【ミリマス】ザ・ミリオンオールスターズ! 〜銀河の果てまで届けちゃいM@S〜

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:10:14.60 ID:Uk8Ct2Aw0
・アイドル【idol】の意味。
・1.偶像。2.崇拝される人や物。3.憧れの的。
・4.超人的な能力を有する人材の俗称。もしかして:ヒーロー。

===序幕「遠い星から夢を越えて」

 そも! 世界を動かすのはいつでも欲望と言う名の感情なのだ。
「もっと分かりやすく!」と言うならば、それは願いと言い換えたって構わない。

 さらに願いは善と悪とに分けることができ、二つは度々衝突する。

 例えばそう、人々の希望を背負うミライたちお騒がせ魔法少女の一行が
「光のクラウン」と呼ばれる美しい王冠を冷たい湖の底よりやっとの思いで引き揚げたのと、
 絶望の化身たる悪魔軍団の本格的な攻撃が、彼女たちを襲ったのは殆ど同時のことだった。


 一体どうしてこうなったのか? 

 説明すれば簡単で、ミライたちの住まう平和な星を裏から脅かす混沌は腐敗と暴力、
 そして破壊の風となって世に吹き荒れ、彼女たちの住む星を徐々に覆いつくさんとしていたからである。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497957014
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:14:45.42 ID:Uk8Ct2Aw0

 そしてまた、哀れなオイカワファームの牛さんたちも日に日にすさむ世を儚み、
 ストレスから乳の出も悪くなっていく一方だと……。

 そんな話を牧場主から聞いた時、ミライはバターミルクを飲み干したばかりのグラスを持ったまま、
 勢いよく椅子から立ち上がって言ったのだ。

「美味しい牛乳が飲めなくなるなんて許せない! 私たち、悪魔をやっつけに行ってきます!」

 正に決意だけならば正義の使者か。

 この時、同席していたミライの友人でもあるカナが
 飲みかけのミルクを盛大に噴き出したことについてもおまけで明記しておこう。

 ……なに、深く気にする話ではない。単なる余談も余談である。


 とはいえ――古来より旅立ちのきっかけとはそんな物。

 ほんに些細な出来事から始まって、気づけば世界の命運をその手に握る戦いに
 身を投じる羽目になるのも世直し人が逃れ得ぬ運命(さだめ)。

 それから程なく世間には、紆余曲折を経て集まった五人の魔法少女たちの噂がそこかしこ中で囁かれることとなる。

 ……が、しかし! その物語を一から語るにはちと長い。

 弱気を助けて悪を正す正義の人助け少女ご一行の旅も、先に述べた様に事ここに至っては佳境も佳境。

 今はただ、少女たちを襲うこの最大のピンチを、四方八方から迫り来る悪魔軍団の圧倒的な物量を前に、
 じりじりと追い詰められていくミライたちの窮地をまずは語らせて頂きたい!
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:19:49.00 ID:Uk8Ct2Aw0

「ミライ! まだクラウンの使い方は分からへんの!?」

「倒しても倒しても……えーいっ! キリが無いよ!」

 高々と頭上に振りかぶる魔法のステッキを縦一閃! 

 マジカル☆ナオが飛び込んで来た悪魔の一体をしばき落とすと、
 直後にマジカル☆レイカがチェーンロッドを巧みに操り流れるようなコンビネーション! 

 豪快に弧を描いて飛んで行く悪魔の行方を目で追いながら、マジカル☆フウカも負けじと必殺の魔法を放つ!

「『キミのハートにまっしぐら! ラブラブセクシーフラッシュをお見舞いよっ!!』」

 刹那、フウカを中心にして広がる桃色光線のセクシャルさに、メロメロと骨抜きにされる悪魔たち。

 まるで蚊取り線香にやられた蚊のように空からポトリポトリと落ちて来る彼らを
 ひょひょいと器用に避けながら、ナオたち二人が彼女に言った。

「おお! やるやんフウカ、ナイスフォロー!」

「その調子で悪魔さんを、バンバンメロメロお願いします♪」


 が、褒められたフウカの顔は暗い。

 転がる悪魔が自分に向ける熱のこもった眼差しから顔を逸らしつつ、

「た、確かに便利な魔法だけど。……正直この呪文は恥ずかしい!」

 しかも魔法の発動に、詠唱とセクシーな決めポーズが必要なのは五人の中でもフウカただ一人だけなのだ。

 自分たちに魔法のイロハを教えてくれたマスター・Pの顔を思い浮かべ、
 彼女は「もう、絶対にワザとなんですから!」なんていつもの恨み節も披露する。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:24:39.89 ID:Uk8Ct2Aw0

 一方、そんな三人が作る三角形のフォーメーション。

 その中心では『どんな願いでも叶えてくれる』とこの星に言い伝えらえて来た"光のクラウン"を前にして、
 マジカル☆カナとマジカル☆ミライの二人が必死に頭を悩ませているところであった。

