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提督「不幸な男女と」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆c4DUj3OH/. :2015/12/31(木) 11:46:17.31 ID:fwQGlqc00
地の文あり。
小ネタ集。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451529977
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:06:31.83 ID:YFxFRnZkO
扶桑「提督、少しトランプをしませんか?」


そう言って扶桑と山城が執務室へとやってきたのは、あの作戦を前日に控えた夜のことであった。


提督「ああ、構わんが。神経衰弱か? それとも七並べか?」

扶桑「いえ、ブラックジャックです」

提督「ブラックジャック?」

俺は思わず聞き返していた。
こう言っては何だがこの姉妹、何と言うか、運が悪いところがある。
カードを引き、二枚のカードの合計値を21に近づけるというルールで、かなり運要素の絡むゲームだ。


山城「不幸だわ……」


案の定というか、3回中3回とも俺が勝った。


扶桑「提督。賭けをしませんか?」


そう扶桑が切り出したのは、俺が5連勝をしたとき。
つまり彼女達が5連敗したときだった。
3 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:07:25.59 ID:YFxFRnZkO
提督「賭け?」


個人的にギャンブルはあまり好まない。
しかし戦場の慰みとして、多少の額であるならば賭けも許可していた。
だから。


提督「かまわんが……。しかしこう言ったら何だが……」

山城「提督は私達が負けるとでも言いたいの?」

提督「そうは言わん。だが……」


5回のうち、俺の札が良くない時もあった。
しかしそれでも勝つことができたのは、この場の流れが俺に来ているからであろう。
勝者の驕りが無いとは言わないが、それでも分は俺にあるように思えた。


扶桑「提督、お願いします。上限は1万円までにしますから」


そう言われると、弱い。
俺は。


提督「まぁ、そのくらいなら」


と受けていた。
扶桑の白く滑らかな指が、場に出ていた全てのカードを集める。
その美しさは、さながら一枚の絵画のようですらあり。


扶桑「提督?」


見とれていた俺は、カードが配られたことにすら気づいていなかった。


提督「あ、ああ。すまん」

山城「扶桑姉様は確かに美しいですが、少し見つめ過ぎでは……」


その山城の言葉にもう一度謝り、俺は配られたカードを見た。
キングの絵札とダイヤの8。
絵札は10点となるため、この時点で俺の持ち点は18である。
ディーラーである扶桑の表に向けられたカードを見れば、スペードの7。
4 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:08:33.36 ID:YFxFRnZkO
扶桑「スタンド」


扶桑がスタンドを宣言したということは、裏向きのカードとの合計値が17点以上ということだ。
もし裏向きのカードがエースならば18となり、プッシュ。即ち、引き分けとなる。
しかし、エースである確率は49分の1。
このまま行けば、勝てる可能性の方が高い。


提督「俺もスタンドだ」


だから俺は、新たにカードを引くことをやめた。


山城「……ヒット」


一方の山城はヒットを宣言し、カードをもう一枚引く。


山城「……ヒット」


どうやら3枚目のカードもあまり良くなかったらしく、山城はサイドヒットを宣言した。


山城「バスト。……やっぱり不幸だわ」


バストとは、手札の合計値が21点を超えることで、その時点で負けが確定する。
こうなると、扶桑と俺の一騎打ちだ。
扶桑の滑らかな指が、裏向きに並べられたカードにかかる。
オープンされたカードは、クローバーのクイーン。
扶桑の合計値は17。
俺の方が一点勝った。


扶桑「……勝てると思ったのですが……」

提督「まぁ、運が良かっただけさ」

山城「運……ですか……はぁ……」


山城は盛大なため息をついた。
それがツキを逃してしまったのだろうか。
その後も俺は順調に勝ち続けることになった。
5 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:09:38.95 ID:YFxFRnZkO
扶桑「……とうとう、1万円が無くなってしまいましたね……」

提督「さて、そろそろ」


俺がそう言うと。


山城「提督、勝ち逃げですか? やっぱり不幸だわ……」


山城がそんなことを言い出した。


提督「おいおい、勝ち逃げって……」


俺がそう言おうとすると。


扶桑「提督、最後にもうひと勝負だけいいですか?」

山城「そうです、姉様の言う通りです。このままでは終われません」


扶桑達の気持ちもわからなくはない。
しかし俺としても、これ以上部下から金銭を巻き上げることを思うと、そうそう簡単には首肯できずにいた。


扶桑「でしたら提督」

提督「ん? 何だ?」

扶桑「提督は今までの勝ち金全てを賭けてください」

提督「全て?」

扶桑「そう、全てです。提督の持ち金も全て。その代わり私達は……山城」

山城「はい、扶桑姉様」


そう言うと、扶桑と山城は、髪飾りを外した。
そして、胸元から一葉の写真を取り出し。


扶桑「これを賭けます」

提督「……いいのか?」


俺は差し出された髪飾り二つと、一葉の写真を見る。
写真に写っているのは、扶桑・山城・朝雲に山雲。満潮や最上、時雨。
みんな微笑みを浮かべて写っている。
それを見た俺は。


提督「……本当にいいんだな?」

扶桑「ええ。髪飾りなら、また買いに行けばいい。写真ならまたみんなで撮ればいいんです。それに……」

山城「私達はまだ負けていませんから」


なるほど、道理である。
6 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:11:24.05 ID:YFxFRnZkO
提督「よし、受けよう」

扶桑「ありがとうございます、提督。ただし……」


扶桑がカードを集め、手際よく切っていく。
最後の勝負とあって、少しルールを変えることを扶桑は提案してきた。
俺は普通通りに、配られた二枚の札の合計値で。扶桑と山城は一枚ずつカードを持ち、その合計値で点数を競う。
そして最もカードの合計値が21に近かった方が、三万円と髪飾り二つと一葉の写真を手にするというわけだ。
その提案を聞いたとき、俺は拒否しようかと思った。
扶桑、山城、俺の3人であれば、扶桑か山城のどちらかが勝てば扶桑姉妹の総取りとなる。
そして俺は別にそれでいいと思ったからだ。
しかし扶桑は。


扶桑「ぜひこのルールでお願いします」


と譲らなかった。
一枚目のカードが配られる。
ハートのジャック。
二枚目のカードが配られる。
ハートの3。
合計値は13。


扶桑「提督、どうしますか?」


どうすべきだろうか。
ヒットを宣言し、もう一枚引くべきだろうか。
ここで9以上のカードを引く確率は50分の19。
決して分の悪い賭けではない。
しかし俺は。


提督「スタンド」


今の手札で勝負することにした。


扶桑「では、私達もスタンドです」


そう言って、扶桑は自身のカードを開ける。
スペードのエース。


山城「不幸だわ」


そう言って山城が場に出したカードは。
クローバーのエース。
合計値は12。


提督「なぜだ?」


ヒットを宣言し、もう一枚引いていれば扶桑達が勝った可能性が高い。
なぜ引かなかったのだろうか。


扶桑「それは、それを提督に持っていて欲しかったからです」


そう言って扶桑は、髪飾りと一葉の写真を俺に手渡してきた。


提督「これを?」

扶桑「ええ」

提督「なぜわざわざこんな周りくどいことを?」

山城「普通に渡したら受け取ってくれましたか?」


確かに受け取らなかっただろう。
「何を遺品みたいに。お前達はまた戻って来るのだから、こんな物はいらない」とでも言って。
7 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:12:24.72 ID:YFxFRnZkO
扶桑「それに……」


扶桑は一旦言葉をそこで止めた。
そして山城が続ける。


山城「“それ”は、私達よりも不幸な人に渡すわけには行きませんでしたから」


そう言って、悪戯っぽく微笑んだ。


扶桑「じゃあ山城、私達はこのへんで失礼しましょうか」

山城「そうですね、姉様」

扶桑「では、提督。お休みなさい」

山城「お休みなさい」


そう言って、扶桑と山城は執務室を後にした。


提督「……次のカードは?」


扶桑達が出て行ってしばらく。
出しっぱなしのトランプを何となく眺めていた時、ふと疑問が降ってきた。
あの時、扶桑達が3枚目のカードを引いていたら、どうなっていたのだろうか。
その疑問を解決すべく、俺は山の一番上のカードに手をかける。


提督「スペードのジャック」


なるほど、あの2人は本当に運が無い。


提督「それとも……運が無いのは俺の方かな?」


あの時、俺がヒットを宣言しカードを引いていれば、このカードは俺のものになっていたわけだ。


提督「確かに俺は運が無い」


スペードのジャックが歪む。
カードが曲がることも気にせず、俺は強く握りしめた。
涙が一粒。ぽとりとカードに落ちる。
8 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:13:17.76 ID:YFxFRnZkO
−−後日−−


