モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part13

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340 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:39:22.97 ID:nZ3oq+wSo

『そと?とおいところなの?』

「まぁ……ちょっと遠かったな。でも、大した距離じゃないさ」

 奈緒はウルティマを警戒させないように柔らかい言葉で話すが、それでも内心は戦慄していた。
 目の前の少女は年相応の笑顔で奈緒に語り掛けてくる。だが決してその笑顔は正常ではない。

 濁った瞳は見つめられるたびに不安に駆られるし、長い間動かさなかったであろう表情筋によって構成される笑顔はあまりにもぎこちない。
 すべてがその場で繕われたような表情であり、中身である人格というものを感じさせない、文字通りの『からっぽ』であった。

 奈緒はそんなウルティマに若干の恐怖を抱きながらも相対する。
 それは彼女自身が、この闇から目をそらしてはならないことを知っているからだ。
 ありえたかもしれない自分の姿から目を離してはいけないと、そしてその上で次は自分がこの少女を闇から救うのだと。
 かつて自分が救われた時のように。

「なぁ、奈緒ちゃん。ここは寂しいだろ?」

 奈緒は自分の名前で相手を呼称することに若干の気恥ずかしさを感じるがそこは堪えて、ウルティマと対話する。
 この殺風景な遊園地の真ん中で、永遠に空腹にあえぐ少女を連れ出すために。

「誰もいない。空は暗い。遊園地は動かない。こんな何一つない世界にたった一人で閉じこもるのは辛くないのか?」

『……うん。さみしい。くるしい。だれもいなくて、からっぽだから、あたしはずっとおなかがへってるの』

「ああ、そうだろうな。あたしも前に、寂しくて泣きそうで、ずっと満たされなくてお腹が空いていた」
341 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:40:08.18 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒が思い返すは研究所での牢獄の生活。
 暴食の核が訴える激烈なまでの空腹は、もともと満たされぬ奈緒にとっては永遠に続く地獄の苦痛そのものであった。
 だがそれ以上に辛かったのはその誘惑に負けて、だれかを自分に入れることだった。

「だけどあたしは我慢した。だってそれで食べちゃっても、それはあたしとは違うし、見えなくなってしまうから」

 これまでに取り込んだ生命体が、それ以降奈緒の目の前に現れたことはない。
 自分の中にいることはわかっても、それで自分に語り掛けてくれるわけでもないのだ。
 ただ一緒にいるだけで、目も合わせず、口も利かず、依然自らの孤独は続くのだ。

「だから、ここにいたって絶対に空腹は満たされない。だから!」

 奈緒は玉座の少女に向かって手を差し伸べる。
 この暗く深いたった一人の王国から、自分と同じ少女を連れ出すために。
 暗い水底にいた自分が、今度は同じ少女を底から引き上げるのだと。



『だいじょうぶ。……これからはさみしくないよ。なおおねえちゃん』

 だが奈緒が踏み出した足は進まない。
 一切動かぬ足はまるで地面に縫い付けられたようであり、冷たい何かが這い上がってくる違和感に思わず奈緒は足元を見る。

「なっ!?……これは、泥!?」
342 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:40:40.70 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒の足を縛り付け、ふくらはぎへと這い上がってくるのは彼女自身慣れ親しんだ黒い泥であった。
 そしてふと周りをよく見れば、歩道全てが氾濫したように泥が充満している。

『ダレカキタ』

『ボクラノホカノダレカガココマデ来ルナンテハジメテダ』

『ナラワタシタチデ、カンゲイシナキャ。ヨカッタネ、ナオ。オトモダチガフエタヨ』

『『『ヨウコソ。カンゲイスルヨ。アラタナ同胞ヨ』』』

 そしてこの場に響く、幾重にも重なった何百もの同じ言葉の斉唱。
 メリーゴーラウンドやコーヒーカップ、バイキングやジェットコースター。
 ありとあらゆる遊園地を構成する物質から奈緒は視線を感じる。

「ホント……まさに退廃の園ってわけか」

 これらすべてを構成するのは、奈緒の泥に溶け込んだ百獣と同様、ウルティマの眷属であろう。
 そのすべてが主であるウルティマを含め足を引っ張り合い、地獄に止め、地獄を成している。
 この醜い足の引き合いによって成されたこの遊園地を退廃の園と言わずになんと形容できるだろうか。

『あたしと、なおおねえちゃんもずっとここでいっしょだよ。

なおおねえちゃんは、あたしをひとりにしないよね?

あたしはここから出られないんだから、おねえちゃんがあたしをみたしてくれるのでしょ?』
343 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:41:29.65 ID:nZ3oq+wSo

 そしてその獣たちの斉唱は少女には聞こえていない。
 どうやら徹底してウルティマの眷属たちは、自らの主を孤立させ続けるつもりなのだろう。

「くそっ!奈緒ちゃん!あたしの手を取れ!

一緒にここを出るぞ!ここの連中は、誰も奈緒ちゃんの味方じゃない。このままじゃずっと一人だ!」

 奈緒は足に絡みつく泥を振り払おうともがくがその抵抗は全く意味をなさない。
 それでも足が動かないのならば、奈緒は玉座の少女に向けて手を伸ばす。

 その手の距離は少女へは未だ遠い。だが奈緒は届かぬ手を伸ばすことに躊躇いはない。
 必要なのは少女自身がこの地獄から出ようとする意志だ。
 ウルティマが自身の意思でその手を取ろうとするだけで、奈緒は彼女をこの心の最奥から引き上げることはできるだろう。

『……なにをいってるの?おねえちゃん』

 だが当の少女は差し出された手を訝しげに見つめる。
 ウルティマには差し出された手の意味は分からず、そして奈緒が何を言っているのかも理解できていなかった。

『出るってどこに?ここいがいの、どこにいくの?

ここいがいに、『どこか』なんてないでしょおねえちゃん。

『そと』ってここの『どこか』のことでしょ?』

 そもそもウルティマにとって『外』の概念すら知らないものである。
 この遊園地こそがウルティマの世界であり、たった一人の孤独こそがウルティマの既知なのだ。
 これまでに人々を襲ってきた捕食の髪も所詮は目隠し状態で手を伸ばしたに過ぎない行動である。
 そこに意識などなく、それはただの反射行動だ。

 それもそのはず、当の本人は誰の声も光も届かない錆色の空の元で孤独に完結しているからである。
344 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:42:01.08 ID:nZ3oq+wSo

『だから、ずっといっしょだよ。なおおねえちゃん。

ふたりでいっしょに、あたしとずっとあそぼう?』

 ゆえに、初めて対面した他人であり、孤独を埋めてくれる存在かもしれない奈緒を絶対にウルティマは離さない。
 堕ちるところまで一緒に堕ちようと、泥の拘束は奈緒へと這い上がって行く。

「……く、くそ。これじゃ……これじゃダメなんだよ!奈緒ちゃん!」

 きっとウルティマには奈緒に這い上がる泥の眷属は見えていないのだろう。
 だが少女の堕落の願いは、その視界には見えない泥たちの後押しを無意識のうちに行っていた。
 仮に泥たちが奈緒を完全に飲み込んだ後には、ウルティマを再び孤独にするために奈緒を取り上げるのだろう。
 だがウルティマはそんなことに気付かず、ただただ奈緒を束縛したくてその濁った瞳をギラギラと輝かせる。

「ここじゃ、ダメなんだ!……こいつらと一緒じゃ、絶対に、お前は幸せになんてなれないから、だから!」

 奈緒の周囲に見える足を引き合う獣たちの宴は、慣れているはずの奈緒にさえ吐き気を催す醜悪なものだった。
 その渦中で生贄として祭り上げられた少女を説得しようとしても、決して声は届かない。

『あはは!なおおねえちゃんは、ずっといっしょだよね!

これからいっしょにあそぼう!あたし、あのメリーゴーラウンドにのってみたかったの。

ジェットコースターはこわかったけど、おねえちゃんといっしょならきっとだいじょうぶだから。

かんらんしゃにふたりでいっしょに、ずっとぐるぐるまわるのよ!きっと、とてもたのしいよ!

ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと!』
345 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:42:51.00 ID:nZ3oq+wSo

 いくら奈緒が強靭な意志をもってこの領域に乗り込んだとしても、この世界の主はウルティマである。 
 その心象風景に踏み込んだ時点で奈緒はアウェーであり、胃袋の上に乗っているも同然なのだ。

 たとえ奈緒が抵抗を試みたとしても、大海に一滴落とされたに等しい奈緒という存在はすぐに飲み込まれてしまうはずである。

「ダメだ……絶対に、これじゃダメなんだ。

これじゃ誰も救われない。誰も幸せになんてなれない。

……だったら、あの子には何が届く?『私(あの子)』がここから出る理由は、なんだ?」

 すでに奈緒の半身は泥に沈んでおり、全く身動きはとれない。
 それでも奈緒は思考を巡らせて、少女に手を伸ばすことを諦めていなかった。

 このままで乗り込んだはずの奈緒の側が、ウルティマの泥に飲まれてしまうだろう。
 もしくは奈緒自身が泥に対抗するために自らの『泥』をさらけ出せば、五分には持っていけるかもしれなかった。

 だが決して奈緒はそれはしないだろう。
 それはウルティマの世界を犯すことであり、少女の自我を崩壊へと道ぶくかもしれない危険な行為だ。
 ウルティマを倒すという目的ならば、心臓部であるこの世界を壊せばそれで済む話。
 だが奈緒の目的は倒すことではない。奈緒は小さく、泣き続ける少女を救いに来たのだ。

 それはウルティマに自らの姿を投影した自愛の感情であったのかもしれない。
 自分を救ってくれた誰かの姿を真似したいだけなのかもしれない。
 その気持ちは純粋ではないエゴなのかもしれない。
346 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:43:26.05 ID:nZ3oq+wSo

「そんなことは……わかってる。

この子を救いたい?それはあたしの傲慢かもしれない。同情かもしれない。

だけど……この気持ちは本物だ!あたしは、誰よりも、この子を救いたい!