 それはもう、必死も必死。少ないお小遣いをいかに効率よくやり繰りしてお菓子を沢山買うだとか、
 魔法学校における筆記テストの時間以上に真剣だ。


「ダメっ! やっぱり全然分かんないよ!」

 だがそれでも、防壁代わりの岩に背中を預けて座り込むカナが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 そもそもの話、そそっかしいミライが湖の中で王冠の入った箱の封印を解いてしまったのがマズかった。

 皆が止めるも間に合わず、開かれた箱から水中に浮かび上がった巻き物は妖精の鱗粉で練られた特別製。

 ……正に夢は幻の如くなり。あっという間に千切れて崩れてバラバラになり、
 湖の波間に溶けてしまった光の粉を前にして、唖然とする仲間たちにミライが言う。

「……もしかして私、またやっちゃいました?」


 それは長い旅路で何度も聞いた、もはやお馴染みの台詞でもあった。

 結局少女たちの手元に残ったのは、雫を垂らす王冠一つ。……いや、まだだ! 
 まだ少女たちの手元には、件の巻き物の写しだと伝えられている手書きの巻き物があるにはあった! 

 あるにはあったが……古すぎたのだ、それは。

 紙もボロボロ字もぐちゃぐちゃ、滲みに滲んだインクはとても読めるような物では無く、
 だからこそミライたちは宝箱の中に同封されていた"本物"の巻き物が必要だったのだと言うに!
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:26:37.47 ID:Uk8Ct2Aw0

「王冠なんだから頭に乗せて、それで呪文は? 魔法式は!?」

「だから肝心のその部分が、古すぎて読めないんだって〜!」

 カナに急かされるように訊かれても、ミライには答えようがない。

 そうこうしているうちに防衛線を突破したしゃらくさい悪魔の一体が、
 悩める二人に鋭いスピアを振りかざしながら迫り来る!

「わわっ! い、今はまだ来ちゃダメー!!」

「まっ、任せてカナ!」

 持っていた写しを放り投げて間一髪! 

 ミライがステッキを突き出すと、たちまち悪魔は魔法のシャボンに包まれてぷかぷかり。

「あ、ありがとうミライちゃん〜!」

「えへへ〜、今度は失敗しなかったよ♪」

 悪魔入りシャボンがゆっくりと空に昇る様を見上げると、
 すんでのところで助けられたカナが嬉しさの余りミライに抱き着いた。

 すると力一杯ハグされたミライの方も、照れ臭そうに頭を掻く。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:29:54.49 ID:Uk8Ct2Aw0

「これで、さっきの汚名は挽回だね!」

 げに美しきは可憐な乙女の友情かな。

 敵の猛攻真っ只中に居るというに、まるで緊迫感の無いほわほわとした二人のやり取りを見ていたナオが
「こらぁっ! カナもミライもなにをお呑気してんねや!」と、手近な悪魔を小突きつつ怒鳴る。


「ひゃっ!」

「ご、ごめんなさ〜い!」


 そうして敵より怖いナオに叱られて、ミライたちが思わず謝った時だった。

 荒れ狂う嵐のような波状攻撃、猛烈苛烈な悪魔たちの動きが突然止まり、辺りに重苦しい雰囲気が漂い出す。

 ……まるでそれは、一筋の光すら届かない深海の底へと静かに沈んで行くような。

 吹き止まぬ吹雪に追い立てられた洞穴で、今にも消えそうな焚き火の明かりを「今にも消える、ほら消える」と
 目を離せないまま見つめ続ける、そんな気持ちにさせる空気。


 ただその場に居るだけで背筋は震え、踏みしめているハズの大地の感覚すら消えて行く。

 指先一つ自由に動かせない上に、息をすることすら躊躇わせるほどの圧倒的なプレッシャー。

 みるみる空も暗雲に覆われ、一陣の強い風が湖の上を撫で行くと、大きな波が心騒めかせるようにさざめき立ち……。

 そして今! 地平線を埋めるほどに集まっていた悪魔軍団の海を割り、こちらに近づく影が一つ。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:35:41.29 ID:Uk8Ct2Aw0

 それが一体何者であるか、ミライたち五人は嫌と言うほど知っていた。

「おや、おや、おや……。これはまた、随分と景気の悪い顔じゃないか」


 その影はただただ暗く、深く、一応は人の形をしていたが、決して実体を持たぬ異形の者。
 いつからこの世に生を受け、この星に巣くっていたのか誰も知らない闇の化身。

 何の前触れも無く沈黙を破り、手勢である悪魔たちを使って求めるは純粋なる混沌と、そこから生まれる暴力の蜜。
 影にとっては怯え、すくみ、打ちひしがれる人々の生み出す絶望こそが、類まれなるご馳走だった。


 だからこそ、影は人々を助けるミライたち一行の邪魔をした。

 五人がこの湖に辿り着くまでの旅路にて、まるでミライたちを鍛えようとでもするかの如く、
 影はありとあらゆる困難を彼女たちの行く手に置いたのだ……何度も、何度も、何度でも!