時雨「扶桑も山城も凄かったよ……。皆が忘れても、僕だけはずっと覚えているから……」


岸壁に腰掛け海を眺めていた時雨が、ふとそんなことを口にした。
扶桑たちの最期は、それはそれは壮絶なものであったらしい。
扶桑、山城。最上に満潮、朝雲に山雲。
時雨だけを遺し、あの作戦に参加した全ての艦娘が海中へち旅発った。


提督「時雨」


俺は・みしめるようにその名を口にした。
約束は果たさなければならない。
それが遺された者の責務というものであろう。
あの日、扶桑から受け取った写真の裏には、このような一文が添えられていた。


『この中で生き残った者があれば、私達の代わりに幸せにしてあげてください』


俺は思わず時雨を抱きしめた。
優しい潮風が、時雨の髪に付けられた飾りを揺らす。



提督「不幸な男女と」完
9 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:14:36.72 ID:YFxFRnZkO
赤城「ようこそいらっしゃいました、提督」


赤城はそう言ってわずかに微笑んだ。
人口も50人ほどしかいない、なんとも長閑な島である。


提督「出迎えご苦労」


そう言って俺は答礼を返す。


赤城「船旅は如何でしたか?」


前任の提督が“名誉の戦死を遂げた”ため、俺がその後任に選ばれた。
しかし“戦死”というのは表向きの理由で、どうやら事実は事故死であったらしい。
真相はわからないが、何かに取り憑かれたかのように突然走り出したかと思えば、石を抱えたまま海へと飛び込み、そのまま海中から上がってくることはなかったそうだ。


提督「まぁ、船は好きだからな。楽しかったよ」


俺は先の赤城の問いにそう答えた。
赤城は前任の提督が海に飛び込む瞬間を見ていたそうだ。
もっとも、見ていたのは赤城だけではない。
他にも何人かの艦娘。そして、島の住人も何人かその瞬間を目撃している。
全員の証言に矛盾する点は無く、戦場特有の環境によって精神を患ったもの。事件性は皆無。
それが海軍の総意であった。


赤城「提督もお気をつけくださいね?」


赤城にそう言われるまでは、俺もそう思っていた。


提督「気をつける? いったい何にだ?」

赤城「非常に申し上げにくいのですが……」


赤城はそう言って目を伏せた。


赤城「この島には、亡霊がいます」
10 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:15:49.93 ID:YFxFRnZkO
亡霊?
俺はあまりオカルトを信じるたちではない。
しかし、特に海に関わる者は、その大小はあるにしても、ある種迷信に対して無心ではいられない。
というのも、迷信というのは何もないところには生まれないからである。
それは先人たちの知恵とも言っていい。
経験則に基づいた危険を察知するために、寓話的に語り継がれているものも多々あるからである。


赤城「この島の住人にも奇妙な自殺をする者もいます」


なるほど。
昨日まで元気だったり、特に理由もない自殺を亡霊の仕業と考えているというやつか。


提督「わかった、気をつけよう」


周囲から見たら実に取るに足らないように思えることであっても、本人にとっては死ぬ理由になることだって多くある。
そんなところであろうと思っていたら。


赤城「提督は信じていらっしゃらないかもしれませんが、私は見ました……」


そうか、赤城は前任者が死ぬ瞬間を目撃しているのであったか。
ならば、神経を鋭敏にさせるのもやむを得ないことである。


提督「忠言感謝する。本当に気をつけるとしよう」


俺がそう言うと、赤城は懐から小さな木彫りの人形を取り出した。


赤城「亡霊を避けるには、祈祷してもらったものがいいそうです。提督、お一つ差し上げます」


精巧とは程遠いできではあったが、せっかくの好意だ。


提督「ありがとう」


俺は人差し指ほどの大きさの人形を受け取った。


提督「ところで、その亡霊を見た者はいるのか?」

赤城「そうですね……。人によって姿を変えるそうです」


姿を変える?
いや、そもそも見える者なのか?


赤城「前の提督の時は、老人の姿をしていたそうです」


赤城の話によれば亡霊は、その人が死ぬ直前に死を伝えにくるそうだ。
11 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:17:21.34 ID:YFxFRnZkO
赤城「他にも少女の姿をしていたり、中には深海棲艦の姿をしているときもあったそうです。あとは、そうですね……」


赤城は悪戯っぽい笑みを浮かべ。


赤城「空母赤城の姿をしているときもあるそうです」


と、付け加えた。
一瞬の間があり、それから俺たちは顔を見合わせて笑った。
どうやら、深刻になりかけた空気を変えるための、赤城なりの冗談であったらしい。
ひとしきり笑いあったのち。


赤城「本日はお疲れでしょう。お部屋にご案内いたしますね」


そう言って、俺はこれから自室になる部屋へと案内された。
そして赤城はその部屋から去るさい。


赤城「そうそう。亡霊は取り憑く前に、その人の前に現れ、“印”を渡すそうです」

提督「印?」

赤城「そうです。たとえば……木彫りの人形とかを」


そう言った赤城の顔には、冷たく獰猛そうな笑みが浮かんでいた。



「亡霊のいる島」完
12 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:18:51.34 ID:YFxFRnZkO
提督「これは……何だ?」


俺の目の前には、物体Xとも呼ぶべき何かが、皿に盛られて置かれていた。


比叡「比叡特製カレーですが?」


そんな当たり前のことをなぜ今更聞くのかとばかりに、物体X、どうも比叡特製カレーというらしい、の製作者。比叡は答えた。


提督「……カレー……か」


俺は、ヘレンケラーが初めて水をwaterと認識したときのような新鮮さと驚きを持って、カレーという言葉を口にした。
というのも、俺の眼前に置かれたそれは、色こそカレーであったが、それ以外は世間一般で言うそれとは大きな隔たりがあったからだ。


提督「なぁ、榛名。これはカレーか?」


たまらず俺は、本日の秘書官としてそばに控えていた榛名に問いかけた。


榛名「え!? は、はい! 榛名は大丈夫です!」


もはや答えになっていない。


比叡「やだなぁ司令。どう見てもカレーじゃないですか。ね、榛名?」


榛名「は、はい! 比叡お姉さま。は、榛名は大丈夫です!」

比叡「ね、司令。榛名もカレーだって言ってますよ?」


いや、言っていなかった。
このまま榛名に問い続けても大丈夫ではあるまい。
そこで俺は比叡に問うことにした。


提督「なぁ比叡。いったい何を入れた?」

比叡「司令の好きな物しか入ってませんよ?」


ああ、うん。
確かに俺は、苺も好きだし、チーズケーキも好きだ。
シュークリームも、大福だって好きだ。
だがな、比叡。


提督「なぜ苺、チーズケーキ、シュークリーム、大福をカレーに入れようと思ったんだ?」

比叡「そんなの決まってるじゃないですか!」

提督「決まってる?」

比叡「そうです。好きな物に好きな物を入れたらより美味しくなるからですよ!」


「比叡、気合い! 入れて! 作りました!」という言葉は聞き流した。


提督「なぁ、榛名。カレー、食べられるか?」

榛名「い、いえ。榛名は本当に大丈夫です!」


ああ、うん。
正しい“大丈夫”の使い方だ。
だがな、榛名よ。
日本語というのは難しいものだ。


提督「そうかそうか。榛名はカレーが食べたいか、なら」

榛名「い、いえ! 榛名は大丈夫です! それにそれは、比叡お姉さまが提督のために作られた物。勝手に榛名が食べるわけにはいきません!」
13 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:20:56.49 ID:YFxFRnZkO
断固拒否された。
俺の言うことなら割と何でもよく聞く榛名にここまで拒絶される物体X、もとい比叡特製カレー。


比叡「さあさあ、司令。榛名もそう言ってることですし、遠慮せずに食べてくださいよ」


どうやら年貢の納めどきというものらしい。


比叡「司令の好きなハーブティーもコーヒーも入ってるんで、香りもバッチリです! あ、もちろん緑茶も入ってますよ!」


うん、もはや何の香りかわからなくなっている。
俺は意を決して、カレーもどきを口に含んだ。


提督「ま、まず……」

比叡「え?」


はっきり言うまでもなくマズイ。
マズイというより、これは食べ物なのだろうか?
苦味、甘味、辛味、酸味に塩気。
その全てが一瞬のうちに口内へと広がり、奇妙な香りが鼻へと抜ける。
マズイ以上である。


比叡「し、司令……?」


俺が何とか物体Xを飲み下したところ、眼前にはさながら捨てられそうな仔犬のような目をした比叡がいた。
しまったか。
14 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2015/12/31(木) 12:22:05.81 ID:YFxFRnZkO
提督「い、いや、食べるのが勿体無いくらいに美味しかったよ!」


勿体無いから、もう食べなくてもいいかな?


