無理ですから、日ごろから意思表示をしておく、という
同じ「今の担当いやだー」でも人事部に対して転属願いを出しているのといないのとでは重さが違いますし(強弁)

>>980
いつもありがとうございます
今回も納得のご指摘助かります。とくになろうへの投稿の時に。

>二郎ちゃんが引退したい引退したいって言ってるけど多分今の問題を解決したところでまた新たに問題が発生しそうな気がするw
多分二郎ちゃんはそこからは必死に目を背けるでしょうけどw

>二郎ちゃんは曹操の事を滅茶苦茶買ってるけど彼女って今のところそんなに有名じゃないよね?多分
まだそこまで、ですね。そうかそうですよね。王允の反応に手を加えるかもです
ご指摘感謝

>人を見る目が周りからすると化け物じみてるよなあ(某商会の会長を見つつ)
凡将伝時空では許子将とか司馬徽がかすむでしょうねえ……w

>>981
>おめでとうございます(鹿)
ありがとうございます
最後の10分間はもう心臓バクバクでした
いやあ、最後の10分間しか見てなかったんですけどねw

ほら、一試合目があれやったし、TVつけたら興梠の見事なボレーでしたから

やっちまったぜ!

スカパーでじっくり見直します……w
983 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/12/04(日) 22:26:02.63 ID:U6zP27bb0
そろそろ次すれ立てとく?
984 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/04(日) 22:46:40.29 ID:I9OjZJMxo
>>983
そういやそろそろっすね
明日夜くらいに立てます
985 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/05(月) 07:50:25.12 ID:ilpNgY/l0
986 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/05(月) 22:03:43.53 ID:nlDjdXg6o
       _, -===z-、|――o―――|.     ̄\///////
      /    , -‐フ ̄`マ 0¨ フ ̄<  ̄ ̄ヽ ハ/////
.   /      / / / / ∧ ./!    \       l>、/!
         レ'..//.ィ. /``'''''''' |  ./ !      |  |////\
.        /| / :::| :ハ l    ...」__イ:: }::|:: |    !  !//////\
          ハ:! | ::|:l :イマ    //「イ:: |:: |    |  |////////
        , .Y ト|ヽ __    '__ ´ イ::: /   八 !////// 次スレなのじゃー
        |   \|!ィ=≠    === l::, '    ハ. Y////
        |    ⊂⊃ ,    ⊂⊃彳    ::ハ V!//
       |::!  .:八  ‐ー       |    !::ハ::::::.. !/
.        Y ..::::::|>..、     _. _イ    レ'ハ:::::::.\
.         V .:::::::/::::::::/:::  ̄rトイ´ァ∧   |:::::::ヽ:::::::...\
        /.::::::ノ :::::::/::::::::rく8bo/ヽ、 \ ヽ::::::::::\:::::::: \
      r' T::::r'  ̄ ̄`l::::::/ ハP゚/ \_〉_|::\/\:::::::::\:::::::. }

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480942592/

こっちはギリギリまで使い切る感じでいきます
987 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/12/13(火) 22:19:13.42 ID:2xKIVjuR0
ここは1000で願望を叶えたりはOKなのかしらん?
988 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 22:37:24.14 ID:pILkCrVJo
>>987
検閲されますが、多分。
観測者唯一の介入手段かと。
とは言え無茶なものは逆回転する可能性もあります。
とだけ。
989 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 22:40:25.29 ID:pILkCrVJo
まあ、例えば

>>1000なら
袁家がガンダムを生産して無双ヒャッハーする

とか言われたら逆にカウンターでどっかがゴジラを召喚してしまう的な
なお、その時に風呂敷を畳むつもりはないですw

まあ、エタらせるためのテロと判断したら普通に無視しますがw

エタってほしい方はそう言っていただいた方が影響力ありますw
990 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 23:01:11.28 ID:pILkCrVJo
「突撃!袁家の晩御飯!」

ま た お ま え か

つまり蒲公英の襲撃を受けたわけである。
うん。うん?

