八幡「神樹ヶ峰女学園?」

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429 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/25(火) 16:25:12.16 ID:Y6V0l6zS0
>>428の続き。
>>1は自分の髪がぼさぼさになるよりも、なでられる嬉しさを実感しているというところに雪乃のかわいらしさが出るかなと思ったんです。みなさんそんなゆきのんを想像して読んでください。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/25(火) 19:21:42.47 ID:jDRS2XNY0
乙です

久々に俺ガイルキャラ達の掛け合い見てると奉仕部の面々の掛け合いが楽しいわ
バトガのキャラ達は毒が少し足りなくて物足りなくなるんだよな…
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/25(火) 22:55:36.95 ID:q0k1esct0
水着回お願いします

432 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/27(木) 00:07:34.22 ID:KQfopEJA0
本編5-7


はいさーい!自分、比企谷八幡だぞ!

来た。来てしまった。これまで本州を出てこなかった俺が、ついにここ常夏の島沖縄に降り立ったのだ。しかも会社の金で。ま、本州どころか家から出るのすら珍しいんだけど。

望「うーん!ここが沖縄かー!あっついねー!」

ゆり「空港からすでに沖縄の雰囲気が漂っているな!」

くるみ「くんくん。南国の匂いがする」

俺と同じく天野、火向井、常磐も沖縄に着いたことで少しテンションが上がってるらしい。

花音「ほらみんな。電車に乗るわよ。こっちに来て」

詩穂「はーい」

対して煌上と国枝は勝手知った風に空港を歩いていく。なんなら教師役の俺より教師っぽい。

花音「何じろじろ見てるのよヘンタイ」

煌上が目を細めつつきつい言葉を浴びせてきた。

八幡「じろじろは見てねえっつうの。その、なんだ。お前ら2人はあっちの3人と違ってあんまりはしゃいでないなって思って」

詩穂「私たちはお仕事で沖縄にはたびたび来ていますからね。空港内の地図は頭に入ってるんです」

トップアイドルともなれば空港の中を覚えるくらい日本全国を飛び回らなきゃいけないのか。アイドルだけにはなりたくない。それ以前に絶対なれないけど。

花音「そういうこと。あと早くあんたはビデオカメラまわしなさいよ。到着したところも撮っておきたいから」

八幡「はいはい」

俺は羽田空港で渡されたビデオカメラのスイッチを入れる。途端に天野がカメラにピースしながら近付いてきた。

望「イェーイ!沖縄到着!」

花音「くるみとゆりも映りましょ。望だけに画を独占されるわけにはいかないわ」

ゆり「うう。でもこれがテレビに流れるかもしれないと考えるとやはり恥ずかしい……」

詩穂「そこまで深刻に考えなくても大丈夫よ。あくまでメインは私たちの舞台裏を特集する番組ですから、火向井さんが映るとしてもごくわずかな時間だと思うわ」

ゆり「そ、そうか?なら気楽に過ごせるな」

くるみ「でも撮るだけ撮ってテレビで流れないのももったいないですね」

花音「それも心配しないで。この修学旅行で撮った映像は後でみんなに思い出として配ろうと思ってるから」

望「なら余計にいっぱい映っとかなきゃ!みんなとの楽しい思い出いっぱい残したいもんね!」

楽しい思い出、ね。確かにこいつら5人は楽しい修学旅行を過ごせるだろうな。仲のいい5人で沖縄で気兼ねなく遊べるんだから。逆に俺は社員旅行の気分。なんならカメラマンをこなさなきゃいけないあたり、出張と呼んでもいいまである。

ゆり「あ。でもそしたらカメラを回している先生は映像に残らないんじゃないんですか?」

八幡「俺は別に映んなくていい。お前らが映っとけば十分だろ」

くるみ「それはダメだと思います。やっぱり全員で楽しまないと」

望「くるみの言う通り!ほら先生カメラ貸して!」

そう言って天野はカメラを強奪する。そして通行人に声をかけカメラを渡した。どうやらその人に撮ってもらおうという魂胆らしい。

望「さ。これでみんなで映れるね!」

八幡「ここまでしなくていいのに……」

花音「ま、少しくらいなら全員で映るのも悪くないかもね」

くるみ「せっかくだから旅の始まりっぽく、みんなで『沖縄修学旅行スタート』って言ってみたい」

詩穂「あっ、それいいわね。記念にもなりそう」

ゆり「よーし、じゃあみんな先生を中心にして集まろう!」

火向井の声掛けでなぜか俺を中心にして5人が左右から押してくる構図になった。痛い暑い苦しい。それに柔らかい感触といい匂いも混ざって頭がクラクラする。

詩穂「じゃあ花音ちゃん。合図お願い」

花音「わかったわ詩穂。いくわよみんな!せーのっ!」

『沖縄修学旅行スタート!』
433 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/27(木) 23:28:20.11 ID:KQfopEJA0
本編5-8


俺たちは空港からゆいレールなる沖縄唯一のモノレールに乗って最初の目的地、首里城に向かう。

電車に揺られること30分ほど、終点の首里駅に着いた。すでに視界には小高い山と、いくつもの首里城への行きかたを示す看板がある。

花音「さ。ここから山の反対側にある入り口まで歩くわよ」

八幡「へいへい」

俺たちは煌上を先頭に歩いていく。しおりによるとここは首里城公園と言って、沖縄の歴史も自然も堪能できる空間になってるらしい。

ゆり「す、すごいな!これが世界遺産の首里城か!」

詩穂「ま、まぁ正確に言えば世界遺産はこの中の一部だけですけどね」

望「公園と言うだけあって、この辺りは自然が豊かだね!」

確かに天野の言う通り、山の上に見える首里城を取り囲むように色々な植物が生えている。そしてこういう自然の多い場所では、必ずあいつがあれをしているはず。

くるみ「え、あの、えーと」

思った通り、常磐はある木に向かって何かしゃべっている。だが何かいつもと違って困惑している。

八幡「おい、どうした」

くるみ「あ、先生。今ここの木さんに話しかけてみたんですが、沖縄の方言を話されてしまって何を言ってるかわからないんです」

その土地によって植物も方言使うのかよ……。まぁ大木ともなれば人間よりも長生きするし、昔ながらの言葉を使うっていう理屈も通らないわけじゃないが、違和感がぬぐえない。そもそも植物が話すってことですら未だに信じられない。

八幡「いや、俺に言われても俺も方言分かんねぇし」

はいさーい!、なんくるないさー!くらいしか知らない。あとラフプレーが多いテニス部がいるんだっけ。俺の沖縄知識の偏りが激しい。

詩穂「この木はなんて言ってるんですか?」

俺たちが悩んでるところに国枝もやって来た。

くるみ「えーと、多分『でーじ、ちゅらかーぎー』と言ってると思う」

詩穂「そう。『にふぇーでーびる』」

国枝は聞いたことが無い言葉、おそらく方言を使って木に向かって話しかけた。男が方言を話してもキモいだけだが、方言を話す女の子ってそれだけで魅力が5割増しになる法則、あると思います。

くるみ「詩穂さん。木さんはなんて言ってたんですか?」

詩穂「『とても美人だね』って言ってたのよ。うふふ。お上手な木さんね」

八幡「てことはさっきの返事も方言か」

詩穂「はい。『ありがとう』と言ったんです」

八幡「つかなんでお前沖縄の方言知ってんの?」

詩穂「それは、秘密です」

国枝は口に人差し指を当てながら答える。くそ。なんだかんだこいつもけっこう言動あざといよな。

望「おーい。みんなー!そろそろ行くよー!」

遠くで天野が俺たちを呼んでいる。早く合流しないとまたグチグチ言われかねない。

声をかけるため俺が振り向くと、常磐と国枝が2人そろって花に向かってしゃがみながら話している。

詩穂「常磐さん、このお花はなんて言ってるの?」

くるみ「このお花さんは『はじみてぃ、やーさい』と言ってますね」

詩穂「それは『はじめまして』って意味ね。なら私たちは『よろしくお願いします』っていう意味の『ゆたしく、うにげーさびら』と返してみましょうか」

くるみ「わかりました」

詩穂、くるみ「『ゆたしく、うにげーさびら』」

2人が花に向かって方言を話す姿はとても絵になるんだが、これ以上ここにいるわけにもいかない。

八幡「2人とも。あっちで天野が呼んでる。行くぞ」

くるみ「わかりました。詩穂さん。沖縄の言葉教えてくれてありがとう」

詩穂「こちらこそ、沖縄の木や花と話すなんて初めてだったから楽しかったわ。ありがとう」

2人はそう言い合うと走って俺に追いついてきた。
434 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/27(木) 23:31:00.64 ID:KQfopEJA0
詩穂が沖縄の方言を知っているのは、中の人の下地さんが沖縄出身というのが理由です。実際に下地さんが方言を話せるかはわからないです。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/28(金) 16:33:00.36 ID:Te9fdHsno
乙です
436 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/30(日) 00:06:39.52 ID:QS4gFRIP0
本編5-9


6人「おぉー」

俺たちは公園を挟んで駅から反対側にある入り口から順路に沿ってえっちらおっちら歩いて、ようやく頂上の正殿付近までたどり着いた。

しかし、けっこう歩いたな。暑さも加わってかなり疲れた。

くるみ「壁も床も赤いですね」

ゆり「やっぱり赤はいいよなくるみ!」

八幡「これ建てるのにいくらかかったんだろうな」

ゆり「先生。もう少し真面目な感想を言ってください……」

俺のぼそっと言った感想に火向井が食いついてきた。なんでだよ。常磐のと同レベルの感想だったろ。

八幡「うるせ。てかここに来るまでにあった守礼門は二千円札にも描かれてるんだぞ。てことはここでお金の話をしても何ら問題はない。むしろ当たり前のことだ」

花音「沖縄に来てまで屁理屈を言うのはやめなさいよ。みっともない」

八幡「人間そうやすやすと変われねえんだよ。てか、そう簡単に変わってたまるか」

俺の反論に煌上は頭を振る。

花音「……はぁ。アンタと話してると頭痛くなってくるわ」

詩穂「大丈夫花音ちゃん?熱中症?水分補給はしてる?あとすぐ日陰に移動しましょう」

花音「だ、大丈夫よ詩穂。心配しないで」

望「あ。なら正殿の中に入ってみようよ!建物の中なら涼しいだろうし、いろんな展示もあるんだって!」

天野は待ってましたとばかりに大声で提案する。

ゆり「望は着付けがしたいだけなんじゃいのか?」

火向井は入り口でもらったパンフレットにある「正殿で琉球衣装着付け体験!」のページを天野に見せつける。

望「ばれたか……でもこんな経験めったにできないしやろうよ!」

くるみ「私たちでも着れるのは面白そうね」

詩穂「そうね。可愛い琉球衣装を着た花音ちゃん見てみたいし」

花音「ちょ、ちょっとやめてよ詩穂!」

誰も異論を出さない。ならさっさと中に移動したい。正直外の日差しがきついし、下も赤いから余計眩しく感じる。

八幡「んじゃ、行くか」

5人「はーい!」
437 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/30(日) 00:20:17.54 ID:QS4gFRIP0
本編5-10


正殿内部も豪華絢爛な部屋と装飾に溢れている。御差床っていう玉座が特にすごい。柱に金の竜が描かれた赤い小さな鳥居の奥にある一段高くなってるところに赤と金の椅子が置いてある。そしてその両脇には腰くらいの高さの金の竜の柱まで付いてる。

なんか沖縄の王様、赤と金と竜好きすぎない?中二病にでも罹ってたの?

というか。いつの間にか周りに誰もいなくなってるんですけど。俺がゆっくり見すぎてたから先行かれたのかな。ま、順路は1つだし、直に合流するだろ。

ゆり「あ!先生が来た!」

くるみ「ずいぶんゆっくり展示を見てたんですね」

ようやく合流できたようだ。あいつらろくに中見てないな。

八幡「あぁ。なかなか見られるもんじゃないしな。って……」

目の前にいる5人は目にも鮮やかな琉球衣装を着ている。アイドルやってる2人はともかく、他の3人ももとは悪くないから余計目立つ。さながら王国時代の女官と言った感じだ。いたかどうか知らないけど。

望「どうどう先生?アタシたちイケてるでしょ?」

八幡「っ、まぁ確かに不自然さは感じないな。衣装も綺麗だし」

ゆり「じゃあ先生も着替えてきてください!ここでは衣装を着た人に写真撮影をしてくれるサービスもあるんです!先生もこれを着てみんなで記念に写真撮りましょうよ!」

八幡「いや、別に俺は」

係員「それではどうぞこちらへ。今日は特別に琉球王国の王様の衣装をご用意しております!」

火向井の声を聞きつけすぐさま係員が試着室へ誘導してきた。ここまでされたら断れないだろうが。

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着替えを終えた俺は試着室を出てみんなのいるところへ向かう。

八幡「待たせた」

望「お、先生。って、ぷっ」

花音「ふふっ、笑ったらダメよ望。いくら絶望的に似合わないからって、ふふっ、笑ったら失礼よ」

天野と煌上は口とお腹を押さえているが、笑いを堪えきることはできていない。

八幡「お前ら2人とも失礼だからな」

ゆり「そうだぞ!先生は私たちのために恥を忍んで着てくれているんだ!感謝しないと!」

くるみ「ゆりの発言もフォローになってないと思うけど」

詩穂「でもこれでみんなで写真が撮れますね。さ、先生。そこの真ん中の椅子に座ってください」

八幡「え、いや、それは恥ずかしいと言うか」

望「今さら何を恥ずかしがるの!もうすでに、ぷぷぷ」

花音「ふふふ、望の言う通りよ。そんな恰好を見せられておなか痛くなる私たちの気持ちも考えなさいよ。ふふっ」

八幡「お前らマジで覚えとけよ」

仕方なく俺は用意されてある椅子に座った。そんな俺の両脇と後ろを5人が囲む。

くるみ「こうしてるとなんだか家族写真みたい」

ゆり「家族か。そしたら先生が夫で私がその妻に……いや、私は何を考えているのだ……」

詩穂「うふふ。私が結婚したら、先生に毎日手料理を食べてもらえるのかしら」

望「先生の奥さんか。色々大変そうだけど意外と楽しそうかも……」

花音「……あいつは普段頼りないから私がちゃんと引っ張ってあげないと」

くるみ「先生と家族。お花さんと先生と一緒に暮らす……なんだか胸がポカポカする」

5人とも何言ってるんだ。全員小声でつぶやかれると怖いんだけど。

八幡「……お前ら。ブツブツ言ってないで前見ろ。係員の人困ってるぞ」

5人「あ」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 15:22:34.51 ID:BjgVYN170
観光が普通に面白い
439 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/31(月) 19:01:36.16 ID:aPwtFzI90
本編5-11


首里城周辺を堪能した俺たちは荷物を置くためホテルの前にやって来た。が、

八幡「なぁ、本当にここで合ってるのか?」

花音「えぇ。地図を見ても『ホテルメイプル』って名前からも、ここで間違いないわ。一応……」

望「でもさあ、流石にアタシたちには場違いなホテルじゃない?」

ゆり「一介の高校生が泊っていいホテルではないのは確かだな」

くるみ「もしホテル取れてなかったら私たち野宿?」

こうして俺たちはホテルの中に入ることができていない。理由は簡単だ。ホテルが明らかに高級すぎるのだ。少なくとも修学旅行に使うようなとこではない。大金持ちがバカンスで泊まるような感じ。

詩穂「メイプル、メイプル、あ」

ホテル名を呟いていた国枝が何かに気づいたようだ。

望「どうしたの詩穂?」

詩穂「うふふ。そういうことね」

ゆり「な、何がだ?」

詩穂「先生、みなさん。このホテルで間違いないですよ。さ、行きましょう」

国枝はそう言うとテクテク歩いていってしまった。

花音「ちょ、ちょっと待ってよ詩穂。どういうこと?」

詩穂「入ればわかるわよ花音ちゃん」

くるみ「なんなんでしょう先生?」

八幡「わからん……」

半信半疑、いや零信十疑でホテルの中に入ると、きらびやかで開放的なロビーが広がっていた。天井には大きなシャンデリアが輝いて、置かれているソファやテーブルも明らかに高そうなものばかりである。

そうしてきょろきょろする俺たちのもとへ、すぐにホテルの従業員の人が俺たちの所へやって来た。明らかに不審者を見る目つきだ。

従業員「ご予約されているお客様でしょうか?」

すかさず煌上が俺の脇をつつく。なんだよ。俺が対応しろってか?

八幡「は、はい。『神樹ヶ峰女学園』でしていると思います」

俺が答えると途端に従業員の人の顔から警戒心が解けて歓迎の表情に変わる。

従業員「ああ。神樹ヶ峰女学園の皆さまでしたか。遠路はるばる、ようこそいらっしゃってくださいました。ただいま支配人を呼んでまいりますのでそちらにおかけになってお待ちください」

八幡「は、はい」

言われた通り俺たちは近くのソファに腰かけた。一体何がどうなってるんだ。

数分していかにも支配人って感じのスーツを着たダンディーなおじさんが歩いてきた。なんかめっちゃカッコイイんですけど。

支配人「私が当ホテルの支配人でございます。神樹ヶ峰女学園の皆さまですね。お待ちしておりました。お部屋は最上階のロイヤルスイートルームをご用意しております。どうぞこちらへ。お荷物もこちらでお持ちいたします」

支配人は数人のボーイを呼び、荷物を運ばせる。俺たちも支配人に続いてロビーを歩く。

八幡「あの、失礼なんですけどロイヤルスイートルームって何かの間違いでは?」

支配人「神樹ヶ峰女学園の皆さまには私共、心からのおもてなしをさせていただきたいと思っております故、最高級のお部屋をご用意するのは当然でございます」

八幡「いえ、そのなんで神樹ヶ峰女学園の人にはそんな特別待遇を」

支配人「それは、」

詩穂「ここが千導院家が経営するホテルだからですよね?」

花音「どういうこと?」

詩穂「ホテルの名前にあった『メイプル』は日本語に直すと『楓』になるの。私たちを泊まらせてくれるこんな高級なホテルなんて千導院さん関係以外には考えられないわ」

支配人「その通りでございます。楓お嬢様から直々に連絡がございまして、皆様方に最高級のおもてなしをするよう申し付けられております」

望「なーんだ。そういうことか。なら安心だね」

ゆり「ホッとした……」

くるみ「野宿しなくてよかった」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/02(水) 19:49:06.56 ID:o+HIqkZx0
ヤンデレ回お願いします

441 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/02(水) 23:20:21.17 ID:5puOrNPU0
本編5-12


支配人「ではこちらが皆さまが宿泊されるロイヤルスイートルームでございます」

支配人がカードキーをかざすとドアが自動で開いた。遠慮がちに中に入るとそこは別世界だった。

ドアのまっすぐ前には大きく開放的な窓。そして何十畳もある塵一つない洋室。その隣には和室とベッドルームがある。まるでどこかの貴族になった気分になってくる。

ゆり「こ、ここを私たちが使っていいんですか?」

支配人「もちろんでございます。もし足りないものがあれば何なりとお申し付けください」

詩穂「ここからは那覇の景色が一望できるのね」

望「先生先生。この部屋こそビデオに残しとくべきなんじゃない?」

八幡「あ、ああ。そうだな」

余りの豪華さに頭が回ってなかった。確かにここの映像は残しておく価値がある。多分、もう一生来れないだろうし。

八幡「で、この部屋は女子が使うとして、俺の部屋はどこなんですか?」

支配人「俺の、とおっしゃいますと?」

花音「だからこいつ用の他の部屋よ」

支配人「ですから、他の部屋と言われましても、このお部屋1つのみしかご用意しておりませんが……」

八幡「いやいや、流石に女子と同じ部屋で寝るのはちょっと……」

支配人「しかしこのお部屋以外は本日満室でして、別のお部屋をご用意するのは無理でございます。あ、私そろそろ他の業務もありますのでここで失礼いたします。また何かありましたらお声かけください。では失礼いたします」

そう言って支配人は部屋から出ていった。ビデオを持つ手もだらりと下がってしまう。

八幡「おい、マジか……」

ラブコメの神様頑張る方向間違えてないですか?こういうのって、教師に見つからないように女子の部屋に忍び込んで、そこでハプニングが起こって女子の布団の中に隠してもらうっていうのがテンプレじゃないの?最初から同じ部屋だったらドキドキもワクワクもあったもんじゃない。まあ、ラブコメ展開なんて求めてもないけど。

くるみ「なんで先生も一緒の部屋だとダメなんですか?」

ゆり「なんでって……高校生が男女同じ部屋で寝るなんて、どう考えても風紀違反だろ!」

詩穂「そうは言っても他のお部屋は空いてないんですよね」

花音「仕方ないわ。今夜は女子がベッドルームで寝て、こいつには仕切りがある和室で寝てもらいましょ。幸いこの部屋にはたくさんの寝具があることだし、私たちが詰め合えばどうにか寝られるでしょ」

八幡「……なんかすまん」

望「べ、別に先生が悪いわけじゃないんだから謝らないでよ!」

詩穂「どうにかなりそうですし、大丈夫ですよ」

花音「じゃあそういうことで一旦荷物を自分の部屋まで運びましょ。あとどのベッドで寝るかも決めなくちゃ」

ゆり「くるみはどこがいいとかあるのか?」

くるみ「私は別にどこでもいいわ」

はしゃぎながらベッドルームに移動する5人を見届け、俺は和室に自分の荷物を運び入れる。

はぁ。なんかとんでもないことになったな。そもそもこの部屋の雰囲気にすら圧倒されているっていうのに、それに加えてあいつらと同室だと?これなんて言うタイトルのラノベですかね。まず間違いなく主人公は青春を間違えずに過ごせているだろうな。そしてヒロインは何人か候補が出てくるが、主人公は最後まで誰とも付き合わない。うわ。主人公爆発しねえかな。

花音「ねえ。まだ?」

八幡「え、おう。今行く」

急いで仕切りを開けると洋室のソファに5人が座っていた。

詩穂「ではこれから夜の行動を決めましょうか」

八幡「まだどっかでかけるのか?もうこのホテルでゆっくり休めばよくね?」

望「せっかく沖縄来たんだから回れるところは回ろうよ!」

ゆり「望の言う通り!明日は明日で忙しいから、今日のうちにお土産も見ておきたいしな」

花音「ならここから歩いてすぐのところに国際通りっていう有名な商店街があるわ。お土産を見つつ、そこで晩御飯を食べましょうよ」

くるみ「いいですね。国際通りには沖縄の特産品の野菜もたくさん売ってるらしいですし」

詩穂「弟や妹たちにたくさんお土産買ってってあげなきゃ」

そういや俺も小町にお土産ねだられてたっけ。ま、小町のために俺も行きますか。うん。
442 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/05(土) 10:59:19.53 ID:sobaTzMs0
本編5-13


夕方にホテルを出た俺たちは煌上の提案に乗り、お土産と晩御飯を食べるために国際通りという商店街にやって来た。

が、5人は商店街に着くや否や、女子高生特有のハイテンションで色々物色し始めたので、俺はそいつらから離れて1人で道をふらついている。

さてどうするか。とりあえずシーサー探すか。ちんすこうは安いのを大量に買えばいいが、シーサーはそうはいかない。なんてたって小町の合格がかかってるわけだし。

と思っていると、少し通りを外れたところにちょうどいい感じのお土産屋さんを発見した。何がちょうどいいって若い店員がいないこと。なんなの表の客引きは。何回も若い兄ちゃんに強引に店内に引き込まれそうになったんだけど。しかも、そういう店に限って品ぞろえ良くないし。客を引き込む努力より、いい商品を置く努力をしろ。じゃないと俺みたいなボッチな客に何も買ってもらえないぞ。

八幡「なんかいいのあるかな」

この店は品そろえもよく、本当に小さなシーサーから、小型犬サイズのまで豊富に取り揃えてある。逆にこれだけ多いと迷うな。小さいと御利益薄そうだし、かといって大きすぎても持って帰れないし。

「ねえねえ。これ可愛くない?」

おいまた客引きかよ。と思って振り向いてみると、そこには白地に変な柄がプリントされたアロハシャツを持った天野がいた。

八幡「何その柄……」

望「ハイビスカスとヤンバルクイナだよ!沖縄って感じがしてよくない?」

八幡「まあ、お前が着るんだったらなんでもいいんじゃないか」

俺が適当に返事をすると、天野がムッとした表情で反論してきた。

望「え、違うよ。先生が着るんだよ」

八幡「は?俺?」

望「そうそう。アタシたちは夏っぽい恰好してるけど先生は普段と何も変わらないじゃん。旅行の間くらい、羽目を外しちゃいなよ!」

八幡「いや、別に俺はいい。そもそもそんなの似合わないだろうし」

望「そんなことないって!ほら、そっちに試着室があるからとりあえず着てみて!」

強引に試着室に押し込まれた俺は渋々アロハシャツに着替える。

八幡「着替え終わったぞ」

そう言って俺は試着室のカーテンを開けた。

望「おお!予想以上に似合ってる!」

天野は目を輝かせてじっとシャツを見てうんうん頷く。

望「先生はスタイルは悪くないからそういう白地のゆったりしたシャツ似合うと思ったんだよね。流石望ちゃん。いいセンスしてる♪」

八幡「調子乗んな」

望「えー、もっと感謝してくれてもいいんだよ?」

八幡「……ま、でもせっかく選んでくれたし、買うわ」

似合ってるって言われたら買わないわけにはいかないですよね。外に着る分には恥ずかしいが、部屋着としてなら意外と悪くない着心地だし。

望「もう。最初から素直にそうやって言えばいいのに……」

八幡「うっせ」

俺は着替え直してから、アロハシャツを買い物かごにいれて、シーサー探しを続行する。が、なぜか天野が俺の後ろにくっついて離れない。

八幡「なあ。お前いつまでそこにいるの?」

望「え、別にいいじゃん。で、先生は何探してるの?」

八幡「……シーサー。妹が欲しがってたからな」

望「あー、そういえば先生妹いたもんね。妹のためにお土産買っていくなんて、ちゃんとお兄ちゃんやってるんだ」

八幡「バカ。お前、千葉の兄は妹の為ならなんだってするんだぞ。それが千葉クオリティだ」

望「なんで千葉限定……。でも、先生がそうするならアタシも妹や弟のために何か買おうかなー」

八幡「え、お前弟、妹いたの?」

望「何そのリアクション。アタシだって家ではちゃんとお姉ちゃんやってるんだから」

天野が姉をやってる姿がまったく想像つかない。かろうじてビーフシチューを振舞ってる姿が思い浮かぶくらい。でも、人は見かけによらないし、俺に似合う服をわざわざ探してきてくれるあたり、面倒見がいいことは否定できない。ただ、こいつの場合、姉属性からではなく、ファッションのために動いてるだけかもしれないけど。

