勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:20:46.22 ID:9XHV72F70
【嫉妬の勇者の思い出】

〜思い出 1〜

女奴隷「わたしたち、自由よ!!」

青空の下。

女奴隷は、自分を地獄の王国から連れ出してくれた男奴隷に言った。

嫉妬「慣れないものだな。枷をつけられて生きてきたせいで、自由を後ろめたく感じる」

女奴隷「わたしはずっと夢見てた。地獄みたいなこの人生を、救ってくれる何かが起こるって」

女奴隷「そしてあなたに救われた。私が白衣の男たちによってひどい目に遭わせられているときも、いつも味方でいてくれた」

嫉妬「……俺はただ」

女奴隷「勇者は、優者」

女奴隷「人にやさしくすることもまた、選ばれし者にしかできない行為なのよ」

嫉妬「自由に浮かれて綺麗事を話すか。生きることは地獄の塊だったはずだ」

女奴隷「綺麗事を抜きにしたら、何も話せなくなっちゃうわ。だって、生きることは本当に綺麗なんだもの」

女奴隷「私はこの世界が大好きよ。長生きしたいと思うくらいに」

嫉妬「長生きか。そんな言葉ろくに口にしたこともなかった」

女奴隷「さっさと死んでしまいたかった?」

嫉妬「ああ」

女奴隷「どうして死ななかったの?」

嫉妬「何か起こるかもしれないと期待していたからな」

女奴隷「そして起こった」

嫉妬「…………」

女奴隷「私達もこれで、立派な冒険者の仲間入りよ」

嫉妬「魔王なんぞに挑むほど、俺はこの世界を救いたいとは思っていないぞ」

女奴隷「それは私も。とにかくね」

女奴隷「この世界が大嫌いでも、長生きしたいと思える人と出会えたら、それはやっぱり生きててよかったってことなのよ」

女奴隷は笑った。
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:21:25.69 ID:9XHV72F70
〜思い出 2〜

女奴隷「……ガハッ!!ガハッ!!」

嫉妬「どうした!!何故棺桶が出現しない!!」

巨大なネズミ型の魔物を撃退したあと、女奴隷が激しく咳き込んだ。

嫉妬は混乱に陥りながらも、どうぐ袋に入れていたやくそうを女奴隷に使用した。

しかし、効果はまったくなかった。

「生死には全く影響を及ばない呪いだからね。菌、と呼ぶんだ。毒と似たようなものだけど、そこらのやくそうでは治せないよ」

青い服を身にまとった男が突如現れた。

嫉妬「誰だお前は……僧侶か?」

「そんなに出来た存在じゃない。鼻持ちならない職業さ」

男は自分の額を指で叩いた。

「失礼するよ」

男は女奴隷の胸部に手を置いた。

嫉妬「お前!!何をする!!」

「解決するのさ」

賢者「それが僕の職業の役目だからね」
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:22:51.25 ID:9XHV72F70
〜思い出 3〜

今夜も、女奴隷は賢者の語る物語をうっとりと聞いていた。

賢者「道具屋の娘に失恋した夜に、鍛冶屋の青年は嘆いた。世界は、なかなか認めてくれないものだと」

賢者「死んではいけないと言ってくれる人はたくさんいても、あなたと生きたいと言ってくれる人は1人も現れてくれないと知った」

賢者「彼の親友は励ました。今まで積み上げたものがなかった者でも、意思の切り替えによって、一日にして何もかもが変わることもあると」

賢者「そして鍛冶屋の青年は決めた。今まで嫌々してきた、代々引き継がれてきたこの仕事で輝いてみせようと」

賢者「彼は細長い筒に、魔法を取り入れることを試みた。それが今の魔法銃の起源だと……」



…………

女奴隷「……zzz」

賢者「もう寝たか。あれだけせがんできたのに」

嫉妬「子供のようなやつだからな」

賢者「なあ、僕の話は退屈だったか?」

嫉妬「そんなことは決してない。何故?」

賢者「嫉妬が退屈そうな表情をしていたからさ。心配になったんだ」

嫉妬「退屈なものか。毎晩毎晩、人に語れるだけの話をよく引き出してこれるものだと感心していたほどだ」

賢者「それは褒められているのかな?」

嫉妬「生まれも育ちも違うからな。かなわない」

賢者「……そんなことないさ」

嫉妬「何を言う。魔法使いの都の出身なんだろう?」

賢者「これを旅の仲間に話すのは生まれて初めてかもしれないな」

嫉妬「何だ?実は王子様か?」

賢者「実は僕も、奴隷出身なんだ」



賢者の男は、照れくさそうに笑った。

どういうわけかもわからないが。

嫉妬はこの時、自分の胸の中に、紫色に鈍く光るものを感じた気がした。
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:23:33.32 ID:9XHV72F70
〜思い出 4〜

キスをしていた。

女奴隷が賢者に惹かれていることはわかっていた。

それでも、救世主である自分を選んでくれると信じていた。



翌朝起きると、2人は何でもないような顔をして話しかけてきた。

パーティメンバーを一人追加しよう、賢者が言った。

賛成よ、と女奴隷が言った。女性の仲間がほしいわ、と。

どういうつもりなのだろう。

もうひとりの女と俺が結ばれれば、自分達の仲も隠す必要がなくなるとでも考えているのだろうか。

俺はパーティメンバーを増やすつもりなどない。



減らせばいいのだ。
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:27:27.75 ID:9XHV72F70
〜思い出 5〜

女奴隷「どうして賢者を殺したの!!」

激しい雨の中。

賢者は血を流したまま倒れていた。

嫉妬「……彼には、故郷に妻がいる」

嫉妬「酔った勢いで打ち明けてきた。君は旅の間だけの女だって。遊び相手に過ぎないと」

女奴隷「嘘よ!!」

嫉妬「僕を疑うというのか」

女奴隷「あの人を信じているのよ!!」

嫉妬「信じたい気持ちと真実には何の関係もない」

女奴隷「どうして殺したのよ!!」

嫉妬「許せなかったからだ!!」

女奴隷「どうしてあなたが!!」

嫉妬「君のことが好きだからだ!!」

女奴隷「…………」

嫉妬「もう一度、2人で冒険をやりなおさないか」

嫉妬「自由を感じていたあの頃に戻ろう。二人だけで、行きたい場所にだけ行って、それで……」

女奴隷「…………あなたの気持ちはよくわかった」

女奴隷は短剣を取り出した。

嫉妬「何をする!!」

女奴隷「錯覚を守るためなら、人は命懸けで狂うのよ。信じたことを真実にするの」

女奴隷「わたしは、あなたの物にはならない」

女奴隷は、短剣で自身の首を切り裂いた。

女奴隷は血しぶきをあげ、地面に倒れた。

女奴隷は死亡した。

嫉妬「……棺桶が出現しない。パーティから抜け出したということか」

嫉妬「……ふ。ふふふふ!」

嫉妬「俺は、選ばれなかったというわけか!!!」

嫉妬「ははははは!!!!」

嫉妬「ヒヒヒヒヒ!!!ハハハハハ!!!」

嫉妬は二つの死体の横で、狂ったように笑い転げた。

それは世界では、ありきたりな痛みであっても。

生まれてから奴隷として育った嫉妬にとっては、世界はあまりにも小さすぎた。

1つしか希望のない世界から、その1つが奪われた時。

嫉妬の中の何かが壊れた。
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:28:59.62 ID:9XHV72F70
〜思い出 6〜

「どうされましたか?何かよくないことでも……」

馬車の中から降りてきた若い女の魔法使いが、嫉妬の顔色を心配して尋ねた。

今や、嫉妬の仲間は30人を超えていた。

しかし、精霊の加護が及ぶパーティメンバーとしては誰一人として選出されていなかった。

嫉妬「なんでもない……悪い夢を見た……」

「貴方様にも、そういうことがあるのですね」

魔法使いは小さな笑顔を見せた。



「嫉妬様、緊急のご報告です。さきほど戦士が、深手の傷を負って帰ってきました。今は僧侶が治療中です」

嫉妬「相手は?」

「女一人です。高価な装備を揃えていたので、金目のものを奪おうと戦士は考えていたようです……」

嫉妬「勝手な真似はするなと言っただろう。相手は魔法使いか?」

「それが、戦士はうめきながら、こう言ったんです」

「雷に、襲われたと……」

嫉妬「……女勇者か。面白い」

嫉妬は剣を握った。

今や彼の強さは、他の勇者の中でも群を抜いていた。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:31:33.42 ID:9XHV72F70
〜思い出 7〜

怠惰「貴方様は、何を目指しているのですか」

怠惰は嫉妬に尋ねた。

嫉妬「……どういう意味だ」

怠惰「気分を害されたのなら申し訳ございません」

怠惰「ただ、あなたは嫉妬の首飾りを手に入れ、この国を治め、魔王を撃退し捕縛しました。今や世界最強の勇者です」

怠惰「なのに、あなたは全く満たされていないようにみえます。今はまだ何かの途中にしか過ぎないと」

嫉妬「そう見えるか」

怠惰「はい」

嫉妬「埋められない心の穴がある場合、どうすれば良いと思う?」

怠惰「代わりのもので満たす、ですか?」

嫉妬「新しい心に取り替えるのだ」

嫉妬「俺はこの世界に復讐を果たす。永遠にな。俺以外の全ての人間が、地獄を見続ける世界にさせてやるのだ」

嫉妬「数え切れぬほどの人が住まうこの世界で。自分以外の幾千幾万を超す全ての人間が、自殺を図る光景はさぞかし美しいとは思わんか?」

うっとり笑う嫉妬を見て、怠惰は恐怖に震えた。

そんな怠惰の頭に、嫉妬はやさしく手を置いた。

嫉妬「お前は見捨てないでやろう。俺の隣で黙って見ていろ」

怠惰はその言葉に感激し、安堵して目を閉じた。



嫉妬には人を惹き付ける不思議な魅力があった。

それは、創られた魅力であった。

自分が他者に打ち明けた真心を裏切られた人間は、虚飾を磨く生き方に変わる。

あるがままの自分というものを捨て、嫉妬は世界を手に入れるのにふさわしい自分を演じ続けた。

かつて手に入れられなかったものが手に入るようになった嫉妬は、しかし満たされなかった。

それはもはや、自分自身ではないからだ。

嫉妬「……どうすれば、満たされるかだと」

嫉妬「俺以外の全ての人間の心を、空虚で満たした時であろう」

失われたものを、取り戻すのではない。

得られなかった世界を、嫉妬は壊そうとしていた。



嫉妬の勇者達 〜fin〜
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:37:59.97 ID:9XHV72F70
次回で最終章です。去年の夏から書き始めましたが、今週中に完結する予定です。
ネットで読むには大変な量の物語ですが、お付き合い頂きありがとうございました。
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 02:00:12.29 ID:NdpHUhQDO

終わっちゃうのか…
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 08:34:33.13 ID:eLiqNQsDO
全裸待機
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 18:47:01.82 ID:lRAHu/8S0
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:15.06 ID:ih6hDcQ/0
お姫様「ねえ、そこのあんた。勇者って奴のことを知らないかしら」

奴隷「……存じておりません」

お姫様「あっそ」



お姫様「どうして私がこんな仕事を……。これで今日何人の奴隷と話したことか」

案内人T「ふぁーあ」

お姫様「あいつも奴隷の格好してる。サボってるように見えるけど」

お姫様「ねーねー。あんた勇者って奴のこと知ってる?怠惰の牢獄の地の出身なんでしょ」

案内人T「知ってるよー」

お姫様「ラッキー!!じゃあさ、あいつの両親が今どこにいるか知らない?この王国で奴隷として働いてるのかしら?」

案内人T「勇者の親かー」

案内人T「父親はどこかで生きてるかも知らないな。母親は昔に亡くなったんじゃなかったっけ」
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:56.68 ID:ih6hDcQ/0
勇者「止まって」

遊び人「えっ?」

勇者「罠がある」

草むらの中を歩いていた遊び人が足元に目を凝らすと、毒矢の罠が仕掛けてあった。

遊び人「うわっ!ほんとだ!よく気づいたね」

勇者「細い糸が空中に光った気がしてさ」

遊び人「勇者、なんだか変わったね」

勇者「俺が立派になりすぎて寂しくなったか?」

遊び人「誇らしいよ。でも確かに寂しいかも」

勇者「なんだそりゃ。心配すんなって。俺がいくら最強になろうとも、俺は俺のままだぜ」

勇者が照れながら歩いていると石に躓き、木に固定されていた毒矢の本体に首から刺さった。

遊び人の前に棺桶が現れた。

遊び人「…………」

遊び人「一生心配するっての!!」
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:22:37.80 ID:ih6hDcQ/0
ズゴゴゴ!!ズゴゴ!!

