【安価】Timeless Heroes【クロスオーバー・ヒーロー】

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86 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 15:21:46.32 ID:fsGUhO/Ao
(――アズマは!)

 カラムは親友を思い出し、その姿を探した。

(いた!)

 彼は今何か≠ノ向かって銃を撃っていた。効果は感じられない。

「アズマ!」

 カラムは叫んだ。アズマはすぐさまそれに気づき答える。

「カラム、この場を離れるぞ!」

「でも装置が!」

「コイツら≠フ対処方法が分からない事には話にならない! 動きが遅いが食いつかれたら、死ぬぞ!」

「他の見学者も起こさなきゃ!」

「ダメだ! 時間がない! 起こしている間にも増えるだけだ! 襲われる確率が高くなるぞ!」

「増える!?」

そういえば、自分が目を覚ました時より観測室内の何か≠フ数が増えている。
恐らく出所は、実験室の門の光から特殊ガラスをどういう原理か透過し来ているようである。
人間を襲う姿を見た以上、この場に留まるのは自殺行為に等しい。

「……研究室の外の人たちを避難させなくちゃ……」

苦しい決断であったが、カラムはアズマに従い研究室から一旦離れることにした。

1メートルほどの虫は逃げる彼らを追うが足の遅さ故、追いつくことはできなかった。
*
87 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 15:27:33.43 ID:fsGUhO/Ao
#1 Pilot

to be continued…
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/09(水) 15:28:54.09 ID:87F3p93CO
乙。
事態が動き始めましたねぇ…。
89 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 15:37:42.31 ID:fsGUhO/Ao
Next…

First Timeless Hero:Ultimate fate of the universe

#2 Insect 異界の蟲
 避難を呼びかけながら研究所内を逃げる二人。状況を窺うが何か≠ヘ増えていくばかり。
被害を最小限にするよう努めるが、遂に研究室から何か≠ヘ外に出てしまい、所内の人間に無差別に襲い掛かる。
その中で、アズマは何か≠ヨの対抗手段の確立。カラムは装置の停止を行うため新たな行動に出る。
90 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 15:59:11.90 ID:fsGUhO/Ao
【#1解説】
・このコーナーでは話の中で説明しきれなかったことを今後のネタバレをしない程度に解説します

☆あれ? 予告と内容違くね?:書いてるうちに変わってきました。あくまで予定なので変わる可能性も大いにあります。本来は#1で全て終わらせることを#1〜3を使って終わらせようとしています。

☆U.S. Army:泣く子も黙るアメリカ軍。

☆DOE:ジョーンは、アメリカ合衆国エネルギー省。国家の存亡と、並行世界を基本世界とつなげることで得られるエネルギーについて聞きに来ていたという側面もあります。

☆DoD(NRO):アメリカ国防総省。通称ペンタゴン。NROはアメリカ国家偵察局、米諜報機関です。空軍直轄の組織で、アズマの「16年前の〜作戦」にかかってきます。空挺降下作戦に参加していたのです。コンラッドとの繋がりはここですね。

☆カブリ理論物理学研究所:カリフォルニア大学サンタバーバラ校が擁する、世界で最も権威ある理論物理学研究所の一つです。

☆学食:アメリカの学食は肉がいっぱいあります。

☆上院議員:大統領に助言したり立法したり弾劾したりする偉い人です。ハーマリー上院議員は、国の科学に関する立法を勧める為、研究所を訪れるなどして精力的な外部視察活動を行っていました。
91 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 16:07:24.85 ID:fsGUhO/Ao
【refer to…#1】
・このコーナーでは皆さんのこんなアイデア・意見を参考に書いたことをお知らせするコーナーです。皆の意見がこんな感じで反映されているとお話しします。

☆人類が、別世界から生命エネルギーを奪うことで世界の存続を計る:モロですね。基本世界から並行世界の寿命をいただいていこうと研究が進められていました。

☆別の世界を繋ぐワープゲートの入り口:本文内の『門』に当たります。

☆主人公は世界の均衡を保つ為に組織された特殊部隊の隊長:大分変ってしまいましたが、アズマはそこから着想を得ました。

☆身長は高めで容姿の整った優男。線は細いが鍛えあげられた肉体をしている:まだ描写されていませんがアズマはそんなつもりです。伊勢谷友介とかオダギリジョーを想定しています。そこから更にその逆を行く見た目のカラムを思いつきました。

☆決して私情を挟まない冷徹な人間だが、心の何処かに葛藤がある:これもアズマのキャラを考える時役に立ちました。彼にも葛藤があったようですね。
92 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/09(水) 16:08:59.20 ID:fsGUhO/Ao
・中断

・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!

・ではこのへんで
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/09(水) 17:10:40.80 ID:RinGSVNN0
わずかな内容からここまで引き込まれるダークな展開とは…圧巻です
とりあえず蟲怖い
94 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 14:28:51.22 ID:tFzSZnUao
・ゆっくりはじめていきたいと思います
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 14:35:38.47 ID:C7rnmyPjO
まってた
96 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 14:38:50.81 ID:tFzSZnUao
#2 Insect

 観測室出た二人は、真っ先にマスコミ待機部屋へ向かった。
彼らを見た、多くのマスコミ陣は彼らに群がった。
事情を知らない報道陣、は次々と質問を投げかけた。

「実験はどうなったのですか」
「成功? それとも失敗?」
「他の研究員の話も聞きたいのですが」
「ハーマリー上院議員はまだ観測室の方に居るのですか?」

 カラムは憔悴仕切っていた。実験はやはり失敗。そうなることは気づいていたものの、あの警報が鳴るまで止める決心は付かなかった。
更にその先にあったのはまさに地獄≠ナあった。
並行世界から現れた。巨大な甲蟲のようななにか=Bそれが、人間を喰らい始めたのである。
更に彼らは、恐らく正しい判断とはいえ見学者を置き去りにし、観測室を離れてしまったのである。次いで言うなら並行世界と基本世界を繋げる為の粒子照射装置は止めることができておらず、現在も動き続けている。
彼は強い自責の念に駆られており、とても答える気にはなれなかった。

 そんなことはお構いなしに記者らは質問を増やす。

「隣に居るのは機密保持部のコンドー=アズマさんですね。貴方は現在近代のアサシン≠ニして黒い噂が囁かれていますが、その噂は本当なのでしょうか?」
「カラム博士、コンドー氏とは大学在籍時代の友人と聞きましたが」
「実験の結果は?」
「並行世界など存在しないと他科学者の批判を受けていると聞きますが――」

辟易するカラムに代わってアズマは答えた

「端的に言えば、実験は失敗だ。現在実験室内で事故が発生している。現在上院議員含め見学者全員は機密保持の観点において観測室内で待機中。我々から話せることは以上だ」

マスコミ陣は事故発生という単語に大いに沸き、質問を更に増やしたが

「現在原因究明中。更なる事故が予想される。一般関係者はご退出を願う」

とアズマが言うと、彼らは少し文句を言いながら研究所を去って行った。彼らも命までは惜しかったらしい。

「アズ……すまない」

 カラムはアズマに礼を言った。その声は酷く震えていた。

「混乱は優先して防がなくてはならない。この事態を最初から説明するには時間がかかりすぎる」

アズマは事もなげに答えた。こういうこと≠ノは慣れていたのである。
97 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 14:43:08.40 ID:tFzSZnUao
 二人はマスコミ陣全員が出ていくのを確認すると、自体を伝える為、研究所所長の元へ向かおうとした。
すると一人の男が応接室出入り口から飛び出し、実験室へと一目散に走り出した。
先程帰ったと思われた報道陣の一人であった。彼は文字通りの「命知らず」であった。
アズマが止める暇なく彼は研究室へと侵入してしまった。

その後、悲鳴が聞こえた。悲鳴は数秒続いた後ピタリと止まった。

「愚かな奴だ」

アズマは呟いた。

「しかし、あの部屋を封鎖できなかったのはマズかった。だがこちらもあの場所に留まり続けることは良いこととは思えない」
「奴らは直に、観測室の扉を食い破り所内で暴れ出すに違いない。その前に――」

「ああ、全員をこの研究所から避難させる。所長にこの事態を説明しに行かなくちゃ」

「そうだな、カラム」

*
98 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 15:07:38.21 ID:tFzSZnUao
*

 研究所の所長ジャスタス=アクロイドはカラムらの報告に震えあがった。
その理由を説明するには、何故彼が今この地位に就いているかということから話さなくてはならない。
彼の昇進は常にカラムと共にあった。

カブリ理論物理学研究所在籍時発見した世界の終焉を予見する論文の提出を政府に提出するよう進言したのも、今回の並行世界という理論上の存在を研究するにあたって多額の研究支援金を出したのも彼である。

 更には彼自身の研究成果発表の小さな成功と、カラムからの推薦が重なってここまで上り詰めたのである。
正直な所、彼はカラムに依存していた。彼自身才能は科学者として優れたものを持っていることは間違いない。
しかし、知能に優れたタイムレスが現れてからというもの、賞賛の目は彼らに向けられることが多くなり、その居場所はひどく狭苦しいものとなってしまった。

彼の信頼はカラムへの信頼。彼の成功はカラムの成功。カラムの後ろ盾がどうしても必要であった。

そんな彼が信用するカラムの実験失敗報告は、ジャスタス自身の次の昇進はないということを意味していた。

失敗という言葉を聞いてからというもの、彼の耳にすべての音が届かなくなっていた。

「平行世界を繋ぐ門が未だ開き続けている」ことも、「平行世界の住人と見られる生物が現れた」ことも、「その生物が見学者らを食らう」ことも、「今すぐ避難命令を出さないと被害が大きくなる」ことも、
彼には聞こえていなかった。

