用心棒「派手にいくぜ」

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106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/09(日) 16:16:27.93 ID:L2WaXWO80

闇商人「あと、もう一つ情報を持って参りました。江戸に居る、用心棒の協力者です」スッ

油商人「!何だと……?」パシッ パラッ

油商人「……『鍛冶屋』?聞いたことがあるぞ、お天道様の下を歩けない者の刀を打っているのはこいつだとか」

闇商人「そいつは用心棒と長い付き合いのようで……その上、最近何か怪しい動きをしております」

闇商人「もしかすると……奴の逆襲のために何か武器を造っているやも」

油商人「……よく知らせてくれた。こちらで手を打とう」ゴソッ


武士「油商人様。用心棒討伐隊、準備完了致しました」

油商人「む、そうか……忍とやら、隊に加われ」

忍「はっ」ササッ

油商人「夜には向こうに着けるだろう。今度という今度は用心棒も最期だ……出発せよ!」


 ザワザワ バタバタ ガラガラ ザワザワ……


闇商人(……ヘッ。用心棒……お前は俺が今まで出会った中で最も馬鹿だぜ)

闇商人「では我々はこれで失礼します」

油商人「ああ。良い知らせを待っているがよい」


 スタスタ… スタスタ… スタスタ…


武士「……油商人殿。あやつ、どうするおつもりで?」

油商人「つい最近まで用心棒とズブズブだった奴を放置しておくのは危険だな」

油商人「まずお前はこれから鍛冶屋を始末しにいけ。用心棒討伐の知らせが届き次第、あいつも処分しろ」

油商人「まさかとは思うが、あの二人の護衛が邪魔だなどと言うまいな?」

武士「全く問題ございません……では早速鍛冶屋を始末して参ります」

油商人「ああ、適当に金目のものも盗ってこい。奉行所が騒ぐと耳障りだ、強盗の仕業に見せかけておけ」

武士「御意」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/09(日) 16:17:40.81 ID:L2WaXWO80
今日はここまで
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/11(火) 21:51:21.57 ID:2r/Y/BDsO
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/17(月) 13:05:02.86 ID:nMRwCfTuO
おっ、やってるね
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/23(日) 17:00:14.49 ID:13WzSuNF0


 …スタ スタ スタ スタ

覆面(おや……もう夕方か)

覆面(朝、用心棒の隠れ家から出た後……近くの町に向かい、昼飯をとり、夕食の握り飯を調達して……)

覆面(すぐに隠れ家のほうへ引き返して、近くの山をここまで登る……思ったより時間がかかってしまったな)

覆面(このあたりに腰を据えよう。ちょうど座りやすそうな岩もあるな)スタスタ ドッカリ


覆面(思った通り、この山からは用心棒の隠れ家がよく見える)

覆面(ではここで……これからやってくるであろう油商人の兵と用心棒の戦いを見物するかな)

 グッ パサッ

?「ふぅ……」

?(この覆面は息苦しくてかなわんが……誰かに顔を見られると私の計画が破綻するかもしれん。仕方がないな)

?(……鍛冶屋のやつはちゃんと用心棒の武器を作っているかな)

?(用心棒のやつはとぼけていたが、宿屋で密会していたのはわかっているのさ……そのときに武器の依頼をしたのは想像がつく)

?(すぐには届きそうになかったから私が差し入れをしておいてやったが、今回の戦いでまた武器を切らして鍛冶屋のもとへ向かうだろうな)

?(そこで先回りした私が事前に鍛冶屋を殺しておくと、用心棒は『油商人に突然恨まれ、刺客を送り込まれるようになった末に長い付き合いの仲間を殺された』と思い込み……)

?(鍛冶屋の作った武器を持って油商人の館へ殴り込むというわけだ)

?(はあ、やれやれ。用心棒が何もかも金で動く男だったらこんな面倒くさいことしなくて済むんだがなあ)

?(誰か鍛冶屋を殺しておいてくれると助かるんだが……)


?(おっと、そういえば……鍛冶屋を殺したあと、作った武器の中に『強すぎるもの』がないかどうか点検しておかなければ……)

?(用心棒が強くなりすぎないようにな……)
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/23(日) 17:00:50.75 ID:13WzSuNF0


 夜

<グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…
<スー… スー…

少年(風呂で修行の汗を流してきたら……お二人はもう眠ってらっしゃる)

少年(休むときは思い切り休むというのも生き残る秘訣なんだろうか……)

用心棒「グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…」

少年(……別にそういうわけでもないんだろうか)


少年(でも、お二人は僕の分の布団も敷いておいてくださっている……なんとありがたいことだろうか)ゴソゴソ

少年(……)


 …  …


少年(……ん?)

少年(……)


 …ウ …ウウ


少年(布団に……横になったら)

少年(……何か聞こえるような……)


 …ヒュウウ ヒュウウウウウウウ


少年(!?)

少年(な、何だこの音は?風の音みたいだ……)

少年(床下から……聞こえてくる……?)
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/23(日) 17:02:07.97 ID:13WzSuNF0


 …


少年(……止まった)

相棒「……」スック

少年「!」

相棒「……」シャキンッ

 ドガッ! バキャッ! バキッ!

少年(あ、相棒さんが急に起き上がって、床をめったざしに……)

相棒「……」

相棒「気のせいか」モゾモゾ

相棒「……スー……スー……」

少年(……じゅ、熟睡していたのにあの微かな音を聞きつけたのか……すごい方だ)

少年(……でも床が穴だらけだ……)


少年(しかし、妙だな……ついさっきまで確かにしていた音が、今では少しもしないぞ……)

少年(……風、か……)

少年(……)

少年(……)

少年(……!)

少年(妙に寒かった室内……闇商人の床下からくり趣味……風の音……ま、まさか……)


少年(この隠れ家の床下には、外へ通じる抜け道が……!?)


 …


少年(!!)

少年(きょ、鏡台の鏡ごしに見える……僕の背後で……)

少年(床板が『ずれて』……ぽっかりと穴が空いた!)

少年(……その中から……黒い……人くらいの大きさの……何かが……)


 …


忍「……」


少年(あいつは……!?)

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/23(日) 17:02:43.46 ID:13WzSuNF0
短いですが今日はここまで。
のろのろとひっそりとやっていきます
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 19:16:51.37 ID:+ta5FXWxo
 _∧_∧ _
/ (・ω・ )/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  ∧_∧
  (・ω・ )
 _(====) _
/ ( ⌒)) /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧
  (・ω・ )
  (====)
  ( ⌒))
  [U]
 _/  /ヽ_
/|農| |/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧
  (・ω・ )
  (====)
  ( ⌒))
  [J]
  /  /ヽ
 |農| |
 |協| |
 |牛| |_
/|乳| |/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:19:59.19 ID:pW7Xt/n00


少年(敵……明らかに敵だ……!)

少年(それに、動くとき布擦れの音一つ立てない……明らかに手練れ……!)


忍「……」… …


少年(用心棒さんたちのほうへ近づいていく……!)

少年(用心棒さんたちは……!?)


用心棒「グゴゴゴッゴ……ゴグッ」

相棒「スー…スー…」


少年(駄目だ……すっかり眠り込んでいる!)

少年(どうしよう、どうしよう、どうしよう、このままじゃ何もかも……)

少年(でも下手に動いて気づかれれば、すぐさまお二人を殺して、返す刀で僕も殺され、すべてがパーに……)


少年(ーーハッ!座卓の上にーー脇差しが置きっぱなしになっている!)

少年(あれを取って、不意打ちを仕掛ければ……どうにかなるかもしれない!)


忍「……」…


少年(ば、抜刀した!もう一刻の猶予もない!)

少年(やるしかない、あの脇差しでーー)

少年(ーー本当にそれでいいのか?)

少年(本当に、そんな方法しかないのか?)

少年(用心棒さんは木の棒で敵を倒していたぞ……探せばなんだって武器になるはずだ)

少年(短刀で斬りかかるなんて無謀なこと以外にも、選択肢はあるはずだ!)
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:20:43.21 ID:pW7Xt/n00


用心棒「グゴゴゴゴ…グゴゴゴゴ…」

相棒「スー…スー…」

忍(フフフ……起きる素振りもみせぬ。他愛もない……)

忍(恨みはないが、こちらも生活がかかっているのでな……せめて一撃で……)グッ


 バ ッ !

忍「!」ビュンッ!

 バサッ

忍「クッ!?」

忍(これは!?布団かッ!)バサッ

少年「……」

忍「き、貴様は……!?」


 ザシュッ!

忍「がふっ!?」

相棒「……寝かせろ。呆けが」

忍(し、しまった……!布団を振り払うとき、音を……)

忍「うおおおお!」ビュビュンッ!

相棒「……」サッ

用心棒「このッ!」ジャキッ

忍「!」


 ドゴオンッ!


忍「」ドシャッ

用心棒「……入り込んできやがったのか」

相棒「……危なかった」

用心棒「……坊主、お前が……」

少年「……」


少年(……嬉しく……ない……)

少年(……こんな……)


用心棒「……」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:21:39.34 ID:pW7Xt/n00


用心棒「この穴は……抜け道か。そしてこの刺客は……」

用心棒「……おい!よく見たらこいつは闇商人の手の者だぜ」

相棒「……闇商人」

用心棒「裏切ったんだろうな……だからこの抜け道の存在も、俺たちに黙っていた……」

相棒「……」

相棒「殺す」


用心棒(……しかし、この隠れ家は既に取り囲まれているとみるべきだろうな)

用心棒(抜け道を通じて送り込んだ刺客が帰ってこないとなれば、力ずくでねじ伏せるべく包囲の輪を縮める……)

用心棒(……あるいは……)


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!

用心棒「!」

相棒「!」

少年「!この音は……?」

用心棒「火薬だ!隠れ家を取り囲むように爆ぜた!」

用心棒「畜生、奴ら火薬と油でこのあたり一帯ごと俺たちを焼き尽くすつもりだ!」

少年「そんな無茶苦茶な!」

用心棒「相手は宿屋に大筒ぶち込むような奴らだぞ……!」

少年「じゃあ抜け道から……!」

相棒「待ち伏せが怖い……」

少年「で、では……」


用心棒(クソッ……だが、こんなところでくたばる俺様じゃあないはずだぞ!)

用心棒(どうする……考えろ!ここにあるものだけでなんとかするんだ!)

