男「余命1年?」女「……」

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95 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:18:50.86 ID:4bLB48VvO
男(さて……機内に乗り込んだんだけど)

女「フンフーン♪」

男(声量は小さいけど、真隣だから……さっきから気になって仕方がない)

男「やけに上機嫌だね。鼻歌なんか歌っちゃって」

女「あ、そう見えます? だって、海なんて私、初めてなんですよ」

女「しかも、南の島だなんて! 興奮しない方がおかしいです!」
96 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:19:40.13 ID:4bLB48VvO
男「そっか、じゃあ俺もおかしくないね」

女「……え?」

男「俺も、ちょっと楽しみなんだ。南の島なんて、修学旅行でも行ったことが無かったから」

女「……それなら、私とお揃いですね。私は、当時は丁度入院と重なってしまって、行けなかったんです」

男「うわ……それは残念だったね」
97 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:20:09.65 ID:4bLB48VvO
女「その分、楽しんじゃいますから!」

男「……そっか」

男(楽しめれば……いいんだけど。多分、女さんは泳ぐのも無理だろうし)

男(海を見て終わりとか、そんな悲しいことにならなければいいんだけど)
98 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:20:59.26 ID:4bLB48VvO
男(……何か、時間が経つのが妙に早い気がする。実家に帰る新幹線だと、3時間ですらクソみたいに疲れるのに)

男(気圧だって下がってるのに、妙に目が冴えて……眠れない)

女「……」ポテッ

男(うおっ!)

男(女さんの頭が……俺の肩に……!)

男「お……女さーん?」

男(……眠ってらっしゃる)
99 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:21:26.01 ID:4bLB48VvO
男(あーもう……仕方ないな)

女「スー……スー……」

男(何だか、こうして眠ってると……普通の女の子みたいだ)

男(いや、そりゃあ普通の女の子なんだけど)

男(あと1年後には……なんて、全然思えないくらい生き生きとしてて)

男(きめ細やかな肌や、艶やかな黒髪、長いまつ毛……潤った桜色の唇)

男(……ちょっと、信じられないな)
100 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:21:52.39 ID:4bLB48VvO
女「……男……さん」

男「っ!」

男(寝言か……あざといんだよ、全く)

男(うっかり……好きになるところだった)
101 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:22:20.26 ID:4bLB48VvO
女「男さん……」

男「ん? 何かな?」

女「あの起こし方は……ちょっと有り得ないです」

男「人に寄りかかって寝る方が悪い」

男(空港に到着して、俺からも少し呼びかけたけど……いつまで経っても女さんは起きなかったものだから)

男(彼女の頬を引っ張って、無理やり起こしてやった)
102 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:22:48.42 ID:4bLB48VvO
女「……ちょっと酷くないですか? 普通に起こせないんですか?」ムッスー

男(そしたら、この通り不機嫌になってしまったけど)

男「悪かったって、機嫌直してよ……ほら、見てみな」

女「えー……あ」

男(やっぱり、凄いよな)

男(言葉を失う時って、多分……こういうのを見た時なんだろう)
103 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:23:18.14 ID:4bLB48VvO
女「これが……海」

男「俺も、こんなに綺麗な海は初めて見た」

男(もうゴールデンウィークもとっくに過ぎたってのに、たくさんの人が泳いでる)

男(それだけ、人気のある観光地ってことか)
104 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:23:45.42 ID:4bLB48VvO
女「……いいなあ」

男「泳ぎたい?」

女「頷いたら、泳がせてくれるんですか?」

男「……無理、だね」

男(女さんにとっては、こんな光景も……蛇の生殺しでしかないんだよな)

男「ごめんね……全然、そこまで考えて……」
105 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:24:16.59 ID:4bLB48VvO
女「……ホテル」

男「え?」

女「どこにあるんですか、ホテル。早く荷物下ろしたいです」

男「あ……ああ、そうだね。この近くにあるんだ。海がとても綺麗に見渡せる場所だよ」

女「そうなんですか!? 楽しみです……えへへ」

男(良かった……元気が戻ったみたいだ)
106 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:24:48.32 ID:4bLB48VvO
女「すごーい!」

男「うわー……絶景だね」

男(窓から入る風が気持ちいい)

男「写真とは、全然違うな」

男(流石に、高いだけある)

男(俺がいつも泊まるような相場と、3倍は違うからね……)

女「ホント凄い……今日は、男さんにビックリさせられっぱなしですね」
107 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:25:18.24 ID:4bLB48VvO
男「さっきから凄い凄いって……いつもの表現力はどこに置いてきたんだよ?」

女「えー、だって違くないですか? 文章力があれば話すこともできるだなんて、編集者らしからぬ単純思考ですよ?」

男「そういうもんなのか……」

女「もー、しっかりしてくださいよ、男さん」

男(風が……女さんの髪がたなびいて……まるで映画のワンシーンみたいな)

男(いや……そんなのよりも、ずっと美しい)
108 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:26:42.50 ID:4bLB48VvO
女「……男さん? どうしたんですか、ボーッとして」

男「えっ……いや、何でもないよ、うん」

男(だから、あざといんだって……)

男(手すりに上半身を預けて、顔傾げてこっち見つめてくるなんて)

男(俺じゃなかったら、今絶対ヤバかったぞ)
109 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:27:30.32 ID:4bLB48VvO
女「変な人ですねー。まあ……予約した部屋を見た時から、おかしいって思ってましたけど」

男「え……何かおかしいかな?」

女「普通……こういう時って、2部屋取りません?」

男「あ…………ああっ!」

男(やっちまった……!)