こんな苦しい姿、これ以上みていられるかぁ!」

 奈緒は這い上がってくる泥を声を上げて振り払う。
 それは自身の泥を使った攻撃でも、異能の力も用いていない。
 奈緒自身の意志力であり、それが纏わりついていた後ろ向きな感情の塊である泥を弾いたのである。


「そうだ。理屈なんて知らない。

あたしは難しいことは考えられないし、何が正しいなんて知らない。

だけど、この手を伸ばすことだけは、絶対に間違ってなんて、いない!」


 以前奈緒の半身は泥に埋まったままである。
 だがその脚は固着しておらず、確実に地面を踏みしめ少女の元へと歩みを進める。
347 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:44:47.17 ID:nZ3oq+wSo

『ナンダ……コレハ?』

『シラナイ。ワタシタチハ、コンナノシラナイ!』

 周囲の泥たちの視線が驚愕の物に代わる。
 決して我らの泥は狙った獲物を逃がすことはないという確信が崩れ、意味の分からない力によって異物が尚も邁進することに眷属たちは驚愕を禁じ得なかった。
 全力で泥に沈めようとしている奈緒は、決して沈むことなく、それどころか拘束を振り切り歩みを進めているのだ。
 そしてそこに理屈など存在しない。あるのは奈緒以外に、この場の誰も持ち合わせていない感情のみであった。

「難しく、考えすぎなんだよ。まったく、どいつもこいつも暗いって」

 奈緒は困惑する泥たちを横目ににやりと笑い、一つの建物を視界に入れる。
 それは遊園地によくあるキャリアカー式の売店であり、小さなグッズと共に私用であろうカレンダーがかけられている。

「……9月16日。ああそうだ。この日だよ。

パパとママ、3人で遊園地に行ったのは、ちょうど7歳の誕生日だ。

すっかり忘れてたな。あたしも……お前も」

 奈緒の視線の先は楽しそうに笑うウルティマの姿。
 だがその笑顔は空虚であり、きっと在りし日の幸せさえもすでに忘れ去っているのだろう。

「でも、無くしてはいないはずだよな。だってそれは、あたし『たち』の幸せそのものだ。

それに思い焦がれる限り、あたしは絶対にあたしをやめたりしないんだから」
348 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:45:13.95 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒が焦がれるものはあの日の幸せであるならば、当然ウルティマにとってのそれも同じである。
 奈緒にとっての幸せの基準がそれであり、記憶から忘れようとその価値観は決して一度も揺らいだことはなかった。

 いつもはこの風景は夢で見るだけで、奈緒自身に情報を持ってくることはできなかった。
 だがあくまでこの風景は『他人』のものだ。その9月、自身の誕生日を示す手がかりによって記憶がよみがえることは何ら不思議ではない。

 奈緒にとっての答え、ならばウルティマにとっても同じ答えだ。
 ゆえに、奈緒は最後の一歩を踏みしめる。

「奈緒ちゃん!」

 ウルティマはいつの間にか眼前まで迫ってきていた差し伸べられた手に、ようやく我に返る。
 依然濁った視線で奈緒を貫くが、そこにははっきりとした意思があった。

『おねえ、ちゃん?どうしたの?』

「一緒に、外に出よう!」

『だから……『そと』ってどこ?おねえちゃんは、やっぱりあたしをおいてどっかにいっちゃうの?

そんなの……そんなのは』

 奈緒の言っている意味が分からないウルティマは、悲痛な声を上げる。
 せっかく独りぼっちじゃなくなったのに、また孤独になるのではないかという恐怖に怯えていた。
 だが奈緒はそんな不安そうな少女に向けて、ゆっくりとほほ笑んだ。
349 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:45:51.06 ID:nZ3oq+wSo

「一緒に、パパとママを探しに行こう。

そしてもう一度、遊園地に行こう!」

 錆色の空に、亀裂が走った。
 思い浮かべる風景は、いつかの自分の誕生日。
 両親が連れて行ってくれた遊園地。『奈緒』の幸せの原点であり、間違いなくずっと追い求め続けていたものだった。

『パパ……?ママ……?

……そうだ。あたしには、パパとママがいる。

でも、どこ?……どこなの!?パパ!ママ!』

 その濁った瞳に光が宿る。
 ずっと忘れていた、『神谷奈緒』の記憶。
 それを取り戻した少女の声は、迷子の子供のように泣き叫ぶようではあったが、間違いなく中身のあるものである。

「パパとママはここにはいない。

だけど、必ずこの世界のどこかにいるはずだ」

『……この世界の、どこか?』

「ああ、この奈緒ちゃんの世界じゃない。もっと広い、みんなが暮らす外の世界に。

外に出よう。そしていっしょに探そう、パパとママを」
350 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:46:20.10 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒の耳に聞こえてくるのは少女を閉じ込めていた泥たちの断末魔の叫びだ。
 足元に纏わりついていた泥たちはすでに引いており、錆色の空の亀裂からは光が差し込んでいた。
 それは紛れもなく、この閉塞した世界の崩壊であり、ウルティマの意識がこの閉じた世界の『外』に向いたことを示していた。

『あたしも、探す!パパと、ママを!』

「そうだな。いっしょに探そう。あたしたちのパパとママを。

……そうだ、あたしの記憶、思いを、それらをくれた人たちを探さなきゃ」

 迷いは今晴れた。
 少女を孤独に祭り上げるだけの閉塞世界は今終焉を迎える。
 その最後は光に満ちているものであり、動くことのなかった観覧車が回り始めていた。





 
351 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:46:49.95 ID:nZ3oq+wSo




『アアアアアアア『アアアア『『アアアア』アアアアア『アアアアアア!!!!』

 幾重にも折り重なるような不協和音となった雄たけびはまるで断末魔の叫びであるかのようだ。
 溢れ出す泥の洪水は追い立てられるかのようであり、暴食の竜頭は力を失い泥へと帰っていく。
 ウルティマの髪はもとの毛量に戻り、泥は足元から逃げ出すように止めどなく溢れ出している。

「うお、らあぁ!」

 それと同時にウルティマの足元の泥から飛び出す一つの影。
 濁流に流されるように這い出てきた奈緒は、待機していた仲間たちに号令をかけた。

「あとは、任せた!」

『おうとも。その言葉を待っていた!』

 アイユニットから響く軽快な夏樹の声。
 すでに準備は万端のようで、スピーカーの先では何かの物音がする。

 そして天井付近に開く黒い穴。
 それは夏樹のワープホールであり、その中から一つの影が落下してくる。

『だりー、大一番だ!練習の成果を見せてやれ!間違ってもヘマすんなよ』

「わかってるよ。ここで決めれなきゃ、クールが廃る!」
352 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:47:43.92 ID:nZ3oq+wSo

 落ち行く影は声帯装置が元に戻り、完全に李衣菜である。
 その手には専用のエレキギターであり、シールドの先は自身へとつながれていた。

『聴かせてやれだりー!お前のロックを、このナンセンスな獣たちによ!』

「おっけー!イッツ、ロックン、ロールゥ!」

 ギターから力強くかき鳴らされるパワーコードは拙くも心臓を響かせる波長を放つ。
 李衣菜自身につながれたエレキギターは、体を伝わって電気信号が増幅され、ロビー全体へと爆音が行き渡る。

「Yeaaaaaaaah!!」

 李衣菜のシャウトと共に響き渡るメロディーは、決して難易度の高い高度な曲ではなかったが、聴く者の心に響く魂の曲だ。
 その音響は、ソニックブームに近い衝撃を生み、逃げ惑うように這い出てきた泥たちの一切を弾き飛ばし、消滅させていく。

 泥は弾かれ、もはやウルティマを阻むものは精神的にも物理的にも存在しない。
 そこまでの道のりは既に一直線に開けており、ゆっくりと歩いていくことさえ可能であった。

『あ……あぁ……』

 小さく、呆然と立ち尽くすウルティマ。
 その心の枷は断ち切りはしたが、未だ身体は飢えと呪いに侵されたままであり、心は現実に追い付いていない。

 だからこそ、その呪いを浄化し、癒してやる必要があるのだ。

「もう、大丈夫だにぃ」
353 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:48:15.71 ID:nZ3oq+wSo

 きらりは立ち尽くす少女にゆっくりと近づき、そのまま抱きしめる。
 その体は小さく、きらりの大きな身体に収まってしまう
 感じる体温は冷たく、強く抱きしめれば折れてしまいそうなほどに細い。
 故にその抱擁は優しく、ゆっくりとぬくもりを伝えるように穏やかであった。

「これから、きっとはぴはぴになれるように、きらりがはぐはぐしてあげりゅね!」

『……はぴ、はぴ?もう……ひとりじゃないの?もう、くるしくないの?』

 体に伝わってくるこれまでに感じたことのないぬくもりに、ウルティマの力は自然に抜けていく。
 これまでに抱えていた飢えも、苦しみも嘘のように消えていくのを実感していた。

「そうだにぃ。これからは、おねーちゃんたちがいっしょだよー☆」

『あった、かい……うぇ、うええええええええぇぇん!!』

 少女はきらりの腕の中で年相応に泣きじゃくる。
 すでに周囲一帯の泥は完全に蒸発しきっており、地獄は完全になくなっていた。
 破壊しつくされた同盟本部のロビーには光が差し込み、静かに少女を照らし出している。



 
354 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:48:51.46 ID:nZ3oq+wSo


***


「うそだろ……そんなことって」

 奈緒は重々しく口を開く。
 隣の瓦礫の上では、ウルティマ・イーターと呼ばれた少女が臥せっていた。
 その表情はきらりによっていったんは穏やかになったものの、時間の経過とともに苦しそうに曇っていた。
 息は浅く、吸うだけでも苦痛に顔を歪めている。

「嘘じゃ、ない。おそらく、その少女は長くは持たないだろう」

 ウルティマは長くは持たない。
 そう断言するのは、ネバーディスペア直属の上司であるLPだ。
 あの研究所の研究を知り、今のウルティマの状況を見たうえでの判断であった。

「どういうことだよ!?だって、この子はやっとあの苦しみから解放されたはずだ。

もう、この子は自由のはずだろ?だったらどうして、長くないなんて言うんだ!」

 命がけで救い出し、苦しみから解放された少女を前に、奈緒は激昂する。
 まるでその行いが無意味であるかのように否定され、打ちのめされたような気分である。

「おそらく、この子は奈緒のクローンだ。

あの研究所からどうにか遺伝子サンプルを持ち出して、培養したのだろう。

再び、あの悪夢を再現できるように」
355 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:49:32.31 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒は確かに兵器として完成はしなかったが、十分な可能性を秘めた研究対象であった。
 あの規模の研究が行われていた以上、多くのスポンサーが出資し、期待をかけていた研究であったのだろう。

 だからこそただでは失敗できなかった。
 どうにかして手に入れたサンプルから研究を復活させて、その計画を完遂させようとどこかの誰かが企んだのは明らかであった。

「だが、言ってしまえば奈緒は偶然に偶然が重なった奇跡の様な存在だ。

それを遺伝子だけで再現しようなど、そもそもが不可能だった。その結果が、この子なのだろう。

凶暴性こそ高いが、生産性が悪く不安定。おそらく長期運用は想定されていない、いわば使い捨て――」

「LPさん!」

 LPが言い切りそうな時に奈緒の静止が入る。
 確かにLPの言うことは真実かもしれないが、それでもその先をいうことはあまりにも非情すぎた。

「すまない。失言だ。とにかく、その子はある意味その『暴食』によって強引に不安定にさせることによって逆に安定させていたのだろう。

強い歪みによって、生命維持にかかわるような致命的な歪みを補正したといってもいい。

だから、その歪みが正されてしまえば、本来の歪みが表出するのは明らかだ……」

「それは……どうにかならないのかよ?延命とか、治療とかは、無理……なのか?」

「それは、無理だ」

 LPの絞り出すような声が、奈緒に深々と突き刺さる。
356 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:50:05.05 ID:nZ3oq+wSo

