中野有香「中野有香は選択肢を間違い続ける」

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1 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 20:25:37.19 ID:zXp33FgyO

放課後、学校のトイレのドアを開けると
下着を脱がされた女の子と、その子を囲んでスマートフォンを向ける4人の女の子がいた


有香(ああ…)


中野有香は選択肢を間違い続ける


今の間違いはどこからか


高3になってから仕事や部活であまりクラスの行事に参加できず、クラスメイトに一緒にトイレに行ける友人がいない事
有香(これは、選択肢を間違えたというか、クラス内での立ち回りを誤っただけ)

今日放課後今この時トイレに行こうと思った事
有香(これは生理現象だから仕方ないとして)

その際に隣のクラスの友達を誘うのが億劫だった事
有香(ここら辺からは確実に間違っている)

教室の近くでなく、武道場近くのトイレを選んでしまった事
有香(教室のそばよりはひと気が少ない)


そして今、この現場に遭遇してしまった事


有香(まったく、つくづく運が無い)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1498562737
2 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 20:36:52.33 ID:zXp33FgyO
「中野さん。何か用?」

有香(向こうはあたしを知っているらしい)

有香「……用を足しに」

「使ってるんだけど?」

有香「……他をあたります」


ギィ

今開けたドアをゆっくりと閉じる


この選択肢で間違っていないはずだ


あたしは空手をやっている
この場で素人の女子高生4人を倒してしまう事はそれ程難しくはない


ゆっくりとドアを閉じる。あと60センチ


だが、空手は己を鍛えるための武道だ

他人の諍いに武力介入するために鍛えたわけではない


ゆっくりとドアを閉じる。あと40センチ


だから、ここはこの選択肢で間違えてはいないはずだ


ゆっくりとドアを閉じる。あと30センチ
3 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 20:55:49.02 ID:zXp33FgyO
有香(何を迷うことがある)

イジメなんてどこにだってある。
ましてイジメている側もイジメられている側も知らない人。
当然、こんな事態になるにいたった事情も知らない。


ゆっくりとドアを閉じる。あと25センチ


おそらくはイジメられているのであろう彼女も、たとえば空手を学んでいれば己の身を守る術があったかもしれないじゃないか。
彼女も選択肢を間違えていただけだ

有香(そこにあたしが首を突っ込むべきじゃない)


ゆっくりとドアを閉じる。あと20センチ


こんな事に遭遇するたびに、余計な事をして、選択肢を間違い続けてきたじゃないか。
同じ失敗をしてきたじゃないか。

有香(取り返しのつかない失敗は…一度きりで十分だ)


ゆっくりとドアを閉じる。あと15センチ


また間違う気なのか?
また同じ失敗を繰り返すつもりなのか?
前の失敗から何も学ばなかったのか?
またみんなを巻き込んで、正義ぶっていろいろなものを失うつもりなのか?
まだこんな事をするつもりなのか?
また選択肢を間違えるのか?


ゆっくりとドアを閉じる。あと10センチ。ちょうど拳ひとつ分。



中野有香は選択肢を間違い続ける。
4 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 21:16:50.07 ID:EapBr6p6O
有香「そういうの、良くないと思う」

閉めかけたドアを開け、彼女らにそう言った

「何が?」

意に介さない彼女ら
しかし、こちらももう引き返せない

有香「事情はよく知らないけど」

有香「でも、これはやり過ぎだと思ったから」


「誰こいつ?」
「ほら、あのアイドルやってる。空手部の」
「こいつが?」
「こんなのが?へぇ…」


有香「やり過ぎ、です。もうやめにしませんか?」

有香「見てしまった以上、これ以上は見過ごせない」


引いてください退いてください撤退してくださいそもそもこんな事するならトイレの前に見張り立てといてください
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 21:24:34.35 ID:KCAt9C4+O
もうやめにしませんか。
6 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 21:28:54.32 ID:EapBr6p6O
「なんなのこの子?」
「邪魔」
「さっさと出てってくれる?」


有香「これ以上は、良くないと思います」

事情をまったく知らないので同じ非難を繰り返し言う他にない
だが、正論が通る状況ならこんな事態に陥ってはいない

「中野さんさぁ。こいつの友達かなにか?」

半裸の彼女を指して言う。
彼女はこちらに視線を向けない

有香「いいえ。名前も知らない」

「ふぅん?」

言葉だけでは通りそうにない
7 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 21:45:22.40 ID:EapBr6p6O
あたしが視線を彼女に向けると4人組のひとりも釣られて彼女に視線を移した

