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魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」 -
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1 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:29:08.51 ID:4428g3c50
魔王「えーーーー!?」
魔王「い、今から? 今からボクが魔王?」
女側近「さようでございます。貴方は先代魔王様のご子息」
魔王「いやいや……何かの間違いでしょ?」
女側近「間違いではありません。やはりご存知なかったのですね」
魔王「え? ボクの父親は昔死んだって母さんが…」
女側近「おそらく……下級魔族と関係を持った先代魔王様は、その事実を隠蔽したのでしょう」
魔王「え、先代魔王様は……今どちらに?」
女側近「お亡くなりになりました。ですので、貴方を迎えに来たのです」
魔王「……」
女側近「貴方がこの魔界を統一する魔王です」
魔王「ええええぇぇ……」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1492129747
1.5 :
荒巻@管理人★
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■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:20:24.33 ID:WpWM+xYMo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732227623/
■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:18:35.89 ID:Vr506SRJo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732227515/
■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:17:49.87 ID:t6dKBjAuo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732227469/
■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:17:17.71 ID:/UbTl3Hgo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732227436/
■ 萌竜会 ■ @ 2024/11/22(金) 07:16:22.54 ID:Un8tNByuo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732227381/
ミア「歩夢・・・辛かったな・・・」ナデナデ歩夢「ミアちゃん・・・うぅ・・・」 @ 2024/11/22(金) 00:59:47.53 ID:w7bhdEV4O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1732204787/
ちんぽいぬ @ 2024/11/21(木) 22:13:45.60 ID:BuRqeSctO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1732194825/
無くても死にはしないけどある方が安心する気がしないでもない @ 2024/11/21(木) 02:19:47.82 ID:SZfofcdIo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1732123187/
2 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:31:38.55 ID:4428g3c50
魔王(ボクは魔界の冥都・最下層に住む普通の魔族……弱いし、魔法も使えない。急に“魔王”になるって言われても)
女側近「では魔王様。城へご案内致します」
魔王「ちょ、ちょっと待って!」
女側近「はい?」
魔王「まだ状況が掴めてない……質問していい?」
女側近「どうぞ」
魔王「ボクが“魔王”ってことは、ボクがこの魔界で一番偉いの?」
女側近「その通りです」
魔王「ボク……背も低いし、ヒョロヒョロで、どう見ても“魔王”には見えないよ」
女側近「先代魔王様の遺言で息子である貴方が次期魔王です。魔王様の命令は絶対です」
魔王「キミも何でも命令聞くの?」
女側近「はい」
魔王「ボクが服を脱げって言ったら脱ぐの?」
女側近「かしこまりました」ヌギヌギ……
魔王「わ、わっ、いやいや! だ、ダイジョウブです…」
魔王(こんな美人で巨乳なお姉さんのおっぱいが見れちゃう…)
女側近「私が夜のお供をすることも出来ますし、城には専属のサキュバスも沢山おります」
魔王(ゴクリ……)
3 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:32:24.12 ID:4428g3c50
魔王「“魔王”って……何するの?」
女側近「魔界の統治。この世界の法は貴方です。すべて貴方が決める。そして、人間との戦争」
魔王「戦争……」
女側近「ご存知だとは思いますが魔界と人間界は戦争を続けております。先代魔王様が亡くなられた今、最大の危機です」
魔王「それって、先代魔王様は人間に殺されたってこと?」
女側近「いえ、病でございます」
魔王「信じられない……」
女側近「現在、先代魔王様が亡くなられたことは極秘事項です。城の者一部と幹部の者しか知りません」
女側近「人間に知られてしまえば総攻撃を受けるでしょうし、兵士達に知られれば軍の士気に大きく関わります」
魔王(ひぇぇ……)
女側近「長くは隠しておけません。明るみになる前に、“魔王”としての地位を確立してください」
魔王「いやいやいや……ムリでしょ」
女側近「他に質問は?」
魔王「無いけど……」
女側近「では、参りましょう」
4 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:33:15.91 ID:4428g3c50
■ 第1話 魔王即位 ■
5 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:34:17.56 ID:4428g3c50
ーーー魔界 冥都・最上層 黒魔城ーーー
女側近「こちらが玉座です。お座りください」
魔王「う、うん」
魔王(……ボクに出来るの?)
女側近「魔王様?」
魔王「ボク自信がないよ。ここに座っていいのかな?」
女側近「最初からなんでも出来るとは思っておりません。私が貴方を助けます。思った通り判断し命令して頂くだけです」
魔王「……」
魔王(……“魔王”になれば……あんなこと……こんなこと……)
魔王「よ、よし……」
魔王は玉座に腰掛けた。
女側近「魔王様……王位継承おめでとうございます」
魔王「ありがとう。とりあえず、がんばるよ」
女側近「それでは……さっそくですが」
女側近「先代魔王様が亡くなられて10日。すぐ対応しなければならない問題は“勇者”です」
魔王「まさか、もう近くまで来ている?!」
女側近「いえいえ、まだゲートを通って魔界へ来た人間はおりません」
魔王「そうか……じゃ、早いうちに倒してしまおう! 放っておいたらレベル上がっちゃうでしょ」
女側近「もちろんそのつもりですが……勇者パーティは現在12パーティ存在しています」
魔王「えーーー!?!」
魔王「 そんなに?! 1人じゃないの?!」
女側近「確認出来ているだけで12パーティです。実際はもっと存在と思われます」
魔王「えええぇ……勘弁してよ」
6 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:35:15.40 ID:4428g3c50
女側近「刺客を送りたい思いますがどうしますか?」
魔王「すぐ倒しに行かせよう! 強くなってからでは遅いもん」
女側近「かしこまりました。刺客はどうしますか? 魔王軍四天王、上位魔族が2人、中級魔族4人、これがすぐ動かせる戦力です」
魔王「あれ? 全部で10人? 12人の勇者に対して足りない……」
女側近「はい。敵は勇者だけではありません」
魔王「?」
女側近「人間界の王都や帝都といった“国”の王国軍とも戦争をしております。他の側近と配下はそちらの対応をしております」
魔王「えーーー」
女側近「勇者達の対応はどう致しますか?」
魔王「うーん。勇者達をレベルが高い順に四天王、上位魔族、中級魔族の順にぶつけよう」
女側近「人数的にレベル最下位の2人の勇者は放置になります。ちなみに最近旅立ったばかりのレベル1の勇者は光の魔法が使えるとか」
魔王「むむ……」
魔王(放っておくと驚異になるかな?……それに中級魔族を、レベル中級の勇者に当てるのは負けちゃうかも……)
魔王「よし、勇者はレベルの低い順に倒していこう。レベルの低い勇者に中級魔族を。レベル中級の勇者には上位魔族を。さらにそのうえの勇者に四天王をぶつけよう」
女側近「かしこまりました。人数的にレベルの高い勇者が2人放置になりますがよろしいですか?」
魔王「うん……まだ時間はある。その勇者達が片付いたら総攻撃しよう」
女側近「かしこまりました。勇者討伐をすぐ手配致します」
7 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:36:15.57 ID:4428g3c50
魔王「あとは……?」
女側近「次にエルフ族捜索について、次にゲート警備隊編成について、冥都下層の瘴気対策を…」
魔王(えーーーー。“魔王”って忙しい……)
夜。
ーーー黒魔城・自室ーーー
女側近「魔王即位初日お疲れ様でした」
魔王「ふぃー……疲れた。わからないことばかりだなぁ」
女側近「明日、配下の者を集めてご紹介致します。主力はほとんど勇者討伐に出ておりますが………」
魔王「ボクみたいなのが、新しい“魔王”なんてガッカリされそう」
女側近「……」
魔王「……」
女側近「ご紹介の前に装備を整えましょう。魔王っぽく」
魔王(見掛けだけではなく、実際も弱いからなぁ……)
魔王「……」
女側近「では明日もよろしくお願いします」
魔王「うん、おやすみ」
女側近「失礼します」
魔王「あ、まって」
8 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/14(金) 09:37:00.15 ID:4428g3c50
女側近「はい?」
魔王「あ、あの……」
女側近「はい?」
魔王「これから寝るわけで……さ、サキュ……」
女側近「はい?」
魔王「さ、さ、サキュ……」
女側近「サキュバスですか?」ジッ……
魔王「え、あ、ちちちち違うよ! サンキュー女側近さん! 明日もよろしく!」
女側近「はい、よろしくお願いします」
ガチャ。
魔王「……命令出来ない」ショボン
魔王「ボクに魔王はなんて出来る……の?」
■ 第1話 魔王即位 終 ■
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/14(金) 14:27:57.14 ID:s0vIS/jXo
エロいの書きたいなら、Rに行った方が良いよ?
SS速報R
http://ex14.vip2ch.com/news4ssr/
10 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:33:54.75 ID:vJfrknHw0
■ 第2話 ボクの装備:魔王 ■
11 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:35:57.87 ID:vJfrknHw0
魔王「ZZZZZzzz……うーまゃ」
魔王「……う、うーん朝?」
魔王(……ふかふかベット、気持ち良過ぎる)
ふかふか……
魔王(気持ちいい……ZZZzz……)
ふにふに……
魔王(気持ちいい……ん?ふにふに?)
ふにゃふにゃ
女側近「……ま、魔王様……」
魔王「zzz……ん?」パチリ
女側近「お……おはようございます。魔王様」ポッ
魔王「うわあああああ! ごめんごめごめごめごめん!」
女側近「お目覚めになりましたか?」
魔王「う、うん。一気に目が覚めた」
女側近「お召し物を失礼致します」
ヌギヌギ……
12 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:39:09.89 ID:vJfrknHw0
魔王「え、あ、いや……一人で着替えられるよ」アセ
女側近「いえ、遠慮なさらずに」
ヌギヌギ……
女側近「ズボンも失礼しますね」
魔王「あ、あっ……ちょ、あーー」
女側近「……」
魔王「……ッ(恥ずい)」
女側近「お目覚めは如何でしょうか?」
魔王「す、すごくいいよ。朝日が気持ちいい! 前住んでた最下層はほとんど日が当たらなかったから」
女側近「それはそれは。これからは日の光で起きることができますよ。では朝食をお持ち致します」
メイド「失礼致します」
ガラガラ……
メイド「本日の朝食、ジャミラスのパストラミとズッキーニャのサンドイッチ、キメラ卵のスクランブル、お化けきのこのポタージュでございます」
魔王(おおお……朝から豪華過ぎる)
パクッ
魔王「お、おいしいーーー!」
女側近「では本日のご予定ですが……」
魔王(“魔王”って幸せ……)
モグモグ……
13 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:41:43.57 ID:vJfrknHw0
ーーー黒魔城・武器防具庫ーーー
魔執事「初めまして魔王様。身の回りのお手伝いをさせて頂く魔執事っつーもんです」
魔王「よ、よろしく」
女側近「彼も側近の一人。遠慮無くご命令を。口は悪いですが腕はあります」
魔執事「チッ……姉御、一言余計だっつーの」
女側近「他にもう1人の側近“魔伯爵”がおりますが、現在人間界にて前線の指揮を一任させております。本日ご紹介することが出来ませんが、またいずれ」
魔王「うん」(側近は全部で3人かぁ)
女側近「魔執事、とりあえず魔王様の装備を見繕ってもらえるかしら」
魔執事「ふん、もう準備してあるっつーの」
ガシャガシャ……
魔執事「これが特注で造った鎧」
魔王「おお……黒くゴツゴツして全身に死角なしって感じの鎧だね」
魔執事「魔力を強化するオリハルコンをふんだんに使って、魔石を埋め込み装飾。眠り、痺れ、毒、呪い、あらゆる属性の耐性がある最強の鎧っつーわけです」ニヤ
女側近「魔王様、ご試着を」
魔王「うん」
女側近「失礼します。お服を脱がさせて頂きますね」
魔王「あっ」
ス……ヌギヌギ……
魔王(一人で着替えられるんだけどな)アセ
ガシャガシャ……
14 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:44:17.95 ID:vJfrknHw0
女側近「うん、これでよし」
魔王「う……」
魔執事「お、いいじゃん」
女側近「そうですね。ちょっと小柄ですが全身甲冑なので少し“魔王”っぽくなったんじゃないでしょうか?」
魔王「あ、あの……」
魔王「お、重過ぎるんだけど」
女側近「……」
魔執事「……」
魔王「ま、まともに動けないよ。戦うどころか普通の生活も出来ないよ」
女側近「それは……どうにもならないですね」アセ
魔執事「オリハルコンは重いからな」
魔王「この装飾されてる魔石だけ外して装備できないかな?」
魔執事「それじゃ魔力強化の特性はなくなっちまいます。オリハルコンを身に纏わねぇと」
魔王「いいよ、ボク魔法使えないから魔力を強化しても意味ないもん」
魔執事「は?! 魔法使えない?」
女側近「“無属性”という……体質ですね。非常に稀な体質です」
魔王「生まれつきみたいで……チカラも少ないし、魔力はからっきし」
魔執事「マジかよ……」
女側近「魔石だけでは……せめてマントと肩当てだけでも装備しましょう」
魔王「うん、それなら大丈夫かな」
ガチャカチャ……
魔王「どうかな?」
魔執事「……(なんか不自然)」
女側近「……(かわいい)」
15 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:45:44.06 ID:vJfrknHw0
魔執事「つーか……チカラもなくて、防御力も低いし、魔法も使えないんじゃ……マズくないっすかね」
女側近「……武器なんですが」
魔王「う、うん……どの武器も扱いに自信ないんだけど」
女側近「“魔剣”をご存知でしょうか?」
魔執事「あの……伝説の魔剣か。 魔王様のみが使える最強の剣」
魔王「そ、そんなのあるの?」
女側近「はい、最下層で育った魔王様に戦闘力が無いのは初めから分かっていました」
女側近「しかし、この剣があれば大きなチカラを得ることができます」
魔王「チカラか……うーん」
女側近「魔剣はここにはありません。手に入れるには……」
魔王「とりあえずいいよ。使いこなせないし」
魔王(戦いとかボクには出来ないよ)
16 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:47:22.28 ID:vJfrknHw0
−−−黒魔城 玉座の間−−−
女側近「それでは魔王様。幹部の者達をご紹介致します」
魔王「ボクなんかが上官なんて、どう思われるんだろう……不安だ」
女側近「自信をお持ちください。貴方は紛れもなく“魔王”なのですから」
魔執事「しかし、姉御。魔王様の戦闘力については……」
女側近「ええ。とりあえず部下達には伏せておきましょう。血の気の多い輩も沢山います」
魔王「ボクが弱いのは隠さなきゃいけないのか……嘘かぁ……苦手」
魔執事「ハッタリも立派な武器。覚えといて損はないっすよ」
女側近「少しの間です。王として認められれば隠す必要がなくなります」
魔王「うん……」オドオド
魔執事「魔王様、まずは玉座に寄りかかって」
魔王「うん? こ、こう?」
魔執事「そうそう、次にポカンと開けてる口を閉じて」
魔王「ん……」
魔執事「次は真顔で。目を細めて遠く一点を見る」
魔王「……(こ、こうかな?)」
魔執事「おし、なかなか“魔王”っぽい。後は何言われても『うむ』のひと言だけしか返事はしないっつーことで」
魔王「うん」
魔執事「違いますっ『うむ』っすよ」
魔王「う、うむ」
女側近「幸い魔王様からは魔力を感じませんので、強さを悟られることはないでしょう」
魔王「うむ(魔法使えないからね)」
……
17 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:49:05.95 ID:vJfrknHw0
女側近「入れ」
女側近の合図で部下達が入ってくる。皆ひと言ずつ挨拶していく。
魔族兵長「はじめマして、マおう様。城の警備を担当しております魔族兵長ですンマー。よろしくンマ」
魔王「うむ」
黒騎士「魔王軍兵士長、黒騎士です。自分は魔王様の為に人間を斬ります」
魔王「うむ」
黒魔術師「ワシは魔王軍魔道隊長の黒魔術師。担当は……」
魔王(えーーーーー! いっぱいい過ぎて覚えられないって)
魔王(しかもずーと真顔で顔の筋肉が……)ピクピク
魔王「うむ」ピクピク
魔王(顔が疲れる……)
魔王「うむぅ」ピクピクッ
魔憲兵「私は魔王軍諜報部隊……」
魔王「うにゅー」ビクビクッ
……
魔王の前に十数人の魔族幹部が跪く。
女側近「魔王様、以上が魔王軍幹部でございます。以後お見知りを」
魔王「うむ(やっとおわるーーー)」
18 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:51:21.92 ID:vJfrknHw0
女側近「では、皆も揃っているのでこのまま幹部会議に移る」
幹部達「「「ハッ」」」
女側近「まず、勇者討伐についてだ。新魔王様の決定により即時討伐作戦を開始する」
女側近「人間達の恐ろしさは数とその成長力だ。魔族より寿命が短い人間だが強くなるのもあっという間だ」
女側近「勇者達は放っておくと、わずか数年たらずで脅威となる。早いうちに倒してしまおうという判断だ」
魔王(『勇者を倒してこい』なんて簡単に命令したけど、命をかけて戦うのは皆なんだ)
女側近「次に反乱組織『黒のサーカス団』の様子について……」
魔王(うわーーー会議ながぃ。よくわからないことばかりだよ。あとで女側近さんに全部教えてもらわないとなぁ)
……
……
……
女側近「以上です。魔王様」
魔王「うむ(やっとおわりか……)」
19 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:54:04.83 ID:vJfrknHw0
黒魔術師「魔王様……」
魔王(えーーー?まだ何かあるの?)
女側近「なに? 黒魔術師」
黒魔術師「ワシを含め皆、新しい魔王様にお初にお目に掛かりました」
女側近「それが?」
黒魔術師「先代魔王様のご子息でありながら、貴方様は今までどちらにいらっしゃったのですか?」ジロッ
魔王(なんて鋭い眼差し。ボクのことを不信に思っている)
女側近「先代魔王様の意志によって城を離れていた。黒魔術師……身分を弁えろ。魔王様に殺気を向けるなど死にたいのか?」
黒魔術師「姐さんには聞いとりませんわ。魔王様、お答えください」
魔王「うむ……」
魔王(不信に思うのは当然かもしれない。突然、知りもしない人が上官になり命令してきたら……任務に命を懸けれない)
女側近「上官の私が貴様には伝える必要がないと判断した。死にたくなければ下がれ」
黒魔術師「わかりましたよ……」
魔王「いや……」
黒魔術師「!」
魔王「ボクが答えるよ」
魔執事「魔王様っ!」
20 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:56:06.40 ID:vJfrknHw0
魔王「昨日までは最下層に住んでいたよ。それが先代魔王様の意志なのかどうかは知らないけど」
魔王「皆が不信に思うのは無理はないよ。ボクのことを何も知らないんだもん、当たり前だよ」
女側近「魔王様……」
魔王「今は信用してくれなくていいよ。ボクの仕事ぶりを見て、魔王として相応しいかどうか判断してほしい」
黒魔術師「……」
魔王「だけど信用していないのはボクも同じだよ。みんなのこと知らないし。ボクも皆の仕事を見させてもらうからね、よろしく」ニコッ
女側近「……」
魔執事「……」
黒魔術師「わかりました……大変無礼な態度、失礼致しました」
……
−−−黒魔城 自室−−−
魔王「ふぅ……疲れた。魔執事さん、喋っちゃったね、ごめん」
魔執事「いえ……案外堂々としていたので大丈夫かと」
魔王「案外ね」アセ
女側近「魔王様、やはりレベルの低さは隠してください。少なくとも魔剣を手に入れるまでは」
魔執事「だよな。バレたら命狙われかねないっすよ」
魔王「う、うん。わかったよ、ボクだって死にたくないもん」
魔執事「先代魔王様の血を引いていながら魔力がないなんて……なんなんだ?」
女側近「非常に稀ですが、そういった障害を持った魔族が生まれることがあるそうです」
魔王「……」
21 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/15(土) 02:57:35.03 ID:vJfrknHw0
女側近「先代魔王様は沢山の方と性行為を行っておりましたが……」
魔王「せっせせせ……性行為??!」
女側近「私が知る限りご子息は貴方一人です」
魔執事「まぁ魔族は簡単に身篭らないしな。人間はすぐポンポン生まれるらしいっすよ」ハハッ
女側近「あえて子を作らなかった、唯一の貴方も隠していた」
女側近「魔王様の魔力は……先代魔王様によって封印されてるのかもしれません」
魔王(ボク……本当は魔力がある? 魔法を使えるの?)
魔執事「本当は先代クラスの魔力を持っているっつーこと? そいつを引き出せれば」
女側近「先代魔王様のいない今……どうすればいいのか」
魔執事「……エルフの薬で潜在魔力を引き出すものがあったような??」
女側近「エルフの薬なんて簡単には手に入らないわ」
魔王(先代魔王様はなんで子を作ろうとしなかったのだろう? なぜボクを最下層へ隠したのだろうか? 母さんは知ってるのだろうか)
■ 第2話 ボクの装備:魔王 終 ■
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 05:13:29.26 ID:MCetTX2uO
うむ
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 06:33:45.87 ID:YO0O/eybO
うむおつ
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 15:18:00.20 ID:jgjuqg9xo
よいねおつ
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/15(土) 21:58:17.46 ID:AovUiqs70
乙
26 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:24:05.96 ID:tYOIAm8eO
■ 第3話 社畜、いや魔畜 ■
27 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:26:49.21 ID:tYOIAm8eO
数日後……
魔王「あああああ、忙しい!」
女側近「魔王様、大丈夫ですか?」
魔王「なんだよ、遊ぶ時間なんてないじゃん……」
女側近「まだ王に即位したばかり、慣れるまでは仕方ありません」
魔王「うぅ……仕事遅くてごめん。女側近さんに経済関係の仕事すべて丸投げになっちゃってるよね」
女側近「いえ、他にも部下を使えたら良いのですが………皆手一杯です」
魔王「……まだ仕事を分かってないから、指示もできないよ」
女側近「勇者ですが…」
魔王「全員倒した?」
女側近「まだ3人倒せていません。上位魔族が一人やられてしまいました」
魔王「えーーーー……なんだよそれ、圧倒的なチカラの差があったのになんで負けちゃうんだよ」
女側近「“奇跡”というものですね。時々、信じられないような展開で勇者達に有利にことが進むことがあります」
魔王「時々って……めったに起こらないから奇跡って言うんじゃないのー」
女側近「ギリギリまで追い詰めても、突然ひっくり返されたりします」
魔王「まぁでも3人除いて他の勇者は倒したってことか。レベルの高い勇者を2人放置してたから、今は計5人か。すぐ刺客を向かわせよう」
女側近「いえ、新たに4人の勇者が現れたと報告がありました。計9人ですね」
魔王「えーーーー!」
28 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:28:51.88 ID:tYOIAm8eO
魔王「 現れたってなんだよ……ゴブリンじゃないんだから、いきなり現れる?」
女側近「正確には新たに4人の勇者を確認したということです」
魔王「今までいたけど気が付かなかったってこと?」
女側近「そうですね、しかし内二人は故郷を旅立ったばかり。仲間も少なくレベルも低いです」
魔王「人間ってそんなにしょっちゅう勇者になるの?」
女側近「皆戦争で魔族に恨みを持っていますから。“勇者”と名乗れば勇者ですし、名乗らなくても実質“勇者”もいます」
魔王「どゆこと?」
女側近「なんらかのキッカケで戦争に巻き込まれ、魔族と戦うことになった者…世界を救おう!っなどと言わなくても実質勇者と同じことをやってる輩もいますね」
魔王「そもそも勇者って何を持って“勇者”というのさ?」
女側近「基本的には魔王である貴方を倒す為に旅をしている者。つまりは戦争を終わりするのが目的です」
魔王「ついでに平和の為に人助けとかしちゃうんだよね」
女側近「元ソルジャーとか、傭兵、シーフ、召喚士、空賊など…実際の職業が違くても、やってることが勇者であれば魔王軍にとっては“勇者”です」
魔王「“勇者”はボクを倒して世界を平和にするのが目的……じゃ“魔王”の……ボクの目的はなんだろ?」
女側近「それは貴方が決めることです。先代魔王様の目的は人間界の征服でした」
魔王「ボクの目的……」
女側近「何か世の中で変えたいことはありませんか?」
魔王「うーん」
魔王(“魔王”が世界平和とか言っちゃいけないのかな……)
29 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:32:46.91 ID:tYOIAm8eO
魔王「えっと、ボクがここへ来る前に居た冥都の最下層なんだけど……治安があまりよくなかった」
女側近「スラムに一番近い区画ですから」
魔王「地元の為にも、なんとか出来ないかな」
魔王「それにつきましては、先代魔王様も対策を練っておられました」
魔王「どんな?」
女側近「スラムを焼き払うと……もうほぼ準備は出来てます」
魔王「えーーー?!?! 」
女側近「実行しますか?」
魔王「まってまって! それ根本的な解決にならないよ」
女側近「どういうことでしょう?」
魔王「今スラムを焼き払ったとして……弱肉強食のこの魔界じゃ再びスラムが出来るだけ」
魔王「この魔族の価値観『弱肉強食』弱い者は切り捨てるって言う考え方にこそ、問題があると思うんだ」
女側近「……」
魔王「すぐその作戦を中止、計画を放棄してください」
女側近「かしこまりました」
魔王「お、おかしい? ボクの考え」
女側近「いえ……貴方が王です。魔王様の命令は絶対です」
魔王「……上官には納得いかなくても従うの?」
女側近「魔王様の言うことはすべて納得します。なんであろうと」
女側近「『絶対的上下関係』と『弱肉強食』。これは魔界の根底的な考えです。これこそがこの魔界に安定をもたらしています」
魔王「……」
30 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:34:55.78 ID:tYOIAm8eO
女側近「人間の世界には王が何人もいるそうです。国が沢山あり、国同士で殺し合いする。しっかりとした上下関係がない故の、破綻した社会が人間社会。甘い考えは同じような破綻を生みます」
魔王「“絶対的上下関係”と“弱肉強食”って“魔王”が魔界で一番強い前提の理論だよね……」
女側近「その通りです。チカラ無き弱き王の命令は聞き入れられないでしょう」
魔王「ボクには闘うチカラがない……」
魔王「この理論では“魔王”を続けることができない」
女側近「……。ですから魔剣が必要なのです。ただ」
魔王「ただ?」
女側近「王とは、戦闘力だけが“強さ”ではありません。統率力、指導力、先導力など、必ずしも戦闘力が必要とは限りません」
女側近「国をまとめ上げるには一人ではどうにもなりません。部下をいかに上手く使うかはとても重要です」
女側近「魔王軍には、力に任せて恐怖で部下を従わせる指揮官もいれば、人柄や素晴らしい指示や命令で部下から慕われる指揮官もいます」
魔王「“強さとは戦闘力だけではない”……なるほど」
魔王(王としてやり方は色々ある……)
女側近「しかし、“どんな王でも支持しない者達が増えた場合…反乱が起るでしょう”」
魔王「……」
女側近「貴方は王ですが、今は王であるというだけです。無茶な命令ばかりしていれば、誰もついてきません」
魔王(地位、資金、労働。この魔界は完全縦社会。下に行くほどキツくなる。あまりにも不公平じゃないのかな?)
魔王(でもこの構造が安定をもたらしているのか? 平等な世界で安定した世界を作れないのだろうか?)
31 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:37:10.07 ID:tYOIAm8eO
夜。
ーーー黒魔城・転移魔法陣ーーー
魔王「人間界へ?」
女側近「はい、もう1人の側近である“魔伯爵”から私にきてほしいと」
魔王「魔伯爵さんは人間界の魔王軍の指揮官だったね」
女側近「はい、人手がいるようで。すぐ戻りますが……大丈夫でしょうか?」
魔王「うん。仕事なんだから、気にしないでよ」
女側近「申し訳ありません……」
魔王「大丈夫だって、行ってきてよ」
女側近「何かあればすぐ戻ります。明日のスケジュールは書斎に置いてあります」
魔王「わかったよ、心配しないで」
女側近「印鑑は二番目の引き出しに……寝る前に歯磨きを……」
魔王「女側近さん、母親じゃないんだから」ハハッ
女側近「失礼しました。では行って参ります」ビュゥゥッン
女側近は転移魔法陣で飛んで行った。
32 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:38:39.58 ID:tYOIAm8eO
ーーー自室ーーー
魔執事「失礼しまっす。魔王様、寝巻きをこちらへ置いとくっすよ」
魔王「うん、ありがと」
魔執事「姉御が留守の間は、俺が仕事を引き継ぎます」
魔王「うん、よろしく」
魔執事「明日、8時に起こしに来ます。おやすみなさいませ」
魔王「うん、おやすみー」
魔執事「あ、魔王様。どんなのがお好みっすかね?」
魔王「うん? 何が?」
魔執事「もちろん女の好みっすよ」
魔王「え? 女性の??」
魔執事「清純派、ロリ系、お姉さん系、熟女系、S系……巨乳など体型とかでもいいですけど」
魔王「あ、え、その……性格がいい子なら特にこだわりは無いけど? なんで?」
魔執事「かしこまりました。それでは」
魔王(……ふぁわぁ眠)
ガチャ……
魔少女「失礼しまーすっ」
魔王「うわ!」
魔少女「あれ?」
魔王(な、何この魔女っ子)
魔王「だ、だれ?」
魔少女「アンタこそ誰よ? てか、まおー様は?」
魔王「ボクが魔王だけど……」
魔少女「はぁ? 何言ってんのよ。アンタみたいなガキがまおー様な訳ないでしょ」
魔王「が、ガキってキミも子供じゃん」
魔少女「しつれーい! ウチはガキじゃないよっ! おっぱいだって少しはあるんだから!」プンプン
魔王「わ、わっ」アセアセ
33 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:40:17.75 ID:tYOIAm8eO
魔少女「まおー様は? ウチは夜のお相手する様に言われてきたの」
魔王「夜のお相手って……まさか君は」
魔少女「ん? ウチはサキュバスの魔少女。まおー様と、しに来たの」
魔王「えーーーー!」
魔少女「てか、アンタ誰?」
魔王「あの……だから新しい“魔王”です」
魔少女「え……だって魔力なんにも感じないし、明らかに弱そう」
魔王(弱いのバレちゃいけないんだっけ? 魔執事さん直伝のハッタリ!)
魔王「き、キミごときに魔力を悟らせるほど、その辺の魔族と一緒にされては困るよ」
魔少女「え? マジ? たしかに全く魔力を感じないなんて初めて……」
魔王「ここは“魔王”の部屋だろ? ここに一人で立ってるボクが魔王以外なんだって言うのさ」
魔少女「……うそでしょ、し、失礼しました」
魔王「いや、わかってくれればいいよ」
魔少女「ではご奉仕させて頂きます」
魔王「え、あ、いや、あの……」
魔少女「失礼します」
ヌギヌギ……
魔王「あ、ちょ、えっと、あの……」
魔少女「ジッとしてください、まおー様。服が脱がせません」
魔王「わわわわっ」
魔少女「ふふ、まおー様かわいい…………♫」
魔王「〜〜っ!」
魔少女「ふふ、全部ウチに任せて☆」
ポロン……
魔少女「いただきます☆」
バタンッ!!
魔執事「魔王様っ!!」
34 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/16(日) 00:41:33.12 ID:tYOIAm8eO
魔王「うわあああああっ!」
魔執事「大変です!」
魔王「ちょちょちょ……ちょっと! ノックぐらいしてよー!」
魔執事「大変です!!」
魔王「な、何があったの?」
魔執事「この城に侵入者っす。勇者が現れたと!」
魔王「え……」
魔王「えーーーーー!」
■ 第3話 社畜、いや魔畜 終 ■
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/16(日) 00:42:46.58 ID:4nwhdEb6o
このSSすごく好きなんだけどここまで来たらR行きだと思う
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/16(日) 01:50:24.26 ID:bdkASgji0
乙
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/16(日) 10:09:02.10 ID:eh96B47O0
>>35
ナニをポロンしたかまでは書いてないからセーフだべ
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/16(日) 17:50:36.65 ID:YupiuKcsO
乙
面白い
39 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:14:19.11 ID:CINI2/AR0
■ 第4話 初めてのラストバトル! ■
40 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:18:24.33 ID:CINI2/AR0
ーーー黒魔城・玉座の間ーーー
魔王「誰もゲートを通ってないって……魔界には人間は来てないって聞いたんだけど」アセ
魔執事「人間界へのゲートを警備している兵からは異常無しっつー連絡があったんすけどね」
魔王「じゃなんで??」
魔執事「わかんないっすけど、この城の地下で多数の兵がやられ……目撃者によると人間のパーティだったと」
魔王(ひえぇぇ)
魔執事「地下の水路から侵入したようで。現在1Fロビーの辺りまで来ています」
魔王「け、警備はどうなってるの?」
魔執事「おい、デブ兵長。魔王様に説明を」
魔族兵長「ンマ……2Fに副隊長と3Fにドラゴン、この部屋の前は儂が警備するンマ」
魔王「え、この魔族本拠地に警備がそれだけ???」
魔執事「皆、上位魔族は他の勇者討伐の為、人間界に行ってます。ご自身で命令したんでしょーが」
魔王「うわーそうだった……」
魔族兵長「マおう様、安心してくだされ。皆やられても儂がここを通さンマ」
魔王「ちょっと! 副隊長さんも兵長さんもドラゴンも一緒に戦ってよ。なんで分散して警備するの?」
魔族兵長「な、なにを言ってるんマ。儂が自分より階級の低い者と一緒に戦ったら、示しがつかんマ」
41 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:20:18.42 ID:CINI2/AR0
魔王「えーーーーー……だって、勇者パーティは4人とかでしょ? リンチにされるって」
魔族兵長「それでも共闘などはありえんですンマ。2Fは副隊長が守ってくれマす。それを信じるだけンマ」
魔王(一緒に戦った方が断然有利なのに……手を取り合うってことが、この弱肉強食の魔界じゃありえないことなのか)
魔王(“魔王”の権限で命令して、共闘させることも出来るけど……プライドを傷つけてしまう)
魔王「わかったよ……配置について」
魔族兵長「ンマー!」
魔少女「ウチはどうすればいい?」
魔執事「おめーいたのか、引っ込んでてくれ」
魔王「隠れててよ、あ、それと……」
……
42 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:22:08.70 ID:CINI2/AR0
伝令「勇者パーティ2Fを突破! 副隊長がやられました! 現在3Fでドラゴンと交戦中です」
魔王(うわーヤバイよヤバイよ……)
魔執事「ご安心を。デブ兵長がやられても俺がいます」
魔王「え? キミも戦えるの?」
魔執事「当然っすよ。側近ですから」
魔王(女側近さんがいないのが不安……大丈夫かな)
魔執事「姉御にはすぐ戻ってこいと伝達してあります」
魔王「!」ビクッ
魔王「よく考えてることわかったね……」
魔執事「ふん」
……
伝令「勇者パーティ3Fを突破! すぐ前のフロアまで来ます!」
魔王「あわわ……」
魔執事「デブ兵長は簡単にはやられません。パワーだけは魔界一。パワーだけは」
魔王「……ちょっと覗いてみよう」
ガチャ
43 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:24:11.72 ID:CINI2/AR0
魔王「……」ソォ……
魔族兵長「ンマー!! 勇者共よ! ここは死んでも通さンマ!」
ドゴォォオオッ!
勇者T「くっ、なんてパワーだ……」
魔法使いA「魔王まで後少しだ! 踏ん張れっ!」
女僧侶A「ここまで来て負ける訳にはいかないわ!」
戦士A「へっ……勇者よ。てめぇには魔王を倒す義務があんだ。ここは俺らに任せて先を急げ」
魔王(えーーーー!?)
魔族兵長「ンマー! 通さん!」
戦士A「おりゃああっ」
魔法使いA「はああああっ」
ガッキィインッ!
女僧侶A「勇者っ! 今のうちにっ先へ!」
魔族兵長「ンンンンンーマ!」
勇者T「かたじけないっ」シュッ
魔王(ええーーーーー!)
魔王「魔執事さん! もう来ちゃうよ!」
魔執事「魔王様、少しどいてもらえますかね?」
魔王「へ?」
魔執事はネクタイをとると玉座に座り、足を組みニタリと笑う。
44 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:26:26.28 ID:CINI2/AR0
ダダダッ……バタンッ
勇者T「魔王っ!! ついに追い詰めたぞ!」
魔執事「ふん……威勢がいいな、人間」
勇者T「きさまが魔王かっ!」
魔執事「ああ。この俺が魔界の王っつーわけだ」
勇者T「貴様を倒し戦争を終わらせる! 死んでいった仲間達の仇だ!」
魔王(魔執事さんが……影武者。勇者はボクもいるのに見向きもしない。魔執事さんの方が全然“魔王”っぽい)
魔執事「ふん、ボロボロじゃねぇか。たった一人で戦うなんて、そんなに死にたいのか」
勇者T「一人じゃない! 沢山の仲間たちの絆があって、ここへたどり着けたんだ」
勇者T「みんなの為にも僕は負ける訳にはいかない!」
魔執事「絆だと? くだらん。雑魚が集まっても雑魚は雑魚っつーの」
勇者T「魔族には仲間が分からないだろう? 人間は手と手を取り合う」
魔執事「何度も言わすな、くだねぇ」
勇者T「さぁ! 行くぞ魔王!」
キンッ!
キンッ!
ドーンっ!
魔王(ひぃぃ……これが魔王と勇者の戦い。でも……)
魔執事「うらぁっ」ゴォォォオ!
魔執事は爆炎魔法を放った!
勇者T「ぐああああっ」
魔執事「弱ぇっつーの」
45 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:28:30.37 ID:CINI2/AR0
魔王(手負いの勇者一人じゃ、魔執事さんに敵う訳ない……もう瀕死だ)ホッ
勇者T「くそっ」
魔執事「さぁ止めだ」
勇者T「まだだっ」
勇者Tは完全回復薬を使った!
キュイイイン
勇者T「よし」
魔王(えーーーー! 傷も魔力も完全回復?!?!)
キンッ!
キンッ!
ゴォォォオ!
勇者T「ぐああああっ」
勇者Tは完全回復薬を使った!
キュイイイン
勇者T「まだだーっ!」
魔執事「小癪な。何度でも殺す!」
魔王(えーーーーー! また?!)
46 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:29:44.36 ID:CINI2/AR0
キンッ!キンッ!キンッ!
ガキィイィィッ!
魔王(瀕死にしても回復しちゃう。でも圧倒的に魔執事さんの方が強い……勇者の回復アイテムが尽きた時が終わりだ)
ドオォオンッ!
勇者T「くそっ……つよい……」
魔執事「ハハハッ……ようやくアイテムも尽きたようだな」
勇者T「だめだ……勝てない……」
魔執事「トドメだ。さよなら勇者よ」
魔王「……」
勇者T「くそぉぉ……」
『あきらめるなっ!』
『勇者っ!』
『キミのチカラはそんなもんじゃないわ!』
魔王「!」
魔執事「な、なんだ? 声が聞こえる……」
47 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:31:08.72 ID:CINI2/AR0
勇者T「こ、この声は……親父、師匠、姫……」
『アニキにチカラを送るッス』
『てめぇには貸しがあるからよ』
『私たちの魔力を使って!魔王を倒してっ!』
勇者T「人間界のみんな……」
キュイイイン……
勇者Tのステータスが爆発的に上昇する。
勇者T「チカラが……溢れてくる」
魔王「ええーーーーーっ!」
魔執事「チッ……」
勇者Lv99「くらえっ!!」
ザンッ
勇者Lv99は魔執事に会心の一撃!
魔執事「ぐあああああっ」
魔王「な、なんて強さ……」
勇者Lv99「はあああぁぁっ!」
勇者Lv99は雷の魔法を放った!
バリバリバリィィッ!!
魔執事「ぎゃああああああっ!」
魔王「なんてこと……」
魔執事「く、くそ……」
勇者Lv99「魔王……死んでくれ、戦争を終わりにする」
魔王(魔執事さんがやられてしまう……どうすれば!?)
48 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:32:58.81 ID:CINI2/AR0
勇者Lv99「やああああっ」
魔王「魔執事さんっ! 退却します!」
魔執事「はぁ?!」
魔王「逃げましょう! ついて来てっ!」
勇者Lv99「え? え?」
魔執事「“魔王”が逃げる……だと?!」
魔王「命令です!」
魔執事「くっ……」
ダダダッ……魔王達は逃げ出した。
魔王「はぁはぁ走ってっ!」
魔執事「く……無様だっつーの」
魔王「勇者はパワーアップしていて勝てません。しかし、時間が立てば元の勇者に戻るかも……」
魔執事「くそっ追ってくる」
魔王(勇者のパワーアップさえ解ければ勝てる)
ダダダッ……
魔執事「はぁはぁ……逃げるったってどこへ」
魔王「こっちです」
勇者Lv99「待てぇ魔王っ!」
魔執事「お、追いつかれる……」ダダダッ
49 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/17(月) 02:34:51.13 ID:CINI2/AR0
魔王「はぁはぁ……」
勇者Lv99「行き止まりだ! 追い詰めたぞっ」
魔王(パワーアップしたままだ……これでは勝てない)
勇者Lv99「……ここで終わらせる」
勇者Lv99「やああああああっ!!」
魔王「今だっ! 魔少女さん! 転移魔法陣起動っ!」
魔少女「はいやっ☆」
パアアアアアァァァ……
勇者Lv99の足元に魔法陣が浮かび上がる。
勇者Lv99「な?!?」
バヒュゥンッ……
勇者Lv99は転移魔法陣で魔界の彼方へ飛んで行った。
魔王「ふぅ……ありがとう。魔少女さん」
魔少女「ううん。ウチはまおー様の指示に従って逃げる準備してただけ〜☆」
魔執事「……」
魔王「あぶなかった」
魔執事「逃げてるフリをして、この魔法陣の部屋まで誘導したってっつーことですか……?」
魔王「いや……フリっていうか実際逃げてたし、パワーアップが解けてたらキミに倒してもらおうと思ってたんだけど」
魔執事「こんな戦い方……負けと変わらねぇ」
魔王「いや、最善の策だったよ。うん」
魔執事「……」
魔王「キミのプライドは傷付いたかもしれないけど……」
魔王「魔執事さん生きてるじゃん!」
魔執事「……俺の為っつーことですか?」
魔王「魔界の為にだよ。キミの力が必要だもん」
魔執事「……」
魔王「納得いかない?」
魔執事「いえ……大変失礼致しました。心使い感謝致します」
魔王「勇者は倒せなかったけど、今のうちに城の守りを固めよう」
■ 第4話 初めてのラストバトル! 終 ■
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/17(月) 02:46:43.79 ID:lhZT4ZQi0
乙
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/17(月) 11:44:54.25 ID:8bTmTj0oo
おつ
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/17(月) 14:30:58.65 ID:ehTBESWa0
おつ
53 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:43:55.28 ID:GYmcZI0u0
■ 第5話 裏物語−−−−−END ■
54 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:48:25.04 ID:GYmcZI0u0
翌朝……
魔執事「とにかくみんな無事でよかったっすね」
魔王「いや、沢山兵士達がやられた」
魔執事「兵士は補充できます。気にすることはありませんよ」
魔王「するよ! みんな家族や友達、恋人がいたはず……」
魔執事「皆、覚悟の上です。それが仕事っーことっすよ。俺も含めて 」
魔王(……この被害はボクのせいだ)
魔王(城の守りをどうするべきか……勇者や王都軍などの攻めるべき敵は沢山。守りばかりにチカラを入れられない)
魔王(今回みたいに勇者に沢山刺客を送ると城の警備が薄くなる……)
魔少女「まおー様、昨晩の続きしよー☆」
魔王「え、いやいやいやいや」アセ
魔執事「昨晩は失礼しました。緊急事態だったもんで」
魔少女「今日は誰にも邪魔させないぞ」ニコッ
魔王「遊んでる場合じゃないよー」アセアセ
魔少女「まーた照れてるの? サキュバスのウチに任せて☆ シャワー浴びてこよー!」ルンルン
魔執事「あの勇者は魔界の彼方。戻ってこれないよう、転移魔法陣を停止させたっすよ。心配はいりません。ごゆっくり」ニヤ
魔王「いやいや……そんなことより」
魔王(今はこれからどうするか考えないと)
ダダダッ……バタンッ!
女側近「魔王様っ!」
55 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:50:21.87 ID:GYmcZI0u0
魔王「うわっ……女側近さん」
女側近「生きてますか?! 怪我してないですか?! 酷いことされてないですか?!」アタフタ
魔王「だ、大丈夫だよ」
女側近「よ、よかった……」
スゥ……ギュ
魔王(わ、わわ。抱きつかれた……)
魔王「ごめん、心配してくれてたんだね」
女側近「あ! し、失礼しました」パッ
魔王「………(離れちゃった)」
女側近「……」
魔王「……」ドギマギ
魔少女「んーー! いいシャワーだったぁ☆ まおー様、お待たせー! 昨晩の続きしましょ♪」
女側近「え……」
魔王「えーーーー!」
56 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:52:16.44 ID:GYmcZI0u0
魔王「あ、いや、あの……いやいやいやいや」アセアセ
女側近「あ、私はお邪魔でしたね。失礼しました」
魔王「いやいやいや、あの、その……」
魔少女「あれ? お姐ぇ帰ってたんだ」
女側近「ごゆっくり」ジィー
魔王(なんかこわい……)ビクビク
魔王「あ、あの! 今回の勇者のことなんだけど」
女側近「はい?」
魔王「なんで突然現れたの? ゲートは誰も通ってないんでしょ?」
女側近「ゲート警備からは異常無しと報告が入っております。しかし、この魔界に人間がいたのは事実」
魔王「警備に気付かれないで、ゲートを通ったってこと? 出来るの? そんなこと……」
女側近「ゲートの魔界側と人間界側も魔王軍が制圧しております。見つからずに通過できるとは思えません」
魔執事「それってよ。魔王軍の誰かが手引きしたっつーことか? じゃねぇと無理だろ?」
魔王「うわっ、魔執事さんいたの?」
女側近「その可能性は非常に高いです。先代魔王様が亡くなってすぐの騒ぎ、誰かが新しい魔王様の命を狙っているのかもしれません」
魔王「ひぇぇ……魔族の裏切り者?」
女側近「ここ最近、人間界へのゲートを通った者をピックアップして調査を致します。裏切り者が判明するまで油断は出来ません」
魔王「人間に協力する魔族がいるなんて……」
魔執事「人間に肩入れするとは考え難い……弱みを握られ脅されたか、魔王様の地位を狙って勇者を差し向けたか……」
魔王「勇者に、裏切り者に、戦争に……問題ばかり」
女側近「魔王様っ! 微力ながら私がチカラをお貸致します。乗り切りましょう」
魔執事「先代魔王様と違って頼りないが、どうにか助けたいと思っちまうな。魔王様、何でもお申し付けを」
魔少女「ウチもご奉仕する〜☆」
魔王「みんな……ありがとう」
57 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:54:32.57 ID:GYmcZI0u0
ーーー黒魔城・テラスーーー
魔王(……勇者に勝つ? 戦争に勝つ? 魔界を守る?……ボクのやるべきことは何だ?)