 だが、傍目から見て彼はとても冷静な様子に見えた。平静を装っていたのである。
ジャスタスは日常的に周囲の科学者達からの非難に晒されていた。何故なら彼の持つ地位的なものは全てカラムからのおこぼれに過ぎないからである。
それを彼は重々承知していた。だが、家族を守るためにも自身を守るためにもこれは捨てられない唯一のものなのであった。
そんな中、彼に芽生えた才能があった。

「都合の悪いことは聞こえない」才能。

 実際、パニックに陥っていた彼は一言

「そうか、分かった」

とだけ二人に言い、所長室を小走りに出、車に乗り、研究所から帰るマスコミ陣と共に消えてしまった。

 二人は、二人だけでこの状況を納めなくてはいけなくなってしまった。
カラムは頭を抱え、アズマは眉間をつまんだ。

*
99 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 15:34:02.30 ID:tFzSZnUao
*

 避難誘導は最初、思うようにうまくいかなかった。
放送を行っても、直接話しに行っても、所員の動きは緩慢だった。
それもそのはず、並行世界から人食い生物が現れたので逃げろなどということを誰が信じるであろうか。パニックにさえ陥る者が現れなかった。

 カラムが予測するに、蟲が何らかの方法で観測室から出るまでおよそ40分。
避難誘導するにも呼び掛けるにも時間が足りない。二人はまず事情を信じ、避難誘導を手伝ってくれる者を探した。

二人が手分けして10分程協力者を探すと数人が名乗りを上げた。

カラムとは別部署にいる友人ケインとバッブ。
彼らは、「事情は見ない事には信じられないがカラムが、この実験を前にして嘘を吐くことはないだろう」と言った。
バッブは「ランチは大盛で頼むぜ」と付け加えた。

そして、上院議員らのSS。
「機密保持部が付いていながらなぜこのようなことに」とアズマを責めたが、「責任追及は後にする。とにかく誘導が先だ」とカラムの指示に従った。

彼らが手伝ってくれるようになってから、避難誘導は円滑に進むようになった。

避難者らにはとにかく早くこの研究所から退避させるため、「事故が起きた。二次被害を防ぐ為、一旦退避」と伝えるようにした。

馬鹿正直に事情を教えるより、ある程度ぼかして伝えた方が良いらしい。
100 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 16:06:31.17 ID:tFzSZnUao
 そこから暫く誘導を行っていると、カラムが突然呻き出した。
アズマが「どうした?」と尋ねるのに答えることなく、彼は近くの会議室に入ってしまった。
アズマがそれを追いかけると、部屋の端で小さくなり子供のように震えるカラムの姿があった。
カラムは呟いた。

「僕のせいだ。全部、僕の」
「僕がこんなもの見つけなければ」
「どうすればいいんだ」

「カラム、そんなことしている場合じゃ――」

アズマがカラムの肩に手をかけると、強く振り払われた。
カラムは彼を睨む。

「分かってる! 分かっているんだ! でも! でも……身体が、身体が震えるんだ。どうしようも……ないんだ」
「もう人が死んでいるんだぞ! 僕の実験のせいで……」
「何がタイムレスだ! そんなものを持たなかったらこんなことは起こらなかった! もう、嫌だ! 僕だって! 僕だって! 普通に――」

「辛い気持ちは……分かる。だが――」

アズマの言葉は、カラムに火に油を注ぐだけだった。

「君に分かる訳ないだろ! 人が死んでいるのに――」

ここでカラムは口を噤んだ。

アズマの目は言葉では到底言い表せないくらい悲しい目をしていた。

カラムは気付く。
そうだ、彼もまた――。

カラムは目から溢れかけた涙を拭い、言った。

「ごめん、アズマ。僕はもう大丈夫。でも……少し……10秒だけ待ってくれ」

*
101 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 16:07:03.43 ID:tFzSZnUao
・休憩
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 16:13:24.09 ID:Ay/nRG+7O
乙。
超人的な頭脳を持っててもやっぱり精神は人間そのものなんやなって。
103 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 19:15:26.27 ID:tFzSZnUao
*

 二人は誘導を他に任せ、次なる行動へ出た。

「カラム、次はどうする」

「ロッカールームへ向かう。実験の工程から言えば、あの門≠閉じるには照射装置を段階的に止める必要がある」
「だが、あのなにか≠ェ蔓延る部屋でそれを行うのは不可能だ」
「強制停止を行う」

「強制停止? できるのか、そんなことが」

「できる。ただ――」

「ただ?」

「いや、何でもない。強制停止さえすればあの門≠ヘ閉じ、消え去る。そうすれば奴ら≠烽烽、増えることはないだろう」

「残った奴らはどうする。奴らは人間を襲うんだぞ」

「それは……考えていなかった。門を閉じることばかり考えていて」

「カラム、お前は考え過ぎだ。なにか≠ヨの対抗手段については俺に任せろ。相手は生物である以上、タイムレスじゃない俺でも何かしらは考えつくはずだ」

「アズ……ありがとう」

「当たり前だ」

二人は拳をぶつけ合った。

*
104 :急に始まってすいません  ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 19:38:32.75 ID:tFzSZnUao
*

 ロッカールームにもちろん誰もいなかった。
カラムは自分のロッカーを開けるとUSBメモリを取り出した。

「これはなんだ」

アズマは聞いた。

「これを観測室にあるメインコンピュータに差し込み、データを入れるんだ」

「それだけでいいのか」

「ああ、それだけ。データを読み込むと全ての装置が強制停止する。もちろん照射装置もだ」

「用意がいいな」

「ああ……元々実験は失敗すると思っていた。万が一の為にこれを用意していたんだ。まさか、ここまで被害が及ぶとは思っていなかったし、事故発生時であっても手動で装置を止めることを想定していたからね。持ってきていなかったんだ。それがまさか……」
「いや、今そんなことは気にしていられない。とにかく、これが僕の最終兵器≠ウ」

 カラムは、この話をしている間終始俯きがちだった。
更に言えば、さっきからカラムの様子がおかしい。
重責によりパニックを起こし、会議室に引きこもったのは仕方がないとして、「ロッカールームへ向かう」と言った時の何か決意したような表情をアズマは見逃さなかった。
何かを諦めるような悲しい表情、そして決意をした勇気の意志が込められた瞳。友人としてその意味を知る必要があった。
アズマは意を決して、彼に聞いた。

「カラム。お前……俺に何か隠していないか」

「いや、何も」

「……言ってくれ」

「何言ってるんだアズ。君には何も隠し事なんかしないよ」

「そうか……」
「そうだ、カラム。お前、そのUSBを入れに行く時、俺も着いて行くだろ? その時――」

カラムは目を逸らした。

「……おい、カラム。お前――」
「あの危険な観測室へ独りで装置を止めに行くつもりなのか!」
105 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 19:55:59.01 ID:tFzSZnUao
カラムは観念して話し出した。
観測実験の終了及び基本世界と並行世界とを繋ぐ門を閉じる為には、ある段階を踏まなければいかない。
まず照射装置の照射線量を徐々に減らし、並行世界とのつながりを断つ。
次に、疑似星雲ガスを半減させて行き疑似宇宙空間状態を解除。
更に、大気圧を戻し、真空状態も解除。
最後に除染。
この工程を行わなくてはならない。

つまりは、カラムの持つUSBとはその工程を全て行わない上で全ての装置を切ってしまうということであった。

それがどういう状況をもたらすのであろうか。
照射装置の緊急停止により門は突然閉じられる。
門から溢れていた強いエネルギー反応は行き場を失い、装置によって安定を保っていた疑似宇宙空間と反応を起こす。
その時、大気圧の安定しない実験室内の空間体積が膨張と強い光、つまり放射線を発生させるのである。

簡単に言えば、致死量の宇宙線を生身で浴びる、ということ。

USBを使った強制停止を使えば、カラムの死は免れないのである。
106 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 19:56:26.68 ID:tFzSZnUao
・休憩
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 20:21:52.03 ID:XdaAmYP50
108 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 21:23:50.64 ID:tFzSZnUao
・再開していきます
109 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 21:54:36.97 ID:tFzSZnUao
「助かる道はないのか?」

アズマは聞いたが、カラムは首を振るばかりであった。

「……なら俺も着いて行く」

「ダメだ。これは僕にしかできないことだ」

「どうしてもか?」

「ああ。これは僕の責任の取り方だ」

「責任の取り方」。この言葉にアズマは違和感を抱いた。
責任とは何を指して呼んでいるのだろうか。
実験を終わらせる責任――それは0911を呼べば政府公認のヒーローが対応してくれる可能性もあるが、到着まで何か≠フ侵攻までは間に合わない。
人を死なせてしまった責任――それは危険性を知る彼に実験を強要したコンラッドらに向けられるべきであろうとアズマは考える。

実際、この強制停止は、並行世界研究を深く知るカラム自身にしかできないことである。
しかし――しかし、だ。彼が言う責任とは、本当に彼が死を以て行える程大きいものなのであろうか。そうだとすれば、これ程残酷な運命はない。

アズマもU.S. Armyの一兵士として戦っていた時も、機密保持部として情報漏洩を行う者に制裁を加えることにも責任を感じ、行っていた。

だが、友人としてカラムの感じている責任はそれとはまた違う。
タイムレスとしての責任だ。
先程彼は自信がタイムレスとして生まれたことへの怨嗟を口にしていた。それ程、彼の責任は重く常に彼の背中にのしかかっていたものなのである。
それは、アズマがカラムに初めて出会った時から、いやそれより前から抱いていたものなのであろう。