比叡「そんな、遠慮なんかしないでください! 比叡、気合い! 入れて! また作りますから!」


花が咲く様子を早回しで見せられたような笑顔の比叡。
そんな顔をされては……。
俺は一気に物体Xを体内へと流しこんだ。
そう、味も香りも感じる暇もなく、それはもう一瞬で。
そして。


提督「……比叡。今度はいろいろな物を混ぜるのではなく、系統を統一した物で作ってくれないか?」

比叡「系統、ですか?」

提督「そうだ。具材はオーソドックスでいい。人参、ジャガイモ、玉ねぎに肉」

比叡「それじゃあ普通のカレーじゃないですか。気合いが足りません!」

提督「話は最後まで聞け。もちろん、それだけじゃない」

比叡「どういうことですか?」

提督「人参なら人参で、数種類の人参を入れる。ジャガイモならジャガイモで、数種類のジャガイモを入れるといった具合だ」

比叡「なるほど! 司令は、好きなものをガッツリいきたいタイプなんですね!」

提督「……そう……かな……?」

比叡「確かに今回のカレーを弁当にたとえるなら、幕の内タイプ」

提督「え? え?」

比叡「いろいろな物を少しずつ詰め込んだカレーでした」

提督「え? 比叡、どういうことだ?」

比叡「しかし司令も日本男児。カツ丼のように、メインは一品のみ。それ以外は何もいらない! そんなカレーをご所望というわけですね!」

提督「ちょ、ちょっと。ひ、比叡さん?」

比叡「確かに今回はシュークリームも、カスタードのものだけでした。なるほど、次はシュークリームだけにして、その代わりに、生クリーム、チョコレートクリーム、ストロベリークリームなど、ガッツリシュークリームカレーですね!」

提督「え? なにそれ? シュークリーム? カレー? なにそれ? 一旦落ち着こう? ね?」

比叡「わかりました、司令! 比叡、気合い! 入れて! 作ります!」

提督「ちょっと、ちょっと待って! お、俺、シュークリームよりジャガイモとか人参とか玉ねぎとか肉とか好きだからね! ホント、肉とかジャガイモとか大好き! ひ、比叡!?」


シュークリームカレーという不穏な言葉を残し、比叡は足早に執務室を去っていってしまった。


榛名「……提督。比叡お姉さまが、大変申し訳ありません……」

提督「……いや、榛名の責任では……」


俺は、胃の中からせり上がってくるいろいろに耐えながら、次なる比叡カレーの恐怖に怯えていた。



比叡「比叡特製カレーを召し上がれ」その1完
15 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/01(金) 19:04:36.39 ID:m0LoRfmu0
比叡+カレーの組み合わせは本当にシリアスブレイクだな。前二つの感傷的な気分を見事に拭い去った
16 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:00:41.31 ID:wnhe3YVQ0
比叡「お姉さまのお部屋を片付けようかと思います」


そう言って比叡が執務室へやってきたのは、金剛が沈んでから2週間後のことであった。
金剛の撃沈を聞いた瞬間の比叡は、酷く狼狽していた。
そしてその翌日からは、金剛の私室に篭って、出て来なくなった。
俺も榛名も霧島も心配し何度か見に行ったが、比叡はいつも、金剛が気に入っていたマホガニーのアンティーク机を前に座り、窓から見える海をぼんやりと眺めていた。
その姿は、ただただ姉の帰りを信じて待っているようで、俺も榛名たちも、いたたまれない気持ちにさせられた。
しかしそれも、無理もなからぬことであろう。
あれだけ慕い懐いていた姉が帰らぬ人となったのだ。平静でいることの方が難しい。
そんな比叡が、前に向かって歩み出そうとしている。
それは喜ばしいことではあったが。


提督「本当にいいのか?」


俺がそう言うと、比叡は晴れやかな、しかしわずかに影を残した笑みを浮かべ。


比叡「はい、いつまでも部屋一つを占有しているわけにはいきませんから。それに……」


比叡は一拍置き、何かを決意するかのように言い切った。


比叡「私がいつまでも落ち込んでいたら、榛名と霧島を困らせてしまいます。あと、お姉さまにも笑われてしまいますから」

提督「そうか。なら、許可しようと思うが、榛名達にはもう言ったのか?」

比叡「はい、榛名も霧島も賛成してくれました。ところで司令」

提督「なんだ?」

比叡「あの机、私がいただいてもいいですか?」


比叡の言う机とは、俺が金剛に買い与えた、マホガニーのアンティーク机のことだろう。
17 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:01:28.79 ID:wnhe3YVQ0
あの机のことはよく覚えている。
かつて金剛がMVPをとったご褒美として、俺との外出をねだったことがある。
その時、一緒にある家具店に立ち寄り、熱心にその机を金剛が眺めるという一幕があった。
俺が「その机、欲しいのか?」と金剛に尋ねると。


金剛「うーん、綺麗な机だとは思いマスガ……」


と言って、金剛は値札に視線を向けた。
なるほど。
かなり高価な代物である。
俺の給料2ヶ月分でも、足が出る額であった。


金剛「また今度にするネ。楽しみはあとにとっておくものデース。さ、提督。デートの続きネ!」


そう言ってその時は店を出た。
しかしその後も金剛は何度かあの店に、机を見にいっていたようだ。
そんなことを風の噂で聞いた俺は、金剛とケッコンカッコカリを行う際、あの机を贈ることにした。


金剛「提督! Thank youネ!」

提督「まぁ、カッコカリとは言え、一応、な」

金剛「私、この机を一生大事にしマース! 本当に本当にThank youネ! でも……」

提督「ん?」

金剛「Japanでは花嫁が、嫁入り道具を持って行くって聞きました。これじゃあ逆デース……」

提督「ん、まぁ、そうかな?」

金剛「Umm……そうだ! 提督、ちょっとこっちに来てくだサーイ」

提督「? 何だ?」

金剛「いいからいいから」


そう言って金剛は、俺の頬にキスをした。


金剛「I love you forever.I need you」


そう言って。
18 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:02:34.15 ID:wnhe3YVQ0
提督「それは別にかまわんが」


俺は比叡の申し出にそう答えていた。
提督という職は、何とも因果なものである。
多くの命を預かっている。
である以上、常に生きている者のことを考え続けなければならない。
そうしなければ、死者の数を増やすことになってしまう。
俺には、金剛のことを悲しむことすら許されないのか……。


比叡「こんなことを言うのはあれですが……本当にいいんですか? あの机は司令がお姉さまに……」


表情に出ていたか。
比叡が俺の顔を覗き込んでくる。


提督「ああ。あの机は金剛のものだ。俺は立場上、金剛を思い出してやることができそうもない……」


あの机を見ていると、どうしても金剛のことを思い出してしまう。
過去を反省することはできても、過去に囚われることは許されない。


提督「だからあれは、比叡に持っていて欲しいと思う」


俺はそう言っていた。


比叡「司令……」

提督「すまんな……。で、金剛の部屋の件だったか?」

比叡「はい。片付けようと思います」

提督「そうか。許可しよう。頼む」

比叡「はい。比叡、気合い! 入れて! 片付けます!」


最後のは空元気であったのかもしれない。


提督「比叡にまで心配をかけるとはな……。俺もまだまだか」


執務室を後にする比叡を見送りながら、そう呟いた。
19 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:09:37.17 ID:wnhe3YVQ0
>>18の前にこれが入ります。


その後も金剛は、あの机を大切に扱っていた。
金剛は毎日日記を付けることを習慣としていたが、その日記が書き終わると鍵のついた一番上の引き出しに日記帳をしまう。
そして愛おしむような手つきで机を磨いていた。
俺も何度かその場面を目撃したことがある。


金剛「この机は私の宝物デース。こうやって磨いていると、心が落ち着くネ」


そう言っていたことが思い出される。
なるほど、金剛そのもののような机か。
20 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:10:43.98 ID:wnhe3YVQ0
提督「それは別にかまわんが」


俺は比叡の申し出にそう答えていた。
提督という職は、何とも因果なものである。
多くの命を預かっている。
である以上、常に生きている者のことを考え続けなければならない。
そうしなければ、死者の数を増やすことになってしまう。
俺には、金剛のことを悲しむことすら許されないのか……。


比叡「こんなことを言うのはあれですが……本当にいいんですか? あの机は司令がお姉さまに……」


表情に出ていたか。
比叡が俺の顔を覗き込んでくる。


提督「ああ。あの机は金剛のものだ。俺は立場上、金剛を思い出してやることができそうもない……」


あの机を見ていると、どうしても金剛のことを思い出してしまう。
過去を反省することはできても、過去に囚われることは許されない。


提督「だからあれは、比叡に持っていて欲しいと思う」


俺はそう言っていた。


比叡「司令……」

提督「すまんな……。で、金剛の部屋の件だったか?」

比叡「はい。片付けようと思います」

提督「そうか。許可しよう。頼む」

比叡「はい。比叡、気合い! 入れて! 片付けます!」


最後のは空元気であったのかもしれない。


提督「比叡にまで心配をかけるとはな……。俺もまだまだか」


執務室を後にする比叡を見送りながら、そう呟いた。
21 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:11:26.19 ID:wnhe3YVQ0
そんなことがあった翌日のことである。
俺がいつものように執務室にいると、大淀が執務室に駆け込んできた。


大淀「提督、榛名さんたちを知りませんか? 出撃の時間になっても、居なくって……」


いない?
いったいどういうことだろう?
俺は、予定表のページを繰った。
榛名と霧島の名がある。


提督「榛名も霧島もか?」

大淀「はい……」


2人とも、出撃翌予定を忘れるような性格ではない。
何かがあった?