男(旅行なんて、大学の友人と行って以来だから……そこまで頭が回らなかった!)
110 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:28:10.71 ID:4bLB48VvO
男「ごっ……ゴメン! でっ……でも、ほら、ベッド2つだし!」

女「そういう問題ですか?」

男「い、今からでも変えられるかなあ!? きっと、頼み込めば変更してもらえるんじゃ……」

女「男さん」

男「ひっ、ひゃいっ!」

男(やべ! 変な声でた!)
111 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:28:39.71 ID:4bLB48VvO
女「……構いませんよ、私」

男「……え?」

女「どうせこんな大きいホテルだと、当日変更は難しいでしょうし……それに」

男(そ、そんな見つめんなよ……今、恥ずかしさで顔真っ赤になってんだからさ……)

女「……きっと、男さんは何もしないじゃないですか」
112 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:29:06.35 ID:4bLB48VvO
男「え……と……」

男「否定は……できない」

女「フフ……だと思いました」

男(……なんで、そんな顔すんだよ)

男(そんな寂しそうな顔……君には似合わないよ)
113 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:30:28.40 ID:4bLB48VvO
男「……あの、さ」

女「はい?」

男「……海、見に行こうよ。泳がなくたって、きっと楽しいよ。……ほら、海だけじゃなくて、この近くにも色々店とかあるし!」

女「……そう……ですね。はい……行きたいです!」

男(良かった……いつもの笑顔だ)
114 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 17:33:41.19 ID:4bLB48VvO
女「……男さん」

男「ん? どうしたの?」

女「……私……男さんの、そういう……ところが……」

男(女さん……顔が)

男(耳まで、真っ赤に染まってる)

男「女……さん?」

女「っ……なんでも、ないです。ほらっ、早く行きましょう! 私、お腹空いちゃいました」

男「う、うん……それじゃ、行こうか」

男(何だったんだろう……まあ、気にしなくていいか)
115 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/21(日) 17:37:34.62 ID:4bLB48VvO
続きは夜書きます
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 18:01:04.15 ID:tRthmvTNo
おつ
待ってる
117 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:32:18.84 ID:hFj05+0SO
女「男さん! このタコライス、すっごく美味しいです!」

男「うん、俺も驚いた」

女「なんでも地元の方々に、キンタコの愛称で親しまれている店らしいです!」

男「へえー、キンタコねえ」

女「お持ち帰りもできるらしいです! 男さん、お願いしますね!」

男「え、まって。まだ食べるの?」

女「だって美味しいんですもん。食べなくちゃ勿体ないです!」

男「そうかー勿体ないか―、それなら仕方ないね」
118 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:32:49.06 ID:hFj05+0SO
女「男さんっ、ここのステーキ、美味しいらしいです!」

男「まってまって、さっき食べたばっかじゃん。それに、このパックのタコライス……」

女「是非入りましょう! 是非!」

男(そんなに目を輝かされたら……)

男「……仕方ないなあ」

男(断れないじゃん……)
119 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:33:15.99 ID:hFj05+0SO
女「ふー、美味しかったですねえ」

男「……うん、そうだね」

男(もう……大分苦しいんだけど)

女「あっ! ここ、この間テレビで特集されてた天ぷら屋さんですよ!」

男「え……へ、へえー、そうなんだ……」

男(まさか……いや、まさかな)
120 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:33:54.38 ID:hFj05+0SO
女「流石に……入れないですね」

男「はは、そうだよねー。流石にお腹いっぱ……」

女「こんなに食べてばかりだと、男さんのお財布が心配です」

男「よっしゃ上等だあ! 食えるもんなら食ってみろよ!」

女「え! いいんですか! それなら、喜んで!」
121 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:34:28.58 ID:hFj05+0SO
男「うっぷ、もう……食えね……」

女「男さん男さん、持ち帰りのタコライス食べましょう!」

男(マジで、ブラックホールみたいな食べっぷりだな……)

女「ふー……綺麗ですね」

男「……うん。まさか、こんなに綺麗な海を見ながらご飯を食べられるなんて。夢みたいだよ」

男(今食べてるのは、女さんだけだけど)
122 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:35:04.70 ID:hFj05+0SO
女「……もう皆さん、いなくなっちゃいましたね」

男「あー、だってもう7時だし。まだちょっと明るいけど、みんなご飯食べに行ってるんじゃないかな?」

女「そう……ですよね。なら……」

男「女……さん?」

男「な……なにしてるの?」

女「何って……決まってるじゃないですか」
123 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:35:30.60 ID:hFj05+0SO
男「ちょ……! こんな所で脱ぐなよ!」

