【コンマ】崩壊した世界を旅する19【安価】

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418 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 15:23:52.61 ID:2Mv1kV+DO
【エピローグ】

涼風吹く秋の日。私はテルモンの小高い丘に立っていた。
あの日、多くの人が亡くなった。その犠牲者の墓碑の近くに、もう一つ少し目立つ墓があった。ダリオの墓だ。

『世界を救わんとした勇者、ここに眠る』とある。

今日は彼の一周忌だ。私は花を手向ける。

「早いね、もう一年か」

ダナが続いて花を持つ。息子のアイルも、それを真似した。

「まーまー?」

「アイル、そのお花をここに置いて?……そうそう、偉いよ」

ダナは少し癖っ毛のアイルの髪をわしゃわしゃとやった。

私は丘からテルモンの街並みを見下ろす。復興は道半ばだが、確実に進んでいた。
街の外れには、ダリオが作った学校があった。彼が強く望んだのは、「未来を創る人材を育てる」ための学校作りだった。
幸い、知の伝道者には事欠かなかった。アリスとヴォラスが呼ばれ、ダリオ自身も初等教育を中心に教育の道筋を付けた。
「コーウィン……父さんが私に教えたことを、次の世代にも伝えようと思ってね」とは、死の間際にあってもダリオが言っていたことだ。

ダリオはアイルが生まれて、半年ほどしてから逝った。サロメによる「調整」で身体がボロボロだった割には、長生きしたと言えるだろう。
その死に顔は、満足そうなものだった。

「シデさん!早いですね」

丘の下からミドルがやってきた。その後ろからは、男の子を連れたジュリアと、女の子を連れたライラがいる。二人とも、お腹が少し大きい。

「ミドルか。2ヶ月ぶりだな」

「ええ。公務が少し、忙しくて」

「ライラちゃん、ジュリアちゃん!!お腹の子供の調子はどう?」

ダナがライラとジュリアに駆け寄る。

「うん、至って順調。だよね、ジュリア」

「はい!……公務との兼ね合いは、ちょっと大変ですけど」

ミドルはエルヴィンから村長職を継いだ。自分にできるか不安がっていたが、元々聡明なだけにすぐに板についたようだ。
職務の傍ら、植物辞典を書き始めたという。「趣味のようなものですよ」と笑うが、少し見たその中身は大したものだった。
ライラは魔術の研究を進めている。ジャックの余命が短いからか、子育ての傍ら本を読む日々という。

「公務か……二足のわらじも大変だねえ」

「ええ。でも旦那様が頑張ってくれてるから、片方は楽ですよ」

ジュリアはミドルの補佐に加え、アングヴィラに隣接した魔族たちの自治区作りに協力していた。
ナーミからの強い頼みだったという。彼女なら一人でもできるだろうとは思ったが、「帝国のやり方も取り入れたい」と頼まれたのだという。確かに、幼少期から帝王学を叩き込まれた彼女なら、町作りは問題ないだろう。
419 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 15:33:27.43 ID:2Mv1kV+DO
「しかし、子供が4人になるのか。随分賑やかだな」

「え、ええ。……3人なのか4人なのかは、難しいところですけど」

ミドルが苦笑した。……どういうことだ?
ダナがツンツンと私をつつく。

「あー、多分。ライラちゃんのお腹の子、ミドルのじゃないよ。ジュリアちゃんのっぽい」

そう言えば、ジュリアは両性具有なのだった。もう完全に女性として生きているジュリアだが、ベッドでは両方、ということか。

「そういえば、ナーミさん。結婚するらしいですよ。……クラークさんと」

「本当か?……そうか、喜ばしいな」

クラークは「穴」の村から移住した男だ。同じよそ者である魔族と、アングヴィラの住民との仲立ち人になっていたとは聞いていたが……その過程でということだったのか。

ミドル一家が花を手向ける。気が付くと、その後ろにランダムがいた。

「ようっ。久し振りだな」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 15:45:27.09 ID:MhLyqOZe0
ランダムさん久しぶりな気がする
421 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 16:01:50.29 ID:2Mv1kV+DO
「ランダム!お久し振りです。……サロメを破った時以来ですか」

「そうだな。俺らは一旦、表舞台から姿を消すことで合意したしな。……まあ、お前らに任せるべきってことなんだが」

あの日以来、「一族」は姿を消した。ランダムの言う通り、「これ以上の干渉は不要、危機の時再び現れよう」ということだった。

「しかし、どうしていたんです?まさか、自分の間にいたわけでもないでしょう」

「ああ。俺は世界を回ってるよ。たまに、酒作りのやり方を教えるくらいはしてるがな。気ままな旅人暮らしさ。……まあ、元に戻っただけとも言うが」

バツが悪そうに頭をかく。

「他の『一族』はどうしてるんでしょう?知ってますか?」

01〜10 いんや、全然
11〜40 ブランド兄たちは知ってるぜ
41〜79 ブランド兄たち、あとブレイズだな
80〜99 全員知ってるぜ
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 16:03:38.50 ID:XfPEmG/XO
423 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 16:15:26.41 ID:2Mv1kV+DO
「エリック以外は知ってるぜ。ブランド兄とフィオナ、ジュリアンは第三十八階層にいる。
ブランド兄、寿命が近いだろう?だから、いつ血の呪いが発動してもいいよう、あっちに行ってるらしい。
フィオナの工房がサロメに荒らされたから、それもそっちに移そうかって話らしいな。まあ、陰遁生活を送るつもりではあるらしいぜ。
……さすがに退屈らしいから、第三十八階層を色々改造してるらしいが。まあ、直に分かるんじゃねえかな」

「ブレイズは?モリブスの教会支部をユミナに譲ったのまでは知っていますが」

「音楽に専念してるらしいな。たまに、マリーンを通して讃美歌を教団支部に送っているとは専らの噂だ」

ランダムが苦笑した。
424 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 17:45:35.16 ID:2Mv1kV+DO
「そのマリーンは?姿を見ませんが……」

「ジェラード兄が『穴』に村を移してただろう?その面倒を見て回っているらしいぜ。
フィオナに頼んでるのか知らねえが、村と地上との行き来をできるようにしていると聞いた」

ランダムは懐から酒瓶を取り出し、一口口にした。ライラが飲みたがっているが、「お腹の子に障る」とミドルとジュリアにたしなめられている。

「そうですか……。たまに、ヴォラスと会っているという話は聞きましたが。
……そう言えば、ルカンに子が生まれるらしいです。随分と喜んでました」

私はたまに、ジェラードの別荘に住むことになった竜人たちを訪ねていた。
ヴォラスにテルモンの地理などについて助言を請うのが目的だった。
ナサットの妊娠が発覚したのはごく最近だ。ナイアの死で随分と老け込んだヴォラスだったが、「これで竜人族の再興に繋がる」と喜んでいた。
ろくなことをしなかったケインだが、彼がルカンとナサットを人間体としたのは、唯一といっていい功績だったと言えるだろう。

「そうか。しかし、赤ん坊がかなり生まれてるな。お前のとこもそうだが、随分とお盛んじゃねえか」

「からかわないで下さいよ。……確かにジェイクの所も二人目がそろそろですし、あのリネールとモネーラもあの歳で子供ができたそうですが。
……ただ、一ついいですか?これは仮説ですが……魔素の流出が止まったのと、関係があるんじゃないかと」

