会長「音が紡ぐ笑顔の魔法」

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173 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/02/19(月) 21:47:25.10 ID:qaWYH822o
その6 ロリ ライジングロックの帰り道



部長「ごめんなさい……ごめんなさい……」

この子も器ではなかった。

それだけの話。

むしろこの状況の中、最も重圧がかかるポジションをよくこなしてくれたとも思っている。

二年前の今、自由天文部の部長をやっていたドラムをこの子は慕っていたと思う。

この子はドラムのようになりたかったのか私には分からない。

それとも……

ロリ「立派だったよ」

私のようになりたかったのか。

ロリ「ほら、立ってよ」

最初は「モテたいから」と言って入部した彼が「この部活を残したい」と言ってくれたのには本当に驚いた。

本人が綺麗な言葉で飾ろうとも燻った感情を募らせている子だとは分かっていた。そんな癖のある子だからこそ奇跡を起こすと信じた私が自由天文部の代表に相応しいと思ったからこそ部長に指名したのだ。

そんな子に対してトラウマを更に積み重ねてしまった私は人として最低だろう。

「モテたい」というのは嘘で何かを残したい事も分かっていた癖に……

先輩ならどうしていたのかな、もう分からないよ。

ロリ「まずはたくさん休んで……それから」

ロリ「文化祭があるから、それには出よう」

ロリ「最後の思い出だからね」

先輩、ごめんなさい。

私は貴女の夢を叶える事が出来なかった。
174 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/02/26(月) 19:33:59.37 ID:N89DNej0O
第三章 ロリ「絆の奇跡」 始まり



男「話しって?」

打ち上げの帰り、俺は友に呼び出された。

場所は俺の家の前。

祖父と祖母にいらぬ誤解でもされたらどうするつもりなのか……

友「俺……いや、私は」

男「文化祭でテンションでも上がったのか?変な事言うなよ」

友は正直に言ってかなり変な奴だ、いつも男のように振舞っている。

学校に1人は居る痛い奴なのかと思えば普通に会話も出来るし、むしろ上手だ。

友「男が分からないんだ」

男「その言葉そっくりお返しするわ」

友「ほら、男って女として美しいけど、男として美しくもあるだろ?」

男「心外だけど、否定しないよ」

友「だからさ、そんな男を見てると俺……私はどうしたらいいのかなって……」

男「結局は何が言いたい?もっと男らしくしろとでも?」

友「ごめん、違う。俺の話なんだ。俺がどう振る舞えば良いのか……」

友「初めてなんだよ、俺と同じような人を見たのが……絶対に同類だし、仲良くなれると思ってる。だから出来るだけ男が俺と一緒に居て心地良い風にしたいんだ」

男「趣味悪いなお前」

こいつ、俺と全く同じ事を考えて居たのか。

間違いなく同類だな、だからこそ言ってやらなければならない。

曖昧な発言で友を狂わせてはならない。

男「あのさ、女なんだから女らしくしろよ。折角の高校生活、楽しまなきゃ損だぜ」

友「……わかった」

綺羅星ソニアだった時も俺が男であるように、友も女であるべきなんだ。

男「はぁ……仕方ない。ちょっと上がれよ」

友「ふぇっ!?」

こいつには俺の事を教えてもいいと思った。例え軽蔑されたとしても、友ならば良いとすら思えたのだ。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/04(日) 00:30:12.56 ID:uhszVFXUo
きたか!
176 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/05(月) 08:30:27.07 ID:vgr83SUvO
友「おっ、おお、おっ、お邪魔しますぅ……」

男「今日は誰も居ないな」

最近はこういう事が多い、二人揃って何をしているのやら。

友「誰も居ない!?」

友「……」

友「そうか」

男「……」

男「目が据わってるけど……」

友「気のせいだよ」

男「やっぱりお前おかしいって」

男「まぁいいや……」

男「こっち来て」

昔使っていた部屋に案内する。

友はよろめくような足取りで着い来た。
177 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/17(土) 19:47:52.41 ID:XY49X/HFO
>>176

友はよろめくような足取りで着い来た


友はよろめくような足取りで着いて来た。
178 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/19(月) 19:06:42.54 ID:XrCQ6Rq9O
男「この部屋」

アイドル時代に使っていた部屋だ、ここで一人夜な夜なとレッスンや化粧の勉強とかしたっけな。

まぁ、化粧はマネージャーか社長が全部やってくれたから意味無かったけどな。

友「え、女物の服ばかりじゃん」

男「昔着てたんだよ」

友「?」

友「お前……マジで?」

男「違うって」

友「でも……」

男「ほら見て」ズポッ

ソニア時代のウィッグを被る。

友「!」

男「お前には知られても良いって、思ったんだ」

友「マジでぇ……?」






男「そう……俺が綺羅星ソニアだよ」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/23(金) 20:14:50.01 ID:IoVsUnOPo
めっちゃ期待
180 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/24(土) 22:18:10.63 ID:cYWoAi95O
友は頭が追いつかないのか、当時着ていた衣装、超ミニのスカートをずっと握りしめている。

この衣装は着ているだけでハラハラするスカートだったな。

男「その衣装売ったら100万くらいするから」

友「ひゃっ!ひゃくまんっ!?」

テンプレートの反応ありがとうございます、ん?この衣装に不自然なシワがあるな、祖母が触ったのか?

友「あばば……」

俺の格好が男子高校生そのものであるにも関わらず、ウィッグだけでも気付いてしまう親友。

男「やっぱりわかる奴にはウィッグだけでも分かるんだな」

友「き、き、き、綺羅星ソニアさんだったんでつね……」

ここまで恐縮しなくたって良いじゃないか、遠い存在な訳では無いだろう?

男「もう辞めたけどな」

181 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/24(土) 22:22:52.07 ID:cYWoAi95O
友「トップ中のトップアイドル様がどうして……?」

男「稼ぎ過ぎたのと単純に新しい道を模索したかったんだ」

友「引退したアイドルが俳優を志すのと似ている……」

男「簡単に言えばそうかもな、俺は学生生活なんて微塵も興味無いけどさ」

友「綺羅星ソニアならギターをやるにしても沢山レッスンを……」

男「おばあちゃんがさ、普通の高校生活をして欲しいってうるさいんだよ」

友「あっ、凄いほっこりする」

男「俺自身もメディアとかプロの枠に囚われない表現を実現してみたかった。てのはある」

男「そしたらさ、身近には凄い人が居るんだよな」

友「会長さんの事?」

男「そう、あの人は天才なんて言葉じゃあ測れない」

友「そんなに凄いの?」

182 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/24(土) 22:24:28.49 ID:cYWoAi95O
友は会長の並外れた才能を理解していない。
同じ学生と言うフィルターが評価を落としているのか、そもそも音楽に興味が無いのか。

男「綺羅星ソニア並さ」

下手すれば越えられるかも。

友「自画自賛?」

男「とんでもない。ソニアは俺であって俺ではない」

男「俺が生み出したキャラクターだよ」

実際に綺羅星ソニアを演じている時は本当に別の人間になったかのような、夢を見ているかのような……そんな感覚なんだ。

友「キャラクター……」

友「あのさ……誰かに男の秘密をバラ撒くとかそんな気は一切無いし、墓まで持っていくつもりなんだけどさ」ガシッ

友は急に俺の手を持ってどうするつもりなのか、すごく嫌な予感がする。

友「今一信じられないから……実際に綺羅星ソニアの歌を歌って踊ってみて欲しい……………な」

凄い上目遣いでお願いをされてしまった。
183 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/24(土) 22:25:42.28 ID:cYWoAi95O

男「嫌だ」

友「それが嫌だ!」

男「しつこいなぁ、嫌な物は……」

友「……」

友「だったら……」

『だったら?』
秘密をばら撒くつもりか?
友にばら撒かれるのなら許せるけど、少し残念だな……

友「絶対に!ここをどかない!」

間を空けて言う事がそれ?

男「ふふっ……あははっ……!」

なんだか馬鹿らしくなった。

友は俺が思っている以上に良い奴だ。

俺に見せて差し上げよう。

男「良いよ、聞かせてやるし………」

男「見せちゃうよ――」

男「――」




ソニア「私のステージ!!」




友「うおおおおお!!!!」

ソニア「と、その前に☆」

ソニア「お着替えしなくちゃ♡」

友「あ、はいっ。早めでお願いします」


184 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/25(日) 07:43:22.91 ID:uHH4384aO

ソニア「では、改めましてっ☆」

私、ソニアは本来ならば大勢の観客の前以外ではステージなんて行わない。

こんなにも規模が小さなステージなんてデビューした時すら無かった。

そもそもで言えばアイドルなんて引退しているけど……
唯一の親友に披露する限定ステージなら話は違うよね、うん。

ソニア「友ちゃーん!今日はありがとー!」

友「きゃあああああ!!!!」

ふーんっ。
友ってこんな表情もするんだね!

ソニア「じゃあ、1曲だけ歌うよ?……」

CD再生、ポチッとな。

友「シュール……」

うん、聞こえてきたよ。
凄く激しい曲で、ダンスも過激だったからレッスンは大変だったな〜懐かしいっ!

ソニア「……っと」

そう、最初のステップが急だったね。

友「パンツ見えてる!見えてる!!」





185 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/25(日) 07:45:57.70 ID:uHH4384aO




ソニア「今日はありがとっ!」

友「アンコール!!アンコール!!」

ソニア「もうっ、だめだよー?」スポッ

これ以上踊るつもりは無いので、ウィッグを外すと……

男「めちゃくちゃ疲れたから……これ以上は無理……」

まぁ、男に戻る訳だ。

多重人格とかそんな大層な物ではなく、ただキャラクターを演じ分けているだけなのさ。

友「残念……けど、ウィッグを取っても女みたいだ……ね」

男「見た目だけな。ようやく分かってもらえたと思うけどさ、俺はれっきとした男なの」

男「だからお前も男のように振る舞う必要は無いんだよ、わかった?」

友「分かったよ……」

男「女なんだから、ソッチでも無い限り女の格好をしなきゃ勿体無いよ。折角の女子高生生活を変に楽しんでも勿体無いだろ?」

友「うん、分かった。これからは女らしくするよ」

これだけ真剣に見つめてくれるのならばもう彼女の事を心配する必要は無いだろう。

友「でもさ、えいっ」

スポッ

男「……」

友は綺羅星ソニアの物とは違う、普通のウィッグを俺に被せた。

友「どうみても女だよな」

男「もっと男らしく産まれたかったけど……この顔に産まれて感謝してるよ、おかげで金には困らない」

友「そう言えば……どうしてアイドルになったの?」

男「きっかけはスカウトだけど……思いっきり勝ちたかった……いや、勝ちたいんだ……“あいつら”に」

思い出すだけでも腹立たしい、胸を締め付ける、涙が出そうになる、悔しい、殺してやりたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、み……

