【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」

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432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 14:50:16.59 ID:oRSIZYwgo
まだなな
433 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/22(月) 06:21:52.54 ID:oVyaiogV0
本当に長らくお待たせして、申し訳ない
酷く停滞しましたが、ちゃんと終わりを見せたい。
今夜より再開します。
アザディスタンにもう何ヶ月いるんだって話です。
では、今夜また。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 06:52:16.07 ID:1/x/yNt1O
消えたかと思った
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 08:40:05.24 ID:lkPnoio2O
まってる
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 12:03:27.84 ID:gXyw4NOa0
待ちわびたぞ少年!!
437 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 02:03:26.62 ID:8cil2/FJ0


グラハム「――は、は」

絹江「……?」

グラハム「いや、気にしないでくれ。そうだな、言うなれば……」

グラハム「飽きさせない女(ひと)だと、そう思わされただけのことだ」

絹江「へ?」


 呆気に取られた一同に目もくれない。
 
 向けられた表情は未だ陰りを残してはいるけれど、いつもの彼のそれに少し近づいたようにも見えた。

 手を差し出された。

 ――此処で話すつもりはない、場所を変えよう。

 そう言いたげに、口元が笑っている。

 
絹江「……私、貴方との接触禁止令が出てるんだけどなぁ?」

グラハム「自己責任で頼む。最初にドックまで逢いに来たのは君の方だ、そうだろう?」

絹江「ずるい人……」

グラハム「はて、知っているものだとばかり」

絹江「改めて実感させられたってこと……!」

グラハム「……と」


 彼の手を取り、ベッドから立ち上がる。

 すれ違いざま、彼と技術顧問の目があった。

 ――他言無用だ、盟友。

 ――仰せの通りに、フラッグファイター。

 人差し指を鼻の前に置いたグラハムと、肩をすくめ笑うビリー。

 言葉さえ不要、その一瞬の交錯で、とりあえず邪魔者が来ることはないことだけは、察せられた。

 私とイケダさん?

 いや、そういう関係じゃないので。スルーで、はい。

イケダ「ひでえ……!」



絹江「それで、ドックの方?」

グラハム「懺悔室に使うには神聖に過ぎる」

絹江「……じゃあ、何処?」

グラハム「残悔は屋根のない場所で吐くに限る」

絹江「あら、まるで青春時代ね。えぇ、何処へでも。センパイ?」

グラハム「肌が粟立つ」

絹江「ひっど……!」


 目指すは階段。
 
 周りの目も気にせず、早足の背中を意地になって追いかける。

 話したいことがある。伝えたい事がある。聞いてほしいことがある。

 それを、彼も持ってくれているのかもしれないと思うと、少し嬉しかった。


 ・
 ・
 ・
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 04:25:03.27 ID:gb9Q1KG/O
デートですね分かります
439 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 05:02:46.86 ID:8cil2/FJ0
絹江「…………」

グラハム「…………」


 乾いた青空の下、真新しい手すりに腕をかけ寄りかかる。

 彼は背を預け腕を組んでいる。

 互いの手に握られた缶コーヒーはまだ湯気立っていて。

 話し終わった口は、きつく閉じられていて。

 忙しない車両や兵士たちの生活音などは、かすれた風の音を挟んで何処か遠くのもののように感じられた。


絹江「そっか。負けたんだ、イナクトに」

グラハム「そうだ。敗北した、完膚なきまでに」

絹江「……正直、意外。貴方のこと、ガンダム以外なら最強くらいに思ってたから」

グラハム「自負はある。そうでなければ、半世紀先を行く天上人の背など追えはしない」

グラハム「その上で、敗北は敗北だ……賊は、私より強かった。それだけのことだ」


絹江「でも、貴方は生きてる」

グラハム「……奴がガンダムを恐れた結果だろう」

絹江「それは相手の都合、結果は結果。死なない以上、止まる必要なんかない」

絹江「どうしたの? 何か、別のことで迷ってるみたい」

グラハム「幻滅したか?」

絹江「純粋な疑問よ。貴方、強がりだから」

グラハム「よく言う……」



 それでも、ぼそぼそと言うことには。


グラハム「君に偽りを告げてきたつもりはない。私はガンダムとの戦いを望んで、この空に来た」

グラハム「今でもそう思っている。渇望と言って差し支えない」

グラハム「だが……あの瞬間、受信アンテナを爆破されたとき、私は、その怒りに突き動かされ、ガンダムに背を向けた」

絹江「……」

グラハム「……人道的な視野での正解など、私にとっては何の意味も持たない」

グラハム「グラハム・エーカーとはそんなつまらない男であったかと、このような正念場で思い知らされるとはと……」

グラハム「あぁ、君の言う通りのようだ。強がりだな、これは……」

絹江(重症ね、これ……)

 
440 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 06:05:26.51 ID:8cil2/FJ0

 それはそうだろう。

 思い返すまでもなく、彼のアイデンティティとして【MSパイロット】は重要なものだ。

 それが、ガンダムという世界的なテロリストではなく、ましてやライバル機イナクトの犯罪者に敗北したとなれば。

 彼の自尊心、自負にどれほどの傷をつけたか計り知れない。


絹江(ただでさえフラッグを優に凌ぐ高性能機を相手取ろうとしてる特務部隊、その最精鋭)

絹江(今更、自分の技量や搭乗機の問題なんて気にしてられる状況なんかじゃないでしょうに)

絹江(そこに疑念がついたりすれば、ただ対峙することだって危うくなる)


 ただ動かすだけでも死の危険性を伴う特務MSでの任務。

 普通の軍人であれば、今回の一件で二度と乗る気になどならないはずだ。

 それでも、彼の精神は一線で踏みとどまっている。

 怖いと、思う。

 彼の言う【渇望】は、自分の死と天秤にかけてなお余りある自己実現の形。

 ――言い換えれば、飛ばなければ、生きている意味など無いと、言っているようなものだ。

 その【渇望】に背いたことへの困惑と、失望。
 
 実に彼らしい、自己への厳しい追及の光景であった。
 

絹江(……否定は、したくない)

絹江(それが狂気に近い感情でも、それを維持しなきゃ戦えないとしても)

絹江(彼はまだ、間違えてはいないから……)

絹江(――よし、やりますか)


 
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 10:12:08.36 ID:Wrgyu4RVo
期待
442 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/07(水) 05:12:59.11 ID:/x8RUqy+0



絹江「まず、一つ。訂正して」

グラハム「!」

絹江「貴方は、自分を裏切ってなんかいない」

絹江「むしろ、あの場において貴方以上にガンダムと対峙できていた人物はいないわ」

グラハム「……問おう、何故だ?」



絹江「ガンダムは、何故この国に来たと思う?」

グラハム「問答か」

絹江「いいから!」

グラハム「無論、アザディスタンへの武力介入だ」

絹江「その通り。そして、今回はガンダムにはもっと明確な作戦目標がある」

グラハム「!……ラサー、か」


絹江「そう。ソレスタルビーイングは馬鹿じゃない」

絹江「この国に来るとなった時点で、【ガンダムによる介入行動だけで作戦目標を達成することの難しさ】くらい把握しているはずよ」

絹江「国内の紛争、爆弾や人間のみの戦闘行為をMSでは鎮圧しきれない、ならば」

グラハム「紛争に到達する前に国内情勢を乱す輩を率先して排除、鎮圧する……」

絹江「恐らくは、彼らの手のもの総動員で張ってるんじゃないかしら」

絹江「ガンダムのパイロットが降りて頑張るわけにも行かないものね」



絹江「ソレスタルビーイングは本気よ。今回の一件、ガンダムは完全な添え物なの」

絹江「にも関わらず此処に降り立った。彼らの熱意……正しいかどうかは別として、認めなくちゃいけないところまで来てるわね」


グラハム「……それで、このグラハム・エーカーの弁護にどう繋がる?」

絹江「分からない? 向こうがガンダムをメインとして運用してこない以上、今回のユニオン派兵は完全な失策よ。無駄ってわけ」

グラハム「……」

絹江「でも、唯一、違う人がいるわ」

絹江「それが貴方よ。貴方だけは、イナクト……【存在すら憶測の域だった第三勢力を発見し対峙した唯一のユニオン軍人】」

絹江「ガンダムどころか、ソレスタルビーイングと、同じステージで戦っていたただ一人の兵士」

グラハム「詭弁だ……」

絹江「もし第三勢力の発見がユニオン側でなかったら、ユニオンの外交姿勢は説得力を失っていたわ」

絹江「ガンダム目当てで他所様の事情に首を突っ込んで、大コケした三大国の一角って……」



グラハム「絹江!!」

絹江「ッ……!」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 08:43:29.02 ID:IIk13aeVO
ブン屋の情報解析力侮りがたし
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 13:49:06.52 ID:6D3KJy8H0
一介の兵士以上になる気がないグラハムでは絶対に届かない視点だがブン屋でも相当な切れ者じゃないとガンダムの影に惑わされて届かんな
ガンダムに対峙する男の傍らに居続けた女だからこそか
445 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 01:55:24.84 ID:3I7lnFl90

グラハム「……それでも、私はユニオン軍人だ」

グラハム「所属の動向の正否如何に関わらず……な」

絹江「……OK。でも、敗北以前に、貴方がイナクトと対峙した事実が、ユニオンの建前と体面を首の皮一枚で繋げてるってのは、理解してほしいわ」

絹江「貴方が飛んだことで支えられたものがある。守られたものがある。それを、誇りに思って欲しいだけなの」

絹江「それだけは、分かって欲しいから……」

グラハム「欲しがりめ。良いだろう、折れてやる」

絹江「ッ……私は欲張りなの、知らなかったかしら?」
 
グラハム「慎ましいだけの女性よりは、好ましく思うがね……」


 嘆息。

 当然の反応だ。

 間を埋める珈琲に眉をしかめる。

 ユニオン軍の珈琲は珈琲を殺して埋めて成り代わった泥水だ、というレビューを知ってるけれど。

 今日のこれはシチュエーションが八割を占めている気がした。


絹江(とりあえず、選んだ道は間違ってないと言えた)

絹江(次は、どうやって自信を戻させるか、だけど)


 難題だ、と思った。

 グラハム専用のフラッグのデータと、イナクトの交戦データでもあれば、単純な比較とシミュレートくらいはやれる、と思う。

 実はこう見えてMS開発史の研究者にインタビューとかして情報も集めているのだ。褒めろ。

 でも、それに納得してくれるだろうか、というと自信がない。時間もない。そもそもデータがない。くれるはずもない。

 さぁ、事実は少ない。

 真実には程遠い。

 どうやって、辿り着こう?


