フロック「悪魔の眷属」

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9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:16:21.57 ID:6iX1oIEk0

◆◆◆◆


リヴァイ 「……こいつを、許してやってくれないか?」


そう言われた時、俺は一瞬兵長が何を言っているのか分からなかった。


フロック (許す?誰を?……エルヴィン団長を?何に対しての許しなんだ?)

フロック (マルロやサンドラ……皆を切り捨てたことをか?
      それとも、獣の巨人を仕留められなかったことか?)

フロック (俺は団長を罰したかった?団長をさらに苦しめるために、ここへ運んできた?)

フロック (……違う。それだけじゃない)

フロック (俺の復讐心なんて、ちっぽけなものだ。あるかないかすら、自分では分からない)


サンドラも、マルロも、俺も。みんな、自分で選んであそこに立っていた。
自ら望んで、悪魔の矢となった。


フロック (きっと、俺は……)


脳裏に蘇るのは、新兵の背中に死にかけで縋っていた団長じゃなく。
堂々と胸を張って演説していた団長だ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:16:50.36 ID:6iX1oIEk0

フロック 「俺は……」

リヴァイ 「ん」

フロック 「いえ、"私"は……私にできることは、自分の選択と、行動に責任を持ち……
      兵士として、団長を生き残らせることであると、そう、考えました」

フロック 「団長を罰したかったのなら……きっと、ここに団長はいません」

リヴァイ 「……そう、か。そう、だったか」

兵長は立ち上がると、ハンジ分隊長が祈りを捧げている横に膝をついた。

リヴァイ 「そういえば、こいつを担いできた褒美がまだだったな」


指を組ませた団長の遺体の、胸のあたりを探る。

シュルッ


兵長が差し出したのは、団長のループタイだった。
埋めこまれた青い石が、陽ざしを浴びて輝いている。


リヴァイ 「……お前だけは覚えていてくれるか。
      エルヴィン.スミスという名の――悪魔を」


◆◆◆◆
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:17:18.35 ID:6iX1oIEk0

サシャ  「あははっ、冷たい!」バシャッ

コニー  「うおっ、マジでしょっぺぇ!!すっげえ!!」ペッペッ

キャハハ…ワイワイ

ブーツを脱いで海に入る仲間たちを、俺は冷めた目で見ていた。


チャプン…

フロック 「……冷てえ」


指先だけ海水につけて、水平線の向こうを眺める俺に、アルミンが近づいてきた。


アルミン 「……やあ」ニコッ

フロック 「それ、貝か?」

アルミン 「う、うん。さっき拾ったんだ」

フロック 「そうか。まあ、綺麗だな」チラッ


横目で見たエレンとミカサは、大きな目に憎しみを浮かべていた。
逆恨みもいいところだ。しっかりしてくれよ、エレン。そんなガキみてえな調子じゃ期待できねえぞ。


アルミン 「でも、君が来てくれるとは思わなかった。ほら、君はこうやって遊ぶのも
      下らないとか、言いそうだから」

フロック 「……哨戒任務に選ばれただけだ」

アルミン 「そっか。……でも、装置ぐらいは外してもいいんじゃないかな。
      この辺にはもう、巨人はいないし」

フロック 「リヴァイ兵長だって外してないだろ?」

アルミン 「あの人は……その、潔癖症だし、特別だから」

フロック 「どうだろうな」


え?と返されたのを、聞こえなかったふりをする。

フロック (俺は、兵長ほど人間くさい人はいないと思うけどな)
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:17:45.66 ID:6iX1oIEk0

