姫王子「黒翼のハルピュイア娘……」青花エルフ「王子、姫になる」

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256 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/09(木) 01:38:01.68 ID:mo3+d4zdo


黒僧侶 「だ……だから反対なのだ、ぼくは……!」


黒王子 「鏡の魔女どの」

黒王子 「我々の船にお乗りいただきたい」


鏡の魔女 「わらわは誰の言いなりにもならぬ」

鏡の魔女 「わらわのすべては、わらわの気分しだい」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「ふふ……さて、どうしてくれようか……」

鏡の魔女 「のう?」


骨頭の竜 「…………」


黒僧侶 「うう、なんと恐ろしい」

黒僧侶 「血のようにべったりとした黒い皮膚に、骨の頭とは」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「……ほほ、そうだな」

鏡の魔女 「酷というものよ」

鏡の魔女 「何の力もない者に、あれこれと言いつけても」


黒王子 「…………」

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/09(木) 09:36:58.62 ID:CKP0rjK9O
更新キター
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/09(木) 19:15:51.55 ID:aiyLDSzL0
はよ嫁エルフはよ
259 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/11(土) 02:46:58.03 ID:3Xu7lc8Co




鏡の魔女たち 「ほほほ……」



パリン ガシャン


ク魔エビ娘 「……! 魔女の分身たちが砕け散った……」


悪魔紳士 「さあて? お次は何でしょうな。また骨が立ち上がるのですかな」

悪魔紳士 「たとえばこの……役立たずの鳥の骨とか」


魔カロニペンギンの頭蓋骨


悪魔紳士 「悪趣味なショウを見ているようで、少し楽しみになってまいりましたよ」

悪魔紳士 「ねえ?」


カタ カタ カタ カタ


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「失礼、お嬢さんには悪い冗談でしたかな」


淫魔幼女 「おれはおと……」



パリン ガシャン

ガシャン パリン

サララ



鏡の魔女 「……良いだろう」

鏡の魔女 「そなたの船に乗ってやろう」

鏡の魔女 「空を行く竜の背に比べ、劣るであろうが」

鏡の魔女 「これ以上、無能な犬をいじめるようなことをしては、心が痛む」

鏡の魔女 「せいぜい、わらわを退屈させぬよう心がけよ」


黒僧侶 「何という態度。おお神よ、この高慢ちきの魔女に白姫の謙虚さの欠片でもお恵みくださいますよう……」


ボソ


黒王子 「魔女どのを退屈させぬなど「身に過ぎる大任ではありましょうが、尽力いたします」

黒王子 「大切にもてなすよう、領主からも言いつかっておりますので」


鏡の魔女 「ほほ……つまらぬ男よ」



260 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 03:02:30.46 ID:3Xu7lc8Co



鏡の魔女 「では、そうだな……おお、そうであった」

鏡の魔女 「さっそく、そなたに頼みたいことがある」


黒王子 「私にできることであれば」


鏡の魔女 「今宵は、わらわの可愛い竜たちが大勢殺されてしまった」

鏡の魔女 「灰にして弔ってやりたいので、骨を集めてもらいたいのだが……」


黒僧侶 「なんと! 骨を拾う!」

黒僧侶 「この船に乗る、いかめしい方々の視線に刺されながら!」


黒王子 「分かりました。さっそくこの船の者に話を……」


鏡の魔女 「ほほ……そう急ぐでないよ、まだ話の途中だ」

鏡の魔女 「……一匹、どうしても見つからぬ」

鏡の魔女 「先ほど、海の中に入ったのだが……どこにいったのやら」

鏡の魔女 「のう? ほほほ……」


261 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 03:19:54.07 ID:3Xu7lc8Co


黒王子 「……先に骨を集めましょう」

黒王子 「その間に出てくるかもしれません」


鏡の魔女 「だめだ」

鏡の魔女 「そうであってほしくはないが、死んでおるやもしれん」


黒王子 「…………」


ガサ ゴソ


黒僧侶 「何をされているのですか、黒王子!」


黒王子 「靴は邪魔になる」


黒僧侶 「海に飛び込むおつもりか!」

黒僧侶 「明けぬ海などという邪悪な時に飛び込むなど、愚かに過ぎますぞ!」

黒僧侶 「神もそのような者に慈悲をおかけくださらない!」


黒王子 「承知の上だ」

黒王子 「強い錆び止めの魔法を付与した武器を持ってくればよかったか……」


黒僧侶 「……!」


鏡の魔女 「ほほ……、ちゃんと連れ帰ってくるのだぞ。死体であっても」


黒僧侶 「ふざけるな!」

黒僧侶 「生きたドラゴンを、調教した馬のように連れて帰れと!?」

黒僧侶 「それに浮かんでこない死体を探せとはつまり、海の底で死ねということではないか!」


262 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 03:33:44.79 ID:3Xu7lc8Co


鏡の魔女 「できぬと申すか?」

鏡の魔女 「であれば、わらわは退屈のあまりあの船を沈めることになろうな」


黒僧侶 「そんなこと……」


鏡の魔女 「試してみるか?」


黒僧侶 「ぐっ……」


ト ト ト


??? 「あまり、我々の船で好き勝手をしないでほしいね」

ク魔エビ娘 「このトカゲたちの骨を片付けてくれるっていうなら、仕事が減って大助かりだが」


黒王子 「……この船の方々か」


魔ーレラ 「船長は不在じゃがな」


黒王子 「申し訳ない。我々の事情に巻き込んでしまいました」


鏡の魔女 「ほほ……」


ク魔エビ娘 「どこぞの高貴なお方の、申し訳ないの一つで済むものかね」

ク魔エビ娘 「散らばったトカゲの骨を丸ごとお金にかえたって、埋められやしないところだよ」


黒僧侶 「おお、神よ! この海にはなんと、愚か者の多いことか!」

黒僧侶 「黒王子はわざわざ、襲われているお前たちのために……!」


黒王子 「黒僧侶どの」


魔ーレラ 「ク魔、少しお黙り」

魔ーレラ 「やっと嵐が過ぎようというんだ」



263 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 04:10:46.50 ID:3Xu7lc8Co


魔ーレラ 「海の中を探すのは我々の方が得意じゃ」

魔ーレラ 「あの男も海の中じゃし、探すのは……」


鏡の魔女 「わらわは、この男に探せと言ったのだ」


ク魔エビ娘 「死ねの間違いじゃないかな」

ク魔エビ娘 「陸の生き物に海で探し物をしろってのは」


黒王子 「海に囲まれて育ちました。陸と同じことです」


ガサ ゴソ


ク魔エビ娘 「勇ましいことで……」



264 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 04:25:25.34 ID:3Xu7lc8Co


姫王子 「おいおい……海に飛び込むつもりか」


馬車幽霊 「さすがは、王子どのの知り合いでらっしゃる」


姫王子 「どういう意味かな、馬車幽霊どの」


貝殻の勇者 「は、ハレンチです、男性とはいえ船の上で服を脱ぎ胸をさらすなど……!」


姫王子 「うーむ、あの鍛え方は」

姫王子 「剣だけを振っているわけではなさそうだぞ」


ヒタ


??? 「だが、飛び込んでもらうわけにはいかんな」

ロブスター 「おれの船に不吉がついてしまう」


姫王子 「マスター・ロブ!」

姫王子 (手に剣の欠片のようなものを持っている)


貝殻の勇者 「ご無事でしたか」


ロブスター 「海の男は女性の心配を無駄にすることなどしないのさ、美しいお嬢さんがた」


姫王子 「ドラゴンに一人で立ち向かうなんて無茶をその髭むしって焼いて良いか今なら塩味も効いて良い味を出すだろう」


ロブスター 「はっは、ぜひ風呂場で願いたいものだ」






265 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/11(土) 05:01:50.60 ID:3Xu7lc8Co


ガサ ゴソ


黒王子 「……では、ドラゴン探しに向かいます」

黒王子 「黒僧侶どの、甲板の方はお願いする」


黒僧侶 「ぼく一人で!? いえ、そうではなく、はやくそこから降りるのです、黒王子!」


??? 「そこの黒い坊さんの言う通りだ」

ロブスター 「ドラゴンを探しに海へ飛び込む必要なんざない」


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


黒僧侶 「おお……! 話の分かりそうなのがきた! 神よ感謝します」


黒王子 「あなたがたは……」


ロブスター 「おれはこの船の船長をしている」

ロブスター 「人は、キャプテン・ロブスターと呼ぶ」

ロブスター 「オ、魔ール……」


魔ーレラ 「やっと戻ってきおったか。船をほっぽり出しよって」


ロブスター 「優秀な船員たちがいる」

ロブスター 「さて、南東の貴きご子息よ、そこから降りていただけないか」

ロブスター 「そこは手を乗せる場所であって、素足で踏む床ではない」


黒王子 「お許しいただきたい。海中に消えたドラゴンを探さねばならないのです」


ロブスター 「で、あれば、なおさらだ」

ロブスター 「そのドラゴンはここにいる」


姫王子 「…………」


黒王子 「……? そちらの女性が何か……」


姫王子 (殺すぞ)

姫王子 「ああ、いや……」


ハーピィ 「…………」


黒僧侶 「まさか、その娘どもがドラゴンだと言うのか!」

黒僧侶 「ドラゴンが魔法で人の姿になって人を騙す話を読んだことがあるが……ううむ、たしかにこの二人、美しいがどこか野蛮な野生の気配がしますぞ」

黒僧侶 「そちらの黒い髪の娘など着ている服も破れていろいろはみ出……ゴクリ……コホン!」

黒僧侶 「むむう、その娘がドラゴンなのか!」

黒僧侶 「その娘が!」


姫王子 (殺すぞ)


266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 09:12:53.15 ID:pZj0B7Epo
いろいろはみ出てる格好は平常運転だから
逆に露出の少ない可愛い絵きぼんぬ
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 03:14:46.06 ID:T40TQ0j60
待ち
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 00:56:23.90 ID:OqQcl6Al0
まだかー
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 05:29:50.89 ID:f+nBWxL0O
まとめて更新の方が嬉しいが
270 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/10(水) 23:51:12.22 ID:VtxZdKfEo


姫王子 (とは言え、おれもよく事情が分からない)

姫王子 (何となく想像はつくが、指示されたとおりにしてみよう)

姫王子 「これをご覧いただきたい」




何かの欠片


黒王子 「これは……武器の欠片のようですが」


黒僧侶 「いいや、おそらく鏡の欠片では」

黒僧侶 「触ってはなりませんぞ、黒王子どの」

黒僧侶 「触ると呪われる悪魔の道具かもしれない」


姫王子 「なんだと」


黒王子 「鏡……」


鏡の魔女 「…………」

271 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 01:49:51.33 ID:/XiVbkcLo


ロブスター 「さて、鏡の欠片か割れた眼鏡かは分からないが」

ロブスター 「それが、おれが先ほどまで海中で戦っていた竜の成れの果てだ」

ロブスター 「思い切りきりつけたら、そんなものになっちまった」


黒王子 「この欠片が竜の……」


黒僧侶 「馬鹿な、鏡が竜になるなど」


ロブスター 「そう、馬鹿な話だ」

ロブスター 「この船丸ごと、魔女の鏡遊びに付き合わされていたということだ」

ロブスター 「やれやれ、竜退治の自慢話ができると思ったら、とんだ笑い話だったわけだ」


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「ううむ……悪名高き鏡の魔女の魔法か」


黒王子 「…………」


姫王子 (この男と話したのはいつ以来か。親父についていったときだから……)

姫王子 (ふむ、もとより暗い男だったが、しばらく見ないうちに一層深刻な顔になっているな)

姫王子 「どうぞ」


黒王子 「いただけるのですか……」


姫王子 (おれだと気づいてないようだ。そりゃそうか。今のおれは髪の伸び散らかった女だ)

姫王子 「海にもぐったきり出てこないドラゴンを探しているのだろ」


黒王子 「…………」


姫王子 (はて、この男はこんなに背が高かったか)

姫王子 (ああ、おれが縮んでいるのか。そういえば、たしかに視界がいつもと違っている)

姫王子 (だとしても、かなり伸びているぞ。肩もがっしりとしている)

姫王子 (おれと変わらないくらいだと思っていたのに……これでは正面きって戦うことはできないな)


黒王子 「…………」


姫王子 「別に呪いのアイテムというわけじゃない」

姫王子 「おれ自身は呪われているようなもんだが。あっはっは……」


黒王子 「…………」


姫王子 (愛想笑いもなしか)


ハーピィ 「…………」


272 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 01:58:48.62 ID:/XiVbkcLo



黒王子 「…………」


黒僧侶 「受け取ってはなりませんぞ、黒王子」


姫王子 「じゃあ、素っ裸になって海に飛び込んで探すってのかな。おすすめはしないが」


黒僧侶 「くうう、さっきから、乙女とは思えん言葉づかいだ」


姫王子 (そりゃそうだ。女の見た目になったからと言って、おれは葉巻のようにころころと話しかたをかえたりしない)


黒王子 「……失礼ですが」


姫王子 「うん?」


黒王子 「どこかで、お会いしたことはありませんか」


姫王子 (ふむ……)

273 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 03:13:54.83 ID:/XiVbkcLo


ハーピィ 「…………」


姫王子 「そうやって日ごろ、異性を口説いてらっしゃるのかな」

姫王子 「堅物に見えて、案外……」


黒僧侶 「口をわきまえろ!」

黒僧侶 「黒王子どのが、お前のようなふしだらで汚らわしい格好の女とそのようなことを……」


黒王子 「黒僧侶どの!」


姫王子 (僧侶のくせにひどい言い草だ)


黒王子 「失礼」

黒王子 「私の知る……人物に、あまりに似ていたもので」


姫王子 「どこぞの王子さまにそう言ってもらえるとは光栄だね」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「そうだ。光栄なものか」