 ――悩む間に、仕掛けてきたのは、やっぱり彼だった。


グラハム「ふ……しかし、酷い、冗談だ」

絹江「え?」

446 :芝居めいた語り調と強気な独り言は全部自分を奮いたたせるためという設定すき ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:14:12.17 ID:3I7lnFl90

グラハム「君の言うとおりであるならば、私は軍人の使命を全うした場合、国家の体面を護れぬ不忠者と成り下がり」

グラハム「このように結果として国家の矜持を支える一手を抑えようと、己が矜持に悖る不埒者に成り果てる」

グラハム「勝てば良かった、それは事実だ。何方を選んでも、勝ってしまえば言い様は幾らでもついたはずだ」

グラハム「だが結果として、今も付き纏う感覚が、私の中で指差し笑う……ッ」

絹江「グラ、ハム……?」




「お前は、果たして勝てたのか? と」


絹江「…………!」



 表情は笑っている。

 いや、こんなに苦しそうなそれを笑みとは呼ばない。

 少しずつ、手すりを背もたれに座り込んでいくグラハム。

 仕舞には体育座りで、表情も見えなくなって。

 それでも、絞り出すような声だけが、私だけに届く。

 そこからは、もう。

 それは、まさしく懺悔だった。


グラハム「通用はした……それは、確かだ」

グラハム「だが決定的な一瞬で逆転された、覆された……それだけで分かる。あの騎手は、私より強いのだと」

グラハム「私より強い男は一人だけだった。【あの人】だけだった、【あの人】だけのはずだった」

グラハム「あの時から自分は何が変わったのか……ずっと誤魔化してきたのか、それさえ分からない。」

グラハム「だが、奴が、あのイナクトが思い出させた……思い出してしまった」

グラハム「……私は、弱いと……!」


 優美な風体に合わない無骨な指が、金髪をくしゃりと握りつぶす。

 さっきの珈琲の味も思い出せない。

 見下ろしているからだろうか。

 彼が、グラハム・エーカーが、こんなにも小さいなんて。


 相手がどんなパイロットかは分からない。

 実力だって、正直思い浮かべられやしない。

 でも、彼がそこに何を見出し、思い出してしまったかは、分かる。

 【上官殺し】、私が彼に聞かされていない、彼の過去の出来事。


 唇が乾いていく。掛けるはずの事実が逃げていった。

 どうしよう。

 こんな、こんな姿のこの人……初めて見た。


――――

『どうだ、カタギリ君』

『奴のあのような姿、君は見たことがあるかね?』

「……正直ショックです。弱音を吐露したことより、僕相手じゃないってことが、ですが」

『感傷の付き合いではないが故のプロフェッショナル。そこは誇るべきであろうよ』
447 :物陰から出歯亀師弟すき、GNハイメガランチャーしたい ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:46:32.63 ID:3I7lnFl90

『同型機の敗北、戦術眼の似通った熟練の敵エース、そして彼女の慰め……酷いもんじゃ、己を責め支えとしていたところを無下に剥ぎ取りおった』

『ガンダムのパイロットさえグラハムの目には付け入る対象に映った。実力で上回られたのは、本当に奴以来の邂逅と言えるだろう』

「……仮に、未だあの御方を超えていないとしても、現ユニオン最強は間違いなくグラハムだと断言できます、が」

『無価値ぞ。奴にとって比較対象はただ【最強】のみ。今は亡き師の次に来た怪物に負けたとあっては、なおのこと』

「No.2である事実より、No.1になる機会の永遠の喪失が彼を打ちのめした……ですか」

『その顛末は、君もよく知っていよう。彼女は、知り得なくて当然じゃがな』

「あの頃のグラハムは見ていられませんでした。何処か、こう、自らを傷つけるように飛んでいたというか……」

『全ては決着をつけぬまま逝ったあの馬鹿者の咎である、が……ここに来てとは、いや、忘れるはずもあるまいか』

「……良いのですか? あのままでは、以降の作戦に支障が……」

『儂は一向に構わんよ。どうせ最初から決められた負け戦であろう?』

『ここでしくじったら何もかも終わりというわけでもあるまい。人生は長い』

「……ん?」

『ガンダムが決着をつけるまで、折れておればいい。立ち上がるのは、それからで……』

「あ」

『あ?……』

『あ』

――――

グラハム「……き、ぬえ?」

絹江「……っ」

グラハム「その、悪かった。私らしくもない……」


絹江「黙って」

グラハム「だが、しかし」


絹江「黙って、聞いて!」ギュ

グラハム「ッ……ぬう……」


 両腕に、力を込める。

 指が触れた金髪は、見た目とは裏腹に男の人らしい手触りがした。

 今、自分の腕の中に、グラハムの頭がある。抱きしめている。

 こんなに彼を近く感じたのは、爆弾テロ以来だったろうか。

 そうしないといけないと思ってから、殆ど無意識に、そうしていた。

 涙が、止まらない。

 鼻水を啜る音は、煩くないだろうか。

 自分の言葉を少しずつ、胸の奥で組み上げる。

 ……きっと、今から言う言葉は、致命的な嘘を交えている。

 それでも、言わなくちゃいけなかった。

 責任だと、思ったんだ。
448 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:47:36.83 ID:3I7lnFl90

 初めて見た、この人の姿。

 いつもは見せない、本音の吐露。

 どうしたら最善かなんて、分からない。分かるわけがない。

 でも、決めていたことがある。変わらない思いがある。





 ……否定など、するはずがない。

 それが狂気に近い感情でも、それを維持しなきゃ戦えないとしても。

 今こうして聞かせてくれた言葉(しんじつ)は、間違いなんかじゃないんだから……!







「聞いて、グラハム」


「――貴方は、強い!!」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 13:00:41.94 ID:kfCPK9mso
この気持ちまさしく愛か
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/14(水) 00:43:56.92 ID:2tp6EuwB0
乙。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 03:17:31.29 ID:p+6qorv90
幸せになるべきだった。
絹江も、グラハムも・・・
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 12:56:41.61 ID:poafnZxb0
私は我慢弱い
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 19:41:01.12 ID:Wr/20dtX0
グラハム生存確定だぞ、喜んで書け
454 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/22(日) 04:59:42.63 ID:yxMCYFYb0
喜んで。
今夜またお逢いしましょう。
怠けたツケは利子付きで。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 09:13:20.31 ID:EFyrrgGA0
来たのか…!?
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 12:02:32.91 ID:2DwgUH3i0
私は我慢弱い
457 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/25(水) 06:09:18.76 ID:GgTu+xWW0

――――

 あぁ、参った。

 弱音を吐いたことが、ではなく。

 【誰かの前で弱音を吐く羽目になったこと】が、である。

 その結果が、これだ。

 全く、散々な遠征ではないか。


グラハム「…………」

絹江「っ……」
 

 側頭部に押し当たる、柔らかで暖かな感触。

 その奥底からささやかに響いてくるのは、彼女の生きている証そのものだ。

 逃すまいと頭を囲う細腕に、力が籠められる。

 彼女の全力の拘束とて、振りほどこうと思えば容易に出来よう筈なのに。

 微動だに出来ぬまま、続く言葉に耳を傾ける。

 
絹江「……貴方は言ったわ」

絹江「自分が軍人をやってるのは、空を飛ぶためだって。飛ぶことが好きだから、夢だったからって」

絹江「だけど、貴方……今回は無理して飛んでた」

グラハム「!」

絹江「分かるわよ、そのくらい……無理して私と一緒にきて、無理して嘘ついて……」

絹江「それでも、助けてくれて……!」

グラハム「……良心の呵責だ、それ以上の意味はない」

絹江「でも、嬉しかった……っ」

グラハム「……顔から火が出そうだよ」


 少し、目線を上げた。

 微笑みながら涙を流す彼女と、目が合う。

 器用な女(ヒト)だ。

 直視しきれず、瞼を閉じる。

 どうあっても離すつもりがないのは分かっていたので、無駄な努力を止め、脱力する。

 抱き寄せる力はすぐに強まり、胸元へと寄りかかるように、上体が傾いていくのが分かった。




絹江「……グラハム」

絹江「貴方が、貴方の歓びを抑え込んでまで飛んだことは、無駄じゃなかった」

グラハム「だが、敗北した……」

絹江「だからこそ、折れちゃ駄目なの……!」

グラハム「! ……」


絹江「貴方は負けた……でも」



絹江「貴方はまだ、勝ってない!!」
458 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/25(水) 07:38:27.02 ID:GgTu+xWW0
 思わず、眼を開く。

 彼女が、それを言うのか。

 戦うべきではない、意味がないと、この派兵を嫌った彼女が。

 【まだこの戦いは終わっていない】と、私に言うのか。


絹江「っ……阿漕、よね……自覚してる……」

絹江「でも、此処まで来た……貴方が、無理して選んで、ここまで来れたのよ……?」

絹江「私だって思うわよ……っ」


絹江「この国を救うのは、自分を曲げて戦ってくれた貴方であって欲しいって……!!」


グラハム「……」


絹江「確かに、貴方は負けた」

絹江「でも通用しなかったわけじゃない……ユニオンのグラハム・エーカーが通用しない筈がない!」

絹江「みんな思ってる、私だって……!」

絹江「貴方は、一番強いフラッグファイターだから……!!」


 言葉の一つ一つは、偽りなき真実。

 だが、根底にあるのは紛いの叱責に過ぎない。

 ――これは【戦ってほしくない】という彼女自身の想いを殺して願う、私を奮い立たせるためだけのジャーナルだ。


 震えた言葉が繰り返される。

 どうか折れないでほしいと、雫とともに降り注ぐ。

 いつもの理路整然とした見地からは程遠い、祈りのような剥き出しの感情。

 私のためだけに紡がれる、歪なエール。


 幾人もの他者へ、勝利を願われここに立っている。

 MSWADのエース、ユニオンのトップガン、フラッグファイター。

 勲章と地位を重ねる度に、重圧もまた層を成していった。

 だが、どうだ。

 今、彼女が願ってくれる勝利。

 彼女自身の真実さえ曲げて望まれる【グラハム・エーカーの勝利】に比べれば。

 その何と軽く、薄い責に過ぎぬことか。



グラハム(参ったな)

グラハム(弱音を吐いている暇もない)

グラハム(強がりで茶を濁すにももう手遅れだ)

グラハム(これ以上、彼女に嘘をつかせるつもりは無い)

グラハム(証明してみせるさ)


絹江「貴方は……ッ!」

グラハム「私は……」


「「強い!」」


絹江「……え?」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 08:57:55.14 ID:tWZp785j0
きたか…!
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 12:04:36.62 ID:K7+R7PsF0
待ちわびたぞ!少年!!
461 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/09(土) 05:27:54.72 ID:wskR7Alj0
テスト
462 :sage :2018/06/09(土) 22:30:48.01 ID:nMqOq/Oe0
な、なんと!ふと開いた瞬間に合間見えることが出来ようとは……!
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 11:31:53.70 ID:Sd7cuOXmo
>>462
上げんなカス
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 19:09:41.60 ID:shmRGnYn0
利子付きとは
465 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/30(土) 04:34:10.95 ID:D2xaJWjX0

 もし、このまま負けたままで終わったなら。

 今、自分を曲げてまで私に寄り添った彼女は、自責の念を永遠に抱え続けることになるだろう。

 もし、ここで勝てなくば。

 一人の女の人生に、消えない傷が残る。

 そう気付いた瞬間、湧き上がってくるものがあった。

 
 怒りだ。



グラハム(ユニオンは恥を晒すだろう。ガンダムに誘い出されて鉄火場に踏み込んだ、当然この上ないことだ)

グラハム(私は無能の誹りを免れまい。ガンダムと対峙さえしなかった阿呆の末路だ、自業自得甚だしい)

グラハム(だが、彼女は違う)

グラハム(この国を知ろうとし、世界の変革を克明に追っていた)

グラハム(遠い異国の地で憂うだけに留まらず、自ら世界を体感しようと己を懸けた、ただ一人のジャーナリストだ)



 ――巫山戯るな。

 そこまで許した覚えは無い。

 自身の不始末の責任を問われるならいざ知らず。

 無関係の【盟友】一人、巻き込んで自爆とは容認し得ない悪逆であろう。

 私は……グラハム・エーカーは、そこまで語るに落ちた男であったのか。

 
 自身への怒りが、一度は屈した膝に檄を飛ばす。

 彼女の腕がそれを制するも、構わず立ち上がる。

 見下ろしながらでは比例に値するだろうが、寛容な彼女に甘えて、黙ったまま手を差し伸べた。



グラハム「……そうだな、あぁ、そうだ」

グラハム「幾ら強く、高く飛んだところで、己を信じ赦せぬのであれば」

グラハム「今は、君の言葉を信じて、ただ飛ぼう」

絹江「…………」

グラハム「勝とう。他ならない、勝利を願った君の為に」

グラハム「そして……もう、この国にユニオンがしてやれることは、それくらいしか無いだろうから」
466 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/30(土) 05:10:54.16 ID:D2xaJWjX0

 彼女は、見上げながら力強く涙を拭い去ると。

 満面の作り笑みで以て、手のひらを掴み立ち上がった。


グラハム「! ……」

絹江「? どうしたの、痛かった……?」

グラハム「いや、大したことじゃない」


グラハム「抜けなかった棘に、抜けた後で気付いただけのことさ」

絹江「……?」



 言えるはずもない。
 
 あのとき、手を取ってもらえなかったことを。

 あんな些細なことを、気付かぬ内に今まで引きずったままでいたなどと。

 言えるものか、女々しいこと甚だしい。



絹江(サボテンでもどっかで触ってたかな……?)