「この生来の歪みは、いわば体が頑丈だとか、貧弱だとかの生来的な部分につながっている。

奈緒は確かにきらりの浄化に耐えて、理性を取り戻した。

だがそれは奈緒の体が丈夫だっただけで、この子ではきっと耐えられなかった。強すぎる光は小さな影をかき消してしまうだろう。

苦しみはこの子を生かしていたが、苦しみから解き放たれればこの子は生きてはいけない。

なんて……因果だ」

 LPは苦々しく息を吐く。
 仕事柄、反吐の出るような輩は大量に見てきたし、悲惨な境遇な者もLPは多く見てきた。
 だからこそ、このように恵まれなかった生まれの子供だって見たことはあり、そしてそのまま死んでいったことだって見たことないわけではない。

 だが、それは仕方ないと良しには出来ない。LPはこういうときいつも無力感に苛まれる。
 そもそもがネバーディスペアのような存在のほうが少数派なのだ。踏み込んだ時には手遅れであることは嫌というほど目にしてきた。

「一応、連れて帰れば多少の延命、できて数時間程度だがやれないことはないだろう。

それか、楽にしてやることも一つの選択ではある。これは奈緒が決めてくれ」

 LPのその言葉に奈緒は反応せずただじっと地面を見つめている。
 LPの後ろにいる他の面々も、静かに押し黙っていた。

「今回、お前たちはよくやったよ。

この1階ロビーにおいては死者は出なかったし、一人の少女を苦しみから救ってやれたことは事実だ。

これは、誇っていいことだとも」
357 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:50:45.90 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒たちにとってこの言葉が所詮は気休めにしかならないことはLPも重々承知である。
 だがそれでも、何もできなかったLPにはただ労ってやることしかできないのだ。

「なぁ……LPさん」

 そして、奈緒がまっすぐLPを見据える。
 LPの方も、奈緒の目をしっかりと見て、その決断を見届けることを決めた。

「LPさんは、この子は助けられないといった。

全くその通りだよ。意気揚々とこの子と約束して引っ張り上げてきたのに、これじゃ裏切りだな……」

 奈緒は小さく横目に少女を見る。
 確かにその表情は苦しそうではあるものの、錆色の空の下で見た空っぽの表情と比べて実に『生きている』。

「だから、あたしに任せてくれないか?

あたしの言った手前だからさ。最後まで、責任持たなくちゃ」

 LPを見据える奈緒の視線に迷いはない。
 そんな瞳を見て、きらりと夏樹は理解して踵を返す。

「ん?どういうこと?」

「だりー。ここは空気を読めよ。きっとこの先は、見られたくないはずだ」

 そして残ったのは、LPと奈緒、そしてウルティマの3人。
 最後にLPは奈緒に最終確認をするように問いかける。
358 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:51:27.65 ID:nZ3oq+wSo

「それでいいのか?それは人の人生をひとつ背負い込むことと同じだ。

決して生半可なものじゃない。いつか後悔する時が来る。自分だけの物じゃない自分の人生はロクなのものじゃあないぞ」

 LPでさえも、誰かの人生をすべて背負い込むことはできない。
 たしかにネバーディスペアの4人の後見人として世話をしているが、すべてを受け持ったわけではない。
 所詮は個人個人の人生。いつかは独り立ちする時もくるのだろう。

 だが奈緒がしようとしていることは、死にゆく者の骸を背負い続けることだ。
 その重荷は決して手放せず、いつかその重さに押しつぶされるかもしれないのだ。

「確かに、簡単じゃない。だけど、今更一人増えたところで問題ないよ。

もうとっくに、あたしのなかは大所帯だ。あたしは一人じゃない。だったら、この子も一人にしておけない」

「奈緒……お前、『気づいて』いるのか?」

 LPは奈緒のことを残った研究資料からある程度知っていた。
 だからこそ奈緒の言っている意味が分かるし、そしてこれまで奈緒がそれに気づいていなかったことも知っている。
 だがその事実はまさしく重荷だ。知らないのならば知る必要はないし、できれば知らないほうが幸せであった。

「気づいているかはとにかく……なんとなく感づいてはいるよ。

会ってはいないけど、そこにいつもいる気がするから。

……まぁそれに、この子と約束もしたから。父さんと母さんを探すってさ」

「……その先は、茨の道だ。

決して明るくはない上に、破滅をもたらすかもしれない。それでもか?」
359 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:52:25.78 ID:nZ3oq+wSo

「いいんだよ。全部あたしの記憶だ。そして、全部あたしだ。

元よりあたしが背負い込むものだ。今更重いなんて言わないよ」

 その言葉を聞いて、LPは諦めたように、それでいて満足したように小さく笑う。
 そして同様に踵を返して、この場を後にしようとする。

「わかったよ。だけど、困ったことがあれば言ってくれ。いくらでも相談に乗るよ。

私たちは家族、だろう?」

「…………はは。もちろん。ありがとなLPさん」





 この場には奈緒とウルティマと呼ばれた少女の二人だけとなった。
 奈緒は腰を下ろして、ウルティマの隣でその髪を小さく撫でる。

「奈緒ちゃん」

「……なお、おねえちゃん?」

 息も絶え耐えながらも、ゆっくりと目を開けた少女は奈緒の方を不安そうに見る。
 そんな不安を和らげるように、奈緒は優しく笑って少女を見下ろした。

「ああ、お姉ちゃんだ。

これからは、お姉ちゃんがずっと一緒だ。奈緒ちゃん。

それでも、いいか?」

「……うん。なおおねえちゃん、すきー」

「ああ。ありがとな。奈緒。

絶対にパパとママを一緒に見つけよう。約束だ。

だから、今はゆっくりと、おやすみ」




 泥の沈み込むような音を最後に、その場には奈緒だけが残る。

「前に、進もう」

 よりいっそう濃くなった泥をその身に宿し、奈緒は差し込む日の光へ視線を向けながら仲間の元へと歩みを進めた。




 
360 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:53:05.79 ID:nZ3oq+wSo

Ultima Eater(ウルティマ イーター)
奈緒のクローンで、再現に失敗したものの兵器としての側面を発展させた猛獣。
暴食の能力が強化されており、髪の毛を捕食器官として自在に操ることができる。
もともと志希の父親であるイチノセ博士が研究素体として残していった奈緒のDNAを用いて誕生したが、資料が現存していないためほとんど再現できていない失敗作であった。
そこに一時期研究を隣で見ていた志希が調整を加えたことによって生命活動には支障がない程度の安定性が備わった。
精神年齢は奈緒の6歳の時で固定されており、無邪気で本能に忠実である。

最終的に安定性を保つために強化された暴食の能力を失ったために消滅しそうになるが、奈緒が自身の意志で泥の中に取り込んだため、今は奈緒の中で眠り続けている。
361 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:57:22.76 ID:nZ3oq+wSo
以上です
初めから結末は決めてたとはいえ、我ながらなんだか後味悪いなぁ……

ネバーディスペア、APお借りしました。
残るはAP対くるみと、対ネクロス戦、ラスボスカーリーとの決戦とまだ書くべき内容が残ってます。

ほなまた……2か月後に(頑張ってなるべく早く投下します)
362 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/10/20(木) 01:11:12.32 ID:PFr+zEbZ0
お疲れ様でした、そして奈緒を前に進ませてくれて、ありがとうございます

自分で定めた運命であり設定とは言え、これは重い
でも、自分がそうである、と決めた奈緒が自分と向き合って歩みだしたのを見て、涙が出てしまう
呪縛は未だに残ってはいるけども、きっと今の彼女なら「ナニカ」や「正義と狂信」と会っても最悪の事態は避けられそうだ
ウルティマちゃんを見るに「奈緒たち」はずっと飢えを満たす希望と愛を求めて、大なり小なり人に執着してしまうのだろうなと思ったりも
…玉座と赤い空の遊園地の心象風景はイメージというか練っていた設定と合致しすぎてびびったり

奈緒だけじゃなくてメンバー全員、いやLPさんもかっこいい…かっこよすぎる…さすがの演出力ですわ…幸せになれ…
狂犬APと引き篭もりくるみの内情ドッロドロ対決、そして勝てる気がしない二人との戦いも楽しみですぜ…
……大丈夫かな
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/01(火) 02:37:13.49 ID:t4UHosxeo
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 00:15:37.40 ID:xHcRS68D0
ほしゅ
365 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/28(月) 23:59:04.71 ID:kHQOuUhg0
学園祭3日目時系列で投下でして
366 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:02:45.52 ID:Jh+eG2pi0
学園祭の舞台である学園敷地の端、すっかり冷えて枯れかけの花壇があるその場所、木の下で李衣菜と奈緒が通信機でLPと連絡をとっていた。

内容はもちろん触れただけで精神に干渉し、人々を狂わせる例のカースの件である。

李衣菜「つまり…そのカースの情報は殆ど無いって事で間違いないんですか?」

LP『ああ、前例がなくてな。先程交戦した際のデータも貴重なほどだ。すまないな、休日だというのにこんな事に巻き込んでしまって』

奈緒「いいんだよLPさん!あたし達だって被害者は出したくないし…」

李衣菜「それに、偶然性が強いというか、巻き込まれたってほどじゃないですからね。ところで、学園以外での目撃情報はあったんですか?」

LP『いや…こちらでは確認できてない。担当の者が他の組織へ連絡したり、様々な情報網でサーチもしているが、目撃情報は学園祭敷地内ばかりだな』

奈緒「そっか、じゃあやっぱりそいつらを生み出してる奴が敷地内にいる…のかな」

LP『類を見ないほど強力な精神に影響を与える力を持っているのだから恐らくは…そうだろうな、数も少なくない』

李衣菜「…この学園、厄払いしてもらったほうが良いんじゃないですかねぇ」
367 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:07:13.93 ID:Jh+eG2pi0
LP『あー…、そうだな…もう一つ、カースの情報がある』

奈緒「も、もう一つか…」

ただでさえ厄介なカースが居ると言うのにもう一つ。本当に大丈夫なのか?というニュアンスの返事が返ってくるのは当然とも言える。

LP『獣と人の中間のような姿のカースだ。こちらは以前から学園に居付いているらしくてな、目撃情報もそこそこある。だが、カースにしてはおかしなことに被害情報がない。精神的な影響も見つかっていないようだ』