八幡「やっぱり信じられん……」

望「ちょっと酷くない!?」
443 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:00:44.14 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日@」


今日は8月8日。世間では夏休みと呼ばれる時期に当たる。特に学生はこの長い休みを有効利用してゆっくりと休息をとるべきであり、外に出かけるなどもっての他なのである。

そういうことで俺もこの夏休みは家でのんびりゴロゴロすることに決めている。ボク、怠惰デスね。

小町「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!」

そんな夏の朝のリビングに小町の声が反響する。

八幡「お、そうか。今日俺の誕生日か。ありがとよ小町」

すっかり忘れてたぜ。『お誕生日おめでとう!』みたいなメールが誰からも来ないのはもちろん、親からも何も言われていない。小町の誕生日のときは一週間前から親父も母ちゃんもそわそわしているというのに。家族内での格差が激しすぎる。

小町「開口一番でお兄ちゃんの誕生日を祝ってあげるなんて、小町的にポイント高くない?」

八幡「はいはい高い高い」

俺の適当な返事を無視して小町は口を開く。

小町「あ、そうだ。お兄ちゃん。外に出られる服にさっさと着替えてきて。今すぐ」

八幡「何。このクソ暑い中どっか行くのか?なら帰りにアイス買ってきてくれ」

小町「小町は行かないよ。行くのはお兄ちゃんだけ!ほら早く!」

八幡「だからなんで……」

小町と言い争いをしていると玄関のチャイムが鳴った。

小町「ほら。お兄ちゃんがもたもたしてるから来ちゃったじゃん。はーい!今開けまーす!」

来ちゃったって何が、と言おうとした瞬間、いつだかで見たことがある黒スーツの人たちが次々に家の中に入ってきて俺を取り囲んだ。

八幡「……小町。この状況説明して?」

俺の問いかけに小町はにっこり笑って問い直してくる。

小町「お兄ちゃんなら小町が説明しなくてもこの状況を理解できるよね?」

黒スーツ「ということでございます。さぁ比企谷先生。車の方へ」

わかりたくなかったなぁ。こんなことできるのはあいつくらいだろう。ということはあいつら全員何かしら関わってるんだろ?行きたくねえなあ。

なんて希望が通じるわけもなく、俺は車に強引に乗せられた。

しばらく走った後、もうすっかり見慣れた神樹ヶ峰女学園の校門の前に車が止まった。

黒スーツ「到着いたしました比企谷先生。足元に気を付けてお降りください」

そう促され車を降りると、2つの人影がこっちに近付いてきた。

詩穂「おはようございます先生」

花音「ほら。ここは暑いし、みんな待ってるからさっさと行くわよ」

声をかけてきたのは国枝と煌上だった。

八幡「おう。つかなんで俺ここに連れてこられたの?今日は夏休みだよね?」

またなんかめんどくさい仕事でも振られるのか?教師って夏休みも普通に仕事するそうじゃないですか。ソースは平塚先生。つかあの人、夏休みだからって俺に毎日メールしてくるんだよな。しかも長文。ホント誰か結婚してあげて。

詩穂「でも今日は先生の誕生日じゃないですか」

八幡「……だから?」

花音「だから、私たちがアンタの誕生日を祝ってあげるって言ってるの。それくらい察しなさいよ」

八幡「お、俺の誕生日を祝う?お前らが?」

予想外の展開に頭が追いつかず、アホっぽい返事をしてしまう。

詩穂「うふふ。私たち2人だけじゃないですよ。星守クラス全員が集合しています」

花音「そういうことだから合宿所に行くわよ」

八幡「お、おう……」

こうして俺史上初、俺のための誕生日パーティーが幕を開けた。
444 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:01:42.07 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日A」


花音「みんなお待たせ!」

詩穂「本日の主役の到着です!」

2人は合宿所の1階にある大勢が入れるミーティングルームのドアを開けた。

部屋の壁際には簡単なステージが出来ており、そこには『比企谷先生爆誕祭!』と書かれた横断幕が飾ってある。そしてステージの周りには星守たちが拍手をしながら俺たちを出迎える。

ドアを開けた2人はそのままステージに上がり、マイクを持って話し始める。

詩穂「それではお待ちかね。これより『比企谷先生爆誕祭』を始めます!司会進行を務めます、高校2年生国枝詩穂です」

星守たち「イエーイ!」

星守たちは恐ろしいほどに盛り上がっている。なんだなんだ。何が始まるんだ。

花音「同じく司会進行を行う煌上花音よ。あ、アンタはステージの前の椅子に座ってなさい。一応主賓なんだから」

俺の周りにいる何人かが、煌上が指さした椅子に俺を強制的に座らせる。

詩穂「ではまず開会の宣言を楠さん。お願いします」

呼ばれた楠さんが壇上に上がる。

明日葉「えー、まずは先生。お誕生日おめでとうございます。今日は私たち星守クラス全員で心を込めてお祝いするのでどうか楽しんでいってください!みんな!今日一日精一杯先生のことをお祝いするぞ!」

星守たち「おー!」

えー、なんでこんな盛り上がってるの。怖い。あと怖い。
445 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:02:16.11 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日B」


花音「さっそく会の中身に入っていくわよ。まずは桜と遥香による漫才です!どうぞ!」

即座にセンターマイクが準備され、それを挟んで藤宮と成海が壇上に上がった。

遥香「どうも。遥香です」

桜「桜じゃ」

遥香、桜「2人そろって遥香桜です。よろしくお願いします」

遥香「私たちがトップバッターなんて、緊張するわね桜ちゃん」

桜「余計な気を遣っても疲れるだけじゃ。普段通りでおれば大丈夫じゃよ」

遥香「そうね。でも漫才だから何か面白いことを言わなきゃいけないのよね?」

桜「まぁ、それはそうじゃな。一応漫才なんじゃからのお」

遥香「申し訳ないんだけど、私漫才のことよくわからないからこの先の展開は桜ちゃんに任せていいかしら?私はなるべく普段通りでいることを心がけるから」

桜「しょうがないのお。では遥香もやりやすいように『病院の診察室』という設定でやるかのお。わしが医者としてボケるから遥香は患者としてツッコミをしてくれ」

遥香「わかったわ」

桜「では始めるかの」

桜『今日はどうされましたか?』

遥香『2.3日前から咽頭の炎症と後頭部に鈍痛がするんです。多分急性上気道炎だと思うんですが確認してもらってもいいですか?自分で見るぶんには扁桃腺の炎症はなかったのですが』

桜「……待つのじゃ遥香」

遥香「え?」

桜「え、じゃない。そんな医療知識が豊富な患者なんてそうそうおらんわ。やっぱり患者はわしがやるから遥香は医者を演じておくれ」

遥香『今日はどうされましたか?』

桜『あの、数日前から腹痛がひどくてのお』

遥香「桜ちゃん。うちは主に救急外来が盛んなの。よかったらそういう患者を演じてもらえないかしら?具体的にはすごい痛みに悶え苦しんでる感じで」

桜「え、いや、これは漫才じゃから別に現実に即さなくても」

遥香「桜ちゃん。やって」

桜「う、うむ……あー、お腹が痛い痛い。痛いぞお」

遥香『大丈夫ですか!?自分のお名前言えますか!?』

桜『うぅー、痛い痛い』

遥香『これは危険な状態ですね。今すぐオペを始めます!手術室に運んで!ほらそこのあなた!こっちに来て!迅速に患者を手術室まで運ぶわよ!』

桜「……待つのじゃ遥香。わしらはいつから医療ドキュメントを演じておるのだ?」

遥香「え?だって桜ちゃんさっき普段通りにしてろって」

桜「それは心構えの話じゃ。わしらがやるのは漫才じゃ。医療現場の現状を再現してもしょうがないぞ」

遥香「そうなのね。漫才って難しいわ。あ、私久しぶりに大きな声出したらお腹空いちゃった。ご飯にしない?」

桜「ええかげんにせい」

桜、遥香「どうも、ありがとうございました!」
446 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:03:34.54 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日C」


花音「ということで桜と遥香の漫才でしたー!」

詩穂「先生、どうでしたか?」

八幡「え、おう。意外とちゃんとしてて面白かったぞ。うん」

俺の感想に藤宮と成海は嬉しそうに笑う。

遥香「ありがとうございます先生」

桜「喜んでもらえてなによりじゃ」

花音「さ、では次のプログラムに進むわよ」

詩穂「次は校庭でバーベキューをします!」

星守たち「イェーイ!」

花音「ということで移動するわよ」

煌上に付き従って俺たちは合宿所を出て校庭に向かう。そこにはすでにいくつものバーベキューコンロとテーブル、椅子などが準備されていた。

詩穂「ではここからはしばらくの間、みんなでバーベキューを楽しみましょう」

国枝が声をかけるや否や、みんなそれぞれバーベキューを楽しみ始めた。

ひなた「お肉お肉ー!」

くるみ「ひなたさん、お肉だけじゃなくて野菜も食べてくださいね」

ミシェル「むみぃ、煙が目に入ったよ〜」

蓮華「大丈夫ミミちゃん?蓮華がやさしく目薬さしてア、ゲ、ル」

ゆり「こ、こんな美味しいお肉食べたことないぞ」

楓「そのお肉はうちのホテルと直接契約している農家から取り寄せたものですもの。美味しくて当然ですわ」

みんな楽しそうにしてるな。さて、俺も食べるか。

みき「先生ー!」

サドネ「おにいちゃーん!」

ん。この展開、なんか覚えがあるぞ?

サドネ「ミキと2人で味付けしたの。食べて!」

星月とサドネが得体の知れないソースがかかった野菜や肉がこんもり盛られてた皿を持ってきた。でもここには2.3種類のソースしかなかったよね?なんでこんな変な色してるの?ここまでくると最早芸術の域に達していると言っていい。

八幡「待て。お前らそれ味見したのか?」

みき「私はしてないですけどサドネちゃんが美味しいって言うから大丈夫です!」

サドネの味覚もあてにはならない気がするが、これ以上時間を引き延ばしても怪しまれるだけだ。少し、ほんの少しだけなら大丈夫か?

八幡「……く。い、いただきます」

俺は一枚の肉を恐る恐る口に入れた。

みき「先生どうですか?」

八幡「…………ああ。なんというか、独特の味だな」

サドネ「もっと食べて!」

八幡「いや、せっかくなら色々な味で食べたいからあとはサドネたちが食べていいぞ」

サドネ「わかった!」

みき「喜んでもらえてよかったねサドネちゃん!」

2人は満足して他の場所へ歩いていった。はあ。正直、舌に肉が触れた瞬間卒倒するかと思った。意地で耐えたぞ。

昴「先生、お疲れ様でした……」

八幡「若葉。もしかして見てたのか?なんで助けてくれないんだよ」

昴「だってアタシまで巻き添え食らいたくなかったですし……」

まああのソースの色を見て避けたくなる気持ちは痛いほどよくわかる。俺だったら確実に退散しているだろうな。
447 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:04:05.74 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日D」


しばらくして、用意されていた食材が全て無くなった。俺たちは簡単に片づけをした後、また合宿所に戻ってきた。今度は19人全員で椅子を丸く並べて座る。

花音「バーベキューの後もまだまだ続くわよ」

詩穂「次は外で暑くなった体を冷ますために、粒咲さんと芹沢さんが怪談を披露してくれます」

怪談か。季節的にはぴったりだな。

あんこ「ふふ。ではワタシからいくわ」

粒咲さんが話し出すと、部屋の明かりが消え、粒咲さんの前にあるろうそくが灯り出した。

あんこ「何週間か前のことよ。ワタシはいつものように部活の時間にインターネットゲームを起動しようとしたの。そしたらあるゲームにログインすることができなかったの」

あんこ「いろんなIDやパスワードを試してもダメだった。他のパソコンを使ってもダメだった。ワタシにはもう為す術がなかったわ」

うらら「くるくる先輩がパソコンに触っちゃっただけじゃないの?」

くるみ「違うと思うわ。私、あんこ先輩にパソコン室には入らないよう言われているから」

あんこ「そう、これはくるみのせいじゃない。その後、そのゲームについてスマホで調べてみたら驚愕の事実が判明したわ……」

そう言って粒咲さんは目の前のろうそくを吹き消した。小さな悲鳴があちらこちらから聞こえる。

あんこ「なんとそのゲーム、サービス終了してたのよ。それも事前告知なしに!」

周りからは何の反応も起こらない。だが粒咲さんは頭を抱えながら話し続ける。

あんこ「ワタシがあのゲームにいくら課金したかわかってるのかしら運営は。全国、いや世界でも有数の装備品とプレイスキルで掲示板では『プリンセスANNKO』とも呼ばれていたのに!」

どこのイリュージョニストだよ。てか、これがオチ?

八幡「あの、粒咲さん。その話が怪談ですか?」

あんこ「そうよ。何万、何十万と課金していたゲームが突然サービス終了したのよ?怖すぎるわ。ワタシのこれまでの努力が水の泡よ。せめて事前に予告されていれば色々記録が残せたものを……」

もはや粒咲さんの愚痴大会になってる。それを感じたのか煌上が声をかける。

花音「あー、あんこ先輩。そろそろ終わりにしてもらってもいいですか?次もあるので……」

あんこ「それもそうね。ワタシの怪談でみんなが震えあがってもかわいそうだし」

詩穂「あはは……。では次の怪談は芹沢さんですね」

蓮華「うふふ。今日のためにとっておきの話を用意してきたわよ」

そう言うと今度は芹沢さんの前のろうそくが灯り出す。

蓮華「つい数日前のことよ。暇だったれんげは帰る途中の先生を尾行することにしたの」

え、もうこの時点で怖いんですけど。何してんのこの人。

蓮華「その途中の海浜幕張駅だったかしら。れんげの美少女レーダーが今までにないほど反応したの。その発生源となった子は、先生がたまに着る高校のジャージと同じものを着ていて、テニスバッグを背負っていたわ。華奢で透き通るような白い肌。サラサラのショートカット。大きく純粋な目。もうあれは現世に舞い降りた天使のような子だったわ」

蓮華「その天使に魅せられたれんげは先生のことはほっといて、その子を尾行することにしたの。そしたら驚愕の事実が判明したわ……」

芹沢さんは目の前のろうそくを吹き消す。

蓮華「その子、男子トイレに入っていったの……」

蓮華「れんげの美少女レーダーに反応するような子が、男の子だったのよ。れんげは自分の目論見が外れたことより、その子のかわいらしさにぞっとしたわ」

粒咲さんの時と一緒で他の人はなんの反応もしない。それにしても、千葉で見かけた俺と同じジャージを着てるテニスバッグを背負った天使って、候補は一つしかなくね?

八幡「せ、芹沢さん。その子とはそれっきりですか?」

蓮華「実はね、れんげが尾行してることをその子わかってたみたいで、トイレの前で打ちひしがれてたれんげに声をかけてきたの。で、そのままお茶しちゃった。いい子だったわ。戸塚彩加くん。男の子なのが残念だけど」

おい。嘘だろ。嘘だと言ってくれ。ラブリーマイエンジェル戸塚が、よりによって芹沢さんの毒牙にかかってしまったのか……。なんということだ……。

望「な、なんで先生そんなに落ち込んでるの?」

八幡「落ち込むにきまってるだろ。『戸塚は神聖にして侵すべからず』は全人類の共通認識だろうが。そんな戸塚が、あろうことか芹沢さんに……」

蓮華「さすがのれんげでもあの子には何もしてないわ。というかできないっていうのが正しいかしら。男の子なのもあるけど、たとえ女の子だったとしても、あのかわいらしさの前にはただ立ちつくすのみだわ」

八幡「ですよね。やっぱりとつかわいいな。この世の癒しだ」

詩穂「えーと、これも怪談ってことでよかったのかしら花音ちゃん?」

花音「もう私には理解できないわ……」
448 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:04:46.40 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日E」


怪談が終わり、再び煌上と国枝がステージに上がり進行を始める。

詩穂「で、では気を取り直して次の企画でーす!」

花音「次はクイズ『ソラシドドン!』を開催するわ!」

おい。ここはフジテレビか?秀ちゃんに許可取ったのか?

花音「このクイズはある曲のサビ部分を聞いて、その曲の曲名とワンフレーズを歌ってもらう企画です!」

詩穂「では早速出場者を紹介するわ。まずは南さん」

ひなた「ひなた頑張って歌っちゃうよ!」

花音「次は心美!」

心美「じ、自信ないですけど頑張ります」

詩穂「そして蓮見さん」

うらら「音楽クイズなんてうららの十八番よ!すぐ正解してやるんだから!」

花音「さらにゆり!」

ゆり「わ、私が知ってる曲が来るといいんだが……」

詩穂「それでこのクイズには特別に先生にも参加してもらいます」

八幡「え、俺も?」

花音「たまにはいいじゃない。見てるだけじゃつまらないでしょ?ほら。ステージに上がりなさい」

あんまり気が進まないが、今日は俺の誕生日だし少しは付き合わなきゃダメか。仕方なく俺は他の4人と共に壇上に上がった。

詩穂「では詳しいルール説明を花音ちゃんお願い」

花音「ええ。このクイズは勝ち抜け制よ。正解した人から順に抜けていって、最後まで正解できなかった人には罰ゲームが待ってるわ」

八幡「罰ゲームって何やるんだ」

詩穂「それを今言ってしまってはつまらないじゃないですか」

花音「詩穂の言うとおりね。ま、恥ずかしい罰ゲームってことだけは言っておくわ」

ひなた「ひなた罰ゲームはやりたくない!」

うらら「うららも罰ゲームはやりたくないけど、それ以上にここみに負けたくないわ!」

心美「う、うららちゃんならすぐ正解できるよお」

ゆり「みんなの前で辱めは受けたくない……」

正直、俺もあんまり曲は知らないが、火向井や南には負けないだろう。多分。

詩穂「うふふ。みなさんいい感じに緊張感が出てきてますね」

花音「じゃあ早速始めるわよ。第一問!」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『レッツゴー バターとりんご そしてグラニュー糖 ラム酒をふってレモン汁♪』

心美「は、はい」

詩穂「はい!では朝比奈さん前で続きを歌ってください!」

心美『もっと のばすわパイシート 砕いてビスケット 最後にそっと投げキッス♪』

花音「ではこの曲名は?」

心美「ア、『アップルパイ・プリンセス』です」

花音、詩穂「正解!」

心美「や、やった!」

うらら「この曲ここみの得意な曲だもんね」

心美「うん。キーが私にピッタリなんだあ」

予想外の人が一抜けだな。だがまだ慌てるような時間じゃない。
449 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:05:23.37 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日F」


詩穂「では第二問です」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『L'inizio! 揺籠ゆらす雷 覚醒に騒ぐ鼓動の Choir♪』

うらら「はいはい!」

俺が手を挙げようとした矢先に蓮見が素早く手を挙げた。

花音「じゃあうらら!前で歌って曲名をどうぞ」

うらら「『悪魔の手招 秘密の嬌声が 頬を染め上げて Violenza♪』曲名は『華蕾夢ミル狂詩曲〜魂ノ導〜』!」

詩穂「蓮見さん正解です!」

うらら「さっすがうららね!」

ひなた「こんなに難しい歌よく歌えるねうらら先輩」

うらら「ふふん。うららはいろんな曲を練習してるの。その中でもこれは歌いやすかったからよくカラオケでも歌ってるの」

く、今度は蓮見が抜けたか。だがここまでは想定内だ。次正解すればいいだけの話だ。

花音「順調に抜けていってるわね。では第三問!」

花音、詩穂「ソラシドドン!」

『仕事♪』

ひなた「はいはいはい!ひなたわかる!」

南がワンフレーズ聞いただけで手を挙げた。

詩穂「南さん早い!では前にどうぞ」

ひなた『仕事 電車 通勤 ムリムリ 自宅 厳重 警備 フリフリ たまにサボっちゃっても 私責めない♪』

ムリムリ!フリフリ!いいぞー!……は。しまった。つい合いの手を入れてしまった。

花音「ではこの曲の曲名は?」

ひなた「『あんずのうた』!」

花音「正解!」

ゆり「こ、この曲はなんだ?」

ひなた「有名なアイドルの曲なんだよ。ライブでは合いの手が入ってすごい盛り上がるんだって!ひなた、こういう楽しい曲大好きなんだ!」

詩穂「南さんらしいですね。では次が最終問題ですね」

ゆり「く、ここまで全然わからない……先生は今までの曲知ってましたか?」

八幡「ま、まぁ聞いたことがあるやつもあったかな」

嘘です。全部知ってました。なんならコールも入れられるぐらい聞きこんでるプロデューサーです。

しかし、なんかこの曲選おかしくない?みんな346プロダクションの曲じゃん。ん、てことは次も346プロの曲なのか?相手は火向井。てことは、声質が似ているアーニャの曲が来る可能性が高い。そしてアーニャのソロ曲はあれ一つだけだ!
450 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:06:17.38 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日G」


花音「最後はイントロクイズで決着をつけるわ。2人とも準備はいいかしら?」

ゆり「こうなったら最後は気合だ!」

八幡「おう」

出題傾向を把握した俺に死角はない。この勝負、もらった!

花音。詩穂「ソラシドドン!」

『♪』

ゆり「Да」

火向井が1秒と経たずよくわからない言葉を発して、そのままマイクの前に立つ。

ゆり『Расцветали яблони и груши,Поплыли туманы над рекойВыходила на берег Катюша,На высокий берег на крутой.』

誰もがぽかんと口を開けている。一番初めに我に返った煌上が火向井に問いかける。

花音「ちょっとゆり?大丈夫?」

ゆり「Выходила, песню заводилаПро степного сизого орла,Про того, которого любила,Про того, чьи письма берегла.」

詩穂「音楽止めてください!」

曲が止まると火向井は正気を取り戻したらしく、マイクの前でうろたえている。

ゆり「は。私は何を……」

八幡「おい、火向井。なんでお前今の歌うたえるんだよ」

ゆり「え?いや、気づいたら勝手に体の中から歌詞が溢れてきたんだ。まるで何かに忠誠を誓うかのようにスラスラ言葉が口から出てきて……」

無意識のうちにカチューシャを崇拝してるのかこいつは。プラウダ行ったら即戦力じゃないのか?つか、最後だけ選曲おかしくない?こんなの火向井以外歌えるわけないじゃん。

詩穂「い、今の歌ですけど火向井さんは歌えていたので勝ち抜けとします」

花音「ということで最後まで残ったのは、このヘンタイ教師よ!」

強引に2人は結果発表を言い終えた。あれ、つか俺負けたの?

詩穂「ということで先生には恥ずかしい罰ゲームを執り行います」

八幡「あの、痛いのとか気持ち悪いのとかは嫌なんだけど……」

花音「そんなんじゃないわよ。それではミュージックスタート!」

『♪』

煌上の声の後にある曲が流れ始めた。ん、これってまさか……。

花音「知らない人もいるだろうからここで曲紹介を行います!」

詩穂「この曲は先生のキャラソン『going going along way!』です。今日は特別にフルコーラスで流しちゃいます!」

『青春の青い感情もー(感情もー)恋愛の甘い体験もーいらないー(ふむ!)』

八幡「やめろー!」

『going going along way! 俺の道を行くぜ♪』
451 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:07:19.94 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日H」


俺のキャラソンが流れ終わると今度は俺の前に机と皿、フォーク、ナイフが並べられていく。

花音「気を取り直して次の企画に行きましょう詩穂」

詩穂「そうね。次の企画は誕生日といえばコレ。バースデーケーキコンテスト!」

花音「今回は4人の星守がケーキを作ってきてくれたわ。1人ずつ紹介していくわね。まず最初はミシェル!」

ミシェル「むみぃ!ミミはね、ホットケーキ作ってきたの!先生たくさん食べてね!」

そう言って綿木は俺の前にホットケーキを置く。

八幡「これは俺が食べるのか?」

花音「当たり前じゃない。誕生日の人が食べないで誰が食べるのよ」

詩穂「先生にはケーキの感想をもらいますから、しっかり味わってくださいね」

八幡「お、おう。じゃあ綿木。いただきます」

ミシェル「召し上がれ?!」

メープルシロップがよくかかってる部分を切って食べてみる。

八幡「うまい。特にメープルシロップがいい」

たまに母ちゃんが買ってくる安物のシロップとは違う。なんというか濃厚なんだけど、しつこくない。

ミシェル「やったー!それはね、カナダで取れたすごい珍しいメープルシロップなんだ!パパにおねだりして買ってもらったの!」

綿木は嬉しさのあまりピョンピョン跳ねている。

詩穂「綿木さんのケーキは先生にも好評みたいね」

花音「トップバッターとしてはいい感じなんじゃないかしら。では次の人のケーキに移るわ。2番目は明日葉先輩!」

明日葉「私のケーキは楠流、和風抹茶のロールケーキだ」

出されたケーキは抹茶の緑のスポンジに白いクリームが挟まれた、目にも優しい色のものだ。食べやすいサイズに切られてるのも良い。

明日葉「先生。さ、召し上がってください」

八幡「は、はい。いただきます」

その中の1つを食べてみる。

八幡「美味しいです。これ、クリームにあずきが入ってるんですか?」

明日葉「流石先生ですね。生クリームだけだと少し味気ないので、アクセントとしてあずきを入れてみたんです」

楠さんは丁寧に説明してくれる。

花音「抹茶にあずきね。和って感じで美味しそうだわ」

詩穂「そうね。でもそろそろ次の方のケーキに移ります。3人目は千導院さんです」

楓「ワタクシは先ほどまでの2人と違ってあまり綺麗ではありませんが、頑張って作りました」

千導院のケーキは定番のショートケーキだった。まぁクリームが偏っていたり、形が不揃いだったりしてるが、たいして気にはならない。

八幡「じゃあいただくな」

一口食べただけで違いがわかった。今まで食べたことがあるぶん、ハッキリ実感できた。

八幡「……なぁ千導院。これはもしかして、ものすごく高級な材料を使ってたりするのか?」

楓「はい!先生のために全世界から最高級の食材を取り揃えました!」

やはりか。少し技術的に拙いところは感じられるが、それを補って余りある食材の力。これいったい幾らするんだ……

詩穂「私もこれくらい高級な食材をふんだんに使ってみたいわ」

花音「楓だからこそ作れたケーキって感じね。では最後の人は、え、ウソ……」

煌上の顔が恐怖で引きつっている。……まさか、あいつがエントリーしているのか?
452 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:08:04.65 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日I」


八幡「おい煌上。もうやめよう。この3人でお腹いっぱいだ」

みき「待ってください先生!私のケーキも3人に負けないくらいすごいんですから!」

呼ばれてもないのに星月が意気揚々と、どデカイホールケーキを運んできた。

詩穂「えーと、最後の出場者は星月さんです……」

その光景を見て観念したのか国枝が小声で星月を紹介する。

みき「八幡にかけて八種類の果物とクリームを使ったケーキです!どうぞ!」

目の前にあるのはケーキではない。何か禍々しい色をした兵器だ。なんで星月は韻踏んじゃったのかなあ。

本来なら食べたくはない。が、星月は俺のためにわざわざ作ってくれたんだ。それに、今まで3人のケーキを食べてきて、1人だけ食べないと言うのも筋が通らない。

……逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

八幡「……いただきます」

兵器が口に入った瞬間、俺の世界が反転しそうになった。即死はさせない程度の絶妙にヤバい味。拷問だよ拷問。急いで水で流し込んだが、今度は食道と胃が痛くなってきた。一体、何入れればこんな恐ろしいブツが出来上がるんだ。

みき「先生、どうですか?」

八幡「あ、ああ。少し食べただけで星月の気合が伝わったよ……痛い程な」

みき「やったー!あ、みんなも食べて!沢山作ったから遠慮しないで!」

星月が兵器を拡散する中、流石に俺のことが心配になったのか煌上と国枝が傍によってきた。

花音「ね、ねえ。大丈夫?」

八幡「正直ダメかもわからん……」

詩穂「胃薬飲みますか?」

八幡「ああ。助かる……」

何とか落ち着いたので周りを見渡してみると、俺と同じように兵器の犠牲となったものが何人か見受けられる。が、その中で成海だけは孤独のグルメ並においしそうに兵器を食している。あいつの消化器官はどんな構造してるんだ。金メッキでも施されてるのか?
453 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:08:37.12 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日J」


星月の兵器、いやケーキによる混乱が数十分続いた後、なんとか体調が回復した俺たちは会を再開した。

詩穂「で、では次の企画に行きましょうか花音ちゃん」

花音「そうね。次は星守たちによるモノマネよ!」

詩穂「少し準備するので先生は部屋の外で待っててもらってもいいですか?すぐ終わりますから」

八幡「お、おう」

わざわざ俺を退出させるとはけっこう大がかりな装置でも使うのか?そこまでするってことはけっこうクオリティの高いものを期待しちゃうよね。

数分して中から煌上が顔を出して声をかけてきた。

花音「入っていいわよ。で、アンタが入ったらモノマネが始まるから、後は流れでよろしく」

八幡「なんだよ流れって」

花音「いいから。早く入りなさい」

俺は仕方なく部屋に入ってあたりを見渡す。

けど、別に何か大きな仕掛けが施されているとは思えない。ただ総武高校の制服を雪ノ下のように着た常磐が立っているだけだ。ん。総武高校の制服?雪ノ下?

