【艦これ】禍福は絡み合う触手の如し 〜鎮守府水着の乱〜

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124 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 12:58:21.52 ID:Xt6djFGV0

「馬鹿な、あの神通が悪に屈しただと……!? 一体どんな写真を条件にすればそんなことが罷り通るんだ……」

「そりゃモチロン司令官の――ゲフンゲフン。いえ何でもないです」

「待ておい今何つった――」

「そういうわけで司令、そろそろ観念してください」

「――ってクソっ、それどころじゃないか……!」

神通があてにならないと分かった以上いつまでもここには居られない。自力でなんとか突破しなくては。
しかし突破した後は? こいつらが簡単に諦めるとは思えないし、仮に逃げ切ったとしてどこに逃げ込めばいい? 大淀や神通のこともあるから他にも協力者がいるかもしれない。逃げた先がそれでは完全に詰んでしまう。あ、お腹すいた。いやそうじゃなくて、そもそも……って、ああもう面倒だ。こうなったら窓から飛び降りてやる。3階? 知るか。最悪足が逝くだけだ。命に比べれば軽い――

125 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 12:59:13.40 ID:Xt6djFGV0

「とりゃあ! 隙ありです!」

「ぬおっ!? しまった……! ええい離せぃ!」

「わわっと! ちょっと、じっとしてて下さいっ!」

ぐだぐだと考えているうちに背後から青葉に羽交い絞めにされてしまった。
迂闊ッ、考えるより前に動くべきだった……!
しかもこいつ意外と力が強い。艤装はなくとも流石は重巡というべきか。
あと俺の背中に決して小さくない膨らみが当たっている。お前いいのかそれ?

「ナイスです青葉さん。そのまましっかり捕まえていてください」

「りょーかいです!」

「りょーかいですじゃねぇこの馬鹿!」

126 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:00:57.05 ID:Xt6djFGV0

ジタバタする俺と青葉に向かって、霧島がゆらりと動く。
霧島はしゃがんで小脇に抱えていたクーラーボックスを静かに床に置き、留め金を外し、フタを開け放つ。
するとボックスの中からは白いもやが溢れ出した。
湯気?――いや違う、あれは冷気だ。

「いやいや待て待て、なんでクッキー入れてるボックスから冷気が漏れてくるんだ。おかしいだろ」

「お気づきになられましたか。実はこのクッキー、常温だと急激に昇華してしまうので、致し方なくこのように保存してあるのですよ」

「それ生物が口にしていいモノの最低条件すら満たしてねぇじゃねーか!」

昇華ってあれだろ? 固体が液体の過程すっ飛ばして気体になることだろ? そんなのドライアイスぐらいでしか見たことないぞ。絶対クッキーがやっちゃいけない状態変化だぞ?
127 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:01:52.73 ID:Xt6djFGV0

「まあまあ、とりあえずご覧になってください」

そう言って霧島は氷か何かが敷き詰められているボックスの中から取っ手のついた円筒形の金属製ケースを取り出した。
次いで取り出したケースのフタを取り外し、備え付けのピンセットの先をその中に突っ込んだ。


そして霧島がピンセットで挟んだそれを取り出すと――――空間に穴が開いた。


…………いやいやいやいやおかしいおかしい。

あまりの光景に自分の頭か目がおかしくなったのかと疑ったが、よーくよーく目を凝らすと、その正体がわかった。

128 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:03:37.53 ID:Xt6djFGV0

それはただの黒い物体なのだ。それもただ普通に黒いだけではなく、一切の光沢がなく物体表面の凹凸すらも判別できないほどの真っ黒さ。
あまりに黒すぎるため、ピンセットで摘まれたそれが存在する空間だけぽっかりと穴が開いたように錯覚してしまったのだ。
そう、それはさながらブラックホールのように。

しかも霧島の言った通り、どんどん気化していくせいか空間を侵食するように闇色のもやがそれから立ち昇っている。

そういえば聞いたことがある。
ベンタブラックとかいう、ほぼ全ての光を吸収するという超黒物質なるものが存在するという話を……。

「司令。これが比叡お姉さまがお作りになられた……チョコクッキーです」

129 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:05:34.22 ID:Xt6djFGV0

なるほど、チョコクッキーならぬ超黒ッキーというわけか。
こやつめ、なかなかうまいことを言いおる。ハハハハハ………………笑えない。


そうだな。もう正直、改めて言うまでもないとは思うが――これ食べ物じゃないよ。


嗚呼、比叡。お前はどこにいても俺の平穏を妨げるというのか――――


「さ、司令。どうされますか?」

「こんなの食べたら、司令官消滅しちゃいますよ?」

前方には笑顔でダークマターを突き出す霧島。

背後には自分の胸を押し潰さんばかりに抱きついてまで俺を拘束する青葉。

そして、逃げ場も逃げる手段も最早思いつかない俺。


眼前に迫る死の瘴気に、俺は――――

130 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:07:20.54 ID:Xt6djFGV0







「今回の説得は少し手こずりましたねぇ。まさかあんなに抵抗するとは……根回しはしておくものですねぇ」

「悪い気はいたしますが、仕方ありません。今回のイベントは司令がいなくては成り立ちませんから」

「んーでも口約束で大丈夫ですかね? 一応参加表明を一筆書かせておいた方が良くありませんか?」

「そこは大丈夫でしょう。司令はたとえ口約束でも、それを違えたりはしませんから。それはあなたも知ってるでしょう?」

「……そうでしたね。司令官ってば、あんな風に無理矢理何か頼んだ時は嫌そうな顔を隠しもしないし、隙あらば愚痴を垂れ流したりしますけど、一度引き受けたことをすっぽかしたり、途中で投げ出したりしないでなんだかんだで最後までちゃんと付き合ってくれますもんね」

「ええ。そして私達はそれに甘えてしまっている、と。フフフ、司令からすればたまったものではないでしょうね」

「アハハ、そうですねぇ」

131 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:08:21.52 ID:Xt6djFGV0

「………………」

「………………」

「…………あてにならない、と司令はおっしゃっていましたが。司令が次の非番の日をゆっくり過ごせるよう、みんなにきちんと言い含めておきましょうか」

「あ、青葉も手伝いますよ。禁を破った人は恥ずかしい秘密を号外で暴露しちゃいます!」

「フフ、ありがとう………………ところで話は変わるのだけど、例の写真……私にもいただけないかしら?」

「えーあれですかぁ? かーなーりのレアものですよぉ?」

「そこをなんとか――」

「そうですねぇ――」



132 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/05(土) 13:09:57.01 ID:Xt6djFGV0
今回はここまで

