渋谷凛「GANTZ?」 その3

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184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:10:29.50 ID:GVSticqD0
凛「えっ」

真っ暗な世界が消えた。

凛「こ、こ、は?」

見渡す限り一面の白。

白以外何もない世界。

そんな所に私はいた。

凛「な、何? 何が?」

「凛ちゃん」

凛「っ!?」

背後から声がかけられる。

知っている声。

反射的に振り向いた先には、

卯月がいた。

卯月「もう大丈夫ですよ、凛ちゃん」

卯月だ。

何故か分かる。

この卯月は本物の卯月。

あの時、光に消えた卯月なんだって分かる。

その卯月を目にした私は、

凛「ひ、ひっ、ひぃぃぃぃ!?」

叫びをあげて逃げ出した。

怖かったからだ。

目の前の卯月をさっきみたいに殺してしまうのではと。

だけど、逃げる私を卯月はいとも簡単に捕まえて後ろから抱きしめてきた。

卯月「逃げないで下さい」

凛「や、やっ! こ、怖い、わ、私、卯月、殺しちゃう!!」

卯月「大丈夫です。さっきまでのは幻です。凛ちゃんが自分で作り出してしまった幻想です」

凛「だ、だめっ! ころ、わたし、ころし……」

卯月「大丈夫。落ち着いて、凛ちゃん」

凛「あっ……」

卯月が私の頭を撫でてくれている。

卯月の手の温もりが、身体の温もりが、私と触れ合っている部分から伝わってきて、私の全身から力が抜けていく。

すぐに私の身体は卯月にもたれかかるように倒れていた。

私を受け止めて、頭を撫で続けてくれる卯月。

されるがままでずっとそうしていたい気分になっていた。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:11:21.08 ID:GVSticqD0
どれくらいそうしていたのだろうか。

卯月が小さく声をかけてきた。

卯月「落ち着きましたか?」

凛「…………うん」

卯月「よかったです」

微笑む卯月。

でもすぐに、少し悲しそうな表情を浮かべて、私に告げる。

卯月「凛ちゃんの心、壊れちゃったんです」

凛「壊れ……?」

卯月「凛ちゃんはずっと限界だったんです。自分を騙してずっと頑張ってましたけど、自分を騙しきれなくなってついに壊れてしまったんです」

凛「ちょ、ちょっと、何を言ってるの?」

卯月「今、凛ちゃんがどうなっているのか、ですよ」

凛「今の、私…………あっ」

記憶が蘇ってきた。

加蓮と奈緒に私を否定されて、頭が割れるように痛くなって、もう一度加蓮と奈緒に、何かをしようとして……それで、何かを聞いて……

卯月「思い出しましたか?」

凛「少し……でも、殆ど覚えてない……」

卯月「直前の記憶は完全に壊れてしまっているみたいです。これが、今の凛ちゃんの心ですよ」

そう言って卯月は両手に持った黒ずんだ何かを見せてくれた。

粉々になったガラスの破片のようなもの。

これが、私の心?

凛「ちょ、ちょっと、待って、それが私の心って……なんで卯月がそんな事を……っていうか、何で卯月はこんな所にいるの!?」

卯月「私が凛ちゃんの心の中にいる理由ですか?」

卯月は掌に乗せた黒ずんだ破片に触れながら、

卯月「私の最後の力です」

凛「最後の力?」

卯月「凛ちゃんが本当に危なくなった時、私の力で凛ちゃんを一度だけ守ってあげれるようにって。凛ちゃんの頭の中に、爆弾を取り除いた場所に私の力を残しておいたんです」

あの時の卯月のはかなく透き通った笑顔が思い出される。

卯月「それが凛ちゃんの心が壊れる形で発動して、こうやって凛ちゃんの心を守る為にもう一度会えるなんて、私嬉しいです」

凛「そんな、事って……卯月の力って一体……」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:11:51.28 ID:GVSticqD0
思い出すのはあの私の姿をした星人を圧倒するほどの魔法のような力を使っていた卯月。

恐らくは自分の命を燃やして使う力。

確か、あの人達の、坂田さんが卯月と未央に教えたって……

凛「あの人達の超能力って物を動かしたり……卯月が見せたような力なんてなかったはず……」

卯月「凛ちゃんを守りたいって強く思ったからできた奇跡かもしれないですね」

凛「私を……」

卯月が私を……

その言葉を聞いたとき、卯月の手にある物体がさらに黒ずんだような気がした。

凛「私なんて、卯月に守ってもらう価値なんて、ないよ……」

卯月「凛ちゃん……」

止まらない。

考えたことが全部声に出てしまう。

隠していたかったことも何もかも。

凛「私、卯月達を騙し続けていたんだよ?」

凛「卯月達を騙して、私みたいにしようとしてた。生き物を殺して喜ぶような人間になってもらおうと考えていた」

卯月「……はい、凛ちゃんの心の中に来てそのことも知っちゃいました」

凛「知られてた……かぁ」

卯月「それを知って思っちゃいました。ちょっとだけショックだったのと……」

卯月の顔が見れない。

多分卯月は軽蔑の視線を私に向けている。

次に間違いなく拒絶される。

『凛ちゃんがそんな人間だ何て思っていなかった。もう友達でもなんでもない』

そんな言葉が出てくると思った。

でも、卯月から出てきたのは拒絶の言葉ではなかった。

卯月「……それ以上に嬉しかったなぁって」

凛「……え?」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:12:27.69 ID:GVSticqD0
卯月「凛ちゃん、本当に私達と一緒に何かをしたいって心の底から思ってくれてたんだなぁって知れて嬉しかったんです」

凛「何、言ってるの? 嬉しい?」

卯月「はい、とっても嬉しいです」

卯月の顔を見た。

そこには私を拒絶するような表情ではなく、本当に喜んでいる笑顔があった。

凛「ば、馬鹿言わないで!? そんなワケないでしょ!?」

卯月「何がですか?」

凛「卯月も未央も騙していたんだよ! ずっと、出会ったときからずっと!!」

卯月「仕方なかったじゃないですか。出会ってすぐなんて凛ちゃんは誰にもあの部屋のことを話せなかったんですし」

凛「私は二人を狂わせようとしてたんだよ! 私と同じような変態に、生き物を楽しんで殺すようなクズにしようとした!! 私と同じように狂わせて一緒に殺し合いを楽しもうとしていた!!」

卯月「私達も凛ちゃんを私達と同じようにアイドルになってもらおうと考えてました。私達と同じようにアイドルとしてみんなでステージに立ちたいなって考えてましたよ?」

凛「そ、それとこれとは全然違うでしょ!?」

卯月「一緒ですよ。凛ちゃんも私達も同じようなことをしていただけです」

なんで、なんで卯月は私を責めないの?