用心棒(このまま坊主まで巻き添えにして死んでたまるか……!)
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:22:23.22 ID:pW7Xt/n00


 隠れ家の外


 ゴオオオオオオオオオアアアアアアアアア
メラメラ… パチパチ…


浪人甲「お、おい……こんなに燃やして大丈夫なのか?」

浪人乙「相手は剣士さんと槍使いさんを倒すような奴らだろ。これくらいで十分だ」

浪人丙「ハハハハ、しかし炎に囲まれちまえばどんな剣豪も形無しだぜ」


大男「……」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
パチパチ… バチッ パチパチ…


大男「……」

大男「……」ピクッ

大男「……」キョロキョロ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:23:02.48 ID:pW7Xt/n00


 山中


?(炎の光と陰に彩られた山々もまた、乙なもんだな……)

?(……おっ?大男のやつ、やけに辺りを見回していやがるな)

?(俺に気づいたのか?野生の勘かな……とんでもないやつだ)

?(だが、用心棒も……こんなことでくたばるような奴じゃあないぜ……)

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:23:44.63 ID:pW7Xt/n00


ドゴオンッ!


浪人甲「ぎゃう!」ビシッ

浪人甲「」ドサッ


大男「……!」

浪人乙「おおっ!?」シャキンッ

浪人丙「な!?まさか……そんな、まさか!」ジャキッ


用心棒「そのまさかさ……!喰らえッ!」ドゴオンッ!


浪人丙「うあっ!俺の種子島が!」バギャンッ


相棒「……」シュザッ

浪人乙「おのれッ!」ビュンッ

相棒「……」カキインッ

相棒「刻む」ヒラッ


 ザシュッ! ズバッ! ドウッ!

浪人乙「」ドシャッ

相棒「……」カチンッ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:24:56.01 ID:pW7Xt/n00

用心棒(まったく、天才的な思いつきだったぜ……)ザッザッ

用心棒(『風呂の残り湯でずぶ濡れにした布団をかぶり、炎の包囲網を突破』!)ザッザッ

用心棒(坊主は近くに隠してきたし……あとは心おきなく、こいつらを片付けるだけだな!)ザッザッ

浪人丙「あ、あ、あ……!」ガタガタ

用心棒「よくも焼き殺そうとしたな……」

用心棒「もう一発くれてやるぞ……怯えろ……!」

浪人丙「ひ、ひいいーーッ!」ダダダッ


 ヒュンッ


浪人丙「」ズシャッ

用心棒「!?」

相棒「!?」


大男「……」ノシッ ノシッ


用心棒(今のは……あいつがやったのか?)

用心棒(しかし、あいつと浪人の間には距離があった……刀なんて届きそうにない距離が……)

用心棒(それなのに、浪人の骸にはーー『切り傷』しかないッ!)

用心棒(……こいつ、四天王か……!)


大男「……」


大男「おまえらを殺す」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/29(土) 21:26:04.95 ID:pW7Xt/n00
今日はここまで
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/29(土) 22:41:40.17 ID:n0u6XnuUo
おつおつ
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/04(金) 01:34:09.37 ID:psRWwtN80
こんなに素晴らしいスレを今まで見逃していたとは
乙、頑張って続けてくれ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:14:41.38 ID:7ixi6Rbd0


用心棒「……チィッ!」ドゴオンッ!ドゴオンッ!

大男「!」シュバッ

用心棒(早い……!)

大男「うおあああッ!!」ビュンッ

用心棒「ッ!」サッ

 ドカンッ!

用心棒(奴の剣で地面が割れた……!?凄まじい威力ッ!)ドゴオンッ!

大男「しいっ!」サッ

大男「あうっ!ええーーっ!」ビュウンッ!ブオンッ!

用心棒(!まずっ……)


相棒「ふっ……!」シュザッ

 カキインッ!キインッ!

大男「ああ……?おしぇっ!」ゴオッ!ブンッ!

相棒「……我が草薙流は柔の極……」キュインッ!カキインッ!

用心棒「……ひゅう。さっすが」


相棒「味わえ」ビュンッ

大男「ううん!」ガギインッ!

相棒「……」ヒュオッ

大男「……あ?」

用心棒(うまい!敵の払いの力を利用して、一瞬で後ろに回り込んだ!)


相棒「はっ!」ビシュッ!
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:15:33.51 ID:7ixi6Rbd0


大男「む」ガギイン


相棒「ーー!」

用心棒(完全に入ったのに、弾かれた!?)

大男「ほっしゃーーッ!」ブンッ!

用心棒「おっと!」ドゴオンッ!

大男「んんんー……」ガキイン

相棒「……」サッ


大男「……んんん……」ユラユラ

用心棒(銃弾までも……これは……)

相棒「鎖帷子……」

用心棒「ああ。それも特別頑丈な」


用心棒(常人ならそんなものを着ていたとしても、銃弾を受ければ吹っ飛ぶんだが……)

用心棒(あいつの体格なら、踏ん張れば済むってわけだ)

用心棒(そのうえ手足も、金属の籠手と脛当てでがっちり防御していやがる)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:17:03.15 ID:7ixi6Rbd0


大男「めええーーんッ!」ビュン!

相棒「……」カキインッ

用心棒(だが、頭はむき出しだ!)チャキッ

用心棒「受けてみろ!」ドゴオンッ!

大男「おおう!」シュザッ! ガキインッ!

相棒「逃さん……」シュビッ!

大男「いやあーー」スパッ ブオンッ!

相棒(!顔を切られたのに……!)ゴロッ

大男「みゃーー……」チャキッ

相棒「……」


用心棒「おっと。そんなに近くていいのか?」スッ

大男「!?」

用心棒(相棒の体の陰からの奇襲……!)

用心棒「喰らいな!」チャキッ

大男「!ーー」


大男「『飛閃』」ブンッ!

 シュバアーーッ

用心棒「うおおっ!?」サッ

用心棒(何だこれはーー風の刃!?駄目だ、よけきれん!)

用心棒「ぐふうっ!」ズバッ

相棒「……!」ビュンッ!ブンッ!

大男「……」ガキン ガギン

大男「『飛閃』!」シュバアーッ

相棒「!」ダッ ゴロゴロッ


相棒「……怪我……」

用心棒「……だ、大丈夫だ、この程度……問題ない」

用心棒(再装填……)ゴソゴソ

用心棒(……奴は、刀で空を切り裂きーー風の刃を作り出しているのか……?)

用心棒(これが……さっきの浪人を斬った技か!)
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:17:50.41 ID:7ixi6Rbd0

大男「はひゃひゃひゃひゃーーっ!」ダダダ

用心棒「チッ、化け物め!」ドゴオンッ!

大男「お?」ガキイン

相棒「……!」シュザッ ビュンッ!

大男「きえーーっ!」ブウーーンッ

相棒「!」サッ

相棒「短剣ッ……!」ヒュッ!

大男「しいっ!」バキーンッ

用心棒「このッ!」ドゴオンッ!

大男「むむむー……」サッ

大男「『飛閃』!」シュバアーッ

用心棒「くっ!」サッ

相棒「……」シュザッ

大男「うああんっ!」ビュンッ!

相棒「!」


 パキインッ!

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:19:36.59 ID:7ixi6Rbd0


 カランッ


相棒「……!」

用心棒(あ、相棒の仕込み杖が……折れた……!)

大男「……」ニイッ

大男「『飛ーー』」グッ


相棒「五月蠅い」ヒョイッ ドスッ

大男「がばっ!?」ブシュウッ

用心棒(やったッ!さっき防がれた短刀を、拾い上げて奴の首に押し込んだッ!)


大男「が、ぎ、ご……」ブシュウウウウ

相棒「……」サッ

用心棒「とどめだッ!」ドゴオンッ!

大男「ぐごばああああああああああッ!」ガキインッ!

用心棒「うっ!?」

用心棒(あいつ、まだ動けるのか!?)


用心棒「地獄に落ちろッ!」ドゴオンッ!
大男「『飛閃』ッ!」シュバアーッ


 ガギインッ!

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:20:35.63 ID:7ixi6Rbd0


 付近の山中


?「……終わったな」


?(さて、もうこの景色にも飽きた……次の場所に向かうとするか)スック

?(馬も近くに隠してある。ぬかりはない)スタスタ

?(江戸……鍛冶屋のところへ……)スタスタ

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:21:24.31 ID:7ixi6Rbd0


大男「……」

用心棒「……」


大男「……無念……」ズズウンッ…

用心棒「!」カランッ

用心棒(奴の死に際の飛閃で……俺のコ式短銃が、真っ二つに!)


相棒「……」フー

用心棒「……全く、面倒な奴だったな。お前の仕込み杖も俺の短銃も真っ二つだ」

相棒「……それに……」コクリ

用心棒「ああ、俺の怪我か……忘れてたぜ。新しい短刀を貸してくれ」

相棒「……」スッ

用心棒(羽織を適当に切り裂いて、っと……)ビーッ

用心棒「こいつを俺の傷口に巻いておいてくれないか」

相棒「承知……」グイグイ

用心棒「後で闇医者にでもかかればよかろう……」

用心棒「……残った得物はお前の短刀くらいか?それに、俺もお前も傷だらけときてる……絶体絶命だな、ええ?」

相棒「……」グイグイ

相棒「終わり」パシンッ

用心棒「いってッ!」ズキーンッ

相棒「……縁起でもない……」ブツブツ

用心棒「そういうなよ……もちろん死ぬ気なんてさらさら無いって」

用心棒「この後坊主をタンスに入れて馬車に乗せて、一っ走り鍛冶屋のところまで……」


 ゴオオアアアアアアアアアアアアアアア
メラメラ… パチパチ…


用心棒「……あ。タンスも馬車も、馬ごと焼けちまってるなこりゃ。覆面野郎の持ってきた脇差しも使い物になるまい」

相棒「……」

用心棒「……よ、よし。そこらへんの浪人の死体を二つほど、滅茶苦茶に切り刻んでから火の中に放り込んでおこう。短銃と仕込み杖も落としていけば完璧さ」

用心棒「そのうえで俺たちが姿を消してしばらく静かにしていれば、油商人は俺たちが大男と相討ちになったと勘違いするに違いない……」

用心棒「俺たちはゆっくりと江戸に戻るとしよう」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:22:24.21 ID:7ixi6Rbd0


 江戸


 路地裏の小さな鍛冶屋

 
鍛冶屋「隣のうちの千兵衛が〜煎餅喰って屁をこいて〜♪」カーン カーン

<ガラッ

鍛冶屋「ん?悪いなあ、今日はもう店仕舞いやねん……」クルッ


武士「いや、問題無い。俺は商談じゃなく、あんたに用があってきたんだからな」

鍛冶屋「……え?」


 ドキューンッ…

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/05(土) 15:23:55.59 ID:7ixi6Rbd0
今日はここまで
温かいレス、励みになります
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/06(日) 00:28:57.44 ID:WiJZogIQ0
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/04(日) 15:15:50.38 ID:1ygEF4+e0
生存報告です
近々更新します
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:41:53.83 ID:hOv2BwwB0


 数日後


 江戸


 ピヨピヨ チュンチュンチュン チピピピ…
<バサササ


 ガラッ

大工「ふああ……」ノソノソ

大工「……ううーん!」ノビー

大工(いやあ、今日は暖かい……小春日和だな!)