姫王子 「さあ、この欠片を受け取って、あなたと親しげなその魔女どのに渡してやっていただけないかな」

姫王子 「あなたからしか受け取りたくないようなので」



274 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 10:27:46.52 ID:/XiVbkcLo


黒王子 「…………」


姫王子 (怪しまれたかな。まさかおれだと気づかれたか)

姫王子 (高貴な人々の前ではこのように振舞っていたおぼえはないが)


黒僧侶 「あんなものをドラゴンなどと言って、騙そうとしているのかも」


黒王子 「このようなときに、そうする理由があるとは思えない」


黒僧侶 「正義を信仰しないものは、理由なく悪を働くものなのです」

黒僧侶 「そもそも……」


黒王子 「……ありがたく、いただきましょう。黒い首巻きのかた」


黒僧侶 「黒王子どの!」


姫王子 「どうぞ」


275 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 10:41:08.37 ID:/XiVbkcLo


姫王子 「気をつけてくれよ」

姫王子 「槍の穂先で無いにせよ、指を切るにはじゅうぶんな物だ」

姫王子 「あなたは手袋をしていないし、万が一何かあったら、そこのお友だちに何をされるか分かったものじゃない」


黒僧侶 「ぼ、私をそのような不埒な輩と一緒にするな!」


黒王子 「お気遣い、感謝します」


姫王子 (相変わらず、疲れる性格をしているようだ)


鏡の魔女 「…………」


姫王子 「ん?」


キイイイ


黒王子 「欠片が」


姫王子 (光りだした……)


黒僧侶 「離れなさい、黒王子どの」

黒僧侶 「やはり罠だったのです!」


姫王子 「いや、違う……」


黒僧侶 「何と言うことだ。どこからか帝国に情報が……」


黒王子 「黒僧侶どの!!!」


黒僧侶 「……っ」

黒僧侶 「と、とにかく、その娼婦のような女から離れるのです!」


姫王子 「ぶん殴るぞエロ坊主」

姫王子 (今度から、この手の話で葉巻をからかうのはやめよう……)


276 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 10:52:07.57 ID:/XiVbkcLo


キイイイイ


姫王子 (魔女のしわざか?)


鏡の魔女 「…………」


キイイイイ



ゴト ガタガタ カタカタ


魔法使い 「甲板に散らばる竜の骨が、いっせいに音をたてて震えだした」


双剣傭兵 「まだ何かあるっていうのか……?」


円魔法使い 「そうだ、ろうそく職人どの!」


線魔法使い 「おお、そうだ! 彼女ならこの奇怪な現象について何か知っているに違いない!」


ろうそく職人 「え?」


戦士たち 「大魔法使いろうそく職人どの」

戦士たち 「これはいったいどういうことなのでしょうか!」


ろうそく職人 「え……ええと……」

ろうそく職人 「コホンッ……」

ろうそく職人 「みなさま、うろたえてはなりません」

ろうそく職人 「まずは何が起きているのか、よおく観察するのです」

ろうそく職人 「さすれば、道はひらけるでしょう」


戦士たち 「おお……!」



277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/11(木) 13:58:13.74 ID:l8wM7JaOO
ろうそく職人の癖に未知のものに対するまともな対応しやがって乙
278 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 16:37:03.94 ID:/XiVbkcLo


カタ カタタタタ

キイイイイ


姫王子 (甲板に散らばる骨が、おれの手の上の欠片と同じように輝きだした)


フヨ バシュン


姫王子 「…………!」


鏡の魔女 「…………」


姫王子 (ふわりと浮いたと思ったら、矢のように魔女のもとへ集まっていく)


キイイイ

カチャカチャカチャ


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「姿見……」


姫王子 (一枚の鏡が、おびただしい数のドラゴンに化けていたのか)

姫王子 (すべて、魔女の手のひらの上か)

姫王子 (これはひょっとすると、先生や葉巻でも太刀打ちできないレベルじゃないのか)


骨頭の竜 「…………」


姫王子 (すべて鏡だったというわけでもないのか)



ザワ ザワ


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「なるほど、まさか鏡の欠片相手に剣をふるっていたとは」

悪魔紳士 「なかなか格好つかない話です」


ペンギンの骨


悪魔紳士 「しかしどうやら、これは本物の骨のようで」

悪魔紳士 「ドラゴンと比べたら落ちますが、貰っておくとしましょうか」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「はっはっは……」


279 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/11(木) 16:49:22.86 ID:/XiVbkcLo


姫王子 (……では、葉巻にとらわれ血肉とされていたドラゴンたちは)

姫王子 (いったい何だったのだろうか)


カチャ カチャ

キイイ


鏡の魔女 「つまらぬ」


黒王子 「…………」


鏡の魔女 「ふん……」


キイイ

ゴオオオ


姫王子 (鏡が一瞬炎に包まれて、炎もろとも消えてしまった)

姫王子 (魔法だとして、ではろうそく職人も、あんなことができるようになるのか?)

姫王子 (だとしたら、おれも魔法を学んでみたいものだが)



ロブスター 「自分で散らかしたものを自分で片付けるとは」

ロブスター 「なかなか行儀の良いことだ」


ク魔エビ娘 「甲板を掃除する手間は省けたけれど」

ク魔エビ娘 「あとに残る、悪い夢を見せられていたような嫌な気分が際立ってしまうね」



280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 20:03:43.01 ID:h++TFUNLO
王子はこのままか
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 01:30:00.55 ID:66M7+b480
いいぞいいぞ
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 03:20:05.72 ID:rFZs/4u10
待ち
283 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/11(火) 10:41:23.20 ID:hQpPvQ77o


ザワ ザワ


魔法使い 「鏡……あの恐ろしいドラゴンどもが鏡だったと言うのか……」


双剣傭兵 「まるで夢を見せられていたようだ」


円魔法使い 「ああ、悪い夢だ」

円魔法使い 「学院中の魔導書の内容はほとんど頭に入れてきたのに」

円魔法使い 「分からないことだらけだ……」


斧傭兵 「夢なものか!」

斧傭兵 「見ろ、この兜のへこみを! 竜の尾を受け止めたときについたものだ」

斧傭兵 「はっきりと残っている!」


狩人 「あんたの兜なんて元々、ばあちゃんちの鍋みたいにベコベコだったろ……」


大槌の傭兵 「受けた傷も残っている。大怪我を負って船内に運び込まれたのも大勢いる」

大槌の傭兵 「その戦いの結末が、こんなもので良いのか」

大槌の傭兵 「いや、良くはない! あの魔女めの頭蓋を叩き潰し船首に掲げるべきだ!」


284 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/11(火) 18:20:46.10 ID:hQpPvQ77o


荒くれ傭兵たち 「魔女を捕えろ! ひん剥け! 引きずりまわして殺せ!」


魔法使いたち 「長引く戦いでもはや魔力は尽き、外の魔力も薄く、結界もガタガタだ」

魔法使いたち 「そして黒い煙。これ以上やれば、被害は計り知れないものとなる」

魔法使いたち 「戦いは終わりにするべきだ」


槍傭兵 「よく考えてみれば、不自由なのは向こうも一緒なんじゃないか? 魔女一人と骨頭の羽つきトカゲ一匹」

槍傭兵 「皆でかかれば、討ち取れたりするかもしれないぞ?」


点魔法使い 「そんな馬鹿な。魔女があれ以上の術を繰り出してこないと?」

点魔法使い 「魔力が弱まったこの場において、こともなげに杖をふるう化物だぞ」


荒くれ傭兵たち 「ええい、臆病者のヒョロもぐらめ!」

荒くれ傭兵たち 「後ろに隠れてブツブツ念じるだけの者どもめ!」

荒くれ傭兵たち 「我らがお前たちの盾となり、どれほどの許しがたい痛みを負ったと思うのだ!」


術士ドワーフ 「鏡の魔女を我々と同じ物のように考えてはいかん」

術士ドワーフ 「あれは白き西日の左。忘れ去られるはずだった影。万年を経て残る英雄の時代のゆらめき」

術士ドワーフ 「もはや自然そのもの。気まぐれに山村を焼き、船を飲み込み、田畑を押し流す」

術士ドワーフ 「あれのもたらした痛みに、今は怒るな。痛みに耐え抜き命があることを、何よりの勝利とするべきだ」


ろうそく職人 「たぬき」


荒くれ傭兵たち 「今さら英雄の時代か!」

荒くれ傭兵たち 「そんなもの、おとぎ話だ」

荒くれ傭兵たち 「老いぼれの臆病者のチビめ、説教なら土の下でやりやがれ!」


半熟魔法使い 「あ、あんたたちだって、さっきまで疲れ果てて尻込みしていたじゃないですか」

半熟魔法使い 「もう忘れたっていうんですか!」


荒くれ傭兵たち 「何をー!」











285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 23:51:28.90 ID:2yCKkpsvO
おわり?
286 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/12(水) 07:39:39.28 ID:dGjxhhC0o


ギャアギャア

ワア ワア



黒王子 「…………」


黒僧侶 「おお、嘆かわしい」

黒僧侶 「黒王子どの、この船には野蛮人しかおりません」

黒僧侶 「さっさと我らが船へ戻りましょう。合図の狼煙を上げますぞ」



狼煙筒(緑)


シュポ ジジジジジ

パチ パチ パチ



貝殻の勇者 「これが、帝国大陸で一番華やかと言われる、南東の狼煙筒ですか」


鏡の魔女 「…………」


黒僧侶 「だからぼくは反対したのだ」

黒僧侶 「よりによって魔女を……なぜに教会はあんな決定を……」


ブツ ブツ グチ グチ

ジジジジジ


黒王子 「黒僧侶どの……!」


黒僧侶 「ブツブツ……え?」


バシュ ジジジ

シュバシュバシュバ


黒僧侶 「うわあああ!? 狼煙筒が……!」


287 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/12(水) 08:01:51.69 ID:dGjxhhC0o


甲板 船首側



ギャア ギャア



姫王子 「なんだろう、また騒がしくなったな」


馬車幽霊 「やはり魔女を討つかどうか、で、もめているようですね」


姫王子 「まだそんな気力があるのか」

姫王子 「ドラゴンや魔女を相手に戦い抜いた自信が、そうさせるのだろうか」

姫王子 「さすがは、ここまで甲板に残った猛者たちか……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「む」



黒い髪飾りの白骨



姫王子 「あったぞ、葉巻の白骨死体だ」

姫王子 「綺麗に残っている」


馬車幽霊 「これで、船中の目をお嬢様の本体からそらすことができるでしょう」


姫王子 「ふうむ、本物の骨のようだ」

姫王子 「……けっこう小柄だな」

姫王子 (仕組みは分からんが、葉巻本来の姿と関係があったりするのかな……)



バシュンッ

ドオン



姫王子 「!?」

姫王子 「何の音だ」


288 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/12(水) 10:51:22.06 ID:dGjxhhC0o


シュゴオオオ


馬車幽霊 「船長どのや小者くさい僧侶どののいるあたりからですね」


王子 「あれは……火花が空へふいているのか? くそっ、また魔女が何か始めたのか」


馬車幽霊 「ふむ……」


シュババババ

バチ バチ

ユラ ユラ


王子 「おい、火花が何か空に模様が現れたぞ」

王子 「まずいんじゃないのか、これは……」


ゴ ゴ ゴ ゴ

ユラ ユラ


光のカーテン


ユラ ユラ


王子 (妖しい光が、薄いカーテンのように船の空を覆って揺れている)


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが光に見とれている)

王子 「馬車幽霊どの、これは魔女の魔法なのか」


馬車幽霊 「おそらく」

馬車幽霊 「どうやら破壊的なものではありません」

馬車幽霊 「威嚇のようなものなのかも」


王子 「まだ戦う力は残っているぞ、ということか……」

289 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/12(水) 11:19:39.96 ID:dGjxhhC0o


馬車幽霊 「もしくは、実は我々が思うほどの余裕がないのかも」


王子 「そうか。うーん……」

王子 「夜明けの空に揺れる光。おぞましくも、幻想的ではあるな……」



ユラ ユラ ユラ



ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、すっかり元通りのようだな)

王子 (良かった、良かった)

王子 「さてと、さっさと骨を回収しておくか……」


クラ


王子 「ううっ?」


グラリ


王子 (世界と頭がグルリと回る。気持ちが悪い)

王子 「ハーピィ、馬車幽霊、まずいぞ、やはり魔女の……」


ハーピィ 「!」


馬車幽霊 「王子どの?」


王子 「魔法……」


ドサッ


王子 (…………)

王子 (…………)

王子 (……)


290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 18:12:46.10 ID:Jmsl2ywXO
大変でごじゃる!エビ茹で姫が倒れたでごじゃる!
291 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/12(水) 21:02:55.17 ID:dGjxhhC0o


…………


???



