【艦これ】電「トイレの花子さん?」

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1 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 20:32:24.75 ID:wx2/JoO9O

 ――それはある日、遠征から戻ったときの出来事でした。


電「今日も無事に終わって良かったのです」

雷「資源もたくさん手に入ったし、司令官も喜んでくれるかしら?」

響「ここ最近は出撃が多くて資源も不足気味だったからね。きっと喜んでくれるさ」

暁「ご褒美にアイス券でも貰えないかしら!」


 私たちはいつものように遠征を終え、報告のために執務室へと向かっていました。


天龍「おらーガキ共! くっちゃべってないでさっさと報告済ませて飯にしようぜ!」

駆逐艦一同「「「「はーい!!」」」」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1498563144
2 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 20:42:15.31 ID:wx2/JoO9O
電「……っと、その前にお手洗いに行ってきてもいいですか?」

天龍「あー? 便所なら報告済ませてからでもいいじゃねーか」

暁「べっ……! もうっ! もう少しビブラートに包んで言ってよね! レディーの前なんだから!」

響「ビブラートじゃなくてオブラートだと思うよ、れでぃー」

暁「ど、どっちでもいいじゃない! 妹のくせにいちいち揚げ足取らないでよね!」ムキーッ


 帰港する途中からずっと尿意を我慢していた私は、一刻も早くお手洗いに行きたかったのです。


天龍「じゃあ先に行って執務室前で待ってるから、早く済ませてこいよ」

電「分かったのです」

雷「一人で大丈夫? 何ならついていってあげてもいいのよ?」

電「べ、別にお手洗いぐらい一人でいけるのです!」プンスカ


 そう言って、私は皆と離れて一人お手洗いへ向かいました。
3 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 20:50:30.78 ID:wx2/JoO9O

 ―― 渡り廊下脇トイレ ――


電「間に合ってよかったのです……」ギィ

 そのトイレは、鎮守府の正門玄関から執務室へと向かうルートの中間にあります。
 寮や食堂からも離れた位置にあるため、遠征や出撃の帰りでもない限り、滅多に使うことがないトイレでした。

電「(……誰もいないのかな?)」

電「(今日は他に出撃している人もいないし、誰もこのトイレを使わなくても仕方ないのです)」

電「早く済ませて執務室に行かないと――」

 ふとその時。
 
 私はあることに気が付きました。

 トイレの一番奥の個室。
 正面から見て右から3番目の個室の扉だけが、ぴったりと閉ざされていることに。
4 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 21:00:16.15 ID:wx2/JoO9O
電「(誰かが入ってるのかな?)」ホッ

 雷ちゃんには平気だと言いましたが、正直言うと一人でお手洗いに行くのは少し怖かったのです。
 このトイレは普段あまり使われていないうえ、建物の北側に位置しているため、日当たりも悪く昼間でも薄暗いことで知られていましたから。

電「(ちょうど隣の個室も空いてるし、早めに済ませようっと)」ガチャ バタン

 一人で心細かった私は、誰かが使用している個室の隣――右から2番目の個室に入りました。
 この薄暗い空間の中でもすぐ隣に誰かがいるというだけで、少しでも安心できましたから。


 ――――――――
 ―――――
 ―――
5 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 21:40:31.67 ID:wx2/JoO9O
電「……ふぅ」ザーッ

電「(早いとこ手を洗って執務室に行かないと)」ガチャ バタン

 用を済ませた私は、個室から出ると手洗い場に向かいました。
 蛇口をキュッとひねると、中から冷たいような生温いような、何ともいえない温度の水が勢いよく流れ出します。
 そうして手を洗っている最中に、私はあることに気が付きました。

電「(……いくらなんでも静かすぎるのです)」
 
 普通誰かが個室に入っていれば、水を流す音や紙を手に取る音、息遣いや衣擦れの音がしてもおかしくないはずです。

 それなのに、

 このトイレに入ってから今に至るまで、

 例の個室の中からは、物音一つ聞こえませんでした。
6 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 21:56:37.73 ID:wx2/JoO9O
電「(もしかして、誰も入ってないのでしょうか?)」

電「(ただ単に扉が閉まっているだけで、鍵はかかっていないとか?)」

電「(でももし、中に誰かいたとしたら……)」

 個室に入ったはいいものの、その中で物音一つ出せない状態に――すなわち、意識を失っている?
 居眠りしているだけならまだいいけれど、もし急病などで倒れてしまっていたら?