女側近「魔王様、大丈夫でしょうか?」
魔王「え?……な、なにが?」
女側近「思い詰めてるように見えましたので」
魔王「うん……気が滅入りそう」
女側近「……」
魔王「あ、ごめん。“魔王”が弱気なこと言っちゃダメだよね」
女側近「そうです。部下に示しがつきません」
女側近「貴方は“魔王”です。弱音は許されません。凛とした態度」
魔王「ぅん……」シュン
女側近「しかし」
魔王「?」
女側近「私の前では構いません。甘えてください」
魔王「女側近さん……」
女側近「愚痴でも弱音でも、言いたいこと言ってください。私は受け止めます」
魔王「ボク……魔王できてる?」
女側近「はい」
魔王「ホントに?」
女側近「はい、魔王様……失礼します」
魔王「?」
ス……ナデナデ
女側近「一生懸命なのは、とても伝わってますよ」ニコッ
魔王(女側近さんが……笑顔)
魔王「……ありがとう」
女側近「出過ぎた真似を失礼しました」ペコリ
58 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:55:37.74 ID:GYmcZI0u0
魔王「今回攻めて来た勇者……強かったね」
女側近「強制転移させた場所は魔界の彼方です。しばらくはここへは近づけません。戻ってこれないよう魔界全土の転移魔法陣はすべて停止させました」
魔王「優先事項としては…やはり魔剣が必要だと思うんだ」
女側近「…………」
魔王「どうかな?」
女側近「魔剣は冥都より遠く離れた魔界の果て“世界樹”にあると言われております」
女側近「魔剣は魔王様以外触れることが出来ません。直接取りに行く必要があります」
女側近「現在転移魔法陣が使えませんので、かなり城を空けることになります。城の公務、守り、勇者達の対応など問題が多数出てきます」
魔王「…………」
女側近「どうなさいますか?」
魔王「う、うーん」
魔王(ボクは魔王)
魔王(ボクの指示でみんなの命がかかってる、凛とした態度で命令しないと)
59 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/18(火) 01:58:09.56 ID:GYmcZI0u0
魔王「魔剣を取りに行こう」
魔王「仕事、執務は移動中にやる」
女側近「はい」
魔王「城は守らなくていい……城の兵力はほぼゼロで」
女側近「え?!」
魔王「その兵力は、勇者討伐と人間の王国軍への対応にすべてまわす」
女側近「どういうことでしょう?」
魔王「裏切り者がいる状況じゃ、守りを固めても意味がないし……」
魔王「“魔王”が城にいないことは勇者に伝わる。魔王不在の城にわざわざ攻めてくるとは思えない」
女側近「…………」
魔王「ボクがいなければ勇者達は攻めてくる理由がない。ボクがいない方が冥都は安全だ」
魔王「攻めだ。守りはいらない」
女側近「……」ゾクッ
魔王「魔剣を手に入れ……冥都を守る。そして」
魔王「人間との戦争を終わらせる!」
魔王「これがボクの“魔王”としての目的だ」
女側近「……っ!」
魔王「ど、ど、どうかな? ボクの考え……」
女側近「魔王様の命令は絶対です」
魔王「う、うん」
女側近「必ずや不備のないようお支え致します」
魔王「女側近さんはボクと一緒に来てもらえる? ボクと女側近さん……配下への指揮系統さえちゃんとしていれば、城にいる必要はないと思うんだ」
女側近「はい。魔執事には城に残ってもらいましょう。やはり公務をある程度任せられる者が城に残らないと」
魔王「あとボクの護衛役を……」
女側近「それも私が致します」
魔王「女側近さん戦えるの?」
女側近「……!」
女側近は少し驚くと、口元に笑みを浮かべ答えた。
女側近「こう見えて先代魔王様に次ぐ、魔界No2でございます」
魔王は出発点に立つ。
未だ嘗てない旅が始まる。
■ 第5話 裏物語プロローグEND 終 ■
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 02:05:14.74 ID:6hu8pN6So
おつ
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 03:45:43.12 ID:lgnSBCaXO
しっかり魔王してるじゃん
乙
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 13:32:10.41 ID:BKJhty7k0
乙
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 18:38:39.70 ID:VvVfgBNa0
おつ
64 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:00:22.09 ID:pFaY9TGSO
■ 第6話 魔族文明都市“冥都” ■
65 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:02:26.85 ID:pFaY9TGSO
ーーー冥都・最上層街ーーー
《最上層、魔界最大の都市“冥都”の一番上にある上位魔族だけが住む事を許された街。おもに貴族の住宅街となっており、洗練された芸術的な建造物が並ぶ。中央には魔界の頂点である魔王の住む“黒魔城”がある》
魔王「うわぁ綺麗な街!!」
魔少女「まおー様、城の外に出たことなかったの?」
魔王「“魔王”になる前は最下層に住んでたから。こんな上層階を歩くの初めて」
魔少女「ウチが案内してあげるよ☆まおー様」
魔少女「魔界のこの“冥都”はひろーぃ街が縦に何層にも積み重なっていて塔みたいになってるの☆」
魔少女「ここはその一番上、冥都最上層でーす。空も見えるし空気綺麗♫」
女側近「正確にご説明をさせて頂きますと、冥都の街は大小様々あり、全部で13層積み重なっております。身分が高い者ほど上の階層に住むことができます」
魔少女「ちょ、ちょっとお姐ぇ! ウチが説明する〜」
女側近「冥都の外は“外界”<フィールド>といって地上には瘴気が漂いモンスターがいます」
女側近「最上層でこの赤い空が見えるのは、魔界の大地に漂う瘴気の影響を受けることがないからです」
魔王「これだけ高いとね……瘴気もないよね。冥都の街を縦に積み重ねていったのは、瘴気のないところに住む為だったのかな」
女側近「下の階層には、中央に位置する魔導エレベーターで行き来できます」
魔少女「ウチが説明しようと思ったのにー」ブー
66 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:05:21.15 ID:pFaY9TGSO
女側近「魔少女。陛下に対して口の利き方が無礼よ。気をつけなさい」
魔少女「えー。いいじゃん、新しいまおー様優しいし。お姐ぇ厳しい」
女側近「よくありません」
魔少女「大丈夫だよー☆ね、まおー様」
魔王「う、うん。別にいいよ」
魔少女「ほらーー♫」
女側近「そもそも、なんで貴方がついてくるんですか?」
魔少女「まおー様がいいっていったんだもん☆」
魔王「いや、彼女はこの間助けてくれたし、数少ない信用できる仲間だよ」
女側近「しかし……」
魔少女「あれ〜☆お姐ぇウチがまおー様とヤったから嫉妬してるんでしょ?」
女側近「」ピキッ
魔王「えーーーーー!」
魔王「いやいやいやいやいやいやいやっ! してないじゃん!」アセアセ
女側近「嫉妬などではありません。それはサキュバスである貴方の仕事です」
魔王「いやいや、だからしてないよ?」アセ
女側近「貴方と魔王様に何があっても身分を弁えなさいと言っているのです!」
魔王「何もしてないよー???」
魔少女「まおー様がいいって言ってるもん。まおー様の命令は絶対じゃん」
女側近「…………。魔王様、よろしいんですか?」
魔王「う、うん。だって長旅で危険もあるし、仲間は多い方がいいでしょ?」
女側近「違います。言葉使いのことを言ってるのです」
魔王「あ、うーん。ま、いいじゃない? 旅の道中はボクが“魔王”ってバレない方がいいだろうし」
女側近「それはそうですが……」
魔少女「やったーー!」
67 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:06:29.35 ID:pFaY9TGSO
魔王「それよりさ、魔剣の在りかまでどうやっていくの? 遠いんでしょ?」
女側近「魔剣は……“世界樹”の麓にあるといわれております」
女側近「冥都を出て、外界の瘴気の上を飛空船で飛びます。“最果ての町”まで行き、そこから徒歩で“世界樹の森”へ向かいます。その森の奥に魔剣はあります。まずは飛空船の港、第七層へ向かいましょう」
魔王「遠いなぁ……行く前に寄りたいところがあるんだけど」
女側近「はい、どちらでしょう?」
魔王「最下層の実家に……。母さんに聞きたいことあるから」
魔王(母さんに父さんのことを伝えなきゃ……)
68 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:08:57.30 ID:pFaY9TGSO
−−−冥都 最上層・柱−−−
魔王「ここが“柱”かぁ……」
塔のような都市、冥都を支える巨大な柱。中には50m四方はある大きな魔導エレベーター。
受付を済ませ乗り込む。中には数十人の魔族と貨物や家畜なども乗っている。
ガヤガヤ……
ガヤガヤ……
魔少女「わりと混んでる」ブー
魔王「冥都すべての転移魔法陣を停止しちゃったからね……移動はエレベーターでするしかないよね」
女側近「物流などに影響が出ないよう上手くエレベーターを稼働させています。混んでいるのは仕方ありません」
魔少女「はぅ……う、ウチだって知ってたもん!」
女側近「魔王様、エレベーターが動きます。お気を付けください」
アナウンス「これより最下層行きエレベーターを運行致します。途中第5層に停止、他の階層には止まりませんのでご注意ください」
ウィィィン……
みんなを乗せた大きなエレベーターは少し振動すると、ゆっくりと下降し始める。
魔少女「まおー様っ! 外みてっ」
魔王「おお! すごい景色〜」
最上層から下降するエレベーターからは、すぐ下の階層“第12層”の風景が見える。
はしゃぐ魔王と魔少女。
魔少女「あ、まおー様みて、あの赤い建物ウチの実家〜」
魔王「えっ?どれどれ??」
魔少女「あの広場のとなりの!」
魔王「んー??」
女側近「魔王様」
魔王「ん?……魔少女、どこ〜??」
女側近「魔王様、公務があります」
魔王「えええぇ。し、仕事か……」
女側近「はい、こちらの書類に目を通してください」
ドサッ
魔王「こ、これ全部読むの……?」
女側近「はい、最下層まで少し時間がありますので公務でございます」
魔王「……」
魔少女「まおー様、みてみてアレはー」
女側近「……」ジ……
魔王「仕事……しないとね」シュン
……魔王達の乗った魔導エレベーターは、最下層に向けて下降していく。
69 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:11:14.82 ID:pFaY9TGSO
……
魔王「女側近さんは何でも知ってるんだねっ」
女側近「何でもではありませんが……魔王様のことは把握しておくようにしております」
魔少女「ほんとに〜? じゃあ、まおー様について質問しちゃおっかな?」
女側近「魔王様……お答えしてもよろしいでしょうか?」
魔王「……別にいいけど」
魔少女「まおー様の年齢は?」
女側近「70歳でございます」
魔少女「お! ウチのほうが5歳年上ー!」
魔王「5歳ってほぼ同じじゃん」
魔少女「えーと、まおー様の身長は?」
女側近「152cmです」
魔少女「体重は?」
女側近「39kgですね」
魔王「おおぉ……本当に知ってるんだ」
魔少女「彼女は? 今までどの位付き合った??」
女側近「おりません。交際歴はありません」
魔王「ちょちょちょちょっちょーー!」アセ
女側近「はい?」
魔王「な、なんでわかるのさー!」
女側近「以前に身辺調査させていただきましたので」
魔王「えーーーー!」
魔少女「そうなんだ。じゃ、エッチは?」
女側近「それもありませんね」
魔王「だああああっすすす、ストップ! 女側近さん、もうやめてっ」アセ
女側近「かしこまりました」ニコッ
魔少女「あ〜ん。まおー様の性癖は??」
女側近「魔王様の命令は絶対です。許可が無いので答えません」
魔王「えっ! そそそ……そんなこと知らないでしょ」アセアセアセ
魔少女「つまんなーい」
女側近「魔少女、サキュバスといえど外では羞恥の心をもって発言しなさい」
魔少女「はーぃ」
女側近「分かればよろしい」
70 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:12:28.40 ID:pFaY9TGSO
魔少女「じゃあ、今度はお姐ぇにエッチな質問してやるっ」エヘ
魔王「全然わかってなーい!」
魔少女「お姐ぇは一人でするのっ!?」イヒヒ
魔王「〜〜っ」ドギマギ
女側近「貴方の質問には答える必要はありません」
魔少女「あれ? お姐ぇ彼氏って……??」
女側近「ですから答えません」
魔少女「そういえばなんか噂で聞いたような……」
魔王「えーーーー?? 女側近さん彼氏いたの?!」
女側近「え、えーと……」
魔少女「あ! まおー様の質問だよ、答えて!」
女側近「恋人とい……
ドオオオォォンッ!!!!
突然、エレベーターに衝撃が走り急停止する。
ギイイィィィィッ!
魔王「うあああああっ」グラグラ……
71 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:15:04.43 ID:pFaY9TGSO
魔少女「な、なにぃ〜?!」
魔族「何事だ?!」
女側近「魔王様、お下がりください」
さっきの衝撃でエレベーター内の天井に穴が空いていた。そこから6、7人の魔族が入ってくる。
明らかに好意的ではない。
魔盗賊A「ケケケケ……このエレベーターは俺らが乗っ取った! 抵抗すれば殺すっ!」
魔貴族「ひぃぃっ」
魔族村人「きゃああ」
魔商人「わあああっ」
魔王「うわぁぁ……」
女側近「スラムの賊ね……物流を魔導エレベーターに移したものだから狙われたのね」ヤレヤレ
魔盗賊B「全員床に伏せろっ!」
魔盗賊C「てめぇら! 金目の物を出せっ! 逆らったらぶっ殺すっ!」
エレベーター内はパニックだった。皆が壁際に後ずさり恐怖に顔をしかめている。
そんな中、女側近だけは黙って盗賊達に近づいていく。
女側近「……」スタスタ……
72 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:17:05.35 ID:pFaY9TGSO
魔盗賊A「おいっ! 女っ動くんじゃねぇ! 死にてぇのか?!」
女側近「ここまで下の階に来ると私の顔も知らないのね」スタスタ
魔盗賊D「動くなって言ってんだろっ!」
魔盗賊A「ヤッちまえっ」
魔盗賊G「このクソアマがっ!」
魔盗賊達は火炎魔法を放った!
ゴオオオォッ!
ゴオオオォッ!
ゴオオオォッ!
魔王「女側近さんっ!」
女側近「……っ」フゥ
女側近が小さく息を吹くと、見えない壁が魔法を弾き返す!
魔盗賊A「なっ?!?!」
ドオオオォォンっ!
魔盗賊達を倒した。
魔盗賊E「ぐああああ……な、何が起きた?」
魔盗賊B「ぐぅ……上位魔族? こんな下の階層に?」
魔王(えーーー!? なんて強さ……桁が違い過ぎる)
女側近「賊め、冥都の秩序を乱すお前たちに生きてる価値はない」
魔盗賊A「秩序だと?! スラムを放ったらかしの上位魔族が偽善をいうんじゃねぇ!」
魔盗賊D「そうだっ! 秩序なんて糞食らえ」
女側近は掌を前に突き出すと魔力を込める。ピキピキっと、その手元に氷の剣が現れる。
女側近「お前達と議論するつもりもない。死んでもらおう」
73 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/19(水) 00:18:43.75 ID:pFaY9TGSO
魔盗賊B「くそぉっ!」
魔盗賊は火炎魔法を放った!
ゴオオオオオオッ!
女側近「こざかしい……」
女側近が氷の剣をゆらりと振ると、火炎魔法は消え去った。
女側近「魔界は弱肉強食。弱く従わないものは死、あるのみだ」
魔盗賊C「弱い下層の魔族は……てめぇら上位魔族に苦しみ続けて生きてかなきゃなんねぇのかっ!」
女側近「それが魔界の摂理」
魔盗賊E「……くっそ! みんなずらかるぞっ!」
魔盗賊F「にげるぞ!」
女側近「逃げられると思っているのか!」
女側近は大氷冷魔法を唱えた!
魔王「まって女側近さん……」
女側近「魔王様!?」
魔王「彼らを……」
魔王「殺さないで……」
女側近は大氷冷魔法を止めた。
魔盗賊達は逃げだした……。
女側近「よろしかったのでしょうか?」
魔王「彼らは低級でも魔族。敵は人間でしょ? 殺すことないよ……」
女側近「……? あの者達はいかがなさいますか?」
魔王「軍に探させて、牢へ閉じ込めよう」
女側近「かしこまりました。すぐに手配致します」
魔王(冥都も下の方に行くと魔族の闇が見えてくる)
■ 第6話 魔族文明都市“冥都” 終 ■
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/19(水) 00:53:46.60 ID:f8tBilaGo
良い王様になれそうねおつおつ
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/19(水) 15:24:32.58 ID:UcESfQOu0
乙
76 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:24:41.91 ID:mpVcpnv+0
■ 第7話 ステータス:仕事Lv1 ■
77 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:30:26.24 ID:mpVcpnv+0
女側近の手配で“柱”の管理組織の魔族数名が到着する。彼女は手際よく事情を説明し、指示をだす。
魔少女「エレベーター壊れちゃったね。すぐ直るのかな?」
魔王「時間がかかるって。女側近さんすごいなぁ……強いし、なんでも知ってるし、みんなに指示も出来て」
魔王(ボクもそんな風にならないと“魔王”は務まらないだろうな)
魔少女「まおー様だってすごいじゃん」
魔王「えーーー。どこが?」
魔少女「さっき」
魔王「アタフタしてただけじゃん……」
魔少女「お姐ぇに……『殺すな』って命令してたでしょ」
魔王「あ、うん」
魔少女「お姐ぇに命令できる人は他にはいないよ。かっこよかった★」
魔王「……!」
魔王(ボクは“魔王”として周りから見られてる……自覚を持たないとな)
女側近「魔王様、さきほどの賊は追撃班を編成して追いかけさせております」
魔王「う、うむ」
女側近「魔導エレベーターは修理にしばらくかかりそうです。ただ上層階には影響ありませんので、物流などの心配もありません」
魔王「よかった」ホッ
魔少女「今、ウチら何処にいるの??」
女側近「第2層です。この階で賊が待ち伏せしてたようです」
魔王「ここにしばらく足止めか……」
女側近「とりあえず街へ出ましょう。今後の予定は宿にて」
78 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:33:17.61 ID:mpVcpnv+0
−−−冥都 第二層−−−
《第二層。冥都の下から二番目に位置する街。おもに低級魔族が利用する商業街が広がる。街並みは古く老朽化し綺麗とは言えないが、学校、病院、役所など公共施設も揃っている》
魔王「えっと……宿はこっちだ」
魔少女「あれ? まおー様、第二層は来たことあるんだ?」
魔王「うん、家が最下層だからね。仕事は第二層でしてたよ」
魔少女「まおー様が魔王様になる前はなんの仕事を……?」
魔王「えっと……図書館の整理の仕事」
魔少女「あは、今とは全然違うー」キャハ
魔王「ボクは魔法が使えないから、やれることが凄く限られてちゃってね。第三層の産業区の仕事はあんまりできなかったんだ」
魔少女「産業区……?」
魔王「魔少女さんも上位魔族だもんね、下位の仕事は知らないよね」
魔王(あの死ぬほど辛い労働を……)
女側近「魔王様、こちらの宿に予約をしております。本日はこちらでお休みください」
魔王「あれ? 女側近さんは?」
女側近「柱へ戻って事後処理を行ってまいります」
魔王「そ、そか。よろしくお願いします」
魔少女「ウチは?」
女側近「護衛を。魔王様の隣の部屋を取ってあります。貴方も上位魔族、下位の賊ぐらいは相手にならないでしょう?」
魔少女「まあね、さっきは可愛こぶっちゃってたけど」エヘ
女側近「……では行ってまいります。夜には戻ります」
魔王「うん」
女側近は柱へ戻っていった。
79 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:35:08.38 ID:mpVcpnv+0
−−−冥都 第二層・宿−−−
部屋のベットに横たわり一時の休息。ぼんやり思いにふける。
魔王(第二層……そんなにたってないけど、久しぶりな感じがするな)
魔王(せっかく第二層に寄ったし、図書館行こうかな。黙って辞めちゃったし)
魔王(まぁボクがいなくても誰も困ってないだろうけど)
魔王(謝りに行ってみようかな)
コンコン……
魔王「はい?」
魔少女「まおー様、ウチです。入っていい?」
魔王「うん、、どうぞー」
魔少女「失礼しまーす」
魔王「?どしたの?」
魔少女「仕事★」
魔王「?」
魔少女はパチンッと指を鳴らすと、目のやり場に困る姿に変貌する。
魔王「うわあああああっ! ちょちょっと仕事って……」
魔少女「サキュバスの仕事はひとつ。まおー様の疲れをとること」ウフフ
魔王「あ、わわわわわわ。ま、マズイよー」
魔少女「なんでー? まおー様、お姐ぇがいると恥ずかしがっちゃうじゃん。今しかないよ」
魔王「でも……でも……」
魔少女「うるさーい★」ドンッ
魔王はベットに押し倒された!
魔少女「貴方はまおー様。サキュバスの部下の相手をするのも仕事だよん」
魔王「仕事……」
魔少女「そ、大人しくして………………」
魔王「あ……」
80 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:36:51.91 ID:mpVcpnv+0
ガチャ
女側近「魔王様。失礼します」
魔王「うわあああああああっ!」
女側近「お取り込み中失礼します。やっていただかなければならない仕事が……」
魔王「いやいやいや、違うよ、違うんだっ」
女側近「あ、コトが済んでからで結構ですので、こちらの資料をご確認ください」
魔王「す、す、すぐ確認するよ! すぐすぐ!」
女側近「いえ。後で構いません。お取り込み中失礼しました」
魔王「いやいやいや!」
魔少女「まおーさまー」ぶー
女側近は出て行った。
魔王「く……はぁー……」
魔少女「もぅお姐ぇってたら」プンプン
魔王「し、仕事しよ」
……
81 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:38:35.64 ID:mpVcpnv+0
勤勉に仕事をする魔王と、それを不満そうに見る魔少女……
魔王「うーんと……えーと……」
魔少女「むぅー」
魔少女「まおー様……仕事、凄く一生懸命。サボったってウチと違って誰にも怒られないのに」
魔王「え? そうかな」
魔少女「なんで? そんなに頑張るの?」
魔王「うーん。嬉しいからかな」
魔少女「嬉しい? 仕事が?」
魔王「うん、ボクは魔法が使えないから、あまり仕事がなかったんだ」
魔王「ずっとさ、ろくに何も出来ないって白い目で見られてきたから……今頼られること、仕事がある事が嬉しい」
魔少女「そうなんだ」
魔王「魔少女、仕事終わったら付き合ってほしいところがあるんだけど……」
魔少女「にゃ?」
82 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:40:46.28 ID:mpVcpnv+0
−−−第二層 旧商業区・図書館−−−
魔少女「ここって、まおー様が魔王になる前の職場??」
魔王「そう……黙って辞めちゃったから謝ろうと思って」
魔少女「え、えっ……まおー様は王様なんだから謝らなくてもぉ……」
魔王「仕事だから。勝手は許されないよ」
テクテク……
魔族館長「ん?」
魔王「あ、館長さん……」
魔族館長「クズじゃねぇか。何してやがる」
魔王「あの……突然辞めてしまって申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる魔王。
魔族館長はそんな姿を無表情で見下ろすと吐き捨てるように言う。
魔族館長「魔法使えないクズは必要ねぇよ。邪魔だから失せろ」
魔少女「なっ?!……ちょっと! この人誰だと思ってんのよ!」
魔族館長「あ? 魔法の使えないクズだろ?」
魔少女「魔法が使えない? この人はね!ま……」
魔王「まって魔少女さん、館長さん……すみませんでした」
魔族館長「クズが! おめーは何も出来ねぇ。これから何処で働こうとそれは変わらねぇ」
魔族館長「……貴様の母親は素晴らしい魔導師だった。彼女に頼まれたから貴様を雇ってやったんだ。母親の義理を無駄にしやがって」
魔王「……本当に申し訳ありませんでした」
……
−−−第二層 商業区・広場−−−
魔少女「きぃぃぃっ!」
魔少女「なんなの! あの下級魔族! まおー様なんであんな奴に頭さげるの?!」
魔王「仕事を突然辞めてしまったのは事実だし……こっちの事情は関係ないよ。謝らなきゃ」
魔少女「まおー様優しすぎ!! まおー様にあんな言葉遣いする無礼な奴は串刺しにしてやればいい」プンプン
魔王「言葉遣いについては、キミが言うことではない気が……」ハハッ
魔少女「まおー様が止めなかったら、ウチが魔法で死ぬまで悪夢の刑にしてやったのに」
魔王「こわ……」
魔王(魔法か……母さんはすごい魔導師だった。父も魔王。そんな二人の子供のボクに魔法が使えないなんて)
魔王(やっぱり本当はすごい魔力があるのだろうか……ボクの身体には)
魔少女「図書館の仕事なんてまおー様っぽくない!」
魔王「案外よかったよ、たくさん本読めたし、いろんな知識ついたもん」
魔少女「ふーん。ウチは勉強きらい!」
魔王「本はいいよ! 色んなことわかるし……」
魔少女「ま、まおー様! アレっ!」
魔王「え?」
83 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:43:05.99 ID:mpVcpnv+0
魔少女の指差す方向をみると、数人の魔族が旧市街へと続く路地へ入っていく。
魔王「あ、あれは…エレベーター襲った盗賊達」
魔少女「よーし! ウチが捕まえてくるよ! まおー様ご褒美ちょうだいね」タタタッ
魔王「えーーーー! あ 、まってまって!」
魔王の言葉が耳に入らず魔少女は魔盗賊達を追いかけてしまう。
辺りは人通りの少ない旧市街。誰も住んでいない古びた民家が立ち並ぶ。
魔少女「まっ〜てぇっ!!!」
魔盗賊A「あん?」
魔盗賊B「なんだ? てめぇは」
魔少女「ウチはまおー様の自称側近の魔少女よん! 悪党っ! 覚悟しろー★」
魔王(ひぃぃー! 女側近さんいないのに)
魔盗賊C「こ、こいつらエレベーター襲った時にいた奴らだっ」
魔盗賊A「なんだと?! チッ……ヤるか」
魔王「まって! 抵抗しないでください。投降すれば悪いようにはしません」
魔盗賊B「あ? 投降したら殺されるだけだろーが!」
魔王「いや、君達の気持ちや生活状況を考慮して情状酌量する。それには投降してもらえないと」
魔盗賊A「ああ?? 俺らを家畜としか見ていない上位魔族のアンタらが情状酌量だと??? ふざけんな!」
魔盗賊C「なんで俺らがこんな生活してると思ってんだっ! 全部おめーらのせいだろがっ」
魔盗賊A「上の奴らより、ちょっと魔力が低いだけで何でこんなに格差ができるんだ」
魔盗賊C「俺らは言いなりにはならねぇ!」
魔王「……」
魔王(何も言い返せない。戦うしかない)
魔王「だ、大丈夫なの? 魔少女さん……」
魔少女「ウチに任せて☆」
魔王「殺さないで。捕まえるんだ」
魔少女「OK♪」
魔王(魔少女の戦闘力をボクは知らない。いざとなったら……ど、どうしよう)
84 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:46:54.49 ID:mpVcpnv+0
魔盗賊C「上位魔族め……しねぇ」ゴオオオッ
魔盗賊Cは火炎魔法を放った!
魔少女「おっとー!」
魔少女はヒラリとかわすと、ぴょんっと飛び上がる。魔盗賊達は一斉に魔少女に襲いかかる。
しかし、1:3にも関わらず魔盗賊達の攻撃は当たらない。ヒラリヒラリと攻撃をかわす魔少女の口元は笑っていた。
魔王(ホッ……問題なかった)
魔盗賊B「はぁはぁ……くそ」
魔盗賊A「あたらねぇ……」
魔少女「ウチだってやる時はやるのよん。じゃ、終わりにしちゃうよ」
魔少女は幻覚魔法を放った!
ボオオオン……
魔盗賊A「うあ……こいつサキュバスだ、幻覚に気をつけろっ!」
魔盗賊B「くそ……」プシュッ
魔盗賊達は自らを傷つけ正気を取り戻す。
魔盗賊C「いってぇ……」
魔盗賊A「おい、あのガキを狙え!」
魔盗賊B「おしゃぁっ!」
魔王「うわぁ!」
魔盗賊Bは魔王に攻撃!
魔少女「まおー様あぶないっ!」
ザシュッ!
魔少女は魔王をかばった。
魔少女「いったぁー」
魔王「魔少女さん!?」
魔少女「大丈夫。かすり傷だ……よ……んう?? 身体が」グラッ
魔少女はフラフラとよろける。
魔王「魔少女さん! まさか毒……」
魔盗賊B「この毒で即死しねぇのかよ」
魔盗賊C「さすがは上位魔族か。だが、いけるぞ」
魔少女「ぷっちーん! ウチ怒ったよ……もう手加減……しない」
魔少女はよろけながらも詠唱を始めると、魔盗賊達は「殺せっ」と叫びながら突っ込んでくる。
魔少女「来てっ! 召喚っキマイラぁぁああ!」
キュイイイインッ!
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔王(えーーー! 召喚魔法!!)
85 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:49:21.51 ID:mpVcpnv+0
魔盗賊A「な、なにぃぃ?!」
魔盗賊B「くそっこんなの勝てるかっ!」
魔王(サキュバスはモンスターを魅了して手懐けるって……本に書いてあったけど、これがサキュバスの戦い方)
魔少女「キ……マイラちゃん。やっちゃえ!」フラフラ
キマイラは凍てつく波動を放った!
ゴオオオオォォッ!
魔盗賊達「「「うわああああっ」」」
魔盗賊A「くそっ! 逃げるぞ」
魔少女「逃がさないよ! キマイら……ちゃん。くぅ……」
毒で蹌踉めく魔少女。キマイラは逃げ惑う魔盗賊に攻撃やめない。
キマイラ「グオオオオオオォォンッ」
魔少女「く……」フラフラ
魔王「魔少女さんっ! しっかりしてっ」
魔少女「まおーさま……ご、ごめん……なさい」ガクッ
魔王「魔少女さん! 意識が……」
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔盗賊B「ぎぁあああっ」
魔盗賊達を倒した!
しかし、キマイラは魔王達の方を向いて威嚇する。
キマイラ「グルルルゥ……」
魔王(やばい……キマイラを制御できない)
魔王(こんな街中でキマイラが暴れまわったら大変なことになっちゃうよ。魔少女さんも治療しないと死んじゃう)
キマイラはズシリとズシリと近づいてくる。
86 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:50:59.55 ID:mpVcpnv+0
魔王(どうする? どうする?……)アセ
魔王(やばいよ……)
魔王(ボクに魔法が使えたら……)
キマイラ「グオオオオオオォォンッ!」
魔王「ひぃ……」
魔王(いや!)
魔王(ボクにだって使えるはずだ! 先代魔王様と母さんの血を受け継いでるんだ!)
魔王(ボクは……
“魔王”なんだ!!)
魔王はキマイラに手をかざす。
魔王「く、くらえええぇぇぇええっ!!!」
魔王は火炎魔法を放った!
しかし、何も起こらなかった!
魔王「え、えーーーっ!!!!」
キマイラは大きな爪を振り上げる。
その刹那、冷たい風が吹いたと思うとキマイラの背後から氷の剣をもった女性が一線に飛んでくる。
女側近「貫くっ!」ジャキィィン
キマイラ「ギャアアアアアアア……」
ドシーン……
キマイラを倒した。
魔王「お、女側近さん……」
女側近「魔王様、大丈夫ですか!??」
魔王「う、うん。背後から脳天一突き。すごい」
女側近「よくぞご無事で……よかった」ホッ
魔王(やっぱり魔法使えなかった……)
87 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/20(木) 02:52:20.82 ID:mpVcpnv+0
−−−冥都 第二層・宿−−−
魔王「魔少女さんは大丈夫??」
女側近「はい、もともと致死量ではありませんでした」
魔王「よかった……本当にあぶなかった」
女側近「魔王様……申し訳ありませんでした」
魔王「いや、今回の事態はボクの勝手な行動が招いたことだよ。ボクの方こそゴメン」
女側近「盗賊達ですが……アジトを発見しましたが抵抗された為、全員殺害しました」
魔王「……」
女側近「重ねてお詫びいたします」
魔王「“弱肉強食”弱い盗賊達を退治しても、根本的な解決にはならない」
魔王「彼らは上位魔族に不満を持っての悪行だった。きっと同じ不満をもった輩がまた現れる」
女側近「はい」
魔王「悪行に対して断固たる制裁は必要だけど、彼ら下級魔族の労働状況、生活環境を見直し改善することが同じ事態を防ぐことに繋がると思う」
女側近「はい」
魔王「すぐに取り掛かろう」
女側近「かしこまりました」
魔王(下位で育ったボクが“魔王”である意味は、この視点で魔界を見ることができる。きっとボクの存在意義はそこにある)
魔王(ボクは“魔王”)
魔王(……これがボクの仕事だ)
■ 第7話 ステータス:仕事Lv1 終 ■
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/20(木) 07:50:11.35 ID:jRAkfc3do
おつ
89 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:07:09.90 ID:Y6SYWOwiO
■ 第8話 ボクと私とウチと ■
90 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:09:27.30 ID:Y6SYWOwiO
魔少女「はぁ……はぁ……」
魔王「ふぅ……ふぅ……」
ギシギシ……
魔少女「はぁはぁ……あっ」
魔王「ちょ……ま、魔少女さん……先にイかないでよ……はぁはぁ」
ギシギシ……
魔少女「あぁーもぅ……ダメっ」
魔王「もう……もぅ……」
魔王・魔少女「「歩けない!!!」」
女側近「まだ第一層までかなりあります。ちょっと休憩しますか?」
魔王・魔少女「「賛成!」」
91 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:12:06.28 ID:Y6SYWOwiO
−−−冥都 第二層と最下層の間−−−
場所は第二層と第一層の間の“柱”。その周りの非常階段である。
壊れてしまったエレベーターが直らないので、下の階層に行く為、非常用の階段をひたすら降りる魔王達だが……
魔王「想像以上に階段キツイね……」
魔少女「もう歩けなーい」
女側近「まだ半分も来ていません。夜になる前には地上につかないと」
魔少女「お姐ぇ……回復魔法かけて☆」
女側近「魔法では傷は癒せても、疲れまでは回復しません。休んだら行きますよ」
魔王「そか……」
女側近「魔王様、足をマッサージさせて頂きます」
モミモミ……
魔王「おふっ」
魔王「す、すごい! き、気持ちいい!」
モミモミ……
女側近「マッサージLv99でございます」ニコッ
魔王「わぁふっ……そんなところまで……」
魔少女「お姐ぇウチにも☆」
女側近「貴方はサキュバスなのですから、マッサージの技術は必須です。自らの足での鍛錬しなさい」
魔少女「はぁぃ」ショボン
女側近「魔王様は魔法で足の筋力を強化致しますね」キュルリン
魔王「あ、ありがと……」
魔少女「ヒーン……ずるい。それにしても、なんか辺りに靄が……これって」
魔王「瘴気……だよ」
92 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:13:43.40 ID:Y6SYWOwiO
柱の階段は外に面しているのだが、薄い瘴気が漂い下の景色はあまり見えない。空気が悪く余計に疲れを感じる……
魔少女「これが最下層の空なのね……この空を見てると気持ちが落ちるぅ」
魔王「だよね……ん?」
女側近「魔王様っ下がってください!」
魔少女「な、なんか飛んでくるよ! 鳥?」
魔王「複数いるよ! 鳥じゃない敵だっ」
女側近「ワイバーンです。エンカウントします!」
ワイバーン「ギャアギャアッ!」バッサ…バッサ…
魔王「ひぃっ……囲まれた。8、いや9体」
一斉に襲ってくるワイバーン。
女側近は氷撃魔法を放った!
女側近「はぁっ!」シャキイィン
現れた無数の氷の矢はワイバーン達を捉える。
ワイバーン「ギャアギャア!」
ワイバーン達を倒した。
女側近「魔王様お怪我はありませんか??」
魔王「うん、大丈夫」
魔少女「なんだー。あっけなかったじゃん」
女側近「同じ場所に留まるのはモンスターの標的になります。行きましょう」
魔王「う、うん」
ギシギシ……
93 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:15:30.35 ID:Y6SYWOwiO
魔少女「休憩なしぃ。モンスター来てもお姐ぇいれば問題ないじゃん」
魔王「階段の老朽化が激しい、派手に戦うと階段ごと崩れちゃいそうだよ」
女側近「その通りです。急ぎましょう」
ギシギシ……
魔王「女側近さん、本当に強いね」
魔少女「この間の勇者もお姐ぇがいたら倒せてたよ☆」
女側近「……どうでしょう? わかりませんが」
魔王「勇者達はーーー強かった」
女側近「……」
魔王「たった4人で冥都の最上層のボクの前まで辿り着いたんだ。警備の眼をすり抜けて、ずっと戦ってた訳じゃないだろうけど半端じゃないよ」
女側近「人間とは恐ろしいものです」
魔王「勇者達は……仲間で“連携”して戦ってた。攻撃、守り、支援、援護、回復。勇者パーティは役割分担がしっかりして、互いに補い合う」
魔王「魔王軍にもこの戦い方、出来ないのかな」
女側近「連携ですか……」
魔王「チームで戦う。とても理にかなってたと思うんだ……」
魔王「ボクら魔王軍はさっきのワイバーンと同じ。個々が一斉に攻撃するだけ。攻撃が得意な兵士もいれば、守りが得意な兵士もいると思うんだ」
魔王「役割をしっかり分けて、チームで補い合えば大きな戦闘力になる」
94 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:17:36.65 ID:Y6SYWOwiO
女側近「難しいかもしれません……人間達は上下関係をあまり気にしません。勇者の仲間達は同じように命を懸けているのにも関わらず、手柄はほとんど勇者一人に持っていかれます。魔族には考えられない戦い方ですね」
魔王「じゃぁ魔族の場合、“手柄”がチームみんなに行き渡るようにすればいいのかな?」
魔王「えっと……兵士達に同じ階級同士をチームにして、評価や成果をチーム毎に与える」
魔少女(難しい話……)
魔王「手柄を上げたチームはチーム全体で階級を上げる。そうすればチーム内で助け合うんじゃない? 」
女側近「兵士達には個々に能力が違います。レベルの低い兵士と組まされたメンバーは不満に思うのではないでしょうか?」
魔少女(全然わかんなぃ……)
魔王「成果の低いチームは再編成し続ける。あとチームをまとめるリーダーはいるよね。たぶん」
女側近「なるほど……上手くやればメリットの方が大きくなりそうですね。“魔伯爵”に連絡し具体的にシミュレーションさせてみます」
魔少女「ウチもいいと思う! まおー様すごい!」
魔王「うん、よろしく」
魔王(これで軍全体の底上げになればいいんだけどな)
95 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:20:06.94 ID:Y6SYWOwiO
−−−冥都 最下層−−−
《縦に塔のように重なる街の冥都、その一番下に位置するのが最下層。冥都は第二層より下は瘴気が漂い、魔力や力の弱いものが住む。建物はほぼ住宅のみだが何処も老朽化して、継接ぎのように補強されたものばかりだ。そこが魔王の育った故郷である》
魔王「やっとついたぁ〜」
魔少女「想像以上にボロボロの街……」
魔王「そりゃ最上層に比べたらね。スラムはもっと酷いよ」
女側近「それにしても、この靄……瘴気が」
魔王「なんか前より瘴気がひどくなってる??」ケホケホ
女側近が言った通り薄黒い靄が街には立ち込め、10m先がなんとか見える程度だ。
魔王が最下層を離れてそれほど立ってはいないが、明らかに前より瘴気が濃くなっていた。
魔王(なんでだろう……)
魔少女「そもそも瘴気ってなんなの? 吸い込んじゃって大丈夫なの?」
女側近「瘴気とは空気中に漂う毒性の魔力のことです。魔界全土を覆っていると言われ、少量吸い込む分には一時的にステータス値が下がるだけですが、多量に吸い込むとモンスター化してしまいます」
魔少女「うえぇぃ……吸っちゃマズイじゃん!」
女側近「この程度の濃さでしたら問題ありません。冥都内では結界があるので、瘴気の進入を防いでいます」
魔少女「全然防げてないけど!」
女側近「外の瘴気はこの程度ではありません」
魔王「それにしても急に瘴気が濃くなってる……これじゃスラムと変わらない」
魔王(母さん……)
96 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:21:37.41 ID:Y6SYWOwiO
−−ー冥都 最下層・実家前−−ー
魔王「ここ、ここ! やぁ−−っと着いたぁ」
魔少女「ここがまおー様の実家。お母様にキチンと挨拶しなきゃ☆」
女側近「貴方は節操の無い格好なので、外で待っててください。挨拶は私が……」
魔少女「え! ズルい! そーゆーお姐ぇだって身なり整えてるじゃん! ウチも」
氷の鏡で身なりを整える女側近を横目に、魔少女はパチンっと指を鳴らし装備を清楚な服に変化させる。
魔王「ちょちょちょっと! 二人とも外で待っててよ……急に女の子連れて帰ったら母さん腰抜かしちゃうよ」
女側近・魔少女「うぅ……」
ガチャ
魔王「ただいまー」
魔王(久しぶりの我が家……やっぱり落ち着く)
魔王「母さーん、ただいまー」
……
魔王「……」
魔王(留守かぁ……ん?)
居間の床に似つかわしく無い物が転がっていた。
絶対に我が家のものでは無い。
魔王「……」
魔王(これは……)
魔少女「ナイフ?」
女側近「これはジャグリング用のナイフ……ですね」
魔王「うわっ!! 二人ともビックリさせないでよ…」
果物ナイフや戦闘用ナイフでは無い。
ジャグリングナイフ。
大道芸人が複数のナイフを空中に投げたり取ったりを繰り返し、常に1つ以上の物が浮いている状態を維持し続ける芸で、その技に使うのがジャグリングナイフだ。
女側近「お母様は留守ですか」
魔王「そうみたい。嫌な予感がする……」
97 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:22:40.58 ID:Y6SYWOwiO
魔少女「え? どうして?」
魔王「このナイフに見覚えがあるんだ。これは……『黒のサーカス団』のナイフだ」
魔少女「何? サーカス団?」
女側近「『黒のサーカス団』……冥都の基本労働に参加せず、スラムを縄張りとする反乱組織」
魔王「母さん……何かあったのかな? うちはあんなギャングみたいのと関わることなんてないのに」
女側近「争った形跡はありませんが……何かあったのは間違いありませんね」
魔少女「直接聞きに行こうよ、サーカス団に」
女側近「そうですね、確かめに行きましょう」
魔王「か、簡単に言わないでよ……物騒な人達なんだから!!」
魔少女「え、だってお姐ぇいるし。なんかしてきたらブチのめすだけだよん☆」
魔王(もし黒のサーカス団と関わりがあったなら母さんが心配だ……)
魔少女「何処にいるの? サーカス団は??」
魔王「冥都の最も底辺……スラム」
98 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:24:27.68 ID:Y6SYWOwiO
−−ー冥都 最下層・スラム−−ー
魔王「……」
魔少女「……」
女側近「……」
スラムの入り口に立つ魔王達は驚愕していた。瘴気がさらに濃く、3m先が見えないほど。魔王は生まれてから70年最下層住んでいたが、こんなことは初めてだった。
ペタペタと裸足の子供魔族達が瘴気に包まれながら歩いていた。
魔王「ねぇねぇ、君たち。いつからこんな瘴気がすごいの??」
少年魔族A「ん? えっと10日前ぐらいからかなー」
少年魔族B「なんかモンスターも出るようになっちゃって、お家に帰れないの」
魔王「えーーーー……どうして?? こんな」
女側近「ただ事ではありませんね……」
少年魔族C「“魔王”がスラムを潰そうとしてるんだってー」
魔王「えーーーー?!?!」
少年魔族B「冥都の上位魔族が瘴気をばらまいたって」
魔王「−−ーッ」チラッ
女側近「……いえ、違います」
魔王「だ、誰がそんなことを??」
少年魔族A「サーカス団の団員が言ってたよ。でも団員達が奥でモンスターと戦ってくれてるよ!」
少年魔族B「瘴気もサーカス団が消してくれるって!」
少年魔族D「黒のサーカス団マジかっこいいー!」
魔王「……」
99 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:27:31.92 ID:Y6SYWOwiO
魔少女「なんかまおー様のせいにされてる……」
魔王「とりあえず行こうか、ボク道案内するから」
魔王(母さんがいなくなったのと関係あるのかな? 何事もないといいんだけど)
……
テクテク……
魔王「女側近さん、前にスラムを焼き払う計画があるって言ってたじゃん? あれはどうなったの?」
女側近「もちろん、ご命令通り計画を破棄しました。魔王様の命令は絶対です」
魔王「誰かがその計画を勝手に実行したってことはない? なんか裏切り者がいるかもしれないんだし」
女側近「そもそも、スラム一掃計画は魔法で焼き払う計画でしたので……このような瘴気やモンスターを使うものではありませんでした」
魔王「なんでボクがやったことになってるんだ……ぁ」
魔少女「まおー様可哀想……」
女側近「冥都は高さ30mの結界の壁で覆われています。外界の瘴気とモンスターは通常入ってこれません」
魔王「結界……に異常があるのかな?」
女側近「おそらくは。……ん?」
魔少女「にゃ?」
魔王「どしたの? 二人共」
女側近「敵、モンスターですね。囲まれてます」
魔王「えーーーー! ちょっ……瘴気で全然視界がないよっ!」
女側近「大丈夫です。任せてください」ニコッ
魔王「う、うん」
女側近「魔少女、魔王様の側を離れず護衛しなさい。魔王様はゆっくり目的地へお進みください。私は敵を殲滅しながらついて行きます」
魔王「わ、わかったよ」
女側近はもう一度ニコリと微笑むと瘴気の中へ消えて行った。
ジャキンッ!