「ん、どういうことだ?」

ランダムがグイッと茶色い液体を飲んだ。
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 19:17:12.93 ID:3+YsmOZUO
まあ放射線やしなぁ
426 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 20:54:14.25 ID:NT16NPh/O
「魔素は、本来なら人体に有害な物質なのでしょう?
魔法の元であり、人を大きく変質させる物質ではあるのでしょうが、子供にとって良い影響を与えるとも思えない。
それが止まった今、子供が育ちやすい環境になったとも言えませんか?」

ランダムは頷いた。

「……そうだな。俺はあまり詳しくねえが、あれは人間の遺伝子を傷付ける、らしい。
あ、遺伝子ってのは人間の設計図みてえなもんだな。それが傷付けられることで、人は進化する可能性も高まるが、
それ以上に命が奪われる可能性も高まるというわけだ。
だから、そういう意味でも魔素が止まったことは、世界の存続に繋がるってわけだな」

「なるほど、そういうことですか。……しかし、人口が増えることで、色々やることも増えますね」

「ああ。ダナの親父さん、それを見越してたんじゃねえか?」

ランダムの目は、ダリオが作った学校に向けられていた。

「父さんが?……だから、あそこでそう言ったんだ」

「いやあ、さすがに『勇者』様だぜ。強いだけじゃなく、色々考えていたということだな」

ダリオは死ぬまで、混乱に陥った3都市の折衝を行っていた。その差配は実に見事だった。
私がテルモン統領として一応の職務を果たせているのも、彼のお蔭と言えた。

「ただ、人が増える、ということはそれだけ食わせなきゃいけない人が増えるってことでもある。
農業は?通商は?資源は?まだ人が住める土地は少ねえんだ、世界がちゃんと復興するかは、開発と開拓をどう進めるか次第だ。
もう、ダリオはいねえ。だから、そこから先はお前さんたちにかかっている」

ランダムは私たちを見た。私は強く頷いた。

「……分かっています。この子たちのためにも」

私はアイルの頭を撫でた。「あう?」と不思議そうにアイルが私を見上げる。

「まあ、そんなに心配はしてねえよ。500年先に、俺が今まで通り暢気に旅していられる世の中であることを祈るぜ。
また気が向いたら飲もうや。歓迎するぜ」

ランダムはそう言ってダリオの墓に一礼し、丘を下っていった。

「相変わらずだねえ、あの人も」

「ああ。……私たちにかかっている、か」

私は呟いた。もう、「一族」は世界を支えない。強大な力を持っていたコーウィンもジェラードも、既にこの世にない。
世界を脅かすサロメのような存在はいないが、ジュリアンたちは世界の先行きを私たちに託し、姿を消した。
それは世界を人間自身が、支える時代が来たということでもある。

背中にずしんと、何か重いものが乗っかった気がした。
だが、それは苦ではない。私は復興が進むテルモンの街を見た後、ダリオの墓標を改めて見つめた。

「……じゃあ、行ってきます」

秋空はどこまでも青く、澄み渡っていた。私はそれが、世界の先行きと同じであるのを祈った。



〜FIN〜



427 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 21:02:31.46 ID:NT16NPh/O
##############

私はふうと大きなため息をついて、その分厚い本――「調停者シデとその道程」を閉じた。

著者は「ミハイル・オーディナル」。アングヴィラ共和国、初代首相のミドル・オーディナルの息子で歴史家だ。
今から450年も前の書籍だが、その物語性と正確な筆致で名著とされてきた本である。
何度も劇や物語のモチーフとされてきたが、やはり読むなら原著に限る。

私は困難に陥った時、必ずこの書籍を読むことにしている。
自分を奮い立たせるには、シデやその仲間たちのどんな苦難にも立ち向かう姿を思い起こすのが一番だからだ。
だが、今日この本を読んだのは理由が違う。



……世界をどう危機から救うか、そのヒントがないかと考えたからだ。



世界が調停者シデと勇者ダナによって救われてから、500年。
世界は再び……いや、三度崩壊しようとしていた。


to be continued……
428 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 21:06:27.59 ID:NT16NPh/O
というわけで、この物語はひとまず終わりです。

半年以上もの長い間、どうもありがとうございました。
衝動的に始めたSSでしたが、何とかエタらず完走できたのは、読者の皆さんのお蔭であります。
心より、御礼申し上げます。

本編はHTML依頼を出す形になるのでしょうか。
一度ご都合主義的な展開を修正した上でリライトしたいとも思いますが、本業があるなかどこまでできるかは不明です。
完全版はかなり先になる予感がしますが、需要があればやりたいと思います。あれば、ですが。
429 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 21:11:28.09 ID:NT16NPh/O
さて、終わらせ方からも分かるように、続編の構想はあります。
前スレでもご指摘がありましたが、敢えて消化しなかった伏線も存在します。

次回作のキャラメイクで、その辺りが少し見えるような感じになる、かもしれません。

本来は終わらせたらDQ11でもガッツリやろうかと思っていたのですが、SWITCHで完全版が出る説があるので続編を先にやる予感がします。
秋にディープストレンジジャーニーが出るまでは、ゲーマーに戻ることはないと思います。多分。

というわけで、またお会いしましょう。
430 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 21:26:19.64 ID:NT16NPh/O
あ、一応ですが。

その後が気になるキャラがいるならば、そのキャラ限定の後日談は書けます。
まあ、リクエストがあれば、ですが。
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 21:27:27.01 ID:v3ebJer50
ブランド陣営とかきになる。続編のネタバレにならない範囲で
432 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 21:39:29.95 ID:NT16NPh/O
>>431
ブランドはこのままだと死ぬ運命ですが、実は最期にあることをやってます。
敢えてごくさっくりとした描写をしていたのは、そういう理由もあります。

エリックも同様ですね。彼(彼女?)の子孫はどこかで出ると言っておきましょう。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 21:42:04.83 ID:qI9Q+DOL0
書けたらで良いんだけどランダム放浪記とか
あんまりスポットを当たらなかった人を酒で引っかき回す感じで
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 21:43:49.37 ID:WSWC9jVUO
500年後も生きてるのは7位から下の4人だけか
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 21:47:19.16 ID:xWhb9FH2O
ライラとジャック
後日談とは違うけど結界組の最期とかも
436 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 22:03:00.75 ID:NT16NPh/O
>>433
それはいいですね。彼の犠牲(?)になる人を募集でもしますか。
安価下3ぐらいで。

>>434
エリックも姿を変えて生きています。記憶がどこまで摩耗しているかは不明ですけど。

>>435
ジャックは最期も想定していますから、そのうちに。
結界組は……どうしましょうね。ある事実の重大ネタバレがある予定なのです。
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:08:27.72 ID:xWhb9FH2O
ユミナとか
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:11:42.18 ID:v3ebJer50
おっきくなったシデダナの子供なんかも面白そう
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:16:17.09 ID:RvziRpIrO
アリスとヴォルガ
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:18:03.83 ID:RvziRpIrO
いつもランダムが一方的にお酒勧めてた感じだけど二人ならランダムも知らない酒を知ってそうだなと思って
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:22:05.30 ID:mCrLyMyp0
おぉぉ…ついにこのスレも終わってしまったか…
お疲れ様でした
442 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 22:22:43.82 ID:NT16NPh/O
了解です。それでは上から順に行きましょうか。

