【ガルパン】まほ「今度、見合いをするんだ」

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:40:29.91 ID:qCabD4Js0
チョビ「はい……」

電話「もしもし。アンツィオ高校戦車道元隊長の、安斎千代美さんのお電話でよろしいですか?」

チョビ「はい、そうですが」

電話「はじめまして。私、黒森峰女学園大学部入試広報課の者です」

電話「本日は安斎さんに戦車道でのスポーツ特待生制度のご紹介でご連絡致しております」

電話「今、少しだけお時間よろしいですか?」

チョビ「はい……」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:41:30.92 ID:qCabD4Js0
チョビ(つまるところこうだ)

チョビ(入学費免除の全特、その他の教材費免除、引っ越し代並びに寮費あるいは住居費免除、戦車道の経費一切合切免除、別途研修費という名の多額の小遣いが毎月口座に振り込まれ(要領収書)、携帯代とか外食費とか帰省にかかる費用や何なら土産代まで大体無制限に何でも負担するので)

チョビ(戦車道特待生として来てほしい、なるべく早くうんと言ってほしいという話であった)

チョビ(これで私に声をかけた大学は6校目となるが、こんな漫画のような待遇、聞いたことがない)

チョビ(先行して直接の連絡となったが、明日にも担任を通して正式な打診が来るらしい)



チョビ「…………」

チョビ「あ、ということは明日は登校しないとダメなのか……」

チョビ「先生か……」

チョビ「会いたくないなあ……」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:41:58.37 ID:qCabD4Js0
担任「来たかね。まあ座れよ」

チョビ「はい」

担任「こちら、聖グロからアホのように送ってくる紅茶だ。銘柄はよくわからんなあ」

チョビ「はい」

担任「……んー……、この香りがいいのかどうなのかもいまいちわからんね」

チョビ「淹れ方がいまいちですが、味はまぁまぁです」ズズ

担任「結構」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:42:35.50 ID:qCabD4Js0
担任「既に聞いてると思うけども、安斎に第六の幸福を呼ぶお手紙です。どうぞ」

チョビ「はい」

担任「……安斎、最近、黒森峰の関係者と何かあった?」

チョビ「……いいえ、特に無いと思いますが」

担任「変だな」

チョビ「というと?」

担任「普通は夏の内に唾を付けるものだ。お前がアンツィオに呼ばれたのも中3の夏休みだっただろ。空きでもできたかなあ……?」

チョビ「珍しいですが、無いとも言えません」

担任「だね」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:43:36.27 ID:qCabD4Js0
担任「それでどうするか決まりそうか?」

チョビ「いいえ。まだ決めかねています」

担任「そうか。まあよりどりみどりの中に、さらにメインディッシュが来たからな」

担任「それに安斎には、特待をすべて蹴って、よその大学を普通に受験する道もあるし、あるいは進学をやめて留学したり、就職する道もある」

担任「ちょっと一年二年くらいボケッとするのもいいだろ、今は先生が若かった頃とは違うから」

担任「期限までよく悩みなさい。わかんなくなったらいつでもおいで」

チョビ「はい」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:44:57.82 ID:qCabD4Js0
チョビ(担任は戦車道の授業を担当している)

チョビ(私がアンツィオに来たのは、彼女が私を戦車道のスポーツ特待で呼んだからだ)

チョビ(曰く3年もろもろ込みで1200万円の買い物との話だ)

チョビ(しかし私は3年もやって、結局彼女の期待に沿うことが出来なかった)

チョビ(本当はこうして顔を合わせるだけで、とても気まずい……)

チョビ(それでも彼女は、今に至っても本当によくしてくれる)



チョビ(元は聖グロ出身の大学選抜の隊長で、もし当時プロリーグがあれば彼女の職場はここではなかったはずだ)

チョビ(だが教職についてからというもの、実力があるのにも関わらず、彼女は勝つことにこだわらなくなった)

チョビ(一説によるとその結果、かの島田流を破門されたとのことだ)

チョビ(先日島田流に知己ができた際に聞いてみると、どうやらどこかの夢見がちな誰かの作り話なのではないかとわかったのだが)