ドカッ
ガガアアアァッ
瘴気でまったく見えないが、女側近が敵を倒す音だけが周りから聞こえる……
100 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/21(金) 00:28:49.36 ID:Y6SYWOwiO
魔王「い、行こう。魔少女さん」
魔少女「はいな」ムギュ
魔王「ちょ、近すぎるって歩きづらいよ」
魔少女「ウチ、まおー様から離れないー」エヘ
魔王「くっつき過ぎーいろいろ当たってる。それじゃボクを守れないでしょ」
狼型魔物「グルルルゥッ」
魔物が現れた!
魔少女「にゃらー!」ボオオオンッ
魔少女は闇魔法を放った!
狼型魔物「ギャアアア……」
狼型魔物を、倒した!
魔少女「いえい! ほら大丈夫☆」
ドオオォンッ
キンッ
魔王(結構なモンスターがいる……)
魔王(女側近さんが戦い、魔少女さんが守る。ボクが先導……これも立派なチームの連携)
魔王(ボクら魔族にだってチームは出来るんだ)
■ 第8話 ボクと私とウチと 終 ■
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/21(金) 00:36:33.45 ID:Vv/PE51Ro
おつ
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/21(金) 22:06:30.29 ID:08P394fH0
乙
103 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:09:11.78 ID:RO0ZT/+y0
■ 第9話 母を訪ねて…… ■
104 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:12:23.81 ID:RO0ZT/+y0
濃い瘴気の中、魔王達は戦いながらスラムを進む。
昼間なのに日の光があまり届かない。なおかつ足場も舗装されておらず瓦礫が散乱している。
魔王は記憶を頼りに黒のサーカス団の本拠地であるテントを目指す。
ガキンッ
ドゴォォンッ
魔王「くっ……視界がなくて道がわからない」
女側近「魔少女、魔王様をガードしなさい」
魔少女「はいな☆」
女側近「はぁああああっ!」
女側近は氷風魔法を放った!
ゴオオオオオオッ!!!
女側近の魔法で辺りの瘴気を吹き飛ばす。
周りの建物などがピキピキと凍りつき冷たい空気が立ち込める。……が、一気に視界が開け目的地の黒のサーカス団のテントが見えた。
魔王「あ、あそこだよ!」
女側近「いきましょう!」
105 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:13:50.82 ID:RO0ZT/+y0
−−ー最下層 スラム・サーカス団テント−−ー
魔王「すみませーん!」
魔王「誰かいませんかーーー?!!」
魔王「母さぁぁん!」
魔少女「誰もいない? 逃げちゃったかな」
女側近「あちらに気配が……」
シュッ
女側近「魔王様、あぶないっ」キンッ
突然ナイフが飛んできたが、女側近が叩き落とした。
魔王「あ、ありがとう」
女側近「何者だ?! 姿をみせろっ」
??「……オイラは許さない」
姿を現したのは道化師。それも少年である。
手にはジャグリングナイフを持ち、敵意の目で睨んでくる。
魔道化師「オイラの街をこんなにしやがって〜!!」
魔王「き、キミは黒のサーカス団の団員??」
魔道化師「オイラ達を抹殺しにきたんだろ〜! 上位魔族め!」
魔王「ちょっ……違うよ! ボクらは母さんを探しに来ただけ! 誤解だよ」
魔道化師「あぁー?!?」
魔王「ホラ、このナイフ……キミのじゃないの?」
魔王は実家に落ちていたナイフを見せた。
106 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:16:01.60 ID:RO0ZT/+y0
魔道化師「!……オイラのナイフ。これを何処で?」
魔王「ボクん家に落ちてたから。母さんが何処行ったか知らない?」
魔道化師「母さんって……お前、“女魔賢者”の息子か?」
魔王「そ、そうだよ。知ってるの??」
魔道化師「そうなのかー……ごめん。ピカピカな服着てたから、てっきり上位魔族かと思ったよー」
女側近「……」
魔少女「……」ギクッ
魔王「母さんは何処に??」
魔道化師「団長達と“死の丘”へ行ってるよー」
女側近「なぜ?」
魔道化師「少し前によー。“魔王”達、上位魔族がスラムを潰すために結界に穴を開けてさ。おかげでスラムは瘴気とモンスターに溢れちゃった」
魔王「結界に穴……」
魔道化師「お前の母親は最下層で一番魔力が高いじゃん?」
魔王「そうなの?!」
魔道化師「そんな訳で、穴の空いてしまった結界を直すために協力してもらってんだよー。そうとは知らずごめん、急にナイフ投げたりして」
女側近「なるほど………“死の丘”。結界の壁すぐ近くです」
魔王「行こう! 急がないと瘴気がどんどん濃くなっちゃうよ」
魔道化師「オイラ達、黒のサーカス団に協力してくれるのか??」
魔王「もちろんだよ!」
魔道化師「うひゃっ! 女魔賢者の息子が力になってくれるなら団長達も喜ぶ! オイラが案内するよー」
……
107 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:17:30.96 ID:RO0ZT/+y0
魔道化師の案内で“死の丘”へ急ぐ魔王達。
相変わらず瘴気は凄いがモンスターはあまり現れない。
魔道化師「オイラ、魔道化師だ。サーカス団ではピエロって呼ばれてる。よろしく、うひゃ」
魔王「ボクは魔お……あっ、えーと……」
魔道化師「マオか、うひゃよろしくー」
魔少女「ウチは魔少女。こっちの巨乳は女側近だよ。ピエロくんよろしくー☆」
魔王「ピエロくん。結界に穴が空いたのって“魔王”の仕業って聞いたんだけど本当??」
魔道化師「おう、少し前から上位魔族がスラムを潰そうとしてるって情報があったんだー」
魔王(それは事実だ……)
魔道化師「オイラ達、黒のサーカス団はその情報の詳細を調べていた所だったんだけど」
魔道化師「つい10日前か? 大きな魔力の波動を感じたと思ったら結界に穴が空いて、ごあーって瘴気が噴き出したわけよー」
魔王「それで犯人はボク……あ、いや魔王軍ってことなのか……?」
魔道化師「穴を開けられた時に上位魔族が目撃されてるからなー」
女側近「どんな奴ら??!」
魔道化師「あ、白いフードを被ってて顔は分からなかったらしいけどー。数は4人。でも綺麗な身なりだったらしいからスラムの魔族ではないじゃん」
魔王(白いフードを被った4人……)
女側近「……」
108 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:18:54.52 ID:RO0ZT/+y0
−−ー最下層・死の丘−−ー
ゴオオオオオオッ!
キンッ キンッ
ドオォォンッ!
サーカス団長「ひるむなーーー! いけえぇ!」
団員達「「「「あいさー!」」」」
サーカス団長「女魔賢者殿にモンスターを近づけるなっ!」
女魔賢者「……$€〆⌘tx……△∞c∬……」
死の丘では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
中央には魔王の母、“女魔賢者”が結界を塞ごうと詠唱し、それを護るように黒のサーカス団が無数のモンスター達と戦っていた。
魔王「母さんっ!!!」
魔少女「ひぇぇっ! サーカス団のみんな、めっちゃ囲まれてるよっやばいやばいっ」
女側近「魔王様は下がっていてください!」
魔少女は全体回復魔法を放った!
キュイイィィン!
サーカス団長「!」
獣型魔物「グウウゥ!」
団員B「はぁっ!」ガンッ
鳥型魔物「ギャアギャアッ」ズバッ
女側近「やぁっ!」ジャキンッ
鳥型魔物を倒した!
サーカス団長「お、おぬしは……」
女側近「加勢致します」
魔道化師「うひゃ団長っ! 援軍つれてきたよー」
サーカス団長「ピエロ……危険だからテントにいろと」
獣型魔物はしゃくねつほのうを放った!
ゴオオオオオオッ!
団員A「うわああっ」
魔道化師「ぎゃあああ」
団員E「くぅ……」
109 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/22(土) 02:20:41.40 ID:RO0ZT/+y0
女側近「外界の敵相手に出し惜しみは良くないわね……」
女側近が刀身に手を添えると氷の剣が輝き出す。
女側近「はあああぁぁぁっ!!」キィィィン!
女側近は絶対零度魔法を放った!
キィィイインッ
キィィイインッ
キィィイインッ
獣型魔物「」
鳥型魔物「」
狼型魔物「」
女側近の剣から放たれた光に触れたモンスターは一瞬で凍りつき塵となり消える。
団員C「な、なんだ? この魔法は?!」
女側近「はああああああぁっ!」
キィィイインッ
キィィイインッ
キィィイインッ
魔物の群れを倒した!
団員A「つ、つぇ……」
魔王「母さんっ!」
サーカス団長「近づくなっ! 女魔賢者殿は結界を修復するために集中しているっ」
女魔賢者「°#€=〆lo……」
魔王「……」
サーカス団長「結界を塞がなければモンスターは入ってくる。あと2日ほど耐えれば塞がるはずだ」
魔少女「あと2日も?!」
魔王「女側近さん……出来る?」
死の丘から空を見上げると瘴気の中にバチバチと光が見える。
女側近は大きさを確認するとニコリと微笑んで言った。
女側近「お任せください。魔王様の命令は絶対です」ニコッ
女側近は女魔賢者の肩に手を当てると魔力を注ぎ込む。
その瞬間、まるで突風が吹いたように瘴気が晴れていく……。
サーカス団長「塞がった?!」
団員A「やったー!」
団員B「うおお!」
団員C「すげー!」
団員D「やたぁぁあああ」
魔少女「さっすがお姐ぇ」フフン
女魔賢者「う……くぅ……。なんて魔力」
女側近「……ふぅ」クラクラ
魔王「母さんっ!」
女魔賢者「ええ?! アンタ……なんでここに……」
■ 第9話 母を訪ねて…… 終 ■
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/22(土) 02:51:47.44 ID:8WGFGPgm0
乙
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/22(土) 10:56:23.86 ID:iYQImBc6o
おつ
112 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:30:32.90 ID:pn5TGs9JO
■ 第10話 アビリティ:ネゴシエイト ■
113 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:32:54.07 ID:pn5TGs9JO
−−ー最下層スラム・サーカス団テント−−ー
魔少女「お母様、無事でよかったね」
魔王「うん、でもサーカス団に連れてかれちゃったけど」
魔少女「どういうつもりかしら」
魔王「……女側近さん大丈夫?」
女側近「……はい。ご用があればなんなりと……」フラフラ
魔王「わっわっ! まだ寝てていいって!」
女側近「だ、大丈夫です。魔力を使い過ぎただけですから……」
魔王「だめ、休んで! ボクの命令は」
女側近「……絶対です……」
魔王「うん」ニコッ
魔少女「お姐ぇがヘロヘロになるなんて珍しー。というか初めて見た!」
女側近「申し訳ありません……」
魔王「いやいやいや! 謝らないでよ。ボクなんもしてないんだから」
魔少女「今のうちに♫ まおー様☆」モニュ
魔王「ちょっ」アセ
女側近「」ピキッ
女側近は氷撃魔法を放った!
ドドドドドッ!
魔王「わああああっ」
魔少女「きゃああああっ」
女側近「サキュバスといえども場所と時間をわきまえなさい。次は当てますよ」ニコッ
魔少女「こっちのセリフよーもぅ」
……
団員「おい、お前ら」
サーカス団長「元気そうだな。さすがは上位魔族といったところか」
魔王「……」
114 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:34:28.64 ID:pn5TGs9JO
女側近「私達が上位とわかっているなら部下達に剣をしまえと言ってもらおうか」
団員「……」チャキ
サーカス団長「上位魔族だから武器を手放せん。我々がおぬし達と敵対しているのはわかっているのだろう?」
女側近「敵対だと? こちらから見ればお前らは弱すぎて敵と認識するまでもない、お前らはただの……」
魔王「女側近さんっ! 挑発しないでっ」
女側近「……はい。かしこまりました」
サーカス団長「……」
団員達「……」
魔王「団長さん、ボク達は貴方達と話し合いがしたい」
サーカス団長「スラムを潰そうとしておいて、話し合いも何もないだろう」
魔王「今回の事態は上位魔族のやったことではないよ」
サーカス団長「それを信じろというのか? では、誰がやったのだ? 結界に穴を開けた者も目撃されているのだぞ」
魔王「……」
女側近「……」
魔少女「まおーさま……」
サーカス団長「ふん、我々を納得させなければ話し合いに応じることはできん」
魔王「じゃぁ納得させるよ。ボクの考えを聞いてよ」
女側近「!」
サーカス団長「申してみよ」
115 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:35:46.71 ID:pn5TGs9JO
魔王「えっと……約10日前、白いフードをかぶった4人組が目撃されてる。顔は誰も見ていない」
サーカス団長「状況からして上位魔族だな」
魔王「ちがうよ、その4人組は……」
魔王「人間だ」
魔少女「あっ! そうか」
女側近「勇者達……」
魔王「そう、先日最上層の黒魔城が人間に攻められたのは皆知ってるよね?」
魔王「彼らは結界に穴を空け、冥都に侵入。人間と気づかれないよう最上層まで上がってきたんだ」
サーカス団長「……」
魔王「考えてみてよ、上位魔族がスラムを潰そうとしたなら魔法で焼き払うよ。それだけの武力があるし。わざわざ結界に穴を空けたりしない。瘴気がどんどん濃くなりスラム以外も潰れてしまう」
サーカス団長「ふむ……」
団員「団長……」
魔王「ボクと団長さんの2人だけで話がしたい」
サーカス団長「……。いいだろう」
団員「団長! 危険です!」
サーカス団長「いや、スラムのリーダーは私だ。任せてくれ」
……
116 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:38:05.15 ID:pn5TGs9JO
−−ー黒のサーカス団テント 団長の部屋−−ー
サーカス団長「結界を直した女魔族は……見覚えがある。あれほどの強さを持っているのに、おぬしはそんな彼女に命令をしていた」
魔王「うん、彼女はボクの側近……」
サーカス団長「まさか……」
魔王「ボクが“魔王”だ」
サーカス団長「なんと……こんな子供が。ピエロと変わらないぐらいではないか」
魔王「話し合いに応じてくれてありがとう」
サーカス団長「脅しの間違いだろう? 我々では束になってもおぬしらに敵わない」
魔王「ボク達は貴方達より圧倒的な力があるよ、でも脅す気はない」
サーカス団長「ふん、信じられるものか。魔王よ、おぬしの母親“女魔賢者”の身柄はこちらにある。私に何かあれば……」
魔王「貴方をスラム……いや、下位のリーダーとして我々魔王軍と交渉して頂きたい」
魔王「お互い納得いくようにしたい」
サーカス団長「……信用できない」
魔王「信用してほしいから、ボクは身分と素顔を明かしたんだよ」
サーカス団長「チカラのある“魔王”が何故話し合いなのだ?」
魔王「チカラだけでは解決しないこともあるよ。そしてボクに出来ないことが貴方にはできる」
サーカス団長「……」
魔王(どう……だ?)
117 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:39:53.33 ID:pn5TGs9JO
サーカス団長「いいだろう……」
魔王(よし!)
サーカス団長「交渉というからには、何か要望があるのだろう? そちらが我々に求める条件はなんだ?」
魔王「うん、まず……」
魔王は真っ直ぐ団長を見つめ、口を開く。
魔王軍の条件
・下位層の犯罪組織解体
・スラム市民の労働への参加
・“黒のサーカス団”が魔王軍の傘下に入る
サーカス団長「ふん、無理難題ばかりだ」
魔王「だけれど、貴方なら不可能じゃないよ。下位層を掌握している貴方にしかできない」
サーカス団長「こちらの条件を言わしてもらおう」
下位層スラムの条件
・スラム街のインフラ整備
・生活保障
・減税
・スラム住民の犯罪歴の抹消
・労働環境の整備
・スラム住民の上層階への通行許可
・食料と資金
・私の上位魔族の地位
サーカス団長「こんなところか」
魔王「……」
サーカス団長「無理ならこの話は……」
魔王「すべて受け入れるよ」
サーカス団長「な、なんだと?!」
魔王「減税と労働環境に関してはすでに動いているよ。他も改善するから、そちらも誠意を見せてよ」
サーカス団長「しかし……」
魔王「すぐじゃなくていい。少しづつでも犯罪が減ったり、魔王軍に対立する魔族が減ってくれればそれでいい」
魔王「ボク達は同じ魔族だよ? お互いが歩み寄れば格差は減らせる」
魔王「力で抑えつければ、反発を生む。その反発をまた力で抑えつける」
魔王「何も良くならない! 必要なのは話し合いだ」
118 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/23(日) 00:41:40.95 ID:pn5TGs9JO
サーカス団長「……」コクリ
言葉には出さなかったが、サーカス団長は頷いた。
魔王「交渉……成立!」
サーカス団長「しかし、私が“魔王”と手を組んだというのは……」
魔王「うん、しばらくは秘密だね。今はスラムで上位魔族への不信感が強すぎるもん」
サーカス団長「これは密約ということで……おぬしがしっかり動いてくれるなら、私も必ず答えよう。そうすれば徐々に不信感も消えるだろう」
魔王「うん、よろしく団長さん」
サーカス団長「……はい。魔王様よろしくお願いします」
魔王「あ、もう一つ条件だしていい?」
サーカス団長「?」
魔王「母さんを返してほしい……」
■ 第10話 アビリティ:ネゴシエイト 終 ■
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 01:05:49.57 ID:9rO0Cxsgo
おつ
面白いし更新早いしでいいね
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/23(日) 12:22:36.96 ID:FOGuYRI20
乙
121 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:18:25.40 ID:dGBElHxsO
■ 第11話 なれそめ ■
122 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:22:25.25 ID:dGBElHxsO
−−ー冥都 最下層・実家−−ー
女魔賢者「アンタ〜! どこ行ってたんだいっ」
魔王の母、女魔賢者は息子をぎゅ〜〜っと抱きしめると満面の笑みで言った。
“魔王”に即位してから初めて母の元へ帰ってきたのだ…ハグされる恥ずかしさもあったがホッとした気持ちが強かった。
魔王「母さんっ! 苦しいって〜」アセ
女魔賢者「ちょっと顔見せないなぁと思ったら……」チラ
女側近「……」ペコリ
魔少女「どーも☆」エヘ
女魔賢者「女の子連れてくるなんて……それも2人も。お母さん寂しい」
女側近「初めまして、部下で女側近と申します。お母様」
女魔賢者「あらあら、どうもご丁寧に〜。こんな美人な方を。やるわね〜アンタ」
魔少女「お母様! ウチは恋人兼部下の魔少女です☆ よろしく〜」
女魔賢者「あらあら、こちらも可愛らしいお嬢さんだこと。我が息子ながら隅に置けないわ」
魔王「母さんっ! なんか勘違いしてるようだけど、2人は仕事仲間だから。それより聞きたいことあって帰ってきたんだけど」
女魔賢者「そうなのかい。ふーん。なんだい? 聞きたいことって??」
魔王「父さんのことだよ!」
女魔賢者「? なに?? そーりゃーイケメンでダンディだったよ。私の旦那だもん」アハ
魔王「そうじゃなくて……」
女魔賢者「まぁアンタの顔見ないで亡くなったって言ったろ……旦那っていっても、戦争で一緒に暮らすことさえ叶わなかったけどさ」
顔は笑っていたが、眼が悲しみの色に変化したのを魔王は見逃さなかった。
魔王(何も知らないのか……? 生きていてたことも、“魔王”だったことも……)
魔王「父さんは……父さんが……」
女魔賢者「なんだい?」
魔王「……」
女側近「……」
魔王「ボクの父さんはどんな魔族だった?」
女魔賢者「珍しいわね、そんなこと聞くの初めてじゃない? そうね、アンタの父さんはすごい男だったよ」
魔王「……」
女魔賢者「母さんはね、昔最上層で魔法の研究する仕事してたんだ。魔王軍の騎士だった父さんとは黒魔城で知り合ったの」
123 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:24:27.71 ID:dGBElHxsO
魔王の母は思い出を語った。
父親は勇敢な騎士であったこと。
身分の違いが有り秘密の関係で愛を育んだこと。
子を宿したが、人間との戦争が始まり結婚出来なかったこと。
子供の顔を見ることなく戦死してしまったこと。
その後、子供に魔法のチカラが無かった為、最下層へ移ったこと。
女魔賢者は笑顔で寂しそうに語った。
魔王(父さんが騎士?? 父さんが“魔王”になったのは数百年前だ)
魔王(つまり父さんは“魔王”という身分を隠して、母さんと付き合っていたってことなのか。その上、死んだことにして別れた……)
魔王(ひょっとしたら、生まれて来るボクに魔力が無いのが分かって別れたのかも)
魔王(そんなのって……)
魔王は母親の笑顔から目をそらす。
魔王(酷すぎる)
魔王(母さんは最下層で魔法の使えないボクを育て、ずっと苦労してきた)
魔王(きっと父さんの忘形見だと思ってたんだ。それなのに……本当はのうのうと生きていたんだ)
124 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:27:12.35 ID:LFKcVyNL0
魔王「母さん、魔力の無いボクをここまで育ててくれてありがとう」
女魔賢者「……なんだい急に……」
魔王「ボク新しい仕事頑張るから! これから母さんを楽にさせるから!」
女魔賢者「何言ってんだい。魔力があるか無いかなんて関係無いよ、アンタは私の子」
女魔賢者「魔法が使えない体質を魔法学じゃ“無属性”って言うんだ。世間じゃ偏見もあるし障害者扱いだけど……」
女魔賢者「母さんはね、本当はアンタに凄い力が眠ってるんじゃないかって思ってる。それがなんの才能かわからないけど……」
女魔賢者「勇敢な父さんと私の子供なんだから」
女魔賢者「だから……
自分を信じるのよ」
魔王「うん」
女魔賢者「よし」ニコッ
魔王「ありがとう……」
女魔賢者「ところで新しい仕事ってなんなんだい?」
魔王「えーと……。今は最上層で働いてるんだけど……」
魔王「と、図書館の整理だよ!」
125 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:29:55.91 ID:LFKcVyNL0
−−ー冥都 最下層・中央通り−−ー
女側近「本当のことを言わなくてよかったんでしょうか?」
魔王「うん。今はまだ……母さんまだ父さんを好きだもん。言えない」
女側近「“好き”ですか……70年経っても忘れられないとは」
魔王「そーゆーものなのかな。夫婦って。わからないけど」
女側近「そうですね。わかりません」
魔少女「あれぇ? お姐ぇが分からないなんて珍しいっ! あは☆」
女側近「……。わからないのではなく理解出来ないのです」ムッ
魔少女「同じじゃーん。好きになったらそのすべてが宝物♫」
女側近「……。そういうもの……?」
魔少女「え?! マジでいってんの?? 彼氏かわいそー」
魔王「あ!!!」
女側近「はい?」
魔王「……そ、そそそそ、そういえば……お、女側近さんのカカカカ……彼氏って?」
女側近「え?……彼氏といいますか……い」
魔王「あああああああっ! ウソウソっ! 言わなくていい!」
女側近「あ、はい……」
魔王(なんか分からないけど聞きたくない!)
魔少女「えーーーー! 教えてよ、お姐ぇ! 彼氏どんな男なのー?」
女側近「いえ、答えられません。魔王様の命令は絶対ですから……」
魔王「……」ショボーン
魔王(女側近さんに恋人……)
魔王(いろいろ聞いたら甘えられなそう……)
魔王(いやいや! なるべく甘えないようにしよう!)
魔王(彼氏のこと考えて迷惑してたかもしれないし……)
魔王「……」ショボーン
126 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:31:34.92 ID:LFKcVyNL0
魔少女「まおー様。愛とは何があっても信じること。その相手の全てを受け入れること☆」
魔王「受け入れることかぁ……」
女側近(……なるほど)
魔少女「ウチはお母様にぜーんぶ言っても大丈夫だと思うよ☆」
魔王「そか……わかった。ボクがみんなに“魔王”として認められたら言う!」
魔少女「うん!」
女側近「賢明なご判断です。魔王様の素性が広まるとお母様が狙われる危険性があります。一応、部下に極秘裏に護衛させます」
魔王「ありがとう……」
魔少女「元気だして、まおー様」
魔王「げ、元気だよ! とにかくボクの素性バレないのにしないとね」
女側近「今の所、黒のサーカス団の団長にしか知られていません」
魔王「早いとこ“魔剣”を取りに行こう! そんでお城へ戻ろっ」
魔少女「あれ? まおー様、なんかこっち向かって叫んでる魔族がいるよ?」
魔王「え?」
127 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/24(月) 00:34:43.72 ID:LFKcVyNL0
魔少女の視線の先を見ると、大声で叫びながら手を振ってる少年が見えた。
派手なシマシマの服に、赤い鼻の飾り。黒のサーカス団の魔道化師だ。
魔道化師「おぉぉーいっ! 魔王ぉー!」
魔王「うわあああっ! ピエロ! ちょっと内緒なんだから叫ばないでよっ!」
魔道化師「うひゃーやっぱ内緒なのかー」
魔王「なんで知ってるのさ??」
魔道化師「オイラ、マオと団長が話してるの聞いてたからなーひゃひゃっ」
魔王「えーーーー!」
女側近「貴様……それを誰かに言ってないだろうな?」ギロッ
魔道化師「うひゃ、言ってない言ってない」
魔少女「さっそくバレてる……」
魔王「誰にも言わないでよー」
魔道化師「わかったわかったー。じゃ行こ〜」
魔王「どこに?」
魔道化師「飛空船に決まってんだろ〜」
女側近「私が黒のサーカス団に依頼しました。冥都の魔導エレベーターは修理中ですので、港の第七層に行くことが出来ません」
魔道化師「オイラ達の飛空船を貸すってことなったんだよ」
魔王「そか。よろしく!」
魔少女「よーやく“魔剣”のところへいくのねー」
女側近「冥都を出て外界へ。“最果ての町”を目指します」
魔王(だいぶ寄り道しちゃったけど、いよいよ“外界”へ!)
魔王達は黒のサーカス団の協力を得て、飛空船で飛び立つ。まだ旅は始まったばかり。
■ 第11話 なれそめ 終 ■
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 01:07:58.47 ID:6qJdFFa8o
おもしろいね
おつおつ
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/24(月) 03:42:52.31 ID:2HOfvy2C0
乙
130 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:05:08.45 ID:qT6yyMhUO
■ 第12話 魔社会問題 ■
131 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:07:39.24 ID:qT6yyMhUO
女側近『魔王様、本日の業務は冥都の少子化対策についてです』
魔王『うん』
女側近『男魔族の子種はとても少なく、他の生物に比べると非常に子供が作りずらい。これは他の生物より魔族の寿命が長い為だと言われております』
女側近『それに加え、近年若者の草食化にともないさらに少子化が加速。冥都の社会問題になっております』
魔王『そ、草食?』
女側近『そこで魔王様自ら性行為のススメを行なって頂き、少子化を食い止めたいと思います』
魔王『はぁ?!?!』
女側近『まずは魔少女と……お願い致します』
魔少女『あは★まおー様、仕事ですよ。エッチしましょ』
魔王『え、え?!……えーーーー!!??』
女側近『それではよろしくお願い致します』
魔少女『まおー様……失礼します』
魔王『う……うわあああ…………』
魔王(頭が真っ白に……)
……
……
魔王「ハッ……」
132 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:10:06.07 ID:qT6yyMhUO
魔王「……」
魔王「え?……これからってときに急に朝に……」
魔王「ここは飛空船の中…」
女側近「おはようございます、魔王様」
魔王「え? 夢?」
ダダダダッ……バタンッ!
魔少女「ちょっとー! なんで起きちゃったのよー」
女側近「おはようございます、魔少女。魔王様が魘されてたので私が起こしました」ニコッ
魔少女「うわっ! お、お姐ぇ……覚醒魔法か。うぐぐぐ」
魔王「え?え?え?」
女側近「魔少女、魔王様の夢に入るのは止めなさい」
魔少女「ひぃ……やっぱりバレてた」
魔王「えーーー?! ボクの夢の中に入ってたの??」
女側近「サキュバスは精神世界に入り込み夢を操ることができます。少子化対策については問題ありませんのでご安心を」
魔王「あ、そう。よかった……ような、残念なような」
女側近「はい?」
魔王「あ、いやいやいや! 何でもないです」アセ
133 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:12:55.24 ID:qT6yyMhUO
−−ー外界 上空・飛空船内−−ー
魔王達は黒のサーカス団の中型の飛空船に借り、魔界の果てにある“最果ての町”へ向かっていた。
飛空船の窓から外を見ると、赤い空、黒い雲。地上には瘴気の雲海が見渡す限り続く。
冥都を離れて3日。
魔王を乗せた飛空船は順調に空を飛んでいた。
魔道化師「うひゃ、ほい……ほいほいほい」
魔道化師はナイフで器用にジャグリングする。
魔少女「わー! すごいっ」
魔王「おお! かっこいい」
魔道化師「うひゃひゃっ! お次はファイヤーナイフ投げっ」ブオォッ
魔王「うおおおお……って、アチッ」
魔少女「きゃああっ熱いっ」
女側近は氷冷魔法を放った!
パキーンッ
魔道化師「あひゃ」
女側近「ピエロ、船を燃やす気? コントロール出来ないならやめなさい」
魔道化師「失敗してもうた〜〜」
魔王「ちょっとーあふないじゃん」
魔道化師「ごめんごめんー」ウヒャ
魔少女「ピエロ、見かけによらず案外魔力あるのね」
女側近「それでは魔王様、休憩はこのくらいにして仕事に戻りましょうか?」
魔王「うん」
魔少女「うぇー。まおー様もっと遊ぼうよー」ブー
女側近「魔少女は自分の部屋で勉強でもしてなさい。ピエロは船の操縦に戻って」
魔少女・魔道化師「「はーい」」
ガチャ
134 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:15:30.41 ID:qT6yyMhUO
魔王「えーと、まず何から……」
女側近「まずは……人間界の勇者についてですが、現在マークしている勇者は6人。内1人が先日の勇者、彼だけが魔界の何処にいるか把握出来ていません」
魔王「あの黒魔城で戦った勇者?」
女側近「はい。一番警戒しなければならない勇者です」
魔王「なんとか見つけださないとね」
女側近「魔界各所に手配しております。人間は目立ちますので何か目撃や痕跡があればすぐ連絡があります」
魔王「うん。あとあれだけ強い人間だもん。単独でも魔王軍の拠点や街を落とされちゃうかもしれない。警戒するよう連絡を」
女側近「はい、すでに魔界全土の警戒レベルを引き上げました。この対応は戦争の開戦時以来ですね」
魔王「早く魔剣を手に入れないと……」
女側近「人間界の勇者の対応はいかが致しましょう? 現在はマークしているだけで膠着状態ですが……」
魔王「いくら倒しても勇者が現れるからなぁ……どうしたらいいんだろう」
女側近「勇者が旅をしずらい状況を作れればいいのですが」
魔王「うーん……旅しずらい……」
魔王「じゃ人間達のインフラを破壊しよう! 船や橋を壊したり、山道やトンネルを崩すとか」
女側近「なるほど。人間界は転移魔法はあまり普及しておりませんので有効かもしれませんね」
魔王「隠密的に破壊工作すれば、こちらの被害も少なくすみそう」
女側近「すぐ手配致します」
魔王「うん!」
女側近「では次の議題へ参ります」
……
135 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:18:25.26 ID:qT6yyMhUO
魔道化師「姐さーーーん! ちょっとーーー!」
操縦席の方から魔道化師の焦ったような声が聞こえる。
魔王「騒がしいなぁ……どうしたの?」
飛空船の操縦席からの視界には、見渡す限りの美しい朝日と大海のように広がる瘴気の雲海が見える。
魔少女が「あれ!なに?!」とひょんひょんと跳ねながら指を指してる。遠くに空に浮かぶ島があり、丸い大きな光が見える。
魔王「な、なに? あれ?」
女側近「人間界へのゲートです。あの光の先が人間界になります」
魔少女「うわぁ……大きいね。飛空船ごと入れそう」
魔王「ゲートって、扉みたいになってるのかと思ってた」
実際の人間界へのゲートは、空中に浮かぶ直径20mはあろうかという光の球体。
しかし球体ではあるものの、よく見ると奥行きがある。まさに空に浮かぶ穴。
女側近「ゲートの下には街があります。補給も兼ねて、寄って行きましょう。ピエロ、船を彼処へ」
魔道化師「ラジャ〜」
魔王達の飛空船はゲートのある浮遊島へ入港する。
136 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:20:53.02 ID:qT6yyMhUO
−−−外界 浮遊島・境界都市−−−
《境界都市・魔界側。人間界へのゲートがある浮遊島の街。ゲートは魔王軍が管理警備しており、軍と決められた商人しか通行することができない。人間界からの物資が沢山届き、多くの商人が行き交う貿易の街》
ガヤガヤ……
ガヤガヤ……
魔王「うわぁ……賑やかだぁ」
魔少女「市場っいちばー!」キャピキャピ
商人「そこのボクちゃん! 人間界の野菜買っていかない?!」
魔道化師「うひゃー何この野菜! 空みたいに真っ赤だよー」
女側近「こちらはトマトと申します。人間界は瘴気がありませんので、野菜や植物がとても豊富です」
商人「食べてみるかい?」
魔少女「いいの!? やた! いただきまーす」
魔王「え、ボクもボクも」
魔道化師「オイラもー」
パクッ
魔王少女道化師「「「うまいーーー!!!」」」
魔王「女側近さんも食べてみなよ!」
女側近「あ、あ、はい……」パク
女側近の魔力が回復した!
女側近(おいしい……)
魔道化師「うひゃー! マオッあっちに人間界の服あるよー」
魔王「え、ピエローまって、どこー?」
魔少女「まおー様ぁこっちにもー」
女側近「皆さん、はぐれてしまいますよー」
ガヤガヤ……
魔道化師「マオっ見てみろよ……これ」
魔王「なにこの服!……女の子の下着みたい」
魔道化師「うひゃひゃっ踊り子用の服だって。姐さんに着てもらえよ」
魔王「だ、だ、ダメだよ。そんな節操のない……」アセ
魔道化師「魔少女しゃんなら着てくれそう」
魔王「あれ? 2人ともいないよ。はぐれた??」
魔道化師「お! こっちにもお店あるぞー」
魔王「あー! ピエロまってよ」
魔王と魔道化師は地下へと降りていく……
137 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/25(火) 00:24:44.12 ID:qT6yyMhUO
ーーー浮遊島 境界都市・地下オークション−−−
客A「15番っ」
客B「7番」
客C「8番!」
カンッカンッ……
オークショニア「『金剛竜の爪』7番落札っ!」
客B「よし!」
オークショニア「次……」
広いホールに熱気に包まれた数十名の客。
舞台の司会者に向かい、我こそはと次々に手を挙げる。
カンッカンッと鐘を鳴らすと落札者が決まる。
魔道化師「こりゃなんだ〜?」
魔王「これって……オークションだ! 初めてみた」
魔道化師「おーく……? なにそれ?」
受付「ありゃ、ボクちゃん達、オークションは初めてかい?」
魔王「はい……みんな、手を挙げて何してるんですか?」
受付「競りだよ」
受付「全ての物資や食料は市場で競りにかけられるんだ。落札した商人<バイヤー>によって冥都の上層や下層に行くか。もしくは冥都じゃない別の町へ行くか」
魔王(魔界の物の流れ………)
魔道化師「競り?……お金払えば買えるんじゃないの〜??」
受付「違う、ここは魔界だぞ? 必要なのは『魔力』」
魔道化師「なるほど〜。客はああやって手を挙げて魔力を示しているのか〜」
受付「そう、魔力が一番高い魔族が落札できる。ここは骨董品を扱うオークションだ。君らも参加してみな。欲しい商品があったら手を挙げて魔力を集中させるんだ」
魔道化師「おおお! マオっ! やってみよっ」
魔王「う、うん。ボク魔力ないからできないけど」
受付「はい、番号札52番だね」
オークショニア「次っ! 嘘を見破る緑の輝き『エルフの瞳』っ!」
客E「16番」
魔道化師「52番っっっ!」
客F「24番!」
カンッカンッ
オークショニア「『エルフの瞳』24番落札!」
魔王「ダメかぁ」
魔道化師「くっそ〜っ」
魔王(魔力が低いと物資や食料も回ってこない……これが魔界の物流なんだ)
■ 第12話 魔社会問題 終 ■
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/25(火) 00:44:14.48 ID:2r5YxYtYo
おつおつ
139 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:31:27.18 ID:vEy0wmRI0
■ 第13話 オークションバトルっ! ■
140 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:33:16.52 ID:vEy0wmRI0
オークショニア「次っ……初代闇騎士団の団長の遺品『アサシンダガー』」
魔道化師「ごおおぉぉぉ52ばあぁぁんっ!」
客K「33ばん!」
客B「7番」
客A「15番っ」
カンッカンッ……
オークショニア「『アサシンダガー』7番落札!」
魔道化師「くぁーー」
魔王「勝てない……」
オークショニア「次っ……魔法薬原料、悲鳴を聴くと危険な植物『マンドレイク』」
魔道化師「5ぉぉぉ2ぃぃぃいいいいバンっ!」
客B「7番」
カンッカンッ……
オークショニア「『マンドレイク』7番落札!」
7番の魔商人「クックックッ……」
魔王「また7番に負けた…ピエロの魔力じゃ何も落札できないんじゃないの?」
魔道化師「ぜぇ……ぜぇ……オイラ魔力つきてきた」
魔王「そっか。落札出来なくても魔力は減る…むやみやたらに手を挙げるより、本当に欲しい物だけに全力で魔力を注げば勝てたのかも」
魔道化師「うひゃ…マオ。言うの遅いよ……ゼェゼェ……」
141 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:35:09.92 ID:vEy0wmRI0
カンッカンッ……
オークショニア「『フェアリーの琥珀』7番落札!」
魔王「7番すごいなぁ……」
魔道化師「オイラちょっと休憩……」
魔少女「まおー様っ! いたいた!」
魔王「あ、魔少女さん。女側近さんは?」
魔少女「え? まおー様と一緒だと思ってた。はぐれちゃったかな」
オークショニア「次、人間界最高級香辛料『サフラン』」
魔商人「7番」
魔道化師「52番っ!……魔少女しゃん、手を挙げて」
魔少女「え?……?」スッ……
魔道化師「魔力を集中っ」
カンッカンッ……
オークショニア「『サフラン』52番落札!」
魔道化師「うひゃーやった!」
魔王「魔少女さんすごい!」
魔少女「え? なーに?オークション?」
魔商人「くそっ!」
オークショニア「次が最後にして本日のメインイベント……」
ザワザワ……
142 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:36:41.91 ID:vEy0wmRI0
オークショニア「エルフ族の魔法技術の結晶。潜在魔力を解放する魔法薬『エルフの精霊薬』っ!!!」
客G「43番!」
客H「10番っ」
客L「38番!!」
客M「50番」
魔道化師「欲しーい。魔少女しゃん!」
魔少女「うん! 52番っ!」
魔少女(魔力を……)
キィィイインッ
客M「なんだあの女の子は……」
客H「なんて魔力……」
客A「子供じゃないか……上位魔族か?」
ザワザワ……
魔道化師「うひゃ、魔少女しゃんすごいっ」
魔少女「あは★トーゼン♪」
魔商人「……」
魔商人の仲間「……」
魔商人の仲間は魔封結界を放った!
パァァリィィン……
魔少女「あ、あれ?」
魔道化師「え?え?」
オークション会場全体の魔力が弱まる……。
魔商人「7番」ニヤ
カンッカンッ カンッカンッ!!
オークショニア「『エルフの精霊薬』7番落札っ!」
魔王「あーー!」
魔道化師「あーー! ずっりぃぃ」
魔少女「あー……もう!」
オークショニア「以上を持ちまして、終了となります。落札者は受付までお越しください」
143 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:38:00.46 ID:vEy0wmRI0
ガヤガヤ……
魔王「結局『サフラン』だけしか落札出来なかったね」
魔少女「まおー様ごめんなさい」
魔王「いやいや、魔少女さんのせいじゃないよ」アセ
魔道化師「マオー! 『サフラン』貰ってきたぞ」
魔少女「なんなのこれ?」
魔道化師「うひゃ、しらない」
魔王「香辛料だって。料理に香りつけるやつ」
魔少女・魔道化師「……」
魔商人「その価値も分からねぇとはな……」
魔道化師「あ! 7番っ! さっきはズルしやがって〜気づいてるぞ!」
魔商人「『サフラン』を渡してもらおうか」
魔王「え?」
魔少女「なんでアンタに渡さなきゃいけないのよ」
魔商人「どーせお前らには使えない代物だろが。俺はクライアントに依頼されてんの、怪我したくないだろ渡せ」
魔王「渡さないよ。ボクらはオークションの“ルール”に従って勝ち取ったんだ」
魔商人「分かってないな。魔界のルールは“弱肉強食”だってんだ」
魔王「……」
魔少女「なに? ウチらとやりあうの? あは★勝てると思ってるの?」
魔商人「……ふっ」
魔商人の仲間Aが現れた!
魔商人の仲間Bが現れた!
魔商人の仲間Cが現れた!
魔商人の仲間Dが現れた!
魔道化師「げげっ」
魔少女「ぐぅ……」
魔商人「ふはは……さぁ渡せ」
144 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:38:55.75 ID:vEy0wmRI0
女側近「私の出番ね」
魔王「女側近さん!」
魔少女「お姐ぇ見てたの?」
女側近「貴方達は下がりなさい」
魔商人「なんだてめぇは?」
女側近は手を挙げ魔力を集中させる。
魔商人「……この魔力は」
部屋中がビリビリと振動するほど魔力が集中する。その場にいた全員が驚き硬直する。
魔商人「じょ、冗談だろ?」
魔商人の仲間「アニキ、これは勝てるわけないですぜ」
女側近「わかってくれたか?」
魔商人「ああ、わかったよ……サフランは諦める」
魔王「ホッ……」
女側近「いいや、わかってないわ。落札した商品はすべて渡しなさい」
魔商人「はぁ?! ちょ、ちょっと待てよ……関係ないだろそりゃ」
女側近「魔界のルールは“弱肉強食”。そう言ったのは自分でしょう?」
魔商人「く、くそ……」
魔少女「さっすが! お姐ぇ♪」
魔道化師「うひゃひゃ」
145 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/26(水) 05:39:47.02 ID:vEy0wmRI0
魔商人「くっ! 渡しちまうくらいなら……」
魔王「あ、あの薬は」
魔商人はエルフの精霊薬を使った!
魔商人「ぐ……ぐああああああああっっっ!!!!!!!」
魔道化師「う、うひゃ、あれってさっきのオークション最後の商品」
女側近「魔族の潜在的魔力をすべて引き出すエルフ族のアイテム“精霊薬”」
魔商人「魔力が……魔力が……」
魔商人「溢れてくる。ははははははははっ……さあ、覚悟しろ女っ!」
魔商人は大爆炎魔法を放った!
■ 第13話 オークションバトルっ! 終 ■
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/26(水) 10:53:12.23 ID:7y2pGr1Oo
おつおつ
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/26(水) 16:25:01.71 ID:8GejeBpZ0
乙
148 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:01:16.95 ID:+kih3BjS0
■ 第14話 身分=チカラ=魔力<?? ■
149 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:04:36.72 ID:+kih3BjS0
ドォォォンッ
ゴオオオッ!
精霊薬でチカラを手にした魔商人と女側近のバトルが密閉された地下ホールで繰り広げられる。
バトルというには語弊があるかもしれない。
魔商人の放った魔法を女側近は受け止めることしかしない。
一方的な攻撃に女側近は只々守る。
魔商人「ははははっ俺は最強だぁぁ!」
魔商人は火炎魔法を放った!
ゴオオオッ
魔少女「お姐ぇっ! 早くやっちゃってよ!」
女側近「……」
魔道化師「姐さん、なんで攻撃しないんだー?」
魔王「女側近さんは周りの魔族をかばって、かわすことができない?」
魔商人「オラオラッ」
ドォォォンッドォォォンッドォォォンッ!
女側近「……」
魔商人「魔力が湧いてとまらねぇははははっ」
女側近「……」
魔商人「素晴らしい魔法薬だぜ。もう商品はいらん……バイヤーなんて辞めてやる」
魔商人「これだけの魔力があれば何だって可能だ」ハハッ
女側近「愚かね」
魔商人「あ?」
女側近「魔力が上がっても根本は何もわかってない。それは強さではないわ」
魔商人「気に食わねぇな。この魔界は魔力がすべてだろうがっ」
魔商人は大爆炎魔法を放った!
しかし、何も起こらなかった!