友「“あいつら”?」キョトン

男「両親と姉に……勝ちたいんだ……子供染みてるけどさ、復讐してやるためにアイドルを始めたんだ」

友「どうしてそんな……」

男「……」

男「それは……教えられないな」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 05:35:27.15 ID:BWVOUd95o
むっちゃ気になる
187 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/03/30(金) 08:19:25.91 ID:ndijAR7dO
友「話したくない事なの?」

男「まぁ……うん」

友「そっか……」

男「…………」





――6年前

「下手」

「もう一度歌いなさい」

男「う、うん!」ニコニコ

「……」

男「La 〜♪」

母「もういいわ」

父「次は姉が歌いなさい」
188 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/04(水) 08:34:14.11 ID:JC88S2aqO
近所のホールでいつものように練習、憂鬱な時間だった。

男「ごめんなさい……」

父「……」

姉「〜♪」

俺はこの家で1番の出来損ないだった。

物心が付いた頃から“適正”を見る為に一通りの楽器、更には歌までも練習させられる。
ギター、ベース、ドラム等の俗に言う大衆向きは“低俗”だそうで、それを扱うジャンルは聞かせてすら貰えなかった。

傍から見たら狂っているのだろう、それに気付いた頃には全てが遅かったが。

父「うん、良い」

母「同じ兄弟なのにどうしてかしら……」

父「声が高過ぎるのか?」

母「まだ子供だから?」

父「それは姉もそうだ、更に言うと男はいつも自由に歌う癖がある」

母「そうね……どうしたらいいのかしら?この子は私達が思い描く方向と逆に行くもの」

男「……」

両親は俺の事でいつも討論する。

それを見られるのも嫌だった。
189 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/06(金) 11:12:51.23 ID:sanDJTSlO
「……」ジッ

男「うっ……」

「どうしたの?」

男「なんでもないよ……」

「おうた、じょうずなんだね!」

男「う、うん」

母「男!聞いてるの!?」

男「ご、ごめんなさい!」

「……」

母「この子は……もう」

最初から両親が求める物を持っていなかったのだろう。

結果的には……ある日の事だった。

いつものように家へ帰ると……

男「ただいまー」

男「あれ?お母さん?お父さん?お姉ちゃん?」

祖母「……」

祖父「男……あのな」

祖母「いい、私が言うから……」

祖母「聞いて、男」

祖母「お母さんとお父さんとお姉ちゃんはね、引越ししちゃったの」
190 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/08(日) 23:40:45.94 ID:eId9HoRhO
男「引越し……?」

祖母「少し忙しいから……」

祖母「ほんの少しだけ引っ越してるだけだから」

男「いつまで!?」

女のような奇声をあげて叫ぶ。

男「いつまでなの!?」

何度も何度も叫んだが、意味は無かった。

祖母「……」

男「教えてよ!」

子供ながらにして捨てられたって事は分かっていたが、認めたくなかった。

男「じょうずに歌うからぁ………っ………!」

その時の俺は昨日出場した歌のコンクールで起きた出来事を思い出していた。

――――

パチパチパチ

男「……」ペコッ

「では、〜〜番の男君。歌ってください」

男(自由に歌いたい……な)

男(いいよね?どうせコンクールは何回もやるし……)

男(本当はもっと上手に歌えるって……お父さんとお母さんに認めてもらわなきゃ)

「男君?」

男「ごっ、ごめんなさい。歌います」

「はい、緊張しないでね」

男「La〜♪」

父「……」

母「どうしてこうなのかしら……」ハァ

「おお、凄い上手だな……」

「子供でこの表現力は……」

母と父は単純に率直に歌えば満足なことに対し俺はタメやアレンジを加えてしまう。

どちらも決して間違ってはいないが――

――

男「あのコンクールがきっかけだ……帰り道だって一言も……うわあぁぁぁ……!!」

祖母「ごめんね……私がもう少しまともに……!」

祖父「あの馬鹿は……」

そして……







あの頃から人として緩やかに死んでいくだけだった俺の事を……あの人が救ってくれた。

191 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/08(日) 23:55:39.94 ID:bJTzmZT9O
中学生になったばかりの頃だった。

「ああ……また誰もスカウトできなかった」ウルウル

男「……」

「あっ、凄い美少女だけど……ボーイッシュだな」

たまたま繁華街を歩いていた時に出会った運命の人、俺の事を変えてくれた人。

「ねぇねぇ、貴女」

男「……?」

「――アイドルになってみない?」

――現在

男「……」

友「おーい?」

男「ごめん、物思いに耽ってた」

友「絶対に昔の事思い出してたろ」

男「ふふっ……そうかもな」

友「教えてくれたっていいのに……もうっ」

男「両親からひどい扱いを受けてきたってだけだよ」

男「ほんとにそれだけ」

完膚無きまで俺の実力を見せつけてやって、姉よりも優れてるって見せつけて……謝らせて……それで……

男「許してはあげたいから」

友「そっか、うん!そうだよな!それでこそ男だ!」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/11(水) 23:47:49.15 ID:tsX8qE2To
重いな
おつおつ
193 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/21(土) 10:18:50.33 ID:rGIivKQtO
友は何ともやるせない表情、捨てられた子犬を見るかのような目で俺を見る。

友「凄く仲が良くないのは分かったけどさ、そんな両親と一緒の家に居辛いとかは無いの?」

男「両親は家に居ないからさ」

友「え?」

ん?急に雰囲気変わったな。

友「じゃ、じゃあ普段は……どうして?」

男「普通におじいちゃんとおばあちゃんが居るよ」

友「はぁ……今日泊まっていい?」

男「自然な流れで泊まろうとすんな」

何が目的なんだか。

友「じゃあさ……あのさ……」ドキドキドキ

友の表情、素振り、雰囲気が急に女性らしく、今までの友を知っている俺からしたら違和感しかない。

友「好きな人とか……居るの?」

友は前髪に人差し指を絡め、すじりもじりと身体を動かしている。そこまで恥ずかしがるような質問なのか……

まぁ答えてやろう。

男「居るよ」

友「誰誰誰!!??」

友は鬼気迫る表情で俺の両手を突然掴んでから引き寄せる。
密接した状態、少し前に顔を出せば唇と唇が触れてしまうだろう。

男「ソニア時代のマネージャー」

ここまで言わされてしまったか、うん。
親友だからと言っても、限度があるのではないか?
194 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/24(火) 12:23:46.38 ID:b2q9pkw9O
友「……」

友「えっ?」

友は呆気に取られ、俺が何を言っているのか今一理解出来ていなかった。

男「本当だよ、うん。だってさだってさ、凄く可愛らしいんだよ」

友「歳……いくつなの、その人」

男「21……」

友「ほぼ6歳差!無理だよ!!」

この女、男のように振る舞う割にはまともな事を抜かしやがる。

男「ワンチャンあるかも知れないだろ!」

友「諦めて!!」

男「いやだよ!」
195 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/04/29(日) 09:57:57.69 ID:83Qcb0RoO
友と他愛も無い口論を数十分も続けた後、家に返した。

帰りたくないと喚いていたのだが、文化祭の帰りに女子を家に泊めるのは問題しかない。

男「ギターもしたかったし……」

リビングにはお父さんとお母さんが座っている。
今日は何があったのか話してあげないと、とっても楽しかったって。

男「うん……そうだよ、友がね、とっても面白くってさ」

男「可愛い女の子なのに男のように振舞おうとしているんだよ。でも、それは僕に合わせようとしているだけでさ、本当は人と違う訳じゃないんだって」

男「話聞いてる?え?」

男「歌え?どうして?」

男「いやだよ?もう歌わなくて良いって、無理矢理歌わせてごめんって、謝ってくれたよね!?」

男「……」

仕方なく歌った。

精一杯、下手くそなりに……




下手くそ?

どこが?

男「ははっ……」

笑いがこみ上げてくる、これはたまらなく痛快な喜劇だ

男「あっははははは!!」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 20:08:11.44 ID:qLx/p7wLo
こわい
197 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/05(土) 18:59:26.03 ID:DdI/X0cAO
おとうさんとおかあさんはそれでも下手糞と、期待外れと、心のない一言が僕を、私を、俺を傷つける。

男「うるせぇよ!!」

男「下手糞はてめぇら、あんた達だろ!!」

男「俺の何がいけなかった!?」

何も答えない。

男「表現は自由だろ!?」

男「どう聞いたって俺の歌は上手だろ!!??」

男「お姉ちゃんよりも!!ずっと、ずっと!!」

俺の方がずっと魅力的に歌えると子供の頃から今までずっと思ってきた。それでも2人は姉を選ぶ。

男「俺を“こうした”のは誰だ?男性として歌えなくしたのは誰だ?」

男「女物のウィッグを被らなければ歌えなくしたのは誰だよ!?」

友に被せられたウィッグをまだ被っていたから歌えているだけだ、綺羅星ソニアの姿なら歌えるってだけではない。

男で無ければ歌えるのだ。

男「女に扮する事でしかまともに歌えないって……馬鹿みたいじゃん」

それでも……それでも……

男「歌えるのならそれでいいや」

男「あははは、きゃはははは!」

奇声のような笑い声は女性そのものだった。
198 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/06(日) 00:09:22.50 ID:oAmXNntKO

同時刻

近所では少しだけ名が知られている会員制のレストラン。本日のメインとして招待された若手のジャズバンドが小気味よい即興演奏を行い場を湧かせる最中、ある1つのテーブルでは場違いとでも言わんばかりに聞いていても心地の良くない会話が繰り広げられていた。

周囲の目も憚らず、テーブルには男の両親と姉、祖父母が一堂に会している。

母「お母さんとお父さん、良い音よ。これを家族で聞く為に今日は集まった筈でしょ?」

父「お義母さんとお義父さん、良い音ですよ。いやー今日は記念すべき日ですね。こうしてまた集まれた」

祖母「あなた達にお母さんと言われる筋合いはありません」

祖父「2人揃ってお母さんとお父さんなんて気持ち悪い、どうした?言いたい事は何も無いのか?」

祖父母が出す険悪な雰囲気に対して父と母は何処吹く風だ。
最初からまともに取り合う気も無いかのように。

姉「……」

祖母「どうして今更顔を出したの?」

母「実はね、姉は今度行われるフェスに出場する事になったの」

祖母「フェス……よく分からないけど、凄いのかしら?」

父「ええ、ジャンルを問わずにインディーズの若手実力派が集まります」

祖父「いんでぃーず?」

父「ふっ……まぁ、プロではない若手ミュージシャンの祭典と言ったらわかりやすいかと」

祖父を小馬鹿にした態度をほんの一瞬、わかりやすく出してしまう。

これが父という人間のほん一端、決して悪気があわる訳では無い。

祖父「あ?今鼻で笑ったか?」

母「気のせいよお父さん」

祖父「お前は黙ってろ!」

祖母「やめてよこんな所で……」

祖父「ちっ……」

父「私のツテで参加出来るようになりまして……」

母「この子の実力だって立派よ、きっと良い結果を残すわ」

祖父「そうか、それは良くやったな」

祖母「おめでとう」

祖父母の言葉は心からの本心、姉だって可愛い孫の1人なのだから。

姉「……」エッヘン

が、どうしても気になる事がある。

祖母「……」

聞いても録な事が無いだろう。
このレストランに来てから2時間弱、本当に話すべき事を話さずにずっと無言の食事をしていたのだから。

祖母「男は……気にならないの?」

母・父「……!」

父「あ、あぁ、男は元気にしてますか?」

母「ずっと気になってたの、しっかりご飯食べてるかしら」

祖母・祖父「……」

2人は年の功なのか、人の親としてなのか、今の反応だけでこの2人と男が再び笑い合える日が来る事は二度と無いと理解した。

今日、この場に男を連れて来なくて本当に良かった。

あまりにも惨い。

祖母「姉に対する愛情を少しだけでもいいから男に分けてやれなかったの?」ボソッ

祖父「……」

呪詛のように小さく呟かれた言葉が祖父以外に届く事は無かった。
199 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/10(木) 13:58:23.03 ID:/nY1i46xO
姉「男に会いたい……」

