梨子「5年目の悲劇」

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204 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:21:50.60 ID:tV5HRLQYO
────梨子の部屋。

梨子「はぁ……」

明確な答えを出せないまま、時間だけが過ぎてゆく。

落ち着け。順番に整理していこう。


・11時:いなかった鞠莉と善子以外はロープウェイに乗った。高森が遅れて来た。

・彼女曰く、自分以外のスタッフには翌日にずらして欲しいとの連絡があったらしい。

・ロビーには、全員分の名前の紙と部屋の鍵、そして正午にロビーに集まるよう書かれた紙があった。

・正午:ロビーに、血の付いた『小原CEO』の紙と鍵。206号室に行くと、首を切断された鞠莉の死体があった。ロープウェイが通じず、後に外との連絡手段も全てシャットアウトされていたことが判明。

・昼食。13時半頃、唯一食べなかった果南の部屋の前に彼女の分を置いた。
205 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:22:44.71 ID:tV5HRLQYO
・果南から内線電話があった。

・16時頃、花丸からの内線電話。電話越しに殺害された。

・曜と一緒に306号室へ向かうとルビィがいた。果南、高森、千歌の順で集まる。

・曜にマスターキーを取って来て貰う。部屋には鞠莉同様、首を切断された花丸の死体。

・ルビィは果南の、曜と高森は自分の部屋へ。私は千歌と少しお話した。

・ちょっとしたアクシデントからフロントに行こうとして、高森と遭遇。

・17時頃、私と曜で夕飯を作る。果南とルビィ、少し時間を空けて千歌の順で食堂に来る。

・ルビィの部屋に絆創膏を取りに行くと、3階のエレベーター前で高森が殺されていた。

・夕食を食べ終え、現在に至る。
206 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:23:10.95 ID:tV5HRLQYO
梨子「……!」

おかしい。あまりにも不自然な箇所があった。

梨子「じゃあ、何でそんなことが……」

今まで見聞きしてきた事柄が、頭の中を駆け巡る。

徐々に霧が晴れ、目の前にあった正体不明が少しずつ形を明らかにしていくような、そんな感覚。
207 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:24:23.64 ID:tV5HRLQYO
梨子「だって、そんなこと……あ」

カーテンを開け、窓の向こうを見た時。ふと、その可能性に気付いた。

梨子「ある。たった一つだけ、方法が!」

思わず叫ぶ。いつの間にか外の雨も止んでいた。
208 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:24:55.36 ID:tV5HRLQYO
私は急いで室内電話の受話器を取り、3、1、0のボタンを押す。

果南『誰?』

梨子「もしもし、私です」

果南『梨子ちゃんか、どうしたの?』

梨子「少し、確認したいことがあって──」

───
──

209 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:25:45.67 ID:tV5HRLQYO
果南『そうだね。その逆も、昔見たことがあるよ』

梨子「やっぱり……ありがとうございます」

果南『でも、それを聞くってことは、まさか……』

私の手から受話器が滑り落ち、床にぶつかった。

まずい。これが真相だということは、犯人は──


果南『もしもし、もしもし!?』

梨子「あ、いえ大丈夫です。ちょっと受話器を落としちゃって……失礼します!」

ガチャ。勢いよく電話を切り、高森に返しそびれていたマスターキー片手に私は部屋を出た。
210 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:26:21.03 ID:tV5HRLQYO
────???号室。

「…………」

“彼女”は、明かりのついていないその部屋にいた。

ポリタンクの中身をぶちまけ、佇んでいた。

その部屋には、ベッドに横たわるもう一つの影があった。

“彼女”は、まだ温かいその身体に、口を開けた2つ目のポリタンクの中身をかけた。
211 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:27:08.32 ID:tV5HRLQYO
アクシデントもあったが、計画は概ね予定通りに進んだ。

窓を開ける。雨はもう降っていない。

「…………」

長かった計画も、最後の段階を残すのみ。

ポケットからマッチ箱を取り出し、中身を1本手に持つ。

さあ、この部屋に火を────
212 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:28:05.38 ID:tV5HRLQYO





「待って!」




213 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:28:43.25 ID:tV5HRLQYO
“彼女”は振り返った。ドアが開かれている。人影が立っている。

人影の正体は……桜内梨子だった。
214 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:29:29.61 ID:tV5HRLQYO
今回はここまで。次回から解答編です。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/03(月) 09:27:52.79 ID:Tpj+m9FDO
やべえ全然犯人分からん
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 19:52:39.49 ID:nHMdkgCf0
果南が非犯人だってこととロープが移動に使われてそうだってとこくらいしか分からんぞお
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/04(火) 21:01:58.87 ID:gRNe5luDO
果南に何を聞いたのかが分かればなあ
昔ってことは鞠莉関連かダイヤ関連か
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 02:46:25.56 ID:8dBB1W1JO
やべー
超おもしれぇ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 00:17:10.58 ID:tZN3La/Qo
まーたラブライブキャラが汚れ役やってる
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/06(木) 12:31:53.11 ID:B5qrpB6DO
千歌が露骨に怪しいけど犯人ではなさそうな気がするんだよな
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/06(木) 21:19:31.56 ID:m+rg/kJeO
こういう推理物だと明確にアリバイがある曜が一番怪しいのだがそれだとトリックがまったく分からん
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 22:37:34.34 ID:adMLGSLS0
全滅とは行かずとも半分くらい減るかと思ってただけに
もうちょい引っ張りそうに見えたがあっさり解決するのか
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 22:44:15.29 ID:VSKJyfd+O
仮に善子とダイヤも死んでるならちょうど半分だが
計画って言ってるし動機はしっかりあるんだろうけどさっぱり分からぬ
224 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:47:55.41 ID:qzmsVTnmO
梨子「待って!」

