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北上「我輩は猫である」

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918 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:25:34.25 ID:7kJBhy8y0


……

北上「これもなんかなあ」

提督「二冊連続だぞ」

北上「やっぱ出だしでこう、なんか合わないって本あるんだよねぇ」

提督「俺にはよく分からんな」

北上「アニメとかで出だしでいきなりなっがい独白から始まってえっ…てなる感じ、かなあ」

提督「なんとなく分かった」

北上「こっちは、『Stray』?迷うとかはぐれる」

提督「びっきーアラン。聞いたことはないな」

北上「…これはちょっと読みたくなる感じ」

提督「そりゃよかった」

北上「ちょっと肩かりまーす」

提督「ちょ、おい。北上ー」

北上「やっぱ椅子無しは辛い」

提督「へいへい」
919 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:26:10.89 ID:7kJBhy8y0
北上「…あー、迷い猫はぐれ猫って意味か」パラパラ

なんだか親近感が。

あれ?

北上「なにやってんの」

提督「こうして座るとあんまり身長差感じねーなーって」

北上「そうじゃなくてなんで私のおさげをいじってるのさ」

提督「なんかフサフサしてて気持ちいい」

北上「猫の尻尾じゃないんだからさ」

提督「というかさっきからいじってたけど全然気が付かないのな」

北上「読み込んでたからね」

提督「ところで猫の尻尾って気持ちいいのか?」

北上「んー、どうだろう」
920 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:26:50.36 ID:7kJBhy8y0
提督「やっぱ長い髪だと筆みたいで気持ちいいな」

北上「そんなに気に入ったの?」

提督「俺なんかつんつん頭だしさ」

北上「提督のは染めてるのもあるでしょ」

提督「確かに」

北上「髪長いってのも色々大変なんだよ?寝転がったら体制変える度に髪に引っ張られたり巻きついたり。こうして座ってるとこから立とうとすると髪を足や手で挟んでピーンってなったり。艤装降ろそうとしたら髪の毛挟まってて頭を引っ張られたり「待て待て、落ち着け。ゴメン俺が悪かった」分かればよろしい」

提督「髪切りたいのか?」

北上「出来ればね〜」

提督「ふ〜ん。それはそれでもったいねえな」

北上「そう?」

提督「男は髪短いからさ、長髪ってなんか大切な感じがするのかな」

北上「隣の芝生は青いってやつかな」
921 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:28:08.97 ID:7kJBhy8y0
北上「あとこそばゆいねこれ」

提督「あ、やっぱ自分でもそうなんだ」

北上「風呂上がりとか特にさ。私の長さだと鎖骨あたりにちょーど刺さって。もうちょい長いと胸とかいくんじゃないかな」

提督「あのさ、その生々しぃ体験談を俺に対して女子トークのノリでするのはどうかと思うんですよ」

北上「あ、ごめん」

提督「俺って男だって事意識されてないのかな」

北上「どうだろね。人によるとは思うけど、私としては性別じゃなくて異性って感覚があまり無い気がする」

提督「どゆこと」

北上「提督が異性だと思えない」

提督「同じことだろ?」

北上「いやいや。例えば私が男で提督が女でも、提督がイケメンでも不細工でも、なんであれ差異を感じないって感じ」

提督「友達感覚しかない、ってことか」

北上「ここには仲間しかいないから」
922 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:28:46.67 ID:7kJBhy8y0
提督「仲間、ねえ」

北上「家族の方が合ってるかも。ファミリーだよ」

提督「姉妹にとどまらずか」

北上「みんな個性的だからね、私達には海より濃い血が流れてるんだね」

提督「なんだそりゃ」

北上「さあてね。提督、長い髪が好きなんだっけ」

提督「誰から聞いたよそれ」

北上「大井っち」

提督「あんにゃろ」

北上「てことはそうなんだ」

提督「自分にないものって憧れるじゃん」

北上「髪伸ばせば?五年もあれば結構な長さになるんじゃない」

提督「よせやい変人だよそんなん」

北上「今更でしょ」

提督「おい」
923 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:29:37.80 ID:7kJBhy8y0
北上「よっと」

