見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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601 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:24:28.85 ID:DZytFv5H0
それでは今回の投下、入ります。

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>>600

千雨は、まどかに視線を向け、天を仰いだ。

「契約前に、知っておくべき事だろうな」
「何、ですか?」

まどかが尋ね、千雨は刹那を見るが刹那はポーカーフェイスを崩さない。

「鹿目まどかの魔法少女契約に伴い、
魔法協会内で裏のプロジェクトチームが動き出す。
今は魔法使いと魔法少女は不干渉、と言う事になってるが、
現実問題としてそうは言っていられない、ってな」

「ええ、そうよ」

千雨の言葉に、ほむらが口を挟んだ。

「もし、まどかが魔法少女となりの魔女になった時は、
それはこの世界そのものが滅亡する時。
魔法使いだろうが魔法少女だろうがどうにか出来る次元の話じゃなくなる」
「そういう事だ、これ以上の大義名分は無い。
ここを突破口に、魔法少女との関係自体を変えちまおうってな」
「魔法少女との、関係?」

さやかが言い、千雨と刹那を見るが、
苦り切った千雨に対して刹那は表情を変えない。

「魔法協会は、キュゥべえ、
インキュベーターと秘密協定を結ぶ、そういう事だ」
「インキュベーター?」
「キュゥべえの本名よ」

問い返すさやかに、ほむらが苦々しく言った。
602 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:26:31.83 ID:DZytFv5H0

「インキュベーター、孵卵器。
つまり、魔女の卵を孵すのがあの宇宙生物の本当の役割だって事。
最初っからあいつらはそれが目的で魔法少女の契約を勧誘してる」

「その、インキュベーターとの秘密協定、って?」

「要は、魔法少女を魔法協会の管理下に置こうって話さ。
まあ、いっぺんに全部は無理だがな。
魔法協会とインキュベーターが情報交換をして、
新規の魔法少女を中心に支援と言う形で把握、管理する。
GPS付きの魔法少女は何れGPS付きの魔女となり、
その魂は優先的に女神様に捧げられる」

千雨にじっと見据えられ、まどかはきょとんとしていた。

「今の話は本当かしら?」
「否定する程間違ってはいませんね。
只、現段階で魔法少女界隈に流出したら事ですので
口外は無用に願います」
「桜咲っ!!」

ほむらの問いにしれっと答えた刹那が、
立ち上がった千雨に優しく微笑みかけた。

「支援する魔法少女に
魔女化のリスクを教えるのか教えないのか、曖昧だな。
情報を把握するだけ把握して、支援の有無はこちらの都合次第」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った」

真顔で言う刹那を前に、千雨は座り直す。

「それを、出発だけ支援しよう、と言う方針が現時点では支配的ですね。
そして、最悪の時は他に被害が出ない様に迅速に」

「そこで得られた果実は女神様の生贄にか」
「長谷川千雨」

しん、と冷えたほむらの言葉に、
千雨はまどかに向けて軽く左手を上げる。
603 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:28:55.07 ID:DZytFv5H0

「だが、このまま行けば現実的にそういう事になる」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った。
世の中には、パン一切れで契約しかねない少女もまだまだ存在する。
もちろん、我々もそこまで阿漕な事をするつもりはありません。
しかし、現実的にこの暁美ほむらさんの様に、
一歩間違えれば世界征服すら視野に入る能力が
未熟な少女達に無造作に与えられ、
それが魔女となって更なる被害に繋がっている。
こちらとしては、全てを救えないのなら、
支援と不干渉を少々都合よく使い分けさせてもらう。
そういう事です」

「そうやって、孤立していた魔法少女を
魔法協会の裏側の管理下に置く。
魔法少女の情報を管理して、
少なくとも管理下の魔法少女に対しては迅速に対処出来る様に。
そして、最初の段階で、余り訳の分からない契約をされない様にも誘導する」

「私達から見たら、窮兵衛との契約によって得られる能力と言うものは
素質によってはデタラメにも程がありますから。
そんなものを組織にも関わらない未熟な少女達、
しかもその多くが孤立している、そんな少女達に無造作に与え続ける。
今迄この世界が無事で済んでいた事自体が奇跡とも思える話ですし、
実際神鳴流の歴史の中にもその瀬戸際と思われるものが存在しますからね。
その辺りの事はなんだかんだ言って窮兵衛が
地球と言うグリーフシードの養殖場を潰さない様にコントロールしていた、
とも考えられますが」

「今度はそっちでグリーフシード牧場を続けるって事か?
いや、その前の、養殖場の餌作りか。
こっち側、魔法世界じゃあ、
死刑囚による使い魔の養殖まで検討されてるって言うからな」

「長谷川千雨、今すぐその口を閉じなさい」
「今、知らなきゃ後悔じゃすまない」

青い顔で、下を向いて震え出したまどかの側で、
ほむらと千雨が睨み合いで応酬する。
604 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:32:11.75 ID:DZytFv5H0

「だ、大丈夫、です」
「大丈夫、まどか?」

返答したまどかにさやかが声を掛ける。

「うん、あの、魔法少女は、色々と命懸けだった、それは見て来た。
何て言うか、真面目に考えたらその、
そういう事も、あり得るのかなって」

「魔法少女は、非常に不完全で不安定なシステムです。
そこに突っ込む私達の手が綺麗なままとは言わない。
只、あなたがこの世界の為に、
私の大切な友のために魂を捧げてくれると言うのなら、
私達はその誠意に応え、魔法少女を含む公共の福祉のために
最善を尽くす、それだけです。
そうであっても、それは決してあなたの罪ではない」

「そこが本音か」

呟いた千雨に、刹那が涼しい視線を向ける。

「なあ、桜咲、忘れてる事はないか?」
「なんでしょうか?」

「その、魔法使いすら凌駕するとんでもない力をコントロールする、
そんな計画を立ててる魔法使いも、
私らと、魔法少女達と同じ心を持ってる人間だ。
だからこそ、魔法使いは今迄魔法少女には関わらないで来た、って事を」

「もちろん分かっています。
しかし、最善の為には他に方法が無いんです」

そう言って、一秒、二秒、刹那は千雨を静かに見据える。

「私はうまくやる」

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今回はここまでです>>601-1000
続きは折を見て。
605 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:42:19.80 ID:J+7Eoz/B0
それでは今回の投下、入ります。

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>>604

「で?」

宣言した刹那に、千雨は問い返す。

「それで、どうする?」
「どうする、とは?」

「あんたはどうするんだ? って聞いてるんだよ桜咲。
汚れた手も鹿目まどかの、利用される魔法少女の怨みも
全部てめぇで飲み込んで、それであんたはどうする?
神楽坂、近衛、ネギ先生、
大切な人達の幸せを優しく微笑んで遠巻きに見守るってか?」

「いけませんか?」
「いい悪い以前に無理だ」
「それか何故?」
「馬鹿かお前は?」

真顔で聞き返す刹那を前に、両眉を吊り上げた千雨が押し殺す様に言った。

「バカレッドは馬鹿は馬鹿でもあんたも知ってるレベルの大馬鹿だ。
そんな奴が今更見過ごすとでも思ってるのか?
お前があいつにとってそんなに軽い存在だと思える程お前は馬鹿なのか?」

そう言って、千雨は人差し指を立てながら立ち上がった。

「ここで問題だ、うちのクラスの中で、
一番長い間、一番深く、
あんたの事を見て来てあんたの事を大切に思って来た、
失いたくないと心から思ってる、それは一体誰だ?」

双方、不敵な笑みを交わす。
606 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:44:21.82 ID:J+7Eoz/B0

「だったら身を引いて姿を消すか。
大切な人達が幸せであればいい、それで自分も満足か。
私が知ってる桜咲刹那は誇り高き剣士であり、
心から友達を大事にする、とても誠実な、一人の女一人の人間だ。
だから、無理だ」

「あたしも、そう思う」

口を挟んだのはさやかだった。

「なんか、分かっちゃうんだけど、
刹那さんって剣は凄いけど、
その辺なんと言うか、実はかなりポンコツだと思う」

「正解だ」
「だから、隠し通す事なんて出来ないと思うし、
それに………」
「それに、なんです?」

強き剣士に真顔で問われ、さやかは言葉に詰まるが、
それでも、敬愛する師匠の、
大切な仲間の目を正面から見据える。

「それに………刹那さん」

さやかは一度下を向き、呼吸を整える。

「刹那さん。
刹那さんは、
本当の気持ちに向き合えますか?」

主観的時間、客観的時間も不明瞭な沈黙に圧倒され、
さやかはガバッと頭を下げた。
607 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:46:27.21 ID:J+7Eoz/B0

「ごめんなさいっ!
あ、あの、これ本当はあたしが言われた事で、
でも、刹那さんって、それだけの覚悟してる刹那さんが
友達を凄く大事にしてるのって凄く分かるし、
だったら、だったら、刹那さん本当に凄い人だと、
あたしなんかよりずっと強い人だとそう思うけど、
だけど、だから、刹那さん本当は優しくて情がある人だから、
だから、そんな一人で、そんな大切な友達を、大切な人を、
だからっ!!!」

さやかの叫びと共に、下を向いていた千雨が上を向いて笑い出した。

「当たり、正解だよく言った」
「だから、後悔なんて、して欲しくない。
それって、間違えたら、凄く辛いから………」
「弟子まで泣かせてんのかよ桜咲」
「弟子にした覚えはないんですけどね。
有難うございます、美樹さん」

ふうっと息を吐いて、刹那が応じる。

「確かに、そうしなければならない、
守るためには皆から離れなければならないかも知れない、
それはとても辛い事です。しかし、私は………」
「だから自己満してんじゃねぇ桜咲っ!!!」

怒号が言葉を遮った時、刹那は千雨に胸倉を掴まれていた。

「生憎だが、私はそれを認める訳にはいかないんだ。
ちょっとばかり関りが深過ぎてな。
自分達の為にあんたが傷つく、その事で自分が傷付く、
あのガキらにそんなモン背負わせる訳にはいかない。
そこん所、分かんねぇのかこの大馬鹿野郎は………
何がおかしい?」

「いえ、すいません。
恐らく、それは正解です」

静かに微笑み、認める刹那を前に、
千雨はゆっくり手を放す。
刹那は、静かに立ち上がった。
608 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:50:03.79 ID:J+7Eoz/B0

「ええ、あなたがネギ先生を本気で心配して発している言葉です。
そうであれば、それは間違いなく正しい事、
ネギ先生の真意に叶う事の筈です、あなたは正しい」
「って褒められた先から、
それでもやる、って意気込みはビンビン伝わって来る訳だけどな」

微笑む刹那に、千雨はギリッと歯噛みする。

「ですから、その時はネギ先生達をお願いします。
このままでは、アスナさんは私達と一緒の卒業式すら迎えられません。
アスナさんには、ネギ先生と、このかお嬢様と、その他の皆さんと、
魔法世界の闇の中から光へと生まれ変わった人生を、
そこで出会った人達と限りある人生を全うしてもらいたい。
皆さんにも、アスナさんと言う大切な人との思い出を、
これからも十年二十年、人としてその時が来る迄作り続けてもらいたい」

「だから、そこにはあんたがいないと駄目なんだっ!」

千雨は腕を振り、怒号した。

「あんたがいないと、だから………
なあ、桜咲よ、私には無理なんだよ。
あんたら四人の絆に入って行く、なんて事出来る立場じゃない。
だから、出来ればそっち側で解決して欲しかったがそれも無理だった」

「色々、仕組んでくれたみたいですね」

「小細工だよ。私にはそんな事しか出来ない。
そうだ、私にはそんな事しか出来ない。
だから、今更あんたに抜けてもらったら困るんだよ。
神楽坂だって、もちろん隠れて泣いてるかも知れない。
それでも、短くても残りの日々を目一杯お前らと過ごしてる。
桜咲、あんたを含めた仲間の事が大事だから、だから、そうしてるんだ。
それを桜咲、お前は又、
大切な人達を置き去りにして自己満足でひとりぼっちになる気か?
あんたが自分一人で抱え込んで、それで助けてやったって」

懸命に言葉を探す千雨に、刹那は深く頭を下げていた。
609 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:52:12.91 ID:J+7Eoz/B0

「長谷川さん、その時はネギ先生達の事をお願いします」
「だからっ! ………」

ぐわっと迫ろうとした千雨は、清々しい微笑みに息を飲んだ。

「駄目、なんですよ。
あなたは正しい、だってあなたが、長谷川千雨さんが、
ネギ先生達を、そして私の事を心から心配し、思ってくれている。
そうやって、ネギ先生から心からの信頼を寄せられた
あなたの言葉です。それは、正しい事です」