母「……そうね」

母「音のセンスがなくたって男は私達の……」

母「家族だから」

父「だな……」

母は真っ直ぐな瞳で祖母を見据える。
母の言葉は常識でこそあるが、心からの嘘偽り無く望んでいる事ではない。
普通の人間なら2人と男を近付けたくもないだろう、せめて父と母の覚悟を推し量る為にも1度は突き放すだろう。
祖母は理解していた。
試しに突き放したとしても父と母が食い下がる事は無いと。
『はい、そうですか』と待っていましたとでも言わんばかりの反応を取り、自分達が悪者ではない、むしろ普通の人間である事を体良く表現するのが目的だと。
今は会いたくても会えない、それならば昔は?どうして?
祖母は考える事すらも馬鹿らしくなり、仮にも腹を痛めて産んだ筈の子を小さく鼻で笑ってやった。

祖母「……」

祖母「綺羅星ソニアって知ってる?」

こんな茶番を繰り広げるよりも別の事を話した方が良い、自分の娘で無ければ思い付く限りの罵倒雑言を浴びせてやりたかった。

母「えぇ、有名ね」

父「アイドルとは思えない歌唱力ですが、どうして?今はそれどころでは……」

祖母「……」

あの時の事は少し行き過ぎた教育だと思っていた。
男に対する情熱が間違えた方向に行ってしまっているだけだと、祖母はひどい勘違いをしていた。
目の前で座っている2人は男を道具かなにかと勘違いしていたのだ。
その結果、男は屈折した感情を今でも持ち続けている、理由は言うまでもない。

祖母「気づくわけない……か」
200 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/14(月) 20:07:00.39 ID:n6/G/YMiO
これで分かった。

この二人は男の親ではない。

分かってはいた。

言うまでもない。

それでもやりきれない。

祖母「姉は今幸せかな?」

綺羅星ソニアが男だと分かっていたのなら、ほんの僅かな可能性があったのかも知れない。

姉「はい、とっても」

祖母「お父さんと、お母さんみたいになっては駄目よ?」

何も期待出来なかった。

ジャズバンドの演奏が終わると同時に言い放つ。

祖母「あんた達と男は会わせないよ」

パチパチパチパチ

その声が拍手と共に掻き消されていたとしても関係無い。

お代だけを置いて祖父とレストランを後にした。
201 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/17(木) 08:41:19.29 ID:ny5dU8viO
同時刻。

「あはは……ごめんね、たくさん食べちゃって」

幽霊部員の家には部長、作詞、作曲、副会長、副部長までもがお邪魔していた。

幽霊部員「いいっすよーそれくらい」

副会長「この人、常識と言う物が……」ピクッピクッ

名も知らぬ女性は幽霊部員の家にある炊飯器を全て平らげる。
その行いは副会長の琴線に触れるのに充分だった。
空腹で倒れていたとは言え、マナーが無いと副会長は考えていたのだ。

しかし、気にしていたのは副会長だけであり、他の部員達はその事を気にしてすらいなかった。

作詞「君は相変わらずだね、副会長」

副会長「かいちょ、作詞先輩……しかしですね」

作詞「そう、この女性の行いは明らかに非常識。しかし、それをもってしても余りある空腹が彼女を苦しめていたのだろう。本来ならば限界を迎えてしまったであろう人間を助けたと言う事実こそが今の私達に」
副部長「どうしてご飯も何も食べずにあんな所で倒れていたんですか!!??」

作詞「必要であり……」

部長「珍しく折れたな」

作曲「眠い……」

「お金が無いから、です」

「うん、そう、お金が無い、から……あはは」

この女は感情が無いのかどうなのか、口は笑っても目が笑っておらず、どうしても心象が悪い。

一言で言うと気持ちが悪いのだ。

副会長「……お名前は?」
202 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/18(金) 23:00:56.68 ID:kfQdpLGcO
作詞「折れた訳では無いよ、副部長の
無神経にほとほと呆れ果て……」

幽霊部員「作詞ちゃんうるせーっす」

幽霊部員の言葉はシンプルに作詞の言葉を遮った。

作詞は静かに腕を組み、横目で幽霊部員を見ながら笑っている。
この状況では仕方が無いと言った様子だ。

「その前に、聞いて……いい?」

部長「あぁ、どうぞ」

質問を質問で返しても気にする素振りは無く、あっけらかんとした様子だ。

部長「……」

部長は静かに目の前の女性を分析していた。

前髪は口元、襟足は腰までの好き放題に伸びきった髪の毛を無理して金髪にしたからなのか、髪は痛みきっている。

人として常識の無い姿に隠してはいるが、嫌悪感を抱いている。
その全てをひっくるめて気持ち悪いと言うのが彼の素直な気持ちだった。

そう、部長の見る目は正しくもないが間違ってもいない。
目の前で座っている女は人として死んでいると言うのが正しい。

「……あのさ」

痛みきった髪を指先で弄りながら質問する。

「――自由天文部なの?」
203 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/21(月) 08:42:45.33 ID:lfhakcVzO
前髪の隙間から覗く、暗く淀んだ目で部長の事を見据える。

部長「え?あ、そうっすけど……」

「楽器持ってるからね……そうかなって」

小さな声でぽつりぽつりと語り出す。
耳を凝らさなければ聞こえない。

「OG……だから……君たちの学校にも通ってたし」

部長「え?マジすか?」

作詞「!」

幽霊部員「どっかで見た事ある気がしたんすよねー!」ドヤッ

「毎日のように……ううん、サボってばかりだったけどね」

作曲「あ……でも……」

「まだ潰れてないのが不思議なくらいだよ」
204 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/24(木) 01:48:56.87 ID:oNBvphcjo
作曲「違います……」

作曲「三学期中に廃部します……」

「……そっか」

静かにタバコを取り出し、火をつける。

「ごめんね、ちょっとだけ」

幽霊部員「お姉ちゃんも吸うから良いっすよ」

「お姉……ちゃん……そっか、一緒に……住んでる……の?」

自信の無い掠れた声で質問する。
ここに居る全員が彼女の声を聞き取るのに必死だった。

幽霊部員「そうっすよ!今はイギリスでホームステイしてるっす!」

「そっか」ニチヤァ

口角だけを上げた気持ちの悪い笑みを浮かべる、不自然かつ気味が悪い。  
誰から見ても彼女が人とまともに会話をしてこなかったの事が伺えたのだった。

部長「なぁなぁ……」ヒソヒソ

部長は幽霊部員の部屋に立て掛けられていた写真をこっそりと副部長と作詞に見せる。

副部長「んー?」

写真には過去の自由天文部が写っていた。

部長「これって昔の自由天文部だよな?」

作詞「そうだね。見た所によると写真の隅に立っているのがロリ先輩で、中央でピースをしているのが自由天文部を作った伝説の先輩だろう。幽霊部員の姉も写っている」

「私は女……です……」

幽霊部員「女……聞いたことないっすね」

女「サボってばかりだったから……」

二人の会話を横目にして話は盛り上がる。

副部長「うーん、女さんは顔が隠れてるから誰か分からないや」

部長「だよなー世代違いか?」

作詞「どうだろう?幽霊部員のお姉さんを知っていた素振りはあったからね、私からはこの写真に女先輩は居ないとしか言えないな」
205 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/25(金) 08:28:44.79 ID:kYP2e3HmO
幽霊部員「ちなみに今住んでる家はあるんすか?」

副会長「幽霊部員!こんな所でお人好しを発揮してどうするの!?」

部長「でた、幽霊部員にだけタメ口」

女「無い……追い出された」

女「荷物もなにもかも……うん」

女「家賃未払いだからって荷物まで没収は酷い……よね?ははっ」

副会長「それだけで済んで感謝する所でしょう……」ハァ

女「とり、あえずはお金を稼いで……未払い分の家賃を払わなきゃ……」

作曲「逞しい……意外」

幽霊部員「それまでうちに泊まるっすか?」

副会長「幽霊部員!!」

部長「あいつ、本当に何考えてるかわかんねーわ」

作詞「ふふっ……」

副部長「本当に変な子だなー」

幽霊部員「どうするっす?お姉ちゃんが帰ってくるまでの間っすけど」

女「……お言葉に……甘えて……」

幽霊部員「決まりっす!ちゃちゃん!」

女「本当に似ている……」ボソッ

部長「じゃっ、帰るか。また来週」
206 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/25(金) 08:39:27.62 ID:kYP2e3HmO
そして、平等に夜が更けていく。











3日後

ロリ「夏休みぃぃぃ!!」

幽霊部員「あと少しで夏休みっすよ!」

男「どうします?俺達が狙えるとしたらこのフェスが……」

会長「そうだな、うまくいけば……」

副会長「会長を中心に据えていくのは当然として」

月曜日の放課後、全員が部室に集まっている。

自由天文部は新たなスタートを切った。
207 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/27(日) 00:11:06.43 ID:D+XqGNx9O
>>206訂正




そして、夜は平等に更けていく。











3日後

副部長「夏休み!!!!」

幽霊部員「あと少しで夏休みっすよ!」

男「どうします?俺達が狙えるとしたらこのフェスが……」

会長「そうだな、うまくいけば……」

副会長「会長を中心に据えていくのは当然として」

月曜日の放課後、全員が部室に集まっている。

自由天文部は新たなスタートを切った。
208 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/27(日) 00:24:20.20 ID:D+XqGNx9O
部長「そう言えばうちのOGに会ったぜ」

不良「ふーん、どんな人だったの?」

部長「うーん……口では表しにくいな」

作曲「暗い……人」

部長「お前がそれ言う?」

幽霊部員「頑なにパートを教えてくれないんすよね、センスありそうなのに」

幼馴染「サボってばかりだから言えないんじゃないの?」

部長「お前もそれ言う?」

副部長「ねぇねぇ知ってる!?ダブルフェイスのツンデレちゃんが脱退だって!!」

男「ごはぁっ!!!?」ブ-ッ

どういう事だ?現状で言えばトップアイドルだったのに自らそれを捨てるか!?