姫王子 「…………」

姫王子 (……声が聞こえる)




ロブスターの声 「……確かに、君が我々に貸し与えてくれた札が結界を強め」

ロブスターの声 「船に乗り合わせた多くの者の命を救う助けとなったことは認めよう」


淫魔幼女の声 「失礼ながら、船長」

淫魔幼女の声 「今回の魔女襲撃において、あの腐敗の魔法こそが最たる脅威であったのです」

淫魔幼女の声 「あれを防げていなければ、甲板でドラゴンや魔女と戦うことすら出来なかったでしょう」
 



姫王子 (ロブスター船長と……あの不吉な商人か)




悪魔紳士の声 「どうでしょうな。たしかに、小さな商人どののおかげで船は守れたかもしれませんが」

悪魔紳士の声 「しかし、その船が内側から敵の手に落ちていたとしたらどうでしょう」

悪魔紳士の声 「城下を駆けずり回って黒き魔物どもを駆逐した私の働きも、もう少し見直されるべきでは?」


ロブスターの声 「よくも抜け抜けと言えたものだ」

ロブスターの声 「ヤマネコが、自ら放ったネズミを自ら狩るか」


悪魔紳士の声 「はて、次は小エビも良いでしょうな」


魔ーレラの声 「体を壊すぞ」




姫王子 (……ここは、どこなんだ)



292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 17:17:40.53 ID:lAR47DGCO
葉巻早く戻ってきて
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 18:20:31.60 ID:Sc2+J5obO
はよはよ
294 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/07/26(水) 18:44:44.20 ID:hpnOI0Eao



淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「なぜそれほどまでにあの杖を欲するのかな。抜け目のないお嬢さん」


淫魔幼女の声 「……失礼ながら船長、私はお嬢さんではありません」

淫魔幼女の声 「私は旅商人。仕入れのため、秘境や魔境など、危険に飛び込まねばならぬ仕事なのです」

淫魔幼女の声 「そんな場所に、得体の知れない魔法や呪いのたぐいは欠かせぬもの」

淫魔幼女の声 「また、品物が希少なものの場合、他者と争わなければならないこともあります」

淫魔幼女の声 「魔法使いを相手取らねばならないことも少なくはない」

淫魔幼女の声 「あの魔法殺しの杖があれば、どんなに助かることでしょう」


ロブスターの声 「魔法殺しか……」

ロブスターの声 「しかし私としては、うちの小さな乗組員と同じくらい幼なそうな君が危険に飛び込む手助けを」

ロブスターの声 「したくはないというのが本音だがね」


淫魔幼女の声 「……お譲りいただけないということでしょうか」


ロブスターの声 「そこまで手元に置いておきたいものでは無いのだがね」

ロブスターの声 「むしろ無い方がありがたい」

295 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/26(水) 18:58:42.96 ID:hpnOI0Eao


ロブスターの声 「なるほどたしかに、あの杖は魔法殺しと言って良い」

ロブスターの声 「敵が強力な魔法使いであるほど、その力を発揮するだろう」

ロブスターの声 「そしてあの杖を作ることのできる者は、この世に誰もいないだろう」

ロブスターの声 「だからこそ、あまり世に放ちたくないのだ」

ロブスターの声 「噂とは手ですくう水のようなもの。君が持ち歩けば、きっとその身にいらぬ危険が降りかかることになるだろう」


淫魔幼女の声 「…………」


ロブスターの声 「あの鏡の魔女のような悪しき魔法使いや、よからぬ企みを持つ者の手に渡れば」

ロブスターの声 「大きな悲劇を巻き起こすかもしれない」

ロブスターの声 「一つの宝石が、国ひとつを傾けたという話もある」



姫王子 (杖……)


296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 17:45:33.52 ID:Uo5oeg3XO
はよはよ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 22:03:22.20 ID:tHh3oI5PO
ワッフルワッフル
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 01:46:04.88 ID:6Zje/6w8o
間が開きすぎると話を忘れる
話は面白いんだけど…
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 14:58:56.63 ID:aK55TU8gO
あなたは続きを書きました
300 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/24(日) 23:11:32.84 ID:R8OwrII4o


姫王子 (杖とは、おれが初めて船長室を訪れたときにク魔エビ娘が使っていた、あの杖だろうか)

姫王子 (思えば、葉巻やほかの魔法使いの持っていた杖とどこか雰囲気が違っていたような)

姫王子 (いなかったような……)


悪魔紳士の声 「頑なですなあ、相変わらず」


ロブスターの声 「お互い様だ」


淫魔幼女の声 「…………」


姫王子 (戦いの報酬でもめているらしいが)

姫王子 (おれはどうするべきなのだろうな)

姫王子 (……まあ、このまま寝ている方が良いのだろうな)

姫王子 (もめている三人ともに、大なり小なり借りがある)


301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 02:15:04.50 ID:1+0jB60N0
MOTTO!MOTTO!
302 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 07:26:36.75 ID:BVJI1tB2o


姫王子 (強力な魔法のアイテムの厄介さは身をもって味わった)

姫王子 (ロブスター船長のもとで眠らせておくのが良いとは思うが)

姫王子 (胡散臭い紳士どのはともかく、小さな黒い商人には大きな借りがあるし、相談も受けてしまったし、話がこじれそうだ)

姫王子 (うん、やはりここは眠っておこう)

姫王子 (寝起きでハーピィを伴って渡り合うには厳しい相手だろうし…………)

姫王子 (ハーピィはどこだ?)


ムニ


姫王子 (……なんだか、少し苦しいぞ)

姫王子 (重たい毛布だと思っていたが、もしや)


ムニ


姫王子 (乗っている。これはきっと、乗っているな)


303 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 13:55:15.95 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「う……」


ハーピィ 「…………」


ムニ


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ハーピィがおれの胸に頭を置いて寝ている)


魔ーレラ 「ほれ、お前たちがもめているから病人が起きてしもうた」


姫王子 (若きマーレラ婆……)

姫王子 (船長室の天井……)

姫王子 (ここはベッドの上か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (ハーピィは何をしているんだろう)

姫王子 (おれの胸の上で頭を転がして)


304 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:01:40.56 ID:BVJI1tB2o


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ


姫王子 (納得いかないといった様子だ)


魔ーレラ 「お前の名前は何じゃ」


姫王子 「………名前」

姫王子 「王子だ」


魔ーレラ 「名前を鏡に奪われはしなかったようじゃな」

魔ーレラ 「生まれは?」


姫王子 「帝国の……どこかだよ」


魔ーレラ 「むう、生まれた場所は忘れてしまったか」


姫王子 「あ、いや、そうじゃなくてね……」


魔ーレラ 「お前の真実の一部を鏡に奪われるまでのことは憶えておるか?」


姫王子 「ああ。奪われたあとのことも」


魔ーレラ 「ふむ」

305 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:11:28.12 ID:BVJI1tB2o


ハーピィ 「…………」


ペタ ペタ


姫王子 (ハーピィが心配そうに、黒い羽で頬を撫でてくる)

姫王子 「ありがとうハーピィ。大丈夫、大丈夫だよ」


ハーピィ 「…………」


ロブスター 「まだ安心するのは早い」

ロブスター 「どんなに大事な記憶も、なくしてしまえば、その記憶が大事であったことさえ忘れてしまう」


姫王子 (その場合、ハーピィはどう反応するのだろう)

姫王子 (おれがそう思い込んでいて、じつは記憶違いだったことに対して、見抜いてくれるんだろうか)

姫王子 「大事な記憶か……」

姫王子 「おれが男の中の男であることとか?」


ロブスター 「はっはっ、言いやがるな、我が弟子め」


306 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:25:00.98 ID:BVJI1tB2o


魔ーレラ 「冗談を言う元気はあるようじゃな」


姫王子 「冗談じゃなくてね……」

姫王子 「ああ、記憶といえば」

姫王子 「おれは、どうしてここにいるんだろうか」

姫王子 「甲板の上で魔女と戦い抜いたことは憶えているんだけど」

姫王子 「そこから今までが判然としない」


ロブスター 「結んだ荷がほどけ崩れるように倒れたのさ」

ロブスター 「溜まっていた疲れにやられたのだろうとは思ったが」

ロブスター 「名高くも謎多き真実の鏡の魔力を受けていたというから、そのせいかと慌てたものだ」


姫王子 (真実の鏡……)

姫王子 「ふむ……」


淫魔幼女 「…………」


悪魔紳士 「健やかなお目覚め、めでたいことですな」


姫王子 「……大事な話の途中だったようだ」

姫王子 「もう少し、寝ていた方が良かっただろうか」


悪魔紳士 「いえいえ」

悪魔紳士 「美女の目覚めなど、私のようなつまらない男では、そうそうお目にかかれるものではございませんのでね」


姫王子 「はっは……」

307 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 14:37:43.09 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「黒王子が空飛ぶ船でやってきたのは、夢ということかな」


ロブスター 「いや…


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「ありがとうハーピィ」

姫王子 「夢ではないようだね」

姫王子 (鏡の魔女と、少なくとも敵対していない様子だったことも)

姫王子 (……南東地方か)

姫王子 「うっ……!?」


グラリ


ロブスター 「どうした。頭が痛むか」


姫王子 「あ、ああ……いや……これは……」

姫王子 「記憶……?」


ロブスター 「なに」


魔ーレラ 「何かの弾みで、忘れていた記憶が甦りかけているのかもしれん」

魔ーレラ 「ある魔法をかけたときに、それとまったく反対の現象がおきてしまうことがある」

魔ーレラ 「特殊な条件が重なった上で稀に起こるというが」


姫王子 「……館、古い……大きな、館……」


ロブスター 「館? 館がどうした」


魔ーレラ 「あまり外から刺激するな」


姫王子 「……寝室……ひまわりの種……大きなベッド……」

姫王子 「の下に………大量の……」

姫王子 「似顔絵……」

姫王子 「ううぅ……!!」






308 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:06:47.69 ID:BVJI1tB2o


姫王子 「はぁ、はぁ……」


魔ーレラ 「そこまでにしておけ」

魔ーレラ 「なくした記憶を無理に呼び起こそうとすると心身への負担が大きい」

魔ーレラ 「あまり無理はせんことじゃ」


姫王子 「あ、ああ……」


ハーピィ 「………!」


ビクッ


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「大丈夫ですか。変わり果てた姿になられて」


姫王子 「……やあ、商人どの」

姫王子 (ぶどうを煮詰めたような色の液体が入った瓶を持っている)

姫王子 (ハーピィがおびえている……)


淫魔幼女 「忘れ薬です」

淫魔幼女 「あまり長くはもちませんが、魔法使いに呪文を忘れさせる程度のことはできます」

淫魔幼女 「記憶の混乱による頭痛も和らげることができるでしょう」


309 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:20:56.29 ID:BVJI1tB2o



淫魔幼女 「あなたのいた地方で流行っていた薬に似ていますが」

淫魔幼女 「副作用はありません」


キュポンッ


淫魔幼女 「どうぞ。香りをかぐだけで効果があります」


姫王子 (葉巻の売りさばいていた薬か)

姫王子 (あれは確か粉状だったな)

姫王子 「どうも。どれどれ……」


クンカ クンカ


姫王子 「………おお」

姫王子 「澄んだ風が一筋通ったようだ。何だか、頭がすっきりした」


淫魔幼女 「それは良かった」

淫魔幼女 「二十年に一度しか摘めない花からつくられた、特製の薬ですから」

淫魔幼女 「効いてもらわねば困りますが」


姫王子 「……いくら?」


淫魔幼女 「とんでもない」

淫魔幼女 「最も脅威であったあの化物をしずめたあなたです」

淫魔幼女 「このくらいは当然のこと」

淫魔幼女 「もっと珍しいアイテムでも、ためらわず使わせていただきます」


姫王子 (……そういうことか)


310 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:29:39.62 ID:BVJI1tB2o


淫魔幼女 「……それとは、うまくやっているようですな」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (うかつな。まあ良いか)

姫王子 「ああ」


悪魔紳士 「ふむ。小さな商人どのと麗しき女剣士どのは、古いお知り合いなのですか」


姫王子 (女剣士……いちいち否定しても仕方ないか)

姫王子 「……まあ、日は浅いけれど、何かとお世話になっているね」

姫王子 (一度、自分の姿をよく鏡で見ておかなくてはな)

姫王子 (全身、隅々まで……)


悪魔紳士 「もしや、首輪をつけたそのお嬢さんは商人どのから?」


姫王子 (そら来た)

姫王子 「まあ、ね」


311 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:41:36.10 ID:BVJI1tB2o


悪魔紳士 「いやあ、手広いですなあ」

悪魔紳士 「人身売買までやっておられるとは」


ロブスター 「ふむ」


淫魔幼女 「なりふり構っていられないのです」

淫魔幼女 「本当は私も、アイテムだけを扱いたい」

淫魔幼女 「頼もしい装備があれば、後ろめたい商売から足を洗って大冒険だけをしていられるのですが」


悪魔紳士 「おやおや……」


ロブスター 「大冒険か」


魔ーレラ 「何も、大冒険せんでも良いじゃろうに」


淫魔幼女 「何度も言いますが、私はお嬢さんではない」

淫魔幼女 「わけあって」この姿ですが、心は立派な男なのです」

淫魔幼女 「宝を求めて危険に飛び込む生き方しかできないのです」


ロブスター 「不器用なお嬢さんだ」


淫魔幼女 「…………」


312 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/25(月) 17:46:38.71 ID:BVJI1tB2o


姫王子 (やれやれ、話はもつれそうだな)

姫王子 (なあ、ハーピィ)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


スリ スリ

ムニ


姫王子 (おれのために怒ってくれたのだなあ。ありがたいことだ)

姫王子 (もう二度とないように心がけなくては)


ナデ ナデ


ハーピィ 「…………」


姫王子 (………葉巻はどうしているんだろうか)



313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 08:09:06.18 ID:dwGmG97Zo

更新きて嬉しい
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/11(水) 03:29:03.89 ID:pKkH0hVO0
たまーに見ると更新来てていいな
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 03:34:52.30 ID:BGJiyuHb0
待ち
316 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 01:05:52.22 ID:zwoZ1RE9o




姫王子 (ちゃんと、甲板に残した骨があいつの死体だということになっているんだろうか)

姫王子 (他の乗客に生きていると知られたら、厄介なことになるぞ)

姫王子 (最悪、葉巻を殺そうとする者も現れるかもしれない)

姫王子 (……ここにいる者たちはどうなんだろうか)


淫魔幼女 「じゃあ……私は故郷に、役立たずで飲み食いばかり六人前の、養わねばならない幼い家族がいるのです」


姫王子 (淫魔幼女か……どこまで知っているのやら)

姫王子 (大恩あるし、できれば敵に回したくないが、油断ならない相手だ)


魔ーレラ 「何じゃ、泣き落としか」


姫王子 (若きマーレラ婆。ロブスター船長がよく意見を求める相手だ)