その声に“彼女”の手が止まる。

梨子「もう、あなたの計画は終わったの! あなたが仕掛けたことも、全部見抜いた! もうこれ以上は、意味がないの!」

まくしたてる。このまま、“彼女”がマッチを擦らないように時間を稼ぐ。

私は、その部屋に満ちている不自然なニオイにはとうに気づいていた。

いや。

犯人が誰か、どんな仕掛けを使ったのか。それらが分かった時点で、きっとこの部屋に火を点けるだろうと察したのだ。
225 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:48:38.68 ID:qzmsVTnmO
果南「ちょっと、これはどういうこと? さっきの電話は……」

騒ぎに反応し、果南がやって来る。

言いたいことは色々あるがまずは皆を呼んで来るようお願いし、私は更に“彼女”に言葉を投げかけた。

梨子「じきにみんなが来るわ。だから、そのマッチを捨ててちょうだい」

「…………」

廊下からの明かりしかない部屋の中で、“彼女”は尚も無言だった。

しかし、薄明かりの中でも抜け殻のような表情が窺える。

この計画をほとんど終わらせたにも関わらず、“彼女”は何も満足を感じていない。

それだけが、せめてもの救いに思えた。
226 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:49:12.72 ID:qzmsVTnmO
曜「梨子ちゃん!」

千歌「嘘……」

ルビィ「そんなことって……」

果南「みんな、連れて来たけど……だって、彼女は……!?」

背後から声がするが、私は振り向かない。
227 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:49:50.59 ID:qzmsVTnmO
千歌「どういうことか、説明してくれる?」

梨子「全部、彼女が仕組んだことだったの。鞠莉さんを、ダイヤさんを、そして高森さんを殺したのも、全部彼女が。そうよね?」

その声に合わせて、誰かが室内の電気のスイッチを入れる。
228 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:50:30.33 ID:qzmsVTnmO





梨子「────花丸ちゃん」

花丸「…………」



照らされた部屋の中央に居たのは、名指しを受けた国木田花丸本人に他ならなかった。
229 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:50:56.97 ID:qzmsVTnmO
果南「マルが、どうして……」

曜「だって、この部屋で確かに首を……なのに、何で?」

梨子「死んだフリをしただけだったのよ」

私は、花丸の目を見据えたまま推理を続ける。

彼女はまだマッチを捨てていない上に、自身もガソリンか何かを被っている。

この部屋に、何より彼女が自分自身に火をつけたらそこでお終いだ。

だから時間を稼いで、決心を鈍らせる必要がある。
230 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:51:49.77 ID:qzmsVTnmO
梨子「仕掛けは至って単純。あのテーブルに穴をあけて、そこから顔を出す。その上で、身体が下から見えないように鏡を置いた」

梨子「多分、あの黒い布には切れ込みが入っていて、首を出せるようにしていたんだと思う。そうすることで、穴と首の隙間を誤魔化したのよ」

一瞬、視界を部屋の隅へとずらす。

私の推理を裏付けるかのように、置かれているミニテーブルの中央には穴があいていた。

きっと、証拠隠滅のために燃やすつもりだったのだろう。
231 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:52:15.01 ID:qzmsVTnmO
ルビィ「でも、ベッドには首のない身体があったのに……」

梨子「あれのことね」

指で示した先。ベッドの上に、あの時の身体がまだ横たわっている。

千歌「え……じゃあ誰なの、あれは」

梨子「ダイヤさんよ」

花丸「…………」

視線を即座に花丸の方へ戻す。彼女は一言も喋らない。マッチから手を離さないまま、じっとこちらを睨んでいる。
232 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:52:44.02 ID:qzmsVTnmO
果南「あれがダイヤだっていうの!?」

梨子「そう。首を切断して、花丸ちゃんの服を着せてしまうことで、私たちはそれが彼女の身体だと錯覚してしまった」

曜「じゃあ、あの時点でもっときちんと調べていれば……」

ルビィ「花丸ちゃんが生きているってことはすぐに分かった、ってこと?」

梨子「ええ。でもそれは無理だったでしょうね。鞠莉さんも同じように首と胴体で分けられていたから……」

蓋を開けてみれば、実にシンプルな結論だ。

しかし、事前に『犯人は胴体と首を分けて置く』という刷り込みをされたせいで、致命的な勘違いを起こしていた。

ただ、それだけのことだったのだ。
233 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:53:26.18 ID:qzmsVTnmO
千歌「でも、何で分かったの? 花丸ちゃんが犯人だって」