提督「全館探したのか?」

大淀「はい」


大淀が力なく頷いた。
そこで俺は、昨日比叡が金剛の部屋を掃除すると言っていたことを思い出す。


提督「金剛の部屋もか?」

大淀「はい。でもいませんでした……」


どういうことだ?
どこにもいない?
そんな馬鹿な。


提督「すでに出撃しているということもないな?」

大淀「はい。榛名さんの艤装も、霧島さんの艤装もドックにありましたので……」

提督「よし、俺も探そう。大淀は待機中の連中を動員して、もう一度捜索してくれ」

大淀「は、はい!」


こうなると、何かあったとしか考えられない。
いったい何があったのだ?
いや、今はまず心当たりを探そう。
俺は真っ直ぐに、金剛の部屋へと向かった。
22 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:12:07.25 ID:wnhe3YVQ0
金剛の部屋は、雑然としていた。
本棚から出されたと思しき書籍が床に放り出されている。
その一部は紐で縛られまとめられていた。
片付けの途中であったか。
しかし、そこに榛名の姿も、霧島の姿もなかった。比叡もいない。
ここにいるのは俺だけだった。


提督「…………」


ふと、マホガニーの机が目に入る。
金剛の机だ。
主を失った部屋にあって堂々と佇むその姿が、かつてこの机の前で様々記していた金剛の姿を幻視させる。


提督「金剛……」


俺は思わずその机を撫でていた。
かつての持ち主が、そうしていたように。
愛おしむように。
懐かしむように。
ふと、潮騒が聞こえる。
マホガニーの机の一番上の引き出しが、1人でに開く。
金剛が鍵をかけ、日記を閉まっていた引き出しだ。
潮騒の音が強くなる。
そして、引き出しの奥からは白い手が見えた。
その手はまるでいざなうかのように、俺の袖をとる。


提督「……そういうことか」


俺はなぜ榛名たちが居なくなったかを理解した。
嘗てその机を優しく撫でていた指が、俺を海の底へといざなう。
波の音が間近に聞こえる。



金剛「I love you foreve. I need you」完
23 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/01(金) 22:13:56.50 ID:wnhe3YVQ0
>>18を飛ばして読むとすっきりするようになってますので、飛ばして読んでください。
24 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/02(土) 02:32:22.12 ID:FuAVf1kn0
乙です
25 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/02(土) 14:46:31.76 ID:F6rvcOIro
26 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/24(日) 13:49:13.55 ID:RkhE/jCSO
提督「ゴーヤ。お前を呼んだのは他でもない」

58「なんでちか? オリョクル? キスクル? それともカレクル?」

提督「いや、そんなことではない」

58「じゃあなんでち? あ、デコイなら絶対に御断りでちよ」

提督「いや、それでもないんだ」

58「はっ!? ま、まさか、5-5でちか!?」

提督「それも違う。というか、うちは別にブラックじゃないだろ。どれもやったことないし」

58「人間、何がきっかけで変わるかわからないでち。あんなに大人しかったユーも……」

呂「でっち? ろーちゃんがどうしたって? 呼んだって?」

提督「というか、ゴーヤ。なんで呂500を連れて来たんだ?」

58「別に連れて来たわけじゃないよ。勝手についてきただけでち」

提督「ゴーヤ、お前、愛されてるな」

58「あんまり嬉しくないでち……」

呂「でっちはろーちゃんのこと、あまり好きじゃないって……?」

58「そうは言ってないでち。それと、ゴーヤはでっちじゃないでち」

呂「じゃあ、どういうことですって。日本語むつかしぃ。ろーちゃん、まだまだ勉強が足りないって……」

提督「まぁ、簡単に言えば、ゴーヤは呂500が大好きってことさ」

58「なっ!?」

呂「ホント? 良かったって。ろーちゃんもでっちのこと、大好きですって。一緒に泳ぎたいって」

58「提督! 勝手なことを言わないで欲しいでち!」

呂「……でっちは、ろーちゃんのこと嫌い……?」

58「……そうも言ってないでち。あと、58はでっちじゃないでち!」

呂「? ? ?」

提督「ほら、ゴーヤ。お前がはっきりしないから呂500も困惑してるぞ」

58「うぅ……まぁ、ゴーヤのことをでっちと呼ばないなら、ゴーヤも好きってことでいいでち……」

呂「ホント!? 良かったって。ろーちゃん嬉しいですって」

提督「良かったな」
27 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/01/24(日) 13:54:08.69 ID:sspxZtr6O
58「で、提督。ゴーヤに話ってなんでちか?」

提督「ああ、そうだった。実は間宮から俺に、ある依頼があった」

呂「マミーヤから提督に?」

提督「そうだ。なんでも、鯨の出汁を使いたいんだそうだ」

58「鯨出汁?」

提督「そうだ。鯨の出汁だ」

58「それがゴーヤと何の関係があるんでち?」

提督「鯨出汁と言えば鯨。鯨と言えば大鯨だ」

58「意味がわからないでち……」

呂「ろーちゃんもよくわからないですって」

提督「つまりだ」

58「つまり?」

提督「大鯨のタイツを出汁にすればいいんじゃないかと俺は考えたわけだ」

58「は?」

提督「理屈はこうだ」

58「聞いてないでち。というか、聞きたくもないでち」

提督「大鯨のはいてるタイツは厚手だな? 厚手のタイツ。それは蒸れる」

58「耳を塞いでるでち。こんな話を聞いてたら、耳が腐るでち」

呂「でっち、ろーちゃんの耳、腐っちゃうって? それは大変ですって!」

提督「蒸れるということは、汗をたっぷり吸い込んでいるということだ」

58「提督、とうとう頭がおかしくなったでちか?」

呂「でっち、でっち。でっちが耳を塞いでるから、ろーちゃんよく聞こえないですって」

58「聞かない方がいいでち……」

提督「大鯨の汗をたっぷりと吸い込んだタイツ。つまりそれは、鯨の出汁を吸い込んだと同義ではないか」

58「全然違うでち」

提督「大鯨の使用済タイツを使えば、鯨出汁が取れる。俺はそう思った」

58「提督、そもそも大鯨は鯨じゃないでち」

提督「いや、そこは大して問題ではない」

58「え? 鯨出汁が必要だったんじゃないでちか?」

提督「それはそれ、これはこれ、だ」

58「は?」

提督「俺は、鯨出汁より、大鯨出汁の方が食べてみたいと思ったのだ」

58「もう、色々と手遅れみたいでち……」

提督「大鯨の白く健康的なふくらはぎ。そして、太もも。さらにタイツということは……」

58「もう、帰るでち」

呂「でっち、一緒に泳ぎに行きたいって。伊号のみんなで潜水しようって」

58「そうでちね。せっかくのいい天気だし、みんなで泳ぎに行くでち」

提督「タイツということは、だ。大鯨の、大切な部分も包み込んでいたことになる。そこから発せられた熱気、そして汗も吸い込んでいたというわけだ」

呂「マル・ユーも誘おうって。マル・ユーとも一緒に泳ぎたいって」

58「そうでちね。大鯨も誘って、少し遠くに行くのもいいでちね」

呂「やったぁ! ろーちゃん、大鯨のカレー、大好きですって! 早く行くって。ろーちゃん、行きたいって!」

58「そうでちね。あと、ゴーヤは、でっちじゃないでち」

提督「つまり、大鯨のタイツは、大鯨のすべてが……って、誰もいない……」
「潜水艦隊の憂鬱」その1完
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/13(土) 14:59:54.82 ID:8Z52qvNAo
待ってる
29 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:43:15.87 ID:1NgH7uH8O
天気晴朗ナレドモ波高シ。
とある参謀が、海戦を前に打電したという一文であるが、この海がまさにそんな様子であった。