 だがそれは、もちろん善意からでは無い。

 料理にひと手間かけることで素材の味を引き出すように、「もしかして」「いや、ひょっとして?」
「このまま行けば彼女たちが、この星から闇を払ってくれるんじゃないだろうか?」

 ……そんな空気が世間に広がり始めた今だからこそ! 影はこうして仕上げに取り掛かったのだ。

 今や希望の象徴にもなったミライたちをここで完膚なきまでに叩きのめすことにより世界は! 恐怖は! 
 より一層の"深み"を生み出すハズであると! 

 そしてそれは必ずや影の肥えた舌をも唸らせる程、至上の甘露となるだろう!
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:38:46.80 ID:Uk8Ct2Aw0
===

 まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 身じろぎもできない五人の前まで悠々とした足取りでやって来ると、影は大げさなお辞儀をして見せた
 ――そう、まるで道化師やマジシャンがするような、仰々しい仕草のお辞儀をだ――

 そうしてひょいと顔だけを上げると、いやにきざったらしく喋り出す。

「見るに、苦労して手に入れたクラウンの使い方が分からないので困っている。……理由はそんなところだろう」

 影の慇懃無礼な物言いは、妙な馴れ馴れしさをも併せ持つ。
 その話し方はねちっこく、人の神経を逆なでするような実に不快なものだった。

 現に相対するナオたちには、影の言葉からこちらを見下し、嘲り、さらには馬鹿にしようとする感情しか読み取れない。


「まぁそれも、事情を知れば納得できる。なにせ肝心の巻き物がこの有様では……。
 いやはや実に愉快痛快。君たちに相応しい結末だとは思わんかね?」

 言って、影が少女たちに見せつけるように上げた手には先ほどミライが放り投げた写しの巻き物が。

「あ、あれ? さっきまではちゃんと持ってたのに」と首を傾げるミライの姿に、影がクックと肩を震わせた。
9 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:41:04.67 ID:Uk8Ct2Aw0

「フッフッフッ、ハァーハッハッハッ!」

 次いで、その身を仰け反らせながら放たれる嘲笑。

 耳につく影の高笑いに合わせて辺りを取り囲む悪魔たちも、
 ミライたちを煽るように次々と不気味な声で笑い出す……。

「く、ぅ〜っ! なんか、なんかめっちゃ腹立つわ!」

 これほどまでに面と向かって馬鹿にされ、黙っていられる者などいるものか! 

 ナオが吐き捨て、その場で小さな地団駄を踏む。
 一時の怒りの感情で彼女たちの金縛りも少しは解けたがまだ重い! 

 残念ながら未だ五人は、影の纏う禍々しいオーラに圧倒されて武器を構えることすらできぬのだ……。


 そも、人に対して横柄な態度を取れる者は二つの種類に分けられる。

 一つは相手と自分の力量を、推し量ることもできないただの馬鹿。
 二つ! 横柄な態度を取るだけの自信。即ち圧倒的な実力を、その身に宿す者とにだ。

 そして今、目の前に立つこの影は後者。

 だからこそミライたちは影に対抗するために、クラウンの持つ神秘の力を求めたのだ。

 少女たちの悔しさ溢れる顔を見渡して、影が「フフン」と鼻で笑う。
10 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:45:18.34 ID:Uk8Ct2Aw0

「無様なものだなぁ……実に! なによりお前たちのようにドジで、グズで、
 お間抜けな三下マジカルガールなど、初めから私の敵では無かったが――」

 そうして喋り続けるは、罵倒、罵声、悪態の山。
 ひとしきり少女たちを口汚く罵りこき下ろすと、影が巻き物を持つ手を振りかぶる。

「あぁっ!?」

 フウカが思わず声を上げた。
 影の手から放り出された巻き物が、空中で紫の火炎に包まれたのだ! 

 さらには五人の周りをどす黒い、炎の壁が囲い込む。 
 それはあらゆる負の感情を糧にして生み出された業の火だ。

 猛る漆黒の壁の向こう側から、影の声だけが聞こえて来る。

「それでもだ、ここまでやって来たことは褒めてやろう。
 なに、私は慈悲深い心の持ち主でね……一思いには殺さん! じわじわと嬲り、苦しめ、その絶望の果てに――」

「やっかましい! 言わせといたらペラペラベラベラいつまでもっ!!」


 しかし、遂に限界は訪れた!