会長「本当か!?残念……だな」

作詞「驚くのは結構だが……かかっているんだよね、男君が飲んでいたジュース」ピクッピクッ
209 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 08:29:48.00 ID:FgwfDCqSO
男「あっ……」

男「ご、ごめんなさい……」

咄嗟にタオルを取り出し、濡れてしまった作詞先輩に手渡した。 

シャツにコーラがかかり、若干ではあるものの透けてしまった……なるべく作詞先輩の事を見ないように務める。

作詞「うん……困ったね。これでは恥ずかしいよ」

部長「俺のTシャツ貸してやろうか?」

作詞「すまない。今日は制汗剤を持っていないからね、部長の体臭は耐えられそうにないよ」

部長「風邪引いちまえ」

作詞「男君。なにか肌着でもいいから持ってるかな?」

作詞先輩はくすみがかった銀髪を結ってから身を乗り出すと、テーブルの向かい側で座る俺の眼前まで顔を近づける。

作詞「濡らした君が責任を取るべきだよね」

人差し指と親指を使い、俺の顎を掴む。
挑発するかのような仕草は俺の事をからかう為だろう。

会長「む」

男「あっ、あー……バッグに入ってますね。待ってください」ゴソゴソ

衣替えが始まってしまったからなぁ、夏服になってから着替えも持ち歩かなくなったけど……

確かスクールバッグの中に……あ、あった。

不良(こいつ、どうしてカツラを持ち歩いて……私にしか見えていないよな?これ)

男「着てない体操着の上、ありましたよ」

作詞「ありがとう。着替えてくるかよ」

作詞先輩は俺の体操服を持ち、どこかへと着替えに行ったのだった。
どうせトイレ辺りだろう。

副部長「貸そうと思ってたのに行っちゃった」

幼馴染「ソニアの顔面プリントTはキツいと思う、私でもね」
210 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 19:17:28.15 ID:fTSKDSqZO
>>209
作詞「ありがとう。着替えてくるかよ」

作詞「ありがとう。着替えてくるよ」
211 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 19:28:52.70 ID:fTSKDSqZO
男「気になってましたけど」

男「ツンデレ脱退てマジですか」

話が脱線していたが、どうしても気になっている。先程からぐわんぐわんと頭が揺れ、冷や汗が止まらない。

作詞先輩が席を外しても変調が続くという事は、口に含んでいたジュースを作詞先輩にかけてしまったのが変調の原因ではないと言う事だ。

幼馴染「馴れ馴れしいわね」

男「アイドルくらい呼び捨てさせろよ」

幼馴染「先輩の言う事を聞かないなんて……いつからここまでひねくれたのかしら」

この女……白々しいな。

幼馴染「芸能活動自体も休止らしいよ」

男「芸能活動まで!?」
212 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/04(月) 21:41:29.03 ID:+w0TtT1YO
幼馴染「……」

幼馴染「なによ、アンタ……そこまでアイドルに興味があるの?」

男「あっ……いや、その……」

幼馴染は怪訝な表情で俺を見据える。
なんと説明をすれば良いのやら、幼馴染はやはり面倒だ。
疑い、興味、洞察をこの部活の中ではしっかりと持っている部類の人間。

副部長「男君はソニアちゃんが大好きだからね!」

副部長「入部したばかりの頃もソニアちゃんに関するすごーい考察を聞かせてくれたもん!」

副部長ナイスです!やっぱり持つべきはファンですね!
考え方がどうかしているけれど。

幼馴染「えっ?そうなの?てっきり興味が無いとばかり思ってたわ」

男「まぁ、存在がミステリアスだからな……正体不明のアイドル」

男「テレビにも良く出ていたし」

会長「しかし、正体は不明のままだった」

男「気になっちゃうだろ、そんな煽り見たら」

幼馴染「……私だってソニアの正体は気になるわ」

毎日のように約束を取り付けようとするぐらいだからな。
返事をするこっちの身にもなって欲しい。

男「……」

副部長「わたしも……だね」

そもそも、会長、俺、幼馴染の正体が明らかにならない事が奇跡だろう。

3人共顔が割れないような売り方をしているのも共通している。

会長は別としても、だ。
そもそもあの人だけ無名な癖に才能だけは人並み外れているのが気に食わない。

会長がアイドルとして成功しなかったのは巡り合わせ次第ではあると分かっている。

おっと、嫉妬になってしまったな。
早く俺が活きる道を切り開かなければ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 22:47:02.54 ID:im3dM/DEo
辛いな
214 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/09(土) 08:36:58.39 ID:delpFlFDO


そう、幼馴染がどうしようが俺には関係ない。

男「そんな事よりも……この部について考えよう」

幼馴染「そうね、そっちの方がずっと大事」

幼馴染「アイドルの事なんて今はどうでもいいでしょ?」

会長「そうだな……どちらにせよ今のままでは……うむ」

副部長「あっ、そうだ!」

副部長「動画サイトに配信してみない!?」

部長「YouTu〇er的なノリだな」

会長「学校の許可さえ貰う事が出来たら可能だが……」

男「話題作りか」

副部長「うん!これでTVや雑誌の取材が来たら学校側もうちの部活の事を放っておけないよね!」

作詞「何かしらの成果には当てはまりそうだね」

会長「人前に出る訳では……うん」 

不良「さっさと許可取ってやろうぜ」

作曲「出来ることは、全部……」
215 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/22(金) 08:30:37.04 ID:x5TB1cP5O
部長「勿論却下な」

男・幼馴染「「同じく」」

副部長「えー!?どうして!?」

不良「どーしてだよー」

不良は顔を膨らせて不満を露わにする。

会長は俺と幼馴染の発言待ちといった所だろう。

作詞「方向性は悪くないけれども、動画メインはよろしくないかな」

作曲「……」

作曲先輩はじっと作詞先輩を見つめる。ついさっきまで話に乗っかっていただろうにと言った表情。

作詞「そんな目で見ないで欲しいな、今から100万再生なんて目指すのはいささか現実離れしている。自分達で配信するのにも」

幼馴染「機材ね、揃わないでしょ」 

作詞「……」

また話を切られたなこの人。

会長「素人をメインに取り上げている配信者に取り上げてもらうのが無難だな」

男「そうですね」

俺と幼馴染が考えている事は全く同じだろう、動画配信はテレビと違うハードルがある。

中でもコメントが厄介なのだが……これ以上はもういいか。

部長「フェスで結果を残す。そう決めただろ?」

副会長「その通りです」

部長「ロリも反対する……と思うし」

副部長「ねぇねぇ……部長ってさロリちゃんの事……」コソコソ

幼馴染「放っておきなさいよ」ハァ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 10:39:17.34 ID:ChahlElDO
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
217 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/23(土) 09:07:24.61 ID:wfFZ79r0O
男「ちょっといいですか」

次に出るフェスの目星はついているだろう。
審査性のイベントともなれば数は絞られる。

重要なのはそこでどのような結果を残すか。

男「少し考えました」

男「自由天文部に足りないのって歌とか演奏力とかでは無く、本番慣れだと思います」

幼馴染「……」

幽霊部員「ぶっつけでは限界があるってことっすね?」

男「あー文化祭や学内での催しはやってますけど……」

そんな学生行事は本番の内に入らないって言ったら怒られるかなぁ……なんて言ってやろうか。

幼馴染「結局うちの学生は味方でしょ?雰囲気が温いのよ」

不良「箱でやんのか?」

作曲「ライブハウス……」

作詞「周りが他人と言う環境の中、実質敵地とも言えるであろう場所で僕達はどのように演奏出来るのか?実力がため」

幽霊部員「ずーっとやってみたいと思ってたんすよ!盛り上がってキター!ぴゅーぴゅーぴゆーぴゅるるるる!」

作曲「お金は?」

不良「チケット代だよな、私は友達すくねぇからなぁ……」

部長「何度も呼べるかは自信ないけど、任せろよ」

副部長「同じく!」

会長「では、これからどうするかを改めて確認しよう」

会長「私達が目指すフェスの目星もついた」

副会長「8月20日のロック・スターと呼ばれるフェスです」

副会長「若手実力派インディーズバンドの祭典ですが、学生もそれなりに出場しています」

会長「それでいてなおかつ学生も入賞している」

副会長「しかし……私が見た所によるとライジングロックよりハードルが高いと思います」
218 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/23(土) 16:40:45.87 ID:CjGPrmuFO
副会長「私達よりもずっと歳上の実力派も出ているのが厄介です」

副会長「演奏力がもう若手とは比べ物になりません」

副会長「若手もこれから台頭する事を目指している方ばかり」

不良「不足はねーな」

副部長「大丈夫かな?また駄目だったら……」

会長「副会長、一番大事な事を」

副会長「あっ……」

会長「いい、私が言う」

副会長「すみません」

会長「このフェスはな、ジャンルを問わない」

部長「はぁ!?」

副部長「なんでもありって事?」

会長「そうだ、正確には音楽のジャンルを問わない」

幼馴染「あ……だから私達にもある意味チャンスがあると」

会長「暗黙ではあるけれど学生バンド枠もある」

作詞「これは驚いたね」

男「ちょっと悩みましたけどこれしかないですよ、学校としての成果を認めてくれそうな所」

会長「私と男と副会長で決めた。You○uberを目指すよりは現実的だと思う」

周りを見ても満場一致だった。
ロリ先輩を除いては。

部長「決まりだな、ロック・スターを目指していく」

副会長「その為には沢山歌う、弾く。特に本番で」

幼馴染「あれ?ロリは?」

部長「……今日は体調不良だってさ」

副部長「最近多くない?大丈夫?」

作詞「……」

作曲「……大丈夫」
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 22:47:18.85 ID:sivIg2Kko
おつおつ
220 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/28(木) 19:41:57.57 ID:1xWDZ/KaO
メモリ~キミトワタシノ~♪

幼馴染「っ」ピクッ

男「……」

ツンデレと期間限定ユニットを組んだ時に歌った曲『memory』これって凄く売れたんだよな、特に女性層の受けが……

副部長「あ、ロリちゃんから電話だ」

やっぱり副部長の着信音だったのか

部長「出なくていい」

作詞「そうだね、どうせ他愛もないくだらない話だから」

作曲「出なくていい……」

不良「気色悪ぃな、今決めたことをロリに言わなくてもいいのかよ?」

副会長「不良さんの言う通りです、ロリさんがあってこその自由天文部です」

男「そうですね、何をするにしてもあの人の確認を取ってからにしないと」

会長「出て欲しい」

副部長「もしもしー!?」

部長「おいっ!」

部長が本気で叫んだ所を初めて見たかも知れない、ロリ先輩と喧嘩でもしたのか?