瑞鶴「あー退屈ー!!」


洋上をたゆたう瑞鶴は、突然そう叫んだ。
いくら洋上とは言えない、これだけ大きな声ならば聞こえないはずはない。
だから、そんな瑞鶴の叫びを耳にした翔鶴は、間髪入れずにたしなめた。


翔鶴「ダメよ瑞鶴。そんなこと言うものでは無いわ」

利根「そうじゃぞ、船団護衛も重要な任務じゃ」

瑞鶴「だってぇ〜」


瑞鶴の不満そうな声が波間に消える。
そんなやり取りを横目にしながら、武蔵も口にこそ出さなかったものの、瑞鶴の意見に同意していた。
護るべき輸送船のうち1隻が故障して手持ち無沙汰になってしまったこともある。
本来、この海域は敵の勢力圏に近い。
だから先ほど、故障した輸送船を破棄し、積荷を移し替えることを船団司令部に提案したが、却下されたのだ。


武蔵「船団司令部は何を考えているのか……」


確かに船団護衛は重要な任務であることはわかる。
燃料や弾薬が無ければ戦いたくとも戦えない。
それは武蔵も嫌というほど理解していたが、それにしても今回は大袈裟すぎる。
正規空母2杯に、重巡2杯に、戦艦1杯。しかもその戦艦は大和型ときている。
さらに加えて駆逐も数杯動員しての護衛であるのだから、幾ら無秩序を体現したかのような深海棲艦と雖もそう易々とは襲ってきまい。
そのことが、船団司令部に慢心を生み出しているのかもしれない。
武蔵はそう判断した。
30 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:46:01.24 ID:1NgH7uH8O
武蔵「やれやれ、だな」


ふと、武蔵は昨日のやりとりを思い出す。


提督「武蔵。お前に重要な任務がある」


そう言って提督に呼び出されたときには、艦隊決戦かと気を引き締めたものだ。
しかし、いざ話を聞いてみれば、任務は輸送船団の護衛だという。


武蔵「……私が護衛……?」


怪訝な表情を浮かべながらの問いかけとなった。
幾ら人型になったとはいえ、大和級戦艦。
それを動かすにはそれなりの燃料が必要となる。
場合によっては、輸送した燃料を武蔵1人で消費し切るということにもなりかねない。


提督「なんだ、不服か?」


先の疑問もあるが、加えて提督の言う不満がなかったわけではない。
戦艦に生まれた以上、主砲を撃ち合うことこそ、その本懐と思う気持ちが武蔵にもあった。


武蔵「いや、そういうわけではないが……」


だが、軍人である以上、命令は絶対。
故に武蔵はこう答えた。


提督「まぁ、いい」


おそらく武蔵に不満があることは提督にもわかったであろう。
表情に出ていたかもしれない。
だが、武蔵がそれを口にしないのであれば、提督にもこれ以上咎める気はなかった。


提督「これは大本営から直々に来た命令だ」

武蔵「大本営直々に?」

提督「そうだ。なんでも、よほど貴重な物を運びたいらしい」


提督は、紙巻に火をつけながら続けた。


提督「中身が何かは俺も知らん。とにかく貴重なものであるらしいから、間違いの無いようにとのお達しだ」


提督もどこか不貞腐れたような表情を纏っていた。
提督の口から吐き出された煙が室内に広がる。


提督「そういうわけで、お前にも護衛に加わってもらいたい。というか、今回の旗艦を任せたい」
31 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:47:00.56 ID:1NgH7uH8O
武蔵「旗艦だと?」


本来であれば、護衛艦艇は船団司令部の隷下に加わるのが常である。
つまり、輸送船はもちろん、一時的にではあるが、集められた護衛艦艇も船団司令官の指揮に従うことになっている。
そして、船団司令官は艦に乗り、直接護衛の指揮を執るはずである。
旗艦は、司令官の乗る船。
当然だが、艦娘である武蔵には司令官を乗せることはできない。


提督「お前の疑問もわかる。今回だけの特例だ」

武蔵「特例?」

提督「そうだ。ところで武蔵、本邦の護衛船団の弱点がわかるか?」


なるほど、そういうことか。
武蔵は提督の問い掛けだけで合点がいった。
護衛船団は臨時で集められる。
しかも、船団司令官を除いて一航海ごとに入れ替わるものであった。
言って見れば、寄せ集めの集団である。
となれば、チームワークは期待できない。
事実、その不足によって、過去、大損害を被ったこともある。
武蔵が理解したことを覚ったのであろう。
提督はニヤリと唇の端を上げ。


提督「今回の護衛艦艇は全部うちから出す。大本営にも話は通してある。護衛艦艇の指揮はお前が執れ」


どこか突き放したような雰囲気すらある提督ではあったが、その中身が情に溢れていることは武蔵とて知っていた。
だからこそ、わけのわからない物を運ぶ為に麾下の艦娘の命を危険に晒すことをよしと思えなかったのであろう。
確かに、指揮系統を分割するリスクはある。
しかし提督はそのリスクを引き受けてでも、指揮権をもぎ取ってきたのだ。
船団司令部の指揮よりも、自分達を信頼してくれたのだ。
だから。


武蔵「了解した。この武蔵が護衛につくのだ。吉報以外にはあり得ん」


武蔵はそう答えていた。
柄にも無く大言壮語であったか。
あの時はそう思わなかったが、今思い返すと、僅かに頬に朱がさす。
幸いにして褐色の肌が、それを隠してくれたようで、周囲にそれをさとった者はいないようであった。
32 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:48:02.39 ID:1NgH7uH8O
瑞鶴「はぁ、それにしても暇ねぇ」

翔鶴「瑞鶴ったらまだそんなこと言って……」

利根「あまり暇暇言うでない。何度も言うが、吾輩達のこの任務はだな」

筑摩「あら、利根姉さんもさっき暇だって言ってたじゃないですか」

利根「なっ!? ち、筑摩ぁ〜!」

瑞鶴「ほら、やっぱりみんな暇だって思ってたんじゃない」


回想から引き戻された武蔵の周囲では、まだそんな呑気な会話が続いていた。
だがまぁ考えようによっては、暇であることはいいことか。
武蔵がのんびりと雲一つない空に目を向けていると、周囲が俄かに騒がしくなった。


筑摩「索敵機より入電。我、敵ラシキモノ6隻見ユ」

瑞鶴「嘘!? 敵!?」

利根「待て、吾輩の方にも入っておる。こっちは10じゃ。うち、大型が……6!?」

翔鶴「筑摩さんが北西、利根さんが南東方向でしたよね?」

利根「そうじゃ、敵は吾輩達を前後から挟み討ちにするつもりか……?」


挟み討ちかどうかはともかく、確実に仕留めにきていることは確かであろう。
武蔵はそう判断した。
でなければ、いくら勢力圏に近いとはいえ、こんな何もないところに、これだけの艦隊を無造作に配置するとは思えない。
深海棲艦の狙いは間違いなく、この輸送船団にある。
それは皆もすぐに感じ取ったのであろう。
艦隊に緊張が走る。

瑞鶴「距離は?」

筑摩「およそ210海里といったところです」

利根「吾輩の方は150海里じゃ」


皆の視線が輸送船団に向く。
故障した艦は、まだまだ直りそうにない。


翔鶴「追いつかれますね」


武蔵は見張り用電探を使い、敵機を探そうとするが、反応はない。


武蔵「まだこちらの“正確な”位置は掴まれていないようだな」


敵索敵機の姿は無いが、このタイミングと位置で敵艦隊が現れたのだ。
こちらのおよその位置はすでに知られていると見ていいだろう。


瑞鶴「翔鶴姉。攻撃機、飛ばそう!」


利根が発見した敵艦隊には空母が含まれているらしい。
見敵必殺。
先に敵艦隊の位置を掴んだのはこちらなのだ。
今ならば優位に立てる。
そう判断した瑞鶴は翔鶴に問いかけた。
しかし。


翔鶴「待って、瑞鶴。今の時間は」


そう問われた瑞鶴はハッとした。
33 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:48:50.39 ID:1NgH7uH8O
瑞鶴「1540……」


より近い方に飛ばしても、往復の時間を考えれば、航空隊の帰還は日没を過ぎることになる。
夜間着艦訓練が十分でない以上、非常に大きなリスクを伴う。
しかし、翔鶴が逡巡したのは一瞬。
ちらりと武蔵を見て、その頷く様を確認した翔鶴は。


