ムヒョ「希望ヶ峰学園…?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:16:38.37 ID:SJYXb7WI0



※ムヒョとロージーの魔法律相談事務所
          ×
 ダンガンロンパ―希望の学園と絶望の高校生―

※クロス作品の都合上、時系列はED後なので
 大半のキャラは幽霊として出てきます

※ふいんきで読んでくれるとうれしい




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1499256998
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:17:05.79 ID:SJYXb7WI0


ロージー 「こちらが、執行人の六氷透。僕は一級書記官で、助手の草野次郎と申します。
      分からないことがありましたら、どうぞ遠慮なく聞いてくださいね。
      ――ええと、苗木誠さん」

苗木   「あの、敬語とかいいですよ。たぶん、僕の方が年下なので」

ロージー 「そ、そう?」エヘヘ

苗木   「僕はよく知らないんですけど……魔法律って、除霊みたいなもの、ですか?」

ロージー 「ええっと、いわゆるお祓いとはちょっと違うんだ。
      簡単に言うとね、幽霊の犯罪を裁くための法律で……」

ムヒョ  「ヒッヒ、どうしても信じらんねえってんなら、実演してやろーか?
      オメエにくっついてる奴で」スッ

苗木   「えっ?あ、……うわあああっ!!」


指さされた自分の背後。振り返った苗木は悲鳴を上げる。

異形――どろどろに溶けた目玉のようなものが、ブツブツと何かを呟きながら
苗木におぶさっていた。

ロージー 「あれは"集合霊"だ……霊気が合わさったものだけど、かなり大きい……!」

ムヒョ  「魔法律第102条……"おぶさり"の罪により」ポォッ

ムヒョ  「"送り火"の刑に処す!」

パァッ…

苗木に取り憑いていた目玉が、本から出た光によって消えていく。

ムヒョ  「……と、これが魔法律だ」パタン

驚きの表情のまま固まった苗木に、ムヒョは尊大な口調のまま問う。

ムヒョ  「で。オメエはどんな霊をあの世なり地獄なりに送りてえんだ?」

苗木   「……友達を」

やっとの思いで絞り出した声は、かすれていた。

苗木   「僕の友達を、救ってあげたいんです」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:17:33.86 ID:SJYXb7WI0


【夜.希望ヶ峰学園正門前】


ロージー 「うう……なんかおどろおどろしい雰囲気が……」

初めて見る希望ヶ峰学園は、想像していたよりずっと大きく、恐ろしい気配を漂わせている。

その周りを、警視庁と蝶布市からの応援のお巡りさんたちが囲んでいた。

知り合いの刑事さんによると、昼間は学園の中に入って『絶望』について捜査しているらしい。
それと、ここ数日(分かってるだけで)20人くらい、この学園の近くで消息を絶っているとか。

緑河   「本当に君たちだけで平気か?」

葉利魔  「そうだ、念のためにこれを……魔法律協会の技術班と合同で開発した、神通弾だ。
      まだ実験段階だが、霊に向けて撃つことで動きを止めることができる」

ムヒョ  「ま、お守りだと思って受けとっておくぜ」

ロージー 「ありがとうございます……」ギュッ

葉利魔  「弾数に限りがあるから、ここぞという時に使ってくれ」

緑河   「僕たちは錬が少ないから力にはなれないが……無事を祈っているよ」


コンソールに数字を打ちこんで、中に入る。

すぐに、むわっとした霊気がまとわりついてきた。

ムヒョ  「こりゃ、相当やべえのがいるナ……マコトの話じゃ、少なくとも3体はデケぇ地縛霊がいるらしいが。
      錬の限界もある。今夜だけじゃ全部執行できねえかもナ」

ロージー 「じゃあ、日を空けて一体ずつ執行していくってことだね」

ムヒョ  「そういうこった。オメェもだいぶ察しがよくなってきたじゃねえか」


真っ暗な廊下を歩く。霊探針を使って探す必要はないくらい、霊気が濃い。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:18:07.34 ID:SJYXb7WI0


【苗木の部屋】


ムヒョ  「扉に霊痕がくっきり残ってんナ。シャワールームにいた奴は、無理やりこじ開けて出たらしい」

ロージー 「それって……舞園さやかちゃん、だよね」

ムヒョ  「中継で見た限りじゃ、相当執念深い性格してたナ。仁の言ってた地縛霊のうちの一体は、
      そいつと考えるのが自然だ」

ロージー 「でも、霊気は濃いのに低級霊はいないみたいだ……人の気配もない……」

ムヒョ  「ヒッヒ…なら、答えは一つだロ」

ロージー 「まさか、さやかちゃんが!?」

ムヒョ  「ここの近くで行方不明の奴らか、それとも学園の中に漂っていた浮遊霊か……
      あるいは両方かもナ。いずれにしろ、いい状況じゃねェ。さっさと……ん」