こんな私を、二人を騙し続けた最低の私を。

卯月「ふふふ、凛ちゃんはやっぱり真面目ですね」

凛「……え? 真面目?」

卯月「結局、凛ちゃんは根っこのところが真面目でいい子なんですよね」

……いい子?

私が……?

何を言ってるの?

凛「い、いい子? そんなワケ無いじゃない……」

卯月「凛ちゃんは真面目で優しくていい子ですよ」

凛「やめて……私は最低で最悪の人間なんだから……」

卯月「そんなこと無いです、凛ちゃんは最低でも最悪でもありません」

凛「どこが!? 生き物を喜んで殺して、友達を騙し続けて、挙句の果てには人を殺して殺して殺しまくった大量殺人鬼が私なんだよ!! そんな人間、最低で最悪で生きてる価値も無いじゃん!!」

詰め寄ってまくし立てる私を卯月は変わらぬ笑顔で見つめてくれている。

やめて、そんな優しい視線を私に向けないで。

なんで、私を責めないの?
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:13:06.09 ID:GVSticqD0
卯月「やっぱり真面目なんですよ……そんな凛ちゃんだから、あんな恐ろしい環境に放り込まれて、真面目にゆっくりと壊れていっちゃったんです……」

凛「え……?」

卯月「拒否も出来ずに殺し合いを強制させる場所……あんな所にいたら誰だっておかしくなってしまいます」

凛「ち、違う、私は自分の意思であの部屋に残り続けて……」

卯月「そうしないと凛ちゃんは自分を保てなかったんですよ……真面目で優しいから、あの部屋で星人を殺してしまったことにも真面目に考え込んで、凛ちゃんはああやって自分を壊していくことでしか自分を保つことが出来なかった」

凛「違う……私は、何かを殺すのが好きで……気持ちよくって……」

卯月「そうやって自分自身を偽らないともうどうしようもなかったんですね。本当は何かを殺したくなくって、あんな戦いもしたくなかったのに」

凛「違う…………あそこが…………ガンツの部屋が…………殺しの世界が…………私の生きる…………」

卯月「いいんです。もういいんですよ。自分を偽らなくても……凛ちゃんは今までずっと我慢をし続けていたんですから……もう我慢しなくてもいいんですよ」

卯月が私の背中に手を回して優しく包み込んでくれる。

我慢をしなくていい……その言葉が私の中に染み込むように入ってくる。

前が見えない、なんだろう?

凛「なに? これ……涙?」

泣いてる? 私が?

凛「あれ……? 涙が止まんない……なんで? どうして……」

卯月「泣いてください、全部受け止めてあげますから」

卯月が私を抱きしめてくれた。

卯月の胸に私の顔が納まる。

暖かい温もりと卯月の優しい言葉が私の中で閉じ込めていた何かを解き放った。

凛「うっ、あああぁ、うあああああああああん!!」

泣き叫ぶ私を卯月は包み込むように抱きしめてくれる。

私は全身で卯月を感じながら卯月の胸の中で泣いた。

泣いて泣いて泣き続けるうちに、私は今まで隠し続けていた本音を吐露していた。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:14:14.10 ID:GVSticqD0
凛「苦しかった、あんな事、本当はしたくなかった……」

凛「怖くて……死ぬのが怖くて……殺しちゃって……どうしたらいいのかわかんなくなって……」

凛「それでも敵を殺さないといけなくて……沢山の人が死んでて……わけわかんなくなって……」

凛「それで……私は殺しが大好きだ何て思いこむことにして……そうやっているうちに卯月も未央もあの部屋に来ちゃって……」

凛「卯月も未央も解放したかった……だけど一緒にいたくて……こんな私を慕ってくれる二人とずっと一緒にいたくて……でもやっぱり二人には元の場所に戻ってほしくて……」

凛「加蓮と奈緒とも出会って……みんなで一緒に何かをしているときはすごく楽しくて……でもみんな死んじゃって……お父さんもお母さんもハナコも死んじゃって……」

凛「みんなを助けようとして……でも気がついたら沢山の人を殺していて……それも怖くて認めたくなくて……もう何もかもが分からなくなって……自分がなにをしているのかさえも分からなくて……」

私は卯月の胸の中で独白を続けていた。

そんな私を卯月は何も言わず私の頭を撫でてくれている。

それだけで私が過去を思い出すたびにザワつく心が安らいでいく。

全てを卯月に吐き出していた。

あの部屋に来てやってしまったこと。

あの部屋に来る前に思っていたこと。

全部を卯月に吐き出して、ぶつけて、吐き出すものもぶつけるものもなくなったら私は卯月に助けを求めていた。

凛「卯月……助けて……私もう……どうすればいいかわかんない……何もわからないの……助けて……お願い……」

何を助けてほしいのかも分からない。

もう、何も考えられない。

ただ助けてほしかった。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:14:58.97 ID:GVSticqD0
卯月「いいですよ、私が凛ちゃんを助けちゃいます」

凛「ほんと……?」

卯月「はい、凛ちゃんが苦しかったこと、辛かったこと、耐え切れないこと、全部私が持って行っちゃいますね」

凛「ど、どういう事?」

卯月「見てください。これは、私の最後の力です」

そう言って卯月は淡く光る手を私に見せた。

卯月「この力を、この壊れた凛ちゃんの心に使って、凛ちゃんの心を元通りに治しちゃいます。……あの部屋に呼ばれる前の状態に」

凛「あの部屋に呼ばれる前……それって……」

卯月「はい、凛ちゃんの記憶を消すってことです」

凛「っ!!」

卯月「全部忘れちゃうんです。辛かったことも、苦しかったことも、嫌なことも、何もかも全部」

凛「それ、は……」

卯月の手が徐々に私の壊れて黒ずんだ心の残がいに近づいていく。

卯月「もう苦しむことなんて無いんです。何もかも忘れてしまいましょう」

凛「ま、待って……」

卯月の手がどんどん私の心の残がいに近づき、

凛「駄目!!」

触れる寸前で私は卯月の手を掴んでいた。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:15:33.68 ID:GVSticqD0
卯月「どうして止めるんですか? 楽になれますよ?」