姫王子 (魔法の心得があるから、葉巻の秘密に何か気づいているかもしれない)

姫王子 (彼女も油断ならないな)


悪魔紳士 「唐突ですなあ」


姫王子 (紳士どの)

姫王子 (船内の魔物たちを相手に一人で立ちまわり、甲板でも傷一つなく戦い抜いた)

姫王子 (帝国で活躍する勇者たちの噂には好意的なようだが)

姫王子 (ハの字の口ひげが油断なら無いな)


ロブスター 「幼い家族か……」


姫王子 (ロブスター。マスター・ロブ。おれの剣の師匠の一人だ)

姫王子 (器の大きな海の男だ)

姫王子 (しかしおれがこの身体になってからわずかの間に、もう何度か肩を抱かれた)

姫王子 (不覚にも、大きく厚く、そして荒々しいようで暖かい手にちょっと安心感をおぼえてしまった)

姫王子 (油断ならない相手だ)


317 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 01:53:59.26 ID:zwoZ1RE9o



姫王子 (立場の違いは視点の違い。そんな者たちが集まった場所でうかつなことは喋れないぞ)

姫王子 (おれと葉巻の関係を知っているのは……全員だな。おれとあいつが一緒にいるところを一度は見られている)

姫王子 (おれの姿が変わっているとはいえ、唯一無二の愛らしさと美しさを兼ね備えたハーピィが傍にいるし)

姫王子 (何しろおれの男としての存在感は隠し通せるものではない)

姫王子 (おれが王子であるということは容易に想像できるはずだ)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (杖を巡る三つ巴に乗じて、それとなく葉巻のことを探ってみるか?)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (……しかし、そうなると、おれも意見を求められるだろうな)

姫王子 (おれの一言に力は無いのだろうが、おれが誰の味方につくか明らかになってしまう)

姫王子 (もしうまくはぐらかせても、それぞれから不信を買うことになるだろう)

姫王子 (…………)


318 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 02:57:18.83 ID:zwoZ1RE9o

姫王子 (ああ。旅人となっても)

姫王子 (こういった、人のしがらみに悩まされるのだろうか)

姫王子 (いや、身一つで生きていかねばならない旅人こそ、いらぬ恨みを買わないように細心の注意を払うべきなのだろう)

姫王子 (……などと、領地の人々に食わせてもらってきたおれが考えてもお粗末か)


ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ

ムニュン


ハーピィ 「………!」

ハーピィ 「…………」


コク コク


姫王子 (あ、何か納得している。しっくりきたようだ)




319 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 03:44:19.51 ID:zwoZ1RE9o





姫王子 (繊細な立ち回りは我が妹、王子姫の方が得意なんだよな)

姫王子 (忍耐と度胸もあり、人望もあつい。剣と魔法の腕もなかなかのもの。領主にふさわしいのは彼女だろう)

姫王子 (おれは馬鹿息子で通っているしな)

姫王子 (彼女が結婚を考えるであろう頃には都の王宮にとられる心配もないだろうし)

姫王子 (……女性の領主は現在どのくらいいたかな。善し悪しが極端だと聞くが)

姫王子 (まあ、うちの王子姫は間違いなく善く治めるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


ギュウ


姫王子 (ハーピィ。君も王子姫についていれば、城で贅沢な暮らしが……)

姫王子 (できはしないか。町の商人の方が良いベッドを使っているだろう)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (責任まみれの華やかなドレスよりも、野の花のような服の方が似合う気もする)

姫王子 (無表情なこの子が見せる豊かな表情の、なんと素晴らしいことか)

姫王子 (……ハルピュイアにとりつかれた王は)

姫王子 (果たして、どれほどの嘘を告発されるのだろうな)


ハーピィ 「…………」


スリ スリ


姫王子 (おれがこの姿になったら、くっつき方が、何と言うか強くなった気がする)


320 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:02:20.34 ID:zwoZ1RE9o


魔ーレラ 「どうした。ボーッとしておるようだが」


姫王子 「……ん、ああ」

姫王子 「……少し、いや、いろいろと考えてしまって」

姫王子 「急に頭が冴えたおかげかな」

姫王子 「だとしたらありがとう、商人どの。素晴らしい薬だ」

姫王子 「誰とは言わないが、うちのあいつにも少しは見習わせたいね」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「いえ。重ねて言いますが、さきの戦いの最大の功労者に当然のことをしただけです」


姫王子 「はっは……」

姫王子 「ハーピィのことを始め、この旅であなたには世話になりっぱなしだ」


淫魔幼女 「ええ、不思議な縁を感じます」

淫魔幼女 「なあに、その子のことについては、私も感謝しております」

淫魔幼女 「良い人に引き取られてよかった」

淫魔幼女 「商人として失格かもしれませんが、命を扱うとなると、どうしても情がうつってしまって」


姫王子 (その子ときたか)

姫王子 「はっは……」

321 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:14:33.80 ID:zwoZ1RE9o


姫王子 「マスター・ロブ」

姫王子 「そちらの話をさえぎって悪いけど、少し行きたい場所があるんだ」

姫王子 「退室しても構わないかな」


ロブスター 「病み上がりだ。明日の朝まで寝ていろ。このあたりの海の夜は冷えて困っていたしな」


姫王子 「船長」


ロブスター 「冗談だ」


魔ーレラ 「もう少し休んでからが良いのはそうじゃ。顔に不調のあとが色濃い」

魔ーレラ 「戦いのあとで、船内のお客の行儀は少しばかり悪くなっておるし」

魔ーレラ 「弱って見える年頃の女がふらふらと歩いておれば、すれ違う者によからぬ心が宿ってしまうかもしれん」


姫王子 (散々な言われようだ)

姫王子 「大丈夫、ちゃんと斬って捨てるから」


魔ーレラ 「それも考えて言っとるんじゃよ」


322 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:31:53.74 ID:zwoZ1RE9o



コン コン


姫王子 (誰かが、船長室の扉を叩いている)


ロブスター 「……良いだろうか」


悪魔紳士 「どうぞどうぞ」


淫魔幼女 「かまいません」


ロブスター 「申し訳ない」

ロブスター 「……誰だ!」




???2の声 『……そういえば、本で読んだことがあります』



姫王子 (扉の向こうで誰かが話しているようだ)



???2の声 『波が荒れていても聞こえるように、ノックではなく鐘のようなものを鳴らすのです』


???1の声 『なるほど』

???1の声 『しかし、そのようなものは見当たりませんね』


???3の声 『これじゃない? なんかこの、何かひっかけたくなるような金属の』


???2の声 『これは服をかけるところでは?』



ロブスター 「大丈夫だ、ノックは聞こえているぞ。誰だ……」



???1の声 「ヘアァックション!」
323 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/11/29(水) 04:59:40.33 ID:zwoZ1RE9o



???1の声 『やだ。私ったら、はしたない……』


???2の声 『風邪でしょうか。夜通しの戦いでしたから』


???1の声 『ブラウニーさんのポカポカ汁を飲んだんですが……』


???3の声 『私、あれを瓶に入れてもらって風呂にしたわよ。もうポッカポカ』


???1の声 『まあっ、それは気持ち良さそうですね』


???2の声 『妖精さまは小さなクッキーもお腹一杯食べられて羨ましい限りです』


???3の声 『あら。あなたたちこそ、美味しいものをたくさん食べてもお腹一杯にならないなんて』

???3の声 『羨ましいわよ』


???2の声 『あやっ』


???1の声 『なるほど』


???2の声 『こりゃあ一本とられちゃいましたかね』

???2の声 『へへっ』


アハハ ウフフ



ロブスター 「おい……」



???3の声 「アヘックシュ!」


???1の声 『おや……』


???3の声 『えへへ、今さら湯冷めしちゃったみたい……』


アハハ ウフフ



ロブスター 「お……」



???たちの声 『ハックショオオオーン!』



ロブスター 「おい、どこかにあいつらに聞かせてやる鐘はないか」


魔ーレラ婆 「ないわい」


王子姫 「まさか,こちらに鐘が必要になるとは……」



324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:02:46.94 ID:6/0aLHW9O
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 20:00:20.34 ID:35WYZn+80
ワッフルワッフル
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 05:52:36.93 ID:peIEihXe0
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 05:47:15.92 ID:TT3X3xkY0
328 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 11:53:44.42 ID:rgNF8yGoo


姫王子 (まあ、彼女たちだろうな)

姫王子 「やあ、申し訳ない」

姫王子 「扉の向こうの身内が迷惑をかけてしまっているようで」


ロブスター 「やはりそうか」

ロブスター 「なに、女性は一筋縄でいかないくらいがちょうど良い……」

ロブスター 「入りたまえ、扉の前の風邪ひきお嬢さんたち!!」



???1の声 『おや、ちゃんと聞こえていたようですね』


???2の声 『ノックじゃなくてくしゃみが良かったのかもしれません』


???3の声 『聞いた? 私たちのこと、お嬢さん、だってえ』


???2の声 『いやあ、それほどでも』


キャッキャッ


???1の声 『この船の船長どのは紳士的な方です』

???1の声 『こちらも失礼の無いよう、気をつけましょう』

???1の声 『開けますよ。準備は良いですか?』


???2の声 『あーっ、待ってください。そういえば、私は今日、下着をつけていません!』

???2の声 『何たる不覚!』


???3の声 『妖精なんだから、下着なんて気にしなくて良いでしょうに』


???2の声 『私は人間ですよう! この狐か狸かの耳にかけて!』


ワイワイ



姫王子 (扉の向こうで何をしとるんだ、何を……)


ハーピィ 「…………」


329 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 12:22:15.86 ID:rgNF8yGoo


姫王子 (しかし、下着か……)

姫王子 (…………)


ユサ


谷間


姫王子 (おれも、つけなきゃならないのかな……?)



ガチャ ギイイ



姫王子 (おお、やっと入ってくるか)



ハタム カチャ

ト ト 


???1 「……失礼いたします」

貝殻の勇者 「帝国大陸北東島の港よりお世話になっております、イウシャ・オーグライです」


姫王子 (勇者どの。やはりか)

姫王子 (……偽名だな)


???3 「え、えーと……」

ろうそく職人 「付き人のローソックです」


姫王子 (別に本名で良いだろうに)


???3 「はあい、船長さん」

瓶詰め妖精 「瓶暮らしの瓶詰め妖精よ」


姫王子 (瓶は置いてきたのだな)


ロブスター 「ようこそ、おお、ようこそだ」

ロブスター 「なんということだろう、魔ーレラ。美しい女性が三人一緒に我が部屋にやってきた」

ロブスター 「どんな用かね? ぜひとも真っ先に聞かせてくれたまえ」


瓶詰め妖精 「その前になんだけど、おひげの船長さん」


フヨヨヨヨ


瓶詰め妖精 「妖精用の出入り口もちゃんと作るべきだと思うわ」

瓶詰め妖精 「それと、何か瓶は無いかしら。あなたたちで言うところの粗末な腰掛程度で構わないのだけど」


330 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/03(土) 12:41:41.64 ID:rgNF8yGoo


ロブスター 「それはすまなかった。何しろ小妖精のお客は、鱗の盗人くらいしか来ないものでね」

ロブスター 「君のようなヒトが来ると知っていたら、宝石つきのやつをこしらえたろうに」

ロブスター 「ちょうど机のところにいくつか置いている。どれ、取ってこよう」


瓶詰め妖精 「あら、悪いわ。自分で選ぶから大丈夫」


フヨヨヨヨ



ロブスター 「はっはっは……」


貝殻の勇者 「ああっ、瓶詰め妖精さん」

貝殻の勇者 「す、すみません……」


ロブスター 「とんでもない。彼女の言動について謝っているのなら、彼女は妖精にしてはとても礼儀正しい」

ロブスター 「それに、素晴らしい女性の無礼は男にとってありがたいものなのだよ」


貝殻の勇者 「あら、まあ。嫌だわ、ほほほ……」


姫王子 (勇者どのはこの手の軽口は好きそうではないが)

姫王子 (嫌そうな顔をしていないな。取り繕っているようでもない)

姫王子 (おれのときは露骨に嫌そうな顔をしたものだが)

姫王子 (……さすがは船長、と言ったところ……か?)