空き缶「この人自分のことになるとこれやからな……」



グラハム「……さて、行こうか」

グラハム「もう軍部の発表は始まっているはずだ。第三勢力の介入はアザディスタン全域に知らされる」

絹江「世界にもね。これで国内外の不穏な空気が一掃されてくれればいいけれど……」

グラハム「そう簡単には行くまいが……祈りたくなるな、せめて時間さえ稼げれば……?」



 ――その時だった

 入り口のドアが、粉砕せんほどの勢いで開け放たれた。

 驚き、とっさに彼女を庇うように……無意識だった……腕を広げた。

 姿を見せたのは、息も絶え絶えの部下二人。

 その表情を見て、己の不覚を大いに恥じた。


 猶予など、もはやこの国に残されてはいなかったのだと。



――――


467 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/30(土) 05:37:09.63 ID:D2xaJWjX0


 「我々、アザディスタン国防軍ゼイール基地は、独自の判断を以て、現時点より派遣ユニオン軍との連携を拒絶」

 「この国で生き、この国で死ぬ愛国の民の判断による、正当な治安維持及び、ラサ―の捜索を行うこととする!!」

 「神の意志を理解しない異国の蛮族が、この国にもたらしたものは何か!」

 「それは混乱と破壊、民族融和を阻害する、厄災に他ならない」

 「何が第三勢力か!何がテロリストか! 仮にそれが事実であるとして……!」

 「ユニオン軍が、我らにとって招かれざる客であるということもまた、厳然たる事実であろう!!」

 「繰り返す! 現時点を以て、我らアザディスタン国防軍はユニオン軍との連携を拒絶する!」


 「以降、我らの管轄する地を踏むユニオン軍は、敵機とみなし撃墜する!!!」


――――




サーシェス「はーはっはっはっは!!! さいっっこうの喜劇だなあ、おい!」


サーシェス「くはは……一回蜂起した基地に補充要員を送ったのはいいものの、その補充要員がクーデター起こしてりゃ世話ねえわなあ!!」


サーシェス「あの基地司令は改革派だ。蜂起した超保守派の間抜けとは考え方が違う」


サーシェス「そんな改革派がユニオン公式発表に耐えかねてこんなことしてんだ、アンテナぶっ壊した甲斐があったってことだなあ?」


サーシェス「……改革派の急進派閥はやりすぎた……その不信感は繋がってるユニオンへ増幅されてそのままぶつけられていく」


サーシェス「この国が、あの爺がくたばるまでにどう変わっていくか……楽しみでならねえぜ!」


サーシェス「ははははははははは……!!」




――――



 ゼイール他、四箇所の基地の一斉蜂起。

 その矛先は国ではなく、同じ地を護るはずの友軍に向けられた。

 ユニオンの発表が、よりにも寄ってアザディスタンに対して全く信用されないまま火種としてさえ機能した事実。

 本国の困惑は、戦慄に変わった。


 このままでは、アザディスタンはユニオンを巻き込んでの内戦に突入する。



――――
468 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/30(土) 07:21:13.57 ID:D2xaJWjX0


「哨戒中のリアルド全機、帰投は確認できているか!」

「ヘンリーク1とマサリク7の帰投がまだ……! 北西方面、及び南東M27ポイント!」

「ヘンリークの方はカズナ基地に近い!万が一を考慮し小隊を!」

「アルトランド隊が補給済ませています! 」

「急がせろ!!」


「陸戦フラッグ隊は北東部に展開、ゼイール基地からの出撃を警戒する」

『言っても補充機体全部アンフなんだろ? 弱い者いじめじゃねえか』

『撃っていいんですかね? 勝負にすらなりませんよ……』

「言わなきゃわからんか? ガンダム対策だよ、現れたら速攻で抑えろ」

『はあ……この期に及んでまだガンダムですか』

『呆れたね。上の連中も太陽光受信アンテナ頭に刺しといたほうがいいんじゃねえの?』

「俺の心を読むのは止めろ、聞かれて降格したら一人じゃ逝かんからな」

『へっ……出撃する!』

「死ぬなよ」



――予備会議室――



イケダ「こちらユニオン基地のイケダです! 窓から……見えますでしょうか!基地は突然の報道に騒然となっております!」

『アザディスタン軍とユニオン軍の衝突は確認されましたでしょうか?!』

イケダ「ユニオン側の発表では確認されておりませんが、総力を上げてこの危機的状況を回避しようと部隊を動かしている模様です」

『ガンダムの出現の可能性はあるのでしょうか?』

イケダ「まだ情報は入っておりませんが、ユニオン軍もその可能性を考慮して対策を講じるものと思われます」


「……では、アザディスタン基地が襲撃された場合、ユニオン側はどのように対応するものと思われますか?」


イケダ(あっ、このバカ野郎キラーパスを……!)

(やべ、ちょっと方向ミスった!)


絹江(イケダさん、イケダさん!)サッ

イケダ(!)


イケダ「まだ……声明は発表されておりませんが、ユニオン側はアザディスタン防衛の目的で派兵されています」

イケダ「アンテナが破壊されたとはいえ、その名目がある以上ユニオン側が強硬策に出る可能性は低いものと思われます」

「では、出来る範囲でのアザディスタン支援を継続するということで宜しいでしょうか?」

イケダ「詳しいことは公式発表を待つしか無いのが現状です」

「ありがとうございました。では一度スタジオに戻します……」


イケダ「悪い絹江、ナイスサポ」

絹江「いえ、あの人すぐ口を滑らせますから。予測撃ちですよ」

イケダ「しかし……まずいことになったな」

イケダ「公式発表がまさか裏目に出るとは……」

絹江「……はい」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 12:20:12.52 ID:GdTYnHqjo
空き缶とかテレビ局側のレポーターのお茶目な発言に吹いた
470 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/07/01(日) 05:11:57.04 ID:aqRBndSJ0



――――


アレハンドロ「本来【彼】が【奴】を見つけたのは最悪手だった」

アレハンドロ「第三勢力の存在の露見は、アザディスタン内戦を挫いてしまう可能性があったからだ」

『だが、事態を【好転】させたのはその【奴】のアンテナ破壊工作だった……か』

アレハンドロ「そうだ。改革派唯一のよすが、国を救う蜘蛛の糸であった太陽光発電受信アンテナの喪失だ」

アレハンドロ「薄々感づいてはいたが、これがある意味で彼らの不信を確信に変える決定打になった」


『ユニオンは、ガンダム鹵獲さえ出来ればアザディスタンの情勢や未来に寄与しない行動も平然と取る、と?』


アレハンドロ「事実だろう? 誰も今回の派兵には反対しなかったそうじゃないか」

『あそこまで根回しされて断れる人材は軍にはおらん。シビリアン・コントロールなどと聞こえはいいが、体面の為に死にに往かせるこっちの身にもなれ』

アレハンドロ「ふふ、鹵獲などさせる気も無い御仁がよくもまあ……」


『作戦上、いつ事態が崩れても構わないのは確かだが……偏ったパワーバランスは内部に齟齬を生みかねん』

アレハンドロ「悠長な……その足踏みの間に、大事な【彼】がガンダムに討ち取られるやも知れんというのに」

『かつてのエースからの警告かな?』

アレハンドロ「かつての上官殿に意見するつもりはありませんが、ね」

『ふん……同じエースでもアレとお前では格が違う。無用の心配だ』

アレハンドロ「……言ってくれる。その調子では新時代の担い手の座も【彼】にすげ替えられてしまいそうですな」

『拗ねるな、拗ねるな。アレにそういうことは出来んさ、顔色伺いが主軸の政治パズルなど最も不得手な部類だろうよ』

アレハンドロ「さて、一応ですが……ソレスタルビーイングはどう動きますかな。そして、【彼】も」


『それなら、例の老人が動き出した。恐らく――』




リボンズ「――決着はもうすぐ、か」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 12:12:51.56 ID:6h8yMHisO
彼と言うのはグラハムかな
政治が出来たらグラハムじゃないし仕方ないよね
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 21:07:14.38 ID:qtyZJmWS0

国連大使何気に元リアルドパイロットで凄腕設定だもんね
話し相手はホーマーおじさんかな?
473 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/08/11(土) 03:10:39.98 ID:X7kk2iQl0
――――


ビリー「やあ、グラハム。どうだった?」

グラハム「先の会議の空元気は何処へやら、だよ。カタギリ」

グラハム「【指示あるまで待機】の一点張り。ガンダムに対する作戦行動も、ラサー捜索の手立ても、これで完全に途絶えたことになるな」


 無意識の言葉であったが、その一言に対策室の面々の表情は沈痛さを隠すことも出来なくなった。
 
 当然、前者が叶わなければ我らの目的は達成できず。

 後者が叶わなければ、我らの目的どころの話ではなくなるのだから。

 安物の椅子に腰を据えれば、悲鳴のような軋みを上げる。

 ダリルが察して椅子を代わろうと立ち上がったが、それを掌で制した。


グラハム「先の敗北がここまでの大事になるとはな、我ながら言葉も無い」

ビリー「仮にガンダムを追っていたら、結果は変わらなかった。勝っていても、殺していたら結局居場所は見つからない」 

グラハム「物証は得られただろう、イナクトという物証をな」

ビリー「……グラハム? 連中には【第三勢力がいた】という確かな映像証拠を提出しているんだよ?」

ビリー「それが引き金になってこうなっている以上、理屈じゃない。彼らは自分たちの苦しい立場のはけ口を僕らに定めただけなんだ」


カタギリの言葉に、自然と眉をひそめた。

 間違ってはいない。だが欠けている。

 そもそも起きた事態に対し、本腰を入れる部分を意図して偏らせたのはユニオン側だ。

 断言出来る。

 もしユニオンほどの国家が「ガンダム鹵獲」を過剰に意識せず事態の収拾に当たっていれば、こうはならなかった。

 街中を大量のオートマトンが闊歩することになろうとも、ラサーが発見されるまで良いようにはされなかったはずだ。


グラハム(逆に言うなら、ユニオンの動向と目的まで勘定に入れられた作戦を相手には取られていたわけだ)

グラハム(始まった時点で敗北していたというわけだ、三大国が一柱ともあろうものが……情けない)


ビリー「……もっとも、招かれざる客としての態度が正しかったかと言われれば、僕らも到底正しかったとは言えないわけだけれど」

ビリー「それでもこうなっているのは【太陽光発電紛争】以来続く中東と三大国の因縁の延長だ」

ビリー「……君には、奮起をしてもらいたい。後悔はさっき済ませてきただろう?」

グラハム「! ……そう、だな」

グラハム「済まないカタギリ、年甲斐もなくまた同じような過ちを…………」

グラハム「……カタギリ……」

ビリー「ん? 何だい盟ゆ「何処から見ていた」…………ナンノハナシカナ、チョットワカンナイナー」


PPPPPP

ダリル「む、これは……はい、此方対ガンダム調査隊」


グラハム「カタギリ……!」

ビリー「チョット待った、浮いてる、足元浮いてるから……いや君いつのまにそんな怪力……ぐええ……!!」


ダリル「隊長!」

グラハム「!」

ダリル「プロフェッサー・エイフマンからお電話です、先の案件に重要なことであると……!」


ビリー「グラハム!!! あの爺も出歯亀の犯人だよ!!!!」

『あ、てめえ!! 師匠を売りおったな?!!』
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/11(土) 14:28:00.57 ID:jA4ia01uo
醜い争いが繰り広げられている……
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/12(日) 13:39:07.56 ID:14eGzdQj0
きてたー
もうすぐ2周年だよ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/14(火) 02:08:41.78 ID:F5YAJN6Oo
あのグラハムがこんなにも表現豊かになるとは
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/15(水) 14:02:06.68 ID:7kB/CVkH0
>ビリー「グラハム!!! あの爺も出歯亀の犯人だよ!!!!」

