【ミリマス】ザ・ミリオンオールスターズ! 〜銀河の果てまで届けちゃいM@S〜

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:10:14.60 ID:Uk8Ct2Aw0
・アイドル【idol】の意味。
・1.偶像。2.崇拝される人や物。3.憧れの的。
・4.超人的な能力を有する人材の俗称。もしかして:ヒーロー。

===序幕「遠い星から夢を越えて」

 そも! 世界を動かすのはいつでも欲望と言う名の感情なのだ。
「もっと分かりやすく!」と言うならば、それは願いと言い換えたって構わない。

 さらに願いは善と悪とに分けることができ、二つは度々衝突する。

 例えばそう、人々の希望を背負うミライたちお騒がせ魔法少女の一行が
「光のクラウン」と呼ばれる美しい王冠を冷たい湖の底よりやっとの思いで引き揚げたのと、
 絶望の化身たる悪魔軍団の本格的な攻撃が、彼女たちを襲ったのは殆ど同時のことだった。


 一体どうしてこうなったのか? 

 説明すれば簡単で、ミライたちの住まう平和な星を裏から脅かす混沌は腐敗と暴力、
 そして破壊の風となって世に吹き荒れ、彼女たちの住む星を徐々に覆いつくさんとしていたからである。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497957014
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:14:45.42 ID:Uk8Ct2Aw0

 そしてまた、哀れなオイカワファームの牛さんたちも日に日にすさむ世を儚み、
 ストレスから乳の出も悪くなっていく一方だと……。

 そんな話を牧場主から聞いた時、ミライはバターミルクを飲み干したばかりのグラスを持ったまま、
 勢いよく椅子から立ち上がって言ったのだ。

「美味しい牛乳が飲めなくなるなんて許せない! 私たち、悪魔をやっつけに行ってきます!」

 正に決意だけならば正義の使者か。

 この時、同席していたミライの友人でもあるカナが
 飲みかけのミルクを盛大に噴き出したことについてもおまけで明記しておこう。

 ……なに、深く気にする話ではない。単なる余談も余談である。


 とはいえ――古来より旅立ちのきっかけとはそんな物。

 ほんに些細な出来事から始まって、気づけば世界の命運をその手に握る戦いに
 身を投じる羽目になるのも世直し人が逃れ得ぬ運命(さだめ)。

 それから程なく世間には、紆余曲折を経て集まった五人の魔法少女たちの噂がそこかしこ中で囁かれることとなる。

 ……が、しかし! その物語を一から語るにはちと長い。

 弱気を助けて悪を正す正義の人助け少女ご一行の旅も、先に述べた様に事ここに至っては佳境も佳境。

 今はただ、少女たちを襲うこの最大のピンチを、四方八方から迫り来る悪魔軍団の圧倒的な物量を前に、
 じりじりと追い詰められていくミライたちの窮地をまずは語らせて頂きたい!
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:19:49.00 ID:Uk8Ct2Aw0

「ミライ! まだクラウンの使い方は分からへんの!?」

「倒しても倒しても……えーいっ! キリが無いよ!」

 高々と頭上に振りかぶる魔法のステッキを縦一閃! 

 マジカル☆ナオが飛び込んで来た悪魔の一体をしばき落とすと、
 直後にマジカル☆レイカがチェーンロッドを巧みに操り流れるようなコンビネーション! 

 豪快に弧を描いて飛んで行く悪魔の行方を目で追いながら、マジカル☆フウカも負けじと必殺の魔法を放つ!

「『キミのハートにまっしぐら! ラブラブセクシーフラッシュをお見舞いよっ!!』」

 刹那、フウカを中心にして広がる桃色光線のセクシャルさに、メロメロと骨抜きにされる悪魔たち。

 まるで蚊取り線香にやられた蚊のように空からポトリポトリと落ちて来る彼らを
 ひょひょいと器用に避けながら、ナオたち二人が彼女に言った。

「おお! やるやんフウカ、ナイスフォロー!」

「その調子で悪魔さんを、バンバンメロメロお願いします♪」


 が、褒められたフウカの顔は暗い。

 転がる悪魔が自分に向ける熱のこもった眼差しから顔を逸らしつつ、

「た、確かに便利な魔法だけど。……正直この呪文は恥ずかしい!」

 しかも魔法の発動に、詠唱とセクシーな決めポーズが必要なのは五人の中でもフウカただ一人だけなのだ。

 自分たちに魔法のイロハを教えてくれたマスター・Pの顔を思い浮かべ、
 彼女は「もう、絶対にワザとなんですから!」なんていつもの恨み節も披露する。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:24:39.89 ID:Uk8Ct2Aw0