331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 17:25:02.17 ID:BGhCA8XJO
ヒャッホーウ明けましておめでとうございます!
332 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/02/05(月) 01:16:13.22 ID:UtXHuzzPo


瓶詰め妖精 「んふ、ふ、ふーん……さっすがあ、大きな船の船長だけあって、なかなか良いのが置いてあるじゃなぁい」


カラ カラン コト


姫王子 (傾けたり、足を突っ込んだり、我が物顔で瓶を物色している)

姫王子 (それを……)


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (不吉な商人が目で追っている)

姫王子 (つかまえて売り飛ばそうなんて考えているんじゃあるまいな)


ハーピィ 「…………」



ロブスター 「それで、何の用かね」

ロブスター 「何か飲みながら話そうか」


貝殻の勇者 「いいえ、どうやら邪魔をしてしまったようですし」

貝殻の勇者 「こちらも落ち着いてきたので、そろそろ、預かっていただいている王子どのを引き取らせていただこうかと」

貝殻の勇者 「参ったのです」


姫王子 (落ち着いてきた……何かごたごたしていたのかな)


333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 05:03:00.10 ID:w7eWcYKe0
ほほほのほ
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 04:29:06.31 ID:nwzkou+x0
335 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 10:51:22.90 ID:I8XPyAJjo


ロブスター 「かまわないが、べつにまだ預かっていても良いのだぞ」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「ですが、馬車の掃除も終わりましたので……」


ロブスター 「そうか」

ロブスター 「……だそうだが、どうかな我が弟子よ」


姫王子 「…………」


グ パ グ パ

スタ


姫王子 「よっ、とと……」

姫王子 「ふむ、大丈夫だ。今すぐにでも戦える」


ハーピィ 「…………」


336 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 11:00:04.81 ID:I8XPyAJjo


フヨ フヨ フラ


瓶詰め妖精 「これを、いただくわぁ……っ」


星印の瓶



姫王子 (お気に入りの瓶を見つけたようだ)

姫王子 「持とうか」


星妖精 「あら、ありがと」


ヒョイ


星妖精 「割っちゃ嫌よ」


姫王子 「おおせのままに、お姫様」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り、お姫様じゃない」

姫王子 「……ただの透明な瓶には見えないな」


瓶詰め妖精 「あんたたちにとっちゃ、ただの透明な瓶よ」

瓶詰め妖精 「あら、やっぱりあなた、背が縮んだ?」


姫王子 「どうかな。こんなもんだった気もするが」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「……ふうん?」


337 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/06(金) 11:17:54.17 ID:I8XPyAJjo


姫王子 「勇者どの、ろうそく職人、瓶詰め妖精、良いところで迎えに来てくれた」

姫王子 「さあ、これなら善からぬ者と一人ですれ違うこともないだろう。どうかな、美しきマーレラ?」


魔ーレラ 「まあ、良いじゃろうよ」

魔ーレラ 「どうしてもと言うならクル魔かク魔のどちらかをつけようとも思うたが」

魔ーレラ 「その娘がついておれば、お前も無茶をする心配は無かろう」


ろうそく職人 「いやあ、私たち信頼されちゃってますよ勇者さま」


貝殻の勇者 「ええ、これこそ日ごろの行いの賜物です」


ろうそく職人 「師匠も王子さまも、とんだやんちゃ者なので、そのぶん私たちが善行を頑張らなくてはなりません」

ろうそく職人 「まったく、損な役回りです」


魔ーレラ 「娘たち、とは言っておらんからな」



338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 20:34:10.91 ID:5d9FYMkS0
おお来てた
いつも楽しませてもらってます
339 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:12:22.32 ID:TAxKPZoSo


悪魔紳士 「おや、まあ! 何と言うことだ! 船上の英雄がさらに二人も!」

悪魔紳士 「できることなら、ぜひ、食事でもしながらお話をうかがいたいものです」


ロブスター 「お前が引き下がってくれれば、こちらの話はまとまるのだがな」


悪魔紳士 「おやおや、悩ましい」

悪魔紳士 「ふふふ……」



姫王子 「……話の途中ですまないが、おれは行かせてもらうよ」


淫魔幼女 「…………」


姫王子 (許せ商人どの)

姫王子 「急いでやっておきたいことも色々あるし」

340 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:32:22.76 ID:TAxKPZoSo


ハーピィ 「…………」


魔ーレラ 「たしかに、今までとは勝手が違ってくるじゃろうしな」

魔ーレラ 「気をつけるのじゃぞ」


姫王子 「ああ」


ロブスター 「船中での取引も再開している」

ロブスター 「必要なものがあれば、商人区のバザーへ足を運んでみると良い」


姫王子 「たくましいな」


ロブスター 「旅商の醍醐味だからな」

ロブスター 「おれも忙しくないわけではないが、荷物持ちが欲しければ呼んでくれ」

ロブスター 「男好きする服も選んでやろう」


姫王子 「船長、おれは故郷では男の中の男、右に出る者は無いと言われた男だぞ」

姫王子 「そんなおれが、男好きする服を選ぶのに困ると思っているのか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。言われたこと無いけどね」


341 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 00:44:18.17 ID:TAxKPZoSo


瓶詰め妖精 「ねえ、あいつって良いとこの人なんでしょ。どんな感じだったの」


ろうそく職人 「食べるものには困りませんでしたが、あんまり裕福じゃないとこですよ」

ろうそく職人 「そうですね……王子さまはそこで、領主一族の出涸らしと呼ばれていました」

ろうそく職人 「その勇名は帝国大陸の東に響き渡り、帝都にまで迫る勢い」


瓶詰め妖精 「ええ、なにそれ。名の知れた役立たずだったってこと?」


貝殻の勇者 「出涸らしですか。あれはあれで、良いものです」


姫王子 (なぜ迎えがこの人選なんだろうな)

姫王子 「では、失礼」



342 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 02:59:05.98 ID:TAxKPZoSo


テク テク


貝殻の勇者 「あまり、急がずに歩いてくださいね」


ろうそく職人 「私が手を繋いであげます」


姫王子 「ありがとう。甲板ではかなり動けていたんだけどな……」


瓶詰め妖精 「転んでも良いけど、瓶は割らないでよね」


トコ トコ



淫魔幼女 「…………」


姫王子 (こっちを見ている)

姫王子 (助け舟を期待していたかな。悪いがこちらも立場があるんだ……)


淫魔幼女 「……自ら真実を失わぬよう、お気をつけください」


姫王子 「…………」


テク ピタ


姫王子 「……うん?」


淫魔幼女 「心の出ずるところ、魂は強く……しかしそれはしなやかな強さ」

淫魔幼女 「簡単に色も形も変えてしまう」

淫魔幼女 「その力は本人も驚くほど大きい」

淫魔幼女 「あなたの魂が、その肉体に見合ったものにならぬよう願うなら」

淫魔幼女 「想像以上の覚悟が必要となるでしょう」



343 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 03:12:09.27 ID:TAxKPZoSo



ロブスターの船 船長室前




……キイイ ガチャ

テク テク テク



姫王子 「…………」

姫王子 「……ろうそく職人くん」


ろうそく職人 「はい」

ろうそく職人 「心は、ちょっとしたことでコロコロ変わってしまうもの」

ろうそく職人 「だから女の子の身体になって心を男の子のままで保つのは、とっても大変」

ろうそく職人 「頑張ってね」

ろうそく職人 「……ですかね」


姫王子 「ありがとう」


貝殻の勇者 「ろうそく職人さんに通訳のスキルが……」


姫王子 「ふむ、心か……」

姫王子 「ま、大丈夫だろう」

姫王子 「おれの男らしさはこの程度じゃびくともしない」


ハーピィ 「…………」



テク テク テク



344 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 03:25:12.54 ID:TAxKPZoSo


ザワザワ



貝殻の勇者 「まずは、馬車へ帰りましょう」

貝殻の勇者 「黒花どのと会ってください」


姫王子 「馬車にいるのか、あいつは」

姫王子 「勇者どのに使いをさせるなんて……相変わらずのようだ」


貝殻の勇者 「いえ、使いはそうですが、馬車幽霊どのに頼まれたのです」


姫王子 「へえ……」

姫王子 「ところで勇者どの、背が伸びたかい?」


貝殻の勇者 「あなたが縮んだのです」


姫王子 「うーん、そうかな」

姫王子 「そういえば、はじめは視線の高さが変わった気がしていたような、違うような」


瓶詰め妖精 「さっそく心が身体になじんできているじゃない」


345 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:03:27.37 ID:TAxKPZoSo


テク テク


ろうそく職人 「むふ、王子さまと手を繋いで歩く日が来ようとは」

ろうそく職人 「お城にいたときには思いもしませんでした」


姫王子 「はっはっは、気をつけろぉ、出涸らしがうつるぞ」


瓶詰め妖精 「気にしてんの?」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「その通り。たぶんうつらない」

姫王子 (ろうそく職人の手のひら……普通の人間のものだな)

姫王子 「……おや」

姫王子 「ろうそく職人、何か頭がすっきりしていないかい」


ろうそく職人 「ふっふっふ……よくぞ気づきましたね王子さま」

ろうそく職人 「髪を切ってもらったのです」


姫王子 「ほう、良い感じだ」

姫王子 「髪か……」


貝殻の勇者 「だいぶ伸びましたね、王子どの」


姫王子 「うん。なんだってこんなに急に……」

姫王子 「ハネてしまうから伸びると大変だってのに」


貝殻の勇者 「良いではありませんか」

貝殻の勇者 「これを機に、新しい髪型に挑戦なさってはどうですか」


姫王子 (牢で見たときとは比べ物にならないほど余裕があるな、勇者どの)

姫王子 「うーむ」


ろうそく職人 「勇者どの、かつてから温めていたあの髪型を王子どので試してみるというのは……!」


貝殻の勇者 「なるほど……うふふ、面白そうですね」


姫王子 (ろうそく職人を従者にした効果……か?)














346 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:13:27.80 ID:TAxKPZoSo


ろうそく職人 「王子さまの髪なら、野生と母性を両立させるあの髪型を実現できそうです」

ろうそく職人 「野生さんの髪は思いのほかフワフワで、少し方向性がズレてしまいました」


姫王子 「母性はちょっと困るんだけどね……」

姫王子 「元の髪型で良いんじゃないかな」


瓶詰め妖精 「あららあ? 男の中の男が、髪型ひとつで揺らいじゃうのかしらん」


姫王子 「むっ」


347 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:21:20.25 ID:TAxKPZoSo


ザワ ザワ

テク テク テク



ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 「……?」


ろうそく職人 「…………」


ジィ


姫王子 (……見てるな。胸を)

姫王子 (視線って、割と分かるもんだな)


ろうそく職人 「王子さま」

ろうそく職人 「もうこのままで良いんじゃないですかね」


姫王子 「縁起でもないことを」


貝殻の勇者 「ほほほ……」

貝殻の勇者 「と、これほど容姿が変わってしまったら、王子どのはもう仮面を着ける必要が無くなるのでは?」


姫王子 「おお」

姫王子 「……いや、やっぱり着けた方が良いかな」


貝殻の勇者 「そうですか?」


姫王子 「うん。ほら……」

姫王子 「視線がね……」


貝殻の勇者 「……?」


ハーピィ 「…………」


348 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:31:53.16 ID:TAxKPZoSo


テク テク


貝殻の勇者 「下着もちゃんと選ばなくては」

貝殻の勇者 「合わないものを着けていると、動きが大きく鈍ってしまいます」


姫王子 「ふむ」

姫王子 「大変だな……」



??? 「おお、森の巫女殿……!」



姫王子 (ん?)



??? 「すみません、思わず声をかけてしまいました」

魔法使い 「お目にかかれるとは何たる幸運!」



姫王子 (ローブを着た男が近づいてくる)

姫王子 (もりのみこ?)




349 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/20(金) 04:58:24.12 ID:TAxKPZoSo


姫王子 (もりのみこって誰だ)


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「…………」


瓶詰め妖精 「…………」


ろうそく職人 「ゥオッホン。ごきげんよう」


姫王子 (この子か)


魔法使い 「お仲間の皆さんと船内の散歩でしょうか」


ろうそく職人 「オホンッ。ええ、まあ、そのようなものですね」


魔法使い 「おお、それはそれは……せめて挨拶だけでもと思いましたが、お邪魔でしたでしょうか……」


ろうそく職人 「い、いえいえ、ええと……」


チラ


姫王子 (こちらに気を遣っている)

姫王子 「そんなことはありません」

姫王子 「ろうそく職人、気を遣ってくれてありがとうございます。おれは大丈夫です」


ろうそく職人 「えぇ……!?」


貝殻の勇者 「……そうですね。ろうそく職人さまが挨拶を受けるのは、私たちの誇りです」

貝殻の勇者 「どうか、この時間を大切になさってください」


ろうそく職人 「勇者さままで……!」



350 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:05:00.37 ID:MEIGtyHho


ザワ ザワ


姫王子 (魔法使いらしき目の前の男。胡散臭い格好だが、悪いものは感じられない)

姫王子 (とりあえず警戒はしておくか)


魔法使い 「やはりというか、森の巫女どのともなると、お仲間も一味違いますな」

魔法使い 「どの方も、ただならぬ品格と美しさを有していらっしゃる」


貝殻の勇者 「ほほほ……」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「はは……」

姫王子 (こちらへの視線がちらちらと胸元を向いている気がする)

姫王子 (うん、きっと気のせいだ)


ろうそく職人 「ええ、皆さん素晴らしいかたばかりで、ええ」

ろうそく職人 「あひゃへへ……」


貝殻の勇者 「ふふふ……」

貝殻の勇者 「(頑張って、ろうそく職人さん)」


姫王子 (ろうそく職人、焦っている。明るくなって度胸もついたようだが、こんな風に緊張はするのだな)

姫王子 (……それにしても、勇者どのが冗談に付き合ってくれるとは意外だった)

姫王子 (やはりだいぶ砕けた……それとも、もともとこういう性格だったのか?)


