森久保乃々「ええっ。もりくぼ以外、もりくぼじゃないんですけど」

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67 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/17(月) 01:12:32.21 ID:LFrTF2RX0
陰毛の話はでてきません(残念)
生存報告
明日か明後日に投下します
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 18:20:22.42 ID:OTzLvkZA0
楽しみ
69 : ◆t6XRmXGL7/QM [saga]:2017/07/19(水) 22:57:54.50 ID:tq8aLlEv0
今日は学校です。目覚ましよりちょっと早く起きたもりくぼは、朝の支度をします。
トイレを済ませて、歯を磨いて、朝ごはんを食べて……また歯を磨いて。
そこで気づいたのですが、もりくぼ、毎朝こうやって鏡を見ながら歯磨きしてたじゃないですか。
なんでそんなことに気づかなかったんだろう。なんで自分と目を合わせるのにあんなに苦労していたのだろう……

なんだか昨日までのもりくぼの努力が徒労のように感じられて、少しげんなりしました。
歯を磨きながら、それでももりくぼは『意識して』自分の顔を見ることができたことを確認しました。
これがどんなに難しいことだったのかに思い出して、それを克服したのだから、進歩はしているのだ、と言い聞かせました。

口をすすいで水を泡とともに吐き出す。泡は水に流され、排水溝の奥へと吸い込まれてゆく。
再び顔を上げて、鏡の中の自分と相対する。

うん、やっぱり、さっきまで歯磨きしていたときと違うんだ。
今でも私はしっかり、鏡を通して自分を意識的に見ることができている。

徒労なんかじゃない。そう確信して、もりくぼはまた自信を取り戻しました。

行ってきます。いつもより少し大きい声で、そう言って家を出ました。
70 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 22:58:28.84 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
登校中、話はしないけど何となく一緒にいる2人と合流します。

乃々「……」コク

A「……」こくん

B「……」こく


いつもこんな調子で、全く会話はありません。
71 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 22:58:59.38 ID:tq8aLlEv0
ふと、昨日のことが頭によぎります。

『第1のハードルは乗り越えられそうか?』

第1のハードル。それは、他の人と少しでも目を合わせること。
今こそ実践の時です。

乃々「……」じーっ

A「……」

乃々「……」じーっ

B「……」

乃々「…………」じーっ

A「……?」くるっ

乃々「!!」さっ

あうぅぅ……つい目を背けてしまいました……いつも一緒にいるとはいえ、やっぱり他人です。
目を合わせるのは、鏡の中の自分よりも相当に難易度が高いです。

B「……?」くるっ

乃々「!」さっ

通学路では二人を見つめては振り返られ、振り返られては目を逸らすのを際限なく続けていました。
……結局、目を合わせることはできませんでした。
72 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 22:59:31.31 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜〜
授業中はいつもより身が入っていたと思います。板書も漏れなく取れたし、演習問題の出来も悪くありませんでした。
国語で当てられた時も、教科書で顔を隠していましたけど、いつもよりは大きな声で読めていたと思います。

本当は教科書で顔を隠しながらの朗読なんて論外だと言われます。小学校の時はそう言われてきました。
でも中学の国語の先生は私のことをわかってくれるので、好きです。
あっ、今は関係ないですか、そうですか……

……国語の先生は女性ですけど?
73 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:00:07.11 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜〜
そうしてその日の授業をつつがなく終え、私はそのまま事務所へ向かいました。
京浜東北線から山手線に乗り換えて、しばらくすると事務所です。
いつもは下ばかり見てたからわからなかったけど、目を上げて電車の外を見てみると、案外悪くない景色でした。
森久保の左から右へ、景色が高速で流れていきます。

住宅地、川、ちょっとした木々の立ち並ぶ道路の傍……それらが数秒で入れ替わり立ち替わり、窓の外を流れていきました。


……慣れない目の動かし方をしたせいかちょっと酔ってしまいました。
74 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:00:37.40 ID:tq8aLlEv0
今日は帽子が外れることなく、きちんと顔を隠して電車の乗り降りを済ませられました。
……いやいや、これじゃダメなんですけど……人と目を合わせないといけないのに、何で避けてしまうんでしょうか……

モヤモヤしながら事務所について、更衣室に入って制服から着替えました。
75 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:01:17.72 ID:tq8aLlEv0
プロデューサーがタブレットと書類の束を小脇に抱えてこちらにやってきます。