チョビ(しかし実際、そんなこともあったのかもしれないと思わせるような、強く気高く、何より自由な女だ)

チョビ(私もこうありたいと思ってついてきた)

チョビ(……今はなにより、私の友にそうあってほしい欲しいと思う)

チョビ(……しかし、)

チョビ(それは、)

チョビ(私のわがままなのだ……)
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:45:31.13 ID:qCabD4Js0
担任「安斎」

チョビ「…………」

担任「安斎」

チョビ「……あ、はい」

担任「安斎、涙拭きなさい」ティッシュティッシュ

チョビ「……えっ」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:46:09.38 ID:qCabD4Js0
担任「どうも心ここにあらずだな。休みも続いているし」

チョビ「そんなことはありません」

担任「あるよ」

担任「何日か前、個人寮の近所のコンビニでゲロ吐いて店員にタクシー呼んでもらったそうだね」

チョビ「それはそうですが……、いや、何でご存じなんですか」

担任「バイトほっぽりだしてお前の背中を一時間ちょいさすってたのがペパロニだったんだよ」

チョビ「…………」

担任「お前あいつに全然気付かないで始終敬語だったからって、かなり心配してたぞ」

担任「今度なにかおごってやりなさい」

チョビ「……はい……」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:46:47.46 ID:qCabD4Js0
担任「まあ、先日の大学選抜戦では大活躍だったようだし、気が抜けるのも仕方がないが」

チョビ「……恐縮です」

担任「でも、いつも言っているだろう。戦車道は人生の一部であっても全部ではないんだよ」

担任「お前たちはそれ以外にも、食べて寝て恋愛しなきゃならないんだ」

担任「何か考えていて、行き詰まっているのなら話してごらん」

チョビ「特にありません」

担任「そうかね」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:48:10.91 ID:qCabD4Js0
担任「安斎」

担任「学校の先生というのは、決して学生と友達にはなれないんだ」

チョビ「同感です」

担任「その代わり、君たち学生は、どこまでも我々先生に迷惑をかけていいんだよ」

担任「迷惑かけておくれよ。お前はいい子過ぎるよ」

チョビ「そうでもありません」

チョビ「私は3年間、全特でこの学校に置かせてもらいましたが、結局アンツィオを優勝に導くことができませんでした」

担任「ホントだよなあ」

担任「お前にはたっぷり金がかかってるっていうのに、結局2回戦止まりなんだもんなあ」

担任「職員会で思いきりいびられる私の身にもなってほしいなあ」

担任「私の若い頃なら、あんな素人の寄せ集めなんぞには決して負けないのになあ」

チョビ「…………」

チョビ「…………」

チョビ「…………」グス

担任「……冗談だよ……泣くなよ……」

チョビ「すみません……わかってるんですが……最近なんだか涙もろくて……」ズズッ

担任「おいおい重症だな……」

担任「ちょっと隣においで」

チョビ「いえ、しかし」

担任「いいからほら」グイグイ

チョビ「…………」ノソノソ
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:50:03.96 ID:qCabD4Js0
担任「お前を呼んだのは、名目上はお前に実力があったからだ。実際お前は今でも、個人能力なら同世代で三本の指に入るだろう」

担任「私が言うんだから間違いないよ」

担任「でも、私が本当に買っていたのはお前の情熱なんだよ」

担任「お前があの西住の後継者とライバル関係にあるという噂があって、全然信じられていないが」

担任「ちゃんと見てる連中はみんな知っていたんだ。お前とやり合う時だけ西住の気迫が違うんだもの」

担任「西住の小虎と何度も食い合うなんて、相当なカロリーだったろう。そうはできまいよ」

担任「お前ってばキューポラから出てる顔が毎度死にかけててなあ」

担任「“もういやだ、早くおうちに帰りたい!”って泣き叫ばんばかりの、もうかわいくてかわいくてしょうがない顔だったよ」

担任「でもお前は逃げずに公式非公式で都合6回やり合って、1回はあれを姉妹ごと完全に下して見せたろう。うちに来る直前の、中学の最後の練習試合だね、覚えてるよ」

担任「西住というのは幸せな女だね」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:50:55.59 ID:qCabD4Js0
担任「お前がそうやって戦車道にぶつけている熱量を、うちの連中にも見せてやりたくてね」