このスレを使い終わるめどができたら、続編にしようと思います。とりあえず。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:24:46.03 ID:o8ZVZaIvO
半年あっという間だった…毎日の楽しみでした乙

次も期待してますw
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 22:33:11.10 ID:fTd2iMF0o
長い間お疲れ様でした 続編も期待しております
445 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 22:34:28.35 ID:NT16NPh/O
【番外編・ランダムの「酒の細道」】
その1・モリブスのカリー店とダイガーエール

モリブスは好きな街だ。南国で人の気性が明るいし、何より飲んでいて楽しい気分になれるからだ。
現総領事のジェイクってのも、そんなに飲めないが酒の効用はよーく分かってる。
奴の商業振興もあって、主要3都市では一番酒が楽しめる街なのは間違いねえ。
しかし、あいつの上司とはもう一度酒を交わしたかったもんだ。死んじまったもんは仕方がねえがな。

……とここまで書いたが、実は「酒を飲んでいて楽しい街」ではあるんだが「酒を楽しめる街」ではない。
酒が旨いのは、どちらかと言えば北国だ。テルモンなんかは白酒で有名だが、最近はジンに似た酒も造られ始めているという。
要は何だ、寒いとアルコールで身体をあっためないといけねえからな。味に明確な差が出やすい強い蒸留酒なんかが、作られやすい土地柄ってわけだ。

逆に南国だと酒はそんなに需要がねえんだ。というか、あまり強いと暑さもあってすぐに回っちまう。
だから勢い、飲まれるのは水っぽい薄い酒だ。それも炭酸が入ったエールで爽快感があるのが望ましい。
これはこれで悪くねえんだが、やっぱ酒飲みとしてはバラエティが欲しいんだな。そこはちと残念だ。
少しずつ土地が回復し、農業も盛んになり始めていると聞いている。今度ジェイクに会ったら、サトウキビでも作らせてラムの醸造法でも教えてやるか。

俺はふらりと街の大衆食堂に入った。この前会った時、シデが「モリブスならここ」と言ってたカリー店だ。
随分と辛いが、いけるらしい。安いのと意外とメニューが豊富なのもあって、店は結構にぎわっていた。


446 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 22:52:37.58 ID:NT16NPh/O
「大将、この……『獄黒』ってのと、タンドリーチキン2つ。それと、サモサを2つくれ。ああ、それとこの……『タイガーエール』ってのを」

俺は適当に人気のありそうなのを頼んだ。エールは一番上の銘柄だ。
こういうのは変にひねらねえ方がいい。

店を見渡すと……白い翼が見えた。シデ?いや、奴はテルモンにいるはずだ。第一、ダナと息子の姿もない。
翼人が他にいたっけなあと思い、俺はフラフラとその席の方に移った。

見ると、かなりの美人がそこにいた。温和そうで、しかも随分と乳がでかい。
ライラ辺りもでかいことはでかいが、この女と比べりゃ大分負けてるな。
こんな女がいたらそりゃあ周りの目を引く。男どもがチラチラと女を見ているのも当然だろう。

……その割には、誰も声をかけようとしない。一人飯なのに。
俺は不思議に思い、ちょいと話しかけた。

「ちと相席いいかい」

「ええ、構いませんよ」

周囲の視線が俺に集まる。「行ったよ、あいつ」「身の程知らずだな」とのボソボソ声が聞こえた。
身の程知らず?どういうことかね。

……そこで、俺は思い出した。俺はこの女に会っている。一度……いや、もっとか。
まともに話したことはないが、間違いねえ。

「久し振りだな、というべきだったな。悪ぃ。ユミナさん、だったか」

彼女が一瞬きょとんとした表情を浮かべた。やがて少し驚いた表情になった。

「……あれ?2年前、シデさんと一緒にレイズ猊下に謁見されてた……」

「ああ、ランダムっていう。ちと悪いな、酒を飲みに来た。
独りで飲むのも悪くねえが、まあ、話し相手がいた方が楽しいだろう。
ブレ……いや、レイズが隠居した後、後継いだんだったな」

「ええ。忙しいですが、やりがいはありますよ」

ふわっとした笑みを彼女は浮かべた。そうか、さすがに教団の現トップにちょっかい出すのは、余程の勇者だな。
しかし、笑みの奥にある表情は堅い。……色々苦労してんのかねえ。

「そうか、そりゃ結構だ。酒は飲めるかい?……おっと、下心はねえぜ。単なる酒好きなもんでね」

「エール一杯程度なら」

やがて料理とエールが運ばれてきた。

「んじゃ、これも何かの縁だ。乾杯」

「ええ、乾杯」

チン、と安いグラスが音を立てた。
447 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 23:10:21.79 ID:NT16NPh/O
「しかし辛いな、この『獄黒』っての。……さらっとした感じだが、後味にコクがある。
昔書籍で見た『カシミールカレー』ってのに見た目が近いな」

「初めてでそれを頼まれる方、初めてです。よく食べられますね」

「まあ、健啖家なんでね。酒も、甘いのも辛いのもどっちでもいける」

俺は「タイガーエール」をぐいっと飲んだ。薄い。しかし、炭酸が強く喉ごしがいい。南国には合う酒だ。
辛さを中和するにもちょうどいい。水代わり、ってとこか。

ユミナが俺の方を見る。

「……そういえば、貴方何者なんです?レイズ猊下が二つ返事で謁見を許されて驚きましたが」

「あ、あー。説明が難しいな。とりあえず、兄弟なのは間違いねえんだよ」

ユミナが「本当ですか!?」と叫んだ。周りの注目が一斉に集まる。

「ああ、本当だ。だが、これは内密にな。シデやジェイクといった、一部の人間しか知らねえことだ」

一応、「一族」は俗世から手を引いている。ブレイズも、自分の間で作曲活動に勤しんでいるはずだ。
ユミナの後見人ではあり続けているのだろうが、徐々にフェードアウトするのだろう。

「そうなのですか……レイズ猊下が、どこに行かれたかご存知かと思って」

「それは言えねえことになってるんだ。恐らく、人前にはもう出ない。
ただ、余命の問題と聞いたぜ。たまに、マリーンっていうあいつの娘が来て何か渡してるだろ。
多分今後の運営の在り方とかの指導書みたいなもんだろうが」

俺は一部、出まかせを言った。まあ、「一族」を説明しても理解はしてもらえんだろう。
不死者がいると下手に知れたら、それこそ騒ぎになる。俺も少しずつ顔を変えていくつもりではあった。

ユミナは驚いた表情になった。

「よく分かりますね……その通りです」

「まあ、あいつの行動ぐらいは読めるよ。だが、お前さんちょいと浮かねえ顔だな。もうちょっと飲まねえか」

ユミナはエールに手を付けていない。飲めないのか?