魔商人「なっ?!」
150 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:05:44.04 ID:+kih3BjS0
魔王「え?」
魔商人「あ、あ、あ、あああああ……」
魔少女「アイツの魔力が失われていくわ」
女側近「精霊薬の効果は永続的でないわ。一時的に魔力が上昇するが、効果は切れる」
魔商人「あ゛あ゛あ゛……」
魔道化師「うひゃーなに? 顔がシワだらけになっていくよ?」
魔王「え?……老化してる?」
女側近「精霊薬には副作用があります。どんな代償を払うかはその魔族次第です」
魔王「怖っ……なんて怖い薬」
女側近「魔王様の身体から魔力を引き出すために、この薬が有効かとも思いましたが」
魔王「やだやだ……飲みたくないよ」アセ
女側近「そのようですね。こんな薬に頼るのは愚かなことです」
魔商人「あ゛……あ゛……魔力が……魔力が……」
200歳くらいは老化しただろうか……シワだらけになり、すっかり魔力も少なくなってしまった。
彼はこれから下級魔族のような、不自由な生活が待っている。
魔王(それが、魔界なんだ)
絶望する魔商人を横目に、魔王達はオークション会場を後にする。
151 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:06:45.59 ID:+kih3BjS0
−−−浮遊島 境界都市・ゲート−−−
魔王「ほぉぇー」
魔道化師「うひゃー」
魔少女「はにゃー」
女側近「……」
魔王達は口をぽかんと開けて目の前の光景に驚く。
街の中央には砦があり、その上空に直径20mほどの大きな光の球体。ゲートがある。
近くで見ると圧巻である。
魔王「人間界見えないかな……」
魔道化師「うひゃひゃ、見えない」
魔少女「に、人間が出てきたりしないの??」
女側近「人間界側も魔王軍が制圧しているので、人間が攻めてくることはありません」
魔王(でも……こちらの世界に勇者達が現れた。どうやってきたんだろう?)
魔王「この先で魔王軍と人間が戦争しているんだね」
女側近「先日……魔王様にご提案頂いた魔王軍のチーム制ですが」
魔王「うん、どう?」
女側近「実験的に人間界の前線に投入しました。まだまだ問題もありますが、とても成果を上げております」
魔王「そっか! よかったー」
魔少女「さっすが! まおー様☆」
女側近「長らく膠着状態でしたが、戦況が変わりそうです」
魔王「人間との戦争って今どんな状況なの?? なんか凄い今更な質問だけど……」アセ
152 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:08:28.18 ID:+kih3BjS0
女側近「はい、まず魔界に関してですが、先日勇者の進入を許してしまいましたが、人間に侵略されておりません。全領土、魔王軍のほぼ管理下にあります」
魔王「ほぼ?」
女側近「エルフ族。彼らだけが魔界で唯一魔王軍に従っておりません。ただ数は村1つ程度、優れた魔法技術で村ごと隠れていて中々発見出来ない状況です」
魔王「エルフ族……だけね。味方なのか敵なのか」
女側近「人間界ですが、魔王軍は一つの大陸を制圧。領土として獲得しております。次に侵略しているのが人間界の西大陸です。ここにある国“帝都”という王国軍との戦闘が最前線になります」
魔王「すごい沢山の兵士が人間界に行っているんだよね……」
女側近「兵士だけではありません。制圧した人間界の領土にはすでに魔族の村が10ほどあります。兵士達の家族、人間界の開拓労働者や商人、最近では人間界生まれの魔族もそれほど珍しくありません」
魔王「もう1人の側近の“魔伯爵”さん……だっけ? それ全部管理してるんだ」
魔王(実質、人間界の魔族の王様……ボクと女側近さんはそっちのことは何もタッチしてないし)
女側近「はい、大変優秀な方です」
魔少女「伯爵……それってお姐ぇの噂の……」
女側近「噂?」
魔王「えーーーー!!??」
魔王(噂のカ、カカカカ、カレシ???)
女側近「?」
153 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:10:30.48 ID:+kih3BjS0
ザザッ……
ゲートを見上げる魔王達の前に初老の魔族が現れる。このゲートを管理警備している部下“黒魔術師”だ。
黒魔術師「魔王様、姐さん……長旅お疲れ様でございまする」
女側近「黒魔術師、忙しい中出迎え感謝する。転移魔法陣が止まってしまって大変でしょう?」
黒魔術師「かなりバタバタしましたが、ようやく落ち着いてきました。魔王様、先日の無礼を改めてお詫びいたしまする」
魔王「え?」
女側近「その件はもういいわ。それより今夜一泊する部屋を用意して」
魔王(なんだっけ?)
黒魔術師「かしこまりました。街で一番良い宿をお取り致します」
魔王「ありがとう」
黒魔術師「あと軍の飛空船用意しました。サーカス団の船では不便でしょう? 新しい船をご利用ください」
魔道化師「ひゃ?」
黒魔術師「優秀な部下も数人付けましょう。ピエロよ、ご苦労だった。自分の船で冥都に戻りなさい」
魔王「えーーー?!」
女側近「……」
魔道化師「オイラは帰る??」
黒魔術師「お主の役目は終わりじゃ、礼は弾む。安心しなさい」
魔道化師「ま、マオ……」
魔王「ピエロ……」
154 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:12:14.18 ID:+kih3BjS0
魔道化師「お、オイラ……マオと一緒に行きたい」
黒魔術師「お主は下級魔族……意見するというのか?」
魔道化師「上位とか下級とか……そんなことよりマオは友達……」
黒魔術師「は?」
魔王「ピエロ……」
黒魔術師「貴様……自分の身分を……
魔王「女側近さん、ピエロとサーカス団の船で行く。いいよね?」
女側近「はい、魔王様の命令は絶対です。黒魔術師、護衛は私一人いれば十分でしょう。魔王様の命令に従いなさい」
黒魔術師「……」
黒魔術師「かしこまりました。では物資はサーカス団の船に運んでおきまする」
魔王「あ、あと……」
黒魔術師「はい?」
魔王「魔界の物流なんだけど」
女側近「はい」
魔王「魔力が高い者に物資や食料が流れる仕組みを変えられないかな?」
黒魔術師「は? 意味が分かりませんが?」
魔王「このままだと貧富の差が永遠に変わらなくて……もっと平等に皆んな裕福になれるようにしたくない?」
女側近「何か……代替え案がありませんとどうにもできませんが」
魔王「例えば、今日のオークションみたいに1人が買い占めることのないよう制限を設けるとか」
黒魔術師「……」
155 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:13:40.58 ID:+kih3BjS0
女側近「なるほど、そうすれば必然的に下級にも物資が渡る。その制限を少しずつ行って行けば混乱せずに済むかもしれません」
黒魔術師「……それでは上位層に十分に物資が届かなくなってしまいますが……」
女側近「そこはうまく調整するしかないでしょう」
魔王「黒魔術師さん、シュミレーションしてみてもらえないかな?」
黒魔術師「ワシがですか?」
女側近「黒魔術師、魔王様の命令に従いなさい」
黒魔術師「かしこまりました……」
−−−宿 部屋−−−
女側近「それでは魔王様、おやすみなさいませ」
魔王「うん、女側近さん。今日はわがまま言っちゃってゴメン」
女側近「とんでもございません」ニコッ
女側近「ただ、黒魔術師は納得していませんでした。そのような命令は忠誠度を下げます」
魔王「うん、わかってる……明日謝ろうかな」
女側近「部下に頭を下げる、それも場合によってはよくありません」
魔王「……じゃぁどうすれば?」
女側近「“魔王様の意志と思いをしっかり伝える”」
女側近「そうすれば、きっと分かっていただけます」
魔王「うん、明日出発前に時間もらう」
魔王(場合によってはボクに魔力が無いことも話した方が伝わるかもな)
女側近「かしこまりました、黒魔術師に朝来るように伝えておきます。それではお休みください」
魔王「おやすみ………」
156 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:14:49.82 ID:+kih3BjS0
コンコン……
魔王「うん? はい?」
魔道化師「マオー! オイラ、入るよ」
ガチャ
魔王「ピエロ、どうしたの?」
魔道化師「えっと……あの、今日の話なんだけどさ、あ、ありが……」
魔王「?」
魔道化師「あ、いや、あの……魔王様、本日はありがとうでごさいますた……」
魔王「……」
魔道化師「……」
魔王「ぷっ……あははは。なにその敬語、やめてよー」
魔道化師「あ、えっと、あ、ありがとうでございますを申し上げます……」
魔王「あはは! ちょっと!」
魔道化師「はい……」
魔王「ピエロ、ボクら友達でしょ?」
魔道化師「……」コクリ……
157 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/27(木) 10:16:17.69 ID:+kih3BjS0
魔王「じゃあ、敬語も遠慮もいらないよ」
魔道化師「オイラついてっていいのかい?」
魔王「当たり前でしょっ!」バンッ
魔道化師「いてっ!」
魔王「何ショボくれてるの? らしくないよ……笑って」バンッ
魔道化師「あたっ……このぉっ!」ポカッ
魔王「いたっ! このをぉーー」コチョコチョ
魔道化師「うひゃひゃひゃひゃー、やめーマオーやめてー」
魔王「あはは……そうそう、ピエロはそれでいいよ、いつも笑っててよ」
魔道化師「マオ……」
魔王「これからもよろしくね」
魔道化師「ありがとう……」
魔王(お礼言いたいのはこっちだよ。友達になってくれて“ありがとうでございますた”)
次の日。
魔少女「まおー様おはよー!」
魔道化師「うひゃおはよー」
魔王「おはようー。あれ? 女側近さん、黒魔術師さんは?」
女側近「おはようございます。それが……朝一で外出してしまったそうです」
魔王「えーーーー?」
女側近「仕方ありません、出発しましょう」
魔王「……」
■ 第14話 身分=チカラ=魔力<友達 終 ■
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 10:33:56.54 ID:tMV47jqwO
乙
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 12:07:35.61 ID:AjVF3sTDo
よいねよいね
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 13:38:59.35 ID:y0XAOdMj0
乙
161 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:36:05.19 ID:7wLuDWnF0
■ 第15話 乱れる気持ち流れゆく雲 ■
162 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:37:35.50 ID:7wLuDWnF0
ゲートのある浮遊島を離れて2日。魔王達の乗る飛空船は魔剣のある“世界樹”を目指して順調に空を飛ぶ。
−−−外界 飛空船・甲板−−−
飛竜が現れた!
魔王「うわあああぁ! ドラゴンッッッ!」
飛竜「ギャアアアオオォォ」
魔少女「この船を狙うなんてバカね★ お姐ぇやっちゃって!」
女側近「……」
魔少女「お姐ぇ?」
女側近「いえ……魔少女、貴方が戦いなさい」
魔王・魔少女「「えーーー!?」」
魔少女「ななななな、なんでー??」
女側近「貴方のレベルを上げるためよ。護衛を任せることもあるのだから、少しは鍛錬しなさい」
魔少女「うぅ……わ、わかったわよー」
魔王「大丈夫なの?」
女側近「何かあれば私が仕留めます」ニコッ
魔王「魔少女さんの武器は??」
魔少女「もちろんこの身体よん♬」ウフ
魔王「……」
飛竜「ギャアアアッッッ!」ブオオオォォ
飛竜はファイアブレスを放った!
魔少女「うぅわっと!」ピィーン
魔少女は結界を張りガード!
163 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:39:48.99 ID:7wLuDWnF0
女側近「魔少女、弾き返さないと船が燃えるわ」
魔少女「わかってるけど! 口出さないでよー」ピョンッ
魔少女は飛び上がると飛竜の頭の上に乗る。
魔少女「くらえいっ」
魔少女は睡眠魔法を放った!
飛竜「ギャアアア…………ZZzzz……」
ドシーン……
飛竜を倒した!
魔少女「いえいっ! こんなもんよーおほほほ★」
魔王「すごい……無傷で捕まえた」
女側近「よくやったわ……契約を」
魔少女「うん」
魔王(契約? 魔少女さんがドラゴン話しかけてる……)
魔少女「汝、あるべき姿を知れ……我が魂を主とし……己の欲せざる所は我に施す勿れ……」
魔王「これが召喚契約……」
飛竜「ギャアアアアアッ」バサバサ
飛竜は飛び立っていった。
魔少女「まおー様〜! どう? すんごいでしょー!!!」
魔王「う、うん」
魔少女「まおー様をお守りする為にウチも強くなる!」
魔王(本当にすごい……とてもボクみたいな下級魔族とは大違いだ)
164 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:41:53.51 ID:7wLuDWnF0
……夜。
コンコン……
魔王「はい?」
女側近「魔王様、お茶をお持ちしました、失礼致します」
ガチャ
夜遅いせいか、普段とは違う薄着の寝巻き姿に魔王は少しドキッとした。
魔王「お、遅くにありがとう……」
女側近「まだお勉強しているのですね、少しはお休みになられた方がよろしいかと」
魔王「なんだか寝付けなくて。勉強っていうよりは本を読むのは好きだから、趣味みたいなものだよ」
女側近「それはそれは……お邪魔してしまって申し訳有りません」
魔王「あ、いや、大丈夫だよ。それより、ちょっと話したいな……」
女側近「?……私とですか?」
魔王「うん、なんかいつも仕事話ばかりだし。女側近さんの趣味とかって何?」
女側近「趣味ですか……」
魔王「何もないことないでしょ?」
女側近「あまり考えたことがありませんね」
魔王「えーーーー?」
165 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:43:46.47 ID:7wLuDWnF0
女側近「私の一族は皆、魔王様の側近になるべく育てられます。小さい時から、側近として必要な知識、技術、魔法、鍛錬を行ってまいりました」
魔王「……」
女側近「その生活に“娯楽”や“趣味”という個人を優先することは禁じられてきました」
魔王(そんな……。魔王軍No2でありながら、生活自体に自由はなかったっていうの?)
女側近「私は側近になってまだ間もないですが、魔王様のお手伝いをし魔王様の想いを叶える。魔王様の喜びが、私の喜びでもあります」
女側近「それが我が一族です」
魔王「キミの意思は?」
女側近「魔王様の意志が私の意思です」
魔王「……」
魔王(さびしい……でもそれが女側近さんの仕事のスタンスなんだ)
魔王(女側近さんがいないと困るけど、それっていいことなのかな)
魔王(女側近さんが僕を助けてくれるのは、彼女の意志ではなく、そういう一族だから)
魔王(ピエロのように自分の気持ちじゃない)
魔王(女側近さんはただ……“魔王”の命令に従っているだけ)
魔王(でも)
魔王(彼女から感じるこの優しさなんだ?)
魔王(この暖かさはウソだと思えない)
いつの間にか魔王はベットに横になっていた。
思いを巡らせているうちに、徐々に眠りにつく。
そんな魔王を女側近は微笑みながら頭を撫でていた。
166 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:45:24.54 ID:7wLuDWnF0
次の日。
魔道化師「うひゃー! な、なんだっ! あれー??」
魔王「どうしたの?」
魔少女「ひぃぃっ! な、なんか雲の壁が」
魔王達の乗る飛空艇の進行方向に、見渡す限りの瘴気の壁が現れた。
地上には瘴気の雲海が広がり、その雲海が空に昇るように壁を作る。このまま進めば瘴気に突っ込んでしまう。
魔道化師「姐さん! 姐さん、どうすりゃいい? 突っ込んじゃうよー」
女側近「構いません、そのまま最大速度で突っ切ってください」
魔王・魔少女「「えーーーー?!」」
女側近「これは“瘴嵐”と呼ばれる気象。乱気流で地上の瘴気が舞い上がったものです。この辺りでよく発生する現象です」
魔王「乱気流? 入ったらヤバいんじゃ……」
女側近「私が飛空船全体に結界を張り、風と瘴気の影響を受けないよう守ります。瘴嵐は一時的な気象で、すぐに通過できます」
魔王「そ、そか」
女側近「ただ瘴嵐の中は視界がありません。上下左右の感覚がなくなります」
魔王「ど、どうするの?」
167 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:47:10.02 ID:7wLuDWnF0
女側近「魔少女」
魔少女「はいな」
女側近「魔力の流れを感じ取って進行方向がブレないようにピエロのサポートを」
魔道化師「オイラは……?」
女側近「魔少女の指示通り舵をしっかりお願い」
魔少女・魔道化師「「ラジャー!」」
魔王「ボクは……?」
女側近「多少は揺れると思われます。何処かに摑まっていてください。私は甲板で結界を張ります」
そう言うと、女側近は甲板へ上がる。
飛空船は最大スピードを維持したまま、瘴気の壁へと突っ込んでいく。
魔道化師「わわ、わー! 入るよ!」
魔少女「いっけー!」
操縦席から見える視界が瘴気に包まれ一気になくなる。
魔道化師は舵を取られまいと必死に力み、横で魔少女が進行方向を指示する。
魔王「……」
168 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:49:16.32 ID:7wLuDWnF0
魔王(ボクも何か手伝えることは……)
甲板へ出ると、女側近が両手を上げ詠唱していた。
船は瘴気に包まれていた。しかし結界が周りを囲み、風はあまり感じないがゴォッっと風音だけが響く。
魔王「女側近さん!」
女側近「魔王様! 危険です! 船内に……」
グラッっと船体が揺れると、魔王の小さい体が甲板を転がる。
魔王「うわああああっ」ゴロゴロゴロ
女側近「魔王様っ!」シュンッ
女側近は氷冷魔法を放った!
魔王の足は甲板の床と共に凍りつき張り付く。
魔王「うわぁ、船から投げ出されるかと思った……ごめん、女側近さん」
女側近「大丈夫ですか??! なんとかこちらへ!」
魔王「う、うん」
グラグラ……
揺れる船体をよろめきながら、女側近の元へといく。
女側近「私にしっかり摑まってて下さい」
魔王「うん」
むにゅ
魔王「ふぁっ! ごめん!」
女側近「魔王様っ離さないで、危険です」
魔王「は、はい」
両手を上げ結界を作る女側近に魔王は抱きつく。
女側近「間もなく瘴嵐を抜けます」
ゴオオオォォオォォォッ
169 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/28(金) 09:53:35.30 ID:7wLuDWnF0
…………
ゴオオォオッッッ……
魔王「ぬっ…………
………っけたぁ!!」
女側近「ふぅ……」
再び夕日のような赤い空に、果てしなく続く雲海が広がる。
魔少女「まおー様っ★ すごかったねー!」
魔王「うん、女側近さん本当ごめん……」
女側近「いえ、魔王様をお守りするのは私の責務です。お気になさらずに」
魔少女「すっごい雲だったねー!」
女側近「このエリアを抜ければ目的地はもうすぐです」
魔王「よかった……なんとか何事もなくたどり着けそう」
魔少女「ん?……ねぇねぇまおー様、あれは?」
魔王「今度は何ぃ〜?」
魔少女が指差す方向を見ると、別の飛空船がすぐ近くに。
あっという間に近づき、魔王達の船の上空を並行して飛ぶ。
魔王「え?! なになに??」
魔少女「どっから現れたの?!」
女側近「瘴嵐のせいで接近に気が付きませんでした……これは……まさか」
正体不明の飛空船を見上げていると、複数の人影が魔王達の飛空船に飛び移ってくる。
女側近「敵ですっ!!」
乗り移ろうと飛び降りた人影の1人が空中で叫ぶ。
??「ラストバトルだ。いくぞっ!」
■ 第15話 乱れる気持ち流れゆく雲 終 ■
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/28(金) 13:32:51.02 ID:xcDgwWGf0
乙
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/28(金) 17:55:58.32 ID:9jcEHSE9o
おつ
172 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/29(土) 00:03:22.87 ID:QGcdM711O
■ 第16話 新たな勇者 ■
173 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/29(土) 00:05:23.70 ID:QGcdM711O
飛び移ってくる人影の1人が空中で魔法を放つと、魔王達の乗る飛空船全体が魔法陣に包まれる。
魔王達の攻撃力が下がった。
魔王達の防御力が下がった。
魔王達の素早さが下がった。
魔王達の魔力が下がった。
魔王達の体力が下がった。
魔王「うわああああっ」
魔少女「きゃあああっ」
ダンッ!
魔王達を取り囲むように、甲板に飛び移ってくる。人数は5人。
魔族の浅黒い肌とは違う、白色人種の肌。
そのうちの1人、魔王と同じぐらいの歳の少年はニヤリと笑い剣を抜いた。
少年勇者「初めまして“魔王”、俺っちが勇者だ」
魔王「人間っ?!?」
騎士A「こいつが“魔王”かっ」
女賢者D「魔力を感じないってことはそうね」
武道家A「情報通りだな」
僧侶B「神のご加護を……」キィィンッ
僧侶Bは強化魔法を放った!
少年勇者達は攻撃力が上がった!
少年勇者達は防御力が上がった!
少年勇者達は素早さが上がった!
少年勇者達は魔力が上がった!
少年勇者達は体力が上がった!
少年勇者「みんな、作戦通りにね!」
女側近「魔王様、お下がりください」
魔王(この間とは違う勇者ッ)
魔王(なんで魔界に人間がいるの? どーやって来てる??)
174 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/29(土) 00:07:19.63 ID:QGcdM711O
女側近は目を瞑ると詠唱し始める。魔力で周りの空気が震える。
魔少女は魔王を守るため結界を展開する。
相手は最大の敵勇者、女側近はリミッターを解除する。
女側近「凍れ」
女側近は大爆冷魔法を放った!
一瞬音が無くなり、風が無くなり、色もなくなる。時が止まるかのように周囲を凍りつかせる。
しかし、少年勇者達は誰1人として止まらなかった。
少年勇者「いっけぇぇぇっ!!」ジャキィィィン
女側近は痛恨の一撃をくらう。
女側近「ぐっーー!!!」
騎士A「うらあああああぁぁっっ!!!」
体勢を立て直そうと動き出す前に、少年勇者の仲間達の攻撃が次々に女側近のみを狙って打ち込まれる。
自分の攻撃がほとんど効かなかったこと、勇者達の攻撃が予想よりも重かったこと、一瞬の戸惑いが大きな隙を作ってしまった。
少年勇者達の攻撃によって吹き飛んだ女側近は、甲板の壁にめり込む。
ドオオオォォォッ
女側近「ぐはぁ……」メキメキ
魔王「お、女側近さんっ!」
少年勇者「やはり仕留めきれないか、化け物め」
魔少女「お姐ぇが……なんで……」
魔王(女側近さんの魔法が全く効かなかった。なぜ??!)
魔王「魔少女さん! 回復魔法をっ!」
魔少女「は、はいっ」
175 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/29(土) 00:09:57.95 ID:QGcdM711O
魔王(身体が重い。弱体化魔法をかけられた……完全に奇襲)
魔王(ボクらが来るのを知っていたのか? ボクらの情報が漏れてる?!)
少年勇者「みんな、もう一度だ」キンッ
魔王(あれは火属性の剣……これってまさか)
魔王「女側近さんっ」
女側近「……大丈夫……です…。油断しました」
魔王「待って! 彼らは対氷属性の装備をしてる。氷系の魔法は効かないよ!」
魔少女「ええ?!?!」
少年勇者「げぇっ! もうバレたのかっ」
騎士A「かまうことない。このままゴリ押しするぞ」
女側近「そういうことなら…………」ピキピキ
女側近は魔力を固め氷の剣を作り出す。
女側近「斬り刻むまでだ」ダダッ
少年勇者「ふふん……そうこなくっちゃね」タタッ
女側近の氷の剣と少年勇者の炎の剣が交じり合う。
ガッキイィィンッ!!!!!
■ 第16話 新たな勇者 終 ■
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/29(土) 00:29:22.33 ID:kLq9gN9wo
おつおつ
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/29(土) 01:38:35.24 ID:QfEpAcYF0
乙
178 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/30(日) 00:12:52.40 ID:7iD2NBc3O
■ 第17話 アンタを殺したって戦争は終わらない ■
179 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/30(日) 00:14:51.76 ID:7iD2NBc3O
……
キンッ! キンッ!
ガッ
ドオオオォォォッ
武道家A「うがああああっ」
少年勇者「陣形を崩さないようにっ!」
騎士A「つよい……」
女側近「はぁはぁ……」
魔王(女側近さんは剣技のみで、勇者達の連携をさばかなきゃいけない、一瞬でも隙を作ったらやられてしまう)
女側近「小賢しい」
女側近は氷撃魔法を放った!
ヒュンッ
僧侶B「へっ魔法はきかねぇよ」
少年勇者「僧侶Bさんっ避けて!」
僧侶B「え? っと……」サッ
パリィ!
少年勇者「氷の矢は打撃ダメージだよ。気をつけて」
僧侶B「わりぃ……」
女側近「そういうことだ……はあぁぁぁっ」
女側近は氷撃魔法を放った!
女側近は氷撃魔法を放った!女側近は氷撃魔法を放った!女側近は氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!
氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!氷撃魔法を放った!
氷撃魔法を放った!放った!放った!放った!
僧侶B「なっ!!!!! 避けきれな……」
ドドドドドドォッ!!!!
僧侶Bを倒した!
少年勇者「僧侶Bさんっ! くそっ」
魔王「やった!」
魔少女「さっすがお姐ぇ!」
魔王(これで連携が乱れるはず……)
180 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/30(日) 00:16:29.81 ID:7iD2NBc3O
女側近「次はお前だ……」
少年勇者「みんな……やはりゴリ押しじゃ勝てない。例の作戦で」
騎士A「だな」
武道家A「了解」
女賢者D「あいよ」
少年勇者の合図でパーティ全員が攻撃魔法を放つ。
奇襲の先ほどとは違い、女側近に避けられない魔法ではない。
しかし、今度の狙いは魔王。
魔王「う、うわあああっ」
女側近「魔王様っ!!」
女側近は魔王をかばった。
ドオオオォォォッ!
女側近「く……チッ」
少年勇者「よし、予想通り。攻撃し続けるんだ!」
少年勇者達は遠距離から攻撃魔法を集中放火する。
ドオオオォォォッ!!
女側近「くぅ……っ!」
魔王(ボクをかばって攻撃を避けることができない……ボクが弱いっていうのも知ってる??)
女賢者D「いけるわっ! 勝てる!」
武道家A「僧侶Bの仇だぁぁっ!」
騎士A「おらおらおらっ!」
女側近「きゃああああっ……」
魔王(ボクのせいで……)
少年勇者「くらえぇぇっ!」
少年勇者は雷の魔法を放った!
バリィリィリィリィッ!
魔王(……やられる……)
181 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/30(日) 00:18:15.10 ID:7iD2NBc3O
しかし、女側近は魔法を弾き返した!
少年勇者「なっ!?」
女側近「はぁはぁ……時間切れだ」
魔王「身体が軽い……弱体化魔法の効果が切れてる」
少年勇者達の支援魔法の効果が切れた。
騎士A「くそっ! あと少しだったのに」
女側近「今回は奇跡とやらは起きないようだな」
少年勇者「……」
魔少女「ホッ……」
魔王「女側近さん……大丈夫?」
女側近「はい、すぐ片付けます」
魔王「ちょっと待って……勇者さん、聞きたいことがあるんだけど」
少年勇者「うにゃ?」
魔王「ボクらの情報を何処で手に入れたの?」
少年勇者「ふふん……言わねーよ」
魔王(誰が裏切り者なの? 人間を魔界へ連れ込み、ボクらの情報を流す……)
少年勇者「でも俺っちも聞きたいことあんだよね」
魔王「え?」
少年勇者「…………」ジロッ
少年勇者「“鍵”は何処にある?」
魔王(鍵?)
少年勇者「アンタを殺したって戦争は終わらない。俺っちは本当の意味で戦争を終わりにする」
182 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/04/30(日) 00:19:32.33 ID:7iD2NBc3O
魔王「い、意味がわからないよ」
少年勇者「やっぱ言わないよね。ふむふむ」
女側近「……」
少年勇者「じゃ、みんな! シナリオBに変更で」
女賢者「あいよ」
武道家A「ふん」
騎士A「それしかねぇな」
魔王「?」
女側近「?」
魔少女「な、なにー?」
女賢者D「はあぁぁぁっ! いでよゴーレムっ!」
頭上に大きな光が広がる。轟音とともに飛空船とほぼ変わらない大きさのゴーレムが現れた。
ゴーレム「グゴオオオオォォッ!」
魔少女「召喚魔法っ! おっきーい!」
ゴーレムは魔王達の飛空船にそのまま着地する。が、巨大なゴーレムの体重を支えられる訳もなく、メキメキと音を立ててゴーレムは飛空船に沈む。
飛空船はまるでオモチャのように折れ曲り始めた。
バキィバギィィィンッッッ!
魔王「う、うわあああっ」
魔少女「おちる〜〜!」
女側近「魔王様ーーーーっ!!」
ゴーレム「グゴオオオオォォッ!」
魔王「ああああああぁぁぁっ!」
魔王達は飛空船もろとも、瘴気の雲海へと落ちて行った……
■ 第17話 アンタを殺したって戦争は終わらない 終 ■
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/30(日) 00:45:44.93 ID:ZxAQiYwEo
おつおつ
184 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:28:41.27 ID:3dsD0PnJO
■ 第18話 独り ■
185 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:30:22.89 ID:3dsD0PnJO
−−−外界のどこか−−−
魔王「………………ぅぅ……」
魔王「……こ、ここは?……」
辺りを見渡しても瘴気が濃く何も見えない……
足元は荒地。氷の欠片が落ちている。
魔王「ケホケホ……」
魔王(なんて瘴気。息苦しい……)
魔王(この氷……。また、女側近さんに助けられたのかなボク。あの高さから落ちて生きてるなんて)
魔王「女側近さぁぁぁああんっ!」
魔王「魔少女さーーん!」
魔王「ピエロぉぉおおお!」
魔王「………………。」
魔王「ケホケホッ……」
魔王(みんな無事だろうか……?近くには誰もいないみたいだ)
魔王(このまま瘴気を吸い続けたら魔物になっちゃう)
魔王(早く女側近さん達と合流しなきゃ!)
魔王「女側近さぁぁぁああん!!!……ゲホゲホッ」
魔王(瘴気が……大声出すと苦しい)
魔王「………………」
魔王(返事もないし、周りに誰かいる気配もない)
魔王(探さなきゃ…………)
魔王(どうやって?? 瘴気で自分の足元しか見えない。前も後ろもわからない)
魔王(下手に動かない方がいいかも……きっとボクを探してるはず)
186 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:32:48.20 ID:Dtb7nsTD0
魔王「ケホケホっ……」
魔王(苦しい…………魔物になりたくない)
魔王「…………」
魔王(ボクは“無属性”。魔力を感じ取ってもらえない。視界のない中、ボクを見つけることなんて出来るのかな?)
魔王「ゲホゲホッ……ゲホゲホッ……」
魔王(なるべく息を止めて……)
魔王「………………」
魔王(なんの音もない、この世でボクが独りになったみたいだ……)
魔王(ボクは……独りだと何も出来ないんじゃん)
魔王(偉そうに王様ぶってたけど、結局独りだと下級も下級……低級魔族なんだ)
魔王(もともとボクに“魔王”なんて……)
魔王(このまま誰に知られるわけでもなく魔物になっちゃう)
魔王(嫌だな)
魔王「ゲホゲホ……」
魔王(女側近さん……)
187 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:35:24.46 ID:Dtb7nsTD0
魔王「…………」
魔王(あれ?)
魔王(なんか……)
魔王(少しだけど風がある……瘴気がゆっくり流れてる)
魔王(この風は……)
魔王(女側近さんだ!!)
魔王(間違いない、ボクには分かる)
魔王(スラムの時のように魔法で瘴気を吹き飛ばしてるんだ)
魔王(女側近さんがボクを探してる)
魔王(風上へ行けば女側近さんがいる!)
魔王(行こう)
魔王はわずかに感じる風に向かい歩き出す。
確信があった、冷たい風なのに包み込むような暖かみと優しさを感じる風。
いつも女側近から感じてたことだ。
テクテク……
魔王(声が届かないってことはかなり遠い)
魔王「ゲホゲホッゲホゲホッ……」
魔王(急ごう)
テクテク……
188 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:36:30.54 ID:Dtb7nsTD0
魔王(本当に助けられてばかりだ)
テクテク……
魔王(苦しい……なんでこんなことに)
テクテク……
魔王「ゲホゲホッ……」
魔王(頭の中がチリチリする)
テクテク……
魔族館長『グズがっ、さっさとしろっ!』
魔王(え?)
魔族館長『お前、マジでなんもできねぇなっ』
魔王「館長さん……」
魔族館長『1度死んで生まれ変わったほうがいいぞ?』
魔王(走馬灯?)
189 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/01(月) 00:37:09.74 ID:Dtb7nsTD0
少年魔族『すみません……』
魔族館長『お前って本当に必要ない』
魔族館長『お前何ができんだよ?』
少年魔族『すみません……』
魔族館長『お前何のために生まれてきたんだよ?』
魔王「く……」
魔王「ちくしょおおおぉぉ……」
魔王「ゲホゲホッゲホゲホッ……ゲホゲホ……」
魔王「う……」バタッ
魔王は力尽きた……
■ 第18話 独り 終■
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/01(月) 00:39:54.13 ID:wkZqQ7bNo
おつおつ
魔王がんばれ
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/01(月) 02:47:52.04 ID:UrazY38U0
乙
192 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:42:50.77 ID:b3DPeKeTO
■ 第19話 非力な武器 ■
193 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:44:20.32 ID:b3DPeKeTO
魔王「……う……あ……」
魔王は目を覚ます。最初に見えたのは自分の足元だった。
ポタポタと水の音がするが、周りはとても静かで薄暗い。視線を上げて自分の置かれている状況を理解した。
魔王は吊るされていた。
魔王「こ、ここは……」
??「おはよう、我が宿敵」
天井から下がった鎖で両手を吊るされた魔王は、目を凝らして薄暗い部屋の中を見渡す。目の前に見覚えのある少年が立っていた。
魔王「キミは……勇者!」
少年勇者「うにゃ、俺っちは“少年勇者”っていうんだ。よろしく」ニヤッ
魔王「……ボクは捕まったの?」
少年勇者「そうだよ、手こずらせてくれたねー」
魔王「……」
魔王(なんで生きてるのだろう……? 勇者の目的はボクの討伐じゃないの?)
魔王「ボクらの仲間は?」
少年勇者「仲間? 部下でしょ? 人間みたいな物言いしないでよ魔族が。彼女達なら生きてるよ、あの女側近はヤバイね。予想を遥かに超えた強さだったよ。ふふん」
魔王(みんな捕まってしまったのか……誰も助けに来ない)
魔王「ここは何処?」
少年勇者「瘴気の隠れ里。人間のアジトだよ」
魔王(魔界にアジトがあるなんて……思ったより沢山の人間が魔界へ来てるのかもしれない)
少年勇者「状況は分かってくれたかな? そろそろ俺っちの方から質問したいんだけど」
魔王「質問?」
少年勇者「……改めて」
少年勇者「“鍵”は何処にある?」
194 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:49:22.22 ID:b3DPeKeTO
魔王「……」
魔王(正直なんの話だか分からない……)
魔王(でも、何も知らないってバレたらボクは用済み。殺されるかも)
少年勇者「お前が持ってんだろ? 何処にあんの??」
魔王「なんの鍵のこと?」(トボけたフリするしかない……)
少年勇者「ゲートの鍵に決まってんだろっ!」
少年勇者は雷の魔法を放った!
ビリイィイィッッ!!
魔王「うああああああああっっっ!」
少年勇者「これ以上手間取らせないでよ」
魔王「くっ……」
魔王(ゲートって……? 人間界へのゲートのこと?)
魔王「知らない。知ってても人間には教えない」
少年勇者「そう……」
少年勇者は雷の魔法を放った!
バリィリィリィッ!!
魔王「ぎゃあああアァァ……」
少年勇者「いつまで耐えられるかな」ニヤッ
バリィリィリィッ!!
魔王「ぎゃああああああああああっ…あ……」
195 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:50:42.69 ID:b3DPeKeTO
少年勇者「2つあるうちの1つ……“人間界側の鍵”は俺っちが持っている」
魔王(鍵はふたつ?)
少年勇者「あとは魔界側の鍵があればゲートを閉じることができる」
魔王「ゲートを……閉じる……」
少年勇者「そうだ。ゲートを閉じて、この意味のない戦争を終わりにするんだ」
魔王(……)
少年勇者は雷の魔法を放った!
バリィリィリィッ!!
魔王「あああああああっ!」
少年勇者「痛いでしょ? 拷問の時はね、あえて弱めの魔力にするんだ。神経が麻痺しない程度に」
バリィリィリィッ!!
魔王「があああああっ……はぁはぁ……」
少年勇者「痛みってのは、案外慣れないもんだよ」
魔王(くぅ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……)
少年勇者「言う気になった?」
魔王(言うも何も本当に知らない……でも、知らないなんてバレたら殺される)
魔王(嫌だ嫌だ嫌だ……)
196 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:55:59.13 ID:b3DPeKeTO
魔王(どうすればいい? 動けないし、逃げられない。助けもない)
魔王(ボクは独りなんだ………)
少年勇者「おい、黙ってちゃわからないよ。返事くらいしてよ!」
ドガッ
魔王「ぐああっ……」
魔王(いたい……何かに頼ってちゃだめだ)
魔王(覚悟を……決めるんだ)
魔王(独りで戦うんだ)
魔王(武器、武器は??)
魔王(何か……ないのか!?)
少年勇者「痛いかい?」
魔王「……」
魔王「痛く……ないよ」ニィ
少年勇者「……そう」
少年勇者は雷の魔法を放った!
バリィリィリィッ!!
魔王「−−−ッ!!!」
バリィリィリィッ!!
バリィリィリィッ!!
魔王「い、痛くない」
魔王(痛い……痛いよ。でも……
ハッタリだ。武器はこれしかないっ)
少年勇者「強がっちゃって、新しい“魔王”のアンタは下級魔族なんでしょ? ちゃんと情報得てんだから」
魔王(そんな情報まで漏れてるのか……)
魔王「ハハッ……」
197 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 08:57:13.20 ID:b3DPeKeTO
少年勇者「何がおかしい?」
魔王「そんな情報を鵜呑みにしたんだ?」
少年勇者「……」
魔王「そろそろ本題に入らさせてもらうかな」
少年勇者「……」
魔王「残念だけど、ボクは“魔王”だが……囮だ」
魔王「キミたち人間のアジトを探すためにわざと捕まったんだよ。すでにこの隠れ里は魔王軍が包囲している。投降すれば命は助けてやろう」
少年勇者「……なん……だと?」
魔王「投降すること。人間界側の鍵を渡すこと。内通者の名前を教えること。この3つがキミたちが助かる方法だ」
魔王(堂々と、凛とした態度だ)
少年勇者「……そんなわけ……」
魔王「内通者をあぶり出す為、わざと嘘情報を流したんだ」
198 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/02(火) 09:03:21.76 ID:b3DPeKeTO
少年勇者「……ガセ情報だと?」
魔王(誰だ? 誰が裏切り者なんだ……?)
少年勇者「……」
魔王(信じてよ、たのむよ……)
少年勇者「……いや、ありえるか」
少年勇者はブツブツと何かを呟きながら部屋を出て行った。
魔王(信じたのかな……)
魔王(今信じたとしても、すぐにハッタリってバレる。自力で脱出しなきゃ)
両手を縛られ吊るされている魔王は、バタバタと足掻くが拘束を解くことは叶わない。
魔法が使えたら……魔王は己の非力を憎んだ。
■ 第19話 非力な武器 終 ■
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/02(火) 09:52:42.13 ID:g/Dnu/1wo
面白い
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/02(火) 20:08:32.94 ID:pmXZ/dDco
続きはよ!
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/02(火) 23:24:46.52 ID:GGAs2Zk3O
久々の王道的なSSだな
期待してる
202 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:03:33.64 ID:qiwxr1hc0
■ 第20話 さぁボクを殺せっ! ■
203 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:05:21.23 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「隠れ里の周りを調べたけど……誰もいなかったよ」
魔王「フフッ」
少年勇者「何がおかしい?」
魔王「瘴気で見えないのにどう探したっていうの?」
少年勇者「敵が近づけば気配でわかるに決まってんだろっ」
魔王「気配ね……魔力を感じなかったってだけでしょ?」
少年勇者「同じことでしょ」
魔王「じゃぁボクの魔力を感じることができるの?」ハハッ
少年勇者「…………」
魔王「本当に“魔王”のボクが魔法の使えないクズな下級魔族って情報を信じたの??」
少年勇者「……」
魔王(堂々と……)
魔王「そんなわけないでしょ」
魔王(悲しいけど説得力ある……)
204 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:06:28.80 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「現に魔力を感じない」
魔王「カモフラージュしてるだけだよ。外の部下達みんなそうだよ」
少年勇者「じゃあ何故俺っちを殺さない?! 何故捕まったままでいるんだ!」
魔王「キミがドヤ顔で拷問めいた事してくるから、本当の姿見せる前にネタバレしたくなったんだよ」
少年勇者「じゃあ本当の姿見せてみろよ! 上位魔族なんだろっ」
魔王「なめないでもらえるかな? 上位魔族? ボクは魔王。魔界の頂点だよ」
少年勇者「……っ」
魔王「見せてあげるよ」
少年勇者「……」ゾクッ
魔王「無属性カモフラージュを解くには、この肉体は死ななきゃいけない」
魔王(ハッタリにしても怖い)
魔王「ボクは拘束されて動けない。代わりにお願いできるかな?」
魔王「ボクを殺してよ」
少年勇者「……」
魔王「そうすれば真の姿を見せる事ができる。見たいんでしょ? “魔王”のチカラを」
魔王「さぁボクを殺せっ!」
205 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:07:41.04 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「……っ」
魔王(信じろっ……信じてくれ……)
少年勇者「…………」
魔王「……」
少年勇者「…………つまり、お前は今自分の力で元の姿に戻ることができない」
魔王「……」
魔王(信じた……のか?)
少年勇者「取り囲んでる魔王軍が攻めてこないのは、お前の合図を待っているのか?」
魔王(よし……交渉する武器ができたぞ)
魔王「そうだよ、ボクの合図でキミたちを殺すことができる」
魔王(なんとか、お互いに戦わずに済む方向に持っていかないと)
魔王「少年勇者……キミはこの戦争を終わりにしようとしているんでしょ?」
少年勇者「ああ……」
魔王「だったらボクも目的は同じだ。無益な殺戮を行いたくはない」
魔王「この戦争は人間がゲートを開き、魔界へ侵略したことから始まった」
勇者「……」
魔王「でもどちらが悪いなんて言わないよ。もう70年も戦い……お互いに多くの犠牲を出したんだ」
少年勇者「憎しみが憎しみを生む。俺っちは考えたんだ戦争を終わらす方法を」
魔王「ゲートを閉じる。それが最善だよ。ボクと共に来てくれ」
魔王(ゲートを閉じることが出来るなら、もし本当にそれが可能なら。本当に最善だと思う。嘘はない)
少年勇者「信用できない……」
魔王「信用してよ、じゃないと殺して奪うしかない。キミを殺そうと殺すまいとゲートはボクが閉じる」
206 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:09:12.96 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「本当に信じていいのか? 俺っちを騙そうと嘘をいっているんじゃないのか?」
魔王「信じて。嘘は言ってない」
少年勇者「じゃあ鍵はどこにある? 持ってないようだけど」
魔王(知らないなんて言えない……)
魔王「側近に持たせてる。解放してくれれば誰も殺さないと約束しよう」
少年勇者「……」
少年勇者「嘘か……」
魔王「え?!」
少年勇者「魔界側のゲートの鍵である“魔剣”は……魔王以外は触れることができない」
魔王「!!……ゲートの鍵が“魔剣”……?!」
少年勇者「騙したのか」
少年勇者は剣を抜く。
魔王「ち、違う!」
少年勇者「真の姿に戻るために殺せって? それも嘘じゃないのか?」
魔王「……っ」
少年勇者「殺してやるから真の姿を見せろよ……そうしたら信用してやるよ」
魔王「鍵が“魔剣”であることを知らなかったことは認める! ゲートを閉じたいという気持ちは嘘じゃないっ」
少年勇者「……」
少年勇者「何が本当で……何が嘘なのか……」
少年勇者「お前を殺せばわかる……」
魔王「−−−−−ッ!!」
ドオオオオゴォォンッッ!!!!
突然轟音と地響きが魔王達を襲う。
207 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:10:24.88 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「な、なんだっ!」
女賢者「少年勇者っ! 敵だっ!」
少年勇者「…………!!」
魔王(助け? だれが?!?……)
少年勇者「…………!!」
ドオオオオゴォォンッッ!!!!
少年勇者「くっ……こいつの言ってたことは本当だったのか……?」
魔王「……」
女賢者「沢山の魔族兵が攻めてきてるよ!!」
魔王(助かったの……?)
女賢者「ど、どうする? 逃げないと……」
ドオオオオゴォォンッッ!!!!
少年勇者「くそっ!」
激しい轟音と共に里の建物は揺らぐ。
狼狽した少年勇者は必死にどうするべきか考えているようだった。
208 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:11:59.49 ID:qiwxr1hc0
意を決した少年勇者は魔王を拘束したまま引きずっていく。
少年勇者「来いっ」
監禁されていた建物から出ると、外は壊滅していた。
少年勇者「−−−−っ!!!」
瘴気は吹き飛んだのか里全体が見渡せたが、無数の戦艦が取り囲み砲撃していた。
瓦礫の山に人間達の死体も散乱していた。
少年勇者はその光景に呆然と固まっている。
魔王(こんな戦力……魔界には無かったはず誰が……?)
魔族兵「勇者発見!」
魔王達の周りを物凄い数の魔族兵が取り囲む。
少年勇者「う、……うあああああああああっっ!!!!」
少年勇者は魔王に向けて剣を振り下ろす。
が、その攻撃が届く前に動きが止まる。
209 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:13:56.02 ID:qiwxr1hc0
少年勇者「なっ……か、身体が……動かな」
魔族兵「勇者を殺せっ!!」
無数の弓矢が少年勇者に突き刺さる。
シュッシュッ
シュッシュッ!