梨子「……キッカケは、あの電話だった」

曜「電話って、花丸ちゃんから掛かってきたっていう、あれ?」

梨子「そうよ」

後方からの質問に応答しつつ、花丸の動向を観察する。

相変わらず微動だにしない彼女。だが、表情には少しずつ変化が表れていた。
234 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:53:52.90 ID:qzmsVTnmO
決心が揺らいでいる。

その瞳から、決意の色が薄れている。

心なしか、マッチを握る手からも少し力が抜けているように見えた。

もう一押し。

それを確信した私は、畳みかけるように推理の続きを話し始めた。
235 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:54:43.61 ID:qzmsVTnmO
梨子「リアルタイムで起きている殺人。それを印象づけることで、あの死体への違和感を更に消す。それが偽装死体の最大の肝だった」

梨子「現に私も、花丸ちゃんの演技に騙された。けど、よく考えたらそれは不自然なのよ」

果南「不自然?」

梨子「死体の首を切るまでの時間よ」

花丸「…………」
236 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:55:23.55 ID:qzmsVTnmO
梨子「よく考えてみて。電話越しに花丸ちゃんが殺されて、少し間が空いたけれど私はすぐに部屋を出た」

梨子「ここ306号室の前ではルビィちゃんが大声を出していたし、このあと窓からロープを伝って逃げなければいけない」

梨子「逃走する犯人の心理とは明らかに矛盾している、首を切るという手間の掛かる行為。手際が良すぎる犯行と相反する、被害者に電話をされてしまったという事実」

梨子「その違和感に気付いた時、もう、あの死体が偽装だったという考え以外は浮かばなかったわ」
237 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:56:04.32 ID:qzmsVTnmO
花丸「…………」

そこまで言い終えた私の前で、花丸の手からマッチが滑り落ちた。

私はそれを素早く奪い取る。

花丸「……バレないと思ったんだけどなあ」

ルビィ「花丸ちゃん……」

ようやく発せられた言葉は、犯人のあげた白旗だった。

けれども、私は既に気付いている。

その瞳の奥にはまだ明確な意思が残っていることも、それが何なのかも。
238 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:56:33.42 ID:qzmsVTnmO
花丸「そうだよ、マルが鞠莉さんたちを殺した。全部マル一人でやったの」

曜「なんで、こんなことをしたのさ」

梨子「そのワケはあとにしましょう。まだ、花丸ちゃんがついた嘘を明らかにしないといけない」

花丸「……!?」

花丸の目に、動揺の色が強く浮き出た。

やっぱり、彼女にはまだ隠そうとしていることがある。
239 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:57:42.57 ID:qzmsVTnmO
曜「嘘も何も、花丸ちゃんはもう認めてるんだよ?」

梨子「ええ、普通ならね。ここから先は、ある意味私にしか解けないようになっているのかも知れない」

千歌「話が全然見えないんだけど……」

梨子「あの電話には、もう一つ妙な点があった」

果南「ダイヤの声が入ってたっていう、あれね」

果南の視線は、『彼女』へと向いている。もう、全てを理解したのだろう。
240 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:58:20.10 ID:qzmsVTnmO
梨子「ええ、よく考えてみて。さっきも言ったけれど、花丸ちゃんはダイヤさんの死体を自分だと誤認させる方法を取ったのよ?」

曜「……あれ? じゃあ、その時はまだダイヤさんは生きてたってこと?」

梨子「いいえ、違うわ。それこそ、時間との勝負な状況下において、首を切断して、服を着せかえて……」

梨子「何より、そんな中で花丸ちゃんがSOSの電話をすること自体が不自然なの」

千歌「確かに、何やってんだろうこの人……ってなるよね」
241 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:58:51.53 ID:qzmsVTnmO
梨子「考えられるのは二つ。一つは、どこかでダイヤさんの声を録音して、それを通話の中に混ぜること」

梨子「けど、喋るかどうか分からないセリフを待つよりも、もっと単純な方法があった」

曜「単純な方法?」

花丸「…………」

花丸の視線が、私を突き刺す。

やめろ、それ以上は。そんな殺気をひしひしと感じる。
242 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 01:59:30.93 ID:qzmsVTnmO
梨子「さっき、果南さんに確認したわ。以前、ダイヤさん、果南さん、花丸ちゃん……AZALEAの3人で、淡島ホテルの手伝いをした時のこと」

梨子「あの時、ちょっとした騒動が起きて……ダイヤさん、花丸ちゃんを部屋から引っ張り出すために、ルビィちゃんの声真似をしたそうね」

果南「うん、とっても似てた。結局、ホテルの扉には覗き穴があるせいで無意味だったんだけどね」

梨子「そして、果南さんだけは知っていた。姉が妹の声を真似られたように、妹も姉の声を真似られるんだって」
243 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:00:00.69 ID:qzmsVTnmO
梨子「そうよね、ルビィちゃん」

ルビィ「…………!」

名指されたルビィは、既に顔面蒼白だった。

きっと、私が通話の違和感に言及を始めた時点で内心は穏やかでなかった筈だ。

彼女は何も答えない。口元が震えている。
244 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:00:48.97 ID:qzmsVTnmO
花丸「っ、ルビィちゃんは関係ないずら!」