遊び人「重い!!棺桶引きずるのにブランクあったからな」

遊び人「えーっと、この先に村が一個あるんだったな。教会で蘇らせてもらおうっと」




〜教会〜

遊び人「蘇らせてください」

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「はいはい。25G」

神官:お金が足りません

遊び人「えっ、出してるよ」

遊び人は25G差し出した

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「…………」

遊び人「ええぇえええええええ!!?」



神官:おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。

勇者「ぷはぁ!!」

勇者「あれ、遊び人のやつ棺桶に入ってやがる」

勇者「魔物にやられたのかな。それとも引きずるのがめんどくさくなって自殺したとか?」

勇者「困るんだよなぁ。遊び人の蘇生代馬鹿高いんだから」

勇者「でもおかしいな、この村初めて来た気がするんだけど……まあいっか」

勇者「遊び人を蘇らせてくれ」
神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「ひょえー。仕方ない。頼む、蘇らせてくれ」

神官:承りました

神官:遊び人の御霊を呼び戻し給え
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:23:24.33 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「…………」

勇者「蘇ったな。なあ、魔物にやられたのか?引きずるの大変かもしれないけど遊び人の蘇生代金ってかなりの値段が……」

遊び人「勇者様」

勇者「うん。ん。ん?さま?」

遊び人「私めの命に比べてあなたの命があまりにも尊かったので、もう死ぬしかないと……」

勇者「いやいやどうしたいきなり。神官、呪いか毒がかけられてるみたいなんだけど」

遊び人「私と離れていた短期間で精霊の信頼をそこまで勝ち取るなんて……」

遊び人「もはや私三人分よりも価値ある人間に……」

勇者「意味わかんねえって。それより飯食いに行くぞ。旨いもの食おうぜ」

遊び人「ご一緒させて頂きます」

勇者「うわーやりづれぇ」
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:25:27.77 ID:ih6hDcQ/0
ふたりは、暇だった。

嫉妬の王国の自動感知呪文は、封印の壺に対象を設定をされている。

一度勇者達の持つ大罪の装備に対象を定め直した場合、またこの世界の全てから対象物以外の要素を差し引く必要があるため、膨大な時間がかかる。

だから、封印の壺が割れるまでは、嫉妬の王国が勇者達を見つけることはない。

魔王城に踏み込むのであれば、封印の壺に入った暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れてから向かうのが賢明であった。

一度、強欲の都の近くにあった転職神殿の占い師に相談をしても、同じような回答が返ってきた。

それまでの時間、2人はとくに生き急ぐわけでもなく、今までのようにのんびりと冒険をしていた。



そして、幾日が過ぎた。
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:26:32.26 ID:ih6hDcQ/0
〜ほらあな〜

夜中、勇者はふと目を覚ました。

勇者「あれ、遊び人?」

首を動かして辺りをみまわしても、遊び人の姿は見えなかった。

ふと、自分のお腹の上に使い古された赤色のメモ帳が乗っているのに気づいた。

“お花をつみに行ってきます”



遊び人「あら、起きてる」

勇者「お花は見つかったか」

遊び人「排泄しながら探したけど見つからなかった」

勇者「いやもうそれ綺麗な表現で隠そうとした意味ないから」

遊び人「寝起きなのにツッコミ頑張るなぁ」

遊び人は勇者の隣に寝転んだ。

遊び人「冒険譚はそこらへんの描写が甘いよね。魔王との決戦中に尿意を催すことだって現実ではあり得るのにさ」

勇者「世界の半分はいらないから、尿意の半分でも消してくれとか心の中で願うんだろうな」

遊び人「描写するに値しない些細なことが大切だったりするからね」

勇者「本当だよ。新品の革靴履いて足にできたマメが痛いとかな。毒地でもないのに歩く度にダメージ負うからな」

遊び人「職業が遊び人だと自己紹介する時にけっこう世間に気まずい思いをするとかね。賢者見習いとか言うけど杖も持ってないとかね」

勇者「戦闘中も、敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に『やべ、財布落としちゃうかも……』とか気になったり」

遊び人「うふふふ」

勇者「あれ、今のそんなに面白かった?へへ」

遊び人「ねえ、気づいてた?」

勇者「なにが?」

遊び人「ここさ。私達が暴食の村につく前に寝ていた洞窟じゃない?」
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:28:55.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者「あっ!そう言われれば見覚えある!いつの間にそんな遠くまで」

遊び人「裏を返せばここからあんな遠くの場所まで行ってたってことだよね」

勇者「そっか。なんだか信じられないな」

遊び人「何に対して?」

勇者「うーん。今までの軌跡ぜんぶ」


勇者は立ち上がり剣を構えた。

遊び人「勇者、何を」

勇者「『太陽を追い求めし夜の女王よ。その黄金の輝きの一部を我が剣に授けよ!!』」

勇者「『アカリン』!!」

勇者は洞窟照らしの呪文を唱えた!

遊び人「わっ!!」

眩いばかりの光が洞窟の中を照らした。

遊び人「凄い!!」

勇者「……どうも」

勇者自身が驚いていた。

遊び人奪還のために強欲の都の術士にかけてもらった大罪の枕詞が、時間の経過によって解けていたにもかかわらず、呪文を簡単に使用できるようになっていた。

勇者「こいつのおかげかな」

勇者は自分の胸に手をあてた。

勇者「以前俺に宿っていた精霊は、やっぱり不本意で俺に宿ったんじゃないかって思う」

勇者「ふさわしくないものにふさわしくない幸運が訪れたら、それは不幸の始まりになるんだろう」

勇者「今は自分のことを認められるようになったと思う」

遊び人「何をいまさら。勇者はずっと凄かったじゃない」

勇者「ありがとな」

勇者は思った。

自分で自分を認められるようになったのは、自分を認めてくれる人が現れたおかげだと。
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:32:36.62 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「すっかり目が覚めちゃった」

勇者「夜更かしはよくないぞ」

遊び人「なんで寝なくちゃいけないんだろう。睡眠時間がなくなれば生きてる時間がぐんと増えるのに」

勇者「俺は寝るの好きだけどなぁ」

遊び人「そういえば私も好きだった」

勇者「遊び人はさ、長生きしたい?」

遊び人「うん。絶対したい」

勇者「やっと肯定してくれるようになった」

遊び人「後ろめたさを感じても。罪悪感を感じても。私のためにそれを手に入れようと頑張ってくれる人の前で、嘘をつくのはやめることにしたの」

遊び人「まぁ、己が命のために呪われた装備を集めるなんて、悪役側みたいだけどね。物語なんかじゃ、永遠の命を望む悪者に限って不運にも死んじゃうんだよね」

遊び人「今になって、寓意がわかった気がするよ。そういう物語に現れていた悪役は、もしかしたら本当に永い命を手に入れていたかもしれない。けれど、ただの長寿は生きている意味そのものではないってことだったのかも」

遊び人「今が好きだから今を延ばしたくて永遠を望む、なんて人いないんじゃないかな。今が好きなひとは、今しか見ないんだもの。今を永遠に感じてるんだもの。まだ来ぬ未来ばかり生きてるひとは、どんなに長生きしても生きたことにはならないのよ」

勇者「おとぎ話なんか気にするなよ」

遊び人「ねえ勇者」

遊び人「私を救ってくれて、ありがとう」

勇者「まだ何にも解決してないよ。あれもこれもどれも」

遊び人「そうだね」

遊び人「でも、今こうやって、2人で楽しいじゃん」



あらゆる障害を二人の力で乗り越えることができなくても。

あらゆる障害を差し置いて、二人で幸せを感じることはできる。

遊び人「さて、二度寝しよっか」




勇者「…………」

勇者「なあ遊び人」

勇者は上体を起こして言った。

勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:33:45.46 ID:ih6hDcQ/0
【TIPS】

『ヒロイン』

やさしい女の子のこと。

ヒロインは最初に現れている。

主人公の男の子は、旅をして、成長をして、色んな異性と出会うが。

結ばれるべき人は、最初からいる。

強くなっても。富を得ても。

誰のために強くなったか。誰のために富を得たか。

それを忘れずにい続けられたからこそ、強さや富を失わずに済んだのだ。

主人公のヒロインがたまたま第1話に現れるのではない。

最初から最後までヒロインを守り続けたから、男の子は主人公になれたのだ。

『ヒーロー』

ヒロインを守る、何者でもない男の子のこと。
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:35:50.45 ID:ih6hDcQ/0
〜嫉妬の王国〜

キィイイイイン!!!!

研究者A「自動感知呪文が反応した!!封印の壺が割れた証だ!!」

研究者A「全員叩き起こせ!!嫉妬様にも早くご報告を!!」

研究者B「嫉妬様は、現在例の場所に……」

研究者B「何故こんな時に。仕方ない、鳥獣の魔物で伝令を送れ。俺達は暴食の鎧と色欲の鞭を回収しにいくぞ!!」




キィイインン!!!

遊び人「……っ!?」

遊び人「今の感覚!!」

遊び人「勇者!!封印の壺が割れたみたい!!」

遊び人は、大罪の装備の独特の魔力を感じた。

勇者「どの方角からだ」

遊び人「……おおよその方向だけど。花の香りの村の方面にあるみたい。私が気配をたどれば見つかると思う」

勇者「少し遠いな。嫉妬の王国の研究者たちも自動感知呪文の装置で気づいたはずだ。急ぐぞ!!」





幸いにも、封印の壺は花の香りの村の隅に埋められていた。

勇者「間に合ったな」

勇者達は暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れた。

遊び人「強欲の都にいた術士の一人がここに埋めに来たのよね。私達の訪れたことのある場所でよかった」

勇者「これで暴食の鎧、色欲の鞭、怠惰の足枷はこちら側に。そして傲慢の盾、憤怒の兜、強欲の腕輪、嫉妬の首飾りは相手側にあることになったわけだ」

遊び人「勇者、自動感知呪文はこの二つの装備の居場所を特定し続けるよ。ここに追手が来ても、感知呪文の装置があるのは王国の旧決闘場の中だからすぐに私達の居場所がばれることはないけれど。ずっと逃げ続けることは無理だと思う」

遊び人「もし、今持っている装備を放棄すれば……」

勇者「そんなことしたくはないだろ。正直にわがまま言えって」

遊び人「……そうだね。勇者」

遊び人「嫉妬の勇者と、戦って欲しい」

遊び人「勝って、装備を全部手に入れて欲しい」

遊び人「わたし、長生きしたいんだ!!」
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:45:54.95 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城〜

移動の翼を使い、勇者達は魔王城の前にたどり着いた。

魔王が君臨していた頃に施されていた結界は、全て解除されていた。

勇者「怠惰が言ってた。ここに、全ての大罪の装備がある」

遊び人「少し前に偵察で訪れた以来だね」

勇者「魔王という主なき今でも、禍々しさを感じるな。他の勇者達も、かつてここに訪れてきたんだよな。魔王討伐、その目的を果たすために」

勇者「さて、律儀に正面玄関から入る気はない。近道するぞ」

勇者は再び移動の翼を取り出した。

勇者「どうする?」

遊び人「なにが?上階に直接飛ぶんでしょ?」

勇者「移動の翼を身体中に身に着けて飛んでみるか?」

遊び人「えっ?」

勇者「ほら、俺が負けちゃう可能性もなくはないじゃん。明日死んじゃうとしたら、移動の翼を身体中につけて飛んでみたいって、食い逃げで捕まってた時に言ってなかったっけ?」

遊び人「……覚えててくれたんだ」

遊び人「もう。食い逃げって言わないの!!」

遊び人のこうげき!

勇者に3のダメージ!

勇者「はぁ!?」

遊び人「生きることだけ考えて!ほら、はやく行くよ!!」

遊び人は嬉しそうな顔をして言った。
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:50:54.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者達は魔王城の上階にたどり着いた。

遊び人「……さて」

遊び人「ここからは私の出番ですかね」

勇者「無理はしないでくれよ。先日の実験の時も……」

遊び人「心配ご無用。というより、心配してくれる人がいるうちは安心しちゃうってもんだよ」

遊び人は道具袋から”意思の薬”を取り出した。

遊び人「怠惰の足枷の呪いさえも克服する薬」

遊び人「わたしの遊び癖も、乗り越える意思をこれは与えてくれることがわかった」

遊び人「物体感知の呪文を唱えるわ」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

両手を組み、目を閉じた。






―――キィイイン。

――――――キィイイン。キィイイン。キィイイン。

遊び人「……全て捉えたわ。でも完全な結界が張られているみたい」

遊び人「大きな障害物だけでも取り除いておこうかしら」

遊び人「『開け〜、ゴマ』!!」

――――パキン!! パキンパキンパキン!!!!

遊び人「はぁ…!はぁ…!」

勇者「大丈夫か!?」

遊び人「……成功したみたい。防御壁を私の魔力が上回った……。各部屋への扉は全て開けたわ。結界がいくつか張られてるみたいだけど」

勇者「さすがだな。反則地味た力だ」

遊び人「装備は全て魔王城の中にあるよ。早く行きましょ……」グラ…

立ち上がろうとした遊び人は、ふらついた。

勇者「立てるか?」

遊び人「……ごめん。やっぱり遊び人が真面目に仕事しちゃうと反動がきついみたい。人それぞれに見合ったお仕事があるものね」

勇者「ゆっくり休んでてくれ」

遊び人「お言葉に甘えて」

勇者は遊び人を背負った。
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:02:07.44 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「まずはそこの大穴に落ちて」

遊び人が背中から指示を出した。

勇者「死なないかな?暗くて何も見えないぞ」

遊び人「さっき感知呪文を唱えた時に、ついでに場内の構造は全て把握しておいたから安心して」

勇者「すげえ……」

遊び人「地面に砂が敷き詰められているの。着地の衝撃で足が砕けると思うけど、回復呪文を唱えれば問題ないよ。もう勇者も有能な術士だしね」

勇者「まじかよ」

遊び人「移動の翼を使用しながら優雅に降りる方法もあるわ。今の魔王城は特殊道具も特殊呪文も使い放題よ」

勇者「それを先に言ってくれ」



勇者達は移動の翼を使いながら大穴の中に飛び降りた。

遊び人の指示に従い砂の上を歩いた。

勇者「砂漠を歩いてる感覚だな」

遊び人「うーんと、あと3歩」

勇者「あー、ここらへん?」

遊び人「うん。この真下」

勇者は遊び人を背中からおろした。

勇者「砂堀りの時間だな」

勇者は砂を掘り起こした。

しかし、いくら砂を掘っても、無尽蔵に砂が沸いてきた。

勇者「なんだこれ。永遠に穴を掘れる気配ないぞ」

遊び人「完全結界が張られてるのね。私の出番みたい」

勇者「大丈夫か?」

遊び人「駄目でも、やるしかないもの」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

集中した後、呪文を唱えた。

遊び人「『あめ』!!」

すると、遊び人の手の平から水が勢いよく降り注ぎ始めた。
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:06:04.52 ID:ih6hDcQ/0
水は砂の中に吸い込まれていった。

しかし、砂は乾燥したままであった。

勇者「どういうことだよ。水が消えてくぞ」

遊び人「これでも吸収されてるはずよ。砂がものすごく乾燥してるっていえばわかるかな。喉がカラカラの勇者に、ちょっとやそっと飲み物与えても満足しないのと一緒だよ」

勇者「だとしたらこの砂喉乾きすぎだろ。雨というより滝が流れ込んでるってのに乾いたままだ」

遊び人の手の平からはゴオゴオと音を立てながら、凄まじい量の水分が流れ出ていた。

遊び人「ちょっとずつ染み込んできてるよ」


遊び人の言う通り、じっと見ていると砂が湿りはじめ、固まった。

遊び人「充分みたいね。掘り起こしてみて」

勇者「任せろ」

勇者は砂の固まりをどかした。

すると、兜が現れた。

勇者は憤怒の兜をてにいれた!