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

ある本に、そんな言葉があった。
だが、その責任は大いなる力を背負う者だけが払うものなのか。
アズマは答えを出す。断じて否。

「カラム、観測室にはまだあの蟲がいる。お前はその中で作業を行えるのか」

「いや、それは――」

「カラム、リンは元気か」

「ああ、今日も――いや、今そんな話関係ないだろう!」

「……お前が停止作業を行う間、俺はあの蟲を引き付ける」

「アズマ!」

「俺も着いて行く。いいな」

「……後悔、しないのかい」

「なあ、カラム。お前と初めて会った時、なんて言ったか覚えているか?」
「『友だちなんていないさ。いつも一人』」
「今は俺がいる」
「行くぞ」

大いなる責任は、時に共に、その責任を分けて背負うこともできる。
これがアズマのカラムの友人としての責任≠フ取り方であった。
110 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 22:22:36.42 ID:tFzSZnUao
 その時、カラムのPHSが鳴った。
電話はバッブからだった。電話口からは興奮したような声が聞こえた。

『オイ、カラム早く来てくれ! お前が行っていた虫みたいななにか≠チてこいつのことだろ!』

二人は顔を見合わせ、バッブが言った場所へと急いだ。

*

 確かにバッブと共に蟲は居た。
バッブは片手にパイプのような細長い金属の棒を持っており、その先には緑色の粘ついた液が付いていた。

 バッブは誇らしげにカラムに語った。

「こいつが壁を這っているのを見つけたからよ。壁を思い切り蹴って落としてやったんだ」
「そしたら仰向けに落っこちて来てわちゃわちゃ動いてるんだよ。気持ち悪いだろ? だからこいつでブッ刺してやったんだ」

アズマは仰向けに転がる蟲の表面を見た。
夥しい牙が並んだ口、芋虫のような疣足。
パイプが一突き刺さっている場所を見るに、成程この部位は甲虫のような背面より柔らかい素材で出来ていることが分かった。

蟲はピクリとも動かない。死んでいるようにも見えた。

バッブは言う。

「あいつら背中は銃も通さないが、ひっくり返しちまえばこっちのもんだ。殺せるぜ。これ」
「SSにも教えたら、観測室の方に行ったぜ」

「観測室!」

カラムは焦った。SSは早まった≠フである。
一体を偶然見つけて倒したバッブのような状況ならまだしも、観測室にいた十数匹によって見学者たちはほぼ全滅にまで追い込まれていたのである。
それはあまりにも無謀な考えなのではないであろうか。

不安はまたもや的中した。

「ゲ……」

死んだと思われていた足下の虫が嗚咽音を出したかと思ったその時――

「ゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ」

と泣き出したのである。

その声と共にあらゆる場所から、その声がこだまのように聞こえてきた。

「今まで俺達でやっつけて来た方からだ!」
バッブは青ざめた。

加えて避難が済んでいないという第4研究棟の方から悲鳴が聞こえて来た。

「バッブ! 君も早くこの研究所から避難するんだ! アズ、行こう!」
「ああ!」

二人は観測室の方に向かって走り出した。
111 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 22:37:15.56 ID:tFzSZnUao
 二人が観測室前に着くときには既に遅かった。
蟲達は鉄のドアを、壁を通気口を食い破り四方八方に散ってしまっているようであった。
散った先は、恐らくさっきの鳴き声が聞こえた方向であろう。倒された蟲は、最後の力の振り絞り仲間を呼ぶ、そういう寸法だろう。
目の前にはSSの死体に群がる蟲の姿があった。やはりこちらには興味を向けられていない。

「カラム、どうする?」

アズマは銃を蟲達に向けながら言った。
蟲が観測室を出、暴れ出す予測はしていたが、そのカラムの計算より十分程早く全てが進んでいた。そして想定よりさらに数が多い。

「観測室へ急ごう。早く増援を止めなくちゃ!」

二人は迷わず奥へと進んでいった。
112 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 23:13:04.86 ID:tFzSZnUao
*

 観測室の見学者は肉片も残さず食われてしまったらしい。
部屋に入ってすぐ彼らを出迎えたのは床をべたべたと濡らす一面の血の池と、蟲達の視線だった。

「カラムは装置へ急げ! 蟲は俺に任せろ!」

 アズマは彼の足に群がる蟲を蹴って落とし、仰向けになったところにすかさず銃弾を撃ち込んだ。

 カラムも観測室に入る前、SSの死体から拝借した銃を使って虫を次々撃っていった。
彼は射撃に関しては全くの素人。アズマから撃ち方を教わる暇なく、こちらへ来た為、どうしても当てるのは難しかった。

 こうして戦う内、分かったこともあった。
蟲達は何かの法則に従って、二人を襲っているようであった。
アズマに襲い来る蟲の個体数と、カラムを襲う蟲の個体数。多いのはアズマの方であった。

しかし、推理している余裕は無かった。
門≠ェ開かれている以上、蟲の数は一向に増え続ける。考えるより対処する方が先である。

「カラム! 大丈夫か!」

「装置に辿り着いた! 君は!?」

「足を少し噛まれた! 相手がゾンビじゃなくて良かった!」

「蟲になっちゃうかもね!」

「冗談はよしてくれ!」

カラムはいよいよ装置へ近づき、そのメインコンピューターにメモリを繋ぐことに成功した。
113 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 23:40:11.75 ID:tFzSZnUao
アズマは自分の身を顧みず、作業するカラムに群がる蟲を撃ち殺していった。
アズマの足は多くの虫に噛みつかれたことにより、赤く爛れ、立っているのが不思議なほどであった。

「まだかカラム!」

「もう少しだよ! それまでどうにか持ってくれ!」

「ああ、大丈夫だ!」

アズマは気合だけで引き金を引き続けた


そして、彼のマガジンが尽きる頃

「インストールができたぞ! 後は起動させるだけだ!」

カラムが叫んだ。緊急停止させるまでの段取りが整ったのである。

「100、99、98、97――」

メインコンピューターがカウントを開始する。
これが0になった時、二人は強い放射線を浴び、死ぬ。だが、被害は何とか最小限に済む。

蟲達が何かを察したかのように何処かへ逃げ去って行った。今更、二人はそれらを追おうとは思わなかった。
幾ら奴らとて強い宇宙線を浴びれば一溜りもないであろう。

二人は黙してその時≠待った。
脳裏には今まで記憶が現れては消えて行った。全ては懐かしい思い出であった。

その時であった――
114 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/12(土) 23:54:47.93 ID:tFzSZnUao
 アズマの背後に人影を感じた。
振り返るとそこに居たのは――今までより更に巨大な蟲であった。
先程の蟲と同族であることには違いない。ただし今までと違うのは大きさだけではなかった。特筆すべき点としてはその姿。
アズマらの目の前に居た巨大な蟲は、ちょうどクワガタムシを擬人化したような姿をしていたのである。
アズマが子供頃読んだ漫画に出てくる虫型の宇宙人にも似ていた、非現実的な二本足で歩く生物であった。

身の丈2.5mの蟲は二人を交互に見た。

すると、黒く硬そうな大顎を縦に開き、二人に向かってこう言った。

「Na Sachin Baba」

どの国の言語かも分からない。人間の発音では難しいものであった。

相手が言葉を返せると知ったアズマは、空の銃を構え人型に尋ねた。

「何者だ」

人型は答えた。

「Na Sachin Baba」

「それが名前か」

人型はそれに足を大きく踏んで答えた。

「Na Sachin Baba!」

これは詰り会話は噛み合っていないことを意味していた。
115 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 00:04:01.44 ID:MNobfxzCo
 人型は片手に持つクワガタの角のような形状の武器を引き摺りながら、アズマへ近づいた。

 瞬間、ガンと何かを弾いた音がした。

アズマがその音の出所を見ると、そこには人型に向けて銃を放ったカラムがいた。
カラムは震える手から銃を落とした後、言った。

「僕の親友だ。僕の親友に……近寄るなッ!」

力の差は歴然であった。
その相手に手を出すのは愚かな行為に他ならない。なのに何故。
アズマが「やめろ!」と叫ぼうとしたその時――


「ぐっ」


カラムの小さな悲鳴が上がった。


彼の胸には人型の持つ剣が深々と突き刺さっていた。
116 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 00:20:35.61 ID:MNobfxzCo
剣は素早く引き抜かれ、そこから血しぶきが上がった。

「カラム!」

アズマは痛む足を引いて、倒れ伏した彼の元へ近寄った。
それを見た人型は

「Lyarigareni」

とだけ言い、二人を追撃することは無かった。


カラムは痛みを感じることすら出来なくなっていたのか、自分の返り血に染まる天井をぼうっと眺めていた。

「カラム! カラム!」

アズマの必死の叫びも彼には届いていないようだった。

「起きてくれカラム! 死ぬな!」

意識を失わないようアズマは彼の頬を何度か軽く叩くと、カラムはその存在に気付きこちらを向いた。

「ああ――君か――アズマ――」

「そうだ! 俺だ!」

「ああ――君とは――長い夢を見てたみたいだ――友達ができた夢……」

「夢じゃない! 友達なら居るだろ! 俺だ! ダメだぞカラム! おい! 死ぬな!」

カウントが0になれば二人とも死ぬ。そう知っていながらも目の前の致命傷を負った親友に、そう声をかけるしかないアズマであった。

「ああ――ああ――そうだ――」




――僕らは友だちだ
117 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 00:29:49.26 ID:MNobfxzCo
――そりゃたまにケンカする時だってあったさ

でも、次の日には一緒にいつもの店でタコスを食べに行っていただろ?