翔鶴「全航空隊、発艦始め!」

瑞鶴「しょ、翔鶴姉ぇ!?」

利根「敵も航空機を上げて来おったぞ」


どうやら利根の索敵機を本気で落としにかかったようだ。


利根「可能な限り張り付けるが、どこまで持つか……」


利根の索敵機が落とされれば、敵の正確な位置がわからなくなる。
だが。


翔鶴「過ちは1度で十分。目標、南東の敵機動部隊。瑞鶴!」

瑞鶴「あー、もうわかったわよ! 夜間着艦が何よ。五航戦の意地を見せてやる! 艦首風上、攻撃隊、発艦始め!」


2杯の空母から舞い上がった航空隊が空中集合を終え、南東へとその機首を向ける。
天気は晴れ。波は、変わらず高いままであった。
34 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:49:37.61 ID:1NgH7uH8O
日が海に飲まれ、海にも夜の帳がおり、真っ暗になっていた。


利根「やれやれ、じゃな」

瑞鶴「ほんっと、あいつら、何考えてるの!?」


あの後も故障した輸送船の破棄を提案したが、拒否され続けた。
そしてその修復を終え、その場を離れることができたのは、日が半分以上沈んでからのことであった。


武蔵「まぁ、そう言うな。よほどに大切な積荷なのだろう」


武蔵も立場上はそうたしなめたが、思っていることは瑞鶴達と同じであった。
一つを護るために、全てを捨てるのか。
そう言っても、聞き届けられることは無かった。
それどころか、一応は修復したとはいえ、完全に直ったわけではない。
速度を落とした輸送船に引きづられ、艦隊もその速度を大幅に落としている。
このままいけば、明日の朝には追いつかれる。
そのことが皆の心に忸怩たる思いを抱かせていた。


武蔵「そろそろか」


ちらりと時計を見た武蔵は、そう呟いた。


武蔵「筑摩、照明弾と探照灯は使えるか?」

筑摩「え? 使えますけど……」


筑摩は一瞬、何のことだかわからなかった。
敵艦隊が迫っているとはいえ、会敵は早くとも明朝。
夜戦が発生するとは思えなかったからだ。


武蔵「なに、そろそろ航空隊が帰ってくる頃だろうと思ってな」

利根「……武蔵、まさかお主」

武蔵「なに、私も顰みに習おうと思っただけだ」


敵の艦隊は確かにまだ遠い。
しかしそれは、こちらの偵察機が触接した艦隊でしかない。
偵察機が発見できなかった艦隊が近くにいる可能性もある。
或いは、潜水艦が潜んでいる可能性も十二分にあった。
遮蔽物が僅かも存在しない海原。
数キロ先の煙草の火さえ砲撃の的となると言われる闇夜の海にあって、それはあまりに攻撃を受けるリスクが大きすぎる。
35 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:50:38.56 ID:1NgH7uH8O
翔鶴「あの、お気持ちは嬉しいのですが……」


そう言った翔鶴は、ちらりと船団司令部がある方を見た。
しかし武蔵は、それを一笑にふすと。


武蔵「なに、責任はこの武蔵が負うさ。さぁ、照明弾を上げてくれ。探照灯も照射する。英雄達の帰還だ。せいぜい派手に迎えてやろうではないか!」


豪快な笑みを浮かべた。


利根「そうじゃの。報告によれば、敵空母2杯を沈めたそうじゃから、派手に迎えてやるのじゃ! なぁ、筑摩!」

筑摩「はい、利根姉さん!」


利根、筑摩。2杯の重巡から、照明弾が次々に打ち上がる。


翔鶴「みなさん……」

瑞鶴「みんな……」


2杯の空母が、目尻に涙を浮かべる。


瑞鶴「翔鶴姉! 絶対に全機無事着艦させよう!」

翔鶴「そうね、瑞鶴!」


それはさながら、凱旋式典の様であった。
探照灯が飛行甲板を照らし、空には幾発の照明弾がさながら花火の様に打ち上げられ、漆黒の闇夜の中、光に包まれた艦隊だけが浮かび上がった。
当然、船団司令部からは止むことなく「敵に発見されたらどうするつもりか」「船団護衛を何と心得ているのか」「護衛は気でも振れたのか」との抗議が届いたが。


武蔵「黙れ! 搭乗員達は命懸けの攻撃を成功させてきたのだ。我々だけが危険をおかさず安寧をただ求めるばかりか、まして彼女らを見殺しにしては、申し訳が立たぬではないか!」


そう一喝して黙らせた。
闇夜に浮かぶ飛行甲板に、一機、また一機と、攻撃を終えた艦載機が降りてくる。
護衛艦隊を挙げての歓待。
「あれが最新鋭空母の輝きか」
艦戦・艦攻・艦爆に乗った飛行隊長の多くは、光に浮かぶその息を呑まんばかりの美しい姿に涙すら浮かべた。
味方が砲雷撃の的になる覚悟を持って、自分達の帰還を待っていてくれるのだ。
夜間着艦が如何程のものであろう。
その意気に応えんとばかりに、夜間とは思えぬまばゆいばかりの光の中、一機の損耗なく、全機着艦を終えた。
夜の闇がいっそう深くなる時のことであった。
36 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:51:55.14 ID:1NgH7uH8O
明朝。
海よりその輝く姿を覗かす朝陽を前に、武蔵は1人呟いた。


武蔵「やれやれ。これでは逆ではないか」


昨晩、艦載機の収容が終ってから、武蔵は自身が1人囮になる旨を船団司令部に伝えた。
武蔵が囮となって時間を稼ぐ間に、輸送船団はこの海域を離脱する。
そういう手筈である。
船団司令部は初め、最大戦力とも言える武蔵が護衛から離れることを渋ったが、最終的には、追いつかれて戦闘に巻き込まれるよりはと、武蔵が囮になって1人この海域に止まることを了承したのだ。


武蔵「武蔵、突撃するぞ! シブヤン海のようにはいかないぜ!」


上空を飛ぶ、翔鶴と瑞鶴がつけてくれた直掩機をちらと見た武蔵は、その速度をゆっくりと、しかし確実に。
速めた。
朝陽を背に、昨夜合流を果たしたのか、その威容を増した深海棲艦を目に、武蔵は心底楽しそうに、莞爾とした笑みを浮かべる。
宮本武蔵と佐々木小次郎が相見えた巌流島では、武蔵が日輪を背に現れたが、この海原では、それの逆である。
だがここに、再び巌流島の火蓋が切られたことは疑いない。


武蔵「さあ、行くぞ! 撃ち方……始めっ!」


46サンチ砲から、その始まりを告げる砲火が上がった。
37 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:52:51.56 ID:1NgH7uH8O
武蔵「そんな攻撃、蚊に刺されたような物だ!」


初めこそ、その長射程を活かし、一方的に46サンチ砲を撃ち込んでいたが、どうやら深海棲艦も莫迦ではないらしい。
数の利を活かし、損害に構わず、自身の射程へとその歩みを進めた。
これにより、武蔵にも数発の砲弾が夾叉。
そして今しがた。1発の砲をその身に受けた。
だが、航行にも攻撃にも支障の出るほどではない。
何よりも。


武蔵「空を気にしなくていいのはありがたい。これが、待ちに待った艦隊決戦というものか」


戦闘空中哨戒を担当する、翔鶴、瑞鶴を発った直掩機が武蔵の上を護っているのだ。
戦闘機乗りというのは、極めてその気位が高い。
というのも、最も優秀な飛行機乗りだけが、戦闘機の配属となる。
だからこそとも言えるが、戦闘機乗りは、自分の飛行技術に大いなる自信を抱いているのが普通である。


武蔵「獰猛でありながら、よく抑えが効いている」


武蔵が、ちらと空を見ると、そこにはよく統制された航空隊の姿があった。
腕のたつ航空隊というのは非常に頼みになるが、同時に厄介な面も持ち合わせていた。
自身の腕を試してみたい。
腕に自信があればあるほど、その思いが強くなる。
そして、その思いが勝ったとき。
本来の任務が二の次となり、艦隊にとって脅威となる、雷撃機、攻撃機よりも、戦闘機同士の戦いに夢中になってしまうことがある。
無防備とも言える存在をいくら落としても、たいした手柄ではない。それよりも、より強い敵を落として手柄としたい。
そう思ってしまうことが、ままある。
しかし、今。
武蔵の上空を護る直掩機には、そんな様子は微塵も見られなかった。
敵の戦闘機が、わざとその戦列を離れ、誘い寄せようとしても、その挑発に乗ることもなく、ひたすらに雷撃機と攻撃機を優先して叩く。
まさに艦隊防空の理想とも言える戦いぶりを示す、直掩機群。