 一方、そんな三人が作る三角形のフォーメーション。

 その中心では『どんな願いでも叶えてくれる』とこの星に言い伝えらえて来た"光のクラウン"を前にして、
 マジカル☆カナとマジカル☆ミライの二人が必死に頭を悩ませているところであった。

 それはもう、必死も必死。少ないお小遣いをいかに効率よくやり繰りしてお菓子を沢山買うだとか、
 魔法学校における筆記テストの時間以上に真剣だ。


「ダメっ! やっぱり全然分かんないよ!」

 だがそれでも、防壁代わりの岩に背中を預けて座り込むカナが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 そもそもの話、そそっかしいミライが湖の中で王冠の入った箱の封印を解いてしまったのがマズかった。

 皆が止めるも間に合わず、開かれた箱から水中に浮かび上がった巻き物は妖精の鱗粉で練られた特別製。

 ……正に夢は幻の如くなり。あっという間に千切れて崩れてバラバラになり、
 湖の波間に溶けてしまった光の粉を前にして、唖然とする仲間たちにミライが言う。

「……もしかして私、またやっちゃいました?」


 それは長い旅路で何度も聞いた、もはやお馴染みの台詞でもあった。

 結局少女たちの手元に残ったのは、雫を垂らす王冠一つ。……いや、まだだ! 
 まだ少女たちの手元には、件の巻き物の写しだと伝えられている手書きの巻き物があるにはあった! 

 あるにはあったが……古すぎたのだ、それは。

 紙もボロボロ字もぐちゃぐちゃ、滲みに滲んだインクはとても読めるような物では無く、
 だからこそミライたちは宝箱の中に同封されていた"本物"の巻き物が必要だったのだと言うに!
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:26:37.47 ID:Uk8Ct2Aw0

「王冠なんだから頭に乗せて、それで呪文は? 魔法式は!?」

「だから肝心のその部分が、古すぎて読めないんだって〜!」

 カナに急かされるように訊かれても、ミライには答えようがない。

 そうこうしているうちに防衛線を突破したしゃらくさい悪魔の一体が、
 悩める二人に鋭いスピアを振りかざしながら迫り来る!

「わわっ! い、今はまだ来ちゃダメー!!」

「まっ、任せてカナ!」

 持っていた写しを放り投げて間一髪! 

 ミライがステッキを突き出すと、たちまち悪魔は魔法のシャボンに包まれてぷかぷかり。

「あ、ありがとうミライちゃん〜!」

「えへへ〜、今度は失敗しなかったよ♪」

 悪魔入りシャボンがゆっくりと空に昇る様を見上げると、
 すんでのところで助けられたカナが嬉しさの余りミライに抱き着いた。

 すると力一杯ハグされたミライの方も、照れ臭そうに頭を掻く。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:29:54.49 ID:Uk8Ct2Aw0

「これで、さっきの汚名は挽回だね!」

 げに美しきは可憐な乙女の友情かな。

 敵の猛攻真っ只中に居るというに、まるで緊迫感の無いほわほわとした二人のやり取りを見ていたナオが
「こらぁっ! カナもミライもなにをお呑気してんねや!」と、手近な悪魔を小突きつつ怒鳴る。


「ひゃっ!」

「ご、ごめんなさ〜い!」


 そうして敵より怖いナオに叱られて、ミライたちが思わず謝った時だった。

 荒れ狂う嵐のような波状攻撃、猛烈苛烈な悪魔たちの動きが突然止まり、辺りに重苦しい雰囲気が漂い出す。

 ……まるでそれは、一筋の光すら届かない深海の底へと静かに沈んで行くような。

 吹き止まぬ吹雪に追い立てられた洞穴で、今にも消えそうな焚き火の明かりを「今にも消える、ほら消える」と
 目を離せないまま見つめ続ける、そんな気持ちにさせる空気。


 ただその場に居るだけで背筋は震え、踏みしめているハズの大地の感覚すら消えて行く。

 指先一つ自由に動かせない上に、息をすることすら躊躇わせるほどの圧倒的なプレッシャー。

 みるみる空も暗雲に覆われ、一陣の強い風が湖の上を撫で行くと、大きな波が心騒めかせるようにさざめき立ち……。

 そして今! 地平線を埋めるほどに集まっていた悪魔軍団の海を割り、こちらに近づく影が一つ。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:35:41.29 ID:Uk8Ct2Aw0