「ちょっと、私の事、買い被りが過ぎるんじゃないか?」

「いえ、これでもあなたよりは少々付き合いが長いもので。
それでも、駄目なんです。
私を、私に光を、幸せな世界に導いてくれたのはアスナさんです。
そのアスナさんが、ようやく手に入れた人としての幸せを根こそぎ奪われる。
それを看過するなんて、どうしても出来ない。
アスナさんに救われた私は、こんなやり方しか見つけられなかった。
ならば、それを貫くしかありません。
ですから長谷川さん、もし私の行いにより皆さんが傷付く様な事があれば、
その時はネギ先生達を、どうかよろしくお願いします。
それが出来るのは、あなたです」

「買い被るにも、程があるって………」
「鹿目まどかさん」
「はいっ!」

言葉も見つからず成り行きを見守っていたまどかは、
千雨に向けて深々と下げた頭を下げた刹那に名を呼ばれ、
まどかはぴょこんと飛び上がりそうになった。
610 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:55:49.25 ID:J+7Eoz/B0

「お願いします」

刹那は、深く頭を下げた。

「小細工をした事は謝ります。
どうか、どうか私の友の為に、
私の掛け替えの無い友の、せめて人並みの幸せのために、
あなたの魂を捧げていただきたい、お願いします。
あなたを魔女なんかにはしない、
私が身命を賭してあなたを守る、誓うと言うなら
神にも悪魔にも誓う、だから」

「そこまでだ」

一言一言、派手さはなくとも胸の中に沈む様な
重い嘆願を只、黙って聞いていたまどかの横から
千雨が口を挟んだ。

「鹿目まどかさん、契約は待て。
もう私らの立ち入る事じゃない、当事者に決めてもらう」
「当事者?」

千雨の言葉に、まどかが聞き返す。

「ああ、当の本人がこっちに来てるからな。
元々、そのつもりだった。
桜咲は一人で思い詰めて動いてたからな、
こいつらの絆は本当は私なんかが入り込めるもんじゃない。
だから、最初に近衛を合流させて、
そこからもなるべく3A単位に巻き込んで
それとなく穏便に収拾しようと画策はしたんだが、結果はこの様だ。
契約の前に、鹿目まどかってとんでもない女神様候補が
行き掛り上神楽坂明日菜の真実を知っちまったって事を
当の本人に伝えて判断を仰ぐ。
案外、泣いて縋られるかも知れないけどな。
だから、今日明日ぶっ壊れる世界じゃないし
神楽坂が礎になるのもまだ先だからそれまでちょっと待ってくれ」

千雨の言葉を聞き、刹那はどさっとベッドに座り込んだ。
そして、長谷川千雨は、つーっと顔を動かす。
その視線の先では、壁に小さな穴が空いていた。
611 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:58:29.26 ID:J+7Eoz/B0

「動くな」
「暁美、ほむらだったか?」

つーっと汗を浮かべてそちらを見る千雨の前で、
米軍制式M9拳銃を手にしたほむらはゆっくりベッドを降りていた。

「長谷川千雨、朝倉和美、桜咲刹那の邪魔は許さない」
「ちょっ、転校生っ?」
「ほむらちゃんっ!?」
「暁美さん? どういう事ですか?」

刹那が訝し気に尋ねる。

「………少し、疲れたのかしらね?」

ほむらは吐き捨てる様に言い、バッと黒髪を払う。

「桜咲刹那に尋ねる、
魔法協会は、まどかのために本当に協力するの?」
「はい、その内諾は得ています」

「桜咲刹那、あなたの身命を賭してまどかを守ると、
その事は本当に誓えるの?」
「誓います、その命に代えて!」

「ワルプルギスの夜が来る」

「魔法少女が対処する超巨大魔女ですね。
末法の京を破壊し尽くし神鳴流門下と妖刀ひなを用いた宗家の命、
その九割方を失ってようやく鎮圧したと言う記録も残っています」
「見滝原の、まどかの大切な人達が住む街を破壊しようとしている。
それがもうすぐ来る。その意味、分かるわね?」

「ええ、腕が鳴りますね」
「………やはり、少し、疲れてるのね。
こんな事を考えてしまうなんて」
「そ、そう、ほむらー、あなたつ………」

なんとかなだめようとした朝倉和美が、
チャキッと銃口を向けられ手を上げ直す。
612 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:00:04.62 ID:J+7Eoz/B0

「今更そんな甘い話に釣られるなんて、
今更、こないだ知り合ったばかりのエゴまみれの他人を、
信じようなんて」

「私のエゴを、信じて下さい。
あなたと利害が一致している、この一致が離れる理屈は最早存在しない。
信用出来ないのは私の力量ですか?」

「ふざけないで、人の事を散々散々散々いい様に
ぐっちゃぐちゃのぐちゃに弄び倒して凌辱しておもちゃにしておいて」

「あなたが相手では、先手必勝からのハメ技で心身共に音を上げる様に
徹底的に屈服させておかない事にはこちらが危なかったので、
実の所結構薄氷の上を渡る疲れる仕事でした」

「当然ね」

千雨と和美に銃口を向けながら、
ほむらの左手がファサァと黒髪をすくう。

「鹿目………まどか」
「うん」

ほむらの横目に、まどかはぐっと前を見て腹の底から答えていた。

「あなたは………
自分の人生が、貴いと思う?
家族や友達を、大切にしてる?」

「わ、私は………大切、だよ。
家族も、友達のみんなも、大切で、
とっても大切な人たちだよ」

過去に聞いた事がある、二度目の問いは、切羽詰まって聞こえた。
だが、まどかの答えは変わらなかった。
613 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:02:11.67 ID:J+7Eoz/B0

「やっぱり、少し、いや、結構疲れてるみたい。
まどかは優し過ぎるし
インキュベーターは余りに悪辣な上に物理的な対処が出来ないし。
ここまで来て、肝心な所で一歩妥協しよう、
それも、それもこの間出会った他人を信じて、
そんな事を考えるなんて。
それでも無理なものは無理、そう考えざるを得ないのかしら」

段々早口になりながら、
無造作に泣き笑いするほむらの左手が黒髪を払う。

「長谷川千雨、朝倉和美。
私の能力は暗殺に特化している。
もし、桜咲刹那のプランを妨害すると言うのであれば、
気が付いたら大変な報復を受けていた、と言う事を覚悟してもらう」

早口で告げるほむらを、千雨はぐっと睨み付ける。
何か、最後の最後で前提を誤った様な、
そんな息の詰まる様な焦りが千雨と和美の心を焦がす。

「そう。まどか、あなたの優しさは………
否定なんて出来ない。だって、まどかだから。
だから、私から伝えたい事がある」
「うん」

拳銃を構え、見るからにキリキリとしたほむらの言葉を、
まどかは真剣に聞いていた。
614 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:05:46.53 ID:J+7Eoz/B0

「この魔法世界、そして、ほんの少し出会っただけの神楽坂明日菜、
彼女に関わる人達の為にその魂を捧げ魔女と戦う価値があると思うなら、
命懸けの戦いのために、
この桜咲刹那の言葉、誠が信じるに値すると思うなら」

僅かに言葉を切ったほむらを、まどかは真剣に凝視する。












鹿目まどか。












あなたがそう信じる事が出来るのなら、










615 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:09:49.72 ID:J+7Eoz/B0



心から









そう思うのなら











魔法少女に








なりなさい








616 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:12:27.44 ID:J+7Eoz/B0

==============================

今回はここまでです>>605-1000
続きは折を見て。
617 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:21:36.20 ID:3ag/ROQG0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>616

「!?」

ほむらが気配に気づいた、と、思った時には、
ほむらの右手には強い打撃を受けて痺れが走っていた。

「が、っ………」

そして、拳銃を取り落とし、楯に伸ばそうとしていたほむらの右手が
激痛と共に動かなくなる。

「かはっ!?」

その時、桜咲刹那は愛刀「夕凪」を引き寄せていた。

居合には向かない野太刀であるが、
神鳴流補正で抜き打ちしようとした時には、
刹那が手を掛けた夕凪の柄は掌でぐいと押され、
刹那の腹には別の野太刀の柄が叩き込まれていた。

そして、気づいた時には、刹那の小柄な体は
たあんと床に投げ飛ばされていた。

床の上ですぐさま体勢を立て直し、
既にカードに戻っていた匕首・十六串呂を手にした瞬間、
刹那は己の前髪に触れる野太刀の刃を見ていた。

「確かとうこ先生、だっけ?」
「はい、麻帆良学園で会いましたね。
これ以上の危害を加えたくはありません、武器を置きなさい」

さやかの問いに葛葉刀子が答え、
刹那がカードを置き刀子が野太刀を鞘に納める。
618 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:24:19.55 ID:3ag/ROQG0

「つ、つっ」
「あー、関節外れてる。あたしも肩とかやった事あるし。
痛覚遮断しても動かないでしょ、
今、治癒したら戻ると思うから無理しないで」

地団駄踏みそうに焦るほむらに、さやかが駆け寄っていた。
そして、刀子を睨み付けたほむらだったが、
刀子の涼やかな視線に顔を背ける。

「格が違う?」
「黙りなさい」

ぼそぼそと言葉を交わす。
さやかの言葉は、ほむらにとってその通りとしか言い様がないものだった。
一度二度の奇策は通じるかも知れないが、
恐らく幼少時より体系的に鍛え抜かれたプロフェッショナルの戦闘集団
神鳴流の実力はほむらの心身、骨身に染みて理解していた。

「なかなか荒っぽいですね使者殿」

玄関側から現れたクルト・ゲーデル総督は、
背後に警備兵を従えて形だけ丁重な言葉を使いながら、
手にした野太刀が何時両断してもおかしくないオーラに満ちていた。

「抜かりましたね」

刀子が口を開く。

「そもそも私は近衛の使者ではない。
極秘計画だからこそ、簡単に私を通してしまった」
「なんだと?」

そのゲーデルの声は、さやかが震え上がるものだった。

「役儀により言葉を改めます。
神鳴流青山宗家名代葛葉刀子より申し渡す。
桜咲刹那、クルト・ゲーデル、控ぁえよぉっ!」

刀子の一喝と共に、床では桜咲刹那が美しい土下座を完成し、
クルト・ゲーデルも一瞬の驚愕の後に片膝をついた。
619 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:26:23.44 ID:3ag/ROQG0

「人払いを」

刀子の言葉にゲーデルが目で応じ、執事に率いられた警備兵が撤収する。

「桜咲刹那、その身柄を葛葉刀子預けとする。
以後、一切の任務を中止し神奈川宗家に直ちに出頭せよ。
これは、協会、近衛家に優先する青山宗家の命である。
逆らうならば直ちに流派追放、奉公構えの上で討伐を行うもの哉!」

「は、はっ………」

既に刀を収め、直立して宣告する刀子を前に、
刹那はぱくぱくする口から辛うじて返答していた。

「クルト・ゲーデル。
魔法少女利用計画を直ちに凍結し、
地球側協会よりの報せを待つ事を強く命ずる。
既にかの地で高き役目に就く貴公が青山家をどう思うかは知らず。
されど、この命に逆らうならば神鳴流門下に非ず。
その上、魔に与するものとして何者が立ち塞がろうと直ちに討伐するもの哉!」

ゲーデルが、バッ、と、流れ出した書状を受け取る。

「神鳴流青山宗家は、今後も引き続き窮兵衛に与する事を許さず。
もしこの上計画を続けると言う事であれば、
近衛家、協会、如何なる者であろうと、
窮兵衛と言う魔に与し人の世を危うくするものとして、
神鳴流が果たして来た退魔の任を遂行する事も辞さず。
この意志を強く付言するもの哉!!」

刀子による申し渡しに、ゲーデルが改めて頭を下げた。

「宗家は、本気ですね」
「そこまで、宗家は窮兵衛を認めないと言う事です」

書状を手にしたゲーデルの言葉に、刀子が告げた。
620 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:28:39.32 ID:3ag/ROQG0

「内輪揉め、でいいのか?」
「長谷川千雨、朝倉和美さんですね?」

千雨が呟き、刀子の呼びかけに二人は頭を下げた。

「今回の事は、言わば近衛一族による上からのクーデターです。
但し、木乃香お嬢様は関知していない筈です。
関東魔法協会の近衛近右衛門、
その娘婿である関西呪術協会の近衛詠春両代表、
魔法世界側はクルト・ゲーデル総督を頂点に、桜咲刹那を接点として
トップと一部の人間の間で秘かに画策された企てです。
本来、魔法使いと魔法少女は不干渉。
しかし、地球の存亡に関わる素質を持つ鹿目まどかさんが契約を行い、
しかも、そのために魔法世界と魔法世界の姫君が救われる。
刹那が予備調査の名目で接触中にその様な事が実際に起きてしまえば、
それは今ここにある危機であり恩義としてその様な対応は許されない。
あくまで行き掛り上の事として既成事実を作り、
そのまま、魔法協会による
魔法少女の管理と言う所に迄済し崩しに話を進めてしまう。
裏で準備を進めておいて、既成事実が発生し次第、
刹那の報告と言う形で直ちに理事会の承認を得て準備を実行に移す。
これが、今回の近衛一族の計画です」