電「(……確かめてみないと)」

 誰かが内側から鍵をかけたまま個室内で倒れてしまっているのだとしたら、一刻も早く助け出さないといけません。
 私はハンカチで手を拭くと、足早に閉ざされた個室の前へと向かいました。
7 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 22:06:00.02 ID:wx2/JoO9O
電「……あの、誰か入ってますか?」

 返事はない。

電「もし入ってるなら内側からノックをしてほしいのです」

 返事はない。

電「体調が悪いなら誰か呼んでくるのです」

 返事はない。

電「…………」

 このまま呼びかけていても埒が明かない。
 そう思った私は、意を決して扉をノックしました。
8 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 22:14:34.64 ID:wx2/JoO9O

 コン コン コン

 無機質な硬い音が、不気味なほどに静まり返ったトイレの中で反響します。
 しかし相も変わらず、個室の中から返答はありません。

電「やっぱり誰もいないのですか……?」

 誰ともなしに一人呟きながら、ドアノブに手をかけて回してみると、

電「あれ? やっぱり鍵がかかってるのです……」カチャカチャ

 てっきり誰も入っていないものと思われた個室には、中からしっかりと鍵がかけられていました。
 それはつまり、今もこの個室内に誰かがいるということ。
 にもかかわらず、こちらからの呼びかけやノックに応答できない状態にあるということは――

電「……だ、大丈夫ですか!? 気を失ってるなら起きてほしいのです!」ドンドンドン!!

 中で意識を失っているであろう誰かを起こすために、私は扉を何度も激しく叩きました。
 しかし、どれだけノックを繰り返しても、何度声をかけようとも、
 中にいる誰かが目を覚ます気配は一向にありません。
9 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 22:31:53.06 ID:wx2/JoO9O
電「……っ! すぐに人を呼んでくるから待っててほしいのです!」

 このまま呼び続けても意味がないと判断した私は、恐らくは聞こえていないであろう相手に対し、そう言い残してトイレから駆け出そうとしました。

 と、その時――



    ザザーッ


 
 今さっきまで静まり返っていた個室の中から、水の流れる音が聞こえてきました。

 ぴたり、と硬直する体。
 しーんと静まり返っていたトイレの中で、水の流れる音だけが響きわたります。
 大した音量ではないはずですが、静寂が支配するこの空間においては、まるで濁流が発する轟音のようにも感じられました。
 咄嗟のことに体と思考が固まってしまった私でしたが、そこに追い打ちをかけるように、今度は個室のドアがギィィとゆっくり開け放たれました。

電「……だ、大丈夫なのですか?」

 きっと先ほどの必死の呼びかけが功を成して、中にいた人が意識を取り戻したのだろう。
 私はそう思い、恐る恐る声をかけました。

 しかし、

 開かれたドアの中からは、誰も出てこようとはしません。
10 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 22:37:48.05 ID:wx2/JoO9O
電「あ、あの……どうかしましたか?」

 一歩 また一歩。

 まるで誘蛾灯に吸い寄せられる羽虫のように、おぼつかない足取りで例の個室へと近付いていきます。
 そうして、開け放たれた個室の目の前までたどり着いた私が、恐る恐る中を覗き込むと――


 そこには、誰もいませんでした。

11 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/27(火) 22:46:47.05 ID:wx2/JoO9O
一旦ここまでになります。
久々に学校の怪談シリーズ(映画)を見て、書きたくなって書きました。
初投稿ですので指摘があればお願いいたします。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 23:50:28.56 ID:9Jviwt5oo
状況を想像したら怖いよなあ
電は度胸がある
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 00:13:25.66 ID:EyaJgemo0
懐かしやサンダンス・カンパニー
個人的には陽の気配が一番強く感じられた2がお気に入りだった

エンドロールの曲がどれもいいんだよなこれがまた
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 11:50:41.55 ID:L5NdZ8ywo
おつかーレ
15 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 22:57:04.88 ID:ReryGD1kO
コメントありがとうございます

>>13
2のEDいいですよね。花時計で天に昇っていくシーンのBGMも好きです
あとは1のノスタルジックな雰囲気もお気に入りだったり

それでは再開します
16 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:02:59.39 ID:ReryGD1kO

 ――
 ――――
 ――――――


天龍「おっせーなぁ、電のやつ」

響「きっと大きい方を「お下品よ!」……悪かったよ、暁姉さん」

雷「でも一体いつまで待たせるのかしら」

天龍「だよな。こっちはもう腹ペコだっつーのに……ん?」ドドドド

雷「? 何の音かしら?」ドドドドドド

暁「何かが近づいてきてるみたいだけど……」ドドドドドドドド

響「あれは……電?」ドドドドドドドドドドドド!!!!


