用心棒「派手にいくぜ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/02(土) 19:33:27.03 ID:Q5Q1PHd30

 スボッスボッスボッスボッ…

少年「はあ……はあ……」

少年「あっ」ズルッ

 ズボッ! 

少年「……う、う……」


?「鬼ごっこはこれくらいで十分だろう、小童」

少年「!」クルッ

浪人甲「そろそろ首と体にお別れしてもらう時間だぜぇ」スラッ

浪人乙「でもまあ、嬉しいだろう?親父とお袋のところに行けるんだからよ!」スラッ

浪人丙「……お前の家の人間を一人も残すな、との依頼なんでな。念仏でも唱えていろ」

少年「……!」ギロッ

浪人甲「そう睨むなよぉ。ね、いい子ちゃ〜ん……」ジリジリ

浪人乙「痛いのは最初だけだからよ……なあ、おとなしく……」ジリジリ

少年「うあーっ!」ダッ

浪人甲「おっ!?」ガッ グラッ

浪人乙「わっ!?」ガッ グラッ

 ズボッ! ズボッ ズボボッ

少年「はあっ、はあっ……」ヨロヨロ

浪人丙「はっ!」シュッ

少年「ぎゃあっ!」スパッ

浪人丙「手間取らせやがって……」

少年「ううっ……」ヨロッ ドサッ

 グラグラ

浪人丙「……む?」

 ドサドサッ

浪人丙「うおっ!?ゆ、雪が!」

少年「!」

 スボッスボッスボッ…

浪人甲「逃げやがった!」バタバタ

浪人乙「おのれ、クソガキ!」バタバタ

浪人丙「いつまで雪遊びしてんだお前らは!?」バタバタ

浪人甲・乙『田舎と雪質が違うんですよ!』バタバタ

浪人丙「クソッ、坊主め!この代償は高くつくぞ!」バタバタ
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/02(土) 19:33:57.45 ID:Q5Q1PHd30

 スボッ スボッ スボッ…

少年「はあ……はあ……」トボトボ


少年(……おや、橋だ……)

少年(……武家の家に生まれながら、家族も守れないなんて……)

少年(……いっそ、川に飛び込んで死んでしまおうか……)

少年「っ……目眩が……」クラッ

 ズボッ

少年「……」

少年(もう、起き上がる気力もない……)


<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ スボッ スボッ…

?甲「……」

?乙「……」


少年(……男と、女だ……)

少年「……父上……」

少年「……母上……」

<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ…

?乙「……」ピタ…

?甲「……?」クルッ

?乙「……」

?甲「……ほうっておけ。行くぞ」

?乙「……」

?甲「……おい!」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/02(土) 19:34:28.87 ID:Q5Q1PHd30

<ズボッズボッズボッズボッ
 <ズボッズボッズボッズボッ
  <ズボッズボッズボッズボッ

浪人甲「おっ!いやがった、クソガキ!」

少年「!……」

浪人乙「へっへっへえ、雪の布団が火照った体に心地よかろう?」

浪人丙「……む?何だ手前らは」

?甲「!」

浪人甲「さては正義の味方だな?」ヘラヘラ

浪人乙「おう、おう、とっとと尻尾巻いて逃げたほうが自分のためだぞ?」

浪人丙「……男、貴様は見たところ浪人のようだが」

?甲→用心棒「……いや、俺は用心棒。こっちは相棒だ」

?乙→相棒「……」

浪人丙「そうか。とっとと消え……」


浪人甲「わかった、こいつ、このガキの叔父だな!」

浪人乙「そうだった!こいつの叔父は、家を襲ったとき留守だったから逃がしちまったんだった!……待てよ?」

浪人乙「……そういえば、追ったのはお前だったな?そして仕留めそこねた……」

浪人甲「うっ……」

浪人丙「お、おいキサマら、何を早とちりして……」

用心棒「そうだ、人違い……」

浪人甲「ええい問答無用!死ねっ!」ビュンッ

用心棒「チッ!」ゴソッ

 ガキインッ!

浪人甲「――な!?」

浪人乙「――に!?」

浪人丙(あ、あいつ……刀を短銃で受け止めやがった!?)

浪人丙(それより、何であいつは短銃なんて持っていやがる?)

浪人丙(もしや、浪人のような風貌だが――幕府の役人か!?)

浪人丙(だとしたらそいつに斬りかかった俺たちは――)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/02(土) 19:35:03.60 ID:Q5Q1PHd30

浪人丙「殺せ!早く殺せ、証拠を残すな!」

浪人甲「!?――は、はい!せいやっ!」ビュンッ!

用心棒「馬鹿め!」ジャキッ

 ズドンッ! ズドンッ!

浪人甲「ゴフッ」ドサッ

浪人乙「ガフッ」ドサッ

浪人丙「は、速――」ゴソッ

用心棒「遅い」ジャキッ

 ズドンッ!

浪人丙(お、俺は……なんてついてないんだ)

浪人丙「ゲフッ」ドサッ

用心棒「……!」スッ

用心棒「……」スッ ゴソッ


用心棒「……ところで、そいつは生きてるのか?」

相棒「たぶん」

少年「……う……」

用心棒「……生きてるみたいだな」

相棒「うん」

用心棒「どうするんだ?」

相棒「……」グイッ

用心棒「何でそいつを背負って……まさか」

相棒「助ける」

用心棒「……まったく……」ハア

<スボッ スボッ スボッ…
 <スボッ スボッ スボッ…


?(用心棒と相棒……?なぜこんなところに現れたんだ)

?(俺の計画では、浪人どもが子供を殺し、俺が浪人どもを殺すはずだったんだが……)

?(……まあいい。どうせあの坊主は助からん。浪人どもも死んだ)

?(しかし、あの用心棒……俺の計画に組み込むには少々『強すぎる』かな)

?(始末してしまうか)

 スボッ スボッ スボッ スボッ スボッ…
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/02(土) 19:35:29.39 ID:Q5Q1PHd30
今日はここまで
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/02(土) 20:48:46.34 ID:YdAxEpJAO
おお、時代物のSSなんて嬉し過ぎる
頑張ってくれ!
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:26:14.40 ID:Ev2Sdsqg0

少年(……はっ)

少年「……こ、ここ、は……」

?甲「俺の家だ、坊主」

少年「!?」ガバッ

少年「っ……」ズキッ

少年「……?」

少年(ケガが手当されている……)

?甲「あいつが妙なところで人情味を発揮しやがるから、また面倒のタネが……」ブツブツ


少年(……長方形の部屋だ。短い一辺に土間があり、竈と玄関がある。長屋の一室だろうか?)

少年(大きな衝立で区切られている。僕はその奥側に敷かれた布団に寝かされていたようだ)

少年(浪人風の男はやはり奥側に置かれた卓の上で、手のひらに収まるくらいの大きさの何かをいじっている)


少年「……すいません、あなたは……」

?甲「俺は用心棒だ」

少年「用心棒……さん」

用心棒「言っておくが……俺がお前を助けたのは偶然の結果に過ぎない」

用心棒「お前をここまで連れてきたのも、手当したのも、相棒なんだからな」

少年「相棒……」

用心棒「俺と一緒に居た女だ」

 ガラッ ピシャリ

相棒「……」

用心棒「噂をすれば影が差す、とはよく言ったもんだ……」

用心棒「おい、相棒。坊主が目を覚ましたぞ」

相棒「……そう」

 ガサガサ カチッカチッ ボッ

用心棒「おい、わざわざ飯なんて作ってやらなくても……」

相棒「……温め直すだけ」

用心棒「フン、そうかよ……」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:26:59.76 ID:Ev2Sdsqg0

少年「……」

少年(僕は、殺された家族のことを思い出していた)


少年(僕は養子だが、家族は僕を至極優しく迎えてくれた。歴史ある武家にも関わらず、その家庭は温かだった)

少年(源氏の子孫である立派な父上、温厚な母上、物知りな叔父上と、僕の四人での生活は実に楽しかった……)

少年(しかしある日、叔父上の留守中に、浪人たちが我が家を襲った)

少年(父上に恨みのある、油商人が差し向けたのだ!十中八九間違いない)

少年(父上と母上は僕を逃がし、刀を取って戦ったが……)

少年(……たまらなくなって家に戻ってしまった僕が目にしたのは、父上と母上の死体だった)

少年(そして戻ったために浪人たちに見つかり、追われたが、用心棒さんたちに匿われたのだ)

少年(今となっては叔父上の生死もわからない……もしかしたら、僕を除いて一家は全滅してしまったのかも……)


相棒「……坊主」

少年「っ!はい!?」

相棒「ん」スッ

少年(……粥だ)

少年「あ、ありがとうございます」

相棒「……」

 ノシノシ… ドカッ

相棒「……」ゴソゴソ

相棒「……」パラ…

用心棒「おう、また借本屋から借りてきたのか。好きだな」

相棒「ん」パラ…


少年(よく見たら、相棒さんはかなり器量がいいようだ。愛想はともかく親切なようだし……)カチャッ

少年(しかし頬には傷があるし、杖を持っているということは足も悪いんだろうか?)フーフー

少年(……これからどうしよう)パクッ

少年(油商人を……仇を、討ちたいけれど……僕には力がない)モグモグ


少年(……そういえば、意識が朦朧としていたけれど、見た気がする)ゴクン

少年(用心棒さんが短銃で、浪人たち三人をあっという間に倒してしまったところを)フーフー

少年(……強いんだな。格好いいな……)パクッ

少年(僕にもそんな力があったら、仇が討てるのに……)モグモグ


少年(……弟子にしてくれないだろうか)ゴクン

少年(どうせ家族はいないんだ。構うことはない……掃除でも洗濯でも何でもしてやるぞ)フーフー

少年(……弟子にしてくれるだろうか?)パクッ

少年(用心棒さんは少し、とっつきずらそうだけれど……)モグモグ

少年(いや、弟子にしてくれるまで頼み込んでやるぞ。土下座だってしてやる……もう失うものなんてないんだ)ゴクン

少年「ごちそうさまでした」カチャッ

相棒「ん」


少年(でも、それは明日にしよう……)ウトウト

少年(……今日は少し、眠い……)ウトウト
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:27:25.32 ID:Ev2Sdsqg0

用心棒「……おい。これを見てみろ」ヒソヒソ

相棒「?」

用心棒「この前の浪人が持ってたものだ」ヒソヒソ

 ガチャリ

相棒「……洋式短銃?」

用心棒「ああ。火縄銃より遥かに高価で高性能だ」ヒソヒソ

用心棒「そんなもんをただの浪人が持ってる訳無いだろう?あいつらは誰かに雇われたんだ」ヒソヒソ

用心棒「役人か……もしくは商人。おそらくは後者だろうな」ヒソヒソ

用心棒「あの坊主、なかなか面倒なことを持ち込んでくれたかもしれん……」ヒソヒソ

相棒「……そうかな」

用心棒「否定しようと思えば簡単だが……この短銃、欲しいか?」ヒソヒソ

相棒「いらない」

用心棒「そうか。じゃあ折を見て売り払ってしまおう」ヒソヒソ ゴソリ

相棒「……ところで、何で小声なの?」

用心棒「え、そりゃあ坊主に聞こえるとまずいから……」ヒソヒソ

相棒「……」チョイチョイ

用心棒「……?」クルッ


少年「……ぐう……ぐう……」


用心棒「ケッ、呑気なヤツ」

相棒「……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:28:11.69 ID:Ev2Sdsqg0

相棒「……」ペラ…

用心棒「……何の本だ?」

相棒「……」スッ

用心棒「『滅ビシ剣法』……需要あるのかこんな本?」

相棒「ある」コクコク

用心棒「ふうん……ちょっと見せてくれ」パラパラ

用心棒「『三日月流』、『不破流』、『南部流』に『呑流』……」

用心棒「……ん?『草薙流』ってお前の流派じゃ……」

相棒「!」バシッ

用心棒「……フフッ、何で滅びたことにされてんだ?クックック」

相棒「……」ワナワナ

用心棒「まあ、女で、しかも得物が仕込み刀じゃあな……流派以前に、剣術家かどうかの時点で外道だ」

相棒「……」ウルウル

用心棒「……あっ!?いや、その……」

用心棒「戦う上では有利だと思うぞ?不意打ちもできるし……な!な!」

相棒「……」スック

 ノシノシ… ガラッ ドサッ ストンッ

相棒「寝る」ゴロリ

用心棒「……ところで、この家には布団が二つしかなかったよな?俺のぶんは?」

相棒「ぐーぐー」

用心棒「おいこら」


用心棒(チッ……あっ、火鉢の炭まで切れやがった)