その隙をついて素早く接近して、手に持ったスマートフォンをひったくる

「あっ…!」

有香「これ以上は、もうやめましょうよ」

有香「これはやり過ぎている」

有香「見過ごせません」

奪ったスマートフォンを相手に見せながら同じ事を言う

「ふーーーーっ」
「そうだね。今日はもう終わりにしようか?」

長く息を吐いた後、4人組のリーダー格と思われる女がそう言った

有香「スマホのデータを消したい」

このまま彼女らを帰しては、あたしがドアを開けた意味がない

ドアの前にはあたしが陣取っている
あたしがここから出て行かない限り、彼女らは帰れない

「……いいよ。消してあげる」

有香「スマホ。渡してください」
8 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 22:04:59.94 ID:EapBr6p6O
「チッ…」
「消すって言ってんじゃん」

有香「渡してください」

譲歩してはならない
今はここが一番の難所だ

有香「データを消すだけです。渡してください」

「……はぁ。ウザい」

しばしのにらみ合いの末、残る3人はスマートフォンを差し出した
4人分のスマートフォンのうち、ひとつを右手に持つ

有香「それじゃあ。データ消しますよ」

「……」

あたしは右手に渾身の力を込める

有香「……ッ!!!」

メキッ、ボキ、ベキン!バチバチッ!

「ちょっ!?」

ガシャン

有香「消しました」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 22:11:39.99 ID:VOj47JS70
いかんぞ、有香
色々棚上げして悪者にされるぞ
10 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/27(火) 22:21:30.55 ID:EapBr6p6O
スマートフォンは便利な代物だ
いくらでもデータのバックアップが取れる

だから、そのデータを消させるには彼女ら自身の意思が必要なのだ


渾身の、精一杯の脅しを込めて残るスマートフォンもへし折り、破壊して見せた


そのデータを利用して『何か』をしようとすれば、どうなるかをわからせるために


4機の壊れたスマートフォンの破片が床に散らばった


有香「データを消してもらう事。確かに約束しましたよ」

「……っ!」

放心の、あるいは苦虫を噛み潰したような4人を前に、彼女に手早く服を着させる

有香「スマホ、壊してしまったことはごめんなさい。必ず弁償しますから」

そう言い残して、彼女の手を引きながら足早にその場を去った

スマートフォン4機。確実に今月の給与は吹き飛んだ

おまけに無関係の他人の揉め事に首を突っ込み、ケンカを売って敵を作ってしまった


中野有香は選択肢を間違い続ける
11 : ◆G4Z1KppkgXoT [sage]:2017/06/27(火) 22:21:56.10 ID:EapBr6p6O
中断
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 22:24:03.11 ID:DjszKiUX0
おすにゃん頑張れ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 22:43:03.22 ID:XV9llcByo
かっけえ
後が怖すぎるけど
14 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/29(木) 20:48:58.02 ID:6oxFMaR3O
「おいXX、お前明日も学校来いよ?」

彼女を連れてトイレを出る、そのドアが閉まる直前に放たれた言葉

それを聞いた彼女の手がブルブルと震えたのが繋いだ手から伝わってくる

その手を力強く握り返す事さえできず、彼女らに何かを言い返すこともままならなかった


彼女と同じく、あたしの体もまた震えていたのだから



中野有香は選択肢を間違い続ける
15 : ◆G4Z1KppkgXoT :2017/06/29(木) 21:11:29.01 ID:6oxFMaR3O
彼女の手を引き、どこかひと気がない場所を求めて校内を彷徨う

非常階段付近の落ち着けそうな場所に彼女を座らせ、隣にあたしも座りこむ

彼女はうつむいたまま、一言も声を発しない

改めて着衣に乱れがないかを軽く確認してから彼女へ声をかける


有香「ごめんなさい。余計な事、しちゃいましたよね」


そうだ。あたしは事態をややこしくしただけ
何も解決した事などない


有香「でも、あの場を見過ごす事なんてできなかったから」


自分勝手な感情で彼女と彼女らの事情に立ち入っただけ


有香「あたしには、あなたに力を貸すことなんて何もできないのに…勝手なことして…」


あたしに彼女を守ることはできない。あたしには彼女を救う力なんてない


有香「でも、あいつらまたあなたのところに来るかもしれないから…だからせめて」


あたしが彼女にしてあげられるほんのわずかな事


有香「今日から、あたしといっしょに帰ろう?」


これくらいしか、あたしが彼女にしてあげられる事がない
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