作詞「部長、やめよう。そうさ、全員が知るべきなんだ」








221 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/28(木) 21:13:24.91 ID:3/g1EWveo
  
   




ロリ「あっ……」

ここは?

どこ?

なんて惚けて見せたけど

ロリ「んー」

どうせ病院のベッドだろう。

ロリ「もう卒業は確定だから良いけど……」

ロリ「◯回も留年するハメになった割には呆気なかったなぁ」

色々な子と出会ってきた、全員を泣かしてしまった。

私だけが変わらない思い出を見ると本当に申し訳がないと思う。

最後の世代には悪い事をした。

トラウマにならなければ良いけど。

先輩『もう諦めんの?まだやれるっしょ』

月日が経つ毎に頻度を増す先輩のまぼろし。

ロリ「もう……無理だよ」

先輩『そっか………』

先輩『でもさ、ありがとう。ロリ』

先輩『ロリのおかげでここまで自由天文部が存続したんだ!』

私の身体が危うくなっていく程、色濃く映る先輩。

もう居ない先輩。

聞こえが良い言葉、私が望む言葉をかけてくれる。

先輩『でもさ、まだやれるでしょ?』

私は知っている、先輩はそんな事を言わない。

先輩『どうせ死ぬなら、全力を出してから!って相場は決まってるでしょー』

私が留年している間に医学は進歩しているらしく、外国で手術を受けたらまだ助かる見込みがあるらしい。

ロリ「そうだね……」

もう限界だろう。

ロリ「……」

可愛い後輩達は私が留年を繰り返していると知っても、距離を置かずに接してくれる。

素晴らしい部だ。

先輩が作った自由天文部は如何なる状況に置かれても、それぞれの年代が色褪せることなくも素晴らしい。

揺れる視界の中でまどろむ私は、今の自由天文部では唯一私の身体について知っている3年生達に連絡する。

もう、無理だと伝えるつもりだ。

私は先にリタイアをする。

もう、十分がんばったよね?

皆。

ロリ「……」

何度目だろうか、あの時を思い出すのは――




222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 23:55:22.73 ID:UlRu7lNbo
ロリあきらめるな
おつ
223 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/30(土) 17:44:55.12 ID:fY5velzQO
◯年前、私は1人だった。

幼い頃から友達も居ないし、喋らない。長くは生きられないと告げられてからは以前よりも増して人と関わらなくなってしまった。

外見も人より優れ中でも勉強はずっと1番、体が弱いから積極的に取り組もうとはしないものの運動だってその気になれば簡単にこなすことが出来た。
そのせいか私の人生は退屈かつ簡単、どのようして死ぬか考えなかった日は無い。

ただ、音楽は少しだけ好き。
初めて両親に頼んで買ってもらったのはベースという楽器で、1番難しそうと言うのが購入の理由。

だが、すぐに上達してしまった。

死ぬまでには完璧になっているのかなと思うと少し寂しい、そもそも私は簡単に出来てしまう物なんて求めていなかった。

高校2年生になった時、また1歩死に近づいたと思うとどうしようもない不安が体の芯から外へぶわっと広がっていく。

ロリ「このバンド、ちよっと下手くそ」

私は毎日のように中庭の隅で座って音楽を聴いている。

ロリ「男子は沢山走るなぁ……」

無邪気に走れる人が1番羨ましい、この時の私は全力で走る事さえ出来なくなってしまっていた。

ロリ(1人で過ごす休み時間は特に楽しい)

「ねぇ、君は今何してるの?」

そして事件が起きた。

ロリ「え?」

224 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/30(土) 20:12:54.44 ID:fY5velzQO
「いっつもイヤホンしてるよね?」

「音楽聞いてるよね?」

「何年生?私3年生!!」

ロリ「イヤホンは挿してるだけ」

ロリ「……2年生、です」

「え?うそだ!めっちゃ、音漏れてるよ!?」

ロリ「っ!」ビクッ

「はーん、ひっかかったね?」

ロリ「……」

正直な第一印象は私と正反対。

不意に現れた見ず知らずの人は太陽を背にしているからなのかとても眩しく見えたが、それ以上に鬱陶しかった。

「ねね、やろうよ」

ロリ「なにを?」

「バンド!!」

茶色混じりの金髪が太陽の光に当たり、ただでさえも鬱陶しく、眩しく見えた先輩はさらに眩しく感じた。

この時にはもう鬱陶しいとは思っていなかったかも。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 02:50:27.33 ID:H5d5G4gjo
こういう展開凄く好き
おつ
226 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:19:29.20 ID:P6SUzcOCO
ロリ「お断りします」

「即答!?」ビクッ

この時にはもう人と関わるつもりが微塵も無かった。

ロリ「どうして私を……」

「へ?音楽が好きそうだから?あと、タメ口でいーよー堅苦しいの嫌いなんだよねーーー!!!」

ロリ「……」

「私の名前は△〇☆▽!!君は!?」

ロリ「……ロリ」

「じゃあロリだ!!私の事も名前で呼んでよ!!」

ロリ「……先輩で」

先輩「たはーっ!!壁を感じるぅー!」

キーボード「くるくるー、何してるの?」

ドラム「誰このガキ?」

ロリ「ガキ……?」ピクッ

ロリ「凄く失礼……」
227 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:28:30.75 ID:P6SUzcOCO
初めて先輩とキーボードとドラムに出会った時、私の人生、いや、違う。
青春は大きく変わり始めた。

キーボード「あっ!ぴっっこーん!!!進入部員だよこれきっと!」

ロリ「違う!」

ドラム「えっ!?マジ!?もう人数揃うの!?」

先輩「天文部活動も忘れんなよー」

ロリ「天文部?」

ドラム「どーせ結果残せなきゃ廃部だろ!?」

先輩「ざんねーん、天文部としては結果残せてますー」

キーボード「ぴるぴる。ライジングロックで入賞しなきゃどうせ廃部だよ?」

先輩「あはは!難しいよねー!!」

ロリ「何部ですか?」

先輩「それはねー」




先輩「自由天文部!!」
228 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:51:19.79 ID:P6SUzcOCO
興味本位で案内された部室には賞状が綺麗に飾られ、星の本?等が机の上に沢山積まれていた。

先輩「元々はふっつーの天文部なんだけどね、部員が一人だけだったから私がこの学校に存在しない軽音楽部も兼任させたの」

先輩「やっぱり軽音楽部はやってみたい人が居るみたいでさ、簡単にアホが釣れた訳よ!」アハハ

ロリ「……」

果たして、私もアホの一員なのだろうか。

先輩「まぁ、ホントの事を言うとさ」

先輩「最初は普通の天文部としてやっていくつもりだったんだけど……元々居た一人の部員も卒業してね、このままじゃあ同好会以下になってしまう」

先輩「という訳で!!!」

ロリ「」ビクッ

先輩「軽音楽部やってみました!!」

先輩「あはは!!」

ドラム「こいつが最アホな」
229 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 21:16:52.28 ID:P6SUzcOCO
キーボード「トゥンク……元から居た先輩が好きだから天文部に入った癖にー」 

先輩「はぁ!?好きじゃないし!!あんな陰キャ別になんとも思ってないから!!」

ロリ「好きな先輩がきっかけ……」

先輩「ちがうっての!!」

ドラム「頭おかしいよな、こいつ」

ドラム「好きなだけでそこまでやるかよ」

キーボード「じーーーーーーっ」

ドラム「な、なんだよっ」

キーボード「べつにっ」

先輩「こほんっ……まぁ、どうしていつも一人なのか分からないけどさ……良かったら私達と無理難題に挑戦しよーよ」

ドラム「ライジングロック入賞!」

キーボード「確かに無理難題だよねー」

先輩「音楽の魔法、見せてやる!」

ロリ「!」

凄く、心惹かれる言葉だった。

ロリ「……良かったら何か演奏してみて」

先輩「勿論!」

私は心を踊らせて先輩達の演奏に耳を傾けた。
自分の中で変わりつつある何かに、今まで感じたことの無い何を知るために――

ギュイ-ン

バンバン

ギィギィギギギ

ポン……ポンチャ-ンッ

現実は厳しい。








ロリ「下手過ぎ!!!」ガ-ンッ
230 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 21:39:02.39 ID:P6SUzcOCO
ロリ「ここもっと強く弦を押さえて!!」

先輩「弦とは?」

ロリ「はぁ!?」

ロリ「もっと優しく叩いてよ!」

ドラム「は?全力だろ何事も」

ロリ「脳味噌筋肉なの?馬鹿なの?猿なの?」

ロリ「楽譜からやろう、多分すぐ覚える……と思う」

キーボード「ピンポーン、りょーかいっ!」

ドラム「扱い違くね?」

先輩「ほんとね、おかしいよこれ」

ロリ「こいつら……」

先輩「歌は負けないからな!」

そう言えば誰も歌っていなかった事を思い出す。
先輩が歌う様子だが、あの演奏を聞く限り私は期待なんか出来なかった。

先輩「じゃあ適当にあの歌で」スゥッ

ドラム「やったれ!」
231 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/07(土) 21:42:34.42 ID:dnR3G5R3O
なんて言えば良いのだろうか、素晴らしい?上手?凄い?いい声?素人にしては?