>『あ、てめえ!! 師匠を売りおったな?!!』

ここ真面目な場面だよね?
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 19:37:23.18 ID:ZrjeXiRc0
これは良スレ
479 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/10/16(火) 00:59:28.26 ID:SC1zVF5L0
復活してましたね。
とりあえず今週水曜日から続きを載せさせていただきます。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 04:19:09.31 ID:r3cH82GWo
wktk
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 01:32:35.01 ID:UJfcQ/610
やったぜ
482 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/10/18(木) 06:28:14.40 ID:miBg7gUA0
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『諸君、もはや事態は一刻を争う』

『アザディスタンの軍部と民衆の不安と不満は、もはや許容範囲を超過しつつある』

『私は、諸君らとは違い本国に腰を据えたままではあるが……』

『敢えて言おう、我に勝機あり!』

『今、集めた情報とこの老骨の全てを以て、この苦難の打倒を目指すものである!』


「「「おぉぉ……!!」」」



ハワード「つい先刻中尉殿にガチ切れされて【まじゴメン反省してます】って正座していたご老人とは思えない覇気ですね……!」

『おい止めろ空気嫁早くも汚名挽回は完了ですね』

ビリー「グラハム、もうそろそろ立っていい?」

グラハム「却下だカタギリ、猛省が足らん」

ビリー「とほほ」


『あー、それはさておいて、だ』

『皆、よくぞ耐えてくれた。本当に、礼と謝罪を今この場で為すことを許して欲しい』

「「「…………」」」

『そして、明確に我らの作戦、戦術目標を提示させてもらう』


『――敵第三勢力の打破、及びラサ―の救出、これが我々の目標である』


グラハム「……!」

ダリル「っ、ではガンダムは諦めると……?!」

『そのガンダムが! ……あのソレスタルビーイングが、今、即座に行動を起こしていない』

『それが答えじゃ。奴らは、【ガンダムによる示威行動】を早々に転換していると見て間違いないじゃろう』

グラハム「!」

――ソレスタルビーイングは本気よ。今回の一件、ガンダムは完全な添え物なの――

グラハム「ふ……君という人は……」


『そして、じゃが』

『あー、うむ、説明が面倒じゃな……とりあえず、単刀直入に言うと』


『既に、そのラサ―及び武装勢力の潜伏場所と見られる場所の目星は付けておる』


グラハム「なんと?!」

ハワード「は?」

ダリル「な……!」


「「「なんだってー!?」」」
483 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/10/18(木) 06:53:37.28 ID:miBg7gUA0
『説明だけするとな、まあこう』


『本局が捜索範囲に定めていた場所から、【市街地】【統廃合の廃村】【過去に使われていた基地や拠点のうち判明している場所】を排除』

『更に【MS小隊級の潜伏が可能な場所】【例のMSの行動範囲から大雑把に近い場所】【儂の勘】で、だいたい領内248箇所から12箇所に削減できて』

『そこから旧アザディスタン領内を排除して……』


『三ヶ所』

『この三ヶ所の何処かに、ラサ―、マスード・ラフマディーは監禁されている、と儂は判断している』


ビリー「て、展開が早すぎやしませんか教授……」

『まあ安全な場所でぬくぬく考えておるのじゃ、それなりに成果は挙げてみせねばなあ?』

「せ、精度とかは……大丈夫なんでしょう、か?」

『ふむ、まず市街地は当然無しじゃな。人が多すぎる上にテロの中心地じゃ、万が一にも彼を生かさねばならない以上最初からありえない』

『加えて例のMS、恐らくアレが連中唯一の機動戦力じゃ。であれば小規模部隊が隠れられる場所はかえって目を引きやすい、意表を突く上でもMS運用面は判断から排除していいはずじゃ』

『そして、奇襲や誘拐の手口から見ても、恐らくは相当手慣れた上で【知っている】奴が相手』

『と、なれば、数撃ちゃ当たるで探索してくる、地図の有無や衛星の探知で不利になりがちな使い古しの地域はまず使うまい』

『で、あるならば』

『旧クルジス領内で、衛星写真で判別されたここ一ヶ月内の移動の痕跡の最も少ない、この三ヶ所』

『この三つの何処かに、必ずラサ―はいる。断言しよう』


「「「…………!!」」」

グラハム「プロフェッサー……!」


『正直言っておらん情報源や判断材料がざっと50ほどあるが勘弁しとくれ、説明だけで時間を消費したくない』


ビリー「……アンビリーバブル、流石ですね、プロフェッサー・エイフマン」

『ふふふ、そう褒めるな』


ダリル「と、言うことは……奴ら、ずっと引きこもってたんですか……!」


『そうなるな。儂らは勝手に潰し合い、勝手に疲弊しておったということだ。馬鹿馬鹿しいことこの上ない』

484 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/10/18(木) 07:30:12.75 ID:miBg7gUA0


グラハム「恐らくは、【時勢と環境を見極め独自に動く別働隊】でも市街地にいたのだろうよ」

グラハム「ユニオン軍がガンダムを狙って来ているのは間違いない、であるならば手薄な市街地でそれを行うのは容易く、数度も繰り返せば便乗犯が勝手に被害を増やしてくれる」

ビリー「その上で統一された思考で動いていない犯行だからその追跡は難しい……酷いもんだな、不測の事態さえ完全に味方につけてるよ」


『左様。我らの対峙する敵は、ラ・イデンラなぞ比べ物にならない【テロ犯罪の天才】といえる存在じゃ』

『奴らの次の行動は読めている、が、それは今だからこそ停滞、もしくは様子見をしていると判断できる』

『まだチェックには一手遠い、それも間違いあるまいて』


ハワード「奴らの目的……とは?」


『ラサ―の惨殺じゃ。最後の着火剤としてな』

ダリル「ざ……?!」

ハワード「なんですって……?!」


『それも、条件がある。【誰がそうしたか分からないこと】じゃ』

『それは手口などではなく時期的な問題……【既に死んでいた】では発生し得ない起爆剤の添加であろうな』


ビリー「……成る程、ついさっき死亡したということは、ついさっきまで生きていたってこと」

ビリー「アレだけ探して見つからない対象が、疑心暗鬼状態の市民の前にいきなり死体で現れたら……!」


『全勢力ことごとく、敵対勢力に対しその疑念を容赦なく向けるであろうな』


ビリー「人間一人運んで殺して市街地に捨て置く程度なら、移動を一切止めずとも可能です」

ビリー「ましてここまで拗れた状況でされれば、矛先は我々……いえ、【全ての外国】へと向けられる……!」


『疲弊しきった小国の精神的支柱を利用し尽くした、アザディスタンの完全な分裂と崩壊』

『ガンダムの台頭したこの世界情勢下、たった一人の人間を以て国家一つを完全に粉砕するつもりじゃ、我らの敵は』
485 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/10/18(木) 08:31:42.04 ID:miBg7gUA0
ハワード「し、しかし……何故最初にそれをやらなかったのでしょうか?」

ハワード「ラサ―が最初に死んでしまえば、この案件は一切元には戻りません、何故わざわざ最後に……」


グラハム「当然だ、あくまでラサ―の死を民衆が【都合のいい敵対相手に憎悪する】ように仕向ける必要があるのだから」

グラハム「事態を好転させず疲労とストレスを蓄積させていけば、人は浮足立ち他者と衝突しやすくなる。日常をテロに脅かされ続ければ誰だってそうなる」

グラハム「人は因果を求めるものだ。【こうなっているのには自分が不幸になって喜ぶものがいるからだ】……とな」

グラハム「そうやって誰もが矛を持って誰かを探し始めた頃合いで、特大のストレスを与えれば……それらはもう穂先を止められはすまいさ……」


ダリル「何もかも計算づくってことですか……」

ビリー「この国は改革派のマリナ・イスマイール王女と、保守派のマスード・ラフマディーで【対立】していたからねえ」

ビリー「運良くラフマディー氏が静観を決めていたことから安定した改革路線が整っていたのに、こうなるとはどちらも思っちゃいなかったろうに……」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 08:43:39.44 ID:jwwkGcSUo
おちんぽ
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 01:25:08.42 ID:9QTsJQf60
今月の作例にグラハムエクシア来てたな。ここのグラハムはどうなることやら
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 13:37:10.10 ID:ZJWHv4a7o
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 22:23:22.28 ID:ktMHkpmO0
しゅ
昨日偶然見つけてようやく追いつきました こんなに素晴らしい作品に出会えたのも久しぶりです。完結まで楽しませていただきます
490 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/17(月) 07:57:47.36 ID:EwCut+gy0
今夜改めて。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 08:37:59.73 ID:zqzq2/Tw0
うおお待ってる
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/18(火) 00:48:28.81 ID:0l26ObpMo
待ちわびたぞ!少年!
493 :一日一回でも必ず更新するスタイルで進めたい ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/19(水) 05:21:44.52 ID:LpADrD+k0

『よし、では我らのこれからの行動じゃ』

『まずはこの三ヶ所。軍の偵察と衛星写真による徹底的な隠密索敵を行い、気取られぬようラサーの居場所を突き止める』

『そして!陸戦部隊による急襲奪還作戦を敢行し、然る後、ラサーの奪還を支援する!』


ビリー「あのイナクトも間違いなくその場に待機していることだろう。奴に狙われたら並のMS部隊は三個小隊いたって返り討ちだ」

ビリー「リベンジの機会は、その時になるだろうね。グラハム?」

グラハム「…………」

ビリー「……グラハム?」


グラハム「……その前に、各員、スクランブルの準備をしておいてほしい」

グラハム「ゼイール他四基地の蜂起。明確に管理機構への叛逆を謳ってはおらずとも、国家常備軍の権限を逸脱したのは事実だ」


グラハム「ガンダムが来るぞ。迎撃は避けられまい」




 ・
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 ・
 ・


 事態は動いた。

 ある者は己の成すべきことを。

 またある者は、人として為すべきことを。

 全ての勢力、全ての人々が自分のために出来ることをしていた。


 だが、後にこの紛争【未遂】事変に際し記事を執筆した者たちは、口をそろえてこう言った。


「この事件で最も苛烈に動き、皆の度肝を抜いた人物は、彼女である」

「いやマジで何考えてんだあの皇女……って正直思った」

……と。



 ・
 ・
 ・
 ・



『ロックオン・ストラトス。準備はよろしくて?』

ロックオン「あぁ、気は乗らねえがな」

『仕方ありませんわ。彼らは自分から蜂起し、紛争幇助対象になってしまった』

『我々はいかなる事由、背景、要素に拘わらず、一切の紛争を武力で排除する組織』

『むしろ【メインミッション】から全勢力の目を逸らす、良い囮が出来たと喜ぶべきでは?』

ロックオン「王留美、そういう言い方をすると頭の上の猫がズレるぜ」

『……あら、失言でしたかしら』

ロックオン「正論ではあったよ。はあ……やるしかねえよな、あぁ!」

ロックオン「ロックオン・ストラトス、ガンダムデュナメス! 目標を狙い撃……」


『お待ち下さい、状況が変わりました!!』

『きゃ……!』


ロックオン「おぉ?!」
494 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/20(木) 06:20:33.94 ID:cARwsaLL0

 紅龍のスクロールでモニターに別の画面がポップアップされる。

 思わず目を凝らす二人。

 要人用のリムジンが長蛇の列を為して、荒野を横断していく光景が其処にはあった。


ロックオン「この国でこんだけの数出せる集団……?」

ロックオン「……おいおいおいおい、マジか! マジなのか?!【そこまでやる】のか、あの皇女様!!」

『監視カメラの映像を確認しました、間違いありません』


『マリナ・イスマイール第一皇女が、改革派、保守派双方の議員の一部を引き連れザイール基地に乗り込みました……!』


 全員、唖然。

 その表情の見守る中、リムジンの大名行列はザイールのゲートをくぐる。

 車内のマリナ・イスマイールはただ前を向いていた。

 毅然、堂々。

 それは執政者としての彼女の姿であった。


――ザイール基地――


基地司令「ッ……何という愚行、シーリン殿!」

シーリン「……」

基地司令「貴女ほどの識者がお側におられながら、何故このような場所にマリナ皇女をお連れしたのです?!」

シーリン「あら、この情勢下、独自判断で離反する以上の愚行があるのかしら?」

基地司令「我々は国民感情を反映した行動を取ったまでのこと! 執務室に尻を据えた方々に前線の兵士の無念は分かりますまい!」

シーリン「では今此処にいる私達は何処の誰? これ以上口を開いて無能の証明をするのはあまりお勧めしないと言っておきましょうか」

基地司令「ぬう……」

シーリン「それと勘違いしないでほしいわね。私が彼女を連れてきたわけじゃない」

シーリン「彼女が自ら、ここに出向くと言い出したのよ。皇女としての権限の全てを以て、有無を言わさずね」

基地司令「は……??!」

シーリン「本当に……いざとなれば人が変わるんだから、あの子」


《マリナ皇女をお連れいたしました!》


マリナ「シーリン」

シーリン「マリナ皇女、準備は出来ております」

マリナ「ありがとう」

マリナ「ユニオン側の動向は?」

シーリン「ふふ、鬼電よ。コールもひっきりなし。そろそろ誤魔化してらんないわね」

マリナ「ありがとう、でも大丈夫よ」


マリナ「――この放送で、決めるから」


シーリン「っ……!」ゾクッ
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/20(木) 12:12:57.60 ID:A5JVqgSl0
ワタシマリナイスマイール
496 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/22(土) 07:06:00.81 ID:0HGKGvTP0
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 ・
 ・