「やっちまったモンは、仕方がない、か」
「その通り、そこが狙いでした」

千雨の言葉を、刀子は肯定した。

「その進め方自体も、恐らくは神鳴流青山家から
事前同意を得る事は無理だと言う事も一因と推測出来ます。
その通りです、神鳴流は決して窮兵衛を認めない。
古よりの人の世で退魔の任に当たって来た青山家として、
只の物の怪よりも遥かに恐ろしい人の欲得、愛憎に関わる
人の欲に途方もない力を与える窮兵衛は決して肯定してはならない。
例えその時の人の道にすら関わる、
今その時には美しい結果を出す事が出来る力であっても、
人には過ぎた力であると。
その事を歴史の積み重ねによりよくよく知っているからです」
621 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 04:31:19.31 ID:3ag/ROQG0

「人には過ぎた力、ね」

刀子の言葉に、千雨がふうっと息を吐いて言った。

「ええ、何とか3Aの中で収拾しようとしたあなた達には
必ずしも添えない事になりましたが」

「いえ、正直助かりました。
止めて止められる状況でもなかったので。
ええ、私らには無理、でした。
神楽坂を諦めろ、なんて」

千雨の言葉に、刀子は小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>617-1000
続きは折を見て。
622 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:48:06.22 ID:3ag/ROQG0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>621

「さあ、刹那………」

促そうとした刀子は、詰まった様な声を聞いた。

「して、ですか………」
「刹那?」

「どうして、ここまで………
ここまで、進めた………アスナさんのため、ここまで進めた………
何故、アスナさん、なんですか………」
「刹那………」

「このままではアスナさんは、卒業式すら迎えられない。
今迄、麻帆良に来る迄の長い長い時間を兵器として使われて、
ようやく手に入れた幸せすら手放さなければならない。
どうして、駄目、なんですか………
誰かを不幸にする、少しは、負担になるかも知れない。
それでも、少なくとも今までの魔法少女よりも、
リスクをコントロールして、なのに、どうして、駄目なんですか?
どうしてアスナさんだけが、
どうしてアスナさんを助けては、いけないんですか………
私を助けてくれたアスナさんを、
私を、この光の中に導いてくれたアスナさん、どうして………」

「諦めるしか、なさそうね」

必死に抑えようとしても最早ままならない、
そんな刹那の溢れ出す感情を聞きながら、
ほむらがぽつりと言った。
623 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:51:21.40 ID:3ag/ROQG0

「この様子では、政治的に完全に包囲されているのでしょう。
協会そのものを敵に回した以上、私達は終わりよ桜咲刹那」

「刹那、今ならまだ穏便に収拾出来ます。
今回の事は、まだ宗家一人の胸に留まっている事。
近衛家が窮兵衛との提携を画策していた等と言う事が知れたら、
近衛家、窮兵衛、双方の力が魔法の世界の中で
政治的に値踏みされて収拾のつかない事態になる。
こちらでの収拾が済み次第、宗家が長と直談判して諦めさせる。
もし交渉が決裂するならば
離脱も辞さぬ覚悟で理事各位に檄文を発し理事会の招集を求める。
それが青山宗家の意向です。
あなたの事を咎める心算はありません」

落ち着いた言葉で説く刀子が、片膝をついた。

「窮兵衛の奇跡は、例えその時どれだけ美しく見えても、
人が扱う、まして人の権力が統べるには過ぎたものなのです。
この機会に魔法少女を取り込み、利用しようと言う
政治的、権力強化のための野心もあったのでしょう。
しかし、この企ての中心となった顔ぶれを見れば、
神楽坂明日菜さんを心から思っての事だと、
あの少女の幸せを心から願ったと、私は確信している。
魔法先生として、魔法使いとして一人の大人として、
あなたのその言葉、へこたれず、ただひたむきに守り続けて来た
刹那のその言葉を私は決して忘れない」

「見苦しい様を、失礼致しました」

渡された懐紙を顔に押し付け、刹那がようやくの言葉を発する。

「月並みな事しか言えませんが、神楽坂明日菜さんが
既にその覚悟を決めた、と言うのであれば、
せめて刹那が、お嬢様が、残された時間を価値あるものに」

刀子の言葉に、刹那は長く頷く。
624 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/01(日) 22:53:29.01 ID:3ag/ROQG0

「鹿目まどかさん」
「はい」

「申し訳ありませんが、収拾する迄もう一度麻帆良にご同行下さい。
率直に申し上げて、少しの間軟禁させてもらいます。
調査と、万一の身の安全のためです。
なるべく短い間、学校や家族にはこちらで必要な手配を行います。
その後の事に就いては関係が切れる事になろうかと、
少なくともこちらからの魔法少女への支援は
期待出来ない状態になると心得て下さい」

「分かりました」

刀子の説明に、まどかが頭を下げた。

 ×     ×

日本、関東地方パーキングエリア。

「すいません、皆さんにも時間を取らせてしまい」
「いや、正直助かりました」

駐車場のマイクロバスの座席で、刀子の言葉にさやかが言った。

「特別機でイミグレーションの便宜までしてもらって。
ぶっちゃけ二重三重の密入国だし、帰りどうしようかと」
「無茶をします。もっとも、原因を作ったのはこちら側ですが
強き力を持つのなら、今後は身を慎む様に」

「はい、刹那さんからも散々教わりました」
「そうですか。
これから少し、調査のために麻帆良に留まっていただきます。」
「分かりました」

さやかと言葉を交わしていた刀子が、スマホを取り出した。
625 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:28:00.55 ID:c/9+7ela0

失礼、中座した。
続き投下します

==============================


「いないとはどういう事ですかっ?」
「トイレの、中から鍵を閉めて、いつの間にかいなくなっていましたっ!」

通話の相手は、夏目萌だった。
魔法協会にも秘密裡に魔法少女の調査を継続していた夏目萌は、
今回声がかかり急遽の呼び出しで空港から刀子達に合流していた。

「あれ程気を付ける様に………探しなさいっ!」
「はいっ!!」

バスで刀子の声を聞きながら、
千雨はノーパソ型のアーティファクトを操作する。

「電話の位置情報………
もうここを出てる、道路沿い、車か?」
「まずい、ですね」

刀子が苦り切った声で呟く。

「まだ、こちらは組織で動ける段階じゃない、
協会の隠蔽用のラインを使って警察を動かしたりしたら」
「青山が動く前に近衛家が、か」
「口の堅い信頼出来る関係者を動かします。
彼女一人ですぐに何か出来るとも思えません」

千雨の言葉に、刀子は自分に言い聞かせる様に言った。
626 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:30:58.36 ID:c/9+7ela0

ーーーーーーーー

一人の美女が、勝手知ったる大浴場に足を踏み入れていた。

墨絵の様に整った目鼻立ちには凛々しい力強さ。
艶やかな黒髪をすっぱりと切り揃えたショートヘアがよく似合う。
スポーツウーマンらしく引き締まった健康美は伸びやかな長身で、
それが、前時代語で言う花の女子大生、これから満開の盛りに向かう年頃。
雪の様に白い肌理細やかさに包まれた柔らかな力強さと矛盾なく同居して、
成熟した一人の女性の魅力を完成させる。

掛け湯代わりにシャワーを浴び、
タオルを頭に乗せて大浴場の熱い湯に浸かる。
そして、入口に視線を向けた。

目に付いたのは、自分のかつてを思われる素晴らしい黒髪だった。
目に入った、たっぷりとしたストレートの黒髪は烏羽の艶やかさ。

(しのぶぐらいか?)

心の中で呟くが、それは、今ではない。
あの、騒がしき青春の日々の事。
見るからに、昨日今日女性になり始めたと言う佇まいの華奢な少女。
見事な黒髪がよく似合う、目鼻立ちの整った美少女だが、
抜ける様に色の白い、全体に小柄で手折れそうに華奢な姿は
儚さすら感じられる。

(新入り、ではないんだろうな)

現れた少女は、シャワーで汗を流すと作法通り黒髪をタオルにまとめ、
大浴場にその身を沈めた。
627 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:36:21.02 ID:c/9+7ela0

「お願いがあります」
「なんだ?」
「私の大切な友達、鹿目まどかを助けて下さい」
「随分、唐突だな」

「時間がありません。桜咲刹那の計画が実行に移されれば、
魔法協会としても放置は出来なくなる。
もし、まどかの契約だけ利用して、等と言う事をしたなら、
私はもちろん少なからぬ魔法少女が魔法協会と敵対する事になる。
魔法協会は総合力としては上だと、それはよく分かってる。
だけど、特化した魔法少女を、
特に役職に就く魔法使いは甘くみない方がいい」

「脅しかな?」

「その通りです。桜咲刹那の計画が実行されれば、
魔法協会の保護下に入ればまどかの魔女化のリスクは格段に下がる。
ゴキブリやウィルスに等しいキュゥべえのストーキングを
延々警戒し続ける必要も無くなる。
せめて人並みの幸せを、神楽坂明日菜さんと魔法世界を救った見返りとして、
魔法少女であっても、せめてその程度の見返りを得る事が、出来ます。
だから、どうかこの計画、黙認して欲しい………
お願いします」

「申し訳ないが、それは出来ない」

湯面に顔を付ける寸前の懇願に、静かな口調で返される。
628 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/02(月) 00:38:49.84 ID:c/9+7ela0

「その思いは、貴いのだろう。
刹那の思いも、貴い。
だからこそ、その、人々の思いに絶対の力を与える
窮兵衛と言うものを我々が、
例え裏側であっても認める事は許されない。
それは「ひな」の様なもの。
その歪みを使いこなせる程、我々は正しくも賢くもない」

ゆっくりと首を横に振り、染み入る様に告げる。

「そして、それだけの熱い思いは、
この程度のお説教で留まるものではないのだろう」

ーーーーーーーー

この日、神奈川県内の女子寮で発生した一つの爆発は、
浴室を中心に建物の半ば過ぎを爆散させた。

==============================

今回はここまでです>>622-1000
続きは折を見て。
629 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:18:17.40 ID:UTAuJRe40
や、ら、か、し、た………

大変申し訳ないが、
色々粗と言うか間違いがあったのをそのまま投下した。

開き直って加筆修正版から投下します。
>>625以降は全削除扱いと言う事でお願いします(土下座)

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>624

「いないとはどういう事ですかっ?」
「トイレの、中から鍵を閉めて、いつの間にかいなくなっていましたっ!」

通話の相手は、夏目萌だった。
魔法協会にも秘密裡に魔法少女の調査を継続していた夏目萌は、
今回声がかかり急遽の呼び出しで空港から刀子達に合流していた。

「あれ程気を付ける様に………探しなさいっ!」
「はいっ!!」

バスで刀子の声を聞きながら、
千雨はノーパソ型のアーティファクトを操作する。

「電話の位置情報………
もうここを出てる、道路沿い、車か?」
「まずい、ですね」

刀子が苦り切った声で呟く。

「まだ、こちらは組織で動ける段階じゃない、
協会の隠蔽用のラインを使って警察を動かしたりしたら」
「青山が動く前に近衛家が、か」
「口の堅い信頼出来る関係者を動かします。
彼女一人ですぐに何か出来るとも思えません」

千雨の言葉に、刀子は自分に言い聞かせる様に言った。
630 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:20:23.36 ID:UTAuJRe40

「探すぞっ!」

千雨が叫ぶ。

「朝倉、アーティファクトの用意。
何か分からないか近場を見てみます。
葛葉先生は見張りもかねて待機お願い出来ますか?」
「ええ、そうですね。分かりました」

ほんのちょっとの間虚を突かれた刀子が千雨の言葉に応じた。

ーーーーーーーー

パキャッ、と、軽快な音を立ててお食事中の明石裕奈は、
肉汁ジューシーなソーセージを堪能しながらスマホを取り出した。

「もしもし? 千雨ちゃん?」

裕奈の言葉に、オープンカフェの相席で
卵スープのカップを両手持ちしていた佐倉愛衣がぴっとそちらを見る。

「え? 何? 神鳴流の神奈川?」
「貸して下さい」

愛衣に言われ、裕奈は半ばひったくられる様にスマホを渡す。

「動きがあったみたいね」

近くのテーブルからは、
その愛衣と背中合わせの位置に座りながらの呟きが漏れる。
631 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:22:03.31 ID:UTAuJRe40

ーーーーーーーー

一人の美女が、勝手知ったる露天風呂に足を踏み入れていた。

墨絵の様に整った目鼻立ちは穏やかな落ち着きを見せ、
セミロングの艶やかな黒髪を
素朴にまとめたポニーテールもよく似合う。

スポーツウーマンらしく引き締まった健康美は伸びやかな長身で、
それが、前時代語で言う花の女子大生、これから満開の盛りに向かう年頃。
雪の様に白い肌理細やかさに包まれた柔らかな力強さと矛盾なく同居して、
成熟した一人の女性の魅力を完成させる。

掛け湯を浴びて大きな岩風呂の温泉に身を沈め、
熱い湯に浸かりながら入口に視線を向けた。
目に付いたのは、自分のかつてを思われる素晴らしい黒髪だった。
目に入った、たっぷりとしたストレートの黒髪は烏羽の艶やかさ。

(しのぶぐらいか?)