351 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:24:05.08 ID:MEIGtyHho


魔法使い 「それにしても残念です」

魔法使い 「わたくしもあの戦いで甲板にいれば、森の巫女どのの奇跡の召喚魔法を目にできたのに」

魔法使い 「なさけないことに、臆病風に吹かれてしまい……」


姫王子 (召喚魔法。あの、光る魔ンボウを出した魔法のことか)

姫王子 (魔法使いが奇跡と呼ぶほどのものなのか)


ろうそく職人 「いえいえ、自分の命を大事にできる者がいちばん賢いのです」


魔法使い 「おお……! なんというありがたい言葉だ!」

魔法使い 「……あのう、森の巫女どのは、妖精の領域で森エルフの長老に師事し、エルフの魔法を修めたと耳にしました」

魔法使い 「森の巫女どのの才はもちろんのことですが、その魔法のことわりへの深い理解は」

魔法使い 「それも関係しているのでしょうか」


ろうそく職人 「お、修めただなんて、恐れ多いです。私もまだまだ修行の身なのです」

ろうそく職人 「たしかに、私の師匠は森エルフの長老が一人、紫煙の貴婦人黒花エルフさまです」


姫王子 「ふっっ、ぷふ……ッ!?」


352 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/21(土) 04:46:38.44 ID:MEIGtyHho


魔法使い 「?」



貝殻の勇者 「(王子どの! なにを笑っているのです!)」


姫王子 「(だ、だって、紫煙の貴婦人だなんてひどい不意打ちだもの!)」

姫王子 「(勇者どのも顔が笑っているじゃないか)」


貝殻の勇者 「(そ、そんなことはありません)」



魔法使い 「……あの、そちらのかたは急にいったい……」


姫王子 「……コホン」

姫王子 「も、申し訳ない。決して話の邪魔をするつもりでは無いのです」

姫王子 「どうぞ、お続けください」


ニコ


魔法使い 「……!」

魔法使い 「……あっ、はあ、あ、いや、はい、そうですな」

魔法使い 「そうですか、はあ、森の巫女どのはエルフの長老に魔法を、何とも羨ましい……」



姫王子 (……? 急に挙動不審になったな)


ハーピィ 「…………」



353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 14:51:09.87 ID:OKIsiakao
ろうそく職人の方が王子よりかしこさが高いのか
354 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/04/25(水) 19:01:54.17 ID:GOC8rQB+o


※ステータス別パーティ内くらべっこ


ちから  : 王子(♂)>貝殻>野生

まりょく : 葉巻.>>>馬車霊>ブラウニ
かしこさ : 馬車霊>>葉巻>貝殻≧王子

はやさ  : ハーピィ>>>>葉巻>王子(♂)
きよう  : ブラウニ>野菜鍛冶>葉巻

たかさ  : 馬車霊>王子(♂)>野生
おもさ  : 王子(♂)>野生>貝殻

うん   : ハーピィ>>>瓶詰め>種帽子
ずるさ  :王子≧葉巻>瓶詰め>ろうそく
ちゅうに : ニワトコ>葉巻>ろうそく
おおきさ : 野生>王子(♀)>ろうそく=ハーピィ


・参考…種帽子による分析とニワトコ娘の妄想

355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 19:45:02.82 ID:yotO7DWGO
王子の賢さ勇者より低いのか…(驚愕)
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 02:43:02.15 ID:VobCF2Cy0
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 06:28:10.60 ID:LWOlzQbh0
待ち
358 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 10:33:09.27 ID:sxNrRDGzo


タタタ


??? 「おお、これはこれは」

魔法使い2 「蒼き丸三角の耳さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥオッホン。いかにも」



姫王子 (また見るからに魔法使いらしき人物がやってきた)

姫王子 「きせきのみみ……?」


貝殻の勇者 「甲板での戦い以降、ろうそく職人さんはこの船の魔法使いたちの尊敬を集めています」

貝殻の勇者 「通り名もたくさんいただいたようです」


姫王子 「へえ、大出世じゃないか」

姫王子 (葉巻の弟子になってあまり経っていないのに、他の魔法使いから尊敬されるほどとは)

姫王子 (すごい才能があったのだろうか。それとも、葉巻の指導の賜物なのだろうか)

姫王子 「お供が高名な魔法使いで、勇者さまも誇らしいかな?」


貝殻の勇者 「私は友の名声など気にしませんが」

貝殻の勇者 「微笑ましいというか、気持ち良いものですね」


姫王子 (妹を見守るような心境なのだろうか)

姫王子 (……王子姫、どうしているだろうな)

姫王子 (そろそろ暑くなる頃だし、また視察の途中で農家の土作りに参加して、従者を困らせているのだろうか)





359 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 10:52:05.58 ID:sxNrRDGzo


タタタ


??? 「ややややや、これはこれは!」

太魔法使い 「隠れえぬ尻尾さまではありませんか!」


ろうそく職人 「ゥエッヘン。その通り」



姫王子 「おや、また」

姫王子 「今度はきせきのしっぽか」



タタタ


魔法使いC 「おやおやおや」


魔法使いD 「これはこれはこれは」


タタタタ


ろうそく職人 「ゥオッホン、エッヘン、アッハン」



姫王子 「どんどん集まってくるな」


瓶詰め妖精 「果物にたかる虫みたいね」


ハーピィ 「…………」


360 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 11:30:53.38 ID:sxNrRDGzo


ワラワラ 


ろうそく職人 「ゲェーッホ、ゲホッ。その通り、いかにも……」


ワイワイ


姫王子 「すっかり囲まれてしまったな、ろうそく職人」


貝殻の勇者 「ええ。魔法使いは厭世的であると聞きますが」

貝殻の勇者 「顔を輝かせてあれこれ話す様は、まるで好奇心あふれる子供のようです」


姫王子 「ふむ……」

姫王子 「しかし困った。魔法使いたちの談義が終わるのを待っていたら、葉巻に会いに行けるのはいつになるか」


貝殻の勇者 「そうですね」

貝殻の勇者 「置いていく……のは少しかわいそうですし……」


フヨヨ


瓶詰め妖精 「じゃあ、貝ちゃんが残ると良いのよ」


姫王子 「貝ちゃん?」


貝殻の勇者 「瓶詰め妖精さん」


瓶詰め妖精 「王子さまは私がちゃんと送ってあげるわ」

瓶詰め妖精 「大事な瓶に傷をつけないか見張らないといけないし」


姫王子 「これは心外だ」

姫王子 「……貝ちゃんとは?」


貝殻の勇者 「いえ、しかし、病み上がりの王子どのを……」


ハーピィ 「…………」





姫王子 「ハーピィ」

姫王子 (身体を支えてくれているのか)


瓶詰め妖精 「ほら、この子も心配ないって言ってる」


ハーピィ 「…………」


361 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 11:43:10.86 ID:sxNrRDGzo


貝殻の勇者 「ですが……」


ろうそく職人 「うわーん、勇者さまあ」


魔法使いF 「勇者?」


太魔法使い 「ん? よく見ると、そこの女性」

太魔法使い 「朝日の揺れる海面をとかしたような美しい髪……甲板の戦いに現れたという勇者どのでは!」


魔法使いB 「おお! よく見るとたしかに!」


魔法使いD 「やや! よく見るとそれっぽい!」


ゾロゾロ


貝殻の勇者 「え、あの……」


魔法使いたち 「勇者どの!」

魔法使いたち 「ぜひ勇者どのにもお話を!」


ワラワラ


貝殻の勇者 「ああっ!」

362 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 12:12:29.86 ID:sxNrRDGzo


ワラワラ ヨイショ

ワイワイ ヨイショ


姫王子 「ううむ、勇者どのもあっという間に魔法使いたちに囲まれてしまった」

姫王子 「人気者も大変だ」


瓶詰め妖精 「人気が無くて良かったわね」

瓶詰め妖精 「じゃあ行きましょ」


姫王子 「うむ」

姫王子 「……では勇者さま、黒花の弟子さま、あとで会いましょう!」


貝殻の勇者 「えっ、ちょっと王子どの、お待ちなさ……」

貝殻の勇者 「きゃあっ!?」

貝殻の勇者 「誰ですか、鎧の隙間に手を突っ込んだのは!」


ワイワイ


姫王子 「うーん、やはりこの瓶、見れば見るほど、そこはかとなくそこはとない物を感じるな」


瓶詰め妖精 「ちょっと、べたべた触らないでよ」

瓶詰め妖精 「あんただって、巨人の指垢に頬ずりしたいと思わないでしょ?」


姫王子 「そういうものか。ごめんよ、布で包むとしよう」

姫王子 「して、貝ちゃんとはいったい……」


瓶詰め妖精 「ウキウキ、早く瓶風呂を試したあい」


テク テク テク



貝殻の勇者 「王子どのぉ!」



…………



363 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 13:51:48.02 ID:sxNrRDGzo


…………


ロブスターの船

魔法の馬車へ続く通路



テクテク フヨ フヨ



瓶詰め妖精 「今回のことも吟遊詩人たちなんかは歌うでしょうね」

瓶詰め妖精 「夜の海で、恐ろしい魔女やドラゴンの群れにたちむかった人間と英雄の物語として」

瓶詰め妖精 「それが時間の流れによって磨かれ輝きを増していくか、すり潰されていくかは知らないけれど」


姫王子 「英雄の物語か……」


瓶詰め妖精 「まあ、どうでも良いことだけどね」

瓶詰め妖精 「妖精の私にとっちゃ、人間の歌声より早起きした森の音の方がまだ興味をひくわ」


姫王子 「おやおや」

姫王子 「でも、吟遊詩人は皆、君のような相棒の祝福を受けている」

姫王子 「なんて話を聞くけど」


瓶詰め妖精 「妖精の恋人ね」

瓶詰め妖精 「まあ、詩人の肩に乗っかって一緒に旅する妖精も一人や二人じゃ無いけどね」

瓶詰め妖精 「何が良いんだか。妖精の恋人どころか、妖精の変人よ」

瓶詰め妖精 「妖精の中でもはぐれ者」


姫王子 「そうなのか」


瓶詰め妖精 「人間は恋をすれば皆詩人になる、とか言うけど」

瓶詰め妖精 「人間の歌声なんて発情期の獣の鳴き声みたいなもんよ」

瓶詰め妖精 「人間以外が聞けば、間抜けでしかないもの」


姫王子 「ほう」

姫王子 (エルフの長老たちの歌が、おれたちには音痴の大合唱にしか聞こえなかったのと同じ感覚かな)


364 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 14:25:15.32 ID:sxNrRDGzo


姫王子 (ハーピィが歌ったら、どう聞こえるのだろう)


ハーピィ 「…………?」


姫王子 (疑いようも無いな。きっと可愛らしいに違いない)

姫王子 (しかし……)

姫王子 「君は何と言うか……たくましいね」


瓶詰め妖精 「ふふん。まあ、人間ともそれなりに渡り合っているもの」


姫王子 「あはは……」

姫王子 (そう言えば、初対面のときも葉巻相手にひるまず交渉していたな)

姫王子 (物怖じせず、人の輪に積極的に入っていける性格のようだ)

姫王子 (……いっぽう葉巻は態度がでかいわりに、わりと人見知りだ)

姫王子 (人間の町で人間相手にカスみたいな商売をしていたが、人の輪に入り込もうとはしなかった)

姫王子 (酒場の隅で余裕ぶってグラスを傾けていたが、オレ以外に軽口をふっかけるところを見たことが無い)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (…………心が弱いのだろうな)

姫王子 (態度のでかさも、人見知りの裏返しなのかもしれない)

姫王子 (そんなんだから、大事なときに人質にとられたりするんだ)

姫王子 (ひょっとして、奴に魔法の才能が無かったら、城にいた時のろうそく職人のようになっていたんじゃないか?)


365 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 15:04:23.48 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車




姫王子 「……久しぶりの旅の我が家だ」

姫王子 「親しみ深い外観に魔物の襲撃の跡は無いな」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「到着ね」

瓶詰め妖精 「私の瓶を返して」


姫王子 「うん?」


瓶詰め妖精 「あんたはこれからあの面倒くさいエルフのとこに行くでしょ」

瓶詰め妖精 「付き合っていたら、瓶のお風呂が遠のいちゃう」


姫王子 「ははは……なるほど」


ヒョイ


瓶詰め妖精 「はい、どうも」

瓶詰め妖精 「部屋の場所は分かってるんでしょ」

瓶詰め妖精 「じゃあねえ」


フヨ フヨ フヨ……

ピタ


瓶詰め妖精 「瓶運び、ご苦労さまだったわね」


フヨ フヨ フヨ



366 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 15:26:28.19 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車

廊下



テク テク テク


姫王子 「…………」

姫王子 (葉巻の部屋か)

姫王子 (……ほとんど御者台にいるから、馴染みはあまり無い)

姫王子 (むしろ、あいつが町で暮らしていたときに拠点としていた宿の一室の方が印象に残っている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あいつが魔法使いだとにおわせるようなものは何も置いていなかったっけ)

姫王子 (何か窓際で栽培していると思ったら野菜だったし)

姫王子 (エルフの部屋ということで密かに幻想的な品々を期待していたら、がっかりさせられたものだ)

姫王子 (おれが魔法に疎いから気づいていなかっただけだったのかもしれないが)

姫王子 (……ああ、エルフの森ではあいつの家に世話になったんだっけ)

姫王子 (あれはさすが妖精の家、といった感じだったな)

367 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/06/26(火) 16:52:55.48 ID:sxNrRDGzo


魔法の馬車

黒花エルフの部屋前



姫王子 (……今回のあいつはアレだった)

姫王子 (おれに船内を無駄に走らせ)

姫王子 (しまいには錯乱して暴れて……一歩間違っていたら全滅だったんだ。友だちとしてビシッと言ってやらないと)

姫王子 「……ん?」


ガチャム

ハタハタ


ブラウニー 「……あら」


姫王子 (葉巻の部屋からブラウニーが出てきた)


ハタタタタ


ブラウニー 「帰ってきていたんですね、王子さん」

ブラウニー 「おかえりなさい!」


姫王子 「ただいま、ブラウニー」

姫王子 「さっそく働いているのかな」


ブラウニー 「おうちのことは大好きですから」

ブラウニー 「大丈夫ですか? 少し顔が青ざめていますね」

ブラウニー 「元気の出るスープを温めましょうか」


姫王子 「そんなにひどい顔色かな。見た目よりもずっと元気だよ」

姫王子 「そうだな、葉巻との話が終わったら、ぜひスープをいただきたいけど……」

姫王子 「君はよく働くね。ずっと馬車内を走り回っているんじゃないかな」


ブラウニー 「おうちのことをしていないと病気になっちゃいそうで」


姫王子 「すさまじいな……」

姫王子 (妹とは気が合いそうだな)


ブラウニー 「黒花さんとお話しですか。良いときに来ましたね」

ブラウニー 「黒花さんは今ちょうど、起きてご飯を食べたところです」


368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 18:29:59.80 ID:Gu5vU7DeO
ワイフの復活か
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 00:02:15.64 ID:5AVjbmDV0
なんという気になる引き完全にプロの仕業ですね…
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 09:34:29.90 ID:u9o5LeZH0
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/24(火) 22:23:50.00 ID:zaD+aTZ9o
>鎧の隙間
鎧が隠せてる部分ってそんなに無かったような
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 02:54:21.69 ID:7UxRVwYa0
373 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 19:50:31.44 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「ご飯、ね……」