読み終えた本を戻して新たに本を取り出す。

ずっと座っているのでこうして体を定期的に動かさないとあとが怖い。

提督「北上ーパンツ見えてんぞー」

北上「やーんえっちー」

提督「反応が薄い」

北上「見せ慣れてるからねぇ。それを言ったら提督こそ」

提督「見慣れてるからなぁ」

北上「世間的には結構とんでもないこと言ってるよねお互い」

提督「女ばっかの兄弟の中で1人だけ男みたいなもんなんじゃね。一々興奮なんかしねえだろ」

北上「んーイマイチわかんないや」

そこら辺は人間の感覚だろう。
924 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 21:30:16.84 ID:7kJBhy8y0
北上「提督も立ったら?腰痛めるよ」

提督「いやいいよ。今は」

北上「そお?流石に体育座りのままはキツそうだけど」

提督「フフ、提督を舐めるなよ」

天龍より怖くない。いっそかわいい。

北上「ならいっそ提督を椅子にしよう」

提督「へ?」

北上「ほら足広げて伸ばして」

提督「わっバカやめろ!ストップ!待て!」

北上「猫に待ては効かないよ〜」

提督「だあやめやめ!」
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 22:21:26.70 ID:FQcksltM0
更新乙です
口ではそんなことをいいつつ
息子スティックはおっきしてるのか……
提督も男という事なんですね
926 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:32:49.63 ID:7kJBhy8y0
北上「そんなに嫌だった?」

しばし取っ組みあったが流石に少女と大人、力の差は歴然だ。

ここで艦娘としての力を使うようなことは流石にしない。

提督「嫌ではないんだが…まあ色々とね、男としてと言いますか」

男?

大井っちの事かな。

別にこれくらいはいいじゃないか。

独り占めはよくないぞ。

提督「北上?」

北上「なら膝枕を要求しますよ〜」

提督「だ〜もわかったわかったやりゃいいんだろ。それならかまわないよ」
927 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:33:24.14 ID:7kJBhy8y0
北上「えー」

提督「んだよ」

提督、胡座。

北上「正座じゃないのそこは」

提督「木の板の上で長時間正座かつ膝枕とか拷問かよ」

北上「それもそうか。ちぇーひ弱だなあ人間」

提督「繊細だと言ってくれ」

北上「いやその言い方もどうなのさ」

提督「…割れ物注意とか?」

北上「ガラス細工だったとは」

提督「デリケートなんだぜ」
928 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:33:51.67 ID:7kJBhy8y0
北上「よいしょっと」

提督の少し固めの膝枕に頭を預け上を向き本を開く。

提督「お前はホント膝枕好きだな」

北上「知ってたの?あー大井っちか」

提督「私の膝は全然使ってくれないーって言ってたよ」

北上「大井っち余計なことばっかするからゆっくり寝れないんだよね…」

提督「本人に言ったらどうだ」

北上「なまじ悪気がないだけにこちらからは言い難い」

提督「善意って怖いな」

北上「てーとくから言っといてよ」

提督「なんで俺が。んな事言ったら嘘つけーって酸素魚雷が2発ほど飛んでくる」

2発という具体的な数字が出てくるあたり提督も慣れているというかなんというか。
929 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:34:19.65 ID:7kJBhy8y0
ふと上を見ると提督の顔が見える。

北上「提督ってなんで髪染めてるのさ」

提督「カッコいいだろ?」

北上「…」

提督「北上?」

北上「…」

提督「…」

北上「…」

提督「きたかみさーん」

北上「鏡って知ってる?」

提督「お前ほんっと容赦ないよな」
930 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:34:47.80 ID:7kJBhy8y0
提督「そんなに変か?それこそ海外じゃ金髪なんて珍しくないだろ」