少年勇者「ぐああっ」
魔王「まって!!」
魔族兵A「うらあああっ!」
魔族兵B「やああああっ!」
魔族兵C「はああっ!」
ガキッンっ! キンッ!
少年勇者「くそおおおっ!」
魔王「まってよ! 殺さないでよっ!」
魔族兵E「何をしてる早く止めをさせっ!」
魔王(ダメだ。一端の兵士はボクが“魔王”って知らないから、命令を聞いてくれないっ)
魔族兵G「勇者を殺せっ!」
??「待てっ!!」
その声に兵士達はピタリと止まる。
無数の兵士達の間から1人の魔族が前へ出てくる。
??「勇者を拘束しろ」
魔族兵「ハッ!」
魔王「…………」
??「魔王サマ、助けが遅くなりまして申し訳ない」
魔王「あ、あなたは……」
魔伯爵「我は貴方の側近。“魔伯爵”と申しマス」
■ 第20話 さぁボクを殺せっ! 終 ■
210 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/03(水) 00:16:39.58 ID:qiwxr1hc0
勇者「魔王を捕まえたが殺さねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493681963/
少年勇者視点です。
読んでくれてる方、いつもレスくれる方ありがとうございます。
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/03(水) 00:49:50.76 ID:cxQoSQRMo
面白い
おつおつ
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/03(水) 10:07:08.23 ID:7OXS56gKo
おつん
213 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:24:02.27 ID:Qn+cBsSx0
■ 第21話 裏切りの魔族 ■
214 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:25:37.90 ID:Qn+cBsSx0
魔伯爵は魔王の前に跪く。
ザワザワ……ザワザワ……
魔族兵B「い、今“魔王”様って言ったのか?」
魔族兵E「あの子供が“魔王”様なのか?」
魔族兵A「魔伯爵様が跪くなんて」
魔族兵C「“魔王”様から魔力感じないぞ」
魔族兵F「勇者に捕まってしまうほど弱いのか?」
魔族兵L「おい、聞こえるぞ」
ザワザワ……
魔族兵達「あんなのが“魔王”??」
魔王(……兵士達にボクの素性がバレてしまった……)
−−−外界 上空・飛空戦艦内−−−
魔伯爵「魔王サマ、よくぞご無事で」
魔王「魔伯爵さん、ありがとう……」
魔王(魔伯爵さんは……人間界で魔王軍の総指揮官。すごい優秀な側近って女側近さんが言ってたっけ)
魔伯爵はすらっと背が高く、男の魔王が見ても惚れ惚れする知的な顔立ち。同じ側近の毒々しい魔執事とは正反対だ。
魔王「……」ジィ……
魔伯爵は細い眼鏡を手の甲で掛け直すと、魔王の視線に答える。
魔伯爵「我のことは女側近から聞いていマスよね?」
魔王「う、うん。とても優秀って」
魔伯爵「クククッ……側近として最も優秀なのは彼女デスよ」
魔王(女側近さん達は……)
215 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:27:50.66 ID:Qn+cBsSx0
魔伯爵「彼女達は無事デスよ、ご心配には及びません。飛空船が落とされた後、女側近は魔王サマを探していましたが先に見つけたのが勇者だった」
魔伯爵「そのまま魔王サマだけ隠れ里に連れて来られたわけデス。女側近から連絡を受けた我々は、飛空戦艦で魔王サマの救出に向かったのデスよ」
魔王「ボク以外は誰も捕まってなかったんだ」
魔伯爵「彼女達は別部隊が回収し、“最果ての町”で待機していマス」
魔王「よかったぁ〜……」
魔伯爵「ククク……彼女はそうそうやられませんよ」
魔王「彼女のことよく知ってるんだね……あ!」
魔王「あああああああ!!!!」
魔伯爵「?」
魔王(そそそそ……そういえば女側近さんの恋人って、魔伯爵さんじゃ……)
魔王「あの……魔伯爵さんは女側近さんと……ど、どういう関係??」
魔伯爵「? 同じ側近デスが?」
魔王「いや、ぷらいべーとなんだけど……」
魔伯爵「ああ……同じ一族で幼馴染デスよ。少しだけ我の方が年上ですが、昔からバトルだけは彼女に一度も勝てませんでしたね」
魔王「なんか噂では」オドオド
魔伯爵「ククク……魔王サマにまで、そんな噂が耳に入るんデスね。噂では恋人でしたっけ? そういうものではないデスよ」
魔王「え?!」
216 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:29:41.20 ID:Qn+cBsSx0
魔伯爵「我々側近の一族は幼い頃から側近になるべく自由はありません。それは恋愛も同じデス。つまり、子孫を残す為生まれた時から番が決められているのデス」
魔王「番<つがい>?」
魔伯爵「女側近は我の許嫁デスよ」
魔王「えーーーー!!!」
魔伯爵「まぁ幼い頃から兄妹のように生きてきましたので、彼女のことは何でもわかりマス」
魔王(…………恋人なんて緩いもんじゃないじゃんかぁぁ……)ガーン
魔伯爵「あ、仕事に支障はきたしません。お気になさらずに」
魔王(気にするでしょーーー!)
魔伯爵「今飛空戦艦は女側近のいる“最果ての町”へ向かっていマス」
魔王「はぃ……」
217 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:30:52.05 ID:Qn+cBsSx0
−−−外界 飛空戦艦・自室−−−
魔王を乗せた飛空戦艦は最果ての町を目指し飛ぶ。
自室で独り魔王は思いにふける。
魔王(よく生きてたな自分……)
魔王(みんな大丈夫かな?)
魔王(少年勇者はどうなったんだろう?)
魔王(お腹減ったな……メイドもいないし、食事どうすればいいんだろう)
魔王(この戦艦は同じ魔王軍なのに、なんか冥都と雰囲気が違う。兵士達も目つきが鋭いし、鎧や武器、戦艦内部も傷だらけ)
魔王(人間界の戦場で実際に戦ってる船なんだ……)
魔王(食事くらい自分でなんとかしないと。食堂探そう……)
218 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:31:56.83 ID:Qn+cBsSx0
−−−飛空戦艦・食堂−−−
魔王(あったーーー! 食堂っ! この船広すぎっ)
兵士1「……」ジロ……
兵士2「……へっ」ニヤ
兵士3「……」シラー
兵士4「zzz……」
魔王(な、なんか怖い兵士ばっかり……)
魔王「あ、あの食事いただけますか?」
食堂係「……」
ドンッ
魔王の前に食事が出された。
魔王「あ、ありがとうございます」
食堂係「金……取っちゃいけないんでしょうね。王様から」
魔王「すみません、後で払います」(女側近さんが……)
魔王(……うぅ……なんかアウェイ過ぎる)
モグモグ……
独りビクビクしながら食事を取っていると、食堂の外が騒がしくなる。
何事かと皆が外を見ると……。
魔王「ど、どうしたんですか?」
兵士「……なんか、捕らえていた勇者を殺そうとした奴がいたみたいっスよ」
魔王「えーーーー!?」
……
219 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:33:50.59 ID:Qn+cBsSx0
−−−飛空戦艦・牢−−−
魔王「魔伯爵さん!」
魔伯爵「魔王サマ……」
魔王「少年勇者は?! 大丈夫なの?」
魔伯爵「なんとか一命を取り留めましたよ。今魔法で治療してマス」
少年勇者「はぁ……はぁ……クソォッ」
魔王「なんで?? 逃げ出そうとしたの?」
魔伯爵「いや。ただ殺したかったんでしょう」
魔王「えーーーー!?」
魔王(そんな……どうかしてる)
魔伯爵「魔王サマ、やはり少年勇者は殺した方がいいデス」
魔王「ダメなんだ、彼がいないと……」
魔伯爵「聖剣は勇者しか触れることが出来ない」
魔伯爵「聖剣と魔剣で、ゲートを閉じて戦争を終わらせる」
魔伯爵「そういうことデスか?」
魔王「う、うん。そうだよ」
魔伯爵「聖剣と魔剣を手に入れても、簡単にゲートは閉じられませんよ」
魔王「?」
魔伯爵「すでに人間界には人間から勝ち取った魔族の領土がありマス、多くの住民や兵士が生活している。彼らはどうするんデスか?」
魔王「……」
魔伯爵「全員を魔界へ連れて帰る? そんな大掛かりなこと、この戦争状態で出来るわけがない」
魔王「……」
220 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:35:17.62 ID:Qn+cBsSx0
魔伯爵「勇者を殺そうとした兵士は殺されました」
魔王「え!」
魔伯爵「我らは聖剣に触れることが出来ないので、勇者から取り上げることが出来ません。そんな勇者を生きたまま乗せているなど、爆発しそうな爆弾を乗せているようなものデス」
魔伯爵「この船には人間に恨みを持つ者ばかり、また殺そうとする兵士が現れても不思議じゃありませんよ」
魔伯爵「今からでも遅くはない。勇者を殺しましょう」
魔王「……」
魔王(……ダメだよ……。恨み辛みで戦争続けてたら、何も良くならない)
魔王(兵士達の気持ちも分かる……でも、ボクの考えも分かってほしい。でも、このまま命令したら、きっとわかってもらえない)
いつかの女側近の言葉が魔王の頭によぎる。
『魔王様の“意志”と“思い”をしっかり伝える』
魔王(よし)
魔王「魔伯爵さん、この戦艦の兵士達を甲板に集めてもらえる? ボクの気持ちを聞いてもらいたいんだ」
221 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:37:45.61 ID:Qn+cBsSx0
−−−飛空戦艦・甲板−−−
ガヤガヤ……
外界を低速で進む飛空戦艦の甲板には、乗組員や魔族兵が列を作る。
魔伯爵に促されて、舞台に上がる魔王に不審の視線が突き刺さっていた。
魔伯爵「皆の者! 魔王サマよりお言葉を頂くっ! 静粛にっ」
シーン……
魔伯爵「魔王サマ、どうぞ」
魔王「うん」
魔王(ボクの想いは、みんなを裏切るかもしれない)
魔王(でも)
魔王(分かってもらうには言わなきゃならない)
魔王(気持ちを動かすのは“誠意”だ。ハッタリじゃない)
魔王「みんな!」
魔王「ボクが…………“魔王”だ!」
魔王「父が亡くなって、王位を継承した。報告が遅くなってしまってしまい申し訳ない」
魔王「ボクみたいな子供が“魔王”で落胆しているでしょう」
魔王「父はとても強かったと聞く。この魔界の思想“弱肉強食”にふさわしい強さ。圧倒的なカリスマ性と統率力」
魔王「そんな父に比べると……ボクは“魔王”としての素質がない」
魔王「魔法が使えないし、チカラもない」
ポツ……ポツと雨が降り出す。
魔王「ボクは戦うチカラがない」
222 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:41:01.22 ID:Qn+cBsSx0
魔王「ボクは……冥都の下位、それも最下層出身なんだ」
魔王「魔法が使えなかったから、基本労働にも参加出来ず図書館の整理の仕事をしていた。それも役に立てず、罵倒される毎日」
魔王「そんな時、父が死んで突然『貴方は魔王です』と言われたんだ。戸惑いもあったけど、魔王になれば金や地位が手に入るって思った」
魔王「つまりボクは」
魔王「私利私欲で“魔王”になったんだ」
ザワザワ……
魔王「それが真実で、ボクは隠しも誤魔化しもしない」
魔王「みんなに信じてほしいから」
魔王「実際に“魔王”になって、色んなものを見た」
魔王「魔界の環境」
魔王「冥都の格差」
魔王「人間の脅威」
魔王「それらを実際に目の当たりにして……ボクは“魔王”としてやらなければならないことを知った」
魔王「戦いのない平和な魔界」
魔王「戦えないボクだからこそ……行き着いた結論だ」
魔王「戦争を終わらせる為……」
魔王「人間と和平を結ぶッ!」
223 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:42:18.30 ID:Qn+cBsSx0
ザワザワ……
魔族兵「仲間達の仇はどうなるんだ?!」
魔族兵「もう戦わなくていいのか……?」
魔族兵「和平など……ありえん」
魔族兵「家族の元へ帰れるのか!」
魔族兵「そんなの不可能だ」
多くの魔族兵達が驚いた。ある者は怒り、ある者は安堵し、ある者は絶望し、ある者は喜んだ。
皆、戦争への考えはバラバラだった。
魔王「戦ってないボクの言葉は戯言に聞こえるかもしれない。でも」
魔王「みんな好きで戦っているの?!」
魔王「戦わない未来があるなら、そっちへ行きたくないの?!」
魔王「人間を恨む気持ちがあるのは分かるよ……でも! 殺された仲間達は残された者達の幸せを願ってるはずっ!」
魔王「みんな! 未熟なボクにチカラを貸してくれ……」
ザアアァァ……
強くなった雨のせいで、魔王の涙は見えなかった。
224 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:44:08.28 ID:Qn+cBsSx0
次の日。
−−−飛空戦艦・牢−−−
少年勇者「和平交渉?」
魔王「うん、キミもボクもゲートを閉じたい。その利害は一致してるよね? そのためには人間と和平を結ばなければならないんだ」
少年勇者「……」
少年勇者は牢の中で呪いのかかった拘束着で監禁されていた。魔王の言葉に俯き考えている。
少年勇者「……生き残った仲間、いや捕虜となっている人間全てを解放しろ」
魔王「それはキミが和平交渉を人間の王に掛け合って、魔族の捕虜と交換すればできるよ」
少年勇者「……」
魔王「……」
少年勇者「わかった……ただ」
魔王「うん」
少年勇者「俺っちと一緒に捕まった女の賢者がいたでしょ? 彼女はすぐに人間界へ帰してくれ」
魔王(彼の大切な人なのかな……)
魔王「わかったよ、彼女だけはすぐ解放する。人間界へ帰れるように手配するよ」
少年勇者はホッとした様な表情をすると目線を合わせず言う。
少年勇者「感謝はしない……お前達は他の仲間を沢山殺した」
魔王「お互い様でしょ。冥都を攻められ多大な被害を受けたのはこっちも同じだよ」
少年勇者「あれは俺っちじゃない、“帝竜”だろ」
魔王「帝竜?」
少年勇者「うにゃ。俺っちは中央大陸“王都”の勇者なんだけど、彼は西大陸“帝都”の勇者……竜のように強い彼を人間界では“帝竜”という通り名で呼ばれていた」
魔王「……たしかに本当に強かった」
225 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 01:45:50.26 ID:Qn+cBsSx0
魔王(あの勇者が“帝竜”……まだ野放しのまま、またいつ攻めてくるかわからない)
魔王(一刻も早く和平を結ばないと)
少年勇者「人間の組織体制はバラバラだ。俺っちと同盟を組んだところで、他の勇者まで止めることはできないからな」
魔王「わかってるよ、でもキミには最大限協力してもらうよ」
少年勇者「俺っちは何をすればいい?」
魔王「ボクは今“魔剣”を取りに向かっている途中だったんだ。手に入れたらキミは人間界へ行く」
少年勇者「……持っていなかったのか」
魔王「キミは人間の王を説得し、和平を結ぶ。停戦したら人間界の魔族は、魔界へ全員帰る」
少年勇者「なるほど、その後“聖剣”と“魔剣”でゲートを閉じるってわけか」
魔王「うん。今度は信用してくれる?」
少年勇者「ふふん……信用はしない。ただ利害が一致してる間はお互い利用し合えばいい」
魔王「ボクはキミを信用するよ」
少年勇者「お前、そんなんだから部下に裏切られるんだよ。俺っちが魔王軍の情報を知っていたのを忘れたか?」
魔王「そうだ……だれ??!! 裏切り者は?!」
魔王(人間達を魔界へ招き入れ……ボクらの情報を流した者)
少年勇者「あの境界都市にいた、ゲートの管理者」
少年勇者「黒魔術師だ」
■ 第21話 裏切りの魔族 終 ■
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/04(木) 04:07:44.65 ID:pB7lEmuP0
乙
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/04(木) 10:31:23.77 ID:hCv6SYJ/o
おつおつ
228 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:33:27.71 ID:wTyjeIZKO
■ 第22話 再結成 ■
229 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:36:29.24 ID:wTyjeIZKO
魔伯爵「申し訳ありません……」
魔王「黒魔術師は??」
魔伯爵「捕らえられませんでした。すぐ部下に連絡して拘束するよう命じましたが、時すでに遅く少年勇者が捕まったのを知って逃げたようデス」
魔王「そうか〜……」
魔伯爵「申し訳ありません」
魔王「あ、いや、魔伯爵さんのせいじゃないよ。それにしても何で裏切りなんか……」
魔伯爵「野心の強い男でしたので、魔王様を不審に思い、勇者達を魔界へ連れ込み混乱させようと考えたのかもしれません」
魔王「すぐ探し……」
魔伯爵「すでに浮遊島を隈なく捜索中デス。ゲートや飛空船で逃げた可能性も視野に入れ、徹底的に探してマス……ゼッタイに逃がさん」
魔王(魔伯爵さん……鬼のような目つきになってる)アセ
魔王「…………」
魔伯爵「まもなく“最果ての町”に到着致しマス」
魔王「ホッ……」
魔伯爵「女側近がいないと不安デスか? ククク……」
魔王「なんだかね、居心地悪くて」
魔伯爵「戦用の船デスから、乗り心地は致し方ありません」
魔王「まぁそーゆーことじゃないんだけどね」
魔伯爵「兵士達デスか。先代魔王様が亡くなったと聞いて落胆している者も多いデス。特に前線で戦っている兵士達は先代魔王様の強さは憧れでしたので」
魔王「父さんはそんなに強かったんだ」
魔伯爵「それはもう。戦う兵士にとってこれ以上ない上官デス。圧倒的なチカラとカリスマ性、ブレない芯の強さ」
魔王(迷ってばかりのボクとは比べられないな)
魔伯爵「貴方は先代魔王様のご子息デス。面識がないのでその凄さが分からないでしょうが、先代魔王様のチカラは必ず何処かに引き継いでいるはずデス。誇りに思ってください」
魔王「うん、父さんのように皆を引っ張れればいいんだけど」
魔伯爵「しかし、昨日の演説以降は魔王サマの見る目は変わった者も多いと感じマスね」
魔王「そうかな。分かってもらえたら嬉しいけど。魔伯爵さんはどう思った?」
魔伯爵「我は魔王サマに従うのが仕事でありマス。それが今の魔界にとって一番いいはず」
……
230 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:37:24.87 ID:wTyjeIZKO
−−−高地・最果ての町−−−
《最果ての町。冥都から最も離れた場所にあり、高地にある為、瘴気の影響を受けることがない。魔界で唯一植物が育ち、天然の雨も振る数少ない農業の町である》
魔少女「まっおーーーーっさま〜〜!!」ガバッ
魔王「うわっ……魔少女さん」
魔少女「よかったあぁぁ……無事でよかったよーーーーふえぇん……」
魔道化師「マオー! みんな生きてた! うひゃ!」
魔王「ピエロっ! よかった!」
魔少女「ふえぇぇん……」
魔王「あれ?……女側近さんは? 無事なんでしょ?」
魔少女「グスンッ……それが……」
魔王「え?!!」
231 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:38:19.05 ID:wTyjeIZKO
−−−最果ての町・牢獄−−−
魔王「女側近さん……」
女側近「魔王様……大変申し訳ありませんでした」
魔王「自ら牢へ入ったって。どうして?」
女側近「私奴は魔王様をお守りする義務があります。この度、それを全うすることが出来ず側近失格です」
魔王「……」
女側近「当然の罰です」
魔王「そんな……」
女側近「魔界を人間の脅威にさらし、新しい魔王様も危険に……私は……」
女側近「私の権限を剥奪してください。どうか側近を別の者に」
魔王「……」
女側近「どうか……」
232 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:39:59.04 ID:wTyjeIZKO
俯いた女側近の表情は魔王からは見えない。女側近が自ら懇願してくるのは初めてのこと。
魔王「それが……キミの意志なの?」
女側近「……それは……」
魔王(女側近さんが自分の意志で望むなら……ボクは強制出来ない)
魔王(……でも、他の人が側近なんて考えられない)
女側近「……私は……私の意志は」
女側近「“魔王様”にあります。私の処遇は魔王様がお決めください」
魔王「……」
魔王は手を伸ばし女側近の頭を撫でる。
かつて彼女が彼にしたように……
魔王「キミはちゃんと側近出来てるよ」
女側近「……」
魔王「自信を持って、今まで通り側近を全うしてほしい」
魔王「これは命令ではないよ。ボクの願いだ」
女側近「はい……」
魔王「キミの意志で側近を辞めたいと思ったら……その時は遠慮なく言ってよ」
女側近「……」
魔王「それまではボクを助けてほしい」
233 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:41:19.01 ID:wTyjeIZKO
女側近「……かしこまりました、申し訳ございませんでした」
魔王「うん」ニコッ
魔王「魔伯爵さんには人間界に戻ってもらい、今まで通り領土を守ってもらう」
魔王「ボクらはまた4人で魔剣のある世界樹を目指そう」
女側近「はい」
ぴょこんっと魔少女と魔道化師が後ろから現れる。
魔道化師「飛空船の操縦なら任せてよーうひゃ」
魔少女「まだ旅は終わってないよ、お姐ぇ」
魔王「これで……」
魔少女「冥都のまおーパーティ再結成だね!」
魔王「うん!」
魔道化師「うひゃ」
女側近「はい」
魔少女「ピエロはパーティに入ってないけど」
魔道化師「な、ななななんでだよー!」
魔少女「飛空船なくなっちゃったし」
魔道化師「マオが新しいのくれるよー」
魔王「え、どうなのかな? 女側近さん」
女側近「あ………ここ“最果ての町”からは徒歩での移動になります」
魔道化師「えええええーーー!」
魔王「うそうそ、城に戻ったら、ちゃんと弁償するよ」アハハ
魔道化師「ホッ……」
魔少女「ていうか、あの船ってピエロの船じゃないじゃん」
魔王「あ、そうかサーカス団のか。じゃぁいっか」
魔道化師「団長に怒られるぅぅー」
アハハハっと魔王達の笑い声が夜空に響いた。
234 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:43:02.68 ID:wTyjeIZKO
次の日。
−−−最果ての町・宿−−−
魔王「ZZZzzz……」
モソモソ……
魔王「zzz…………ん……」
モソモソ……
魔王「ふぁわ……?」
魔少女「あ、まおー様おはよー」
魔王「ファァー!?! 魔少女さんなんでボクのベットに……」
魔少女「やっとまおー様と合流できたから離れたくないのー★」ムギュ
魔王「……」
魔少女「ギューしてください……」
魔王「うん」
魔王(本当に無事でよかった……)
……
魔王「さ、魔少女さん起きようー今日からは歩きだから大変だよ」
魔少女「はぁい」
魔王「なんか寝坊しちゃったなぁ」
魔王(いつもは女側近さんが起こしに来てくれるのに……どうしたんだろ?)
魔王「ピエロおはよー! 女側近さんは?」
魔道化師「おはー! なんか朝早く細メガネのお偉いしゃんが来てどっか行ったよー」
魔王「魔伯爵さんが? ふーん」
魔道化師「マオ、ここの朝飯すっごい美味いぞ! 食べようよー」
魔王「先食べてて、ちょっと女側近さん探してくるっ」
タタタタ……
魔少女「……」
魔道化師「いいんか?」
魔少女「なにがよ?」
魔道化師「あいつ、姐さんにベッタリじゃん。多分自分では気がついてないだろうけど、おそらく」
魔少女「……わかってるわ。何も言わないで」
235 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:44:07.25 ID:wTyjeIZKO
−−−最果ての町・飛空戦艦前−−−
魔王(女側近さん、何処だろう)
魔族兵「魔王様! おはようございます!」
魔王「おはよー。女側近さん見なかった?」
魔族兵「あちらの泉の方へ行きましたが……」
魔王「そか、ありがとー」
魔王(女側近さん朝ごはん食べちゃったかな)
魔王(それにしてもこの町は草木や植物がたくさん。最上層並みに綺麗な街だなぁ……魔界にもまだこんなところがあったなんて)
魔王(うお! すごい綺麗な泉……)
魔界の朝日に照らされた泉はキラキラ光る。そのほとりに女側近はいた。
名前を呼ぼうと魔王が息を吸い込んだ瞬間、隣に男性に気がつき言葉を飲み込んだ。
魔王(魔伯爵さん……)
魔王は立ち止まり物陰から様子を伺う。美しい泉や木々に、麗しの2人。
まるで絵画のような光景に息を飲む。
236 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/04(木) 23:45:10.05 ID:wTyjeIZKO
魔伯爵「無事でよかったよ。もっともキミがやられることはないだろうが」
女側近「そんなことない、何度も危ない目にあったわ。魔王様を助けてくれてありがとう」
魔伯爵「ふっ……キミらしくもない」
女側近「本当に感謝してる」
魔伯爵「仕事だ。気にすることはない。裏切り者の黒魔術師は我が必ず捕まえる」
女側近「うん、私は魔王様のサポートを」
魔伯爵「キミはもう少し自分で判断した方がいい。先代魔王様と今の魔王サマは根本的に違う」
女側近「うん。近くに貴方もいないしね」
魔伯爵「我を頼るな。キミがこの魔界のNo2なんだ」
女側近「ごめんなさい、しっかりするわ」
魔伯爵「……ああ、でも」
魔伯爵「我の前では強がらなくていい。甘えてくれ」
ふっと微笑むと魔伯爵は女側近を抱き寄せた。
魔王「……!!」
ザザッ
女側近「?」
思いもよらない光景に魔王は走り出した。
急いでその場を離れる。
魔王(……な、なに? このモヤモヤは)
魔王(苦しい。なんだよこれ。拷問されたときみたいだ)
魔王「なんなんだよ……」
■ 第22話 再結成? 終 ■
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/05(金) 00:05:08.41 ID:9t3L73TVo
よいねよいね
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/05(金) 23:45:22.27 ID:0N4eps/DO
勇者視点から来ました
面白いなあ
239 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:07:08.98 ID:UW311q800
■ 第23話 世界樹の森 ■
240 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:08:19.62 ID:UW311q800
−−−最果ての町・出口−−−
魔伯爵「それでは魔王サマ、お気をつけて」
魔王「……うん」
魔伯爵「ここから“魔剣”のある世界樹へは徒歩での移動になりマス。町を出てすぐ森があり、その奥が目的地デス」
魔道化師「なるほどーだから徒歩。森で飛空船が着陸できないからかーうひゃ」
魔少女「ピエロやることないじゃん」
魔道化師「に、荷物持ちがいるでしょー」
女側近「“魔剣”まではあと少しです。参りましょう」
魔王「……」
女側近「魔王様?」
魔王「……あ、ごめん。うん」
魔王(しっかりしなきゃ……)
魔王「魔伯爵さん、少年勇者をお願いね。魔剣が手に入ったら和平交渉を始めるから」
魔伯爵「お任せを」
魔少女「ではでは……世界樹目指して」
魔道化師・魔少女「レッツゴーっ!」
241 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:11:41.91 ID:UW311q800
……
テクテク……
魔道化師「うひゃひゃひゃー草原だなー」
魔少女「お姐ぇ、なんでここは瘴気がないのー?」
女側近「ここは魔界でも標高が高い位置にあります。冥都でいえば第5層の高さです」
魔王「雨も降るしね、天然の雨なんて初めて見た」
女側近「世界樹のチカラにより樹の魔力が広がっております。魔界の大地に草木が育つのはその為です」
魔少女「あ! あれ森じゃない?」
魔道化師「うひゃー本当だ木がいっぱい」
魔王「あの奥に“魔剣”が……よし行くぞ!」
魔王達は森の奥へと進んで行く……
−−−高地 世界樹の森−−−
魔王「あれ???」
魔少女「真っ直ぐ森の中を進んでたのに外に出ちゃったよ……??」
魔道化師「ひゃ?しかもここ、さっき入った所じゃ……正面に町が見えるー」
女側近「……」
魔王「え、え、もう一回森に入ろう」
魔王達は再び森の奥へ。
鬱蒼と草木が茂る道なき道をかき分けながら進んでいく。
しかし……
魔王「えーーー?!」
魔少女「なんで??? また入り口にもどっちゃったよ???」
女側近「ここは世界樹の森……森自体が行く手を阻むと言われております」
魔王「むむむ……よし、じゃあ通った道に目印をつけながら進もう」
魔道化師「うひゃ、オイラが木にナイフで印付けてくよ」
242 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:13:37.72 ID:UW311q800
1時間後……
魔王「あれ?? この木にも印あるよ……ここ通ったってことだよね」
魔少女「えー? ずーっと真っ直ぐ進んでたのになんで???」
魔道化師「ねぇさん、魔法で森を吹き飛ばしちゃえばいいんじゃない?」
女側近「出来ないことはありませんが……」
魔王「だめだめー! 魔界の植物は貴重なんだから!」
魔少女「でもどうするのよー?」
魔王「うーん。木に印がない方向が通ってない。そっちが正しい道だ!」
魔少女「うんうん! さっすがまおー様★」
1時間後……
魔王「えーーー?!」
魔道化師「また入り口もどっちゃったよー」
魔少女「もうそこらじゅうの木に印が付いてて、訳わからないよ」
魔道化師「うひゃ、不思議なダンジョン」
魔王「どうしたら森の奥へ行けるんだ……?」
魔少女「お姐ぇなんかいい方法ない?」
女側近「……。森へ入ってしまうと知らぬ間に方向感覚がおかしくなってしまうんですよね。俯瞰で見ることができれば進みたい方向へ行けるのですが……」
魔少女「お姐ぇ、魔法で空飛べないの?!」
女側近「そんな魔法ありません」
魔王「うーん」
魔王(方角がわかればいいんだから……)
243 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:16:33.72 ID:UW311q800
魔王「女側近さんや魔少女さんは、離れていても魔力でお互いの位置がわかるよね?」
女側近「はい。魔力の持たない魔王様以外でしたら、わかります」
魔少女「あんまり離れすぎると分かりづらいけど」
魔王「じゃ、魔少女さんは入り口で待っててもらおうかな」
魔少女「えーーー!! なんで〜? まおー様と離れたくないっ」
魔王「魔少女さんが入り口にいてくれれば、女側近さんは森の中へ入っても入り口の位置がわかるよね? 魔少女さんの魔力で」
女側近「なるほど……そうですね。それなら入り口に戻ってしまうことはありませんね」
魔道化師「うひゃひゃ、マオ頭いいな! よし行こう」
魔少女「えーーー。待ってるのはピエロでいいじゃん」
魔王「ピエロじゃ魔物が現れた時心配だしなぁ」
女側近「二手に別れましょう、魔少女とピエロが入り口で待機。私達が森へ入り、魔剣へたどり着いたら魔法で合図を送るので、魔少女とピエロは私の魔力を目指して合流して」
魔少女「うぅ……」
魔王「よし行こう!」
魔王と女側近は再び森の奥へ。
ザッザッ……
244 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:19:14.06 ID:UW311q800
……
魔王「ハッ!」
女側近「?」
魔王(女側近さんと2人きり……気まずい)
魔王(女側近さんの顔見ると、あの光景を思い出しちゃう)
魔王(しっかりしろ魔王! “魔王”なんだぞ!)
魔王は邪念を振り払うように頭を叩く。
魔王「……」ポカポカッ
女側近「……ど、どうかいたしましたか?」
魔王「な、なんでもないよー」
女側近「何処か体調が悪いでしょうか?」
女側近は魔王の額に手を当てる。
魔王を覗き込むその瞳の近さに、カッーと体温が上がるのを感じた。
女側近「熱がありそうですね……」
魔王「そ、そそんなことななな、ないよ」
女側近「失礼致します」
女側近は魔王の首の後ろとおでこに手を回すと、魔法で冷やす。
彼女のなめらかな手の感触が余計に魔王をドキドキさせた。
魔王(甘えちゃダメだ……)
もう大丈夫と言わんばかりか、やんわりと女側近の手を振りほどく。
魔王「ありがとう」
女側近「……はぃ」
魔王「行こう」
女側近「……待ってください」
魔王「え?」
女側近「魔少女達が移動しています」
魔王「え?!」
女側近「何かあったのでしょうか?」
魔王「モンスターかな? 戻ろう!」
245 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:20:36.67 ID:UW311q800
−−−世界樹の森 入り口−−−
タタタタッ……
魔王「魔少女さん! ピエロ!」
魔少女「ありゃーやっぱり戻ってきちゃった……」
魔王「あれ?」
魔道化師「うひゃひゃ、どうしたマオ?」
魔王「2人が移動するからモンスターに遭遇したのかと思って……」
魔少女「え? ウチら動いてないけど」
女側近「確かに2人の魔力が移動していたんですが……」
魔王「……」
魔王(どういうことだろう? 何か不思議なダンジョンのカラクリがあるはず)
魔道化師「ほらほら、ここ森の入り口。モンスターも出てないし動いてないよー?」
魔少女「まおー様こそ、クネクネ進んじゃってアレじゃ迷っちゃうよ」
女側近「私達は真っ直ぐ進んで、真っ直ぐ戻ってきただけですけどね?」
魔王「……」
魔王(森に入るとおかしくなる訳で)
魔王「そうか、動いていたのは魔少女さん達じゃない。森の中のボクらだ!」
女側近「どういうことでしょう?」
魔王「森へ入ると、動かなくても勝手に移動しちゃうんだ。だから魔少女さん達が動いているように感じたんだ」
魔少女「……うーん?」
魔道化師「もっとわかりやすく説明してくれよー」
246 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:22:27.95 ID:UW311q800
女側近「なるほど。この間の“瘴嵐”の雲の中と同じです。瘴気の雲の中、飛空船に乗って真っ直ぐ前を見て進んでいたとしても、風や気流の影響で気がつかないうちに方向が変わってしまう」
魔王「そう! 森の中で真っ直ぐ前を見ていても、森の呪いせいで方向が変わっちゃうんだ」
魔少女「ふーん? じゃどうすん?」
魔王「また2人はここで待機してて!」
……
−−−高地 世界樹の森・内部−−−
女側近「魔王様、魔少女達の魔力が移動し始めました」
魔王「うん。じゃ、僕たちは止まろう」
魔王(この森のカラクリさえ分かってしまえば)
魔王「動いているのは彼らじゃない。ボクらだ。何も感じないけど」
女側近「2人の魔力が止まりました」
魔王「よし、じゃぁ魔少女さん達はどっちの方向にいる?」
女側近「あちらの方向です」
魔王「てことは……入り口が向こうだから、その逆が進行方向」
女側近「対角線上を2人の魔力から遠ざかるように歩いて行けばいいのですね」
魔王が進行方向を先導し、行く手を阻むモンスターを女側近が蹴散らす。
彼らは着々と森の奥へと進む。
247 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/06(土) 00:28:34.67 ID:UW311q800
……
しばらく進むと、開けた場所に出る。
正面にはまるで巨大な塔のような樹木がそそり立つ。
世界樹である。
魔王「うおぉ……ついた」
女側近「魔少女達にこちらにくるよう連絡しました」
魔王「……すごいおっきな木だね。森を外から見たときは見えなかったのに」
女側近「魔王様、服に汚れが……」
女側近は魔王の服についた葉っぱや汚れを払う。
なんとなく後ずさりする魔王。
魔王「あ、ありがとう」
女側近「?」
魔王「……」アセ
女側近「なんでしょう……私を避けていらっしゃいますか?」
魔王「いやいやいやっ……そーゆー訳じゃないんだけど」
女側近「申し訳ございません。何か私に不備がありましたらお申し付けください」
魔王「不備なんてないよっ……ただあまり甘えないようにと思って」
女側近「何故でしょう?」
魔王「だって、女側近さん……あの、その」
シュッ
女側近「魔王様あぶないっ!」
突然飛んできた弓矢を女側近ははたき落す。
驚き戸惑う魔王をよそに、臨戦態勢の女側近は弓矢を放った相手に殺気を向ける。
??「魔王軍め……」
キラキラとなびく長い髪、長身で細くしなやかな身体。肌は人間のように白いが、耳が尖って長いのが亜人種の証。
その美しい女性が、魔族とも人間とも距離を置く、独自のコミュニティを持つ“エルフ”である。
魔王「だ、だれ!?」
エルフ「女側近っ…おぬしを倒す!」
■ 第23話 世界樹の森 終 ■
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/06(土) 01:26:47.24 ID:Sv1msNOqo
おつおつ
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/06(土) 21:38:07.49 ID:w5RKIjZDO
乙
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/06(土) 21:50:02.91 ID:j936xWzG0
乙
251 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:42:58.10 ID:Rvthve7SO
■ 第24話 魔剣の真実 ■
252 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:45:59.19 ID:Rvthve7SO
−−−世界樹の森・魔剣の祭壇−−−
ガキンッ
ガンッ キンッ!
世界樹。
高さ150m、樹齢1万年、その巨大な樹木の麓に“魔剣”がある。
女側近の連絡で魔少女と魔道化師も合流する。
しかし、2人が到着したときには女魔族と女エルフの熾烈な戦いが始まっていた。
キンッ! キンッ!
シュッ
女側近「はあああああっ!」
エルフ「おおおおォッ!!」
ギィィィインッ
魔少女「まおー様っ!」
魔王「よかった……無事合流出来たね」
魔道化師「それより姐さんは誰と戦ってだー?」
ドゴォォォオンッ
女側近「ぐうっ!−−−っあああ!」ガキンッ
エルフ「ぐぅぅっ!」
253 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:48:02.27 ID:Rvthve7SO
魔道化師「うひゃ、つよい……姐さんと渡りあってるー」
魔王「あの女エルフは魔剣の守護者で、いきなり襲いかかってきたんだ。なんだか女側近さんのこと知ってるみたいで、話し合いに応じてくれない」
魔少女「たしかに強いわ……けど、魔界でお姐ぇに勝てる奴なんていない」
バキィィィインッ!
エルフ「があああっ」
女側近「ふぅ……」
エルフ「はぁはぁ……強過ぎる。森の加護を受けても、これ程の差があろうとはな。恐ろしい魔族じゃ」
女側近「……」
魔王「エルフさん! 勝てないのはわかったでしょ?! 話し合おう!」
エルフ「話し合いじゃと?! わらわの一族にチカラずくで攻め込んできたお主らが言うことかっ」
魔王「……え?」
女側近「長年魔王軍は、エルフの森を侵略してきました」
魔王「父さんが……?」
女側近「はい。エルフ達は優れた魔法技術で森の場所を転々し、魔王軍から逃れています」
エルフ「お主……あの“魔王”の息子なのか?」
魔王「そうだよ。父は死んだ……新しい“魔王”はボクだ」
エルフ「無属性の小僧が“魔王”じゃと? 信じられん」
254 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:51:51.54 ID:Rvthve7SO
魔王「女側近さん、武器を消して」
女側近「はい」シャン
魔王は女側近を手で制すと、エルフに近づく。
その眼は真っ直ぐ前を見つめている。
迷い、恐れ、不安、そのような負の感情は一切見えない。
姿こそ子供であるが、その出で立ちは間違いなく……
女側近(本当に……本当に“魔王様”になられた)
魔王「新しい王として、父の行いにお詫びを」ザッ
跪き頭を下げる。
エルフ「“魔王”が跪くじゃと……」
魔王「我らに争いの意思はありません。どうか歩み寄りを」
エルフ「……」
魔王「……」ジ……
エルフ「ふむ……お主は先代魔王とは違うようじゃな」
魔王「はい。魔剣を求めているという点は同じですが」
エルフ「……」
魔王「……」
255 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:53:11.05 ID:Rvthve7SO
エルフ「……よかろう」
魔王「えええ?! 信じてくれるの……?」
エルフ「ああ」
魔王「……」
エルフ「ふん……エルフの瞳は特別じゃ。眼を見れば嘘か本当か分かるのじゃ」
魔王「お、おお……」
エルフ「お主の澄んだ瞳は信用できる。女側近の濁った瞳よりはな」
女側近「……」
魔王「ホッ……」
エルフ「ついてきなさい」
256 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:56:32.10 ID:Rvthve7SO
世界樹の根が入り乱れる麓に、少し高い祭壇がある。
その中央に魔法陣が描かれ魔剣が刺さっていた。
魔王「これが魔剣……」
キィィィン…………魔剣は黒く輝く。
魔少女「やーーっとたどり着いたね★」
魔道化師「黒い剣。かっちょいぃ!」
エルフ「わらわは魔剣を奪われないように守っていたわけではない」
魔王「?」
エルフ「むしろ解放したいのじゃ」
女側近「……」
魔王「……よく分からないけど、もらっていいってことだよね?」
エルフ「お、おい……」
魔王「え?」
エルフ「女側近、おぬし……新しい魔王に何も話しておらんのか??」
魔王「?」
女側近「魔王様」
女側近「魔剣は……持った者の精神を支配します」
魔王「え?」
エルフ「魔剣を手にした“魔王”は、強大なチカラを手に入れる代わりに、無秩序な破壊者へと変貌するのじゃ」
魔王「えーーー?!」
女側近「魔剣の暴走です」
257 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 00:59:06.98 ID:Rvthve7SO
魔少女「な、なにそれ! 武器として成り立ってないじゃん」
魔道化師「ここまで来て使えないとか、意味ない、うひゃ」
女側近「それゆえ、先代魔王様は魔剣を諦めました」
魔王「……」
女側近「……」
魔少女「え、え……何しに来たのウチら」
女側近「しかし、魔剣の暴走を止める方法はあります」
魔王「おお! なんだ、先に言ってよー」
魔道化師「うひゃ、そりゃそうだよねー」
魔少女「で、どうするの?」
女側近「魔剣に触れて……一旦身体を支配させます」
エルフ「そして、お主自身が精神世界で魔剣の支配に勝つのじゃ」
魔王「そんな………」
女側近「……」
魔王「ボクが夢の中で魔剣と戦うってことだよね……漠然としすぎて勝機が見えないよ」
女側近「支配されている間の身体は暴走状態、暴れまわると予想されます。その間、私が魔王様を拘束しますが……」
エルフ「長時間魔剣に支配されていると人格は消滅してしまう。もって1時間といったところかの」
女側近「魔剣に触れて……1時間。その間に正気に戻れなければなりません」
258 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 01:01:15.39 ID:Rvthve7SO
魔少女「危険過ぎるよ……」
魔道化師「マオが1人で戦わなきゃいけないのかー」
魔王「……」
魔王(ボクに出来るのか?)
魔王(魔剣が無ければゲートを閉じられない。戦争を終わらすことは出来ない)
魔王(死ぬかもしれない)
魔王(それでも……やるしかないよね? 魔界を統治するには必要なこと)
女側近「私に考えがあります」
魔王「うん」
女側近「魔少女はサキュバスです。夢の中、“精神世界”に入ることができます。彼女が魔王様を助け出す」
魔少女「お姐ぇ……」
女側近「できるわよね?」
魔少女「うん」コクリ
エルフ「なるほどのぉ、それなら格段に成功率を上げることができる」
女側近「魔王様が魔剣に触れ、正気を失ったら私が全力で拘束致します。その間に魔少女が精神世界から魔王様を助け出す」
エルフ「わらわも協力しよう」
魔王「……」
魔道化師(オイラやることない……)
女側近「これが最善策だと考えます。どうでしょうか?」
259 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 01:09:12.38 ID:Rvthve7SO
魔王「1つだけ質問があるんだけど」
女側近「はい」
魔王「父さんは……なぜ諦めたの?」
女側近「……」
魔王「絶対的なチカラを持ってて、誰より強かった父さんが魔剣を諦めたんだよね? この作戦をやらなかった理由は?」
女側近「……」
魔王「……」
女側近「先代魔王様が魔剣に触れ、精神世界で魔剣と戦う」
魔王「強い父さんがそれを恐れたの?」
女側近「いえ、そうではありません」
エルフ「そうか、精神世界で戦っている間は……身体は正気を失う」
女側近「はい、正気を失い魔剣で暴走している先代魔王様を誰が止められるのでしょう?」
魔王「父さんは魔界最強だった」
女側近「はい、先代魔王様は自分が暴走したら誰も止めれないと考えたのです」
女側近「貴方のお父様は自分のチカラしか信じてなかった」
女側近「部下の誰も信用せず、絶対的なチカラで従わせる。そのような、王でありました」
魔王「……父さんは部下のチカラを信じられなかった」
魔王(仲間を信じられなければ、この作戦は成り立たない)
魔王「ボクは……みんなを信頼してる!」
魔王「やろう、魔剣を手に入れる!」
260 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/07(日) 01:10:59.28 ID:Rvthve7SO
魔道化師「うひゃ、せっかくここまで来たんだしな」
魔少女「まおー様はウチが必ず連れて戻るよっ!」
エルフ「うむ、誰かが魔剣を解放せねばならぬのじゃ」
女側近「……魔王様を。……魔王様を、守ります」
魔王「よし」
魔王「……あ」
魔王「ごめん! みんな、魔剣を抜く前にちょっとだけ女側近さんと2人だけで時間もらっていい?」
女側近「はい?」
魔少女「……!」
魔道化師「ほぉ……うひゃ」
エルフ「ふむ」
魔王「伝えたいことがあって……」
魔王(死ぬかもしれない、最後に言っておかないと)
■ 第24話 魔剣の真実 終 ■
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/07(日) 01:28:58.34 ID:9YRCKAiwo
おつおつ
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/07(日) 12:32:10.10 ID:m6q9I9+r0
乙
263 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:32:40.28 ID:oPdy1MEd0
■ 第25話 カラダ ■
264 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:34:03.61 ID:oPdy1MEd0
−−−世界樹・魔剣の祭壇−−−
魔少女「−−−!!」ガーン
魔少女「……ふ、2人きりで伝えたいこと?」ワナワナ
魔王「うん、ごめん、ちょっとだけ時間下さい」
魔道化師「うひゃー大胆っ! 魔少女しゃん、エルフしゃん。行きましょ」
魔少女「」ガーーーン
トボトボ……魔王の元から女側近以外は離れる。
魔王「ごめんね、急に」
女側近「いえ」
魔王「えーーと……」ドギマギ
女側近「?」
魔王「あのね」
女側近「はい」
265 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:37:46.73 ID:oPdy1MEd0
魔王「ボクが魔剣に触れて1時間たったら……」
魔王「迷わずボクを殺して」
女側近「魔王……様」
魔王「ボクごと魔剣を倒すんだ」
魔王「そして、次の“魔王”は女側近さんがなるんだ。その後、魔剣を持って人間と和平交渉。ゲートを閉じるよう動いて欲しい」
魔王「これは、命令です」
女側近「……」
女側近「魔王様、縁起でもありません」
魔王「わ、わかってるけど、一応一応ね! 頼んだよ」
女側近「はい。魔王様の命令は絶対です……」
魔王「うん」ニコリ
女側近「……」
魔道化師「話おわったねーうひゃ。まったく」
魔少女「……」
エルフ「ふん」
魔王「みんな、待たせてごめん」
魔道化師「マオは何も気がついてないな」
魔王「なにが? 何の話?」
魔道化師「何でもないよー。尖った耳は伊達じゃないひゃ」
魔王「?」
266 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:39:04.43 ID:oPdy1MEd0
エルフ「では、始めるかの」
魔剣は静かに刺さっている。
その存在感はすぐ後ろにある世界樹にも匹敵する。
魔王「よし……」
女側近「ピエロは魔王様が魔剣に触れてからの時間を計りなさい」
魔少女「あ、ウチ夢に入ると寝ちゃうから身体支えてね」
魔道化師「あいさ! オイラの出番来た!」
エルフ「女側近、魔王を氷で拘束するんじゃろ? わらわはその上から結界で閉じ込めるわ」
女側近「私1人で十分よ」
魔王「いや、エルフさんも協力してほしい」
魔王(無属性のボクが暴れても大したことはないと思うけど、念には念を……)
魔王「みんな……よろしくね。いくよっ!」
魔王は手を伸ばし……
触れる。
267 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:40:45.51 ID:oPdy1MEd0
黒い光が魔剣を包み込み、ビリビリと魔力で空気が震える。
魔剣を掴むと一気に引き抜く。
魔王「あああああっやあああ!!!」
キイイィィン……
……
魔王「ぬけた……」
魔王は魔剣を手に入れた!!