違う。

先輩の歌を表現する言葉は見つからないけれど、これだけは言える。

魅了された。

ロリ「うん、歌は通用するかも」

4人だけしか居ない部室で聞いた歌は私の考えを変えた。

先輩「凄いだろ?お母さんから昔教わってたんだよ」

ドラム「こいつとカラオケ行くとさ、しらけんだよなーうますぎて」

キーボード「ぽっぽっぺー、これで練習したらそこそこいいとこ目指せそうな気がするよー?」

ロリ「でも……楽器が初心者だと……」

先輩「……」

ロリ「どちらにしたって」







先輩「ねぇ、知ってる?」

ロリ「……?」
232 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/07(土) 22:08:02.48 ID:dnR3G5R3O

先輩「音楽にはね、魔法があるんだよ」

先程も先輩が言っていた言葉。

どうしてか分からないけれど私が惹かれた言葉。

音楽の魔法。

ロリ「魔法?」

そう、音楽の魔法。

魔法とはそもそも人知の及ばぬ事を表していたり、子供向けの言葉であったり、定義が曖昧な事象を……

先輩「教えてあげよっか?」

指すのだが……

でも、知りたい。

ロリ「教えて欲しい」

本当にあるのなら。

先輩「どうしようかな〜?」

どうしても知りたい。

ロリ「酷いと思う」

こうして人をからかう人間なのだろう、私としては凄く腹立たしい。

先輩「あはは、ごめんごめん、教えてあげる」

先輩「……音楽にはね」

ロリ「……」





先輩「――人を笑顔にする魔法があるんだよ」   
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/09(月) 00:35:40.38 ID:R/7qGhzUo
きた!
234 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/11(水) 22:06:31.41 ID:OFkSezKmO
ロリ「人を笑顔にする魔法、ふーん」

先輩「私の先輩は笑顔になったよ!うん!」

ロリ「音楽で笑顔になった事は無いから私には分からない」

先輩「私もさ!音楽なんて退屈でくだらないって思っていた……けど」

ロリ「けど?」

先輩「私の先輩はさ、私の歌を聞いて笑顔になってくれたんだ」

ロリ「馬鹿にされたとか?」

あの歌を馬鹿にするなんて、そうそう出来る事ではないと分かっているけど。

先輩「私の先輩はさ、私の歌になら天文部を任せられるって言ってくれたんだ」

先輩「いつも無表情だった先輩が――」

先輩「だから、奇跡は起きるって!!ね!?」

ロリ「ふーん……うん?」

ロリ「それって音楽じゃなくて、歌の魔法では?」

先輩「あ゛!!」

ドラム「俺不要だな、これ」

キーボード「プシュン、ほんとそれー」

先輩「違う!違う!先輩如きじゃ足りないでしょ!?」

ロリ「如きって……」

どのような関係性なのだろうか。

先輩「足りないって思ったんだ、私1人じゃ先輩1人しか笑顔にできないし……」

先輩「歌も含めて音楽にしたらもっと
多くの人を笑顔……というか。奇跡が起きる気がしたんだ」
235 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/12(木) 20:06:37.71 ID:bJND8/v/O
ロリ「言い訳としてはかなり苦しいけれど……話半分で聞いておく」

先輩「いつかわかる時が来るから!!いつか」

ロリ「……」

先輩「〇〇年後とか!」

ロリ「そう……」

その時には死んでいるかなぁ、きっとこの世に居ないだろう。

ドラム「信じてやってくれよ、あいつアホだから失言ばっかなんだよな」

先輩「アホじゃないし!卒業はギリギリ?出来るから……たぶん、きっと……」

キーボード「ひとはーそれをーアホと呼ぶ〜イエーイ!」

ロリ「はぁ……いいよ、やってみよう」

先輩「!」パアァァァ

ドラム「よっしゃ!」グッ

キーボード「テレレレッテレーッ!」ピョンッ

私もアホ……なのかな?
236 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 17:38:36.31 ID:7YRgBPOWO







朧気な意識。
そうか、私は寝ていたのか。

また眠ればあの時の事を思い出せそうだ。

だけど、その前にやる事がある。

ロリ「……」

3年生にこれからどうするのかを伝えよう。

ロリ「メッセージだけでいいかな……」

途中で打ち上げを抜けていたからか、自由天文部の面々からは沢山のメッセージが送られている。
皆には心配をかけてしまったなぁ。

ロリ「……よし」

3年生のグループチャットにメッセージを残す。
今日も倒れてしまった事、これから私はどうするかをはっきりと伝えた。

ロリ「先輩……」

もう一度眠りにつく。

次はどこまでかな。
237 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 17:53:22.33 ID:7YRgBPOWO
先輩「いえええええええい!!!!」

ロリ「!」

初めてのライブだ。

寝る間も惜しんだ甲斐があり、初心者ばかりが集まったこのバンドも著しく成長した。

先輩「みんな!これからも“Starry sky”をよろしくね!!」

先輩のゴリ押しで決まったバンド名、安直だしセンスもカルチャーも無い。

ナンテイミ-?

先輩「星空!!!!」

ヘ--

先輩「リアクション!!」

ドラム「そりゃどうでもいいわ」

ドッ

キーボード「早く次の曲いこーよ」

場を沸かすドラムと周りに興味が無い二人は私の目からは対照的に映る。
そんな二人の上達は目覚しい物があった、本当に向いているのだろう。
238 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 18:29:37.67 ID:7YRgBPOWO
先輩のギターは……まぁそれなりにまともになったかな。

先輩「じゃあ私のソロから……」

ソロなんか10年早いけれど。

ドラム「やめろ」

キーボード「それだけはない」





 
「てかこいつら下手糞じゃね」



はーいるよね、こういう人はどこにでも。
学生だからしかたないかな。
ムカつくけど。

ドラム「あ?」

キーボード「テンテンテン……ちょっと向きにならないでよーー」

キーボード「って、あ!」

先輩「なに?私が何かした?」

「は?」

先輩は誰よりも早く心無い言葉を放った張本人の元へ駆け寄っていた。

誰よりも感情的な人だった。

キーボード「あちゃー……止めてよドラムー」

ドラム「あいつキレるとめんどくせーから嫌なんだよ」

先輩「馬鹿にするなよ、こっちは本気なんだから」

「うっぜ、てか痛いんだけど。恥ずかしくねーの?」

先輩「ふざけるな!」

ゴンッ

「おごっ」

ドラム「あっ、金的」

先輩「お前に先輩の何が分かる!」ゲシッゲシッ

 「ごめん!ごめん!ほんとごめん!」

先輩「じゃあいいよ」ニコッ

「えっ、あっうん」

先輩「君も良かったら自由天文部においでよ」

「え……そんな……」

先輩「よーし!演奏再開!」

「……///」

すごくモテるらしい。
239 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 22:47:16.24 ID:eIBQKX15O
“あの子”は先輩の事が好きだったのだろうか。

まだ分からない。




先輩「みんな゛っ!!」バンッ

ロリ「わっ……!」

ドラム「まさか……」

一悶着もあったが初めてのライブは無事に成功を収めた私達は勢いのままライジングロック予選に参加する事が出来た。

先輩「はぁーっ……はぁーっ」ゼェゼェ

先輩は勢い良く部室の扉を開けて私達の前に現れた。
走ってきたのだろう、息が荒く今にも倒れてしまいそうだった。
そんな先輩の様子から察するに、ライジングロックの結果が出たのだろう間違い無い。

演奏レベルでは負けていると分かっているけれど、先輩の歌はそんな私達の演奏も押し上げてくれる。

だから信じてる。

私も……ドラムとキーボードだって。



240 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 22:54:40.85 ID:eIBQKX15O





先輩「ライジングロックの予選……通過ああああああ゛あ゛あ゛!!!」

ドラム「よっしゃあああああああああ!!!!」

キーボード「きゃーーーー!!やったよーーーー!!!」

ロリ「あはは……夢みたい……」

先輩「〜♪〜♪〜♪」

ロリ「歓喜の歌……こんなのも歌うんだ…… 」

叫んだから?先輩の声が掠れているような?

先輩「歌は゛さ……お母さ゛んから無理矢理叩き込まれたんだ」

先輩「昔ば……お母さんのぜい゛…で…歌が嫌いだったけど……今じゃ……感謝してる……よ゛……」

ドラム「まてよ、お前声が……」

先輩「あ゛はは……声出しすぎたね」

キーボード「病院……行ってよね……これ、おかしいよ」

先輩「え゛、練習しなき……ゃ゛」

ロリ「今すぐ行って!!」

先輩「!」ビクッ

私がこんなにも声を荒らげたのは初めてだった。
明らかに先輩の喉は酷使されていた、毎日のように練習していたのだろう。

もし、先輩の喉に大事があるのならライジングロックも辞退しなければならない。

嫌な予感がする。

先輩「……分かった」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/23(月) 00:55:38.78 ID:tYeshYsFo
怖いな
おつ
242 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 19:33:22.83 ID:RXK2QqszO
先輩に何が起こっているのかはその日の内に分かった。

ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」

キーボード「ピコピコ……ライジングロック本番は1週間後だから心配だなー」

ドラム「軽い風邪ならいいんだけどな」

今一身が入らない部活動を終えた後、自由天文部共通の帰り道の中央で先輩は立ち尽くしていた。

住宅街の路地とは言え道の中央で立っているのは危険だ、車が来たらどうするつもりなのか。

ロリ「先輩……」

先輩「……」

ロリ「……!」ハッ

喜怒哀楽のどれにも当てはまらない。
無表情、どこを見ているのかも分からない。

鼓動が早くなる。
嫌な予感――

先輩「大丈夫!」ニッ

ギュッ

先輩は満面の笑みで私達全員を抱き締めた。

先輩「入賞……しようね」

ロリ「先輩……良かった」

キーボード「できる」

ドラム「ちっ、少しは弱い所を見せろよ」

先輩は先輩という物語の主人公だと私は思い込んでいた。
243 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 19:46:46.25 ID:RXK2QqszO
>>242

先輩に何が起こっているのかはその日の内に分かった。

ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」



ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」



訂正です
244 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 20:13:27.42 ID:RXK2QqszO
ライジングロック当日。

先輩は喉の調子を整える為、部活に参加する事は1度も無かった。

1度きりの本番、リハーサルにも参加しないらしい。

先輩「てかさ、ライジングロックって名前がもうダサいよな」

ドラム「あ、分かる」

キーボード「ドゥドゥン、もう少しオシャレにして欲しいよねー」

ロリ「はぁ?何を今更……」

先輩「いやー少しは悪態をついてやろうと思ってさ」

ドラム「このライジングロックに振り回されてきたからな、分かるわ」

キーボード「まじムカつくよねーこの催し」

先輩「大体さ、学生バンドに序列なんか付けるなっての!」

ドラム「俺らのようなズブの素人が通る時点で採点基準がほぼ歌だって丸わかりだし!」

キーボード「それ言っちゃうー?でもさ、ほんとにそーだよね!」

ロリ「あは、あはは!あははははっ!」ケラケラ

この人達……

先輩「どーしたの?」

本当に最高だ。

先輩は本当に主人公だ。

この私を心から笑わせてくれるなんて、私の世界を変えてくれるなんて、色を付けてくれるなんて。

私は音楽の魔法をこの時初めて知った。

ロリ「なんでもないっ!」ニコッ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 22:43:05.59 ID:pFHED656o
かわいい
おつ
246 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:02:05.51 ID:go9hQ4YNO
先輩「……持ってよね」

ドラム「順番が来たぞ」

ロリ「絶対に入賞しよう」

キーボード「ねぇねぇ」

先輩「どうしたっ゛……の?」

キーボード「ありがとう」

先輩「え?」

キーボード「〇のおかげでかけがえのないものものに、大好きなものに出会えたからさ」

ドラム「面白い高校生活だったけどさ、〇のおかげでもっと楽しくなったわ」

ロリ「ねぇ、先輩……」

女「……名前で呼んでよ」

ロリ「……」

ロリ「〇」

ロリ「〇のおかげでね、まだ生きたいって思えたんだ……」

女「あはは……っ」

女「そんなの、あたりまえじゃん」

ロリ「でね、音楽の魔法にはつづきがあるって分かったんだ」

笑顔から絆が生まれて。

女「……後で聞かせてよ」

――奇跡が起きる。

女「さーって、これを終わらせたら」

ドラム・キーボード「「先輩に自由天文部存続を知らせなきゃ」」

女「……うん」
247 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:03:51.24 ID:go9hQ4YNO
>>246
訂正 正しくはこちらです