担任「私はこんな女だし、それに私はどこまで行ってもただの教師だから」

担任「お前が来てくれたおかげでアンツィオの戦車道も大きく変わった」

担任「相変わらずの馬鹿共だが、戦車道や何かに命を懸ける瞬間が、一生のうち何回かあってもいいのだと覚えた」

担任「お前も、ホントはああいうノリが苦手なメガネの真面目ちゃんだったはずなのに、一生懸命合わせてくれたしなあ」

担任「お前もほかの連中も、上手くバランスをとって行くということを、結局体得はできなくても、そんなやり方があることを知ったんじゃないかなと思う」

担任「これは大きな成果だと思う」

担任「戦車道は人生の一部であって、人生はもっと大きいんだ」

担任「ちゃんと欲張らなきゃダメなんだよ」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:51:37.86 ID:qCabD4Js0
担任「でも、私もたまに不安になることがあるよ」

担任「もしかしてお前は黒森峰にでも行くべきだったんじゃないか、あるいは大洗に行くべきだったんじゃないか」

担任「十分な実力があるのに、それに見合う栄誉を与えてやれなかったことが私は悔しいよ」

担任「栄誉を秘める人であれと、いつも言っていることと矛盾するけど……、まあ私も人の子ということだね」

担任「すまないね、安斎」

担任「だから安斎。せめて今後は、今度こそ、お前が真に望む進路をとることを、私は望むよ」

担任「ちゃんと欲張るんだよ。欲しいものは全部、ちゃんと欲しいと言うんだ。そしてそのために生きなさい」

担任「わかったかね」

チョビ「…………」

担任「いいこだね」ヨシヨシ
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:52:14.16 ID:qCabD4Js0
担任「じゃあ安斎。せっかくだからもう何日か風邪でもひいて休んで、それで気が向いたらまたおいで」

担任「今度はもう少しましなお茶が入れられるように、私も勉強しておこう」

担任「……お前の欲しいものは何だろうね」

チョビ「…………」

チョビ「…………」

チョビ「…………」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:53:26.12 ID:qCabD4Js0
まほ「急に呼び出して悪かったな」

チョビ「いや、いいんだ、ちょうど地元に停泊中だったし」

まほ「西住流の師範代が、ここ静岡に住んでいる。気まぐれでなかなか顔をお見せにならない方だから、母から使いを頼まれたんだ」

まほ「そのついでと言ってはなんだが、先日のことを直接会って謝っておこうと思ってな……」

チョビ「謝ることなんてないのに……」

まほ「……何だか目が赤くないか」

チョビ「昼間、目にゴミが入ってしまってな。思い切りこすってしまったんだ」

まほ「あまりこすると目に悪いぞ、戦車乗りの目は大事なんだ」

チョビ「だよな」ハハ・・・
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:53:57.64 ID:qCabD4Js0
まほ「とにかく、あの日はすまなかった。一方的に話してしまった。たしかに、あまり気持ちの良い話ではなかったよな」

チョビ「いや……、あれは本当に悪かった。お前の家の事情に、私が口を出していいものではなかった」

チョビ「取り乱してしまって、こちらこそ悪かった」

まほ「……いや……、他人事なのに、あんなに真剣に物を言ってくれて、嬉しかったよ」

チョビ「…………」

まほ「…………」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:54:32.36 ID:qCabD4Js0
まほ「……それで、進路は決まったか」

チョビ「……先日になって突然、黒森峰大からスポーツ特待の誘いが来た。……破格の待遇だったぞ」

まほ「すごいじゃないか」

チョビ「すごいよな」

まほ「では、決まりだな」

チョビ「何がだ」

まほ「破格というからには、きっと今までの5校より待遇が良かったんだろう」

まほ「それなら何を迷う必要がある。黒森峰に来い、一緒に戦車に乗ろう。お前となら、きっと楽しい戦車道ができる」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:55:14.27 ID:qCabD4Js0
チョビ「……なあ、西住。試みに聞くが、」