姫王子 (食べる元気はあるんだな)

姫王子 (強めにビシッと言っても大丈夫そうだ)



ブラウニー 「ハーピィさんと種帽子さんは、何か食べますか?」


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


ブラウニー 「泥水ですね。あとで持ってきます」



姫王子 「さて、それじゃあ面会といきますか」

374 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 19:55:12.21 ID:V2wXQBLZo


葉巻エルフの部屋の扉


姫王子 (…………)

姫王子 (ビシッと……)

姫王子 (ふむ……)


ブラウニー 「…………」

ブラウニー 「入らないんですか?」


姫王子 「え?」

姫王子 「入るけど、うん」

姫王子 「あいつの様子、どうだったかな」


ブラウニー 「?」


姫王子 「いつもと違う、とか、落ち込んでいる、ような……」


ブラウニー 「特に変わりは……ああー、そういえば」

ブラウニー 「角が生えていました」


姫王子 「角!」


375 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 20:24:34.29 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「角って、あの角かな」

姫王子 「肥溜めマイマイとか肉食ツノガイとかの頭に生えている、あの」


ブラウニー 「角です、角です」

ブラウニー 「ユニコーンとかカブトムシとかの頭に生えている、あの」


姫王子 「あいつ、角まで生えちゃったか……」

姫王子 「馬になったり女になったり、あいつも忙しい奴だが、ついに角か」

姫王子 「そうかあ……」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「…………」


姫王子 「ビシッと言ったら突き殺されたりしてな」

姫王子 「ははっ」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (あんなこと起こしたあとだしな。冗談とも言い切れないんだよな)

姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「ねえ、本当に角だった?」

姫王子 「耳じゃなかった?」


ブラウニー 「入らないんですか?」


376 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 20:38:51.81 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「いや、いざ会うとなると。結構なことが起きたあとだしね」

姫王子 「何を話したものやら」

姫王子 「……外見だけじゃなく、その、雰囲気的なもので、変わったところは無かったかな」


ブラウニー 「あはあ、雰囲気ですか……」

ブラウニー 「うーん、何だか落ち着きが無かったような」


姫王子 「落ち着きが……」


ブラウニー 「髪や頬っぺたを気にしていたり、毛布のすそをいじったり」

ブラウニー 「まあ、王子さんの変化に比べたら大したことありません」


姫王子 「ははは……」


ブラウニー 「今の王子さんは、野生の女さんみたいです」

ブラウニー 「とっても寝心地が良さそう」


姫王子 「寝心地」


ブラウニー 「お胸のところがフカフカです」

ブラウニー 「もうずっとこのままで良いんじゃないですか」


姫王子 「あ、言ったな、このお」


ブラウニー 「きゃー」


ハーピィ 「…………」


377 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:44:28.83 ID:V2wXQBLZo


姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜家事娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)

378 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:47:50.74 ID:V2wXQBLZo

>>377訂正ごめんなさい



姫王子 「さてと、行くか」


ブラウニー 「私も種帽子さんの泥水を用意してきますね」


種帽子 「…………」


ウネウネ ピョン


ブラウニー 「おやや、一緒に来ますか?」

ブラウニー 「それでは、まずは野菜鍛冶娘さんのところに行きましょう」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「ハーピィさんは、本当に何もいらないんですか?」


ハーピィ 「…………」


ブラウニー 「分かりました」


姫王子 「分かるのかい」


ブラウニー 「はあ、何となく」


姫王子 (妖精には分かる何かが、ハーピィから出ているんだろうか)


ブラウニー 「五回に一回は当たります」


姫王子 「勘か」


ブラウニー 「それではー」


ハタタタタタ



…………


379 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/29(水) 21:52:25.57 ID:V2wXQBLZo



姫王子 「……さて」


コン コン


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (返事がない……)

姫王子 「おや?」


カチャ キイ


姫王子 (扉が勝手に開いた。入れってことか?)

姫王子 「入るぞ」


キイイ

ト ト ト 



380 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 01:41:52.06 ID:vmRWZ2txo


ト ト


姫王子 「……これは」



黒花エルフの部屋



姫王子 (壁の模様や、部屋のにおい……エルフの森にある、葉巻の家みたいだ)

姫王子 (広くはないが、馬車の中とは思えない)

姫王子 (木の息遣いが聞こえてきそうなテーブルと椅子……窓際にベッド。ベッドの上には……)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (……いる。また姿が変わっているが、きっと葉巻だ)

姫王子 (窓の外を見ている)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ここは、葉巻の寝室なのか。魔法で繋げたのだろうか)

姫王子 (ブラウニーたちの馬車とも繋げたのだし、できてもおかしくは無さそうだが)

姫王子 (だとしたら何でもありじゃないのか)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (窓の外は……あの森でも、船の中でもない)

姫王子 (夜の海だろうか)

姫王子 (……どこの?)


381 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 04:17:56.47 ID:vmRWZ2txo


幼竜エルフ 「……行儀が良いじゃないか、王子さま」


姫王子 (葉巻の声だ)

姫王子 (姿形は変わっても、耳と声は葉巻なのだな)

姫王子 「葉巻」


幼竜エルフ 「ノックをするなんて」


姫王子 「……これでも領主の息子なものでね」

姫王子 (もっとも、おれの知る葉巻が真実なのかは知らないが)

姫王子 (先生の声も簡単に真似るような奴だ)


幼竜エルフ 「剣を振り回すのが好きなくせに」

幼竜エルフ 「ろくな領主にならないぜ」


姫王子 「たいへん優秀な妹君がいましてね」

姫王子 「鼻は高いが肩身がせまいよ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん。ちっとも気にしていない」

姫王子 「どうでも良いことさ」

姫王子 「おれがいてもいなくても、帝国北東領はうまくいくのさ」


幼竜エルフ 「あきれた王子さまさ」

幼竜エルフ 「そう、どうでも良いんだ」



382 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 04:41:25.88 ID:vmRWZ2txo


姫王子 (こっちを向く気配が無い)


幼竜エルフ 「お前の国のこと、魔王の軍勢のこと」

幼竜エルフ 「この世界のあらゆることがどうでも良いんだ」

幼竜エルフ 「善悪どちらがのさばろうが、おれは知ったこっちゃない」

幼竜エルフ 「本当に、どうでも良い」


姫王子 「おいおい、勇者どのが聞いたら穏やかじゃないぞ」

姫王子 「どうでも良いのは構わないが、だからって船を丸ごと腐らせようとするなよ」


幼竜エルフ 「お前のせいだよ」


383 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/30(木) 15:32:54.74 ID:vmRWZ2txo


姫王子 「…………」

姫王子 「おれ?」


幼竜エルフ 「…………」

幼竜エルフ 「こんな腐った世界だが」

幼竜エルフ 「いてもいなくても良いお前がいなくなると、いよいよどうでも良くなるんだ」

幼竜エルフ 「おれでも、オレでも、どうでも良い」

幼竜エルフ 「水面を跳ねる魚の一匹も我慢ならないくらいに、どうでも良い気分になるんだ」


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼竜エルフ 「……お前が悪いんだ」

幼竜エルフ 「お前が死ぬから……」


姫王子 「葉巻……」


幼竜エルフ 「お前が勝手に死ぬから」


姫王子 「おい」


384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 23:09:36.47 ID:ILwn2ai+0
待ってました!流石の正妻パワーがすごい
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 11:57:35.27 ID:0Wk854Syo
まだー?
386 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 18:51:46.90 ID:TaTeWAENo


姫王子 「散々人を駆けずり回らせておいて、それは無いだろ」


幼竜エルフ 「おれと一緒に行動したのはお前の判断だろ」


姫王子 「その通りだけども」


ハーピィ 「………」


幼竜エルフ 「森の館のときだって、腹に穴を空けたままのこのこ地下までやってきやがって」


姫王子 「腹の穴が何だ。北東領の男は、首を落とされても平気で百歩は歩けるようにできているんだ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん、首を落とされたら無理だね」

姫王子 「まあ、そのくらい丈夫なんだよ」


387 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 19:22:14.27 ID:TaTeWAENo


幼妻エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼妻エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼妻エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼妻エルフ 「その声」

幼妻エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」


388 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 19:24:24.49 ID:TaTeWAENo


>>387訂正ごめんなさい夏だからごめんなさい




幼竜エルフ 「胸に大きな脂肪の塊を二つぶら下げて、何が男だよ」


姫王子 「これは……一時的なものだよ」


幼竜エルフ 「どうだか。髪もだらしない伸ばし方をしやがって」

幼竜エルフ 「どっかの娼婦が、お前の首巻きをかっぱらってきたのかと思ったぜ」


姫王子 「仕方ないだろ、切る暇なんて無かったんだから」

姫王子 「近く切るか整える見込みだよ」


幼竜エルフ 「その声」

幼竜エルフ 「無理して低くしているのがバレバレだぜ」


姫王子 「それは……」

姫王子 (普通に喋ると、混乱するんだよな)

姫王子 (聞けば聞くほど、今までのおれの声と違う、女の声なんだ)

姫王子 (おれが考えて話す言葉が、女の声で聞こえ続けると、おれが分からなくなりそうになる)

姫王子 (元のおれの声を意識して話している)

姫王子 「……葉巻、お前は本当のお前の声をおぼえているのか」
389 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/08/31(金) 20:15:27.67 ID:TaTeWAENo


幼竜エルフ 「本当のオレの声?」


姫王子 「お前は姿と一緒に声も変わるが、いつの間にか、おれの知っているお前の声で話している」

姫王子 (ついでにいつの間にか耳も尖っている)


幼竜エルフ 「これは、お前が初めてオレと会ったときの声を出してやっているだけだよ」


姫王子 (……ということは、やはりおれは葉巻の真実の姿をまったく知らないということか)


幼竜エルフ 「頭のかたい、友だち、に対する、オレなりの気遣いさ」

幼竜エルフ 「オレがどんなに姿を変えようと、お前にとってのオレはいつまでも、酒場で会った美少年なのだろ」


姫王子 「そりゃどうも……」

姫王子 (ずいぶん刺のある言い方だな)


幼竜エルフ 「さてね、どんな声で、どんな姿だったかな」

幼竜エルフ 「どうでも良いことさ」


姫王子 「そんなものなのか」

姫王子 「おれは、自分の声を忘れるんじゃないかと思うと、良い気分じゃないよ」

姫王子 「今はまだはっきりとおぼえているが、頭の中でだけなんだ」

姫王子 「はっきりとした形を捉えきれない。できたと思っても、声を出した途端にあやふやになる」

姫王子 「このまま今のおれの声が頭に響き続けると、消えてしまう気がする」

姫王子 「そして、一緒におれそのものも、だ」

姫王子 「現に、筋骨隆々で強さと逞しさを備えていた本当のおれの姿を、今はもう幽かにしか思い出せない……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


幼竜エルフ 「いないんだよ、その本当のお前は」


390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/31(金) 22:06:42.16 ID:8fv8igUjO
疲れててもツッコミを忘れない姿勢は素晴らしい
391 : ◆9eN28dDkrjul [saga]:2018/10/19(金) 18:49:21.03 ID:ls7xm4I90
復活おめでとんかつ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 02:46:49.73 ID:eCTm90ty0
待ち
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 06:25:44.19 ID:PVpupeCc0
うむ
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/18(金) 10:34:33.54 ID:9f6mozuEO
あけましておめでとうございました
そろそろお願いします…
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/01(金) 10:35:05.04 ID:kbtHxx1a0
あの先生…3月に…待つ
396 : ◆9eN28dDkrjul :2019/09/04(水) 05:24:19.91 ID:KPSTQ5X70


姫王子 「……ん? おれは、おれで良かったっけ、オレだったっけ」
姫王子 「……我輩?」


幼竜エルフ 「そこまで重症か」


姫王子 「あれ、まずいな、色々と自分のことを思い出せないぞ」
姫王子 「数日前、ほんの数日前の自分のことなのに、自分をどう呼んでいたかも思い出せない」
姫王子 「ほんの数日前のことなのに……!」
姫王子 「これが鏡の呪いなのか……」


幼竜エルフ 「……そんなものじゃない?」
幼竜エルフ 「お前、わりと忘れっぽいじゃない」


397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 11:21:37.94 ID:8hlobJLbo
半年以上ですよ先生!もうこないかと…!
398 : ◆9eN28dDkrjul [sage]:2019/09/04(水) 11:55:21.87 ID:KPSTQ5X70


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん、そのくらいは覚えている」

姫王子 「おれはおれだ。たぶん」

姫王子 「そんなに忘れっぽくもないはずだぞ」


幼竜エルフ 「どうだか……」

幼竜エルフ 「ああ、でも、そうだな。お前、ちゃんと覚えていたものな」

幼竜エルフ 「一言一句、間違いなく。しつこいくらいに」


姫王子 「それは。それは、お前もそうだろう」


幼竜エルフ 「…………」

幼竜エルフ 「おお、なんということだ。まるで、月が美しい錫色の輝きそのままに……」


姫王子 「やめろよ……!」


幼竜エルフ 「ケケケ……」


399 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/04(水) 12:09:29.97 ID:KPSTQ5X70


姫王子 「やれやれ、あんなことをしでかしておいて、やっぱり反省する様子はなしか」

姫王子 「お前らしいというか……」

姫王子 (甲板で馬車幽霊が回収した葉巻の遺体はどう扱われたんだろうか)


幼竜エルフ 「……しているよ」

幼竜エルフ 「反省、している」


姫王子 「お前の口からそんな言葉が……」

姫王子 (さすがに懲りたのだろうか)

姫王子 (まあ、エルフの長老としても、勇者の旅の導き手としても、お粗末すぎる行いだったろうしな)

姫王子 (おまけに弟子に手柄とられてるし)