くるみ「こんにちは比企谷くん」

なん……だと……。どういうことだ。なんで常磐は俺を「比企谷くん」と呼んでいるんだ。まるで雪ノ下みたいじゃないか。

くるみ「いつまでそんなところに立ってるの徒長谷くん。早くこっちに来なさい」

八幡「徒長谷ってなんだよ。あれか?俺がひょろっと突っ立ってるのを揶揄してんのか?」

くるみ「別にそんなことは言ってないわ。ただ、もう少し日光に当たった方がいいと思うけど」

八幡「めっちゃ揶揄してるじゃん。しかも俺が普段外に出ないことまで」

は。つい雪ノ下に対する反応をしてしまった。だけど、マジで常磐が雪ノ下にそっくりすぎて怖い。

望「くるみん!ヒッキー!やっはろー!」

まだこの状況を受け入れられていないのに、またしてもなじみ深い声がした。声のした方を振り向くと、総武高校の制服を由比ヶ浜のように着崩した天野がステージに向かって歩いてきていた。

八幡「雪ノ下の次は由比ヶ浜か……」

望「何ヒッキー。あたしがいたら迷惑?」

八幡「いや、そんなことはないけど……」

お前らの声が奉仕部の2人に似すぎててビビってるだけです。

望「そういえばあたしとくるみんでヒッキーへのプレゼント買ったんだ。はいこれ」

話題をぶった切って天野が取り出したのは四つ葉のクローバーの栞だった。

八幡「え、これ俺にくれるの?」

くるみ「はい。幸運が訪れる四つ葉のクローバーを先生が好きな読書時に使えるようにしおりに挟みました」

望「く、くるみ。素に戻ってるよ。モノマネモノマネ」

くるみ「そうだった。えーと、べ、別にあなたのためではないから、勘違いしないでよね」

はは、違うぞ常磐。雪ノ下はそんなあからさまなツンデレはしない。正確には「ゆ、由比ヶ浜さんがどうしても一緒に行くと聞かなくて。だから仕方なく選んだだけよ」だ。

望「と、とにかく大事に使ってよ!」

八幡「はいはい」

でもプレゼントのセンスは悪くない。多分色々考えたんだろうな。

八幡「ありがとな」

俺の言葉に常磐と天野は顔を見合わせた後、笑って俺の方を向く。

くるみ「はい」

望「当然じゃん!」
454 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:09:17.61 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日K」



「ちょっと待ってくださいよー!」

プレゼントをもらって終わりかと思ったら、またしても聞きなれたあざとい声が聞こえてきた。

昴「ずるいですよ望先輩、常磐先輩。私だって一緒にプレゼント選んだじゃないですかー」

そう言って壇上に上がってきたのは総武高校の制服に、袖の余ったピンクのカーディガンを着た若葉だった。

望「ご、ごめんね昴ちゃん。ついイイ雰囲気だったから渡しちゃった……」

くるみ「別にそこまでいい雰囲気ではなかったと思うけど……」

昴「ま、いいですけど。どうせ先輩へのプレゼントだったのでそんなに真剣に選んでないですし」

おう。これまたすごい似てる。若葉でもこんなあざとい声出せるんだな。服装も相まっていつものイメージとはかけ離れた印象を受ける。

八幡「お前もこのプレゼント選んだのか?」

昴「え?はい。ていうか栞のアイディアはわたしですし」

やはりいつもの若葉の面影はかけらも感じられない。こういうこともできるのかこいつ。

八幡「意外とセンスいいんだなお前」

俺の言葉にしばらくぽかんとしていた若葉は急に顔が赤くなる。

昴「嘘。先生に褒められちゃった。どうしよ、すっごく嬉しい。でも、今はモノマネしなきゃ……あれ、こういう時どうやるんだっけ。確かまず断って、」

口を押えながら小声でセリフを考える若葉の姿からは先ほどまでのあざとさが一切感じられない。いつもの照れてる若葉だった。むしろ服装はあざとい女の子だから、素のかわいらしさが際立って見える気がする。やっぱり素が一番ですね。

昴「おほん。何ですか口説いてるんですかごめんなさい褒めてもらったのは嬉しいですけどセンス以外にももっとわたしを褒められるようになってから出直してください」

なんとか言い直した若葉だが、相変わらず顔は真っ赤だ。うんうん。頑張ってる姿勢は評価したいぞ。

八幡「そうだな。そうやって頑張って一色のモノマネをする姿勢もいいと思うぞ若葉」

昴「うう、もうアタシには無理だよこの役……」

望「が、頑張って昴ちゃん!あと少しで終わりだから!」

くるみ「大丈夫。ちゃんとできてるわ」

モノマネなのかそうじゃないのかよくわからんが、常磐と天野が必死に若葉を慰める。なんだか変な光景だ。

「おやおやー、お兄ちゃんが女の子たちと楽し気に話してますねー」

その時、今までの人生で一番耳に馴染んでいる声が聞こえた。声がした先には小町の中学の制服と同じものを着たサドネがいた。

八幡「サドネ……」

サドネ「お兄ちゃん今年の誕生日も誰からも祝われないと思ってたけど、くるみさんたちに祝ってもらえてよかったね。今、サドネはすごく感動してるよ」

そう言って壇上に上がるサドネにはいつもの面影はない。本当に小町としか思えない話し方だ。これまでの3人に比べて、そのギャップも相まって衝撃的なモノマネだ。

サドネ「これでお兄ちゃんも立派に社会に羽ばたいていける社会力を身につけたね!」

八幡「何言ってんだ。サドネ。俺は常に専業主夫として家から出ない生活を送ることを夢見ているんだ。だから俺に社会力は必要ない」

サドネ「うーわでたお兄ちゃんの捻くれ。ま、それは置いといて、そろそろサドネたちのモノマネも終わりの時間なんだけど、どうだった?」

俺の捻くれ具合は無視ですかそうですか。というか、反応の仕方までそっくりだ。かなり練習したんだろうな。

八幡「え、いや、正直4人とも似すぎててビビった」

サドネ「へへー。お兄ちゃんのためにサドネたち頑張ったんだよ?あ、今のサドネ的にポイント高い!」

そこまでマネしちゃうのかよ。なんでもありか。

八幡「……ああ。本当に高いよ」
455 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:09:46.17 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日L」


モノマネが終わり、常磐たちの着替えを部屋の外で待つことしばらく。

詩穂「先生。さあ中へどうぞ」

八幡「おう」

俺が中へ入ると、星守たちは大量の花火を持っている。

花音「では本日最後の企画!」

詩穂「校庭で花火を行います!」

星守「わーい!」

だよねえ。逆にこの状況で花火以外をやるって言われた方が驚くわ。

花音「じゃあみんなで外に行きましょうか」

こうして俺たちはまたしても校庭に向かった。すでに外はかなり暗くなっていて、バーベキューをしていた時とはまた違う雰囲気だ。

うらら「ほら綺麗でしょここみ!」

心美「うん。すごいねうららちゃん」

昴「よっと、どうこのアクロバティックな花火の動き!」

あんこ「もう一度やって昴。録画してブログに載せたいから」

サドネ「シホ!花火キレイ!楽しい!」

詩穂「そう。よかったわ」

みんなそれぞれ楽しんでいるようだ。何人かは校庭を駆け回っている。元気なこった。

明日葉「先生、隣よろしいですか?」

そんな光景を段差の上の方で見つめていた俺のそばに楠さんがやって来た。

八幡「ええ。どうぞ」

明日葉「失礼します」

楠さんも腰を下ろして、校庭の光景を楽しそうに眺める。

明日葉「はしゃいでますねみんな」

八幡「ええ。でも俺は疲れましたよ。色々ありすぎて」

明日葉「ふふ。それくらい充実した時間を過ごせた、ということじゃないですか?」

八幡「……まあ、そうかもしれないですね」

そして俺たちはまた黙って校庭を眺める。思えば今が、今日の中で初めて落ち着いた時間かもしれない。聞くなら今しかない。

八幡「……あの、楠さん。一つ質問があるんですけど」

明日葉「なんですか?」

八幡「今日のこの会の発案者って誰ですか?一応ちゃんとお礼を言っておきたいんですけど」

明日葉「明確な発案者はいませんよ。もともと、みんな個人個人で先生の誕生日を祝おうとしていたんです。それがいつの間にかまとまっていって、こういう形になりました。だから発案者を決めるとすれば、この星守クラスの生徒全員、となるでしょうか」

楠さんはにこやかにそう答える。対する俺はなんだかわからんが顔が熱くなってきた。ここが暗くてよかった。明るかったら赤くなってるのがバレてたかもしれない。

八幡「……そうですか。ならみんなに感謝しないといけないですね」

明日葉「いえ、星守クラスの仲間なら、誕生日を祝うのは当然です」

八幡「仲間なら誕生日を祝うのは当然、ですか」

今までろくに誕生日を祝ってもらった経験がない俺からすれば、今日こうして盛大に祝ってもらっている状況が不思議でならない。こういう時、どういう態度でいればいいかわからない。

それも今回は個人ではなく、18人もが協力して俺のためだけに動いてくれているのだ。そんなことをしてもらえるほど、俺はあいつらのためになってるのだろうか。
456 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/08(火) 00:10:39.54 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日M」


明日葉「そう、深く考えなくてもいいんじゃないですか?」

八幡「え……?」

明日葉「私たちはやりたくて先生の誕生日を祝ってるんです。もし先生が不快に思われていたら、申し訳ないと思います。でも、もし楽しかったと思ってくれたら、私たちはそれだけ満足なんです」

みんなはみんなの意志で俺の誕生日を祝ってくれる。俺はただそれを受け入れればいい。この理屈はわかる。ただ、それが果たして正解なのかはわからない。もしかしたらこの感情すら勘違いなのかもしれない。間違ってるのかもしれない。

でも、俺は。それでも俺は。

遥香「ここにいたんですね先生」

桜「サドネとひなたがはしゃぎすぎて大変なんじゃ。止めておくれ」

ミシェル「先生もミミたちと遊ぼうよー!」

階段の下の方で成海、藤宮、綿木が声をかけてきた。隣に座ってた楠さんも3人を見て立ち上がる。

明日葉「行きましょうか先生。みんなが待ってます」

八幡「やれやれ。しょうがないから行きますか」

キョン並みのやれやれをかまして俺は階段を下りていく。

桜「しょうがないとはなんじゃ。わしは昼寝の時間を惜しんで遥香と漫才を練習したというのに」

ミシェル「桜ちゃんと遥香先輩の漫才面白かった!」

遥香「あれ、でも桜ちゃんはほとんど寝てたわよね?」

明日葉「おそらく、桜にしては寝ていない。ということなんだろう」

そんなこんなで俺たち5人が校庭へ降りるとわらわらと星守たちが周りを囲んできた。言うなら今しかない、か。

八幡「あー、ちょっといいか?」

俺が話し出すと周りはシンと静まり返った。

八幡「いや、たいしたことじゃないんだが。その、今日はありがとう。正直けっこう楽しかった……」

自分は悪くない、社会が悪いと言い続けてきたが、この学校はこれまでで一番恵まれた環境なことは確かだと思う。こうして環境が変わったなら、俺自身も何か変わっていくのだろう。なら、俺から一歩踏み出すことも間違ってはいないはずだ。

みき「えへへ。喜んでもらえてよかったです!それと私たちからも言わなきゃいけないことがあります!みんな!せーの!」

星守たち「先生!お誕生日おめでとうございます!」

今日一の声が、澄んだ夜空とひっそりとした校舎に反響して、いつまでも俺の心に響くような気がした。
457 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/08(火) 00:14:13.69 ID:KfSuHYWE0
以上で番外編「八幡の誕生日」終了です。八幡お誕生日おめでとう。一応本作の主人公なので盛大なパーティーを開かせてもらいました。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 12:35:47.40 ID:SoHSiAvi0
乙!

中の人ネタはいつかするかなと思ってたけどここで来るのかww
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 22:33:47.95 ID:u1l2VloQo
乙です
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/09(水) 12:19:10.68 ID:ymF5WgXqO
乙、良かった
せっかくのクロスだしたまには俺ガイル色が強いネタもいいね
461 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/11(金) 17:55:24.32 ID:FYEuyN130
本編5-14


お土産を買い終え再度合流した俺たちは、ある沖縄料理店に移動した。

望「なんかイイ感じなお店だね!」

詩穂「前にある番組のロケでこの店で食事をしたことがあるの。その時食べた沖縄料理が本当に美味しくて、今回皆さんをここに連れてきたの」

八幡「へえ」

なんていう会話をしていると、さっそくたくさんの沖縄料理が運ばれてきた。みんなお腹が減っていたのか、すぐに食べ始める。

くるみ「このゴーヤーとっても新鮮でおいしいわ」

花音「流石くるみ、よくわかってるわね。それに、ここのゴーヤーチャンプルーは鰹節がたくさんかかってるところも私的にはおすすめポイントよ」

詩穂「なんとかこの味を家で再現できないかしら……」

ゆり「豚の角煮も味が中までしみ込んでる!」

望「あ、ゆり!アタシもそれ食べたいんだから独り占めしないでよ!」

こんな感じでいいように言えば賑やかに、悪く言えばやかましい中食事が進む。まあ6人でいればこれくらいうるさくなるのは仕方ない事か。いや、正確には5+1だな。もちろん俺が1。だってどの話題にも入ってないもの!そうか。俺も幻の6人目になってしまったのか。

なんて思いながら黙々と食べていると、ふと視線を感じた。顔を上げると常磐と目が合った。

八幡「……なんだよ」

くるみ「先生って意外としっかり食べられるんですね」

八幡「え?まあ腐っても高校2年生の男子だからな。それなりに食べないと腹もすく」

ゆり「先生は立派な日本男児ですよ!」

望「ま、目は本当に腐ってるけど」

八幡「聞こえてんぞ天野」

花音「……そんな腹ペコなあんたにはこれあげるわ」

そう言って煌上は肉の入った汁物のお椀を押し付けてきた。

八幡「なにこれ」

花音「別になんでもいいでしょ。さっさと食べなさいよ」

八幡「お、おう」

俺はしぶしぶその汁物を啜る。肉も食べた感じから想像すると豚のレバーのようだ。けっこういける。

そしてなぜかこの一連のくだりを国枝はニコニコしながら眺めている。

詩穂「やっぱり花音ちゃんは優しいわね」

望「花音が優しいってどういうこと?」

詩穂「豚レバーには目にいい成分が豊富に含まれてるの。花音ちゃんはそれを知ってて先生にお椀を渡したのよね?」

花音「ち、違うわよ!たまたま目の前にあって、残すのももったいないから渡しただけなんだから!」

くるみ「お野菜ならにんじんやブロッコリー、アボカドにホウレンソウなんかが目にはいいですね」

ゆり「それなら先生はチャンプルー系もたくさん食べないといけませんね!」

途端に俺の皿には色々な料理がこんもりと盛りつけられた。

八幡「いや、俺、食べたいものを自分のペースで食べたいんだけど」

くるみ「でもこれ食べなかったら先生の目が腐ったままってことに……」

八幡「逆にこれくらいのことで治るわけないだろ」

望「わかんないよー。明日朝起きたら沖縄パワーで目がきれいになってたりして!」

花音「でもこいつの目がまともになったところなんて想像つかないわ」

ゆり「た、確かに……」

詩穂「なら実際綺麗になったところを確認するしかないわ。だから先生。その料理はしっかり食べてくださいね」

八幡「いやいや、意味わかんねえから……」

そんなこんな言いつつも料理はおいしかったので、結局俺は盛られた料理を完食した。なんならさらにおかわりまでしてしまった。沖縄料理、おそるべし。
462 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/08/11(金) 19:34:04.58 ID:FxrruTUB0
俺ガイル厨バトガを穢すなクロスだったらイケメン金髪王子須賀京太郎に処女膜捧げる少女達出せ

俺ガイルキャラがバトガ無課金で継続プレイしてるSSだったら許す
463 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/12(土) 22:57:59.21 ID:kVfEpn430
本編5-15


八幡「知らない天井だ……」

あれ、なんで俺こんな豪華な和室で寝てるんだっけ。……そうか。修学旅行に来てたんだ。いつも通り1人で寝てたから実感ゼロだよ。

そういえば昨日は晩御飯が終わってホテルに戻ってきてからも色々あったんだよな……。そのせいで寝床に着いた途端すぐ寝ちまった。

時計を見ると朝の6時前。千葉よりも西にある沖縄は日の出が少し遅いため、この時間でも日差しは柔らかい。

八幡「なんか飲むかな」

だが日差しが無くても暑いのは暑い。俺は和室を出て冷蔵庫に向かう。

八幡「どれにしようかな……」

冷蔵庫の中の飲み物も飲み放題って言うんだから、至れり尽くせりってものだ。もう一生ここに住んでもいいかもしれない。

「どれにしようかしら」

冷蔵庫が見えて来ると、先客がいるらしく、ドアが開いていて声が聞こえる。ただ、巨大な冷蔵庫のドアに隠れて誰がいるかは確認できない。

「けっこう汗かいちゃったし、スポーツドリンクにしましょ」

そう言って先客さんはドアを閉めた。

八幡「あ……」

ドアの後ろから現れたのは、朝日に反射して白い肌が眩しく輝く煌上だった。

シャワーを浴びた後なのか、バスタオル1枚しか身につけていない。髪もいつものツインテールは解かれ、少し濡れつつ自然な流れで肩にかかっている。そんな肩から伸びるすらっとした腕は、きめ細かいシルクのように滑らかである。

タオルで隠れてはいるが、出るべきところは出ているし、締まるべきところは締まっているのがわかるボディライン。

そして水滴が伝って艶めかしい魅力を醸し出す健康的な太ももとふくらはぎ。これらが見事に調和して素晴らしいバランスを演出している。

花音「こ、このヘンタイ教師……」

だがその完璧な体つきの上に鎮座するのは不動明王もビビるような怒りの表情があった。

八幡「いや、その、暑いから飲み物でも飲んで落ち着こうかなって。けっして悪気があったわけじゃなくて……」

俺の言い訳をよそに、煌上は顔を上げずにフラフラと近付いてくる。

八幡「だから、その、あれだ。不可抗力だ。不可抗力。まさかお前がこんな時間にそんな恰好でいるとは思わないだろ?だから俺は悪くない」

まくしたてるように話す俺には無反応で、煌上は俺の目の前までやってきた。

花音「……そうね。でも私だってアンタが起きるなんて予想着かなかったわ。だから、」

煌上はゆっくり顔を上げて小声でつぶやいた。

花音「アンタの記憶を消す」

刹那、俺の顔面に鋭い蹴りの衝撃が加わり、俺は気を失った。

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八幡「知らない天井だ……」

あれ、なんで俺こんな豪華な和室に寝てるんだっけ。……そうか。修学旅行に来てたんだ。いつも通り1人で寝てたから実感ゼロだよ。

そういえば昨日は晩御飯が終わってホテルに戻ってきてからも色々あったんだよな……。そのせいで寝床に着いた途端すぐ寝ちまった。

……でも、確か一回起きた気がするんだよな。勘違いかな。

時計を見ると朝の8時。すでに太陽は昇り、夏の厳しい日差しが部屋に降り注ぐ。やべ。そういえば朝食の時間って8時だったよな。

急いで着替えて和室を出ると、襖の前に煌上が立っていた。

花音「遅い。いつまで待たせるのよ。もうみんなレストランに行ったわよ。このノロマ、グズ、ヘンタイ」

八幡「そこまで言うか……」

あれ、なんか大事なことを忘れているような気がする。なんだか今朝、目の前のこいつとすごくラブコメ的展開があったような……。

八幡「なあ。俺とお前、今朝なんかあった?」

背を向けている煌上にそう尋ねると、煌上は顔を真っ赤にして振り返った。

花音「……アンタと私の間には、1ミリたりとも何もないわよ!」

そう言って煌上はつかつかと部屋のドアを開けて出ていってしまった。
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:36:02.02 ID:EXDEcqAbO
やっぱり八幡の青春ラブコメはまちがっているなー
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 00:59:27.21 ID:79ug4WY5o
乙です
466 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/14(月) 00:03:13.57 ID:ZvccZ9tO0
番外編「ゆりの誕生日前編」


今日は夏休み。夏休みである。ここ神樹ヶ峰女学園にも例外なく夏休みが存在する。だが、星守クラスだけは事情が違う。

なぜかといえば、イロウス殲滅に夏休みなど存在しないからだ。そのため万が一の場合に即座に対応できるよう、星守クラスの生徒は毎日2.3人ずつ学校に来ることになっている。所謂「星守当番」というやつだ。あれ、この単語どっかで聞いたことあるな……。

八幡「うす」

俺がラボの扉を開けると中には既に今日の星守当番の1人が座っていた。

ゆり「先生!おはようございます!本日はよろしくお願いします!」

八幡「朝から無駄に元気だな……」

ゆり「今日は私が星守当番として頑張らなければいけない日ですから!逆に先生はもう少し覇気を出した方がいいと思いますが」

八幡「こんなお盆真っ只中の朝から元気でるかっつの」

そう。普段は八雲先生、御剣先生、理事長の誰かが星守とともに常駐しているのだが、今日に限っては誰もここに来られないため、俺が代わりに学校に来させられたのだ。しかもこの連絡が御剣先生から来たのは昨日の夜。まあ、1日くらいは行くのはしょうがないとしても、もう少し早く連絡が欲しかったです。

ゆり「そんなやる気ではイロウスにやられてしまいますよ!」

八幡「俺が戦うわけじゃないし別にいい。つか、後の2人はどうした。確か天野と常盤だったよな」

ゆり「望もくるみも今日は来ませんよ」

八幡「え」

ゆり「望はファッションショーの最終準備、くるみは父上の植物調査に同行しているんです」

八幡「てことは今日は…… 」

ゆり「私と先生の2人です!」

火向井と2人かあ。この熱い正義感は暑い夏には厚かましすぎる。まあそれ以外は特に気になることはないから、まだマシな部類ではあるが。

ゆり「なんですかその煮え切らない顔は」

八幡「別になんもねえ。俺はこれから残ってる宿題をやるから邪魔すんなよ」

ゆり「それなら私も一緒に勉強します!星守たるもの、身体だけでなく頭脳も鍛えないとなりませんからね!」

八幡「……」

前言撤回。今日1日、この熱さに耐える自信がありません。

---------------------------

ゆり「うーん。ここは、どうなってるんだ?」

勉強を始めて数時間、火向井はしばらく参考書の同じページを開いてにらめっこを続けている。

八幡「なぁ、さっきから何唸ってるんだよ。こっちが集中できないだろ」

ゆり「す、すみません、古文の問題が難しくて……」

八幡「……どこだよ。見せてみろ」

ゆり「え?あ、はい。この問題です」

八幡「この問題は掛詞がポイントだな。『まつ』は『松』と『待つ』、『こひ』は『火』と『こい』の両方の意味を持つ。それで訳してみろ」

ゆり「なるほど!さすが先生ですね!」

八幡「ま、国語はもともと居た高校でも学年3位だったからな。これくらいは教えられる」

ゆり「学年で3位!?やっぱり先生は勉強得意なんですね。それならばこの数学の微分方程式の問題も教えてもらいたいんですけど」

八幡「それは無理だ。直近のテストは9点だったし」

ゆり「それは流石に文系科目に力が偏りすぎじゃないですか?」

八幡「いいんだよ。理系科目なんて偉い研究者じゃない限り必要ない。むしろ、一般人はそういう人たちが作り出した機械の説明書を読んで理解しなきゃいけない。つまり一般人にとって文系科目のほうが理系科目より圧倒的に重要だと言える」

ゆり「いきなりものすごい方向に話が飛びますね……。でも先生にも理系科目の宿題が出てるんじゃないですか?」

八幡「まあ、そうだけど」

ゆり「では私が教えてあげますよ!特に物理は好きで昔から得意科目なんです!さあ!遠慮せず!」

八幡「いや別にいいって……」

俺の静止も聞かず、火向井はあれやこれや言い出した。多分教えようとしてくれているのだろうが、いかんせん何を言ってるか全くわからない。パスカルって何?ウエントワースの森にいたアライグマ?
467 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/14(月) 00:03:45.78 ID:ZvccZ9tO0
番外編「ゆりの誕生日後編」


そうして互いに宿題を教え合ううちに、俺も火向井も疲れたので休憩することにした。

頭を使った後にはこれ!MAXコーヒー!夏には冷蔵庫で冷やしたものをグイっと飲むのがベスト。冷たくてもなおブレない甘さが脳に染み渡る。どうして冷蔵庫にMAXコーヒーがあるのかって?ラボで仕事することが多いからストックしてるんです。正に社畜の極み。

脳内コマーシャルを流しながらMAXコーヒーを飲んでいると、向かいに座っている火向井は牛乳を飲みながらため息をつく。

ゆり「はあ。今日は脳の鍛錬はできましたが、体は動かせてないんですよね」

八幡「別にいいだろ。動かさなくていいものをわざわざ動かす必要はない」

ゆり「それではダメなんです!星守たるもの、頭も体も常に鍛えておかないと!」

八幡「だけど今日は激しい運動は禁止されてるだろ」

星守当番の人たちはイロウス討伐に全力を尽くさなくてはならないので学校での激しい運動を禁じられている。もともと体を動かさない人たちには何の影響もないのだが、火向井には耐えがたい制限のようだ。

ゆり「はい。だからストレスが溜まってまして、その」

火向井はなぜかもじもじしながら俺を上目遣いで見上げてきた。

ゆり「あの、先生のでストレス解消させてもらっても、いいですか?」

………………。

八幡「にゃ、にゃにいってりゅんだお前」

たっぷり間を取ったのに噛みまくりだった。

ゆり「朝からずっと、先生の、とってもやりがいがありそうだなと思ってたんです。ぜひ私にさせてください」

俺の動揺をよそに、火向井は俺に近付いてくる。待て待て待て。落ち着け俺。相手は風紀委員長だぞ?そんな子が『俺の』で『ストレス解消したい』だなんて普通言うか?いや、現に言ってる。ということはつまり、そういうことなのか?俺が覚悟を決めるしかないのか?