奈緒「へっ?なんだそれ…ホントにカースなのか?獣人のカースドヒューマンとかなんじゃ?」

LP『そう言われても仕方ないとは思うんだが、反応は純粋なカースだ。…今回、そのカースが件のカースと交戦してるらしい。と言っても一方的に潰しているらしいんだが』

奈緒「…縄張り争いか何かか?」

李衣菜「それか、カースドヒューマンの配下で、水面下で動かされてるとか…うーん、ちょっと違う気がするな」

LP『理由は不明だ、だが結果的にか意図的か…そのカースに救われている一般人も少なくない。何か明らかになるまで、向こうが人を襲っていない限りは無干渉でいてほしい』

奈緒「了解…ところで、夏樹ときらりは来ないのか?」

LP『ああ…今のところ「ネバーディスペア」を動かすことができない。危険性こそわかったものの、あのカースの被害自体は今のところ極小だからな』

奈緒「嘘だろ?あんなにみんな逃げ惑ってたじゃんか…」

LP『そう思う気持ちもわかる。しかし現在、実際に被害はほぼ無い…』

李衣菜「ううん…いいんですよLPさん。『ネバーディスペアが動けない』っていうのは…まぁ、そういう意味なんでしょう?」

LP『……ああ、今日はカースのデータのやりとりの為にこうして通信しているが…本来ならば二人は管理局の組員として動かなくていい、休暇中なのだからな』

奈緒「…?………ん?……あ、ああ!そういうことか」

李衣菜「一応フリーだから、やりすぎなければ問題にはならない…そういう事ですよね?」

LP『それを断言をして良い立場ではないが…そうだな。可能であれば避けたい事だが、緊急事態になれば仕事だ』

李衣菜「それだけ確認できれば十分ですよ。私達に任せてください」

奈緒「…まぁ実際やることと言えば例のカースの出現原因の調査とかだよな、アイドルヒーローは来てるからあまり動いてもあれだし」

李衣菜「それも大事なことだから…難しいねぇ、大人の問題って」

LP『…すまないな』

奈緒「いやいや、これは誰も悪く無いって!」

李衣菜「カメラ無い所ならOKだったりしませんかね?」

奈緒「李衣菜も抜け道を探すんじゃない!決まったことなんだから!仕方ないんだって!」

李衣菜「冗談だってー、実際にするわけじゃないし」

LP『ははは…まぁ、無茶だけはしないでくれよ』

李衣菜「わかってますって」

奈緒「大丈夫だって!」

LP『…二人だから心配してるんだが…とにかく切るぞ。また何かあれば連絡してくれ』

李衣菜「了解しました」

LPが苦笑交じりに通信を切る。実際、二人は痛覚がないことや再生能力を持つことから突撃しがちであるから、この心配は当然である。
368 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:09:03.94 ID:Jh+eG2pi0
奈緒「それで…どこから調べる?」

李衣菜「親玉の居場所がわかれば楽なんだけど…全然わかんないや、とりあえず地図を…」

そう言って李衣菜はバッグから学園祭のパンフレットを取り出そうとしたが、その腕の動きは中断される。

奈緒「どうした?」

李衣菜「…下の方から音が聞こえてくる」

奈緒「んー…あ、耳を澄ませると聞こえてくるな、地震じゃないみたいだけど」

地下全体に響く重低音。それは怪人によって作られた地下迷宮が響かせたものだ。

まさに真下、足元から聞こえてきたその音は周囲がうるさければ聞こえないほどのものだったが、二人はそれを耳にした。

奈緒「なんだろ、地下に何か基地でもあるのか?」

李衣菜「なるほど、プールが割れて中からロボが…ってことじゃない気がするなぁ」

奈緒「だよな…?」

その音は怪人の生み出した地下迷宮の産声。そして、件のカースである『退廃の屍獣』によってその迷宮が人々を捕える凶悪なものに変化しているとは、まだ気づくことはできなかった。
369 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:12:39.38 ID:Jh+eG2pi0
時間は少し遡り、場所も少し変わる。

この日、蘭子とブリュンヒルデ…昼子は店の仕事が入っていなかった。当然、一般的な学生のように、学園祭を楽しもうとしていた。

昼子「しかし、今日はいつにも増して邪悪な気配がそこら中から感じ取れる…のんきに過ごせるほど我は腑抜けてはおらん」モグモグ

蘭子「たこ焼き食べながら言う台詞じゃない気がするけど…?」

昼子「フ…これは浮かれた人間共に紛れるための策よ……このタコ焼きというモノも美味ではあるがな」

そういう通り、二人はベンチに座り、屋台で夢中になりながら買った食べ物を味わいつつも、どこか浮かれきってはいない。

昼子「…ユズが帰ってこないのはそれほど珍しいことでもないが、この学園祭…先程も言ったが汚染された邪気を感じるのだ…嫌な予感がしてならん」

蘭子「昨日も一昨日も大騒ぎだったしね…ところで『汚染された邪気』って?昨日の事件みたいなカースとか悪魔とは違うの?」

昼子「それが…妙なのだ、カースの持つ負の方向の力なのは間違いないのだが…魔王の娘である我にさえ、悍ましさを感じさせるような…未知の力が働いている。断言はできんが、そういう意味ではカースや悪魔とは違うと言えるだろうな」

蘭子「未知の、力が…?前に見えた妖怪とか?」

昼子「あ、あれは…また違うだろうな…正直よく覚えてないのだ…ほんとに…」

蘭子「そうなんだ?」

昼子「我もまだ未熟故に詳しいわけではないが…邪気にさらなる負の力が加わっているのは間違いない」

蘭子「…じゃあ何なんだろう?その原因って」

この騒動で魔導書の力の影響を受けたカースが数を増やしている影響か、魔法の嗜みが有るものなら学園の敷地内で大なり小なり嫌な気配を感じ取れる程に邪気が漂っていた。昼子はそれを常人の何倍も敏感に感じ取り警戒していたのだった。
370 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:17:07.70 ID:Jh+eG2pi0
昼子「…ユズならばこの魔力や邪気を更に詳細を調べてくれるのだろうが…」

いつも忙しそうにしている従者は昨日から会えていない。二人は無意識に彼女のプレゼントである腕輪を見つめていた。

人間の錬金術士が作成したという、それぞれユニコーンとペガサスが描かれた一対の腕輪…ユズのプレゼントだ。

マジックアイテムではあるものの、この腕輪は戦闘用という事ではなく、何かの目的があって作られたものではない。

それと共に思い出す。魔法使いだ。魔力を持つ人間達が、魔力を持たない人間から隠れつつも生活に馴染ませるように発展した、攻撃性の薄い魔法。

魔族の生み出したものである魔術という概念にとらわれていたが、少し冷静に考えると、魔力の形は無限であった。

昼子「…魔力は使い手によっても姿を変える…あの邪気は……まさか…いやそんな馬鹿なことが…」

蘭子「どうしたの、何か思い当たることがあった?」

昼子「…思い出したのだ。魔族とはまた別の、旧き神々に連なる者達の秘術…封じられし禁術。魔力の形の一つとして、そういった物もこの世にはあった、とユズから習った記憶がある」

学んだ時…それはただの言い伝えの類だった。魔術の歴史を学ぶ中での小ネタ、遥か昔に消えてしまったもの。そういった扱い。

しかし、今のこの人間の世界は混沌とした世界。ほぼ絶滅したはずの竜族も潜み、人間にとってその「言い伝え」であったものが溢れた世界。

「ありえない」は有り得ない。昼子は数ヶ月の時を人間界で過ごすうちにそれを学んでいた。

昼子「『秘術』だ。何者かによって生み出されし旧き魔道書に記された、魔術の原型…。しかし、そのうちいくつかの魔道書は名だけは伝わっているものの、全て実物どころか写しすら存在するのか不明なのだそうだ」

昼子「原型と言われてはいるものの、記録には残っていない…故に魔族である我らから見ても実在するかどうかは眉唾であった」

ユズから教わっていた事を思い出しながら昼子は秘術について説明を続ける。

昼子「魔族唯一の閲覧者とされる初代魔王の伝承によれば、記されし文字や言語も魔界や人間界のものとは異なると言うが…我が半身ならその能力で読み取れるかもしれんな」

蘭子「それはちょっと気になるけど…でもどうして今の学園の嫌な気配と繋がるの?」

昼子「…これは可能性の話だ。実際に邪気の根源を突き止めぬことには始まらん」

蘭子「えっ!?」

昼子「フフフ…危険だ、と言いたいか?我らは以前よりも力を増した、わざわざ気配を避け、怯える弱者ではない!」

鞄から黒いローブを取り出しほくそ笑む。

蘭子「そ、それ…用意してたんだぁ…」

昼子「我はいかなる時も魔王サタンの娘であるからな、何かあった時の為の黒衣を用意するのは当然であろう」

蘭子「…なるほど?」

何かあった時、とは何なのか。それは精神年齢が人間換算で14歳の悪姫にしかわからない。
371 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:19:28.83 ID:Jh+eG2pi0
昼子「む?」

翼を広げ、宙を舞おうとしたまさにその時、彼女も地下から響く重低音を聞き取った。

昼子「感じたか?地の底から響く呻きを…」

蘭子「えっと、何か響いて来たのは感じたかも?」

昼子「それだけではない。その方角の魔力の流れが微かに歪んだのを感じた…禍々しい気配のモノが起こした現象かまでは判別できないが…事件の予感がするであろう?」

そこまで言うと昼子は蘭子の手を取る。

昼子「邪気の根源を空から探してやろうかと思ったが…騒ぎになっていないということは地下に潜んでいるに違いない。我が半身よ、行くぞ」

蘭子「大丈夫なの?もしかしたらユズさんの言ってた大罪の悪魔の罠かも…」

昼子「フフ…違うな。腐っても大罪の悪魔、わざわざ連日の事件で警戒度が上がっているこの場で、地響きを響かせてまで『罠』を用意するとは到底思えん」

その調子で手を引きながらズンズンと人混みをかき分け、人混みから離れた地下通路の入り口まで歩いて行けば、本来ならば無いはずの禍々しい扉がそこにはあった。

蘭子「あれ?通路の入口は閉める時はシャッターが降りるはず…扉なんてなかったような?」

昼子「ふむ…『地脈よ、その巡りを我が前に示せ』」

昼子が魔法の呪文を唱えると、地中に宿るエネルギーである地脈の流れを可視化した、無数の光の筋が足元から四方八方に伸びていく。

しかし、よく見れば扉の方へ伸びた光の筋は扉に触れる直前に掻き消えてしまっていた。

それを見た昼子は満足そうに魔法を解除する。

昼子「これこそが、地下に起きた異変の一端。この先は地下であるのに地脈すら断絶している…何らかの方法で空間ごと隔離されているようだな」

蘭子「それって、入ったら帰ってこれないって事なんじゃ…」

昼子「そうだな」

蘭子「…いくの?」

昼子「当然。ここの所、我は学園祭の準備やらで力を発揮できずにいた…まぁ、人間が巻き込まれた事件を解決しに行くのも悪くはないであろう?」

蘭子「巻き込まれたって…お、大げさだよ…」

昼子「何も知らないままこの扉を通った一般人が一人も居ないと言えるのか?」

蘭子「う、それは…」

昼子は連日の事件の際、他の生徒と同じように教室で待機していた事で鬱憤が溜まっていた。

そんな中、自由に行動できる日に目の前に『倒しても良い敵』の根城があるのだ。居ても立ってもいられない。
372 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:21:49.81 ID:Jh+eG2pi0
昼子「正直に、行きたくないと言えばいいではないか」

