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佐久間まゆ「プロデューサーさんとの明日」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:30:57.32 ID:3uv3ojMy0
ループもの
思いつきで書いたから短い
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1496233857
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:31:31.88 ID:3uv3ojMy0
世界を繰り返して、出会いを繰り返して、別れを繰り返して・・・。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:32:14.05 ID:3uv3ojMy0
4月の終わり。
花が少し残る葉桜を見つめながら、
まゆは公園で立ち尽くしていました。
モデルのお仕事、そこそこのお金。
10代の女の子としては、十分なまゆの人生。
だけど何処かむなしくて、さびしい。
お勉強は満点が取れるまで繰り返して、
運動も競争に勝てるまで繰り返して、
一番になれるまで、まゆは世界を繰り返しました。
とんでもないずる ≠してきました。
でも・・・まゆは後悔をなくす代わりに、
納得も満足もできなくなってしまいました。
もっと良い人生、もっとしあわせな10代、
それが今じゃないどこかにある気がして・・・。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:33:32.36 ID:3uv3ojMy0
まゆの幸福。まゆの知らない、温かな明日。
まゆはそれを追い続けて、尻尾をくわえた犬のように、
その場をぐるぐる回り続けるのでしょうか。
永遠に。
そう考えると、身体がひやっと冷たくなります。
今日は、なにか温かいものでも食べよう。
桜が散り尽くした公園から出ようとすると、
人の視線を感じました。
男の人。
くたびれたスーツを着て、困ったような、
申し訳ないような顔をしてる。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:34:25.57 ID:3uv3ojMy0
まゆは久しぶりに、まゆが知らない人に会いました。
明日も昨日も繰り返していると、
まゆにとっては“見知らぬ”人はいなくなっていくのに。
彼は片手に雑誌を持っていました。
よく見ると、まゆが表紙に写っています。
ひょっとして、ストーカーさん?
でも、面倒になったら戻れば≠「いか。
そんな考えで、まゆはその男の人に話しかけました。
「…まゆに何か御用ですかぁ?」
男の人は、びくりと肩を震わせました。
年上の男の人だけど、なんだか可愛い仕草でした。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:35:48.03 ID:3uv3ojMy0
「さっ、佐久間さん!」
「はい」
男の人は、少し上擦った声をあげました。
顔は赤くなって、足はかすかに震えています。
もしかして、 告白 ?
こんな経験も何度もしていますから、特に恥ずかしい、
うれしい、という気持ちにはなりません。
「まゆ・・・さん」
男の人は、もじもじとして言葉がつづきません。
そういえば、この人は休日の昼に、何をしている人なのでしょう。
就活、というほど若くもなさそうだけれど・・・。
「えっと、その・・・・佐久間まゆさん」
「はい。まゆに惚れましたかぁ?」
少しじれったくなって、まゆは男の人に聞きました。
すると、男の人は分かりやすく動揺しました。
「いや! その惚れたっていうか、
その・・・いや確かに惚れた。
うん、惚れた。俺は君に惚れた! 一目惚れだ!!」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:36:35.31 ID:3uv3ojMy0
緊張して縮こまっていたかと思えば、
急に大胆なことを言う。不思議な男の人。
でも、まゆはこの人とは付き合えません。
運命なんて信じていませんでしから。
胸はドキドキしないし、顔も熱くならない。
だから、交際はお断りしよう。
そう考えていたまゆに、男の人は言いました。
「佐久間まゆ。君は、アイドルになるべきだ!!」
「・・・・・はい?」
これが、プロデューサーさんとの初めての¥o会いでした。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:37:34.75 ID:3uv3ojMy0