やべぇよ今年の夏があと一月くらいで終わりそう
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/05(土) 16:02:50.17 ID:EjDKi1rAo
ヒエーwww
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 00:26:43.98 ID:RODqBAbk0
ワロタwwwwwwww
135 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/08/31(木) 22:16:47.45 ID:SUBhEGNs0
こちらも生存報告を
夏が終わりそうですが、知ったこっちゃねーと水着大会を書くつもりです
懲りずに待っていただければ幸いです
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 22:43:18.15 ID:ISBoW353o
ほいな
137 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/09/29(金) 22:29:47.76 ID:UaRkS2rS0
あい、すんません。こちらはまだかかります。
首を長くしてお待ちください。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/30(土) 00:52:25.46 ID:KIzr2C0Eo
うい
139 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:49:19.50 ID:gdEuBoJK0
はい
少しだけですが許して下せえ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 00:51:32.77 ID:vspFwo2Ro
許す
141 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:53:13.91 ID:gdEuBoJK0


"水着コンテストの審査員として提督の参加が正式に決定"

その報せはその日のうちに鎮守府中に拡散した。
発端を考えれば"まあ、そうなるな"という今更な一報であったが、その各所への影響力は小さなものではなかった。

例えばそう――




142 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:54:22.95 ID:gdEuBoJK0

「く、くぅまぁのぉぉぉぉっ!!」

「もう、なんですの? 騒がしいですわよ鈴谷」

「コ、コンテストっ、提督来るって、マ、マジなの!?」

「マジも何も、もともとそういう流れの話だったでしょうに。今更そんなに驚くようなことかしら?」

「鈴谷そんなの聞いてないし!? てっきり身内でワイワイするものだとばかり……」

「提督も身内ですわよ」

「そーいうことじゃなくてっ! ああもうっ。ど、どうしよう、水着どうしよう〜!」

「どうしようって、あなた今年も新しい水着買ってたありませんの」

「ムリムリムリムリ! あんな恥ずいの提督の前で着れるわけないじゃん!」

143 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:55:25.87 ID:gdEuBoJK0

「自分で選んでおいて恥ずいって……それなら、また新しいのを買いに行ったらよろしいのではなくて?」

「それができないから困ってんの! 鈴谷、コンテストの日まで出撃とか演習とかで町に出られる余裕ないんだよぉ……あ、そ、そうだ! 熊野は? 熊野は町行ける余裕あるっ!?」

「お生憎様。わたくしもそのような余裕はありませんわ。なので、わたくしが代わりに買いにいくのは無理ですわよ」

「そんなぁ〜……八方塞がりぃ〜」

「諦めて今ある水着で出なさいな。いいじゃありませんの。あなたの普段のイメージ通りで似合ってましたわよ? あの水着」

144 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:56:50.02 ID:gdEuBoJK0

「ぜーったい無理っ! みんなには見せられても提督にだけはみせられないからっ!」

「ほーんとメンドくさいですわね。だったらもういっそ出なければよろしいのにと言いたいところですが、そういうわけにもいかないのですわよね、どうせ…………ハァ、仕方ありませんわね。わたくしのを貸してあげますわ」

「や、それは無理っしょ。熊野のじゃサイズ合わないし。胸とか」

「……ム〜カ〜つ〜き〜ましたわ〜……一捻りで黙らせてやりますわ!」

「え、何? 熊n――」

「とぉぉぉおおおう!!」

「ちょぉっ!?――――」


145 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 00:58:53.83 ID:gdEuBoJK0



「あははは……あの二人も大変そうだね。三隈もたしかコンテスト出るんだよね? 水着の方は大丈夫かい?」

「ええ。私、これにしようと思うのですけど……どうかしら? もがみん」

「へぇー、どれどれ――え"。そ、それ?」

「少し色が派手かなとも思ったのですけど、たまにはこういうのもいいかなって」

「色が派手な以前にちょっと露出が多そうなんだけど……」

「? 何を言っているの? もがみん。水着なんだから普段より露出が多いのは当たり前でしょう?」

「そ、そういうことじゃなくてだね……」

「ちなみにお揃いの水着、もがみんの分も用意してあるの。これを着て一緒にコンテストに出ましょう?」

「いやいやいや、ボクはいいよ! 水着で大勢の前に出るとかちょっと恥ずかしいし!」

「あら? そうなの? もがみんったら意外に恥ずかしがりやさんなのね」

(むしろ君にはもっと恥じらいを持ってほしいよ三隈……)

146 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 01:02:17.99 ID:gdEuBoJK0


「北上さん本気ですか!?」

「もちろんだよ大井っち。最初は見てるだけにしようかと思ったけどさー、提督が審査員ってことなら出ないわけにはいかないよねー。ここでやらなきゃ女が廃るってもんだよ」

「もうっ負けず嫌いも大概にしてくださいっ。北上さんの水着姿なんて見せたら、提督の理性が吹っ飛んでしまうに決まってます! きっとその後、北上さんが人気のないところに行ったところを見計らって…………危険過ぎますっ!」

「むしろ望むところなんだけどなー。そんな提督も見てみたいし」

「ダメですっ。考え直してください」

「えー別にいいじゃないさー。お祭りは楽しんでなんぼだよ? なんだったら大井っちも出てみれば?」

「な、なんで私が。北上さんや姉さん達の前ならともかく、他の人の前なんて……特に、提督とか」

147 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 01:03:55.30 ID:gdEuBoJK0

「大井っちスタイルいいからねー。水着なんて着て見せたら提督喜ぶんじゃない? 目の保養になって」

「………………」

「まあ出ないんだったらそれでもいいけどさ。私にとってはライバルが一人減るわけだし」

「……わかりました。私も出ます」

「およ? いきなりどういう風の吹き回し?」

「別に、考え直しただけです。確かに、せっかくのイベント事ですし、楽しまないと損ですからね。北上さんが出られるなら私も出てみようかなと……少し思っただけです」

「ふーん、そっかー。ま、そーいうことにしておきましょうかね」

「……ちょっと北上さん、なんでニヤニヤしてるんですか?」

「べっつにー何でもないよー。にひひ」

148 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 01:05:39.68 ID:gdEuBoJK0



「――と、いうわけらしいニャ」

「なので木曽も出るクマよ」

「はぁ!? なんでそうなる!? 何が"なので"だよ!?」

「だって艦隊に三人しかいない雷巡のうち二人がコンテストに出るクマよ?」

「だったら残りのもう一人も出た方が何となくスッキリするニャ。仲間はずれはよくないニャ」

「何だよその理屈!? お、俺は嫌だからな!?」

「残念ながら拒否権はないクマ。長女命令クマ」

「姉妹の結束を見せつけるためにも、木曽にも頑張ってもらうニャ」

149 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 01:07:50.72 ID:gdEuBoJK0

「なっ!? クッ…………だ、だったら、姉さん達も出るんだよな!? 姉妹の結束とか言うんだったら、当然出るんだよな!?」

「うんうん出る出る、出るクマよ」

「多摩たちも頑張るニャ。だから安心するニャ」

「そ、そうかよ…………うぅぅ……あ、あんな格好で、人前とか……俺なんかが」

「だーいじょうぶクマ。木曽もあの二人にも見劣りしないイイもの持ってるクマ。自信持つクマ」

「提督も驚くこと請け合いニャ。お姉ちゃんたちが保証するニャ。心配いらないニャ」

「…………わかったよ。それなら、頑張って、みる」


((フッ……計画通りクマ・ニャ))