姫王子 (それにしても、かたくなにこっちを向かないな、葉巻。合わせる顔も無いといった心境なのだろうか)


幼竜エルフ 「王子」


姫王子 「うん?」


幼竜エルフ 「もう旅やめようぜ」


姫王子 「……うん?」

400 : ◆9eN28dDkrjul [sage saga]:2019/09/04(水) 12:56:37.87 ID:KPSTQ5X70


幼竜エルフ 「そしてその辺の島で三人で暮らそう」

幼竜エルフ 「小屋を建ててさ、畑つくって、魚とか釣って、たまに流れ着く遭難者の身ぐるみはいだりして」


姫王子 「葉巻」


幼竜エルフ 「魔王討伐とか、皇帝の目とか、そういうの全部放り出してさ」

幼竜エルフ 「自由にやろうぜ」


姫王子 「笑っていこうとは言ったが、さすがにそれは笑えないぞ、葉巻」


幼竜エルフ 「考えてもみろよ。旅に出て大陸半周もしないうちに、お前」

幼竜エルフ 「森で腹に穴が空いたと思ったら、次には海で身体をバラバラにされてそんなことになってるんだぜ」

幼竜エルフ 「この調子だと、旅が終わる頃にはネバネバした手の平大の何かになっていてもおかしくない」


姫王子 「お前はほとんど人質になっていたけどな」

姫王子 「……おれが足手まといだと言いたいのかい?」


幼竜エルフ 「オレからしたら全部、オレすら足手まといだよ」

幼竜エルフ 「お前はよくやっているさ」

幼竜エルフ 「何より、ごみよりは大事な、オレの、友人ッッ、だよ」


姫王子 「お前にとって友人は念入りに足で潰す害虫か何かなの?」

401 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/05(木) 20:49:42.98 ID:XURXMcMI0


幼竜エルフ 「……ふぅ」


王子姫 (いい加減にこっちを向けよ)

王子姫 「……調子悪いのか」

王子姫 (と言って、心配してる風に歩み寄り自然に顔を覗きこむ)


トコ トコ


幼竜エルフ 「……ただの二日酔いさ」


プイイ


王子姫 (あ、おれの歩みに合わせるように、顔を背けた。くそっ)

王子姫 「おれが寝てる間に酒宴でもやってたのかな」


幼竜エルフ 「他の連中は好き好きにやってたみたいだぜ。オレはここから一歩も出てないが」

幼竜エルフ 「……鏡に映った竜の血なんて、ガブガブ飲むものじゃなかった」


王子姫 「自業自得か」


トコトコトコ


幼竜エルフ 「だから、お前のせいだよ」


プイイ


王子姫 「そうかい」


トコトコ

402 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/05(木) 21:19:07.57 ID:XURXMcMI0


>>401 訂正ごめんなさい


幼竜エルフ 「……ふぅ」


姫王子 (いい加減にこっちを向けよ)

姫王子 「……調子悪いのか」

姫王子 (と言って、心配してる風に歩み寄り自然に顔を覗きこむ)


トコ トコ


幼竜エルフ 「……ただの二日酔いさ」


プイイ


姫王子 (あ、おれの歩みに合わせるように、顔を背けた。くそっ)

姫王子 「おれが寝てる間に酒宴でもやってたのかな」


幼竜エルフ 「他の連中は好き好きにやってたみたいだぜ。オレはここから一歩も出てないが」

幼竜エルフ 「……鏡に映った竜の血なんて、ガブガブ飲むものじゃなかった」


姫王子 「自業自得か」


トコトコトコ


幼竜エルフ 「だから、お前のせいだよ」


プイイ


姫王子 「そうかい」


トコトコ


幼竜エルフ 「そうさ」


プイイ クル


姫王子 (ついに身体ごと背けだした。そんなに顔を見られたくないのか)

姫王子 「力不足だったよ。魔女相手というのは、嫌だね。注意してもし足りないし、まったくの見当違いだったりする」


ハーピィ 「…………」


幼竜エルフ 「お前はよくやっているよ」

幼竜エルフ 「分もわきまえず旅に憧れる領主のハナタレ息子なんて」

幼竜エルフ 「いざちょっと家を離れたらぶるぶる震えてオレに縋り付いて馬車に引きこもると思ってたのに」


姫王子 「おれを何だと思ってたんだよ」

403 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/05(木) 21:56:54.01 ID:XURXMcMI0


トコトコ

クル

トコトコ

クル


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 「…………」

姫王子 (おれから顔を背け続けた結果、葉巻はとうとう毛布から這い出し、枕に膝を乗せて正座する格好となった)

姫王子 (……思ったより幼い、というか、全体的に細いな。肌がほんのり赤い気がするが、灯りのせいかな)

姫王子 (なんか、子供がむくれて背を向けているようだ)


幼竜エルフ 「……なに」


姫王子 「……うん?」


幼竜エルフ 「急に黙り込んで」


姫王子 「ああ……喋るのと同じかそれ以上に黙っているのも好きなんだ」


トコトコ


幼竜エルフ 「…………」


クル


姫王子 「…………」


トコト……


幼竜エルフ 「もう何なんだよさっきから」

幼竜エルフ 「ベッドの周りを嫌らしくねっとり歩きやがって」


姫王子 「お前こそどうしてベッドの上でオルゴールの人形みたいに回ってるんだよ」


幼竜エルフ 「軽い運動だよ。ベッドの上で生活してると、身体がなまっちまうから」


姫王子 「ふうん」

姫王子 「…………」


幼竜エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


404 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/05(木) 22:11:16.19 ID:XURXMcMI0


姫王子 「おら、こっち向け、おら! 顔上げろ!」


幼竜エルフ 「やだよ、やめろ、背中に脂肪の塊くっつけてくんな!」


姫王子 「前髪滝みたいに伸ばしやがって、顔見せろ、角見せろ!」


幼竜エルフ 「お前だって髪ツンツンさせやがって、やめろ、何かにおいも変になってるぞお前、やめろ!」


姫王子 「この、この、この!」


幼竜エルフ 「やだ、こら、きゃあ!」


ドタ バタ


ハーピィ 「…………」


405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 12:48:51.73 ID:sSnb1OmQ0
待ってました!しかしさっそくGOKURI…
406 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/07(土) 06:33:11.87 ID:QEbEoxur0


…………


姫王子 「ふう、はあ……」


幼竜エルフ 「はっ、ひい……」

幼竜エルフ 「何だよもう、余計な汗かせやがって。姿と一緒に性格も変わったんじゃ無いの?」


姫王子 「死んで生還できたんだ、はしゃぎもする」

姫王子 「あとで身体を拭こうか。この姿のおれに拭いてもらえるなんて、良いものなんじゃないか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん、拭くつもりは無い。冗談だ」

姫王子 「すまない、病み上がりに」


幼竜エルフ 「……途中からくすぐった」


姫王子 「ごめん」

姫王子 (弱点は変わっていなかったな)


幼竜エルフ 「後ろからいきなりとか、卑怯だろ、このすけべ……」


姫王子 「悪かったよ」


407 : ◆9eN28dDkrjul [saga sage]:2019/09/07(土) 07:05:11.25 ID:QEbEoxur0


姫王子 「でも何だって、そんなに顔を隠したがるんだよ」


幼竜エルフ 「べつに」


姫王子 「ふうん」

姫王子 (額に一本、小さな角が控えめにはえていて、肌がやっぱり赤いくらいで、とくに変なところは無かった)

姫王子 (つんとして、全体的に幼めの顔立ち)

姫王子 (……だったと思う。すぐに前髪で隠れてしまった)

姫王子 「何か理由があるなら、教えてもらえると助かるんだけどな」

姫王子 「髪が桃色の子供になったり、下半身が馬になっても堂々としていたというのに」


幼竜エルフ 「……良いだろ、もう。気にするなよ、あとでちゃんと顔を見せてやるから」

幼竜エルフ 「今はちょっと、そういう気分なだけさ。あるだろ、そういうこと」


姫王子 (ブラウニー娘にはいつも通り接していたくせに)

姫王子 (……おれに何かあるのだろうか)


408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 18:05:53.78 ID:svkT9nnXO
今の葉巻の参考画像はよはよはよはよ
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/09(土) 01:47:31.85 ID:LfgQqQjpo
あれ?この作者生きてる?
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/01(月) 21:44:14.98 ID:u9Oaic+4o
作者死んだのでは
411 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2022/03/19(土) 17:33:40.00 ID:BER/8E5Zo


幼竜エルフ 「椅子、使えよ。その辺の」


姫王子 「ああ、どうも。じゃあハーピィ、こっちの……」


ハーピィ 「…………」


トコトコトコ

ギシ


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが、葉巻のベッドに腰掛けた)


幼竜エルフ 「…………」


王子 (何も言わない葉巻。良いのか)


ハーピィ 「…………」


王子 (こっちを見てくる)


ハーピィ 「…………」


王子 「おれもそこに座れってことかな」


ハーピィ 「…………」


コクリ


王子 「……ふむ」


412 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2022/03/19(土) 17:36:18.96 ID:BER/8E5Zo

>>411 訂正ごめんなさい



幼竜エルフ 「椅子、使えよ。その辺の」


姫王子 「ああ、どうも。じゃあハーピィ、こっちの……」


ハーピィ 「…………」


トコトコトコ

ギシ


ハーピィ 「…………」


姫王子 (ハーピィが、葉巻のベッドに腰掛けた)


幼竜エルフ 「…………」


姫王子 (何も言わない葉巻。良いのか)


ハーピィ 「…………」


姫王子 (こっちを見てくる)


ハーピィ 「…………」


姫王子 「おれもそこに座れってことかな」


ハーピィ 「…………」


コクリ


姫王子 「……ふむ」




ツカツカ ギシ


姫王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼竜エルフ 「……何これ」


姫王子 「さあ……」



413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/19(土) 18:00:16.99 ID:co8CPr3tO
生きてたんかわれ
414 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2022/03/19(土) 19:04:08.03 ID:BER/8E5Zo


幼竜エルフ 「何で、よりによってベッドに三人腰掛けているんだよ」


姫王子 「まあまあ、もう顔を覗こうなんてしないから」


ハーピィ 「…………」


姫王子 (何だろう。ハーピィの瞳から圧力のようなものを感じる)


幼竜エルフ 「ふん」


姫王子 「……そういえば、お前、外を歩き回れるかい?」


幼竜エルフ 「問題ない」

幼竜エルフ 「足腰は今までのどの身体よりも丈夫だし」

幼竜エルフ 「この姿のオレが歩き回ったところで、誰も気に留めない」

幼竜エルフ 「馬車幽霊がうまくやってくれたさ」


姫王子 「そうか」

姫王子 「それじゃあ、今すぐという訳じゃ無いが、買い物に付き合ってくれよ」


幼竜エルフ 「リボンが良い。角に合うやつ」


姫王子 「……分かったよ。そのときは角、見せろよな」



415 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2022/03/19(土) 19:35:10.10 ID:BER/8E5Zo


姫王子 「色々と揃えなきゃならないからな。下着とか……細々したやつ」

姫王子 「この姿で過ごさないといけないし」

姫王子 「あくまで一時的とはいえ」


ハーピィ 「………ぁ」


姫王子 「え?」


ハーピィ 「…………」


姫王子 「……ハーピィ?」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


姫王子 (気のせいかな……と、口に出す勇気が、何故か出ない)



幼竜エルフ 「この馬車には、オレよりも適任な奴がいると思うけどな」

幼竜エルフ 「脂肪の塊をぶら下げた奴とかさ」

幼竜エルフ 「何か、オレでなきゃいけない理由でもおありで?」


姫王子 「あ、ああ」

姫王子 「……身体の乗り換えの先輩に、ご教授願いたくてね」


幼竜エルフ 「ふうん。そういうことなら……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


姫王子 「うん? ああ……」

姫王子 (嘘だったのか。そんなつもりは無かったけど)

姫王子 「別に理由は無いよ。気楽にぶらぶらしたくなっただけだよ、お前と」


幼竜エルフ 「帰れ」


姫王子 「えっ!?」


416 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2022/03/20(日) 10:42:42.54 ID:LuBfPig5o


姫王子 「何だよ、いきなり。帰れ? 何で?」


幼竜エルフ 「買い物は明日の夜明け前からだな」


姫王子 「あ、買い物は付き合ってくれるんだな」

姫王子 「朝飯の後で良いだろう」


幼竜エルフ 「船員が気まぐれでやっている魚市場の食堂の、朝一番に水揚げされたばかりの魚を使った料理が美味いらしい」


姫王子 「ほう。北東の海の幸を飽きるほど味わったおれの舌を」

姫王子 「果たして満足させることができるか楽しみだな」


幼竜エルフ 「よし、帰れ」


姫王子 「いや、まだ話すべきことは色々あると思うんだけど」

姫王子 「これからのこととか、あの魔女についてとか……」


幼竜エルフ 「いいから、今日のところはここまでだ」

幼竜エルフ 「お前も疲れているだろ」


姫王子 「寝起きだ。軽い運動をして目も冴える一方だ」

姫王子 「……お前の方こそ、実はまだどこか具合悪いのか?」

姫王子 「だったら、明日も無理せず……」


幼竜エルフ 「その後は服飾を取り扱う店を全部まわるぞ。ああ、美容アイテムも揃えなきゃな」

幼竜エルフ 「昼はあの恐ろしくつまらない出し物がある店で良いだろ」


姫王子 (やる気なさげにスラスラと予定を組み立てている)


幼竜エルフ 「昼が済んだら、無人島で暮らすためのアイテムも揃えよう」

幼竜エルフ 「そういえば練り石材を売ってる店が出ていたな」


姫王子 「こら」



417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/16(金) 14:14:18.86 ID:f55TUb2ko
一年来てないしもう来ないかな
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/16(金) 14:49:13.93 ID:wfT5o46No
残念だ
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