艦これSS投稿スレ5隻目

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546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/16(日) 09:57:42.19 ID:mfupQyYg0
ガンちゃん実装で練り直しとなった奴を今更ながら流す

「まだだ……。まだ、終わりが見えない……」
日本某所にある、御雷基地の執務室。提督は疲労困憊していた。確認や押印を要する書類が、机上に残っているのである。
「随分片付けたけど、まだまだあるのね」
渡されたものをそう言いながら、雲龍は整理している。代理とはいえ秘書艦の彼女もまた、一挙手一投足に疲労を滲ませていた。
休むのも惜しいような状況下で、疲れは着実に、二人の身にのしかかっている。
「提督というのは常々、こういうものなのか?」
「そうでもなかったとかなんとか」
声は出る。ゆえに、視線を動かす余裕が惜しい。会話はすれど、向き合うことはない。
雲龍もまた、秘書艦代理として目を通していたのだ。本来の秘書艦に、伝えるべき事項があるといけないからである。
「この調子なら、いつまでになる?」
すっかり冷めた夜食を片手間に流し込み、提督は問う。次々書類へ目を通し、時に押印し、そして雲龍へ送り出す。
「早ければ翌朝。そう思いたいけれど……」
渡された書類に目を通し、分別された書類の山に突っ込み、次なる書類を確認する。
単調だが集中を要する作業に、彼女もまたふらついていた。手こそ止まらないものの、目が今にも閉じそうでいる。
一瞬の隙に飲んだ茶も、これではとても眠気防止薬を代替しえない。
「なんでこうも無茶をしてるんだろうな」
「そうね。代わっても良かったのに……」
夜食を差し入れてきた金剛達が、二人の脳裏を過ぎる。あの溌剌さを分けて欲しかった、と悔やむ。
無自覚の強がりが二人を苦しめる。冷えた空気が睡眠を推奨して止まない。日通しの作業から、体の悲鳴の幻聴がかすかに響きだす。
悔やむべきが別であると、この時はかけらも気づいてはいない。それほどに二人は疲れていたのだ。
「我が事ながら、何をしでかしてんだか」
「お互い、抜けてる人ね」
「そうだな。早急に引継ぎを終えるといっても、既にいる連中が大体のことを知っているんだ。数日は俺抜きでも回るんだが……」
「そう気楽なことを、言ってもいられない」
「ご明察。……しかし、だ」
しかし、提督の手は急に止まった。雲龍もそれに気付くとすぐさま、提督を見て作業をやめる。
疑問に歪む瞳と決意に満ちた瞳が見つめ合う。だが、それが競ることはない。
「……一旦、休もう。これ以上は体を壊しかねない」
「ここまでの時間と捌いた量を考えれば、妥当な判断だと思うわ。いいじゃない」
思い切って決断すれば、それは即行たりえてしまうもの。ソファに横たわると間もなく、意識はその身を離れた。
極限にあってようやく訪れた眠り。二人は泥のように眠りこける。月光と潮風に包まれる、未明の基地で――



――雲龍が目覚めたのは、昼を目前に控えた頃だった。自責の念を抱きながら、緩慢とした身体をおもむろに揉み解す。
と、いつの間にか己が布団を掛けていた事に気付く。見れば、机の向こうで眠る提督も同様だった。
「……粋なことをしてくれるのね。誰かしら?」
机には整理した書類とは別に盆が置かれていた。その上のものが寝覚めの一食であるのは、一考するまでもない。
逆さの茶飲みと、食品用ラップフィルムに包んだ塩むすびが二個ずつ。湯気をくゆらせ、緑茶の匂いを漂わせる急須。
それを共に頂くために、雲龍は提督の許に動く。急須の口が、彼女の側に向いていたからである。
「起きて、提督」
雲龍に揺すられ、提督の顔に被せていた軍帽が落ちる。寝惚け眼が現れ、ぎろりと金眼を見つめ返した。
余談だが金眼は金色に輝くのは光の加減の産物であり、普段は琥珀色である。
また、オオカミによく見られる色である事から『狼の目(Wolf eyes)』とも呼ばれるが、かの『飢えた狼』の虹彩も琥珀色と見られる。閑話休題。
「どうしたぁ? 東【ひんがし】に斜陽が見えてんかぁ?」
「そうじゃなくって、もうお昼」
と、途端に跳ね起きる提督。突然の行動に驚いた雲龍は提督の首に手を回す。わずか一秒のうちに二人は床に転げてしまった。
机にぶつかり、ガタンと音が響き、塩むすびが倒れる。
「提督……、大丈夫……?」
数秒後、呻きながら雲龍が仰向けのまま、頭を上げて足の側を見る。体にのしかかる物体が提督か否か、確かめるためだ。
「あら……。……ふふっ」
答えは是であった。豊満な胸部装甲へ顔を埋める提督がいたのだ。倒れた際に絞めてしまったか、打ち所が妙に悪かったのか、起きる様子はない。
雲龍は胸に掛かる吐息から彼の生存を確認すると、上体を起こしながら提督をそっと抱擁した。
「可愛い……。色々、してあげようかな」
提督を抱き起こし、再びソファの上に寝かせる雲龍。それから彼女が提督の軍帽と布団を持って彼の方を向くと、丁度提督は目覚めた。
が、途端に咳き込みだしてしまった。どうやら気を失ったのは、首が絞まったせいらしい。
「て、提督っ……!?」
さすがの雲龍も狼狽の色を見せた。提督の傍へ座って手元のものを横に置くと、彼の背中をさすりながらその顔を覗き込む。
顔は苦悶に歪んでいた。不安に色づく雲龍の顔に、雲を思わせる普段のそれは見えない。
「ごめんなさい、私ったら……」
返事は彼の咳が止み、荒い息が収まるまで待った。
「いや、気にするな。俺が慌てふためいたばかりに起きたことだ」
「けど……」
私の受け止め方にも非があった。そう、提督は言わせなかった。翳された手が、聞きたくないと告げたためだ。
「……提督?」
「言うな、雲龍。今は……、休もう。昼餉時なんだ。飯もある」
そう言って軍帽を手にとって膝に置いた提督は、続いて塩むすびに手を伸ばす。既に少々冷めているが構うことなく取り、ラップを外していく。
対する雲龍は彼の言葉を反芻する。自分の自責に、嫌悪とも取れる対応をした。そう、提督の言葉が彼女に響いていく。
(提督なりに私を思っているのは分かるけど……。ううん、今は考えてもしょうがないことね……)
雲龍も簡素な食事と向き合い、急須と茶飲みを取った――
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