 それが一体何者であるか、ミライたち五人は嫌と言うほど知っていた。

「おや、おや、おや……。これはまた、随分と景気の悪い顔じゃないか」


 その影はただただ暗く、深く、一応は人の形をしていたが、決して実体を持たぬ異形の者。
 いつからこの世に生を受け、この星に巣くっていたのか誰も知らない闇の化身。

 何の前触れも無く沈黙を破り、手勢である悪魔たちを使って求めるは純粋なる混沌と、そこから生まれる暴力の蜜。
 影にとっては怯え、すくみ、打ちひしがれる人々の生み出す絶望こそが、類まれなるご馳走だった。


 だからこそ、影は人々を助けるミライたち一行の邪魔をした。

 五人がこの湖に辿り着くまでの旅路にて、まるでミライたちを鍛えようとでもするかの如く、
 影はありとあらゆる困難を彼女たちの行く手に置いたのだ……何度も、何度も、何度でも!


 だがそれは、もちろん善意からでは無い。

 料理にひと手間かけることで素材の味を引き出すように、「もしかして」「いや、ひょっとして?」
「このまま行けば彼女たちが、この星から闇を払ってくれるんじゃないだろうか?」

 ……そんな空気が世間に広がり始めた今だからこそ! 影はこうして仕上げに取り掛かったのだ。

 今や希望の象徴にもなったミライたちをここで完膚なきまでに叩きのめすことにより世界は! 恐怖は! 
 より一層の"深み"を生み出すハズであると! 

 そしてそれは必ずや影の肥えた舌をも唸らせる程、至上の甘露となるだろう!
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:38:46.80 ID:Uk8Ct2Aw0
===

 まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 身じろぎもできない五人の前まで悠々とした足取りでやって来ると、影は大げさなお辞儀をして見せた
 ――そう、まるで道化師やマジシャンがするような、仰々しい仕草のお辞儀をだ――

 そうしてひょいと顔だけを上げると、いやにきざったらしく喋り出す。

「見るに、苦労して手に入れたクラウンの使い方が分からないので困っている。……理由はそんなところだろう」

 影の慇懃無礼な物言いは、妙な馴れ馴れしさをも併せ持つ。
 その話し方はねちっこく、人の神経を逆なでするような実に不快なものだった。

 現に相対するナオたちには、影の言葉からこちらを見下し、嘲り、さらには馬鹿にしようとする感情しか読み取れない。


「まぁそれも、事情を知れば納得できる。なにせ肝心の巻き物がこの有様では……。
 いやはや実に愉快痛快。君たちに相応しい結末だとは思わんかね?」

 言って、影が少女たちに見せつけるように上げた手には先ほどミライが放り投げた写しの巻き物が。

「あ、あれ? さっきまではちゃんと持ってたのに」と首を傾げるミライの姿に、影がクックと肩を震わせた。
9 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:41:04.67 ID:Uk8Ct2Aw0

「フッフッフッ、ハァーハッハッハッ!」

 次いで、その身を仰け反らせながら放たれる嘲笑。

 耳につく影の高笑いに合わせて辺りを取り囲む悪魔たちも、
 ミライたちを煽るように次々と不気味な声で笑い出す……。

「く、ぅ〜っ! なんか、なんかめっちゃ腹立つわ!」

 これほどまでに面と向かって馬鹿にされ、黙っていられる者などいるものか! 

 ナオが吐き捨て、その場で小さな地団駄を踏む。
 一時の怒りの感情で彼女たちの金縛りも少しは解けたがまだ重い! 