北上「国によるけどね。でも天然の髪色を金髪というなら提督のそれはパツキンだよ。塗ってるどころか塗られてるレベルだよ」

提督「マジかよ…そんなに似合ってない?」

北上「見慣れたから特に変とは思はないけど、絶望的に似合ってない」

提督「マジかぁ…似合っててもおかしくないはずなんだがなぁ…」

妙な言い回しをする。なんでそんなに自分に自信を持てていたのか。
931 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:35:23.00 ID:7kJBhy8y0
ハラリとページをめくる。

北上「本のページをめくるのはパンツをめくるのと似ているのかもしれない」

提督「何言ってんの。いやほんとマジで何言ってんの」

北上「普段は目に見えない所を自分の手で顕にしていくというのがたまらないと言いますか」

提督「それ一緒にするのは他の読書家に失礼なんじゃないのか」

北上「中身はこうじゃないかと予想しながらそれが当たっても外れても楽しめる感じがさ」

提督「凄い、俺女子にパンツめくりについて熱く語られてる」

北上「提督はどう思う?」

提督「んー、パンツは見慣れてるしなあ」

北上「…もしかして提督って既に枯れてたりする?」

提督「そんな!ことは、ない…はず」
932 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:35:55.38 ID:7kJBhy8y0
北上「よし、こいつはまた今度読もう」

提督「当たりだったか」

北上「うん」

さて次の本はと。

提督「…」サラッ
北上「うわっ、なにさ提督〜」

前髪をサラリとかき分けられた。

提督「改めて見るとまつげ長いなって」

北上「そりゃあ私だってオンナノコですから」

提督「どうせ大井だろ」

北上「マアネー」

提督「大井は結構化粧とかファッションこだわる方だからなあ。鎮守府じゃそういうの気にするやつ少ないし」

北上「戦場だしね。でも大井っちが私にこういうの気にするようにって言い出したのは最近だよ」

提督「そうなのか?」

北上「そだよ」
933 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:36:31.86 ID:7kJBhy8y0
北上「最低限これくらいはしてください、ってさ。めんどくさいけど大井っちがやってくれるならいーかなーって」

提督「めんどくさがりだな」

北上「必要な事はやるよ。でもこれは別に必要じゃないでしょ?」

提督「そうか?オンナノコなんだろ?」

北上「猫が磨くのは爪だけだよ」

提督「毛繕いもしろってことだろ」

北上「えーやだーめんどくさいー」

提督「やっぱめんどくさがりじゃねえか」

北上「提督やってよ」

提督「俺?無茶言うな。三つ編みだってできねぇぞ」

北上「やってみると案外簡単なもんだよ」

提督「なら自分でやるんだな」

北上「ちぇー」
934 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:37:04.04 ID:7kJBhy8y0
提督「この髪も、海に出たら焼けてしまうんだよな」

北上「バケツかぶりゃ元通りだけどね」

提督「バケツじゃ治らないものもあるよ」

北上「ん?艶とか?」

提督「艶は、どうだろ」

北上「キューティクル」

提督「たまに聞くけどキューティクルって結局なに」

北上「私達で言う艤装みたいなものらしいよ」

提督「武器なのか」

北上「シールドってこと」

提督「そっちか」

北上「どお?私の髪は。キューティクルあるかな」

提督「サラサラだよ。サラサラだとキューティクルあるってことなのか?」

北上「…さあ?」

提督「えぇ…」
935 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:37:38.42 ID:7kJBhy8y0
北上「さっきの話だけど、こうやってさ」

提督「ん?」

北上「膝枕が好きっての。こうやって人に、ひっつくというかー擦り寄る?寄り添う感じが凄く安心するんだ」

提督「ほー。いよいよ猫みたいだな」

北上「アレはマーキングとかの意味もあるんだけどね」

提督「んじゃ今俺はマーキングされてんのか」

北上「…」

広げていた本を少し下にずらし提督の顔を見る。

提督「北上?」

今度は目が合った。
936 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:38:15.47 ID:7kJBhy8y0
北上「マーキングかぁ」