女「え、だって、誰もいませんよ」

男「俺俺! 俺がいるから!」

女「大丈夫ですよ、だって……」

男(ああ! 最後の一枚が……)
124 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:36:16.56 ID:hFj05+0SO
男「……あれ? 女さん、それ……」

女「はい! この日のために選んだ、とっておきの水着です!」

男「水着って……」

女「どうです? 似合ってますか、男さん」

男「あっ……急に走っちゃ身体に悪いって!」

女「大丈夫ですようー! だって、薬飲んでますから!」

男「いや、でも……」
125 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:36:54.80 ID:hFj05+0SO
女「本当に大丈夫ですよ、だって……」

男「ちょ……女さん! それ以上は……」

女「キャッ……男さん、服……濡れちゃいますよ?」

男「もう……濡れちゃったよ」

男(靴の中に、海水が入り込んで……膝下までビッチョビチョだ)

女「だって男さん、水着じゃないのに……」
126 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:37:24.12 ID:hFj05+0SO
男「流石に、泳ぐのはマズいって。俺だって、ちゃんと調べたんだから」

女「……どうやって?」

男「それは……インターネットとか」

女「……フフ。男さんらしいですね」

女「でも、大丈夫です。自分の身体の事は、自分がよくわかってますから」

男「いや……だって」
127 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 22:37:55.13 ID:hFj05+0SO
女「泳げますよ」

男「……女……さん?」

女「……泳げますよ? ちゃんと……健康な人と、同じように」

男(女さん、腕が……微かに、震えてる)

男「……女さん」

女「……はい」

男「……帰ろう、ホテルに」
128 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:19:21.95 ID:hFj05+0SO
女「フンフーン♪」

男(シャワーの……水の音が……)

男(別に、やましい事してるわけでもないのに……)

女『男さんが先に入ってください! 服が濡れて、ビショビショなんですから。風邪引いちゃいますよ?』

男(そう言われて、先にシャワー浴びたけど)

男(なんか……待機してるみたいで)

男「……アホかっ、何もねえよ」
129 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:19:58.23 ID:hFj05+0SO
男(だって、この旅行は……ただの取材なんだから、さ)

女「ふー、気持ちよかったー」

男「そう? ただのシャワーじゃん」

女「シャワーのお湯も、何だか高級感に溢れてますよね!」

男「そ、そう?」

男(意味が分からん。お湯が高級ってどーいう事なんだよ)
130 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:20:29.30 ID:hFj05+0SO
女「……なんか、男さん。浴衣カッコいいですね」

男「えっ……そ、そうかな」

男(そんなこと言ったら、女さんの方がよっぽど……)

男(風呂上がりのシャンプーの匂いとか、濡れた黒髪とか)

男(浴衣のせいで……強調された、身体のラインとか)

女「……なんですか、そんなにジロジロ見て」

男「え!? いや……その……ごめん、そんなつもりじゃ」
131 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:21:02.22 ID:hFj05+0SO
女「……もう。やっぱり、男さんは男さんですね」

男「……何言ってんの?」

男(女さん、背中向けて……ドライヤーかな?)

男(……冷蔵庫?)

女「これ、さっき買ってきたんですよ」

男「それ……ワインじゃん」

女「男さんがシャワー浴びてる間に、下のコンビニで買ってきちゃいました」
132 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:21:30.17 ID:hFj05+0SO
男(そんな……舌なんか出して)

男「もう20歳なんでしょ? 悪いことじゃないよ」

女「そうはいっても、中々慣れなくて。一人じゃ買ったことも無かったんですよ」

男「お酒は強いの?」

女「んー、そうでもないのかな。大学の友達と飲みに行ったときは、そんなに酔わなかったです」

男「へー、あんまり飲まないんだ?」

女「あ、いえ。ジョッキ三杯と、ワイン二杯くらい、友達と。あ、あと温かいのも、おちょこで飲んだかも」

男(メッチャ飲んでるやん……)
133 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:22:09.73 ID:hFj05+0SO
男「ふ、ふーん……とりあえず、開けようか」

男(あれ……)

男「女さん……これ、いくら?」

男(これ……コンビニに置いてるなんて。やっぱり高級ホテルは違うな)

女「……秘密です」

男「お金渡すよ。流石に悪いから」

女「いえいえ、いいんですよ。飛行機代も、ホテル代も、食事だって、お世話になりっぱなしですから」

男「それはそれでしょ。学生と社会人なんだからさ」

女「元、ですけどね。もう、律儀だなあー」
134 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:22:47.82 ID:hFj05+0SO
男(あれ、女さん……既に酔ってらっしゃる?)

男(そういえば、さっき若干それっぽい匂いがしたような)

女「もー、男さんは細かい事を気にし過ぎなんですよー」

男(なんか、身振りもいつもより大げさだし……)

男「女さん……いつの間に……」

女「男さんもジャンジャン飲んでください! 折角私が買ってきたんですから!」

男「ちょ……!」

男(近い近いデカい近い近い何かいい匂い!)

男「……もう、仕方ないな」
135 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:23:27.74 ID:hFj05+0SO

男(あー、なんか、いい気分になってきた)

女「男さん」

男「……ん? なに?」

女「男さんはー……ホントはゲイなんですか?」

男「は!?」

男(いきなり何言い出すんだこの子は!)