雷「で、でででで、出たのですうううううううううううう!!!!」ズシャァー!!


天龍「うおおっ!? どうしたいきなりヘッドスライディングかまして!?」

雷「出た! 出た! 出た! 出たのです!!」

響「そんなに大きいのが出たのk「響!!」……冗談だよ姉さん」

雷「お、落ち着きなさい電! 一体何が出たの?」

電「じ、実はさっきトイレで――」



 かくかくしかじか

17 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:10:50.72 ID:ReryGD1kO

天龍「はあ? なんだそりゃ?」

暁「ほ、ほんとに中に誰もいなかったの?」

電「ほんとなのです! 最初は中に誰かが入ってると思ったけど、ノックしたり呼びかけても返事がなくて、でも鍵はちゃんとかかってて……
  トイレから出ていこうとしたら水が流れる音がして、ドアが開いたので中を覗き込んだら誰もいなくて、それでそれで……!!」アワワワ

響「ストップ。ほら、もう一度落ち着いて深呼吸してごらん」

電「すーっ、はぁー……すーっ、はぁー…………ご、ごめんなのです。もう大丈夫です」

雷「水の流れる音は聞き間違いじゃない? 海も近いし波音と勘違いしたとか……」

響「たしかにこの鎮守府は海に隣接しているけれど、さすがにあのトイレにまで波音が届くことはないんじゃないかな」

暁「それに今日は波も穏やかだし……」

雷「うーん、そうよねぇ……じゃあドアの立て付けが悪かっただけで、ほんとは鍵なんて最初から掛かってなかったんじゃ――」

響「仮に鍵が掛かっていなかったんだとしても、トイレの水を流した“誰か”が個室の中にはいたはずだよ。それなのに電が中を覗いたら誰もいなかった。
  ドアの鍵が掛かっていようがいまいが、この不可思議な現象の説明にはならないさ」

暁「じゃ、じゃあやっぱり電の言う通り……?」

響「幽霊が」

雷「出たってこと?」

電「なのです!!」
18 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:16:54.10 ID:ReryGD1kO

天龍「幽霊ねぇ……こんな真昼間からそんなもんが出るのかよ?」

電「し、信じてほしいのです! 間違いなく見たのです!」

天龍「別に幽霊の姿をがっつり見たわけじゃねーんだろ? ただ単に、誰もいないはずのトイレで勝手に水が流れただけじゃねーか」

電「それが幽霊の仕業なのです! じゃないと説明がつかないのです!」

天龍「故障かなんかで勝手に水が流れたんじゃねーか? で、ドアが勝手に空いたのは隙間風か何かのせいだろうよ。こんなところに幽霊が出てたまるかってーの」

電「ど、どうして信じてくれないのです!? 嘘や見間違いなんかじゃないのです!」

天龍「別にお前の言ってることを疑ってるわけじゃねえよ。ただ単に幽霊の存在を信じられないだけさ。ほら、全員揃ったんだしさっさと中入って報告するぞ」コンコン

提督『入れ』

天龍「うーっす、第2艦隊、たった今帰還したぜ」ガチャ

提督「お疲れさん。結果はどうだった?」

天龍「へへっ、聞くまでもねーだろ?」

暁「大!」

響「成」

雷「功!」

電「……なのです」

提督「ははっ、よくやったな皆。ご褒美にアイス券でも……ってどうした、電?」

電「……何でもないのです」シュン

提督「? 遠征は成功したのにやけに元気がないじゃないか」

天龍「あー……実はさ、提督」


 かくかくしかじか

19 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:25:10.32 ID:ReryGD1kO
提督「……トイレで幽霊を見た?」