 その身にたぎる怒りに任せてナオは叫ぶと、今度は力いっぱい魔法のステッキを振り上げる。
 すると空気を切り裂く閃光が目の前で燃える炎の壁にぶつかって……が、それだけだ。

 放たれた光はするりと壁の中に吸い込まれ、
 次いで無駄な抵抗だと言わんばかりに悪魔たちの笑う声が響き渡る。
11 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:47:26.25 ID:Uk8Ct2Aw0

「ああ、もう! このっ! このっ!」

「なんで!? 魔法が全然効かないよぉ〜!!」

 残る四人もナオに続いて必死に魔法を放つのだが、
 壁はさらに勢いをつけて燃えながら五人との距離を詰めるのだ。

 正に絶体絶命の大ピンチ。もう、打つ手は何も残ってはいない……。

 誰も口にはしなかったが、彼女たちは自分の胸の奥底に絶望が生まれ始めるのを感じていた。
 ……ただ一人、マジカル☆ミライを除いては。


「……みんな、心配しなくても大丈夫だよ」

 そこには何の根拠があるのだろう? 

 だがしかし、彼女の優しいその声は動揺する四人の心を落ち着かせ、
 安心させるだけの強い力を持っていた。……これまでの旅でそうであったように。

 そして! これからの戦いにおいてもそうであるように!

 自分を見つめる仲間の顔をぐるりと見回し、
 ミライは持っていたクラウンを自分の頭にちょこんとのせた。

 それから彼女は太陽のように明るい笑顔を、
 満面の微笑みを浮かべて皆に言ったのだ。


「だって光のクラウンは……最後の希望はまだちゃんと、ここに残ってるんだから!」
12 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:50:21.83 ID:Uk8Ct2Aw0
===

 ――北上麗花は夢を見た。

 それは不思議な力を持つ五人の少女が巨悪に立ち向かう夢であり、
 麗花もそんな少女たちのうちの一人だった。

 だが敵は余りにも強大で、もはやこれまで打つ手なし。
 窮地に追い込まれた状況下、リーダーでもある少女が叫ぶ。

『どっか、飛んでっちゃえぇぇーっ!!』

 次の瞬間、彼女の被る王冠から眩い虹色の光が迸り、
 それは辺りを覆う闇を払うと麗花たち五人を包み込んだ。

 ……光の向こう側から断末魔。

 きらめく星屑の層に囲まれて、麗花は自分の身体がふわりと浮かぶ感覚を味わい……そして、夢から覚めたのだ。


 カーテンから差し込む朝の光にしばしその目を細めると、
 彼女は枕元のうるさい目覚まし時計をはたいて体を起こす。

「……へくしっ!」

 そうして気の抜けるようなくしゃみを一つ。
 窓の外には雪がちらつき、部屋の中も肌寒い。

 ぶるるっとその身を震わせながら毛布を羽織ってもぞもぞと、
 麗花はベッドの上から芋虫のように床へ向かってずり落ちた。
13 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:54:56.50 ID:Uk8Ct2Aw0

「ふわ、あ……あぅ」

 寝ぼけまなこを擦って大あくび。

 猫のように体を伸ばすと、今度は四つん這いで部屋の中央に置かれた座卓の傍までぺたりぺたりと移動する。

 ……一応の補足をしておくと、立って歩かないのは足の踏み場が無いからであり、
 散らかり放題に散らかった彼女の部屋において言えば、二足歩行よりも四足歩行の方が安全かつ安定なのだ。

「ん、しょっと」

 ぐわらぐわらがっしゃん。

 現代の九龍城もかくやと乱雑緻密に積み上げられていた机の上のガラクタを腕のひと薙ぎで払いのけると、
 麗花は発掘されたスケッチブックの白いページにお気に入りのクレヨンをスルスルと走らせる。

 時折こくりこくりと船を漕ぎ、それでも彼女は描き終えた。

 五つの星でそれぞれ囲まれた五人の少女が手に手を取って笑いながら、人の形をした黒い影と戦う絵をだ。


「んっ……これでよし♪」

 半分閉じかけた瞼を瞬かせ、我ながら上手く描けたぞと満足そうに頷いて……麗花はそこで力尽きた。
 ぱたりと座卓に突っ伏して、すぅすぅと幸せそうな寝息を立て始める。

 人、これを二度寝と呼ぶ。

 次に眠りから覚めた時、彼女は今朝見た夢の内容を、
 自分の描いた絵の内容を、綺麗さっぱり忘れていた。

「……え〜っと?」

 さらにはスケッチブックの上に置かれていた見覚えの無いアクセサリーを前にして、
 不思議だと首を捻ることになる。彼女が手に取り眺めるブレスレットには、星型の光る宝石がついており……。



 全ては独立機動戦艦「ミャオ」所属、
 ミリオンアーマー部隊員麗花の休日に起きた一幕だった。
14 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 20:58:01.93 ID:Uk8Ct2Aw0
===第一幕「その一日はエイプリルフール」

 ああ、素晴らしきかなエイプリルフール! 
 この感動を伝えるためにも今一度。ああ! 素晴らしきかなエイプリルフール! 