男「そんなわけないだろ!」
136 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:24:02.32 ID:hFj05+0SO
女「だってー、私を見ても、全然そんな風に見てくれないし」

男「そんな風にって……君ね」

女「男さん、私より、編集長? と話してる時の方が楽しそうですよ」

男「そ、そんなわけっ……」

女「じゃあー……」

男(な……胸、当たってるって)

男「女さん……腕にっ……」

女「じゃあ、男さんはー」

男(ええい耳元で囁くなあっ!)
137 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:24:41.54 ID:hFj05+0SO
男「女……さん!」

女「男さんは……私と話してて、楽しいですか?」

男「そりゃ……あ、楽しい……よ」

女「どんな風に?」

男「どんなって……君みたいな可愛い子と話せたら、嬉しいよ、男としても」

女「だって……この間、男さん……年上がタイプって言ってたじゃないですか。あれはどーいうことなんですか?」

男「いや……だから、そんなの関係なく、君は可愛くて……魅力的だってことだよ」
138 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:25:17.08 ID:hFj05+0SO
男(何言ってんだ俺……こんな歯の浮くようなセリフ、素面じゃ絶対言わないだろうに……)

女「……本当、ですか?」

男「俺が嘘つくような男に見える?」

女「……半分くらい?」

男「凄い微妙だね、それ」

女「……フフッ、そっかあ」

男「ちょっ……女さん!?」

男(抱き着いてきたああああああ!)
139 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:26:05.87 ID:hFj05+0SO
男(腕が……背中に……!)

男(胸に……顔を押し付けんなって!)

男「女さん! 流石に、これは……」

男「……?」

女「……スー……スー……」

男「……えぇ」

男(……マジかよ)
140 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:45:31.89 ID:hFj05+0SO
男(女さん……軽かったな)

男(こんな小さな身体のどこに、あの量の食べ物が入るんだろう)

男(……あ、女さんのバッグ)

男(ホント、どうしてこんなに大きなバッグが必要なんだか)

男(ちょっと中身、見てみるか?)

男(……いやいやいや、いくら何でもそれはマズいだろ)
141 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:46:05.36 ID:hFj05+0SO
男(……)チラッ

女「……スー……スー」

男(……少しだけなら、いいよな)

男(……えーっと、着替えと……化粧品か? あとは……ん?)

男(なんだ、この紙袋……やたら大きいな)

男(中身は……え、これ)

男(……見間違いじゃない。これは……)
142 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/21(日) 23:47:03.55 ID:hFj05+0SO
女「……スー……スー」

女『お父さんは、私の事なんてどうだっていいんですよ。もうすぐ……いなくなるんですから』

男(……酔いなんて、吹き飛んだ)

男(どこかで……夢なんじゃないかって、思ってたんだ)

男(それか、女さんの悪い冗談なんだって)

男(だって、そう思ってしまうくらい、女さんは元気に見えたから)

男(もしくは、病院の診療ミスとか……ちょっと大げさに言ってるだけで、実はたいしたことありませんでした、とか)

男(心のどこかで期待してたんだ、俺)

男(何を今更……こんなに、動揺してんだよ)
143 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:31:44.83 ID:Aj5iH/DBO
男(あの後……結局一睡もできなかった)

男(……果てしなく眠い)

女「……どうしたんですか、男さん。眠れなかったんですか?」

男「ああ、ちょっとね。そういう女さんは、すごく元気だね。昨日はよく眠れたかい?」

女「はい! なんだか、すっごく安心して眠れたような感じです!」

女「正直、昨日はどうやってベッドに入ったのか、記憶に無いんですけど」

女「男さん、何か覚えてます?」
144 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:32:20.52 ID:Aj5iH/DBO
男「いや……全く」

男(嘘だけど。ホントはメッチャ覚えてるけど)

男(お姫さまだっこで女さんをベッドに寝かせたってことは……言わないでおこう)

女「そっかー、仕方ないですね。仕方ない!今日はとことん遊びましょう!」

男「いや、後はもう帰るだけだよ」

女「ええ! どうしてですか!?」

男「だって、あんまり遅くなると、ほら……お父さんが心配するでしょ?」
145 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:32:48.90 ID:Aj5iH/DBO
女「……」

男(やっべ、失言だったか?)