P「おう乃々。今日はインディヴィの3人と番組の人たちで2回目の打ち合わせだ」


……聞いてないんですけど。

P「18時からだから、遅れないようにな。レッスンも入ってるから、
先方には早めに終わることを伝えてあるから、遅れたらシャレにならない。頼むぞ」

乃々「は、はい……」
76 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:02:08.09 ID:tq8aLlEv0
……このプロデューサーは、こないだ私たちの担当になったばかりの人です。
仕事に熱心で、事務方からレッスンまで幅広くサポートできる凄腕の人です。

アイドルの扱い方が上手いらしく、担当になったアイドルはファンが増えたり、
芸風が広がったり、仕事が増えたりとまさに福の神のようなプロデューサーなのですが……

私達には、正直合わない人だと思っています。

こないだも言ったみたいに、仕事はいきなり持ってくるし、その内容も私達には相談もなかったものですから、私は頭が真っ白になったのです。
でも、決まってしまったものは仕方ない。だからこそ、私は変わらないといけないのですが……
……この人さえいなければ、こんな目に遭わなくて済んだのに、と思わないではいられません。

前の担当プロデューサー──インディヴィジュアルズ結成のきっかけをくれた、私たちの恩人──に、戻ってくれないかな、なんてことも、思っちゃいます。



P「乃々、早くしてくれ」

乃々「はい……」
77 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:02:42.86 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜
小さめの会議室に、私と輝子さんと美玲さん、そしてプロデューサーと、番組のスタッフさんが3人。そしてちひろさんの8人が居ました。
ちひろさんはスタッフさんにお茶を出した後、そのまま奥へ引っ込んでいってしまいました。

内容の打ち合わせ、と言っても、どれもこれもプロデューサーやスタッフさんが決めてしまったもので、私たちはハイハイと相槌を打つばかりでした。

美玲「なあ」

P「なんだ美玲」

美玲「ここにウチらの意見って入ってるのか?」

P「……」
P「で、ここの演出ですが、ここは……」

美玲「無視するなッ!!」

P「ごめん、美玲、黙っててくれないか」

美玲「一昨日の時もそうだったけど、これは打ち合わせじゃなくてただの内容確認じゃんかッ ウチらいる意味あるのか!?」
78 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:03:25.14 ID:tq8aLlEv0
プロデューサーは美玲さんの言葉をそのまま受け流して、スタッフさんとどんどん話を進めていってしまいます。
憮然とする美玲さんをよそに、番組の内容はどんどん具体的になっていきます。

食レポだとか、観光名所を巡るだとか、他の事務所の女優さんとの共演とか、物騒な単語がポンポン飛び出てくるのにもりくぼは気が気ではありませんでした。
結局プロデューサーとスタッフさんの4人で番組の骨子は決まってしまいました。

どうやら「東京の観光名所を巡りながら食レポをするバラエティ番組」ということになるらしく、
話がまとまったのか、スタッフさんたちはプロデューサーさんと握手をして帰っていってしまいました。



今回は一昨日と違って、内容はある程度把握できたし、一昨日よりは冷静ではいられたけど、決まったことはとんでもないことです。
いざ内容を反芻してみても、本当に出来るのか?という大きな不安は変わらずです。
79 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:04:01.16 ID:tq8aLlEv0
乃々「本当に、私達にできる気がしないんですけど……」

P「できる気がしない、じゃない。やるんだよ」

P「凛から聞いたぞ。番組に向けて自分を変えようとしてるらしいじゃないか」

P「そういうのを俺は期待していたんだ。頼むぞ」

ハッ、となりました。

鏡の前の特訓のことを言われて、背中に槍を突きつけられたような気分になりました。
もりくぼがやってたのは、ただ単に『その場で恥をかかず、なるべく無難にその場をやり過ごす』ために最低限のできることをやろうとしてただけなのに……
それを、プロデューサーはどうやら『番組に対する前向きな姿勢』と勝手に解釈していたようでした。
80 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:06:27.65 ID:tq8aLlEv0
インディヴィジュアルズの中で最も問題児の私がやる気なら、他の2人も付いてくるだろう。そう考えての暴挙だったのでしょう。
しかしこれに猛反発したのは、美玲さんでした。


美玲「そもそもオマエからの相談も前振りも無しで向こうから一方的に押し付けられてそれをやれって、
仕事としておかしいだろッ!?何考えてるんだオマエッ!!」


美玲さんはどんどんヒートアップしていきます。


美玲「しかも食レポに観光名所巡りだァ!?なんだよそのトンチキな内容の番組はッ!
いつもみたいにライブとか、それならゲリラ的なそれでもともかくさ!」

P「美玲、あのな……」

美玲「ウチは納得してないからなッ!!!」


美玲さんがふんっと鼻を鳴らして、そっぽを向きます。
そんな美玲さんに代わって、今度は輝子さんが

輝子「そもそも何で、一昨日の段階で内容が決まっていたのを疑問に思わなかったんだ……?」

と尋ねます。プロデューサーはそれに

P「『個性的な面々』が欲しいというのが先方の要求だったからだな」

と答えました。
81 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:07:31.30 ID:tq8aLlEv0
美玲「呆れた、それでウチらに何の相談もなく勝手に引き受けやがったってのかよッ」