『――皆さん、私はアザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイールです』

『現在、このザイール基地とその主張に賛同した他基地は、私自らが直接ザイール基地に赴き、指揮をしています』

『……その上で、今、私の背後にいる……いえ、この基地にいるすべての兵士には武装を許可し』

『【己の成すべきと思ったことを為せ】と命じてあります』

『今、不動のままに皆様の前に立つ彼らの姿が、この一連の騒動の結末です』

『異国の地より我らを支えに降り立った友人達よ。どうか、怯えないでください』

『彼らは自らの責務を真っ当すべく、在るべき場所へ戻りつつあります。危機は過ぎました』

――――

イケダ「本当かよ……!」

絹江「でも本当に武力で抑え込んでいない……つまり基地司令は指揮権を彼女に預けた? じゃあそもそもこの騒ぎは……」

絹江「……………………あ」

絹江「あぁぁぁぁ!! そっか、そうなんだ!!」

絹江「彼女からの離反じゃないから! だから最初から、そうなんだ!!」

イケダ「おぉ?!」


絹江「彼女は軍部を止めに来たんじゃない、守りに来たんだわ!」

絹江「【ガンダム】の襲撃を止めさせるために来た! 自ら囮になった彼らの、盾になりに!」


イケダ「……はぁ?!」


――――

『一連の騒動、立て続けの混乱、この責は偏に第一皇女たる私にあります』

『その上で、どうか皆さんに謝罪の前に一つ、宣誓させてください』

『この身、この生命。その全てを、アザディスタン王国の繁栄と安寧のために尽くすと玉座で誓ったこと』

『その想いに偽りのないこと、今皆さんの前で改めて、宣言いたします』

――――

基地司令「……本当に、何故ですか、シーリン殿」

シーリン「彼女はあなた達の蜂起の意図を考えていた。そして、結論を出した」

シーリン「アンフではユニオンと対峙して戦えるはずもない」

シーリン「そもそもあなたと派遣した将校は改革派。今ここでマリナ皇女から離反し蜂起する意味さえ薄い」

シーリン「だがあなた達が動けば、必ず動かざるを得ない者たちがいる」

シーリン「ソレスタルビーイング……そう、【ガンダム】」


シーリン「あなた達は自分たちを餌に、おびき寄せたガンダムをユニオン軍に鹵獲させ、その行為の見返りにアンテナ施設の再建をユニオンの主導で実行させようと画策した」

シーリン「皇女は全てお見通しよ。そして、憤慨したわ」

シーリン「それがこの結果。甘く見たわね、マリナ・イスマイールという女性の底力を」

基地司令「……暗殺未遂で、怯えてらっしゃると思ったのですが。流石はマリナ様、と言うべきか」

シーリン「馬鹿な人達。予め向こうに話を通さなければ、こんなことは言いくるめられた上で逃げられるに決まっているというのに」

シーリン「タリビアの真似事がしたいなら軍人を辞めて政治家を目指すべきだったわね。彼女に感謝なさい」


シーリン「あの子は今、あなた達を護るために、世界最強の武力の前に立っているのよ」


497 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/22(土) 07:17:49.67 ID:0HGKGvTP0
 ――――

『今、我が国は混迷を極めております』

『ラサーのお身柄は依然として捜索の渦中、そして国連支援の太陽光発電受信アンテナも、心なきテロによって破壊されました』

『そして今また、我が国を護る愛すべき兵士たちの必死の叫びの頭上に、無責任な鉄槌を振り下ろさんとする者たちが近づいております』

『――私は、逃げません』

『彼らの行いを裁くのも、彼らの想いを受け止めるのも、我々アザディスタンの民の責務』

『あなた方、招かれざる民の一存にあるものではありません』

『彼らの叫びを、言葉を無視し、暴力を唯一つの法として振るうというのなら、構いません』

『今ここに向かう悪鬼よ、私ごと彼らを撃ち抜くがいい!』

――――

ロックオン「はっは……言いやがった!!」

『対立、糾弾、挑発、静観……ソレスタルビーイングの国家の対応は多種多様ではありましたが』


『ふふ、【自分自身を盾にしてからの挑発】というのはまた、初めてのことですわね』


ロックオン「聞くまでもねえだろうけど、どうする? MSだけ狙い撃つか?」


『スメラギさんからは作戦中止と以降の活動に関する指令がつい先程届きましたわ』


ロックオン「流石ミス・スメラギ、動きにそつがない。そりゃそうか、クーデターは国家元首が自分から【解決】しちまったんだからな」

ロックオン「悪鬼羅刹の武力介入組織は、喜んで尻尾を巻いて逃げてやるさ」

『し、しかし……テロリスト側に狙われる可能性は……』


ロックオン「いや、無いね」

ロックオン「テロリストどもは彼女を撃てないんだ。残念なことに」


――――

サーシェス「ッッッ……ションベン臭えクソ皇女が!! やってくれやがる!!」

「緊急連絡で市内の奴等を動かしますか……!?」

サーシェス「馬鹿野郎!! 今のうのうとしてられんのは、徹底して連絡を取らねえで引きこもってたからだろうが!」

サーシェス「最後の詰めで尻尾出すバカが何処に居るってんだ! ボケが!」

「ぐ……!」

サーシェス「第一、もう改革派の詰まった基地内に入り込まれた時点でこっちの手駒じゃ何も出来ねえ……ッ」

サーシェス(あのアマ、何が悪鬼だ!)


サーシェス(これでソレスタルなんたらもユニオンも手が空いちまう! こっちに来るかも知れねえってこった!)


サーシェス「チッ……おい! 作戦時間を繰り上げるぞ、ジジイ連れてこい」

サーシェス「今すぐ移動するぞ! あの皇女に前に、ボロ雑巾みてえにしたラサーのザマを見せつけてやらあ……!!」
498 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/12/26(水) 05:20:59.79 ID:pmfavN+G0

――――

『議会の日程は滞りなく、議員とそれに参画する有識者全ての能力を以て解決を目指すことを期待します』

『我らに必要なのは反目と停滞ではなく、融和と解決の道筋であるはずです』

『私は今しばらく此処に残り、兵士たちの声を聞き、成すべきことを為します』

『アザディスタン王国の下に集う全ての民が、神の教えとともに、かつての平穏を取り戻さんことを』

『そして――皆様、神の祝福のあらんことを』



 アザディスタンをほんの一瞬だけ騒がせた、夏の夕立にも似たこの事件。

 皮肉なことに、この気まぐれな風を最も活かし飛ぶことに成功したのは、他でもない。

 唯一、何も出来ず、何も成せぬまま敗北しようとしていた、一人の男の回り。

 反撃を誓った空の男達であった。



「見つけましたァッ!!北東7エリアの端ッ!!光学探知、映像出します!!」

「ッシャオラァッ!! ユニオンのエアロフラッグ偵察部隊なめんな!!」

『っ、目標ロスト……!』

「おぉい?!」
 
『此方モンターク1、粒子異常の反応で追跡しますか?』

「司令」

「……この映像は……盾付きだな」

「狙撃の恐れがあるが、プロフェッサー曰く移動中及び電波妨害が広域の場合威力と精度が下がっているらしい」

『……本当でしょうか?』

「メイン動力炉の粒子を集めて圧縮でどうのとか仮説らしいか……俺が言ったことじゃない、だが博士が言ってるんだから確かなんだろ」

「距離を保ちつつ粒子妨害濃度を囲むように追え。国外に出ることはあるまい、警戒は厳に」

『了解。殉職の際は保険金にイロを付けといてほしいものですな』

「馬鹿言え、このぼやけ写真一枚でボーナス検討ものだ。勝手に天国に逃げるな、仕事しろ」



――――


ビリー「本部から伝達」

ビリー「確認できたガンダムはザイールに近い北東エリア、盾付きだったらしいね」

ビリー「現在ロストしたものの、粒子の妨害範囲から広域散布?でいいんですかね、その状態で離れているらしいです」


ビリー「ご懸念が当たりましたね、プロフェッサー」


『えらいこっちゃ……最悪じゃ……!』

グラハム「【この時点でもう一機のガンダムが広域の索敵範囲にいない】……ソレスタルビーイングがこのような展開の愚を犯すわけがない」

グラハム「撤退開始がずれた可能性もない、北東エリアの反対側は最初から我らの索敵範囲だ」

グラハム「つまり……!」

『奴らめ、既にラサーの居場所を掴んでおる可能性が高い!』

ダリル「既に一手出遅れた……ってことですか……?!」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/26(水) 12:06:04.34 ID:aYR6RqF90
焼野原ひろしでもこれはさすがにきついな
500 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/01/19(土) 05:20:48.77 ID:YYJ0S/Rr0
ハワード「では、どのように次の一手を?」

グラハム「決まっている。今すぐにでも打って出るぞ」

ダリル「候補は三ヶ所ですが……選択基準は?」

グラハム「無論、勘だ」

ハワード「それしか、無いですか……」

ビリー「ナンセンスだねえ、ここに来て運を天に任せるか」

『済まんな。儂がもっと吟味しきれていれば良かったのじゃが』

グラハム「滅相もありません。軍の諜報部ですらここまで絞れはしなかった」

グラハム「むしろプロフェッサーの頭脳なくして、この極限での三択には辿り着けなかったと言うべきです。感謝の言葉もありません」

『しかし……可能性の話とは言え、この戦局で早くも敵の本拠地を突き止めるとは』

『ソレスタル・ビーイングの参謀はよほどの戦巧者と見える、悔しいが、感服せざるを得んよ』

ビリー「……それで? どうするんだい、グラハム」

ビリー「勘はいいけど、違ったときは僕らは赤っ恥だ」

ビリー「何もないところを漁って、ラサーはソレスタル・ビーイングに救出され、リベンジも果たせず」

ビリー「ガンダムを追うことも無いまま、この国を去ることになるだろう」


グラハム「……」


ビリー「だけど、今、発見されたガンダムを追うという手もある」

ビリー「むしろソッチのほうが僕らの面目は果たされる。そうじゃないかい?だって」

ビリー「僕らは【対ガンダム調査隊】なんだから。ガンダムを追うのが仕事……違うかい?」


グラハム「……カタギリ……」
501 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/01(金) 05:11:03.51 ID:QMqsHHzL0