 ……コホン。えー、皆々様もご承知の通り、エイプリルフールとは多少の嘘をついても容認される素敵な日。

 もう少し具体的なことを言うならば、
 普段よりも大掛かりなジョークを披露しても許される、一種のお祭りのような日と言える。


 が、だからと言ってどんな嘘でも無条件に許容されるワケでは無い。

 余りに悪質なジョークはジョークに成り立たず、やはり叱られ嫌われ怒られてしまうモノであり、
 行き過ぎた嘘は人を引っ掛ける前にボロを出してしまうことだろう。


 ……とはいえ嘘から出た真という言葉があるように、
 なにか冗談じみた計画をこの日に合わせて初めてみるのも一興らしい。
15 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:01:27.39 ID:Uk8Ct2Aw0

 例えばそう、ここに一人の男が居る。
 彼は今、死んだ魚のような目で手にした人形の頭を撫でていた。

 なにもひと月早い五月病でも、心が病んでしまっているワケでもない。

 手にした人形のモデルとなったある少女が、
 その胸の内に秘めていた壮大な野望の実現に向けてとうとう事を起こした結果である。

 少女は常々考えていた。

 どうすれば己の可愛さを日本中、いや世界中、まだまだもっと、もっとだ! 
 この銀河の果ての果ての先、願わくば次元を超えたそのまた向こう側にまで届けることができるかを。

 湧き水のようにこんこんと溢るる自身の魅力をもってして、全ての生きとし生ける者に笑顔の花を咲かさんと!


「だからこその『全人類一人一茜ちゃん人形計画』! 
 日本を! 世界を! そして全宇宙を、茜ちゃん人形で埋め尽くすのだ〜!」


 少女は言って、男は野望に巻き込まれた。

 こうして人形の量産体制を整えるための打ち合わせに出てしまった彼女に代わり、
 古い貸しビルにある事務所にて、男は人形を増やす作業に従事することとなったのだ。

 ……それにしても、一体どこから引っ張って来た技術やら? 

 彼は出処不明の超々技術によって撫でれば撫でるだけぽこぽこぽこぽこ増殖する
 にゃんとも可愛い人形の、頭をひたすら撫で続ける。
16 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:04:01.66 ID:Uk8Ct2Aw0

「まさかな。以前からちょくちょく聞いてたけど、茜のヤツ本気だったとは……」

 記念すべき765体目の人形を出荷用の段ボール箱に詰めこむと、
 男は呆れとも感心ともつかぬ調子で呟いた。

 既に計画の八割ほどは完了し、後は人形の数を揃えるだけでいいらしいのだが……。

 この計画を打ち明けて来た少女の卓越した行動力、そして準備のよさにまたため息。

 するとどうだ? 男の周りにはたちまち陰気な空気が立ち込めて、
 まだ若いというのに丸めた背中からは哀愁が……。


「……全く、なーにを辛気臭い顔してるんですか」

 そんな姿を見かねたのか、あるいは鬱陶しくも思ったのか? 

 彼の同僚である秋月律子が元気づけるようにその背中をパンと一叩き。

 気怠い呻きと共に顔を上げた男に向けて、
 念を押すように「いいですか?」と指を振りながら言葉を続けた。
17 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:07:15.97 ID:Uk8Ct2Aw0

「今日と言う日は我が765プロダクションにとって記念すべき一日になるんですよ? 
 もっとシャキッと、嬉しそうな顔をしててください」

「記念すべき一日だって? ウチが名誉ある茜ちゃん人形製作所、
 その第一工場に晴れて任命されたことかい?」

 言って、皮肉めいた笑みを浮かべる男を「違いますよ!」と一睨み。
 それから律子は腕を組むと「……もう、知ってる癖に」と拗ねるように口を尖らせた。

 もちろん、男だって本気で言ったワケじゃない。
 すぐに「悪い悪い」と頭を掻きながら謝ると。


「劇場、テーマパーク、メガフロートドームと来た次が、異星人大使を招いての765親善宇宙ライブ! 
 ……弱小だなんだって言われてた頃から比べると、随分遠くまで来たもんさ」

「それもこれも、みんなが頑張ってくれたお陰ですね」

 そう、そうなのだ。かつては所属人数も片手で数えられるほど。

 現場に赴いてはトラブルばかり起こしていた小さなアイドルプロダクションも、今では立派なその道のプロ。

 他所の追随を許さぬ尖りに尖ったアイドルたちと、
 それを活かす適材適所なマーケティング。

 さらには今までの仕事で生まれた数々のコネ、貸し、虜にした各界のお偉い方さんたちの後押しもあって、
 ついに事務所は本日この日、人類史上初となる、大掛かりな宇宙ライブを開催するに至ったのだ。
18 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:09:26.94 ID:Uk8Ct2Aw0