150 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/10/27(金) 01:09:22.97 ID:gdEuBoJK0
今回はここまで

もう少しで本戦にいけそう
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 01:35:06.74 ID:yEVuJ3zGo
乙です
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 04:12:29.69 ID:jRe5mt0ao
おつ
次も待ってるで
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 08:36:30.57 ID:/qMScH1SO
木曾
154 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:43:58.95 ID:0QK9Srlf0
さてさてこちらはいくでやんす

決戦(?)前編その二
155 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:45:51.27 ID:0QK9Srlf0



「ねえ漣、コンテストの水着どうするの?」

「んー、今年のでいいんじゃね? ってなってる。結局ここの四人内でしか着て見せてないわけだし」

「そっか。じゃあアタシもそれでいいかな。潮はどう?」

「私もそうするつもりだよ。新しいの買うのも何だかもったいないし」

「そいつぁ聞き捨てならねえぜ潮殿! 妥協はいかんぜ妥協は! チミはむしろもっと肌を出していかなければ。特にこの凶悪な潮っぱいを強調する感じで!」

「ふわぁぁぁっ!? 漣ちゃんっ!? も、揉まないでぇぇっ」

「うーむ……やはりこの重量感、戦艦や空母のおねえさま方にも引けはとらないと思うのじゃが……どう思うね、朧くん?」

「やめてあげなよ漣。そういうの、無理強いはよくないと思うよ」

156 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:48:23.78 ID:0QK9Srlf0

「ちぇーもったいないのに〜〜…………ところで、先程からROM専なぼのやんは水着どうすんの?」

「どうするも何も、私出ないから関係ないわよ」

「なんですと!? 正気かぼのやんっ!?」

「正気だからよ。何が水着コンテストよ、馬鹿馬鹿しい」

「えー……せっかくぼのやんの分もエントリーしといたのにー」

「ハァ!? なに勝手なことしてんのよアンタぁっ!」

「フフフ、我ら七駆は一蓮托生。おはようからおやすみまで、コンテストだって一緒なのさ」

「わけわかんないこと言ってんじゃないわよ! 私は出ないからねっ」

「曙ちゃん……やっぱり、コンテスト出るのはイヤ?」

「い、イヤっていうか……だ、大体潮、アンタが一番こういうの苦手なはずでしょ!? なんでノリノリなのよ!?」

157 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:50:37.61 ID:0QK9Srlf0

「えっと、その……たまにはこういうのも良いかな、って思って……」

「ハァ? 何よそれ……」

「チッチッチッ、わーかってないなぁ、ぼのやんは」

「どういう意味よ」

「"水着を見られるのは恥ずかしい"でもそれ以上に"提督はこの水着どう思ってくれるんだろう?"……そんな乙女心を抱いた潮は大人の階段を登り始めたのだよ」

「そ、そうなのかな?」

「そ う な ん で す。まあ? 恥ずかしくて未だに提督の前で水着になれないお子様な誰かさんには縁のない話でしょうな」

「なっ!? だ、誰がお子様よ! 私別に恥ずかしくなんてないしっ」

「おっや〜? 誰もぼのやんのこととは言ってないぞよ〜?」

「くっ……!?」

158 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:52:13.73 ID:0QK9Srlf0

「ハア……仕方ありませんな。それならぼのやんのエントリーはキャンセルしてきてあげましょう。せいぜい漣たちが大人の階段を駆け上がっていくのを観客席で指を咥えて見ておるがいいよ」

「っ!……上等じゃない。そこまで言うなら私も出てやるわよ!」

「曙、別に無理しなくてもいいよ?」

「無理とかしてないし! クソ提督の前で水着になるなんて……よ、余裕だし」

「ほほう、そうかい……では出場ということで問題ないですな?」

「の、望むところよ」

「わあっ。曙ちゃん、一緒に頑張ろうね」

「べ、別に、頑張るとかないし……」


(やっぱチョれーな、ぼのやん)(毎度毎度清々しいまでのチョロさだね……)


159 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:57:41.26 ID:0QK9Srlf0



「ねぇねぇ翔鶴姉っ、出てみようよ!」

「イ、イヤよ瑞鶴っ、大勢の見てる前であんな格好になるなんて……それに提督もいらっしゃるらしいし……」

「だからいいんじゃない! あのムッツリの面の皮を公衆の面前で剥ぎ取ってやるのよ。大丈夫! 翔鶴姉ならできるって! 改二改装してから翔鶴姉色々スゴくなってるから! もう"ボーンッ"ってなってるから!」

「それどういう意味よ!?」

「とりあえず、面積小さめのビキニとかパンチがあっていいと思うんだよね――」


「呆れた。聞くに堪えないわね五航戦」


「っ!? 加賀さん……!」

「自分は矢面に立たないどころか、姉ばかりに無理を押し付けようとする……程度が知れるというものよ」

160 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 08:59:13.95 ID:0QK9Srlf0

「か、加賀さんには関係ないでしょ!」

「そうね。実は内心怖気づいていたあなたが姉に頼ろうがどうしようが、私には関係のない話だったわ。ごめんなさいね」

「くっ…………〜〜〜〜ぅぅううう上等じゃない! そこまで言うなら私だって出てやるわよ! 攻めっ攻めな水着であの朴念仁を爆撃してやるわ!」

「ず、瑞鶴? あまり自棄になっては――」

「翔鶴姉っ、止めないで! 意地があんのよ女にはぁ!」

「ええぇぇ……」

「そう。それならせいぜい頑張りなさい。その様を赤城さん達と一緒に見物させてもらうわ」

「え? もしかして加賀さん出ないの?」

「ええ。生憎、見世物になるのは好きではないの。そういうのはあなた達に任せるわ」

161 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 09:00:42.98 ID:0QK9Srlf0

「へーそーなんだー。なるほどーそっかー……ふぅ〜ん」

「……何? その顔は」

「いーえー別にー? 私に何やら言う割には加賀さんは出場しないんだなぁ、って。ま、それもしょうがないのかなぁーなんて思っただけでーす」

「何が言いたいのかしら?」

「大したことじゃないですよ? ただ、あの一航戦の加賀さんでも女の魅力を競うのには自信がおありではないようなので、水着コンテストなんて出たくても出られないんだろうなって。でもまーまーどーぞお気になさらず。加賀さんはいつも通り観客席でモグモグしてればいいんじゃないですかね?」

「……頭にきました。いいでしょう、その挑発、のってあげます」

162 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 09:01:58.58 ID:0QK9Srlf0