心の中で呟くが、それは、今ではない。
あの、騒がしき青春の日々の事。
見るからに、昨日今日女性になり始めたと言う佇まいの華奢な少女。
見事な黒髪がよく似合う、目鼻立ちの整った美少女だが、
抜ける様に色の白い、全体に小柄で手折れそうに華奢な姿は
儚さすら感じられる。

(新入り、ではないんだろうな)

現れた少女は、掛け湯で汗を流すと作法通り黒髪をタオルでまとめ、
同じ岩風呂にその身を沈めた。
632 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:25:11.93 ID:UTAuJRe40

「お願いがあります」
「なんだ?」
「私の大切な友達、鹿目まどかを助けて下さい」
「随分、唐突だな」

「時間がありません。桜咲刹那の計画が実行に移されれば、
魔法協会としても放置は出来なくなる。
もし、まどかの契約だけ利用して、等と言う事をしたなら、
私はもちろん少なからぬ魔法少女が魔法協会と敵対する事になる。
魔法協会は総合力としては上だと、それはよく分かってる。
だけど、特化した魔法少女を、
特に役職に就く魔法使いは甘くみない方がいい」

「脅しかな?」

「その通りです。魔法協会がまどかを利用するなら、
使い捨てにする事は魔法少女が許さない。
そして、桜咲刹那の計画が実行されれば、
魔法協会の保護下に入ればまどかの魔女化のリスクは格段に下がる。
ゴキブリやウィルスに等しいキュゥべえのストーキングを
延々警戒し続ける必要も無くなる。
神楽坂明日菜さんと魔法世界を救った見返りとして、
魔法少女であっても、せめて人並みの幸せを。
その程度の見返りだけでも、得る事が出来る。
だから、どうかこの計画、黙認して欲しい………
お願いします」

「申し訳ないが、それは出来ない」

湯面に顔を付ける寸前の懇願に、静かな口調で返される。
633 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/03(火) 04:29:34.87 ID:UTAuJRe40

「その思いは、貴いのだろう。
刹那の思いも、貴い。
だからこそ、その、人々の思いに絶対の力を与える
窮兵衛と言うものを我々が、
例え裏側であっても認める事は許されない。
それは「ひな」の様なもの。
その歪みを使いこなせる程、我々は未だ正しくも賢くもない」

ゆっくりと首を横に振り、染み入る様に告げる。

「そして、それだけの熱い思いは、
この程度のお説教で留まるものではないのだろう」

ーーーーーーーー

この日、神奈川県内の女子寮で起きた爆発は、
浴場を中心に建物の半ばを吹き飛ばしていた。

==============================

今回はここまでです>>629-1000
本当にすいませんでした。
続きは折を見て。
634 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:28:40.97 ID:mR6TrP/f0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>633

ーーーーーーーー

時間停止を解除した暁美ほむらの背後で、
爆音と共に巨大な火柱が上がる。
次の瞬間には、ほむらは再び時間を停止していた。

(あれで終わり、とは思っていなかったけど)

そうして、女子寮「ひなた荘」の外に退避していたほむらが
大量の迫撃砲、対戦車携行ミサイルを並べ、次々と発射する。
停止した時間の中で、
ほむらとの繋がりを失った砲撃は空中でその動きを止める。
時間停止解除と共に、空中に留まっていた砲撃は、
尾を引いて上空を横切る火の玉に吸い込まれて行った。

ーーーーーーーー

(これで、少しは………)

起動を予測して近くの川に隠匿していたミサイルを落下させたり
燃料満載のタンクローリーを突っ込ませたり
やっぱり川の中に隠匿していた兵器を
キャスターから叩き込んだりした結果として、
裏山へと墜落するのを見届けたほむらが、
その辺りに設置した軍用プラスチック爆薬の起爆スイッチを押す。

地形が変わる程度の爆発を背景に、
一部外観の変わった「ひなた荘」玄関前で
ほむらはバッと黒髪を払っていた。

「神鳴流秘剣、百花繚乱」
「!?」

そして、振り返る途中で、
ほむらの体は桜舞い散る衝撃波に吹き飛ばされていた。
635 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:30:56.98 ID:mR6TrP/f0

「刹那から聞いていなかったか?
神鳴流に飛び道具は通用しないと」

ほむらの手で×字に組んだジャングル・マチェットと軍用ナイフが、
デッキブラシの一撃を受け止めていた。

「随分、頑丈ね」
「あの程度でどうにかなっていては、
万万が一あり得る事が無いでもないかも知れない
でもないとも言い切れない事もないでもない
管理人は務まらないからな」

ーーーーーーーー

「流石に、奇策頼みに本家の相手は荷が重かったか」

この辺りは無事だった「ひなた荘」物干し台で、
フェイト・アーウェルンクスがすうっと右手を上げると、
周辺の空中に大量に浮遊していた石針が鋭く飛行した。

「!?」

次の瞬間、けたたましい大量の銃声と共に、
石針が空中で残らず粉砕される。

「確か、暁美ほむらの先輩だった、と記憶しているが?」

「ええ、そうね。
だから、後輩が道を誤ると言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ。
悪い道へのお誘いは、やめていただけるかしら?」

「悪いが、こちらにはこちらの事情がある。
こちらの方が分がいい、と判断した」
「そう、じゃあ仕方がない」

屋根の上でフェイトに右側面を見せていた巴マミと
物干し台にいたフェイトが跳躍する。
それをだだっ広くなった露天風呂から
半笑いで見ていた佐倉杏子は、振り返り様に槍を振るっていた。
636 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:34:03.08 ID:mR6TrP/f0

「おこぉーんばーんわー(はぁと)」

その甘い声を聞いた杏子は、
槍の石突で後ろを突きながら生理的にぞわっとするものを覚える。

「(あたしの鎖の巻き込みを「気」で払った?
うぜぇ、が………)出来るってかっ!?」
「少しは食べ応え、ありそうですなぁ」

はんなりと甘々な返しと共に、
振るわれた槍の柄が二振りの小太刀に受け止められた。

「あつつっ!」

その近くでは、さやかがびゅうっと二刀を振るい、
火の玉の様な娘が飛び退く。

「体に火を巻いてるってそーゆー魔法っ!?
なんかやったら速いしっ!」

ぶーたれながらも、さやかがとっさの判断で
回転斬撃を展開する。
間一髪、さやかは地中から伸びて来た大量の木の根を
巻き込まれる前に斬り払い、猶予を作った。
さやかが放った飛行剣の連打が、
地面を割って突き出した根にどがががっと防がれて
その向こうで立派な角の娘が次の動作に移る。
637 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/04(水) 03:35:46.78 ID:mR6TrP/f0

ーーーーーーーー

京都嵐山、桂川沿い

「渡月橋、やっぱ渡らないの?」
「ああ、絶対ヤバイだろうからな」

朝倉和美と長谷川千雨が言葉を交わした。

「近衛家が最後の抵抗を始めてやがる。
こっち側の世界のデジタル情報と偵察特化の情報戦で
辛うじて五分に持ち込んでるが、
そうじゃなけりゃとっくにあっちの手の者に抑えられてる」

「だったら、目立つ道はまずいってね」

「ああ、あっちこっち右往左往したが、目的を果たすぞ。
こっちに、神鳴流の先代とやらがいる。
囮役で釘付けになってる葛葉先生に代わって
直接ナシつけて即刻動いてもらう。これで決着だっ」

それぞれアーティファクトの情報を確認し、走り出そうとする。



どこに行くんですかー?

長谷川さーん、

朝倉さーん?



==============================

今回はここまでです>>634-1000
続きは折を見て。
638 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:05:55.79 ID:9QFqa/Py0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>637

「よう、何やってんだこんなトコで?」

修学旅行以来の京都府内での遭遇となった同級生相手に、
長谷川千雨はひくひくと引きつった笑顔で片手を上げる。

「ネギせんせーの幸せを取り戻しに来ました」
((あ、あかん奴だ))

とてもとても魅力的ににっこり微笑んだ宮崎のどかを前に、
長谷川千雨と朝倉和美は瞬時に悟っていた。

「そういう事です。
もちろんご協力いただけますよね長谷川さん、朝倉さん」

のどかの隣で、綾瀬夕映が断言する。

「悪いが、お前らの企みは魔法世界で潰えた」
「いいえ、まだです」

千雨の言葉に、夕映が反論した。

「今なら未だ間に合うです。
鹿目まどかさんの身柄を青山家からこちらで隠匿し、
改めて魔法世界の為の契約をお願いします。
今の所、青山家と近衛家が
互いに知らない振りでの暗闘をしているだけです。
鹿目まどかさんさえ契約してくれれば、
魔法協会も元のプランで追随せざるを得なくなるです」

「本気で言ってんのか、綾瀬、本屋?」
「もちろん、本気です」
「本気だよ、長谷川さん」
639 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:08:38.42 ID:9QFqa/Py0

「本屋、マジで言ってんのか?
このプランに乗るって事がどういう事だか分かってて言ってんのか?」

「今までだって、一時的に魔法協会と敵対する事になっても、
最後には結果で押し切って来たです。
今回もそれが出来ます。

鹿目まどかさんが自主的に契約してくれれば、
魔法世界もアスナさんも助かり、
世界的リスクから魔法協会も手を貸さざるを得なくなる。
私達の一存でやった事にしてしまえば
青山家も敢えてリスクを増やすだけの対処は出来なくなるです。

最悪の場合、青山家があくまで妨害するのであれば、
公共の福祉の名目で協会が制圧する名目も立ちます。
それも、今迄の魔法少女の不安定さから言えば、
むしろリスクの総量は低くなる許容すべきリスク管理です」

「そういう事を言ってんじゃねえっ!!」

夕映の淀み無さすぎる言葉とそれと裏腹の目の隈に、
千雨が言葉を叩き付ける。

「本屋、それがネギ先生の、神楽坂の意に沿う事だと思ってるのか?
魔法少女は誰かを犠牲にしないと成り立たない共食いのシステムだ。
そんなモンにカタギの女一人沈めた上に、
例え直接手を下さなくても他のが化け物になってくたばるのを見過ごして、
その魂を再利用して、そうやって神楽坂の人生を取り戻す。
そんな事を、あいつが望むと本気で思ってるのか?
ネギ先生と神楽坂が、残りの人生それで笑って過ごせると思うか?
お前なら分かるだろ本屋っ!?」

「分かるよっ!」

のどかから叩き返された言葉に、千雨の足が一歩退いた。
640 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:11:12.78 ID:9QFqa/Py0

「分かる、ネギせんせーもアスナさんも、そんな事は望まない。
ヒーローらしく精一杯戦って他のみんなを救おうとする、って。
だから………」

「だから、陰ながらお前らが手を汚して、
お前らが裏設定になって綺麗な物語を完成させる、ってか?」
「私は、その心算だよ長谷川さん」

澄んだ瞳で見据えられ、千雨は息を飲む。

「長谷川さん、お見事な差配でした。
のどかは、性格的に相当な心証が無ければクラスメイトの心は覗かない。
だから、あなたは疑う素振りを見せずに、
丸で魔法少女の肩を持つ様な強引な仕切りを行いながら、
図書館島の調査と言ううってつけの口実を使って
私達をメインの調査から外して行動に移った。
あなた達が動いた後に、麻帆良側で気付いた人間が
僅かにでもざわついた気配を見せなければ、
網を張っていた我々と言えども完全に出し抜かれていたです」

「いっぺん怪しいと思ったら容赦無し。
全情報丸見えの最短距離でここまで突っ切って来た。
敵に回すとおっそろしいね、本屋」

冗談めかした和美の言葉にも、
のどかは怯む様子を見せない。

「何が、大切な事か。
ルール違反、汚れた手段だったとしても、
絶対失いたくない事があるから。
そのためなら、今は迷っていられない迷わない」

「のどかは作戦面を、
参謀としての私を全面的に信頼してくれました。
何を覗くべきか、そのGoサインを出したのは私です」

「こんな時に覚悟完了しちゃってまぁ」

和美の言葉通り、のどかも夕映も退く気配を丸で見せない。
641 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:12:41.65 ID:9QFqa/Py0

「長谷川さん、朝倉さん、お願いだからここは諦めて、
そして、私達に協力して」

「そうです、お二人の力は是非にも必要なんです。
あなた達だってネギ先生、アスナさんの幸せを願い事に代わりは無い筈。
アスナさんがずっと一緒にいてくれるならば、
プランの上でも、ネギ先生にとっても私達にとっても、
そのメリットは計り知れないです。
アスナさんの事、ネギ先生の事なのです。
メリット、等と言う無粋な言葉は本来は必要ない筈ですよ長谷川さん」

それは、「只の人」を自覚する長谷川千雨を簡単に揺らす、
徹頭徹尾清々しいエゴイズム。

「長谷川、分かってるよね………」

和美が千雨に声を掛けた時、ざざざざっと気配を感じた。

「長谷川さんっ!」

(ち、近い近い近い本屋っ!
だからその前髪の向こう側、
なんでそんなに澄んでうるうるしてんだよっ!?
おまけにほっぺはほんのり赤いとかって!?)