用心棒(……もう雪はやんだし、これから買いに行くか)

用心棒(その間には相棒の機嫌も直るだろう……)スック

用心棒「炭を買ってくる」

相棒「……」

用心棒「……」ハア

 ノシノシ… ガサガサ ガラッ ピシャンッ

相棒「……」

<スボッ スボッ スボッ…
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:28:43.08 ID:Ev2Sdsqg0


相棒「……」ゴソゴソ


相棒「……」ペラ…


相棒「……」ペラ…


相棒「……」チラッ

少年「……ぐう……ぐう……」


相棒「……」ペラ…


<…スボッ スボッ


相棒「……?」


<スボッ スボッ スボッ
 <スボッ スボッ スボッ


相棒「!」

相棒「……」グイッ

少年「うぅん?あ、相棒さん?」ムニャムニャ

相棒「……」ピッ

少年(相棒さんは緊張した面持ちで押し入れを指した。隠れろ、ということだろう)

少年「……」コクリ

 ガラッ ゴソゴソ ストンッ

少年(また、浪人たちが襲って来るんだろうか……)

少年(相棒さんはどうするつもりなんだろう)
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:29:38.35 ID:Ev2Sdsqg0

刺客甲「……ここか、兄貴」ヒソヒソ

刺客乙「……そのはずだ」ヒソヒソ

刺客乙「標的は女だ。外出した男は『狐小僧』が仕留める」ヒソヒソ

刺客甲「女に二人がかりとはね……まあいい」ヒソヒソ

刺客甲「準備はいいか?」ジャキッ

刺客乙「いいとも」スラッ


 ガラッ


刺客甲「死ね……あ?」キョロキョロ

刺客乙「馬鹿な、誰もいないだなんて……そんなはずは」キョロキョロ


刺客甲「ちくしょう!どこに行き……」

 バキャアッ ドスッ

刺客甲「ぐあっ!?か、肩が!」ズブッ

刺客乙「天井裏か!?くらえっ!」ビュッ

 バキャッ

刺客乙(手応え……なし……)
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:30:08.39 ID:Ev2Sdsqg0

 ガタゴトッ

相棒「……」スタッ

刺客乙(やはり無傷か……おそろしい女だ)

刺客甲「てめえ……そんな杖で……戦うつもりか?」

刺客甲「……ンフッフッフッフ……ハッハッハッハッハ!」

刺客甲「さっき使った刀はどこにやったんだよ?斬れ!おう、俺を斬ってみろ!」ズカズカ

刺客乙「ま、待て!そいつは――」

刺客甲「女のくせに、よくも!」ジャキッ

相棒「……」スラッ


 ズバッ! ドバッ! ドヒュッ!

刺客甲「グウッ」ドシャッ

刺客乙「ば、馬鹿な……!」

相棒「……見せてあげる」

相棒「女の……力」

刺客乙「……」

刺客乙「……ヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒ」

刺客乙「ォオオッ!」ダッ

相棒「……!」チャキッ


刺客乙「てやぁっ!」ブンッ!

相棒「……」カキイン


刺客乙「はあっ!」ビュンッ!

相棒「……」キインッ


刺客乙「うりゃあっ!」ブオンッ!

相棒「……」バッ


刺客乙「――!」ヨロッ

相棒「フッ」シュッ

 ズバッ

刺客乙「ぐわっ!」ドタッ カランッ

相棒「……」チャキッ

刺客乙「――な」

刺客乙(な、なんてやつ――)

相棒「……」ブンッ


 ドシャッ

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:30:36.30 ID:Ev2Sdsqg0

<スボッスボッスボッスボッ…

用心棒「無事か!?」ガラッ

用心棒「うっ、死体……やっぱり、こっちにも刺客が来ていやがったか」

相棒「そっちにも?」

用心棒「ああ。スリの名手狐小僧と名乗る刺客が、帰り道に襲ってきてな」

用心棒「例の洋式短銃をスリ盗って『これでお前は丸腰だ』とか抜かした」

用心棒「とりあえず俺の短銃で蜂の巣にして川に放り込んで、全速力で帰ってきたんだが……」

用心棒「……急ぐことはなかったな」

相棒「……」フフン

用心棒「とりあえず、死体を床下の秘密倉庫に隠してしまおう」


 ガチャッ ドサッ ドチャッ ギイー バタンッ


用心棒「……で、あいつらは何者だ?」

用心棒「また浪人か?それにしては帯刀していないのが妙だが……」

相棒「……彼岸花兄弟」

用心棒「は?」

相棒「こいつらは彼岸花兄弟……殺し屋の」

用心棒「……こ、殺し屋だと……?」

用心棒「……一体、誰に雇われたんだ?」

 ガラッ

少年「油商人です……!父の仇、油商人に違いありません!」

少年「奴が僕を狙って差し向けたんです……」

少年「いたたたた……」ズキッ

相棒「……油、商人……?」

用心棒「……江戸の油の売買を、一人で仕切っている大物だ。いよいよ面倒になってきやがった」

相棒「……!」

用心棒「おい、坊主……もう俺たちは一蓮托生だ」

用心棒「身の上話くらい、聞かせてくれんだろうな?」

少年「……はい」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:31:18.67 ID:Ev2Sdsqg0

 …スボッ スボッ スボッ スボッ

?「……」

?(用心棒と相棒に、狐小僧と彼岸花兄弟を差し向けたのはいいが……)

?(狐小僧が追った用心棒は、無事長屋に帰ってきたし)

?(彼岸花兄弟はいつまで経ってもあの長屋から出てこない。留守番の女に敗れたようだな)

?(……相棒の女でさえそれほどの力を持つということは……)

?(用心棒は、相当の手練なのだろうな)

?「……ンフッ、フッフッフッフッフ……」

?(戦いたい、戦いたいぞ……)

?(やはり計画には用心棒を利用しよう……)

?(計画を実行する中で用心棒と戦い、そして計画の目的をも達成する……まさに一石二鳥だ……)

 スボッ スボッ スボッ スボッ…
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/03(日) 22:31:51.17 ID:Ev2Sdsqg0
今日はここまで
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/03(日) 22:32:44.17 ID:jOoJ2wIwO
おつ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/04(月) 21:04:05.03 ID:ynz1bF3I0


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

魔物「ゴアーッ」

魔物「オオオーン」

魔物「ヒャアアアアアアアア」

 ワラワラワラワラ… ゴソゴソゴソゴソ…

少年「うわ、わ、わっ!」

少年「く、来るな……来るなぁーっ!」

……

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/04(月) 21:04:37.45 ID:ynz1bF3I0

少年「はっ!」ガバッ

少年「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」

少年(……夢か)


 <チュンチュン ピピッ チチチチチ… バタタタ

少年(……朝だ。肌寒い……)


少年(……僕は、さっきの夢とそう違わない状況にあるのかもしれない)

少年(長屋に漂う嫌な匂いと、畳に残る黒ずんだ染み)

少年(……昨夜の殺し合いの、痕跡……)

少年(しかし、二人の刺客を切り捨てた人物は涼しい顔で刀を研いでいた)


相棒「……」ショリ…ショリ…

相棒「……」チャキッ

相棒「……坊主」

少年「は、はい」

相棒「水はあれを使え」

少年(相棒さんはそう言って、土間に置いてある瓶を指さした)

相棒「飯はもう少し待て」

少年「はい……あれ」

少年「……あ、あの……用心棒さんは?」

 ガラッ

用心棒「手前の仇討ちの準備をしてきたんだよ。手前が眠り込んでる間にな」

少年「あ……」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/04(月) 21:05:04.01 ID:ynz1bF3I0

 ピシャリ ガサガサッ ドスドス…

用心棒「まったく、とことん呑気なやつだぜ」ドカッ

相棒「……怪我人」

用心棒「知ったことか」

相棒「……寝る子は育つ」

用心棒「こんな状況で子供も大人もあるかよ」

少年「……す、すいません」

用心棒「……別に謝るこたねえよ……」ゴソゴソ

用心棒「……チッ、煙草まで昨日の雪で湿気たようだ」フー

少年「……」


<もし?


少年「!」ビクッ

相棒「!」ガチャッ

用心棒「落ち着け。刺客は踏み込む前に声なんてかけない……ただの客かもしれん。俺が対応する」ヒソヒソ

用心棒「ただ、坊主と相棒は衝立の裏に隠れていろ」ヒソヒソ

相棒「わかった……坊主、こっちへ」ヒソヒソ

少年「はい……」ヒソヒソ

用心棒「安心しろ、妙な動きをしたら即座に俺が始末する」ヒソヒソ


用心棒「どなたかな?」

<仕事を頼みに参った……開けてもらいたいな。

用心棒「おっと、これは失礼」

 ガラッ

用心棒「茶でもお出ししよう……!?」


覆面の男「いえ、お構いなく」

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/04(月) 21:05:31.03 ID:ynz1bF3I0
今日はここまで
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/04(月) 21:09:18.00 ID:6CWitDpJo
がむば
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:52:25.34 ID:sTxvg2L80

覆面の男「……おっと、この覆面はお許しいただきたいな」

覆面の男「私は武士。あまり褒められたものではない稼業のあなたを訪れたことは、誰にも知られたくはないのだ」

覆面の男「わざわざ早朝に人目を忍んで訪れることからもおわかりいただけると思うがね」

用心棒「……こちらもこういう客は初めてではないが、信頼関係に支障が出るんでね……」

用心棒「報酬なんかの条件面で、ある程度譲歩いただくがよろしいか?」

覆面の男「全く問題ない」

用心棒「では早速話を伺おう。こちらへ」

 ガサガサ ドスドス ドカッ

 ゴソリ トストス スッ

用心棒「……で、どんなご依頼かな?」

覆面の男「……依頼は」


覆面の男「油商人の暗殺」

用心棒「な――!?」

相棒「!?」

少年「!?」


用心棒「……貴方は、用心棒と殺し屋を取り違えていらっしゃるようだ」

覆面の男「そんなことはない」

用心棒「……でははっきり申し上げる」

用心棒「無理だ!そんな仕事はとてもお受けできない」

用心棒「油商人は腕の立つ浪人を雇って身辺警護にあたらせていると聞く」

用心棒「俺は……いや、俺以外でも不可能だ!」

覆面の男「そんなことはない。貴方ならできる……間違いない」

用心棒「!?」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:52:58.35 ID:sTxvg2L80

用心棒「……あんた、何を知ってる?」

覆面の男「いつとも、どことも申さないが……ある雄藩で、発生したと聞く」

覆面の男「陣屋撫で斬り事件」

用心棒「――!」

覆面の男「……撫で斬りとは言っても、使われたのは鉄砲」

覆面の男「それも、最新型の――アメリカよりもたらされたコ式短銃。持っている者はそうそういない」


覆面の男「用心棒、貴方はそれをお持ちだと小耳に挟んだ」

覆面の男「そして、事件が発生したときその雄藩にいらっしゃったということも」

覆面の男「……これは偶然の一致とは思えないな」ニヤリ

用心棒「……あんた……」

用心棒「一体何者だ?」

覆面の男「フッフッフッフ、それを申し上げては覆面の意味がない」

用心棒「……」


覆面の男「で、報酬だが……一千両でいかがかな?」

用心棒「……仕事の難易度にもよるから、下調べをしないことにはその額が妥当かどうかわからん」

覆面の男「ふん……それもそうだ。ではその『下調べ』をしていただこうか……」ゴソゴソ

覆面の男「これは前金として用意したが、その費用として使っていただいて結構」ガシャッ

用心棒「……これは?」

覆面の男「一応、百両用意した」

覆面の男「下調べした上でどうしても無理だというのなら、無理と言ってもらっても構わない」

覆面の男「まあ……そう言われると、こちらもそちらも損しかないとは思うがね」ニヤリ

用心棒「……」

覆面の男「では、私はこれでお暇する」スック

 トス トス ゴソッ ガラッ

覆面の男「おっと、うっかり忘れるところだった……」ゴソゴソ

覆面の男「これは油商人の館の見取り図だ。役立てたまえ」

覆面の男「用心棒君、それに衝立の向こうの君、次の面会の後も平和に別れられることを期待する。さらばだ」

 ピシャンッ
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:53:43.51 ID:sTxvg2L80