提督「んだよ」



北上「じゃあさてーとくは、私のモノだね」




北上「ぐえ」

一瞬の間の後驚くほど速い仕草で開いていた本を顔に押し付けられた。

提督「バカ言うな。そんなことしたら大井にありったけの魚雷を撃たれちまう」

北上「あはは、そりゃ怖いや」ガバッ

提督「もういいのか?」

北上「上向きで本読むと手が疲れる」

提督「最初に気づけよそれ」
937 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:38:42.64 ID:7kJBhy8y0
さて次の本次の本。

提督「今の本はどうだった?」

北上「これ?あー、えっとねえ」

なんだっけ、どんな内容だった?出だしは?登場人物は?

いやそんなことはいい。次の本だ次の本。

ガタンッ

提督「ん?」

北上「扉。救援かな」

そういえば救援が来たとしてあの扉をどうするか考えてなかったな。
938 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:39:15.42 ID:7kJBhy8y0
吹雪「チェストー!!」バキィッ!
提督「えぇーー!?」
北上「うわぁ…」


吹雪「イチャコラしてるバカップルはここかぁ!」

提督「てめ何してんだよ派手にぶっ壊しやがって!お前だってこの部屋はこのまま残しとこうって言ってたじゃねえか!」

吹雪「まともに機能しなくなったらそんなもの思い出せない思い出と一緒ですよ!朽ちた過去に想い入れなんか持たずに思い出くらい自分の中でしっかり保存しといてください!」

提督「いやでももうちっとなんかこう、あるだろお!」

吹雪「あるのは仕事だけですよ!鍵がぶっ壊れてるあたり状況は察しますがそんなんじゃ仕事は減りません」

提督「んな殺生な!あーまてまて引っ張るないててて北上ー……」


北上「おぉ…」

嵐はあっという間に扉の向こうへ消えていった。
939 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:39:41.04 ID:7kJBhy8y0
北上「せっかく貰った鍵だけど意味なくなっちゃったね」

静かになった事だし読書を再開しよう。

北上「なんだろこれ」

手に取った本に何かが挟まっている。

北上「写真か」

随分古い。

そこには

一面の麦畑と

その中で笑う一人の女性が写っていた。

その金髪の女性を、私は知らない。

知らないけれど、どこかで見た覚えがあった。

あの神社で。
940 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:40:33.63 ID:7kJBhy8y0
麦畑と比較して見るに身長はそこそこ高い。

それこそ大男と並んでいても不思議じゃないくらいには。

私ならきっと麦に胸くらいまで覆われてしまうだろう。

写真は、ここか。

本の見開き。ここに挟まっていた。

そこには写真と同じ大きさの跡と

M.Hという文字があった。

イニシャルか?

なんだか見覚えが…
941 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:41:03.95 ID:7kJBhy8y0
北上「あっ」

本の背表紙を見る。

下の方に、かすれて見えにくくなっているが同じM.Hの文字がある。

やっぱりこれは持ち主の、前の提督のイニシャルだ。

他の本にも書いてある。

M…提督も、今の提督も苗字はMだな。

あーいや、イニシャルだから苗字はHか。

イニシャルだけじゃどうしようもないか。

しかし何故この本に、この…

北上「『The Catcher in the Rye』。またこの本か」

あれ、そういえばあの時。図書室での時。
942 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:41:31.47 ID:7kJBhy8y0
多摩姉が言っていた。

まるで一枚の写真のように、

小麦色に、金色で、

一人の女性が。

じゃあ多摩姉が見たのはこれの事か?

でも何故?ここにあったのなら多摩姉が見る機会はなさそうなものだ。

だとしたらここにない時、まだ前任者がここにいた時に見た?