大工(……)

大工(これで腹一杯朝飯を食えれば幸せなんだがな……)ハア

番頭「よう、お早う」

大工「ひゃあ!?番頭さん!?」ビクーンッ

番頭「なんだよ幽霊でも見たような顔して……」

大工「い、いやあ、何でも……」オドオド

番頭「そんなにビクビクしなくったっていいんだよ。金はきっちり返してもらったから」

大工「ははは……でもこっちはケツの毛までむしられて、朝飯だって……」

番頭「博打辞めてから言いな」

大工「ハイ……」


番頭「そういえば、聞いたかい?」

大工「?……何をです?」

番頭「相模のほうで大きな山火事があったらしいんだよ。江戸からの旅行者の夫婦が犠牲になったらしいね」

大工「ひええ、おおこわ、なんばんだぶなんばんだぶ!」

大工「どうせ焼け死ぬなら江戸で華になりたいもんだ……」


用心棒「……フン」コソッ

相棒「……」コソッ

少年「……」コソッ

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:42:48.73 ID:hOv2BwwB0


 ガヤガヤ ワイワイ ザワザワ

<ヤスイヨーアジガヤスイヨ!
<エチゴノタンモノイカガッスカ!
<カワラバンデゴーザーイ!オッダンナ、マイドアリ!


用心棒「……」バサッ

用心棒「……瓦版も同じか。まったく恐ろしいもんだ、油商人のやつあんな派手な人殺しを山火事ってことにしちまいやがった」

少年「とすると……奉行所は……」

用心棒「はん、奉行所なんてハナからあてにしてないさ……」グシャ…

相棒「読む」

用心棒「ん?ああそうか」スッ

相棒「……」バサッ


少年「このあと鍛冶屋さんのところへ行くんですよね?」

用心棒「ああ。クソッタレの油商人に一泡吹かせるには武器が必要だ」

用心棒「鍛冶屋に頼んだ武器はとっくに完成しているはずだ……しかし……」

少年「……しかし?」

用心棒「……奴らの勘が、ちょっぴり冴えていたとしたら……」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:43:38.01 ID:hOv2BwwB0

相棒「……」

相棒「……」パラリ

相棒「……!用心棒ッ!」

用心棒「!?何だ!?」

少年「!」

相棒「この記事……!」


『鍛冶屋の店舗兼住宅に盗人か?店主負傷』


用心棒「……これは……!?」

少年「た、大変です!急いで行かなくては……!」

用心棒「……」

用心棒(これは……罠か?)

用心棒(いや、道中俺を探すような動きは見られなかった)

用心棒(これが罠だとすると、俺を生存を想定していることになる。やってることが丸っきりチグハグだ)


少年「……用心棒さん?」

用心棒「……」

用心棒「……行くぞ。ただしそこらへんで武器を調達してから、だ……」

少年「はあ……あっ!では僕の短銃を!相棒さんから預かったんですが、僕が持っていても仕方ありませんし……」

用心棒「いや、それはお前に預けておく」

少年「え……?しかし……」

用心棒「……」

用心棒「いいから持っておけ」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:44:28.42 ID:hOv2BwwB0


 鍛冶屋前


用心棒「……」コソッ

相棒「……」コソッ


用心棒(調達できた武器は……俺の持っている旅人の護身用の脇差と、相棒の持つ包丁だけだが)

用心棒(金も尽きてきた今じゃあ、それが精一杯だ……いや、弘法筆を選ばず、という……)

用心棒(そもそも、これは念のための用心だし構わんだろう)

用心棒(ここで奴らが待ち伏せしているという確率は低いのだ)

用心棒(坊主を隠してきたのも、あくまで念のためだ……)


用心棒「……」チョイチョイ

相棒「……」コクリ


用心棒「ッ!」ガラッ シュタッ!

相棒「ッ!」シュタッ!


用心棒「……!?」

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:45:11.60 ID:hOv2BwwB0


浪人甲「!来たなッ!」スック

浪人乙「用心棒に相棒……!間違いない!」スック

鎧武者「クカカカカカカカカ……予想通り予想通り予想通り予想通り……」スック


用心棒「チッ……何たることだ……!」シャキンッ

相棒「……」シャキッ


鎧武者「我が名は油商人近衛四天王が一角『武士』……」ジャコン

用心棒「!よけろッ!」バッ

相棒「!」バッ

鎧武者「 こ れ よ り 貴 様 ら を 抹 殺 す る ! 」ドゴオンッ!


 バキイッ!グシャンッガラガラ……

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:46:23.24 ID:hOv2BwwB0


 カキインッ! キインッ! ドゴオンッ キューンッ ガシャーンッ


浪人甲「せえいっ!」ビュンッ

相棒「……」ガキンッ

浪人乙「はあっ!たあっ!」ブンッ ブオンッ

相棒「ッ!」サッ

相棒「そこッ!」ヒュンッ

浪人乙「おっと!」カキンッ

浪人甲「このアマ!」ブンッ

相棒「くっ……!」サッ

相棒(こちらは手負いな上数で不利……そのうえ得物がこれでは……!)


鎧武者「かあっ!」ブオンッ!

用心棒「くっ!」サッ

鎧武者「ええい!ちょこまかと!」ブオン!ブオンッ!

用心棒「おっとッ!」ガキインッ!

用心棒(し、痺れる……)ジーンッ


用心棒(この野郎、ばかでかい種子島を棍棒みたいに……)

用心棒(四天王と名乗ってはいたが、こいつ……戦法も技量も明らかに今までの三人より劣る)

用心棒(クソッ、短銃さえあればこんな奴……!)


鎧武者「ハエが……」ガチャガチャ

用心棒「ッ!」

鎧武者「堕ちろ!」ドゴオンッ!

用心棒「うおおおっ!!」サッ

 キュイーンッ ガシャーン…

用心棒(な、なんとかかわし……)

鎧武者「うおっしゃああああッ!」ブオンッ!

用心棒「がふうっ!?」ドカッ ズダアン

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:47:38.22 ID:hOv2BwwB0


用心棒「……クッ……」

用心棒(ま、拙い……今の一撃は……少し、拙い……立ち上がれん!)


鎧武者「……クク、ク」

鎧武者「クカカカカカカカカカカカカカカカカカ」

鎧武者「まともな武器がないとはいえ……こんなものか、用心棒よ」ガチャガチャ

鎧武者「引導を渡してやろう」ジャキッ


用心棒(いよいよ拙い……!くっ、武器は……どこかに、武器は……!)

用心棒(ーー!)


鎧武者「死ねッ!」ドゴオンッ!

用心棒「うおおっ……!!」ググーッ


 キュイーンッ バキャッ!


用心棒「ハア、ハア、ハア……」

鎧武者「這って避けたか……」

鎧武者「だがまだ立ち上がれまいて。刀で首を掻き切るまでよ……!」シャキンッ

用心棒「……へ、へへへ」


用心棒「じゃあ俺はその前にお前を撃つだけさ」ジャキッ

鎧武者「!?貴様ーー」


 バアンッ!
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:49:53.38 ID:hOv2BwwB0


鎧武者「……な、なぜ、短銃、を」

用心棒「……鍛冶屋も闇社会に生きてきた人間だ、殺されるかもしれないのは弁えている」

用心棒「俺は……鍛冶屋が、自分が殺されても商品まで奪われぬよう、箪笥の中に商品を隠した可能性に賭けた」

用心棒「そして箪笥を壊せるよう、お前の銃弾を誘導したんだ……!」

用心棒「あいつの趣味……仕込み箪笥にな……!」

鎧武者「……ク、カカカカカカカカカ……」

鎧武者「その、胆、力……見事……!」

鎧武者「」ドシャッ

用心棒「……刀、借りるぜ」ヒョイッ

用心棒「相棒ッ!」ビュンッ


相棒「!」パシッ

浪人甲「はっ!鎧武者がやられたのか!?」

浪人乙「何っ!?」

相棒「私から……」シャキンッ

浪人甲「あっ、きさーー」

浪人乙「こいつーー」


 シュパッ! ザシュッ!


浪人甲「」ドシャッ

浪人乙「」ドサッ

相棒「目を反らすな」チャキンッ

144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 22:50:34.97 ID:hOv2BwwB0
今日はここまで
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/21(土) 10:38:38.93 ID:Oo8eqgwA0
乙です
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/21(土) 10:54:35.28 ID:1oMTOnNgo
かっこいいー
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/12(日) 23:56:29.84 ID:XhvtTbv00

用心棒「……はああ……し、死にかけたぜ……あやうく」

相棒「……こいつらは……」

用心棒「おそらくは……闇商人から鍛冶屋のことを聞きつけた油商人が差し向けたんだろう」

用心棒「鍛冶屋を殺し……あわよくば、訪ねてくるかもしれない俺たちも殺そうとしていたわけだ」

 ガラッ

用心棒「!」

相棒「!」

少年「はあ、はあ、よかった!ご無事ですか!」

用心棒「……なんだ、坊主か……どうしたんだ、薪なんか持って」

少年「ああ、いえ……銃声が聞こえたので、何か武器を持って行こうと思ってそのあたりの家から……」

用心棒「……」

用心棒「はっ、遅えんだよ」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/12(日) 23:57:46.15 ID:XhvtTbv00

相棒「……二人共。引き揚げを……」

用心棒「んっ?ああ……ドタバタ騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってくるかもしれんしな」

少年「あ……そういえば、向かいの家が騒がしかったような」

相棒「大変だ。急ごう」

少年(淡々としてて全然大変そうじゃないなあ)

用心棒「心配しなくていい。こういう後ろめたい奴の家には、決まって……」ウロウロ ガチャガチャ

 バチッ バクンッ!