ロージー 「?なんだろ、この声……」


静かな闇の中。かすかに鼓膜をふるわせる、歌声。
澄みきっているのに、どこか恐ろしい、底知れない響きを持っている。

ムヒョ  「"呼んで"るナ。殺人計画も穴だらけなら悪霊になった後の"食事"も下手クソと来てやがる」

ロージー 「ど、どどどどうする?」

ムヒョ  「体育館の方角か。とりあえず誘いに乗って…」


その時。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 21:18:36.21 ID:XMqXDDz80
ムヒョのssなんて初めて見た
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:18:42.40 ID:SJYXb7WI0

通風孔から『ガタッ』と音がして、人が落ちてきた。

苗木   「いったたた…」ヒリヒリ

ロージー 「マコトくん!?こんな所で何して……」

苗木   「お、お願いです。僕っ…どうしても、舞園さんに伝えたいことがあって」

ムヒョ  「……」

苗木   「絶対に足手まといにはなりませんから!だから…「バカかオメエ」……え?」

ムヒョ  「説明したはずだぞ。この世に強い執着を残した地縛霊は、生前の記憶も理性も失っている。
      今のさやかにとって、テメエはただの"エサ"だ」

苗木   「そ、そんなこと…」

ムヒョ  「嘘かどうか、オレたちについてきて確かめるか?死んでも文句は言わねえってのが条件だがナ」

ロージー 「ムヒョ!そんなのあんまり「分かりました」

苗木   「元からそれだけの覚悟です、だから、お願いします!!」
      
地面に頭をこすりつけて頼む苗木に、ムヒョは「勝手にしろ」と背中を向けた。

苗木   「あ、ありがとうございます!」

立ち上がってついていく苗木。かくして、3人に増えたパーティーは、体育館へ歩いて行く。
しかし、彼らはすぐに知ることとなる。

舞園さやかの歪んだ『想い』は、そう簡単に祓えるものではないということを。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/05(水) 21:19:16.33 ID:SJYXb7WI0
今日はここまで。

ムヒョ手元にないのでいろいろ手探りなSSだけど
一応全員に魔法律執行したい
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 21:39:33.66 ID:XMqXDDz80

ムヒョの時間軸も原作終了後?
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/05(水) 21:43:43.14 ID:2uOL/bQP0
ミス修正。
仁の言ってた→マコトの言ってた 

>>8

ムヒョロジ最終回→絶望的事件→みんな協会本部に避難→ロンパed→スーダン2ed→このss

みたいなイメージで考えてます
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/06(木) 03:55:01.05 ID:FWh4G0gdo
サイレンのSSは見たことあるけどムヒョは初めてだ
頑張れ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 15:54:46.07 ID:dSWFMjJT0

苗木  「さ、さっきから寒くないですか?」ガチガチ

ムヒョ 「寒気じゃねえ。こいつは"霊燐"……」

苗木  「れい、りん?」

ロージー「地縛霊が出す、濃い霊気のことだよ。こんなに霊燐が多いと、下手な浮遊霊なら
     触れるだけで悪霊になってしまうかもしれない……」

苗木  「……」ゴクッ

ロージー「だ、大丈夫だよ!君の声なら、さやかちゃんにも通じるかも」

苗木  「そうですよね。僕が…信じてあげないと」ギュッ

ムヒョ 「テメエがさやかを改心させらんねえってなら、執行するまでだ。
     ……魔法特例法第18項、"霊錠解除"を発令する!!」パァッ

ガチャッ、ギィィ…

苗木  「!開いた……舞園さん!」ダッ

ロージー「あ、待ってマコトくん!一人で行っちゃ……!?」


??? 『みんなー!盛り上がってるー!?』

ワァァァ…

??? 『じゃあ、ラストの曲いきまーす!聴いてくださいねっ♪
     "ネガイゴトアンサンブル"!!』


苗木  「まい、ぞの……さん?」フラッ

生前とまるで変わらない姿が、そこにあった。

舞園さやかは、ステージの上できらびやかな衣装をまとって踊る。
虚ろな目で体を揺らすのは、行方不明になっているという人々だろうか。

ムヒョ 「ケッ、超高校級のアイドルにしちゃショボいステージだナ」

ロージー「うわあ…テレビで見たのよりずっと可愛いよ!あんな子が地縛霊だなんて」

ムヒョ 「見た目で判断すんじゃねえカス。何年魔法律家やってんだ」


夢中で歌うさやかの死角から、ゆっくりとステージへ進む。

が。霊の扱いを知らない一人が、それを台無しにした。


苗木  「舞園さん!!」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 15:59:10.15 ID:dSWFMjJT0