「いえ、飲めないわけじゃないんですけど……たがが外れそうで」

たがが外れる?何か溜まっているものがありそうだな。

※何を聞きますか?
安価下3ぐらいで自由記述、内容のいいものを使います。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:18:06.86 ID:v3ebJer50
同じ翼人としてシデのことはどう思うか
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:26:00.15 ID:qI9Q+DOL0
指南書はあるとはいえ女手で運営していくのはやっぱり辛いか?
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:26:09.99 ID:RvziRpIrO
シデと小さい頃どんな関係だったのかなーときになる
ユミナは一方的に覚えてたりしたし
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:45:17.41 ID:JfWCGxzZO
周りの結婚ラッシュからくる危機感とか
452 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/10(木) 23:49:39.70 ID:NT16NPh/O
※448さんと450さんの内容を採用します。(ただし、449さんの内容にも触れます)

「そういや、シデとは知り合いだったりするのか。翼人は相当珍しいはずだぜ」

ユミナが少し寂しそうな表情を見せた。

「ええ。……元は、親が決めた許嫁だったんです。子供のころ、少し会ってたりもしたんですけどね。
あの頃から、優しい人でした。許嫁でなくても、きっと好きになってたでしょうね」

彼女が初めて、エールをあおった。……なかなかの飲みっぷりだ。

「でも、災厄の日があって。久々に会ったら、彼は私をほとんど覚えてなかった。
……仕方ないんですけどね。子供のころのことだし。しかも10数年も会えてなかったわけですし。
でも、私は初恋をずっと引きずってた。そして、やっと会えたと思ったら、もう隣にはダナさんがいた。
……奪ってやろう、と思えなかったんですよね。それは、その行為が神の教えに背くからではなく……ただ臆病なだけだった」

もう一度、彼女はエールを飲んだ。グラスは空になっている。

「すみません、もう一杯。……ダナさんはいい人です。もちろん、それもあった。
でも、もっと正直になっていたら、また違ってたのかなって。……初恋こじらせた結果が、30手前になってこれです」

自虐気味にユミナが笑う。しかし……目には涙が浮かんでいた。
泣き上戸か。しかし、これだけの器量があれば……いや、器量が良すぎるのか。
「高嶺の花」でありすぎるのも、考え物ってわけだ。まして、彼女には地位がある。
これに見合うのは、それこそシデやジェイク、ミドルといった連中しかない。おまけに皆既婚者で、子持ちで、愛妻家だ。

「……難しいもんだな。だが、お前さんを愛してくれる男は、いるんじゃねえか?
その男に、勇気がないだけで」

「そうでしょうか。……私の地位が、それを妨げているのは分かります。しかし、これは捨てられません。私の生業ですから。
だとすれば、私は神と添い遂げる定め、ということなのでしょうね。……あ、もう一杯お願いします」

凄いペースで飲んでいる。本性は、なかなかに寂しがりやだったということか。
女手一つで教団をまとめ上げようと必死なのは、その裏返しかもしれない。
とすれば、この状況はあまり良くないといえる。どこかでぽきっと行きかねない危うさが、彼女にはある。

とはいっても、俺に紹介できる男がいただろうか?

……

※70以上でイベント発生
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:53:01.81 ID:xkg5IZZZo
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/10(木) 23:54:08.74 ID:qI9Q+DOL0
コンマ神が空気読んでらっしゃる
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/10(木) 23:54:52.03 ID:RvziRpIrO
456 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 00:11:44.27 ID:WhSPla+0O
※イベント発生

「ああ、いたいた。こんなとこに」

俺は店の入り口に、息せき切ってやってくる男の姿を見た。視線はユミナの方を向いている。
中肉中背、目が少し垂れている優男だ。……この顔も見たことがあるぞ。

「ソールっていったか、あの男」

「ええ。1年ほど前から、教団の手伝いをなさってるんです。
『復興にめどが立った』とネモさんたちはアングヴィラに移っちゃったんですけど。彼はここに残って冒険者稼業を続けているんです」

そういや、ネモたちはまた移住したのだったな。ジュリアに子供が生まれたってのもあるが、何でも開拓民として志願していると聞いた。
そこを第二帝国とするつもりなのかもしれないが、あまり前のめり過ぎると良くねえ気はする。
まあ、ミドルやジュリアが生きているうちは問題ないんだろうが。

「そうか、そりゃ何よりだ。おーい、お前さんも飲まねえか」

「えっ……誰ですか、その人。……あれ?」

ソールも俺に気付いたようだ。顔が驚きで満たされる。

「ああ、『ゲイル』迎撃戦では世話になったな。どうだい、同席しては」

奴の顔が明るくなった。……これはそういうことだな。

「いいんですか!じゃあ、お言葉に甘えて」

ソールが酒席に加わった。ユミナはちょっときょとんとしている。
……この女も、大概に鈍感なようだ。

#########

俺らはシデやジェイクの思い出話に花を咲かせた。
話の中心は、やはり「ゲイル」迎撃戦だ。俺が宙に浮いていたという話をソールから出された時にはぎくりとしたが、
「あれはネモが魔力糸で吊っていたんだ」と話すと納得してくれた。もちろん、そんな糸はこの世にない。

「ちょっとお手洗いに行ってきますね」

したたか飲んでいるが、ユミナにほとんど酔った素振りはない。「たがが外れる」と言っていたが、泣かなきゃ問題ないらしい。
大した酒豪じゃねえか。ライラよりよっぽど強いと見える。

俺はソールに耳打ちした。

「ユミナにほの字なんだろ?お前さんも臆病だねえ。なぜいかねえ」

「いや……どうも、彼女は別なんですよ。僕も結構、女の子の扱いには慣れてるんですけどね。
本当に好きになったのは、多分彼女が初めてです。だから、どうやったらいいものか……。
それに、彼女もそんなに男の人に慣れてる感じしないですし」

こいつも大概にチキンだな。ならば……

※ソール君にアドバイスをしてあげてください。
安価下3で自由安価。酔い潰すための方法でも可能です。


457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:23:31.06 ID:46V3ec4dO
とりあえず飲みますか。積極的になれる、かも
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:29:44.92 ID:VXF0uyZYO
ソールさんも中々苦労する立場ではあったっけ?お互い辛いですねえ見たいな流れで
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:33:45.14 ID:5wLZjKSsO
特別に強い酒をユミナサンのグラスに(ゲス顔)
裏メニューであったから頼んどいたとか適当言ってごまかす
460 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 00:36:25.64 ID:ul2/9gXzO
※459をアレンジして使います。というより「お互い酔って素直になれや!」的な。
ただ、ここでは強いお酒はありません。……つまり。

中途半端ですが、今日はここまで。
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:41:01.16 ID:bSw9aXtpO
乙です

強いお酒はいい巡り会いを呼び込むってミドル君達が証明してるからね(白目)
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:41:48.98 ID:9ytoReib0


ランダム部屋のお酒が人と人をむすぶ架け橋となるのか…
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 00:56:41.12 ID:0wbJNIpa0
もうぶっちゃけソール君とか名前しか覚えてないけど、全然面白くていいね
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 08:21:29.64 ID:5wLZjKSsO
ユミナがライバルにできなかったというよりダナ落ちるのはやすぎ案件
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 09:07:38.92 ID:GjPKdXeQO
すごくどうでもいいけどジェラードがjに襲われた時の話とか見たい
466 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 11:37:51.73 ID:V3qrIRUdO
少し進めます。
467 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 12:19:21.37 ID:V3qrIRUdO
「ちょっとそこで待っててくれ」