 残念ながら未だ五人は、影の纏う禍々しいオーラに圧倒されて武器を構えることすらできぬのだ……。


 そも、人に対して横柄な態度を取れる者は二つの種類に分けられる。

 一つは相手と自分の力量を、推し量ることもできないただの馬鹿。
 二つ! 横柄な態度を取るだけの自信。即ち圧倒的な実力を、その身に宿す者とにだ。

 そして今、目の前に立つこの影は後者。

 だからこそミライたちは影に対抗するために、クラウンの持つ神秘の力を求めたのだ。

 少女たちの悔しさ溢れる顔を見渡して、影が「フフン」と鼻で笑う。
10 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:45:18.34 ID:Uk8Ct2Aw0

「無様なものだなぁ……実に! なによりお前たちのようにドジで、グズで、
 お間抜けな三下マジカルガールなど、初めから私の敵では無かったが――」

 そうして喋り続けるは、罵倒、罵声、悪態の山。
 ひとしきり少女たちを口汚く罵りこき下ろすと、影が巻き物を持つ手を振りかぶる。

「あぁっ!?」

 フウカが思わず声を上げた。
 影の手から放り出された巻き物が、空中で紫の火炎に包まれたのだ! 

 さらには五人の周りをどす黒い、炎の壁が囲い込む。 
 それはあらゆる負の感情を糧にして生み出された業の火だ。

 猛る漆黒の壁の向こう側から、影の声だけが聞こえて来る。

「それでもだ、ここまでやって来たことは褒めてやろう。
 なに、私は慈悲深い心の持ち主でね……一思いには殺さん! じわじわと嬲り、苦しめ、その絶望の果てに――」

「やっかましい! 言わせといたらペラペラベラベラいつまでもっ!!」


 しかし、遂に限界は訪れた!

 その身にたぎる怒りに任せてナオは叫ぶと、今度は力いっぱい魔法のステッキを振り上げる。
 すると空気を切り裂く閃光が目の前で燃える炎の壁にぶつかって……が、それだけだ。

 放たれた光はするりと壁の中に吸い込まれ、
 次いで無駄な抵抗だと言わんばかりに悪魔たちの笑う声が響き渡る。
11 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:47:26.25 ID:Uk8Ct2Aw0

「ああ、もう! このっ! このっ!」

「なんで!? 魔法が全然効かないよぉ〜!!」

 残る四人もナオに続いて必死に魔法を放つのだが、
 壁はさらに勢いをつけて燃えながら五人との距離を詰めるのだ。

 正に絶体絶命の大ピンチ。もう、打つ手は何も残ってはいない……。

 誰も口にはしなかったが、彼女たちは自分の胸の奥底に絶望が生まれ始めるのを感じていた。
 ……ただ一人、マジカル☆ミライを除いては。


「……みんな、心配しなくても大丈夫だよ」

 そこには何の根拠があるのだろう? 

 だがしかし、彼女の優しいその声は動揺する四人の心を落ち着かせ、
 安心させるだけの強い力を持っていた。……これまでの旅でそうであったように。

 そして! これからの戦いにおいてもそうであるように!

 自分を見つめる仲間の顔をぐるりと見回し、
 ミライは持っていたクラウンを自分の頭にちょこんとのせた。

 それから彼女は太陽のように明るい笑顔を、
 満面の微笑みを浮かべて皆に言ったのだ。


「だって光のクラウンは……最後の希望はまだちゃんと、ここに残ってるんだから!」
12 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:50:21.83 ID:Uk8Ct2Aw0
===

 ――北上麗花は夢を見た。

 それは不思議な力を持つ五人の少女が巨悪に立ち向かう夢であり、
 麗花もそんな少女たちのうちの一人だった。

 だが敵は余りにも強大で、もはやこれまで打つ手なし。
 窮地に追い込まれた状況下、リーダーでもある少女が叫ぶ。

『どっか、飛んでっちゃえぇぇーっ!!』

 次の瞬間、彼女の被る王冠から眩い虹色の光が迸り、
 それは辺りを覆う闇を払うと麗花たち五人を包み込んだ。

 ……光の向こう側から断末魔。

 きらめく星屑の層に囲まれて、麗花は自分の身体がふわりと浮かぶ感覚を味わい……そして、夢から覚めたのだ。


 カーテンから差し込む朝の光にしばしその目を細めると、
 彼女は枕元のうるさい目覚まし時計をはたいて体を起こす。

「……へくしっ!」

 そうして気の抜けるようなくしゃみを一つ。
 窓の外には雪がちらつき、部屋の中も肌寒い。

 ぶるるっとその身を震わせながら毛布を羽織ってもぞもぞと、
 麗花はベッドの上から芋虫のように床へ向かってずり落ちた。
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