ピタッ。

歌が止んで、操られている観客たちが一斉に振り返る。

ステージ上のさやかも、驚きに目を見開いていた。

舞園  「苗木くん……?」

苗木  「ほ、ほんとうに舞園さんなんだね!ははっ…やっぱり、地縛霊になってるなんて
     嘘だったんだ!」ダッ

ムヒョ 「やめろバカ!!そいつはもう……」

舞園  「ふふふっ……やっぱり、苗木くんはわたしの味方をしてくれるんですね」ビキッ

邪悪な笑みを浮かべる舞園に、苗木は気づかない。

可愛らしい顔がどんどん肥大して、腹のあたりがずるっと伸びる。


舞園  「そんな苗木くんが大好きです……』


『本当に』

『ほんとに』

『ホントニ』


舞園  『ダイスキ』


ズズッ…


ロージー「なっ……」

ムヒョ 「デケェな。学園ん中漂ってた浮遊霊を食って育ったのか。大したもんだ」ヒヒッ

苗木  「ま、舞園……さん……?」ガチガチ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 15:59:40.78 ID:dSWFMjJT0
http://ux.getuploader.com/sssokuhouvip/download/141/20170707_151912.jpg


恐ろしい形相。肥大化した顔はその顎を大きく開き、牙をのぞかせる。
腹のあたりから伸びた体は、ムカデのような関節で、一方の端に人間の下半身がついていた。


舞園  『苗木くん……』

苗木  「やっ、やめ「逃げろ、マコト!!」

ブンッ

苗木  「がはっ…!」ギチギチ

固まっていた苗木に、舞園の体が巻きついて締め上げる。
そのまま天井近くまで掲げられた苗木は、足をばたつかせてもがいた。


ロージー「マコトくん!くそっ、"三連破魔の術"!」


ボンッ、ボンッ


舞園  『……なんですか、これぇ……花火?』クスクス

ロージー「利かない!?」

ムヒョ 「チッ…霊を食った分硬度も上がってやがる。…おいマコト、何ボサッとしてんだ!!」

苗木  「!」

ムヒョ 「何のためにテメエを連れてきたと思ってんだ、さっさと話しやがれ!!」

苗木  「ぐっ…あ、まい、ぞの……さん…!」

苗木  「おねが、もうっ……てん、ごくに……」ギギギ

舞園  『うふふ、見て見てえ、もっとわたしを見てえ』ズルッ

舞園  『私はぁぁぁ、こんなところで、立ち止まってるわけにいかないんです……
     だって、アイドルなんだもぉん』ブンッ

グシャッ!

壁に叩きつけられた苗木の顔が、苦悶に歪んだ。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 16:00:14.78 ID:dSWFMjJT0


ロージー「マコトくんが!む、ムヒョ!どうにかならないの!?」

ムヒョ 「元から和解できるとは思ってねえ……執行するしか『あれえ?』

舞園  『いいんですかあ?苗木くんがどうなっても』

ムヒョ 「悪霊が一丁前に脅迫か?」

舞園  『その変な魔法、苗木くんも巻きこんじゃうかもしれないですよねえ。
     そうならないって保証はないですよねえ』

舞園  『だからあ、わたしと取引、しませんかあ?』

ムヒョ 「……」

ムヒョ 「面白え。聞いてやるよ」

ロージー「ムヒョ!?」

舞園  『うふふふ、頭のいい人ってだあいすき。じゃあ……探してきてくださいよ。
     わたしを殺してくれた、あいつを!!!』

舞園  『だってずるいじゃないですか!!!あの人だけ卒業なんて不公平じゃないですか!!!
     わたしはあんなに苦しい想いをしたのに!!!あいつだけ!!』

ロージー(……なんだろう、何かおかしいような……ムヒョは何を考えてるんだ?)

ムヒョ 「分かった。じゃあ、そいつと苗木を交換ってことでいいナ?」

舞園  『ふふふふふ……やくそく、やくそくしますよお。お歌、歌って、まってますねええ』

ムヒョ 「分かった。待ってロ」

苗木  「待って……だめ、だ…ムヒョ、さん……」

ムヒョ 「テメエは足引っぱった詫びとして、そこでせいぜい役に立たねえ交渉でもしてるんだナ」


いつものようにさっさと行ってしまうムヒョに、ロージーは戸惑いながらもついて行く。
さやかは苗木を締め上げながらも、それ以上の攻撃を加える様子はなかった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 16:00:42.85 ID:dSWFMjJT0
一旦切るよ。
悪霊舞園さんボールペンですまんね
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 16:05:06.98 ID:fE35dOsn0
ムヒョロジとかなんて俺得ssなんだ…続けたまえ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 16:36:55.87 ID:Fog97CRWo
上手いな。そのローダーはすぐ流れるからimgurであげて欲しい
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:03:17.59 ID:X17Ofx2L0
>>17
ありがと。そのやり方よくわからんから
こっちであげてた