武蔵「翔鶴も瑞鶴もやるではないか」


功に逸ることなく、確実に脅威となる敵機を落としてゆく味方機。
それは紛れもなく、翔鶴、そして瑞鶴が手塩にかけて育成した成果ではあったが、単にそれだけではなかった。
昨晩。危険を承知で探照灯を照射し、夜間着艦を成功させるよう命じたのが武蔵なのだ。
ならば、今度はその意気に自分達が応える番である。
「そに恩人に対し、一発といえども、敵機からの攻撃を通すわけにはいかない」
その一本に貫く思いが、航空隊にあったからこそとも言える。
事実、この戦いに於いて武蔵は、敵航空隊からの攻撃を1度も受けることはなかった。
38 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/02(水) 13:53:59.48 ID:1NgH7uH8O
武蔵「まだだ。まだこの程度で、この武蔵は……沈まんぞ!」


すでに何発の砲弾を受け、何発の砲弾を浴びせただろうか。
武蔵ただ一隻のみで、どれだけの深海棲艦を屠ったのだろう。
ただ事実のみを述べるとするならば、この場に残されたのは。
戦艦ル級と。
そして。
戦艦武蔵のみであった。


ル級「…………」


茫洋たる海原に向けられたル級の目にあるのは、恐怖か。あるいは、多くの仲間を沈められたことに対する怒りであろうか。
刹那、ル級の瞳に映し出された武蔵が動く。
全ての注水可能区画は既に満水となり、左に傾斜10度。速力も10数ノット程にまで落ち込み、満身創痍と言っても、それは過言ではあるまい。


武蔵「さあ、行くぞ!」


未だ無傷のル級に対し、正面より進む武蔵。
46サンチの残弾は1発。


武蔵「流石にマズいか……」


そう呟くも、速力は僅かも緩めない。
一発。
ル級の主砲が、武蔵の左舷に夾叉する。


ル級「…………」


狙いは正しい。
既に傾いた左舷に砲撃を集中させることで、とどめを刺そうというのであろう。


武蔵「まったく。これでは大和と同じではないか」


そう言って武蔵は僅かに苦笑する。


武蔵「だが……」


武蔵は大きく右に舵をきった。
弱り切った左舷がル級の正面を向く。


武蔵「全砲門、開けっ!」


完全に意表を突かれたル級の砲弾が、武蔵の遥か後方に落ちる。


武蔵「撃ち方……」


雷光。


武蔵「……始めっ!」


猶ほ、遅きが如し。
轟音と共に飛び出した砲弾が、ル級に突き刺さる。
決着はついた。
天気は晴れ。波も穏やかな朝であった。



「艦これ巌流島」完
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 19:17:56.66 ID:0p3rhYchO

久しぶりにきたー
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 13:58:48.99 ID:WMpE0Rkp0
おつ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/11(金) 18:50:41.14 ID:RxAF5d5MO
マダー?
42 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:04:15.11 ID:T6FQcsL2O
思い返せば、予兆はあった。
昼間。
いつも執務室にやって来ては遊びをねだる駆逐艦達が、今日に限っては1人もやって来なかった。
わずかな寂しさはあったものの、お陰で書類仕事はいつもの倍以上捗ったのも事実だ。
そして、夜の7時。
まさに、人間万事塞翁が馬。
禍福はあざなえる縄の如し。
1人の人物が、執務室にやって来た。


比叡「今日の夕食は、この比叡にお任せください!」


そう。
この前、シュークリームカレーという不吉な言葉を残して去った、比叡である。
正直に言えば、俺は、すぐにでも逃げ出したかった。
善意はありがたいのだが、悪意があるとしか思えないような味のカレーを毎回提供してくれるのが、この比叡である。
もちろん、比叡には悪意など欠片もなく、完全に善意からの申し出であることはわかっている。
だからこそ余計にたちが悪く、断るのもままならないわけであるが。


提督「そ、そうか。それはありがたい。今日も、た、楽しみにしている……」

比叡「まっかせてください、司令! 比叡、 気合い! 入れて! 作ります!」
43 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:05:37.98 ID:T6FQcsL2O
そう言って比叡が執務室を出て行ってから、しばらく経つ。


提督「10時半か」


それにしても遅い。
柱に掛かった時計を眺めてから、未決裁との札が付いている書類箱へと目を移す。
中身は空。
久しぶりに、この箱の底を見た気がする。
今日は良い気分のまま床に就きたいものだ。
そんなことを思っていると。


比叡「ひえー、お待たせしました!」


幾分慌てた様子で、巨大な鍋を抱えた比叡が入ってきた。


提督「……正直、待ってなかった……」

比叡「? 何か言いましたか?」

提督「いや、何でもない……」

比叡「? そうですか? じゃあ、さっそく準備しちゃいますね!」


そう言って比叡は、食器を並べ始める。


提督「? 意外とこれは」


一体どんなカレーかと思っていたが、ひと抱えはあるであろう巨大鍋から出てきたカレーは、真っ当に見えた。


比叡「自慢のレシピ、比叡カレーです!」


肉が塊のまま入っていること意外は、至って普通のカレーである。
だが、問題は味だ。


提督「……うむ、いただこう」


俺は目を閉じ、天に祈りながらスプーンを一口入れる。


提督「うまい」


正直な感想である。
肉が多くあり、しかもやや筋張っていることを除けば、かなり美味い。
味だけならば及第点、いや、そのかなり上をいく。
とても比叡カレーとは思えない美味さである。


比叡「司令。感想は?」

提督「ああ、美味い。今まで食べたカレーの中でも、かなり美味い方だ」

比叡「よかった。気合い! 入れて! 作ったかいがありました!」

提督「どんなカレーが出てくるかと思ったが、これは本当に美味いよ」


腹が減っていたことも手伝い、夢中で頬張る。
44 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:07:43.19 ID:T6FQcsL2O
比叡「今回は、司令が好きなものだけじゃなく、司令を好きなものも入れて見たんですよ。やっぱりその方が美味しいかなって」


そうか。
どうやら比叡も成長していたようだ。
好きな物を何でもかんでも入れればいいというものではない。
合う合わないというのは、ある。
そこまで考えられるようになっていたか。
ん?
いや、待て。
何かがおかしい。
俺が好きなものはいい。
だが、俺を好きなものとはどういうことだ?


比叡「司令、お代わり、いります?」

提督「ん? あ、ああ。頼めるか?」

比叡「はい!」


比叡が嬉しそうな顔で、カレーをよそっている。


提督「ところで比叡。このカレーはどれくらい作ったんだ?」

比叡「えへへ、実は、気合い! 入れて! 作りすぎちゃいまして……」


どうやら、かなりの量を作ったらしい。
まぁ、1日2日寝かしたカレーは美味い。
この味ならば、しばらく続いても問題あるまい。
銀のスプーンが食器に当たる音が響く。
夜の静かな鎮守府。
実に静かだ。
いや、静か過ぎる。
今は、夜の10時45分。
いつもの10時と言えば、川内が「夜戦」と騒ぎ出す時間である。
さながらこの鎮守府の時報と言ってもいい。
1日も休むことなく、適当な駆逐艦を起こして、執務室に出撃の意見具申をしに来る川内が今日は来ていない。
遠征にでも出していたか?
いや、そんな覚えは無い。
となると、風邪でもひいたか?
45 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:08:33.01 ID:T6FQcsL2O
提督「なぁ、比叡」

比叡「あ、はい」

提督「川内を見たか?」

比叡「? ええ、見ましたけど」

提督「風邪でもひいていたか?」

比叡「? いえ。元気そうでしたけど……」


怪訝な表情を浮かべる比叡。
だが、今はそれに構っている場合ではない。
ならばなぜ、今日に限って川内は来なかったのか。


提督「金剛はどうしている?」


おかしなことはもう一つある。
午後3時。
いつもなら金剛が、「Tea timeの時間ネー」と言って、やって来るのだが、今日は来ていない。
それを言うなら、比叡以外に、誰も執務室に来ていないのだ。


比叡「司令が好きなものだけじゃなく、司令を好きなものも入れて見たんですよ」


先ほどの比叡の台詞が脳内で繰り返し再生され、響く。
俺を好きなもの?
俺が好きで、俺を好きなもの?
スプーンですくった、肉の塊がぐにゃりと歪む。


比叡「し、司令!? ど、どうしました!?」


俺は込み上げる吐き気に逆らうことなく胸を掻き毟った。
そうして執務室を飛び出し、無人になった鎮守府の廊下に飛び出した。
午後11時を告げる時計の鐘が鳴り響き、そして。
止まった。