美玲さんの怒りは止まりません。ちょっと……もりくぼ逃げたいんですけど……

美玲「アンタに担当が変わってから、こういうミスマッチばっかりだッ!早くライブの仕事が欲しいんだよッ!!」

P「ライブは当分ないぞ」

美玲「ハァッ!?」輝子「嘘だろ……?」乃々「……」

P「だって"インディヴィジュアルズ"なんだろ?」

P「『個性』を売りに行くわけだからな。しばらくはテレビ番組の仕事が続くぞ。まったく今回の仕事は渡りに船だった」

美玲「……」

P「そういうわけだ。台本や企画書、次の打ち合わせの日程は追い追い伝える。
2日もかからないはずだから、今日の打ち合わせの内容を各自覚えておくように。じゃあ」

美玲「オイ待てッ!」

美玲さんの叫びも虚しく、プロデューサーはそのまま会議室を出ていってしまいました。
82 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:09:04.83 ID:tq8aLlEv0
美玲「……あり得ないだろ……ッ」

輝子「正直、横暴だ……な」

乃々「……ごめんなさい」

美玲「は?ノノは何も悪くないじゃないか」

乃々「私が、人と目を合わせることの練習をしてたから……プロデューサーが勘違いしたんです……」

輝子「……まぁ、あのプロデューサーなら……ボノノちゃんのあの特訓を、そう捉える……だろうな」

美玲「にしても、相談もなしに勝手に仕事を取ってくるなんてアリかよ……ッ」

輝子「まぁ……あのプロデューサーがついたアイドルは必ず売れるって言われてるしな……」

美玲「売れる売れないの問題じゃないんだよッ!」

輝子「まぁ、抑えて……」

美玲「キノコも、普段のアレを封印されて、それで本領発揮できるのか!?」

輝子「言わないでくれ……私だってそれなりに悩んでる……」

輝子さんはこの状況をどうしたらいいのか図りかねているように見えました。
83 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:09:42.32 ID:tq8aLlEv0
美玲「じゃあなんであの時「も、もうやめてください……」」

輝子「ボノノちゃん……」

乃々「……今、どうこう言ったって、どうにもなりません……企画も動いちゃってるんです……」

美玲「でも……」

乃々「美玲さんの気持ちもわかります……でも」






乃々「やるしかないんです」







美玲「……」輝子「……」
84 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:10:47.00 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜〜〜〜
乃々「はぁぁああぅぅぅぅ〜〜……」

なんて、2人の前で大見得切ってしまいましたけど、正直私もまだ『第1のハードル』を超えていないのに、
このままテレビ番組に出演なんてできません。したら放送事故必至です。
でも、これで完全に引っ込みは付かなくなってしまいました。
なんとしてでも、人と目を合わせられるようにならないとダメなんです。


不安と焦りと恐怖が綯交ぜになりながら、私は女子トイレの鏡の前に居ました。
そこに映る少女の顔は、今にも泣き出しそうでした。


……ううん、こんな顔してられないんだ。
もりくぼが、やる気になったのが今回の全ての原因なら、もりくぼが全部解決しなきゃいけないんだ。
85 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:11:47.12 ID:tq8aLlEv0
大丈夫。もりくぼはできる。やらなきゃいけないんだ。


美玲さんと輝子さんにも約束したんだ。


もりくぼはできる。


もりくぼはやってみせる。




もりくぼは……

「できる……」


「もりくぼは、できる」


「もりくぼは、大丈夫」


「もりくぼは、成功させる」






「もりくぼは、やり遂げる」
86 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:12:33.84 ID:tq8aLlEv0
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
「もりくぼはできる」
87 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:14:07.22 ID:tq8aLlEv0
「もりくぼは、できる」

いつのまにか、夢中になって、自分自身に、いえ、『鏡に映る少女』に向かってできる、できる、やれる、大丈夫などと声をかけていました。
「できる、できる、できる……」

ハッと気づいて辺りを見回すと、外はもう暗くなっていました。

女子トイレにずっと入っているのを不審に思った2人から声がかかるまで、もりくぼはずっとそうしていたようでした。





でも、なんだか不思議です。

どうしてか、もりくぼの心からは不安や焦燥感が綺麗に無くなっていました。
88 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:14:48.78 ID:tq8aLlEv0
〜〜〜〜〜〜〜
いつまでも女子トイレにいる私に心配がる2人をどうにか先に帰して、今日も仮眠室で森の中へ行こうとしました。
親には遅くなることを伝えてあります。