「ほーう? それはつまり?」

「私もコンテストに出ると言っているのよ。あなた達に格の違いを教えてあげる」

「フッ、望むところよ」

「あ、あの瑞鶴? そういうことなら私は別に出なくても……いいわよね?」

「何言ってるの翔鶴姉」「何を言っているのかしら」

「いつもネチネチうるさい加賀さんを一緒に見返してやろうよ!」

「五航戦二人でかかってきなさい。ちょうどいいハンデだわ」

「ええぇぇ、そんなぁ……」


163 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/11/24(金) 09:04:30.32 ID:0QK9Srlf0
今回はここまで。筆が遅くて誠に申し訳ない
それでもあえて一言

秋月型の水着がヤバめで俺のがヤバい
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/24(金) 12:12:51.94 ID:3vOZtK2k0
乙!
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/24(金) 22:59:32.73 ID:1JiU1GxYo
おつ!
166 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/12/23(土) 22:54:07.85 ID:6nkcquTZ0
こちらもぬるりと投稿
167 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/12/23(土) 22:55:17.37 ID:6nkcquTZ0


「ハァ…………なあ、本当に私も出なきゃ駄目なのか?」

「当たり前でしょ。私達で表彰台を独占すると言ったじゃない。ドイツ艦隊が優秀なのは戦闘だけではないことを知らしめるのよ」

「その自信は一体どこから来るんだ……」

「ダイジョーブです! グラーフさん美人でスタイルいいですから、きっと表彰台に上がれるはずです!」

「まあ一番上に立つのはこの私だから、あなたは二位か三位になってもらうのだけど」

「僕も応援するよグラーフ。頑張ってね。もちろんビスマルクとオイゲンもね」

「……まぁ、頑張って」

「あ、ああ。ありが、とう?…………ん? レーベとマックスは出ないのか?」

「うん。マックスが出ないって言うから、僕も今回はいいかなって」

「…………」

168 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/12/23(土) 22:56:38.12 ID:6nkcquTZ0

「ビスマルク? こう言ってるが、この二人は出さなくていいのか?」

「何言ってるのよグラーフ。表彰台独占するなら三人で十分でしょう? 本人達が出たがらないなら別にそれで構わないわ。子供相手に無理強いなんてしたくないし」

「そこは常識的なんだな……」




「ねぇマックス、本当にいいのかい?」

「何が?」

「コンテスト、出なくていいのかなって」

「いいわよ別に。ああいうの、出るのも見るのも苦手だから。ビスマルク達には悪いけど、当日は近くの対潜哨戒でもして時間を潰すことにするわ。他にすることも特にないし」

169 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/12/23(土) 22:57:51.32 ID:6nkcquTZ0

「せっかくの休みなのにマメだねマックス……それじゃあ僕も一緒にそっちに行こうかな」

「レーベ、別に私に気を遣わなくていいわよ。コンテスト見に行きたいならそっちに行っても――」

「いいんだ。それよりもマックスを一人で哨戒に行かせる方が気になるよ。鎮守府近海とは言っても、もしものことがあるかもしれないからね。ダメかい?」

「ふぅん……まぁ、好きにしたらいいわ。あなたも物好きね」

「うん、そうだね。でもそうなると少し勿体ないよね。せっかく水着買ったのに、結局今年の夏は一度も着れず仕舞いになりそうだ」

「仕方ないわよ。任務と遠征続きで海水浴なんて気にもなれなかったし。まさか水着で出撃するわけにもいかなかったし」

「水着で出撃してる人もいたけどね…………うん? そうだ! こういうのはどうかなマックス――」


170 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2017/12/23(土) 22:59:29.54 ID:6nkcquTZ0
この度はここまで
短くてすまない。いやほんと
来年も懲りずに待っていただければ幸いです
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/23(土) 23:28:33.68 ID:GjQmAIs5O
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 13:39:45.62 ID:LFMCu6fTo
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 21:48:55.12 ID:bPDHtyDNo
おつ
まっとるから続きよろしくな
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 23:14:28.54 ID:/fNFg3GEo
おつでおまー
175 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:23:41.81 ID:soQitIhI0
レッツゴーコンゴー
176 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:24:54.32 ID:soQitIhI0



「ナイ……ナイ……どこにもNothingネ〜!! ガァーーーッ!!」

「あわわわわ、お姉さま少し落ち着いて……!」

「ああ……こんなに散らかして。もう、あとで片づけるの手伝ってくださいね、お姉さま。それで、何が無いんですか?」

「ワタシのSwimwearがナイんだヨ!」

「水着ですか? ここにあるじゃないですか」

「それはこの前着てテイトクに受けが悪かったやつネ。探してるのは別のSwimwearネ!」

「別の? もしかして、"アレ"ですか?」

「That's right! こんな日のために用意しておいたあのSexy Dynamiteな必殺のSwimwearネ!使うなら今しかない!――と、思ってたのに、それがどこにもナイんだヨ〜!」

177 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:27:21.82 ID:soQitIhI0

「なるほど……そういうことでしたか」

「Yes! だから霧島も探すの手伝ってくれると助かるネ。それにしても、ホントにどこにいったかな……比叡、そっち見つかりましたカ?」

「ご、ごめんなさいっ、こっちも見つかってないです……」

「むぅ、ソウデスカー……ン? もしかしてアッチだったかな……? ワタシちょっとアッチ探してくるネー!」

「あ、はいー」




「…………よろしいのですか? お姉さま」

「え? な、何が?」

「金剛お姉さまの探している水着、比叡お姉さまが持っておられるのでしょう?」

「ウグッ!? ナ、ナンノコトカナー……」

「とぼけなくても結構ですよ。昨日それらしいものを持って何やらゴソゴソしてたのをお見かけしてましたので。違いましたか?」
178 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:29:12.40 ID:soQitIhI0

「あぅ、見られてたかぁ〜……ハァァァ〜……」

「らしくありませんね。金剛お姉さまを困らせるようなことをなさるなんて。何か訳がおありなのですか?」

「……聞いても怒らない?」

「怒りませんよ。まあ、内容によってはどうだか分かりませんが」

「ぅ〜〜……あの、その……」

「はい」

「……あの水着、結構露出とかすごいでしょ?」

「そうですね。私にはとても着れそうにないデザインでした」

「でね、あれを着たお姉さまを……司令には見せたくないなって、思っちゃって……」

「はあ、なるほど。恋敵にあの姿の金剛お姉さまを見せたくない、と。聞いてみればなんてことはない、いつもの比叡お姉さまらしい理由ですね」

179 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:37:18.98 ID:soQitIhI0

「うん。それにね……」

「それに?」

「……あの水着姿を見たら、司令もきっとお姉さまに夢中になっちゃうだろうから……それも、なんか嫌だなって」

「………………」

(頬赤らめて指先ツンツンさせて……金剛お姉さまや榛名が乙女チックなのは言わずもがなといった感じでしたが、比叡お姉さまもなかなかどうして…………これは私もうかうかしていられませんかね)