凛「わ、忘れるなんて駄目、あんな事をした私が何もかも忘れてしまうなんて……」

卯月「どうしてですか? いいじゃないですか、凛ちゃんはこんなにも苦しんだんですから」

凛「駄目だって……私が……あんな事を……自分のした事にも責任を取らないで忘れるなんて……」

卯月「責任、ですか?」

凛「そうだよ……自分のしてしまったことに対する責任……」

卯月「それはなんですか?」

凛「……沢山の人を殺しちゃった責任……」

卯月「悪い人達だったんですよね?」

凛「……それでも、人殺しだから……」

卯月「そうですか」

凛「……それに、沢山の生き物を殺してしまった……」

卯月「星人のことですか? 仕方ないじゃないですか、殺さないと殺されていましたよ?」

凛「……でも、何かを殺すって事は、それ相応の責任がついてくる……」

卯月「そうですか」

凛「……そして、みんなを騙し続けてきたこと……」

卯月「私は凛ちゃんに嘘をつかれたって気にしませんよ? 未央ちゃんも、加蓮ちゃんも、奈緒ちゃんも一緒だと思います」

凛「……みんなが気にしなくてもけじめはしっかりと取らないといけない……」

卯月「……」

私が思いの丈を言いきると静寂が辺りを包む。

卯月を見ると、卯月は小さく微笑んでいた。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:16:19.20 ID:GVSticqD0
卯月「本当に生真面目なんですね……逃げちゃってもいいのに……」

凛「卯月……」

卯月「凛ちゃんは、これからどうするんですか?」

凛「どうする……って」

卯月「自分のした事に責任を取る。言うのは簡単ですけど、凛ちゃんのやってしまったことに対する責任なんてどうするつもりなんですか?」

凛「……まだ、わからない……だけど、沢山考えて必ず償いの形を導き出して見せる」

卯月「それはまた、一人で考えるつもりですか?」

凛「え……うん……」

そう言った私に初めて卯月は怒った顔を見せた。

卯月「もう、駄目ですよ! そんな大事なこと、一人で抱え込んじゃったら!」

凛「えっ? だ、だって、これは私の問題で……」

卯月「凛ちゃんだけの問題じゃないです! 私の問題でもあるんですから、私にも、みんなにも相談してください! そうじゃないと、また凛ちゃんは壊れちゃいますよ!」

凛「うっ……」

卯月「今まで凛ちゃんは一人で悩んで抱え込んでこうなってしまったんです。これからはもうみんなに話してください! 一人で苦しまないでみんなに打ち明けてください!」

凛「あ……」

卯月の言葉がストンと胸に納まった。

そうだった、私は今まで何でもかんでも自分で考え込んで、間違った事でも正しいって思いこんで、それでこうなった。

みんなに相談していれば解決していた事は沢山あった。

みんなに相談していれば違う道もたくさんあった。

全部、一人でやろうとして……

卯月「はい、もう一人で悩まないで下さい。私に、私達に頼ってください」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:17:57.79 ID:GVSticqD0
ああ……

本当に馬鹿だ。

私は馬鹿で意固地で結局誰かに頼ろうだなんて考えなかった。

卯月「でも、これからは私達にも頼ってくれますよね?」

うん。

みんなに頼らせてもらう。

もう、嘘はつかない。

卯月「よかったです。それじゃ、これを」

卯月が掌に持った半透明の淡く輝く何かを私に差し出してきた。

卯月「凛ちゃんの心、私の最後の力で治しておきましたよ」

私の、心……

さっきまでバラバラに壊れていたもの。

今は傷一つなく、さっきまで卯月の手にあった輝きに包み込まれている。

卯月「凛ちゃんを待っている人達は沢山いるんですから」

卯月が私の胸に輝くそれを押し込むと私は卯月から引き離され始めた。

ま、待って、卯月も一緒に。

卯月「私は凛ちゃんとはいけないです」

なんで!?

卯月「私はこの場所で、凛ちゃんの心の奥で眠るんです。私は、島村卯月の最後の力の欠片ですから」

眠るって……

卯月「もうこうやってお話をする事はできないと思います。力は使っちゃいましたし」

卯月は真っ白な世界に腰を下ろして私に微笑み続ける。

卯月「悲しむ必要もないですよ、ずっと一緒ですから」

卯月はその場で寝そべって目を瞑る。

卯月「凛ちゃん……さようなら……」

私は真っ白な世界で眠る卯月に手を伸ばし続けた。

だけど、私は後ろに後ろに引っ張り続けられて、

卯月の姿は完全に見えなくなってしまった。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:18:38.25 ID:GVSticqD0
後ろに引っ張り続けられている私は、真っ黒な世界を飛んでいた。

真っ黒な世界を飛び続けている私に声が届く。

――卯月に助けられたね。

この声って……

真っ黒な私。

――もうこうやって会うこともないと思ったけど、会っちゃったね。

真っ黒な私が私の目の前に現れた。

でも、その姿は、真っ黒と言うよりは淡く光っていて……

――私はアンタの心その物だから。

それって……

――そ。さっき卯月に治してもらったのはアンタの心であり、私だった。

そうなんだ……

――そうだよ。

……ねぇ。

――わかった。

私、何も言ってないんだけど。

――私はアンタ、アンタは私。それ以上の回答はないよ。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:19:16.03 ID:GVSticqD0
……わかった、なら、卯月を、お願い。