もしここで泊まりになっても、此処から学校へ行けばいいだけの話です。
事務所のロッカーにはそのための制服の替えもありますし、シャワーもありますから問題ありません。

こんな時間の仮眠室なんて初めてですから、中に誰かがいるんじゃないかと不安になりましたが、知らない部署の男性が2人、寝ているだけでした。

知らない人でも寝てるならいいか、と、もりくぼはそのままソファに横になります。




「スゥゥゥゥ……ハァァァァァァーーーー……」
「スゥゥゥゥゥゥゥ…………ハァァァァァァァァァァァーーーー…………」



今回はすんなり行きました。
意識はストンと真下に落ち、黄色の光を手に取りました。
89 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:15:37.58 ID:tq8aLlEv0
両手を合わせるように光を包み込み、光の動きたいがままに開放してやります。

降り立ったのは、少しの銀色の針が残る芝生が茂る小高い丘でした。

森は、前に来たときとあまり変わっていませんでした。
雪は降っていませんでしたが、空は相変わらず六角形に割れていましたし、銀色のトゲは相変わらずまばらに残っています。

特に目を引いたのが森の木でした。
緑は並存しているものの、鉄のような銀のような金属質な何かが木々から突き出しているのがこちらから見えます。
割合的にまるで小枝の刺さった金属タワシみたいになっています。
見ようによっては、森の中に無理やり金属ゴミを捨てたみたいになっています。
90 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:16:08.02 ID:tq8aLlEv0
それらを祈りで消すことは森の中でもかなりの重労働でした。
木の質感を手触りで確認したり、金属を手で取り除いたりしていると、時間なんてあっという間に過ぎてしまいます。
木を一本元に戻すのに何分もかかるんですから、森を元に戻そうとしたら直ぐに現実に帰されてしまいます。

森久保は観念して、その金属を制御できないか試みました。

まずは森を操るように、緑色の筋を手元へと手繰り寄せます。
創造された森久保の森は、からくり人形よろしくこのようにすればある程度は動くのです。
91 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:16:58.47 ID:tq8aLlEv0
が。

案の定金属が邪魔をして森を動かすことができません。
金属が引っかかっていて、木々の動きを完全に封じているか、
緑色の筋を完全に断ち切られてしまった木もあるようでした。

しかしここまでは想定内です。

次は金属にそのままアプローチしてみます……
よくよく考えてみれば、金属は私が意図して表したわけではないはずです。

もりくぼの森はもりくぼが快適に過ごせるはずの場所……

だとしたらこんな邪魔なものは消してしまって然るべきなのです。
しかし消えろと念じても金属たちはウゾウゾと気味悪く蠢くだけで、消えるそぶりを見せません。
92 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:17:48.87 ID:tq8aLlEv0
では金属たちは操れるのか?
緑色の筋を手繰っていくと、私の後頭部から明らかに髪ではない何かの糸のようなものをつかみました。

直感的にこれが金属たちを操るスイッチだと確信しました。
引っ張ってみると、木にブロック状に寄生していた金属たちが同じ面をこちらに向けて回転し始めました。
昨日の大型金属ブロックも少し浮いて、ブロックの形にえぐられた地面の土が露わになりました。



金属のための筋は森久保から引き剥がそうとしてもどうしても剥がれませんから、緑色の筋に絡めるのは諦めました。
むしろ逆に、この筋を緑の筋に絡めてしまうのはどうだろうか。
93 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:20:41.28 ID:tq8aLlEv0
両の手指10本から伸びる緑の糸は光を伴いながら繋がる先を森からもりくぼ自身へと変えていきます。

ああ、緑色が私に流れ込んでくる……

目をつぶっても緑の風、水、旗が私を覆ったり撫ぜたり浸したり。
あそこに見えるのはブロッコリーに似ていますね。

これは……シダ植物の葉っぱです。

これは屋久杉。これはトタン屋根。これはボールペン。

青汁
シリア
信号機
クレヨン
座椅子




緑色の瞳。



形を持ったり意味を持ったり、その逆に意味を失ったり形を失ったりしながら、緑はもりくぼを押し流していきます。

いけない、このまま流れっぱなしだと森に飲まれてしまう。
94 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:21:17.32 ID:tq8aLlEv0
緑に飲まれかけながら自意識を森に固定したもりくぼは両の足で芝生と銀の針を踏み砕いて地面に降り立ちました。
指に残る感覚と後頭部の感覚が接続されているのがわかります。動かしてみましょう。