 とはいえ、それもたった今律子が述べた通り。

 全ては所属アイドルたちの日頃の頑張りの成果であり、
 さらには彼女たちと二人三脚でここまで歩んで来たスタッフ陣の屈力あってこそ。

「勿論、そのみんなには律子もちゃんと含まれてるぞ」

「当然、プロデューサー殿だって」

 二人は互いに見つめ合い「わっはっはっは!」と笑い合う。

 そんな彼らをパーテーションの陰より盗み見……いや見守りながら、
 事務員である音無小鳥は口元を押さえ耐えていた。

 一体何に耐えていたのかと問われれば、
 それはいつもの妄想による副作用……鼻血にだ。

 ちなみに今回の妄想テーマは実に健全、
「男女間の友情は成立するか?」だったと言う。
19 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:11:19.27 ID:Uk8Ct2Aw0
===

 例え仕事や部活が休みでも、仲の良い友人たちが集まる場所なら自然と足が向いてしまう。

 麗花が事務所を訪れたのは、つまりはそういう理由から。

「とはいえ……。せっかく来てくれたのに悪いな、麗花。
 俺は仕事があって、相手をするのは難しそうなんだ」

 ところがだ、麗花の当ては外れてしまう。

 非番で訪れた事務所には大量の人形に埋もれた男以外に人はおらず、
 普段ならば待機中のアイドルたちで賑わう談話スペースも、今は出荷を待つ段ボールが山と積まれているだけだ。

「そうなんですか? 残念……」

 口元に手を当てながら呟いて、悲し気な表情を浮かべた麗花に男は申し訳ないとはにかんだ。

 すると彼女も彼の気持ちに応えるため、そしてなにより自分の受けたショックの大きさを表すために、
 肩にかけていた大きな鞄を豪快に床へと取り落とす。……ガシャン!
20 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:13:32.35 ID:Uk8Ct2Aw0

「うーん、どうしようかな……」

「おいこら麗花」

「あ、そうだ! お仕事中のみんなに会いに行こうっと♪」

「聞いてるか、おい」

「突然会いに行ったら、みんな驚いてくれるかな? ふふっ♪ ではでは、行ってきまーす♪」

「おいってば!」

 男が声を荒げて机を叩く、驚いた麗花が目を丸くして振り返る。

 まさに今、見事なまでの切り替えの早さを見せつけて
 事務所を飛び出そうとした彼女の動きがピタリと止まる。


 そんな二人の間には、鞄の落ちたその床には、
 窮屈な場所から解放された自由に喜びはしゃぐ玩具の群れの姿があった。

 ある物はコロコロと家具の隙間に入り込み、
 ある物は辺りに散らばって、ある物は床に謎の染みを作り出している。

 ……それはつまり積み木とか、パズルだとか、シャボン液だの墨汁だのと呼ばれる玩具たち。

 ドアノブにかけていた手をそっとどけ、麗花はそれら全てから目を逸らすと、
 面倒くさげにぷくーっと片頬を膨らませた。
21 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:15:36.53 ID:Uk8Ct2Aw0

「もう、なんですか?」

 そのうえ小首を傾げると、甘えるように肩をすくめて見せたのだ。

 もはやその仕草は狂気の、いや、凶器の沙汰。

 危うく喉から出かかった「何でもない」と言う言葉を飲み込むと、
 男は腹に力を込めて惑わされまいと麗花を見た。

「なんですか、じゃあないだろう? ちゃんと片して行きなさい」

「……プロデューサーさん♪」

「却下する」

 そうして彼は、毅然と言ってのけたのだ。


 換気の為に開けられていた窓から、「うぅ、いじわるです!」なんて麗花の恨めし気な声が外へと響く。

 すると事務所の入ったビルの前、日課の清掃作業をしていた小鳥は
 筒抜けな二人のやり取りに「あらあら」と頬に手を当て苦笑して。

「今日のプロデューサーさんは強気ねぇ」

 自分も彼女のお手本にならねばと、普段よりもいくらかキビキビとした動きで歩道の箒掛けを再開したのだった。


 ……しばらく経って麗花がビルを降りて来ると、
 小鳥は消沈した様子の彼女を労いの笑顔で出迎えた。
22 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:17:28.14 ID:Uk8Ct2Aw0

「ふふっ、麗花さんは相変わらずね。お掃除はちゃんとできたかしら?」

 すると麗花は深いため息を一つつき。

「こんな時、自分の力が恨めしいです。二人より四人、四人より沢山いれば、お掃除なんてあっという間に終わるのに」

 だがしかし、小鳥は彼女の言葉を「そうねぇ」と曖昧な相槌でもって誤魔化した。

 なぜなら彼女は知っている。

 例え"麗花"がいくら居ようとも、増えた彼女たちは誰一人として
 お掃除係などやりたがらないだろうと言う事実をだ。


「それじゃあ小鳥さん、行ってきまーす♪」

「はい、行ってらっしゃい」

 他のアイドルたちに会いに行くと元気に走り出した麗花の背中を見送って、
 小鳥は集めたゴミを袋に入れた。……するとまた、背後に迫る人の気配。

「あーあ、プロデューサーさんのいじわる……。小鳥さんも、お掃除怠けてちゃ怒られますよ?」

「いやいやいや、私はちゃーんと掃除して……ん?」
23 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:19:56.58 ID:Uk8Ct2Aw0

 言って、顔を上げた小鳥の見たものは? 