――うん、あの卯月は絶対に一人にしない。あんな所まで来てくれた卯月をあんな場所で一人で永遠に眠らせることなんて絶対にしない。

ありがとう……

――礼なんていらない。アンタはアンタでやるべき事をやってくれればいいから。

うん。

――私が言うのもアレだけど、もう間違えないでよね。アンタは一人じゃないんだから。外の世界で、みんなと共にこれからを歩んでいって。

分かってる、分かってるよ。

――私も、卯月も、アンタの中でずっとアンタを見守っているから。

…………ありがとう。

――だから礼なんていらない。

真っ黒な私はそうやって姿を消した。

あの私とは多分もう二度と会わないと思う。

真っ黒な私もそれは分かっていたはずだ。

別れの言葉も何もない。

けど、それでいい。

あの私は私の心。

いつだって私の中にいるんだ。

そして、あの卯月も……

真っ黒な世界に小さな光が生まれた。

その光に向かって私は進んでいる。

あの先には何があるのか分かる。

あの光まで進んだら私は目を覚ますんだろう。

私は光に包まれる寸前、後ろを振り返った。

そこには、真っ白な世界で、私と卯月が肩を寄せるように眠っている姿を見た。

それを目に焼き付けて、私は光に包まれた。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:19:55.24 ID:GVSticqD0
凛「けほっ……こほっ!」

凛の目に光が戻る。

凛はぼやけていた視界が定まっていき、その視界に数人の顔を映した。

加蓮「凛っ!! しっかりして!!」

奈緒「凛!! 大丈夫か!? あたしがわかるか!?」

玄野「し、渋谷、オイッ! 目を閉じンなよ!!」

P「渋谷さん! 呼吸は……している、しかし、意識は……」

凛「ごほっ……はぁっ……あっ……私……」

凛は今の自分の状態に気がつく。

仰向けに寝ているようで、自分の周りには加蓮、奈緒、玄野、そして上半身裸のPの姿。

そして自分に、Pのものであろうスーツがタオルのように被されている。

凛「……何?」

状況が飲み込めず身を起こすと、すぐに加蓮と奈緒に抑えられてしまった。

加蓮「凛! アタシは分かる!?」

凛「か、加蓮……どうしたの?」

奈緒「あたしは分かるのか!?」

凛「奈緒……ふ、二人共一体……?」

加蓮「正気……みたいね」

凛「正気? どういう……」

凛が一体何が起きているのかと疑問を浮かべていると、泣きそうな顔の奈緒が、

奈緒「どういうことって……お前大変なことになってたんだぞ!? いきなりあたし達に襲い掛かってきたかと思うと、完全に頭がおかしくなったような顔して、ぶっ倒れて……息もしてなかったんだぞ!?」

凛「え……えっ……」

凛は意識を失う寸前、心が崩壊する直前の記憶は完全に失っていた。

覚えているのは加蓮や奈緒に自分の行いを咎められたあたりまで。

それ以上は完全に壊れていて、卯月の力でも元に戻らなかったのだ。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:20:26.30 ID:GVSticqD0
玄野「本当にヤバかッたンだぞ……お前白目向いて、全身痙攣したあとはピクリとも動かなくなッてよ……」

凛「私が……」

P「……意識ははっきりしているようですね。呼吸も完全に戻って……渋谷さん、頭痛や眩暈は感じますか?」

凛「特に無いけど……うっ……」

Pに聞かれて自分の身体に気を向けると、すぐに胸から鈍い痛みを感じた。

凛は自分の胸の中心付近に手を持っていくと、

凛「少し……胸が痛い……」

P「……呼吸が停止していたので心臓マッサージを行ないました。数分間行ないましたので、骨にヒビなども入っているかもしれません……しばらく安静にして病院に……」

凛「心臓マッサージ?」

凛は被せられているスーツを動かすと、はだけた自分の胸が見えた。

ドレス状のスーツが半分程脱がされてその上にPのスーツが被せられている状態。

凛はPのスーツではだけた胸を隠しながら自分のスーツを元に戻すと、心配する4人に、

凛「ごめん……多分、すごく迷惑かけた」

玄野「め、迷惑ッて……お前、大丈夫なのか……?」

凛「うん、もう大丈夫」

玄野は凛の目を見て違和感を感じた。

さっきまで凛は全てを否定するような暗く濁った目をしていた。

しかし、今の凛は、吹っ切れたような顔をしている。

それを問いただそうとしたが、加蓮と奈緒が凛に声をかけたため言葉を飲み込んだ。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:20:58.53 ID:GVSticqD0
加蓮「凛、本当にアンタ大丈夫なの?」

凛「うん……大丈夫。加蓮にも奈緒にも迷惑かけたね」

加蓮「迷惑って……何?」

凛「……加蓮も奈緒も、私の狂った妄想に引き込もうとしていたこと」

加蓮「……」

奈緒「妄想って……」

凛「みんなが死んで、ワケわかんなくなって、それでも行動して、気がついたら人殺しなんてとんでもない罪を犯していた。それを認めたくなくって、私が殺すのはみんなの為にって理由をでっちあげてさ、挙句の果てには私のする事は全てみんなが喜んでくれるなんて考えるようになっていた。本当に狂っていたんだよ……私」

加蓮「……」

奈緒「凛……」

凛「そんな馬鹿な私の妄想に二人も巻き込もうとしていた。二人が私を否定してくれなかったら、私は二人を死ぬまで離さずに、地獄の底まで道連れにしていたと思う……」

凛「本当にごめん……そして、私を否定してくれてありがとう……」

二人の目を見て話し続ける凛。

目をそらすこともなく、思いの丈を二人に。

すると、今まで硬い面持ちだった加蓮は、表情を崩して、

加蓮「なんだ、眠ったら目が覚めたんだね」

凛「うん……目が覚めたよ、色んなことから」

加蓮「なら、アタシから言う事なんて何もないよ。奈緒は何か言う事ある?」

奈緒「り、凛……ほんとに正気に戻ったんだよな……」

凛「奈緒……うん。今は何が悪くて何がいけなかったのかが分かるくらいには正気に戻れたと思う」

奈緒「よかった、よかったよぉ〜〜〜……ほんとに心配したんだからなぁ〜〜〜……あのまま凛がおかしくなって……死んじゃうって……」

凛「な、奈緒!?」

奈緒は両目から止め処なく涙を零しながらも半笑いで凛に縋り付いていた。

そんな奈緒を見て凛は慌てふてめいて、加蓮もやれやれといった感じで笑っていた。

玄野も凛が世界を支配すると言う考えを改めていることが分かるとその場に座って大きく息を吐いた。

そこで玄野は気が付いた。

視界の端で黒い影が動いている。

黒い影は、西。

玄野の背中にゾクリと寒気が襲い掛かった。

西は最後に何をしようとしていた?