少年「あっ!」

少年(壁がばね仕掛けで開いた!奥には暗い通路が続いている……!)

相棒「よし。早速」

用心棒「待て、持って行けるものは持って行こう。風呂敷は……あった」ゴソゴソ

用心棒「まず仕込み箪笥の中にあった武器弾薬……」ガチャガチャ

相棒「提灯……それに火……」カチャカチャ

少年「えーと、えーと……あっ、櫃にご飯が残ってます」カパッ

用心棒「おお良いな、適当に握って、何かに包んでおいてくれ」ガチャガチャ

相棒「浪人どもの武器は」

用心棒「重いからやめておこう。一応使えないように壊しておいてくれ」

用心棒「多分鍛冶仕事用の鎚がそのあたりにあるはずだから、それで強かに打てばいい」

相棒「……」コクリ

 スタスタ ガチャガチャ

 ガキーンッ! バキャッ! ガキンッ!

用心棒(四天王が全滅したとはいえ、いつ追手が襲ってくるかわからん。欲張って大量の武器を抱えて疲れるのは悪手……)

用心棒(……四天王が、全滅……か)


用心棒「よし、武器はこれでよし」ギュッ

相棒「終わった。準備万端」

少年「こっちも終わりました!」

用心棒「俺も今……ん?」パラッ

用心棒(これは……手紙?)
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/12(日) 23:59:09.56 ID:XhvtTbv00


 ……


 ザワザワ ガヤガヤ


魚屋(んっ?なんだ、もう日も落ちたっていうのにこんな裏通りに人込みが……)

魚屋「あっチョウさん!反物屋のチョウさんじゃないか!」

反物屋「おお、あんた魚屋の」

魚屋「何ですこの人込みは、一体何があったっていうんです?」

反物屋「うんにゃ、私もよくわからんが、どうも斬り合いがあったようだよ」

魚屋「斬り合い!」

反物屋「なんでも鉄砲も使われたとか」

魚屋「鉄砲!」

反物屋「それに、騒ぎを起こした奴らがまだ中にいるようでね」

魚屋「ヒエーッ!」

反物屋「おっと、しかしもう安心だ。見なよ、奉行所の連中が来た」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:01:01.15 ID:pbQc97HN0

町奉行「全員整列ッ!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!」
侍丁「……はっ」

町奉行「よしッ!これより状況を説明する!」

町奉行「この鍛冶屋で斬り合いがあったとの情報が入ったッ!鉄砲も使われたらしい!」

町奉行「更に!下手人どもはまだ中にいるらしい……これに収集をつけるのは楽ではない」

町奉行「しかし商人の胡散臭い私兵や尊王攘夷の馬鹿どもに我々の力を示すには絶好の機会だッ!」

町奉行「これより突入する!さすまたァ!」

侍甲「準備よし!」ガチャッ

町奉行「十手ェ!」

侍乙「準備よし!」カチャッ

町奉行「提灯ッ!」

侍丙「準備よし!」スチャッ

町奉行「特別装備!竹束ァ!」

侍丁「……準備よーし」ガサッ

町奉行「行くぞァ!……スウーッ」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:02:31.31 ID:pbQc97HN0


町奉行「 御 用 だ − ッ ッ ! !」ズバーンッ


侍甲「御よ……うおっ死体!」

侍乙「なんという……」

侍丙「……ウップ」

侍丁「…………」


町奉行「下手人は?下手人はどこだ?」ウロウロ

町奉行「ここか?」ガラッ

町奉行「ここか?」ガラッ

町奉行「それともここか?」パカッ

侍甲「さすがに櫃の中に隠れる奴はいないと思います町奉行」

町奉行「実に綺麗に食べ切ってある」


町奉行「?……参った、下手人がどこにもいないぞ」

侍乙「向かいの住人は『銃声が鳴った後は注目していたので出入りを見逃すことはない』と言っておりましたが……」

侍丙「『子供だったりしたらわからないが』とは言っていたが……子供がやったとは思えないしなあ」

町奉行「……?????」


侍丁「……」コソコソ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:04:02.95 ID:pbQc97HN0

 ガヤガヤ ガヤガヤ

侍丁「……」キョロキョロ

怪しい男「ここだ」

侍丁「おう、そこにいたか……」


 スタスタ……


怪しい男「……で、どうだ」

侍丁「『鎧武者』たちは全滅。用心棒どもの姿はない」

怪しい男「なるほどな……武士様の想定通りになったわけだ」

侍丁「ああ。武士様にその旨お伝えしてくれ」

怪しい男「確かに」スタスタ……

侍丁(……さて、町奉行や他の侍に気づかれないうちに鍛冶屋に戻るか)
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:04:54.03 ID:pbQc97HN0


 カツーンッ コツーンッ

 カツーンッ コツーンッ

 カツーンッ コツーンッ……


相棒「……」

用心棒「……」

少年「……」


相棒「段差だ」ヒョイッ

用心棒「おっと」ヒョイッ

少年「よっと……」ヒョイッ


相棒「……」

用心棒「……」

少年「……」


相棒「長い」

用心棒「長いな」

少年「長い……ですね」

用心棒「このぶんだと港のあたりまで続いていそうだな……くっ」ズキン

用心棒「すまん、少し傷が痛む。休憩しよう」ドカッ

少年「そうですね……僕も、少しくたびれてしまいました……」

相棒「やむなし」

用心棒「……そうだ、相棒。明かりを寄越せ。ついでに少し読みたいものがある」

相棒「ん」スッ

用心棒「さて……」ガサガサ

少年「それは……?」

用心棒「……鍛冶屋からの手紙だ」

154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:06:04.71 ID:pbQc97HN0


『ハイケー、用心棒様。お元気やろか。
 
 この手紙が読まれとるゆうことは、うちは油商人の手のモンに殺されてもーたんやろな。

 しゃあない。お天道様の下を歩けないうちにはお似合いの最期や。

 でもうちもそのまま引っ込んでおられるほど諦めがよくない。用心棒、敵討ち頼むわ。

 この手紙と一緒に入ってる武器と、それに、港の近くにあるうちの蔵の中身を丸々くれたる。

 隠し通路を抜ければ、蔵はそこから見える場所にあるからすぐわかると思うで。

 蔵の中には間違いなく油商人をやりこめられる〈大駒〉もあるで。

 ほな、ご武運をお祈りするで』
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:06:53.92 ID:pbQc97HN0


用心棒「……なるほどな」

少年「……あっ、端に走り書きがあります」

『うち、用心棒に売る武器を仕込み箪笥に一時保管するだけなのになんでこんなん書いとるんやろ。あほくさ』

用心棒「……鍛冶屋……」

相棒「……」


用心棒「……そろそろ進むか。今度は俺が先頭を歩く」スック

少年「……はい」

相棒「……ん」


 カツーンッ コツーンッ カツーンッ コツーンッ…

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:07:47.02 ID:pbQc97HN0


 ギギギギギ…


用心棒「おっ、外だ」


 ザザア… ザザア…


少年「本当に港のそばですね……」

相棒「蔵は……」キョロキョロ

用心棒「船着き場の向こうに、一つだけあるな……行くぞ」


用心棒(夜はまだ深く……紺碧の海に引き立てられて、闇は一層深い……まだ何か、一悶着がありそうだ)

用心棒(しかし日が昇らないことはない。女神様が閉じこもった岩戸……こじあけてやるとも)

用心棒(……〈大駒〉でな……)
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/13(月) 00:09:03.39 ID:pbQc97HN0
今日はここまで
次回四天王戦です
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/15(水) 21:44:01.60 ID:fRFSAlCpo
楽しみ
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:50:15.78 ID:chnP0r8j0


 蔵


「……」

(所せましと大小さまざまな木箱が置かれた蔵)

(その中央、人の背丈ほどもある大きな木箱の横に、俺は居る……)


(ーー鍛冶屋の仕込み箪笥の中にあったあの手紙……)

(俺と同じように見つけられたなら、用心棒は必ずここに来る)


<ザザア… ザザア…


「……」


用心棒「そこのお前。動くな」ジャキッ

「!」ピクッ

用心棒「振り向くのも駄目だ。少しでも身じろぎしたら撃つ」


用心棒(まさか先客が居たとはな……しかし、どういうわけか無警戒に突っ立っていたおかげでこの位置を取れたぜ)


「……」


用心棒(……この男。背後から見た限りでは、そこそこ身だしなみの整った侍、といったところか)

用心棒(覆面ヤローではない……不気味に先回りしている人影ーー奴かと思ったのだがな)


侍?「……何か言うことはないのか?」


用心棒(……この余裕)

用心棒(上っ面だけではないな)
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:51:19.88 ID:chnP0r8j0

用心棒(ーー掴みかかられるほど近くはない。不意に横っ飛びされた程度では急所を外さん)

用心棒(撃鉄を戻す隙を与えないために……撃つとなれば必殺、一発で仕留める)


用心棒「……この場所をどこで知った」

侍?「……鍛冶屋さ。仕込み箪笥の中の文……」

用心棒「!……」

用心棒「……貴様が、鍛冶屋を?」

侍?「……ふん。日陰者も少しは賢くなきゃあな」

用心棒「……そうか」ジャキッ

侍?「まあ待てよ用心棒……」


侍?「耳を澄ましてみろ」

侍?「匂いを嗅いでみろ」

侍?「目を凝らしてみろ」


侍?「全てがこの出逢いを引き立てているんだぜ」

用心棒「……?」


侍?「波の音」

侍?「潮の香」

侍?「そして……高窓の月光!」ピカッ


用心棒(うっ!?奴、いつのまに手の中に鏡をーー月光の目くらまし!)

用心棒「このァ!」バアンッ!

侍?「フッ」シュバッ

用心棒(くっ、バカでかい木箱の陰に隠れられた……)

用心棒(ーーまだだ!裏口から入り込んだ相棒が背後から斬る!)
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:52:31.67 ID:chnP0r8j0

侍?「用心棒。正直俺は最初はお前のことを見くびっていたよ」

侍?「だがお前は剣士、槍使い、大男を下した。素晴らしい!俺でも容易にはいくまい」

用心棒「な、何を……」

侍?「そう思ったからわざわざ部下ーーあの鉄砲を振り回す替え玉に待ち伏せさせ、騒ぎを起こして……」

侍?「抜け道、そして邪魔の入らないこの戦場に誘導したんだ!」

相棒(完全に背後をとった……狩る!)シュザッ

侍?「ーーだから」ジャキインッ ズドオンッ!