用心棒「……」

相棒「……何だあれは」

用心棒「……さあな」


少年「……用心棒さん、依頼は……引き受けるんですか?」

用心棒「……後ろ向きに検討中だ」

少年「後ろ向きに?なぜです?」

用心棒「仕事が難しいということもあるが……胡散臭いんだよ」

用心棒「この騒ぎ自体が、今までないほどに胡散臭い」

用心棒「なぜか油商人の館の見取り図を持っている覆面の依頼人にしてもそうだし……」

用心棒「油商人は浪人を大勢雇っているのに、わざわざ殺し屋を雇うというのも妙だ」

少年「……」


用心棒「それに……お前もだ、坊主」

少年「僕?」

用心棒「最近江戸は物騒でね。俺たちも忙しいんだ」

用心棒「しかし、お前と会った時はちょうど仕事帰り……暇だったんだよ」

用心棒「そんなとき、お前と出くわすというのはどうにも『出来すぎている』……」

少年「っ!」

少年「ぼ……僕が、油商人の手のものだとでも……」

用心棒「そうは言わんが……もしこの騒ぎに、油商人ではなく別の『黒幕』が居たとしたら……」

少年「やめてくださいっ!」

用心棒「!……」


少年「僕は……僕は、貴方を尊敬していました。弟子にしてほしいとも思っていました」

少年「強さはもちろん、なにより『面倒のタネ』である僕を匿ってくれた優しさを尊敬していたんです」

少年「それなのに……信用されないだけならともかく、そんな風に思われていただなんて!」

少年「……かままでかけられるなんて……」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:54:10.53 ID:sTxvg2L80

用心棒「……ええと」

少年「失礼しますっ」スック

相棒「何処へ行く」

少年「油商人のところです。金物屋かどこかで包丁を盗んで、あいつだけでも道連れに……」

用心棒「ま、待て待て!俺が悪かった、弟子にでも何でもしてやるから落ち着け!」

少年「……」

用心棒「……というのは物の例えだが」

少年「やっぱり行きます」

用心棒「わかった!わかったから落ち着け……」


<もスもス?馬借でス、馬をお届けに参りまスた。


用心棒「おっ!馬が到着したようだぞ、坊主!」パンッ

少年「馬……?」

相棒「私が対応する」スック

 トストス ゴソッ ガラッ ピシャリ

少年「……馬って?」

用心棒「ああ、油商人の手の者から逃れるため、一度江戸を離れようと思ってな……」

用心棒「その足として、朝に出かけたとき手配した」

少年「何処に?」

用心棒「箱根の方のあばら家だ。今朝『闇商人』を通じて手に入れたんだ」

用心棒「その代金と、『鍛冶屋』に頼んだ武器の代金で、この前の仕事の報酬は吹っ飛んじまったがな」

用心棒「お前も来るだろう?命あっての物種だろう、な?」

少年「……弟子にしてくれるんですよね」

用心棒「わかった、わかったから……」

 ガラッ ピシャリ

相棒「荷物をまとめろ」

用心棒「……こんな血の匂いの染み込んだボロ屋、引き払うのは惜しくないが……」

用心棒「道中で油商人の手の者が襲ってくる可能性もある」

用心棒「いよいよこの先は茨の道だ……しかし、弟子にしろと言うならそのくらい耐えられるだろうな?」

少年「……」


少年「無論です!」

用心棒「……よく言った」ニヤリ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:54:37.91 ID:sTxvg2L80


手下甲「……おっ?用心棒が長屋から出てきました!相棒の女も一緒です……」

手下甲「あっ、大きなタンスを運び出してきました」

手下甲「本当に大きいです、中をくり抜けば子供の一人くらい入りそうです……」

手下甲「運び出す家財道具はあれだけのようですね。今、車に積みました」

手下甲「車を馬に繋いで……歩き始めました。南に向かうようです」


剣士「しかし、南蛮渡来の遠眼鏡とは便利なものだな。遠くの敵の行動も手に取るようにわかる……」

手下乙「どうしますか剣士さん、早速襲いますか?」

剣士「まあ待て……敵は手練だというだろう。待ち伏せのほうが良い」

剣士「とはいえどんな状況でも、油商人近衛四天王の一人である私は遅れなど取らぬが、な……」

剣士「用心棒、そしてその相棒よ、せいぜい今のうちに生を楽しんでおくがよいわ。クックックックック……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/05(火) 16:55:08.91 ID:sTxvg2L80
今日はここまで
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/06(水) 20:51:17.76 ID:oUihMxIc0
多忙のためしばらく投下を中断します
エタらないように頑張ります
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:23:19.35 ID:v0obwIXm0


 ガラガラガラ ガタッ ガラガラガラガラガラ…

用心棒「おら、どう、どう……暴れるな、引いてる車が揺れるだろうが」

馬「ブヒヒン」

用心棒「……ところで相棒、なんでお前まで車に乗ってるんだ」

相棒「休憩……」

用心棒「かれこれ半刻は乗ってるだろうが……代われよ」

相棒「……」

<旅のお方、寄って行きませんかァ?

相棒「おや、茶屋だ。寄ろう」トッ スタスタ

用心棒「おいこら!」

用心棒「……チッ、今度はお前が歩くんだからな……」スタスタ


店番「いらっしゃいませェ……あっ、お客様ァ、外に馬を繋ぐ杭があるんですが分かりましたかァ?」

用心棒「ああ。ちゃんとそこに繋いできたさ」スタスタ

相棒「……」モグモグ

用心棒(もう食ってやがるよ、こいつ)

店番「お客様は何に致しますゥ?」

用心棒「茶を一杯と、団子を一本……いや二本くれ」

店番「承りましたァ」スッ


相棒「この団子、一本でも結構な量だぞ」モグモグ

用心棒「……一本は坊主の分だ」ヒソヒソ

相棒「……てっきり甘党かと」モグモグ

用心棒「こっちの台詞だ。食いながら喋るんじゃない、汚いな」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:23:47.14 ID:v0obwIXm0

店番「団子と茶ですゥ」コトッ

用心棒「どうも」

店番「ところでお客様は、お伊勢参りですかァ?」

用心棒「え?……」

相棒「違う。引越し」ズズー

店番「ああ、だからタンスなんて引いてたんですねェ……奥さん、新しい住まいはどちらですゥ?」

相棒「小田原」モグモグ

店番「小田原ですかァ!あそこはいいですよォ?江戸ほどせわしくはなく、箱根ほど寂しくはないんですゥ」

相棒「それは良かった」モグモグ


用心棒「……嘘はお前に叶わないな」ヒソヒソ

相棒「……『馬』に団子を食わせてみるんじゃなかったのか」ズズー

用心棒「おっと、そうだった。『馬』にな」スック

店番「細かくしてやらないと喉につっかえますよォ?」

用心棒「相分かった」スタスタ


店番「でも馬は甘い物が好きだって言いますよねェ、奥さん?」

相棒「初耳だ」モグモグ

店番「……実は私も『甘い物』に目がなくてねェ」ギュッ

相棒「フンッ」グサッ

店番「うぎゃっ、容赦ねェ!」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:24:31.06 ID:v0obwIXm0

馬「ヒヒインッ!ブルルッ、ヒヒインッ!」

用心棒「畜生に団子なんてやるわけないだろう」

馬「」ガーンッ


 ゴトゴトッ ギイッ…

用心棒「おーい坊主生きてるか……」

少年「ぷはあっ!ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……」

用心棒「……生きてるか?」

少年「ち、窒息死するところでしたよ!」

少年「何ですかこのタンス、作った奴入って確かめてみたんですか!?」

用心棒「人を入れるのを想定したタンスなんて無いだろう……」

用心棒「非常事態だ、我慢しろ。団子やるから、ほら」

少年「そ、それより水を……」

用心棒「欲が無いな」スッ

少年「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはっ。タンスの中に入ってみればわかりますよ、僕の気持ちが」

少年「……ちょっと入ってみませんか」

用心棒「冗談じゃない!軟体人間でもあるまいし入るものか……」

用心棒「というより……思ったより余裕だな?よし、もう少し入っていろ!」

少年「ま、待ってください!厠に……」

用心棒「そこの茂みでしてこい」ビシッ

少年「……ひぃい……」スタスタ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:25:12.74 ID:v0obwIXm0

用心棒「……」

用心棒(団子が余ってしまったな……しかし、捨てるのも勿体無い)

用心棒「……」チラッ

馬「……」チラッ

用心棒「……」

用心棒「……」ブチッ

用心棒「……」スッ…

馬「……」アーン

?「本当に馬に団子をやってるのか。店番の冗談かと思ったが」

用心棒「!?」クルッ

?「おっと、そんなに緊張するなよ……俺だ。闇商人だよ」

用心棒「……」チラッ

相棒「……」コソッ

用心棒「……闇商人が、何の用だ?」

闇商人「そう邪険にするなよ。例の隠れ家を調達してやったのも俺だろうが」

闇商人「……おい、用心棒。俺たち、長い付き合いだよなあ」

用心棒「……ああ。そうだな」

用心棒「だから、お前がそういう切り出し方をするときは大概ロクなことじゃないということも知ってる」

闇商人「なに、御城を攻め落としてこいとかは言わないさ……」

用心棒「じゃあ海を渡ってペルリ提督の眉間に弾丸を叩き込んでくればいいのか?」

闇商人「まあ茶化さずに聞けって!」

闇商人「話だ、話を聞かせてくれよ……どうもお前の周囲は、昨日から物騒じゃねえか?」

闇商人「どことは言わねえが……長屋の床下とかよ?」

用心棒(……彼岸花兄弟の死体を見つけやがったな)

闇商人「その後すぐに、こうやって江戸を出たってのも物騒だ。実に物騒だ」

闇商人「その騒ぎに関して、知ってることを教えて欲しいのさ」

用心棒「……」

闇商人「もちろん金は払うぜ?こっちもそれで儲けさせてもらうからな」

闇商人「お互い損はないだろう?断っちゃお前も損だぜ、な?」

用心棒「……」

闇商人「……頑なだな、おい?」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:26:31.48 ID:v0obwIXm0

?「闇商人殿」

闇商人「ん?忍か?」

忍「たった今、なかなか興味深い奴らが街道を通っていきました」

闇商人「誰だ?」

忍「それは……ヒソヒソ」

用心棒「……物騒な話のようだな?」

闇商人「ああ、物騒な話だ。実に物騒だ、死人が出るぜ」

闇商人「だが教えてやらんぞ。お前も俺に教えてくれないからな……仕方ないなあ?」

用心棒「……」

闇商人「じゃあ、俺はこれで失礼するぜ。損したな、用心棒」

闇商人「油商人を敵に回して、俺の助けも得られないんじゃ死ぬしかないぜ……」

用心棒「……!?待て、手前なぜそれを……」


闇商人「教えられんな。あばよ!」タタッ

忍「……」タタッ


用心棒「……くっ……」

相棒「……何故、あいつが油商人のことを」

用心棒「……あいつは……今回の騒ぎにはほとんど関係していないはずだ」

用心棒「情報を手に入れられるとしたら、せいぜい彼岸花兄弟からだが……」

用心棒「とすると、やはり殺し屋を雇ったのは油商人なのか……?」

 ガサガサ

少年「……もう出ても大丈夫ですよね?」

用心棒「おう……あの状況で、出てこないという判断は妥当だ。一度殺されかけただけのことはあるな」

用心棒「タンスの中に入れ、坊主……出発だ。どうやら立ち止まってはいられんらしい」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:27:17.59 ID:v0obwIXm0

 ガラガラガラガラ…

用心棒「……そういえば、団子はいくらだったんだ?」

相棒「タダにしてくれた」

用心棒「……何をしたんだ?」

相棒「何もしてない」

用心棒「……」


用心棒(……『物騒な奴』が、茶屋の前を通っていったという)

用心棒(『物騒な奴』とは、十中八九油商人からの刺客だろう)

用心棒(そいつらが、俺たちを追い越したとして――何をするか?)