梨子「私も、最初は花丸ちゃん一人だと思ってた。でも、あなたの偽装死体のことを考えれば、辻褄は合うのよ」

梨子「花丸ちゃんは、幾つもの仕掛けであれを死体だと思わせた。顔がまるで血の気を失っていたように見せかけていたのもその一つ」

梨子「じゃあ、その化粧道具はどこから調達したのかしら」


曜「まさか」

花丸「違う! それも、マルが買って持ってきたの!」

梨子「じゃあ花丸ちゃん、一つ聞いていいかしら」

花丸「……なんずら」

今にも泣きだしそうな声をしている。けれども、追及を止めるわけにはいかない。
245 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:01:55.12 ID:qzmsVTnmO
梨子「なんで、ルビィちゃんの部屋に電話をしなかったの?」

花丸「────!」

梨子「私の部屋は、花丸ちゃんの部屋から見て一番距離がある。演技とはいえ、一刻を争う事態だった筈よ」

梨子「でもあなたは、ルビィちゃんの部屋に電話をかけられなかった。何故なら、ルビィちゃんには部屋の前でドアを叩いてもらう役を演じてもらったから……違うかしら?」

花丸「違う、マルは……」





ルビィ「もういいよ、花丸ちゃん!」



246 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:03:22.99 ID:qzmsVTnmO
花丸「ルビィ、ちゃん……?」

ルビィ「梨子さん、完敗です。犯人は、花丸ちゃんと私。ほとんど、梨子さんの推理した通りです……」

梨子「…………」

実のところ、ルビィが共犯だという明確な物的証拠はなかった。

けれども、二人が共犯だと気づいた時。きっとこうしてやらないと、共犯者は名乗り出ない。

こうしてやらないと、彼女たちの性格からして、二人ともどうしようもないものを抱えたまま過ごしていくことになる……そう、思ったのだ。
247 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:04:00.13 ID:qzmsVTnmO
梨子「動機はやっぱり……善子ちゃんね」

梨子「教えてちょうだい。善子ちゃんと鞠莉さんたちの間に、何があったのか」

ルビィ「それは……」

花丸「善子ちゃんを、あの二人が奪ったから」

放たれた“動機”は酷く分かりやすく、それでいて残酷だった。

それを皮切りに、花丸はぽつりぽつりと話し始めた。
248 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:04:50.85 ID:qzmsVTnmO
花丸「善子ちゃんが大学受験に失敗したって話は、前にもしたと思う。それでしばらく引き籠ってたことも」

花丸「ある時、鞠莉さんが善子ちゃんを自分の会社に入れてくれた。形はどうあれ、善子ちゃんは外に出るようになった」

花丸「マルは、大学に通うようになってから一人暮らしを始めててね。会社に近いからってことで、善子ちゃんもそこで住むようにしたの」
249 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:05:44.94 ID:qzmsVTnmO
善子『結構広いのね、このアパート』

花丸『親には、ちょっと無理を言っちゃったずら』

善子『それにしたって部屋多いわよ。私が一つ使っても余るし、誰か泊めるつもりなの?』

花丸『あ、そこはルビィちゃんがこっちに来たとき用の部屋だよ?』

善子『なるほどね……』
───
──

250 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:07:17.73 ID:qzmsVTnmO
花丸「いつか、3人で昔みたいにお泊り会が出来ればいいなって、そう思ってた」

花丸「けど、3週間前のあの日。善子ちゃんから『たすけて』って、それだけ書かれたメールが送られてきた」

花丸「最初は仕事に疲れたのかなって、柔らかい布団と美味しいご飯を準備してた」

花丸「……でも、3日経っても善子ちゃんは帰って来なかった」

花丸「会社にも来てないみたいだし、流石に探しに行こうとして、そしたら、玄関の郵便ポストに善子ちゃんのケータイが入ってた」

花丸「悪いなとは思ったけど、マルはその中身を見た」
251 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:10:38.34 ID:qzmsVTnmO
花丸「ビックリしたずら。メモ帳の中にびっしりと、鞠莉さんの会社が黒澤家と組んで働いていた色々な不正が載ってたんだから」

花丸「その中には、果南さんのお店が潰れた原因が鞠莉さんだってことも書かれていた」

果南「……!」

花丸「善子ちゃんは、それを暴こうとして消されたんだって、そう思った」

梨子「……」


私は、まるで彼女の話についていけなかった。

企業の不正を告発しようとした社員が上層部に消されるという話は刑事ドラマなどでたまに見かける。

しかし、それを鞠莉とダイヤが実行していたということが、にわかに信じられなかった。

花丸「まだその時は半信半疑だったんだけどね……その日の夜、居ても立ってもいられなくて、ルビィちゃんに電話したんだ」

彼女の話は、尚も続く。
252 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:11:17.69 ID:qzmsVTnmO
ルビィ『……あ、花丸ちゃん』

花丸『どうしたの? 元気ないみたいだけど……』

ルビィ『……』

花丸『ルビィちゃん?』

ルビィ『あのね、お姉ちゃんが──』
253 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:12:55.53 ID:qzmsVTnmO
花丸「ルビィちゃんは、ダイヤさんから家族の縁を切られかけていた」