男「……お土産、どっかで買って帰ろうか」

女「え、お土産ですか? ……いいですね! 何買っていこうかな!」

男(なんとか……誤魔化せたかな)
146 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:33:19.29 ID:Aj5iH/DBO
女「やっぱり、沖縄っていったらちんすこうですよねー!」

女「あっ、サーターアンダギーも捨てがたい!」

女「うーん、迷っちゃうなあ!」

男「あはは……好きなだけ買いなよ。お金は心配しないで」

女「えっ、いいんですか!? じゃあ……お言葉に甘えて!」

男「抱えすぎて落とすなよー」

男(もう……はしゃいでるなあ)
147 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:33:53.48 ID:Aj5iH/DBO
男(考えてみると、彼女にとっては今更薬なんて、大したことじゃないのだろう)

男(薬を一目見ただけで、こんなに動揺してしまうなんて……なんて情けないんだろう)

男(自分自身、こんなに弱いとは思わなかった)

男(それに比べて……女さんは、強いな)

男(不条理な運命を背負って、それでもなお、あんなに輝かしい笑顔を浮かべられるんだから)
148 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:34:22.61 ID:Aj5iH/DBO
女「否定しないんですね? 言いましたね?」

女「じゃあ……もし私が作ったら、食べてくれますか?」

男「そりゃあ……まあ……作ってくれるなら、食べるけど」

女「やった! 嘘は駄目ですからね? 男に二言は?」

男「……無いよ。なんだその確認の取り方」

女「フッフッフ……期待してくれてもいいんですよ? 私、これでも料理は好きなんです!」

男(ここで得意って言わないあたり、妙に謙虚なんだよなあ。……酒さえ入ってなければ、ね)
149 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:35:05.11 ID:Aj5iH/DBO
女「……男さーん」

男「……うん……起きてるよ、まだ……」

男(ヤバい……滅茶苦茶眠い)

男(行きの飛行機ではあんなに眠れなかったのに……寝不足だからかな。帰りの飛行機は、全部寝て過ごしそうな勢いだ)

男(せっかく女さんが起きてるのに……俺だけ寝ちゃったら申し訳ないし)

女「男さん……目が半開きですけど。ホントに起きてます?」

男「ああ……起きて……る」

女「フフッ……可愛いなあ」
150 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:35:47.78 ID:Aj5iH/DBO
男「男は……可愛いって言われても……嬉しくないよ……」

女「……男さん……もし」

男「うん……なに?」

女「……もし、昨日のホテルでの出来事を……私が全部覚えてるって言ったら……どうします?」

男(……覚えて? ホテル……何か、あったっけ?)

男(ああ……眠い。ごめん、女さん。もう、起きてられなさそうだよ)

女「……あらら、寝ちゃった」

女「…………ばか」
151 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:36:31.47 ID:Aj5iH/DBO

男「ふあーあ……よく寝た」

女「ホント、ぐっすりでしたね。私が起こさなかったら、危ない所でしたよ」

男「いやいや、流石にスタッフさんが起こしてくれるでしょ」

女「もう、そこは素直にありがとうって言ったらどうなんです?」

男「そうだね……うん、ありがとう」

女「いーえ、どーいたしまして!」

男(ホント……眩しいくらいの笑顔だ)

女「……じゃあ、ここでお別れですね」

男「え、いいの? まだ公園だよ?」

女「いいんですよ。まだこんなに明るいですし」

男「……そっか。それじゃあ、また」
152 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:37:19.31 ID:Aj5iH/DBO
女「男さん」

男「……ん? なんだい?」

女「あの……ありがとうございました。本当に、楽しかったです」

男「えっ……何だよ、改まって」

女「今回は……いいえ、今回だけじゃない」

女「私、男さんと出会ってから……楽しくて仕方が無いんです」

男「……俺と出会ってからって……担当についてからってこと?」

女「はい。……私、それまで、何をしても楽しくなかったんです」
153 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:37:56.35 ID:Aj5iH/DBO
女「お父さんといても、友達といても、テレビを見ていても、何をしても」

女「心の底から、楽しいって思える瞬間なんて……多分、一度だってなかった」

女「それなのに……あなたと出会ってから、私の人生は変わったんです」

女「あなたと話していると……あなたと一緒に歩いていると……色んなものが、輝いて見えた。美しく見えた」

女「初めてなんです……こんな気持ち」

男「……女……さん」

女「私……知ってるんです。この感情が、どういうものなのか」
154 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:38:38.78 ID:Aj5iH/DBO
女「こんな……みんなと違って、生まれつきのハンデを背負っている私は、きっと人生を楽しむ資格なんか無いんだって、そう思ってました」

女「でも、そんな私が変われたのは、全部……あなたのおかげなんです」

男「……そっか、良かったよ」

女「男さん……」

男(その時の、女さんの顔は……多分、俺は一生忘れられないんだと思う)

女「男さん……大好きです。あなたの事が、この世で、一番……好きです」
155 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/22(月) 00:39:52.52 ID:Aj5iH/DBO
ここで一旦区切りますが、まだ続きます。気長にお待ちくださると幸いです。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/22(月) 00:42:08.17 ID:TG3CSDSk0
告白きたあああああああああああああああ
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/22(月) 00:42:53.37 ID:TG3CSDSk0
気長に待ちますよ!
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 00:44:36.25 ID:MZ/d7M6G0

間黒男でも比良坂竜二でも大門未知子でも相良浩介でも誰でもいいから女さん治してやってくれや。
159 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/22(月) 00:50:01.66 ID:Aj5iH/DBO
申し訳ないです、>>147>>148の間に入れ忘れました。↓に上げておきます。
160 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 00:50:36.95 ID:Aj5iH/DBO
女「男さん男さん! これ、タコライスの素ですって!」