パタン…


扉が閉まると、ロージーは息せき切って聞いた。


ロージー「ムヒョ、せめてボクには教えてよ!どうしてあそこで魔法律を執行しなかったの!?
     魔法律は、無関係な人間を巻きこむことはないじゃないか!」

ムヒョ 「……さやかの見えねえ所で聞いたのだけは評価してやる」


いつも通りの冷たい瞳で、ムヒョはあたりを見回す。

ムヒョ 「さやかはもうダメだ。人間どもを歌でおびき寄せる"催眠"に
     浮遊霊を食った"物体無断霊化"……どちらも重罪だ。地獄行きは免れねえナ」

ロージー「だったら……!「だが、もう一人は成仏させられるかもしれねえ」

ムヒョ 「だが、そいつの成仏にはさやかの存在が不可欠だ。だからあえて誘いに乗ってやった。
     ……この霊気だ。霊探針はマトモに動かねえだろうナ」

ロージー「もし、学園の中を動き回っていたら……」

ムヒョ 「そこまで広くねえ。足で探すぞ」タッ


二人は走り出した。漂う霊気は少しずつ濃くなって、行く手をかすませる。


ランドリーや大浴場、倉庫まで探したが、探し霊はどこにもいなかった。
寄宿舎の扉を一つずつ開けても、誰もいない。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:04:04.54 ID:X17Ofx2L0
ロージー「……あと、探してないのはここだけだね」


【苗木の部屋】


ロージー「あれっ、ドアノブが壊れてる。さやかちゃんって力持ちなのかな」

ムヒョ 「……そうか、オレがカン違いしてたのか」

ロージー「?」

ムヒョ 「この霊痕は中にいた奴じゃなく、"外から来た奴が入った"時についたやつだ。
     レオンのあやふやな記憶の中に、"鍵をこじ開けた記憶"が残っていたんなら……」ギィッ

部屋の中は暗かったが、シャワールームだけは電気がついていた。
入ると、赤毛の少年が一人、膝を抱えて床を見つめている。


ムヒョ 「


一方、囚われの身となった苗木も、懸命に呼びかけていた。


苗木  「お願いだ舞園さん!僕の話を……」

舞園  『あなたに何が分かるっていうんですかあ?』

苗木  「っ、分かんないよ、僕は舞園さんじゃないから。だけど」

舞園  『わたしはねえ、ずっとずううーっと、苗木くんがうらやましかったんです』

苗木  「え……?」

舞園  『ただそこにいるだけで、認めてもらえる苗木くん。わたしがあんなにがんばって
     嫌なこともがまんして、それでやっとアイドルとして認めてもらっているのに、
     簡単にわたしの上を行く、苗木くん』

舞園  『そんな苗木くんが、まぶしくて――憎たらしくてたまらない!!!』

苗木  「!!」

舞園  『わたしはアイドルじゃなきゃ、わたしじゃない!!一生こんな所にいるなんてまっぴら!!
     じゃなきゃ、わたしの勝ち取ったものが全部無駄になっちゃう、そんなの耐えられない!!!
     誰にもわかるはずない、ましてや苗木くんになんか!!わたしの気持ちが分かってたまるかあああ!!!』グオッ

ガシャン!!

苗木  「ぐっ……!」

思い切り壁に叩きつけられて、呼吸が一瞬止まる。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:04:46.94 ID:X17Ofx2L0
舞園  『そう、あいつにだって分かるわけない!!才能に愛されていたあの人に!!わたしの苦しみなんか
     分かってもらえるはずないの!!なのに誰よりも努力していたわたしが殺された!!
     あいつが処刑されたとき、"ざまーみろ"って思いましたよ!!"もっと苦しめてやりたい"って!!!』

舞園  『そうでしょ!?わたしはなにも悪くない、ただ外に出たいって思っただけ、それの何が悪いっていうんですか!?』

苗木  「それは違うよ!!!」

シーン…

舞園  『いま、なんて言ったんですか?』グリンッ

苗木  「桑田くんだけが悪いって思って、自分の罪から目を背けたいんだね。だけど、それは違うよ」

舞園  『だっ……だまれ、だまれ、黙れえええ!!!』ブンッ、グシャッ!

苗木  「っ、もちろん、僕だって同罪だ!!」

舞園  『!?』ピタッ

苗木  「僕は……君の不安を、消してあげられなかった」

舞園  『思い上がらないでくださいよぉ……あなたに何ができるって「朝食会」

苗木  「朝食会を開こうと言ったのは誰だった?」

舞園  『……石丸くん』

苗木  「夜時間に出歩かないことを提案したのは?」

舞園  『セレスさん』

苗木  「僕は何もしていない」

舞園  『そんな、そんなこと……』

苗木  「あの時、君を追いかけて……扉をこじ開けてでも、話をするべきだった。
     そしたら桑田くんが君を殺してしまうこともなかったかもしれない。
     もしかしたら、その先に……みんなで生き残る未来も、あったかもしれない」

苗木  「でも、過去の過ちはもう戻せない。それを、生き残った僕は……知っている」

苗木  「だからこそ、君に伝えたいんだ。もう、何も……誰も、傷つけないで。
     だって舞園さんは、超高校級のアイドルなんだから。そんなこと、しちゃダメだ」

舞園  『…………』

苗木  「お願いだ、舞園さん……思い出して、あの時の楽しかった日々を」

苗木  「そこには、君も僕も……桑田くんもいたんだ。あの頃の、優しくて、よく笑って、
     時々ちょっとしたわがままを言う、そんな舞園さんに戻ってよ!!」


「そいつはどうかナ」


苗舞  「『!!』」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:05:31.94 ID:X17Ofx2L0
バターンッ