アイドル。
キラキラ輝いて、見る者全てを魅了する存在。
みんなを笑顔にする、魔法使いのような存在
でも、それは表面上で、
実際には熾烈な競争の世界に生きている。
苦しいレッスンをこなして、オーディションを受けて、
またレッスンをこなして、他のアイドル候補生の羨望と
怨嗟の視線を浴びながら、舞台に立つ。
でもまゆは、プロデューサーさんの
スカウトを受け入れました。
まゆはやり直せますし、
人生に劇的な変化が欲しかったから。
レッスンは、やはり苦しいものでした。
やり直すと身体の状態はリセットされてしまうから、
まゆは久しぶりに、普通の女の子として過ごしました。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:38:45.02 ID:3uv3ojMy0
でも普通の少女では、アイドルにはなれませんでした。
初めてのオーディションの結果は散々でした。
歌の歌詞は間違え、ダンスではつまずき、
最後はとうとう涙ぐんで、審査員に呆れられました。
やり直そう。久しぶりに。
まゆは完璧なアイドルを目指しています。
だから、この時間はもういらない。
でも、 オーディションの前日に戻ろうとするまゆを、
プロデューサーさんの声が止めました。
「まゆ!」
「プロデューサーさぁん」
自分でもびっくりするくらい、悲しい声がでました。
「まゆ。よく頑張ったな」
プロデューサーさんは、まゆのことを褒めてくれました。
「でも、まゆは失敗しちゃいました」
だから、この時間のまゆはいらない。
「プロデューサーさん・・・ごめんなさい」
“今度”はもっと頑張りますから。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:39:48.43 ID:3uv3ojMy0
でも、プロデューサーさんは私を引き止めました。
いえ、引き止めてくれたんです。
「俺は絶対に成功するアイドルをスカウトしたんじゃない。
失敗するし転んだりもする。
だから♂梔せずにはいられない。
俺があの日見つけたのは、そんな女の子だ」
この時、まゆは恋に落ちました。
そして、時間を巻き戻すことをやめました。
プロデューサーさんの言葉を、なかったことにしたくなかったから。
私は以前よりも、ずっと懸命にレッスンを積みました。
プロデューサーさんの期待に応えたい。
そう強く願いました。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:42:26.84 ID:3uv3ojMy0
念願のアイドルデビューの後は、私は夢見心地で毎日を過ごしました。
お仕事は楽しい。
他のアイドルの子達もみんないい子ばかり。
ああでも一番うれしいのは、
プロデューサーさんがそばにいること。
過去と今しかなかったまゆの明日に、
こんな幸福が待っていたなんて。
ここはまゆにとって最高の10代ではないのかもしれません。
でもずっと、ずっとこんな毎日と明日がくればいい。
本当に、そう思いました。
だけれど、“ずる”の代償は、その明日の中に待ち構えていました。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:43:47.33 ID:3uv3ojMy0
ある日、まゆはプロデューサーさんと
一緒に外を歩いていました。
「プロデューサーさんの血液型って、B型ですか?」
「そうだよ」
「まゆもB型、運命ですね…」
運命。ちょっと気恥ずかしい。
こんな言葉を簡単に使えるようになりました。
「いや、でも俺はRh−だから」
プロデューサーさんは顔を赤くして、そうはぐらかしました。
「まゆもマイナスです」
そう言ってまゆがにっこりすると、
プロデューサーはぷいと顔をそらしました。
こんな他愛のない会話もすべて愛おしかった。
でも、突然終わりがきました。
まゆとプロデューサーさんが、人混みの中で
スクランブル交差点を歩いていると、
人がこちらへ吹き飛んできました。
重トラックが、交差点で暴走していたのです。
飲酒運転。それを、私は後から知りました。
「まゆ、あぶない!!」
プロデューサーさんは私を庇って、トラックに轢かれました。
即死でした。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:45:39.85 ID:3uv3ojMy0
「いやぁぁああああ!!」
まゆは叫び声を上げて、あの公園に戻りました。
3年前。プロデューサーさんと会う前に。
まゆは公園から飛び出しました。
こんな苦しい思いをするくらいなら、出会わなければよかった。
アイドルになんて、ならなければよかった!!