用心棒(待ち伏せだろうな)

用心棒(しかしこのあたりは人家があり、そこそこ明るい。待ち伏せには適さない)

用心棒(待ち伏せするとしたら、この先の橋を渡った先の、林沿いの道――)

馬「――!」ピクッ

用心棒「!?……!」

相棒「!」


用心棒(橋の上に、仁王立ちしている男――手には、ぎらつく打刀)


剣士「――私は油商人近衛四天王が一角、剣士だ」

37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/09(土) 18:27:53.69 ID:v0obwIXm0
今日はここまで
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 19:03:45.77 ID:H2rPPC72o
四天王ってカマセなイメージなんだけどここの剣士さんは大丈夫だろうか
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 20:55:39.90 ID:nipauuzAO
お馬さん可愛いじゃん
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/11(月) 21:04:43.94 ID:HKSBpva10


用心棒「……思ったより早いな。ここまで追ってくるのも、襲って来るのも……」

用心棒「襲ってくるのについては早すぎなくらいだ。待ち伏せの才能がないな」

剣士「浪人を何人か斬った程度でいい気になるなよ、下郎……」

剣士「私は、あんな掃いて捨てるほどいるような者共とは違う」

用心棒「フン、どうかな」

剣士「軽口はそこまでだ。私と勝負しろ……」

剣士「お前も侍なら、種子島で撃たれるより斬られて死にたかろう?」

剣士「既に私の手下が手前らに狙いをつけている……抜け!」

用心棒「……」


相棒「私が勝負する」スッ

用心棒「!?……大丈夫なんだろうな」

相棒「私を誰だと思っている……」

剣士「……お前など相手になるものか」

剣士「馬鹿にしているのか……それとも、よほど頭が悪いのか……どちらにしても死ぬべきだが」


相棒「……」スラッ

剣士「……ほう、仕込み刀か。それに、構えも思ったより様になっておるわ」チャキッ

剣士「参る」シュザッ

相棒「ッ!」チャキ

用心棒(――速い……あいつ、滑るように動く!)


剣士「はあっ!」ビュンッ

相棒「……」カキインッ

剣士「とぉッ!」ブンッ

相棒「ッ」キンッ

剣士「ぜあっ!」ビューンッ

相棒「くっ……」ガキンッ

剣士「喰らえァ!」ビュッ

相棒「……死ねッ!」ビュンッ


 ガキインッ!
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/11(月) 21:05:55.17 ID:HKSBpva10

剣士「……」

相棒「……」

剣士「……フッ」

相棒「ぐっ!?」ガクッ

相棒(馬鹿な……!?)ボタボタ

剣士「踏み込みが甘かったな……フフ、フ」

剣士「では、とどめを――!?」

 シュザッ ドゴオンッ!

相棒「……用心棒」

剣士「手前、よくも邪魔を――」

用心棒「……ヘッ、ヘッヘッヘ」

剣士「――何がおかしい?」

用心棒「この距離で俺の弾を避けやがるとはな。なかなかの化物だぜ……」

剣士「化物か……フッフッフッフッフッ。確かにお前にとって、私は化物だろう」

剣士「お前の命を奪うのは私だからな!」シュザッ

用心棒「ほざけ、トンマが!」ジャキッ

 ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

剣士「死ね!」シュザザッ ザッ!

用心棒「うおっ!?」バッ ゴロゴロッ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/11(月) 21:07:41.60 ID:HKSBpva10

用心棒「……フン、四天王の名は伊達じゃないということか……」

相棒「駄目だ、用心棒……!」

用心棒「弱音なんてお前らしくないぞ。ところで……傷は大丈夫か?動けるか?」

相棒「ああ……しかし……」

用心棒「お前は奴の手下を始末してくれ。多分、隠れているのは周りの家の陰だ……」

相棒「こ、こいつは?剣士はどうするんだ……?」

用心棒「俺はどうにかする……早く、行け!」

相棒「……ッ!」バッ

 タタタ…

剣士「!逃がすか!」シュザッ

用心棒「おっと待てよ」ジャキッ

 シュザッ ドゴオンッ!

用心棒(……また避けられた)

剣士「……チッ。いちいち癪に障るやつだ……そろそろケリをつけてやる!」シュザッ


剣士「フッ!」ブンッ

用心棒「うおっ」ヒョイッ

剣士「ハッ!」ビュンッ

用心棒「よっと……」トッ

剣士「おのれ……」グッ

用心棒(やつめ、力を溜めているな――今だ!)ジャキッ


 シュザッ ドゴオンッ!


剣士「……」ニヤッ

用心棒「な……!?」

用心棒(まずい、弾切れだ!こいつ、わざと隙を作りやがったな……!)


剣士「――死ね!」シュザッ

用心棒「うおおっ!」ガシッ

剣士「何ッ!?」

用心棒「手前が死ねぇ――ッ!」グイーッ

 ブンッ ドボーンッ!
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/11(月) 21:09:05.52 ID:HKSBpva10

用心棒(再装填……)ガシャッ

用心棒「駄目押しだ!」ジャキッ

 ドゴオンッ! ドゴオンッ! ドゴオンッ!

用心棒「……」

用心棒(雪解け水が流れ込んで増水しているせいで、川の水が濁っていてよく分からないが……死んだだろう)

用心棒「踏み込みの勢いが良すぎたな……」


相棒「用心棒」

用心棒「手下は?始末したか?」

相棒「……」ブンッ

手下甲「」ドサッ
手下乙「」ドシャッ

相棒「良い銃を持っていた」

用心棒「売りに行く余裕はない。死体もろとも川に沈めるか……」

相棒「私が」

用心棒「おい、怪我は大丈夫なのか?」

相棒「……」ズルズル

用心棒(……負けたのがこたえているようだな……)


 ガチャッ

少年「ぷはあっ……」

少年「……刺客が、来ていたんですか」

用心棒「……ああ。化物だった」

<ドボーンッ ボチャンッ…

相棒「済んだ」

用心棒「……進むぞ」

 バタンッ

 ガラガラガラガラガラガラ…
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/11(月) 21:09:38.94 ID:HKSBpva10

闇商人「……行ったか」コソッ

忍「行きましたね」コソッ

闇商人「しかしすごい戦いだったな。特に剣士の腕前だ……最終的に勝ったのは用心棒ではあるが」

忍「しかも自分は四天王の一人だと名乗っていました。あんな奴があと三人居るのでしょうか」

闇商人「いや、それはわからない。あいつが四天王の中で最強なのかもしれない」

闇商人「しかし……もし、剣士以上の奴らが三人居るとしたら、用心棒に勝ち目はないぜ」

闇商人「……待てよ?用心棒が死んだら、次に狙われるのは誰だ?」

闇商人「次に狙われるのは、用心棒と腐れ縁の俺じゃないのか……?」

闇商人「……ううむ。俺はどうしたものか……用心棒に力を貸すべきか、それとも……」

忍「……闇商人様。もう少し様子を見ましょう」

忍「その上で判断しても、遅くはないはずです……」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:24:07.17 ID:afyGBDLB0

医者「……うん、包帯も巻いたし、とりあえずこれでよかろう」

医者「あとは時々包帯を取り替えて……傷にこの薬を塗ると良い」

医者「これは南蛮渡来の医学書をもとに作った薬でな。支那の漢方など問題にならんほどよく効く」

医者「毎日、奥さんに塗ってやるんだよ」

農夫?「はい、わかりました」

妻?「鉈を使うときは注意しなきゃいけないねえ、亭主にまで迷惑をかけちまったよ……」

農夫?「……ところでお医者さん、このことは秘密にしておいてくれませんかねえ」

農夫?「私を目の敵にしてる履物屋がこのことを知ったら、私が妻を切りつけたとか言い出しかねませんから」

医者「ああ、わかったよ」

農夫?「じゃあこれ、お代です。ありがとうございました、本当に」ジャラ

医者「はいよ……」

 ガラッ ピシャリ

農夫?「……傷が浅くてよかったな、相棒」

妻?「……」


用心棒「……あまり気にするなよ」

相棒「何が」

用心棒「……何がって……」

相棒「何が」

用心棒「……」ハア
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:24:46.49 ID:afyGBDLB0

 ガラガラガラガラ…

用心棒(……もう暗くなってきたな)

用心棒(今日一日歩き通せば、隠れ家に着けるかと思っていたんだが……)

用心棒「どうやらそろそろ宿をとらなければならないようだ……」

相棒「……野宿?」

用心棒「それが一番危険だ。右からも左からも正面からも後ろからも上からも襲われる」

用心棒「ちゃんとした宿屋なら、窓と扉以外からは襲われない……」

用心棒「それに、腹が減った。飯を食わないと倒れそうだ」

相棒「……」

用心棒「しかし……このタンスの中の『貴重品』はどう扱ったらいいものか」

用心棒「かなり目立つが、どうにかして部屋の中に持ち込むしかないか……」


用心棒「……待てよ。そもそも宿なんてあるのか?東海道からは少し離れているが……」

相棒「……地図」スッ

用心棒「どれどれ……ん、ここしかないな。この先の『湊屋』」

相棒「……あれか?」

用心棒「え?……何だ、もうあそこに見えてるのか。あやうく通り過ぎるところだった」

用心棒「さあ馬!急げ、急げ!」

馬「ヒヒーンッ」

 ガラガラガラガラガラガラ…
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:25:31.19 ID:afyGBDLB0

 ガラッ

女将「はいはい、いらっしゃいませ……木賃ですか?旅籠ですか?」

用心棒「旅籠で……できれば一階の部屋がいいんですがね」

用心棒「貴重な家具を持っていまして、部屋に持ち込みたいんですよ」

女将「はいはい、では、すぐそこの『柳の間』へどうぞ」

女将「すぐ夕餉をお出ししますので、少々お待ちください」


用心棒「よし、タンスを運び込もう」

相棒「……」コクリ

?「手ぇ貸したろうか?」

用心棒「いや、結構……!?お前は!」

?「そうや、鍛冶屋や」

鍛冶屋「へへ、あんたを探し当てるのは骨が折れたで……闇商人に聞いたんで、奴に借りが出来てしもたわ」

鍛冶屋「何や相棒の姉ちゃん怪我しとるやんけ!大丈夫か?」

相棒「……」コクリ

鍛冶屋「……あ!それよりよく見たらこれ、うちがやった船箪笥やん!」

鍛冶屋「うちのからくり趣味を散々に馬鹿にしとるけど、何だかんだ大切にしてくれとるんやなあ……」

用心棒「お、おう……」

鍛冶屋「ほな運ぶで!」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:27:11.34 ID:afyGBDLB0

 スッ

女将「失礼します。夕餉を持って参りました……」

女将「本当に三人分でよろしかったんですか?その……お代も、少しお高くなりますが」

用心棒「いや、全然構わないです」

相棒「ほほほ、夫は旅先で食事をするといつも足りない足りないと騒ぐんですよ」

女将「ああ、左様ですか……では、ごゆっくり」

 ストンッ


用心棒「……さて」スック

 ガチャッ

少年「刺客?刺客ですか!?」オドオド

用心棒「うろたえんな。飯だ」

相棒「あんたの分」ズイッ

少年「あ、ああ……どうもありがとうございます」


用心棒「モグモグ……そういえば、坊主。『油商人近衛四天王』って聞いたことがあるか」

少年「は、はい……油商人の私兵の中でも、特に強い浪人たちです」

少年「『剣士』、『槍使い』、『大男』、『武士』の四人です……おそらく、いつか戦うことになるかと……」

用心棒「なるほどな……剣士はさっき、地獄に叩き込んでやったが」

少年「本当ですか!?」

用心棒「ああ……おっと、悪いな。食事中にこんなこと聞いて」

用心棒「この湯豆腐を食ってみろ、なかなかいけるぞ……」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:27:59.63 ID:afyGBDLB0

鍛冶屋「一緒に飯食おうや……おっ!?なんじゃそのガキ、どっから湧いた!?」スパーンッ

相棒「!?」ガタッ

用心棒「しまった、見られた!」ガタッ

 チャキッ ジャキッ

鍛冶屋「な、何や?何や!?」

用心棒「このことをよそで喋ってみろ……」

相棒「……死ぬぞ」

鍛冶屋「わ、わかった!わかったわ、はよその物騒なもん下ろしてえな!」

用心棒(……闇商人はともかくこいつに裏表はない、と思いたいが……)スッ

相棒「……」スッ

鍛冶屋「……一体、何事なんや……?」

用心棒「……」


用心棒「……鍛冶屋。この騒ぎは、耳に入れるだけで口封じに殺されかねない」

用心棒「お前を憎からず思っている俺としては、話すわけにはいかない……わかるだろう?」

鍛冶屋「……」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:28:41.91 ID:afyGBDLB0