舞園  『あ……あ゛、ああああッ……』ギリギリ

ムヒョ 「どうだ?感動の再会ってやつだぜ。……なあレオン、オメエもこいつにゃ
     言いたいことがタップリあんじゃねーのか?』

桑田  『…………』

舞園  『ごめんなさい、苗木くん……』

苗木  「舞園さん……分かってくれるの?」

舞園  『それでもやっぱり、わたし……』

ムヒョ 「そうかそうか、そんなに嬉しいか」

舞園  『よくもッ……よくもぉぉぉぉ!!!!』ガバッ

口を大きく開けて、今にも噛みつこうとする舞園に、ムヒョは呟く。


ムヒョ 「地獄に行けるのがよ」


魔法律書のページが、パアッと光り輝く。
催眠にかかっていた人々が、一人、また一人とその光にあてられて倒れる。


舞園  『!?!?』

ムヒョ 「向こうで永遠に、テメエの罪を悔いるんだナ。
     ……魔法律第31条、"催眠"および"物体無断霊化"の罪により」バッ

苗木  「やめて、ムヒョさん!!お願いだよ!!!」

ムヒョ 「"魔公爵の踊り子"の刑に処す!!!」


瞬間、床がパックリと割れて、舞園は落下する。
その下では、炎に包まれた巨大な鳥かごを囲んで、骸骨や悪魔たちが晩餐会をしていた。


舞園  『いやっ……』


パカッ

鳥かごの天井が開き、落ちてくる舞園を受け止める。


ゴォォォ…


舞園  『嫌ああああああ!!!熱い、熱いぃぃ!!!』ジタバタ

桑田  『……!!』


炎の中で巨体を暴れさせる舞園は、まるで踊っているように見える。
それを囲む悪魔たちが、ゲラゲラと笑った。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:06:16.10 ID:X17Ofx2L0

苗木  「舞園さん!……あっ」スルッ


悪魔の一人が、苗木の襟首を火かき棒でつかんで引っぱりあげた。
そのままポイッとムヒョたちの方へ放る。


舞園  『た、助けて……誰か……』

ムヒョ 「無駄だ。それはけして消えぬ地獄の業火……お前はその中で、
     悪魔たちを楽しませる、永遠の見世物となるのだ……!」

桑田  『……っ!』ダッ

ロージー「レオンくん!?」


走り出した桑田は、炎の鳥かごに下りて手を伸ばす。


桑田  『つかまれ!!っ、早く!!』

舞園  『くわ、たくん……?なんで、わたしを……』ガシッ

そのまま、人間の上半身から伸びる細い腕をつかんだ。

桑田  『ふぐぐぐっ……おい、何ボサッとしてんだ!!オメーらも手伝えよ!!』


引っぱりあげようとする桑田に、玉座で吞んでいた魔公爵が『フウ…』とため息をつく。
半人半龍の悪魔――アスタロトは、ムヒョを見つけて口を開いた。


魔公爵 『アロロ……ソルエル ホロロウ ノキルロ アロ ホロロリア』

苗木  「い、今……なんて?」

ムヒョ 「"さっさとその少年をどかせろ、興が削がれる"……だってよ。
     これ以上魔公爵の機嫌が悪くなりゃ、テメエもただじゃ済まねえ。その覚悟はあんだろうナ、レオン」

桑田  『わか、って……る、っての!!」グググッ

舞園  『桑田くん……』


引っぱる桑田の足が焼けて、焦げくさい匂いが漂い始める。


魔公爵 『ア、アロッ!エロルア ケロリカ ルルロロレアロロリカアアア!!!』ゴオッ

ロージー「うわわっ……すごく怒ってる!!」


魔公爵が吐いた息で、あたりの悪魔が何体か焼き消えた。恐ろしいことに、生き残った悪魔も
それを見てケタケタ笑っている。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:07:08.17 ID:X17Ofx2L0

ムヒョ 「その鳥かごは地獄へ直結している。この晩餐会が終われば、次の宴まで炎に焼かれるって寸法だ。
     オメエもそうなりてえのか?」

桑田  『舞園、ちゃん……もう、許されねえって、分かってるけど……』グググ

桑田  『あの時オレが、お前を、殺しちまった、から……こんな、ことに……』

桑田  『だから、オレも……!!』グイッ

魔公爵 『アロ『だめです!!』

舞園  『だめです……これは、わたしの罪……わたしの、償い……なん、ですから……』

舞園  『わたしは、死んでからも……同じ過ちを、ずっと……繰り返していた』

桑田  『舞園ちゃん!!』

舞園  『わたしこそ、ごめんなさい……もう、怒ってなんか……いません、から……』パシンッ


ゴォッ…


振り払われた手。鳥かごはバタンッと閉じて、中に舞園を閉じこめたまま
ひときわ大きく燃え上がった。


桑田  『まいぞの、ちゃん……』ポロポロ

苗木  「うっ……う、ううっ……」グスッ

ムヒョ 「……」

ムヒョ 「……アロ アロエロ ルルカリ ホロエロ ロロア」

魔公爵 『……アロ』


うなずいた魔公爵が、ワイングラスをかかげた。
それを合図に、鳥かごは地中へズズ…と沈んでいく。

ムヒョ 「魔公爵と交渉した。さやかの地獄行きは取り消しだ。ただし」

桑田  『あっ?』グイッ


フードをかぶった骸骨が、桑田を捕まえる。


ムヒョ 「レオンの天国行きで、さやかの罪を相殺する。……ま、それでもあっさり天国に
     行かすにゃ、さやかの罪は重すぎる。しばらくは賽の河原で仲良く石を積むことになるがナ」