俺は外に出て路地に入り、周りに誰もいないのを確認した。プレーンウォークで自分の間に飛ぶ。
確か……この辺りにあったはずだ。そう、これだ。

俺は目当ての物を取ると、また元の場所に戻った。

「おう、待たせたな」

既にユミナは戻っている。ソールが助かったという表情を浮かべているのを見ると、会話に困っていたらしい。

「どちらに行ってらしたんですか?お手洗い?」

「や、ここの飯は旨いが酒が薄いのしかねえからな。ちょっと買ってきたのさ」

俺は懐からウォッカの瓶を取り出した。もちろん、そんなものはモリブスには売ってない。

「あと……あった。おーい、大将。オレンジジュースくれ」

オレンジジュースが来ると、俺は空のグラスにウォッカを注ぎ、それをオレンジジュースで割った。

「よっと……二人分作ったぜ。『スクリュードライバー』って酒だ。甘いから、そこの嬢ちゃんにも飲みやすいはずだぜ」

ユミナが一口飲むと、「美味しい……!」とうっとりしたように言う。ソールも「いけますね、これ」と頷く。

「だろ。飲みたかったら、いくらでも作るぜ」

俺はソールに目配せした。ソールはぽかんとしていたが、ユミナの様子を見て「あっ」と一言発した。
ユミナはすぐに一杯飲み干してしまったが、目が少しとろんとしている。頬も上気しているようだ。

「んー、身体が、熱いですねえ。辛いの、食べ過ぎたかしら」

ソールが慌てたように俺に耳打ちする。

「ちょっとランダムさん……何か盛ったんですか?」

「いや。ただ、お前さんは北国の生まれでそこそこ強い酒は慣れてるだろうが、このユミナは南国育ちだ。だから酒に強いといってもエール限定なわけだ。
しかもこれ、結構強いんだよ。だから、女を酔わせるには一番いい酒ってわけだな。……理性が強すぎる子だろうから、こうでもしねえと素直にお前さんに寄りかからねえと見た、ってわけだ」

ソールはいまいち釈然としてない様子だが、ユミナはそれに気づいてないようだ。

「えっと。ちょっと場所変えません?そうね、もうちょっと静かなとこがいいかしら」

俺は頃合いと見た。ウォッカの瓶をソールに押し付ける。

「作り方は、さっきやって見せた通りだ。ウォッカとオレンジジュースを、大体半々。これ以上ウォッカを多くすると飲みにくくなる。
かなり強めのレシピになってるから、気を付けながら作りな」

俺は立ち上がる。

「悪いな、俺はちと用があるんだ。代わりにソールが相手するってよ。今飲んだのも、ソールが作れるそうだ」

「本当ですか?じゃあ、行きましょ。ギルドハウスがいいかしら」

酔い始めたのか、ユミナがソールの手を取った。
元々、ソールに好意がないわけでもなかったのだろう。
地位とか年齢を気にする、強すぎる理性が問題だったわけで、アルコールでそれを飛ばしてやればあとはなるようになるはずだ。

「んじゃ、俺はこの辺で。また会うことがあったら、飲もうや」

###########

それから二人がどうなったかは、詳しく知らねえ。
ただ、少数種族たる翼人が多いのは、旧都イーリス周辺とモリブスという事実だけは言っておこう。
468 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 12:20:34.47 ID:V3qrIRUdO
夜にシデの息子、アイル君の話を。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 16:34:02.34 ID:8femacGYo
かわいい
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 17:13:17.43 ID:GCQwxMNI0
ソール君おめ
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 18:40:42.79 ID:ta0h37fVO
500年ともなると魔素も大分薄れて住める世界広がってるんだろうな
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 20:21:14.60 ID:qKkAhYWyO
本編終了後は穴はどうなるんだろう?
473 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 20:51:13.42 ID:XWY0zrXEO
2130メドに再開。

>>471
そうですね。かなりの規模まで生活域は広がってます。
上にも旧都イーリスとありますが、これは元々教団の首都だった場所です。(次の話に出ます)

>>472
後で述べるつもりですが、浅い層は観光地化してます。
ただ、「穴」の活動自体は止まってません。深層は依然危険なままです。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 20:59:36.96 ID:X/5Wv9RmO
結局コーウィンの教団絡みの話はほとんど聞けずじまいだったな。続編で明かされるのかそれとももう語られることはないのか
475 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:01:53.85 ID:XWY0zrXEO
>>474
うーん、その話はなさそうですね。大会議ルートに向かった時点で消えちゃった感があります。
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 21:05:46.52 ID:FnfnvQlBO
質問ターンは回数制限の都合上、必要ない話は聞けなかったからなあ……選択肢にはそれっぽいのあったけど……ちなみにどんなルートなら教団メインの話になってたんだろう
477 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:23:42.73 ID:XWY0zrXEO
>>476
帝国と全面対決ルートですね。この場合、とりあえず対立勢力は片っ端から倒す感じになったかと思います。
多分ブレイズとも対立可能性はあったかと。早々に「一族」の全貌が明らかになったため、教団云々は脇に置かれましたが。

なお、500年後の世界は資源不足のため結構ギスギスしてます。鉱山の汚染が消えるのが遅かったため、500年たってるのに文明レベルは19世紀後半〜20世紀初頭ぐらいです。
ただ、携帯だけはそこそこ普及してます。
478 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:29:07.97 ID:XWY0zrXEO
では、再開します。
479 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 21:51:51.39 ID:XWY0zrXEO
【ランダムの「酒の細道」】
その2・テルモン風辛豆腐と紹興酒

テルモンは寒冷地だ。夏はいいが、冬はどか雪が降るのも珍しくない。だからか、身体を中から暖めるために辛い食い物が発達してきた。
災厄の日までは、南にある魔候国からは香辛料が、北のジェスタル帝国からは毛皮や肉類が交易されていた。それはしばらく止まっていたが、ここ10年ぐらいからはまた随分と活発になってきた。
まあ、ベビーラッシュで人口が一気に増えたからな。21年前のサロメによる襲撃で減った分は、テルモンでは大分戻ったと言っていい。

まあ、交易が活発になれば旨いものも増える。香辛料が前提になっていたテルモン料理も、昔の水準を取り戻してきた、ってわけだ。
中でもこの「テルモン風辛豆腐」はいい。飯が進む。普通の酒にはそう合わないが、少し癖のある甘さの紹興酒にはピッタリだ。
もちろん、テルモンには紹興酒はない。白酒とほぼ同じの製法の酒はあるらしいが。
そのうち農地が拡がり、麦の量が増えてくればウイスキーもまた作られるだろう。ヘイルポリスの辺りは、昔は名産地だったからな。

俺はテルモンの食堂で辛豆腐に唐揚げ、そして自分で持ってきていた20年物の紹興酒に舌鼓を打っていた。
辛い豆腐の味をさっと紹興酒の甘さが洗い流す。実にいい。

「ランダムさん……ですよね。お久し振りです」

いきなり横から呼び掛けられた。ぎょっとして見ると、大人しそうな黒髪の青年がいる。……よく見ると、小さめだが白い翼があった。

「お前さん、アイルか」

「ええ。……10年ぶりぐらいでしょうか」

アイルは穏やかに笑った。親父のシデに、よく似ている。
480 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:07:14.86 ID:XWY0zrXEO
「こんなとこで会うとは奇遇だな。アングヴィラに行ってたんじゃなかったのかい」

「え、ええ。まあ、色々ありまして」

アイルは15になって、テルモンの統領職を辞したシデと一緒にアングヴィラに戻っていたはずだ。
シデとダナは「少し休みたい」と慣れ親しんだアングヴィラで穏やかに暮らしていると聞いていたが、アイルは違うのだろうか?