まほ「なんだ」

チョビ「あの馬鹿みたいに待遇の良い特待は、お前がなにか関係しているのか」

まほ「さあ、なんの話だ」

チョビ「……西住」

まほ「…………」

まほ「……私はただ、西住の後継者が唯一恐れる女がアンツィオにいるという話を、何回か、何人かにしただけだ」

チョビ「…………」

チョビ「…………」

チョビ「そういうのは良くないぞ、西住。私でなければ腹を立てていたかもわからん」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:55:50.75 ID:qCabD4Js0
まほ「……安斎。言っておくが、これは決してお前に情けをかけたとか、立場を利用して恩を売ろうとしているとか、そういうことではないんだ」

まほ「ただ単純にお前にそばにいてもらいたいだけなんだ」

まほ「お前と一緒に大学で戦車道をしたり、学生生活を送れたら楽しいだろうと、本当にそれだけなんだ……」

まほ「たしかに、お前には理解し辛いかもしれないが……、」

まほ「私はもう、そのために、手段を選べなかったんだよ」

まほ「もしかしてそれでお前の誇りを傷つけたのなら謝る」

まほ「……すまない……」

チョビ「……西住……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:56:28.41 ID:qCabD4Js0
チョビ「どうしてそんなに私に来てほしいんだ。聞かせてくれよ」

まほ「それは……、…………」

チョビ「…………」

まほ「…………」

チョビ「…………」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:56:56.01 ID:qCabD4Js0
まほ「……すまない。来て早々で悪いが、今日は日が悪かったようだ。この埋め合わせは、またいずれする」

チョビ「西住、帰るな」

まほ「…………」

チョビ「西住」

まほ「…………」

チョビ「西住……」

まほ「…………」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:57:29.54 ID:qCabD4Js0
チョビ「今日は私も一つ決心をしてここにきてるんだ。帰るなら私の用が済んでからにしてくれ」

まほ「決心とは……、何の決心だ」

チョビ「うん……」

チョビ「…………」

チョビ「…………」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:58:26.36 ID:qCabD4Js0
チョビ「…………」

チョビ「西住。……お前に、結婚を前提に交際を申し込みたい」

チョビ「顔しか見たことないような、よく知らないような奴のところになんて行くな。そのくらいなら、偽装でも仮面でもいいから、私と結婚しろ」

チョビ「そうすれば、少なくとも見知ったやつと、何年も笑って喋ってたやつと一緒にいられるだろ」

チョビ「それで、せめてそのあとで本当に好きになった男性と結婚し直して、そこで義務を果たせ」

チョビ「同性婚は私たちが生まれる前から法律で許されているし、私とお前の付き合いや因縁は長い。言い訳はいくらでも立つだろう」

チョビ「もちろん、誓って、……うなづかないお前に触れることはない……」

チョビ「…………」

チョビ「……西住。私のために、自由でいてくれ」

まほ「…………」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:59:05.20 ID:qCabD4Js0
まほ「…………」

まほ「安斎……」

チョビ「……ど、どうして笑うんだ」

まほ「……安斎。私がおかしな話をしたせいで、きっと混乱しているのだろう」

まほ「すまなかったな」

チョビ「いや……、違う、そうじゃない」

チョビ「私は本気なんだ」

まほ「そうなのか?」

チョビ「当たり前だ! 冗談でこんなこと言えるか!」

まほ「つまり、私が望まぬ結婚をするんじゃないかと、それで私が不幸な人生を歩むのではないかと、心配してくれているんだろう」

チョビ「そ、そうだ」

まほ「安斎、私は言っただろう。私はちゃんと、結婚した相手のことを好きになると」

まほ「だから、お前の想像しているようなことにはならない」

まほ「まだ誰になるのかも正式には決まっていないが……、私はちゃんと、結果的には好きな人と結ばれて、その人の子を成すんだ」

まほ「だから心配はいらないんだよ」

チョビ「違う、そうじゃなくて」

まほ「そうでないなら、何なんだ」

チョビ「ぐ、うう、う…………」

まほ「…………」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 12:59:58.36 ID:qCabD4Js0
まほ「……安斎。同性婚というのは大変だ。法律では20年ほど前に認められ始めたが、未だに世間の風当たりは強いらしい」