勇者「おわっ、こんなにあっさり」

遊び人「言っておきますけど、樽いっぱいの水を何百個分も局所に流せる呪文使いなんてそうそういないんですからね……」

遊び人は額から汗を流して言った。

勇者「がんばったな。よくできました」

遊び人「もう……。それにしても、嫉妬も厄介な結界を張ってくれたなぁ」

勇者「おそらくこの結界は嫉妬の首飾りで攻略化済みなんだろう。無効化すればあいつはいつでも自由に取り出せたわけだ」

勇者「よし、次の装備を探しに行くぞ。ほれ、おんぶ」

遊び人「すみませんねぇ。お邪魔します」

遊び人は勇者の背に乗った。
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:07:35.93 ID:ih6hDcQ/0
人形がいっぱい飾られている部屋に着いた。

桃色で装飾されたかわいらしい部屋だった。

勇者「うげっ、魔王って悪趣味だな」

遊び人「魔王の部屋なわけないでしょ。あなたが憤怒の城下町で2人の過去を演説したでしょ。ここは召喚を司る四天王、マリアの部屋に違いないわ」

遊び人「寝具の横に置いてある、大きな人形を調べてみて」

勇者「大きな人形っていうか」

勇者は人形の前に立った。

勇者「これ、魔王に似てね?小さいけど」

遊び人「体内に装備の気配を感じるわ」

勇者「腹かっさばくか?」

遊び人「攻撃すると起動する危険性が高いよ。人形と戦闘になるわ。ちょっとおろして」

勇者「おいおい、大丈夫かよ」

遊び人「意思の薬はまだたくさん残ってるよ。怠惰の監獄の地からたくさん取ってきたじゃない」

勇者「俺が心配しているのは……」

勇者の言葉をよそに、遊び人は呪文を唱えた。

遊び人「『みつ』!!」

遊び人の手の平から、黄色の液体が流れ出した。

液体は人形の口の中へと流れ込んでいった。



勇者「また水か」

遊び人「水じゃないよ。蜜だよ」

勇者「似たようなもんだろ」

遊び人「お酒の成分も混ぜてるんだから」

勇者「なんで人形に酒を……うわ!」

いきなり人形は表情を浮かべた。

勇者「生きてる!」

遊び人「大丈夫。じっとしてて」

人形は最初は驚いた表情を浮かべていたものの、液体の味が気に入ったのか、頬を紅潮させ満足げな表情を浮かべた。

勇者「ちょっとかわいいな」

遊び人「ちょっとかわいいね」
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:18:16.89 ID:ih6hDcQ/0
人形はしばらく液体を飲み続けていたが、やがて顔が青ざめてきた。

頭をふらふらと揺り動かしながら、次第に気味の悪い声を出すようになった。

遊び人「色欲の町の宴の席でお姉さんに囲まれて、調子乗った後の勇者みたい」

勇者「なにそれ!?全然記憶ないんだけど!!」

遊び人「でしょうね」

ビチャビチャ!!!

勇者「うわっ!?」

人形は身体をくの字に曲げて吐き出した。

黄色の液体に混じり、大きな物体がゴロっと吐き出されてきた。

魔王の人形は気絶した。

遊び人「……勇者」

勇者「わかってるよ。俺が取るっての」

勇者は傲慢の盾をてにいれた!



勇者はボロ布で盾を拭ったあと、道具袋に盾をしまった。

勇者「なんだか笑っちゃうよな」

遊び人「なにが?」

勇者「嫉妬の勇者がここに隠したんだろ?こんなかわいい部屋に来て、人形の中に大罪の装備を隠すなんてさ」

遊び人「……たしかに。こんなに分散させて、なんだか違和感が……」バタ…

遊び人はまたしても倒れてしまった。

勇者「もう限界じゃんかよ!!やっぱり一旦……」

遊び人「……次のフロアに行きましょう」

勇者「でも」

遊び人「占い師は今日が決戦たるべき日だと言っていたわ。他に選択肢はないのよ」

遊び人「今度は、あっちの方向に行って」

勇者「……わかったよ。ほら、おんぶ」

遊び人「うん」

遊び人は勇者の背に乗った。

遊び人「……勇者の手、ねばねばする」

勇者「吐瀉物だと思うと嫌になるだろ。俺の手汗だと思ってくれればいい」

遊び人「……わーい、べとべとの勇者の手汗だー」

力ない声で、遊び人はいつものバカバカしいやりとりを行った。
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:19:51.98 ID:ih6hDcQ/0
遊び人を背負っている時に、呼吸がかなり乱れていることに気づいた。

勇者「本当に消耗が激しいな」

遊び人「……正直ね。お父さんの願いで賢者の真逆の職業に強制転職されたのに、賢者のお仕事してるんだもの」

勇者「身体の拒否反応か。例えるなら、戦士が呪文を使ったり、僧侶が肉弾戦をしたり、盗賊が寄付活動してるようなものか」

遊び人「よくパッと思いつくね」

勇者「勇者が逃げ回ってるようなものか、ってたとえも思いついたけど、俺は逃げるの大好きなんだよなぁ」

遊び人「……知ってます」



遊び人「そこの壁、攻撃してみて」

勇者「ここか?」

勇者は剣を構えると、壁に攻撃した。

剣は壁をすり抜けた。

遊び人「幻影呪文がかけられていたみたい。そのまま入って」

勇者達が壁の中を抜けると、大広間のような場所に出た。

勇者「だだっ広い部屋だな」

遊び人「一番奥まで進んで」

勇者「ここ横切っていくのは怖いな」

遊び人「大丈夫。ここに装備以外の気配はなかったから」

遊び人をおぶりながら勇者は大広間を歩んでいった。



大広間に奥までたどり着いた。

勇者「大きな石がある」

遊び人「この中から装備の気配がする」

勇者「どうする?」

遊び人「生き物じゃないみたいだし、とりあえず攻撃してみたら?」

勇者「よっしゃ」

勇者は剣を構えた。

勇者「ふぅー……。行くぜ!!」

勇者「死ねぇええ嫉妬ぉおおおおおおお!!!!!!!」

勇者のこうげき!

石の表面に切り傷を与えた。

勇者「やったか!?」

石の表面はただちに自己修復し、切り傷は消えてしまった。

勇者「なっ!?馬鹿な!?」

遊び人「今の一連の勇者、完全に悪役だったよ」
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:27:28.57 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「体力を回復しつづける結界ね。自身だけを回復し続ける賢者の石みたいなものかな」

遊び人「ちまちまと攻撃を与えても壊せないね」

遊び人は意思の薬を取り出した。

薬を持つ遊び人の手は震えていた。

勇者「待って!!いいこと考えた!!」

遊び人「なに?」

勇者「大罪の装備の力を借りる」

遊び人「何の装備をどう使うの?」

道具袋の中には、暴食の鎧、色欲の鞭、傲慢の盾、憤怒の兜が入っていた。

勇者「ええーっと……」

遊び人「大罪の装備は理性を飲み込む力を持つってこと、散々聞いてきたでしょう?このサイズの石を壊す分だけに使うには、あまりに装備の使用経験が足りないよ」

勇者「じゃあどうすれば」

遊び人「私が呪文を使うのよ」

勇者「もう駄目だって!!」

遊び人「死にはしないから」

勇者「死ななければ何でもいいのかよ!!」

遊び人「そうだよ。生きていればそれでいい」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

遊び人「生きていれば、なんとでもなるもの」

遊び人は祈り始めた。

遊び人「大罪の装備を使って破壊しにくい結界が揃っていたのは、偶然じゃないのかもね」

遊び人「嫉妬の勇者の考えてることが、だんだんわかってきた気がするよ」

遊び人「こんな繊細で強固な結界を一人で壊せるのは、私しかいないでしょうから」

遊び人「『さん』!!」

遊び人が呪文を唱えると、手の平から液体が垂れ始めた。

石に水滴があたると、煙を出して溶け始めた。
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:39:12.62 ID:ih6hDcQ/0
勇者は注意深く、割れた石から出てきた腕輪を掴んだ。

強欲の腕輪をてにいれた!

遊び人「液体って便利ね……」ドサ!

遊び人は倒れた。

勇者「遊び人!!」

遊び人「へへ……働きすぎちゃったな……」

勇者「無理し過ぎだ。本当に限界だ」

遊び人「……そうね。それが奴の狙いだったのよ」

勇者「どういう意味だよ。さっきも嫉妬の勇者が考えてることがわかった気がするって」

遊び人「きっと、私が意思の薬を使ってこの結界を破壊することは想定済みだったんだよ。罠といってもいいかもしれない」

勇者「あいつは精霊を破壊されるのを恐れてるんだろ。あいつの隠していた大罪の装備をまんまと奪って。それがあいつの狙いだっていうのか?」

遊び人「ぎりぎり私達に勝てる状況を考えたのよ」

遊び人「あまりに盤石な態勢で構えると私達がまた逃げるとも限らない。あまりに無防備だと私達に倒されるでしょう?九分一分の勝利ではなく、六分四分で勝つことを考えたのよ」

遊び人「ちょっと気になるものを感知したの。そこの階段を降りていった先に行ってほしいの」

勇者「もう呪文は使うなよ」

遊び人は返事をしなかった。
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:40:02.05 ID:ih6hDcQ/0
歩いている途中、遊び人はまた話をし始めた。

遊び人「マリアの部屋の話に戻るけど。かわいいお人形さんの中に傲慢の盾を入れたのは、きっと敬意なのよ」

勇者「敬意?」

遊び人「魔族に対する敬意。憤怒の兜は砂の中に埋めてあった。あの大穴の中は、砂の怪物と呼ばれる四天王の部屋だったんだと思う。強欲の腕輪のあった大部屋はきっと、再生を司る巨壁の部屋」

勇者「魔王を捕縛して触媒代わりにしているのに敬意だなんて」

遊び人「大罪の装備がなければ人間は魔族に勝ち目はなかったでしょ」

遊び人「倒した敵に敬意を払うことで、それに打ち勝った自身の価値を認めてるだけかもしれないけれどね」

遊び人「着いたみたい。そこの扉を開けて。鍵は壊してあるから」
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:44:18.18 ID:ih6hDcQ/0
扉を開けると、暗闇が広がっていた。

勇者「真っ暗だな」

遊び人「何も見えないね」

勇者「でもなんだろう。なんか、花の香りがする気がする……」

遊び人は勇者の背中から降りた。

勇者「立てるか?」

遊び人「勇者がいれば」

遊び人は勇者に寄りかかりながら、暗闇の中を進んだ。

遊び人「ここらへんね。勇者、目をつむって」

勇者「うん」

勇者は目を閉じた。




遊び人「『ほし』」
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:47:18.00 ID:ih6hDcQ/0
ドサッ…

勇者「遊び人!?」

勇者が目を開けると、遊び人が倒れていた。

勇者「また結界を破ったんだろ!!意思の薬を使って!!」

遊び人「……ここは夢を司る四天王の部屋だったのよ。星明りのおかげで、いいものを見つけられたわ」

遊び人の右手には紫色の輝剣が握られていた。

勇者「精霊殺しの魔剣……」

遊び人「これで秘宝とも呼ぶべきものは全部奪えたわ。あとは、ひとつの大罪の装備を気配を感じるだけ」

勇者「それが嫉妬の首飾りなんだろ。遊び人がこんな状態でいけるかよ。一旦どこかの村に避難して……」

遊び人「駄目みたいだよ」

勇者は振り返った。

いつの間にか、さきほどまで歩いてきた道は消滅していた。

代わりに、地面には赤い絨毯が敷かれており、一直線の道が生まれていた。

勇者「やっぱり、全部奴の罠だったんじゃないか!」

遊び人「赤い糸の呪文と似たようなものね。4つの秘宝に糸を巻き付けてあったのよ。全てに絡めたられた結果、ここまでおびき寄せられた。絶妙な数と配置のバランスだったわ」

遊び人「でもね、罠にひっかかったとは言い切れないわ。嫉妬にとってもこれは苦肉の策だったのかも。肉を切らせて骨を断つために、どこまでの肉を差し出すべきか彼自身図りかねていたのよ」

勇者「ふざけんなよ。赤い絨毯の上なんて、魔王との決戦かよ」

遊び人「私はカジノをおもいだすけどな」

勇者「それだったらどんなにいいことか」

遊び人「ふふ。あれはあれで命懸けの決戦だったじゃない」
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:56:54.90 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城 最深部〜