ロージー「ムヒョ…!」

ムヒョ 「オメエにもさやかの罪を背負わせちまうが、それでいいか?」

桑田  『……ああ、サンキュ』フワッ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:07:42.59 ID:X17Ofx2L0

使者に抱えられた桑田は、満足したように笑う。その姿が光の中へ消えて行くのを見とどけて、
床にへたりこんだ苗木がぽつりとつぶやいた。


苗木  「……すいません。僕、足手まといにしかならなかった……」

ロージー「それはちがうよ!……なんちて」


口癖をまねたロージーに、苗木は「へ?」と顔を上げる。


ロージー「ムヒョはね、心まで悪霊になってしまった人には情けなんてかけないよ。
     さやかちゃんがあそこで手を振り払わなきゃ、黙って地獄送りにしたと思う」

ロージー「さやかちゃんの心を溶かしたのは、マコトくんの想いだよ。ムヒョは、マコトくんの部屋で
     天国に送ることもできたのに、レオンくんをここまで連れてきた……」

苗木  「もしかして……僕に、賭けてくれたんですか?」

ムヒョ 「おいカス、余計なお喋りしてんじゃねエ」ゴスッ

ロージー「いだっ!!ひどいよムヒョぉ……」

ムヒョ 「さっさとこいつらを外に出すぞ。生者にこの霊気は毒だ」

苗木  「……」ポカーン

苗木  「……ふ、あははっ」

ムヒョ 「何笑ってんだオメエも」

苗木  (これで、本当にお別れなんだな……)


もう何もない床と天井を見て、苗木は想う。


苗木  (さよなら、二人とも……向こうでは仲良くね)


◆◆◆◆
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:08:13.91 ID:X17Ofx2L0


催眠から目覚めた人たちを連れて外へ出ると、警官たちは大騒ぎになった。


緑河  「こんなご時世だからね。行方不明なんて珍しくもないけど」


慣れちゃった自分が怖いよ、と緑河が肩をすくめる。


葉利魔 「……予備学科での集団自殺からこっち、ここでは幽霊の目撃情報が多いんだ」

苗木  「そうですか……」

ムヒョ 「そいつらは、魔法律協会の結界があるから出てこられねエ。ただ、中にいる地縛霊が
     力をつけちまったら……"禁書"に匹敵する被害が出るかもナ」

ロージー「じゃあ、その前になんとかしなきゃね!」フスー

ムヒョ 「役立たずが張り切ってんじゃねエ……」ヨロッ

ロージー「ムヒョ!」ガシッ

ムヒョ 「ブランクあったからナ……ちょっと、つか、れ……」スヤァ


ロージー(ボクは、錬の回復のために眠ったムヒョと一緒に、事務所へ帰った)

ロージー(未来機関の苗木くんから来たメールには、"ありがとうございました"とお礼が綴られていた。
     ボクたちに未来機関から正式な依頼が届くのは、この二日後になる――)     

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 16:08:46.53 ID:X17Ofx2L0


ひとまずこれで舞園+桑田編は終わりです

最後に単行本のおまけっぽい賽の河原での二人を

http://ux.getuploader.com/sssokuhouvip/download/142/20170708_160016.jpg
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 17:16:59.62 ID:1A+LMI6B0

復興してるとはいえ幽霊だらけの世界ジャマイカ!
江ノ島の幽霊とか厄介そう...
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 19:23:27.21 ID:uiB0SbQ+O
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/09(日) 07:57:51.24 ID:jptS75SDO
ムヒョSS ですか ネウロとのクロスSS以来ですね
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 18:56:16.88 ID:9Ik6K+cF0

ロージー「いやー、絶好の洗たく日和だね、ムヒョ」パンパン

ムヒョ 「ケッ…晴れぐらいでそこまで喜べる凡人の気持ちは分かんねえナ」

ロージー「うっ……」<凡人 グサッ

ロージー「で、でもさ。"絶望的事件"のせいで魔法律協会に一年も閉じこめられてた時……
     もうここに帰ってこられないかも、って思ったんだよ」

ロージー「ここでご飯を食べて、寝て、ジャビンを読んで、洗たく物を干せる。
     それって、すごく当たり前で、とってもありがたいコトなんだなあ……って、自覚したっていうかさ」エヘヘ