「まあ、なんだ。積もる話もあるから、一杯やるかい?」

「ええ、お言葉に甘えて」

アイルはあっさりと同意した。シデは酒をほとんど飲まなかったが、ダナの血かね?

「じゃあ僕は、この細切り肉の帝国風炒め、それと辛豆腐で。あとお酒は……」

「ああ、持ってきてるからそれはいいぜ。大将、持ち込み問題ねえよな?」

店主は苦笑しながら「宣伝お願いしますよ」という。

「ランダムさん、今のは?」

「ああ、たまに地上に出ては、旨い店の宣伝とかやってるんだよ。助言もやってる。無論、無償だ。
んで、ギルドハウスで吟遊詩人のふりして、さりげなく旨い店を冒険者に教えてるってわけだ」

「まあ、ランダムさんなら間違いないですからね。……いけますね、このお酒。ふくよかな香りに、コクが凄い」

俺はにやっと笑った。酒が分かる男に育って嬉しいぜ。

「『会稽山』って酒だ。無論、この地上の酒じゃねえ。……何かあったか」

アイルは言いづらそうな顔をしている。

……

30以上でイベント発生
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:08:41.01 ID:0pN3WxvC0
482 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:36:32.80 ID:XWY0zrXEO
※イベント発生せず

「……あ、いや、大したことじゃないんです。テルモンには、勉強に来ただけなので」

「本当か?シデやダナと何かあった訳じゃねえよな」

「あ、それはないです。父さんも母さんも、元気そのものですよ。じき、開拓団とトリス森王国の辺りに視察に行くって言ってました」

トリス森王国か。エルヴィンとかいうアングヴィラの前村長の出身地だな。
エルヴィンは完全に楽隠居の身だが、トリス森王国とのパイプ役になっていると聞いている。
あそこも最近人口が増えてきて、街中でエルフを見かけることも珍しくなくなった。

「そうか、やっぱ根が冒険者なのか、じっとしてられねえのかね。弟や妹は?」

俺は唐揚げを頬張った。これにもピリ辛のタレがかかっている。酒が進むわけだ。

「シルヴァは父さんたちと同行してます。ピアは、アングヴィラに。たまに『穴』に行ってるみたいです。あいつが一番、冒険者の適性があるみたいですね」

「『穴』か。まあ浅い階層はともかく、深いとこはまだ危険だからな。『穴』の物理法則とか分かってねえことは多いし。
俺もたまに行くが、第三十階層から下はやっぱシデたちじゃなきゃ難しいだろ」

「そうなんですか?最近二十八階層まで行ったって聞きましたけど。ミドルさんのとこのミハイル君と一緒に」

俺は驚いた。二人でそこまでってのは大したもんだ。しかも、ピアはまだ15とかそのぐらいだったはずだ。

「……大したもんだな。血は争えないか」

「戦闘は父さん、性格は母さん似ですけど。僕とは逆ですね」

よく見ると、アイルの腰には神器「村正」の鞘がある。アイルは剣術なら当代一の達人として知られ始めていた。

しかし、こいつの悩み事って何だろうか?世界の行く末なのか?……それなら俺に素直に言うはずだが。
アングヴィラから離れたかった、そんな気すらする。……何だろうか?

※安価下5ぐらいで自由安価。
このぐらいの若者が抱える悩みって、決まってますよね。ただ、彼の場合はちょっと面倒です。現代でも、なかなか難儀な悩みです。
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:43:18.47 ID:0pN3WxvC0
自分が何をしたいのかわからないとか?(経験談)
484 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:45:44.78 ID:XWY0zrXEO
ヒントは「アングヴィラから離れたかった」です。偉大な両親へのコンプレックスではありません。(アイル君はそこは乗り越えてます)
もっと下世話な話です。
485 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 22:47:30.34 ID:XWY0zrXEO
あと、普通の人は多分ほとんど体験しない悩みです。アイル君は普通の人のはずですが……
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 22:50:55.97 ID:BvFsmt5Vo
親がいつもイチャイチャしてて家にいずらいとか
487 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/11(金) 23:09:01.47 ID:XWY0zrXEO
とりあえず今日はここまで。自由安価は明日の更新まで延ばします。

なお、この悩みにはアングヴィラにいるはずの誰かかが絡んでます。
ややぶっ飛んだ悩みですので、お気軽に。(不正解の場合でも、話は進みます)
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 23:37:22.47 ID:UPJLzmXz0
妹?がブラコンすぎて辛いとか?
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 00:01:53.71 ID:54L/C7to0
ミドルんとこの娘さんに恋しちゃったけど身分の違いがうんたらかんたらとか?
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 03:37:04.71 ID:VM+BDQpv0
ピンと来た
アレだろ血の繋がった妹好きになったとか面倒くさいやつ
それ以外ならまさかの実は弟の方が本命とか…?
491 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 06:45:03.40 ID:IUMNhW0VO
更新は夜です。

>>490
いい線行ってますが違います。近親系ではありません。
(そういうのはミハイル君担当ですね)
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 07:08:42.19 ID:CEwY5jQgo
好きになったのが誰かの嫁だったとか?
ジュリアとかライラとか
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:32:20.09 ID:pxvsYQkPO
ジュリアに惚れたとかはありそうだなあ。一族とのハーフだからまだライラよりは見た目年齢若そうだし
494 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 21:42:35.72 ID:Nji5x8CvO
再開します。さすがに正解の方はいませんでしたね。
色恋沙汰でジュリアが噛んでいるというのは当たってますが、その斜め上です。
(ジュリアの設定を考えれば……?)
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 21:57:21.73 ID:3ZzBzgluO
そーいやジュリアが両生具有なのって何か理由あったんかな。一族のハーフにもいろいろあるみたいなこといって明かされないままになってる気がするけど
496 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:10:08.91 ID:Nji5x8CvO
「悩みがあるんだろ?……ずばり、色恋沙汰だな。違うか」

俺はニヤッと笑ったが、アイルは苦笑とも困惑ともつかぬ微妙な顔をした。

「色恋……なんですかね。僕には、よく分からないんです」

「ん、どういうことだ?」

シデには朴念仁な所があったが、その息子であるアイルもそれを受け継いじまったってことなのか?
しかし、紹興酒を一気に飲み干した奴の言葉は、俺の想像の斜め上を行っていた。

「自分が抱いている感情が、恋なのか友情なのか……分からないんですよ。
おかしいと思いませんか?男が男に恋をする、って」

「……何??」

アイルは自虐気味に笑った。

「まあ、そういう反応になりますよね。……もちろん、父さんや母さんには話してません。
当の本人は、気付いてると思うんですが……。ランダムさんなら、拒絶せずに話を聞いてもらえると思ったんですが」