勇者と遊び人は絨毯の上を歩いた。

一本に進む真っ直ぐな道。

2人は、見覚えのある形状の建物にたどり着いた。

勇者「魔王城に、一番似つかわしくないだろ」

円形状の屋根。

先端に聳える十字架。

明かりを取り入れるステンドグラス。

勇者「決戦の場は、教会か」



嫉妬「……来たか」

勇者達が扉を開けると、嫉妬の勇者が座っていた。

勇者「魔王の玉座に座ってんじゃねーよ。卓上で説教でもしてろ」

勇者「大罪の装備はあるだけ奪ってやったぜ。全部手元に置いておけばよかったのに」

嫉妬「いつまでも逃げられては、俺も老人になってしまうのでな。寿命が尽きなければの話だが」

嫉妬「お互いわかっていたはずだ。今夜この状態で対峙することを」

嫉妬「貴様らも強欲の都の近くにある転職神殿に行ったのだろう。そして例の占い師に尋ねたはずだ。最も俺様に挑むべき時はいつかとな」

嫉妬「俺も同様に尋ねた。貴様らの挑戦を受けるべき時はいつかとな。それは、お互い同じ今日という日に当然なろう」

嫉妬「俺が勝利する可能性を確保するにあたって、その賢者の女の意思を削ることが重要な要素だった。精霊を殺す力を持つからな。俺も全ての呪文を攻略化しているとはいえない。大罪の一族というイレギュラーを相手にしたくはないのでな」

嫉妬「お前らにとっては精霊殺しの装備の数が重要な要素だ。通常攻撃でいくら俺を殺しても、精霊は死なないからな」
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:57:41.43 ID:ih6hDcQ/0
嫉妬「さて、交渉といこう」

勇者「交渉?」

嫉妬「貴様達のこの旅の目的は1つだ。そこの遊び人の寿命を延ばすために大罪の装備を7つ集め、寿命を吸い取りたいのだろう?」

嫉妬「今すぐ叶えさせてやろう。装備を持って俺のところまで来い。寿命を何十年分か吸ったあとは自由なところへ逃げればいい」

勇者「信じられるかよ。お前が首飾りを投げて寄越せ」

嫉妬「威勢だけはいいな。守る力もないというのに」

勇者は顔を赤くした。

嫉妬「戦う手間を省いてやると言ってるんだ。お前らなど殺すのは容易い」

遊び人「勇者、信じる必要ないよ。こいつが私を嫉妬の王国に監禁してたのは、大罪の賢者の生き残りである私の力を必要としていたから。きっと、特殊な儀式の触媒か何かに私が必要なのよ。生きて逃がすつもりなんかない」

嫉妬「それは早とちりもいいところだ。確かにお前らは引き裂かれるかもしれん。そこの女は必要なのでな」

勇者「てめぇ……」

嫉妬「だが、勇者。お前は逃してやろう」

勇者「逃がす……?」

嫉妬「お前は無傷で逃してやる。なんなら、怠惰の代わりとして俺の片手にしてやってもよい」

嫉妬「お前は面白い存在だ。憤怒の街で会った時から、異様な速度で成長を遂げた。賢者のような慎重性をそなえながら、勇者としての無謀さもそなえている、腹心の部下とはならないだろうが、俺を愉しませる働きぶりをしてくれるだろう」

嫉妬「どうだ。世界の半分をやるから、俺の仲間にならないか?」

嫉妬は手を差し出した。

遊び人は勇者を見た。

勇者は嫉妬をまっすぐ見つめて言った。

勇者「俺は無謀なんかじゃない。恐れ知らずじゃない」

勇者「勇気は、出すのが怖いからこそ価値があるんだ。誰よりも臆病な俺が勇気を出すほど、この子は価値有る存在なんだ」

勇者「俺の世界の半分は、ここにある!!」

遊び人「むわっ?」

勇者は遊び人の頭に手を置いた。

勇者「そして、もう半分はここにな!!」

勇者は自分の胸を叩いた。

遊び人は、照れくさそうにクスクス笑った。

遊び人「他の世界はないのかしら」

勇者「あいにく、俺も勇者なりたてなんでな。他の世界など知った事か」

そういいながら、命がけで勇者は立つ。

勇者「この子は俺が救う!!」

勇者「大罪を贖え、嫉妬!!」



たたかおうとする男を見て。

全身が震えた。

自分を守ろうと立つ男の表情は、こんなにも頼もしいものなのかと驚いた。

委ねたいと思わせる安心感があった。

紛れもなく、勇者と呼ぶべき存在であった。

伝説が生まれてから、伝説の姿が生まれるのではない。

名も無き時代から、既にそこにいるものたちは、伝説だと感じているのだ。

これが、英雄の姿なのかと。
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/29(日) 00:00:48.51 ID:lRCTzg150
嫉妬「……くだらん!!」

嫉妬「命を賭してまで守るべき他者など、存在するものか!!」

嫉妬は、妬みと嫉みの入り混じった形相で勇者を睨みつけた。

嫉妬「四肢をもぎ取ったあと再び尋ねてやろう!!そこの女の命と自分の命のどちらが大切かとな!!」

遊び人「あなたの望みは何なの?魔王を倒した存在として、世界の英雄になること以上の栄誉なんて……」

嫉妬「俺を奴隷として散々虐げてきたこの世界の、英雄になれと言うのか!!」

嫉妬「強国の姫君と結婚し、民の模範として清く正しく生きろというのか!また魔物の残党狩りなどにでろと言うのか!!笑わせてくれる!!」

嫉妬「俺はこの世界の王になるのだ!!全ての人間と、魔物の王に!!」

嫉妬「そして、俺以外の全ての人間は奴隷として生きるのだ!!」



嫉妬「暴食!!」

嫉妬「俺は俺が選ぶものを食すことを許される!夫婦の妻の人肉を食しても、夫は俺に感謝しなければならない!!」

嫉妬「色欲!!」

嫉妬「俺は俺が選ぶ女を犯すことを許される!街中の美しい女をすれ違いざまに犯しても民は見過ごさなければならない!!」

嫉妬「憤怒!!」

嫉妬「俺は好きな感情を出すことを許される!気まぐれに人を殺す!気に食わなかったら殺す!!気にいっても殺す!!」

嫉妬「傲慢!!」

嫉妬「民は俺をあがめ無ければならない!全ての民は俺が命じた時に俺に祈りを捧げる!!灼熱の地域で飢えている時でも、極寒の地域で疲弊している時でもな!!」

嫉妬「怠惰!!」

嫉妬「俺は何も生み出さぬことを許される!!民が必死に生み出したあらゆる財産は、俺の所有物となる!!」

嫉妬「強欲!!」

嫉妬「俺は更なる命を求める!そこの女との子供を生み、大罪の賢者の一族を復活させる!!我が子の寿命を大罪の装備に吸収させ、俺は永遠の寿命を得続ける!!」

嫉妬「嫉妬!!」

嫉妬「そして、勇者共!!俺の可能性を奪う可能性を持つ者ども!俺の欲望の一部を既に叶えしものども!こいつらから精霊の加護を奪い取り、俺は絶対的命の保証をする!」

嫉妬「人間にとっての最大の欲望は何か!!人間を支配することだ!!」

嫉妬「俺は、国王、勇者、魔王を超えた存在となり、この世界に君臨する!!!」

嫉妬「7つの大罪の装備を全て身につけることによって寿命を吸い生き続け、そして全ての欲望を満たし続ける!!」

嫉妬「俺は永遠にこの世界を支配するのだ!!!」

勇者「……てめぇ」

勇者「ふざけんじゃねえ!!!」

遊び人「勇者……」

勇者「色欲!!」

勇者「この子と大所帯をもつのは、この俺だ!!」
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/29(日) 00:06:27.77 ID:lRCTzg150
誰もが、美味しいものを食べていられる世界。

誰もが、美しく思う人と愛し合っている世界。

誰もが、自分で自分を誇りに思っている世界。

誰もが、感情を出すことを許されている世界。

誰もが、自由にゆったりと過ごしている世界。

誰もが、求め続ける事を認められている世界。

誰もが、他者を尊敬し合うことのできる世界。

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬。

7つの欲望が大罪と呼ばれたのは。

これらの世界が、諦めざるを得ない、夢物語であるからだ。

【最終章 魔王城 『命を越えた時間』】

けれど、たった1つだけ。

世界が滅ぶ、1日前に叶えることができるとしたら。

何をしてみたいですか。

まして。

これらの願いを超えるほどの出会いが、僅かにでもあるのなら。

そのためだけに、生きていたくないですか。
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 02:09:09.34 ID:SjD+g+AR0
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 21:16:58.45 ID:C5ujVBbk0
今日はあるかな
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:10:02.97 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人」

勇者は小声で尋ねた。

勇者「移動の翼で逃げ切れないかな。これだけ大見得を切った後に逃げ出せたら最高だろ?」

遊び人「私も考えたけど、ここだけ建物の周囲に結界が施されてるみたいなの」

勇者「そうか……」

勇者は地形を確認した。

建物は見た目こそ教会であるものの、広大な面積や、障害物の少なさ等から見て、明らかに戦闘場としての構造をしていた。

上を見上げると、豪華な装飾が施された照明が吊るされていた。太陽の光を吸収する発光石が埋められているものだ。

勇者「移動の翼を使っても、ふしぎなちからでかき消されるわけじゃないんだろ。遊び人、建物上部に吊るされている巨大な照明のところまで飛ぶんだ。その上に乗っかって避難しててくれ」

勇者「俺は大罪の装備を使うから。理性を失った時、遊び人を攻撃してしまうかもしれないから」

遊び人「……うん。わかった」
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:11:57.49 ID:BTByofbZ0
勇者「あと、もう一度確認したい。あいつの体内にはいくつの精霊が宿ってる?」

遊び人「……大きな白い塊になってて数がわからないの。でも、憤怒が精霊を破壊した時に、ゆらぎが生じて数を確認できたわ。その時は6つだった。そして、強欲の都で破壊したから、5体のはず」

遊び人「一度とどめを刺すのに使用した呪文や装備が全て攻略化されるとして」

遊び人「暴食の鎧。色欲の鞭。憤怒の兜。傲慢の盾。怠惰の足枷。強欲の腕輪」

遊び人「憤怒の兜と強欲の腕輪は攻略化済だから、大罪の装備だけだと4体分しか倒せない」

勇者「魔剣もある。あいつは精霊を犠牲にしてまで攻略化はしないって怠惰が言ってた。それでちょうど5体分だ」

遊び人「……そっか」フラ…

遊び人は、また倒れかけた。

勇者「遊び人!!」

勇者が抱きかかえると、身体中が震えていた。

顔は青ざめており、鼻からは血が出ていた。

遊び人「それに、あと、1回……」

勇者「えっ?」

遊び人「あと1回だけなら、呪文を使えると思うから……いざという時は……」

勇者「いざなんて起こさせない!なんなら、あいつの首飾りを奪えば勝利は確定なんだ」

勇者「勇者の俺に戦わなくていいって言ってくれただろ。遊び人のお前には戦わせないよ」

遊び人「私は、寿命泥棒だから……。勇者の寿命、また減っちゃうから……」

勇者「そんなことないよ。あいつ倒して、2人で1000才まで生きるんだろ?」

遊び人「……そうなの?」

勇者「今決めたんだ。ほら、行って来い」

遊び人「……うん。照明の上で遊んでくるね」

勇者「その意気だ」

遊び人は移動の翼を使用した。
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:12:40.64 ID:BTByofbZ0
嫉妬「大事な打ち合わせは事前にしておくんだったな。まだ1回呪文を使えるそうじゃないか」

勇者「遊び人様の出る幕なんかねーよ」

勇者は大罪の装備を取り出した。

嫉妬「そうか。確かに貴様らは幸運だ。失われた精霊の補充の準備をしていたが、明日整うはずだった」

勇者「明日まで延期しなくてよかったのかよ」

嫉妬「私もそうしたい気持ちは山々だったのだが。貴様らとの力の均衡が揃うのは今日だというからな」

嫉妬「強力な魔族に対抗できるよう精霊が人間に宿るのと同様、世界は平等を望む傾向にあるらしい」

嫉妬「嫉妬の首飾りがこちら側にある以上、俺は平等とも思っていないがな」
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:13:17.92 ID:BTByofbZ0
勇者「話を延ばして明日にまで延ばすつもりかよ。こっちは生き急いでるんだ」

勇者「さっそくだが、俺の故郷からのお返しだ」

勇者は怠惰の足枷を装備した。

勇者「廃人と化せ」

勇者は怠惰の足枷を使用した。



嫉妬の攻撃力が極限まで下がった。

嫉妬の防御力が極限まで下がった。

嫉妬の素早さが極限まで下がった。

嫉妬の魔力が0になった。

嫉妬の反応力が極限まで下がった。

嫉妬の集中力が極限まで下がった。

嫉妬の判断力が極限まで下がった。

嫉妬の決断力が極限まで下がった。

嫉妬は足元から崩れ落ちた。



勇者は剣を構えながら嫉妬に近づいた。

嫉妬は目を閉じていた。

勇者「このまま、首飾りを奪えば……」
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:14:13.86 ID:BTByofbZ0
勇者は嫉妬を殺害しないよう気を付けた。

大罪の装備を使用して殺害してしまえば、嫉妬の首飾りによって攻略化され、復活後の戦闘では無効化されてしまう。

裏を返せば、殺害に至らせなければ、いくらでも装備の効力を発揮できるということであった。

勇者「一生うなだれててくれ」

勇者は嫉妬の首飾りを奪おうとした。

その時嫉妬の目が開いた。

嫉妬は剣を握っていた手を動かした。

勇者は咄嗟に、怠惰の足枷を履いたまま嫉妬を首を踏みつけた。

足枷の底の無数の針が貫通し、嫉妬の首に突き刺さった。

嫉妬「ガァ……」



バリィイイイインン!!!!