八幡「……わかった。いいぞ」

ゆり「本当ですか!?でしたら、その、Yシャツを脱いでもらってもいいですか?」

八幡「……おう」

俺は指先を震えさせながらYシャツのボタンを1つずつ外していく。今日は一応仕事なのでスーツを着てきていたのだ。まさか、ここで脱ぐとは思わなかったが。小町。俺は今日、大人になるよ。母ちゃん、親父。今まで育ててくれてありがとう。

俺のYシャツを受け取った火向井はどこからかアイロンとアイロン台を出してきて、俺のYシャツを広げる。

ゆり「では先生のYシャツをアイロンがけさせてもらいます!今朝からずっと先生のYシャツのしわが気になってたんです!私のストレス解消も兼ねてじっくりアイロンをかけさせてもらいますね!」

満面の笑みを浮かべながら火向井はアイロンがけを始める。

……え、ちょっと待って。『俺の』で『ストレス解消したい』って言うのは、『俺のYシャツ』で『アイロンがけをしたい』って意味?なんという叙述トリック。今時こんな小説流行らねえぞってレベル。俺の家族への感謝の気持ちを返せ。

そんな俺の葛藤は露知らず、火向井は鼻歌を歌いながらアイロンがけを続ける。なんだかアイロンがけをしている姿ってすごく家庭的な感じを受ける。嫁度対決とかしたら火向井ってけっこう上位にランクインしそう。

八幡「なんか、アイロンがけがストレス解消方法っていうのもなんか変わってるな」

ゆり「そうですね。でも私は将来良妻賢母になりたいと思っているので、これくらいできて当然です!」

八幡「へえ。ま、確かに言うだけあって手際がいいな」

ゆり「そ、そうですか?ありがとうございます」

少し顔を赤らめながらも火向井は手を動かし続けて、余すところなくアイロンをかけ終えた。

ゆり「さあ先生!どうぞ!」

八幡「ん」

俺は受け取ったYシャツを着なおす。そんな俺の光景を火向井はなぜかぼーっとした顔で眺めている。

八幡「なに」

ゆり「え?い、いえ!たいしたことはありません!ただ、なんだかこのやりとりが夫婦みたいだな、と思いまして……」

八幡「……っ」

た、確かにその通りかもしれない。女の子に料理を作ってもらうことはあっても、アイロンがけをしてもらうことなんてなかなかない。それこそ一緒に住むようにならない限り……。でも、夫婦よりももっと適した状況があることを俺は発見した。

八幡「いや、夫婦ってより、母親の手伝いをした健気な小学生とその兄って感じだな」

ゆり「うぅ……」

火向井の目がみるみる潤んでいく。あ、やべ、地雷踏んだわ。

ゆり「ち、小さいってゆうな〜っ!!」
468 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/14(月) 00:05:58.16 ID:ZvccZ9tO0
以上で番外編「ゆりの誕生日」終了です。ゆり、誕生日おめでとう!アニメも折り返しましたね。この先どんな展開になるんでしょうか。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 00:07:37.96 ID:el7Q1d3No
乙です
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 10:28:24.13 ID:p16S2pA6O
良いオチのつけ方だw
そういえばストレス発散方法アイロンがけだったなあ
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/14(月) 21:09:18.42 ID:QELusPnDO
乙です。

高校数学で微分方程式なんてやったっけか……
最近はそうなのかな?
472 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/14(月) 21:26:08.93 ID:ZvccZ9tO0
>>471の通り、微分方程式って高校ではやらないっぽいですね。しかも数学じゃなくて物理でした……。
>>1の文系脳によるアホさが露呈しました。ゆりが難しそうな数学の問題を解いてることを書きたかっただけです。無難に極大値の計算とかにしとけばよかった……。
473 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/15(火) 00:11:38.78 ID:zm02iBnO0
本編5-16


あわただしく朝食を終え、俺たちは2日目の目的地に到着した。

八幡「あっつ……」

望「海すっごいキレー!」

ゆり「うう、これから水着になるのか……」

くるみ「ここら辺にはあまりお花さんがいないわ」

花音「プライベートで海なんてすごい久しぶりかも」

詩穂「日焼けしないようにしっかりクリーム塗らないと」

隣人部以上にバラバラな感想を言っているが、一応全員同じ海を眺めている。今日は昼頃までここで遊ぶ予定である。

八幡「じゃあ俺は手早く着替えて場所取りしとくわ」

そう言って俺は1人、男子更衣室に向かう。朝早めに来たため、まだあまり海水浴客はいないが、これからもっと増えていくだろう。こっちは6人とそれなりに大所帯なので、男の俺が場所を確保する任務を与えられたためだ。

ちゃっちゃと着替えを済ませ、海岸のパラソルが立っているところにシートを広げる。

八幡「はあ……」

少し日差しを浴びただけで汗が止まらない。うんとうんと日差し浴びたらどうなっちゃうのこれ。遠い空や遠い海に誘われて、私の心は本当に雲の上に上ってっちゃうのかしら。

「はい先生!」

八幡「うおっ」

不意に首筋に冷たいものが押しあてられた。振り返るとそこには水着を着た5人の星守たちが立っていた。

望「先生お疲れ!」

そう言って飲み物を差し出す天野の水着は白のビキニに色鮮やかな花柄のフリルがついたものだ。首にはいろいろな色や形の石のネックレスも付けており、天野のオレンジの髪や明るい性格に合った姿だ。ちなみに露出度は高い。

詩穂「パラソルがあって、近くに売店があるところを選ぶなんて、やっぱり流石ですね先生」

話ながら日焼け止めを取り出す国枝の水着は水色と白のボーダーに、小さな白いひらひらがついたビキニだ。その分、胸の中心のピンクのリボンがよく目立つ。その上から薄水色のカーディガンを着ている。ちなみに露出度は高い。

花音「これくらいできて当然よ。それより詩穂。私が背中に日焼け止め塗ってあげるわ。貸して」

国枝を寝そべらせて日焼け止めを塗る煌上は胸の中心に金色に光る小さな丸いアクセサリーがあるだけの真っ白なビキニを着ている。至ってシンプルではあるが、だからこそ煌上自身の魅力が存分に表れていると言える。ちなみに露出度は高い。

くるみ「あれ、ゆり。そんな遠いところで何してるの」

常後ろを向きながら火向井に常磐は薄緑を基調としつつ、若緑の小さなひらひらが付いた、国枝と色違いのようなビキニを着ている。ただ、胸の中心にある小さな黄色い花がアクセントになっている。そしてその上からエメラルドグリーンのパーカーを着ている。ちなみに露出度は高い。

ゆり「み、みんなはスタイルいいから、気にしないのかもしれないけど、私は、その、全然だし……」

花音「でも日陰に入ったほうが涼しいわよ」

ゆり「うう……」

俯きながら火向井もシートに荷物を置く。そんな火向井はスポーツブラのような形の赤地に白い花が入った水着と、青のショートパンツの恰好だ。オレンジに白い水玉模様の半そでパーカーを着て全体的にスポーティにまとめていている。ちなみに露出度は高い。

望「これで全員揃いましたね。早速遊びましょうか」

八幡「……俺はここで座ってるよ。誰か荷物見とかないといけないしな」

くるみ「でも、」

八幡「いいんだよ。俺のことは気にするな。ほら遊んで来い」

半分は暑いから動きたくないという理由だが、もう半分は水着の女の子5人と遊ぶことを俺の心が遠慮しているのだ。すでに今の時点で周りから「水着の女の子の中に、なんであんな冴えないやつがいるの」みたいな視線が痛いほど刺さっているし。

詩穂「でしたら、私たちの遊ぶ風景を録画してもらえませんか?」

八幡「え、それは」

花音「そうよ詩穂。こんな腐った目で私たちの水着姿を撮られたくないわ。私たちまで腐りそう」

煌上に反論しようとした時、隣にいた火向井が暗いトーンで声を上げた。

ゆり「なら私が撮る。私もしばらくここにいようと思っていたし」

望「どうしたのゆり?調子悪いの?」

ゆり「……別にそんなことない。とにかく!私が撮るから4人は存分に遊べ!」

そう言って火向井は困惑する4人を強引にパラソルの下から追い出した。
474 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/15(火) 00:13:37.32 ID:zm02iBnO0
高2組の水着は全員「水着'16」で統一してます。まだ今年のくるみの水着が実装されていないためです。
475 : ◆JZBU1pVAAI [sage saga]:2017/08/15(火) 00:20:37.54 ID:zm02iBnO0
>>473訂正
誤……望「これで全員揃いましたね。早速遊びましょうか」
正……望「これで全員揃ったね!みんなで遊ぼうよ!」
476 : ◆JZBU1pVAAI [sage saga]:2017/08/15(火) 01:02:52.16 ID:zm02iBnO0
>>475以外にも訂正箇所がたくさんあったので全文再掲

本編5-16

あわただしく朝食を終えた俺たちは2日目の目的地に移動した。

八幡「あっつ……」

望「海すっごいキレー!」

ゆり「うう、これから水着になるのか……」

くるみ「ここら辺にはあまりお花さんがいないわ」

花音「プライベートで海なんてすごい久しぶりかも」

詩穂「日焼けしないようにしっかりクリーム塗らないと」

隣人部以上にバラバラな感想を言っているが、一応全員同じ海を眺めている。今日は昼頃までここで遊ぶ予定である。

八幡「じゃあ俺は手早く着替えて場所取りしとくわ」

そう言って俺は1人、男子更衣室に向かう。まだ早い時間に到着したため、あまり海水浴客はいないが、これからもっと増えていくだろう。こっちは6人とそれなりに大所帯なので、早く着替え終わる男の俺が場所を確保する任務を与えられた。

ちゃっちゃと着替えを済ませ、売店近くのパラソルが立っている浜辺にシートを広げる。

八幡「はあ……」

少し日差しを浴びただけで汗が止まらない。うんとうんと日差し浴びたらどうなっちゃうのこれ。遠い空や遠い海に誘われて、私の心は本当に雲の上に上ってっちゃうのかしら。

「はい先生!」

八幡「うおっ」

不意に首筋に冷たいものが押しあてられた。振り返るとそこには水着を着た5人の星守たちが立っていた。

望「先生お疲れ!」

そう言って飲み物を差し出す天野の水着は白のビキニに色鮮やかな花柄のフリルがついたものだ。首にはいろいろな色や形の石のネックレスも付けており、天野のオレンジの髪や明るい性格に合った姿だ。ちなみに露出度は高い。

詩穂「パラソルがあって、近くに売店があるところを選ぶなんて、やっぱり流石ですね先生」

話ながら日焼け止めを取り出す国枝の水着は水色と白のボーダーに、小さな白いひらひらがついたビキニだ。その分、胸の中心のピンクのリボンがよく目立つ。その上から薄水色のカーディガンを着ている。ちなみに露出度は高い。

花音「これくらいできて当然よ。それより詩穂。私が背中に日焼け止め塗ってあげるわ。貸して」

国枝を寝そべらせて日焼け止めを塗る煌上は胸の中心に金色に光る小さな丸いアクセサリーがあるだけの真っ白なビキニを着ている。至ってシンプルではあるが、だからこそ煌上自身の魅力が存分に表れていると言える。ちなみに露出度は高い。

くるみ「あれ、ゆり。そんな遠いところで何してるの」

後ろを向きながら火向井に話しかける常磐は薄緑を基調としつつ、若緑の小さなひらひらが付いた、国枝と色違いのようなビキニを着ている。ただ、胸の中心にある小さな黄色い花がアクセントになっている。そしてその上からエメラルドグリーンのパーカーを着ている。ちなみに露出度は高い。

ゆり「み、みんなはスタイルいいから、気にしないのかもしれないけど、私は、その、全然だし……」

花音「でも日陰に入ったほうが涼しいわよ」

ゆり「うう……」

俯きながら火向井もシートに荷物を置く。そんな火向井はスポーツブラのような形の赤地に白い花が入った水着と、青のショートパンツの恰好だ。オレンジに白い水玉模様の半そでパーカーを着て全体的にスポーティにまとめていている。ちなみに露出度は高い。

望「これで全員揃ったたね!みんなで遊ぼうよ!」

八幡「……俺はここで座ってるよ。誰か荷物見とかないといけないしな」

くるみ「でもせっかくの海ですよ?」

八幡「いいんだよ。俺のことは気にするな。ほら遊んで来い」

半分は暑いから動きたくないという理由だが、もう半分は水着の女の子5人と遊ぶことを俺の心が遠慮しているのだ。すでに今の時点で周りから「水着の女の子の中に、なんであんな冴えないやつがいるの」みたいな視線が痛いほど刺さっているし。

詩穂「でしたら、私たちの遊ぶ風景を録画してもらえませんか?」

八幡「え、それは」

花音「そうよ詩穂。こんな腐った目で私たちの水着姿を撮られたくないわ。私たちまで腐りそう」

煌上に反論しようとした時、隣にいた火向井が暗いトーンで声を上げた。

ゆり「なら私が撮る。私もしばらくここにいようと思っていたから」

望「どうしたのゆり?調子悪いの?」

ゆり「……別にそんなことない。とにかく!私が撮るから4人は存分に遊べ!」

そう言って火向井は困惑する4人を強引にパラソルの下から追い出した。
477 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/17(木) 00:51:44.59 ID:RZRjUMQJ0
本編5-17


俺たち6人が合流してしばらく経った。天野、常磐、煌上、国枝は4人でビーチバレーをして遊んでいる。そんな光景を俺と火向井はパラソルの下でじっと眺めている。一応火向井が4人の遊ぶ姿を録画しているが、時折ビデオを下げてため息をつく姿が切なげだ。

八幡「そんなため息つくくらいなら一緒に遊んで来いよ」

ゆり「た、ため息なんてついていません!それに、今はあの4人の近くにいたくないんです……」

そう言って火向井は自分の胸に手を当てて、また一つ大きめのため息をつく。ああ、そういうことか。アイドルやってる煌上と国枝はともかく、天野と常磐も抜群にスタイルがいい。そんな中に色々と小柄な火向井がいれば悪目立ちしてしまうだろう。普段から自分の身長を気にしている分、なおさら交わりずらいはずだ。

八幡「そうか」

ゆり「……それだけですか?」

八幡「いや、だって別に言うことないし」

ゆり「正直ですね……。でも、根拠もなく励まされるよりはずっといいです」

そう言って火向井は4人の遊ぶ姿をじっと見つめる。

……なんか調子狂うな。いつも熱いやつが冷えてると、こっちも落ち込むっつの。

八幡「なあ。お前、なんで小さいこと気にしてるの」

途端に火向井はジト目をしながら俺をにらんできた。

ゆり「私が小さいこと気にしてるの知ってて聞いてるんですか?しかもこの状況で?」

八幡「そうだ。今だからこそ聞いてる」

ゆり「……そ、それは、大きくならないと立派なヒーローになれないじゃないですか。それに、水着だとより望たちとの体格の差が明確になってしまって恥ずかしいんです」

俺の言葉に気圧されたのか、火向井は静かに告白する。確かに火向井の言うことも一理ある。人は固定観念と印象で人や物を見る。そしてそれは強い個性があればよりその個性に引っ張られる。火向井の場合はその小柄さに関連した印象を持たれることが多かったのだろう。それを彼女は強い正義感というさらに強い個性で塗り替えようとしているのだ。

だがそれが通用するのは、ある程度長い時間をかけて関わることができる人たちのみだ。一瞬すれ違うだけのような人には、見た目からの印象しか与えることができない。だから火向井は今、そんな周囲から逃れ、それなりに関わりのある俺とだけ会話しているのだろう。

八幡「なあ。今の言葉。普段のお前の考えとは真逆のものだと思うんだけど」

なぜかイライラした俺は強めの口調で火向井に話しかけた。

ゆり「普段の私?」

八幡「そうだ。常日頃の訓練と大きな熱意があればどんな敵にも負けない。この正義感をずっと貫いてきたのが火向井、お前じゃないのか?」

ゆり「そ、そうです!でも、今の状況じゃ私にできることはないですよ……」

八幡「ある」

瞬間、火向井はぱっと俺の顔を見上げた。その目は驚きと猜疑心が混ざっている。

ゆり「本当ですか?」

八幡「ああ。お前の信念を貫くために絶好のチャンスがここにはある」

ゆり「それはなんですか?」

八幡「ビーチバレーだ」

ゆり「ビーチバレー、ですか?」

八幡「そうだ。お前と俺で4人のやってるビーチバレーに混ざるんだ」

ゆり「それって、ただ私を望やくるみたちと遊ばせたいだけじゃないですか?」

八幡「違う。俺はお前を遊ばせに行かせるんじゃない。戦わせに行くんだ」

ゆり「た、戦い?」

八幡「ああ。ま、ここでグダグダ喋ってても実感わかないだろうから、とりあえずあっち行くぞ」

俺は立ち上がって一人、ビーチバレーのほうへ向かう。

ゆり「ま、待ってください!」

後ろから火向井が慌てて追いかけてきた。
478 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/17(木) 00:52:14.25 ID:RZRjUMQJ0
本編5-18


詩穂「あ、先生。火向井さんも来たのね」

花音「2人もビーチバレーやる?」

八幡「ああ。俺と火向井がチームになる。だから誰か2人、俺たちと試合してくれ」

望「アタシやる!くるみ。一緒にやろうよ!」

くるみ「ええ、いいわよ」

八幡「よし、じゃあよろしく」

ゆり「せ、先生!いきなり試合をするってどういうことですか?」

火向井はまだこの試合の意味がわかっていないようだ。仕方ない。少し説明するか。

八幡「いいか。スポーツっていうのは一つ一つのプレーが大事になる。特にバレーのような身長がモノを言うようなスポーツで小柄なやつが活躍してみろ。それだけで周りからの印象はだいぶ変わる」

ゆり「つまり、私がここで活躍できれば、これまでの私の正義が実証されるということですか?」

八幡「ま、そういうことだな」

これで火向井は全てを理解したらしく、いつもの明るい表情に戻った。

ゆり「でしたら先生。絶対この試合勝ちましょう!」

八幡「はいはい」

望「ねえ!ルールはどうする?」

向こう側のコートから天野が尋ねてきた。

八幡「簡単に10ポイント先に取った方の勝利ってことでいいんじゃねえの?なあ火向井」

ゆり「異存はありません!」

くるみ「私もそれで大丈夫です」

花音「面白そうね。なら私が簡単に審判をやるわ。詩穂。せっかくだからこの対決録画しといてもらえない?」

詩穂「任せて花音ちゃん」

ということで、俺、火向井ペアVS天野、常磐ペアによるハイキュー勝負が幕を開けた。

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八幡「はあはあ」

ゆり「くっ……」

現在スコアは3-9。圧倒的に負けている。というか相手のマッチポイント。

同時に周りには大勢のギャラリーがいるが、多くの視線は天野、常磐ペアに注がれている。特に常磐がスパイクを打つときは男たちの声が多く聞こえる。完全アウェー状態である。

八幡「このままだと負ける……」

ゆり「先生。一つ提案があるんですが」

八幡「どうした」

ゆり「私にスパイクをさせてください」

八幡「え、マジ?」

これまでネットの高さなども考えて火向井がトスを上げ、俺がスパイクをしてきた。が、あまり俺のスパイクは決まらず、この点差になってしまった。

ゆり「大丈夫です。多分届きます。任せてください」

火向井は力強くそう言い切る。ここまで言うなら任せてみるか。砂の上でジャンプするのもけっこうしんどいし。

八幡「わかった。頼む」

ゆり「はい!」
479 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/17(木) 00:53:33.79 ID:RZRjUMQJ0
本編5-19


それからの火向井の勢いは誰にも止められなかった。見事なレシーブ、驚異的な跳躍、そして強烈なスパイク。みるみるうちに点差が縮まり、ギャラリーの視線もかなり火向井に向けられるようになった。

ゆり「はあ!」

くるみ「うっ……」

また火向井のスパイクが決まった。これで9-9の同点だ。

八幡「お前よくあんなに跳べるな」

ゆり「日ごろの特訓の成果です!さああと1点取って逆転勝利しましょう!」

望「うーん。マズいなあ。くるみ!ちょっと来て!」

天野が常磐を呼んで何か話しあっている。

くるみ「なるほど。わかったわ」

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2人の作戦は「比企谷狙い」なのだろう。もうかなりのラリーが続くが、向こうのスパイクは必ず俺の方に来た。それゆえ必然的に俺がレシーブ、火向井がトス、再び俺がスパイクする形になるのだが、それでは決まらない。ただ向こうも火向井が取れないところを狙っているためあまり強いスパイクが打てず膠着状態に陥っている。

一つだけ、打開策がある。が、この作戦を火向井に伝える手段がない。どうすれば……。

ゆり「先生!またそっちに!」

八幡「お、おう」

頭に意識を集めすぎて反応が遅れそうになった。危ない危ない。

だがもう俺の体力も限界に近い。ここは一か八かにかけるしかない。

八幡「火向井!ボールは俺が絶対取る。だからネット際に移動してくれ」

ゆり「は、はい!」

火向井は指示通りネット際に移動した。

望「お?チャンス!」

そして思った通り、天野は火向井がもといたところにスパイクをしてきた。俺はボールに飛びつきながら、ネット際に高くレシーブする。

八幡「火向井!そのまま打ち込め!」

ゆり「任せてください!」

指示の先を読んでいたのか火向井はすでに跳躍姿勢に入っている。

くるみ「させない」

対する常磐もネット際で飛び上がる。ボールはネットのちょうど真上に落ちてきていて、どっちつかずなボールになっている。

ゆり「はあ!」

くるみ「やあ!」

そして落ちてきたボールに2人は懸命に手を伸ばす。

ゆり「絶対に、勝つ!」

落ちてきたボールは常磐の手のわずかに上を超えて相手コートに落ちた。

ゆり「やった……勝ちました先生!」

火向井が倒れみながら絶叫した。周りのギャラリーからも大きな拍手が贈られる。そしてそんな火向井の下に俺たちは自然と集まった。

望「ま、まさかあの点差から負けるなんて……」

くるみ「最後の迫力なんてゆりらしかったわ」

花音「すごいわねゆり!あんなにジャンプ力があるなんて知らなかったわ」

詩穂「ばっちり映像にも残せたわ。火向井さんの雄姿」

みんな口々に火向井のプレーを讃えている。これで火向井も気兼ねなく海を楽しめるかな。

ゆり「先生!先生のおかげで勝てました!ありがとうございます!」

火向井は俺の方を見て嬉しそうに話す。その姿を見て自然と口が開いた。

八幡「……いや、全部お前の実力だよ」
480 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/19(土) 23:14:33.40 ID:0NxHtKhH0
本編5-20


元気を取り戻した火向井も混ざり、5人はビーチバレーを楽しんでいる。なんで5人かって?俺は疲れたから休んでるんです。

ゆり「いくぞ!」

花音「臨むところよ!」

今ちょうど火向井がスパイクを打とうと飛び上がっているところだ。その跳躍からは先ほどの試合の疲れは微塵も感じない。俺とあいつ、どうして差がついたのか。慢心、環境の違い。

ゆり「ってうわっ!」

火向井が触れようとした瞬間、ボールが爆発した。俺も含めて6人は一度ネット際に集まった。

望「ちょ、大丈夫ゆり?」

ゆり「ああ。特にケガはしていない」

くるみ「でもなんでボールが弾けちゃったのかしら」

首をかしげる常磐の隣で煌上が声を上げた。

花音「みんな、あっちを見て!」

詩穂「イロウスね」

海の向こうから赤い竜のような大型イロウスが数体こっちに向かって飛んでくるのが見える。おそらくあのイロウスの攻撃がボールに当たったのだろう。

いくら数体とはいえ、海水浴客に危害が及ぶかもしれない。彼らの安全を優先しなくては。

八幡「あの、」

花音「じゃあ私と詩穂が避難を呼びかけるわ。それなりに知名度のある私たちなら話を聞いてくれるだろうし」

詩穂「それならスピーカーを使わせてもらって避難指示を放送したほうが効率的だと思うわ」

花音「そうね。じゃあ放送場所へ急ぎましょう。望、ゆり、くるみ。ここは任せてもいいかしら」

望「もちろん!ちゃんと足止めしとくよ!」

ゆり「ああ!沖縄の海の平和は私たちが守る!」

くるみ「避難指示。お願いします」

俺が何か言うまでもなく、すぐに役割分担が決まり、煌上と国枝は走り去っていった。対して目の前の天野、火向井、常磐は海に向かう。

望「いきなりドラケインと戦うなんて、最初からクライマックスみたいだね!」

ゆり「こら望!集中しないとやられるぞ!」

くるみ「初めから大型イロウスが現れるなんて、今まであったかしら」

そう言って3人は海の向こうのイロウスに向かって発砲を開始し、特に苦労せず倒してしまった。

八幡「流石に高校2年生ともなると、何の指示もなくてもイロウスを倒せるんだな」

望「ま、場数が違うからね!」

ゆり「何年も一緒に戦ってますから!」

自慢げに話す2人とは異なり、常磐は浜辺の先の方を見つめている。

八幡「どうした常磐」

くるみ「あの、あっちからもイロウスが来てます」

ゆり「なんだって!?」

望「しょうがないなー。ゆり!くるみ!行くよ!」

3人は再びガンを出して大型イロウスを倒しに行く。だが程なくして3人が向かった方角の反対からも数匹の大型イロウスがこちらへ向かってくるのが見えた。

八幡「おい。逆側にも大型イロウスがいるぞ!誰かこっち来い!」

花音「そんな大声出さなくても大丈夫よ」

詩穂「こちら側は私と花音ちゃんで倒しますから」

いつの間にか煌上と国枝が戻ってきていて、煌上はツインバレット、国枝はブレイドカノンを構えている。

花音「一気に行くわよ詩穂!」

詩穂「ええ。花音ちゃん」
481 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/23(水) 00:26:13.51 ID:EUNJrBnR0
本編5-21