先輩「……持ってよね」

ドラム「順番が来たぞ」

ロリ「絶対に入賞しよう」

キーボード「ねぇねぇ」

先輩「どうしたっ゛……の?」

キーボード「ありがとう」

先輩「え?」

キーボード「“女”のおかげでかけがえのないものものに、大好きなものに出会えたからさ」

ドラム「面白い高校生活だったけどさ、“女”のおかげでもっと楽しくなったわ」

ロリ「ねぇ、先輩……」

女「……名前で呼んでよ」

ロリ「……」

ロリ「女」

ロリ「女のおかげでね、まだ生きたいって思えたんだ……」

女「あはは……っ」

女「そんなの、あたりまえじゃん」

ロリ「でね、音楽の魔法にはつづきがあるって分かったんだ」

笑顔から絆が生まれて。

女「……後で聞かせてよ」

――奇跡が起きる。

女「さーって、これを終わらせたら」

ドラム・キーボード「「先輩に自由天文部存続を知らせなきゃ」」

女「……うん」
248 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:17:37.29 ID:go9hQ4YNO
ワアア

女「下馬評は低いなこりゃ」

先輩は苦笑いで観客席の反応を確かめていた。

ドラム「こういうのは大抵、実績を残している学校が目立つもんだよ」

キーボード「カッキーン。学生スポーツとは違うのにねー」

女「スポーツでも番狂わせくらいあるでしょ」

ロリ「ほんの僅かだけど……」

女「見せてやろうよあいつらにさ」

女「私達の実力を」

女「かましてやろうよ、この歌で」

私が作曲して先輩の先輩、自由天文部の設立者が歌詞を書いた曲。

所々不完全な面があるけれど、現時点の私達が出せる最高の曲だ。

女「よし、始めよっか」

最高の舞台。

先輩の絶叫がその舞台の上から会場全体に響き渡る。
249 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:32:42.47 ID:go9hQ4YNO
ロリ「……」

凄い、最高潮だ。

私達の演奏は今までに無い程の出来だった。
全てが噛み合っているかのような、全員が同一人物ような……つまりは出来過ぎている。

気がかりな事がある。

『かましてやろうよ、この歌で』

この発言に私は違和感を覚えている。

いつもの先輩ならば歌とは言わずに曲と言っていた筈なのだ。

ずば抜けた歌唱力を持っている先輩は、楽器の力があってこその歌があるというポリシーを持っている。
歌と演奏が合わさって曲になる。
そう言っていた筈なのに――

いや、気にする必要は無い。

私達が持てる限りの力で、先輩を――

女「っ゛!!」

ロリ「!」

ドラム「おいっ!」

キーボード「女!?」

女「そ゛ら゛に゛――」

ロリ「……」

一瞬だった、ほんの一瞬の出来事で全てが決まった。

先輩の夢は潰えた。
250 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:47:40.26 ID:go9hQ4YNO
ドラム先輩とキーボード先輩は泣いていた。

それでも辛うじて演奏を続けていた。

先輩は無表情で掠れ掠れの声、先輩の本来の声からはかけ離れた醜い歌を続けていた。

これまでのやり取りは全て虚勢だったのだろう。
先輩の喉は限界だったのだ。

先輩の事だから皆には喉の事を話せなかったのだ、医者に無理を言って……この日の為だけに照準を合わせて……手術が必要なら手術を先延ばしにして……

先輩が大好きな人の為に……最大の機会を逃さずにはいられなかった。

私には分かる。

辛いよね、ごめんね、無理をさせて。

先輩一人に背負わせ過ぎてしまった。

女「――゛――゛♪゛」

声が掠れてしまってからの先輩は仕方が無く歌っていた。
せめてもの意地だろう。
この舞台に立っていると言う責任が、この舞台に私達を連れて来たと言う責任が先輩を晒し者にしていた。

先輩「……ありがとうございました」

曲が終わり、私達は不測の事態に騒然とする会場を後にした。

アンコール?あってたまるものか。
251 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:05:45.95 ID:go9hQ4YNO
ロリ「先輩?」

ロリ「先輩!?」

ドラム「おい!気にするなよ!?」

キーボード「大丈夫だよ!大丈夫だから!」

ロリ「私が自由天文部を存続させるから!先輩!!??」

先輩は無表情のまま私達の呼び掛けにも答えず、瞳から涙を零しながら覚束無い足取りで全てを遮断するかのように私達から離れようとしていた。

狂ったのか壊れたのか、ぶつぶつとお経のような独り言を垂れ流している先輩は無表情……能面を保っていた。

ドラム「おい!」

キーボード「待って!!」

ロリ「先輩!!」

急に私達をふり払うと、宛もなく一人で歩き始めた。

これ以上私達には止める気力が無かった。
私とドラムとキーボードも限界だったのだ。

私は気丈に振る舞うと決めていたのに……泣き崩れてしまった。
252 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:39:05.45 ID:go9hQ4YNO
あれから先輩は学校に顔を出す事が無かった。

単位がどうなのか、中退なのか退学なのか卒業出来たのか私には分からなかった。

ドラムとキーボードもあれから先輩がどうなったのかは知らない。

喉が無事だと良いな……それだけで私は満足だから。

ロリ「……」

ドラムとキーボードが卒業し、誰も居ない自由天文部で私は一人で表情を作っていた。

私には人を惹きつけるキャラクターが無い、それならばキャラクターを作ればいい。

ツッコミ所があり、だれからも愛される。
そんな存在になる為には別の自分を演じるしかなかった。
自由天文部の存続の為には――

ロリ「うん、この口調でばっちりだにょ?」

きっと私も先輩と同じ様に壊れていた。

このまま一人で卒業するのだろう、先輩の夢は叶えられないのだろう。

ガチャ

「えーっと、新入部員募集してる?」

信じられなかった。

ロリ「!」

初めてのライブで悪口を吐いた人間が新入部員になるのだ。

ロリ「……どうして?あの時、先輩に打ちのめされたのに?」

「……///」

「それでもさ、単純に楽しそうだったんだよ」

ロリ「え?」

「あのライブを見てさ、俺もあそこに立ちたいなって……女先輩のようになりたいって」

ロリ「……」

「おい!泣くなよ!」

ロリ「……」

ロリ「――歓迎するにょ!」

私は決めた。

自分を偽ってでも、犠牲にしてでも、余命を先輩が望んだ自由天文部存続の為に捧げると――
253 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:04:44.15 ID:go9hQ4YNO
先輩の意思は波及する。

先輩は主人公。

跡を継ごうとする人が現れる。

そう信じていた。

だからこそ新入部員が来てくれた。
あの時の私には一人だけでも十分だった。

だからこそ留年する勇気を貰えた。

あれから世代の移り変わる様を私は見守ってきた。

道化を演じてでも私は自由天文部を存在させたかったのだ。








ロリ「……」

こうして目が覚める。

3年生のグループチャットには私の正気を疑うメッセージが残っていた。

私は本気だ。

部長に電話をかけても出ようとしない。
優しい子だ、部長はいつも私が無理をして動くのを止めようしてくれる。

それでも今回の私は止められない。

私は電話をかけ続けた。

死んでも良い。
私は諦めない。

『もしもしー!?』

『おい!』

繋がった。
254 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:31:17.52 ID:go9hQ4YNO



 



作詞「もういいよ部長、作曲」

作詞「そもそもロリの事を止めようとする事自体がお門違いだったんだ」

男「ロリ先輩……」

副部長「え?うん!分かった」

『聞こえるかな?』

副部長は通話をハンズフリーに切り替えた。

今回のロリ先輩はいつもと違った。

『実はもう長くないんだ』

真剣なトーンで会話を進め、変な語尾も使う事が無い。
いつもと違うロリ先輩。
しかし、それが本当のロリ先輩かのように俺の目には映った。

不良「長くない?」

『うん。このままだと長くない』

『すぐにでも外国で手術を受けなければならないけど、後回しにするよ』

副部長「!?」

『次に出場するイベントが終わるまでは頑張りたいな』 

部長「やめろよ……!そうやって自分を犠牲にするなよ!お前が頑張ったって変わらねぇよ!今は俺達が……!」

ロリ『違う、わたしのわがまま』

ロリ『私の挑戦に皆を付き合わせているだけだよ』

部長「どうしてそこまでして自由天文部に拘るんだよ!?」

ロリ『残したいんだ……先輩が好きな自由天文部を』

部長「……ばかじゃねーの」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 18:13:43.90 ID:PJlc+VBvo
辛い
256 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/05(日) 00:11:52.22 ID:mBsBk4u3O
部長「俺はお前に……ロリ先輩に死んで欲しくない」

部長は涙ながらに訴えた。
この人がここまでも感情を露わにするのは初めて見る。

作曲先輩と作詞先輩はやるせない表情に涙を浮かべながら副部長のスマートフォンを見つめていた。

『あはは、大丈夫だよ』

『次に出るイベントは何?』

作詞「ロック・スター」

『大丈夫。ロック・スターで入賞したらすぐに手術を受けるから』

会長「どうして今まで明かさなかった自分の寿命を伝える気に?」

『ケジメかな?隠し事をしてはいけないって反面教師が居たからね』

『それと決意表明』

『私が足を引っ張らないって』

『この部活でも噂する子が居る、部長のバンドか真剣に活動していないって』

幼馴染「……」

『本当はあの活動の量でも正解』

『私が休みがちだったから』
257 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:51:41.28 ID:cq6gh92HO
男「それに関しては聞いていましたけど結果が全てですから」

不良「お前……ちょっと引くわ」

男「お前も俺側の人間だろ」

現状に対して部長達がどのような行動を起こしたのか俺には分からない。
ロリ先輩が部長達を庇うというのならば、それなりに取り組んでいたのだろう。

『ごめんね、私が足を引っ張ってた』

『その癖会長達に付きっきりだったから』

『上手くいかないよね……』

男「……」

ただ練習に励むのが正解なのかも分からないのも事実、個々のスキルだって周りと比べても遜色が無い。

『会長の歌を初めて聞いた時の事は今でも思い出すよ……正直に言うと衝撃的だった』

不良「あぁ……覚えてる」

『それでも会長の入部時期が遅かった。もっと早かったら色々と教えられたのに』

作詞「……」

『嫌味や飾りが無い歌……それって本当に凄い事なんだ。もう少しでもうちに入部してくれるのが早かったら……ライジングロックに参加してもらってたよ』

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

現実主義者。

会長の入部がもう少し早ければ、部長よりもずっと上手に歌えるようになるのが早かった場合は平気で部長の代わりに会長を据えていただろう。

会長に付きっきりだったのも会長の成長度合を確かめる為だ。

結局部長を起用したのは損切りだろう、会長と部長のどちらを起用しても結果は変わらないと踏んだロリ先輩は思い出作りの為に上級生を起用した。

ロリ先輩の思い描いていた結果は……そういう事だろうな。
258 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:59:39.79 ID:cq6gh92HO
>>257
この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていたけど俺の見当違いだったようだ。