鍛冶屋「……ええわ、とりあえず納得しといたる。うちも後暗い奴ら相手に商売してる身や、わきまえとるがな」

鍛冶屋「でも、『あんたから頼まれてるもの』は値段上乗せにさしてもらうで。百両分な」

鍛冶屋「うちにどんな火花が飛んでくるかわからんわ……」

用心棒「……ああ」

鍛冶屋「それだけや。精々死なないように……」スック

相棒「チョクトウ」

鍛冶屋「え?何や?」

相棒「直刀をひと振り。出来るだけ良い物を……」

鍛冶屋「……あんなあ、相棒の姉ちゃん」

鍛冶屋「江戸は今黒船騒ぎでぴりぴりしとる。火薬も、鉄も、そうそう手に入らんもんなんやで?」

鍛冶屋「長い付き合いやから『用心棒の頼んだもの』は引き受けたけど、この上刀なんて……」

相棒「頼む」ペコリ

用心棒「……!」

鍛冶屋「……もう百両、上乗せやで」

相棒「ありがとう」

鍛冶屋「まったく、大赤字や……」


鍛冶屋「……もたもたしとるとあんたらの言う『騒ぎ』に巻き込まれる。うちは退散さしてもらうで」

鍛冶屋「夜道やけど……あんたらの依頼の品も用意せなあかんしな」

用心棒「ああ、頼む」

 ドスドス… スッ

 スパンッ

用心棒「さて、夕餉だ、夕餉だ」パンッ

用心棒「坊主、冷めたから食いたくないとか我が儘言うんじゃないぞ?」

用心棒「いつまでタンスに隠れていられるかもわからん。腹が減っては戦はできぬ、だ……」

少年「はい……!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:29:23.14 ID:afyGBDLB0


 その頃 江戸

 油商人の館


油商人「まさか、あの剣士が負けるとは……」

油商人「『あの武士の一家の生き残りが、用心棒を雇って油商人様を殺そうとしている』と知らせてきたのも、奴なのに……」

油商人「……用心棒というやつは、そこまで強いのだろうか?」


武士「クックック……恐れることはありません油商人様。剣士は近衛四天王の中でも最弱……」

武士「剣士を打ち負かしたとしても……槍使いや大男を倒すことは、思いもよらないでしょう」

武士「……俺が相手なら、俺を楽しませることもできないだろう……はあ……」ポツリ

油商人「……そうか?まあ、現に奴は江戸から逃げ出しているしな……」

大男「う、う……つぎは、おでが、いく」

大男「……おでが、そいつ、ころす」

油商人「……フッフフフ。こっちも気合充分だな」

油商人「そうだ、恐れることはないのだ……私は日の本の明かりの全てを統べる油商人……!」


油商人「だが大男。お前に次鋒を任せることはできんな」

大男「う……?」

油商人「既に槍使いが奴の後を追っている。奴が宿で休んでいるなら、そろそろ追いつくはずだ……」

油商人「フッフフフ……用心棒、私に牙を剥こうとて、そうはいかんぞ……!」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:30:02.24 ID:afyGBDLB0

?「……」コソッ

?(もし油商人が手勢を集めて館にこもるようだったら、どうにかして妨害しなければならなかったが……)

?(そんな知恵はないようだな、馬鹿どもめ……よくもこれほどこちらの想定通りに動いてくれるものだ)

?「ンッフッフッフ……」


武士「むっ?」クルッ

?(おっと)サッ

武士「……」

武士(今、邪な気配を感じたように思ったが……気のせいだったようだな)

武士(どんな手練の忍だろうと、館の最深部であるこの部屋までたどり着くことはできやしない)


武士(一つ。この館は高い壁と警備の浪人たちに守られている。門以外から入ることはできないが、門の警備は特に厳重だ)

武士(浪人たちの目を逃れて館に入れる秘密の入口は、作った大工と俺たち四天王、それに油商人しか知らんだろう)


武士(二つ。この館は迷路のような構造だ。八幡の藪知らずだ)

武士(たとえ秘密の入口を見つけて忍び込んだとしても必ず迷う)


武士(三つ。館の中も大勢の浪人が巡回している……)

武士(順路は厳密に定められていてやり残しはありえない。侵入者は即、殺されるのだ)


武士(……あーあ。それにしても、ヒマだぜ……)

武士(どうせ用心棒は、槍使いには勝てねえだろう)

武士(だがその槍使いも、俺の相手じゃあない……)

武士(俺の血を沸き立たせてくれるような好敵手が現れないものか……)
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/21(木) 20:30:34.51 ID:afyGBDLB0
今日はここまで
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:01:57.84 ID:/VWLkDYp0


少年「ごちそうさまでした……」

少年「……用心棒さんはどちらにいらっしゃったんです?」

相棒「……」

少年「……?」


相棒「……」

相棒「さあ?」

少年「……はあ」

相棒「……」

少年(相棒さん、なんか様子がおかしいな……ずっとぼうっとしてるし)


 ガラッ

用心棒「今戻った」

少年「あ……今までどこに?」

用心棒「お前を鍛えるのに手頃な道具を拾いに行っていたんだ」スッ

少年「……それ、ただの棒じゃ?」

用心棒「たかが棒、されど棒……」グッ

少年(用心棒さんはそう言って、棒を槍のように構えた)

少年(そして突然天井を向き、棒を天井に突き刺した!)

 ドガッ!

<ギャッ

用心棒「……」スッ

少年(引き抜かれた棒の先端には――)

少年(べっとりと血がついていた)

用心棒「……と、このように使い道がいろいろあるわけだが、それを教えるのはまた今度だ」ポイッ

少年「……えっ!?あっ、これ、どうすればいいんですか!?」パシッ

用心棒「持ってろ」

用心棒「……外に妙な目つきのやつらが居る。全部で四人……宿を取り囲むように立っていた」

少年「!」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:02:35.69 ID:/VWLkDYp0

用心棒「その中の一人は槍を持っていた。十文字槍だ」

少年「『槍使い』……!」

用心棒「……しかし……」

相棒「少ない」

用心棒「ああ」

相棒「天井裏のゴミムシを含めても、五人」

用心棒「ゴミ……」

用心棒「……とにかく。剣士が三人がかりで襲い、しくじったことは奴らも知っているはずだ」

用心棒「それにしては少なすぎる。奴らの狙いがわからない」ジャキッ


少年「……どうするんです?」

用心棒「出て行くと待ち伏せを食う恐れがある。少し様子を見る」

用心棒「伏兵がいるなら出て行かない」

用心棒「いないなら出て行く……速やかにな。奴らは増援の到着を待っているのかもしれない」

用心棒「踏み込んできたら部屋の前の狭い廊下で迎え撃つ」

用心棒「……ないとは思うが、宿に火をつける奴や爆薬を仕掛ける奴がいたら窓から撃って阻止する」

用心棒(……本当に、これでいいんだろうか?可能性はこれだけなんだろうか……?)

用心棒(何だか嫌な予感がするな……)


相棒「もし」

用心棒「え?」

相棒「もし槍使いと戦うなら……私に、やらせてほしい」

少年「!」

用心棒「……それは、駄目だ」

相棒「なぜ?」

用心棒「お前は怪我人だ。それに、今のお前は冷静じゃない」

相棒「私は冷静」

用心棒「冷静じゃない!」

相棒「……」

用心棒「……お前と俺とは長い付き合いだろう。今回だけは、俺の言うことを聞いて欲しい……」

用心棒「わかってくれるな?」

相棒「……」


相棒「わかった」

用心棒「後で団子でも奢ってやるから、な」

相棒「……」ジロッ

用心棒「……冗談だ」


少年「……」

少年(きっとこの人たちは、こうやってバカを言ったり、諌め合ったりしながら生き抜いてきたんだろうな……)
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:03:19.29 ID:/VWLkDYp0

用心棒「……さて、外の奴らはどうしているのか」

少年(そう言って用心棒さんは窓に近づくと、障子を細く開けて外の様子を窺った)


用心棒「……」

用心棒「……まずい、かもしれない」

少年「!?」

相棒「増えた?」

用心棒「……いや、減った。三人しかいない」

少年「減ったなら、別に……」

用心棒「さっきの俺の想定のどれかが当たっているなら、人が減るなんてことは有り得ないんだ」

少年「……!」


 ……ドン……


用心棒「っ!?何だ、今の音は!?」

少年「太鼓?いや、こんな時間に……」


 ズドォンッ
グラグラ


用心棒「な!?」

相棒「っ!?」

少年「い、今のは一体……」


 メキメキ パリーンッ

<キャアアアア!
<カミナリカ!?
<ブツバツダ!ブツバツダ!


用心棒「……まさか!」


 ……ドン……


用心棒「あ、あの音は……やはり!」

用心棒「くそっ、何てことだ!伏せろっ!」バッ

相棒「坊主!」バッ

少年「い、一体、何が――」バッ


 ズドォンッ
グラグラ

 ガラガラ…
ゴゴンッ

ズズンッ
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:04:17.68 ID:/VWLkDYp0


 ドン… ズドォンッ


部下甲「西に逸れた。東に修正させろ」

部下乙「『東に修正』はこの振り方だったな……」ブンブン

部下丙「砲撃班への合図とはいえ、提灯を振り回すのは何だか馬鹿らしいな」


 ドン… ズドォンッ


部下甲「次は北に逸れたぞ」

部下乙「『南に修正』っと……外しすぎじゃないのか?」ブンブン

部下丙「さっきドンピシャだっただろう。夜中でこれなら抜群の腕だ」


 ドン… ズドォンッ

ギギイッ キャーグシャ


部下甲「おっ!当たったぞ!」

部下乙「『修正なし』っと」ブンブン

部下丙「……それにしても、槍使いさん」

槍使い「『二人を始末するのに大筒とはあまりにも大げさだ』と言いたいんだろう?」

部下丙「えっ……は、はい」

部下丙(相変わらず人の言いたいことを読むなあ……)

槍使い「それだけ油商人はあの二人が怖いのだろう」

槍使い「臆病なあの男らしいことだ。大げさな対策をとるのも無理はない」

部下丙「まあ……そうですね」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:05:17.89 ID:/VWLkDYp0

槍使い「しかし……そいつらが怖いというそれだけの理由で……」ゴゴゴゴゴ

部下丙「……?」


槍使い「私を夜中に呼びつけ、こき使うとは!」ビュンッ

部下丙「ヒイッ!?」

槍使い「この!私は!人束いくらの浪人とは違うのだ!」ブンッ

槍使い「日々人の暮らすそれならざる世界より形なき文を受けその内容のすべてを代行者としてこの世へ生み出す宿命を神仏すら超越する大いなる存在より受けた人であって人ではない私を個人の恐怖心を由に軽々しく呼びつけるなど許されんのだぁああ!」ビューンビューンビューン

部下丙「わ、わかりました!わかりましたから、落ち着いてください!」

槍使い「……」ピタッ

部下丙(……本当に落ち着いた?)

槍使い「……おい、下郎ども……今すぐ、砲撃班に加勢しに向かえ」

部下甲「え?」

部下乙「へ?」

部下丙「な、なぜです?」

槍使い「……砲撃班が、奴らの片割れに襲撃される」

部下甲「ええっ!?奴ら、もう死んだのでは!?」

部下乙「たとえ襲撃が行われるにしても……片割れということは、一人でしょう?」

部下丙「たった一人なら、砲手たちと、さっき伝令に向かった部下丁で充分に始末できるのでは?」

槍使い「無理だ。襲撃者は女だが、砲撃班は撫で斬りにされる」

部下達「「「!?」」」

部下甲「や、槍使いさん!そんなこと起こるわけが……縁起でもない!」

槍使い「……『視えた』んだよ」

部下達「「「……?……」」」

槍使い「とっとと行け。今私は気が立ってるんだ」

槍使い「二度同じことを言うくらいなら、手前らを全員この槍の錆にするぞ!」

部下達「「「今すぐ向かいますっ!」」」ピュー
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:06:27.86 ID:/VWLkDYp0

槍使い(……面倒だが、もう一人は私が相手せざるをえないな)

槍使い(もうあの宿屋から脱出し、攻撃を仕掛けてきてもいいことだが……)

槍使い(……!)