 チュイーンッ


相棒「ぐ!?」バスッ ガクッ

用心棒「!?」


侍?「せいぜい楽しませてくれよ」


相棒「くっ……物陰に……」ズルルッ

相棒(ーー馬鹿な!跳弾が、私の脇腹に……)

相棒(奴は前を向いたままだったのに……まるで狙いすましたかのように……!)

用心棒(ーーこの特殊技能ッ……それに『武士』と名乗っていた奴を『替え玉』と……)

用心棒(そうか、こいつは……!)


武士「ーーこの武士様をよォ!」

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:53:57.62 ID:chnP0r8j0


 鍛冶屋の抜け道 出口


 ギギギ……


?「……」スタスタ

?「……」キョロキョロ

?(チッ……用心棒たちの行方を見失ってしまった……)


?(鍛冶屋の店に入るまでは把握していた)

?(しかし鍛冶屋が死んでいる以上、そこに有益なものは無いはず)

?(すぐに移動すると思い、周辺に網を張っていたんだが……こんな抜け道があったとはな)

?(奉行所の連中が居なくなった後探し回ってようやく見つけたはいいが……)

?(今からではどこを探したらいいかもわからん……)


?「……」

?(用心棒の行方を把握するのは不可欠なことではないとはいえ……)

?(奴らが、俺の予想を超えてきた)

?(俺の計画が、崩れたーー?)

?(ーーまさかな)


 スタスタ……

163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:54:46.15 ID:chnP0r8j0


武士「そら踊れっ!踊れっ!踊れーーっ!」ズドオンッ! ズドオンッ! ズドオンッ!

 カキーンッ! バキーンッ! ガシューンッ!

用心棒「うおおっ!?」サッ

 キューンッ プシューンッ

バキャッ!

用心棒(ヒャッ!耳のすぐ横に着弾しやがった!)


相棒「喰らえ……!」ビュンッ

武士「おっと。投剣か、いい腕だ!」サッ ズドオンッ!

相棒「チッ」サッ

 カキーンッ

相棒「!」サッ ヨロッ

相棒(うっ、脇腹の傷が……!)ドタッ

武士「少し早いが終わりだな!」ジャキッ


用心棒(相棒の投剣から逃れようとして俺の射線上に出てきた!ーーそれにお前はもう六発撃ち切ったじゃないか!馬鹿め!)

用心棒「くたばれ!」バッ ジャキッ

武士「おおどうした!お前が先かァ!」ガシャーンッ! ジャキンッ!

用心棒「!?」

用心棒(奴の袖から弾丸が沢山ついた鉄の棒が出てきて……短銃に弾を込めるカラクリか!)

用心棒(しかし撃つのは俺のほうが早い!奴の眉間に一発ーーぐっ!?)ズキッ

用心棒(あちこちの傷が、今に、なって……!)

用心棒「う、おあああああ!」バアンッ!
武士「そらよっ!」ズドオンッ!
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:55:25.27 ID:chnP0r8j0

 キューンッ

武士「ぐっ……!」バスッ

武士(おのれ、左腕を……!)


 カキーンッ

キュイーンッ

 キーンッ

用心棒「ぐふっ!」バスッ

用心棒(い、いかん……右脚に……!)


武士「……フフフフフ」サッ

武士「フフフフフッ!いいぞ!久々に血が沸き立つようだ……!」

武士「さあ、まだまだ夜は長いぞ……!」ジャキッ


相棒「……!」

用心棒「……上等、じゃあ、ねえかッ!」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/18(土) 17:58:43.28 ID:chnP0r8j0
今日はここまで
格ゲーになったら槍使いが強キャラだと思います
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/26(日) 17:46:39.30 ID:6Kxv031So
格ゲーになったら大男が最弱だろうなぁ
リアルではとんでもなく強いと思うけど
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:27:02.39 ID:wQDFMVRx0


 蔵の外


<バアンッ!バアンッ!
<ドキューンッ!カキーンッ! ドキューンッ!
<ドカッ! ドキューンッ!


少年(銃声が……すごい戦いみたいだ)

少年(相手はそんなに強いのだろうか?第一用心棒さんたちは傷だらけだ……!)ハラハラ


 ……ザッ ザッ ザッ


少年「!」ササッ


侍丁「……もう始まっているようだな。大分激しいようだ」

怪しい男「なに、俺たちは武士様に言われたとおり周りを固めるだけさ」


少年(武士……?中にいるのは四天王の一人、武士なのか!)

少年(こうしちゃいられない、僕も何かお二人の手助けを……)


侍丁(……ん?蔵の角の向こうのほうへ、足跡が続いている。それも新しい……)

怪しい男「!……おい」

侍丁「ああ」ゴソゴソ ジジジ……


少年(……ん?何の音だ?)


侍丁「……」コロロ…


少年(顔が出せないからわからないが……奴等、何かこちらへ転がした?)

少年(ーー導火線の音?−−)

少年(ハッ!爆弾!)ダッ

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:28:23.78 ID:wQDFMVRx0


 蔵


用心棒(あちこちに積まれた木箱……)


用心棒(その山の陰一つ一つが、夜の森の茂み……死の潜む闇……)


用心棒(どこから来る……右か……左か……)

 チカッ

用心棒(む、あの木箱の上に置いてあるのはさっきの鏡?ーー見ている!奴が!)

用心棒(銃弾の軌道は――!?)

 ビューンッ

用心棒「うおっ!?」バッ

 ズドッ!

用心棒(これは、槍?奴め、鏡越しに槍を投げてきやがったのか!)

用心棒(そうか、周りの木箱に武器が――ハッ!)


武士「飛び出してきたな――今度は鏡無しで見える」ジャキッ

用心棒(まず――)
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:29:23.37 ID:wQDFMVRx0


 ズドオンッ!


武士「うおっ!?」フラッ

用心棒「おおっ!?」フラッ

用心棒(煙が――爆弾か!?)

武士「くそっ、逃さん!」ジャキッ

相棒「撃たせない……!」バッ ビュンッ

武士「ぐっ!」ズバッ

武士「痛ぇなあ!」ドキューンッ

相棒(木箱から見つけた盾で……!)ガシャッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

相棒「がっ……!」バスッ

武士「盾など通用せんなあ!とどめ喰らえッ」ジャキッ

用心棒「バカめ!後ろだ!」ジャキッ


<タタタタタ

<ダダダッ マテ!クソガキ!

<ニカイニニゲタゾ!オエ!


用心棒(――爆発の粉塵の中から、坊主が!それに追手が――)
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:30:46.98 ID:wQDFMVRx0

武士「……へっ」ニヤリ

武士「俺の背後は死角じゃあねえぜッ!」ドキューンッドキューンッドキューンッ

用心棒「はっ!?」サッ

 カキーンッ
キュイーンッ
 バキーンッ

用心棒「ぐ」バスッ

武士(――?避けても二発は当たる計算だったんだが……ッ!)

相棒「……」ガシャッ

武士(こ、こいつ、弾丸に盾を当てて軌道を……!)

相棒「ふんっ」ブンッ ビューンッ

武士「チッ!」ゲシッ

 ガランッ

相棒「隙あり」シュバッ

武士「うっ!?」

 ザシュッ!

武士「ぐふっ……退け!退けッ!」ドキューンッ ドキューンッ
 
相棒「……」サッ

武士「……くく、く……」サッ

武士(最高だ……これほど死を……生を間近に感じたことはない……!)ガシャーンッ ジャキッ!


用心棒「はあ……はあ……」

用心棒(よし……物陰に隠れた。また……振り出し……)

用心棒(――いや、坊主が……!)
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:31:35.93 ID:wQDFMVRx0


 蔵 二階


少年「うわわわわ……!」タタタ

侍丁「待ておらァ!クソガキ!何してやがったッ!」タタタ

怪しい男「クソッ、木箱が邪魔だ……おい!挟み撃ちだ、お前はそっちから回り込め!」タタタ

侍丁「わかった!」クルッ タタタ…


少年(ううっ……このままじゃ捕まってしまう……!)タタタ…

少年(そうだっ!洋式短銃!)ゴソゴソ

少年(仕方ない、仕方ないんだ、これで……)ジャキッ

少年(……ん?)ガチャガチャ

少年(火薬が湿気てる――!)ガーンッ

少年(ど、ど、ど、どうしよう……いや、撃てなくて気づくよりはよかったと考えよう!)

少年(周りに何か……)キョロキョロ

少年(!……この木箱は……?)

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:32:35.66 ID:wQDFMVRx0


 一階


用心棒「……」

用心棒(相棒は……どこだ……)

用心棒(奴は……どこだ……?)

 ガタッ!

用心棒「!」ジャキッ

鼠「チューチュー!チチチ」

用心棒「ふう……」

<ドキューンッ

 カキーンッ

  キュイーンッ

鼠「ギッ」バシュッ

鼠「」コロッ

用心棒「!?」

用心棒(音だけを頼りにここまで精密に……!?)

用心棒(……動けば死ぬってか……!)

用心棒(ッ)クラッ

用心棒(……クソッ。しかしいい加減止血をしなくちゃあ冗談抜きに死にかねないぜ……!)

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:33:18.55 ID:wQDFMVRx0


 二階


侍丁「……」シャキンッ


侍丁「……」スタ… スタ…


侍丁「……」スタ… スタ…

 ググッ

侍丁(!足元に、縄が――!?)

 バララッ

侍丁「はっ!」バッ

 ガタタタンッ! カランッ…

侍丁(槍の束が倒れてくる仕掛けか……あのクソガキ、よくも……!)

<ギシッ…

侍丁「!そこか!」バッ


少年「!」


侍丁「浅知恵は今ので終わりか……?」

侍丁(追い詰めたぞ……クソガキの後ろは吹き抜け。奴に飛び降りる度胸なんてあるまい……)


怪しい男「さ、侍丁……」ヨロヨロ

侍丁「おお、挟み撃ちは成功……ゲッ!何だお前……ゲホッ!ゲホッ!何でそんな粉まみれなんだ!?」

怪しい男「張ってあった縄に引っかかって……」

侍丁「……」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:36:30.97 ID:wQDFMVRx0

侍丁「……」

少年「……」

侍丁「……ク・ソ・ガ・キィーッ!」シャキンッ ダッ


少年「今だ!」ゴソッ グッ

侍丁(む?クソガキが床に何かを押し付けて――あれは短銃か?)