天龍「正確には“見て”はいないみたいなんだが……」

電「……ほんとに幽霊がいたのです。嘘じゃないのです」ムスーッ

雷「司令官、電は嘘をつくような子じゃないわ」

響「うん。それは間違いない」

天龍「俺も電のことを嘘つき呼ばわりするつもりはないんだが、どうにも幽霊なんてモンを信じられなくてさ。
   それで機嫌を損ねちまったみたいで……提督? どうしたんだよ難しい顔して」

提督「…………あの噂は本当だったのか」

天龍、暁、響、雷、電「「「「「……えっ?」」」」」
20 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:29:24.20 ID:ReryGD1kO


 ――この世に深海棲艦が現れてから数年。
 人類は艦娘という対抗手段を用いて、日夜激戦を繰り広げてきた。
 その甲斐あってか、昨今に至るまで人類は海を失わずに済んでいる。

 しかし、それでもなお深海棲艦の猛攻が止むことはない。
 むしろやつらは年々その数を増し、これまで安全と思われていた海域にまで侵攻してくることも多々あった。

 絶え間なく、そして何の前触れもなく各地に出没する深海棲艦。
 そんなやつらに対抗すべく、政府と軍は沿岸部のいたるところに鎮守府の設置を急いだ。
 通常兵器では歯が立たない深海棲艦に対し、唯一有効打を持ちうるのが艦娘であり、その艦娘たちの拠点となるのが鎮守府であったからだ。


提督「しかし、全国各地に鎮守府を設置するのは言うほど簡単なことではなかった」


 深海棲艦により交易手段を制限された日本は、島国が抱える弱点――物資の枯渇に直面していた。
 また、深海棲艦により破壊された町々の復興や、傷ついた人々の治療にも多くの資金が必要となる。
 早い話、鎮守府の設置には金がかかるのだ。

 出撃や帰還の際に使用する港さえあればいい、というわけではない。
 傷ついた艦娘を治療するための入渠ドック。
 新たな兵器や装備を開発するための工廠。
 そして、時には一つの鎮守府に100を越える艦娘が所属することも珍しくないため、彼女らの居住スペースも必要になってくる。
 戦争で疲弊した日本に、それだけの施設を短期間で数多く設置することは困難を極めたのだった。
21 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:36:07.38 ID:ReryGD1kO
提督「そこで立案されたのが、現存する施設を鎮守府として再利用するというものだった」

 放棄された漁港を、
 沿岸部に立ち並ぶ工場を、
 そして、病院やホテルなどの大型建造物を、

 一から施設を建てるのではなく、深海棲艦の出没により人々が寄り付かなくなった各施設を、鎮守府として再利用することにしたのである。

提督「そうすれば費用を大幅に削減できるし、何より短期間で鎮守府を設立させることもできる。もちろん施設の元の所有者や自治体には許可を得た上でだが」

提督「で、その例に漏れず、この鎮守府も元は別の目的で建てられた“ある施設”を再利用したものだ」

暁「ある施設って?」

提督「……学校だよ」
22 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:46:20.51 ID:ReryGD1kO
提督「元々この建物は学校として使われていたんだ。とは言っても、深海棲艦が現れる十数年前には既に廃校になっていたがな」

響「だいぶ前に廃校になった割には、あまり建物が傷んでないように思えるけど?」

提督「廃校になった後も、自治体や卒業生たちが定期的に清掃活動なんかを行っていたらしい。
   おまけに鎮守府として再利用するにあたって、ガタがきていた部分だけは改築したからな」

天龍「へぇ……俺たちは学校になんざ通ったことがないからな。ここが昔学校だったなんて気付かなかったぜ」

提督「まぁそれもそうか。でも部屋の造りはもろに教室だし黒板や教卓なんかも残ってるから、見る人が見たらすぐに気付くと思うぞ」

電「……そ、それで、さっき司令官さんが言ってた“あの噂”っていうのは何なのですか?」

提督「ああすまん、少し話が逸れたな」

 ごほん、と提督は咳払いをすると、声のトーンを落としてこう切り出した。

提督「お前たち、“トイレの花子さん”って、聞いたことないか?」
23 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/28(水) 23:57:47.51 ID:ReryGD1kO
天龍「トイレの?」