――――――――

――――

――


 ズドンッ!

槍使い『ぐっ!?』ガクッ

槍使い『う、撃たれ……あ、あそこの木の裏からか……!』ジャキッ

 ……ザッ

用心棒『……お前が〈槍使い〉か』

槍使い『……〈用心棒〉……』スック

用心棒『クックック……無茶するな。傷が広がるぞ……』ジャキッ

槍使い〈――短銃だと!?〉

 ズドンッ!


――

――――

――――――――


槍使い(……『視えた』)

槍使い(浪人とはいえ武士だろうに、短銃とは……)ジャキッ

槍使い「……まあ、外道はお互い様だな」ボソリ

槍使い「そこだ、短銃使い!」ビュンッ!

 ジャララララララララ…

用心棒「何ッ!?くっ!」ゴロゴロッ

 バキャアッ!

槍使い「……避けたか。中々の身のこなしだ」


用心棒(何故だ……完璧に気配を消していたはずなのに、見つかるとは……)

用心棒(――それよりも……あの槍は、一体何だ?)

用心棒(柄と穂先が鎖で繋がっている……なるほど、鎖鎌のようにも使える仕掛けか)

用心棒(夜闇で遠くが狙えず弱体化している短銃が相手なら、引けを取らぬ得物……)

用心棒(いや、発射炎で現在位置を露呈する短銃より強力か――?)


槍使い「……フッフッフッフッフ。思ったより私を楽しませてくれるようだな」

槍使い「だが、それだけだ。どうあがいても私に勝つことなどできんぞ……」

槍使い「――私には全てが『視える』!」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 20:07:41.02 ID:/VWLkDYp0
今日はここまで
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/30(月) 22:48:10.25 ID:1nYG07UH0


 ドンッ!

砲手甲「ヒュウ……これで弾は最後だったな?」

砲手乙「ああ。宿屋は用心棒ごと木っ端みじんさ」

砲手甲「いや、何だか知らんがしばらく修正の合図が無いから、後半は外したかもしれん」

<ザッザッザッ

砲手甲「うっ!?敵か!?」ジャキッ

砲手乙「待て、合図に使う提灯を持っているぞ。味方だ」

砲手甲「何?……じゃあ、合図を中断したのはこっちに移動するためだったのか?」

砲手乙「だろうな」


部下甲「大筒はこのあたりだったか?」ザッザッ

部下乙「たぶん……おっ、居たぞ」ザッザッ

部下丙「無事か砲手ども!」ザッザッ

砲手甲「はっ、無事です!」

砲手乙「一体何故こちらにお越しになったんです?」

部下甲「あ、いや……槍使いさんが、お前らが襲撃を受けると言ったものだからな」

部下乙「しかし、このぶんでは外れだな。珍しいことだ、博打でも外したことはないのに」

部下丙「いや、すでに敵は近くまで来ているのかもしれん。急いで撤収だ!」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/30(月) 22:49:09.23 ID:1nYG07UH0


<ガチャガチャ ゴトゴト

<アブラショウニンサンハ、ドコカラオオヅツナンテモッテキタンデショウ?

<サアナ


少年「敵が増えましたよ」ヒソヒソ

相棒「……見ればわかる」ヒソヒソ

相棒(短銃を持っているのが二人と、腕が立ちそうなのが三人……)

相棒(坊主を抱えたままでは持て余す……)

相棒(……しかし、坊主を一人にするのは心許ないような)

少年「……相棒さん、僕に何かできることはありませんか?」ヒソヒソ

相棒「!」

少年「……戦いたいんです。いつまでも守ってもらうなんて嫌だ」ヒソヒソ

少年「家族の……家族の仇を、討ちたいんです!」ヒソヒソ

少年「……それに、僕は用心棒さんの弟子でもあります」ヒソヒソ

相棒「……」

相棒「……」

相棒「……」ゴソゴソ

相棒「ん」スッ

少年「これは……短銃?」パシッ

相棒「浪人どもから奪った洋式短銃……これが早合」ヒソヒソ

少年「ずっと持っていらっしゃったんですか?何故使わずに……」ヒソヒソ

相棒「元々は用心棒が持っていた。団子屋の話をしたら護身用にと渡された」ヒソヒソ

少年(団子屋……?)

相棒「……坊主。お前はこの短銃を持って山から下り、街道を南へ向かえ」ヒソヒソ

相棒「大きな楠にぶつかったら、右の脇道を上れ。そこに隠れ家がある」ヒソヒソ

少年「あ、相棒さん!僕も一緒に……」

相棒「坊主。お前の仕事は、何としても生き延びることだ」

少年「……!?」

相棒「……万に一つもないことだが」

相棒「もし私たちも死んだら、誰が仇を討ってくれる?」

相棒「誰がお前の家族の仇を討つ?」

少年「……」

相棒「……お前は何としても生き延びるんだ、坊主」

相棒「分かったら行け。静かに、な……」

少年「……」

少年「待ってますからね……これでお別れなんて、いやですからね!」ダッ


相棒「……」

相棒「……さて」スッ

短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」
短刀「ジャキッ」

相棒「……始めるか」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/30(月) 22:49:57.62 ID:1nYG07UH0


砲手甲「そっち引っ張れ!」

砲手乙「待て、車輪がつかえている……」ゴソゴソ

部下甲「ええい、何を手間取ってるんだ、大筒を牛に繋ぐだけだというに……」

 ヒュッ

部下甲「ッ」ブスリ

部下乙「……?おい、どうした、甲……」トンッ

部下甲「」ドシャッ

部下乙「な……!?せ、背中に短刀が……」

部下丙「どうしたッ!」バタバタ

 ヒュッ

部下丙「ぐおっ!」ブスリ

部下丙「う、腕が……短刀を投げやがったのか!」

部下乙「用心棒の手の者か!?」スラッ

 ヒュッ

部下乙「馬鹿め、そうそう何度も通用……」カキインッ

相棒「……」シュザッ

部下乙「何ッ!?」

相棒「……」スラッ

 ヒュパッ! ドバッ!

部下乙「」ドシャッ

部下丙「お、おのれ……!」スラッ

砲手乙「このアマがァ!」

相棒「……」ザッ

部下丙「喰らえッ!」ビュッ

相棒「……」ヒョイッ

砲手乙「風穴を開けてやるッ!」ジャキッ

相棒「……」グイッ

砲手乙「うおっ!?」ブンッ グッカチッ

部下丙「馬鹿野郎どこを狙って……」

 バアンッ!

部下丙「」ドシャッ

砲手乙「ひっ……」

相棒「ご苦労」チャキッ

 ズバッ! ドヒュッ!

砲手乙「」ドシャッ

相棒(残り一人は……居ない?逃げたか?)

砲手甲「うおおおおッ!」ザザッ

相棒(し、茂みの中に――!?)

砲手甲「死ねぇ――ッ!」ジャキッ


 バアンッ
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/30(月) 22:50:35.10 ID:1nYG07UH0
今日はここまで
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/06/26(日) 13:10:34.11 ID:uaF9AQpT0
>>1です
更新しようと思ったのですが忙しく無理そうです
とりあえず生存報告をば
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:21:16.78 ID:Vx89296x0

 ザザザッ

 ズドンッ

 シュザザッ パキパキ

 ズドンッ ズドンッ

 ザザッ ジャラランッ バキャッ

 シュザザッ


用心棒「……」ザッ

用心棒(槍使いはどこに隠れた……?)キョロキョロ

用心棒(くそっ、夜のうえに森の中だから隠れられると見つからん……!)

用心棒(森に逃げるあいつに取り合わず、宿屋の跡地に居座るべきだったんだろうが……)

用心棒(砲台の敵と合流されると相棒が危険になるから、奴を自由にするわけにはいかなかったんだ……仕方ないことだ!)


槍使い「喰らえ!」ジャララッ

用心棒「うおっ!?」サッ

用心棒「そこか!鼠野郎!」ズドンッ ズドンッ

槍使い「フン、視えてるぞ……」サッ サッ

槍使い「これならどうだ、鼠野郎!」ジャラランッ

用心棒「くそっ!」サッ チュインッ

 バキャアッ!

用心棒(――くっ、腕にかすったが、何とかかわしたぞ)

槍使い「……」ニヤリ

 メキメキ

用心棒(ハッ!?槍が刺さった木が――!)

 メキメキッ ズドッ


槍使い「そしてこれは、大筒用の火薬を少々失敬して作ったものだ……」ゴソゴソ

槍使い「とっておきな!」シュバッ ポイッ

 バチバチ… 

 ドゴオンッ!
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:21:56.08 ID:Vx89296x0

 メラメラ… パチパチ…

槍使い「……流石に、死んだか?」

槍使い「――!」

槍使い「ハッ!」バッ

 ドゴオンッ! チュイーンッ

用心棒「……チッ」

槍使い「……フフッ。あの一瞬で……私の後ろに回り込むとは……」

槍使い「剣士が敗れたのも無理はない、といったところか……フフフ……」

用心棒(……再装填……)スッ

槍使い「おっと、再装填なら急がなくていいぞ」

用心棒「!……親切なことだな」ガシャッ

槍使い「フフフ……相模くんだりまで追ってきたんだからな、もう少し楽しませてもらう」


槍使い「ところで、もうわかっているだろう?」ゴソゴソ

用心棒(野郎、銀の櫛を出して……髪を整え始めたぞ……)

槍使い「私に攻撃は通用しない……『視え』てるんだ、全部な……」サッサッ

用心棒「フン、面白い目なんだな。目薬をやろう」ドゴオンッ

槍使い「いらないな」サッ

 バキイーンッ!

用心棒(――!こ、こいつ、櫛で銃弾を弾きやがった!)

用心棒(まるで弾丸の軌道がわかっていたかのような――ハッ!?)

槍使い「フフ、フ、ようやくわかったようだな」

槍使い「そう、私の目は未来が視える面白い目なのさ……」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:22:37.91 ID:Vx89296x0

槍使い「『無意識のうちに相手の体の小さな動きを見て、しようとしていることを読み取っている』……」

槍使い「外国で医学を学んだ医者はそう予想していたな……フン」

用心棒「……」

槍使い「この力は神が私に分け与えた神通力ゆえ、一介の医者風情にはそのようにしか定義付けできまいよ」

槍使い「神通力というのは人の言葉では説明できないのだ。言葉は神通力の産物なのだから、な……」

槍使い「鏡に鏡を写すことができないのと同義よ」

用心棒(……なかなか頭がイってる鼠野郎だな)

用心棒(しかしこのままでは俺がジリ貧だ……ならば……)

槍使い「おい、何とか言ったらどうなん……」

槍使い「――!」


用心棒「視えたな?避けてみろッ!」ジャキッ

ドゴンッ
 ドゴンッ
  ドゴンッ
   ドゴンッ
    ドゴンッ


槍使い「――ハッ」

槍使い「考えが!」サッ

槍使い「安易だ!」バッ

槍使い「鼠野郎!」シュバッ

槍使い「視えててもかわせないほど攻撃すればいい、なんてな……!」

槍使い「次はこっちの番……」ジャキッ


用心棒「うおおおおお」ダダダダダ


槍使い「な!?アイツ逃げやがった!?」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:23:56.04 ID:Vx89296x0

槍使い(あれほどの戦闘力を持ちながら……逃げるだと?)

槍使い(どこまでも安易な……いや……なめているのか?私を?)

槍使い(私を……私を……オレを馬鹿にしてるってのかッ!)