男「……ごめん、流石にそれはもう要らない」

女「えー、つれないなあ」

男「逆に聞くけど、昨日の今日で、どうして、また食べようと思えるの?」

男「君の辞書には、飽きるっていう単語はないわけ?」

女「えー! 飽きちゃったんですか!? あんなにおいしかったのに!」

男「いや……それは否定しないけど」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 02:05:15.29 ID:jnqGNfj+o
キンタコ懐かしいぜ
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/22(月) 02:14:52.45 ID:1xfG4leS0
ラストまで頼むぞ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 04:22:59.37 ID:nz33EWkdO
女さんの恋愛遍歴きになる
164 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:43:26.40 ID:3mGHJagbO
男「す……好きって……」

女「男さん」

男「はっ……はい」

女「返事は……まだ要らないです。きっと、男さんにも色々と考えるところがあるでしょうから……」

男「えっと……その……」

女「ですから……単純に、今の気持ちを伝えたかった。ただそれだけなんです……迷惑でしたか?」

男「めっ……迷惑だなんて……とんでもないよ」
165 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:44:16.13 ID:3mGHJagbO
女「本当ですか……よかったあ」

男(女さん……今まで、見た事の無い表情だ)

男(顔は少し赤らんでるけど……落ち着いてるっていうか、今の気持ちを味わっている途中というか)

女「……それでは、今日はこれで失礼します」

男「うん……気を付けてね」

女「もう、気を付けるも何も、家はすぐそこですよう」

男「……!」ドキッ

男(だめだ……彼女の一言一行に、心が……揺れる)

男「ま……またね、女さん」

女「はい……また、明日」
166 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:44:59.15 ID:3mGHJagbO
男「はあー……」

男(結局、何も言わないまま帰ってきてしまった)

男「俺……告白されたのか?」

男(まさか……モテ期なんて、生涯一度も来なかった俺だけど)

男(女さんは、本当に俺を好きになってくれたんだろうか)

男(俺みたいな……冴えない男を?)

男(何かの夢じゃないのか……)

男(嬉しい半分……困惑もあって、素直に喜べないや)
167 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:46:09.49 ID:3mGHJagbO
男(……会いたい、な)

男(って、さっき別れたばかりなのに、気持ち悪すぎだろ)

男(そういえば、また明日って言ってたか?)

男(もしかして、また編集部に来てくれるんだろうか)

男(……早く、明日にならないかな)
168 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:46:44.94 ID:3mGHJagbO

女「男さん、よろしくお願いしますね!」

男「君……いくら何でも、早すぎない?」

男(結局、今日も編集部まで来てくれたけど)

男「まさか……一日足らずで、一冊分書いちゃったわけ?」

女「いえ、構想は大体練ってありました」

女「昨日全て書いたのは……その、できるだけ早く……あの時の気持ちを文字に書きおこしたかったので」

男(つまり……一日で書いたんじゃねーかよ)
169 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:47:27.09 ID:3mGHJagbO
男(ありえねえ……ホント、とんでもない逸材だ)

男「えっと……それじゃあ、読んでもいいかな?」

女「はい! 喜んで!」

男(あれ? 今日は恥ずかしがらないな)

男(前みたいに、俺たちをモデルにした物語じゃないってこと?)

男(……! これ……)

男(引き込まれる……!)
170 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:48:15.29 ID:3mGHJagbO
男(一文一文に、思いが込められてて)

男(読み進める度に、主人公に気持ちが入り込む!)

男「すごい……な」

男(全身の毛が逆立つような感覚)

男(二番煎じで溢れているなかで……ここまでの作品を書いてくるなんて)
171 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:49:06.48 ID:3mGHJagbO
男「……女さん」

女「はい……何でしょう」

男「これ、主人公が男だけど」

女「……はい」

男「……女性が書いたとはまるで思えない。ミステリーとしては、かなりの出来だよ」

女「ほっ……本当ですか!?」

男(読み進めた感じ、前回のようなバッドエンドのフラグはどこにも立っていない。きっと最高の結末を迎えるんだろう)
172 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:50:03.69 ID:3mGHJagbO
女「良かった……本当に良かったです。実は、ミステリーを書いたのは初めてで……ちょっと不安でした」

男(ジャンルに限った処女作か……それでも、十分だよ)

男「ああ、きっと、今回も通るさ。それで……」

女「……ええ、勿論です」

女「今回は……出版するために書きました!」

男「ああ……ああ! 絶対通して見せるさ!」

女「私達、二人の夢ですからね! お願いしますよ、男さん!」
173 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:50:40.09 ID:3mGHJagbO
男(二人の……そうだった)

男(ホント……今更ながら、改めて考えると恥ずかしいな)

女「フフッ……えへへ。私達の……夢、かあ……」

男「おいおい……まだ決まったわけじゃないんだからさ」

女「はっ、はい……そうでした。浮かれるのはまだ早かったです!」

男「うん、よろしい。それじゃあ、今日もくつろいで……」

女「いえ、今日はここで帰らせていただきます」
174 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:51:15.57 ID:3mGHJagbO
男「え……何か、用事でもあるの?」

女「あ、いえいえ、そういうわけじゃないんですけど……まだ、書き足りないんです」

男「もしかして、まだ書きたいネタがあるってこと?」

女「はい! そういう事です!」

男(そっか……女さん、すっかり作家病にかかっちゃったんだな)

男「別に、空いてるパソコンとかあるから、それ使ってくれてもいいんだけど」

女「え……でも……えっと、ここだと……ちょっと」
175 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:51:54.53 ID:3mGHJagbO
男「ああ、そりゃあそうだよね。慣れない場所より、親しんだ場所の方が落ち着くよね」

女「いえ、違うんです。その……」

男「ん?」

女「ここは……男さんがいるから、ちょっと……集中できないっていうか。ここにいると、男さんにばかり気がいってしまいます」

男「え……そ、そっか。それじゃ……駄目だよね」

男(なんだよこの羞恥プレイ……!)