合計5人となって、ますます攻勢を強める星守たち。倒せど倒せど湧き出てくる大型イロウスに困惑しつつも、次々に倒していく。

望「これで!」

ゆり「最後だ!」

天野と火向井が残った1匹を倒し終えたのを見て、5人はその場に座り込む。

花音「はあ、終わったかしらね」

詩穂「花音ちゃん、何匹も何匹も倒してたものね。お疲れ様」

くるみ「でもどうして大型イロウスしか出てこないんでしょうか」

詩穂「言われてみると確かにおかいしいですね。普段なら小型イロウスも必ず出てくるはずだわ」

望「大型イロウスだけのときもあるんじゃない?」

ゆり「いや、もしかしたら、この大型イロウスの群れを従えている超大型イロウスがいるのかも」

花音「新種のイロウスってことね」

望「そんなの出てきたらヤバいでしょ……」

その時水平線の少し上の方に何かが羽ばたいているのが見えた。初めは小さい鳥かと思っていたが、こっちに近付くにつれてその巨大さが目に見えて分かるようになってきた。

八幡「おい。みんな。海の向こうから何か飛んで来てないか?」

俺は恐る恐る口を開くと、5人も海を眺める。そしてすぐに全員の顔色が青くなる。

花音「嘘……」

詩穂「火向井さんの推理が的中しましたね」

くるみ「すごい大きなイロウス」

望「ど、どうすんのさゆり!」

ゆり「わ、私に聞くな!」

騒ぎ合っている俺たちに狙いを定めたのか、ドラケインを何倍も大きくした超大型イロウスは口から紫色の炎を吐き出した。

八幡「おい、お前ら避けろ!」

俺の声に反応して5人は間一髪で緊急回避することができた。炎が当たった場所は大きく抉られている。

ゆり「なんだ今の攻撃は……」

詩穂「今までの火炎攻撃とは比べ物にならない速さでしたね」

望「もう!こっちは大型イロウスと戦って疲れてるのに!」

くるみ「でも戦うしかないわ」

花音「戦うって言っても、戦略が無いと危険よ」

武器を構えてはいるが、みな不安げな面持ちである。先の戦闘による疲れと、新たな敵への恐怖がないまぜになっているのだろう。

八幡「みんな。俺の指示に従ってほしい。まずはやつがどういうイロウスなのか把握するんだ」

俺は5人を落ちるかせるためにわざと一言一言丁寧に言葉を紡ぐ。こういう非常時にはできることは限られる。ただでさえ普段通りではいられないんだ。むやみにいろんなことをするのはかえって危ない。最初はできる最低限のことをやりつつ、この状況に慣れるべきだ。

望「でも見た感じドラケインと同じ感じだし、一気にやっつけちゃったほうがよくない?」

八幡「確かに見た目は似ているが、攻撃威力が段違いだ。あんなのを食らったらひとたまりもない。まずは落ち着いてやつの特性を知る。話はそれからだ」

くるみ「見たことない植物さんを見つけた時、どのような生態なのか詳しく観察するのと同じですね」

ゆり「それは違うんじゃないか……」

花音「ま、こいつの言うことも一理あるわね。相手を知らないとこっちも手を出しづらいし」

詩穂「そうね。どの武器が効果があるのかも見極めたいところね」

八幡「ああ。だからこれからやってほしいことは、やつのすべての攻撃パターンを炙り出すこと、効き目のある武器種を発見すること。このの2つだ。いいな?」

こうして理屈を示しつつ、単純明快な目的を掲げれば、おのずと自分たちのやるべきことは見えてくるはずだ。

5人「はい!」

俺の意図をくみ取ったのか、はっきりした声で返事をした5人は、超大型イロウスを迎え撃つために散らばっていった。
482 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/26(土) 23:57:57.95 ID:15YblgiP0
本編5-22


ついに超大型イロウスが海岸に上陸した。上陸と言っても、常に俺たちの身長くらいの高さを跳んではいるのだが。

望「大きさはいつものドラケインのざっと3倍って感じ?」

くるみ「色はプセウデランテムム・アトロプルプレウム’トリカラー’に似ていますね」

花音「何色を指しているの……?」

詩穂「姿かたちはドラケインと酷似しているわ」

ゆり「なら武器種もドラケインに有効なガンから試してみよう!」

火向井がガンを発射するが、イロウスは爪ではじき返してしまう。

くるみ「正面からじゃ無理なのかしら」

詩穂「それなら背後からいくわ」

国枝がすかさず尻尾の方に回り込みブレイドカノンで斬りつけるも、イロウスは特にダメージを受けた様子もない。

花音「だったらツインバレットで手数勝負よ」

煌上は素早くツインバレットを連射するが、イロウスは翼を大きくはためかせることによってその攻撃を無力化した。

望「こうなったら接近戦!ゆり!くるみ!行くよ!」

ゆり「ああ!」

くるみ「うん」

天野がスピア、火向井がソード、常磐がハンマーで足を攻撃をするが、どれも装甲のような皮膚の前に歯が立たない。

むしろイロウスは足元に向けて炎を吐いて反撃してきた。3人は元いたところから急いで退却する。

花音「こんなの、どうしろっていうのよ」

詩穂「見て!イロウスが飛び上がったわ!」

国枝が言うように、超大型イロウスは空高く羽ばたいて、上空で急旋回した。

ドラケインも同じような攻撃をしてくるよな。この攻撃の対処法は、確か真正面に入らないことだったはず。

俺たちはイロウスの飛んでくるコースに入らないように距離をとった。ドラケインならこの攻撃の後に隙ができる。このイロウスも攻撃パターンが同じならその可能性も高い。こっちのチャンスだ。

俺と同じことを考えているのか、5人もイロウスの動きに注意しつつ、武器を構えてタイミングをうかがっている。

そして予想通り、イロウスが俺たちに向かって突っ込んできた。あとはこのイロウスに当たらないように避ければ大丈夫。

と思った瞬間、凄まじい衝撃が身体を襲った。

6人「うわっ!」

不意の衝撃には当然耐えられるわけもなく、俺たちは盛大に吹っ飛ばされてしまう。

反対にイロウスは俺たちを吹き飛ばした後、俺たちの荷物が置いてあったパラソルや、海の家に体当たりして、それらの周辺もろとも跡形もなく粉砕した。

八幡「みんな、大丈夫か?」

ゆり「は、はい」

望「うん。でもなんでアタシたち攻撃を避けられなかったのかな」

花音「多分イロウスの周辺に強い突風が起こったのよ。あの巨体でかつ猛スピードで突っ込んでくるんだから、危惧しとかなきゃいけないことだったわ」

詩穂「ただ、もう同じ攻撃は受けないわ。次からは十分に距離をとって回避しましょう」

くるみ「でも、そしたらあのイロウスはどうやって倒せばいいんでしょうか?」

常磐の言葉に全員が口をつぐむ。向こうの攻撃パターンは大体わかってきたのだが、こっちの攻撃手段に関しては手掛かりすら見つからない。

望「さっき試してない攻撃をやってみればいいんじゃない?」

詩穂「でもあと何を試せばいいのかしら」

花音「状態異常にさせるのはどう?」

ゆり「それをやるにしても、ダメージを与えないといけないから難しいかもしれないぞ」

くるみ「手詰まり、なんでしょうか……」
483 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/28(月) 00:00:16.33 ID:ylCWEtwx0
番外編「花音の誕生日前編」


今日を入れてあと4日で8月が終わる。これは同時に夏休みもあと4日で終わることも意味している。短い、短いよ。深夜の5分アニメ並に短い。アメリカの学生は3ヶ月くらい夏休みもらえるんでしょ?日本もアメリカに負けないように同じくらいの休み期間を設けるべきだと思います。

だからこそ、残り少ない休みは特に有意義に過ごすべきであり、こうして朝早くから現役アイドルと出かけるなど言語道断なのだ。

花音「ねえ、なんでそんなに目腐らせてるのよ。夏だと腐敗が進むの?」

八幡「俺の目は気温や湿度に関係なく、デフォルトで腐ってんだよ」

花音「はあ。朝からこんな顔してる人といなきゃいけないなんて、ついてないわ」

八幡「お前が呼んだんだろうが。しかも昨日の夜にいきなり」

花音「仕方ないじゃない。貴重なオフなのよ?午後からは仕事あるけど、学校も夏休みだし、パーっと遊びたいじゃない」

八幡「なら俺じゃなくて、国枝とでも遊べばいいだろ」

花音「詩穂は家族と出かけてるの。電話でも言ったじゃない」

じゃあ1人で行けよ、と言ったらまた凄まじい言葉の暴力を振るわれるから黙っておこう。

だが、正直場所が場所なだけに他の星守たちは遠慮したのかもしれない。

そう、今俺たちは築地市場のとある海鮮丼屋にいる。煌上は昨日の夜、築地市場に行きたいから付き合えと突然電話してきた。最初は高圧的な態度だったが、他に誰も来てくれないと言った時の寂しげな口調に、不覚にも少し心を動かされてしまい、今に至る。

店員「特製海鮮丼お待ちどおさまー」

花音「来たわね!」

タイミングよく海鮮丼が運ばれてきた。煌上のお目当てはこの特製海鮮丼らしい。数に限りがあるらしく、早朝から並ばないと食べられない逸品なんだ、と並んでいる途中に力説された。

その煌上は目を輝かせながら、海鮮丼を様々な角度から食いいるように眺めたと思ったら、スマホを取り出しカシャカシャ写真を撮りだした。

俺はそんな煌上を無視して箸を持とうとすると、その手を叩かれた。けっこう強めに。

八幡「いたっ、なんだよ」

花音「海鮮丼が綺麗に写って、かつあんたの手とかが入らないようにしてるんだから、勝手に動かないで」

まさかの身動き禁止令を発令された。

八幡「お前の写真に俺は関係ないだろうが」

花音「この写真はブログに載せようと思ってるの。汚いあんたの手とかを写りこませたくないわけ。そのくらい察しなさい」

そう言って何枚か写真を撮り終わると、海鮮丼に向けていたスマホを俺の方に向けてきた。

花音「今のでブログ用の写真はおしまい。今からはあんたを撮るから」

八幡「え、なんで?」

花音「詩穂に今日の写真送ってほしいって言われてるの。アンタも少しは協力しなさい」

八幡「だからって俺を撮るのは、」

花音「いいじゃない。面白くて」

そうやってはにかんだ煌上は、俺の嫌がる顔をバシャバシャ撮っていく。

花音「じゃ、詩穂に送ろっと」

満足いく写真が撮れたのか、国枝に写真を送る煌上の顔はとても楽しそうである。が、すぐに顔色が真っ赤に変わっていく。

花音「ちょ、詩穂。冗談、よね?そうと言って?」

八幡「どうした」

花音「詩穂が、私とアンタの2ショット自撮り写真が欲しいって……」

八幡「は?」

花音「私だってイヤよ!でも詩穂がそう言ってるんだから撮らないわけにはいかないでしょ」

煌上は腕を伸ばしながらスマホを遠ざけ、こっちに向けた画面を見ながらその位置を調整する。

花音「ほら。も、もっと私に近づきなさいよ。顔が入らないでしょ」

八幡「お、おう」

スマホの画面を見ながら顔が入るように近付いていくと、煌上の耳に自分の耳が触れた気がした。思わぬ感触に、触れる部分が熱をもったような感じがするが、そうは言っても離れることはできない。

煌上はというと、一瞬肩をビクっとさせたが、珍しく何も言わずにそのままスマホのシャッターを数回押した。
484 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/08/28(月) 00:01:35.69 ID:ylCWEtwx0
番外編「花音の誕生日後編」


海鮮丼を食べ終えた俺たちは、次なる目的地に向かって歩き始めた。

八幡「今度は何すんの」

花音「有名な鰹節専門店に行くわ」

煌上に連れられてたどり着いたのは、とある鰹節専門店。店内にはいろんな種類の削り節や、細かく砕かれパック詰めされただしパックが所狭しと置いてある。

店主「いらっしゃい!」

頭に白いタオルを巻いたいかにも市場関係者って感じの店主が声をかけてきた。

花音「あの、この『鰹節削り体験』ってやってますか?」

煌上は店先に置かれている看板を指さしながら質問した。

店主「もちろんさ!ちょうど今朝に高級な本節を入荷したからそれを削らせてやるよ」

店主は俺たちの前に30センチほどの削られる前の状態の大きな鰹節を持ってきた。

花音「こんなに大きくて硬くて立派なの初めて……」

煌上は店主から鰹節を渡されると、恍惚とした表情を浮かべながら感想を呟く。……しかし、言葉だけ切り取るとアブナイ発言だよな。でも男としては「女の子に言わせたい言葉トップ3」に入る言葉だと思います。

花音「ほら。アンタも持ってみなさいよ。すごいわよ」

渡された鰹節は見た目ほど重くないが、表面は物凄く硬い。これを削るとあのなじみ深い削り節になるとは信じ難い。

八幡「ほお。もともとはこんな感じなんだな」

店主「じゃあまずは俺が手本を見せるな」

店主は削り器を取り出し手本を見せてくれた。何回か削り器の上を素早く鰹節が往復すると、底には大きなピンクのひらひらした削り節が溜まっていた。

店主「今みたいに鰹節の両端を持ち水平に往復させて削るんだ。削り器に体重を乗せるイメージでやると綺麗にできるぞ。さ、やってみな」

花音「え、ええ」

煌上は恐る恐る鰹節を持って削り始める。が、先ほどの店主の動きに比べるとかなり遅く、しばらく経って底を開けても、溜まった削り節は小さく丸まっているものばかりだ。

花音「意外と難しいのね、これ」

店主「筋は悪くないが、ちょっと力が足りなかったかな。そっちの彼氏さんよう、あんたも可愛い彼女のためにチャレンジしてみないか?」

花音「こ、こいつは別に私の彼氏じゃないです!誰がこんなヘンタイで、適当で、屁理屈ばっかりなやつと付き合うってのよ!」

店主の陽気な発言に煌上が秒速で反論した。

八幡「お前初対面の人にそこまで俺の悪口言わなくてもいいだろ」

花音「でも本当のことじゃない。何か間違ったこと言った?」

店主「はっはっはっ。仲いいなお二人さん。ほら、兄ちゃんもやってみろ」

俺は鰹節を渡され、削り器に向かう。さっき店主がやっていたように、水平に、力強くやることを心がけて鰹節を動かしていく。

八幡「こんな感じっすか?」

ある程度削って俺は手を止めた。底を開けてみると、かなり綺麗な削り節が溜まっていた。

花音「アンタ意外とうまいわね」

店主「ホントだな。どうだ?このままうちで働かないか?」

八幡「いや、それはちょっと……」

こんなふうに話しつつ、俺と煌上は交代しながら鰹節を削り、それをパック詰めしたものをもらって店を後にした。

花音「鰹節を削るのも楽しかったわ。そうだ。この鰹節の写真も詩穂に送ろっと」

帰り際、駅に向かって歩きながら煌上は国枝に写真を送る。そしてすぐに返信がきたようだが、スマホの画面を見る顔が海鮮丼屋の時のように真っ赤になっていく。

八幡「今度はどうした」

花音「詩穂が『その鰹節が、花音ちゃんと先生の初めての共同作業の証なのね』って……」

八幡「な……」

花音「か、勘違いしないでよ!詩穂が言ってるだけで私はそんなことこれっぽっちも思ってないんだから!じゃ、じゃあ私はもう行くから!その鰹節、大事に食べなさいよ!」

今度は大声で色々とまくしたてると、煌上は駅の方へ走っていってしまった。午後から仕事なのに朝早くからあんなにはしゃいだり大声出したり大丈夫なのかあいつ。でも、なんだかんだずっと楽しそうに見えたのは気のせいだったろうか。俺は鰹節が入ったビニール袋を顔の高さまで上げながらそんなことを思った。
485 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/28(月) 00:04:16.64 ID:ylCWEtwx0
以上で番外編「花音の誕生日」終了です。花音誕生日おめでとう!
ツンデレ難しい。
486 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/08/28(月) 00:09:44.29 ID:ylCWEtwx0
それと1つお知らせです。これから1ヶ月ほど更新できなくなるかもしれません。遅くとも10月からはまた更新するつもりなので、読んでくださってる方はそれまでしばらくお待ちください。
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 08:04:43.78 ID:ZMVzcjMwo
乙です
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 18:48:03.46 ID:TOopkjvtO
おつ、復活待ってるよ〜
489 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/12(火) 22:34:09.30 ID:4gvv/DNK0
本編5-23

八幡「……いや、何か手があるはずだ」

俺の言葉に5人全員が驚きの余り口をぽかーんと開けて驚いている。俺なんか変なこと言ったかな……。

八幡「お前らのその顔は何」

花音「ア、アンタ今自分が何言ったかわかってる?」

望「よりにもよって真っ先に諦めそうな先生がアタシたちを励ましたんだよ!?」

くるみ「正直空耳かと思いました」

詩穂「私も一瞬自分の耳を疑ってしまいました」

ゆり「もしかして暑さで頭がヘンになっちゃったんですか?」

全員が全員ひどい反応を返してくる。これで俺が普段いかに頼りなく思われているかわかってしまった。ナニこの辛い現実。

八幡「あのな。お前らが思っているほど俺はダメ人間ではない」

望「『押してダメなら諦めろ』っていつも言ってるくせに」

八幡「それは確かに言ってるけど……。でも今回は事情が違うだろ。まだ押しきってない」

ゆり「まだ手立てがあるということですか?」

八幡「ああ。そもそもスキルを使ってないだろ?」

詩穂「確かにそうですけど、通常攻撃が通じないイロウスにスキルが通じるでしょうか」

八幡「そこはあれだ。できる範囲で頑張るんだ」

花音「まさか根性論?」

八幡「ちげえよ。むしろ根性なんかでどうにかなるんだったら苦労はしない」

くるみ「ではどうするんですか?」

八幡「できるだけこっちの攻撃力を高めた後、複数人でスキルを当てればいいんじゃないか」

俺の提案に5人は感心したようにおー、とつぶやくとすぐさま細かい打ち合わせに移る。

ゆり「それを全てやろうと思うとかなり準備に時間がかかりそうだな」

くるみ「こっちの準備が終わる前にイロウスに攻撃されたくないわね」

花音「なら攻撃班と補助班に分かれる方がいいかしら」

望「それがいいかもね」

詩穂「では早速2組に分かれましょう。それでよろしいですか先生?」

八幡「あぁ」

こうして攻撃を国枝、煌上。その補助を天野、火向井、常磐がそれぞれ担当することとなった。

花音「私と詩穂が攻撃態勢を整えるまで、なんとか時間を稼いで」

詩穂「できれば私たち2人からイロウスの周囲を逸らしてくれると助かるのだけれど」

望「どうすればいい先生?」

八幡「イロウスは自分に攻撃してくる存在に注意が向くから、補助班の3人がイロウスに攻撃していくしかないだろうな」

くるみ「通常攻撃は効かないのに、ですか?」

ゆり「別にダメージを与えようとしているわけじゃないからそこは心配ないぞくるみ」

八幡「火向井の言う通りだ。それよりも補助班の3人はまとまって近距離攻撃をしながらイロウスの攻撃を避ける、ということをこなしてほしい」

望「ガンやツインバレットを使っちゃダメなの?」

八幡「なるべく3人ともがイロウスの目の前にいた方が注意を引き付けやすい。それに高速の火炎弾や、強力な体当たりなんかの遠距離攻撃ををされると、煌上と国枝の邪魔になりかねないしな」

ゆり「難しい指示をずいぶん簡単に言いますね……」

くるみ「でも、やるしかないわ」

花音「ごめんね3人とも。お願い」

望「任せて。でも、そのかわり強烈な一撃、期待してるから!」

詩穂「ええ。必ず」
490 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/12(火) 22:35:25.33 ID:4gvv/DNK0
本編5-24


望「は!」

ゆり「せい!」

くるみ「やっ」

3人はソード、スピア、ハンマーを使ってイロウスの足を攻撃する。しかしイロウスはそんな攻撃を意に介すことなく平然としている。

くるみ「こんなに攻撃しているのに傷一つつかないなんて……」

ゆり「くっ、いくら効果が薄いとはいえショックだ……」

望「くるみ!ゆり!上から攻撃来るよ!避けて!」

天野の言う通り、イロウスは3人めがけて自らの足元に火炎をまき散らす。だがそれを3人は華麗に躱し、攻撃を続行する。

詩穂「準備できたわ花音ちゃん」

花音「よし。みんな!準備できたから一旦イロウスから離れて!」

少し離れたところから煌上が声を出してきた。

ゆり「とりあえず私たちの役目は果たせたな」

望「待ってました!」

くるみ「が、がんばってください!」

八幡「頼んだ」

花音「ええ。詩穂、同時に攻撃するわよ。タイミング外さないでね」

詩穂「もちろん」

2人は全速力でイロウスに向かって駆け出した。

花音「『リュミヌ・フィエール』!」

詩穂「『アモローソハーモニー』!」

瞬間、2人から鋭い閃光がイロウスに向かってほとばしった。あまりの眩しさと吹き荒れる砂によって目を開けることができないくらいだ。

だが、響き渡るイロウスの大きな悲鳴によって2人の攻撃が命中したのはわかった。

八幡「げほっ、げほっ。どうなった?」

明るさがもとに戻るのを感じ目を開けるも、舞い上がる砂で視界はほぼ遮られている。

が、次の瞬間、一気に視界が開けた。

そして目に入ったのは、上空からこちらへ向けて突進してくるイロウスの姿だった。

八幡「嘘だろ……?」

倒すまではいかなくても、ある程度のダメージを与えられていると思ったが、これもダメなのか……?