雷「花子さん?」

電「なのです?」キョトン

響「誰だいそれは?」

提督「一言で言うとだな、トイレに出るといわれる幽霊だよ」

暁「ゆ、幽霊……?」

提督「俺やその前後の世代の大人なら、ほぼ確実に一度は耳にしたことのあるぐらい有名な話さ」


 学校の女子トイレに入ると、個室の一つが閉まっている。
 その個室のドアをノックし、花子さんの名前を呼ぶと――


提督「か細い女の子の声で返事があったり、ドアが開いたと思ったら白い手が出てきて便器の中に引きずり込まれたり、
   色々と話に派生はあるが、女子トイレに出る女の子の幽霊という部分は共通してるみたいだな」

電「じゃ、じゃあ電が見たのは、そのトイレの花子さんなのですか?!」

天龍「けどよ、呼びかけても返事が無かったって言ってたじゃねーか。提督の話だと、中から声が返ってくるはずだろ?
   それに便器の中に引きずり込まれてもねえし」

提督「さっきも言ったように色々と派生があるからな。花子さんの噂自体、日本各地のありとあらゆる学校に存在してるし、場所や時代によって微妙に噂の内容も変わるのさ」

響「つまり、トイレに出る幽霊を総じて“花子さん”と呼ぶってことかな?」

提督「まぁそんなところか? 他の幽霊や妖怪の話もあるみたいだが、一番有名なのは花子さんだからな。トイレに出る幽霊=花子さん、みたいな認識が多いのは間違いないだろう」
24 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 00:06:23.59 ID:PQakMbo2O
暁「で、でもまだ花子さんが出たと決まったわけじゃないわ! 電の勘違いっていうことも……」

提督「……ここに着任したとき、地元の人から聞いたんだよ」

 曰く、この学校のトイレには昔から“花子さん”が出るという噂がある――

提督「この建物を管理していた人から聞いた話だ。その人……もう40近いおじさんなんだが、この学校の卒業生らしくてな。
   その人が在籍していた頃からそういう噂話があったらしい。学校内だけじゃなく、この地域全体でも有名な話なんだそうだ」

提督「で、その花子さんが出ると言われていたトイレが、電がさっき使ったという――渡り廊下脇のトイレ、らしい」

電「じゃ、じゃあやっぱり……!」ガクガクブルブル

雷「だ、大丈夫よ! お姉ちゃんがつ、つつつつ付いてるから!!」ビクビク

暁「こっ、ここここ怖くなんてないんだから!!」ガタガタガタガタ

響「……うん、怖くない。怖くなんてないさ。怖いはずがない」ギュッ



天龍「――ハッ! 馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ!」
25 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 00:14:24.14 ID:PQakMbo2O
電「天龍さん……?」

天龍「幽霊なんて不確かなモンが存在するわけねーだろ」

天龍「姿をはっきり見たってんならともかく、水の流れる音が聞こえただけだろ?」

天龍「その花子とかいう女の声を聴いたわけでも、何かされそうになったわけでもねーのにビビりすぎだっつーの」

電「け、けど……!」

天龍「それに、百歩譲って幽霊がいたとしても、そんなモンにびびってどうするよ。俺たちゃ幽霊なんかよりもよっぽど恐ろしい敵と毎日戦ってんだろうが」

提督「たしかに、幽霊よりも深海棲艦のほうがずっと怖いかもな。見た目も、実害の規模も」

天龍「だろ? なのに幽霊ごときにびびってるようじゃ、この先出撃なんてできやしねぇぞ?」

雷「それは……そうかもしれないけど」

電「でもやっぱり怖いものは怖いのです!」
26 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 00:23:25.63 ID:PQakMbo2O
天龍「はぁ……だったらもうあのトイレを使わないようにすればいいだけだろ? 提督が聞いた話でも、幽霊はあのトイレに出るっていうことだったよな?」

提督「ああ」

天龍「なら簡単だ。あのトイレに入りさえしなければ、もう幽霊に会うこともないだろ」

響「……それもそうだね」

雷「なーんだ、ならもう大丈夫じゃない!」

電「うう……でも幽霊が同じ建物の中にいるだけで怖いのです」

響「心配しなくても大丈夫さ。現にさっきも何もされなかったんだし、トイレにさえ近づかなければ平気だよ」

暁「そ、そうね。響の言う通りだわ! 電、そんなに怯えなくても大丈夫よ! いざとなったら私が守ってあげるから!」フンス!