グラハム「……ふっ」

ビリー「!」

グラハム「ハワード、ドックへ早馬を。私のフラッグのエンジンを暖めておいてくれ(無論、比喩である)」

ハワード「はっ!」

グラハム「ダリル、ハワードと共に盾付きを追えるか。万が一に際しお前たちとチームだけは【証明】が要るはずだ」

ダリル「隊長お一人で、賭けに出ると……?!」

グラハム「カタギリの言う通りだ。我々の任務はガンダムの鹵獲と対処にある」

グラハム「まだ尻尾が見えた方に戦力を回すほうが、言い訳も利くということだ」

ダリル「……了解致しました、準備でき次第、すぐに出撃いたします」

グラハム「武運を祈る、フラッグファイター」

ダリル「隊長こそ、お気をつけて」




ビリー「っ……」

グラハム「分かっている、カタギリ。我らの存在意義を、我らが否定しては元も子もない」

グラハム「だが、まだフォールドには早すぎる。この国にとっても、我らにとっても、な」

グラハム「――足掻かせてもらうさ。せめて私だけでも、来訪者としての職務を全うさせてもらうとしよう」

ビリー「……そういうと思ってたよ、君ならね」

グラハム「諫言、痛み入る。辛い役目を負わせた」

ビリー「いや、分かりきったことを言ったまでだよ。後は任せたよ、僕らの切り札(ワイルドカード)」

グラハム「任せろ盟友。奴らに釣り上げすぎた賭金のツケを払わせてやる」


ビリー「……で?何処にするんだい、三ヶ所の方は?」

グラハム「……コインでは駄目だな。ダイスにするか?」

ビリー「弱ったね、僕はこう言ったものに縁がないんだよ。カジノヴァージンなんだ」

グラハム「私もだ、これ以上人生にギャンブルを追加する余裕など無い」

ビリー「君は日常的に命をベットする悪癖があるからねえ、いい心がけだよ」

グラハム「お褒めいただき光栄だ、さて……」


PPPP

グラハム「む」


PPPP


ビリー「……僕じゃない」

グラハム「……私だ」

ビリー「誰だい?」

グラハム「当ててみろ。お前もよく知る人物だ」


PPPP

ビリー「あぁ、どうしよう……すごく嫌な予感がしてきた」

グラハム「そうか?私はむしろ天啓と受け取った」

ビリー「……本気かい? グラハム」

グラハム「あいにくジョークのセンスは皆無でね。後は……」

グラハム「彼女に、幸運の女神の資格があるかどうかだ」

PPPP PPPP
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 10:16:01.72 ID:hZG+Mjvho
うんこ
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 01:13:28.89 ID:kd5IV7+Ao

続きを楽しみにしてます
504 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/20(水) 07:25:16.77 ID:kJUFb3Mv0


――――

サーシェス「そうだよなあ……【お前】なら、此処が何処か分かってもおかしくはねえなあ!!」

サーシェス「えぇ?! そうだろ、クルジスのガキィ!!」


 蒼白のリニア弾が、滅びた村の上空を鋭角に打ち上がっていった。

 それが狙いを捉えることはなかったものの、勢いを殺された獲物は蛇行落下と共に距離を詰め、改めてイナクトと対峙した。

 ガンダムエクシア。

 右腕の刃を展開し、かつての因縁に切っ先を向ける。

 サーシェスは鼻で笑い、強化アンテナによる部下たちへの特殊無線を開いた。


サーシェス「ポイント8、今は待て。何とか誘導する、焦んじゃねえぞ」

サーシェス「それと回収班……プランC、分かってんな? ――やれ」


 冷たく言い放たれた言葉に、部下は笑みとともに銃器を構える仕草をして、モニターを切った。

 サーシェスの語ったプランC。

 それ即ち「ラサーの即時殺害」を意味するものであった。


サーシェス(こんだけ荒らして派閥の対立も煽ったんだ、このままラサーが帰らぬ人となれば結果としてアザディスタンの改善はほぼ不可能)

サーシェス(改革派にまでクーデターまがいを始めるやつも居るんだ、まあ潮時だろ)

サーシェス(決めていた【使い方】が出来ねえのは心残りだが……十分だ、後はユニオンごと泥沼に沈んでもらうぜ、ソレスタルなんたら!)


 この男はギリギリまで勝算を見極めていた。

 ユニオンに対する国軍の不信。

 証拠映像に対する芳しくない反応(これはイナクトがフラッグに似ているせいで勘違いされたんだろうと彼は思っている)。

 好転する要素は多かったが、やはり王女の実力行使が何よりも痛手であった。

 ユニオンがもし小利口に事態を収拾しようとしてきたなら、サーシェスの部隊は双方からの挟撃を受けることになる。

 それだけはまずい。彼であっても、大国相手のまともな交戦は避けるべきことであった。

サーシェス「つうわけだ、案件のバッティングになっちまうが……」

刹那「ガンダムエクシア、対象をアザディスタンにおける紛争幇助対象と断定」


サーシェス「その機体、俺に寄越せよ! ガキィ!!」

刹那「武力介入に移行、目標を――駆逐する!」


 黒と白、二振りの暴力が交差する。

 直後、火柱が上がった。

 乾いた風を巻き上げ踊る、真っ赤な爆炎。


 驚いたのは、サーシェス。

 そして、すぐに気づいた。


 やられた、と。
505 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/20(水) 07:59:01.46 ID:kJUFb3Mv0




――――

「」

「フェーズ1はクリア、フェーズ2に移行……頼むぜ、刹那」

ラサー「ぐっ、う……!」

「とりあえず当たってはいないか……案の定殺す気満々だな、うちのボスの予測は怖いくらい当たる」

ラサー「ユニオンの者、ではないな……まさか……?」


ラッセ「ソレスタル・ビーイングです。御身の奪還のため、参上致しました」

ラッセ「失礼、抱えます。しばしのご辛抱を!」

ラサー「おぉっ……!!」



――――


――トレミー――


アレルヤ「ティエリア、まだ拗ねているのかい?」

ティエリア「言葉遣いに気をつけてもらいたい、まるで俺がへそを曲げていると言いたいように聞こえる」

アレルヤ「ご、ごめん……」

フェルト「違うの……?」ヒソ

クリス「フェルト、シッ!」


ティエリア「……確かに、今回の作戦で最もスメラギ・李・ノリエガが懸念していた【対象の奪還拒否の殺害】は、ガンダムでは難しい」

ティエリア「まして我々マイスターが降りて作戦行動するなど論外だ、それは分かる」

ティエリア「だがわざわざラッセ・アイオンを地球に、しかも早期の段階で準備させている。その思慮に懸念があると言いたいだけだ」


リヒティ「……つまり?」

クリス「最初から失敗とか事態の悪化を前提に次善策を用意するのが負けてるみたいで嫌ってことじゃないの……?」

ティエリア「…………」ジロッ

リヒティ「ヒェッ……」

クリス「ひーん! どうしろってのよう」


アレルヤ「ロックオンは現在ユニオン部隊に対し陽動作戦を展開している」

アレルヤ「粒子撹乱用のいろんな装備を手当たり次第試しているみたいだけど、危険なのには変わりない」

アレルヤ「王留美たちエージェントをロックオンのサポートから外さないことを考えると、信頼できる実力者を直接派遣するのが一番だと言うスメラギさんのプランには賛成だけど」

アレルヤ「確かに、そこまでしなくてはいけない相手であるというのは興味深いね……僕たち、何だかんだ圧倒する側だったから」

ティエリア「ユニオン側が余計な動きをしたのも想定外だった。どうせ解決もできない愚鈍な軍隊、じっとしていてくれればよかったものを」

アレルヤ「スメラギさんはまだ懸念がある様子だけれどね……【自分が20まで絞れたなら、あの人は3まで絞ってくる】だったかな」

ティエリア「……どうあれ賽は投げられた。ソレスタル・ビーイングとして相応しい結末を望む」


――――
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 16:43:14.21 ID:34tvxU/fo
お、きてる
507 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/22(金) 05:03:34.35 ID:PWWOhK+A0

 GNソードが深蒼の装甲めがけ閃き、唸る。

 先の爆発から明らかに動きの精彩を欠いたイナクト。

 それでも絶妙な距離を保ちつつ、右へ左へと回避運動を取っていた。


刹那(――やはり、読まれている)

刹那(速度を乗せるため振る必要があるGNソードでは、捉えきれないか)


 百も承知だ。

 あの男から戦い方を学んだ。

 誰かを殺す術は、目の前の男が叩き込んだものだ。

 予測、推測の材料には困ることはあるまい。

 かといってここまで完璧に躱されるのは、流石に超越が過ぎるとは思うが。


 そのための備えは準備してきた。

 ガンダムエクシア・セブンソード。

 今日こそ決着をつける、この男を、過ち(じぶん)の生まれたこの場所で討ち取って。


ラッセ『刹那! 目標地点に到達した、機を見て回収を頼む!』


刹那「! 了解、警戒を怠らないでくれ」


ラッセ『連中、数は少ないが予測どおりガチで来てる。急いでくれ』


 直後の、ラッセの言葉。

 余裕が無いので一言で切り上げたが、やはり頼もしい。

 予定より75カウントも早く、即席で構えたポイントで防戦体勢を取っている。

 再度燃え上がる爆炎。廃屋が残骸に生まれ変わる。

 使い捨てのロケットランチャーのものだが、派手にやるものだ。

 オートマトン用のハッキング機も効いているのか、ところどころで銃撃戦が始まる。

 ……当然、イナクトの動きも怪しくなる。

 ラッセの言う通り、もはやラサーを生かしたままにする気はないらしい。

 させるかよ。

 踏み込んだ勢いのまま、ソードを盾代わりに迂回するように機体を捻った。


サーシェス「がっ……!?」

刹那「お前の相手は……俺だ!」

508 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/22(金) 05:19:52.01 ID:PWWOhK+A0

 進行方向を予測し、遮りつつ、ぶつかる。

 直撃こそしなかったが、掠めてよろけた機体が大きく浮き上がって立て直していく。

 こちらもソードを収めつつ、遠心力を生かして機体を持ち直させた。

 展開、右腰部ホルダー。

 構えるはGNブレイド、切断力特化の対MS兵装。

 これならば、捉えてみせる。

 睨み合いもそこそこに、機体を傾ける。

 GN粒子を用いた高速飛翔接近。

 先ほどよりも遥かに細かく、内から踏み込んだ一閃。

 確かに反応が遅れた。離脱を間に合わせはしない。

 高く響くような音とともに、横合いから切りつけられへし折れるブレイドライフル。

 爆煙でカメラアイの尾を引く光がすれ違う。


サーシェス「バカなッ……!」

刹那「まだまだッ!!」



 続け、今しかない。

 引き戻しと振り返りを重ねて、追いすがる一撃。

 受け止められる。速度を下げての、振りの前に腕を抑えられて。

 追い詰めてやる。胴部を殴りつけ離しつつ、拘束を解かせた。


サーシェス「俺が……ッ?!」

刹那「おおおおおぉぉぉッ!!!」



 三度、袈裟、薙ぎ、突きを繰り出す。

 ソニックナイフを抜かせる隙さえ与えるものか。

 詰まる距離。大きな広場で、相手の機体が体勢を建て直さんと前傾に揺れた。

 ――ここだ。今しかない。

 地面を蹴り上げ、バーニアと重ねた、急速突進。

 ブレイドの切っ先を真っ直ぐに向け、勝負に出る。

 
刹那「ここで、仕留める!!」

サーシェス「負け、る……!?」



サーシェス「……なぁんてなぁッ!! ポイント8、ヤれ!!!」
 
509 :オリジナルMAドスエ ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/22(金) 06:11:15.65 ID:PWWOhK+A0

 ―― 一瞬のことだった。

 まず、機体が沈んだ。

 蹴り上げんとした地面が、一瞬で抜け落ちたからだ。

 そして、機体は更に垂直に跳ね上がった。

 突き上げられた、巨大で威圧的な、褐色の影に。


刹那「ぐ、ぁ……!!」


 それが何なのかはしばらく分からなかった。

 砂煙が晴れつつある中で、ようやく全容を見せたそれ。

 信じ難かった。まさか、こんなものまであるとは、と。


『ハッハァ!! どうだよ、ティエレン捕縛用のフロント・ジョーの威力は!!』


 ――アグリッサ。こいつは、タイプ10か。

 接触回線のがなるような声の通り、機体前面に四対からなる【顎】を取り付けた、特別仕様。

 六本の足が広がり接地し、通常の倍以上の長さの捕縛アームが下部から伸びる。

 左腕ごと胴体に食いつかれたエクシアは身動きが取れない。

 右手のブレイドを振るう前に、右腕が払われ、弾き飛ばされた挙げ句拘束された。


刹那(しまった……!!)