望、ゆり「危ない!」

迫るイロウスの前に茫然と突っ立っていた俺は、天野と火向井に思いっきり引っ張られた。そのおかげでイロウスの攻撃は避けることができたが、かわりに天野に思いっきり頬をひっぱたかれた。

望「何ぼんやりしてるの!まだ戦闘中でしょ!」

八幡「いや、だが、さっきの決死の攻撃でもあのイロウスには通じなかったんだぞ……?」

ゆり「だから何ですか。ダメならまた新しい手を打つまでです」

八幡「新しい手って言っても、もうこれ以上はどうしようもないだろ……」

くるみ「私たち星守は、絶対諦めちゃいけないんです」

声のした方を振り返ると、いつの間にか常磐も俺たちの傍に来ていた。

八幡「でも、今の追い詰められた状況では、もう、」

くるみ「いえ、まだ手はあります」

俺の弱気な発言を遮って、常磐は目に強く輝かせながらそう言い切った。
491 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/09/12(火) 22:37:38.00 ID:4gvv/DNK0
時間ができたので少しだけ更新します。でもまたしばらく更新できません。
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 20:54:39.66 ID:GhMMyFXHo
乙です
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/23(土) 01:38:34.36 ID:XgUKOUwD0
むみぃをすこれ
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/23(土) 01:39:00.96 ID:XgUKOUwD0
むみぃととうふさんすこ
495 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/23(土) 16:14:44.94 ID:cs8y5TGI0
番外編「遥香の誕生日前編」

9月も下旬に入った。真夏の暑さはもう過ぎ去り、日暮れ近くにもなればひんやりとした風が頬をなでる。

八幡「はぁ……疲れた……」

仕事を終えた解放感からか、思わず独り言がこぼれた。そう、今日は秋分の日なのだ。祝日なのだ。本来なら学校には行かなくていいはずなのだが、この時期は文化祭や体育祭、修学旅行に課外活動と学校行事が立て込んで先生方はてんやわんやらしい。そのためなのか、俺の下に星守関係の仕事が降ってきて、今日は朝からラボに籠っていたのだ。1人で。

おかしいのだ。ジャパリパークには、けものは居てものけものはいないはずなのに、今日はずっと1人だったのだ。ジャパンはジャパリパークよりも過酷なところなのだ。

……。いつの間にかアライさんになってた。本当に疲れてるな俺。なんだかんだ腹も減ったし、今日はこのまま外で飯食べるかな。そう言えばここらへんに御剣先生が昔バイトしてたっていうラーメン屋さんがあったっけ。せっかくだし行ってみるか。

ぼっちスキル『1人で行動するときはウキウキしながら目的地を目指す』を発動しつつラーメン屋のあたりにやって来ると、1人の少女がラーメン屋の前をうろうろしているのが目に入った。その少女は俺に気付くとこちらへ向けて歩いてきた。

遥香「先生。こんなところで何してらっしゃるんですか?」

八幡「成海か。いや、俺はそこのラーメン屋に行こうと思ってたんだが」

遥香「本当ですか!?それなら私もご一緒していいですか?」

途端に成海は目を大きく開かせながらぐいっと俺に迫ってきた。いきなり物理的に距離を縮めないでくれるかなぁ。ぼっちスキル『突然異性に至近距離で頼みごとをされたら断れない』が発動しちゃうだろ。いや、これはスキルじゃないですね。ただの拗らせ。ま、ぼっちスキル抜きにしても、断るほどのことじゃないか。飯食べるだけだし。

八幡「……わかった。いいぞ」

遥香「ありがとうございます先生。では早速行きましょう」

ほっと一息ついた成海は少し遠慮がちにドアを開けて店に入っていく。俺もその後に続く。

遥香「お店の中はこんな感じなんですね」

成海は感心しているが、俺にはごく普通のラーメン屋にしか思えない。どこに感動してんだこいつは。

八幡「おい、通路に立ってると邪魔だぞ。早く座れ」

遥香「は、はい。すみません」

そうして俺と成海は空いているテーブル席に座る。早速メニュー表を見てみると、意外とラインナップが充実していることに驚いた。ラーメンはもちろんのこと、数種類のチャーハン、餃子や春巻きなんかもある。

八幡「これだけメニューがあると、どれを食べるか悩むな」

遥香「そうですよね。どれから食べるか悩みますよね」

俺は「どれを」食べるか悩んでるのに、目の前の成海は「どれから」食べるか悩んでいました。どんだけ食べるつもりだこいつ……。

結局俺は一番人気のラーメンとチャーハンのセット、成海はチャーシューメンとカレーチャーハンのセットを注文した。

遥香「そういえば今日は休日なのに、先生はどうして学校近くのこのお店に来ようと思ったんですか?」

ラーメンが来るのを待っていると、ふいに成海が質問してきた。

八幡「いや、さっきまで学校にいたんだよ。休日だけど仕事させられてたの」

遥香「そうだったんですか。やっぱり先生は大変なお仕事なんですね。お疲れ様でした」

八幡「あ、あぁ。つかお前こそ1人で何やってたんだよ。今日はお前の誕生日だろ?星月や若葉と遊んだりしてなかったのか?」

俺の何気ない質問に、成海は顔を赤らめて目をそらしながら口を開いた。

遥香「ど、どうして私の誕生日が今日だって知ってるんですか?」

八幡「いや、今日整理してた資料に書いてあるのを見ただけだが、ダメだったか?」

遥香「い、いえ!先生になら見られても全く問題はありません!そ、それで、質問の答えですが、今日はこの近くで行われていたボランティア活動に参加していたんです」

やけに慌ててるな。やっぱり誕生日知っちゃったのはマズかったのかな。今度から気を付けよ。というか、休みの日、しかも誕生日当日にボランティア活動に参加するなんて、俺には理解できない。

八幡「天地がひっくり返っても俺にはできない高尚な休日の過ごし方だな」

遥香「高尚などと言わないでください。私がやりたくてやっているだけですから」

八幡「いやいや、ボランティアやりたい、だなんてなかなか思わんぞ。少なくとも俺は絶対思わない。そもそも他人のために何かしてあげようっていう感情が発生しない」

遥香「別に私は『何かしてあげよう』と思ってボランティアしてるわけではないですよ?」

八幡「ならなんのためにやってるんだ?」

遥香「私は、恩返しのためにやっているんです」

八幡「恩返し?」

俺が聞き返したその時、注文してたラーメンやチャーハンが運ばれてきた。

遥香「あ、来ましたね。ラーメンもチャーハンも美味しそうです。冷めないうちにいただきましょう先生」

そう言って成海はチャーシューメンとカレーチャーハンをまるで飲むように食べていく。俺がまだ全体の半分も終わってないうちに全て完食した成海は追加で味噌ラーメンと餃子のセットを注文した。……注文取りに来た店員が若干引いていたのは見なかったことにしよう。うん。
496 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/23(土) 16:15:21.97 ID:cs8y5TGI0
番外編「遥香の誕生日後編」


遥香「ふぅ、美味しかった。あ、すみません。まだ話してる途中でしたよね。どの料理も美味しくて箸が止まらなくて……」

八幡「そういえばそうだったな。恩返し、とか言ってたっけ?」

最初の注文から数えて5人前はゆうに平らげた成海は一息ついて話し出した。それはそれで恐ろしいのだが、この光景にあまり違和感を抱かずに会話を再開する俺自身も怖い。人間、どんな状況にも慣れてしまうものなのか……。

遥香「はい。もともと私、小さい時は引っ込み思案な子だったんです。学校でも1人、家でも1人。だからお人形くらいしか友達がいなかったんです」

あれ、いきなり暗い過去を話し始めたぞ?そういう話をするなら事前に予告しといてくれよ。せっかくの飯も美味くなくなるだろうが。

遥香「でも、そんな私に明るく笑顔で話しかけてくれる子が現れたんです。それが、みきでした」

八幡「星月が?」

遥香「はい。みきと一緒にいるようになって、私もだんだん前向きな性格に変わっていくことができました。それから自然と、こういう風に私を変えてくれたみき、そして私と仲良くしてくれる色んな人に感謝するようになったんです」

遥香「だから私は自分を変えてくれた周りの人たちのために、そういう人たちの笑顔を守るために行動したいと思ったんです。星守になったのも、医者を目指しているのも、ボランティアをするのもそれが理由の1つになってます」

自らを変えてくれた周囲のために動く。それは並大抵の心構えではできないことだろう。おそらく成海は心の底から他人に感謝していて、その人たちのために動くことにためらいは全くない。本当に人間が完成されている。材木座あたりに成海の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらい。

八幡「……だが、それだと成海自身は報われないだろ」

でも捻くれてる俺はつい悪態をついてしまった。いくら周囲に感謝しているとはいえ、無報酬でそれを続けられるほど人間強くない。必ずどこかで自分の利益を求めるはずだ。

遥香「そんなことはないですよ。むしろまさに今、報われています」

八幡「今?」

遥香「はい。日中にボランティア活動をしたからこそ、こうして先生と会うことができて、一緒にラーメンを食べられてるんです。立派に報われてるじゃないですか」

八幡「いや、それはさすがに割りに合わないだろ……」

遥香「そんなことありませんよ。先生がいなければお店にすら入れなかったんですから。むしろ私は先生に日ごろの感謝の意を伝えたいと思っています」

成海は体をグイッと乗り出して力説する。けど、そんな風に言われるほど俺はたいして何もしていない。

八幡「買いかぶりすぎだ。俺は仕事だから色々やってるだけで、別にお前らのことを考えてるわけじゃない」

遥香「そうですか?私には、時折とても楽しそうにしているように見えますけど」

想定外の成海の指摘にすぐに反応できなかった。お、俺が楽しんでる?神樹ヶ峰での生活を?まさか……。

八幡「そんなわけないだろ。俺は神樹ヶ峰に来た当初からずっと、早くこの交流が終わることしか願っていない」

遥香「そうやって自分を偽っていると、体にも心にも悪いですよ?」

成海は体勢をもとに戻したと思うと、澄んだ水色の瞳でじっと俺の目を見て語りかけてきた。正直、これは物理的に近づかれるよりもずっと心に刺さる。

八幡「……偽ってなんかねえよ。それに、体に悪いって言うならお前の暴食だって体に悪いだろうが。医者目指すならもっと普段から節制したほうがいいんじゃねえのか?」

遥香「た、たくさん食べることは悪いことじゃありません!」

俺は強引に論点をずらした。いや、ずらさざるを得なかった。これ以上追及されたらどうなってたかわからない。こんな安易な軌道修正に成海が乗っかってくれて助かった。

八幡「でも食べすぎは体に悪いだろ。確実に」

遥香「偏った食べ物ばかり食べる生活をしていたら確かに体に悪いですね。でも私は栄養バランスも考えてますし、食べた分、運動も勉強もしていますから大丈夫です」

いや、明らかに摂取カロリーと消費カロリーの釣り合い取れてないでしょ。サイヤ人かっつの。満月を見て大猿になったり、怒りから髪の毛金髪になったりしないよね?

遥香「それに、自分のやりたいことをやることが一番の健康法だと私は思ってますから」

にっこり笑う成海だが、目が笑ってない。やべ、強引に論点ずらしたの絶対バレてるわ……。さすがにやりすぎたか。

遥香「医者を目指す私が言うのもなんですが、病と心はとても深くつながっていると思うんです。体には異常がなくても心が弱っていると健康を害しますし、逆に心が強ければ不治の病だって治りえます。だから、先生には少しずつでもいいので、自分の心に素直になってほしんです。それは、絶対に先生のためになることですから」

俺は成海の指摘に何も答えられない。自分に素直にと言われても、俺自身が自分のことをわかっていないんだからやりようがない。振り返ってみれば、俺は周りに流されるがままに生きてきた。与えられたことをこなすだけ。そこに心はない。それは奉仕部でも神樹ヶ峰でも同じだと思っていた。でも、もしかしたらどこかで自分のために動いていた節があるのかもしれない。だって俺は、他人のためだけに動けるほど出来た人間ではないのだから。

遥香「……ふぅ。たくさん話してまたお腹が空いてきました。すみません、ワンタンメンとあんかけチャーハンのセットお願いします」

しばらく沈黙が続いた後、成海はうーんと伸びをしてから新たな注文をする。

八幡「は?まだ食べるの?」

遥香「はい。今日は誕生日なのでお腹いっぱい食べようかと思ってます。先生、まだ私に付き合ってくれますよね?」

少し首をかしげながら温かい笑顔で成海は尋ねてくる。俺が断るとは微塵も思っていない、このかわいらしい表情に不覚にも少しドキッとしてしまった。

八幡「……ま、お前がまだ食べるなら、デザートくらいなら食べてもいいかな」

こう答えてしまうあたり、やはり俺は周りに流されてしか行動できない生き物らしい。でも、今の返答には「笑顔でおいしそうに食べる成海をもう少し目の前で見ていたい」という気持ちが、ほんの少し含まれていたことは否定できない。
497 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/09/23(土) 16:17:18.43 ID:cs8y5TGI0
以上で番外編「遥香の誕生日」終了です。遥香、誕生日おめでとう!少しシリアスっぽくなってしまいました。
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/24(日) 04:02:42.71 ID:KJ4OjHV9o
乙です
499 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/26(火) 01:39:42.82 ID:1XUGqDYi0
本編5-25


望「くるみ、それってどんな方法?」

くるみ「それは、」

ゆり「それは?」

くるみ「……全員でイロウスに向かってスキルを発動すること、です」

花音「つまりより強い火力で勝負するってこと?」

くるみ「はい。さっきは2人でしたけど、5人で力を合わせればもっと強い火力が出せるはずです」

詩穂「5人で力を合わせれば……」

常磐の意外な意見に4人は困惑している。それは俺も同じだが、それ以上に言わなければいけないことがある。

八幡「常磐。お前の考えはダメだろ。あのイロウスに正面から火力勝負しても勝ち目はない」

くるみ「どうしてまだやってみてもないのにそう言い切れるんですか?」

八幡「そりゃ、今までの様子から予想すればそう思うだろ」

くるみ「でも他に方法はありません」

花音「……確かにくるみの言う通りかもしれない」

ゆり「私たち5人が力を合わせれば倒せないイロウスはいない!」

詩穂「試してみる価値はあるかもしれませんね」

望「うんうん!」

常磐はなおも強気な姿勢を崩さない。そんな常磐に感化されて、他の4人も常磐の意見に同調し始める。

八幡「待て、落ち着けお前ら。いくらスキルを同時に発動したところでなんとかなる相手じゃないだろ」

くるみ「……そんなに反論するなら」

八幡「あん?」



くるみ「そんなに反論するなら、何かアイデアを出してください!」



八幡「…………」

今までの常磐からは想像つかない、激しく厳しい叱責が俺を襲った。

くるみ「さっき、花音さんと詩穂さんの攻撃が効かなかったときから、先生ずっと消極的な態度ばかりとってます。もうイロウスを倒すことを諦めてしまったんですか?」

八幡「いや、そんなことはない……。だが、やみくもに戦ったところで意味はないだろ?」

くるみ「でも方法が無ければ力任せになっても戦いをやめてはならないと思います」

八幡「……」

俺だけじゃない。他の4人も常磐の尋常ではない雰囲気に気圧されて何も言えなくなっている。

くるみ「どんな状況に陥っても、私はここにいる植物さんを、そしてみんなを守りたいんです」

八幡「だからって策無しにつっこんでも何も生まれないぞ。そんな勝算の薄い危険な賭けを認められるわけないだろ」

くるみ「でも私たちがここで立ち向かわなければ、一体誰があのイロウスを倒せるんですか?」

八幡「それは……」

花音「……ねえ!イロウスがまたこっちに向かって体当たりしてくるわ!みんな避けて!」

煌上の呼びかけによって、俺たち6人はぎりぎり回避行動をとることができた。くそ。やっぱりこんなイロウス相手じゃ、どんな攻撃も通じないだろ……。

望「うう、砂口に入っちゃった……。じゃりじゃりする……」

ゆり「私も目に砂が入ってしまった……」

立ち上がりながらあたりを見渡すと、どうやら天野と火向井は回避行動した時に目や口に砂が入ったらしい。2人はそれぞれすごく嫌そうな顔をして砂を取り除こうとしている。まあ、確かに少しでも砂が目や口に入ると痛いし気になるよな……。いや、待てよ。

八幡「そうか。その手があった……」
500 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/26(火) 01:40:23.35 ID:1XUGqDYi0
本編5-26


詩穂「先生?突然笑いだしてどうしたんですか?」

おっと、思わず笑みがこぼれていたか。だけど、なんとか打開策にたどり着いたんだ。俺だけで噛みしめてないでこいつらにも伝えなければ。

八幡「いいか。あいつにダメージを与えたければ、イロウスの弱点をつけ」

望「弱点になる武器を使うってこと?」

八幡「まぁそれもあるな。だがもっと効果的なのは、イロウスの急所を狙って攻撃することだ」

ゆり「急所?」

八幡「あぁ。どんな生き物であれ、防御態勢をとっていれば強い攻撃にも余裕で耐えられるんだ。だがひとたび急所を突かれれば、攻撃自体が弱くても大ダメージを受けるものさ」

くるみ「いまいちよくわからないんですが……」

常磐はまだ理解できていないように首をかしげている。仕方ない。もう少し説得力のある話をするか。

八幡「いいか。これは俺の友達の友達の話なんだが、そいつには好きな子がいた。仮にその子をA子ちゃんとする。そいつはどうにかしてA子と付き合おうと、顔を合わせたら会話をし、家に帰ればメールをし、さらには誕生日まで割り出してセルフセレクションのおすすめアニソンメドレー100選のCDをプレゼントしたりしていた」

花音「ちょっと、いきなり何言ってんのよ」

八幡「いいから最後まで聞け。そんな度重なるアプローチをされながら、A子はなかなかそいつの好意を素直に受け取らなかった。そんなある日だ。そいつが例のごとく他の班の奴らに掃除をサボられ、1人で掃除をしていた時に、A子を含む数人の女子が歩いているのを見つけた。そいつが見つからないように聞き耳を立てると、女子たちはコイバナをしていたんだ」

八幡「『A子、最近男子に言い寄られてるって本当?』

『あーそれ私も気になる!』

『いや、そんな楽しい話じゃないって……』

『またまた、そんなこと言ってさ!』

『いや、本当だから。考えてみて?すれ違うたびに気持ち悪い視線浴びせられて、家に帰ればつまらないメールを大量に送りつけられて、更には意味不明なCDまで渡されるんだよ?しかも教えてもないのに誕生日に。こんなことされて誰が喜ぶって言うの?』

『そ、それは…………』

『ね。ま、でも最近はわざとそっけない態度取ってるし、メアドも変えたからもう大丈夫だけどね』

なんて会話をなんの心の準備もないまま聞いた俺は、箒を持ったままその場で立ちつくすことしかできなかった。結局掃除も終わらず、次の日に先生に怒られ、さらにはサボってた班の奴らにも怒られたんだ……」

俺の話に全員が明らかにドン引きしている。あれ、こんなはずじゃなかったんだけどな。

望「な、なにこの先生のとんでもなく切ない話は……」

八幡「俺じゃねえ。友達の友達の話だ」

ゆり「でも、今の話に何の意味があったんですか?」

八幡「ようするに、ダメージを与えるのに必要なのは手数や威力じゃなく、いかにそいつの弱みをつけるかにかかってるってことだ」

くるみ「なるほど。先生の告白はA子さんには届かなかったけど、A子さんの拒絶は確実に先生の心に届いてますもんね」

花音「くるみ、あなた容赦ないわね……」

詩穂「と、とにかくイロウスの急所を突くと言う話は理解できました。でも、イロウスの急所ってどこなんですか?」

国枝の質問に他の4人も確かにそうだ、と言わんばかりに俺の顔を見つめてくる。

八幡「それは、目と口だ」

5人「目と、口?」

八幡「あぁ。天野と火向井、さっき砂が目や口に入ったろ。あの時すごい違和感がなかったか?」

望「そりゃあるよ!だって目に砂が入ったんだよ?痛いに決まってるじゃん!」

ゆり「口に入ってもジャリジャリして気持ち悪いですよ!」

八幡「だろ?でも入った砂は本当にごく小さいものだ。こんな小さいものでさえ、目や口に入れば痛いし気持ち悪いんだ。なら、そんな場所に強烈なスキルをお見舞いしたらどうなるか、あとはわかるよな?」

俺の説明に5人は合点がいったらしく、目を見開きながら、お互いに顔を見合わせる。

花音「つまり強力なスキルを使うのは変わらないけど」

詩穂「イロウスの急所である目や口にスキルを当てれば」

くるみ「イロウスに大ダメージを与えることができる……」

ゆり「一気に勝機が見えてきたな!」

望「まぁ、説明のされ方がイマイチだったけどね……」
501 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/26(火) 01:41:02.97 ID:1XUGqDYi0
本編5-27


こうして俺たちは再びイロウスと対峙する。

花音「まずは私と詩穂でイロウスの目を攻撃するから3人はその後に攻撃お願い」

詩穂「目を攻撃されれば動きが鈍くなるはずです。そこを突いてください」

2人は言うや否や、イロウスの背後に回りこみ、そこから飛び上がってイロウスの目に肉薄する。

花音「まずはその視界、奪うわ。『リュミヌ・フィエール』! 」

詩穂「観念して下さい。『アモローソハーモニー』! 」

先ほどの光がもう一度発生し、イロウスの双眼を直撃する。

望「すごい!めちゃめちゃ効いてそうだよ!」

ゆり「よし、このまま私たちもいくぞ!」

くるみ「そうね」

地上に待機していた3人は武器を握り直して次の攻撃の準備をする。

イロウス「ギャオー!!!」

次の瞬間、イロウスは苦しそうに雄たけびを上げて遥か上空へ飛び上がった。

八幡「おい、イロウスの様子がおかしいぞ。どうなってるんだ」

花音「私に聞かれてもわかんないわよ!」

詩穂「攻撃は確かに命中したと思うんですが」

煌上と国枝も合流した後、イロウスはかなり高いところで動きを止めたと思ったら、矢継ぎ早に高速の火炎弾を放射してきた。

八幡「やべぇ……!」

視界を失ったイロウスは防衛のために四方八方に火炎弾を連射する。天野たちの攻撃はこれにより遮られ、それどころか浜辺全体が火炎弾の射程範囲に入り、着弾した場所からどんどん大穴が開いていく。

俺たちはなんとか火炎弾をかわしながら、もとは海の家であったろう瓦礫の山に身を潜めて状況を整理する。

詩穂「ごめんなさい。私たちが目を攻撃したばかりに……」

八幡「別に国枝が謝ることじゃない。これは不測の事態だ」

花音「でもそんなこと言ってられないでしょ。どうすんのよ」

八幡「目に当てただけでここまで暴れるんだ。あと一発、至近距離からスキルを当てられれば倒せるとは思う」

望「火炎弾だけならなんとかなるけど」

くるみ「問題はどうやってあの高さまで達するか、ですね」

ゆり「地上からではどんな攻撃も通じないしな」

そう。攻撃を避けるだけならなんとかなるのだ。だが、イロウスが恐ろしく高い場所にいるため、いくら星守とはいえ攻撃が届かないのだ。

少し沈黙が続いた後、天野がおずおずと手を上げた。

望「5人で連携すれば、イロウスのいろところまで届くんじゃないかな」

詩穂「どういうことですか天野さん?」

望「簡単に言うと、ジャンプした人の肩を踏み台にしていく人間階段を数段作るの。跳ぶ人は1人で、4人が踏み台になればなんとかなると思う。どうかな先生?」

八幡「悪くない。やってみる価値は十分あると思う」

くるみ「そしたら誰がイロウスのところまで行くか決めないと」

詩穂「それは火向井さんしかいませんよ。この中で一番跳躍力があるんですから」

国枝の発言を受け、一斉に視線が火向井に集中する。当の本人は自体が呑み込めていないのか目をぱちくりさせている。

ゆり「わ、私?」

望「そうだよ!ビーチバレーの時もすごかったもん!」

くるみ「それに何回も素早く跳ぶのはゆりしかできない」

花音「ゆりが一番適任ね」

詩穂「私たちも全力でサポートします」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 20:40:53.83 ID:nbBSHN/O0
続き来てたか!おつ
かっちゃん誕生日もしっかり消化しててすばら
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/29(金) 23:41:45.81 ID:zqAa95QPo
乙です
504 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/30(土) 01:38:01.97 ID:c1cC7iSj0
番外編「くるみの誕生日前編」


八幡「これで最後だな」

くるみ「はい。ありがとうございます。助かりました」

爽やかな秋晴れの空の下。俺と常磐は2人で花壇の雑草取りをしていた。常磐が1人黙々と雑草取りをしている光景に、つい声をかけたのがきっかけで、俺も一緒に作業することになった。

八幡「改めてみると、綺麗に咲いてるな。毎日世話しているだけのことはある」

くるみ「いえ、私はお花さんたちの声の言う通りにしているだけですから」

そのお花さんの声って言うのがよくわかんないんだよなぁ。雑草取りの途中にもちょくちょく会話してたが、果たして本当に植物と会話することは可能なのだろうか。やっぱり常磐はデビルーク星人なんじゃないのか?

くるみ「でも、最近あるお花さんが元気なくて困ってるんです」

八幡「それこそ花に事情を聞けばいいんじゃないのか?」

くるみ「それが、そのお花さん、私が話しかけても全然反応してくれないんです。なんというか、避けられてる感じがするんです」

八幡「避けられる感じねぇ」

くるみ「周りのお花さんともあまり仲良くないようですし、何とかしてあげたいんです。先生、付き合ってくれませんか?」

常磐の顔は真剣そのもので、思わずこっちが気圧されてしまうほどだ。

ま、常磐がこんなに真剣にお願いすることなんて滅多にないし、だとしたら答えは一つしかない。

八幡「わかった。ま、何もできないと思うけど」

くるみ「ありがとうございます。では早速そのお花さんのところへ行きましょう」

ということで鉢植えゾーンへやってきた。どの鉢植えからも小さな紫色の花が細い枝先に咲き誇っている。一見するとどれも綺麗に見えるが、ある鉢植えがふと目に留まった。

くるみ「ここに咲いているのはブッドレアというお花さんです。それで、元気がないお花さんは」

八幡「もしかして、あれがそうか?」

俺は常磐の話を遮って、目に留まっていた鉢植えを指さした。

くるみ「は、はい。そうです。先生どうしてその子が元気ないってわかったんですか?」

八幡「え、いや、まぁ、なんとなく……」

そう。なんとなくだ。なぜだかその鉢植えに視線が引き寄せられたのだ。

くるみ「もしかしたら、先生にならこのお花さんの声が聞こえるかもしれないですね」

八幡「は?」

くるみ「先生。一緒にあの鉢植えの傍に行って、お花さんの声を聞きましょう」

八幡「お、おう……」

言われるがままに俺は鉢植えの傍にしゃがみ込む。常磐も俺の隣にしゃがみ、じっと鉢植えの花を見つめる。

くるみ「どうですか?聞こえますか?」

八幡「…………何も聞こえない」

くるみ「先生。もっと心を素直にして耳を澄ませてください」

そんな簡単に心が素直になるんだったらこんな卑屈な性格になってないんだよなあ。などと心の中でツッコミを入れながらもうしばらくじっと鉢植えと向き合ってみるが、当然何も聞こえるわけはない。

八幡「ダメだ。やっぱり何も聞こえない」

くるみ「そうですか……。先生ならきっと聞こえると思うんですけど」

八幡「ダメなもんはダメなんだろ。直接聞いてダメなら、他の花に聞いてみるとかしか方法はないんじゃないか?」

くるみ「そうですね。周りの子たちに事情を聞いてみます」

常磐が他の花と会話する間、手持ち無沙汰になった俺は改めて例の鉢植えの花を眺めていた。なんていうか、この花は他の花とは違う気がするんだよな。その違いがなんなのかはわからないけど。

しばらくしてして常磐がこちらへ戻ってきた。

くるみ「先生」

八幡「おう、どうだった」

くるみ「その子、もともと他のお花さんと話さない目立たない子らしくて、事情はわからないとのことでした。中にはこの子のことを知らないお花さんもいて、話を聞くことも大変でした」

なんだそりゃ。この花、近くの他の花に存在すら認知されてなかったのか?悲しすぎる。でも、似たような話どこかで聞いたことあるな。あ、俺のことでした。てへっ。
505 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/09/30(土) 01:39:31.55 ID:c1cC7iSj0
番外編「くるみの誕生日後編」


八幡「周りの花も何も知らないのか。ならもう一度わかってることをまとめよう。常磐はこの花が元気ないことにいつ気づいたんだ?」

くるみ「つい最近です。それまでも難しい子だったんですけど、特にここ数日は元気ないんです」

八幡「ということはここ数日に何か変わったことがあったってことだな。何か思い出せないか?」

くるみ「そう言われても、特には思いつかないですね」

八幡「いや、絶対に何かあったはずだ。思い出せ」

くるみ「せ、先生?」

無意識に熱くなっていたのか、棘があるような言い方になってしまった。いかん。なんで俺がこんなに必死になってるんだ。常磐も怯えてるじゃないか。頭は冷静に。

八幡「……悪い」

くるみ「いえ……。あ、そういえばこの前鉢植えをより日当たりのいい場所に移動させたんです」

八幡「前は違うとこにあったのか?」

くるみ「はい。もともとの場所は時間によっては少し日陰になってしまうところだったんです。お花も咲いたので、元気のない子を中心に日当たりのいい場所に移動させたんですが」

もとは日陰、今は日なた。元気のない花を中心に移動。難しい性格。周りに存在すら理解されていない。なぜか気にしてしまう…………

八幡「……そうか。そういうことか」

瞬間、頭に電流が走った。ような気がした。コナン君がアニメで事件の真相に気づいたときに流れる「ティリリン」って効果音が流れた。ような気がした。

俺はひらめきに任せて元気がない花の鉢植えを持ち上げて移動させた。ちょうど鉢植えゾーンの端っこで、しかもあまり日当たりがいいとは言えない場所に。

くるみ「先生?何してるんですか?」

八幡「常磐。この花はな、多分こういう端の、ちょっと暗い場所が好きなんだよ」

くるみ「で、でも、さっきの場所の方が日当たりもよくて、周りに他のお花さんもいて、楽しい場所のはずなのに」

八幡「その考えが違うんだ。人間だって全員が全員、明るくて騒がしいところが好きなわけじゃない。暗くて、1人になれるところを好むやつだっている。花だって同じなんだ。日当たりのいい、他の花に囲まれたところが好きな奴もいれば、そうじゃない奴もいる。この花がそういう花だったってだけだ」

くるみ「……確かに移動させてから、少し落ち着いた感じを受けます」

八幡「だろ。ま、そういうことだからこの花はここでおとなしくさせておいてくれないか?」

くるみ「はい……」

だが、返事とは反対に常磐の顔は曇っていく。

八幡「どうした」

くるみ「いえ、私、今までどんなお花さんとも仲良くできていると思っていたんです。でも、このお花さんは私の呼びかけには反応してくれませんでした。先生は、どうしてこのお花さんが端っこのほうが落ち着くと、そう思ったんですか?」

常磐は今にも泣きそうに目を赤くしながら尋ねてくる。

八幡「……それは、この花も、俺も、ボッチだからだ」

くるみ「ぼっち?」

八幡「あぁ。周りと必要以上に関わりを持ちたくないんだよ。特に自分が集団の目立つところにいるのには耐えられない。平穏無事に過ごしていたいからな」

くるみ「…………」

八幡「それに、必ずしも一人ってわけじゃない。絶対に誰かが、その魅力に気づいてくれる。現に、ほら」

先ほど移動させた花の所に一匹の蝶々が飛んできた。おそらく蜜を吸いにやってきたのだろう。しばらく花の先に止まってから、またひらひらと飛んでいった。

くるみ「お花さん、嬉しそうですけど、それ以上に恥ずかしがってるみたいですね」

八幡「あぁ。ま、俺たちにガン見されちゃったからな」

そう呟いてから常磐はスカートをはためかせながらくるりと俺の方を向いてにっこり笑う。

くるみ「先生、今日は本当にありがとうございました。先生がいなかったら、あのお花さんをもっと弱らせていたかもしれません」

八幡「お前の日ごろの世話のおかげだ。普通、あんなめんどくさい性格だなんて思わないだろ。俺がぼっちだからこそわかったんだ」

くるみ「先生はただのぼっちなんかじゃありません。ぼっちの心もわかる、それでいて他の人のいいところもちゃんと見つけられる、とっても優しい人です。だから、私たち星守クラス全員が、満面の笑みを咲かせられていると思うんです」

くるみ「だから先生?これからも、私たちのこと、ずっと見守ってくださいね?」

八幡「交流が続くうちは、な」

顔を背けながら俺は小声でつぶやいて、校舎に向かって歩きはじめる。足音から常磐も急いで追いついて来ようとするのがわかる。それともう一つ、明らかに常磐とは違う透き通るような女性の声で『ありがとう』と言われた気がするが…………まさか、な。
506 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/09/30(土) 01:40:53.64 ID:c1cC7iSj0
以上で番外編「くるみの誕生日」終了です。くるみお誕生日おめでとう!