花丸「ファンレターに混じって、鞠莉さんたちに潰された企業の書いた恨み言のような手紙があったんだって」

花丸「それを問い詰めたら、ダイヤさんは……」

花丸「だから確信したの。やっぱり善子ちゃんは二人に消されたんだって」

……ダイヤはともかく、鞠莉はこの機会を逃せばいつ接触出来るか分からない。

それを踏まえると、二人の間に気の遠くなるような苦労があったことは想像に難くなかった。
254 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:13:51.13 ID:qzmsVTnmO
花丸「でもこれだけは信じて。ルビィちゃんは誰も殺してない。ただ、偽装トリックに協力してもらっただけなの」

花丸「あの二人は許せなかったし、マルの頭の回転が遅かったせいで、こんな方法しか思いつかなかった。でも、ルビィちゃんを犯罪者にすることだけは、どうしても抵抗があった」

花丸「だからせめて、いざという時は自分ひとりで罪を被れるようにって、そう思ったのに……!」

喋り続ける犯人以外、誰も言葉を発しない。

ただ、この哀れな少女の告白に、じっと耳を傾けることしか出来なかった。

二人の罪を赦す気にはなれない。しかし、許しがたいという憤りも、湧いては来なかった。
255 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:15:27.98 ID:qzmsVTnmO
花丸「だから、ルビィちゃんだけは……」

言葉が途切れ、力尽きたかのように、彼女は倒れた。

ルビィ「花丸ちゃん!」

長身の少女を受け止めたのは、小柄な少女だった。


花丸「ごめん、なさい……」

最後に、小さく呟いて、国木田花丸は意識を手放した。
256 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:16:31.57 ID:qzmsVTnmO
花丸は、ルビィの部屋に運ばれた。

彼女が目を覚まし救助が来るまでの間、皆が枕元についていた。

ルビィ「花丸ちゃん、昨日の夜に鞠莉さんを殺してから、ずっと寝てなかったんです」

ルビィ「それに、お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで、慌てちゃったみたいで……」

梨子「……そっか」

いつ眠りに落ちてもおかしくない身体で、アクシデントに対応しながら死体の演技をやってのけたのか。

その忍耐力と精神力は、流石だと評せざるを得ない。
257 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:17:38.16 ID:qzmsVTnmO
果南「鞠莉に店を潰された、か……。間違ってはいないんだけどね」

ルビィが席を外したタイミングで、果南が口を開いた。

梨子「?」

果南「まだニュースになってないから、知らないのも無理はないか」

曜「どういうこと?」

果南「2年前淡島の近くの海底で、貴重な新資源が見つかってね。いろんな企業や行政がそれを虎視眈々と狙ってた」

梨子「じゃあ、鞠莉さんたちは」

果南「うん。内浦を他所の手に渡さないために、汚いことに手を染めたんだ。私の店の近くは、特に資源が豊富だったみたいでね……」
258 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:18:35.72 ID:qzmsVTnmO
梨子「そんな……じゃあもし────」

ルビィが戻って来たのが視界に入り、続きの言葉を押しとどめる。

これ以上、彼女たちを追い詰めるような真似は出来なかった。


……救助が来て、花丸が目を覚ましたのは、翌朝のことだった。
259 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:20:23.73 ID:qzmsVTnmO
花丸「じゃあね、ルビィちゃん、みんな」

ルビィ「うん、待ってる。時間のある時は、会いに行くよ」

花丸「……ありがとう」

その日のうちに、花丸は警察に自首をした。

本人たっての希望で、ルビィが共犯だということは皆の中での秘密になった。

物的証拠もない以上、誰も反対する者はいなかった。

けれども私だけは、別の事柄で頭がいっぱいだった。
260 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:21:29.69 ID:qzmsVTnmO
花丸『……そういえば、梨子さん』

梨子『どうしたの?』

花丸『高森さんって、どうやって殺されたんずら?』

梨子『────え?』


この事件は、まだ終わっていない。

そう思わざるを得なかった。
261 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:22:54.94 ID:qzmsVTnmO
────8月1日、夜、梨子の家。


梨子母「明日には東京に戻るのよね」

梨子「……うん」

梨子母「まさか、お友達があんなことになるなんてね……」

梨子「…………」

事情聴取を終え、久しぶりの実家。

千歌たちも既に自宅に戻っている筈だ。
262 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:23:33.42 ID:qzmsVTnmO
『警察では、国木田さんから詳しい事情を──』

ニュース番組を消し、母が作った料理を食べる。

梨子母「どうだった?」

梨子「……美味しい。ありがとう」

梨子母「なら良かった。その魚、渡辺さんからお裾分けしてもらったのよ」

梨子「ごちそうさま。……?」

遅い晩御飯を終えて、席を立つ。ふと、壁に掛かっているカレンダーが目に留まった。
263 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:24:18.13 ID:qzmsVTnmO
梨子「お母さん、カレンダーまだ7月になってるけど……」

梨子母「ああ、もう8月だったわね。変えといてくれる?」

梨子「いいけど……この印は何?」

2022年7月と書かれたカレンダー。30日と31日の部分に、赤い丸印が付いていたのが妙に気になったのだ。

梨子母「ああ、それなら────」
264 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:26:51.40 ID:qzmsVTnmO
梨子「────!」