槍使い「……ふ」

槍使い「ふざけんなゴミが――ッ!」

槍使い「槍の射程内だ!その無防備な背中にぶち込んでやる!」ジャキッ


用心棒「出てこい!木の陰から!」ガシッ ズルッ

部下丁「わっ!?ば、ばれて……!?」スラッ

用心棒「当たり前だ!オラァ!」バシッ

部下丁「ひいい――っ!」カランッ

用心棒「行け!」ゲシッ


槍使い「チッ……」ヒョイッ

部下丁「うわあっ!」ドタッ

槍使い「何をやっていやがる、役立たずめ!」

部下丁「た、た、た、大変なんです!砲台が!砲台班が全滅です!」

部下丁「私は命からがら逃げて、槍使いさんに合流するためにここまで来たのですが……」

部下丁「戦闘中で割り込めなくて隠れていたらあんなことに……」

槍使い「砲台班が全滅……?増援をよこしたのに……」

槍使い「チッ、奴の相棒も手練ってのか?オレの想定外だってか?」

槍使い「どこまでもオレをコケにしやがって……」

槍使い「――!」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:24:22.83 ID:Vx89296x0

用心棒「刀を返すぞ!」ブンッ

槍使い「よけろボンクラ!」バッ

部下丁「ひいっ!」ドタッ

 ビューンッ

部下丁「あ、ありがとうございますっ」

槍使い「なに、大事な盾だからな」ガシッ

部下丁「はっ?」

用心棒「こいつはおまけだ!」ドゴオンッ

槍使い「それも視えてる!」グイッ

部下丁「や、槍使いさ――グハッ!」バスッ

部下丁「」ガクッ


用心棒「チッ、便利な目だ……!」ダッ

槍使い「逃がさん……絶対に逃がさんぞ……!」ダッ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/09(土) 22:26:32.46 ID:Vx89296x0
短いですが今日はここまで
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/10(日) 13:27:33.44 ID:UXH0gM6/o
まってたぞ
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/10(日) 16:36:40.62 ID:KJkx82pM0
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:01:00.18 ID:zaCv112a0


 シュザザザザ…

用心棒(チッ、道が崖でドン詰まりになってやがる……回り込んで崖をよけるか)ダダダ

用心棒(しかし……さっきのひと悶着で少し引き離せただろう)ダダダ

用心棒(そうだ、この隙に弾倉を交換しなければ……)カシャッ

<ビューンッ

用心棒「っ!?」サッ

 ズバッ

用心棒「ぐうっ!」

用心棒(くそっ、左腕が……奴の『槍』か!)

用心棒(弾倉交換のために少し速度を緩めたところを狙われたか……)

用心棒(しかし何故だ!?奴は俺の後方に居たはずだ、何故左から槍が……!)

用心棒「――!そこかッ!」ドゴオンッ

 チュイーンッ

槍使い「当たらねえな、そんな攻撃は」ザッ

用心棒「……貴様……」

槍使い「『どうやってそこに移動した』と聞きたいんだろう?」

用心棒「!」

槍使い「……フフフフ、ウッフフフ……誰が手前に教えるかよ!」

用心棒「……」ジャキッ

槍使い「おーおー、勇ましいな。だが手前は間抜けだぜ」

槍使い「逃げ続ければ良かったものを、動揺して無駄な攻撃を試みた結果……槍の射程内から逃れられていないッ!」

用心棒(……!し、しまった!)

槍使い「そしてこれからは二度と逃さない!槍を喰らえ!」ブンッ

用心棒「チッ……!」

用心棒(……むっ?槍の穂先の速さが……宿屋の跡地で対峙していたときより、落ちている?)

用心棒「これなら……撃ち落とせる!」ドゴオンッ!

 カキインッ!

 ガシャッ

槍使い「くっ、小癪な……」ジャラジャラ
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:02:28.47 ID:zaCv112a0

槍使い「――!……これならどうだ!」ビュンッ!

用心棒(近くの木を狙っている?また倒木を引き起こす気か……だが、遅い)

用心棒(――そうか、わかったぞ)

用心棒(奴は、俺がよけたあの崖を飛び降りてきやがったんだ。だから先を行く俺に追いつけた)

用心棒(そのとき足を痛めたせいで、槍を振るとき十分踏み込めず、その結果攻撃が遅くなっているんだ)

 バギャッ

 メキメキメキ…

用心棒(倒木の当たらないところに移動しよう)サッ

用心棒(そして奴に反撃を――)ジャキッ


用心棒「――ハッ!?あいつはどこに行った!?」


槍使い「手前の後ろだッ!喰らえ!」ブンッ

用心棒「ぐはっ!?」ポロッ

用心棒(うっ、短銃が!)バッ

槍使い「取らせん!」ビュンッ

用心棒「ぐふぅっ」ドタッ

用心棒(し、しまった……俺が倒木に気を取られるのを視ていやがったな!)

用心棒(その隙に後ろへ回り込み、槍の柄で攻撃してきたのか!)

槍使い(穂先を回収……)ジャラジャラ

用心棒(――はっ!槍使いの後ろの、木の陰に……!)


相棒「……」コソッ

用心棒(やっと……合流できた!)

用心棒(俺が槍使いから逃げたのは、砲台の敵を排除して戻る相棒といち早く合流するためだったんだ!)

相棒「……」チャキッ

用心棒(槍使いはこれから俺にとどめを刺すため、槍を振りかぶるだろうが……)

用心棒(その瞬間、すなわち隙が生じた瞬間、相棒が後ろから短刀を投げて奴の心の臓を突き通す!)


槍使い「――!……」

槍使い「……さて……これでとどめだッ!」グッ

用心棒(今だ相棒!)

相棒「ッ!」ビュンッ
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:03:49.98 ID:zaCv112a0

 カキインッ!

用心棒「……!?」

相棒「……!?」

槍使い「……」

用心棒(ば……馬鹿な!)

用心棒(槍使いがッ!槍を振りかぶると見せかけて、飛んでくる短刀を叩き落としやがったッ!)


槍使い「フッ……フハハハ……ハーッハッハッハァ!」

槍使い「全部視えてんだよクソボケどもがあああッ!」

用心棒「ぐ……!」

相棒「……!」ゴソリ チャキッ


槍使い「雑魚が一匹増えたところで何も変わらねえよ……転がる死体が一つ増えるだけだ」

槍使い「さて……順番は、用心棒からかな?」チャキッ

相棒「ッ……!」ダッ

槍使い「手前はおとなしくしてろッ!」ポイッ

相棒「!」

 ドガアンッ!

用心棒「あ、相棒――ッ!」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:05:06.74 ID:zaCv112a0

槍使い「おいおい!向こうを気にしてる暇があるのか用心棒?」チャキッ

用心棒「ぐッ……!」

槍使い「ヒッハッハッハッハ!そう睨むなよ、できるだけ苦しんで死ねるように取り計らってやるから――」

 ピシッ

槍使い「――あ?」

用心棒(……地割れ?)

 ピシッ ピシピシッ ピシッ ピシッ

 ズズズズズズズズズ… グラグラグラグラ

槍使い「おっ?うおおっ?」

槍使い「な、な、な、な、な、何だこれは――っ!?こんなの視えなかったぞッ!?」

用心棒(地震!?……いや、違う!)

用心棒(『土砂崩れ』だ!今いる場所は、崖の上だったんだ!)

用心棒(この前の雪で土が緩んでいたから、爆発の衝撃で崖が崩れ始めたんだ……!)

用心棒(好機ッ!この隙に短銃を手に入れる!)ダッ

槍使い「――!させるか!槍を喰ら――」グッ

 ミシミシミシ グラグラグラ

槍使い「うおっ!?」スポッ

 ガキッ

槍使い(しまった!足元が揺れて狙いが狂って――槍の穂先が木に突き刺さっちまった!)

槍使い「ぬ、抜けない……!」グッグッ

用心棒(もう少し!もう少しで短銃に手が届く――)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:06:27.42 ID:zaCv112a0

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 ガラガラガラガラガラッ

用心棒「うおっ!」ドタッ

用心棒(や、やばいぞ!地面が傾いて……!)

 ゴゴゴゴゴゴガガガガガガッ

槍使い「お、落ちる――ッ!」ズルッ

用心棒「うおあああ!?」ズルッ

槍使い(――ハッ!槍が!木に突き刺さった槍が手がかりになってくれているッ!)プラーンッ

槍使い(用心棒!滑ってこい、こっちに!槍は使えないが、爆弾で爆殺してやる!)ゴソッ

槍使い(――!)

用心棒(ま、まずい!このまま槍使いのほうに落ちていくと爆弾の餌食だ!)ズルズル

用心棒(何かに捕まらなければ!くそっ、手がかりが無い――)ズルーッ

 ガシッ

用心棒「!?お、お前は――」

相棒「……」ギュッ

用心棒「相棒――ッ!」

槍使い(くそっ!やはり生きていた――さっきの爆弾を紙一重でよけていやがったな!)

槍使い(視えてはいたが、崖からぶら下がっているこの状況では対応できん……!)

 グワン ガラララッ ズズズズズ

相棒「あ」ズルッ

用心棒「おい」ズルッ

槍使い(来たッ!傾斜が酷くなって、奴らこっちに落ちてきやがった!)

槍使い(あと六尺落ちてこい!そうすれば投げた爆弾が届く!)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:08:19.30 ID:zaCv112a0

用心棒(踏ん張るッ!ぐぐぐぐぐ)ズザザッ

相棒「……」ズルーッ ゴソゴソ

槍使い(あと四尺!……――!)


用心棒(ダメだ!傾斜がきつすぎる!)ズザザッ

相棒「フンッ!」ズルーッ ビュンッ

槍使い「また短刀を――だが、視えているぞッ!」ピシッ

用心棒(し、真剣白羽取り!)ズルーッ

相棒(……もう打つ手は……!)ズルーッ

槍使い(あと二尺!……――!)


 ヒュウーッ

用心棒「!落ちてきた!短銃がッ!」パシッ

用心棒「喰らいやがれ槍使い――ッ!」ドゴオンッ ドゴオンッ ドゴオンッ

槍使い(視えていた!視えていたが――避けられん!この姿勢では!)

槍使い(俺の――俺の取るべき行動は――最も生き残る可能性の高い方法は――!?)


槍使い「これだ――っ!南無三!」ピョーンッ

用心棒「何ッ!?」

用心棒(崖から飛び降りた!?何て奴だ!)

用心棒(――だが、後から落ちてくる土砂に生き埋めにされてお陀仏は確実……)

用心棒(俺の勝ちだ、槍使い!)


用心棒「俺たちまで落ちてはたまらん!奴の槍に掴まれ!」ズルルーッ パシッ

相棒「はっ」パシッ


 ガラガラガラ……

 ズズンッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 ……

 ……


用心棒「……ひゅう……」プラーンッ

相棒「……」プラーンッ
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:10:03.47 ID:zaCv112a0


 付近の山中


闇商人「……終わったようだな」

忍「熾烈な戦いになったようですな」

闇商人「ああ……偶然に味方されて用心棒が勝ったものの、油商人四天王は強者ぞろいのようだ……」

闇商人「残り二人はおそらく槍使いよりも強いのだろう……用心棒は勝てんだろうな」

忍「……では」

闇商人「……」

闇商人「俺は油商人につくことにする」

忍「……はっ」


闇商人「……用心棒と相棒の姿が消えた。土砂崩れの跡へ行くぞ」

忍「槍使いを探すのですか」

闇商人「ああ。四天王の一人である奴を救助したとなれば、俺は油商人から信頼されるに違いない」

闇商人「まあ、槍使いが生きていればの話だが……さあ、行くぞ」

忍「御意」

 ザッ ザッ ザッ ザッ……
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/12(火) 23:10:42.44 ID:zaCv112a0
今日はここまで
地の文は入れたほうがいいでしょうか?
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 00:03:44.90 ID:O0EsQoapo
ここまで説明するなら使った方がスッキリすると思うけど
向き不向きもあるし入れたら入れたでどれ位入れるかも難しいからねぇ
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/16(土) 10:22:17.95 ID:XgxsD8UaO
俺は地の文ないままでも楽しんでるぜ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 08:44:38.15 ID:zvADAokLO
土砂崩れの描写は、よく台本形式で書いたなと感心
引き込まれたよ

しかし>>51でやられる悪役のフラグ立ちすぎでワロタ
次鋒とか言ってる時点で負ける気マンマンじゃねーかwww

ま、時代劇だとそれくらいベタな悪役のが良いかー
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/19(火) 00:53:42.75 ID:+ArWUsz1O
面白いのにコメ少ないな

相棒たんカワユス
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:23:50.23 ID:JSF4qZgp0