サーシェス「あー、あー、聞こえるかあ? クルジスのガ・キ(はぁと」

刹那「ッ……」

『ボス、コイツを』

サーシェス「おう」

サーシェス「――あぁ、やるじゃあねえか。前もってこいつを運び込むのは賭けだったが……もし何もなきゃ俺は今頃バラされてたぜ」

サーシェス「お前の上司はかなり際どく俺の動きを読んでたようだが……忘れたか?」

サーシェス「お前の動きを一番知ってんのが俺だ。謀らせてもらったぜ、ソレスタルなんたら」


 ブレイドライフルの換えをアグリッサ上部のヘリオンに投げ渡されるイナクト。

 アグリッサは掘られた地面に隠された上で、奴の指令まで黙っていたということか。

 最初から仕組まれていた? いや。そうではない。

 この男の性質を忘れていた。

 【少ない勝算に賭ける】ことはしなくとも、【変えうる勝算は最大限に拡充する】のがこの男。

 この男は、この期に及んで出来ると確信してきたのだ。国とガンダム、総取りを狙えると。

 それが、アリー・アル・サーシェス。この国をかつて凋落させ、今再び毒牙を向く男だ。


サーシェス「さて、気になるのは俺が全く読めてねえ方の……あっちだ」

サーシェス「俺はジジイとザコを消す。壊せるところ全部ぶち壊せ、胴体さえ残ってりゃそれでいい」

『アイアイサーッ!!』

サーシェス「じゃあな、ガキ」

サーシェス「この国の滅びってやつを、その特等席で堪能してくれや! ギャハハハハッ!!」

刹那「させ……るかッ!!」
510 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/22(金) 06:20:31.99 ID:PWWOhK+A0

 まだだ。

 まだ、終わっていない。

 俺はガンダムにならなくてはならない。

 今度こそ、止めなくてはならない。

 機体のシステムのロックを解除。

 虎の子を見せることになる、だが、やるしか無い。

 ソレスタル・ビーイングに、敗北は許されない。


ラッセ『刹那、大丈夫か?!』

刹那「ラッセ、伏せていろ!!」


 スラスター展開、粒子効率最大。

 決めるしか無い。奴が動く前に、どちらか腕を失ったとしても。

 エクシアの全身が淡くライトグリーンに照らされる。

 アグリッサの狼狽がはっきり見えた。

 やるしか、ない!



サーシェス「……あ?」

『え?』


刹那「……何?」




 ――その時だった。

 それは、いつの間にか接近し、いつの間にか、センサーにけたたましく存在感を示していた。

 漆黒の機影。

 投げ出されるように展開する、細いEカーボンの四肢。

 流星の如き速度で、直角に下降してくる、そのシルエット。

 
 それは、見紛うハズもない……


グラハム「人呼んで――グラハム・スペシャル&リバースッ!!!」


……最悪の敵の、御姿そのままであった。
511 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/02/22(金) 06:39:00.40 ID:PWWOhK+A0
【注釈】
一期作中のアグリッサは【13】
外伝P登場の軌道エレベーター防衛用先行量産型は【7】
どちらも【プラズマフィールド】に関しては標準装備。
よってこの【タイプ10】も装備しているが、フロント・ジョーによる捕縛では有効範囲外であまり意味を持たない。
上部のヘリオンはサーシェスのイナクト以前の搭乗機という設定。
戦力差十倍を跳ね除けたこともある愛機だったが、イナクトのあるサーシェスにとってはもはや不要の存在で部下へお下がりとなった。
思い入れも何も全く無い。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 12:12:52.03 ID:dnaq8mFa0
待ちわびたぞ!グラハム!!
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/27(水) 09:27:48.71 ID:QPH1Yt0j0
うおお乙
仮面の忍者紅龍さんじゃなくラッセさん使ったのね
514 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/03/18(月) 03:46:14.39 ID:NnTrsy5s0



――少し、時間は遡る――


絹江「――ここよ、間違いない」

グラハム「敢えて聞こう。根拠は」

絹江「ジャーナリストとしての勘よ」

グラハム「よし。フラッグを出す、出撃だ!」


ビリー「ちょっ、ちょっと待ったグラハムッッ!!!」


 電話から呼ばれて五分、到着と同時に問われ、一瞬。

 グラハムと絹江の邂逅は、その場に居合わせた人物総ての予想を裏切り、すれ違いにも等しい時間で行われた。

 ポイントF3987。

 軍用の共通コードで呼ばれたそこは、旧クルジス領の廃墟が立ち並ぶ地域。

 レイフ・エイフマンが三つに絞った潜伏地域の一つであり、彼女が今、見せられた瞬間指し示した場所であった。


グラハム「……」

ビリー「良いんだね? 君の性格だ、もし違ったとして彼女に責任は問わないだろうけど……」

グラハム「いるさ、必ず。ガンダムも、あのイナクトもな」

ビリー「あぁもう……! なんでそう言えるんだい? 彼女の勘に全額賭ける理由は!?」

グラハム「彼女は言った。ジャーナリストの勘、と」

グラハム「彼女は憶測や天運に任せてジャーナリズムを語りはしない。つまりこの勘とは、ダイスの目の話ではないということだ」

ビリー「……なるほど……?」

グラハム「そして彼女は日本人女性だ」

ビリー「……つまり……?」

グラハム「奥ゆかしい、という意味さ」

ビリー「のろけかい?」

グラハム「時間的猶予に配慮し結論のみを告げたのだよ。機体の準備は!」

整備士「万全です、ご武運を!」

グラハム「重畳! ……では、行ってくる」

ビリー「はは……OK、蹴散らしてこい、グラハム!」


 
515 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/03/18(月) 04:41:24.70 ID:NnTrsy5s0
 盟友はお互いの拳を突き合わせ、エースはコクピットの中へと滑り込む。

 一瞬、ざわつくような寒気を背筋に覚えた。

 彼はそれをよく知っている。

 死の感覚だ。

 だが、不思議と恐れはなかった。

 ほんの数時間前、剥ぎ取られた虚構の誇りの代わりに。

 ただ一人の女の願いと、ただ一人の友の激励が、篝火となって燃え盛るのを感じていたからだ。


「グラハム・エーカー、カスタムフラッグ! 出撃する!!」



 急かすような発進が、やや強引に彼を大地から引き離した。

 もはや迷うまい。

 あの細く嫋やかな指の指し示した場所へ、今は一刻も早く……!
 


 ・
 ・
 ・
 ・


 そして、着いた。見た。

 深蒼の機影に、青白の装甲。

 彼女の名誉と自身の雪辱の機会、二つが同時に守られたことに、彼はただ小さく息を吐く。

 そして蘇ってくる、痛烈な敗戦の記憶。

 怖気に怯む身体に、まずは鞭打ってやろうではないか。

 グラハムの顔に浮かぶ笑みは、己への嗜虐に危なく歪んで見えた。


「人呼んで……!」


 まずは牽制。

 連射される小口径弾頭で狙える目標総てに順次掃射。

 イナクト、回避運動、微小。防御ロッドを交え無傷。

 アグリッサ、初動は大きく回避し、以降は不動。牽制への過剰反応など、練度は高いが判断は甘い。

 ガンダム……捕縛状態。あれしきで止まる機体ではないが、対処には時間を要するであろう。

 三秒無い程度の思考を介し、ならばと変形、同時に構え。

 空気抵抗の乗った多大なGの中、一点を見据える。

 チャージ完了。最大火力。

 狙いは、イナクト。現状最大の脅威対象。
516 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/03/18(月) 04:44:32.58 ID:NnTrsy5s0

 ――発射よりわずかに速い回避運動。

 追随させる砲口、やや重く。

 それでもねじ込むように定めた砲身は、正確無比に目標へ追い縋った。

 放たれた一撃は確かに狙い通りに蒼を捉える。

 しかし、敵影は異常なほど上体を仰け反らせ、ほぼ地面と平行に跳躍飛翔。

 避けられた。

 砲弾が地面を砕き、砂煙を吹き上げる中、その有様を確認するまでもなくフラッグは更に巡航形態へと再度の変形。

 一気に加速し上昇旋回しつつ距離を取った後、内蔵された高感度センサーによって地表を探知した。


グラハム(ガンダムの交戦以前に、爆風が離れた場所で確認できた)

グラハム(恐らく別動部隊による奪還作戦、それも使用された火力から推測して既に成功していると判断できる)

グラハム(ならばラサーは敵の手を離れている。今私が請け負うべきは、最大の脅威の排除!)


グラハム「ガンダムを前に口惜しさもある……だが、私も人の子だ!」

サーシェス「ガンダムのお次はキチガイフラッグかよ……まるでテーマパークだなァ、おい?」



グラハム「まずは、お礼参りと行こうか! イナクトのパイロット!!」


サーシェス「ハハハハハハッ!! アガってきたぜ、えぇ?! そうだろ! てめえもッッ!!」


グラハム「応ッッ!!」
 
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/18(月) 12:07:59.83 ID:fg2rVOXM0
本編で見たくても見られなかったロマン
518 :あげゃげゃアブルホール ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/04/17(水) 06:05:37.75 ID:gygvsMB/0

 グラハムは己を叩くように声を上げた。

 後方確認モニタに映る臨戦態勢のイナクト。

 明らかに漲っている闘志の有り様に、奮い立つ必要があった。

 機体を大きく迂回させる。

 加速の乗ったコクピットが重圧に支配される。

 その軋む感覚に、逆に冷静になっていく自分が、彼は少しおかしかった。

 ――無線は【戦闘状況が確認できた瞬間に封鎖されていた】。

 あそこまであの蒼のガンダムの粒子が届いていたとは思い難いが、今は目の前の事態が全て。


グラハム(想定外、予想外、大いに結構)

グラハム(罠なら全てねじ伏せて魅せよう!)


 仕掛けるならば、やはりあの技しかあるまい、と。

 迎撃の蒼弾飛び交う中へ、彼は一気に機首を沈めた。


サーシェス「馬鹿の一つ覚えが!!」

グラハム「それはどうかな……!」


 狙い定めるブレイドライフルの銃口。

 迷いない構え。間違いなく空中変形の微細な変化を確実に貫いてくるだろう。

 想定の挙動変化程度では確実に胴に風穴が空く、グラハムをして確信めいた予感があった。

 急降下のGに端正な顔が歪む。無論、それ以外の要素も込めて。


グラハム(なれば、その機体動作にさえ滲む嘲笑と自信、悉くを押し返す!)


グラハム「グラハム・スペシャル……!!」

サーシェス「ッ……?!」


 牽制の連射の後、機体が再び四肢を広げる。

 鈍化する感覚。時間は細分化され、脳が摂取を遅らせる。

 牽制など意にも介さぬくそ度胸、あまりに正確に動く砲口。

 あまりの堂々たる様、まともに動けば防御ロッドさえ抜いてくるであろう。

 だが、機体は突如沈み込むように傾き、機体はあらぬ角度で転げたように体勢を崩した。

 その動きに、サーシェスは虚を突かれた。

 正確な予測であったがこその、僅かな指の遅れ。その一瞬は隙を狙うには半歩を遅らせ……


グラハム「い・ま・だッッ!!」


サーシェス「チィッ!!」


 僅か、残り半歩を追いつき撃たれた砲弾は、回るように体勢を整えたフラッグの防御ロッドに弾かれ宙に散った。

 明確に詰まった距離。

 加速を損なうも前進を止めないグラハム機の右手には、鮮やかに迸るプラズマの刃。

 一直線に奔る砂煙。

 二つの機影は今や同時に一本の線となって廃村を両断した。
519 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/04/17(水) 06:59:10.20 ID:gygvsMB/0
――ジェットの姿勢制御噴射で吹き飛ぶ砂塵。

 二振りの光刃が二機の間を交錯し留めている。

 コクピットのサーシェス、とっさのエアバッグ展開で衝撃回避。

 置くように展開したプラズマソードで抑えつつ後ろに脚部と連動した噴射の後方跳躍で衝突のダメージを最小限に留めていた。

 まともに受けていればガンダムすら無事には済むまい質量攻撃。

 バッグを収納し顔を上げた男の顔。狂気的な笑みは、もはや獣と言って差し支えぬものに変わっていた。


サーシェス(馬鹿か、こいつ。今、確かに【墜落】してやがった)

サーシェス(止めてやがった、メインエンジンを! その隙を馬鹿みたいな推力で無理やり補って、無理やりこっちとの距離を縮めてきやがった!!)