蘭子「だ、だって…怖いし…」

昼子「…我らと過ごしておいて言う事か?死神と魔王の娘だぞ?……まぁ魔族の中でも人間に外見が似ている方ではあるが…」

蘭子「それに…扉からして、怪物が潜んでそうというか…」

昼子「いや、これは魔法ではないと思うぞ。恐らく潜んでいるのは魔族や怪物ではなく人間、怪人の類だろうな」

蘭子「それでも…どうしても私も行かなきゃいけないのぉ…?」

昼子「……我は半身が居なければ攻撃魔法が使えない身……二人で居なくては我らは満足に戦う事もできぬ…」

蘭子「だから…む、無理に行かなくても…!」

意地でも迷宮に突入するつもりの昼子を、蘭子は止めることができない。

本当の姉妹のように仲良く暮らし、同じ部屋で寝て同じ時を過ごした半身の様な存在が、ここまで自分の意見を聞かないとは思わなかったのだ。

…と言うよりは、すっかり彼女が正真正銘の悪魔だという事が頭から抜け落ちていた。と言うべきだろうか。

昼子「…唐突だが、主従の契りを結んでいた事を忘れてはいないか?」

蘭子「ふえっ!?」

昼子「普段は同等の立場でいるものの…契約上、我は汝を自由にすることができる…わかるな?これが魔王の娘と契約した事による代償だ…」

蘭子「え、ええ…そんな…」

その天使のような可愛らしい微笑みは、蘭子からしてみれば正に悪魔のそれであった。

昼子「我が半身に命令するのは心苦しいが…行こうではないか、地の底へ!」

蘭子「い、いやあああ!!」

二人を繋ぐ固い主従の契約によって、二人は離れること無く扉の中へ入っていく。

扉は重く閉ざされ、迷宮は新たな客人の訪れを喜んだ。

魔王の娘とその従者。二人は果たしてこの迷宮から脱出できるのだろうか…。
373 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:22:28.92 ID:Jh+eG2pi0
・地下通路入り口に発生した扉から地下迷宮にブリュンヒルデと神崎蘭子が突入しました。当然ですが扉は一方通行です。

久々に投下できました…。
学園祭3日目、迷宮には蘭子&昼子が突入。念願の宇宙勢力(?)の怪人と戦えるかもしれない状況だからね、そりゃ突撃させるよね。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/08(木) 15:07:00.84 ID:oNFst+uio
おつおつ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/04(水) 03:04:46.07 ID:nMZ9ArN60
ほしゅ
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/09(木) 19:11:59.71 ID:76kCz6xj0
377 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/02/17(金) 22:17:15.76 ID:w7+OlWMK0
ケイトさん予約します。
投稿はもう少しお待ちいただければと・・・・・・
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 01:11:15.01 ID:T1AGHmSzO
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/02(木) 20:12:05.17 ID:QLk/GcE/o
(゚w゚)
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 13:47:33.66 ID:PJKR/YO1o
続きまってます
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/02(日) 14:33:40.90 ID:P2HkBFEO0
待ってる
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 02:49:04.75 ID:/9jLf19po
だめか
383 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/05/03(水) 01:49:41.09 ID:RKjkGrA70
お待たせしましたorz
いろいろと時期を乗り逃してますが、やっと書き進められたので投下します。
384 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:52:46.59 ID:RKjkGrA70
憤怒の街の上空。

その上空には、一機の輸送機が飛んでいた

『ここが日本………日本?
 日本って、カースの被害がひどいのかしら?』

『隊長、あそこは憤怒の街と呼ばれる地域です
 あの残骸はカース大量発生の被害の爪痕であり………我々GDFの汚点でもあります』

『………ひどい有様ね』

『全くです』

そう言い交わす彼ら、あるいは彼女らが使う言語は英語。
英国GDFのエンブレムが付いた輸送機の中には、彼女らのほかに2人の兵士と―――
一人の黒い男がいた。

その黒い男が言う。

『………ふん。我も同じカースではあるが、こっぴどくやってくれたものよ。―――だが。』

そう言葉をつづけながらも、男の顔がにやついていく。

『カースに襲われたというのに、全体的にカースの力というものが異常に弱まっておるな
 それにあの樹はなんだ? すごく異質な力を感じるぞ?』

『樹? そんなのどこにあるというの?』

『貴様らの言うステルスとやらで隠蔽されておるが………この我の眼はごまかせんよ。
 そうだな、我が指を指す方に、その大きな樹がある。』

そういって、指を指す方を兵士たちは見たが、何も見えない。

それを受けて、兵士たちは推測する。

『ステルス………となると、意図的に見えなくしていると?』
『そんなこと可能なのか?』『いや、可能ではあるだろう。ウサミン星の技術を使えばな。』
『だが何のために?』『誰かに見つかるのを恐れたのか?』
『カースに襲われた街に樹が生えているというのも、変な話ではあるが………それを隠す意味はあるのか?』

真相はわからない。
385 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:55:51.71 ID:RKjkGrA70
『我にもわからん。 だが興味は沸いた。
 なので、今からそれを見に行こうと思うが―――』

そう言いかけた彼だが、傍らで座っていた女性が銃を向ける。

『勝手な行動は許さないわよ、カースドウェポン。
 我々が輸送任務中だってこと、忘れてないわよね?』

カースドウェポンと呼ばれた彼は、核に銃口を当てられながらも、不敵に笑う。

『忘れてはいないとも。
 だが、興味をそそられるのだから、仕方あるまい?
 それに―――』

『それに?』

『この輸送機の中で、我々が戦ったらどうなる?
 確かに主無しの我には、お前は倒せん。
 だが、抵抗するぐらいならばできるぞ?
 そうしているうちに、この輸送機はどうなる?』

『・・・・・・っ!!』

そう指摘され、銃口を下す女性。

『いいでしょう。
 ですが私は不本意ながらも、あなたの輸送を任された者。
 その私を連れていくことで、今回は手を打ちましょう。』

『許す。 我の伴をせよ。』

女性は不本意ながらも、その気持ちをぐっと抑えて命令する。

『パラシュートの準備を―――』

『その必要はない』

そういうと、黒い男は話していた女性の膝の裏を、左腕でひょいと持ち上げ、右腕で女性の背中を支える。

『!!?』

これはまさしく、お姫様抱っこの姿であった。
386 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:57:04.00 ID:RKjkGrA70
『なっ・・・なっ・・・・・・!?』

勝手に命令する黒い男、なぜかノリの良い部下、お姫様抱っこされる女性のGDF隊員。

かくして、輸送機のハッチは開けられた。

『ちょっ、ちょっと待ちなさいあなた達!?』

『大丈夫っすよ! 予行演習はバッチリなんで!』

『そこのカースドウェポンが傷一つ付かせず、地上まで送り届けてくれますので!!』

『まったく。 お姫様抱っこされながらのスカイダイビングなんて羨ましいですよ、隊長!
 ―――まあ、私もやったんですけどね。(遠い目』

そして、人の姿をしたカースドウェポンは、勢いをつけて輸送機の外へと飛び出す。

『いざ! 新たなる冒険の舞台へ!!』

それをサムズアップで、GDF隊員は見送った。

『ケイト隊長! お元気で!!』

『おーぼーえーてーろぉぉぉー!!!』

===============================================================
387 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:59:19.29 ID:RKjkGrA70
憤怒の街にできた自然の中を、私たちが乗った車が進みます。

やはり街路樹の根っこなどが道にまで伸びていたりするためか、道がでこぼこしています。

「まあ、通れないほどではないな。少し揺れるが我慢してくれ。」

そうポストマンさんが言いながら、ゆっくりと車を進めています。

そして、私と凛さんは窓の外を見ていました。

「………ありえない。」と、凛さんが言い始めました。

「あの事件が起こってからそれなりに時間は経ってるけど、それでもこんなところに森みたいなのができるなんて、やっぱりおかしい。
どうやったら、こんなことになるの?」

「………カースの影響なのでしょうかっ?」

「たぶん………カースの影響ではないと思う。むしろその逆のような気がする。
でも、調べてみないことには何もわからないよ。」

そうして、物惜し気に外を見つめる凛さん。

「………土とか葉っぱの一部だけでもいいから持って帰れないかな?」

そういって、窓を開けて手を伸ばす凛さん。

「ちょっ、危ないぞおいっ!」

はぁとさんが助手席からこっちに向いて注意を促しますが、それを無視して、木から伸びた枝をつかみました。

雨が降っていたのか、葉の水滴などが凛さんの手にかかりましたが、ポキッという音とともに、折れた枝を手にしていました。

「………随分、無茶なことしますね………っ?」

「今の折れなかったら、腕持ってかれてたぞ☆」

「進むスピードもゆっくりだったし、引っ張って取れるような枝を選んだつもりだよ」

そうして凛さんは、取った枝葉をじっくりと観察します。
388 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:01:17.49 ID:RKjkGrA70
「見た目は普通の木の枝だね」

そういって、手の指で枝を回転させながら観察する凛さんでしたが………私は凛さんの足のケガに気づきました。

「あれ? 凛さん、足ちょっとケガしてませんか?」

「うん。さっき逃げようとしてこけたときにすりむいちゃって。」

「ああ、あの時ですか。私が手当てしますね」

そういって近くの救急箱を手に、凛さんの傷の手当をしようとしたとき、葉にちょっとだけついていた水滴が凛さんの傷口にかかりました。

「………えっ?」

「なっ………!?」

水滴がかかった凛さんのすりむき傷がみるみるうちにふさがっていきます。

まさに一瞬のうちに、凛さんの足のケガは跡もなく消えてしまいました。

「………」

凛さんは治った足をまじまじと見ています。

「何これ………」

「どういうことなんでしょうっ?」

「一体何の力が働いてこうなったのかはわからない。
 けど、この木の枝に溜まっていた水滴が傷口に落ちた瞬間、なんだか傷口から癒されてる感じなのかな?そんな感じがした。」

「そして、傷口が見る見るうちにふさがった………っ」

「明らかにカースの仕業ではないけど………予想外のものが出てきたね」

「おいおい、まじかよ☆」

はぁとさんが見るからに嫌そうな顔をしています………っ。
389 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:03:22.95 ID:RKjkGrA70
「普通こんなのがあったら、まずGDFのほうに話が上がってくるよね」

「ポストマン、どうなんだよ、おい☆」

「いや、そんなものがあるっていう話は聞いたことがない」

「じゃあ、気付かなかった……ってことはないよね」

「この森自体を見えなくしていたっぽいから、ね☆」

「ってことは、これ、GDFの機密情報?」

「その可能性はあるだろうが………一体何のためだ?」

「いや、ポストマンにわからないんだったら、はぁとにもわかんねぇよ☆」

と、そんな感じではぁとさん達が話している傍らで、チカちゃんがちょっと不思議そうな顔をしていました。

「どうしたの、チカちゃんっ?」

「………よくわかんない」

「………まあ、確かによくわかんないことばっか続いてたしな☆」

「そうじゃなくて………なんか変なの。
 ここはすごく気持ちがいいんだけど、ここにいたらチカの魔法が使えなくなっちゃうみたいなの」

「魔法が……使えなく………?」

それを聞いた凛さんが、また何やら難しそうな顔をして考え込んでいました。

「魔法を使うカース………? 確かにそういうのもいるかもしれないけど………。
この場合は、カースの力が使えなくなってるっていうことなのかな?」

「だとしたらこの森、カースの特効薬なんじゃ………っ?」

「でも、まだわからない………。とにかくこの枝を持ち帰って―――」
390 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:05:44.12 ID:RKjkGrA70
「おーい、ちょっといいか?」