侍丁「何かわからんが喰ら……?」カチッ

侍丁「うおっ!?足が!?」ガグンッ

少年(最後の足止め……狩猟用の罠!)

少年「今だ!」ガチンッ

侍丁(クソガキが短銃の火打石の部分を押し付けて、床に火を――)

 シュボッ

怪しい男「こ、これはッ!?」

侍丁(うっ!?暗くて気づかなかったが、床に火薬の粉が一直線に敷いてある!)

 ボボボボボボボボボ……

侍丁(その先には――その先の木箱は――!)


『火薬』


侍丁「ぬおあああ――ッ!こんのクソガキィ――ッ!」ビュンッ

少年(!?か、刀を投げ――)
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:42:50.17 ID:wQDFMVRx0


 一階


<クソガキーッ!


用心棒(……?)

 ガランッ

用心棒(刀が落ちてきた?)

少年「わーっ!南無三宝!」ドターッ

用心棒「げっ!?」

少年「あっ用心棒さん……刀!刀刺さってませんか!?」

用心棒「な、何を言ってん……」

<ドキューンッ

用心棒「!しまっ――」

 カキーンッ
キュイーンッ

用心棒「ごふっ!」バスッ

少年「ああっ!?」

武士「勝った!直接ド玉をぶち抜いて終わりだあああっ!」バッ ジャキッ


 ド ゴ ォ ン ッ


武士「うおおおっ!?またかッ!」フラッ

謎の男「うぎゃあ――っ!死んだ――っ!」ドターッ

武士「うおっ!?射線を塞ぐなバカが!」

武士(落ちてきたバカと粉塵でよく見えんが、用心棒の場所はわかっている!壁に反射させて撃ち込む!)

武士「最後の一発!喰らえ!」ドキューンッ!


カキーンッ

バスッ

「ぐうっ」


武士(当たった!)
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:44:19.84 ID:wQDFMVRx0

侍丁「あ、悪魔め……」ガクッ

用心棒「……」


武士(――バカな!落ちてきた侍丁を盾に!?)

武士(まだだ、部下が射線を塞いでいる……この隙に狙いを付け直して――)ジャキッ


用心棒「悪魔で結構……!」ジャキッ バアンッ

 カキーンッ

武士「ぐおおっ!?」バスッ

武士(お、俺の軌道を利用しやがっ――)

 ドスッ!

武士「がっ……!?」

相棒「……」

武士(こ、この、女……!)

武士(だが……後ろから刺された衝撃で、さっきの軌道からは脱した!)

武士(探せ、新しい軌道……俺の、勝利への軌道――)

 バアンッ

怪しい男「こ、今度こそ死ん……だ……」ドタッ

武士(――!射線がッ!)


用心棒「死んで仏になるよりも」ジャキッ

用心棒「生きて悪魔になってやる!」バアンッ


武士「――」バスッ


武士(死に近づこうとした俺に、生を渇望するあいつを殺せるわけもなし、か……)

武士(構わんさーーああ、楽しかった)

177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:45:16.80 ID:wQDFMVRx0


相棒「……死んだ……」ブンッ

武士「」ドシャッ

用心棒「……そう、か……」ガクッ

相棒「……」ガクッ


少年「よ、用心棒さん!相棒さん!怪我が……大変な……!」

用心棒「……ああ、鉛玉は……好みじゃないんだが……もう、腹いっぱいだ」

用心棒「……相棒、お前は……」

相棒「……」

用心棒「……」

相棒「……」

用心棒「……何か喋れ」

相棒「……腹が減った」

用心棒「今か?」

少年「あ、あの……鍛冶屋の家から持ってきた握り飯なら、いくつか」

相棒「食べよう」

用心棒「今か?」

相棒「嫌か?」

用心棒「……」

用心棒「とりあえず……申し訳程度にでも、傷の手当てをしてからにしよう」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:46:09.35 ID:wQDFMVRx0


 ゴソゴソ ガサガサ…


用心棒「モグモグ……さて、これからどうしたものか……」

相棒「モグモグここは危険……か……ハグハグ」

用心棒「ああ……そろそろさっきの爆音を聞きつけた野次馬が集まってくるだろう……」

用心棒「それに混じって油商人の手の者も……な。モグモグハグハグ……ゴクンッ」

相棒「モグモグ……この体で……どこまで行けるか。モグモグゴクン」

用心棒「……厳しい、だろうな……」

用心棒「どこかに……隠れなければならないんだが――くっ」ズキッ

用心棒「人心地ついたら……いよいよ痛み出してきやがった……」ズキズキ

相棒「……」

相棒「……?坊主は……」

用心棒「ああ……?さっき、蔵の中を見てくるといって……」


<ガタンッ!


相棒「ッ!?」チャキッ

用心棒「何の音だ!?」ジャキッ


用心棒「――あれは!?」

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:47:11.54 ID:wQDFMVRx0


 日の出後


 蔵の外


 ガヤガヤ ザワザワ


魚屋(朝一で仕入れをしようと海沿いを歩いてきたら……なんだこの人混みは?)

反物屋「うーん、ここからじゃ何も見えんなあ……」キョロキョロ

魚屋「あっ反物屋!」

反物屋「あっ魚屋!」

魚屋「また何かあったみたいですなあ、今度は何だっていうんです?」

反物屋「どうもそこの蔵で爆発があったらしい。それも続けて二度……」

魚屋「爆発?ここは花火でも収めてるんですかねえ?」

反物屋「いや、そういうわけじゃないようだが……おっ見なよ、町奉行のお出ましだ」


町奉行「全員整列ッ!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!」

町奉行「……ん?全員整列!」

侍甲「はっ!」
侍乙「はっ!」
侍丙「はっ!……あれ?町奉行、侍丁のやつが居ません!」

町奉行「何?……ふむ、まあいい。これから状況を説明する!」

町奉行「今日の未明、この蔵で二度の爆発があったとの情報が入った!昨晩の鍛冶屋での事件との関連も疑われる!」

町奉行「これより蔵に突入、関係者及び証拠物件の確保を行うーーさすまたァ!」

侍甲「準備よし!」ガチャッ

町奉行「十手ェ!」

侍乙「準備よし!」カチャッ

町奉行「提灯ッ!」

侍丙「準備よし!」スチャッ
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:48:12.73 ID:wQDFMVRx0


 蔵 一階


町奉行「御用だ――ッ!」ズバーンッ

侍甲「うおっ!凄い火薬の臭いだ……」

侍乙「……木箱だらけだな」

侍丙「……どうも、南蛮渡来の品も混じっているようだ……」


町奉行「――うおっ!?これは!」

侍甲「一体何です――ああっ!?」


侍丁「」


町奉行「さ、侍丁!――駄目だ、死んでいる!」

侍乙「何だって!?侍丁がなぜここに!?」

侍丙「あっ、見てください!他にも死体がっ!」

侍甲「生きている者はいないのか?」

侍乙「いや、死体だけです……」


町奉行(攘夷を叫ぶ連中の影も無いのに、ここ最近の物騒さは何だ!?)

町奉行(その上奉行所の役人までが――!)

侍甲「町奉行、如何しましょう!?」

町奉行「……」


町奉行「これより箝口令を発する!鍛冶屋の事件、そしてこの蔵の事件に関する情報を絶対に漏らさぬよう心せよ!」

町奉行「こちらの動きを掴ませず、電撃!下手人をひっ捕らえるのだ!」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/08(土) 14:49:32.68 ID:wQDFMVRx0
今日はここまで
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 15:31:30.66 ID:X8URUWc0O
乙。
夢中で読んでしまった…次の更新を待ってます
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/08(土) 16:56:02.47 ID:9LRxmq4TO
少年いらない
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:50:43.47 ID:/8aX4q490


 蔵


 地下


用心棒「……上が騒がしい。どうやら奉行所の連中が到着したようだな……」

相棒「……」キョロキョロ

用心棒「気にするな相棒。奴ら、この秘密の地下室に気づきやしないさ」

用心棒「坊主が入口を見つけなきゃ、俺たちも気づかなかっただろう……」

少年「僕も驚きました……まさかとは思いましたが、ここにも隠し部屋があったなんて」

用心棒「ああ……しかし手紙にこのことが書いていなかったことからして、鍛冶屋もこの部屋のことは知らなかったんだろう」

用心棒「おそらくこの隠し部屋は闇社会には関係ない、この蔵を建てたやつの趣味なんだ」

用心棒「それにしては実に丁寧な作りのようだが……」

少年「え?……あ、そういえば、息苦しくないような……」

相棒「潮の匂い……」クンクン

用心棒「どこかに空気穴が開いてるようだな。僅かに風が通っているおかげでホコリも積もっていない……」

用心棒「ちょっとばかし気は滅入るが上等な隠れ家だ。これで布団があれば言うことはないんだが……」

少年「布団ですか……あっ!見てください、あっちに寝台があります!」

用心棒「寝台?――おおっ、本当だ!」

用心棒「坊主、一日だけここで休むことにしようじゃねえか。相棒も――」

相棒「スー… スー… ムニャムニャ…」

用心棒「早いな!?」

用心棒「くそっ、俺ももう寝るぜ……痛みもあるが、それ以上に、くたくた、だ……」ドサッ

用心棒「グゴゴゴゴゴゴゴゴ…」

少年(早いなあ……)

少年(ああ、でも僕もすっかり疲れてしまった……)ドサッ

少年(すえた臭いのする布団だけど……なんとか……人心地……つい……て……)

少年「グウ…グウ…」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:52:37.03 ID:/8aX4q490


 昼


 油商人の屋敷


油商人「闇商人!どうするんだッ!」

油商人「武士が行方知れずだ……きっと奴も用心棒に敗れたんだ!」

油商人「用心棒たちは今にも私たちを殺しに来るかもしれんぞ!」

闇商人「油商人様……どうか落ち着いてください」


闇商人(やれやれ……えらい慌てようだ、みっともない)

闇商人(この部屋まで来る途中もこれでもかというほど警備が配置されていたし……)

闇商人(それはそうと、四天王をことごとく破るとは……用心棒の奴めそうとう発奮しているな)

闇商人(しかし奴も相当の傷を負っているはず。無敵などでは決してない……)


油商人「落ち着けだと!?どうやって落ち着けというんだ奴を倒す手段すら無いというのに!」

闇商人「そんなことはありません、油商人様。実はこういうときのために、江戸でも一、二を争う腕の殺し屋の二人組を雇っておいたのです……」

油商人「何だと!?」

闇商人「その二人組ーー『赤袖』と『青袖』といいますがーーここに連れてきておりますが、お目にかけましょうか?」

油商人「無論だ!入れ!」


赤袖「失礼致ぁーすぅぅう!」ガラーッ ダダンッ!