玄野「ッッッ!!」

玄野は身を起こして駆け出した。

しかし、玄野の視界から西は消えていく。

西は玄野を見ずに、視線を別の方向に向けて消えていった。

すると、玄野は加蓮と奈緒とPの声を聞いた。

加蓮「凛!?」

奈緒「凛!!」

P「渋谷さん!?」

振り向くと、凛の身体が転送されて消えかかっており、

加蓮や奈緒が凛に触れようとして完全に転送されるところを見てしまった。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/09(月) 01:21:44.75 ID:GVSticqD0
今日はこの辺で。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 01:30:15.00 ID:JLa3R3J2o

西が殺しを好きな理由はなんだろう?
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 16:20:45.55 ID:yZBBQYMao
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 21:06:34.11 ID:Qo/gjZQqO
乙乙
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/25(土) 23:10:23.64 ID:QkpDIJX/0
保守
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:54:46.28 ID:auSjxfEy0
凛は急に視界が暗転したことに驚き咄嗟に身を起こす。

凛「何が!?……ここは?」

凛にはその場所が見覚えがあった。

何度か訪れたことがある部屋。

西の家だった。

凛「転送……された? 西の部屋?」

西「あァ……そーだよ……」

凛が振り向くと西が頭を押えながらソファーに倒れこむように座っていた。

西が押さえる手から血が溢れていて怪我をしていることに気がつくと。

凛「怪我してる……大丈夫?」

西「あァ……大した怪我じゃねぇよ……クソッ……」

西は忌々しげな表情で、光のキーボードを展開して高速で打ち込み始める。

凛「何をしてるの?」

西「あのクソ野郎をぶッ殺してやる……舐めやがッて……この俺をこんな目に会わせてただで済むと思うな……俺に手を出したことを後悔させた上で殺してやる……」

凛は宙に浮かび上がるモニターの表示を見て、西が玄野に対して何かしようとしているのだと気がつく。

凛「ちょっと……玄野をどうするつもりなの?」

西「ブッ殺してやるンだよ……死にたくても死ねねえような殺し方だ……あのクソ野郎には生まれてきたことを後悔させてやる……」

目を血走らせながら高速でタイピングを行なう西の手を柔らかな感触が伝わった。

凛が西の手を握っていたからだった。

西は咄嗟に凛の顔を見るが、凛の顔を見た西は今まで血走った目でモニターを凝視していた視線を凛に向けていた。

その表情をありえないようなものを見るものに変化させて。

西「お、おい……お前、まさか……」

西は凛の表情を見て何かに感づいてしまっていた。

凛の顔はこの数日見ていたものとは全く違い何か憑き物が落ちたようなそんな顔。

西は先ほどまで抱いていた玄野への殺意などどうでもよくなるほど焦燥を抱いていた。

そして、次に凛が出した言葉で自分の予感が正しかったことを悟る。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:56:02.90 ID:auSjxfEy0
凛「西……もう、止めよ……」

西「」

凛の言葉に西は途轍もない喪失感を感じ、どこまでも落ちていくような感覚に捕らわれた。

凛「もうこんなこと止めよう……私達のやってる事は間違ってるよ……」

西「………………」

凛「誰かを殺すなんて駄目……私達はそんな事すら分からないくらい狂っていた……」

西「…………ろ」

凛「もう沢山の人を殺してしまった……償いの方法なんてどうすればいいかも分からない……」

西「……めろ」

凛「私達は「止めろォォォッ!!」」

西は凛の胸倉を掴みその場に押し倒して馬乗りになった。

西「ふッざけんなァッ!! お前ッ!! 今更何言ッてやがンだよ!?」

凛「西……」

西「もう少しなんだぞ!? もう少しでこのクソみてーな世界をぶッ壊して俺達の新世界を作りだせるンだぞ!! お前もワカッてンだろ!? 俺達の力はもう誰にも止められねェし俺達が望めば何だッてできる!!」

西は顔をゆがめながら絶叫を続けていた。

西「お前だッて望んだ事だろ!? 誰も傷つかない世界を作るッてよォ!! そんな世界をもう少しで作り出せンだぞ!? それを今更止めるッて何考えてンだよ!?」

凛「…………」

西「なァ、考え直せよ、お前だッて望んだ事だろ? 俺達が新しい世界を作ッてその世界で俺達は一緒に夢を……」

西の叫びは少しずつ懇願に近いようなものになっていた。

凛の身体の上に跨り、いつの間にか凛の頭の横に両手をつき、西は凛の顔を至近距離で覗き込みながら懇願していた。

しかし、凛が放った言葉は西の望むものではなく、

凛「もう……私は誰かを殺したくなんてない……」

西の顔が歪んだ。

凛「私達がやろうとしてたことはこれからどれだけの人を殺していくかも分からないような血塗られた道……私にはもうそんな恐ろしい事は……できない」

西の目元が痙攣し始める。

凛「今までやってきたことを考えたら今更何を言っているのかって話かもしれないけど……もう私は誰も殺したくないし、誰かを殺した上で手に入るような未来なんて……ほしくない」

西の口元も痙攣し始め歯軋りが始まった。

凛「西……もうこんなこと止めよう……私達のやっていたことは……」

西の手が震えながら動き始めた。

凛「間違ってる」

西「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:56:36.88 ID:auSjxfEy0
絶叫と共に西の手が凛の首に伸びて凛の細い首を締め付けた。

凛に馬乗りになりながら、凛の首を絞めながら西は絶叫を続けた。

西「クソックソックッソォ!!!! 意味ワカンねェ!!!! 何なンだよ!? 何でそーなンだよォッ!!!!」

凛「……西」

西「お前は違うだろ!? お前は俺と一緒だろ!? なのに何でそんな事言うンだよ!? お前はもッと悪魔みてーなヤツでそんな事を言うワケねーンだ!! 目を覚ませよッ!! なァッ!!」

凛は西に首を絞められながらも息苦しさも何も感じていなかった。

先ほどの玄野との戦いで破壊された西のスーツでは凛を害する事などできなかった。

振り払おうと思えばいつでも振り払えるのに凛はあえて西にされるがままになりながら考えていた。

凛(こんなに必死になってる西は始めて見る……)