俺は心底驚いた。同性愛者は、今のこの世界では珍しい。
少なくとも、それを公言できる素地などほとんどないはずだ。そりゃ、悩むわな。

「いや、俺は拒絶しねえぜ。愛の形は、人それぞれだ。
問題は、相手が誰か、だな。詳しい話、聞かせてもらえねえか」

「はい。……ミドルさんとライラさんの第二子……ユリウスです。
彼とは昔から仲が良くて、いい弟分だとずっと思ってました。一つ下ですけど、思慮深くて。頼りになる奴だなって。
でも……15ぐらいになってから、どうしても彼を見る目が変わっちゃったんです。
彼が髪をかき上げる仕草、横を通り抜ける時に漂う薫り。
ユリウスは男のはずなのに、心の臓が高鳴ってたまらないんです」

ん?第二子?俺は引っかかるものを感じた。
アイルは紹興酒のグラスを空にして、話を続ける。

「それが決定的になったのが、一か月前でした。ユリウスは、アングヴィラから旧都イーリスへの調査団に入ることになって。
先遣隊のネモさんの下で、しばらく働くことになったそうです。
それで……彼が僕にも一緒に来てくれ、と。……僕は戸惑いました。彼をただの友人と思っているだけなら、断る理由などどこにもないんです。
でも……彼を恋愛対象と見ていたなら。そしてそれが彼にばれたなら、あるいは周囲に漏れたなら。
……僕はその時に何が起きるのか怖くて、逃げたんですよ。ここに」

アイルの目には、薄く涙が滲んでいる。まあ、気持ちは分かるわな。
だが、アイルはいくつか勘違いをしている。

「まず、一つ。逃げたのは良くねえな。親父さんやお袋さんは、どんな時も逃げなかったぜ。
もちろん、お前さんはシデやダナと違う。だが、一応正面から当たってみる必要は、あったんじゃねえか?
泥沼に足を踏み出したら沈むかもしれないが、うまく先に進めるかもしれない。
だが、足を踏み出さなかったら前進はない。説教臭くなっちまって悪いが、そういうこった」

アイルは唇を噛む。

「……その通りです……返す言葉もありません」
497 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:15:58.41 ID:Nji5x8CvO
「二つ目。一緒に来てくれとユリウスが言った時、どんな感じだった?」

「……彼は僕を抱きしめてきたんです。……元々、よく僕の身体を触る奴でしたから、その延長線とばかり。
……『考えさせてくれ』と言った時、とても寂しそうだったのは忘れられませんが」

俺は頭をかいた。……こりゃあ、もう9割方間違いねえな。

「お前さんのそういう鈍感なところ、親父さんにやっぱり似ちまったんだなあ。
ユリウスもお前さんに気があるんだよ。それを何でわかんねえかねえ」

「だって!ユリウスは男ですよ!?僕が普通じゃない性癖なら、そんな普通じゃないのがそんなにいるはずが……」

「そこだよ。お前さんが一番勘違いしているのは。三つ目。ユリウスの本当の父親、誰か知ってるか?」

※70以上で知っている
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:17:25.89 ID:k4cI6lkDo
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:17:42.86 ID:54L/C7to0
500 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:52:27.01 ID:Nji5x8CvO
※知っている

アイルははっとしたような表情を浮かべた。

「そう言えば……聞いたことがあります。ユリウスはミドルさんの子じゃなくって、ジュリアさんの子だってこと。
世間体上ミドルさんの子ってことにしてるって、随分昔に母さんが……。
でも、そんなはずないと思ってました。……でも、確かに言われてみれば、金髪に青い目って、ジュリアさんによく似てる」

「知ってりゃ話は早いな。その通り、ユリウスはジュリアとライラの息子……であって娘でもある。
ジュリアは両性具有者なんだよ。俺ら『一族』の話は聞いているだろう?
んで、ジュリアの親父もジュリアンっていう『一族』だ。ちなみにシデもダナも、『一族』の血が混ざってる。無論、お前さんもだ。
で、『一族』ってのは、人体の設計図を思い切り弄って作られた存在だ。だから、特定の組み合わせで『バグ』――ある種の不具合が起きる。
ジュリアは元々、ジェスタル帝国の末裔だったわけだが、『一族』とジェスタルの血が混ざるとたまにこの不具合が起きたらしい」

俺は唐揚げをがぶりとやって、それを酒で流し込んだ。

「その不具合が、両性具有だとでも?」

「ご名答だ。過去の帝国の王家にも、そういうのが何人かいたらしいぜ?しかも決まって名君だったらしい。
んで、お前さんも知っての通り、ミドルんとこは3人そろってえらく仲がいい。セックスの時も、必ず3人で致すって話だ。
まあ、お前さんには刺激が強い話だろうが……。つまり、そういう過程で生まれたのがユリウスってことだ。
もちろん、そのこと自体はあの一家の中じゃそんなの大したことじゃないわけだが、唯一問題があったのは両性具有が遺伝しちまったってことだな」

アイルがぽかんとした顔になっている。そりゃそうなるわな。

「てことは……僕が抱いていた感情は」

「分かんねえけど、多分男が女に感じるそれじゃねえか?少なくとも、ユリウス……あの親だから裏では『ユリア』とか呼んでそうだが、
そいつがお前に感じていたのは友情では多分ねえよ。見た目が中性的だから、仕方ねえ面もあるがな」

ユリウスに俺が会ったのは7年ほど前だ。まだ12ぐらいだが、男とも女とも取れる外見だったのを覚えている。
そういや、昔のジュリアもそんなんだったな。

「だとしたら、早く戻らなきゃ!!……でも、何と言えばいいんだろう……」

「あ?んなの素直に気持ちを言やいいんだよ。
だが、どうしても勇気が出ないなら、これを飲め」

俺は懐から一つの瓶を取り出し、空になったアイルのグラスに注いだ。透明な液体が、グラスの4分の1ほどを満たす。

「……これは?」

「『花酒』という。地上じゃもう数万年も造られていない酒だ。
はるか昔、ある島で造られていたらしいが詳しくは知らねえ。俺がデータを元に再現したもんだ。
とにかく強い、しかし旨味も強い。気付けにはちょうどいいぜ」

アイルは少し躊躇していたが、意を決してそれを飲み干した。

「うっ……強い……!でも、確かにコクが凄いですね。それに、何だか身体が温まったような」

「だろう。……どうせプレーンウォークはできねえんだろ?連れて行ってやろうか?
確かまだ、調査団はアングヴィラのはずだったよな」

調査団の出発は、なぜか無期限延期になっていた。間違いなく、ユリウスも気に病んでいるってことだろう。
これで気付かないってのだから、アイルも大概に鈍感な男だ。

「え、ええ。お願いします。……このお礼は、必ず」

「ああ。旨い酒を見つけてくれれば、それで構わねえぜ」

##########

数年後、アイルからはジンによく似た酒が送られてきた。廃墟になったイーリスを発掘した際に見つかった文献から、再現したのだという。

##########

イーリスの辺りには、今でも翼人が比較的多い。それと、ごくまれに両性具有者が生まれることもあるという。
「神の授かりものだ」という奴もいるらしいが、真相はつまり、そういうことだ。