「洛陽最後の夜じゃない?せっかくだから最後に美味しいもの食べとこうと思ってー」
「袁家はそこいらの定食屋じゃねえぞ」
「たんぽぽお小遣い残ってないしー。
 どこの定食屋さんよりおいしいの確実だしー」

まあ、道理ではあるとも。うむ。いっそ清々しいやね。
俺は流琉に料理の追加を命じ、蒲公英に問いかける。

「明日発つんだろ?準備はいいのか?」
「うん、どうせ荷物なんて身一つ。どれだけ水気を持ち込めるかだしね。
 細々とした身の回りのものは後で送ってもらうし」
「……そんなに急ぐのか」
「急ぐのは叔父様とたんぽぽだけだよー?
 たぶん替え馬を用意して昼夜兼行すると思うなー。
 そうなると叔父様に着いていけるのたんぽぽくらいだしー」

叔父様についていくのって正直しんどいんだけどねーと笑う蒲公英。寝ながらも馬上で進軍とかなにこの……なに?
ええと。……なるほど。洛陽に来ている手勢はそもそも多くないから将だけが先行するわけか。
きっちり戦力として計算されているところを見ると、やはりこの少女只者ではないのだろう。

「ん?なにたんぽぽの顔を見つめてるの?」
「いや、お気楽そうに見えても将なんだなー、と思って」
「んー、正直たんぽぽの柄じゃないと思うんだけどねー」

向いてないもの、と。
きゃらきゃらと笑うたんぽぽにふとした疑問をぶつけてみる。

「そういや、馬騰殿はえらく俺を買ってくれてるみたいだけどなんで?」
「ほえ?」
991 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 23:01:42.24 ID:pILkCrVJo
前菜をすっとばしてメインディッシュたる肉にがっつき始めていた蒲公英が素っ頓狂な声を上げる。

「いや、初対面の時からえらい好意的でさ。正直戸惑ってんだよ。
 実際、あれほどの方に高く評価されてるのは嬉しいんだけんどもね」

もっきゅもっきゅと口の中の食材を咀嚼し、飲み込み、蒲公英が応える。なお手には新たな食材。お見事。

「んとねー、叔父様って真面目じゃない?」
「そうだなあ。真面目というか、堅物というか、武人というか」
「でねー、結構本気で漢朝の行く末とかを憂いてるの」

言外に自分はそうでもないというニュアンスを纏わせながら蒲公英が言葉を続ける。
おい。

「でね、洛陽って名門の士大夫とか、地位のある人っているじゃない?
 そういう人達を説得して回ったの。
 でもね、だーれも応えてくれなかったの。誰も、だよ?
 叔父様の落ち込みっぷりはひどかったなあ。
 それでも諦めずに奔走されてたのには頭が下がったなあ」

どこか遠い目をする蒲公英。

「そんな時なんだよね、二郎さまが洛陽に来たのは。
 そしたら名門袁家も打倒十常侍に協力するって言うじゃない?
 久しぶりだったなー、叔父様が笑うのを見たのは」
「な、なるほど」

袁家は袁家の都合で動いただけなんだけど……。それを言うのは野暮ってもんだろな。
992 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 23:02:08.45 ID:pILkCrVJo
「袁家が立ってからは協力してくれる人もすっごく増えたしね。
 更に売官?ってのも二郎さま主導で潰したんでしょ?
 正直、絶望的だと思ってたのがころっと引っくり返っちゃったの。
 だから叔父様は本気で感謝してると思うよ?
 もちろん二郎さまを見て気に入ったってのもあると思うけど」