油商人「うわっ!?なんだこいつは!?」

油商人(鮮やかな赤の狩衣を着た男?太刀まで履いている……一体いつの時代の服装だ!?)

赤袖「拙者が闇商人殿のご依頼に応じっ……不貞の輩を除くためぇぇ〜」

赤袖「巷の闇より参上した陰の士ーー赤袖でございまするぅぅぅッ!」ババンッ!
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:53:47.45 ID:/8aX4q490

油商人「……闇商人」

闇商人「う、腕前は折り紙つきでございます!おい!青袖もご挨拶するんだ!」

青袖「どうも、連れがご無礼を……」スタスタ

油商人(紺の着物の女……女、か)

油商人(頭のおかしい時代錯誤野郎と、特別大柄なわけでもない女の二人組……)

赤袖「むぅ?油商人殿、拙者共の力をお疑いになりますかぁぁぁ!?」

赤袖「さすればこの場で鎌倉の昔より伝わりし剣の舞をご覧に入れーー」

青袖「フンッ」ドッ

赤袖「」ガクッ

青袖「申し訳ありません。今日は相方の調子が悪いようなのでここで失礼します」

闇商人「……では、私もこの辺で」

 ガラッ スタスタ

 ピシャリ

油商人「……」


?「……」コソッ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:55:11.07 ID:/8aX4q490

?(何だあいつらは……あんなふざけた奴らが江戸で一、二を争う殺し屋だっていうのか?)

?(知恵遅れの大男よりあてになるまい。計画には変更なしだ)


<聞いたか?武士たちが行方不明だとよ

<それは本当か?鍛冶屋を始末した後帰ってきたのは見たが……


?(おっと、巡視か)サッ


警備一「その後部下を連れて出かけて、それっきりさ。用心棒にやられちまったのかね?」スタスタ

警備二「うーん、そうとも限らんぜ。何せ武士とその直属の部下たちは無断で動くことが多かったからなあ」スタスタ

警備一「それもそうだな。秘密行動というのも不思議じゃあない……武士の部下の中には奉行所に潜り込んだ密偵も居たらしいし」スタスタ

警備二「ふうん、じゃあ奉行所の方向から武士たちの情報を仕入れられるんじゃないかね?」スタスタ

警備一「いや、それが……奉行所の連中、どうもピリピリしていてな。とても調べられる状況じゃあないらしい」スタスタ

警備一「それだけじゃあない、どこで何があったからそんな状況なのかも徹底的に隠していやがる……」スタスタ


<なるほどな……

<何かあるぜこれは……


?「……」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 19:59:15.56 ID:/8aX4q490


 昼過ぎ


 闇商人の屋敷・門前


闇商人「ケッ、お前らよくもまああんな印象最悪の登場ができたものだ」スタスタ

赤袖「ふうん。人の欲を喰らい生きる下衆が……」スタスタ

闇商人「何だと?きさま雇われの分際で……もう一度言ってみろ」

赤袖「人の欲をモゴモゴ」

青袖「失礼。相方は見ての通り戦い以外はからきしなもので」グイグイ

闇商人「チッ……まったくそうみたいだな」


闇商人「これから行く私の蔵で、契約通り予備の武器と弾薬はくれてやる」スタスタ

闇商人「それが終われば油商人の屋敷へ戻って警備につくんだ。いいな」スタスタ

青袖「承知しました」スタスタ

赤袖「承服しよう……渋々」スタスタ

闇商人「いちいち一言多いやつだな……む?」スタスタ ピタッ


少年「ええと……あっちかな」キョロキョロ

少年「……ふぁあ……」スタスタ


闇商人(……あのガキ、どこかで見たような?)

闇商人(そうだ!この前、物騒な臭いのするところを見て回ってるときに見かけたんだ)

闇商人(あれはたしか、油商人に目を付けられていた武士の家のせがれだったか……)

闇商人(……む?そういえば、あの家は一人残らず殺されたと聞いたような……?)

闇商人(死んだはずの人間……それも、油商人に恨みを持つ……)

闇商人(――臭い!臭いぞ!)


闇商人「赤袖、青袖……あのガキの後をつける」ヒソヒソ

赤袖「む?小童の後を追うとはモゴモゴ」

青袖「もうあんたは何も喋らないでよ」グイグイ

闇商人「とにかく!ついてくるんだ……」

闇商人(もしかしたら用心棒と相棒の居場所を突き止め、息の根を止めてやれるかもしれん……!)ジャキッ
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:00:31.83 ID:/8aX4q490


 武家屋敷


少年「……」スタスタ


闇商人「武家屋敷に入っていくぞ……」コソッ

赤袖「あのような小童が、なにゆえ……?」コソッ

青袖「小遣いでももらいにいくのかしら」コソッ


少年「ええと……一、二、三軒目……ここか」スタスタ

少年「……」キョロキョロ

闇商人「!」サッ

青袖「!」サッ

赤袖「いよっ!」サッ

少年「……」キョロキョロ

少年「……」スタスタ

闇商人(尾行を警戒したな……)


少年「ごめん!」

 ガチャガチャ ギイ…

下男「はいはい、どなたさま……ん?なんだおまえは?」

下男「ふるくはノブナガコーのチスジの『発明家』さまのオヤシキに、おまえのようなこぞうがなんのようだ?」

少年「とある重要な要件です……用心棒からの遣いだ、とお伝えしてください」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ……?しばらくまて」

下男「ヨウジンボーカラノツカイ…ヨウジンボーカラノツカイ…」ブツブツ

 バタンッ ガチャッ


闇商人「もはや間違いない…奴は用心棒の手先!」

青袖「始末しようか?」チャキッ

闇商人「バカやめろ!用心棒たちの目的と居場所を探り出してからだ……!」

赤袖「ふん、さかしい……」

闇商人「言ってろ。先回りしてこの屋敷に忍び込むぞ、ついてこい!」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:02:25.15 ID:/8aX4q490


 発明家の屋敷


発明家「……」ペラ… ペラ…

発明家(ふっふふふ……読める、読めるぞ……)ペラ… ペラ…

発明家(物理、化学、生物……南蛮渡来の本には見たことも聞いたこともない事実が盛りだくさんだ)ペラ… ペラ…

発明家(まったく、蘭語を習ってよかった……)ペラ… ペラ…

下男「シツレイします発明家さま」ガラッ

発明家「ん?なんだ?」パタン

下男「……ええと……」

下男「あれ?なんだったかな?」

発明家「おいおい、またか……よく思い出してみてくれ」

下男「うーんと……あ、そうだ」

下男「ヨウジンボーのツッカイボーというものがたずねてきたんでした、どうしましょう」

発明家「『用心棒』の『つっかい棒』だと?」

発明家(はて、そんな扉を必死に抑えてそうな名前の知り合いはいないはずだが……?)

発明家「まあいい、通してやってくれ」

下男「ショーチしました」スタスタ ガラッ
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:03:12.63 ID:/8aX4q490

 門前


 ガチャガチャ バタンッ

下男「はいれ」

少年「よかった、失礼します」


 スタスタ…

少年「……見事な庭ですね……」

下男「ブシのヤシキだぞ。トウゼンだ」フンス

少年(なんでこの人が威張っているんだろう……)


鹿?「……」キョロキョロ

少年「あっ!鹿!?」

下男「よくみろ。カラクリだ」

少年「え?……あっ、本当だ」

少年(よく見ると水車が接続されている。その動きを首に伝えているんだ……)

下男「発明家さまがおつくりになったのだ。発明家さまはカラクリをたしなみなさる」

少年(教養のある方なんだな……用心棒さんが『あの件』を頼むために僕をやったのも頷ける)
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:06:36.34 ID:/8aX4q490


 屋敷内


下男「発明家さまがいるのはこのおくだ」スタスタ

少年(屋敷自体も、派手ではないがなかなか立派だ……この廊下一つとってもかなり広いし)スタスタ

下男「おっと。ここはみぎのカベギワをあるけ」ヒョイッ スタスタ

少年「ええ?なぜ?」ヒョイッ スタスタ

下男「発明家さまはナンバントライのめずらしいものをたくさんもっている。それをまもるためのしかけがあるのだ」スタスタ

少年(仕掛け……?)スタスタ


闇商人「いったか……」コソッ

赤袖「早速後をつけるとしようぞ」コソッ

青袖「……それにしても、仕掛け、か……」コソッ

青袖「庭のからくりといい、この館の主は相当な変人のようだ」

闇商人「そんな奴に用心棒の遣いが何の用なのか……おい、聞いたな。右の壁際を歩くんだぞ」

青袖「承知――おい赤袖!」

赤袖「む?何だと?」ズカズカ

 カチッ パカッ

ヒュウウウウウウ…
<ウアアアアアアアアア…

闇商人「あっ!?」

青袖「落とし穴だ!」

next
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:07:50.00 ID:/8aX4q490


 庭


 パカッ

赤袖「うおおおおお!?」ゴロゴロゴロッ

 ドボーンッ

赤袖「ぐあっはっ!」ザバア

赤袖(ここは池か!なんの、泳いで抜け出すのにわけはない――む!?)

赤袖(なんだこの水は!?『重い』ぞ!?)

赤袖「ぬおおおおおお――!」バシャバシャ

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:10:23.61 ID:/8aX4q490


 屋敷内


下男「つぎはひだりをとおれ」ヒョイッ スタスタ

少年「左側ですね……とすると、右側には?」ヒョイッ スタスタ

下男「しかけがある。発明家さまがナンバンからてにいれた『おもいみず』のいけのなかにドボンだ」スタスタ


闇商人「……返す返す憎い、あの脳足りんめが……」コソッ

青袖「……ん?」コソッ

青袖「外からその脳足りんの声がするような……」ガラッ

<ヌオオオオオー!