プロデューサーさんに会いたい。そんな気持ちを押し殺して、
まゆは公園から離れました。
そして駅のホームのベンチで、静かに泣きました。
プロデューサーさん。プロデューサーさん。
なんども名前を読んで。
「すみません、どうかしたんですか?」
ある男の人がまゆに話しかけてきました。
その人はハンカチを差し出して、まゆが写る雑誌を持っていました。
「…あなたの血液型は、なんですか?」
まゆはその人に尋ねました。
「え?」
その人は驚いていました。当たり前ですね。
さっきまで泣いていな女の子が、急に血液型を尋ねてきたら。
「まゆはB型です」
「あっ! え!?」
その人は雑誌と私を見比べて、また驚いていました。
でも、やっぱり変に律儀なところがあって、まゆの質問に応えてくれました。
「俺もB型だけど…」
そう、あなたの血液型は。
「「Rh−(マイナス)」」
プロデューサーさんは、呆然としてまゆを見ました。
「運命ですね…」
そう言葉にすると、また涙が、ぽろぽろと出てきました。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:46:53.72 ID:3uv3ojMy0
プロデューサーさんを助けないと。
まゆはまたアイドルになって、プロデューサーさんを守ろうとしました。
でも、三年後の4月25にまた、プロデューサーさんは死んでしまいました。
まゆのストーカーに路上で刺されてしまったのです。
私はまた戻って、今度はプロデューサーさんの手を引いて
東京から仙台に向かいました。
トップアイドルと敏腕プロデューサーの駆け落ち。
テレビや雑誌では、大騒ぎになっていました。
どこか安全な場所へ。どこか。
そう思いながら、駅のホームにいると、
プロデューサーさんの姿が突然消えました。
そして、新幹線がものすごいスピードで通り過ぎて、
ホームが血だらけになりました。
「ず、ずるいぞぉ。
さ、さ、佐久間チャンを独り占めしようなんて、」
Pさんは、まゆのファンによって線路に突き落とされました。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:48:29.19 ID:3uv3ojMy0
まゆと出会ったプロデューサーさんは死んでしまいます。
この運命は、まゆがどんな努力をしても
変えることはできませんでした。
でも繰り返しが増えるたびにまゆは理解しました。
プロデューサーさんは、まゆのせいで死んでいる。
まゆを庇って、まゆのファンに殺されて。
4月25日。
この日、部屋から全く出なければ、
まゆとプロデューサーさんが出会うことはありません。
まゆとプロデューサーさんは見知らぬ二人のまま。
まゆはマンションのドアの前に立ち尽くして、
ようやく4月26日を迎えたとき、ぺたりと座り込みました。
もう涙さえ枯れていました。
出会いはなくなりました。そして、別れさえも。
もうすぐ5月なのに、すごく寒くて、まゆは毛布にくるまって眠りました。
そうして、プロデューサーさんのことを忘れようと努力しながら、
3年間を過ごしました。
ほかのアイドルと一緒でもいい。生きてさえ、いてくれれば。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:50:00.25 ID:3uv3ojMy0
そして4月25日の夕方、テレビをつけました。
いつもと変わらない、つまらなく、
ひどく寂しい毎日のはずでした。
「今日の昼頃…渋谷の交差点で…」
まゆははっと顔を上げました。
ニュースキャスターの声が、残酷なくらい無機質でした。
「男女4人が死亡。
男性1人が重体となって…」
重体。プロデューサーさんは辛うじて生きていました。
「臓器の提供が…男性は…」
まゆはマンションを飛び出しました。
アイドルじゃなくなったまゆでも、魔法を起こすために。
プロデューサーさんと出会わないまま、
プロデューサーさんのそばで、明日をむかえるために。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/05/31(水) 21:51:48.42 ID:3uv3ojMy0
おしまい。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 11:52:13.47 ID:tMNITCQT0
とても良かった
前作とかあったら教えてほしい
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