「長谷川さんっ。お願いだから私の………
私の初恋を、悔いの無い戦いをさせて!」

「はい?」

「私は、ネギせんせーが好き」

(知ってるよ!!! クラス全員と同じぐらいっ!!!)
642 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:14:35.49 ID:9QFqa/Py0

「だから、何時か、私は何時か、
ネギせんせーの心を手に入れるために、誰かさんと、
多分、色んな人と戦わなければいけなくなる。
それだと絶対、アスナさんとは対等に戦わなければいけない。
アスナさんが欠けたら、アスナさんがいなくなったら、
私は心の中にしかいない人と戦わなければいけなくなる。
それは、一番厳しくて辛い恋愛小説だから………。
そうでなくても、今のネギせんせーからアスナさんを奪うなんて、
そんなお話、そんなネギせんせー、私は見たくないっ!!!」

「千雨さん?」

下を向き、笑いを噛み殺す千雨に、
夕映は低い声で尋ねる。

「ああ、流石は桜咲だってな」

千雨が、くっくっ笑いながら顔を上げる。

「守るために一歩引いて、だからこそよく見てやがる。
見事な人選だ。
お前らが選ばれて、私は選ばれなかった」

「私は、私が知識以外の分野で著しく偏った人間である事を自覚しています。
千雨さんは人として、一人の先輩として、
危うい道を進み続けるネギ先生を引き戻し、
後押ししてその道を照らし続けた。
千雨さんだからそれが出来たのです」

「私は、ネギせんせーから一人前の冒険者だと認めてもらっても、
それでも、ネギせんせーに守ってもらう側だった。
だから隣に立ちたいって一生懸命頑張ってる。
長谷川さんは、力に頼らないでそれが出来てる」

「だから、あなたにはあくまでネギ先生の一人の先輩として、
一人の、それも濃厚過ぎないアスナさんのクラスメイトの友人として、
刹那さんはそれを望んだ筈です」
643 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:17:08.95 ID:9QFqa/Py0

「ああ、だからあいつには、ふざけるな、
てめぇが抜けた後の事迄押し付けんじゃねぇって
怒鳴りつけてやったけどな」

「それでも、やらなければならないんです」

夕映が言い、千雨と睨み合う。

「改めて魔法世界崩壊の危機、それを回避する為、
そしてアスナさんの、ネギ先生の幸せを両立させる唯一の手段。
魔法少女と言うアダムのリンゴの導入と言う異常事態を前にしては、
危険を冒してでも我々の様に尖った意志と能力を貫かなければならない」

「アダムのリンゴ、あすなろ市のあの娘達も求めていたものだっけ」
「だから、協力出来たです」

和美の言葉に、夕映が返す。

「ええ、そうです。
一人の人間を人柱にしてそれを安寧それを秩序だと、
それが神の言葉だと言うのなら、
一人の友達の為、愛する人の為、只の人である私は出し抜いて見せる。
だからこそ協力する事が出来たのです」

「今、しかるべき場所に真実がそのまま伝われば………」

「少しばかり大きな戦いになるでしょうね。
基本、鹿目まどか云々がどうあれ、
あちらは魔法協会として許容するには只々危険過ぎますから」

「相変わらず、記事にならない情報ばっか集まる」

和美が言い、天を仰ぐ。

「ネギ先生のため、神楽坂のため………」
「勘違いしないで下さい」

千雨の言葉に、夕映が言った。
644 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:21:34.86 ID:9QFqa/Py0

「アスナさんがいない、アスナさんがいなくなったネギ先生。
その事に耐えられないのは私です。
ですから、鹿目まどかさん、
そして、今後数多の魔法少女の犠牲、負担を承知で、
私はアスナさんをこの世界に呼び戻す。
この世界でネギ先生と私達と一緒の人生を全うしてもらう。
そうあって欲しいから私はそうするのです」

「どうしてもかよ」

「その通りです、私達の手には、
その悲劇を、ネギ先生からアスナさんが奪われると言う悲劇を
回避する手段が握られています。
私はネギ先生が好きです。
だからこそ、ネギ先生にとってアスナさんがどれ程大切な人か、
その事も理解している心算です。
で、あるならば、
やらないで後悔するよりもやって後悔した方がいい」

宣言しながら、綾瀬夕映は、
スチャッ、と、
携帯用の魔法練習杖を取り出す。
千雨は息を飲む。

ネギ・パーティーでも上のグループが化け物揃いだと言うだけで、
特殊能力を抜きにしても、魔法使いとしてのこの二人は
初心者としては地獄の特訓を知るかなり高い水準。
少なくとも、同じく一応魔法使いに片足突っ込んでいるが
情報特殊能力特化である千雨が「喧嘩」をしていい相手ではない。
そして、ここまで動機が徹底していると、説得する理屈が存在しない。
645 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:23:05.90 ID:9QFqa/Py0

「………買い被り過ぎなんだよ………」

下を向いた千雨が、ぽつりと吐き出した。

「私だって見て来たんだよ、神楽坂とネギ先生、
それに、近衛に桜咲。
あそこから神楽坂が抜けて、その後どうするんだよ?
又、上手く距離を取りながらネギ先生が一人で行き過ぎない様に、
只でさえ難しいガキだってのに、神楽坂までいなくなって。
何だよ、それ。随分、私の事を買い被ってくれた。
いや、頼まれもしないのに、今更他人の振りも出来ない、
そんな私の問題か。私に、何が出来るってんだよ。
なあ、神楽坂、あのガキを、私を置いてくんじゃねぇよ馬鹿がっ!!!」

千雨が顔を上げる。

「あなただけの罪にはしない。
私も、のどかも刹那さんもいるです。
あの夏を、ネギ先生と共に戦った皆がいるです。
自分の大切な人のために。
私は、私の愛する人のために魔法少女を利用する。
だから長谷川さん、私達と共に」

夕映は、すっと右手を差し出した。

「悪を行い世界に対し僅かばかりの正義を成そう」
646 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/20(金) 04:31:13.49 ID:9QFqa/Py0

千雨の足が、ふらっ、と、前に出た、
のか否か、千雨自身の記憶は定かではない。
その記憶が鮮明に戻るのは、夕映が左手の練習杖を振るった時からだった。

「風楯っ!!」

果たして、夕映は明後日の方向に魔法防壁を張り、
爆発音と共に周囲が白煙に包まれた。

「白き雷っ!!」

更に、夕映が攻撃魔法を展開するが、
千雨達に届く気配は全く無い。

「それが、君の愛かい?」
「風楯っ!!」

風が裂け、何かが衝突する音を聞きながら、
息を飲んだ千雨もステッキ状の「力の王笏」を振り出す。

「のどかっ!」
「かすった、だけだから」
「本屋っ?」

その声に、千雨は左腕を抑えるのどかに目を向ける。

「愛は無限に有限。だから私は無限に彼女に尽くす」

「あなた達は世界を救い、そして愛する者を救うと言う。
私はお父様の望んだ世界を、私は私の救世を成し遂げる」

==============================

今回はここまでです>>638-1000
続きは折を見て。
647 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:35:37.72 ID:LSWEkX6H0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>646

ーーーーーーーー

「おっとおっ!」

わざわざ京都まで出張し、低い姿勢から走り込んだ呉キリカが、
飛んで来た小さめの本を交わしながら標的へと突っ込む。

「!?」
「白き雷っ!!」
(二段構えねっ!)

まず、びゅうっと目を塞ぐ風が吹き抜け、
その後にキリカを襲う電撃をキリカ跳躍して交わした。

「速い、ですねっ」
「違うっ!」

綾瀬夕映の言葉を宮崎のどかが否定した。

「私達が遅くなってる」
「了解ですっ!」

のどかの言葉と共に夕映が液体の入った試験管を放り出し、
周囲が煙に包まれた。

「白き………」

そして、すすすっと移動して練習杖を振り上げた夕映の側で風が裂ける。

「!?」

夕映の近くの空中で、飛来した水晶球と空飛ぶ本が激突し、爆発が起こる。

「風楯っ!」

その時には、夕映はキリカの長爪の一撃を魔法防壁でやり過ごしていた。
648 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:39:18.57 ID:LSWEkX6H0

「ウエンテッ(風よっ)!!」

夕映が杖を振り、周囲に風が巻く。

「白き雷!!」

次の瞬間、美国織莉子は自分を狙った電撃をすすすっと交わし、
それに合わせる様にのどかが動く。

「!?」

のどかの前でキリカが振るった爪が、
のどかが広げた分厚い本をざっくりと切り裂く。

「誰を狙おうと言うのかな?」

そう言いながら腕を振り上げたキリカの前で、
夕映がのどかの前に立つ。
キリカは距離を取った。

(まずいですね)

のどかを背後に守りながら、夕映は心の中で呟く。

(この二人相手では決定打に欠ける。
千日手をしていては青山家に対策をとられてしまうです)
「夕映っ!」
「遅い遅いよっ!!!」

キリカの振るった右手の爪が
のどかの手にした魔法の本「いどのえにっき」に食い込み、
649 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:41:58.17 ID:LSWEkX6H0

「のどかっ!!」

余った爪の勢いで、のどかの左腕の流血が増加する。

「風楯っ!!」

そして、夕映の張った防壁がキリカの左の爪を弾き返す。

「このっ!」

キリカが本に食い込んだ長爪を無理やり引き抜き、
のどかが後ろに転倒しそうになる。

「のどか、今治癒するですっ!」

夕映が声を震わせている間、
のどかの目はキリカをしっかと捉えていた。
攻撃の速さと威力だけでは、魔法をそこそこ使えるが
武闘派と言う程ではない夕映ではキリカに勝てない。
のどかと言うレーダー抜きには。
650 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:43:45.25 ID:LSWEkX6H0

「?」

そして、夕映は気付く。
織莉子の視線が明後日を向き、
そちらの木陰に向けて大量の水晶球を放っていた。

「………!?」
「援軍みたいね」

織莉子が言った時には、頭に横長の角を持つ少女「環」が木陰を飛び出し、
そのドラゴン的外見と体質を持った少女は、
急遽本当にドラゴンになろうとした
その時には早速に呉キリカの襲撃を受けていた。
そして、それを這う這うの体で交わした環が今正に美国織莉子に迫る、
と、思った時には、織莉子の用意した水晶球が
環に向けて吸い込まれる様に真っ直ぐ飛行していた。

「か、はっ………」
「のどかっ!!」

夕映は、二つの事に気付いた。
キリカも又、明後日の方向に地を蹴ったと言う事と、
それを受ける様にのどかが駆け出した事を。

ーーーーーーーー

青山素子がひょいと身を交わし、飛んで来たジャングル・マチェットが
地面に突き立った木材に突き刺さる。

「いい判断だ。どの道飛び道具は通用しない。
ならば、貴様には過ぎた重さだったと言う事か」

そう言いながら、青山素子は、
突っ込んで来た暁美ほむらの斬撃をすいとやり過ごす。
ほむらはざざっと振り返って素子を狙おうとしたが、
その時には、瞬時に間合いを詰めた素子が振り下ろすデッキブラシが、
ほむらが右手に握る中型のグルカナイフに受け止められていた。
651 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:46:03.84 ID:LSWEkX6H0

「どうやら、マギカであってすら、余り腕力には恵まれていないらしいな」

そんな声を聞きながら、
ほむらは左手に握った軍用サバイバルナイフも加えて
ガチガチガチとデッキブラシの柄を受け止める。

きりきりきりと歯噛みしながら
辛うじてそれを成功させているほむらだったが、冗談ではない。
使っているのは素人でも武器は間違いなく玄人。
あの勢いで打ち下ろしたら
デッキブラシの方が真っ二つになっている位置関係の筈が、
ほむらが魔法少女の力で必死に堪えてようやくギシギシと均衡している。