「金剛お姉さまの水着姿を司令に見られるのも、司令が金剛お姉さまの水着姿を見るのもイヤ、と」

「うん…………」

「ハァ……分かりました。そういうことでしたら、私は何も見てないし何も聞いてないことにしますね」

「霧島……ありがとう。あと、ゴメンね」

180 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:39:58.16 ID:soQitIhI0

「いえいえ。後日間宮で何か奢って下さればそれで。でも、そうなると……少しマズいですかね」

「え。な、何が?」

「私の計算によりますと、そろそろ金剛お姉さまが――」


「ア"アァァァァ、ゼンっゼン見つからないネーー!! こうなったらLast Resortネ! 潜水艦の娘達からスクミズを借りてきマース! 戦艦の身体に潜水艦のスクミズ……フフッ。このUnbalanceさが醸し出すAbnormalなFetishismでテイトクを虜にするデース!」


「――とまあ、あんなことを言い出すかなと」

「ちょおぉぉっ!? お姉さまぁぁっ!?」

「離すデース比叡! もうこれしかナイんだからーっ!」

「お姉さま気を確かにっ! いくらお姉さまでもそれは流石に見ててキツいと思いますっ」

「なっ!? それどーいう意味ネ比叡!?」

「ヒエェェェ!? ご、ごめんなさいぃぃぃ!」




「ハァ……やれやれですね。そういえば、榛名はどこ行ったのかしら?」


181 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/01/22(月) 23:44:56.34 ID:soQitIhI0
今回はここまで


2万近くあった鋼材全部消費しても出なかったのに、余ったGP消費のために砲撃演習やったら金剛改二がポロッと出たときは脳汁ドバドバでしたわ
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 01:41:17.92 ID:UbnfVkWA0
おつんこ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 12:30:00.73 ID:afWj9DTro
乙カレー
184 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/02/20(火) 20:56:16.87 ID:HJzTTr/v0
こっちはもうしばらく待って欲しい。あと少しっ、あと少しだから!
かるーくレイテでも攻略しながら待っててくだせぇ

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/21(水) 00:34:59.34 ID:Ogxzciazo
うい
186 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/19(月) 23:32:15.17 ID:hLBQDeno0
あと二・三日待って!
もう少しっ、もう少しだからぁっ!
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 22:25:42.30 ID:0qdQGrUJo
う、うい
188 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:41:23.60 ID:qy3Zo8l10
二・三日って言ったじゃないっ、このクズ!

……はい、すいません。お待たせしました。コンテスト前日編最後です
これが終わったらようやく本筋でさぁ

ちょっと真面目テイストでお送りします
189 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:43:51.41 ID:qy3Zo8l10


「………………」

昼間の暑さが若干後を引く夕暮れ時。
艦娘寮の屋上で榛名は一人物思いにふけっていた。

彼女は一人になりたい時、よくここを訪れていた。
別段ストレスや悩み等が普段から特にあるわけでもないが、何となく一人で考え事をしたい時はあるというもの。そんな時、彼女の足は自然とこの場所に赴くようになっていた。

とはいえ、屋上とは得てして一般的にそういう場所になりがちもので、一人なりたいといざ着てみれば既に誰かが先に居たり、後から誰かがやって来たりといったことが多々ある。
そうなると榛名は、相手に気を遣って屋上を後にしたり、あるいはその誰かとちょっとした世間話や相談事をしたりされたりしていた。

190 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:45:34.87 ID:qy3Zo8l10

しかし今は彼女以外には他に誰もおらず、屋上は彼女の貸し切り状態になっていた。

「………………」

少し強い風に髪を泳がせて、ここから一望できる水平線を屋上のフェンス越しに榛名はぼんやりとただ眺めていた。


しばらく彼女がそうしていると、彼女の視界の下端――この寮の一階玄関口の辺りから何やら騒がしい気配がしてきた。
彼女がふとそちらに視線を落とすと、寮から出ていくとても見慣れた後ろ姿の二人が見えた。

「あれは……お姉さま?」

足早に歩き去って行こうとする金剛と、金剛の腰に縋りついて半ば引きずられていく比叡。
声はここからではよく聞き取れないが、一体どうしたのだろうと榛名はその様子を窺うことにした。


191 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:46:50.36 ID:qy3Zo8l10


妹を引きずってでもどこかへ行こうとする金剛。

引きずられていく比叡。

しばらくすると根負けしたのか、疲れたように肩を落として足を止める金剛。

縋りついていた金剛の腰から離れてその前に立ちはだかる比叡。

何やらわいのわいのと騒いでいる様子の二人。

そこで突然比叡の右腕を取り、見事な一本背負いを決める金剛。

綺麗に投げられ、地面に大の字になる比叡。

そのまますかさず比叡に袈裟固めをかける金剛。

するとどこからともなく現れて地面を叩きながらカウントを取り始める霧島。

3カウントの後、霧島に腕を掲げられ高らかにガッツポーズを決める金剛。

そして地面で伸びたままの比叡。


……本当に、何をしているのだろう。そう思わずにはいられない榛名だった。

192 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:48:22.03 ID:qy3Zo8l10

「もう、お姉さま達ったら」

しかしながら、そこは鎮守府きってのムードーメーカー金剛シスターズが一人。あんな姉妹達の珍騒動など日常茶飯事なので特に驚くようなこともなく、困ったように笑いながら、あの三人に合流しようかと榛名は振り返りフェンスに背を向けた。

するとその時、彼女の視線の先、屋上へ出る扉が開かれた。

「…………フゥ」

扉を開けて屋上に上がってきたのは、長髪長身の艦娘だった。

「大和さん?」

「え? ……あ、榛名さん」




そこから自然に和気藹々と雑談を始める二人だった。

互いの近況や姉妹のこと、あと提督に対するあれやこれやについて。元々話の合う二人ということもあり、こうして二人きりで出会えば花を咲かせる話題には事欠かなかった。

193 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:50:24.72 ID:qy3Zo8l10

そして当然、今のこの二人が揃えば自ずと話題になることは決まっていた。

「そういえば、いよいよ明日……ですね」

「……ええ。そう、ですね」

大和の一言に、途端に歯切れが悪くなる榛名であった。
それを見て、自分も同じ立場である大和も苦笑する他なかった。

何の事かとわざわざ口にするまでもない。明日は水着コンテストがあるのだ。

「まさかこんな大事になるだなんて、榛名思ってもいませんでした」

「私もです。まったく、武蔵達には困ったものだわ。こっちの気も知らないで勝手に盛り上がっちゃって」

「はい、本当にその通りです」

そう言って、二人して盛大に溜め息をついた。お互いこの期に及んでなおコンテストへの出場は甚だ不本意だということをこれみよがしに表した一息であった。
ただそこで"コンテストなんか知ったこっちゃねーや"と投げ出せるほど彼女達は我の強い性格ではなかった。