……なんだか過大評価されてるというか微妙に思惑がずれているというか。
などと思いつつ、この際とばかりに最大の疑問をぶつけてみる。

「そういや馬騰殿と何進大将軍って何で仲がいいの?
 正直わかんないんだけど」

あんな経済ヤクザと由緒正しい立派な武人が組んでるとかありえん。

「んとねー、叔父様って一度漢朝に弓を引いたでしょ?」

汁物をすすり、肉にかぶりつきながら蒲公英は続ける。

「おう、詳細は知らんが」
「きっかけはささいなことだったのね。
 ほら、官吏の搾取ってひどいじゃない?涼州でもそれは一緒でね。
 州牧の叔父様のとこにも民からの陳情が相次いでたの。
 それでまあ、その官吏たちを呼び出して査問するんだけど、のらりくらりとかわされてね。
 どう見ても黒なんだけど証拠とかが集まらなくてねえ。
 それに気をよくしたのか、まったく反省の様子もなくってさ。
 その、切れた叔父様がこう……」

首に手刀を当てるしぐさをする。

「おい。まさか」
「うん、ばっさりと首を落としちゃったの」
「まずいだろそれは」

いかんでしょ。

「うん、結構偉い人をやっちゃったからねえ。
 それで覚悟を決めちゃって、どうせ逆賊となるならば、と兵を挙げたの」

なんということでしょう。

「別に叔父様は漢朝に背くつもりもなかったんだけど、実情を宮中に伝えたかったみたい。
 それでもののついでに大掃除をしようということになってね。
 道すがらに、ね。所業の悪い官吏を刈り取っていったの。
 そしたらあれよあれよという間に兵が増えるわ城邑も民が門を開くわの快進撃」
「……それはすげえな」

風評でなく所業で粛清とか。涼州で馬家への声望が異常に高いわけである。

「とうとう長安近くまで進んじゃってねえ。で、討伐軍が到着してたんだけど、それを率いていたのが何進さんだったのよね」

それ、かなり深刻な事態です。いやほんと。どっちの意味でも。

「大将軍自らかよ」
「下手に軍勢を出して裏切られるよりは……ってことじゃない?
 それにしたって背中を気にしながら戦うってやだよねー。たんぽぽなら逃げ出しちゃう」

俺だってやだよ。

「まあ、それでいざぶつかり合うって時にね、何進さんから申し入れがあったの」
「ほう」
「このまま相討ってもいたずらに兵を喪うのみって。
 ならば総大将同士の一騎打ちにて決着を着けん……だったかな」
「なんとまあ」

暑苦しいというか、ロマンチックというか。ぶっちゃけありえなくね?
いや、おかしいだろ!事前の打ち合わせもなく手打ちとか!
チートやチートや!インチキや!

「叔父様も本懐である、とか言っちゃってね。
 翌日の払暁から始まっちゃったのよ、一騎打ちが」
「やっちゃったんだ」

え、ガチでやったのか。ガチなのか。ガチなんだろうなあ、馬騰さんの性格として。
それに何進が付き合うのが意外ではあったのだが。
993 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 23:02:35.93 ID:pILkCrVJo

「うん。すごかったよー。たんぽぽ何が起こってるかよくわかんなかったもん。
 んでお昼になっても決着がつかなくてね。叔父様の馬が潰れちゃったのね」
「万事休す、だな」

まあ、何進のことだろうから馬の餌に毒でも盛ったのだろうと思うが多分それは不可能犯罪だなと思いなおす。

「そう。でも何進さんはおもむろに馬から降りちゃってね。いったん休憩を挟もうって。
 で、今度は二人とも馬から下りて続きを始めたんだけど……。
 今度も決着がつかなかったの。互いに手傷は負わせてはいたんだけどね。
 ほら、何進さんの顔に傷跡あるじゃない?あれ叔父様が付けた傷なのね」
「壮絶すぎだろがよ……」

待って。それ待って。それってガチで英雄譚レベルの逸話やで?
いや、それがあったから漢朝が治まってるのか……?

「で、日没を迎えちゃってね。どちらからともなく矛を収めたのね」
「ま、まさか一日矛を交えて分かり合っちゃったとかじゃないだろうな」

そんな少年漫画みたいなことがあってたまるか。

「すごーい!よく分かったね!やっぱ叔父様が見込むだけのことはあるなあ。
 正直たんぽぽには理解できないよ」

俺にも分からん。分からん。

「それでまあ、叔父様は無罪放免。以来二人はいつの間にか義兄弟。
 たんぽぽわけわかんなーい」

俺はもっとわけわかんないよ!