最初は二人目も合わせずに店に入って、帰りには笑いながら出ていく

いつものことさ


「カラム、死ぬな!」

「――あのUSBには――僕の研究のすべてと――具体的な危険性――それと――安全性が確立された際の使用方法が入っている――」


僕らは友達

それはいつどんな時だって変わらない事実


「――何となくだけど――君は――まだ――こっちには来ないと――思うんだ」

「何を言ってるんだカラム!」

「――リンには――代わりに――謝っておいてくれ――あと――『愛してる』と――」

「おいカラム! そんなこと言うな!」


「だからさ――大丈夫だよ――初めて会った日」
「君が僕に話しかけてくれた言葉、覚えているかい――?」
118 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 00:34:18.49 ID:MNobfxzCo
*

「隣、いいか」

「あ、ああ。はい、どうぞ――」


「キャンパスツアーは今日だったか? 友だちとはぐれたのか?」



「は? ボクのことしらないワケ? ……友だちなんていないさ。いつも一人」




「なら、またここに来た時、この場所に座ると良い。俺がいる」





「え? ……いいの? ほんと?」






「はは、気にすることない。一人で食う飯は、マズい」


*

 カラムはアズマの腕の中で長い眠りに着いた。

*
119 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 00:34:44.95 ID:MNobfxzCo
・休憩。もうひと頑張りします
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 00:39:20.30 ID:nv2aKGWkO
カラム…逝ってしまったか…
121 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 01:21:39.91 ID:MNobfxzCo
・再開します
122 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 01:22:20.99 ID:MNobfxzCo
*

 カウントは20を切っていた。

「Lyarigareni Lee!」

と叫び、手を広げる人型。

アズマはそれにわき目も振らず、装置の方へと走って行った。
彼はメインコンピューターに刺してあったUSBメモリを抜くと、それを強く抱きかかえ、その場に蹲った。

 人型はアズマが自信を無視したことに腹を立て、こちらへ走ってきた。

その瞬間――


「3、2、1、停止」


 強い光が、破裂音が、衝撃が、放射線が、観測室と実験室を焼いた。
並行世界へと繋がる門はここに急速に閉じられ、疑似宇宙空間膨張と共に崩壊を告げた。
実験室と観測室を隔てる強化ガラスも膨張により砕け、無重力の中に浮いた。

強い熱と放射線に晒されたアズマの身体は、内側及び外側から焼き尽くされ、蹲った姿勢のまま徐々に黒く焼け焦げた灰の塊へと変化していった。




そして、再構成が始まった。
123 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 01:43:33.22 ID:MNobfxzCo
・中断します。これで1/3くらい

・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です! 皆からの感想励みになります! ありがとうございます!

・ではこのへんで
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 01:44:23.98 ID:nv2aKGWkO
乙乙
続きが気になる…!
125 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 09:05:41.72 ID:MNobfxzCo
・続けて行こうと思います
126 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 09:38:41.13 ID:MNobfxzCo
 一度灰になったアズマの身体は残されたメモリを中心に今一度、人の形に戻り始める。
理由は分からない。現にこの現象が及んだのはアズマだけである。その足下に横たわっていたカラムの身体は跡形もなく消え去っていたのだから。

しかし、アズマが再構成されたその姿は、今までの彼の物とは似ても似つかないものであった。

*

 以前人型の蟲は身体に傷は付けど、そこに立ち続けていた。
どうやら彼らは、放射線に耐性があるらしい。それもそのはず、疑似宇宙空間に繋がれた門から彼らは生身≠ナここまで来ていたのである。
人型は初めて見る異世界の生物人間≠フ脆さにため息を吐いた。
そして考える。どうしてこの程度の力しかない彼らが、自分の知識を凌駕する機材で、平行世界から自分たちを呼び出すに至ったのだろうと。

人型の彼≠ノは、先ほどまで人を襲っていたなにか≠ノはない知能があった。
故に考える。

(門≠ェ塞がれたことで、帰る場所は無くなった。同朋もない。さて、どうするか)

*

 アズマは目を覚ました。身体が妙に重く、そして熱い。
内側から込み上げてくる熱い血が皮膚の下を拘束で巡っているような感覚を受けた。
目を開けて、ふと自分の手を見ると、皮膚が固く黒く変わっていた。

(熱を受けて焦げたのか?)

最初はそう思ったが、すぐにそうでないことが分かった。
黒く固くなったのは手だけではない。全身に及んでいるのだ。

 それは皮膚というより甲虫のような皮膚骨格に近い形をしていた。
何故か彼は、自分がまだ生きていること、自分の姿が変わってしまったことに思いのほか混乱はしていなかった。

それより気になるのは、その皮膚骨格の下に感じる熱い血、というか液体の流れであった。
マグマのように熱い液体は無限に自分の中を巡り、何かを待っている様子であった。しかし彼は、その液体達≠ェ何を待っているのかは分からなかった。


「Ha Nuanua!」
「Lee!」


その時、聞き覚えある声が聞こえて来た。人型のものであった。
今の彼には、人型の意志が分かる。
「来い」「かかって来い」という意志である。彼はそれに従う。
彼の内に巡る体液達≠ェ語り掛けるのに従うように、人型を倒すべく走り出した。


人型は、そこに立つ変態したアズマを一瞬、自分と同族と見間違えた。
が、彼から溢れる悪意と並々ならぬ敵意がそうではないとすぐに感じさせ、すぐに剣を構え、応戦の姿勢を取った。
127 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 10:11:37.02 ID:MNobfxzCo
 アズマは人型が振り下ろす剣を素早く避け、その利き腕を持ち、関節を突いた。
人型は初めて喰らうその技術的な攻撃に純粋に感動した。自分の身の丈より小さな者が、小さな力だけで自分の剣を簡単に奪ってしまったからである。
U.S. Army仕込みの格闘術は、相手の無力化に長けた組み技重視の格闘術。
戦士然とした人型の大ぶりな太刀筋を見極めるのは容易なことであった。

アズマはそのまま、カラムにされたのと同じように、奪った剣を人型の胸に突き立てた。
しかし刺さらない。
人型の頑丈な外皮は刺突を一切受けつかない。
何より剣が大きく、重すぎた。これを扱うことができるのは、あの人型と同じくらいの蟲でなくては難しいらしい。

人型は続いて、アズマに打撃を与えた。
アズマは剣を立てて、防御するが、衝撃は彼の身体を剣ごと貫いた。

一撃が重い。

アズマは燃え盛る観測室の壁に叩きつけられた。
頭を強く打ち、目が回る。だが、思っていたより痛みはない。
自分がこの姿≠ノなったことにより、皮膚骨格がある程度のダメージを吸収したのであろう。
ならば次はどう出るか。どうやってあの人型を殺すか。

考える隙を与える暇なく、人型はアズマの元へ近づき、烈しく殴打した。
アズマは磔にされる形で壁にめり込んでいく。

殴られ続けたからか、さすがの彼の黒い皮膚骨格にもヒビが入り始めた。
128 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 10:59:03.08 ID:MNobfxzCo
 アズマは既に自分の身体は何らかの理由でタイムレスへと覚醒≠遂げたことを悟っていた。
黒い皮膚骨格、鋭い爪、強い力。異形の姿が何よりもの証拠であった。
タイムレスは、後発的に覚醒することもあるが、自分もその一例だとアズマは冷静に理解できた。

それは何故か。

殴られる中でアズマは考えた。


そこで彼の耳元に声が聞こえて来た。

『怒れ――』

『もっと深く怒れ――』

頭に響く声にアズマは気づいた。

何故、これ程にも自分が落ち着いているのか。
何故、この状況に自分は適応しているのか。

理由は簡単だった。
今、自分は怒りに支配されている。
親友を殺された怒り。何もできなかった自分への怒り。人型への怒り。
これが逆に自分自身を冷静にしていたのである。

(怒り? この俺が?)

兵士だった頃のアズマは、相応のメンタルトレーニングにより強靭な精神を手に入れていたはずであった。
責任と感情は必ずしも一致しない。
親友がたとえ目の前で殺されたとしても、だ。
怒りや悲しみなどの一感情で武器を振るえば、作戦に支障が出る。
感情の無駄な動きは行動を阻害する物に他ならないとして、彼は今までも入隊後もそして今もそう思ってきた。

それは違う――体の内を巡る液体達≠ヘ答えた。

そう。

これは血液ではない。

これは今までアズマが押さえて来た怒り=Bそれが流体エネルギーとなって彼の身体の中を巡り声をかけていたのだ。
129 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 11:21:05.81 ID:MNobfxzCo
(でも――どうやって?)