「(それでも全然余裕、桜咲刹那も十分過ぎる強さだったけど、
これが青山宗家っ)
あああああっ!!!」

ほむらが、握った刃物を力任せに振るう。
その一瞬の隙に地面を転がり、楯に手を伸ばす。

「あああ………」
「未熟」

呼吸を整えながら止まった時の中を素子の真後ろに回り、
せめて鈍器な部分を振り下ろした、と思った時には、
ほむらはどてっ腹に叩き込まれたブラシの衝撃で
後方へと吹き飛ばされていた。

「か、はっ………」

魔力の急消耗を少しでも防ぐべく、
ほむらは吹き飛びながら時間停止を解く。

「貴様相手なら、髪に触れてからの刹那でお釣りが来る」
652 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:47:57.98 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!!」

ひなた荘上空で、砲弾が分厚い砂壁を粉砕する。
巴マミが肩にかけていた単発の大砲が消滅する。
その時には、柏手と共にマミの周囲に展開されたマスケット銃の一群が
マミの周囲を回転しながら発砲し、
フェイト・アーウェルンクスの放つ石針を砕きながら消滅する。
空中ですれ違った二人が一度屋根に着地し、
双方の遠距離攻撃を交わしながら地面へと降下する。

「!?」

ばいんっ、と、マミが黄色いバネに弾き飛ばされた。
それは、とっさに張ったリボンの渦巻き防御が、
地面から突き出した石の槍をギリギリでガードした結果だった。

「くっ!」

更に、空中のマミの前方でリボンが渦を巻き、
そのバリアを帯びたリボンが
フェイトの放った光線を受けて石化して砕け散る。

「ふむ」

フェイトは、目の前で石の剣に貫かれた巴マミの姿が
一滴の流血も無くリボンのバネと化すのを目の当たりにする。
フェイトは振り返り様、
しゅるしゅると自分に絡み付いていたリボンに石剣を叩き付ける。
マミは弾力のあるリボンからさっと手を放し、
リボンが瞬時に石に変化して砕け散る。
653 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:53:04.32 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「おいおい………っ!」

佐倉杏子の口からは、乾いた笑いも出なかった。
近くの空中で、フェイトが石針を、石剣を放ち、
マミがそれを交わし、使い捨て魔法で呼び出すマスケット銃で撃ち砕き、
フェイトが飛んで来るマスケットの銃弾を交わしながら
双方ひなた荘の館から館、茶屋、樹上、あちらこちらへ跳躍する。
そして、マスケットと石剣でガン、ギン、ガン、と撃ち合い砕き合いながら
双方ヒット無しで殴り合い、
又、バババッ、と、大量の銃弾と石針が空中で殺し合う。

「ティロ・フィナーレッ!!!」

降って来た巨大な石柱がマミの大砲の一撃に粉砕された時には、
マミとフェイトはそれぞれ、
空中で身をよじって銃弾と石剣を交わしている所だった。
それを下から眺めた佐倉杏子が大汗を浮かべ、槍を振るう。

「二刀連撃斬鉄閃っ!!」
「野郎っ!」

月詠が小太刀から繰り出す「気」の連続攻撃を、
杏子は大槍の一閃で弾き飛ばす。

「烈蹴斬、弐の太刀いっ!!!」

ずざざあっ、と、杏子の足が後ろへと滑る。

「やっぱ武器は選ばずかよっ」

杏子は、勢いに倒されそうになりながらも、
手槍サイズに縮めた槍の柄で月詠の蹴りを受け止めていた。
654 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:55:28.45 ID:LSWEkX6H0

「その大槍でうちの動きに付いて来る事が出来る、
いいですなぁ、もっともっとうちの事楽しませておくれやすぅ」
「戦闘狂かようぜえっ!!」

元々自覚的な功利主義者の杏子にとって、
最も面倒臭いタイプに絡まれた面倒がひたすら鬱陶しい。
もっとも、只の功利主義者だけなら
そもそもここにいない事はこの際無視している。

「小太刀の二刀流、ってのがアレだが、
てめぇも神鳴流かよ。
やたら強いし動きも似てやがる」
「そうですなぁ、あの人がなかなかかもうてくれんから
あんたで我慢しとくわ。
なんか、初めておうた気しませんしなぁ」
「てめぇなんか知るかっ!!!」
「そうですかぁ?」

と、意味不明な供述とこの状況で意味不明な甘々ファッションに身を包み、
それでいて意味不明な強さの剣術で襲撃して来る
フェイトのこの際腐れ縁な「月詠」を、
佐倉杏子はひたすら槍を振るって対抗する。

「ざーんてーつせーんっ!!」

跳躍した月詠を、鞭に変化した槍が鎖に変化しながら巻き取ろうとするが、
月詠の小太刀二刀から放たれた「気」がそれを弾き飛ばす。

「ざーんがーんけぇーんっ!!」
「とおっ!」

そして、着地した月詠にびゅうっ、と振るった杏子の槍はひょいと交わされ、
「気」を帯びた爆弾の様な一撃を、
持ち直した槍でバリアを張りながら辛うじて飛び退いて回避する。
655 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 22:57:44.13 ID:LSWEkX6H0

「ええですなぁ、まだまだ及ばんけど久しぶりになかなかの手応えや。
あの人かもてくれへんからうちもうたまらんさかい、
もっともっと楽しませておくれやすぅ」
「本気で、うぜぇ………」

杏子が次々繰り出す槍の高速刺突を、
何処ぞのダンスボーカルユニットを一人でやってる様な残像を残しながら、
色白の京女の頬をピンクに染め唇の端から液体を垂らして
ひょいひょい交わしている月詠を前に、
佐倉杏子は、右手の小太刀の柄頭を腹から下に押し付ける様な姿勢で
体をくなくな震わせている大量の月詠の残像から、
魔女とも違う背筋に来る何かを察していた。

「(まとめて)薙ぎ倒おぉすっ!!!」
「あはっ、大振りっ」
「!?」

杏子の横殴りの槍を月詠が跳躍して交わす。
そこまでは普通に予測出来る事だったが、
月詠はたんたーんっとばかりに
「宙を蹴って」杏子の視界から逃れにかかる。
確かに、杏子を含め人間の段階を超えた領域の世界では
あり得る事だと杏子も分かっているが、
訓練された月詠の移動は想像以上に鋭い。

「ちいっ!」

びゅうっ、と、
振り返り様に振るった槍の柄が斬り裂いたのは、残像だった。
杏子が槍を引き、突きの姿勢に入る。
月詠が、その一撃をするりと交わし、懐に入る姿勢に入る。
双方が必殺の一撃を意図した、刹那の時間が重なる。

「!?」
「おや?」

そんな二人に飛来する炎を帯びたブーメランの様な武器を、
杏子はざっと交わし、月詠は小太刀で弾き飛ばす。

「新手のマギカさんですかぁ?
えらい鼻息荒ろうおますけど」
656 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:04:31.79 ID:LSWEkX6H0

ーーーーーーーー

「このっ!」

さやかが放った剣の一群が、
地面から突き出した木の根にドガガガッと突き刺さる。
その木の根を飛び越えてさやかに向かった炎の塊を、
さやかは剣を振るって牽制する。

「あっつっつっつっつっ!!!」

そして、自分の周囲で着火する空気を二刀流の剣で振り払いながら、
さやかはその大元である「焔」に向けて駆け出す。

「回復魔法を使いながらの突撃。
だが、斬る事に躊躇があるのか?」
「いちお、怪獣ぐらいはぶった斬れる真剣だしね」

さやかの振るう剣を交わしてバラバラと炎をまき散らす
ツインテール少女「焔」の言葉に、さやかは吐き捨てる様に言った。

「所詮、平和な世界の甘ちゃんか」
「否定はしないけど、でも、ま、色々あるんだわっ!」

焔が跳躍し、さやかが放った剣がその下を突き抜ける。
びゅうっ、と、炎の帯と剣が交錯し、
ざっと距離をとって睨み合うさやかと焔。
657 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:05:53.07 ID:LSWEkX6H0

「大体、なんであたしが二対一なのよっ!?」
「貴様如き私達で十分と言う事だ」
「………まあ、理解は出張る、けどさあっ!!!」

宇を舞う黄色い先輩が
ドンドンドンドンドンと巨大なマスケットを上空へと発砲し、
空から降り注ぐでっかい石柱が砕け散り、
更に巨大なマスケットと言うかなんと言うか
大砲の一撃と共に大量の砂が爆散し
黄色い先輩のマスケットと学ラン白髪の石剣が
ガンギンガンと砕き合う天空の1シーンをさやかはチラッと伺い、
さやかの振るった二刀が放つバリアが焔の炎を弾き飛ばす。

「こんのっ!!」

そして、地面を突き破りさやかを締め上げにかかった木の根を、
さやかの剣が回転二刀流で破片に変える。

「あいつは?」

その瞬間の攻撃を覚悟していたさやかの目が、
「焔」を探して周囲を伺う。
658 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/04/21(土) 23:07:02.83 ID:LSWEkX6H0

「ふんっ!」

三節棍の何倍かも分からない多節棍が
じゃららーっと一つにまとまり、槍へと変化する。

「こっちの方は、少しは出来るのか?」
「ま、あのヒヨッコよりはな。
ついでに言っとけば、そこそこハングリーだし」

焔の言葉に、槍を担いだ杏子が言葉を反してニッと笑った。

「なんだ、へばってんのかよ?」
「だからー、にーたいいちだってーの。
大体あんた、あっちはどうしたの?」
「ああ、通りすがりの武者修行に任せて来た」

肩で息するさやかの問いに、杏子が親指を後ろに向ける。

「いいからいいから私に倒されっチャー!」

「あはははっ! その動きも猪さんですなぁ、
勢いあって意外とお利巧。
牡丹鍋ぐらいは楽しめそうやっ!!」

さやかと杏子は、背中合わせになる。

「じゃあ、あいつの事頼める?」
「あんたは?」
「あっち、片付けて来る」

何が気に入らないのか、
既に得体の知れない植物ゾーンと化した一角の向こうに
さやかが剣呑な視線を向け、
杏子は唇の端に笑みを浮かべて跳躍した。

==============================

今回はここまでです>>647-1000
続きは折を見て。
659 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/05/09(水) 22:41:26.91 ID:lTpqgo6B0
生存報告です
660 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/05/29(火) 21:56:46.92 ID:W8x2w7zu0
生存報告です
661 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2018/06/24(日) 02:37:35.75 ID:lFB6LBQq0
生存報告です
662 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:06:34.90 ID:fABXASRb0
お詫びと訂正です

>>283
恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

地面に戻った後、恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

>>509

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

膨大と言ってもいいぬいぐるみが、夜の博物館の
棚やガラスケースに陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

訂正以上、すいませんでした。

それでは最終回投下、入ります。
663 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:09:06.11 ID:fABXASRb0

==============================

>>658

ーーーーーーーー

(時間稼ぎ)

率直に言って、青山素子は哀れみを覚えていた。
暁美ほむらはスタン・グレネードを使って時間を稼ぎ、
素子から距離を取った。

客観的に言って、神鳴流剣士、
それも頂点にいる素子を倒すには白兵戦以外あり得ず、
現状のこの対戦での比較で言えば、
ほむらのそちらの素質、実力は絶望的だ。

先にも素子自身が言った通り、この実力差では、
例え一瞬、どんな隙があったとしても、
もちろん暁美ほむらのスタイル、能力を踏まえた上で、
ほむらが素子の髪の毛一筋触れた時点で
叩きのめされるのはほむらの方だ。

その僅かな時間稼ぎの間に、
ほむらは右手に持ったグリーフシードをしゅっと投げ捨てていた。
そして、ほむらが構えたのは木刀だった。
素子から見たそれは、見様見真似の正眼の構え、
それ以上でもそれ以下でもない。

とん、と、素子が跳んだ。
これで何度目か、周り一帯で爆発が起こる。
素子がすいと身を交わす。
大振りせず、脇構えからの突きを選んだ辺り、
流石に実戦経験だけはあると言う事か。

ではこちらも実戦で、と、素子はほむらの背中を無造作に蹴り飛ばす。
地面にダイビングしたほむらが木刀を杖に立ち上がるのを見て、
素子は構え直した。

「神鳴流奥義・ざんが………!?」
664 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:10:24.81 ID:fABXASRb0

ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!」

空中で、巴マミが抱えた大砲としか言い様の無いマスケットが
マミに迫る石柱を撃ち砕き、
マミの体はその反動で地面へと向かう。

「ヴァーリ・ヴァンダナ………」
「!?」

そして、水柱を上げて露天風呂に落下したマミが周囲を見回すと、
大量の掌がマミに掴みかかっていた。
それは、固形化した温泉で、
触手状に固形化した大量の温泉の先端に掌がついて
生物の様に蠢きマミに迫る。