俺はアルミンに背を向けて、やわらかい砂を手でまさぐった。
遊びに来たわけじゃねえが、土産の一つもねえのはさすがにあれだ。

フロック 「特別っていうなら、お前の幼なじみ二人の方が特別だ」

アルミン 「そう?嬉しいな」

フロック 「ここ、一応怒るとこだぞ」

アルミン 「そういうつもりだったのかい?……あ、それ」

フロック 「ん?」


指さされたのは、胸元。俺は貝殻を拾ってポケットに入れると、
自分の胸に視線を落とす。


アルミン 「ずっと気になっていたんだ。それ……エルヴィン団長の、形見だよね」

フロック 「ああ……」ギュッ


真ん中に埋めこまれた青い宝石を握りしめる。新兵の給料じゃとても買えない奴だ。
なにせ団長就任式で王様からもらったやつらしいからな。俺なんかが持っていいのやら。


アルミン 「君は、やっぱり……団長を死なせた僕が憎い?だから、それを受け継ごうというの?」

フロック 「いや。あそこで言ったのが、俺の全部だ。お前個人に言いたいことはたぶん違う」

視線を合わせると、アルミンは決心したみたいに隣に座った。

フロック 「お前、ベルトルトが生きていた時のことを考えてるだろ」

アルミン 「……!!」

フロック 「口に入れた一欠片の肉が、一頭の豚だった時のことを思い出すみたいに。
      だからこそ、お前は怖れているんだ――エレンを介して、自分の手を汚さずに
      "それ"を得たことをな」

アルミン 「君は、何を」

フロック 「俺はきっと……エレンやミカサの知らないお前を理解できる。
      お前はあいつらを憎んでいない。いや、全てが明らかになった今、
      あいつらを一瞬でも憎んだ自分を悔いている」

アルミン 「なんで、どうして」フラッ

ふらふらと後退したアルミンはやがて、やわらかい砂に尻もちをついた。

フロック 「そうなんだろ?」

アルミン 「……ああ」グシャッ

アルミン 「なんで君はそうやって、僕が目を背けたい所に触れてくるんだ」

フロック 「お前はもう、色々なものを捨てすぎてんだよ。せめて中身は人間のままでいろ」ポンッ

アルミン 「……」

フロック 「ずっと、これだけは言いたかった。エレンが邪魔でなかなか機会がなかったんだけどな」

アルミン 「そっか……そういえば、僕も気にかかっていることがあったんだ。
      君は、団長を背負っている間、何を考えていたの?」

フロック 「……」


◆◆◆◆
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:18:27.77 ID:6iX1oIEk0


ヒュォォォ…


フロック (ちくしょう、寒いな。体が冷えてきやがった)

ザッ、ザッ、ザッ

フロック (団長の呼吸がさっきよりしっかりしてきた。止血したのがよかったんだな)

背中の団長が生きていることにホッとするなんて、
ついさっきとどめを刺そうとした人間の、なんたる矛盾。

そこかしこに臓物と血をぶちまけて転がっている肉。
ゴードンとか、マルロとかいう名前だったような気もするが、原形をとどめていない今は分からない。

フロック 「……」

フロック 「……」ぶちゅっ

足の下で、やわらかいものが潰れた。そういえばさっき、巨人から逃げるのにボンベのガスを
ほとんど使いきっちまった。

フロック 「しょうがねえな…」ガチャガチャ

しゃがみこんだ俺の背中で、団長が苦しそうに息を吐く。


エルヴィン「……み、にを……して、」

フロック 「すいません、体勢がきつかったですか?」

エルヴィン「……がう、……ス、ぬすん……だ、……か」

フロック 「仕方ないことです。ガス欠ではマリアの壁を越えられません」


また立ち上がって、歩きながらベルトを留め直す。

いつの間に俺は、死体を踏んづけて歩いて、そいつからガスボンベを盗める人間になっていたのか。


エルヴィン「……な、リア……あと、どれ」

フロック 「マリアならもう目の前ですよ」

トリガーに指をかけて、高くそびえ立つ壁を見上げる。

フロック 「……」パシュッ

背中の団長が、空気圧に「ぐっ」と息をつめた。

フロック 「あ、……っ、ああっ!」グルンッ

フロック 「くそっ」パシュッ、ヒュゥッ

団長の体重分、バランスを崩した体が空中で半回転する。あわててワイヤーを射出して、止めた。
壁に片足をかけてなんとか呼吸を整える。

フロック 「……はあっ、はあ、はあ……」

人を抱えて立体起動って、意外と大変なんだな。くそっ、訓練もっと頑張っときゃよかった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:18:54.05 ID:6iX1oIEk0