ムヒョ 「……だったら、依頼が来る当たり前ってのも自覚してもらいてえもんだナ」ガタッ

ロージー「え?」

ムヒョ 「未来機関め、"希望ヶ峰学園に巣食う霊をどうにかしてくれ"ってヨ」


◆◆◆◆


苗木  「ほんっとーに、すみません!!」

ロージー「いやいや、お仕事があるのは本当にありがたいっていうか」


ソファで頭を下げる苗木に、ロージーが一生懸命弁解する。
ちなみに苗木は、事務所に帰ってきてから第一号のお客様だったりするのだが。

苗木  「他の執行人のみなさんは、手が空いてなくて……しかたなく、有名な執行人の
     ゴリョーさんという方にお願いしようとしたんですが」


モヤモヤ…


ゴリョー『ふうん、希望ヶ峰学園ね…あそこは地縛霊の巣窟じゃあないか。ウチに来たのはいい判断だ。
     陰陽道の流れをくむ五嶺に伝わる結界術なら、一網打尽に出来るかもしれないねえ』

未来機関『で、では……あ、あれ?五嶺執行人、なぜ請求書の0を増やしてるんですか?』

エビス 『最低でも一億。こりゃ譲れませんなあ。どうします?』イヒヒ

未来機関『そ、そんなあ……!』


モヤヤン…

苗木  「と、いうわけで…たらい回しになったあげく、またムヒョさんたちに
     お願いすることになってしまいまして」ハァ…

ムヒョ 「ま、ゴリョーの言い分も分からなくもねえ。ただでさえ厄介な地縛霊に   
     霊気の後始末、さらに浮遊霊が入らねえよう結界まで張るんだ……むしろ良心的な値段だぜ」

ロージー「あの学園は浮遊霊の宝庫だからね。それを食べて進化なんてされたら、もっと大変なことになる。
     絶望的事件のせいで、執行人に比べて悪霊の数が増えすぎているんだ」

苗木  「そう、なんですか……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 18:56:56.12 ID:9Ik6K+cF0
ムヒョ 「ま、乗りかかった舟だ。執行の方はオレたちに任せな」

苗木  「え、いいんですか!?」

ロージー「うんっ!苗木くんの友達、助けてあげるって約束したからね」

苗木  「あ、ありがとうございます!!」


【夜.希望ヶ峰学園正門前】


ムヒョ 「しっかし、何回来てもブキミな所だナ」

ロージー「そう?ボクはちょっとうれしいよ!あの希望ヶ峰学園に入れるなんて…」キラキラ

ムヒョ 「ほー。幽霊のオマケつきでもいいのか」

ロージー「うわあああ言わないで!せっかく忘れかけているのに!!」

苗木  「えーっと、そちらの方は……」

ビコ  「我孫子優。……ビコって呼んでよ」

ムヒョ 「コイツは、魔法律の職人……"魔具師"だ。今回は、封印の確認のために同行する。
     浮遊霊を封じこめている霊鎖や、タチの悪いヤツを閉じこめた封印札は、
     だいたいビコが作ったやつだぜ」

苗木  「へえ…すごいね、小さいのに」

ビコ  「……」ガーン

ロージー「あの、一応ビコさんは君より年上だよ。それに、女の人だから」

苗木  「ええっ!?あっ、すいません!!」ワタワタ

ムヒョ 「オメエ、そりゃわざとか?」


突入の合図が出ると、ムヒョは「んじゃ、行くぞ」と先陣を切って中へ入る。
あとから、大きな袋を抱えたビコと、苗木。しんがりにペンを持ったロージーが続く。


霧切  「苗木くん……どうか無事で」

朝日奈 「あの中にさくらちゃんもいるのかなあ」


見送りの二人は、不安な面持ちで夜の校舎を見上げた。


【学園.寄宿舎一階】


苗木  「うわあああ!!」

ロージー「まかせてっ……"魔縛りの術"!!」ピッ

札を貼りつけられた悪霊は、『アア…』と苦しげにうめいて動きを止めた。

苗木  「すごいっ…」

ロージー「あの大きさなら直式じゃなくても平気……また来た!」


どうやら苗木は軽い霊媒体質であるらしく、次から次へ悪霊が襲いかかってくる。
それを片っ端から魔縛りで動きを止め、あるいは破魔の術で撃破して、一行は進んでいった。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 18:57:23.13 ID:9Ik6K+cF0


ビコ  「ランドリー、よし。大浴場、よし……水場は霊気がたまりやすいから、
     もう一枚追加していこう」ピラッ

苗木  「あ、あの……ボクなんかが、本当に役に立つんでしょうか?」ゼーハー

苗木  「さっきから、守られてばかりだし……足手まといなんじゃ「うぬぼれんじゃねえ、カス」

ムヒョ 「地獄送りばかりが執行人の仕事じゃねえ。和解、って道もあんだヨ。万に一つ、悪霊と
     折り合いがつくとして……そりゃ、テメエ以外の誰ができるってんだ」