「!?」

そして、マミは察する。
今ここに迫る灰色の霧に込められた禍々しい魔力を。

ーーーーーーーー

露天風呂が見た目観光間欠泉と化した爆発を目にしながら、
ファイト・アーウェルンクスが浴場にとん、と着地する。
その時には、空中に渦巻いた大量の石剣が
露天風呂を埋め尽くす勢いでドドドドッと降り注いでいた。

(ふむ)

そして、フェイトはするりと体をよじる。
その上を、強力な二発の銃弾が突き抜けた
665 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:11:56.95 ID:fABXASRb0

「紙一重だったわね、
もう少しで体ごと彫刻にされてたのかしら?」

マミが一挺ずつ両手に持ったマスケットが消滅し、
それと共に、マミの体にまとわりついていた灰色のリボンも砕け散る。
そしてフェイトは気付く。
露天浴場の中を、フェイトを包囲しながら
今尚増殖して埋め尽くす膨大な黄色いリボンを。

「まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ………」

「契約により従え、奈落の王!!
地割れ来れ、千丈………」

ーーーーーーーー

「おい」
「ああ、うん、考えたら負けな奴だ」

ひなた荘前で、フェイトの従者「焔」と佐倉杏子が、
露天風呂の方向から察知した
天地を揺るがす何かに就いての見解をすり合わせる。
そして、相変わらずの不快音に顔を顰めた。

ーーーーーーーー

美樹さやかは、不快音と共にさやかを襲う衝撃波を
たんたんーっと交わしていた。
異様なジャングルと化しつつあるひなた荘周辺の一角で、
さやかの体がぶるるっと回転し、その両手に握られた刀が
地面から彼女を締め上げようと迫る木の根木の枝を斬り飛ばす。

「とおっ!」

そして、フェイトの従者「調」に身軽に迫るが、
さやかが調に飛び掛からんとしたそんな二人の間に、
ぼこっ、と樹木が突き上がる。
ぼん、ぼん、ぼんっと、地面から突き出す木々がさやかを襲い、
さやかはそれを交わし、斬り飛ばして調に迫る。
666 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:13:39.95 ID:fABXASRb0

「このっ!」

さやかが右手から放った刀が、地面から突き上がった樹に突き刺さる。
それを楯にした調がささっと移動し、
不快音と共にさやかに向けて衝撃波を放った。

身をよじったさやかを衝撃波が吹き飛ばし、
さやかの背後に現れた樹にさやかの背中が激突する。

「つ、っ………このっ!!」

ずるずると頽れたさやかを、
地面から伸びた硬い蔦の群れが拘束しようとする。
さやかは、剣を両手持ちにして力任せにそこから逃れる。
そこに襲い掛かる調からの衝撃波を、さやかは大きな跳躍で交わした。

(デタラメな)

跳躍したさやかが遥か上空から放つ剣に、調は心の中で呟く。
果たして、ヒュンヒュンと降り注ぐ剣は
調が呼び出した植物や地面に悪戯に突き刺さるだけだ。
さやかの着地を狙った衝撃波を、さやかは横っ飛びに交わす。

「!?」
「見えて来たんだよねー」

そして、さやかは、さやかを縛るために伸びる太い木の根に
刀の刃を叩き込み、更にその勢いで飛び上がる。
さやかは、魔法少女の馬鹿力を利用して、
次々とさやかを襲う木の根に刀を叩き込み、食い込んだままの刀を梯子代わりに
ひらりひらりと巨大植物の上へ上へと舞い上がっていた。

「くっ!」
「あらよっ!!」

その事に気付いた調が放った衝撃波も、
さやかは手近な植物を足場にひらりと交わす。
667 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:17:08.44 ID:fABXASRb0

「あんたのリズムっ!!」

そして、地面に突き刺さった刀の柄から柄へとたんたーんっと跳躍していた。

「く、っ!」
「そいっ!」

勢いをつけて跳躍をしたさやかを調が狙う、
その時には、さやかは調の背後に回って
調の脚を刀の棟ですぱーんと払っていた。

「つっ………」
「あんたはあたしを怒らせた」

そして、さやかは竜の角を誇るフェイトの従者、調から
得物を取り上げ仁王立ちして見せた。

ーーーーーーーー

「なん、ですか?」

京都桂川の川辺で、綾瀬夕映が呻いた。
そこでは、美国織莉子が両手を上げ、微笑んでいた。
それを見て、織莉子と対峙していた宮崎のどかもふっと力を抜く。

「流石に、厳しかったわね」

たった今までのどかの前に延々と無言で突っ立っていた織莉子が
使用したグリーフシードをひゅっと放り捨てる。
そして、織莉子の前に延々と無言で突っ立っていたのがのどかだった。

「で、これどうするの?」

腕組みした朝倉和美が言い、その隣で長谷川千雨が額に手を当て嘆息する。
二人の前では、フェイト従者の猫耳娘「暦」と呉キリカが、
「暦」が自分の得物を突き出し
キリカが飛び掛からんとしている状態で静止していた。
668 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:18:21.25 ID:fABXASRb0

「大丈夫ですか、のどか?」
「う、うん、大丈夫」

夕映に支えられ、のどかがよろりと立ち上がる。
単純戦闘力だけで言えば、夕映が介入する隙は幾らでもあった、
と言うか、実際夕映が動いた事もあるのだが、
その度に水晶球による完璧なカウンターを返され
却ってのどかを危険に晒した、と言うのが実際だった。
そんなのどかに、織莉子がざっ、ざっ、と接近する。

「大丈夫だから」

のどかは、夕映を制して織莉子に静かに近づく。
だが、織莉子とのどかがすれ違った途端、
のどかはすとん、と、膝をついた。

「のどかっ!!」

駆け寄った夕映は、真っ青な顔で荒い息を吐くのどかを見た。

「のどか? どうしたですか? 何かされたのですかっ!?」
「け、ないと………」
「?」

「すけ、ないと………ネギせんせー、
ネギせんせー、これから、ずっと、ずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとネギせんせーの事………」

「え、ええ、そうです、ネギ先生の事を、
私達がネギ先生の事を支えて、支え続けてっ」
669 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:20:24.83 ID:fABXASRb0

「おいっ!」

長谷川千雨が、のどかから離れた織莉子にざっと駆け寄る。

「本屋をどうかしたのかっ!?」
「世界の真実に近づいたのでしょう」

織莉子が、つらっと言った。

「彼女は強い娘なのですね。
それが彼女の世界の全てなら、
彼女は彼女の救世を貫くのでしょう。
私は、私の救世を成し遂げる」

通り過ぎる美国織莉子を、千雨は見送る事しか出来ない。

「のどかー、ユエー」
「ハルナっ!?」

聞こえて来た声に、のどかと夕映が振り返る。
そちらからは、手を振る早乙女ハルナと
にこにこ微笑む近衛木乃香が姿を現していた。

「朝倉から聞いてね、あんたらがこっちに来てるって。
それで、一っ飛びでこっち来てぶらぶらしてたんだけど、
あんたら見つけたって報せがあってさ」
「そうでしたか」

ハルナの説明に、夕映とのどかがははっと乾いた笑いを見せる。
670 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:22:26.63 ID:fABXASRb0

「で、用事は済んだ?」
「うん」
「そっか」

のどかの返事に、ハルナはニカッと笑った。

「じゃ、新京極で餡蜜でも食べてこっか」
「そうですね」

夕映がふっと笑ってハルナに答える。
そして、同じクラスの図書館探検部が四人、
合流してわちゃわちゃ楽しそうに歩き出す。
その様を眺め、千雨は呟いた。

「………これで、良かったのか?
ネギ先生? ………」

親し気な旧知のグループ、長谷川千雨の学園生活には、
少なくともつい最近迄は余り縁の無かったもの。
そんなものに背を向けた千雨が、つと天を仰いだ。

「神楽坂のいない世界。
死ぬ程世話が焼けそうだ」

ーーーーーーーー

「な、っ………」

素子が、瞬時にほむらとの間の距離を詰める。
ほむらの体は、素子の放った斬岩剣によって甚だしく吹き飛ばされていた。

(まともに食らった、いや、無策に突っ込んで来ただとっ!?)

「おいっ!? ………!?」

ほむらに覆い被さった素子は、次の瞬間、
ほむらの右手を掴んでいた。
素子は見ていた。カッ、と、見開かれた暁美ほむらの目を。
その時、近くの空が鋭く裂ける気を素子は察する。
671 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:24:34.77 ID:fABXASRb0

「う、ぐ、っ………」
「まだ動くっ!?」

ほむらの腕の力が、むしろ強まったのを素子は感じていた。
それでも、素子はほむらの腕の動きを簡単に封じ込め、
ざんっ、と、空から降りて地を踏みしめた脚を素子が見た時には
どんどんどんっ、と響く銃撃と共にほむらは首を横に折っていた。

「ゆーなさんっ!? これって、まさかっ!?」
「大丈夫、麻酔みたいなもん。
なんかしぶといから象でも倒れるって感じでやったけど、
マギカなら大丈夫でしょ」

「元の傷の方が問題だ、
マギカだから生きてはいるが、中身は見た目以上にまずい事になってる。
外傷が限界と言う事は、ソウルジェムも限界を超えるぞ」
「分かったっ!! ちょっと待ってよ転校生っ!!」

駆け寄ったさやかが明石裕奈と素子からの説明を受け、
慌てて対処を始める。

「魔法協会か?」
「はい。明石裕奈です」
「青山素子だ、助かったよ」
「って!? ちょっと、その腕っ!?」
「大した事はないさ………彼女に比べれば尚の事だ」

素子がぶらんと下げた左手の指先から伝い落ちる赤いものに裕奈が気づき、
座ったまま後ろを見たさやかも目を見開く。

「これ、か」
「エンゲージしては物騒だね」

さやかがほむらの右手薬指に気付き、
駆け寄った裕奈が、そこから伸びる折り畳み鎌刃に顔を顰める。
その手は、十分過ぎる血に染まっていた。
672 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:26:42.11 ID:fABXASRb0

「神鳴流には飛び道具は通用しない。
彼女は、私の斬岩剣に敢えて突進して来た」
「………自爆技?」

ほむらに向けて青い光を向けながらのさやかの呟きに
素子が頷いた。

「そっか………魔法少女は痛みを完全に消せる、
体が幾ら壊れても修復出来る………」
「優しいんだな」
「?」
「君が痛そうだ」

素子の言葉に、さやかは小さく頭を下げた。

「それじゃあ、素子さん腕出して」
「ああ、助かる。実際の所結構痛い」
「いや、色白美人ってレベル
通り越し始めてるから、早くしてあげて」

冗談ともなんともつかぬ言葉を交わしていた
三人が首を動かした視線の先で、低空飛行の火の玉と1BOXカーが
猛スピードの正面衝突ルートで突っ込んで来ていた。

間一髪、1BOXカーは奇妙な圧力で正面衝突を回避し、
明後日の方向へと消えて行く。
火の玉は一度お星様になる勢いで斜め上に上昇してから
車の後を追う様に戻って来た。
673 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:28:49.35 ID:fABXASRb0

ーーーーーーーー

「おい、大丈夫かっ!?」
「ええ、何とかね」

辛うじて痕跡を留めている露天風呂の中で、
佐倉杏子の声を聞きながら巴マミは頭を振っていた。

「なぁにやってんだよっ、
魔女の結界じゃあるまいに加減ってもん考えろ」
「考えてたら、今頃私はブロンズ像か肉片ね」

マミがキッと視線を向けた先では、
半ば煤の塊と化したフェイト・アーウェルンクスが
余り実戦向きではない従者である栞から
恭しく差し出されたスマートフォンを受け取っていた。

「我々が戦う理由は無くなったらしい」
「あらそう」
「まー、正直関りたくねー」
「賢明だな」

嘆息した杏子の言葉にフェイトの従者「焔」が言い、
マミは、鼻を鳴らして差し出した杏子の手を遠慮なく掴む。

マミの背後で、露天風呂が落下物の水柱を上げた。
少し離れた場所で、何かを言う間も無く突入して来た1BOXカーが
フェイトの右手の前で強制停車する。

マミがくるーりと振り返ると、
眼鏡の男が湯の中から顔を出す所であった。
マミの左手がちゃきっ、と、マスケットを掲げ、
杏子が槍を小脇に抱えた。
674 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:31:17.47 ID:fABXASRb0

「あ、どうも、お久しぶりです」

もう一度、露天風呂に水柱が上がった辺りで、
露天風呂に飛び込んで来た火の玉が、
リットル記号を描く様に上空に飛び上がり、
戻って来てようやく着地した。

「何やってんだ、お前?」

杏子が、しごく簡単な問いを発する。

「やぁーっと止まりました。大至急の到着の為に
無理くり魔力供給して来たもので。
あ、どうも、お久しぶりです」

今にも胃袋が引っ繰り返りそうな顔で
ふらふらと近づいて来た佐倉愛衣が
薄目を開けながらもぺこぺこ頭を下げていた。

ーーーーーーーー

「ひいいいっっ!!!」

さっき1BOXカーが突っ込んだ方向から戻って来た眼鏡男の姿に、
裕奈が悲鳴を上げて後ずさりする。

「余力があるならあっちも頼めるか?」
「りょーかい」

それに対して、素子は慣れた口調でさやかに頼む。
取り敢えず治癒魔法とグリーフシードでほむらの窮地を脱して
素子の治療も済ませたさやかもそれに応じて、
頭からダクダクダクと流血しながら接近して来る眼鏡男を迎えた。