以上、訂正です。
259 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/23(木) 22:43:20.81 ID:c+zKH7EIO
『諦めようと何度も思ったけど……ズルズル言っちゃったよアハハ』

本当のロリ先輩、俺達が知らないロリ先輩と呼ぶべきなのだろうか。
話し方で分かる。
本当の彼女は陰険だ。

部長「おかしいだろ。留年を繰り返してまで、時間を無駄にしてまで……余命を削ってまでうちに固執するなんて」

『話が二転三転して申し訳ないけど、本当はね』

『先輩が建前、自由天文部そのものが私の一部になっちゃったんだ』

『私にとっては我が子同然だから諦められないんだよね』

『何度もやめようと思ったけど……』

『可愛い可愛い後輩達が卒業する度に頼まれてきたから……ね?』

部長「っ!」

男「俺は……尊敬します」

『ありがとう』

『男は私とそっくりだよ、うん』

『ロック・スターで入賞しようね』

『すぐに復帰するから、また頑張ろう』

部長「迷惑かけるなよ」

部長なりの虚勢、この人は今にでも泣いてしまいそうだった。

『大丈夫、私は皆を頼るから』

『会長なら先輩を越えられると信じてる』

会長「……」

プツ……ツ-ツ-

電話が切れると同時に部長はその場で崩れ落ちると同時に言葉にはならないうめき声をあげていた。

部長はロリ先輩の事が好きなのだろう、俺にだって分かる。

ロリ先輩は例の先輩が好きだって分かるが……未だに人物像が捉えられない。
話にはよく出るのだがこれでは何が何だか分からないままだ。

会長「今日は解散しよう、男。帰るぞ」

男「え?」
260 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/25(土) 01:39:28.47 ID:ONekfHsdO
男「えっ?ちょっと急じゃ……」

会長「活動にならないだろう」

会長「私が指揮を執るのも今日までにして欲しい」

会長「部長、分かるだろう?」

会長は膝を着いて部長に語りかける。

部長「……」

見かねた会長は部長の肩に手を置くと、付け加えるように優しく囁いた。

会長「ほぼ1年前……初めて自由天文部のライブへ行った時、部長と会った時の事は今でも思い出します」

会長「むせ返るような暑さの校舎隅で当時の3年生と一緒にグラウンドを盛り上げていた。夏休みでしかも無許可。ふふっ……先生に呼ばれた時は驚いたな」

会長「当時、思い描いていた夢と大きくかけ離れた現実を叩きつけられてもがき苦しんでいた私にとって、自由気ままに歌いたいように歌う貴方は本当に眩しかった」

会長「子供の時から習い事で楽器を嗜んでいたが、あの時はとある事情で音楽に関わる物全てが嫌いになっていた」

男「……」 

アイドル時代か。

会長「あの時の部長が居たからこそ、私は嫌いになってしまった音楽をもう少し頑張ろうと思ったんです」

会長は部長の前から踵を返して立ち上がると俺の手を引っ張って部室を後にしようとしたが、扉の前で立ち止まる。

男「ちょっと……!」

会長「明後日の放課後から夏休みだ、四限が終わったら各自でこの部室に集合すること」

と、一言を付け加えて部室を後にした。
261 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/26(日) 10:08:11.31 ID:J5/9IAGSO
男「ちょっと!会長!」

校門の前まで来てしまってはどうしたらいいのか分からないが、やっと手を振り払う事が出来た。

男「良いんですか?あのまま解散させて」

会長「3年生が憔悴しきっていたから無理だ。放っておこう」

男「でも……」

会長「男は強いが……周りも尊重した方がいいと思うよ。全員が全員が同じペースで走れる訳が無い」
 
男「ペースを合わせろって?」

会長「少し引っ張ってやるくらいでいい」

男「俺からしたら貴女の方が……」

会長「私だって皆と走りたいさ」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/26(日) 21:30:32.61 ID:1DIbf0i0o
強いな
おつ
263 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/15(月) 12:24:22.67 ID:YzHlGJ9vO
テス
やっと復活した、、、
264 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/16(火) 00:54:15.54 ID:3YvXXP+eo
会長「放っておくのが正解かは分からない」

会長「それでも下手に構うよりかはマシだと思うんだ」

男「良いんですか?あのまま来なくなっても」

会長「良いよ、そうなるとは思えない。そうなってしまうのならハナから無理な話」

会長「凄く立派な人だから大丈夫さ」

男「ふっつーの学生だと思いますけど?」

会長「そんな事はない。バイタリティは誰よりもある」

男「だからと言って、今回は様子がおかしいでしょ」

男「あのまま不貞腐れておしまい……」

会長「部活動とは言え私だってすぐやり直せたんだ、部長ならすぐ立ち直るさ」

男「やり直すのが今だとしたら、その前のアイドル時代ってそんな辛かったんですか?」

ふざけたメイクが印象的な会長のアイドル時代。
ちょっとした嗜虐心がそれを掘り起こそうとする。

会長「あれでも本気だったんだ」
265 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 13:40:24.26 ID:2/sMNUDao
会長「でも、違った」

男「違う?」

会長「方向性の違う努力、自分に合わない目標はただただ自身の首を絞めるという事を私は知らなかった」

今の俺なのかな、それ。

陽射しよりも身に染みる。

会長「ダブルフェイスのようになりたかったんだ。正体不明でも実力で輝けるような圧倒的な存在」

男「顔を半分しか晒していないのにあの人気は信じられませんから。ただ、全てが優れてた」

加工とはいえ歌もダンスもトークも仕草もファンサービスも何もかもがトップだったと……思う。

綺羅星ソニアの座がいつ脅かされてもおかしくない存在だった。

会長「思い描いていたんだ曖昧な偶像を漠然と輝いている姿を」

会長「現実は違った。歌はとにかく、周りに知られたくない一心で厚塗りしたメイク、一向に上達しないダンス。失敗するに決まっていたんだ」

会長「逃げるように離れておいて言うのもなんだが、私の居場所では無かった」

男「居場所を作る努力しました?」

会長「してなかったな」

嫌味で言ったつもりだがこの人はとっくに切り替えている。

過去の事は振り返らない。

会長はいずれどうなって行くのだろうか、これからもずっと音楽に関わるつもりなのか。

俺は……
266 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 14:16:03.88 ID:2/sMNUDao
会長「今の状態がどれだけ続くかもわからないから楽しみたいんだ」

男「ずっと続きそうですけどね」

たとえ上体が悪くなったとしても上達し続けてしてしまいそうな人だ。

会長「皆、私の事を過大評価しているよ」

会長「砂上の楼閣だよ」

男「……その原因って」

会長「色々あるよ、簡単に言ってしまっても良い事ではない」

会長「いつ追いていかれてもおかしくはない……かな?」

男「ずっと先に行ってる癖に……」

会長「それなら、追いついてくれるか?」

男「!」

会長「皆と一緒に私の所まで来てくれるのか?」

男「……」

はいと返事をすればいいだけなのに、それだけなのに。

自信が無かった。
俺自身が会長に追いつけるかどうかも、自由天文部の全員で会長に追いつけるかも。

返事が出来なかった理由である会長の言い草、それは俺自身が自由天文部を導けば良いかのような口振り。

男「はい……」

少しだけ覚悟を決めた。

いいたいことはたくさんあるけれど。

会長「そうか、男の事だからとんでもない事をしてくれると信じてるよ。私の予想を遥かに上回るような……」

そうなるのかも知れない。

男「今弾いているギターだって怪しいのに……会長ってたまにロリ先輩のような事を言いますよね」

男「勝手な期待とか特に」

会長「……少し付き合え」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 18:32:09.67 ID:lOXtBKYdo
おつおつ
268 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 17:45:14.62 ID:bQ119exQO
訂正

>>266
たとえ上体が悪くなったとしても

状態が悪くても
269 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 23:41:27.27 ID:sQjXwa9UO
数十分後、予想もつかない場所に連れて来られた。

男「どうしてここに?」

会長「た、たたたた、たっ、たまには息抜きも必要だと思ってな!」

男「遊園地でしょこれ」

会長「1度行ってみたかったんだ」

男「だれかと……あっ、友達居ないんだった」

会長「……居るからな」

男「え?」

会長「男と行ってみたかっただけだからな、私にも友人は居る」

会長「むしろ、男こそ友達が居るのか?」

男「居ます!居ますから!友とか不良とか!!」






友「男の跡を着いて行ったら……あの女……やっぱり男の事を……」コソコソ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 00:30:54.50 ID:RN/Xx2Zso
おつおつ
修羅場か?
271 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/11(日) 10:18:20.53 ID:qlzx5d80O
会長「もしかしてそれだけしか?」

男「さてと……」

男「ジェットコースターとかどうですか?」

会長「……」ジト-ッ

男「うぐっ」

自分からけしかけておいてこれは非常に恥ずかしいのだが、無理にでも話を逸らすしかない。

友達……当時の俺が唯一、人間関係を築けそうな同業アイドルも男である事がバレてしまうのを嫌った結果、親しい間柄になれたのは結局ツンデレもとい幼馴染のみとなってしまった。

幼馴染に正体を隠し通すなんて今考えれば信じられないな。ゾッとする。

だからと言って友達が居ないと言うわけでは決して。

ギュッ

男「ふぇっ?」

会長「ジェットコースター、乗るぞ」

そ、そんな俺の手を握り引っ張ってまで乗りたいのか?

会長「はやく」

駄目だ。

普段の会長からは考えられないほどに目が輝いている……
272 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/27(火) 23:25:38.51 ID:3sqohgBMO
全てのアトラクションを楽しんでいる内に気が付いたら日が沈んでいた。

男「うーん……」

会長「まぁ、こんなレベルだとは思っていたよ」

分かりきっていたことだが、感想としては

男・会長「「普通」」

男「でしたね」

会長「否定しないよ」

男「会長は楽しかった?一緒に居ましたけど、どうでした?」

普通と楽しいは違う。

男「俺は、どうだろう……正直に言うと……会長はどうしてくれますか?」

女々しい奴だとは思う。
会長の事なんかこれっぽっちも興味が無いのに思わせ振りな態度をとってしまう。

更に言うと1人の男性とは思えない答えだな、女性優先に話を進めようとする。

ひとりで勝手に話を進める癖に答えを求める。
ただの自己中心的な人間だ

会長「男と一緒だとすると」

会長「うん、楽しかったよ」
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