「比叡特製カレーを召し上がれ」その2・乙 完
46 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:09:17.57 ID:T6FQcsL2O
401「私、もう帰ってもいいかな。ね、イク?」

19「イクも、もう帰りたいのね」

提督「いやいやいや。お前ら、大鯨に恩返しをしたいとは思わないのか? まさか薄情か?」

401「恩返しはしたいとは思うけど……」

19「その方法が問題なのね」

提督「さっきから言ってる通り、大鯨が潜水母艦のまま強くなるには、百合になるのが1番だ!」

19「だからそれが、意味不明なのね」

提督「百合と言っても、もちろん花の百合じゃないぞ」

401「それはわかってるけど……」

提督「ここで言う百合というのは、女の子同士がいちゃいちゃすることだ!」

19「秋雲あたりから怒られそうなくらい雑な説明なのね……」

401「それで、どうしてそれが強化につながるんですか?」

提督「理屈は簡単だ」

401「簡単、ですか?」

19「シオイ、提督の話は聞くだけ無駄だと思うのね」

提督「大井、北上を見てみろ」

401「大井さんと北上さん?」

提督「そうだ。あの2人はレズだ」

19「まぁ、大井さんが一方的に迫っているような気がするけど、それを嫌がっていないところを見ると……。大人の世界は難しいのね」

提督「そして、重雷装巡洋艦として様々な作戦に参加。赫赫たる戦果を挙げている。つまり!」

401「つまり?」

提督「レズ=強い。という等式が成り立つ!」

19「は?」

提督「他にも、扶桑姉妹。そして、アニメでは様々な相手と浮名を流した吹雪。その吹雪と一時話題になった睦月はその後改二に。さらに、睦月との間で話題に上った如月も改二になった。まぁ、数え上げればキリがないほどだが、これだけの例があるのだ」

19「シオイ、天気も良いからお散歩でも行くの」

401「あっ、いいねいいね。運河とか。運河とか行ってみたいね。ね?」

提督「つまり、大鯨も誰かと百合百合すれば、さらなる強化が見込めるのではないかと俺は思ったわけだ」

19「運河だとまた水の中になっちゃうの。たまには水の中じゃないところがいいのね」

提督「そこでお前たちに頼みがある」

401「じゃあ、街にお買い物に行こ」

19「賛成なのね」

401「せっかくだから、潜水艦のみんなで行こっか」

19「大鯨も誘ってみんなで行くの!」

401「よぉーし! 潜っちゃうよ!」

19「だから今日は、潜るのは無しなのね」

401「えへへ。でも、みんなでお出かけなんて楽しみだよね!」

19「さ、シオイ。さっさと行くの!」

401「うん!」

提督「頼みというのは、大鯨に抱きついたり、大鯨の脱いだ服の匂いを嗅ぎながら、大鯨のことを思ったり……って、また誰もいない……」



「潜水艦隊の憂鬱」その2 完
47 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:10:41.79 ID:T6FQcsL2O
榛名「提督。本当によろしかったのですか?」

提督「…………」


窓の外には、クレーンの灯りが見えた。
執務室の時計は、午後6時50分を指そうとしている。


榛名「今ならば、まだ……」


後ろから聞こえる榛名の問いかけには、無言で答えた。
俺は執務室の窓からクレーンを見る。
赤く明滅を繰り返す航空障害灯。
そして、規則正しい動き。


提督「なぁ、榛名」

榛名「はい」

提督「前に、あのクレーンのようになりたいって言ってたよな」

榛名「ええ。榛名もドックのクレーンのように働いて、提督と艦隊のお役に立てるようにと思っています」

提督「そうか」


先端に取り付けられた赤いランプが、左右に揺れる。
クレーンは今も、新しい何かを創り出そうとしている。
それに比べて俺は。


提督「俺は、間違っていたのだろうか?」

榛名「…………」


榛名は何も答えなかった。
いや、答えられ無かったのだろう。
時に人は、柔らかなナイフで人を刺す。
柔らかなナイフは確かに傷を作るのだが、その傷は目に見えない。
そして傷は、見えぬうちに広がって、その人を死へと至らしむる。
俺は、それを恐れ、今日まで何もしてこなかった。
その報いを受けるのだ。


提督「きれい、だな」

榛名「ええ」


これが負けるということなのだ。
勝ち目は薄い、いや、いっそ皆無であることは、目に見えている。
それでも戦わなければならない。
それがどれ程虚しく、また、その行為がどれ程無為であるかを知りながらに、戦場へと送り出すことの辛いことか。
48 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:11:24.38 ID:T6FQcsL2O
提督「榛名」

榛名「はい」

提督「俺は、クレーンにはなれなかった」

榛名「提督、後悔をしておいでですか?」

提督「そうだな。もっと早くに気づくべきだった」

榛名「いえ、提督だけの責任では……」

提督「いや。だが俺は、責任の取り方だけは知っているつもりだ」

榛名「提督? まさ」


榛名の台詞は、途中で遮られた。
19時を告げる時計の鐘の音によって。


提督「時間だ」


俺は片時も離したことのない、恩賜の短刀を握る手に力を込める。
決断を下した者には、須くその責任が生じる。
その責任から逃れることはできない。
たとえそれが、死を以て果たすものであったとしても。
俺は執務室の扉が開け、廊下へと出る。
先に逝って待っているもの達がいるのだ。
躊躇いを抱くことは許されるはずもない。
俺は、せめて力強くその一歩を踏み出した。
49 : ◆c4DUj3OH/. [sage]:2016/03/26(土) 12:12:03.17 ID:T6FQcsL2O
ーー鎮守府・食堂ーー


提督「あれ? うまい」

榛名「本当です。美味しそうです」


おかしい。
明らかにおかしい。


比叡「司令、美味しそうなシュークリームですね」


今日の午前中、演習相手の提督から貰ったシュークリームを見た比叡は。


比叡「あっ、そうだ、司令! このシュークリーム、お預かりしてもいいですか? 新しいカレーのレシピが思い浮かんだので、今晩ご馳走しますね! このシュークリームを使えば、最高のカレーが作れそうです!」


そう言って、有無を言わさずシュークリームを持って執務室から出て行ったのだ。
だからてっきり俺は、シュークリームカレーが出て来ることを想像していたのだが。


金剛「Hey 提督! Oh! 榛名も一緒デスカ。ちょうど良かったデース!」


厨房の奥から金剛が顔をのぞかせる。


金剛「比叡特製curryのお味はどうデスカ? 榛名の分もあるヨ!」

提督「……うまい!」

比叡「本当ですか!? 気合い! 入れて! 作ったかいがありました!」

金剛「Yes! 私も手伝ったかいがありマシタ!」

提督「金剛が手伝ってくれたのか?」

金剛「Yes! 私と霧島で手伝ったネ! さすがにcream puff curryは……umm……」

提督「金剛!」

金剛「て、提督!? 抱きつくなら時間と場所もだけど、ムードも……」

榛名「金剛お姉さま! 榛名、感激です!」

金剛「は、榛名!?」

比叡「あ、司令と榛名ばっかりズルい! 比叡も、気合い! 入れて! お姉さまに抱きつきます!」

金剛「ひ、比叡!?」

霧島「ん? どうしました? って、4人とも何をやってるんですか……?」


厨房の奥から、顔をのぞかせた霧島の目に映ったのは、金剛に抱きつく提督と榛名と比叡の姿であった。


金剛「Hey! 霧島! 見てないで助けて欲しいデース!」

霧島「い、いえ。さすがにこれは……」


俺はとんだ思い違いをしていたようだ。
クレーンだけでは、何も作れない。
そんな当たり前のことも失念していたとは。


金剛「ちょ、3人とも。いいかげん離れて欲しいデース!」

霧島「仕方ないですね。論理的にここは私も金剛お姉さまに抱きつくのが正しそうです。距離、よし! 目標、金剛お姉さま! 両舷前進一杯!!」

金剛「Hey!? 霧島!? ス、ストップ! Stop!!」


料理の決め手は、素材の旨味である。
それぞれの旨味を引き出せてこそ、真に美味しい料理ができるのではあるまいか。
ちょうど、この4姉妹のように。
俺はそんなことを思いながら、デザートのシュークリームまで、金剛、比叡、榛名、霧島との食事を楽しんだ。



「比叡特製カレーを召し上がれ」その2・甲 完
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 14:56:59.74 ID:v7gP5urI0
ひえー!
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 16:03:41.81 ID:8jCEScLXO
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