母の答えを聞いた瞬間、私はハンマーで殴られたような気がした。

そうか。そういうことだったのか。

感じていた違和感の正体が、ようやく実体を伴って姿を現した。
265 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:27:52.01 ID:qzmsVTnmO
梨子母「梨子、出かけるの?」

梨子「うん、ちょっと急用!」

あのとき見つけた真相は、表向きのものでしかなかった。

真実は、更に巧妙に隠れていたのだ。
266 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:28:52.97 ID:qzmsVTnmO
足早に家を出た私は、ある場所へと急いだ。

5年目の悲劇に、終止符を打つために。
267 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/09(日) 02:29:58.43 ID:qzmsVTnmO
今回はここまで。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/09(日) 02:39:08.37 ID:3rlj7gECo
全く続きが気にならなくて不思議
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/09(日) 03:39:41.29 ID:kfE/ZkKDO
昔のニコ生でふりりんがダイヤの声真似してたけどもしかしてそれか…
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/09(日) 08:38:52.22 ID:a69+3/nSO
探偵学園Q
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 01:10:16.34 ID:Fz1nOgDDO
やっぱり千歌が黒幕じゃないですかーやだー
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 16:22:31.46 ID:Qs4U8we5o
まーたちかっちがお話の犠牲になるのか
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 21:39:57.00 ID:8eZtxIa5O
モノローグ的に千歌は全部知ってたんだろうな
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 20:03:45.48 ID:xcvSW1Oo0
なんでこんな千歌が怪しまれてるのか分からんぞ
確かに果南関連で不穏な発言はあったものの
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 21:05:46.78 ID:k1FImR8DO
散々怪しさふりまいてたからじゃないの
って思ってたけど>>121でダイヤを花丸の部屋に向かわせた可能性が
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 00:45:02.29 ID:clC4UhXno
嫌ってる感はんぱない
277 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:38:25.20 ID:hUsgo0N0O
────浦の星女学院。


周囲に誰の姿もない、施錠された校門の前に、彼女は立っていた。

「なんでここにいるって分かったの?」

そう語る彼女は、言葉とは裏腹に、私がここに来るのを分かっているようだった。

むしろ、私が来ることを待っていたようにさえ見えた。
278 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:40:09.99 ID:hUsgo0N0O
梨子「5年前、Aqoursが9人揃ったのもここだった。そして今日は、昨日までの雨で延期になった沼津夏祭り、花火大会の日」

梨子「そう、Aqoursがユメに向かって本当の意味でスタートした日……でしょ?」

「…………」

梨子「結論から言うわ。今回の事件には、裏で手を引いていた黒幕のような人がいた」

「根拠はなに?」

彼女はただ嬉しそうに、それでいてどこか寂しそうに笑っていた。

まるで、その推理の続きを聞かせてくれと言わんばかりに。
279 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:41:47.11 ID:hUsgo0N0O
梨子「善子ちゃんの復讐を動機とした花丸ちゃんに、黒澤家絡みの一件で協力者の立場になったルビィちゃん」

梨子「でも、後から考えてみると、この動機にはどうしても納得のいかない箇所があった」

梨子「何故鞠莉さんたちが、Aqoursの皆が集まり、テレビの関係者が来ると分かっていながら善子ちゃんの存在を抹消したのか」

梨子「もちろん善子ちゃんが余程重大な証拠を握っていた可能性もあるけれど、そこまで躍起になるような人たちなら、善子ちゃんのスマホだって血眼で探すんじゃないかしら」

梨子「最悪、花丸ちゃんにまで危害が及んでいてもおかしくはない」
280 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:42:30.48 ID:hUsgo0N0O
梨子「何より、花丸ちゃんの言っていたことが正しいなら、善子ちゃんが行方不明になったのは3週間前」

梨子「それだけ時間があれば、もっともらしい理由をつけて同窓会はなくなった、と連絡すればいいのに、何故しなかったのか」

梨子「その疑問は、思い切って発想を逆転させてみたらあっさりと晴れたわ。善子ちゃんの行方を握っているのは、別の誰かなんじゃないかって」

「…………」

ひとつ呼吸を置く。既に、彼女の顔に笑顔は浮かんでいなかった。
281 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:43:24.43 ID:hUsgo0N0O
梨子「ルビィちゃんはこう言ってた。『お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで』って」

梨子「考えようによっては、ダイヤさんが動機から逆算して花丸ちゃんにたどり着いたようにも見える」

梨子「けれども、その誰かがダイヤさんに何らかの形で花丸ちゃんが犯人だと教えたとも考えられるわよね」

梨子「さっきも言ったようにこの事件に黒幕がいたとするなら、その人は善子ちゃんのスマホを花丸ちゃんに送り付け、焚きつけたことになる」

梨子「だからあなたにとって、鞠莉さんが殺されることは想定の範囲内だったんじゃないかしら」
282 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:45:24.14 ID:hUsgo0N0O
梨子「もう一つの根拠は、高森さんを殺したのが花丸ちゃんではなかったこと」