嫉妬の精霊は破壊された。

死の刹那、嫉妬は怠惰の足枷に対する強烈な感情が芽生えた。

嫉妬は絶命した。
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:15:05.92 ID:BTByofbZ0
嫉妬は即座に棺桶に保管された。

神官としての職業が、嫉妬自身を蘇らせた。

嫉妬は復活した。

勇者「まずい……!!」

勇者は後方に飛び退き、距離を取った。



勇者「意思の薬を使用していたんだな!!」

嫉妬「その通りだ。だが、さすがは怠惰の足枷の効力だ。お前など簡単に斬りつけられたはずだったのだが」

嫉妬「いきなり首飾りを奪いに来るとはな。弱者にふさわしい戦い方だ」

嫉妬は余裕の表情を見せた。

嫉妬「さて、間もなくお楽しみが届くぞ」

勇者「何を……」

その時、上空から大きな声が聞こえた。

遊び人「勇者!!!精霊のゆらぎが見えたの!!」

遊び人「精霊が、まだそいつの体内に5体いるの!!」

遊び人「強欲の都での戦闘から、1体分補充していたんだわ!!」
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:16:01.77 ID:BTByofbZ0
嫉妬は笑いだした。

嫉妬「貴様らがのこのこ逃げている間に、俺ものんびりと待っていたわけではない」

嫉妬「精霊の取り込みには7体という上限がある。加えて、1体の取り込みには数ヶ月以上の歳月を要する」

嫉妬「憤怒の勇者に破壊された分は、王国に保管してある精霊のストックから吸収させてもらっていた」

嫉妬「さて、貴様らの計算によると、どうやらあの遊び人も一度は呪文を使う必要が出てしまったな」



勇者「くっ……」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

嫉妬「無駄だ」

嫉妬の首飾りが鈍く光った。


嫉妬の攻撃力は変わらなかった。

嫉妬の防御力は変わらなかった。

嫉妬の素早さは変わらなかった。

嫉妬の魔力は変わらなかった。

嫉妬の反応力は変わらなかった。

嫉妬の集中力は変わらなかった。

嫉妬の判断力は変わらなかった。

嫉妬の決断力は変わらなかった。

嫉妬に変化は生じなかった。

嫉妬「貴様ごときの所有物に対する妬みが、1つ減ったというわけだ」

嫉妬「無効化に消費する寿命は僅かとされているのは聞いておろう。無数に唱えようが貴様の寿命が尽きるほうが先だと思うが」

勇者「俺は、俺に出来ることをやるだけだ!」

勇者は怠惰の足枷を脱いだ。

勇者は暴食の鎧を取り出した。
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:16:39.69 ID:BTByofbZ0
勇者が装備を身に付けようとしている間に、嫉妬は薬瓶を飲んでいた。

勇者「……魔力を回復する薬瓶か」

嫉妬「こればかりは精霊の加護による復活でも回復できんのでな」

嫉妬「『マハンシャ』」

嫉妬の身体を魔法反射壁が覆った。

勇者「なんだか、人間らしい戦い方をするじゃんか」

勇者「『マハンシャ』」

勇者は新しく覚えた呪文を唱えた。

勇者の身体を魔法反射壁が覆った。

嫉妬「俺達ほど人間らしい人間もそうはいないだろう。人間らしさの欠片も無い人間こそ、最も人間らしいというものだ」

勇者「……これからの俺を見て、もう一度同じことを言えるのかよ」

勇者は暴食の鎧を身に着けた。
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:18:46.43 ID:BTByofbZ0
勇者「…………フー。フー」

勇者は目を血走らせて周囲を見た。

勇者「フー。フー。フー……」

今にも死んでしまいそうなほどの飢えを感じていた。

目に映る光景全てを胃袋に収める衝動に駆られた。

嫉妬「魔法壁ほど焼き尽くしてくれる!!」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬が呪文を唱えると、雷撃が勇者に向かって迸った。

勇者「ウガァアアアア!!」

ゴクリ……。

勇者は雷撃を飲み込んだ。

嫉妬「……なら、分裂なら防げまい」

嫉妬は剣を収め、炎の玉を両手に創り出した。

嫉妬が呪文を放つと、勇者の両脇へと呪文が飛んだ。

勇者「ウガァアアア!!」

勇者は自身の身体の大きさ以上に口を広げ、バクン、と二つの玉を同時に飲み込んだ。

嫉妬「なるほど。だが」

嫉妬はその隙に勇者の懐へと入った。

嫉妬「終わりだ」

嫉妬は勇者の喉元へと剣を突き刺した。

勇者「ギッ……!!」
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:19:21.75 ID:BTByofbZ0
勇者は目を反転させた。

しかし、暴食の鎧は勇者の胃袋を休ませなかった。

勇者が喉を動かすと、突き刺さった剣は胃袋へと流れていった。

嫉妬「……化物か」

勇者は嫉妬の右腕を喰らった。

勇者の喉の傷はたちまち癒えた。

勇者「ウゥウウゥワアアアアアアア!!!!!」

勇者は大口を開けた。

嫉妬の身体を超えるほどの大穴が目の前にあった。

嫉妬「これが、暴食の鎧の力か」

勇者は嫉妬を、丸ごと飲み込んだ。

勇者「……グェップ」




バリィイイイイイン!!!

精霊の砕ける音が勇者の胃袋から響いた。

死の刹那、嫉妬は暴食の鎧に対する強烈な感情が芽生えた。
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:19:52.55 ID:BTByofbZ0
遊び人「どうしたのかしら……」

遊び人が上空から勇者を見下ろしていると、勇者が呻いているのが見えた。



勇者「……ウオェ。ウボェ……」

勇者「オェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

勇者は大口を開け、胃袋に飲み込んだものを吐き出した。



嫉妬「……くそが。地獄のような居心地だったぞ」

嫉妬は簡単な浄化呪文を自分にかけた。

勇者「……うおぇ。うげぇええ……」

正気を取り戻しかけた勇者は、暴食の鎧を脱ぎ捨てた。

勇者「……お前のクソ不味さが、胃袋から口内にまで広がってきたぞ……うぉええええ!!!」

ビチャビチャビチャ!!!!

嫉妬「口に合わなかったようで残念だ」

嫉妬は鈍い光を放ち終えた首飾りを撫でた。
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:21:06.14 ID:BTByofbZ0
勇者「残り4つ……」

勇者「頼んだぞ、俺の相棒よ」

勇者は色欲の鞭を取り出した。

嫉妬「俺を興奮させようというのか?」

勇者「野郎同士で交わる趣味はねーよ。少なくとも俺はな」

上空から聞こえる声を無視して、勇者は色欲の鞭を装備した。



勇者「…………ハァ…ハァ…」

勇者は肉体が高潮していくのを感じた。

勇者「陵辱…シテ…ヤル…」

嫉妬「弱き者が高き者を抱くことなどできないのだがな」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬は電撃呪文を唱えた。

勇者は鞭をふるった。

撫でられた電撃は従順になり、鞭にまとわりついた。

勇者「『火炎ノ精』!!!」

勇者は火炎呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「『氷水ノ精』!!!」

勇者は氷水呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「『風塵ノ精』!!」

勇者は風の呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「交ワレ!!」

勇者は鞭を無茶苦茶に振り回した。

相異なる4つの属性は、お互いを相殺し合うことなく交わり合いだした。

鮮やかな四色の呪文は、溶け合いながら変色をした。
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:22:08.76 ID:BTByofbZ0
嫉妬「馬鹿な……!3属性以上の合体だと!」

勇者「ウグッゥゥゥゥゥゥウ!!!」

勇者は一層激しく鞭を振り回した。

呪文はお互いを激しく求めあった。

鞭には、鮮やかな漆黒色が纏わり付いていた。

勇者「ウァアアアアアアア!!!!」

勇者は鞭を嫉妬に叩きつけた。

嫉妬は咄嗟に結界を張った。

鞭は結界の表面で弾かれた。

嫉妬「はぁ…はぁ…威力はないようだな…」

嫉妬「……なっ!?」

鞭に纏わり付いていた漆黒色が結界に纏わり付いた。

黒色はウヨウヨと無数に分裂し、一つ一つが小さな生命体として運動を始めた。

結界はゴリゴリと削れていった。

勇者「破レ!!!!」

結界は瞬く間に崩壊し、黒色の粒の波が嫉妬の身体に覆いかぶさった。

嫉妬「……グァアアアアアアアアア!!!!」

嫉妬の髪、眼球、胸、下半身。

身体の隅々にまで行き渡った生命は表面から食い破った。

無数の命の種子は、嫉妬の心臓を食い破った。



バリィイイイイイン!!!!!

ガラスの割れる大きな音が聞こえた。

死の刹那、嫉妬は色欲の鞭に対する強烈な感情が芽生えた。
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:22:50.73 ID:BTByofbZ0
勇者「ハァ……ハァ……」

勇者「ハァ……ッ!?」

一度死亡した嫉妬は、精霊の加護により復活した。

嫉妬の首飾りが鈍く光ると、黒色の生命はお互いを憎み合い始めた。

先程まで協力しあっていた無数の命は、自分の欲望を最優先させ殺し合いを始めた。

勇者は途端に空虚さと罪悪感に襲われた。

鞭はもはや艶めかしさを失っていた。

勇者は色欲の鞭を手放した。

嫉妬「命を奪う種子か。寿命を食らう鞭にふさわしい使い方であったぞ」

嫉妬「さて、次はどうする?」
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:23:44.29 ID:BTByofbZ0
勇者「残り3体……」

勇者は傲慢の盾を取り出した。

嫉妬「虫唾が走るな。俺様の装備を貴様が使っているのを見るとな」

勇者「くれたんじゃなかったのかよ」

嫉妬「貴様に永遠の命などふさわしいものか。傲慢も甚だしい」

勇者「だったら余計にこの装備が俺にふさわしいじゃねえか」

傲慢「奢るものは久しからずという言葉も知らないのか」

勇者「そうやって傲慢を知った気になってることを、傲慢っていうんだよ!!!

勇者は傲慢の盾を使用した。
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:24:30.31 ID:BTByofbZ0
嫉妬はほくそ笑んでいた。

勇者は傲慢の盾の効力を、傲慢の勇者の話から聞いた限りで知っている。

一方、嫉妬は一度傲慢の盾を長い間保有していた。

当然、その効力については熟知している。

嫉妬は剣を懐にしまった。

勇者「くっ!」

嫉妬「お気づきの通り。その盾は、攻撃を仕掛けた者にしか効力を発揮しない」

勇者「だったら、一方的に殴りつけて……」

嫉妬「『風塵の精』!!」

嫉妬は自分の周囲に、高速で蠢く風の刃を出現させた。

嫉妬「あくまで防御としての役割だ」

嫉妬はそういうと、地面に座り込んだ。

地面に魔法陣を描き、詠唱を唱え始めた。

上空から遊び人の声が響いた。

遊び人「勇者!!そいつの詠唱を中断させて!!」

遊び人「大量召喚の術式よ!!」
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:25:05.81 ID:BTByofbZ0
遊び人「無数の小さな魔物を出現させるつもりなの!!傲慢の盾で全滅させようものなら中毒で倒れるか、寿命が尽きてしまうわ!!」

勇者「どうすりゃいんだよ!!」

嫉妬の周囲には風塵が巻き起こっており、傲慢の盾を前にして突き進んでも勇者の身体を守れそうにはなかった。

また、嫉妬にかけられている魔法反射を打ち砕くほど、勇者は強力な魔力を持っていない。

遊び人「武器を持ち替えて!!」

勇者「何にだよ!!」

遊び人「早く!!」

勇者が慌てふためいていると、頭上から魔法銃を発射する音が聞こえた。
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:25:36.73 ID:BTByofbZ0
遊び人「きゃああああああああああ!!!」

吊るされた巨大な照明ごと、遊び人が頭上から落ちてきた。

異変に気づいた嫉妬は召喚の呪文を中断した。

同時に、嫉妬の周囲を覆っていた風塵は消え去った。

嫉妬「まずい……!」

嫉妬は咄嗟に、遊び人の落下地点を予測し風塵の呪文を唱えた。

風は切り刻む刃としてではなく、衝撃緩和としての役割を果たした。




勇者「っっっ!!!!」

勇者の突き出した魔剣は、嫉妬の身体を掠めた。

嫉妬は反射的に態勢を変え、勇者の攻撃を躱していた。
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:27:14.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……貴様」

嫉妬「仲間の女を囮にして敵に救出させ、その間を突いたか!!」

嫉妬「どこまでも勇者にふさわしくない奴だ!!」

嫉妬は怒りの形相を浮かべた。

嫉妬「『レヴィアタン』!!!!」

勇者「ぐぁあああああああああ!!!!!」

勇者は雄叫びをあげた。

嫉妬「この俺を侮辱するような真似をしてくれたな!!!」

嫉妬は勇者の右腕をめがけて剣を振るった。

嫉妬「お前はただでは殺さん!!その寿命が尽きるまで、永遠に拷問を加えてやろう!!」

嫉妬は勇者の左腕をめがけて剣をふるった。

勇者「ぐぅぅうううあああ!!!???」

嫉妬「貴様は!!貴様は!!!」

嫉妬は勇者の身体をめがけて何度も剣をふるった。

嫉妬の前には、四肢を切断され、血しぶきをあげている勇者の姿があった。

嫉妬は屈み込み、倒れている勇者に顔を近付けた。

嫉妬「貴様だけは死ぬことさえ許さん!!!!」

勇者「それは助かる」

嫉妬の背後から、大きな盾が振り落とされた。

嫉妬「ガァ……!?」

盾の下部の先端が、嫉妬の首の骨を折った。





バリリイイイインン!!!!!