エルヴィン「……すまない」

初めて、背中から謝られた。

エルヴィン「……たし……を、たすけ、から……こんな……」ゼエッ、ゼエッ

フロック 「……喋らないで。舌を噛みます」パシュッ

なんとか壁の上まで行くと、ずっと遠くに人が集まっているのが見えた。

フロック 「兵長だ。…もうちょっと、こらえてください。必ずあそこまで連れて行きますから」

エルヴィン「……ほん、……に、すまない……」

フロック 「……」

エルヴィン「……あ、ちが、たな……こういう、時は」

エルヴィン「ありがとう……」フッ

その時、団長がそんな表情をしていたのかは知らない。

ただ、それまで背中ごしに伝わるほどこわばっていた体から、
安心したみたいに力が抜けたのが分かった。

エルヴィン「……りが、とう……」

それが、俺と団長の交わした最後の言葉だった。


◆◆◆◆


アルミン 「……」

フロック 「この話は誰にもしないつもりだったんだけどな…」

怖かったんだ。

団長が死んでしまったら、
あそこで死んだ仲間たちの命が、無駄に消費されちまうみたいな気がして。

腹立たしかったんだ。

使い捨てられる命があったことを、あいつはまるで気にしていないように見えて。

アルミン 「……ありがとう。僕に、教えてくれて」

俺が立ち上がると、アルミンも顔を上げて続く。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/01(土) 13:19:31.56 ID:6iX1oIEk0

アルミン 「ねえ、一つだけ……いいかな」

フロック 「なんだよ」

アルミン 「それを受け継いだということは、そういうことだと思ったから言うんだけど……
      これから先、僕たちが壁内人類にとって害だと判断されることがあるとしたら。
      その時は、容赦しないでくれるかい」

フロック 「それがお前でもか?」

アルミン 「なおさらだよ」スッ

立ち上がったアルミンは、ポケットに入れていた貝殻をくれた。

アルミン 「本当に、今日はありがとう。君にも、この景色を見せられてよかった」

エレンたちの所へ帰っていったアルミンは、「なんか変なこと言われなかったか」と
聞かれるのに「ううん」と首を横に振っていた。


フロック 「……俺はそろそろ帰るか」


ヒヒーン…パカラッパカラッパカラッ…


野営地へ向けて馬を走らせる背中に、冷たいものが当たる。
重くなった背中にため息をつく。またこれか。ここ数日ないから完全に油断していた。

フロック 「……アルミンは多分、団長とは違う道を行くと思いますよ」

フロック 「何かを捨てないと変えられないような世界に先があるとも思えませんし」

ペタッ

フロック 「せめてアルミンはこれ以上、あなたの影に苦しまないで欲しいですね」

ペタッ

フロック 「俺じゃアルミンの代わりにはならないでしょうけど。
      一生団長を背負っていく覚悟ぐらいは、してますから」

ズルッ

視界の端に、血のついた金髪がちらつく。

フロック 「せめて俺は雑魚なりに、しぶとく生き延びてやりますから」

フロック 「そろそろ何か言ってくださいよ、団長」

エルヴィン『……』

フロック 「俺はどうすればいいんですか。一生バカか気狂いみたいに独り言してればいいんですか。
      それとも人類最強を夢見て戦えばいいんですか。どうやって死ねばいいんですか」

フロック 「また、あの時みたいに道を示してくださいよ、エルヴィン団長……」

なぜかある質量で、背中がまた重くなる。

俺は空を見上げて、この悪魔の幻がいつか俺に飽いてくれることを願った。


【終】
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/01(土) 13:44:35.37 ID:M2JVDM9k0
>>8

「15才だし」「現実に当てはめて読んでも」っていう意見もあるけど
現実に即してシビアに読むのもまた面白いと思う>>1は、
兵士になりきれないエレミカがどんな末路を迎えるのか不安で面白い。
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