彼は怒りの発散の仕方を知らなかった。

怒りは原初の感情だ、と怒り≠ヘ答えた。
怒りとは防衛本能から生まれた感情。恐怖から身を守るための感情。攻撃意志を伝える感情。

発散するのも簡単で良い。怒り£Bはそう伝えた。

(簡単に――)

込み上げるものが怒りだとすれば、と考えたアズマは殴られながら、その手を人型の顔面に黒い右手かざし

(簡単に――)

怒り≠放つ<Cメージをした。


アズマの黒い外皮が弾け飛んだ。不思議と痛みはない。
外皮の下から現れたのは赤く輝く腕であった。
それが現れた途端、そこから強い力が放たれた=B

それを当てられた人型は軽々と吹き飛んだ。

「これが……怒りか!!」

アズマは壁から抜け出て叫んだ。

「来い人型! 人の肉より、カラムの痛みと俺の怒りの方が美味いぞ!!」
130 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 11:46:17.11 ID:MNobfxzCo
「Uaaaaaaaaaaaaa!」

人型がこちらへ向かってくるところをアズマは次に左手をかざして怒り≠放った。

左手の外皮が崩れ、強い熱衝撃が飛ぶ。
が、当たったのは研究室奥の壁だった。壁は爆発音と共に崩れ落ちた。

 アズマは、人型の接近を許してしまった。彼は人型に首を掴まれ、放り投げられる。
胸を強く打ち、息ができない。そこに人型はマウントポジションを取る。
人型はアズマの髪を掴み、何度も地面へ叩きつけた。
脳が揺れ、先ほどのめまいなど比にならない程のダメージを感じた。

反撃のつもりでもう一度、右手をかざしたが、次は何も出なかった。

(あの外皮から一度解き放ったエネルギーは出ないのか)

 アズマは推理した。次の一手を放つなら外皮の残る胸か脚からしかない。

この距離なら、当たる。
胸の外皮からエネルギーを解き放った。

怒り≠ヘ人型の胸の外皮を抉りながら、空中へと吹き飛ばした。
空中で無防備になった身体目掛けてアズマは剥き出しの腕で、人型の胸に何度もパンチを繰り出した。

人型は度重なる攻撃を受けて地面へと叩き落ちた。
131 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:11:56.06 ID:MNobfxzCo
ふら付き立ち上がった人型は、雄叫びを上げ、もう一度アズマへ向かって行く。


一方アズマはと言うと、怒りが頂点に達していた。
初めて触れる本気の怒りは彼を支配し、今や感情に任せて戦うだけの機械と化しつつあった。



一閃。



人型の胸には、彼がアズマにより一度奪われた剣が深々と突き刺さっていた。

アズマが人型の胸を狙って攻撃し続けていたことで、装甲は時間が経つにつれ脆弱なものとなっており、彼はトドメにそこを目掛けて剣を放ったのであった。

「Mullez……!」

人型は笑ったように顔を歪めると、ドサリとその場に倒れこんだ。
132 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:18:35.54 ID:MNobfxzCo
*

 カラムの研究室から上がった炎はやがて勢いを増し、全てを焼き尽くさんとしていた。
その中に彼≠フ姿があった。
獣のように吠える彼は、研究所に残る蟲の駆除を行っていた。

それが彼自身の意志で行っていることなのか、怒りに身を任せそれをぶつけているにすぎないのかは誰にもわからない。

ただ、絶対に開かれぬ右手の拳の中には、一つのUSBメモリが握りしめられていた。

*
133 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:25:02.94 ID:MNobfxzCo
*

 それと時を同じくして、焼ける研究所の中から現れた一人の男性が救急隊に保護された。

彼は顔面左半分に渡る酷いやけどと、足に銃で撃たれた跡があった。

彼は保護された当時、気が触れたように笑い続け、救急隊や警察の質問に答えることができなかった。


彼の名前は――

コンラッド=バジョット

カラム=チャーチル博士の実験の見学に来ていたNROの上級顧問だった。

*
134 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:26:21.79 ID:MNobfxzCo
#2 Insect

to be continued…
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 12:29:46.17 ID:n9xyr5ja0
136 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:36:27.29 ID:MNobfxzCo
Next…

First Timeless Hero:Ultimate fate of the universe

#3 Chaser 苦悩
 異形の姿へと変わったアズマを待っていたものとは、警察からの取り調べと政府直轄超人保護局の監視であった。
一時の自由を許された彼は、カラムの妻――リンの元へ向かおうとする。しかし、その行く手を阻んだのは且つての恩人コンラッド=バジョットだった。
コンラッドはアズマの持つカラムの形見≠渡してほしいと告げるが――
137 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:52:14.46 ID:MNobfxzCo
【#1解説】
・このコーナーでは話の中で説明しきれなかったことを今後のネタバレをしない程度に解説します

☆また予告と微妙に違くね?:許してください。#1で収めたかった話を#2まで延長してやっと収束しました

☆これからどうなるの?:実はここから先、何となくしかきまっていません。これから安価の力に頼ろうと思います

☆ジャスタス=アクロイド:気に入ってます

☆二人は拳をぶつけ合った:ウェイ系がよくやってるアレです。米本国では「フィストタッチ」「フィストバンプ」と呼びます。

☆0911:米本国の通報は911ですが、この世界では0911に電話することで状況によって政府公認のタイムレス通称「ヒーロー」を呼んでくれることがあります。ヒーローに会いたいばかりにいたずら電話が後を絶ちません。

☆ヒーロー:政府に公認され且つ人命救助・犯罪者逮捕の為にその力を使うことを許された職員をそう呼びます。カラムは政府公認タイムレスですが、研究職に就いているので関係ありません。タイムレスにだって職業選択の自由がありますん。

☆人型の蟲:彼らが喋る言語はGoogle翻訳で再生可能です。イメージに近い音を組み合わせて作りました。文法もあります。

☆後天的なタイムレス覚醒:タイムレスとしては、生まれつきの次に多い発生理由です。理由は不明です。
138 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 12:56:52.74 ID:MNobfxzCo
【refer to…#2】
・このコーナーでは皆さんのこんなアイデア・意見を参考に書いたことをお知らせするコーナーです。皆の意見がこんな感じで反映されているとお話しします。

☆別の世界を繋ぐワープゲートの入り口:本文内での『門』にあたります。現在は塞がれて蟲も増えることはないでしょう。
139 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 13:06:08.85 ID:MNobfxzCo
・中断……その前に、これを見ている方に相談したいことが

・次回、話の中にアズマの友人or知り合いを登場させたいのですが、まだどんなキャラにしようか思いついていません

・皆さんのアイデアや意見を見て、それを元に妄想を膨らませます

【聞きたいこと】

・どんな友人or知り合いがいてほしいですか?

・コンドー=アズマというキャラについての質問はありますか?

・具体例を出してもOK

・関係ない質問でもOK

・ではここから30分ほど受け付けます
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 13:13:25.79 ID:cATJRAT8O
カラムとは違ったおちゃらけた性格とか良さそう、陽気な黒人枠的な
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 13:23:55.62 ID:n9xyr5ja0
相棒的立場のクール系同僚女子とかほしい。
あとアズマがarmy入りした経緯とか知りたい。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 13:29:04.88 ID:+ZsbLaeb0
アズマ以上に精神をやられる任務に付いてるけど、お互い隠した上で付き合ってる感じ
超精神的に強いけど、葛藤とかはすでに諦めててそれ以外でストレス発散してる
143 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 13:36:40.39 ID:MNobfxzCo
・一旦中断

・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です! 皆からの感想励みになります! ありがとうございます!

・友人・知人のアイデアは引き続きお願いします! それ以外のことでもOKです!
144 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 16:12:18.64 ID:MNobfxzCo
・再開します

・質問はない感じかな?

・何となく思いついてきました

・では、これを踏まえて設定を更に募ります。

・知人・友人でなくても、他の設定でも敵でもOK

・#4では具体的な敵キャラの募集を考えています。

↓1〜3【キャラや設定についてアイデアください】
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 16:18:46.04 ID:cATJRAT8O
かつてカラムの行った実験とは全く違ったアプローチで偶然、異世界の存在に遭遇した人物がいる(事実上は抹消されている)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 16:50:30.72 ID:n9xyr5ja0
身長が高くスレンダーなクールビューティー、アズマとは旧知の仲。冷徹な女性に見られがちだがその実誰よりも心を痛めている。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 16:57:11.43 ID:n9xyr5ja0
平行世界の虫の残骸を研究した結果、様々な違いこそあるものの遺伝子レベルではこの世界の虫と同一なもの。しかし見たこともないDNAが組み込まれている。
148 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/13(日) 17:03:47.19 ID:MNobfxzCo
・ありがとうございます。どんなキャラを出すか見えてきました

>>145は確かにおいしい設定だなあ。これ違う話で出すかも。次の主人公はキマッてます

・では#3をお待ちください

・意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です! 感想励みになります! ありがとうございます!

・ではこのへんで
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 17:11:42.78 ID:+ZsbLaeb0
DNAが同じなら、実は並行世界ではなくこの世界の未来だったとかいうオチはどうだろう
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 17:15:26.09 ID:cATJRAT8O
あくまでも可能性の一つとしての未来とかの設定が欲しくなる
151 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/14(月) 19:47:41.50 ID:mre5kRA2o
・再開します

・今回は次回の内容についての助言です

・次回、アズマと戦うキャラ(アズマにとっての敵)が出てきます。独りはどんなキャラにするか決めました。ですが、もう一人についてが決まっていません。

・皆さんのアイデアや意見を見て、それを元に妄想を膨らませます

・最悪キャラ安価を前倒して行おうとも考えています。

【どんなキャラかというと】

・ヴィラン寄り

・人間(タイムレスであっても無くてもかまわない)

・あるキャラの手下或いはそのキャラに雇われている

【聞きたいこと】

・どんな敵が出てくると面白いですか?

・具体例を出してもOK

・関係ない質問でもOK

・ではここから30分ほど受け付けます
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/14(月) 19:53:05.85 ID:5sVGmO/N0
例えば、こちらの人間以上に平行世界の知識や科学力があり、平行世界をコントロールしようとするとか?
敵のイブはヘルメットと課で顔を隠していて、ベタだけど平行世界のアズマとカラムとかいうオチとかはあり?
あと敵組織の具体的な事とか決まっている?