金属たちが、それはまるで最初から私のものだったかのように振る舞い始めました。
木から離れたり、ブロックの形であることを諦めたり、砕け散ったりしています。

金属を集めるように手と意識を持っていくと、金属たちは今度はブロックではなく、
パイプやギア、ダイヤル、ボルト、レバーなどに姿を変えて、木を避けるように自身らを再構築していきます。

次第に完成していく、森の中に無理やり建築されていく工場のような金属の組み合わせは森久保の自意識を反映しているのだなと直感しました。
95 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:21:49.73 ID:tq8aLlEv0
工場さん、工場さん。あなたはそう呼ばれることを望みますか?

木から遠慮がちに離れた、ちょっと錆びた煙突から蒸気が勢いよく噴出します。

工場さん。これからよろしくね。それから森さん、これからは工場さんと一緒になるけれど、大丈夫?

一陣の風が強く走り抜け、木々のざわめきがゴウゴウと鳴り轟きます。

よかった。仲良くできるよね。

私が安心すると、それを反映したように工場さんが働き出しました。
ガウンガウン、ゴンガン、ガシャンガシャン、プシュー、ガッチャン。

ちょっとうるさいかな。森の歌声が聞こえなくなっちゃいそう。

何を作る工場になったのかな。
気になった瞬間、景色は一点に集約されました。
今日はここまでのようです。
96 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/07/19(水) 23:22:46.47 ID:tq8aLlEv0
凛さんたちと抱擁を交わしている間、白い扉だけでなく、黒い扉の方にも変化が起きているのに気づきました。

なんだろう。と、黒い扉に手をかけると。




『大丈夫だよ。心配ないから』




乃々「!?」

黒い扉から声が聞こえて、慌てて手を引っ込めました。




銀と緑の積もる白い扉から頭痛とともに現実に帰ると、満月の月明かりが天高くから仮眠室に降り注いでいました。
97 : ◆t6XRmXGL7/QM [saga]:2017/07/19(水) 23:26:08.74 ID:tq8aLlEv0
今回も読んでくださってありがとうございました。
次回もよろしくお願い申し上げます。

次回は来週になればいいかなって思ってましたけどそろそろ8月ですね。
8月までに終わらせるつもりだったのにえらいこっちゃ。

参考楽曲
遠い音楽/ZABADAK
http://youtu.be/k_FyGYKBC1s
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:30:34.63 ID:y0/7m1k60
なんだなんだ雲行き怪しくなってきたな
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:35:06.12 ID:n9VfeRqT0
これ鏡に「お前は誰だ」ってやるやつの肯定バージョンか
確かに実際にやったらおかしくなりそうだ
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:44:23.65 ID:Bgg/ub1E0
いくらなんでもプロデューサーが強引すぎる
美玲がキレるのは当然

もりくぼの森工場は不自然に発生させてしまった義務感の表れなのかな
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:57:25.31 ID:0s26wBVA0
工場が何を意味するのかわからない・・・
もりくぼの森ちょっと何でもアリすぎて・・・
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/20(木) 14:01:47.38 ID:/JI+BBdA0

次が楽しみ
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/23(日) 21:55:38.54 ID:f3ji5ywA0
あら、そっち路線なのね
104 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/08/02(水) 01:23:54.69 ID:57b/1Bxn0
生存報告
精神状態に異常が出て長文を操れなくなりました
しばらくすれば治るので時間ください
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 20:17:33.23 ID:Sg+h9VRd0
>>93シリアってあるけどリビアの間違いでは
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 20:19:39.44 ID:Sg+h9VRd0
まあそのリビアも今や緑一色国旗じゃないけどさ
すまん、気になったので
107 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage]:2017/08/28(月) 21:19:44.61 ID:xgm0MkPv0
生存報告
リビアとシリア間違えてました……お恥ずかしい
9月4日を目標に投下したいと思います
108 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage]:2017/10/04(水) 15:18:58.20 ID:7yXM3q2c0
生存
色々押してて手が回ってなくて申し訳ない。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/13(月) 11:04:25.12 ID:7to/iN3ho
のんびりか
110 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/11/16(木) 01:22:50.83 ID:fieXAANr0
のんびりです。すみません。
生存。
111 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2018/03/15(木) 02:16:51.07 ID:8huswHwGO
生存
四月をめどに再開します
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