精霊の砕ける音が響いた。

死の刹那、嫉妬は傲慢の盾に対する強烈な感情が芽生えた。
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:28:26.01 ID:BTByofbZ0
勇者は遊び人の元まで駆け寄った。

勇者「無茶すんなって言っただろ!!」

遊び人「あいつは私を守らなくちゃいけないから……でも、精霊を1つ破壊できた」

勇者「お前を守らなくちゃいけないのは俺だっての」



嫉妬が召喚及び風塵の呪文を中断させ、遊び人が落下した直後、勇者は魔剣を持ち嫉妬に近づいた。

魔剣による攻撃は失敗したが、左手で傲慢の盾を構えていた。

怒りに身を任せた嫉妬は勇者を攻撃したため、傲慢の盾が発動した。

傲慢の盾の能力は、錯覚。

相手が自身を勝者だと思いこむような幻想を見せつける。

嫉妬は己の理想の光景を思い描いた結果、本来何もない空間に、勇者が瀕死になりかけている幻想を見ることとなった。



勇者「残り2体……」
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:29:14.31 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人。頼みがあるんだ」

遊び人「うん」

勇者「俺が魔剣であいつの精霊を破壊する。そしたら……」

遊び人「呪文を使って最期の精霊を破壊してほしいんでしょ?」

勇者「……悪い」

遊び人「帰ったらゆっくり寝るから大丈夫だよ」

勇者「聞いておきたいことがある」

勇者「あいつがイレギュラーと呼ぶような呪文はあるのか?あいつがまだ絶対に対象化していないような……」

遊び人「無いって言ったら絶望だよね」

勇者「笑うしかない」

遊び人「負けて無理やり笑う必要なんかないよ」

遊び人は声を潜めて勇者に言った。

遊び人「お姫様から情報を掴んでるの。嫉妬は、禁術に対する対象化をいくつか行えていない。撃退できる呪文は覚えてるわ」

勇者「……わかった」

遊び人「さっ、早く終わらせてカジノにでも行きましょ。私は後ろで見守ってるから」

勇者「緊張感の無いやつだ」

勇者は再び力を込めて魔剣を握った。
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:30:59.40 ID:BTByofbZ0
嫉妬「俺に剣技で挑むか。裸で臨むようなものだが」

勇者「こいつにも手伝ってもらう」

勇者は、既に攻略化されている強欲の腕輪を装備した。

勇者の意識ははっきりとしていた。

勇者「やはり、理性を奪うような装備じゃないんだな。通常時と感覚は違うけど、闘志が沸くような感じだけだ」

勇者は魔剣を構えた。

勇者「やっぱり最後は、捨て身しかねえよなぁ!!」

勇者は嫉妬に向かって突進した。

嫉妬「愚かな」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬から雷撃が迸った。

勇者「『マハンシャ』!!」

勇者が一度呪文を唱えると、嫉妬の周囲を32個の魔法反射鏡が覆った。

雷撃は乱反射し、嫉妬自身を襲撃した。

嫉妬「仕方あるまい」

嫉妬の首飾りが鈍く光った。

強欲の腕輪は黄金色の輝きを失い、32個の魔法反射壁は1つにまで減った。




瞬時に背後を取っていた勇者は、魔剣を嫉妬に突き出した。

勇者「くらえ!!!」

しかし、嫉妬は振り返らないまま剣を後ろ手に持ち、勇者の攻撃を防いだ。

勇者「なっ!?」

嫉妬「……気配が丸わかりだ」

嫉妬は勇者を蹴りつけた。

勇者「ぐはっ!!」
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:32:00.34 ID:BTByofbZ0
勇者「だったら……」

勇者は攻略化済みの憤怒の兜を取り出し、装備した。

勇者「ウグググ……!!!!」

勇者は魔剣を口に加え、獣のような姿勢を取った。

勇者「ウグァアアアアアアア!!!!」

一瞬の速度で、嫉妬の懐へと入った。

嫉妬「無駄だと言っておろう」

嫉妬の首飾りが鈍く光ると、勇者の頭は急速に平静を取り戻した。

嫉妬「遅すぎる。攻撃も直進的だ」

嫉妬は再び勇者を蹴りつけた。

勇者「ぐぼっ……!!」

勇者は無様に吹き飛んだ。

勇者「…………ぐっ」

勇者は無口詠唱で、中級の回復呪文を唱えようとした。

嫉妬「『マフウジ』」

呪文は勇者の魔法反射を突き破った。

勇者は呪文を封じられた。

嫉妬「教会で憤怒に身を委ねるのは、どこぞの勇者と似た者だな」

嫉妬「そういえば、かつてパーティメンバーであった僧侶の女から教えてもらったことがある」

嫉妬「あなたは救われていますか、との問いかけの意味はこうであるらしい」

嫉妬「あなたは神の怒りから救われていますか。であると」

嫉妬「貴様は怒りから見放されて絶望しているようだがな」
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:32:30.05 ID:BTByofbZ0
嫉妬は倒れて呻いている勇者の手を踏みつけた。

勇者「っっっ!!?」ポキ…

嫉妬「返して貰うぞ」

嫉妬は魔剣を拾い上げて、装備した。

嫉妬「精霊を破壊できる手段の数が揃えば俺に勝てるとでも思ったか」

嫉妬「自分の実力不足を考慮に入れなかったことを嘆くんだな」

嫉妬は勇者の身体に魔剣を突き刺した。

バリリリンン!!!

精霊の砕ける音が響いた。

嫉妬「命はまだ奪わん。拷問がまだ足りていないのでな」
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:33:39.92 ID:BTByofbZ0
勇者「ぐぼっ……ぐぶっ!!」

嫉妬は勇者を蹴りつけた。

勇者「うぼぉぉええ……」ビチャビチャ…

遊び人「勇者!!!」

勇者は嫉妬に嬲られ続けていた。。

嫉妬「殺さぬ程度に抑えるのも難しいな」

嫉妬「貴様にも寿命を分け続けて、数百年以上拷問を与え続けようとも思っているのだが」

勇者「……うううぁああ!!」

勇者は身体を無理やり引きずった。

嫉妬「まだ抗うか。よろしい。絶望するまで好きにさせてやろう」
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:36:32.92 ID:BTByofbZ0
勇者「お前……なんかに……」

勇者「遊び人の時間を渡せるか!!」

勇者は再び、大罪の装備を全て取り出した。

勇者は暴食の鎧を装備した。

勇者は色欲の鞭を装備した。

勇者は傲慢の盾を装備した。

勇者は憤怒の兜を装備した。

勇者は怠惰の足枷を装備した。

勇者は強欲の腕輪を装備した。

勇者は攻撃をしかけようとした。

しかし。

勇者「…………ッッッッッ!!!!!」

嫉妬「愚か者め」

勇者「イィ、イギギギギ!!!??」

勇者「ギィイイヤアアアアアア!!!!!」

遊び人「勇者!!!」



勇者はのたうちまわった。

6つの欲望が装備者のコントロールを奪い合った。

勇者は痙攣をし、泡を吹き出した。

嫉妬「無様な格好もいいところだ!!」

嫉妬「どうして嫉妬の首飾りが7つの大罪の装備において頂点に君臨するか理解していないようだな!!」

嫉妬「この装備がなければ他の全ての装備を同時に操ることもままならない。寿命の吸収もこの首飾りがあるからこそできることなのだ」

嫉妬「生命の安全を確保できる日までは精霊を温存し、攻略化を躊躇していたが。貴様のおかげで手間も省けた」

嫉妬「見世物はもうそのへんでよい」

嫉妬が勇者に近づいた。
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:37:52.36 ID:BTByofbZ0
勇者「……ぐぁああああ!!!」

勇者は渾身の力を振り絞り、大罪の装備の力を全て発動した。

勇者「ググッ……ググッ!!!!」

大量の寿命の消費と引き換えに、凄まじい呪力の気配があたりを包んだ。

嫉妬はため息をついた。

嫉妬「……貴様を活かすのは辞めだ。寿命がいくらあっても足りなそうだ」

嫉妬の首飾りが光ると、呪力の気配は瞬く間に霧散した。

勇者はほとんど意識を失いながら、嫉妬を前に棒立ちに立っていた。

嫉妬「……お遊びにはもう飽きた。死ぬがよい」

嫉妬「『レヴィアタン』」




我を失っている勇者に、嫉妬は雷撃を放った。

しかし、勇者の身体は動き、雷撃を躱した。
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:38:46.67 ID:BTByofbZ0
遊び人「飽きてないよ。私はまだまだ、遊んでいたい」

遊び人は手を突き出し、小指を巧みに動かしていた。

勇者は朦朧とした意識のまま、遊び人のコントロールに従い移動をした。

嫉妬「赤い糸の呪文か。自分を守れなかった男のことが、そんなに愛おしいか」

無様によろけながらも、勇者は遊び人の元へたどり着いた。

遊び人「おかえり、勇者。がんばったね」



倒れ込んだ勇者は、顔だけを動かした。

視界の中に、人間の女が映り込んだ。

勇者「……ウグァアアア!!!」

勇者は目の前の肉を食したくなった。

勇者は目の前の美貌を犯したくなった。

勇者は目の前の命を軽んじたくなった。

勇者は目の前の存在に激怒をぶつけたくなった。

勇者は目の前の存在を支配したくなった。

勇者は目の前の存在に全てを投げ出したくなった。

勇者は大罪の装備の力を使用しようとした。

しかし、寿命が足りなかった。

嫉妬「もはや、装備の使用に必要な最低な寿命さえ残っていないのだろう。端数分だけの時間しかそいつには残されていない」

嫉妬「せめて、冥土の土産にそいつが望む快楽でも与えてやったらどうだ?」

嫉妬はあざ笑うかのような目で蔑みの言葉を投げた。
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:42:56.50 ID:BTByofbZ0
遊び人「……そうね」

遊び人「罪じゃないもの。罪じゃなかったもの」

遊び人「これらの装備を持っていた勇者達もきっとそうだったはず。誰も、欲望なんて制御することなんてできなかったと思う。抗うことはできても、打ち克つことなんてできなかったのよ」

遊び人は勇者に身についていた装備を一つずつ丁寧に外した。

遊び人「欲望に苦しめられた彼ら彼女らはきっとこう思ったのよ。満たせぬ欲望があるくらいなら、いっそのことなくなってしまえばいいと」

遊び人「7つの大罪に勝る8つ目の欲望があるとするなら」

遊び人「それは、禁欲ね」

勇者の装備は全て外された。

嫉妬の暴行によって、身体はぼろぼろになっていた。



遊び人「がんばったね」

意識の失いかけた勇者に遊び人は言葉をかけた。

遊び人「正直なところさ」

遊び人「生きることは、つらいよね」

遊び人は、困った表情をしながらも、笑顔で言った。

遊び人「ずっとずっと、遊んでいたいよね」

遊び人は、勇者の前で祈るように手を組んだ。

嫉妬「……これは!!」

嫉妬「感じたことのない生命の流れ!!何をするつもりだ!!」

嫉妬は咄嗟に、防御呪文を唱えた。

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「ありがとう」

勇者「…………」

遊び人「戦ってくれて、ありがとう」

遊び人からやさしい気持ちがあふれだした。



瀕死の勇者の傷が癒え始めた。

勇者の出血が止まった。
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:48:31.53 ID:BTByofbZ0
嫉妬「何をするかと思えば!!」

嫉妬「書物で目にしたことがある!遊び人という職業を極めた者のみが発動することができる癒やしの技!!」

嫉妬「ふははは!!これは驚いた!!賢者になるための踏み台に過ぎないその職業を極めた愚か者がおろうとはな!!」

嫉妬は愉快そうに笑った。




勇者は意識を取り戻した。

勇者「……ここは」

遊び人「教会の下。あるいは私の膝の上」

勇者は記憶をたどりながら、心から悔やんだ表情をした。

勇者「……駄目だった。まだ奴の体内に2体の精霊がいる」

勇者「遊び人の呪文で1つ破壊しても、1体残ってしまう……」

勇者「俺が強ければ……魔剣で倒すこともできたのに……」

勇者は打ちひしがれた表情をしていた。

勇者「一か八かの作戦があるんだ」

勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」

遊び人は首を横に振った。

遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」

勇者「そんな……」

勇者は絶望の表情を浮かべた。

勇者「俺が、弱いばっかりに……」

遊び人は勇者の背中を撫でた。

遊び人「勇者。こんな時どうすればいいか知ってる?」

勇者「わからないよ」

遊び人「逃げるんだよ」
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:49:07.08 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者を背負った。

大罪の装備を置き去りにして、出口へとゆっくり進んだ。

勇者「えっ、ちょ、ちょっと。いてて……」

勇者は思わず笑ってしまった。

勇者「建物でも破壊して、移動の翼で逃げるのか?」

遊び人「それは難しいね。結界が何重にも覆っているみたいなの。爆発呪文を一度唱えても全部壊しきれないな」

勇者「じゃあどうするんだよ」

遊び人「だから、逃げるんだってば」

広大な教会の中で。

嫉妬の勇者から離れるように、遊び人は勇者を背負ってとても遅い速度で歩いていた。

出口までの距離は長かった。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:50:33.88 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……もう少し賢い女だと思っていたのだが。その男と冒険をしていた時点で、たかが知れていたというわけだ」

