士郎「……俺は、偽物なんだ」

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1 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:06:12.48 ID:vHgXoMr+0
「……素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

ーー冬木市、衛宮邸。かつて"爺さん"が住んでいた家であり、衛宮士郎が暮らす家。そしてここは、現在は主に魔術の鍛錬を行っている土蔵。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

自分は今、聖杯戦争に参加するためにサーヴァント召喚の儀式を行っている。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。?繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

事前に用意できたのは即興の魔法陣のみ。できれば何かの触媒も欲しかったが、時間にあまり余裕がなかったので仕方ない。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。?聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

魔法陣に魔翌力が集中するのが感じられる。
いよいよだ。いよいよ、この狂った運命を覆すための戦争が始まる。

「誓いを此処に。?我は常世総ての善と成る者、?我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、?抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

魔法陣の中心から眩いほどの光が放たれ、思わず目を腕で隠す。
どこからともなく強い風が吹き、その勢いに後ずさりをしてしまう。
…光と風が収まったのを確認し、改めて目を魔法陣の方にやると、その中央には何かがぼうっと浮かんでいた。
その姿はーーー

「謂われはなくとも即参上。軒轅陵墓から、良妻狐のデリバリーにやって参りました!」

……巫女装束、だろうか?何やら露出の多い和服を身に纏い、獣耳と大きな尻尾を付けた女性だった。

「…あ、なんかドン引きしてません?えーっと、貴方が私のご主人様…ですよね?」

その言葉にはっと我に帰る。
そうだ、彼女とはこれから先共に闘っていかねばならないのだ。見た目なんかに困惑してはいけないし、何より彼女に失礼だ。

「ーーああ、俺がお前のマスターだ」

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2 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:07:53.34 ID:vHgXoMr+0
△▲△▲△▲△▲△▲△▲△


【聖杯戦争1日目:開始】


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
3 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:08:46.22 ID:vHgXoMr+0
『ーー近頃、冬木市内では通り魔事件が相次いでおり、警察が住民に警戒を呼びかけています。被害者はこの一週間で4人に及んでおり……』

「なーんか、最近物騒よねー」
そう言いながらご飯を口の中に放り込んでいくのは、クラスの担任である藤村大河。士郎にとっては姉貴分でもある。

「藤ねえ、食べながら話すのは行儀が悪いって……」

学校ではしっかり者の教師として人望を集めているのだが……ここだとご覧の通りだらけまくっている。オンとオフの差が激しい人だ。

「なーに、士郎?いつの間に私に指図出来るような立場になったのー?」
「いや、別に指図とかそういうわけじゃ……」
「大体ねぇ、私は士郎がちゃーんと成長するまで親代わりをするって切嗣さんに誓ったのよ?だから毎日様子を見に来てるっていうのに、それを士郎ったら…」

申し訳ないが、そんな事情は知らない。
……が、ほぼ毎日様子を見に来てくれる彼女のことは嫌いではない。そもそも嫌いなら毎日のように一緒に朝食を食べてないし。

「…ってあー!もう出ないと遅刻する!テストの採点あったんだーーー!」
彼女はそう言って慌てて家を飛び出した。
朝からテンションが高いようで何よりである。
4 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:09:36.93 ID:vHgXoMr+0
場面は変わり、通学路にて。

「藤村先生、今日は一段とハイテンションでしたね」

隣でそう言って歩いているのは、後輩の間桐桜。クラスメイトの間桐慎二の妹で、家の手伝いをよくしてもらっている。

「まぁな…」

適当な相槌を言いながら通学路を歩いていく。思えばこの道ももう慣れたものだ。
と、交差点に差し掛かった時。目の前にはあまり見慣れない風景があった。

道路を通過していく何台ものパトカー。あたりには警察官が至る所におり、よく見ると路地裏の方には「KEEP OUT!」のテープが張り巡らされている。

「何でしょう、先輩…」
「……いや、分からん」

先ほどテレビでやっていた通り魔事件の捜査だろうか?だとするなら家のすぐ近くで事件が発生したことになる。

「…まあ、あまり気にするな。桜」
「はい」
5 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:10:38.10 ID:vHgXoMr+0
「…………」

昼。普段なら教室で弁当を食べたり生徒会室で会長の手伝いをしたりしているのだが、今日は屋上に来ている。
もちろん理由はある。今目の前で膨れっ面をしているこのサーヴァント、『キャスター』と会話をするためだ。
するためなのだが。

「あのー、『キャスター』さん?何をそんなに拗ねてるんです?」
「…だってご主人様、召喚してから私と全然話そうとしてくれないんですもん……」
「仕方ないだろう?桜や藤ねえの前で実体化させるわけにもいかないし…」
「でもでも!念話でもいいんです、もっと私にも構って下さいまし!狐は寂しいと死んじゃうんですよ?」
「なんでさ」

それを言うなら兎だろう。

「てゆーか、何なんですかあの女二人!ハーレムですか!?一夫多妻ですか!?去勢されたいんですか!?」
「分かった、分かったから!取り敢えず落ち着けって!」
6 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:11:17.74 ID:vHgXoMr+0
閑話休題。

「で、聖杯戦争の話なんだけど…」

先ほどから言っているように、このサーヴァントはキャスター。
キャスターはスキル『陣地作成』と『道具作成』により、時間が経てば経つほど強力になるという特性を持つ。
『対魔翌力』スキルを持つ三騎士クラスとの白兵戦は苦手だが、日数が経過するにつれて十分勝ちの目が出てくるのだ。
つまり、キャスターで聖杯戦争を勝ち残るには、いかにして時間を稼ぐかが鍵になるというわけだ。

「どうする?『キャスター』が陣地作成してる間、俺も外に出ない方がいいよな?」

「……えーっとですね、その事なんですけど……」
「?」

「私、陣地作成とか道具作成とか苦手なんで……ぶっちゃけいつまでも最弱です☆」

「……マジ?」
「大マジです」
「…………」

「一応、魔術攻撃はそこそこですけど、耐久も低いんで……一発喰らったらアボンです」

……………。
7 : ◆026JPAkZvkOC :2017/04/01(土) 20:12:20.98 ID:vHgXoMr+0
……こういう時、何て言えばいいんだろうか。

「うぅっ、すみません。こんなサーヴァントで……。幻滅しましたよね……?」

「……何言ってんだよ。幻滅なんてするわけないだろ?」
「……ふぇ?」

「弱いからって『キャスター』を嫌うはずないって。だって、俺のサーヴァントは『キャスター』しかいないんだから」
「それに、ただ単に正面からの戦いが苦手ってだけだろ?そんなのは戦術次第でどうにでもなるし」

「キャー!ご主人様ったらイケメンッ!」

『キャスター』は自分の言葉に感動したのか、自分の手を握ってブンブンと上下に振っている。耳と尻尾もせわしなく動いていた。
少々オーバーリアクションにも見えるが、サーヴァントが友好的なのは喜ばしいことだ。


その後、大雑把ではあるが今後の方針を決めた。

基本的には周りに不信感を抱かれないためにも普段通りに学校に通うこと。ただしアサシンの対策のため霊体化した『キャスター』が常に共に行動すること。

基本的に夕方、もしくは夜間に探索を行うこと。

そして、可能な限り不意打ちを狙うこと。複数のサーヴァントが戦っているときに漁夫の利を狙えればベストだ。

「じゃあ、こんな感じで。よろしくな、『キャスター』」
「はい!もちろんです、ご主人様!」
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