わからない。

わからないから、調べるしかない。

本を片っ端から見て、何か他にもないかを。
943 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:42:09.80 ID:7kJBhy8y0
北上「まだ何か挟まってるな」

こっちは栞か。

この本が好きだったのだろうか。

妙なマークが描かれているが特に情報になるものはなかった。

そんな事はいい、次の本だ。

早く、のんびりしてはいられない。

ここにある本全部だ。

機械的にページをめくっていく。

さっきまで広がっていた本の世界は、ただの文字の羅列になってしまった。

かまわないさ。私には目的があるんだ。

何かの本の前編を閉じ、私は棚に戻した。






っと、ここらでちょっと休憩にしようか。
944 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/01/25(木) 23:45:31.14 ID:7kJBhy8y0
終わ、らない!

というわけでまだまだ書きたいのです。
随分と長話になってしまいましたがお付き合いいただければ幸いです。
でもとりあえず今日はこれから狩人生k
945 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 18:20:12.82 ID:goCMYBGlO

このスレの吹雪好き
946 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 17:46:58.05 ID:+9Ci3t3L0
吹雪も北上もしゅき
はたして提督の矢印はどこを向いているのか
947 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 09:26:55.29 ID:sRTRDis9O
その心荒ぶる羅針盤のごとき……
948 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:38:46.82 ID:9A3FF+BK0
谷風「いやあびっくりしたよ。丁度寝るとこだったからよかったものを、こんな時間に部屋に押しかけてくるなんてさ。一応私らの仲はあまり知られないようにしてるんじゃないのかい?」

北上「…」

時間は23時を過ぎたところ。

あれから無我夢中に本を漁った結果寝食を忘れてしまい、夕飯になっても現れない私を大井っちが血眼になって見つけ出してーまあ一悶着あった。

本に夢中になっていたと誤魔化し夕飯をさっさと済ませまた本を漁っていたらこんな時間。

でも明日を待つ余裕はなかった。

お馴染みの屋上。

北上「この写真の女性、誰か知ってる?」

谷風「ん〜?血相変えてこの谷風さんを呼び出したと思えば最初の質問がそれかい」

北上「知ってる?」

谷風「知らないね。生憎だけど艦娘以外で女性に会ったことは無いね」
949 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:39:42.76 ID:9A3FF+BK0
北上「これがね、物置小屋の本棚にあった本に挟まってたんだ」

谷風「あぁ、あの部屋か」

私が何を見て聞いてきたか察しがついたようだ。

北上「谷風」

谷風「なんだい」

北上「前任者について、話してほしい」

谷風「それはできないね」

即答だった。

常に囀りのやまないその口から飛び出た言葉とは思えないほど完全な否定。
950 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:40:10.32 ID:9A3FF+BK0
北上「何故」

谷風「あんまし覚えてないからね。なにせ鳥頭だからさ」

北上「…」

そうヘラヘラと笑う。

私が猫なら今頃食ってかかっているだろう。

谷風「そう今にも食いかかるような顔をしないでおくれよ。冗談さジョーダン」

北上「…」

トリはトリでも妖怪サトリの方みたいだ。
951 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:40:37.50 ID:9A3FF+BK0
谷風「覚えてないってのは嘘じゃないんだ。何せ私は自分の事で頭がいっぱいたったからね。自分の同族を見つけるために艦娘のことしか見てなかったんだ。

こう言っちゃなんだか悪い気もするけれど提督とは決して仲は良くなかったんだ。悪くもないだけで。まあそれは今の提督も同じなんだけどね」

北上「覚えてないから話せないって?そんな理由で」

谷風「それは違う」

北上「?」

谷風「私はね、同じ境遇の仲間を見つけるために止まり木としての鎮守府が必要だった。だからこの鎮守府に残った」
952 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:41:08.80 ID:9A3FF+BK0
谷風「吹雪から聞いたろ?彼女は、そうだねえ。ある種の呪いみたいなものだね。前任者から受けた言葉でこの鎮守府に残った」