梨子「彼女は自分を犠牲にして、ルビィちゃんを庇おうとした。当然警察には高森さん殺しについても問われることになる」

梨子「もしそこでボロが出たら、自分以外に殺人犯がいる可能性に気付かれる──それを恐れて、彼女は私に高森さんがどうやって死んだのかを聞いてきた」

梨子「花丸ちゃんは高森さんを殺したのがルビィちゃんだと思い込んでいた。ただ、あの時ルビィちゃんには完璧なアリバイがあったことを、彼女は知らなかった」

梨子「だから、やってもいない罪を庇うなんて不可解な状況が出来上がった」

「つまり、何が言いたいの?」
283 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:47:10.03 ID:hUsgo0N0O
梨子「…………」

思わず唇を噛む。握り拳に力が入る。

彼女は、一切の弁明をしようとしなかった。

それどころか、最後の結論さえも私の口から言わせるつもりでいたのだ。

ふぅと息を吐き、言いたくなかったその答えを、口にする。



梨子「あなたが高森さんを殺して、その罪を花丸ちゃんになすりつけた。黒幕はあなたよ、千歌ちゃん!」

284 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:48:46.34 ID:hUsgo0N0O
千歌「正解だよ、梨子ちゃん」


出来ることなら聞きたくなかったその台詞が、遠慮なく放たれた。
285 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:50:15.00 ID:hUsgo0N0O
梨子「千歌ちゃん自身は何も証拠を残していない。花丸ちゃんは誤解をしたまま」

梨子「あなたを捕まえても、花丸ちゃんとルビィちゃんが傷つく結果しか得られない」

梨子「ある意味でこれは完全犯罪と言っていいものよ。何しろ本当のことを知っているのは千歌ちゃん、あなたしかいないんだから」

千歌「いま梨子ちゃんに話したけどね」

梨子「ねえ、千歌ちゃん。いったい何があったの? わざわざ花丸ちゃんたちをけしかけてまで、鞠莉さんとダイヤさんの命を奪う動機は──」
286 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:50:49.66 ID:hUsgo0N0O
千歌「善子ちゃんが死んだのは、私のせいなんだ」

そう言った千歌の目に、後悔とも怒りとも取れる感情が浮かび上がり。

やがて、千歌の告白が始まった。
287 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:52:22.05 ID:hUsgo0N0O
千歌「善子ちゃんが大学受験に失敗したことを知ったのは、本当に偶然だった」

千歌「けれども、私も大学を中退した直後でね。何かをしてやれるような気分でもなかった」

千歌「そんな時、日本を発つ前の鞠莉さんとお話する機会があったの」

梨子「……それで、鞠莉さんに善子ちゃんを助けてあげるよう頼んだのね」

千歌「結構いい案だと思ってたし、実際、善子ちゃんは目に見えて元気になっていた」

千歌「善子ちゃんなりに恩を感じてたからなんだろうね。最初に相談を持ち掛けたのが、私だったのは」
288 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:54:15.88 ID:hUsgo0N0O
梨子「相談?」

千歌「9人で集まるって約束をした日から1週間くらい後だったかな。善子ちゃんから電話があったんだ」

千歌「ほら、果南ちゃんが言ってたでしょ? 内浦の海で新資源が見つかった話」

千歌「それ絡みで鞠莉さんたちがやってる不正……癒着? 横領? っていうのかな。善子ちゃん、それを知っちゃってね」

千歌「かなりギリギリのやり方だったらしくて、いつバレてもおかしくはなかった」

千歌「おまけに、海外の企業までその資源に目を付け始めてね。善子ちゃんはどうすればいいか悩んでた」

千歌「止めさせなければいつか小原グループも黒澤家も警察の介入で潰される。止めさせてしまえば、内浦が、私たちの町が余所者に荒らされる」

千歌「それで、今すぐ会えないかって。一度どこかで待ち合わせして、私の家に行く予定だった。果南ちゃんもいるしね」

千歌「……それなのに」
289 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:55:57.80 ID:hUsgo0N0O
千歌『海岸通りで〜……待ってたのに〜……』

千歌『き〜みは今日来て……あ、来た』

千歌『おーい!』

善子『────!』

千歌『ひさしぶ──後ろ、よけて!』


キキィィィィィィィィ  ドン
290 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:57:16.19 ID:hUsgo0N0O
梨子「轢き逃げ……」

千歌「救急車を呼ぶまでもなく、即死だった。他に人通りもなかったし、轢いた車にも逃げられて、私にはどうすることも出来なかった」

千歌「私の家に直接来るように言えば、善子ちゃんが小原グループの秘密に気づかなければ」

千歌「もっと言えば、私が善子ちゃんを小原グループに入れさせなければ、善子ちゃんはあんな死に方をせずに済んだ」

梨子「あなたは、その矛先を……鞠莉さんたちに向けたっていうの?」


こくり、と力なく頷いた千歌に。

私は反射的に、平手打ちを浴びせていた。
291 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 01:59:05.55 ID:hUsgo0N0O
ふざけるな。