「ま、まあ馬騰さんを敵にするよりは味方に抱きこんだ方がいいってことなんだろうけど、過程がなあ」

世の中には不思議なことがたくさんあるよ。

「そういうわけで仲がいいの。
 あ、杏仁豆腐おかわりしていい?」
「……好きなだけ食ってくれ」

わーいと歓声を上げる蒲公英を見ながら嘆息する。
なんだかなあ……。

お、俺にどうしろというのだ……。
994 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/13(火) 23:06:36.85 ID:pILkCrVJo
本日ここまでスー
感想とかくだしあー

あ、次スレ案内もしなきゃね(使命感)

       ゝ二二ヽ、  __
     /    >`´;;;;;;;;;;;`;,、 しゅらーん
     '    /〃〃〃´ゞ-、;;;ヽ
        /"        `ヽ;;;ヽ
.        i-‐‐-,-、  ヽ   ゝ;;;;;i
..       i.  ´  `〈`ヾ-'´`〉ヾ;;;i
        〉  ο  .ゝ .|| 〈. |、;i
       〈 .|.       ゝ-‐-'⌒| .〉
        ゝ.   、_,、_,    .ノ;;´;;i
        `i‐-、ゝi__.. -‐;;;;;;;;;;;;;;i
         i;i i/:::/>-."´`ゝ;;;;;;;;;;;;i
.        i;i .i:::/    ヽ二i;;;;;;;;;;;;;i
        "´/`/     ヽ::::i;;;;;;;;;;;;;i
         /;;;;i     : ヽ i;;;;;;;;;;;;;;i,
         /;;;;;;i     :: :::::`|;;;;;;;;;;;;;;ヽ
        //;;;;i     .: :::::/i ̄´i;;ゞ'
        ´  ̄i、____/ .i  '´
           ヽ::::ノ ̄ ̄`、:::/
            `´     `´

ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480942592/
995 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 23:58:22.81 ID:oWKrPX8ko
乙です
996 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/14(水) 21:27:48.14 ID:V4g4oK/Xo
乙したー
>>1000ならながもんの活躍をもっとみたいなーって

それにしてもホント短期決戦強いな!!(鹿)
997 :373 [sagesaga]:2016/12/14(水) 21:30:31.24 ID:0A3cyJWA0
乙です。

流流ちゃんに餌付けされた二の姫がいる……


最初は荒事でのし上がったであろう何進さん。
というか、望めば三公になれたのに大将軍になった事から案外武官向きの気性なのかな?と。

馬騰さんは、厳密には王家には反旗翻してないですね。
悪徳領主や地方官を誅しつつ洛陽に向かったら、 何故か皆付いてくる。

まあいいか。

位の感覚で進んでいたんでしょうね。


叛意を示す激文等を示してなかっただろうし、劉王家としては内心ともかく静観。

困ったのは十常侍以下の 寄生虫。
ここまでの騒ぎになると さすがに王権で処断されかねない。
かといって、心ある将軍達は消極的抵抗で兵を出さない。

結局何進さんにお鉢が回って来た。


馬騰さんも何進さんも『侠』の気がありそうなので、最前線で真意を理解した後は寄生虫達に馬騰さんを殺されないように 工作を行った。


……こんな感じですかね

専制君主制の時代ですから、『逆臣認定』の勅さえ無ければ単なる行軍扱い出来ますから。
それに各征将軍達も堂々と馬騰さんと面談しただろうし、その中で馬騰さんの真意と叛意の無さは確認しただろうし。


二郎さんとはベクトル違いますが、何進さんも漢王朝が滅んだら困る人ですし。
何進さん自身は
『権勢で何かをしたい』というより、
『成り上がりの一族から 皇帝を出したぞ。
どうだこの野郎』