 隠れ家


少年「……」ハラハラ

少年「……」ソワソワ

少年「!」スック

少年「……」ストン

少年「……」ハラハラ


<…パカラ パカラ パカラ


少年「!」スック

少年「……!」ソワソワ


 パカラ パカラ パカラ…>


少年「……?……?」オロオロ

少年「……」ストン


少年「……」ソワソワ

少年「……」キョロキョロ

少年「!」スック

少年「……」スタスタ

少年「……」ゴトゴト

少年「……」ガサガサ

少年「……」ギュッギュッ


<…パカラ パカラ パカラ パカラ


少年「!」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:24:39.72 ID:JSF4qZgp0


用心棒「居るか坊主ゥ!」ガラッ

相棒「生きてるか坊主」


少年「ああっ!用心棒さん!相棒さん!よくご無事で……!」

用心棒「は、は、は。俺にかかれば槍使いでさえも……」

用心棒「……何で蓑なんか着てるんだ?」

少年「あ、これは……手持ち無沙汰で、何となく……」

用心棒「……お、おう」


 ガパッ

用心棒「よーし、闇商人はちゃんと食料も用意しておいてくれたな」

少年「何で床下に食料保管庫が?」

用心棒「さあな。あいつの用意する家ってのは大概床下に仕掛けがあるんだよな……たぶん闇商人の趣味じゃないか」

少年「ふうん……変わった趣味ですねぇ」

用心棒(……これでとりあえず、食料の不安はないが)

用心棒(――弾薬が残り少ないな……剣士と槍使いに散々使わされてしまったからな……)

用心棒(隠れ家を出て調達するわけにもいかん……どうしたものか……)


少年(……用心棒さんは何だか難しそうな顔をして考え込んでしまったな)

少年(そういえば、相棒さんは……)クルッ

相棒「……」キョロキョロ

少年「?どうされました?」

相棒「……風呂……」

少年「お風呂ですか?」

少年(改めて見れば相棒さんは、至近距離で爆裂弾が爆発したかのようにススだらけだった)

少年「向こうにありましたよ。この廊下の突き当たりに」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:25:30.19 ID:JSF4qZgp0

相棒「……用心棒」スッ

用心棒「……ん?」

用心棒「……ああ。おうよ……勝ったほうが薪割り、負けたほうが水汲みだ」スッ

二人「じゃーんけーん……」

少年「あ!お風呂の準備なら出来てますよ」

用心棒「ほう?よく気が回るやつだな!」

少年「……手持ち無沙汰で」

用心棒「……お、おう」

相棒「……坊主」

少年「はい!沸かすのもやります、少しだけお待ちを!」ダッ

 ガラッ ピシャリ


相棒「……」

相棒「……手ぬぐいは……」キョロキョロ

相棒「!」ヒョイッ

用心棒「ん?どうした?……おい、それは」

相棒「坊主に持たせた……洋式短銃」

用心棒「……俺たちが帰ってきたとはいえ、暴発すりゃ人死が出る凶器を置きっぱなしにして行くとは」

用心棒「あの坊主……気が回るんだか、そそっかしいんだか……」

用心棒「なんにせよ俺たちみたいな仕事は向いてないな」

相棒「……全く」

用心棒「……短銃なんて持たせておいて大丈夫なのか?」

相棒「……」

相棒「……護身用」

用心棒「まあ、そうだが……」


用心棒(……おっと。馬と荷車を外に置きっ放しだった)

用心棒(油商人の追っ手に見つからないとも限らん。裏手の厩に移動しておかなければ……)

用心棒「馬を移動してくる」

相棒「ん」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:25:59.39 ID:JSF4qZgp0

 ガラッ ピシャリ

用心棒(しかし、寒いな……このあたりはまだ雪が融けていないのか)

用心棒(考えてみれば、あの馬も悪運が強いな。あの砲撃の中でも無傷だった)スボッ スボッ

用心棒(おかげで箪笥を捨てずに済んだ……)スボッ スボッ


用心棒(……?)スボッ…

用心棒(何だ……馬の近くに……人影が……)

用心棒「……!?」


覆面の男「……」

覆面の男「……おや、用心棒」


用心棒「……貴方は……何故、ここに」


覆面の男「……全く、無用心が過ぎるな」

覆面の男「これこれこういうものが借りた、ということが知れ渡っている馬を繋いでおけば」

覆面の男「これこれこういうものはその近くにいる、ということは猿でもわかる……」

覆面の男「……さて。勉強代として茶の一杯でもいただけるかな」

覆面の男「手土産は持ってきたのでね……」


用心棒(そういえば……覆面の男は、大きな袋を背負っている。あれが手土産なのだろう)

用心棒(……それよりも)


用心棒(――何故この男は、俺がこの街道沿いに居るとわかったんだ……?)

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:27:53.83 ID:JSF4qZgp0


 同時刻 江戸

 油商人の館


油商人「や、や、や、槍使いまでも敗れ去るとは……虎の子の大筒も持たせたにも関わらず!」

油商人「用心棒とは一体どれほどの実力を持っているというのだ……!」

油商人「恐ろ……いや!いやあ!恐ろしくはない!まずいんだ!まずいだけだ!」

油商人「そうだ、まずい、まずい、まずいんだ!私は死にたくない……もとい……死んではならない人間だ、この国にとって!」

油商人「武士!館の防備は十分なのか?固めろガチガチに!死んでからではどうにもならん!」

武士「落ち着いてくだされ油商人殿……」

武士(チッ……面倒くせえなあ……)ボリボリ

武士(こういうとき剣士がいると押し付けやすかったんだが……今この場にいるのは……)チラッ

大男「ああー……うう」

武士(……こいつではなあ……)


武士「聞くところによると、用心棒が槍使いに勝利したのは単に偶然が味方したためのようです。何ら恐れることは……」

油商人「何だ!?何を言っているお前は!?」

油商人「お前は江戸から動いていないではないか、戦いの顛末などわかるものか!」

油商人「私にとりいりたいのか騙したいのか知らんが出鱈目を言うんじゃあないッ!」ブンッ

武士(!ボケが、香炉を……)ゴソッ

 ドキューンッ

 バキーンッ ゴトッ ゴロロ…

油商人「ひいっ!?き、きさま、短銃を……まさか……きさま……」ブルブル

武士「……落ち着いてくだされ油商人殿」

武士「父上が朱印船貿易で手に入れたとかいう、『まにら』の煙草でもお吸いになったらいかがです」

油商人「『まにら』の煙草……?」ブルブル
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:28:33.07 ID:JSF4qZgp0

油商人「……」ブルブル ゴソゴソ

油商人「……」ブルブル スパーッ

油商人「……」スパーッ

油商人「……」スパーッ

油商人「……」コトッ

油商人「……ふ」

油商人「ふふふふふ……ははははは」

油商人「すまんな武士よ。私ともあろうものが何を取り乱していたのか……」

武士(……あの煙草、何が入ってるんだろうか)


油商人「にして……武士よ……何故貴様が用心棒と槍使いの戦いについて知っているのか……」

武士「全てを見ていた『協力者』から文が届いたからです油商人殿」

油商人「『協力者』……とな?」

武士「はい。文にて、用心棒の抹殺に関して油商人殿に協力したいと申し出た男にございます……『闇商人』と名乗っておりました」

武士「現在用心棒が身を隠している隠れ家を用意した男らしく」

油商人「ほう……」

武士「現在相模からこの屋敷へ向かっているそうです」

武士「到着次第、隠れ家の位置と用心棒に関する情報、『とっておきの襲撃手段』を油商人様に全てお伝えするほか、襲撃にも自分の部下を加勢させるとのことです」

油商人「……ふむ。隠れ家の位置に……『とっておきの襲撃手段』……」

油商人「それにしても、隠れ家を用意しておきながらこちらに協力するとはなかなか良い根性をしているな」

武士(そういう話を世間話でもするような顔でできるあんたも大概だけどな……)

油商人「まあ……協力の申し出を受けることに損はあるまい。返事は?」

武士「そう仰ると思い、既に返事を出してございます」

油商人「良い良い……ふっふっふ……その協力者から情報を聞き出し次第、隠れ家の襲撃を決行するとしよう」

油商人「襲撃の音頭は大男、お前にとってもらう……存分に刀を磨いておくのだぞ」

大男「う……」

大男「……」


大男「御意」

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/07/28(木) 01:29:02.73 ID:JSF4qZgp0
今日はここまで
地の文は無しでいきます
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/28(木) 08:22:32.63 ID:tXQ+bLl7O
待ってた
乙りんちょ
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/29(金) 18:14:46.78 ID:YTf0iuRao
キェァァァァシャベッタァァァァァ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/28(日) 13:58:29.17 ID:SvyB9sBB0


 ホーッホーッ ホッホーッ

 ホーッホーッ ホッホーッ……


少年「……」

少年「……」

少年「……」パチリ


少年「……」ムクリ

少年「……」

少年「……」キョロキョロ


用心棒「グゴゴゴゴ……グゴゴゴゴ……」

相棒「……ワガダンゴケンハムテキ……ムニャムニャ」


少年(……癖で、早く起きてしまった)

少年(毎朝、父上に剣を教えてもらっていたから……)

少年「……」

少年(いかん、いかん、こんな弱気では!)フルフル

少年(……顔を洗おう)スック

少年(水は土間の瓶にあるけど……桶と手ぬぐいは……あ、あった)パシッ

少年(うう……寒い……)スタスタ


 ガサゴソ スタスタ

 カタッ…ザパッ バシャバシャ バシャバシャ ビシャッ…カタン


少年「つ、冷たい……目が覚めたぞ……!」ブルリ

少年(しかし……あまりにも寒すぎるような。昨日は囲炉裏の火をずっと燃やしていたのに……)ゴシゴシ

少年(……隠れ家のどこかに大穴でも空いてるんじゃあないか?)キョロキョロ

少年(……ないか)


少年(ひょっとして、昨晩僕が寝た後に雪が降ったんだろうか?)

少年(少し外の様子を見てみよう……)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/28(日) 13:59:02.50 ID:SvyB9sBB0


 ホーッホーッ ホッホーッ

 ホーッホーッ ホッホーッ…

 ガラッ  バササササ…>


少年(寒い……けれど、新しく積もった様子はないな……)

少年(なぜ隠れ家の中はあんなに寒かったんだろうか……?)

少年(……気のせいかな)


少年「……」

少年「……」クルッ


<グゴゴゴゴ… グゴゴゴゴ…


少年「……」

少年「……」キョロキョロ…

少年(……おや)

少年(雪の重さで折れたのか、太い木の枝が落ちている……ちょうど、打刀ほどの長さだ)


用心棒『たかが棒、されど棒……』


少年「……」

少年「……」


 スボッ スボッ スボッ ヒョイッ


少年「……」グッ


少年「フンッ!」ブンッ


少年「フンッ!」ブンッ


少年「フンッ!」ブンッ



97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/28(日) 13:59:46.38 ID:SvyB9sBB0
今日はここまで
たった2レスですが生存報告も兼ねて
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 17:30:55.36 ID:3HEetugtO
オツリヌス
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/25(日) 14:03:17.87 ID:LS1aj/Lk0
>>1です。ちょっと投下ができそうにないので、生存報告だけさせていただきます。
完結させることが目標なのですが……ままならぬものです。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/09(日) 16:11:02.95 ID:L2WaXWO80


少年「はあ……はあ……」

少年(少し休憩しよう……どこか座るところは……)キョロキョロ

少年(おや、戸口の近くに岩が雪から突き出しているぞ……雪の下には庭があるんだろうか)

少年(何にせよ丁度いい、あそこに腰掛けよう)


少年「……ふう」

少年「……」

少年(雪の上には、ついさっきの僕のもののほかに幾筋かの足跡が伸びている)

少年(そのうちのほとんどは僕と用心棒さん、相棒さんのものだが……二筋だけは違う)

少年(それは……あの得体の知れない覆面の男が往復したときのものだ……)

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/09(日) 16:11:38.38 ID:L2WaXWO80


 昨晩


 スボッ スボッ スボッ…
  スボッ スボッ スボッ…

覆面の男『ほう……なかなか立派な隠れ家をお持ちだな……』

用心棒『しばしここでお待ちいただきたい』

覆面の男『……』

用心棒『……?……』

 スボッ スボッ…


 ガラッ サッ ピシャリ

用心棒『相棒』ボソッ

相棒『!』ガシッ

少年『え?何がモガモガ』

相棒『来い』ヒソヒソ

 ズルズル…

 ピシャリ
 ガラッ!

覆面の男『失礼する』ダッ!

用心棒『!?』

相棒『!』

覆面の男『……』キョロキョロ

覆面の男『……』

覆面の男『中の造りも……ご立派だな』

相棒(坊主は……見られなかっただろうな……)
228.74 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)