千歌のやったことは逆恨みでしかない。

八つ当たりで、その上こんな卑劣なやり方で、人の命を奪ったというのか。
292 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:00:52.59 ID:hUsgo0N0O
千歌「……最初はね、私が鞠莉さんたちを殺すつもりだった。けど私にそれをする勇気はなかった」

頬を押さえながら、千歌が呟いた。

千歌「善子ちゃんを海に捨てて、あとは全部花丸ちゃんに押し付けた。彼女がどうしようと、その結果を私の答えにすることにした」

まさかルビィちゃんを巻き込むとは思っていなかったけど、と彼女は自嘲気味に付け加えた。
293 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:01:52.09 ID:hUsgo0N0O
千歌「高森さんは……悪かったって思ってる。あの人、花丸ちゃんのことに気付き始めていて、私の部屋まで来たんだよ」

千歌「でも、Aqours以外の人に事の成り行きをどうにかされるのは、癪だったから……」

梨子「……あなた、おかしいわよ」

千歌「分かってもらおうなんて、思ってないよ」

間髪入れずに、否定の言葉が返された。
294 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:03:09.82 ID:hUsgo0N0O
千歌「梨子ちゃんには……ううん、誰にも分からないよ。目の前でメンバーを殺された私の気持ちは」

千歌「あの頃のように、一つのユメを追っていたワケじゃない。みんなバラバラになってしまった」

千歌「だってそうでしょ? 生まれた環境も育った環境も違う9人が大人になって、いつまでも仲良く出来るワケじゃない」

千歌「現に、今の私を梨子ちゃんが理解出来ていない」

千歌「ユメを掴んだ人と、ユメを諦めた人」

千歌「分かり合える筈、なかったんだよ……」
295 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:04:56.09 ID:hUsgo0N0O
梨子「…………」

返すべき言葉が浮かんでは、喉の手前で消えてゆく。

善子が死んだその日から、或いはAqoursが優勝したその時から既に、彼女の頭のネジは外れてしまっていた。

それこそが、今回の事件の根幹だったのだ。
296 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:06:49.12 ID:hUsgo0N0O
千歌「ねえ、梨子ちゃん」

千歌「私たちは、Aqoursは、輝いてたんだよね。あの日々は幻じゃ、なかったんだよね」

言いながら、彼女はポケットの中に手を突っ込もうとする。

その意味を知っていた私は腕を掴み、叫んだ。

梨子「幻なんかじゃない! 楽しいことも辛いことも、全部ひっくるめてあの日々があった!」

自分でもビックリする程、その声は熱量を持っていた。
297 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:07:42.80 ID:hUsgo0N0O
梨子「私たちは確かに、輝きを掴んだ。私だって、あの日々の、千歌ちゃんのお陰で変わることが出来た!

梨子「千歌ちゃんと会えなかったら、スクールアイドルだけじゃない。今のユメだって、きっと諦めてた!」

梨子「それを、なかったことにしちゃいけないの!」

彼女のポケットから、隠し持っていたライターを力ずくで奪う。
298 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:09:27.23 ID:hUsgo0N0O
千歌「…………」

千歌「そっか……そうだよね」

千歌「ありがとう、梨子ちゃん」

憑き物が落ちたように、彼女は笑った。
299 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:10:09.95 ID:hUsgo0N0O
千歌「……梨子ちゃんが来なかったら、このまま学校に忍び込んで死のうって思ってた」

少しして、不意に飛び出た言葉に私はぎょっとした。

梨子「怖いこと言わないでよ。千歌ちゃん、火をつけるつもりだったんでしょ? 服の上からでもライター持ってるって分かったんだから」

千歌「あ、バレてた?」

梨子「千歌ちゃんの考えることなんて大体分かるんだから」

傍から見れば物騒な会話。だが、5年ぶりに、私と千歌が心の底から笑い合える会話だ。
300 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:11:09.09 ID:hUsgo0N0O
千歌「でもライターは返して欲しいな。最後に、これだけは燃やしたいから」

反対側のポケットから取り出したのは、一枚の羽根だった。

くすんでいて、拾ってからかなりの時間が経っている。

元の色は分からなくなってしまったけれど……きっと、真っ白だったのだろう。
301 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:12:41.70 ID:hUsgo0N0O
千歌「…………バイバイ」

灰になった、かつて受け取ったユメを眺めながら、千歌は小さく呟く。

あれから5年。彼女は何を思っているのだろう。

変わっていった皆に、自分に、どんなことを感じていたのだろう。

暗い表情からそれを読み取ることは、出来なかった。
302 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:13:35.70 ID:hUsgo0N0O
梨子「これから、どうするの?」

千歌「どうだろう。警察に行くかは……少し、考えさせて」

くるりと反転し、私に背を向ける。
303 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/16(日) 02:16:43.56 ID:hUsgo0N0O
千歌「梨子ちゃんはどうするの? 明日には東京に帰るんだっけ?」

梨子「ええ。ケガしちゃったから、しばらくピアノはお預けだけどね」

千歌「たまにはさ、こっちに帰って来てよ。それで、曜ちゃんや果南ちゃんに話してあげて」

千歌「梨子ちゃんが掴んだ、ユメの続き」

あの頃と変わらない笑顔を見せながら、一度だけ振り向いた。
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