電「暁ちゃん……」

響「そうだよ電。僕も付いててあげるからさ」

雷「怖くなったら私を頼ってもいいのよ?」

電「響ちゃんに雷ちゃんも……皆ありがとうなのです!」
27 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 00:28:05.51 ID:PQakMbo2O
天龍「じゃ、一件落着ってことで……提督! ほら、何か俺たちに渡すものがあっただろ?」

提督「ん? ……ああ、そういえばアイス券を渡そうとした途中だったな。ほれ」スッ

天龍「サンキュー! よっしゃ、早速間宮まで食いに行こうぜ!」

電「はい! 提督、アイス券ありがとうございました」

提督「気にするな。それよりも怖がらせてしまったみたいで悪かったな。明日は出撃もないし、ゆっくり休むか思いっきり遊ぶかして嫌なことは忘れた方がいい」

電「分かったのです!」

暁「じゃあね司令官」

響「これで失礼させてもらうよ」

雷「次の遠征も司令官のために頑張るから! またよろしくねっ!」バイバーイ


 ガチャ バタン


提督「……さて、俺も早く仕事を片づけて一服するかな」

提督「(――本当に、何事もなければいいんだがな)」





 ―― 窓の外 ――

??『(ふふ……面白そうな話を聞いちゃいました♪)』

28 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 00:31:26.30 ID:PQakMbo2O
今回はここまでになります
また今夜投稿させていただきます
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 09:35:55.59 ID:SoYM3Rdto
おつ
30 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 21:42:21.63 ID:sGFi1JwrO
再開します
31 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 21:51:15.74 ID:sGFi1JwrO

 ―― 翌日 執務室 ――


提督「すまん阿武隈、そこの書類を取ってくれ」

阿武隈「これですか? はいっ」スッ

提督「ありがとう。にしてもすまないな、朝から書類仕事を手伝わせてしまって」

阿武隈「秘書艦なんだから手伝うのは当然です。気にしないでください」

提督「しかし、本当なら昨日のうちに私が終わらせておくべき仕事だったのに……」

阿武隈「もうっ! 提督は変なところで律儀というか謙虚というか……いつもは遠慮なしにあたしのことイジってくるくせに!」

提督「ははは、それは阿武隈が可愛いすぎるせいだから仕方ないさ」キリッ

阿武隈「かっ……!? もう! だからそういうところが――」 ドドドドドドド


 バーン!!


提督「うぉっ!?」 阿武隈「きゃっ!」

大淀「て、提督! 大変です! すぐ来てください!」ハァハァ

提督「い、いきなりどうした大淀? せっかく照れる阿武隈の姿を堪能して……ゴホン! ノックもせずに入ってくるとはお前らしくもないぞ」キリッ

阿武隈「もぉぅ、急にドアを勢いよく開けるもんだからびっくりしました。あと提督は後でお仕置きです!」 エェ…イケズゥ

大淀「す、すみません、慌てていたもので……それより提督、すぐに食堂まで来てください!」

提督「? 食堂で何かあったのか?」
32 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:00:46.00 ID:sGFi1JwrO

 ―― 食堂 ――


 ザワザワ ガヤガヤ

五月雨「こ、これって本当なの?」

雪風「うぅぅ……怖いですぅ」

潮「ど、どうしよう曙ちゃん……」

曙「心配いらないわよ! どうせたっ、ただの噂話でしょ……」

 ギャーギャー ワーワー


提督「……こりゃ一体何の騒ぎだ?」

阿武隈「みんな掲示板の前に集まって、何か騒いでますね」

大淀「……原因は掲示板に貼られている新聞です」

提督「新聞って、青葉が毎週発行してる鎮守府内報のことか?」

大淀「ええ。とりあえずその内容を読んでみてください」

提督「ふむ、どれどれ?」




 『スクープ! 呪われた鎮守府! 渡り廊下脇トイレに潜む悪霊、その名は“花子さん”!』

  昨日、駆逐艦のIさんが遠征から戻った際、渡り廊下脇のトイレで世にも恐ろしい幽霊を目撃した。

  〜 中略 〜

  提督の談によると、当鎮守府は昔学び舎として使われていたらしく、その時から幽霊の噂は存在していたという。
  幸いなことにIさんは無事だったが、この花子さんという幽霊は人をトイレの中に引きずりこむらしい。
  なので当面は件のトイレに近付かない方がいいだろう――。