凛(でも、言っている事とやっている事が噛み合ってない……)

凛(私を説得しようとしているのに、私の首を絞めて私を殺そうとしている……)

凛(でも……それに気付いてない……言ってる事とやっている事が分かってない……)

凛(……まるで、さっきまでの私……)

凛の瞳には西が自分の姿のように見えていた。

鬼のような形相で自分の首を絞めてくる西。

しかし、その姿が自分自身を見ているようで胸が苦しくなる。

凛(私にはみんながいてくれた)

凛(みんながいたから私は正気に戻れた)

凛(でも、もしも……みんなと出会えなくて……あの部屋で一人ぼっちでいたら……)

凛(私は……)

凛は気がついたら西を抱きしめていた。

凛の中の世界で卯月がそうしたように凛も西を抱きしめていた。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:57:02.87 ID:auSjxfEy0
西「ッ!?」

凛「私達は似たものどうしなんだよね……」

西「な、何やッてンだよ!? は、離せ!!」

凛「もしも、私とあなたの立場が逆だったら……今のあなたは私だったんだろうね」

西「お、おいッ!! 離せッて!!」

凛「みんながいてくれたから私は正気に戻ることが出来た……でも、あなたは止めてくれる人がいなかったんだよね……」

西「き、聞けよッ!! おいッ!!」

凛「今のあなたを見てると自分自身を見ているようで辛い……道を間違ってしまったままどこまでも進んでいく私を見てるようで……」

凛に抱きしめられながら身動き一つ取れない西は混乱していた。

玄野に敗れ、煮えたぎるような激情をぶつけようとしていた所に、凛が完全に自分と決別する言葉を出した。

それによって西はかつて無いくらいに自分の感情を爆発させていたのだが、凛に抱きしめられることによってその激情が急速に小さくなっていった。

西(な、なンなンだよ!? なンでコイツは俺を抱きしめてンの!?)

西(い、意味ワカンねェ……なンなンだよ……)

激情が薄れ、少しずつ西は何かが自分の心から溢れてくるのを感じていた。

西(コイツが何か言ッてるけど頭に入ッてこねェ……)

西(暖かくて……柔らかくて……)

いつの間にか西は目を閉じていた。

感じるのは凛の体温と鼓動。

身動き一つとれない、いや西はすでに自分から動こうとしていなかった。

凛の言葉も何も頭に入ってこない。

ただ柔らかい感触と鼓動に包まれて目を瞑りその感覚に身を委ねて、無意識に一言呟いた。

西「…………ママ」

それと同時、西に急激な脱力感が襲い掛かった。

玄野に与えられた傷、凛によって与えられた精神的ショック、さらには凛に抱きしめられることによって感じた不思議な安心感によって急激に意識を飛ばしてしまった。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:57:36.90 ID:auSjxfEy0
西「……」

西「……あ」

西が目を覚ましたとき、視界に朝日が入り込みその目を細める。

少しして目が慣れてくると、西の目に凛の顔が映し出された。

凛「起きた?」

西「あ、ああ」

自分の顔を覗き込んでいる凛、そして今の自分の体勢が凛の膝を枕にして眠っていたことに気が付いて慌てて飛び起きるが、自分の手がしっかりと凛に握られていることで凛から離れようにも離れれない状態になっていた。

西「お、おま!? 何で手ェ握ッてンだよ!?」

凛「え……? あなたが眠ってる間ずっと私の手を握り続けてたんだけど……」

西「はァ!?」

離そうとしても手が離れない。

西は意識して指を動かすことによって漸く凛の手を離し凛から距離を取った。

だが、そうすると何故か西は喪失感に襲われて更に距離をとる前に立ち止まってしまった。

西「……何だ……これ……?」

凛「大丈夫?」

立ち上がって自分の手を見続ける西に凛は声をかけてそっと肩に手を触れた。

西「ッ!」

反射的にその手に触れた西は、凛の手に触れたその状態で再び固まってしまった。

西(なん、だよ……なんで俺、こんな……)

西(こいつの手を握ってると……安心できる……?)

西(……ママの手みたいに)

凛「ねぇ、大丈夫なの?」

西「あァ……」

凛「そっか……」

西は凛の手を握りながら呆然としていた。

握り締めてくる西の手を軽く握り返して凛は西に声をかけ始めた。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:58:08.29 ID:auSjxfEy0
凛「ねぇ、西」

西「……あ?」

凛「あなたはどうしてこの世界を壊そうとするの?」

西「……なんだよ急に」

凛「私達、結構長い間一緒にいたけどさ、そういう話しなかったでしょ。何だかあなたのこと知りたくなっちゃって、さ」

西「…………」

西はすでに冷静になっていた。

凛が心変わりしてしまったことにも何故か冷静に受け止められていた。

そして凛の質問にも正直に話し始めていた。

西「……お袋が自殺したんだ」

凛「っ!」

西「……俺にとッて母親はこの世界で唯一の大切な人間だッた。優しくて、俺を認めてくれて、笑顔が綺麗で……生きる意味だッたンだよ」

西「だけど、クソみてーな父親が浮気して、他のクソ女と一緒になッて、お袋は壊れちまッた。……壊れたお袋が自殺するまで時間はかからなかッたよ……」

凛「そう……」

西「その後俺も後追い自殺をした。生きる意味なんて何にも無くなっちまッてなー……だけど俺は死ねなかッた」

凛「それでガンツの部屋に……」

西「ああ。そンでそッからはもう死のうとも思わなかッた。死んでも死ねねー、何度死んでもああやッて生き返らされるんじゃねーかッて、死んで逃げることも出来ねーのかよッて」

西「そッからはもう結構自暴自棄になッてた。こんなクソみてーな世界、お袋もいなくなッちまッた世界に何の意味があるんだッて……俺の周りにいる人間は全部クソ。目に付く奴等も全部クズ。あの部屋に来る連中も同じよーな奴等ばッかりだッた」

西「いつもいつも思ッてたよ。こんな世界滅びちまえばいいッて。お袋が死んでしまッた世界はいらねーッて。俺の存在を否定するようなこんな世界はなくなッちまえッて」

凛「そう、なんだ……」

西は小さく笑った。

それは自分の本心をどうして打ち明けているのか? という自虐の笑みだったのかもしれない。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 21:59:15.12 ID:auSjxfEy0
西「何でこんな事話してるんだろーな……はははッ」