そんな声と共に、はぁとさんが手を挙げていました。

「えっと………なに?」

「いやまあ、傷が治ったこととか、カースの特効薬とか、色々と疑問ではあるんだけどさ
――ーチカちゃんってカースなのかよ、おい☆」

・・・・・・・・・

『しまった………っ!!』

「ああいやまあ、そんな気はしてたけどな☆
そんで、お前らがそれを隠そうとしていた理由も何となくわかるぞ☆
はぁとが同じ立場だったら、同じことしてたかもしれないしな☆」

そして、一息ついたはぁとさんは正面に向きなおして、こう言いました。

「この森とか、チカちゃんのこととか、色々わかんない事がいっぱいだけどな♪
はぁと的には、こっちの敵でなければどうもしないし、味方なら歓迎するだけだぞ☆
な、ポストマン?」

そういって、ポストマンさんにバトンを渡したはぁとさんでしたが………

「―――チカちゃんがカースだってことが分からないおろか、勘づきもしなかった俺はどう反応すればいいんだ?」

「知るかバーカ☆」

………台無しです、いろいろとっ
391 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:16:22.64 ID:RKjkGrA70
『!? てんてーん!!』

凛さんのポケットからハンテーンさんの慌てた声が聞こえました。

「? どうしたの、ハンテーン―――!?」

みんなで覗き込んだ端末には―――目の前にカースの反応がありました。

「ポストマン! 目の前にカースがいる!!」

その瞬間、車の正面の方向から、何かが壊れたような大きな音が聞こえます。

「ああ、確認した・・・・・・! 建物の中から戦車だ!!
 くそっ! 待ち伏せされたか!?」

私達が乗る車の前には、GDFの戦車。

既に砲身は私達の車に向けていました。

そうして、悠然とした態度で迎え撃つ戦車は―――突然爆発しました!?

「―――えっ?」

一瞬、何が起きたのかわかりませんでしたが・・・・・・更に、

「フハハハハハ!!』

この高笑い。 一体何が起こったんですかっ!?

『さあついたぞ、ケイト。
 我と共に、憤怒の街の探索と行こうじゃないか!!』

そういう声が、壊れた戦車が巻き上げる煙の中から聞こえ、姿を現しました。

そうして出てきたのが―――まるで全裸な黒い男の人と、それに抱き上げられた軍服姿の女性でしたっ!?

そして男の人は、女性の方を下ろすと………

『なにするのよっ!!』

ああっ! きれいな右ストレートが男の人の顔面にクリーンヒットですっ!

そのまま女性の方がマウント体制っ! 右っ!左っ!右っ!左っ!!

「………」

あまりの展開に、私たちは呆然としていました………っ

「!?」

あっ、女性の方がこっちに気づきましたっ! そして、固まっちゃいました………っ

・・・・・・・・・

少しの沈黙の後、女性の方は、まるで何もなかったかのように立ち、服の埃を払うような動作をして笑顔を見せました

「………ハァイ!」

………また、おかしな人が増えましたっ!?
392 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/05/03(水) 02:28:57.84 ID:RKjkGrA70
今回は以上で。
………なんだか、寄り道ばかりしてるな?orz
たぶん登場人物はまだ増えます。(新しいのはもう出ないとは思う)

憤怒の街の樹とかは、どこかの能力者3人組が作ったアレが元になってます。(お分かりかもしれませんが)
あと、英国GDFが運んでいたカースドウェポンについては、いずれ設定書きます。(ケイトも)
しゅがはさんについても、設定を付け足す必要があるかも? というか、ユウキちゃんもだ・・・・・・。

いろいろ考えだすと、止まらないねぇ・・・・・・
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 12:17:11.63 ID:MCxtRWL5O
乙でしてー
人型カースドウェポンは設定開示が待ち遠しいですねぇ…
樹を巡ってどうなっていくかも気になるところ
次回もお待ちしておりますぞー
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 19:56:08.82 ID:mVzWWaoiO
ほしゅ
395 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/21(金) 00:45:04.94 ID:XmRntpxmo
保守
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/22(土) 16:01:05.40 ID:oTmo10mB0
生きてる?
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 23:17:31.60 ID:vgn1he6Ko
続きがみたいです
398 : ◆JQjN6nuClI :2017/07/23(日) 02:22:50.86 ID:MoUD2rCso
test
399 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:46:09.27 ID:NsMtQntxo
皆さん! 7月25日!!(挨拶)
いつものやつやります!

……ちょっと感想が溜まってますが
しばらく! 今しばらく!

今年もまたちょっと攻めた内容になってます
それでは行きます
400 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:46:38.92 ID:NsMtQntxo
藍子「ピィさんっ」
藍子「おはようございます、ピィさん」
藍子「朝ですよー、起きてくださーい」

――あぁ、藍子の声が聞こえる。
――とても穏やかで、優しい声だ。
――今日も幸せな気持ちで一日が始まる。

――毎朝こうやって起こしてもらう事にも慣れてきたが、
――やはり何度聞いても藍子の声は落ち着く。

――……即ち、眠気が加速するのだ。

ピィ「ぐぅ……」
401 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:47:08.57 ID:NsMtQntxo
藍子「もう、朝ごはんが冷めちゃいますよ、ピィさんっ」
ピィ「んぁ……」
――ゆさゆさと体を揺すられるが、むしろ逆効果だ。
――そんなに軽い力では揺り籠に揺られるがごとし。ぐぅ……。

藍子「えいっ、こちょこちょ〜♪」
ピィ「んへはははっ」
――起きた。
――くすぐり攻撃は卑怯だ。

藍子「早く着替えてきてくださいね」
ピィ「あーい……」
――こ。

――……いや、何でもない。
402 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:47:38.12 ID:NsMtQntxo
――今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、レタス、トマト。
――そしてコーヒー。

――うん、良い朝食だ。
――いかにも朝食って朝食だ。
――何より藍子の手作りっていうのが良い。
――毎朝これを食べられるのだから、本当に俺は幸せだと思う。


ピィ「いただきます」
藍子「いただきます」

――もぐ……。

ピィ「美味ぇ(美味ぇ)」
藍子「ふふっ、ありがとうございます」
403 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:48:08.79 ID:NsMtQntxo
ピィ「さて……、そろそろ出るか」
藍子「はいっ」

――朝食を終え、一息つくと出勤の時間だ。
――もはや『第二の我が家』といった感じなので、あまり”出勤”というイメージはないが、
――藍子と共に『プロダクション』へと向かう。

――俺はピィ。
――Pだ。
――プロデューサーだ。
――『プロダクション』のプロデューサーだ。
――みんな忘れてるかもしれないが、そこそこ偉い。 (※そもそも◆cKpnvJgP32がいつも忘れてる)
――描写されてないだけで、結構な量の仕事をこなしている。 (※多分)
――責任のある立場だ。 (※なんですよこいつ)
――だけど朝はのんびり向かう。
――別に重役出勤とかではない。

――――毎朝藍子と一緒に歩いていくこの時間を大切にしたいんだ。
404 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:48:42.06 ID:NsMtQntxo
ピィ(……というか、そもそも『プロダクション』には明確な出勤時間とか無いし)
ピィ(逆に、明確な退勤時間も無い)
ピィ(だから、夜遅くまで残ることも多いんだが)
ピィ(……)
ピィ(ひょっとして、うちの企業、ブラックなのん……?)

藍子「どうしたんですかピィさん? なんだか難しい顔をしてますけど……」
ピィ「いや、なんでもない……」


――本当は帰りも一緒がいいのだが。
――流石にあまり遅くなると、先に藍子を帰すことも多い。
――ただ、藍子一人だと多少不安……。

未央『ミツボシ』
周子『八つ橋』
沙理奈『セクシー』
――めちゃくちゃ安心だった。
――彼女たちのおかげで心置きなく居残りできます。ちくしょう。
405 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:49:14.27 ID:NsMtQntxo
――そうこうしているうちに『プロダクション』に到着。
茜「あっ! お二人とも!! おはようございますっ!!!!」

ピィ「あぁ、おはよう」
藍子「おはようございますっ、茜ちゃん」
――……朝一の茜ちゃんの食い気味な挨拶にも慣れた。

未央「おっはよ〜。いやー今日もお二人はお熱いですなぁ」
藍子「も、もうっ、未央ちゃん!」
ピィ「お前なぁ……」

――藍子と一緒になってからというもの、
――未央はこうやって毎朝からかってくる。
――悪い気はしないが、こっちにはまだ慣れない。
406 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:49:47.78 ID:NsMtQntxo
ピィ「さて、と……」
――自分のデスクに着き、まずは今日の仕事を確認する。
――確か、そんなに量は無かったはずだ。
――『藍子と一緒に帰れるな』というようなことを考えながら、PCを立ち上げた。

――『プロダクション』の面子のスケジュール管理。
――他組織へのアポイント。
――諸々の雑務。
――と、こんなものか。

藍子「はい、どうぞ」
ピィ「ん、ありがとう」
―― 一通り確認が済んだところで、藍子がお茶を汲んできてくれた。
407 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:50:24.60 ID:NsMtQntxo
ピィ「今日は早めに上がれそうだよ」
藍子「じゃあ! 一緒に帰れますねっ」
ピィ「あぁ」
藍子「ふふっ♪」
――藍子は嬉しそうに微笑んで、その場を後にした。
――去り際に「やった♪」という小さな呟きが聞こえてきた。
――可愛い、天使か。

ピィ「そのためにも、さっさと終わらせないとな」
――藍子の入れてくれたお茶を一口啜り、早速作業に取り掛かる。
――よーし、ピィちゃん張り切っちゃうぞー。


周子(めっちゃウキウキしてる)
沙理奈(ラブラブねぇ)
未央「……」(黙ってうんうんと頷く)
408 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:50:56.92 ID:NsMtQntxo
――
―――
――――数時間後。


ピィ「終わっったー」
――これにて本日の業務終了!
――お疲れ様でした、自分。

――なんか一瞬で終わったような気がするけど、数時間経ってるのだ。
――とにかく、終わったものは終わったのだ。
――相変わらず描写はされないのだ。 (※ごめんなさい)
――ダイジェストでお送りしますのだ。

――まぁ、そんなことより……。
409 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:51:33.20 ID:NsMtQntxo
ピィ「よし、藍子。帰ろうか」
藍子「はいっ、こっちももう少しで終わります」
ピィ「おうっ」

――藍子は藍子でちゃんと仕事がある。
――今日みたいに、俺の仕事が先に終わることは珍しい。
――なので、こうやって”待つ”という経験は稀だ。

――凄いソワソワするんだな、と思う。
――藍子もいつもこんな気持ちなんだろうか。
――……もっと仕事を早く終わらせられるようになろう。

――ちなみに、藍子がどういう仕事をしているのかという描写は(以下略)。
410 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:52:03.45 ID:NsMtQntxo
ピィ「それじゃ」
藍子「お先に失礼します」
――藍子を待って、二人で退勤する。
――残った面子を労いながら『プロダクション』を後にした。