そう、お互いそういう控えめな性格であると知っていたものだから、大和のこの後の発言は榛名を少しばかり驚かせた。

194 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:52:22.41 ID:qy3Zo8l10

「……でもね榛名さん。正直に言うと、もう少し状況が違っていたら、案外私も武蔵達と一緒にはしゃいでたかもしれないって思うんです」

「えっ、そうなんですか?」

「ええ。私も何だかんだ言って勝負事は好きな方ですから。勝てる見込み――優勝できるような可能性が多少なりともあるなら、きっと前向きな気持ちでコンテストに出られたんじゃないかな、って」

まあ、水着勝負は流石に少し恥ずかしいのだけれど――と、大和は照れたように頬を掻きながらそう付け加えた。
それに対して、榛名は小首を傾げる。

「でもそうおっしゃるということは、今の状況だと大和さんはご自分が優勝できる見込みがないと思っていらっしゃるのですか?」

「そうですね……だって――」

そこで大和は榛名をジッと見つめて、寂しげな顔で言う。


「――提督の前で、こういう女性の魅力を競うような勝負……私、榛名さんには勝てる気がしませんから」


195 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:55:19.53 ID:qy3Zo8l10

「え……」

思いがけない言葉に、榛名は目を丸くした。

「もちろん他の方を軽んじてるわけではないんですよ? でもやっぱり私の中では榛名さんは別格というか、勝てるようなイメージが思い浮かばないんです。これがもしクイズ大会や体力勝負の類だったら、こう気負わずにいられたのかもしれません。あるいは提督が審査員ではなかったら……なんて、そんなことを考えたりもしました」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。そんな……榛名なんて、大和さんにそう思っていただけるほど大層なものでは……」

「そんなことはありませんよ。榛名さんは可愛くて綺麗で気立ても良くて、そして提督と一番付き合いの長い戦艦で……もうこれだけで私には勝機がないといいますか……」

「そ、そんなっ、大げさですっ。榛名より大和さんの方がずっと素敵だと思います! それに付き合いの長さを言うなら、初期艦だった叢雲さんの方が――」

「確かに叢雲さんにも色々と勝てる気はしないのですけれど……それでも同じ戦艦として、どうしても榛名さんの方を意識してしまうんです。それに提督も、榛名さんには特別な思い入れがあるようだと金剛さん達から伺っていますし」

「それは……」

196 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:58:08.22 ID:qy3Zo8l10

確かにそれについて、榛名は否定することはできなかった。それだけのことが彼女と提督の間にはあったのだから。
ただその"思い入れ"は、提督と艦娘――上司と部下としての関係から来るものであって、大和や他の艦娘達が想像しているようなものでは決してないのだと、彼女は声を大にして言いたかった。

しかし、代わりに彼女が口にしたのは――

「…………それを言うなら、榛名だって……大和さんには、絶対勝てる気がしないです」

「え……榛名、さん?」

急に声を落とし、物憂げな表情を浮かべる榛名に大和は戸惑いを隠せなかった。

「提督にとって榛名が特別だというなら……大和さんは、それ以上に特別な艦娘なはずです」

「ッ……あの、榛名さん――」

「大和さんは……戦艦大和は、提督の憧れで特別で―― 一番大切だった人、でしたから……」

「榛名さん、でもそれは――」

「はい、わかっています。今の大和さんと"あの大和さん"は違うんだって、よくわかっているんです…………でも」

197 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 22:59:46.11 ID:qy3Zo8l10

俯いて、自分の胸を押さえるように両腕を掻き抱いて、今にも泣き出しそうな声音で榛名は告げる。


「それでも、"提督がまた私を選んでくれなかったらどうしよう"って……そんな考えが、どうしても頭を離れてくれないんです……ッ」


榛名の脳裏を巡るのは――提督と"彼女"が笑い合っていた、今となっては遠いいつかの光景。
仲睦まじいその二人の姿は、見ているだけでとても微笑ましくて――見ているだけで胸が張り裂けそうなほど苦しいものだった。

割って入ることなど、とてもできなかったあの二人の絆。明日のコンテストで提督が水着姿の大和を目の当たりにして、それをまた見せつけられるようなことがあったら、自分はどうしたらいいのだろうか――あのフィギュアの騒動があった朝の執務室から今日ここに至るまでずっと、彼女は思い悩んでいた。

そうして鬱々とした想いは蓄積し、今こうして当の大和本人を前に決壊してしまった。

198 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:01:15.10 ID:qy3Zo8l10

「榛名さん……」

「…………すいません。こんなこと言われても、大和さん困っちゃいますよね……」

「そんな、私の方こそ無神経なことを言ってしまって……ごめんなさい」

「いえ、そんなに気にしないでください。榛名は……榛名は…………」

大丈夫ですから――と、いつものように笑ってみせることが今の榛名にはできなかった。
どうしてあんなことを口走ってしまったのかと、自己嫌悪で彼女はどうにかなってしまいそうだった。

もういっそこのまま、明日のコンテストも棄権してしまおうか――そんな自暴自棄じみたことを考え出した、その時だった。


「……でも、今ので気が変わりました。榛名さん。私、明日は勝ちにいかせてもらいます」


199 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:03:03.48 ID:qy3Zo8l10

「えっ……」

大和の突然のその発言に、榛名は耳を疑った。

「榛名さんの気持ちは痛いほどよくわかります。私も同じ状況だったら、きっと今の榛名さんみたいになっていたでしょう。だって――」

そして、真摯な顔つきで榛名を見据えて大和は言う。


「――私は提督のこと、諦めるなんてできませんもの。榛名さんがそうなっているのも、提督のことを諦めきれていないからでしょう?」


「ッ……!」

そう、諦めてしまっているのなら今更何も思い悩むこともない。少しばかりの寂寥感はあるのだろうが、その程度のことでしかない。

だが、今こうして胸を焦がすような想いに苛まれているのは、ひとえに自分が心から納得していない――諦めていないから。これはそういう単純な理屈。

200 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:06:16.09 ID:qy3Zo8l10

「だったら、するべきことは一つ。勝つために――提督にとっての一番になるために、胸を張って堂々と勝負に臨む。少なくとも私はそうします。尻込みして負けようものなら、それこそ悔やみきれませんから」

「…………」

「それに今の意気消沈した榛名さんになら、私でも難なく勝てるような気がしますし。提督もいつも言っているでしょう? "勝てると思ったら全力ブッぱだ"って。だからこの好機、みすみす逃す手はありません……もう一度言います。私は明日、全力で勝ちにいきます」

「…………」

「それで、榛名さんはどうされますか?」

「……どう、って――」


「私に――"大和"に、また"勝ち"を譲っていただけますか?」


「――――――」

再び脳裏を過るのは、あの日々の記憶。

届かない憧れと想いに軋む胸を押さえて、笑い合う二人の幸せを見ていることしかできなかった、かつての自分。

時が過ぎ、薄れることはあっても決して消えることはなかったその記憶。
しかしそれを再び現実として目の当たりにする。そんなことが起こり得るとするならば。

大和の問いに対する榛名の答えは――――ただ一つだった。

201 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:07:57.74 ID:qy3Zo8l10


「――いいえ、譲れません。榛名はもう、負けたくありません!」


彼女の胸を焼く焦熱が、今砲火となって炸裂する。

「榛名はずっと提督のことを想っていました。大和さんよりもずっとずっと長く強く……その自負は今も変わりません。その想いに誓って、一度ならず二度までもあなたに――"大和さん"に負けるつもりはありません! 勝ちを譲るなんてもってのほかですっ!」