女側近「ーッ」
魔少女「……ッ」
魔道化師「ぃぃ……ッ」
エルフ「−−−ッ」
魔王「……」
魔王「……あれ?」
魔少女「何も起きない?」
女側近「……魔王様?」
魔王「い、今のところ何ともないね」
魔道化師「1分経過っ!」
エルフ「何故じゃ?」
魔王「……」
魔少女「ひょっとして無属性は大丈夫とかかな??」
女側近「身体に異変はありませんか?」
魔王「うん、それもそうだし、この剣に凄い力があるようにも感じないなぁ」
268 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:41:45.93 ID:oPdy1MEd0
魔道化師「ふぁ……何もないのか〜緊張して損した」
魔王「まだ油断は……」
ドクンッ
魔王「まって……」
ドクンッ
魔王「身体の奥が……」
女側近「魔王様!?」キッ
ドクンッ
魔王「何か来る」
ドクンッ
ドクンッ
ドクンッ ドクンッ
ドクンッドクンッドクンッドクンッ……
魔王「があああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁあああっ!!!」
269 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:43:36.92 ID:oPdy1MEd0
うずくまり叫び声を上げる魔王の全身を、黒い光が包む。
魔王「がががががあああああっ!」
魔少女「まおーさまっ!!」
女側近「魔少女っ夢魔の準備をっ!」
魔王「ががが……」
魔王「が」
女側近「魔王様?」
突然静かになった魔王は、何事もなかったように立ち上がる。
その表情は笑っていた。
魔王「……カラダ……カラダ」ニヤ
女側近「はああああっ!」
女側近は氷牢魔法を放った!
ガァッキィィンッッ!!
魔王の身体は氷に包まれ拘束する。
女側近「魔少女っ!」
魔少女「はいな! ピエロ、身体お願いね」スァ……
魔少女はパタリと意識を無くす。
エルフ「ふんっ!」
エルフは結界魔法を放った!
パキパキッ…………バァリィンッ!!
氷の牢と結界は弾き飛んだ。
女側近・エルフ「なっ!!」
270 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 00:45:17.81 ID:oPdy1MEd0
魔王「ウットウシイ」
魔王はユラリと魔剣を振り下ろす。
魔王「カカカ……」
ボトッ
女側近「?」
女側近は音のした足元に視線を移すと、自分の腕が転がっていた。
女側近「−−−−−−−−−−ッッッあぁぁあ……」
エルフ「魔剣めぇぇ」シュッ
エルフは弓矢を放つが標的の魔王は突然消える。
ドスッ
エルフは背後から魔剣を突かれ、血を吐き出す。
エルフ「ゴホッ……」
魔道化師「うひひひぃー……なんて速さ。ま、マオぉぉっ!」
魔王「ナ、ナンダコノカラダハ?」
魔王「マリョクガナイ……」
女側近「はぁはぁ……速すぎる」
エルフ「くそ……女側近、受け取れ超回復薬じゃ」
女側近「くっ……」
エルフ「魔王の身体を気遣って手加減してると、こちらが殺されるぞっ全力で行け!」
女側近は超回復薬を使った!
女側近「魔王様……」
魔王「カカカ……コロス。ミンナコワス」
魔道化師「こ、殺さずに拘束?? むひゃ〜」
■ 第25話 カラダ 終 ■
271 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:26:14.70 ID:75Kkc0pFO
■ 第26話 ボクに−−なんて出来るわけねぇ ■
272 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:27:29.66 ID:75Kkc0pFO
静かだ……
暗闇。
何も見えない。何も聞こえない。
すっごい心地いい……
どんどん暗闇に落ちていく。
なんだっけ?
ボク寝てるんだっけ?
ねちゃっていいのかな……仕事終わってる?
女側近さん……
ボクらは世界樹を目指してて
魔剣を
魔剣。
そうだ、、魔剣を掴んだ。
それで?
どうなった?
思い出せない。
ボクは……魔剣に支配される?
だめだよ、帰らなきゃ
帰ろう
みんな待ってる。
ボクは−−なんだ!
あれ?
ボクは……−−
−−。
口に出せない。
273 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:28:39.63 ID:75Kkc0pFO
ん?
何か前から来る。
あれは……魔族館長さん?
こっちを見て笑ってる。
「ハハハッ」
「クズのお前が−−だって? 笑わせる」
「図書館の整理もろくに出来ないクズが」
え?
「何にも出来ねぇクズが粋がってんなよ」
粋がってなんかない……
ボクは……魔界の−−なんだ
「じゃあお前がここに来るまで何したよ?」
「黒魔城を攻めてきた勇者と戦ったのは魔執事だ」
「冥都、下層で盗賊を倒したのは魔少女だ」
「母親を助けたのも、女側近」
「捕まったクズのお前を助けたのは魔伯爵だ」
……。
「守られて何もしてないのに−−だと? 自惚れんな」
「お前は何もしてねぇ、何も出来ねぇ」
……。
そうだ。
ボクにはチカラがない。
でも−−なんだ。
父さんの後を継いで……立派な−−になるんだ。
精一杯頑張れば
誠意を持って一生懸命やれば
みんな認めてくれる。
274 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:29:57.34 ID:75Kkc0pFO
「全員が認めてくれると思うか?」
「クズのお前が−−なんてよ」
「お前、なんで裏切り者がいると思ってんだよ?」
「認められてねぇからだろがよっ」
魔族館長さん、ボクはあの頃とはちがうっ
何も言えず
何も考えず
何もしようとしなかったあの頃とは
もう違うんだ!
ボクは決めたんだ。
−−になるって……
戦争を終わらす
それがボクのやるべき使命だ。
そう決めたんだ。
「無理に決まってんだろが……」
決めたんだ
「おめーに出来るわけねぇ」
出来る出来ないじゃない……
「クズが……」
やるか、やらないかなんだっ!
ボクは……
「 魔 王 」
ボクは……
魔王「やるんだぁぁああっ!!!!」
■ 第26話 ボクに魔王なんて出来るわけねぇ 終 ■
275 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:55:19.75 ID:75Kkc0pFO
■ 第27話 精霊薬 ■
276 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:56:38.84 ID:75Kkc0pFO
ガッキィンッ
キィンッ キィンッ
ドォゴッ
女側近「くっ……」
魔王「グア……グア……」
エルフ「はぁはぁ……動きが鈍くなっておるぞ」
魔道化師「あ……あ……」
女側近「魔王様が自我を取り戻し始めてるの……か?」
魔王「ウットウシイぃぃいっ!」
魔王は魔剣で攻撃!
空を切った魔剣から衝撃波が飛ぶ。
女側近は距離を取っていたが、全身が切り裂かれる。だが、ダメージも御構い無しに魔王を拘束しようと魔法を放つ。
魔王「クラウカヨッ!!」
魔王は女側近に肉薄し、直接斬りつけようと剣を振り上げる。
あまりの早さに魔王の肉体はついてこれず、ブチブチと筋肉の切れる音が女側近に耳に入った。
女側近(魔王様……っ)
ジャキィィィンッ
魔剣が女側近の肩にめり込む。
女側近「ゴフッ……」
魔王「シネ」
277 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:57:47.25 ID:75Kkc0pFO
女側近「捕まえた……」
肩口にめり込む魔剣を左手で掴み、氷魔法を放つ。
メキメキッと傷口と魔剣が凍りついて固まる。
エルフ「女側近っ!!」
エルフは女側近に向かって回復薬を投げる。女側近をもう片方の手を受け取り、すぐに使用する。
ここまで長時間耐えられたのは、エルフの調合する回復薬があってのこと。
しかし、魔剣もようやくそのことに気がつく。
魔王は女側近を蹴り飛ばし距離を取る。
魔王「キサマカラサキニコロス」
魔道化師「マオっ!! 戻ってこいっ! マオぉぉ……」
女側近「ピエロッッ……死にたいのかっ! 離れろっ」
魔道化師「マオぉぉぉ……」
エルフ「ピエロ、時間は……」
魔道化師「い、1時間だ……よ。マオぉぉぉあああああああああああああっ!!」
女側近「……っ」
エルフ「……」
女側近「そんな……」
魔王「ハァアアアアッ……カカカ。モウコノカラダモラッタ」
魔王はまだ笑っていた。
エルフ「女側近、予定通り魔王を殺すのじゃ。行けるか?」
女側近「……ェ」
エルフ「……なんじゃ?」
278 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:58:44.67 ID:75Kkc0pFO
女側近「ダメッ!」
魔王「ハァアアアアっ!」
魔王は衝撃波を放った!
ザアアアアァァッ
女側近・エルフ「うわああああっ!!」
女側近「魔王様は……きっと戻られる……」
女側近は氷牢魔法を放った。
ガッキィンッ
女側近は氷牢魔法を放った!
女側近は氷牢魔法を放った!
女側近は氷牢魔法を放った!
ガッガッガッガッキィンッ!!!
女側近「はぁはぁ……」
エルフ「もう無理じゃ……殺さないと、わらわ達が殺されるぞ。それだけじゃない。あやつは魔界全てを殺してしまう」
279 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/08(月) 23:59:43.60 ID:75Kkc0pFO
女側近「奴の動きは少しずつ鈍ってきている……あと少し」
エルフ「……」
魔道化師「マオ……」
女側近「エルフ……精霊薬は持っている? あなた達の一族に伝わる秘薬。私に」
エルフ「お主アレがどんな薬かわかっておるのか?」
女側近「わかってるわ、潜在魔力を引き出す薬。このままじゃ抑え込めないっ! はやくっ」
エルフ「精霊薬とは名ばかりで、生命を消費して魔力を強化する………お主の身体がどうなるかわからんぞ」
女側近「魔王様を拘束できるなら構わない」
エルフ「……」
女側近「はやくっ! 今の魔力ではもう保たないっ! どんな代償でも構わないっ!」
エルフ「……。ここへきて、何という澄んだ瞳じゃ」
魔王「グガガガ……」
パギギィイッ!
氷の牢は弾け飛んだ。
エルフ「よかろう……。お主の亡骸はわらわが拾ってやろう」
女側近はエルフから精霊薬を受け取ると躊躇いなく飲み干す。
魔王「コワス……コロス……」
女側近「……」
女側近の瞳が徐々に赤く染まっていく……
女側近「ああああああああああっ!!」
■ 第27話 精霊薬 終 ■
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 01:03:33.74 ID:GXGjtJBuo
おつん
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 01:52:04.86 ID:L0QjGNvxo
女側近ちゃん無理しないで
282 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 17:50:56.57 ID:agKML09K0
■ 第28話 失われる光 ■
283 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 17:53:55.85 ID:agKML09K0
魔王が魔剣を引き抜いてから
14日後。
−−−エルフの森−−−
《エルフの森。魔族とも人間とも違う亜人種、エルフ。優れた魔法技術と魔法学、なにより特化しているのが魔法薬の精製。そんな彼らが暮らす街。入り組んだ樹木と植物が共存し、街そのものが生命体のように生きている》
魔王「……ぅんん」
魔少女「あ! ああああああっ! まおー様っ」
魔王「魔少女……さん?」
魔少女「よかったぁぁうぇぇん……」グスン
魔王「……ここは??」
魔少女「ぇぐ……ぇぐ……ごごはぇぶぶのもじだじょ〜」エーン
魔王「魔少女さん、落ち着いて……」
魔少女「みんなょぶでぐるぅ……グスン」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの魔少女は何言っているかよく分からないが、部屋を出て行った。
周りを見渡すと、木のぬくもり漂うログハウスのような部屋。フカフカの白いベットに寝かされていたようだ。
ガチャ
エルフ「ようやくお目覚めじゃな」
魔王「エルフさん……」
魔道化師「マオぉぉぉおおお……おぃおぃぃ…」エーン
魔王「ピエロ……」
魔少女・魔道化師「「ふぅぇぇぇん」」
エルフ「うるさいぞー2人とも。少し外に出とるんじゃ」ポイ
284 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 17:55:44.14 ID:agKML09K0
魔王「ここはどこですか? みんな無事ですか? どうなったんでしょう?」
エルフ「ここはエルフの森じゃ。わらわの街、一応皆無事じゃ」
魔王(一応?)
エルフ「魔剣を抜いてから14日たっておる。お主は一度は魔剣に支配されたが、女側近と魔少女のおかげで無事生還、魔剣を手に入れたというわけじゃ」
魔王「……」
魔王(魔剣に触れてからの記憶が……ない)
ベットの傍を見ると無造作に魔剣が置かれていた。魔王以外は触れることが出来ない。自身で置いたのだろう。
魔王「女側近さんは?? 無事なんでしょ??」
エルフ「……」
魔王「え……?」
エルフ「ついてきなされ」
285 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 17:58:20.89 ID:agKML09K0
−−−隣の部屋−−−
ガチャ
隣の部屋には女側近がベットで寝ていた。
小さく寝息を立てていて、生きていることは間違いなく魔王はホッとした。
ただ……彼女の顔、目を覆い隠すように包帯が巻かれていた。
魔王「目は……どうしたの?」
エルフ「彼女はお主を抑え込むために精霊薬を飲んだのじゃ」
魔王「精霊薬を?!?」
エルフ「うむ、精霊薬とは魔族の生命そのものを消費して強化する魔法薬じゃ」
エルフ「一時的に潜在魔力を最大限発揮する」
エルフ「しかし、副作用がある」
エルフ「身体、魔力、生命は繋がってる。生命を消費するとは身体の何かが壊れるということじゃ」
エルフ「今回の場合は目じゃ」
魔王「え……」
魔王「え、で、でも魔法で回復すれば目は治るんでしょ??」
エルフ「魔法で治せるのは傷だけじゃ、消費した生命を回復させることはできん」
魔王「……」
エルフ「つまり、彼女の瞳に……」
エルフ「視力は二度と戻らない」
魔王「……」
魔王「う……うそ……だ……」
エルフ「本当じゃ、もうほとんど傷はふさがっている。もう2、3日で目を覚ますじゃろう。意識は戻っても、光を見ることは出来んがな」
魔王(ボクのせいで……)
魔王(ボクのせいで……)
魔王「うわあああああああああ……」
その夜、魔王、魔道化師、魔少女達の泣き声がエルフの森に響いた。
286 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:01:11.27 ID:agKML09K0
次の日。
魔王はエルフの森の長、長老と席巻していた。
魔王軍は長きに渡り、エルフ一族を侵略してきた。エルフは魔法技術に長け、森の場所を転々し逃れてきた。
エルフ一族だけが魔界で魔王軍の支配下ではなかった。
長老「同盟?」
魔王「はい……エルフ一族と友好的な関係を築きたいのです」
長老「先の“魔王”が我一族にした罪はどうなる?」
魔王「私が現王として我父の罪を謝罪します。申し訳ありません」
魔王は跪き頭を下げる。
王らしからぬ行為なのは承知の上。ただ殺されたエルフもいたと言う、この程度では許されない……と思っていた。
エルフ「長老様、我々エルフの瞳には、この“魔王”に嘘や企みがないのはお分かりいただけるでしょう?」
長老「うむ、魔王よ何が望みじゃ? 魔法か? 薬か?」
魔王「何かを求めて友好関係を築きたい訳ではありません。強いて言えば、エルフ達あなた方が隠れずに我らの町や冥都に足を運んでいただければ幸いです」
長老「それでお主らに何の得がある?」
魔王「……ボクには友人があまりいませんが」
魔王「友達は多い方がいいでしょう?」
長老「ふっ……はははははは」
エルフ「フフフフッ」
魔王「あ、あはははは」
長老「面白い王じゃな……良かろう。お主を信じてみよう」
魔王「あ、ありがとうございます!!」
長老「魔剣を解放してくれた恩義も返さなければあるまい」
287 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:04:01.90 ID:agKML09K0
魔王「……この魔剣……」
魔王は魔剣を鞘から抜くと、エルフの長老にずっと思っていた疑問をぶつけた。
魔王「この剣は何なのでしょうか?」
魔王「強力な武器であり、“魔王”しか触れることが出来ず、ゲートの鍵であって、触れたものを支配してしまう」
魔王「なぜこれをエルフさんは守っていたのですか?」
長老「うむ、そうじゃな……」
魔王「はい」
長老「人間界には聖剣というものがある。魔剣と対となる武器じゃ」
魔王「はい」
長老「魔剣と聖剣はもともとは1つの剣であった……“神剣”と呼ばれていたそうじゃ」
長老「約70年前、人間達はその神剣を使いゲートを作り魔界へ攻めてきた。突然異世界から攻めてきた人間達に魔族は苦戦した」
長老「その危機が冥都に迫るほどに苦戦を強いられた。神剣があまりに強過ぎたのじゃ」
魔王「戦争が始まったころの話ですね」
長老「しかし、戦況を変える若き騎士が現れたのじゃ。剣一本で人間兵を斬りまくり、ついには“神剣”をも破壊した」
長老「破壊された神剣は魔剣と聖剣に別れて……魔界と人間界に。神剣を失った人間達は魔界から退却を余儀なくされた」
長老「負の力を受け継いでしまった魔剣は触れた魔王を破壊者へと変貌させる剣となってしまった」
魔王「……」
長老「その魔力があまりに強いため、我らエルフはその若き騎士に頼まれ魔剣が暴走しないよう守っておったのじゃ」
長老「お主のおかげでようやく魔剣を解放することが叶ったのじゃ」
288 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:05:28.30 ID:agKML09K0
魔王「ゲートを作ったのが神剣。魔剣と聖剣が交わるとゲートが閉じる……」
長老「ゲートを閉じるつもりか。戦争を終わらすにはそれが良いかもしれんな」
魔王「その為なら自分は何でもやります」
長老「私等エルフ族も協力しよう。魔界の平和……あの若き騎士の願いでもあった」
魔王「その若き騎士さんはどうなったのですか?」
長老「戦争で亡くなったと聞く。彼にはとても助けられた。あやつは勇敢な若者で、魔王軍に所属してはいたが種族を超えた我が友だった」
魔王「友達……そうでしたか」
魔王(“勇”敢な若“者”……か)
長老「彼がいなければ魔界は人間に支配されていたじゃろう」
長老「そういえば彼も無属性であったな。何かを成し得るのに魔法や魔力は関係ない、お主を見て改めて思ったよ」
魔王「……」
魔王(ボクは……何かを成し得ることができるのだろうか?)
289 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:08:37.30 ID:agKML09K0
−−−エルフの森・広場−−−
魔少女「まおー様っ! どうだったのー? 長老さんに会えたの?」
魔王「うん、何とかいい返事もらえたよ」
魔少女「さっすがまおー様っ」
魔王「でもボク一人じゃ、この先の同盟に関する細かい話し合いはできない……」
魔少女「うん」
魔王「ボク、14日も寝てたんだよね?」
魔少女「そだよー心配したんだから」
魔王「執務ヤバイ……どうしよ」
魔少女「あれ? ピエロだ。何してんのー!?」
広場の端の方で魔道化師が、木の周りを回りながら何かをしている。魔王達が近づくと気が付き手を振る。
魔道化師「マオっ! 魔少女っ!」
魔王「ピエロ……何してるの? 新しいサーカスの練習?」
魔道化師「うひゃ、オイラも強くなれるように修行ひゃっ」
魔少女「ププ……そんなんで戦うって、あははは」
魔道化師「お、オイラも弱いままだとマオの役にたてないからな」
魔王「む、無理に戦わなくていいよ。ボクだって戦えないし」
魔道化師「何言ってんだよー魔剣手に入れたんだから! もう凄いんだろ〜?」
魔少女「あ、そっかーそうよね」
魔王「……いや……なんかこの剣にチカラなんてあるように思えないんだけど」
魔道化師「マオも魔少女しゃんも意識無かったから知らないだろうけど、その剣すげーのよ!!! 一振りしただけで、衝撃波が……ぶっびゃびゃひゃーどっばーっんって感じで」
魔王「本当に?」
魔道化師「ちょっと振ってみろ。うひゃ」
290 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:09:47.72 ID:agKML09K0
魔王「うん」
魔王は木に向かって魔剣を振る。
ブンッ
すると衝撃波が……
魔王「……」
シーン
しかし、何も起こらなかった!
魔道化師「ありゃ??? なんでー?」
魔少女「直接斬ったらすごいとかじゃない?」
魔王「よし」
魔王は木に攻撃っ!
カツッ
魔王「あた! 手首が……」
魔王は1のダメージ受けた!
魔道化師「……」
魔少女「……」
魔王「……」
魔王(これ……ボクには使えないのかな? いや、でもボクしか持てないし)
ドクンッ
魔王「?」
魔道化師「マオ?」
魔王「ん、なに? 何か特別な使い方があるのかな」
魔少女「剣からは何も感じないわね」
魔王(いや、いま……なんか……)
エルフ「魔王、いたいた! 女側近の意識が戻ったぞ!」
魔王「!!」
291 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:11:35.26 ID:agKML09K0
−−−エルフの森・女側近の部屋−−−
部屋に入ると女側近はベットに腰掛けていた。
その表情は穏やかだが、目は閉じられたまま……
魔王(……ッ)
魔王(本当に……視力が……)
魔少女「お姐ぇぇぇえええ……」エーン
魔少女は女側近に抱きつく。
女側近「魔少女……ピエロ……」
魔道化師「うひゃひゃひゃ……みんな生きてて良かった〜」
魔王「女側近さん……」
女側近「!……魔王様?」
魔王「ボクのせいで視力が……」
女側近「魔王様、お気になさらずに。魔剣を手に入れ、皆無事ですので最高の結果でございます」
魔少女「ふぇぇええん」
魔王「……」
魔道化師「魔少女しゃん、ちょっと二人にしてあげよーうひゃ」
魔少女「……ぅん」
二人が出て行くと、部屋は静粛に包まれる。
魔王「……」
女側近「……」
女側近は誰もいない方向を向いている。本当に目が見えない……魔王はそれを実感し胸が締め付けられた。
魔王「女側近さん……ごめん……ぅぅ……」
女側近「魔王様、自分を責めないでください。これは命令では無く、私の判断で精霊薬を飲みました。魔王様が心を病む必要はありません」
魔王「命令とか、判断とか……そんなんじゃないよ」
女側近「……」
魔王は自分の居場所を知らせるように、女側近の手を握る。そして、目を閉じる。
暗闇。
エルフの森の美しい木々や動物、目の前の女側近の表情も見えない。
手からは女側近のぬくもりを感じるが、何も見えない。
魔王「女側近さんが光を失ってしまったことが悲しい……」
292 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:13:00.61 ID:agKML09K0
女側近「……魔王様は」
魔王「……」
女側近「魔力の流れをご存知でしょうか?」
女側近「魔力というのは至る所に存在し、空気のように空間に漂っています」
魔王「え?……?」
女側近「強い魔力は瘴気のように視覚化します。しかし、見えなくとも何処にでも存在し漂い、流れています」
魔王「……」
女側近「私はその魔力の流れを感じることが出来ます。例えば……」
女側近「部屋の扉の向こうで、魔少女とピエロが聞き耳を立てているですとか」
ガタッ……扉の向こうで慌てふためく二人の気配がした。
女側近「そこの窓際でしょうか? 小鳥が二羽とまっていることですとか」
チュンチュン……
魔王「……っ!」
女側近「そんなに生活に困ることはありません」ニッコリ
女側近「慣れれば戦うこともできるでしょう。だから……」
女側近「大丈夫ですよ」
女側近はニッコリ微笑んでもう一度「大丈夫ですよ」と言った。
……
293 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:14:24.71 ID:agKML09K0
女側近「魔剣は手に入りました。後は人間と和平を結べばゲートを閉じることが出来ます。ここまで来れたのは魔王様のチカラです」
魔王「うん……」
女側近「あと少しです。城へ帰りましょう」
魔王「そうだね……迎えは魔伯爵さんに頼もうか??」
女側近「?……なぜでしょう?」
魔王「……いや、だって……危険な目に遭ったし、目のことも言わなきゃだし」
女側近「魔王様……何かを勘違いされているような……」
魔王「あ、魔伯爵さんから直接聞いたんだ! 幼馴染で許嫁なんでしょ! もー言ってくれれば、遠距離恋愛にならないように……」
女側近「あ、あの!」
魔王「……はぃ」
女側近「ご、誤解でございます。魔伯爵は確かに幼馴染で兄のように慕ってはおりますが……恋人ではありません」
魔王「……いや、だって最果ての町の泉のほとりで見たよ」
女側近「アレは……魔伯爵が一方的にしてきたこと。私は彼と番になるつもりはありません」
魔王「そ、そうなの……? なんで??」
女側近「魔伯爵には許嫁が何人もおりますので、私である必要がありません」
魔王「えーーーー?!?」
294 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/09(火) 18:15:46.66 ID:agKML09K0
魔王「何人もいるって……そんなハーレムみたいな」
女側近「これが側近一族なのです……」
魔王「……」
女側近「私は魔伯爵より強かったので拒否権がありました。この私は魔王様に尽くすのみでございます」
魔王「な、なーんだ。ボクの勘違いだったのかぁ」
女側近「はい」
魔王「なんだか……わからないけど」
魔王「嬉しい……なんでだろ。はは」
女側近「私も……」
女側近「嬉しいです。誤解が解けたからでしょうか? 分かりませんが」
微笑む二人の間には今まで以上の絆が出来ているように見える。
覗いていた魔少女と魔道化師はホッとため息をつく。
魔道化師「うひゃ……鈍感同士、もどかしいひゃ」
魔少女「うん。でも、よかった……」
魔道化師「よかったのか?」
魔少女「愛する者の幸せを願うのは当たり前でしょ」
魔道化師「魔少女しゃん切ないな。オイラが慰めてやるよー」チュー
ドガッ
魔道化師「いてっ!」
目的を達成し、穏やかな空気が流れる魔王達。ようやく旅も終わろうとしていた。
城を離れ約一月ちょっと。
冥都が人間に襲撃されたことを魔王達はまだ知らない。
■ 第28話 失われる光 終 ■
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 20:11:22.74 ID:u1NpZJJto
面白いおつおつ
昔ならもっといっぱいレスついただろうにな
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/09(火) 22:06:41.82 ID:DZxyhPfBo
今過疎ってるからなー
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 08:28:45.98 ID:MmhM6qcb0
乙
298 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:45:22.66 ID:6ZYIrOVGO
■ 第29話 選べない選択 ■
299 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:48:06.59 ID:6ZYIrOVGO
ーーー高地・最果ての町ーーー
魔王「えーーーー?!?」
魔王「め、冥都が襲撃された?!」
エルフの森を出て、最果ての町まで戻ってきた魔王一向。
町で待っていた迎えの魔族兵から衝撃の事実を知らされたのだった。
魔族兵「はい、すぐに城にお戻りいただくよう魔執事様から迎えを命じられました」
女側近「襲撃はいつ? 城は大丈夫なの?!」
魔族兵「襲撃は7日前です。城に被害はありません。詳しいことは城に戻ってからお伝えします。転移魔法陣は魔界全土、再起動させてあります」
魔少女「じゃすぐ戻れるのね!」
魔道化師「うひゃ、急ぐぞ!」
300 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:51:55.64 ID:6ZYIrOVGO
−−−冥都 最上層・黒魔城−−−
転移魔法陣であっという間に帰ってくる……。
久しぶりの我が家、感傷に浸る間もなく魔執事のいる玉座の間へ。
魔執事「魔王様、ご無事でなにより。やっとお戻りっー訳っすね、おかえりなさいませ」
魔王「魔執事さんっ……状況は?!」
魔執事「いや、やばかったっす。城に被害はねぇっすけど……スラム、第1、第2層はほぼ壊滅状態、第5層にも被害があるっす」
魔少女「下位層が……」
魔王(か、母さん)
女側近「詳しく」
魔執事の話によると
人間達は3パーティ、計17人で襲撃。現在は全員撃破済。
魔執事の元に人間襲撃の報告があった時点で最下層はすでに壊滅。
人間達は別れて別々に攻めてきた為、手薄の冥都は大きな被害を受けた。
魔執事「っーわけです。人間達を引き連れていたのは、以前黒魔城まで攻めてきた“あの時の勇者”」
勇者「あの……転移魔法陣で飛ばした人間?!」
魔王(あの少年勇者が言っていた“帝竜”という勇者……今回の襲撃は少年勇者は知ってたのだろうか?)
魔王「今度は城じゃなくて街を襲った……? なんで?」
魔執事「魔王様をおびき寄せる為っ……すかね?」
魔王「やはりボクがいないのを知っていたのか?」
女側近「よく勝てたわね……」
魔執事「倒したのは俺じゃなくて」
後ろからコツコツと革靴の音が聞こえてくる。魔王が振り向くと、その男はゆっくり口を開く。
魔伯爵「倒したのは我デスよ」
女側近「伯?!」
魔王「魔伯爵さん! どうして冥都に……人間界へ戻ったんじゃ?」
魔伯爵「人間達の不穏な情報を耳にしましてね、冥都へ戻ってみたのデス。結果、勇者達を迎え撃つことができました」
魔王「そうかぁ……ありがとう。しかし、下位が……」
魔執事「魔王サマのお母様は無事っすよ。護衛をつけていたので」
魔道化師「く、黒のサーカス団は?!」
魔執事「残念だが………」
魔道化師「−−−っ!!」
言葉を失った魔道化師は走り出す。慌てて魔王も後を追う。
魔王「ピエロっ!」
301 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:54:31.28 ID:6ZYIrOVGO
−−−冥都 最下層−−−
見渡す限りの瓦礫の山。
瘴気が漂っていて視界は悪いが壊滅しているのはわかる。
スラム、最下層は文字通り壊滅していた。
大声を上げて泣き叫ぶ魔道化師。
魔王(なんで……こんなことに)
魔伯爵「魔王サマ、こちらへ」
魔伯爵の後をついて行くと、魔王軍の拠点キャンプへとつく。多くの兵士が怪我人や死体の処理をしていた。
魔伯爵「こちらをご覧ください。ご存知デスよね?」
魔王「……!」
魔伯爵の示す場所には一体の死骸。たしかに見覚えがあった……以前、黒魔城に攻めてきて転移魔法陣で遠くに飛ばした勇者。
全身に何本も剣が刺さって串刺し状態だ。
魔伯爵「“帝竜”の勇者に間違いないデスか?」
魔王「うん……」
魔伯爵「そうデスか。後は、裏切り者の黒魔術師さえ捕まえれば、魔界の脅威は無くなりマスね」
魔王「下位の被害は?」
魔伯爵「かなり大きいデス。はっきり把握出来てはおりませんが、恐らくは最下層、2層は80%ほどは破壊されたかと」
魔王「−−ッ」
魔伯爵「第5層の被害は大したことありません。ご安心を」
魔王(ボクが……)
魔王(ボクが……冥都の守りを手薄にしたせいだ……)
魔伯爵「今魔王軍を総動員して復興作業にあたっていマス。一番奥の部屋にお母様がおられマスよ」
魔王「うん……」
302 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:55:40.30 ID:6ZYIrOVGO
トボトボと歩き出す……
大声で泣いている魔道化師が見えた。周りの怪我人、兵士達からは人間達への憎しみと、魔王軍への不満が聞こえる。
「人間めっ……!」
「おかあさぁぁん……」
「わしの家がぁぁ」
「痛い痛い痛い痛い……」
「人間が攻めてきたのに上位魔族の対応が遅すぎる」
「魔王様は何やってたんだ」
「魔王様、最近変わったらしいよ。だからこんなことに……」
一言一言が魔王の胸を締め付ける。扉を開けると、魔王の母“女魔賢者”が怪我人の治療をしていた。
魔王「母さん……」
女魔賢者は魔王に気が付かない。
引っ切り無しに入ってくる怪我人を魔法で治療する。
魔王は黙ってその場を離れた……。
303 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:57:41.44 ID:6ZYIrOVGO
次の日。
−−−冥都 黒魔城・玉座の間−−−
魔執事「被害が下位だけだったのか幸いっすね」
魔王「……」
魔伯爵「復興自体はそれほど問題ないでしょう。ただ問題が」
魔王「問題?」
魔伯爵「今回の件で民の人間達への憎しみが非常に強くなっておりマス。この状況では和平はかなり難しいかと」
魔執事「それと部下幹部達の魔王様への不満もかなり深刻っすね……和平に反対の声が」
魔王「……ボクがチカラのない“魔王”というのも知れ渡ってしまったから、余計に」
魔伯爵「魔剣はどんな具合デスか?」
魔王「使い方の問題なのか? わからないけど、ボクには使いこなせないみたい……」
魔伯爵「そうデスか……」
魔王「“帝竜”の脅威がなくなったから良かったけど」
魔執事「帝竜?」
魔王「あ、魔伯爵さんが倒してくれた勇者のこと」
魔王(あ……)
魔王「そういえば女側近さんは??」
魔執事「失った視力を戻せないか、医者に診てもらってますよ。まぁきびしーっつうのは分かってますがね」
魔王「そうだよね……」
魔王(前に女側近さんが言ってたっけ)
『どんな王でも支持しない者達が増えた場合、反乱が起こるでしょう』
魔王(せっかく魔剣を手に入れたのに)
魔王(危険な状況だよ。こんな状況で人間と和平するなんて言えない。いったいどうしたら?)
304 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/10(水) 08:59:30.19 ID:6ZYIrOVGO
−−−最上層 墓地−−−
城の裏手、外界の雲海が見渡せる丘に王家の墓地がある。
先代魔王の墓も立派に佇んでいる。
その前で魔王は考える。
魔王(ボクは魔王だ)
魔王(父さん、何でボクに“魔王”を継ぐように遺言を残したの?)
魔王(ボクに魔力が無いのは知っていたんでしょ?)
魔王(何で?)
魔王(ボクはこの仕事を全うしたい)
魔王(戦争を終わらせる。沢山の犠牲があったけど……やはり人間との和平が正しい選択だと思う)
魔王(その為には……)
魔王は拳を握りしめ、歯をくいしばる。
一つの考えがあった。しかし、それには“覚悟”が必要。
魔王(成し遂げるには必要なんだ)
魔王(ボクの役目なんだ……)
魔王は考える。どうすることがベストなのか。どうしたら戦争を終わらすことができるのか?
魔王は最後の決断をする。
……
三日後。
魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」
■ 第29話 選べない選択 終 ■
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/10(水) 14:23:56.96 ID:ZQMrQ0Wy0
乙
306 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 01:57:57.10 ID:8XAxIGdJ0
−−−魔界 冥都・黒魔城 玉座の間−−−
魔王「キミに“魔王”の座を譲ろうと思う」
魔伯爵「魔王サマ……」
魔伯爵は驚き息を飲む。
魔王「頭のいい魔伯爵さんなら、ボクが何故この結論に至ったか分かるよね?」
魔伯爵「………戦争を終わらす為。ゲートを閉じる為デスね」
魔王「そうだよ。冥都でのボクの支持はかなり低い。人間の襲撃を防げなかったこと。ボクにチカラがないことが原因だ」
魔伯爵「……」
魔王「魔伯爵さんはチカラもあるし、今回の人間達を倒したことで冥都の救世主として、民や部下達から絶大な信頼を得たと思う」
魔伯爵「滑稽な思考デスよ。何かあるとすぐに誰かの責任にしたがる。悪を決めると、その反対の正義を祭り上げる。集団心理とは愚鈍の極みデス」
魔王「ボクが和平や停戦を命令しても、魔界情勢は悪くなってしまう。最悪、反乱が起こるかもしれない」
魔王「ボクは責任を取って生前退位する」
魔王「魔伯爵さんなら戦争を終わりにすることができる……」
魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」
魔王の力強い言葉に、魔伯爵は天井を見上げ目を瞑る。
魔伯爵(……我が“魔王”に……)
307 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 01:58:41.53 ID:8XAxIGdJ0
■ 第30話 本当の意味 ■
308 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 01:59:54.54 ID:8XAxIGdJ0
……
ようやく……ここまで来た。
これで我は本当の自由を手にする。
今まで自由を感じなかった。
生まれてから一度も。
一度もだ。
一度も感じなかった。
我の一族は皆例外なく
魔王の側近となるべく育てられる。
10歳になるとその教育は始まる。
剣術、体術、魔法、戦術、学問、礼儀作法、あらゆる技術や知識を叩き込まれる。
その訓練は過酷を極める。
309 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:03:13.01 ID:8XAxIGdJ0
戦闘訓練では命懸けでモンスターと戦わされる。
何年も地底に閉じ込められサバイバル生活をさせられたり、眠ることを許さずひたすら知識を頭に叩き込まれたり、ただただ苦痛を与えられたり。
物心ついたころ、すでに自由はなかった。
起床する時間、食事の時間、訓練の時間、勉強の時間、就寝の時間。すべて管理されていた。
魔界の根本理念「弱肉強食」「絶対的上下関係」
自分より強い教官の命令は絶対。
その生活は100年続いた。
我の代では30数名が訓練を受けていたが、その途中で半分はいなくなった。死亡した者、精神を壊した者、逃亡した者。
自分が側近候補者であり、他の一族とは違うと授業で習った。
訓練施設の外では冥都があり、魔王様がいて、魔王軍があって、民や兵士がいる。側近一族の自分とは根本的に生き方が違う。
その者達には自由があることを知った。
しかし、その時はそれを疑問に思わなかった。
側近候補者達の中に歳の近い女の子がいた。
なんでも自分の番<つがい>らしい。
我らには恋愛の自由もない。
決められた相手に子種を提供する。
ただそれだけの相手。
何人も番がいたが、彼女には目を奪われた。
美しい容姿に、底知れぬ魔力、ストイックで勤勉な彼女は候補者達の群を抜いていた。
会話は禁止されていたが、我々候補者達は互いを目を合わせるだけで声を出さずとも会話ができた。
訓練中、ふとした瞬間に彼女と目を合わせ、教官に気付かれないよう会話する。
互いに励まし合い訓練を乗り切った。
成績は
当然彼女がトップ。二番目だった我は、第二側近になった。
310 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:05:52.23 ID:8XAxIGdJ0
訓練を卒業し、魔王様の側近を引き継いだ。
我は人間界の最前線が配属先となる。
訓練施設を出て、生まれて初めて外の冥都を歩き平和な世界を見た。
当たり前に自由に暮らす民をいた。
我は思った。
何故自分より弱い魔族がのうのうと自由に暮らしているのだろう?
何故我らだけが辛い生活を強いられていたのだろう?
我は第一側近になった彼女に聞いてみた。
「それは魔王様が望んだこと。魔王様の命令は絶対です」
彼女は感情を無くしていた。自分の存在は魔王様の為だけにあると。
実際に先代魔王様に会って我は思った。
次元の違う強さ。
統率力、先導力、カリスマ性、指導力、判断力、予測速度。
圧倒的だった。
王としての資質をすべて兼ね備えているように見えた。
素晴らしい王だった。
そうか、自分が先代魔王様より弱いからいけないんだ。
だから自由がなかったのだと。
311 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:08:11.79 ID:8XAxIGdJ0
そんな先代魔王様が突然病で亡くなった。
我が側近になって40年足らず。
異例の事態に戸惑った。何が1番戸惑ったかというと、遺言で次の王が息子である“下級魔族”だと知ったことだ。
まだ70歳足らずの子ども。
魔法も使えず。
チカラや技術も皆無。
「弱肉強食」のこの魔界で、そんな王など遅かれ早かれ陰謀や内乱、反逆、クーデター……崩壊するのは目に見えている。
何故、先代魔王様はそんな子どもに“魔王”の座を譲ると遺言を残したのか……?
女側近は亡くなった先代魔王様の遺言に従って、新しい魔王様を支えるを言っている。
それがご意志だと。
違う!
息子に情があった?
否!
そんな方ではない。
先代魔王様は
戦いを望んだのだ。
無力な息子が王を継げば、魔王軍内部で争いが起こることなどわかっていたはず
遺言の本当の意味は
312 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:09:27.82 ID:8XAxIGdJ0
“自ら戦い魔王の座を奪い取れ”だ
313 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:11:28.49 ID:8XAxIGdJ0
先代魔王様の息子が新しい“魔王”になって数日。我はすぐに動いた。
ゲートの管理者であった黒魔術師を使い、裏切ったと見せかけ“帝竜の勇者”に協力させる。
人間達は必要物資と仲間を連れて魔界へ。
黒魔術師にサポートさせ、冥都・黒魔城を襲撃させる。警備の手薄なルートを教えるとその通り行動してくれた。
女側近のいない間を狙ったにも関わらず退かれてしまう。
次に少年勇者に情報を流し飛空船を襲撃。頭の切れる勇者ではあったが、それゆえか魔王を捉えてゲートを閉じようとしていた。
このまま少年勇者と魔王が結託してしまうと、面倒なことになる為、我自らの救出へ。
勇者の仕業に見せかけて魔王を殺しても良かったが、そうなると次に王位を継承するのはNo2の女側近となってしまう。
彼女とは戦っても勝てない。
そこで魔王を生かしておいて、兵士や民に現在の魔王が下級魔族であるとバラすことにした。
そして今回の帝竜の勇者の再襲撃だ。
魔王が魔剣を取りに行ってる間に、再び黒魔術師を使い帝竜の勇者をサポートする。今度は街を襲わせ、我が倒す。
民や部下達は皆我を支持するだろう。
魔王自身すらも我が王であるべきと感じるだろう。
314 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 02:12:38.45 ID:8XAxIGdJ0
その通りになった。
たとえ魔剣を手に入れ強くなっていたとしても、民や部下の信頼を得るのには遅すぎた。
女側近が視力を失うという予想していない事態もあったが、これで魔界で1番強い魔族が我となった。これではチカラずくでも王位を奪い取れる。
ようやく……ここまで来た。
全ては狙い通り。
魔王「ボクの代わりに“魔王”になってくれ」
魔伯爵「……かしこまりました」ニヤリ
■ 第30話 本当の意味 終 ■
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 02:21:49.27 ID:VYVyjR+Oo
おつおつ
やっぱり魔伯爵が裏で糸を引いてたか
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 02:28:52.91 ID:jbLNiTpTo
魔伯爵にその剣を使えるかな
317 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 10:53:54.54 ID:d8zC9TBn0
面白い!
乙!
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 13:12:40.77 ID:n7I6+poF0
乙
319 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 15:30:29.01 ID:OWBPr/esO
■ 第31話 重過ぎた彼のもの ■
320 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 15:32:15.78 ID:OWBPr/esO
魔伯爵「魔王サマのご意志を持って新たな王となりマス」
魔王「うん……」
魔王は物悲しげな表情で見つめる。
腰にさした剣を手に取り、魔伯爵の前へ出す。
魔王「魔剣だよ。これは“魔王”しか触れることが出来ない。解放したから、もう暴走することもないよ」
魔伯爵「……」
魔王「こんな剣を持てても王として……ボクは何も変えられない。民の気持ちや兵士達の信頼、そっちの方がよっぽど重い」
魔王「キミこそ王として相応しい」
魔王「この魔剣と共に王位を託します」
魔王「受け取ってください……」
魔伯爵「……はい」
魔伯爵は差し出された剣に手を伸ばし……
受け取る。
魔伯爵(魔剣……これで我が)
魔伯爵「“魔王”だ……」ニヤリ
魔王「……」
魔王「……残念だよ。魔伯爵さん」
321 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 15:35:44.83 ID:OWBPr/esO
魔伯爵「?」
魔剣は……いや、魔王が渡した剣は黒い泥のように溶ける。
魔伯爵は魔法封の呪いにかかった!