女「そっ、それでは……失礼します!」

男「あ、うん……気を付けてね」

男(行ってしまった……)
176 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:52:38.12 ID:3mGHJagbO

編集長「お前、何編集部でイチャイチャしてるんだ?」

男「もっ……申し訳ありません!」

編集長「ったく……見せつけやがって。うちなんか、最近カミさんとうまくいってねえってのに……」

男「あ……そうなんですか。あの、本当に申し訳ありません」

編集長「……いいよ、駄目とは言ってないさ。それよりも、原稿受け取ったんだろう?」
177 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:53:04.05 ID:3mGHJagbO
男「あっ、はい! 素晴らしいです、文句のつけようのない作品でした!」

編集長「そうか……なら、出版は確実だな」

男「はいっ……ありがとうございます」

編集長「こっちの方で確認をとる。決まり次第、男に連絡するよ」

男「はい! どうか、よろしくお願いします!」
178 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:54:20.12 ID:3mGHJagbO

男「……は? 今……何と、おっしゃいました?」

男(昨日の時点では、事がうまく運びそうだったのに)

男(何で……何で! こうなっちまうんだよ!)

編集長「だから、おめでとうって言ったんだ。来年の4月に出版が決まったぞ。良かったな」
179 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:55:14.57 ID:3mGHJagbO
男「来年って……どうしてそんなに遅いんですか!?」

編集長「男……何を驚いてる? 今に始まった事ではないだろう?」

男「そう……ですけど。どうして! よりにもよって、女さんなんですか!」

編集長「……男。それは、仕方のない事だ。出版枠が、そこまで全て埋まってしまっているからな」

編集長「それに、まさか女さんの作品を、受賞作品と同じ枠で出版するわけにもいかない。こればっかりは契約の問題で……どうしようもないことなんだ」
180 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/22(月) 23:56:06.15 ID:3mGHJagbO
男「そんな……」

男(そんなことって……あんのかよ)

男(だって、来年の4月って……)

男(その時には……女さんは、もう……)
181 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/22(月) 23:58:34.95 ID:3mGHJagbO
中途半端で申し訳ないですが、今日はここまでです。
ほとんど即興で、その場のノリで書いてますので、所々チグハグだったり伏線を拾ってなかったりするかもしれません。ご了承ください。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 01:20:52.75 ID:eFPMnlLl0
気になるところで終わらせやがって!ちくしょう!最後まで待ってるぞ!
183 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:13:35.39 ID:QbAaV9enO
男(女さんに、伝えるべきなんだろうか)

男(出版が、来年の4月になってしまったと)

男(俺達の夢が……叶わないかもしれない、と)

男(……伝えて、どうするんだ?)

男(伝えたところで、ただ悪戯に彼女を悲しませるだけじゃないのか?)

男(だが、隠したところで……いずれ知られてしまうに違いない)

男(いつまでも自分の本が出版されないことを、疑問に感じる日が来るだろうから)

男(わからない……どうするのが正解なのか)

男(俺には……わからない)
184 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:14:41.66 ID:QbAaV9enO
男(さて……毎度の事ながら、女さんと公園で待ち合わせしたんだけど)

女「……あっ、男さん!」

男「女さん……ごめん、遅くなった」

男(こっちに、ブンブン手を振ってる)

男(……可愛いな)

男(あの後、散々迷った挙句……女さんに話す事にした)

男(……真実を話すべきか、嘘を吐くべきか)

男(まだ……決めあぐねているのだけれど)

女「もうっ、男さんったら」

女「私、結構待ってたんですよ?」

男「うん、その……ごめんね、色々と立て込んじゃって」

男(ただ、俺が迷っていただけなんだけどね)
185 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:15:15.05 ID:QbAaV9enO
女「……ともあれ」

女「初めてですね!」

男「え? 初めてって……何が?」

女「私が、待つ側になった事です!」

男「待つ……ああ、そういうこと」

女「……はい。いつも私が、男さんを待たせてしまっていたので」

女「でも今回は、私が待ってましたよ!」

男(何だよ……その期待の眼差しは)

男(まるで、褒めて褒めてー……って、子犬が尻尾振ってるみたいだ)
186 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:15:53.81 ID:QbAaV9enO
男「……ああ、偉い偉い」ナデナデ

女「ふええっ!」

女「なっ……何してるんですか!?」

男「え、何って……ご褒美に頭撫でただけだろ?」

女「だけってなんですか! どうしていきなり……そんなこと……」

男「ごっ、ごめん! 嫌だった?」

男(しまった……流石に軽率すぎた……か?)