 事務所の前に広がる道に、「それじゃあ小鳥さん、行ってきまーす♪」と見覚えのあり過ぎる後ろ姿が消えて行く。

 ……デジャブ。一人は街へ、もう一人は事務所の裏山に続く道へ。

「あっ……はい! 気を付けてくださいねー!」

 走り去る背中に声かけて、小鳥はやれやれと肩をすくめた。
 どうやら今日も、賑やかな一日になりそうだ……なんてことを頭の隅で思いながら。


「さ・て・と……私も一日、頑張りますか!」

 青く晴れ渡る空を見上げて気合を入れるガッツポーズ。
 今日は遠く広がる街並みにそびえ立つ"豆の木"の姿も良く見える。

 さらにはそこから上に昇れば、律子も向かった星々の輝く宇宙(そら)があり……。

 本日は素敵なエイプリルフール。
 バカバカしいほどにハチャメチャで、ドタバタなとある一日が始まった。
24 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:24:47.54 ID:Uk8Ct2Aw0
===第二幕「スクランブル・アイドルズ!」

 さて、甚だ唐突ではあるものの、ここで少し歴史のお勉強などどうだろう? 

 かの軌道エレベーター『豆の木』の建設が完了したその月のうちに、
 地球は大銀河連合に加盟する星の一つとなった。

 細かい事の経緯については教科書や専門書がより詳しく、ここでの説明は省かせてもらうのだが……。

 とにかく思い出して頂きたいのは、
 この件を一つの節目として人類が本格的な宇宙進出を果たしたという事実である。


 また、同時に米軍を中心とした世界連合軍の活動も本格的な物となり、

 卓越した戦闘能力を持つ非公式戦力「第765部隊:アイドルフォース」が
 国際テロリスト軍の新型兵器を破壊したことも我々の記憶には新しい。

 そして今、久方ぶりの緊急招集をかけられて彼女はこの地に戻って来た。

 以前に参加した作戦において、国テロ軍の汚染兵器『トリニティ』破壊に多大なる貢献を果たした兵士。
 さらにその後に起きたデストルドーとの全面対決においても功績を残した伝説の"アイドル"。

 自分よりもはるかに屈強な男たちを前にして、臆しもせず威嚇もせず、
 粛々と向き合う少女の姿は正に噂通りの鉄仮面(ポーカーフェイス)
25 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:29:54.93 ID:Uk8Ct2Aw0

「初めまして、真壁瑞希です」

 そしてまた、規律と模範を音に込めたような彼女の声は兵士たちの耳によく届く。

 ここは世界連合軍の日本支部。そのブリーフィングルームの壇上に立ち、
 765プロ所属アイドルである真壁瑞希は実に見事な敬礼を披露した。

「では、早速説明を」

 腕を降ろし、自分の隣に立つ副長
 ――サングラスをかけた髭面の、いかにも一癖二癖ありそうな悪役顔の男である――
 から資料を挟んだクリップボードを受け取って、瑞希はこの場に集められた兵士の顔をぐるっと見渡す。


「皆さん、実に見た目は良さそうで。……骨のある奴がいるといいな」

 口調はほんのりほんわかと、冗談めかしていたものの……瑞希の瞳は真剣だ。

「期待してください」副長がその太い腕を得意気に組み、兵士たちのことを顎でしゃくる。

「主力部隊は留守ですが、大半はMSSからの選抜組で……実力の方は確かですよ」

「MSS……。水瀬セキュリティからですか」
26 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:31:35.21 ID:Uk8Ct2Aw0

 懐かしそうに瑞希が呟く。

 それから彼女は被っていた軍帽を指の先に引っ掛けて「ふっ」と不敵に笑って見せた。

「『水瀬・セキュリティ・システム』にお任せください」

「はっ?」

 瑞希が突然取った行動に、副長が思わず訊き返した。

 すると彼女は何事も無かったように帽子を頭に被りなおすと、「コホン!」大きな咳払い。


「今のは……分からないなら結構です。それよりも作戦の説明を」

「はぁ……」

 質問を誤魔化された副長は釈然としたいようだったが、
 瑞希は視線を彼から兵士たちへと移動させ、「では皆さん。今回の作戦を説明します」と話し出した。
27 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:37:01.06 ID:Uk8Ct2Aw0