敵は「見た目は人間だけど、顔と体から人食いの化け物になる。敵の組織に雇われている男。口が悪い」とかどうだろう?
153 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/14(月) 20:02:58.46 ID:mre5kRA2o
>>152
 実はオチというか着地点は決まっていて、その内容はネタバレを避ける範囲で答えるとなると壮大なものにはならないとしています。
あくまで壮大なのはカラムの発見とそれがもたらした影響と遺した物なので。
なので、壮大な設定を(今のところ)持つ敵キャラが現れるとややこしいことになるかなーと思うので、それは避けます。
実はこの物語、既に決まっていることが多く、今回カラムがアクセスした並行世界についてや、人型の正体などはここで話されるかはともかく決まっているのです。
そうしないと話が破たんしそうなのでそうならないように、やっています。

 今回の敵組織の目的は#3の本タイトルを読むと何となく見えてくるかと思います。
また、予告を見るとどのキャラの手下かも分かるかと思います。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/14(月) 20:08:02.86 ID:5sVGmO/N0
俺以外人が来ないような気がするからアゲておく
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 20:12:16.57 ID:zRaK7q5A0
見てるけどどんな質問すればいいのかわからぬ。
どんなのが敵がいいっすかね?
156 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/14(月) 20:18:13.50 ID:mre5kRA2o
>>155
一応上にも書いてあるけど、もう一度整理して説明します

【こんなキャラなんです】

・#3でアズマに立ちはだかる敵

【こんなキャラを想定して書きたいです】

・ヴィラン寄り(ようするに悪玉ってこと)

・人間(タイムレスであっても無くてもかまわない)

・あるキャラの手下或いはそのキャラに雇われている

【聞きたいこと】

・上を踏まえた上でどんな敵が出てくると面白いですか?

【ヒント】

・#3の予告を見ると、このキャラの目的、誰の手下か分かると思います。


・そういうキャラを考えているのですがまだ輪郭が出来ていない状態なので、手伝ってもらいたいのです

・時間が過ぎましたが30分延長して質問や意見を聞いてみましょう
157 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/14(月) 20:36:19.61 ID:mre5kRA2o
・質問はない感じかな?

・ではこれから皆さんの意見・アイデアを参考に色々考えてみます

・皆さんの意見・アイデア・提案を全部反映できるとは限らないし、安価の内容の通りにするとも限りません

・では、>>156を踏まえたアイデアを募集します

↓1〜3【#3に出てくる敵の設定のアイデアをください】
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 20:42:50.66 ID:t5oX6wXYO
コンラッドによって雇われた『タイムレス狩り』の殺し屋。
本人にしか知り得ない弱点を突いてくる。
本人はタイムレスではない。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 21:11:59.59 ID:zRaK7q5A0
見た目は人畜無害そうな好青年。
常にヘラヘラとした笑みを浮かべている。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 21:13:52.93 ID:R/GEZf5rO
精神改造を受けて任務に疑問を持たないようにされている
両親からは心配されている
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 21:14:40.99 ID:vYIt5raTO
理由は不明だがタイムレスに対して非常に深い憎悪と劣等感を抱いている。
162 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/14(月) 21:28:56.07 ID:mre5kRA2o
・ありがとうございます!

・皆さんのアイデアを元に良いキャラが思いつきそうです。

・では一旦中断

・意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です! 感想励みになります! ありがとうございます!

・ではこのへんで
163 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 00:02:45.52 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくりはじめて行きたいと思います
164 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 00:16:21.22 ID:UOwJTWrQo
#3 Chaser

 炎の中でアズマはふと我に返った。目の前は火の海。足下に転がるのは蟲の死骸。
ここまで来て、彼はようやく自分がどのような状況に置かれているのか思い出した。
これだけの炎の中に居て、彼はその熱さを全く感じずにいた。
また、その感覚は鋭敏になっており、ジッと目を凝らせば周囲2m程であれば目視圏に無くても、生命反応を感知できるようになっていた。これがタイムレスになったということかと彼は身をもって知った。
現在、周囲に生命反応は無い。アズマは炎の中から――研究所から出ることにした。

 そんな彼を出迎えてくれたのは、アズマが以前所属していたU.S. Armyの兵士達だった。彼らはアズマに銃を向けていた。
弁解は不可能だ。数年前まで銃を向ける側に立っていたアズマは理解していた。それに今の自分の姿。この状況で口を開こうものなら、確実に撃たれる。

「そこの未登録タイムレス! 大人しくしろ!」
「手を上げて、頭の後ろに組め!」

彼は黙ってそれに従った。
165 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 01:09:29.04 ID:UOwJTWrQo
 そうすると、すぐに周りに兵士と警察官が走り寄って来て、彼を拘束した。
警察官はトレーラーから拘束台を持ってきた。アズマはこの拘束台を知っていた。
あの拘束台はタイムレス用のものである。台とベルトには超能力系能力を持つタイムレスの能力を抑制する金属が含まれている。

 彼がそれに繋がれると、何と彼の身体に異変が起きた。皮膚がミシミシと音を立てているのである。
黒く硬い皮膚は音を立てながら、本来の肌の色と柔らかさを取り戻した。だが、身体にはヒビが入ったような傷が残った。
変身が終わると彼の身体は一回り小さくなったので、警察官はもう一つ小さいサイズの拘束台を用意しなおした。
彼は一切抵抗しなかった。


 警察も聞いていた情報より大人しい人物で驚いたらしい。身体検査の結果、一旦アズマの身柄は拘束から解かれた。

*

「私がこの件を担当するエズメ=ピール警部だ」

 そう彼は名乗った。中年の男性であった。
彼は今回の研究所火災を事件と事故の両面から捜査していると語った。
アズマは、そこで研究所の被害状況を初めて知らされた。

 死者は研究所の所員に関しては全体の2割。遺体が確認されていないのが実験の見学者らと一人の記者。
彼らの死因は全て火災に巻き込まれたことによるものではなく、何かの生物に食い殺されたことによるものだという。
また、犠牲者を攻撃した生物は既に何者かによって全て焼死させられており、外部に飛び立つなどしたものは一体もいないと告げた。
アズマは心底安心した。

 聴取の後、警部は改まってアズマに聞いた。

「君は、この研究所を故意に焼こうとしたのか?」

「そんな事実は一切ない」「自分も訳も分からないまま、タイムレスになってしまって混乱している」と答えた。

「そうか……いや、良かった」

と、逆に安堵した様子を見せたのは警部の方だった。
 警部は言った。

「タイムレスへの突然の覚醒はよくあることだ。君もあの≠謔、な仕事をしていたのだから分かっているとは思うが――タイムレス覚醒直後の行為は殆ど罪に問われないケースが多い」
「君が起こしたのは火災だが、それが原因で犠牲者を出した訳ではないから――原則事故≠ニして処理されるだろう」
「しかし、その無罪即日判決は、『故意ではない』という意志を確認しないことには始まらない。君にはまずそう言ってもらいたかったのだよ」
「これから君は精神科によるいくつかのテストを受けてもらう。それから弁護士からの再度タイムレスに対する説明。超人保護局のタイムレス登録説明がある。長時間かかるが、諦めてくれ」

彼は鞄からドーナツを出して「ずっと食べていなかっただろう」とアズマに渡した。

アズマは「随分と優しいのですね。研究所を無差別に焼いたタイムレスですよ」と言うと、彼は肩をすくめてこう言った。

「娘がね、君みたいに覚醒≠オたんだよ。その時、同級生にケガをさせてしまってね。ファラリスの方の学校に転校させたばかりなんだ」

ファラリスとは英国にある世界有数のタイムレス人権に特化した自治区である。

「大体、覚醒する人間は……ああ、これは私の推測なんだがね。覚醒する人間は、皆心の中に何かを抱えている。そんな気がするんだ。それが一気に……バーンと爆発して覚醒する」
「私の娘は学校でいじめられていてね。気付いてあげられなかったんだよ。それに彼女は今や親元を離れて遠くで勉強をしている」
「君は大人だが……何か抱えているんだろうと勝手に心配してしまってね。いや、独り言だ。忘れてくれ」

エズメ警部は言い終わると恥ずかし気に部屋から去っていった。
166 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 01:54:48.72 ID:UOwJTWrQo
*

 精神科の意志から出されたいくつかのテストを受け終わると、次に弁護士がやってきた。

弁護士は先程エズメ警部がした話と同じことを言い、アズマは罪に問われないと伝えた。

しかしアズマは、知っていたとは言え、自分が全くの御咎め無しだということに疑問を持ったため、では責任の在り処はどこにあるのかと弁護士に聞いた。
その答えは彼にとって絶望に等しいものであった。

「今回の実験による事故。火災の諸原因は法律上、カラム=チャーチル博士の重過失になると考えられます。また犠牲者の遺族からも訴訟の話が――」

「なんだって!?」

「博士は以前より、今回の並行世界観測実験の失敗を予見していたそうです。失敗を分かっていながら、実験を続行したことでこのような事態を招いたのです」
「貴方が先ほど証言したことから考えても――貴方が強い並行世界の宇宙線を浴びてタイムレスへと変異したのにも関係あります」

「俺がこうなったのはどうでもいい。もうカラムはいない!」

「重過失の場合、その責任を問われるのは――」

「リンか!!」

「ええ、まあ。遺族が『夫を止められなかった家族の責任ではないか』という方もいまして」

「それはカラムがリンを危険な実験の利権関係に関わらせたくなかったからであって……カラムの辛さをお前らは分かっていない!」

 親友の苦しみをよそに事が動き出し、それはカラムが関わらせまいとしてきたリンにまで及ぼうとしていた。
それにアズマは更なる理不尽を感じていた。
アズマは怒りを抑えきれず、その皮膚が再び黒く硬くなっていくのを感じた。

慌てた弁護士はすぐに警報を鳴らした。


アズマの拘留期間は伸びることとなった。

*
167 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 01:58:02.48 ID:UOwJTWrQo
・中断

・意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です!