なお、公的にはアイルもユリウスも生涯独身ということになっている。
ただ、夫婦と見紛うばかりに仲睦まじかったことから、後世になって一部の女たちが色々創作したらしい。
女性だけの劇団がその創作を演じているが、それもまた、別の話だ。
501 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 22:58:15.37 ID:Nji5x8CvO
番外編その2はここまで。明日からその3やります。
多分、ノリが大分変わる気がしますが……大丈夫ですかねえ。

>>495
その辺りの回答にもなっております。まあ、メタな話をすると単に筆者の趣味というのと、
「噂では死んだのは女児なのに、今いる皇太子は男」というのを矛盾なく説明するにはこれしかないと考えたからなわけですが。

ちなみに、結局ジュリアが「針」を起動するシーンがなく終わってしまったためこの辺りはうやむやになってますが、
実は本当に一度ジュリアは死んでます。厳密に言えば、死ぬ直前まで行っています。
針を通してジュリアンから送られる魔力で生命維持をしている状況であったわけで、
ジュリアンが死ぬとジュリアも死んでしまうという設定がありました。
ベネディクトのジュリアン襲撃は、その意味でキャラロストの危機だったのですね。
(「死の復讐者」なら、ジュリアン殺害はできてしまうため)
502 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:02:03.35 ID:Nji5x8CvO
ちなみに上の理屈で言えばジュリアも相当長寿になるはずです。
実際長寿なのですが、500年後にはさすがに死んでます。(細かく設定してないですが、大体200〜300歳ぐらいで死去のイメージ)
後半100年ぐらいは、実質的な世界の取りまとめ役にならざるを得ず、色々大変だったらしいようです。
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:04:39.36 ID:Y3+7Ma1eO
次はアリスとヴォルガか

この二人はいつまで生きてるんだろう
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:05:35.98 ID:snMl78wxO
マリーンは果てしなく一族に近いとかいってたけど500年後も生きてるのかしら
505 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:07:22.15 ID:Nji5x8CvO
>>503
その3ではその辺りについて触れる感じですかね。
テロメア限界を延ばしているため非常に長寿ですが、ヴォルガは500年後は死んでます。
アリスは、多分どこかで登場するでしょう。さすがに少女姿ではありえないですけど。
506 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:09:10.49 ID:Nji5x8CvO
>>504
こちらは普通に存命中です。500年後も出るでしょう。多分。
なお……
(不吉な内容ではありません)
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:24:31.99 ID:OVJB4Yp1O

今思えばユミナ、アイルに最後にアリス&ヴォルガって順番はうまいこと出来てるよなぁ
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:47:55.09 ID:d7ypJZh70
ジャックとデアドラの関係とか選択肢には出てたけど聞けなかったな
知りたい
509 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/12(土) 23:53:16.32 ID:bN9w8u04O
>>508
これは作中でも示唆してあったはずです。まあ、ジャックの最期はやりますのでお待ちを。
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 03:46:29.65 ID:Wx1zU0yn0
前スレ埋まったからこっちで話すけどクリティカル範囲増加は回数制限でもつけたらどうか?1日2〜3回くらいで

正直今作後半の戦闘はクリティカル狙うの前提になってた感あるけど
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 05:38:52.34 ID:B/PStSVk0
めっちゃ面白かった(´・ω・`)
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 09:15:20.87 ID:a4dXGQh1O
シデ一行は力でねじ伏せるようなパーティだったけど次回作はもう少し頭も使った戦闘スタイルでいきたいかも
513 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 12:52:48.01 ID:uqBRCD2eO
少し進めます。
514 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 13:29:12.15 ID:uqBRCD2eO
【ランダムの「酒の細道」】
その3・ヒラメの薄造りと大吟醸

魔素が止まって30年と少しになる。段々と住める土地は広がっていき、イーリスやファルーダの辺りにも人が立ち入れるようになった。
沿岸部にも探索の手が広がっている。魚介類なんざ久しく出回っていなかったが一部では食えるようになった。
といっても、まだ相当高い。漁の技術も途絶えているから、良質な魚介はなおのこと貴重品だ。
それを上手く料理できる奴となると、さらに少ねえ。

「……で、俺を呼んだってわけか」

「すみません、ランダムさんしか心当たりがいないもので……」

俺の前には強面の男がいる。話してみると存外気弱なわけだが。
テルモンを中心に運送業と飲食業を手掛けているコバレフという男だ。
両親はシデたちと関わりのあった人間と聞くが、無論俺の素性は知らねえ。

目の前には平べったい魚がある。……これ何だっけな、ヒラメだったかカレイだったか?

「調査団の網にかかった魚なんですが、食べられるかを調べて欲しく思いまして。
もし量が取れるなら、流通に回したいと思ってるんですが」

どちらだったか全く自信がない。むむむと唸っていると、ある考えが思い浮かんだ。

いるじゃねえか。俺より海に詳しそうな奴が。

###########

「で、私たちを呼んだってわけ?」

少し不機嫌そうな顔でアリスが言った。随分と会っていないが、少女とまでは行かずとも20ぐらいにしか見えない。

「魚か、久し振りに見るのお」

その後ろから灰色の長い髪と髭の男が顔を出した。ヴォルガだ。こちらはほとんど変わってないな。

「悪いな、知識面じゃ俺よりあんたらだと思ってな。分かるかい」

アリスとヴォルガはテルモンの「ダリオ総合学院」の理事長と副理事長に納まっている。
たまに教鞭をとるらしいが、内容が専門的でついていくのが大変だとの噂だ。
それでもミドルの息子やアレスの娘など、優秀な人材も育っていた。

「簡単よこんなの。目が左側でしょ、ヒラメよ。
というか、魚介類取れるようになったのね。昔からほとんど獲れなかったって話だけど」

「推測じゃが、魔素の流出が止まって海の汚染も急激に改善したのじゃろうな。
これからは漁業も少しずつ盛んになるじゃろ。……というか、腹が減ったのお」

ヴォルガがヒラメの方をじっと見ている。アリスがはあとため息をついた。

「食い意地が張ったジジイだなあ。これ、食べられないの?」

コバレフは少し困惑していたが、俺が然るべき金は払うというと「料理法教えてくださいよ」と言って譲ってくれた。

「さて……場所変えるか。場所はどこがいい?」

アリスは少し思案した後言った。

「私たちの家でいいかな?ちょっと相談事もあるし」
515 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 13:29:59.69 ID:uqBRCD2eO
本格更新は夜です。
516 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2017/08/13(日) 15:59:14.37 ID:Dt7VxAj0O
余談。ロールプレイその2です。

http://lousy.s53.xrea.com/cgi-bin/up/dat/lup12789.txt

*勝利*手前ですが、耐久力が……。★運命のオーブとか欲しいですねえ。
あと火力が微妙に足りないので、★エクスカリバー辺りが望まれるところ。
なお、プレイ時間が異常なことになっているのは数日間つけっぱなしで放置してしまったためで、実際は15時間ぐらいです。多分。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 16:51:37.71 ID:uUNj62n3O
ザックに入れっぱなしってのもなんかアレだし後日談でボレルさんに会いに行くとかどうかしら。シデたちは鉄塊の意味まだ知らんわけだしさ
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