苗木  「僕に、できること……」

ムヒョ 「ま、どのみちテメエにゃ米粒ほどしか期待してねえ。失敗しても気にすんナ」ヒヒヒ

苗木  「米粒って!」ガーン

ロージー「それ、全然フォローになってないよ!!」

ビコ  「ムヒョ……」


【娯楽室前】


ビコ  「!?」

ロージー「こ、これは…!!」

苗木  「どうかしたんですか?」

ビコ  「封印のフダが……ズタズタに破かれてる……一週間前はこんなの、なかったのに……!」

苗木  「じゃあ……中にいた霊は」

ビコ  「うん…そこらへんを、好き勝手に動いているはず……!」


その時。


<キャハハハハッ


苗木  「……!」ぞわあっ

ムヒョ 「生物室の方角からだナ。楽しそうに笑ってやがる」

苗木  「い、行くんですか……?」

ムヒョ 「怖えってんならここで待ってろ」

苗木  「冗談じゃないですよ!行きます!!」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 18:57:51.17 ID:9Ik6K+cF0

【生物室前】


ロージー「……あれっ?」

ドアノブにかけた手が止まる。

苗木  「どうかしたんですか、ロージーさん」

ロージー「ううん、なんでもないんだけど……なんか、変な気配が」

ビコ  「ボクも感じてるよ。足元がふわふわして、嫌な感じだ……」

ムヒョ (なんだ、この胸騒ぎは……あのバカ刑事二人の依頼の時にも……)ハッ

ムヒョ 「やめろカス、開けんじゃねえ!!」

ロージー「え?」ガラッ


瞬間。ぶわっ、とものすごい濃度の霊燐が、彼らを包みこんだ。


ビコ  「マコトくん、ボクにつかまって!」ガシッ

苗木  「ぐっ……、息が、できないぃ…!!」


それがおさまると、苗木は恐る恐る目を開けて――目の前の光景に驚きの声を上げる。


苗木  「ええ!?ここ、生物室……じゃない!?」


冷たいコンテナが並ぶ部屋だったはずだ。しかし、視界に映るのは
赤い絨毯が敷きつめられた廊下。細工のほどこされた壁。ほの暗いろうそくの明かり――。


ロージー「すごい、西洋のお城みたいだ……」キョロキョロ

ムヒョ 「城?ああ、なるほどナ。道理で趣味の悪い西洋かぶれな場所だと思ったぜ」

苗木  「お城……」

ムヒョ 「どうした、なんか思う所でもあんのか」

苗木  「いえ……あの、仲間の中で一人、こういうのが大好きな人がいたので……
     あの、ていうかここ、どこなんですか?」

ムヒョ 「ここは"幽世"……この世とあの世の境目だ。生物室から幽世につなげた主が、
     テメエ好みに作り変えたんだロ」

苗木  「じゃあ、ここはやっぱり……」

ビコ  「娯楽室から逃げたのはここの霊みたいだね。ボクの自信作を破るなんて……
     相当強いのは間違いないよ」

苗木  「……」ゴクッ

ムヒョ 「行くぞ。今夜中にもう一体は減らしとかねえと、封印が保たねえ」クルッ


長い廊下をてくてくと歩いて行く。壁には、黒髪を巻いた少女の肖像画がかかっていた。
それを見た苗木は、とたんに口数が少なくなる。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 18:58:28.53 ID:9Ik6K+cF0


苗木  「あれ……コンテナだ」

ロージー「それって、死体を入れておくための?」

苗木  「はい。生物室にあったんですけど、なんでここに……」


近づいた苗木は、その中の一つが開いているのを見て「!」と息を呑む。


苗木  「あれ……石丸クンだ……」

ビコ  「っ、離れて!霊燐の中では、未練を残した死体は早く悪霊化する!」グイッ

苗木  「え!?」


『その声は……苗木くんかね?』


コンテナの中から、声がした。


苗木  「!……石丸クン?石丸クンなの?」

ムヒョ 「おい、オメエさやかの件で学習しなかったのか?」

『ああ、苗木くん!よかった、ここは寂しくて……君に会いたかったんだ』

コンテナが破れて、腐って骨の見えた手が飛び出る。そのまま、死体は勢いよく体を起こした。

ムヒョ 「幽霊ってのはよ……饒舌で利口なやつほど、危ねえんだヨ」


石丸  『おや、それは心外だな!!』

苗木  「うわっ……!!」バッ


捕まえようとした石丸を、苗木は間一髪よける。


石丸  『ハッハッハ!!逃げることはないだろう苗木くん!!ちょっとしたスキンシップではないか!!』ガシッ

苗木  「わっ!」


石丸は背中に生やした大きな翼で、天井へと舞い上がった。


ロージー「マコトくんが!」

石丸  『見ろ、この大きな翼を!!君たちを運ぶためにつけたのだよ!!
     そうだ、まずは君から連れて行ってやろう!!それが風紀委員のつとめだ!!
     さあ苗木くん、外へ出ようではないか!!この上には大きな空が』

ムヒョ 「魔法律第388条……"無断変形"の罪により」パァッ

石丸  『広が』

ムヒョ 「"魔王の矛"の刑に処す」

石丸  『てげらッ!?』ザクザクッ

苗木  「あっ……!」ドサッ
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