青袖「……」

闇商人「……どうやら床下の坑道を転がって池に落ちたようだな」

闇商人「お前の相棒だろうが、迎えに行っている時間はない。もう少し水遊びさせていても構わないか?」

青袖「ええ。しばらく頭を冷やさせておきましょう」ピシャッ

闇商人「……あっ、しまった――この俺としたことが!」

闇商人「また仕掛けの種明かしをしていたかもしれんのに、あの二人から目を離してしまった……!」

青袖「右に同じ、不覚ッ」

青袖「……とすると、右か、左か……もしかしたら仕掛けはあれ一つかも?」

闇商人「よし、二人で同時に行こう。俺は左、お前は右だ」

闇商人「せーの!」
青袖「せーの!」

 カチッ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:11:36.95 ID:/8aX4q490


 庭


 パカッ

青袖「ぎゃあああああ!」ドボーンッ

青袖「ここは池?――うわっ、なんだこの水は!?」バシャバシャ

赤袖「やあやあ我が相棒、地獄へようこそブクブクブク」

青袖「じょ、じょ、じょ、冗談じゃあないっ!」バシャバシャ
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:12:30.11 ID:/8aX4q490



 屋敷内


闇商人「ふう、やはり罠があったか……」

闇商人(帰りに殺し屋二人組を拾ってやらなくちゃあ、くそ)

闇商人(しかしガキと下男は屋敷の主の部屋に到着したようだ。仕掛けはもうないだろう)

闇商人(俺はせいぜい近づいて耳を澄ますとしよう……)
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:13:49.34 ID:/8aX4q490


 発明家の部屋


発明家「おや、『用心棒のつっかい棒』氏とは子供だったのか?」

少年「『用心棒のつっかい棒』?私は『用心棒の遣い』と名乗ったはずですが……」

発明家「ははあ、あの下男が間違ったな。まったく困ったもんだ……」

少年「はは……」

発明家「それで、『用心棒の遣い』というのは……」

発明家「おや!用心棒ってあの用心棒かい?いや、久しぶりにその名前を聞いたな」

少年「お知り合いなんですか?」

発明家「聞いていないのかい?うーん、まあ、昔ちょっとあったのさ……」

発明家「それよりどういうご用件だね?」

少年「はい、詳しく話すと長くなるのですが、今私や用心棒さんたちは危ない状況に居まして……」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:14:26.79 ID:/8aX4q490

少年「……ということなのです」

発明家「なるほどな。またあいつは危ないことに足を突っ込んでいるのか……」

発明家「しかし君も災難だね……母上と父上の冥福をお祈りするよ」

少年「……はい」

発明家「あいにく僕は彼のように強くはないし、疎遠とはいえ親族もいる……」

発明家「あまり表だって動くことはできないが、それでもよければ喜んで協力するよ」

少年「そうですか、ありがとうございます!」

少年「では本題に入らせていただきますが、用心棒さんはこれについて詳しく知りたがっているのです」ガサッ

発明家「なんだいこれは?」

少年「鍛冶屋が持っていた切り札……と思われるものに付属していた説明書です」

少年「しかしどうも南蛮渡来の品らしく、説明書きも全部、漢字とも仮名ともちがう外国の言葉なのでさっぱり……」

少年「そこで用心棒さんがあなたなら読めるだろう、と……本人たちは怪我がひどいので、僕を寄越したんです」

発明家「どれどれ……」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:15:20.10 ID:/8aX4q490


 部屋の外


闇商人(なるほど、事態の推移は丸ごと理解できたぞ……まさかあのタンスの中に隠れていたとはな……)

闇商人(しかし、鍛冶屋の切り札とは一体……?)

<スタスタ

闇商人(!)サッ


下男「……」スタスタ カチャカチャ

闇商人(チッ、一番聞きたいところで茶を持ってきた下男が……早く行っちまえ、くそ!)

鼠「チューッ!」チョロチョロッ

下男「あ……これはこのあたりにおいておいて、と……」カチャッ

下男「まて、このチクショウ!」バタバタ

鼠「チュー、ヒー、ヒー!」チョロチョロ

闇商人(ぐあああああ畜生は手前だ!鼠なんてどうでもいいだろうがっ!とっとと失せやがれ!)


下男「どこだ?どこにいった?」キョロキョロ

発明家「いったい何の騒ぎだ?」ガラッ

下男「発明家さま、ネズミがでたんです」

下男「あんチクショウ、このまえころしたやつでサイゴだとおもってたんですが」

発明家「鼠か……今度南蛮渡来のネズミ捕りを試してみるかな」

下男「あ、そういえばおちゃをおもちしたんでした。どうぞ」

発明家「おお、気が利くな。あとは僕がやる、戻っていいぞ」

下男「ショーチしました」スック スタスタ

 ガラッ ピシャリ


闇商人(いったか……池で溺れてる殺し屋を見つけないといいんだが)

闇商人(どうも一番肝心なところを聞き逃したような気がするが、とにかく盗み聞きに戻ろう)コソッ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:16:20.14 ID:/8aX4q490


 発明家の部屋


発明家「粗茶だが、よければ」スッ

少年「あっ、ありがとうございます」

発明家「さて、説明書の翻訳に戻ろう……」カキカキ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「……」カキカキ

少年「……」ズズズ


発明家「……」カキカキ

少年「……」


発明家「よしっできた!これでこの秘密兵器の使い方はすっかりわかる」

発明家「これが翻訳した文章だ、間違いなく用心棒に渡してくれ……おっと、原本も返すよ」スッ

少年「はい、たしかに受け取りました……」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:18:16.48 ID:/8aX4q490


 部屋の外


闇商人(結局秘密兵器の正体は聞き逃してしまったか……まあいい)

<ドタドタ

闇商人「!」サッ

下男「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」ドタドタ

闇商人(なんだこいつ、こんなに慌てて……まさか!)


ガラッ

下男「タイヘンです発明家さま!」

発明家「なんだ、どうした!」

下男「イケにおかしなレンチュウがいます、それもふたり!」

発明家「池!?池に落ちてるってことは――罠にはまった侵入者だ!」

少年「侵入者!?まさか油商人の――」


闇商人「まあそんなところだ」バッ グイッ

下男「うぐっ!」

少年「!?」
発明家「!?」

闇商人「おっと動くなよ、こいつの頭に風穴を開けたくなきゃあな……」ジャキッ

下男「ぐぐぐ……」

発明家「し、従ったほうがいいかもしれん、少年!この男の目は本気だ!」

少年「くっ……!」

発明家「……しかし、人質の選び方は下手なようだが……」ボソッ

少年「……?」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:19:14.74 ID:/8aX4q490

少年(そういえばこの男、たしか隠れ家へ行く途中の茶屋で――!)

少年「闇商人か!よくも用心棒さんたちを裏切って――」

闇商人「はん、何が裏切りだ。こっちの世界をちょっと覗いたくらいで一人前に口をきくんじゃない……」

闇商人「商人の才覚も特別ないうえに、油商人の手下どもより弱い俺を前にして手も足も出ないようじゃあ発言権なんて無いんだ、こっちの世界ではな!」

闇商人「よし、まずはその翻訳書を……」

下男「えっ」

闇商人「ん?何だ?遺言か?」

下男「おまえ、そんなによわいのか」

闇商人「何だと?貴様、この状況でよくもそんな……」

下男「……えいっ」グイッ

闇商人「うおっ!?」ドタッ

闇商人「き、貴様、なんだその力は――!?」ジャキッ

下男「……」ガシッ

 ギギギギギギギ

闇商人(あああっ!?俺は夢でも見ているのかっ……!?)

闇商人(こいつ、鉄砲を飴のように捻じ曲げやがった――!)

下男「ほんとうだ、すごくよわい」ポイッ

闇商人「うおおおお、くそっ!」ゴロゴロッ シュタッ
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:20:03.22 ID:/8aX4q490

下男「発明家さまをおどしたツミはおもいぞ……!」ズカズカ

闇商人「き、き、き、き、き、貴様は一体――!?」

?「退け!闇商人!」

闇商人「!?」サッ

 ズダンッ!ズダンッ!

下男「!」シュバッ

赤袖「おのれ……鬼神の如き剛力、その動きは電光石火……さては妖怪変化の類か?」ジャキッ

青袖「その冗談笑えない」チャキッ

闇商人「おお、赤袖!青袖!」タタッ

闇商人「早く、早くその化け物を挽肉にしてしまえ!」

赤袖「応!妖怪変化は成敗されるものと相場が決まっている、神妙にせい!」ビシッ

青袖「……まあ、正直あの忌々しい池のせいでだいぶくたびれてるんだけど……」チャキッ

下男「ふふん、イヌども。ひねりつぶしてやる」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:20:34.17 ID:/8aX4q490

発明家「今だ少年、下男が食い止めているうちに逃げよう!」

少年「しかし、下男さんは……」

発明家「大丈夫だ、あいつは死なない。自信作なんだ」

少年「……?」

発明家「早く!」

少年「は、はい……」タタッ

発明家「あれと、これと、それと……」ゴソゴソ

発明家「よし、僕も逃げよう」タタッ

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 20:21:42.84 ID:/8aX4q490

下男「くらえ!」ビュンッ

赤袖「ぬおっ!」サッ

 ガシャーンッ!

青袖「青袖様のクナイを受けてみなさい……!」ビュビュビュンッ

下男「オモチャであそぶとしじゃないだろう」パシパシパシッ

青袖「ああもうやんなっちゃう」

<タタタタタ…

闇商人「ハッ!いかん!ガキどもが逃げるぞ!」

赤袖「追う余裕があると思うてか!?」ズダンッ!ズダンッ!

下男「ふんっ!」サッ ビュンッ

赤袖「おおおおお!」サッ

 バキャーンッ!


闇商人「チッ!じゃあお前らはそいつを始末したあと、直接油商人の屋敷に戻れ!」

闇商人「あのガキに用心棒たちの居場所を吐かせれば予備の弾薬など必要無い……!」ダッ

赤袖「承知!」
青袖「了解!……あ、いや、始末は無理――」

下男「からだのほねぜんぶおれろ!」サッ ビュンッ

青袖「折れかねない!」サッ
赤袖「南無三!?」

 ドガーンッ!
<ギャアアアア!
<アカソデーッ!
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