北上「な、なんであの時の話の内容知ってるのさ」

谷風「壁に耳あり障子に目ありってね。最もあの時は扉に耳があったようだけど」

北上「そこまで…」

谷風「内緒話をするには少々場所が開けすぎだよあそこは」

北上「次回から参考にさせてもらうよ」

谷風「そいつぁこまるね。盗み聞きしにくくなっちまう」

北上「悪びれもしないんだね」

それにしても呪いだなんて。

言い得て妙なのかもしれないけれど。
953 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:41:52.25 ID:9A3FF+BK0
谷風「日向さんは読書という提督以外の拠り所があったからこの鎮守府に残った。もっともそれも提督の影響みたいだけどね」

あぁ、そう言えば以前そう言っていたっけ。

谷風「他にも何人か自分なりの理由があってここに残った。でもそれは決して提督の事を大切に思っていなかったわけじゃないんだ。それとは別問題なのさ。

私だってそうさ。大して関わりもなかったけれど、こんな変わり者をここに置いてくれた事に感謝してる」

言葉一つ一つから前任者への思いが伝わってくるようだ。

いつものように軽い口調だが、その一つ一つはとても重い。
954 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:42:30.09 ID:9A3FF+BK0
谷風「提督がいなくなっても提督がいたからこそここに残った。そして、だから私達は提督に最も近かった吹雪に付いていくつもりだ」

北上「吹雪に?」

前任者の秘書艦でもあったという吹雪。

谷風「もしかしたら私達も気づかないうちに吹雪を提督の代わりの拠り所としちまってるのかもねえ。ま、そんなんだからさ、吹雪が君に話さなかった以上私達もこれ以上君には話せない。そういうことさ」

北上「義理堅いんだね」

私達とはつまりここに残った艦娘の事か。

吹雪や谷風、飛龍さんに日向さんに、他の人も。

谷風「お堅いだけだよ。ついでに口も硬い。残ったのはみんなそんなやつばかりさ」

北上「どうだかね」
955 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:42:58.80 ID:9A3FF+BK0
谷風「ともあれ君の飼い主と前任の提督が何かしら繋がりがあるのは確かだろうね。随分と読書家だったけど海外の物まであったなら外人と繋がりがあってもおかしくない」

北上「無いと困るよ。この糸も繋がってないんじゃ本当に八方塞がりだ」

谷風「そうだねぇ。ならやっぱり提督、今の提督を調べるべきなのかな」

北上「今の?なんで?」

谷風「ここが少々特殊なのは知ってるだろう?ならその後釜になった彼にも何かしらの繋がりがあって然るべきじゃあないかな」

北上「繋がりねえ」

確かに提督は前任者に対して思わせぶりなところがある。

北上「君達が普通に話してくれりゃそれでいいんだけどね」

谷風「そいつは言わないでおくれよ。協力したいのは確かなんだからさ」
956 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:43:32.80 ID:9A3FF+BK0
北上「よし、とりあえずは」

谷風「とりあえずは?」

北上「お風呂に入ろう」

谷風「まだ入ってなかったのかい」

北上「ずっと本読んでた」

谷風「よっしゃ!なら私も付き合おうしゃないか」

北上「え、なんでさ」

谷風「裸の付き合いって言うだろ?」

北上「まあいいけどさ」

谷風「親子水入らずなんて言うけど、裸の付き合いは友人お湯いりようって感じだね」

北上「水を差すとかもそうだけど言葉における水って悪いイメージだよね」
957 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:44:27.24 ID:9A3FF+BK0
廊下を歩く。