くるみのフィギュア早く間近で見てみたい。
507 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/02(月) 00:23:46.61 ID:UUrHKH0U0
番外編「心美の誕生日前編」


八幡「…………」

心美「…………」

電車に乗ってからかれこれ十数分は沈黙が漂っている。き、気まずい。他の星守たちは向こうから話しかけてくるからそれに合わせて対応すればいいのだが、朝比奈は星守クラスでは珍しく内気な性格だからなあ。基本ぼっちの俺といても、結果こうして1人と1人になってしまう。

心美「あ、あの、」

八幡「ん?」

心美「わ、わざわざ付き合ってくれて、ありがとうございますぅ……」

八幡「まあ、もともと今日は夜まで付き合うっていうことになってたし、別に気にすんな」

心美「は、はい……」

こうしてまた沈黙。あー、どうにかなんないのこの状況。明らかに朝比奈が緊張して委縮してるから俺も余計気を使ってしまう。早く目的地に着かないかな……。

そもそもなんで俺と朝比奈が2人で電車に乗ってるかと言うと、一言で言えばプラネタリウムに向かっているのだ。

もともと今日の夜に天文部が学校で星の観察をすることになっていたが、朝から雨が降り続き、夜になってもやまなさそうということで観察は中止になった。今日誕生日の朝比奈は観察中止が非常にショックだったらしく、ずっと落ち込んでいたので、見かねた俺がプラネタリウムに行くことを提案した、という訳だ。本当は俺はついていくはずではなかったんだが、成り行き上、行かざるをえなくなってしまった……

八幡「でも、天気が悪いのはどうしようもないだろ。運が悪かったとしかいいようがない」

心美「はい……でも私、運はとっても悪いんです。巫女なのに、おみくじで大凶しか引いたことがないんです。だから今日も、大凶の運勢そのままに雨が降ってるんだと、思います……」

逆に大凶しか引かないって滅茶苦茶運良くないか?10連ガチャで全部最低レアのカードしか引けないって感じだろ?それを毎回。…………うん、確かに軽く死にたくなるな。SNSにスクショ貼ったらバズりそうだけど。

八幡「だけど、ほらあれだ。プラネタリウムなら天気を気にする必要はないし、なんならどの季節の星空も見れるんだろ?そっちのほうがお得な感じするけどな」

心美「そうですね……プラネタリウムなら雨が降っていても綺麗な星空を見上げることができますね」

朝比奈に少し笑顔が戻ったところで、電車がプラネタリウムの最寄りの駅に到着した。場所は池袋。千葉でもいいかなと思ったけど、朝比奈が言うには池袋のプラネタリウムの方が見ごたえがある、と力説するのでここに来ることにした。

雨の中、20分ほど歩くとサンシャイン池崎、じゃなかったサンシャインシティが見えてきた。

入り口でチケットを購入し、さらに歩いたりエレベーターに乗ったりしてようやくプラネタリウムのある部屋に到着した。

心美「先生はここのプラネタリウムは初めてですか?」

椅子に座りぼーっとしていると朝比奈に話しかけられた。

八幡「それどころか池袋に来たのも初めてかもしれない」

大体の買い物は千葉周辺で済むからなあ。海老名さんとかは腐女子向けグッズを求めてしょっちゅう来てそうだけど。

心美「ここのプラネタリウムはすごいんですよ?再現度も高いですし、さらに星空に合ったアロマの香りも楽しめるんです!」

八幡「へえ」

心美「森林浴をしながら見上げる星空、というテーマなので癒し効果は抜群です!」

八幡「くくっ」

心美「せ、先生?なんで笑ってるんですか?」

八幡「いや、お前って星とかプラネタリウムの話になると途端に饒舌になるよな」

途端に朝比奈は目に涙を浮かべながらうつむいてしまう。

八幡「いや、別に責めてるわけじゃないぞ?ほらあれだ。人間誰だって、熱中するものの一つや二つ持ってるもんだろ」

そう。だから俺が家で大声でプリキュアの主題歌メドレーを歌っていても何の問題もない、はず。その光景を小町に見られ、そこから数日白い目で見続けられても何の問題もない、はず。

心美「そ、そうですか?ならよかったですぅ……」

朝比奈はほっと胸をなでおろして、ゆっくりと口を開く。

心美「私、1人で寂しかった時いつも星を眺めていたんです。だから、星のことでなら自信を持って話ができるんです。先生は何か好きな星座とかありますか?」

八幡「え、いや、有名な星座を何個か知ってるくらいだから、好きな星座、って言われてもあんまり思いつかないな」

心美「そ、そうですか……」

またしても朝比奈は顔をうつむかせてしまう。……失言だったか。こんな落ち込んだ顔を目の前でされるとこっちの心も痛んでくる。

八幡「……あー、でも、よかったら星座のこと教えてくれると、助かる」

心美「は、はい!任せてください!」

朝比奈のテンションが上がったところで照明が消えていく。よかった。なんとか無事にプラネタリウムを見ることができそうだ。
508 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/02(月) 00:24:29.37 ID:UUrHKH0U0
番外編「心美の誕生日後編」


心美「南の方角にある赤い星がアンタレスです。そのアンタレスを体の中心にして出来上がっている星座がさそり座です。神話では冬の星座で有名なオリオンを殺すためにつかわされたのがこのさそり、と言われています」

プラネタリウムが始まってから朝比奈のマシンガントークが止まらない。一応ナレーションも流れているが、朝比奈の知識の方が深いから聞いてて面白い。

のだが、他にも客がいる手前、大声で話せない。だからなのか朝比奈は俺に体を寄せてきて、耳元でささやくように星座知識を披露する。おかげで朝比奈の柔らかい部分だったり、アロマとはまた違ういい香りだったり、小さな吐息なんかもわかってしまい、色々焦ってしまう。

八幡「へ、へえ」

動揺を必死に隠そうと、俺は生返事を繰り返すばかり。いや、いくら小町と同じ年齢って言っても、色々違うじゃん?例えば年齢不相応な二つの爆弾とかね?思わず「おっぱい禁止!」と叫びたくなる。

と、その時突然、天井の星が一斉に消え、室内が真っ暗闇に包まれてしまった。最初は演出かと思ったが、何分経ってもなんの変化もないところをみるとトラブルが起こったのかもしれない。

心美「せ、先生?」

か細い声と共に、朝比奈が俺の腕をぎゅっと掴んでくる。朝比奈の身体の感触が腕全体に伝わってくるが、それが震えを帯びていることにも同時に気が付いた。

八幡「多分、そのうち係員が来て何か説明してくれるはずだ。心配すんな」

心美「は、はい……」

なるべく安心させようと声をかけるが、それでもまだ朝比奈の震えは収まらない。

心美「あ、あの、頭、なでてくれませんか?」

八幡「え?」

心美「い、いえ!あの、先生になでなでしてもらえると安心するというか、その……」

朝比奈は恐る恐るという口ぶりでお願いしてきた。が、一方で腕を抱く力は強くなる。……まあ、幸いここは真っ暗だし、他の誰にも見られないなら、仕方ないか。

八幡「……わかった。いいぞ」

俺はゆっくりと朝比奈の頭があるであろう方向へ手を伸ばす。ん、何か触ったぞ。

心美「あ……せ、先生、そこは耳です」

八幡「お、おお。すまん……」

朝比奈の何か色っぽい声にどぎまぎしながら手を髪の毛に沿って上へと移動させていく。頭頂部の編み込みを崩さないようにしながらなで始める。

八幡「こ、こんなんでいいのか?」

心美「は、はい……先生の手、あったかいです」

腕をつかむ震えが収まってきたと思った時、室内に明かりが灯った。その光によって俺と朝比奈はお互いがどんな状況で、どんな顔をしているか把握してしまった。朝比奈は顔を真っ赤にしつつ俺の腕を離してわたわたしている。

心美「も、もう大丈夫です!あ、明るくなったので!」

八幡「お、おう」

それからすぐに係員の人がやってきて、俺たちはその指示に従って退場した。説明によると配電機器の故障ということで、今日のプラネタリウムは中止ということになった。チケット売り場でお金を払い戻してもらい、俺たちは再び外に出た。

八幡「しかし、プラネタリウムすら満足に見れないとはついてないな……」

心美「そ、そうですね……でも、今日は私にとってはいい日になりました」

朝比奈の顔はもう晴れ晴れとした表情になっていて、嘘を言っているようには見えない。俺の目線に気づいて朝比奈は再び口を開く。

心美「部屋が真っ暗になった時も、怖かったですけど、先生のおかげで乗り切れました。それに、いつの間にか雨も止んで、星が見えてますよ」

そう言えば傘さしてないな、と思いつつ俺は空を見上げる。光溢れる都会の真っただ中にいるせいで、雲はないのに明るい星が点々とあるだけで、プラネタリウムで見たような星空とは程遠い。

八幡「こう見ると、都会の空って星が少ないんだな」

心美「はい。でも、私はこういう空も好きです。こんなに地上が明るいのに、それでも私たちに届く星の光の強さを感じられます」

朝比奈の言葉の後に改めて星を見ると、さっきよりも力強く輝いているように見えるから不思議だ。

しばらくして顔をもとに戻すと、朝比奈がこちらを向いているのに気づいた。その目にはもう涙は浮かんでいないが、今見上げていたどの星よりも輝きを放っている。

心美「先生。今日はありがとうございました。今年は、空の星に負けないように強く輝いた私になれるよう、頑張ります」

そう宣言する朝比奈の姿は、暗闇で震えていた人と同じとは思えない。男子三日会わざれば刮目して見よ、と言うが、女子はもっとだと思う。ソースは目の前の朝比奈。

八幡「……じゃあ、まずはおみくじでも引きに行くか」

心美「そ、それは、また今度で……」

途端に普段の控えめな表情に戻ってしまった。まあ、そう簡単に変われるんだったら人間苦労なんてしないわな。

でも、変わりたい、と願う気持ちは尊重してあげたい。それが、変わるための第一歩なのだから。
509 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/02(月) 00:26:18.75 ID:UUrHKH0U0
以上で番外編「心美の誕生日」終了です。心美お誕生日おめでとう!くるみと誕生日近すぎて大変でした。
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/03(火) 01:06:09.78 ID:twj67VkDO
乙!
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 02:43:45.19 ID:KXGjd0aro
乙です
512 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/08(日) 15:32:23.45 ID:buAm+w940
本編5-28


4人に推挙された火向井は、遠慮がちに俺のほうへ顔を向ける。どうやら俺の意見を求めているらしい。

八幡「まあ、この中だったら火向井が妥当なんじゃないか」

ゆり「…………わかりました。私がやります」

周囲の説得を聞き入れ、火向井はふっと一息ついてから頷く。

八幡「時間はあまりないぞ。早く実行に移そう」

未だ外では火炎弾が次々に降り注いでいる。だが、いつまでイロウスがここを攻撃するのかはわからない。もしイロウスが市街地に移動でもしたら、大惨事が起こることは間違いない。

俺たちは瓦礫の山を出て位置取りを決める。

花音「あまりジャンプ力がない人から足場になっていったほうがいいわね」

くるみ「それなら私が最初の足場になります」

詩穂「次が私かしら」

望「じゃあアタシが3番目で花音が最後かな?」

花音「ええ。ゆりもこれでいいかしら?」

ゆり「う、うむ。大丈夫……」

望「もしかしてゆり、緊張してる?」

ゆり「そ、そんなことはない、こともない……」

詩穂「私たちのことは気にせず、思い切ってやってきてください」

ゆり「で、でもみんなを踏み越えていくのはさすがに気が引けると言うか……」

くるみ「ゆりになら私、何されてもいいわ」

ゆり「く、くるみ……」

あれ、突然の百合百合ショーの開幕ですか?ゆりだけに。ってやかましいわ。

花音「早くいくわよ。これで決めて、学校へ帰りましょ」

八幡「ああ。だな」

俺と火向井を残し、4人はイロウスのほうへ駆け出していった。

ゆり「…………」

そして火向井はというと、手をぐっと握りしめたまま、走っている4人を見つめている。だが、その手は少し震えているようにも見えた。

八幡「あー、その、なんだ。多分大丈夫だ」

何ともなしに言葉が口からこぼれた。火向井は「いきなり何言ってんだこいつ」って目で俺を見上げてくる。

八幡「ほら、俺だけならまだしも、付き合いの長い天野や常磐にも信用されてるんだろ?なら、別に不安がることはないんじゃないか?」

火向井はしばらく茫然としていたが、急に口に手を当てて笑い出した。

ゆり「ふふ……その言葉だと、先生も私のことを信用してくれている、と聞こえますけど?」

え…………。た、確かに言われてみればそうかもしれない。無意識に恥ずかしいことを口に出してしまったらしい。嫌だなあ。こういう発言って、将来ネタにされるじゃん。最終的には、直接聞いていないやつが、尾びれ背びれ腹びれくらいついた話題をもとに俺をバカにするからな。中学の時のクラスメイト、許さん。

八幡「……今の発言は忘れてくれ」

ゆり「忘れませんよ。忘れられません」

その口調の強さに思わず息をのんでしまった。だが火向井はそこで止まらず、続けてはっきりと言い切る。

ゆり「私は、先生にそのように信用してもらってとても嬉しいんです。なんだか、体に力が湧いてくる感じがします」

そんなわけないだろ、と言えるような雰囲気ではなかった。おそらく火向井は本心で話している。もしかしたらマジでパワーアップしてるのかもしれない。いや、そんなことはあり得ないが。

八幡「……そうか」

なんとか一言、言葉を絞り出した。明確な肯定はしない。だが否定もしない。こんな曖昧な返答しかできない自分が情けないが、これが俺の精一杯だ。

ゆり「ありがとうございます、先生。私、必ず倒してきます」

火向井は自信に満ちた顔つきで俺の顔を見上げてきた。手は相変わらず握りしめられているが、そこに震えはもうない。

八幡「ああ。頼む」
513 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/12(木) 00:59:21.68 ID:JLnqPRdf0
本編5-29


くるみ「準備できました」

詩穂「私もです」

望「いつでもOK!」

花音「さあ、ゆり!来なさい!」

ほどなくして4人から次々に通信が入った。火向井は俺と一度頷き合ってから、走り出した。

ゆり「火向井、行きます!」

砂煙をあげながら猛スピードで駆け出した火向井は常磐、国枝、天野、煌上と次々に乗り越え、高く高く跳び上がっていく。

大型イロウスは変わらず火炎弾を発射し続けているが、火向井たちは上手くそれらを避けながらイロウスに接近していく。

ゆり「おりゃー!!」

すでに空高く跳び上がった火向井はガンを手にしてスキルを叩きこむ動作に入る。

その時、火向井の存在を感じ取ったのか、イロウスは火炎弾を一つ火向井に向けて発射した。その火炎弾は火向井をはるかに超える大きさである。

八幡「火向井!」

俺は思わず手に汗を握って、叫んでしまった。

ゆり「『アンリミテッドリップ』!」

だが火向井は火炎弾に臆することなく、スキルを発動する。火向井の身体から光が放たれて、火炎弾を消滅させる。

そして次の瞬間、なぜか上空に巨大なキャンデリアが出現し、それがイロウスの口めがけて真っ逆さまに落下した。

イロウス「ギャオー!!」

シャンデリアが命中すると、イロウスは再びけたたましい声を上げ、そのまま消滅していった。

詩穂「これで無事、すべてのイロウスを倒せましたね」

望「疲れたー」

俺の周りには、火向井を除いた4人が集まっていた。

くるみ「早くゆり来ないかしら」

花音「そうね。って、あれ……」

煌上が指さす先には、火向井の姿があった。が、彼女はピクリとも動かないまま倒れこんでいる。

八幡「くそっ」

俺は4人に先立って落下地点に走り出した。あんな高いところから体をたたきつけたら、いくら下が砂だからと言って無事で済むはずがない。

八幡「おい、大丈夫か?」

俺は火向井を抱きかかえながら何度も声をかける。天野たちも追いつき、必死になって火向井に呼びかけていく。

ゆり「せ……先生?……みんな?」

ようやく火向井が目を覚ました。が、俺の腕の中にいることを察したのか、顔を真っ赤にして離れようともがく。だが、まったく体に力が入らないのか、抵抗を感じることはほとんどなく、火向井もすぐに諦めておとなしくなった。

くるみ「大丈夫?」

ゆり「ああ。力を使い果たしてしまっただけだ。問題ないさ」

望「ならよかったー!なかなか返事がないから、すごい心配したよ!」

花音「でも、ゆりのスキルは素晴らしかったわ。あれだけの威力を出したら、体力が無くなるのも頷けるわね」

詩穂「ええ。思わず見入ってしまいました」

ゆり「う、うむ……」

みんなに労われ、火向井は照れくさそうな表情を見せる。その表情を見て、4人もほっと一息ついた。

だが、ここで俺はあたり一面瓦礫の山と化した惨状を見て、あることに気づいてしまった。

八幡「なあ、荷物を全て破壊され、こんな着の身着のままで俺たち、どうやって学校へ帰るの?」

5人「あ」
514 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/17(火) 17:34:34.01 ID:BqCH24m00
本編5-30


修学旅行が終わってから一週間が過ぎた。結局俺たちはあの後ホテルメイプルに連絡をして、何から何まで用意をしてもらったおかげでなんとか帰路につくことができた。感謝っ……!圧倒的感謝っ……!

望「ほら始まるよ。f*fの番組!」

くるみ「ええ。楽しみね」

ゆり「修学旅行の動画は流れないのは少し残念かもしれませんね先生」

八幡「むしろ放送されなくてよかったろ」

詩穂「でも花音ちゃんのお宝映像がなくなったのはすごく残念だわ」

花音「わ、私だって詩穂の動画がなくなったのは寂しいと、思ってるわよ……?」

そして今日、煌上と国枝のドキュメンタリー番組が放映されるとあって、俺たちは放課後に合宿所のテレビの前に集まっている。

だが、イロウスとの戦闘で持参していたビデオカメラは粉々になってしまったため、修学旅行の動画は放送されることはない。こうして残念がってるやつらもいるが、俺にとってはそのほうがいい。だって、俺にもプライバシーってもんがあるし……ね?

そして番組が始まり、やんややんや言いながら見ていた時だった。

ナレーション「このように、ステージ裏でもファンのために全力を尽くすf*fの2人だが、ときにはこんな一面を見せることもある」

このナレーションの後、なぜか見た事ある光景が映し出された。そんなことはありえないはずなのに。

ナレーション「ではここで超貴重映像。f*fの修学旅行映像をご覧ください」

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八幡(アルル風衣装)「がおー。がおー」

花音「待ちなさい怪人!」

詩穂「人々の平和を乱すのは許さない」

くるみ「私たち5人が相手です」

望「アタシたちに出会ったこと、後悔させてやる!」

ゆり「みんな!変身だ!」

5人「星衣☆着装」

ゆり「バトガレッド!風紀委員長、ゆり!」

望「バトガオレンジ!オシャレ番長、望!」

くるみ「バトガグリーン!植物博士、くるみ!」

花音「バトガイエロー!カリスマアイドル、花音!」

詩穂「バトガブルー!花音ちゃん大好き、詩穂!」

ゆり「地球を守る、5人の戦士!」

5人「神樹戦隊ホシモレンジャー!!」

ゆり「そして5人の合体技!」

5人「ファイブスター・シュトラール!」

八幡「やーらーれーたー。がくっ」

ゆり「ははは!これで地球の平和は守られた!」
515 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/17(火) 17:35:39.65 ID:BqCH24m00
本編5-31


6人「…………」

誰も口を開かない。そりゃ当然だ。無いと思ってた動画を不意打ちで全国に放映されたんだから。

花音「ちょっと、マネージャーに確認取ってみるわ……」

煌上がよろよろと立ち上がって電話をかけ始める。数度のやり取りを終えて、電話を切った煌上はため息をついた。

花音「ホテルメイプルに頼んで動画を送ってもらったらしいわ。まさかあの余興を使うなんて夢にも思ってなかったから、確認を怠ったわ」

くるみ「あの時、いかにも高そうな機材がたくさんありましたからね」

詩穂「あんなに機材が揃ってることはテレビの収録でもなかなかないわ」

望「でもそのおかげで綺麗に映ってよかったよね、ゆり」

ゆり「いいわけあるか!うう、もうお嫁にいけない……」

花音「なんでよ……」

八幡「あんな茶番をよく使おうと思ったなテレビ局」

望「確かに。画質のいいホームビデオって感じなのにね」

花音「今回はそこがよかったのよ。完全プライベートの私たちが映ってるわけだし」

詩穂「そうね。顔を赤らめながら名乗りをする花音ちゃんも可愛かったわ」

くるみ「でもあれも楽しかったわ。ゆりの提案のおかげね」

ゆり「せっかくだから一度みんなでやってみたかったんだ」

八幡「俺は怪人役だったけどな」

花音「いいじゃない。お似合いよ、怪人」

八幡「おい。俺の目を見ながら言うのはやめろ」

望「えー、じゃあ今度は先生も一緒にレンジャーやる?」

八幡「それは遠慮させてください……」

別に俺は戦隊モノには人並みにしか触れてないからなあ。なんならその後にやってるプリキュアのほうが好き。むしろ今でも大きいお友達として応援してます。頑張れプリキュア!

ゆり「じゃあ次の旅行の時はよりみんなでできる余興をやりましょう!」

八幡「次の旅行って何。もう修学旅行は終わったろ」

詩穂「修学旅行じゃなくても、またみんなで行けばいいじゃないですか」

望「今度は海外行こうよ!ハワイとか!」

くるみ「北海道の大自然も捨てがたいですね」

花音「次はもっとゆっくりしたいわね」

こうしてまたわいわいと話が始まってしまった。こうなるとなかなか終わらないんだよなあ。女子の会話ってなんでこんなに長いんだよ。それでいつも同じ話ばっかり。エンドレスエイトでもしてるのん?

ゆり「先生はどこ行きたいとかありますか?」

八幡「家」

花音「ふーん。家ね。なら次はこいつの家に泊まりに行きましょうか」

八幡「ごめんなさい。それだけはやめてください」

望「ならもっとちゃんと考えてよ」

八幡「なら、温泉、とか……?」

ゆり「温泉、いいですね!」

詩穂「私、いくつか穴場の温泉地知ってますよ」

くるみ「どこですか?」

こうして半ば強制的に次の旅行の打ち合わせに参加させられてしまう、どうも俺です。

でも、今回に限って言えば、今までの旅行よりは楽しめた気がする。それは沖縄という場所のおかげもあるが、多分こいつらと一緒だった、っていうことも要因の一つになってると、ほんの少し思う。
516 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/10/17(火) 17:38:32.86 ID:BqCH24m00
以上で本編5章終了です。最後の余興はダイレンジャーの名乗りを参考にしてます。モーションもダイレンジャーをそのままやっていると思ってください。
517 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/24(火) 14:32:40.35 ID:Zgr3nJfh0
番外編「詩穂の誕生日前編」


もう10月も終わりになってくると、涼しいというより寒い風が吹き抜ける。冬がすぐそこまで近づいていることを知らせるかのように、窓が風でことこと鳴っている。

ああ、外寒そうだな。なんかここ最近、夏から一気に冬になってませんか?秋はどこ行っちゃったの?きっと秋を擬人化したら恥ずかしがり屋の控えめなキャラ「秋ちゃん」になること間違いなし。神絵師、早くpixivに秋ちゃんのイラストあげてください。

こんなアホなことを考えながら放課後のひっそりとした校舎を歩いていると、どこからか美しい歌声が聞こえてきた。この歌を聴いていると、なんだか暖かい日差しに包まれているような錯覚を覚える。

歌声の元であろうドアの前に立つと、少し隙間が開いていた。そこからそっと中を覗いてみると、胸に手を当てながら歌う国枝の姿があった。

実際に歌う姿を見ると歌声が何倍にもよく聞こえるから不思議だ。

少しの間歌を聴いていた俺は職員室に戻ろうと回れ右をした。と、その時足がドアに思いっきりぶつかってしまった。当然、国枝は歌うのをやめ、こちらへやってきて、ドアを勢いよく開ける。

詩穂「あら、先生。どうなさったんですか?」

八幡「え?いや、まあ、その、な、なんでもないぞ。うん」

詩穂「ふふっ、そんなに動揺しないでくださいよ。逆に怪しいですよ?」

八幡「あ、ああ」

詩穂「それで、先生はどうしてここにいるんですか?」

八幡「廊下を歩いてたら、歌声が聞こえてきてな。誰が歌ってるのか気になっただけだ」

詩穂「ということは、私の歌聞かれてしまったんですね。ちょっと恥ずかしいです」

八幡「でもお前はアイドルとしてCDいっぱい出してるだろ」

詩穂「それとこれとは違いますよ。f*fの時は聞いてもらうことを意識してますけど、今はそんなこと全く考えてなかったですから」

確かに、1人で行動しているときと、誰か他人を意識して行動しているときとじゃ同じことをしていても心持ちが違う。

特に今回は本来、アイドルとして商売道具である歌をタダで、しかも無断に聞いてしまった俺に責任がある。国枝ファンに知られたら殺されかねない。

八幡「それは、そうだな。勝手に聞いてすまなかった」

詩穂「いえ、先生なら大丈夫です」

そうやって国枝はにっこりと笑う。

八幡「つうか、なんでこんなとこで歌の練習してんの?」

詩穂「私、1人の空間で歌を歌うことも好きなんです。f*fのときは、どうしてもスタッフさんやファンのみなさんを意識しなくてはいけないので、たまにこうして空き教室で歌ってるんです」

八幡「それなら余計邪魔して悪かったな。俺もう行くから、歌ってていいぞ」

詩穂「いえ。むしろ今は先生ともっと一緒にいたいと思ってます。だから先生、もう少しここにいてくれませんか?」

八幡「お、おう」

そんな風にストレートに言われたら断れないじゃないですか。というか、絶対国枝は絶対わかってて言ってるよね、これ。なんか少しニヤニヤしてるし。純粋な男子高校生の心を弄ばないでください!