「ああ、有難う」
「どうも」

成人過ぎの年上の男性のお礼にさやかもぺこりと頭を下げるが、
当たり前に治癒魔法を受けている辺り、
只者ではないともさやかは思う。
675 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:33:16.96 ID:fABXASRb0

「素子ちゃん、頼まれてたもの。
伝承の中の天変地異の記録を
その解釈から調べ直したら色々出て来たよ」
「そうか、有難う。助かったよ」
「ん?」

露天風呂を出てさやか達に合流しようとした杏子は、
隣のマミが浮かべた生温かい微笑みに気付く。
視線の先にいるのは青山素子、
先程露天風呂に突っ込んで来た眼鏡男に資料を渡され、
ぶっきらぼうに形式的なお礼を述べている様にも見えるが。

「確かに」

杏子も、ニッと笑みを浮かべた。
杏子の心の目にも、
素子の柔らかな微笑みが透けて見えていた。

「ん、んっ」

素子の咳払いを聞き、
マミは臍下丹田に根性を込めて真面目な顔を作る。

「そこまでですっ!!!」

杏子とマミが、最近聞き慣れた声に振り返る。
果たしてそこにいたのは佐倉愛衣で、
杏子達を追って来て、丸で箒に縋り付く様にしながらも
精一杯の大声を張り上げていた。

「ああ、久しぶりだな」
「お久しぶりです」

素子の言葉に、愛衣が頭を下げた。

「戦闘を中止して下さい、もう無意味です」
「中止以前に終了してるみたいだけどな」

杏子の言葉を聞き、愛衣は右見て左見てこほんと咳払いをする。
676 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:35:38.51 ID:fABXASRb0

「葛葉刀子先生を仲介に、桜咲刹那さんが正式に投降を申し出、
東西近衛家もそれを了承して計画は正式に中止しました。
「白き翼」から単独行動をとっていた
綾瀬夕映さん、宮崎のどかさんの離脱も確認。
これ以上の抵抗は無意味です」

「承る。御苦労だった」
「有難うございます」

素子の凛とした言葉に、愛衣が改めて頭を下げた。

「本当に、決着なのかしら?」
「そうだな」

マミの問いに素子が答えた。

「これから、近衛家と協議して改めて釘を刺す事になるだろうが、
組織として、近衛家として計画を進める事は最早不可能だ。
君達魔法少女には随分と迷惑を掛けて済まなかった」

「あなたは偉い、立派な方なのだと思います。
だから申し上げ難いのですが、この様な事は無い様にお願いします。
組織立って動いているあなた達を見て改めて思いましたけど、
魔法少女はそれぞれが自分達の為に願いを叶えて力を使っている本当の子ども。
私達だから未だ良かった事で、
今後、こんな事があれば今度こそどうなるか分かりません」

「耳が痛い。魔法、呪術に関わる者が申し訳なかった」
「いえ、こちらこそ生意気を言いました」

素直に応じて頭を下げる素子とそれに倣う愛衣を前に、
マミも頭を下げて応じる。
677 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:37:59.30 ID:fABXASRb0

「それから………」
「ん?」

「難しいかも知れませんが、桜咲刹那さんの事。
私から見て、その大半は本心だったのだと思います。
魔法少女を利用した、と言いながら、
私達を一時期の仲間と思って共に命を懸けた事も」

「大事な友達を助けるため、只それだけのために。
そのためならまどかや魔法少女に恨まれても
ルール違反で組織から追及されても、
あの真面目で優しい刹那さんがそれでもやろうとした。
それだけ大事な友達だったんだって」

マミの言葉に、さやかも続く。

「彼女にとっても、そうだったのかな?」
「詳しくは聞いてないけど、多分………」

素子が意識を失い横たわったままのほむらに視線を向け、
さやかもそれに同意した。

「分かっている………
刹那には、生まれた時から幾度も重いものを背負わせて来た。
刹那はそれに応えてくれた、本当にいい娘だ。
そんな刹那が、命懸け、その気高い心を汚してでも我が儘を通そうとした。
穏便に収めてくれた事、改めて礼を言う」

頭を下げる素子の言葉に、マミとさやかも礼で応じる。

「だが………」

ふと天を仰いでの素子の言葉に、マミ達は身構えた。
678 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:39:35.32 ID:fABXASRb0

「星が告げている」
「もしかして、陰陽術ですか?
星占いの?」

マミの言葉に、素子はふっと口元を綻ばせる。

「見滝原、なんだろうな」
「いい星?」

素子が呟き、マミの問いに素子は首を横に振る。

「大きく、禍々しいものが見滝原に迫っている。
神鳴流の歴史の中でも幾度か見られたものだ」

マミ達の表情が強張る中、
素子は、もう一度ほむらの顔を見た。

「………自分の願い。
未だ幼い身と心で、己の真実のために契約し、
命を懸けて魔法を使う少女達。
その道の先輩として、大人として人として、
不干渉、とばかりも言っていられないかも知れないな」
679 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:54:40.00 ID:fABXASRb0

 ×     ×

「あれっ?」

平和な放課後、麻帆良学園女子中等部エリアの一角で、
柿崎美砂は発見していた。

「ネギ君とアスナ?」
「あ、ホントだー」

隣にいた椎名桜子が美砂の視線の先を見ると、
確かに、ヨーロッパ風石畳の歩道を、
見知った可愛い男の子と長い付き合いのツインテール同級生が
仲良さそうに談笑して歩いていて、
そこにもう一人学ランの男の子も加わっている。

「ネギくーん、アスナー」
「あ、桜子さん」

桜子が快活に呼びかけて手を振ると、
ネギ・スプリングフィールドがそれに返答して神楽坂明日菜もそれに倣う。
「しばらく、アスナ、ネギ君」
「しばらく、柿崎」
「戻りました、留守にしてすいません」

ぱたぱたと合流し、美砂とネギ、明日菜が言葉を交わした。

「よっ、くぎみー姉ちゃん」
「くぎみー言うな」
「コタロー君も一緒に?」
「いや、さっきおうた所や」

桜子達と一緒にいた釘宮円と犬神小太郎の掛け合いを後目に
美砂がネギに尋ね、小太郎が説明した。

「ネギ先生、明日から学校?」
「はい、少ししたら又出張になりますが」

美砂の質問へのネギの返答に、
チア三人組はきゃーっとハイタッチする。
680 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:56:35.69 ID:fABXASRb0

「んー、又いなくなっちゃうのネギ君?」
「担任なのに申し訳ないです」
「まあー、ネギ君の事だからあんまり無理しないでよ」
「はい、有難うございます」

桜子、円とネギの会話をにこにこ眺めていた明日菜が、
右肩をぽんと叩かれて振り返る。

「これ、こないだメールで言ってたの」
「ありがとー、聞きたかったんだ。
ちょっと長く借りる事になるけど」
「いーよいーよ、こっちのちゃんとあるし」

明日菜が美砂からMDを受け取り、少しの間続く会話に、
明日菜もネギも他愛も無いと言う事の価値を噛み締めていた。

ーーーーーーーー

「ん? 夏美姉ちゃん?
ああ、帰ってる………買い物? ああ、分かった」

小太郎が、途中で手にしたスマホの通話を終える。

「ああ、ちょっと約束入ったさかい」
「分かった」
「行ってらっしゃい」

かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、ダビデ広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。

「?」

明日菜がネギの行先に視線を向け、くすっと笑みを浮かべる。
かくして、神楽坂明日菜は、メガロ饅頭が後頭部に炸裂し、
最強の魔法の英雄が絶好調のチサメパンチに宙を舞う夫婦漫才を
大汗を浮かべて眺めていた。
そして、明日菜はこちらを向いた長谷川千雨に笑って手を掲げ、
千雨は、ちょっと首を傾げる様にして、照れた様にはにかんだ。
そんな千雨を背伸びする様に眺めていたネギに千雨が向き直り、
千雨がぷいっとそっぽを向くのにネギがつつつと合わせて移動する。
681 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 03:58:06.83 ID:fABXASRb0

「アースナッ!」

そんな様子をにこにこ眺めていた明日菜が、
幼馴染の朗らかな声を聞いて振り返った。

「只今、このかっ!」
「お帰りアスナ」

振り返り、元気良く手を振った明日菜に、
木乃香も元気良く、それでいて何処か品よく返事を返す。

「只今、刹那さん」
「お帰りなさい、アスナさん」

神楽坂明日菜は、温かな微笑みに迎えられた。

「見滝原に微笑む刹那」 −了−
682 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 04:01:12.05 ID:fABXASRb0

==============================

―後書き―

冒頭でお断りした変更点は、季節の事です。
まどかマギカは初夏なのですが、
ネギま!側はストーリー的に夏休み明けが必須でしたので、
後者に合わせさせていただきました。

さて、何を思って本作に手を付けたのかと言えば

流石に是は、ちょっとばかし叛逆したくなりました

「ネギま!」と「まど☆マギ」の組み合わせは
何時かやってみたいな、とは思っていたのですが、
「UQ HOLDER!」12巻ラストに当たるものを連載で見た時に、
これは、行くしかないなぁアハハハハ、
と、こちらの勝手で完全に不退転スイッチが入った次第。

しがない二次書きとしても少々思い入れのある二つの作品で、
涙を呑んだ娘と、決して諦めなかったが為に悪を成し悪に成った娘、
そんな物語がぎくしゃくと連結して
いっぺんやってみたくなった、と言う事です。

若干の楽屋話をしますと、
「駒が不足しましたからね」と言うのは正にその通りで。
この流れだと動かせる人間は限られる。結果、やはり確実なのは
「全知全覚コンビ」と言う事で、おおよそ考えた人選でも直接的な部分で
駒が足りない。それで辿り着いたのが本作の布陣と言う事で。
それでよくよく考えて見ると、内容から言ってあのグループ以上の適任者は
実はいなかったと言う行き当たりばったりぶり。

思惑の絡むストーリーで、出来るのは帳尻合わせだけ、はい、マジすいません、
な感じでキャラを動かし話を進めて行く内に、
なんか折々読み返すと色んな人のage sage乱高下が想像以上の弾けっぷりで
我ながら大丈夫か? となったり、最終決戦では懐かし過ぎる原作の二次を
うろ覚えでやるとこうなる、と言うのを覿面にやらかしてしまったり。
683 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/21(土) 04:03:16.29 ID:fABXASRb0

本作を作ると決めた時には2017年夏迄には、と考えたりもしましたが、
この手の予定が当たった試しがない私が、色々と頭を抱えっぱなしの
凸凹進行と言う事になりまして。

そんなこんなでこちらがもたもたしている間に、
UQの原作の方が本命確定やらBADENDやらで
大変な事になってしまいましたが。

プロットは大方出来ていた筈なのですが、個人的事情もあって
本作最終回前に筆が止まり、UQ17巻分の原作に触れて
ようやく何かが腑に落ちての一挙投下作となりました。
何よりも、頭に浮かぶ微笑みの場面を文字にしようとする度に、
私の筆の力不足を痛感するばかり。
原作の偉大さを改めて仰ぎ見ながら、なんとかかんとかここまで漕ぎ着けた。
とにかく今回は、どう動く? 本当にそうするのか? 
二次としても把握出来ているのか? と、しまいまで迷いっぱなしで、
後はもう読む方が感じる事、と言うのが実感です。

少々お喋りが過ぎました。ここまで読んで下さった読者様と
勝手にお借りした原作に敬意と感謝を込めて。
縁がありましたら又何処かでお会いしましょう。

本作はここまでです。HTML依頼は折を見て。
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 15:14:47.40 ID:Mk+b7hTIO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト



SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します


概略1

現トリップ◆Jzh9fG75HAは

混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし

また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが

その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した



概略2

盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否

独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明

疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、

盗作のもみ消しを謀る


概略3

なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除

ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま

シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと




SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている

SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ


故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、

SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし

ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、

義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた

あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない



あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト


SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
685 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/07/23(月) 23:49:13.03 ID:KF09Niap0
やらかした………確認したら過去作でも同じミスってた………
執筆のラストランで糸が切れて勢いで入れ替わったなこれ………

訂正です。

>>680
==============================
かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、ダビデ広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。

かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、世界樹広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。
==============================

すいませんでした。

それでは今度こそ失礼します
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