女「……男さん、女の子に対して、いつもそんな感じなんですか?」

男「まさか。女性の頭を撫でたのなんて、これが初めてだよ」

男(まあ、前に抱き着かれてるしな……酒入ってたけど)

男(頭なでなでくらい、今更……ねえ?)
187 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:16:34.81 ID:QbAaV9enO
女「へ……へえー、そうなんですか……」

女「ふーん……そっか……えへへ」

男「な……なんだよ、気味悪いな」

女「いーえ、何でもないです」

女「……別に、もっと撫でてくれてもいいんですよ?」

男「なっ……」

男(このタイミングで……上目遣いだと!)

男(く……断れるわけねえ)

男「……し、仕方ないなあ」

男「……これでいいかい?」ナデナデ

女「……!」

女「えへへ……ウフフ……////」

男(何だよ……だらしなく破顔させちゃって)

男(ホント……あざといんだっつーの)
188 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:17:22.69 ID:QbAaV9enO
女「……もう、いいですよ」

女「これ以上されると……ちょっと、ダメです」

男「え……ああ、分かったよ」

男「えーっと……それで……」

女「ふぅ……では、本題をよろしくお願いします!」

男「あ、ああ……そうだね」

男(本当のことを……話すべきなんだろうか?)

男(それとも……誤魔化すべきなんだろうか?)

男(何も、誤魔化しきれないわけではない)

男(出版が延期になりましたと言えば……その時は、多少は落ち込むだろうけど)

男(今この瞬間だけは……彼女を喜びに浸らせることができるんだ)

男(ただ、考えようによっては、それは残酷な事なのかもしれない)

男(要は、女さんを騙すってことだから)

男(……でも……でもさ)

男(出版されるのは、自分の死後になるかもしれないなんて)

男(そんな事実を突きつけられる方が……よっぽど残酷じゃないか!)
189 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:17:53.97 ID:QbAaV9enO
男「女さん……あの……ね」

女「男さん? どうしたんです?」

女「どうして……泣いているんですか?」

男「……え? 泣いてる……俺が?」

男(ああ……どうして)

男(頬を伝った、この一筋の雫の理由は……)

女「男さん……もしかして」

女「私の本の事で……何か、あったんですか?」

男「女さん……俺……俺……」

男「ごめん……ごめんね」

男「君が生きている間に……出版は、難しいかもしれない」
190 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:18:24.13 ID:QbAaV9enO
女「……!」

女「そう……でしたか」

男「ごめん……俺、何もできなかった……!」

女「……どうして、男さんが謝るんです?」

男「どうしてって……」

女「男さんは、何も悪いことなんてありません」

女「だって……仕方のない事、なんですよね?」

男「……女さん」

女「……それに」

女「出版は、決まったんですよね?」

男「……うん、決まったよ」

男「来年の、四月に」

女「来年……四月……そうですか」

女「……うん。大丈夫」

女「思ったほど、悲しくありません」

男(女さん……どうして、そんな笑顔を浮かべられるんだよ?)
191 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:19:28.67 ID:QbAaV9enO
男(……この笑顔)

男(いつかの、取ってつけたような、仮面の笑顔じゃない)

男(気持ちを押し殺して……それでも、必死に笑おうとしている)

男(俺に……責任を感じさせないために)

男(おい……俺)

男(まだ、あるんじゃないのか?)

男(女さんのために、やれることが……まだ、残ってるんじゃないのか?)

男「……女さん」

女「はい……?」

男「俺……できるだけの事、してみるから」

女「男さん……」

男「だからね……まだ、諦めないで」

女「……はい」

女「ありがとうございます!」

男(ああ……そうだよ)

男(俺は、彼女のこんな笑顔が見たいんだ)

男(まるで、太陽のように俺を照らしてくれる)

男(眩しい……笑顔をさ)
192 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 15:20:04.61 ID:QbAaV9enO
ここまで。夜にまた更新します
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/25(木) 20:04:57.37 ID:QZ20wJQRO
切ない
194 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/25(木) 22:18:41.49 ID:XS5+GGooO
編集長「おい、男……何してるんだ?」

男「見ての通りです……」

男「お願いしますっ! どうか……どうか……」

男「女さんの本の出版次期を速めては頂けないでしょうか!?」

編集長「……あのなあ」

編集長「頭上げろ……」

編集長「男が、そう簡単に頭を下げるもんじゃない」

男「だからこそです!」

男「この件だけは……どうか、了承しては頂けないでしょうか!?」

編集長「前にも言っただろう」

編集長「出版は来年の4月。契約の関係で、動かすことはできない」

男「……っ!」

男「編集長っ!」

編集長「……なんだ」

男「彼女は……女さんは……あと1年、持つかどうか分からないんです」

男「そんな彼女に……華を持たせてやりたい」

男「だから……この通りです」

男「お願いします……全責任は俺が負います! だから……」

男「女さんの出版枠を……確保しては頂けないでしょうか」
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