・ではこのへんで
168 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 08:53:07.55 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくり続けていきます
169 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 09:20:52.48 ID:UOwJTWrQo
*

 アズマは精神的な落ち着きを取り戻すと、また人の姿に戻ることができた。

 最後にやってきたのは、政府直轄超人保護局の局員ミシェル=ボルダックと名乗る女性であった。
超人保護局というのは、様々な形で世界に影響を及ぼし続けるタイムレスを保護の名目で、その影響を小さなもの或いは国家の繁栄に使う為監視を行う組織であった。
名前を変えながら、タイムレスという存在の裏で活躍してきたこの組織は、未だに彼ら≠ゥらの反発を受けることが多い。

 しかし、アズマのミシェルに対する印象は悪いものではなかった。
何より彼女はアズマの姿にいちいち驚かない。彼女は穏やかな口調で彼に話した。

「ようこそ、タイムレスの世界へ」
「私はタイムレスに中途覚醒した人へタイムレスとしての新たな生き方を教えに来たの」
「ああ、そんなに緊張しなくても良いわ。私も中途覚醒したタイムレスでね。パイロキネシスが使えるの」

アズマを安心させるべく彼女は手の上で火球を作り上げ、ゆらゆらと揺らして見せた。

すると火球に火災報知器が反応して、スプリンクラーが二人を濡らした。

「やだ! 私っていっつもこうなの」

ミシェルは肩を竦めた。
アズマは久しぶりに少し笑った。
170 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 11:19:27.05 ID:UOwJTWrQo
 ミシェルはアズマのこれからについて話した。

「貴方はこれからこの国でタイムレスとして生きる中で、選ばなければいけないことがあるわ」
「それは『政府にタイムレスとして登録する』か『しないか』」
「未だタイムレスへの差別が多い時代、政府にタイムレスとして登録すれば貴方の人権は守られるわ。でも、その分自由は少なくなるのは事実よ。だから『登録しない』という選択肢があるの」

アズマはカラムのことを思い出した。
彼は政府に登録されたタイムレスであったが、彼は常に何者かに監視される不快感について語っていた。

だが、何より今のアズマにはそんなことを考える余裕はなかった。

心配なのは、訴訟について。リンが、カラムの意志が、今、無碍にされようとしているのである。

 彼の意志は、現在も彼の左掌の中に握られている。
身体検査の時、検知器は彼の手に反応しなかった。以来、彼を警戒する警察官らはそれに言及していない。
容疑者でない以上、気を損ねて暴れられるのも面倒なのである。

 アズマは、彼の意志を守らねばならないと思っていた。
どのように守るかはまだ思い付いてはいない。ただ、その衝動が彼をより感情的にしていた。今までにはない自分の意志による強い力が彼の胸の内で動いていたのである。

「タイムレスとしてこれから俺がどう生きていくか。今すぐに答えは出せない。俺にはすべきことがある」

 アズマはミシェルにそう告げた。
彼女はそれでも良いと言った。タイムレスの
自身の中途覚醒を受け止めるのは簡単なことではなく、能力の扱いにもしばらく時間がかかるであろうという。
171 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 13:15:38.40 ID:UOwJTWrQo
*

 数日すると、アズマは警察署から解放された。
タイムレスとは言え、無実の人間を数日間拘留するのは難儀なことだとアズマは思った。

 外に出たアズマはまず、自分は今からどこへ行べきかを考えた。
顔が浮かんだのはやはり――リンだった。彼女は今出産を控え、主人を失い、訴訟の話が出ており不安な日々を過ごしているであろう。

 友人としてすぐに行ってやりたい気持ちではあったが、今のこの姿を見て、彼女はどのような反応をするだろうか。
だが、彼の意志≠持つのは彼女が相応しい。変わり果てたこの姿に驚かれようと、不安に晒される彼女に、カラムと最期までいた自分が彼の意志について話す必要がある。
実験の情報を悪用する者に渡してはいけない。それを伝えることが親友として最後にできることである。伝えたい、アズマは強くそう願った。

 彼はカラムとリンが暮らす家へと向かった。

 しかし問題もあった。
気付かれていないと思っているのであろうが、アズマの歩く場所より数m程離れた建物の屋上に彼を隠れて監視し、尾行する者がいた。
アズマの察知能力で視るに、奴の正体は超人保護局の局員。
その視線はミシェルと話していた時から感じていた。目的は恐らく、本当に自分が無害なタイムレスか見定める為だと考えられる。
これについての対処は、簡単。
撒けば良いのである。機密保持部で隠密行動を行っていたアズマにとっては訳ないことであった。
アズマは静かなる密偵の目を欺くべく、路地へと入り込んだ。

(――早く。早くカラムの意志≠安全な所へ!)

 その時であった。

「どこへ行くつもりだ、アズマ」

 聞き覚えのある、しかしもうそこには居ないはずの彼≠フ声が聞こえた。
そこに居たのは、研究所で蟲に喰われたと思われていたコンラッド=バジョットが居た。

アズマは彼の生存を知らなかったのである。
172 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 14:12:36.84 ID:UOwJTWrQo
顔右半分は大きく焼け爛れ、左足は引き摺っており杖が無いと歩けない状況。
コンラッドの姿は、アズマほどではないものの変わり果てていた。

「随分と驚いているようだな。死んでいた方が良かったか?」

コンラッドは笑いながらアズマに近付いてきた。
笑顔で引き攣った火傷顔が不気味に歪んだ。

「バーティ、任務ご苦労! 後は二人きりで話させてくれ!」
『了解』

コンラッドは持っていた無線で合図すると、今まで感じていた監視者の気配が消えた。

それを機にコンラッドは話し出す。

「大分変わったな、アズマ」

「貴方もです、コンラッド大佐」

「姿の話をしているんじゃない。内面の話をしているんだ。まさかお前に撃たれる日が来るとはな、あの時の私は完全に油断していた」

「年を取ったのでは」

「ははは、言うようになった。やはり変わったなアズマ。私が与えた任務に一切疑問を抱かぬよう育てたのは私だというに……要するにお前は任務より友情≠ニやらを取った訳だ」

「ええ……そうです。俺は貴方に不信感を感じ、カラムを信じることにしました。今までの自分を恥じたい……彼の友情を裏切ってきたことに」

「ほお、では戻る気はないのか」

「……どこへ」

「私の下へ、だ」

「どの口が」

「この焼け爛れた口がそう言わせているのだ。お前は優秀だ。失うには惜しい。カラム博士が死に、最早友情を行使する相手はいないだろう。戻ってきたら良い。私をこう≠オたことは水に流そう」

「友情を行使≠セと? カラムが死んでも、その友情は失われない。これは永遠だ」

「……そうか、残念だ。ならばここから立ち去りネバダ辺りで静かに暮らすと良い。その前に――」
「その手に握られているデータを私に渡してからな」

「何ッ!?」
173 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 14:34:44.65 ID:UOwJTWrQo
「タイムレスが現れてから警察組織は臆病になった。ヴィランと呼ばれる悪人が現れ、それから市民を守るべくヒーローが生まれ、あの組織が市民を守るべき意志は以前より希薄になってしまったのだ」
「奴らはタイムレスの能力に怯え、今や治安維持、捜査の一部を超人保護局やヒーローに任せきりにしている。呆れたものだ」
「……で、お前のそのお粗末に隠したモノ≠ノも言及しなかったわけだ」
「私が、お前がカラム博士が所持していたデータを持っていることを知ったのは僅か一日前になる」
「お前が起こしたあの火事で全ては炎の中に消えたと思っていたが――違ったようだな」
「ミシェル=ボルダックからも連絡が入った。お前の手はやはり不自然に握られている、とな」
「……もう一度言う、アズマ。そのUSBメモリを渡せ。そうすれば、全てがうまくいくようにしてやる」

「そんなうまい話があるものか。カラムがそうしたように、俺も命を捨ててでもこの意志≠守る!」

「……リン=チャーチルへの全ての賠償・訴訟を取り下げると言ったら?」

「!」

「この国は金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。このメモリは金額にしてそれ程、いやそれ以上の価値があるということだ。加えて、お前に50年ほど不自由なく暮らせる金を渡すこともできる」

 アズマは凍り付いた。
これは究極の選択であった。

リンを守る為、メモリを渡せば、カラムの意志を裏切ることとなる。
カラムの意志を守り、メモリを渡さなければ、リンへの訴訟・賠償は行使され、最悪コンラッドの手にかけられる可能性もある。

アズマはどちらも選択できなかった。

迷いという感情は、軍在籍時、怒りや憎しみと言った任務に支障を来す感情と共に捨て去ったもののはずであった。
それが今になって表れたということは、つまり――

彼に考える時間が必要であることを意味していた。

コンラッドがそんな暇を与えてくれるはずもないことは分かっていたが、アズマは怒り≠解放し、全力で彼から逃げ出した。

 それを見たコンラッドは無線を取り出し、こう告げた。

「0911よりコンラッド大佐。現在超人保護局より観察中であったアズマ=コンドーが件の火災事故の重要証拠を盗み、逃走。至急応援を頼む」

『了解。至急ヒーローを派遣します』

*
174 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 15:16:16.32 ID:UOwJTWrQo
(どこだ――どこへ行けば――)

 町にはヒーロー出動中市民待機令を告げるサイレンが鳴り響いていた。
異形が町を走っているだけでも目立つというのに、逃げ込む場所はどこにもなかった。

とにかく誰にも見つからない場所へ隠れる必要があった。
アズマ自体それを行うことは得意であったが、師であるコンラッドが指揮をあのまま行うのだとしたら抜け出す方法は容易に考えつくものではない。
彼は頭を絞って考えた。

(37番道路を出た先の裏路地! あそこの先にスラムがある。そこに紛れ込めば――)

*

 アズマは警備が薄いであろう裏路地を走っていた。
スラムに隠れ、態勢を立て直そうとしたのである。

スラムは目論見通り、浮浪者が多い。
また、浮浪者は普通の人間だけではない。タイムレスとして世間に馴染めずここに滞在するものも多い。ヴィランの大半はここから生まれたとも言われる程である。
よって異形の物も日常的に存在する。アズマ一人が、そこを走っていても気にはならないであろう。