結局俺はそのまま空き教室に残ることとなり、手近な椅子を引き寄せて座った。ついでに国枝のも渡してやると、少し照れくさそうにしてそれに座る。なんだよ。そんな態度取るなよ。勘違いするだろうが。

八幡「でも、ここにいるだけじゃなんともならんだろ。なんかすることとかないの」

詩穂「そうですね。でもここには特別な機材などもないですし……。あ、そうだ」

国枝はぽんと手のひらを叩いて俺の顔を見る。

詩穂「先生も歌を歌ってください。私、先生の歌聞いてみたいです」

八幡「は?いや、それは無理だろ。第一、俺そんな歌うまくないし」

詩穂「それでもいいです。先生の歌声ってどんな感じか気になるんです」

国枝は目を輝かせながら迫ってくる。だが、人前で歌うことに慣れている国枝はともかく、家の風呂で歌うことくらいしかない俺にとっては、他人に歌を聴かれるというのは恥ずかしいことこの上ないのだ。

八幡「……じゃあ少しだけな」

でもこんなにお願いされたら断れない、どうも俺です。仕方なく立ち上がって一息つくと、俺は歌い出した。

八幡「『プリキュア!プリキュア!♪』」

もう半分やけくそな感じでプリキュアのイントロのワンフレーズを熱唱した。俺が歌い終わっても、国枝はしばらくぼーっとした表情をして固まっている。

八幡「ど、どうした?」

やっぱ選曲がまずかったかな。もっとパリピによった曲にするべきだった。でも俺パリピ向けの曲全く知らない。

詩穂「先生……」
518 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/24(火) 14:33:30.67 ID:Zgr3nJfh0
番外編「詩穂の誕生日後編」


詩穂「その曲、懐かしいですね!今は妹たちが朝にプリキュア見ていますけど、私にとっては今の曲が一番しっくりきます」

予想外に絶賛されてしまった。いや、冷静に考えれば褒められたのは俺の歌ではなく、『DANZEN!ふたりはプリキュア』でしたね。もちろん今やってる「プリキュアアラモード」のOP『SHINE!!キラキラ☆プリキュアアラモード』も歌えます。プリキュアの曲は神曲揃い。みんな聞こうね!

八幡「まあ、一応同い年だしな。見てたテレビも被りやすいだろ」

詩穂「そうですね。たまに先生が私と同じ年齢だということを忘れてしまいます」

八幡「俺、そんなに老けてる?」

詩穂「そんなことないですよ。ただ、先生と生徒という関係だと、どうしても対等な感じがしないんです」

確かに国枝の言うことは一理ある。国枝は割ときちんと俺を先生として扱っているから尚更だろう。なんなら、他の奴らは俺のことバカにしてるまであるからな。特に煌上とか。

八幡「それを言ったら俺こそ対等な感じがしないぞ。お前は星守で、かつ人気アイドルだろ?普通、ただの男子高校生の俺が関われる相手じゃない」

詩穂「あら。私だって普通の女子高生ですよ?」

普通の女子高生はアイドルも星守もやらないんだよなあ。むしろ1つやるだけでも大変なのに、両方こなすとか、この子本当に人間?

詩穂「なんだか、先生と距離を感じますね……」

八幡「仕方ないだろ。置かれている状況が全然違うんだから」

詩穂「いえ。私はもっと先生に近付きたいんです。何かいい方法はないんでしょうか」

国枝は首をかしげて「うーん」と唸りながら考え込んでしまった。しばらくして国枝は、にっこりと笑って顔を近づけてきた。

詩穂「私、先生と一緒に歌を歌いたいです」

八幡「へ?」

突然の申し出に、まともな返事ができなかった。

詩穂「私がf*fを花音ちゃんと始められたのも、私の歌を花音ちゃんが聞いてくれたからです。他にも、歌を通じて、いろんな人と関わりを持てているんです。だから、先生とも、歌を通じて親密になりたいんです」

詩穂「先生、ダメですか?」

立ち上がって目を潤ませながら迫ってくる国枝を見たら、答えは1つしかない。俺も立ち上がった。

八幡「わかった。でも、一回だけな。それ以上は俺のメンタルが持たない」

詩穂「はい!ありがとうございます!」

八幡「で、何歌えばいいの?俺そんなに曲知らないんだけど」

詩穂「できれば、私たちの曲『Deep-Connect』を歌いたいんですが、どうですか?」

八幡「それなら多分大丈夫」

詩穂「本当ですか?ということは、先生も私たちの曲はちゃんと聞いてくれてるんですね」

八幡「まあ、同じクラスに通ってるやつの曲だしな。聞かないのも失礼だろ」

照れくさくなって、そっぽを向きながら俺は答える。それに対する、国枝のクスクス笑いが聞こえる。

詩穂「ふふっ、それでも、聞いてもらえて嬉しいですよ先生。さ、私の音楽プレーヤーにoffvocalバージョンが入ってますから、これに合わせて歌ってください」

八幡「あ、ああ」

こうして『Deep-Connect』のイントロが流れ始めた。『プリキュア』を歌った時とは比べ物にならない緊張感が身体を縛る。だが、その時そっと国枝の手が俺の手に触れた。その手が触れた場所から、じんわりと身体がほぐされていくような、そんな錯覚を覚えた。

八幡「水面に咲く」

詩穂「花に揺れた」

----------------------------

詩穂「とっても楽しかったです。ありがとうございました先生」

八幡「あ、ああ。それはよかった……」

結局、手が触れあったまま一曲歌ってしまった。なんという恥ずかしさ。曲が終わった後の俺の慌てようといったら、生涯に残る黒歴史。墓場まで秘密にしたい。

詩穂「こうして、2人で歌うのもいいものですね。花音ちゃんの時とはまた違うドキドキが味わえました」

そう話す国枝の頬は夕日に照らされてるからなのか、真っ赤に染まっているように見えた。

詩穂「すみません先生。そろそろレッスンの時間なのでお先に失礼します。本当に楽しかったです。いい誕生日が過ごせました」

未だ頭が回らない俺を残して、国枝は空き教室を後にした。マズいな。まだ冷静になれない。ひとまず窓開けて、風にでも当たりますかね。夕日に照らされてるからか、俺の頬もなんだか熱を持ってるみたいだし。
519 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/10/24(火) 14:37:22.01 ID:Zgr3nJfh0
以上で番外編「詩穂の誕生日」終了です。詩穂お誕生日おめでとう!詩穂推しの>>1としては、今日は本当にめでたい日です。
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/25(水) 12:48:27.29 ID:SsE7spJbO
乙、詩穂推しだったか
一緒に歌えるとか八幡うらやま
521 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/10/28(土) 00:56:47.92 ID:va7Tg3gA0
本編6-1


ブーブー

風蘭「またイロウスが出現したか」

樹「今週に入ってもう5回目よ」

八幡「多いですね」

俺たちは神樹ヶ峰女学園内にあるラボにいて、最近のイロウスの行動パターンについて解析を進めている。

高校2年組が修学旅行から戻ってから、特にイロウスの出現頻度が増している。これまでローテーションだった星守任務だが、今は全員がスクランブル体制でイロウスを撃退している。

樹「みんな、またイロウスが出現したわ。殲滅、お願いね」

八雲先生は星守たちにイロウス出現を知らせる。程なくして全員の星守がラボに集まった。

風蘭「よし。全員揃ったな。じゃあ転送装置を起動させる。準備は良いな?」

星守たち「はい!」

御剣先生の言葉に星守たちは気合の入った返事をする。すぐに転送装置が起動し、次々に星守たちがそれに入っていく。

八幡「気を付けてな」

俺はこんなふうに声をかけるしかできない。イロウスの数も多くなっているため、俺が現場へ赴くことも危険と判断されたのだ。

明日葉「行って参ります……」

蓮華「…………」

あんこ「…………」

ああ、またこの反応だ。

どうも近頃、高3の3人に避けられている感じがしてならない。もともと、俺からみて年上のこともあって、そこまで親しくはしていなかった。だからこそ、何か気に障るようなことをした覚えもない。マジで俺何したんだろ……。

風蘭「しかし、こう立て続けにイロウスが出現するなんて、今まであったかな」

樹「異常な事態だわ。早く原因を突き止めないと」

だけど、こんな状況で俺と楠さんたちのこと、それも俺の勘違いかもしれないことをわざわざ言う必要はない。むしろ、俺もイロウスについてもっと調べないと。

-----------------------------------

あんこ「はあ、疲れた……」

風蘭「おー。お疲れさん」

樹「誰もケガはしていない?」

蓮華「大丈夫でーす」

明日葉「では私たちはお先に失礼します。行こう。みんな」

楠さんは俺に目をくれないまま、八雲先生と御剣先生にお辞儀をした後、他の星守を連れてラボを出ていった。その集団の一番後ろを芹沢さんと粒咲さんが少し沈んだ顔つきでついていく。

樹「さ、また仕事が増えたわね」

風蘭「なあ樹。アタシらももう帰らないか?」

樹「ダメよ。せめて今日の戦闘データのまとめだけでも終わらせないと」

風蘭「ちぇー。なあ、比企谷も帰りたいだろ?」

八幡「まあ、どっちかと言われれば帰りたいですけど」

樹「比企谷くんは帰ってもいいわよ?私と風蘭がいれば十分だから」

八幡「いえ……。俺も手伝います。みんなで作業して早く帰りましょう」

風蘭「比企谷……」

樹「……そうね。じゃあ比企谷くんは出現したイロウスの種類と数の整理をお願い」

八幡「わかりました」

これまでの俺なら迷わず帰っていただろう。でも、それこそイロウスと命がけの戦いをしている星守たちと間近で接していれば、俺だけがのうのうと帰ることはできない。

それに、今帰ったらあいつらと合流しちゃうからな。せめて帰り道くらいは1人静かに帰りたい。
522 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/10/28(土) 00:58:25.82 ID:va7Tg3gA0
本編6章がスタートしましたが、この先完結に向けて>>1のオリジナル設定が入ると思います。お許しください。
523 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/11/01(水) 06:46:25.73 ID:Y3HQ/bbm0
番外編「あんこの誕生日」


あんこ「ねえ、そこにある飲み物取って」

八幡「どうぞ」

あんこ「ありがと」

今、俺たちは2人でパソコン室にいる。俺は資料作り、粒咲さんは部活だ。

パソコン部は基本的に粒咲さん1人だから、学校内の喧騒を離れ、心静かに作業をすることができる。それに、粒咲さんも俺に似た思考回路を持っているから、お互いの邪魔をすることもない。正直けっこう、お気に入りの場所となっている。

あんこ「ねえ、先生ってさ、将来の夢とかある?」

八幡「なんですか突然」

あんこ「明日までに進路希望調査表とかいう紙を出さないといけないのよね。だから先生の話聞いてみようと思って」

八幡「俺じゃなくても楠さんや、芹沢さんに聞いた方が良くないですか?」

あんこ「明日葉も蓮華もワタシとは違いすぎて参考にならないのよ。ほら、先生とワタシって考え方似てるでしょ?適当に書けそうなこと教えて?」

八幡「適当に書くなら、大学進学、じゃないですか?親も先生もそれを見たら安心するでしょ」

あんこ「やっぱりそれしかないわよね……はあ、めんどくさいわ」

八幡「ですよね。進路調査なんて、所詮教師と親の自己満足にすぎないと思うんですよ。たかが17,8年の経験しかしてない高校生が、これから先数十年の人生を決めるのは不可能です」

あんこ「やっぱり先生とは話が合うわね。ワタシもそう思ってたところよ。それに、もし一般的なことじゃないことを書いたら、それはそれでまた色々言われるし」

八幡「わかります。俺も本当は専業主夫になりたいんですけど、それを言ったら元居た高校の先生に殺されかけました」

あんこ「先生も苦労してるのね……」

粒咲さんはそう言って俺に同情の目線を送ってくる。だが、それも不思議と嫌ではない。やはり、考え方が似ているからなのだろうか。

八幡「そういうことなら、粒咲さんも何か将来の夢があるってことですよね?」

あんこ「まあ、なくはないけど……」

途端に粒咲さんの声のトーンが落ちる。

八幡「なんですか?」

あんこ「……笑わない?」

八幡「笑わないです」

あんこ「有名ブロガー兼在宅プログラマーになること……」

粒咲さんは俯きながらぼそっと呟いた。

八幡「いいじゃないですか」

あんこ「え?」

八幡「俺の夢よりよっぽど現実的じゃないですか。粒咲さんはパソコンに精通してるし、何よりパソコン好きですよね?好きなことを職業にするなんて、滅多にできることじゃないですよ」

あんこ「そ、そうかしら……」

粒咲さんは俯いたまま話を続ける。

あんこ「先生って、やっぱり変わってるわよね」

八幡「それはお互い様でしょう」

あんこ「まあ、そうだけど……。でも、ワタシの夢を否定しないで応援してくれる人なんて、滅多にいないから、嬉しかった」

八幡「……」

突然の言葉に驚いてしまい、俺は何も反応できない。そんな俺の表情を見て取ったのか、粒咲さんは普段のテンションに戻って話し出した。

あんこ「ま、ようするに感謝してるってことよ。ありがと、先生」

八幡「え、ええ。どうも……」

あんこ「あ、そうだ。ついでに協力してほしいことがあるんだけど、いい?」

八幡「俺にできることならいいですけど」

あんこ「ふふっ、流石先生ね。じゃあちょっとこっち来て」

八幡「はあ」
524 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/11/01(水) 06:46:53.50 ID:Y3HQ/bbm0
番外編「あんこの誕生日後編」


手招きに応じて粒咲さんのところまで行くと、パソコンの前に座らされた。

八幡「あの、何をするんですか?」

あんこ「これから画面にいろんな質問が出てくるから、それに答えてほしいの。多分10分くらいで終わると思うから」

八幡「別にいいですけど、何のためにやるんですか?」

あんこ「ふ、それを言ったら面白くないでしょ?後で教えるから今はその質問に答えて」

八幡「はあ……」

さっき協力すると言ってしまった以上断れないか……。

仕方なく俺は画面に次々に映し出される質問に答えていった。というか、「就寝時間は?」みたいな普通の質問から、「もし彼女が浮気したらどうしますか」みたいな変な質問まであって、何を導き出したいのかさっぱりわからない。

10分ほど答え続けると、「質問は終了です」の文字と俺のパーソナルデータを表す番号が現れた。

八幡「粒咲さん。終わりました」

あんこ「お疲れ様先生。協力してくれてありがと」

八幡「で、これはなんだったんですか?」

あんこ「これはパパが開発した結婚マッチングシステムのアンケートよ。この質問の答えをもとに、相性のいいペアをシステムが選んでくれるの」

八幡「なんで俺がそのアンケートをやらないといけないんですか……」

あんこ「サンプルが多い方がシステムの正確性も高まるのよ。それに、先生みたいな非リアの人のサンプルって貴重なの。こういうシステムを利用する人ってリア充願望強い人ばっかでけっこう偏るのよね」

八幡「そうですか……」

ただサンプルを増やしたかったのね。納得。俺なんか絶対手を出さない領域だ。働くお嫁さん欲しいけど、こういうマッチングシステムを使おうとまでは思わんな。

あんこ「そうだ先生。ワタシもこのシステムに登録させられてるの。せっかくだからワタシたちの相性診断してみない?」

八幡「えー」

あんこ「何よ。どうせ先生、こういうのやらないでしょ?お試しと思ってさ」

八幡「これで悪い結果出たらどうするんですか」

あんこ「大丈夫よ。ワタシと先生けっこう考え方似てるし、イイ線いくと思うのよね」

俺の懸念は露知らず、粒咲さんは自分の番号と俺の番号を打ち込んでいく。

あんこ「さ、どうなるかしらね。いくわよ、Enter!」

粒咲さんがカッコよくEnterキーを押すと、

八幡「相性……」

あんこ「400%……」

シンジくんのシンクロ率並の数字が表れた。このまま俺たちはLCLに溶けちゃうのかな?

八幡「ま、こんな数字あてにならないし、気にするだけ無駄ってもんですよ」

あんこ「ありえない……」

八幡「え?」

あんこ「ありえないって言ったの!このシステム、普通100%までしか表示されないのよ!?それが400%?どうなってるの……」

粒咲さんは頭を抱えてしまう。こういうのに疎い俺からすれば、何が悪いのか詳しくはわからないが、おそらくシステムが予想外の反応を示したということなのだろう。

八幡「まあ、あれじゃないですか。人間の心はシステムを超える、みたいな感じじゃないですか」

俺のこの適当な発言に対し、ゆらゆらとしながら粒咲さんが立ち上がった。あれ。もしかして俺やらかした?流石に適当ぶっこきすぎたかな……。

あんこ「ワタシと先生の相性はシステムを超える……」

八幡「つ、粒咲さん?」

あんこ「ということは、ワタシと先生はそれだけ強く運命づけられた関係だったってこと……?それならワタシが先生と、け、結婚するってこと……?」

粒咲さんは1人で勝手に話を進めてしまっていた。

八幡「あ、あの……」

結局下校時刻になっても粒咲さんはこのままの状態だった。強引に下校させたけど、果たしてちゃんと帰れたのだろうか。
525 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/11/01(水) 06:51:00.40 ID:Y3HQ/bbm0
以上で番外編「あんこの誕生日」終了です。あんこ誕生日おめでとう!八幡とあんこはけっこういいコンビだと思います。
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 23:15:18.61 ID:YXWBd1EKo
乙です
527 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/11/03(金) 00:57:08.51 ID:4R/IfhEA0
本編6-2


八幡「ふう」

次の日。俺は早朝の生徒会室のドアの前にいた。一つ息を整えてからノックする。

「どうぞ」

八幡「失礼します」

明日葉「おはようございます先生」

中にいたのは生徒会長の楠さんだ。メガネをかけ、書類の整理をしているようだ。

明日葉「時間通りですね。こんな朝早くからありがとうございます」

八幡「いえ。まあ、急な連絡に驚きましたけど」

昨日夜、どうしても2人で話したいことがあるから生徒会室に来て欲しい、という内容の連絡が突然来た。かなりびっくりしてしまい、ちょうどプレイしていた音ゲーを失敗してしまった。仕方ないよね。普段連絡なんて来ないから通知はONだったからノーツが隠れちゃった。

明日葉「すみません。急な用だったもので」

八幡「それはいいんですけど、その用ってなんですか?」

明日葉「それは……」

その時、なぜか楠さんの右腕が挙がった。

次の瞬間、左右から何者かが現れ、俺の手足を瞬く間に縛り上げる。

八幡「な、なんだ、って、んんっ!」

床に倒された俺はすぐ猿轡をかまされ、声を上げることもできなくなってしまった。そして目隠しもされ、完全に動きは封じられた。

明日葉「では移動しましょうか。先生」

底冷えするような声を浴びせられると、俺は台車か何かに乗せられ、どこかへ運ばれた。

-----------------------------------

そこそこの時間移動させられると、不意に台車の動きが止まった。

明日葉「さ、着きましたよ先生」

俺は再び床に転がされ、目隠しだけが外される。あたりを見渡すと、薄暗く、色々なものが積まれている。おそらく学校内にある倉庫のような場所だろう。

八幡「一体何のつもりですか楠さん」

明日葉「意外と冷静ですね。流石、敵の幹部なだけはあります」

敵?幹部?何言ってるんだこの人は。

八幡「何言ってるか全くわからないですけど、とりあえず早くこの縄ほどいてくれないですかね。俺、こういう趣味ないんですけど」

「諦めなさいよ先生」

「そうよ〜。むしろ、先生はこういう状況を楽しんでるんでしょ?」

楠さんの後ろから聞き覚えのある2つの声がした。

暗がりから姿を現したのは芹沢さんと粒咲さんだ。楠さんの隣に立ってるということはこの2人も共犯なんだろう。おそらく俺を縛り上げたのはこの2人に間違いない。

八幡「いや、けっこう本気で痛いんですけど。それに床冷たいし」

蓮華「そうやってれんげたちを油断させようとしてるのかしら?」

八幡「いや、油断も何もないですから……」

あんこ「ていうか、逆にこんなことをしておいてワタシたちが先生をすぐ解放すると思う?」

八幡「それは、ない、と思いますけど……」

楠さんと同じように、芹沢さんも粒咲さんも俺のことを明らかに敵視している。こんなに恨まれるようなことした覚えは全くないんだけど……。

明日葉「蓮華、あんこ。お疲れ様。あとは私がやるから、2人は教室に戻ってくれ」

あんこ「ええ、でも、本当にやるの?」

明日葉「ああ。やる。私にやらせてくれ」

蓮華「……わかったわ。でも、何かあったらすぐれんげたちを頼ってね?」

明日葉「もちろんだ。さ、早く行ってくれ」
528 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/11/04(土) 14:40:27.94 ID:ZP/Q0LvQ0
本編6-3


楠さんに言われ、芹沢さんと粒咲さんは部屋を出ていった。結果、俺と楠さんは密室に2人きり、という状況になるわけだが、今は全くドキドキしない。いや、恐怖のほうでドキドキしてるわ。それもメチャクチャ。

八幡「これから何をするつもりですか」

明日葉「それは私の台詞です。先生はこれから何をしようとしているのですか?」

八幡「質問の意味がわからないんですけど……」

明日葉「あくまでそうやってとぼけるのですね」

楠さんは鋭い視線を向けてくる。立って腕組みをして俺を見下ろしている分、さらに威厳を感じる。めっちゃ怖い……。

八幡「だから、とぼけるって言われても何が何だかさっぱりわからないんですけど」

明日葉「わかりました。先生がそのような態度をとるのなら、こっちにも考えがあります」

そう言って楠さんはしゃがみこんで、俺に携帯の画面を見せてきた。

明日葉「この人が、どうなってもいいんですか?」

その画面には小町の名前と、電話番号、メールアドレスなどが表示されていた。

八幡「あんた、何してんのかわかってんのか」

思わず俺は語気を強めてしまう。だが、楠さんはそんなものには動じるはずもなく、澄ました表情を崩さない。

明日葉「できれば私もこのような卑怯な手は使いたくないんですが、手段を選んでる場合ではないので」

楠さんは携帯をしまうと、再び立ち上がる。

明日葉「大事な妹さんを守りたいのなら、まずは私の質問に正直に答えてください」

八幡「…………」

小町を人質に取られた以上、俺に抵抗する余地は残されていない。未だにこの状況の意味が掴めないが、まずはおとなしく言うことを聞いていた方がよさそうだ。

明日葉「観念したようですね。ではまず単刀直入に伺います。あなたはイロウス側、つまり私たち星守の敵としてこの学校に潜入したのですか?」

八幡「は?」

突然、全く身に覚えのないことを言われてしまった。

明日葉「やはりとぼけるんですね。今さらそんな反応をしても無駄だと言うのに」

八幡「いや、いきなりそんなこと言われたら誰だってこういう反応になるでしょう……」

明日葉「その余裕も直になくなりますよ。では質問を変えます。先生がこの学校に来てすぐ、桜の家でひなた、サドネと勉強会をしていましたよね」

八幡「ええ。藤宮に言いくるめられて。それがどうしましたか」

明日葉「その時、どうしてイロウスが先生たちの前に現れたのですか?それもひなたたちの話によれば、イロウスは桜の家にまっすぐ向かって来たそうじゃないですか」

八幡「そんなの俺が知るわけないじゃないですか。イロウスに聞いてくださいよ」

明日葉「だから先生に聞いているのですが?」

楠さんは不快そうに目を細める。その顔やめてくれよ。マジで怖い。

八幡「その『だから』って言葉の意味が分からないんですけど……」

明日葉「ですから、先生がひなたたちを倒そうと『わざと』桜の家にイロウスを集めたのではないか、と言ってるんです」

楠さんは真剣な雰囲気を崩さない。なんだか、だんだん事態をつかめてきたぞ。

八幡「どうしてそんなことをしないといけないんですか。むしろ、イロウスを使わなくても、直接手を下せばいい話だと思うんですけど」

楠さんは一瞬、苦い顔をしたが、すぐに表情を戻して尋問を続ける。

明日葉「では楓とミミと3人で千葉に行ったときはどうでしたか?2人をわざわざ千葉に呼んだのは、自分の得意な場に誘い込もうとしたからでは?」

まあ、2人を案内するのに最適な場所として、俺の心の故郷千葉を選んだのは否定しないが。

八幡「でも、千葉には俺の知り合いも少なからずいます。千葉の人はみんな千葉で行動するんです。あの日、もしかしたら俺の知り合いも千葉駅にいたかもしれません。そんな人たちを巻き込んでまで、俺が綿木と千導院を殺そうとしたと言うんですか?」

明日葉「そのような可能性も捨てきれないと思っただけです」

だんだん状況が掴めてきたぞ。楠さんは、いや高校3年の3人は、これまでの俺の行動が全て星守たちを殺そうとした策略だと思ってるんだな。だから俺をこうして監禁するような手段に出たわけか。
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