嫉妬はうんざりした表情で、同じ様に歩みを進めた。

嫉妬「もう、こいつらはいらないのか?」

嫉妬は地面に散らばった6つの大罪の装備のそばにたどり着くと、遊び人に尋ねた。

遊び人「あなたはそれを欲しいんでしょ?」

遊び人は歩みを止めた。

勇者をゆっくりと降ろした。

勇者が遊び人を見上げると、口にやくそうのようなものを含むのが見えた。


遊び人は振り返り嫉妬に正面から向き合った。

嫉妬「欲しいかだと?くだらない質問だ。時間稼ぎのつもりか」

遊び人「時間稼ぎする時間なんてないよ。寿命が尽きてしまうんだもの」

嫉妬「だとしたら答えてやろう。俺はずっとこれらを求め続けていた」

嫉妬「お前を孕ませ、大罪の一族を復活させる日が待ち遠しいぞ。我が子を寿命の素材にして永遠に生きる日々がな」

遊び人「そう。あなたの気持ちはわかったわ」

遊び人「他人を羨んで生きてきた嫉妬の勇者さん。それらがどうしても慾しいのね」

遊び人「『喉から出た手で殺してしまうほどに』」
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:52:16.01 ID:BTByofbZ0
嫉妬「貴様!!何をするつもりだ!!」

遊び人の足元に、魔法陣が現れていた。

遊び人「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、彼の者へふさわしい大罪の職業を与え給へ』」

遊び人は強制転職呪文をつかった。

嫉妬の勇者に命中した。

嫉妬「ぐぁっ!!!」

嫉妬は強制転職させられた。

遊び人は今までに身に着けた遊びに関する知識を全て忘れてしまった。

遊び人は今までに覚えた道楽のスキルを全て忘れてしまった。

遊び人は”遊び人”の職業を失い、”大罪の賢者”へと職業を戻された。

勇者「どういうことだよ!!」

遊び人「学び尽くすことのできない人生だったけれど、遊び尽くすことはできたみたい。勇者のおかげだね」

遊び人「これで職業の枷は取れたわ。呪文も使い放題」

遊び人「遊び人の宿命は、最後は賢者として人一倍働くことだって決まってるのよね」
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:53:09.43 ID:BTByofbZ0
嫉妬「ふざけるな!!」

嫉妬は焦燥に駆られていた。

強欲の都で遊び人の祖父から『遊び人』への強制転職呪文をかけられそうになったことを思い出していた。

もしも遊び人にされているのであれば、逃げるしか選択はなかった。

嫉妬「くだらんやつめ!!やはり時間稼ぎか!!」

嫉妬は首飾りを発動し、外に張られている結界を自身に対してのみ無効化した。

嫉妬は懐にしまってあった移動の翼を使用した。


嫉妬「止むをえん!!」

嫉妬はにげだした。

しかし、まわりこまれてしまった!

遊び人「逃げたい時に限って逃げられないってこと、教えてあげるわよ」

嫉妬「なっ……」

遊び人「『かさ』」

嫉妬の頭上に巨大な葉っぱが現れた。

遊び人「『あめ』!」

滝のように降り注ぐ水が嫉妬を地面に打ち付けた。

嫉妬「ぐはっ……!!」
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:54:58.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬は無様に地面に転がった。

嫉妬「はやく、対抗呪文を唱えなければ……」

“遊び人”に転職させられていると思っていた嫉妬は、意思の薬を口に含んだ。

しかし、効果はなかった。

嫉妬「……この感覚は」

嫉妬は異変に気づいた。

勇者「……一体何が」

勇者も状況を把握しきれていなかった。



嫉妬「これは、漏出?」

嫉妬は自分の体内から、凄まじい速度で時間が流れていくのを感じた。

その時、地面に散らばっていた大罪の装備が震えだした。

嫉妬「まさか!!俺の職業は!!」

嫉妬「”大罪の賢者”!!」

嫉妬の首飾りを除く6つの大罪の装備から、”大罪の賢者”を飲み込もうとする青白い手が伸びた。

最も近い距離にいた嫉妬の全身を、6つの手が絡め取った。

嫉妬の首飾りから出現した大罪の手は、自身の宿り主を守ろうと、6つの手に抗った。
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:57:39.85 ID:BTByofbZ0
勇者「ふざけるなよ……」

勇者は涙を流していた。

強制転職呪文だけは、絶対に使用してはいけないという取り決めをしていたのだった。

勇者「大罪の賢者に戻ったら、お前もあの手に飲み込まれるじゃんかよ……」

里の賢者を全滅させた腕を、防ぐ方法などあるはずもなかった。

遊び人「勇者、聞いてほしいことがあるの。まだ2人が生き残る方法が一つだけありそうなの」

遊び人「私も強制転職呪文を使う想定をしていなかったから、今閃いたばかりなんだけど。それに嫉妬の首飾りの対象化が、奴の意思に関わらずに発動するってことに賭けるしか無いんだけど……」

勇者「なんでもいい、話してくれ」

遊び人「あの手が嫉妬の精霊を破壊したあと、一体だけ精霊が残るはず。ここで重要なのはね、嫉妬の職業の果たす役割についてなの」

遊び人「強制転職呪文はね、本来なら踏むはずの転職の過程を大幅に省略しているの。そのせいか、前の職業の名残がどうしても色濃く残ってしまうの」

遊び人「私が大罪の賢者から遊び人になっても寿命の漏出がとまらなかったように。嫉妬が神官から大罪の賢者に転職をしても、神官としての名残は残る。つまり、嫉妬がその場で復活することには変わりないの」

遊び人「6つの装備に宿る大罪の手を嫉妬は攻略化、無効化するはず。今度は、嫉妬の首飾りに宿る白い手は私に伸びてくる。里を滅ぼした最強の手だけれど、たった一つだけ食い止めることの出来る呪文が存在するの」

遊び人「里が滅ぼされた時と違って、今は嫉妬の首飾りが存在する。だからね、勇者が……」

バリリリンン!!!!!!

遊び人の言葉を遮り、精霊の砕ける音が響いた。

死の刹那、嫉妬は大罪の手に対する強烈な感情が芽生えた。
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:00:02.64 ID:BTByofbZ0
大罪の手に飲み込まれた嫉妬は精霊を破壊され、死亡した。

嫉妬に残された一体の精霊の加護によって、その場で蘇生をすると即座に嫉妬の首飾りを使用した。

嫉妬の首飾りは、たとえ大罪の賢者であろうと、自身の宿り主への殺意は芽生えなかった。

嫉妬の首飾りは、他の6つの大罪の手を攻略化し、無効化した。

6つの大罪の手は、寿命を奪う意思を失い、各々の装備の中へと吸い込まれていった。

嫉妬「……はぁ……はぁ」

嫉妬「……愚かな。こいつだけは、俺にも止められんぞ……」

嫉妬「何もかも終わりだ……お前らの命も、俺の永遠の命も……」

嫉妬「俺達の未来は、失われたんだ……」

嫉妬の首飾りから、大罪の手が遊び人へと伸びた。
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:01:23.13 ID:BTByofbZ0
伸びてくる大罪の手に対して、遊び人は片手を前に突き出した。

勇者「遊び人!!」

遊び人「あのさ、勇者」



里の大賢者と呼ばれる者達が、あらゆる呪文を放っても防ぐことのできなかった大罪の手。

しかし、当時彼らが放った呪文は、全て生き延びるための呪文だった。

大罪の一族には広く知られていない禁術が、1つだけあった。

それは、威力、持続性において、非一族の世界で最強とされている呪文だった。

遊び人「寿命泥棒で、ごめんね」

遊び人は呪文を唱えた。




遊び人「『総魔力放出呪文(くろいいと)』」



遊び人のひとさし指から、一本の黒い糸が伸びた。
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:02:10.43 ID:BTByofbZ0
遊び人の寿命と引き換えに、膨大な力が解き放たれた。

遊び人の中に生きる命の秒数が、凄まじい速度で減少しはじめた。

遊び人「くっ……!!」

勇者「遊び人!!」

黒い糸は、大罪の手に真っ向から衝突した。

嫉妬「全ての魔力を消費する禁術!!」

嫉妬「寿命を魔力に変換する大罪の賢者が使用することは、確実な死を意味するはずだ!!」

嫉妬「俺を殺すためだけにこんな……!?」

嫉妬「いや、奴らの狙いは!!」
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:02:39.82 ID:BTByofbZ0
勇者は、嫉妬の王国で遊び人と交わした会話を思い出していた。

遊び人『嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい』

遊び人『だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの』

勇者『一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん』

遊び人『そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい』

勇者『じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな』
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:03:52.03 ID:BTByofbZ0



―――――。



勇者「……そうだ」

勇者「今の俺の寿命でも、嫉妬の首飾りなら……!!」

勇者「まだ、可能性はある!!」

勇者「遊び人!!」



遊び人「……うううう」

遊び人「あぁああああああああああ!!!!!!」

遊び人は全身に力を込めた。

嫉妬「貴様ぁ!!!」

遊び人「必死で抵抗してくるってことは、やっぱり対象化していなかったようね!」

遊び人「この呪文を使える術士は、世界にそういないでしょうから!!」
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:06:05.24 ID:BTByofbZ0
里最大の呪力を持つ遊び人の呪文は、大罪の手の力をわずかに上回っていた。

遊び人「あんたは…寿命を奪うだけでしょ…」

遊び人「こっちは、寿命削って生きてるのよ!!」

黒い糸は大罪の手を削りながら突き進んだ。


遊び人「私は、私は……」

遊び人「私も……」

遊び人「私の命を願う人達の、寿命を背負ってここまで……」ポロポロ…

遊び人「寿命を奪って……」ポロポロ…

遊び人は、涙を流し始めた。

遊び人は、最高峰の賢者でありながらも。

心は、脆い少女でった。

遊び人「私は……みんなを死なせてしまっただけの……」

倒れていた勇者は、ぼろぼろの身体を起き上がらせて叫んだ。

勇者「お前はただの野菜泥棒だろ!!」

遊び人「……勇者?」

勇者「俺はなんて呼ぶんだよ!!自分を頼ってくれたたった一人の女の子さえ守れなかった俺は!!」

勇者「いつまで……!いつまで経っても……!」

勇者「俺は、人殺しだから!!」

遊び人「私は、寿命泥棒だから……」

勇者「寿命泥棒なんかじゃない!!生きる意味そのものを俺にくれただろ!!」

勇者「生きてるだけの時間が生きてる時間じゃないって、遊び人が教えてくれたんだ!!」

勇者「今までの冒険は、永久の命で世界を支配するよりも、ずっとずっと価値のある時間だった!!

勇者「だから!!」

勇者「これからも、2人で生きるんだよ!!!」ポロポロ…

勇者は涙を流した。

遊び人は、自分の中にあたたかい気持ちが沸くのを感じた。

遊び人「…………弱み」

遊び人「優しすぎるところ」
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:09:16.50 ID:BTByofbZ0
遊び人は全ての力を糸に注いだ。

遊び人「はぁあああああああああ!!!!!」

寿命を最大限に込め、遊び人の攻撃力は最大に達した。

嫉妬「ぐぁっっっ!!?」

黒い糸は、大罪の手を突き破った。

嫉妬「ガァッ……」

黒い糸は嫉妬の首を貫いた。

死の刹那、嫉妬は遊び人の放った禁術に対して強烈な感情が芽生えた。

ガラスの激しく割れる音が聞こえると同時に、嫉妬がその場に倒れ込んだ。

嫉妬は首から血を流したまま地面に横たわった。

肉体保護の棺桶が出現することも、復活することもなかった。

嫉妬は全ての精霊を失い、絶命した。

勇者達は勝利した。
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:10:51.96 ID:BTByofbZ0
勇者「まだだ……!!」

勇者は状況を確認した。

嫉妬の首飾りから現れた大罪の手は敗北を認め、嫉妬の首飾りの中に潜り込んでいった。

他の大罪の装備は嫉妬の首飾りに無効化されたままであり、同様に大罪の手が出現する気配はなかった。

問題は、遊び人であった。

遊び人「……はぁっ……くっ!!」

遊び人の指からは未だに総魔力放出呪文が発動し続けていた。

嫉妬を撃退した遊び人は、寿命の漏出を必死に制御しようとしているものの、呪文はとめどなく流れ続けていた。

せめて建物を崩壊させないよう、手を突き出したまま同じ位置に固定しようとしていた。
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:13:08.69 ID:BTByofbZ0
勇者はぼろぼろの身体を引きずり、嫉妬の勇者の亡骸を目指した。

今こうしている一刻一刻により、遊び人は死へと確実に近づいていた。

勇者「くそっ……動けよ!!」

遊び人による癒やしの術は、勇者を完全な回復には至らせなかった。

勇者の足の指はいくつか折れており、足には痺れが残っていた。

勇者「術者が死んだ今、マフウジは解けているはず!!」

勇者は回復呪文を唱えようとした。

しかし、魔力が足らなかった。

勇者「嘘だろ……」

勇者は惨めさに打ちひしがれていた。

自分の戦闘能力の無さによって魔剣による破壊も果たせず。

今も小さな回復呪文を使うほどの魔力さえ残っていない。

勇者「魔剣で打ち倒せていたら……強制転職呪文を放つ必要なんかなかった。そしたら、白い手も出現しないまま、他の禁術や、総魔力放出呪文を唱えられた」

勇者「体力と寿命に余力さえあれば……もっと、もっと時間に余裕が……」

勇者「俺の、俺の実力さえあれば……」

勇者は後悔で泣きながら、傷んだ身体を引きずった。
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:14:30.43 ID:BTByofbZ0
時間をかけて、勇者は嫉妬の勇者の亡骸までたどり着いた。

勇者「……これを使えば」

勇者は嫉妬の亡骸に触れた。

込み上がる感情を押し留め、嫉妬の首飾りを奪った。

勇者は嫉妬の首飾りを装備した。

勇者「そして……」

勇者は、遊び人の手から伸びる黒い糸を見つめた。

発動時とは比べ物にならないほど細くなっており、今にも消えてしまいそうだった。

勇者は嫉妬の首飾りに込められた、嫉妬の感情を呼び起こした。

勇者の中に、憎しみにも似た紫色の感情が噴出した。

勇者「…………」

勇者「失せろ」

勇者はくろいいとの呪文を無効化した。

総魔力放出呪文は消滅した。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:15:50.28 ID:BTByofbZ0
勇者「はやく……」

勇者「はやく、全部届けないと……」

勇者は、目の前に散らばる大罪の装備を見つめた。

手が、震えた。

自分がこれから行う手作業と移動に、この世界で最も大切な存在の命が賭かっていた。

自身の残り寿命の心配など、一切頭になかった。

勇者「これらを、全部、遊び人のところまで……」

暴食の鎧。
色欲の鞭。
傲慢の盾。
憤怒の兜。
嫉妬の足枷。
強欲の腕輪。
嫉妬の首飾り。

勇者「これらを、全部……」

両手で、抱えきれる量ではなかった。

勇者「……間に合うのか?」

途端に、勇者の全身から汗が吹き出た。
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:18:04.96 ID:BTByofbZ0



手ぶらでここまでたどり着くのもやっとだったのに、装備を持っていけるだろうか?