魔伯爵「これは……魔剣ではない?!!」
魔王「キミが黒幕だったんだね」
魔伯爵の足元に魔法陣が浮かび上がり、部屋全体が結界に封じ込められる。
魔王は泣き出しそうな表情を浮かべ魔伯爵を見つめる。
背後から女側近、魔執事、エルフが現れ魔伯爵を取り囲んだ。
魔王「それは魔剣ではなく、エルフさんに作ってもらった呪いの剣」
エルフ「おぬしの魔法は封じ込めた。この結界も特別仕様じゃ」
魔執事「……オメェを尊敬していたのにょ」
女側近「……伯」
魔伯爵「……」
魔王「キミの策略は終わりだっ!」
魔伯爵「最初から……我に“魔王”の座を譲る気など無かった」
魔王「うん……ごめん、ハッタリだよ」
魔伯爵「我が裏切り者ということデスか? なぜ?」
魔王「ずっと分からなかったよ……側近が裏切るとは考えもしなかった」
322 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 15:38:15.75 ID:OWBPr/esO
魔王「最初に違和感を感じたのは……『帝竜』の勇者」
魔王「『帝竜』とは、あの勇者の人間界の通称だ」
魔伯爵「……それが?」
魔王「ボクは少年勇者から聞いていたから知っていたんだけど、魔伯爵さんは彼を倒した時、自分で『帝竜』と口に出した」
魔伯爵「……」
魔王「それは前から彼を知っていたということ」
魔王「そう考えると辻褄があうことが沢山あったんだ」
魔王「少年勇者が知っていた情報だ」
魔王「ゲートのある浮遊島を出た後、襲撃する計画。女側近さんの氷属性を打ち破る装備。そして、ボクが下級魔族であることを想定した作戦」
魔王「少年勇者はもう一人の裏切り者である黒魔術師から情報を得ていた。黒魔術師は当然ボクらの位置や女側近の氷属性を知っていただろう」
魔王「でもね」
魔王「ボクがチカラのない下級魔族というのを知っているのは、一緒に旅した魔少女、ピエロと側近の3人だけだ」
魔伯爵「……魔執事にも同じことが出来たと思いマスが?」
魔王「いや、魔執事さんは帝竜の勇者に殺されかけた。それに『帝竜』という意味を知らなかった」
魔伯爵「女側近では?」
魔王「彼女はずっとボクと一緒にいた。そもそも、魔王の座を狙っているならボクを殺して部下全員を従わせればいい。先代魔王様がいなくなって彼女が魔界最強。こんな策略する必要がない」
魔伯爵「……なるほど」
魔王「だからキミが裏切り者だ」
魔伯爵「……魔王サマ」
魔王「……」
魔伯爵「我は裏切っていません。何かの間違いデス、信じて下さい」
エルフ「嘘じゃ。エルフには嘘は通じん。観念しなされ」
323 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/11(木) 15:40:19.59 ID:OWBPr/esO
魔伯爵「ククク……ハハハッ」
魔伯爵は観念したのか高笑いを上げ、魔王の顔を覗き込む。そこに側近という身分の表情はない。
魔伯爵「ではどうするのだ? 戦いの嫌いな坊ちゃん魔王が我を殺すことが出来るのか?」ハハハッ
魔王「覚悟したよ」
全員が武器を構える。魔王も本物の魔剣を手に取り魔伯爵に向ける。
魔王「キミを殺すよ。戦いは嫌いだけど、秩序は必要だ」
魔王「キミの罪は重過ぎる」
魔伯爵「ククク……下級魔族が偉そうに」
魔王「みんなっ! 行くよっ!」
■ 第31話 重過ぎた彼のもの 終 ■
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 16:41:49.97 ID:0LPuQBLeo
おつおつ
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/11(木) 17:31:26.28 ID:+4gqLP/ro
魔王さまイケメン
326 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/12(金) 08:51:47.24 ID:Mi0bRHkaO
■ 第32話 ラストバトル ■
327 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/12(金) 08:53:42.27 ID:Mi0bRHkaO
最初に動いたのは女側近。
魔力で造った氷の剣を振り上げ魔伯爵を襲う。ジャリンッと剣の交わる音が結界に包まれた玉座の間に響く。
魔伯爵はマントの奥に無数の剣を隠し持っていた。あの『帝竜』の勇者に突き刺さっていた剣だ。
キンッ
キンッ
魔界1.2の強さの二人の剣技が交わる。女側近の剣筋は視力の無さなどまったく感じさせない。
魔伯爵は魔法を封じられている。だが、女側近も魔法は使わない。それは……魔伯爵も氷属性である為、ほとんどダメージは期待出来ないからである。
幼い頃から共に訓練をした2人。
互いの戦い方は知っている。
魔伯爵は剣を交えながらニヤリと笑う。
魔伯爵(あの訓練を思い出す。なぁ女側近)
女側近(なぜっ?! なぜ裏切ったの?!)
魔伯爵(キミには分からないよ。考えるのを放棄したキミにはね)
女側近(先代魔王様を尊敬していたんじゃないの?! その意志を……)
魔伯爵(尊敬していたさ)
女側近「はあぁぁぁっ」
ガキッィイイ!
魔伯爵「ほぅ……よし、2本目」
魔伯爵はもう一本剣を取り出し、二刀流。彼女もその剣技も知っていた。怯むことなく迎え撃つ。
328 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/12(金) 08:55:25.20 ID:Mi0bRHkaO
ジャキィィィンッ!
魔伯爵(尊敬していたからこそだ。先代魔王様の『弱肉強食』という教えを、我は体現したまで)
女側近(魔王様が弱いから裏切ったと?)
魔伯爵(そうだ。キミも『弱肉強食』こそが魔界の在り方だと思っていたはずだ。強さ……強さが全てだ!)
キンッ
キンッ
女側近(強さ……とは、戦闘力だけではない。そう教えてくれたのは貴方よ)
魔伯爵(その通りだ。だからこそ、我が王に相応しい)
女側近(魔王様の強さを、貴方は知らないだけよ)
魔伯爵(弱いさ。キミも弱い……視力を失ったせいか? 動きが鈍いぞ)
女側近「では止めてみせろっ! はあぁぁぁっ!」
女側近は大氷冷魔法を放った!
強力なダイヤモンドダストが魔伯爵を襲う。しかし、魔伯爵も氷属性を宿しているため効果は薄い。
魔伯爵(ふん、こちらの視界も奪い奇襲するつもりか。次、姿を見せたら仕留めてやる)ニヤリ
魔伯爵は二刀流の剣を構え直す。
氷魔法が晴れる……目の前から現れたのは彼女ではなかった。
329 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/12(金) 08:56:44.24 ID:Mi0bRHkaO
魔執事「うらあああああっ!!」
魔執事は大爆炎魔法を放った!
魔伯爵「なっ!!」
ゴオオオオオオオォォォッ!!!
激しい爆音と共にまばゆい炎が捲き上る。
氷属性には火属性の魔法だ。それも魔伯爵は魔法を封じられているために、直撃も直撃だ。
魔王「やった」
魔王(作戦通りだ。女側近さんの視力が無くなったせいで、魔界で1番強いのは魔伯爵になってしまった)
魔王(そこで、エルフさんが造った呪い剣で魔法を封じ、女側近さんが剣技で時間を稼ぎ、その間に魔執事さんが弱点の火属性魔法を詠唱する)
女側近「まだです……まだ仕留めていません」
エルフ「ほれ」
エルフは支援魔法を放った。
魔王達の攻撃力が上がった。
魔王達の防御力が上がった。
魔王達の素早さが上がった。
魔王達の魔力が上がった。
魔執事「次は仕留めるぜ」
330 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/12(金) 08:58:18.32 ID:Mi0bRHkaO
女側近「伯……」
魔伯爵「く……我を殺すのか?」
女側近「魔王様の命令は絶対です」
魔伯爵「そうか……」
魔伯爵「では……3本目」
ジャキィィィンッ
魔執事「ぐあああ……」
魔伯爵「4本目」
ジャキィィィンッ
エルフ「が……あああああっ」
魔伯爵「5本目」
ジャキィィィンッ
女側近「きゃあああっ……」
魔王「え??」
魔王は理解できなかった。魔伯爵は2本の剣を持ったまま一歩も動いていない。
なぜ皆次々倒れていく?
なぜ皆に剣が刺さっている?
どんな魔法を使ったんだ?
いや、魔法は使えないはず。
魔伯爵「さぁ1対1だ。ラストバトルを始めようか」
■ 第32話 ラストバトル 終 ■
331 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 12:56:06.24 ID:2dy8f1qxO
焦らすなぁ
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 22:28:15.65 ID:ME+6UJX+O
乙
333 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:29:35.33 ID:D5l3WST1O
■ 第33話 初めての実戦 ■
334 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:32:44.10 ID:D5l3WST1O
魔伯爵「ククク……」
魔王「……」
魔伯爵「なぜ? と言った顔だな」
魔伯爵は倒れている3人を見て笑う。女側近、魔執事、エルフの3人は背中に剣が刺さり倒れている。
突然劣勢に立たされた魔王は、状況を理解しようと頭をフル回転させるが答えは出ない。
刺さった剣が独りでに動き出す。
ズボッと抜けると、宙を漂い魔伯爵の元へ……。
空中に浮かぶ3本の剣はクルクルと主人の周りを回る。
魔王「剣が……??」
魔伯爵「これは魔法ではない」
魔伯爵「“念道力”」
魔伯爵「触れずに物を動かす能力だ。優れた戦士や武道家は、攻撃の際に衝撃波や波動を放つことが出来る。我はそれを研究し、自ら応用し使用することが出来る」
魔王「な、なんだよそれ……」
魔伯爵「弱肉強食……魔界の根本理念であり、全ての在り方だ。その強さとは“魔力”」
魔伯爵「お前自身よくわかってるだろうが、魔力が強いか弱いかによって、その人生は順位付けられ、勝者と敗者、上か下か、全てが決まる」
魔伯爵「その圧倒的頂点にいたのが、お前の父……先代魔王様だ」
魔王「父さん……」
魔伯爵「先代魔王様のあまりに強過ぎる魔力は、何千年かかっても超えられるものではなかった。そこで我は考えた」
魔伯爵「『魔力以外のチカラで対抗できないだろうか?』」
335 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:34:51.08 ID:D5l3WST1O
魔伯爵「考えたよ。どうすれば先代魔王様に勝てるか……そこで目をつけたチカラが“念動力”だ」
魔伯爵「この念動力は魔法魔力によるものではない」
魔伯爵「魔法を封じられても、魔力を使い果たしても使える」
魔伯爵「優れた魔族は周りに漂う空気中の魔力を感じ取り、相手の行動を把握、先読みし戦う。女側近が戦えるのはその為だ」
魔伯爵「しかし、念動力は魔力を使っていないので先読みが難しい。何より視力のない女側近には“念動力”の攻撃はまったく認識することができん」
魔伯爵「今はまだ剣3本を動かせる程度だが、奇襲や不意をつけばこの通り。魔法を封じられても女側近に勝てる」
魔王(女側近さん……)
魔王「……」
魔伯爵「我が“魔王”となる!」
ジャキィィィンッ
浮遊する剣は一直線に飛んで行き、魔王の腹部に突き刺さる。
魔王「くあああぁぁ……」
336 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:36:27.38 ID:D5l3WST1O
魔伯爵「貴様に敬語を使うのがずっと苦痛だった」
魔王「はぁはぁ……」
魔伯爵「甘ったれた王政にもウンザリしたよ。だから、上手いこと勇者を使って最下層とスラムも掃除してやったんだ……一石二鳥だったろ」
魔王「それがキミの本音か……はぁはぁ」ジロッ
魔伯爵「なんだ? その目は? 下級魔族め身の丈を脇わえろ」
ドガッ
魔王「ぐはぁ」
見えない力で吹き飛んだ魔王は、ゆっくりと起き上がり魔剣を構える。
魔王「はぁはぁ……」
魔伯爵「ククク……なんだ? その剣で戦うのか?」
魔王「そうだ」
魔伯爵「ククク……ハッハハハハ! 笑わせる」
魔王「言ったはずだっ! 覚悟は出来ていると」
魔伯爵「ふん」
魔王「ボクが……
キミを殺す覚悟だっ!」
337 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:37:31.33 ID:D5l3WST1O
ドクンッ
魔王「が……が……」
魔伯爵「?」
ドクンッドクンッ
魔王「ががが……来い……魔剣」
ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ
魔王「ががががががががががががががががががががががががががががあぁぁぁ」
魔伯爵「な、なんだ?!」
魔剣から黒い魔力が吹き出し、魔王の身体を包む。
魔伯爵「まさか……魔剣を使えるというのか?」
魔王「がががが……ぢがゔ。魔げんがボグをづがゔんだ」
魔王「ががあぁぁぁっ!!!!」
魔王はパタリと倒れると何事も無かったように起き上がる。
魔伯爵「?」
魔王「カラダ……カラダ……」ニヤ
338 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 00:39:29.85 ID:D5l3WST1O
魔伯爵は浮遊剣で攻撃!
ビュッッンッ
魔王(魔剣っ! 避けてっ)
魔王の身体は消える。
魔伯爵の背後にフワッと風が吹くと魔王は現れる。
ヘラヘラと薄笑いを浮かべ魔剣を握り直す。
魔伯爵「?!」
魔王(あいつを殺すんだ)
魔伯爵「速過ぎる……これが魔剣のチカラだと言うのか?」
魔王(いけっ! 魔剣っ)
魔王「グアアあぁ」
魔王は魔剣で攻撃!
ジャァァッキィン!
魔伯爵「くっ」
三本の浮遊剣でガードした魔伯爵だったが、魔剣は衝撃波を放ち、防御をすり抜け身体を切り裂く。
魔伯爵「ぐああああっ」
魔王「カカカ……タタカウタタカウ」
キンッッ
ガッ
ドドドッッ ガッキィッッ
魔王の攻撃は防御に徹する魔伯爵を追い詰める。
魔伯爵「く……」
魔王「カカカカ……イイゾ、コロス、コロス」
魔伯爵(なんて攻撃だ、5本の剣でも防ぐので精一杯)
魔王「モットタノシマセロ……カラダカラダ……ラダ」
キンッ
魔伯爵「くそっ!」
魔王「カカカカァッ」
魔王(いけるっ!)
魔伯爵「強い……認識し直そう。貴様を甘く見ていたようだ」
魔王「ア?」
魔伯爵(自由は目の前にある。我こそが“魔王”だ)
魔王(戦争を終わらす!それが“魔王”として為すべきことだ)
魔王(ボクは負けるわけにはいかないっ!)
冥都最上層・黒魔城。
その最上階、玉座の間にて結界に包まれた2人の思いが激突する。
■ 第33話 初めての実戦 終 ■
339 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 00:41:17.56 ID:z+dBCcW2o
ちゃんと魔王できてるよがんばれ
340 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sagesaga]:2017/05/13(土) 06:44:18.22 ID:YHrnBtqgO
乙
魔王様もサイキッカーになれば魔力の問題も必要ないな
341 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 08:50:28.54 ID:J0t5Sc4p0
乙
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 09:55:10.98 ID:pMx2PdVDO
乙
343 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:03:56.05 ID:xwdSW1XfO
■ 第34話 望んだ世界 ■
344 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:04:57.36 ID:xwdSW1XfO
キンッッ
ガッ
ドドドッッ ガッキィッッ
魔王「カカカ」
魔伯爵「はあああっ」
魔伯爵の攻撃を魔王はことごとく躱す。
魔王(魔剣っ攻撃だ)
魔王「カカカ……タノシイ」
魔伯爵「ハッ」
シュッ
魔王(魔剣っ! なんで攻撃しないんだ?!)
魔王「ウルサイッウルサイッ」
魔伯爵「?」
魔王「ジャマスルナ、モットタノシマセロ」
魔王(言うこと聞いてくれない)
魔王「ガアアアアアアッ」
魔伯爵「くらえっ」ジャキィン
魔伯爵の放った浮遊剣は、魔王の足に突き刺さる。たしかな手応えを感じたものの魔王の表情は笑っていた。
魔王「……カカカカ」
魔伯爵「効かないのか、ならば」
魔伯爵(これならどうだ……)
345 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:06:36.58 ID:xwdSW1XfO
魔伯爵は自ら持つ剣を、倒れている女側近の首元に当てる。
魔王(っ!!)
魔伯爵「女側近の命が惜しければ魔剣を捨ててもらおうか」
魔王「カカカ……シラン」
魔王は衝撃波を放った。
ドォォォッッ!!
魔伯爵「ぐああああああっ」
魔伯爵は女側近諸共吹き飛んだ。
魔王(やめろっ魔剣!)
魔王「ウルサイ、ダマレ」
魔王は魔剣を振り回すと四方八方に斬撃の衝撃が飛ぶ。
魔王(やめろっ魔剣! 女側近さん達に当たっちゃうっ)
魔王「カカカカッ」
魔伯爵「くそぉぉおおっ」
魔伯爵は浮遊剣で攻撃!
ドスッっと鈍い音が聞こえると魔王の肩に剣が刺さる。
しかし、魔王は笑いながら剣を引き抜き叩き折る。
バッキィィイ……
346 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:08:37.64 ID:xwdSW1XfO
魔王「カカカカッシネェ」
魔王「グアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」
暴走する魔王の表情は笑っていた。身体の傷など御構い無しで魔伯爵を滅多刺しにする。
剣を折られ、腕も切り落とされ、魔法も封じられ、瀕死の魔伯爵は崩れ落ちる…。
魔伯爵「ぐぁ……ぁ……」
魔王「カカカカカカカカッ!!!」
高笑いする魔王の視界は返り血で真っ黒に染まる。
魔王(地獄だ……戦いなんて真っ平だ)
魔王(魔剣、とどめをっ)
魔王「ウットウシイナ……オマエ」
魔王(魔剣……言うことを聞かないなら身体は返してもらうぞっ)
魔王「イヤダ」
魔王(ボクの許可なしでは身体は使えないっ! 言うことを聞かないなら二度と外には出れないぞ)
魔王「……カラダカラダ」
魔王(わかったらトドメをさせ!)
魔王「ジャマスルナアアアアッッ」
魔王は衝撃波を放った!
無数の衝撃波は倒れている女側近やエルフ、魔執事を巻き込み結界内を掻き乱す。
魔王「ココカラダセェェッ」
347 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:10:21.29 ID:xwdSW1XfO
魔王(ダメだ……封じこめよう)
魔王は魔剣を封印する。
パタリと倒れると身体の意識が魔王に戻って行く。
しかし、それと同時に暴走していた時間のダメージが一気に押し寄せてくる。
魔王「ぐああああああああぁぁっっ!!!」
腹部と太ももからは血が吹き出し、肋骨は砕ける。左腕の筋肉は断裂。
暴走は魔王の身体に大きな代償をもたらす。
魔王「はぁはぁ……」
魔王(痛い……痛い痛い……でも)
魔王(トドメを刺さなきゃ)
血塗れの魔伯爵を見ると、起き上がろうともがいている。今なら、魔王でもトドメをさせる。
時間が経てば封じた魔法が戻って回復されてしまう。
魔伯爵「ぐぞぉぉ……」
魔王「ぐぅ」
348 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/13(土) 13:11:47.84 ID:xwdSW1XfO
全身の痛みは麻痺してきた。力の入らない右手で魔剣を握り、なんとか立ち上がる。
ズルズルと足を引きずりながら魔王はかつての側近に近づく。
魔王「はぁ……はぁ……戦いは……これで終わりだ」
魔伯爵「ぐ……」
魔王「平和な魔界を……造るんだ……はぁ……はぁ……」
瀕死の魔伯爵の前に、魔剣を持った魔王が見下ろす。
魔伯爵「弱肉強食の世界……貴様が我を殺すのか」
魔王「……ボクが世界を変える」
魔伯爵「変わら……ないさ……先代魔王様の言った通りだ。強き者が頂点に立つ」
魔王「……」
魔伯爵「戦いはなくならない」
魔王「……」
魔伯爵「それが先代魔王様の望んだ世界だ」
魔王「ちがう」
魔王「父さんは……先代魔王様は魔法の使えない、戦えないボクを“魔王”にした」
魔伯爵「……」
魔王「確かめることはできないけど……きっと」
魔王「戦いのない世界を望んだんだ」
ザンっと魔王の振った魔剣は魔伯爵の首を捉える。
魔王は魔伯爵を倒した!
■ 第34話 望んだ世界 終 ■
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 13:16:49.52 ID:c8FLG+/So
おつん
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 13:30:10.77 ID:TVlVMR+G0
乙
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 13:44:50.93 ID:WJhl9e0Oo
おつ
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/14(日) 00:31:10.98 ID:7UoBpF+DO
乙乙
353 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 11:50:15.79 ID:SKNB4Z/s0
■ 第35話 裏物語の終わり ■
354 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 11:53:10.54 ID:SKNB4Z/s0
決着。
決戦の後、結界の外で待機していた魔少女率いる医療班がすぐに治療にあたり、魔王、女側近、魔執事、エルフ共に誰も欠けることはなく作戦は無事終焉した。
魔伯爵の直属部隊も拘束。魔王軍全体を掌握した。
しかし……黒魔術師の行方だけはわからなかった。
女側近「魔伯爵にとっては用済みでしたので、すでに殺されてしまったと考えるのが妥当かと」
魔王「そうかな」
女側近「少年勇者ですが……1人で人間界に帰してしまって大丈夫だったでしょうか?」
魔王「うん。彼は人間の王に和平を受け入れるよう説得すると約束してくれた。それを信じるよ」
女側近「我らに捕まった状態ではそう言うしかないでしょうから……再び仲間を引き連れて攻めてくるかもしれません」
魔王「和平とはお互いの信頼がないと成立しないもん。まず、こちらの信用を見せないと」
女側近「……」
魔王「?……変?」
女側近「そこが、先代魔王様と最も違うところですね」ニコッ
魔王「正しい選択だといいんだけどなぁ」
女側近「魔王軍の兵は人間界の魔大陸へ派遣しました。前線から引いておりますが、何かあれば、すぐ侵略出来ます」
魔王(人間達にしてみれば……物凄い兵力が睨みを効かせられた状態で“和平”を持ちかけられる。信用っていっても結局脅しに違い……)
魔王(それでも、お互いにとって戦争を終わらすことが最善。きっと人間達もわかってくれる)
355 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 11:56:45.24 ID:SKNB4Z/s0
魔王は魔界全土に人間との和平政策を発表した。
人間達の襲撃は魔伯爵の陰謀によるクーデターであり、全ての危機は去ったと伝えた。
最下層、第2層の復興には多くの兵士が投入され、被災した下級魔族も上層階への移住が認められた。
魔界情勢は落ち着きを取り戻し始めた。
数日後。
女側近「魔王様、少年勇者が人間界より戻りました」
魔王「うん、いよいよだ……通して」
女側近「かしこまりました」
ガチャ
少年勇者「よう、魔王。ちゃんと俺っち1人で戻ってきたぜ」
魔王「待ってたよ、どうだった?」
少年勇者「うにゃ、あせんなって。人間界は王が沢山いるから揉めまくったよ、でもちゃんと決まった」
少年勇者は薄笑いを浮かべながら懐から何かを取り出す。
一瞬配下達が警戒するが、少年勇者は表情を崩さず言った。
少年勇者「手紙を預かってきた。これが人間の王達の結論だ」
魔王は手紙を受け取る。
『長きに渡る戦火の犠牲を讃え、新時代の子供達の為
我ら人間は和平を受け入れる』
その知らせは70年に渡る戦争の終結を意味していた。
356 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 11:59:54.40 ID:SKNB4Z/s0
−−−冥都 黒魔城・自室−−−
魔少女「まっおおおおーーさまぁぁっ!」ドタドタ
魔王「ふぁっ! ちょ、ちょっと着替え中だよ」アセ
魔少女「まおー様1人で着替えてるんだ。あは★ タキシード可愛い」
魔王「うわ、魔少女さんもドレス……」ポッ
魔少女「うふっかわいいでしょーー。さ、晩餐会行きましょ」
魔王「うん、もうみんな集まってるのかな?」
魔少女「まだだけど、もう始まっちゃうよっ」
魔王「ピエロは……来るかな?」
魔少女「どうだろ、見かけなかったけど」
魔王「まだ元気でないか」
魔少女「落ち込んでてもしょうがないのになぁ」
魔王(スラムは壊滅。黒のサーカス団で助かった者はいない。落ち込むのも無理はない)
魔王「ボク、ちょっと呼んでくるよ」
魔少女「そうね、まおー命令で引っ張ってきて」
魔王「魔少女さんは先に行ってて……あ、そうだ」
魔少女「はいな?」
魔王「えっと……明日出発するんだけど、人間界に行って和平の調印式をするんだ」
魔少女「ちょーいんしき……」
魔王「正式に戦争が終わる」
魔少女「うん! まおー様の念願だもんね」
魔王「魔少女さん達の協力があって成し得たこと。だから、最後までチームで達成したいんだ」
魔王「ボクと一緒に人間界へ行ってくれないかな?」
魔少女「ふふ」
魔王「?」
魔少女「まおー様が何も言わなくてもついて行っちゃうよ」アハ
魔王「ありがとう……」
魔少女「まおー様、ぎゅーしてください」
魔王「い、今?!」
魔少女「……」コクリ
ぎゅ
魔少女「ウチはまおー様が“魔王”様だったから頑張れたの。サキュバスである前に、一人の魔族としての生き方が出来た」
魔少女「ありがとう……」
357 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:01:12.13 ID:SKNB4Z/s0
−−−黒魔城・客間−−−
魔王「ピエロ……」
魔道化師「マオ……チンチクリンなタキシードだひゃ」
魔王「人間との晩餐会は出たくない?」
魔道化師「……」
魔王「無理にとは言わないよ」
魔道化師「黒のサーカス団は……団長達は……」
魔王「……」
魔道化師「スラムのみんなを守るため、いっぱい戦ったって。みんな凄かったって」
魔王「うん。魔王軍の誇りだよ」
魔道化師「人間は憎いよ……でも、マオは立派な“魔王”だ。オイラはバカだけどそれだけはわかる」
魔王「……」
魔道化師「マオが決めた事は正しい。マオは魔界を……スラムを良くしてくれた」
魔王「戦争を終わらせて、みんなが笑って暮らせる世界を創る……ピエロにも笑っていてほしい」
魔道化師「オイラは道化師。笑うのが仕事ひゃ」
魔王「明日、人間界へ行くんだ。ボクの最後の仕事、手伝ってくれる?」
魔道化師「……なんで聞く?」
魔王「え……? ピエロは部下じゃないもん、友達。命令はしないよ」
魔道化師「うひゃひゃ……友達なんだから! 遠慮いらない! ついていくに決まってるだろっ」バンッ
魔王「いてっ」
魔道化師「うひゃ……ありがと、マオ」
358 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:04:10.48 ID:SKNB4Z/s0
−−−黒魔城・大回廊−−−
魔王(早くしないと晩餐会始まっちゃう)
魔執事「魔王様っ」
魔王「あれ? 魔執事さんっ何してるの? 晩餐会始まっちゃうよ」
魔執事「それが姐御が見当たらなくて探してるっつーわけです」
魔王「ええ?? どうしたんだろ……たぶん執務室にいると思うけど」
魔執事「魔王様が席に着いたら始まっちゃうと思うんで、進行諸々よろしくっす」
魔王「えーーーー!?」
魔王「むりむり……女側近さんも魔執事さんもいないで仕切ることなんて出来ないって」
魔執事「……そー言われても」
魔王「ボク、女側近さん連れてくるから魔執事さん時間繋いどいて」
魔執事「りょーかいっす」
魔王「あ、後、明日のことなんだけど、いつものチームで人間界へ行くことにしたから、お城の方よろしくね」
魔執事「留守番は得意分野っすよ、任せてください」
魔王「いつもゴメンね、魔執事さんがいるからボクはやりたいことが出来た」
魔執事「なんすか、改まって。魔王様が“魔王”になって……“側近”達、俺も姐御も魔伯爵だって待遇は変わった」
魔執事「魔族として扱ってくれる魔王様は、尊敬すべき上官」
魔執事「ありがとうごさいますっーわけです」
359 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:06:01.72 ID:SKNB4Z/s0
−−−黒魔城・エントランス−−−
エルフ「魔王、何しとる……晩餐会じゃなかったのか?」
魔王「エルフさんこそ始まっちゃうよ、早く早く」
エルフ「わらわは遠慮しとく。かしこまった席は苦手じゃ」
魔王「そんなこといわないでよー魔族と人間、エルフの三種族が同じテーブルで食事するなんて凄いことだと思わない?」
エルフ「確かにの、先代魔王の時には考えられんことじゃな……おぬしが“魔王”になったことはエルフ族にとっては歴史的に大きなことじゃ」
魔王「そんな大げさな」
エルフ「エルフ族は嘘が分かる。おぬしの純粋過ぎるその瞳は誰もが信用してしまう。素晴らしいチカラじゃ」
魔王「チカラ……」
エルフ「エルフ族の未来は明るい……礼を言わせてくれ。ありがとう」
魔王「いやいや、助けられたのはボクの方だよ」
エルフ「不思議な魔族じゃ」フフフ
魔王「それより、急いでドレスに着替えて来てね!」
エルフ「仕方ないのー」
魔王「エルフさんのドレス楽しみ」ニコッ
エルフ「………なんと純粋な瞳で……///」
魔王「そうだ、女側近さん見てない?」
エルフ「中庭におったぞ、これを渡そうと思ったが断られてしまったわい」
魔王「それは……精霊薬? なんでそんな危ない薬を」
エルフ「これはおぬし用じゃ。先代魔王の子供であるおぬしにはとてつもない魔力が眠ってるはず。引き出す為には精霊薬が効果的じゃろう」
魔王「……でも後遺症が……」
エルフ「たしかにな。しかし、魔剣を暴走させるのはエルフ族として認められん」
魔王「……」
エルフ「いざという時の為には持っておきなさい」
魔王「いや、いらないよ。もう戦争は終わるんだ。戦う必要がない」
エルフ「そうか……いらぬ心配をしてしまったの」
360 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:07:04.36 ID:SKNB4Z/s0
−−−黒魔城・渡り廊下−−−
少年勇者「うわっ」
魔王「わっ!」
少年勇者「ビビったーなんだよ。そんな焦ってどうした?」
魔王「少年勇者、なにしてるの? 晩餐会……キミが主役なんだから早く会場へ行ってよー」
少年勇者「ちょっとね、冥都がどんな感じかウロウロしてた……ふふん」
魔王「?……別に人間界と変わらないでしょ?」
少年勇者「全然変わるわっ」
魔王「そうなの?」
少年勇者「まず魔力で地位が決まるってのが凄いな」
魔王「人間界は違うの?」
少年勇者「うにゃ。魔力が強かろうと弱かろうと地位には影響しないな」
魔王「そうなんだ……でも魔界もこれからは魔力での格差を減らそうと思ってるんだよね。ボクも魔法使えないし」
少年勇者「……」
魔王「人間達みたいにチカラを合わせる世界にしたい。みんなが平等で、みんなが同じように平和に暮らせる魔界」
少年勇者「……人間界を美化し過ぎだ。こっちは魔力や戦闘力での格差はあまりないが、金のチカラが強いね。金持ちの地位が高い」
魔王「お金……」
少年勇者「スラムもあるし、差別もある。チカラを合わせるったって、魔界ほど一つになっていないからな。争いは絶えない」
魔王「……」
少年勇者「平等なんて無理な話なんだよ」
魔王「そうなのかな」
少年勇者「しかし、魔力が全ての世界で魔法の使えないお前がこれだけのことを成し得たのは、矛盾極まるな。“王”という地位はチカラなのか」
魔王「ボクだけのチカラじゃないよ」
少年勇者「それでも動かしたのはお前だ。何かを変えるのは“王”になるのが近道なのかもな」
361 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:08:47.73 ID:SKNB4Z/s0
−−−黒魔城・中庭−−−
中庭には魔界では珍しい植物が多数植えてあり、小さな池がある。
そのほとりに女側近はいた。
晩餐会の為、真っ赤なドレスに身を包み佇んでいる。
魔王はその美しさに息を飲む。閉じられた瞳は穏やかな表情を引き立たせ、佇まいは戦う女性にはとても見えない。
魔王「女側近……さん?」
女側近「!……魔王様?」
魔王「うん、晩餐会始まるよ」
女側近「はい、参りましょう」
魔王「……」
女側近「……魔王様?」
魔王「あ、ごめん。見とれちゃって。ドレス姿綺麗だよ」
女側近「ありがとうございます」
魔王「さ、行こう」
女側近の手を取り歩く。
女側近「私がサポートされる側になってしまいましたね」
魔王「初めて会った時のこと覚えてる? 今よりさ、すっごい無表情でさ、如何にも側近です!って感じだった」アハハ
女側近「魔王様もだいぶ変わりました」
魔王「そう?」
女側近「立派になりました」
魔王「色々あったよね……」
魔王「いっぱいミスしたし、喜んだり、泣いたり、ずっと女側近さんに助けられた……」
女側近「それは私も同じです」
魔王「でも、みんなのチカラがあって戦争を終わらすことが出来る」
女側近「……」
魔王「ボクらはチカラを合わせれば何だって出来る」
女側近「……」
魔王「人間界での調印式は魔少女、ピエロにもついてきてもらうんだ。最後までチームで成し得たいんだ」
魔王「女側近さんもよろしくね!」ニコッ
362 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:10:09.65 ID:SKNB4Z/s0
女側近「魔王様……私は」
女側近「貴方にはついていけません」
魔王「え?!」
女側近「私は側近を辞めます。申し訳ありません」
魔王「な、なんで?!」
女側近「私は……目が見えません」
魔王「魔力を……感じ取れるから大丈夫なんでしょ?」
女側近「日常生活や普通の戦いなら問題ありません……しかし」
魔王「……」
女側近「魔力を持たない魔王様だけは」
女側近「見えないのです」
魔王「……っ」
魔王「ボク……だけが見えない?」
363 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/14(日) 12:11:42.36 ID:SKNB4Z/s0
女側近「その結果、最も重要な護衛としての役割を務めることが出来ません」
女側近「魔伯爵との戦いでは魔王様に守られる始末。側近失格です」
魔王「いや……ダメだよ。女側近さんがいないとボクはっ」
女側近「決めました。申し訳ありません」
魔王「魔王の命令は……っ」
女側近「これが私の“意志”です」
魔王「−−−ッ」
魔王(意志……)
女側近が自分の意思を明確にしたのは初めてのこと。魔王はかつての自分の発言を思い出す。
『キミの意志で側近を辞めたいと思ったら……その時は遠慮なく言ってよ』
あの時は本当にそんな日が来るなんて思ってもいなかった。
魔王「いやだ……いやだ……」
女側近「……代わりの護衛はエルフにお願いしました」
魔王「ボクは……自信がない」
女側近「魔王様……貴方はもう独りで大丈夫です」
女側近は初めて会った時のような無表情で無機質に言葉を放つ。
女側近「貴方は“魔王”です。弱音は許されません。凛とした態度を」
魔王「う、う……うああああああああっ!!!!」
■ 第35話 裏物語の終わり 続 ■
364 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/14(日) 12:40:10.42 ID:QBuKCrmio
せつないね乙乙
365 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/14(日) 13:29:35.72 ID:hVUIrdqSo
そんな
366 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/14(日) 16:02:58.83 ID:tvrEmitxO
乙
367 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 08:49:54.12 ID:OntvnvjrO
■ 第36話 終着点 ■
368 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 08:53:38.69 ID:OntvnvjrO
−−−人間界 魔大陸・境界都市−−−
魔王「ここが……人間界……」
魔少女「うわぁー空が青いよ!」
魔道化師「瘴気もないし、草がいっぱい……うひゃ」
エルフ「樹の魔力がすごいのぉ。エルフには適した気候じゃ」
魔王達は和平調印式の為、人間界に入った。そのパーティに女側近はいない。
魔王の気持ちは沈んだままだが、目の前の大きな仕事を前に動かざる負えない。この調印式さえ終われば一休みできる。
先のことはそれから考えればいい。
人間界側ゲートのある境界都市。着陸すると一人の騎士が魔王達を迎える。
人間界の魔王軍兵士長・黒騎士だ。
黒騎士「魔王様、ようこそ人間界へ」
魔王「うん、出迎えありがとう。魔伯爵さんがいなくなって兵達は大丈夫?」
黒騎士「はい、混乱し除隊した者もおりますが現在は統制が取れております」
魔王「……魔伯爵さんの支持率はすごかったもんね、辞めちゃう兵士もいるとは思ってたよ。すごく残念だけど」
黒騎士「しかし、その魔伯爵様に勝ったのが魔王様であります。皆、魔王様の為に命を賭ける所存です」
魔王(これが弱肉強食か……強き者に従う。皆んな、魔伯爵さんの想いもボクの想いも関係はない)
黒騎士「魔王様は……」
魔王「?」
黒騎士「先代魔王様のご子息」
魔王「うん」
黒騎士「人間界の前線で戦っている兵士達にとって“先代魔王様”は特別な存在」
黒騎士「病で亡くなられた時は、私を含め兵達皆悲痛な思いでありました」
魔王「……」
黒騎士「今回、魔伯爵様の失脚の件で、ご子息である魔王様の活躍は……先代魔王様の再来と言えます」
黒騎士「絶対的“魔王様”の復活に兵士達は歓喜に沸いております。除隊した兵士達も戻る事でしょう」
魔王(ボクは父さんとは違う……)
魔王(きっと真逆だ)
魔王(死してなおこれだけのカリスマ)
魔王(ボクや魔伯爵さんでは足元にも及ばなかったんだろうな)
魔王(戦争が終わったら母さんに父さんの凄さを語ろう……ボクの旅のことも、全部話そう。明日全て終わるんだ)
369 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 08:54:12.18 ID:OntvnvjrO
黒騎士「中央大陸、王都まで我が戦艦でお連れします」
魔王「いや、少年勇者の案内で転移魔法で王都まで行ける」
黒騎士「……分かっておりますが、危険です。和平調印式が終わるまでは人間は敵です。転移魔法陣では少ない護衛で敵の本拠地に乗り込むことになります」
魔王「和平をスムーズに終わらせるには、巨大な戦艦で人間達を威圧するような事があってはならないよ」
黒騎士「しかし……」
魔王「大丈夫。戦艦は魔界へ戻してよ、もう戦争は終わるんだ……」
黒騎士「かしこまりました」
魔王(大丈夫……きっと大丈夫だよ)
少年勇者「魔王ー! 何してんだ? 行くぞ」
370 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 08:57:10.40 ID:OntvnvjrO
−−−中央大陸・王都−−−
《人間界の中央に位置する巨大都市“王都”。富裕区画からスラムまで冥都の3倍以上の広大な街。魔法学は進んでいないが、労働、保障、秩序、インフラ、物流、と豊かな安定した国。中世的なアーティスティックな建造物は冥都最上層にも引けを取らない》
魔王一行は少年勇者の後を歩き、王宮を進む。
王宮内部には至る所に人間兵士が警備をし、魔王達を睨んでいる。
魔王(人間兵達の視線が気になる……)
魔王(魔界でも和平には賛否あったんだ。人間界でも反対の声は当然あっただろうな)
魔道化師「うひゃ! 綺麗なお城〜」
魔少女「ピエロっちょっと空気読んでよ……兵士にめっちゃ睨まれてるぅ」
魔道化師「うひゃひゃっなんだー? 人間っ! やんのかー?」グイグイ
魔王「わー! やめろっピエロ!」
人間兵「……」ジロッ
魔道化師「ヒッ」
少年勇者「この先に皇帝陛下が待ってるよ 。お互いの意志を確認しあい……問題ないようだったら明日和平調印式を行う。それで戦争終了だ」
魔王「うん」
少年勇者「それまではお互い敵同士。ピリピリするのは堪忍してよ。ここは人間界の本拠地、本来魔族を招き入れていい場所じゃない」
魔王「分かってるよ」
魔王(こちらだって今襲われたら袋の鼠)
魔王(大丈夫だ……人間を信用するんだ)
魔王(きっとうまくいく……)
371 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 08:59:11.49 ID:OntvnvjrO
−−−王都王宮・皇帝の間−−−
皇帝「ようこそ! 王都へ! 魔王殿っ」
意外にも人間の王は笑顔で魔王を迎え入れた。デップリと太った身体を揺らしながら握手を求める。
白い髭を蓄えた中年の男の手は、とても綺麗で赤児の手の様だった。
魔王(一度も剣を握ったことのない手だ)
皇帝「いや〜悪いね、わざわざ来てもらっちゃって」
魔王「……」
魔王「丁重なご対応感謝致します。一度人間界には来てみたいと思っておりました……聞いた通り美しい世界ですね」
皇帝「特に王都の街並みは一段と綺麗だったでしょ? 食べ物は食べましたかな?」
魔王「いえ。あの……本題に入ってもよろしいでしょうか?」
皇帝「ああ……和平の件ね」
魔王「はい」
皇帝「和平調印後、魔大陸の魔族は魔界へ帰る。その後ゲートを閉じる。間違いないかね?」
魔王「はい。時間がかかるとは思いますが、随時進めます」
皇帝「そうかそうか、ならば何も問題あるまい」
皇帝「明日予定通り和平調印式を行おう」
魔王「……」ホッ
372 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 09:00:53.90 ID:OntvnvjrO
魔王「人間界には“王”が一人ではないと聞きました。他の王は和平に納得しているのでしょうか?」
皇帝「うむ、少年勇者が各国説得して回ってな。承諾を得ている。魔族が去った後の魔大陸は我が中央大陸の“領土”となる。その条件で私が代表者として選ばれた。全ての決定権は私にある、心配するでない」
魔王(領土?)
皇帝「何処の国の王も臆病でな。魔族との接見に怖気づきよってのファッファッファ……多くの“資金”をつぎ込んで来た戦争は終わり、私の“名声”も上がる」
魔王(資金? 名声?)
魔王「互いの捕虜の交換方法は……」
皇帝「おお、忘れとったわ。すぐ解放するように手配しよう」
魔王「交換ではなく……解放?」
皇帝「戦争は終わるんだ。“兵力”を奪い合う必要もない」
魔王(兵士達の命は……兵力?)
皇帝「人間と魔族、お互い望ましい形で終着点につきそうだな」
魔王「……」
皇帝「ファッファッファッ」
魔王(この王は……何を言っているんだよ?)
魔王(王の金? 名声? 人間達はそんなものの為に命をかけて来たの?)
魔王(なんて意味のない戦争なんだ……)
皇帝「では明日、予定通り和平調印の儀を行う。最高級の部屋を用意した。今日はゆっくり休んでくれたまえ」
373 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 09:03:49.44 ID:OntvnvjrO
−−−王都 王宮・客室−−−
エルフ「ロクでもない王じゃったな。だか、嘘は言っていなかった。エルフの眼にそう映ったのじゃ間違いない」
魔王「うん。ボクにもそう感じた」
エルフ「人間とはなぜあの様な弱い王に従うのか? 理解に苦しむのぉ」
魔王「少年勇者が前に言ってた『平等な世界なんて無理』」
魔王「形は違うけど……人間界も弱肉強食なのかもしれない」
エルフ「そうじゃの、魔族と人間は互いを反転させたような存在。しかし、根本は同じじや」
魔王「……。難しい事言うなぁよくわからないよ」
エルフ「そうじゃ、先ほど魔執事より連絡があってな。裏切り者じゃった黒魔術師を見つけたそうじゃ」
魔王「え?!?」
エルフ「正確には黒魔術師の遺体を発見した。やはり魔伯爵に殺されていたようじゃ」
魔王「そうか……よかった」
エルフ「これで不安要素はなくなったのぉ」
魔王「明日戦争は終わる」
魔王(順調……)
魔王(なのに何でこんなに不安なんだ)
次の日。
魔少女「まおー様っおきて……」
魔王「う、うん?……」
魔少女「なんかおかしいの」
魔王「どうしたの?」ムニャ
魔少女「人間達が……いなくなってる」
魔王「え?!」
374 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 09:05:28.27 ID:OntvnvjrO
魔王達は急いで起き上がり客室の外に出ると、城全体が静まり返っている。
昨晩までは部屋の前に多数の人間兵が警備をしていた。
今は人の気配が全くない。
魔王(……どういうこと?)