まほ「隣近所で噂されたり、職場で嫌がらせを受けたりすることも未だあると聞くじゃないか」

まほ「お前はそんな結婚生活でいいのか?」

チョビ「私は大丈夫だ! そんな連中に負けたりしない」

まほ「では私はどうなる。私にくっついてくる、西住の名はどうなる」

チョビ「そんなの……、私が……」

まほ「…………」

チョビ「……そう言われると、私にはなにも言えなくなる……」

まほ「……だよな」

まほ「私もかなりずるい言い回しだと思うが、それが、今のこの国での結婚だ。所詮、そんな世の中だ」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:01:12.65 ID:qCabD4Js0
まほ「納得したか」

チョビ「…………」

まほ「さっきのことは忘れた方がいいなら忘れるし、たまに思い出して、いつか酒の席ででもからかっていいならそうすることにするが、どうする」

チョビ「…………」

チョビ「いや……」

チョビ「……いや……、待て。順序が良くなかった」

チョビ「大事なことを確認しないまま話をしていた」

チョビ「もう一度話させてくれ」

まほ「うん……?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:02:20.30 ID:qCabD4Js0
チョビ「まず……西住。お前、一緒にいて、私が普通ではないと感じたことはないか」

まほ「…………。質問の意味がわかりかねるが、そういうことはない」

チョビ「だが、私は普通ではないんだ。この事がわかってからずっと誰にも言わないでいたから、これは家族も知らない」

チョビ「相談に乗ってくれた2人の後輩と、私をここまで導いた恩師だけだ」

チョビ「本当はお前にこそ知って欲しかったが、もしかしたらそれでお前が遠ざかってしまうのではないかと思うと怖くてできなかった」

チョビ「他の誰から嫌われてもそれは……嫌だったんだ」

まほ「……安斎。私はお前が何を言ってもお前から遠ざかることはないと思うが……」

まほ「私はそれが何かをまだ知らないし、今後気にすることも無い。だから、不安に耐えてまで言わなくてもいい」

まほ「人と人が仲良くするために、必ずしも全てを分かり合う必要はないんだ。言えないことがあってもいいんだ」

まほ「私にだって、安斎に言えないことくらい、いくつもあるんだ」

チョビ「……西住は優しいな……」

チョビ「……だがもうダメなんだ。私も、もう、私の欲しいものを手に入れるために方法を選んでいられないんだ」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:03:05.84 ID:qCabD4Js0
チョビ「私は3年間、お前のことを恋愛対象として見てきた」

チョビ「西住、私はお前のことが好きだ。多分愛しているんだ。私と付き合ってくれ。……付き合ってください」

まほ「…………」

まほ「…………」

まほ「……そうか」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:03:34.00 ID:qCabD4Js0
まほ「……安斎。それでは、お前は同性愛者なのか」

チョビ「そうだ」

まほ「私のことが好きなのか」

チョビ「そうだ」

まほ「……私は告白されたのか」

チョビ「そうだ………」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:04:30.04 ID:qCabD4Js0
まほ「…………」

まほ「……つまり、話というのは、決心というのは、それなんだな」

チョビ「そうだ」

チョビ「……私は今日、お前を手に入れるために来たんだ」

まほ「…………」

チョビ「…………」

まほ「…………」

チョビ「…………」

まほ「……お前というやつは……」

チョビ「…………」

まほ「……いいだろう、こうなればもう仕方ない、恥も外聞もない……」

まほ「全部話してやろう、私がどういうつもりだったのか」

まほ「……お前が今何をしたのか」

まほ「こうなったら、もしかしたら、会えるのは今日が最後になるかもしれないからな」

チョビ「…………」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:06:46.70 ID:qCabD4Js0
まほ「……私は西住の長女だ。西住の恩恵を受けて育ってきたし、それによって生じるあらゆる義務を果たしてきた」