――……の、前に。

ピィ「悪い、先に入り口のところで待っててくれ」
藍子「? わかりました」
――少しだけ、やることが残っている。

ピィ「ちひろさん」
ちひろ「はい」
――ちひろさんのところへ向かい、彼女に声を掛ける。
――それを合図に、ちひろさんは返事をしながらドリンクを差し出し、
――俺は黙ってお金を払った。

――言葉はいらなかった。
――大人の友情が、そこにはあった。
411 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:52:30.33 ID:NsMtQntxo
――藍子と一緒の帰り道を、ゆっくりと歩く。

――今日は早く上がれてよかったね、と他愛もない雑談をしながら。
――夕飯の献立はどうしようか、と今晩の買い物をして。
――いつもとは違う道で帰ってみよう、と少し遠回りしてみたり。

――急がず、焦らず、のんびりと。
――藍子と共に過ごす、なんでもないような時間を、大切にしたい。
――穏やかで、静かで、小さな幸せ。
――こうやって、少しづつ、少しづつ、集めていこうと思う。
412 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:53:00.47 ID:NsMtQntxo
――帰宅後。

――俺達は……。
―― 一緒に夕飯を作り。
―― 一緒に軽めの晩酌をしたり。
―― 一緒にテレビを見ながら、談笑し。
―― 一緒にお風呂に入り。 (※!!)
―― 一緒に髪を乾かして。
―― 一緒に歯を磨き。
―― 一緒にベッドに入り。
―― 一緒に……。
413 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:53:27.79 ID:NsMtQntxo
ピィ「藍子……」
藍子「あっ……」

――布団の中で、藍子を抱きしめる。
――柔らかい感触と、藍子の体温が伝わってくる。
――優しく香るシャンプーの匂い。
――小さく漏れる艶っぽい吐息。
――うっすらと上気した桜色の頬。
――ほのかに潤んだ瞳。

――藍子の全てが愛おしかった。

――俺のものだ。
――俺だけのものだ、と。
――そう思うと、俺は間違いなく世界一の幸せ者だった。

藍子「はい……」
――藍子はその一言で、俺を受け入れた。
――枕元にはちひろさんから買ったドリンクが用意してある。

――今夜も長くなりそうだ。
414 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:54:33.17 ID:NsMtQntxo
以上です
時系列が前後しますが、新婚くらいの時期をイメージしてます

R-18ではないけど、ちょっとピンクな感じを盛り込みました
子供がいる未来があるんだからやることやってんだよおらぁ! という気持ちで
415 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 21:10:54.17 ID:NsMtQntxo
重要なことを忘れてました


誕生日おめでとう、藍子!
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:46:01.77 ID:qsa734Cdo
おつやで!!
417 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2017/07/26(水) 14:52:17.35 ID:GvFBfSYK0
おつでしてー
毎年愛が溢れてて微笑ましいですぜ…こういう幸せ家族になっていく過程をシェアワで見ると平和って大事だなぁと改めて思わされるのであった
プロダクションは何年もこういう感じが続くんだなぁという安心感もありますしな
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 20:57:25.47 ID:UkWcVykl0
ほしゅん
419 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:48:23.21 ID:fE4l7gbO0
おつかれさまですっ
凄い藍子ちゃん愛が伝わってきますなぁー
(藍子ちゃん絡みで、ちょっと大変なことを考えてたりしていたなんて言えない・・・)

さて、私のほうも投稿しますー
今回は憤怒の街の話ではなく、以前にやったわらしべイベントの続きになります
・・・・・・が、わらしべは終了しましたorz
どうも展開的にそんな感じにするよりも、ガンガンやろうぜな感じがいいかなって思ったのでw

時系列的には学園祭3日目になり、憤怒の街から出た後の話になります

前回のあらすじ(うろ覚え)
・手紙を届けたら梨をもらったよ!
・誰かと会ったよ!
420 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:50:22.85 ID:fE4l7gbO0
私は公園で梨のかごを腕に抱えながら、ベンチで悩んでいましたっ。

………どうしましょう、これっ。

おじいさんからもらった梨はとてもおいしそうに見えます。

でも、私は梨の上手な剥き方なんてわかりません。

剥くための果物ナイフなら『アイテムボックス』の中にありますけど………。

はぁとさんと連絡は取れますけど、会うとなるとちょっと難しそうです。

いっそ下手でも剥いてしまおうかとも思いましたけど、中身の部分を多めに削ってしまわないかが不安ですっ。

と、そんなことを考えていると………

「あれっ?」

なんか変な視線を感じます。

「じーっ」

いつの間にか、目の前には女子高生ぐらいの女の人が立っていました。

「………あのっ、どうかしましたかっ?」

「じーっ」

女の人は相変わらず私を見続けて………いえっ、違いましたっ。

女の人は私が抱えている梨を見続けています。

「………?」

私がそのことに気付いたとたん、その女の人も気付いたようで………

「はっ!? ……あっ、違うの! 別にほしいってわけじゃなくて―――」

ぐぅ〜

どこからかお腹がすいたような音が聞こえてきました。

「………」

あ、目の前の女の人の顔が心なしか赤くなっています。

多分、この人のお腹の虫が鳴いたのでしょう。

「………あのっ、よければいかかでしょうかっ?」

「………いただきます!」
421 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:51:29.98 ID:fE4l7gbO0
そんなわけで、私は道で出会った女の方と梨を食べてますっ

ちなみに私は剥き方わかりませんので、剥いてもらってますっ

あ、でもナイフとか皿とか爪楊枝は私が用意しましたよっ?

「こんな感じかな?」

「ありがとうございますっ!早速頂きましょうっ!!」

「うん! いただきます!」

私は爪楊枝で剥いた梨をぷすりと刺して、一口・・・・・・

「っ!おいしいっ!!」

食感はシャクシャクしてて、水々しくて甘い味が口の中いっぱいに広がっていますっ!

さっきのおじさんの梨は本当においしいですっ!

そして剥き方がうまいからか、実の部分をほとんど失っていません。

これは剥いてくれた、目の前の女の方に感謝しないとですねっ!

「剥いてくれてありがとうございますっ!」

「ううん、梨を持ってきてくれたのはそっちだから、むしろ私が感謝したいぐらいだよ!」

「じゃあ、この梨を作ってくれたおじさんに感謝しないとですねっ!」

「そうだね!」

そうして食べ終わった私達は、作ってくれたおじさんを思って、「ごちそうさまでした!」と言いましたっ!

「それにしても、剥き方上手でしたねっ」

「家でお菓子作りをする事もあるから、果物を剥いたりとかもよくやるよ」

「そうなんですかっ? 凄いですっ!」

「えへへっ。 今度会う機会があったら、一緒に食べたいなぁ。」

「私も食べたいですっ!」

「その時を楽しみにしてね。・・・ええっと?」

あっ、まだ名乗っていませんでしたっ
なので、はぁとさんから頂いた「この世界での名前」で、自己紹介をしますっ

「あっ、私、乙倉悠貴といいますっ!」

といっても、名前は呼び方を逆にしただけですし、自己紹介も名刺を渡すだけですがっ

そして、その名刺を見た女の方が不思議そうな顔をしていました。

「幸せの手紙屋さん・・・・・・?」

「はいっ! 皆さんのお手紙を届けてますっ!」

というわけで、私がやってることをかくかくじかじか・・・・・・
422 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:52:11.31 ID:fE4l7gbO0

「まるまるうまうま・・・・・・
へぇ〜、何だかすごいね!
こんな風にお手紙を貰えたら、きっと素敵だろうなぁ〜
じゃあ、もしかして今も?」

「いえっ、今日はもう配達終わったので、これから祭の屋台でも見て回ろうかなって思ってますっ!」

「あ、それなら一緒に回ろうよ! 私も屋台見て回ってるんだ!」

「いいんですかっ? ありがとうございますっ!」

「私、三村かな子! よろしくね、悠貴ちゃん!」

「はいっ!」

「あ、そうだ! 私の友達も連れてきていいかな?」

「いいですよっ!」

そんなわけで、私はかな子さん達と一緒に学園祭を見て回ることにしましたっ
これからどんな出会いが待っているんでしょうっ? 楽しみですっ!

・・・・・・あと、仲間も増やさないとですねっ

_______________________________________

一緒に見て回る人達の素性など、ユウキは知らない。

彼女達が、カースドヒューマンだということも。

そして、彼女達が恐ろしいカースを生み出していることも。



―――だが、彼女達もまた、知らないのだ。

この先の未来で、悠貴が自分達を巻き込んで、大変なことをしようとしていることなど。
423 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:57:57.43 ID:fE4l7gbO0
……短いですけど、今回はこれで。
学園祭のイベントには参加させたいなーって思ってはいたので、先走って書いてみました。

憤怒の街の後日談編はまだまだかかりそうです。
ちなみに構想内だと、あそこからかなり登場人物が増える予定です・・・・・・
そんでもって、どうやって戦闘描写を書こうか・・・それが難題だっ!
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 17:01:00.83 ID:QwiXSz0ro
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 16:57:58.55 ID:AAzpTkezo
おつ
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/22(金) 23:35:13.30 ID:VROOknM30
おつでしてー
ユウキちゃんカースドヒューマンとかカースとか、割りと遭遇率高い気がしますぞ〜
そして何をする気なのか…楽しみです
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/12(木) 20:21:42.16 ID:BQD8I6Y00
おつ
428 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:10:33.69 ID:L6tcVsPXO
ドーモ
今年は辛うじて年内に間に合いました(そもそも去年は結局断念したと思う)
あまり長くないのでなんか大掃除とかの合間に読める!やったぜ!
429 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:11:52.38 ID:L6tcVsPXO
【ファイン・アンド・ロング、スパイダーズ・スレッド・オア・ソバ】
430 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:15:07.55 ID:L6tcVsPXO
 ネオトーキョーの冬は寒い。
 ほんの数年前、彼がまだ現役アイドルヒーローだった頃、この新興経済特区は今以上に環境への配慮が足りず、地球温暖化に多大な貢献をしてきた。
 あるいは企業も夢や希望、野心にあふれ、人々の熱気がネオトーキョーそのものを過熱させてさえいた。では、今は?
 ネオトーキョーの経済成長は当時より緩やかだ。そして良識ある企業は寒い冬を取り戻すべく、一部の暗黒メガコーポによる環境破壊を上回るペースで環境再生を進める。
 ネオトーキョーの冬は寒い。
 漆黒ヒーロースーツの上にフォーマルなビジネス用ジャケットを着用し、さらに防寒防風コートを纏うエボニーコロモは、黒子ヒーローマスクで顔まで防寒である。
 それでも彼が寒さを振り払えずにいるのは、誰かの温もりをこそ求めているとでもいうのか。……バカな。黒衣Pは転がってきた空き缶を蹴り飛ばした。