これだけの数を運ぶには、往復しなければならないだろうか?

嫉妬の首飾りを遊び人につけたあと、他の装備を支配するのに寿命は消費するのだろうか?

全て身に付けた後はどのように寿命の吸収を行うのだろうか?

こんなに震えた手と足で持っていけるだろうか?

何が最も必要なことなんだろうか?

どうすればいいんだろうか?

勇者「……どうすれば。どうすれば……」

混乱した頭で、勇者はわけもわからず装備を抱え込んだ。

勇者「……うわ、わっ!」

カラン!!カラン!!

両手で精一杯抱えようしたが、震える手から装備が落ちてしまった。
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:18:50.13 ID:BTByofbZ0

勇者「あ、あそびにん!」

勇者は震える声で呼んだ。

勇者「こ、こっちに来てくれ……!」

勇者「じ、じかんが……じかんが……」

勇者「おれひとりじゃ……」




俺は、何をやっているんだろうか。

俺は、どうしてこんなに無力なのだろうか。

遊び人はどんな目で自分を見ているのだろうか。

遊び人は今も生きているんだろうか。

遊び人は。

遊び人は。

遊び人は…………。



遊び人「勇者」

絶望で打ち震えている勇者を、やさしく呼ぶ声が聞こえた。

勇者が顔をあげると、遊び人はにっこりと笑っていた。

勇者「……遊び人?」

手の甲を見せ、小指だけを突き立てていた。

遊び人「はい、喜んで」

遊び人は、足元から崩れ落ちた。
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:19:22.45 ID:BTByofbZ0
【TIPS】

『大罪の力』

短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。

彼らは人間に巣食う7つの欲望を元に、禁忌の呪文を発動した。

儀式は失敗し、欲望は分裂し、7人の勇者の元に装備の形となって届けられた。

暴食の鎧
色欲の鞭
傲慢の盾
憤怒の兜
怠惰の足枷
強欲の腕輪
嫉妬の首飾り

欲望に応じた能力をもつこれらの装備の伝説は広まり。

7つの大罪、と呼ばれるようになった。
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:20:47.92 ID:BTByofbZ0
【epilogue】

あれから、幾月も過ぎ。

〜怠惰の王国〜

国王「祝福じゃ!!パレードじゃ!!」

国王「世界は、平和となったのじゃ!!」

怠惰の王国では、魔王消滅の日を記念して祭りの準備が行われていた。

案内人T「……ようこそー。怠惰の王国だよー……」

案内人T「ふわ〜あ……」

怠惰「あなた、ちゃんと働きなさいって」

案内人T「……いいじゃん別に。奴隷を解放した英雄がよく言うよ……」

怠惰「まったく」

怠惰は顔をしかめたが、諦めて故郷の中に入っていった。

怠惰「世界を救った本物の英雄達を、見習ってほしいものだわ」
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:21:26.23 ID:BTByofbZ0
大罪の力。

魔王消滅の噂で喜んでいる世界に対し、伝説地味た装備の話は。

面白半分の噂話として広まることはあれど、事実の出来事としては誰も信じようとはしなかった。

ましてや、大罪の装備のために奔走した、元案内人と遊び人の物語などは、誰にも語り継がれることはない。



はずだった。
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:22:09.25 ID:BTByofbZ0
決戦の夜、怠惰は一人の研究者と魔王城へと向かった。

同僚「こんなことしてる場合じゃねえんだよ!!封印の壺が割れたんだ!!あいつらに会いたいならまずはそっちを……」

怠惰「いいえ、もうここに訪れているはずよ。もしかしたら、決戦の真っ最中かも」

同僚「それはねーよ。明日、嫉妬に精霊の補充を行う予定だったんだ。奴らと戦うなら、当然その後を選ぶだろう?」

怠惰「嫉妬は大罪の装備だけを欲してるんじゃない。あの遊び人の女の子も欲しているの。あの子達が挑む程度の状況でなければならないの。占い師がそう告げたのよ」

同僚「はん!占いなんかが根拠かよ!めでたいやつらだぜ!!」

怠惰「いいから。早く魔王城の頂上まで向かうのよ」

同僚「お前と一緒に仲良く飛んでるところを見られたら極刑もんだぜ。俺にだって愛する家族がな……」

怠惰「あの王国で育つ子供の未来なんて、変えるに越したことはないでしょう?」

同僚「……ちっ。面倒なやつだな」

怠惰「面倒なやつは嫌い?」

同僚「いや、好きだったよ」

怠惰「あら、昔の恋人?」

同僚「そんなんじゃねーよ」
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:22:54.50 ID:BTByofbZ0
怠惰「おかしいわ。いくら探しても見つからない」

同僚「妙だな。警護の魔物の数も最小限しかいない。それに、開かずの間がいくつか開かれていた」

同僚「奴らがこの城のどこかで決戦しているとして。きっと、特別な手順を踏まないとその部屋には入れないようになっているんだ」

怠惰「どうやって見つけるの?感知呪文?」

同僚「それだけ厳重に隠された場所があるとして、直接感知は無理だろう」

怠惰「だったら、全てを差し引く方法で……」

同僚「夜が明けちまうよ。こういう時は手探りで探すしかねーんだよ」

怠惰「研究者なのに!!」

同僚「地道が最も効率的なことだってあるんだよ」
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:23:41.54 ID:BTByofbZ0
2人は時間をかけて魔王城内を探索したものの、隠し部屋を見つけられずにいた。

一度城外に出て、外から周囲を調べてまわっていた。

同僚「あれは……」

怠惰「鳥の魔物ね。どうかしたの?」

同僚「王国から嫉妬様宛に手紙を飛ばした魔物かもしれない」

同僚は鳥が旋回している近辺まで近づいた

怠惰「ここが怪しいってわけ?」

怠惰は城壁を眺めながら尋ねた。

同僚「……ああ。ここ、妙じゃないか」

同僚は外壁に触れた。

同僚「魔力の流れがおかしい。結界が損傷している」

怠惰「……言われてみれば、そんな気がしないでもない」

同僚「というより、これ、ヒビじゃねえな。線が貫通してやがる」

怠惰「線?」

同僚「貫かれたような跡がある。しかも、何重にも張られた結界全てを貫いている。こんな攻撃呪文みたことねーぞ……不自然過ぎる」

同僚「探ってみるぞ」
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:24:19.49 ID:BTByofbZ0
怠惰「なによ、ここ……」

同僚「教会だと!!」

巨大な教会を発見した同僚と怠惰は驚愕していた。

同僚「扉があるな」

怠惰「入るわよ」

同僚「だが……」

怠惰「あなたは入らなくていいわ。私だけで入るから。家族が心配なら帰ってちょうだい」

同僚「誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる」

同僚「……研究者の好奇心を舐めるな。行くぞ」
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:25:47.13 ID:BTByofbZ0
怠惰と同僚は、建物に入った瞬間に身震いした。

見覚えのある3人の人物が、全員横たわっていた。

同僚「……おい、嘘だろ!!」

同僚「嫉妬だ!!死んでいる!!」

同僚「何故だ!精霊の加護を6つ体内に宿してあったはずだ……」



怠惰「ねえ、こっちに来て!!」

怠惰は同僚を呼んだ。

そこには、男女の遺体が並んで横たわっていた。

怠惰「この女の子、勇者とずっと一緒に旅をしていた遊び人……」

同僚「傷跡が見えない。何かの呪いで殺されたのか?」

怠惰「それにしては、穏やかな表情をしているけれど……」

怠惰は懐から布を取り出し、遊び人の顔にかぶせた。
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:27:19.45 ID:BTByofbZ0
同僚「……おい、なんだよこれ」

勇者の遺体を注意深く観察した同僚は、声を荒げた。

同僚「こいつ……」

同僚「自殺してやがる……」

怠惰は息を飲んだ。

亡骸の傍らには毒針が転がっていた。

同僚「致死性の非常に高いものだ。腕に刺されたあとが残ってる」

同僚「しかも、なんだこいつの格好は」

勇者の遺体には、独特な装飾の鎧、兜、腕輪、足枷、首飾りが身につけられていた。

また、すぐ傍には鞭と盾が転がっていた。



怠惰「……大罪の装備よ」

怠惰の勇者は、怠惰の足枷を拾った。

怠惰「でも、おかしいわ。呪力を、一切感じないの」

同僚「どういうことだ?」

怠惰は他の装備についても触れながら、確信を深めた。

怠惰「装備に込められた寿命が、空になっているのよ。1つの里の賢者全員分の命の力がね」

怠惰「この男は……勇者は。全ての大罪の装備を身に着け、寿命を吸い尽くして」

怠惰「半永久的な寿命を得たあとに、自殺したのよ」

怠惰「きっと、もう二度と、この装備を巡って争いが起きないように」

同僚「でも、どうして自殺を……」

怠惰「……ほんとうね。最悪ね」

怠惰「この女の子は、決してこんな最後を勇者に望んでいなかっただろうに」
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:29:59.21 ID:BTByofbZ0
同僚は移動式の結界を創った。

勇者と遊び人の亡骸を運んだ。

怠惰「私達も、決着をつけなくちゃね」

同僚「……本気なのか」

怠惰「ええ。怠惰の監獄を解放させるわ。投獄されている大賢者も、怠惰の足枷の効果が抜けて力を取り戻している頃よ」

怠惰「あなたは、そうね、魔王を討伐したらどうかしら」

同僚「はは。勇者様じゃあるまいし」

怠惰「でも、あなたなら出来るんでしょう?」

同僚「……結界を組み替えて、装置の出力をいじればな……」

怠惰「冗談で終わらせるつもりはないでしょうね」

同僚「……逃げ出す権利はないのか?」

怠惰「逃げなくてはいけない時があるのと同様、戦わなくてはいけない時があるでしょう」

怠惰「私達しかいないわ。協力者を増やしながら、怠惰の監獄の地と嫉妬の王国に革命を起こすの」

怠惰「一人の勇者と遊び人がどのような旅をしてきたか、軌跡を辿って事実を集めて、物語を世界に伝えながら、世界が果たすべき使命を示すの」

怠惰「生き残ったものたちによって、できることをするの」

同僚「……なんだよ、冒険譚の作成でもすんのかよ。すっかり怠惰らしさをなくしてしまったな」

怠惰「これでも怠け者に寛容になったほうよ」

同僚「わかったよ。手伝ってやるよ、その、物語のお披露目をよ」

同僚「そのかわり、エピソードには俺の親友の話を大きく裂いて貰うからな。あと、俺の活躍も」

怠惰「頼もしい限りだわ。一人の臆病な勇者が、世界を救うまでの物語」

同僚「逃走から始まり、闘争で終わる物語か」

怠惰「良いこと言ったつもり?」



噂話は、やがて物語となった。

物語は、冒険譚として編纂され。

冒険譚の内容は、やがて。

誰もが信じる、伝説となった。
904 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:31:41.09 ID:BTByofbZ0
暴食の村は、民が標準的な体型に戻った後、食の産業を発展させた。

色欲の谷は、民が規律を整えた後、男女の色模様を許容した文化を発展させた。

傲慢の街は、民が謙虚さをそなえた後、世界的なコンテストの開催地になった。

憤怒の街は、民が冷静さを取り戻した後、治安の維持に国力を注いだ。

強欲の街は、民が奉仕の心を抱いた後、貧困国の再生に資金を投じた。

怠惰の監獄は革命を起こし、嫉妬の王国で働いていた故郷の奴隷を開放し、怠惰の勇者を英雄として新たな国家を建設した。

嫉妬の王国は一度瓦解したものの、他者に尽くす志を持った者達が集い、医療魔術に関する研究を発展させた。




特別な力がなくとも、世界は成長する。

時間の経過によって。

個人の努力によって。

人々は、罪を贖い続ける。




怠惰の王国には、今尚多くの巡礼者が訪れる。

二つの並んだ墓標を前に、人々は祈りを捧げる。。

伝説が記された大理石には、このような文字が刻み込まれていた。



『贖罪の勇者達、ここに眠る。』
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:32:28.32 ID:BTByofbZ0
【勇者と遊び人の思い出】

封印の壺が割れる、少し前の時間のこと。

〜ほらあな〜

勇者「なあ遊び人」

勇者は上体を起こして言った。

勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」



遊び人「パフパフしてほしいの?」

勇者「ぶはっ!ゲホっ……コホッ……」

勇者に甚大なダメージ。

勇者「何言ってんだよ!」

遊び人「する胸がないっていいたいの!?」

勇者「いや、そういうわけじゃない!!」

遊び人「じゃあどういうわけよ」

勇者「……したい」

遊び人「じゃあ、する?」

勇者「……しねーよ」

遊び人「ふーん」
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