だから――と、どこまでも真っ直ぐな眼差しで榛名は大和を見つめ返す。


「榛名も、明日は勝ちにいかせていただきます。大和さんには――いえ、誰にも、榛名は負けません!」


鋼を思わせるような強い意志で、もう一歩も引かぬという覚悟で、榛名はそう告げた。

普段の穏やかな佇まいからはかけ離れた、戦場を駆ける戦艦の威厳に満ちたその姿。並の艦娘なら気圧されて然るべきその気迫を前に、大和は――


「はい。そう言ってくれると信じていました」


――朗らかに笑って、そう返したのであった。

202 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:09:41.41 ID:qy3Zo8l10

「え……あの、大和さん?」

予想とは大分違う反応が返ってきたことに戸惑う榛名に、大和は静かに微笑んで右手をそっと差し出した。

「榛名さん。明日は正々堂々、全力で、お互い頑張りましょう。まぁその、水着コンテストで何をどう頑張るのかは、よくわかりませんけれど、ね?」

「大和さん……」

差し出された手とその笑顔を見て、大和が何故突然あんなことを言い出したのか、榛名はようやく悟った。

放っておけば面倒な相手が勝手に潰れて消えてくれただろうに、それをわざわざらしくもない言い方で焚きつけて煽って。
結果、彼女にとっての一番の強敵であるらしい自分は完全復活を遂げてしまった。

それでも、笑ってそれを迎えてくれた彼女のその振る舞いが、いつかの"彼女"を思い出させた。

(そういうところに、榛名は負けてしまったのかもしれませんね……)

でも――と、すっかり軽くなった胸の内から自然と溢れる笑みを零して、榛名は大和の手を取った。

203 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:10:55.44 ID:qy3Zo8l10


「後悔しても知りませんよ? 榛名に塩を送るような真似をしてしまって」

「構いませんよ。塩や砂糖の備蓄にも私自信がありますから」

「もう、何ですかそれ。ふふふ」

「お互い勝っても負けても、恨みっこはなしですよ?」

「それは……ちょっと難しいかもしれません。負けたら妬みっこくらいまでは許してほしいです」

「フフッ。わかりました。じゃあ、それで」

「ええ」


そうして二人は互いの健闘を誓い合った。

固く交わされた握手で結ばれた彼女達の姿は、沈みゆく夕日の残照よりも強く綺麗に輝いて見えるようだった。


204 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:11:48.43 ID:qy3Zo8l10



かくして戦乙女達はそれぞれの想いを胸に、この夏最後の決戦の日を迎える――――










「フゥ〜…………アレ? なんでワタシ、比叡とレスリングなんてしてたんだっけ?」

「よ、4ラウンドも、やって、ようやくっ、我に返りましたか、お姉、さま……っ」
205 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:13:30.74 ID:qy3Zo8l10








「ただいま。今戻ったぞ」

「おかえり。随分遅かったわね」

「ああ、すまない。少し野暮用でな」

「ふーん…………あら、その手に持ってる水筒みたいなものは何?」

「これか? 霧島からのお裾わけだ。金剛の新作らしい」

「あら、そうなの? ありがたいわ。早速いただきましょうか。お茶の用意するわね」

「いや、今日はもう遅い。こんな時間に間食というのもあまり良くはないだろう」

「んー……それもそうね。じゃあ明日の朝にしましょうか」

「それがいい。さあ、早く寝るとしよう。お前は明日早いのだろう?」

「ええ。審査員は色々と準備があるらしいから。まったく、本当は私も出場したかったのだけど……でもまあ、頼まれて悪い気はしないし、これはこれで楽しそうだから、別にいいけど。フフ」


「そうだな。私も……実に楽しみだ」


206 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/03/25(日) 23:17:28.68 ID:qy3Zo8l10
今回ここまで

よくあるお話。ここの提督にとって大和は二隻目。あとはもうご察し

良い話っぽいだろ? でもプロローグを思い出してほしい。ああなるオチが待ってるんだぜ? 胸が熱いな
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 15:44:42.66 ID:iUpYHoTco
おちゅん
208 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/04/25(水) 18:00:29.32 ID:J5gTkeMz0
現在鋭意執筆中
近日中にちょろっと投稿します
瑞雲でも愛でながらお待ちください
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 20:18:38.37 ID:F+mS5A5Ko
まあ、そうなるな
210 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:26:11.97 ID:Qjom0bOk0
お待たせしました
やっと本編。その始まり
211 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:27:23.00 ID:Qjom0bOk0



「水着――それは、夏の水辺の女を彩る装甲」


「水着――それは、異性の胸を撃ち抜く夏の女の主砲」


「つまり水着とは、夏の女の戦闘艤装に他ならない。そしてそれは我ら艦娘もまた然り」


「その艤装を纏って競うのは火力でも制空力でも対潜力でもなく、女の魅力」


「そこに艦種による性能の垣根はなく、あるのはただ己の実力のみ。最も強い夏の女とは、最もイカした水着の女ということ」


「であるならば、ここに疑問が一つ……この鎮守府で一番強い夏の女とは、果たして誰なのか?」



「「その疑問――今日ここで答えを出しましょう」」



「「"第一回 ドキッ!? 艦娘まみれの鎮守府水着大会! ズドンもあるよ"! 開幕ですっ!」」


212 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:29:03.19 ID:Qjom0bOk0

拡声された霧島と青葉の声がそう宣言した瞬間、会場からドッと歓声が上がった。屋外だというのに騒がしいことこの上ない。
二百名近い艦娘が、せいぜい小学校の体育館程度の広さのこの特設会場に一同に会すればこうも騒々しくもなるのだろう。

「鎮守府のレディース&ガールズの皆様。おはようございます。そしてお集まりいただき誠にありがとうございます。今回司会進行を務めさせていただきますは私、金剛型四番艦・霧島と――」

「重巡・青葉ですっ。よろしくお願いしまーす!」

二人の紹介に、盛大な拍手が返ってくる。相も変わらずノリの良い鎮守府の面々である。

「いやーそれにしても盛況そうでなによりですねぇ霧島さん」

「ええ。本日はお日柄も良く、絶好のイベント日和と言えるでしょう」

「会場設営が昨日の昼過ぎからだったので間に合うかビミョーなところでしたが、何事もなく終わって良かったです」

「そうですね。思えば今回、発案からわずか一週間程度であったにも関わらずこのように無事に開催できたのは、ひとえに皆様のご協力があったからこそです。この場を借りて、皆様に御礼申し上げます」