「……どう言い訳すりゃいいんだよ……畜生」

 今日は緊急出動が重なり、エボニーコロモと二人のアイドルヒーローはそれぞれ単独で現場を担う“三面作戦”を実行した。彼の戦場はホテル・グランド・ゴウカ。
 毒ガス自殺テロを企むイカレ宗教団体に一時は占拠された、地上500メートルの最上階展望レストラン。黒衣Pの作戦行動は迅速であり、被害は出なかった……そのはずだ。
 にもかかわらず、レストランは今日から年末年始の休業を決めた。黒衣Pの半年前からの予約もキャンセルされた。彼の心には寒さだけが残った。
431 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:17:58.65 ID:L6tcVsPXO

(洋子がいたら、すぐ隣で、40度近い体温を分けてくれるだろうに)
(イツキがいたら、あの自販機まで走って熱いアマザケを買うだけの気力を分けてくれるだろうに)

 黒衣Pはスチームパンク戦士めいて黒子ヒーローマスクの隙間から白い空気を吐き出しながら、無意味な“もしも”の世界をニューロン内で描いては消す。
 アイドルヒーローを引退し、プロデューサーヒーローになり、はや二年目の冬。己がどれほど脆弱な存在となったか、彼は否応なく思い知らされていた。

「別に、あの頃は良かった……なんて話じゃねぇけどさ」

 誰に言うでもなく呟いた。この時期のエボニーレオは、借金苦から悪に堕ちるほか無かった哀れな貧困犯罪者達にとって、獅子ではなく鬼であったろう。
 強大な能力で追いかけ、決して逃がさず、鉄拳と共に年明けまでの留置場生活(つまりは必要最小限の衣食住)をプレゼントするのは、しかし彼なりの慈悲だった。
 男性アイドルヒーローそのものが落ち目だった時期、彼自身も楽な生活ではなかった。ひと仕事終えた後には、馴染みの屋台で安いソバを……

(ソバ……か)

 その記憶が甦ったのは何らかの啓示であったか。黒子ヒーローマスクがBEEP音を鳴らし、サブモニタウインドウに解析映像を映し出した。
 思い返せば、今日は昼飯を食べていない。事件解決のため戦い、その結果が……。プランBを早急に準備せねば。まずニューロンに栄養補給を。黒衣Pは足早に屋台へ向かう。
 軽トラック改造屋台は、ネオミドリ自然公園の片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇んでいた。

 ◇◇◇
432 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:20:53.31 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 斉藤洋子の体温は氷点下にも負けず40度近くを保っているが、だからこそ彼女の顔は、手は、外気に触れる露出部分の全ては、温度差によってヒリヒリと痛痒いのだ。
 洋子は灼熱めいた白い吐息で両手を暖め、カサつく?をさすった。冬の乾燥空気は肌の大敵だ。夏の湿度が今だけは恋しい。
 寒風を防いでいたマフラーと手袋は、ついさっきの仕事で特に重大な損失だった。人間ソルベ製造ゴーレムは滅びてなお洋子に少なからずダメージを与えている。

(去年の今ごろは……)

 ふと思いを巡らせる。去年も似たようなものだった。仕事納めというのは言葉だけで、ネオトーキョーに犯罪のない日など訪れないのだ。
 昨秋、ヒーローで食っていく目処が立ったと伝えると、両親は喜んだ。帰省してもヒーロー引退の話にならないと確信するに至った洋子も、ひと安心したものだった。
433 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:23:10.27 ID:L6tcVsPXO
 里帰りできずとも、不満があったわけではない。アイドルヒーローの仲間が誕生日を祝ってくれもしたし、二人きりのパーティーも……

「……こっ! 今年は! 帰ろっかな!」

 誰に言ったわけでもなく、何らかの能力者に心の中を覗かれる感覚もなかったが、洋子の顔は赤い。黒衣Pの姿が見えないことは幸運であったろう。

(そういえばプロデューサーの方は、もう片付いたかな……イツキちゃんは……)

 黒衣Pの言うには、今夜はホテル・グランド・ゴウカでディナーらしい。三人でささやかなバースデーパーティー。主役は洋子と、偶然にも誕生日の同じイツキ。

(ドレスコードとかあるのかなぁ……なんかグレード高い? みたいな感じっぽいし、あんまりいっぱい食べる雰囲気でもなかったり……?)

 考え出せば落ち着かず、心配にもなってくる。がっついて恥をさらさぬよう、何か軽く腹に入れておくべきか? ……まさにその時、視界の端に屋台。
 腹おさえには重いか。否、相応に働きカロリー消費したのでプラスマイナスゼロだ。そういうことにした。

(ソバ……かぁ)

 軽トラック改造屋台は、ネオミドリ自然公園の片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇んでいた。
 簡易ベンチには客らしき姿がひとつ。おそらくハズレ屋台ではない。ほう、と息を吐くと、洋子は二車線の車道を跳び越え、屋台へと向かった。

 ◇◇◇
434 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:26:09.08 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 イツキの生まれ育った獣人界は夏暑く冬寒い、全ての生命に死力を尽くさせる強き大地だったが、ここネオトーキョーも負けず劣らずだ。
 黒衣Pの言うには、特に今年は四年ぶりのデミ氷河期らしい。だからだろうか。彼女の前方5メートルを疾駆するシベリアンハスキー種イヌ獣人は、いやに楽しそうだった。
 ……それだけなら良かった。かの獣人は、ユタカライフ化研のエージェントだ。仕事を片付けたイツキと偶発的遭遇した三人組。
 イヌ獣人の「遊んでやる」との挑発通り、まんまと他の二人の逃走を許してしまった形だ。もっとも、イツキは状況を悲観視しない。
 どのみちこのエージェントを仕留め、インタビューすれば、全てわかる。彼女にはそれを出来るだけの力がある。ディナーまでに残された時間も。

「……?」

 思いがけず、イツキは足を止めた。疾走する二人の獣人が呼んだ風に、獣人界の匂いが混ざり込んでいたのだ。
 イツキのように獣人界からこちらに来ている者は多くない。現に彼女が追うイヌ獣人も、人間界カラフト出身者に多く見られる特徴を有している。
 ならば何故、不意に懐かしい匂いを感じたのか? イツキは考えようとして、我に返った。この僅かな間に、イヌ獣人は逃げおおせて……

「どうした、もう息切れかい? これだからサルのやつは」

 10メートルと離れていない、隣接ビル屋上貯水タンクの上。イヌ獣人はイツキを見下ろして嗤った。
 特に速力に優れるイヌ獣人の脚で逃げるには充分過ぎる隙だった。それをせず敢えて追跡者を待つ、「遊んでやる」ことの意味は? イツキは素早く状況判断した。

「ふーん……じゃあ、飽きちゃったんで、帰りますね☆ キィヤーッ!」

 イツキが跳躍したのは、イヌ獣人でなく懐かしき獣人界の匂いがする方向だ。背後から「ヤッベ」と焦りの声が聞こえた。どうやら正解らしい。
435 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:29:17.40 ID:L6tcVsPXO
 今や追う者と追われる者は逆転していた。いくつものビルを跳び渡り、獣人界の匂いはますます強く濃くなっていく。
 やがて視界が開け、眼下には公園。その片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇む屋台こそ、匂いの最も強まる地点であった。

「えっ……? 屋台……?」

 それはイツキにとって想定外のものだった。
 そして、さらなる想定外……ノレンをくぐり今まさに出てきた客は、彼女の同僚たる斉藤洋子、そして担当プロデューサーヒーロー・エボニーコロモであったのだ。
 直後、軽トラック改造屋台はエンジンを噴かして急発進。離れゆく屋台を背にしたヒーロー二人の視線方向には、また別の人影が二つ。

「ユタカライフのエージェント……!」

「ご明察! イヤーッ!」

「……! しまっ」

 頭上から声。反応が遅れた。シベリアンハスキー種イヌ獣人はイツキの両肩に着地、そのままたっぷりと力を込めて再度跳躍し、屋台を追う。

「サルのやつらは無駄に頭が回りやがるが、戦場で考え込むのはアホだゼ! アバヨ!」

「くッ……このっ!」

 イツキは脱臼しかかった両肩を筋力とキアイで繋ぎ直し、イヌ獣人を追う。その遥か下方でも、ヒーローと暗黒エージェントが一触即発の状況にあった。

 ◇◇◇
436 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:32:06.40 ID:L6tcVsPXO
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437 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:33:41.54 ID:L6tcVsPXO

 絶叫したのはエージェントの方だった。洋子の瞳の光が消えると、恐るべきニューロン破壊能力者マインドトレーサーは仰向けに倒れ、口から白い煙を吐いた。

「プロデューサー、頭大丈夫?」

「割とな。割と効いた。これで二対一か……バーニングダンサー、さっきの屋台、追跡しろ」

「えっ……プロデューサー、ホントに頭」

「大丈夫だ。そもそもサイバネ野郎には俺の方が有利だろうが。俺がやる」

 エボニーコロモのニューロンはおそらく正常だ。洋子は一度頷くと身を翻し、屋台を追ってサンギョウ・ドウロに走り出た。
 黒のヒーローは防寒防風コートとビジネス用ジャケットを脱ぎ捨てた。握りしめたヒーロースーツの両拳が、バチバチと青白く放電した。
 二人の戦士は同時に地面を蹴り、拳を繰り出した!

「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」……

 ◇◇◇
438 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:36:34.66 ID:L6tcVsPXO
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439 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:38:37.03 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

「プロデューサー、頭大丈夫?」

「……言葉足りてねぇぞ。大丈夫だ、おかげさまでな」

「あの屋台、絶対クロだけど……足止めしなくて良かったの?」

「発信器は仕込んである。そうでなくても、まだ見えてるんだろ? コイツら叩きのめしてからで間に合う」

 洋子と黒衣Pは逃げ去る屋台を背に、ユタカライフ戦闘エージェントと対峙する。二人が纏う静かな怒りは、年に一度あるかないかの重大案件対応時に匹敵していた。

「何故邪魔をする? 貴様らも我々も被害者同士。協力して犯罪者を捕らえることが、社会の安定に繋がる」

 エージェントの一人、重サイバネ戦士ファイブセンシズは、ヒーロー達の行動を理解できなかった。
 ユタカライフ化研の試作薬物“HSH03”が何者かにケミカル調味料とすり替えられ、強奪された事件から一週間。彼らは犯人を見つけ、確保まであと一歩に迫っていたのだ。
 使用者の記憶中枢に作用し、家庭の記憶を呼び起こす。最新のVRデバイスと組み合わせることで、カイシャにいながら自宅で過ごす穏やかな時間を再現する。
 HSH03は働き方改革と成長戦略との板挟みで苦しむメガコーポ各社にとって、さながら蜘蛛の糸のごとき救いとなるはずだった。
 この一件で最大の原因、試作品の社外持ち出しという致命的非常識ミスを犯した開発主任をはじめ、既に幹部クラス複数名が長い出張に旅立った。
 メンツを保たねばならぬ。何としても強奪犯を捕らえ、然るべき報いを受けさせる。彼ら戦闘エージェントが投入されるとは、そういうことだ。

「社会の安定……笑える、それなら警察に被害届の一つも出してみればいい。どうせ表に出せないヤバイネタなんだろうが」

 エボニーコロモの声音は、無表情な黒子ヒーローマスク越しでありながら尚その眼光と同じく鋭い。
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