「本日未明、豆の木にある特災課より首都近辺の地下において異常な高エネルギー反応が確認されたと報告が。

 その移動特性、パターン等の一致から、上層部はこれを『特A級災害生物』の活動によるものだと断定。
 我々に出動を要請した次第です。……ここまでは、いいですか?」


 壇上で説明する瑞希の所作はまるで教師が生徒を教えるように。
 しかし生徒役がむさ苦しい男たちとなると、その絵面はちょっとしたアレである。

 そのうえ『特A級災害生物』が襲来すると言われれば、
 標的になる街だってちょっとしたアレのソレなのだ。


 瑞希の説明を聞いたことで、この事実の意味するところを知る兵士たちの間には緊張した空気が張りつめる。

 まるで「実戦だ」と聞かされた新兵のように強張った表情を浮かべた"腕利き"兵士たちの反応に、
 副長がわざとらしい咳払いをついてから口を開いた。

「知っての通り、今日はあの765プロが宇宙で親善ライブを開く日だ。
 日本に割り当てられてる連軍戦力の殆どは、国テロのライブ襲撃に備えて戦艦ミャオと共に空の上」

「ですから、我々は普段よりも少ない戦力でこの災害に対応しなくてはなりません。……とはいえ安心してください。
 これより部隊は目標の予測出現地点へと移動、特災課の担当者及びヒーローズとも協力して、対処作業に当たります」
28 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:40:57.18 ID:Uk8Ct2Aw0

 さらにそれから数分をかけ、任務の大まかな説明が終了した。

 これからは各班ごとに集まって、より細かい打ち合わせをすることになるのだが……。

 誰一人として言葉は発さず、ざわざわと騒ぎ出すことも無い。
 まるで行動を始めることを躊躇うように、彼らは瑞希をジッと見つめ続けていた。

 本来ならば部隊に入った時に覚悟を決めている者たちだ。
 今さら不安がることも、与えられた作戦に疑問を抱く者など誰一人として居ないハズであった。

 ……それが普通の相手、普通の作戦だったなら。

 
 だからこそ、兵士たちに広がる不安感。

 "アイドル"ではない一般人が挑むには、余りにも強大過ぎる相手……
 それが『特A級災害生物』なのであり、彼らがこれから対峙する相手だったのだ。
29 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:46:22.13 ID:Uk8Ct2Aw0

「……ふふっ」

 と、その時。そんな彼らの反応に、あの瑞希が小さく微笑んだ。

 瞬間、兵士たちの間にどよめきと動揺が走る――彼女の鉄仮面が剥がれる時。
 それは対峙する相手が最後に見ることになる表情だ――とは尾ひれもはひれもついた瑞希の噂から抜粋。

 だが、それはあくまで一人歩きした噂である。
 怯える兵士たちを優しい笑顔で見渡すと、瑞希は彼らにこう言った。

「最後に一つ、忘れてました。無事に任務が終わったら……みんなに、最高のおうどんをご馳走するぞ」

 恐らくは彼女なりの緊張のほぐし方。
 無事にみんな揃って帰って来るぞという強い願い。

 それはアイドルフォース総指揮官がかつて『トリニティ』破壊任務の際に口にした時から始まった、
 部隊に勝利を呼び込むジンクスだった。
30 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/20(火) 21:47:43.41 ID:Uk8Ct2Aw0
とりあえずここまで。書き溜めを推敲しながらなので更新ペースは遅めです。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 22:19:50.97 ID:ABQnnOSp0
おつおつ
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/21(水) 10:58:36.16 ID:6MoVc/FRO
やっぱミリオンのイベントって頭おかしいんだなって
33 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/06/21(水) 23:25:12.56 ID:U5+7jilB0
===

「みんな朝から忙しそうネー」

 もうすっかりぬるくなてしまったカフェオレのカップに口をつけて呟く姿は他人事。

 カフェのテラス席でのんびりと頬杖なんてつきながら、
 島原エレナは目の前に広がる喧騒の様子を眺めて呟いた。

 ……ここは街の大通り。

 つまりは『特A級災害生物』の出現予測地点に指定された件の場所であり、
 パラパラと聞こえる音に顔を上げれば、空には元気よく飛び交う世界連合軍のヘリコプター。

 そしてまた地上に視線を戻してみれば、物々しい装備でその身を固めた
 屈強な連合軍の兵士たちが地域住民の避難を先導しているところだった。


 ああ、言ってる傍からあれを見よ。

 基地より出でし彼らの任務が多岐に渡るのは想像に難くないことであろうが、今、一人の兵士が
 老婆の手を取りながら横断歩道を渡る姿など、ちょっと変わった青年団、またはボランティア団体に見えなくもない。
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