213 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:31:18.30 ID:Qjom0bOk0

「もー霧島さんってば相変わらず固いですねぇ」

「何事も感謝の心は大事ですから。さて、挨拶等はこのへんで。まず今大会概要の簡単なおさらいをば」

「冒頭で言いました通り、この大会は鎮守府一の夏の水着女性を決めるものとなってます」

「参加条件は二つ。この鎮守府所属の艦娘であることと、水着着用であること。自薦他薦は問いません」

「わざわざ言うまでもないような条件ですけどねぇ」

「ただし着用する水着に関して、大本え――提督指定の共通水着は不可とします」

おい、なんで今言い直した? 大本営指定であってるぞ? 俺の趣味みたいに聞こえるからやめれ。

「これは、自分に合う水着を選んでくるセンスも評価に含まれるという観点からの判断です。ご了承下さい」

「まあどうせなら地味な共通水着より華やかな水着を見せてほしい、ということで!」

214 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:33:42.27 ID:Qjom0bOk0

「はい。そして審査形式ですが、審査は各艦種で部門ごとに分けられて行われます」

「駆逐・軽巡・重巡・空母・戦艦・特殊艦の六部門ですね」

「それぞれの部門で審査を行い、最終的に各部門での一位と全部門での総合上位三位を決定する流れになります」

「なお各部門の一位の方には、本日協賛となってます甘味処間宮より特上間宮券が贈呈されます。さらに総合上位三位になられた方には、酒保・甘味処間宮・居酒屋ほうしょう等、協賛として参加してくださった鎮守府内各所で使用できる特別券が贈呈されます。協賛していただいたみなさん本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます。そして審査方法ですが、こちらは五名の審査員による採点方式で行われます」

「出場者はステージ登壇後、水着を審査員と会場のみなさんに一通り披露して、アピールポイントや意気込みなどを語っていただきます。それを受けて、審査員の方は採点をしていただく形になります」

「各審査員の持ち点は二十点。五人の合計百点満点で採点されます」

「あとは至ってシンプル。点数が最も高い方が勝者ですっ」

215 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:35:49.83 ID:Qjom0bOk0

青葉の言葉に会場が再び沸き上がる。本当に一々ノリのいい連中である。

「フゥ……さて、概要としてはこんなところですかねぇ。あとは各自お手元のパンフレットで確認してくださいね」

「ええ…………では、堅苦しいのはここまで。ここからはアゲて参りましょうか!」

「イエイっ! 待ってました霧島さんっ!」

二人のやり取りに再三会場が沸く。
この二人のこういう仕事の手慣れた感には毎度のことながら感心させられる。
……艦娘って、何だっけ?

「まずは、審査員のご紹介から参りましょうっ!」

「厳正な審議の下、選ばれたる五名の公正な審査員……その一人目は――――」


216 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:36:55.68 ID:Qjom0bOk0



「…………」

薄暗い中、霧島と青葉のその振りを聞いて、俺は二歩程踏み出して木目調の正方形の床の中央に立つ。
すると、その床が機械が軋む音ともにゆっくりと上に持ち上がっていく。

「提督、グッドラック!」

暗がりからの夕張の激励に俺は溜め息で返し、腕を組んで、昇っていく床に身を委ねた。



『何はともあれこの人がいないと始まらない! 挙げた戦果は数知れず。堕とした女も数知れず。我らが鎮守府のトップオブトップ! てぇいとくぅぅ!』


217 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:38:34.44 ID:Qjom0bOk0

ステージ上にせり上がってくるや否や、何やらとんでもない煽り文句が耳に飛び込んできた。
もうこの時点で俺はこのテンションにはついていけなさそうだと察した。

「はい。まあ事前に告知してましたので、今更驚くようなことはないとは思いますが。司令、本日はお時間を割いて参加していただき、誠にありがとうございます」

「司令官は今回、"鎮守府男性代表"枠として審査員に選ばれました。と言っても、鎮守府で唯一の男性ですからねぇ。司令官が審査員に選ばれるのは必然でした。さ、司令官っ。ついに始まりました水着大会。今のお気持ちは?」

「カエリタイ(部屋に)……カエシテ(休みを)……」

「お? 闇墜ちした吹雪さんのモノマネですか? 似てますねぇ」

似てたまるか。吹雪に失礼だろうが。
そしてこの野郎、俺の渾身の恨み節をスルーかちくしょうめ。

218 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:41:08.24 ID:Qjom0bOk0

「え、えーと……では司令、出場者の皆さまに何か一言を」

その一方で霧島は、俺に若干気を遣うような面持ちでこちらにマイクを向けてきた。こっちは多少は申し訳なく思っているのだろうか。

そうか。それなら俺もそれなりに気の利いたことを喋るとしよう。

「あー……水着ではしゃぐのは構わないが、肌の出し過ぎで風邪とかひかないよう気をつけるように」

こんなところか。
ちらりと二人の様子を窺うと、霧島はわずかに嘆息し、青葉はやれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。
まあ、そうなるよな。

「はい。司令、どうもありがとうございました」

「ありがとうございました。あ、ちなみに総合一位の座に輝いた艦娘には、司令官より特別賞として何かが贈呈されます。お楽しみに!」

「待てコラ、聞いてないぞそんなこと!?」

219 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:43:18.70 ID:Qjom0bOk0

「さっき唐突に思いついちゃったもので。なので司令官、表彰式までには何か考えといてくださいね?」

「振りが乱暴にも程があるぞ青葉ぁ!」

「まあまあ。最悪何も思いつかなかったら、"一回だけ司令官が何でもいうこと聞く権"とかでも喜ばれると思いますんで、だいじょーぶですよ」

青葉がそう言った瞬間、周囲がざわついた。
そしてどこからともなくギラつくような視線が何条も突き刺さってきたような錯覚を覚えた。

何だろう……すごく、身の危険を感じるな。

これはどうにかして拒否しておきたいところだが、もう会場の空気が"一位になったら俺から何かがある"という期待で固まってしまっているようだった。
これを覆すのは……もう無理だろう。せめて無難な感じに茶を濁しておかねば。青葉ワレェ……。

「クッ……わかった。何か考えておこう」

そうぼやいて、俺は大きく溜め息をついた。
まだ自分が登場しただけというのにこの疲れよう。メインの審査が始まったら一体俺はどうなってしまうのか。

嗚呼まったく、今日は長い一日になりそうだ……。


220 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/01(火) 23:45:08.48 ID:Qjom0bOk0
今回はここまで
五周年、感慨深いですな
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 08:51:59.12 ID:CAKOeWo8o
おちゅ
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 10:33:29.37 ID:AJEFjbDjo
おつ
次も待ってるわ
223 : ◆KFFL7SRdLI [saga]:2018/05/18(金) 02:41:08.00 ID:lo/HW7xH0
こちらも大分かかりそうです。面目ない。

お茶集めなきゃ……
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