33 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:12:13.80 ID:sGFi1JwrO
提督「青葉のやつ、さてはあの時盗み聞きしてやがったな……」

阿武隈「て、ててて提督! この話ってほんとなの……?」

提督「あー……一部(ここが以前学校だったこと)は本当だが、実際に幽霊がいるかどうかは分から――」


初霜「み、みんな聞いた!? 提督が本当のことだって!」

漣「えー……これマジなんですか?」ウワァ…

不知火「し、しししし不知火には関係ありません。私が怖がるとでも?」ビクビク

白露「青葉さんのガセネタだと思ってたのに……うぅぅ」ガクブル


提督「……あー」

大淀「提督! 皆さんを余計に怖がらせてどうするんですか! この新聞のせいで朝から鎮守府中がパニック状態だっていうのに!」

提督「す、すまん……というか元を正せば青葉のせいだろう!」

青葉「お呼びになりましたかー?」ヒョコッ

提督「あっ、てめっ青葉! なんだこの記事は!?」

青葉「なにって、私は真実を書いただけですよ?」

提督「こんな内容を記事にして、皆が怖がるとは思わなかったのか?」

青葉「いやぁ、正直私もここまで反響があるとは思わなくて……てへっ☆」

提督「お前なぁ……」

大淀「提督、青葉さんへの罰は後で考えるとして「えっ!?」ひとまずこの騒ぎをどうにかしないと」

提督「そうだな。このままでは出撃や業務にまで支障をきたしかねん。阿武隈、すまんが騒いでいる駆逐艦の子たちをまとめて……阿武隈?」

阿武隈「ひゃいっ!? な、なななななんですか? 怖くなんてありませんよぅ!!」ガクガクブルブル

提督「(どう見ても怖がってる阿武隈の半泣き顔ご馳走様です)」
34 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:17:59.67 ID:sGFi1JwrO


 それから数日。
 花子さんの噂が広まって以降、(主に駆逐艦たちの間で)一人でトイレに行けなくなる者が続出した。


天津風「ね、ねぇ島風? 今からお手洗いに行こうと思うんだけど、もし良かったら付いてきてもいいのよ?」モジモジ

島風「へ、へぇー、奇遇だね。ちょうど私も行こうと思ってたところだから、一緒に行ってあげる!」モジモジ


 昼でも夜でも関係なく、いわゆる『連れション』というものが艦娘たちの間で流行となった。


三日月「長月ぃ…えっと、そのぉ〜……」オドオド

長月「はぁ……またトイレか? 仕方ないな」ヤレヤレ


 深海棲艦には勇敢に立ち向かえる艦娘たちでも、幽霊という得体のしれない存在は恐怖の対象となるらしい。
 かくしてトイレの花子さんは、鎮守府を恐怖のどん底へと叩き落としたのであった。



提督「……やっぱり、いつまでも放っておくわけにはいかんよなぁ」ハァ…

大淀「そうですね。このままでは士気の低下を招きます」

提督「連れション自体に目くじらを立てるつもりはないが、四六時中怯えながら過ごすのは精神衛生上よろしくないだろうし……阿武隈もそう思うだろ?」

阿武隈「へっ? え、ええ、そうですね……はい」モジモジ

提督「? どうしたんだ、妙にもじもじして」

阿武隈「うー……そ、そのぉ〜、提督ぅ……」モジモジ



阿武隈「一人じゃおトイレ行けないよぉ…」上目遣い

提督「僕がトイレさ」キリッ

大淀「おい」
35 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:23:50.10 ID:sGFi1JwrO