私の横にはウミネコがいる。

裸の付き合いねぇ、猫は水は苦手なものだというのに奇妙な話だ。

北上「あ」

谷風「ん、どーしたんだい?」

北上「てーとくに鍵返さなきゃ」

谷風「鍵?鍵ってなんの」

北上「物置小屋の部屋の。まあ扉は吹雪がぶっ飛ばしちゃったから無用の長物なんだけどね」

谷風「ぶっ飛ばしちゃったかー。そこら辺は後で詳しく聞かせてくれるんだろうねえ」

北上「ありゃ、そこは覗き見してなかったんだ」

谷風「あはは、そんな覗き魔じゃあるまいに」

北上「あはは」

いや覗き魔だよお前は。
958 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:45:06.92 ID:9A3FF+BK0
「だからなんで急に見せたんですか!!」
「そりゃお前には関係ないだろ!色々と大変だったんだぞ!」


谷風「うわー」

北上「うわー」

提督室、の前、よりももちっと遠く。

廊下にもそこそこ声が漏れていた。

谷風「あのバカップルはいつも元気なもんだねぇ」

北上「これ周りへの騒音はどうなのよ」

谷風「あまり想像したくないね」

北上「鳥さん鳥さん、あの家はいつもあんなに騒がしいのかい?」

谷風「そうさねえ、週に一、二回はああしてピーチクパーチクやってるよ」
959 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:45:37.06 ID:9A3FF+BK0
「そう簡単に言うけどなあこっちも我慢したんだからな!」
「そんなの私だってそうですよ!」


北上「…いてっ」

谷風「ん?」

北上「あーいや、ちょっと鍵を強く握っちゃって」

谷風「なにやってんのさ…」

北上「ははは…さてお風呂行っちゃいましょーかねー」

谷風「鍵はいいのかい」

北上「今入ったら確実に巻き込まれるもん」

谷風「それもそうだね」
960 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:46:13.35 ID:9A3FF+BK0
谷風「お風呂上がりのドライヤーは任せておきなっ」

北上「何故自信満々に」

谷風「浦風や磯風にやったげてんのさ。君の専属スタイリスト程じゃないだろうけど得意ではあるんだ」

専属スタイリストて…いや大井っちはそれくらいやっているか。

北上「ならお言葉に甘えちゃおっかな」

谷風「おうよ」

北上「谷風ってお風呂好きなの?」

谷風「そりゃもう。暇さえありゃ朝風呂に入ってるよ」

北上「そんなにか」

江戸っ子?おっさんっぽいとも言える。
961 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:46:45.29 ID:9A3FF+BK0
谷風「最近は風呂が気持ちよくなってきたしね」

北上「それもそうだね」

谷風「湯冷めには気をつけなよ」

北上「大井っちにもう言われたよ」

谷風「流石だね」

北上「私は別にお風呂は好きでも嫌いでもないしね」

谷風「ほーん。嫌いでもないのかい、猫なのに」

北上「そっちこそ、鳥なのに」

お互いにニヤリと笑う。

秘密の友達との秘密の会話。

特別感というか背徳感というか、妙にこそばゆくて心地よい。

季節は、秋に差し掛かっていた。
962 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/02/24(土) 03:49:14.40 ID:9A3FF+BK0
瑞 鳳 改 二

キリがいいので次スレへ、でいいのでしょうかね。
何分初めてなもので
963 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 14:54:29.03 ID:tP7R3ooT0
乙様です
次スレで問題ないと思います
次スレもお待ちしております
後、もしよろしければ次スレへ誘導も張っておいたほうがいいかと……
964 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 02:20:37.79 ID:6vYarKaho
おっつ追いついた
965 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 00:26:37.74 ID:SzOswvCR0
舞ってる
966 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2018/03/17(土) 04:14:12.16 ID:4BxzDs7d0
北上「我々は猫である」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521225718/

お待たせです。本当に。

大体ル級×6のせい
967 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/17(土) 15:01:03.72 ID:tZNGqewq0
あー徹子の部屋かー
支援が渋いと辛いなあそこ
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