まほ「それはこれからも変わらない。西住家が”後継者の後継者”を欲するなら、それも私の仕事の内だ」

まほ「だから私はそれを家元の望む方法で達成するつもりでいた」

まほ「だがそれと私の個人的な望みは別だ」

まほ「それが両立しないものだとしても、私は私の望んだものを手に入れることを諦めたりはしない」

まほ「西住の女なら当然そうだと思わないか」



まほ「だがいくつもの筋書きを考えたが、その中で一番現実的な方法はお前を愛人にして囲うことくらいだった」

まほ「将来、十分な経済力と余裕が手に入るころ、お前のことを全力で説得して、それでダメなら金と権力を使ってお前を捕まえるんだ。しかし、それはお前のプライドを傷つけるやり方かもしれないと思う。だから実行はまずできないと思う」

まほ「とにかく私はお前のことが欲しい、お前にそばにいて欲しいんだ」

まほ「辛いことがあればお前に抱き着きたいし、嬉しいことがあればやはりお前に抱き着きたい。抱きしめて欲しい」

まほ「私の性格や外面が災いして、結局今まで一度もそんなことすらできなかったが、そうしかけたことは何度もある」

まほ「お前に素敵な恋愛をしてほしいと言ったがあれは真っ赤な嘘で、本当はお前に恋愛などしてもらう気は全くない」



まほ「わかるか」

まほ「私はお前のことが好きなんだ、多分愛しているんだ」

まほ「おかげで普段ならやらないような突飛で支離滅裂な発想ばかりが頭を駆け巡って、お前と一緒になることばかりを考える」

まほ「何が西住流の後継者か、こうなればただの18歳の子供だ」

まほ「お前には私だけを見ていてほしい」



まほ「だが、現実はそうならない」

まほ「私はお前を愛することができない。それなら弱い私はせめてお前を遠ざけなくてはならない」

まほ「嘘でも、私と決別したお前の未来を望み、祝福してやらねばならない」

まほ「私はそうしようと思ったのに」

まほ「お前は」

まほ「お前というやつは」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:07:47.96 ID:qCabD4Js0
チョビ「……つまり、お前は両性愛者なのか?」

まほ「そういうことにしないと私は男と結婚できなくなるが、本当は同性愛者だ。初恋もファーストキスも初体験も女性だ」

チョビ「……私と同じだな」

まほ「そうなのか……」

まほ「…………」

まほ「……お前とそこまで進んだ相手が憎らしいよ。いずれ必ず、名前を聞かせてもらおう」

チョビ「…………」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:10:16.64 ID:qCabD4Js0
まほ「……さて」

まほ「安斎」

まほ「悪いが私は西住の名を捨てるつもりはない。これは私の持ち物なんだ。だから将来、どういう方法でか、私は子を成さなくてはならない。それもなるべく多く」

まほ「それと同時に、もう隠さないが、私はお前のことが好きだ、抱き締めてキスして、その先の先の先までしたい。お前としかしたくないし、お前には私以外とさせたくない」

まほ「この2つを満足させるために、お前と近い将来不倫をしたいと思っている」

まほ「まあ言ってみれば、これが私の選択しうる、お前の言うところの自由ということだ」

チョビ「……なんつー大胆なやつだ……」

まほ「これが西住流だ」

チョビ「ああ、いまのは冗談だとわかったぞ」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:11:09.50 ID:qCabD4Js0
まほ「それで、どうする。……私の愛人になるか?」

チョビ「…………」

チョビ「私はお前のことが好きだ、お前がしたいというなら、先の先の先まで付き合うよ。……と思うよ。……いずれ」

チョビ「でもお前に適当な男と結婚してもらうのは嫌だ」

チョビ「そのくらいなら、私と結婚してほしいんだ」

まほ「…………」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:16:16.88 ID:qCabD4Js0
まほ「分かって言っているのか。本当に大変だぞ、想像よりずっと重いものを背負うことになる」

まほ「何度でも繰り返すが、私は西住の名を捨てるつもりはない。これは私の持ち物なんだ。くっついて離れない。これは母に対する義理を果たすため、そして妹の自由を守るためでもある」