提督「――冗談はさておき、解決策を考える必要があるな」

大淀「真っ先に思いつくのはお祓いですかね」

阿武隈「お祓いって、お坊さんでも呼ぶんですか?」 ※ちなみに阿武隈は大淀さんに付き添ってもらって無事トイレに行けました

提督「う〜ん、たしかに本職の方にお祓いなり除霊なりをしてもらうのが一番なんだが、如何せん、何の実害も出ていない時点でそこまでするのもなぁ」

大淀「まあ怖がってる子たちは大勢いますが、実際に誰かが危害を加えられたりしたわけじゃないですからね」

阿武隈「お化けの目撃情報も、電ちゃんが最初に遭遇して以降は一件も報告されてないんですよね?」

提督「ああ。前も言ったが電は嘘をつくような子じゃない。とはいえ信憑性に欠けるのも事実だし……」ウーン

大淀「とりあえずもう一度、現場を見に行ってみてはいかがでしょう?」

阿武隈「え゛っ?!」

大淀「ここで憶測を膨らませていても埒があきませんし、現場検証は大事かと」

提督「そうだな。他に妙案も思いつかんし、現場を調べてみたら何か分かるかもしれん」

阿武隈「(ええぇぇぇ?! 行きたくないよぉ!)」イヤダァァァ

提督「阿武隈も当然行くよな?」

阿武隈「わ、私は残って書類の整理を……」

提督「まさか来ないなんてことはないよなぁ? 一水戦旗艦まで務めた阿武隈が幽霊を怖いだなんて、駆逐艦の皆に示しがつかないもんなぁ? ん?」

阿武隈「くっ…! い、行きますよぉ! 行けばいいんでしょ!?」

大淀「(これはあれですね。好きな子には意地悪したくなるという男子特有の……)」
36 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:34:07.91 ID:sGFi1JwrO

 ――
 ――――
 ――――――


提督「と、いうわけで件のトイレの前までやって来たはいいが……」チラッ

天龍「ん?」 電「です?」

提督「なんでお前らまでいるんだ? 天龍、電」

大淀「なんでも電さんが、私たちと同じくこのトイレを調査したいらしくて」

電「元はと言えば私が幽霊を見ちゃったから、こんな大騒ぎになってしまったのです……せめて真相を突き止めて、皆を安心させてあげるのです!」フンス

提督「(ええ子や……)」ジーン

阿武隈「(あんなに怖がってたのに……)」ウルッ

大淀「(小さいのに立派ですね)」ニコッ

電「……でもやっぱり一人は怖いので、天龍さんに付いてきてもらったのです」

天龍「ま、そういうことだ。どうせ幽霊なんていやしねえしな」ヘラヘラ
37 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:37:13.14 ID:sGFi1JwrO

阿武隈「……天龍は幽霊のこと平気なの?」

天龍「あったりまえだろ? 存在しねーもんを怖がってどうするよ。あっ、もしかして阿武隈……お前、怖いのか?」ニヤニヤ

阿武隈「は、はぁ?! 怖いわけないじゃない!」ギクッ

天龍「の割には、さっきから提督の後ろに隠れてばっかじゃねーか」ニヤニヤ

阿武隈「こ、これはその……万が一幽霊が襲ってきたときに、秘書艦として提督を守らないといけないでしょ?
    だから背中にくっつくことで死角になりやすい背後を守ってるのよ!」

提督「(不安げな顔で服の裾をぎゅっと握りしめてくる阿武隈かわいい)」

大淀「(幽霊の存在を認めている時点で怖いと言ってるのと同じでは……)」

電「さすが阿武隈さんなのです! 自分の身を盾にしてでも上官を守ろうとするなんて、軍人の鑑なのです!」

阿武隈「そ、そうでしょ! 電ちゃんはいい子だねぇ!」ヨシヨシ

天龍「ふーん……じゃあその勇敢な阿武隈さんに、先陣切ってトイレの中を見てきてもらおうか」ニヤニヤ

阿武隈「え゛っ! い、いやぁ、私はさっきも言ったように提督をお守りしないと――」



 ―――― ギィィィィ…バターン!!



一同「「「「「 !? 」」」」」

38 : ◆KzSA1DIYOY [saga]:2017/06/29(木) 22:41:20.96 ID:sGFi1JwrO
短いですが一旦ここまでになります

もうだいぶ暑くなってきましたし、昔みたいにもっと心霊番組や特集を放送してほしいものです・・・
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 00:15:37.90 ID:47B1Rub9o

艤装展開していけば怖くなくね?
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 00:19:09.13 ID:k11pqcP7o
>>1の好みに合うか分からないけどテレ東で
7/21の深夜からデッドストックってホラードラマ始まるよ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 00:22:56.44 ID:k11pqcP7o
艦娘の弾が霊をすり抜けて
霊側は艦娘にお触りからの殺害可だと嫌だな
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 02:01:03.59 ID:DcwHbMXOo
おつかーレ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 07:00:56.82 ID:EQ7wSBO60
駆逐っ子ばかりの鎮守府なら幽霊も大喜びやろうね。基本小中学生な子達が多いし
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