凛「ま、待って、あなたがこの世界を憎む理由がお母さんの死なら、あなたのお母さんを生き返らせて……」

西は更に自虐気味に笑った。

西「出来なかッた」

凛「っ!!」

西「ガンツのデーターのどこにも、お袋はいなかッたんだ」

凛「そん、な……」

西「……ッ!」

呆然とした凛の顔を見ながら西は口元を歪ませて言葉を発する。

その表情は何かを期待するようなものであった。

西「あァーそういえばよォ……お前の両親の事だけどよォ……」

凛「え?」

西「お前の両親のデーターも存在しなかった」

凛「…………う、そ……だって……」

西「島村と本田のデーターは確かに見つけた。だけどよォ、お前の両親のデーターを見つけたッて俺は言ッてねーぞ? その様子だとお前の両親も生き返るッて勘違いしてたみてーだな」

凛「…………」

凛が頭をたれて西から凛の表情が見えなくなった。

西「あ? どーしたんだよ? ショック受けてンのか?」

凛「……」

西「笑えるなァ! ハハハッ! そーだ! 島村と本田のデーターも消してやるよ! そーすればもうアイツ等を再生する事はできねェ!!」

凛「…………」

凛の手が西の手首を握り締める。

西「その後はアイツ等だ! 北条と神谷も頭ン中の爆弾を起動してブッ殺してデーターも消してやるよ! そーすればお前は一人だ! この世界でお前は一人になる!!」

凛「…………」

凛の手は西の手首から離れて、西の首元まで伸びていった。

西「そーなればお前はどーするんだろーな? またこの世界を壊そうとするんじゃねーのか? 絶ッてーにそーなるだろーな! 俺もお前に殺されるかもしンねーけどもうどーだッていい。俺はお前がブッ壊れる姿を見てから死んでやるよ! ハハハハハハッ!!」

凛「…………」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 22:00:06.44 ID:auSjxfEy0
凛が伸ばした腕は西の首をすり抜けて、西の両肩にそっと触れられた。

西「……おい、なんだよ……」

凛「もう、止めよ」

凛はどこまでも悲しげな顔で西を見つめていた。

西「……俺はお前のトモダチを殺すッて言ッてンだぞ?」

凛「お願い、そんな事言わないで」

西「……おい、俺を殺さないと本当に全員殺すぞ」

凛「……お願い。もう誰かが死ぬとか、そんな事嫌なんだ……」

西「…………なら俺を殺せよ」

凛「……殺せないって」

西「………………クッソォ!!!!」

西は凛の手を乱暴に振り払ってソファーに深く腰を埋めた。

両手で顔を覆いながら小さく震えて。

西「……もう、駄目なのかよォ」

凛「西……」

西「せッかく……もうちょッとで……お前と一緒に……」

凛「……」

凛は西の前で立ち尽くして西の様子を伺っていた。

西はしばらく顔を伏せていたが、やがて顔を上げて凛を見て呟いた。

西「さッきのは嘘だ。お前のトモダチには手をださねーよ……」

凛「……うん」

西「何だよ……その気の抜けた返事は……」

凛「信じてたから」

西「……お前の両親を再生できねーッてのは嘘じゃない」

凛「……うん」

西「……納得できるのかよ?」

凛「出来るわけないよ……でも……もう、無理なんでしょ?」

西「……あァ」

凛「……」

西「……はァ、なンか……もう疲れちまッた……」

大粒の涙を零して声も上げず泣く凛を見ながら西は全身の力を抜いてソファーにもたれかかっていた。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 22:00:46.17 ID:auSjxfEy0
西「……お前さ、これからどうすンの?」

凛「……これから?」

西「ああ。お前にはもう帰る場所なんかどこにもねーだろ……家も無い、テロリストとして全国指名手配のお尋ね者で、お前の手は血に汚れきッてるンだ……何をどーするのかと思ッてな」

凛「……まずは、卯月と未央を再生する。それからは、私のしたことに対して責任を取って行こうと思ってる……」

西「意味ワカンねー……俺達がした事の責任なんてお前一人でどーすることができると思ッてンだよ」

凛「沢山考える……私一人じゃなくてみんなにも意見をもらって一番いい方法を見つけたいと思ってる」

西「ワカッてンのか? 俺達がブッ殺して来た奴等は国や社会の重要な位置を締めてる奴等がほとんどだッた。そんなヤツ等がいなくなッて今の世界がどれだけ混乱するか……俺達がトドメを刺さないでももうこの世界は壊れるかもしれねーッてのに、そんな事に対する責任なんて取れるわけねーだろ」

凛「……それでも」

西「デモじゃねーよ。お前何にも考えてねーンだろ? ワカッてンだよ、お前が行動するときは先の事はほとんど考えねーで行動するッて」

凛「う……」

西「もう陽の当たる所で何かできるなんて思うな。やるならやるで先の先まで考えろ。お前は考えもコロコロコロコロ変わるンだからよ」

凛「うぅ……」

西「……俺が言えるのはそンくれーだ」

西は立ち上がり手元に光のキーボードを展開すると高速で何かを打ち込み始める。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 22:01:28.13 ID:auSjxfEy0
凛「ちょっと、何を……」

西「……安心しろよ、もう世界を支配するとか考えてねェ、何かどーでもよくなッた」

凛「え?」

西「……お前にもガンツの制御方法は最低限教えておいたから俺がいなくても再生やら転送やらできッだろ?」

凛「っ!……どこに行くつもりなの?」

西「……ワカンねェよ。お前は責任を取るとか言ッてッけど、俺はそんな馬鹿な事考えねーから、テキトーに人間のいない所で生きて行くか、それともどッかでの垂れ死ぬかのどッちかだろーな……もうお前には関係ねー事だ」