エルフ「皆警戒するのじゃ。罠かもしれん」
魔少女「えーーー?!」
魔道化師「やっぱり人間っ! 和平を受け入れるなんで嘘っぱちだったのか!」
魔王「まってよ、まだボクらは何も危害を加えられていないよ」
エルフ「油断するでない。調印式が終わるまでは敵……奇襲されてもおかしくはない」
魔王「王の所へいこう……」
人気のない王宮を魔王達は進む。
きっと大丈夫。魔王は自分に言い聞かせながら皇帝の間の扉を開く。
魔王「皇帝さんっ!」
玉座に皇帝は座っている。しかし……
375 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/15(月) 09:07:25.55 ID:OntvnvjrO
魔王「−−−ッ」
魔少女「う……」
魔道化師「うひゃああっ」
エルフ「な、なんと」
人間の王は死んでいた。
首から下は血塗れで、目は空いていたが光はない。誰がどう見ても絶命している。
魔王「な、なんで……」
魔王「どうして……」
魔王「誰が……」
??「フハハ……」
玉座の後ろから聞きなれない笑い声がした。
視線を向けると、笑い声の主は姿を現わす。
??「面白かったよ。実に素晴らしかった……」
エルフ「お、おぬしは!」
魔王「え……」
エルフ「先代魔王!!」
先代魔王「これがお前の“魔王”としての終着点か」
■ 第36話 終着点 終 ■
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 10:28:11.45 ID:8GgSQTAPo
おつおつ
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 12:02:09.19 ID:jqLEMUI6o
なん…だと
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 12:30:25.11 ID:HNOtEVE0O
馬鹿な!?死んだはずでは…
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 13:24:20.21 ID:hrsy7CqT0
乙
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 15:11:09.19 ID:TZwv5LSXO
ついさっき見つけて一気読みしてしまった
クライマックス楽しみ
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/15(月) 19:50:40.90 ID:E7/Yo2y0O
残念だったな、TЯICKだよ
382 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:30:39.03 ID:rq0kirqDO
■ 第37話 なぜボクを魔王にした?! ■
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 00:31:26.58 ID:JZVFYM0dO
乙
急展開だな
384 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:32:45.72 ID:rq0kirqDO
魔王達の前に現れた初老の魔族はゆらりゆらりと歩き、絶命した人間の王を見て薄ら笑いを浮かべる。
先代魔王「これで和平は破断じゃな」
先代魔王「弱肉強食の世界。弱き者は死に、強き者の糧となる」
エルフ「生きていたのか!?」
魔王「と、父さんなの?」
先代魔王「フハハッ余は死んでなどいない。死とは弱さの象徴」
魔王「なんで生きてるの?! 何がどうなってるのっ! 説明してよっ!」
魔王「今まで何処にいたの?!」
魔王「父さんっ!!!」
先代魔王「フハハッ笑いが止まらん。“魔王”たる者取り乱しては部下に示しがつかんぞ」
魔王「全然わかんないよ、生きているなら……」
魔王「なぜボクを“魔王”にしたの?!」
先代魔王「“魔剣”じゃ」
385 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:37:44.78 ID:rq0kirqDO
先代魔王「魔剣は“魔王”しか触れられない」
先代魔王「触れた“魔王”は魔剣に乗っ取られる」
先代魔王「手に入れるには暴走した魔剣を殺すしかない」
先代魔王「余が暴走すれば誰に求めることは出来ん。世界を破壊してしまうであろう」
先代魔王「そこで余は考えたのじゃ、チカラのない下級魔族を“魔王”にして魔剣を持たす」
先代魔王「暴走した“魔王”を殺せば……魔剣は余の物となる」ニヤ
魔王「魔剣……父さんはボクを殺す為だけに“魔王”に?」
先代魔王「フンッ……父さんじゃと?」
先代魔王「お前は魔剣を手に入れるために、ただ選ばれただけの下級魔族」
先代魔王「お前は息子ではない」
386 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:39:23.15 ID:rq0kirqDO
魔王「−−−ッ!!!!」
先代魔王「予想外なこともあった」
先代魔王「魔伯爵が裏切ったこと。お前が自力で魔剣を封じ込めたこと。和平などと考えたことじゃ」
魔王「……」
先代魔王「……予想というのは上手くいかないものじゃ」
先代魔王「じゃがな、どんな事が起きても対応できる枠組みを構えておくことが大事なのだ」
魔王「……」
先代魔王「彼女がついていれば何も問題はないと思っておった」
魔王「彼女?」
先代魔王「なんじゃ、お前自分のチカラですべて成し遂げたと思っておるのか?」
魔王「え??」
先代魔王「フハハ、下級魔族が本当に笑わせてくれる。彼女が何も知らなかったと思うのか?」
魔王「……まさか……うそだ……」
先代魔王「彼女は、すべて知った上でお前を操っておったのじゃ」
先代魔王「女側近は余の下僕」ニヤ
387 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:41:13.30 ID:rq0kirqDO
ふわっと冷たい風が立ち込めると女側近は現れる。
その表情は無機質で冷たい。
魔王「女側近さんっ!!」
女側近「……」
魔少女「お姐ぇ……嘘でしょ??」
魔道化師「うひゃ…わけわからん……姐さんがアイツの仲間?」
先代魔王「女側近は余の命令ならなんでも聞く。女側近、お前の任務を説明しろ」
女側近「はい。先代魔王様を死んだと思わせ、下級魔族を“魔王”に仕立て上げる。そして、魔剣を手に入れ殺害することです」
魔王「う、うそだああああああああああっ!」
魔王は魔剣を抜き、先代魔王を無視するように叫ぶ。
魔王「女側近さん! 嘘だ!!……嘘だと言って! 命令だっ!」
女側近「……」
先代魔王「フハハッ……彼女はお前の部下ではない。部下のふりをしていただけ」
魔王「“魔王”はボクだっ! 認めないっ!」
388 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:42:52.49 ID:rq0kirqDO
先代魔王「この世は弱肉強食。認めて欲しければ余を倒せ」
先代魔王「魔剣を暴走させるのじゃ、お前に残された道は余を殺し勝つこと以外ない」
エルフ「魔王っ! ダメじゃ挑発になるなっ……魔剣を手に入れるのが奴の目的」
魔少女「う……う……」
魔道化師「あわわわわ」
魔王「く……」
先代魔王「魔剣を使わずして余に勝てるのか?」
魔王(みんなを守らなきゃ)
魔王「エルフさん……ボクが暴走したら魔少女さんとピエロを守って」
エルフ「待て……精霊薬を」
魔王「いらない。無属性のボクには意味がない」
エルフ「……くっ」
魔王「来いっ魔剣っ!!!」
ドクンッ
魔王「ぐ……」
ドクンッ……ドクンッ……
先代魔王「フハハハハ……弱肉強食。やはりこれこそが世界の摂理」
魔王「がががががががああああああああっ!!」
389 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 00:45:00.99 ID:rq0kirqDO
魔剣から魔力が噴き出す。城全体がビリビリと痺れ、その魔力が魔王の身体に集中する。
先代魔王「女側近よ、無属性のあやつは見えないじゃろうが、魔剣の魔力は感じるであろう?」
女側近「はい」
先代魔王「任務を果たすのじゃ。殺せ」
女側近「……はい」
女側近「“魔王”様の命令は絶対です」
女側近は絶対零度魔法を放った!
眩ゆい光はすべてを包む。
魔剣のチカラを引き出そうとする魔王。
泣きながら杖を構える魔少女。
慌てふためく魔道化師。
目を閉じて魔法を詠唱するエルフ。
痛みも、悲しみも、怒りも、絶望さえも凍りつかす。
魔王達は一瞬で輝く氷像と化した。
魔王パーティは全滅した。
先代魔王「フハハハハッ」
先代魔王は凍りついた魔王に近づき、魔剣を手に取る。
先代魔王「ふむ。女側近よ。任務完了じゃ、ご苦労だったな」
女側近「……はい」
先代魔王「これを期に人間界に総攻撃をしかける。準備を始めよ」
■ 第37話 なぜボクを魔王にした?! 終 ■
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 00:47:56.38 ID:l4QO+qxao
おつおつん
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 00:49:28.73 ID:GZuCKwPfo
まじかよ……
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 02:54:42.46 ID:17hdRfA8o
ちょ まじかよ
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 08:08:47.79 ID:S/Ur+pw7O
先代魔王の勝利パターンの方が興味があるかも…
こういう系はほぼ結局正義が勝ちましたーのパターンばかりで
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 08:38:23.17 ID:lg03eXdyo
この物語に正義なんて無いよ
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 12:59:42.58 ID:6XrNzhbW0
乙
396 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 17:55:54.85 ID:HZQLNUHs0
■ 第38話 意志 ■
397 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 17:59:33.28 ID:HZQLNUHs0
魔王達が全滅してから3日後。
−−−人間界 魔大陸・境界都市−−−
先代魔王「女側近、首尾はどうじゃ?」
女側近「はい。魔大陸南部に帝都軍が上陸。魔王軍との大規模戦闘が開始しました。数は多いですが、地は我らにあります、問題ありません」
先代魔王「よしよし、飛空船艦隊の方はどうじゃ?」
女側近「数時間後にはゲートを通り人間界へ入る予定です」
先代魔王「ふむ……あっさり終わってしまいそうで面白くないのぉ」
魔族兵「失礼致します! 城に侵入者ですっ! 単独で……ぐああああっ!」
全て言い終わる前に魔族兵は背中から剣を刺され血を吐く。
先代魔王「!」
女側近「……」
少年勇者「てめーが真の“魔王”か……」
先代魔王「たった一人でよく来てくれた……歓迎しよう、“勇者”よ」
少年勇者「シナリオ通りにはいかなかったけど……てめーさえ倒せばすべて終わるっ!」
先代魔王「フハハッ……読みが甘いのじゃ」
少年勇者「うにゃ、そうだね。自分の間違いを受け入れることも大事だった。自惚れていた」
先代魔王「お前は自分の考えた“筋書き”に捉われすぎたのじゃ。大切なのは“枠組み”、臨機応変に対応出来るかどうかじゃ」
少年勇者「返す言葉もない……」
先代魔王「その若さで聞き分けが良いのぉ」
少年勇者「さあ剣を抜け“魔王”っ!!」
先代魔王の前に美しき側近が立ちはだかる。
女側近「相手は私だ」
少年勇者「行くぞっ!」
ガッキィィイインッ!
少年は勇者として最後の戦いに挑む……
398 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:05:54.72 ID:HZQLNUHs0
−−−人間界 王都王宮・皇帝の間−−−
キィンッ
シュッシュッ
ドォォォンッ!
魔王「う……う……ん」
魔少女「あ! まおー様っ! よ、よかった」
魔道化師「マオー!」
目を覚ました魔王の目の前では、エルフと人間兵達が激しい戦闘を繰り広げていた。
ゴオオオオッ
人間兵「うわあああああっ!」
エルフ「ふう……はぁはぁ……」
魔王「……え……なにが起こったの?」
魔少女「目を覚ましてよかった……ウチら生きてるよ」
魔王「……い、生きてる?」
魔道化師「うひゃ、先代魔王様が現れて、戦いが始まって……オイラ達は姐さんに……」
魔王「女側近さん……!」
魔少女「……」
エルフ「あの女のせいで、わらわ達は敵陣のど真ん中で孤立状態じゃ」
魔王(殺されなかった??)
魔王「魔剣がない……」
エルフ「とにかくここから脱出する方法を……」
ダダダダッ
人間兵A「魔族だっ!」
人間兵B「陛下の仇だ!」
魔道化師「うひゃーまた敵っ!」
魔少女は火炎魔法を放った!
ゴオオオッ
人間兵達「うわあああああっ!」
人間兵達を倒した!
399 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:07:27.74 ID:HZQLNUHs0
魔少女「もう……次から次と敵が」
エルフ「……人間の王を殺してしまったのじゃ、和平は白紙。戦うしかないぞ」
魔王「くぅ……あと、あと少しだったのに」
魔王は悔しそうに奥歯をギジリと噛む。だが、後悔しても結果は変わらない。次取るべき行動は……?
魔王(まずは王都から逃げないと……)
魔王(でも、その先は?)
魔王(先代魔王が戻って……ボクは??)
魔王「……」
魔道化師「マオ……」
魔少女「まおー様」
エルフ「“魔王”、どうするのじゃ?」
魔王(そうだ)
魔王(ボクは“魔王”なんだ)
魔王(やるって決めたんだ)
魔王「よし、ここから脱出して……先代魔王のところへ行こう」
魔王「女側近さんを助けるんだ」
400 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:08:47.02 ID:HZQLNUHs0
魔道化師「はぁ!? 姐さんが敵だったんじゃないの〜?」
エルフ「そうじゃ、最初から仕組まれていたのじゃ、今更助けるなど……」
魔王「ちがうよ。女側近さんは敵なんかじゃない」
魔王「だって」
魔王「ボクら生きてるじゃん!」
エルフ「……」
魔道化師「……」
魔少女「……」
魔王「確かに今まで女側近さんは先代魔王の命令通り動いていたのかもしれない」
魔王「でも」
魔王「ボクや魔少女さん、エルフさん、ピエロ……一緒のチームのボクらを……殺したくなかったんだ」
魔王「だから、生きてる」
魔王「それが女側近さんの意志。あとで息を吹き返すよう魔法を使ったんだよ」
エルフ「……そうか。世界樹で魔王を助けたのは彼女の意志」
魔少女「お姐ぇは何度も側近を辞めようとしていた……自分の本当の任務から逃げたいとう“意志”だったのかな?」
魔道化師「うひゃ、やっぱり姐さんは味方っうひゃー!」
魔王「女側近さんを助けて……魔剣を取り返して、先代魔王を倒す。これしか道はない」
401 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:09:52.11 ID:HZQLNUHs0
ダダダダッ
人間兵「魔族だ、いたぞっ!」
無数の人間兵が現れた!
エルフを中心に人間達と戦う。
エルフ「おおおおおおっ!」
エルフは弓矢を乱れ打ち!
人間兵1「ぐあっ」
人間兵2「ぎゃあ」
人間兵3「うわあ」
人間兵4「魔族どもめ……くらえっ」
人間兵4は風撃魔法を放った!
ブォンッブォンッブォンッ!
魔少女「みんな下がってっ」
魔少女は杖を両手で持ち、魔法障壁で受け止める。それと同時に魔道化師が飛び上がり投げナイフで人間兵を仕留める。
魔王「エルフさんっ! 左に敵多数!」
エルフ「大地よ……」
エルフは土碧魔法を放った!
ドゴゴゴゴッ!
圧倒的に魔王達の方が強いが、人間兵は数が多い。倒しても倒しても敵が溢れてくる。
魔王達がいるのは、人間の本拠地王都の玉座の間。
魔王(女側近さんを助けるもなにも、ここから生きて出るのは至難の技。どうする? 敵が多すぎる)
402 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:11:45.01 ID:HZQLNUHs0
エルフ「はぁ……はぁ……」
魔少女「みんな回復っ」キィィィン
魔道化師「うひゃ……ありがと」
魔王「魔少女さん………」
魔少女「う、うん?」
魔王「えっと……魔力を辿って女側近さんのところまで行ける?」
魔少女「うん、お姐ぇの魔力なら離れてもわかる」
エルフ「わらわがここの敵を引きつける。おぬしらは屋上から脱出を」
魔王「え?! ダメだよっ一緒に行こう」
エルフ「それではこの場を切り抜けられん……おぬしを守りながらではな」
魔王「……でも」
エルフ「この場を切り抜けられなければ何も変えられん。魔王、おぬしなら女側近を命令の呪縛から助け出せる」
魔王「……」
エルフ「彼女を意志のまま生きる道に。頼んだぞ」
魔王「く……必ず助けに戻る。絶対死なないで、お願いだよ」
エルフ「わかったわい。エルフは嘘はつかん……魔少女、魔王を頼んだぞ」
魔少女「うん……」
魔王達は屋上へ向かって走り去った。
エルフの前には再び無数の人間兵が現れる。
エルフ「やれやれ……嘘をついてしまった」
エルフ「あやつが王でなければエルフ族に未来はない。ここで死なせるわけにはいかんのじゃ……」
403 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:13:51.08 ID:HZQLNUHs0
−−−魔大陸 境界都市・ゲート−−−
キンッ
キンッキンッ!
キンッ
氷の剣と炎の剣が交わる。
頭上には大きな光の球体。ゲートが輝く。砦の屋上にて少年勇者と女側近のバトルが激しさを増していた。その光景を見下ろしていた先代魔王が呟く。
先代魔王「美しいのぉ……」
先代魔王「命を懸けた戦い。これこそ最も美しい光景じゃ」
ガッキィィイインッ
少年勇者「うらああああっ!」
女側近「はああああぁぁっ!」
キィィィンッッ!
少年勇者「くっ」
女側近「また対氷属性装備とは相変わらず準備のいいこと」
少年勇者「ふふん、眼の見えない側近くらいは倒せると思ったんだけどな〜」
女側近「甘く見ないでもらおうか。その程度では先代魔王様の足元にも及ばん」
少年勇者「うにゃ、そうかもしれんけどさ。そいつはさ……やってみなけりゃわからねぇだろっ」
ニヤリと笑うと少年勇者は先代魔王に飛びかかる。剣を振り上げ全身全霊の力で振り下ろす。
少年勇者「うらああああっ!」
先代魔王「ふん……」
奇襲のつもりだったのか、先代魔王にとってはあまりにも遅い攻撃。驚きもせず、自らの剣で受け止める。
ガッキィィイインッ!!
404 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:14:59.64 ID:HZQLNUHs0
勇者の剣と先代魔王の剣が交わる。
先代魔王「なんのつもりじゃ……つまらんの。破れかぶれの攻撃で余を倒せると思うたのか?」
勇者「ふふん……魔剣を抜いたな」
先代魔王「?!」
突然頭上に輝く光の球体、ゲートがビリビリと空気を揺らす。
先代魔王「その剣は……聖剣!」
少年勇者が切りかかった剣は炎の剣ではなく、いつの間にか聖剣に持ち変えられていた。
聖剣と魔剣が交わる時、ゲートが閉じる。
先代魔王「貴様の目的は最初から……」
少年勇者「うにゃ、俺っちの目的は最初からゲートを閉じること!ふふんっ……」
少年勇者は先代魔王に向けて中指を立てて叫ぶ。
少年勇者「シナリオ通りだ!」
それだけ叫ぶと少年勇者は逃げ出した。
頭上のゲートはバリバリと光を放ち、少しずつ小さくなって行く……。
先代魔王「……してやられたが、苦肉の策と言ったところか。女側近、追うのじゃ」
女側近「はい」
先代魔王「ゲートはまた開けば良い。聖剣は勇者しか持てん。生きたまま連れてくるのじゃ」
女側近「かしこまりました」
405 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:16:26.20 ID:HZQLNUHs0
−−−王都 王宮−−−
人間兵1「いたぞっ! 魔族だっ」
人間兵2「殺せっ」
人間兵3「くらえっ」
人間兵3は爆裂魔法を放った!
ドゴオオオオオッ!
魔少女は結界を展開!
魔少女「くぅ……!」
魔道化師「うひゃっひゃああああっ!」
魔道化師は投げナイフで攻撃!
ザシュッ
人間兵1を倒した!
魔王(このままじゃまた囲まれる……もう少しで屋上なのに)
魔少女「はいやあああっ」
次々現れる人間兵を倒しまくるが切りがない。
魔道化師「よーし、マオ! ここの敵はオイラが食い止めるからよー先に行ってくれい」
魔少女「はぁ?! 何言ってんのよ、無理に決まってるでしょ」
魔王「そうだよ! ピエロ一人じゃくいとめられないでしょ!」
魔道化師「大丈夫大丈夫〜。オイラ、エルフしゃんからこれ持たされてるから」
魔王「それは……精霊薬」
406 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:17:38.42 ID:HZQLNUHs0
魔道化師「最後の手段だったけど、ここを切り抜けなきゃ。うひゃ」
魔少女「でもピエロ……後遺症があるよ。お姐ぇみたいに目が見えなくなるかも」
魔道化師「構わない」
魔王「ピエロ……」
魔道化師「ここでマオを……友達を死なせるくらいだったら、目も耳も口もいらないよ! 頭おかしくなったって構わない!」
魔王「ダメだっ! 一緒に切り抜けるんだ!」
魔道化師「オイラは部下じゃなくて友達だから命令は聞かない。うひゃひゃ」
魔王「ピエロっ!」
魔道化師「マオ……オイラはバカだけど分かるよ。このままじゃ皆んな死んじゃう。マオは……魔剣を取り返して助けに来てよ。それはマオしか出来ない」
魔少女「ピエロ……」
魔王「……ッ」
魔王(この状況を皆んなで切り抜ける方法が見つからない……)
魔道化師「先代魔王を倒す方法は思いついてるんでしょー?」
魔道化師「だからマオは先に行って。王様だろっ! うひゃひゃひゃっ!」
バンッ
横から背中を叩かれ魔王は魔道化師に背を向ける。
魔王「ピエロ……絶対死なないで。必ず戻る」
魔道化師「マオ……笑え。オイラは道化師。いつも笑ってるよ」
魔王は振り返らず走り出した。魔少女もそれに続く。
魔道化師「……オイラは団長達の仇をとる。人間を殺す」
精霊薬を一気に飲み干す。
魔道化師「マズっ!」
いつの間にか無数の人間兵に取り囲まれている。
魔道化師は自分の頭がジリジリと熱くなっていくのを感じる……。
人間兵「殺せぇぇっ!」
魔道化師「うひゃ……うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
407 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/16(火) 18:18:43.99 ID:HZQLNUHs0
−−−王都 王宮・屋上−−−
魔王「はぁはぁ……」
魔少女「外に出た! よし……」
高い広い青い空……。魔少女は残った僅かな魔力を詠唱して膨らます。
魔少女「召喚……はああああぁぁっ! いでよ! ドラゴンっ!」
キィィィンッ!
大きな光とともに飛竜が現れる。
飛竜「ギャアアアァァッ」バッサバッサ
魔少女「まおー様っ! 乗って!」
魔王「うん!」
飛竜に乗り飛び立った魔王達は王都を離れる。
向かう先は最後の敵、先代魔王。
魔王(みんなの意志を無駄にはしないっ)
■ 第38話 意志 終 ■
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 19:07:17.38 ID:Wql6kgf6O
乙
そして誰もいなくなるのか……?
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 20:13:48.44 ID:Mpnd+nq/o
熱い展開
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/16(火) 21:51:07.13 ID:iHY3Ay+W0
少年勇者も中々かっこいい
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 21:57:09.54 ID:JZVFYM0dO
乙
この展開は予想してなかった
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 23:51:40.90 ID:TNDRkzoDO
乙
新鬼武者っぽい展開好き
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 01:48:08.09 ID:zxtzAZyk0
乙
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 03:34:08.61 ID:++Nz4J4jo
側近ちゃん信じてるぞ
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 08:19:12.20 ID:Pcv3dg7eO
結局どこにでもある系のssと同じか
全滅したけど生きてましたパターン
結局勇者達と協力して先代倒してメデタシメデタシですか……
416 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:50:21.24 ID:/NKe+S22O
■ 第39話 魔王はボクだ ■
417 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:51:15.28 ID:/NKe+S22O
−−−人間界・魔大陸上空−−−
飛竜に乗る魔王と魔少女。果てしなく続く空。その目前には光る球体、ゲートがビリビリと輝きを放つ。
魔王「ゲートが……少しずつ小さくなっている? 閉じようとしてる?」
魔少女「え? なんで?……魔界へ帰れなくなっちゃうよ」
魔王「……。女側近さんの魔力は感じる?」
魔少女「うん、もう近くまで来てる」
バッサバッサッ
魔少女「いたっあそこ! お姐ぇ!」
魔王(女側近さんっ)
418 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:52:49.12 ID:/NKe+S22O
境界都市から少しだけ離れた草原。夕日で魔界のように赤くなり始めた空に縮みゆくゲートが浮かんでいる。
女側近は瀕死の少年勇者を引きずりながら歩いている。
少年勇者「ぐ……ぅ……離しやがれ……」
女側近「黙れ」
バッサバッサッ
飛竜「ギャアッギャア……」
魔王「女側近さぁぁん!」
魔少女「お姐ぇ!」
地上に降り立ち駆け寄った魔王達に、女側近は驚きを隠せない。
女側近「ま、魔王様?!?!」
魔王「迎えにきたよ……」
女側近「な、何故……ここに……」
魔王「当然。ボクらはチームだよ」
魔王「女側近さんを自由にしにきたんだよ」
女側近「−−−−−−ッ」
魔少女「お姐ぇ、ウチらと一緒に戦おうよ」
女側近「魔王様……お逃げください」
魔王「え?!」
419 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:55:05.96 ID:/NKe+S22O
女側近「今なら貴方は死んだことになっています。身を隠せば見つかることはありません」
魔王「……」
女側近「先代魔王様には……誰も逆らえません。誰も敵いません」
魔王「ボクは逃げないよ」
女側近「魔王様っ」
魔王「このまま先代魔王が王に戻ったら……ボクらが変えてきた魔界は、また元に戻ってしまう! それでもいいの?!」
女側近「“魔王”様の命令は……絶対……です……」
魔王「絶対じゃない」
魔王「絶対じゃないよっ! だって、女側近さんボクらを殺さなかったじゃないか」
女側近「……」
魔王「それはキミの意志だよ」
女側近「わ、私は……側近。その為に生まれ……その為に生きてきた……」
魔王「女側近さんだって一人の魔族だ。笑ったり、怒ったり、悲しんだり、喜んだり、一緒に旅したんだ。みんな知ってるっ」
女側近「『弱肉強食』……弱き者は強き者に従う。魔界の摂理です」
魔王「ちがう!」
魔王「誰もが……平等に暮らせる世界を創る。戦うチカラの必要のない世界」
女側近「先代魔王様が……」
魔王「“魔王”は……」
魔王「ボクだっ!!」
420 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:56:22.39 ID:/NKe+S22O
魔王「キミの意志は?!……思うままに言うんだっ」
女側近「私は……私は……」
魔王「女側近さん!」
魔少女「お姐ぇっ!」
女側近「……」
女側近「私は」
女側近の視力のない瞳からボロボロと涙が落ちる。
女側近「魔王様と共に生きたい……」
魔少女「お姐ぇ……」
魔王「女側近さん……」ニコッ
421 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:58:03.67 ID:/NKe+S22O
女側近の表情には感情が宿る。
そこには只々普通の魔族の女性。そんな姿に魔王も魔少女も微笑む。
女側近「魔王様、私は……」グサッ
言いかけた女側近の言葉は突然遮られた。
口から血を吐く女側近の胸には魔剣が刺さっていた。
女側近「ぐぅ……」
魔王「女側近さん!!!!」
スローモーションのようにゆっくり倒れる女側近から魔剣が引き抜かれ、背後から先代魔王が現れる。
魔王「先代魔王!!!」
魔少女「お姐ぇっ!」
少年勇者「く……」
先代魔王「驚きはしないぞ。余は元々誰も信用しておらん」
魔王「魔少女さん……回復を」
魔少女「うん」
先代魔王「側近はまた新しい物へ変えれば良いだけじゃ」
魔王「女側近さんは物じゃない!」
422 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 08:59:56.01 ID:/NKe+S22O
先代魔王「お前らに意志は必要ない。余の言うことを聞いていればいいのじゃ」
先代魔王「弱肉強食……余の言葉は絶対。逆らえば死ぬだけじゃ」
先代魔王「何故そんなこともわからん。お主がどんな理想を願おうと余に勝てなければ叶わん。つまり強くなければ何もできんのじゃ」
魔王「……」
先代魔王「弱く、チカラもなく、魔法も使えない。それでどうしようと言うのだ?」
魔王「……」
先代魔王「余の強さが分からん訳ではあるまい」
魔王「……たしかに、ボクは弱い。戦えないけど」
先代魔王「……」
魔王「お前にボクは殺せない」
先代魔王「……」
先代魔王「得意のハッタリか?……イライラしてくるわ」
魔王「なんでも思い通りになると思うなよ」
先代魔王「下級魔族が……。“魔王”の余が命令する。跪け。許しを請え。命乞いをしろ」
魔王「“魔王”はボクだ」
423 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 09:01:28.85 ID:/NKe+S22O
先代魔王「クズが……」
先代魔王は一瞬で魔王に肉薄すると魔剣を胸に突き刺す。あっさりと貫通し、魔王の口から血が噴き出す。
魔王「があっ……あああ……」
先代魔王「脆い身体じゃ」
魔王「ぐ……ああ……」
魔王は胸に突き刺さった魔剣を掴む。
魔王「はぁはぁ……掴んだ……ぞ」
先代魔王「あ?」
魔王「はぁ……はぁ……」
魔王「こ、来い……魔剣! まだ…生きてん……だろっ!」
先代魔王「なに?!」
ドクンッ
突然魔剣が黒く光り出す。魔王は刃が食い込むほど刀身を握りしめる。
魔王「がががががががががああああアアアアっっ!!!!」
ギィィィインッ!
魔剣の魔力に弾かれた先代魔王は、剣から手を離し吹き飛ぶ。
予測できなかった衝撃に目を見開て驚いた。
魔王「」
胸に魔剣が突き刺さったままの魔王は自分の身体から引き抜く。
魔王「……決着を……ツケヨウ」
424 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/17(水) 09:03:05.38 ID:/NKe+S22O
魔王「魔オうはボクダっ!!!」
先代魔王「……」
魔王「オマエを……倒ス」
魔少女「魔剣を奪い返した!」
魔王「魔ショウジョさん……みんナをマモッテ」
魔少女「う、、うん」
女側近「自我があるの……?」
先代魔王「なんと……」
先代魔王「面白い。これこそ弱肉強食っフハハハハハッ」
魔王「ガアあああアあっ!!!」
■ 第39話 魔オうはボクダ 終 ■
425 :
◆Ks1JsTemxeE/
[sage]:2017/05/17(水) 09:04:33.17 ID:/NKe+S22O
次が最終話になります。
読んでくれてる方、ありがとうございます。
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 10:23:09.01 ID:Fqu6wz7do
王道は良いものだ
おつおつ
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 11:44:56.15 ID:QRprdd8Do
生き残るのは誰か
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/17(水) 18:19:39.20 ID:JMv/4RhZ0
乙
429 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:48:05.98 ID:1IdDD/GU0
■ 最終話 勇者と魔王 ■
430 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:49:43.77 ID:1IdDD/GU0
ガアギィィィイッ!
ギイイィィっ!
ドォォォンッ
少年勇者「な、なんて戦いだ……」
日が沈みゆく。
王と王の戦い。
魔剣の魔力を纏った魔王は、下級魔族では目で追えないほどのスピードで先代魔王に斬りかかる。
先代魔王もまた闇の魔法で創り出した剣で迎え撃つ。
ギイイィィンッ!!
先代魔王「フハハハハハッ楽しいぞ。これほど充実した戦いは久しぶりじゃ」
魔王「ガアああっ!」
先代魔王「ほれっ」
先代魔王は大火焔魔法を放った!
先代魔王は大氷冷魔法を放った!
先代魔王は大風撃魔法を放った!
ゴオオオオオオオオオォォォォォッッッッ!!!!
魔王「うっとうシイッ!」
魔王は衝撃波を放った!
激しくぶつかる二つのチカラに、周りの女側近達はただ呆然と見つめていた。
女側近「魔王様……」
魔少女「まおー様……頑張って」
少年勇者「アイツなんなんだよ……」
431 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:51:50.20 ID:1IdDD/GU0
ギイイィィッ!
キンッ! キンッ!
先代魔王「結局のところ戦うしかない。それでも弱肉強食を否定するのか?」
魔王「ボクらは魔物ジャナイ……知セイがあるンダヨ。タタカワナイ選択肢もアル」
ギイイィ!
先代魔王「甘ったれだ。その様な考えでは誰もついてはこまい」
魔王「魔ゾクだっテ……ニンゲンダッテ……戦いをモトメていないっ!」
先代魔王「何もわかっていない。全ては戦いじゃ。学問だろうと仕事だろうと、全ての理は争いで満ちている」
キンッ
ドガッ
先代魔王「生まれた時から皆不平等なのだ。魔力、金、地位、チカラ。ならば戦って競い合うことが、この不平等な世界を生きるすべではないのか」
魔王「違うっ! みンナ不平等だからこソ、手を取り合ウベキナンダっ」
先代魔王「燃えろっ」
先代魔王は大爆炎魔法を放った×10
ゴオオオッッッッッッッ!!!!!
ゴオオオッッッッッッッ!!!!!
ゴオオオッッッッッッッ!!!!!
魔少女「きゃああああっ」
すべてを焼き尽くす烈火の炎。魔王は魔少女、女側近、少年勇者をかばう。
しかし、魔王はダメージを受け付けない。
432 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:52:56.05 ID:1IdDD/GU0
先代魔王「フハハハッ……足手まといをかばってどうする」
魔王「オマエノ考え方でハ悲しむ者が増エル……ガアああアアアっ」
魔王は魔剣で攻撃っ!
ガキィンッ!
先代魔王「ぐっ……」
魔王「ガアアアアアああああっ!」
魔王は衝撃波を放った!
ドォォォンッッッ!
魔少女「やったぁ!」
少年勇者「やったか……」
女側近「魔王様……」
魔王「ハァはぁ……ガァハァ……ボクハ負けナい」
衝撃波で巻き上がった砂埃の奥から、先代魔王は姿を現わす。身体に傷があるものの、みるみる治っていく……
先代魔王「まさか傷を負うとは思っておらんかった。魔剣のチカラとは素晴らしい」
魔王「ガアアアアアっ!!」
433 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:54:41.29 ID:1IdDD/GU0
魔王が斬りかかると先代魔王は闇の魔法を放つ。現れた闇は魔王の動きを封じる。
魔王「があ……アアアアアああ……」
先代魔王「これで動けまい」
魔王「クソォぉ……」
先代魔王「弱ければ、何も変えられない。何も動かせない」
魔王「ガアアアアア……」
先代魔王「余が正しい。証明しよう」
先代魔王はニヤリと笑い、魔王の魔剣を持った右手を切り落とす。
ズタンッ!!!
ぼとりと魔剣ごと右手は魔王の足元に落ちた。魔剣の魔力を失った魔王にダメージが戻る。
魔王「あ、……あ、……」
魔王「ぎゃあああああああああああっ!!!」
先代魔王「ククク……フハハハハハッ」
女側近「魔王様ぁぁぁっ!!!」
女側近は大氷冷魔法を放った!
しかし、先代魔王は搔き消した。
先代魔王「なんじゃ余に勝てないというのは、おぬしが一番わかっとるじゃろうが」
先代魔王は氷撃魔法を放った×100
ドドドドォドドドドォドドドドォドドドドッッッ!!!!
ドドドドォドドドドォドドドドォドドドドッ!!!!
女側近「ぐぐぐ……きゃあああああああっ」
先代魔王「フハハハッ氷魔法で上回れてしまう気分はどうじゃ?」
434 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:56:08.96 ID:1IdDD/GU0
少年勇者「つああああぁっ!」
少年勇者は先代魔王の背後から聖剣で奇襲攻撃!
ジャキイイィィィッ!!
少年勇者「く……はぁ……」
しかし、傷を負ったのは少年勇者の方だった。
攻撃が届く前に少年勇者の腹部に魔剣が刺さる。
先代魔王「おぬしは奇襲してくると思っておったわ」
魔少女「あ……あ……」
魔王、女側近、少年勇者は呻き声を上げて蹲る。そんな光景に魔少女は後ずさりする。
先代魔王は落ちていた魔剣を拾い上げて、魔少女に見てニタリと笑う。
先代魔王「回復せんでいいのか? ほっといたら皆死んでしまうぞ?」
魔少女「う、う……」
先代魔王「もう魔力が残っておらんのか。つまらん」
魔王「うあぁ……うぁ……」
435 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:58:25.65 ID:1IdDD/GU0
先代魔王「この魔剣の魔力は素晴らしいの。貴様のようなクズが支配できたのじゃ……余に扱えん訳はあるまい」
先代魔王は魔剣を高く掲げ問いかける。
先代魔王「魔剣よ……あとは貴様だけじゃ。余にチカラを示せ」
ドクンッ……
ドクンッ……
先代魔王「来るのじゃ……魔剣よ。貴様も支配してやる」
ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ……
先代魔王「ガアアアアアアアアアアッッッ!!」
魔剣から吹き出す魔力が先代魔王を包む。
虚ろな意識の中で魔王は思う。
魔王(ボクは間違っていたのかな?)
魔王(何も変えられないのか?)
目の前が少しずつ黒に染まる。
視界は無くなるが脳裏には仲間の顔がよぎる。
女側近、魔少女、ピエロ、エルフ、魔執事、母、少年勇者。
魔王(みんなを死なせたくない)
魔王(ボクはどうなってもいい)
魔王(負けないチカラが欲しい)
魔王(これが弱肉強食?)
魔王(あいつの言った通りだ)
魔王(弱いから結局何も出来ないんだ)
魔王(ボクは戦えないんだ)
魔王(そりゃ何も出来ないよ……)
魔王(…………)
魔王(……)
436 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 01:59:31.08 ID:1IdDD/GU0
魔王(出来ない?)
魔王(違う!)
魔王(出来る出来ないじゃないっ)
魔王(“やる”っていう意志だ!)
魔王(忘れちゃダメだ……戦えなくたってここまできたじゃないか)
魔王(やる……)
魔王(戦うんだ)
真っ黒な視界に一筋の光が差し込む……。
魔王は引き寄せられるように手を伸ばす。
437 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:00:14.20 ID:1IdDD/GU0
438 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:01:40.99 ID:1IdDD/GU0
先代魔王「ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
先代魔王を包む魔剣の魔力は徐々に身体に吸収されていく……。
先代魔王「ふ……ふ、フハハハハッ!」
先代魔王「勝ったぞ、やはり余は最強じゃっ!」
先代魔王「これが魔剣のチカラ! 素晴らしいっ!」
先代魔王「フハハハハッ……はは……は?」
先代魔王が高笑いが止まったのは、あるものが視界に入ったからである。
先ほどまで倒れていた魔王。
いつの間にか立って俯いている。
切り落としたはずの腕が戻っている。その右手には見慣れぬ剣。
ただならぬ気配を感じ先代魔王は身構える。
先代魔王(あの剣は……)
魔王の持つ剣は眩ゆい光を放ち身体を纏う。
そう、魔王が持っている剣は少年勇者が持っていた剣。
女側近「聖剣……」
439 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:02:59.89 ID:1IdDD/GU0
先代魔王「バカな?! 聖剣を持てるじゃと?!」
魔王「戦う……」
ピカッと光ると魔王は光を纏ったまま先代魔王に斬りかかる。
ガキイィィンッ!
先代魔王も魔剣で受け止める。
聖剣の魔力と魔剣の魔力がぶつかり混じり合う。
ゲートの鍵。
聖剣と魔剣が交わる時、ゲート開閉する。
ガキイィィンッ
ギイィィィッン!
ガギィィンッッッ!
頭上に浮かぶ光の球体ゲートは剣が交わるたびに膨張と縮小を繰り返す。
次第にゲートは巨大化し、境界都市を飲み込み……魔王達も吸い込まれていった……。
ーーー人間界と魔界のはざまーーー
先代魔王「おおおおおぉぉっっ!」
魔王「はあぁぁぁぁっっ!!!!!」
■ 最終話 勇者と魔王 終 ■
440 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:03:46.68 ID:1IdDD/GU0
■ エピローグ ■
441 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:06:25.62 ID:1IdDD/GU0
/////////
××××.××.××
覚えているのは……上も下もわからない次元の狭間で
まおー様が光を纏いながら戦っていたこと。
ウチは頑張れって応援することしかできなくて
涙が止まらなかったよ……
いつの間にか気絶しちゃって、気が付いたら魔界の赤い空が見えたの。
何が起こったかわからなかったけど……思ったのは魔界に帰ってきたんだって!
辺りを見渡したら、まおー様とお姐ぇが倒れてて必死で回復した。
二人とも無事だったし、先代魔王もいなくなっててホッとした。
少年勇者もいなかった。
でも、目を覚ましたまおー様は泣きじゃくった。
それで気が付いたの……ゲートがないってこと。
聖剣も魔剣もなくなってた。
魔界と人間界は切り離されちゃって……ピエロやエルフは置き去りに。
人間界にいた民や兵士、ものすごい数の魔族が取り残されちゃった。
でも、ゲートか閉じたってことは
戦争が終わったってこと。
<魔少女いつかの日記より>
442 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:07:57.55 ID:1IdDD/GU0
−−−魔界 冥都・最上層 黒魔城−−−
魔王「先代魔王は倒してないんだ」
女側近「おそらく人間界に……」
魔王「うん、ハッキリ覚えてないけど、多分魔剣も聖剣も向こうの世界に行ってしまったと思う」
女側近「つまり再びゲートを開けて攻めてくる可能性がある……ということですね」
魔王「必ず……ピエロとエルフさんを助けに行く……」
女側近「はい……」
魔王「必ずだ」
女側近「かしこまりました」
443 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:09:27.24 ID:1IdDD/GU0
魔王「……」
女側近「?」
魔王「女側近さんは……いや、側近一族みんなだけど」
女側近「はい」
魔王「一度解散してもらおうと思うんだ。自由になってほしい」
女側近「はい」
魔王「女側近さんも……普通の魔族として生きてほしい」
女側近「魔王様、私は自由を知りません」
女側近「どうしていいのか分かりませんが……」
魔王「うん」
女側近「魔王様の側近を続けさせて頂きたいです」
魔王「……」
女側近「いかがでしょうか?」
魔王「それが……キミの意志なの?」
女側近「え……?」
魔王「側近としてではなく、女側近さん自身の意志なの?」
女側近「…………。」
女側近「はい。私が決めました、私の意志で」
女側近「魔王様の元で……生きていかせてください」
444 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:11:06.33 ID:1IdDD/GU0
魔王「うん!」
魔王「……ありがとう」
女側近「魔王様一つだけお伝えしておきたいことがあります」
魔王「……うん?」
女側近「本当のお父様のことです」
魔王「知ってるの?!」
女側近「はい、以前調べましたので」
魔王「確か母さんは魔王軍の騎士だったって……」
女側近「そうですね。正確には魔王軍の兵士です」
女側近「人間との戦争開戦時、異世界からの未知なる敵に魔王軍は大変苦戦し、多くの兵を失いました」
魔王「うん……人間から攻めてきたんだよね」
女側近「人間の強さは凄まじく、その軍隊は冥都にも迫る勢いでした」
女側近「そんな中、志願兵として前線へ出たのが貴方のお父様です」
魔王「志願……」
445 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:11:59.64 ID:1IdDD/GU0
女側近「記録では……その後、前線にて戦死。となっております」
魔王「……」
女側近「どのような形で亡くなられたかは分かりませんが、お父様の部隊は大変戦果を上げ、人間部隊を魔界から追い出すことに成功致しました」
女側近「お父様は冥都を守るために戦った」
女側近「愛する妻と息子の為に戦ったのだと……思います」
魔王「女側近さん……」
女側近「それだけは覚えておいてください」
魔王「うん」
446 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:13:53.37 ID:1IdDD/GU0
母親の『父親は勇敢な騎士だった』という言葉を思い出す。
なんだか心のモヤモヤが晴れてく気がした。ずっと否定してきた父は……先代魔王は親ではなかった。
それだけで少し救われた気がした。
何が正しいかなんて分からない。
先代魔王は『弱肉強食』という考えで魔界を何百年も安定させてきた。それは、ある意味では正しいのかもしれない。
ボクの考えのせいで悪い方へといってしまうかもしれない。
ボクに“魔王”なんて出来るわけねぇって思う魔族は沢山いるだろう。
そうかもしれない。
でも
ボクを支持してくれる仲間もいる。
女側近さん……
魔少女さん、ピエロ、魔執事、エルフさん。
だからボクは僕を信じられる。
自分を信じて進むしかないんだ。
そう“決めた”から。
女側近「魔王様、お座りください」
魔王「うん」
魔王は魔界の頂点、玉座に座る。
……そして、魔界に争いのない時が過ぎていく。
■ THE END ■
[魔王「ボクに魔王なんて出来るわけねぇ」]END
最後まで読んで頂きありがとうございました!
447 :
◆Ks1JsTemxeE/
[saga]:2017/05/18(木) 02:20:07.14 ID:1IdDD/GU0
今作は裏物語、実は表の物語があります。
@女騎士「こんな勇者についてけねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416212168/
こちらが今作の約30年後の人間界の話です。“表”なので今作はこの話がベースになってます。人間界に取り残されたピエロや少年勇者の30年後が少し見れます。
A兵士「勇者の為に死にたくねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395806984/
@の勇者の最終決戦の話です。初めて書いたSSです…
B勇者「魔王倒したらやることねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426029854/
Aのその後です。ここに出てくる勇者とは“西の勇者”のことです。誰が犯人?!っていうミステリー物を一度描いてみたくてやりました。
C勇者「魔王を捕まえたが殺さねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493681963/
同じ舞台での駆け引きを、違う視点で同時にスレ立てたら面白いかな?と思ってやってみました。
どれも単体で読んでも大丈夫なように書いているつもりです。(つもりです)でも舞台は繋がりがあります。なのでどれも終わり方が…
未熟な作品ばかりですが読んで頂けたら幸いです。
以上過去作の宣伝でした。
本当に最後まで読んで頂きありがとうございました!!!
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:21:42.70 ID:NyoNU1xxo
人間は先代魔王と補充不可の魔界軍を殲滅できるのだろうか
449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:22:57.77 ID:ClPmkxaTo
おつおつ更新早くて楽しめたよ
先代魔王が人間界にいるなら人間界滅んでそう……
450 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:23:01.50 ID:NyoNU1xxo
続きがあったのか
おつ
451 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:23:51.60 ID:ClPmkxaTo
リロってなかった
その後の話があるなら安心したよ
452 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:28:05.65 ID:vgUCR7PDO
乙
面白かった
後は伏線回収だな
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 02:49:41.43 ID:coY8dM4Go
乙
楽しかったよ
454 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/18(木) 03:28:38.75 ID:0TmvMmI5o
おーシリーズになってんのかすげー
おつ
455 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/18(木) 21:26:54.24 ID:wWxa8WZf0
乙乙
ピエロってあいつなのか……
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 00:21:02.31 ID:8CHUfP2OO
乙
毎日楽しかった
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 00:22:23.89 ID:8CHUfP2OO
DAT落ちしてて見れねぇ………
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 02:02:07.67 ID:MnkuVWHDO
あれ?関連全部読んでたわww
酉同じって今更気付いて自分の鈍さに唖然とした…
これから何故かアンデッド軍で先代が魔界に乗り込む訳か楽しみにしてる
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 06:05:12.27 ID:+d98TyWL0
>>458
先代?いや王様になった少年勇者でしょアンデット軍つくったのは
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/20(土) 00:04:51.95 ID:aaGJJ7UDO
>>459
言葉足らずだったか先代勇者って意味
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/20(土) 23:23:42.13 ID:yP+NtphB0
今更だけど30年後に少年勇者のパーティの女賢者がお婆さんになってるけどこの時点で40才くらいだったのか....
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/21(日) 09:10:23.26 ID:rFp6F4E/0
よく気づいたな…
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/23(火) 22:32:34.20 ID:HITH30xJ0
mixiからきた
次はいつ始まるのか楽しみだ
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