サーシェス(馬鹿か、こいつ。手足の挙動だけで姿勢制御して再加速と安定を同時に……!)

サーシェス(ウルトラCか、何処で学ぶんだ、そんなもん! 一歩ミスれば落ちて死ぬだけの曲芸じゃねえか、あんなもん!)


サーシェス「クレイジーだぜ、何だ? 自殺志願か? 英雄願望かぁ?!」

サーシェス「あぁ、畜生! その気にさせてくれるじゃあねえか、ユニオンの飼い犬がよ!!」


グラハム「即興ながら、案外やってみるとうまく行くものだな……!」

グラハム「だが、好都合……この距離、逃がさ……!」

サーシェス「シィヤァッ!!」

グラハム「ッ!!」


 にらみ合いの埒を開けたのは、イナクト。

 右腕のブレイドライフルを掲げて、縦振り一直。

 フラッグは腕側にライフルを差し込むように受ける。

 しかし、直後、ゆらぎと衝撃。

 受け止めた瞬間にイナクトが浮いてわずかに下がり、機体を振って前膝蹴りを入れてきたのだ。


グラハム「ぐ、ぬ!」

サーシェス「そぉらあ!!」


 揺らぐ機体、空戦のGとは別種の震えに揺さぶられる身体。

 そのまま飛び上がるように二本の刃がフラッグに襲いかかる。

 踏み込みの急後退……間に合わない!

 グラハムは右半身に機体を傾け対応しソードをかち合わせる。


グラハム「ッが……!」


 だが、やはり衝撃は直後。

 振りは仕込みだった。受けた衝撃は軽く、イナクトは釘付けになったように空で止まり、回し蹴りを放つ。

 腕全体で受け止め、機体の損壊は免れたが、逆に衝撃は直に胴体に響く。

 火花散らす刃をそのまま内に押し込んで、肩をぶつけて距離と体勢崩しを仕掛ける。


グラハム「ッ!」

サーシェス「はっはぁ!!」


 やはり、また、軽い!

 スラスターを半秒切ったクッション動作、スムーズに着地したサーシェスが踏み込みと同時に機体を一気に噴射前進。

 速度の乗った状態で回転動作、右腕のブレイドライフルが、水平に遠心を乗せ、一文字を描いた!


サーシェス「ちょいさぁッッ!!」
520 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/04/17(水) 07:55:00.74 ID:gygvsMB/0
 再び、砂塵が滅びた町を彩った。

 重厚なEカーボンの一刀は漆黒を断ち切るに能わず。

 奔った機体の背後には、屈むように膝をつくフラッグ。

 サーシェスは確かに見ていた。

 体勢崩しに失敗したフラッグの機影が、大きく仰け反ってブレイドライフルの下をくぐり抜けたのを、だ。

 機体をアラート完全無視で投げ出し倒し、スラスターの角度と姿勢で半円を描いてすれ違い、全体をひねりつつ速度を緩め、着地。

 一瞬で数度の動作、泥臭くもおぞましい異常難度の重ね合わせ、超常ムーブであった。


サーシェス「ウルトラCかの次は猿マネかよ……芸達者は良いね。見てて飽きない」

グラハム(あ、危なかった。後退、交錯、突貫、迎撃、どの対処でも殺られていた……!)

グラハム(何という芸術的な機体制御、何という精緻なペダルムーブ……!)

グラハム(恐怖より感嘆が先走る! これが最高峰か……つくづくテロリストであることが不思議で仕方ない!)


 先程見ていた動きを分析したわけでもない、ぶっつけ本番の回避動作に全身の汗腺が絶叫する。

 明確な死の予感に、グラハムの表情は今や限界まで釣り上がっていた。

 ――奇しくも目の前の凶獣に等しき、死闘に愉悦する狂気の笑みに。

 楽しいのだろう。確かに、楽しいのだ。

 自分でも驚くほどのマニューバをお互いが繰り出し、繰り返す。

 寸前逡巡皆無のクロスレンジコンバット。

 自分より遥か高みにいる敵との戦闘。

 ガンダムと比肩しうる脅威との全力の闘争、面白くないわけがなく。

 だが、勝たねばならない。

 その理由を忘れ果てるまでのめり込むことだけは、この男自身の誇りが許しはしなかった。


サーシェス「!」

 
 先手はグラハム。

 リニアライフルを構えつつ、機体を前進させた。

 後手、サーシェス。

 動作を確認した瞬間、ほぼ同時に近く前進と照準。

 両者の意図は等しかった。

 【ガンダム】だ。

 あのアグリッサがどれほど優位に立っていようとも、フラッグ乱入後の状況で長く拘束できるはずはない(勝てる可能性など皆無だ)。

 そうなれば、逃げるにも戦うにも【目の前の相手にかまけてはいられない】という現実があった。

 最高峰のエース同士で共有していた認識、そしてそれは――


グラハム「ハァァッッ!!」

サーシェス「リャアアッッ!!」


 次の衝突をより苛烈にする燃料めいて、お互いの殺意に注がれていくのだ。
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 12:13:59.64 ID:Aw30VFBU0
やっぱりこいつらは戦闘の次元が違う
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 18:33:08.86 ID:wN48XnOw0

刹那が今んとこ良いとこなしなんでどう絡むかな
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/07(火) 19:30:35.09 ID:4g+x6B3Do
そろそろせっちゃんふっけしてくれー
524 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/06/17(月) 03:23:07.60 ID:1RTvl/Mn0
帰宅してから書こうと思ったらもうこんな時間……申し訳ない、休暇の火曜日に必ず
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/17(月) 12:03:27.73 ID:0BXu6Kfv0
まってる
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/17(月) 21:02:50.09 ID:WzfqSDmuO
楽しみ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/18(火) 11:29:32.62 ID:P8Gizdbjo
待たせてもらおう。私は我慢強い
528 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/06/19(水) 01:11:06.15 ID:E7LqbLSf0


――――

「ずぇりゃあああッッ!!」


 巨体が跳躍する。

 中空で翻ったそれは、大顎を下に真っ逆さまに重力に引かれていった。

 轟音。突風。吹き荒ぶはエメラルドグリーンの粒子光。

 合わせて数百トンものEカーボンの塊が、褐色の大地を強かに殴りつける。


ラッセ「ッおぉ……!!」

ラサー「っっ……!」


テロリスト「うぉっ?!」

テロリスト「滅茶苦茶やりやがる……ひひっ」


 震える大地に脅かされ、頼りない足場に手探りで支えを探す人々。

 それは所属、年齢、一切を問わない等しい脅威。

 安定を確認し次第、再び鉛玉の応酬が始まるのは、悲しき人のさがか。

 そして。


「何でだ……ッ」


「なんでぶっ壊れねえんだよぉッ!!」



――アグリッサのコクピット内。獲物に向かって、悲痛に叫ぶ大の男が一人。

 今まさに顎に咥えて離さぬガンダムめがけ、甲高い泣き言で狼狽を露わにしていた。

 アグリッサの昆虫めいたフロント・ジョーに食い止められたエクシアが、砂煙の中からシルエットを浮かび上がらせる。

 先程、機体もろともアグリッサの下敷きにされたばかりのボディ。

 象徴とも言えるV字アンテナ、白い双眸。

 白磁の肢体と形容して差し支えぬ蒼白の装甲、四肢。

 いずれも全て健在。

 この二分足らずの間、都合四度。打ち据えられた機体は、一切が無事のままであった。



刹那「……エクシア……まだ、行けるな……!!」
529 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/06/19(水) 01:38:10.57 ID:E7LqbLSf0


 MS、その区分の上にガンダムも成り立っている。

 その法則に従っている以上、如何な天上人の操機とて、絶対の弱点というものは存在するものだ。

 関節……カメラ……精密機器、これらは粒子の防護を受けられないか、以てしても砲弾の衝撃に耐えきれない場合があった。

 無論、その一点で言うならアグリッサの圧殺攻撃は全てが最悪。

 エクシアは胴体のみを残して無惨に散らばっていて然るべきである。


「ッッだらぁぁぁぁ!!」


刹那「ッ、またか!」


 五度目の跳躍。ジェット噴射と脚部の跳ね上げを活かした、高速の浮上行動。

 刹那はこれを知っていた。サーシェスがよく扱う、緊急浮上と即時高度確保のためのオリジナルの戦術操作だったからだ。

 そして機首が落ち、再び地面へ向けて降下を始める巨体。

 刹那はその瞬間、落ち行く感触の中で高速でコンソールを叩き……五度目の【それ】を再現してみせた。

 エクシアのスラスターに存在する展開機能を【半展開】させ、GNソードの慣性を最大限軽く設定。

 即席モーション操作で腕を縮め、跳ね上げる動作に連動し、スラスターからの放出粒子にペダルを三段階、わざと籠もるように。

 潰されないよう足もサブモニターから確認し安全圏に開いて逃し、食いつかれた左腕が干渉と摩擦で折れないよう、角度も最終微調整。

 クラビカルアンテナによる放出粒子への干渉、最大出力。

 五度目ともなればもはや精度は言うに及ばず。刹那は最後に見据える余裕さえ残し、モニターを睨んだ。



「あぁ……?!」


刹那「ッ……!!」



 その全てがほんの五秒足らずの間に行われた結果、爆発的加速を生むはずのスラスター粒子はクッションのような【圧縮粒子】を生成。

 更に重量変化をしつつ投げ出されたGNソードが地面を切りつつ衝撃を適度に逃し、柔術の受け身のような状態を生み。

 調整された脚もまた同様に、関節へのダメージも最小限に押さえ込み、当該の攻撃行動を的確に無力化、矮小化に成功していた。

 無論、こんなものはガンダムを使用する上で予めにレクチャーなどされない。

 完全な刹那・F・セイエイのアドリブ回避。

 敢えて言おう。神業である、と。
530 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2019/06/19(水) 02:10:12.80 ID:E7LqbLSf0


「畜生、畜生、畜生……!!」

「何かやってんのは間違いねえのに……何をされてんのか全く分からねえ……!!」


刹那「ラッセ、聞こえるか!」

ラッセ『!? 大丈夫か、刹那……!』

刹那「後にしろ! 付近のEセンサースキャンデータを端末に送る! ラサーを連れて予測退避ポイントを目指せ!」

ラッセ『お、お前……その状態でそんなことやってたのか!』

刹那「ラサーは!」

ラッセ『無事だ、マフ付けて隣りにいる。傷一つつけさせやしねえよ』

刹那「だが機動兵器の処理が終わらなければラサーは回収できない」

ラッセ『万事任せた! こっちは【置き土産】も仕込み終わったんでな……!』


刹那「分かった……頼らせてもらう」

ラッセ『おー、何よりの言葉だ! そんじゃ、ちと張り切っちまうかねえ……!』


刹那「……さて……!」


「だったら、機体がぶっ壊れるまで何度でも……!」

「……?!」


刹那「諦めろ、もうそいつは……跳べない」


 アグリッサの機体がエクシアを持ち上げて、立ち上がろうとする。

 しかし、機体の節々から散る火花がアラートに先駆けて異常を伝えた。

 五度の暴挙、一度目は完璧だったと刹那も驚いたものだが、健在のエクシアに動揺して、以降明らかに精彩を欠いたモーションを繰り返していた末路。

 アグリッサは重みに耐えきれず、機首を地に下ろしてしまった。

 
刹那(飛び上がる瞬間とスラスターの上昇ブーストを合わせなければ、関節に多大な負担がかかる危険な運用術)

刹那(仮にあの男が使っていたなら、二十回繰り出そうがこうはなるまいが、付け焼き刃などその程度の切れ味ということだ)

刹那(……あのフラッグ、まさかと思うがあの勢い……)

刹那(雑念、だな。今は集中を――!)
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 12:02:20.19 ID:PJYJAKhIO
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