凛「……」

西「……おい、手を放せよ」

凛「……嫌だ」

西「放せッて」

凛「嫌だよ……」

西「放せッてンだろ!? 何なンだよ!? お前はもう俺を見限ッてアイツ等と一緒に行くンだろーが!? 俺を捨てたくせに今更何なんだよ!?」

凛「……一緒にさ」

西「あァ!?」

凛「あなたも一緒に……私は、あなたとも一緒に生きて行きたい……」

西「ッ!…………それこそふざけんな、だ。何で俺がお前なんかと……」

凛「だって……放っておけないんだよ……」

西「は?」

凛「私にとって……あなたも大事な友達だって、そう思ってるから……」

西「…………はッ、バッカじゃねーの?」

凛「馬鹿じゃないよ……真剣だから」

西「……」

西は展開した光源を全て消してもう一度ソファーにドカッと腰をおろした。

手をつかんでいた凛も体勢を崩して西の隣にストンと座る。

西は凛と密着してその体温を感じながら、
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 22:01:57.67 ID:auSjxfEy0
西(一体なんなんだろーな……)

西(さッきはこいつの事、一瞬ママみたいに思えたのに……)

西(ただ……はッきりワカッちまッた事がある……)

西(俺、こいつと一緒に何かしてーンだ)

西(世界を支配するッてのもこいつが本気でノッて来てから俺も本気になッた)

西(こいつがその気じゃなくなッたら、どうでもよくなッた……)

西(それで……こいつが俺を引き止めてくれたことが……嬉しい……)

西(一緒に生きて行きたいなんて言われて……嬉しかッた……)

西(ママみたいな女なのに……何か違ッて……一緒にいたいヤツ……)

西(…………)

凛「西?」

西「……なァ、本当に俺達みたいな人間がもう一度やり直せると思うか?」

凛「! うん、思うよ」

西「そッか……」

凛「うん」

西(……どうせもう何もねーンだ。それならこいつの傍で、こいつの行く末を見届けてやるのも悪くねェな……)

西と凛はお互い寄り添いながら差し込む朝日を眩しそうに見続けた。

二人の瞳には今まであった真っ暗な闇は無く、差し込む朝日のような光が映し出されていた。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 22:02:30.52 ID:auSjxfEy0
今日はこの辺で。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2017/12/09(土) 22:23:35.52 ID:b+tH1jKWo

西君に救いがあって本当に良かった……
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/09(土) 22:45:56.74 ID:dhNORgkt0

この世界情勢まだカタストロフィ前なんだよな
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 14:15:47.04 ID:qopBQtRIO
西くんも救われそうな展開でよかったわ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 17:19:53.36 ID:8+ViXghwo
おつおつ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/15(月) 23:24:58.40 ID:3+oZiS950
保守
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/22(月) 19:51:16.64 ID:f2dn8/bj0
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/02/02(金) 23:19:50.05 ID:d572ILh+o
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 22:40:38.29 ID:UyA24OAy0
まっています
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/24(土) 06:26:15.42 ID:pHNAt84X0
保守
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/14(月) 17:57:29.81 ID:d7sA7Zal0
上げ 続け
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 13:16:37.46 ID:5mqT5upm0
【最悪のSS作者】ゴンベッサこと先原直樹、ついに謝罪
http://i.imgur.com/Kx4KYDR.jpg

あの痛いSSコピペ「で、無視...と。」の作者。

2013年、人気ss「涼宮ハルヒの微笑」の作者を詐称し、
売名を目論むも炎上。一言の謝罪もない、そのあまりに身勝手なナルシズムに
パー速、2chにヲチを立てられるにいたる。

以来、ヲチに逆恨みを起こし、2018年に至るまでの5年間、ヲチスレを毎日監視。

自分はヲチスレで自演などしていない、別人だ、などとしつこく粘着を続けてきたが、
その過程でヲチに顔写真を押さえられ、自演も暴かれ続け、晒し者にされた挙句、
とうとう謝罪に追い込まれた→ http://www65.atwiki.jp/utagyaku/

2011年に女子大生を手錠で監禁する事件を引き起こし、
警察により逮捕されていたことが判明している。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 13:17:17.60 ID:5mqT5upm0
>>226
>私こと先原直樹は自己の虚栄心を満たすため
>微笑みの盗作騒動を起こしてしまいました

>本当の作者様並びに関係者の方々にご迷惑をおかけしました事を
>深くお詫びいたします

>またヲチスレにて何年にも渡り自演活動をして参りました
>その際にスレ住人の方々にも多大なご迷惑をおかけした事を
>ここにお詫び申し上げます

>私はこの度の騒動のケジメとして今後一切創作活動をせず
>また掲示板への書き込みなどもしない事を宣言いたします

>これで全てが許されるとは思っていませんが、
>私にできる精一杯の謝罪でごさいます

http://i.imgur.com/QWoZn87.jpg
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 13:17:56.61 ID:5mqT5upm0
>>226
>私が長年に渡り自演活動を続けたのは
>ひとえに自己肯定が強かった事が理由です

>別人のフリをしてもバレるはずがない
>なぜなら自分は優れているのだからと思っていた事が理由です

>これを改善するにはまず自分を見つめ直す事が必要です
>カウンセリングに通うなども視野に入れております

>またインターネットから遠ざかり、
>しっかりと自分の犯した罪と向き合っていく所存でございます

http://i.imgur.com/HxyPd5q.jpg
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 13:18:28.86 ID:5mqT5upm0
>>226
ニコニコ大百科や涼宮ハルヒの微笑での炎上、またそれ以前の問題行為から、
2013年、パー速にヲチを立てられるに至ったゴンベッサであったが、
すでに1スレ目からヲチの存在を察知し、スレに常駐。
自演工作を繰り返していた。

しかし、ユカレンと呼ばれていた2003年からすでに自演の常習犯であり、
今回も自演をすることが分かりきっていたこと、
学習能力がなく、テンプレ化した自演を繰り返すしか能がないことなどから、
彼の自演は、やってる当人を除けば、ほとんどバレバレという有様であった。

その過程で、スレ内で執拗に別人だと騒いでいるのが間違いなく本人である事を
確定させてしまうという大失態も犯している。


ドキュメント・ゴンベッサ自演確定の日
http://archive.fo/BUNiO
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/10(火) 22:48:38.22 ID:CqtXVdro0
続きが読みたい
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/18(木) 23:07:57.76 ID:74Nba3uM0
きっと更新がある
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 04:17:13.81 ID:EareozG20
落ちない限り待ってる
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/06(月) 18:39:45.58 ID:9XJ7g0F+0
保守
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