と自らを蔑んだエリート共を鼻で笑いたいのでしょう。

故に自らが簒奪する野心を見せないのでしょう。

先は判らないですが。


勝手な想像なんですが、何進さん、まだ独身なんじゃないかな?
二郎さんみたいにハーレム作っている可能性は有りますが。
で、無愛想な表情でぎこちなく子供を構っていそう。
……つかそんな何進さんは結構可愛いと思う。

998 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/14(水) 21:41:12.59 ID:9oEgz0tMo
勝ったぜ(鹿)

                            __   /´   ` 、                            |/////
                            , "ヘ   ` ´         \                        |/////
                       /          ,イ≧x ',   丶                         |/////
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                        /      ,'"´  `    __⊥_     ',                        |/////
                           ,' _    ´二__',                         |/////
                       {i     ├ ゙´       ん:i:.ノゝ‐- 、 |                   |/////
                             /{i ,x≦{    `゛ ̄ ´|i     |                   |/////
∧                     |      l/ l:ゞ'" ..:::ヽ..    |i     |                   |/////
/∧                        |!    /{"´       ´     li     |                   |/////
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`> -.////////////////∧/∧///  l!    |//,ィ::::::|i////∧///l|   |////////////////______
      ` > / ̄ ̄ ̄ ̄ /二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二≧x \
          |  ケ,、ケ   |! {           ─┐┌ ┐ ヽ   {─‐¨ ‐┬,                 |! |!
          |  /=\   |! {           ─┘└ ┘ ─┘ゝ─   /                 |! |!
        \  [二]   \二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二 彡' /
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
999 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2016/12/14(水) 21:52:12.52 ID:9oEgz0tMo
>>996
>活躍をもっとみたいなーって
微妙に出番は増える気がしますw

>それにしてもホント短期決戦強いな!!(鹿)
GKには若林君が宿っていたくらいの別人でした
あんなんソガじゃないわーと思いながら絶叫してましたw

>>997
>流流ちゃんに餌付けされた二の姫がいる……
二郎ちゃんも餌付けされてるからね、多少はね

>最初は荒事でのし上がったであろう何進さん。
実際、最初のステップで真っ当なことしてたらのし上がれれないというのは現代でもそうですからね
そうですよね……w?

>馬騰さんは、厳密には王家には反旗翻してないですね。
>悪徳領主や地方官を誅しつつ洛陽に向かったら、 何故か皆付いてくる。
馬騰さん的には陛下の信任を受けた官吏を討ったことにものっそい思うところがあります
他の人がどうフォローしても、漢朝に弓引いたと思っております
なので心が擦り切れても尚、奔走します。

>専制君主制の時代ですから、『逆臣認定』の勅さえ無ければ単なる行軍扱い出来ますから。
そうだろうと思って出向いたら相手がガチのガンギマリの忠臣だったという何進さんw

>何進さん自身は
そこはまたなんか書きます

>自らを蔑んだエリート共を鼻で笑いたいのでしょう。
この人、実利主義者過ぎてそういうのどうでもいいという設定です

>自らが簒奪する野心を
自分が簒奪した時のことを考えると実利主義者的にありえないので、黒幕になりますw

>勝手な想像なんですが、何進さん、まだ独身なんじゃないかな?
>二郎さんみたいにハーレム作っている可能性は有りますが。
愛人は作ってるでしょう
子供は作らないでしょう

だって、甥が至尊の座に上るのですから
1000 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/14(水) 21:52:48.10 ID:CryNF31GO
>>1000 ながもんと地味様の活躍がちと見たいかなぁなんて(出来れば救いでも…
欲を出すと陳蘭と赤楽の正妻的な立ち位置同士の関わりも見てみたいかなぁなんて
1001 :1001 :Over 1000 Thread
                     ___, - 、
                    /_____)
.                    | | /   ヽ || 父さんな、会社辞めて小説で食っていこうと思うんだ
                    |_|  ┃ ┃  ||  
                   (/   ⊂⊃  ヽ)        /  ̄ ̄ ̄ \
  \僕はSS!/           \_/  !        ( ( (ヽ     ヽ
                   ,\ _____ /、       | −、ヽ\     !  <私は二次創作
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