まほ「私と家族になるならば、お前にはそれらを私と一緒にそれを背負ってもらわなくてはならない」

まほ「他人が背負うにはどうしようもなく重いだろう。その覚悟がお前にあるのか」

まほ「現実的には、まず私の両親を説得しなければならない。これだけで並みの結婚50回分くらいは苦労するだろう」

まほ「仮に説得できたとしても、そのあと将来何とかして子供を何人か作るなり引き取るなりしなくてはならない。iSPなどの特殊不妊治療は実用化されて日が浅いし、金はかかるしリスクも心配だ」

まほ「そして、その後もきっと一生続く世間からの冷たい視線に一生耐え続けなくてはならない」

チョビ「…………」

チョビ「……そんなの、やってやるしかないだろ」

チョビ「私はお前を自分のものにしたいんだから、お前の持ち物や欲しいものは全部私のものでもあるんだ」

チョビ「そのために必要なことは、私の仕事の内なんだ」

まほ「……不倫相手なら、そんな大変な思いをさせなくても、一生養ってやれると思ったのにな……」

チョビ「……私はお前を誰かとシェアする気はないぞ」

まほ「…………」

まほ「……そうか」

まほ「では、決まりだな」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:17:24.28 ID:qCabD4Js0
まほ「じゃあ安斎。まずは、恋人になろう」

まほ「大学では一緒に住もう」

まほ「大学を出たら結婚しよう」

まほ「そしたら養子をとるか、何とかして子供をたくさん作って、西住を盛り立てよう」

まほ「これからずっと一緒にいよう、安斎」

チョビ「……ああ、わかった。全部わかったよ、西住」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:21:50.38 ID:qCabD4Js0
チョビ「…………」

チョビ「…………」

チョビ「…………」

チョビ「……あれ? 私が告白したのにどうしてお前が仕切る流れなんだ」

まほ「まあ、将来的にお前が西住の家に嫁ぐことになるのだし、仕方ないんじゃないか」

まほ「それにこういうものは生まれながらの性分というか、受け攻めというかタチネコというか」

チョビ「えっ」

まほ「ああ言葉はわかるんだな、まあ当然か」

まほ「ちょうどいい。今日は泊まりがけで来ているから、宿でじっくりお互いのことについて勉強しよう」

チョビ「勉強ってどういう意味だ!?」

まほ「大丈夫だ、私はどちらにでも合わせられる。安心して身を委ねろ。性の一致不一致は下手を打つと離婚自由にもなる大事なことだぞ、しっかりと意思疏通しなくてはな」グイグイ

チョビ「やめろ、おい、離せ!」

まほ「”私が親の金でとったちょっとだいぶいいホテルにたまたま近所のお前が遊びに来て話し疲れて寝てしまって偶然泊まってしまった”作戦だ」

チョビ「やめろお!!」



おわり

最後まで読んでくれた人ありがとう
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 13:24:42.33 ID:djdmeMpU0
結婚編は……?
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 13:37:55.85 ID:qCabD4Js0
>>70
すまん最近頭がパーなので何も思いつかぬ
思いついたら何か書く
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 13:56:46.52 ID:djdmeMpU0
>>71
期待してますー
一先ず乙でした
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 15:32:15.60 ID:G1Q8OBRDO
まほチョビで見たかったものが全部ここにあった。ありがとう
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 16:10:23.32 ID:qCabD4Js0
>>73
喜んでもらえて嬉しい、ありがとう
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 18:38:16.66 ID:rUvAI/mNo
妹は会長かワニあたりかな
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 19:07:57.31 ID:qCabD4Js0
>>75
せっかく明言を避けたのでここでも伏せるけど大体その辺の想定、ありがとう
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/15(土) 19:52:07.58 ID:iDAVZdURo
途中まで西さんと何故か勘違いしてた
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/15(土) 20:06:13.76 ID:qCabD4Js0
>>77
えー誰を?
79 : ◆OBrG.Nd2vU :2017/07/16(日) 09:56:07.22 ID:g47BzRo40
面白かったし為になった。
こういう切ない心理描写が書けるようになりたいなぁ。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/16(日) 11:51:13.36 ID:BldszQyk0
>>79
恐縮です。ありがとう
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 01:11:16.25 ID:L1JyDv71O
乙です
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/26(水) 23:16:14.24 ID:vk3rk4jC0
>>81
ありがとう
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