そうして紛れ込もうとした時である。
アズマは不意に男とぶつかった。

「す、すまん。今急いでいるんだ」

「あいや、こちらこそ済まない。拙者≠煖}いでいる故――」

男は白い着物に青い袴、腰に刀、そして白い仮面。中央に赤く大きな目のようなものが描かれていた。
日本のサムライ≠ノ似た姿をしていた。

(ハロウィンにはまだ早いぞ)

アズマはその姿が気にはなったものの、何も言わず立ち去ろうとした。
しかし――

「待たれよ」

男は逃がしてくれなかった。

「な、なんだ……」

「今、急ぎの用が無くなったのでな。声をかけたのだ」
「拙者、今、人を探しておったのだ」
「その名は……アズマ=コンドー。蟲のような姿をしたタイムレスだと聞いている」
「……貴様だな?」

アズマは観念し――なかった。

「……ああ。そうだが?」

「開き直るか。それもまた良し」
「貴様に逮捕令が出されている。素直に投降せよ」
「さもなくば……斬る」

「言っただろ。俺には急ぎの用があるんだって」

「抵抗するか。それもまた良し。では――」
「斬る!」

男は刀を抜いた。
鞘から抜かれると怪しげな白い光を纏った刀身が現れる。
刀を構えると男は大きな声で名乗りを上げた。

「名乗ろう! 拙者はサムライヒーロージェモン=I 日ノ本より来たイノー流剣術≠ェ一つ斬(ザン)≠フ皆伝者である!」
「火災事故の証拠物品を盗んだ不届きものめ! いざ成ば――」

「長い!」

アズマは名乗りの途中で右腕を解放し殴りつけた。
175 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 16:01:51.50 ID:UOwJTWrQo
ジェモンは刀を杖に立ち上がる。

「殴るとは失礼千万! 許せん! 斬る!」

アズマは後ろを向いて走り出した。
ヒーローと追いかけっこしている状況で目立つのは仕方がない。
どうやらこのヒーロー、頭が良い方では無いようなので、アズマは必死に凌いで逃げ道を探した。

だが、侮ってはならない。
このジェモンの太刀筋は非常に正確。それに破壊力も妙に高い。
首を狙った一太刀を屈んで避けると、その刃はスラムのレンガ造りの壁に軽く当たった。

鈍く大きく擦れる音がした。

壁は大きな音を立てて、簡単に切れてしまった。

(これは普通の刀じゃない……!?)

また、その衝撃波も鋭く、強い力がアズマの腕の外皮をこそぎ取ってしまう。

(この動き、人型の蟲より――繊細で強いッ!)

その後、間を置いて強い風が吹いた。スラムの住人の掘立小屋と共にアズマの身体も宙に浮きあがった。

(マズい、このままでは!)

ジェモンは、無防備になったところを追いかけるようにして飛び上がり刀を大きく振り上げた。
176 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 16:38:27.31 ID:UOwJTWrQo
 ジェモンの太刀は空を切った。
ジェモンがアズマの姿を探すと、その頭上一つ高くに彼の姿があった。
アズマは飛んで≠「たのである。

あの瞬間、何があったのか。

あの瞬間――

敵に斬られまいと自分の身体について深く考える内、怒り≠フエネルギー放出の時の状況に目を付けた。
怒りを放出する時、アズマの身体は大きく後方に下がる。
その方向を一か所に向けた時、どうなるか。

アズマはそれを足≠ノ集中させ高速≠ナ飛行≠オたのである。

「悪いなサムライ。お前と戦っている暇は無いんだ」

そのままアズマは空高く舞い上がり、ジェモンの前から消えて行った。

*

 ジェモンは仮面の中の無線から通信する。

「こちらマスター・ジェモン。RSフォース、ターゲットを逃がした。すまん!」

『こちらRSフォース。またですか……マスター・ジェモン』

「追跡任務は苦手だ。精進する」

*
177 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 16:39:57.33 ID:UOwJTWrQo
・中断します。これで1/2くらいです

・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!

・ではこのへんで
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 16:55:46.79 ID:JT46QXEZ0

あの安価がいま回収されたか。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 17:22:16.52 ID:qA3hxF0gO
味方なら心強い相手…なのだろうか
180 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 20:24:51.16 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくり続けて行きます
181 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 20:42:32.40 ID:UOwJTWrQo
*

 スラム街から幾分か離れた空き家。
アズマは、空き家のカーテンが閉じられた窓に向かって突っ込んだ。

 ガラスが割れた大きな音が聞こえる。彼は足の怒り≠放出し終わって、そのまま無様に転がり入った。
そこには空き家に存在しない、してはいけないはずのものが広がっていた。
無数のPCモニター、キーボード、ピザ、太った黒人男性。

「おいおい、ハリウッド映画もビックリなエントリーだなアズマさんよォ」

黒人男性は、あまり驚きもせずアズマに皮肉を言った。

「良く気付いたな、俺だと」

「アンタテレビ見てないだろ。スゲェことになってるから見てみろ」

 男はPCの傍らにある古いテレビの電源を付けた。
そこには未だ火の消えきらない研究所から黒い蟲のような姿の男が現れ拘束される姿が映し出されていた。
アズマにとっては見慣れない映像であったが、覚えのある後継でもあった。
これは自分が研究所から出てきた時の状況だ。

「並行世界研究の第一人者カラム博士の死と研究所火災。謎の黒蟲男の登場でワイドショーは持ち切りだ。それに今指名手配されてるんだろ?」

「黒蟲男?」

「アンタのことだよ。大分また姿が変わっちまったみたいだが、これ皮膚?」

「分からん。だが、怒り≠発散すると、発散した箇所がこうなる」

「へぇ、カッコいいじゃん」
「で――本題は?」

「お前がまだ中立≠フ立場にいるなら、相談したいことがある。情報屋≠フジョン」

「今の名前はアランだ、アラン=スミシー。おっと、ハンドルネームはA.S.A.Pのままな」
「中立? ははーん、アンタやっぱりめんどくさいことに巻き込まれてるんだな? いいぜ。相談に乗ってやるよ」
182 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 21:01:59.65 ID:UOwJTWrQo
「で、相談って――?」

 アズマはここで初めて左掌を開き、男――A.S.A.Pに見せた。
A.S.A.Pはそれを興味深そうに眺めた。

「USBか。これに何か入ってんの?」

「このデータを誰にも売らないと約束できるか?」

「……ああ、いいぜ? 断ったらアンタに始末されちまうかもしれないからな」

「良かった――なら、このデータを見てくれ。親友が遺したものだ」

「親友?」

 A.S.A.Pはアメリカ全土を股にかける情報屋である。
彼とアズマの関係は長い。その関係は、アズマがカラムに出会う前からの腐れ縁であった。
 A.S.A.PはUSBを自分のPCに差し込み、データを閲覧した。
彼はそれを見る内、その内容に震えた。

「お、おい。これって――」

「そう、これは親友――カラムが遺した並行世界観測実験のデータだ」
「それだけじゃない。実験の危険性を提示した文書、新たな可能性全てが書かれているらしい。俺も見るのは初めてだ。これほどとは――」

「こらァ……やべェもん持って来ちまったなぁ。で、このデータをどうしたい?」

「分からない」

「はァ?」
183 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 21:37:19.95 ID:UOwJTWrQo
「カラムは生きている時……このデータが軍によって悪用されてほしくないと言っていた」
「だから……俺はその意志を受け継ぎたい。だが、どうすればいいか分からないんだ」

「やっぱり軍が関わってんのか! なら俺ができるのは助言ぐらいしかねーな。しょっ引かれんのも、アンタみたいなやつに殺されるのもごめんだ」
「しかし全くのノープランか。どうしようかねェ」

「最初はカラムの妻……の家に行ってこれを渡そうかとも思った。でも危険すぎる」

「いい心がけだ。そんなことしたらすぐその奥さん、殺されちまう」

 A.S.A.Pは腕を組んで呻り始めた。するとすぐに「そうだ!」と膝を打った。

「アンタ、そのUSBを破壊しろよ! その能力でさ! 跡形もなくなれば悪用もされないぜ」

「ダメだ」

しかしアズマはその案には乗れなかった。新たな可能性の項目には、カラムはこの実験に反対はしていたが、未来的に安全な実験法の確立がされた時、この国の量子科学は飛躍的な進歩を遂げると書かれてあった。
誠実な彼を尊重した判断はそれではない。そう思えてならなかったのだ。
これがカラムの意志≠受け継いでいく為に必要な答えだった。

A.S.A.Pも「なーんだ。答え、出てるじゃん」と首を振った。そして彼は答えた。

「アズマさんよォ、その情報、軍の誰かに奪われる前に誰かにリークしちまわないか?」

「リーク?」

「そうだ、一番信頼できる……そうだな、知り合いの記者に当てがある」

「信頼できるのか?」

「ああ、悪かない。どうだ?」

「会って話してみたい」

「そうか……なら、俺がアポを取ろう。それでこの情報を公開するかどうかはアンタが決めりゃあいい。俺が手伝えるのはここまでだ」

「アポが取れるまでどれくらい時間がかかる」

「24時間だ。それまでどこかで凌いでいてくれ。どうにかしてアンタに連絡する」

「……ありがとう」

「今までの悪事を見逃してもらってるお返しってことでいいぜ」
「特に違法エロサイト動画を閲覧してることをな」
184 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/15(火) 21:37:49.17 ID:UOwJTWrQo
・休憩
185 : ◆RbLyhCxL4nw3 [saga]:2017/08/16(水) 10:10:27.80 ID:U3R2g18Ao
・ゆっくり続けます
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